←前へ 次へ→ 『戒法門』
(★15n)
かたどれるなり、故に春生ず。火をば炎上と申して空へのぼる、ものを熱するなり。五穀の火にあひて飯となるが如し。太陽とかたどれる故に、極めてあたゝかなり。土と云ふ物は社稷と云って、万の物をわかし出だすなり。これ又少陽なり。金は禁めとなる。是少陰の物なるが故にかたし。物のおこりを禁むるなり。水をば潤下と云って、物をうるをし、やしなふなり。陰の終にはとくる故に水なり。又五行の相生と云ふ事あり。木より火生じ、火より土生じ、土より金生じ、金より水生ず。是は常の人のしるところなり。又水は太陰の物にして、くらかるべき物なり。何の意ぞ、水の底あかきや。木は少陽の物なれば少しあかゝるべし、何の意ぞ、木の中くらきや。火は太陽の物なれば大いにあかゝるべし、何の意ぞ、火の中暗きや。土は少陽の物、少しあたゝかなるべし、何の意ぞ、ひゆるや。金は少陰の物、少しくらかるべし、何の意ぞ、すこしあかきや。此等は智者の知るところなり、繁き故に注せず。又五行の相剋と云ふ事あり。木の敵は金なり。金は勝ち、木は負くる故なり。春と秋とは敵対の季、東と西とは敵対の方なり。火の敵は水なり。水は勝ち、火は負くる故なり。夏と冬とは敵対の季、南と北とは敵対の方なり。土の敵は木、木は勝ち、土は負くる故なり。木と金と合ふて金のかつ事は、堅きと和らかなるとの故なり。火と水と合ふて火の水の負くる事は、あたゝかなるとつめたきとの故なり。土と木と合ふて木に土の負くる事は、多と一との故なり。土は的の如し。木は土をとおる時、土五つにわれ、木は箭の如くしてとおるなり。
我等が眼は木より生ず。耳は水より生ず。鼻は金より生ず。舌は火より生ず。身は土より生ずるなり。上の五行をもて五根の損ずるを知って、病の有り様を知るべし。又五根の損ずるは、五戒の破るゝ故なり。させる虚事をせぬ人も、あまりにすき物を好めば、舌損じ身に瘡多し。させる物をば殺さねども、辛き物を多く食すれば眼損ず。是を以て余の戒をも知るべし。人目には五戒を持ちて貴き様なれども、食物に五戒を破りて三悪道の主となり、人には善を疑はせ、我は仏法を恨む。此の比の世間の人、大旨是に似たり。戒を習はんと思はん者、能く能く我が身を知るべきなり。
平成新編御書 ―15n―