←前へ 次へ→ 『戒法門』
(★16n)
春七十二日は木勝つ故に、我が身に瘡出でて身かゆし。夏七十二日は火勝つ故に、我が身熱して汗たる。秋七十二日は風勝つ故に、我が身すさまじく秋風に身損ず。冬七十二日は水勝つ故に、我が身寒くつめたし。四季の土用には土勝つ故に、我が身ふとる。又我が身の肉は土、骨の汁は水、血は火、皮は風、筋毛は木なり。又臍より下は土、臍より上胸さきまでは水、胸さきより上喉までは火、喉より口までは風と金となり、口より上頂までは木と空となり、是も五戒なるべし。又三千世界も五戒を以て作れるなり。火と空とは我が頭と腰となり、大海は腹なり。春と夏とは脇なり、秋と冬とは背なり。大骨の十二は十二月なり、少骨の三百六十は三百六十日なり。口の気は空の風なり、鼻の気は谷の風なり、身の毛孔の風は家の風なり。右の眼は月、左の眼は日なり。髪は星なり、眉は北斗なり。血脈は江河なり、骨は玉石なり、身の毛は草木なり。我が身より一切の人間、乃至依報の国土まで五戒を以て作れるなり。故に世間に物を殺す事多ければ、東の木星と変じて彗星と成りて空に出づ。此の時春の草木おひとゞまる。又此の星人間に下りて、人の眼より入って眼の病となる。世間に偽り多ければ、中央の土星と変じて彗星と成りて空に出づ。此の時大地やせて石となる故に草木おひず。又此の星下りて人の口を病ましむ。世間に盗人多ければ、西の金星と変じて彗星と成りて、空に出づる時秋の菓すくなし。又此の星下りて人の鼻に入りて病となり、戦あて世の乱れとなる。世間に酒をのむ者多ければ、南の火星と変じて彗星と成りて空に出づ。此の時旱魃有りて草木かるゝ。又此の星人身の内に入りて疫病世に多し。世間に邪婬多ければ、北の水星と変じて彗星と成りて空に出づる時、大水世間に行き、此の星人の耳より入りて身のひゆる病となれり。五戒破れて世間の五穀損ずれば、身の五臓もよはく成り、五神も栖を失ふ。此の故に五つの鬼神身に入って人の心を誑かすなり。日月の光も失せて天地の禍ひとなり、後生には五戒の大地破るゝ故に三悪道を栖とす。臨終には顛倒して只此の事にあえり。上の五戒は名目は提謂経に出でたりといへども、意は止観・真言の道理を以て書けるなり。
平成新編御書 ―16n―