←前へ 次へ→ 『主師親御書』
(★51n)
にてましましゝに怨をなして、我は又閻浮提第一の邪見放逸の者とならんと誓ひて、万の悪人を語らひて仏に怨をなして三逆罪を作りて現身に大地破れて無間大城に堕ちて候ひしを、天王如来と申す記を授けらるゝ品にて候。然れば善男子と申すは、男此の経を信じまひらせて聴聞するならば、提婆達多程の悪人だにも仏になる。まして末代の人はたとひ重罪なりとも多分は十悪をすぎず。まして深く持ち奉る人、仏にならざるべきや。二には娑竭羅竜王のむすめ竜女と申す八歳のくちなは仏に成りたる品にて候。此の事めずらしく貴き事にて候。其の故は華厳経には「女人は地獄の使ひなり、能く仏の種子を断ず、外面は菩薩に似て内心は夜叉の如し」と。文の心は女人は地獄の使ひよく仏の種をたつ。外面は菩薩に似たれども内心は夜叉の如しと云へり。又云はく、一度女人を見る者はよく眼の功徳を失ふ。設ひ大蛇をば見るとも女人を見るべからずと云ひ、又有る経に云はく「所有の三千界の男子の諸の煩悩を合はせ集めて一人の女人の業障と為す」と。三千大千世界にあらゆる男子の諸の煩悩を取り集めて女人一人の罪とすと云へり。或経には三世の諸仏の眼は脱けて大地に堕つとも、女人は仏に成るべからずと説き給へり。然るに此の品の意は畜生たる竜女だにも仏に成れり。まして我等は形の如く人間の果報なり。彼が果報にはまされり。争でか仏にならざるべきやと思し食すべきなり。中にも地獄におちずと説かれて候。
其の地獄と申すは八寒八熱乃至八大地獄の中に、初め浅き等活地獄を尋ぬれば此の一閻浮提の下一千由旬なり。其の中の罪人は互ひに常に害心をいだけり。もしたまたま相見れば猟師が鹿にあへるが如し。各々鉄の爪を以て互ひにつかみさく。血肉皆尽きて唯残りて骨のみあり。或は獄卒、棒を以て頭よりあなうらに至るまで皆打ちくだく。身も破れくだけて猶沙の如し。焦熱なんど申す地獄は譬へんかたなき苦なり。鉄城四方に回りて門を閉ぢたれば力士も開きがたく、猛火高くのぼって金翅のつばさもかけるべからず。餓鬼道と申すは其の住処に二あり、
平成新編御書 ―51n―