←前へ 次へ→ 『災難対治抄』
(★193n)
是くの如く変怪するを○三の難と為すなり。大水百姓を漂没して時節返逆して、冬雨ふり夏雪ふり、冬時に雷電霹靂し、六月に氷霜雹を雨らし、赤水・黒水・青水を雨らし、土山・石山を雨らし・沙礫石を雨らし、江河逆に流れ、山を浮べ石を流す。是くの如く変ずる時を○四の難と為すなり。大風万姓を吹殺して、国土の山河樹木一時に滅没し、非時の大風・黒風・赤風・青風・天風・地風・火風・水風・是くの如く変ずる時を○五の難と為すなり。天地国土亢陽し、炎火洞然し、百草亢旱して、五穀登らず、土地赫燃して万姓滅尽せん、是くの如く変ずる時を○六の難と為すなり。四方の賊来たって国を侵し、内外の賊起こり、火賊・水賊・風賊・鬼賊ありて百姓荒乱し、刀兵劫起せん、是くの如く怪する時を○七の難と為すなり」と。法華経に云はく「百由旬の内をして諸の衰患無からしむ」と。涅槃経に云はく「是の大涅槃微妙の経典の流布せらるゝ処、当に知るべし、其の地は即ち是金剛なり。是の中の諸人も亦金剛の如し」と。仁王経に云はく「是の経は常に千の光明を放ち千里の内をして七難起こらざらしむ」と。又云はく「諸の悪比丘多く名利を求め、国王・太子・王子の前に於て自ら破仏法の因縁・破国の因縁を説く。其の王別へずして此の語を信聴し横に法制を作りて仏戒に依らず。是を破仏破国の因縁と為す」と。
今之を勘ふるに、法華経に云はく「百由旬の内にして諸の衰患無からしむ」と。仁王経に云はく「千里の内をして七難起こらざらしむ」と。涅槃経に云はく「当に知るべし、其の地即ち是金剛、是の中の諸人亦金剛の如し」文。
疑って云はく、今此の国土を見聞するに種々の災難起こる。所謂建長八年八月より正元二年二月に至るまで、大地震・非時の大風・大飢饉・大疫病等種々の災難連々として今に絶えず、大体国土の人数尽くべきに似たり。之に依って種々の祈請を致す人之多しと雖も其の験無きか。正直捨方便・多宝証明・諸仏出舌の法華経の文たる「百由旬の内をして」、双林最後の遺言の涅槃経の「其の地金剛」の文、仁王経の「千里の内をして七難起こらざらしむ」の文、皆虚妄に似たり如何。答へて云はく今愚案を以て之を勘ふるに、上に挙ぐる所の諸大乗経国土に在り、祈請を成ぜずして災難起こることは少しく其の故有るか。所謂金剛明経に云はく「其の国土に於て此の経有りと雖も未だ曽て流布せず、捨離の心を生じて聴聞を楽はず○我等四王○皆悉く捨て去り○其の国当に種々の災禍有るべし」と。大集経に云はく「若し国王有て我が法の滅せんを見て捨てゝ擁護せざれば○其の国の内に三種の不祥を出さん」と。
平成新編御書 ―193n―