←前へ 次へ→ 『災難対治抄』
(★198n)
此等の文を以て之を勘ふるに、仏法已前の三皇五帝は五常を以て国を治む。夏の傑・殷の紂・周の幽等の礼義を破りて国を喪すは遠く仏誓の持破に当たれり。
疑って云はく、若し爾らば法華真言等の諸大乗経を信ずる者は何ぞ此の難に値へるや。答へて曰く、金光明経に云はく「枉げて辜無きに及ばん」と。法華経に云はく「横に其の殃に羅る」等と云云。此等の文を以て之を推するに、法華真言等を行ずる者未だ位深からず、信心薄く口に誦して其の義を知らず、一向に名利の為に之を誦す。先生の謗法の失未だ尽きず。外には法華等を行じて内には選択の心を存す。此の災難の根源等を知らざる者は此の難を免れ難きか。
疑って云はく、若し爾らば何ぞ選択集を信ずる謗法者の中に此の難に値はざる者之有るや。答へて曰く、業力不定なり。順現業は法華経に云はく「此の人現世に白癩の病を得ん。乃至、諸の悪重病あらん」と。仁王経に云はく「人仏教を壊らば復孝子無く、六親不和にして天親も祐けず。疾疫悪鬼日に来たりて侵害し、災怪首尾し連禍せん」と。涅槃経に云はく「若し是の経典を信ぜざる者有らば○若しは臨終の時荒乱し刀兵競ひ起こり、帝王の暴虐、怨家の讎隙に侵逼せられん」已上。順次生業は法華経に云はく「若し人信ぜずして此の経を毀謗せば○其の人命終して阿鼻獄に入らん」と。仁王経に云はく「人仏教を壊らば○死して地獄・餓鬼・畜生に入らん」已上。順後業等は之を略す。
問うて曰く、如何にして速やかに此の災難を留むべきや。答へて曰く、還って謗法の者を治すべし。若し爾らずんば無尽の祈請有りと雖も災難を留むべからざるなり。
問うて云はく、如何が対治すべき。答へて曰く、治方亦経に之有り。涅槃経に云はく「仏言はく唯一人を除いて余の一切に施せ○正法を誹謗して是の重業を造るもの○唯是くの如き一闡提の輩を除いて其の余の者に施さば一切讃嘆すべし」已上。
平成新編御書 ―198n―