←前へ 次へ→ 『顕謗法抄』
(★284n)
答ふ、諸の経文には女人等をいとふべしとみへたれども、双林最後の涅槃経に云はく「菩薩是の身に無量の過患具足充満すと見ると雖も、涅槃経を受持せんと欲するを為ての故に猶好く将護して乏少ならしめず。菩薩悪象等に於ては心に恐怖することなかれ。悪知識に於ては怖畏の心を生ぜよ。何を以ての故に。是悪象等は唯能く身を壊りて心を壊ること能はず。悪知識は二倶に壊るが故に。悪象の若きは唯一身を壊る。悪知識は無量の身無量の善心を壊る。悪象の為に殺されては三趣に至らず。悪友の為に殺されては必ず三趣に至る」等云云。此の経文の心は、後世を願はん人は一切の悪縁を恐るべし。一切の悪縁よりは悪知識ををそるべしとみえたり。されば大荘厳仏の末の四の比丘は、自ら悪法を行じて十方の大阿鼻地獄を経るのみならず、六百億人の檀那等をも十方の地獄に堕としぬ。鴦掘摩羅は摩尼跋陀が教へに随って九百九十九人の指をきり、結句、母並びに仏をがいせんとぎす。善星比丘は仏の御子、十二部経を受持し、四禅定をえ、欲界の結を断じたりしかども、苦得外道の法を習ふて生身に阿鼻地獄に堕ちぬ。提婆が六万蔵・八万蔵を暗んじたりしかども、外道の五法を行じて現に無間に堕ちにき。阿闍世王の父を殺し母を害せんと擬せし、大象を放って仏をうしないたてまつらんとせしも悪師提婆が教へなり。倶伽利比丘が舎利弗・目連をそしりて生身に阿鼻に堕せし、大族王の五竺の仏法僧をほろぼせし、大族王の舎弟は加湿弥羅国の王となりて、健駄羅国の卒塔婆・寺塔一千六百所をうしなひし、金耳国王の仏法をほろぼせし、波瑠璃王の九千九十万人の人をころして血ながれて池をなせし、設賞迦王の仏法を滅し菩提樹をきり根をほりし、周の宇文王の四千六百余所の寺院を失ひ、二十六万六百余の僧尼を還俗せしめし、此等は皆悪師を信じ悪鬼其の身に入りし故なり。問うて云はく、天竺・震旦は外道が仏法をほろぼし、小乗が大乗をやぶるとみえたり。此の日本国もしかるべきか。答へて云はく、月支・尸那には外道あり、小乗あり。此の日本国には外道なし、小乗の者なし。紀典博士等これあれども、仏法の敵となるものこれなし。小乗の三宗これあれども、
平成新編御書 ―284n―