←前へ 次へ→ 『総在一念抄』
(★111n)後
0018 総在一念抄 (正嘉二年 三七歳)
釈籤の六に云はく「総は一念に在り別は色心を分かつ」云云。問うて云はく「総じて一念に在り」とは其れ何なる者ぞや。答へえて云はく、一偏に思ひ定め難しといへども、且らく一義を存せば、衆生最初の一念なりと定む。心を止めて倩按ずるに、我等が最初の一念は無没無記と云ひて、善にも定まらず、悪にも定まらず、闇々湛々たる念なり、是を第八識と云ふ。此の第八識は万法の総体にして、諸法総在して備はるが故に是を総在一念と云ふ。但し是は八識の事の一念なり。
此の一念動揺して一切の境界に向かふといへども所縁の境界を未だ分別せず、是を第七識と云ふ。此の第七識又動揺し、出でて善悪の境に対して悦ぶべきをば喜び、愁ふべきをば愁へて善悪の業を結ぶ、是を第六識と云ふ。この六識の業感じて来生の色報を獲得するなり。譬へば最初の一念は湛々たる水の如し。
平成新編御書 ―111n―