←前へ 次へ→ 『十二因縁御書』
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譬へに合せん、法華を謗るもの亦是くの如し。我等が心法華にてあるを、而も法華を謗って心を失するは六根不具なり。法華経の心を失して爾前経立つべきや。法華を謗り不信にては、爾前諸宗等の小乗権法等は、心去りたる死骸にてこそあらめ云云。
今法華宗は法華経と云ふ我等が心を捨てざれば、死骸六根随って失せず。心即ち五根、五根即ち心なれば、心法成仏すれば色法共に成仏す。色心不二にして内外相具せり云云。釈に云はく「蓮華の八葉は彼の八教を表はし、蓮台の唯一なるは八の一に帰するを表はす。一の中の八、八の中の一、常に一常に八、唯一唯八、一と成り八と成る、前無く後無し」と。止に云はく「夫一心に十法界を具す、介爾も心有れば即ち三千を具す」と。弘に云はく「一身一念法界に遍し」と。義に云はく「三千と云ふも、法界と云ふも、法華経の異名なり」と。経に云はく「閻浮提の内に広く流布せしむ」と。閻浮とは天地なり、父母なり。又云はく「閻浮提の人の病の良薬」と。良薬は天地、父母なり。此くの如く我等衆生が身は併ら法華の体にて有るを、全く法華経を他国異朝の物と思ひ、天地水火の様に余処余処に思ひ作すなり。加様に目出たく貴き身を捨て終はりて、剰へ謗じて悪処に落ちんは、浅猿く口惜しかるべきなり。
されば信じて我が身のいみじきやうは、六の巻随喜功徳品にあり。謗じて我が身の悪しき様は八の巻普賢品にあり。普賢経に云はく「此の大乗経典は諸仏の宝蔵なり。十方三世の諸仏の眼目なり。三世の諸の如来を出生する種なり。此の経を持つ者は即ち仏身を持ちて即ち仏事を行ずるなり」云云。譬喩品に云はく「若し人信ぜずして此の経を毀謗せば、則ち一切世間の仏種を断ぜん」と。普賢経に云はく「諸仏如来真実の法の子なり、汝大乗を行じて法種を断ぜざれ」云云。
日蓮花押
平成新編御書 ―56n―