←前へ  次へ→    『法門申さるべき様の事』
(★432n)
 悪道に堕すべしと申す釈やあると申さば、玄の三・籖の三及び已今当等をいだし給ふべし。伝教大師、六宗の学者・日本国の十四人を呵して云はく、顕戒論の下に云はく「昔し斉朝の光統を聞き今は本朝の六統を見る、実なるかな法華の何況は」等文。 華厳・真言・法相・三論の四宗を呵して云はく、依憑集に云はく「新来の真言家は則ち筆受の相承を泯ぼし、旧到の華厳家は則ち影響の軌模を隠す。沈空の三論宗は弾呵の屈恥を忘れ称心の酔を覆う。著有の法相宗は僕陽の帰依を非し、青竜の判経撥ふ」等云云。天台・妙楽・伝教等は真言等の七宗の人々は設ひ戒定はまたくとも、謗法のゆへに悪道脱るべからずと定められたり。何に況んや禅宗浄土宗等は勿論なるべし。されば止観は偏に達磨をこそはして候めれ。而るに当世の天台宗の人々は諸宗に得道をゆるすのみならず、諸宗の行をうばい取りて我が行とする事いかん。
  当世の人々ことに真言宗を不審せんか。立て申すべきやう、日本国に八宗あり。真言宗大いに分かちて二流あり。所謂東寺・天台なるべし。法相・三論・華厳・東寺の真言等は大乗宗、設ひ定慧は大乗なれども東大寺の小乗戒を持つゆへに戒は小乗なるべし。退大取小の者小乗宗なるべし。叡山の真言宗は天台円頓の戒をうく、全く真言宗の戒なし。されば天台宗の円頓戒にをちたる真言宗なり等申すべし。而るに座主等の高僧、名を天台宗にかりて、一向真言宗によて法華宗をさぐるゆへに、叡山皆謗法になりて御いのりにしるしなきか。
  問うて云はく、天台法華宗に対当して真言宗の名をけづらるゝ証文如何。答へて云はく、学生式に云はく 伝教大師作なり 「天台法華宗年分学生式一首。年分度者の人 柏原先帝天台法華宗伝法の者を加へらる。 凡そ法華宗天台の年分は弘仁九年より○叡山に住せしめて、一十二年山門を出ださず両業を修学せしめん。凡そ止観業の者○凡そ遮那業の者」等云云。顕戒論縁起の上に云はく「新法華宗を加へんことを請ふ表一首。沙門最澄○華厳宗二人、天台法華宗二人」等云云。又云はく「天台の業に二人 一人大毘盧遮那経を読ましめ一人は摩訶止観を読ましむ」と。 此等は天台宗の内に真言宗をば入れて候こそ候めれ。
 
平成新編御書 ―432n―