←前へ 次へ→ 『戒法門』
(★14n)
四身に遍してあつきぬるきをしる。先世に不妄語戒を持ちし時、中央に鎮星と云ふ星あり、此不妄語戒の人を護らんと誓ひし故なり。
殊には不妄語戒を委しく申すべし。妙楽大師提謂経を引いて云はく「不妄語戒は四時の如し。土は中央に主たり。中央は脾に主たり。脾の臓は身と土となり。四季に主たり。不妄語戒も四季に遍す。身には五根に遍す」と。五戒を破る中に不妄語戒を破るは罪深き戒にて候。其の故は世間の人妄語し候へば、冬は夏になり、春は秋になり候。故に冬温かにして草木出生して花さき菓ならず。夏はさむくて物そだたず。春・秋も此を以て知るべし。当時の世間是体に候はずや。態と妄語をさせて世の中を損じさし、人をも悪道に堕とさん料に、天狗外道平形の念珠を作り出だして、一遍の念仏に十の珠数を超りたり。乃至一万遍をば十万遍と申す。是念珠の薄く平たき故なり。是も只申すにあらず。念珠を超るに平数珠を禁めたる事諸経に多く候。繁き故に但一・二の経を挙ぐ。数珠経に云はく「応に母珠を越ゆべからず、過諸罪に越ゆ。数珠は仏の如くせよ」と。勢至菩薩経に云はく「平形の念珠を以ふる者は此は是外道の弟子なり、我が弟子に非ず。我が遺弟は必ず円形の念珠を用ゆべし。次第を超越する者は因果妄語の罪に依って当に地獄に堕すべし」云云。此等の文意を能く能く信ずべし。平たき念珠を持ちて虚事をすれば、三千大千世界の人の食を奪ふ罪なり。其の故は世間の人虚事をする故に、春夏秋冬たがひて世間の飢渇是より起こり、人の病これより起こる。是偏に妄語より始まれるなり。かう申すとも、此の世の中の人は心なをるまじく候へども、又心有らん人はさては僻事にこそ有るなれと知らしめんが為に経文を挙げ候。又世間の念仏者、現に夢に智者見えたりけるなんど申し候ぞ。天狗の見せたる夢なり。只道理と経文とを本とすべし。又木・火・土・金・水も五戒なり。木をば曲直と云って、まがれるもあり、なおきもあり、少陽と
平成新編御書 ―14n―