;12/3 午前 ………………[lr] …………[lr] ……[pcm] ;背景:大学構内 [助教授] 「それでは、今日の授業はここまで」[pcm] チャイムが鳴る前にキリのいいところが来たらしく、[r] 今日は少し早めに授業が終わった。[pcm] そろそろ開店時間だよな。[r] ……今日からでもって話だし、バイトに行くか。[pcm] ;背景:大学門前→道路→店の前→店玄関 ;SE:ドアベル [ひなた] 「いらっ……ちゃんと来たんだ。感心感心」[pcm] [公太郎] 「そりゃね。店長は?」[pcm] [ひなた] 「キッチンでランチの準備中」[pcm] [公太郎] 「サンキュ」[pcm] ;背景:カウンター→キッチン ;SE:何かを切る音(とんとんとん……みたいな) 店長は俺に気付くと作業を止めて振り返った。[pcm] [店長] 「ああ、よく来たね」[pcm] [公太郎] 「今日からよろしくお願いします」[pcm] [店長] 「はい、よろしくお願いします」[pcm] [店長] 「……それでは簡単に説明を」[pcm] [店長] 「仕事としては給仕とレジ、それと簡単な調理にな るけど、飲食店での勤務経験があるそうなのでとり あえず今日の所は給仕の方を頼むね」[pcm] [店長] 「そのほか、細かいことはひなたくんに聞いてもら うとして、制服は廊下突き当りの更衣室にあるので」[pcm] [公太郎] 「はい、分かりました」[pcm] ;背景:廊下→更衣室 えーっと、制服は……これか。[r] サイズ……ずいぶん小さくないか?[pcm] ;SE:ドア(開) [純] 「……っと、いたんだ」[pcm] [公太郎] 「なんだ、お前か」[pcm] [純] 「『お前』じゃないよ」[pcm] [公太郎] 「あー、すまん。さめじま……じゅん、だったっけ?」[pcm] [純] 「えっと……ああ、てんちょから聞いたのかな?[r] 純でいいよ。みんなそう呼んでるし」[pcm] [公太郎] 「じゃあ純。今日からここで働くことになった今北 公太郎だ。よろしくな」[pcm] [純] 「公太郎、だね。よろしく。[r] で、これ制服。ボクの分と逆だったみたい」[pcm] [公太郎] 「みたいだな」[pcm] [純] 「はい、交換。そいじゃ」[pcm] そう言ってひったくるように制服を取り替えると、 「いるなら手伝っていけよ」と突っ込む間もなくど こかへ行ってしまった。[pcm] ;↑の文と同時ぐらいにSE:ドア開閉→足音(離) ……着替えるか。[pcm] …………[pcm] ;背景:カウンター さて、初仕事だな、と。 [ひなた] 「……ネクタイ曲がってる」[pcm] いきなりのダメ出し。[r] というか首が絞まる絞まる。[pcm] [ひなた] 「鏡あるんだから自分でチェックしなさい。[r] で、とりあえず手洗って」[pcm] [公太郎] 「……はいよ」[pcm] そういえば大学の入学式の時も同じことを言われた 気がする。進歩ないな俺。[pcm] …………[pcm] 手を洗っているうちに店内を見回す。[pcm] 昨日来た時にはまじまじと観察する機会はなかった けど、店内はそれなりの広さがあるようだ。[pcm] ;背景:玄関 やや重たい雰囲気のドアの向こうには不思議な安心 感を感じるシックな雰囲気の内装。[pcm] ;背景:テーブル席 椅子やテーブルはアンティークというほどではない がよく手入れされているのが分かる。[pcm] ;背景:カウンター 食器も同様。少し古めかしい雰囲気と店全体の雰囲 気が調和して、優しく見守られているような気持ち になる。[pcm] 手を拭いて、さしあたって仕事はなさそうなのでメ ニューのチェックでもするか。[pcm] 紅茶やコーヒーのメニューが豊富でケーキなどの洋 菓子類も豊富なようだ。[pcm] なんだか自家製スコーンとか……ああ、そういえば キッチンにオーブンがあったな。[pcm] 軽食は……喫茶店としては少ないんじゃなかろうか。 日替わりランチが色々あるみたいだけど。[pcm] ;SE:ドアベル ;背景:玄関 [ひなた] 「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」[pcm] そんなことをしているうちにサラリーマンらしきス ーツの男が何人かまとめてやってきた。[r] ……人手不足なランチタイムの始まり、か。[pcm] …………[pcm] ;背景:テーブル席 猫の手でも借りたい状況、というのだろう。[r] すぐに本格的な忙しさにみまわれた。[pcm] お客が来たら案内。[r] マニュアルはないのでひなたの見よう見まねで。[pcm] レジの打ち方は前に働いていた所と大差ない。[r] しいていうなら手書きの領収書の使用率がそこそこ 高いのが難か。[pcm] メニューは客から聞いた注文と渡されるものとを順 次覚えていく。[pcm] しかしやたら『メニューに乗ってないメニュー』を 注文する人がいる上、それにきちんと対応する店長 のせいで激しく混乱した。[pcm] 軽食メニューが少ないなと思ってたらなんという落 とし穴。[pcm] もしかしてここのメニューってお飾りなんじゃなか ろうか? という気さえしてきた。[pcm] ……まぁ、いずれ慣れるだろう。[pcm] ;背景:カウンター 途中からは料理を受け渡すのとレジばかりで、いな いよりはマシぐらいの扱いになってしまった。[lr] ……情けない。[pcm] ………………[lr] …………[lr] ……[pcm] ;12/3 午後 ;背景:カウンター [公太郎] 「……ふぅ」[pcm] やっと一息ついた。[pcm] [ひなた] 「お疲れ」[pcm] [公太郎] 「なんというか、思ってたよりしんどいな」[pcm] [ひなた] 「まぁ、今日は特に多いかな?[r] 初日でこれだったらあとは楽だよ」[pcm] [公太郎] 「だといいけど」[pcm] [ひなた] 「ふふっ」[pcm] そうして話していると、うっすらと疲労を感じる身 体に空腹感が重なってふと懐かしさを覚えた。[pcm] 昔バスケ部だったころ、よくこういう感覚になった 気がする。[pcm] [公太郎] 「……ありがとな」[pcm] [ひなた] 「え?」[pcm] 思わず漏れた言葉に自分でも驚く。[pcm] [公太郎] 「ここの紹介。助かった」[pcm] [ひなた] 「ああ、べつにいいよ。助かるのはこっちもだし」[pcm] [公太郎] 「そっか」[pcm] [ひなた] 「……」[pcm] とっさのフォローは自分でも上手くいったと思う。[pcm] ……何でこんなことを言ったんだろう。[pcm] [公太郎] 「……また、よろしくな」[pcm] [ひなた] 「うん。こちらこそ、よろしく」[pcm] そういって互いの拳同士をこつんと合わせた。[r] 昔を思い出す、懐かしい合図。[pcm] ……なんだろう、不思議と元気が出てきた。[pcm] [ひなた] 「じゃさ、初日だし疲れてるでしょ?[r] 先に休憩入りなよ」[pcm] [公太郎] 「あー、いいよ。俺よりずっと走りま」[cm] ;SE:おなかの音 ぐぅぅ〜[pcm] [ひなた] 「……ぷっ![r] あははははははははは!」[pcm] [公太郎] 「……お前笑いすぎ」[pcm] [ひなた] 「ごめん……でも……[r] ぷっ、くくくくく」[pcm] [ひなた] 「うん、あんたはそーいうやつだった」[pcm] [公太郎] 「あーもう、とっとと休憩行けよ」[pcm] 締まらないなぁ。[pcm] [ひなた] 「はいはい」[pcm] ;SE:足音(離) ……でも、悪くない気分だ。[pcm] …………[pcm] ;背景:休憩室 [ひなた] 「……はぁ」[pcm] [ひなた] 「……」[pcm] [ひなた] 「……ったく、こっちの気も知らないで」[pcm] ;表情:哀? …………[pcm] ;背景:休憩室 さて、交代で休憩に入った俺の目の前にはでかい皿 に盛られたチャーハンがあるわけだが。[pcm] [純] 「どした?[r] 早く食べないとなくなるぞ」[pcm] [公太郎] 「……二人分?」[pcm] [純] 「あったりまえじゃん」[pcm] ゆうに三人前はあったはずのその山は見る見るうち に1/4ほどが攻略されていた。[r] というか食いながら喋るな。[pcm] [公太郎] 「いるなら手伝えよ」[pcm] [純] 「今日は遅番。あとこれ作ったのボクだし」[pcm] ……細かいことを気にしたらもうキリがないな。[pcm] [公太郎]「……いただきます」[pcm] まずは作ってくれたこいつに、そしてお百姓さんに 感謝を。[pcm] ではいざ尋常に。[r] ――ぱくっ。もぐもぐ。[pcm] ……うん、なんというか、ご飯も野菜の一種と言わ んばかりのチャーハンというか、不思議な味だ。[pcm] 具とご飯とで別々の味付けをしているからだろうか 口の中で味にばらつきがあってそれがおいしい。[pcm] いつだったかどこかで読んだ、「口内調理」という 概念を思い出した。[pcm] ……これをこいつが作ったというのか。[r] 悔しいがスプーンが進む。[pcm] [純] 「ハムッハフハフ、ハフッ!」[pcm] 純はかの有名な霊峰をも攻略できてしまいそうな 勢いで食べている。[pcm] というかこっちはまだあんまり食べてないのにもう 残りは半分ほどだ。食べるの早すぎだろう。[pcm] …………[pcm] [純] 「ごちそうさまっ!」[pcm] [公太郎] 「……ごちそうさまでした」[pcm] 結局2/3以上はこいつ一人で食ったんじゃないか?[r] どういう胃袋だよ。[pcm] ……。[pcm] 改めて目の前の少年を観察する。[pcm] 低めの背にボーイソプラノの声。[r] 中学生といえばそのまま通りそうな容姿。[pcm] しかし平日この時間にここにいるということは少な くとも中学は卒業しているはず。[r] よく考えるとこいつの存在はかなり謎だ。[pcm] 色々聞いてみたいがいいものだろうか?[lr] ……とりあえず気になることだけ一つ聞いてみるか。[pcm] [公太郎] 「……ここに住んでるのか?」[pcm] [純] 「近くのアパート。でもここ叔父さんちなんだ」[pcm] [公太郎] 「……へぇ」[pcm] あんまり……似てない……よな?[pcm] ……考えてみればバイト仲間のことを深く知る必要 ないか。[pcm] [純] 「んじゃボクそろそろ行くね」[pcm] [公太郎] 「ん?[r] あ、ああ」[pcm] どこへだ。[lr] ……やっぱり謎だ。[pcm] …………[pcm] ;背景:テーブル席 休憩上がって昼下がり。客層は学生中心へと変わっ ていく。[pcm] ランチはさほど珈琲紅茶にこだわる客は少なかった が、この時間帯になると「喫茶」を求める客が増え る為かこれはこれで大変だった。[pcm] ちらほらと見知った顔もあるので、学内でもこの店 を知っている人は多いのだろう。何人かには声をか けられた。[pcm] ……というか長岡も居るな。こいつに声を掛けられ ると鬱陶しいから離れていよう。[pcm] どうやら相席しているOL風の女の人と何か話して いるみたいだけどどういう関係か分からない。[r] 顔が広いのは確かなんだけど。[pcm] …………[pcm] ;背景:カウンター [純] 「ひなたさーん、こうたーい」[pcm] [ひなた] 「えっ?[r]……わ、もうこんな時間!」[pcm] [ひなた] 「ごめん、あとよろしく!」[pcm] 途中で交代が入り、挨拶もそこそこにひなたは行っ てしまった。[pcm] [公太郎] 「あれ、ひなたは用事があったのか」[pcm] [長岡] 「大学。今期は後半の授業を多めに取ってるからな」[pcm] いつの間にかカウンターに席を移した長岡が解説する。[pcm] [公太郎] 「会わないと思ったら、そういうことか」[pcm] [長岡] 「教職関連は必須が後半に集中してるから、それに 合わせたんだろ」[pcm] [公太郎] 「……教職?」[pcm] [長岡] 「なんだ、知らなかったのか?」[pcm] [公太郎] 「いや、最近そんな会ってなかったし……」[pcm] [長岡] 「……」[pcm] ;呆れ [公太郎] 「……なんだよ」[pcm] [長岡] 「……いや、なんでも」[pcm] たまにこいつは含みのあるポーズをとる。[r] しかし何も考えてなかったときと本当に色々考えて いる時があるのが困る。[pcm] ……考えるだけ無駄なことが多いんだが。[pcm] そのあとは純や長岡に馬鹿にされたりしながら働い て、閉店時間になるころにはへとへとになっていた。[pcm] ……お前ら覚えてろ。[pcm] …………[pcm] ;背景:カウンター(夜) [店長] 「すまないね、こんな時間まで」[pcm] [公太郎] 「まぁ、体力はそれなりにあるつもりですから」[pcm] [店長] 「助かるよ」[pcm] [店長] 「……店の残りになってしまうけど、夕食も食べて いくかい?」[pcm] [公太郎] 「ぜひ!」[pcm] やった、2食浮いた![r] ……というわけで純と店長と遅い夕食を取ることに なった。[pcm] …………[pcm] [店長] 「少しずつだけど、こうしてみるとすごいね」[pcm] バイキングというわけではないけど、ミニラザニア とか、キッシュだとか、ハンバーグだとか、揃えて みればかなりの量だった。[pcm] [純] 「ハンバーグ貰いっ!」[pcm] [公太郎] 「ふぉっ、やられたっ!」[pcm] [純] 「所詮この世は弱肉強食ってね!」[pcm] [公太郎] 「……それ意味違う」[pcm] [純] 「戦わなければ、生き残れない!」[pcm] [公太郎] 「…………なんで食事で戦わなきゃいけないんだ」[pcm] 昼の時も思ったがこいつかなり食い意地が張ってる。[r] この小さな身体にどれだけ詰め込むんだ、というぐ らいもりもり食べる。[pcm] ……でもな、他人の取り皿から持ってくのは感心し ないぞ?[r] というかにこにこ見てないで止めてくださいよ店長。[pcm] ……。[pcm] ぎゃーぎゃーわめきながらの食事。[r] ある意味戦いではある……のか?[pcm] 正直品性に欠けるというか、こういう行儀の悪いの は苦手なんだけど、不覚にもこれはこれで楽しいと 思ってしまったのは秘密だ。[pcm] …………[pcm] ;背景:店の前 片付けを終えて店を出る頃にはもうすっかり夜中に なっていた。[pcm] 暖房の残る店内から外に出て、頬を刺す空気を感じ ながら今日の出来事をゆっくりと思い出す。[pcm] ひなたと、店長と、純と、ついでに長岡。[pcm] ……なんだか温かい気持ちで帰ることができた。[pcm] ………………[lr] …………[lr] ……[pcm] ;END