←前へ 次へ→ 『同一鹹味御書』
(★263n)後
0036 同一鹹味御書 (弘長元年 四〇歳)
夫味に六種あり。一には淡、二には鹹、三には辛、四には酸、五には甘、六には苦なり。百味の膳を調ふといへども、一つの鹹の味なければ大王の膳とならず。山海の珍物も鹹なければ気味なし。大海に八の不思議あり。一には漸々に転深し、二には深くして底を得難し、三には同じ一鹹の味なり、四には潮限りを過ぎず、五には種々の宝蔵有り、六には大身の衆生中の在って居住す、七には死屍を宿めず、八には万流大雨之を収めて不増不減なり。
漸々に転深しとは、法華経は凡夫無解より聖人有解に至るまで、皆仏道を成ずるに譬ふるなり。深くして底を得難しとは、法華経は唯仏与仏の境界にして、等覚已下は極むることなきが故なり。同じ一鹹の味とは、諸河に鹹なきは諸経に得道なきに譬ふ。諸河の水大海に入って鹹となるは、諸経の機類法華経に入って仏道を成ずるに譬ふ。潮限りを過ぎずとは、妙法を持つ人寧ろ身命を失するとも不退転を得るに譬ふ。
平成新編御書 ―263n―