←前へ 次へ→ 『顕謗法抄』
(★279n)
かの仏像等の寄進の所をうばいとり、卒兜婆等をきりやき、智人を殺しなんどするもの多し。此等は大阿鼻地獄の十六の別処に堕つべし。されば当世の衆生十六の別処に堕つるもの多きか。又謗法の者この地獄に堕つべし。
第二に無間地獄の因果の軽重を明かさば、問うて云はく、五逆罪より外の罪によりて無間地獄に堕ちんことあるべしや。答へて云はく、誹謗正法の重罪なり。問うて云はく、証文如何。答へて云はく、法華経第二に云はく「若し人信ぜずして此の経を毀謗せば乃至其の人命終して阿鼻獄に入らん」等云云。此の文に謗法は阿鼻地獄の業と見へたり。問うて云はく、五逆と謗法と罪の軽重如何。答へて云はく、大品経に云はく「舎利弗仏に白して言さく、世尊五逆罪と破法罪と相似するや。仏舎利弗に告げたまはく、応に相似と言ふべからず。所以は何ん、若し般若波羅蜜を破れば則ち十方諸仏の一切智一切種智を破るに為んぬ。仏宝を破るが故に、法宝を破るが故に、僧宝を破るが故に。三宝を破るが故に則ち世間の正見を破す。世間の正見を破れば○則ち無量無辺阿僧祇の罪を得るなり。無量無辺阿僧祇の罪を得已はって則ち無量無辺阿僧祇の憂苦を受くるなり」文。又云はく「破法の業の因縁集むるが故に無量百千万億歳大地獄の中に堕つ。此の破法人の輩は一大地獄より一大地獄に至り、若し劫火起こる時は他方の大地獄の中に至る。是くの如く十方に遍くして彼の間に劫火起こるが故に、彼より死するも破法の業の因縁未だ尽きざるが故に、還って是の間の大地獄の中に来たる」等云云。法華経第七に云はく「四衆の中に瞋恚を生じ心不浄なる者有り。悪口罵詈して言はく、是の無智の比丘と。或は杖木瓦石を以て之を打擲す。乃至千劫阿鼻地獄に於て大苦悩を受く」等云云。此の経文の心は、法華経の行者を悪口し、及び杖を以て打擲せるもの、其の後に懺悔せりといへども、罪いまだ減せずして千劫阿鼻地獄に堕ちたりと見えぬ。懺悔せる謗法の罪すら五逆罪に千倍せり。況んや懺悔せざらん謗法にをいては阿鼻地獄を出づる期かたかるべし。故に法華経第二に云はく「経を読誦し書持すること有らん者を見て軽賤憎嫉して結恨を懐かん。乃至其の人命終して阿鼻獄に入り、
平成新編御書 ―279n―