○月×△日  □ここからは、PCで投下します 私は、今日も新しいカメラを片手に取材に出る。正直、このカメラを手にしてからの私はいままでのスランプが ウソのように、次々と新しいネタが入って来た。この日は、永遠亭に取材に行った。なにやら、新しいゲーム機 が幻想入りしたらしく、暇を持て余していた永遠亭の主が幻想入り初日に購入したそうだ。私は永遠亭に到着し て受付の因幡への挨拶を済ませると、赤い目に他の因幡とは違う尖った耳をした兎が現れた。私は、彼女の後ろ に付き主の部屋を目指す。長い廊下にそろそろ飽きてきた頃にようやく、廊下の一番奥に到着した。襖の奥から なにやら勇猛な音楽が流れている。案内役の兎が音を立てずに襖を開くと音楽は一層鮮明になり、大広間の奥に 設置された大型TVに映し出された映像に没頭する黒髪の女性がいた。「姫様、取材の方がおいでになりました」 従者の声に反応した主が、手元の機械を弄るとTVに映っていた映像は止まり、音楽も途絶えた。そうして、主 はこちらに振り返り「あぁ、あなたが取材の…ようこそ、永遠亭へ」そういって微笑んだ。 主の手元の機械は、アルファベットの「H」の形をしており、右側にそれぞれ○、×、△、□が書かれたボタンが 四つ。左側には十字にボタンが配置されており、下方には茸のような形の奇妙な棒がそれぞれ右と左に付いている。 それがTV前の白い大きな箱に繋がっており、更にその箱から伸びた線がTVに繋がっていた。傍らには、英語で何か 書かれた空の箱が置いてある。「んー?さ…さげ?エフろ…?」自分でも良く分からない言葉を紡ぐ。英語は読め ん…。「それ、サガ・フロンティアって読む」永遠亭の主に解説される。「って、永淋が言ってた」。そーなのか ー、と暗闇の妖怪のセリフを心のなかで呟く。「まぁ、別に言葉の意味を知らなくても物語を進める上では何の問題 もないわ」というセリフと同時に、手元の機械のボタンを押すと再び勇猛なBGMと映像が動きだした。 TVの中で、数人の人間が巨大な怪物と交戦している。派手な効果音を散らしながら、時に集団攻撃も仕掛け巨大な怪物 を消滅させる。おぉー、と思わず拍手をする。美麗な映像と、勇猛な音楽に彩られた怪物討伐は実に新鮮な物だった。 忘れずに感想をメモ帖に走らせ、怪物との交戦をカメラに収める。しかし、始めは派手な戦闘に心躍ったが段々と飽き てきた。結局、私は眺めているだけなので面白くない。そんな私に勘付いたのか永遠亭の主が口を開く。「正直、飽き て来たでしょ?仕方ないわ。私だって飽きてるもの」聞くと、この時点でもう3週目らしい。そして、さっき巨大な怪 物を倒したのでもう4週目に突入するらしい。「もう、ガッカリだわ。折角、皆で楽しもうとコントローラーも4台買った のに一人用だなんて!」そう言って永遠亭の主は、箱から取り出した円盤を睨み付けた。そーなのかー、とまた暗闇の妖 怪のセリフを呟く。とはいえ、これだけ美麗な映像はなかなか無い。読むに十分値するネタだ。これは、明日の新聞大会 が楽しみだ等と心の中で呟く。私ははやる気持ちを抑えつつ、永遠亭の主に取材協力への謝辞を述べ、早々に帰宅した。 帰宅した私は、猛烈な勢いで執筆する。長い人生で、ここまでスラスラと記事を書けるのは初めてだ。渾身の記事を仕上げ た私は、その足で大会の申し込み所に記事を提出した。申し込み所を出る私の足取りは、実に軽やかだった。ランキング入り は確実だ。弱小、三流などと罵詈雑言を私に浴びせてきたあいつ等を遂に見返せる…そう、思うだけで思わず顔が綻ぶ。帰りに 商店で特上の祝い酒を買って家路に着いた。 翌日、私は焦っていた。会心の記事の喜びから遂、酒が進んでしまった。そして案の定、開催ギリギリの時間に目が覚めたのだ。 幻想郷最速の脚をフルに使い会場に急ぐ。ーー見えてきた。会場には既に多くの天狗が集まり、発表を今か今かと待ち侘びていた 何とか間に合ったようだ。すると、壇上に山の神社の2柱と巫女が現れる。どうやら、今年の大会の司会のようだ。ざわついていた 会場が、発表の緊張感からか一気に静まる。「皆さん!こんにちわ。今大会の司会進行を努めさせて頂きます、東風谷早苗です。 今大会への100を超える多くの投稿、有難う御座います。その多数の投稿の中から、妖怪の山内外から集まった賢人の厳正な審査 の元、選出された30の記事を発表したいと思います。皆さん、大いに盛り上がっていきましょー!!」巫女の滑らかな、マイク パフォーマンスで静まっていた会場のボルテージが一気に沸騰した。この巫女、ノリノリである。歌とか歌ってる。夜雀や騒霊も 真っ青だ。と思ったら後ろに居た。華麗なダンスをしつつ、よく分からない言葉をリリックする。かと思えば、この世への呪詛を 青筋立てながらシャウトしている。10曲ぐらい歌い終えた所、酸欠で失神した巫女は担がれて舞台袖に消えた。苦笑いを浮かべ顔 を見合わせる2柱。いつの間に集まった、審査委員と思われる賢人達もなんともいえない表情をしている。2柱が何やら言葉を幾つか 交わすと、祟り神の方がマイクを取った「えーっと、何かスイマセン…。ここからは、私、洩矢諏訪子が進行したいと思いまーす」 ウォォー!!とよく分からないテンションのスタンディングオべーションで迎える観客。祟り神は、相変わらず苦笑いを浮かべた。 「そ、それじゃあ、発表したいと思いまーす!」ураааааааа!!!とまた、よく分からないスタンディングオべーションが 起きた。 「ベスト3から発表したいと思います。第三位ーーー」 ベスト3には、そもそも入れるとは思っていない。私は、さして興味も無く聞き流した。 「第二位ーーー」 おや、あの文経新聞が二位?とんだ番狂わせがあったわね。天狗社会でも、1の巨大 組織と発行部数を誇るあの新聞社に勝つなんてどんな新聞社なんだろう?普段は聞き流す 第一位に珍しく興味を持つ。 「そして、栄えある第一位はーーー花果子新聞!!」 ーーーー…は? 何を言っているんだ?あの蛙は?花果子新聞といえば遂、数日前に私がこの手で破壊したじゃないか。これは、夢?しかし、壇上 に上がった顔を見て愕然とする。あの時不意打ちを喰らわせ、大量の水を飲ませ、妖怪に食わせようと縛って放置したあの鴉天狗 だった。全身から嫌な汗が噴出し、震え始める。 「花果子新聞が、栄光の1位を獲った記事を発表します!「実録取材!妖怪連続襲撃事件!!」これは、妖怪の山周辺で起きた3人の 妖怪の襲撃事件を取材したものです。そして、この記事を執筆した姫海堂はたてさんはなんと!この事件の被害者なのです!!また 、共同執筆者として名を連ねる犬走椛さん、ナズーリンさんもこの事件の被害者。被害者だからこそ伝わるリアリティ、臨場感溢れる 記事が審査員の心を掴んだようです。では、はたてさん栄えある第1位のコメントをどうぞ!!」 私は、そっと会場の扉に向かう。幸いにも、遅刻したおかげで私は一番後ろにいた。また、会場の異常なテンションのおかげで気付か いないようだった。壇上には、いつの間にか共同執筆者の2人もいた。 「今回は、このような賞を頂きありがとうございます。皆さん、すみませんが突然の事を申し上げます。私達を襲った犯人は、この会場 にいます」 会場の雰囲気が一変する。会場の誰もが、お互いの顔を見合わせる。さながら、イエスが裏切り者の存在を告白した晩餐の様。私は、 急いで扉を開ける。 「その犯人はーーーーーーー今、この場から逃げようとしている人です…」 会場全員の顔が、一斉に出口を向く。 ーーー閉まった扉がそこにあった。