←前へ 次へ→ 『守護国家論』
(★119n)
分かちて七門と為す。一には如来の経教に於て権実二教を定むることを明かし、二には正像末の興廃を明かし、三には選択集の謗法の縁起を明かし、四には謗法の者を対治すべき証文を出だすことを明かし、五には善知識並びに真実の法には値ひ難きことを明かし、六には法華涅槃に依る行者の用心を明かし、七には問ひに随って答へを明かす。
大文の第一に、如来の経教に於て権実二教を定むることを明かさば、此に於て四有り。一には大部の経の次第を出だして流類を摂することを明かし、二には諸経の浅深を明かし、三には大小乗を定むることを明かし、四には且く権を捨てゝ実に就くべきことを明かす。
第一に大部の経の次第を出だして流類を摂することを明さば、問うて云はく、仏最初に何なる経を説きたまふや。答へて云はく、華厳経なり。問うて云はく、其の証如何。答へて云はく、六十華厳経の離世間浄眼品に云はく、「是くの如く我聞く、一時仏摩竭提国寂滅道場に在って始めて正覚を成ず」と。法華経の序品に放光端の時、弥勒菩薩十方世界の諸仏の五時の次第を見る時、文殊師利菩薩に問うて云はく「又諸仏聖主師子を睹たてまつるに経典の微妙第一なるを演説したまふ。其の声清浄に柔軟の音を出だして諸の菩薩を教へたまふこと無数億万なり」と。亦方便品に仏自ら初成道の時を説いて云はく「我始め道場に坐し樹を観じ亦経行して、乃至爾の時に諸の梵王及び諸の天帝釈・護世の四天王及び大自在天並びに余の諸の天衆眷属百千万、恭敬合掌し礼して我に転法輪を請ず」と。此等の説は法華経に華厳経の時を指す文なり。故に華厳経の第一に云はく「毘沙門天王 略 月天子 略 日天子 略 釈提桓因 略 大梵 略 摩醯首羅等 略」已上。涅槃経に華厳経の時を説いて云はく「既に成道し已はって梵天勧請すらく、唯願はくは如来当に衆生の為に広く甘露の門を開き給ふべし。乃至梵王復言はく、世尊一切衆生に凡そ三種有り、所謂利根・中根・鈍根なり。利根は能く受く、唯願はくは為に説き給へ。仏の言はく、梵王諦かに聴け諦かに聴け。
平成新編御書 ―119n―