←前へ 次へ→ 『色心二法抄』
(★21n)
歎き思し食しけるなり。されば如何にしても迷ひの時も悟りの仏にてありけるぞと、此の旨を能く能く意得べきなり。
諸法多しと雖も十界に過ぐべからず。十界とは一に地獄、二に餓鬼、三に畜生、四に阿修羅、五に人、六に天、七に声聞、八に縁覚、九に菩薩、十に仏なり。此の十界は東西南北中央の五方天地には過ぐべからず。此の中に十界の理が三世にしつらはれて有るなり。此の十界は迷ひの十界・悟りの十界とて二法有ること無し。故に此の十界皆悟らざる時も妙法蓮華経の色心にて有りけるなり。所以は何、地獄の衆生も皆五根五臓を以て造る。其の五根五臓とは、眼根は東方、大円鏡智、阿■仏なり。耳根こんは北方、成所作智、釈迦如来なり。鼻根は西方、妙観察智、阿弥陀如来なり。舌根は南方、平等性智、宝性仏なり。身根は中央、法界体性智、大日如来なり。是又東西南北中央の五方、是又五戒なり。眼は不殺生戒、耳は不邪淫戒、鼻は不偸盗戒、舌は不飲酒戒、口は不妄語戒なり。又此の五根は五行なり。眼は木、耳は水、鼻は金、舌は火、身は土なり。又是五色きなり。眼は青色、耳は黒色、鼻は白色、舌は赤色、身は黄色なり。又是五竜なり。眼は青竜、耳は黒竜、鼻は白竜、舌は赤竜、身は黄竜なり。又是五常なり。眼は仁の徳、耳は礼の徳、鼻は義の徳、舌は智の徳、身は信の徳、故に此仁義礼智信とて五つの振る舞ひなり。又是五臓なり。眼は肝臓、耳は腎臓、鼻は肺臓、舌は心臓、身は脾臓なり。又是の五臓に五つの神あり。魂・志・魄・意・神是なり。此の五つの神は天の五星、地の五岳、束ねて五神は五智の如来なり。迷へる凡夫の身中にしては五つの神と云はれ、此の五つを五智の如来なりと悟れば、五仏果徳の仏なり。爰に知んぬ、地獄の依報正報が皆五智五仏の正体なりと云ふことを。地獄の大地は中央、法界体性智、大日如来の土なり。地獄の薪は東方、大円鏡智、阿■仏の木なり。地獄の炎は南方、平等性智、宝性仏の火なり。地獄の釜は西方、妙観察智、阿弥陀仏の金なり。地獄の水は北方、成所作智、釈迦如来の水なり。此くの如く五行は
平成新編御書 ―21n―