←前へ  次へ→    『当世念仏者無間地獄事』
(★319n)前
 暫く小乗の三宗、権大乗の三宗を弘むと雖も桓武の御宇伝教大師の御時、六宗情を破りて天台宗と成りぬ。倶舎・成実・律の三宗の学者も彼の教への如く七賢三道を経て見思を断じ二乗と成らんとは思はず。只彼の宗を習って大乗の初門と為し、彼の極を得んとは思はず。権大乗の三宗を習へる者も五性各別等の宗義を捨てゝ一念三千・五輪等の妙観を窺ふ。大小権実を知らざる在家の檀那等も一向に法華・真言の学者の教へに随って之を供養するの間、日本一洲は印度震旦には似ず一向純円の機なり。恐らくは霊山八年の機の如し。之を以て之を思ふに浄土の三師は震旦権大乗の機に超えざらん。法然に於ては純円の機、純円の教、純円の国を知らず。権大乗の一分たる観経等の念仏を、権実をも弁へざる震旦の三師の釈、之を以て此の国に流布せしめ、実機に権法を授け純円の国を権教の国と成し、醍醐を嘗むる者に蘇味を与ふるの失誠に甚だ多し。
  日蓮花押
 
 
平成新編御書 ―319n―