←前へ  次へ→    『主師親御書』
(★52n)
 一には地の下五百由旬の閻魔王宮にあり。二には人天の中にもまじって其の相種々なり。或は腹は大海の如く、のんどは鍼の如くなれば、明けても暮れても食すともあくべからず。まして五百生七百生なんど飲食の名をだにもきかず。或は己が頭をくだきて脳を食するもあり。或は一夜に五人の子を生みて夜の内に食するもあり。万の果林に結ぶ、取らんとすれば悉く剣の林となり、万水海に入る、飲まんとすれば猛火となる。如何にしてか此の苦をまぬかるべき。次に畜生道と申すは其の住所に二あり、根本は大海に住す、枝末は人天に雑はれり。短かき物は長き物にのまれ、小さき物は大なる物に食はれ、互ひに相食んでしばらくもやすむ事なし。或は鳥獣と生まれ、或は牛馬と成りて重き物をおほせられ、西へ行かんと思へば東へやられ、東へ行かんとすれば西へやらる。山野に多くある水と草をのみ思ひて、余は知るところなし。
  然るに善男子善女人此の法華経を持ち、南無妙法蓮華経と唱へ奉らば、此の三罪を脱るべしと説き給へり。何事か是にしかん、たのもしきかな、たのもしきかな。又五の巻に云はく「我大乗の教を闡いて、苦の衆生を度脱せん」と。心は、われ大乗の教をひらいてとは法華経を申す。苦の衆生とは地獄の衆生にもあらず、餓鬼道の衆生にもあらず、只女人を指して苦の衆生と名づけたり。五障三従と申して、三つしたがふ事有りて、五つの障りあり。竜女は、我女人の身を受けて女人の苦をつみしれり。然れば余をば知るべからず。女人を導かんと誓へり。南無妙法蓮華経。南無妙法蓮華経。
                           日蓮花押
 
平成新編御書 ―52n―