一体、ここはどこだ。あのヘンテコなアミアミはなんだ。 「おぉ! 勇者様がお目覚めになられましたぞ!」  黒と白の竹ぼうきを、何本も折り重ねたような、そんなアミアミ模様の天井を、しわくちゃの老婆の顔面が塞いだのだった。きっと俺は仰向けに寝ているのだ。寝ている俺を、老婆が至近距離でのぞき込んでいるのだ。 「さあ、起きてくだされ。勇者様」  老婆は俺の肩を強く掴む。無理やり起き上がらせようと力を込めているようだ。ふん、そうは行くか。 「何を頑なに力を込めているのですか」  老婆が力を込める。なんだこのばあさんは。尋常ではない握力だぞ。 「さあ、起きなされ」  ぐ、怪力ばばあめ。  結局俺は、老婆に促され止む無く上半身を起こしたのだった。 「おはようございます。勇者様」  うーん。起き上がると頭がくらくらする。 「どうしたました? 勇者様」  待て待て。ばーさん、さっきからなんなんだ? 俺は勇者なんかじゃないぞ。俺は……。  うん? 俺は、なんだっけ? 「あれま。一体どうしたというのですか。『ぬーれるひよ』みたいな顔して」  ぬーれるひよ? 「ああ、異界の勇者様は、『ぬーれるひよ』をご存知ありませんか」  なんだその玩具みたいな名前は。いやそんなことより、ここはどこだ? いや、そんなことより、俺は一体誰だっけ? なんだっけ? 「『ぬーらりひよ』というのはですなあ――」 「ババ様。勇者様はまだお目覚めになられたばかりです。もう少し、ゆっくりお話してあげないと……」  老婆のひしゃげた声を塞いだのは、川のせせらぎのような、清涼感あふれる透明な美声だった。 「ぬお!」  俺は思わず、そんな声をだしたのだった。  胸元まで真っ直ぐ伸びた黒髪は、ふわふわ、さらさら、きらきらしていて、きっと触れてみたら、絹を撫でるような手触りに違いない。  大きな瞳は柔らかくも気高い品格を放っていた。揺れるような淡い虹彩が、まるで蜃気楼のような儚さと神秘を混在させているのだ。すっと通った鼻と、ぷっくりと瑞々しい唇。透き通るような白い肌。不安げに眉を寄せる少女は、まあ、つまり、えらい美女なのである。 「うつくしい!」 「きゃあ!」  俺の声に驚いたのか、少女がぴょんと後ろへ跳ねた。 「勇者様。まあこれでも飲んで落ちついてくださいな」  老婆はいつの間に準備したのやら、何か飲み物をさしだしたようだ。  なんだ? この器は。そうだ。あれに似ている。あれだ。なんだっけ。 「さっさと飲みなされ。せっかくの『まひえれてー』が冷めてしまいますぞ」  そうだ。これはあれだ。俺が昔作った茶碗に似ている。中学の時に、粘土をこねこねして作ったあれだ。 「高いんだから! もったいない!」  老婆の突然の怒声に、俺は、反射的にその茶碗を口へ運んだ。 「うまい」  おいしいレモンティーのようだ。 「そうじゃろ」