←前へ 次へ→ 『顕謗法抄』
(★285n)
彼の宗を用いて生死をはなれんとおもはず。但大乗を心うる才覚とをもえり。但し此の国には大乗の五宗のみこれあり。人々皆をもえらく、彼の宗々にして生死をはなるべしとをもう故に、あらそいも多くいできたり。又檀那の帰依も多くあるゆへに利養の心もふかし。
第四に行者仏法を弘むる用心を明かさば、夫仏法をひろめんとをもはんものは必ず五義を存じて正法をひろむべし。五義とは、一には教、二には機、三には時、四には国、五には仏法流布の前後なり。
第一に教とは、如来一代五十年の説教は大小・権実・顕密の差別あり。華厳宗には五教を立て一代ををさめ、其の中には華厳・法華を最勝とし、華厳・法華の中に華厳経を以て第一とす。南三北七並びに華厳宗の祖師・日本国の東寺の弘法大師此の義なり。法相宗は三時に一代ををさめ、其の中に深密・法華経を一代の聖教にすぐれたりとす。深密・法華の中、法華経は了義経の中の不了義経、深密経は了義経の中の了義経なり。三論宗に又二蔵三時を立つ。三時の中の第三、中道教とは、般若・法華なり。般若・法華の中には般若最第一なり。真言宗には日本国に二の流あり。東寺流は弘法大師十住心を立て、第八法華・第九華厳・第十真言。法華経は大日経に劣るのみならず猶華厳経に下るなり。天台の真言は慈覚大師等、大日経と法華経とは広略の異。法華経は理秘密、大日経は事理倶密なり。浄土宗には聖道・浄土、難行・易行、雑行・正行を立てたり。浄土の三部経より外の法華経等の一切経は難行・聖道・雑行なり。禅宗には二の流あり。一流は一切経、一切の宗の深義は禅宗なり。一流は如来一代の聖教は皆言説、如来の口輪の方便なり。禅宗は如来の意密、言説におよばず、教外の別伝なり。倶舎宗・成実宗・律宗は小乗宗なり。天竺・震旦には小乗宗の者、大乗を破する事これ多し。日本国には其の義なし。
問うて云はく、諸宗の異義区なり。一々に其の謂はれありて得道をなるべきか。又諸宗皆謗法となりて一宗計り正義となるべきか。
平成新編御書 ―285n―