←前へ  次へ→    『総在一念抄』
(★116n)前
 是転迷覚悟返流尽源なり。無明即明は唯迷悟に名づけ、無明法性は全く其の体一なり。穴賢穴賢。各別には心得べからず。若し迷悟異体と心得るならば成仏の道遼遠ならん事、一須弥より一須弥に至るが如し。本より不二なる理体に迷ふが故に衆生と云ひ、是を悟るを仏と云ふなり。よくよく此の大旨を心得て失錯あるべからざるなり。我等が生死の一大事なり、出離の素懐なり。豈宝の山に入りて手を空しくせんや。後悔千万すとも敢へて益無し。閻魔の責め、獄卒の杖は全く人を選ばず只罪人を打つ。若し人間に生れて其の難処を去らざれば、百千万劫を経歴すとも仏法の名字を聞かず、三界に昇沈して六道流浪の身となるべし。出離の要法を聞かざる事悲しむべし悲しむべし。恐るべし恐るべし。獄卒阿防羅刹の責めを蒙らん事を。
                               日蓮花押
 
平成新編御書 ―116n―