←前へ  次へ→    『戒体即身成仏義』
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 五体は五戒より生ずと見えたり。乃至依報の国土の五方・五行・五味・五星皆五戒より生ずと説けり。止観弘決に委しく引かれたり。されば戒体は微細の青・黄・赤・白・黒・長・短・方・円の形なり。止観弘決の六に云はく、提謂経の中の如し「木は東方を主る、東方は肝を主る、肝は眼を主る、眼は春を主る、春は生を主る、生在すれば則ち木安し。故に不殺は以て木を防むと云ふ。金は西方を主る、西方は肺を主る、肺は鼻を主る、鼻は秋を主る、秋は収を主る、収蔵すれば則ち金安んず。故に不盗は以て金を防む。水は北方を主る、北方は腎を主る、腎は耳を主る、耳は冬を主る、淫盛んなれば則ち水増す。故に不淫は以て水を禁ず。土は中央を主る、中央は脾を主る、脾は身を主る、土は四季に王たり。故に提謂経に云はく、不妄語は四時の如しと。身は四根に遍し。妄語又爾なり。諸根に遍して、心に違ひて説くが故に。火は南方を主る、南方は心を主る、心は舌を主る、舌は夏を主る、酒乱るれば火を増す。故に不飲酒を以て火を防む」文。此の文は天台大師提謂経の文を以て釈し給へり。されば我等が見る所の山河・大海・大地・草木・国土は、五根・十指の尽形寿の五戒にてまうけたり。五戒破るれば此の国土次第に衰へ、又重ねて五戒を持たずして、此の身の上に悪業を作れば、五戒の戒体破失して三途に入るべし。是凡夫の戒体なり。声聞・縁覚は、此の表色の身と無表色の戒体を、苦・空・無常・無我と観じて見惑を断ずれば、永く四悪趣を離る。又重ねて此の観を思惟して思惑を断じ、三界の生死を出づ。妙楽の釈に云はく「見惑を破るが故に四悪趣を離る。思惑を破るが故に三界の生を離る」文。此の二乗は法華已前の経には、灰身滅智の者、永不成仏と嫌はれしなり。灰身と申すは、十八界の内十界半の色法を断ずるなり。滅智と申すは、七心界半を滅するなり。此の小乗教の習ひは、三界より外に浄土ありと云はず。故に外に生処無し。小乗の菩薩は未だ見思を断ぜず、故に凡夫の如し。仏も見思の惑を断尽して入滅すと習ふが故に、菩薩・仏は凡夫・二乗の所摂なり。此の教の戒に三つあり。欲界の人天に生まるゝ戒をば律儀戒と云ふなり。色界・無色界へ生まるゝ戒をば
 
平成新編御書 ―3n―