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週刊少年サンデーバトルロワイアル part5 : 2ちゃんねる過去ログ検索 Logstar

週刊少年サンデーバトルロワイアル part5

1 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/16(月) 22:22:32 ID:Qy5WV9TZ

当スレッドは週刊少年サンデーで連載されていた漫画のキャラクター達でバトルロワイアルのパロディをやろうという企画の場です
二次創作が苦手な方。人物の死亡や残酷な描写、鬱々とした展開が受け付けない方は閲覧にご注意ください。

また、当企画はリレー形式で進めていくので、書き手を常に募集しています。
文章を書くのが初めての方でも大歓迎なので興味があれば書いてみてください。


避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/14506/

まとめwiki
http://www44.atwiki.jp/sundayrowa/

前スレ
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1323536658/

2 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/16(月) 22:23:06 ID:Qy5WV9TZ

参加者名簿

からくりサーカス 14/14 
○才賀勝○加藤鳴海○才賀 エレオノール○ギイ・クリストフ・レッシュ○ルシール・ベルヌイユ
○才賀アンジェリーナ○ジョージ・ラローシュ○阿紫花英良○フェイスレス
○パウルマン&アンゼルムス○シルベストリ○ドットーレ○コロンビーヌ○才賀正二

ARMS 11/11       
○高槻涼○新宮隼人○巴武士○アル・ボーエン○キース・ブルー○兜光一○キース・シルバー
○キース・バイオレット○キース・グリーン○ユーゴー・ギルバート○コウ・カルナギ

金色のガッシュ!! 9/9
○ガッシュ・ベル○高嶺清麿○パルコ・フォルゴレ○ゼオン・ベル○ヴィンセント・バリー○ナゾナゾ博士○テッド○チェリッシュ○レイラ
  
金剛番長 8/8
○金剛晄(金剛番長)○金剛猛(日本番長)○秋山優(卑怯番長)○伊崎剣司(憲兵番長)
○桐雨刀也(居合番長)○白雪宮拳(剛力番長)○マシン番長○来音寺萬尊(念仏番長)

うしおととら 7/7    
○蒼月潮○とら○井上真由子○蒼月紫暮○秋葉流○紅煉○さとり

烈火の炎 7/7      
○花菱烈火○霧沢風子○石島土門○水鏡凍季也○小金井薫○永井木蓮○紅麗

うえきの法則 7/7    
○植木耕助○佐野清一郎○宗屋ヒデヨシ○マリリン・キャリー○バロウ・エシャロット○ロベルト・ハイドン○李崩

SPRIGAN 6/6      
○御神苗優○ジャン・ジャックモンド○朧○染井芳乃○暁巌○ボー・ブランシェ

GS美神極楽大作戦!! 6/6       
○美神令子○横島忠夫○おキヌ○ルシオラ○アシュタロス○ドクター・カオス

YAIBA 5/5       
○鉄刃○峰さやか○宮本武蔵○佐々木小次郎○鬼丸猛



計80名

3 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/16(月) 22:23:37 ID:Qy5WV9TZ

【ルール】

バトルロワイアルスレ(パロロワスレ)で書くのが初めてという方は
http://www44.atwiki.jp/sundayrowa/pages/24.html
を参考にしてください
それでも分からなければ遠慮無く聞いて頂いて構いません


経験者の方は以下の事に留意していただけばほぼ大丈夫です
・初予約の場合は期限が3日、それ以降は7日
・ランダム支給品は1~3個で、大きい物に関しては蔵王@烈火の炎に収納されています(蔵王の説明は下記)
・禁止エリアの発動は放送から3時間後

『蔵王の説明』
人の掌ほどのサイズの球であり、収納できる質量に限界はない
道具の出し入れを行う際は念じるのみでよい
ただし、当ロワでは以下のニ点の制限がかかる
蔵王一個につき道具一つまでしか入らない
生物を収納することができない



【制限について】

基本的には最初にそのキャラを書いた人に委ねますが、以下の二点に関してはあらかじめ制限を明記しておきます

金色のガッシュ!!の魔物の子供たち→パートナーと魔本がなくても自身の心の力を使って呪文を発動することはできますが、威力は弱体化します。
                       また魔本は誰でも読むことができますが、本人が魔本を持って呪文を唱えても本来の威力にはなりません。
                       なお、魔本が燃えたとしても死亡や魔界に送還することにはなりません。

うえきの法則の能力者達→神候補から貰った才を使って能力者でない者を傷つけても才は減少しない。

4 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/16(月) 22:24:13 ID:Qy5WV9TZ

スレ立て完了ー

5 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/16(月) 23:24:19 ID:nxW3jJQB

新スレ乙です

6 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/17(火) 00:51:50 ID:P4znFDqT

新スレ乙です

7 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/17(火) 08:33:04 ID:u6HvNbjI

新スレ乙です

8 名前 : ◆c8fjjCyRkM 2012/07/17(火) 09:12:01 ID:u6HvNbjI

http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1323536658/524-

前スレに投下したらちょうど500kbになって埋まりました

9 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/17(火) 11:45:34 ID:bpAhYpPy

投下&前スレ埋め乙!
アルとボーが実に素敵。性格が真逆なだけに、これからが楽しみ
しかしシルバーのほうに突っ込んでたら鬼丸と再会してたし、ボー命拾いしたなw せっかくテッドのおかげで生き延びたのに、そうなるワケにはいかん
最後のアルのホワイトへの言葉いいなあ

10 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/18(水) 12:07:14 ID:S7xiBRji

投下乙
やっぱりアルはいいなw
ボーが危ういところある分、サポートして欲しいけど
でも鬼丸追って来てるんだよなw

11 名前 : ◆6LcvawFfJA 2012/07/20(金) 09:13:12 ID:QRIGeHjE

投下致します

12 名前 : ◆6LcvawFfJA 2012/07/20(金) 09:13:43 ID:QRIGeHjE



<登場人物紹介>

 一人目……夢を抱く少年。

 二人目……夢を抱くのを止めた青年。

 三人目……夢を抱く事を許されなかった青年。


     ○

13 名前 : 明暗 ◆6LcvawFfJA 2012/07/20(金) 09:15:33 ID:QRIGeHjE


「……は?」
 ガッシュ・ベルの口から零れ落ちたのは、ひどく気の抜けた声。
 現状を認識出来ずにいながら、吐息と共に自然に漏れてしまった物だ。
 先程までの射抜くような視線は鳴りを潜め、目を見開いたまま放心している。
 その眼前で、ジャン・ジャックモンドは正二の所持品を回収する。
 人形をアタッシュケースに戻して蔵王に入れ、正二のリュックサックに収納する。
 終始口を利こうともせず、ジャンは幾つものリュックサックを手にガッシュの傍らを横切っていく。
 ジャンの長い金髪が、ガッシュの頬をほんの僅かに擦った。
 そのくすぐったい感触が、ガッシュを我に返す。
 覚醒してまず、正面から向き直る。
 目を背けず、眼前に広がる光景に。
 そこには、才賀正二が倒れ伏している。
 胸を大きく切り付けられ、首を切断された状態で。
「ぬ……うぐうッ」
 胃袋の内部が、体内を上昇してくる。
 食道が本来とは反対の行為を行っている感覚。
 程無くして口内に広がる酸味と異臭が、さらに吐き気を促す。
「ヌウウウ……ッ!!」
 口元を手で押さえて、込み上げてくる物を無理に胃へと戻す。
 溢れてきた涙を手の甲で拭って、離れていったジャンを視線で追う。
 ジャンが向かっているのは、ガッシュが這いずって脱出したハイエースの方。
 それに気付くや否や、ガッシュは走り出した。

 ジャンは足を止めて、廃車と化したハイエースを眺める。
 白い車体は焼け焦げてしまい、全体が黒ずんでいる。
 その理由が車体に人形が突っ込んできた所為で爆発したからだと、ジャンには分かる。遠目に惨劇を見るしか出来ずにいたのだ。
 一度炎上していたが、既に火は治まっている。
 ハイエースの左側に移り、ジャンはある事実を知る。
 爆発による衝撃の為か、左のドアが吹き飛んでいたのだ。
 そのお陰で、ガッシュは炎上する車から這い出す事が出来たのだろう。
 ジャンは静かに頷いて、車内に身体を捻じ込んでいく。
 ドアが無くなった為、容易く這入れるようになっている。
 しかし今は沈下されているとはいえ、ほんの少し前まで炎上していた車だ。勿論、熱い。
 シートは消失しているが、その他の部分は焦げた状態で残っている。
 当然這入れば、未だ熱を持った車体に肌に触れる事となる。
「……ッ」
 が、ジャンは表情を歪めるだけで、何も言わない。
 いかに獣人であろうと、無視出来る熱量では無い。
 にもかかわらず無言を貫き、運転席へと手を伸ばす。
 “お目当ての物”を掴むと、それを引きずり出しながら車外へと出る。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
 荒くなった呼吸を整えてから、ジャンは気付く。
 急に浮かべるのは、軽薄な笑み。
「何だよ、ついて来やがったのか? へッ、ガキは一人でいる事も出来ねえのかよ」
 茶化すような口調で言うが、いつの間にやら追いついていたガッシュに大きな反応は無い。
 怒りに駆られるでも、失望を露にするでも無い。
 射抜くような視線を向け、緩やかに口を開く。
「ジャンよ、お主は一体……何をするつもりなのだ?」
 そして、ジャンが“ハイエースから引きずりだした物”を指差す。

14 名前 : 明暗 ◆6LcvawFfJA 2012/07/20(金) 09:16:08 ID:QRIGeHjE


「その……、兜の亡骸にッ!!」

 ガッシュの指摘に、ジャンもまた大きな反応を見せる事は無い。
「決まってんだろうが、そんなもんはよ。
あの結局何だったのかよく分からねえ爺にしてやったのと、一つも変わらねえよ」
 今まで浮かべていたのと変わらぬ笑みを浮かべて、時間をかけて思わせぶりに答える。

「首輪をいただく以外に、もう死んじまってる奴が何の役に立つんだよ」

 再び閻水を振るい、ジャンは兜光一であった物の首を落とす。
 正二と違って焼け焦げた為に、鮮血が飛び散る事は無い。
 力無く重力に引っ張られていくだけだ。
 地面に落下した死体が、数回跳ねてから止まる。
「ジャアアアアアアアアアアアアアンッ!!」
 直後、木霊したのはガッシュの絶叫。
 声を張り上げながら、ジャンへと飛びかかる。
 魔本を持たないガッシュは、呪文を使う事が出来ない。
 文字通りに、戦う術を持たないのだ。
 それでも突発的に頭から突っ込んでいく。
 しかし、相手はジャン・ジャックモンド。
 スプリガン最速の男。
 兜の死体と共に発見した蔵王を確認しながら、難無く回避する。
「ヌ、ヌウウ……ッ」
「止めとけよ。お前、本気で俺に勝てるとか思ってねえだろうな。……夢、見てんじゃねえよ」
 唸るガッシュに、ジャンは冷たく言い放つ。
 言い切る寸前だけ、浮かべた笑みは消えていた。
 その事にはガッシュだけでなくジャン本人すら気付かず、彼は兜の首輪を眺める。
 すぐに違和感を抱く。
 既に回収した四つの首輪とは、異なっている点がある。
(どういう事だ? なんで、兜光一なんだ?
才賀正二でも無く、白雪宮拳でも無く、人形共でも無く……)
 これまでの四つは内側にすら溝一つ無かったが、兜の物体には継ぎ目が存在しているのだ。
(……いや、“兜光一だからこそ”か?)
 他の四つは、超常的な能力を持ち合わせた者に嵌められていた。
 しかし兜光一は違う。
(外されたところで脅威にならねえと、はなっから決めてかかってた訳か……?)
 如何なる技術であるのか、四つの首輪は継ぎ目が隠されている。
 そんな加工を施したのは、すなわち装着者を恐れているからであろうか。
(いや、“恐れている”は言いすぎだ。
奴にしちゃ、“念には念を入れておく”以上の意味なんざ無えだろう)
 加工にも手間がかかる筈だ。
 ならば加工する必要性に駆られぬ首輪にまで、わざわざ施す必要はない。
 そのように判断したのだろうか。

15 名前 : 明暗 ◆6LcvawFfJA 2012/07/20(金) 09:16:40 ID:QRIGeHjE

「ジャン! 私の話を」
「聞かねえよ」
 語気を強くするガッシュの声が響き、ジャンの思考は乱された。
 この件については一人になってから考え進める事にし、傍らでやかましい声が響いていても出来る作業をする事にする。
 手元にある複数のリュックサックの中身を一つに集めて、ジャンは空のデイパックを地面に捨てる。
 この作業には思いの外時間がかかったが、必要な事であった。
 ジャンは、蔵王の一つからスーパーカブを取り出す。
「じゃあな。お前とはここでお別れだ」
 運転するのに邪魔な門構えと閻水を蔵王に収納し、ジャンはカブに跨る。
 いい加減業を煮やしたのか、ガッシュはこれまで以上に口調を強くする。
「話くらい聞かせるのだ! 何故あのような事をした! 首輪を集めたいというのは分かる! 必要な事だ! しかしッ」
 何を言われたところで無視するだけだと、ジャンはカブのエンジンをかける。

「どうしてなのだ!? 私の“優しい王様”になりたいという夢を聞いて、お主は微笑んでくれたではないか!
 “いいんじゃないか”と! 確かに、そう言ってくれたではないかッ!」

 一瞬、ジャンの呼吸が止まる。
 蘇る暁や兜とのやり取り。
 聞かれていたのか。
 見られていたのか。
 そんな思いが脳内を廻る。
 そして思考が纏まり切らないまま、ジャンは叫んでいた。

「うるッせえんだよッッ!!!!」

 その顔面からは、軽薄な笑みなど消え失せていた。

     ○

16 名前 : 明暗 ◆6LcvawFfJA 2012/07/20(金) 09:17:31 ID:QRIGeHjE


「……という事だったのだ」
 ガッシュの語りが終わり、秋葉流は大きく息を吐く。
(……全くよ)
 結局、流は植木とユーゴーの待つ地点には戻らなかった。
 ユーゴーの方はともかくとして、植木と再会したくなかった。
 有無を言わさず世界の違いを思い知らせる、あの眩い視線。
 記憶の中でさえ蒼月潮を連想させるというのに、実際に受けてしまえばどうなるのか。
 流自身にさえ、見通しが付かなかった。
 そこで北ではなく東を選び、歩む最中でガッシュの声を聞いた。
 今にしてみれば意味の分かる“ジャン”という叫び。
 当時は理解出来なかったが、子供の声であるのは明白であった。
 子供に悲鳴を上げさせるような手合いであれば、視線を受けても支障は無い。むしろ鬱憤を晴らせるかもしれない。
 その当ては、大いに外れたらしい。
「で、お前はどうすんだよ」
 俯いたままのガッシュに、流は声をかける。
 潮に向けたような、刃に向けたような、植木に向けたような、笑顔が勝手に作られていた。
 意図せず表情の変わる自分に流は嫌気が差すが、胸中に留める。
「わ、私は……ジャンがあそこまで怒った理由が分からぬのだ。
それが分からなくては、また誰かを怒らせてしまうかも……」
「そんなもん、俺にも分からねえよ。そいつが教えてくれるまで、ずっと俯いてるのかよ」
「う……」
 口籠るガッシュ。
 その瞳は僅かに曇っている。
 流はその状態しか知らないというのに、本来のガッシュが潮と同じ瞳を持っていると断定していた。
 彼には、分かるのだ。
 誰よりも、分かってしまうのだ。
 何故なら、彼は――。
「黙ってちゃ分からねえよ」
「ヌゥ……」
「“優しい王様”だったか? それ、止めちまうのかよ」
「う……、うう……」
「やれやれ、全くよ」
 流は天を仰ぐ。
 こういう時、どういう風に問えばいいのか。
 それさえ、流はよく知っているのだ。

「死んじまったお前の仲間に、まだ生きてる清麿って奴に……、止めるって言えるのか?
誰も泣かずに済むように優しい王様になるって決めたのに、誰か泣かせたままでいいのかよ」

 目を丸くするガッシュ。
 暫く黙ってから、静かに結論を出す。
「……ならぬ」
 曇っていた瞳に、光が宿る。

「それだけは、絶対にならぬッ! こうして止まっている間に、誰かが泣くかもしれんのだッ!」

17 名前 : 明暗 ◆6LcvawFfJA 2012/07/20(金) 09:18:01 ID:QRIGeHjE


 自分自身ではなく、他の誰かを持ち出せばいい。
 そんな流の考え通りであった。
 思わず、流は吹き出してしまう。
「ウ、ウヌ!? 流、何故笑うのだ!?」
「いやいや、何でも無ェよ」
「ヌウ……、そうなのか? まあ良い! 流よ、私と一緒に来てはくれぬか?」
 その言葉に、流は言葉を失う。
 予期していなかった訳では無い。
 むしろ言いかねないと思っていた。
 なのに、不思議と反応を返せずにいる。
 その間も、ガッシュは流を見つめたまま。
 あの光に満ちた視線を、秋葉流に向けたまま。
「……ああ。別に構わねえよ」
 流の口が勝手に動き、ガッシュは顔を綻ばせて喜んだ。
 その手元には、二つの物が握られている。
 暫く怒鳴って落ち着いたジャンが、ガッシュに残した品。
 「一応、武器くらいはやるよ」とぶっきら棒に言って取り出した、小さなポケットナイフ。
 それから「自分が持っている訳にはいかなくなった」と顔を伏せたまま手渡してきた、白兎の耳。
 ガッシュの手の中で、白兎の耳が仄かに輝いた。

 ガッシュには嘘を吐いたが、流にはジャンが激昂している理由は明らかであった。
 立ち直ったガッシュを見て、推測は確信に変わった。
 ジャンはおそらく、ガッシュの瞳に耐えられなかったのだ。
 大きく真っ直ぐな夢を抱いた瞳の眩しさを、とても見ていられなくなったのだ。
 流もジャンと同じであるから、痛い程よく分かった。
 同じと言っても、全く同一ではない。
 流はその才能故にそうはなれなかったからこそであり、ジャンは自らの所為で夢を諦めさせられたからであろう。
 そう結論付けた流に、ガッシュが声をかける。
 見上げてくる瞳は、やはり眩しい。
 こちらを善人だと信じ切っているのだろう。
 本当の秋葉流を知らないし、見る気すら無いというのに。
「…………ッ」
 知らず、流は唇を噛んでいた。
 何を期待したのか同行すると言ってしまったが、やはり辛い。
 真っ直ぐで光り輝く視線を受け続けるのには、到底耐えられそうに無い。
 本当の秋葉流には向けられていない視線に、体が引き裂かれるような思いだ。

 依然として、風の止む気配は無い。

18 名前 : 明暗 ◆6LcvawFfJA 2012/07/20(金) 09:18:32 ID:QRIGeHjE






【C-6 北部路上/一日目 午前】

【ジャン・ジャックモンド】
[時間軸]:少なくともボー死亡後。
[状態]:疲労(大)
[装備]:H○NDA・スーパーカブ110@現実
[道具]:基本支給品一式×5、首輪×5(剛力、暁、パウルマン、アンゼルムス、正二)
     門構@烈火の炎、翠龍晶@うしおととら、閻水@烈火の炎、対AMスーツ用特殊ライフル(弾丸:11)@スプリガン、拡声機@現実
     あるるかん@からくりサーカス、カロリーメイト9000キロカロリー分(一箱消費)@現実、不明支給品2~6(確認済み)
[基本方針]:殺し合いには乗らない。殺し合いに乗ったと思しき相手は、躊躇せず殺す。高槻涼に会う。
※美神と少しばかり情報を交換しました。


【C-6 寺だった瓦礫周辺/一日目 午前】

【ガッシュ・ベル】
[時間軸]:コルル戦直後
[状態]:術使用による精神ダメージ、ところどころ服が焦げている
[装備]:ポケットナイフ@現実、白兎の耳@ARMS
[道具]:なし
[基本方針]:優しい王として、泣くものがいないように頑張るッ! 流と行動する。

【秋葉流】
[時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前
[状態]:健康
[装備]:鋼金暗器@烈火の炎、金属片いくつか(真鍮)@現実
[道具]:基本支給品一式+水と食料二人分、ランダム支給品0~1
     飛斬羽@烈火の炎、トライデント特製COSMOS仕様サブマシンガン@スプリガン、ワルサーP5@スプリガン
[基本方針]:――――――――



【支給品紹介】

【ポケットナイフ@現実】
巴武士に支給された。
その名の通り、ポケットに入る程の折り畳み式小型ナイフ。



※スティンガーミサイル1/1@現実、予備弾頭30発@現実の入った蔵王は、暁巌だった肉の山の周囲に転がっています。
※兜光一のリュック(基本支給品一式は、蔵王以外燃え尽きました。

19 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/20(金) 09:19:02 ID:QRIGeHjE

終了です。

20 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/20(金) 14:47:48 ID:KD3tyye1

投下乙です

旧スレの感想もこちらで
アルとボーが良い感じだ!!!
どっちも好きなキャラだけど、この二人はかみ合わなそうだと思い込んでいた
いいなあ、このチーム頑張って欲しいなあ
まあ何と言うか、ボーは心眼とかなくてもわりと筒抜けな感じだけどね
本質とか全部自分で言っちゃうしね

流兄ちゃんはどう転んでもややこしい方にしか行かないのでそっとしておくとして
白兎はガッシュの力になってやって欲しい

21 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/21(土) 01:43:32 ID:Zq05/DNg

投下乙
おおう、もう……
ジャンの気持ちが分かるから辛いね。怒鳴りたくもなるわ
そして流兄ちゃん。ガッシュ視点だといい兄貴分なんだろうけど……
ガッシュは前途多難だなぁ

22 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/07/22(日) 20:20:07 ID:FOUOqMxM

投下乙
ジャンの叫びが胸に来る。ロワ開始してろくな目に遭ってないもの
ガッシュもだけど、ジャンにも頑張って欲しいな
そして流の不穏なフラグ…

23 名前 : ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 14:18:05 ID:ABXBe3Rl

投下致します。

24 名前 : 導火 ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 14:18:46 ID:ABXBe3Rl

 “魔物”が“呪文”を唱える事で発動する“術”。
 ゼオン・ベルとガッシュ・ベル兄弟の例を見るに、その能力の分類自体は受け継がれる代物であるのだろう。
 しかしながら彼等の術は“電撃”という大まかな分類こそ同一だが、細かい点で異なっている。
 決してガッシュが父より受け継いだ雷竜のみにあらず、その他の術についても言える。
 全く同じ名を冠した同じ術もあるが、同時に一方がどれだけ鍛錬を積もうと習得出来ぬ術も一方が持ち合わせていたりもする。
 つまり、魔物の扱う術とは個体それぞれによって異なる物であるのだ。

 今現在、エリアC-4の橋の上にへたり込んでいる少女がいる。
 ウェーブの掛かった金色の髪が印象的な彼女の名は、チェリッシュ。
 “魔界の王を決める”戦いの参加者であり、言うまでも無く魔物の子である。
 彼女の扱う術は“狙撃”。

 はたして狙撃手が狙撃を完遂するにあたって、重要な要素となるのは如何なる物であろうか。
 まずは確かな得物だ。照準を合わせた方向に弾が飛ばなくては、対象を狙撃する事など到底不可能である。
 次に環境。気温、気圧、湿度、風向き、風速といった外界の条件は、銃弾の軌道に大いに影響を与える。
 そして“慣れ”。得物に慣れ、環境に慣れ、狙撃に慣れる事で初めて、狙撃手は一抹も心を揺らさずして引き金を引けるようになるのだ。
 ならば、チェリッシュの場合はどうであろう。
 端的に言えば、彼女は全ての要素をクリアしている。
 呪文を唱えることで放たれる弾丸は、術者の思うままに対象を撃ち抜く。
 些細な環境の変化などでは、その呪文に対して影響など及ばない。
 幼い日より力を必要としていた過去もあり、能力にも十分に慣れている。
 だが“狙撃手が狙撃を完遂するのに重要な要素”をクリアしていながら、今のチェリッシュに正確な狙撃を行う事は出来なかった。
 何故なら、今のチェリッシュはもはや狙撃手と呼ぶに値する存在ではないのだから。
「う、うううう……」
 痙攣する形のいい唇から零れるのは、小さな呻き声。
 同じく震えている膝の上に置かれた魔本が放つ輝きは、酷く微弱で息絶える寸前の蛍のよう。
 金剛晄へと向けられた右手もまた震えている。
 術を発動するにあたり右手で照準を定めるのが常だというのに、これでは定められる物も定められない。
 その姿は、もはや狙撃呪文を十八番とする魔物のそれではなかった。
 にもかかわらず、チェリッシュは思うように動かない口で呪文を紡ぐ。
「ぎ、ぎぁ……、ぎぁの……」
 呂律が回らない。
 そんな自身とは裏腹に、脳内に鳴り響くのは警笛。
 相手に気付かれぬ内に放たねばならない。
 焦燥がますます、彼女を狙撃手から遠ざける。
 苛立ちが余計に、彼女をただの少女に近付ける。
 その事実にすら、チェリッシュは気付けぬまま。
 呼吸を整えようとして過呼吸気味になりながら、ようやく目当ての呪文を唱え切った。
「ギガノ……コファル……!」
 たとえ小声であろうと関係無く、魔物の術は発動する。
 その点で相手に捉えきれぬ声で呪文を唱えたのは、見計らった訳ではないが正解だ。
 とはいえ、如何せん籠められた力が弱すぎる。
 怯えきった彼女の“心の力”、全力の“ギガノ級”を発動出来るには程遠い。
 故に外見だけは巨大な弾丸であるものの、密度の薄い張りぼて同然の“ギガノ・コファル”しか放てなかった。
 狙撃手でない今のチェリッシュは、本来持ち合わせていた“確かな得物”さえ失っていた。
 チェリッシュの指先から射出された張りぼて同然の弾丸は、その速度さえ不十分。
 弾丸が届くより相当早く、悟られぬ間に撃ち抜くはずの相手は弾丸に勘付いた。
 チェリッシュの思考が白く染まり、その膝から彼女の魔本が滑り落ちた。
 魔本が地面に接触した微かな音で正気に戻るも、そんな彼女を待っていたのは絶望であった。

「ああ……?」
 新宮隼人から零れたのは呆けた声だ。
 何らかの物体が接近してくるのを捉えて振り返り、目に入ったのは細かくカットした宝石。
 緩やかに接近してくるそれが弾丸だなどという発想には、数々の修羅場を潜り抜けた彼でも至らない。
 不用意に触れる気は無くとも、流石に反応に戸惑う。
「どいてろ」
 呆気に取られている隼人の前に出たのは、金剛晄だ。
 退くでも迎撃するでもなく、胸を張って立ち尽くしたままその巨体で弾丸を受け止める。
 暫しの拮抗すらなく、弾丸は微細な破片へと砕け散った。
「……」

25 名前 : 導火 ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 14:20:31 ID:ABXBe3Rl

 どうやら攻撃であったらしい。
 そう認識してなお困惑する隼人に目もくれず、晄は離れた場所にいるチェリッシュを睨み付ける。
「何が何だか分からねえが、知った事か。
そこのお前、不意打ちとは一体どういうつもりだ」
 重々しい声色で、端的に問う。
 見た事も聞いた事も無い攻撃ではあったが、弾丸の飛来してきた方向にいるのはチェリッシュ一人。
 もはや、晄はチェリッシュが襲撃者であると判断していた。
「あ、あ……」
「聞こえねえな」
「あぁ……ぁ……」
「聞こえねえと言っている」
「……なあ金剛、そんな厳しい口調で言わなくてもよ」
 晄の威圧的な態度では、チェリッシュが口籠ってしまうのも無理からぬ話だ。
 そう考えての隼人の忠告は、結局最後まで告げられる事はなかった。
「コファル……コファル、コファル、コファル……!」
 真っ青な顔をしたチェリッシュが、小さな弾丸をいくつも放ってきたのだ。
 微動だにせず“ギガノ・コファル”を耐え切った晄の姿に、同じく“ギガノ・コファル”を巨体で以って受けた日本番長が重なったのだ。
 無論、そんな事は隼人と晄には知る由も無いが。
 それでも、チェリッシュの精神状態が正常ではないというのは、二人ともが察した。
「ちっ! おい金剛、どう見てもてめえが追い詰め……ああもういい!
いったん置いといてやらあ! 色々言いてえが文句は後だ、後!」
 ARMS化させた左腕から伸びる刃で弾丸を捌きながら、隼人は毒づく。
「お前、ちょっとそこで目立ってろ!」
 この一言で、晄には隼人の言わんとする内容が伝わった。
 直立不動に保たれていた体勢を崩し、大げさな動作で迫る弾丸を払い除けていく。
 あえて派手な動きを取ることで、晄はチェリッシュの意識を自身だけに向けているのだ。
「ゴウ……」
 晄の意図通りに、見る見るチェリッシュの顔色が青くなる。
 焦る気持ちに囃されて、より上級の呪文を唱えようとした瞬間。
「悪いけど、ちょっと寝ててもらうぜ」
 既にチェリッシュの背後に回り込んでいた隼人が、彼女の首筋にARMS化を解除した左手で手刀を下ろした。
 魔物の術には、“心の力”が籠められている。
 その為、水の如き心に他者の意識を投影して読み取れば、掻い潜る事とて可能であった。
 隼人が祖父から学んだ武道の技術で、チェリッシュは一撃で意識を失ってしまう。
 くずおれた彼女を片手で抱えたまま、隼人は晄に詰め寄っていく。
「お前よー……、明らかに怯えてる女の子相手に、あんな口調はねえだろ」
「普通に接していたつもりだったがな」
「お前が普通にしてっとこええんだよ!」
 隼人が叫んでも、晄は首を傾げるだけだ。
「だがお前の口調も、なかなかガラが悪いと思うが」
 挙句の果てに飛び出た言葉に肩を落としてから、隼人は真剣な表情となる。
「けどよ、この子の使ってた……あの宝石? ありゃあ、一体何なんだ……?」
「……分からん。特異体質者ならば何人も見た事があるが、どうやら勝手が違うみてえだ」
「俺も妙な奴等はよーく知ってっけど、どうにもなぁ……」
 先ほどと違い、二人して首を傾げる。
 考え込む二人を現実に戻したのは、まだ幼い少年の叫びだ。

「チェリッシュから手ぇ離せ!!!」

 チェリッシュを追いかけてきていた鉄刃が、遅まきながら到着したのだ。
 ようやく辿り着いてみれば、チェリッシュは意識を失っているではないか。
 その意識の無いチェリッシュは目付きの悪い少年に抱えられており、さらにその傍らには日本番長と酷似した男がいる。
 発見するや否や、刃の怒りは一瞬で沸点まで到達した。
 超振動ナイフを握り締めて、一気に河原へと駆け下りていく。
「なあッ!? 馬鹿野郎、お前何てもん持ってやがるッ!!」
 これに焦ったのは、超振動ナイフをよく知る隼人だ。
 ARMS化した左腕を肩口から切断されたのを筆頭に、かなり痛い目を見せられてきた代物だ。
 チェリッシュを河原に横たえて、隼人は一気に跳び上がる。
 己がいた空間に容赦無く突き刺さるナイフを見ては、表情を歪めてこう吐き捨てるしかない。
「こんの糞餓鬼……ッ!」

26 名前 : 導火 ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 14:21:02 ID:ABXBe3Rl

 即座に助太刀に入ろうとする晄に、隼人は声を張り上げる。
「やめろ、金剛ッ! このナイフとやるなら、俺のが相性いいんだよ!」
 斬られても生えてくるんだからな。
 そんな風に続けて、隼人は刃を見据える。
 振動するナイフの刀身に触れる訳にはいかない。
 つまるところ、柄かナイフを握る手だ。
 そこに裏拳でも浴びせれば、ナイフを滑り落とすだろう。
 しかしその狙いを見破られたのか、すんでの所で回避されてしまう。
 カウンターじみた突きを仰け反って避け、バックステップで距離を取る。
 刃が悪人でないのは、最初の口振りで分かっている。
 故に言葉を交わしてクールダウンさせようと目論んだのだが、せっかく開けた距離を刃はたったの三跳びで詰めてくる。
(思ったよりやるじゃねえか、この餓鬼……!)
 そんな風に思ったの矢先に、刃が声を張り上げる。

「俺は……、チェリッシュを守るって約束したんだッ!!」

 隼人は、一気に頭が冷えるのを感じた。
 思考は急速に冷え切り、ただ胸の奥だけが熱く燃え上がっていく。
 隼人の中に滾る思いに、体内に埋め込まれたナノマシンが呼応する。
 “仁愛”の意思を籠められたARMS“ナイト”が、その力をより強固な物に高めていく。

「ざッけんなッッ!!」

 再度ARMS化させた左腕に、超振動ナイフが突き刺さる。
 しかし、そこから先には進まない。
 突き刺さったまま微動だにしない。
 急に鉱物と化した隼人の左腕にか、はたまた動かぬナイフにか。
 絶句している刃に、隼人は声を荒げる。

「ただの餓鬼なら何やっても知ったこっちゃねえよッ! けどな、てめえ誰かを守るって言うんならよ……!」

 先程まで、隼人は刃の事を単なるチェリッシュの単なる同行者だと思っていた。
 チェリッシュの方が年上に見えるし、おそらくそれは間違っていないだろう。
 しかし、刃は今何と言った。
 守ると。
 そう言ったのだ。
 誰かを守る立場でありながら、下らない勘違いをしているのか。
 振るうべき力の対象を間違っているのか。
 まるで、高槻涼と出会う前の新宮隼人のように。
 それだけは許せない。
 許してしまってはいけない。

「相手間違ってんじゃねえッッ!!!」

 隼人は生身の右手で拳を握り、刃の鳩尾を殴り抜ける。
 衝撃に耐え切れず吹き飛んで行くと、河原を数回転がってやっと止まる。
 苦しそうに咳き込んでいる刃に、隼人は容赦なく問いかける。
「分かったかよ。返事しろ。返事」
「ゲホッ、ゴホッ……、ああ……ガフッ、ガハッ、おえっ……」
 鳩尾に正拳を叩き付けられた所為で、刃はえずいている。
 そんな状態になりながらも、刃は時間をかけて首を縦に動かす。
 刃は、自分の見当違いであることを理解したのだ。
 のたうち回りながら返事をしてきた姿に、隼人は思わず微笑んでしまう。
 腕に突き刺さったナイフを引き抜いて、刃の手元に放り投げて返してやる。
 しかし、どうにも強く殴りすぎたらしかった。
 一向に刃の呼吸は整わないし、地面の上で寝転がったままだ。
 仕方がないので手を貸してやろうと歩み寄っていく隼人。
 その前に、一人の男が割って入ってきた。
 局所を一枚の葉っぱで隠しているだけの、金髪を長く伸ばしたやけに濃い顔をした男。
 パルコ・フォルゴレが、やけに険しい表情で隼人を睨み付けていた。

27 名前 : 導火 ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 14:22:24 ID:ABXBe3Rl


     ○

 チェリッシュの放ったギガノ・コファルが粉砕される音を捉えたのは、軍人としての鍛錬を積んだマリリン・キャリーであった。
 他の参加者とコンタクトを取る事を望んでいた彼女は、当然のように同行者の二人に接近する意思を告げる。
 これに反対したのはフォルゴレのみであり、ドクター・カオスはあっさりと受け入れていた。
 隊長の提案かつ多数派ともなれば、隊員の反対かつ少数派など黙殺されて然るべきである。
 ちなみに、道中では以下のような会話が交わされていた。
「おいじーさん、あんた知り合いと会いたくないんじゃなかったのかよっ」
「?? お主、何を言っておるのだ?」
「さっきそんな事言ってたじゃないかっ! この裏切り者!」
「……頭でも打ったのか? この状況だぞ? どうして他者と出会える機会を自ら手放さねばならんのだ。
その程度、このわしの衰え知らずの頭脳でなくとも流石に分かるじゃろう」
「その恰好で知り合いに会ったらどうなることか、って騒いでたじゃないか!」
「……はっ! すっかり忘れておった! いかん!」
「こ、このボケ老人め~~! あんたの所為で~!」
「うるさいですわっ! 戦闘音があった方へ向かってるんですのよ!?」
「イ、イエッサー隊長! ジーク隊長! 隊長万歳! だからお願い、私を守ってお願い」
「だ、ま、れ、と! 指示してるんですわ!!」

 そんなやり取りから暫し後、三人は新宮隼人と金剛晄を発見する。
 少し距離は離れた位置で止まり、所持する八倍ズーム機能搭載の暗視ゴーグルを取り出す。
 交わす言葉は聞こえずとも、行動を窺う事は可能。
 隼人の腕に抱かれた意識の無いチェリッシュを確認し、カオスとマリリンが提案したのは接触ではなく観察。
 フォルゴレがその選択に安堵し、すぐさま賛同したのは言うまでも無い。
 もともと誰かと戦う気など持ち合わせていないし、何より一度だけ覗かせてもらったゴーグルで見えた隼人と晄の姿である。
 やたら目付きが悪いロン毛の隼人は不良少年のようだし、晄は長身のフォルゴレよりさらに背が高くアメコミヒーローのような筋肉の持ち主。
 銀幕の中のフォルゴレならば話は別だが、現実のフォルゴレでは極力関わりたくない。
 目線があっただけで、財布を差し出してしまいかねない。
 大きく溜息を吐くフォルゴレであった。
「……む。もう一人現れましたわね……」
 ゴーグルを装着したマリリンの言葉に、ついついフォルゴレは思ってしまう。
(あんな怖そうな二人に関わるなんて、物好きもいたものだなぁ)
 どこか他人事のように思っていたフォルゴレだったが、続くマリリンの言葉に目を丸くするのだった。

「“子供”ですわね」

「…………へ?」
 半ば強引にゴーグルを貸してもらい、覗き込むフォルゴレ。
 暗視レンズの向こう側で、その瞳はさらに丸くなっていく。
 まだ幼い子供にしか見えない鉄刃が、ナイフを持って隼人に立ち向かっているのだ。
 横たわっているチェリッシュを気にしているのか、時たま視線がそちらの方に向いている。
 それだけで、刃が怒りを露にしている理由が分かった。
 気付かぬ内に、フォルゴレの体は震えていた。
 自分が恐れている二人に対し、まだ幼い子供が少女の為に立ち向かっているのだ。
(……まるで)
 映画の世界のパルコ・フォルゴレのようだった。
 しかし、子供の持つナイフはは不良少年に奪われてしまう。
 不良少年の左腕は、鉱物じみた剣に変形している。
 ただの人間ではないのは明らかだった。
「……フォルゴレさん? 何を!?」
 マリリンの静止に耳を貸さず、フォルゴレはゴーグルを捨てて駆け出していた。
 さながら、フィクションの世界の住人であるパルコ・フォルゴレのように。
 子供を守るために、恐るべき相手の前へと身を投げ出した。

     ○

(……こりゃ拙いな)
 隼人がそう思えたのは、チェリッシュや刃とのやり取りの直後だったからである。
 チェリッシュが晄を追い詰めた時のように、刃が飛びかかってきた時のように、また誤解されているのではないか。

28 名前 : 導火 ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 14:23:09 ID:ABXBe3Rl

 その事実に、すぐさま勘付く事が出来た。
 晄に目配せすると、どうやら彼も気付いているらしい。
「あー、えーと……、あんた、誤解してっかもしんねーけど。
いやしんねーっていうか、多分、いや違え。きっと……でもねえな……絶対! ぜってえ、誤解して」
 平穏に済ませるべく、隼人は言葉を選ぶ。
 そんな彼にしては珍しい行為が実る事は無かった。
 凄まじい速度で接近してきた何者かに、横合いから蹴り飛ばされたのだ。
 水の心で以って気配を捉えたはいいが、いきなり加速しての接近に対応する事は不可能であった。
「大丈夫か」
「……ああ。まあ痛くて立てねえとかはねえよ」
 自身を受け止めた晄の腕から離れて、先程までいた場所を見やる。
 そこに立っていたのは、チェリッシュと同じくウェーブ掛かった金髪の少女。
 チェリッシュより少し幼い外見で、髪は後ろで纏めている。
「ただ、あいつがどういう動きで攻撃してきたのかは分かんねえけどな」
 “一秒を十秒にする”能力を持つ中学生、マリリン・キャリーである。

「私が指示する前に勝手に行動されては困りますわ」
 落ち着いた口調で諌められ、フォルゴレは俯いてしまう。
 返す言葉も無く黙っていると、今度は離れた場所から声をかけられる。
「じゃが、選択自体は悪くない」
 操り糸を指に嵌めたドクター・カオスである。
 その傍らには、オリンピアが立ち尽くしている。
「そうですわね。
他参加者を殺して回る輩は倒さねばなりませんし、何か大事な情報を所持していかねない他参加者を殺されてしまってはたまりません」
「おいだから、ちょっとこっちの話を」
 またしても、隼人の言葉は途中までしか告げられない。
 能力を発動させたマリリンに、先程と同じように蹴り飛ばされたのだ。
 時間稼ぎの目論見通りに、隼人は川面に突っ込んだ。盛大に上がる水飛沫。
 初撃の勢いそのままにマリリンは晄に拳を叩き付けるが、しかし晄の強固な筋肉によってダメージを与えるに至らない。
「勘違いしているようだが」
 晄の言葉もまた言い切られない。
 マリリンが胸元からSIG-P220を取り出したのだ。
 単に撃たれるだけならば、晄が言葉を飲む必要など皆無。
 問題は標的だ。
 マリリンは拳を受けられた次の瞬間には、SIG-P220の銃口を晄の首輪に向けていた。
 装着者によって爆発の威力が異なる可能性もある以上、晄といえど無視は出来ない。
 咄嗟に首を庇ったと同時に、マリリンは能力を発動。
 十倍速で晄の足を払い、十倍速でその巨体を蹴り上げようとする。
「レベル……2ッ!」
 足が晄の肉体に触れる寸前で、マリリンは能力を次の段階に昇華させる。
 このレベル2は酷使する訳にはいかないのだが、使わねば晄の巨体を蹴り飛ばす事は叶わないと悟ったのだ。
 二十倍まで上昇した蹴りの威力で、どうにか晄を吹き飛ばす事が出来た。
 沈むより早く川面を叩き付ける事で川に沈んでしまわず、向こう岸で容易く受け身を取っているので、ダメージを期待するのはあまりに希望的観測が過ぎるが。
 隊員に指示を下すだけの隙は、十分生まれた。
「フォルゴレさん、その二人を担いで移動して下さい!」
 目を見開くフォルゴレの方を振り返らず、声を荒げる。
「ここは、私とカオスさんが引き受けますッ!!」
 まだ中学生の少女とボケ老人に戦場を任せ、一人逃亡を図れ。
 あまりに情けなく、あまりにみっともない指示。
 そう痛感していたが、それでもフォルゴレは頷く。
 子供と少女を守る為ならば、いくら恥ずかしくて惨めでも構わなかった。
 邪魔になるのでリュックサックを手放し、少女を左手で子供を右手で抱き締める。
「ゴホッ、ガハッ、ゴフッ」
 子供の方が何か言おうとしていたが、それは声にならない。
 鳩尾をあれだけの力で殴られれば当然だ。
 刃が腕の中で弱々しく動くほど、フォルゴレの抱く怒りが燃え上がり走る速度は上がっていくのだった。

 残ったマリリンとカオスには、相談すべき事があった。
「カオスさん、希望の相手などはありますか?」
「いや無い。あやつの鉱物化した腕も、もう片方の人間離れした骨格も、同様に興味深い」

29 名前 : 導火 ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 14:24:10 ID:ABXBe3Rl

「ふむむ……、でしたら」
 ほんの僅かだけ考えて、マリリンは結論を出す。
 晄と戦えば、否応なくレベル2を使う破目になるだろう。
 となれば、マリリンが選ぶのがどちらかなど決まっている。
「では、私があちらの細身の方という事で」
 冗談を交わすような口調で言ってから、川から這い出してきた隼人に飛び掛かっていった。





【C-4 河原/一日目 午前】

【金剛晄(金剛番長)】
[時間軸]:王様番長戦直前、バンカラタワーに向かう途中。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:スジを通す。誤解を解きたい。

【新宮隼人】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:健康、共振波を放出中、水浸し
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(未確認)
[基本方針]:仲間たちと合流してブラックのプログラムを叩き斬る。高槻は暴走していないと確信。誤解を解きたい。
※ある程度近づかなければ、ARMSの共振を感知できないようです。完全体となった場合は不明。

【マリリン・キャリー】
[時間軸]:三次選考カプーショ戦後、植木戦前。
[状態]:健康
[装備]:軍服@うえきの法則、SIG-P220(6/9)@現実
[道具]:基本支給品一式、光界玉@烈火の炎、石板@金色のガッシュ!!、SIG-P220の予備弾薬(9/9)@現実
[基本方針]:デパートに向かう。襲ってくる敵とは戦う。隼人と戦闘。

【ドクター・カオス】
[時間軸]:妙神山壊滅以降、南極での決戦前。
[状態]:健康。精神的に少し落ち込んでる。
[装備]:スクール水着@現地調達、ファイティングナイフ@スプリガン、オリンピア@カラクリサーカス
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:早くまともな服を着たい。知り合いには会いたくない。晄と戦闘。


※フォルゴレのリュックサック(基本支給品一式、魅虚斗@烈火の炎、自衛ジョーの生き人形部隊@GS美神極楽大作戦!!)が、C-4河原に放置されています。


     ○

 河原から全速力で遠ざかっていたフォルゴレを引き留めたのは、彼に助けられたはずの鉄刃であった。
 どうにか呼吸が整い、やっと体が動くようになったのだ。
「止まれってんだよ、この大馬鹿ヤローッ!」
 困惑するのは、フォルゴレである。
 そんな彼に簡単に事情を説明し、刃はフォルゴレに背を向ける。
「そこでチェリッシュ見ててくれ。一っ走りして、誤解解いてこなきゃなんねえ」
「ならば、私も」
「チェリッシュ背負ったあんたより、俺のが早えだろ! 急がなきゃなんねーのが分かんねえのかッ!」
 短く言い放って、刃は地面を蹴る。
 来た道を全速力で戻っていく。
「ちくしょう……ッ!」
 思い出されるキース・ブラックの耳障りな声。

30 名前 : 導火 ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 14:26:13 ID:ABXBe3Rl

 既に何人もの参加者が命を落としているのだという宣告。

「戦う相手間違ってる場合じゃねえんだよ……ッ!」

 隼人に浴びせられた怒声が頭を駆け巡り、耳が痛かった。

 戻らねばならないという思いが脳内を支配しているせいで、刃は気付いていない。
 彼のリュックサックの中で、魔剣センサー『スパイダー』が激しく反応しているという事実に。
 気付く素振りすらない。





【C-4とD-4の間 路上/一日目 午前】

【鉄刃】
[時間軸]:織田信長御前試合の直後
[状態]:健康
[装備]:超振動ナイフ@ARMS
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2、魔剣センサー『スパイダー』@YAIBA
[基本方針]:殺し合いには乗らない。チェリッシュを守る。市街地にある反応(雷神剣)へと向かう。


     ○

「私は一体何をしているんだろうな……」
 フォルゴレの口から漏れ出したのは、徒労感に満ちた溜息混じりの泣き言。
 たまに勇気を振り絞ってみたら、とんだ勘違い。
 結局の所、他人に迷惑を掛けただけ。
 いくら立ち直るのが早いフォルゴレといえど、さすがに精神的ダメージは大きい。
「だが凹んでいる場合じゃないな!」
 しかし精神的ダメージが大きくとも、やはりフォルゴレは立ち直るのが早かった。
「考えてみれば、むしろ喜ばしい事じゃないか!
今まで会ったのが六人で、その皆が殺し合いなんてする気はないなんて!
これはさっきの放送なんか嘘っぱちで、ナゾナゾ博士達も何事も無く元気にしてるかもしれないぞ!」
 否、実際は単なる空元気に過ぎない。
 それでも、自分を奮い立たせるには思い込む事も必要なのだ。
「一人でいるのも寂しいし、私も皆の元に戻るとするか!」
 依然として目覚める気配の無いチェリッシュを担ごうとして、背後から声を浴びせられる。

「ほほう。どこに戻るのか、小生に聞かせてもらってもいいかな?」

 一瞬、絶句するフォルゴレ。
 殺し合い真っ只中という事実が、脳裏を掠める。
 返事もしないで逃亡しようかと考え、しかしと思い直す。
 いらない事をして誤解してしまったばかりだ。
 それに、今までに出会った全員が殺し合いに乗り気ではなかったのだ。
 爽やかな笑顔を作り、フォルゴレは振り返りながら答える。
「勿論、真っ直ぐ西に行けばある河原……さ……」
 言い終えたのと振り返り切ったのは、殆ど同時。
 背後にあった人影を視認するや否や、フォルゴレの声は喉の奥に引っ込んでしまう。
「そうかいそうかい、河原かい」
 愉快そうに笑うのは、白い制服を身に着けた男。
 その瞳に、フォルゴレは言葉を失うしかなかった。
 東洋人特有の黒い瞳というレベルでは無く、眼孔に闇が詰め込まれていると錯覚しかねないほどに暗い。
 パルコ・フォルゴレには、かつて非行に走っていた時期がある。
 鬱屈した精神のままに暴力を振るい、人としての道を踏み誤っていた。
 今を時めく面白おかしい映画スターの姿からは想像出来ない、荒んだ時期があった。
 だからこそ、理解出来てしまう。

31 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/14(金) 14:33:43 ID:1GlUgn1J

、

32 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/14(金) 14:35:36 ID:1GlUgn1J

。

33 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/14(金) 14:36:26 ID:1GlUgn1J

?

34 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/14(金) 14:37:38 ID:1GlUgn1J

!

35 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/14(金) 14:38:52 ID:1GlUgn1J

・

36 名前 : ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 14:47:24 ID:1GlUgn1J

…

37 名前 : ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 14:48:28 ID:1GlUgn1J

連投規制なのでセルフ支援ではどうにもならないようですね……。
また夜に来ます。

38 名前 : 導火 ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 18:16:22 ID:ABXBe3Rl

 この男は、“その程度”ではない。
 若さ故の過ちでも、先の見えない未来への苛立ちでも、自暴自棄でもない。
 道を踏み外した自分自身に息苦しさを感じる事などまるでなく、むしろ自ら進んで道を踏み外している。
「だってさ。小生は彼と寝ている彼女に用があるから、二人で先に行って来たらどうだい?」
「そうさせてもらうとするよ」
「ふふ、人形と二人だけなのに文句は無いのかい?」
「ある筈が無いだろう? 僕は生き残れればそれでいい」
「それなら構わないのだけどね」
 白い服の男の背後に、もう二人。
 ひょっとこの仮面を着けたタキシード姿の男と、眼鏡にスーツの老人が立っていた。
 それすらに気付かぬほど白い服の男に意識を奪われていた事実に、フォルゴレは茫然とする。
 その傍らを仮面と老人が通り過ぎようとする。
 彼等が行けば、河原にいる四人はどうなるだろうか。
 考えたと同時に、フォルゴレの体は動いていた。
「フハハハ! 行かせてたまるものか!」
 局所を葉っぱで隠している以外に一糸纏わぬ体で、両手を広げて仁王立ち。
 立ちはだかる相手を誰一人として通さぬとばかりに、体に力を籠める。
 そうしてから、声高らかに歌い始めた。

「鉄のフォルゴレ~~~無敵フォルゴレ~~~~」

 本来は自分一人ではなく、他の誰かとともに歌うのが定番。
 ここは、舞台は舞台でも演劇ではなく殺し合いの舞台。
 舞台が変われば勝手も変わる。
 フレキシブルに対応してこそ、世界に名を轟かすスター。
 一曲フルで歌い切ってから、眉を顰める三人へと高らかに宣言する。

「御存じの通り、私は鉄のフォルゴレ! またの名を無敵フォルゴレ! ここを通りたくば、私を倒してからにするがいい!」

 ややあってから、白い服の男が大きく笑い声を上げる。
 歌が心に響いたとは、流石のフォルゴレでも思い込めなかった。
 携えた剣の柄に手を置いて、白い服の男は切り出す。
 その顔には、笑みが浮かんだままだ。
「いやはや、驚いた。成程、その鍛え抜かれた肉体はまさしく鉄のようだ」
 手は柄に置かれている。
 顔には笑みが浮かんでいる。
「しかし残念だ」
 手は柄に置かれている。
 顔には笑みが浮かんでいる。

「小生にとっては、鉄など巻藁と些かも変わらぬよ」

 手が柄から離れた。
 顔には笑みが浮かんでいる。
「何を」
 フォルゴレが疑問を言い切るより早く、彼の抱いている疑問は倍増した。
 何故、オゾン臭が漂っているのか。
 何故、視界が凄まじい速度で切り替わっているのか。
 何故、地面が近付いてくるのか。
 何故、腹が熱いのか。
 何故、見慣れた自分の体が腹から下だけ残された状態で視界に入るのか。
「あっ……」
 地面に打ち付けられるが、痛みは無い。
 遅れて倒れ込む下半身を見て、フォルゴレは遅ればせながら理解した。
 どうにか首だけ動かすと、変わらぬ場所に白い服の男は屹立していた。
「そういう」
 手は柄から離れていた。
 顔には、より深くなった笑みが浮かんでいた。

39 名前 : 導火 ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 18:16:58 ID:ABXBe3Rl






【パルコ・フォルゴレ 死亡確認】
【残り56名】





【D-4 路上/一日目 午前】

【伊崎剣司(憲兵番長)】
[時間軸]:居合番長との再戦前
[状態]:疲労(小)、胸元に真一文字の傷、制服ちょい焦げ
[装備]:雷神剣@YAIBA、死亡者詳細データ端末@オリジナル
[道具]:基本支給品一式×2、錫杖@うしおととら、ランダム支給品0~3
[基本方針]:人を斬る。おもしろいのでギイと行動。ギイとシルベストリを先に河原に向かわせる

【ギイ・クリストフ・レッシュ】
[時間軸]:本編で死亡後
[状態]:健康
[装備]:ジャック・オー・ランターン@からくりサーカス、殺鳥用ワイヤー×3@金剛番長
[道具]:基本支給品一式×3、拷問鞭@金剛番長、ランダム支給品0~6(うち0~2は小次郎から見て武器となるものなし)
[基本方針]:他者と組み、エレオノールを優勝させる。シルベストリと先に河原に向かう。

【シルベストリ】
[時間軸]:34巻、勝戦直前
[状態]:健康、服の胸元に真一文字の傷
[装備]:妖刀『八房』@GS美神
[道具]:ランダム支給品2(刀剣類なし、確認済み)、菊一文字@YAIBA
[基本方針]:他者と組んでフェイスレスの優勝をサポートしつつ、人間が群れる理由を解き明かす。植木耕助に会う。ギイと先に河原に向かう。

【チェリッシュ】
[時間軸]:ガッシュ戦直前
[状態]:気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3
[基本方針]:???

40 名前 : ◆6LcvawFfJA 2012/09/14(金) 18:21:40 ID:1GlUgn1J

また連投規制にかかってしまった……。
終了です。

41 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/14(金) 23:45:10 ID:0v+weSmq

投下乙です。
隼人のかっこ良さと金剛番長のチートっぷりは流石w
刃への言葉が原作の彼と相まって、そりゃそういうわなという納得感がありました。
そしてロワの華? である誤解フラグと大乱戦のフラグ。
フォルゴレは最後に漢を見せられたんだけど相手が憲兵番長だってのは悪かったなぁ……。
単体でも面白く、続きも気になる引きが見事でした改めて投下乙です。

42 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/14(金) 23:50:44 ID:ScTL7qow

test

43 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/14(金) 23:51:27 ID:ScTL7qow

投下乙!
なんという乱戦! スゲーおもしろくなってきた!w
金剛隼人ペアなんにも悪いことしてないのにマジ不憫www
それにしても刃を一喝する隼人がかっこいい。そのせいで誤解されたんだけど、でもやっぱかっけー
マリリン隊長と愉快な隊員たちのやり取りもよかっただけに、フォルゴレの脱落は残念。憲兵容赦ない
しかしチェリッシュはいったいどうなるのか……w

44 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/22(土) 14:51:21 ID:cRJmMRyi

久しぶりに見に来たら投下&予約!
誤解フラグが重なって次が気になる
隼人はやっぱりいいキャラだなあ

45 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/09/25(火) 00:23:44 ID:7blfOABi

投下します。

46 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:24:24 ID:EQ6xvqkB

  

47 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:24:28 ID:XlJ83Mxe

 

48 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:25:00 ID:EQ6xvqkB

  

49 名前 : さよなら旧い自分 ◆hqLsjDR84w 2012/09/25(火) 00:25:01 ID:7blfOABi

 ◇ ◇ ◇


「……さて」

 もうすっかり昇りきった日の下で、憲兵番長こと伊崎剣司が誰にともなく呟く。
 河原に向かったギイとシルベストリを見送ってから、とうに十分ばかし経過している。
 その間、いったいなにをしていたのかといえば、ひとえに『仕込み』をしていたのである。
 彼は人を斬る音色を愉しむことこそ最上の快楽としているが、しかしあくまで最上であって唯一ではない。
 単に人体に刃を滑り通せればそれでよいのではなく、むしろその過程をも堪能するべく趣向を凝らすタイプなのだ。

 その憲兵番長の視線の先には、地べたの上で横たわる少女――魔物の子・チェリッシュ。
 すぐ横で一人の命が奪われた事実も知らずに、未だ意識を取り戻す素振りすら見せていない。
 眠ったままの彼女に雷神剣の刃を突き刺してやるというのも、決して憲兵番長の趣向から外れていない。
 脳が鳴らす激痛という名の警笛によって目覚めたとしても、いったい自身になにがあったのかすぐには分からないだろう。
 結局理解できぬままであれば呆然としたまま息絶え、仮に理解できたとしても結局は絶望を抱いて死んでいく。
 それはそれで相当に滑稽であり、かつ身体を貫く音色も存分に味わえるであろう。

 ――が、憲兵番長は脳内に浮かんでいたその案を却下した。

 というのも、ほんの少し前に同じことをやったばかりなのだ。
 自らを鉄人と称していた西洋人――パルコ・フォルゴレを斬る際、まったく同じ手順を取っていた。
 それからまだ大して時間も経っていない以上、また異なる方法を考えねばなるまい。
 そう思い立ったがゆえに、憲兵番長は十分ほどかけて『仕込み』を行ったのだ。

 つまり――いま現在チェリッシュが生き延びているのは、ある種フォルゴレのおかげと言えるだろう。

 そのように見た場合、フォルゴレはたしかにチェリッシュの命を守ったと言えるかもしれない。
 はたしてそれが幸運であるのかどうかはさておき、だが。

「そろそろ起きてもらえないかな?」

 声をかけながら、憲兵番長はチェリッシュの脇腹を足で小突く。
 起きないのであればこのまま思い切り蹴り上げてしまってもよいが、少なくとも現段階でする気はない。
 注意深く観察したので分かっているが、まだチェリッシュの身体に目立った外傷はない。
 無傷の獲物であるにもかかわらず斬る前に傷をつけてしまうのを、憲兵番長はよしとしない。
 とはいえ、憲兵番長の身体能力は非常に高い。
 本人としては軽く小突いているつもりであっても、軍用ブーツの爪先はチェリッシュの腹に深く喰い込む。
 ほどなくしてチェリッシュは目覚めたものの、起きるや否や盛大にむせ込むのだった。

「ふふ、小生としてはそこまで力を籠めたつもりはなかったのだがね。
 いやはや、本当に申し訳ない。身体に傷がついてしまったら大変なことだ」

 わざとらしい口調ではあっても、これは間違いなく憲兵番長の本心だ。
 そんな事実に気付くはずもなく、覚醒したチェリッシュは憲兵番長を睨みつける。
 周囲の景色が切り替わっているのも、眼前にいたはずの二人が消えているのも、そもそもいつ眠ってしまっていたのかも、当然疑問ではあったが振り払った。
 思考は混乱しているが、それでも取らねばならない行動は分かった。
 むせ返る自身を眺める憲兵番長の暗く冷たい瞳が、チェリッシュの取る選択肢をたった一つにしたのだ。

「ギガノ――」

 傍らに置かれていた魔本を手に取って、呪文を唱える。
 混乱していると言っても、先ほど金剛番長を相手にしたときほどではない。
 いったん意識を失った分だけ、僅かに落ち着きを取り戻しているのだ。
 全力とはいかないにしても、先刻の張りぼて同然のものとはほど遠い。
 たしかに力の籠められた巨大な宝石が、なにもなかった空中に出現する。

50 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:25:07 ID:XlJ83Mxe

 

51 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:25:30 ID:t9L0ewVv

 

52 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:25:35 ID:EQ6xvqkB

   

53 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:25:39 ID:XlJ83Mxe

 

54 名前 : さよなら旧い自分 ◆hqLsjDR84w 2012/09/25(火) 00:25:57 ID:7blfOABi


「コファルッ!」

 ――それが憲兵番長の思惑通りなどと知る由もなく、チェリッシュは呪文を唱え切った。

 チェリッシュの傍らに、どうして魔本しか置かれていなかったのか。
 フォルゴレの死体も、チェリッシュのリュックサックも、なぜ片付けられていたのか。
 そもそもの話、憲兵番長はなぜそのような行為に時間を費やしたのか。
 それは、チェリッシュが単なる少女でないと分かっていたからである。
 地面に散らばっていた魔本とその説明書を読み、彼女が戦う力を所持していると知っていたのだ。
 憲兵番長は人を斬る音色を最上の快楽としているだけで、それ以外に愉しみを知らぬ人間ではない。
 戦うに足るだけの能力があるのならば、それを正面から打ち倒したいとも思う。

 そんな――戦闘狂としての性質も、持ち合わせているのだ。

 ゆえに、魔本以外の道具を回収した。
 他に戦闘に使えそうな道具はなかったのだから、武器となる魔本以外を傍らに置く意味はない。
 フォルゴレの死体を民家の陰に隠したのは、チェリッシュが心を乱さぬためである。
 魔本の説明書によって、魔物の術には『心の力』が必要なのは判明していた。
 ならば、余計な障害は取り除くべきだと考えたのだ。

 歓喜の念を隠そうともせず、憲兵番長の口元が弧を描く。
 雷神剣の柄に手をやると、昂る期待に呼応するように雷神剣が『鳴いた』。
 無数のスズメバチが羽ばたいたような音を立てて、青白い火花が飛び散らせたのだ。
 放出された電撃は刀身を覆い尽くし、眩い光を放つ雷刃を形成していく。
 この使い手の意図するままに形状を変える刃で、迫りくる巨大な宝石を両断してくれる。
 そんな憲兵番長の思いに反して、ギガノ・コファルは霧となって大気に溶けていく。

「……なに?」

 眉を潜める憲兵番長の眼前で、チェリッシュはへたり込んでいた。
 手元から滑り落ちた魔本を拾おうともせず、ただ茫然としている。
 目は見開いたまままばたき一つせず、半開きの口は小刻みに痙攣している。

 この殺し合いに巻き込まれる以前、チェリッシュはゼオン・ベルに電撃による拷問を受けている。
 雷神剣が放った電撃によりそのトラウマが蘇ったのだが、そんなことを憲兵番長が知るはずもない。
 それでも、戦闘など行えるコンディションでないのは容易に見て取れた。

「さすがに、この結末は予想していなかったな」

 淡々とした口調とは対照的に、憲兵番長は憮然たる面持ちだ。
 一瞬前までの昂揚感は完全に消え失せ、満たされぬ思いだけが胸中を渦巻いている。
 わざわざ手間をかけて準備などしたのもあって、余計に不完全燃焼だ。
 このまま震えているチェリッシュを両断したとて、到底この不満が解消されることはないだろう。
 そのように考えつつ歩み寄っていくなかで、憲兵番長はようやく気付く。
 チェリッシュの視線が憲兵番長自身ではなく、雷神剣に向けられていることに。
 怪訝に思い、雷刃の刀身を数メートル伸ばす。
 すると、チェリッシュの視線は伸びた切っ先に向けられていることが分かる。
 ここに至ってようやく、憲兵番長はチェリッシュが電撃に対して潜在的なトラウマがあることを悟った。

「なるほど」

 わざわざ口に出して大きく頷くと、憲兵番長は雷刃を解除する。
 雷神剣の刀身を覆う電撃がなくなり、その外見上は単なる日本刀と化す。
 チェリッシュの震えが僅かに治まり、過呼吸気味だった呼吸が落ち着いている。
 その動作で、憲兵番長は脳裏に浮かんだ仮説が正しかったことを確信し――地面を蹴った。
 一気にチェリッシュとの距離を詰めると、防御なぞする隙を与えずに鳩尾に軍用ブーツの爪先を抉り込む。

55 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:26:31 ID:dxKexQaO

支援

56 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:26:35 ID:XlJ83Mxe

 

57 名前 : さよなら旧い自分 ◆hqLsjDR84w 2012/09/25(火) 00:26:40 ID:7blfOABi


「ガふッ!」

 チェリッシュは凄まじい勢いで吹き飛んで行き、民家の壁に盛大に背を打ってようやく止まる。
 整いつつあった呼吸は、先ほどより遥かに乱れてしまっている。
 どうにか呼吸を整えようとしたチェリッシュは、民家の陰に隠れたものを見つけてしまう。
 上半身と下半身で綺麗に切断された――パルコ・フォルゴレの亡骸を。
 影になっておりよくは見えなかったが、それでも死んでいるのは明らかだった。

「ぅ、ぁ、ひぃぃぃぃぃぃっ」

 反射的に走って逃げ出そうとするが、鳩尾と背に走った衝撃が大きく立ち上がることすらできない。
 どうにか這いずってでも移動しようとして、チェリッシュの視界に影が差す。
 おそるおそる振り返ると、そこには自分を蹴り飛ばした白制服の男が立っていた。
 その顔面には先ほどと異なり笑みが張り付いていたが、やはり瞳だけは変わらず冷え切ったままであった。

「訊きたいことがあるのだが」

 憲兵番長が、チェリッシュのウェーブがかった金髪に手を伸ばす。

「ぁ――」

 悲鳴を上げる暇すら、チェリッシュには与えられなかった。
 チェリッシュの髪を掴むと、憲兵番長は――そのまま真下に叩き付けたのだ。
 モチノキ町は決して発展しているワケではないが、エリアD-4は繁華街である。
 いかに都会とは言えぬ土地であろうとも、さすがに繁華街の地面はアスファルトで塗装されている。
 その硬いアスファルトに、チェリッシュは顔面から打ちつけられることとなった。
 鈍い音が辺りに響き渡るが、しかしチェリッシュの聴覚をもっとも刺激したのはまた別の音であった。
 めきゃり――という、やけに軽い響きだ。
 それが鼻が折れた音だと分かったのは、再び持ち上げられた際に顔面から地面に通じる紅い滝が見えてからだった。

「ご……ぉ……」

 意図せず、チェリッシュからくぐもった声が漏れる。
 その間も紅い滝はだくだくと流れていき、アスファルトを赤黒く染める。
 塗装されているので地中に染み込んでしまうことはなく、地上に溜まっていく。
 数十秒と待たずして、地面に赤い水たまりができあがった。

「君に『刷り込んだ』のは、いったい誰なんだい?
 それは、この殺し合いに呼び出されている誰かなのかな?」

 尋ねながら、憲兵番長は再び手を上下させた。
 紅く温かな水たまりに、チェリッシュの顔面が叩き付けられる。
 再度持ち上げられてみれば、紅い滝の水勢は増していくばかりだ。

 チェリッシュは思考を巡らせる。
 『刷り込んだ』とはなにのことなのか。
 あまりに質問が端的すぎて、いったいなにを指しているのか分からない。
 しかし答えねばなるまい。
 早く答えねば――

「聞こえてるのかな?」

 僅かに苛立ちを孕んだ声とともに、憲兵番長が腕を上下させる。
 勢いよく変化する視界。
 襲いかかる落下感。
 浴びせられる風。

 ――轟音。

58 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:26:48 ID:K0fNdD5j

支援

59 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:26:48 ID:EQ6xvqkB

  

60 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:27:06 ID:XlJ83Mxe

 

61 名前 : さよなら旧い自分 ◆hqLsjDR84w 2012/09/25(火) 00:27:29 ID:7blfOABi


 アスファルトに打ちつけられる音以外にも、微かに聞こえるものがあった。
 折れた骨がさらに微細に砕ける。
 硬いアスファルトで肌が切れる。 
 アスファルトの破片が喰い込む。
 髪の毛が何本か引き千切られる。
 繋がっていたなにかが裂ける。
 口から空気が零れていく。

「う、ぐ、ぶ」
「まだ口を割らないのかい? 強情だねえ」

 軽口を叩くような口調とともに、またしても繰り返される。
 手放してしまいそうな意識を繋ぎとめて、チェリッシュはどうにか思考を巡らす。
 『刷り込んだ』の意味を見定めようとする。
 なにが憲兵番長の癇に障ったのか。
 思い返してみれば、彼が態度を変えたのはギガノ・コファルが消滅してからである。
 その際に関わりのある『刷り込まれた』なにかと言えば――

「ぇ、お……」
「聞き取れないな」

 何度目かになるアスファルトへの顔面ダイブ。
 もはや視界はほとんど効かず、聴覚は麻痺し、ただ落下感と痛みだけがある。
 どうにか言葉を発するべく、次に持ち上げられるときへと意識を集中させる。
 唇が震えている上に呼吸が乱れているが、どうにか搾り出すように言い放つ。

「ォ……ン! ……に……っ! 電撃の……きょぅ……ふをっ刷り込んだのは……! ゼオン・ベ――」

 最後まで言い切られることはなく、チェリッシュはアスファルトに顔面を叩き付けられる。
 答えれば解放されるという無意識のうちに抱いていた希望は、答え終わる瞬間を待たずして砕かれる。

「ふむふむ、ゼオン・ベル。
 名簿には同じ姓のガッシュ・ベルという参加者がいるが、関係はあるのかい?」
「知らな――」

 またしても言い切ることは許されず、言わんとする内容が分かるや否や叩き付けられる。
 それからなにか尋ねられることさえなく、四回ほど地面にただ顔面を打ち据えられ続ける。

「なるほどなるほど。
 そのゼオンという輩は気になるところだ。小生の獲物に先に唾をつけておくとあっては」

 最後にいっそう強く叩き付けたのちそのまま十メートルほど地面に擦りつけられて、やっとチェリッシュは解放される。
 もはやその行為に憲兵番長が鬱憤を晴らす以外の意味がないことは、チェリッシュにも理解できていた。

「う、ぅぅぅぅ…………」

 手放されても、立ち上がることはおろか這うことすらできない。
 鼻は砕け、額は割れ、顎は折れ、さらに顔面全体余すとこなく傷付き、おびただしい量の血を垂れ流しているのだ。
 動けなくて当然であり、どうにか遠ざかろうとのたうつだけで十分凄まじい生命力である。

(魔物というだけある、ということか。
 いやはや、そんなものが存在するなんてねえ)

 などと他人事のように分析しながら、憲兵番長はこれまでに出会った参加者を振り返っていく。
 『帽子屋(マッドハッター)』キース・シルバー、炎術師・花菱烈火、サムライ・佐々木小次郎に宮本武蔵、人形遣い・ギイ、自動人形・シルベストリ。
 彼らを思えば、魔物くらいいてもおかしくはないのかもしれない。
 というか、憲兵番長の友人である日本番長など怪物の類と言えなくもない。
 そこまで考えたところで、ある考えが憲兵番長の脳裏を掠めた。

62 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:27:38 ID:K0fNdD5j

支援

63 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:28:06 ID:EQ6xvqkB

   

64 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:28:07 ID:XlJ83Mxe

 

65 名前 : さよなら旧い自分 ◆hqLsjDR84w 2012/09/25(火) 00:28:24 ID:7blfOABi


(下らぬ戯言と切り捨てていたが、『アレ』も真実かもしれないな)

 『アレ』とは、憲兵番長に支給されていた支給品のことである。
 元より、雷神剣すら説明書の文面を全面的に信用していたワケではないのだ。
 いざ手に取ってみて、雷神を前にしては信じるしかなくなったにすぎない。

「試してみるとしよう」

 あえて口に出して、地面の上でうごめくチェリッシュに歩み寄っていく。
 どうやら逃げようとしているようだが、その動きは羽を失った蝶よりも緩慢だ。
 先ほどまでと同じように髪を掴んで、無理矢理に顔面を引き寄せる。
 そうしてから、元の整った目鼻立ちが分からぬほど傷だらけの顔に向けて言い放つ。

「いやはや、少し訊くだけだというのに手荒い真似をして悪かったね」

 わざとらしい笑みを浮かべて、リュックサックから液体の入った小瓶を取り出す。

「『治して』あげるよ」

 その液体を飲んではならない。
 チェリッシュは、本能的に判断した。
 残った力を振り絞って口を閉ざす。

「遠慮しなくていいのだよ」

 そんなささやかな抵抗を、憲兵番長は嘲笑う。
 折れ曲がった鼻を潰すほどの勢いでつねられ、チェリッシュは気道を確保するために口を開くしかなくなる。
 そうして空いた口に、フタを開けられたビンが放り込まれた。
 吐き出そうにもそのまま口を掌で押さえつけられてしまい――ついには嚥下するしかなくなってしまう。

「…………え?」

 一瞬ののち、チェリッシュは呆けたような声を漏らした。

 というのも――本当に治ったのだ。

 砕けた骨は再生し、血管は繋がり、皮膚は塞がり、痛みは消し飛んだ。
 服は血塗れであるが、それだけだ。
 魔物の治癒力すら凌駕した速度で、肉体は完全に回復している。

「だから遠慮しなくていいと言ったじゃないか」

 微笑みながら、憲兵番長はチェリッシュにその液体の説明書を渡す。
 それに目を通すチェリッシュであったが、行を追うごとにどんどん顔色が青くなっていく。

 憲兵番長が飲ませた薬の名は――『神酒(ソーマ)』。
 服用すれば新陳代謝が異常加速し、老化が止まって若返る上にいかなる傷もたちどころに再生可能となる。
 まさしく、不老不死の妙薬。

 ――という触れ込みで売り捌かれた劇薬。

 実際のところ、異常加速した新陳代謝に身体がついていけるはずがない。
 膨大なエネルギーを消費してしまう上、効果が切れれば急激に老化してしまう。
 一度でも服用してしまえば、服用を続ける以外に生き延びる術はない。

「つまりだね、君は――」

 冷笑を絶やさずに、憲兵番長は続ける。

66 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:28:27 ID:dxKexQaO

支援

67 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:28:47 ID:XlJ83Mxe

 

68 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:28:54 ID:EQ6xvqkB

   

69 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:29:09 ID:K0fNdD5j

支援

70 名前 : さよなら旧い自分 ◆hqLsjDR84w 2012/09/25(火) 00:29:45 ID:7blfOABi


「もしも死にたくないのであれば、いま小生が持っている三本をなんとしても飲まねばならないのだよ」

 より笑みを深くして、憲兵番長は雷神剣をチェリッシュの太ももに突き刺す。
 傷は見る見る回復していくが、チェリッシュの表情に生気が戻ることはない。
 身体は生き生きとしているというのに、表情だけが死人のようであった。

「そうだな。とりあえず、四人殺すごとに一本、でどうだい?」

 チェリッシュの返事はない。
 ソーマの影響で血行はいいはずなのに、顔色はやたらと青かった。
 そんな困惑を露にするチェリッシュに対して、憲兵番長は笑みを向けたまま。

「ああ、そうか。さっきみたいになったら術は撃てないものね。
 他に殺すための手段が欲しいか。まったく、気が回らなくてすまないね。
 いやいや気にしなくていい。ちょうど使い道のない道具があってね。髪の長い君ならば、きっと使いこなせることだろう」

 違う――と。
 否定の声を出す前に、チェリッシュの胸には雷神剣の刀身が突き刺さっていた。

「は……?」

 事態を呑み込めぬチェリッシュが、気の抜けた声を漏らす。
 遅れて痛みがやってきたのか、表情が歪む。
 そんな様子を眺めながら、憲兵番長は口角を吊り上げた。

「うぇ、ぎぎぎぎぎぎィィィィィイィィッ!?」

 雷神剣の刀身を電撃が覆い、チェリッシュの身体に伝わっていく。
 ゼオンの拷問がフラッシュバックし、チェリッシュが体感する電撃は二倍。
 四肢が吊ったように張り上がり、眼球がぐるんと白目を剥く。
 傷口より溢れ出した赤黒い血液が、電熱で蒸発していく。
 当然、電熱を受けるのは血液だけではない。
 胸に突き刺さった雷神剣より電撃は放たれているのだから、チェリッシュは体内から焼かれていくことになる。

「ぎぎがあ゛あ゛あ゛ゔゔあああああお゛ァァァァ――ッ!?」

 張っていた手足がせわしなく動き出す。
 焼け焦げた血肉の臭いが辺りに立ち込めていく。
 数分ほど経って、ようやく憲兵番長は雷神剣を抜き取る。
 その際にわざわざ刀身を回転させたせいで、焼け焦げた肉が体外に抉り取られる。
 さながら操り糸の切れたマリオネットのように、チェリッシュはアスファルトの上にくずおれる。
 先ほどまで叩き付けられていた冷たいアスファルトが、いまとなってはやけに心地よかった。
 そんな彼女を見下ろすようにしながら、憲兵番長がしゃがみ込む。
 その右手には、内面に『髪』という漢字の描かれたソフトボール大の球体があった。

「いやはや。すぐに治る以上、これくらいしなくては『埋め込め』られないからねえ」

 チェリッシュは、脳内に浮かんだ可能性を否定する。
 さすがにするはずがないと、自分自身にそう言い聞かせる。
 そんな期待を裏切るように、憲兵番長はその球体を――チェリッシュの胸に開けられた刺し傷に押し付けた。
 そうして、そのまま傷口へと強引に押し込んでいく。

71 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:29:57 ID:K0fNdD5j

支援

72 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:30:23 ID:XlJ83Mxe

 

73 名前 : さよなら旧い自分 ◆hqLsjDR84w 2012/09/25(火) 00:30:29 ID:7blfOABi


「いぎィィィィッ! あッ、げあッ、がッ、ぎいいいいいいいいいいいいッ!!」

 焼き切られて未だ熱を持っている肉体に、異物が挿入される。
 ソフトボール大と言っても、人体に埋め込むにはあまりに巨大すぎる。
 ぶちぶち音を立てて、再生しかけていた血管や肉が千切れていく。
 断ち切られた胸骨を強引に押しのけていくのだが、押しのけられた胸骨は行き場もなく肺に突き刺さる。
 呼吸をするだけで胸に激痛が走るが、その状態を保ったまま肉体は強引に再生をしていく。

「ふむ。入り切らないか」

 そう言うと、憲兵番長は足を大きく振り上げ――

 軍用ブーツの硬いカカトで、チェリッシュの胸に埋まった球を強引に押し込んだ。

「あごぉあああおおう、う゛う゛あ゛あ゛ア゛アア゛ア゛ォォエェ゛ィ゛ィィィ――ッ!!!」

 一際大きな悲鳴が上げると、チェリッシュはまたしても意識を失う。
 口の端から溢れるよだれは、次第に泡立ったものへと変化していく。


 ◇ ◇ ◇


 治癒が終わるのを待ってから、憲兵番長はチェリッシュを蹴り起こした。
 目覚めた彼女は、もはや一切の抵抗をしなかった。
 人を殺せと指示しているにもかかわらず、ただ頷くだけだ。

「ちょうどよかったじゃないか。
 君の持っていた花は、ソーマの原料でね。
 これだけあれば、十分長生きできるだけのソーマが作れるよ」

 とんだ出まかせである。
 憲兵番長がソーマの存在を知ったのはこの殺し合いの会場に来てからであり、精製方法など教えられていない。
 そのことに気付いているのかいないのか、チェリッシュはやはり頷くだけであった。

「…………」

 無言で頷いているだけの彼女が着ているのは、血塗れの衣服ではない。
 あの服は憲兵番長に脱ぐよう命令され、なにも言わずそれに従った。
 現在、彼女が着ているのは血塗れとはほど遠い純白のドレスだ。
 支給品を確認した当初、ほんの少しだけ舞い上がってしまった――そんなウェディングドレス。

 もしもこれを着るのならば、そのときに隣にいるのはいったい誰だろう。
 そう想像したとき、不思議と浮かんだのは長い付き合いのリーゼントの少年だった。
 彼はもうこの世にはおらず、彼の屈託のない笑みとは似て非なる冷笑を浮かべる男が隣にいるのだった。

(…………死にたくない)

 ただただ、チェリッシュはそう思った。

74 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:30:36 ID:EQ6xvqkB

   

75 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:30:46 ID:K0fNdD5j

支援

76 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:31:07 ID:XlJ83Mxe

 

77 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:31:19 ID:EQ6xvqkB

  

78 名前 : さよなら旧い自分 ◆hqLsjDR84w 2012/09/25(火) 00:31:41 ID:7blfOABi




【D-4 路上/一日目 午前】

【伊崎剣司(憲兵番長)】
[時間軸]:居合番長との再戦前
[状態]:疲労(小)、胸元に真一文字の傷、制服ちょい焦げ
[装備]:雷神剣@YAIBA、死亡者詳細データ端末@オリジナル
[道具]:基本支給品一式×3、錫杖@うしおととら、神酒(ソーマ)×3@スプリガン、アンブロディア@スプリガン、ランダム支給品0~1
[基本方針]:人を斬る。おもしろいのでギイと行動。ギイとシルベストリの向かった河原に向かう。


【チェリッシュ】
[時間軸]:ガッシュ戦直前
[状態]:神酒服用済み
[装備]:チェリッシュの魔本@金色のガッシュ、ウェディングドレス@現実、式髪(体内)@烈火の炎
[道具]:なし
[基本方針]:憲兵番長についていく。死にたくない。



【支給品紹介】

【神酒(ソーマ)@スプリガン】
伊崎剣司(憲兵番長)に支給された。
古代植物『アンブロディア』を精製して作り出される飲み薬。
服用すれば新陳代謝が異常加速し、老化が止まり若返る上にいかなる傷もたちどころに再生可能となる。
まさしく、不老不死の薬である。
…………という触れ込みで売り捌かれていたが、そんなおいしい話があるはずもなく。
実際のところは異常加速した新陳代謝に身体のほうがついていけず、効果が切れれば急激に老化してしまう劇薬。
一度でも服用したが最後、死ぬまで服用し続けなくてはならなくなる。
なお新陳代謝が異常加速するだけであるので、丸ごと喪失した部位まで再生するワケではない。


【アンブロディア@スプリガン】
チェリッシュに支給された。
古代植物であり、またの名を甘露草。
すでに絶滅したはずであったが、残っていた種から復元に成功した。
仙道で言う仙丹の原料になる植物であり、本来は精神そのものを物質化するための薬となる。
しかし中途半端な知識で製造することで、神酒(ソーマ)のような劇薬となってしまう。
蓮によく似た水生植物であり、白い花を咲かせる。


【式髪@烈火の炎】
宮本武蔵に支給された。
毛を硬質化させることのできる魔道具。
本来は数本抜いた髪を杭とするなど、武器を持っていないと油断している相手の不意打ちとして用いられる。
しかし麗十神衆の一人・幻獣朗の研究によって、体内に埋め込めれば髪の毛全体を一つの武器として操作することも可能だと判明した。


【ウェディングドレス@現実】
チェリッシュに支給された。
白いアレ。
女の子の夢とかいうアレ。
こういう支給品を出す際に支給品説明は必要なのかと、書いているときにいつも思う。

79 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:32:19 ID:EQ6xvqkB

   

80 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:32:30 ID:XlJ83Mxe

 

81 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/09/25(火) 00:32:30 ID:7blfOABi

投下完了。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

支援、ありがとうございました。

82 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 00:35:14 ID:EQ6xvqkB

投下乙です
うわー、うっわー。これはひどい(褒め言葉)
チェリッシュはどうなるかって思ってたけど最後の一押しがこれとか本当にひどい(褒め言葉)
憲兵番長は活き活きとし過ぎだと思うの本当。
改めて投下おつでした

83 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/09/25(火) 23:32:07 ID:+D4Z76vi

投下乙
チェリッシュは登場話から危うかったけど、ついに…
むしろ死んだ方がマシなんじゃないかw
しかし憲兵番長はいきいきしすぎ

84 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:33:49 ID:TIKVRBkZ

未予約ですが、書き終わったので投下します。

85 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:33:58 ID:aafAVvzO

86 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:34:33 ID:Ku2M2uts

 

87 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:34:45 ID:TIKVRBkZ

 ◇ ◇ ◇


 石島土門がマシン番長を圧倒していたのは、本格的に戦闘が始まってから僅かな間に過ぎなかった。
 というのも当初、マシン番長は相手の戦闘能力を完全に見誤っていたのだ。
 彼の両目部分に設置されたカメラは、映ったものの外見だけでなく内部まで視ることができる。
 それで読み取れた情報によって、土門の肉体がかなり鍛え抜かれたものだとは分かった。
 常人の域を遥かに超えており、並の番長相手ならば対等に戦えるようであったが、あくまでそれだけだった。
 マシン番長は、日本最強の番長である金剛猛の能力をベースに作られている。
 二十三区計画最強との呼び声高い番長であり、事実あの金剛番長の殺害にさえ成功している。
 ゆえにマシン番長は、戦闘開始時にはすでに冷静に計算を終えていた。
 訊き出すべきことさえ訊き出して用済みになれば、石島土門を殺害するまでにかかる時間は――『十五秒未満』であると。

 が、そうはいかなかった。
 一つかねてから気になっていたことを尋ねている最中であった。
 筋肉、骨格、体勢、損傷、それらを考慮してみれば確実にありえぬ速度で、土門は立ち上がるや否や距離を詰めて拳を浴びせて来たのだ。
 百パーセント放てるはずのない一撃であり、反撃どころか回避することさえ叶わなかった。
 この際、マシン番長は彼にしては珍しく混乱した。
 改めて両の瞳で土門を眺めても、視覚情報から導き出される答えは同一である。
 なおさら混乱するハメになった。
 一度で十分であるはずの分析を二度も行い、まったく同じ結果が出た。
 となればほぼ間違いなく、それで正しいはずである。
 レーダーとは異なり、両瞳に埋め込まれたカメラとセンサーに異常は感じない。
 となれば、土門がマシン番長の分析を越えるスピードやパワーを出せるはずがない。
 にもかかわらずマシン番長の攻撃は当たらず、土門の攻撃を受けることになった。
 直線状の電撃『ライオット・ピアサー』だけでなく、威力を落とした分命中範囲の広い放射状の電撃『パニッシュメント・ボルト』をすら回避して見せた。
 分析から導き出される土門の身体能力と、実際に眼前にいる土門の身体能力。
 その激しい誤差から、マシン番長は思わぬ苦戦を強いられることとなった。

 土門がマシン番長の分析を上回る動きを発揮できたのは、彼が纏っているAM(アーマードマッスル)スーツのおかげである。
 AMスーツは精神感応金属(オリハルコン)製であり、文字通り装着者の精神に呼応して身体能力を増幅させる。
 しかしマシン番長の世界では精神感応金属の研究は進んでおらず、ゆえにその知識は内蔵されていない。
 とはいえマシン番長に搭載されたコンピュータは、成人男性サイズのロボットに埋め込むだけでも奇跡と言って過言ではないほど最新鋭の技術が詰め込まれた代物だ。
 ほんの――『三分足らず』。
 たったそれだけの間あえて防戦に回ることで、実際に想定以上の動きを見せる石島土門の身体能力を分析完了。
 筋力や骨格などから導き出される戦力と置き換えて、反撃に打って出ることにした。
 そこでようやく、マシン番長は計算と現実の誤差に混乱することはなくなった。
 以降は、ほとんど互角である。
 一方が重い一撃を決めれば、即座にもう一方がやり返す。
 合金製の肉体とAMスーツ、ともに衝撃耐久能力が高いため、その繰り返しになるばかりであった。

 そうしているうちに――
 どこからかキース・ブラックの声が響いて、土門の動きが止まる。
 相手の手が緩んだいまこそ拮抗を崩す絶好の機会であったが、マシン番長は距離を取った。
 土門が放送に耳を傾けるために止まったというのは、タイミングからして明白である。他の理由があるとは考えづらい。
 ならば放送が終わるまでの間、ナノマシンによる身体の修復に費やしたほうが効率的であろう。
 何せ、土門の身体能力を見誤っていた間、マシン番長はそれなりにダメージを受けてしまっている。
 いかにマシン番長のボディが頑丈に作られているとはいえ、AMスーツから繰り出される打撃はとても無視し続けられるものではない。
 それに現時点では戦況は拮抗しているとはいえ、相手が人間である以上必ず疲弊する。
 先に受けたダメージや消耗したエネルギーを回復すれば、その分だけ持久戦において有利になるのは明らかである。

88 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:34:56 ID:aafAVvzO

89 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:35:03 ID:Ku2M2uts

 

90 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:35:32 ID:TIKVRBkZ


 直立不動の姿勢を保ちつつ身体を修復させながらも、マシン番長は放送を聞き逃さない。
 音源が特定できなかったが、レーダーのようになんらかの細工をされているとして片付ける。
 キース・ブラックの言葉を信じるとすれば、居合番長と念仏番長の二人がとうに脱落したのだという。
 才賀勝のような二十三区外の番長がいる以上、残る番長の数は不明である。
 とはいえ、標的が少なくとも二つ減ったというのは確かだ。
 マシン番長が冷徹に現状を認識していると、不意に声を浴びせられる。
 放送を聞くべく攻撃の手を止めた石島土門のものだった。

「……もう、十六人も死んだんだってよ」
「ソノヨウダナ」

 マシン番長にとって、土門は排除すべき番長の一人でしかない。
 ゆえに言葉を交わす必要などありはしないが、時間を稼げば稼いだ分だけ身体を修復できる。
 マシン番長が返事をしたのは、そんな計算あってのことだった。
 土門の浮かべる苦々しい表情なぞ、判断材料にすらなっていない。

「俺の仲間はよ、二人も呼ばれちまった」
「ソウカ」
「お前の知ってる名前はあったかよ」
「二人イタナ」
「……なにも思わねえのかよ」
「排除スベキ存在ガ死ンダトイウノナラバ、任務遂行ニ一歩前進シタコトトナルナ」
「…………」

 歯を噛み締めながら、土門は拳を固く握る。
 その目元からは、無色透明の液体が溢れていた。
 土門は太い指で拭うが、またすぐに溢れ出してくる。
 これまで、土門はマシン番長のことをひたすら殴り続けていた。
 相手がなにも知らない機械だというのなら、分かるまで殴ってやるつもりだった。
 壊れる寸前になれば、たとえ機械でも死を理解できると思っていたのだ。
 それなのに、マシン番長はどんなに殴られても眉一つ動かさない。
 いくら機械であろうと、壊れないはずがない。
 死んでしまわないはずがない。
 にもかかわらずいくら攻撃を受けても、涼しい顔をキープし続けたのだ。
 どうすればいいのか分かりかねていたときに、仲間の死を告げる放送が流れた。
 花菱烈火だけでなく、水鏡凍季也までもが死んだのだという。
 もしも烈火の最期を目の当たりにしていなければ、きっと信じていなかっただろう。
 しかし、見てしまった。
 あの、殺しても死なないと思っていた烈火でさえ――死んだのだ。
 だからであろうか、水鏡の死をも受け入れてしまった。
 信じたくなんてないのに、いつの間にか自然に。
 そのことに気付いた瞬間、土門は一気に喪失感に駆られた。
 一緒に笑うことも、言葉を交わすことも、顔を見ることさえ、もう二度と叶わないのだ。
 これが死んでしまうということなのかと、理解できた気がした。
 だというのに、マシン番長はやはり顔色を変えない。
 機械であるから顔色は変わらないのかもしれないが、動じた素振り一つ見せない。
 知っている名前が二つ呼ばれたらしいのに、だ。
 そのことが気に喰わず、土門は声を張り上げた。

「これで……こんなに死んじまってッ! お前の言う月美っていう子は笑うのかよ!!
 俺はそいつをこれっぽっちも知らねえよ! でもよ! その子は、お前が誰かを殺して笑うのかよッ!?」

 ここでようやく、マシン番長は少しばかり沈黙した。
 僅かに間を置いてから、変わらぬ冷淡な口調で告げる。

「……笑ワナイナ」

91 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:35:39 ID:Ku2M2uts

 

92 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:36:11 ID:Ku2M2uts

 

93 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:36:17 ID:RFV+93JY

 

94 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:36:19 ID:N0sGyZ+m

 

95 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:36:23 ID:TIKVRBkZ


 目を丸くして、土門は一瞬言葉を失う。
 予想外の返答であったが、むしろ期待通りではあった。
 それが理解できているのならば、話は早いはずだ。分かってくれるはずなのだ。
 そんな土門の思いに反して、マシン番長は言葉を続ける。

「ダカラ、殺シテカラ『仲直リ』ヲスル」
「…………は?」
「人ガ死ネバ『幽霊』ニナルノナラバ、殺シテカラ『仲直リ』スレバイイダケダ」

 今度こそ本当に、土門は言葉を失った。
 マシン番長は、幽霊などというものを信じているらしい。
 そんな相手をどうやって説得すればよいのか。
 土門は決して優秀とは言えない脳ミソを回転させるが、答えは出てこない。

「喧嘩ヲシテモ『仲直リ』スレバヨイト、月美ハ教エテクレタ」

 ただ――
 依然として答えなど出ないが、マシン番長のこの言葉が土門に火を点けた。

「あ゛?」

 自然に零れた声は、土門自身が思っていたよりずっと低かった。

「あのな、お前……!
 幽霊なんてもんがいるのかどうかなんて、知ったこっちゃねえよ。
 なんなら、俺らは悪霊とかそんなんなら何度か見てるからな。
 でも、いまはそんなもんどうでもいい。ああいう悪霊以外に、フツーに喋ったりできるヤツがいるのかは関係ねえ」

 自慢のモヒカン頭を掻き毟りながら、土門は言葉を続ける。
 説得する方法を考えるとか、そういうのはもうやめた。
 頭がよくないのに、言葉を選んでどうするのか。
 元より、土門にできるのは思い付いた端から言ってやるだけだった。

「幽霊なんてもんがいたら、仲直りできるかもしんねえよ!
 けどな! もう二度と喧嘩なんかできねえだろうが! 身体がねえんだからな!
 考えてみろ! その子の言う仲直りは、本当に単に許してもらうってだけなのかよ!
 違えだろ! 少なくとも俺は違うと思うぜ!
 また一緒に、放課後までダベったり、帰りにブラついたり、一緒に遊びに行ったり、ちょくちょく殴り合ったり――
 そのための仲直りなんだろうがッ! 喧嘩をしても仲直りすればいいんじゃねえ! また喧嘩するために仲直りするんだろうがッ!!」

 二人の少年の姿が、土門の脳裏を掠める。
 ツンツン頭の炎術士に、いつでも涼しい顔の水の剣士。
 もう二度と会うことはないだろうが、もし仮に幽霊として会うことができたとしよう。
 だとしても、それでいいのだろうか。
 二十四時間ほど話し続ければ、そりゃあ仲直りの一つや二つできるだろう。
 だとしても、それだけだ。
 幽霊なんてものがいたところで、話せるだけではないか。
 それで、誰が満足できるのか。
 そんなものに、なんの意味があるというのか。

「死んじまったら――もう終わりなんだよ!!」

 これまで以上の絶叫が、住宅街に響き渡る。
 それに対する返答はなく、辺りに静寂が広がっていく。

 マシン番長は口も開かず、月美という少女とのやり取りを思い返していた。
 喧嘩をしてしまったのならば、また仲直りをすればいい。
 そう教えてくれた少女だ。
 彼女がマシン番長に教えてくれたのは、それだけではなかった。

96 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:36:52 ID:Ku2M2uts

 

97 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:37:06 ID:TIKVRBkZ

 人は死ねばもう二度と戻って来れないと、いま土門が言ったのと同じことを言っていた。
 だがマシン番長はこの殺し合いの舞台で、おキヌという名の幽霊と遭遇した。
 そして、判断したのだ。
 まだ幼い月美が知らなかっただけで、幽霊というものは存在するのだと。
 たしかに目の当たりにして、実際に攻撃が通り抜けたのだ。
 幽霊という存在を認めるのに十分であった。
 しかしながら、だ。
 月美は、このように言っていたではないか。
 喧嘩したあと仲直りして、もう一度友達になる際には――

『また一緒に遊ぼうね』

 そう言って微笑むのだ――と。
 おキヌとともにいたのは短い間だったが、彼女の肉体は物体をすり抜けてしまう。
 それでは、遊べないのではないか。
 であるのならば、つまりはたしてどういうことなのか。
 マシン番長のコンピュータが、時間をかけて一つの答えを導き出す。

「ヤハリ……『仲直リ』トハ、対象ヲ殺害スレバ不可能ナ行為ナノカ……?」

 思わず零れた言葉に、土門が喰いついた。

「だから、そう言ってんだろうが!
 月美っていう子を笑わせてえんなら、人殺しなんかしてんじゃねえよ!」

 安堵した様子の土門だったが、マシン番長はまたしても無言になる。
 黙って、これより取るべき行動を導こうとする。
 殺害してはいけないのならば、この場でどう立ち回るべきなのか。
 殺し合いに呼ばれている番長だけならば、殺さずに再起不能にできるだろう。
 月美曰く『喧嘩は本気でやれ(と彼女の姉が言っていたらしい)』とのことだが、難易度こそ高いが不可能ではない。
 問題は、このプログラムに無関係の番長である。
 それらを殲滅するには、殺し合いの舞台から脱出せねばならない。
 はたして、それは『誰も殺さずに』可能なのだろうか。
 答えは――出ない。
 この場所も、キース・ブラックがどれだけの戦力を有しているのかも、まったく不明なのだ。
 あまりにも情報が足りない。
 いかにマシン番長のコンピュータが優れていようと、情報が足りなければなにかを導き出すことなどできない。

「……で、結局どうすんだよお前は」

 痺れを切らしたらしく、土門が尋ねてくる。
 しかし訊かれたところで、ありもしない答えを話せるはずもない。
 ただたしかなのは、殺さないだけで番長を倒すのは変わらないということだ。
 少し離れた場所にいる土門に、マシン番長は右手を向ける。

「『ライトニング・フィスト』」

 無感情に告げると、マシン番長の右拳だけがロケットのような速度で飛んで行く。
 土門は両手で腹を庇ったがガードごと吹き飛ばされ、民家の壁に背中がぶつかることでようやく止まる。
 だが、手とは決して殴るためだけにあるのではない。
 マシン番長の拳が解かれ、土門の右腕を掴んだ状態で付属しているワイヤーが巻き取られる。
 踏ん張る土門だったが、少しずつ引き寄せられていく。

「テメェ……! もう殺しはしねえんじゃねえのかよ!?」

 マシン番長には、土門が激昂している理由が分からなかった。

「アア、殺シハシナイ。ダガ、『再起不能』ニハスル」

98 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:37:11 ID:RFV+93JY

 

99 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:37:53 ID:TIKVRBkZ


 またしても、土門がマシン番長の言葉に呆気に取られることとなった。
 最後の一人になって、望みを叶えた上で生還する。
 この場で殺し合いに乗るのは、そういうタイプであるはずだ。
 木蓮のように人を嬲り殺すのが趣味という輩もいるだろうが、マシン番長がそういうタイプには見えなかった。
 だから土門は、マシン番長も最後の一人になるべく人を殺そうとしているのだと思っていた。
 だというのに『殺さずに再起不能にする』などと言われれば、困惑を禁じ得ない。

「なんでだよ!? なんで、テメェはそんなことするんだよ!?」

 ずるずると引っ張られながら、土門は疑問をそのまま口にした。
 それに対し、マシン番長は当たり前のように言い放つ。

「スベテノ『番長』ヲ倒スノガ、Dr.鍵宮ニ与エラレタ使命ダカラダ」

 ここに至って、土門はやっとマシン番長が戦う理由を知った。
 てっきりキース・ブラックにでも参加者を殺すよう命令されたのかと思っていたが、それは勘違いであったらしい。

「……そのドクターなんとかってのは、月美って子のことかよ?」
「違ウ。別人ダ」
「…………だろうな」

 そう吐き捨てて、土門は引っ張られている方向へと飛んだ。
 そのまま空中で回転して飛び蹴りの体勢になるが、マシン番長は横に飛んで危なげなく回避する。
 右手は土門の腕を手放しており、とうにワイヤーを引き寄せて収納済みだ。

「何度も言ってるけど、俺はその月美って子を知らねえよ。
 でもな、その子が望んでねえのはきっと殺しだけじゃねえ! 再起不能にするなんてことも望んじゃいねえよ! 分かんねえのか!」

 着地したと同時に、土門は地面を蹴った。
 先ほどまでいた地点に飛び散る電撃をしり目に、マシン番長へと殴り掛かる。
 すると受けることもできただろうに、マシン番長は足裏のバーニアを噴射して遠ざかっていく。

「……分カッテイル。
 月美ハ、俺ガ戦ウコトヲ望ンデイナイ……」

 土門の読み通り、平時のマシン番長ならば距離を取るまでもなく対応可能だった。
 にもかかわらず、唐突に記憶が蘇ったのだ。
 番長抹殺プログラムに従って指示された場所に向かう際、月美は寂しげな顔をしていた。
 そんなメモリーがフラッシュバックしたせいで、反応が遅れてしまったのだ。

「ダガ!」

 声を荒げながら、マシン番長がバーニアの出力を上げる。
 戦闘や会話などの行動にリソースを割くことで、強引に思考を遅らせようとする。
 そのような行為が無意味なことは、超高性能コンピュータを内蔵されているマシン番長自信が分かっているというのに。

「『番長抹殺プログラム』ヲ放棄スルコトハデキナイ!
 命令ヲ放棄シタ機械ハ不要トサレ廃棄ノ対象トナル!
 ソウナッテシマエバ、俺ハ月美ト一緒ニイラレナクナル!」

 言いながら、マシン番長は空中を飛び回る。
 見る見る加速していき、その勢いを乗せた体当たりを見舞う。
 再びバーニアを噴射させ、吹き飛んでいく土門を追い抜く。
 体勢を立て直す暇すら与えず、拳の乱打(ラッシュ)『アサルト・フィスト』を浴びせる。
 合計二百発にも及ぶ乱打は一際大振りのアッパーで締めくくられ、土門はまた異なるほうへと吹き飛ぶ。
 民家三軒分壁を突き破った土門を掴んだのは、マシン番長の両手であった。
 またしても、手首から先を射出したのだ。

100 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:38:04 ID:Ku2M2uts

 

101 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:38:55 ID:Ku2M2uts

 

102 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:39:01 ID:RFV+93JY

 

103 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:39:01 ID:TIKVRBkZ


「『ライオット・ホールド』」

 マシン番長の体内を流れる高圧電流が、付属するワイヤーを伝って掌へと流れていく。
 その先にあるのは――土門の身体だ。

「ぐがあああああああ!?」

 土門が全身を激しく震わせながら、絶叫を漏らす。
 マシン番長は、勝利を確信する。
 最初に電撃を浴びせた際は、訊かねばならぬことがあったために手加減をした。
 以降、ずっと回避され続けたが、こうして掴んでいれば避けることもできない。
 いまとなっては、土門に訊き出すことなど残っていない。
 むしろ話せば話すだけ、過去のメモリーがフラッシュバックして思考がおかしくなるばかりだった。
 一切の手加減などしてはならないと、マシン番長は電撃の出力を限界まで上げる。
 このまま、感電死を待つだけだ。
 いかに想定以上の身体能力を誇る相手だろうと変わらない。
 これだけの電撃を浴びせられ続ければ、生物は死ぬのだから。
 殺しさえすれば、もうマシン番長のコンピュータが乱されることもないだろう

 そんなマシン番長の計算は――またしても覆されることになる。

 痙攣する身体を押さえ付けて、土門が立ち上がったのだ。
 自信を掴むマシン番長の手を握って、強引に払い除ける。

「薄っぺらいなァ、お前。ぺらっぺらじゃねえか」

 唖然とするマシン番長の前で、土門は言い放つ。
 AMスーツの耐久限界を超えた電流を浴びたというのに、まるでなんでもないかのように。
 身体から立ち上る黒い煙など目に入らないかのように。
 へたり込んでしまった髪に手を伸ばして、自慢のモヒカン頭をセットし直す。

「俺はよォ、らしくもなく考えてたんだぜ。
 小金井のヤツがサイボーグと戦ったとか言ってやがったけど、俺は知らねーからな。
 いったいどんな感じなのかとか、話は分かるのかとかよォ」

 首の関節を鳴らす。
 口内に溜まった血を吐き捨てる。
 両拳の関節を鳴らして、拳を固く握り締める。

「話してみた感じ、どーも俺が思ってたより人間っぽいなと思ってたんだけど……全然違え。
 やれっつわれたからやるなんざ、それこそ単なる機械じゃねえか」
「……俺ハ機械(マシン)ダ」

 ふう――と。
 大きく息を吐いて、土門は思い切り声を張り上げた。

104 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:39:18 ID:uhhrMzVm

      

105 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:39:33 ID:Ku2M2uts

 

106 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:39:34 ID:HgstYIay

 

107 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:39:57 ID:RFV+93JY

 

108 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:40:03 ID:TIKVRBkZ


「ざッけんじゃねえぞ、このクソバカ野郎がッ!!
 テメェ、自分で考えられるんだろうが! 月美とかいう子に言われたこと気になったりしてんだろうがッ!
 じゃあなんだ!? さっき言ってた『月美と一緒にいてえ』ってのも命令か!? どうなんだ!? 答えろッ!!」
「…………違ウ」
「だったらよ……簡単じゃねえか!
 テメェは、その子といてえんだよ! それがテメェの気持ちなんだろうがッ!!
 なのになんでただの機械みてえに、ドクターなんちゃらの言いなりになってやがんだ!
 いったいどうしてえのか、考えれるなら考えろよ! 俺でもない頭絞って考えてたんだ! スーパーロボット様にできねえなんて言わせねえ!」

 マシン番長は目を見開いたまま、なにも言わない。
 ただその沈黙があまりに雄弁で、余計に土門を苛立たせた。

「『言われたから』じゃねえ! テメェの意思で! テメェの頭で! テメェのやりてえことくらい選べ! このバカチンがッ!!」

 言い終えて、土門は再セットが完了したモヒカン頭を擦ろうとした。
 伸ばそうとした手が髪に触れるより早く、マシン番長に叩き付けられた。
 追いやられた床下で土門は追撃を待つが、一向に来ない。
 ただ、自問自答する声が聞こえるばかりだ。

「俺ハ! 俺ハ……! 俺ハ……ッ!?
 機械(マシン)ダッ! 『番長』ヲ倒スタメニ造ラレタ! タダノ……機械!
 俺ノ『意思』ハ! 俺ノ『意思』ハ……! 俺ノ『意思』ハ……ッ!?
 月美ノ側ニ……ッ! 否……ッ、機械ニ『意思』ナド存在シナイ……ッ!!
 Dr.鍵宮ノ命令ハ絶対……ッ! 月美ハ……命令ニ従ウ俺ヲ望ンデイナイ……!
 優先スベキハ! 優先スベキハ……! 優先、スベキハ……ッ!?
 『番長、抹殺プログラム』、『仲直、リ』……ッ! スベテノ……『番長』ノ殺害……!
 俺、ハ…………人、デハ、ナイ!!」

 頭を抱えて呻いていたマシン番長が、急に背筋を伸ばす。
 その口調は先ほどまでと異なり、はっきりとしたものだった。

「俺ハ――戦闘機械(マシン)ダッ!!」

 言い切って、マシン番長は土門を見据える。
 その白目部分まで真っ赤に染まった瞳を見て、土門はしばし唖然としてから――口角を吊り上げた。

「そうかよそうかよ、それがテメェの出した答えかよ」

 床下から飛び出そうと力を籠めると、そのまま天井を二回突き破って屋根の上に飛び出す。
 AMスーツが先ほどまで以上に能力を発揮している証だった。

「いいぜ。最初に言っただろうが!
 何度だって何度だって、俺はお前を救ってやるってな!!」


 ◇ ◇ ◇

109 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:40:29 ID:N0sGyZ+m

 

110 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:40:32 ID:Ku2M2uts

 

111 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:40:34 ID:TIKVRBkZ



 土門とマシン番長が戦うエリアC-3北東部の地下に、霧沢風子、高嶺清麿、横島忠夫の三人はいた。
 彼らは自動人形(オートマータ)・ドットーレから逃亡する経路に、下水道を選択したのである。
 ある理由から横島に『制裁』を加え、ちょうど情報交換でも行おうかというときであった。

「……なあ」

 切り出したのは風子であったが、彼女が言わんとすることは他の二人にも容易に分かった。
 土門とマシン番長の戦闘音が、地下にまで響いてきていたのだ。
 それがいったい誰が出しているのかはともかくとして、戦闘音であるのは明白であった。

「どうするよ」

 風子が短く尋ねる。
 考え込む清麿の横で、白々しく口を開いたのは横島だ。

「ええー!? どうするって、いったいなんのことなんだろー!?
 俺にはまったくなんにもこれっぽっちも、なんかドンパチやってる音とか聞こえねえんだけど!?
 もしかして風子ちゃん、ちょっと意識失ってたから体調悪いんじゃ!? ちょっと落ち着いていったほうがいい。
 ここで! この誰も来ないだろう下水道で! ここから一歩も外に出ないで! しばらくゆっくりするのがいいと思う! なっ、なっ?」

 横島、必死の形相で清麿に視線を飛ばす。
 アイコンタクトなんて言葉じゃ生温いほど。
 なんていうか、とにかく、分かりやすかった。
 それを、清麿は当然のごとくスルーするのだった。

「これだけ地下に音を響かせるってことは、相当のヤツなんだと思う。
 まだ定かじゃないけど、警戒の意味もこめてさっきのドットーレ以上で見るべきだ」

 殺意丸出しの横島の視線を受け流して、清麿は続ける。

「……はっきり言って、いまの戦力じゃ顔を出すのは危ない。
 何人が戦っているのかは分からないけど、もしかしたら全員殺し合いに乗ってるかもしれない。
 つまり、助けるべき相手なんかいないかもしれないんだ。
 ただでさえ戦力が充実してない以上、放っとくのが一番いい……と思う」

 横島、満面の笑みになる。
 さっきまでの態度からして、掌返しにもほどがある。
 そんな横島には誰一人として触れない。
 もしかしたら、見てすらいないのかもしれない。

「ってことは、見捨てろってか?
 助けなきゃいけねーヤツかもしんねーのに、こっちが戦えねーからってあっさりと」
「……とは、いかないだろ。
 いるかどうか分からなくても助けるべき相手かもしれない以上、放ってなんかおけるか」

 横島、またしても掌を返す。
 二人、傍らから溢れ出す殺意に一向に触れない。反応すらしない。

「へー。意外に熱いじゃん」
「ていうか放置するなんて言おうもんなら、一人で行ってるだろ。なおさらそんな選択できるか」
「ははっ、分かってんじゃん」

 横島、顔面蒼白になる。
 単に軽口を叩きあっているだけなのだが、彼には『いい雰囲気』に見えたらしい。
 何せ、異性と付き合った経験がないのだ。どうにか許してあげて欲しい。

「都合がいいことに、俺たちがいるのは下水道だ。
 こっそり顔出して状況確認、まずければそのまま逃げるなんてこともできる」

112 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:40:36 ID:aafAVvzO

113 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:41:14 ID:aafAVvzO

114 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:41:24 ID:TIKVRBkZ

「そんときにバレちまったらどうしようもねえから、そこんとこは気ぃつけなきゃな」
「ああ。一応、爆弾や銃はあるが……正直使ったこともないから、頼りにはしないでくれ」
「おいおい、俺の銃の腕前はお前よく知って――」
「お前に武器なんか渡すワケないだろ」

 横島、頑張って会話に飛び込もうとするも、冷たくあしらわれる。
 「ちきしょー! 一回だけの過ちやないかー! 笑って許してくれや―!」とのたまうが、これに返事はない。

「もしものときは、風神剣で私が時間稼いでやるよ」

 柄に玉が埋め込まれた剣を手に取って、風子が小さな旋風を起こす。
 ここに至ってようやく、横島が真剣な表情になる。

「いや待って。風子ちゃん、それはダメだ」

 言いながら、横島が風子の肩を掴み――エルボーを浴びた。

「触んじゃねえ!」

 当然といえば当然。
 残念でもないし当然。
 随分と嫌われてしまったらしい。
 さすがの横島も自分が伝えても無理だと判断し、清麿に小声で話しかける。

「あの剣、たぶん妖刀とかそういう類のヤツだぜ。
 お前も見たろ、さっき風子ちゃんが暴走してたの。
 ああなっちまわないように、手放させたほうがいい。
 アレの力が必要ってんなら、ほんとはイヤだけど俺が使ってやるから」

 本来、横島としては清麿の力など借りたくない。
 なんといっても清麿は顔がいいし、清潔感があるし、頭はよさそうだし、スタイルもいいし、さらに中身までいいヤツと来ている。
 すべての面で横島の正反対。
 完全にモテる男の典型例である。
 こんな状況でなければ、大人げなく痛い目に遭わせてやっているところだ。
 にもかかわらず、横島は清麿の手を借りることにした。
 これは横島にしては珍しく、下心抜きに風子を気付かってのことだ。

 だというのに――嗚呼、これまでの積み重ねである。

「……いや、それは通らないだろ」

 やたら冷たい視線を向けながら、清麿は一言で横島の提案を切り捨てた。
 風子が暴走していたのをたしかに目撃しているが、それを風神剣が原因とまでは認識していない。
 その状態で、横島が『風神剣を自分に渡せ』と言ってきたのだ。
 一度風神剣で清麿を殺しにかかってきた横島が、である。
 そんなもの、受け入れるはずがない。
 妖刀などと言われても、適当な誤魔化しとしか思えない。
 実は横島には清麿が生存させる算段があったなど、清麿が信じるはずもない。

「バッカ、お前! クソッ! いいヤツぶってるクセに! 俺みたいな童貞には冷たく当たっても、世間は許すのか!? ちきしょー、この童貞差別! 童貞差別野郎、高嶺清麿!!」

 横島の叫びが下水道内を反響する。
 この期に及んで、自分ではなく相手を悪いと本気で思っているのだった。


 ◇ ◇ ◇

115 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:41:28 ID:Ku2M2uts

 

116 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:41:59 ID:Ku2M2uts

 

117 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:41:59 ID:TIKVRBkZ



 マシン番長の足裏に付属するバーニアが火を噴き、土門への距離を瞬く間に詰める。
 その勢いそのままに膝蹴りを浴びせると、AMスーツの奥にある土門の肉体が軋みを上げた。
 瞳が真紅に染まって以降、マシン番長のパワーはAMスーツの耐久限界を凌駕している。
 電撃くらいしかまともにダメージを与えられなかったこれまでとは異なり、打撃の一発一発がたしかに土門の肉体に突き刺さる。
 しかしながら、それは土門のほうも同じだった。
 AMスーツは土門の昂る感情に応えてかつてないほどの性能を発揮し、そこから繰り出される攻撃はことごとくマシン番長のボディを凹ませた。
 その衝撃は内部にまで及んでおり、ナノマシンによる修復など間に合うはずがない。

 右脚に受けたダメージが大きく、マシン番長が僅かに体勢を崩す。
 土門のほうも足は痛んでいたが、その隙を逃すワケにはいかなかった。
 ほんの一跳びで距離を詰めて、射抜くような軌道の右ストレートを顔面に叩き込む。
 そこから小刻みな左のジャブを同じく顔面に数回浴びせ、一気に拳の速度を加速していく。

「うらうらうらうぅるァァァーーーーッ!!」

 そこからは両方の拳を交え、ひたすらに殴る。
 もはや最初の数撃とは異なり、狙いなどない。
 ただ、目の前に立っている相手をひたすら殴るだけである。
 これこそ、かつて不良界隈を震撼させた『殺人ラッシュ』。
 異なっているのは、かつてより土門が身体を鍛え、経験を積み、AMスーツを着込んでいるという点。
 もはや、土門の腕は常人ではいったいいくつあるのかすら分からないだろう。
 腕を伸ばしてから戻して畳むまでのモーションが、視認できる限界を超えるほどに速いのだ。
 それほどの攻撃を浴び続けながら、マシン番長は涼しい顔で自身の攻撃のモーションに移る。
 ダメージがないのではない。
 無視できぬほどのダメージを受けながら、その上で無視しているのだ。

「『W(ダブル)ライトニング・フィスト』」

 両手を組んだ状態で、手首から先を射出する。
 単独発射よりも速度の上がった質量二倍の拳は、もはやロケットではなく隕石。
 殺人ラッシュの最中であったのもあり、土門は完全にカウンターを受けた形となる。
 さらに受けた場所が顎というのも悪かった。
 サイボーグであるマシン番長と異なり、人間である土門にとって顎は急所である。
 ほんの一瞬だが、土門の意識が飛んだ。
 これを見逃すマシン番長ではない。
 飛ばした両手で土門の肩を掴むと、足裏のバーニアを全開にして一気にワイヤーを引き戻す。

「『クライシス・キャノン』」

 先ほど以上の勢いで、マシン番長の両膝が土門の腹にめり込む。
 その衝撃と内臓が抉られる音で、土門は覚醒した。
 最初の知覚が口内に胃液が込み上げてくる酸味という、最悪の目覚めだった。
 依然としてマシン番長の足裏のバーニアは火を噴いており、着地できていない。
 そう認識するでもなく、土門は反射的にマシン番長に拳を叩き付けた。
 土門は膝蹴りの勢いそのままに、横合いから殴り飛ばされたマシン番長があらぬ方向に、彼方へと吹き飛んで行く。
 お互いに民家を丸ごと一軒瓦礫にし、そのなかから這い出てくる。
 土門は肩で息をしており、マシン番長は全身の損傷で左右に揺れている。
 もはや、両者ともに次の一撃を避ける余裕はない。

 ――次が決め手になる。

 お互いに、そう理解していた。

「『ソリッド・スクリュー』」

 仕掛けたのは、マシン番長であった。
 その右手首から先が高速で回転し、傍目にはドリルのような外見になる。
 金剛番長をすら殺害した必殺の一撃だ。

118 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:42:18 ID:RFV+93JY

 

119 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:42:22 ID:aafAVvzO

120 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:42:31 ID:Ku2M2uts

 

121 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:42:32 ID:TIKVRBkZ

 これで相手の心臓を貫くには、まず相手の動きを止めねばならない。
 彼に内蔵されたコンピュータがそう認識していたからこそ温存していたが、もはやその必要はない。
 あのような状態では避けられるはずがないのだから。

「おおるぅァァァァッ!!」

 土門が繰り出したカウンターの右ストレートを受けた上で、マシン番長は高速回転する右手を土門に突き刺した。
 さながら、鉱物でも削っているような。
 そんな衣服を削っているとは思えぬ音を立てて、AMスーツが抉られていく。
 ほどなくして、ついにAMスーツは貫ぬかれてしまう。
 マシン番長の右手に、人体に突き刺さる感触。
 あとは、ほんの少しだけ押してやるだけだ。

「オ前ヲ処理スル……!」

 勝利を確信し、マシン番長は右手に力を籠める。
 ドリルじみた右手が、さらに奥へと進んで――いかない。
 マシン番長が眉根を寄せて顔を上げると、土門の顔面が鉛色に染まっていた。
 額の中心部には、それまで書かれていなかったはずの漢字が一つ記されていた。

 ――『鉄』。

 ゆっくりと、その漢字が近付いてきている。
 そう認識したマシン番長は距離を取ろうとして、両肩を土門に掴まれていることに気付いた。
 足裏のバーニアを起動させるが、その腕に籠められた力はあまりに強く――そして『重い』。
 接近してくる漢字を眺めるしかできないマシン番長の両瞳は、土門の身体が額の文字通りに鉄化している事実を読み取る。

 しかし、だとすれば。

 たかだか硬度四程度の鉄だというのならば――!

「バカナッ! 鉄ゴトキ『ソリッド・スクリュー』ガ貫ケヌハズガ――!?」

 言い終えるより早く、冷たく硬く重いヘッドバットが叩き付けられた。
 仰向けに倒れ込むマシン番長に、同じく仰向けに倒れ込みながら土門が断言する。

「ただの鉄じゃねえ。俺が気合籠めて発動させたんだ。
 言われたことやるだけのテメェより柔らけえワケねーだろ」

 土門の肉体が鋼鉄化したのは、体内にある魔道具『鉄丸』の効力である。
 使用者の適正、慣れ、精神状態によって、魔道具の性能は飛躍的に上昇する。
 そんな事実にまったく触れない、なんの理屈にもなっていない答え。
 だというのに、マシン番長は不思議と合点がいった気がした。

「ソウカ」

 そう返したのと同じくして、全体が真紅に染まっていた瞳が本来の色に戻る。
 地面の冷たさを知覚し、青い空を視認し、躯体損傷率を認識して――
 そこまで来て、マシン番長は自分が敗北したという事実を悟った。

「Dr.鍵宮ニ下サレタ任務ヲ完遂スルコトガデキナカッタ。
 俺ハ……廃棄サレル。月美…………」

 命令を遂行できぬ機械に、存在価値はない。
 もはや、廃棄されるだけだ。
 そうなってしまえば、月美と再会することもできない。
 マシン番長がその事実を受け入れようとしていると、土門が仰向けのまま顔だけを上げる。

122 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:43:24 ID:Ku2M2uts

 

123 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:44:14 ID:uhhrMzVm

     

124 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:44:24 ID:N0sGyZ+m

 

125 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:44:34 ID:HgstYIay

 

126 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:44:43 ID:RFV+93JY

 

127 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:44:44 ID:Ku2M2uts

 

128 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:44:59 ID:TIKVRBkZ


「ふざけんな、バカ野郎。黙って捨てられていいのかよ。
 一回本気出して命令守ろうとしたんだろ。だったら、今度は好きに生きりゃいいじゃねえか」
「俺ハ機械(マシン)ダ。生キテナドイナイ」
「はん、生物の定義とか知らねえよ。考えてるヤツァみんな生きてるでいいだろ、そんなもん」
「…………ダガ」
「ああもううるせえな! 知らねえよ、んなこたァ! テメェがどうしてえかって話だよ!」
「…………」

 マシン番長は、青空の彼方にあの少女の姿が見た気がした。
 躯体損傷が激しいゆえに、メモリーから過去の映像が漏れ出たのかもしれない。
 機械であるのならば、そう考えるのが正しいのだろう。

 だが、もしも。

 『意思』というものが、あるのであれば。

 それを持ち合わせているゆえに、記憶が蘇ってきたのだとすれば――

「俺ハ……月美ニ笑ッテイテ欲シイ」

 少し間を置いて、土門が大声で笑いだす。
 一しきり笑ってから、落ち着いた口調で切り出した。

「じゃあお前、『火影』に入れよ。
 どうせ、そのドクターなんとかんとこには戻れねえんだろ」
「『火影』……?」

 マシン番長が首を傾げる。
 現存する番長同士の『組』の知識は網羅しているはずだが、その名称は初耳だった。

「えーと、なんつーか……まあ俺らのいるチームだよ。
 ……リーダーは死んじまったんだけどな。はッ、あのヤローいなくなったら俺がリーダー確定だな。あの世で羨ましがってやがれ、バーカ」

 しばらく毒づいてから、土門は上体を上げる。
 いつの間にか、その眼差しは真剣なものに変わっていた。

「火影に細かいルールはねえけど、たった一つ『殺しはNG』だ。
 これだけは守ってもらうぜ……死んだり殺したりしたら――もう終わりなんだからよ」

 マシン番長が思い返すのは、自分に『死』について教えてくれた月美の姿だ。
 幼いのもあり拙い説明であったが、彼女が死を恐れていることは分かった。
 自身のだけでなく、すべての他者の――である。

「……アア、都合ガイイ」

 損傷が激しく、エネルギーを消耗しているからだろうか。
 平常時ならば直視しても問題ないはずの太陽が、マシン番長にはやけに明るく見えた。

129 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:45:14 ID:Ku2M2uts

 

130 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:45:18 ID:aafAVvzO

131 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:45:28 ID:HgstYIay

 

132 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:45:34 ID:TIKVRBkZ



 ◇ ◇ ◇


「終わったみたいだね」

「そうだな。どっちも死んじまったのか?」

「どうだろう……少し待ってみよう」

「ああっ、どっちも生きてるみてえだ! 考えが読める」

「ふむ。どちらかがどちらかを殺して終わると思っていたけど……
 でも両方とも疲弊しているのなら、やっぱり待った甲斐はあったね。
 あんなの相手に正面から戦ってちゃあ、とても最後の一人になんてなれないよ」

「へへへ。やっぱりバロウは頭いいなァ」

「……さとりさんと話してみて、ちょっと僕の常識じゃ計り知れない相手がいるかもと思っていたからね」

「へへ。よく分からねえけど、面倒なヤツらがいるってことだろ?」

「うん、そんな感じ。じゃあ手筈通りに行こう」

「ああ。ところで、『生き残ったほう』を狙う計画だったけど、この場合いったいどうするんだ?」

「それは、もちろん――」


 ◇ ◇ ◇

133 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:45:59 ID:aafAVvzO

134 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:46:06 ID:TIKVRBkZ



 恐る恐るマンホールから顔を出した風子は、戦場に転がる人影を見て拍子抜けしてしまった。
 地下を移動しているうちにあんなに激しかった戦闘音が止み、間に合わなかったのかと焦っていたのだ。
 もどかしい思いを抱きつつ外を覗き込んでみれば、戦場に横たわっているうち一人はよく知った男であった。
 しかもその表情を見るに、なんていうか『いつもの喧嘩』をしたあとのようだった。
 張り詰めていたものが一気に切れたような感覚を覚えた。
 彼の姿を見て安堵した自分にも風子は気付いており、それがなんとも腹立たしかった。

「私の知り合いだったわ。ちょっとちょっかいかけてくる」

 後ろをついてくる二人にそう告げて、風子はゆっくりと土門に歩み寄っていく。
 無駄に心配かけさせてくれたのだ。驚かしてやっても罰は当たらないはずだ。
 こっそり後ろに回って不意に声をかけてやれば、きっとマヌケな声を上げることだろう。
 石島土門という男は、あの巨体や強面に反して意外に臆病な一面もあるのだ。
 風子がそのように計画を立てていると、横たわっていた土門に巨大な弾丸が命中した。

「……は?」

 意図せず呆けた声を漏らす風子の眼前で、土門が宙に投げ出される。
 直径一メートルほどの玉が勢いよく命中したのだから、当たり前だ。
 そんなふうに、風子はどこか他人事のように思ってしまっていた。
 土門を発見して気が緩んだせいか、目の前で広がる事態に思考が追いつかない。
 上空に投げ出された土門がある一点で静止する。
 その瞬間を狙い澄ましたかのように、土門の腹を三日月状の刃が斬りつけた。

「…………は?」

 再び、呆けた声が漏れる。
 土門の腹から血が噴き出す。
 そのまま落下し、地面に叩き付けられる。
 どう見ても、致命傷だった。
 どう見ても、凶器は魔道具『海月』だった。
 どう見ても、風子が一度遭遇した相手が所持していた代物だった。


 ――殺せ。


 ――――殺せ!


 ――――――殺せ!!


 静かになったはずの剣が、風子の手のなかでやたらとやかましかった。
 こんなにうるさいというのに、この声は他の誰かに聞こえないのだろうか。
 誰一人として指摘してくれないので、風子は剣にこう返すことにした。

「殺す」

 思っていたより大きな声が出ていたらしい。
 周囲の何名かが視線を浴びせてきたが、風子は反応を返すことすらしない。
 三日月状の刃が戻っていった方向を見据えて、風神剣の刃をそちらにかざす。

 びゅおう――と。
 住宅街を吹き抜けた風が、風子にはやけに心地よかった。

135 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:46:38 ID:TIKVRBkZ



 ◇ ◇ ◇


 マシン番長は茫然とした表情で、重力に引き寄せられる土門を眺めていた。
 躯体損傷率が激しいとは認識していたが、レーダーが完全に利かなくなっているとは気付いていなかった。
 そのせいで、本来ならば容易に勘付いたはずの奇襲に反応できなかった。

 落下してきた土門は、傷痕から血液だけでなく臓器まで垂れ流している。
 腹から背にかけて切断されており、もはや身体が二分割されていないのが奇跡と言えるだろう。
 臓器も、胸骨も、背骨も、根こそぎ切断されているのは明白だ。
 マシン番長には人体に関する知識があるものの、その知識を総動員しても助かるめどはない。
 優れたコンピュータを持っているからこそ、希望的観測すらできない。

『命は、みんな一つずつしか持ってないんだよ』

『大切な人がいなくなるのは悲しいことなんだよ』

 月美の声がフラッシュバックし、そして。
 次に、いましがた土門に浴びせられた言葉が蘇る。

 死んだら――おわり。



【C-3 北西部路上/一日目 早朝】

【石島土門】
[時間軸]:SODOM突入前
[状態]:全身にダメージ、腹から背にかけて斬りつけられたような傷(致命傷)
[装備]:御神苗優のAMスーツ@スプリガン
[道具]:基本支給品一式×2、支給品1~5(0~2:本人確認済み、使えるものと使えないもの? 1~3:烈火確認済み、花火以外)
[基本方針]:――――――――
※御神苗優のAMスーツ@スプリガンは、胸部を抉られ、胴部を突き破られてます。


【マシン番長】
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:全身ダメージ極大、エネルギー消費大、自己修復&エネルギー回復中
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:月美を笑顔にするために動く。誰も殺さない。
※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。
※対象の“人間”の殺害を躊躇しません。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。


【高嶺清麿】
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達、AK-47@現実
     醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。

136 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:46:41 ID:Ku2M2uts

 

137 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:47:02 ID:uhhrMzVm

      

138 名前 : 死んだらおわり ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:47:08 ID:TIKVRBkZ



【霧沢風子】
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:???
[装備]:風神剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式、謎の玉@不明、ハンディカラオケ@現実、風子のリュック(基本支給品一式、支給品0~2(風子確認済み)、水一本消費)
[基本方針]:――――――――


【横島忠夫】
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:ボッコボコ(=いつも通り)、文珠×2、電撃なごーもんにより流石に動きが鈍る。
[装備]:なし
[道具]:
[基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。


【さとり】
[時間軸]:紫暮&うしお戦直後
[状態]:万全
[装備]:海月@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1~5
[基本方針]:優勝し、ミノルの目を治して人間となり一緒に暮らす。


【バロウ・エシャロット】
[時間軸]:三次選考開始後、植木チーム戦以前。
[状態]:健康
[装備]:H&K MARK23(8/12)@現実
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、月の石×4@金色のガッシュ、RPG-7(グレネード弾×5)@現実、支給品0~3(確認済み)
[基本方針]:人間になるため、最後の一人となる。
※名簿に書かれたロベルト=アノンと認識しています。

139 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:47:24 ID:aafAVvzO

140 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:47:34 ID:HgstYIay

 

141 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:47:49 ID:Ku2M2uts

 

142 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/10/04(木) 23:47:53 ID:TIKVRBkZ

投下完了。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

支援、ありがとうございました。

143 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/04(木) 23:48:10 ID:aafAVvzO

144 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/05(金) 00:01:02 ID:aafAVvzO

投下おつ
土門が熱いなちくしょう! かっこよすぎて本当に惚れそうなレベル
それぞれ原作のvs蛭湖 vs金剛番長を思い出す展開でナイス
そりゃ、こういう相手にはめっぽう強くなりますわな土門

横島wwwww自業自得な部分も結構あるとはいえなぁwww

うん、嫌な予感はしてました。
どっかで横槍はいるんじゃねーかなってヒヤヒヤしてました
そしたら案の定だよさとりバロウコンビ……
いいとこだったのにコイツら本当に許せねぇ……

続きも気になるSSでした本当に乙です

145 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/05(金) 00:49:18 ID:yArdVrQ8

投下乙!
土門かっけええええええええ!
やっぱりそこらのパワー馬鹿ポジションとは違うわ。烈火だけじゃなく武蔵の死も目の当たりにしてる分、「死んだら終わり」って言葉が重い
鉄丸のヘッドバットっていう絵的に派手じゃない技決めなのもらしい!
しかしバロウとさとり……。マシン番長のこれからが楽しみになってきたタイミングで来るとは。彼等の目的は分かるけど悔しいなあ……
横島の扱いで笑ってたらそれどころじゃなくなってるし、いったいどうなるんだ。風子は止められるのかな

146 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/05(金) 06:32:55 ID:qg+5M1F1

投下乙!

ど、どもぉぉーーーん!!
嫌な予感がしちゃいたが……ああ、また火影のメンバーが死んでしまう(生きてるけど)
風子も風神剣効果でヤバいスイッチ入っちゃうし
横島が相変わらず横島でホッとしたというのに、こんなことになるなんて……

早くうしおにさとりを止めて貰いたいぜ

147 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/05(金) 08:10:25 ID:svhsR9IU

投下乙ー
終わったと思ってたのに、タイトルの死んだらおわりが最後の最後でこれはすっげえなぁ……
ドットーレの恐怖を知る清麿チームとの合流だけにマシン番長これからどう転ぶかなぁ……
あと終わってから気づいたけどミノルを知らなかったからさとりに言葉を届けることができなかったさやかと
月美を知らないけれどそれでもマシン番長に届けた土門がうまい具合に対比にもなってて良い感じ。

148 名前 : R-0109 ◆eVB8arcato 2012/10/11(木) 17:56:29 ID:9TcIxY8s

初めまして、そうでない人はお久しぶりです。
現在、投票で決めた各パロロワ企画をラジオして回る「ロワラジオツアー3rd」というものを進行しています。
そこで来る10/21(日)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

詳しくは
http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
をご参照ください。

149 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/13(土) 16:02:49 ID:xlheExvB

楽しみにしてます!

150 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:06:37 ID:PgqI0Wr7

ラジオ楽しみすぎてヤバいです。

未予約ですが、書き終わったので二作投下します。

151 名前 : 高鳴り ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:08:01 ID:PgqI0Wr7

 ◇ ◇ ◇


 魔神・アシュタロスは瞳を閉じ、自身の回復具合を読み取っていた。
 回復自体は間違いなく進んでいるのだが、その速度は納得がいくものではない。
 アシュタロスにとって『目で見える速度で傷が治る』ようでは、遅すぎるのだ
 本来ならば、多少能力を犠牲にすることで一瞬のうちに全快することとて可能である。
 犠牲にした能力だって、一時間足らずのうちに平常時にまで戻せる。

 だが――できない。

 どうやら、アシュタロスにとってはあまりに緩慢な速度での治癒を続けるしかないようだ。
 これは、明らかにおかしい。
 最上位魔族であるアシュタロスは、自ら命を絶つどころか力を制御することさえできない。
 にもかかわらず、この場ではたしかに治癒力が下がってしまっている。
 理由や方法は分からないが、間違いなくアシュタロスの能力が引き下げられているのだ。
 最上位魔族として生まれ、最上位魔族として生きていくしかなかったというのに。
 この場では、なぜか最上位魔族としての力が緩まっている。
 ありえぬ事態である。
 世界の法則が乱れていると言わざるを得ない。
 アシュタロスが自ら命を絶てぬのは、その能力の強大さゆえ。
 あまりに膨大なエネルギーが前触れもなく消え失せたのでは、世界に及ぼす影響があまりに大きい。
 だから、許されない。
 誰かではなく、世界がアシュタロスの死を許してくれないのだ。
 だからそれだけのエネルギーが消失するに相応しい『成果』を上げねば、死ぬことができない。
 そのはず――なのだ。
 だというのに、能力が落ちている。
 すなわち、その分だけエネルギーが消え失せている。
 アシュタロスからすれば『少し回復が遅い』程度だが、世間から見たらそのエネルギー量は凄まじい。
 街くらいならば、十分破壊できるだろう。

 そのエネルギーが――忽然と消え失せた。

「キース・ブラック……いや」

 先刻の放送より前。
 プログラムが始まる直前に、アシュタロスは勘付いていた。
 この会場に辿り着いた時点では『目的』が達成できなかった怒りから、すっかり忘れていたが。
 冷静になったいまならば、どこかでプログラムの経過を眺めているであろう男を『こう』呼べるのだ。

「キース・ブラックの内側に潜んでおり、ブラックが死すと同時に肉体を乗っ取った『何者か』よ」

 しかし――ここから先は、激昂していた頃と変わらない。
 口調が穏やかになっているだけだ。

「やってくれたな」

 あまりにもいまさらだった。
 最上位魔族として散るために何世紀もかけて準備をしてきたところなのだ。
 いまさら力を下げられたところで、どうしろというのか。
 アシュタロスにとって僅かだが、たしかになんの代償もなく力を消失させられる。
 そう教えられたところで、他の道を選ぶなど――できようはずもない。

 変わらないのだ。
 なにも。
 なにひとつとして。

 変えられるはずがない。

 そう――決まっている。

152 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:08:06 ID:SczPCBr6

      

153 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:08:28 ID:Ij9fn/iQ

支援

154 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:08:33 ID:BzBPu6VZ

 

155 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:09:10 ID:Ij9fn/iQ



156 名前 : 高鳴り ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:09:17 ID:PgqI0Wr7


 決められてしまっているのだ。
 この世界に敷かれているルールによって。

「やはり――全員殺害し、貴様も殺す。
 そうしてからさらに『成果』を出した上で消滅する」

 どこかで聞いている男に宣言し、アシュタロスは回復に専念する。
 とうに外見上は平時と変わらない。
 残るは内側だけだ。
 力を下げられているとはいえ、これほど自身が傷つけられたことに、アシュタロスは驚いていた。
 だから、期待してしまう。
 もうしないと決めていたはずなのに、余計な命を踏みにじることなく死ねる――そんな、ありえぬ可能性を夢見てしまう。
 だから、アシュタロスはまたしても同じことを言うのだった。

「…………やってくれたな」

 これは、キース・ホワイトだけに向けられたものではない。
 アシュタロスが回復に専念せねばならぬほどの傷を負わせた花菱烈火と、彼が操っていた八体の火竜――そして。

(あの名が呼ばれなかったことにどこか安堵している……私らしくもない)

 烈火が死に際に言い残した――魔神をも殺せていたという炎術師。
 出会ったこともないのに、その影がアシュタロスの脳裏から離れなかった。

 また、彼らだけでなく――
 魔神に喰らいついてくる輩が、この場には他にもいるのではないか。
 そんな意図しておらぬ高鳴りが、アシュタロスにはひどくやかましかった。



【C-3 東部路上/一日目 朝】

【アシュタロス】
[時間軸]:横島がエネルギー結晶体を破壊する直前
[状態]:外見上はダメージなし、内面ダメージ極大、回復中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3
[基本方針]:優勝し、ブラックも殺す。滅びたい。紅麗に興味。
※バサラとビカラが所持していたメモを読みました。




 ◇ ◇ ◇


ここまで一作目。
こっから二作目です。

157 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:09:22 ID:BzBPu6VZ

 

158 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:09:56 ID:SczPCBr6

        

159 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:09:57 ID:WjtnSqky

  

160 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:10:06 ID:BzBPu6VZ

 

161 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:10:36 ID:WjtnSqky

  

162 名前 : 能力者CO/価値観の不一致 ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:10:50 ID:PgqI0Wr7

 ◇ ◇ ◇


 美神令子は空飛ぶホウキ・青いイナズマに乗って、空の旅を満喫していた。
 地上よりも青空に近い位置で身体に風を受けるというのは、なかなかに清々しいものである。
 下手に目立ってアシュタロスに見つかれば大変なので高度を上げられないのが、残念と言えば残念だった。
 この間に自分が逃亡したせいで神社周辺で惨劇が繰り広げられているなど知るはずもないが、そういう可能性がないとも思っていなかった。
 別に、彼女は他人が傷つこうが死のうがどうでもいいなどとは考えていない。
 むしろそのような光景を目の当たりすれば虫酸が走るし、可能であれば助けてもやる。もちろん、その後お代はきっちり請求するが。
 ともあれ、彼女は決して他人が殺されても知ったことでないといった冷血な人間ではない。
 もしそうであれば、このプログラムでも率先して殺し合いに乗っているだろう。
 しかし違う。他人の指示に従うのが気に喰わないというのもあるが、それ以上に人を殺すという行為自体への嫌悪感が大きい。
 にもかかわらず先ほど逃亡を図った理由はというと、これは簡単な話である。

 ただ、助ける余裕がなければ助けないだけだ。

 そうなのだ。
 ようは、彼女は自分が一番大事なのだ。
 二番目がお金で、そこからしばらく二十番目くらいまではズラリと金目のものが並ぶのだが――
 それ以降には、自分ではない他人の名前もランクインしている。
 ただ、どうあっても、自分が一番なことに変わりはない。
 そしてそれに対して、引け目を感じることもない。
 心の底から正しいと思っている。

 なぜなら――自分が死ねば楽しくないから、だ。

 世界屈指のGS(ゴーストスイーパー)であるからこそ、彼女は霊というものを知り尽くしている。
 生前の記憶や人格を失い、知性を感じさせぬ地縛霊として思うままに暴走する様子を数え切れぬほど目にしてきた。
 また暴走などしておらず現世を漂うだけの浮遊霊でも、生前の記憶すべてを持ち合わせていることは少ない。
 いまでは封印されていた肉体に戻っているが、かつて三百年あまりも漂い続けてきたおキヌだってそうだった。
 記憶だけではない。
 いかに金持ちであろうと、土地を所有していようと、高い地位についていようと、死ねばすべてパアになってしまう。
 生前持ち合わせていたものは、死んでしまえば持ち越せない。

 つまり――死んでしまえば、ほとんどなにも残らないのだ。

 身体だけでなく所持品も失い、人格や理性を失う可能性さえあり、さらには記憶まで消えかねない。
 それを知っているからこそ、美神令子は生にこだわる。
 いざ死んで霊になってしまったら、そのときはそのときでどうするか考えるだろうが、ともかく。
 こうして生きているうちは、死なずに稼ぐことに執着する。
 死ねば残らないのだから、生きているうちに得られるだけ得ようとしているのだ。
 この性分は、GSとして親の元に生まれ、かつ幼くしてその類稀なる霊能力に目覚めていたせいで、勝手に芽生えたものと言えよう。
 何せ、幼き日から霊というものを目にしてきたのだ。
 美神本人の意思なぞ関係なしに、否が応にも生と死について考えざるを得なかったのだ。

 ――といった自分の価値観が形成された経緯について思い返してから、美神は置いてきた金髪を結った青年の姿を思い浮かべる。

(まあ、そういうワケだから。
 こーゆーことで納得してもらうわよ。悪いわね、ジャン)

 ちなみに仮定の話になってしまうが、もし逆の立場で彼女がこんな謝罪をされたとしよう。
 そのときはもちろんキレる。
 お前の過去なんか知るかと罵りまくる。
 理不尽だと思うかもしれないが、そうではない。
 立場が変わっていたとしても、思考は何ら変わらない。
 『自分が一番大事』という点だけは、いかなる状況であろうと揺らがないのだ。

163 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:11:17 ID:Ij9fn/iQ




164 名前 : 能力者CO/価値観の不一致 ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:11:29 ID:PgqI0Wr7


 ちなみに仮定の話になってしまうが、もし逆の立場で彼女がこんな謝罪をされたとしよう。
 そのときはもちろんキレる。
 お前の過去なんか知るかと罵りまくる。
 理不尽だと思うかもしれないが、そうではない。
 立場が変わっていたとしても、思考は何ら変わらない。
 『自分が一番大事』という点だけは、いかなる状況であろうと揺らがないのだ。

「……ん、アレは」

 地上に人影を発見し、美神は眉をひそめる。
 目に入った人影は二つだ。金髪を長く伸ばした女性に、緑色の短髪が鮮やかな少年。
 女性はなにやらうずくまっており、襲おうと思えばいつでも襲いかかれる。
 にもかかわらず、少年はあたふたするばかりである。置いてどこかに行く素振りも見せない。
 そんな様子からして、おそらく殺し合いに乗り気なワケではないのだろう。
 そのように判断して、美神は二人に接触することにした。

 ――その二人の価値観が美神とまったく異なっていることなど、現時点の彼女に知る由はない。

 いかに殺し合いに乗っていないように思われるとしても、それだけで警戒を緩める美神ではない。
 招雷兵器・ヴァジュラを取り出してから、ゆっくりと青いイナズマの高度を下ろしていく。

「ちょっとアンタたち、このプログラムについてなんか知ってることでもあったりしな――」

 会話において優位に立つべくいきなり質問を浴びせようとした美神だったが、半ばで口ごもってしまう。
 近づいていたことで、金髪の女性のほうがうずくまっている理由が分かったのだが、それがあまりに衝撃的だった。
 彼女は、『吐いて』いるのだ。
 なるほど、この警戒するに越したことがないはずの場所で隙だらけの体勢でいるはずである。
 接近に気づいたらしい二人の視線を受けながら、美神は首を傾げた。

「…………二日酔い?」

 この状況で吐くなど美神には原因は一つしか思い浮かばなかったのだが、どうやら的外れであったらしい。
 女性のほうが真っ青な顔色でありながら、たしかに睨みつけてきたのだ。
 その視線があまりにも雄弁であったので、美神はこう返すことにした。

「なんかごめん」

 彼女だって謝るときは謝るのだ。


 ◇ ◇ ◇

165 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:11:46 ID:SczPCBr6

       

166 名前 : 能力者CO/価値観の不一致 ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:12:07 ID:PgqI0Wr7



 とりあえず水を飲ませて落ち着けているうちに、次第に吐き気は引いていったようだ。
 その間に、すでに自己紹介は済ませている。
 女性のほうがユーゴー・ギルバートで、少年が植木耕助ということを、すでに美神は知っている。
 次にここにとどまっているのが秋葉流という男を待っているからだと聞いてから、さらにユーゴーが吐いていた理由も尋ねた。
 なんでも天界人たる植木が使える『神器』とやらに振り回されたせいだという。
 美神は当初さして信じていなかったのだが、実際に神器を見せられたので納得するしかなかった。
 それから植木は彼が『神様を決める戦い』に巻き込まれているとのことを語りだしたが、この件については美神は疑わなかった。
 あまりに素直に受け入れたので逆に驚かれたが、彼女にしてみれば『誰かが神になる』など大して珍しい話でもない。
 山中を漂っていたワンダーフォーゲル部員の浮遊霊を、その山の土地神にしてやったことだってあるのだ。
 素質さえあれば、神でないものを神にのし上げることなど別段難しくもない。
 そうなるのに相応しい存在を選別するというのも、合点がいくといえばいく。
 神族であれば、一時的に『能力』を中学生に授けることだって容易であろう。
 植木が誇らしげに語る彼の仲間たちは、ずいぶんと授けられた能力に適応したのだろう。
 霊力じみたものに適応したとあっては、GSの道に進めば大成するかもしれない。
 そんなふうに思いながらも、美神はそれについては口にしなかった。
 GS人工が増えれば仕事の取り合いになるのは避けられないので、収入が減りかねない。
 それに、GSとして本当に大成するような輩ならば、誰かに促されずとも知らぬ間に足を踏み入れているものだ。


 ――と、噛み合っているようだが、実は植木と美神の認識はすれ違っている。
 本来いた世界自体が異なっているので一概に違うとは言いづらいのだが、認識のズレ自体はたしかに存在している。
 ただ、植木の言う天界人が住む天界と、美神の知る神族が住む天界が必ずしもまったくの別物とは言い難い。

 どちらの世界にも、同じように三つの世界がある。
 人間たちが住んでいる『人間界』。
 それより上層部に存在する『天界』。
 人間界よりも下層部に存在する『地獄』、あるいは『魔界』。

 そう考えた場合――

 植木の住む世界における天界=美神の住む世界における天界。
 植木の住む世界における天界人=美神の住む世界における神族。

 とは、言えるかもしれない。

 しかし『三界』の認識が二つの世界で同一でも、そこに住む存在が同一とは限らない。
 天界人のすべてが素質を秘めている『神器』は、神族がその力を解放するために纏う『神器』と根本から異なっている。
 前者は才能次第で目覚めるか否かというのはあるし、個体によって外見や威力は異なるが、種類自体は遺伝子に組み込まれている以上変わりようがない。
 一方、後者は神族の個体それぞれに適応する神器が異なる。他人の神器でも力を解放できるだろうが、それでは完全には力を解放できない。
 天界に住んでいるというところは同一であるのだが、この点で天界人と神族は違っている。

 また――神。
 これの認識についても、植木と美神の間ではズレがある。
 美神が考えている神とは単なる神族に過ぎないが、植木が言っているのは『さらに上の存在』だ。
 三界の秩序を守り、その気になれば三界を壊滅させることとて可能なほどの力を持つ。
 すなわち、美神の住む世界における『最高神』のポジションである。

 互いにそんなすれ違いには気付かない。
 テレパシストたるユーゴーには彼女の意志に関係なく二人の思考が流れ込んでいるが、二人の細かい知識までは読み取れていない。
 読み取ろうと思えば可能であるが、それを行うには多大な精神力を要する。
 認識の違いなど知るはずもないユーゴーは、わざわざ疲弊する必要性もまた知るはずがない。

167 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:12:34 ID:SczPCBr6

        

168 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:12:40 ID:WjtnSqky

   

169 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:12:45 ID:BzBPu6VZ

 

170 名前 : 能力者CO/価値観の不一致 ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:13:28 ID:PgqI0Wr7


 そうしているうちに植木の話は終わり、美神が自身の持つ情報を告げる。
 訊かれたワケではないが、自分だけ情報を得るというのは気に入らないし、心証を悪くしかねないと考えたのだ。
 とは言っても、なにもかも話してしまう美神ではない。当然、伏せるところは伏せた。
 伝えたのは、最低限の情報に過ぎない。
 『自分はGSをやっている。おキヌ、横島、ドクターカオスは仕事の関係者で、カオスの知識は役立つかもしれない。アシュタロスとルシオラは魔族で超ヤバい』といったところだ。
 実際のところ、魔神・アシュタロスとその配下・ルシオラについては機密事項と定められているのだが、この異常事態である。
 二人の能力を考慮すればあまりに狭すぎる舞台に放り込まれている以上、教えておくに越したことはないだろう。
 もはや混乱を恐れている場合ではなく、混乱した上で生き抜いてもらわねばならぬ事態なのだ。

 これについても、あっさりと受け入れられた。
 ユーゴーも植木も霊的なものについての知識があったため、GSという職業にも疑問を抱かなかったのだ。
 それに加えて、二人は秋葉流の存在を知っている。
 彼も美神と同じく、霊や妖(バケモノ)を退治して生計を立てていると言っていた。
 ならばそれとよく似たGSという職業について、いまさら驚くはずもなかった。

 最後に残ったのはユーゴーである。
 吐き気も収まり体調も回復してきたので、話すのに一切の障害はない。
 秘密結社・エグリゴリ、マッドサイエンティストの遺伝子を元に作られたクローン集団・キース・シリーズ、高槻涼らオリジナルARMS、そして――そのすべての母たる少女・アリス。
 それらについての情報を話すと、美神はほんの少し眉根を寄せた。
 疑念を抱いているということは明白であるし、また当然でもある。
 テレパシストのユーゴーには疑念の原因が分かるため、こう告げることにした。

「どうしてこれらの情報をなぜ知っているのかが疑問でしょうが、それは私がエグリゴリの研究対象であったからです。
 私は……いえ。私といまは亡き兄は、通常の人間が持ち得ない能力を持ってこの世に生を受けました」

 ここまでは真実だが、一つだけ嘘を紛れ込ませる。

「その能力は――『細胞の活性化』。
 たとえ心臓を貫かれても、死ぬことはありません……本来は。
 おそらく、キース・ブラックにより何らかの措置を取られたのでしょう」

 嘘を吐いたのは、二人にテレパシストと知られてしまうリスクゆえではない。
 人の心を読む自身へ向けられる奇異な視線には、とうに慣れている。
 受け入れてくれる仲間も見つけたいま、他人に迫害されたところで以前ほどの恐怖はない。

 ただ――秋葉流。
 彼の思考を読んだという事実がバレるのはまずい。
 自分がテレパシストだという事実が知られれば、咄嗟になんらかの強硬手段に出かねない。

 そんな考えからの発言だったのだが、美神は釈然としない表情のままだ。
 訝しむ理由が直接伝わり、ユーゴーはハッとなる。
 しかし美神のほうは思考が読まれているとも知らず、疑問に思った箇所を口に出す。
 目を光らせつつ、ヴァジュラを握る力を強くしながら。

「……それっておかしくない? だって見てみなさいよ」

 美神に指を指されて、植木は首を傾げる。

「そこの植木くん、傷治ってんじゃない」

 ユーゴーは言葉を返せない。
 その通りであった。
 木蓮という男との戦闘で大した傷は負っていないようだが、それでも植木の身体には多少ながらかすり傷が刻まれていた。
 しかしそのすべてが、いまでは塞がっている。
 本来ではありえぬ回復速度で、である。

「ていうかまあ、アンタたちに会うより前にも見てたんだけどね。
 ジャン・ジャックモンドっていう名前の獣人(ライカンスロープ)に。
 アイツなんか植木くんとは比べ物にならないくらい傷だらけだったのに、見る見る回復してたわよ」

171 名前 : 能力者CO/価値観の不一致 ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:14:11 ID:PgqI0Wr7


 ここまで淡々としていた口調が、僅かに低くなる。
 いつの間にか、美神の視線はひどく冷え切ったものに変わっていた。

「だったら、おかしいわよねー。
 『回復されてしまえば殺し合いにならないから、なんらかの措置をした』ってゆーんなら、アンタ以外にもその措置するでしょ」

 ユーゴーの反論を待たず、美神は畳み掛けていく。

「というか、そもそも前提がおかしいんだけどね。
 植木くん、ジャン、さっき言ったアシュタロスにルシオラ、アンタの話に出てきたARMS適正者たち。
 これだけ回復能力持ったヤツらを参加者にしておいて、『回復されたら困るから』なんてどういうことなのよ。
 なら最初から呼ぶなって話じゃない。それなのに呼び出してるってことは、『別に回復されても構わない』ってことじゃないの?」

 美神はヴァジュラを前に出した。
 一拍置いてから、静かに、しかし重い声音で結論を告げる。

「アンタ――嘘吐いてるでしょ」

 ヴァジュラが青白い電撃を帯びる。
 いままで眺めるばかりだった植木が焦って割って入ろうとするが、ユーゴーはそれを遮った。

「……はい、そうです。申し訳ありませんでした」

 そう言って、ユーゴーは深々と頭を下げる。
 嘘を吐き通すことなど、到底不可能だった。
 困惑している植木とは異なり、美神には驚いた素振りは見て取れない。
 ヴァジュラに電撃を纏わせたまま、鋭い口調で問い質す。

「ん、やっぱね。じゃあ、理由と真実を話しなさい。
 一応言っとくけど、『本当は能力なんてありません』なんて通らないわよ。
 なんにもない人間が、エグリゴリとやらの情報なんか持ってるワケないんだから。
 そんなこと言われたら、その時点でアンタがさっき提供した情報は信用するに値しなくなるワケ。それくらい分かってるだろうけど」

 まさしく、その通りであった。
 先ほど告げた情報を信用してもらうには、もはや真実を明かすしかないのだ。
 エグリゴリを打倒する意思を持つユーゴーには、手段は一つしか残されていない。

『私は、本当は――【テレパシスト】です』

 ユーゴーが意識を集中させると、美神と植木の脳内に彼女の声が響いた。
 またしても植木は驚き、美神は驚かなかった。


 ◇ ◇ ◇


 流の件だけを伏せ、ユーゴーは真実を明かした。
 テレパシストである事実を隠したのは、それを知られたら拒絶されかねないから――としておいた。
 この期に及んですべてを話していないことにユーゴーは罪悪感を抱いたが、流の心中を読んだからとはとても言えない。

 いざテレパス能力を隠す必要がなくなると、情報の共有は非常に楽であった。
 何せ、先ほど口頭で伝えた内容を、映像や音声付きで脳内に直接転送することができるのだ。
 あまりに膨大な情報を流されたため、美神とてユーゴーの話を信じるしかなかった。
 脳内に流れ込んできた情報すべてが捏造であるとすれば、大した妄想家ではすまない。

「とりあえず納得したわ。
 語りたくないことだったみたいだけど、この状況だから許してもらうわよ」

 ヴァジュラを下ろしつつ、美神が何気なく続けた発言がユーゴーを絶句させる。

172 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:14:28 ID:WjtnSqky

  

173 名前 : 能力者CO/価値観の不一致 ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:15:20 ID:PgqI0Wr7


「でもたぶん、アンタたちが待ってる秋葉流だっけ?
 そいつにも、嘘なんかとうの昔にバレてると思うわよ?」

 しばし、静寂が広がる。
 思考が流れ込んできているというのに、ユーゴーには美神の言わんとすることが理解できなかった。
 だいぶ間を置いてようやく漏れたのは、間の抜けた声だけ。

「…………え?」
「だって、そいつも植木くんが回復してるとこ見てたんでしょ?
 それに知り合いの魔族がいたとあっちゃねえ。よっぽどバカじゃなきゃ気付くでしょ」

 言われてみれば、その通りであった。
 なぜ、流は分かり切った嘘に触れなかったのか。
 嘘だと分かったならば、その思考はユーゴーに流れてくるはずなのに。

「流兄ちゃん、いいヤツだからなぁ。
 自分から言い出すのを待ってるんじゃねえのか?」
「まあ嘘と分かってて一緒にいるくらいだし、よほどの善人なのかもしれないわねぇ……」

 植木と美神の仮説が外れていることを、ユーゴーは知っている。
 流はユーゴーに一切の興味を抱いていない。
 この殺し合いにおいて、流の感情を揺らしたのはたった二人。
 鉄刃と植木耕助だけなのだ。
 決して、ユーゴー・ギルバートではない。
 流がその他の遭遇者に対して抱いていた思いは、常に『無関心』の三文字だ。
 そこまで思い返して、ようやくユーゴーは勘付いた。

(流さんは……私が嘘を吐いていると知ってなお、それでも――『どうでもよかった』の?
 自分が騙されているというのに、嘘吐きが横にいるというのに、知ったことではなかったというの……?)

 ユーゴーの背筋に、冷たいものが走る。
 初めて思考を読んでしまったときより、ずっと恐ろしい。
 常に浮かべた軽薄な笑みが仮面であることは、とうに知っていた。
 それでも、ここまで他者に興味を示さぬ冷え切った表情があったとは思わなかった。

(そんな人を……私は止められるのかしら……?)

 つい自問してしまう。
 刃や植木と違って、関心すら寄せられていないのだ。
 そんな相手の声が、あの胸中に止まない風が吹き荒れている男に――はたして届くのであろうか。

「大丈夫か、姉ちゃん?」

 ユーゴーの視界に、いきなり植木の顔が飛び込んでくる。
 俯いていたのを心配に思い、覗き込んできたらしい。
 そんな善意までも流れ込んでくるのが、ユーゴーは少しいやだった。

「なんつーか……能力を知られたくないっていう気持ちは、俺にはよく分かんねー。
 でも能力バレたせいでみんなにイジメられたってヤツは知ってるから、無理に嘘吐くななんて言わねえ」

 悩んでいる理由を勘違いしているのは、記憶を読まずとも明白だった。
 それを指摘できないユーゴーの前で、植木はさらに続ける。

「だから、言いたくなるまで待てばいいんじゃねえか?
 流兄ちゃんなら許してくれるだろ、たぶん。流兄ちゃんだし」

 なんとも的外れな慰めであった。
 植木がこうして無条件で信じている流の実状に、ユーゴーは頭を捻っていたのだ。
 だというのに、ユーゴーは不思議と微笑んでしまっていた。

174 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:15:23 ID:WjtnSqky

  

175 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:15:40 ID:BzBPu6VZ

 

176 名前 : 能力者CO/価値観の不一致 ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:16:12 ID:PgqI0Wr7


「そう……ですね。ありがとう」

 流が人生を楽しんだことがないというのは、分かっているのだ。
 ユーゴーも、ほんの少し前まではそうだった。
 そんなユーゴーに楽しいという感情を教えてくれたのは、はたして誰であったのか。
 辛い境遇に置かれながら、精一杯楽しい未来を目指して歩む男だ。
 さながら殺し合いの場でも前に進もうとしている――流の感情を揺らした二人のように。
 彼らを知っているというのに、悩んでいる場合ではないだろう。
 ユーゴーがそう思っていると、植木は遠くを眺めながら呟く。

「それにしても、流兄ちゃんおせーな。なにかあったんじゃねえだろうな」

 反射的に、ユーゴーの肩が微かに跳ねた。
 実は、先ほどから気にかかっていたことがあるのだ。
 六時に行われた放送で、『とら』という名が呼ばれた。
 あの流が表面上を取り繕うだけでなく、内面でも語った二つの名前の片方だ。
 妖であるとのことだった彼が、命を落としたのだという。
 こうも遅いと、たしかに『なにかあった』のかもしれなかった。
 より正確に言えば、『なにか起こしている』――可能性がある。

「…………見に行きますか?」

 ユーゴーの提案に、植木は首を傾げた。
 当然だろう。見に行くとなれば、移動用の神器を使わねばならない。
 しかしその速度や揺れに、ユーゴーは耐え切れないのだ。

「流さんが気になります……放っておけません」

 困惑していた植木だったが、ユーゴーに見つめられ納得したようだ。
 両脚に、六ツ星神器『電光石火(ライカ)』を発現させる。

「精一杯力をセーブするけど、気持ち悪くなったら行ってくれよ」

 そう忠告すると、ユーゴーは深く頷いた。
 笑みを返してから、植木は美神に視線を飛ばす。

「そっちの……美神姉ちゃんはどうすんだ? 一緒にくるか?」

 顎に手を置いて考え込んでから、美神はきっぱりと答えた。

「んー。私はいいわ。
 植木くんの言ってたエリアの端の結界とやらも気になるけど、どうしても端っことなると人いなそうだしね。
 だいたい道具もない私が行ってちゃっちゃーっと解除できるようなヤワな結界じゃないっしょ、常識的に考えれば。
 北上して仕事仲間探しつつ情報手に入れてるから、アンタたちの知り合いに会ったら場所伝えとくわね。そっちもよろしく」
「そっか。俺の知り合いは四人いて、まず佐野ってのは手拭いをデコに巻いた――」
「いやいや。ユーゴーから直接テレパスで送ってもらってるから、特徴くらい分かってるわよ」
「あ、そだな。じゃあ、ここで話してても意味ねーな」

 それだけ言い残すと、植木はユーゴーを担いでライカを発動させた。
 ほんの数秒足らずで最高速に到達しそうになるが、天界力で強引に速度をセーブする。
 セーブしたところで十分速いのだから、今度こそユーゴーを吐かせないというのが目標だった。


 ◇ ◇ ◇

177 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:17:10 ID:WjtnSqky

  

178 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:17:26 ID:SczPCBr6

      

179 名前 : 能力者CO/価値観の不一致 ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:17:38 ID:PgqI0Wr7



「はーすごいわ、ありゃ。さすがに神族だけあるわね」

 もうすでに豆粒ほどのサイズになってしまった植木を眺めながら、美神は誰にともなく呟く。
 その背中がすっかり見えなくなるのを待って、美神は視線を鋭くする。

「…………さて、さてさて、もういいでしょ」

 これは先ほどと異なり、誰にも向けていない言葉ではない。
 ならば、誰に対する言葉であるのか。
 この場には、誰もいないというのに――違う。
 他にも、いる。
 美神一人取り残されたようだが、この場には美神以外にも人がいる。
 ただ――現時点においては、もはや『ある』と言ったほうが正しいかもしれないが。

「ナゾナゾ博士さんだっけ? 悪いわね――貰えるもの、いただくわよ。
 化けて出るとかやめてよね。植木くんが言ってたんだから、アナタはこのプログラムを止めようとしていたって。
 その遺志を受け継ぐためなんだから、面倒かけさせるのはやめてよね。いくら私ほどのGSでも、除霊には多少手間かかっちゃうんだから」

 ざくざく――と。
 うずたかく盛られた土山に、美神はシャベルを突き立ていく。
 そのシャベルは、ナゾナゾ博士を埋葬するために植木が使ったものだ。
 それを知っていながら、美神は土山を掘り返す。
 ほどなくして、お目当ての亡骸は見つかった。
 死んでから数時間経過しているだけあり、腐臭が辺りに広がる。
 表情をしかめながら、美神はスコップをナゾナゾ博士の首筋に振り下ろす。
 一度、二度、三度――
 肉が抉れ、骨が砕ける音こそ響くが、それだけだ。
 首があらぬ方向に曲がるばかりで、一向に望む展開にはならない
 一度呼吸を落ち着けて、思い切りシャベルを振りかぶる。

「こ……のォ!」

 そのまま重力の勢いを乗せて振り落とすと、ようやくナゾナゾ博士の首が切断された。
 死後時間が経過しているからであろう、血が噴出することはない。
 じわりと滲んで、垂れ落ちるだけだ。
 赤黒く染まった首輪を手に取って、美神はリュックサックに放り込む。

「……ま、言えないわよね。あの二人には」

 ひとりごちて、美神は自ら切断したナゾナゾ博士の死体に土を被せていく。
 用は済んだので放置しても構わないはずなのだが、さすがに気が引けた。
 しばらくすれば、また元通りだ。
 傍目には、一度掘り返したなどと分からないだろう。

「それにしても……」

 植木の話によれば、ナゾナゾ博士は思いを残して逝ったらしい。
 このような理不尽な殺し合いに巻き込まれて殺されたのだから、当ぜんんと言えば当然だ。
 にもかかわらず、霊体が現れないというのはいかなることか。
 GSたる美神にしてみれば、不自然にもほどがあった。
 本来、死体を傷つけられるより前に霊となって辺りに漂っていてもおかしくないのだ。

「……これも結界の能力かしら」

 一応結論を出すとなれば、これ以外に見当たらなかった。
 強制的な成仏なのか、霊体が現世をうろつけぬようにしているのか、はたまた人間側が確認できなくなっているのか。
 そのいずれか、あるいはまた別のどれかであるのかは定かではないが。
 ともあれ、現状では結界のせいと見る他ない。

180 名前 : 能力者CO/価値観の不一致 ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:18:38 ID:PgqI0Wr7


「別に、いまから植木くんたちのほうに合流してもいいんだけど……ねえ」

 北上すると言ったものの、実際美神はどちらでもよかった。
 結界を見たところで意味はないと言ったが、アレはでまかせだ。
 結界を確認した上で、同業者らしい秋葉流とともに対処方を考えるのも手ではあった。
 なのにそれをしなかったのは、植木とユーゴーの二人があまりに美神と違いすぎていたからだ。
 情報交換の際に、二人とも似たようなことを言っていたのだ。

 ――仲間/思い人のために死んでも構わない、と。

 それは、美神からはどう頑張っても出てこない発想だった。
 価値観が正反対すぎた。真逆と言ってもいい。
 にもかかわらず行動を共にすれば――美神自身だけでなく、二人も苛立ちを募らせるばかりだろう。
 そんな未来があまりにも見え見えで、同行を断ったのだ。
 テレパシストたるユーゴーは気付いていたであろうに触れなかった辺り、彼女も似たようなことを思っていたのかもしれない。

「あー、やっぱ周りも自分一番なヤツらじゃなきゃやりづらいわ。
 アシュタロスとか横島くんほどとは言わないけど、他人なんか知るかって相手は気分が楽よね。なんでもできて」

 最上位魔族・アシュタロスも。よもや時給二五五円と同列に扱われるとは思っていなかっただろう。

「その点、ジャンなんかアレで結構リアリストっぽくて楽だったわ。まったく、いったいどうしたのかしら」

 どうしたのかしらもなにも、彼を置き去りにしたのは美神自身だった。



【A-5 東部/一日目 午前】

【植木耕介】
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:『電光石火(ライカ)』
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。流の向かったほうへ。
※美神、ユーゴーとテレパスで情報を共有しました。


【ユーゴー・ギルバート】
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。流の向かったほうへ。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません。
※美神、植木とテレパスで情報を共有しました。


【美神令子】
[時間軸]:少なくとも平安京から帰還した後。
[状態]:疲労(小)、雷撃のダメージ、すり傷。
[装備]:青き稲妻@GS美神極楽大作戦!!
[道具]:ヴァジュラ@スプリガン、鍋@現実、土手鍋(説明書未読)@金剛番長、基本支給品一式、首輪(ナゾナゾ博士)
[基本方針]:殺し合いには乗らない。脱出するべく首輪を調べる。アシュタロスには関わらない。
※ジャンと少しばかり情報を交換しました。
※『才賀正二』を危険人物と認識しました。
※植木、ユーゴーと情報をテレパスで共有しました。

181 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:18:43 ID:Ij9fn/iQ

   

182 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 01:18:47 ID:SczPCBr6

183 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/10/14(日) 01:19:50 ID:PgqI0Wr7

投下完了。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

支援、ありがとうございました。


流れましたが、>>148にラジオの告知が来てます。

184 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/14(日) 18:05:30 ID:+6wh4tiO

投下乙
アシュ様物悲しいな。期待してしまうのも当然だよね
美神さんは美神さんで合う相方がいないとwwwジャンとのコンビはなかなか好きだったんだが仕方ないwww
植木ユーゴーとは致命的に違うものなあ

185 名前 : ◆6LcvawFfJA 2012/10/16(火) 14:15:02 ID:IuXbGPjw

投下乙です。
抱かぬと決めた筈の希望を抱きかけてるアシュタロスが切ない。
一方の美神さんは美神さんらしくブレないなあw
確かにGS世界は自分中心な奴多いから、植木やユーゴーと一緒だとやりづらいのかもしれないwww

未予約ですが、投下致します。
本当は◆hq氏の投下してすぐの筈だったのに、時間かかってしまった……。

186 名前 : 選択 ◆6LcvawFfJA 2012/10/16(火) 14:16:24 ID:IuXbGPjw

 “ライカ”によって会場の西端に到着した植木耕助とユーゴー・ギルバート。
 彼等は言葉を失っていた。
「何だよ……、これ」
 ようやく植木耕助から零れた声は、震えを帯びていた。
 それほどまでに凄惨な光景が、眼前には広がっている。
 辺り一帯に散らばっている無数の木片。
 それが単なる木片でないのは、木蓮と交戦した植木には分かる。
 木蓮が用いていたのは、その肉体を樹木に変質させる能力。
 であるならば、この木片は肉片と見るべきだ。
 その仮説を裏付けるように、木片の中に服の切れ端と首輪が落ちていた。
 つまりこれは、
「……死んじまってる」
 植木の思考は、全てユーゴーに流れ込む。
 散らばる木片から木蓮が死んだという考えも、誰が行ったのかという想像も。
 しかしたとえ思考が流れ込んでこなくとも、すぐに考えを知る事となっていた。
 植木の思いが彼の中に留まらず、言葉となって出てしまったのだから。
「殺しちまったのかよ……、流兄ちゃん……!」
 地面に膝を付け、植木は地面を叩き付けた。
 これまでに悪党と戦った事は何度もある。
 だがその内誰一人として、殺した事は無い。
 それは偏に、相手が“能力”や“空白の才”目当ての小物ばかりであったという理由が大きい。
 ロベルト・ハイドンのように、ただ自暴自棄になっているだけで明確に悪人と言えない相手もいた。
 だから殺さなかった。ぶっ飛ばして思い知らせれば十分だったのだ。
 しかし今、植木の眼前で変わり果てた姿となっている男。
 永井木蓮は違う。
 大して知っている訳では無いのに、それでも分かる。
 少し言葉を交わしただけで理解してしまった。
 人を殺す事をエンターテイメントなどと言い放っていた。
 木蓮という人間は、救いようが無い根っからの悪党だ。
 だというのならば、殺すしか無いのかもしれない。
 ぶっ飛ばすだけでは済まないのかもしれない。
 それでも、植木は木蓮を殺せなかった。
 ナゾナゾ博士の遺体を見て激昂し、衝動的に十つ星神器“魔王”を繰り出してしまったというのに。
 命を奪う事は出来なかった。
 全力だった筈なのに、どこかで力を抑えてしまっていた。
 救いようが無いのは分かっていた。
 殺すのが正しかったのかもしれない。
 なのに、そんな根っからの悪党でも殺せなかったのだ。
「糞……!」
 もう一度地面を殴る。
 木蓮を殺したのは、おそらく流だろう。
 その行動は正しい。
 植木は、そう思っている。
 人殺しが善き事であるなど考えたくもないが、木蓮に関してだけは別だった。
 あのような外道は初めて見た。二度と見たくも無い。
 ナゾナゾ博士を殺しておいてあの男だけ生きているのも納得がいかない。
 のうのうと生かしておいた自分こそ間違っていたのかもしれない。
 そう思っている。
 そう思っているのに、
「畜生……!」
 何故か、涙が溢れてくる。
 流が人を殺したという事実が、重たく圧し掛かってくる。
 流は正しい。
 初対面時からずっとそうだった。
 木蓮がこうなっているのも、流が正しい判断をしたからだろう。
 理解している筈なのに、たまらない。
 何がたまらないのかは、植木自身にも分からない。
 たまらなく悔しいのか、悲しいのか、腹立たしいのか。
 それさえ分からないでいた。

187 名前 : 選択 ◆6LcvawFfJA 2012/10/16(火) 14:17:16 ID:IuXbGPjw


 植木の胸中に溢れる感情は、ユーゴーにも流れ込む。
 ユーゴーの脳裏を過るのは、思い人の姿。
 高槻涼は、自身に埋め込まれた“ジャバウォック”に呑み込まれぬよう生きてきた。
 襲いかかってくる敵であろうと、極力殺してしまわぬようにしていた。
 ユーゴーが属していた“X-ARMY”の面々も、涼は殺さなかった。
 ジャバウォックの意思ではなく、自身の意思で殺した数はその能力からみれば驚くほど少ない。
 いくらでも殺せるにもかかわらず、殺さずに振る舞ってきた。
 他人を殺すごとに人でなくなってしまうと、そう考えていたのだ。
 そんな彼が怒りに駆られるでも無く、自らの意思で殺害を決断した相手がいる。
 キース・シリーズの次男、“マッドハッター”のキース・シルバーだ。
 シルバーの内面を覆う精神の鎧が崩れた時、彼のARMSは制御不可能となった。
 延々と温度が上昇し、いずれ地中深くまで焼き尽くし、多大な影響を及ぼしかねない。
 そんな状況で、高槻涼は自らの意思で彼の殺害を決意した。
 仲間を含むその時にニューヨークにいる全員とキース・シルバーの命を天秤にかけ、前者を取ったのだ。
 反射的にではなく、とても冷静に。
「……耕助君」
 植木自身にも理解出来ぬ感情でも、ユーゴーは理解していた。
 植木は、命の価値を比べる事に抵抗感があるのだ。
 他の多数の参加者と永井木蓮の命。
 どちらが大事なのかなど、比べるまでもない。
 他の多数には、植木の仲間達も含まれている。
 にもかかわらず、植木は天秤にかけられない。
 かければどうなるかなど明白なのに、かける事自体を良しとしていない。
 だがしかし天秤にかけねばならない事態が、いつか嫌でも訪れるだろう。
 オリジナルARMSの少年達のように。
 エグリゴリに反発するという事は、つまりそういう事だ。
 誰も殺さずに済めばいいだろうが、そうはいかない。
 だから、
「一体誰を救うべきなのかを、いずれ選ぶ時が来ます」
 ユーゴーに出来るのは、今の内に投げかけておくだけだ。
「流さんは、彼を選ばなかったのでしょう」
 茶番じみていると思いつつ、この一言は必要だった。
 他者がどう選んだのか、例を挙げておかねばならない。
「こいつがとんでもない糞野郎だって事は、俺も分かってる。
けどよ、それでも……! いや、流兄ちゃんは正しいと思うけど……!」
 口籠る植木。
「まだ決められなくても問題ありません」
 ユーゴーが微笑みかける。
「ですがいつか必ず選ばねばなりません。その時、」
 首を傾げる植木に、ユーゴーは穏やかな口調のままで。

「相手を間違えないで下さい」

「……ああ!」
 暫しの間を置いて頷く植木。
 彼がまだ理解し切れていない事は、ユーゴーには伝わっている。
 それでも構わなかった。
 一度頭に入れておいてもらうのが目的であったのだ。
「では東に戻りましょう」
 ユーゴーが首輪を広いながら提案すると、怪訝そうになる植木。
「ん? 戻るのか? せっかくだし、流兄ちゃん探した方が……」
「南が禁止エリアである以上、流さんが向かった方向は北と東の二つしかありません。
北に行ったのならば美神さんに出会う筈ですし、行き違いになっている可能性もあるので私達は戻りましょう。
見付からなければ、あちらも探してるものとして動きましょう」
「そっか」
 あっさり納得する植木に、安堵するユーゴー。
 本当は北に向かって美神に出くわすのを避けただけだ。
 彼女が同行を嫌がってる事は、ユーゴーにも伝わっていた。

188 名前 : 選択 ◆6LcvawFfJA 2012/10/16(火) 14:17:55 ID:IuXbGPjw






【A-5 西端/一日目 昼】

【植木耕介】
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:『電光石火(ライカ)』
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。東へ。
※美神、ユーゴーとテレパスで情報を共有しました。

【ユーゴー・ギルバート】
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません。東へ。
※美神、植木とテレパスで情報を共有しました。

189 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/16(火) 14:18:38 ID:IuXbGPjw

終了です。

190 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/16(火) 14:20:07 ID:IuXbGPjw

失敬。

R-0109氏のラジオ告知が>>148に来ております。
予約二つもですが、そちらも楽しみにしてます。

191 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/16(火) 21:39:48 ID:+S1NReLv

投下乙!
まさかの即リレーにびびらざるを得ない!
うえきの反応がらしい。相手がいくら木蓮でもね
でもそうはいかないんだよな。いつか選ばなきゃいけない
それを知ってるからこそのユーゴーの言葉が重い
流と会ったらどうなるんだろう……

192 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:15:55 ID:Zx/2NY1Z

投下します。

193 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:16:45 ID:56mrruJQ

  

194 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:17:27 ID:Zx/2NY1Z

 ◇ ◇ ◇


 エリアC-4の河原では、二つの戦闘が繰り広げられている。
 その片方――二メートルほどの長身の老人と、それ以上の巨躯を誇る高校生。
 すなわちドクターカオスと金剛晄の戦闘は、両者のスペックからは想像できぬ展開を見せていた。
 使いなれぬ道具を武器としているカオスが、間違いなく戦闘力で勝っている金剛を攻め続けているのだ。

 ドクターカオスが武器として用いているのは、純白のマリオネット。
 オリンピアという名を持つそれは、六本の腕や内蔵した注射機などの武器で戦うトリッキーな懸糸傀儡だ。
 とはいえ現状では、まだドクターカオスはオリンピアの性能をすべて引き出せているとは言い難い。
 説明書こそ付属していたが、内蔵武器などについて記すばかりでその操作方法についての奇妙は大してなかったのだ。
 十指すべてを用いねば動かすことすらままならないというのに、そういう初歩的な説明が書かれていない。
 つまるところプログラムにはこのようなマリオネットの扱いに長けたものが招かれており、その手の輩用に支給されたのであろう。
 そこまで予想することはできたものの、それで人形繰りが上手くなるワケでもない。
 結局のところ身もふたもない言い方をすれば、カオスはハズレ武器を引かされたのだろう。
 にもかかわらずこうして懸糸傀儡を操れているのは、彼の類稀なる明晰な頭脳のおかげである。
 それでも動かすのが精一杯であるので、カオスはこの戦闘に際して細かい操り方をマスターする心づもりであった。
 悠長なことをしている余裕は本来ないのだが、知的好奇心の前には身の危険なぞ些細な問題にすぎない。
 カオスのなかでは、知的好奇心はその他のすべてに勝る。
 千年以上の長き人生を経てボケてしまっていても、それだけは絶対だ。

「……ちいッ」

 華麗に飛び回るオリンピアに、金剛番長こと金剛晄は舌を鳴らす。
 あまりに動きが不可解すぎるのだ。
 人間の域を超越した身体能力を誇る敵ならば何人も下してきているが、さすがにここまで動きを予想できない相手はいなかった。
 生物ではあり得ぬ動きといえば、サイボーグ戦士のマシン番長がいる。
 金剛は二度目の戦いでどうにかマシン番長から勝ちを拾ったが、彼の動作はあくまで人間を模している。
 生物の動作を恐るべきパワーとスピードで行っているだけであり、動作自体は他の番長たちと変わらない。

 が――懸糸傀儡は、まったく違っていた。

 筋肉や骨格の都合上曲がれるはずのない角度に胴体を曲げるという、予想だにできぬ動き。
 どう足掻いても捻れぬはずの方向に腕を捻り、手から伸びた注射機を突き刺しにかかってくる。
 地面を蹴ることなくただ使い手が指を微かに動かしただけで、通常思い切り足に力を籠めねばできないほど跳び上がる。
 修羅場をくぐり抜けてきた金剛番長でさえ、このような相手を前にしたことはない。

 これが敵であるならば、思い切り殴ってやればいいだけだ。
 予想できぬ動きなど無意味なスピードで殴りつけ、その一撃でガラクタにしてやればいい。
 普段ならばとうに出ている行動自体は、当然金剛のなかにすでに浮かんでいる。
 ただし、その選択はできないのだ。
 殺し合いに乗っていない相手の武器を破壊するワケにはいかない。

「くッ」

 オリンピアが六本の腕から繰り出す連撃をかいくぐり、金剛はバックステップで距離を取る。
 たったの一跳びで二十メートルほど移動し、誤解を取るべく声を張り上げる。

「いいか、よく聞け。俺たちは、殺し合いには乗っていな――」

 しかし生憎、この呼びかけはカオスの耳に入っていない。
 興味深い研究対象を前にしているというのに、研究者の意識が他に向くはずもない。
 金剛がオリンピアの動きに思っているのと同様に、カオスも金剛の肉体に感心していたのだ。
 まず、反応速度が凄まじい。
 迫る攻撃を確認して、次の動作に移るまでのスピードがバケモノじみている。
 にもかかわらず、ただ反射神経に任せているだけではない。
 避ける必要のない繋ぎの攻撃と急所狙いの本命を見極め、後者以外は回避するそぶりすら見せないのだ。
 判断力もズバ抜けているということだ。肉体のスペックに胡座をかいているワケではない。
 かわすに値しないと認識した攻撃を微動だにせず受けきる肉体にも、目を見張らざるを得ない。

195 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:17:29 ID:lSBVjJye

196 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:17:41 ID:56mrruJQ

  

197 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:17:46 ID:mnmIes9a

 

198 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:18:03 ID:Zx/2NY1Z

 オリンピアから糸を伝ってくる僅かな衝撃のはずなのに、十分に重いのだ。
 そしていざ回避行動をとる際の俊敏性にこそ、カオスは意図せず息を呑んでいた。
 アレほどにしなやかな筋肉は、カオスの長い人生においてさえ他にみたことがなかった。
 人間の域どころか、脊椎動物全体の域をも超越している。
 それどころか、魔族の筋肉をすら凌駕しているかもしれない。
 カオスは胸中で舌なめずりをした。
 もしもあの肉体を手に入れられたならば――
 もしもあの肉体の量産に成功したならば――
 想像するだけで、胸の高鳴りが抑えられない。

「ふ、ふははは!」

 隠しきれなくなった満面の笑みを浮かべて、カオスは十指を小刻みに動かす。
 それに応えて前に出たオリンピアに乗って、一気に金剛との距離を詰めていく。
 操作にもだいぶ慣れてきており、内蔵武器ごとにそれを扱うのに効率のよい戦闘スタイルを見いだしていた。
 そこでカオスは、オリンピアの踵に埋め込まれた刃がもっとも猛威を振るう攻撃を放たんとする。
 右の人差し指を引くと、オリンピアが刃を露出させた左脚を高く掲げた。

 すなわち、踵落としである。

 とうに、オリンピアは金剛に肉薄している。
 この距離であり、かつこれまで行っていなかった攻撃だ。
 いかに金剛晄とて、到底対処できるはずがないだろう。

 ――そんなカオスの予想は覆される。

「なん……じゃと……」

 降り下ろされたオリンピアの踵から伸びる刃は、金剛の両掌に挟み込まれていた。
 移動速度を乗せた神速の一撃だったというのに、カオスがどれだけ指を動かそうと微動だにしない。
 この戦闘において初めて見せる一撃にもかかわらず、見事に真剣白刃取りを決めて見せたのだ。

「ぬぅん!」

 かけ声とともに、金剛はオリンピアを優しく地面に転がす。
 オリンピアに乗っていたカオスもまた引きずられるように落下しかけたが、金剛の太い腕に抱えて受け止められる。

「いまのは失敗だぜ、ジイさん」

 これまで苦戦を強いられてきたのは、あくまでオリンピアが生物離れした予期せぬ動きを見せていたからである。
 しかし先ほどの踵落とし――アレは、人間でも放てる一撃であった。
 ならば、金剛番長は反応できるのだ。
 踵に内蔵された刃を効率的に用いようとするあまり、カオスは自らの優位を捨ててしまったのだ。

「今度こそ話を聞いてもらうぜ。
 俺と新宮は、キース・ブラックの言葉に従うつもりなどない」

 ようやく誤解を解けると安堵した金剛だったが、カオスの反応に眉をひそめることになる。

「そんなもん分かっとるわい」
「…………なに?」
「動きを観察しておれば、殺しにかかってきてないことくらい見て取れるわ」
「だったら、どうして攻撃を止めなかったんだ?」

 僅かに警戒心を強める金剛だったが、カオスはそんなことに気付かずしれっと言い放った。

「せっかく研究対象の力が分かる機会に恵まれたというのに、それをみすみす逃せるものか」


 ◇ ◇ ◇

199 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:18:18 ID:mnmIes9a

 

200 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:18:21 ID:lSBVjJye

201 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:18:26 ID:56mrruJQ

    

202 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:18:40 ID:Zx/2NY1Z



 河原で繰り広げられている戦闘のもう片方。
 新宮隼人とマリリン・キャリーの戦いも、また一方的な展開になっていた。
 マリリンの『一秒を十秒に変える能力』に、隼人が対応しきれずにいるのだ。

(クソ! なんだこれは、オイ! どうなってんだ!)
『分からん』

 自身に埋め込まれたARMS『騎士(ナイト)』に問いかけても、返事はひどく簡潔なものだった。
 隼人は大きく舌を打とうとして、横合いから蹴り飛ばされた。
 受け身を取って体勢を立て直すことには成功したが、これは先ほどからと同じだ。
 『攻撃を受けたあと』の対処こそできるが、『攻撃を受ける前』に反応することはまったくできないでいるのだ

「ちッ」

 今度こそ本当に舌打ちを吐き捨ててから、隼人は神経を尖らせる。
 マリリンの加速は、あくまで十倍。
 いくら鍛錬を重ねてきたとはいえ、彼女自身はあくまで人間の域を超えてはいない。
 それを十倍にしたところで、隼人がこれまで戦ってきた相手から比べると決して早くはない。
 ARMS適正者や亜音速サイボーグと比べれば、むしろ遅いと言ってもいいだろう。
 マリリンの能力を細かく知らずとも、隼人はそこまでは判断できている。

 だというのに――反応できないでいる。

 自分の心のなかに『水面』を作り、そこに相手の意識を投影する――『水の心』。
 それを用いているからこそ、隼人はマリリンの加速に対応できないのだ。
 事前に相手の意識を読み取っているからこそ、『意識の上での速度』と『能力を発動させた速度』とのズレに苦しんでいる。
 ARMS適正者はすでにARMSが肉体と適合しているので、意識の上での速度と実際の速度は同一だ。
 亜音速サイボーグは同一ではないが、意識している以上の速度を出すには若干のラグを要するので、そこを突けばよい。
 しかしマリリンの能力には、加速しきるまでのラグなど存在しない。
 発動すればその瞬間、一気に十倍速まで身体を加速できるのだ。


「ふむ……」

 対するマリリンは一方的に攻めているというのに、険しい表情を浮かべた。
 というのも終始押しているというのに、隼人にダメージが見て取れないのだ。
 たしかにいいのが入っているはずなのに、痛がるそぶりすら見せない。
 巧みに受け身を取って立ち上がり、次の攻撃を待つばかりだ。
 マリリンが気になっているのは、それだけではない。
 苦戦を強いられているはずなのに、隼人は一向に左腕を変化させないのだ。
 メカニズムは不明だが、遭遇時はたしかに鉱物じみた外見になってブレードが生えていたはずなのに。
 戦闘が始まるや否や人間の腕へと姿を戻して、そのままだ。

(見くびられている……ということでしょうか)

 無意識のうちにマリリンのあごに力が入り、歯が軋んだ。
 だがすぐに普段と変わらぬ笑みを浮かべ、マリリンは白い歯を見せる。

「でしたら、能力を使わざるを得ないほど追い込むだけですわ」

 言って、マリリンは彼女の『レベル2』を発動させた。
 その能力は、『一秒を十秒にする』能力をさらに『二倍』にするというもの。
 つまり――現在の彼女の速度は『二十倍』。

203 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:18:42 ID:u6qvq5Mz

  

204 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:18:52 ID:mnmIes9a

 

205 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:18:55 ID:lSBVjJye

206 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:19:12 ID:Zx/2NY1Z



 常人では掻き消えたと判断するであろうマリリンの姿も、ARMS適正者たる隼人には追えていた。
 水の心で事前に読み取っていた意識を遥かに超える速度で、こちらに飛びかかってきている。
 相手が到達するまで、僅かな時間しかないことは明白だ。
 レベル2を発動させてなお、マリリンは隼人がこれまで戦ってきた敵と比べれば決して速くない。
 ただ――『一瞬で最高速に到達する能力』に加えて、元より互いの距離が短かった。
 その二つが組み合わされば、やはり隼人とて対応できない。

「――がッ」

 くぐもった呻き声を漏らして、隼人が宙を舞う。
 矢のような軌道から放たれた右ストレートの勢いそのままに、背後へと吹き飛んでいく。
 もう受け身を取る余裕など与えないと、マリリンは隼人を追うように地面を蹴った。
 彼女のレベル2には制限時間がある。
 一日に現実時間で『一分』以上使うと、意識を失ってしまうのだ。
 一気に追い込まねばならない。

「『騎士』ッ!!」

 空中で体勢を立て直しきれない状態で、隼人は左腕をARMS化させた。
 思わず、マリリンは加速した世界のなかで口元を緩める。
 これこそが狙いであった。
 ARMSを使わせるためだけに、マリリンは制限時間のある能力を発動させた。
 力を出し惜しみさせず、使わせた上で倒したかったのだ。
 マリリンは地面を蹴って跳躍し、空中で身体を捻る。
 飛び回し蹴りを放つには、ほんの僅かな時間だが対象から目を離すことになる。
 ゆえに、マリリンは驚愕するはめになった。

 隼人は、ARMS化した左腕から伸びるブレードを――『地面』に突き刺していたのだ。

207 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:19:13 ID:56mrruJQ

  

208 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:19:23 ID:mnmIes9a

 

209 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:19:46 ID:56mrruJQ

  

210 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:19:51 ID:rfUIF/mt

 

211 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:20:04 ID:mnmIes9a

 

212 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:20:05 ID:Zx/2NY1Z


 そうやることで、隼人は強引に空中で静止する。
 吹き飛んでいく方向に峰が来るようにしているため、地面を斬って進むことはない。
 驚いたところで、放った蹴りが止まるはずもない。
 マリリン渾身の飛び回し蹴りが、隼人の右脇腹を抉りこむ。

 けれど、それだけだ。

 隼人は微動だにしない。
 自身の体重、吹き飛んでいた勢い、飛び回し蹴りの威力。
 すべてが左肩一点に集中しているというのに、隼人と『騎士』は揺れ動きすらしない。

「掴まえたぜ」

 そう告げられてから、マリリンは蹴りを放った右足が隼人の右腕に掴まれていることに気付いた。
 隼人が左腕のARMS化を解除すると、二人して重力に引っ張られて落下する。
 その間、マリリンはずっと残った左足で蹴りを放ち続けている。
 とはいえ片足を掴まれている以上、体重を乗せることもできない。
 ただ十倍速になっただけの蹴りでは、隼人には遅すぎる。
 左足のほうもたやすく捕らえられてしまう。

「いいか? よーく話聞けよ? 俺は、あのブラックのヤローの言うことなんざ――」

 と言いかけて、隼人は不意に気付く。
 隼人はマリリンの年齢を知らないが、とりあえず年下なのは見て取れる。
 高く見積もって高校一年生、せいぜい中学生程度だろうと、そんな風に判断した。
 また迷彩柄の軍服という泥臭い格好に反して、マリリンはかわいらしい容姿をしている。
 後ろで結っている長い金髪は細く、肌は白くてきめ細かく、瞳は大きい上に蒼く澄んでいる。
 おそらく、十人いれば十人が口を揃えて美少女と言うであろう。
 そんな美少女を、隼人はどうしているのか。
 反抗できぬように両足を掴んで、地べたに押さえつけているのだ。
 マリリンのほうはといえば、隼人を鋭く睨みつけて歯を噛み締めている。

「…………なんかこれ、とんでもねー絵面になってねえか?」

 誰にともなく呟いてから、隼人は凄まじい速度で現状を告げた。
 こんなに速く舌が回るのかと、自分でも驚くほどの速度で。
 さすがにこれ以上他人に誤解されてしまうのは、不良と思われがちな隼人でもカンベンして欲しかった。


 ◇ ◇ ◇

213 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:20:40 ID:Zx/2NY1Z



 隼人が誤解を解こうと四苦八苦しているうちに、金剛とカオスが隼人たちのほうへとやってきた。
 二人の様子を見てマリリンも納得し、こうなればパルコ・フォルゴレをつれ戻さねばならないという空気になったのだが――
 そんな空気を破ったのは、カオスであった。
 彼は、隼人の『騎士』をプログラムの説明の際に見た高槻涼の右腕と同種のものと見抜いていたのだ。
 そのことに触れられれば、隼人も自身を巻き込む運命について語るしかなかった。
 あくまであっさりとだが、一つの隕石と一人の少女から始まった数奇な運命を説明する。

「無機物の霊に……少女の霊……か。
 おそらく……怨霊化……いやしかし、ならば……?
 魔法科学……とは異な……じゃが、近い点も散見され……ARMSとは……?」

 なにやらぶつぶつと独り言を漏らすカオスをよそに、金剛も自身について語る。
 隼人が仲間に会わねばならないように、なんとしても会わねばならぬ兄がいるのである。
 しかしながら、隼人や金剛の期待が実ることはなかった。

「申し訳ありません。
 私たちはプログラム開始早々に三人で行動を始めて以降、アナタ方に会うまでずっと誰にも出くわしませんでしたわ」

 隼人が肩を落とし、金剛は僅かに眉根を寄せた。
 ともあれ落ち込んでもいられないのは、二人とも理解している。
 すぐに切り替えて、フォルゴレが去っていったほうへと向き直る。
 そこで、マリリンから声をかけられた。

「……自分のことは話しておいて、私たちにはなにも聞きませんの?」

 隼人と金剛が顔を見合わせる。
 言われてみればたしかにそうだ。
 通常、自分のことを話す前に相手の素性を聞くほうが正しいのかもしれない。
 そのように考えてから、両者ともに頷く。

「いや、とりあえずいまはいいわ。俺急いでアイツらに会わなきゃなんねーし」
「俺も兄貴に会わねばならねえからな」
「ええっ!?」

 当たり前のように言い放つ二人に、マリリンは目を丸くする。
 戦闘時の落ち着きっぷりが嘘のように、あたふたと両手をばたつかせる。

「アナタ方は気になりませんの!?
 私の人間では出せないはずのスピードも!? まだ中学生なのにこんな軍服を着ていることも!?」

 その様子があまりに必死だったので、隼人はこう返すことにした。

「…………じゃー聞くよ」

 そんなに聞いて欲しかったのかとは、思っていても口に出せなかった。
 新宮隼人、意外に空気を読む男である。

「ふふふ、でしたら特別に教えて差し上げますわ」
「…………」
「…………」
「ですが、さすがに『能力』については教えられませんわ!
 誰がどこで聞いているのかも分かりませんもの!
 いくら殺し合いに乗っていない方の前とはいえ、やすやすとは漏らせませんっ!」
「…………」
「…………」

214 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:20:46 ID:mnmIes9a

 

215 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:21:02 ID:56mrruJQ

  

216 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:21:31 ID:Zx/2NY1Z


 マリリンの思わせぶりな口調に、隼人と金剛はなにも返さない。
 聞くのに集中するためではなく、単に絶句しているだけである。
 あるいは、ドン引いていると言い換えてしまってもいい。

 ちなみに、この間もカオスはなにやら一人で呟いていた。
 ドクターカオス、フリーダムなジジィである。

「アナタ方が幼き頃から戦うことを宿命付けられていたように――私も幼き頃から『戦士』でした」

 ぴくりと、隼人と金剛の肩が跳ねる。
 それを見て、マリリンは誇らしげな笑みを浮かべた。

「ふふふ、気になりますか?
 『幼き頃から戦士』とははたしてどーゆーことなのかっ!?」
「いいから続けな」

 鼻高々といった様子のマリリンだったが、金剛が低い声で続きを促す。
 金剛晄、空気を読まない男である。

 僅かに残念そうな表情を浮かべてから、マリリンがようやく本題に入る。

「私がまだ幼き頃、私たちの国では戦争が絶えませんでしたの。
 私や周囲の子どもたちも将来戦場へ出るため、苦しい訓練を強いられてきました。
 戦いに勝つためのありとあらゆる戦闘技術を、まだ小さなかった身体に叩き込まれましたわ」

 話しているうちに、マリリンの顔面に微笑みが戻ってくる。
 しかしその内容は、決して笑って聞けるようなものではなかった。
 隼人と金剛は、渋い表情のまま息を呑み――

「でも私たちが戦場へ駆り出される前に、戦争は終わってしまいましたわ。
 そして戦後、父の始めた商売が当たって数年で富豪の仲間入り。
 戦争で両親を亡くした仲間の子どもたちを使用人として引き取り、いまに至るというワケです」

 ――思い切り、前につんのめりそうになった。

「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょーっと待て」

 まだ続いている言葉を遮って、隼人が前に出る。

「じゃあお前、いまは戦争とか関係ないのか?」

 マリリンが、怪訝そうに首を傾げた。

「そう言ったはずですわ」
「……幼い頃からの戦士ってなんだったんだよ」
「ですから、それについてはこれから話すところです!」
「ああ、そうだったのか。悪ィ、急展開すぎてつい……」

 気を取り直すように一つせきをしてから、マリリンは続きを語り始める。

「ですが、やはり染み付いてしまったものは取れません。
 だって幼い頃から戦場で生きる方法しか教えられてこなかったんですもの。
 いまさら富豪の娘としてなんの不自由もなく生きろと言われても、刺激があまりになさすぎますわ」

 隼人の眉が微かに動いた。
 マリリンはそんなことには気付かない。

217 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:21:32 ID:mnmIes9a

 

218 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:21:46 ID:56mrruJQ

   

219 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:22:10 ID:mnmIes9a

 

220 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:22:13 ID:Zx/2NY1Z


「一言で言ってしまえば、退屈なんです。
 やはり私に相応しい場所は戦場しかないのです。
 戦場以外に、私が輝ける舞台なんて存在しませんわ」

 隼人が歯を軋ませる。
 マリリンは気付かない。

「ですからこの殺し合いに巻き込まれたとき、正直私は嬉しかったんです。
 あの苦しかった鍛錬の日々を無駄にせずに済む機会が、いきなり訪れたんですもの」

 『騎士』が、宿主にしか感じ取れぬ高音を鳴らす。
 隼人の全身にナノマシンが巡り、皮膚に奇妙なラインが入る。
 マリリンは気付かない。

「幼き頃から戦士である私は――戦場で唯一『生きている』と実感できるんですわ」

 言い切って、マリリンは満面の笑みを浮かべた。

 隼人はもう我慢の限界だった。
 なにも言わずに、マリリンに背を向けて歩き出す。
 フォルゴレが向かったのとは別方向にである。

「行こうぜ、金剛。こいつらとは一緒にいらんねー」
「そうだな」

 短く返して、金剛は隼人の後を追う。
 困惑するのは、残されたマリリンだった。

「ど、どうしてですの!? アナタ方もキース・ブラックに敵対しているんでしょう!?」

 返事はない。
 隼人と金剛は無言で離れていくだけだ。

「でしたら、ともに行動したほうがいいでしょう!?
 アナタ方の戦力が高いとはいえ、別行動をして戦力を分断するのは効率的とは言えません!」

 なにも返ってこない。
 マリリンは苛立ちを露に、声を張り上げた。

「理解できませんわ! 目的は同じでしょう!?」

 隼人と金剛が足を止める。
 静寂が辺りを包みかけたところで、隼人が振り向いた 

「勘違いしてるみてえだけどな、俺とお前の目的は全然ちげーんだよ」

 え――と。
 小さく呟いたマリリンに、隼人は静かに続けた。

「俺も俺のダチも、お前の言った『刺激のない日常』のために戦ってんだよ」

 隼人の傍らで、金剛も小さく頷く。

「いいか、二度と間違うんじゃねーぞ……ッ!」

221 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:22:44 ID:Zx/2NY1Z


 念を押そうとして、隼人は知らず語気が強くなっていた。
 これまでの日々が、フラッシュバックしたのだ。
 たった一人でエグリゴリの刺客を始末していた。
 あの頃は、日常などどうでもよかった。
 そんなものは、自分には手に入れられないと諦めていた。
 両親も友人もエグリゴリに奪われ、残されたのは祖父だけ。
 復讐以外に生きる道はないと、そんな風に思っていたのだ。
 だが高槻涼と出会ったのをきっかけに、別の生き方もあるのではないかと考えを改めた。
 オリジナルARMSを埋め込まれた三人は、血こそ繋がっていないが運命を分け合った兄弟だ。
 また他にも、自分を信じてくれる仲間たちができた。
 復讐しか頭になかったマヌケな男を、信用してくれるヤツらができたのだ。
 いつの間にか、彼らは隼人のなかで復讐よりも大事な存在となっていた。
 彼らを死なせないことのほうが、復讐なんかよりよっぽど重要だった。
 かつての自分が見たら甘ちゃんと笑うだろうが、別に構わない。

 現在の新宮隼人は『過去』の復讐のためではなく、仲間たちとの『未来』のために戦っているのだ。

 ゆえに――
 過去に誰かが定めた運命(プログラム)なんか、知ったことではない。
 アリスという少女の悲しみも怒りももっともだ。
 何せ、ずっと研究室に閉じ込められていて、初めて友人たちと外を出る機会を得た――そのときに殺されたのだ。
 もし自分が同じ立場であったのならば、さぞかし人間を憎んでいたことだろう。
 『仁愛』や『勇気』はもちろん『審判』さえ残さず、『憎悪』だけを生み出したかもしれない。
 しかし、そんなことは関係ない。
 過去の少女の感情には納得がいくが、それで自分たちの未来が潰えるというのなら――そのような運命は叩き切ってやる。

 そんなふうに思っている隼人だからこそ、マリリンとはともにいられない。
 自分たちの目指す何気ない日常を嘲笑われたのももちろんだが、何より『過去』に縛られるような輩とは共闘できない。

 そしてその思考は、金剛のほうも同じだった。
 過去の事件に縛られる兄を止めるために、なんとしても対面せねばならないのだ。

「俺たちは、てめえみてえに運命さまに従ってやる気はねえんだよ!
 戦場でしか生きられねえ? はッ、んなヤツらは腐るほど見てきたぜ。
 気にいらねえんだよ、そういうヤツらは! てめえらの基準なんか知らねえけど、戦争が生きがいとか納得いかねえ!
 俺はダチも両親も奪われて運命さまのレールにまんまと乗せられたけどな、これが生きがいだと!? ふざけんじゃねえ!!
 死んだり殺したりするのが戦争だろうがッ! そんなもん、本当に心から楽しいと思ってるヤツなんかいるかよ! いてたまるかッ!!」

 言ってから、隼人は髪をかきむしった。
 こんなに熱くなるつもりは、毛頭なかった。
 主義が合わない相手と話す気はなく、ただ静かに去るつもりだったのだ。
 隼人はばつが悪そうにしながらきびすを返して、一歩踏み出そうとした。

「がはッ!?」

 いきなりの背後からの攻撃に対処できず、隼人はそのまま吹っ飛ばされていく。
 驚いている間に次の攻撃が放たれた。
 軍靴の先端での掬い上げるような蹴りだ。
 まんまと蹴り上げられ、胸ぐらを掴まれる。
 そこまで来てようやく、隼人は攻撃を仕掛けてきているのがマリリンだと知った。

「戦争を生きがいとしているものがいない? いますわ、ここに」

 能力を発動させた拳が、隼人の頬に叩き込まれる。
 しばらく河原の石の上を転がってから、隼人はゆっくりと立ち上がった。

「行くぞ、金剛」
「ああ」

222 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:22:48 ID:56mrruJQ

  

223 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:22:49 ID:rfUIF/mt

 

224 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:22:57 ID:mnmIes9a

 

225 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:23:20 ID:56mrruJQ

    

226 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:23:51 ID:Zx/2NY1Z

 言葉通りに、やり返すでもなく去っていく。
 その様子がマリリンは気に入らず、再び背後から蹴り飛ばす。

「……悪ィな、つまづいた」
「ああ」
「なあッ!?」

 結果は同じだった。
 まるでマリリンがその場にいないかのように振る舞っている。

「どうしてですの!?」

 三度目の攻撃。
 やはり隼人は無反応のまま立ち上がるだけだ。

「『レベル2』ッ!!」

 能力を二倍にさせても、隼人の行動は変わらなかった。
 それからさらに数回攻撃を続けているうちに、マリリンは不意に考えてしまった。
 そう、考えてしまった。
 考えて――しまったのだ。

(私……どうして、こんなに必死になっているんですの?)

 一度疑問に思ってしまえば、おかしな点しかなかった。
 能力を多用すれば疲弊するし、『レベル2』に至っては制限時間つきだ。
 ならば、新宮隼人なんかに酷使している場合ではない。
 ただ考えが違っているだけで、別に殺し合いに乗り気なワケではないのだ。
 だとすれば放っておけばいいではないか。構わなければいいだけではないか。
 これこそまさしく、先ほど隼人に言ったように効率的ではない行動だ。

 しかし――身体は、不思議と一向に止まる気配を見せない。

(なんで、私はこれほどまでに執着しているんでしょう)

 思考だけがやけに冷静だった。
 落ち着いた思考で、自身が仕掛けたきっかけを思い出す。
 間違いなく、生きがいである戦場を嘲笑われたのがきっかけである。
 だがその程度ならばよくある話だ。
 戦士の気持ちが分からぬ人間など五万といる。
 ならば、なぜ――
 マリリンは記憶を掘り起こしていく。

「……っ!?」

 唐突に、マリリンの頭に鈍痛が走った。
 なにか、開けてはいけない箱を開けてしまったような。
 そういう、奇妙な感覚があった。

 これが発端に過ぎないことを、マリリンはすぐに思い知った。
 厳しいけれどやりがいのあった訓練の日々。
 そのはずだった記憶が、どんどん塗り替えられていく。

 辛くて、いつも泣いていた――そんなありえぬはずの過去が蘇っていく。

 本当は戦争なんて怖かった。
 トレーニング中は、毎日のように泣いていた。
 それでも必死で鍛錬を重ねたのは、仲間がいてくれたからだ。

 そんな仲間たちは、戦争が終わる前にもう――

227 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:24:02 ID:mnmIes9a

 

228 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:24:22 ID:56mrruJQ

    

229 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:24:39 ID:Zx/2NY1Z


「あ……あぁぁぁぁ!!」

 流れ込んでくる記憶の奔流を止めるべく、マリリンは身体を激しく動かす。
 これまでの軍人らしい所作からは程遠い、大振りな攻撃ばかりを隼人へと放ち続ける。

 それでも、開けてしまった箱はもう閉じられない。

 一度嘘だと悟ってしまった嘘では――もう自分さえ騙せない。

(ようやく……分かりましたわ)

 自ら封印していた記憶に直面しても、マリリンの思考はどこか落ち着いていた。
 ひどく冷静に遠くから自分自身を眺めている自分がいるかのような、そんな感覚だった。

(私が、新宮隼人を許せなかったのは――)

 ひとえに、マリリンがずっと自分自身に言い聞かせてきた嘘を嘘だと明かしてしまったからだ。
 だから、頭で思うより早く咄嗟に仕掛けていたのだ。

「うああああああああああああああああっ!!」

 マリリンは二十倍速の世界のなかで、喉が削れるような絶叫をあげた。
 思い切り地面を蹴って、振りかざした拳を隼人の背中に叩きつける。
 地面を何度もバウンドして彼方まで飛んでいった隼人に、マリリンは声を荒げる。

「いまさら言われたところで……もう遅いんですわ! なにもかも!」

 言い放って、マリリンは倒れこむ隼人を見据える。
 立ち上がらないで――と、胸中で祈りながら。
 これまで積んだ研鑽に、神候補より得た能力。
 二つを重ね合わせた全力の一撃だ。

 これを食らって立ち上がるということがあれば、それは――

230 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:24:48 ID:rfUIF/mt

 

231 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:25:10 ID:56mrruJQ

    

232 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:25:11 ID:Zx/2NY1Z


「……悪ィ悪ィ……金剛、さっきから……よろけてよ……」

 マリリンの祈りをよそに、隼人は時間をかけてだがたしかに立ち上がった。
 それを見て、マリリンは地面に両膝をついた。

 あの一撃で隼人を倒せないということは、つまり――

「あの苦しくて辛い十年間は、なんの意味もなかったんですわね」

 零れ落ちた声は、いつもの自信に溢れたものとは程遠かった
 いつの間にか溢れていた涙に、マリリンはようやく気付いた。
 なにもかもが遅かった。
 すべてを受け入れて涙を流すなんてことは、十年前にやっておくべきだったのだ。

「もう……いまさら普通の人生なんて……歩めるはずが…………」

 いまにも掻き消えそうな声を漏らしながら、マリリンはくずおれる。
 河原の石がどんどん近づいてくるが、別にどうでもよかった。

「はッ、ふざけんなよ」

 落下感は途中で消え、河原の石に倒れこむことはなかった。
 顔を上げると、朧気な視界の向こうに茶髪の目つきが悪い少年の姿がある。

「なにが十年だ。俺はもっと長ェこと間違ってきたんだぜ。
 そんくらいで諦められたら、俺はどうすりゃいいんだッつーの」

 そう言って軽口を叩く少年の腕が、マリリンにはとても温かく感じた。


 ◇ ◇ ◇

233 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:25:17 ID:mnmIes9a

 

234 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:25:42 ID:Zx/2NY1Z



「おーい! 兄ちゃんたちー!」

 マリリンが落ち着くのを待っていると、河原に少年の声が響く。
 この声に、隼人と金剛は聞き覚えがあった。
 鉄刃のものである。

「誤解を解きに来たぜーって、遅かったみてぇだな」

 周囲を眺める刃に、隼人はげんこつを落とす。

「元はといえば、てめーが余計なことすっからこじれたんだろうがっ!」
「いやぁ……こんな小僧のみぞおちを思い切り殴ったおぬしも、誤解されて仕方ないと思うが……」

 割って入ったのは、ドクターカオスだ。
 この男、マリリンと隼人の間で一悶着あったにもかかわらず、その間ひたすらに考え事をしていた。
 一時になったことには目を離さない研究者の鑑といえるかもしれないが、決して人間の鑑とは言えないだろう。

「ところで、お前を抱えていったフォルゴレという男はどうした?」
「ああ、あの濃ゆい兄ちゃんならチェリッシュ任せ――」

 金剛の疑問への刃の返答は、半ばまでしか告げられなかった。
 途中で、第三者が割って入ってきたのだ。

「その男ならば、死んだぞ」

 いっせいに振り返ると、そちらには白髪の老人が立っていた。
 いや、老人ではない。
 老人型自動人形(オートマータ)・シルベストリだ。
 初見では分からぬ事実であるのだが、その場にいた誰もがシルベストリの正体を見破る。
 その胸元に刻まれた一文字の傷から、内部の空洞が見て取れるのだ。

「んだよ、アンタ――もしかしてフェイスレスさんの言ってた自動人形か?」

 視線を鋭くしながらの隼人の一言に、シルベストリは目を見開く。
 フェイスレスとは、シルベストリら自動人形の造物主だ。
 しかし同時に、人形破壊者(しろがね)の司令でもある。
 隼人の口振りから察するに、この場ではその立場で動いているのだろう。
 ゆえに、フェイスレスについては触れないことにした。

「そうだ。私は自動人形だ」

 短く答えて、シルベストリは腰を低く落とす。
 そうして携えている日本刀に手をやり、ほんの少しだけ親指で柄を押した。
 たったそれだけでおびただしい妖気が溢れ出し、大気に侵食する。
 妖気の存在を知らぬものたちでさえ、『あってはならぬもの』の存在に気付くほどだ。

「妖刀『八房』じゃと……? なぜ、おぬしがそれを」
「答える義務はない」

 シルベストリは、ドクターカオスの問いをぴしゃりと切り捨てる。
 一気に緊張感が辺りを支配する。
 いつシルベストリが動いても対応できるよう、全員が意識を集中させる。

 ――それがシルベストリの狙いとも知らずに。

235 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:25:58 ID:56mrruJQ

  

236 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:26:29 ID:lSBVjJye

237 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:26:34 ID:56mrruJQ

   

238 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:26:39 ID:mnmIes9a

 

239 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:26:54 ID:Zx/2NY1Z



 くい――と。
 少し離れた場所で、ギイ・クリストフ・レッシュが指を微かに動かす。
 たったそれだけの動作で、懸糸傀儡『ジャック・オー・ランターン』に内蔵されたロケットランチャーが火を噴いた。

 河原に向かう道中で、ギイとシルベストリはすでに鉄刃に追いついていたのだ
 それを見逃したのは、明らかに誰かの元へと向かう様子だったからだ。
 河原といっても、範囲はかなり広い。
 そのどこに参加者がいるのかは定かではなかったが、だったら案内してもらえばいいだけだった。
 刃に悟られぬよう足音をひそめつつ、小声で作戦を企てていたのだった。


 最初にミサイルに気付いたのは、隼人だった。
 距離があったので完全には特定できなかったが、近くにいる何者かの思考の存在自体は感じ取っていた。
 いざ仕掛けられれば、その思考の持ち主がなにをしたいかなど簡単に読み取れる。
 若干手荒い手段だと理解しつつ、すぐ前にいた刃を離れた場所に蹴り飛ばす。

 次が金剛だ。
 彼の人並みはずれた五感とて身を隠すギイは捉えられなかったが、隼人が動き出したのを見てすべてを理解する。
 僅かに離れた場所いるドクターカオスに飛びかかって、そのまま抱きかかえるようにして地面を転がる。
 金剛番長の肉体があれば、いかにミサイルとて直撃さえしなければ問題ない。

 最後にマリリン。
 隼人や金剛には遅れを取ったものの、戦場をよく知る彼女も直撃するより早くミサイルの接近を知る。
 そして、彼女は自身の能力を発動させた。
 レベル2の残り時間は短いが、レベル1ならば問題なく扱える。
 いざ能力さえ発動させれば、ミサイルなど恐るるに足らない。
 ゆうゆうと回避してから振り向いて――目に止まってしまう。
 反射的に刃を蹴り飛ばした隼人が、体勢を崩したままなのだ。
 もうミサイルは、すぐそこまで来ているというのに。
 それに気付いたときには、彼女は動いてしまっていた。
 残り時間の少ないレベル2を発動させ、先ほどまでいた地点に全速力で戻って突き飛ばす。
 加速した世界で、隼人がゆっくりと表情を変える。

「バッ――」

 なにやら隼人が口にしようとした言葉は、ミサイルの音に呑み込まれて最後まで聞き取ることができなかった。
 二十分の一の速度で、衝撃がマリリンへと襲い掛かる。
 まず最初に感じたのは、突風による浮遊感だった。
 次に閃光に思わず目を閉じると、すぐさま熱が来た。
 服が焼かれ、髪が引き千切れ、皮膚がめくり上がる感覚。
 それから痛みがやってきた。
 少し前ならば生を実感するための要素であったはずの存在が、いまではとても苦しかった。
 いや、違う。
 本当は、ずっと前から辛かったのだ。
 そのことに気付いてなかっただけで。
 それを教えてくれた少年の姿を思い返す。
 別れ際の表情は、なんとも言えなかった。
 驚いているようにも、怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。
 きっと、すべて正しいのだろう。
 そんな気がした。
 考えながら、マリリンは思う。
 神候補から能力を与えられる際、この能力を選んでよかった――と。
 この能力があるからこそ隼人を死なせずに済んだし、こうして死に行くなかでゆっくりと物思いにふけることができたのだ。
 しかしもう十分だ。
 ここまで思考を巡らすことができれば満足だ。
 目を閉じたままで、死を待つ。

240 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:27:25 ID:Zx/2NY1Z


 が――死ねない。

 ダメージが大きすぎて能力は解除できない。
 二十倍速の世界のなかで、死ぬまで待つしかないのだ。

(……まいりましたわ)

 痛みを味わい続けるのは構わない。
 とうに覚悟していたことだ。
 それよりも、思考が止まらないのが辛い。
 ついつい考えてしまうのだ。
 もう満足したはずなのに。
 意を決していたはずなのに。
 知らず知らずのうちに思ってしまうのだ。

(死にたくなんてありませんわ……)

 自分自身に吐いていた嘘。
 本当は戦いなんて嫌いな自分を塗り固めていた。
 それを教えてくれた隼人のためならば、死んでも構わない。
 そう思っていたはずなのに、なまじ時間があるせいで真実に気付いてしまう。
 なんとしても隼人を助けたかったための嘘に過ぎないのだ。
 またしても、自分自身に吐いた嘘を嘘だと知るはめになってしまった。
 本当は死にたくなんてない。
 もっと生きたい。
 これまでの十年を精算するくらいに、生きてやりたい。
 だけど、もう無理だ。
 隼人ではない他の誰かが残っていたならば、あんな行動には出なかった。
 この結末を選んでしまったのは――そういうことなのだ。
 くずおれる自分を抱き締めてくれた温かさの仕業なのだろう。
 あの温もりのなかで感じた心地よさのせいなのだろう。

 それは、もしかしたら――――

 ようやく朦朧としてきた意識のなかで、マリリンは自分の感情を理解した。
 理解してしまえば、やはり死にたくないと思ってしまう。
 けれど、それでも。
 死にたくなんてなくても。
 自分に嘘を吐いてまで助けてしまったのだ。
 そして嘘だと分かってなお、それについては後悔していない。
 残った力を振り絞って、マリリンは口を動かす。
 ひゅうひゅうと胸元から空気が零れていく。
 音は聞こえなくても、感覚で分かってしまう。
 どうなっているのか確認する力もない。
 それでも、言い切ってやる。
 どうにか――言い残しておきたかった。

「私を生き返らせてくれてありがとう」

 はたして、この声は届いたのだろうか。
 意識が薄れていくなかで、マリリンはそれだけが気がかりだった。



【マリリン・キャリー 死亡確認】
【残り55名】

241 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:27:41 ID:mnmIes9a

 

242 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:27:42 ID:56mrruJQ

  

243 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:28:29 ID:0aYDeo27

244 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:28:45 ID:56mrruJQ

  

245 名前 : 非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:28:58 ID:Zx/2NY1Z



【C-4 河原/一日目 午前】

【金剛晄(金剛番長)】
[時間軸]:王様番長戦直前、バンカラタワーに向かう途中。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:スジを通す。


【新宮隼人】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:全身にダメージ(回復中)、共振波を放出中、水浸し
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(未確認)
[基本方針]:仲間たちと合流してブラックのプログラムを叩き斬る。高槻は暴走していないと確信。
※ある程度近づかなければ、ARMSの共振を感知できないようです。完全体となった場合は不明。


【ドクター・カオス】
[時間軸]:妙神山壊滅以降、南極での決戦前。
[状態]:健康。精神的に少し落ち込んでる。
[装備]:スクール水着@現地調達、ファイティングナイフ@スプリガン、オリンピア@カラクリサーカス
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:早くまともな服を着たい。知り合いには会いたくない。


【鉄刃】
[時間軸]:織田信長御前試合の直後
[状態]:健康
[装備]:超振動ナイフ@ARMS
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2、魔剣センサー『スパイダー』@YAIBA
[基本方針]:殺し合いには乗らない。チェリッシュを守る。市街地にある反応(雷神剣)へと向かう。


【ギイ・クリストフ・レッシュ】
[時間軸]:本編で死亡後
[状態]:健康
[装備]:ジャック・オー・ランターン@からくりサーカス、殺鳥用ワイヤー×3@金剛番長
[道具]:基本支給品一式×3、拷問鞭@金剛番長、ランダム支給品0~6(うち0~2は小次郎から見て武器となるものなし)
[基本方針]:他者と組み、エレオノールを優勝させる。


【シルベストリ】
[時間軸]:34巻、勝戦直前
[状態]:健康、服の胸元に真一文字の傷
[装備]:妖刀『八房』@GS美神
[道具]:ランダム支給品2(刀剣類なし、確認済み)、菊一文字@YAIBA
[基本方針]:他者と組んでフェイスレスの優勝をサポートしつつ、人間が群れる理由を解き明かす。植木耕助に会う。





【備考】
※SIG-P220(6/9)@現実、マリリンのリュックサック(基本支給品一式、光界玉@烈火の炎、石板@金色のガッシュ!!、SIG-P220の予備弾薬(9/9)@現実)は、マリリンの死体の傍に放置されています。
※軍服@うえきの法則は、ずたずたになってマリリンの死体とともに放置されています。

246 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:29:38 ID:56mrruJQ

  

247 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/10/20(土) 23:29:46 ID:Zx/2NY1Z

投下完了。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

支援、ありがとうございました。


>>148に来ている告知の通り、明日はロワラジオツアーが来ますよ!
ひゅう! これは聞くしかねえ!

248 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:57:19 ID:56mrruJQ

投下乙
カオスのマッドっぷりには笑ったwww笑った……


うわああああああああああああ、ここでマリリン落ちたかぁ。
隼人&晄は植木よりも厳しいけど、やっぱり優しいんだよなぁコイツら。
改心してこれからだって所で水差し野郎どもが本当になぁ、うわぁ……
最後の10秒に考えることと最後のセリフが心に突き刺さるよ。

そして面白い戦闘前で切るのも、もうね。
続きが本当に気になります。

改めて投下おつでした

249 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/20(土) 23:57:49 ID:6fRgZ9pa

投下乙!
うわー、マリリンうわー
すごい好きになったタイミングで……ギイさん……
これはもう隼人には頑張って欲しい

250 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:31:13 ID:ZxV0RHmJ

思ったより早くできたので投下します。

251 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:31:37 ID:KnW49t7Q

   

252 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:31:59 ID:ZxV0RHmJ

殺す。
霧沢風子の頭にある思考はそれだけだった。
目の前で血と臓物を撒き散らしながら動かない仲間を見て。
風子の世界は音を失くした。

「あ、ああっ」

殺し合い。集められた五人の仲間。
全員が全員ただで殺られるようなヘタレ野郎じゃない。
今回もいつも通り、ボロボロになりながらも無事にハッピーエンドを勝ち取るはずだった。

「何でだよ……何でっ!」

ハッピーエンドはもう叶わない。一緒に生きて帰りたい仲間が早くも二人消えてしまった。
何やってんだ、烈火、みーちゃん。殺しても死なないゴキブリみたいなお前等がどうして死んじゃうんだよ。
流れだした放送を口では否定したが、心の奥底ではとっくに理解できていたはずだ。
烈火も水鏡も、死んでしまったんだって。

「残して、いくな。置いていかないでっ」

いつまでも続くと思っていた日常はもう二度と戻ってこない。
よしんば、残り三人が無事に生きて帰って、柳を助けることができたとしてもそこに二人はいない。
全員揃って火影なのだ、誰か一人でも欠けたら駄目なのだ。
もう、仲間を失うことなんてゴメンだ。絶対、一緒に生きて帰るんだ。
そう決意した矢先のことだった。
また、いなくなる。しかも、今度は自分の前という最悪のシチュエーションだ。

「嫌だよぉ……」

風子にとって、烈火と土門はある種火影の中でも特別な存在であった。
魔導具なんてものに関わる前からの付き合い、言わば幼馴染のようなものだ。
片方の烈火は既に死んでしまい、土門も生きてこそいるがもうじき死んでしまうだろう。

「……憎い。あいつらを殺した奴等が憎い。あいつらが生きることを許さなかった世界が憎い」

烈火も、水鏡も、土門も。どうして死ななくちゃいけないんだ。
死んでいい理由なんて何一つない奴等なのに。
故に、そんな奴等を殺した目の前の敵が憎いのだ。
手に持っている風神剣が囁くのだ。
殺してしまえ、と。生きる価値のない奴等なのだから仕方ない、と。

253 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:32:18 ID:KnW49t7Q

  

254 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:32:25 ID:bFZ8/c4g

 

255 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:32:59 ID:KnW49t7Q

  

256 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:33:32 ID:KnW49t7Q

  

257 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:34:15 ID:ZxV0RHmJ


「殺す」

風子はこの甘く蕩けるような殺意に身を委ねることを決めてしまった。
仇討ちだ、これは正当なる殺人なのだから。
自分の仲間が死んでいくのを防ぐ為にそうするしかないじゃないか。
仲間以外を殺して、護リ抜く。この選択に間違いなんかない。

「風神剣、応えろ」

その為なら悪鬼にでも何でもなってやる――!
背負ったデイバックを放り投げて、風神剣を強く握り締める。
彼女の仲間は誰もその選択肢を望んでなんかいないというのに。
吹き始めた風はもう止まらなかった。










「だから言ったじゃん! あれ危険だって!」
「……悪い。お前の言うことだとはいえ、全く信用しなかった俺のミスだ」

一方の横島と清麿は、風子の影響を受けないよう、背後へと下がっていた。
状況は、極めて最悪だ。
風子は暴走し、土門は死にかけ。マシン番長もダメージが大きいようですぐには動けない。
圧倒的に戦力が足りなさすぎるのだ。
今でこそ、風子の暴走に面食らっているのか、襲いかかってきているバロウとさとりはこちらまで攻めて来ない。
だが、彼ら二人が落ち着きを取り戻したら最後、全滅もありうる。

258 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:34:47 ID:bFZ8/c4g

   

259 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:34:55 ID:o4lGbz6S

 

260 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:34:56 ID:KnW49t7Q

  

261 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:35:07 ID:DpwxT5xa

 

262 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:35:45 ID:oJiVZA1z

支援

263 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:35:45 ID:o4lGbz6S

 

264 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:36:27 ID:KnW49t7Q

  

265 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:37:11 ID:ZxV0RHmJ


(考えろ、考えろ! 何かあるはずだ、起死回生の手段が!)

冷静に流れを読み切らないと、死ぬ。
前回のようなミスはもう許されない領域まで来ているのだ。
ヒデヨシの犠牲を無駄にしない。
そう、誓ったのだから。

「さとりさん、ここは僕が抑えるからあの人達の所へ」
「わかった。へへ、一気に行くぞ」

やはり、来たか。
清麿は唾を飲み込み、震えを必死に抑える。
デイバックの中からAK-47を取り出しいつでも撃てるように安全装置を解除。
頼れるのは自分だけだ。

「殺す」
「君の相手は僕だよ」

さとりを行かせまいと風子は風神剣による風の刃を発生させた。
だが、刃はバロウの放つ鉄により掻き消される。
その後も息をつく暇すら与えずに鉄を連射。
風子は自分の身を護るのに力を使わなければいけない。

「畜生、やるしかないか!」

扱い方も知らない武器を持って戦闘など正直真っ平御免。
加えて、生き残れる可能性は限りなく低い。
清麿の拙い頭はそう判断している。
それでも、黙って殺されるのだけはごめんだ。
最後の最後まで足掻いてやると決めたその時。

「だらっしゃああああああああああああ!!!」

清麿の目に信じられない光景が写った。
さとりの繰り出す海月を受け止めた横島である。
手には文殊で作った双頭の霊波刀を握りしめて。

266 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:37:24 ID:KnW49t7Q

  

267 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:37:31 ID:o4lGbz6S

 

268 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:37:37 ID:bFZ8/c4g

  

269 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:37:56 ID:KnW49t7Q

  

270 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:38:10 ID:oJiVZA1z

支援

271 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:38:45 ID:DpwxT5xa


272 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:38:50 ID:KnW49t7Q

   

273 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:39:16 ID:ZxV0RHmJ


「うごごごごっ! こわっ、こんな近くで鍔迫り合いとか超怖いっ! それにこの野郎、顔も怖いし!」

頭から滝のように冷や汗を流しながら横島はさとりの腹にヤクザキック。
もろにくらったさとりはまりのように吹き飛んだ。
その瞬間、横島は後ろを向いて怒鳴り散らす。

「何ぼさっとしてやがるんだよ、おいいいいいっ! ぼーっとしてるんじゃねえええええ!!」
「あ、ああっ!」
「この俺が銭も美女も手に入らない足止め役なんてやるんだっ! 高嶺清麿っ! 
 お前はさっさとそこでのびてる二人を叩き起こして来い!」
「横島……」
「はよいけーっっっ!!! こんな役目はさっさと終わらせたいんじゃあああああああああ!!!」
「死ぬなよ、横島っ!」

清麿は脇目もふらずに土門達が倒れている所に走っていく。
それを見て、さとりは追いかけようとするが横島が牽制してくる為に動けない。
結局は、清麿の逃亡を許すこととなる。

「どうして逃げなかったんだ? お前の頭の中身は逃げることでいっぱいだったのに」
「うるせええええっっ! まだ風子ちゃんの乳揉んでねーのに逃げてたまるかあああああっ!
 俺だって本当は逃げてえよおおおおおおお!!! というか、ここでいいとこみせたらあんなことやそんなことができるかもしれないだろうが!」
「お、おう……」

顔に青筋を浮かばせながら、横島は涙を流しながら叫ぶ。

「だから、お前等さっさと帰れよォ!」

横島は霊波刀をぐるんと回し、強く地面を蹴る。
さとりによる右斜め上から振り下ろされる一撃を斜線から身体をずらすことで回避。
後ろに回りこんでからの突き、まるで読まれているかの如くひらりと躱された。
だが、霊波刀はそこから流れるような横振りの一撃に移転する。
さとりも面食らったのか、回避するのがほんの数秒だけ遅れてしまった。

274 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:40:05 ID:bFZ8/c4g

 

275 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:40:10 ID:oJiVZA1z

支援

276 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:40:17 ID:ZxV0RHmJ


「ぬぅ……!」
「おらららららららああああああ!!」

微かに切り裂かれるさとりの肌。致命傷には至らないがそれは横島にとって確かな自信となる。
このまま押し切りたい横島と何とか挽回したいさとり。
言葉をかわすこともなく、二つの刃が乱雑にぶつかり合う。
傍で荒れ狂う風などもう二人には見えない。
二人の頭にはこの闘いを乗り切ることしか頭にないのだから。

(チッ……! 何なんですかああああ!? めっちゃ強いんですけどォ! 早くヘルプミーィィィィ!)
(ううっ、こいつの頭の中、読みにくい……胸揉みたいとか尻触りたいとか童貞卒業とかよくわかんねえなァ)

互いに焦燥感を胸に秘めながら刃を振るう。
最も、殺意に溢れているさとりとは違い、横島は早く助けてきてくれという情けない情が漏れ出しているが。
何合か、刃を重ねるが一向に決まらない。
膠着状態の戦闘にしびれを切らしたのかさとりは一旦後退し、刃を収める。

「読みにくいなァ、おめえの心」
「ああん!?」
「浮かび上がるのが女性と裸で抱き合ってるのばっかだ」
「当たり前だろーがっ! こんな刃同士でお話し合いよか女の子とベッドでお話の方がよっぽどしたいんだぁ!」

横島の煩悩前回の言い分を聞いて、目を丸くしてさとりは首を傾げる。
人間の考えることはよくわかんねえなァ。オレも人間になったらそんなことを考えるんだろうなァ。
心の中でそう結論付けるが、それは大きなミステイク。
こんな殺し合いの場でそのようなことを考えるのは横島ぐらいだろう。

「そうかァ。でも、オレもミノルの目を治す為に。人間になる為に優勝しなきゃいけねぇんだ」
「はぁ?」
「妖のままじゃ家族になれねぇ。なら優勝して人間になればミノルとも家族になれる」
「なにいってだこいつ」

横島は怪訝そうにさとりを見るが、彼の表情は変わらない。
薬でもやってヒャッハーよろしく気が狂っている訳でもなく、心の底から大真面目。

「別に妖のままでも家族になればいいんじゃないんでしょうかねぇ……」
「だって、なれねぇってバロウが……」
「いやいやいや別にいいんじゃねぇの? 誰が咎める訳でもないし」

横島は何とかしてこの闘いを終わらせようと口八丁で説得する。
命の取り合いなんてやりたい奴等が勝手にやっていればいいのだ。
それに自分のようなか弱い美少年を巻き込むのはどう考えてもおかしい。

277 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:40:24 ID:KnW49t7Q

  

278 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:40:48 ID:bFZ8/c4g

   

279 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:41:19 ID:bFZ8/c4g

        

280 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:41:37 ID:KnW49t7Q

  

281 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:41:50 ID:bFZ8/c4g

     

282 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:41:55 ID:ZxV0RHmJ


「そうか……そうなのか」

横島、心の中でガッツポーズ。これで命の取り合いからはおさらばや!
後は風子ちゃんの胸を揉んで終了、と思いきや。

「でも、ミノルの目を治すのに新鮮な目が必要だな……」
「えっ」
「ここで新鮮な目をたくさんとってミノルの元へと帰らないと」
「ちょ、おま」
「だから、おめえの目を寄越してくれ」

さとりは海月を再び持ち、横島に迫る。
横に一閃、力に任せて振りぬくが、横島は後ろにひとっ飛び。
余裕を持って躱す。

「ミノルの目がみえるようになるには、目を集めなければいけねぇんだ!」
「そーかい。だけど、俺の目は渡せねえよ」

横島は霊波刀をさとりに突きつけて咆哮する。

「この目がなくなったらあいつを誰が見てやるってんだ! つーか目ぇ見えなくなったら女の子の裸見れねーじゃねえか!
 ざっけんな! 可愛い女の子を焼き付ける横島アイは簡単には渡さん!」

再び、刃が衝突する。横島は、できれば闘いなんてやめたいと思っているが、もう避けられない所まで来ているのだ。
輝かしい未来を掴む為にはこの闘いを勝つしかない。
横島は覚悟を決めて、さとりに向き直る。

「待ってる人がいるのはお前だけじゃねえ!」
「オレはミノルに笑っていて欲しいんだァ!」

互いに譲れない思いがあるのだ。思いがぶつかり合えば激突は当然。
思いを貫き通す為に闘うしかないのだから。










「おい、大丈夫か?」
「俺ハ大丈夫ダ。ソレヨリモ」
「ああ、わかってる……」

後方で二人を抱き起こしていた清麿は焦っていた。
マシン番長は正直良くわからない。機会の人間の体調などわかるはずもなく本人の自己申告に頼るしかない。
彼自身、大丈夫だと言っているので一応の所は安全ラインに入れてはいるは油断は禁物。
何かあったら早急に対応しなければいけない。
それよりも、問題は土門だ。

283 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:42:28 ID:KnW49t7Q

  

284 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:42:38 ID:bFZ8/c4g

 

285 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:43:09 ID:bFZ8/c4g

            

286 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:43:18 ID:KnW49t7Q

   

287 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:43:56 ID:KnW49t7Q

  

288 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:44:03 ID:bFZ8/c4g

 

289 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:44:40 ID:KnW49t7Q

  

290 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:44:54 ID:oJiVZA1z

支援

291 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:45:11 ID:KnW49t7Q

  

292 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:45:30 ID:ZxV0RHmJ


「クソッ、どうすればいいんだよ!」

流れだす血が止まらない。そもそも、血を止めたとしても贓物が飛び出ている以上は意味が無いのかもしれない。
それでも、諦めるという考えは清麿の頭の中には最初から存在しなかった。
魔物の王を決める闘いで自分は諦めたか? 否、最後まで足掻いたじゃないか。
ならば、闘いのラインが変わったとしても自分は変わらない。

「絶対、助けてみせる」

何かあるはずだ、この男を救う手段が。
清麿はマシン番長、土門、風子が投げ捨てたデイバック急いで漁り、支給品を確認していく。
そして。

「これなら……もしかすると」
「アッタノカ!」

見つけた。ほんの少しの希望を。

「だけど……これはっ! これを使うと……」

ただし、ほんの少しの希望は絶望も一緒に孕んでいた。
それは横島が何の価値もないと判断した謎の玉。
彼が同梱されていた説明書に気づかなかったのは幸か不幸か。

「人じゃなくなるかもしれない」

アドバンスドARMS――グリフォン。
かつて、キース・レッドに移植されたはずだったものである。
これを土門に移植すればARMSの高い再生力により瀕死から蘇るかもしれない。
だが、そんなアドバンテージばかりのうまい話があるはずもない。

「俺の一存で、勝手にこの人に使っていいのか? 人のまま死なせるべきじゃないのか?」

説明書には適用されない者は死に至ると書かれていた。
これについては清麿はさほど重要視していない。
土門はこのまま放っておいても死んでしまうのだ、ならばほんの少しの希望にかけてもいいだろう。
それよりも、清麿を困惑させる事実はARMSを使うことで人という領域を捨て去ることだった。

「俺ハ生キテホシイト願ウ。コノ男ハソンナ些細ナ事ヲ気ニスルタマデハナイ」
「それでも、考えてしまうんだ。望んでもいないのにどうして埋め込んだって言われちまうのが。
 ははっ、情けない……人の命がかかってるのに考えるのは自分の保身かよ!」

地面に拳を突き立てて、清麿は涙を目尻に貯める。
覚悟はあるのか。一人の人間を変えてしまう覚悟が。
自問自答しても答えは見つからない。
アンサートーカーを使ったとしてもきっと見つからないだろう。
これは自分の気持ち、在り様を問うものなのだから。

293 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:46:29 ID:KnW49t7Q

  

294 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:46:32 ID:bFZ8/c4g

     

295 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:47:00 ID:o4lGbz6S

 

296 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:47:12 ID:KnW49t7Q

   

297 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:47:49 ID:ZxV0RHmJ


「助けなきゃって思ってるのに! 俺は背負うのが怖いんだ……この人を変えちまうことが!」
「ナラバ、俺モ背負エバイイノデハナイダロウカ。一人ヨリハ二人デ背負ッタ方ガ楽ナノダロウ」
「アンタ……」
「俺ハ助ケタイ。コノ男ハ『火影』ニ誘ッテクレタ。今ハ自分ガリーダーダッテ言ッテイタ。
 リーダーガ死ヌノハ駄目ダ」

マシン番長がふらつきながらも立ち上がる。

「言ワレタカラジャナイ。俺ノ意思デ、俺ノ頭デ、俺ガヤリタイコトヲ選ブ。
 ナラバ、俺ハドンナコトニナッテモ……コノ男ハ自分ヲ保チ続ケルト信ジル」
「そうだな……俺も覚悟、決めるよ。助けるさ、絶対に」

清麿は涙を服の袖で拭い、グリフォンのコアを強く握る。
このコアを使うことで後悔するかもしれない。罵られるかもしれない。
それでも、受け止めよう。信じよう。
土門を助けたいという気持ちは決して、間違いなんかじゃないと。










「ああん? 俺が通ってる学校だよな、ここ?」

俺の記憶が確かだったなら。
殺し合いに巻き込まれて。打ち上がった花火の元へ行く途中で変な侍とドンパチかまして。
で、変な侍を適当にあしらって辿り着いたら花菱が死にかけだった。あの殺しても死なないこと間違いなしの花菱がだ。
それで、花菱背負って逃げる途中でよくわかんねぇ威圧感持った奴に出くわした。
思い出しても身震いするぜ。紅麗と同格、いやそれ以上かもしれねぇな。

「頬を抓っても景色は変わらねぇしよォ……」

そいつを食い止める為に花菱は……一人で残った。
俺を助ける為に。
ふざけんな、って叫びたかった。
お前、そんな自己犠牲なんて嫌いなタチだろうが。
柳護るっつー誓いはどうした。
本当に護りたいのは、助けたいのは……俺じゃねぇだろ!

「畜生。訳わかんねぇんだよ! 殺し合いに巻き込まれて! 花菱も水鏡も死んじまって!」

死んじまったら――終わりじゃねえか!
柳どうすんだよ、お姫様一人残してよォ。あいつにどう説明すりゃあいいんだよ……。
お前はたった一人の王子様だろうが!

「ふざけんなっ! クソ野郎が! テメェら馬鹿だろ!」
「うるせええええええええ! 一番お前には言われたくないわ!」
「同感だな。まさか、土門に馬鹿にされるとは」

叫んだと同時に背中に衝撃が走る。痛っ! 超痛っ!
だけど。何故か、その痛みと声が懐かしくて。
仕方ないなと思いながら後ろを振り返った。

298 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:49:34 ID:ZxV0RHmJ


「よっ、土門」
「まだ、死んでないらしいな」
「うるせー。土門ちゃんは頑丈なんですぅー、お前等みたいなやわな身体はしてないんですぅー」

花菱と水鏡がニヤついた笑みを浮かべながらそこに立っていた。
おい、死んだんじゃねえのかよ。普通に生きているじゃねェか! 心配して損したわ!
とりあえず、積もる話もあるし中に入ろうということになって校門をくぐる。
何故か、人は俺達以外いなかった。マイスイートハニーである風子がいないことがとても不満です、まる。
いつも通りの軽口を交わしながら、玄関に入って階段を登る。その間も、こいつらはやっぱり馬鹿だった。

「誰も人がいねえ、騒ぎ放題だァ!」
「馬鹿が移る、おとなしくしていろ。せっかく、もう一人の馬鹿がおとなしいんだから」
「馬鹿馬鹿言うなよ!? お前はもっと俺に優しくすべきだ!」
「「それはありえない」」
「ハモるなよ!」

殴りたいくらい馬鹿なのに。どうして、殴れないんだろう。俺の拳があいつらに届かないのだろう。
はっ、わかってるさ。今、俺が見ているのは夢で……こいつらはもう死んじまったんだって。
現実の俺はもう死ぬ寸前で。
最後に見た景色は風子が涙を浮かべてこっちに来るっつう漫画のようなもんだ。
随分とドラマチックに演出してくれんじゃねえか、おい。

「屋上到着っ!」
「言わんでもわかる、いちいち喧しいんだ、お前は」

屋上のドアを開けると、ちょうどいい具合に吹き抜ける風と曇一つない青空が出迎えてくれた。
俺の気分とは真逆の天気に自然と口が緩んでしまう。
ここまであからさまだとさすがに笑っちまうわ。

「さてと、土門。お前さ……どうすんだ?」
「何がだよ?」
「このまま黙って死んじまう訳?」
「バーカ、お前らと違ってお姫様残して死ぬかよ。俺には風子とイチャコラするという崇高な使命がのこっているんだからよ」
「風子がそれに答えるかどうかは別問題なんだけどな……」
「やめておけ。馬鹿に言っても無駄だ」

聞こえてんぞ、おい。

「例え、生き返ることができたとして、だ。その代償にまともな人間じゃなくなっても……お前は生きることを望めるか?」
「はっ、やけに脅かすじゃねぇかよ、みーちゃん!」
「答えろ、土門。それでも、お前は生きることを望むのか!」

やけにマジな水鏡の顔に思わず黙っちまう。烈火は我関せずといった感じでそっぽ向いてやがるしよ。
まあ、返す答えは決まってる。だから、迷うことなく水鏡の眼を見れる。

299 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:49:44 ID:oJiVZA1z

支援

300 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:50:17 ID:ZxV0RHmJ


「関係ねーって。まともな人間じゃない? そんな問いかけ今更じゃ、ボケ! ここまで来たら突っ走るだけだろ!」
「その可能性が限りなく低いとしてもか!」
「低いなら上げりゃあいいだろうが!」
「戻った現実が辛くてもか!」
「くどいぜ! 俺は俺で在り続ける為に――前に進む」

ここで倒れる訳にはいかねぇんだ。こいつらの分まで柳を助けるマラソン走らないといけねぇしな。
あー、よく考えると腹立ってきた。何で俺がお前らの分まで走らなきゃならんのだ。
最低限のノルマ走ってから逝けよ、バーカ!

「言ったろ、こいつはこの程度じゃ止まらないって。なんていったって火影一の馬鹿なんだからよ」
「はぁ……馬鹿は死んでも治らないとは本当だったな」

畜生、この野郎他人事だと思ってにししと歯を見せて馬鹿笑いしやがる。あの世に行ったら絶対一発殴る。
あ、水鏡は二発な。ジョークにしては笑えないんだよ、死んでも治らないって!

「もういいや。さっさとじゃじゃ馬お姫様助けに行ってこい」
「悔しいことに僕達はもう何も出来ないからな」
「言われなくても行くっての。風子を助けんのは勿論だけどよ。
 お前等の分までキースブラックぶん殴ってくるからさ、土産話を期待して待ってな」

ここを去ると、こいつらとは二度と話せないことはわかってる。
今のは夢、ちょっとした奇跡みたいなもんだろう。
だけど、それでいい。いや、そうじゃなくちゃいけないんだ。
死んだらおわり。だからこそ、こいつらは俺に大切なもんを託してくれたんだからよ。
だったら! その分、俺が柳を助けるのも頑張らねぇとなぁ!
柳にとってご希望の王子様でないっつーことはわかってもらうしかねぇけど。

301 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:50:18 ID:bFZ8/c4g

  

302 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:50:33 ID:o4lGbz6S

 

303 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:50:59 ID:bFZ8/c4g

      

304 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:51:06 ID:ZxV0RHmJ


「花菱、水鏡。俺、行ってくるわ」
「フン、精々頑張ってこい」
「ああ……それとさ。火影、任せたぞ。お前がリーダーやっとけ」
「いいのかよ、俺で」
「だって俺死んじまったしな。風子はしょっちゅう無茶するし、小金井はガキだし。しょうがなくだ、しょうがなくだかんな!」
「はいはい、わかりましたー。ったく、重いもん押し付けやがる」
「全く、お前達はいつも大事なことを軽く決める……」

言われなくても、やってやるさ。
火影は終わらせない。
負けてなんかやらねぇよ、キース・ブラックの箱庭遊びなんかになぁ!







「くっ……神器が効かない!」

最初は余裕のある闘いだったはずだ。
死にかけ二人を殺すだけの楽な消化試合。
それがどうしてこうなった。
バロウは焦燥感を無理矢理押し込めて、再び神器を形成する。

「鉄!」

四方向からの攻撃。隙間などありはしない。
上に飛ぶならばそれこそ絶好の的、確実に命を仕留めることができる百鬼夜行で狙えばいい。

「邪魔」

その言葉一つで鉄は全て砕け散る。
全方向に押し出した風の風圧が鉄を轢き潰したのだ。

「風玉」
「ッ! 電光石火!」

バロウの足にローラースケートのようなものが装着される。
電光石火の恩恵により加速を利用し、バロウは風玉を躱しながら後退する。
最初は威風堂堂による防御も考えたが、防ぎきれないと判断。
よって電光石火による回避も兼ねた速度上昇を選択したのだ。

(これで一旦距離をとるっ! まずは落ち着いて戦略を立て直さないと……!?)

風が、耳元で鳴いた。そして、ニマァと笑みを浮かべる風子の姿がバロウの横を通り過ぎる。
そして、通り過ぎざまの斬撃に気づいたのは少し遅れてからだった。
痛みに悶絶し、思わず電光石火を解除してしまう。

「捕まえた」

バロウは地面に倒れながら考える。
この女は何故、電光石火の速さについていけたのだと。
彼が知る由もないが、風子が持つ風神剣は風を自在に操ることを可能とさせる魔剣だ。
その能力により、風を身に纏って電光石火以上の速度を出したのだ。
日頃から、魔導具である風神を使い、風を武器に使っている風子にとってその程度は鼻歌交じりに行うことができる。
つまるところ、バロウは風神剣を甘く見過ぎたのだ。

305 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:51:20 ID:KnW49t7Q

  

306 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:51:30 ID:bFZ8/c4g

          

307 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:52:02 ID:KnW49t7Q

  

308 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:52:08 ID:bFZ8/c4g

 

309 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:52:10 ID:oJiVZA1z

支援

310 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:52:36 ID:KnW49t7Q

  

311 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:52:36 ID:ZxV0RHmJ


「ひっ」

一歩ずつ着実に迫ってくる風子に思わずバロウは後ずさる。
これが、恐怖というものなのか。
足が震える。眼の焦点が定まらない。

「あ、ああっ! 百鬼夜行ッ!」

これ以上近寄るなと言わんばかりに手から百鬼夜行を突き出した。
八角錐の柱が風子に向かって射出される。
だが、軽く横に跳躍することで百鬼夜行は空を切る。

「あ、ああああああっ!!! 鉄ッ! 鉄ッ! 鉄エエエエエエエッッッ!!」

百鬼夜行を解除し、鉄を連発するが全ては風神剣の前に粉々に砕け散る。
能力を使ったとて、躱され、砕かれるだけだ。
バロウは必死に繰り出すがもはや悪あがきにしか見えない。

「死ね」

振り上げられる風神剣にバロウはそっと目を閉じ――。

「何、らしくないことやってんだよ」
「ど、もん?」
「ったく、世話のかかるお姫様だぜ」

軽く口を緩めながら土門は風神剣を蹴りで弾き返す。
風子は少し後退し、風神剣を再び構える。

「どうして……」
「ん?」
「どうしてっ! 僕を助けたっ! 僕は君を殺そうとしたんだぞ!」
「ごちゃごちゃうっせーな。本命はお前じゃねえんだよ。助けたのはよ、ついでみたいなもんだ」

面倒くさそうに土門はバロウの頭をガシガシと撫でる。
思わぬ行為にバロウはきょとんと顔を固まらせた。

312 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:52:46 ID:o4lGbz6S

 

313 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:53:06 ID:bFZ8/c4g

   

314 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:53:47 ID:bFZ8/c4g

     

315 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:53:49 ID:o4lGbz6S

 

316 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:54:08 ID:ZxV0RHmJ


「とりあえず、そこに座ってろ。後でテメェの話も聞いてやるから」
「ぼ、僕は!」
「はいはい、黙って考え纏めとけ。俺は逃げねえからよ」

そして、土門は風子の方へと向き直りニカリと笑う。
まるで、友達に挨拶するかのように気軽に風子の間合いへと踏み入れた。

「よっ、風子。久しぶり」
「……生きてたのかよ」
「当たり前だろ、そう簡単に死んでたまるかよ」
「そう、よかった。じゃあ、どいて。どかないと、そいつ殺せない」
「どかねぇ」
「ど・い・て」
「ど・か・ね・ぇ」
「どうして? そいつ、土門を殺そうとしたんだよ? じゃあ殺さないと」
「おいおいおい。『火影』のルールを忘れたのかよ。殺しはNGだろうが」
「私も最初はそう思っていたさ。だけど、殺さないと仲間が殺されるんだ。
 なら……護る為に。殺される前に殺すしかない」

風子が風神剣を構えて周囲に鎌鼬を形成する。
いつでも戦闘に移行できるように。
加えて、バロウが下手な真似をしない為の牽制である。

「やったらやり返す、それだったらいつまでも終わらねぇじゃねぇか!
 俺のことを信じろよっ! 辛くなったら俺が支えてやるよっ!」
「……っ」
「一生、支えてやる! なァ、お姫様っ! 後は俺の手を取るだけだぜ!」
「もう、私は戻れないとしてもか!?」
「そんなの誰が決めたっ! 誰もわかんねえだろっ! どこにそんな証明はある!」

風子は頭部に浮きだした二つの角を顕にさせる。
それは、鬼の証拠。仲間を護る為に血塗れの修羅になる道を決めたのだ。
風神剣の影響があるとはいえ、風子にとってはそれ程までに『火影』とは大切なものだから。

「だから、意地でもどかねぇ! 俺は絶対に!」
「どけよ! 私は……戻れねぇことを望んでんだよ!」

火影を護りたいという意志は同じではあるが、行動が違いすぎる。
一人は護ることを選び、一人は殺すことを選んだ。
どちらが正しいかなんて誰にもわからない。
ただ一つだけ明らかなことは――立っていた者が勝者。
生き残れなければ、言葉を届けることなんて出来ないのだから。

317 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:54:37 ID:bFZ8/c4g

     

318 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:55:09 ID:bFZ8/c4g

          

319 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:55:45 ID:KnW49t7Q

  

320 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:55:50 ID:oJiVZA1z

支援

321 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:55:55 ID:bFZ8/c4g

               

322 名前 : 貫くということ ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:56:18 ID:ZxV0RHmJ

【C-3 北西部路上/一日目 早朝】

【石島土門】
[時間軸]:SODOM突入前
[状態]:全身にダメージ、グリフォンの核を埋め込んでいる
[装備]:御神苗優のAMスーツ@スプリガン、アドバンスドARMSグリフォン@ARMS
[道具]:基本支給品一式×2、支給品1~5(0~2:本人確認済み、使えるものと使えないもの? 1~3:烈火確認済み、花火以外)
[基本方針]:自分で在り続ける為に走り続ける、
※御神苗優のAMスーツ@スプリガンは、胸部を抉られ、胴部を突き破られてます。


【マシン番長】
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:全身ダメージ極大、エネルギー消費大、自己修復&エネルギー回復中
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:月美を笑顔にするために動く。誰も殺さない。
※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。
※対象の“人間”の殺害を躊躇しません。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。


【高嶺清麿】
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達、AK-47@現実
     醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。


【霧沢風子】
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:鬼化
[装備]:風神剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式、ハンディカラオケ@現実、風子のリュック(基本支給品一式、支給品0~2(風子確認済み)、水一本消費)
[基本方針]:――――――――殺す。

323 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:56:46 ID:KnW49t7Q

   

324 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:57:16 ID:KnW49t7Q

  

325 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:57:22 ID:o4lGbz6S

 

326 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:57:56 ID:oJiVZA1z

支援

327 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:58:04 ID:KnW49t7Q

  

328 名前 : 貫くということ ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 01:58:44 ID:ZxV0RHmJ



【横島忠夫】
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:ボッコボコ(=いつも通り)、文珠×1、電撃なごーもんにより流石に動きが鈍る。
[装備]:文殊『剣』
[道具]:
[基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。いいとこ見せて胸揉みたい。


【さとり】
[時間軸]:紫暮&うしお戦直後
[状態]:万全
[装備]:海月@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1~5
[基本方針]:優勝し、ミノルの目を治して人間となり一緒に暮らす。


【バロウ・エシャロット】
[時間軸]:三次選考開始後、植木チーム戦以前。
[状態]:右斜めに斬られた傷
[装備]:H&K MARK23(8/12)@現実
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、月の石×4@金色のガッシュ、RPG-7(グレネード弾×5)@現実、支給品0~3(確認済み)
[基本方針]:人間になるため、最後の一人となる。
※名簿に書かれたロベルト=アノンと認識しています。



【アドバンスドARMSグリフォン@ARMS】
キース・レッドに移植されたARMS。
両腕がARMS化しており、最終形態の姿は巨大なブレードを両腕に持った人型。

329 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 01:58:48 ID:KnW49t7Q

  

330 名前 : 貫くということ ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 02:00:10 ID:ZxV0RHmJ

これにて投下終了です。
たくさんの支援、本当にありがとうございました。

331 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 18:52:55 ID:bFZ8/c4g

投下乙!
グリフォン出てきてクソわろたwwwwwwwwどうなんだこれwwwwwwwwwww
土門とみーちゃん烈火とのやり取りがよかった、頑張れ土門
しかし横島が意外にもフツーに頑張っていて笑う

332 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/10/21(日) 19:00:50 ID:bFZ8/c4g

>>180の美神令子の状態表ですが、wiki収録の際に

[時間軸]:ルシオラを敵だと認識している時期。

に変更します。


あと◆WMyP5RHbA6氏。
いま気付いたのですが、早朝ですと第一放送前になってしまうのでそこだけ修正してください。
いつにするかだけ言っていただければ、収録の際に修正します。

333 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/10/21(日) 19:22:39 ID:bFZ8/c4g

と思ったら、俺の前の話で状態表間違ってました……
うわー、申し訳ない。本当に申し訳ない。
午前に直しときますんで、◆WMyP5RHbA6氏よろしくお願いします。

334 名前 : ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 20:35:39 ID:KnW49t7Q

ヴィンセント・バリー、キース・ブルー 投下します

335 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 20:36:07 ID:bFZ8/c4g

 

336 名前 : はじめの一歩 ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 20:37:02 ID:KnW49t7Q

「嘘……だろ……? 李崩! ……ヒデヨシッ!」

キース・ホワイトによる放送が終わり、室内を満たしていた静寂を破るのは、愕然とした表情を浮かべたテンコの半ば叫ぶような声。
しかし、テンコの悲痛な声にキース・ブルーもヴィンセント・バリーも応えることはなく、再び部屋を沈黙が包み込む。
彼らのこの反応が、否が応でも現実を突きつける。
二人の死という結果が真実であると。
テンコにはまだ楽観視している部分があった。
神を決めるために行われた戦いが結果的には無事に終わったから。
死者が出る可能性を常に孕みながらも、最後には皆が笑って終了を迎えることが出来たから。
想定しきれていなかった。
近しいものを失ってしまうという、現実を。

「すまねぇ……少し外で風浴びてくるわ……」

黒い羽を力なく動かし、今にも墜落してしまいそうなほどに弱々しい動きでフラフラと廊下へと出ていくテンコ。
その小さな背中を二人は黙って見送った。
ドアが閉まり、しばらくして遠くから咽び泣くような声が響く。
彼らの耳にも確かにその声が届いていたが、知らぬふりをし、ブルーが放送後初めて口を開いた。

「確認するが、君の知り合いで名前が呼ばれてしまったのはナゾナゾ博士という人物だけでいいんだね?」
「ああ、知り合いって言っても本当に顔見知り程度だがな」

そう言いつつ、バリーは窓から見える外の世界へと視線を向ける。
復活した千年前の魔物との戦いに向けて力を請われ、それを断った。ただそれだけの関係。
だが、今思えば彼の瞳には確かに"強さ”が宿っていた。
惜しい男を亡くしたものだと考えつつ、ブルーの元へと意識を戻す。

「ふむ。テンコの友人であった李崩と宗谷ヒデヨシ。君の知人であったナゾナゾ博士。
 そして、私の"仲間”であった巴武士。
 こちらは既に4人もの戦力を喪ってしまっているということになる」
「なのに危険だって目をつけてたやつらは誰も呼ばれてないってか」
「ああ、状況はとても芳しいと言えない」

そう、現状は最悪とも言えるもの。
6時間という短い時の中で既に全参加者の五分の一、16名が命を落としている。
しかし、彼らの瞳が宿しているのは絶望の欠片すらない強力な意志の炎。

「殺人者の人数も問題だが、彼らの中には巴武士すら倒しうるものが存在している。それも懸念すべき事実だな」

ブルーは右膝に肘をつき、体を僅かばかり前傾させた。
俯き、床へと向いている瞳に一つだけ新たな感情の色が滲む。
その感情を、真意を、ブルーという人間が抱えている物を知る者は本人以外は誰もいない。

「話で聞いただけだったが、強い奴だったんだろうな」
「ああ」

337 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 20:38:10 ID:wcyTZNOt

 

338 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 20:38:10 ID:bFZ8/c4g

  

339 名前 : はじめの一歩 ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 20:38:31 ID:KnW49t7Q

色のない声をかけたバリーに対して、同質の声で返事をする。
それに対して「なるほどな」と小さくつぶやき、しかめっ面のままで言葉を発する。

「気に食わねぇな。
 それだけの力を持ってながら、簡単にホワイトの言いなりになる奴が。
 誇りもクソもなく人を殺して回るような連中が」

バリーは握った拳から一本だけ突き出た親指を自身の胸に当て、地の底から響くような怒りを絞り出す。

「なにより"ここ”に力がねぇ癖して強者面している奴らが気に食わねぇ」

膝に体重を預けていたブルーが背筋を伸ばし、顔を上げた。
バリーが見たのは普段と変わらぬ涼し気な表情。
彼の口が僅かに笑みの形を取り、そのまま動き始める。

「君の言う通りだ、心なき力がいかに無力なものか、我々は思い知らせてやらねばならない。
 我が父の言葉などに従って殺し合いなどという愚かな行為を行なっているものに。
 そして、愚かな幻想を追い続ける我が父へと」

思い浮かべたのは4人の顔。
与えられた運命を、苦難を、試練を、力を。
意志の力で乗り越え、打ち砕き、飲み込み、我が物としてきた少年少女の姿。
人間はARMSには負けない。
強い意志と心を持った者は、強大であれども意思なき力などには負けたりはしない。
彼らが教えてくれたことだ。

心の臓にあてがわれたリミッターを軽く拳で叩くブルー。
バリーの唇がほんの少しだけ弧を描いたように見えた。
それは僅かな時の出来事であり、気のせいであるとも取る方が自然なもの。
だが確かに彼は笑った。そんな気が、した。


しかし、それでもブルーに存在する懸念が一つ。
この殺し合いにおいて直面するであろう、とある事象。
それについて尋ねようとした所で――――。

「待たせちまったな! すまねぇ!」

340 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 20:39:02 ID:bFZ8/c4g

   

341 名前 : はじめの一歩 ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 20:40:09 ID:KnW49t7Q

出た行った時の力なさとは打って変わっての明るい声を出しつつテンコが教室へ乗り込む。
空元気であるのは見れば分かるのものの、危うい雰囲気を醸し出しているものではないため、触れぬこととした。
出鼻を挫かれたブルーは一瞬だけ迷うような仕草を見せたが、訪ねようと思っていたもう一つの話題を切り出すことを決める。

「バリー、君は魔界から人間界に来た。これは間違いないね?」
「ああ、そうだな」
「テンコ、君も天界から人間界へ来た。そして君は地獄界の存在も知っている、そうだね?」
「だな。どの世界も全部この目で見てきたから間違いないぜ」

二人の返事に満足したのか、ブルーは一度だけ頷き、車椅子の車輪から手を離す。
続いてスムーズに肘置きに預けた両肘を回し腕を軽く開いたようなポーズを見せ、口を開く。

「私たちは全員別の時間軸から連れてこられていたのかと思っていた。
 最初の場で我が父を攻撃した少年、高槻涼はヤツを"ブラック”と呼んだ。
 私が知っている彼は"ブラック”が"ホワイト”であったことを知っているのにも関わらずね。
 それに彼の右腕にあるARMSは発動が不可能になっていたのに、あの場では普通に行使できていたことも引っかかったんだ」
「つまり、高槻はブラックがホワイトだと知るより前から連れてこられたって事か?」

ゆっくりとしながらも、明瞭な声で語り出したブルー。
語りの姿に何となくキース・ホワイトの面影が感じられたが、バリーは触れることはしない。
口が一度止まった時、彼の話から導き出されたある可能性の真偽を確かめるだけだ。

「その通りだ。彼と酷似したクローンを用いた可能性も考慮してないわけではないが、
 彼から感じられた共振、ARMSがそれぞれに持つ固有の信号のようなものだと思ってくれ。
 とにかくそれは彼本人のものと寸分違わぬものだった。
 だからあの高槻涼は私よりも過去から連れてこられた高槻涼本人であると私は考えている」

根拠を込めた正誤判定に納得したのか、バリーはそれ以上の追求を行わない。
ブルーは彼の反応を確認してから「しかし」と否定の言葉を発し、話を続ける。

「時間を超えて集められたという考えだけでは辻褄のあわないことがある。
 まず、私達が君たちのような者達の存在を一切知らなかったことから、君達が過去から連れてこられてのではないことが分かる」
「どうしてだ?」
「簡単さ。エグリゴリの情報網に君たちの存在がかからなかった事。
 軽く話を聞いていたが、私達の間に大きな時間的は差異はないはずだ。
 学校の内装や構造。渡された懐中電灯やペットボトル、そして食料。これらに違和感を覚えるものが誰も居なかったからね。
 なのにエグリゴリが能力者や魔物の存在を把握していたという情報の欠片すら存在していないということは、少なくとも私達より未来から来たのだろう。
 手の広さという一点においては奴らに絶大な信頼を置いている」
「なるほどな」

疑問の声を出したバリーへと返ってきたのは絶大な確信の込められた物。
元実験体であったから。
ブルーメンの長として生きてきたから。
エグリゴリという組織の中で生きてきたことがあるから。
長い月日をエグリゴリとの戦いに費やしてきたから。
だからこそ理解している。かの組織の強大さを。驚くほどの有能さを。
重みが篭ったブルーの言葉に、短くも理解したという念が十分に分かる返事をする。

「しかし、君たちが未来から来たのだとしても、私の世界で起こった大事件を知らないはずがない。
 人間界の自称に疎いとしても、あれだけ大規模だった事件の存在を知らないとは考えがたい。
 それに、それぞれ互いの時代で起こった大事件を把握していないということもね。
 ファウードなる突如現れた超巨大建造物の存在、NYで起こった巨大な怪物の出現、能力者の戦闘による破壊。
 これらをお互いに知らないというのは考え難い。
 じゃあ、どうすれば納得がいくのかと考えると?」
「ブルーやバリーがいた人間界は、コースケの住んでたのとは別の人間界ってことか?」

342 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 20:40:22 ID:bFZ8/c4g

  

343 名前 : はじめの一歩 ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 20:41:28 ID:KnW49t7Q

問いかけに対し、得心のいったようにテンコが答える。
複数の世界が存在していることは既に知っている上、最初の質問で何となく察しがついた。
ブルーが満足したように小さく笑みを見せた。

「ああ、そうだ。異世界の存在は証明されているし、世界間を渡る方法も存在しているからこれはほぼ確定といってもいいだろう。
 他に幾つかの可能性も考慮していないわけがないが、説得力で言えばこれが一番高いと私は考えている。
 だが、問題はこれからだ。
 だとすれば、時系列の合わない知人達は一体どうなのだろうか?
 一、あくまでも同一世界の別時間軸から連れてこられた。
 二、同じ人物が同じ歴史を辿っている別世界が複数存在し、知人同士もそれぞれ別の世界から連れてこられた」
「一だとすれば、過去が変われば未来にも影響が出るんじゃないか? 一応だけど心当たりはあるぜ?」

咄嗟に口を挟んでしまったテンコ。
彼が思い出すのは植木達と同様にこの殺し合いに呼ばれてしまったバロウ・エシャロットという少年の姿。
その記憶が浮かび、思わず口を出さずには居られなかったのだ。
当然、ブルーはその話に食いつかないわけがない。

「君の知ってるケースについて聞かせてもらってもいいかい?」
「ここに呼ばれてるバロウってやつが『過去の映像を現実に変える力』ってのを持ってるんだけど、
 その能力で実体化させた過去の自分が攻撃を食らうと、現在の自分にもダメージが入るんだ。
 他にも詳しいことはあるかもしれねぇけど、俺が知ってるのはそれだけだな」
「なるほど、しかし、その説明のみでは不明瞭な部分も多い。
 彼に会って話を聞いてみたいものだな。幸いにもまだ放送では名前を呼ばれていない。
 もしかすれば他にも時空に関する者がいるかもしれない。そんな者たちにも話を聞いてみたいところだ」

ディバッグから名簿を取り出し、バロウ・エシャロットの名をボールペンで丸く囲む。

「ただ、テンコの世界と我々の世界でまたタイムパラドックスが与える異なる可能性もあるな。
 実際どうなるかが分からないが、複数のパターンが考えられる。
 例として私より過去から来てた高槻涼が亡くなった場合を仮定しよう。
 元の世界でもう一人の高槻涼が生まれ。"本来の”歴史をたどる可能性。
 もしくは高槻涼が消えたことによって世界がそのズレを修正し、高槻涼なしに本来の歴史に限りなく近いものにしようとする可能性」
「そして、一番厄介なのは高槻涼が消えたことによって私達の世界が分岐してしまう可能性。
 世界の変遷による影響が出るのは恐らく生還後になるだろう。
 どうなるかは分からないが私の記憶から高槻涼の存在が抜け落ちることや、最悪では私の存在が消えてしまうということまでありえるかもしれない」
「なるほど……せっかく勝ったのに帰ったら死ぬって可能性もあるのか」

浮かんだのは最悪の可能性。
三者共にプログラムの打破に命を捧ぐ覚悟はある。
だが、それでも勝利の直後に訪れる死は許容出来るのだろうか?
至極落ち着いた様子で現状を理解したバリーであったが、その心中を窺うことは出来ない。
片方のケースにおいて提示された最悪の可能性。
だが、もう一つにケースならば100%安全であるという希望はあるのだろうか?
ブルーがなんの躊躇いもなく語り出した話の中身に。

「しかし、二の方であったとしてもそちらの方でも問題が出てしまう。
 この場合。ホワイトは複数存在しており、このプログラムの主催をしているホワイトを倒しても次なるものが志を受け継ぐ可能性がある」
「確かにそれは厄介だな」

幾つあるかも分からないブルー達の世界とよく似た平行世界の数だけ存在するキース・ホワイト。
楽観的に考えれば、平行世界の自分たちが何とかしてくれるかもしれない。
だが、それは勝利なのだろうか?
本当にそれでいいのだろうか?
話を続けるブルー。

344 名前 : はじめの一歩 ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 20:42:55 ID:KnW49t7Q

「だからこそ、この殺し合いへの完全なる打破を目指すのならば、このことは留意しておくべきだろう」
「完全なる……か」

そう、答えは否だ。
確かに、このプログラムの打破とは勝利の一つだ。
しかし、それは完全なる勝利ではない。
バリーの呟き、そして握り直された拳。
勝つ。
完全に、完膚なきまでに。
死人が出てしまった時点でそれは潰えてしまった望みであるとは分かっている。
だが、そうだとしても。
改めて意志を固め直す三人。
そしてブルーが話を終わりを告げる。

「さて、この話は一旦終わりとしよう。続きは情報が増えてからだな。
 私にもしものことがあったら、後は頼むよ。
 もちろん私の考えが全くの的はずれである可能性も踏まえて、ね」

長い間話していて少しだけ疲れたのか一息つき、車椅子へと背中を預けた。
ディバッグから取り出したペットボトルの中身に口をつけ、喉が鳴ること数回。
蓋を閉め、再び仕舞い直し、もう一息。
僅かに天を仰ぎ、そして再び元の体勢へと戻る。

「さて、そろそろ、我々も打って出るべきだと考えているのだが、異論はあるだろうか?」
「俺は構わないぜ」
「おお、俺も賛成だ!」

ブルーの提案に対して二人は即座に賛同し、職員室から玄関へと向かって移動を始める。
唯一の戦力であるバリーの手を塞ぐことを防ぐため、平地では自らの手で、段差はテンコの手を借りて移動することにしたブルー。
テンコの小さな体では車椅子を支え切れないのではないかという懸念も無いわけではなかったが、結果としてそれは杞憂と終わる。
……彼の表情が相当苦しそうなものであることを除けばであるが。
「大丈夫かい?」とブルーが気遣うも「こ、これくらいでへばるわけねーだろ」と意地を張る。
自分も何か力になりたい。その気持を察したブルーはそれ以上の追求を行わない。
もっとも、完全にへばってしまい、落とされてしまいそうになった時は流石に止めるつもりであるが。
巨大化すれば車椅子などは楽に運搬できるのだが、むやみに目立ってしまうのは自殺行為であるので、テンコはマスコット形態であることを余儀なくされている。
元からさして広いわけでも迷路のように複雑な構造をしているわけでもない普通の学校。
外との繋がりである扉はあっけなく見つかり、三人は吹き込んでくる風を肌で感じた。
昇りゆく太陽と爽やかな風。テンコは思わず目を細めた。
だが、殺し合いの場という異様な空気が、確かに感じられるそれが安息を許さない。
不意にブルーがその唇を動かした。

345 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 20:43:18 ID:bFZ8/c4g

 

346 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 20:43:56 ID:bFZ8/c4g

    

347 名前 : はじめの一歩 ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 20:44:32 ID:KnW49t7Q

「そういえば君達に尋ねなければならないことがあるのだが、構わないかい?
 歩きながらでいい。少しだけ私の話を聞いてくれないだろうか?」
「いいぜ、言ってみな」
「おう、俺にも遠慮なく聞いてくれ!」

振り返りもせずにぶっきらぼうな様子でバリーが、威勢のいい元気な声でテンコが同意を意を示す。
それを受け、ブルーは話を続ける。

「君は、このプログラムに従って人を殺すのは悪だと思うかい?」
「ひ、人を殺すのが正義なわけがねぇだろ!!」
「まぁ、同感だな」

二人の答えは当然ながら否。テンコは勢い良く叫び、それに一応の賛同を見せるバリー。
そよ風が彼の髪を揺らす中、「だとしたら」と言い、次なる問い掛けを。

「大切な相手が巻き込まれてしまっており、その者を優勝させるために自身の死を織り込み済みで殺し合いに乗った者。
 "神”でもないと叶えられぬような願い。それも誰もが納得できてしまうような願いを抱えて我が父の言葉に従う者。
 のっぴきならぬ事情。例えば自身が生還せねばその者の世界が滅びてしまう様な事態になってしまっており、やむを得ずに人を殺す者。
 そして、ただ死にたくないから。生きていたいから、その欲求のために行動している者
 君達は、そんな者達を悪と呼べるのかい?」
「つまり、俺にそいつらが倒せるかって聞いてんのか?」

回りくどい言い方をしていたブルーに対し、バリーがその意図を汲み要約する。
ブルーは残念そうに首を振り、車椅子を押す手を止めた。

「倒せるかじゃない、殺せるかを問うているんだ」

テンコが思わず息を呑む。
無言を決め込んだバリーに対し、ブルーは「質問を変えよう」と前置きをしてから尋ねる。

「まず、君は快楽のために人を殺める様な外道を殺すことが出きるかい?」
「ああ」

僅かな間も開けずに返される強い肯定の言葉。
テンコは思わず噛み付こうとし、止める。
16人。
友人の死。
もはや不殺を貫くなどと言える段階がとうに過ぎ去ってしまったことは分かっている。
だが、この質問に対して絶対に首を縦に振らないであろう相棒の姿がどうしても頭の隅にちらつく。
そんなテンコの気持ちを知ってか知らずか、ブルーは話を続ける。

「ならば強い王を目指すと言ったヴィンセント・バリーに問う。
 君は殺せるのか? 切り捨てられるのか?
 それとも同情心で生かしてしまうのか?
 "弱い”と断じてしまうのか? 彼らの"正義”を認めるのか?
 さぁ、ここで君の考えを教えてくれ」
「まずは……お前がどうするつもりなのかから聞かせてもらおうか?」
「私かい? 私はね――――」

質問に答えず、逆にブルーへと問いかけるバリー。
喋ろうとしたブルーが息を吸い直す。

何かを切り裂くような、吸い込まれるような、そんな音がした。

「殺せるさ。殺すだけの力が足りれば、の話だがね。
 彼らの心を、夢を、命を、想いを、全てを踏みにじってでも前に進む覚悟は……ある」

348 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 20:45:17 ID:bFZ8/c4g

    

349 名前 : はじめの一歩 ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 20:46:20 ID:KnW49t7Q

風が吹く。
強い風が、激しい風が。
彼らの体を叩く、押す、ぶつかる。
怒りも、同意も見せずにただ静かにバリーは尋ねる。

「それが、ホワイトの野郎に従う行為だとわかっていてもか?」

ブルーが瞼を下げ、小さく息を吐く。
そして再び目を開き、迷いの欠片すらない強い声でゆっくりと言い放つ。

「ああ、例え父の意に沿うこととなってしまえども、最後にヤツのプログラムを破壊できるのなら」

長々と吹いていた風が止んだ。
バリーは振り返り、移動を開始してから初めてブルーの元へと向け、彼の瞳を見据える。
一点の曇りもない、真っ直ぐな瞳。
それを見たバリーが口を開こうとした所でテンコが割り込む。

「け、けどよぉ。そういうやつだったら説得できれば仲間になってくれるかもしれねーだろ!?
 コースケと戦った奴にもそんなヤツが何人もいたんだしよぉ!」
「確かにそれも一理ある。だが、説得にはリスクが伴う。その事は分かっているね?
 こちらが逆に殺されてしまうというリスクを考えれば――――」
「やってやろうじゃねぇか」

バリーが牙を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべる。
テンコもバリーの言葉を聞き、パッと嬉しそうな表情を見せた。

「だが、しかしだ。彼らの中にも強い意志を持ち、臨む者がいる。
 命すら厭わずに目標のために戦い続ける強い者もだ」
「そんな奴らにも負けないからこそ、強い王だ」
「……そうか」

ブルーは小さく嘆息し、額に手を当てて頭を下げた。
しかし、その顔が見せているのは確かな微笑み。

「彼らもきっと、同じ事を言うんだろうな」

思わずこぼれ出た独り言、無意識のうちから生まれ落ちた一言。
ハッと顔を上げたものの、バリーもテンコにも聞こえていなかったようで、内心で安堵の息を吐く。
彼らの、特に亡くしてしまった巴武士への感傷に浸りかけたことを必死で堪える。
この感情は表に出してはならない。それはブルーが己に定めた掟。
だからだろう。バリーが声をかけてくれたことに、気を逸らしてくれたこのに感謝した。
しかし、ブルーは次の言葉に驚愕する事となる。

350 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 20:46:42 ID:bFZ8/c4g

 

351 名前 : はじめの一歩 ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 20:47:55 ID:KnW49t7Q

「だが、どうしてもとお前が判断した時は、その時はしょうがねぇかもな」

今までの意見を唐突に覆したバリー。
その意図を何となく察することが出来たが、あえて聞き返す。

「もし、私と君の判断基準がどうしても合わない時は、どうするんだい?」
「多少は我慢してやるぜ。"パートナー”のやることなんだからな。
 俺の堪忍袋の緒が何処で切れるかは、自分自身でも分からねぇけどな」

きっと、先ほどの微笑みを見られてしまったのだろう。
切り捨てることはできるが、それは最後の手段。
自身の望みも読み取られていたことを悟り、ブルーは思わず苦笑する。
そして同時に出てきた一つの疑問。
急に出てきた一つのワード。

「パートナー……かい?」
「暫定的なって話だがな」
「手厳しいね」

大げさに肩をすくめ、困ったような表情を浮かべる。
バリーはブルーのオーバーリアクションなどは気にも留めない。
威圧するような、挑発するような笑みを見せながら突き放すだけだ。

「そう思うんなら俺を納得させてみせるんだな」
「難しそうだが……及第点も貰えたことだし頑張ってみるとしようか。
 君の本来のパートナーにも負けないくらいにね」
「グスタフに勝つ……か」

彼の言葉から、そんなことは不可能であるという意図が言外に含まれていることは用意に察することが出来た。
それでも。逃げる訳にはいかない。
このプログラムを打破するためには、彼に本来の力を出してもらわねばならない。
決意を込め、肯定の言葉を送る。

「ああ、そのつもりだ」
「できるといいがな」

バリーの小さな呟きが風に溶けて消えた。
ブルーがそれを聞いたのかどうかは分からない。
ただ、バリーより手渡された物を。
ようやく勝ち得た一つの信頼の形を。
戦い抜く力を持たぬ彼がようやく手に入れた象徴を。
自身のカラーネームと同じ色をした魔本の表紙を軽く撫で、力強く握りしめた。

352 名前 : はじめの一歩 ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 20:48:58 ID:KnW49t7Q

【C-2 中学校校庭/一日目 朝】

【ヴィンセント・バリー】
[時間軸]:エルザドル戦後、ナゾナゾ博士からファウード戦への協力を求められる前
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品0~2、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。ブルーと協力する。


【キース・ブルー】
[時間軸]:単行本20巻、ブルーメンの鐙沢実験場襲撃前
[状態]:健康
[装備]:車椅子@現地調達、伝言板@スプリガン(ポケット)、テンコ@うえきの法則(勝手に飛んでる)
[道具]:ランダム支給品0~1(車椅子、杖に代わる物は無し)、基本支給品一式、魔本
[基本方針]:オリジナルARMSの子供達(涼、隼人、恵)を守る。バリーと協力する。バロウに会う

353 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/21(日) 20:49:05 ID:bFZ8/c4g

   

354 名前 : すみませんサルさん食らってました ◆xrS1C1q/DM 2012/10/21(日) 21:00:10 ID:KnW49t7Q

投下完了です。支援ありがとうございました。
指摘などがありましたら遠慮なくどうぞ

>◆WMyP5RHbA6氏

投下乙です!
前の話の引きで土門がどうなるか期待半分不安半分で読んだらまさかのARMSwwww
学校での烈火&水鏡との会話は王道でベネ!
そして復活からの土門ちゃんマジかっけえええええええええええ
軽口叩いてるのにかっこいいってのは本当に土門の魅力ですわ
風子が止められるかどうか、頑張って欲しいな。

それにしてもさとりvs横島は色々ひどいwwww
全うに戦ってるはずなのに本当にひどいwwww


>◆hqLsjDR84w氏

確かに確認しました。いつもお疲れ様です

355 名前 : R-0109 ◆eVB8arcato 2012/10/21(日) 21:00:19 ID:NfVie8SG

ロワラジオツアー3rd 開始の時間が近づいてきました。
実況スレッド:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1350820048/
ラジオアドレス:http://ustre.am/Oq2M
概要ページ:http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
よろしくおねがいします

356 名前 : ◆WMyP5RHbA6 2012/10/21(日) 23:42:34 ID:ZxV0RHmJ

>高鳴り
死を望んでいるアシュ様の期待はせつないなァ。
実際、最強名乗ってもおかしくないからなあ、その希望が簡単に抱けないのがまた……。


>能力者CO
まあそれでこそ美神さんだよね。
他人の為に頑張れる植木達とあわないのは当然。
無理に合わせる美神さんなんて美神さんじゃないし。

>選択

改めて良いコンビだなあって思った。
この話でもユーゴーは植木をいい具合に動かしているし。
いつかはしないといけない選択を提示したけど
これってどっちも選べないフラグもあるってのが不安だねえ。

>非戦闘生命
隼人マジイケメン。ホントイケメン。
かっこ良すぎるんだよ、こいつは。
そして、マリリンの最後が物悲しい。
凝縮された時間の中での死にたくないは卑怯すぎる。

>はじめの一歩
渋いなあ、この二人。
大人な二人の会話が読んでいて思わずニヤついてしまう。
考えは違っても同じ道を歩もうとしている二人がもうね。



時刻についての修正は了解いたしました。
一日経って指摘がなかったら修正して収録させて頂きます。

357 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/22(月) 18:42:07 ID:jFhs/EvW

投下乙です。

そういえば天界獣って人間を傷付けたら消えちゃうけど、大丈夫なのかな?
まあ、人外もたくさんいるけど。

358 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/22(月) 21:08:30 ID:gCQ2XK0F

うひょおお!それぞれの話の皆格好良い!!
横島も格好良い…んじゃないかな?うん、多分…
さとりと横島って良い組み合わせだよねw

359 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/10/23(火) 15:00:02 ID:QQVjg4G5

中学生ロワとほぼ同時期に人の死に触れ、元から持っていた自分の考えを改める植木
あっちとこっちでどのように生きていくんだろうな

あと土門がかっこよすぎて惚れる
風子を取り戻して、バロウにも改心してほしい
っていうかバロウに関してはキース・ブルーの考査でフラグ立ってるし、上手く事が運べば良いんだけど

横島は、うん、期待せず見守る

360 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:42:56 ID:0IxzZ0r1

投下します。

一話と言い切るのには無理がある気がしたので、二話分ということで。

361 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:43:12 ID:F65I4UDd

しえ

362 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:43:25 ID:38yLM3VI

支援

363 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:43:41 ID:hMh0Sb2c

 

364 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:43:46 ID:6RZUlFEM

支援

365 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:43:56 ID:QsRSY+5m

支援

366 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:43:58 ID:0IxzZ0r1

 ◇ ◇ ◇


 音もなく。
 気配もなく。
 前触れもなく。

 四人しかいなかったはずの民家のリビングに、『五人目』が忽然と姿を現した。

 いきなりの乱入者に驚愕を露にしたのは、加藤鳴海と阿紫花英良の二人だけ。
 紅麗は微動だにせず、またその表情は被ったままの禍々しい仮面によって窺えない。
 そして高槻涼は、五人目が現れることを予想していた。
 彼のなかに埋め込まれているARMSコアが、共振反応を捉えていたのだ。
 ゆえに、分かっていた。
 彼が――キース・シリーズの末弟たるキース・グリーンが、こうして眼前に立つことを。
 共振反応を捉えた数秒前から、ずっと。

「へえ……なるほど、ね」

 鋭い目つきでリビング内を見渡し、グリーンは金色の髪をかき上げる。
 髪で隠れていた整った顔が作っているのは、挑発的な笑顔だ。
 殺し合いを命じたキース・ブラックと同一の顔立ちをしていながら、彼よりもだいぶ若い。
 纏ってるスーツが、年不相応に思えるほどだ。

「こうして群がっているということは――つまり『そういうこと』か、高槻涼。
 赤木カツミが死んだというのに、それでも君はそういう道を選んだというワケか」

 見下すような視線と、嘲るような口調。
 以前対面したときとまったく変わらない。
 そう思うよりも早く、涼のなかのジャバウォックが疼く。
 蘇るのは、グランドキャニオンでの大虐殺である。
 地下道を抜けてやっと屋外に出た涼たちを待っていたのは、無数の戦闘用ヘリコプターだった。
 ようやく真っ当な人生を送れるはずだったチャペルの子どもたちは、そのほとんどが機銃によって撃ち抜かれた。
 ARMS適正者たる自分たちばかりが生き残り、幼い子どもたちは肉片へと成り果てた。
 手を取って逃がそうと思った少女は、二の腕から先だけしか残らなかった。

 あの戦闘機集団を指揮していたのが、他ならぬキース・グリーンである。

 涼は、決してあの日見た光景を忘れない。
 あの日の怒りは、悲しみは、喪失感は、一瞬とて薄れたことがない。
 そしてそれらの感情を食らうのが、涼に埋め込まれたジャバウォックだ。
 全身にナノマシンが巡り、顔面に奇妙なラインが入る。
 適正者にしか聞こえぬ高音を鳴らし、右腕が姿を変えようとする。

 ――が、涼は右腕に力を籠めてARMS化を抑え込む。

 グランドキャニオンでの大虐殺を忘れたワケではない。
 グリーンを許してやろうというつもりでも、断じてない。
 ただ、破壊の化身であるジャバウォックに意識を委ねる気がないだけだ。
 ジャバウォックの『力』を借りることはあっても、『意思』を任せるつもりはない。
 そう誓ったばかりである。

 御神苗優に、加藤鳴海に、紅麗に、オリジナルARMSの兄弟たちに、ジャバウォックに――そして何より、自分自身にだ。

 程なくして、ジャバウォックが鎮まる。
 憎悪や怒りを受け入れた上で、ともに進もうとしてくれているのだ。
 胸中でジャバウォックに頭を下げてから、涼はグリーンのほうを向き直る。

「そうだ。俺はこの道を選んだ」

367 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:44:00 ID:UmUUFrc6

 

368 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:44:07 ID:exCiymKp

支援 

369 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:44:12 ID:vxMHlwqX

支援

370 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:44:42 ID:0IxzZ0r1

 胸を張って宣言し、警戒心を強めながら問いかける。

「お前は……いったいどうなんだ」

 はッ――と短く笑い、グリーンは挑発的な笑みを深くした。
 やたらと大げさな動作で肩をすくめてから、当然のように答える。

「決まっているだろう、考えるまでもない。
 僕と君の行く道が重なるなどと、そんな可能性を億分の一でも信じていたのか?
 だとすれば、少し会わないうちに随分と――」

 グリーンが言い切るより早く、涼が纏うスーツの右肩から先が弾け飛ぶ。
 肉食獣じみた鋭い爪を備えたジャバウォックの腕へと、一気に変化させたのだ。
 その爪でグリーンを切り裂くべく床を蹴った涼よりも、さらに早く動いた男がいた。

「ッらああああああああ!」

 ほんの少し前まで唖然としていた加藤鳴海である。
 彼は、涼からキース・シリーズの存在を聞いていた。
 当然、グランドキャニオンにて子どもたちを虐殺したグリーンについてもだ。
 にもかかわらず動かなかったのは、唐突な登場に呆気に取られたからにすぎない。
 殺し合いに乗っているなどと言われれば、すぐに我に返る。
 そうなれば、鳴海が罪なき子どもを蹂躙したグリーンを許すはずがない。
 床に穴が開くほどの踏み込みで肉薄し、腰を低く落とす。
 練り上げた気を右拳に集めて、ミサイルじみた軌道で撃ち出す。
 この時点においても、グリーンの視線は涼に向けられたままだ。
 鳴海のほうを振り向こうとすらしていない。
 その素振りにほんの少し苛立ちを覚えながらも、鳴海は集中を乱さず拳を振り抜いた。

「……あ?」

 鳴海の拳は、空を切った。
 触れる寸前で、グリーンの姿が掻き消えたのだ。
 超スピードで移動したのではない。
 であれば、しろがねである鳴海には勘付けるはずだ。
 だとすれば――

 後頭部に衝撃が走り、鳴海の思考はそこで打ち切られた。

「めでたい頭になったものだな、高槻涼」

 部屋の隅まで吹っ飛んで行った鳴海をよそに、グリーンは悠々と言葉の続きを述べる。
 キース・グリーンに埋め込まれしは、アドバンスドARMS『チェシャ猫(キャット)』。
 その能力は、『空間操作』。
 彼にとって、距離など関係ない。
 たとえ離れていようと一瞬のうちに肉薄できるし、たとえ肉薄されようと一瞬のうちに離れられるのだ。

「キース・グリーン……ッ!」

 歯を噛み締める涼の前に、紅麗の手が伸びた。

「少し、頭を冷やせ」

 怪訝そうな涼の首を掴むと、紅麗はそのまま後ろに放り投げる。
 進行方向にテーブルや椅子があったせいで、盛大な音が響く。

「お、おい、アンタ、いったいなにを……」

371 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:44:43 ID:hMh0Sb2c

 

372 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:44:54 ID:38yLM3VI

支援

373 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:44:55 ID:LmlFnxo0

支援!

374 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:45:08 ID:QsRSY+5m

支援

375 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:45:11 ID:F65I4UDd

すえ」

376 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:45:18 ID:6RZUlFEM

支援

377 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:45:18 ID:hMh0Sb2c

 

378 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:45:20 ID:exCiymKp

支援  

379 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:45:21 ID:0IxzZ0r1

 巻き込んだ家具から這い出しながら、涼が尋ねる。
 グリーンから視線を離さぬまま、紅麗は淡々と言い放つ。

「ヤツの能力は聞いている。
 お前の話通りであれば、加藤鳴海の背後を取った時点で殺せている」

 ここまで告げられて、涼はようやく紅麗の言わんとすることを悟った。
 グリーンは鳴海を殺すこともできたのだ。
 背後を取っていたのだから、『空間の断裂』を放てば終わりだったはずだ。
 そんな涼の考えを見透かしたように、紅麗は続ける。

「にもかかわらず、おそらく『空間の塊』かなにかを射出した。
 容易に命を奪える場面で、ただ『意識を落とす』だけしかしなかった。
 そもそもだ。こうして私たちの前に姿を現したこと自体が、至極不自然だ。
 ARMSの共振反応で高槻涼には感知されるとしても、それを他者は共有できない。
 もちろん口で知らせることは可能だが、それを行うには僅かばかり時間を要する。
 その僅かな隙すらつけるほどに、『チェシャキャット』とやらの能力は優れている。
 この家の外――せめて部屋の外に瞬間移動すれば、それだけですでに十分優位に立てよう。
 だというのに、あの男はそれをしていない。その理由はおそらく――」

 一拍置いて、紅麗は静かに断言する。

「あの男は、感じ取った共振反応の持ち主に話がある……ということだ」

 涼の思考が停止した。
 それほどまでに、衝撃的な内容だった。
 戦闘や殺害が目当てではなく、会話が目的である――など。
 自分とグリーンの関係を思えば、とても考えられないことだった。

「くッ、ははは! はははははっ!!」

 だからこそ響く笑い声に、涼は安堵してしまった。
 こうして紅麗の予想を嘲笑ってくれれば、グリーンは変わらず許してはならぬ敵のままなのだから。
 そんな涼の期待を裏切るように、不意に哄笑が止まる。

「……ふん。なかなか聡いじゃないか。
 さすが兄さんが集めたプログラム参加者とでも言うべきかな」

 キース・グリーンが、苦々しく吐き捨てる。
 余裕ぶった笑みは、いつの間にか消え失せていた。
 その口調は、涼の知るものではなかった。
 その表情は、涼の知るものではなかった。

「ああ、そうさ、そうだとも。
 僕は――高槻涼と話に来たんだ。
 まさか、こんなに他人がいるとは思っていなかったけどね」
「なるほど。一対一での対話を望んでいたワケか」
「そうなるね。やれやれ、よもや三人もいるとは」
「加藤鳴海を殺さなかったのは、高槻涼を暴走させぬためか」
「そこまで読まれるなんてね。ああなられては、到底会話なんてできないからね」

 グリーンと紅麗のやり取りを間近で聞いていながら、涼はほとんど頭に入っていなかった。
 あまりに信じ難い内容だった。
 信じられないのではなく――信じ難い。
 紅麗の予想は頷ける。納得がいく。グリーン自身も肯定している。
 信じられるのだろう、本来は。
 そう分かっていながら、信じることが難しい。
 グランドキャニオンでの大虐殺以来、絶対に許してはならぬ敵だとみなしてきた。
 決して本来の目的ではないが、少なからずあの日の借りを返すというのも進んできた理由の一つだ。

380 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:45:50 ID:vxMHlwqX

支援

381 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:46:03 ID:0IxzZ0r1

 だというのに――これは、いったい、どういうことなのか。

 なんとしても倒すべき、倒さねばならない、そんな相手だというのに。
 自分との対話を望んでいるのだという。
 その話に乗ってしまっていいのだろうか。

 あの日命を落とした子どもたちは、許してくれるのだろうか。

 あの日ともに憤り悲しんだ仲間たちは、許してくれるのだろうか。

 あの日無力さを痛感した自分自身は――許してしまえるのだろうか。

「そういうことだ、高槻涼」

 思考の渦に沈む涼を呼び戻したのは、グリーンの声だった。
 涼の知らぬ真剣な表情で、こちらを見据えている。
 少しずつだが、たしかに歩み寄ってくる。
 空間移動を使わずに、その足で一歩ずつ。

「知られた以上、隠す必要もない。選ばせてやる。
 僕が残った二人を黙らせるのを待つか、それとも――」

 あと二歩ほどの距離まで来て、グリーンは足を止めた。
 そうして、ずいと右手を伸ばす。

「この手を掴んで、邪魔者のいない場所まで移動するかだ!」

 涼は、手を伸ばせない。
 グリーンの意図が気にはなっている。
 なにを話そうというのか、それ自体は興味深い。
 しかしあの日の記憶が、涼のなかには鮮明に残っている。

 グリーンの腕を掴むべき右腕は、まだARMS化したままで――

 これでは、『手を取る』ことなどとてもできない。

 かといって、現在の涼には問答無用でグリーンに爪を伸ばすこともまたできないのだ。
 対話を求めてきている相手を切り裂くなど、それもまたあの日の記憶が許せない。
 何せ――グランドキャニオンで虐殺された子どもたちもまた、一度は敵対した相手であり対話の結果仲間となったものたちなのだから。

 決めかねている涼に痺れを切らしたのか、グリーンは開いている左腕をスーツの胸ポケットに突っ込んだ。
 取り出されたのは、一房の黒髪だった。

 涼の瞳が見開かれる。
 見紛うはずがない。
 その髪は、まさしく――

「二度は言わないからよく聞け」

 グリーンは間を置かず、一息で言い放つ。

「僕は彼女を愛していた」

 そのやり切れないような表情は、やはり涼の知らぬものだった。

「僕が君としたいのは、その話だ」

 瞬間、涼の思考が吹き飛んだ。
 忘れてはならないあの日の記憶さえ、どこかに行ってしまった。

382 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:46:11 ID:QsRSY+5m

支援

383 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:46:22 ID:exCiymKp

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384 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:46:24 ID:hMh0Sb2c

 

385 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:46:57 ID:hMh0Sb2c

 

386 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:46:57 ID:LmlFnxo0

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387 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:47:42 ID:LmlFnxo0

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388 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:47:43 ID:exCiymKp

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389 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:47:51 ID:QsRSY+5m

支援

390 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:47:51 ID:vxMHlwqX

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391 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:48:03 ID:6RZUlFEM

支援

392 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:48:10 ID:UmUUFrc6

 

393 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:48:59 ID:F65I4UDd

sue

394 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:49:16 ID:UmUUFrc6

 

395 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:50:03 ID:0IxzZ0r1

 あのキース・グリーンが対話を求めてきた理由は分かったが、同時に寝耳の水でもあった。

「…………」

 少しの時間を空けて、正気に戻る。
 理由を知り納得してなお、涼は決められずにいた。
 視線を落として、なにも言えずに沈黙する。
 そんな涼の肩を、何者かが叩く。
 振り返ると、そこにいたのは炎の天使。
 極限まで温度を下げたそれを操るのは――

「すまない」

 同じ場所から一向に動かない紅麗に頭を下げて、涼はグリーンの手を取る。
 その手はジャバウォックのそれではなく、柔らかく温かい人間のそれであった。


「行く前に聞かせてもらう。
 キース・ブラックの部下である貴様らは、このプログラムについてなにか知っているのか?」
「少なくとも、僕はなにも聞かされていない」
「ならば……」

 質問が纏まっておらず、紅麗は口籠ってしまう。
 とはいえ、迷っている時間などない。
 涼から情報を得た際に抱いた疑問を、そのまま聞くことにした。

「『バンダースナッチ』、『ボロゴーヴ』、『ジャブジャブ』、『ラース』、『トーヴ』、『ハンプティ・ダンプティ』。
 これらの名を冠するARMSは存在しないのか?」

 涼によれば、ほとんどのARMSはルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に登場するキャラクターの名を冠している。
 しかしながらジャバウォックだけが、『鏡の国のアリス』に記述された『ジャバウォックの詩』から取られている。
 一つだけが別作品の出典というのは、不自然である。
 であるならばジャバウォックの詩から、他にも名を取っているのではないかと考えたのだ。
 ゆえに、ジャバウォックの詩に関連する生物たちをあげたのだ。
 このなかでも気になるのは、最初と最後の二つ。

 側によってはならぬとされる狂える生物、バンダースナッチ。

 ジャバウォックの詩についての解釈を語る卵、ハンプティ・ダンプティ。

「ハンプティ・ダンプティはブラック兄さんのARMSだが、他は聞いたこともない」

 それだけ答えると、グリーンの姿は掻き消えた。

 リビングに残された紅麗は、部屋の一点を見据える。
 朝日が射し込む窓の付近で、カーテンがやけに盛り上がっていた。

「…………行ったぞ」

 そう告げると、ロングコートを纏った細身の男がカーテンのなかから出てくる。
 阿紫花英良は懸糸傀儡を手元に出すでもなく、逃げやすい場所に隠れていたのだ。

「いい判断だ」
「ありゃ、まさか褒められるとは」
「なにを言う。そこで倒れているのと比べれば、どちらが優れているかなど明白だろう」
「まァ、そりゃそうだ」

 部屋の隅で意識を失っている鳴海を見て、阿紫花は冷や汗を垂らす。
 鳴海と涼がグリーンに飛び掛かって行った際、彼らとは逆に身を潜めた。
 その結果、鳴海は倒れて、阿紫花はぴんぴんしているのだった。

396 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:50:43 ID:0IxzZ0r1

「しかしあの二人、行かせてよかったんですかい?」
「構わん。訊き出すべき情報は得ている。
 対ARMSにおいて高槻涼のARMS殺しは有力だが、私たちが『爪』を所持している以上は無理に同行する必要はない」

 答えながら、紅麗はデイパックから御神苗優の首輪を取り出す。
 先ほどまで阿紫花が潜んでいた窓際に向かって窓を開けると、首輪を思い切り外へと放り投げた。

「……は?」

 事情を呑み込めない様子の阿紫花をよそに、紅麗の傍らに出現していた炎の堕天使・紅が炎弾を吐き出す。
 凄まじい速度で放たれた炎弾は首輪を包み込み、空中で燃え上がる。

「…………は?」

 なおさら困惑する阿紫花だったが、紅麗は無言のままだ。
 空中で炎上した首輪のほうに紅を向かわせて、自ら放り投げた首輪を持ち帰らせる。

「ええと、紅麗さん? いったい、なにをされてるんで?」
「室内では燃え移りかねないからな。
 また首輪の性質が分からない以上、紅に直接触れさせるのははばかられた」
「そういう話じゃねえんですが……」

 口籠る阿紫花に、紅麗は首輪の内部を見せつける。
 すでに炎は紅麗によって払い除けられたあとだ。
 とはいえ熱を持ったままとは思われたので、阿紫花は触れようとしない。
 その判断は正しい。紅麗は炎術士ゆえ、炎や熱には耐性があるのだ。

「こりゃあ……ッ!?」

 夜のうちに確認した際、首輪は外側だけでなく内側にも微かな継ぎ目一つなかった。
 こんなものをどうやって首に嵌めたのかと気になったため、阿紫花はよく覚えている。
 だというのに、いま紅麗に見せられた首輪の内側にはたしかに小さな継ぎ目が存在するのだ。

「高槻涼の首輪を見た際に気になっていたが……やはり、熱だったか」

 二つの首輪は同一のものであるはずなのに、涼のものだけ内側に継ぎ目が刻まれていた。
 理由を考えていた紅麗のなかに引っかかっていたのが、紅の炎を受けて赤熱化したジャバウォックの姿であった。
 その仮説をたしかめる決意を後押ししたのは、最初の六時間で十六名が脱落している事実である。
 もしも外れていたところで、新しいサンプルはいずれ見つかるだろう。
 であれば仮説を仮説のまま放置しておく理由なぞ、まったくなかった。
 キース・グリーンという乱入者のおかげで、検証するまでに多少時間が空いてしまっただけだ。

「行くぞ、阿紫花。
 技術者や、首輪のサンプル、染井芳乃を捜索する」
「ええっ、もうですかい!?
 ジャバウォックの兄さんはどっか行ったままですし、この兄さんなんか寝たまんまですぜ?」
「知ったことではない。
 高槻涼と同行する理由はもはやないと、言ったところだろう。
 それに、空間を操作する能力だと知っておきながら飛び掛かるような男なぞ、勝手に寝かせておけ」

 言い放つと、紅麗は律儀に玄関に向かっていく。
 その背中と鳴海を見比べてから、阿紫花は薄く笑う。

「すいやせんね、兄さん。
 記憶喪失ってヤツみてえだし、いろいろ話してやりてえのはやまやまなんですがね。
 どうも今度の雇い主はずいぶんせっかちみてえで、あしからず。
 さすがに雇い主無視するワケにゃあいかねえんで。ま、縁がありましたら、また会いましょうや」

 鳴海の返事があるはずもない。

397 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:51:08 ID:exCiymKp

     

398 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:51:15 ID:0IxzZ0r1

 一枚千切ったメモにペンを滑らせて置き手紙代わりとすると、阿紫花は玄関へと向かった。


「…………」

 追ってくる阿紫花の足音を聞きながら、紅麗は一人黙考している。
 先ほど、紅が涼を促すように彼の肩を叩いた。
 アレは、決して紅麗が命じたワケではない。
 ただ紅を発現させただけで、その後の行動については彼女に委ねた。
 彼女が勝手にやっただけだ。紅麗の意思ではない。

 だが――その前。

 キース・グリーンの目的を見破り、涼を落ち着かせる。
 あちらは紅麗自身の意思だ。
 理由はある。
 最後に尋ねたように、グリーンには訊き出すことがあった。
 涼が知らぬエグリゴリの情報を持ち合わせている可能性が、大いにあったのだ。
 しかしそれだけならば、なにもあのようなことをせずとも構わない。
 怒りに駆られた涼とともにグリーンを追い詰め、尋問すればよいだけだ。
 にもかかわらず、それをしなかった。
 それは、はたしてなぜなのか。

「――――っ」

 過去の記憶がフラッシュバックする。

 絶叫する紅麗。
 呆然とする思い人。
 哄笑を浮かべる家族。
 気付かぬうちにしかけられていた爆弾。

 そんな――光景。

 考えれば考えるほどに。
 涼から話を聞けば聞くほどに。
 紅麗が紅麗として生きることを決意した日に、酷似していた。

「……下らないな」

 だから感傷的になったとでもいうのだろうか。
 それは、紅麗が紅麗として生きている以上はありえぬことだ。
 結局は、グリーンから情報を余計な労力をかけずに訊き出すためにすぎないはずだ。
 そう自らを納得させた紅麗のなかで、聞き覚えのある耳障りな声が響いた。

「黙れ。私のなかに貴様がいるというだけで不愉快だ」

 己のなかで響いた声に、紅麗は苛立ちを露にしながら吐き捨てた。

399 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:51:48 ID:38yLM3VI

支援

400 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:51:52 ID:0IxzZ0r1

【F-4 路上/一日目 午前】

【阿紫花英良】
[時間軸]:20巻第33幕『合流』にて真夜中のサーカス突入直後。
[状態]:健康
[装備]:形傀儡@烈火の炎、キャプテン・ネモ@からくりサーカス、ヒヒイロカネ製の剣@スプリガン
[道具]:基本支給品一式、支給品0~1(確認済み)
[基本方針]:とりあえず紅麗についていく。


【紅麗】
[時間軸]:22巻210話『地下世界の消滅』以降、SODOMに突入するより前。
[状態]:脇腹に傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、支給品0~2(確認済み)、首輪(優、継ぎ目あり)、優のメモ付き名簿、ジャバウォックの爪×3@ARMS
[基本方針]:プログラムを破壊し、早急に帰還する。そのために役立つ人物や情報を手にしたい。染井芳乃を捜索。


 ◇ ◇ ◇


 チェシャキャットの能力による空間移動が終わるやいなや、グリーンは涼の手を払い除ける。
 そうしてから再び空間移動を行って、十メートルほど距離を取った。
 いまはやむを得なかったが、平時ならば仲良く手を取り合うつもりはない。

 対して涼はというと、警戒心を隠そうともせず辺りに視線を飛ばしている。
 一瞬前まで民家内にいたというのに、周囲に民家などない草原にいるのだ。その反応も当然だろう。
 その様子は滑稽だったが、グリーンには話すべきことがあるので場所を告げる。

「ここは、地図で言うF-3だ。
 君たちのいたF-4から、まっすぐ一キロメートルほど進んだ地点になる。
 僕の支給品で、このエリアには他に誰もいないことが分かっている。都合がいいだろう?」

 この言葉に納得したのかはともかく、周囲に誰もいないというのは察したらしい。
 涼は視線を鋭くして、グリーンへと向ける。

「話をしたいのはお前のほうだけじゃない。
 あんなことを聞かされたんじゃ、こっちだって訊きたいことはあるぞ」

 こう来るのは、グリーンも想定していた。

「僕がいつどうしてカツミを好きになったのか、かい?」
「――っ、そ、そうだ」

 ゆえに、尋ねられる前に答えてやる。
 話をしたいとは言ったものの、涼のことが気に入らないというのは変わっていない。

「そもそも、鐙沢村で彼女を保護したのは僕なんだよ。
 君の前の前で爆撃に巻き込まれて死にかねなかった彼女を、この僕が助けてやったんだ」

 嫌味たっぷりに告げるが、涼は歯噛みするだけだった。
 その反応もまた、グリーンは気に食わなかった。

「正直なところ、最初はどうでもよかったんだけどね。
 ARMS適正者なのに進化種である自覚もないんだから、単なる下らない人間としてしか見てなかったよ。
 ブラック兄さんが回収して保護しろって命じたから助けただけで、別にそのまま息絶えようとも知ったことじゃなかった」

401 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:52:03 ID:QsRSY+5m

      

402 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:52:08 ID:hMh0Sb2c

 

403 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:52:14 ID:exCiymKp

 

404 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:52:46 ID:hMh0Sb2c

 

405 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:52:49 ID:0IxzZ0r1

 煽るような口調だというのに、涼はなにもしてこない。
 沈痛な面持ちを浮かべているばかりだ。
 グリーンは、胸中で舌を打つ。

「まあ、当然丁寧には扱ったよ。兄さんの指示だからね。
 ニューヨークにある僕の家に軟禁してたワケだけど、広い部屋も与えたし、敷地内なら自由に動くことを許可した。
 食事なんかは、日本にいたころよりいいものを食べてたんじゃないかな?
 もちろん、外部と繋がりを得るようなことは禁止していたけどね」

 高槻涼の知らない赤木カツミを語っているというのに、涼は苛立ちを見せない。
 他のなによりも、グリーンはそのことが気に入らなかった。

「でもしばらく過ごしてるうちに、彼女の気を紛らわすために取り寄せた猫が死んでね。
 まったく、せっかく人が手配したというのに、すぐ用済みになるんだから困ったものだ。
 仕方がないので、僕は彼女に言ったんだ。
 『あとでメイドに処理させるから、その辺にでも置いておいてくれ』ってね。
 死んだ猫なんて生命活動を停止させた抜け殻にすぎないんだから、邪魔なだけだろう?」

 ここまでの記憶は曖昧だったが、ここからの記憶はあまりにも鮮明だ。
 あのときカツミに告げた言葉を、あのときカツミに告げられた言葉を、グリーンは一言一句違わず思い出せる。

「すると、彼女は怒ったんだ。
 この僕の頬をはたいてきてね。君の爪が届かなかった僕の身体にだぞ?
 そうして困惑するしかない僕の前で、いきなり泣き出した。
 なぜと問いかけても『人間だから』としか答えない。
 らちが明かないから仕方なく、この僕の家の庭に墓を作ることを許したらなんて言ったと思う?
 『いい人』なんて言ったんだぞ? この僕を、このキース・シリーズが末弟『チェシャキャット』のキース・グリーンをだぞ?」

 いつの間にか、グリーンの目頭は熱くなっていた。
 視界がぼやけそうになるが、高槻涼の前で無様な姿を見せるのを許すはずがない。
 スーツの袖で目元を拭って、話を続ける。

「その夜、僕はうなされた。
 あんなことを言われたんだから、当たり前だ。
 僕は『いい人』なんか知らない。僕が知る人間は、僕に畏怖の眼差しを向ける連中ばかりだ。
 うなされて目覚めたら、彼女がすぐ近くで眺めていた。
 僕の呻き声が外まで聞こえていたかららしい。普通来るか? 誰だか分からない自分を軟禁してる相手だぞ?
 なのに来て心配そうに熱を測ったかと思ったら、『落ち着くまで側にいる』なんて言うんだ。信じられるか?」

 涼は、ただ静かに頷く。
 彼はカツミがそういう人間だと知っているのだろう。
 グリーンよりも、よっぽどくわしく。
 その事実が、グリーンには忌々しくてたまらない。

「あのとき、僕は初めて他人の手を暖かいと感じた。
 『いい人』というのは、彼女のような人間を言うのだろうと思った。
 あの日以降、僕のなかで彼女は『どうでもいい保護対象』ではなくなっていた」

 もう一度目元を拭って、グリーンは涼を睨みつける。

「このプログラムの直前、僕は初めて兄さんの命令を裏切った。
 カツミをつれて、エグリゴリの手が届かないどこか遠くへ逃げようとした。
 高槻涼…………君のせいだ」
「なに……?」

 ここに至ってようやく、涼は口を開いた。

406 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:53:27 ID:F65I4UDd

sie

407 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:53:35 ID:0IxzZ0r1

「『プログラム・ジャバウォック』の最終局面において、カツミは君の前で殺されることになっていた」
「――ッ!」
「君のせいで、カツミの身に危険が及んだんだッ! 君が生きていたせいでッ!!」

 一しきり声を荒げて、グリーンは肩で息をする。
 いくら待っても反論が飛んでこないのが、苛立たしかった。

「……まあ、なにも君がすべて悪いというワケじゃない。
 兄さんの指示を待たずに君たちにちょっかいをかけた際、君を殺せばよかったんだ。
 それに…………結局のところ、最終的にカツミを守れなかったのは僕だ。君じゃない」

 そこまで言い終えると、辺りを静寂が支配した。
 互いに無言のまま、しばらくが経過する。
 先に沈黙を破ったのは、涼のほうだった。

「それにしても……おかしくないか。
 プログラム・ジャバウォックとこのプログラムは、あまりにかけ離れすぎている。
 カツミが死んでたしかに俺は暴走した……だけど、まだプログラムは続いている! 最終局面なんかじゃない!」

 高槻涼は、すでに前を向いていた。
 グリーンは兄と出会ってやっとであったというのに、見知らぬ三人とともにいた涼がもう前を進もうとしている。
 毒づいてやりたくなったが、グリーンはどうにか呑み込む。

「……そうだ。このプログラムは、僕が知らされていたものとは違う
 だがそんなことはどうでもいい。重要なのはこのプログラムにおいてどう動くか、だ」

 ようやく本題に入り、グリーンはその右手を伸ばす。
 先刻と同じように、まっすぐと涼に向けて。

「このプログラムで勝ち残ったものは、一つ願いを叶えられると言っていたな。
 詳しく話す気はないが、死者を蘇らせることができるというのも事実だ」

 息を呑む涼に、グリーンは間を置かずに言い切る。


「僕は、カツミを生き返らせる。
 だから高槻涼、僕と――手を組まないか」


 再度、両者の間を静寂が支配する。
 沈黙を破ったのは、またしても高槻涼だった。
 険しい表情を浮かべながら、右腕をARMS化させる。
 その行動がなにより雄弁であり、グリーンは聞かずとも返答を察してしまった。
 にもかかわらず、涼は言葉を選ぶようにゆっくりと切り出す。


「悪いが断る。そして、お前を止めさせてもらう。
 カツミがそんなことを望まないことくらい、アイツを保護してたお前にも分かるだろう」


 言われるまでもないことだった。
 それこそ、その返答こそ――赤木カツミが望んだものなのは明白だ。

408 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:53:45 ID:hMh0Sb2c

 

409 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:53:49 ID:exCiymKp

    

410 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:54:06 ID:QsRSY+5m

 

411 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:54:06 ID:0IxzZ0r1

「そう、か……」

 赤木カツミを匿っていたから。
 彼女のことを意識していたから。
 彼女との会話を一言一句違わず記憶しているから。

 キース・グリーンには、よく理解できている。

 彼女がいつも語っていた高槻涼という男は、まさしくこういう男だった。

 こういう状況、こういう場面で、こういう提案をされて――
 カツミの望む答えをしっかり導き出して選ぶという、そんな男だった。
 いかなる状況でも前を向いて、正しいとされている道を行く男だった。

 ゆえに。
 分かっているいるから。
 重々承知しているからこそ。

 赤木カツミの理想通りである高槻涼のことが、キース・グリーンは――


「やはり、僕は君のことが心底嫌いだ」


 グリーンは伸ばしていた右手で空中を薙いだ。
 同時に空間に断裂が生み出され、涼へと飛来していく。

 涼は咄嗟に飛び退いて断裂を回避するが、その間にグリーンは掻き消えていた。
 共振反応で居場所を探ると、すでに五十メートルほど離れている。
 そのまま仕掛けてこようとしないことを涼は怪訝に思ったが、すぐに理解した。
 彼の目的は、最後の一人となること。
 決して、涼の殺害ではないのだ。

「ちいッ!」

 涼の脳裏を過るのは、紅麗の言葉だ。
 チェシャキャットの能力を考えれば、ARMS適正者以外を狙ったほうがよいのだ。
 殺し合いが進んでもまだ生きているならともかく、現時点でチェシャキャットの位置を探知できるARMS適正者と戦うメリットは薄い。
 ならば、グリーンははたしてどこに向かうというのか――決まっている。

 『ARMS適正者がおらず』、かつ『三人もの参加者がいる』場所を逃すはずがない。

「グリィィィィィンッ!!」

 思い切り地面を蹴るが、とても間に合わない。
 長距離の空間移動には時間を要するようだが、すでにかなり離れているのだ。
 それでも、涼は自身の力を信じる。
 ジャバウォックが己の意思に付き合ってくれると、そう言ったのだ。
 ゆえに、涼は無限の進化を繰り広げる己のARMSに命じる。

 力が欲しい――と。

 その呼びかけに、ジャバウォックが応えた。
 ARMS化している右腕だけでなく、全身にナノマシンが巡る。
 人間の姿を保ったまま、常人の肉体では耐え切れぬ高速移動が可能となる。
 ほんの一跳びで数十メートルの距離を詰め、涼はグリーンへと肉薄していた。

412 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:54:18 ID:hMh0Sb2c

 

413 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:54:29 ID:exCiymKp

  

414 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:54:51 ID:0IxzZ0r1

「なにィッ!?」

 目を見開くグリーンへと、涼は右手の爪を振り下ろし――
 
 そのまま、ARMS殺しの爪は空を斬った。

「間に合わなかったか……ッ!」

 苦々しく吐き捨てるが、まだ諦めない。
 グリーンの話が正しければ、ここは民家から一キロメートル北に行った地点だ。
 いま目覚めた高速移動さえあれば、大した距離ではない。
 そう思い直して、涼は身体を疾風とした。


 ◇ ◇ ◇


 涼が先ほどまでいた民家を発見するのに、大した時間はかからなかった。
 というのも、その民家を覆うようにやたらとイルミネーションが輝いていたのだ。
 もうすっかり太陽が昇ってしまったというのに、十分目立つほどだ。
 これが鳴海の言っていた目印なのだろうと納得して、涼は民家に入っていく。
 そこにいるのは、意識を失ったままの鳴海一人だった。

「…………?」

 混乱する涼だったが、鳴海のすぐ横に一枚のメモが残されていた。
 それによると、紅麗と阿紫花はすでに民家を出ているらしい。
 とりあえず鳴海を起こしてから、涼はぽつりと呟いた。

「それにしても、キース・グリーンはいったいどこに行ったんだ……?」

 止めねばならないのはたしかだが、向かった方角さえ分からない。
 とにもかくにも動くしかないのだが、どうにも歯がゆかった。


 涼に起こされるまで、加藤鳴海は夢を見ていた。
 ショートカットの銀髪銀眼の女性が、笑えないことを謝り続けていた。
 なんのことはない、時折見るいつもの夢だ。
 サハラの決戦で対面したフランシーヌ人形によく似ているが、まったく違う。
 フランシーヌ人形は無表情だが、夢のなかの彼女は哀しそうに泣いているのだ。
 なぜ、この夢をこの場で見たのかは分からない。
 所詮は夢だというのに、なにかが引っかかる。

「サイガ……ねえ」

 夢のなかの彼女が、そんなことを言っていたような気がする。
 どこかで聞いたことがあるような気がするが、夢についてなど考えている場合ではない。
 まだ寝ぼけているらしい自分に喝を入れるべく、鳴海は自らの頬っぺたをぱしんと叩いた。

415 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:54:53 ID:38yLM3VI

 

416 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:55:11 ID:hMh0Sb2c

 

417 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:55:31 ID:UmUUFrc6

 

418 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:55:35 ID:F65I4UDd

sie

419 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:55:40 ID:38yLM3VI

 

420 名前 : 若者のすべて ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:56:23 ID:0IxzZ0r1

【F-4 民家周辺/一日目 午前】

【高槻涼】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:左二の腕から先を喪失(処置済)、スーツ@現地調達
[装備]:基本支給品一式、支給品1~3(未確認)
[道具]:なし
[基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。
※高速移動を習得しました(原作16巻で使えるようになったもの)。


【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(確認済み)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。



【?‐? ???/一日目 午前】

【キース・グリーン】
[時間軸]:コミックス17巻NO.11『死王~バロール~』にて共振を感じ取って以降、コミックス18巻NO.3『聖餐~サクラメント~』にてキース・ブラックの前に立つ前。
[状態]:疲労(中)
[装備]:いつものスーツ、参加者レーダー@オリジナル
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、カツミの髪@ARMS(スーツの左胸裏ポケット)
[基本方針]:なんとしても最後の一人となる。そのためなら兄さんや姉さんだって殺すし、慢心を捨てて気に入らない能力の使い方だってする。
※空間移動をするとかなり体力を消耗するようです。

421 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:56:24 ID:hMh0Sb2c

 

422 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:56:34 ID:exCiymKp

tesr

423 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:56:58 ID:0IxzZ0r1

ここまで一話です。
こっからもう一話です。

424 名前 : 未来位置 ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:57:29 ID:0IxzZ0r1

 ◇ ◇ ◇


 空間移動を行う寸前まで、キース・グリーンは目的地をF-4の住宅街としていた。
 その辺りまで行けば、支給品のレーダーで紅麗ら三人を発見するのも容易であるはずだった。
 ARMSを持たぬ相手である以上、先ほどのように民家内に乗り込むよりよっぽど利口だろう。
 そう考えていたというのに、グリーンは空間移動の直前で目的地を変更するハメになってしまった。
 凄まじい速度で接近してくる高槻涼を前にしては、そうせざるを得なかったのだ。
 一度戦っているので、『ジャバウォック』の戦闘力はよく知っている。
 グリーンは自身の『チェシャ猫(キャット)』の能力が劣っているとは、決して思っていない。

 ただ――ジャバウォックがあまりにデタラメなのだ。

 『空間の断裂』で腕や足を斬り落としても、他のARMSではありえぬ速度で即座に再生してきた。
 くわえてジャバウォックの爪は、ARMSの再生能力を停止させるウイルスを備えた『ARMS殺し』である。

 こちらが百の攻撃を与えて殺害できたとしても、その間に一度でも攻撃を受ければ――即致命傷になりかねない。

 いざ戦闘になって勝てる勝てないの話ではなく、相手にすること自体が間違いだ。
 少なくとも、まだ殺し合い開始からさして時間が経っていない現時点においては。

 ゆえにジャバウォックの爪が迫るなか、グリーンはチェシャキャットへと命じたのだ。

 できるだけ遠くに転移せよ――と。

 その結果どこに飛ぶのかなど、グリーン自身にも分からない。
 目的地を定めれば寸分違わずその地に移動できるのが能力であるが、定めなければ能力の範囲内のどこかに転移するだけだ。
 殺し合いの舞台はあまりに狭すぎるので、平時ならば飛び出してしまいかねない。
 しかしそれはないだろうと、グリーンは予想していた。
 この地に呼び出されて以来、空間移動を行うだけでかなり体力を消耗してしまう。
 いかなる技術かは不明だが、キース・ブラックが科した枷であるのは明白だ。
 そのような枷を科された以上、全力で空間転移をしたとしても殺し合いの舞台を出てしまうことはあるまい。

 高槻涼の爪が接触する寸前で視界が白く染まり――そして、一瞬のうちに切り替わる。

 ここははたしてどこなのか。
 明るさからして室内であるらしい。
 そのように認識したと同時に、グリーンに埋め込まれたARMSコアが激しく震える。
 ジャバウォックから離れたというのに、まるで引き寄せられるように他のARMS適正者の元へと辿り着いてしまったらしい。
 だが、グリーンには知ったことではない。
 いかなる相手だろうと、赤木カツミを生き返らせるために殺すだけなのだ。
 グリーンは共振反応のほうへと視線を飛ばす。
 そちらにいるのは、よく知っている相手だった。
 驚きはない。共振反応の感覚で、誰かくらい分かっていた。

「――姉さん」

 そう呼びかけると、キース・シリーズ唯一の女性であるキース・バイオレットは目を伏せる。
 空のティーカップに紅茶を注ぎながら、重々しく口を開いくのだった。

「マッド・ティーパーティにようこそ。
 いままで三人がここに訪れ、その全員が前に進む目的を持っていたわ」

 紅茶で満たされたティーカップを前に出して、バイオレットは続ける。

「貴方の目的を教えて、グリーン」


 ◇ ◇ ◇

425 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:57:34 ID:6RZUlFEM

支援

426 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:57:53 ID:UmUUFrc6

 

427 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:58:06 ID:hMh0Sb2c

 

428 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:58:12 ID:F65I4UDd

sie

429 名前 : 未来位置 ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:58:32 ID:0IxzZ0r1

 目を伏せたままで、バイオレットはグリーンの言葉に耳を傾けていた。
 彼がいかなる目的で、このプログラムにおいてどういう行動を取るのか。
 それを聞き終えると、ゆっくりと瞳を閉じた。

「姉さん……?」

 怪訝そうなグリーンに、バイオレットは静かに答える。

「このプログラムが始まってからもうかなり経つというのに、私は未だ取るべき行動を決めかねていた。
 すでにやるべきことを見定めているお前に、こんな私ができることなど――ありはしない」

 とうとうと述べていながら、どこか悔やんでいた。
 人の目的や行動を聞いている場合ではなかったのだ。
 他人のではなく、自分のことを考えるべきであった。
 この喫茶店を訪れながらすぐに出て行った三人のように、バイオレットも留まっているべきではなかったのだ。

 ただ――気付くのが、あまりにも遅すぎた。

 できれば、新宮隼人が出ていくときに。
 せめて、蒼月潮が走り去っていくときに。
 少なくとも、フェイスレスが引き上げたときに。

 同行を申し出るべきだったのだ。

 『プログラム・バトルロワイアル』の意図を見定めるのも、他者と殺し合う運命を変えるのも――

 この喫茶店に閉じ籠っていては不可能だ。
 率先して、外に出なければならなかったのだ。

「こんなにまずいお茶は初めて」

 残った紅茶を飲み干してそう告げると、椅子を引く音が聞こえた。
 グリーンが立ち上がったのだろう。
 そうバイオレットは察して、唇を噛み締めた。
 直後、バイオレットの左胸に衝撃が走った。
 ARMSコアが砕ける感覚が全身に走り抜け、椅子から転がり落ちてしまう。
 コアを破壊されたARMS適正者は、灰のように身体が崩れ落ちるのを待つしかできない。

「が、ふ……」

 同じ遺伝子から生まれたクローンに過ぎないとはいえ、バイオレットはキース・シリーズを家族だと思っている。
 その家族であるグリーンが、己の命を奪おうとしている。

 オリジナルARMSと殺し合う運命を変えようとしていながら動かず――その結果が、これだった。

 ――ヒトは生まれつきヒトなんじゃない。

 ――自分で『ヒト』になってゆくものだよ。

 かつてかけられた言葉が、フラッシュバックする。
 その意味が理解できた気がする。
 自らの意思で進むべき道を決めたグリーンは、人生をプログラムに支配された戦闘機械などではない。
 たとえそれがアリスの掌の上であろうと、自らの意思を持つ以上は間違いなくヒトである。

 ――ヒトは絶望するから足を止めるんじゃない。絶望から這い出ることを『諦め』てしまったら、足を止めるんだ。

 ――ヒトは希望があるから前に進むんじゃない。希望を探そうとする『意思』で前に進むんだ。

430 名前 : 未来位置 ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 00:59:26 ID:0IxzZ0r1

 ここに至ってようやく、バイオレットは大事なことを思い出した。
 まさしく『諦め』ていたのが自分自身で、『意思』で前に進んだのがグリーンではないか。
 グリーンの話によれば、キース・シルバーや高槻涼も前に進もうとしていたという。
 かつてこの言葉を浴びせた新宮隼人もまた、諦めずに意思を貫こうとしていた。
 ただバイオレット一人だけが、諦めてしまっていたのだ。

 ならば――こうなるのも当然だろう。

 身体が崩壊する感覚のなかで受け入れると、扉の開く音がした。
 射し込んできた陽射しが、閉じられたまぶたの上からでも眩しい。
 そのように考えていると、聞き覚えのある声が響いた。

「バ、バイオレット姉ちゃんっ!!」

 声の主は走りながら近付いてきて、砕けつつあるバイオレットの身体を抱え上げる。
 バイオレットが薄く目を開くと、狼狽する蒼月潮の姿を視界に捉えた。

「蒼月潮、なぜ……?」
「姉ちゃんが心配で戻ってきたんだよっ! ちくしょう……ッ! 俺が離れたせいでッ!」

 歯噛みする潮には、すぐ近くにいる下手人の姿は目に入っていないらしい。
 そんな彼の素振りが、バイオレットには理解できなかった。

「どうして、こんな私を――」
「放っておけるはずないだろ! いくら年上で戦えるっつっても、姉ちゃんは女の子なんだぜ!」

 潮の返答はやはり理解できなかったが、それでもバイオレットは実感するのだった。
 やはり、あのとき潮とともに外に出るべきだったのだ――と。
 見れば、潮の背後には秋山優と紅煉という二人の参加者がいる。
 紅煉のほうは言うまでもなく、秋山のほうも殺し合いに乗る可能性は少なからずあった。
 そんな二人と同行しているのだ。
 決して『諦め』ることなく、己の『意思』で進んだ結果であろう。

「蒼月潮、私はもう長くない。よく聞いてくれ」
「な、なんだよ、姉ちゃん……! そんな不吉なこと言わないでくれよ」
「遅かったんだ、なにもかも。お前がじゃない、私が気付くのが――だ」

 なにやら言おうとしている潮の声を遮って、バイオレットは遺すべき言葉を告げる。

「人の足を止めるのは絶望ではなく『諦め』。
 人の足を進めるのは希望ではなく『意思』だ」

 潮は怪訝そうにしていたが、説明してやる時間はない。
 自分で理解してもらう他にないのだ。
 残された力を振り絞って、もう一言だけ残す。

「私は諦めてしまったが、お前は進め」

 言い切った瞬間、バイオレットの身体は完全に砕け散った。

431 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:59:32 ID:hMh0Sb2c

 

432 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 00:59:49 ID:UmUUFrc6

 

433 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 01:00:02 ID:hMh0Sb2c

 

434 名前 : 未来位置 ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 01:00:20 ID:0IxzZ0r1

【キース・バイオレット 死亡確認】
【残り54名】



【E-5 喫茶店/一日目 午前】

【蒼月潮】
[時間軸]:26巻第42章『三日月の夜』直後。
[状態]:健康
[装備]:制服、即席槍(ジャバウォックの爪@ARMS+操り糸@からくりサーカス+神通棍@GS美神)、ヴィルマのナイフ(6本)@からくりサーカス
[道具]:基本支給品一式、操り糸(3/4)@からくりサーカス
[基本方針]:仲間を集めて殺し合いを止める。とら? 勝手にしろィ!
※バイオレットからプログラムについて他のキースシリーズ、オリジナルARMS勢の情報を貰いました。
 ただし、ARMSについては教えて貰っていません。


【秋山優(卑怯番長)@金剛番長】
[時間軸]:最終決戦後、後日談の前
[状態]:健康
[装備]:霊符(残り30枚)、ヒョウ(残り15本)、参加者名簿入り携帯端末@オリジナル(ポケット)、サバイバルナイフ(腰)@現地調達
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、ヒョウ(25本)&符(50枚)&十五雷正法説明書@うしおととら、
    、不明支給品1(秋山は確認済)、1~3(秋山と紅煉が確認済み)、デパート内で回収したものいろいろ
[基本方針]:あらゆる卑怯な手を使ってこの街から脱出し、家へ帰る。体内に爆砕符があると思い込んでいる紅煉を脅してうまく利用する。


【紅煉@うしおととら】
[時間軸]:本編にて死亡後
[状態]:ダメージ回復
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:秋山優をなんとか隙を見て喰い殺す。それまでは死にたくないので従う。秋山を殺せたらあとはひたすら参加者を喰い殺す。
※「黒炎(分身というか手下と言うか、まあセルジュニアみたいなもの)を生む能力」は制限により使用不可。


【キース・グリーン】
[時間軸]:コミックス17巻NO.11『死王~バロール~』にて共振を感じ取って以降、コミックス18巻NO.3『聖餐~サクラメント~』にてキース・ブラックの前に立つ前。
[状態]:疲労(中)
[装備]:いつものスーツ、参加者レーダー@オリジナル
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、カツミの髪@ARMS(スーツの左胸裏ポケット)
[基本方針]:なんとしても最後の一人となる。そのためなら兄さんや姉さんだって殺すし、慢心を捨てて気に入らない能力の使い方だってする。
※空間移動をするとかなり体力を消耗するようです。



【備考】
※キース・バイオレットのデイパック(基本支給品一式、支給品1~2(未確認)、ガッシュの魔本@金色のガッシュ)は、E-5(喫茶店内)に放置されています。
※アドバンストARMS『三月兎(マーチ・ヘア)』とキース・バイオレットの身体は、粉々に砕け散りました。

435 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 01:00:50 ID:hMh0Sb2c

 

436 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/13(火) 01:02:40 ID:0IxzZ0r1

投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。
途中コピペできなくなって焦りましたが、よく分からないうちに直ってよかった。
たくさんの支援、感謝です。


あと先日気付いたのですが、『100話到達記念ry』の時間が朝なのに午前のところに収録してしまっているので、あとで直しますね。

437 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 11:12:01 ID:StTxhZtL

投下乙!
グリーンと涼のやり取りがいいなあ
結局この二人は相容れないんだな
そしてバイオレットォォォ……
最後に潮が来てくれてまだ幸せだったのかなぁ。潮には進んで欲しい

438 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/13(火) 19:27:11 ID:Cic+Kw0w

投下乙です。

原作で「烈火が火竜になったら能無しの居候」っていってたけど、紅麗と能力丸かぶりの親父も穀潰しだよね。

439 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/14(水) 04:12:46 ID:O+tBAMYs

投下乙
涼とグリーンの違いはカツミ以外に仲間がいるかどうかなのかな
グリーンには家族はいても、同じ目線の相手はカツミしかいなかったし
バイオレットは最後に潮が来て幸せだったんじゃないかな

440 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 06:43:24 ID:r3hDRqRa

未予約ですが書き終わったので投下します。

441 名前 : 置き手紙 ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 06:43:55 ID:r3hDRqRa

 ◇ ◇ ◇


 高槻涼と加藤鳴海の二人は、とりあえずの行動方針を定めた。
 殺し合いに乗ったキース・グリーンや、先に民家を出た紅麗がどこに行ったのかは分からない。
 そこで、ひとまず地図に記されている大きな施設を巡ることにしたのだ。

 最初に訪れた銀行には、誰かが侵入した痕跡はなかった。
 この状況において銀行が営業しているのは不可解だったが、彼らの目的は他者との合流である。
 大して調べものをするでもなく、最寄りの施設であるビジネスホテルに向かった。

 ほどなくしてビジネスホテルに辿り着き、二人は目を見開くことになった。
 入口の自動ドアは割り砕かれ、ロビーに置かれているソファは散らばっている。
 周囲のガラス窓には亀裂が入っており、壁には人が埋まりこんだような穴が開いている。
 砂埃が治まっているので最近ではないだろうが、この場所でなんらかの事態があったのは疑うまでもない。

「……ちッ」

 舌打ちを吐き捨てたのは、はたしてどちらであっただろうか。
 それは定かではないが、吐き捨てなかったほうも同じ気持ちなのは確かだった。
 気配を探るも、他の誰かの気配は感じ取れない。
 それでも警戒心を緩めぬまま、二人は視線をロビー全体へと向ける。

 そうして――二人は発見した。

 奇跡的に破壊を免れたらしい受付テーブルに、数枚の紙が置かれていたのだ。
 涼がペットボトルをズラして、紙を手に取る。
 上に重しとしてペットボトルが置かれていたので、これは参加者が残したものであるのは間違いない。
 破壊から生き延びたものの忠告か、はたまた破壊を行ったものの戦線布告か――
 互いに息を呑んで一息ついてから、二人は同時にその紙に視線をやった。



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「…………」
「…………」

 がたがたと崩れた文字が視界に飛び込んだ瞬間、二人は前にのけぞりそうになってしまった。
 気を張っていた分だけ、衝撃は大きいのだった。

442 名前 : 置き手紙 ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 06:44:25 ID:r3hDRqRa

 ◇ ◇ ◇


 ビジネスホテルから西に進んだ先にある商店街に、手紙を残した三人はいた。
 すなわち、小金井薫、才賀エレオノール、ロベルト・ハイドンである。
 彼らは夜のうちに花火が打ち上がったのだという地点で、彼らは言葉を失っていた。
 街の中心部で本来賑わっているだろう商店街は、もはや廃墟と化していたのだ。

 生花店も、青果店も、肉屋も、雑貨屋も、食堂も、居酒屋も、電柱も――無差別に。

 無慈悲に――焼かれ、貫かれ、斬られ、壊され、抉られ、砕かれ、叩き壊されていた。

 それだけではない。
 単に商店街自体が崩壊しているのではない。
 無機物だけでは――断じてない。

 すでに固まった赤黒い液体が、辺りに飛び散っており――そして。

 二つの死体が、転がっていた。
 片方は腹を切られ、もう一方は全身が焼け焦げている。
 前者はともかく、後者は見たところで何者かは特定できない。
 顔面を含む全身が黒く焦げており、髪は焼け千切れており、衣服はもはやすすでしかない。
 それでもその死体をしげしげと眺めて、小金井は結論を下した。

「……別人だね」

 何者なのかは分からずとも、それがよく知る仲間とは違うのは明白だ。
 だとすれば、おかしい。
 花菱烈火の名は放送で呼ばれており、彼以外にこの状況で花火を打ち上げる輩がいるとは思えない。
 にもかかわらず、この場にある死体は二つだ。
 ならば、花菱烈火の死体はどこにいったのか。
 思考を巡らす小金井に、少し離れた場所から声が届く。

「小金井くん、死体とは言い難いが……とにかくもう一人見つかった」

 どうにも判断し難い言葉を怪訝に思いながら、小金井はロベルトの元に向かい――目を見張った。
 人体の手首から先が二つ、つまり両手が無造作に転がっていたのだ。
 いくら仲間であろうとも、手を見ただけで誰のものかなど特定はできない。
 しかし、小金井には分かる。
 花菱烈火が自身の体内に宿している『八竜』を解放するには、火竜一匹一匹に対応する漢字を記さねばならない。
 それを封じるには、文字を記せぬようにすればよい。
 となれば、この手は――

「烈火、兄ちゃん……」

 意図せず、小金井は手の持ち主の名を呼んでいた。

 大した時間を要さずに、花菱烈火の埋葬は終わった。
 何せ、手首から先しか残っていないのだ。時間がかかるはずもない。
 そうしているうちに、死体以外にも残された痕跡を発見した。
 やけに強い力で踏み込んだらしい足跡が、北西へと続いているのだ。
 烈火の死体が両手しか残っていない以上、彼の肉体を運んだものがいる――のかもしれなかった。

「二人とも、あっち行ってもいいかな?
 烈火兄ちゃんを助けようと頑張ったのか、弱らせたのをゆっくりトドメ刺そうとしたのか知らないけどさ。
 どちらにせよ、『お礼』はしなきゃいけないと思うんだよね」

 この提案に反対をするものはいなかった。

443 名前 : 置き手紙 ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 06:45:16 ID:r3hDRqRa

「…………それにしても、私は大変なことをしてしまいました」

 北西へと移動を開始してすぐに、エレオノールがそう零した。
 その理由を小金井が問うと、俯いたままでぶつぶつと答える。

「あのような惨状が広がっていることは予想できたというのに、あのような置き手紙を残してきてしまいました」

 小金井とロベルトは目を見合わせ、二人して冷や汗を垂らす。
 彼女が自信を持って残した置き手紙だったが、その字は凄まじかった。
 いや、銀髪銀目という明らかに外国人である彼女が、日本語を書けるというのは素晴らしいと思うべきだ。
 それにしてもである。
 あの震えた文字は、とても置き手紙として残すものではなかった。
 というか、エレオノールはカタカナしか書けないらしいのだ。
 仮に字が上手かったところで、それではかなり伝わりづらい。
 彼女に悟られぬようこっそりと小金井が書き直して、ロベルトが密かにすり替えた。
 エレオノールが書いたものを一番上に置いてカモフラージュとしておいたおかげで、どうやら気付かれていなかったらしい。


 ◇ ◇ ◇


 二枚目以降は別人が書いたように(その通りなのだが)読みやすい字で記されており、鳴海と涼の二人は手紙の内容を理解できた。
 理解できたが、納得はいかなかった。

「おい涼、それは本当なのか?」
「ああ。俺の知ってるコウ・カルナギはさっき言ったように、大人しくしているようなヤツじゃない」
「そんなヤツと一緒にいるのが、よりによってジョージの野郎とはな……」
「その人は、カルナギを説得できるような人なのか」
「いや……いやぁ……」

 鳴海は口籠ってしまう。
 それほどまでに、手紙に記された内容は衝撃的だった。

『小金井薫と才賀エレオノールとロベルト・ハイドンの三人は、キース・ブラックに従う気はない。三人で商店街に向かう』

 そちらはいい。
 三人とも知らない人間なので、別に疑わしくはない。
 だが、他に記された情報が問題だった。

『コウ・カルナギとジョージ・ラローシュの二人も殺し合いに乗り気ではなく、動物園へと向かった』

 こちらは、その二人を知る鳴海と涼には信じ難いものだった。
 とはいえ、疑っているばかりというワケにもいかない。

「仕方ねえ。俺が動物園まで行ってくるから、涼は商店街に向かってくれよ」
「なッ!? いや、それはまずい。コウ・カルナギは――」
「喧嘩っ早いのは知ってるけどよ、それ以上にお前を狙ってんだろ?
 だったら、お前が行くワケにいかねえだろ。余計に話がこじれちまうだけじゃねえか」

 涼の肩をぽんと叩いて、鳴海はビジネスホテルのロビーから出て行く。

「かといって、三人組を無視するワケにもいかねえしな。
 ない、俺も手紙に書かれてるのが本当かどうか確かめたら、そのうちそっちに向かうからよ」

 そう言って微笑む鳴海に、涼は迷いながらも頷くのだった。

444 名前 : 置き手紙 ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 06:46:00 ID:r3hDRqRa

 
 
 
【E-4 ビジネスホテル周辺/一日目 昼】

【高槻涼】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:左二の腕から先を喪失(処置済)、スーツ@現地調達
[装備]:基本支給品一式、支給品1~3(未確認)
[道具]:なし
[基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。商店街に向かう。
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。
※高速移動を習得しました(原作16巻で使えるようになったもの)。


【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(確認済み)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。動物園に向かう。



【D-4 商店街/一日目 昼】

【ロベルト・ハイドン】
[時間軸]:9巻85話『アノン』にてアノンの父親に悩みを打ち明ける寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(確認済、人形はない)
[基本方針]:人間を見極める。ひとまずしろがねと小金井と同行。残された足跡を追う。


【才賀エレオノール】
[時間軸]:28巻『幕間Ⅰ~「帰れない」』にて才賀勝と再開する直前。
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、自転車@出典不明、アコースティックギター@からくりサーカス、残り支給品0~1(確認済、人形はない)
[基本方針]:とにもかくにもお坊ちゃまを捜索し、発見次第守る。ナルミにも会いたい。残された足跡を追う。
※名簿は『才賀勝』までしか確認していません。


【小金井薫】
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:首に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エレザールの鎌@うしおととら、風神@烈火の炎
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。残された足跡を追う。

445 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 06:46:31 ID:r3hDRqRa

投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

446 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/14(水) 11:22:17 ID:BgXfBCc9

投下乙です
前回の分と合わせて感想書かせて頂きます

いやぁ、このグリーンたまらなくいいですね
すごく好きです
ARMS原作読んでたときはそこまで好きじゃなかったはずなんだけど、ここで読んでからどんどん好きになってきたんだよなぁ
カツミとの思い出を語りながら目頭を熱くするグリーンに悶える

バイオレット姉さーん!
来たよ、この名言が……!
かっこよすぎますね!

ジョージはカルナギを説得できるような人なのか→いや……いやぁ……
不覚にもここで噴いたw
そうだよなぁ、ジョージの煽りスキル知ってたら戸惑うよなw

あと>>442の本文三行目で「彼ら」が重複してるところがありました

447 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 23:24:25 ID:r3hDRqRa

>>446
指摘ありがとうございます。あとで編集しますね。


また書き終わったので、未予約ですが投下します。

448 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/14(水) 23:25:11 ID:BgXfBCc9

 

449 名前 : 檻のなかの獣 ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 23:25:32 ID:r3hDRqRa

 ◇ ◇ ◇


 動物園の入場口は閉ざされていた。
 本来は受付で購入したチケットを係員に見せることで入園を許されるようだが、どうやらこの場に係員はいないらしい。
 顎に手を当てて考え込むジョージ・ラローシュの前で、コウ・カルナギは入場口に大振りな蹴りを放つ。
 ARMS適正者の意識をも奪う蹴りに耐え切れるはずもなく、やかましい音を立てて入場口が吹き飛んでいく。

「道が開いたぜ」

 不敵な笑みを浮かべてふんぞり返るカルナギに、ジョージは肩をすくめる。

「やれやれ。いい加減に私の話を聞いてくれてもいいと思うがな、カルナギ。
 さっきの自動ドアのときも言ったが、そういうゲートには通る手順というものがあるのだ。
 その手順を踏まないにしても、お前の身体能力ならばわざわざ破壊せずとも容易に跳び越え――」

 言い聞かせるようなジョージの言葉は、半ばまでしか告げられない。
 まだ話の途中だというのに、カルナギの拳が腹に叩き付けられたのだ。
 その衝撃で五メートルほど後ずさってから、ジョージはゆっくりと歩み寄っていく。

「手加減をしてくれるのは嬉しいが、いっそ殴らないでくれるともっと嬉しいのだが」
「手加減? この俺が? テメェに? はッ、なに言ってやがる」

 眉をひそめるカルナギに、ジョージもまた眉をひそめる。

「何度も殴られたのだから、さすがに分かる。
 最初に出会ったときのような威力で殴られれば、私は後ずさりする程度で済んでいない」

 意図せず、カルナギはジョージから目を逸らす。
 彼の全体が銀色をした奇妙な瞳が、すべてを見透かしているようだった。
 そんな意図を察するでもなく、ジョージは怪訝そうに首を傾げる。
 その素振りが、カルナギにはとても苛立たしく感じられた。

「知らねえよ、この銀目野郎」

 なのでもう一発蹴りを見舞って、ずかずかと動物園へと入っていく。

「殴らないでくれると嬉しいというのは、蹴りならば構わないという意味ではないのだがな……」

 背後でなにやら聞こえていたが、カルナギは聞き流すことにした。

 しばらくして追いついたジョージとともに、動物園を歩いて回る。
 他の参加者を探しているのはジョージだけで、カルナギのほうはどうでもよかった。
 このプログラムを破壊するのが目的ではあるが、面倒なことをするつもりはない。
 それは、同行者の役割だ。
 カルナギは、ただ活きがいい相手がいれば暴れるだけである。
 そのように思っていたからこそ、すぐに反応することができた。

 いきなり襲いかかってきた――巨大な虎に。

450 名前 : 檻のなかの獣 ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 23:26:05 ID:r3hDRqRa

 
「はッ、なんだテメェはッ!?」

 虎は首が千切れ飛ぶでも、脳震盪で意識を失うでもなく。
 痙攣すらしていない両脚で立ち上がり、カルナギを睨み付けていた。

「ふむ、『ビースト』というらしい。
 そこの看板に書いてあるのが正しければな」

 見当違いの返答をしたのはジョージだ。
 カルナギは一発ブン殴ってやろうかとも思ったが、ビーストが低く屈んだので取りやめる。
 強靭な後ろ足でもって跳び上がる際の事前動作だ。
 その予想通りに、ビーストは勢いよく跳び上がった。

 カルナギではなく――ジョージ・ラローシュのほうへと。

 獰猛な笑みを浮かべて、カルナギもまた跳び上がる。
 空中で身体を捻って、飛び蹴りの体勢となった。

「させねえよ」

 言い終えるよりも早く、赤黒い液体が辺りに撒き散らされる。
 カルナギの飛び蹴りが突き刺さったのは、ビーストの眼球であった。
 眼孔に足を突っ込んで眼球を砕き、そのまま脳を抉り込む。
 虎の強固な骨などでは、カルナギの肉体を遮る障害物にはなり得ない。
 先ほどまでの低い咆哮とは似ても似つかぬ甲高い悲鳴を上げて、ビーストは動かなくなった。

「どうやらこの動物園には、いろいろと仕掛けがあるらしいな。
 キース・ブラックも、ただ殺し合わせるだけではない……ということか」

 一人頷くジョージをよそに、動物園のいたるところからかしゃんかしゃんと奇妙な音が響く。
 ビーストが現れる直前にも聞こえた檻の施錠が解除される音だ。


 檻のなかで閉じ込められていた腹を空かせた猛獣たちが、いま一斉に解き放たれる――!

451 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/14(水) 23:27:23 ID:BgXfBCc9

 

452 名前 : 檻のなかの獣 ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 23:27:36 ID:r3hDRqRa

 
 
 
 
__                        _,-―――= ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄7
\::::: ̄ ̄` ー -- 、  /l         _,-‐:´::::::::::::::::::::::::::::::::::--==ニ二ニ/
  \_::::::::::::::::::::::「 /;;;k          ̄7::::::::::::::::::::::::::::::::::::____/
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      \__:::::::`y;;;;;`i /;;;//;;; ;`i:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
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         」/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;彡::`ーy-,,‐-,< -―‐-、,!ヽ
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       ノヾ{;;;;;;;;;;wヘへ;;f::ノ::/Y;;;;;;;;;;;ノ:::::::::::/´:::::::ヽ      
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     /:::、_:::::::フi!|;;;l ヽ =ノ:::::::≦;;ヾ,/f::::::::`ー'⌒ヽ、::::{      
     (:::::::::`i‐'  l;l  二'`^゙ス:>ヾ;/;;;{-t_::::::::::::::::::l^:::;:::l       
     」::::::::[    _,-<::::::::!┴ ':::{::::l;/l::::◇i:::::::::::::::{〈::,i::}       
    〈ー、:::::::`i、k´;;;;;;;;;;;;;`=、:::::::::::::l::|:::|::j:::: _/::::::::::::::´ヽl:ノ      
    `=≧:i、::::l;;};;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`=、::、┴-!┼':::::::::::/::::::::j::|:ヽ        
      K;l ∧ _v;;;;;;;;;;「 ̄ ̄ ̄ ̄ ゞ=-┴ー'ブ:::::::::/:f´::::::\ 
     V^‐y´ヾ;;;;;;;;;;;;l       ヘ ̄ヽ::::::::::::v-´:/,!:::::::::::::::!、    
          l;;;;;;;;;;;;;ー<     `┬ゝ::::::::_,,-┘/:::::::::::::::::::!、
        _,-‐´;;;ヾ;;;;;;;;;;;」       `ー`-へー<_:::::::::::::::::::::::::::\
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       ∠,,-'´  ̄                    j:/;;;;;;;,、;;;;;;,、\:l
                              ,-‐´^Y /;;;;V/l;;ヾ::`i
                             /,,;;;;;;;;/ /;;;;;;f;l. |;;;;;}::::|
                            /_,-―{_,(;;;;;;;;;{;l i;;;;」;;;ノ

 ※黒炎です。AAが見つからなかったので、黒くて雷を使ってかつサンデーの作品であるキャラで代用しました。




         ,、,, ,、,, ,, ,,
       _,,;' '" '' ゛''" ゛' ';;,,
      (rヽ,;''"""''゛゛゛'';, ノr)
      ,;'゛ i _  、_ iヽ゛';,   
      ,;'" ''| ヽ・〉 〈・ノ |゙゛ `';,
      ,;'' "|   ▼   |゙゛ `';,
      ,;''  ヽ_人_ /  ,;'_
     /シ、  ヽ⌒⌒ /   リ \
    |   "r,, `"'''゙´  ,,ミ゛   |
    |      リ、    ,リ    |
    |   i   ゛r、ノ,,r" i   _|
    |   `ー――----┴ ⌒´ )
    (ヽ  ______ ,, _´)
     (_⌒ ______ ,, ィ
      丁           |
       |           |

 ※ライオンです。まっとうなライオンのAAがなかったので、ラジオ実況スレでよく張られていたもので代用しました。

453 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/14(水) 23:27:58 ID:BgXfBCc9

 

454 名前 : 檻のなかの獣 ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 23:28:27 ID:r3hDRqRa

   ━┓“   ━┓“  ━┓“   ━┓“  ━┓“  ━┓“   ━┓“
   ━┛   ━┛   ━┛   ━┛   ━┛   ━┛   ━┛
                    、,ノl,、{ , _
  _    _          }Vノ;:;:;:;:;:`'´{,       _    _
 」   ̄ ̄ └,        、{;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:レ      」   ̄ ̄ └,
 }  出 死  {       ミ,;:;:;:;:。...。:;:;:;ヒヾ      }  逃 み  {
 }  る 人  {     )、-┌┐;:;:.゙,..,゙:;:;:nゝ  ,    }  げ ん  {   ←これは、動物園にある動物の説明が書いてある看板です。
 」  ぞ が  {   ノ、/;:;:;:;:l・ ,,l;:;:;:´;:;`:;:;l ̄l`';:'-ノ_,. 」  ろ な  {
 }  ぉ     { }ヽソ;:;:;:;:;:;ノt-n';:;:;:;:;:;:;:;ノ,::,_l;:;:;:;:;:;;:;7 }_  ! !  `  {
 }_  ! !    {/;:;:;:;;:;:,、;:;,:l LLLlヽ;、;:;:ノEEEl;:;:;:;:;:;:;:}_ /__   _「
 /__   _「;:::: ;:;::::´、 `''-fココ ll::l;:;:ll .nnn l;:;:;:;;:;:;:;:;:{     ̄
      ̄` ヽ;:; : : ゙  `''''´ミ´r'ヽ;l;:;:ll ';';ニ' l,;:;:;:;:;:;:;:(
         ´`'''─-..._::::.:.:ヾヽ_ `ヽ'、l__l ll }:;:;:;:;:;:)
               `゙-'゙,-,_ツ、゙ヾf´ヽ,っll_{゙:;゙: ゙ソ
              ,、ノ'´;:;:;:;:;:;:;:`ヽl, ,、`ヾ\:ミ、゙
              };:;::;:;::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:'lmn_'ヾ\
           ノ!ノl´;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;::;;:;:;:;;`^!''´ヽ 'ヾ\
           f´;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;;:;:;:;;ヽ、fヽ\
          、ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;;;--;;::;;;;;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;;:;y ¨ヽヽ\、
         r';:;:;:;:;:;:;:;:;;:;:;-''´   ' ' '' `-、;:;:;:;:;:;::;:;;{  `´`'''´

 ※ニホンザルです。ニホンザルです(大事なことなので二回言いました)。




「…………なんだありゃ」
「見慣れぬ獣もいるが、品種を組み会わせでもしたのだろうな。
 まあいい。のちのち襲われる参加者が出ないよう、いまのうちに仕留めておくとしよう」

 唖然とするカルナギの横で、ジョージ・ラローシュは『神秘の球』を展開した。



【E-3 動物園/一日目 昼】

【コウ・カルナギ】
[時間軸]:第五部開始時
[状態]:軽い疲労、両掌に軽い怪我
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:サーチアンドデストロイ。ARMS、鬼丸を特に優先。刃も見つけ次第ブン殴る。ジョージに面倒な事は全部やらせる。とりあえず猛獣ボコる。


【ジョージ・ラローシュ】
[時間軸]:本編死亡後
[状態]:殴られすぎて通常行動は可能な程度にガタが来ている、疲労(小)
[装備]:無し
[道具]:ジードのタバコ@金色のガッシュ、ピアニカ@金色のガッシュ、基本支給品一式
[基本方針]:脱出して子供たちにピアノを聞かせる。乗る気はない。コウと共に脱出を画策する。猛獣退治。

455 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/14(水) 23:29:08 ID:r3hDRqRa

投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。
支援ありがとうございます。

456 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/14(水) 23:41:21 ID:O+tBAMYs

投下乙
ベンが避難所から飛び出してきやがったッ! 死人が出るぞォ!

457 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/14(水) 23:48:56 ID:BgXfBCc9

なんでベンが出てんだよwwwwww
武装してるニホンザルってただのベンじゃねーかよwwwwwwwww

458 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/14(水) 23:51:59 ID:6pSdLbEr

なんでベンが出てくるんだよそこでwwwwww

459 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/14(水) 23:59:32 ID:pRo5oTDy

投下乙
カルナギとかいろいろ言いたい事はあったんだけどこれだけ言っとくわ

ベンが完全武装している!!

460 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/15(木) 08:17:05 ID:fxlOpET6

見直して気付いたのですが、状態表の『昼』は『午前』のミスです。
収録時に直しておきますね。

461 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/15(木) 08:18:43 ID:fxlOpET6

あと、別にベンなんて一文字も書いてないですよ! なに言ってるんですか!

462 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/15(木) 09:32:59 ID:xjmybceG

月報です

話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
115話(+12) 53/80(-3) 66.3(-3.7)

463 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/15(木) 11:20:00 ID:ojTscvyA

乙です
紅煉が参加者として参戦してるのに黒炎が動物園に登場とか深く考えるとなんかありそうな要素だなぁ……
カルナギとジョージの掛け合いは毎度面白くって好きだわーw

464 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/15(木) 17:49:01 ID:28QrJMr0

ラジオ終わって過疎気味になったと思ったら、まさかの連続投下!

グリーンと涼の邂逅は楽しみにしていたので感慨深い
同じ相手を愛して、同じ死を受けて一度は放心状態になったのに、同じ道を行っていないのが彼等らしい
どちらも応援したくなるから困るな……
対してバイオレットは……、進まなかったツケを払わされたのかな。他の人も言ってるけど、潮に期待

そしてAA使った二作はwww空気違いすぎwwwwww
ベンとは名言してないけどベンだろこれwww

465 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/15(木) 21:21:20 ID:SnpL/R4s

ベンが出てきたと聞いてそれだけ煽りにきました

466 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/15(木) 21:27:42 ID:fxlOpET6

感想ありがとうございます。
だからベンだとは明言されていないだろうと(ry

ともあれ報告をば。
>>459と>>460の間に文章抜けてました。


 咆哮を上げて飛びかかってきた虎に対し、カルナギが放ったのは蹴りだ。
 鋭い牙を見せびらかすように大きく開けた口の、その下をピンポイントに掬い上げた。
 下顎が上顎に激突する衝撃は、脳にまで及ぶ。
 ましてやコウ・カルナギの一撃である。
 人間はもちろんサイボーグ兵士や強化人間すら、その衝撃には耐え切れない。
 脳を揺らされて倒れるのではない。
 骨と筋肉が耐え切れずに、『首ごと千切れ飛んでいく』のだ。
 秘密結社・エグリゴリの技術の結晶が、肉食獣ごときに及ばぬはずがない。
 にもかかわらず――


という文章が本来入ってたので、wiki収録時に入れときます。
AA用の行数調整で投下を失敗するとか恥ずかしすぎる。

467 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/15(木) 21:28:56 ID:fxlOpET6

今度は安価先を間違えた……だと……
>>449と>>450の間です。たびたびすいません。

468 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:26:15 ID:J8eF2c3Y

投下します。

469 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:26:20 ID:dPgPZn5c

しえ

470 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:26:25 ID:JZahE78e

 

471 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:26:44 ID:dPgPZn5c

しえ

472 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:27:16 ID:dPgPZn5c

しえ

473 名前 : 誘雷 ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:27:17 ID:J8eF2c3Y

 ◇ ◇ ◇


 蒼月潮の腕のなかで、キース・バイオレットが崩れていく。

 ものの喩えなどではなく――文字通りに、そのままの意味で。

 彼女の全身に亀裂が走っていたのは、彼女を抱きかかえていた潮にはよく分かっていた。
 その亀裂が次第に深くなっていることもだ。
 にもかかわらず、バイオレットは言葉を紡ぎ続けた。
 制そうとした潮の声を遮りながら、言い聞かすような口調で。

「……バイオレット姉ちゃん……」

 瞳に涙を溜めながら、潮は知らず両手に籠める力を強くする。
 その分だけ、バイオレットの身体が崩れる感触が伝わってきた。
 砂場で作った城に触れているような、そんな感覚だ。
 さらさらと、服の下にある体組織がこぼれ落ちていく。

 相棒・とらと妖(バケモノ)退治の日々を送ってきた潮だからこそ、考えてしまうことがあった。

 いかにうしおととらといえど、すべての人間を救えたワケではない。
 救うことができなかった被害者だっている。
 無慈悲に殺されていった彼らの姿を、潮は決して忘れない。

 ゆえに、分かるのだ。
 人間は死んでも、肉体が崩れたりしない。

 潮の知る限りにおいて、このような亡骸を晒すのは――妖だけだ。

 ずっと、不思議ではあった。

 殺し合いの説明の時点で、キース・ブラックがただの人間ではないのは明白だった。
 何せ、とらの雷を受けて、なんでもないように立っていたのだ。
 その後、高槻涼の異形化した右腕に腹を貫かれても、ブラックは死ぬことはなかった。
 傷跡一つ残さず再生した肉体に、集められた参加者たちはどよめいた。
 しかし潮のなかでは、腹を貫かれても生存したことより、とらの雷を防いだことのほうがよっぽど驚きだった。
 ともあれ、あのやり取りでブラックが常人でないのは分かった。
 高槻涼のほうも同じくだ。
 だというのに、殺し合いが始まってから出会ったバイオレットは――彼らの異常な能力についての話をしなかった。
 あんなに明らかであったというのに、触れようとすらしなかった。
 秘密組織・エグリゴリに属するキース・シリーズと、対抗する高槻涼たち。
 そのように説明しておきながら、大事なところが抜け落ちていた。
 潮でも、さすがに不自然に感じた。
 だって、そうではないか。
 エグリゴリのような大きな組織に、単なる高校生たちが立ち向かえるはずがない。

 なにか――潮にとっての獣の槍のようなものでもなければ、相手になるはずがない。

 そのような違和感を抱いていながら、潮は尋ねなかった。
 伏せる理由があるのだろうと、そんな風に勝手に思いこんだ。
 時折紅茶を口に運びながらエグリゴリについて話すバイオレットが、とても悲しそうに見えて――思いこむしかなかった。

 そのためかもしれない。
 ここに戻ってこなくてはならないと、そんなふうに考えたのは。
 ただ悲しそうだったからではなく、なにか大事なことを隠しているように思えたから。
 抱え込んでいるように見えたから。

 そこまで考えて、潮は腕のなかのバイオレットに視線を戻す。
 砂像のように脆い亡骸は、やはり人間のそれではあるまい。

474 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:28:06 ID:dPgPZn5c

しえ

475 名前 : 誘雷 ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:28:28 ID:J8eF2c3Y

 
(だッたら……なんだってんだよォ!)

 白狐に似た小妖怪。
 カマイタチの兄妹。
 意地っ張りな蛇妖。
 実直なカラス天狗。
 人に化ける大天狗。
 時空を遡る鏡の妖。
 そして――金色の体毛を持つ、雷と火の化生。

 彼らのことを、潮は知っている。
 肩を並べて一緒に戦える妖の存在を、よく覚えている。

 人間みんながいいヤツでないように、妖すべてが倒すべき悪党というワケではない。

 だからたとえバイオレットが人間でなくとも、関係がない。
 重要なのは人間か否かではなく、彼女自身が信用できるかであり――

 その答えなど、とうに決まっていたではないか。

 とらとともに過ごした日々が、戸惑いを振り払ってくれた。
 どこかでとらが笑ったような気がして、潮は「うるせえや」と胸中で呟く。

 これ以上崩れてしまわぬよう、潮はバイオレットをやさしく床に横たえる。
 そうして即席槍を手に取ってから、眼前の少年を見据える。
 金色の髪に、力強い眼光。
 彼の外見は、キース・ブラックやキース・バイオレットによく似ていた。
 ただ、彼らより年齢が一回りほど低く見える。
 潮より少し年上の、高校生程度であろうか。

「アンタが、バイオレット姉ちゃんの弟の……キース・グリーンだよな?」

 潮がバイオレットの話を思い返しつつ尋ねると、少年は静かに肯定した。
 元より鋭い視線をさらに鋭利にしながら、少年は口角を吊り上げる。

「だからどうしたと言うんだ?
 僕が姉さんを殺したからといって、君になんの関係がある?」

 挑発しているということは、潮にも理解できた。
 理解できたが、一気に頭が熱くなってしまうのは止められない。

「姉ちゃんは……っ! 姉ちゃんはずっと悩んでたんだぞ! 殺し合いが始まってから、ずっと!
 兄貴に殺し合えなんか命令されて、他の兄弟も巻き込まれて!
 なのに、お前は……! なんでだよ!? どうしてそんなことができるんだよ!? 兄貴に言われたからって……!」

 即席槍を振りながら、潮が声を張り上げる。
 頭で考えるより先に口が動いてしまっており、時々言葉がつかえる始末だ。

「誰だか知らないが、勘違いするなよ」

 潮とは対照的に、グリーンはひどく落ち着いた態度で答える。

「兄さんに言われたからじゃない。
 僕は僕自身の『意思』で前に進むために、姉さんを殺した。それだけだ!」

 言い切って、グリーンは左手で宙を薙ぐ。
 怪訝に思っている潮の首筋に、誰かが触れる感覚があった。

476 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:29:01 ID:dPgPZn5c

しえ

477 名前 : 誘雷 ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:29:13 ID:J8eF2c3Y

「うしおッ!!」

 響いた声は、秋山優のものだ。
 彼に持ち上げられたのだと、潮は凄まじい速度で切り替わる視界のなかで理解する。
 しかし、いったいなんのために――
 そんな潮の疑問は、すぐに解消された。
 先ほどまで潮が立っていた床に、切れ目が入っているのだ。
 いうや、床だけではない。
 机が、椅子が、壁が、天井が――横たわらせたバイオレットの亡骸が。
 グリーンのいる地点から直線状にあるすべての物体が、縦に切断されているのだ

 さながら、長大な刃を思い切り振り下ろしたかのように。

「へえ、避けたか。完全に不意を打ったつもりだったんだけどね」
「……なにかしてくることくらい、視線で読み取れたさ。
 運悪く、殺し合い早々にあんなのと出会ってしまってね。
 そりゃあ、『なにか出してくるかもしれない』くらいの発想には至るさ」

 背後で浮かぶ紅煉を顎で指して、秋山は自嘲気味に笑う。
 グリーンだけでなく、潮も納得する。
 とらや紅煉が参加している以上、そういう可能性も考えておくべきだったのだ。

「だが一度や二度避けられたところで、なにができる」

 秋山に首筋を掴まれたまま、潮は歯噛みする。
 まさしく、グリーンの言う通りであった。
 近付かねば、槍は当たらない。
 とはいえ近付けば、不可視の剣に斬り裂かれる。
 身を隠そうにも、障害物など関係なく斬り刻まれるのは明白だ。

 獣の槍さえあれば、多少の怪我は無視できるものの――
 生憎にも手元にあるのは、支給された武器を組み合わせただけの即席槍。
 一度でも身体を斬られてしまえば、それだけでもう戦闘の続行は難しくなるだろう。

 そのように考えていると、秋山が横に跳んだ。
 掴まれている潮も、当然引っ張られる。
 今度は左手を動かすこともなく、まったくの無動作で不可視の剣が振るわれた。
 床に刻まれた切れ目が迫ってきたから、秋山はどうにか気付けたのだろう。

 だが――紅煉のほうは、そうではなかったらしい。

「あァ?」

 空中に浮いたまま、紅蓮が呆けた声を漏らす。
 その右腕は肘から先がなく、左腕は肩口から先がない。
 両腕が床に落下するより、グリーンの追撃のほうが早い。
 次の瞬間には、紅蓮は上半身と下半身で分けられてしまっていた。

 潮は無残な姿に成り果てた紅煉を眺めたままで、秋山は悔しそうに歯噛みする。
 勝利を確信したのか、グリーンは紅蓮から視線を外して――僅かに口元を緩めた。

 ――その笑みは一秒と保たれず、焦燥に呑み込まれる。

「おいガキィィィ、なァァにをニヤついてやがる。
 もしかしてだけどよォ……テメェ、勘違いしてんじゃァねえだろうなァ。
 両腕落として真っ二つにした程度で、妖の息の音が止められるとでもよォォォォッ!」

478 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:29:31 ID:JZahE78e

 

479 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:29:44 ID:M0ptvpPu

しえん

480 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:30:16 ID:dPgPZn5c

しえ

481 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:30:17 ID:JZahE78e

 

482 名前 : 誘雷 ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:30:24 ID:J8eF2c3Y

 
 紅煉が言い終えるより早く、雷鳴が喫茶店内に轟いた。

 潮には、最初から分かっていた。
 警戒心を怠っていたがゆえに、紅煉は迫り来る切れ目に気付かなかったのではない。
 わざわざ警戒する理由がなかっただけである。
 ただ斬られただけでは、妖は死なないのだから。



「ちィ、逃げやがったか。
 あの野郎、さっきの式神みてェな能力使いやがる」

 紅煉が吐き捨てた言葉に、潮は目を見開く。
 一方、秋山にとっては意外でもなんでもない。
 彼に支給されたのは、参加者の情報がまとめられた情報端末だ。
 キース・グリーンのARMS『チェシャ猫(キャット)』の能力が『空間操作』であることは、とうに分かっていた。

「そんな能力も持っていたとはね、見通しが甘かった」

 ただ、それを紅煉に知られるワケにはいかない。
 なのでいちいちこうして一芝居打たねばならないのだが、秋山にとって難しくはない。
 彼はまたの名を、卑怯番長という。
 他者を欺くことなど、手間ですらない。

「やれやれ、それにしてもね。
 こっちが演技してやってたんだから、きちんと仕留めてくれよ」
「かッ! もしテメェが俺が死んだと思って安心してると思うと、黙ってる気にゃァなれなかったんだよ!」

 斬り落とされた部位を切断面にくっつけながら、紅煉は舌を出す。
 口に備え付けられた三振りの霊刀の間で、真っ赤な舌はやけに鮮やかだ。
 秋山はしばらく黙りこんでから、ふと思い出したように切り出す。

「ところで、さっきの傷はもう大丈夫かい?」
「はん、テメェら貧弱な人間と一緒にするなよ。
 あの見えねえ攻撃は厄介だが、切れ味がよすぎるのが逆に都合いいぜェ。
 くっつけてちょっと放っておくだけで、もう治っちまった。ぎゃひゃひゃひゃッ!」

 高笑いしながら、紅蓮は両腕を回して腰を捻る。
 その動作を見るに、たしかにすでに完治しているようだ。

「へえ、そいつはよかった」
「んだよ、テメェにんなこと言われる筋合いはねェだろが」
「いや、あるさ」
「あァ!? 気味悪ィことのたまってんじゃァねえやッ!」

 首を傾げる紅煉に、秋山は満面の笑みを浮かべた。

「あんな姿になってちゃあ、せっかく飲ませた爆砕符も簡単に取り出せてしまうからね」
「あ゛っ」

 紅煉の声が裏返る。
 口が大きく開かれ、目は丸くなり、漆黒の体毛はいっせいに逆立つ。
 そんな状態で硬直した紅煉をしげしげと眺めてから、秋山はさらに笑みを深くする。

「まあ、強引に体外に出そうとしたらすぐに発動するようにしてあるんだけどね。
 当然だよね。妖が真っ二つにした程度で死なないのなんて、僕ら符咒士界隈じゃ常識なんだから。
 よかったじゃあないか。君の頭が下手に回らなかったおかげで、こうしてまだ生きていられるんだもの」

483 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:31:25 ID:dPgPZn5c

しえn

484 名前 : 誘雷 ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:31:31 ID:J8eF2c3Y

 
 紅煉は口籠った挙句、またしても例の単語を口にしてしまうのだった。
 喜ばせるだけなことくらい、もう思い知っているだろうに。

「ぐ……この卑怯モンめ……!」
「そんなに褒めてくれなくてもいいのに」

 地団太を踏む紅煉から視線を外して、秋山は潮のほうに向き直る。

「うしお、君が持っておけ」
「これは……姉ちゃんの」

 秋山が手渡したのは、キース・バイオレットの物と思われるデイパックである。
 なかは一応確認してある。
 役に立たない物ばかりというワケではないが、これは潮が持つべきだと思えた。

「優兄ちゃん、グリーンのヤツはどうして……」

 潮は半ばで言葉を呑み込んだが、言わんとすることは明らかだった。
 秋山は潮の髪に手を伸ばして、くしゃくしゃと掻き回す。

「わわっ! なにすんだよ、兄ちゃん!」
「理由なんか考えたって仕方ないさ」

 こちらを見上げる潮の瞳を、秋山はまっすぐに見据える。

「アイツは自分のために家族を殺した。そんなヤツを認める気にはなれないね」

 自分のために兄弟を殺す。
 その行為は――秋山にとって、他のなにより許せない。

 ぽんと潮の頭を叩いて、秋山はいくつか切れ目の入った喫茶店の天井を見上げる。
 十三人の弟妹の姿が、不意に脳裏を過る。
 彼らのためならば、秋山はどこまでだって卑怯になれる。
 一人として血が繋がっていなくとも、彼らは自分を兄ちゃんと呼んでくれるのだ。

「おうおう、なァに呆けてやがる」
「――――っ」

 物思いにふけっている秋山の視界に、不意に紅煉が入り込む。
 どす黒い妖が飛び込んできたせいで、弟妹たちの姿は一瞬のうちに霧散してしまった。

「…………天地万物の正義をもちて」
「なあッ!? いまは、別になんにもしてねえだろーがッ!」

485 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:31:45 ID:dPgPZn5c

しえん

486 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:31:53 ID:JZahE78e

 

487 名前 : 誘雷 ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:32:05 ID:J8eF2c3Y

 
 
 
【E-5 喫茶店/一日目 午前】

【蒼月潮】
[時間軸]:26巻第42章『三日月の夜』直後。
[状態]:健康
[装備]:制服、即席槍(ジャバウォックの爪@ARMS+操り糸@からくりサーカス+神通棍@GS美神)、ヴィルマのナイフ(6本)@からくりサーカス
[道具]:基本支給品一式×2、操り糸(3/4)@からくりサーカス、ガッシュの魔本@金色のガッシュ)、支給品1~2
[基本方針]:仲間を集めて殺し合いを止める。とら? 勝手にしろィ!
※バイオレットからプログラムについて他のキースシリーズ、オリジナルARMS勢の情報を貰いました。
 ただし、ARMSについては教えて貰っていません。


【秋山優(卑怯番長)@金剛番長】
[時間軸]:最終決戦後、後日談の前
[状態]:健康
[装備]:霊符(残り30枚)、ヒョウ(残り15本)、参加者名簿入り携帯端末@オリジナル(ポケット)、サバイバルナイフ(腰)@現地調達
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、ヒョウ(25本)&符(50枚)&十五雷正法説明書@うしおととら、
    、不明支給品1(秋山は確認済)、1~3(秋山と紅煉が確認済み)、デパート内で回収したものいろいろ
[基本方針]:あらゆる卑怯な手を使ってこの街から脱出し、家へ帰る。体内に爆砕符があると思い込んでいる紅煉を脅してうまく利用する。


【紅煉@うしおととら】
[時間軸]:本編にて死亡後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:秋山優をなんとか隙を見て喰い殺す。それまでは死にたくないので従う。秋山を殺せたらあとはひたすら参加者を喰い殺す。
※「黒炎(分身というか手下と言うか、まあセルジュニアみたいなもの)を生む能力」は制限により使用不可。

488 名前 : 誘雷 ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:32:36 ID:J8eF2c3Y

 
 
 ◇ ◇ ◇


 空間移動で飛んだ地点にて、キース・グリーンは苦々しい表情で立ち尽くす。

 元より、紅煉には細心の注意を払っていた。
 プログラムの説明の際、キース・ブラックに電撃を放った獣と似た外見をしていたからだ。
 エグリゴリの技術で作り出された猛獣とでも認識していたが、あそこまで耐久力があるとは思っていなかった。
 完全に計算違いである。
 率先して仕留めようとした意味が、まったくないではないか。
 こちらの能力が知られていないうちに、どうにか倒しておきたかった。

 ――ARMSの性質を考慮すれば、なおさらだ。

 いかなるダメージもたちどころに回復するARMSだが、弱点が二つある。
 一つは、体内に埋め込まれたARMSコア自体の損傷だ。
 コアが完全に砕かれてしまえば、適正者の肉体は崩壊する他ない。
 そして、もう一つが電撃である。
 電撃を受ければ、ARMSを構成するナノマシンは一時的に機能を停止する。
 ARMSの特性である『自己進化』により耐性は作られるが、紅煉の電撃はチェシャキャットの耐性を上回る威力であった。

 ゆえに、逃亡を図った。

 まず即座に発動させられる短距離空間移動で、喫茶店外に飛び出し――
 それから発動まで僅かに時間のかかる長距離空間移動で、隣のエリアまで移動したのだ。
 長距離空間移動による体力消費が当初の予想より遥かに大きいのは、二度使用した時点ですでに分かっていた。
 リスクを踏まえた上で、カードを切ったのだ。

 フラッシュバックしたのは、コウ・カルナギとの邂逅だ。
 自らが最強のARMSでないと自覚しながら、最強にのし上がるつもりのなかった頃。

 あのときとは――違う。

 先のために消耗を抑える気はない。
 次の一戦を意識しながら、他者と戦闘する気はない。

「ここは……」

 ひとりごちて、グリーンはレーダーを取り出す。
 ディスプレイに映し出される内容によれば、現在地は喫茶店からまっすぐ東に移動したエリアF-5であるようだ。
 海岸付近に、二つの光点が表示されている。
 体力の消費具合を考慮するに、やはり近距離まで歩み寄ってから空間移動を使うべきだ。

 そう判断して歩みを進めていると、グリーンの身体が突如震え上がる。

 チェシャキャットがARMSの共振を捉えたのである。
 しかしその反応は、グリーンの知るどのARMSのものとも違う。
 脳裏を掠めるのは、初めて敗北を喫した相手であるジェームズ・ホワンの姿だ。
 彼は量産型の『モデュレイテッドARMS』を使っていた。
 もしかしたら、この殺し合いにもモデュレイテッドARMSの適正者がいるのかもしれない。
 そう思うだけで、グリーンは意図せず歯を噛み締めていた。
 レーダーに光点を表示させておく必要など、もはやなくなった。
 共振を辿ればいいだけなのである。

489 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:32:43 ID:dPgPZn5c

しえn

490 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:32:46 ID:JZahE78e

 

491 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:34:02 ID:dPgPZn5c

しえん

492 名前 : 誘雷 ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:34:06 ID:J8eF2c3Y

 
 ほどなくして、グリーンは共振から数十メートルほどの地点に到着する。
 歩む速度を緩めて、より神経をとがらせる。

 そんなグリーンの行動を読み取ったかのように、幼さを帯びた声が響いた。

「『ザケル』」

 声のしたほうから、青白い電撃が飛んでくる。
 グリーンは背後に跳んで、すんでのところで回避する。
 電撃はグリーンが先ほどまでいた地点に的確に命中し、衝撃で地面が大きく抉れた。

「クハハ、いい反応をするじゃないか」

 哄笑しながら、声の主が歩み寄ってくる。
 その姿を見て、グリーンは眉をひそめてしまう。
 まだ小学校低学年ほどの子どもにしか見えないのだ。
 とはいえ、だからといって警戒心を緩めることはない。
 電撃はARMSの弱点である。
 まだ幼い子どもにしか見えないが、下手をすれば敗北を喫しかねない。

 それにしても――と、グリーンは思う。

 あまりにも、電撃を放つ参加者が多すぎる。
 これまでにグリーンが出会った参加者は十人だが、そのうち三人が電撃を使うではないか。
 慢心や油断を捨てる決意をしたものの、ARMS自体が機能停止しては戦いようがない。
 空間移動で逃げることすらできなくなるのだ。

 先ほどと同じように空間移動を発動させようとして、グリーンの頭にある策が浮かぶ。

「キミ、名前はなんと言う?」

 笑顔で尋ねると、少年は眉根を寄せる。
 答える気はないらしい。
 別に、グリーンは構わなかった。
 いきなり仕掛けてきたことから、少年が殺し合いに乗っているのは明らかだ。
 ならば、それだけで十分だ。

「ここからまっすぐ西に一エリア進むと喫茶店がある。
 そこに三人ほど参加者が集まっているから、彼らと戦ってくれないか」

 少年はしばし唖然としてから、獰猛な笑みを浮かべた。

「そうかそうか……!
 ならば、そいつらを仕留めてやるさ。貴様を殺してからなッ!」

 歯を剥き出しにして、紫電の眼光がきらめく。
 少年のその反応は、グリーンの予想通りであった。

「残念ながら、そうはいかないな」
「ふん、ナメるなよ。貴様を逃がすとでも――」

 少年が言い切るのを待たず、グリーンは空間移動を発動させた。

493 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:34:26 ID:JZahE78e

 

494 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:34:47 ID:dPgPZn5c

しえん

495 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/29(木) 23:35:05 ID:dPgPZn5c

しえん

496 名前 : 誘雷 ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:35:19 ID:J8eF2c3Y

 
 
 
「芳乃ッ!!」

 少年――ゼオン・ベルが怒りを露にしながら、忠実な部下を呼びつける。
 全力疾走でやってきた染井芳乃は、おどおどした様子でゼオンに用を尋ねる。

「先ほど捉えた反応を探れッ!」

 声を荒げるゼオンだったが、芳乃は申し訳なさそうに頭を垂らすばかり。

「すみません、ゼオン様。
 なんの反応も感知できません……おそらくかなり離れられたものかと」
「ちいいいッ!!」

 ゼオンが、跳び上がって芳乃の胸ぐらを掴む。
 魔界の王となるべきゼオンが、名も知らぬ男に命令されたのだ。
 身の程を分からせてやる暇もなく、逃げられてしまったのだ。
 到底、許せるはずがない。

 対して芳乃は謝るばかりである。
 神慮思考による記憶操作で忠実な部下となっているからであるのだが、これはこれでおもしろくない。
 ゼオンは芳乃の胸ぐらから手を放し、西に視線を飛ばす。

「……しようがない。
 この怒りを、ヤツの言っていた三人とやらで晴らすとするか」

 ゼオンの手元で、青白い電流が火花を散らした。



【F-5 倉庫周辺/一日目 午前】

【ゼオン・ベル】
[時間軸]:リオウ戦後、ガッシュの記憶を垣間見るより前。
[状態]:疲労(小)、腕と腹部にダメージ(傷は塞がったが完治とは言い難い)、睡眠中
[装備]:ゼオンのマント、ゼオンの魔本@金色のガッシュ!!、神慮思考@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式、獣の槍@うしおととら、金糸雀@金剛番長、携帯電話(とらの写真&動画)@出典不明、モデュレイテッドARMSのリミッター解除装置@ARMS
[基本方針]:殺し合いに優勝し、バオウをこの手に。ひとまず回復を待ち、回復しきったら倉庫を調査。


【染井芳乃】
[時間軸]:9巻2話『獣人伝承2』以降、保存版文庫版収録の『GOLD RUSH』より前(=高校在学中)。
[状態]:モデュレイテッドARMS化、記憶操作(※)
[装備]:制服(右腕の裾が無くなっている。スカートがミニスカ状態)、モデュレイテッドARMSの核(体内)@ARMS
[道具]:基本支給品一式×2、とらの毛数本@現地調達品、ジップロック×5@現地調達品、牛丼×2@うえきの法則
[基本方針]:ゼオン様の優勝を全力でサポート! 警戒を続ける。
※ゼオンの能力で名前以外の記憶を奪われ、神慮思考によりゼオンの僕としての記憶を植え付けられました。

497 名前 : 誘雷 ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:36:03 ID:J8eF2c3Y

 
 
 ◇ ◇ ◇


 ゼオンと芳乃が遠ざかるのを待って、キース・グリーンは大きく息を吐いた。
 狙い通りに勘違いしてくれたようだが、グリーンは遠くまで行ったワケではない。
 ただ近距離空間移動で距離を取って、いままで息を潜めていただけだ。
 ARMSの共振波など、ARMSの扱いに慣れていれば好きなように制御できるのだ。

「ふう。ひとまず、これでいいかな」

 レーダーを確認してみれば、ゼオンと芳乃の反応はまっすぐ西に向かっている。
 このまま動けば、喫茶店に到着することだろう。
 他の反応はないので、グリーンはしばらく身を休めることにする。
 長距離空間移動を短時間で三度使ったのは、あまりに無計画すぎたと言わざるを得なかった。
 そのすべてがどうしても必要な事態ゆえの発動だとはいえ、である。

「僕が休んでいるうちに、せいぜい殺し合ってくれ。
 電撃を放つ者同士で相打ちでもしてくれれば、それこそ最良だな」

 軽口を叩くような口調で言うと、グリーンは倉庫に背中を預けて目を閉じた。



【F-5 倉庫周辺/一日目 午前】

【キース・グリーン】
[時間軸]:コミックス17巻NO.11『死王~バロール~』にて共振を感じ取って以降、コミックス18巻NO.3『聖餐~サクラメント~』にてキース・ブラックの前に立つ前。
[状態]:疲労(大)、共振波抑え中
[装備]:いつものスーツ、参加者レーダー@オリジナル
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、カツミの髪@ARMS(スーツの左胸裏ポケット)
[基本方針]:なんとしても最後の一人となる。そのためなら兄さんや姉さんだって殺すし、慢心を捨てて気に入らない能力の使い方だってする。ひとまず回復待ち。
※空間移動をするとかなり体力を消耗するようです。
※レーダーに、御神苗優は反応してません。理由は以降のSSに任せます。

498 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/11/29(木) 23:36:37 ID:J8eF2c3Y

投下完了。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

499 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/30(金) 00:19:00 ID:o9WK+WiW

投下乙
潮の真っ直ぐさはいいよなぁ本当
(だッたら……なんだってんだよォ!)
のセリフすっげー好きだわ。
卑怯と紅蓮の主従も相変わらずいい関係してるw
で、グリーンですよ。
こいつも事情があるとはいえ、潮達にそれを察しろってのは酷なはなしだし……
それにしても相性悪い奴とちょいちょい当たるってのがドンマイとしかw

そしてゼオンが喫茶店組に突入かよおおおお
これは次回以降が気になる引きでした

あらためてとうかおつです

500 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/30(金) 10:44:32 ID:nMIganJ5

投下乙です
潮ー!あんたすでに凄い槍持ってる持ってるーーー!!!!
ARMS殺しとガッシュの魔本があって、こちらに獣の槍が向かってくるのか…
なんとか獣の槍とジャバの爪を合体出来たら最強の槍なのになw
ギエメイさんが魔獣化するかもしれんが

501 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/11/30(金) 10:52:08 ID:nMIganJ5

間違えた、ジエメイとギリョウが混ざってしまったw

502 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:07:08 ID:CFara2jM

投下します。

503 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:08:16 ID:QuEQGEpW

 

504 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:08:26 ID:AZSJjw7s

 

505 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:08:54 ID:CFara2jM

 
 
 ◇ ◇ ◇


 横島忠男の眼球を抉り取ろうとしていたさとりは、唐突にその動きを止めた。
 三日月状の刀剣・魔道具『海月』を振りかざしたまま、不自然な体勢で硬直する。

「な、なんだってんだ、いきなり……」

 対する横島のほうもまた、霊波刀を構えた状態で首を傾げる。
 よもやこちらの意図を汲んで、人殺しをやめてくれる気になったのだろうか。
 いや、そうに違いない。たまには勇気を振り絞ってみるものだ。超逃げたかったけど、そうしなくて正解だった。よかったよかった。

 そんな思考が『心を読む妖(バケモノ)』であるさとりに流れ込んでくるものの、まったくの見当違いだ。

 横島の言い分なぞ、知ったことではない。
 そもそも、さとりには横島の言わんとすることの半分も理解できていない。
 妖でも家族になれる可能性があるのならば、同行者に一度伝えてみようと思ったくらいだ。
 つまるところ、動きを止めた原因は他にある。

 これまで静止していたさとりが、凄まじい速度で首を捻る。
 その視線の先にいるのは、三人の少年少女だ。

 へたり込んでいる華奢な少年、バロウ・エシャロット。
 彼を庇うように立つ筋肉質なモヒカン少年、石島土門。
 剣を構える額から二本の角を生やした少女、霧沢風子。

 彼らの思考が、さとりへと流れ込んでくる。
 彼らがいったいなにをしようとしているのか、さとりには読み取れる。

 『彼ら』というより、『彼女』が問題だった。

 霧沢風子の脳内は、さとりの同行者への殺意で埋め尽くされていた。
 その全身から放たれる妖気は、彼女が少女の外見をした妖であることを雄弁に語っている。

「バロウ……!」

 意図せず、さとりは同行者の名を呟いた。

 ほんの数ヶ月前まで――
 さとりという名の妖は、一人きりで山奥に生きていた。
 どれだけ日にちが経とうと、どれだけ季節が過ぎようと、どれだけ年が変わろうと。
 いつだって、たった一人。
 心を読む能力を持っているというのに、一人ぼっち。
 別に、山が嫌いだったワケではない。
 むしろ、自分の住処のことは好いていた。
 石も、花も、樹も、みなそれぞれ美しい。
 ただ、考えていることはいつもあまり変わらない。
 時たま鳥や虫を見つけても、彼らはすぐにいなくなってしまう。
 それに、彼らもまた、ほとんど常に考えていることは同じだ。
 退屈な日々を、はたしてどれだけ過ごしただろうか。
 なまじそうそう早く寿命を迎えぬ妖ゆえ、過ぎた年月はもはや数えることさえできなくなっていた。

 そんなある日、さとりは人間に出会った。

 本来人間など足を踏み入れぬ山奥に、偶然にも飛行機が墜落したのだ。
 その事故唯一の生存者であったミノルという少年は、それまでさとりが見てきた他のものとはまったく違っていた。
 石よりも、花よりも、樹よりも、鳥よりも、虫よりも、ずっとずっと多くのことを考えていた。
 最初は恐怖で埋め尽くされていた思考が、少し声をかけただけで安心感に変わっていく。

506 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:09:12 ID:aSiSWzjt

 

507 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:09:53 ID:CFara2jM

 飛行機の破片が散らばる場所では危険だからと、ちょっと手を引いてやっただけで、その安心感は増していく
 くれてやった木の実が苦いというので、車を襲って調達したパンを手渡した。ただそれだけなのに、脳内に感謝と歓喜の念が満ち溢れる。
 さとりは、そのような存在を知らなかった。
 心を読む能力を持ち合わせていながら、自分へと向けられた思いを読んだのは――初めての経験であった。
 かつて気まぐれで鳥に餌をやったことがあったが、これほど豊かな感情を抱かれたことはない。
 ただ好きに食い散らかして、すぐに飛び立ってしまうばかりだった。
 腹を満たせたことへの安心こそあれど、そこにさとりへの思いはない。
 だが、ミノルは違った。
 満面の笑みを浮かべて喜び、感謝し、そしてこう呼んでくれるのだ。

 『お父さん』――と。

 理由はよく分からないが、さとりには嬉しかった。
 ミノルが笑みを浮かべてくれると、胸が熱くなるのだ。
 それまで退屈だった日々が、キレイに彩られたようだった。

 だから、さとりはキース・ブラックの指示に従った。
 ミノルの目が治れば、きっともっと微笑んでくれるはずだから。
 そう信じて、最後の一人になる決意を固めたのだ。

 しかしその願いが叶わないことを知るまでに、さして時間はかからなかった。
 夜明け前に遭遇したバロウが、きっぱりと否定したのである。

『妖では、人間の家族にはなれない』

 他の誰かが否定してきたのなら、さとりは信じなかっただろう。
 でまかせと決め付けて、海月で斬り捨てていたはずだ。
 それをしなかったのは、バロウもまた人間ではなかったからだ。

 人間ではなく、人間でないがゆえに――人間と家族になれなかった。

 そんな悲痛な記憶が流れ込んでくれば、いかにさとりとて信じるしかない。
 そうして目的を失ったさとりに、バロウは手を伸ばしてくれた。

『おじさんも、人間になればいいじゃないか』

 人間でないにもかかわらず、人間と家族になりたい。
 バロウが語った夢は、さとりが望むものとまったく同一であった。
 その話を聞いている際に流れ込んできたのは、バロウが描く幸せな未来のヴィジョン。
 妖でなくなったバロウは、屈託のない笑顔を浮かべていた。
 それを視てしまったがゆえに、さとりは伸ばされた手を取った。

 すると、バロウは――たしかに微笑んだ。

 ミノルと同じように、心からの笑みを浮かべたのだ。
 その笑顔を崩したくないと、さとりは思った。
 できることならば、ミノルだけでなく、バロウとも笑って幸せに暮らしたい。
 それが叶わないのは、さとりにも分かっている。
 バロウの望みは、さとりではない他の誰かと家族になることだ。
 願いを叶えられるのが一人である以上、いつか確実にぶつかることになる。
 心を読めるさとりは、バロウがいずれさとりを殺すつもりであるのも承知している。
 それでも、構わなかった。
 最終的に殺し合うのを承知で――ただ、一緒にいたかった。

「バロウに怖いことさせるものか」

 言い終えるより先に、さとりは跳び上がっていた。
 虚を衝かれたらしい横島の驚愕する声が背後から聞こえたが、耳を貸す気はない。
 横島の眼球を手に入れるよりも、優先せねばならない事態である。

508 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:10:08 ID:QuEQGEpW

 

509 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:11:12 ID:CFara2jM

 
「バロウに近づくなァ!」

 ほんの三回跳んだだけで、さとりは風子の下へ到達する。
 すぐ近くにいた土門を無視して、標的を風子一人に絞る。
 とうに読めている思考を踏まえて、剣で受け切れぬ方向へと海月を振り下ろす。

 ――彼女の身体に触れる寸前で、三日月状の刃は静止した。

 そこにはなにも存在しないはずなのに、どれだけ力を籠めようと海月は風子に届かない。

「なん、であ゛ッ」

 さとりの驚愕の声は、半ばでくぐもったものに変わる。
 なにか目に見えぬものが、凄まじい速度で鳩尾に激突したのだ。
 衝撃で僅かに呼吸が止まる間に、さとりは黙視できぬなにかの正体を知った。
 いや、知ったのではない。
 ご丁寧なことに、『教えられた』のだ。

 眼前の少女でも、他の二人でもない――別の声に。

『身の程を知るがよい、妖怪。
 貴様ごときが、我が風を破れるはずがなかろう』

 ここに至って、さとりはようやく相対している妖の正体を理解する。

 風子のほうはあくまで憑代であり、本体は彼女の持つ風神剣であったのだ。

 まるで威圧するかのように、風子が一歩ずつゆっくりと歩み寄ってくる。
 さとりは逃げ出すことさえできない。
 思考が読めるからこそ、逃げたところで意味がないと分かってしまう。
 ただ、背後で震えるバロウを守るように、ほんの僅かに前に出ただけだ。

「死ね」

 短く吐き捨ててて、少女は剣を振り下ろ――さなかった。

「おいおいおいおい、風子様よォ。
 せっかくのデートなのに彼氏放って他の男とお楽しみなんて、そりゃあねえだろうが」

 風子とさとりの間に、石島土門が割って入っていた。
 その手には、真っ赤なバラの花束が握られている。

「いやいや、最初に道具確認したときから思ってたけど、キース・ブラックのヤツも意外に気の利いたもん渡しやがるよな。
 この俺にバラの花束なんて、まったくお似合いってレベルじゃねえ。ま、アイツに感謝なんか死んでもしてやらねえけどよ」

 軽口を叩くような口調とともに、土門は花束を前に突き出す。

「俺だけじゃねえんだぜ、風子。
 お前に似合うのはそんな物騒な剣じゃねえ。こいつだ。どうか受け取ってくれよ、マイステディ」
「ふざけんな」

 ウインクを決めての決めゼリフは、たった五文字で切って捨てられた。
 土門はやけに演技がかった大げさな動作で、肩を落としてみせる。
 そんな素振りが癇に障り、風子は語気を強くする。

「テメェ……いい加減にしろッ! 脳ミソとろけちまったのか、腐乱犬!
 ンなふざけたことぬかしてる場合じゃあねえだろうがッ!! 烈火は死んだんだぞ、みーちゃんもだ!
 それ分かってんのか! もしかして『実は生きてる』とか、そんなありえねー夢見てんじゃねえだろうなッ!?」

510 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:11:14 ID:QuEQGEpW

 

511 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:12:03 ID:ELJxP57Z

しえん

512 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:12:18 ID:QuEQGEpW

 

513 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:12:32 ID:aSiSWzjt

 

514 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:12:36 ID:CFara2jM

 
 風神剣から放たれる風が、あからさまに強くなる。
 激しい風にモヒカンをなびかせながら、土門は微かに目を細めた。

「分ぁーってんだよ、んなこと」
「なら――」
「るっせえな。黙って話聞いてろよ」

 風子の声を制して、土門は一呼吸置いてから切り出す。

「下らねえ夢なんか見てられるワケねえだろ。
 花菱のバカ野郎は、この土門ちゃん逃がすために命捨てやがったんだからよ」
「――――っ」
「バカだよな、ほんと。
 死んだら終わりだってことくれー、アイツもよく知ってるだろうに。
 何せ、俺たちゃこの歳で、何人も死んでくヤツら見てきちまったんだからよ。
 はっ! あんまり寂しくて夢に出てくるくれーなら、死んでんじゃねーっつんだよな」
「だ、だったら……!」

 風子の身体が小刻みに震える。
 困惑と怒りがない交ぜになっているのが、さとりには読み取れた。

「だったらなおさらだ! バカ野郎はテメェだ、バカ野郎!
 目の前で烈火殺されて、なにのうのうとしてやがんだ! そんなんでいいのか、テメェは!?」

 絶叫は住宅街に響き渡らず、付近にいるものにしか届かない。
 よりいっそう激しくなった風によって、掻き消されているのだ。

「ああ、いいぜ。
 おっ死んじまったヤツのために、わざわざ手ぇ汚す気はねえよ。汚させる気もねえ。それこそバカ野郎じゃねえか」

 風子は目を見開いたのち、ゆっくりと頭を垂らす。
 表情が窺えない状態で出てきた声は、やけに低く冷たい。

「そう……かよ。だったら知らねえ。知ったこっちゃねえ。
 どかねえってんなら――無理矢理吹き飛ばしてやるっ!!」

 その声に呼応するかのように、周囲に異変が生じる。
 先ほどまで縦横無尽に吹いていた風が、いきなり止んだのだ。
 住宅街中を流れていた風が集束し、風神剣の刀身を覆っていく。
 風神剣の柄に埋め込まれた宝玉が仄かに光り、その中心部に『風』という文字が浮かぶ。

 明確な宣戦布告を受けたというのに、土門はたじろがない。
 風子を見据えたまま、さとりとバロウの前から動こうとしない。

「お、お前、どうして……俺たちが憎くねェのか……?」
「憎いに決まってんだろうが! どんだけ痛かったと思ってんだ、バカチン!
 テメェ、ハラキリって死ぬヤツだからな! あの清麿ってヤツがなんかARMSとかいうの持ってただけで、本来死ぬヤツだからな!」

 その返答は、さとりがすでに読み取っていたのと同じものだった。
 土門のなかには、自分たちへの憎しみがある。
 ならば、どうして――
 そんな疑問は問いかけるまでもなく、土門自身により解消される。


「けどよ……ムカつくからって殺してたんじゃ、俺たち火影がブッ飛ばしてきたクソ野郎どもと――なんにも変わんねえだろうがッ!!!」


 そう言い切ると、彼の着込んでいる漆黒のボディスーツが膨れ上がった。

515 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:13:06 ID:QuEQGEpW

 

516 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:13:37 ID:CFara2jM

 
 
 ◇ ◇ ◇


 時を同じくして、近接エリアであるB-2の南部。

 蒼月紫暮とルシール・ベルヌイユの二人は、民家の壁に背中を預けて身体を休めていた。
 自動人形(オートマータ)・ドットーレに気付かれぬよう、どうにか距離を取ったところである。
 法力僧と人形破壊者(しろがね)といえど、精神的な疲労がないワケではない。
 瞳を閉ざして、心を落ち着ける。
 睡眠をとらなくても、数分こうしているだけでだいぶ回復するものだ。
 両者はいちいち言葉で意思の疎通を行わずに、取るべき行動を理解していた。

 ――不意に、紫暮の身体が震えた。

「これは……!」

 閉じておくはずの目が見開かれ、声が勝手に零れる。
 休息状態から臨戦態勢へと、身体が即座に切り替わる。
 傍らで紫暮の声を聞いたらしいルシールも、また同じくだ。

「いったい、なにが起こったんだい?」

 ただ、ルシールのほうはなにも捉えていないらしい。
 これにより、むしろ紫暮はなにか起こっているという確信を強めた。
 紫暮が捉えたのは、戦闘音ではなく『妖気』だ。
 もう全盛期から長らく年月が過ぎ、五十歳も近くなっている。
 肉体や法力は衰えていくばかりだが、感覚だけはかつてよりも研ぎ澄まされている。
 その感覚が告げるのだ。

 ――強大な妖気が、南部から発せられている。

 捉えた気配は、かなり暗く重たい。
 大きな憎しみに満ちているのは、間違いない。
 浮かんだのは、憎しみを食らう大妖の姿である。
 アレほどではないだろうが、同種という可能性は少なくない。
 だとすれば、法力僧たる自分が向かわねばならないだろう。
 紫暮はその旨を伝えるが、ルシールの返事は積極的なものではなかった。

「行ったところで、なにができると言うんだい?」
「ぐ……」

 あまりに的確な指摘であった。
 紫暮に支給された道具は、鍋のフタだけ。
 そのフタの素材が法力を通しやすい代物ならばともかく、単なるアルミ製だ。
 いざ戦場に辿り着いたところで、素手の紫暮にできることなどたかがしれている。

(とはいえ――)

 先の放送で、井上真由子という名前が呼ばれていた。
 彼女は戦う術を持たぬ、単なる一般的な女子高生である。
 そんな彼女が殺し合いに呼び出されて、命を落としてしまっている。
 ドットーレのいた学校に人の気配はなかったが、いま感じた妖気の元には誰もいないとは限らない。
 真由子のような力を持たない誰かが、強烈な妖気と相対しているかもしれないのだ。
 法具がなくとも、誰かを逃がすくらいはできるかもしれない。
 決して、断言はできない。
 息子のうしおならば『できる』と言い切るだろうが、年老いた紫暮には不可能だ。

517 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:13:48 ID:ELJxP57Z

しえん

518 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:14:10 ID:CFara2jM

 
 だが断言できないからといって、行かなくていいのだろうか。

 護るべきか、見捨てるべきか。
 向かうべきか、向かわぬべきか。

 考え込み、迷い、逡巡し、それでも踏ん切りがつかず――

『ゆくことが、貴方の使命ですよ』

 いつか聞いた声が蘇り、紫暮ははっとする。

(はは、いまさらだったな)

 同じ迷いを抱いたことがあった。
 そして答えを見出したことがあった。

 そう――もう、答えは出ていたのだ。

 それも、十六年も前にだ。
 あの日から一日とて、固めた決意は揺らいでいない。
 ならば、どうしていまこの場で決めかねることがあろう。

 紫暮はルシールのほうに向き直り、静かな口調で言い放つ。

「人々に仇なす妖を封じるのが、私の使命です。
 同行を強制するつもりはありませんし、もしものときは見捨てていただいて構いません」

 これは、ルシールに向けられたものではない。
 紫暮が自身に言い聞かすためのものでもない。

 いま現在も海の底で使命を全うしている、思いを寄せる女への――誓いだ。

「そうかえ。ではいざとなったら、安心して見捨ててさせてもらうとするかね」

 くつくつ笑いながら、ルシールは紫暮の前に立つ。
 そうして呆然とする紫暮を急かすように、こう告げるのだった。

「どうしたんだい? 『お守りしてくれる』んだろう?」

 ルシールに遅れて、紫暮も口元を緩めた。


 ◇ ◇ ◇


「はぁ……はぁ……クソッ!」

 いつの間にか荒くなっていた呼吸で毒づきながら、風子は風神剣を振り下ろす。
 離れた場所にいる土門への威嚇のために、単に剣を振るっているだけではない。
 一薙ぎするたびに、刀身を覆っている風がいくつもの弾丸となって放たれているのだ。

 にもかかわらず、土門は一向に退かない。

 どれだけ風玉を放っても意に介さず、まっすぐに進んでくる。
 横に跳んで回避することこそあれど、一度たりとも後退することはない。
 風玉に囲まれて避け切れなくなれば、その場で立ち止まって身体に力を籠めて受ける。
 ずっと攻撃を続けている風子のほうが、詰められた距離を開けるために後退してばかりだ。

519 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:14:16 ID:QuEQGEpW

 

520 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:14:38 ID:ELJxP57Z

sienn

521 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:15:16 ID:aSiSWzjt

 

522 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:15:26 ID:CFara2jM

 
「ちィ……! どうなってんだよ、テメェの着てるそれはよォ!」
「俺が知るか!
 負けらんねえと思ったら思っただけ強くなるんだよ、このアーマーなんちゃらスーツはッ!」

 意味の分からない返答とともに、土門が地面を蹴った。
 風子は咄嗟に風刃を撃ち出すが、土門は顔面だけを庇うように腕でガードする。
 やはりボディスーツの表面が削れるばかりで、内部にあるはずの肌さえ露にならない。
 しようがないので飛び退こうとする風子だったが、とても間に合わない。
 風子が知る土門の限界を超えたスピードで、土門は接近していた。
 走る勢いそのままに、バラの花束を持っていないほうの右手をかざし――

 ――ぱちんっ。

「…………は?」
「目ェ覚めたかよ、お姫様。
 王子様のキッスのほうをお望みってんなら、何百回だってしてやるぜ」

 風子は遠ざかることも、刃を返すこともできずにいた。
 そんな千載一遇の機会を得たというのに、土門がやったのは――いったいなんだ。
 わざわざ考えるまでもないほどに、明らかである。

 ――『頬っぺたをはたいた』だけだ。

 それも、子どもを叱りつけるような微かな力でだ。
 風子は、自分のなかでなにかがキレる音を聞いた。

「おちょくってんじゃあねェェェーーーーーーッ!!」

 これまで研ぎ澄まされていた精神が、一気に決壊した。
 風神剣の刀身だけを高密度で覆っていた風が、再び外界へと解き放たれる。
 住宅街一帯に吹き荒れ、かつて民家だった瓦礫が宙を舞い、張り巡らされた電線が激しく揺れ動く。
 そんな暴風のなかで、土門は焦らず二本の足に力を籠めて立ち尽くす。
 依然として左手に花束を持ったままであり、風子はその姿が気に入らなかった。
 これだけの風速のなかでは、通常なら涼しい顔など浮かべていられないはずなのだ。

「ナメんな、クソッタレ!」

 刀身を風で覆うこともせずに、そのまま風神剣を袈裟に振るう。
 単なる刃でしかない刀身は、簡単に仰け反って回避されてしまう。
 発生させた風の勢いで強引に刃を戻しての逆袈裟も、これまた飛び退いて回避される。
 強引な連撃で体勢を崩したところを狙って、土門が再度肉薄してくる。

 ――ぱちんっ。

「テメェ……!」

 またしても、土門は同じ行動を取った。
 またしても、せっかくの好機をふいにしてきた。
 風子の苛立ちが増していき、風神剣の宝玉がさらに光り輝く。

「バカにすんのも、大概にしやがれッ!!」

 身体を風で強引に加速させて斬りかかるが、土門の右腕に阻まれる。
 ボディスーツに数センチ刃が埋もれた感覚はあったが、そこから進む気配はない。
 無理に刃を押し入れようとして、そのまま前に倒れ込んでしまう。
 土門が腕をうしろに引いたために、かけていた力が行き場を失ったのだ。

 体力バカであるはずの土門に、巧みにあしらわれた。
 その事実を受けて、風神剣を握る力がさらに強くなる。

523 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:15:34 ID:QuEQGEpW

 

524 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:15:50 ID:UONH9mBf

 

525 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:15:57 ID:CFara2jM

 こんなはずはないと、風子は歯を軋ませる。
 石島土門は力バカで、霧沢風子は技巧派。
 その認識に誤りなど在り得ない。
 長い付き合いなのだから、お互い分かっている。分かり切っている。そうに決まっている。

「剣みてえな慣れねえもん使いやがって。勝てるワケねーだろ」

 這い蹲っている最中に浴びせられた言葉によって、風子の怒りはついに沸点に達した。

「ざッけんなッ! 私はずっと練習してたんだ! 緋水の神慮伸刀を託されてから、ずっと!!
 殺すッ! いい加減なことばっか言いやがってッ! クソッ! クソッ! マジでブッ殺すぞッ!!」

 発生させた風で飛び上がるようにして強引に立ち上がりながら、風子は声を張り上げる。
 それでも、土門はなぜだか寂しそうな表情を浮かべるばかりだ。
 一向に本気で戦うそぶりを見せない土門に、風子の苛立ちは加速していく。

「確信したぜ、風子」

 土門が左手を伸ばし、バラの花束を前に突き出す形になる。

「いまのお前は、火影の誰よりも弱い」

 風刃でも飛ばしてやろうとしていた風子だったが、一瞬完全に思考が飛んでしまう。
 はたして土門がいったいなにを話しているのか、まったく理解できなかった。

「っつーか、アイツより弱えんじゃねえの。
 なんだっけ、あの、空海んとこの……南尾じゃなくて、ほらお前が戦った、えーと」

 いや、それはないだろう。
 さすがに、そんなふざけたことは言わないだろう。
 風子のそんな期待は、あっさりと覆されることになる。

「ああ、藤丸だ。あの鎌使う変態野郎。
 自分のやりてえことを自分で決めらんねえっていう点で、いまのお前はアイツにも負けてるぜ。
 アイツはどうしようもねえクソ野郎だったけど、でもやりてえことは自分でちゃんと決めてたもんな」

 ここに至って、風子の思考は白く染まった。
 怒りは臨界点を超え、殺意へと切り替わっていく。
 かつてないほどの速度で風を作り出し、一気に土門へと射出する。
 これまでのように一方向からばかりではなく、四方を覆うように風刃を生み出す。
 もはや一切の容赦も躊躇もなく、首や心臓といった人体の急所にさえ残撃を飛ばす。

「……はっ。ナメたことぬかしやがって……」

 轟音が響き渡り、辺りに土煙が立ち込める。
 はたして土門がどうなったのかは、定かではない。
 少なく見積もっても、数十の肉片と成り果てただろう。
 せっかくだし、突風で土煙を吹き飛ばして確認してやろうか。
 そのように思考を巡らす風子だったが、確認なぞ必要なかった。

「ナメてんのも、おちょくってのも、バカにしてんのも……全部お前だろうがッ、風子ォ!」

 土煙のなかから、聞き慣れた声が響いたのだ。
 目を凝らしてみると、巨大な影が迫ってきている。
 その正体が誰なのかなど、特徴的なモヒカン頭を見れば明白だ。
 左手に持った花束は健在だ。アレだけやったのに、風子は花束さえ吹き飛ばせなかった。

「……ぐッ!」
「逃がすかよ」

526 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:16:28 ID:QuEQGEpW

 

527 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:17:01 ID:CFara2jM

 
 距離を取ろうとした風子だったが、バックステップを踏むことさえ叶わない。
 土煙から飛び出てきた土門に、その肩を掴まれたのである。
 着込んでいるボディスーツはボロボロだが、未だ形状を保っている。
 現れた土門の額には、『鉄』の文字が浮かんでいた。

「めんどくせえから、はっきり言わせてもらうぜ。俺はいまのお前が気に喰わねえ」

 ――ぱちんっ。

「仲間だなんだぬかして、花菱や水鏡に責任を押し付けてるのが、腹立って仕方ねえ。
 アイツらを理由にしてんじゃねえ。ほんとにやりてえんなら、『自分が殺してえから』って言えよ。
 なのになんだっけ、お前。俺たちを『守るために』とか言ってやがったな。ナメんな。いらねえよ、そんな気遣い。ふざけてんのか、オイ」

 ――ぱちんっ。

「いいか。自分がいったいなにをしてえのか、それをまず考えろ」

 ――ぱちんっ。

 鋼鉄化した肉体であるゆえ、極限まで力を抑えているのだろう。
 風子の頬を打つビンタの威力は、これまでとほとんど変わらない。
 その手は鉄特有の冷たさを誇るはずなのに、やたらと熱く感じた。

「さっきまで俺とタイマンってたヤツな、サイボーグなんだぜ。スゲェだろ。
 作ってくれたドクターなんちゃらの命令には逆らえないとか、強情張っててな。
 でも、アイツは変わったぜ。製作者様の言いなりなんかじゃなく、自分のやりてえことをやるってな」

 風子は俯いたが、頬を掴まれて強引に顔を上げられる。
 せっかく目を伏せたというのに、見たくなかった土門の瞳を直視するはめになる。
 その視線もまた、ひどく熱かった。

「お前はどうなんだよ、風子。
 清麿から聞いたぜ。その剣、風神剣っつーんだろ?
 その風神剣とかいう魔剣様の言いなりになってんじゃねえのか。
 ほんとに人を殺してえのか。本心から、心の底から、そう思ってんのか。
 だったら言ってみせろよ。仲間のためでもなんでもなく、自分が殺してえから殺すって――そう断言してみせろよ、この野郎!」
「そ、そうに決まって……」

 言葉の途中で、風子は口籠ってしまう。
 肯定してやろうとしたが、できなかったのだ。
 海月が土門の腹を斬り裂いたのを見たとき、剣から流れ込む声に身を委ねてしまったのだから。

「聞こえねえな。はっきり言えよ。
 霧沢風子ってのは、なんか訊かれたらすぱっと答える気持ちいい女だっただろうが」

 視線を逸らそうとしても、土門は首を動かして追ってくる。
 黙秘は許されない。なにか答えねばならない。
 そう認識し、風子は――

「るッせええええええええええええええええッ!!」

 絶叫した。
 風神剣へと意識を集中させると、収まっていた風が再び激しくなる。

「私が人を殺したいかどうかなんか知らねえよ、ボケ!
 でも仕方ねえじゃねえか! 人殺しするヤツを殺さなきゃ、また誰か殺されちまうんだ!
 分かってんだろうが、テメェも! 邪魔すんじゃねえ! 邪魔すんだったら、テメェだって――!!」

528 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:17:04 ID:UONH9mBf

 

529 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:17:11 ID:QuEQGEpW

 

530 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:17:45 ID:QuEQGEpW

 

531 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:17:53 ID:CFara2jM

 
 その言い分が支離滅裂なのは、風子自身にも理解できていた。
 大切な仲間が殺されないように、人殺しを先に殺すはずだった。
 なのに、どうして仲間である土門を真っ先に殺そうとしているのか。
 これでは、守るべき仲間がいなくなってしまう。本末転倒ではないか。

 生まれた懸念は、風を作れば作るほどに薄れていく。

 視界の片隅のほうで、風神剣の宝玉が妖しく煌めいている。

 自分の行動は決して誤っていないと、吹きすさぶ風が認めてくれているような――そんな気がした。

 風子は自身に突風を当てる。
 風の勢いに乗れば、土門から離れられる。
 いくら土門が力バカであろうと、風が強くなればいずれ手放すはずだ。

「なんッで放さねえんだよッ! いい加減、諦めろよッ!」

 一向に力が緩まる気配がなく、風子は語気を荒げる。
 対して土門はというと、ふてぶてしく笑うばかりだ。

「放すわきゃねえだろうが、バーカ。
 俺はいつだってお前を支えてやるって、心に誓ってんだよ。
 お前が断っても、何度だって何度だって抱き締めてやるんだよ!」
「……なに言ってんだ、お前ッ! もういい加減、そのうるせえ口閉じてろよ!!」

 怒りを露にし、風子は風刃を生み出す。
 現時点においても、土門は花束を手放していない。
 つまり、右手に風子を、左手に花束を持っているのだ。
 ならば、ガードなどできるはずがない。
 いかに魔道具『鉄丸』で身体を鋼鉄化させていようと、微かな衝撃は走るものだ。
 風刃に頬を斬りつけてやると、ほんの僅かにだが土門の右手に籠められた力が弱くなる。

 風子が、その隙を逃すはずがない。
 掴んでいる手を強引に振り払うと、土門の肉体を蹴り飛ばす。
 蹴った勢いを突風に乗せて一気に加速し、距離を取ってやる。

「させッかよ!!」

 初めて見せた焦りの表情に、風子は口角を吊り上げる。

(もう、遅ェっつーんだよ)

 すでに、土門にも突風を放っている。
 その風向きは風子が浴びているのは逆方向であり、ようは土門にとって向かい風だ。
 こうしておけば、いくらなんでもやすやすと追いつけまい。

 そんな風子の予想を覆す事態が、眼前で展開された。

 土門の右腕が――『伸びた』のだ。

 生物と鉱物が一体化したような、その腕には見覚えがあった。
 プログラムの説明の際、高槻涼と呼ばれた少年の腕がこのような外見になって伸びていた。

(いや、いまはンなこたどうでもいい!)

 空中で風刃を生み出し、伸びてくる腕へと放つ。
 伸びた部位までボディスーツで覆われているはずもなく、生身だからであろう。
 ようやく、風刃は土門の肉体を傷付けることに成功する。

532 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:18:55 ID:ELJxP57Z

sienn

533 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:19:24 ID:QuEQGEpW

 

534 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:19:59 ID:CFara2jM

 
 ところが、あくまで最初の一撃だけだった。
 その傷は瞬く間に回復し、二撃目以降では表面に切れ目すら入らない。
 唖然とするしかない風子は、ほどなくして土門の腕に捕らえられる。
 長く伸びた腕は、土門の身体の元へと勢いよく収束していく。

「……どうなってんだよ、その腕」
「たとえ人間の身体じゃなくなっても、土門ちゃんは風子様を抱き締めてやるってことだよ!!」

 風子が苦々しい表情で問いかけると、土門は自信満々に言い放つ。
 なんにも質問に答えてねえじゃねえか――抗議しようとした風子の右手に、鋭い痛みが走る。

「痛う……っ」

 反射的に目を閉じてしまってから、風子は違和感に気付く。
 いまのいままで握っていた得物が、右手から消えていた。
 叩き落とされたのだと察するまで、大した時間はかからない。
 だがそのほんの僅かな時間でも、土門には十分であったようだ。
 落下した風神剣を離れた場所に蹴り飛ばして、もうすでに追いついている。

「さっきのたわ言のうち、どこまでお前の考えで、どっから剣のせいなのかは知らねえよ。
 でもよォ、なんも言わねえで逃げたってことは、そういうことなんだろ。
 だったら、容赦なく否定してやるぜ! 悩みに悩んで出した結論とかじゃなく、考えるのやめてこんな剣の言いなりになる気だったんならな!」

 風神剣を踏みつけて固定すると、土門は風子に向ける眼差しを鋭くする。

「よく聞け、大バカ野郎! 仲間が殺されないように、誰かを殺すなんざ認めねえぞ!
 人なんか殺しちまったらな、一生背負わなきゃなんねえんだぞ! 忘れられるワケあるか! 永遠に覚えてるに決まってんだろ!
 他のなにかしてるときだってついて回るし、夢にだって出るだろうよ! 安まる日なんざねえよ、百パー。生きた心地しねーぜ、そんなもん。
 仲間のために、一生モンの悔い残してどうすんだよ! そんなもん望むか! 少なくとも俺は望まねえ! 俺は、風子が後悔引きずるなんざ真っ平だ!」

 一息で言い切ってから、土門は呼気を整える。
 そうして拳を固く握り締めてから、真下の風神剣に視線を向ける。
 彼がいったいなにをしようとしているのか、風子には予想できてしまった。

「やめろ、土門っ!!」

 風子が、思い切り地面を蹴る。
 風神剣を破壊させるワケにはいかない。
 アレは魔道具『風神』を愛用している風子にとって、かなり相性のいい武器だ。
 アレを失ってしまったら、風子の戦闘力は著しく低下する。
 無慈悲に人の命が踏み躙られるこの場で、足掻くことさえできなくなるのだ。
 そんな事態に陥っていいはずがない。
 花菱烈火と水鏡凍季也が死んだというのに、使い勝手のいい武器を持たぬ少女に成り下がるワケにはいかない。

 頭ではそう恐れているはずなのに、どうしてであろうか。

 自身に力を与えてくれる剣を、握っているだけで高揚感を抱かせる剣を、『殺せ』としつこく命じてくる剣を――

 土門が完膚なきまでに破壊すると思うと、風子は不思議と胸が高鳴った。

「やめねえっ! 十回でも百回でも言ってやるぜ、風子!」

 ゆえにであろう。
 土門がこう断言したとき、風子は足を止めてしまった。
 頭に響く風神剣の『拾え』と命ずる声は、土門の叫びにかき消される。


「殺しちまったら――なにもかも終わりなんだよ!!」

535 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:20:16 ID:QuEQGEpW

 

536 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:21:53 ID:QuEQGEpW

 

537 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:22:06 ID:CFara2jM

 
 
 風子の視界が、スローモーションじみたものとなる。

 固く握られた拳が、ゆっくりと風神剣へと迫っていく。

 あと、もう少しだ。

 ほんの少し待てば、土門の拳が風神剣を割り砕いてくれる。

 剣から流れ込んでくるやかましい声を、二度と聞かずに済むのだ。

「…………あ?」

 風子には、眼前の光景が理解できなかった。
 思わず零れた呆けた声を、自身のものだと判別することさえできない。


 拳が風神剣に触れる寸前で、土門の身体が『跳ね上がった』。


「ぐ、ガ……ァ! クソ……もうちょっと、だってのによォ……!」

 困惑しているのは、風子だけではないらしい。
 土門のほうも目を丸くして、暴走する身体に手を回して押さえ込もうとしている。
 そんな意図もむなしく、土門の右腕に亀裂が入っていく。
 亀裂は見る見る全身に及び、すぐに立つことさえままならなくなる。


 くずおれるように倒れ込むと、身体が――『崩れて』いく。


 このような現象を見た経験は、風子にはない。
 それでも分かる。
 分かってしまう。
 何せ、身体が崩れているのだ。
 さながら乾燥した泥のように、砕け散っているのだ。


 それは、誰の目にも明らかなほどに分かりやすい――『死』の兆候だった。


「ど、もん……?」

 風子は土門に歩み寄り、崩れゆく身体に視線を這わす。
 向けられる力強い視線に反して、その肉体はあまりに脆い。
 鍛え抜かれていた筋肉の面影など、いまとなっては窺えない。
 とても見ていられるものではなく、風子は目を覆いたくなった。

 その心情を読み取ったかのように、理想的な誘いがかかる。

『我を手に取れば、すべて忘れられるぞ』

538 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:22:21 ID:ELJxP57Z

sien

539 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:22:59 ID:ELJxP57Z

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540 名前 : 殺したらおわり(前編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:23:40 ID:CFara2jM

 
 鼓膜を介さずに、頭のなかへと届いてくる。
 懐柔するような声音が、胸に開いた穴へと染み渡る。

 ――風子は、再び風神剣を手に取った。

『殺せ。
 我を用いて殺せ。我を紅く染めて殺せ。我が刀身を生き血で照らして殺せ。
 斬り殺せ。刺し殺せ。貫き殺せ。抉り殺せ。断ち殺せ。刻み殺せ。削ぎ殺せ。
 殺して殺せ。殺して殺して殺せ。殺して殺して殺して――そうしてさらに殺せ』

 途端、甘い声は一変。
 これまでと変わらぬ冷たいものに戻る。

「あ、あああああァァァ――――!」

 喉を削るような絶叫に呼応して、風神剣より強大な風が溢れ出す。
 その衝撃により、崩れかけの土門の身体は彼方に投げ出される。
 風が渦を巻いて旋風となり、次第に膨れ上がっていく。
 ほどなくして、風子を中心とした巨大な竜巻が展開される。
 アスファルトが剥がれ、その下にあった土が舞い上がり、風子の足元がすり鉢状に抉られる。
 民家は軋むような音を立てたのち、根元から吹き飛ばされる。
 竜巻内を上昇する過程で、風圧によって見る見る微細な破片に砕かれていく。

『貴様、なぜその竜巻を放たない』
(うるせえ)

 訝しむような風神剣の問いに、風子は短く答える。
 彼女の目的は、すでに人殺しの殺害ではなくなっていた。
 唯一望むのは、もう誰も近づけないことだ。
 伸ばされた手が崩れていくのを見るのは、もう御免だった。
 だったら最初から誰も近付いてくれないほうが、よっぽどマシだと――そう思ったのだ。

『ふん。まあよいわ。
 依然として、角は生え揃ったまま。
 貴様が我が力に魅入られていることに、些かの変わりもない。
 ならば精神力を磨り減らすのを待ち、真に従順なる我が憑代とするのみよ』

 風子が予想していたよりあっさりと、風神は引き下がって行った。
 あるいは、長き時を経てきたゆえの余裕か。

(…………どうでもいいや)

 舞い上がった赤いバラの花弁が視界に入り、風子の瞳から一筋の涙が零れた。

541 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:24:03 ID:ELJxP57Z

sienn

542 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:24:14 ID:UONH9mBf

 

543 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:24:34 ID:CFara2jM

 
 
 ◇ ◇ ◇


 土門が吹き飛ばされたのは、さとりやバロウのすぐそばであった。
 駆け寄った高嶺清麿と横島忠夫を追うように、マシン番長もゆっくりと足を進める。
 土門の身体に埋め込んだARMSコア『グリフォン』は、彼の肉体に完全には適合しなかったのだ。
 体内すら見透かす高性能カメラアイを内蔵したマシン番長には、移植した直後に分かってしまった。
 目を覚ました土門には、偽ることなく伝えた。
 申し訳なさでいっぱいだったというのに、返ってきたのは感謝の言葉であった。

(ナゼダ……)

 エネルギー切れ寸前のボディを動かしながら、マシン番長は考える。
 彼のコンピュータをもってしても、答えは出ない。
 寿命が僅かに伸びただけで、石島土門の死は確定していた。
 にもかかわらず、彼は笑っていたのだ。
 死を約束された身体で、霧沢風子の前に立ったのだ。

 ――『死んだら終わり』のはずなのに。

 疑問が解消できぬまま、マシン番長は土門の元に辿り着く。
 清麿と横島は沈痛な面持ちを浮かべており、さとりとバロウは無言を貫いている。
 仮にマシン番長の目が体内を視られる代物でなくとも分かるほど、もはや土門の死は明確であった。
 全身に刻まれた亀裂は深く、表面は砂のように零れ落ちている。
 両脚に至っては完全にくずれてしまい、単なる灰の山でしかない。
 そんな状態でありながら、土門は歯を噛み締めている。

「クソ……もうちょっとだったのによォ!」

 死に行く身で、心底悔しそうに。

「あんなデケェ竜巻出せんのかよ!
 上から飛びこめるっつっても、アレじゃあ届くワケ……!」

 もう終わっているというのに、未だ未来を見ていた。

「そ、そうか! ようは台風だ。中心に風はない!」

 はっとしたように、清麿が玉とコピー用紙を取り出す。
 その玉の正体を、マシン番長は先ほどすでに聞いている。
 紙を操作する魔道具『式紙』だ。
 これを使用すれば上空から侵入して、風神剣を叩き落せるかもしれない。
 そう考えたのだろうが、マシン番長のカメラアイは彼らの想定外の現実を見ている。

「イヤ、違ウ。上部サエ、風デ覆ワレテイル」

 風子を中心に展開する竜巻には、一切の穴がなかった。
 完全に、四方を風で覆っているのだ。
 マシン番長の推測通り、式紙で操作されたコピー用紙は彼方に吹き飛ばされていく。
 風子の真上から侵入しようとしたというのに、近付くことさえ叶わない。

「バカな! 全方向を風で覆う竜巻なんて、存在するはずが――」
「通常ではあり得ぬものを作り出すのが、妖(バケモノ)なのさ」

 清麿の声を遮るようにして現れたのは、見知らぬ白髪の壮年男性であった。
 さとりに鋭い視線を飛ばしていたが、それ以上に警戒するべき存在に気付いたらしい。
 竜巻と中心にいる風子に視線を向けてから、彼は下唇を噛み締める。

544 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:24:57 ID:QuEQGEpW

 

545 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:25:06 ID:CFara2jM

 
「私は蒼月紫暮と申すもの。
 光覇明宗に属す法力僧で、あのような妖の退治を生業としている」

 真っ先に食いついたのは、土門である。
 上半身だけを起こして、勢いよく身を乗り出す。

「マジかよ、オッサン! いいとこに来てくれたぜ!
 あそこにいる風子が持ってる風神剣っていうのが、なんでも魔剣とからしくてだな!」
「ああ……分かっている」
「どうにかしてくれ!」

 端的な説明と要請ののち、土門は頭を下げる。
 紫暮のほうは、苦々しい表情を浮かべたままだ。

「アレだけの妖気を放つ相手となると、なにも持たぬ私には正直厳しい。
 私の法力を増幅させる法具さえあれば、また話は別になってくるのだが……
 このなかに、『錫杖』や『独鈷』や『札』といった法具を持っているものはいないだろうか?」

 静寂が、辺りを支配する。
 誰一人として声を上げるもののいない現状を見て、紫暮が不甲斐なさそうにほぞを噛む。
 打つ手がない現状に、土門は右拳を地面に叩き付けた。
 彼の身体に刻まれた亀裂はいっそう深くなり、右腕は肩から先が塵と化した。

「……一応、アルニハアル。法具トハ、トテモ言エナイガ……」

 自らを痛めつける土門を見て、マシン番長はためらいながらも切り出す。

「俺ノボディヲ構成スル合金ニハ、銅、錫、亜鉛トイッタ法具ノ素材トナル金属モ使ワレテイル」

 だからといって法具の代わりになるのかは、まったく定かではない。
 そもそも紫暮の話した内容自体が、マシン番長にとっては信用し難い。
 光覇明宗などという宗派は、コンピュータ内の膨大なデータにヒットしない。
 だいたい妖怪とは、人々が理解できぬ現象を説明するべく作り出した想像上の存在のはずだ。
 いままでのマシン番長ならば間違いなく、紫暮をペテン師と判断していただろう。

 しかしながら、他ならぬ土門が信じている。
 もう長くない身体で、突如現れた紫暮に一抹の望みを賭けようとしている。
 ならば、マシン番長はその判断を信じるだけだった。

 蒼月紫暮を信じるのではなく、蒼月紫暮を信じる土門を――信じようと思った。

「君は……機械なのか……?」

 紫暮は目を丸くしながら、マシン番長のボディを眺めていく。
 土門との戦闘で刻まれた傷から覗く配線を見て、どうやら納得したらしい。

「ありがたい。
 法力が体内を通る際、かなりの痛みが伴うが……やってくれるか?」
「構ワ――」
「ちょっと待ってくれ」

 すんなりと受け入れようとしたマシン番長だったが、清麿が割って入ってくる。

「あの、紫暮さん、一つ聞かせてもらいます。
 マシン番長さんに法力とやらを通すというのは理解できましたが、それで……風子さんは助かるんですか?」
「…………」

 その無言は、あまりにも雄弁すぎた。
 眉間にしわを刻みながら、清麿が深く頷く。

546 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:27:02 ID:CFara2jM

 
「……やはりか。マシン番長さんのボディにいくら法力とやらを蓄えても、風子さんには関係がない。
 蓄えた法力を風子さんに『ぶつけて』やって、その上で『解き放って』やらなきゃいけない……違いますか?」

 清麿は、己の推測をとうとうと述べていく。
 さながら、なにか心当たりでもあるかのように。

「…………ああ、そうだ」

 再び立ち込めた静寂を破ったのは、紫暮の肯定であった。
 怒りを露にして、土門が喰ってかかる。

「ふざけんな! そいつがボロボロなの、見りゃ分かんだろうがっ!
 あんな竜巻破って、風子に近づけるかよ! どうにか近づけたとしても、ただじゃすまねえだろっ!」

 他に方法がないゆえの、苦渋の決断であったのだろう。
 紫暮は弁解をするでもなく、静かに頭を下げた。
 それ以上追及する気は土門にもないらしく、すぐに大人しくなる。
 ともあれ、またしても打つ手がなくなっただけである。

(……違ウ)

 打つ手自体はある。
 それを選んでいないだけだ。
 土門が紫暮を責めたのは、マシン番長に選ばせなかったからだ。

 もしも危険を知った上で、マシン番長が自らの意思で選んだのならば――話は別のはずだ。

「問題ナイ。竜巻ゴトキ、突破シテミセル」

 ゆえに、マシン番長は断言する。
 自らの意思で、自らの進む道を選ぶ。

「なっ! おい、お前なに言ってんのか分かってんのか!?」
「分カッテイル」

 マシン番長は断言して、紫暮の元に歩んでいく。

「死ぬかもしんねーんだぞ!?
 お前、もう身体ガックガクじゃねーか! もうヤベーんだろ!?」
「損傷ハ自己修復デキルガ、エネルギーハ枯渇寸前ダナ」
「だったら……! 余計なことしねえで休んでろよ、バカ野郎!」
「断ル」

 あっさりと否定すると、土門は目を見開いた。
 しばらくして我に返ったのか、また声を荒げる。

「ふざッけんな! 俺はたしかに風子のヤツを助けてやりてえけど、そのためにお前に死んで欲しくなんかねーんだよ!
 人に気ぃ遣ってんじゃねえよ! せっかく製造者様の言いなりじゃなくなったのに、他人のために死のうとすんなよッ!!」

 泣きわめくような絶叫を受けて、マシン番長はようやく合点がいった。
 引き止めてくる理由が分からなかったが、どうやら誤解があったらしい。

「オ前ハ、勘違イシテイル」

 だったら、誤解を解くだけだった。

「俺ガ、ヤリタイ」

547 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:27:36 ID:QuEQGEpW

 

548 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:27:39 ID:aSiSWzjt

 

549 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:28:15 ID:QuEQGEpW

 

550 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:28:29 ID:tx6fyqzK

支援

551 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:28:30 ID:CFara2jM

 
 怪訝そうな土門に言い聞かすように、マシン番長は続ける。

「他ノ誰かノ命令ジャナイ。
 他ノ誰カノ言イナリニナル気ハ、モウナイ。
 俺ガ俺自身ノ意思デ、風神剣ニ操ラレテイル霧沢風子ヲ――」

 遭遇時に浴びせられた言葉が、メモリーのなかからフラッシュバックする。

 『救ってやる』――と。
 命の意味を知らぬマシン番長に、石島土門はそう叫んだ。
 自分とは無関係の他人にもかかわらず、たしかに言ったのだ。

 ずっと意図が分からなかったが、いまなら分かる。

 自分の意思で進もうとしない風子を見ていて、マシン番長も――同じ思いを抱いたのだから。


「救イタイ」


 話していて、マシン番長はもう一つ理解した。
 死ぬことが確定していながら、土門はなぜ立ち上がったのか。
 どうして感謝の言葉を残して、暴走する風子の前に立ったのか。

 自らも、エネルギー切れ確率百パーセントのミッションを選択したのだ。

 ――もはや、疑問は氷解していた。

「はっ、そうかよ。
 しゃーねえな。俺の大事な役、譲ってやるよ」

 土門のほうも、きっと納得してくれたのだろう。
 しばし間を開けてからおかしそうな笑みを浮かべ、すぐに真剣な表情になる。


「風子を抱き締めてやってくれ」


 竜巻を突破したのち、それだけのエネルギーが残っている確証はない。
 そんな計算結果を踏まえた上で、マシン番長は言い切る。

「任セロ。俺ハ、タダノ機械(マシン)デハナイ。
 『テメェノ意思』デ、『テメェノヤリタイコト』ヲ選ンダ機械ダ。
 言タコトニ従ッテイル霧沢風子ノ竜巻程度、突破デキナイハズガナイ」

 なんの理屈も通ってない断定さえ、いまのマシン番長にはできるのだった。

552 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:28:52 ID:ELJxP57Z

sienn

553 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:29:09 ID:CFara2jM

 
 
 
「悪魔退散、怨敵降伏、七難速滅、復速生秘、法身において――」

 紫暮の詠唱が進むごとに、マシン番長の身体を痛みが走り抜ける。
 すでに負っている損傷を抉り込むような感覚だったが、実際のところ損傷箇所が増えることはない。
 むしろ、マシン番長のボディは修復を進めている。
 おそらくこれが法力が伝わる感覚なのだろうと、一人納得する。

「準備は完了した。
 あとは君が風子ちゃんに接触してくれれば、私が最後の一句を唱えて終いだ」
「了解シタ。突入スルタイミングハ――」
「まだだ!」

 声に被せるようにして、清麿の指摘が入ってくる。
 全方向を風で覆った自然ではあり得ぬ竜巻でも、内部の空気が薄いのは変わらないらしい。
 それに気付くきっかけとなったのは、さとりの一言だ。
 風子が息苦しいと考えたのを読み取り、誰にともなく呟いた。
 そしてその数刻後、たしかに竜巻の勢いが僅かに緩まった。
 ただでさえエネルギーが枯渇気味な現状、微かながらも消耗を少なく済ませられるのならば、是非ともすがりたいところだった。

 とはいえ機械であるマシン番長には、人間が呼吸をするタイミングが分からない。
 竜巻を構成する風が弱くなり、竜巻内の風子の喉が動く瞬間。
 これは目視できるものの、それから動き出したのでは遅すぎる。

 心を読めるさとりに尋ねてみたが、彼にも読み取れないとのことだった。
 息苦しいという思いは読み取れても、何秒後に呼吸をするという思考は読み取れないらしい。
 竜巻を弱める際に風子はいちいち意識しておらず、無意識で行っているようだ。

 タイミングを見計らえるのは、清麿だけだった。
 なんでも、戦闘において息継ぎするタイミングについて、誰より詳しい自信があるという。
 自信を裏付けるように、すでに三回息継ぎするタイミングを当てている。
 それだけ確認すれば、もう信じるに値する情報だ。

 テストは終わり。
 次が――本番だ。

 突入するマシン番長だけでなく、全員が清麿の号令を待っているだろう。
 誰一人として口を開くことはなく、緊張感が辺りを包む。
 唯一、竜巻の風切り音だけが住宅街に響きわたる。

「――いまだっ!!」

 清麿が言い切るのを待たず、マシン番長は右足で地面を蹴った。
 左足が地面につくより早く、その両足裏に備え付けられたバーニアが火を噴く。
 瞬く間に上空で体勢を整えて、竜巻へと頭から突っ込んでいく。
 エネルギー残量を考慮に入れていない駆動法に、マシン番長のコンピュータが即座に反応する。
 視界にかぶさるように、無数の警告ウィンドゥが展開された。
 それらをすべて無視し、コンマ数秒と要さずにトップスピードに乗せる。
 勝手にエネルギー節約モードに移ろうとするが、許可をしない。
 力をセーブするつもりはない。
 ボディがそれを望もうと、コンピュータが指示しようと、マシン番長は従わない。
 自分で決めたやりたいことなのであるから、体内でどれだけ警告が響こうとも止まる気はない。

 それが――貫くということだ。

 凄まじい速度で流れていく視界のなかでも、マシン番長のカメラアイは標的を見逃さない。
 清麿の号令通り、竜巻の表面部が僅かに弱まっている。
 ほんの数瞬後にさらに弱まり、霧沢風子は呼吸を行うだろう。

554 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:30:06 ID:QuEQGEpW

 

555 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:30:14 ID:ELJxP57Z

sienn

556 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:30:28 ID:tx6fyqzK

 

557 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:30:38 ID:CFara2jM

 コンピュータを無理に動かして、計算を完了させる。
 竜巻に指先が触れる寸前に、風の勢いはもっとも弱まる。
 まさしく、ドンピシャのタイミングだ。
 マシン番長が成長を確信したとき、風子と目が合った。

「ナッ!?」

 ちょうど竜巻にマシン番長が触れた、その瞬間である。
 このまま弱まっていくはずの風速が、一気に上昇した。
 無意識のうちに呼吸を行うほど息苦しいはずなのに、風子は竜巻を強めたのだ。

(ナゼ……!)

 考えたのとほとんど同時に、マシン番長は理由を察した。
 マシン番長もまた、土門から伸ばされた手を一度払いのけたのだ。

 おそらく――いまの霧沢風子は、伸ばされた手がわずらわしいのだろう。

「グオォォォッ!?」

 相手の意図が分かったところで、なにかが変わることはない。
 竜巻が緩まったとしても、エネルギーが保つかはギリギリのところだったのだ。
 ならばこれまで以上の風速を出した竜巻を、マシン番長が突破できるはずがない。
 バーニアによる加速を乗せた身体が、少しずつ減速していく。
 このままでは、いずれ押し戻されてしまうだろう。
 もはや通常通りにコンピュータが動いてくれないが、それだけは明らかだった。

「ガァァァーーーーッ!!」

 マシン番長は叫ぶ。
 自分の推測を認めない。
 予想できる現実を許さない。

 石島土門は、万物を貫くドリルを耐えてみせた。
 予想外の現実を掴み取ってみせた。

 マシン番長は、それを知っている。
 間違いなくあった計算外の現実を記憶している。

 だから、たとえ百パーセント押し戻されるとしても――

「知ッタコトカァァァーーーーッ!!」

 肌を模した装甲が、めくれあがっていく。
 体内で配線が切れ、火花が散る音が響く。
 スピーカーが異常をきたし、声が裏返る。

 それでも、たしかに押し返さんとする風に逆らって、身体が加速した。

 叫びで自らを鼓舞するなど非合理的もいいところだが、実際に速度が上がった。
 不可解な現実であろうとも、マシン番長は受け入れる。
 風に押し戻されず、また振り回されることない。
 竜巻の中心部を目指して、まっすぐと突き進む。
 残り二十メートル、十五メートル、十メートル――
 竜巻のなかをゆっくりとだが、たしかに進んでいく。
 あと十秒と待たず、限界まで伸ばした手は風子に触れるであろう。

 ――けれど、そこまでだ。

 やけに軽い炸裂音とともに、右足裏のバーニアが弾け飛んだ。

558 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:30:55 ID:QuEQGEpW

 

559 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:31:11 ID:ELJxP57Z

sienn

560 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:31:44 ID:tx6fyqzK

 

561 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:31:47 ID:QuEQGEpW

 

562 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:31:50 ID:CFara2jM

 バーニアが片方になったせいで、一気に速度が低下する。
 くわえて二つあったものが一つになったせいで、体勢を上手く保つことさえできない。
 平常時ならば片方で問題なく飛行可能な駆動法を計算できただろうが、いまとなっては不可能だ。
 マシン番長は竜巻に弾き飛ばされ、あらぬ方向へと吹き飛ばされていく。

(スマナイ。抱キ締メラレソウニナイ……)

 頼んできた土門の姿が蘇り、マシン番長は胸中で頭を下げた。
 竜巻のなかで、ようやく竜巻が弱まっていくのが分かる。
 少し遅れた呼吸の機会を、いま作っているのだろう。
 だがバーニアが片方爆散した以上、竜巻を突破することは不可能だ。
 近付くことができなければ、抱き締められるはずがない。

(…………イヤ!)

 マシン番長は勢いよく目を見開く

 前提が間違っている。
 はたして、マシン番長とはなにか。
 その名が示す通り、機械(マシン)だ。

 ならば、できる。

 たとえ近付けなかろうと――抱き締めることはできるではないか。

「『ライトニング・フィスト』」

 掛け声とともに、マシン番長は両手首から先を射出する。
 二つの手は、風速が弱まっている竜巻のなかを凄まじい速度で進んでいく。

「なあっ!?」

 驚きを露に、風子が口を半開きにする。
 予想だにしていない事態なのか、飛ばされた手に対処できずにいる。
 その隙を逃さずに、マシン番長の手は風子の元に届く。

 唖然としている風子の両肩を掴んで、手首に付属しているワイヤーを巻き取る。

 未だボディは竜巻に吹き飛ばされている状態でありながら、マシン番長は迫ってくる風子から視線を離さない。

 そうして、着地の際に怪我をしてしまわぬよう手を回し、もう手放してしまわぬよう力強く――――ぎゅうっと抱き締めた。

 飛行がままならないのに、華麗な着地などできるはずがない。
 竜巻によって更地と化した住宅街に、マシン番長は背を打ち据えることになる。
 十数メートルほど地面を転がり、どうにか身体が静止した。
 上体を上げて風子に傷がついていないのを確認して、マシン番長は安堵する。
 その直後、何者かが駆け寄ってきて、マシン番長の身体に手を当てた。

「――封ッ!!」

 紡がれたのは、事前に伝え聞いていた詠唱の最後の一節。
 マシン番長のボディに痛みが走り抜け、眩い閃光が放たれる。
 その輝きは、抱き締められている風子の身体を包み込んでいく。
 しばらくして光が晴れていったあと、風子の額に生えていた二本の角は消え失せていた。

563 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:32:40 ID:CFara2jM

 
 
 
 光が納まったのを確認し、風子はまぶたを開く。
 異変にはすぐに気付いた。
 やかましいほど聞こえていた怨嗟に満ちた声が、いまではまったく聞こえない。
 薄暗くぼやけていた思考が、やけに鮮明だ。
 風神剣は足元に転がっている。先ほどは拾い上げるよう指示してきたはずだというのに、声は届かない。

 そこまで考えて、すぐにより大事なことを思い出す。
 勢いよく首を動かして、風子はある一点に向き直る。

「土門……」

 もはや、彼の身体は胸から上しか残っていない。
 曖昧な記憶のなかの姿と、なにも違いはなかった。
 風子の瞳から、勝手に涙が溢れ出してくる。

「勘違いすんじゃねえぞ、風子。
 ARMSっつーのに合わなかっただけで、俺がこうなったのはお前のせいじゃねえよ」

 慰めてくれるようだが、ほとんど風子の耳には入っていなかった。
 人体があのような状態に陥る姿は、見たことがない。
 もしかしたら、本当にARMSというもののに合わなかったからかもしれない。

 だとしても――
 風神剣の力に魅入られたばっかりに。
 風神剣の言葉に惑わされたばっかりに。
 土門に残された時間が少ないという事実は、まったく変わらない。

 なんと声をかけるべきなのか、風子には分からない。
 土門の無残な姿を見て頭が真っ白になり、そこを付け込まれた。
 そんな事実を明かしたところで、なんになるというのか。
 同情してくれるかもしれないが、同情されるのがなによりつらい。

 土門の近くには、土門を殺そうとした二人がいる。
 被害者である土門が彼らを許したというのに、自分はなにをしていたのか。
 風神剣の言葉に従って、火影としてのルールさえ手放してしまった。
 そんな自分を土門は助けようとしてくれたのに、手を払い除けようとした。
 土門だけではない。
 他のみんなも、大して知りもしない自分を助けようとしてくれたのだ。

 人を殺す化物に堕ちかねなかった自分に、助けられる資格などあったのだろうか。
 考えれば考えるほどに、疑問が膨らんでいく。

 顔を見ることすら申し訳なくなり、風子は土門から目を伏せる。

 そんな風子の視線を追うように、すぐ近くにいるマシン番長が覗きこんでくる。
 どれだけ逸らしても、怪訝そうに見てくるばかりだ。

「…………」

 切り出すべき言葉を見つけられず、風子は無言でマシン番長を見る形になる。
 そんな風子の意図が分からないらしく、マシン番長は怪訝そうに首を傾げる。

564 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:33:25 ID:QuEQGEpW

 

565 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:33:39 ID:ELJxP57Z

sien

566 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:33:45 ID:tx6fyqzK

 

567 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:34:22 ID:CFara2jM

 
「喧嘩ノアトハ仲直リ――デハナイノカ?」

 心底不思議そうな問いかけに、風子は目を見開いた。
 火影のメンバーは、決して全員同じ考えの持ち主というワケではない。
 むしろ正反対であり、考えがぶつかり合った回数は両手の指では数え切れない。
 そのたびに喧嘩をして、そのたびに仲直りしてきたのだ。

「いいこと言うじゃねえか、マシン番長。さすが火影の新メンバーだけあるぜ」

 かっかと笑う石島土門も。
 この場にいるらしい小金井薫も。
 すでに死んだという水鏡凍季也も。
 最初は敵として花菱烈火の前に立ち、仲間になってからも何度も殴り合っている。
 意見が異なれば譲るのではなく、殴り合って主張を認めさせる。

 それが――火影というチームであったのだ。

 忘れていたことを思い出し、手の甲を涙で拭う。
 深呼吸をして呼吸を整え、風子は土門をまっすぐと見据えた。

「ごめん、土門」
「いいぜ、風子」

 一秒の間も空けずに、返事は飛んできた。

「ヨカッ……タ……」

 その様子を眺めていたマシン番長が、安心したように言って――くずおれる。
 周囲が驚きの声を上げるのに反して、本人は意外そうでもなんでもない。

「エネル、ギー……切レ、カ…………」

 かくかくとできの悪いブリキ人形のような動作で、マシン番長は口を動かす。
 絶句したのは風子だけで、他のみんなは納得した様子だった。
 それを見て、竜巻に突入する際にでも明かしていたのだろうと、察してしまった。
 土門がせっかく見つけた火影の新メンバーが、自分のせいで倒れようとしている。
 再び、風子のなかに絶望が蘇る。

 思考の渦に落ちていく風子を現実に引き戻したのは、聞き覚えのある声だった。


「さあああああせえええるううううかあああああああああああああああああっ!!」


 土門の近くにいた横島が、なにやら振りかぶっている。
 彼がいることに気付いていなかった風子が、目を丸くする。
 これまでなにもしていなかったというのに、いきなり声を張り上げてどうしたというのだろうか。
 自体を呑み込めない風子をよそに、横島は微弱な光を帯びたピンポン玉ほどのサイズの球体を放り投げた。
 マシン番長の肉体に接触すると跳ねかえることもなく、そのまま体内に沈み込んでいく。
 目を凝らしてみると、その玉には『給』という文字が刻まれていた。

「なんと……っ。凄まじい法力を内包しているな」

 呟いたのは、風子のすぐそばで佇んでいる壮年の男性だ。
 風子がその意味を読み取れずにいると、マシン番長がいきなり立ち上がる。
 先ほどまでのぎこちない動作とは異なり、やけになめらかで柔軟だ。


「エネルギーってのが電気だかオイルだか知らねーけどよおおおお、なんにせよ『給油』なり『給電』なりすりゃあ済むだろうがあああああああああ!」

568 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:34:42 ID:ELJxP57Z

sienn

569 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:35:36 ID:CFara2jM

 
 
 マシン番長は目をぱちくりさせているが、風子には意味が理解できた。
 『文珠』というものの説明自体は、すでに聞いていたのだ。
 とんだ出まかせだと決めつけていたが、どうやら真実であったらしい。
 同じく文珠の話を聞いていた清麿も、ぽかんと口を開いている。

「…………マジだったのか、あの話」
「ふははは! かっこよく死ぬなんてやらせるか、ボケェェーーッ!
 助けてくれたイケメンがそのまま亡き人になるとか、そんな一生忘れられなくなるパターン許さんっ!」

 横島のいつもと変わらぬ発言に、風子はつい頬を緩めてしまう。
 余計な一言がなければ、素直に称賛する気にもなるのだが。
 ともあれ、今回ばっかりは話は別だ。
 風子が横島へと感謝の言葉を伝えようとした――そのとき。

「ありがとう、あの鬼を封じてくれて」

 風子ではなく、別の誰かが感謝の言葉を紡ぐ。
 見れば、これまで無言を貫いていた少年が掌を向けている。

「『唯我独尊(マッシュ)』」

 幼さを残した少年の声を完全に聞き取ることもできず、風子の視界は暗転した。


 ◇ ◇ ◇


 類稀なる明晰な頭脳の持ち主である高嶺清麿でさえ、現状を呑み込めずにいる。

 霧沢風子は、風神剣の支配から解き放たれた。
 マシン番長は、エネルギー切れの危機を脱した。
 横島忠夫の話が偽りではなかったことが、判明した。
 蒼月紫暮という妖怪退治のスペシャリストと知り合えた。
 殺し合いに乗っていたさとりも、風子を解放する手伝いをしてくれた。
 石島土門の死は避けられないが、風子と安らかな会話をすることができた。

 ――すべてが上手く回っていた。

 その認識は、きっと間違っていなかったはずだ。

(なのに……どうしてこうなった?)

 落ち着こうにも、落ち着けない。
 困惑している頭脳をどうにか動かして、清麿は現状を認識しようとする。

 バロウが、なんらかの言葉を唱えた瞬間。
 風子とマシン番長と紫暮の背後に、トラックほどのサイズの立方体が出現した。
 それがただの立方体ではなく『顔』であるのは、すぐに分かった。
 一面には、輝く二つの『目』と、巨大な『口』があったのだ。
 大きく開かれた口には、咥えたものを磨り潰すような歪な『歯』が並んでいる。

 その巨大な顔に――三人は呑み込まれた。

 呆然とするしかできずにいると、まったく同じ軌道からまったく同じ顔が出現し、再び飲み込んだ。
 三度、四度、五度――と奇妙な顔が奇妙な顔を呑み込み続け、そこで土門が声を張り上げた。
 しかし土門には右腕を除く上半身しか残っておらず、立ち上がることさえできない。
 いきなり出現した砲台に撃ち抜かれ、砕けかけていた身体を完全に粉砕されてしまった。

570 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:36:19 ID:ELJxP57Z

sine_

571 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:36:45 ID:ELJxP57Z

>>570 タイプミス申し訳ない

sienn

572 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:37:07 ID:tx6fyqzK

 

573 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:37:19 ID:ELJxP57Z

しえん

574 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:37:40 ID:CFara2jM

 
 先ほどまで土門の横で座り込んでいたバロウは、清麿にはただの少年に見えていた。
 決して、完全に信用していたワケではない。
 風子を救うのが第一であっただけで、警戒を緩めたつもりはない。
 それでもよもやいきなり凶行に出るとは、思っていなかった。
 まさか初撃で人数の不利を一気に覆しにくるとは、まったくの想定外だ。
 人数では圧倒的に有利だったゆえの安心か、風子が救われたことで気が緩んでいたのか。

 定かではないが、とにかく事実として――清麿はバロウにまんまと一杯喰わされたのだ。

「バロウ、どうして……」

 清麿がどう出るべきか見定め切れずにいると、さとりが問いかける。
 はたして彼には、バロウが凶行に出ると読めていたのだろうか。
 疑問を抱く清麿をよそに、バロウはゆっくりと振り返る。
 その顔面には、『無』が張り付いていた。
 笑うでも悲しむでもなく、また明るくも暗くもない。
 仮面でも被っているかのように、表情が読み取れない。

「おかしなことを訊くなあ、さとりさん」

 おかしそうな口調に反して、表情はやはりなかった。

「だって言っていたじゃないか……土門さんも。
 機械の人だって、同じことを思っていたはずだよ」

 質問の答えなど、とうにさとりには読めているはずだ。
 そのくらい分かっているだろうに、バロウは話すのを止めない。


「殺したら――終わりなんだってさ」


 淡々と語るバロウは、さも自分自身に言い聞かすかのようだった。
 疑問には答えたにもかかわらず、バロウは静かに続ける。

「僕らは終わってるんだよ、さとりさん。
 いまさら一緒になんていられるはずないじゃないか、風子さんじゃあるまいし」

 バロウの表情は、まったく変わっていない。
 依然として、皆無である。
 なのに――清麿には、彼が泣いているように見えた。
 誰の返事も待たず、バロウは復唱するようにもう一度。

「僕らは、終わっているんだから――さ」

 数刻静寂が辺りを支配したのち、さとりは清麿らのほうに向き直る。
 バロウの側に立って、海月を振り上げる。

「クソッ。マジか、お前ら……!」

 言って、横島もまた両腕を振りかざす。
 数回腕を上下させてから、ゆっくりと自分の腕を眺める。
 三十秒ほどその動作を繰り返し、ようやくなにも持っていないことに気付いたらしい。

「しもたああああああああああああああ! あんまりにも安心して霊波刀消してもうてたああああああああ! 堪忍やあああああああああああああああ!」

 ばたばたと腕を動かして、横島がのた打ち回る。
 おどけたような動作だったが、彼に飛んできた返事はひどく冷たい。

575 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:37:55 ID:UONH9mBf

 

576 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:38:21 ID:QuEQGEpW

 

577 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:38:38 ID:CFara2jM

 
「バロウ、こいつ『勢いで誤魔化してやろう』と思っているぞ」
「うん、察してた。察してたけど、あんまりにも見苦しくてちょっと」
「あァ。それも読めてたけど、一応言っておこうと思ってなァ」
「ぎゃあ」

 横島が頭を抱え――瞬間、轟音が響いた。
 バロウとさとりに遅れて、清麿と横島も音の方向に視線を飛ばす。
 そちらでは、奇妙な顔が煙を立てて爆発している。
 バロウの力によるものか、奇妙な顔が掻き消える。
 呑み込まれたのは三人だというのに、顔があった場所にいるのは一人。
 紫暮が白い僧衣を赤黒く染めて、地に伏しているだけである。

「バロウ、上だ!」

 さとりの声に従って、他の三人も上空を見上げる。
 左足裏のバーニア一つで飛ぶマシン番長が、そこにいた。
 右腕の肩口から先が存在せず、切断面から火花を散らしている。
 残った左腕で抱えられている風子には、目立った傷がない。

「――くッ! 『唯我独尊』!」

 目に見えて平静さを失いながら、バロウが先ほどと同じ単語を叫ぶ。
 奇妙な顔がマシン番長の背後に出現するが、その大口は虚空を噛むだけだ。
 来ると分かっていれば、マシン番長にとっては避けられないものではないらしい。

「さとりさん!」

 数回攻撃を繰り返して、勝ち目がないと判断したのだろう。
 土門が所持していた二つのリュックサックを掠め取ると、バロウはさとりの手を掴んだ。
 彼の靴を覆うようにして、ローラースケートのようなものが出現する。
 その車輪が勢いよく回転し、凄まじい速度で遠ざかっていく。
 数秒後には、彼らの背中は見えなくなった。

「……ちくしょう」

 歯噛みしながら、清麿は土門であった塵山の元に歩み寄る。
 彼が纏っていたボディスーツは傷だらけで、とてももう使えないだろう。
 灰山のなかに、輝く欠片がいくつもある。
 拾い上げてみたが、ARMSコア『グリフォン』はいくつかの破片に分かれてしまっていた。
 組み合わせたら球体にはなったが、少し力を抜けば崩れてしまう。
 清麿の掌から、土門であったものが零れ落ちていく。
 掌の上で、ARMSコアの破片は氷のように冷たい。

「……ちッくしょう…………!」

 口から漏れるのは、同じような言葉ばかりだ。
 ARMSコアであった欠片を握る力が、知らず強くなった。
 微かな音を立てて、欠片は完全に砕け散った。

578 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:38:55 ID:ELJxP57Z

しえん

579 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:39:14 ID:CFara2jM

 
 
 
 マシン番長に下ろされた風子は、紫暮、土門、マシン番長と一人ずつ眺めていく。
 悔しそうに歯を噛み締めて、なにかを探すべく視線を下に向ける。
 目当てのものは、紫暮の亡骸のすぐ近くにあった。
 紫暮のものと思われるリュックサックの傍らだ。
 風子の視線がなにに注がれているのか気付いたのか、マシン番長が割って入る。
 彼を払い除けようとすると、しわがれた声が浴びせられた。

「その剣でなにをしようと言うんだい?」

 見れば、声の主は白銀の髪を持つ老婆だった。
 すべてを見透かすような銀色の瞳は、風子を射抜いて外さない。
 警戒心を強めているらしい清麿が何者か訊くと、視線を動かさぬまま名乗る。

「ルシール・ベルヌイユという名の、見ての通りのババアさ。
 さっきまでは、そこで死んでる蒼月紫暮と同行してたんだけれどね。
 生憎、化物だの霊だのの知識はなくてね。離れたところで見させてもらってたのさ――で、だ。」

 簡潔に立場を説明して、ルシールは再び問いかける。

「アンタは、その剣でなにをしようと言うんだい?
 そいつが本物の魔剣とやらであるのは、遠くから見ていた私でも頷けるほどだよ。
 その魔剣で、アンタはどうするんだい? 助けようとしてくれたジジィとガキを殺した二人を――いったい」

 穏やかな口調だが、声音は低い。
 白銀の瞳を細めて、風子を見定めるような視線を飛ばしている。
 身体を小刻みに震わしながら、風子はゆっくりと切り出す。

「決まってんだろ……!」

 僅かに口籠ってから、声を張り上げる。

「ブッ飛ばして、頭下げさせて、二度と人殺しなんかさせねえ!
 せっかく手放させてくれたのに悪ィけど、使わなきゃ戦えねえんだよ!
 でも、もうあんな剣なんかの命令聞いてやるもんか! 私の言うことに従わせてやる!」

 ルシールの白銀の瞳を睨み返し、風子は断言する。
 しばし間を置いて、ルシールはもう一度尋ねる。

「それで、本当にいいのかい」
「いいに決まってんだろ! 土門は、アイツらを許してたんだ!
 いっぺん殺されかけたのにだ! いまさら私が殺してたまるかよ!!」

 互いに睨みあったまま、どちらも動かない。
 たっぷり一分ほど時間が経過し、退いたのはルシールのほうだった。
 しかし僅かに冷や汗をかいている風子とは異なり、ルシールは涼しい顔だ。
 『退かせた』のではなく、『自ら退いた』のだろう。
 いつの間にか口内に唾液が溜まっており、風子は慌てて呑み込む。

580 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:39:16 ID:QuEQGEpW

 

581 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:40:00 ID:CFara2jM

 
「そうかえ」

 ルシールはカツカツと音を立てて風子の前を通り過ぎ、紫暮のデイパックを回収する。
 そうして風神剣を拾い上げ、「へえ」とつまらなそうに吐き捨てる。
 殺意の塊が流れ込んでくるはずなのに、平然としたそぶりだ。
 目を見開く風子の元に、風神剣が放り投げられる。

「ほら」
「うわわわっ。バッ、バカ! 危ねえだろ!」

 慌てながらも、風子はどうにか柄部分を握ってキャッチする。
 握ったそばから憎悪に満ちた声が、脳内に響き渡る。

「るっせえ! 殺さねえッつってんだろーがッ! 黙って言うこと聞きやがれッ!!」

 声を無視するのでもなく、受け入れるのでもなく、正面から切り捨ててやる。
 すると、風神剣からの声は止まる。
 だが、風子は安心しない。
 諦めたかのように見せて、隙を窺ってくるのはすでに知っている。
 だから、こう言ってやるのだ。

「いつ出てきても、おんなじこと言ってやっからな。覚悟してろよ」

 くっくっく――と。
 意外にもルシールが笑い声を漏らしたので、風子も笑い返してやった。



【蒼月紫暮 死亡確認】
【石島土門 死亡確認】
【残り52名】



【C-3 北西部路上/一日目 昼】

【マシン番長】
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:全身ダメージ極大(自己修復中)、右足バーニア爆散(自己修復中)、右腕肩口から先を欠損
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:月美を笑顔にするために動く。誰も殺さない。
※一定以上の戦闘力があるとみなした人物は、番長であると判断します。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。
※右腕喪失は自己修復不可能です。


【高嶺清麿】
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙80枚@現地調達、AK-47@現実
     醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。

582 名前 : 殺したらおわり(後編) ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:40:46 ID:CFara2jM

 
 
【霧沢風子】
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:疲労(大)
[装備]:風神剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式×2(水一本消費)、ハンディカラオケ@現実、支給品0~2(風子確認済み)
[基本方針]:このプログラムを破壊する。誰も殺さないし、もう迷わない。


【横島忠夫】
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。胸揉みたいとか言える空気じゃねえ。


【ルシール・ベルヌイユ】
[時間軸]:真夜中のサーカス襲撃直前
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM84
[道具]:基本支給品一式×2、鍋の蓋、支給品0~2(確認済み)
[基本方針]:ドットーレを『確実に』殺す。そのためなら、多少遅れてもいい。清麿らと接触。


【さとり】
[時間軸]:紫暮&うしお戦直後
[状態]:万全
[装備]:海月@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1~5
[基本方針]:優勝し、ミノルの目を治して人間となり一緒に暮らす。


【バロウ・エシャロット】
[時間軸]:三次選考開始後、植木チーム戦以前。
[状態]:右斜めに斬られた傷
[装備]:H&K MARK23(8/12)@現実
[道具]:基本支給品一式×3+水と食料一人分、月の石×4@金色のガッシュ、RPG-7(グレネード弾×5)@現実、支給品1~7(0~3:バロウ確認済。0~1:土門確認済み。1~3:烈火確認済み、花火以外)
[基本方針]:人間になるため、最後の一人となる。
※名簿に書かれたロベルト=アノンと認識しています。




【支給品紹介】


【バラの花束@烈火の炎】
石島土門に支給された。
SODOM突入前に、土門がクラスメイトの少女・霞に手渡されたもの。
どこぞの青いバラではない。



【備考】
※アドバンスドARMSグリフォン@ARMSのコアは、完全に粉砕されました。
※御神苗優のAMスーツ@スプリガンは、胸部を抉られ、胴部を突き破られた状態で、C-3(北西部路上)に放置されています。破損が激しく、装着できる状態ではありません。

583 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 00:41:24 ID:UONH9mBf

 

584 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/12/14(金) 00:41:26 ID:CFara2jM

投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。
支援ありがとうございました。

585 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 02:20:32 ID:Y5OkynNa

投下乙
前話でARMS埋め込まれてAMスーツに鉄丸と超ハイブリッド!と思ったけどそううまくはいかないか…
ともあれ土門はお疲れ様
風子もなんとかなりそうで一安心
ジジババコンビもここで終わりとなると寂しくなる
対照的にバロウはやばそうだなぁ
これは亀裂が入ってもおかしくない予感
そして状態表も含めて横島www
いつも通りである意味安心した
改めて投下乙でした

586 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/14(金) 12:50:24 ID:G5Xo8DbI

投下乙!
土門お疲れ様。マシン番長も風子も、お前がいなかったらマーダーのままだったよ
あのマシン番長が風子を救う為にこれだけ頑張ったのは、間違いなくお前がいたからだ
しかしその土門の一言で、バロウが後戻り出来なくなったのは皮肉だな……
それでも復讐を選ばなかった風子に笑ったルシールが、何とも言えない
……それにしても横島の文珠で安心しただけに、ショックが大きい

587 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:46:24 ID:YQOeq/kp

投下します。

588 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:46:30 ID:6NG6fVLw

 

589 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:46:42 ID:JTcyBbtg

OK、支援は任せろ!

590 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:47:10 ID:6NG6fVLw

     

591 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:47:10 ID:YQOeq/kp

 ◇ ◇ ◇


 動物園内には、地鳴りじみた奇妙な音が響いていた。
 檻から解き放たれた獣たちの唸るような鳴き声が、いくつも重なり合っているのだ。
 ある個体は鋭い牙を露わにしながら大口を開け、ある個体は生まれ持った鋭い角を突き出し、ある個体は異常発達した両手に猟銃を携え――
 それぞれ種の異なる獣たちが、一様に動物園に侵入した二人を眺め回している。
 周囲にいる他の獣には目もくれず、さながら侵入者を吟味するかのように。

「……はーん」

 常人の三本分ほどの太さを誇る指を鳴らしながら、コウ・カルナギは納得したように頷く。
 いちいち数えてはいないものの、獣の数は十をゆうに超えているだろう。
 そのどれもが妙なことに、互いに喰い合おうとするそぶりすら見せない。

「テメェら、飼われてやがるのか。ザマァねえな」

 言葉の意味が伝わったワケではないだろう。
 それでも、侮蔑しているということくらいは分かったのかもしれない。
 機を伺っていた獣たちが、二人の侵入者へと一斉に飛びかかっていく。
 最初に襲いかかってきた獣に裏拳を叩き付け、二体目を爪先で蹴り上げ、三体目の脳天を踵落としで砕き割る。
 鍛え抜かれた身体と黒い衣服を獣の血で染めながら、カルナギは嘲るような笑みを浮かべた。

「なんだよ、怒ったのか? はッ、怒るわな! 分かるぜ、畜生ども! はははははッ!」

 そう、分かるのだ。

 ――コウ・カルナギという個体もまた、秘密組織『エグリゴリ』に飼われていたのだから。

 アメリカ大陸から遠く離れた絶海の孤島に作られた施設――収容所『アサイラム』。
 特殊合金で四方を囲んだ収容室だけでは飽きたらず、ご丁寧にも海という名の巨大な檻まで覆っているのだ。
 表向きには一般社会との隔離が必要な犯罪者たちを収容する刑務所とされているが、その実体はエグリゴリの特殊実験体収容施設である。
 特殊な遺伝子を持つサンプルを全世界から集め、なかに閉じ込めておく。

 そんな場所に――カルナギは閉じ込められていた。

 単なる一匹のモルモットとして。
 カルナギの筋細胞は他にない一点物であるが、アサイラムに収容されるのはそんな一点物ばかり。
 特Aクラスのもっとも特異な収容者の一人として『牙(ファング)』との異名を授けられたが、所詮は一実験体に過ぎない。
 一切の人権は剥奪され、下される命令を拒否する権利さえ許されていない。
 呼び出しがかかれば、細胞を搾取される。動作を観察するべく、現在のように獣と戦わされた経験だって数え切れない。
 暴れることはできるが、せいぜい看守や護衛を殺せるくらいだ。
 そんなものはエグリゴリにしてみれば、いくらでも補充できる人員に過ぎない。
 たとえアサイラム内にいる人間を皆殺しにしたところで、エグリゴリは痛くも痒くもないだろう。
 すぐに悟ったものの、それでもカルナギは目の前に現れる輩を毎回殴り飛ばした。
 日も当たらない場所に閉じ込められているのが苛立たしく、怒りをぶつけさせてもらった。
 いくらでも人員を補充できるとはいえ、アサイラムのほうもやられるがままではないらしい。
 いつの日からか看守に数十名のサイボーグ兵士が護衛としてつくようになったが、それさえも殴り飛ばしてきた。
 サイボーグ兵士といえど、カルナギの前では枯れ木の束とさして変わらない。
 殴れば砕けるし、握れば歪むし、引っ張れば千切れる。
 とはいえ、いくら暴れたところで意味などない。
 何人殺したとしても、いずれ命令を聞くしかなくなるのだ。
 幾重もの檻に閉じ込められており、従わねば食事すら出されないのだから。
 理解していながら、カルナギは殴り続けてきた。

 飼われていた事実もだが、他にも頭にくることはあった。
 少し力を振るってやっただけで、看守たちは怯えた目で『怪物(モンスター)』と呼んで銃口を向けてくるのだ。
 人体なぞ十パーセントも残っていないだろうサイボーグ兵士を傍らに置きながら、カルナギのことを怪物と見ている。

 その事実が――なにより、カルナギは気に喰わなかった。

592 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:47:33 ID:JTcyBbtg

 

593 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:47:44 ID:YQOeq/kp

 
(テメェらと同じで、俺はモンスターなんだとよッ)

 獣の頸骨を蹴り折りながら、カルナギはさらに思い返していく。

 そもそも、アサイラムに収容される以前から人間扱いされてこなかった。
 どいつもこいつも怯えた目を向けるばかりで、ようやく声をかけてきた輩がエグリゴリの構成員たちであった。
 彼らはカルナギを一匹のモルモットとしてアサイラムに閉じ込めて、それきりであった。
 そんなカルナギ相手に一対一で呼びかけてきた物好きが、片手で数えきれるくらいにはいた。

 キース・シリーズが末弟、キース・グリーン。
 オリジナルARMSの適正者、高槻涼と新宮隼人。
 そして最後の一人は――

「後方にも気を配ったほうがいいぞ、カルナギ」

 『神秘の球』というらしい放射状に展開させた刃を回転させ、ジョージ・ラローシュが飛び込んでくる。
 カルナギの背後から襲いかかってきた獣の爪を弾き飛ばし、ガラ空きになった腹に刃を突き立てて回転速度を上げる。

「どうだ。一人でいるより二人でいるほうがいいだろう? やはり、私と行動していてよかったじゃないか」

 やたらと偉そうな物言いのジョージに、カルナギは短く答えて残っている獣に飛びかかる。

「うるせえ、銀目野郎。あんな爪にちょっと引っかかれたくらいで死ぬほど、ヤワじゃねえ」

 カルナギに一対一で呼びかけてきた最後の一人は――この男だ。
 このジョージ・ラローシュという男は、他の三人とはまた種類が違う。
 グリーンは上手く扱うべき道具として、涼と隼人は迎え撃つべき猛獣として、カルナギのことを認識していた。
 つまりコウ・カルナギという人間ではなく、その強大な身体能力だけに注目していたのだ。
 そういう点では、アサイラムの看守らとなにも変わらない。

 ただ――ジョージ・ラローシュだけは違っていた。

 この殺し合いの舞台で、ジョージはあろうことかカルナギを仲間に引き込もうと呼びかけた。
 アサイラム史上もっとも恐れられた『牙』相手に、『協力しよう』などと交渉を持ちかけてきたのだ。
 この力を上手く扱えるとでも思っているのなら、見当違いもいいところだ――と、カルナギはやけに冷めた気持ちになった。
 マヌケとしか思えなかった。こちらの力を見極めきれていないのかと殴りつけても、食らいついてきた。
 なにやらただの人間ではないようで殴っても死にはしなかったし、少しずつ回復していたが、回復がまったく追いついていない。
 それでは、余計に苦しむ時間が長くなるだけである。
 いくら教えてやっても、全身ボロボロになりながら交渉をやめようとしない。
 見当違いで、無様で、情けなくて、みっともなくて、さすがのカルナギも可哀想になって尋ねてみた。

『お前、さあ。……普通、ここまで殴られりゃ猿でも学習しねえか?』

 決して、返事を聞きたいワケではなかった。
 単に『お前の頭は猿以下だぜ』と、遠回しにバカにしてやっただけだ。
 にもかかわらず、ジョージは律儀に答えたのだ。

『かもしれない。それでも、人一人説得しようというのだ。それなりの代償は払わねばならないだろう』

 人――と。
 カルナギのことを指して、たしかにそう言ったのだ。
 道具でもなければ、猛獣でもなく、人間と認識していたのだ。

 やはり、マヌケとしか思えなかった。
 やはり、見当違いで、無様で、情けなくて、みっともなくて、可哀想で――珍しく気を遣ってしまった。
 あくまで、気を遣っただけのはずだ。
 どうしようもなく見当違いで、あんまりにも見苦しかったゆえに。

594 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:48:04 ID:JTcyBbtg

 

595 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:48:14 ID:6NG6fVLw

      

596 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:48:17 ID:YQOeq/kp

 
 そのはずなのに――
 いま、カルナギは間違いなくジョージの援護を期待してしまっていた。
 後方を援護をしてくれるのを無意識のうちに考慮して、前へ前へと突き進んでいたのだ。

(俺は、一本の『牙』だ。
 その俺が他人をあてにして、無謀な深追いだと!?)

 ジョージに指摘されてるまで、気付いていなかった。完全に無意識だった。
 とはいえ、一度気付いてしまえば頭から離れない。
 どれだけ獣との戦闘に集中しようとしても、思考の片隅にちらついて回ってくる。

(……クソッ、どうなってやがる。俺らしくもねえ。鬱陶しいったらありゃしねえ)

 この思いに、偽りはない。
 余計なことを考えながらの戦闘など初めての経験であり、煩わしいことこの上ない。
 しかし――同時に。
 いつ抱いたかも定かではない期待の通りにジョージの援護があった事実に、カルナギはどこか悪くないとも思ってしまっている。

「気に入らねえ」

 吐き捨てながらも、口元が緩むのを止められない。
 鏡がなくとも感覚で自らの表情を察してしまい、カルナギはそんな自分にいっそう苛立つ。

「気に入らねえよ」

 より笑みを深くしながら、カルナギは大口を開けて飛びかかってきた獣の左胸を拳で貫く。
 辺りを見渡してみれば、残る獣はいつの間にか残り一体となっていた。
 数秒見合っていると、額から伸びた角を突きだしてつっこんでくる。

「あんだけいたんだ。もう少し他のヤツらとタイミング合わせりゃ、ちょっとは追いつめられたかもしんねーのによ」

 檻のなかに閉じ込められていた獣に、そんな芸当はできない。
 だが――

「俺にはできんだぜ」

 カルナギがしゃがみ込むと、すでに背後にいたジョージの『神秘の槍』が馬の胴体に突き刺さる。
 いくつもの刃に貫かれた獣めがけて、カルナギは立ち上がる勢いを乗せた拳を放つ。
 骨が砕ける音と断末魔の悲鳴を響かせながら、獣は彼方へと飛んでいく。
 数回地面をバウンドしてから、ついに動かなくなった。

「ご苦労だった、カルナギ。
 これで、なにも知らぬ参加者が襲いかかられるような事態は避けられる」
「はん、そんなんじゃねえよ。俺は暴れられりゃそれでいいんだ」

 勘違いするなと続けて、カルナギはジョージにローキックを浴びせる。

「だから、私を殴らないでくれと何度も――」

 いつも通りの反論に拳で返してやろうとしたカルナギだったが、右腕を振り上げた状態で固まる。
 もうすべての獣を始末したはずなのに、動物園内にこれまで以上の威圧感が立ち込めだしたのだ。
 ジョージのほうも勘付いたらしく、言葉は半ばで切り上げられたままだ。

 ゆっくりと接近してくる気配の主が、ほどなくして明らかになる。
 短く整えられた金髪に、始末した獣のどれよりも鋭い眼差し。
 殺し合いの説明を行ったキース・ブラック、この会場にてすでに遭遇済みのキース・グリーン。

 現れた男は――彼らと同じ顔をしていた。

597 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:48:24 ID:5XUHGeyL

 

598 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:48:34 ID:JTcyBbtg

 

599 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:49:05 ID:JTcyBbtg

 

600 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:49:07 ID:YQOeq/kp

 
「キース・シルバー……!」

 意図せず、カルナギは彼の名を呟いていた。
 着込んでいるのは軍服でこそあるものの、普段纏っているものとは別物だ。
 それでも――明白だった。
 他の兄弟より一回り大きい鍛え抜かれた肉体が、雄弁に自らをキース・シリーズが戦闘担当・『帽子屋(マッドハッター)』のキース・シルバーであると語っている。

「ふむ、なるほど。彼がキース・シルバーか」

 息を呑むカルナギとは対照的に、ジョージは妙に冷静だった。

「では、交渉を試みるとしよう」
「はあッ!?」

 カルナギは、つい聞き返してしまった。
 さっきまで立ちこめていた緊張感は、一気にどこかで吹き飛んでしまった。

「お前よォ……! 前話しただろうがッ、アイツと交渉なんかしても無駄だってよッ!」

 カルナギが胸ぐらを掴むが、ジョージは涼しい顔を崩さない。
 まったく動じないどころか、むしろ怪訝そうである。

「それは分かっている。
 マッドハッターだったか。君も詳細を知らないという戦闘用ARMS、それは間違いなく脅威だろう」
「分かってんじゃねえかッ!」
「だから分かっていると言っているだろう。人の話を少しは聞いたほうがいい」

 ついに言葉を失ったカルナギに、ジョージは続ける。

「だからこそだ。
 あの男はキース・ブラックの血縁にして、エグリゴリの中心人物なのだろう。
 にもかかわらず殺し合いの参加者にされているのだ。不満がないはずがない。
 そこに交渉を持ちかけて仲間にできれば、我々が欲しい情報が手に入るではないか。
 君だって、この首輪を外して脱出したいんだろう。この機会を逃す手はないと思わないのか?」

 どうやら、ジョージは本気で不思議に思っているらしい。
 言い聞かせるような口調が感に障り、カルナギはジョージを手放す。

「はッ! 知るかよ! 上手くいくと思うんなら、試してくりゃいいだろうがッ!」
「だから、私はさっきからそう言っているではないか」

 ジョージは首を傾げながら、シルバーの元へと歩み寄っていく。
 その後ろ姿を眺めながら、カルナギは大きくため息を吐く。

(本当にワケの分からんヤツだ……)

 胸中で吐き捨てながらも、カルナギはどこかで期待していた。
 何せ、ジョージは他ならぬコウ・カルナギ相手に交渉を成功させたのだ。
 もしかしたら、本当にやってのけるかもしれない。
 自分のときのように、なんとかしてしまうかもしれない。
 やたらと頑丈な身体で食いついてくるジョージに、キース・シルバーが呆れ返るかもいれない。

 そんな風に、楽観的になっていた。

 楽観的に――なってしまった。

「キース・シルバー、君に話が――」

601 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:49:44 ID:YQOeq/kp

 
 ジョージの言葉は、そこから先が告げられない。
 交渉をする暇も、与えられない。
 シルバーは、なにも聞こうとしなかった。
 聞くそぶりさえ、まったく見せなかった。
 ジョージ・ラローシュはいかなる相手をも人間と見ているというのに――その事実を知ろうともしない。
 まだ呼びかけている最中にもかかわらず、キース・シルバーは右掌を輝かせる。

 直後、その光が一条のレーザー光線となり――ジョージの腹を貫いた。

「ジョージッ!!」

 状況を頭が呑み込むより早く、カルナギは地面を蹴っていた。
 凄まじい速度で肉薄して、シルバーの鳩尾に飛び蹴りを浴びせる。
 吹き飛んでいくシルバーからは、すぐに視線を外した。
 シルバーが踏み込んだ気配はなく、あえて勢いをまったく殺さなかったのは明らかだ。
 力を確かめるためか、距離を取るためか。
 定かではないが、ダメージはほとんどないだろう。
 それを分かっていてなお、カルナギの脳内にはくずおれたジョージのことしかなかった。

「すまないな、カルナギ……交渉は失敗に終わった」

 いつもと変わらぬ口調で、ジョージは頭を下げる。
 傷口が焼けているようで、腹に開いた穴から出血はない。
 それでも、腹に大きな穴が開いているのだ。
 肉も臓器も骨も、根こそぎに貫かれてしまっているのだ。
 命に別状がないはずがない。

「バカ野郎! テメェ……だから止めただろうが……!」

 カルナギは拳を振りかざして、いつも通りに殴ろうとして――そのままの姿勢で静止する。
 拳を振り下ろすことができなかった。
 これまで何度も殴りつけているというのに、不思議と殴れなかった。

「……クソッ!!」

 苦々しい表情で、カルナギは毒づく。
 誰に対して苛立っているのか、よく分からなかった。
 案の定やられたジョージか、交渉に耳を傾けなかったシルバーか、はたまた――

602 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:49:46 ID:6NG6fVLw

 

603 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:50:03 ID:5XUHGeyL

                 

604 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:50:10 ID:JTcyBbtg

 

605 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:50:24 ID:YQOeq/kp

 
「交渉できないとなると……戦うしかないな。
 カルナギ、ヤツは光線のようなものを放つ。動かねばいい的になるぞ」

 カルナギを思考の渦から引き戻したのは、ジョージの声であった。
 彼はいつの間にか立ち上がっており、『神秘の球』を展開している。
 しかしジョージの顔面を照らす脂汗が、戦闘などできるコンディションでないと語っていた。

「……いらねェよ」

 カルナギは、ジョージの一歩前に出る。

「ただでさえ弱っちいのに、死にかけのテメェの助けなんかいるかよ」

 ジョージのほうを振り返らず、いつも通りの自信に溢れた口調を作る。

「邪魔で邪魔でしょーがねえから、尻尾巻いて逃げてろや。
 だいたい最初に言っただろうが、戦うのは俺がやるってよ」

 背を向けたまま、カルナギは拳を作る。
 その拳で軽くジョージの肩を叩いて、さらに前へと出る。

「だいたい、俺は――『牙』コウ・カルナギだぜ。
 他人とつるんでるより、一人でいるほうが気が楽なんだよ」

 断言して、カルナギは指の関節を鳴らす。
 ジョージはなにやら反論しようとしていたようだが、それをすべて無視する。
 しばらくしてようやく、説得が無駄だと悟ったらしい。

「すまない」

 一言だけ残して、ジョージが去っていく。
 『神秘の球』の回転音が遠ざかっていくのを聞きながら、カルナギはひとりごちる。

「…………謝ってんじゃねえや」

 その声は風に呑まれて、誰の耳に届くこともなかった。

606 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:51:09 ID:JTcyBbtg

 

607 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:51:22 ID:YQOeq/kp

 
 
 
「――ちィ」

 キース・シルバーは、舌打ちを禁じ得なかった。
 戦闘生命としての生を満喫できるかと思いきや、コウ・カルナギは逃げ回っている。
 仕かけてくるでもなく、動物園にある檻や樹木などといったものに身を隠しているのだ。
 あの『牙』が、だ。
 これでは、己の意志を持たぬ人形に過ぎない『人形破壊者(しろがね)』を最初に始末した意味がない。
 苛立ちに呼応するかのように、軍服の右腕部分が弾け飛んだ。
 掌だけでなく、右腕全体がARMS化したのだ。
 シルバーが意識を集中させると、右掌に荷電粒子が集う。
 煌々とした光は次第に強くなり、荷電粒子砲『ブリューナクの槍』となって射出される。
 地面に転がる獣の亡骸に直撃すると、一瞬のうちに蒸発してしまう。
 秒と待たず、次の一撃を檻へと放つ。これまた蒸発し、見晴らしがよくなる。

「貴様にいつまでも付き合う気はない」

 出てこないのならば、燻り出すまでであった。
 亡骸を、檻を、樹木を、全体の六割ほど蒸発させてやると、ついに諦めたらしい。
 逃げ場をなくしたカルナギが、一本の樹木の陰から勢いよく飛び出してくる。
 ようやく始まる戦闘に、シルバーの口角が微かに吊り上がる。
 カルナギの眉間にブリューナクの槍を放つも、僅かに横に跳ばれて回避される。
 無理な体勢となったところに、腹を狙った二撃目。強引に身体を捻られるも、間に合うはずがない。
 いかに強固な筋肉であろうと、ブリューナクの槍を止めることは不可能だ。カルナギの脇腹を光線が貫通する。
 致命傷には至らないだろうが、確実に臓物にまで届いたはずだ。
 にもかかわらず、カルナギは足を止めずに突き進んでいく。
 知らず、シルバーの笑みが深まる。

「おォォォォッ!!」

 雄叫びとともに、カルナギの蹴りがシルバーの側頭部を打ち据えた。
 巨大な鉄塊同士がぶつかり合ったような轟音が、動物園内に響きわたる。

 ――しかし先ほどとは異なり、シルバーは微動だにしない。

 あのときは力を確かめるべく、あえて両脚に力を籠めずに受けたのだ。
 歯を噛み締めながら、カルナギがバックステップで遠ざかろうとする。
 理由は定かではないが、時間を稼ごうとしているのは明らかだ。
 そのそぶりに、シルバーの笑みは掻き消える。

「失望したぞ、コウ・カルナギ」

 逃げようとするカルナギの肩を掴んで、シルバーは切り出す。
 落胆を隠そうともせず、吐き捨てるように。

「貴様は俺たちARMS適正者の存在を知りながら、それでも自ら最強と言い張るような――そんな輩ではなかったのか」

 キース・シルバーは、戦闘生命だ。
 戦場に生きて、誰より多くの死を振り撒く。
 無数の亡骸で作られた山の上で、その生を完全燃焼させる。

 コウ・カルナギもまた、そうであるはずだった。
 常に敵を求め、その敵を踏みにじる。
 ゆえに『アサイラム』に閉じこめられ、『牙』の異名を得たはずなのだ。
 彼の周囲には敵以外おらず、蹴散らした敵の山の上で息絶える。
 それ以外に、コウ・カルナギという存在に道などないはずだ。
 だというのに絶好の戦闘機会を前に、相手から距離を取ろうとしている。
 その姿が、シルバーには見ていられなかった。

608 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:51:40 ID:JTcyBbtg

 

609 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:51:52 ID:YQOeq/kp

 
「――はッ」

 そんな思いをコケにするかのように、カルナギは短く笑う。
 掴まれているシルバーの右手は荷電粒子を纏っており、見る見る肉を焼かれている。
 にもかかわらず、頬を緩めてシルバーを見上げるのだった。

「いらねえよ、そんなもん。くッだらねえ。
 最強なんざ……もういい。欲しけりゃくれてやるぜ、テメェにでも、テメェの弟にでもよ」

 予期せぬ言葉に、シルバーは目を見開く。
 その掌はさらに熱を持ち、カルナギの身体から黒ずんだ煙が上がり始める。
 肉と脂の焦げる臭いが、嗅覚を刺激する。

「俺が本当に欲しかったのは――」

 カルナギが言い終えるより早く、シルバーは右手に力を籠めた。
 瞬く間に、右腕に集まっていた荷電粒子が極太のレーザーとなって放たれる。
 言葉の先を告げることもできず、極光に包まれたカルナギの肉体は消滅した。

「…………」

 僅かに残ったコウ・カルナギであった消し炭を、シルバーは遠くを見るような目で見据える。
 別に、焦る必要はなかった。
 急いで殺さずとも、話を聞くくらいの余裕はあったはずだ。
 アサイラムなぞに収容されていた男の戯言などに、惑わされるつもりもない。

 なのに、なぜであろうか。

 最期の一言は――聞いてはいけないような気がした。



【E-3 動物園/一日目 昼】

【キース・シルバー】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にてオリジナルARMSたちがカリヨンタワーに乗り込む直前。
[状態]:健康、発熱(微)、共振波を放出中
[装備]:ネオナチの軍服@スプリガン
[道具]:なし
[基本方針]:戦闘生命として、闘争を求める。

610 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:52:06 ID:5XUHGeyL

             

611 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:52:23 ID:JTcyBbtg

 

612 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:52:29 ID:YQOeq/kp

 
 
 ◇ ◇ ◇


 動物園へと歩みを進めていた加藤鳴海は、不意にその足を止めた。
 目指していた方向から、お目当ての人物が走ってきたのだ。
 周囲に展開した数十本の黒い刃を回転させた『神秘の球』で疾走しているのは、まさしく『しろがね-O』のジョージ・ラローシュである。

 正直なところ、鳴海はジョージのことを決して快く思っていない。
 ファーストコンタクトが悪すぎただけで、実際はそこまで悪人ではないのかもしれない。
 それでもゾナハ病患者の子どもに対して、非人道的な面接を行っていたのは忘れることができない。
 とはいえ、この非常事態だ。
 知り合いを無視することなどできるはずがなく、鳴海は大声で呼びかけることにした。

「おおい、ジョージッ!」

 たった一度の呼びかけで届いたらしく、ジョージは急に方向転換して接近してくる。
 近付かれて初めて、鳴海は『神秘の球』の速度が普段よりひどく緩慢なことに気付く。
 眼前まで来た『神秘の球』がゆっくりと解かれると、鳴海は言葉を失った。
 露わになったジョージの姿は、ひどい有様であったのだ。
 代謝が少ないしろがねでありながら、脂汗は顔面中を滴っている。
 腹には直径十センチを越える大きな穴が開いており、傷口から出血こそないが致命傷なのは明白だった。
 穴から周囲へと石化が進んでいるのだ。

 それこそ――しろがねの死の兆候であった。

「ジョ、ジョージ、お前ッ!? カルナギってヤツにやられたのか!?」

 困惑に脳内を支配されながらも、鳴海はジョージに問い質す。
 ジョージがコウ・カルナギという人物と一緒にいるのは、ビジネスホテルにあった置き手紙で分かっている。
 そのカルナギという男は、鳴海と同行していた高槻涼曰く要注意人物とのことだ。

「なぜ君が……そうか。きっと、彼らから聞いたのだな……」

 一人納得しながら、ジョージは倒れ込む。
 石化の浸食が、ついに足にまで及んだのだ。
 地面にぶつかる前に、鳴海はどうにかジョージを抱え込んだ。

「そんなことはどうでもいいだろッ! なにがあったんだ、お前に!?」

 より焦りを募らせる鳴海とは対照的に、ジョージはやけに落ち着いた口調で答える。

「そのコウ・カルナギが、キース・シルバーという危険人物と相対している。力になってやってくれ。君ならできるはずだ」

 完全に予想していなかった返答に、鳴海の思考が一瞬飛んだ。
 困惑している間も、ジョージは続ける。
 訊いたワケでもないのに、滔々と語り始める。

「彼は、私についてきてくれたんだ。この私にだ。
 君は知っているだろう、私の交渉術を、合理性しか知らぬ私のやり方を。
 あのとき――かつて君に会ったときに、君が激昂したあのやり方を」

 鳴海の脳内に、子どもを追いつめるジョージの姿が蘇る。
 アレは質問ではなく、もはや尋問であった。

「今回、私はあの方法を捨てた。
 たとえ合理的でなくとも、私の身が危なかろうとも、人一人説得するには私自身多少傷つく必要もあるかもしれないと考えた。
 すると、彼はについてきてくれたんだ。殺し合いに乗っていたというのに、考えを改めてくれた。何度も殴られたが、その甲斐があったと思う」

613 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:53:00 ID:JTcyBbtg

 

614 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:53:12 ID:YQOeq/kp

 
 話している間も、ジョージの石化は進んでいく。
 下半身は、すでに完全に石となっている。
 上半身のほうも、手首から先と首から先以外に生身の部位は残っていない。
 そんな状況でありながら、ジョージは声を張り上げる。

「私にだぞッ!? このジョージ・ラローシュにだぞッ!? 君とは違う、私にだッ!
 あの子たちが『ピアノをまた弾いてね』と言ってくれた理由すら分からぬ、こんな私にだッ!!」

 ここまで感情を露わにするジョージの姿を、鳴海は知らない。
 大声を出しているせいで、石化した部位に亀裂が走っていく。
 それでもジョージは黙ろうとしないし、鳴海も止めることができなかった。

「君には分からないだろうッ!
 最初から、あの子たちに歩み寄れた君にはッ! しろがねのなかでも異質な君にはッ!」

 そこまで叫んでから、ジョージは静かな口調に戻る。
 声量こそ落ちていたが、歯噛みするような口調はやはり鳴海の知らぬものだった。

「……頼む、カルナギを助けてくれ。私では……彼の力になれないんだ」

 鳴海の返事を待たずに、ジョージの身体は完全に石と化していた。
 心底悔しそうな表情を浮かべた石像は、数秒後には幾千の破片となり果てる。

「…………」

 鳴海は、自分自身の拳を見つめる。
 砕ける寸前、ジョージは石化した手で鳴海の手を握って、拳を作った。

 むかし、ジョージが敵わなかった自動人形(オートマータ)を砕いた――加藤鳴海の拳を。

「…………悪ィな、涼」

 キース・シルバーの実力は、涼から聞かされている。
 本来ならば、ARMS殺しを持つ涼と合流するべきなのだろう。
 かつてのジョージのように、合理的に考えれば。
 だが、それはできない。
 悠長なことをしている余裕はない。

 それに――いま握っている拳には、ジョージの思いが籠められている。

「商店街に行くの、ちいっとばかし遅くなるぜ」

 鳴海は動物園のほうを睨みつけて、拳をよりいっそう固く握り締めた。



【E-4 路上/一日目 昼】

【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ジードのタバコ@金色のガッシュ、ピアニカ@金色のガッシュ、支給品0~2(確認済み)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。動物園に向かう。

615 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:53:38 ID:JTcyBbtg

 

616 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:54:40 ID:JTcyBbtg

 

617 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:54:58 ID:YQOeq/kp

 
 
 ◇ ◇ ◇


 ……………………

 ……………………

 ……………………

 ……………………


「……あァ? どうなってやがる、どこだここは」

「私にも、心当たりがないな。
 果てが見えない。どこまででも歩いていけそうだ」

「おお、そうかよ…………って、ちょっと待て」

「む? なんだカルナギ。
 私の見解におかしなところでもあったか? ならば、指摘してくれるとありがたいのだが」

「うるせえ。そんなことじゃねえよ、この銀目野郎ッ!」

「ふむ。ならばなおさら分からないな。
 君は知らないのかもしれないが、声を荒げているだけでは相手にはなにも――」

「うるせえつってんだろうがッ!」

 ドゴッ☆

「なぜ殴る……」

「テメェが話聞かねえからだよ! ここがどこかより、よっぽど気になることがあるだろうがッ!」

「ふむ、もったいぶらずに教えてくれ」

「――なんッで、テメェまでいやがんだよッ!!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

618 名前 : 檻の外のヒト ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:55:54 ID:YQOeq/kp

 
「…………仕方ないだろう」

「なくねえ殺す」

 ドガッ☆ ガシッ☆ ボカッ☆

「ここまでやらなくてもいいように、私は思うのだが……」

「うるせえうるせえ。あークソッ。ンだよ、テメェもかよ」

 カルナギは悪態をつきながらも、ジョージの肉体が再生を終えるのを待つ。
 この世界に果てがあるのかは定かではないが、どうやらやたらと広いようだ。
 こんな場所を一人で歩いていては、退屈でしようがない。
 話し相手兼召使いが必要である。
 仕方なく待つしかない。仕方なく。そう、仕方なくだ。あくまで、仕方なく。

「では行くとするか、カルナギ」

「ああ待ちくたびれたぜ、銀目野郎」


 肩を並べて、二人で歩く。

 彼らの世界を覆う檻はない。



【コウ・カルナギ 死亡確認】
【ジョージ・ラローシュ 死亡確認】
【残り50名】

619 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 20:57:10 ID:JTcyBbtg

 

620 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/12/18(火) 20:57:52 ID:YQOeq/kp

投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。
支援、ありがとうございました。
容量がヤバ目なので、次投下するSSの容量次第では新スレ立てますね。


こっから告知。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1327331994/
にて、12/21にサンデーロワ語りをするらしいです。盛り上がるといいなあ。

621 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/18(火) 21:45:42 ID:Pe+Qh6s3

投下乙です!

まさかジョージとカルナギに泣かさせることになるとは思わなかった。
本当に良いコンビだったなこいつら。
あの世でも仲良くしろよ!

622 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/19(水) 00:14:57 ID:oksj4GbE

ああああ、この二人が脱落かあ
良いコンビだったなあ

623 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/19(水) 18:18:16 ID:rPw2a7Cl

投下乙です。

不器用極まりない二人。だからこそ、最期の言葉は聞いた人物の心を揺らして。

624 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/19(水) 20:12:42 ID:0ihapd0w

投下乙!
ジョージの最期が好きすぎて、名簿見た時は期待と不安が半々だったけど……泣いてしまった
上手く言葉になりませんが、凄く良かったです

625 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/19(水) 21:11:41 ID:5DQ6cMON

投下乙です。

<殺したら終わり
土門かっけええええええ!
風子説得パートが熱くて最っ高だわ、もー!
熱い三枚目をこれでもかとぶっこんでくれてさぁ!
それを受け継ぐマシン番長もかっこいいから困る。
前話のタイトルを引用してるとことかくっそ王道だけど燃えるんだよ!
紫暮さんと土門はここで退場だけど後に託せる奴等がいるから幸せだよなぁ……。

<檻の外のヒト
この二人がここで脱落かー。
カルナギの最後が反則級に良すぎる。
本当に欲しかったものとかよー! やめろよー、反則だろー!
最後の二人の会話もしんみりしてしまってさー!

626 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/26(水) 21:36:27 ID:pQzjuBFZ

今週のサンデー、うしとら載ってるぞ!

627 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/27(木) 07:54:01 ID:+oSWsWcT

!!!
今週だったのか!まだ残ってるかな

628 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/27(木) 19:18:50 ID:pH6oPqay

うしおだ!
とらだ!
獣の槍だ!

すっかり忘れてたからスレ見てよかった!

629 名前 : 創る名無しに見る名無し 2012/12/30(日) 11:32:54 ID:vfeoY/Nk

『100話到達記念企画、首輪の謎に迫る!』の状態表で朧の首輪がなぜか解除されてますが、完全にミスです。
wikiで修正しときます。

630 名前 : ◆hqLsjDR84w 2012/12/30(日) 11:33:45 ID:vfeoY/Nk

トリップ。

631 名前 : ◆hqLsjDR84w 2013/01/14(月) 01:03:42 ID:dPs2Hgg1

今週のうしおととらも実にうしおととらでたまりませんでした。

投下します。

632 名前 : 創る名無しに見る名無し 2013/01/14(月) 01:04:25 ID:d6Y/F9hg

 

633 名前 : ワンダーランド2 ◆hqLsjDR84w 2013/01/14(月) 01:04:31 ID:dPs2Hgg1

 ◇ ◇ ◇


 ふーふー。

 ふーふー。

 ずるずる。

 はふはふ。

 ずるずる。

 はふはふ。

 ずるずる。

 ずるずる。

 ずるずる。

 ずずずず。

 ずずずず。

「……ふう」

 一拍の間を空けて、ため息が一つ。
 それがはたして誰のものであったのか、高嶺清麿の頭脳をもってしても分からなかった。
 カップラーメンをすする三人を静かに見守っていた、食事を必要としないマシン番長ではないだろう。
 しかしそこからさらに、他の三人のうち誰だったのかを搾り出すことはできない。
 霧沢風子かもしれないし、横島忠夫かもしれないし、清麿自身が無意識のうちに吐いていたのかもしれない。

「…………っ」

 プログラムに巻き込まれてから起こったことが蘇ってきて、清麿は歯を噛み締めた。
 早々に同行者を殺害され、放送では知り合いの名が呼ばれ、先ほどもまた目の前で二人が死んだ。
 この場において、清麿はなにもできていない。
 もしも『アンサートーカー』さえ封じられていなければ、なにか違ったのだろうか。
 あの瞬時に答えを導き出す能力さえあれば、こうはなっていなかったのではないか。
 意図せず、そんな無意味なことを考えてしてしまう。
 現にアンサートーカーが使えない以上、仮に使えたらという『if』に意味はないというのに。

(俺は…………いったい、なにをすればいい?)

 二度に及ぶドットーレの襲撃や、風神剣による霧沢風子の暴走など、予期せぬ事態に巻き込まれてばかりだ。
 だが幸いと言っていいのかは定かではないが、現在はようやく少し落ち着いている。
 マシン番長のレーダーによれば、周囲に生体反応はないという。
 久方ぶりの平穏を迎えたところで、どういった行動に出るのが正解であるのか。
 とりあえず簡単な情報交換は済ませているが、ここからなにをするべきなのか。
 アンサートーカーを失ったいま、明確な答えなど出るはずがない。
 清麿が悩みを深めていると、部屋の扉がゆっくりと開いた。

「――へえ、もうたいらげたのかい」

 くっくと笑って入ってきたのは、ルシール・ベルヌイユであった。
 この民家に入ることを勧めたも、食事を取ることを提案したのも、彼女だ。
 竜巻によって更地と化した場所にいれば、奇襲でも浴びれば一たまりもないので、少しばかり移動する。
 もっともな提案であり、すでに奇襲を二度も目の当たりにしている以上、清麿にも気付けたはずである。
 にもかかわらずその発想に至らなかったのは、人が死に行く姿を見た直後であったゆえか。

634 名前 : ワンダーランド2 ◆hqLsjDR84w 2013/01/14(月) 01:05:53 ID:dPs2Hgg1

 非常に頷ける原因であったが、それが清麿には許せなかった。

 そんな清麿の心中を察するそぶりもなく、風子が切り出す。
 彼女の前には、空になったカップラーメンの容器が三つ転がっている。

「言われるまで忘れてたけど、なんにも食べてなかったからな。
 山道やら下水道やら探索してたんだから、そりゃあこんくらいは入るだろうよ」
「その上、アンタは随分と暴れまわっていたものね」
「ぐ……!」

 風子は僅かに言葉を詰まらせてから、ふと思い出したように問いかける。

「そういやルシール婆さん、アンタはなにしてたんだ?」

 その質問は、清麿も訊きたいものであった。
 清麿が勢いよく顔を上げると、ルシールと目が合う。

「調べものをね。
 ちょっと前におもしろいことに気付いたから、確証を深めに行ったのさ」

 微かに口元を緩めてから、ルシールは続けた。


「もしかしたら、この会場は『プログラムのために作られたもの』かもしれないよ」


 ◇ ◇ ◇


「本当だっただろう?」
「……はい」

 五軒ほど民家を確認して戻った清麿は、ルシールに力のない返事を返すしかできない。
 ルシールの話通り、どの民家もメーターは回っていなかった。
 水道も、ガスも、電気も、すべてが『未使用』であることを示している。

 ただ、現在いる民家だけが唯一の例外であった。 

 水道とガスのメーターが回っていたのだ。
 少しだけ。
 本当に少しだけ。
 まるで、ちょうどいま食べたカップラーメンの分だけ回ったかのように。

「ですが、殺し合いのために会場が用意されたというのは、さすがに――」

 清麿は口篭ってしまい、先が出てこない。
 それを見越したかのように、ルシールが目を細める。
 神秘的な銀色の瞳で、鋭く清麿を見据える。

「さすがに……なんだえ?
 自動人形に出くわしていながら、自動人形に仲間を殺されていながら、常識の物差しで語るつもりかい?」

 まさしく図星であり、清麿は黙り込む。

 たしかに、違和感自体はあった。
 モチノキ町の住人である清麿の目から見ても、この会場は本物のモチノキ町との違いが見えない。
 小学校など、かつて通っていたそのままと言ってもいい。

635 名前 : 創る名無しに見る名無し 2013/01/14(月) 01:06:00 ID:d6Y/F9hg

 

636 名前 : ワンダーランド2 ◆hqLsjDR84w 2013/01/14(月) 01:06:25 ID:dPs2Hgg1

 
 ただ、あまりに人がいた気配がない。
 人というよりも、生物と言ったほうが正しい。
 まったく同じ町でありながら、あまりに生物の気配がないのだ。

 民家はあるのに、人が住んでいた気配がない。
 物品はあるのに、それを使用した形跡がない。

 抱いていた違和感に一度気付いてしまえば、奇妙なことは他にもあった。
 先ほど、身を隠すために下水道に潜り込んだ。
 その下水道は下水道特有の臭いで溢れており、当時はなにも思わなかったが――しかし。

 『水道メーターが回っていない』のならば、どうして『下水道にそんな臭いが満ちている』のか。

 おかしい。
 辻褄が合わない。
 なにも流れてこないのに、下水道に臭いが充満するはずもない。

 なのに――さながら『それが正しいかのように』、下水道には臭いが満ちていた。

 そのことを口にすると、ルシールは首を傾げた。
 下水道にそのような臭いが充満したということは、単にメーターをリセットしただけなのだろうか。
 それとも『そういうものとして作られた』のであろうか。
 答えは出ない。
 出るはずもない。
 そう結論付けようとして、清麿は目を見開く。


 ――――正しい答えを教えてくれるはともかく、疑問をぶつけるべき相手はとうに知っていた。


 ◇ ◇ ◇


 書斎にあったPCが立ち上がるのを待って、清麿はインターネットブラウザを開く。
 記憶したURLを打ち込むまでもなく、ブックマークにお目当てのページは登録されていた。
 それをクリックすると、それまで殺風景な検索サイトを映していた画面が一変する。
 上部に大きく『Chat with ALICE』とページ名が書かれ、左右には青空を閉ざす窓が二つ。

 そしてその中心には、青と白を基調にしたドレスを纏った少女のイラストが描かれている。

 清麿は、彼女の名前をとうに知っている。
 彼女こそがこのチャットの主『アリス』であると、他ならぬ彼女自身に教わっている。

「ルシールさん」
「別に、日本語で構わないよ」

 言語を選択すると、アリスの傍らにいくつものメッセージウィンドゥが出現する。
 表示されている内容は、どれもまったく同じだ。

『アナタは誰!? アナタは誰!?』

 清麿が自身の名を入力すると、アリスは微笑を浮かべた。

『久しぶりね、【アンサートーカーの少年】。
 アナタ以外誰もうちを訪れてくれないから、暇で暇でしようがなかったわ』

 それが真実か否かは、まったく定かではない。
 彼女は嘘を吐くのか、吐かないのか、吐いているのか、吐けないのか、吐けるが吐いていないのか。

637 名前 : 創る名無しに見る名無し 2013/01/14(月) 01:06:36 ID:c1vBymtH

支援

638 名前 : ワンダーランド2 ◆hqLsjDR84w 2013/01/14(月) 01:07:19 ID:dPs2Hgg1

 
 そもそも――アリスとは何者なのか。

 そこから、清麿は理解しかねている。
 プログラムの情報をリアルタイムで把握するというのは、人間には不可能だ。
 一方で、三十を超える選択可能言語、加えて口語体と文語体を織り交ぜても正確に認識する読解力、それらは人工知能には不可能だ。
 人工知能でも人間でもないというのなら、いったい何者なのか――分からない。推測さえできない。
 明らかなのは、『恐ろしく膨大なデータベース』と『凄まじく高度な演算能力』を持ち合わせているというだけだ。

『訊きたいことがあるんでしょう?
 一緒にいる【最古の人形破壊者(しろがね)】との会話で、なにか思うところでもあったのかしら?』

 清麿の胸中を見透かしたかのように、アリスは言葉を続ける。
 リアルタイムで現状を把握している――そう、アピールするかのように。
 清麿は呼気を整え、そうしてからキーボードを叩く。

『知っているなら、話が早くて助かるな』

 短く切ったふてぶてしい一文を送信すると、アリスは笑みを深くする。

『俺たちのいるこのモチノキ町は、お前たちが作ったものなのか?』

 この文面は、清麿が悩んだ末に導き出したものだった。
 『お前たち』とは、アリスだけではなくキース・ブラックを含んでいる。
 これを肯定されたとすれば、すなわちアリスはブラックの協力者ということになる。

『ええ、そうよ。
 ふふ。せっかくのパーティ会場だもの、一から創り出さなきゃもったいないじゃない』

 清麿が悩みに悩んで作った文面にもかかわらず、アリスはなんの躊躇もなく肯定した。
 笑みを浮かべたまま。
 むしろ、いっそう目を細めながら。

『なぜ、モチノキ町なんだ!?
 俺が言うのもなんだが、決して目立つような町じゃない! なのに、なぜだ!?』

 勢いよくキーボードを叩くと、初めてアリスは驚いたような表情になった。

『そうね、なぜかしら』

 清麿が『ふざけるな』と送信しかけたところで、アリスから新着メッセージが届く。

『なぜなのかしら。それはたしかに不思議ね。
 【鐙沢村】、【ギャローズ・ベル】、【ニューヨーク】、etc……
 いくらでも候補はあるはずなのに、どうして私は私となんの繋がりもない小都市を選んだのかしら』

 かわいらしく小首を傾げて、アリスは考え込むかのように沈黙する。
 送信しかけのメッセージを送信する気は、清麿にはもうなくなっていた。
 アリスの姿はあくまでイラストに過ぎないというのに、不思議と苛立ちさえ覚えない。

『モチノキ町でないとするならば、ここはいったいどこなんだ』

 新たに入力しなおしたメッセージを送ると、アリスは再び微笑を浮かべる。


『そうね……言うなれば、【地の底】かしら。
 【青い海】も【青い空】もない――隔離された世界。
 アナタたちは答えを出すために、【地の底】で殺し合っているの』

639 名前 : 創る名無しに見る名無し 2013/01/14(月) 01:07:37 ID:d6Y/F9hg

 

640 名前 : ワンダーランド2 ◆hqLsjDR84w 2013/01/14(月) 01:07:52 ID:dPs2Hgg1

 
 
 意味を理解できず、清麿は天を仰ぐ。
 視界を過ぎった時計を見るに、もうこのアリスの部屋にいられる時間は少ない。
 最後に一気にキーボードを叩いて、エンターキーを弾く。


『俺たちにはめられた首輪は、どうやれば外せる!?』


 それを送った瞬間、アリスの表情が一変した。
 愛嬌のある笑顔から、狂気に満ちた冷たい笑顔に。
 清麿のほうを見据えていた視線は、あらぬ方向へと向けられる。
 その瞳は焦点がまったく合っておらず、ドラッグ中毒者を連想させた。
 息を呑む清麿をよそに、アリスは胸の前で両手を合わせると――高らかに歌い始めた。
 音声は聞こえなくとも、、彼女が歌っているというのは彼女のイラストから見て取れる。

『おい!? どういうことなんだ!? 答えてくれ、アリス!』

 答えてくれることはなく。
 画面が切り替わり、同じ回線では三時間待たねば繋がらないという説明が記されたページへと飛ばされる。

 ならばと清麿はルシールとともに、隣の民家に向かってチャット・ウィズ・アリスを開く。
 しかしまだ名前も入力していないというのに、三時間待てとの説明ページへと飛ばされてしまう。
 もう一軒隣の民家にて、今度はルシール一人でチャット・ウィズ・アリスを開いてもらったが、やはり結果は同じであった。


 ◇ ◇ ◇





 そのころ、霧沢風子は風呂に入っていた。





 清麿とルシールの会話で、下水道を通ってきたことを思い出したのだ。
 なにやら難しそうな話をしていたので、その件については彼らに任せることにした。了承も得た。
 それに、風神剣に操られて暴走していたせいで、体力の消耗が激しくまだ動き回れるのようなコンディションではない。
 こうして身体を休めるのがいいだろうと、そんなふうに考えたのだ。


 ◇ ◇ ◇

641 名前 : ワンダーランド2 ◆hqLsjDR84w 2013/01/14(月) 01:08:33 ID:dPs2Hgg1

 
 
 
 
 
 そのころ、横島忠夫は脱衣所前にいた。





「ええい、このメカボディイケメン野郎! そこをどけ、そこをっ!」

「ソノ指示ヲ聞クコトハデキナイ。
 オ前ヲナカニ入レルナト、霧沢風子カラ言ワレテイル」

「なーにを大人しく従ってやがる、こんのボケナスめっ!
 そこは従ったフリして、一緒になって覗くところだろうがっ!」

「…………? ナゼダ? オ前、仲間ヲ裏切レトイウノカ?」

「ち、ちちち違う! だだだだだだ断じてそうじゃない!
 だからそのドリル戻して、マジでお願い、ほんとぷりーず、この通りっす、マジマジ」

「ナラバ、ドウイウコトダ?」

「俺が言いたいのは、つまりアレだよ!
 俺たちと風子ちゃんはすでに固い絆で結ばれている、魂でだ!」

「魂ナド、コノ世ニハ存在シナイ」

「あるんだよ!」

「ソウカ、覚エテオコウ」

「んでだ! そんな固い絆はそうそう崩れない!
 だったらちょっと信頼裏切ってでも、読者様の期待に応えて差し上げるべきだろおおおおお!?」

「ナニヲ言ッテイルノカ、マッタク分カラナイ」

「分かれよ! それでも週刊雑誌のキャラかよ!!」

「俺ガ納得デキルヨウ、論理的ニ説明シテホシイ。
 ドウシテ、仲間ノ頼ミヲ裏切ラネバラナインダ?」

「ええい、クソ……!
 人間だったら、あんな子が風呂入ってたら覗くべきだって心で理解できるだろうがああああああ!」

「俺ハ機械(マシン)ダ」

642 名前 : 創る名無しに見る名無し 2013/01/14(月) 01:09:13 ID:d6Y/F9hg

 

643 名前 : ワンダーランド2 ◆hqLsjDR84w 2013/01/14(月) 01:09:16 ID:dPs2Hgg1

 
「テメェ、それでも男か!!」

「アア、俺ハ男ダ」

「だったら――」

「シカシ俺ハ機械(マシン)ダ」

「…………」

「…………」

「せっかくすぐ近くで女子高生が風呂ってるのに、なーーーんで俺はこんなワケ分からん問答せにゃならんのだーーーーっ!!」

「るッッッせえな! 風呂場まで聞こえるような声で騒いでんじゃねえ!!」



【C-3 北西部民家/一日目 昼】

【マシン番長】
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:全身ダメージ極大(自己修復中)、右足バーニア爆散(自己修復中)、右腕肩口から先を欠損
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:月美を笑顔にするために動く。誰も殺さない。
※一定以上の戦闘力があるとみなした人物は、番長であると判断します。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。
※右腕喪失は自己修復不可能です。


【高嶺清麿】
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙80枚@現地調達、AK-47@現実
     醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。


【霧沢風子】
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:疲労(大)
[装備]:風神剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式×2(水一本消費)、ハンディカラオケ@現実、支給品0~2(風子確認済み)
[基本方針]:このプログラムを破壊する。誰も殺さないし、もう迷わない。

644 名前 : 創る名無しに見る名無し 2013/01/14(月) 01:10:43 ID:d6Y/F9hg

 

645 名前 : 創る名無しに見る名無し 2013/01/14(月) 01:10:46 ID:4j50ESZG

sienn

646 名前 : ◆hqLsjDR84w 2013/01/14(月) 01:11:35 ID:dPs2Hgg1

 
 
【横島忠夫】
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。チャンスなのにっ! チャンスなのにっ!


【ルシール・ベルヌイユ】
[時間軸]:真夜中のサーカス襲撃直前
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM84
[道具]:基本支給品一式×2、鍋の蓋、支給品0~2(確認済み)
[基本方針]:ドットーレを『確実に』殺す。そのためなら、多少遅れてもいい。清麿らと接触。





 ◇ ◇ ◇


投下完了です。
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647 名前 : 創る名無しに見る名無し 2013/01/14(月) 17:55:07 ID:z3Kzkv5t

投下乙
アリス怖いなあ。何を考えているのか分からん
清麿が焦るのも分かるが、アリスを気にしていて正しいのかどうか……
横島とマシン番長のやり取りはわろたww

648 名前 : 創る名無しに見る名無し 2013/01/14(月) 20:39:47 ID:2MuEpo7n

横島は大体の相手と良い掛け合いできる美味しいキャラだなw

649 名前 : 創る名無しに見る名無し 2013/01/15(火) 10:29:34 ID:ONel8Tyd

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