藤原正美17歳、高校生、彼氏は最近できた大学生の彼。そんな彼と正美は一緒にデート。二人の間は巷でも有名なイチャイチャッぷり。 その日のデートは、映画館でイチャイチャ、レストランでイチャイチャ、クラブでイチャイチャ、車の中でイチャイチャ、どこでもイチャイチャ、もうイチャイチャ、やっぱりイチャイチャで、二人はすごく楽しい思いで彼氏の運転する車で帰路についていた。 車は正美の家がある住宅街に入り、交差点を左に曲がった。その時、前方から結構なスピードでやって来た乗用車と事故を起こし、あはれ彼氏は死んでしまった。 乗用車に乗っていたのは宝田明であった。夏の初めの出来事。 正美は重傷を負ったものの、体に関しては無事だった。正美は最愛のイチャイチャする彼氏を失なったこと、また正美は事故時意識があり、彼氏のほうを見ると、彼氏の真っ赤な、「体の造りがわかるのでこれで勉強しようと考えたが、体は千切れているし、内臓はなくなってるのはあるし、焦げて黒くなってる所はあるし、とんだ粗悪品だ!!」と、理科を専攻している勉強熱心な学生は遺憾に思う、彼氏の杜撰な人体模型を眼の当たりにしたこと、これらが正美の精神を参らせてしまった。 正美の病室には毎日、友達や家族がやってきて、正美をまた元気な、明るい性格に戻そうといろいろがんばっていた。正美には支えてくれる、愛してくれる、助けてくれる人たちが沢山いたのだ。なぜか。 しかし、正美は笑顔を見せることなど無く、口数もおしゃべりといわれた正美を考えると、何もしゃべらないのといっしょだった。それでもみんなは正美を何とか治そうと必死に努めた。 秋になった。が、病室は初夏のまま、なんの進展も無い。病室から外を眺めても秋らしい風景は一切無く、病室から出たくないと正美は拒むので、正美自身秋を感じることもなかった。ただペナントで阪神が逆転負けしたことについてだけは正美も驚いていた。そんなことから一応、今が十月の終わりだというのはわかっていた。 そんなある日、正美の友達らは、もうすぐ開かれる文化祭に連れて行こうとした、正美が約四ヶ月ぶりに学校に来るというので、一度クラスみんなで教室に集まり、正美を迎える計画を立て先生、正美の友達らは独断でその計画を決定した。が一人反対する人がいた。 「そんなことはしたくない」と眼鏡の男は席を立ち、発言した。 「どうして、わけを聞かせて」先生は聞いた。 「したくないからです先生、中庸が一番です。藤原さんが来るからといって、なぜそこまでする必要があるのか。普通に接するべきです。それに僕はすぐに遊びに行きたいのです」 正美の友達らは怒鳴った。「遊びに行きたいって、正美のことはなんとも思わないの」 「かわいそうとは思うがそれだけです」 この後ずーっと彼は、正美の友達らにぼろくそに言われたため、正美の友達をぶん殴り、踏みつけた。そして彼はクラスの人たちに向かって、「なぜみんな反対しない、みんな本当に賛成だとでもいうのか、ここにいる奴等全員腑抜けだ」と、叫び教室から出て行った。結局、他の生徒は臆病者だったので反抗できず、この計画を受け入れた。 かくして文化祭、正美が教室に入ってきたため、同級生達に緊張が走った。はたして精神病者をどう扱うか、殆どの人は関わりたくなかった。そんな中、生徒達は、心配そうな、可愛そうにと同情の眼を向け、入ってきた正美を迎えた。先生が「みんな藤原さんのことを心配しているわ」とか言った内容をしばらく話した後、クラスみんなで作ったと先生は言う、千羽鶴を正美に手渡した。、 その後正美は、友達らと各催し物を廻り、各催し物で、この人があの事故にあった人かと、噂されながら。同情の眼を向けられながら。 これらの人は、四ヶ月前正美が事故にあったときも、噂し、同情した。なぜこんなにも噂するのか、芥川龍之介が「人は醜聞の中に、実際には存在しない優越を樹立し、豚のように幸福に熟睡する」と言ったが。醜聞に、この場合は当てはまるのだろうか、同情するのは優越を感じさえてくれるからなのか。しかし全ての同情する人に、そして彼らの噂する姿を見るたびに、豚のように幸福に熟睡する姿が眼に浮かぶ。 そして正美らは、昼ご飯を食べようと3−2がやっているうんこうどんを食べに赴いた。うんこうどんはカレーうどんの事であるが、しかし食べた人はこれはうんこだと、噂した。そこでお腹一杯うんこを食べた後、店を出ようとしたら、ある男とすれ違った。その男は同じクラスで、友達が一人もおらず、いつも一人で、家族も本当の家族ではなく、内気で、オタクで、みんなから気持ち悪がられている、なんとかいう名前の男であった。 男が入った時、席は満杯で、他の所に行こうと3−2を出た時、正美が「なぜあの人は出てきたの?」と、友達に向かって訊ねていたのを、地獄耳のこの男は聞いた。 「満席だったんじゃない?」と答えると、正美は笑顔になり、 「え、でも一人で。ありえない」と微笑みながらそう言った。そう、正美は知っていたのだ、今まで自分のためにがんばってくれた人々のことを、自分が一人では無いことを。 「正美が、笑った。正美が」友達達は涙ながらに正美に向かってもっと笑って、もっと笑う正美で居て、と言っていた。 正美は治った。事故にあう前と同じく良く笑い、よくしゃべった。「一人ではない、大事な友達がいるから、家族がいるから、私は笑って過ごせるの」と学校に戻ってきた正美は、クラスの前に立ち、クラス全員がいる前で、そう言った。