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週刊少年サンデーバトルロワイアル part4 もう11時か、
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週刊少年サンデーバトルロワイアル part4

1 :創る名無しに見る名無し:2011/12/11(日) 02:04:18.70 ID:qyCHzZk3
当スレッドは週刊少年サンデーで連載されていた漫画のキャラクター達でバトルロワイアルのパロディをやろうという企画の場です
二次創作が苦手な方。人物の死亡や残酷な描写、鬱々とした展開が受け付けない方は閲覧にご注意ください。

また、当企画はリレー形式で進めていくので、書き手を常に募集しています。
文章を書くのが初めての方でも大歓迎なので興味があれば書いてみてください。


避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14506/

まとめwiki
ttp://www44.atwiki.jp/sundayrowa/

前スレ
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1308998404/

2 :創る名無しに見る名無し:2011/12/11(日) 02:04:41.51 ID:qyCHzZk3
参加者名簿

からくりサーカス 14/14 
○才賀勝○加藤鳴海○才賀 エレオノール○ギイ・クリストフ・レッシュ○ルシール・ベルヌイユ
○才賀アンジェリーナ○ジョージ・ラローシュ○阿紫花英良○フェイスレス
○パウルマン&アンゼルムス○シルベストリ○ドットーレ○コロンビーヌ○才賀正二

ARMS 11/11       
○高槻涼○新宮隼人○巴武士○アル・ボーエン○キース・ブルー○兜光一○キース・シルバー
○キース・バイオレット○キース・グリーン○ユーゴー・ギルバート○コウ・カルナギ

金色のガッシュ!! 9/9
○ガッシュ・ベル○高嶺清麿○パルコ・フォルゴレ○ゼオン・ベル○ヴィンセント・バリー○ナゾナゾ博士○テッド○チェリッシュ○レイラ
  
金剛番長 8/8
○金剛晄(金剛番長)○金剛猛(日本番長)○秋山優(卑怯番長)○伊崎剣司(憲兵番長)
○桐雨刀也(居合番長)○白雪宮拳(剛力番長)○マシン番長○来音寺萬尊(念仏番長)

うしおととら 7/7    
○蒼月潮○とら○井上真由子○蒼月紫暮○秋葉流○紅煉○さとり

烈火の炎 7/7      
○花菱烈火○霧沢風子○石島土門○水鏡凍季也○小金井薫○永井木蓮○紅麗

うえきの法則 7/7    
○植木耕助○佐野清一郎○宗屋ヒデヨシ○マリリン・キャリー○バロウ・エシャロット○ロベルト・ハイドン○李崩

SPRIGAN 6/6      
○御神苗優○ジャン・ジャックモンド○朧○染井芳乃○暁巌○ボー・ブランシェ

GS美神極楽大作戦!! 6/6       
○美神令子○横島忠夫○おキヌ○ルシオラ○アシュタロス○ドクター・カオス

YAIBA 5/5       
○鉄刃○峰さやか○宮本武蔵○佐々木小次郎○鬼丸猛



計80名

3 :創る名無しに見る名無し:2011/12/11(日) 02:04:59.48 ID:qyCHzZk3
【ルール】

バトルロワイアルスレ(パロロワスレ)で書くのが初めてという方は
ttp://www44.atwiki.jp/sundayrowa/pages/24.html
を参考にしてください
それでも分からなければ遠慮無く聞いて頂いて構いません


経験者の方は以下の事に留意していただけばほぼ大丈夫です
・初予約の場合は期限が3日、それ以降は7日
・ランダム支給品は1〜3個で、大きい物に関しては蔵王@烈火の炎に収納されています(蔵王の説明は下記)
・禁止エリアの発動は放送から3時間後

『蔵王の説明』
人の掌ほどのサイズの球であり、収納できる質量に限界はない
道具の出し入れを行う際は念じるのみでよい
ただし、当ロワでは以下のニ点の制限がかかる
蔵王一個につき道具一つまでしか入らない
生物を収納することができない



【制限について】

基本的には最初にそのキャラを書いた人に委ねますが、以下の二点に関してはあらかじめ制限を明記しておきます

金色のガッシュ!!の魔物の子供たち→パートナーと魔本がなくても自身の心の力を使って呪文を発動することはできますが、威力は弱体化します。
                       また魔本は誰でも読むことができますが、本人が魔本を持って呪文を唱えても本来の威力にはなりません。
                       なお、魔本が燃えたとしても死亡や魔界に送還することにはなりません。

うえきの法則の能力者達→神候補から貰った才を使って能力者でない者を傷つけても才は減少しない。

4 : ◆hqLsjDR84w :2011/12/11(日) 02:06:52.39 ID:qyCHzZk3
スレ立て完了。
気付いたら前スレ500kb超えてました、すみませんorz

http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1308998404/439-
が今回の投下分です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。


>他書き手のみなさん
放送後SSの予約解禁は本日24時でどうでしょう。

5 :創る名無しに見る名無し:2011/12/11(日) 03:31:41.61 ID:yeTyqLDC
乙でした

6時間でずいぶん死んだなあ
対主催としては、巴武士が惜しいな
生きていれば終盤相当な戦力になっただろうに

6 :創る名無しに見る名無し:2011/12/11(日) 03:45:49.68 ID:3EY2OUrz
建て替え乙です!
書き手じゃないから反応できない
他の書き手さん、今日の24時でいいのだろうか

7 : ◆hqLsjDR84w :2011/12/11(日) 12:46:55.04 ID:qyCHzZk3
wikiでは『第一放送までのSS』などと書かれていたので、放送のタイトルを『第一放送(六時間経過)』に変更します。

8 : ◆6LcvawFfJA :2011/12/11(日) 15:24:19.76 ID:ASS6v+Dw
投下乙
テンコかわいいw
スプリガンの伝言板の使い方が面白い。ブルー頑張れ

予約解禁については問題ないですよ

9 :創る名無しに見る名無し:2011/12/12(月) 10:30:51.79 ID:gJjT+NUk
投下乙
このチームもバランス良いな
ブルーの脚が不自由なことを差し引いても、かなりの戦力だ

第一回放送も終わって、何人か心配な参加者がいるな
…特に風子、鬼にならなければ良いが

10 :創る名無しに見る名無し:2011/12/12(月) 14:26:23.36 ID:ptvxP9JC
風子横島の周り誰かからみそうな参加者いたっけ?
横島一人で全部背負いきれるか?w
しかし風子たちが花火の気付かなくて良かったわ

11 :創る名無しに見る名無し:2011/12/12(月) 23:27:49.57 ID:ptvxP9JC
うお
話題にしてたら予約ktkr
ドットーレと清磨…だと!?
どうなるんだw楽しみw

12 :創る名無しに見る名無し:2011/12/12(月) 23:38:43.56 ID:Xg/OL1z1
どう絡めるのかまったく予想つかねーw
ていうか放送明けてもう予約三つか。順調順調

13 : ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:41:44.54 ID:qzhy9Tu+
投下します。

14 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:42:54.66 ID:qzhy9Tu+
 ◇ ◇ ◇


 定時放送が始まる数分前から、永井木蓮は食事を一時中断して耳をすましていた。
 放送がもたらす二つの情報は、最後の一人になるまで生き延びるつもりの木蓮にとってかなり有益なものだ。
 死者の数は以降どう動くかの目安になるし、禁止エリアに至っては知らなければ呆気なく死にかねない。
 ゆえに注意深く聞き耳を立てていたのだが、にもかかわらず半ばから先を聞き損なってしまった。
 自分自身の哄笑に遮られて、放送の終盤が耳に入ってこなかったのである。
 まずいとは思っていたものの、とめどなく溢れてくる歓喜の念を抑えることはできずに終わった。
 勝手に口元は大きく歪んでしまうし、笑い声は手で押さえた程度で止められるほど穏やかなものではなかった。
 神様の力を使うなどとぬかしていたワケの分からんガキに敗戦を喫したことなど、いまとなっては思慮の外だ。
 先ほどまで味気ないと思っていたコッペパンさえ、極上の一品に思えてくる。
 殺し合いがいつまで続くのか分からない以上、日持ちする食品には当分手をつけないつもりだったが、いつの間にかその計画さえ忘れて缶詰を開封してしまっていた。
 よくある焼き鳥の缶詰であったが、木蓮は鶏肉を一つ口に運ぶと舌が痺れるかのような錯覚を覚えた。
 醤油に砂糖とみりんと日本酒を加えて煮詰めたタレが、甘辛い味を染み渡らせていく。
 歯が震えてなかなか成功しなかったがどうにか鶏肉に歯を入れると、焼き鳥特有の焦げた脂の香ばしさが広がる。
 風味は舌の上に納まることなく、口全体へと侵食するかのように一気に及ぶ。
 数回咀嚼したのち、木蓮は微細に砕かれた肉片を飲み込んだ。

「……うっめぇ」

 木蓮にしては珍しく、素直に感嘆の言葉を漏らしてしまう。
 それほどまでに、その焼き鳥は旨かった。
 口のなかに残った味に浸ったのち、木蓮は二つ目の肉片に手を伸ばす。
 これまた格別の味で、あいにく手元に酒がないのが非常に残念であった。

 もちろん、ただの焼き鳥の缶詰がそんなにおいしいワケがない。
 木蓮は食品を温める機器を持ち合わせていないので、先ほどから食べている焼き鳥は常温だ。
 もし仮に温めたとしても、所詮は缶詰だ。長持ちこそするものの、味はたかが知れている。
 かといって、この缶詰が実はただの缶詰ではなく、スペシャルな技術を用いて作られた究極だったり至高だったりする料理であるのでもない。
 ならばどうしてこうも木蓮が舌鼓を打っているのかというと、食事の楽しみとは料理の味だけによるものではないからである。
 環境、同席相手、空腹具合、気分、といった要素もまた絡んでくるのだ。
 とはいえ、木蓮がいるのは地面に大きく開いたクレーターの端で、たった一人きりであり、取れるうちにエネルギーを取っておこうと思っただけで別段空腹でもない。
 ただ、それら以上に、木蓮はいま非常に上機嫌であるのだ。
 憎んでいた相手が息絶えたのだから。
 それも、二人一気に。

 火影の大将であり、体内に八匹の火竜を宿す炎術士――花菱烈火。
 火影でもっとも冷徹な、氷の精神を持つ水の剣士――水鏡凍季也。

 かねてより気に喰わなかった二人が、たったの六時間でおっ死んだ。
 その事実が、ただの缶詰をご馳走へと押し上げる極上のスパイスであった。
 プログラムの主催者に死んだものと誤認させている可能性もあるが、かなり低い。というかほぼゼロだ。ありえないと言っていい。
 生死の判断はおそらく首輪によって下されていると、木蓮は推測している。
 ならば科学者でもなんでもないただの高校生である彼らに、容易く外せる道理はないのだ。
 この手でくびり殺してやりたかった。
 自ら死を懇願するほどいたぶってやりたかった。
 彼らの勝ち誇った顔が歪むところをこの目で見たかった。
 偽善じみた言葉ばかり吐く口から出るくぐもった悲鳴を聞きたかった。
 そういう気持ちも、木蓮のなかにはある。
 しかしながら死ねば敗北で、生き残っているものの勝利なのだ。
 すなわち、永井木蓮は花菱烈火と水鏡凍季也に勝ったのである。
 長い因縁の割になんとも呆気ない幕切れであるが、木蓮は己の勝利を受け入れない男ではない。
 それに、まだ火影は三人残っているのだ。
 仲間が死んだことを受け入れられていないだろう甘ちゃんたちに、人は死ぬってことをキッチリ叩き込んでやるのも悪くない。
 死んじまった二人の亡骸をどうにか見つけ出して、生き残りどもの前に放り投げてやるのもいいかもしれない。
 などと思考を巡らせていた木蓮に、不意に背後から声が浴びせられた。

15 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:43:26.63 ID:lX0D8Gd7
 

16 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:44:12.79 ID:lX0D8Gd7
 

17 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:44:14.51 ID:qzhy9Tu+

「よう、そこの兄ちゃん」

 食事を楽しんでいたばっかりに、かなり接近されてしまっている。
 生き残るつもりの参加者ならば危ういところであったが、相手は奇襲をしかけるでもなく声をかけてきた。
 どうやら、これまで出会った三人同様に甘い野郎らしい。
 悟られぬよう胸を撫で下ろしながら、木蓮は振り向く。
 振り向いた木蓮の瞳に映ったのは、茶髪をオールバックにしている太眉の青年だった。
 ライダースジャケットにデニムというありきたりな風体であったが、右手に携えた薙刀だけが異質だった。
 全体が金属でできており、ところどころに玉が埋め込まれている。

「俺は秋葉流っつーもんだけどよ。
 飯喰ってるとこ邪魔されんのは気分悪ィとは思うんだけど、まァちょっといいかい」

 薙刀の正体は、木蓮のよく知る魔道具『鋼金暗器』であった。
 その特性である異なる武器への変形まで使えるのかは不明だが、流はかなり巨大な鋼金暗器を片手で持っている。
 ある程度は『できる』相手だと、木蓮は内心で判断する。

「ああ、構わないぜ。ちょうど喰い切ったとこだしな」

 タレしか残っていない缶の中身を見せつけて、木蓮は笑う。
 相手が甘いことは明らかなので、信用させたところで不意を打とうと考えたのだ。
 そのために内に潜む快楽殺人者の面を隠したのだが、すぐに明らかにすることになる。

「植木耕助ってヤツに聞いたんだけどよォ……ああ、緑色の髪したこんくらいの身長の」

 身長を示すようなジェスチャーをしながら、流がこのようなことを言い出したのだから。

「なんでも、この辺にナゾナゾ博士っていう爺さんを殺した殺人鬼が――」

 言葉の半ばで、木蓮は魔道具『木霊』を発動させる。
 右手を樹木に変化させて伸ばすが、流はたじろぎもせず鋼金暗器を傾けるだけだ。
 脳天、首、左胸、腱――と四ヶ所を貫かんとしていた細枝が、それぞれ鋼金暗器の刃に受けられる。
 攻撃をすべて払うと、流は背後に跳んで距離を取った。

「続きは、『殺人鬼がいるらしいけど知らねえか』ってところか?
 はッ! よく言いやがるぜ! 俺がそいつだと確信してなきゃできねえ身のこなしだったぜ?
 大方、あのガキから特徴を洗いざらい聞いてたってとこか。外見だけじゃなく、戦闘スタイルまで含めてな」
「さァてね」
「いやいや、別に構わねえんだぜ? むしろ、あのガキよりよっぽど賢いと思うぜ。
 あの耕助とかいうガキゃあ、俺がいっくら情報は大事って教えてやっても聞きゃしねえ。
 人生のセンパイがわざわざ教えてやってんだから、そこはちゃんと聞いとけって思わねえか?
 ああ、別に答えなくていいぜ? 俺がどういう攻撃してくるかまで聞いてくるテメェのことだ。答えは聞くまでもねえ。
 …………で、だ。
 となると、疑問が浮かんでくるよなァ?
 そんな頭よくて冷静なはずのテメェが、どォォして殺人鬼だと分かり切ってる俺にわざわざ話しかけてきたのかっつぅよォォォ! ナメてんじゃねえぞ、クソがァァァァ!!」

 言い切る前に、木蓮はツタを伸ばしていた。
 その速度は凄まじく、どれもが人体の急所へと向かっている。
 だがそのすべては、流がたった一度鋼金暗器を振るうだけで斬り落とされてしまう。

「ぎゃひゃひゃひゃっ! やるじゃねえか! さすがに声かけてくるだけあるぜ!
 だけどなァ、俺の植物は特別製なんだよッ! モノホンみてえに、斬りゃあ終いとか思い込んでんじゃねえぞッ!」
「――――ッ」

18 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:44:23.28 ID:lX0D8Gd7
 

19 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:44:54.49 ID:lX0D8Gd7
 

20 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:45:01.12 ID:qzhy9Tu+

 切断されて落下したツタが再生して、流へと襲い掛かる。
 木霊は植物の成長を促す魔道具だ。
 そして、魔道具は使用者と適応すればするほどに力を発揮する。
 木霊を身体と同化させた木蓮には、もはや斬られた端から元のサイズに急成長させる程度簡単なことだった。
 二回、三回、四回――と、流はツタを斬り刻むが意味はない。斬った端から再生していくのである。
 キリがないことを速やかに悟って、本体を狙うことにしたのだろう。
 ツタから視線を外すと、木蓮のいたほうを見据え――流は太い眉を僅かに動かした。

「どうしたどうしたどうしたァァッ!
 ボーッとしてんじゃねえぜッ、俺を格下の雑魚みてえに思ってたクセによォォォ!!」

 ツタでの攻撃は、木蓮にとって本命までの時間稼ぎに過ぎなかった。
 流がツタを刻んでも無駄だと理解するまで三十秒もなかったが、それで充分であった。
 とうに、木蓮は準備を完了していたのだ。
 流に仕向けていた細いツタではなく、直径十センチほどの枝を大量に発現させていた。
 その枝を組み合わせて作り出した二メートルほどの人形――『木偶』。
 木霊によって、十三体の木偶はすべて木蓮の思うままに動かせる。
 しかもただの植物人形集団ではない。
 ある一体は魔道具『飛斬羽』を、ある一体は拳銃を、ある一体はサブマシンガンを所持している。
 本来、魔道具は意志あるものにしか使えないが、木蓮の意思に従う木偶ならば使用可能なのはすでに検証済み。
 道具を持つ三体が銃弾と風の刃で相手を誘導し、残った十体が仕留めるのである。
 木霊の持ち主がやられれば木偶はすべて消滅するが、そうなることはない。
 流には、木蓮がどこに潜んでいるのかなど判別できないのだから。
 外見からは、どの木偶が内部になにかを隠しているのかなど判別不可能だ。
 声で、どれに潜んでいるかを見極めるのも叶わない。
 なぜなら――

「ほら!」
「ほらほら!」
「ほらほらほら!」
「ほらほらほらほらァァーーーッ!」
「避けなきゃ」
「必死こいてッ」
「死に物狂いでッ」
「死にたくねえ一心で!」
「逃げ回んなくちゃッ!」
「弾丸やらッ」
「カマイタチがッ」
「当たっちまうぜ!」
「まァ」
「避けたほうにゃあ」
「木偶が向かうけどよォォーーーッ!」

 木偶すべてが、木蓮の意思通りに声を発するのである。
 声とは、声帯の振動によって生まれるものだ。
 植物に声帯などあろうはずもないが、木霊は植物を操作する。
 枝に凹凸のある空洞を作り出せば、空気が振動して望む音を奏でてくれる。
 その程度、木蓮にとっては造作もない。

21 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:45:13.80 ID:t46rc+u9
   

22 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:45:30.56 ID:qzhy9Tu+

「ちいッ!」

 流は大きく舌を打ちつつ、地面を蹴る。
 無数に放たれた風の刃や弾丸を回避するのには成功したが、そちらには無数の木偶が拳を掲げている。
 停滞している余裕など、流には存在しない。
 少しでも止まってしまえば、武器持ち木偶のいい的になってしまう。
 走りながら鋼金暗器を構え、進行方向にいる木偶を両断する。
 横切って行くときにはすでに再生していたが、構うことなく駆け抜ける。
 ひたすらに射撃を回避しながら、前に出てきた木偶を斬っていく。
 その行為を繰り返し、木偶を十数回斬り伏せたところで、流は攻撃の方法を変えた。
 薙刀形態のまましようしていた鋼金暗器を分解し、鎖鎌へと変形させたのだ。
 鎖部分を掴んで鎌部分を回転させて、走りながらその回転速度を上げていく。
 またしても眼前に木偶が現れるが、流は鎌を投げない。
 回転する刃で迫りくる拳だけを斬り落として、木偶集団を掻い潜るように進む。

「――ふッ」

 そうして木偶の集団から抜けてから、流は短い呼気とともに鎌を投擲した。
 サブマシンガンを持つ木偶に鎌が刺さってから、鎖を勢いよく振り回す。
 すると、すぐ横にいる拳銃と飛斬羽を装備した木偶にまで鎖が絡みつく。

「ッらあ!」

 咆哮を上げて、流は鎖を振り上げて落とす。
 結果、鎖に絡まっていた木偶は地面へと叩き付けられる。
 武器こそ無事だが、木偶を構成する枝が完膚なきまで粉砕されてしまう。

 だが、無意味だ。
 木霊から送られるエネルギーを糧に、折れた枝は見る見る再生する。
 本来もっと早急に木偶を再生できるというのに、木蓮は見せつけるようにあえてゆっくりと木偶を治していく。
 鎖鎌は木偶に絡まったままであり、つまり流は木偶に武器を奪われた状況だ。
 わざわざ急ぐ理由がない以上、木蓮は己の楽しみを優先する。
 自分をナメてかかったばっかりに、流は打つ手を失くした。
 そのことを嘲るように、声を荒げる。

「最初に奇襲しかけときゃ、もっと別の結末もあっただろうになァァ!
 かえーそうになァ! 植物を操るとか聞いて、大したことねえとでも思ってたか?
 テメェが勝てる算段だったのにこんなことまでできるだなんて、まったく想定外か?
 ひゃはははははははっ! オイ! いいぜ! 優しい優しいこの俺が、テメェに時間をやるよ!
 木偶が再生するまでに、せいぜい神様にでも祈ってみろよ! もし聞いてもらえたら、地獄落ちは免れるかもしんねぇぜ!」

 相手が祈る時間をやるつもりなど、木蓮にはない。
 武器を持った木偶の再生は遅らせているが、その他の木偶はもう再生が完了済み。
 最期に祈ろうとしたところを攻撃して、呆けたところを嘲笑って殺してやろうとしているのだ。

「じゃ、まァ祈らせてもらうとするかね」

 ゆえにこの返事を受けて、木蓮は吹き出しそうになってしまった。
 悟られぬよう、木偶を背後から接近させる。足音を立たせずに、ゆっくりと。
 肉薄させた上で、木偶の右腕を鋭く尖ったものへと変形させる。
 しばらくして、流が目を閉じる。
 いまだと、木蓮が木偶に指示を下そうとしたときであった。
 流が、一気に目を見開いて振り返った。

「木は青、青は東なり、春なり鱗なり」

 そこまで一息で言うと、ポケットから釘を取り出して指で弾く。

「金剋木! 金気を以って木偶を剋す!」

23 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:45:50.33 ID:lX0D8Gd7
 

24 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:46:08.49 ID:t46rc+u9
   

25 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:46:38.16 ID:qzhy9Tu+

 詠唱が終わったと同時に、釘が眩い光を放つ。
 次の瞬間には、鋭利な右腕を持つ木偶が幾百もの木片に分割されてしまっていた。
 再生しようにも、あそこまで細かく刻まれてしまうと一から樹木を作り出したほうがよっぽど楽だ。
 唖然とする木蓮の前で、流は落下してきた釘をキャッチする。

 予想外の攻撃を受けたとはいえ、木偶が一人やられたにすぎない。
 木偶なんぞ、いわばやられるためにある。
 だから予想外の攻撃であっても、事態は予想外ではない。
 そう自分に言い聞かせて、木蓮は流の持つ釘を眺める。
 ただの釘ではないのだろう、おそらく。
 黄色く、かつ金属としての輝きを併せ持つその光沢はまるで――

「…………金、か?」
「まさか。そんな高価なもんじゃあねえさ。
 耕助の持ってたゴミのなかから回収したんだしな。
 だいたい、金をわざわざ釘なんかにしちまう物好きはいねえよ」

 木偶の口を借りての呟きに、流は律儀に答える。
 返答する理由がないというのに、わざわざ。
 得体の知れない道具の正体を教えてくれるのならば、ありがたいはずだ。
 勝手に情報を漏らすのなら、使ってやるだけのはずだ。
 だというのに、木蓮には流の態度が気に入らなかった。
 格下の相手に教えてやるかのような口調に、虫唾が走る。

「銅と亜鉛の合金……つまり真鍮さ。
 神具や仏具なんかによく使われる金属だ」

 だからなんだ。それがどうした。
 即行で返してやろうとしたが、流の言葉はまだ続くらしい。

「だからまあ当たり前なんだが……こいつはよォく通すんだぜ、霊力をな。
 んでもって、俺はさっきからこれをちょっとずつ落として……違うな。
 地面に『設置』してたんだ。飛んでくる攻撃を避け続けながら、少しずつな」

 すぐには理解できなかったが、ややあって木蓮は青ざめた。
 流が走っていたコースには、真鍮が設置されている。
 さらに、流はわざわざ鋼金暗器を捨ててまで、武器持ちの木偶をそのコース内に侵入させた。
 そのコースが、『陣』であるとするのなら――
 ところどころに落ちている真鍮が、『起点』であるとするのなら――

 木蓮がかつて所属していた組織『麗』にも、『結界師』は在籍していた。
 ゆえに、流がこれからすることを察することができた。
 再生速度を遅らせていた武器持ちの木偶に、成長力を全力で流し込む。
 一気に復元させて、銃器を釣る瓶打ちにしてやるべく。
 が、遅い。
 木蓮が気付く前に流は疾風となっており、木偶が再生する前に陣の外に出ていた。

「坎(かん)ッ!」

 流が両手を合わせて声を張ると、起点である真鍮が発光する。
 たちまちそれらを結ぶように光の線が走り、陣が形成されていく。
 すべての起点が結び付いた途端、陣の内部の発光が異なるものになる。
 白かった光が、金属じみた鉛色のものになって内部を包み込む。
 そして――爆ぜる。

26 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:46:42.36 ID:t46rc+u9
   

27 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:47:18.14 ID:t46rc+u9
 

28 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:47:47.89 ID:lX0D8Gd7
 

29 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:47:50.27 ID:qzhy9Tu+

「待゛ァ゛」

 十数もの木偶の呻き声は、爆発音に呑み込まれた。
 内部に存在する木偶だけでなく、地面に生えた雑草の一本に至るまで。
 なにもかもが斬り刻まれてからようやく炸裂は納まり、結界壁が消滅していく。
 すべての『木』が塵と化したため、ただ塵を被っている状態の銃器や魔道具を流は回収する。
 鋼金暗器以外をリュックサックに仕舞い込んで、流は転がっている木蓮へと歩み寄る。

 身体に枝を纏わせて木偶に紛れていたのが、木蓮の最大の不幸だった。
 いざ発動するまで、木蓮には流が仕掛けた結界がいかなる類のものかを分かっていなかったのだ。
 植物が対象と分かっていれば咄嗟に木偶を脱ぎ捨てたのだが、神ならぬ木蓮に分かるはずもない。
 ゆえに、全身のいたるところを残らず切り裂かれてしまった。
 それでもなお生きているのは、彼の執着心ゆえであろう。
 死ぬワケにはいかなかった。
 殺されてしまうワケにはいかなかった。
 命を落としてしまえば、敗北したことになるのだから。

(…………じゃ、ねえだろ。全ッ然的外れだ。
 そんなんじゃねえ。そんな些細なこと、問題でもなんでもねえんだよッ!)

 いまにも意識を手放しそうな状況で、木蓮は自分の考えを否定する。
 問題なのは、敗北を喫することなんかじゃない。
 いや、確かにそれも問題だが、さらに許せないことがあった。
 それは、屈辱だ。
 自分のほうが優れていて、お前は劣っている。
 そんな思いを雄弁に語る眼差し。
 何よりも木蓮が許せなかったのは、それだったのだ。
 ゆえに、烈火と水鏡の死に歓喜したのである。
 あの視線を二度と見ずに済み、かつこちらが一方的に見下せる。
 だが、死ねばできない。
 死んでしまったら、下の存在になってしまう。
 文句を言うことさえできない。
 木蓮は、それが許せない。
 それだけは、認められない。
 屈辱を抱えたまま終わるなど、到底我慢できそうにない。
 終わるのは、まあいいだろう。
 納得してやることにする。
 人はいつか必ず終わる。
 だから、許可してやる。
 けれど、屈辱を抱えたままはイヤだ。
 敗北より、死より、気に喰わない。
 みすみす死なねえ。
 おちおち死ねねえ。
 わだかまりが残る。
 永遠に燻ったまま。
 お前の下じゃねえ。
 やり切ってやる。
 スッキリする。
 見せつける。
 発散する。
 晴らす。
 やる。
 上。

30 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:48:22.48 ID:qzhy9Tu+

 木蓮が、勢いよく双眸を見開く。
 しばらく目を閉ざしていたせいか、やたら陽射しが眩しく感じた。
 すぐ前には、流が立っている。
 携えているのは鋼金暗器だけ、さらに予期せぬ事態だったのか呆気に取られている。
 好機だと、木蓮は思った。
 両腕は上がりそうにないが、魔道具は操作できる。
 そして、それさえできれば問題ない。
 左腕をハエトリグサの束に変化させる。
 唐突に降って下りたアイデアである。
 ハエトリグサは、内部に鋭利なトゲを無数に持っている。
 こいつで相手を捕らえて、どちらが上にいるのかを理解するまでトゲを身体に突き刺す。
 上下関係を理解すれば、急所を突き刺して殺してやる。
 そんな拷問器具じみた腕こそが自分には相応しい、と木蓮は笑う。ほんの少し頬が上がっただけだったが、満足だった。

「見下してんじゃねええええええええええええええええええッ!!」

 思いのたけを全力で叫び、木蓮は左腕を振り下ろす。
 ハエトリグサのトゲが肉に刺さる感覚があった。
 より深く突き刺して、ハエトリグサのなかに閉じ込めてやろう。
 いくらそう木霊に念じても、棘は一寸たりとも動かなかった。
 木蓮が怪訝に思っていると、ハエトリグサが引っ張られた。
 ぶちぶちと裂ける音を立てて、植物化していない肩口から引き抜かれた。
 ハエトリグサが彼方に放り投げられたことで、流の姿が露になる。
 その形相に、木蓮は意図せず息を呑んでしまった。
 飄々と浮かべていた薄ら笑いは消え失せ、表情は皆無。
 瞳からは光がなくなり、なにも見えていないかのように暗い。
 思わず視線を背けると、身体の異様さに気付いた。
 先ほどまでスマートな体格だったというのに、肉体が全体的に膨れ上がっている。
 贅肉や脂肪がついているのではない。
 すべての筋肉が三回りほど大きくなっているのだ。
 ゆったりとしていた衣服が、いまではむしろ小さく見える。
 言葉を失っている木蓮の頭に、流の左手が伸ばされる。
 咄嗟に反応することができず、掴まれてしまう。
 片手で握られているだけだというのに、木蓮は微動だにできなくなった。
 目を背けることはおろか、まばたきさえ叶わない。
 見るしかできない木蓮の前で、流は鋼金暗器を地面に滑り落とす。

「勝手に……ッ、見上げてんじゃねえええええええええええええええええええええッ!!」

 流が、空いている右の拳を握った。
 それを確認したのと同じくして、木蓮は意識を手放した。
 最後に聞いたのは、身体を打たれた音ではない。
 筋肉が捻じ切れる音でもなければ、臓器を抉られる音でもなく、骨が砕け散る音でもない。
 なにかが崩れ落ちる音だった。
 人間がどの範囲までは生き延び、どこまで行けば死んでしまうのか。
 それを知るために何人も手にかけてきた木蓮でさえ、初めて聞く音色だった。

31 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:48:27.31 ID:lX0D8Gd7
 

32 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:48:28.74 ID:t46rc+u9
  

33 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:49:04.46 ID:lX0D8Gd7
 

34 :  :2011/12/18(日) 00:49:09.97 ID:t46rc+u9
   

35 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:49:12.97 ID:qzhy9Tu+


 ◇ ◇ ◇


『会場外へ近付いています。会場外へ近付いています。これ以上進むのは危険です。今すぐ引き返してください。繰り返します。会場外へ近付いています──』

 などというアナウンスも意に介さず、秋葉流は会場を囲っている見えない壁を擦っていた。
 あの植木耕助が破れなかったと言うだけあって、かなり強固な結界と言える。
 生物だけでなく、無機物や霊力までも通さない。
 思い切り息を吹きかけてみたところ、空気さえも弾かれてしまうらしい。
 要するに、あらゆる物体を阻む結界壁のようだ。
 だが、このタイプの結界壁をこれだけの大規模で展開し続けるなど不可能なはずだ。
 それこそ法力僧に片っ端から招集をかければ展開だけはできるだろうが、維持し続けるほうが無理だ。
 ならばどうやっているのか――といちいち思考を巡らすまでもなく、流はすぐに仮説を導き出す。
 結界の起点が、会場のどこかにあるのではなかろうか。
 外部からの展開は難しくとも、起点の設置さえできれば内部からならば可能だろう。
 それにしたってかなりの技術を要するが、つまりかなりの技術さえあればできなくはないのだ。

(っつーとまあ、そりゃ怪しいのは禁止エリアってことになるよなァ)

 生存者が少なくなっても、舞台が狭くなれば殺し合いはスムーズに進む。
 なるほど。たしかにその通りだ。なにも間違っていないように聞こえる。
 しかしながら、だとすれば六時間に三エリアというのは少なすぎる。
 死者のペースを考えれば、なおさらだ。
 ということで禁止エリアが現状もっとも怪しいのだが、あえてそう思わせている可能性もある。
 本命を隠すべく、禁止エリアに注意を向けさせているのかもいしれない。
 かといって、放置するワケにはいかないだろう。
 そう結論を下し、秋葉流は思い切り地面を蹴った。
 すぐ隣のエリアA−6が立ち入り禁止となるまで、猶予は一時間に満たない。
 全速力で駆け抜ければチェックすることもできるだろうが、ユーゴーと植木の元に戻っている暇はない。
 無断で知らせていない行動に出るのは悪いと思いつつも、流は南へと駆け出した。



 ――と、そのように。
 プログラムを止めるのに最善の手段を選びながらも、秋葉流は自らがどうしてそんな行動を取っているのか分かっていなかった。
 もはや、彼には目的などないのだから。

 とらは、死んだ。
 あの炎と雷の化生は、もうこの世にいない。
 なにを捨ててでも戦いたかった相手だったのに、もう二度と会えない。
 法力僧としての人生も、うしおの兄貴分というポジションも、手放した。
 その他のすべてより優先するはずだった戦いは、永遠に実現できなくなった。

36 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:49:19.49 ID:/1QnvYGP


37 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:49:37.82 ID:qzhy9Tu+

 信じられないという思いはあった。
 もしかしたらという希望もあった。
 だが流の明晰な頭脳が、ことごとく否定するのだ。
 プログラムを主催しているのは、妖(バケモノ)に悟らせずに集めて首輪をかけるような輩だ。
 それも、ただの妖じゃない。
 とらと紅煉というとびっきりに力のある二体相手に、そんなことを仕出かしているのだ。
 妖の生死を見誤るなど、到底ありえない。
 ゆえに、流はとらの死を受け入れた。
 不本意ながら受け入れた上で、考えなくてはならない。
 とらがいなくなって、改めて熟慮してみる。
 あの妖以外の強者と戦ってそれで満足できるのか、と。
 満足できると思っていた。いざ、とらが死ぬまでは。
 彼と戦ったときが一番楽しかったから、今度は本気の殺し合いをしてやるつもりだった。
 だから彼と同じくらいに強い相手がいれば、そちらと戦ってもいいかなどと思っていた。
 けれど、違うのだ。
 日本番長はたしかにかなりの強者だ。植木耕助にも甘いところはあるが、実力は大したものだ。
 どちらも、秋葉流を超える逸材かもしれない。でも違う。
 彼らでは、ダメなのだ。
 彼らには、戦うことに――『意味がある』。
 植木は訊くまでもなく他者のために戦っているし、日本番長だってなにかしら大義を抱えているのは明らかだった。
 それでは、いけない。
 意味なんて、必要じゃないのだ。
 前に立っているのにどかないから、ブチのめす。
 そういうシンプルなところが、とらとの戦いのよさだったのだ。
 秋葉流のなかに吹く風を知って、気にかけてくれるような相手ではいけない。
 笑い飛ばしてくるようなヤツだからこそ、とらと戦いたかったのだ。
 強いからというのも理由の一つだが、強いだけならいくらだって相手はいるのだ。
 ただ、秋葉流のなかに吹く風を止めてくれそうなのは、とらだけだった。
 風を忘れさせてくれるかもしれない、唯一の相手だった。
 けれど、もういない。

「バッカ野郎……」

 エリアA−6に足を踏み入れたとき、流はつい吐き捨てていた。
 とらが死んで悲しむのは、流だけではないのだ。
 目的を失って呆然としている自分と違って、あちらは泣いているかもしれない。
 何せ、流とは違って素直にまっすぐなガキなのだから。
 大粒の涙をこぼす彼の姿が脳裏を掠め、流は歯を噛み締める。
 ようやく、どうして普段の自分のように振る舞っているのか分かった気がした。

「……テメェ、勝手に死にやがって。この大バカ野郎が」

 秋葉流のなかに吹く風が、よりいっそう鋭くなる。
 もう朝日が出ているというのに、風は冷たく突き刺してくるようだった。



【A−6 西端/一日目 朝】

【秋葉流】
[時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前
[状態]:健康
[装備]:鋼金暗器@烈火の炎、金属片いくつか(真鍮)@現実
[道具]:基本支給品一式+水と食料二人分、ランダム支給品0〜1
     飛斬羽@烈火の炎、トライデント特製COSMOS仕様サブマシンガン@スプリガン、ワルサーP5@スプリガン
[基本方針]:――――――――

38 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:49:52.26 ID:lX0D8Gd7
 

39 :  :2011/12/18(日) 00:50:04.02 ID:t46rc+u9
  

40 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:50:33.94 ID:qzhy9Tu+


 ◇ ◇ ◇


 木蓮が目を覚ましたとき、他ならぬ木蓮自身が現状を飲み込めなかった。
 たっぷり一分ほど使って、ようやく生きているらしいと理解することとなった。
 完全に死を覚悟していた。
 二度と起きることなどないものと踏んでいた。
 にもかかわらず、どうして生きているのか。
 周囲を眺めようにも、見えるのは空だけだ。日がだいぶ高くなっている。
 木蓮は立ち上がろうとしたが、うまく行かなかった。
 怪訝に思いながらも足元を確認しようとして、これまた失敗した。
 首が動かない。視線だけ動かすことさえできない。
 はたして、どうして身体がここまで重いのか。
 しばらく考えて、木蓮はようやく思い出した。
 すぐに意識を失ったが、おそらく流にしこたま殴られたのだろう。
 ならばどうして生きているのかは不明だが、相手は甘ちゃんだ。
 『殺しはやらない主義』とかふざけた戯言をぬかすのだろう、どうせ。
 許せないとの思いが、ふつふつと沸いてくる。
 殺さないとは、すなわち殺すまでもないということだ。
 生き残ったところで、大した障害にはなりえないと思われているということだ。
 ナメられている。見下されている。
 歯を噛み締めようとして、やはり動かない。
 そこで、はたと思い付く。
 身体を樹木化させさえすれば、すぐに回復できるではないか。
 なぜ、すぐに思い浮かばなかったのか。
 念じると、木霊はすぐに起動した。
 地中に根を伸ばしていく。
 戦闘で樹木を作り出すたびに思っていたが、この辺りの土はかなり栄養が豊富だ。
 とはいえ、全身樹木化には多少時間がかかる。
 栄養を吸い取りつつ、ゆっくり待つとしよう。
 また敗北したが、構わない。
 生きているのだ。
 終わってない。
 次こそ殺してやればいいだけだ。
 ある程度まで根を伸ばしたところで、木蓮はふとある考えに至った。

 もっと地下まで根を張れば、さらに巨大な樹木となれるのではないか。

41 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:50:35.54 ID:lX0D8Gd7
 

42 :鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:50:53.12 ID:qzhy9Tu+

 こんな簡単なことが、いまのいままで思い浮かばないとは。
 にぃ、と木蓮は笑った。
 すでに栄養もかなり取り込んでおり、口元を緩めるくらいはできた。
 縦横無尽に根を伸ばしていくと、思いのほかエネルギーは早く溜まっていく。
 そろそろ、頃合いか。
 ただそう思っただけで、木霊は発動した。
 先の戦闘時より、さらに木蓮の身体に適応したらしい。
 根を深くまで張った分、吸収した栄養は多い。
 栄養が多ければ、樹木は巨大になるはずだ。
 その考えの通り、木蓮の身体は巨大な樹木となった。
 幹を木霊で操作すれば、自由に移動することも容易い。
 もっと時間をかけて根を伸ばしていけば、会場全体を覆う大木になることも可能かもしれない。

「ぎゃひゃひゃひゃっ! あのヤローが『火竜』なら、俺はさしずめ『木竜』ってとこかァ!?
 こいつは、ぜってえ火影の生き残りどもに見せてやりてえよなァァ!
 火竜使いが早々におっ死んで、木竜がこうしてすくすくと育ってる様を見せてやりてえよなァァァ!」

 そう高笑いして、自分の下にある有象無象を見下ろしてやろうとして――目に入ってしまった。
 大木のあらゆる箇所が、黄金色の光を放っているのだ。
 左胸を筆頭に、そのすべてが樹木化する前に重要だった部位ばかり。
 見れば、木霊が埋め込まれているところまで煌めいているではないか。
 木蓮は、その輝きをよく知っていた。
 というより、思い知っていた。

 ――金剋木! 金気を以って木気を剋す!

 流の詠唱がフラッシュバックしたのは、光と光が結びつくように線が伸びてからであった。
 あの結界は、はたしてどういう効果であったのか。
 いったい、なににいかなる作用をもたらすのか。
 いちいち、思い起こすまでもない。
 忘れられるものか。
 他の誰かしらならともかく、永井木蓮が己の受けた屈辱を失念するものか。

「クソ……クソクソクソクソッ! クソッタレ! ちッくしょうがァァァァァァ!!
 ざッけんな! 俺をナメてんじゃねえぞ、秋葉流ェェェ!! 直接戦うまでもねえってか!?
 見下しやがって、この俺を下に見やがってッ! いまの俺にかかりゃあ、テメェごとき……クソッ!
 次ッ! この次だッ! これが最後とか思ってんじゃねえッ! 今回は負けたがな、俺はしつけえんだッ!
 俺を見下しやがった全員に後悔され間でッ、俺の戦いにゃあ終わりなんざねえのさ! ひゃはははははァァーーーーーッ!」


 ――――坎ッ!



【永井木蓮 死亡確認】
【残り63名】



【備考】
※木霊@烈火の炎は粉砕しました。

43 :  :2011/12/18(日) 00:50:54.24 ID:t46rc+u9
   

44 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:51:07.39 ID:lX0D8Gd7
 

45 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:51:26.00 ID:/1QnvYGP


46 :  :2011/12/18(日) 00:51:42.39 ID:t46rc+u9
   

47 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 00:52:21.16 ID:t46rc+u9
  

48 : ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 00:52:25.28 ID:qzhy9Tu+
投下完了です。

>>22の「金剋木! 金気を以って木偶を剋す!」は、「金剋木! 金気を以って木気を剋す!」の間違いです。
wikiにて修正しますね。

他に、誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

49 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 03:22:50.70 ID:lX0D8Gd7
執筆お疲れさまでした。
これは……凄い。胸がいっぱいになっちまったなあ……。
とくにタイトルと流の心理描写、風を笑い飛ばすような相手だからこそって
部分との繋がりが強すぎてたまらなくなってしまった。
文章を読んでて投下のたびに叙情性が綺麗に滲んできてるなあ、と思うのだけど、
それ以上に、これは人情を書いてる。だからこそ流がより好きになる感じで。
木蓮の心持ちも分かるだけに、どうしようもねえなあコイツ、ってのも理解できたんで、
静かな終わり方が良かった。そしてこの時間に焼き鳥は反則だw GJっした!

50 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 04:27:36.89 ID:Mo+x7+LS
乙んぁぁぁあああああぁん

51 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 10:45:57.16 ID:Ih52/W9U
乙!!!!
このロワで流の風を止めるのは誰だろうなあ…止まると良いなあ
ええと、木蓮の叫びの最終行の「俺を見下しやがった全員に後悔され間でッ」は
「俺を見下しやがった全員に後悔されるまでッ」で良いのかな?

52 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 12:19:47.24 ID:V0fLLlbU
投下乙!
「見下してんじゃねえええ!」でぞくっときたけど、そうだった。これは流にとって最大の地雷だった
金剋木といい相性最悪だったな、木蓮。巡り合わせが悪すぎた
しかしたしかに美味そうな焼き鳥だw

53 : ◆hqLsjDR84w :2011/12/18(日) 20:24:59.17 ID:qzhy9Tu+
感想感謝です。

>>51
俺を見下しやがった全員に後悔させるまでッ、ですね。
こちらもwikiにて修正します。

54 : ◆6LcvawFfJA :2011/12/19(月) 16:21:58.29 ID:Hcjp23jU
投下致します。

55 :一閃――鬼、天を斬る ◆6LcvawFfJA :2011/12/19(月) 16:22:46.15 ID:Hcjp23jU
 やかましく首輪から響くアナウンスを無視し、鬼丸猛は北上する。
 首輪が鳴ってから五歩ほど進んでから、ようやくその足を止めた。
 目を眇めて、前方に広がる地平線を注意深く眺める。
 一見何も無いようだが、しかし確かに何かが眼前に立ちはだかっている。
 納刀したままの魔王剣を前に出してみると、やはり目視出来ぬ壁に阻まれた。
(結界か)
 胸中でひとりごちる鬼丸に、驚愕の念は無い。
 魔王鬼丸に殺し合いを強制しているのだ。
 この程度の備えがあるのは必然。むしろ、していなくては愚鈍に過ぎる。
 先刻の放送によれば、キース・ブラックは死者だけでなく参加者の所在地まで把握している。
 つまるところ、自らに危機の及ばぬ外部より観覧を決め込んでいるのだろう。
「しかし地上に壁を作ることは出来ても……」
 不可視の壁より視線を逸らし、上空を見据える鬼丸。
 魔王の意に呼応して、魔王剣から響く呻きにも似た胎動音。
 柄の髑髏を模した装飾から闇が溢れ出し、瞬く間に持ち主までも包み込む。
「“天”はどうだろうな」
 不遜に言い放ち、鬼丸は魔王剣を抜く。
 抜刀の勢いそのままに一閃すると、刃の軌道と変わらぬ形状の漆黒が天を昇っていく。
 悪の素質を持ち合わせた者でなければ引き出せぬ、魔王剣の真なる力“魔王三日月剣”。
 たとえ真空であろうとも消滅することのない、必滅の波動。
 であるのだが、雲を両断し、大気を裂いて、その先で何かに阻まれた。
「ふん……、やはりな」
 苦々しく吐き捨てると、鬼丸は魔王剣を鞘に納める。
 結界は地上だけに非ず、上空を覆うように展開されているらしい。
 これもまた想定内だ。鬼丸自身、超高速での飛行が可能なのだから。
 まだこの場において披露するに相応しい機会を得ていないさらなる力、“魔王半月剣”及び“魔王満月剣”ならば結界を破れるやもしれぬ。
(が、まだ頃合いではない)
 鬼丸の首には、忌々しい円環が嵌っている。
 魔王剣の全力ならば結界を破ることは可能であろうが、その瞬間にこいつを起動させられてはたまらない。
 ただの爆炎ならば耐えられるが、鬼を飼い馴らす為に作られた代物。下手は打てない。
 世界を覆う殻を砕くのは、縛り付ける拘束具を外してからだ。
「それに……、随分と愉快な輩ばかり呼び付けたらしい。
そやつらの血で魔王剣を飾ってからでも、遅くはあるまい」
 鬼丸の中に蘇るのは、先程殺害した魔物の子。
 戦力では鬼丸に及ばなかったが、どれだけ斬り付けようと幾度となく喰らい付いてきた。
 そうして仕留めた頃には時間を大分費やしてしまい、仲間の金髪を追うのは叶わなくなっていた。
 あの“ボー・ブランシェ”という男の名は、放送で呼ばれることはなかった。生き長らえているのだ。
 大して厄介な相手ではないが、魔王に仇なす輩を放置する道理は無い。
 コウ・カルナギと同じく、次に発見すれば即座に切り捨てる。
 だが、その二人より優先すべき相手が未だ生存している。
 死者は十六名告げられ、その中には鬼丸の知った名も複数あったのが知ったことではない。
 重要なのは、かつて野望が実現する寸前で鬼丸を打ち倒した男の生存だ。
 そう。鉄刃の命を奪わずして、魔王鬼丸が世界に君臨する事は出来ない。
「何処にいるのかは知らんが、虱潰しに探し出してくれる。
この鬼丸と相対する前に、得物を手にしておくんだな。あの……覇王剣をなあッ!」
 魔王剣と同等の力を持つ覇王剣。
 その力を誰より引き出せる鉄刃。
 決着を付ける事になれば、いかに鬼丸とて力を出し惜しむ訳にいくまい。
 魔王満月剣を使うに相応しい舞台を夢想し、鬼丸は口元を鋭角に歪めた。
 鬼を笑わせたのは全力で戦う機会の存在ではなく、宿敵が六時間の内に死んでいなかった事実かもしれない。

56 :一閃――鬼、天を斬る ◆6LcvawFfJA :2011/12/19(月) 16:22:58.90 ID:Hcjp23jU





【D−1 北端/一日目 朝】

【鬼丸猛】
[時間軸]:24巻、刃との闘う直前
[状態]:鬼化、健康
[装備]:魔王剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:鉄刃と決着を付ける。ボー、カルナギを斬る。出会った者も斬る。
※魔王鬼丸としての記憶を取り戻しました。

57 : ◆6LcvawFfJA :2011/12/19(月) 16:23:31.24 ID:Hcjp23jU
以上です。

58 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 18:09:06.92 ID:uYXjfUED
投下乙
刄ぁ……ナイフ一本じゃヤバいぞ……w

59 : ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:19:02.33 ID:6zy24kii
これより投下します。

60 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:20:37.76 ID:6zy24kii


 風子を追っている横島忠夫という男は、例えば風子が仲間としていた者達と比べ、頼りになる男なのであろうか。
 見た目は、もうどうしようもなく負けている。辛うじて腐乱犬ぐらいが勝負になるかどうかだが、彼の雄々しき巨体は高い男度数を誇り、女子へのアピール材料ともなりうる。
 うっかり水鏡君と比べようものなら、月と便所蟋蟀ぐらいの差をつけてやらねばならなくなる。
 では中身はどうか。
 それを、横島忠夫は試される事となる。

「ほう、人間にあの速さが出せるとはな」
 そう呟いたドットーレは、視線の先に居た人物を見て感嘆の息を漏らす。
 そして顔を大きく歪ませると、ニンゲンにはありえぬ速度でコレを追走し始めた。
 ぐんぐんと迫る人間。
 まだあちらはドットーレに気付いていない。
 人間が鈍いのか、ドットーレの速さが尋常でないのか。
 ドットーレは勿論、後者のおかげだと機嫌を良くしつつ速度を上げる。
「ふむ、どうした人間? 何をそんなに急ぐのだ?」
 そんな風にドットーレが声をかけると、その人間は最初こちらを見もせずに応えた。
「何って見てわかんねえのかよ! 人を追ってんだ人! くっそ、あの子どんだけ足速いんだ……」
 人間はそこで初めて気付いたかのように、ドットーレの方を向いた。
「……えっと、どちらさん?」
「オレか? オレはドットーレという。見ての通りの自動人形だ」
「ああそう。ちょうどいいや、アンタ女の子見なかったか? おっぱいばばーんな可愛い子」
「その質問に答えてもいいが、その前に一つオレの願いを適えてもらおう」
「ん? 何だよ」
「うむ、死ね」
 併走するドットーレの腕が人間、横島へと伸びる。
「うおおおおおああああああ!」
 咄嗟に踵を立てて速度を落とし、これをかわす横島。
「あ、アンタいきなり何ばしよっとか!? 殺る気っすか!? おいおいやめた方がいい俺はこう見えて腕利きゴーストスイーパーでな、
 俺に何かあったら友達百人が白装束着てアンタを退治に現れるぜ。だから出来れば穏便に対話で互いの問題を解決しましょう、
 いやしてくださいお願いします」
 ドットーレは大きく両手を広げてみせる。
「人間は取引を重んじるのだろう? オレはお前の質問に答える。代わりにお前は俺にその命を捧げる。実に明快な取引だろうに不満なのか?」
「ふざけんなああああああ! 話聞くだけで命取られてたら世の中霊魂しか居なくなっちまうじゃねえか! っつーか取引言うならせめて相手の同意を得てからにしやがれえええええ!」
 片足をひょこっと曲げ十字に組み、残る片足のみで立ち奇妙な仕草を見せながらドットーレ。
「異な事を言う。何故オレがお前の意見を意に介さねばならんのだ」
「おいいいいい! 取引する気そもそも無いじゃねえかアンタああああああああ!」
 ようやく横島も現状を認識した所で、ドットーレが襲い掛かる。
 極めて高い運動性能は容易く人間のソレを駆逐し得るが、対する横島も無策にあらず。
 文珠を用い、速度を激烈に上げているのだ。
 本来、身体の反応速度を上げた所で、脳が対応しきれねば意味はない。
 どんなに速い車に乗った所で、操る人間がヘボでは能力を発揮しきれぬのと一緒だ。
 しかるに横島は、数多の実戦経験もさる事ながら、超加速状態や魔族の王の能力をすら身につけた事がある。
 他ならぬ横島忠夫ならば、こんな速度も存分に活かし得るのだ。
「死っ! 死ぬぎゃああああああああ! 怖ぇようわあああああああん!」

61 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:20:41.44 ID:uYXjfUED
しえん

62 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:21:48.40 ID:uYXjfUED
支援

63 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:21:48.43 ID:6zy24kii
 顔は涙と鼻水塗れ、ゴキブリのように這い蹲りながらの逃走劇であり、見た目からはそんな優れた能力をまるで感じさせてはくれないのだが。

 横島忠夫が優れた人材であるかどうか。
 これには議論の余地がありすぎる。
 風子の逃走に対し、文珠を用いてこれを追うのは実に素晴らしい選択であったと言えよう。
 彼にしか出来ぬ確実な手法であったと。
 しかし、実際には何時まで経っても横島は風子を捕捉する事は出来ず、それどころかドットーレという悪意の接近にも気付けなかった。
 そもそも、横島は文珠を用いた段階で風子より圧倒的に足が速いはずである。
 にも関わらず、風子より先にドットーレと接触してしまったという事は、つまり、良く考えれば結論が出る事なのだが、横島は風子を見失い、あまつさえ明後日の方角を追っていたという事であろう。
 かっこつけて文珠まで使っておいてこのザマとは、彼の何処が主人公格であるというのか、全くもって片腹痛い。
 更に横島忠夫は、問題行動を引き起こす事となる。
 彼はドットーレから逃げる為に、とある建物に隠れようと画策する。
 そう、そこは、つい先程ドットーレの襲撃を受けながらも、心折れず戦い続ける戦士、高嶺清麿が居る小学校であった。

 横島必死の逃走は、結局の所最後の難所、小学校前にある遮蔽の一切無い校庭に突入した所で終わりを告げる。
 学校ならばその造りは見ていなくても想像つくし、横島はこれを利して逃げようとしていたのだが、校庭側ではない所から突入すべきであったとドットーレに踏みしだかれながら後悔してたり。
「ひえええええええ! どうか命ばかりはお助けを! この横島忠夫! 見逃してくれるのならエターナル土下座すらこなしてみせますぞ!
 靴をなめろ? ふはーははは、犬のウンコ踏んだ靴裏ですら恐れるものではないわー! ですからお願いします何でもしますのでどうか命だけはー!」
 横島を踏んづけたまま、ドットーレをかがみこんで横島の顔を覗き込む。
「ん〜? 本当に何でもするのか?」
「hai!」
「何でも、でいいんだな?」
「Yes! EveryThing!」
 ドットーレに横島を生かしておくつもりなど欠片も無かった。
 無論必死こいて命乞いしている横島にそれはわからなかったが、少なくとも、外から観察出来る状況にある人間からは丸わかりであったのだ。
 そして、これを見ていた高嶺清麿に、見過ごせというのは無理な話であった。
「待て!」
 ドットーレの強力さは理解している。それでも、止まれないのが清麿であるのだ。
 こきりこきりと二度首を傾げた後、ドットーレは訝しげに問う。
「待てとはオレに言ったのか清麿。お前は、つくづく、身の程を理解出来ぬ奴だな」
「黙れ! 俺の目の前で人殺しなんて真似させてたまるかよ!」
「そうか、それはそれは……」
 にへらーとドットーレの表情が歪む。清麿はドットーレが動く瞬間を見極めるべく目を鋭く凝らしたが、ドットーレはそこで不意に表情を変える。
「いや、そうか。清麿、お前は人間を守りたいんだったな。知り合いも、どうやらそうでない奴も」
「……それが、そんなにおかしいか」
「いやいや、実力不相応のものを求めて已まぬ、人間らしい欲求だと思ってな。さて、では対するオレはどうするかというとだ……」
 踏みつけていた横島の両脇に手を入れ丁寧に起き上がらせる。
 そしてバックよりアサルトライフルを取り出し、これを何と、横島の手に持たせてやったのだ。
 ドットーレはこれ以上無い程のドヤ顔で、横島に語った。
「おい人間。これであの小僧を撃ち殺せ。そうすれば命だけは助けてやってもいいぞ」
 横島は、手元の銃を見下ろし、ドットーレの歪んだ顔を見て、最後に、清麿の姿をじっと見つめる。

64 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:22:34.13 ID:6zy24kii
 清麿は激昂し、軋む程に奥歯を噛み締めている。清麿が激怒している理由は横島にもわかった。
 清麿は、自分の命が危険になる云々以上に、こんな薄汚い真似をさせようとしているドットーレに怒りを感じているのだ。
 ゴーストスイーパーの誇り、それまで戦い培ってきた経験と自負、たくさんの仲間達。
「堪忍やああああああああ! 俺はまだ死にたくないんやあああああああ!」
 それらを横島は一切思い出さず、号泣しながら銃の引き金に手をかけた。

 高嶺清麿は正義感の強い少年であるが、決して無策で危地に身を晒すような真似はしない。
 少なくともドットーレと対峙するからには、相応の準備を整えてから動いていた。
 時間は少なく校庭に仕掛けは無かった為、それこそ緊急避難程度のものであったが、ドットーレではなく横島の使い慣れてもいない銃撃を避ける事は出来た。
 校庭の一角に石灰をぶちまけ視界を奪う仕掛けを発動させた清麿は、一目散に校舎内へと逃げ戻る。
 駆ける清麿は、石灰の煙が上がる中からドットーレと不幸な彼の声を聞いた。
「どうした人間? 逃げられてしまっては、お前を生かしておくわけにはいかんなぁ」
「お、お任せ下さい! 必ずやあの小僧めをしとめてご覧に入れます!」
 何か下っ端っぷりが妙にハマってるなぁと思えた清麿であったが、アサルトライフル振り回されては正直清麿にも余裕はない。
 それでも清麿は、状況の好転を感じていた。
 ドットーレの足元に転がっている状態では、何時彼が殺されるかわからなかったのだが、とにもかくにもドットーレから離れる事が出来たのだ。
 後は、二人がドットーレより逃れる方法を見つけ出し、それを元に彼を説得すればいい。
 清麿は横島を状況に流され易い人間、そう見ていた。
 実際、ドットーレのような怪物に襲われ脅されて、反抗出来る人間はそうはいないとも思っていたし、こうして横島が襲って来る事にもさして恨みを感じてはいなかった。
 しかし清麿はこの後、自らの浅慮さを痛感する事となるのだ。



 ドットーレに敗れた清麿が、何の対策も講じぬままに探索に専念するはずもない。
 彼は、その才知と折れぬ信念で、魔界の巨獣ファウードをすら倒した男なのだ。
 どうせ奴には勝てないから、そんな思考とは最もかけ離れた存在である。
 今の清麿に出来る限りの備えを、小学校に張り巡らせる程度は、極自然にやってのけるのだ。
 積み上げた机と椅子が一度にがらがらと落下してくる。
 これにまともに巻き込まれた横島であったが、持ち前の無駄に高い体力とゴキブリ並みと評される生命力にて強引に突破。
 移動し、次なる罠へと逃げ込みながら清麿は根気強く横島を説得にかかる。
「大丈夫だ! あの人形は俺が何とかしてみせるから一緒に逃げよう!」
「大丈夫な訳あるかああああああ! 大体男から一緒に逃げようなんて言われても嬉しくもなんともないわあああああ! どーせならぼいんぼいーんなボディと性別揃えて出直せボケがああああああ!」
 清麿の言う事を聞く気が無いらしく、会話がロクに成立していない。
 それでも清麿は言葉を止めない。
「アイツは確かに強い! だけど手はかならずある! 俺を信じろ!」
「アホかあああああああ! 今さっき会ったばかりの! それも殺し合いしろなんて言われた場所で会ったしかも男を! どうやって信じろっちゅーんじゃあああああ! 世の中嘗めてんじゃねえぞ小僧がああああああ!」
「諦めるなよ! 俺達一人一人の力は劣っていても、仲間を集めればきっと乗り越えられる! アンタだってタダ者じゃないのはわかってるんだ! もっと自分の力を信じろよ!」
「綺麗事抜かすなガキいいいいいいいいい! 自分程信じられないモンがこの世にあるかああああああああああ!」
 廊下からまた別の教室へと駆け込む清麿に、額から血をだらだら流す横島よりの銃撃が襲う。
 上手い事間を外す清麿に、横島はどうしても射撃ポジションが取りきれないのだ。
「チッ! 猪口才な! 幾ら逃げても無駄だぞ! この俺からは逃げられん!」
「何だってアンタそんな乗り気なんだよ!」
「うるせー! てめーからはなあ! 気配がするんだよ!」
「気配?」
「モテ男の気配だクソったれがあああああああああああああああ!」
 清麿の、動きが期せずして止まってしまった。

65 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:23:38.76 ID:uYXjfUED
私怨

66 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:24:02.88 ID:6zy24kii
「……モテ、何?」
「てめぇその頭良さそうな面といい清廉潔白ですー的な言動といい! モテやがんだろうが! 俺の目は誤魔化せねえぞ!」
「…………いや、俺、そーいうの経験無いし……」
「ケッ、カマトトぶってんじゃねえよ! どうせやったら面倒見の良い女の子が何くれとなく気にかけてくれたり、
 意味がわからん超美人と何故か不思議な事にお知り合いだったりするんだろうがファアアアアアアアアック!
 ああ!? 遊園地でデートですか!? プレゼントでももらったってか!? リア充地獄に堕ちろやクソがああああああああ!」
 清麿は、順に一つ一つ考えてみた。
 いやそんな事する義理は無いのだが、何かなんていうか相手が必死すぎるもので、つい、そうしてしまったのだ。
 やたら気にかけてくれる女の子が居て、奇妙な縁で知り合ったアイドルが居て、遊園地行ったり、お守りもらったりは、まあ、した気がする。
 その異常な嗅覚に驚きながらも、極めて常識的な事を清麿は口にした。
「それ……今、関係なくね?」
「うるせええええええええ! モテる奴ぁ何時如何なる時でも俺の敵じゃ死にさらせボケがああああああああああ!」
 この横島の言葉に、清麿は思わず我を忘れかけた。
 人が実際に死んでいるというのに、このふざけた言い草は一体何事だと。
 銃撃に晒されぬよう姿を隠していたが、アレに対して一言言ってやらずば収まりそうにない。
 清麿は怒鳴り返すべく、物陰より顔を僅かに出し、そして絶句した。
『……血、血涙だとおおおおおおおおお!?』
 そう、横島は血の涙と共にこれらを叫び放っていたのだ。
 彼はふざけてるのでもなく、こんな状況下でありながら、心底本音であんな台詞をのたもーていたのだ。
 アサルトライフルに狙われている洒落にならない現状を自覚しながらも、清麿がビックボインを目の当たりにした時と同じ顔になってしまっている事に対し、彼にのみ責任を負わせるのは酷というものであろう。
 諦めない男高嶺清麿をして、何かもういいや、って気にさせてしまう何かが横島にはあったのだ。
 とにもかくにも、罠にかけて意識を奪い、ドットーレを清麿が引き付ける。
 これで彼は逃げる余裕は持てるだろう。そう基本方針を決め、後はそれらに必要な準備を整えるべく清麿は走る。
 無造作にライフルを乱射しているが、あれにも当然弾数制限はあるはず。
 そこが、清麿第一の狙い目であった。
 ものっそい顔、例えるなら目の玉が明後日の方に飛び出しそうな勢いで正気を疑うようなヘドバンかます、をしながら走る清麿と、これを追う横島。
 そんな横島の隣に、ひょいっとドットーレが現れる。
「おい人間。何故銃を使わん?」
「Sir! ドットーレ! Sir! 弾切れが怖いであります!」
「ふむ? そいつを忘れていたな。確か予備が山程あった……おお、これだこれだ。さあ、存分にぶちまけて来い」
「Thank You Sir!」
『余計な事をおおおおおおおおおお!』(←盗み聞きしてた清麿君心の声)
 そして、ドットーレは物陰に隠れたままの清麿に向かって叫ぶ。
「どうだ清麿!? 助けようとした者に命を狙われる気分は!」
 怒鳴り返したい清麿であったが、怒鳴って居場所をばらすのはあまりよろしくはない。
 ついでに調子に乗った横島も叫んでみたり。
「クックック、ランボー横島の魔手より逃れる事は出来ぬ……我が明るい未来の為、まだ見ぬ乳尻ふとももの為、その血を捧げるが良い……」
 幾ら温厚な清麿でもこれにはキレていいだろう。
 清麿は第二の狙い目に従って、廊下を走る。
 奥まった場所、小さな扉が備えられたそこは、給食などを上階へと運ぶ事の出来る小型のエレベーターであった。
 清麿が二階廊下を走っていたのはこれを利用する為。
 部屋に入るなり窓から雨どいを滑り一階まで降り、既に準備済みのエレベーターのボタンを押す。
 エレベーターが昇るタイミングは実際に動かして確認してある。
 二階につきエレベーターの扉が開くなり噴煙が噴出すような仕掛けであり、これにまかれてくれれば当分視覚が失われ身動きが取れなくなるはず。
 対ドットーレ用に仕掛けた罠であり、横島に使うのは少々もったいないと思えたが、今は確実に横島の動きを止めるのが優先する。
「のっぴょろぴょーーーーーーーーーん!」
 清麿の頭上より、意味不明の叫び声が。
 そこには、噴出した煙に押し出されるように二階窓から飛び出した横島の姿があった。
 そう、彼はその反射神経のみで、清麿の仕掛けをかわしてみせたのだ。

67 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:24:18.98 ID:uYXjfUED
シエン

68 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:24:39.99 ID:6zy24kii
 地上数百メートルであろうと、覗きの為なら壁面に張り付いて平然としていられる無類のタフガイ横島忠夫は伊達ではないのである。
「うおおおおおおおお! うおおおおおおおおお!」
 そして号泣しながら一階窓より校舎内に逃げ込む清麿。
 よほど横島ごときにかわされたのがショックであったのだろう。

 校庭にて、ドットーレは時折ぴょーんと飛び上がったりしながら、校舎の中を覗きこんでいた。
 戦況は、ドットーレの予想に著しく反し、清麿と横島の戦力が拮抗してしまい、容易に動かなくなってしまっていた。
 といっても動きが無いわけではない、どちらも忙しなく動き回りながら、最後の最後、致命的な一撃だけは絶対に喰らわぬよう立ち回っているのだ。
 ドットーレは知らぬ事であるが、清麿、横島、共にエンジンがかかってくると、それこそ高位の魔物ですら簡単に仕留め切れぬ程しぶとくなるのだ。
 そんな二人が、決定打となる武器がアサルトライフル一丁のみという状況であっさりと決着をつけられるわけがないのだ。
「しかし……あいつら、実に楽しそうに見えるのはオレの気のせいか?」
 何処かしらからか調達してきたリンゴを一つ、しゃくっと口にするドットーレの視線の先で、二人は激しく動き、或いは怒鳴りあいながら戦いを続けていた。
「ぜー、いい加減諦めて俺の未来の糧となれって、はー、もし霊になって化けて出る事になってもきっちり退治までしてやるから」
「ぜー、お前こんだけ運動能力あって何であんな奴に従ってんだよ、はー、俺達で消耗しあったって意味無いだろ」
「……アイツのヤバさ、お前本当に気付いてないのか?」
「…………」
 横島の言う通り。
 ドットーレは数多の魔物と遭遇した清麿が、これまで出会った事もないと断言出来る程、強烈な血臭漂う正真正銘の、怪物である。
 単身で、百? 千? 万? 一体どれだけの人間を殺せばあそこまでの血臭をまとえるのか。
 それは実際には臭気云々ではなく、全身より漂うねばりつくような気配である。
 人を殺せば殺す程、身に付くと言われている艶である。
 人間の身では生涯人殺しに費やしたとしても、到底辿り着けぬ境地である。
 部下に命じて、実感の伴わぬボタン一つで、そんなおためごかしではなく、自ら、意志持つ存在を文字通り手にかけ続けた存在にのみ許されぬ佇まい、これを総じて血臭と称しているのだ。
 これは、他の如何なる参加者の追従も許さぬドットーレのみのモノであろう。
 同じ出自とはいえ、作りなおされた後であるコロンビーヌでは、決してこの香りは出しえぬのだから。
 より多くの異形と接触してきた横島がまず先に、続き、潜った修羅場の多さと知力の高さから清麿が、ドットーレの危険度に気付いた。
 にも関わらず、清麿の声より強い意志の輝きは失われない。
「それでもだ」
「……くっそー、お前やっぱモテんだろコンチクショー!」
 お互い物陰に隠れながらの会話は、天よりの声に遮られる。
 第一回定時放送が開始されたのだ。
 放送の内容を聞く為、一時停戦などという発想を二人共が持たなかった。
 放送に耳を傾けるのは当然として、その上で互いに隙を狙いあっているのだ。
 この硬直状態は、放送が続くにつれ有利不利がはっきりと出る。
 全く知り合いが放送で呼ばれなかった横島と、二人も旧知の名を呼ばれた清麿とで。
 清麿には放送内容の是非を考える余裕もなかった。
 半泣きになりながら横島は、障害を飛び越え、ベランダを走り、一気に距離を詰めた後、壁面に向け銃を構える。
「ばっきゃろー! 俺はまだこんな放送で呼ばれたくねえぞ! まだ美神さんにあんな事やこんな事やそんな事やああそんな事まであーとか何一つしてねえんだ!」
 清麿の読みがほんの数瞬勝り、教室の壁沿いに走り出すと、その背後を壁越しに撃ち込まれた無数の銃弾が抜ける。
 駆ける清麿。追う弾丸。
 清麿が教室を飛び出すのと、銃を撃ちながら横島が隣の教室を飛び出すのが同時。いや、僅かに清麿が速い。
 斜め下より突き上げるように醤油差しを振り上げる。
 ライフルの銃口が清麿を捉える寸前、醤油差しは銃口を大きく弾き飛ばす。
 このままライフルの確保に走る、踏み出した一歩でそう思わせておいて清麿は廊下側の窓を突き破って外へ飛び出す。

69 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:25:13.96 ID:6zy24kii
 ここは三階。体勢悪く落下などしたら、怪我どころか命が無い。
 だが、横島が窓から外を見ると、清麿が飛び込んだのは校舎から体育館へと続く連絡通路の屋根の上。
 転がるように屋根から降りた清麿は、連絡通路の屋根を遮蔽に逃走を続けていた。
 幸運、ではないと横島は思った。
 これまでの仕掛けやら逃げっぷりを考えるに、コイツはこれを計算でヤれる奴なのだと横島にもわかったのだ。
 横島は、少しだけ殊勝な顔で呟いた。
「……アイツ、泣いてた?」



 ドットーレにとってこの戦い、清麿に負けて欲しくはなかった。
 守ろうとした人間を殺し、不幸を呪い嘆く清麿が見たかっただけなのだから、あの人間にはむしろ適当な所でさくっと死んで欲しかった。
 しかし、まるで意味が不明な執着から清麿を狙う彼は、なかなかに愉快な人材であると思いなおし始めていた。
 自分の命を優先し、他者を踏みつけ被害者顔を隠そうともしない。実に、ドットーレの知る人間らしい人間であったのだ。
 ドットーレの経験上、こういう人間は彼の振るタクトに合わせ、面白いように踊ってくれるものだ。
 そこでドットーレは、不覚を取ったかと校庭の方へと目をやる。
 校舎内の戦闘に注視しつつ、流された放送の事を考えていた為、ふらふらと歩み寄って来る人間に気付くのが遅れてしまった。
 校庭脇、校舎側の鉄棒の上にぴょんとドットーレは飛び乗る。
「そこな人間。オレに用か?」
 俯いたまま顔を上げようとしない人間、霧沢風子は、表情を前髪で隠しながら呟く。
「……おい、中でやりあってる内の一人は、ツレなんだけどさ……何でやりあってんのか理由をアンタは知ってるか?」
 ドットーレは芝居がかった所作で大きく両腕を開く。
「ほう、あの人間の連れ合いか。ならば加勢してやるといい。あの人間が中の清麿を殺せれば、命だけは助けてやる約束なんでな」
 風子は、首元をかきながら首を小さく傾げる。
「あー、そりゃー、つまり、あれか。てめぇは見た瞬間感じたように、どうしようもねえクソッタレ野朗だって事でいいのか?」
「人間、侮蔑の言葉を並べるのは構わないが、相手は選ぶべきだぞ。オマエの連れ合いが何故言われるがままなのかを考え……」
 ゆっくりと、風子は手にした剣を振り上げた。
「うるせえ! こっちゃあ虫の居所が悪ぃんだ! 加減なんざ出来ねぇからせいぜい本気で避けやがれ!」
 風神剣より風の渦が放たれ、ドットーレが立っていた鉄棒をただの一撃で吹き飛ばした。

 校舎内でバトっていた清麿と横島の二人は、それ故外の異常に気付くのが少し遅れてしまった。
 それでも風神剣の轟音はきっちりと二人に届いてくれた。
 ドットーレが何者かと戦闘している。
 そう察した二人は、どちらからともなく戦闘を中断して校庭へと向かう。当然、互いに隙を見せるような真似はしないままだが。
 まず、それを目にして声を出したのは横島だ。
「風子ちゃん!? ちょっ! マズイってソイツはヤバイ! 可及的速やかに逃げろ!」
「うるせえ腰抜け! こんなふざけた面の奴にあっさり脅されてんじゃねえよ!」
「顔はふざけててもマジで強いんだって……あーーー! ち、違うっすよ! ふざけてっていうかふざけてると思える程にクールというか痺れるというか! いやもうマジ惚れる顔っす! 俺が女なら間違いなくふぉーりんらぶっすよ旦那!」
 こんな時でも下僕の立場は忘れないナイスガイ横島。
 風子とドットーレの戦闘だが、風子は風神剣を縦横に振るい放つ飛び道具、風神波によりドットーレの近接を決して許さない。
 ドットーレの足の速さは折り紙つきだが、それでも飛び道具を用いた中長距離戦闘に長けた風子の連撃に、不用意に踏み込む事も出来ないのだ。
「クソッ! クソッ! ふざけた事ぬかしやがってどいつもこいつも!」
 風子の攻撃は止まらない。
 ドットーレは安全に回避出来る間合いを保ち、じっくりと攻略の糸口を探す構えであるのだが、一切関係なく風神波を放ち続ける。
「みーちゃんがヤられただと!? ありえるか馬鹿野朗! あの陰険で根暗な上頭が良くて敵には容赦が無いみーちゃんをどうやったらヤれるってんだよ!」

70 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:25:35.29 ID:uYXjfUED
しえん

71 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:25:43.52 ID:6zy24kii
 風神波に変化が生じる。
 三日月状であった衝撃波が、渦を巻き、柱のようにまっすぐ昇り進んで行くのだ。
「烈火が負ける訳ねえだろ! 馬鹿みたいに次々と龍出してきやがって! あんなのどうやったって倒せるわきゃねえっての!」
 大地を抉るような竜巻は一直線にドットーレへと向かっていくが、ドットーレは大きくこれを飛び越える。
「人間! 中々楽しめたがこれまでだ!」
 何とドットーレは、放たれた竜巻の上を、その足で駆け抜けていったのだ。
「フハハハハ! 押し固めた人間玉を崩さぬよう転がすよりよほどこちらの方が楽だぞ!」
 風子は竜巻を放つべく突き出した風神剣より、力を放つのをとめる。が、遅い。ドットーレは既に風子の近接間合いにある。
「ぐちゃぐちゃうるせえっつってんだよ!」
 逆袈裟、というにはあまりに乱雑な斬り上げにて風子はドットーレを狙うが、ドットーレはこの剣筋を容易く見切り、ひらりと両の足で剣先に着地する。
 まるで体重が無いかの如き動きだが、剣を手にしている風子はその重さ故剣を動かす事も出来ない。
 後はドットーレが足を前に突き出せばそれでおしまいだ。
 しかし、風子は尚も動いていた。
 ドットーレが剣先に着地する為意識をそちらに集中した瞬間、目的を剣撃から投げに変化させる。
 この辺りの判断の速さは考えてやっているものではあるまい。そも考えてから動いては間に合わない。
 体がそう反応した。そう出来る程に、風子は自らを鍛えていたのだ。
 この反射というもの、ともすれば電気信号のやり取りのみである機械をすら上回る速度があるというのだから、人間の持つ可能性というものは果てしないものだ。
 中途まで振り上げた剣の下に自らの体を潜り込ませると、背負い投げの要領で剣を担ぐ。
 こう動けば、剣の上に立つドットーレは足で風子を狙う事が出来ない。
 ならば伸びる腕で、そう動く前に風子の剣越し背負い投げが炸裂する。
 それだけならばドットーレに損害を与える事は不可能であったろう。
 しかしこの剣は風神剣。如何なドットーレとて足元より衝撃を放たれては完璧にかわしきるなぞ不可能であろう。
 そのまま、放たれた衝撃波に巻き込まれ体育用具室に叩き込まれるドットーレ。
 風子は、そこで攻撃の手を緩める事は無かった。
「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! てめぇらどいつもこいつも人をコケにしやがって! 私をなめた奴ぁ皆ブッ殺してやるああああああああああ!!」
 風子の怒鳴り声、そして鬼気迫る表情を見た横島の顔色が変わる。
 それは清麿に一つの景色を連想させた。
 慌てた口調で清麿が叫ぶ。
「おいっ! あの子なんかおかしくないか!? あれは幾らなんでも普通じゃないだろ!」
 慌てた口調なのは横島も一緒だ。
「俺もそんなにあの子知ってるわけじゃないけど……でも、確かにおかしい。おいっ! 風子ちゃんどうしたんだよ! ちょっと落ち着いてってば!」
 しかし、横島の言葉も聞こえないのか風子の表情が見る間に変化していき、それは、ヒトのそれとはかけ離れて見える程眉尻の吊り上ったモノとなる。
 正気を失って見える少女。
 清麿は、かつて助ける事が出来なかった、一人の小さな魔物の子を思い出す。
 風子がその子と重なって見えた瞬間、清麿の脳裏より計算が全て吹っ飛んでしまう。
 その時相棒のガッシュがその子にしてあげたように、清麿もまた、夢中で飛び出し、風神剣を振り上げた風子の前に両手を広げ立ちはだかったのだ。
「駄目だああああああああああああああ!」

 何もかもが憎くて憎くて仕方が無かった。
 目に映るもの、聞こえて来る音、肌に触れる大気すら、不快で不快でしょうがない。
 だから目の前に突然現れたソレが何なのか即座に判別はつかなかったが、邪魔であるという憎しみランクを一つ上げるファクターを有していたので、容赦なく、剣を振り下ろし砕いてやるつもりだった。
 そんな風子の剣が止まったのは、どうしてだったのか。

72 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:25:57.75 ID:uYXjfUED
支援

73 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:26:56.97 ID:uYXjfUED
私怨

74 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:27:10.99 ID:6zy24kii
 彼女の心の何処かで、きっとこうしてくれる誰かが居る。そう、思っていたせいかもしれない。
 そう信じられる、誰かが居てくれたせいかもしれない。
 耳に届いた清麿の声が、彼でない他の、そいつの声なら聞いてやらなきゃならないと思える誰かの声に聞こえたのも、きっとそういう理由だったのだろう。
 それでも風神剣の呪いを全てを弾ける程の強力な意志を、今の風子には望むべくもない。
「隙ありいいいいいいいいいいいい!」
 だから、このほんの一瞬のみの勝機に、飛び込んで来た横島が風神剣を蹴り飛ばしたのは全くもって正しい。
 例え強敵ドットーレとの対戦最中であろうと、清麿も、横島も、女の子が自我を失い暴れまわるような状態を、見過ごす事は出来ないのだから。
 ケダモノのような直感で風神剣の危険さに気付き、見事蹴り飛ばす事に成功した横島は、そのまま意識を失い倒れる風子と、これに駆け寄る清麿の位置を確認する。
 次に全壊した体育用具室よりドットーレがのそりと姿を現すのを目にする。
「やるしか……ねえよなぁ、これ」
 これでも横島はゴーストスイーパーだ。風神剣より漂う危険な気配は百も承知。それでも、横島には風子には無い強烈無比な切り札が備わっている。
「たかが剣ごときが! 俺の煩悩を凌駕しうるものかよおおおおおおお!」
 横島はそれとわかっていて風神剣を、その力を発揮すべく霊力を込めながら振り上げる。
 途端、流れ込む殺意と害意と怨念の塊。
「ぼんのおおおおおおお! ぜんかああああああああああああい!」
 シャワー口に顔を向け、水流の勢いにその身を晒す美神令子。バスルームならではの気安さか、惜しげもなく裸体を晒しながらもそこに羞恥の色は見られない。
 極自然に、豊満にして珠玉なる果実を、地上三階の窓から覗き込む横島に晒していたりする。(直後、三階から殴り落とされた)
 貸し出された一室で、仕事着に着替えるは小笠原エミだ。褐色の肌は人を選ぶというが、彼女に関してはその限りではなかろう。
 それ自体が儀式であるかのように、厳かに一枚、また一枚と衣服を脱ぎ落とし、数多の死線をくぐってなお輝きを失わぬ肌を晒す。(この後ガチで呪われた)
 驚いた顔の六道冥子。たっぷりとした丈の長いスカートは色気と無縁の彼女らしい装いであるが、如何なる神の気まぐれか、春一番に煽られて、そんなスカートすら大きくまくれてしまう。
 そのままなら、よほど小さな子供でもなくば中の確認は出来ぬだろうが、視点を下に持っていければ、中の、それも下着をかっちりと確認しうるだろう。(式神に略)
 横島忠夫の何が凄いかといえば、如何な緊張状態にあってもこんなタワケた妄想を一瞬で脳内に展開出来る所であろう。
 切り替えが早いとかそーいう次元では最早語れぬ無茶さである。
 横島の精神を犯さんと襲い来る風神剣の意志は、例え器物であろうと近寄るのが嫌であろうもーそーに阻まれ、横島はただその力のみを行使する。
『上手い事コントロールして、風子ちゃんとアイツを一緒にふっ飛ばせば……』
 自分が助かる為に清麿を犠牲にするのは構わないが、流石に女の子を巻き込むのは本意ではない模様。
 風神剣の力で二人を吹き飛ばし、何とか逃がしてやろうと横島は狙っていたのだ。
 が、そんな意思疎通がなされているわけではない清麿は、横島の善意を欠片も信じず、ただこの子を守る為、襲い来る風の衝撃波の範囲から風子を突き飛ばし離したのだ。
『おいいいいいいいいい!? オマエどんだけ自己犠牲精神に満ち溢れて……いやっ! オマエ! 突き飛ばす時風子ちゃんのおっぱい触ってたろ! 何てクズだ! こんな時にふざけた事しやがって俺と代われ!』
 無論清麿は突き飛ばすのが目的であって、胸云々は所謂事故である。
 ともかく、横島がコントロールしたおかげか、殺傷能力を落としたまま風の衝撃は清麿を校庭の外にまで吹っ飛ばしてしまった。
 距離にして数十メートルは飛んでいる。普通の人間ならその飛んだ勢いだけで、結果を見るまでもなく即死であろう。
 だが、横島は校庭と外とを分かつ壁の向こう側に、クッションとなる雑草が鬱蒼と茂る空き地を見つけてあったのだ。
 後は清麿の運次第であろう。
 予定が著しく狂った横島であったが、ともかくまずは何よりも先にせねばならぬ事がある。
「旦那見ましたか! 俺の勝ちっすよ! これで俺は助けてもらえるんっすよね!」

75 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:27:27.04 ID:uYXjfUED
シエン

76 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:27:44.87 ID:6zy24kii
 自らの命の確認である。
 ドットーレは小首を傾げたまま、ひょこひょこと奇妙な歩き方で横島に歩み寄ってくる。
「なあ人間。オレには意味がわからないんだが、何故清麿はあそこでオレを庇うような真似をしたのだ? それに、その女がいきなり倒れたのはどういう訳だ?」
 横島は、言われて初めて、それがドットーレに理解出来ない理由に思い至った。
「はあ、アイツ、きよまろっていうんですか? アイツは単純に女の子助けたかっただけだと思いますよ。後、そこの子が倒れたのは、ほら、この剣使ったせいだと思います」
 何の気なしに横島が握っている剣を、ドットーレはしげしげと見つめる。
「……ふむ、これを使えば風が出るのはわかったが、倒れるのは何故だ?」
「理屈はわかりません。だけど俺が使った時は、何かこわせーとかころせーとかそういう声が聞こえた気がしますから、その辺が何か関係あるかも……」
 ならば、とドットーレは風神剣を横島から受け取り、大きく振るってみた。
 何も起こらない。
 もう一度。
 やはり、何も起こらない。
 ちらっと横島を見た後、三度振るい、それでも何も起こらなかった。
 ドットーレは無言のまま横島の襟首を掴み、捻り上げた。
「ちょ、ちょっと待ってぷりーず! 悪いの剣! 俺違う! 俺何もしてない!」
「……ふん、人間でなくば扱えぬ道具、とでもいうのか?」
 横島はそこで、さっきからずーーーーーーっと気になっていた事を問うた。
「あの、ドットーレの旦那。旦那、もしかして人間じゃ、ないっすか?」
「当たり前だ。俺は誇り高き自動人形だぞ。人間なぞと一緒にするな」
 あーなるほど、と横島はぽんと手を叩く。
「多分っすけど、この剣霊力とか魔力とかに反応するみたいですね。だからそーいうのが無いと、使うに使えないって話かなーって」
 人形が自動で動く不思議はガンスルー出来るらしい横島。というか馴染みすぎである。人外に好かれる男の名は伊達ではないという事か。
 剣に関する解説も、厳密に言えば横島の解釈は誤っているのだが、それでも一応現状では話が通ってしまうのでドットーレも問題視せず、興味は失せたとばかりに横島へ風神剣を放り渡す。
「へ?」
「オレが持っていていも仕方無いのだろう。お前にくれてやる」
 こんないつ発狂するかわからんような剣、出来れば横島も持っていたくはない。
「い、いえいえ、俺はほら、もう銃とか預かってますし……」
「どちらも俺には不要なモノだ。それに、お前にはこれから存分に活躍してもらうつもりでいるからな」
「は?」
 ドットーレは横島の眼前で顔を大きく歪める。
「人間にはゆらぎがある。それは、しろがね程人間を捨てた者にもあってしまう、人間には抗いようのない弱点だ」
「はぁ」
「ましてやしろがねでない者ならば、そのゆらぎは大きく幅広い。そうして本来の実力を発揮する事なく敗れる口惜しさ、惨めさは、筆舌に尽くしがたいそうな」
「(何かすげぇタチ悪い事言い出しそうな雰囲気なんですけどー)はぁ」

77 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:28:18.42 ID:uYXjfUED
しえん

78 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:29:05.19 ID:6zy24kii
「という訳でだ。次なる遭遇者と出会う時、オマエ、そこの女を遭遇者の眼前で犯せ」



 ハーレルヤ♪ ハーレルヤ♪ ハレルヤ♪ ハレルヤ♪ ハレールヤー♪



 一瞬、完全に意識が吹っ飛んでしまった横島君家の忠夫さん。
「おかせって! 俺に! その子を! つまりあんな事やこんな事やそーんな事までやっちまえって事ですかい!」
「……いや、そーいう話だが。お前、何故に鼻から血が噴出しているのだ?」
「嘘だ! こんな都合の良い話があるはずがない! だって俺は今生き死にの場に追い詰められ地獄の最中を漂ってるはずなのに! どうしてここで! 男子一生の本懐! 楽園の入り口! 童貞喪失パレードが待ち構えているというのかああああああああああ!」
「…………喜んで、いるのか? あまり人前でする行為ではない、と認識していたのだが……」
「ああ、心が痛い! 心底痛む! こんな破廉恥で非道な行為! 断じて許されるはずないが命がかかっていては仕方があるまい!
 ああ、仕方が無いのだよ! そうヤってしまえばきっと俺も風子ちゃんも命は助けてもらえるだろう! つまり人命救助故致し方なし!
 命の危機という時に人工呼吸を惜しむ者が居ようか!? いや居まい! ならばこの行為こそが今この場で唯一の正義となるっ!」
 ドットーレはもうこれに付き合うのが面倒になってきたので、放置しつつ名簿とさっきの放送内容を見比べてたりする。
「ふっ、悪いなお前ら。俺は一足お先に大人の階段、昇らせてもらうぜ。なぁに、最初は嫌がっていても、いずれ俺無しではいられない体になっちまうのさ……くっくっくっくっく……あー! 一度こういう台詞言ってみたかったんだあああああああああ!」
 突然、横島はドットーレの前に土下座をして見せた。
「何?」
「ドットーレの旦那あああああああああ! この横島一生のお願いであります! どうか! 次に誰かと会った時なんて言わず! 今すぐにヤらせてくだせえええええええええ! 俺のこの盛り上がりきったパッションは最早留まる事を知らないんでさああああああああああ!」
 ドットーレは眉根を寄せる。
「減るものでなし、そんなにしたいのなら別に構わんが、向こうでやれよ。実際目にした事はあるが、何が楽しいのかオレにはさっぱりわからんだけに、何時までも見ていると腹が立ってくるのでな」
 ドットーレは横島の申し出を快く受け入れる。彼の人倫にもとる要求は、そこから推測される彼の人間性は、ドットーレがこれより人間達に仕掛けんとする様々な罠を実行するに素晴らしい助けとなりえる。
 ただ殺して回るなど愚の骨頂。誰よりも真夜中のサーカスの一員であるドットーレが、楽しみを追求する心は何時如何なる時でも失われたりしないのだ。
 ものっそいスピードで風子を抱えて走る横島を、ドットーレは侮蔑の視線で見送るのみであった。



 意識を失ったままあどけない顔で横たわる風子。
 彼女を教室の一室に連れ込んだ横島は、何時だったか見たアダルトビデオのワンシーンを思い出す。
 見慣れぬ学校は、何処かわざとらしさが感じられる舞台装置のようで、ここで本当に生徒達が授業を受けているというのが信じられなくなってくる。
 実際、タダのセットなのかもしれない。それでも、胸元を薄く上下させる風子は、セットでも舞台装置でもただ見る事しか出来ぬビデオでもない。
 ごくりと生唾を飲み込む横島。
 その手が、ゆっくりと風子のシャツの裾に触れ、止まる。
 彼なりの葛藤があるのだろう。
 その位置からぴくりとも動かぬまま時が過ぎるが、唐突に、横島が叫びだした。
「っていうか無理っ! 据え膳食わないとかこの横島忠夫にそんな真似ありうるかボケえええええええええええええ!」
 ぐあばっと風子にのしかかりかけた所で、横島は後頭部を強打された。
「ごふぁああああああ!」

79 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:29:43.49 ID:6zy24kii
「こ、こんな下衆野朗、見た事が無い……それでも、殺すなんて出来るはずもないか」
 完全に意識を失いひっくり返った横島を他所に、突如現れ横島の後頭部をぶん殴った清麿は、風子をゆすぶり意識を取り戻させる。
 当初、呆とした意識のまま清麿の話を聞いたため、風子はひどく動揺していたのだが、そこはそれ、意識がはっきりしていくなり自分を取り戻していくのは流石に荒事慣れしてるだけはある。
 すぐにやらなければならない事が山積みだったので、迷ったり悩んだりしている暇が無いというのも良い方向に働いたようだ。
 情報交換もそこそこに、最低限やるべき事だけを確認する清麿と風子。
 ドットーレが校舎の外で何やらしている間に、清麿と風子はぶっ倒れた横島を抱えてこの場を逃げ出した。
「おい、清麿っつったよな。まともに追われたら逃げ切れねえぞ」
「わかってる。手は用意してあるさ」
 清麿が校舎内に入り込めたのは、学校内の地下下水施設を伝ってきたおかげであった。
 なので、出る時もこれを用いた訳だ。
「へぇ、良くこんなの見つけたな」
「この小学校は調べつくしておいたからね。拠点に出来ればと思ったんだけど……もう無理か。ともかく、一度この場所を離れないと」
「わかった。……一応、先に聞いとくけど、コイツどうする?」
 コイツこと横島の所業を、風子は清麿から伝え聞いている。
 スケベで腰抜けで根性無しの外道とか、どうすればいいんだと。
「……放逐するには危険すぎる。となると連れて行くしかないんだよなぁ……」
「ま、これ以上悪さ出来ないよう痛めつけておくってのが妥当な所じゃねえのか」
 そうだな、と頷いた清麿の表情が、何かちょっとそれまでとは雰囲気が違かったので、風子は一度清麿の顔を見直したが、別段変な顔はしていなかった。

 露天などで使う発電機に、清麿がとぽとぽと燃料を入れている時、横島は目を覚ました。
「おっ、目覚ましたみたいだぜ」
 風子の声に横島は答えようとして身じろぎするが、そこで、体中が縛られて動けない事に気付く。
「え? あれ? 風子ちゃん、何か俺身動き出来ないみたいなんだけど……」
 風子の表情は、全然笑っていなかった。
「よー横島。聞いたぜ、気を失ってる私に手出そうとしてたんだってな」
「なっ! 何故それを! ち、違うんやああああああああ! あれは若気の至りなんやああああああああ! 誰にでもある甘酸っぱい青春の一ページなんやあああああああ!」
「んな寝言で乙女の純潔散らされてたまるかっ。なあ清麿」
 声をかけられた清麿は、横島に背を向けたまま答える。
「ああ、まったくだ」
 その声で、横島は自らの置かれた現状にようやく思い至った。
「お前! そうか、上手くやったか……ははっ! ドットーレはどうした!? 上手い事逃げ切ったのか!」
「ああ……だがおかしいな。その言い草。まるで、俺を吹っ飛ばしたのはアンタが狙ってやった事で、後から俺が風子さんを助けに行くとわかっていたとでも言わんばかりじゃないか」
「そうそれ! いっやぁ、お前頭良さそうだと思ってたけど、やっぱりキレる男は違うな! よっ! 男前! あれだけで俺の意図を察してくれるとは……」
「じゃあ何で教室で風子さんに襲いかかろうとしてたんだ」
「溢れ出る若さの現れなんやああああああああ! 堪忍やあああああああああ! おっぱいは男のワンダーランドなんやああああああああ」
 清麿は紐を思いっきり引き、発電機に火を入れる。
「だそうだけど、風子さん?」
 風子は首に親指を当てて、一気に真横に引いてみせた。

80 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:30:19.22 ID:uYXjfUED
支援

81 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:30:29.12 ID:6zy24kii
「へるぷみいいいいいいいいいい!」
 そこでようやく清麿が横島の方へと振り向く。
 実に悪い予感しかしない横島は、恐る恐るソレを口にした。
「あー、そのー、おにーさん、何か牙とか角とか生えてる気がするんっすけど……」
 清麿が両手に持っているのは、鉄の棒。その先端を近づけるとばちりと火花が飛び散った。
「……もしかして、そのばちばち、人に押し付けたりしませんよね? ほら、危ないじゃないっすかそーいうの、マジで火傷とかするかもしんないし……」
 清麿は、まるで躊躇をしなかった。
「こんの外道があああああああああああああ!」
 発電機をぶん回し電気を発生させ、これを、清麿は拷問用具として用いているわけだ。
 少なくとも清麿から見た横島忠夫とは、悪漢に脅されれば他者の殺害も厭わず、あまつさえ意識不明の女性を欲望のまま蹂躙せんとする悪辣極まりない者である。
 風子の腕より風神剣を奪った事も、ドットーレの援護をしたと見られればそれまでであるし、風神剣による清麿への攻撃も、それこそ攻撃としか見ようがない。
 めったくそタフと知っている横島の扱いをどうするかにおいて、弱らせて共に行動するという一種残酷にも思える選択肢を選べたのは、清麿に横島への怒りがあったせいであろう。

「ぐぎゃあああああああああああああああああ!!」

 下水道のある地下での出来事であり、音が外に漏れないのは確認済み。その辺清麿さんは如才ない。
 さんざっぱらビリビらせた後、清麿は押し付けていた二本の鉄棒を床に置いた。
 脳まで真っ黒になった気がする横島は、虚ろな目で清麿を見て、こう、漏らした。
「……ヤロウ……燃料追加してやがる……」
 再度発電機に燃料入れなおした清麿が、悪鬼羅刹の表情で放電を再開する。
 風子からもちょっと引いているような気配が感じられるが、清麿はまるで止まる気配が無い。

「ぎゃはうあああああああああああああああ!!」

 さしもの横島も意識を保つ事が難しくなる程の電撃は、もうこれこの状態で下手な事されたら性癖すら変化しかねねーぞな勢いであった。
 それでも、終わりの無い夜はない、抜けないトンネルはなく、こんな地獄も終わりの時は来る。
 再び鉄の棒二本を床に置いた清麿に、横島は安堵の息を漏らす。いや、漏らしかけた。
「……ヤロウ……棒持つの疲れたもんで一休みしてやがる……」
 ぶらぶらと振っていた両腕から痺れが取れた清麿は、再度悪鬼の表情で鉄の棒を押し付ける。

「うふぅああああああああああああああああ!!」

 それでも死なない程度で済ませられるのは、超がつく天才の清麿が医学を少なからず学んでいたおかげであると思われる。
 だからと横島が感謝する気になれるかどうかは別の話だが。



 ドットーレが横島の裏切りに気付いたのは、かなり後になってからだ。
 あの手の者が一度恐怖に屈した相手に逆らうというのは、中々に考えずらい。
 故に油断していたせいもあってか、あっさりさっくりと、裏をかかれあの女共々影も形も見られない。
 まさかと思い清麿が吹っ飛ばされた場所も見に行ってみたが遺体もなく、着地跡を見る限り絶命したとも思えない。
「つまり……オレが、あの人間に一杯食わされたと……いうわけか。あの、何処までも下らん人間に……」

82 :横島忠夫、清麿と出会う ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:31:00.27 ID:6zy24kii
 その後のドットーレの激昂は筆舌に尽くしがたい。
 小学校が丸々一つ、半壊してしまう程の大暴れでようやく、落ち着きを取り戻す程であったのだ。





【B−3 市街地地下下水道/一日目 朝】

【高嶺清麿】
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達、AK-47@現実、風神剣@YAIBA
     醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。


【霧沢風子】
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:健康、錯乱
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、謎の玉@不明、ハンディカラオケ@現実、風子のリュック(基本支給品一式、支給品0〜2(風子確認済み)、水一本消費)
[基本方針]:烈火たちと合流したい。


【横島忠夫】
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:ボッコボコ(=いつも通り)、文珠×2、電撃なごーもんにより流石に動きが鈍る。縛り上げられている。
[装備]:なし
[道具]:
[基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。



【B−2 小学校/一日目 朝】

【ドットーレ@からくりサーカス】
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員殺して清磨に『笑顔』を届ける。あの人間(横島)を八つ裂きにする。



83 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:31:07.18 ID:uYXjfUED
私怨

84 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:31:37.11 ID:uYXjfUED
シエン

85 : ◆n0WqfobHTU :2011/12/19(月) 20:31:38.78 ID:6zy24kii
以上です。問題点等ありましたら、ご指摘の方よろしくお願いします。

86 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:32:06.90 ID:uYXjfUED
しえん

87 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:33:32.90 ID:uYXjfUED
投下乙
一日に二つくるとはw
ちょっと今は忙しいけど、後で読みます!

88 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 20:43:36.26 ID:uzfc7fD1
投下乙です

>「という訳でだ。次なる遭遇者と出会う時、オマエ、そこの女を遭遇者の眼前で犯せ」

腹筋が崩壊した
…この台詞がギャグになるなんて、横島じゃなきゃ絶対に無理だなwww

89 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 21:42:36.40 ID:uYXjfUED
改めて投下乙
ここにきて横島が爆発しやがったwww
電車で読むSSじゃねえw笑い堪えられないww

90 :創る名無しに見る名無し:2011/12/19(月) 23:23:43.80 ID:Hcjp23jU
投下乙です
ここまで横島を再現する技量に感服
風子を暴走から救い、沈んでいた清麿も通常に戻し、被害者を出すことなくドットーレから逃げおおせ、しかも武器まで奪ってくる
……凄まじく仕事はしているのに、何故素直に褒める気になれないのかw

91 :創る名無しに見る名無し:2011/12/20(火) 15:37:17.44 ID:gajB43kg
投下乙!

>一閃
鬼丸かっこいいな
魔王化しても刃に対する執着が変わらない辺り、さすがのライバル
YAIBA本編では、刃が強くなる度に鬼丸もさらに強くなっていただけに、さらに恐ろしくなりそうだ

>横島
ま さ に G S
そうだった、かっこいい引きでもこうするのが横島だったwwwwww
いやぁ、成果は素晴らしいんだがなぁw
一話で三人もキレさせるやつ初めて見たわww

92 :創る名無しに見る名無し:2011/12/21(水) 16:01:33.27 ID:s+IEKB7p
>◆n0WqfobHTU氏

一ページに収まらないようなので、適当なところで分けて収録しました。
ここで前後編を分けて欲しくはなかった……ということもありえますので、確認していただけると嬉しいです。

93 :創る名無しに見る名無し:2011/12/21(水) 20:11:27.17 ID:2SslpCng
死者リストの木蓮のセリフ長すぎwww

94 :創る名無しに見る名無し:2011/12/22(木) 16:23:22.10 ID:vBYKT9D3
投下します

95 :世界最強の男、世界の広さを思い知る ◆c8fjjCyRkM :2011/12/22(木) 16:24:54.03 ID:vBYKT9D3
ボー・ブランシェは走っていた。
脇目も振らず、ただひたすらに。
共に闘った仲間が、その命を賭けて逃亡の機会を作り出した。何としても鬼丸から遠ざからねばならない。
足を止める暇はおろか、たとえ山道でも速度を緩める余裕すらない。
傾斜であろうと関係なく、全速力で山を下っていく。
草土のせいで足場は安定しないし、枝が肌に突き刺さるが、無視を決め込む。
多少足を取られた程度で転ぶほど、戦場に慣れていないはずがない。
多少枝が刺さったくらいで痛みを感じてしまうほど、ヤワな鍛え方はしていない。
溢れていた涙も、大分前に拭い取った。視界はもはや明瞭だ。
人間の限界をはみ出しつつあるボーの全速力ゆえ、山を下り切るのに大した時間はかからなかった。
平地に到達しても、ボーは減速しない。

「ボウズは……、テッドはまだ戦っているッ!」

鬼丸の強さは身をもって知っているが、テッドもまたやすやすと倒れる男ではない。
ボー・ブランシェは、同志が戦っている最中に体を休めるような男ではない。
ゆえにさらに南下していたのだが、ボーはしばらくしてその足を止めた。
疲労が積み重なったのではない。鍛え抜かれた彼の肉体は、全力で走り続けても僅かに呼吸が乱れているだけだ。
いつの間にか接近していた植物園が、気にかかってしまったのである。
天井のガラスが砕かれ、さらに壁に穴まで開いている。
近付いて覗いてみると、ボーは言葉を失った。
中の惨状は、外見から予想したよりさらに酷いものだった。
単なる銃器では、いくら酷使したところでああは出来まい。
爆薬やバズーカ砲、レーザー兵器辺りが用いられたのだろう。
そこまで考えが至ると、ボーは植物園へと踏み入れた。
大きく息を吸い込んで、思いっきり声を張り上げる。

「誰かッ、誰かいるのか!? この殺し合いに反旗を翻さんとしている者ならば、安心するがいい! この私も同志だ! 仮に戦う術を持たぬ者だとしても、安心するがいい! 今訪れたのは世界最強の男、ボー・ブランシェだ!」

植物園全体に響くであろう大声。
しかし返事は、反響する呼びかけだけである。
深呼吸をすると、ボーは再度。

「もしも殺し合いに勝ち残るつもりの者ならば、残念に思うがいい! このボー・ブランシェを敵に回すことになるのだからな!」

やはり、呼びかけが響くだけ。
踵を返して植物園から出ようとして、ボーは踏み止まった。
内部にいる者が、返事をする事さえ出来ない状況であったとしたら。
ありえない事態ではない。もし瓦礫に挟まってしまえば、ボーのように鍛え抜かれた肉体を持たぬ弱者は一たまりもない。
ボーは、そんな考えが浮かんでいながら植物園を後に出来るような男じゃなかった。
弱者を守るのが強者の務めなのだから。
回れ右して再び植物園に向き直り、奥へと進んでいく。
戦場となったであろう地点に到着すると、いくつもの樹木が折れてしまっていた。
それらに下敷きにされている被害者がいるやもしれない。
ボーは、倒れた樹木を大きいものから順に持ち上げていく。
かなりの時間を費やして、やっと植物園に自分以外には誰もいないと気付いた。
ボーが安堵の息を漏らしたちょうどその時、死者を告げる放送が始まった。



  ◇  ◆  ◇  ◆

96 :世界最強の男、世界の広さを思い知る ◆c8fjjCyRkM :2011/12/22(木) 16:26:11.19 ID:vBYKT9D3



「ふ! ふははははは! キース・ブラックめ! 人々を惑わすため嘘を流すとはッ! その程度、見破れぬボー・ブランシェではないわ! ふは! ふはは、はは……」

先の放送によると、もう十六人もの死者出たのだという。
挙げられた名前の中には、ボーの知った名も複数あった。
スプリガンの御神苗優、先ほど共闘したテッド。
どちらもたかだか六時間で死ぬような手合いではない。
優に至っては、世界最強の男を下した事もあるのだ。
倒されることがあるとすれば、それこそボー・ブランシェのリターンマッチ以外にありえない。
つまり、あの放送は嘘八百なのだ。そうに決まっている。間違いない。
ゆえにボーは笑い飛ばそうとしたが、思いに反して声はか細くなっていく。

「は……は、は。嘘つきは、この私ではないか。ボー・ブランシェともあろう者が……」

自分に嘘を吐こうとしたが、上手くいかなかった。
この殺し合いに、ボーを上回る参加者が存在するのを思い知ったばかりだった。
ボーは握った己の拳を見て、とても小さく感じた。
世界最強の男の拳とは、とても思えない。
鬼丸猛の振るっていた漆黒の剣とは比べ物にならぬほど、ちっぽけで弱々しい。
最も優秀な人種である我らには、より弱き者を守る義務がある。
それこそ、ネオナチの掲げた理想にして、ボー・ブランシェの信念であった。
ネオナチ上層部の思想がそうでなかったとしても、ネオナチが崩壊してしまったとしても、ボーの中でその信念は輝き続けていた。
が、ここに至って、ボーは疑問を抱いてしまう。
もしかしたら自分は守られるべき弱者なのではないかと、そんな事を考えてしまう。
一度浮かんでしまえば、その考えは正しいように思えた。
思い返してみれば、朧には手も足も出ず、御神苗優には一杯食わされてばかり、自慢のスピードさえジャン・ジャックモンドに敵わず、そして鬼丸猛には完膚なきまでに敗北した。

「この私は、世界最強の男ではないのかもしれないな……」

意図せず、ボーの拳を握る力が弱くなる。
同じ弱者でありながら弱者を守ろうとしていた自分が、とても滑稽に思えてしまう。
現に、先ほどもそうだったではないか。
強者であるテッドに、守られてしまったではないか。
あれこそ、ボー・ブランシェが弱者である証明ではないだろうか。

97 :世界最強の男、世界の広さを思い知る ◆c8fjjCyRkM :2011/12/22(木) 16:26:35.94 ID:vBYKT9D3

「だがッ!!」

解かれかけていた拳を握り直し、ボーはすぐ近くにあった樹木に叩き付けた。
直径一メートルはありそうな幹の全体に、亀裂が走っていく。

「もし周りが強者ばかりだとしても、そやつらと比べればこの私は弱者であったとしても、それでもッ!」

ボー・ブランシェは、世界最強ではない。
スプリガンの連中に負けた事があるし、ついさっきも鬼丸猛に敗北した。
数度目の敗北を喫して、やっと最強ではないと認めよう。

「弱者を守る強者は、誰より優秀でなくてはならないッ! その強さを弱者を守るために使わねばならない! いくら強かろうと、あの角ハゲではいかんのだ!」

しかしプライドが折れたとしても、胸の奥深くに刻まれたハーケンクロイツが曲がる事はない。
ネオナチの理想を捨ててしまうくらいなら、何も為さずに野垂れ死ぬ方がよっぽどマシである。
そもそも、プライドが折れるのは初めてではない。
朧に完膚なきまでにやられた際にも、薬に頼っていた己の心の弱さを受け入れたではないか。
結果として、今ここにいるボー・ブランシェは薬頼りだった頃より遥かに上回る強さを手に入れている。
折れてしまうようなプライドを抱いていたことは恥だが、おしまいではない。
むしろ、始まりだ。

「そうだッ! よりいっそう努力を欠かさず、今までよりさらに精進を積み、かつてないほどの研鑽を重ねていけばッ! この私は再び……」

殴り付けた樹木が、ゆっくりと倒れる。
舞い上がった葉の中で、ボーは断言するような口調で言い放つ。
誰かにではなく、自分自身に向かって。

「世界最強の男! ボー・ブランシェだッ!!」

決意新たに、ボーは植物園を後にする。
リュックサックから取り出したパンをかじりつつ、駆け出していく。
テッドの無念を晴らすべく鬼丸を倒さねばならないし、キース・ブラックのプラグラムを破壊せねばならないし、強者には劣る自分よりも弱い人々は守らねばならないし、再度世界最強の男にならなくてはならない。
やらねばならない事は多いし、どれもこれも大きすぎる。
いかにボー・ブランシェといえども、走らねばならないほどだ。



【D−1 植物園/一日目 朝】

【ボー・ブランシェ】
[時間軸]:COSMOS戦にて死亡後
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品0〜2、基本支給品一式
[基本方針]:弱者を助けつつ、主催者を倒す。暁を探し戦力を整え角ハゲ(鬼丸)を倒す。

98 : ◆c8fjjCyRkM :2011/12/22(木) 16:27:05.57 ID:vBYKT9D3
以上です。問題点ありましたら、指摘お願いします。

99 : ◆c8fjjCyRkM :2011/12/22(木) 16:29:21.50 ID:vBYKT9D3
おっと、気付いたことがあったんだった
ボーの所持品のランダム支給品なんですが、0〜2ではなく0〜3ではないですか?

100 :創る名無しに見る名無し:2011/12/22(木) 23:30:06.83 ID:bKE3HQjk
投下乙!
ボーいいわ、やっぱり
このロワの参加者中じゃ決して強キャラじゃないけど、揺らがなさならトップクラスだよね
世界最強の男には頑張ってもらいたいぜ!

101 :創る名無しに見る名無し:2011/12/22(木) 23:32:03.88 ID:bKE3HQjk
あと、支給品についてはたしかにそうですね
編集したほうがいいのかな

102 :創る名無しに見る名無し:2011/12/22(木) 23:32:37.47 ID:bKE3HQjk
いや、0〜3じゃなくて1〜3か

103 : ◆n0WqfobHTU :2011/12/23(金) 03:31:24.07 ID:LrOv2+Vf
>>92
確認しました。それで問題ありません、ありがとうございました。

104 :創る名無しに見る名無し:2011/12/23(金) 15:11:35.06 ID:lNhUUU1G
投下乙
頑張れボー! 走れボー!
世界最強の男に返り咲くために!

105 :創る名無しに見る名無し:2011/12/24(土) 03:53:48.43 ID:GW8x3eWL
wiki編集ついでに、ボーの所持品をなおしておきました

106 :創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 18:14:41.19 ID:46TP0mPs
なんだかwikiが見やすくなってる気がする

107 :創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 20:20:02.04 ID:46TP0mPs
連レスで悪いけど、wikiに過去ログ収録されたのは嬉しいなぁ
最初からスレ見付けてたわけじゃないから、1スレ目は読んでて新鮮
誰かは分からないですが、心の底からGJです

108 : ◆6LcvawFfJA :2011/12/26(月) 01:57:19.62 ID:fCJt1c/x
投下致します。

109 :怒号――まともな奴ほど損をする ◆6LcvawFfJA :2011/12/26(月) 01:57:58.37 ID:fCJt1c/x
 氣法師、朧の感覚はいつ何時であろうと研ぎ澄まされている。
 いちいち集中を要さずに、絶え間なく周囲の変化を把握しているのだ。
 視覚により、景色を。
 聴覚により、物音を。
 嗅覚により、香気を。
 味覚により、空気の“味”を。
 触覚により、大気と大地の“流れ”を。
 四六時中、朧の全身はそれらを読み取っている。
 仮に目を閉じて英気を養っていたとしても視覚以外が、仮に鼓膜が破られてしまったとしても聴覚以外が、代わりを為す。
 功夫を積み重ねてきたからこそ、到達し得る領域。仙人と人間の狭間。
 朧という男は、そこに到達している。
 故に、朧は今回も勘付いた。
 目撃せず、聞かず、香らず、味わえずとも、触覚が捉えた。
 殺し合いの舞台に来て以来、乱れる筈のない朧の五感が微かに乱されている。
 妨げとなっているのは、立ち込めている妖気じみた気配。
 その妖気のようでそうと断定できない“何か”を突き破るように、こちらは確実に断言出来る妖気が立ち昇ったのだ。
「……偶然にも、向かっていた方角ですか」
 ちょうど、目指していた西。
 会場の果てを見る以外に、やるべき事が増えてしまった。
 朧が危惧するのは、あの噴出した妖気の源が“オーパーツ”である可能性。
 もし懸念が的中していた場合、それを悪しき者の手に渡らせないのが朧の務め。
 “アーカム財団”直属のS級工作員“スプリガン”としてではなく、現代に生を受けた者としての使命である。
 直立したまま歩んでいた身体を前に傾け、朧は移動速度を上げた。
 加速してすぐに、手を繋いで歩く少年と少女を発見する。
 八卦掌独特の動きによって間合いをはずしているので、彼等は朧を認識していない。
 朧が朧と呼ばれる所以たる動きで、彼等に気付かれる事なく手を伸ばせば届く距離まで接近。
 その距離を保ったまま暫く同行し、朧は結論を下す。
(この二人ではないようですね)
 独り頷いて、朧は彼等から距離を取っていく。
 その動きもまた八卦掌による物であり、少年と少女は最後まで肉薄してきた参加者を知る事はなかった。
 盗み聞くつもりでなくとも耳に入ってしまった会話から、彼等がキース・ブラックの指示に従っていないようだ。
 漂う気配からただの少年少女ではなく、秘めた力があるのもまた明白。
 その実力を知りたいという思いも沸いたのだが、朧は欲望を抑え付けた。
(縁があったら、いずれまた会いましょう)
 声には出さずに告げて、朧は再び西を見やる。
 彼等が来たる放送を穏便にやり過ごすよう祈り、再び駆け出した。

 朧の体内時計に僅かな狂いも無く、数刻の後に死者を告げる放送が響いた。
 朧が知る名の内二つが、読み上げられた。
 先ほど戦った少年に、予てより期待していた愛弟子。
 将来的に自分を上回るのではないかと思っていた逸材、両方が息絶えた。
「……」
 眉一つ動かさず、朧は走り続ける。
 彼等の死を疑っているのではない。。
 死は、生きとし生けるもの全てに訪れる結末だ。
 かといって思う事が無い訳でもないのだが、朧は表に出さない。
 ただほんの少しだけ、走る速度が上がった。
 感傷を振り払う意図があってか、はたまた無関係な理由故か。
 それは、朧しか知り得ない。

110 :怒号――まともな奴ほど損をする ◆6LcvawFfJA :2011/12/26(月) 01:58:40.84 ID:fCJt1c/x

     ○

 放送が終わっても、才賀勝とおキヌの間に会話は無かった。
 放送開始まで黙っている方が珍しかったおキヌでさえ、何も口にしない。
 たった六時間しか経過していないというのに、あまりにも死人が多すぎた。
 その数、十六人。
 勝とおキヌなどお互いまだ四人しか他の参加者と遭遇していないというのに、その間に十六の命が奪われた。
 これが意味するのは、殺し合いに乗った者の存在、そしてその多さと強さ。
「で、でも……、そうですよ! よく考えたら、全部あの人の嘘なのかもしれませんよ!」
「多分、それはないよ」
 数分費やして笑みを浮かべ直し、おキヌは楽観的な思考を口に出そうとした。
 勝は、それを一蹴。
 死人の名前に×印を記した名簿を仕舞い込んでから、眼前に存在する目視できぬ壁を睨む。
「放送が始まる前に試したように、僕達は閉じ込められている。
おキヌさんでも通り抜けられない、見えない結界にね」
 言いながら、天を仰ぐ。
 物干し竿を伸ばしたので分かったが、結界は上空まで覆っている。
 そして、それだけではない。
「物干し竿の柄を外した時に分かったけれど、結界は三次元の空間だけじゃなくさらに上……時間まで囲んでいる。
そこまで徹底的に閉じ込めた相手に、わざわざ嘘を流す必要が無い。
どうやったって自分に喰らい付けない……いわば籠の中の鳥なんだから」
「う、うう……」
 おキヌは反論出来ずに、口篭るだけだ。
 勝は、結界へ向ける眼差しを強くする。
 八十人の参加者を囲む壁を壊さねば、何をする事も出来ない。
 無傷の首輪が手元にあるが、それを調べて解除方法を突き止めたところで意味が無い。
 こなさねばならない事は多いというのに、勝は歯噛みするしか出来ずにいた。
 そんな折、唐突に声を浴びせられる。
「成る程。“それ”ですか」
 思わず、勝は目を剥いた。
 驚いたのは話しかけられた事実ではなく、そのあまりの近さである。
 “人形破壊者の血”を飲んだことで、勝の身体能力は人間の域を超えている。
 にもかかわらず、すぐ背後に回られるまで――否。
 声をかけられるまで、勘付くことが出来なかった。
「ッ、誰!?」
 サイドステップで距離を取りながら振り返る勝。
 空中で物干し竿を鞘から抜き、着地と同時に何時でも斬りかかれる体勢となる。
「良い動きです」
 勝の身のこなしに唸るように言ったのは、黒い長髪の男性。
 纏う中華服もまた髪と同じ黒色。
 闇夜ならばともかく、陽の昇った現在ではむしろ目立ちそうな出で立ちだ。
「……へ? うわぁ、いつの間に!?」
 勝から少し遅れて、おキヌが呆けた声を上げる。
 つまるところ、男は勝だけでなくおキヌの視線をも掻い潜っていたのだ。
 唾を飲み込み、勝は相手の出方を待つ。
 見逃してしまわぬように、神経を尖らせる。
 にもかかわらず、男は勝の視界から忽然と姿を消した。

111 :怒号――まともな奴ほど損をする ◆6LcvawFfJA :2011/12/26(月) 01:59:18.14 ID:fCJt1c/x
「え」
 驚愕の声は二人分。
 すなわち、勝とおキヌ。
 その次に響くのが、もう一人の声。
「こちらです」
 やはり問題となるのは、その方向。
(また、後ろ……ッ!?)
 振り返る間もなく、勝は足を払われる。
「くっ」
 受身を取る前に、得物を握る右手に狙い澄まされた掌底。
 思いに反して、勝の手から滑り落ちる物干し竿。
 落下する事なく、男に掠め取られる。
「ふむ。間違いなさそうですね。これが、先ほど噴出した妖気の源です」
 どうにか距離を取って、勝は無手で男をやり過ごす方法を模索する。
 聡明な頭脳が不可能という結論を出しても、無視して考え直す。
 全力で脳を回転させていると、男は予期せぬ言葉を言い放つ。
「ありがとうございました」
 今度は、驚く暇も無かった。
 転がってきた物干し竿が、勝の爪先にぶつかる。
「あなたは悪人ではなさそうですし、それを任せますよ」
 とだけ言って、男は結界へと近付いていく。
「やはり結界ですか。うむ……。
ならば、結界壁の波長をズラし……いや、あまりに早計ですね。
相手が何処にいるのかを見極めてからにしなくては、逃亡する隙を与えるだけになります」
「ちょ、ちょ、ちょっとちょっと」
 声を震わせながら、勝が男へと歩み寄っていく。
「え……? え……っと、もしかして、えっと、あなたは」
「朧です」
「あ、はい。朧さんは、殺し合いに乗っていない……んです、か?」
「はい」
「……そう、です……か……」
 だったら、どうしていきなり襲い掛かってきたのか。
 そもそも、音も無く近付いてきたのか。
 だいたい、一言くらい声をかけてもいいじゃないか。
 色々と言いたい事が浮かぶも、勝は上手く言葉に出来ない。
 考えが溢れそうになるほど沸いている所為で、一向に纏まらない。
「そうだったんですかー。よかったー。安心しましたよー」
 まず思考を落ち着けようとしていたが、おキヌの暢気な一言で決壊した。
 これが本日何度目なのか、もはや数えられない。
 勝、絶叫。
「はあ。確かに、誤解されても仕方なかったかもしれませんね」
 言葉になったのかなっていないのか定かではないが、朧は聞き取れたらしい。
 勝が一気にぶつけた疑問に返答していく。
「声をかけず、音も立てず、悟られぬように接近したのには理由がありますよ。
膨大な妖気を放つその刀を持つのが悪しき人間ならば、刀を奪わねばなりませんから」
 予想外に納得出来る答えに、勝は平静を取り戻しかける。

「まあ声をかける前に、あなた方が悪人でないのは明らかだったんですが」

112 :怒号――まともな奴ほど損をする ◆6LcvawFfJA :2011/12/26(月) 01:59:52.79 ID:fCJt1c/x

「……ん?」
 話がおかしな方に逸れかける。

「声をかけた直後の体捌きに、感服いたしまして」

 どうにも穏やかじゃない。

「かつ構えが年齢に見合わぬ玄人のそれであったので、興味をそそられまして」

 いや、まさか。
 そんな筈が無い。
 この状況で、そんな馬鹿げた行動を取るものか。
 勝は、脳内に浮かんだ仮説を否定する。

「実力を見極めてみようと思いました」

 はたして、否定した予想が的中。
 唖然となる勝に、朧は畳み掛けるように。

「目で追っていては、私には勝てません。
身体能力や技術はかなりの物なので、これからは体全体で物を見る事を心掛けましょう。
そうすれば、あなたはもっと強くなれます。鍛錬を積んでください。将来が期待できますよ」

 勝、再度、絶叫。





【A−4 西端/一日目 朝】

【才賀勝】
[時間軸]:黒賀村である程度過ごしてから。
[状態]:健康
[装備]:物干し竿@YAIBA
[道具]:首輪(おキヌ)、ランダム支給品0〜2(人形はなし)、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。


【おキヌ】
[時間軸]:本編にて生き返る前(美神令子の時間移動能力を知っている時期)
[状態]:不健康、首輪解除
[装備]:無し
[道具]:マーラの銀鏡@スプリガン、ランダム支給品0〜1、基本支給品一式
[基本方針]:勝についていく。
※幽霊です。『本人が触れたいと思うもの』以外はすり抜けます。


【朧】
[時間軸]:不明
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、水晶髑髏@スプリガン、中性子爆弾@ARMS
[基本方針]:殺し合いに乗る気はない。

113 :創る名無しに見る名無し:2011/12/26(月) 02:02:16.52 ID:fCJt1c/x
終了です。

上で言われていて気付いたのですが、wikiに過去ログが収録されたんですね。
今度読み返してみます。お疲れ様です。

114 :創る名無しに見る名無し:2011/12/26(月) 02:12:59.75 ID:uR3r2NTq
乙です
勝は苦労してるなあw
でも何気に楽しそう

115 :創る名無しに見る名無し:2011/12/26(月) 19:26:32.60 ID:OwOcVD6k
投下乙!
勝の苦労が絶えねえw
子猿番長扱いのマシン番長が、比較的まともに見えるレベル


116 :創る名無しに見る名無し:2012/01/11(水) 03:54:13.35 ID:iTe38WNi
 

117 :創る名無しに見る名無し:2012/01/11(水) 21:20:40.28 ID:jCOTH/8M
予約キタ―――――――――――!!

118 :創る名無しに見る名無し:2012/01/11(水) 21:53:49.21 ID:1GrbVbYK
ピカチュウおらんのか?

119 :創る名無しに見る名無し:2012/01/12(木) 23:07:28.25 ID:mBTe0Hr+
予約もいっちょキタ――――――!!

120 : ◆6LcvawFfJA :2012/01/14(土) 23:47:48.67 ID:DpZkErbs
投下致します。

121 :不止 ◆6LcvawFfJA :2012/01/14(土) 23:49:45.40 ID:DpZkErbs
『次の放送は正午に行われるので、覚えておくんだな――』

 六時間おきに流れる放送、その初回はこんな言葉で切り上げられた。
 もはや重要な情報を聞き逃す恐れはないので、沈黙を続ける必要など無い。
 それくらい理解していたが、ユーゴー・ギルバートは口を開く事が出来なかった。
 単純に拡声器のような機械を使っただけでは、会場全域に声を響かすなど到底不可能。
 かといってテレパシーによって思考に直接呼びかけられたのではないことくらい、テレパシストのユーゴーには明白。
 だとすればいかなる手を用いて、キース・ブラックは放送を行ったのか。
 その答えは不明。選択肢を絞るどころか、選択肢さえ見えてこない。推理に足る材料が存在しない。
 また放送の主は、声こそブラックのそれであったが、口調が大いに異なっているように思えた。
 普段のように思わせぶりに演技がかっているのではなく、ただただ尊大な口振りになっていた。
 そもそも放送の時間が短かったのもあり、違和感は些細であるのだが、確かにユーゴーの胸に引っかかる。
 だがそれらの不可解さもほんの少し気にかかっているものの、ユーゴーが黙っている最大の理由は別にある。
 告げられた十六人の死者の中に、彼女の知る名があったのだ。
(武士君……)
 オリジナルARMS“白兎(ホワイトラビット)”の適正者、巴武士。
 高槻涼の中の“ジャバウォック”が暴走した時、それを打ち倒す運命を背負った内の一人が息絶えた。
 異常発達したARMSに繭のように包まれていた彼が、どのような状態でこの殺し合いに呼び出されたのかは定かではない。
 そして、もう二度と明らかになる事は無いだろう。
 とにかくホワイトラビットがいなくなれば、ジャバウォックを止める使命は殆ど“ナイト”に一任されたと言える。
 勿論、ユーゴーも涼の内面にアクセスして暴走を制御するつもりではあるが、テレパスを届けるには隙を作らねばならない。
 ジャバウォックと同等までは行かずとも、戦闘を繰り広げるだけの力を有した者がいなくては、テレパシストの能力は涼に及ばない。
 殺し合いから六時間が経過しても、会場全体が激しく震動したりはしていない。
 ジャバウォックと地球の共振が起こっていないならば、高槻涼は赤木カツミの死を破壊衝動に支配されることなく乗り越えたのだろう。
 一先ずは安心だが、暴走の可能性が消えたとは言い難い。
 そう考えてみると、ホワイトラビットの脱落は大きな損失だ。
 しかしユーゴーは、いつか来るかもしれない戦いを思って残念がっているのではない。
 大きな戦力“ホワイトラビット”の損失を悔やんでいるのではなく、一人の少年“巴武士”の死が悲しいのだ。
 プログラムされた運命から抗うべく、共に戦ってきた仲間。
 そして、何より友達であったのだ。
 かつて兄を失った時のように、胸の中が空っぽになったような錯覚に襲われる。
 涙が零れ落ちそうになったが、ユーゴーは下唇を噛んで耐える。
 友達が死んだという事実は、あまりにも重い。
 何かが圧し掛かってきているかのように体が重く、微動だにしたくない。
 暫くの間だけでも、思考をシャットアウトして放心状態に陥ってしまいたい。
 だが、そんな事をする訳にはいかない。

122 :不止 ◆6LcvawFfJA :2012/01/14(土) 23:50:11.09 ID:DpZkErbs

『そんな重てえもん背負ってふらふらしてる間に、人は殺されてくぜ』

 混乱する思考の中で、ユーゴーが思い返すのは秋葉流の言葉。
 彼の胸中には黒い風が渦巻いていたが、この言葉は紛れも無く真実から出ていた。
 彼の言う通り、重たい物を背負っている暇など無い。
 そんな事をしている間に、他の大切な人達が危機に晒されるかもしれない。
(ごめんなさい、武士君)
 今は一度、悲しむのを止めます。
 巴武士に胸中でそう謝罪して、ユーゴーは傍らにいる少年を見やる。
 緑色の頭髪が鮮やかな少年は、植木耕助。
 彼もまた、ユーゴーと同じように放送が終わってから無言を貫いている。
 その理由は、ユーゴーには痛いほど分かった。
 彼の友人が二人、放送で名を呼ばれたのだ。
 テレパスを使うまでもなく察せられるが、しかし植木の思いは勝手にユーゴーへと流れ込んでくる。
 最初は放送を信じていなかったようだが、眼前にある土の山、ナゾナゾ博士という名の老人を埋葬した墓が目に入った。
 だからこそ、植木は友人達の死を受け入れた。
 まず溢れ出した感情は哀しみだったが、徐々に怒りへと変化していった。
 “自分自身への”怒りへと。
 友人を殺した相手ではなく、友人を助けられなかった自分自身を責めているのだ。
 先刻のように、植木はまた抱え込もうとしている。
 ユーゴーはそれを止めなくてはならない。
 意を決して声をかけようと、ユーゴーは植木の肩に手を伸ばす。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
 今にも手が触れようという所で、植木が絶叫する。
 あまりにも唐突であったので、ユーゴーの肩がびくんと跳ねる。
 植木は叫ぼうと思い至ったのと同時に叫んだので、テレパシストであるユーゴーでさえ不意を打たれた。
「弱えッ! 弱えッ! 俺は弱えッ!」
 ユーゴーの心拍数が一気に上がっている事など知る由も無く、植木はしゃがみ込んで地面を殴り付ける。
 全力で殴っているらしく、一打ごとに拳が傷ついていく。
 ついに拳から血飛沫が飛んでも、無視して続けている。
「ヒデヨシイイイイイイイイイッ! 李崩オオオオオオオオオオッ! ナゾナゾ博士エエエエエエエッ!!」
 最後の一人は拳を叩き付けている真下にいるのだが、植木は完全に忘れてしまっている。
 行動と思考の両方に驚愕し、ユーゴーは目を丸くして呆気に取られるしかない。
「よし、悲しむのお終い。もう引きずらない。絶対」
 五分ほど地面を殴打して、植木は何事もなかったかのように立ち上がる。
「すっげえ悲しいし、悔しいし、ふざけんなって思うし、ごめんって言いたいけど、今はやらない。我慢する」
 未だ呆然としているユーゴーに向かって、宣言するように言い放つ。
「全部終わったら、泣く」
 奇しくも、それは先程ユーゴーが胸中で武士にかけた言葉に似ていた。
 その事に気付き、微笑みを浮かべるユーゴー。
 笑われた理由が分からず、植木は怪訝そうに首を傾げる。
 何かおかしな事があっただろうかと考えてから、納得したように手を打つ。
 纏っている防弾チョッキに手を伸ばして、勢いよく脱いで前に出す。
「全然気付かなかった! 何も着てねえ姉ちゃんに渡さず、俺が着てるのはおかしいな!」
 その行動によってユーゴーの笑みはさらに深くなり、植木はさらに困惑するのだった。

123 :不止 ◆6LcvawFfJA :2012/01/14(土) 23:50:24.04 ID:DpZkErbs





【A−5 東部/一日目 朝】

【植木耕介】
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。流を待つ。

【ユーゴー・ギルバート】
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。うえきとともに、流を待つ。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません


124 :不止 ◆6LcvawFfJA :2012/01/14(土) 23:51:22.71 ID:DpZkErbs
終了です。

今年も宜しくお願いします。

125 :創る名無しに見る名無し:2012/01/15(日) 02:16:47.21 ID:kouDZZFS
乙です
植木頑張れ超頑張れ
ユーゴー守ってやってくれい

126 :創る名無しに見る名無し:2012/01/15(日) 18:15:10.95 ID:XWZNRK9f
投下乙
流兄ちゃんの言葉が二人に影響与えてるのが、とらが死んだ現状じゃ逆に切ないな……
それにしても、このコンビもなかなか微笑ましくて楽しみだw
妹なのに姉みたいなポジションも似合うよね、ユーゴー

127 :創る名無しに見る名無し:2012/01/16(月) 19:19:21.60 ID:OwFFG2Gm
投下乙
流相手で神経張ってた分、考えと行動に違いがなさそうなうえき相手は楽しそうだなw
全部終わらせてから泣く宣言は、じんと来るな……
しかしロベルトといい、十つ星天界人は外国のお姉さんと縁があるなw

128 : ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:26:50.96 ID:0v8s70Xt
投下します。

129 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:27:20.62 ID:+KyJ4Qvo
 

130 :Merry-Go-Round ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:27:58.67 ID:0v8s70Xt

 モチノキ遊園地は、小さなテーマパークだ。

 などと、このように言い切ってしまうと、反論の声がいくらか上がることだろう。
 直通列車まで出ているほど来場者がいるというのに、小さいはずがないじゃないか――と。
 たしかにその通りであり、日々それなりに賑わっている。
 多数の遊具が設置されており、売店やレストランもいくつもある。
 毎日定時にパレードが行われるし、月に数回有名人がゲストとして訪れる。
 もし開園と同時に来場したとしても、閉園時刻まで飽きることなく終始楽しめるだろう。

 しかし――
 たとえば、百種類をゆうに超えるファンシーなマスコットキャラクターたちが闊歩する夢の国であるとか。
 たとえば、二ケタ以上の絶叫マシンと三つのオバケ屋敷を主軸としている悲鳴轟くハイランドであるとか。
 たとえば、超大作洋画を元にしたアトラクションによって人々を銀幕のなかに誘う映画の世界であるとか。
 たとえば、人工的に作られた島の上にあり、母なる海の雄大さを知ることのできるパラダイスであるとか。
 それらの日本を代表する一流テーマパークとは、とても比べ物にならない。
 面積が小さい分だけ、アトラクションの数も限られている。
 知名度だって劣るので、当然ながら来場者数も少ない。

 とはいえ、それは経営者の狙い通りなのだ。
 一流テーマパークレベルにまで規模を大きくしてしまえば、維持費ももちろん大きくなる。
 アトラクションを増やすことにより来場者数が上昇し、売上が大幅に促進されるかもしれない――が。
 膨れ上がった維持費と比べて、どちらが上になるのか。
 仮に売上のほうが上だったとして、その収益は現状よりも上なのか。
 実際に、モチノキ遊園地が規模を拡張させたことなどないので不明ではあるものの――

 おそらく、現状よりも低くなる。

 モチノキ町在住の人々が訪れる頻度は上がるだろうし、多少離れた場所からの来場者も増えるだろう。
 だが、巨大テーマパークはそれだけでは維持できないのだ。
 多少離れたところからだけではなく、かなり離れた――異なる県どころか、異なる地方、さらには異なる国からの来場者も引き込まねばならない。
 そんなことは、モチノキ遊園地には不可能だ。
 他の一流テーマパークとしのぎを削るまでもない。
 考えるまでもない。分かり切っている。火を見るより明らかだ。
 モチノキ町という町に、わざわざ遠方から訪れるだけの価値はない。
 人々を惹きつける特産品やスポットなど存在しない、ただのありふれた町に過ぎないのだから。
 テーマパーク一つで変わるはずもない。
 世界的に有名なキャラクターでも独占して扱えれば別だろうが、わざわざモチノキ遊園地に話を持ちかける物好きはいまい。

 だから、モチノキ遊園地はこれでいいのである。
 一流テーマパークに無謀な戦いを挑むことなどせず、付近の住人だけをターゲットとする。
 設立当初からそのスタンスを貫いており、事実として成功を収めているのだ。

 ゆえに、再び断言しよう。
 モチノキ遊園地は小さなテーマパークだ。

 そんなモチノキ遊園地の敷地内に、一人の男が足を踏み入れた。

 二メートルをゆうに超す長身。
 鋼のように硬い、鍛え抜かれた筋肉。
 天を衝くかのような二本の角じみた頭髪。
 常に全身から放たれる暴力的なまでの威圧感。
 視界に入ったものすべてを無差別に睨み付ける眼差し。
 自分専用に作らせたであろう、巨躯にフィットした漆黒の学ラン。
 丸太のように太い首の端には、日本列島と不死鳥を模したタトゥー。

 そんな彼の名は、金剛猛。
 またの名を――日本番長。

 小さいことを気にしない彼が訪れたことが、この小さなテーマパーク設立以来最大の不幸であった。

131 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:28:35.11 ID:+KyJ4Qvo
 

132 :Merry-Go-Round ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:28:59.68 ID:0v8s70Xt


 ◇ ◇ ◇


 定時放送が流れようと、日本番長の行動方針が変化するはずがない。
 なので目的もなくさまよっていたのだが、道中にて軽快な音楽を捉えた。
 そこで音のするほうに向かってみたところ、辿り着いたのがモチノキ遊園地である。
 日本番長は生まれてこの方遊園地に縁のなかったが、どういう施設なのかは知っていた。
 滅ぼすべき愚かな人間たちが集まる――そんなところである、と。

「……ふん」

 僅かに眉をひそめ、日本番長は入場口に歩みを進める。
 モチノキ遊園地の入場口は、自動改札機の要領で入場券を通さねばシャッターが上がらないシステムとなっている。
 よくあるシステムであるのだが、日本番長はそれを知らない。
 なにせ、遊園地に来たことなんてないのだ。
 ただ入場するためだけに前進を続け、結果としてシャッターは砕け散った。
 ぼきんという鈍い音は、遊園地内のいたるところに設置されたスピーカーより流れる軽快な音楽に掻き消された。
 これが、日本番長の捉えた音楽の正体であった。



【入場口 破壊確認】



 遊園地全体を見渡したのち、日本番長は微動だにしなくなる。
 いくつもの遊具が目に入るのだが、どれに人々が集うのかが分からない。
 しばし黙考してから、日本番長はある遊具に目星をつける。
 遊園地に訪れた経験のない日本番長でも知っているくらい有名であるし、なにより――
 それに乗れば、高い視点から遊園地全体を見下ろすことが可能となる。
 人間がいれば倒せばよいし、いなかったとしても捜索することができる。
 そう、日本番長が選択したのは『観覧車』である。

「ぬう……」

 観覧者に到着した日本番長は、意図せず唸るような声を漏らした。
 遠目からは分からなかったのだが、観覧車があまりにも小さいのである。
 日本番長が聞いた話では、四人くらいは入れるとのことだったというのに。
 いざ目の当たりにしてみると、一人さえ入れるかどうか。

「この遊園地の経営状況が著しくなく、そのために小型のものしか用意できなかったのか」

 日本番長は頷くが、まったくの的外れである。
 モチノキ遊園地の観覧車は大きくはないものの、決して小型ではない。
 成人四人くらい楽に入れるし、無理をすればあと二人くらい詰め込める。
 ただ単に、日本番長がデカいのである。

133 :Merry-Go-Round ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:29:27.03 ID:0v8s70Xt

「まあいい」

 勝手に納得したらしい日本番長は、観覧車の乗車口に進む。
 またしてもシャッターを砕いて通り、ゴンドラの扉をくぐろうとする。
 くぐろうとして、叶わなかった。
 巨躯に対して、扉があまりにも小さすぎる。
 これでは、ゴンドラに入るのは物理的に不可能だ。
 にもかかわらず、日本番長は観覧車に乗ることを諦めなかった。
 ゴンドラに入れないという小さな障害程度、気にするはずがない。
 日本番長は扉に入らず、ゴンドラの端にあるパイプのようなものを掴む。
 そのままの状態で観覧車は回り続け、ついに日本番長の身体が地面から離れる。
 人並み外れた握力だけで、身体を支えているのだ。
 そのままの状態で数分が経過するが、日本番長の握力が緩まることはない。
 それどころか、表情が歪んだり、歯を噛み締めたり、脂汗を流したりさえしない。
 この程度は、日本番長にとって運動と呼ぶまでもないのである。

「遅いな」

 観覧車とは元来そういうものであるというのに、日本番長は気に入らないらしく眉間にしわを寄せている。
 ゴンドラが全体の三分の一地点くらいまで進んだところで、我慢の限界が来たようだ。
 パイプを掴んだまま、日本番長は振り子のように身体を前後させる。
 ゴンドラが激しく揺れ動き、なにやら金属が軋むような音が鳴っているが、日本番長は意に介さない。
 どんどん勢いが増していき、そろそろゴンドラ自体を蹴っ飛ばしてしまうのではないかというとき。
 日本番長は、パイプを手放した。
 振り子運動の勢いそのままに上昇していき、一つ上のゴンドラのパイプ部分を掴んで静止する。
 この方法ならば、観覧車が遅くとも早急に最上部に到達することができる。
 その考えが間違っていなかったことを実感し、日本番長は再び身体を前後させる。
 もう失敗する可能性を考慮していないのもあり、前回よりも籠っている力が強い。
 より早く身体を加速させるべく、最初からフルパワーで身体を動かしてしまっている。

 それが、災いする。

 モチノキ遊園地の名誉のために言っておこう。
 遊具の整備が行き届いていなかったというワケでは、断じてない。
 その手の事件は時たま発生するが、モチノキ遊園地で起こったことは過去にない。
 それは奇跡的に平穏が続いているのではなく、スタッフ全員によってもたらされて必然である。
 定期的な整備を欠かさず、さらにはほんの微かな異変であろうとなにか生じれば臨時点検を行う。
 遊具使用中に暴れられようと、スタッフが操作ミスをしようと、地震が起ころうと、台風が来ようと、火災が起きようと――
 いかなる人災や天災が振りかかろうとも、怪我人一人とて出すことないように。
 そんな姿勢があったからこそ、今日のモチノキ遊園地があると言える。
 ただただ、運がなかったのだ。
 人による災いには耐えられる。
 天による災いには耐えられる。
 それでも――『金剛類』による災いにだけは、耐えられなかったのである。
 いかに整備点検をしていようとも、観覧車が金剛類の全力を持ちこたえるなど不可能だった。

134 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:29:27.20 ID:+KyJ4Qvo
 

135 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:29:43.07 ID:+KyJ4Qvo
 

136 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:30:04.82 ID:+KyJ4Qvo
 

137 :Merry-Go-Round ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:30:05.23 ID:0v8s70Xt

 ばきっ、と。
 そんな意外にも軽い音を立てて、日本番長が掴んでいるゴンドラは外れた。
 見れば、フレームとゴンドラを繋ぐ金属が千切れてしまっていた。
 振り子運動による勢いは身体に乗っており、日本番長はゴンドラごと彼方に吹き飛んで行く。
 あっさりとゴンドラを手放し、フレームを握り締める。
 咄嗟の行動であったので、つい全力を出してしまった。
 まるで粘土かなにかのように、観覧車を構成するフレームが歪んだ。
 そしてそのまま、秒にも満たない時間で捻じ切れる。
 しようがないので他のフレームに手を伸ばすが、同じ結果が起こるばかりだ。
 どんどんと落下速度が上がっていくなか、ついに全体のなかでもっとも巨大な金属に到達する。
 すなわち、観覧車の中心である。
 そこから四本の脚部が伸びており、観覧車を支えているのである。
 これに対しても日本番長は同じことを試みて、同じ結果をもたらした。
 中心部を粉砕されたことで、脚部の安定が崩れる。
 そこに、日本番長が手放したゴンドラが落ちてきた。
 金属同士の接触した際に響く不快な音ののち、四本の脚部は同時に倒れた。
 支えてくれる脚部を失った観覧車が立っていられる道理などなく、けたたましい音を立てて倒れ込む。
 隣接しているフリーフォールとコーヒーカップだけでなく、付近にあった回転ブランコとミラーハウスまでもを完全に押し潰してしまう。
 一瞬のうちに、五つのアトラクションが瓦礫の山と化してしまった。
 山のいたるところから配線がはみ出しており、その配線からは時おり火花が散っている。
 スピーカーから流れている楽しげな音楽が、まったくそぐわない。
 しばらくして瓦礫の山が盛り上がり、一人の男が飛び出してくる。
 その正体は、言うまでもなく日本番長であった。
 かなりの質量にのしかかられたというのに、その身体には傷一つない。
 首を動かして周囲の惨状を眺めて、なにが起こったのかをすべて理解する。

「――小せえことは気にするな」

 決めゼリフを残して、日本番長はいくつもの遊具であった残骸に背を向けた。




【観覧車 破壊確認】
【フリーフォール 破壊確認】
【コーヒーカップ 破壊確認】
【回転ブランコ 破壊確認】
【ミラーハウス 破壊確認】

138 :Merry-Go-Round ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:30:34.28 ID:0v8s70Xt



 次に日本番長が訪れたのは、ジェットコースターであった。
 これを選んだのも、観覧車と同じ理由である。
 遊園地に興味のないものだって知っていて、そして高い視点を得られる。
 ということで即座に乗ってやろうと思ったところで、問題が生じてしまう。
 ジェットコースター乗り場に向かう階段の前に、一枚の看板が置かれていたのだ。
 その看板には、『四十分待ち』と書かれている。
 考え込んでから、日本番長は待機することにした。
 四十分待たねば、ジェットコースターに乗ることができない、と判断したからだ。
 本来、この看板はこの地点まで乗車待ちの列ができているときに使うものであり、列がないときには待つ必要などない。
 しかしながら、何度も言うように、日本番長は遊園地に初体験なのだ。
 こういうシステムなのだと、勝手に納得するのも当然である。

 日本番長がジェットコースター乗り場に到着したのは、六十分後であった。
 四十分――きっかり二千四百秒待って階段を駆け上がったのだが、階段の半ばにまたしても看板があったのである。
 それには、『二十分待ち』と記されていた。
 ということでそこでも律儀に二十分待ち、やっと辿り着いたのだ。

「……またか」

 観覧車と同じく、ジェットコースターも小型のものであった。
 なお、あくまで日本番長感覚で、である。
 イスに座ろうにも、日本番長の巨体は納まらない。
 二人用の長椅子にもかかわらず、身体が入らない。
 しようがないので、日本番長は立っていることにした。
 長椅子の右半分に右足を、左半分に左足を。
 通常なら人間が一人座るスペースでも、日本番長にとって足の裏一つギリギリ置ける程度である。
 腕を組んで仁王立ちしていると、ゆっくりとコースターが動き出す。
 すぐに上り坂に差しかかり、コースターが斜めになる。
 屹立している日本番長もまた、斜めになる。
 身体が後ろに七十度ほど傾いているが、日本番長の鍛え方はヤワではない。
 腕組みも解かず、同じ姿勢のまま保っている。
 ついに上り坂が終わり、コースターが落下していく。
 日本番長の姿勢も、後ろ方向に七十度から前方向に六十五度に変化する。
 まさに百三十五度も角度が変わったことになるが、日本番長はたじろがない。
 浮遊感を身体に味わい、立っているせいで風圧を全身で浴びているが、直立不動のままだ。
 ちなみに、強烈な風圧を受けても特徴的な角じみた髪はまったく崩れていない。
 地面すれすれまで到達したコースターだったが、再び上り坂。
 すでに加速がついていたので、最初のようにゆっくりと登ることはない。
 一気に上昇して、再び落下する。
 今度は角度こそ緩やかだか、回転が加わっている。
 コースターが螺旋のように回れば、乗っているものも回るのは必然だ。
 それでも日本番長は姿勢を保ち、それどころか悠々と地上を眺めている。
 彼の予想通り、ジェットコースターは地上を眺めるのに役立つ遊具であった。
 日本番長クラスの動体視力があれば、という前提が必須だが。
 高速で回転駆動するコースターに乗りながら、地上の石ころさえ視認しているのだ。
 もはや、鍛錬でどうこうなる域を超越している。

139 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:30:56.61 ID:+KyJ4Qvo
 

140 :Merry-Go-Round ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:30:57.99 ID:0v8s70Xt
 だがそんな驚異的な視力を誇る日本番長の視界が、黒く染まった。
 トンネルに入ったのである。
 視界を奪うことで、乗車客を怖がらせようという趣向だ。
 これに対し、日本番長は露骨に顔をしかめる。
 地上を眺めるために乗ったというのに、これはどういうことか。
 苛立ちを隠そうともせず、日本番長は腕組みを解いて右手を振るった。
 たったの一撃でトンネル全体が吹き飛んだ。
 再び視界が明瞭になったので、日本番長は腕組みを再開するのだった。
 トンネルの破片は奇跡的にコースターに降り注がず、コースターは前進を続ける。
 そしてまたしても上り坂――だが、これまでのように下り坂に続くのではない。
 上昇の勢いそのままに『一回転』するのだ。
 これは日本番長も想定していなかったらしく、ようやく目を見開く。

「ほう」

 とはいえ、零れたのはこんな感嘆の声だ。
 とても、『絶叫』マシンに乗っているとは思えない。
 一回転するのならばと、日本番長は両脚にさらなる力を籠める。
 遠心力がかかっているため落下することはないだろうが、念のためにと考え――踏ん張ってしまったのだ。
 日本番長が足を乗せている場所から、放射状に亀裂が走っていく。
 亀裂はすぐさまコースター全体に及び、最終的にコースターは無数の破片と化した。
 いくら日本番長でも、足場がなくなれば立っていられるはずがない。
 頭から地面目がけて、真っ逆さまに落下していくことになる。
 ジェットコースターのレールを掴もうとして、観覧車のときの失敗が脳裏を掠める。
 ならばと拳を握り締めて、レールに叩き付ける。
 反動で回転することで、日本番長は体勢を立て直す。
 その動作のおかげで、両足で着地することができる。

「むう」

 拳の反動で多少移動してしまったらしく、着地したのはレールの真下ではなかった。
 屋根を突き破って、家屋に入ってしまったらしい。
 現状を把握していない日本番長に、不気味な声がかけられる。

「お皿がいちま――」

 その言葉が、最後まで告げられることはなかった。
 半ばの時点で、日本番長が肘打ちを叩き込んだのだ。
 おどろおどろしい井戸のオブジェにではなく、声の源であるスピーカーにである。
 声が録音されたものであることくらい、日本番長には分かっていた。
 単純に、やかましかっただけである。
 コースターのときの再現のように、次第に家屋全体に亀裂が入っていき砕け散った。



【ジェットコースター 破壊確認】
【オバケ屋敷 破壊確認】

141 :Merry-Go-Round ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:31:21.29 ID:0v8s70Xt



 『彼』は、苛立っていた。
 普段は飄々としているのだが、いまばかりはそうもいかない。
 彼には意思があるというのに、一つのアトラクションとして設置されているのだ。
 上に立つ人形に言われたのなら、文句一つ言わずに従うだろう。
 しかし指示してきたのは、キース・ブラックという人間だ。
 『自動人形(オートマータ)』よりも、遥かに低級であるはずの人間だ。
 気が向いたときに狩って、生き血をすするためだけに存在している人間だ。
 腹が立たないはずがない。

 それだけではない。
 『訪れた参加者を楽しませてやれ』と、当たり前のことを言うだけならばまだしも。
 『モチノキ遊園地が開園する七時までは動くな』と、余計な制限までもかけてきた。
 そのせいで、宿敵である『人形破壊者(しろがね)』が眼前にいたというのに、動くことさえできなかった。
 隙だらけであったので、動けさえすれば完全に不意を突けたはずだ。
 なのに、叶わなかった。
 どのような手を使ったのかは分からないが、立ち上がることさえできなかった。
 キース・ブラックの話通りに七時になったら動けるようになったが、それはそれで腹立たしい。
 動けるようになったと言っても、ほんの僅かに身体を揺らせる程度であった。
 指示された話によれば、参加者とやらが彼の元に訪れれば『楽しめるようになる』らしい。

 七時になってからしばらくして、ようやく誰かが来場した。
 どうやらかなり暴れまわっているらしいが、そのクセ彼には近づいてこない。
 呼びかけてやろうかとも思ったものの、口を開くことはできなかった。
 声をかけることさえできなかったが、祈りが通じたのかもしれない。
 来場からかなり時間が経過して、ようやく参加者が彼の元に訪れた。

 なにかが解除される感覚が、身体を走り抜けた。
 試しに両脚に力を籠めると、立ち上がることができた。
 いままで何度試しても不可能であったというのに。

「……実物を見るのは初めてだが、回転木馬とはこういうものだったのか?」

 眉根を寄せている人間をよそに、彼は口角を吊り上げる。
 相手は、かなりの巨躯の持ち主である。
 体内には、さぞかし大量の血液を蓄えていることだろう。
 舌なめずりをしていると、すぐ横に設置されたスピーカーが動き出す。

『紹介しよう、我らのヒーロー!』

 すでに教えられていたので、彼に驚きはない。
 参加者が訪れれば、自動的に再生されるようになっている。
 『彼』がいったい誰なのかを、来訪者に教えてやるように。

『メリィィィィ! ゴォォォラウンドッ! オォォォルセェェェェェンッ!!』

 名は体を表す、という言葉があるが――
 名の通り、首から上がメリーゴーラウンドの自動人形。
 それが、彼の正体だ。

142 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:31:26.65 ID:+KyJ4Qvo
 

143 :Merry-Go-Round ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:31:44.19 ID:0v8s70Xt

「へへへ、退屈だったなぁ」

 意図せず、オルセンは笑ってしまっていた。
 溜まった鬱憤を晴らしてやることを思うと、とても止められなかった。

「ただの人間に言うのも酷だけど、せいぜい楽しませてよ」

 嘲るように笑ったまま、オルセンはメリーゴウラウンドの上にある馬を操作する。
 かしゃん、と音を立てて、馬に仕込まれた刃が露になる。
 戦闘前に手の内を明かしたのは、サービスである。
 どうせ人間ごときでは、自動人形と勝負になるはずがない。
 ならば、どのように戦うのかを教えた上で抗わせよう、と。
 刃を剥き出しにした状態で、オルセンはゆっくりと人間に歩み寄っていく。
 眼前の男がどのように恐れるのか、それが楽しみだった。
 にもかかわらず、男は眉一つ動かさない。
 ただ納得したように、こう言うだけだ。

「なるほど。そういうアトラクションか」

 その口調が頭に来て、オルセンは思い切り地面を蹴った。
 時間をかけて楽しむつもりは、とうに消え失せてしまった。
 刃が届く寸前で、男は拳を握った。
 いまさら準備したところで、間に合うはずがない。
 冥土の土産にわらび歌を口ずさもうとして、オルセンは言葉を呑み込んだ。
 呑み込んだというより、強制的に口が閉じられた。
 強烈な衝撃が顔面に走ったのである。

(バカな。速すぎ――)

 オルセンの思考は、半ばで打ち切られた。
 全身に亀裂が走り、砕け散ったのである。
 気を流されたことにより、体液が沸騰したのではない。
 そのようなデリケートな技術を用いられたのではない。
 単純に、自動人形のボディが耐え切れないほどの打撃を受けたのだ。



【メリーゴーランド 破壊確認】

144 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:31:56.37 ID:+KyJ4Qvo
 

145 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:32:27.52 ID:+KyJ4Qvo
 

146 :Merry-Go-Round ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:32:34.98 ID:0v8s70Xt



「百二十四メートルといったところか」

 回転木馬の飛距離を読み取って、日本番長は一人頷く。
 ちなみに、百二十四メートル地点というのは池の上である。
 実際のところ、回転木馬は水上に触れたあと水切りの要領で跳ね上がり、ウォータースライダーに突っ込んだ。

 ウォータースライダーが壊れたのなら、これで目ぼしいアトラクションはすべて回ったことになる。
 遊園地に入った時点で何ものかの気配を感じたため、片っ端からアトラクションを見ていったのだが――
 その気配が、あのメリーゴーラウンド・オルセンとやらのものであったのなら、非常に無意味な行動だったかもしれない。
 そこまで考えて、日本番長は思い直す。

「小せえことは気にするな」

 遊園地を一つ壊滅させた程度、日本番長にとっては些事に過ぎなかった。



【ウォータースライダー 破壊確認】
【モチノキ遊園地 壊滅確認】
【残り施設 まだまだたくさん】


【A−2 モチノキ遊園地(跡地)/一日目 午前】

【金剛猛(日本番長)】
[時間軸]:不明
[状態]:ほぼ回復、え? なに? 通常、そんな短時間で完治しない? それは人類ならばの話であり、金剛る――「小せえ事は気にするな」
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ファウードの回復液入り水筒@金色のガッシュ、不明支給品0〜2
[基本方針]:小せえ事は気にするな。

147 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:32:48.71 ID:+KyJ4Qvo
 

148 : ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:33:13.01 ID:0v8s70Xt
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

149 : ◆hqLsjDR84w :2012/01/17(火) 05:33:47.10 ID:0v8s70Xt
あ、言い忘れてた。
今年もよろしくです! もう十七日かよ!

150 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 05:37:49.63 ID:+KyJ4Qvo
感想はまた後でつけますが、まずは執筆お疲れ様でした!
去年はここのSSに楽しませてもらったので、こちらこそ、今年もよろしくお願いします。

151 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 20:40:21.09 ID:+3OzSBKQ
投下乙
小せえ事を気にしなかった結果がこれだよ!!
腕組み&仁王立ちでジェットコースターに乗る図が、脳内で容易に想像つくのはどういうことなんだ……w

152 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 21:24:31.28 ID:p/OTsiwx
投下乙です!
この話を読んで何かデジャブを感じると思ったら、バキだったわ

153 :創る名無しに見る名無し:2012/01/17(火) 22:56:44.41 ID:+3OzSBKQ
末堂www
アイツがやれたんだし、日本番長は余裕だわなw

154 :創る名無しに見る名無し:2012/01/18(水) 01:46:40.74 ID:e9F9Ts19
…この話、なんか意味あったの?
他のキャラと絡むでも新たな支給品や情報を得るでもなし

155 :創る名無しに見る名無し:2012/01/18(水) 01:54:17.33 ID:+TQz8jCB
>>154
参加者を殺しにかかる装置(自動人形)の存在が発覚
日本番長の行動が見れた
小せえ事は気にするな

156 :創る名無しに見る名無し:2012/01/18(水) 02:03:20.46 ID:nZ+QJ0BC
日本番長のやばさが知れたじゃないかw
無自覚でボケまくる日本番長は、やっぱり金剛番長の兄貴だなw

157 :創る名無しに見る名無し:2012/01/18(水) 02:04:10.98 ID:PR+lgdrf
改めまして、執筆お疲れ様でした。
金剛類のスペックとか日本番長の物事に対する考え方の一端が、これでよく理解できたなあ。
そして、なによりこの遊園地には、自分はすげぇ行きてえと思った……!
最初のレスのシメから惨状に見舞われ続けはしたけど、各アトラクションの描写が
ほんとに良かった。それらの描写をとおして、日本番長への印象も一段深くなったのが素敵。
そういう意味で読みがいがあるし、読んでて楽しかった話でした。GJでした!

158 :創る名無しに見る名無し:2012/01/18(水) 19:23:58.37 ID:gmpewHAC
てst

159 :創る名無しに見る名無し:2012/01/18(水) 19:38:55.33 ID:W8SD65GD
投下乙
末堂もだけど勇次郎の強さを誇示する時の
板垣先生の手法に似ているw

160 : ◆hqLsjDR84w :2012/01/19(木) 05:32:44.48 ID:d7RlrsC3
投下します。

161 :ノイズキャンセリング ◆hqLsjDR84w :2012/01/19(木) 05:34:12.62 ID:d7RlrsC3
 ◇ ◇ ◇


 バチン、と。
 そんな擬音が聞こえそうなほどの勢いで、ゼオン・ベルは閉じていた目蓋を開いた。
 すぐさま、傍らに置いておいた時計に視線を飛ばす。
 時刻は、六時三分前。
 定期的に流れるという放送が始まるまで、あと僅かである。
 現在ゼオンが身を潜めている倉庫のなかにまで、放送が届くとも限らない。
 そう判断するやいなや、ゼオンは立ち上がった。
 いまのいままで熟睡していたというのに、まったく寝ぼけている様子はない。
 きびきびとした動作で扉を開くと、ゼオンは紫色の瞳を細くする。

「寝ているうちに、日が昇っていたか」

 これは、ただ思ったことを吐き出しただけである。
 つまるところ単なる独り言であり、ゼオンは返答など求めてはいなかったのだが――
 思いがけず、肯定するような声が返ってくる。

「はい、ゼオン様。
 三十分ほど前から太陽は姿を見せ始め、いまでは完全に日の出を完了させています」

 見れば、そこにいたのは茶髪の少女だった。
 纏っている制服は、いたるところに傷が刻まれている。
 スカートは半ばで切断されており、極端なミニスカートと化している。
 記憶を奪った上で、偽物の記憶をゼオンに植えつけられた――染井芳乃である。
 彼女はゼオンにとってあくまで従僕に過ぎず、余計に言葉を交わすつもりなどない。
 そのため、芳乃がこの場にいると分かっていながらも、返事をしてくるなど思ってもみなかった。
 別に無視を決め込んでやってもよかったが、確認の意も込めて尋ねてみる。

「そうか。貴様、警戒を怠らなかっただろうな」

 ゼオンがなによりも信頼しているのは、自分自身の力だ。
 厳しい修行によって手にした力こそ最上であり、他人の力など遥か下に存在している。
 それが、ゼオン・ベルという魔物の考えだ。
 ゆえに、記憶の剥奪に関しては成功を確信していた。
 しかしながら記憶の上書き――魔道具『神慮思考』の領域については、疑ってかかっている。

「もちろんです、ゼオン様。
 ゼオン様よりいただいたARMSのおかげで、かつて以上の身体能力を得ることができました。
 授かった能力をゼオン様のためだけに使うべく、向上した視力で四方を見渡し、上昇した聴力で周囲を――」

 だがゼオンの疑念に反して、神慮思考はきちんと成果を出していたらしい。
 ゼオンが倉庫内で寝入っていた際、はたしてどのようにしていたのか。
 それを語る芳乃が、とても誇らしげであったのだ。
 胸を張って自分の力について話した上で、ゼオンのことを持ち上げるのを忘れない。
 笑みを抑えようとしているのだが、全然上手くいっていない。
 終始、口元が緩みっぱなしである。

「もういい。分かったから黙れ。
 尋ねたことに対する答えだけ言えばいい。貴様の話なんぞ、長々と聞く気はない」

 神慮思考の効果が及んでいるのは、ゼオンにとって喜ばしい。
 にもかかわらず、心底鬱陶しそうに言い放つ。
 芳乃が手駒として機能するのはよかったが、高い声をずっと浴びせられるのは勘弁して欲しかった。
 なにが悲しくて、自分より遥かに劣る存在の声を聞かねばならないのか。
 魔界の王を決める戦いにおけるパートナーである、あの少年ならばともかく。
 と、そんな思いまで、ゼオンが口にすることはなかった。

162 :創る名無しに見る名無し:2012/01/19(木) 05:34:27.33 ID:ORo3mEw/
                

163 :ノイズキャンセリング ◆hqLsjDR84w :2012/01/19(木) 05:34:40.30 ID:d7RlrsC3

「申し訳ありません、ゼオン様。みっともなく浮かれてしまい――」
「黙れと言っている。
 貴様のたわ言より耳を貸すべきものが、これより始まるのだからな」

 芳乃の顔が、一瞬で青くなった。
 慌てて弁解しようとする芳乃だったが、ゼオンに制される。
 それから数秒ののちに、判別できないどこかから声が響いた。
 殺し合いを命じた男の声だった。

『――六時を迎えた。先に説明した通り、放送を行う時間だ』



「十六名、か……」

 誰にともなく呟きつつ、ゼオンは思考を巡らす。
 この殺し合いに巻き込まれた八十名中、十六名の名が呼ばれた。
 ようは、すでに五分の一が命を落としたのだという。
 あくまで放送を信用するならばであるものの、わざわざ嘘を流す意味もないだろう。
 なにせ、キース・ブラックは参加者を『飼って』いるのだ。
 自分自身にもはめられた首輪が脳裏を過り、ゼオンは歯を軋ませた。
 湧き上がりかけた怒りをどうにか抑え、再び現状について考える。
 死んだ十六名のうち、ゼオンが手にかけたのは二名だ。

 たったの――二名。
 ゼオン・ベルともあろうものが――二名。
 幼き日より鍛錬に励んできたというのに――二名。

 その二名にしたって、殺すのが容易だったワケではない。
 もちろん、戦闘では優位に立っていた。
 立ってこそいたが、二名ともに最期まで抗ってきた。
 血も滲むような思いをして掴んだ力をもってしても、心を折ることができなかった。

 殺害した二人の姿が、ゼオンのなかにフラッシュバックする。
 巴武士と、とら。
 死に行く寸前まで、その瞳には強い意志があった。

「……ちッ」

 またしても宿りかけた憤怒の炎を、ゼオンは舌打ちで掻き消す。

 ともかく、ゼオンが殺したのは二名。
 その二名を十六名から引くと、『十四』名。
 それが、ゼオン以外の参加者によって殺害された数だ。
 この十四という数字から、分かることが一つある。

「『乗った』ヤツは、俺以外にも複数いるということか」

164 :ノイズキャンセリング ◆hqLsjDR84w :2012/01/19(木) 05:35:04.15 ID:d7RlrsC3

 芳乃にも分かるよう、あえて口に出す。

「ふん。ならば、わざわざ動く必要もないな。
 しばらくそいつらに任せて、身体を完治させるとしよう。警戒を緩めるなよ、芳乃」

 芳乃の返事を待たず、ゼオンは倉庫に向き直る。
 そうして倉庫内に入っていこうとして、なにか思い出したように足を止める。

「……ゼオン様?」

 芳乃は眉根を寄せて、困惑したような声を漏らす。
 ゼオンは休むと宣言し、実際に倉庫に入ろうとしていたのだ。
 にもかかわらず、近付いてきているのが不思議なのだろう。
 それを指摘しないのは、忠誠心ゆえか。

「ザケル」

 短く呪文を唱えて、ゼオンは青白い電撃を放つ。
 寝る前に芳乃に放ったような生温いものではない。
 まったく、威力をセーブしていない全力だ。
 第一の呪文だけあって、ゼオンの持つ呪文のなかでは威力が低いものだが――
 ゼオンの実力が高いゆえに、並の魔物ならばこれだけで戦闘不能に陥るだろう。
 そんな一撃を受け、芳乃は絶叫することさえできなかった。
 電撃が身体を貫いたと同時に、立っていられなくなってくずおれた。
 受け身を取ることもできずに倒れ込み、芳乃の身体がビクンビクンと痙攣する。
 もはや痺れているというより、身体が跳ねているというほうが正しいかもしれない。
 十数秒ほど地面の上を跳ね回ったのち、芳乃の身体はぴくりとも動かなくなる。

「…………かっ……はっ! が、ふっ、はっ……ぁ」

 さらに一分ほど経って、急に咳き込んだ。
 奇妙な呼吸音から察するに、どうやら呼吸が完全に止まっていたらしい。
 いち早く酸素を吸引しようと、胸を激しく上下させている。
 あまりに呼吸が激しすぎたのか、芳乃はむせてしまう。

「弱い電撃への耐性はさっきつけてやったからな。
 さらなる電撃にも持ちこたえられるようになっておけ」

 口の端から唾液を伝わせている芳乃に言い放ち、ゼオンは倉庫へと歩む。
 先ほどまで寝ていたのと同じ場所に座り、まさに瞳を閉じようとしたとき。
 倉庫内に、掠れた声が響く。
 消え行ってしまいそうなほどにか細く、息も絶え絶えといった様子で。

「あ、りが……とっ、ござ、い……ます、ゼオ、ン……さまぁ」

 なにも返さず、ゼオンは眠りに落ちていった。



【F−5 倉庫内/一日目 朝】

【ゼオン・ベル】
[時間軸]:リオウ戦後、ガッシュの記憶を垣間見るより前。
[状態]:疲労(小)、腕と腹部にダメージ(傷は塞がったが完治とは言い難い)、睡眠中
[装備]:ゼオンのマント、ゼオンの魔本@金色のガッシュ!!、神慮思考@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式、獣の槍@うしおととら、金糸雀@金剛番長、携帯電話(とらの写真&動画)@出典不明、モデュレイテッドARMSのリミッター解除装置@ARMS
[基本方針]:殺し合いに優勝し、バオウをこの手に。ひとまず回復を待ち、回復しきったら倉庫を調査。

165 :ノイズキャンセリング ◆hqLsjDR84w :2012/01/19(木) 05:35:28.52 ID:d7RlrsC3


 ◇ ◇ ◇


 伝えるべき言葉を伝えることができたので、芳乃は胸を撫で下ろす。
 主が従僕たる自分を思って、電撃を放って下さったのだ。
 感謝の意を示さないワケにはいかなかった。
 たとえ身体が痺れていようとも、関係あるはずがない。
 安堵の息を吐こうとして、まだ身体が痺れているせいで上手くいかなかった。
 どうにか這いずるようにして、倉庫の扉を閉める。

(……痛っ)

 扉を閉めてからしばらくして、芳乃の頭に鈍痛が走り抜けた。
 頭を擦って確認しようにも、まだ腕は上がらない。
 それでも、ARMSによって研ぎ澄まされている感覚のおかげで分かる。
 なにかが頭にぶつかったワケではない。
 だというのに、頭が痛くなったのだ。
 思い過ごしだろうかと考えかけて、芳乃は表情をしかめた。

(痛い……っ。勘違いなんかじゃない。やっぱり……痛いっ)

 鈍痛は止まず、むしろ次第に重くなってきている。
 ゼオンが近くにいたときまで、こんなことはなかったのだが。
 唇を噛み締めて我慢しようにも、歯が痙攣して動かない。
 声を上げることさえできない。
 なぜなのかは理解できないのだが、いましがた流れた放送が脳内でリピートする。
 いや、正確には放送ではない。
 放送で呼ばれた名前のうち、二つだ。
 ある名前と――ある名前。
 ■■に、そして■■■■。
 そんな、二つの名前。
 理由が、まったく分からない。
 そんな名前に、心当たりなどないのに。
 思いもよらないのに。
 知らないのに。

(ゼオン様……)

 這いずるようにして、ゼオンのいる倉庫に近付いていく。
 そうすると、なぜか頭痛が治まっていく。
 眠っているゼオンのおかげであるはずがない。
 そんなこと明らかだというのに、芳乃はこう思ってしまうのだ。

(ありがとうございます、ゼオン様)



【F−5 倉庫周辺/一日目 朝】

【染井芳乃】
[時間軸]:9巻2話『獣人伝承2』以降、保存版文庫版収録の『GOLD RUSH』より前(=高校在学中)。
[状態]:モデュレイテッドARMS化、記憶操作(※)、思考にノイズ(ゼオンが近くにいると鎮まる)、電撃によるダメージ
[装備]:制服(右腕の裾が無くなっている。スカートがミニスカ状態)、モデュレイテッドARMSの核(体内)@ARMS
[道具]:基本支給品一式×2、とらの毛数本@現地調達品、ジップロック×5@現地調達品、牛丼×2@うえきの法則
[基本方針]:ゼオン様の優勝を全力でサポート! 警戒を続ける。
※ゼオンの能力で名前以外の記憶を奪われ、神慮思考によりゼオンの僕としての記憶を植え付けられました。

166 : ◆hqLsjDR84w :2012/01/19(木) 05:36:04.99 ID:d7RlrsC3
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

167 :創る名無しに見る名無し:2012/01/19(木) 05:44:08.53 ID:ORo3mEw/
投下乙!
なんかエロいよこの話w
アイテムも豊富で手駒もいるとか、ゼオンは順調だな。
芳乃は優の名が呼ばれても記憶は戻らんのか。
どう転んでも彼女には悲劇しか待ってなさそうで怖いぜ……。

168 :創る名無しに見る名無し:2012/01/19(木) 20:49:03.16 ID:X7rgrb9C
投下乙
読み手的には上手く行ってるゼオンだけど、本人的にはいろいろ着に食わないのね
プライド高いだけあって、らしいというか
そして、たしかに吉乃はエロいなw

169 :創る名無しに見る名無し:2012/01/29(日) 04:11:37.27 ID:C4R28/JT
?
test

170 :創る名無しに見る名無し:2012/01/29(日) 04:12:36.08 ID:C4R28/JT
金票と打ってみたが、やっぱり文字化けするか

171 :創る名無しに見る名無し:2012/02/08(水) 23:43:20.21 ID:PeokQffy
テスト

172 :会食 ◆6LcvawFfJA :2012/02/08(水) 23:43:55.78 ID:PeokQffy
投下致します。

173 :会食 ◆6LcvawFfJA :2012/02/08(水) 23:44:53.42 ID:PeokQffy
「悪くないね」
 満足気に言ったのは、憲兵番町こと伊崎剣司。
 そして伊崎が称賛したのは、彼の眼前にあるファミリーレストラン。
 個人経営らしき小規模な店ばかりが立ち並ぶ商店街の中で、一際大きく華やかだ。
「あまり詳しく知っている訳ではないが、この手の食堂はメニューの大半が冷凍食品だと言う。
生憎、小生は剣術だけに心血を注いだ身である故、料理の心得を持ち合わせてないものでね。
解凍するだけで食事が取れるのならば、こんなに有難い事は無い。
とても上等とは言い難い店だが、ここでも構わないかな?」
 同行者の方を振り返って尋ねる伊崎。
 そもそも食事を必要としないので、シルベストリは無言を貫く。
 したがって三名で行動している以上、当然ながらもう一人のギイ・クリストフ・レッシュが返答する羽目になる。
 自分の目的の為に組んでこそいるが、ギイには人殺しや“自動人形”と会話をする趣味は無い。
 情報交換としてならともかく、余計に言葉を交わす気などありはしない。
 とはいえ流石に、この状況では口を開くしかなかった。
 肯定にせよ反対にせよ自身の意を示さねば、ファミリーレストランの前で立ち尽くしたままだ。
「ああ……。別に、構わないさ。
出来合いの物があるならば、むしろそちらの方がいい。
仮に君に料理の心得があったところで、君の出してくる皿に手を出す気にはならない」
「なら、よかったよ」
 自分達の関係が如何なる物であるのか。
 それを示すべくギイは声色を低くしたが、伊崎は短く返すだけであった。
 その口元がほんの僅かに吊り上っている事に、ギイは自分だけに聞こえる程度に舌を打つ。
 扉を半分ほど開けて立ち止まり、伊崎がギイの方に視線を向ける。
「しかし楽しみだね。
食事となれば、いくら君でも仮面を外すだろう?
その巫山戯た仮面の下には、一体どんな顔があるのか。
まあ見せられない理由があるのなら、隠れて食事を取ってくれてもいいがね」
「別に……、構わないさ」
 先程と同じ返事しか、ギイからは出てこなかった。

 ドリンクバーのすぐ近くの席に腰掛け、伊崎は同行者にメニューを配る。
 それから自身もメニューに目を通し始めたのだが、暫くして唸る様に考え込む。
「このチーズハンバーグにエビフライにカキフライにチキングリルに……いや、となるとセットプレートとやらが安上がりか。
ならばセットプレートAを二つ……ふむ? このセットには、エビフライがついていないではないか。
かといってBにはカキフライが無く、そしてCにはチキングリルが無いと……。
参った参ったこれは参った。
小生、初めて剣を握った日より今日に至るまで“参った”など口にした記憶は無いが、こればかりは参った。
このチョリソーとの號を持つ腸詰が全セットにあるが、どうにかこれを排除して小生の欲する一品に変更出来ないだろうか」

174 :会食 ◆6LcvawFfJA :2012/02/08(水) 23:45:15.76 ID:PeokQffy
 店員がいるのならばまだしも、店内には現在三人しかいない。
 なのでわざわざセットを選ばず、個別に解凍すればよいではないか。
 見かねたギイがそのように告げると、伊崎は驚いたように目を丸くする。
「成る程。確かにそうだ。しかしこのような事態とはいえ、とんだ犯罪者思考だねえ」
「……」
 口を利く必要も無いのに、あんまり独り言がうるさいからギイはついアドバイスしたのだ。
 にもかかわらず、この反応。
 言葉を失うギイを意に介さず、伊崎は再びメニューに視線を戻す。
「では、それぞれ二つずつ温めるとして……。
メインは決まったので、主食をどうするべきか。
このパスタにこのピラフに……ふむ、汁そばなんかもいいかもしれないねえ」
 大体この男、朝からどれだけ食べる気なのか。
 ギイの中にそんな疑問が浮かぶが、すぐに解消される。
 伊崎の戦闘をすぐ近くで見ていた故だ。
 カロリーを大量に消費せねば、あれだけの動きは到底不可能。
 事前に体内に摂取しておかねば、消費する事は物理的に無理である。
 伊崎がそのスマートな外見とは対照的に健啖家であるのは、もはや必然と言えよう。
「小生は決まったけれど、君達はどうだい?」
 ギイが考え事をしている内に、伊崎はようやくメニューを選び抜いたようだ。
 ギイは“人形破壊者”であるので、わざわざ食事を取る必要が無い。
 勿論、エネルギーを摂取しなければ息絶えてしまうが、限界までの時間が常人より遥かに長い。
 何も口にせずとも、数週間は問題無く行動できるだろう。
 だが、ギイは今ここで食事を取るつもりであった。
 エレオノールを生き残らせる為には、常に万全でなくてはならない。
 行動に支障が無い程度の空腹さえ、認めてはならない。
 伊崎と食卓を囲むのは不本意だが、自分が嫌な思いをする事でエレオノールの生存確率が上がるのならば喜んで囲もう。
 それが、ギイの考えであった。
「ああ。決まっているよ」
「そちらはどうだい」
 伊崎に尋ねられ、シルベストリが顔を上げる。
「私は必要無い」
「やはり、人形は食事などしないか」
 何やら納得して頷いている伊崎。
 答えるように続けるシルベストリ。
「食事は取る」
「ふむ?」
「取るが、人間のように固形物を食らうのではない。
私達自動人形は、人間の血液を啜って動力とするのだ」

     ○

175 :会食 ◆6LcvawFfJA :2012/02/08(水) 23:45:40.99 ID:PeokQffy

 大した時間も要さず、伊崎は目的地に到着した。
 眼下に転がっている小さな死体を見据えて、安堵したように一息。
「誰かに片付けられていたら、どうしようかと思ったよ。
そうなれば、新しく仕留めねばならないところだ」
 彼がここまで駆けて来たのは、この死体を回収する為である。
 せっかくの機会であるので、三人で食事をしよう。
 そう提案して、ファミリーレストランを飛び出してきたのだ。
 さてさてと呟いて、伊崎は死体へと手を伸ばす。
 その手が死体に触れる寸前に、死者を告げる放送が始まった。

 放送の途中から、伊崎の表情はずっと険しいままだ。
 放送が終わってから暫くして、やっと口を開く。
 表情は緩まらず、口調は苦々しい。
「……死んだか、刀也君」
 搾り出す様に言って、伊崎は空を見上げる。
 青い空には雲一つ無いが、その瞳には弟弟子の姿が確かに見えていた。
「遠からず、命を落とすだろうとは思っていたが……。
口を酸っぱくして言ったつもりだがね。その甘さがいつか命取りになる、と。
その所為で死んだのだろう、どうせ。
洗脳により甘さを捨て、我等“暗黒生徒会”の駒となった際の君ならば、きっと死ななかっただろうに」
 言い切ったと同時に、伊崎は雷神剣を振るう。
 神速の袈裟懸けで、虚空に見える弟弟子を切り伏せる。
 真っ二つに寸断された弟弟子が、塵となって消え失せていく。
「残念だよ、本当に。
小生には許されず、君だけが習得する事を許された“秘剣”。
今となっては永遠に歴史から消えてしまった“桐雨流”の秘中の秘。
それだけは小生の手で破りたかったというのに……、もはや未来永劫叶わない」
 吐き捨てると、伊崎はデイパックから端末を取り出す。
 片手で容易に携帯可能なサイズであり、厚みは殆ど無い。
「こんな物、小生には不要だと思っていたが」
 それの名は、“死亡者詳細データ端末”。
 伊崎に支給された道具の一つである。
 その名の通り、死亡者について詳細なデータを得る事が出来る代物だ。
 放送毎に死亡者のデータが送信されるので、まだ放送で呼ばれていない死者については知る事が出来ないが、伊崎が詳細を知りたい死者はとうに呼ばれている。
 弟弟子の名を打とうとして、伊崎は入力を止める。
 この端末が、説明書通りの働きをするとも限らない。
「確認するとしよう」
 六時間毎に五名の詳細を表示可能。
 どうせ知りたいのは一人だけなのだから、真偽を確かめてからでも遅くはない。
 画面の上を滑らせるように、伊崎は端末に“宮本武蔵”と入力する。
『宮本武蔵:斬殺 下手人:伊崎剣司 凶器:雷神剣』
 端末に表示された文字列に頷く伊崎。
 次いで、“佐々木小次郎”と入力。
 端末の画面が切り替わってから、ハッと目を見開く。
『佐々木小次郎:爆殺 下手人:ギイ・クリストフ・レッシュ 凶器:ジャック・オー・ランターン』
「しまったな。小生は、彼の名を知らないではないか」
 言葉に反して、伊崎にしくじったという素振りは全く無い。
 滑らかな指捌きで“井上真由子”と入力する。
『井上真由子:斬殺 下手人:ギイ・クリストフ・レッシュ 凶器:ジャック・オー・ランターン』
「仕方が無いので、もう一人分詳細を調べる羽目になってしまった。
まあ、ついでに彼の名を知れたのでよかったとしよう。運が良かった」
 酷く白々しい口調で、伊崎は誰にともなく言う。
 そうしてから、ようやく弟弟子の名を入力した。

『桐雨刀也:消滅 下手人:鬼丸猛 凶器:魔王剣』

176 :会食 ◆6LcvawFfJA :2012/02/08(水) 23:46:54.75 ID:PeokQffy

     ○

 “談笑でもして待っていてくれ”と言い残して、伊崎は出て行った。
 しかしながら、人形破壊者と自動人形が談笑する訳が無い。
 言葉など交わさず、お互い口を開きすらしない。
 故に、ファミリーレストランには静寂が立ち込める。
 そんな状況にありながら、両者は奇しくも同じ物に対して思いを巡らせていた。
 シルベストリは先の放送を聞き“速いな”と思い、ギイも同じ感想を抱いていた。
 異なっているのは、ギイの方は一つの名前について考え込んでしまっている点だ。
(ママン……)
 ギイが母と慕った“才賀アンジェリーナ”の名が呼ばれた。
 一度死んだ筈のギイがこうして蘇っている以上、百年前に砕け散ったアンジェリーナもまた蘇ったのだろう。
 エレオノールの為に人を殺す決意をした自分を見れたくないと思いつつも、ギイはアンジェリーナが動いている姿を一目見たかった。
 そう思ってしまっていた事に、彼女の死が明らかになってから気付いた。
 彼女は人形破壊者であるので当然かなりの身体能力を誇り、さらにマリオネット繰りの手練である。
 そんなアンジェリーナであるが、ギイは彼女をよく知っているが故に死んだという事実を受け入れた。
 おそらくかつての様に、誰かを庇って死んだのだろう。
 誰かの為に死ぬ姿が、他の誰よりも想像出来てしまった。
(ママン、今度こそ安らかに……。
エレオノールは、僕が絶対に守ってみせるよ。他の何を犠牲にしても)
 ギイが胸中でそう誓うと、レストランの扉が開きチャイム音が響く。
 見れば、入ってきたのは伊崎であった。
「随分、遅かっ……ッ!?」
 放送に動揺していた自分を隠すべく、ギイは落ち着いた口調を作ったが、言葉を失ってしまう。
「どうかしたかい?」
 わざとらしく、首を傾げる伊崎。
 ギイは、何事も無いかのように取り繕う。
「……いや、別に何でも無い。
君が調達してきた死体が、少しばかり予想していた物と違っていただけさ」
「ふふ。そりゃあねえ。焼け焦げた死体や、皺だらけで水分の無い死体よりねえ」
 微笑を浮かべながら、伊崎は抱えていた死体をシルベストリへと放り投げる。
「若くて柔らかい方がいいだろうと、思ったからね。なに、骨董屋の前にあるのは分かっていたからね」
 伊崎が担いできたのは、井上真由子の死体。
 ギイが最初に手にかけた、心優しい少女の亡骸。
「どうかしたかい、ギイ・クリストフ・レッシュ君?」
 つい無言になってしまったギイに、伊崎は続ける。
 自分の名を知られていた事実に驚愕しながらも、口調に感情は出さない。
「……何だ、その名前は」
「何だ? ふむ、可笑しな事を言うねえ」
 ポケットから携帯端末と説明書を取り出し、伊崎はギイへと見せ付ける。
「これによると、“佐々木小次郎”と“井上真由子”を殺したのは、間違い無くギイ・クリストフ・レッシュなのだけれど」
 暫し沈黙してから、ギイは認める以外に選択肢が無い事を悟った。
「そういう事か。ふん、まあいいさ。そうだ、僕の名はギイ・クリストフ・レッシュだよ」
「いやぁ、偶然にも名前を知る事が出来てよかった。以後、よろしくお願いするよ」
 微笑んでから、伊崎は携帯端末をギイへと差し出す。
「小生にはもう必要無いからね。次の放送までに、あと一人だけ調べられるよ?」
 これを使用すれば、アンジェリーナを誰が殺したのか明らかになる。
 佐々木小次郎と井上真由子の下手人がギイと表示されている事から、信憑性は疑うまでも無い。
 一瞬だけ逡巡して、ギイは結論を下す。

177 :会食 ◆6LcvawFfJA :2012/02/08(水) 23:47:26.88 ID:PeokQffy
「……いらない。僕は自分が生き残りたいだけだと、言ってあるはずだ。誰が誰を殺したかなんて、知った事ではない」
「そうかい。それは残念」
 演技っぽく肩を竦めてから、伊崎は厨房へと入っていく。
「さて、やっと朝食の準備だ。腹の虫が騒がしくて適わんよ」
 遠ざかっていく伊崎の背中を眺めるしか出来ないギイに、横合いから声が浴びせられる。
「よもや、お前が“オリンピアの恋人”だとはな」
「…………そうだ。僕が“オリンピアの恋人”で、そして“二百体破壊者”さ」
 それだけ言って、ギイもまた厨房に向かった。
「おや。まだ仮面をしているのかい?」
「外すさ。食事をするんだから当然だろう?」
 ギイは仮面の下で口角を吊り上げてから仮面を外し、露になったギイの表情を見た伊崎もまた口角を吊り上げた。



【D−4 商店街ファミリーレストラン/一日目 朝】

【伊崎剣司(憲兵番長)】
[時間軸]:居合番長との再戦前
[状態]:疲労(大)、胸元に真一文字の傷、制服ちょい焦げ
[装備]:雷神剣@YAIBA、死亡者詳細データ端末@オリジナル
[道具]:基本支給品一式×2、錫杖@うしおととら、ランダム支給品0〜3
[基本方針]:人を斬る。おもしろいのでギイと行動。

【ギイ・クリストフ・レッシュ】
[時間軸]:本編で死亡後
[状態]:背中にダメージ(回復中)
[装備]:ジャック・オー・ランターン@からくりサーカス、殺鳥用ワイヤー×3@金剛番長
[道具]:基本支給品一式×3、拷問鞭@金剛番長、ランダム支給品0〜6(うち0〜2は小次郎から見て武器となるものなし)
[基本方針]:他者と組み、エレオノールを優勝させる。

【シルベストリ】
[時間軸]:34巻、勝戦直前
[状態]:健康、服の胸元に真一文字の傷
[装備]:妖刀『八房』@GS美神
[道具]:ランダム支給品2(刀剣類なし、確認済み)、菊一文字@YAIBA
[基本方針]:他者と組んでフェイスレスの優勝をサポートしつつ、人間が群れる理由を解き明かす。植木耕助に会う。


【死亡者詳細データ端末@オリジナル】
伊崎剣司(憲兵番町)に支給された。
六時間に五人分だけ、放送で呼ばれた死者の詳細データを知る事が出来る。
詳細とは、“下手人”“凶器”“死に方”の三つである。
放送が終わると同時に、その放送で呼ばれた死者のデータを受信する。
その為、まだ放送で呼ばれていない死者については知る事が出来ない。


※真由子の死体が、ファミレスまで運ばれました。血痕は残っています。

178 :創る名無しに見る名無し:2012/02/08(水) 23:48:04.11 ID:PeokQffy
以上です。

179 :創る名無しに見る名無し:2012/02/09(木) 02:15:16.61 ID:PMoxFq71
投下乙!
憲兵はやらしいな……楽しみに撤しているせいで、いちいちたちが悪い
戦力として見たらこの上ないけど、決してギイさんにとってプラスだけじゃないよなあ
アンジェリーナ死亡の詳細を知る機会をあえて拒否するギイさんが、なんとも切ない

180 :創る名無しに見る名無し:2012/02/09(木) 21:58:08.65 ID:lu/T2vgL
投下乙
このチームギスギスしてんなあw
しかし真由子は早々に脱落したのに、なかなか影響があるね
それにしても、憲兵番長に覇王剣フラグが立ったような気がして怖い!w

181 :創る名無しに見る名無し:2012/02/10(金) 18:10:00.43 ID:rtB3Hvck
投下乙
真由子……とらが生きていたら、どう思うことか
支給品が面白いね。顔も知らないのに因縁が出来るなんて
とらじゃないけど、獲物を横取りされた憲兵の胸中ははたして

182 : ◆c8fjjCyRkM :2012/03/01(木) 18:49:50.46 ID:pBZkBhLH
以前予約を破棄しましたが、完成したので投下します。

183 :エンカウント ◆c8fjjCyRkM :2012/03/01(木) 18:50:27.35 ID:pBZkBhLH
3の禁止エリアの後に、16の死者。
それだけ伝えると、キース・ブラックによる放送は終わった。
口を閉ざしたのは放送を聞く為だというのに、鉄刃とチェリッシュの会話が即座に再開することはなかった。
二人の間に数分静寂が広がってから、ようやく刃が口を開いた。

「は! はは! あのやろー、ふざけやがって!」

言葉の内容に反して、刃の口元は震えている。
浮かべた笑顔はぎこちなく、乱雑にかき上げられた髪の根元からは汗が伝っている。

「まだ全然時間経ってねーってのに、そんなに死ぬはずねーだろ! 嘘に決まってんじゃねーか!」

口の痙攣に伴い、ところどころで声が裏返ってしまう。
刃自身、自らの発言に無理があることは分かっていた。
キース・ブラックが上げた16人の死者には、刃の仲間である3人も含まれている。
仲間達が死んだと人伝に聞いたところで、とても信じる気にはならなかっただろう。
……これまでの刃ならば。
しかし、彼はこの地で出会ってしまった。
日本番長という名の脅威に、そしてその日本番長に水鏡凍季也が殺されるという現実に。
そのせいで、仲間の死が現実なのではないかと思いかけている。
慣れ親しんだ剣ではないものの、刃物をもってしてもとても敵わなかった日本番長。
彼や、彼と同等の敵がいれば、仲間達であろうと殺されてしまうかもしれない。
そんな想像を吹き飛ばしてしまうように、あえて刃は強い言葉を口にしているのだ。
他の誰でもなく、自分に言い聞かせるように。

「なぁ? そうだよな! そう思うだろ、チェリッシュも?」

「……そんなわけ、ないじゃない」

返ってきたのは、刃の理想とは反対の言葉だった。
それは、刃が頭の中で本当は分かりかけている内容だった。

「キース・ブラックは、あの日本番長やゼオンに命令できるような奴なのよっ!? それなのに、そんな小さい嘘を吐く意味があるの!?」

「そ、それは……」

思わず、刃は口籠ってしまう。
刃自身、まったく同じことを考えた。
考えたが、あえて目を向けないでいようとした。
そんな事態に直面することになり、刃は一瞬だけ思考を停止させてしまう。
その一瞬の沈黙を受けて、チェリッシュは俯いて肩を小刻みに震わせる。
咄嗟に彼女を慰めようとするが、やはり刃は言葉を探すばかりで何も言えなかった。

「……忘れ、させてよ」

「え……?」

「忘れさせてくれるって、言ったじゃない……っ」

184 :エンカウント ◆c8fjjCyRkM :2012/03/01(木) 18:50:45.28 ID:pBZkBhLH

それだけ言うと、チェリッシュは刃に背を向けた。
刃が引き留めるより早く、遠ざかっていく。
その小さくなっていく背中を眺めながら、刃は拳を握り締めた。
固く握った拳を自分自身の太ももに叩き付けて、声を張り上げる。

「何やってんだ、俺はあッ!」

袴に隠れて見えないが、間違いなく太ももは真っ赤になっていることだろう。
じんじんと広がる痛みを無視して、刃は再び拳を振り下ろす。
太ももよりも、拳よりも、チェリッシュが最後に見せた表情が痛かった。

「何ぐちぐち言ってんだ、バーロー! みんなが死んだのが嘘かほんとかなんて、分かんねー! ほんとに死んじまったかもしんねえ! でもよ……だとしても、引きずってばっかいられっかよ!」

今にも泣き出してしまいそうな顔が、まぶたに溜まった水滴が、赤くなった眼球が、残された言葉が。
自分自身の痛みなんかよりも、よっぽど痛い。
比べ物にならない。

「武蔵と小次郎はサムライだッ! どんな風に死んだのかなんて知らねーけど、サムライがサムライとして死んだのに無視なんか出来っかよ! 死んでねえなんて言えっかよ! その方が、よっぽどあいつらに悪いじゃねーか!」

もはや、拳と太ももから感覚が消えている。
そのことにさえ、刃は気付いていない。

「さやかはサムライじゃねーけど、でもよ……女の子が泣いてるってのにほっといて、ずっと引きずってるなんて……あいつが許すわきゃねえだろ! そんなやつじゃねえだろ! よく知ってるだろ! 他のどんなやつよりも! さやかのことは! 俺が!」

この言葉も、先ほどまでと一緒だ。
誰かではなく、自分に言い聞かせるための物だ。
違うのは、受け入れずに停滞する為ではなく、受け入れた上で進む為であるという点。

「すまねーな。悪ぃんだけど、いっぺん悲しいのも悔しいのも忘れるぜ。全部忘れて、チェリッシュ捕まえなきゃなんねー。その後、雷神剣と風神剣探して、日本番長倒して、他にも色々やって、そんでキース・ブラックのやつぶっ飛ばさなきゃな。だからさ」

チェリッシュが進んでいった方を睨み付けて、刃は短く言い切る。

「またいつかな」



  ◇  ◆  ◇  ◆

185 :エンカウント ◆c8fjjCyRkM :2012/03/01(木) 18:51:06.14 ID:pBZkBhLH



同時刻。
新宮隼人もまた走っていた。
というより、走り続けていたと言った方がいい。
この殺し合いに巻き込まれてから、誰かと会話をする時以外は常に走り続けているのだから。

『巴武士が死んだか……』

(ああ!? いきなり喋ったと思ったら、思い出したくもねーことに触れてんじゃねーッ!)

『とはいえ、触れざるを得ないだろう。ホワイトラビット亡き今、ジャバウォックが暴走すれば』

「るっせーな! 分ぁーってんだよッ! いちいち言われなくてもよッ!」

体内で響くARMSコア『ナイト』の声に対し、隼人はつい声を出して返してしまう。
口に出さずとも、ARMSコアには思考したことが伝わる。
長い付き合いゆえによく知っているのだが、叫ばずにはいられなかったのだ。

「ちっくしょうが! 高槻の野郎が暴走してねーってのが分かってきた頃に、あの放送だぜ!? ふざけやがってッ!」

ARMSの共振反応が捉えづらくなっているので、高槻涼を探す為にひたすら走り回るはめとなった。
だが殺し合いの開始から、とうに6時間が経過している。
にもかかわらず、隼人は暴走するジャバウォックを発見していない。
このことから、高槻に埋め込まれたARMSコアジャバウォックが暴走を続けていないことが分かる。
もしもジャバウォックが暴走していれば、6時間もあればこのような小さな会場など破壊し尽くせるのだから。

『ホワイトラビットは、ジャバウォックを止めて逝ったのか……?』

「どうだかな。案外、金剛の言ってたあいつの兄貴かもしんねーぜ。あいつの話がマジなら、出来てもおかしくねー」

『莫迦な。ARMS殺しを持たぬ人間が』

「つっても、あの得体知れねえ動物を追っ払える金剛の兄貴だぜ。ありえねーとは言い切れねーよ」

苛立ちを隠そうともせず、隼人の口調は荒いままだ。
ナイトに対してわざわざ喋り続けているのも、感情をぶつけたいがゆえかもしれない。

「くそっ。分からねーことだらけだぜ。バイオレットも詳しく聞いてないっていう『プログラム・バトルロワイアル』だかに、金剛の言ってた番長計画に、フェイスレスさんの人形に、あとあの動物に」

『情報を集めねばならない』

「やってんだろうがよ! 集めてんだろうが! 集めた情報が、どれもこれも意味分かんねーだけでよ! てめーはてめーで、そろそろ共振反応感知したりしねーのか!?」

『まったくない』

「即答かよ……てめー、嘘言ってんじゃねーだろうな? だいたいおかしいだろーが! こんだけずっと走ってるのに、7人もいるうちバイオレット以外全然気付かねーってよ!」

『事実だ。そもそも新宮隼人よ、我が感知すればその感覚は汝には伝わ』

「分ぁーってんだよ、そんなことは! 分かった上で、言ってんだよ!!」

走りながら会話を続けていた隼人であったが、この絶叫を最後に口を閉ざした。
呼吸が乱れてきたのではなく、むしろこれだけ走っていながらまったく乱れていない。
ならばなぜかと言えば、前方に人影が見えたのである。
このままナイトと会話を続けていれば、目に見えない何かと話している危ない奴と思われてしまう。
その為にナイトとの会話を切り上げ、人影の方へと向かう。
人影は立ち止まっているので、到着するまで大した時間はかからなかった。

186 :エンカウント ◆c8fjjCyRkM :2012/03/01(木) 18:53:01.09 ID:pBZkBhLH

「って、金剛じゃねーか」

と言いつつも、声をかける少し前には分かっていた。
金剛番長の巨大な背中を、誰かと見間違うはずがない。

「何立ち止まってんだよ。兄貴探すんじゃ……」

隼人は、途中で言葉を失う。
金剛の眼前には、土の山があった。
人間が1人、埋められそうなサイズの土山だ。
隼人が尋ねるよりも早く、金剛が口を開いた。

「さっき呼ばれた16人のうち、1人だ。俺が見付けたときには、もう血は乾いてた。……おそらく、殺し合いが始まってすぐだ」

それだけ言うと、金剛は口を閉ざす。
固く閉ざされた口から、歯の軋む音が漏れ出していた。
見れば、金剛の両手の爪には泥が付着している。
金剛の力があれば、拳を振り下ろした圧力だけで地面に穴を開けることは可能だろう。
にもかかわらず、それをせず手で墓穴を掘ったのだ。
告げられずとも、彼の歯がゆさは隼人に伝わった。
そして金剛だけでなく、隼人も同じ思いだった。
自分が走っている間に、誰かが殺されている。
走り続けて人を探す以外に出来ることがなかったと自覚していても、無力感に駆られてしまう。

「……なあ金剛」

金剛は、何も言わない。
ただ、背中が僅かに揺れた。
それが、彼の返事なのだろう。

「ばらばらに走ってるだけじゃ、人が死ぬのは止められねーのかもな」

「……ッ! 新宮!」

「だから、提案なんだけどよ」

咄嗟に反論しようとした金剛を遮り、隼人は続ける。

「一緒に行動しねーか? あんたが兄貴探してるってのは知ってるし、俺だって仲間探さなきゃなんねーけど、だからってばらばらに動いてちゃ戦力も半分になっちまう。
俺とあんたであの変な動物追っ払ったけど、1人ならそう簡単にはいかなかったはずだ。……やっぱ、人間1人じゃ限界あんだよ」

しばらく目を丸くしてから、金剛は微笑を浮かべた。
忘れていた何かを思い出したような、そんな笑顔だった。

「そうだな。1人じゃ勝てねえ相手に勝って来れたのは、仲間がいたからだ」

「へっ。んだよ。あんたも分かってたのに、今になって気付いた口か? こっちも6時間走り続けてようやくだぜ? そりゃ、成績が良いわけねーよな。何度も思い知ったこと思い出すのに、こんだけかかってちゃよ」

冗談を言う口調の隼人。
金剛は、そちらを向き直って一言。

「別に、俺は成績悪くない」

「なにぃ!? 普通は、その図体だと頭の方はそんなに……ってタイプだろうが!」

いきなり焦り出す隼人に口元を緩めた後、金剛はマジメな口調になる。

187 :エンカウント ◆c8fjjCyRkM :2012/03/01(木) 18:53:30.70 ID:pBZkBhLH

「それにしても、さっきは驚いた。スジを曲げちまうのかと思ったぜ」

「ざけんなよ。曲がってたまるかっつの。もう誰も死なせやしねーよ。何せ、俺とあんたのコンビだぜ?」

強く言い切ると、隼人は拳を伸ばす。
その行動の意味を理解したらしい金剛も、拳を前に出した。
サイズには差があるものの、互いの拳に籠められた意思は変わらない。
同じ意思を握り締めた拳をぶつけ合って、両者は不敵な笑みを浮かべた。



  ◇  ◆  ◇  ◆



決意を固めた隼人と金剛。
少し離れた場所で、彼等を眺める人物がいた。
刃の元から走り去っていったチェリッシュである。

「あ、ああぁ……」

へたり込み、言葉にならない声を漏らしている。
それは、動転もするはずだ。
最初に出会った殺し合いに乗った参加者。
自分の呪文がまったく通じなかった相手。
庇ってくれた水鏡凍季也を殺した張本人。
日本番長に瓜二つの金剛番長が、眼前にいるのだから。
その彼のすぐ近くに、うず高く土が盛られているのだから。
殺し合いの説明の際に、金剛番長はキース・ブラックに噛み付いている。
そのことをチェリッシュは覚えているが、しかしそのことが悪い方向に作用していた。
あの状態でブラックに噛み付くほど、戦いに飢えている。
そんな印象しか、もはやチェリッシュは抱いていなかった。

「うぅぅぅぅ……」

相手は、まだチェリッシュに気付いていない。
見付かる前に、逃げ出してしまえばいい。
そう考えるも、チェリッシュの両脚は激しく痙攣している。
逃げ去るのはもちろん、立ち上がることさえ出来ない。
今2人は川原にいるが、川を渡るにはチェリッシュのいる橋を使うしかない。
その時には、確実に発見されてしまう。
脳裏を過るのは、三人がかりでもまったく敵わなかった日本番長の姿。
さらに、ゼオンの雷の痛みまでもが蘇ってくる。

「い、いやぁ…………」

震える手でデイパックを開き、チェリッシュは魔本を取り出す。
どうにか魔本に魔力を集めると、手元にライフルに似た武器が出現する。
遠ざかるのは不可能で、見付かってしまえば殺される。
ならば、選択肢は一つしかなかった。
発見される前に、相手を撃ち抜くだけだ。

鉄刃が彼女の元に辿り着くまで、あと……

188 :エンカウント ◆c8fjjCyRkM :2012/03/01(木) 18:53:45.24 ID:pBZkBhLH



【C−4 河原/一日目 朝】

【金剛晄(金剛番長)】
[時間軸]:王様番長戦直前、バンカラタワーに向かう途中。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:スジを通す。

【新宮隼人】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:健康、共振波を放出中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(未確認)
[基本方針]:仲間たちと合流してブラックのプログラムを叩き斬る。高槻は暴走していないと確信。
※ある程度近づかなければ、ARMSの共振を感知できないようです。完全体となった場合は不明。



【C−4 橋/一日目 朝】

【チェリッシュ】
[時間軸]:ガッシュ戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[基本方針]:???



【C−4 チェリッシュより少し西/一日目 朝】

【鉄刃】
[時間軸]:織田信長御前試合の直後
[状態]:健康
[装備]:超振動ナイフ@ARMS、魔剣センサー『スパイダー』@YAIBA
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[基本方針]:殺し合いには乗らない。チェリッシュを守る。市街地にある反応(雷神剣)へと向かう。







※李崩は埋葬されました。

189 : ◆c8fjjCyRkM :2012/03/01(木) 18:55:53.63 ID:pBZkBhLH
以上です。何かあったら、指摘お願いします

「長すぎる行があります」と、表示されて驚きました
こういうこともあるんですね。気を付けなくては……

190 :創る名無しに見る名無し:2012/03/01(木) 21:43:27.26 ID:P5ufR5uy
投下乙!
本人は出てないのに、日本番長の影響でかいな
刃が仲間の死を受け入れられたのはよかったけど、チェリッシュは……
金剛番長と隼人のコンビ結成に熱くなった分、つらいなー。どうなるんだろう

191 :創る名無しに見る名無し:2012/03/03(土) 03:48:13.78 ID:eqaMxsa/
投下乙
チェリッシュと刃は放送後まずいと思っていたが……
日本番長見たあとに金剛はなあ
しかしなんだかナイトがかわいいw

192 : ◆c8fjjCyRkM :2012/03/05(月) 23:48:45.13 ID:GCwkC7vY
感想と収録ありがとうございます。
ですが、1つ間違いに気付きました。

どうにか魔本に魔力を集めると、手元にライフルに似た武器が出現する。

と書きましたが、この呪文はテッド死後に習得したものでしたので、この文章を丸ごと削ろうと思います。
ですが自分は携帯書き手でしてwiki編集できないので、どなたかお願いします……
面倒な事をお願いしてすみません。

193 :創る名無しに見る名無し:2012/03/07(水) 23:43:06.79 ID:SWENbajI
編集しときました〜

194 :創る名無しに見る名無し:2012/03/09(金) 09:18:03.82 ID:ro7EwoDw
 i      l
 |  | i   | i  |      l       |     |
   l | | ||i |i |l  i i  ,  i|i  i  |   |l i   i |
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  |l l | l |i | | ,' i' i|l l' i| i| l,l i| l ll ,| |  | l l|
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  |j | | l |il i ,'i'i,'/ |i |_,||,i_,i||,-|l''|il|~|j |l'|/j/lリ    THIS WAI
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 |i リ| | i| i,'/ノ-"''' _,,,..|,..-==≡=''' ̄ }i|   i
   '  '   ,,ー=_≡〒-T;;;;;;;;;;;;:}  ,'   ,'l |  |          FOLLOW ME
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          、    ` ..,_ __,,... -"  ,' ,'l  |          
           `-.,,_       _,,.-" ,' l |              
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                      /,'i li, l /
   `-、ー-.,,,,___,,.         //ハ|l/{i| リ/|l
     `-.,,,___,/       ,.-´.,_  '
 `-.,   .,,,__       _,.ィ'ー .,,_ ` -.,_
 ;;;;;;;` - .,_    _,,.. -=ニ´-"'~~`-., ` - .,_~~`
 ;;;;;;;;;;;;;;;;;;"~~~   l   `、    `-.,_   ` -.,
 ;;;;;;;;;;;;;''''' ,'    l    ` ,     `-.,_
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       ,'      l      `,    r"~`
      ,'         l       `,   {,
      ,'        l        ',  `ー


レイラさん

195 :創る名無しに見る名無し:2012/03/10(土) 00:05:38.72 ID:++l+5t3J
かっこいいwww

196 :創る名無しに見る名無し:2012/03/10(土) 15:31:19.21 ID:Rq/4rv3j
あれは……レイラさん!

197 :創る名無しに見る名無し:2012/03/10(土) 20:49:14.08 ID:htymx4b5
もう術が使えなくなってもいい
だから
ありったけを

レイラさんの角が天を衝いてる姿を想像してしまったwww

198 :創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 06:51:16.72 ID:l0UrGnU/
どうせ廃墟になるんだから もうスレ落とせば?

199 :創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 13:19:49.17 ID:fjquOQ8h
>>198
前回の投下から一月も経ってないぞwwww

200 :創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 02:55:38.48 ID:aQmrSEFO
予約きたあああああ

201 :創る名無しに見る名無し:2012/03/21(水) 23:56:37.64 ID:m3bF/XDX
あそこ動くのか! 楽しみだ

202 :創る名無しに見る名無し:2012/03/31(土) 17:03:55.33 ID:eW5j23Li
予約キター

203 : ◆hqLsjDR84w :2012/04/06(金) 07:51:14.41 ID:tK/+mrck
投下します。

204 :らでぃかる・ぐっど・すぴーど ◆hqLsjDR84w :2012/04/06(金) 07:52:32.82 ID:tK/+mrck
 ◇ ◇ ◇


「――というワケです」

 いまユーゴー・ギルバートが告げたのは、彼女の知るキース・ブラックの目的すべてである。
 どういうことだか分からないが、この殺し合いプログラムの舞台では彼女のテレパス能力に妨害がかけられているらしい。
 となればいくら世界最高峰のテレパシストのユーゴーであろうと、いつ不意を打たれて殺されてしまうか分からない。
 そのことを考慮すれば、話す時間のあるうちにブラックの思惑を伝えておかねばなるまい。
 とはいえ、このプログラムはユーゴーの把握していたブラックの目的とはかけ離れているのだが、それでも真の狙いを見定めるための鍵にはなりうるだろう。
 ゆえに、ユーゴーは少し時間をかけてゆっくりと詳細に説明したのだが――

「うん。よく分かんねえ。
 まあでも、つまりそのおりじなるあーむず? が味方で、きーすなんとかが悪いヤツなんだなっ!
 そんでありす? ってのが……? あれ? そんな名前、名簿にあったっけ? 覚えてねーだけかな」

 返ってきた植木耕助の言葉に、肩を落とすことになった。
 ユーゴーは知らぬことだが、少し前の植木ならば話を呑み込むことができたかもしれない。
 だが、生憎いまの彼は『勉強の才』を失ってしまっている。
 何度も繰り返し述べられたならばともかく、たった一度の説明では、地球外生命体『アザゼル』と少女『アリス』より始まった深い因縁をすべて理解することなど不可能なのだ。

「どっ、どこが分からなかったのか、くわしく……」
「えっ。間違ってたか? おかしーな」

205 :らでぃかる・ぐっど・すぴーど ◆hqLsjDR84w :2012/04/06(金) 07:52:51.69 ID:tK/+mrck

 ユーゴーは唖然としかけるも、咳を一つついて気を取り直す。
 元より一度の説明で終わるとは、考えていなかった。
 あんなにまったくなんにも分かっていなかったのは予想外だが、まだ植木は中学一年生なのだ。
 もっと簡単な言葉を使って、分かりやすく伝えねばならない。
 そのように思考を巡らせつつ、ユーゴーは脳内で単語を選りすぐっていく。

「では、先ほどよりもっと分かりやすく説明しますね。まず――」
「ん。姉ちゃん、ちょっとしーっ」

 再び説明を開始しようとしたところで、ユーゴーは言葉を遮られる。
 ユーゴーが見てみれば、植木は真剣な表情で誰もいない方向を見据えていた。
 もしや誰かが隠れているのかと、ユーゴーの背筋が冷たくなる。
 しかしそちらに意識を集中させても、テレパス能力がなにものかの意識を感知することはできない。
 怪訝に思うユーゴーの前で、植木はデイパックを下ろして地図を取り出す。

「姉ちゃん、俺たちはいまどの辺にいるんだ!?」
「え? えっと、この辺りから南南東に移動してきたはずだから……」

 これまでの動向を思い返しつつ、ユーゴーは地図上の一点を指差す。
 その箇所を確認して、植木は声を張り上げる。

「やっぱり! すぐ近くに線路があるのかっ!」
「……? それが、どうしたんですか?」
「さっき電車の音が聞こえたし、電車は勝手に動いたりしない」

 当たり前のことを言ったのち、植木は拳を強く握り締めた。

「つまり、電車を運転してるブラックの仲間がいるんだっ!!」

 植木の断言に対して、ユーゴーは沈黙するしかなかった。
 いや、決して彼の発想に呆れているのではない。
 もちろん自動運転という可能性も大いにあるし、殺し合いの参加者に電車を動かすスキルの持ち主がいただけかもしれない。
 しかし、植木の考察通りであるかもしれない。
 ブラックの率いる組織『エグリゴリ』の一員が、電車を運転しているのかもしれない。
 可能性としてはかなり低いが、ありえないとは言い切れない。
 しばらく黙りこくったのち、ユーゴーは静かに口を開く。
 そう断言するような諦めの念こそが、人の足を止めるのだ。

「たぶん、違います」
「ええっ!?」

 予想外の返答だったのだろう、植木は目を見開いたまま固まってしまう。
 そんな大げさな動作に思わず頬を緩め、ユーゴーは続ける。

「ですが、確かめなくては分かりません。
 もしかしたらもしかするかもしれません」

 すぐには意味を理解しきれなかったらしい植木が、一分ほど経ってから白い歯を見せた。


 ◇ ◇ ◇

206 :らでぃかる・ぐっど・すぴーど ◆hqLsjDR84w :2012/04/06(金) 07:53:12.50 ID:tK/+mrck


 十分ばかし経過したころ、植木とユーゴーはエリアB−6の『モチノキ森街駅』にいた。
 これだけの速さで到着したのは、六ツ星神器『電光石火(ライカ)』の効果ゆえである。
 本来、ライカは使用者だけが高速で移動できる神器であるのだが、植木はそれをユーゴーを背負ったまま発動させたのだ。
 目を離した隙にナゾナゾ博士を殺されてしまった以上、植木にユーゴーを置いていくという選択肢はなかった。
 ちなみに先ほどまでいた地点には、流への書置きを風に飛ばされないようにして残してある。

「ん。電車止まってる」
「……ですね」
「次出るまであと三分か。急いで確認しなきゃな」
「……ですね」

 植木に背負われているユーゴーの返答は、ひどく素っ気ない。
 実は、返答なんかよりも真っ青になっている顔色のほうがよっぽど凄まじいのだが、植木はそのどちらにも気付かなかった。
 彼女がこうなってしまったのは、電車を逃さぬという心意気の余りにライカを飛ばしすぎ、それこそサーカスの一員のような平衡感覚の優れたもの以外は到底対応できぬほどの速度を出していたせいなのだが――
 ユーゴーの異変自体に勘付いていない植木に、察することなどできるはずがない。

「よっと」

 そんなかけ声とともに、植木は先頭車両の運転席へと繋がる扉を蹴り開ける。
 そして露になった運転席を確認し、植木は落胆の声を漏らした。

「やっぱ出る直前に姉ちゃんが言った通り、自動運転だったかー」
「……ですね」

 またしても素っ気ない返事を受けても、植木はやはり怪訝にさえ思わない。
 一応最後尾車両まで向かって車掌室も確認するが、そこにも誰もいなかった。
 ちょうどそのタイミングで、サイレンの音が響き渡った。

『一番線、ドアが閉まります。ご注意ください』

 あぶねっ、などと言いつつ、植木は素早く電車から飛び降りる。
 激しい動きに伴って、ユーゴーが呻くような声を漏らす。それにも植木は気付かなかった。
 遠ざかっていく電車を見送ったのち、植木は静かになった駅のホームで呟く。

「さて、流兄ちゃんのとこまで戻るか」

 その言葉の半ばで、ユーゴーは目を見開いた。
 うまく回らない頭を無理矢理に回転させて、思考を巡らす。
 もしももう一度あの加速を体感することになれば、はたして自分は耐えられるのか。

(……無理無理無理無理!)

 結論が導き出されるのは、思いのほか早かった。

「あ、あの……」
「ん? なんだ、姉ちゃ――!?」

 勢いよく振り返って、植木は息を呑んだ。
 ここに至って、ようやくユーゴーの顔色がえげつないことになっていることを知ったのだ。

207 :らでぃかる・ぐっど・すぴーど ◆hqLsjDR84w :2012/04/06(金) 07:53:27.94 ID:tK/+mrck

「どうしたんだ、姉ちゃん!? なんか悪いもんでも拾って食ったのか!?」
「そんなこと…………うぷっ」

 否定しようとして、ユーゴーは口元を押さえる。
 必死で呼吸を整えて、どうにか言うべきことだけを搾り出す。

「さっきの、車輪……は、ちょっと……合わない、みた、い……」
「ライカか!?」
「そ、そう……おぇ」
「だったら早く言ってくれよ! 俺は、もう二度と仲間をつらい目に合わせたくないんだ……っ!」
「…………」

 植木の言葉が偽りのない真実であることは、ユーゴーにもよく分かった。
 テレパス能力を使うまでもない。
 目には涙が溜まっており、歯は軋む音が聞こえるほど噛み締められているのだ。
 にもかかわらず、ユーゴーは冷ややかな視線を向けるしかできなかった。
 なぜなら――

(早くもなにも、五十回は『止めて』って言いましたけどね……)

 しかし、恨み節を言ってもしようがない。
 これから切り替えていけばいいだけである。
 というか、そもそも余計なことを言う余裕などない。

「できれば、その……別、の……方法、で」
「分かった! んじゃ、いったん下ろすぜ!」

 植木は背負っていたユーゴーを、今度は前に抱きかかえる。

「今度はこっちだ!」

 行きに使用した車輪型のライカではなく、植木は九ツ星神器『花鳥風月(セイクー)』を発現させる。
 植木の背から生えた黒い羽を見て、ユーゴーは胸を撫で下ろした。
 きっと、これでゆっくりと飛んでくれるのだろう。
 そう判断し、ユーゴーは安心して目を閉じ、身体を落ちつけようと呼吸を整え――

「よっしゃ!」

 急激な重力を味わうハメになった。
 閉じたはずの目を勢いよく開けてみると、視界に入る景色が凄まじい速度で後ろに流れていっていた。
 ライカのときのような下の地形による上下振動はないものの、代わりに猛烈な浮遊感が押し寄せてきている。
 背負われていたせいで直撃しなかった風圧も、容赦なく襲いかかってくる。

「止めて止めとめ止めて止めええええええええええええええええええっ!!!」

 必死で声を張り上げるも、風に呑み込まれて植木まで届かない。
 腹部からなにかがこみ上げてくるなかで、ユーゴーの思考は不思議とクリアになっていく。
 プログラムに巻き込まれてからずっと探していた相手に思いを馳せ、これまで彼に対して抱いたことのない感情を初めて抱いた。

(あー……いまこの場に、高槻くんがいなくてよかったー…………)

208 :らでぃかる・ぐっど・すぴーど ◆hqLsjDR84w :2012/04/06(金) 07:53:50.32 ID:tK/+mrck



【B−6 モチノキ森街駅/一日目 午前】

【植木耕介】
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:『花鳥風月(セイクー)』
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。流を待っていたとこまで戻る。


【ユーゴー・ギルバート】
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。流を待っていたとこまで戻いやぁぁぁあああああっ!
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません。


209 : ◆hqLsjDR84w :2012/04/06(金) 07:55:12.51 ID:tK/+mrck
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。


電車の話を前に投下しましたけど、運転手に触れてなかったのにこの間気付いたんです……w

210 :創る名無しに見る名無し:2012/04/07(土) 18:27:58.81 ID:cW+Os5Sw
投下乙
うえき何やってんだよwww
まともな奴ほど振り回される傾向にあるな……w

211 :創る名無しに見る名無し:2012/04/08(日) 23:04:18.01 ID:0idlT1WX
107 名前:週刊少年ななしさんデー[] 投稿日:2012/04/08(日) 03:51:25 ID:spGZBr12
せっかくの投下なのに規制だった……
よろしければ、どなたか転載してください


投下乙
いかん!ユーゴーが吐きキャラになってしまう!
でもうえきが本調子になってきたのは嬉しい

212 :創る名無しに見る名無し:2012/04/09(月) 00:47:55.87 ID:R1qOrrDc
投下乙です
ユーゴー、無事に帰れたらなんか逞しくなってそうだなw
とりあえず頑張れ(生温かい目で)

213 :創る名無しに見る名無し:2012/04/19(木) 17:57:56.09 ID:IRXtB9sP
投下致します

214 :撤収――天秤にかけた結果 ◆6LcvawFfJA :2012/04/19(木) 17:58:52.30 ID:IRXtB9sP
 ゴーストスイーパーという職業に必要なのは、霊力の強さや霊能に関する知識のみではない。
 無限に湧いて出る物ではない霊力をここぞという時に温存する為には、純粋な身体能力も不可欠。
 そして霊の溜まり場とは大抵がそこにいるだけで体力を奪い取っていくので、スタミナも必須。
 しかし、それらよりも重要な要素が存在する。
 それは、状況を冷静に認識し的確な一手を導き出す知力である。
 その他の全てを兼ね備えていたところで、これが無くては二流止まり。
 故に、一流のゴーストスイーパーの中でもさらに頂点にいる美神令子は、類稀なる知力を持ち合わせているのである。
 “超一流”の、“日本屈指”の、“世界最高クラス”の、“S級”の、ゴーストスイーパーであるのだから。
 その頭脳で以って、美神令子は現状を打破する方法を模索する……!


美神令子様「かくかくしかじか。こういう事だったのよ!」

変な格好の筋肉男「成程。誤解をしていた」

金髪坊や「綺麗なお姉さん、ごめんなさい」

スーツのオヤジ「申し訳ない。美神様。誤解料一千万円を振り込んでおきました」

変な格好の筋肉男「俺もだ。ついでにこの金塊も持って行ってくれ」


(なるッッかあああああああああああああああああああああああ!!)
 浮かんだのがあまりに都合の良い展開すぎて、美神は自ら否定する。
 美神令子、優れた知力の持ち主には間違いないのだが、意外に逆境に弱い女である。
 そう、逆境。
 それが問題なのである。
 美神の眼前にいるのは、ボディスーツを纏った筋肉質な男。
 彼が戦闘態勢を取りながらこちらの出方を待っている理由は、美神にもよく分かっていた。
 霊力を集めて念じるだけで稲妻を射出できる召雷装置“ヴァジュラ”、そんなものをへたり込んでいる子供に向けていれば、勘違いされても仕方がない。
 視線を動かしてみると、へたり込んでいた少年は、筋肉質と同行していた中年男性に抱きかかえられていた。
(まいったわねー……。
本当の事話しても、さっきの妄想みたいに上手くいく筈無いし……。
大体、話も聞かずに戦る気満々ってどうなのよ。
子供なんか守っちゃうヒーローの癖してさぁ)
 筋肉質な男から事情を聴く気配が消えたのは、美神が衝動に駆られて怒鳴りつけたからなのだが。
 きちんと分かっていながら、美神は目を背ける。
 都合の悪い事は、基本的に放置。
 それが、美神令子の生き方である。
 自分を棚上げして他人に毒づきつつ、美神は思考を巡らす。
 相手がヴァジュラを発動させた隙を狙う心積もりらしいのは、既に分かっている。
 先に動けば雷で迎撃される恐れがあるのだから、カウンターを待つのは当然だ。
 ヴァジュラの効果を知っている相手なので、狙いは比較的読み易い。
(つってもまー時間稼いでると気付いてるだろうし、あんまりゆっくりもしてられないけど……。
あーもう本当に……、代わりに言い訳考えてくれないかしら)
 無理に決まっているのだけど。
 脳内で付け足してから、再度現状を顧みる。
(人がせっかく! 一銭の足しにもならないのに! ただただあの爺の思惑を覆してやりたいってだけで!
名前も知らないガキを! 柄にも無く! 助けてあげようと思ったのに!
ちょっと話で聞いてたゼオン・ベルに似てて! ビックリしただけじゃ! ない!)
 思い返してみれば、名簿にはゼオンと同姓のガッシュ・ベルという名もあった。
 ならば様子が似ているのも頷ける。
 いくら縁者に恐ろしい者がいたとしても、血縁関係があるだけにすぎない。
 そこまで考えてみて、
(……あら?)
 何かが引っかかった。
(そういえば……?)
 再度、視線を子供に移動。
 先程と同じく、中年に守られるように抱きかかえられている。

215 :撤収――天秤にかけた結果 ◆6LcvawFfJA :2012/04/19(木) 17:59:26.31 ID:IRXtB9sP
(…………あれ?)
 高まる鼓動。
 伝う冷や汗。
 震える口元。
 乱れる呼吸。
「すぅぅぅ……はぁー……」
 深く、吸気。
 ついで呼気。
 呼吸が乱れた状態のまま、今出た結論を脳内で復唱。

(あのガキが保護されてるなら、説明なんてしなくていいじゃない!!!!)

 根本的な過ちであった。
 “説明したところで分かってもらえる道理がない”? 確かに正しい。
 正しいが、そもそも“説明しなくてもいい”。
 “分かってもらえなくても構わない”のだ。
 何故なら、守るべき子供はすでに保護されているのだ。
 ボランティア慣れしていない自分なんかより、彼等に任せた方がよっぽどマシだろう。
 自ら子供を守りたい物好きがいるのなら、金にならない仕事など極力したくない自分が出る意味はない。
「あっ、あれは!」
 美神が空中を指差して言うと、信じられない事に全員がそちらを見た。
 酷く在り来たりな嘘であり、美神自身もまさかこれに引っかからないと思っていたので、もう七つほど過程を重ねるつもりだったのだが。
 ともあれ引っかかってくれたのなら、それはそれで良し。
 一瞬の隙を突いてヴァジュラを蔵王に収納し、異なる蔵王から空飛ぶ箒“青き稲妻”を取り出す。
「撤収ーーーー!」
 筋肉質男が向き直るのを待たず、美神はジャン・ジャックモンドを置いてきた方へと飛び去って行った。



「やられたッ!!」
 怒りを露に石ころを蹴飛ばすのは中年男、兜光一だ。
 あんな、小学生でも騙されないような嘘に騙された。
 先刻、海へと飛び去って行く“ホワイトラビット”を発見した所為で、もしやと思ってしまったのだ。
「……さっきの武士だったか? ARMSを埋め込まれたとかいう」
 兜が肯定すると、“AMスーツ”を纏った男、暁巌が続ける。
「あいつも、電撃を纏ってたよな。
そしてあの嘘。あんなふざけた嘘で騙せる確証があったって事は、俺達が武士を見た可能性があるって知ってたから……か?」
 兜は目を丸くした後、暁に掴みかかる。
「おい、ってことは……」
「落ち着けよ、兜。可能性があるってだけだ」
「……落ち着いて、られるかよッ!」
 苦々しい表情で、兜は吐き捨てる。

「あの女が……ッ! ヴァジュラで武士に襲いかかったかもしれねえってのにッ!!」

 河原に怒声が響き、傍らにいた子供の肩が震えた。
 それを見て、ようやく冷静になる兜。
 彼自身想定外の大声は、子供を怯えさせるには十分なものだったかもしれない。
 十分怖い目にあっただろうに、やっと現れた助けがこの様でどうなるのか。
 優しい言葉をかけてやるべく、慌てて子供の方に駆け寄っていく。
(何やってんだ、俺は……ッ!)
 三十路が見えてきてなお、兜が抱いている夢は“正義の味方”。
 そう、“正義の味方”なのだ。
 決して“悪の敵”などでは無い。
 憎しみに駆られて守るべき子供を怖がらせるなど、“正義の味方”失格だ。

216 :撤収――天秤にかけた結果 ◆6LcvawFfJA :2012/04/19(木) 17:59:42.41 ID:IRXtB9sP
「怖がらなくていい。
俺達……俺が兜で、あいつが暁って言うんだけどな。
俺達は、お前に酷い事なんか」
 絶対にしないぜ。
 微笑みながら断言しようとして、兜は息を飲んだ。
 先程まで震えていた子供が勢いよく顔を上げ、射抜くような視線を飛ばしてきたのだ。
 その瞳を見て兜が知らず連想したのは、オリジナルARMSの少年達の強い意志が籠った瞳だった。



 ガッシュ・ベルは、自分の未熟さを痛感していた。
 目指すと決めた夢を否定され、怯えた挙句に人を殺してしまった。
 あんな夢は見れない。そう、思っていた。
 故に、ずっと黙りこくっていた。
 近付いている女性の気配に気付いても、さらに気配が二人分増えても、女性と二人が険悪な雰囲気になっても、沈黙を続けた。
 自分には何も出来ないと思っていたからこそ、自ら口を開こうとしなかった。
 だが、聞いてしまった。
 兜から零れた憎悪に満ちた言葉を。
 あの女性が、誰かを殺したのだという。
 それは違うと、ガッシュには断言できた。
 女性には、十分ガッシュを殺すだけの時間はあった。
 でも、しなかったのだ。
 顔を見せたら何やら戸惑っていたが、殺せる機会があった事に変わりは無い。
 いっそ殺されてもいいとの考えから無抵抗であった為、よく分かる。
 ガッシュは、その事実を指摘していいのか迷っていた。
 もう夢を目指せないと思っていた。余計な事はしない方がいいと思っていた。
 しかしその所為で、自分が動かなかった所為で、悪人でない者達が決裂することになる。

(それは……、それだけは我慢ならんッ! いや、してはならんッ!)

 もしかしたら、本当に自分は何もしない方がいいのかもしれない。
 夢を見る資格など無いのかもしれない。
 それでも、自分がいかに責められようと、他人が傷付くのは耐えられなかった。
 望んでいない戦いを強制させられた少女の姿が、脳裏を過る。

(お主のような悲しみを、もう二度と他の誰かに抱かせる訳にはいかんのだ!)

 ガッシュには、その桃色の髪を持つ少女が笑ったような。
 都合のいい想像に過ぎないかもしれないが、確かにそんな気がした。
 涙が零れそうになるのを抑えて、目を見開く。
 兜の方を見上げて、ガッシュは声を張り上げた。

「聞いてくれ! きっとあの女性は悪い奴ではないのだ、兜ッ!」

217 :撤収――天秤にかけた結果 ◆6LcvawFfJA :2012/04/19(木) 18:00:13.36 ID:IRXtB9sP

     ○

 剛力番長の猛攻に、スプリガンのジャン・ジャックモンドとて相貌を崩さざるを得なかった。
 一撃の重さはともかく、スピードではジャンが上回っているのだが、いかんせんジャンのダメージは深刻である。
 必要最低限の動きで攻撃を凌ごうとするも、いつかは綻びが訪れるものだ。
 剛力番長のアッパーで以って、両腕のガードが根こそぎ払われる。
「拙……ッ!」
 拙いと言い終える事さえ出来ず、露になったボディに掌底が叩き込まれる。
 骨が幾つか砕ける音が、ジャンの思考を埋め尽くす。
 受け身を取ることさえ叶わず、森に突っ込んでいく。
 小枝を合計五十ほど粉砕してようやく、体にかけられた運動エネルギーが零となる。
 だがダウンしてられる暇はない。
 一刻も早く立ち上がらねば、追撃が来る。
 話を聞いてくれるような相手じゃないのは、数度やり取りを試みて思い知った。
 しかし、立てない。
 ライカンスロープの再生能力が追い付かないのだ。
 拳を掲げて迫ってくる剛力番長を前に、ジャンは死を覚悟した。
 瞬間、雷鳴が響いた。
 降り注いだ電撃から逃れるべく、剛力番長は飛び退いて距離を取る。

「まーたやられてんの? なっさけないわねー」

 そんな声が響いたのは、上空からであった。
「ていうか何よ。あれ、誰? 何者?」
 休ませる気が無いらしい声に、ジャンは吐き捨てるように答える。
「正義の味方だよ」
「はあ?」
「爺ボコってるのを見過ごせねえらしい」
「ああ……。あんたが爺殴ってたら、そりゃただの非行少年にしか見えないわ」
「てめーに言われたかねーよ! お前だったとしても、親不孝者の馬鹿娘じゃねーか!」
「何ですって!?」



 美神令子の乱入により、戦闘が止まる。
 ようやく機会が生まれたと、才賀正二は剛力番長に話しかける。
「君、あの青年達だが」
 冷静になって考えてみても、やはり違和感しか無かった。
 正二には、ジャンや美神との面識が無い。
 なのに、彼等は正二を悪人と認識している。
 その理由は分からないが、話を聞く限り彼等は決して悪人ではない。
 故に、ひとまず戦闘を止めて話し合いたい。
 正二はそう考えたのだが、剛力番長はそんな正二の言葉を遮る。
「安心してくださいませ! 彼等は、この剛力番長が断罪します!」
「いや、違うんだ! まず、私の話を」
「申し訳ありませんが、彼等を倒すのが先ですわ。
お話はそれからにしましょう」
「待ってくれ! いいから、落ち着いて」
「落ち着いて、正義を実行しますわ!」
 宣言して、剛力番長は一歩踏み出す。

「黙りなさい、悪党達!!」

 正二の言葉に耳を貸さず、剛力番長はジャンと美神の会話に割って入る。
 悪人に仲間がいたという事実が許せないのか、顔を真っ赤にして憤慨している。
「私は、この老人を病院に連れて行かねばいけませんのに!
どうして、こうも世の中には悪人というものが……!」
 その激昂っぷりに、美神は冷や汗を垂らす。

218 :撤収――天秤にかけた結果 ◆6LcvawFfJA :2012/04/19(木) 18:00:46.96 ID:IRXtB9sP
「……話して分かってもらえなさそうな雰囲気ね」
「こっちが事情を説明するまでの間に、二十回は殴ってきやがった」
「あら、説明自体はできたの?」
「全然信じてもらえなかったけどな」
「まあ、非行少年の言う事だものね……」
「るっせえな!!」
 ライカンスロープの治癒力は凄まじく、ジャンはもう立ち上がれるようになっていた。
 もう一度とばかりに倒れ伏している老人を指差す。
「おいお前、もっぺん聞けよ! さっきも言った通り」
 言い切る事は出来なかった。
「悪人の戯言には騙されませんわ!」
 そう言い放ち、剛力番長が飛び蹴りの姿勢を取ったのだ。
 身構えるジャンの肩を叩く美神。
 振り返る暇はないので返事だけして、返ってきた言葉にジャンは目を見開いた。

「ごめん。あたし、パス。じゃーね」

 呆然とするしかないジャンだったが、どうにか咄嗟に剛力番長の飛び蹴りは回避する。
 そして上空を見上げるも、そこにはもう美神の姿はなかった。
 ただ一言。
「あ、ガキは別の参加者が保護してるっぽいから安心して」
 とだけ残して、飛び去っていったのだ。

「ふざけんな、あのアマァァァァ!!」

 絶叫するジャンに、剛力番長は冷たい言葉を浴びせる。

「仲間に見捨てられるとは、悪党に相応しい末路ですわね」

 うるせえ馬鹿。お前も人の話くらい聞け。
 ジャンがそう言いかけたのを抑えることが出来たのは、同時に放送が始まったからである。



【C−6 寺だった瓦礫周辺/一日目 朝(放送中)】

【ジャン・ジャックモンド】
[時間軸]:少なくともボー死亡後。
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[装備]:門構@烈火の炎、翠龍晶@うしおととら
[道具]:白兎の耳@ARMS、武士のリュック@現地調達、閻水@烈火の炎、
     蔵王(空)@烈火の炎、不明支給品0〜1(確認済み)、基本支給品一式×2
[基本方針]:殺し合いには乗らない。高槻涼に会う。
※美神と少しばかり情報を交換しました。
※『才賀正二』に違和感。

【白雪宮拳】
[時間軸]:神闘郷にて暗契五連槍を撃破し脱出した後。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認しているか不明)
[基本方針]:このゲームを壊す。ゲームにのった悪人を見つけたら倒す。
※木蓮の名前を小金井薫と勘違い。

【才賀正二】
[時間軸]:25巻、エレオノ―ル誕生直後
[状態]:全身ダメージ大(治癒中)、混乱
[装備]:あるるかん
[道具]:ランダム支給品0〜2(確認済み)、基本支給品一式
[基本方針]:妻と娘を守る。

219 :撤収――天秤にかけた結果 ◆6LcvawFfJA :2012/04/19(木) 18:01:15.15 ID:IRXtB9sP



     ○

 暁巌の運転するハイエースに、兜光一とガッシュ・ベルの二人は乗っていた。
 ガッシュの話を聞く限り、美神令子が殺し合いに乗っている可能性は限りなく低い。
 なのに逃げたのはおそらく暁と兜の剣幕の所為だろう、というのが結論だった。
「ありがとよ、坊主。
お前が話してくれなきゃ、誤解しっぱなしだったかもしれねえ」
 兜にウヌと返してから、ガッシュは思い出したように告げる。
「坊主ではないのだ! 私の名前は、ガッシュ! ガッシュ・ベルと言う!」
「おっと、そうかそうか。ありがとよ、ガッシュ」
「ウヌ。そんなにお礼を言われるようなことはしていないのだ!」
「いいや、良い仕事だったぜ」
 暁は運転中であるので、前方を見たままだ。
「ガッシュが勇気出してくれなきゃ、間違ったままだったんだからな」
「勇気……」
 言葉を噛み締めるように、ガッシュは静かに呟く。
「私は、これからも勇気を振り絞っていいのか……?」
 兜は首を傾げてから、ガッシュの髪をぐしゃぐしゃと描き回す。

「いいに決まってんだろ! 俺なんか、まだ現役で正義の味方目指してんだぜ!
お前みたいなガキが振り絞らなくてどうすんだよ!」

 暫し放心してから、ガッシュは顔を綻ばせ、それからハッとする。
「だからお前じゃなくてガッシュなのだ!」
「おう、悪い悪い」
 コロコロと表情を変えるガッシュに、兜はつい頬を緩めてしまう。
 その直後、
『――六時を迎えた。先に説明した通り、放送を行う時間だ』
 放送が始まり、一瞬のうちに車内に緊張感が広がった。



【C−6 ハイエース内(美神寺の向かった方を目指している)/一日目 朝(放送中)】

【ガッシュ・ベル】
[時間軸]:コルル戦直後
[状態]:肩に痛み、頬やひざに擦り傷。フェイスレスによるザケル使用で精神が弱っています。今のところ自覚はなし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:自分が夢を目指せなくても、他の誰かが悲しむのは見過ごせない。

【暁巌】
[時間軸]:単行本10巻、聖櫃終了後
[状態]:健康
[装備]:AMスーツ@スプリガン、スティンガーミサイル1/1@現実、予備弾頭30発@現実
[道具]:基本支給品一式、カロリーメイト9000キロカロリー分(一箱消費)@現実、ランダム支給品×1(未確認)
[基本方針]:キース・ブラックへの反抗、生還。

【兜光一】
[時間軸]:単行本12巻、コウ・カルナギに重症を負わせられ病院へ搬送中
[状態]:健康
[装備]:拡声機@現実、TOY○TA・ハイエース@現実
[道具]:基本支給品一式、H○NDA・スーパーカブ110@現実
[基本方針]:高槻涼ら知り合いとの合流し、脱出。

220 :撤収――天秤にかけた結果 ◆6LcvawFfJA :2012/04/19(木) 18:01:30.74 ID:IRXtB9sP



     ○

 キース・ブラックによりもたらされた一分間の猶予中。
「ん?」
 青き稲妻を走らせていた美神は、ふと地上を見下ろした。
 何者かの気配を感じたと思えば、地上を二体の人形が歩いていた。大きい方は、顎が強烈に曲がってしまっている。
 行く当てがあるのかは分からないが、彼等は南下していた。
 そのまま進路を変えなければ、きっと寺に行き当たるだろう。
 放っている死臭から察するに、おそらく相手は魔族であろう。
 さて、あの人形達の接近をジャン達に教えてやるべきか。
(……行くわきゃねーでしょ)
 思考したのは一瞬だけ。
 戻れば、あの勘違い少女に殴りかかられるかもしれないし、ジャンも置いて行ったことを許してはくれないだろう。
 とはいえ、それらはあくまで小さな理由。
 最大の理由は、他にあった。

(一銭の足しにもならないのに、魔族の相手なんかしてられるかっての)

 日本屈指のゴーストスイーパーは、お金にシビアなのである。



【C−5 南部上空(青き稲妻に乗っている)/一日目 朝(放送中)】

【美神令子】
[時間軸]:少なくとも平安京から帰還した後。
[状態]:疲労(小)、雷撃のダメージ、すり傷。
[装備]:青き稲妻@GS美神極楽大作戦!!
[道具]:ヴァジュラ@スプリガン、鍋@現実、土手鍋@金剛番長、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いには乗らない。脱出するべく首輪を調べる。アシュタロスには関わらない。
※ジャンと少しばかり情報を交換しました。
※美神は土手鍋の説明書を名前までしか読んでいません。
※『才賀正二』を危険人物と認識しました。



【C−5 南部/一日目 朝(放送中)】

【パウルマン&アンゼルムス】
[時間軸]:本編登場前。
[状態]:損傷(小、パウルマン)、顎が曲がっている(パウルマン)
[装備]:ヴァルセーレの剣@金色のガッシュ(パウルマン)、対AMスーツ用特殊ライフル(弾丸:15)@スプリガン(アンゼルムス)
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:人間と人形破壊者を殺害しつつ、フランシーヌ人形が笑える方法を探す。
※パウルマンとアンゼルムスが一定時間離れると首輪が爆発します。詳しい距離、時間は不明。

221 : ◆6LcvawFfJA :2012/04/19(木) 18:02:36.71 ID:IRXtB9sP
ここまでです
予約破棄してから書き上げるまで二十日ほど書けてしまい、申し訳ないです

222 :創る名無しに見る名無し:2012/04/19(木) 20:20:27.34 ID:7YOCwPZa
投下乙です!
横島とおキヌちゃんはやりたい放題だけど、美神さんは大人しいなあ。そう思っていた時期が俺にもありました……
素直にいい人として動いてくれる御方じゃねーよなあw
男連中が対主催としていい方向に動かそうとしてるのに、美神さんといい剛力番長といいよお!w


223 :創る名無しに見る名無し:2012/04/19(木) 21:37:07.03 ID:K1gDaWB+
しかしまあ一応兜たちの誤解は解けて良かった
ジャンは頑張れw

224 :創る名無しに見る名無し:2012/04/20(金) 16:22:05.23 ID:fhLjK6PQ
投下乙
美神さんと剛力番長……w
ガッシュと兜暁ペアが一緒になったのは楽しみだし、正二とジャンがひとまず話聞こうとしているのに、こいつらと来たら!w
どっちも原作通りな分、余計に困るw

225 : ◆hqLsjDR84w :2012/04/27(金) 05:39:39.26 ID:YOig2vbd
投下します。

226 :オヤジよりさらに年上のばーさん ◆hqLsjDR84w :2012/04/27(金) 05:42:57.41 ID:YOig2vbd
 ◇ ◇ ◇


 余計な会話を交わすことなく、蒼月紫暮とルシール・ベルヌイユの二人は黙々と歩んでいる。
 一見ただ目的地を目指して進んでいるだけのようだが、実際のところは違う。
 五感を研ぎ澄ませ、周囲に注意を払うのを忘れてはいない。
 一度死体を発見して以降は、それまで以上に意識を張り詰めている。
 にもかかわらず彼らに疲労の色が見えないのは、どちらもただの人間ではないゆえであろう。
 片や光覇明宗に属すベテラン法力僧、片や二百年以上生き続けている人形破壊者(しろがね)。
 たかだか数時間神経を尖らせ続けたくらいで、疲労などする道理がない。

 しばし歩き続けて、ようやく森林を抜け出す。
 まだ太陽は姿を見せておらず、夜が明ける気配はない。
 それでも、彼らは眼前に広がる住宅街を視認することができた。
 紫暮は妖退治の経験により、ルシールはしろがね視力により、闇夜ごときに目を奪われはしないのだ。

「…………ふん」

 建ち並ぶ民家を一瞥したのち、ルシールはある一軒に進んでいく。
 その行動に僅かに怪訝そうにしてから、なにか納得したかのように紫暮もあとを追う。
 敷地内に入りながらも家屋内に上がり込みはせず、ルシールは壁全体を眺めていく。
 壁を伝うようにしてガスのメーターを発見し、その表示を確認する。
 行動には出さず、ルシールは胸中で頷く。
 もう一つのほうを探そうとして、紫暮から声をかけられる。

「電気メーターを見る限り、どうも電気が使われた形跡はありませんな。
 そちらはどうです、ご婦人?」

 いちいち説明せずとも、なにをしているのか伝わっていたらしい。
 ルシールは同行者の評価を少しばかり上げるが、わざわざそのことに触れはしない。

「こちらもさ。
 庭は綺麗に整備されているのに、電気もガスも使われていない。
 …………ふん。これでは、まるで素人の繰るマリオネットだね」
「と言いますと?」
「チグハグ、ということさ」

 短く答え、ルシールは玄関に戻る。
 ノブを捻って引いてみると、なんの抵抗もなくドアが開く。
 玄関には、いくつもの靴が無造作に置かれていた。
 そして傍らの下駄箱を見てみると、上段には男性用の靴が、中段には女性用の靴が、下段には幼児用の靴が並んでいる。

「幼い子どもを持ちながら、この夜中に施錠していないのも不可解だね」

 なるほど、と紫暮は静かに頷く。
 彼の一人息子・潮はいまでこそ生意気盛りの中学二年生であるが、もちろんかつては幼かった。
 だからこそ、幼い子どもがいるはずなのに鍵のかかってない民家には、違和感を抱かざるを得ない。
 そんな紫暮の内心を知ってか知らずか、ルシールは照明を点けずに民家内に上がり込んでいく。
 靴を脱がずに、土足のままで。
 それが西洋の風習ゆえでなく、いつなにが起こっても即座に走れるようにであるのは、紫暮にもよく分かった。
 分かっていながら、つい靴を脱いで玄関に揃えてしまうのだった。

227 :オヤジよりさらに年上のばーさん ◆hqLsjDR84w :2012/04/27(金) 05:43:25.57 ID:YOig2vbd

 まずルシールが向かったのは、玄関をまっすぐ進んだところにあるリビングである。
 いざというときにすぐ放てるようベレッタを左手に携えたまま、右手でドアを開く。
 しろがねの優れた感覚ゆえ予想できていたが、そこには誰も潜んでいなかった。
 部屋の真ん中には大きなテーブルが一つあり、その周りにはイスが四つ。イスの一つは幼児用のものだ。
 イスの数から、幼児とは別に少し大きな子どもがいるのかと思いかけるも、ルシールはすぐにその考えを否定する。

(一つは来客用かね……)

 靴から推測する限り、この家は三人暮らしである。
 かつて、まだ人間だったころのルシールの家族とは違う。
 浮かびかけた過去を振り払うように、食卓から視線を逸らす。
 テレビ、DVDプレイヤー、オーディオ、クーラーなど、リビング内だけでもいくつもの電子機器が散見される。
 ルシールの背後で、紫暮が眉をひそめる。

「おかしい、ですね」

 口には出さずとも、ルシールも同じ感想であった。
 それらの電子機器に電源が入っていないことを確認しても、やはり腑に落ちない。
 次に向かった書斎にて、デスクトップPCを発見。しかしまたしても電源はオフ。 
 寝室にあったテレビと電気スタンドも、子ども部屋にあったゲーム機も同様であった。
 他のすべての部屋を見て回ってから、ついに最後に残った台所に入る。
 電子レンジも、オーブンも、電気ポットも、電源は入っていない。
 ガスコンロもあるにはあったが、やはりスイッチを入れねば火は点かない。

 ここまでは、別に矛盾はない。
 人がいた痕跡があるにもかかわらず、電気やガスに使われた形跡がないのは不自然だが、それだけだ。
 あくまで不自然なだけであり、問題はない。
 この家に誰一人としていないのも、にもかかわらず施錠されていなかったのも、不自然なだけにすぎない。
 『説明し難い』だけであって、『説明不可能』ではない。

「こいつが、ラストかい」

 おそらく紫暮にはなく、自分自身に向けた言葉なのだろう。
 ルシールは静かに呟いて、最後の電子機器――冷蔵庫に手を伸ばす。
 がちゃりと音を立てて、冷蔵庫が開けられる。

 ――そして溢れ出した冷気が、二人の肌をくすぐった。

 十秒ほど経過してから、紫暮はようやく自分が呆然としていたことに気付く。
 知らぬ間に口内に溜まっていた唾液を、慌てて飲み込む。
 流れてくる冷気は、あまりにも雄弁であった。
 僧衣の下で流れる汗が、ひどく冷たい。
 冷蔵庫は動いていた――にもかかわらず、電気とガスのメーターが示していたのは『未使用』。

 不自然などという言葉で片付けられないのは、もはや明白であった。
 『説明し難い』を越えて、『説明不可能』の領域に至っている。

 ――つじつまが、合わない。


 ◇ ◇ ◇

228 :創る名無しに見る名無し:2012/04/27(金) 05:43:48.08 ID:0XShO2yO
当方に支援の用意有りッ!

229 :オヤジよりさらに年上のばーさん ◆hqLsjDR84w :2012/04/27(金) 05:44:19.22 ID:YOig2vbd


 それから五軒の民家を見て回り、分かったことがある。
 冷蔵庫以外の電子機器に電源が入っている民家もあったが、メーターはすべて共通して『未使用』となっていた。
 メーターすべてが故障している可能性が浮かんだので、試してみることにした。
 照明以外のすべての電子機器の電源を入れ、メーターが上がるか否かを確かめてみたのだ。
 一時間ほど放置してみると、メーターはかなり上昇していた。
 その結果を前にして、さすがの歴戦の猛者といえどつい言葉を失ってしまう。
 しばらくして言葉を選ぶようにしながら、紫暮が切り出す。

「これは……いったい、どうなってるんでしょうね。
 まるで殺し合い、プログラムとあの男は言っていましたか。
 それが始まった時点で……いや。あくまで推測の域を出ませんな
 常識的に考えればそんなはずないのですが、うむ……だが…………」
「そうだね」

 紫暮の考えを見透かしているかのように、ルシールが肯定する。

「プログラム開始直後から、すべてのメーターが動き出したかのようだよ」

 自身の抱いていた仮説と同じ内容に、紫暮は目を見開く。
 しかしその考えに奇妙な点があることも、紫暮には分かっていた。

「ですが、そう考えるとおかしいのですよ。
 私達に配られた地図が正しければ、プログラムとやらの舞台には民家が多すぎる。
 最初にいた遊園地のような施設も、両手で数えきれないくらいある。
 そのすべてのメーターをリセットするには手間がかかりすぎるし……そんなことをする意味がない」

 くっくっく――と。
 紫暮の反論を受けて、ルシールは笑った。
 昇りかけた日の光が不釣り合いなほどに、曇った笑い。
 低く、重く、暗い。

「たしかに、わざわざ『リセットした』ならだろうね。
 だけど考えてごらんよ。
 この舞台自体が『プログラムのために作られた』としたら、プログラム開始直後から動き出すのは自然じゃないかい?」

 思わず紫暮は息を呑むも、ほんの一瞬だけだ。

「失礼ながら、その仮説は突飛すぎるかと……
 町を丸ごと一つ作り出すなんて、とても常識的には――」
「それだよ」
「え?」

 ルシールの顔から、笑みが消えた。
 真剣な表情になり、銀色の眼差しが鋭くなる。

「知らぬ間に連れ去られ、知らぬ間に眠らされ、知らぬ間に移動させられて。
 そんな状況で、まだ『常識』なんてものを信じられるのかい?
 まァ、アンタがただものじゃないのは分かるし、『アンタの常識』は『世間一般の常識』からかけ離れてるんだろう。
 だとしても『ここでの常識』はさらにもっと遠いところにある――どうして、そう思えないんだい?」

230 :創る名無しに見る名無し:2012/04/27(金) 05:44:37.69 ID:0XShO2yO
 

231 :オヤジよりさらに年上のばーさん ◆hqLsjDR84w :2012/04/27(金) 05:44:50.17 ID:YOig2vbd

 紫暮には、反論することができなかった。
 ルシールに言われた内容は、彼自身も分かっていた。
 分かっていたのだが――実践できていなかったのだ。
 浮かんだ仮説をありえないと自ら否定してしまっていた。
 自分でも気付かないうちに、年を取っていたのだろうか。
 一人息子の姿が、不意に紫暮の脳裏を掠めた。
 もしも彼だったならば、浮かんだ仮説を自らの常識に当てはめたりしないだろう。
 それはただ無知ゆえにであるのだが、しかし若さであり強さでもある。
 やはり、潮は自慢の息子である。
 意図せず、紫暮の口元は緩んでいた。
 白く染まった髪を掻き毟りながら、ため息を吐き捨てる。

「そうですね。
 まったく、私としたことが焦っていたらしい。
 ご婦人ほどではありませんが、私もまだまだ老け込むには早いというのに」

 再び浮かべた笑みを隠すように、ルシールは紫暮に背を向ける。

「まったく。頭が冷えなきゃ置いて行くつもりだったんだけどね」
「それはよかった。ご婦人を一人にするワケにはいきませんからな」

 小学校を目指すべく、北上する。
 数歩進んだところで、紫暮は疑問を口にすることにした。

「しかしご婦人、よくあんな発想に至りましたね」

 それに対し、ルシールは振り返らずに答える。

「なに。遊びに無駄な手間をかけるような輩とは、ちょっとばかし縁があってね」



【B−2 住宅街/一日目 早朝】

【ルシール・ベルヌイユ@からくりサーカス】
[時間軸]:真夜中のサーカス襲撃直前
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM84
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜2(確認済み)
[基本方針]:ドットーレを最優先で探し、殺す。小学校へ行く。


【蒼月紫暮@うしおととら】
[時間軸]:詳しくは不明だが、とらとは面識がある状態、かつ白面を倒す前からの参加
[状態]:健康
[装備]:鍋の蓋
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜2(未確認)
[基本方針]:潮、ドットーレを探す。小学校へ行く。
[備考]:ルシールを少しだけ警戒しています。

232 :創る名無しに見る名無し:2012/04/27(金) 05:45:48.80 ID:0XShO2yO
 

233 :二百年も待ったのだ ◆hqLsjDR84w :2012/04/27(金) 05:45:59.04 ID:YOig2vbd
 ◇ ◇ ◇


 蒼月紫暮とルシール・ベルヌイユの二人は、小学校に向かう道中で放送を聞くことになった。
 両者ともによく知る名が読み上げられたのだが、彼らは決して歩みを止めない。
 それどころか僅かに速度を緩めることすらせず、放送前と変わらぬ速度で進み続ける。

「多い、ですね」
「そうだね」
「殺し合いに乗り気なものが多い、ということでしょうか」
「だろうね」

 会話はこれで切り上げられ、二人の間を静寂が広がる。
 自分の知る名が呼ばれたことは、相手に悟られないようにしよう。
 そんな両者の思惑は、しかし失敗に終わっていた。
 そして、その事実にはどちらも気付いていなかった。


 ◇ ◇ ◇


 目的地である小学校のすぐ近くまで到着し、二人は足を止める。
 紫暮は法力僧の突出した視力で、ルシールは人形破壊者(しろがね)の優れた視力で、小学校の内部を覗き込む。
 そんな行為に及んでいるのには、きちんと理由がある。
 遠目にも分かるほど明らかに、小学校が見る見る崩壊しているのだ。
 強大な力を持つなにものかが、暴れ狂っているとしか思えない。
 紫暮は妖(バケモノ)を、ルシールは自動人形(オートマータ)を、それぞれ想定して目を凝らす。

 はたして、予想が的中したのはルシールのほうであった。

 ふくよかな身体を覆うのは、道化の衣服。
 黒いハットに、同じく黒いマスク。
 長く伸びた顎ひげと口ひげ。

 ――破壊を巻き起こしていたのは、ルシールの息子の仇・ドットーレであった。

 その姿を捉えた瞬間、ルシールの脳内に二百年前の惨劇がフラッシュバックする。
 過去の記憶が憎悪に転じ、さらに怒りが入り混じり、最終的に殺意へと至る。

234 :二百年も待ったのだ ◆hqLsjDR84w :2012/04/27(金) 05:46:20.08 ID:YOig2vbd

「ドットーレ……ッ!」

 意図せず零れた自身の声により、ルシールは平静を取り戻す。
 この殺し合いに呼び出される直前ならばともかく、現時点では打つ手がない。
 殺しようがないし――絶望させることだってできない。
 自分にその事実を認識させ、少しずつ頭を冷やしていく。
 憎悪はかけらも霧散させることなく、すべて抱え込んだままで。

「知った相手ですかな?」
「ああ、そうだね」

 尋ねてくる紫暮に返す声は、平時と変わらぬ落ち着いたものだった。

「とてもいまの状態で勝てる相手じゃないよ。
 もっと道具を揃えて準備した上でないと、ね。
 なにがあったのか知らないが、運がよかったよ。
 アイツが逆上して暴れている間に、距離を取ってしまうよ」

 自分自身に言い聞かすように、ルシールは言い切った。
 いま焦っては仕方がない。
 確実に、仇を取るのだ。
 二百年も待ったのだから――

 身体を疾風としたルシールを追いつつ、紫暮は思考を巡らす。
 妖に匹敵する死臭の持ち主を前に、逃亡以外の選択肢がない。
 そんな現状が、とても口惜しかった。
 せめて法具があれば――と、手元にない道具に期待をせずにはいられない。
 ルシールの抱いた殺意に勘付いていながら、いまは素知らぬ顔をするしかないのだ。



【B−2 小学校/一日目 朝】

【ドットーレ@からくりサーカス】
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員殺して清磨に『笑顔』を届ける。あの人間(横島)を八つ裂きにする。



【B−2 小学校付近/一日目 朝】

【ルシール・ベルヌイユ@からくりサーカス】
[時間軸]:真夜中のサーカス襲撃直前
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM84
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜2(確認済み)
[基本方針]:ドットーレを『確実に』殺す。そのためなら、多少遅れてもいい。


【蒼月紫暮@うしおととら】
[時間軸]:詳しくは不明だが、とらとは面識がある状態、かつ白面を倒す前からの参加
[状態]:健康
[装備]:鍋の蓋
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜2(未確認)
[基本方針]:潮を探す。ドットーレからは離れる。慣れた法具が欲しい。
[備考]:ルシールを少しだけ警戒しています。ドットーレへの殺意に勘付きました。

235 :創る名無しに見る名無し:2012/04/27(金) 05:47:47.83 ID:0XShO2yO
 

236 : ◆hqLsjDR84w :2012/04/27(金) 05:48:48.61 ID:YOig2vbd
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

wikiに掲載する際の話ですが、
『オヤジよりさらに年上のばーさん』は『第一放送までの本編SS』のページに、
『二百年も待ったのだ』は『第二放送までの本編SS』のページに、
それぞれ収録します。
なんか、ややこしいことしてすみません。

237 :創る名無しに見る名無し:2012/04/27(金) 05:52:27.86 ID:0XShO2yO
投下乙です
ばあちゃんとおっちゃんは落ち着いた雰囲気を持ってるな
冷静に物事を分析したりしてるし
ドットーレさんに対しても無謀に特攻かまさずにいるのが素敵


238 :創る名無しに見る名無し:2012/04/28(土) 17:23:25.16 ID:McByMKGt
投下乙
放送に対して大げさなリアクションをしないのがいいなあ
心中穏やかじゃないだろうに

239 :創る名無しに見る名無し:2012/04/29(日) 20:47:35.69 ID:57se4xCk
予約たくさんきてるあげ!

240 : ◆hqLsjDR84w :2012/04/29(日) 23:03:41.26 ID:174ruN7m
楽しいGWになりそうだw

241 :創る名無しに見る名無し:2012/04/29(日) 23:04:22.01 ID:174ruN7m
げえっ、トリップ!
はい、書きます!

242 :創る名無しに見る名無し:2012/04/30(月) 01:06:56.64 ID:u8PEF6lf
テスト

243 : ◆6LcvawFfJA :2012/04/30(月) 01:15:23.55 ID:u8PEF6lf
投下致します。

244 :問答 ◆6LcvawFfJA :2012/04/30(月) 01:17:19.72 ID:u8PEF6lf
 地上の遥か上空で、とある参加者が浮遊していた。
 アシュタロスに生み出されし蛍の化身、ルシオラである。
 立腹した様子を隠そうともせず、自分のいる高度よりさらに上を睨み付けている。
「こんのぉ……!」
 怒気を含んだ声とともに、ルシオラの掌に光が集っていく。
 ルシオラは、アシュタロスの直属部隊として作られた。
 故に当然ながら内包する魔力は、標準的な魔族とは比べ物にならぬ程膨大。
「喰らいなさいッ!」
 躊躇も、手加減も、微塵もしていない。
 桁外れの魔力を絞り出し、ルシオラは全力の光線を放つ。
 上級魔族や一流ゴーストスイーパーでなければ、一発で蒸発してしまう。
 それほどの威力が籠められていたのだが、光線は何かに阻まれて霧散する。
 渋い表情になるルシオラ。
 地図を配られた時点で、違和感自体はあった。
 切り取られたかのように真四角の地形。
 そんなものは自然界に存在し得ない。
 奇妙に思っていながら気にも留めていなかったものの、気に留めておくべきだったようだ。
 傷の回復が遅い事から思い至ったのだが、どうやら正解であったらしい。
 地形が真四角なのではなく、覆うように“真四角の結界が張られている”のだ。
「……くっ」
 判明した事実に、ルシオラは歯噛みする。
 結界に閉じ込められ、回復力を弱められているのが気に喰わない。
 だが彼女が何より憤慨しいるのは、また別だ。
 “主のアシュタロスを封じ込めている”のが、自分自身が閉じ込められている事よりも腹立たしい。
 感情を露に、神剣“竜の牙”へと魔力を通すルシオラ。
 槍状に変形するのを待ち、竜の牙を思い切り振りかぶる。
 しかしやはり結界に刃は刺さらず、力を籠めた自身の手が痺れるだけ。
 これで、明らかになった。
 現状では結界に対処のしようが無い。
「一体何をしているのよ、私は……」
 先の放送で十六の名前が呼ばれたが、十六の中にルシオラが殺害した者はいない。
 これまでたったの二人にしか遭遇せず、その二人さえ殺し切れていなかったらしい。
 “空白の才”の木札に文字を綴る為の道具も、在処すら分かっていない。
 結界に気付いたのもようやくである。きっとアシュタロスは、この場に転送されて早々に勘付いただろうに。
 アシュタロスが悲願を達成する為だけに生み出されたというのに、全く役に立っていないではないか。
 怒りの矛先の向きは、いつの間にかキース・ブラックから自分自身に変わっていた。
 沈んだ気持ちに対応するように、ルシオラの高度が少し落ちる。
 遥か上空からでも地上を眺められるくらいの視力は持ち合わせているが、実際に八十人の中二人しか発見出来ていない。
 もう少し低くから見下ろすようにするべきかもしれない。
 ルシオラは重力に抵抗せず、ゆっくりと落下していった。
 そうしてから暫く経ち、ルシオラは奇妙な景色を目の当たりにする。
 ある建造物が半壊しているのだ。
 地図を思い返してみると、小学校という施設だった筈だ。
 その屋上に、人影がある。
 一気に落ち込んでいた感情が吹き飛ぶが、接近してみて気付く。
 あれは、生物ではない。魂を与えられただけの無機物だ。
 誰が作ったかなど、考えるまでも無かった。
 人間界にはロボットを生み出せる奇才がいるし、神界には意思を持つ無機物も少なくない。
 それは情報として聞いており、ルシオラも知っている。
 その上で、断定出来る。
 身に纏う死臭が、魔力と見紛う域まで到達しているのだ。
 ならばあんな物を作り出せるのは、この世界においてアシュタロスだけである。
 危うく錯覚しかけたが、魔力自体は殆ど観測出来ない。
 かなり低級の魔族なのだろう。
 ならばアシュタロスがいるこの場でどう動くべきかを気付いていない可能性もある。
 ルシオラは、手っ取り早く尋ねる事にした。

「ねえ、あなたはどういう目的で動いてるの?」

245 :問答 ◆6LcvawFfJA :2012/04/30(月) 01:17:47.22 ID:u8PEF6lf

     ○

 我に返ったドットーレがいたのは、小学校の屋上。
 横島忠夫に一杯喰われた憤怒のあまり、玄関から屋上までひたすら破壊して回っていたのだ。
 怒り全てが治まった訳では無いが、周囲が目に入らぬ程の激情は静まった。
 そんな折、何者かの気配を感じ取る。
 それ自体は喜ばしい事態なのだが、問題は方向である。
(……上だと?)
 見上げてみれば、珍しい出で立ちの女性が少しずつ降りてきている。
 一見ただ変な格好をしただけの人間だが、そうではない。
 額にある二本の触角は装飾品でなく、額そのものから生えている。
 そもそも人間は飛べない。
(自動人形か)
 自動人形とは、基本的に人体をベースにして、それに何かを組み合わせたようなデザインをしている。
 それに、低級な人形には戦闘力が低い代わりに飛行可能な物がいる。
 そう考えてみると、あの奇妙な衣服も自動人形特有の喜劇役者じみたそれに見えなくも無い。
 故に、ドットーレがこういう結論に至るのは至極当然であった。
 見覚えは無いが、それは先に遭遇した個体も同じ事。
 低級な自動人形を全体把握している訳も必要も、ドットーレには無い。
 近付いてきた理由を尋ねようとし、相手に先を越された。

「ねえ、あなたはどういう目的で動いてるの?」

 一瞬、ドットーレには意味が分からなかった。
 “最古の四人”たる自身への言葉だと理解したや否や、刃の仕込まれた帽子に手を伸ばす。
 そしてそれを振るう寸前で、再び沸点まで到達しかけた怒りをどうにか抑える。
 放送前に遭遇した低級人形の際と同じだ。
 一時とはいえ、憎悪に従ってフランシーヌ人形への敬愛を忘れた自分に、低級人形を罰する資格は無い。
「貴様等は、先程から同じ事を……ッ!
目的など……ッ、そんな物は決まっているッ!!」
 先程と同じ問いに、同じ答えを返す。
 ルシールより浴びせられた言葉や、それを鵜呑みにした自分自身の姿が蘇る。
 唾棄すべき記憶が思い出され、またしても搾り出すように口調になる。
「我らが主……意思を与えてくださったフランシーヌ様! あの御方を笑顔にするッ。自動人形の身体は尽き果てるまでッ、その為だけにある!」
 ドットーレの叫びに、相手は目を見張る。
 こんなところも、先程の人形と同じだった。
 それでいいのかと尋ねられているようで、酷く不愉快だ。
 なぜか、ルシールの罵倒が聞こえてくる。
 ルシールの声を掻き消すように、ドットーレは声量を大きくする。

「あの日より二百年あまり……ッ、ずっと己はその為だけに動いてきたッ!!」

 その宣言が十秒ほど経ち、呆然としていた女性型人形はようやく口を動かす。
「二百年……」
 噛み締めるように復唱する。
 そして考え込むような表情になった後、再び何かを言いかける。
「ねえ、もしあなたが…………」
 僅かに言い淀んでから、意を決したように言い切った。

「たった一年しか生きられないとしたら……それでも、その為だけに動くの?」

 一際大きく、ドットーレの中でルシールの言葉が響き渡った。
 “永遠の歯車奴隷”。
 反響する声を無理矢理振り払わんと、これまで以上の大声を出す。

「笑止!! 無論、その場合であろうとも、己はそうあるだけだ!!!!」

246 :問答 ◆6LcvawFfJA :2012/04/30(月) 01:18:09.15 ID:u8PEF6lf

     ○

 大音声の返事を聞いたルシオラは、それ以上何も言わず小学校から遠ざかるように飛び立った。
 あちらに追いかける意思はないらしく、屋上で立ち尽くしている。
 “フランシーヌ様”と呼んでいたが、それがアシュタロスであるのは明白だ。他の誰にあんな物を作れるというのか。
 何故あの人形に女性名で名乗ったのかは不明だが、アシュタロスの真意が不明なのはいつもの事だ。
 たとえ真意が分からなくとも、サポートするのだから一緒である。
 ならば、目的を同じくする人形と同行すべきだったのではないか。
 そう分かっていながらも、ルシオラはあの場に居続ける事が出来なかった。
(たった一年しか生きられないとしたら……か)
 自分自身がした質問が、ルシオラの脳内を駆け巡る。
 どうしてあのような質問をしたのか。
 自分の事だというのに、ルシオラには分からなかった。
 ただ二百年以上も生き続けているという人形とは、一緒にいたくない。
 そう思っただけだと、自分を納得させる。

(私は……、一体どんな答えを望んでたのかな)

 そんな疑問にも、やはり答えは出てこなかった。





【B−2 小学校/一日目 朝】

【ドットーレ@からくりサーカス】
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員殺して清磨に『笑顔』を届ける。あの人間(横島)を八つ裂きにする。



【B−2 小学校周辺の上空/一日目 午前】

【ルシオラ】
[時間軸]:横島と夕日を見る以前。
[状態]:健康、ドットーレの言葉が引っかかっている
[装備]:竜の牙(勾玉状態)@GS美神極楽大作戦!!
[道具]:基本支給品一式、蔵王(空)@烈火の炎、空白の才の木札@植木の法則
[基本方針]:アシュ様のために行動する。参加者を殺し支給品を奪う。花火が打ち上がった付近は後回し。ドットーレから離れる。

247 : ◆6LcvawFfJA :2012/04/30(月) 01:20:12.89 ID:u8PEF6lf
終了です。

248 :創る名無しに見る名無し:2012/04/30(月) 01:31:02.34 ID:sCmegM84
投下乙!
主のために動く作られたもの同士の会話おもしろいなあ
全部が全部噛み合ってるワケじゃないのに、不思議と合致するというか
ルシオラが付け足した質問が切ない
しかし氏のドットーレはやっぱりいいなあw

249 : ◆6LcvawFfJA :2012/04/30(月) 02:49:39.09 ID:u8PEF6lf
ドットーレの状態表が“朝”になってますが、“午前”の間違いです。

250 :創る名無しに見る名無し:2012/05/01(火) 09:26:43.57 ID:GQ9voi8u
投下乙
こういう繋がりのあるキャラ達の会話って本当に好きw
マシン番長の時みたいに、ドットーレはまた影響与えたりするのかな

251 : ◆c8fjjCyRkM :2012/05/02(水) 07:26:44.91 ID:gk4OLUxV
投下しまーす

252 :溢れた感情は単純に ◆c8fjjCyRkM :2012/05/02(水) 07:27:27.80 ID:gk4OLUxV
加藤鳴海は、考え込んでいた。
トイレにいた少しの時間を狙い澄ましたかのように、丁度高槻涼が起きたのだ。
遠からず起きるだろうと思ってはいたが、まさかまさかのタイミング。
聞かければならないことは沢山あったはずなのに、あまりに突然すぎて考えが纏まらない。
大体、鳴海はもともと頭を動かすのが得意なタイプではない。
なので、第一声を高槻に譲ることになった。

「ええと……。あの……、あなたが俺をここまで動かしてくれたのか? あと服も用意してくれたり……」

そう言われて、鳴海は気付く。
高槻は、今、全裸なのだ。
暴れ出さないかばかり考えていたので、目前にしながら全く気にかけていなかった。
目が覚めたと思ったら全裸で、いきなり見知らぬ男に体をじっくりと眺められている。
……余計な誤解をされかねなかった。

「あ、そ、そそそ、そうだ! いいから、早くそれ着ろよ! サイズ合うだろ、多分! 裸のままにしといたのは、寝てる奴に服着せるのが難しかったからであって、他意はねえからなっ!」

「え? は、はあ……」

左腕がないというのに、高槻は器用に袖を通していく。
かくしてほんの数分で、全裸の男とそれを見ている男という図は片付けられた。
妙な空気を換えるべく、鳴海はコホンと一息。
鳴海は再び高槻を鋭く睨んで、相手を観察する。
とにかく暴れ出す気がないのは分かった。
いきなり魔獣になったりもしないようだ。
さて、まずは何を聞くべきか。
あの魔獣のことか。どうして暴れたのか。暴れていた時のことを覚えているのか。これからどうするつもりなのか。また暴れる気はあるのか。
山ほど浮かんだ。
考え続ければ、もっと浮かぶだろう。
しかしこれらをいきなり聞いてしまっていいものか。
高槻涼と言えば、最初の会場でカツミという少女(おそらく恋人か何かだろう)を殺された青年だ。
その事実といきなり直面させていいのだろうか。

「……へっ」

一部だけ銀色だが大部分がまだ黒い髪を掻き毟る鳴海。
らしくもなく考え込んでいる自分が、何だかおかしかった。
そんなことはそれが得意な仲間に任せるべきであって、加藤鳴海の仕事じゃない。

「覚えてるのかどうかは分かんねーけど、暴走してたお前を助けようとした御神苗優は死んだぜ」

「……っ」

驚愕する高槻。
しかし驚愕するということは……

「暴れてた時のこと、覚えてるんだな」

リビング内に静寂が広がる。
それを鳴海は破ろうとしない。
相手の返答を待つ。
しばらくして、ついに……

253 :溢れた感情は単純に ◆c8fjjCyRkM :2012/05/02(水) 07:28:10.41 ID:gk4OLUxV

「意識まで飲み込まれていたが、それでも御神苗優の言葉は俺まで届いていた」

「そうか」

「殆ど覚えていないが、御神苗優の言葉は確かに聞こえていた」

「そうか」

「人間を……『俺』を、『高槻涼』をやめるなと、必死で呼びかけてくれていた」

「そう……か」

かつて、鳴海は生命の水に溶け込んだ白銀の意思に飲み込まれたことがある。
その時、彼の中国拳法の師匠が教えてくれた。
お前はお前だ、加藤鳴海は加藤鳴海で白銀ではないのだ、と。
そう言って、渾身の気を叩き込んでくれた。
その経験が、鳴海の中に思い出された。
御神苗優もきっと同じことをしようとしたのではないだろうか。
そして、だからこそ。
鳴海は、死に行く彼に生命の水を与えなかったのではないか。
彼が人間として、御神苗優として、本当の生を生きたと分かっていたからこそ。

「俺は……、人間として生きたい。もう、二度とジャバウォックに飲み込まれたりなんかしないッ!
 御神苗優に許してくれとはいえないし、他の人を守ったって御神苗優を殺した罪から逃れられるとは思っていない。それでも……もう拒まないッ! 御神苗優の言っていたように、背負うことから逃げずに生きていきたいッ!」

「そう…………か」

再び、静寂。
今度それを破ったのは、鳴海の方だった。

「一つだけ聞かせてくれ」

浮かぶのは、笑いながら殺されるしろがねの姿。
自分の意思でなく、白銀の遺志に従っている。
もはや人間ではなく、人形に成り果てた者達。

「お前は……御神苗優が望んだから、その選択をしたのか? あいつがそうしろと言ったから、それに黙って従おうと……」

「それは違う」

質問の途中で、高槻が言葉を被せてきた。
その力強い視線を見て、鳴海の脳内から『しろがねという名の人形達』の姿は吹き飛んだ。
その代わりに浮かんだのは、共にフランシーヌ人形のすぐ近くまで到達した仲間。
人形などではない、己の意思を持ったしろがねやしろがねO達であった。

「彼の言っていたように生きようと決めたのは、俺だ。言われるがままな訳じゃなく、俺の……高槻涼の意思で進みたい」

「へっ、そうかよ」

警戒を解き、鳴海は高槻の元まで歩み寄る。
自分も自動人形を滅ぼそうと決めたが、それは白銀の遺志に従う操り人形としてじゃない。
人間、加藤鳴海が決めたのだ。
そして、高槻もそうなのだろう。
人間、高槻涼が決断したのだ。
御神苗優は、その後押しをしたにすぎない。

254 :溢れた感情は単純に ◆c8fjjCyRkM :2012/05/02(水) 07:28:29.27 ID:gk4OLUxV

「んじゃ、俺はお前を信じるぜ。御神苗にも助けてやれって言われてたしな」

「……! 御神苗優が……」

「よく分かんねーけど、あいつも自分の中にいる魔獣と戦ってたらしいぜ。だからやり直せる、人として全うできる、起きたらそう伝えとけってよ。死ぬ寸前まで人のこと考えてたんだぜ、あいつ」

「そう……ですか。ありがとうございます、えっと……」

「鳴海、加藤鳴海ってんだよ。ああ、あと、その敬語やめてくれよ。同い年くらいだろ」

「…………?」

信じられないといった表情の高槻。
この殺し合いに巻き込まれる少し前に、大幅に年上に見られていたことを思い出す鳴海。

「俺は、19歳、だ」

年齢のところを強調して言うと、高槻は丸くしていた目をさらに丸くする。
かなりショックで、鳴海は肩を落とす。
気を取り直すまで5分を要してから、鳴海は大きな右手を前に出す。
意図を理解したらしい高槻も残された右手を出し、互いに固く握手を交わす。

「このふざけた殺し合い、絶対に止めてやろうぜ、高槻」

「ああ鳴海。カツミや御神苗優の為にも、ブラックの思い通りになんてさせない」

そしてすぐに表に出ようとしたのだが、玄関を出る寸前で鳴海がまだ動けないことに気付く。
紅麗と阿紫花英良の2人が、こちらに向かってきているはずなのだ。
慌てて高槻を止めて、鳴海はその旨を話す。
2人の詳細や暴走したジャバウォックを止めるまでの経緯を話したところで、辺りにキース・ブラックの声が響いた。
死者を告げる放送の時間が、やって来たのだった。



  ◇  ◆  ◇  ◆

255 :溢れた感情は単純に ◆c8fjjCyRkM :2012/05/02(水) 07:28:45.86 ID:gk4OLUxV



16人も死んだ。
その中に加藤鳴海の知る名はなかったが、だからといって安堵できるような男ではない。
怒りに体を震わせ、握り締めた拳を壁に叩き付けようとした。
しかし今にも壁に拳が触れんとするところで、どうにか堪える。
衝動的に壁を壊しても、何にもならない。
この拳を叩き付けてやるべき相手は、他に沢山いるはずだ。
怒りを内に閉じ込めて、そして鳴海は気付く。
高槻もまた体を震わせ、拳を握り締めているのだ。
脳裏を過るのは、最初に会った時の姿。
背筋が凍るが、高槻を信じたいという気持ちの方が勝った。

「おい高槻……」

「大丈夫だ」

鳴海が声をかけてみると、高槻は間を置かずに答えた。

「武士が死んだ。俺達と同じ、ARMSを埋め込まれた兄弟の、武士が……」

鳴海はまだARMSの説明を受けていない。
頭の回りそうな紅麗が来てからのほうがいいだろうと考えたのだ。
それでも、ARMSという物の仕業であの魔獣の姿になっただろうと推測するのは難しくなかった。

「でも、大丈夫だ。もう、逃げない」

見るからに取り繕っていると分かる笑みを浮かべて、高槻は言い切った。
強い言葉だと、鳴海は思う。
テレビの中のヒーローみたいだ。
とても理想的だ。
そう思っていながら、鳴海は高槻の頬を叩いていた。

「この馬鹿野郎が」

呆けている高槻に向かって、吐き捨てるように言ってやる。

「大人しくかっこつけてんじゃねえ」

その昔。
これは、鳴海が自分を見失うよりも、しろがねになるよりも、片腕を失うよりも、ずっとずっと昔。
鳴海には、弟がいた。
お母さんのお腹から生まれてくることはなかったが、確かに弟がいたのだ。
その弟が0歳の誕生日すら待たず命を失った時、鳴海は一体どうしたのか。
まだ小学生の時のことだが、鳴海は今でも鮮明に覚えている。
なのに、今の高槻はどうだ。
彼の言った『兄弟』は喩えであり、実際に血が繋がっている訳ではない。
そんなことを鳴海は知らないが、もし知っていても同じことを言っただろう。

「泣くべき時は、笑うべきじゃないんだぜ」

呆然としていた高槻は、すぐに表情をくしゃりと歪めた。
力なく倒れ込んだところを、鳴海の太い腕に抱えられる。
それに礼を言うことすらせずに、言葉にならない呻き声をあげる。
彼が向き合っているのは、武士一人を失った悲しみではないのだろう。
一度向き合うことから逃げたカツミの分まで、今ようやく対面しているのだ。
高槻を抱える腕が湿り気を帯びていることに気付きながらも、鳴海は彼をどかす気にはならなかった。
今の高槻のように悲しんでいる人が、きっと他にも沢山いるはずなのだ。
鳴海は何も言わず、ただ拳をぎゅっと握った。

256 :溢れた感情は単純に ◆c8fjjCyRkM :2012/05/02(水) 07:29:01.48 ID:gk4OLUxV





【F−4 民家/一日目 朝】

【高槻涼】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:左二の腕から先を喪失(止血済)、スーツ@現地調達
[装備]:基本支給品一式、支給品1〜3(未確認)、手ぬぐい(左腕の止血に使われている)
[道具]:なし
[基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。

【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認済み)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。

257 :創る名無しに見る名無し:2012/05/02(水) 07:34:31.18 ID:gk4OLUxV
ここまでです
お分かりのように、予約時にいた紅麗と阿紫花がいません
これは、書いてる内に紅麗阿紫花パートが蛇足になってしまい……削ることにしました
予約しておきながらすみません
続きを書きたいという方がいらっしゃれば、是非ともお願いしたいです
あと>>253で台詞中で改行してますが、長すぎて投稿出来なかっただけで、wikiでは改行しないで収録したいと思います

258 :創る名無しに見る名無し:2012/05/02(水) 18:51:50.07 ID:hgez/w0M
投下乙
自分の意志ってのがいいね。このコンビはこれから要チェック
それにしても鳴海兄ちゃんかっくいい!
氏と優にGJ

259 :創る名無しに見る名無し:2012/05/02(水) 22:16:05.48 ID:/MwU/6G5
投下乙
登場話でジャバウォック化した涼が、やっと仲間の死に向き合う事になりましたか……
落ち着いてるけど実は一人で抱え込むタイプだし、隼人みたいに思った事を言ってくれるタイプがパートナーだと安心ですね
反撃の狼煙を上げられるかどうか……

260 :創る名無しに見る名無し:2012/05/04(金) 08:28:23.77 ID:cL6vnvh5
最近予約が増えてうれしい

261 : ◆6LcvawFfJA :2012/05/04(金) 21:20:18.61 ID:kc6VPYCD
投下致します。

262 :察知――君の現在位置 ◆6LcvawFfJA :2012/05/04(金) 21:20:59.69 ID:kc6VPYCD
 放送で呼ばれたのは、合計十六名。
 全体の五分の一が、夜明けを待たず脱落した事になる。
 さらに言えば、その内の一人はオリジナルARMS“ホワイトラビット”の適正者、巴武士。
 停滞状態に陥っていた彼がいかなる状態でプログラムに参加させられたのは、もはや下手人くらいしか知らぬ事実と思われるが、もし行動可能な状態だったとすればその力は凄まじい。
 オリジナルARMS最速のスピードに加えて、“ジャバウォック”や“ナイト”と同じくARMS殺しまで有している筈だ。
 そんなホワイトラビットをも含む十六名が、早々に命を落とした。
 しかしその事実と直面しても、キース・グリーンはただ参加者の脱落具合が想像より早いと思うだけであった。
 元より、強者が集っているとは思っていたのだから。
 理解していながら、一つの椅子を求める決意をしたのだから。
 余計な感情を挟まずに、ただ残りが五十六名という事実だけを脳に刻み込む。
 生き残っている五十六名には兄も姉も含まれていたが、その点は予想していた通りであった。
(そして君も……ね。やはりそう簡単に脱落はしないか)
 キースシリーズでは無いとある参加者に思いを馳せつつ、グリーンは手元のレーダーを起動する。
 表示範囲の設定を弄り、エリア全体を確認可能な最広域表示にする。
 ちなみにグリーンが今いるのは、地図におけるE-3だ。
 放送寸前までいたE-2には、チームを組んでいると推測出来る四人組の反応があった。
 だがその四人組は、兄であるキース・シルバーの進行進路上にいたのだ。
 揃って殲滅されるのは、もはや必然である。
 ならば他に誰もいないエリアに留まる理由も無く、北上するシルバーとは反対に南へと進んできたのだ。
 E-3内で映し出された光点は、二つ。
 お互いの距離がかなり近くかつ離れない事から、接触していると思われる。
 内一つは、先程出会ったコウ・カルナギであろう。
 超人的な身体能力を持つとはいえ、ARMS完全体のような高速移動は不可能な以上、出会った地点からそこまで離れてるとは考えづらい。
 加えてグリーンはカルナギが南下する姿を確認しており、あの男はそうそう一度決めた進路を変えるタイプではない。
(カルナギと接触し続けているという事は、すなわち交戦中だ。
もしも相手が戦うに値しない相手ならば、そんな奴の所に長居するような男じゃない)
 距離が離れており、二つの光点の細かい動作までは分からない。
 しかし片方がカルナギで、もう片方がカルナギの敵と成り得る存在。
 ならば、どういう状況なのかは火を見るより明らかだ。
(まだ五十六人もいる段階で、奴と戦う必要は無い。
どうせ放っておいても闘っている様な奴だ。精々暴れてくれればいいさ)
 むしろ、下手に接触してはいけない。
 数時間前ならばともかく、“今の”グリーンを見れば嬉々として仕掛けてくるだろう。
 もはや仕留め損なう事は在り得ないが、あんまり早々に殺してしまうのは勿体無い。
 彼の言葉では無いが、騎士を気取って死ぬ気は無い。
(……では、隣のエリアに向かおう)
 レーダーの電源を切って、デイパックに収納する。
 電池がどれだけ持つのか分からないのだ。
 現状でもとても役に立つが、より重宝するのは残り人数が少なくなってきてからだろう。
 それより早く電池切れなんて事態は極力避けたいので、使用時以外は電源を切ることにしているのだ。
(どちらに向かうか……。
人が多いのは南の市街地だろうが、カルナギに目敏く発見されかねない。それは、僕の望む所では無い。
西は……、シルバー兄さんが来た方向だからな。おそらく既に屍の山だ。時間が経てば人がくるだろうが、すぐに行っても無駄だ。
となると、残りは一つしかない)
 早々と決断を下し、グリーンは東に歩み始める。
 空間を操るARMS“チェシャキャット”の使い手だというのに、先程からこうして足で移動をする破目になっている。
 瞬間移動はかなり体力を消費する為、仕方が無い。
 それにしても乗り物を使うならばともかく、徒歩での長距離移動など数年ぶりだ。

263 :察知――君の現在位置 ◆6LcvawFfJA :2012/05/04(金) 21:21:31.98 ID:kc6VPYCD
(……そういえば)
 ふと思い立って、グリーンは歩きながらデイパックの中身を物色する。
 いつも一瞬で目的に着いてしまうので、移動中に食事を取るというのは未経験だ。
 それに、戦場においては常に食事が取れる訳では無い。
 周囲に誰もいないのが分かっている今こそ、安心してエネルギーを補給できる良い機会である。
 調べてみて分かったのだが、どうやら食料は参加者によって異なった物が配られているらしい。
 アンジェリーナに支給された物と比較してみて、明らかになった。
 しばらく迷った後、グリーンが取り出したのは幾つかのおにぎりであった。一つずつビニールの袋で放送されている。
 アメリカ育ちのグリーンはおにぎりを初めて見たのだが、それが今は亡き思い人の国でポピュラーな食べ物である事は知っていた。
 故に、一度口にしてみる事にしたのだ。
(成程、“そういう事”か)
 包装をまじまじと注視してから、何かに気付いたのか不敵な笑みを浮かべるグリーン。
(この大きく書かれた食材が、ライスの中に詰められているのだな。
つまりこれにはサーモン、こちらはツナ、そしてこれは……ウメボシ? 何だそれは)
 得体の知れない食材は後回しにし、一つ目はサーモンにする。
 邪魔なビニールを引っ張って、中身を出そうとするグリーン。
 結果、海苔が全て千切れた丸裸のおにぎりが手元に残る。
「…………?」
 首を傾げるグリーン。
 あまり詳しい訳では無いが、どうも自分の知っているおにぎりの外見と激しく異なっている。
 だが資料と実物の間に差異があるなど、当然の事だ。
 グリーンは一人頷き、全裸おにぎりを口に運ぶ。
「決して不味くは無い……。むしろ旨い部類に入る……が、如何せん米が手に付くな」
 異物感が凄まじいので、手に付着した米だけを空間移動で吹き飛ばす。
 小さな物を動かすくらいならば大して疲れない事が分かった。思わぬ収穫だ。
 ツナのおにぎりを食べようとして、グリーンは新しい発見をした。
 表面には中身が書いてあったが、裏面にはこの包装の解き方が書いてあるではないか。
 どうりであの様なみすぼらしい外見になってしまったはずだと一人納得し、裏面の表記に従ってみる。
「…………?」
 数分前の繰り返しのように、首を傾げるグリーン。
 その手には、海苔が派手に破れて白いご飯が見えている半裸のおにぎり。
「これが正しい姿なのか……やはり手がべたべたするな」
 空間移動で手を綺麗にし、三つ目を取り出す。
 結構、気に入ったらしい。
 やっぱり半裸状態になったおにぎりを口に運ぶグリーン。

「…………ッ?! ……ゴッッ!? ガッッッ??!!」

 口内に広がった予期せぬ酸味に、グリーンは目を白黒させる。
(これは……ッ、ビネガー?! ピクルスだと!?)
 冷静に中身を分析しているようだが、実は激しく咳き込んでいたりする。

     ○

264 :察知――君の現在位置 ◆6LcvawFfJA :2012/05/04(金) 21:21:48.34 ID:kc6VPYCD

 程無くして、グリーンはエリアF-3に足を踏み入れた。
 道中で咳き込んでいたとは誰にも思えぬ、いつもと同じ涼しい表情を浮かべている。
 せっかく移動したというのに、参加者レーダーに反応は無い。
 それに落胆する事も無く、グリーンは南下する。
 またF-3に入ったら使おうとレーダーの電源を切り、デイパックに戻す。
 そうして暫し歩いたところで、グリーンは足を止めた。
 その体は僅かに振動しており、口角は吊り上っている。
 支給されたレーダーで表示出来ない範囲だが、しかし支給品で無いレーダーは確実に捉えた。
 そのレーダーとは、グリーンの体内にある。
 ARMSの共振反応が、南にARMSの存在を感知しているのだ。
 兄では無い。
 姉でも無い。
 騎士でも無い。
 量産型でも無い。
 それらと見紛う筈が無い。
 他ならぬあの男だ。
 この世で最も気に入らないあの男だ。
 “あの時”、“同じ感情を抱いただろう”、あの男だ。

「ようやく見付けたぞッ、高槻涼ッ!」





【F−3 路上/一日目 朝】

【キース・グリーン】
[時間軸]:コミックス17巻NO.11『死王〜バロール〜』にて共振を感じ取って以降、コミックス18巻NO.3『聖餐〜サクラメント〜』にてキース・ブラックの前に立つ前。
[状態]:疲労回復
[装備]:いつものスーツ、参加者レーダー@オリジナル
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、カツミの髪@ARMS(スーツの左胸裏ポケット)
[基本方針]:なんとしても最後の一人となる。そのためなら兄さんや姉さんだって殺すし、慢心を捨てて気に入らない能力の使い方だってする。
※空間移動をするとかなり体力を消耗するようです。

265 : ◆6LcvawFfJA :2012/05/04(金) 21:22:19.61 ID:kc6VPYCD
終了です。

266 :創る名無しに見る名無し:2012/05/04(金) 23:20:17.83 ID:/Y83kqxb
投下乙!
うわあああ!どうなるんだろう!
登場話の時から楽しみだった展開が!

267 :創る名無しに見る名無し:2012/05/05(土) 01:04:57.09 ID:gLi6Lsxa
乙です
そうか、どこも投下が多いのは世間が連休だからか…

鳴海はやっぱり渋格好良いな、10代だけどなw
でもこの参加者の中では弱い方なんだよなあ
精神的に他人の支えになれる存在だし、ロワでも頑張って欲しい
そして高槻はあの両親の教えを思い出して頑張れ

>>キース・グリーン
( ・∀・)つ旦 お茶ドゾー

268 :創る名無しに見る名無し:2012/05/05(土) 14:21:55.12 ID:vbgJYPCD
投下乙
梅干しつええwww
シルバーはまだ誰も殺してないし、カルナギはああなってるしで、考察外れまくりだなあw
しかしラストの叫びがヤバい。次以降はこういう空気の話にならなそうだ

269 : ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:44:51.57 ID:wsTwwzJC
投下します。

270 :既知との遭遇 ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:45:51.67 ID:wsTwwzJC
 ◇ ◇ ◇


 淡く輝いていた満月が西の彼方に沈み、代わりに顔を出した太陽が地上を照らし出したころ。
 超天才少年アル・ボーエンくん御一行は、まだエリアE−2の公園に留まっていた。
 というのも、アルとレイラが自身の持つ情報を仲間たちに提供したところで、もう放送まで僅かな時間しか残されていなかったのだ。
 たとえ移動中であろうと内容を聞き逃すつもりはなかったが、それでも落ち着いて耳を傾けられる状況のほうがよりいいには違いない。
 だいたいどうせ放送中は立ち止まることになるので、多少歩いたとしても大した足しにはならない。
 これに対し仲間たちの反論はなく、アルは少しばかり拍子抜けするハメになった。
 三人ともそれぞれ合流したい相手がいると言っていた割に、随分とあっさり頷いたものだ。
 アルはそれだけ相手を信頼しているのかと胸中で頷きつつ、リュックサックから地図とボールペンを抜き取る。
 地図の裏側でボールペンの書き味を確かめているアルは、レイラの思考に関してだけ僅かに見落としがある事実に気付かない。
 彼女は魔道具『輪廻』により仲間についての記憶を失っているため、名簿に印がつけられているだけで顔も知らぬ四人への信頼はない。
 ただ、アルの提案であるから受け入れたのである。
 魔道具『心眼』が本来の性能通りに、他者の思考を自動で使用者に垂れ流しにしてくれれば、アルはそんなレイラの思考を読み取ることができた。
 しかし心眼にはなんらかの制限がかけられており、対象一人の思考を読もうと意識せねば効果が発動しないようになっている。
 ゆえに、アルがレイラの思いを知ることはなかった。

 ベンチの上に名簿や地図を広げ、アルが放送への用意を着々と進めている傍ら。
 他の三人はというと、これといってなんの準備もしていなかったりする。
 ただ、ノートパソコンを前に難しい顔をしているだけである。
 これはアルに支給されたものであり、たった一つ『program battle royale』というファイルが入っているだけである。
 思わせぶりな名前のファイルにはパスワードがかかっており、それを突破せねば開くことはできない。
 思い当たることでもあったのか、佐野清一郎が不意にキーボードに手を伸ばした。
 慣れていないのか右の人差し指だけを使って、時間をかけてなにかを入力する。
 ディスプレイに映し出されたのは、たった六文字のアルファベットで構成された短い単語。

 ――『Hakone』。

 首を傾げるレイラとコロンビーヌとは対照的に、佐野はやたらめったら自信ありげな表情である。
 ついに勝ち誇ったように白い歯を見せて、大げさな音を立ててエンターキーを叩く。
 少しの間を置いて、ノートパソコンから間違いを知らせるブザー音が響いた。

「なっ、なんやて!?」

 こうして目を丸くしたのも束の間だけ。
 ならばとばかりに、次の単語を入力していく。

 『Ynfuin』。

 ブイーッ!

 『Kusatsu』。

 ブイーッ!

 『Kinugawa』。

 ブイーッ!

 『Noboribetsu』。

 ブイーッ!

「ええい、やかましいぞ! さっきからなにをやってるんだ、貴様はっ!!」

271 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:46:37.99 ID:iaKn/EyU



272 :既知との遭遇 ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:46:54.08 ID:wsTwwzJC

 アルに怒鳴りつけられ、佐野はようやくパスワード入力を切り上げる。
 しかし納得はいっていないらしく、渋々といった表情を隠そうともしていない。
 そんな佐野の前に出るのは、くすくすと笑みを浮かべたコロンビーヌだ。

「まったくダメねえ、アナタは。
 ちゃんと話聞いてたの? アリスっていう女の子が関わってるのよ?
 女の子の心を開かせるパスワードなんて、そんなのすぐ思い浮かぶじゃない」

 こちらもまたやったら自信たっぷりに、キーボードに手を伸ばす。
 すでにキーの配置は記憶してしまったようで、そのタイプ速度はかなりのものだ。

 『Hold hands』。

 ブイーッ!

 『Hug』。

 ブイーッ!

 『Kiss』。

 ブイーッ!

「やっかましい! と! 言って! いるん! だっ!!」

 まだなにか入力しようとしているコロンビーヌであったが、顔を真っ赤にしたアルが割って入る。
 そのままノートパソコンを引ったくって、ベンチまで戻ってしまう。
 そんなアルの後ろ姿を眺めながら、佐野とコロンビーヌは釈然としない様子で同時に呟く。

「キース・ホワイトは、なんにも分かってへん」
「キース・ホワイトって、なにも分かってないのねぇ」

 凄まじい勢いで振り返り、アルは声を荒げる。

「分かってないのは貴様らだっ!!」

 こほんと一息ついて、アルは準備を再開する。
 ノートパソコンを蔵王に戻してからリュックサックに仕舞い、かわりに水の入ったペットボトルを取り出す。
 地図と名簿を開いたまま固定するための重しにするのだ。
 そこまで終えて、アルはコロンビーヌに視線を向けた。
 ただそれだけの動作で、言わんとすることが伝わったらしい。
 じゃらりと音を立てて、コロンビーヌが彼女の纏う黒いゴシックドレスから懐中時計を取り出した。

「六時まであと三分ねぇ」

 時刻を把握できるよう参加者全員に時計が支給されているみたいだが、その種類は様々なようだ。
 このようにコロンビーヌの場合は懐中時計であったが、アルとレイラは壁掛け時計であった。
 一応リュックサックに入れてはいるもののひどく使いづらいので、コロンビーヌに尋ねたのである。

「ほー、なかなかえーもん持っとるやん。結構するんちゃうか」
「…………」

 佐野とレイラの二人が、コロンビーヌの懐中時計をしげしげと眺める。
 レイラは黙っているものの、その羨望の眼差しはむしろ佐野よりも雄弁であった。
 自動人形のサガか、こうも注目されるとコロンビーヌも悪い気はしない。
 もともと大して美しい逸品と思っていたワケでもないのに、懐中時計を見せびらかすように振舞ってしまう。
 長年真夜中のサーカスの踊り子として活動していただけあって、その動作には気品があり装飾品をより引き立てる。

273 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:46:58.22 ID:KJPpKgW2
支援

274 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:47:18.70 ID:iaKn/EyU



275 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:47:58.16 ID:iaKn/EyU



276 :既知との遭遇 ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:48:11.65 ID:wsTwwzJC

「おおっ! なんやなんや? 盛り上がってきたんか? いよっ!」

 佐野は明らかにおもしろがって、煽るように手拍子を打つ。
 対してレイラは羨ましさが募っていくばかりで、どんどん物欲しげな表情になっていく。
 まばたきもせずに懐中時計に見とれたのだが、レイラはハッとしたようにリュックサックを下ろす。
 そうして花柄の風呂敷を取り出すと、勝ち誇ったように笑う。

「ふふっ」
「…………」

 今度は、コロンビーヌが沈黙する番だった。
 ただし羨望ゆえではなく、困惑ゆえにである。
 レイラはやたら得意げだが、正直コロンビーヌはなんにも羨ましくなかった。
 時計は時刻を知ることができるが、風呂敷なんてものを包めるだけではないか。
 アクセサリーとして考えても、懐中時計と風呂敷では比べ物になるまい。いくら花柄であろうと、風呂敷は風呂敷なのだから。
 とはいえレイラの態度を見るに、もしかしたらすごく価値があるのかもしれない。
 人間の美的センスを基準とした価値などどうでもよいが、見極められないというのは少しばかり悔しい。
 コロンビーヌが沈黙していると、佐野がマイクを握ったジェスチャーで寄ってくる。

「おうおう? まさかまさかのおねーさんの反撃! どう出んねや、コロンビーヌ選手ぅ!?」

 口振りからして、魔物とかいうよく分からない存在であるレイラだけでなく、人間の佐野から見ても名品であるらしい。
 どう出ると言われても、とコロンビーヌは思い返す。
 リュックサックに入っていた道具のうち、装飾品になりそうなものは懐中時計くらいだ。
 かといって、このまま引き下がるというのも――
 とそこまで考えたとき、コロンビーヌの思考に少年の声が割って入った。

『…………レイラが持ってるのはただの風呂敷で、それ以上でも以下でもないぞ』

 振り向けば、アルがやたら冷ややかな表情を浮かべていた。
 もちろん、指には心眼がハマっている。
 すべてを理解したコロンビーヌは、誰にも視線を向けずに一言。

「……知ってたわよォ、最初から」

 佐野とレイラに背を向け、コロンビーヌはそれまでする素振りもなかった放送への準備を始めるのだった。

 しばらく困惑していた佐野であったが、すぐにどうでもよくなったらしい。
 マイクのジェスチャーをやめて、ふと思い出したように切り出す。

「しっかし、みんなおもろいもん持ってんねんなぁ。
 俺のリュックサックにも入ってんのかな。いっちょ見たるか」
「……え?」

 聞き返すかのような声を漏らしたのは、誰であったのか。
 それは定かではないが、怪訝そうに佐野を見たのは三人全員であった。
 六つの瞳を向けられても意に介さず、佐野はリュックサックを開く。

「おお、これがキース・ブラックの言ってた玉かいな。
 説明書に書いてあるもんが入っとるワケやな、ってんなことあるんかい」

 アルも、レイラも、コロンビーヌも、六時間前にやった行動である。
 まさか佐野清一郎は、いまのいままでリュックサックの中身を確認していなかったのだろうか。
 よもや、そんな参加者が存在しているはずが――
 という三人の考えを否定するように、佐野と玉もとい蔵王の格闘が始まる。
 説明書に目を通した佐野が、玉を一つ掴み取る。

277 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:48:39.74 ID:azbzcpRF
 

278 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:49:07.25 ID:iaKn/EyU



279 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:49:15.49 ID:azbzcpRF
 

280 :既知との遭遇 ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:49:16.35 ID:wsTwwzJC

「うわ、手ぇ入った! うわ! うっわ! 気色悪い!
 なんか、なかちょい涼しい! どないなっとんねん! うっわ、ほんまにキショい!」
「…………」

 三人のうち誰一人として、佐野に声をかけることはできなかった。
 というか、触れられなかった。
 なんというか、いたたまれなくて。

「ええい、ままよ!」

 と、意を決したかのように手を引く。
 蔵王から飛び出してきたのは、真っ白な軽トラックであった。
 これがあると分かっていれば、わざわざ歩いて施設を回る必要もなかっただろう。

「おおう、ほんまに出よった! どういう仕組みなってんねん!
 んで、こっちはっと……なはは! ずっと探しとったのに、こんな近くにあったとはなぁ!」

 続いて、二つ目。
 巨大な箱のなかに、折り畳まれた手ぬぐいがびっしりと詰まっていた。
 『手ぬぐいを鉄にする』能力を扱う彼にとってのメインウェポンである。
 そんな大事なものを持っていたことに、六時間も気付かずにいたらしい。

「そんで……なんやこれ、メモリって。よう分からんな」

 最後は、USBメモリであった。
 つまむようにして持ち上げてから、佐野は興味なさそうにアルへと放り投げる。

「アル、お前パソコン持ってたし、それやるわ」

 彼の行動を眺めていたコロンビーヌとレイラは、まったく同じ感想を抱いた。

(本気でやってるのかしら……)

 そんな疑問に対し、心眼を装着しているアルの声が応える。

『心の底から恐ろしく、本当に受け入れ難いのだが……
 それでも、我々はこの事実を一蹴することなく甘受せねばならない。
 プログラムを打破するに辺り、信じたくないことを拒絶していてはなにも始まらない。
 いかに予想してなかった事態であろうとも、目を逸らさずに向き合っていかねばならない。
 非常につらい決断を強いていると思うし、僕自身まだ納得しきれていないのは明かしておく。
 だから安心して欲しい。疑っているのは、決して自分だけじゃない。それだけは覚えておいてくれ。
 時間がかかっても構わない。少しずつでいいから、受け入れてくれ。これは……紛れもない真実なんだ』

 一拍置いて、より重い口調で言う。

『ヤツは、佐野清一郎は――本気だ』

 意図せず、コロンビーヌとレイラは息を呑んだ。
 ボケだとかノリだとか、そんなチャチのものでは断じてない。
 もっと恐ろしい適当男の片鱗を味わったのだった。

 中学生が超天才児と魔物と自動人形を戦慄させたすぐあとに、死者を告げる放送は始まった。


 ◇ ◇ ◇

281 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:49:38.57 ID:azbzcpRF
 

282 :既知との遭遇 ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:49:53.05 ID:wsTwwzJC


 放送が終わって一分が経過する。
 まだ誰一人として口を開こうとしない。
 広がった静寂を破ったのは、佐野が歯を軋ませる音であった。
 苦々しい表情を浮かべたまま、さらにもう数分後ようやく吐き捨てるように呟く。

「クソッタレ……ッ」

 ここに至ってやっと、佐野は自分が状況を甘く見ていたと思い知らされた。
 自分はそれなりに戦えるつもりだし、植木は能力のほかに神器を使えるし、ヒデヨシはその植木が見付けてきた仲間だ。
 能力の判明していない森はいないし、ロベルトも考えを改めつつあったという。
 だから、きっとなんとかなる。
 どうせ、素直に殺し合うヤツもいないだろう。
 そんな――なんの根拠もない希望を抱いていた。
 だから焦るでもなく、ダラダラと移動していた。
 その結果が、いまの放送だ。
 早くも十六人が死に、そのなかにはヒデヨシまで含まれていた。
 甘かった。
 ぬるかった。
 そう、認識せざるを得ない。
 最初から仲間を探して走り回っていれば、こうはならなかったかもしれない。
 そんな想像は、仮定にすぎない。
 悩んだところで、起こってしまったことは変わらない。
 分かっているというのに、佐野はつい考えてしまうのだった。


 コロンビーヌは、そんな佐野を冷めた目で見ていた。
 いまさら悔しがるというのが、よく理解できなかったのである。
 人が死ぬことなど分かり切っていたではないか。
 別に、コロンビーヌに知る名が呼ばれなかったワケではない。
 自動人形の宿敵である『人形破壊者(しろがね)』の一人が呼ばれた。
 思うことは、これといってない。
 何年も前に死んだはずの彼女がどうして生きているのかは不思議だが、それは壊れたはずのコロンビーヌも同じである。
 いや、修理できる自動人形とは違うのだから、そうやすやすと同じとは言い切れないが。
 なんにせよ、ただ単に不思議というだけである。
 死んだことに対する感情の動きは、これといってない。
 当然悲しくなんかないし、別に嬉しくもない。
 ただ、死んだという事実を受け入れるだけである。
 呼ばれたのが、他の誰かであったとしてもそうだろう。
 同じ自動人形でも、たとえ造物主・フェイスレスであろうと、きっと一緒だ。
 誰が死んだところで、佐野のように悔しがることはない。
 誰かの死になにも抱くはずのないのが、自動人形なのだ。
 そう思いかけて、フラッシュバックする。
 自身に生命を与えてくれたフランシーヌ人形が、とうの昔に壊されていたという事実を叩きつけられたとき。
 説明し難いが、なんだか空っぽになった。
 造物主に命令を与えられていたというのに、自分がどうして動いているのか分からなくなった。
 よく分からないが、とにかくすべてがどうでもよくなった。
 あれはいったい、なんだったのだろうか。
 そして――
 もしも才賀勝の名前が、放送で呼ばれたのなら。
 そのときには、どうなってしまうのだろう。
 想像しかけて、コロンビーヌはやめた。
 そう簡単に、あの少年が死ぬはずがないのだから。

 この楽観的な思考は、放送前の佐野のものと似通っているのだが――コロンビーヌは気付かなかった。

283 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:50:02.12 ID:azbzcpRF
 

284 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:50:12.61 ID:iaKn/EyU



285 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:50:26.36 ID:azbzcpRF
 

286 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:50:53.79 ID:azbzcpRF
 

287 :既知との遭遇 ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:50:53.95 ID:wsTwwzJC


 アル・ボーエンは、放送によりもたらされた情報を脳内で処理する。
 脱落者十六名のなかには、巴武士も含まれている。
 彼のARMS『白兎(ホワイトラビット)』は、全ARMS中最速の性能を誇る。
 そんな彼が、もう息を引き取ったという。
 証拠はない。
 死体は確認しておらず、死因すら明かされていない。
 ただ、死んだという情報だけを叩きつけられただけだ。

 ――はたして、信じられるのだろうか。

(……バカバカしい。
 ヤツが嘘を吐く必要がどこにある。
 高槻の暴走を狙うのなら、最初ので十分だ)

 浮かびかけた希望的な考えを、アルは自ら切り捨てる。
 高槻のように、武士のARMSが復活していたとも限らない。
 それならばただ場馴れした高校生にすぎない。
 もしARMSが復活していたとしても、この場には恐るべき参加者が存在するのだ。
 死んでいないなどと思い込むのは、ただの逃げでしかない。
 そう判断して顔を上げてみると、アルの視界に呆然としているレイラの姿が映った。
 今世紀最高の頭脳を使わずとも、その理由はすぐに分かった。
 レイラの仲間であるナゾナゾ博士の名も、先の放送で呼ばれたのだ。
 だが輪廻の副作用により、現在のレイラは――

「やはり、覚えていない……のか?」

 ナゾナゾ博士が仲間であるとは、名簿に記されていた。
 しかし、彼がどういう人物であったのかについての記憶が消えている。
 
「……そうね」

 少し間を置いて、レイラは首肯した。
 誰だか知らない仲間であったらしい人物。
 その死にどう反応すべきか、自分でも判断しかねているようだ
 困惑した様子のレイラに、アルは一つ提案する。

「別に、それを破壊してしまっても構わないんだぞ」

 アルが指差したのは、レイラの腕にはまった輪廻である。
 それを破壊すれば、副作用は一気に回復するのだという。
 本来の年齢に戻ってしまう代わりに、仲間の思い出を取り戻せるのだ。
 子どもに戻ってしまえば、レイラの魔術はかなり弱体化する。
 このプログラムの打破を目指すアルにとって、戦力の低下は手痛い。
 しかし仲間の死を悲しむことさえできないレイラの姿が、アルには気に入らなかったのである。
 そんな思いから紡がれたアルの提案だったが、レイラは首を横に振った。

「いいえ、このままでいいわ」
「だが覚えていない仲間のために、そこまでしなくても――」
「いいの」

 説得しようとするアルの声を、レイラが遮る。

「元から仲間だった四人の人たちは覚えてなくても、アルたちのことは覚えてるから。大丈夫」

 言い切って、レイラが微笑む。
 その笑顔をなぜだか直視できず、アルは視線を逸らす。
 レイラは不思議そうに首を傾げながら、表情を覗き込んでくる。
 慌ててそちらからも顔を背けて、アルは声を張り上げる。

288 :既知との遭遇 ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:51:35.06 ID:wsTwwzJC

「ええいっ、別に外さないなら外さないで好きにすればいいさ!
 だから、いちいちこっちに来るんじゃないっ! いったいなんなんだっ!」

 さらに困惑するレイラになにも言わず、アルはコロンビーヌと佐野に向き直る。
 放送が終わったことだし、移動を再開しよう。
 死者が多数出たことはショックだが、落ち込んでいる暇はない。
 軽トラックがあるので、移動もだいぶ楽になった。
 この今世紀最高の頭脳の持ち主アル・ボーエンに、運転は任せておけばいい。
 そう、言おうとした。

 言おうとして――息を呑んだ。

「…………ッ!?」

 足音が近付いてきているのだ。
 それも、足音を隠そうとすらしていない。
 単に隠せていないのではなく、存在をアピールするかのようにあえて響かせている。
 コロンビーヌと佐野はすでに気付いていたらしく、足音のほうを見据えていた。
 二人に遅れてそちらに振り返ると、アルの全身から冷や汗が溢れ出す。
 接近してきているのは、足音だけではなかった。
 痛いほどの威圧感が、全身に突き刺さってくる。
 このプレッシャーの持ち主を、アルは知っていた。

「ようやく参加者に遭遇したと思えば……ふん」

 接近者の姿が、ついにアルの視界に入る。
 ツバの短い軍帽。
 その下には、精悍な顔。
 ゆったりとした軍用ロングコート。
 それを纏っていても分かるほどに、鍛え抜かれた巨躯。
 人違いであって欲しかったが、どうやらそうはいかないらしい。

「『チャペルの子ども』、アル・ボーエン。
 『布を鉄に変える』だけの貧弱な能力者、佐野清一郎。
 そして貴様、は……なるほど。魔道具・輪廻を使ったか、『魔物の子』のレイラ」

 キース・シリーズの次兄。
 闘争に生きて闘争に死んだ、戦闘生命。
 アドバンストARMS『帽子屋(マッドハッター)』の適正者。
 自身の作り出した屍の山の上で息絶えたはずの『戦いの神』。

「とんだ脆弱な輩ばかりと行き会ったものだ」

 ――キース・シルバーが口角を吊り上げ、公園を見下ろしていた。

(まずいッ!!)

 今世紀最高の頭脳が、激しく乱れる。
 アルがこの殺し合いの舞台で名簿を確認した際、とある二つの名前に『こいつにだけは出会ってはならない』と判断を下していた。

 その二人とは、すなわち――
 『マッドハッター』のキース・シルバー。
 『チェシャ猫(キャット)』のキース・グリーン。

 彼らはほぼ間違いなく殺し合いに乗り、かつ参加者中トップクラスの戦闘能力を有する。
 そう認識していた。
 にもかかわらず、その片割れにそうそうに出会ってしまった。
 せめて――ARMS殺しを持つ二人と合流してからならば、まだ対処のしようもあっただろうが。

289 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:51:42.04 ID:azbzcpRF
 

290 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:51:58.86 ID:iaKn/EyU



291 :既知との遭遇 ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:51:59.93 ID:wsTwwzJC

「ねえアナタ、アルの言っていたキース・シルバーよねェ?」

 アルの焦りに、気付いているのかいないのか。
 一歩前に出て、コロンビーヌがシルバーに話しかける。
 そのおどけたような口調とは裏腹に、ひどく剣呑な雰囲気を漂わせている。

「ああ」

 シルバーの短い返事を待ってから、コロンビーヌは二つ目の疑問を浴びせる。

「さっき脆弱な輩って言ってたけどォ……一人忘れてるんじゃないかしらン?」

 その通りだ。
 コロンビーヌだけが、なにも言われていないのだ。
 心眼にてシルバーの心を読んでいたアルには、その理由は分かっている。
 分かっているからこそ、それについて尋ねて欲しくはなかった。
 答えを聞いたコロンビーヌが、どういう反応をするのか――分かり切っていたからだ。
 そんなアルの思いを尊重するはずもなく、シルバーはなんでもないことのように言い放つ。

「貴様ら自動人形も、その宿敵たるしろがねも、俺は敵として認識していない」

 眉根を寄せるコロンビーヌを意に介さず、シルバーは続ける。

「他者の意図に縛られるだけの存在に、なんの意思がある。
 存在を規定するのは、自分自身の意思だ。自らの意思なき存在に価値はない。
 たとえ思考回路を有していようと、どう生きて死ぬかすら決められぬ貴様らは――ただの繰り人形にすぎない」

 口と目を開いたまま、コロンビーヌは硬直する。
 その間に、アルは三人にテレパシーを飛ばす。

『おい佐野! 軽トラックの入った蔵王をよこせ! 逃げるぞっ!』

 それに対して、仲間たちがどういう反応をするのか。
 返事を待たずとも、アルには分かってしまう。
 そして、予想通りの答えが返ってくるのだった。

「イヤや」
「イヤよ」

 繰り人形扱いされたコロンビーヌだけではない。
 佐野だって、親友である犬丸から授かった能力を嘲笑われたのだ。
 そんな相手に対し背中を見せて逃げるなど、とても認められるはずがなかった。

「……どうするの、アル?」

 戸惑っている様子のレイラだったが、こうなってしまえば取れる手段は一つしかない。
 レイラの魔本を手に、アルは自身を鼓舞するように叫ぶ。

「決まってるだろう! さっきも言ったように、僕は決して友達を見捨てないっ!!」

 到底、勝てるとは思えない。
 本気にさせてしまえば、もう終わりだ。
 だから完全体にならないうちに、どうにか隙を作って逃亡する。
 しかしテレパシーにてその計画を伝えたのは、レイラだけである。
 佐野とコロンビーヌにそんな提案をしたらどうなるかなど、火を見るほど明らかなのだから。

292 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:52:05.51 ID:azbzcpRF
 

293 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:52:37.34 ID:azbzcpRF
 

294 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:52:40.71 ID:KJPpKgW2
 

295 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:52:59.50 ID:azbzcpRF
 

296 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:53:06.70 ID:iaKn/EyU



297 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:53:20.49 ID:KJPpKgW2
 

298 :既知との遭遇 ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:53:31.89 ID:wsTwwzJC



【E−2 公園/一日目 朝】

【アル・ボーエン】
[時間軸]:第四部「アリス」編終了以降。
[状態]:健康、心の力(小)
[装備]:レイラの魔本@金色のガッシュ!!、心眼@烈火の炎(自動人形の思考も読めます)
[道具]:基本支給品一式、通信鬼@GS美神、ノートパソコン@現実、USBメモリ@現実
[基本方針]:施設を巡り情報を集める。殺し合いに乗っている者は倒す。
※ルシオラの思考をある程度まで読んでいます。


【レイラ】
[時間軸]:魔本が燃え尽きた直後。
[状態]:大人化、ダメージ回復、心の力(小)
[装備]:輪廻@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式、居合番長の風呂敷@金剛番長、通信鬼@GS美神
[基本方針]:仲間達を守る。殺し合いに乗っている者は倒す。
※輪廻で大人の姿となることで能力が上昇していますが、副作用で会場に来る以前の記憶が朧気になっています。
※ガッシュ達が仲間であることは理解しています。


【佐野清一郎】
[時間軸]:ヒデヨシが仲間になってから、森の能力判明前。
[状態]:健康
[装備]:佐野の手ぬぐい@うえきの法則
[道具]:大量のてぬぐい@うえきの法則、軽トラック@現実、基本支給品一式
[基本方針]:仲間たちとともに脱出する。コロンビーヌと共にアルに同行する。
※佐野の手ぬぐいは支給品ではなく、最初から装備してました。


【コロンビーヌ】
[時間軸]:本編で活動停止後
[状態]:健康
[装備]:懐中時計@金剛番長
[道具]:ランダム支給品1〜2(確認済み、キレイではない)、基本支給品一式
[基本方針]:さすらう。『生存目的』を見つけ出す。とりあえずアルに同行。
※アポリオンは使用可。制限されているかどうかは不明。


【キース・シルバー】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にてオリジナルARMSたちがカリヨンタワーに乗り込む直前。
[状態]:健康、共振波を放出中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:戦闘生命として、闘争を求める。

299 :既知との遭遇 ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:53:51.75 ID:wsTwwzJC



【支給品紹介】


【大量の手ぬぐい@うえきの法則】
佐野清一郎に支給された。
植木耕助担当の神候補・淀川が、佐野清一郎に送ったもの。
山ほどの手ぬぐいが箱に収納されている。


【軽トラック@現実】
佐野清一郎に支給された。
フツーのよくある軽トラック。略して軽トラ。
四輪モデルで、オートマ。


【USBメモリ@現実】
佐野清一郎に支給された。
中身は未確認。

300 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:53:59.12 ID:azbzcpRF
 

301 : ◆hqLsjDR84w :2012/05/11(金) 21:54:17.08 ID:wsTwwzJC
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

支援どうもです!

302 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 21:54:24.43 ID:KJPpKgW2
 

303 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 22:16:30.12 ID:azbzcpRF
執筆に投下、お疲れ様でした。
四人の掛け合いといいシルバー登場からの緊張といい、読ませるなぁ……。
とくにシルバーは最後の最後に出てきただけなのに、威圧感も存在感もあるのは
今まで氏ががっちり書いてきたからでもあるよなぁと思ったり。
USBメモリも出てきて、ってところでこう来る……そこまでの流れで、佐野の
いいところも適当なところもきっちり演出してきたのもニクいところ。
この話も面白いし、次の流れも気になる。GJっした!

304 :創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 23:05:42.83 ID:OHFIfjMn
投下乙! これは楽しみだ!
アルチーム和むから大好きだけどシルバーも格好いい…どっちを応援したらいいんだろうw
それにしても生きる目的を探そうとしてたコロンビーヌにはシルバーの言葉が痛いよな

305 :創る名無しに見る名無し:2012/05/12(土) 21:51:29.58 ID:e8ZYnuby
投下乙
まだ誰かを殺したわけでもないのに、シルバーのオーラがヤバイ……!
これは、アル組無傷じゃすまなそうだ……
前半で全員死んでほしくないと思わせてこれだもんなあw

306 : ◆hqLsjDR84w :2012/05/14(月) 15:34:28.64 ID:bXDm3YX/
投下します。

307 :ゲェムを作る側から見た場合 ◆hqLsjDR84w :2012/05/14(月) 15:35:12.00 ID:bXDm3YX/
 ◇ ◇ ◇


『――次の放送は正午に行われるので、覚えておくんだな』

 その宣言をもって、辺りに静けさが戻る。
 足を止めて放送に耳を傾けていたフェイスレスは、ふうと大きく息を吐く。

「いやあ、二人とも無事みたいでよかったよ。
 ようやく掴みかけた夢を、こんな形で手放せないからね」

 言葉の内容に反して、口調に安堵の色はない。
 当たり前のことである。
 フェイスレスの記憶を持つ才賀勝は強いし、エレオノールも人形破壊者(しろがね)として修羅場をくぐっている。
 彼らに限って、こうも早い段階で命を落としたりはしないだろう。
 このように分かり切っていた事実を知らされたにすぎないのだから、いちいち胸を撫で下ろすはずもない。
 軽薄な笑みを浮かべて、フェイスレスは頬に手を伸ばす。
 そのまま思い切り手を引っ張ると、通常ありえぬ勢いで頬が伸びていく。
 ギャラリーもいないというのに、奇妙な表情を作っていく。

(まあでも、そうのんきに構えてもられないんだけどね。
 どうも『おもしろい』連中ばかり呼ばれてるようだし……
 なにより、勝くんもエレオノールも面倒なことに率先して首を突っ込みそうなタチだしねェ)

 ふざけた行動を取りながらも、フェイスレスの思考は落ち着いていた。
 これまでに出会った参加者たちは、誰も一般人とは言い難い。
 支給品にしたって、フェイスレスがかつて学んだ錬金術の結晶に匹敵する逸品ばかり。
 いかに勝とエレオノールと言えど、必ずしも死なないとは言い切れない。
 やはり、早急に合流して捕らえておきたいところである。

(それに、あの放送――)

 新宮隼人によると、キース・ブラックの束ねる組織・エグリゴリはかなりの科学技術を有しているという。
 それは聞いていたのだが、先ほどの放送は優れた科学技術程度では説明ができない。
 充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。
 そんな言葉があるし、実際にARMSも科学技術の結晶とは思えない代物であった。
 とはいえ一流の科学者でもあるフェイスレスは、隼人の拙い説明からもARMSについて理解することができた。
 フェイスレス自身による解釈の補完がかなりあるので、細かくはキース・バイオレットから聞きださねばならないが。
 それでも、アレはたしかに科学の結晶と言えよう。

 だが――
 どこから聞こえてきたのかさえ分からない。
 辺りに散らばっている参加者全員に、等しく向けられただろう。

 そんな――先ほどの放送。

 こちらは、納得できない。
 百パーセント不可能だ。
 現代の技術においては、という話ではない。
 根本的にできるはずがない、のだ。

 『音』とは、すなわち『波』だ。
 ゆえに、障害物の影響を受けるのである。
 ときに跳ね返り、変質し、遮られてしまう。
 にもかかわらず、殺し合いの会場全体に等しく音を届けるなど――到底できない。
 たとえば、上空や地面から大音量で放送を流すとする。
 技術的に可能かはさておき、やってみたとする。
 確実に、聞けたものではないだろう。
 一部地帯では問題ないかもしれないが、会場全体で屋外屋内の差がなく等しく聞くことができる――とはいかない。

308 :ゲェムを作る側から見た場合 ◆hqLsjDR84w :2012/05/14(月) 15:36:04.44 ID:bXDm3YX/

 ゆえにフェイスレスは、会場のいたるところから放送を流すものと思い込んでいた。
 だというのに、これははたしてどういうことか。
 しろがねの聴覚をもってしても、音源の位置を特定できない。
 だというのに、音源は一つだということだけははっきりしている。

(……ま、『呪文』だとか『霊力』だとかが関わっているなか、マジメに考えるのもバカらしいっちゃバカらしいんだけど)

 少しばかりやるせなくなり、フェイスレスは頬から手を離す。
 パチンと軽快な音を立てて、三十センチほど左右に伸びていた頬の肉が勢いよく戻った。
 いかなる仕組みか、渦巻いていた白いヒゲもその衝撃で元の形状に直る。

(ようは、いまのエグリゴリ……いや、その組織が関わっているとは断言できないか。
 正確には……いまのキース・ブラックは、単なる優れた科学の持ち主ではないってこと)

 『錬金術』。
 『魔道具』。
 『呪文』。
 『霊力』。
 そして、現時点でフェイスレスが知らない技術。

 ――それらのうちのどれか、あるいはすべてを掌握しているのだろう。

(そして、それをわざわざこちらに示しいる、と)

 参加者同士が言葉を交わせば、参加者はすぐに自身の知らぬ超常的な技術に気付く。
 そんなことせずとも、武器としてわざわざ支給されている。
 また、勘のいい参加者ならば放送で勘付くだろう。

(どーもねー。
 なんていうか、こう、壊れた自動人形(オートマータ)みたいなんだよねェ。
 どうも、歯車が噛み合わないというか)

 隼人によると、キース・ブラックは高槻涼を絶望させるつもりらしい。
 それにしては、この殺し合いは規模が大きすぎる。
 またその場合、最初に彼の思い人と思われる赤木カツミを殺害したのは失策だ。
 思い人を失った際の絶望を知っているからこそ、フェイスレスはそう思う。
 高槻涼の絶望が目的ならば、『赤木カツミの死』は切り札だ。
 最初の一手には相応しくない。どうせならば最後の一手に用いるべきだ。
 もしフェイスレスならば、高槻涼自身に赤木カツミを殺害させるだろう。
 それこそがもっとも彼を絶望させる展開なのは、明らかだ。
 なのに、しなかった。

 そこから推測できることは――

 天才的な頭脳を回転させ、フェイスレスはついに結論を導き出す。
 えらく神妙な面持ちで顔を上げ、ハッとしたように目を見開く。
 小刻みに震えた右手を口元に持っていく。

309 :ゲェムを作る側から見た場合 ◆hqLsjDR84w :2012/05/14(月) 15:36:51.48 ID:bXDm3YX/

「こーーーりゃダメダメ。全ッ然、分っかんねえわ」

 びよーんと顎を引っ張りながら、わざわざ口に出して言う。

「やっぱし、キース・バイオレットに会わなきゃねー。
 そもそも現時点じゃ情報足らなすぎて、なんとも言えんわ」

 びょーん、びょーん。
 フェイスレスは、顎をゴムのように引っ張っていく。
 次第に唇まで引っ張られて、さらには歯茎まで露になる。
 しかし、いくらフェイスレスでも歯まで伸縮可能とはいかないらしい。
 顎と唇と歯茎がやたらと伸びているなか、歯だけそのままというのはそれはそれで気味が悪かった。

「ふぁ、しょうしょう(あ、そうそう)」

 顎が引っ張られているので、上手く言葉になっていない。
 だがそんなことを気にせず、フェイスレスは続ける。

「ふぉふぉ、あふぉりおんほんふぇるひょね(ここ、アポリオン飛んでるよね)。
 ほふっふぇひゃいだから、ふぉうひゅうのひゃめふぇふぉしぃふぁぁ(僕ってシャイだから、そういうのやめて欲しいなァ)」

 右手で顎を掴んだまま、フェイスレスは空いている左手を振るう。
 なにもないはずの空間に触れると、金属が擦れるような音が響く。
 顔の下半分が伸びた状態で、上半分だけ真剣な表情となる。

「ふぉー、ふぉないだほふぉぞきみふんひょりふぃふぃふぉふふふふぇ(ほー、こないだの覗き見くんよりいいの作るね)」

 ちぇっと舌打ちを鳴らすと、フェイスレスは喫茶店へと歩み出した。



【D−5 路上/一日目 朝】

【フェイスレス】
[時間軸]:28巻、勝にゲームを申し込んだ後。
[状態]:健康、インドラ@GS美神に乗っている
[装備]:エネルギー結晶@GS美神(体内)、クピラ(肩)・インドラ(乗っている)@GS美神、言霊@烈火の炎(体内)
[道具]:式神十二神将の札×9(マコラ、ショウトラ、アジラ、サンチラ、シンダラ、ハイラ、他は空)@GS美神
     ガッシュの魔本@金色のガッシュ、基本支給品一式×2
[基本方針]:愛しの人を手に入れるべく、エレオノールと才賀勝の捜索。才賀正二の悪評を広めるのも忘れない。喫茶店に向かう。

310 : ◆hqLsjDR84w :2012/05/14(月) 15:37:31.24 ID:bXDm3YX/
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

311 :創る名無しに見る名無し:2012/05/15(火) 11:16:15.32 ID:qqv4k1qx
投下乙
どこまでふざけてて、どこから本気なのか
対主催ではあるんだがw

312 : ◆6LcvawFfJA :2012/05/16(水) 15:10:11.86 ID:1uXfhI9/
投下致します。

313 :思索――自分達の現在位置 ◆6LcvawFfJA :2012/05/16(水) 15:10:54.15 ID:1uXfhI9/
 高槻涼が落ち着きを取り戻し、暫らくが経過する。
 依然として、紅麗と阿紫花英良が到着する気配は無い。
 両者ともに放送で呼ばれてはいない以上は、おそらく向かってきているはずだ。
 したがって勝手に移動する訳にもいかず、ただ待つしかない。
 されど高槻涼の方はともかくとして、加藤鳴海にはそういう待機するだけというのは性に合わない。
 最初の五分、ここまでは高槻と言葉を交わす事で問題無く過ごしていた。リビングの椅子に腰掛けながら、会話が弾む。
 次の四分、この辺りで会話が途切れ始める。高槻から告げられる情報はきっとプログラム打破に重要なのだろうが、如何せん鳴海には難しすぎた。
 さらに三分、無言のまま鳴海の体が微かに振動しだす。貧乏揺すりである。
 もう二分、貧乏揺すりが激しくなる。腰かけている椅子に振動が伝わり、床から部屋全体を震わす。
 それから一分足らずで、ついに我慢の限界を迎えた。
「何もしねーで、ただ待ってなんかいられっかよッ!」
 机を思い切り叩き、声を張り上げる。
 同時に思い切り立ち上がり、その勢いで家全体が大きく揺れた。
 既に十六名が死しているという事実を叩き付けられているのだ。
 加藤鳴海という男の人となりを考慮してみれば、彼にしてはよく持った方と言えよう。
 落ち着いているように見える高槻も、実は鳴海と同じ気分であった。
 共に過酷な運命を背負った兄弟とも言える巴武士が、その命を落とした。
 他の仲間達がいつそうなるかは分からない。
 ならば、いち早く動き出すべきなのではないか。
 そのような考えが、先程からずっと頭の中を回っている。
 が、しかし、当ても無く動くのは得策では無い。
 その事実も、高槻はよく理解していた。
「待ってくれ、鳴海s……」
 危う付けそうになった敬称を飲み込む。
 年齢を明かされても、殆ど年が同じという事実は今一ピンと来ない。
 しかし、それは今は無関係。
 民家を出て行こうとする鳴海を呼び止め、高槻は言葉を続けた。
「地図を見る限り、殺し合いの舞台は広い。
当ても無く彷徨うのは、来ると分かっている仲間を待ってからの方が良い。
それに、一度別れたら次に何時合流出来るかも分からない」
 表情を歪める鳴海。
「でもよォ……、高槻ッ!
こうしてただ待ってるだけなんてよォ!」
 鳴海にも、その可能性が浮かんでいなかった訳では無い。
 分かってはいたが、それでも動き出したかったのだ。
 その気持ちも、高槻には分かる。
 分かるからこそ、言える事もある。
「俺だって、ただ待ってるのなんて真っ平だ。
でも動く訳にはいかない。そんな浅はかな事をしては、余計にブラックの意のままだ。
だから」
 片方だけ残った右腕でデイパックを持ち上げ、机に置いた。

「今の内に、喰っておこうッ!」

 目を丸くする鳴海。
 その前で、高槻は片腕で苦労しながらもデイパックから食料を取り出す。
「どうせ待つしかないにしても、その間呆けてるんじゃ無駄も良いとこだ。
合流したらまた動かなきゃなんねーんだ。待ってる間にエネルギー補給でもしようぜ」
 右腕で持った惣菜パンの袋に噛み付く高槻。
 首を振るった勢いで、無理矢理開封する。
 片腕しか無い以上、こうするしかない。
「ああ……、そうだなッ!
いっそ、全部喰い切っちまう勢いでな!」
 隻腕にもかかわらず先の為に食事を取ろうとする姿を見て、鳴海はつい笑顔になってしまった。
 笑っては悪いかもしれないが、高槻が同じ目的を抱いている事実が嬉しかった。
 自分のデイパックから食料を取り出す鳴海。
 こちらは幕の内弁当であった。箸を使わねばならないので、隻腕の高槻にこちらが支給されなかったのは幸運だっただろう。

314 :思索――自分達の現在位置 ◆6LcvawFfJA :2012/05/16(水) 15:11:18.63 ID:1uXfhI9/

 高槻が三つ目のパンに、鳴海が四つ目の弁当に差し掛かった。
 不意に、高槻が思い出したように尋ねる。
「そういえば鳴海、ここに向かっているっていう二人は、俺達の場所を分かってるのか?」
「ああ。“目印”があるから大丈夫だよ、ダイジョー……ゲホッゴホッ!」
 喉に詰まった白米を、鳴海は水で強引に流し込んだ。

     ○

「……うわ」
「此処のようだな」
「いや、見りゃ分かりますけどね……」
 鳴海が噎せ込んだ丁度その時、紅麗と阿紫花の二人はようやく到着した。
 玄関へと進む紅麗をよそに、眉を顰めている阿紫花。
 その視線の先には、鳴海が用意した“目印”があった。
 時には赤く、白く、青く、様々な色に明滅。
 その煌々とした輝きは、次第にある文字を模っていく。
 “MERRY CHRISTMAS”という、一文を。
 加藤鳴海の支給品であるイルミ―ネーションが、民家の屋根を囲んでいた。
「まあ目印が無きゃとても会えやしねえんで、何か置いとこうって発想は良かったんでしょうが……。
よりにもよって、こんなど派手なもん使わんでも……兄さんらしいっちゃらしいかもしれやせんね……」
 肩を竦めて、阿紫花は紅麗の後を追った。

 民家に入ったと同時に、二人分の足音が近付いてくる。
 その正体は、予想通り鳴海と高槻であった。
「遅えぞこの野郎ッ!」
 怒りを露に声を荒げる鳴海に、阿紫花は口元を持ち上げた。
 記憶を失っているようだが、こういう所は記憶喪失以前から何も変わっていない。
「すいやせんね。
よもやそんなに早くそっちの兄さんが起きるとも思ってなかったんでね。
あたしと紅麗さんは、会場の端を見に行ってたんですよ。
でもまあ見た所、そっちの兄さんはもう暴れる気無えみたいで安し」
 そこまで言いかけた所で、阿紫花の口を遮るように紅麗が手を伸ばす。
 困惑する高槻と鳴海だったが、阿紫花だけはその意図を読み取る事が出来た。
「……聞かせてもらおうか、高槻涼」
 阿紫花に向けられていた右手を、高槻に向ける紅麗。
 その長い腕を渦巻くように、紅蓮の炎が宿る。
「貴様、先程のように暴れる事は無いのだろうな」
 右腕を覆う炎が、高槻の首元に伸びる。
 もう数センチでも右腕を前に動かせば、炎は高槻の首を焼き切るであろう。
「おいてめえッ! そいつは」
「貴様には聞いていない」
 激昂し飛びかかろうとする鳴海に、紅麗は仮面の下から鋭く睨み付ける。
 そこらのごろつきではそれだけで泡を吹く視線であったが、“自動人形”と死闘を繰り広げてきた鳴海は怯まない。
 舌打ちを一つ鳴らし、紅麗は鳴海に言い放つ。
「……貴様、巫山戯ているのか。
高槻涼は思い人を失った事実から目を背けた結果、力を振るうべき相手を見誤り暴れ狂った。
その事実がある以上、貴様の擁護程度で信用など出来るものか。
こいつを信用するか否かを決めるのは、この私だ。
そして場合によっては、再度の暴走を防ぐべく首を狩り落とすだけだ」
 鳴海は反論出来ず、口籠った。
 それでも何か言おうとして、高槻の手が口元に伸びた。
「ああ、そうだ。あんたの言った通りだ。
カツミを失った悲しみから逃げ、俺は“ジャバウォック”に身を委ねた。
倒すべき敵を見誤り、人間として進む事から逃げ……、御神苗優を殺した」
「ほう……。既に知っていたか」

「でも、俺はもう逃げない。逃げたくない。人として生きたいんだ。
カツミが信じた俺の道から、もう足を踏み外したくない」

315 :思索――自分達の現在位置 ◆6LcvawFfJA :2012/05/16(水) 15:11:46.23 ID:1uXfhI9/

 数刻の間を置き、紅麗は手を引く。
 その動きに連動して、高槻の首元に伸びていた炎が消失する。
「そうか。ならば良い。精々、好きにしろ。
暴走しないのならば、貴様がどう動こうと知った事では無い。
ともあれ、貴様の持つキース・ブラックに関する情報を明かせ」
 無愛想に告げ、紅麗はリビングに進む。
 僅かに呆然としてから、それに続く三人。
「……ああ。そういえば高槻涼、貴様その腕、再生能力が効いていないようだな」
 不意に足を止めて、紅麗は高槻の右肩を指差す。
 本来腕が伸びているはずの箇所に腕は無く、付け根には布が巻かれている。
「望むならば、止血しても良いぞ」
 再度、紅麗の腕を燃え盛る炎が宿る。
 常の紅麗ならば、このような提案をする事は無い。
 だが、先程の高槻の宣言。
 “カツミの信じた道を行く”。
 この言葉に、紅麗は自身の炎に宿る女の姿を連想した。
 死した同志の信じた道を行くのが、麗を率いる紅麗である。
 ならば、高槻は紅麗と同じ選択をした事になる。
 故に、紅麗は提案したのだ。
 以降手を貸す気は無いが、一度くらいはと。
 それに対し、高槻は少しばかり逡巡して決断を下す。
「ああ、頼む」
 仮面の下で笑みを浮かべ、紅麗は真紅の炎を高槻の傷痕に押し当てた。

     ○

 高槻がある少女から始まった因縁を話し終えた。
 それから鳴海が“しろがね”について、そして紅麗が所々ぼかしつつ“魔道具”についてを語る。
 そして、静寂が広がる。
 考え込むように沈黙していた紅麗が、口を開く。
「高槻の話ではキース・ブラックの目的は“高槻涼の絶望”らしいが、そうではあるまい。
それを目的としているにしては大がかりすぎるし、赤木カツミを殺害するのも早すぎる」
 頷く高槻。
 あの状態でアリスから遠ざけられたのも、よくよく考えてみるとおかしい。
「“プログラム”。そう呼称しているからには、何かしらの目的がある筈だ。それを探らねばならない。
まず考えられるのは、“殺し合い自体”が目的という可能性。しかし、これも考えづらい」
 一人首を捻る鳴海。
 放置して話を続けようとして、紅麗はやめる。
 阿紫花と高槻が、必ずしも紅麗と同じ考えを抱いているとは限らない。
 違った場合に、その意見も聞いておきたい。一応説明をしておいて損は無い。
「何故なら、単純に“ぬるすぎる”。
外そうとすれば爆発する首輪を嵌め、易々と脱出のしようがない結界内に閉じ込め、一定時間ごとに舞台は狭くなる。
殺し合うしか無い……そう思いこみかねないが、違う。
“殺し合いだけを強いていない”。この条件ならば、“殺し合い以外の事をする”には十分すぎる」
 はっと目を見開く鳴海。納得したようだ。
「そういう事かッ! 殺し合いをさせたいなら、この会場は広すぎるぜ!」
「それに、長すぎやすね。禁止エリアなんててもんがあるにしても、会場の全てが禁止エリアになるまで三日はかかる。
せっかく首輪なんか付けてやがんだ。殺し合わせてえんなら、もっと狭い場所で制限時間でも決めてやりゃあいい」
「そういう事だ。
我々を集め、気付かぬ内に首輪を嵌め、会場の各地に転送し、これほど巨大な結界を張る。
それだけの能力を有していながら、殺し合いを強いるにしては雑すぎる」
 そこまで導き出して、またしても沈黙。
 真の目的を探し出すにしても、情報が無さすぎる。
「殺し合い……とは、キース・ブラックにとっての何なんだ。
真の目的を隠す為の蓋に過ぎないのか、こうして閉じ込めた俺達を混乱させる爆弾なのか、真の目的に関係しているのか……」
「断定は出来んが、無関係とは考えづらいな」
 渋い表情の高槻に、仮面で表情を窺えぬ紅麗が答える。
「殺し合い自体が目的なのではなく、殺し合わせた結果に得られる何らかの成果が目的か……」

316 :思索――自分達の現在位置 ◆6LcvawFfJA :2012/05/16(水) 15:12:04.44 ID:1uXfhI9/
 とはいえ、何を得られるというのか。
 紅麗は思考を巡らすが、結論は出ない。
 鳴海はもはやちんぷんかんぷんらしく、ひたすら難しい顔で首を傾げている。
 阿紫花に至ってはもう考えるのをやめているらしく、天井を見上げて呆けている。
 高槻はまだ脳を働かせているが、唐突にそれは切り上げられる。
「……ッ!?」
 体内のARMSコアが共振を捉えたのだ。





【F−4 民家/一日目 朝】

【高槻涼】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:左二の腕から先を喪失(処置済)、スーツ@現地調達
[装備]:基本支給品一式、支給品1〜3(未確認)
[道具]:なし
[基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。

【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜2(確認済み)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。

【阿紫花英良】
[時間軸]:20巻第33幕『合流』にて真夜中のサーカス突入直後。
[状態]:健康
[装備]:形傀儡@烈火の炎、キャプテン・ネモ@からくりサーカス、ヒヒイロカネ製の剣@スプリガン
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜1(確認済み)
[基本方針]:とりあえず紅麗についていく。

【紅麗】
[時間軸]:22巻210話『地下世界の消滅』以降、SODOMに突入するより前。
[状態]:脇腹に傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、支給品0〜2(確認済み)、首輪(優)、優のメモ付き名簿、ジャバウォックの爪×3@ARMS
[基本方針]:プログラムを破壊し、早急に帰還する。そのために役立つ人物や情報を手にしたい。染井芳乃を捜索。


【支給品紹介】

【イルミネーションセット@現実】
加藤鳴海に支給された。
クリスマス用の物。

317 : ◆6LcvawFfJA :2012/05/16(水) 15:12:26.56 ID:1uXfhI9/
終了です。

318 :創る名無しに見る名無し:2012/05/16(水) 21:01:33.64 ID:ioJ8mvvv
投下乙!
なんだかんだ言いつつ甘いよな、紅麗ってw
しかしこのチームは安定してるな。結論こそ出てないものの、冷静に考察を進めてる
でもグリーンが絡んでくるみたいだし、一波乱ありそうだ

319 :創る名無しに見る名無し:2012/05/17(木) 15:20:07.05 ID:9Sdx31y4
投下乙
冷静になった高槻は頼れるな
ホワイトの真の目的も気になる

320 :創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 00:31:24.81 ID:nLb8ekap
投下しますね

321 :たった一つの卑怯なやり方 ◆c8fjjCyRkM :2012/05/20(日) 00:32:26.51 ID:nLb8ekap
メキラはあくまで紅煉から逃げただけであり、キース・バイオレットの元に向かおうという意思はそもそも持ってなかった。
別段目的地など定めていない為、秋山優が投擲するヒョウによっていとも容易く進行方向を誘導される。
結果として、駅を出た時点では喫茶店へと直進する形であったメキラは、現在は喫茶店とは全く異なる方向へと進んでいた。

「すげえよ優兄ちゃん! こんな方法、俺には全然浮かばなかった!」

「まあ僕も、キース・ブラックと繋がりがありそうなキース・バイオレットには用があるからね」

投げたヒョウを残さず回収しながら、秋山は隣を行く蒼月潮に言葉を返す。
2人の真上で浮いている紅煉は、順調さが気に入らないらしく険しい表情だ。

「ああ……、キース・ブラックか……。確かに関係あるって言ってたな……。でも、バイオレット姉ちゃんは……」

口籠りながらも何かを言う素振りを見せた潮であったが、途中で喋るのを止めた。
追いかけていたメキラの姿が消え失せて、唐突に眼前に出現したのだ。
メキラが瞬間移動を使うのは、既に見破っていた。
しかしこれまで逃げ続けていたというのに、どうしていきなり向かってきたのか。
考えるまでもない。逃げ切れないと悟ったからだろう。
慌てて仕掛けにきたというのなら、今こそ倒すべき時だ。

「このッ!」

支給品を組み合わせて作った即席の槍を振るう潮。
接近されすぎているので、どうやったって刃が相手に触れることはない。
だがこの槍の柄は、神通棍である。
式神のような相手に対し、最も効果を発揮する霊媒アイテム。
それを察しているらしく、メキラは槍が届かぬ場所まで瞬間移動する。

「一尖」

出現したメキラに、秋山の投擲したヒョウが突き刺さる。
槍からは逃げなければならないが、上空には天敵の紅煉がいる。
ならば紅煉の死角にしか出られないと、既に判断していたのだ。
しかしメキラはそのことを知らず、ただ困惑するのみ。
困惑している間にも、事態は動き続ける。

「四爆」

メキラに刺さったヒョウに付属していた符が爆発した。
妖の類によく効くよう調整された霊符だ。
小さな爆発に反して、零体へのダメージは大きい。
悲鳴を上げながらも、メキラは瞬間移動を発動させる。
もう一発でもダメージを受ければ、行動不可能になる。
そう認識したメキラが選んだのは……

「あァ? 何だァ? 仕掛けといて、また消えたのか? みっともねえなァ! ひゃっはっは!」

逃亡だった。
哄笑する紅煉、警戒を続ける秋山と潮。
しかしメキラが現れることはなく、放送が始まった。

322 :たった一つの卑怯なやり方 ◆c8fjjCyRkM :2012/05/20(日) 00:32:43.61 ID:nLb8ekap



  ◇  ◆  ◇  ◆



身を潜めたメキラは、状況を冷静に分析する。
駅で1発、そして今もう1発。
2度も霊符による攻撃を受けた。
一般的な霊符ならばともかく、ある界隈では名の知れた符咒士の逸品である。
いくら式神として格の高いメキラでも、ダメージは深刻だ。
主の元に戻って休むべきだが、その力すらない。
帰還するより霊力が尽きるのが先だろう。
そこで考え……結論を出した。
機を探り、不意を突く。
あの2人の内、片方はせめて倒しておく。
そう心に決め、メキラは物陰から眺め続ける。
好機はすぐに訪れた。
潮が明らかに動揺しだしたのだ。
これを逃す手はない。
体に残った霊力を振り絞り、メキラは最後の瞬間移動を行った。



  ◇  ◆  ◇  ◆

323 :たった一つの卑怯なやり方 ◆c8fjjCyRkM :2012/05/20(日) 00:33:06.00 ID:nLb8ekap



念仏番長と居合番長が死んだ。
その事実に、秋山は驚かなかった。
むしろ、どこか納得していた。
名簿には知っている名が幾らかあったが、もしその中から誰かが死ぬとすれば……
この2人の内のどちらかだろうと、予想していたのだ。

(長生き出来なそうなタイプなんだよな、どちらも。いや、念仏の方は案外生き残りそうなタイプでもあるんだけど、でもあれで意外に体張ったりするからなぁ)

そのように考えながら、秋山が両者の死に何の感情も抱いていないかと言えば違った。
共に戦ったかけがえのない仲間だ。
今回も、一緒に生き残りたかった。
しかし同時に、この状況で誰も死なないで済むとも思っていなかった。

(どうせ馬鹿正直にまっすぐ生きたんだろう。君達の分まで僕が卑怯を請け負おう)

今は亡き仲間に、口には出さずに告げる。
これで彼等への弔いは終わりだ。
死んだ者に悠長に思いを馳せる暇はない。
傍らで俯いている潮に、秋山は視線をやった。

「……ッ!」

仲間への追悼を早く済ませたのは、秋山にとって幸運だった。
潮の背後に現れた式神に、丁度勘付くことができたのだから。

「七排ッ!」

咄嗟に掴んだヒョウを投げ、付属している霊符を爆破する。
回避する力も、耐える力も、メキラには残っていなかった。
爆風が風に流された後には、何も残っていなかった。

「へッ。なんだ、運が良いでやんの」

「紅煉、お前……!」

「ああ、気付いてたぜ。だからどうかしたか?」

「……いや。何でもないさ」

また呪文を詠唱しよかとも思ったが、秋山はそれをしなかった。
そんなことよりも、潮のことが優先すべきだと思った。

「潮……、何かあったのか?」

「真由子と……、そしてとらが……あの大馬鹿野郎がよォ……」

答えられずとも、分かっていた。
それでも情報端末のことを隠している以上、聞かねばならないのだ。

「う、嘘だよな!? んな訳ねえよな!? はっ、キース・ブラックの野郎、こんなことありえねえよな!? あいつに限って、そんな簡単に死ぬはずねえんだ!」

どう返すべきか。
秋山には分からなかった。
放送が嘘の可能性は、限りなく低いと思う。
しかしそう言ってしまっていいものだろうか……
迷う秋山をよそに、上空から降り注ぐ嘲笑うような声。

324 :たった一つの卑怯なやり方 ◆c8fjjCyRkM :2012/05/20(日) 00:33:47.18 ID:nLb8ekap

「んな訳ねーのはその甘ったるい考えだろうが、馬ァ――――鹿。二人がかりで敵わなかった俺がいるんだぜ。他にも、お前等以上の奴がいねえとは限らねえだろ。ただでさえよえーんだからよ、お前達」

秋山に睨み付けられても、紅蓮はにたりと笑い返す。

「何だよ、卑怯者。文句あんのか? だったらこいつは、あのぬっるい考えのままいるべきだったってのかよ。それはそれで面白えからどっちでもよかったけどよ」

秋山は、一瞬だけ呆然となった。
その通りである。
あのまま事実を受け入れないより、こうして直面させた方が幾分ましなのだ。
やり方が冷たく、紅煉自身はただ嘲笑いたかっただけであろうが……
しかし、この手自体は悪くない。

秋山は懐に手を伸ばし、顔のを上半分を隠せるマスクを取り出す。
それを装着し、項垂れる潮に声をかけた。

「潮」

「優兄ちゃん、そのマスク……」

「黙って聞け。あくまで僕の認識だが、あの放送はきっと事実だと思う。奴に嘘を吐くメリットはないし、いかに死にそうにない者だって倒しかねない参加者もいる」

「……うっ……」

「だが潮、お前はそうしているだけなのか? 
先程呼ばれた16人を殺した奴等は、お前のように落ち込んだりせず動き続けているだろう。それでも俯くだけなのか? そうしている間に、他の知り合いや、お前の守ろうとしていたキース・バイオレットが危険にさらされているかもしれないのに」

ぴくりと、潮の肩が跳ねた。
追い打ちをかけるように、秋山は語気を強くしてもう一言。

「それでも、そのまま立ち止まっているつもりなのか?」

目を見開いたまま、潮は立ち尽くす。
しかし30秒ほど経ったとき、不意に潮の表情に笑みが浮かんだ。

「……ちぇっ! ずるいよなァ! そんなこと言われたら、ゆっくり落ち込んでもいられねえじゃんかよ!」

大きく伸びをしてから、潮は深く息を吐く。

「真由子ととらが死んだとか全然実感ねえし、信じる気もあんましねえけどよ、でも……まっ、もしもってこともあるから言ってやる」

吐いた以上に吸って、そのまま大きく叫ぶ。

「な―――に、勝手に死んでやがんだ! こんの大馬鹿野郎ォ――――――ッッ!!」

そうして振り返った潮の表情は、晴れ晴れとしたものであった。

「さて行こうぜ。まったく! 人が沈んでるのに、あんな言い方するんだもんな! 卑怯だなァ、優兄ちゃんは」

「そりゃあ卑怯な手を使うさ。なぜなら……」

アイ・アム・卑怯番長。
と、秋山は自身の二つ名を初めて潮に名乗った。

325 :たった一つの卑怯なやり方 ◆c8fjjCyRkM :2012/05/20(日) 00:34:04.74 ID:nLb8ekap



  ◇  ◆  ◇  ◆



彼等は知らない。
メキラを誘導した結果、とらを殺害したゼオンにかなり接近していた事実を。
そして知らないまま、ゼオンの元から離れていく……。





【E−5 住宅街(南)/一日目 朝】

【蒼月潮】
[時間軸]:26巻第42章『三日月の夜』直後。
[状態]:健康
[装備]:制服、即席槍(ジャバウォックの爪@ARMS+操り糸@からくりサーカス+神通棍@GS美神)、ヴィルマのナイフ(6本)@からくりサーカス
[道具]:基本支給品一式、操り糸(3/4)@からくりサーカス
[基本方針]:仲間を集めて殺し合いを止める。とら? 勝手にしろィ! 喫茶店に向かう。
※バイオレットからプログラムについて他のキースシリーズ、オリジナルARMS勢の情報を貰いました。
 ただし、ARMSについては教えて貰っていません。

【秋山優(卑怯番長)@金剛番長】
[時間軸]:最終決戦後、後日談の前
[状態]:健康
[装備]:霊符(残り30枚)、ヒョウ(残り15本)、参加者名簿入り携帯端末@オリジナル(ポケット)、サバイバルナイフ(腰)@現地調達
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、ヒョウ(25本)&符(50枚)&十五雷正法説明書@うしおととら、
    、不明支給品1(秋山は確認済)、1〜3(秋山と紅煉が確認済み)、デパート内で回収したものいろいろ
[基本方針]:あらゆる卑怯な手を使ってこの街から脱出し、家へ帰る。体内に爆砕符があると思い込んでいる紅煉を脅してうまく利用する。喫茶店に向かう。

【紅煉@うしおととら】
[時間軸]:本編にて死亡後
[状態]:ダメージ回復
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:秋山優をなんとか隙を見て喰い殺す。それまでは死にたくないので従う。秋山を殺せたらあとはひたすら参加者を喰い殺す。喫茶店に向かう。
※「黒炎(分身というか手下と言うか、まあセルジュニアみたいなもの)を生む能力」は制限により使用不可。

※メキラは消滅しました。

326 :創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 00:35:10.98 ID:nLb8ekap
ここまでです
長すぎると出たので改行した箇所については、前回と同じく

327 :創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 01:03:17.50 ID:KF9sfyVm
投下乙
とら呼ばれたらどうなるか心配だったけど、こう来たか
別に放送信じ切ったワケじゃないけど、もし死んでるならこのクソバカ野郎、とw
卑怯番長の卑怯な手が素晴らしいw

328 :創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 18:12:03.50 ID:Nuupg7lE
転載

109 名前:週刊少年ななしさんデー[sage] 投稿日:2012/05/20(日) 02:55:07 ID:???
規制であっちに書き込めないのでこっちで
投下乙
潮はやっぱり仲間に恵まれるなあ
強いけど喧嘩売りまくりのとらはともかく、真由子が死んだ事がどう影響するかと持ったけど
そうだな実際に死ぬ所を見た訳じゃないから即ダメージってわけではないかもな
もし死体に遭遇してたらもうちょっと何かあっただろうけど

そして何気にすごい即席槍だけど、先がジャバの爪って事はリーマンのビームサーベルみたいな事も出来るんだろうか
いや槍が凄くても潮の身体能力が上がらないからやっぱり獣の槍の方がいいか
他のキャラが使うなら断然即席槍だけどな、獣の槍じゃ自分もアレになっちゃうし

329 :創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 20:09:18.11 ID:zmMnN5AX
て、転載ありがとう

330 : ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:27:47.13 ID:mPa/vI0s
投下します。

331 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:28:51.37 ID:mPa/vI0s
 ◇ ◇ ◇


 小金井薫、才賀エレオノール、ロベルト・ハイドンの三人は、未だビジネスホテルの一室にいた。
 小金井とエレオノールが自身の境遇や探し人の特徴を話しているうちに、放送の時間が迫っていたのだ。
 ゆえにそのまま動かず、放送を聞き逃さぬよう耳を研ぎ澄ましていた。
 その放送は先ほど終わったのだが、誰一人として口を開こうとしない。
 それほどまでに、先ほどの放送で告げられた内容が衝撃的だったのだ。
 殺し合い開始から僅か六時間で十六名が命を落とし、しかもそのうち二名は小金井が合流しようとしていた仲間であった。
 ベッドに腰掛けたまま俯いている小金井に、才賀エレオノールは話しかけようとするもなに一つとして口からは出てこなかった。
 どう声をかけるべきなのか判断できず、ただ沈痛な面持ちで見つめるしかできない。
 小金井と異なり、放送で告げられた死者のなかに、エレオノールが探していた相手はいなかった。
 それでも、だからといって喜ぶことはとてもできなかった。
 かつてのエレオノールならばともかく、現在のエレオノールはつい顔も知らぬ十六名にもそれぞれ家族や友人がいたであろうと想像してしまうのだ。
 それに、合流したかった相手というワケではないが、知った名が一つ呼ばれていた。

 ――才賀アンジェリーナ。

 最古の『人形破壊者(しろがね)』の一人であり、同じく最古のしろがねたるルシール・ベルヌイユの娘。
 かつて不意にしろがねの集団から行方をくらまし、日本の地で『生命の水(アクア・ウイタエ)』を飲みしろがねとなった男性と結婚をしていたのだという。
 感情の起伏が乏しいしろがねでありながら愛に生きた彼女の伝説は、女性のしろがねの間でしばしば語られている。
 そのためエレオノールの耳にも入ってきたことがあったのだが、当時はこれといって思うことはなかった。
 恋愛というものがよく分からず、ゆえにしろがねとしての使命を捨ててまで婚姻を交わす意味が理解できなかった。
 だが、現在はどうだろうか。
 才賀勝と出会い、彼を守り続けてきた。
 加藤鳴海と出会い、彼の姿を心に刻みつけた。
 仲町サーカスに入団し、団員たちとともに過ごしてきた。
 そんな、現在のエレオノールならば――
 はたして、その伝説にどのような感情を抱くのだろうか。
 いくら考えてみても、答えは出てこない。
 いまとなっては『才賀』という姓にも気にかかるところがあったが、そちらに思いを巡らすことはできなかった。
 ただ、なぜか、自分のなかでなにかが少し騒いだ気がして、エレオノールは自身の左胸を押さえた。

 ――エレオノールのなかにアンジェリーナの記憶が眠っていることは、彼女自身とて知らぬ事実なのだ。


 黙りこくっている小金井とエレオノールの横で、ロベルト・ハイドンもまた静かに考え込む。
 殺し合い開始から、まだたったの六時間しか経過していない。
 そんな短期間のうちに、すでに十六名が息絶えている。
 たかだか数人が殺し合いに乗っているだけとは、到底考えられない。
 シルベストリのような人ならぬ存在もいるだろうが、いままで出会った参加者から考えるに人間のほうが多いと推測できる。
 ということであれば、やはり――

(自分自身だけのために他人を踏みにじる参加者が、少なからずいる……ということだ)

 迫害された過去が、ロベルトの脳内にフラッシュバックする。

 人より強いというだけで、人と違っているというだけで――

 よってたかって石を投げてきた。
 信頼を裏切り、罪を擦り付けてきた。
 化物と呼び、受け入れることを拒否してきた。

332 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:30:44.73 ID:mPa/vI0s

「……ッ」

 意図せず、ロベルトの歯が軋む。
 蘇った過去の記憶を振り払おうと、首を勢いよく回す。
 もう、あのときのように人より少し強いだけではないのだ。
 町の三分の一程度で済ませずとも、町ごと一発で消滅させることもできる。
 それは明白であったが、ロベルトはそのような行動に移ることをしなかった。

(…………まだ、分からない)

 佐野清一郎や鈴子・ジェラード、そして植木耕助の姿を思い返す。
 自分自身のためでなく他者のために、彼らは格上のロベルトに立ち向かってきた。
 その事実があったからこそ、人間が本当に滅ぼすべき種であるのか見定めるつもりだったはずだ。
 だというのに、早々に答えを出すワケにはいかないだろう。
 そう結論を出し、ロベルトは傍らの二人に意識を向ける。
 守る対象がたとえ自分より強くても、相手を守るのだという。
 彼らの言葉が真実であるのか、それが気にかかった。
 もしもそういう人間が本当にいるのならば、聞こえのいいでまかせなどでなく真実であるのならば――
 かつてのロベルト・ハイドンは、人々に見捨てられはしなかったのだから。


 エレオノールとロベルトの視線の先で、小金井がゆっくりと顔を上げた。

「あー……まいったな。そんなに見つめられちゃうとさァ」
「す、すみません、薫!」
「いや、まあ、別にめーわくとかじゃねーんだけどね。ドキドキしちゃうって話」

 慌てるエレオノールに、小金井はおどけたように返す。
 それから大きく伸びをして、ベッドから飛び降りた。
 傍らに置いてあったエレザールの鎌を忘れず手に取って、折り畳んだままの状態で柄の部分をくるくると回す。

「なんていうか、さっき呼ばれた二人は……まあどっちもかなりやるのはやるんだけど、案外あっさり死にそうっちゃ死にそうでねえ。
 いやまあ殺しても死ななそうっちゃそうだし、実際いままでそうだったんだけど、一方ですぱっと死ぬところも浮かぶっていうか。
 誰かしら庇って死んでったとか、そういうオチなんじゃねーのかな、どーせ。
 こういうこと言うとブン殴られそうだけど、あの二人結構そういうとこ似てるからなあ。別々のとこで、同じようにそんな死に方してそうだよ。ははっ」

 まあ、もうブン殴られることもないんだけどね。
 小金井は軽い口調でそう言って見せたが、誰も反応することはできなかった。
 返答がないことに小金井は一人短く笑うと、さらに続ける。

「誰が他人のために死ぬかとか、自分一人で生き延びてやるとか、普段はそういうこと言いそうなんだけどね。
 でもたぶん、実際そういう事態に陥ったら、一番冷静に自分一人を切り捨てる選択をしちゃうタイプだと思うんだよ。
 熱いようでいて意外に冷静だったり、クールなようでいて超激熱だったり、そんな二人だし。
 まったくふざけんなって話だし、いつもなら笑い飛ばしそうな話だけど、落ち着いて考えてみたらスッゲーよく浮かぶ」

 小金井は、曲芸のように手元で回していた鎌を止める。
 そのまま流れるような動作で、一瞬のうちに本来のサイズに展開する。

「ナメんなよ、ちくしょう! 柳ちゃん助けに行く前の、こんなつまんねーとこで死んでんじゃねえや!」

 語気を荒げながら、小金井は先ほどまで腰かけていたベッドに鎌を振り下ろす。
 引き裂かれた掛け布団から白い羽毛が飛び出し、部屋中に舞い上がる。
 刃を返した鎌で、眼前に飛んできた羽毛の一つをきれいに二分する。
 その動作をしばらく続けて、小金井は鎌を下ろした。
 いくらそんなものを切ったところで、怒りが収まることはなかった。
 動けば動くほど、余計に鬱屈としたものが溜まっていくだけだ。

333 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:31:40.92 ID:d/Uj4Wdx
 

334 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:32:06.82 ID:d/Uj4Wdx
 

335 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:32:22.43 ID:d/Uj4Wdx
 

336 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:32:24.42 ID:swq6E1Zt



337 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:32:41.77 ID:d/Uj4Wdx
 

338 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:33:00.98 ID:mPa/vI0s

「……もういねーんだから、遠慮してやんねー。
 どうせなら、いっそ柳ちゃん俺が貰っちゃおうかな。あの世でいくら悔しがったって知らねーよ。
 せいぜいそっちで俺が来るの待ってりゃいいけど、簡単に行ってなんかやるもんか。五百歳まで生きてギネス記録更新してやるかんな」

 再び鎌を折り畳んで、小金井はエレオノールとロベルトのほうに向き直る。

「ごめん、ついカッとなって」

 申し訳なさそうに、小金井は頭を下げる。
 呆然としている二人をよそに、もう一度大きく伸びをした。

「放送終わったのにダラダラしてるワケにもいかないし、そろそろ出ようか。
 いち早くこんな殺し合い終わらせて、柳ちゃん助けなくちゃなんないしねー。
 何せ、二人の分まで働かなきゃなんねーんだ。めーわくな話だよ、ほんっとーに」

 白い歯を見せて言う小金井に、エレオノールは頬を緩めた。

「そうですね。私も、お坊っちゃまに会わねばなりません
 ロベルト、これからも付き合ってくれますか?」
「あ、ああ……」

 いきなり会話を振られたため、ロベルトは曖昧な返事になってしまう。
 彼には、二人がいきなり微笑みを浮かべた理由が分からなかった。
 にもかかわらずどこか安堵してしまっている自分自身もまた、ロベルトには理解できなかった。

 下ろしていた荷物を手に、三人が部屋から出ようとしたとき。
 前触れなく、ロビーのほうからガラスの割れる音が鳴り響いた。


 ◇ ◇ ◇


 眼前に広がる惨状に、ジョージ・ラローシュは大げさに肩を竦めた。
 呆れかえった素振りを隠そうともせず、その惨状を生み出した張本人であるコウ・カルナギの肩を掴む。

「やれやれ。まったく、君はいったいなにをやっているんだ?
 もしかしたらこちらが勘違いをしているのかもしれないから一応聞かせてもらうが、君はあくまで分類上は人間なのだろう?
 ヒト科ならざるその他の種に属する猛獣じゃあるまいしわざわざ体当たりで破らずとも、君の破壊したそれは自動ドアと言ってだな」

 善意から出たジョージの忠告が、最後まで告げられることはなかった。
 言い切るよりも早く、カルナギの大きな拳が顔面に叩き付けられたのだ。
 ロビーに設置されているソファーを三つほど巻き込んで、ようやく吹っ飛んでいくジョージの勢いが止まる。

「何ごとですか!?」

 慌てて飛び出してきたエレオノールに、ロベルトと小金井が続いてくる。
 明らかに警戒している三人を前に、カルナギは口角を吊り上げた。

「はッは! おいジョージ、テメェの言った通りここには誰かが潜んでやがったな!」

 やたらとでかいカルナギの声とは対照的に、返ってきた声はひどく微かで消え入りそうなものであった。

「……そのよう、だな…………」

 奇妙な方向に曲がった腕で壁を支えにし、奇妙な方向に曲がった足でどうにかこうにか立ち上がる。
 どう見ても死にそうなジョージの姿に、三人は未だ警戒を緩めない。

339 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:33:20.37 ID:mPa/vI0s

「険しい顔をしてどうかしたのか、君たち。
 見れば分かるように、私とカルナギ……サマーとつければ満足だったか?」
「もう、余計なもんつけんでカルナギでいい」

 面倒くせェからと続けながら、カルナギはジョージにローキックを浴びせた。
 その衝撃でもう一段階曲がった足で、ジョージは時間をかけて立ち上がる。

「そうか、呼びやすくて助かる。
 君たち、見ての通り、私とカルナギはこのプログラムを打破するべく同盟を組んでいる。
 おそらく君たちもそうなのだろう。なので、そんなに警戒することはない」
「「「…………」」」

 小金井、エレオノール、ロベルト、それぞれ無言である。
 一方的に殴るカルナギと、一方的に殴られているジョージ。
 傍目には、とても彼らが殺し合いを打破するために同盟を組んでいるとは思えない。
 というか、どの辺りが見ての通りなのか。

「おいおい君たち、どうかしたのか?
 ……ああ、そうか。なるほど。つまり、そういうことなのだな?
 たしかに悪かった。名も告げずに同志などと言っても、このような状況で信用されるはずがない」

 一人で勝手に納得したジョージは、怪訝な視線を意に介さずに名乗り始める。

「私の名はジョージ・ラローシュ、彼はコウ・カルナギだ。
 よければ、君たちの名前も明かしてもらえると嬉しいのだが」

 そして、ロビーに静寂が広がった。
 困惑する三人を前に、ジョージは困惑するばかりである。

 面倒ごとはジョージに任せることにしていたカルナギであったが、この辺りでようやく気づいた。
 あ、やっぱり、こいつ、偉そうなこと言ってたけど、全然こういうの向いてねえんか――と。
 そう認識するやいなや拳をかざしたカルナギであったが、振り下ろしはしなかった。
 その前に、エレオノールがジョージに話しかけたのだ。
 情報を聞き出すこともできないのならば即殴るが、聞き出せるのならばそのうちくらいは殴らないでおいてやろうと判断した。

「もしかして、あなたしろがねですか?」

 ジョージの傷が少しずつ治癒していくので、エレオノールはようやく気づいたのだ。
 その発言に驚き、ジョージは声の主を見据える。
 あまりに殴られすぎたせいで視界がぶれていたが、目を凝らせば誰なのかは明らかだった。

「そういう君は……才賀エレオノール、か……?」

 名前を知られていた事実に、エレオノールが目を丸くする。
 その疑問をそのまま口にすると、ジョージは少し考え込んでから答える。

「我らが倒すべきフェイスレスが狙っている女性だからな。当然、知っている」

 フェイスレスが人類全体に仕掛けた最後の舞台『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』。
 その騒ぎに乗じて、エレオノールはフェイスレスにさらわれていたはずだ。
 これはフウ・クロード・ボワローからの情報なので、間違いはない。
 ならば、この事実を隠す必要もないだろう。
 そう判断してのことだったのだが、返ってきた反応にジョージは困惑するハメになる。

「……はあ。ですが、フェイスレス司令とは私たちしろがねの同士なのでは……?」
「は?」

340 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:33:39.82 ID:d/Uj4Wdx
 

341 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:34:05.70 ID:swq6E1Zt



342 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:34:27.89 ID:mPa/vI0s

 この女、誘拐なぞされておいてなにを言っているのか。
 そう思いかけながらも、一つの可能性に行きつく。
 あの男には、様々な名前があるのだ。フェイスレスと名乗っていない可能性もあるではないか。

「他の名前を使っていたのかもしれない。
 とにかく、自動人形(オートマータ)とともにお前をさらった男のことだ」
「さらった……? あの、それはいったいいつのことでしょう?」

 エレオノールが首を傾げると、ジョージも首を傾げた。

「いつもなにも、この殺し合いに巻き込まれる直前だろう。
 しろがねの記憶力を持ちながら、そんな最近のことを忘れたとは言わせないぞ」
「はて……人違いではありませんか?」
「人違いもなにも、お前の名は才賀エレオノールなのだろう?」
「はい」
「むう……?」

 互いに、銀色の目をパチクリとさせる。
 どうにも噛み合わない。

「直前という言い方が悪かったか。
 デウス・エクス・マキナ……とヤツが呼んだ、全世界にゾナハ病を振り撒いた騒動の直後だ」
「全世界にゾナハ病!? まさか、そんなことが!?」
「し、知らないのか……?」
「存じ上げておりません! もしそんなことになれば、お坊ちゃまは……!」

 あまりに首を傾げすぎて、ジョージの首はついに直角になっている。
 そのままの姿勢で思考を巡らせ、ついにある可能性に至る。
 至っていながら、いやまさかそんなはずがないだろうと否定しかけるも、一応聞いておこうと尋ねてみる。

「いまは■■■■年■■月■■日だろう?」
「いえ、■■■■年■■月■■日のはずですが……」
「……は?」

 ジョージの首の角度が、さらに凄まじくなる。
 即肯定されてこの話はもうおしまいのはずが、思わぬ方向に進んでいる。
 戸惑っているうちに、ロベルトと小金井が怪訝そうな表情のまま割り込んでくる。

「正直、二人がなにを言っているのか分からないが……今日は■■■■年■■月■■日のはずだ」
「いやいや、■■■■年■■月■■日でしょ。なにいってんのさ」

 さらに困惑するジョージに、カルナギが苛立ったような声を浴びせる。

「なに言ってんだ、テメェら。■■■■年■■月■■日だろうが。
 こっちはここから脱出するために手ェ組んでやってんだ。ふざけてんなら、ブチ殺すぜ」

 かねてより、カルナギは情報交換のような面倒ごとは任せると言っていた。
 そんな彼が割って入ったということは、それだけ分かり切った話であったのだろう。
 そう容易に窺えるできるからこそ、ジョージにはこう言うしかなかった。

「…………は?」

 浮かんだ仮説が当たっているようだからと言って、必ずしも素直に喜べるとは限らないものらしい。


 ◇ ◇ ◇

343 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:34:31.67 ID:d/Uj4Wdx
 

344 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:34:51.22 ID:d/Uj4Wdx
 

345 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:35:52.26 ID:swq6E1Zt



346 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:35:53.84 ID:mPa/vI0s


 いくら確かめてみても、五人の認識は激しく食い違っていた。
 もしやとは思ったが、使っている暦が違っているワケでもないらしい。
 誰かが嘘を吐いているのかもしれないが、『誰か一人』が嘘を吐いているだけでは到底説明がつかない。
 何せ、五人全員の認識が食い違っているのだから。

 とりあえず、全員が嘘を吐いていないものとして考えてみる。

 まず――
 小金井薫がもっとも過去の人物である。
 ほとんど同時期からコウ・カルナギ。
 その数年後から、才賀エレオノール。
 数ヶ月後から、ジョージ・ラローシュ。
 そして、ロベルト・ハイドンがもっとも未来から来たことになる。

 話してみたところ、小金井は『時の流れを超える』技術の存在を知っていた。

 ――『時空流離』。

 時空の流れに、過去や未来に通じる穴を開けるという忍術である。
 使用者に不死の呪いがかかるとのことだが、ともかくそういう技術自体は存在するのだという。

 ならば、主催者がその手の技術を用いたのだとする。
 信じ難いが、現状が現状ゆえひとまず受け入れてみる。

 だとしても――やはり、辻褄が合わない。

 コウ・カルナギの言う、キース・ブラックの率いた組織『エグリゴリ』と『オリジナルARMS』の戦い。
 その仮定において、ニューヨークに巨大な魔獣が出現し、ニューヨーク市街には甚大な被害が出たとのことだ。

 しかしカルナギより未来から来たはずの三人は、その事実を知らない。

 ニューヨークといえば、あらゆる意味で世界の中心である都市だ。
 そこにそれほどの被害が出たならば、大きく報道されてしかるべきだろう。
 だが――知らない。
 いかに世俗に疎いしろがねといえど、あまりに不自然だ。

 また、ジョージの知るデウス・エクス・マキナ。
 つまるところ、全世界にゾナハ病が蔓延した事件。

 ロベルトは、これにまったく心当たりがないのだという。
 もしもジョージがプログラムに呼び出された以後、全世界にバラまかれたゾナハ蟲が根こそぎ駆除されたのだとしよう。
 だとしても、当時すでに小学校高学年であるはずのロベルトが、騒動自体を知らぬということはありえない。

 これは、はたしてどういうことなのか――


 ◇ ◇ ◇

347 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:35:59.96 ID:d/Uj4Wdx
 

348 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:36:32.50 ID:swq6E1Zt



349 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:36:53.86 ID:mPa/vI0s


 静寂が立ち込めるなか、ロベルトの脳内にある可能性が浮かぶ。
 それを口にするべきか少し迷ったが、意を決して沈黙を破ることにした。

「……『僕たちの記憶が、主催者に作られたもの』だとすれば」

 全員が目を見開き、空気がざわつく。
 当然だろう。
 それが真実であるのならば、自身の持つすべての記憶が偽物ということになるのだから。
 しばし黙考したのち、ジョージがロベルトの仮説を否定する。

「たしかに辻褄は合うが、それはありえないな。
 フェイスレスほどの天才でさえ、記憶や人格のダウンロードには多大な時間を要した。
 しかもすでに存在していた記憶ではなく、一から作り出すのならばなおさらだ。
 私は、先ほど話したしろがねとしての自動人形との戦いの記憶以外にも、さまざまな細かい記憶を持ち合わせている。
 それらすべてを八十人分も作りだし、さらにその記憶通りの性能を誇る人体を作り、そこに移すなど……
 技術的には不可能ではないかもしれないが、そのような手間ばかりかかることをしてなんになる。
 しかもそれだけ参加者に手間をかけたというのに、すでに十六人も死んでしまっている。あまりに無意味すぎる。意図が読めん」
「それは……たしかに、そうだな」

 ようやく浮かんだ仮説が否定されたというのに、どこか安堵したような空気が流れた。

「やはり、これしか浮かばんな」

 しばらくまた思考に沈んでいたジョージが、デイパックに手を突っ込む。
 取り出したのは、ソフトボール大の石の塊だ。
 色は黒く、仄かにであるが輝いている。
 歪な形もあって、精製前の宝石を思わせる。

「ジョージ、それはいったいなんなのですか」

 怪訝そうに尋ねてきたエレオノールに、ジョージは淡々と答えた。

「『賢者の石』だ」

 一瞬、エレオノールにはジョージの発した言葉の意味が理解できなかった。
 目を丸くしたまま賢者の石をまじまじと眺めて、もう一度問いかける。

「ですが、我々の知る賢者の石とは……」
「ああ、似ても似つかないな」

 彼らしろがねの知る賢者の石とは、バラ色の柔らかな鉱物だ。
 現在ジョージの手にしている石の塊とは、外見からして異なっている。
 さらに違いを証明するべく、ジョージはリュックサックから取り出した水を注ぐ。
 注がれた水が光り輝き、生命の水に変化する――なんてことは一向に起こらない。
 ただ、水は石を濡らし、石を持つジョージの手を濡らし、床へと落ちていくだけだ。

「やはり、紛い物なのでは」
「違うな。最初に道具を確認した際には私もそう思ったが、しかし違う」

 エレオノールの言葉を遮って、ジョージはさらに続ける。

「これは、紛れもなく賢者の石なのだろう。
 ただし、我らしろがねのいたのとは『異なる世界』の、だがな」

 言って、ジョージは賢者の石の説明書を取り出す。
 そこには『加工次第で黄金や精神感応金属を生み出す』と書かれていた。
 しろがねたちの知る賢者の石とは異なるが、この記述が本物ならばそれはそれでかなりの逸品であろう。
 それこそ、賢者の石などと呼ばれていても決しておかしくない。

350 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:38:25.40 ID:mPa/vI0s

「この説明は事実であり、この石も本物であり、つまり……そういうことなのだろう」

 一人で頷いているジョージに、カルナギが声を張り上げる。

「テメェ、勝手に納得してねーで分かるように言いやがれッ!」

 それに対し、ジョージは目を丸くした。
 意図が伝わっていないらしい事実に驚きながらも、分かりやすく言葉を選ぶ。

「キース・ブラックが『時間を越えて』参加者を集めてきた、という説明はしただろう?」
「ああ。まぁ、あんまり合点がいったワケじゃねーけどな」
「それは私も同じだ。
 とはいえそうとしか考えられんし、小金井によればそうする技術自体は存在するというのだから、とりあえずそう考えるべきだろう」
「ああ、面倒だからそういうことだと思っとく、って言ったろうが」
「それでだな。
 ようは、ブラックが時間だけではなく、『世界も越えて』いたということだ」
「ああ……あァ!?」

 一瞬納得しかけて、すぐにカルナギは首を捻る。
 いまいち分かってないようだったが、それを汲んでくれるジョージではない。

「まず『我らしろがねの世界』。
 君の『エグリゴリがある世界』。
 小金井の『魔道具や忍術のある世界』。
 そして『我らの知らぬ賢者の石がある世界』。
 それらは、すべて異なる世界ということなのだろう。
 他にも、いくつかの世界から参加者をつれてきたのかもしれないな」

 数分ほど考え込んだカルナギが、浮かんだ疑問を口にする。

「それよォ、さっきの偽物の記憶うんぬん説より飛んでねえか?」
「なにを言うか。
 あの説は技術的に可能であっても、ブラック自身に行う意味がない。
 だがこちらの説は、いま手元にある情報をすべて踏まえた上での可能性ではないか」
「そういうもんかねえ……」
「そういうもんだ。
 なにも確実とは言っていない。これならば辻褄が合う、程度のことだ」

 ともあれ言っていること自体は分かったので、カルナギは拳をジョージに叩き付けた。
 やたら偉そうな口を効いてくれた憂さ晴らしである。

「そういやよォ、さっきの世界? だか四つしかあげてなかったけど、こいつの世界はどうなんだよ」

 ロベルトを指差しながら、カルナギが問う。
 めり込んだ身体を抜き出そうとするのをいったんやめ、ジョージが健気に返答する。

「分からないな。
 私たちや君の世界の住人ではなさそうだが、他の二つと違う五つ目の世界かは不明だ」
「へえ、そうかよそうかよ」

 適当に返しながら、カルナギは指の関節を鳴らす。
 十指すべてを鳴らしたのち、猛獣のような笑みを浮かべた。

「さっきから見てて思ったんだけどよォ……テメェ、なにか隠してんだろッ」

 短く告げると、カルナギは大きく跳び上がった。
 壁にめり込んでいるジョージが止めに入ることも、小金井やエレオノールが割って入ることもできず。
 カルナギの飛び蹴りが、ロベルトへと放たれた。

351 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:38:29.29 ID:UW2vehLE



352 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:38:29.76 ID:d/Uj4Wdx
 

353 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:39:24.73 ID:mPa/vI0s

「……はッ、なんだそりゃあ!?
 自分のことなんにも話さねえクセに、大層なもん持ってんじゃねえかッ!」

 蹴りが当たる寸前で、ロベルトは一ツ星神器『鉄』を発現させていた。
 右腕から生えた巨大な砲台で、カルナギの蹴りを防いだのである。
 ただ、攻撃を防いだだけではない。
 防いだ結果、後ろに仰け反ることもなく、同じ姿勢を保っているのだ。
 かなりの実力者であることは、もはや言うまでもない。

「けどよォ……」

 言いながら、カルナギはバックステップで距離を取る。
 間に小金井とエレオノールが割って入るが、見据えるのは奥にいるロベルトだけだ。
 声色を低くしすると、苛立ちを籠めて怒鳴った。

「テメェ、そんなもんじゃねえだろッ!
 この俺、『牙(ファング)』コウ・カルナギをナメてんのかッ!!」

 ロベルトがまだ力を伏せているのは、カルナギの嗅覚をもってすれば明白だ。
 たとえ力を見せずとも、強者の気配は隠し切れてはいない。

「落ちつけ、カルナギ。
 なにを根拠にそんなことを……」
「うるせえッ! 黙ってろ、この銀目野郎ッ! 俺は、こいつが気に喰わねえんだッ!!」

 カルナギが苛立っているのは、力をセーブしていることだけではない。
 いきなり飛び蹴りをかまされておいて、防いだだけで済ませたのも気に入らなかった。
 さらに、これだけ挑発しても一向に仕掛けてこない。
 苛立ちは募っていくばかりだ。

「なんなんだ、テメェはッ!
 強ェのは分かってるっつってんだろうがッ! 全部出しゃいいだろうがッ!!」

 それでも、ロベルトは口を開こうとしない。
 口籠ったまま、ただ視線を小金井とエレオノールに一瞬飛ばした。
 その僅かな動作で、カルナギはすべてを理解した。

「……はッ、そーゆーことかよ。くッだらねえ」

 未だ『鉄』を発現させたままのロベルトに背を向け、カルナギはジョージのほうに向かっていく。
 やたら深く埋まったらしく出るのに苦心しているジョージを掴み、強引に抜き取ってやる。

「俺は、本気でブン殴ってもついてくるヤツ見つけたぜ。いいだろ」

 振り返ることなく勝ち誇った口調で言い放つと、カルナギはジョージを引きずって去って行った。

「いや、私としては殴らないでくれるならそのほうがありがたいのだが」

 などと呟いたのち、ジョージはホテルに残った三人に声を張り上げた。

「君たち、情報の提供感謝する!
 私たちはひとまず施設を回ることにしているので、動物園にでも向かうとする!
 再会したときには、またよろしく頼むぞ」

 そして、ふと思い出したように。

「そういえば、夜中にそこから真西の方角で花火が上がっていたぞ。
 もはやだいぶ前のことなので、アレを上げた本人や集まってきた参加者がまだいるかは分からないがな。
 それでも、当てがないのならば考えてみてはどうだ?」

354 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:39:48.46 ID:d/Uj4Wdx
 

355 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:40:05.82 ID:mPa/vI0s

 言い終わったと同時に、ジョージはカルナギにブン殴られる。
 すぐ近くで叫ばれ、やかましかったのである。
 それでも全部言い終えるまで待っていた辺り、それなりにジョージの意思を反映してやっているのかもしれない。


 小金井とロベルトは、どちらも微動だにしなかった。
 ただ歯を噛み締め、床を眺めているだけだ。
 理由は分からないが、なにか落ち込んでいるらしいとは、エレオノールにもさすがによく分かった。

(……そういえば)

 エレオノールの脳内に、自身に支給された道具のことが蘇る。
 懸糸傀儡どころか武器ですらなく、この場においては必要ないと考えていた。
 とはいえ蔵王に収納できるのならば、かさばらないので場所は取らない。
 そのため手放さなかったのだが、それは正解であったらしい。
 そう考え、エレオノールはリュックサックからその支給品を取り出した。
 単なるなんの変哲もない、アコースティックギターを。

(よし。問題ありませんね)

 軽く弦を弾いて、音の具合を確認する。
 チューニングが乱れていることはないらしい。

「かわいいぼうや、愛するぼうや――」

 なぜ二人が落ち込んでいるのかは、エレオノールには分からない。
 もし他の誰かならば、人の感情を汲み取って言葉をかけることもできるのだろう。
 だがまだ人間らしい感情を得たばかりのエレオノールに、それは難しい。
 そえでも、エレオノールにできることはあったのだ。
 歌を聞けば、人は嫌なことを忘れられる。
 そのような話を、どこかで聞いたことがある。
 その気持ちはいまいち理解できないが、しかしエレオノールはサーカスの芸人である。
 ならば、なにをするべきなのかは明白だ。
 芸人は、人を笑わせるためにいるのだから。

「――いつかは恵みをくださいますよう……」

 歌が終わっても、ギターを弾く手を抜いたりはしない。
 終奏まで気を配り続けて、最後にじゃらんと一際大きく弦を弾く。
 そうしてエレオノールが顔を上げてみると、視界に入ったのはもう俯いていない小金井とロベルトの姿だった。
 軽く微笑むと微笑みが返ってきて、エレオノールにはそのことがとても喜ばしかった。

「あのさ、みんな」

 どこか言いにくそうに、小金井が切り出す。

「たぶん、さっき言ってた花火って、烈火兄ちゃんがあげたヤツだと思うんだよね。
 ちょっとそっち見てみたいんだけど、一緒に来てくれるかな?」
「もちろんです。ロベルトは……」

 花菱烈火が放送で呼ばれた以上、安全な場所とは言い難い。
 それを分かった上でエレオノールは即答し、ロベルトを見やる。
 すると、彼もまた静かに首を縦に動かした。

356 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:40:36.82 ID:d/Uj4Wdx
 

357 :明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:40:44.26 ID:mPa/vI0s



【E−4 ビジネスホテル周辺/一日目 朝】

【ロベルト・ハイドン】
[時間軸]:9巻85話『アノン』にてアノンの父親に悩みを打ち明ける寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認済、人形はない)
[基本方針]:人間を見極める。ひとまずしろがねと小金井と同行。花火が打ち上がったという方角へ向かう。


【才賀エレオノール】
[時間軸]:28巻『幕間�T〜「帰れない」』にて才賀勝と再開する直前。
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、自転車@出典不明、アコースティックギター@からくりサーカス、残り支給品0〜1(確認済、人形はない)
[基本方針]:とにもかくにもお坊ちゃまを捜索し、発見次第守る。ナルミにも会いたい。花火が打ち上がったという方角へ向かう。
※名簿は『才賀勝』までしか確認していません。


【小金井薫】
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:首に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エレザールの鎌@うしおととら、風神@烈火の炎
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。花火が打ち上がったという方角へ向かう。


【コウ・カルナギ】
[時間軸]:第五部開始時
[状態]:軽い疲労、両掌に軽い怪我
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:サーチアンドデストロイ。ARMS、鬼丸を特に優先。刃も見つけ次第ブン殴る。ジョージに面倒な事は全部やらせる。


【ジョージ・ラローシュ】
[時間軸]:本編死亡後
[状態]:殴られすぎて通常行動は可能な程度にガタが来ている、疲労(小)
[装備]:無し
[道具]:ジードのタバコ@金色のガッシュ、ピアニカ@金色のガッシュ、基本支給品一式
[基本方針]:脱出して子供たちにピアノを聞かせる。乗る気はない。コウと共に脱出を画策する。動物園に行く。



【支給品紹介】

【賢者の石@スプリガン】
ジョージ・ラローシュに支給された。
現代科学では合成出来ない鉱物。
加工次第で、黄金や精神感応金属を生み出せる。
からくりサーカスに登場するものとは別物。


【アコースティックギター@からくりサーカス】
才賀エレオノールに支給された。
これといってなんにもない、フツーのアコギ。
41巻の頭のほうに出てきた。

358 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:41:07.58 ID:UW2vehLE



359 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 20:41:17.56 ID:d/Uj4Wdx
 

360 : ◆hqLsjDR84w :2012/05/31(木) 20:41:27.28 ID:mPa/vI0s
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

361 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 21:23:49.71 ID:BtHD7I/5
執筆と投下、お疲れ様でした。
前半の、小金井のセリフがすごくいいなぁ……。
『ばかやろう節』とかで馬鹿野郎を書くのが巧いなぁと感じたってのもあるかな、
そういうヤツら思っての一連の言葉に重みとらしさがあって、胸を衝かれました。
すれ違いからの考察でワクワク出来たり、カルナギからロベルトへの言葉の投げ方、
子どもたちに対するエレオノールの演奏なんかでも、クロスオーバーによる
化学変化がすごく綺麗に出てるなぁ、と思えた。地固めの話といえばそうなんですが、
それを面白く読ませていただけました。いつもながらGJです!

362 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 22:10:04.15 ID:I8o71ouV
投下乙
組んでばかりなのに、ジョージとカルナギの(漫才コンビとしての)安定感が凄い
ロベルトとの会話見る限り、実はカルナギもまんざらじゃないのねw
というか、ようは俺のダチ羨ましいだろって自慢だよなこれwww

363 :創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 22:17:34.94 ID:RuOa6FiN
投下乙です
ジョージはこのまんま大集団を作るようなことはなく転々としてくんだろうなぁw
感想レスの
>俺のダチ羨ましいだろって自慢
のレスが妙にしっくりきて吹いたwww

364 : ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:31:29.83 ID:UkS4Yacl
投下します。

365 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:31:38.35 ID:46h48RlY


366 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:32:02.33 ID:7WFTjOHd


367 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:32:14.25 ID:UkS4Yacl
 ◇ ◇ ◇


 公園内にいる四人の獲物から一瞬たりとも視線を外さず、キース・シルバーはゆっくりと近付いていく。
 歩みを進めつつ、シルバーは纏っているゆったりとした軍用ロングコートから右腕だけを外に出した。
 その右腕はすでに人体のそれではなく、鉱物のように強固な体表と獣のように鋭利な爪を誇るARMSのそれと変質している。
 蜂の羽ばたきじみた音を立てて、異形の右腕を青白い電撃が覆う。
 これこそが、シルバーの肉体に移植されしアドバンストARMS『帽子屋(マッドハッター)』の能力。
 移植者の体内で荷電粒子を生み出し、外界へと放出することができるのだ。
 応用すれば、掌に荷電粒子を集束させ一筋のレーザー光線として放つことも可能となる。
 そんなキース・シルバー必殺の荷電粒子砲『ブリューナクの槍』を知っていながら、アル・ボーエンはずいと一歩前に出た。
 その行動に、コロンビーヌが首を傾げ、レイラが目を丸くし、佐野清一郎が下がっていろとばかりに肩を掴んだ。
 佐野の忠告を制すると、アルは大きく声を張り上げた。

「待て! 戦闘の前に、少し訊いておきたいことがある!」

 よもや狩られるだけの獲物が指示してくるとは予想しておらず、シルバーは眉を吊り上げる。
 僅かでも隙が生まれれば、アルには十分であった。
 たとえ問答を拒否されようと、質問をぶつけることさえできればよいのだ。
 アルの指には、魔道具『心眼』がはまっているのだから。
 言語が伝わりかつ思考する能力さえあれば、意図せず答えを考えてしまう脳の動きは止められない。
 そして考えてさえしまえば返答されずとも、対象の思考を読む心眼によって筒抜けだ。

「キース・シルバーッ!
 僕以外の名や詳細も分かっていたようだが、お前はこのプログラムについてなにか知っているのか!?
 このプログラムにはあまりに関連性のないものばかり参加しているようだが、参加者の基準はなにかあるのか!?
 というか、ここはいったいどこなんだ!? こんな町は、僕の知る限り現代の日本に存在しないはずだ!!
 僕に支給されたノートパソコンに『BATTLE ROYALE』というプログラムがあるが、それを開くパスワードを知っているか!?
 ARMSが休眠状態に陥っていたはずの高槻が問題なく『ジャバウォック』を使え、そのことに疑問を抱いた素振りもなかったのはなぜだ!?
 キース・ブラックは、かねてより自分のなかに眠っていたキース・ホワイトに人体の支配権を奪われたのではなかったのか!?
 ユーゴー・ギルバート、キース・グリーン、そしてお前! この三人はニューヨークでのエグリゴリとの戦いで命を落としたはずだ! なぜ名簿に名前が書かれ、しかも僕の前に姿を現しているッ!?」

 一息で質問を言い切ったせいで、アルは肩で息をしている。
 とはいえ、その程度で思考力が落ちるアルではない。
 流れ込んでくるシルバーの思考を聞き漏らさぬよう、自称今世紀最高の頭脳を集中させる。
 すべての質問の答えを読み取っていくうちに、荒くなっていたはずのアルの呼吸はいつの間にか止まっていた。
 あまりに衝撃的な内容ゆえ、呼吸をすることを忘れてしまったのだ。
 慌てて呼吸を再開するも、アルの優秀な頭脳は一向に落ち着かない。

「装備を見る限り答える必要はなさそうだが、貴様以外のもののために口で言ってやろう。
 死に行く貴様らが聞いたところで、意味があるとはとても思えんがな」

 シルバーは、ひどく落ち着いた口調で切り出す。
 呼吸が乱れたままのアルを見下ろす視線は、ひどく冷たく鋭い。

「このプログラムに関しては、『プログラム・バトルロワイアル』という名以外なにも聞かされていない。
 参加者の関連性についても同じくだ。七つの平行世界から選りすぐったようだが、その方法も基準も知らん。
 この舞台は平行世界の一つ、貴様とともにいる魔物の子・レイラの世界に存在する『モチノキ町』だ。
 パスワードやらについても知らん。支給品一覧は眺めたが、そこに書かれていたノートパソコンにそのようなプログラムがあることさえいま知った。
 残りの質問だが、それによってこちらもようやく納得した。どうりでグリーンと会話が噛み合わなかったはずだ。やはり、『世界は同じ』でも『時間が違う』のだろう」

 シルバーが言い切ったころには、やっとアルの呼吸は整っていた。
 浴びせられる眼力に怯むことなく、むしろ睨み返して質問を浴びせようとする。

368 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:32:28.34 ID:8ZlmHZlX
 

369 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:32:39.30 ID:46h48RlY


370 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:32:58.72 ID:8ZlmHZlX
 

371 :Driving Myself(後編) ◆j1I31zelYA :2012/06/02(土) 20:32:59.05 ID:2zav/xKk



372 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:33:03.23 ID:UkS4Yacl

「貴様が従っているキース・ブラックの人格は、もはやキース・ホワイトに呑み込まれている。
 それに、先ほど言ったように、戦闘生命として生きた貴様は高槻に敗れて死んだ。にもかかわらず、貴様は――」
「関係ない」

 シルバーの低い声が、アルの言葉を遮る。
 最後まで聞けずとも、シルバーはアルの言わんとする内容を読み取っていた。
 だからこそ、視線を逸らすことなく断言するのだ。
 数時間前に、たった一人の弟に言い放ったように。

「俺は俺の意志でもって、戦闘生命としての生を歩み」

 たとえ相手が誰であろうと。
 死に行く未来を知ってしまおうと。
 戦闘生命としてのレールに乗せた兄が、とうにこの世にいない事実を知らされようとも――

「本来迎えるべき未来でそうだったように、屍の山の上で朽ち果てる」

 なにも。
 なにひとつ。
 一片たりとも。
 変わることなく。
 変わってしまわず。
 変わろうとすらせず。

「ただ――それだけだッ!」

 宣言したと同時に、シルバーの右腕を覆っていた電撃が目に見えて激しくなる。
 東に浮かぶ太陽と見紛うほどの輝きを上げて、荷電粒子が右の掌に集っていく。
 そうして一条の光線となって、掌の中心に空いた空洞より放たれた。


「……ほう」

 眼前に広がる光景に、シルバーは思わずそう呟いた。
 撃ち出したブリューナクの槍が、突如空中に出現した銀色の壁によって防がれたのだ。
 その正体は、蟲型自動人形(オートマータ)・アポリオンである。
 ゾナハ蟲とも呼ばれるそれらは大気中に存在し、真夜中のサーカスの蟲使いであるコロンビーヌの指示に忠実である。
 ブリューナクの槍に触れたと同時に壁は霧散してしまったが、ゾナハ蟲自体が破壊されたワケではない。
 あくまで壁を形成できなくなっただけだ。
 そのため、すぐに攻撃に転じられる。

「偉そうな口利いておいて、大したことないわねン」

 掻き消えた荷電粒子砲を嘲笑いながら、コロンビーヌは空中に漂う蟲に命令を下す。
 先ほどまで壁を作っていたゾナハ蟲が、今度は無数の杭を模っていく。
 その切っ先は、すべてがシルバーのほうを向いていた。
 すでに王手をかけたと判断して気が緩んだコロンビーヌの思考に、アルが心眼によるテレパシーで割って入る。

『余裕ぶっている暇はない! ヤツは実力を一割も出していないぞ!』

 その言葉が決して大げさでなかったことを、コロンビーヌはすぐに思い知る羽目になる。
 逃げられぬようほとんど同時に放ったはずの無数の杭が、根こそぎ形状を保てずに霧散してしまったのだ。
 杭が肉体に突き刺さる寸前で、シルバーは右腕からレーザーを放出した。
 そのレーザーはシルバーの肉体を覆うように展開し、バリアとしての役割を果たしたのである。

373 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:33:26.08 ID:2zav/xKk
鳥は見なかったことに支援w

374 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:33:44.75 ID:UkS4Yacl

「なッ!?」

 目を見張るコロンビーヌの前で、シルバーは荷電粒子を右掌に集わせる。
 わざわざ全力でエネルギーを溜めずとも、ある程度まで充填すれば十分だと判断していた。
 ゆえにまだまだエネルギーを蓄えられるにもかかわらず、その時点でブリューナクの槍を放とうとし――眉根を寄せる。
 ゾナハ蟲にばかり気を取られていたので気付かなかったが、いつの間にか獲物が一人消えていた。
 そう認識したのと同じくして、シルバーの聴覚が声を捉える。

「取ったでッ!」

 なにかが振り下ろされるような音とともに、その声は背後から響いた。
 視線だけを飛ばし、シルバーはその正体が佐野清一郎であると知る。
 『手ぬぐいを鉄に変える能力』によって作り出した武骨な鉄パイプを手に、勝利を確信したような笑みを浮かべていた。
 誰も、彼を責めることはできないだろう。
 これほどまでに肉薄していれば、もはや後頭部に鉄パイプを叩き付けらられるのは確実である。
 そして後頭部を鉄パイプで思い切り打ち据えれば、人は戦闘不能に陥る。これもまた確実だ。

 ――『通常ならば』。

 鉄パイプがシルバーの後頭部と接触したと同時に、やけに鈍い音が響いた。
 得物を通して手に伝わってきた衝撃に、佐野は思わず顔をしかめてしまう。
 まるで鉄で鉄を殴りつけたような、そんな感覚が走り抜けた。
 それでも呼吸を乱さなかったのは、『呼吸を止めている間しか能力は発動できない』という限定条件に慣れているからだろう。
 表情を歪める佐野に、やけに落ち着いた声が浴びせられる。

「なにを取ったんだ」

 そこでようやく、佐野は仕留めたはずの相手がまだ立っていることを知る。
 咄嗟に鉄パイプを振るうが、手先の痺れゆえに力が上手く入らない。
 ゆえにひどく弱々しい一撃になったにもかかわらず、なぜか鉄パイプはシルバーの額を捉えた。
 そしてその際に手元に伝わった衝撃で、佐野はようやく理解した。

 ――シルバーの体表が鋼鉄じみた硬度を誇っているという事実を。

「ぐえ……ッ」

 呆けている佐野の脇腹に、異形の手刀がめり込む。
 腹に巻いておいた手ぬぐいを鉄化させたアーマーを通り抜け、衝撃が佐野の体内まで及ぶ。
 臓物まで届いた衝撃に激しく咳き込み、佐野は意識を失った。
 呼吸を止め続けるなどできるはずもなく、能力が解除される。
 結果、佐野は所持している手ぬぐいをバラ撒きながら、衝撃を受け流し切れずに吹き飛んで行くことになる。
 未だ空中の佐野に、シルバーは強烈に輝く右掌を向けた。


『レイラ! ステッキを前に出せ!』

 脳内に響いた指示に、レイラは安堵する。
 アルの頭脳に信頼を寄せているものの、あまりに事態が早く展開しすぎている。
 開戦から数分も経っていないというのに、すでに佐野が意識喪失状態まで追い込まれてしまった。
 大した時間も経たないうちに、四対一が三対一となったのだ。
 このような戦局が早く動く場面では、アルの指示を待たず自主的に動くべきなのではないか。
 そう思い始めた矢先に、テレパシーが届いたのだ。

「分かったわ、アル!」

 先端部に三日月を模した飾りのついたステッキを掲げ、レイラはシルバーに向ける。
 こうすれば、いつアルが呪文を唱えても確実に命中するだろう。

375 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:34:17.19 ID:UkS4Yacl

『もう少し……そうだな、あと二十度ほど下に向けろ!』

 追加の指示に、レイラは困惑した。
 それに従ってしまえば、攻撃が相手に当たらないではないか。
 レイラの戸惑いを読んだらしく、さらにテレパシーが浴びせられる。

『いいからやってくれ! 今世紀最高の頭脳を信じろ!』

 見れば、シルバーの掌に光が集束している。
 掌を向けられている佐野は、体勢を立て直すどころか目覚める気配すらない。
 時間が、ない。
 焦燥に駆られながらも、レイラはアルを信じることにした。
 もちろん彼の頭脳もであるが、なにより友達を裏切らないという彼の宣言を。

「ミグロン!」

 レイラがステッキの角度を下げたと同時に、呪文が唱えられる。
 ステッキの先端部から光線が放たれ、シルバーの足元の土を抉った。
 弾き上がった土の塊が、シルバーの右腕にぶつかる。

「……なに?」
「コロンビーヌ、いまだっ!」

 いまは心眼の対象をレイラとしているためか、アルがコロンビーヌには口で指示をする。
 土しか飛んでこなかったことに疑問を抱くシルバーに、巨大な銀色のドリルが落下していく。
 シルバーは歯を軋ませて背後に飛ぶと、佐野に放たんとしていた荷電粒子砲をドリルに放った。
 一発でドリルの表面がぶれ、二発目でゾナハ蟲は形状を保てなくなって大気中に漂う。
 それすらもアルは予想していたらしく、レイラへとテレパシーが飛んでくる。
 言われた通りに、ステッキを前に出す。
 やはり、シルバーには命中しない角度で。

「オル・ミグルガ!」

 ステッキ先端部の三日月型の部分が外れ、膨張しながら飛んで行く。
 公園にある街灯や遊具を切断すると、ブーメランのような軌道を描いて三日月は戻ってくる。
 切断された物体は、すべてがシルバー目がけて倒れてくる。
 シルバーは舌打ちを吐き捨てて、いったん距離を取った。
 頭のなかに響いた声に従い、レイラはステッキを伸ばす。

「ミシルド!」

 先ほど飛んで行った三日月が、今度は巨大な盾と姿を変える。
 盾となったと同時に、砕け散った。
 遠ざかりながらシルバーが放った荷電粒子砲を受けたのである。
 とはいえ、一発防ぐことはできた。
 安心したレイラの脳内で、ようやく先ほど抱いた疑問の答えが告げられた。

『ARMSは、一度受けた攻撃の耐性を作り出す。
 魔力に耐性を作らせてしまえば、どうしようもないからな。
 確実に仕留められるとき以外、ヤツに直接呪文は当ててはいけない』


 レイラにテレパシーを送ると、アルはコロンビーヌへと歩み寄っていく。

「もう分かっただろう!?
 いまの僕たちに勝ち目はない! 佐野の軽トラックでいったん距離を取って――」
「そういうワケにもいかないの、よッ!」

376 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:34:33.74 ID:8ZlmHZlX
 

377 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:35:04.36 ID:UkS4Yacl

 最後までアルの話を聞かずに、コロンビーヌはゾナハ蟲に指示を下す。
 再び無数の杭を作り出して、シルバーの周囲を覆った。
 先ほどと同じようにレーザーのバリアによって霧散してしまうが、霧散したゾナハ蟲をさらにコンパクト状に集わせる。

「コンパクトの口!」

 コロンビーヌの声に呼応して、ゾナハ蟲製のコンパクトが口を閉じる。
 いや、もはやコンパクトと言うより、ハエトリグサと言ったほうが正しいだろう。
 内部のいたるところに棘が生え、これに挟まれれば一たまりもない。

 しかしやはり――キース・シルバーは、ただの人間ではない。

 閉じたコンパクトの節々から、激しい光が漏れ出してくる。
 そうして一際激しい発光とともに、ゾナハ蟲製のコンパクトは掻き消えた。
 これまで以上の出力でブリューナクの槍を放ったシルバーは、なんの感慨もなさそうに言い放った。

「やはり、脆弱だな」

 シルバーがコロンビーヌを見る目は、彼女以外を見るものとは違っていた。
 他の三人に向けられる視線は冷たいが、コロンビーヌに向けられる視線には温度がない。
 背筋が凍るような冷たさもなければ、刺すような痛みもない。
 まるで本当に意思なきマリオネットを見るように、ただ見下しているだけだ。
 そのことに気付いているからこそ、コロンビーヌには耐えられなかった。

「その目を……やめなさいッ!」

 言って、コロンビーヌは地面を蹴った。
 アルの静止を聞こうともせず、シルバーへと飛びかかっていく。
 ゾナハ蟲を集わせて作った刃を両腕に纏わせ、思い切り振りかざす。


 コロンビーヌの感情は、心眼を通してアルに伝わっていた。

『他者の意図に縛られるだけの存在に、なんの意思がある。
 存在を規定するのは、自分自身の意思だ。自らの意思なき存在に価値はない。
 たとえ思考回路を有していようと、どう生きて死ぬかすら決められぬ貴様らは――ただの繰り人形にすぎない』

 出会い頭にシルバーからかけられたそんな言葉が、コロンビーヌのなかに引っかかっているようだった。
 いったい、なにがそんなに引っかかっているのかは分からない。
 彼女が自動人形として作られた過程に、なにか原因があるのかもしれない。
 あるいは活動してきた過程かもしれないし、この殺し合いに巻き込まれて以降かもしれない。
 それは、いかに心眼をもってしても判別できない。
 さすがに、すべての記憶を読み取ることは不可能だ。

 だが、単純に気に喰わなかった。

 シルバーのこの発言も、こんな発言に固執しているコロンビーヌもだ。
 アルは歯を噛み締め、傍らのレイラを見上げた。

「レイラ、ステッキをシルバー自身に向けてくれ」
「え……?」

 レイラが首を傾げる。
 無暗に攻撃を当ててはならないと言ったばかりなので、疑問を抱くのは当然だろう。
 説明が面倒なので、アルはいま考えてることを丸ごとレイラの脳内に流し込んでやる。
 すると、レイラはなにも言わずにステッキをシルバーに向けた。
 どうやら、いまから行おうとしていることに賛同してくれているらしい。

378 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:35:05.68 ID:7WFTjOHd


379 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:35:27.70 ID:8ZlmHZlX
 

380 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:35:42.42 ID:2zav/xKk



381 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:36:01.94 ID:UkS4Yacl

『バカだな』

 なぜだか悔しくなって、アルはそうテレパシーを飛ばした。
 それに対して、レイラは頬を緩めながら思う。

『アナタに言われたくないわ』

 思わず、アルの口角が吊り上った。

『なにを言う。この僕がバカなワケがあるか』
『そうね。アナタは超天才だったわ』
『ああそうだ。そして超天才を認めるお前も、なかなかのものだ』

 生意気な笑顔を浮かべたまま、アルは脳内で言い放つ。

『バカはアイツだ!』

 そして、アルは呪文を唱えた。
 その手に持っている紫色の魔本が、かつてないほどの光を放つ。
 魔物とパートナーが同じ目的を抱きながら、呪文を唱えるとき。
 初めて、魔本はこれほどまでに神々しく輝くのだ。

「ラージア・ミグセン!!」

 レイラの持つステッキの先端にある三日月が、これまでの呪文以上の大きさまで膨れ上がる。
 周囲にあるどの遊具よりも巨大になったところで、三日月は杖から射出された。


 シルバーに足を掴まれ、コロンビーヌは放り投げられる。
 地面の上を何回転もして、ようやく勢いが止まった。
 蹲ったまま顔だけ上げると、視線の先でシルバーが掌を向けていた。
 立ち上がらねば、光線に貫かれて壊される。
 そう分かっていても、コロンビーヌは立ち上がることができなかった。

(ただの人形じゃ……こんなものなのかもしれないわね)

 シルバーに浴びせられた言葉が、コロンビーヌの思考を掠める。
 かつて、彼女は自動人形である自分自身に誇りを持っていた。
 人間以上の存在であると信じていた。
 だが造物主・フェイスレスと出会い、その考えは根本から崩されてしまう。
 主たるフランシーヌ人形はとうに壊れていると聞かされ、そのことを知らずに動いていた自分たちを滑稽と嘲笑われた。
 にもかかわらず、コロンビーヌはフェイスレスに従っていた。
 彼が造物主であるからだ。
 自動人形は、造物主に危害を与えられない。
 フランシーヌ人形に瓜二つな才賀エレオノールと出会い、結果的に造物主を裏切るような行動を取った。
 それでも、造物主に直接手を出すことはできなかったのだ。
 シルバーの言葉を受けたことで、そのことに気付いてしまった。
 そして考えてしまう。
 造物主を裏切ったのも、エレオノールの命令があってなのではないか。
 自らの命を捨ててまで才賀勝を助けたのも、そのせいであって自分の意思ではないのではないか。
 一度そう考えてしまうと、振り払おうとしてもつきまとってきた。
 この場で生きる意味を見つけ出すつもりだったが、自動人形である自分にそんなことは不可能かもしれない。
 そう思い始めているがゆえに、コロンビーヌはこのとき――生を諦めた。

「ラージア・ミグセン!!」

 ぼんやりとシルバーを眺めていると、コロンビーヌの聴覚がそんな声を捉えた。
 直後、シルバーに巨大な三日月が命中し、公園の敷地外の遥か彼方へと吹き飛んで行く。

382 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:36:31.95 ID:UkS4Yacl

「おい、生きてるか!」

 駆け寄って来るアルは、やけに心配そうな表情をしていた。
 そのことが、コロンビーヌにはなんだかおかしかった。

「なーんだ、助けてくれたんだ。
 べっつにィ、壊されちゃってもよかったんだけどォ……」

 おちょくるような口調でも、本心であった。
 心眼で思考が伝わったのだろう、アルはすぐさま激昂した。

「ふざけるなッ!!」

 耳まで真っ赤にしながら、アルは心眼をコロンビーヌに放り投げた。

「お前、それ使っとけ! 僕が嘘を吐いていないことを読み取った上で聞け!」

 言われるがままに、コロンビーヌは心眼を指にはめる。

「キース・シルバーの言葉に惑わされてるってことは、それでよーく伝わってきた。このバカものが!
 お前が他者の意図に縛られてるだと? はッ! ちゃんちゃらおかしい!
 よくもまあ、あんな戯言を信じられるな。お前、これから詐欺師に気をつけたほうがいいぞ。
 お前がアイツの言葉に苛立ったのは、お前の意思だろうが。なんだ、他の誰かの意思か? ふん、そんなワケあるか、バカ」

 話しているうちに落ち着いてきたらしく、アルはいつもの尊大な態度に戻っていく。

「だいたい、お前は生きる目的を探しているのだろう。
 自分が進むべき道を、自分自身の意思で、決めようとしているのだろう。
 他者の意見を参考にすることはあっても、最後に決めるのはお前自身ではないのか」
「……でも…………」

 コロンビーヌのなかに浮かぶのは、フェイスレスに従う低級人形たちだ。
 自分は、ヤツらとなにも変わらないのではないか。
 そんな疑問を口にしようとしたが、言い淀んでしまう。

「ふん、まだ反論するのか。
 そんなに言うなら、はっきりさせてやる。だったら――」

 コロンビーヌが視線を逸らそうとするも、アルが先に回り込んでいた。
 まっすぐな瞳を向けて、手を伸ばしてくる。

「この僕と友達になると決めたのも、お前じゃない誰かの意思なのか! さあッ!! 考えてみろ!!!」

 一瞬、コロンビーヌが抱いていた悩みがすべて吹き飛んだ。
 大きな瞳を開いたまま、呆然とするしかできない。
 いままでいったい、なんて下らないことに捉われていたのか。
 こんなに、簡単な事実に気付かなかったのか。
 心の奥で疼いていたものが一気に吹き飛び、妙に清々しくなった。

「……そう、ね」

 動揺を悟らせぬよう、コロンビーヌは平静を装うとする。
 なんでもないように、いつものおどけたような口調を作り出す。

「たしかに、アタシの意思だったわねン」
「それ見たことか。ならば心眼を返せ。それは僕のだ」

383 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:37:11.80 ID:7WFTjOHd


384 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:37:12.13 ID:2zav/xKk



385 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:37:20.58 ID:8ZlmHZlX
 

386 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:37:29.57 ID:7WFTjOHd


387 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:37:30.80 ID:UkS4Yacl

 外した心眼を手渡そうとして、コロンビーヌは少し躊躇する。
 そして、小さな声で言った。

「…………ありがと」

 心眼を手渡したあとでは、これが本心であると伝わってしまう。
 それを危惧していたのだが、アルがそれに気付いた素振りはない。
 いつもと変わらぬ尊大な口調で返答した。

「ふん、当然のことをしたまでだ。
 最初っから言っているだろう。僕は、決して友達を裏切らない」

 やたら偉そうな態度が、コロンビーヌには少しおかしかった。


 コロンビーヌが落ち着いたのを確認し、アルはレイラのほうを向き直る。
 見れば、彼女は気絶した佐野を抱え上げており、彼が所持していた軽トラックの蔵王を回収していた。
 アルの指示しておいた通りの働きだ。
 胸中でガッツポーズを握り、アルはコロンビーヌとともにそちらに駆け寄っていく。
 ラージア・ミグセンを受けたキース・シルバーが戻って来る前に、いち早く逃げ出さねばならない。
 そう思いながら走っていると、不意にこちらを見るレイラの顔が青くなった。

「アル! 危ない!」

 レイラが言うまでもなく、彼女の言いたいことは心眼を通してアルに伝わる。
 シルバーが公園外からこちらに荷電粒子砲を放っている――など。
 伝わったところで、もはやどうしようもなかった。
 足を止めて振り返ると、シルバーはかなり離れた場所にいた。
 だとしてもブリューナクの槍の速度を考慮すれば、回避することは不可能だろう。
 天才ゆえに計算できてしまった事実に、アルは歯を軋ませた。


 すぐ近くでレイラが叫んだことにより、佐野は意識を取り戻した。
 目覚めて最初に視界に入ったのは、眩い光だった。
 気絶する直前の記憶が過り、一気に覚醒する。
 見れば、アルとコロンビーヌが狙われているではないか。
 どうにかせねばならないと、佐野は手元の手ぬぐいを掲げ――そのまま下ろした。

(……俺、めっちゃ弱いな)

 親友の神候補・犬丸から授かった『手ぬぐいを鉄にする能力』。
 はっきり言って、強力な能力ではない。
 神を決める戦いの参加者たちは、ほとんどがもっと強力な能力を持っている。
 別に構わないと、佐野は思っていた。
 相手がどんな能力を持っていようと、工夫すればどうにか渡り合うことができた。
 親友から貰った能力さえあれば、敵わないヤツなんていないと思っていた。
 にもかかわらず、実際はどうだ。
 ヒデヨシは死に、他にも十五人死に、シルバーには敵わず、アルとコロンビーヌが殺されようとしている。
 この状況で、いったい自分にはなにができるのだろうか。

(ちくしょう……)

 佐野は唇を噛み締める。
 それでも、勝手に涙が零れてくる。
 ひたすらに、自分の無力さが悔しかった。
 犬丸がくれた能力を蔑まれ、そのまま敗北するのが我慢ならなかった。
 目の前で仲間が死ぬというのに、なにもできない自分が歯がゆくて仕方なかった。

388 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:38:03.70 ID:8ZlmHZlX
 

389 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:38:43.58 ID:2zav/xKk



390 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:38:49.61 ID:UkS4Yacl

「ちッくしょうがァァァ!!」

 ただただ――力が欲しい。
 それでも佐野には叫ぶしかできず、極光に照らされながら息を呑んだ。


 その場にいた五人全員が、己の目を疑う。

 アルとコロンビーヌを呑み込む寸前で、ブリューナクの槍が突如として向きを変えたのだ。

 そのまま誰に命中することもなく、上空へと飛んで行ってしまった。


「バカな……」

 そう口に出したのはアルであったが、他の誰もが同じ気持ちであっただろう。
 アルは困惑のあまり逃亡するのを忘れ、荷電粒子砲が軌道を変えた地点をまじまじと眺める。
 そこには佐野がバラ撒いた手ぬぐいが転がっているだけで、これといって奇妙なものはなにもなかった。
 みなが同じ結論を出したが、佐野だけが唯一ある可能性を思い抱いた。
 しかしまだ半信半疑というときに、再びシルバーが荷電粒子砲を放つ。
 同じ軌道で迫ってくる光線を前に、佐野は息を止めた。

 ――またしても光線は同じ地点で軌道を変え、あらぬ方向に飛んで行った。

 このような荷電粒子砲の軌道変化を、シルバーはかつて目の当たりにしたことがある。
 その記憶がフラッシュバックし、心眼によってアルに伝わる。

「『超磁力』か……」

 強力な磁力により、荷電粒子砲の軌道を強引に変える。
 一度浮かんでしまえば、それほど不可思議な現象ではなかった。
 だが、だとしても、どこにそのような強力な磁石が存在するというのか。
 疑問を抱くアルに浴びせられたのは、佐野の笑い声だった。

「なっはっは……そーゆーことかいな。
 その超磁力が、俺の『レベル2』ってワケやねんな」

 合点がいったような口調で続ける。

「全ッ然レベル2になれへんと思っとったら、こんなタイミングなんてな。
 強くなりたいと思うんが、キーやったんやろか?」

 自分で訊いておきながら、すぐに自ら「まあええわ」と頷いた。
 勝手に納得して、シルバーのほうに向き直る。
 シルバーはもう荷電粒子砲を放とうとはせず、少しずつ近付いてきている。
 どうやら狙撃は無意味だと勘付いたらしい。

「なかなかおもろいことできそうや」

 そう言って、佐野は手ぬぐいを鉄パイプに変化させた。
 この行動に焦ったのは、アル・ボーエンだ。

「な、なにを言っている! お前の能力があれば、軽トラックで撒けるかもしれないんだぞ!」
「イヤや。っていうか撒けるかい。遠くから狙って当たらんのなら、一発で近付かれて終いやろ」
「だが、ここに残るよりも――」

 身体をシルバーに向けたまま、佐野は首だけ仲間のほうを振り返る。
 やけに不敵な笑みを浮かべていて、それがアルの癇に障った。

391 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:39:10.42 ID:8ZlmHZlX
 

392 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:39:38.55 ID:UkS4Yacl

「かっか。もう分かっとるクセに。
 みーんな一緒に逃げたら『近付かれて終い』なんやで? せやったら、ここで一人残って近付かせんよーにするっきゃないやろ」
「……だが」
「俺以外が残っても、逃げてく軽トラにビーム撃たれて終いやろ。
 一人残って軽トラに近付かせへんよーにする役目は、俺にしかでけへん」
「そういうことを言いたいんじゃないッ!」

 引っ繰り返った声をあげてから、アルは俯いた。
 小刻みに震えながら紡がれる声もまた、僅かに震えていた。

「僕は、友達を裏切りたくない。
 誰かを犠牲にして生き残るなんて……そんなものはまっぴらだ」

 しばし目を丸くしてから、佐野は吹き出してしまった。
 項垂れたままのアルに手を伸ばし、髪をぐしゃぐしゃと描き回す。

「アホやな。裏切られてないわい。友達やから残るんやろ。
 あと、誰が犠牲になるんや。このめっちゃおもろい能力で、アイツしばき倒したんのに」

 佐野はアルの髪をひっつかんで、無理矢理顔を上げてやる。
 ずっと偉そうにしていたのに、目元が真っ赤になっていた。
 一しきり笑ってから佐野が再び視線をシルバーに戻すと、もう公園のすぐ近くまで来ていた。

「ここまでやな」
「……バカが」

 アルは吐き捨てて、レイラから軽トラックの入った蔵王を受け取る。
 そのまま公園から飛び出し、車道まで出ていく。
 シルバーがそちらに掌を向け、荷電粒子砲を撃ち出した。

「させるかいッ!」

 手ぬぐいを槍状にした上で鉄化させ、佐野は荷電粒子砲の軌道上に投擲した。
 そしてレベル2を発動させると、ブリューナクの槍はやはりあらぬ方向を穿つのみだ。
 二発目も三発目も、鉄槍を投げ込んでことごとく軌道を狂わせる。
 その間に車のエンジン音が響き、どんどんと遠ざかっていく。
 苦々しい表情を向けるシルバーに、佐野は笑い返してやる。

「アンタの言う脆弱な能力に、すこーし付き合ってもらうで」

 佐野がブーメランと化した手ぬぐいを四つ放り投げるが、すべてが異形の右腕に払われる。
 ならばと他の手を使おうとしたが、それよりもシルバーが肉薄するほうが早かった。
 電撃を纏う掌が、佐野の眼前に伸びる。

「零距離であれば、超磁力は関係がないな」

 見るからにチェックメイトをかけられた状況に、佐野はなにも言わない。
 ただ口を閉ざし、呼吸を止めている。

 ――呼吸を止めることこそが、親友から授かった能力を行使する限定条件であるのだから。

「なに……?」

 生じた事態に、シルバーは眉を顰めた。
 払いのけたはずのブーメランがいきなり背後から飛んできて、肉体に深く突き刺さったのだ。
 困惑した様子のシルバーに対して、佐野は口角を吊り上げる。
 佐野の着た浴衣は僅かに乱れ、隙間から腹に巻かれた鉄が見えている。

393 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:39:52.77 ID:8ZlmHZlX
 

394 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:39:57.60 ID:2zav/xKk



395 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:39:58.64 ID:7WFTjOHd


396 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:40:36.55 ID:UkS4Yacl

「をいをいをいをい、なに驚いとんねん。
 小学生でも知っとるで。磁力ってのは引き付けあうもんやろう」

 シルバーはとうに意味を理解したようだが、佐野は畳み掛けるように続ける。

「鉄でブン殴っても全然効かんくらい硬くても、超磁力で引っ張ったら刺さるやろ。なっはっは」

 そこまでの軽い口調が一変し、佐野の声色が低くなる。

「どうや。アンタの言う脆弱な力、なかなかのもんやろ。
 それとも……マッドハッターやったか? そのアンタの力が大したことないのかもしれへんなァ」

 そう言って、佐野は腹を抱えて笑ってやるつもりだった。
 しかし瞳に映ったシルバーの形相に戦慄し、知らず言葉を失ってしまう。

 シルバーの瞳が血走り、眼球全体が赤く染まる。
 眼球の血管がそのまま伸びたように、顔面全体に深い亀裂が刻まれていく。
 亀裂はすぐさま首まで至り、さらに奥まで伸びていく。
 次第にロングコートの下から、もうもうと湯気が立ち込めていく。

 そして――シルバーの肉体が膨れ上がり、着込んでいる軍服が弾け飛んだ。

 右腕だけでなく、全身がARMS化している。
 佐野がそう気付いたと同時に、シルバーの肉体が煌々と輝き出す。
 その眩しさは、先ほどまで放たれていたブリューナクの槍の比ではない。
 息を吸っただけで、佐野は気道が熱を帯びるを感じた。
 なにか奇妙な臭いがすると思い、佐野はすぐにそれが自分の肉体の焼ける臭いだと勘付く。
 足元に違和感を覚え確認してみると、膝から下が炭になっていた。
 認識するやいなや炭化した足が文字通り崩れて、そのまま塵になって大気中に消えていく。
 受け身をとることもできず叩き付けられた地面までもが、やたらと熱かった。
 どうにか視線だけ上にやると、燃え盛る異形がこちらに両の掌を向けている。
 初めて見るシルバーの左掌は、右掌よりも遥かに巨大で分厚い。

「シオマネキみたいやな」

 思わずそんな呟きを漏らした、その次の瞬間。
 佐野清一郎という人間は、世界から姿を消した。
 衣服も、リュックサックも、愛用の武器である手ぬぐいも、彼自身さえ――
 なにもかもが瞬く間に燃え尽き、そして一片たりとも残すことなく蒸発してしまった。

397 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:40:48.63 ID:7WFTjOHd


398 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:41:14.16 ID:UkS4Yacl


「――ちッ」

 ARMSの完全体から人間の姿に戻ったシルバーは、盛大に舌を打つ。
 第一形態の時点で、セーブしていたとはいえすでにかなり力を使っていた。
 にもかかわらず完全体となり、両手で全力のブリューナクの槍を放ってしまった。
 しかも怒りに身を委ねていたせいで、相手は息絶えたというのに何度も無駄撃ちをする始末だ。
 マッドハッターを酷使した弊害で、体温がかなり上昇している。
 いくら早々に佐野を仕留めたところで、これでは逃げた輩を追うことは不可能だ。
 思うように動かぬ身体で周囲を眺めると、なにも残されていなかった。
 所持していたリュックサックは、跡形も残らず燃え尽きてしまったらしい。
 支給品は自ら破壊したので入っていなかったが、食料や飲料水がないのは不便だ。
 いずれ他の参加者を殺害して奪うにせよ、現在のような動くに動けない状況でこそ手元にあって欲しかった。
 それに――

「何より、服だな」

 完全体になど、早々なるものではない。
 特にあのような脆弱な参加者が相手ならばと、シルバーは心に刻みつけた。
 とはいえ佐野清一郎相手に完全体になったこと自体に、悔いてはいなかった。

 親友の与えてくれた能力を貶すのが、佐野清一郎にとっての禁句だったとするならば――
 戦闘生命としての力を否定することこそが、キース・シルバーにとっての禁句であるのだから。



【佐野清一郎 死亡確認】
【残り62名】



【E−2 公園/一日目 朝】

【キース・シルバー】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にてオリジナルARMSたちがカリヨンタワーに乗り込む直前。
[状態]:健康、共振波を放出中、マッドハッター酷使による体温上昇、全裸
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:戦闘生命として、闘争を求める。


 ◇ ◇ ◇

399 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:41:25.29 ID:8ZlmHZlX
 

400 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:41:38.65 ID:UkS4Yacl


 走り続けていたボー・ブランシェは、遠くから砲撃の音を捉えた。
 戦闘が行われているとなれば、そこに向かわぬボー・ブランシェではない。
 殺し合いに乗っているものは倒し、弱者は守らねばならないのだ。
 ゆえにさらに走る速度を上げたところ、そちらから離れるように進む軽トラックが見えた。
 戦闘を行ってはいないようなのでひとまず放っておこうかとも思ったが、あまりに覚束ない運転なので声をかけることにする。

「待てい、そこの車ッ!」

 軽トラックの速度は決して早くなく、ならば五十メートルほど前に立てば問題なく止まれるだろうと判断する。
 ボーの声は大きいだけでなくよく通るし、道のド真ん中で大きく手を広げていれば、気付かないということもないだろう。
 そんなボーの予想を覆し、軽トラックは止まることなくボーへと突っ込んできた。

「うおおおおおおおおおおッ!?」

 十メートルほど前まで迫った時点で、違和感はあった。
 ブレーキを踏んだ気配が、かけらも見られなかったのだ。
 それでも、実際にこうして轢かれかけると焦る。
 情けない声をあげてはいても、ボーは格闘のスペシャリストである。
 咄嗟に手を前に出して軽トラックのフロントを掴むと、腰を低く落として踏み止まることで、無理矢理に軽トラックを止める。

「どういうつもりだ、貴様あッ!」

 衝動的に車内に言い放ってから、ボーは運転席に乗っているのが年端もいかない少年だと知った。
 しかも助手席にいるのは、少年と同い年くらいの少女と、成人前後と思われる女性である。
 なるほど、女性に運転経験がなく、仕方がなく少年が運転をしていたのだろう。
 一人でそう納得してから、ボーはうろたえ始める。
 守るべき弱者を怒鳴りつけてしまったのだ。
 誰よりもネオナチの理想を信ずるボーであるから、それは焦る。
 慌ててどうにか取り繕うとしていると、少年に呆れたような声を浴びせられる。

「なにをしてくれてるんだ、お前は。
 僕の友達が公園で強敵を引き止めてくれているから、僕たちはいち早く逃げねばならんのだ。
 ふん、なんならお前も乗っていくか。スペースがないから、荷台にいてもらうことになるがな」

 あまりに予期せぬ内容だったゆえ、絶句してしまう。
 しばらくかけて、どうにか意味を理解する。
 それから一息置いて、ボーは口を開いた。

「……ボウズ、詳しく聞かせてくれ」

401 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:42:16.00 ID:8ZlmHZlX
 

402 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:42:27.75 ID:2zav/xKk



403 :禁句 ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:42:28.91 ID:UkS4Yacl



【D−2 路上/一日目 朝】

【アル・ボーエン】
[時間軸]:第四部「アリス」編終了以降。
[状態]:健康、心の力(中)
[装備]:レイラの魔本@金色のガッシュ!!、心眼@烈火の炎、軽トラック@現実
[道具]:基本支給品一式、通信鬼@GS美神、ノートパソコン@現実、USBメモリ@現実
[基本方針]:施設を巡り情報を集める。殺し合いに乗っている者は倒す。西へ向かう。
※ルシオラの思考をある程度まで読んでいます。


【レイラ】
[時間軸]:魔本が燃え尽きた直後。
[状態]:大人化、ダメージ回復、心の力(中)
[装備]:輪廻@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式、居合番長の風呂敷@金剛番長、通信鬼@GS美神
[基本方針]:仲間達を守る。殺し合いに乗っている者は倒す。
※輪廻で大人の姿となることで能力が上昇していますが、副作用で会場に来る以前の記憶が朧気になっています。
※ガッシュ達が仲間であることは理解しています。


【コロンビーヌ】
[時間軸]:本編で活動停止後
[状態]:健康
[装備]:懐中時計@金剛番長
[道具]:ランダム支給品1〜2(確認済み、キレイではない)、基本支給品一式
[基本方針]:さすらう。『生存目的』を見つけ出す。とりあえずアルに同行。
※アポリオンは使用可。制限されているかどうかは不明。


【ボー・ブランシェ】
[時間軸]:COSMOS戦にて死亡後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:弱者を助けつつ、主催者を倒す。暁を探し戦力を整え角ハゲ(鬼丸)を倒す。





【備考】
※完全体になった際にシルバーの周囲にあったものは、すべて燃え尽きました。

404 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:43:38.84 ID:7WFTjOHd


405 : ◆hqLsjDR84w :2012/06/02(土) 20:43:45.63 ID:UkS4Yacl
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

406 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 20:45:59.36 ID:2zav/xKk
投下乙です!
うおお、佐野レベル2キタ―ッ!って思ってたら、「消滅」と言われて「え…?」ってなった
キースシルバーやばいよキースシルバー

アルたち四人組は最後までいい雰囲気だったなぁ。もっと見ていたかったけど仕方ないね

407 :創る名無しに見る名無し:2012/06/02(土) 21:02:13.10 ID:7WFTjOHd
読了!
なんか最後のボーさんに安心してしまったw
アルは大活躍だな
指揮官も様になってるし心眼も攻守だけじゃなく熱い展開にまで使ってるし
更にはここで超磁力! 佐野は一矢報いたけれど消滅は寂しいな…

408 :創る名無しに見る名無し:2012/06/03(日) 12:29:38.88 ID:pEmHTbbc
投下乙
ついにアルチームから犠牲者が……
かなり上手く立ち回ったけど、さすがに相手が悪すぎたな。佐野が地雷踏み抜いたせいでもあるけど
コロンビーヌに心眼渡して啖呵切るアルが格好よすぎる!

409 : ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:46:13.86 ID:PbKCHWDw
投下します。

410 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:47:02.76 ID:PbKCHWDw
 ◇ ◇ ◇


 告げられた放送の内容に、ジャン・ジャックモンドの思考は停止した。
 十六名もの参加者がすでに死したことには、大して驚いていない。
 被害者が出るのを止められなかったのはもちろん歯がゆいが、あくまで予想の範疇内だ。
 アーカム財団直属のS級特殊工作員・スプリガンとして様々な修羅場を潜り抜けてきたからこそ、人間が案外簡単に死んでしまうものだとよく知っている。
 また、巴武士が呼ばれ、ゼオン・ベルは呼ばれなかった。
 こちらも意外ではなかった。薄々、察しがついていた。

 だが――御神苗優。

 彼の名が呼ばれるとは、まったく考えていなかった。
 巴武士のように甘ちゃんであるのは、誰よりもよく分かっていたはずなのにだ。
 なかなか力をつけてきたとはいえ、ゼオンのような優の力を上回る相手がいるのも思い知っていたはずだ。
 にもかかわらずこうして放送で名前が呼ばれるまで、ジャンは優が死ぬ可能性を欠片も考慮していなかった。
 あの甘い性格からして、下手したら死にかけているかもしれないな――と。
 多少はそのようなことを考えていたというのに、不思議と実際に死んでいるとは全然思っていなかった。
 死にかけるところまで想像しておきながら、死ぬヴィジョンが浮かんでいなかった。
 優が死んだという情報よりも、彼の死を想定していなかったらしい自分のほうに、なぜだかジャンは驚いていた。

(いや、アイツのことだ。
 キース・ブラックのヤローに気付かれねえように、この首輪外しただけじゃ……いや、ない)

 脳内に浮かんだ可能性を、ジャンは自ら否定する。
 現時点で、一つも手掛かりが掴めていない首輪だ。
 どうして、それを六時間足らずで外してしまえるのか。
 工学知識をいくらか持ち合わせていても、スプリガンは決してその道のスペシャリストではないというのに。

(ありえねえ。なに腑抜けたこと考えてやがる。夢見てる場合じゃねえだろ。ふざけんな。アイツは死んだ。それだけだろうが)

 あまりに現実離れしていた希望的観測をした自分に、ジャンは苛立ちを募らせる。
 いまのいままで考えてはいなかったが、言われてみれば優が死ぬのは意外でもなんでもない。
 これまでだって、ジャンが助太刀しなければ何度も死んでいたようなヤツだったではないか。
 むしろ、ある種当たり前なのかもしれない。
 自分にいくらそう言い聞かせても、どうしてもどこか納得できない。
 ジャンにはその理由がまったく分からず、やはり苛立つばかりだった。

「……世の中には、悪党が多すぎますわ」

 思考の渦からジャンを引きずり出したのは、搾り出したような声だった。
 顔を上げてみれば、剛力番長が沈痛な面持ちを浮かべている。
 知り合いでも呼ばれたのだろうか。
 ともあれ身構えていると、唐突に剛力番長の表情が鋭くなる。
 ジャンがそれを認識したときには、すでに彼の身体は宙を舞っていた。
 ガードを崩されたのではなく、ガードの上から殴り飛ばされたのだ。


 ◇ ◇ ◇

411 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:47:11.51 ID:WjI1TK2X
     

412 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:47:40.92 ID:tIpjIVhU
 

413 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:47:48.17 ID:8eiGRqbq
支援

414 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:48:13.65 ID:PbKCHWDw


 森林を進む白いワンボックスカー・ハイエースの車内には、沈黙が広がっていた。
 後部座席に座っているガッシュ・ベルは、傍らにいる兜光一と運転席の暁巌を見やる。
 兜は俯いたまま微動だにせず、暁は無表情を貫いているが御神苗優という名が呼ばれた際に僅かに表情を曇らせた。
 ガッシュの知る名は、放送で呼ばれなかった。
 才賀正二も打ち所がよかったのか、死なずに済んだらしい。
 それでも十六名が死んだのだ。
 とても、素直には喜べないでいた。

「なぜ、十六人も死なねばならなかったのだ……」

 思わず、ガッシュの口から疑問が零れる。
 誰も返事をせず、再び車内を静寂が包む。
 それでも、ガッシュは続ける。
 自らの疑問に、自ら答えるように。

「喜び勇んで他者に襲いかかる輩は、きっと少ない。そう……信じたい。
 なかには……おそらく、好き好んで他人を傷付けるものもいるだろう……が。
 しかしそやつらのなかにも、きっと良心はある……に違いない。
 ただ、殺し合えと命ぜられたのがきっかけで、人を傷付けるようになってしまった、だけで……あって」

 ところどころ詰まらせながら。
 言いながら続きを考えて、それをそのまま口にしていく。

「戦いたくもないものを……このように無理矢理戦わせるなど、断じて許してはならん。
 このような殺し合い……こんなものは、絶対に止めねばならんのだ!
 上に立つものが殺し合いを命じ、人々を悲しませるのならば……! やはり、私が――!」

 少しずつ、言葉が詰まる回数が減っていく。
 話しているうちに、考えが固まった。
 ガッシュの大きな金色の瞳が、奥のほうから光輝く。
 迷いはもうない。
 だから、二度と言葉が詰まることはない。
 行こうと決めた道に、過ちはなかったのだ。

「やさしい王様となる他ないッ!!」

 高らかに宣言し、ガッシュは車内にいる二人に視線を向ける。
 もう、兜は俯いておらず、暁は微かに笑みを浮かべていた。

「やさしい王様ねえ……そんなのがいてくれたらいいかもな」

 兜が笑いながら、ごつごつとした手を伸ばしてくる。
 髪をぐしゃぐしゃと掻き回されるが、ガッシュにはなぜだか心地よかった。

 そんなことを思っているうちに、ハイエースが森林を抜けた。
 先ほどまで木々に阻まれていた日光が、一気に車内に射し込んでくる。
 眩しさに目を細めながら、ガッシュは開けた視界を確認する。
 そこに、ホウキに乗って去って行った女性の姿はなかった。

 いたのは、血塗れの正二と――戦う男女だけだ。

 それを視認した途端、ガッシュはハイエースの扉を開けていた。
 制止の声も聞かず、転げ落ちるようにして車外に飛び出した。

415 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:48:46.30 ID:ifqeCx4l



416 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:48:49.88 ID:e4hN7a6L
 

417 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:48:52.90 ID:tIpjIVhU
 

418 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:49:08.23 ID:PbKCHWDw


 予期せぬ乱入者に、剛力番長は眉をひそめる。
 空中に上げたところに追撃のハイキックを浴びせると、ジャンは仰向けに倒れたまま動かなくなった。
 そちらに歩み寄っていけば、あと一撃で仕留められる。
 そのタイミングで、ガッシュが割って入ってきたのだ。
 ジャンを庇うように前に立って、両腕を大きく広げている。

「……どういうつもりですの、少年」
「少年ではないッ! ガッシュ・ベルという! よければ、おぬしの名前も教えてくれんか!」
「白雪宮拳、またの名を剛力番長ですわ」
「ウヌ、拳か! 拳に、一つ聞きたいことがある」

 手を広げたまま、ガッシュは視線を鋭くする。

「おぬしは、キース・ブラックの言葉に従うつもりなのか!?」

 剛力番長は少しムッとなった。
 正義の体現者たる自身が、殺し合いに乗っていると思われたのだ。
 しかし子どもの言うことだと、すぐに思い直す。
 勘違いしているだけなのだろうと判断し、自分は正義を実行する番長だと宣言する。
 すると、ガッシュは怪訝そうに首を捻った。

「ならば、なぜこの男を倒そうとしておるのだ!?」

 血塗れの正二を指差し、剛力番長は答える。

「あの老人を痛めつけていたからですわ。
 そのような輩が悪党でないはずがありませんわ」

 ここまで会話をしたところで、ようやく停車させたハイエースから暁と兜が降りてくる。
 彼らは警戒心を隠そうとせず、自然に剛力番長も腰を低く落とした。

「来るでない! 私は拳と一対一で話をしたいのだ!
 心配せずとも、拳は悪人などではない! 安心して見守っていてくれッ!」

 しかし、ガッシュは歩み寄ってくる二人を制する。
 剛力番長に視線を向けたままで、再び切り出す。

「私も、先ほど正二を階段から突き落とした」
「――ッ!?」

 剛力番長が目を見開く。暁と兜も同じ反応をした。
 つい声が小さくなりそうになるが、ガッシュは震える口元に力を入れる。

「決して悪気があったワケではない!
 私の大事な魔本を奪われてしまったのもあって、正二を強く責め立てた!
 そしてなぜか会話が噛み合わないことに戸惑い、恐怖に駆られて突き落してしまった! その上、逃げ出したのだ!」

 言い切って、ガッシュは正二のほうに向き直る。
 視線を逸らしたくなるが、それはしなかった。
 夢を抱き続けるには、過去の過ちと向き合わねばならない。
 そう、思った。

「謝って許されることではないと分かっているが……それでも、言わせて欲しいのだ。
 本当にすまなかった、正二……」

 前を向いていなければならない。
 目に見える光景から目を背けてはならない。
 分かっているはずなのに、なぜだかガッシュの視界が滲んでいく。

419 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:49:19.31 ID:tIpjIVhU
 

420 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:49:19.64 ID:ifqeCx4l



421 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:50:09.88 ID:ifqeCx4l



422 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:50:14.88 ID:PbKCHWDw
 それが涙のせいだと気付いて止めようとしても、ずっと流れたままだ。
 その視界のぼやけを振り払うかのように、正二の声がガッシュの鼓膜を揺らした。

「いいんだよ、ガッシュくん。
 こちらも覚えのないことを言われ、つい君の気持ちを考える余裕を失っていた。
 だから……僕のほうも許してくれ」
「ウ、ウヌ……ありがとう、なのだ……」

 溢れる涙の勢いが、さらに凄まじくなった。
 どうにか袖で鼻水もろとも拭って、ガッシュは剛力番長のほうを見やる。

「このように、思いがけず人を傷つけてしまうこともある。
 それを踏まえた上でも、この男が悪党だと言えるのか!?」

 ガッシュの剣幕に、剛力番長は息を呑む。
 だが、剛力番長は正二を殴りつけるジャンの姿を見ている。
 あの姿を思い返してみれば、とても意図せず傷付けたとは思えない。
 剛力番長が言うと、ガッシュは正二に真偽を尋ねる。

「ああ、確かに私は彼に問答無用で殴り掛かられた。しかし――」
「やっぱりですわ! ガッシュくん、早くそこをお退きになって下さい!」
「待つのだ! 正二は、まだなにかを言おうとしているのだ!」

 しかし、剛力番長は聞く耳を持たない。
 ジャンを仕留めるべく歩み寄っていき、ついに前に立つガッシュとの距離がゼロになる。

「どいてください、ですわ」

 剛力番長に鋭く睨みつけられるが、ガッシュは怯まなかった。
 ここで退いてしまえば、ジャンがやられてしまうかもしれない。
 そんなものは、認められない。
 誰かを見捨てて、やさしい王様になぞなれるものか。
 胸をそびやかして思い切り睨み返しながら、ガッシュはこれまで以上の大声を作る。

「なぜ、自分が勘違いをしている可能性を考えないッ!!!」

 剛力番長が、ハッと目を見開く。
 その間に、ガッシュは一気に言葉を浴びせる。

「悪を許せぬという気持ちは、大いに分かる! 私だってそうだ!
 だが! だからこそ! そうそう、悪いものがいるとは信じたくない!
 相手の言い分を一切聞かず、一度下した判断を覆さぬのなど……まるで世の中に悪が多数存在すると思っているようではないか!」

 かつての失敗が、剛力番長の脳を過った。
 倒すべき悪を見誤り、見当違いの正義を実行していたのだ。
 そのときのことを思い出した途端、目の前の小さな少年に、誰よりも大きな背中を持つ番長の姿が重なった。
 そして、熱くなっていた頭が急速に冷えていく。
 剛力番長だって、できることなら世の中に悪は少なくあって欲しいのだ。
 ゆえに剛力番長はジャンに近付かずに、拳ではなく言葉を浴びせることにした。

「よろしければ、アナタの言い分を訊かせてくれませんか?」

 これに対し、ジャンは仰向けのまま吐き捨てるように答えた。

「…………さっきから言ってんだろうが、ちくしょう」


 ジャンの話を聞き、ガッシュと正二は首を捻った。
 彼が正二に襲われたというそのとき、正二はガッシュと一緒にいたはずである。
 剛力番長はすぐさまジャンが嘘を吐いていると判断し、再び飛びかかろうとする。

423 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:50:36.54 ID:PbKCHWDw
 それを制してから、ガッシュは自身の殺し合いに巻き込まれてからの記憶を話す。
 剛力番長の鋭い視線が、今度は正二のほうに向けられる。
 それにたじろがず、最後に正二が自身の言い分を話す。

「…………どういうことですの?」

 全員の証言を聞き、剛力番長は眉根を寄せた。

 ――まったく噛み合わない。

「……まっ、俺はお前を信じたいとこだけどな」
「別に、信じ合ってるような関係じゃねーだろ」
「なーに言ってんだよ、共闘した仲だろうが」
「アレはお互い生き延びるために、だっただろ」
「そりゃそうだ」

 ジャンと軽口を交わしつつ、暁は正二に冷たい視線を這わす。
 もしジャンの話を信じるとすれば、才賀正二はかなりの役者である。
 このようにまったく心当たりがない演技をしながら、胸中で舌を出しているというのも考えられよう。
 とはいえ、そんな輩が血塗れになるまで追い詰められるだろうか。
 話によると、その際に正二は初戦で使った戦闘技術を一つも使わなかったのだという。
 あまりにも不自然だ。理由が分からない。
 ジャンもそう思いトドメを刺さなかったからよかったが、それを読んで技を温存したとは思えない。

「正二、本当に知らないのか……? 赤くて、このくらいの本なのだが……」

 ガッシュがジェスチャーをしながら尋ねているが、正二は首を捻るばかりだ。
 それを見ていた兜のなかに、ある可能性が浮かぶ。

「爺さん……アンタ、『二人』いるんじゃねーのか?」
「二人、とはどういうことだい?」

 怪訝そうに問い返してくる正二に、兜は頭を掻き毟りながら答える。
 あくまで仮説が浮かびかけたところであって、明確な答えが見えているワケではない。

「なんていうか……説明しろっつわれると、難しいんだけどよ。
 魔本ってのを取られたあと、ガッシュは意識失っちまったんだろ?
 そんで、そのあとにアンタがガッシュを発見して保護した。
 その保護してる間に、ジャンが『魔本を持ったアンタ』に出会ったってことは……
 『魔本を持ってるアンタ』と『魔本を持ってないアンタ』が、別々にいるなら納得できるんじゃねーかなと思ってよ」

 説明が終わったというのに、誰も口を開こうとしない。
 慌てて、兜は別の言い方を考える。
 どうにか人に伝わるように、頭のなかにある仮説を噛み砕こうとする。

「だ、だから、よーするに……えーと。
 正二Aと正二Bがいるとしてだな。正二Aは、アンタ本人だ。
 んで正二Bが、殺し合い開始直後にガッシュと会って魔本奪って、そのあとジャンに襲いかかって――」
「いや、言おうとしていることは伝わってる。
 ようは、才賀正二の姿に化けてるヤツがいるかもしれねぇ……ってことだろ」

 必死で言い直している兜を遮ったのは、暁である。

「それなら……まあ頷ける。
 だが、だとすれば、その偽物はどうやってに化けた?
 ガッシュとジャンの話だと、口調もまったく同じだったらしい。
 よほど長い付き合いじゃなきゃ、そこまでトレースできねえぜ。アンタ、心当たりはあるか?」

424 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:50:47.96 ID:tIpjIVhU
 

425 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:51:11.62 ID:WjI1TK2X


426 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:51:47.12 ID:ifqeCx4l



427 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:52:03.19 ID:PbKCHWDw

 尋ねられた正二のなかに、ある男の姿が浮かぶ。
 思うままに顔や声を変化することができ、正二との付き合いも長い。
 しかし――彼に限って、人を襲ったりするはずがない。
 才賀正二最良の友人であると同時に、よくできた好人物であるのだから。
 そもそも、彼の名は名簿に書かれていない。

「……いや、思い浮かばないな。
 名簿には私が知る名が六つ書かれているが、うち二つは人形であるし、残った四人も私の家族や友人だけだ」
「ふむ……」

 暁は口元を掌で押さえながら、黙考する。
 正二自身が自覚していないだけで、ガッシュを発見する前に他の参加者に見つかっている可能性はある。
 だとしても口調までトレースするのは不可能であり、もともと知らぬ相手という線はないだろう。

「ってことは、もともとのアンタの知り合いだけどアンタが名前を知らないヤツ――って辺りか。
 どっかで恨み買ったりしてないのか?」
「心当たりはないが……」
「ま、逆恨みって線もある。だとすれば、運が悪かったな」

 口には出していないが、暁のなかにはもう一つの可能性が浮かんでいた。
 家族や友人が正二に化けている――という場合である。
 生きるか死ぬかの状況である。
 いかなる相手といえど、信用しすぎるワケにはいかない。
 そう思っていながらも、暁はわざわざ口には出さなかった。
 ひとまず落ち着いたというのに、いちいち物事をこじらせる必要はない。
 自分が胸に留めておけばいいだけだと、そのように判断した。
 ジャンの耳元に顔を寄せ、暁はささやくようにして問いかける。

「ってワケでどうだ?」
「……合点はいくが、はいそうですかと全部信じる気は毛頭ねーよ」
「そらそうだよな。
 ま、警戒するにこしたことねえ。こんな状況だしな」

 そんな微かな声は届いていなかったようで、ガッシュと剛力番長は安堵の息を吐いていた。
 正二に満面の笑みを向けながら、これからのことを語っている。

「正二さんの名を騙る悪党がいるようですが、私たちならば問題ありませんわ!」
「ウヌ! 思い違いをして大変なことになってしまったが、こうして本当のことが分かってよかったのだ!」
「雨降って地固まる、ですわね!」
「ウ、ウヌ……? そう、なのか……?」
「そうですわ! 今後も障害が立ちはだかるでしょうけれど、私たち六人がいれば越えられないものではありませんわ!」
「ウヌ! 頑張るのだ!」

 剛力番長が話を聞かなかったせいで余計に話がこんがらがったのだが、素知らぬ顔で騒いでいる。
 その姿を見ると、ジャンはどうにもやるせなくなる思いだった。

「そういやよ、あのガキの夢教えてやろうか?」
「あァ? なんだよ」
「やさしい王様、だってよ」
「……なんだそりゃ」

 素っ気ない態度を取っていたジャンが、意図せず目を丸くする。
 適当に聞き流すつもりだったのに、つい聞き返してしまう。
 それに答えたのは、笑みを浮かべた兜だった。

「上に立つものがやさしかったら、誰かが悲しくなる命令なんかしないから、だってよ」
「はッ」

428 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:52:42.10 ID:tIpjIVhU
 

429 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:52:49.70 ID:e4hN7a6L
 

430 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:53:29.83 ID:PbKCHWDw

 短く笑い飛ばすはずだったが、勝手にジャンの頬は緩んでいた。
 暁の目敏さはよく知っているので、思ったことを正直に話すことにする。

「いいんじゃねーの。ガキっぽくて」
「ほほう。お前がそういう反応するとは意外だな。
 お前ら二人のコンビは、理想家の御神苗とリアリストのお前ってイメージだったんだけどな」
「んだよ。俺にだって、夢見るガキの頃はあったんだぜ」

 冗談っぽい口調で言ってから、不機嫌そうな表情になる。

「つーか、俺はアイツとコンビなんか組んだ覚えはねーよ。
 アイツがあんまりにもスプリガンの面汚しだから、仕方なく助けてやってただけだ。
 スプリガンがそうそう簡単にやられたんじゃ、アーカムの名にも関わんだろ。ま、もうそんな手間かけさせられずに済むみてーだけどな」

 本当にせいせいするぜ。
 そう言い放ってから、ジャンは暁に背を向ける。
 死んだヤツのことなんか忘れてやろうと思っていたのに、いきなり思い出すハメになってしまった。
 殺しにかかってきた相手でさえ、御神苗優と来たら極力殺さないで済ませようとしていた。

(なんだってんだ、どいつもこいつも似たよーなもん抱えて逝きやがって)

 ともにゼオンと戦った巴武士も、似たような信念を持っていた。
 とんだ甘ちゃんだと、ジャンは思う。その考えは変わらないし、変える気もない。
 いかに痛めつけたところで、殺しておかねば回復したあとにまた仕掛けてくるかもしれない。
 自分に襲いかかってくるならばともかく、仲間に手をかけてくる恐れもある。
 実際、優が殺さなかった敵が、のちにアーカムの構成員を手にかけたという事件があった。

(…………ま、再起不能にまで追いやった上で、殺さずに済ませるならいいけどよ)

 にもかかわらず、ジャンは不思議とこんなことを考えてしまっている。
 らしくないなと思いながらも、別に嫌な気はしなかった。

「それにしても不思議ですわ……」
「ヌウウ……本当に気になるのだ」

 ジャンが思考を切り上げると、剛力番長とガッシュが腕を組んで考え込んでいた。

「「自分に非がないのに、どうしてあの女性は逃げて行った んでしょう/のだ 」」

 がくっと膝から崩れそうになりながらも、ジャンはどうにか踏み止まる。
 無表情を貫こうとしても、眉がひくつくのは抑えられなかった。

「まあ考えても分からないものは、仕方がありませんわ!」

 割とすぐに気を取り直して、剛力番長は北東を指差す。
 駅や商店街など、人が集まりそうな施設がある方角だ。

「とにかく、仲間を増やして殺し合いを止めましょう!」

 そう宣言して、剛力番長は進んでいく。
 どうやら悪人でないと分かった途端に、全員ともに行動すると決めたらしい。
 暁とジャンは肩を竦めるが、他の三人に異論はないらしい。
 文句一つ言わずに、後ろをついていっている。

「付き合うしかねーのかね?」
「……才賀正二を放っとくワケにもいかねーだろ」

431 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:53:29.86 ID:ifqeCx4l



432 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:53:45.76 ID:WjI1TK2X


433 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:54:14.12 ID:PbKCHWDw

 大きくため息を吐いて、ジャンが四人を追う。
 それを見た暁は意外そうに目を見開いてから、ハイエースの入った蔵王を取り出す。

「おい、待てよ。
 歩いてくより、これに乗ったほうが――」

 暁の声を遮るように、銃声が響いた。
 ほとんど同時に、青々とした草の生い茂る地面が爆ぜる。
 草もろとも地面の表面が抉り取られ、赤茶の土が露になる。
 地面に空いた穴の大きさから、ジャンと暁はすぐに銃弾の正体を見抜く。

 ――対AM(アーマードマッスル)スーツ用精神感応金属(オリハルコン)製特殊ライフル弾。

 狙撃されたことに気付くや否や、ジャンと暁は即座に狙撃ポイントを特定する。
 しかし分かったはいいが、生い茂る樹木の奥だ。
 ここからなにかを投擲したところで、上手く届くとは思えない。
 ならば接近するしかないが、狙撃主相手にまっすぐ近付くのは得策ではない。
 獣人やAMスーツの速度を考慮しても、距離的に撃つ暇を与えないのは不可能だ。
 身を隠そうにも、相手の銃弾はAMスーツ用に開発された代物だ。
 生半可なものを盾にしたのでは、弾切れを待っている間に息絶えてしまう。
 寺があれば身を隠したのだが、剛力番長の張り手によって瓦礫の山に成り果てている。
 そこまで思い至り、ジャンと暁は地面を蹴った。

 ――再度の銃声。


 ◇ ◇ ◇


 弾丸が命中した地点から、北に七十メートルほど離れた場所。
 密生する樹木に姿を隠し、襲撃者はライフルを構えていた。

「ひひひひ! アイツらビックリしてやがるぜ、パウルマン!」
「ああ、そうだな。とても笑えるな」
「笑えるよなァ!」

 響き渡る声は、二種類。
 だが、襲撃者は二人ではない。
 二体――だ。
 なぜなら、彼らは二体一組の自動人形(オートマータ)・パウルマンとアンゼルムスであるのだから。

「さァて、鬱憤晴らすぜェェェ」

 子どもを模したボディでありながら、アンゼルムスの両腕はやたらと長い。
 一目で人形と分かるアンバランスな腕は、銃身の長いライフルを扱うには非常に便利であった。
 その傍らに立つパウルマンは、アンゼルムスとは違って成人男性型だ。
 ただ数時間前に受けたダメージにより、顎が派手にひん曲がってしまっている。
 そのせいで、こちらも一目で人形と分かる外見となっている。

「どいつを狙うんだ、アンゼルムス?」

 武骨な両刃剣・ヴァルセーレの剣を携えながら、パウルマンが尋ねる。
 一発目を外したのは、彼らが自動人形であるゆえだ。
 普段は使わぬ人間の武器を用いての人間狩り。
 それだけでもおもしろそうだが、しかし彼らはその程度で満足しない。
 もともと道化として作られた彼らは、よりいっそうの愉快さを求めるのだ。

434 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:54:29.50 ID:tIpjIVhU
 

435 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:54:34.58 ID:ifqeCx4l



436 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:54:39.62 ID:PbKCHWDw

 ゆえに、一発目を外した。

 不意を打てば、殺すのは簡単だろう。
 だが、それでは人間が愉快に怯えてくれない。
 相手は五人いるのだから、一人殺しても四人残る。
 そう分かっていても、もったいないという思いのほうが強かった。

 狙われていると認識し、殺される恐怖に怯え、自分が狙われないよう願い、知らず他の四人の死を祈り――そこを撃つ。

 一人が祈りが通じず死んでいき、残った四人が一瞬歓喜してしまう。
 醜い自分の心を思い知り絶望したところで、さらに同じことを行う。
 最後の一人まで繰り返してやり、残った一人はもう死ぬしかなくなる。
 それこそ、おもしろいではないか。
 それこそ、笑ってしまうではないか。
 いままで数え切れぬほど殺してきた彼らは、そのようなプランを立てたのだ。

「そうだなァ、栄えある一人目はァ――」

 鼻歌を鳴らしながら、ライフルの銃口を勢いよく動かす。
 パウルマンにも標的を特定できないようにする演出だ。
 さんざんもったいぶってから、アンゼルムスはライフルを止め引き金に手をかけた。

「こいつだッ!!」


 ◇ ◇ ◇


 ジャンと暁の選択は、まったく同じだった。
 一跳びで仲間の元に肉薄し、そのまま仲間を掴んで飛び退く。
 それ以外には、なにもできなかった。
 自分ともう一人を守るしか、やれることはなかったのだ。
 ジャンはガッシュを、暁は兜を、庇うように抱きかかえて地面に転がった。
 狙撃された事実さえ知らないだろう二人を、優先して助けるべき相手とあいtw選んだのだ。
 剛力番長と正二は狙撃に気付いているかもしれないが、この二人はおそらくなにも分かっていないから。

 事実、剛力番長と正二は狙撃に気付いていた。
 片や番長としての経験が、片や人形破壊者(しろがね)の身体能力が、放たれた銃弾に勘付いたのだ。
 だが、正二は動くことができなかった。
 多少回復したとはいえ、あまりに血を流しすぎていた。
 咄嗟に飛び退くこともできず、ただ茫然と立ち尽くすだけだ。
 剛力番長は、それを察してしまった。
 だから――

「お任せあれですわ、正二さん」

 はにかむように言うと、剛力番長は両腕を広げて正二の前に立ち塞がった。

 剛力番長こと白雪宮拳は、特異体質者である。
 二億人に一人が発症するという『ヒュペリオン体質』。
 この体質を持つものは、通常より遥かに筋繊維の密度が濃い。
 加えて、彼女は正義を実行するためにトレーニングを欠かさない。
 生まれ持った特異体質に、並々ならぬ訓練を重ねてきたのだ。
 結果、小柄で華奢な体格にかかわらず、剛力番長の肉体に詰まった筋繊維は膨大だ。
 もしも彼女の筋繊維密度が常人と同程度であったならば、彼女の体積は数十倍まで膨れ上がるだろう。
 そのため、彼女の肉体に銃弾は通らない。

437 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:54:46.55 ID:e4hN7a6L
 

438 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:55:05.94 ID:tIpjIVhU
 

439 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:55:10.22 ID:WjI1TK2X


440 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:55:14.24 ID:PbKCHWDw

 しかし、いま放たれたのは単なる銃弾ではない。

 対AMスーツ用の特殊弾丸だ。
 使い手の精神に感応して、筋力を三十倍まで増幅させる――そんな代物を貫く逸品なのだ。

「あ、ら……?」

 銃弾を受けたと同時に、剛力番長は違和感を抱いた。
 撃たれた程度では、なにも感じないはずなのだ。
 だというのに、どうして痛みを感じているのか。
 考えても考えても、答えは出ない。
 まったく理由が定かではない。
 けれど、このままだとどうなってしまうのかはよく分かった。

「あァァーーーッ!」

 喉が削れるような絶叫を上げながら、剛力番長は腹筋に力を籠める。
 ぶちぶちとなにかが千切れる音が、体内を伝わって鼓膜まで届く。

「知ったことかッ! ですわァァァーーーーッ!!」

 無視してさらに力を入れると、千切れる音が大きくなっていく。
 すでに痛みは腹ではなく、背中まで及んでいる。
 咄嗟に背中に掌を当てると、肉体を貫通したライフル弾が飛び出してきた。
 それを掴み取って、思い切り地面に叩き付けてやる。
 首を後ろに回して、正二に笑みを向ける。
 そうして反撃しようと踏み込んだ――つもりだった。
 なぜだか視界がぶれ、地面が近付いてきている。
 見れば、腹に空いた大きな穴から管のようなものが多数飛び出していた。

「迷惑かけて申し訳ありませんでしたわ、みなさん」

 なぜか、そんな言葉が口から飛び出してきた。
 伝えるべきことを伝えて、剛力番長は迫りくる地面を見据える。
 まだ身体に力は入る。
 当たり前だ。
 彼女は番長であり、番長とはスジを通すものなのだから。
 通すべきスジを通さずに倒れるなど、ありえない。
 右手に力を籠めて、落下と同時に地面に叩き付ける。

「『神の張り手(ディバイン・ハンド)』ォォーーーーッ!!!」

 地面が割れ、狙撃手まで一直線に亀裂が走っていく。
 さらに地面が一撃が粉砕され、砂煙となって周囲に立ち込める。
 これでは、狙撃などとてもできないだろう。
 狙撃手までの道も作った。
 腹から臓物を撒き散らし、冷たい地面に叩き付けられ――
 それでもなお、剛力番長こと白雪宮拳は微笑みを浮かべながら逝った。

441 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:55:25.07 ID:ifqeCx4l



442 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:55:49.87 ID:PbKCHWDw


 剛力番長の意図は、問題なくジャンと暁に伝わっていた。
 砂煙が治まってしまうより前に勝負を決めるべく、彼らは身体を疾風とする。
 唐突に視界に現れたことに驚いたのか、パウルマンとアンゼルムスがうろたえながらそれぞれの武器を前に出す。
 だが、彼らはやはり人間の武器に慣れていない。
 自動人形ゆえ運動速度は人間よりも速くとも、技術がともなっていないのだ。
 いくら素早い動作でもただ武器を振るうだけでは、あらゆる戦場を潜り抜けてきた二人は捉えられない。
 ジャンはスプリガン最高の身体能力を誇る男であり、暁はいかなる危険地帯からでも帰還する『生還者(リターニングマン)』であるのだから。

「遅ェ!」
「当たらねえよ」

 ジャンの嵌めた手甲型魔道具・門構に払われ、対AMスーツ用特殊ライフルが宙を舞う。
 機械式AMスーツによって強化された暁の裏拳に弾かれ、ヴァルセーレの剣が地面に落ちる。
 パウルマンとアンゼルムスは慌てて武器を取ろうとするが、やすやすとそれを行わせてくれるはずもない。
 跪いて剣を拾おうとしたパウルマンは暁に足を払われ、地面にうつ伏せに倒れたところを上から踏み付けられてしまう。
 ライフルを掴もうと腕を伸ばしたアンゼルムスは、そのやたら長い腕をジャンに掴まれ、身動きが取れなくなる。
 振り払おうとしても叶わず、二体一組の自動人形は押さえ込まれてしまう。

「はん。やっぱトライデントの作ったライフルかよ」

 アンゼルムスの腕を掴んでいない右手で、ジャンは落下してきたライフルを危なげなくキャッチする。
 まじまじと銃身を眺めていると、暁の足の下でパウルマンがすすり泣くような声を零す。

「う、うおぉぉ……やめてくれぇ。
 そのライフルで撃つのだけは、カンベンしてくれぇ……」

 あまりに予想外の言葉には、ジャンは己の耳を疑う。
 自分は他人を撃っておきながら、こんな言い分が頷けるはずがない。
 別に、剛力番長を仲間だと思っていたワケではない。
 むしろ、散々迷惑をかけられたため、あまりよい印象は持っていなかった。
 それでも、なぜか剛力番長自身はジャンを仲間と見なしていたらしい。
 そう思うと、そんな彼女がこんな輩に殺された事実が癇に障った。
 ちゃき――と。
 ジャンの手のなかで、ライフルが音を立てた。

 砂煙のなかでなにが起こっているのか、しろがねの視力で正二は黙視できていた。
 ゆえに、未だ回復しきっていない身体に喝を入れ、無理矢理大声を上げる。

「やめるんだ、ジャンくん!
 そいつらにその手の武器を向けてはならない!!」

 もしも――

 この場に、正二以外にもう一人しろがねがいたならば。

 ライフルを手にしたのがジャンでなく、暁であったのならば。

 パウルマンとアンゼルムスの襲撃が、とうにジャンが正二への疑念を晴らしたあとであったならば。

 自動人形にライフルを向けるなどという、自動人形を知るものならば絶対に犯さぬ過ちは為されなかったかもしれない。

 ジャンがパウルマンにライフルを向け、引き金に手をかけた。
 そして引き金を引くまでのほんの短い間に、パウルマンはこれまで見せていなかった速度を発揮したのだ。
 己を踏み付けていた暁を払いのけて、即座に背後に回ると、一瞬前まで自分が倒れていた位置に組み伏せた。

 結果――ライフルから射出された弾丸は、暁の胸を撃ち抜いた。

443 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:55:51.30 ID:tIpjIVhU
 

444 :『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:56:09.99 ID:PbKCHWDw

「…………あ?」

 眼前で繰り広げられた光景が理解できず、ジャンは間の抜けた声を漏らす。
 とはいえ、ジャンは戦場の住人だ。
 理解できないながらも、ライフルをパウルマンに向ける。

 ――その行動が、パウルマンの枷を外すとも知らずに。

 武器を持ってない人間相手には、自動人形は全力を出すことができない。
 これは元来道化として作られたため、素手の相手はつい観客と見なしてしまうのだ。
 観客を前にして、道化が目に見えぬ速度で動くワケにはいかない。
 これを自動人形たちは『黄金律(ゴールデンルール)』と呼んでいる。
 だが武器を持った人間はもはや観客ではなく、ゆえに黄金律は働かないのだ。

「ふはははははッ!」

 哄笑を上げながら、パウルマンは暁を持ち上げて盾とする。
 思わず発砲を躊躇し、ジャンは動きを止めてしまう。
 パウルマンは、相手が仲間を見捨てられないタイプだと察する。
 ゆえに暁を放り投げると、ジャンは案の定抱きかかえた。
 その隙に、パウルマンはヴァルセーレの剣を拾い上げていた。

「――があッ!」

 刃がジャンの腹を貫通し、大木へと突き刺さる。
 ジャンは、大木に縫い付けられる形となった。
 先ほどまで押さえつけていたアンゼルムスが、勝ち誇った表情で覗きこんでくる。

「ひひひひ。ザマァねえなぁ、人間!」

 強引に剣を抜いて飛びかかってやろうかと思ったが、ジャンが思うように身体に力が入らない。
 ヴァルセーレの剣の特性であるエネルギー吸収のせいだ。
 歯を噛み締めるしかできずにいると、パウルマンが歩み寄ってきた。

「貴様を殺すのは、最後にしてやろう」
「あァ? そいつは、どういう――」

 尋ねずとも、すぐに意味を理解できてしまった。
 砂煙はとうに晴れ、心配そうに眺める三人の姿が露になっていたのだ。
 にたにたと笑みを浮かべる二体の人形を睨み付け、ジャンは声色を低くして言い放つ。

「――テメェら、後悔するぜ」

 常人ならば震えあがるであろう剣幕でさえ、自動人形にとっては笑いの種でしかなかった。
 一しきり大笑いしてから、パウルマンとアンゼルムスは得物を手にして去っていく。
 ジャンが遠ざかっていく二つの背中を見据えていると、足元から消え入りそうな声がした。

「まさか……こんな、形で……スプリガン、と決着……をつける、とは、な。
 は……っ、と……んだお笑い、種……だぜ。さす、が……だな、スプリ、ガン……負け、たぜ」
「……全然、笑えねえよ」
「まったくだ」

 自嘲気味な笑みを浮かべると、それっきり暁巌は喋らなくなった。
 機会が来るまで確認しないよう決めていた蔵王の中身を知ることもなく、生還者の異名を持つ男は息を引き取った。

445 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:56:24.29 ID:tIpjIVhU
 

446 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:56:24.49 ID:ifqeCx4l



447 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:57:15.63 ID:ifqeCx4l



448 :『太陽の人形芝居』2(後編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:57:20.60 ID:PbKCHWDw
 ◇ ◇ ◇


「ボーッとしてる場合じゃねえ! 逃げるぞッ!!」

 ゆっくりと近付いてくる二体の人形を前に、兜は平成を乱していなかった。
 いや、嘘っぱちだ。うろたえていないワケがない。虚勢を張ってるだけだ。
 本当は怖い。いい歳して泣きたくなる。気を抜けば、小便を漏らしてしまいかねない。スーツの下は、とうに汗でビショ濡れだ。
 なぜそれでも震える素振りを見せずにいるのかといえば、この場にガッシュがいるからである。
 子どもがいるのに、大人がビビっていられるはずがない。
 それも、兜光一という男はただの大人の男ではない。
 未だに正義の味方を夢見る、元お巡りさんだ。
 お巡りさんに限って、悪人に怯むワケにはいかないのだ。
 警察手帳なんか辞表と一緒に叩き付けてやったが、いまでも桜の代紋は胸に刻まれている。

「ウ、ウヌゥ……だがっ、ジャンと暁が……っ」
「バカ野郎! アイツらが簡単に死ぬワケねえだろ!
 俺たちがいても足手纏いになるからいったん離れるだけで、あとでまた合流するだけだ!」

 口籠るガッシュを叱咤し、強引に手を引く。
 無理があることくらい、よく分かっている。
 それでも押し通して、逃げなくてはならないのだ。
 ジャンや暁には悪いが、子どもがこんなところで死んでいいはずがない。
 狙撃から他人を庇うような二人なら納得してくれると、兜は信じていた。

「さっきは暁に任せてたけどな、俺だって運転できるんだぜ!」

 パウルマンとアンゼルムスに飛びかかっていく際、暁はリュックサックを置いていった。
 それはあくまで戦闘するに邪魔な荷物をいったん手放しただけであるのだが、こうなると僥倖だ。
 蔵王からハイエースを取り出し、ガッシュを助手席に座らせる。

「爺さん、アンタも早く乗れ!」
「いや、構わない。行ってくれ」

 兜が浴びせられた言葉の意味を理解できずにいると、正二は分かりやすく言い直す。

「私はここに留まり、あの自動人形と戦う。
 君たちはその車に乗り、いち早く遠ざかるんだ」

 言いながら、正二は蔵王から大きなアタッシュケースを取り出す。
 アタッシュケースのハンドルに手をかけると、なかから黒衣の人形・あるるかんが出現した。
 いつの間にか、正二の十指には操り糸がはめられている。

「なに言ってんだ、爺さん!
 そんなに血ぃ流してるのに、あんな化物に勝てるワケねえだろ!?」
「……君には子どもがいるか」

 突然話題が変わったことに兜が困惑していると、正二はさらに続けた。

「私にはいる。最近、娘ができたのだ。
 いや、私の外見年齢からして不自然なのは分かっている。でも真実だ。
 そして、妻の出産に立ち会ったのだ。君は、赤ん坊が産まれる瞬間を見たことがあるかい?」
「…………いや、ない」

 意図が読めないながらも、兜は答える。
 正二はどこか遠くを見るような目になった。

「実際に目の当たりにすると、心が震えるぞ。
 こんなに小さな子が精一杯生きようと外に出てきて、思い切り声を上げて泣くのだ」

449 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:57:27.33 ID:tIpjIVhU
 

450 :『太陽の人形芝居』2(後編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:57:42.22 ID:PbKCHWDw

 身振り手振りを交えながら、正二は語る。
 操り糸が指についているので、手を動かすごとにあるるかんもまた動く。

「まだなにも知らないし、なんにでもなれるし、どうとでも進める……
 子どもは、どんな夢でも見ることができるのだ」

 夢という単語で、兜はようやく察しがついた。

「『やさしい王様』だったか。おもしろい夢じゃないか。
 私が生きていたところでなれやしないだろうが、まだ子どものガッシュくんならなれるかもしれない」

 兜にはなにも言えなかった。
 ガッシュを出されては、口答えなぞできるはずがない。

「分かった……だが、勝算はあるのか?」
「もちろんさ。自動人形との戦いに関しては、一日の長がある」

 正二が虚勢を張っていることは、同じく虚勢を張り続けている兜には分かってしまうのだった。
 それでも気付かぬふりをして、ハイエースに乗り込んだ。

「兜、どうしてもうエンジンをかけているのだ!? 正二がまだ!」
「残るってよ」
「――ッ!」

 ガッシュが慌てて扉を開けようとするが、運転席の兜によってロックは固定されたままだ。
 物言いたげに見つめる視線には触れず、兜はアクセルを踏み込んだ。


「あるるかぁぁぁん!!」

 正二の指の動きに呼応して、あるるかんが右手に持ったオリンピアの腕を振るう。
 遠ざかっていくハイエースに放たれたライフル弾を弾く。
 弾丸を逸らすことには成功したが、引き換えとしてオリンピアの腕は半ばから先が砕け散る。

「ひひひっ! やるじゃあねェか、しろがね」
「うむ。これほどの技術で操られるマリオネットを見るのは、かなり久々だ。
 これは油断していると、深手を負わされてしまうかもしれんなァ。ただし……」
「お前が万全だったら、だけどなァ!」

 嘲笑いつつ、アンゼルムスがその長い腕を伸ばす。
 あるるかんの胴体に腕が巻き付き、強引に動きを止める。
 マリオネットを動かなくすれば、しろがねは自動人形の敵ではない。
 こうもあっさり決まったのは拍子抜けだったが、パウルマンとアンゼルムスはそれを自身の強さゆえと思い込んだ。
 パウルマンは自身の頭を掴んで、そのまま横に捻る。
 すると頭部は容易く外れて、内部に隠されていたブレードが露になる。
 パウルマンが身体をよじると、ブレードは一メートルほどまで伸びた。

「チェックメイトだ」

 勝ち誇ったように言って、パウルマンはあるるかんへと突っ込んでいく。
 人形を先に切り刻み、そのあとでしろがねをゆっくりと始末するつもりなのだ。

 ――それこそが、正二の狙いであった。

 そもそも、正二は懸糸傀儡よりも刀を用いた戦闘のほうが得意なのだ。
 こうしてあるるかんを使えているのは、妻であるアンジェリーナが操る懸糸傀儡だからである。
 そう、しろがねのなかでもトップクラスの人形遣いであるアンジェリーナを見てきたのだ。
 だからこそ、正二は彼女の技術を吸収していたのだ。

451 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:57:56.98 ID:ifqeCx4l



452 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:58:08.61 ID:tIpjIVhU
 

453 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:58:11.94 ID:e4hN7a6L
 

454 :『太陽の人形芝居』2(後編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:58:23.95 ID:PbKCHWDw

「LES ARTS MARTIAUX(戦いのアート)! コラン!!」

 両腕を上に掲げて、そのまま一気に下ろす。
 アンゼルムスは、完全に動きを止めていたはずのあるるかんの内部から歯車が動く音を聞いた。
 あるるかんの胴体が開き、内部の歯車が露になる。
 勢いよくあるるかんの上半身が回転し、出現した歯車を加速させる。
 胴体に巻き付いていたアンゼルムスの両腕が弾け飛び、突っ込んできたパウルマンのブレードが分断された。
 二体の人形が絶叫しながらのた打ち回るも、正二の表情は険しいままだ。
 コランを放つタイミングが、僅かに早かった。
 もっとブレードが奥に入ってから発動させれば、パウルマンの上半身をすべて破壊することができただろうに。

「してやられたな、アンゼルムス」
「ああ、そうだね……」

 折れてしまったブレードを隠すように、パウルマンが頭を元の位置に置く。
 アンゼルムスは、腕が前腕部分でもげてしまっている。
 未だ戦闘態勢を崩さぬ正二の前で、二体はわざとらしく会話を始めた。

「ひひひ! 見てみなよ、パウルマン。
 車がもうあんなに離れてるよ! 早く追わなきゃ!」
「ああ、まったくだ。
 そのためには、このしろがねをいち早く仕留めねばなるまい」

 正二はこの発言を挑発と判断し、胸中で笑った。
 自分が死ねば彼らが襲われると言われれば、なおのこと負けてしまうワケにはいかないのだ。
 だが二体の人形は、正二の予想外の行動に出た。

「でもさァ、パウルマン」
「そうだなァ、アンゼルムス」

 思わせぶりに笑う二体に、正二は眉間にしわを寄せる。
 その反応に口元を吊り上げてから、パウルマンはアンゼルムスの足を掴んだ。
 そして――

「やっぱり、あちらを先にしようか」

 白々しいことを言いながら、ハイエース目がけて投げつけた。
 大口を開けたアンゼルムスが、フリスビーのように回転しながら飛んで行く。
 唖然としながら眺めるしかできない正二の前で、ハイエースにアンゼルムスが突っ込み――車体が横に倒れたのち爆発した。

「よそ見をしている場合ではないなァ、しろがねェ!」

 我に返った正二の瞳に映ったのは、振りかざされた半ばで折れたブレードであった。
 指を動かす間もなく、正二の腹を刃が一閃した。


 ◇ ◇ ◇

455 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:58:56.70 ID:ifqeCx4l



456 :『太陽の人形芝居』2(後編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:59:08.62 ID:PbKCHWDw


 アンゼルムスが戻ってくるのを待ち、パウルマンはジャンの元に歩み寄っていく。
 ジャンは俯いたまま微動だにしないが、吐息が聞こえるので生きているのは分かり切っている。
 顔を見せようとしないのは恐れているからだと決めつけ、二体の人形は大いに笑った。

「ひひひひ! お前以外死んじまったぜェェェェ!
 後悔させるって話はどうなったんだァ!? 早くさせてみろよ!」
「おいおいアンゼルムス、それはあまりに酷すぎるぞ。
 あんな見え見えのハッタリを言うしかなかったのだ。彼の気持ちを汲んでやるべきだろう」

 大木に縫い付けられたジャンを見下ろしながら、声を合わせて笑い転げる。
 しばらく哄笑を上げたのち、パウルマンがジャンの髪を掴んだ。
 怯えて俯いているのはいいが、ずっと続けられていてはいい加減おもしろくない。
 そう思い、髪を引っ張ることでジャンの顔を無理矢理上げた。

「……んん?」

 ジャンの顔を見たパウルマンは、怪訝そうに首を傾げた。
 顔面全体に金色の毛が生えていたのだ。
 先ほどまで、このような毛は存在していなかった。

 ――パウルマンとアンゼルムスは、ジャンの言葉をハッタリと嘲笑うべきではなかった。

 氣法師・朧との戦いを機に、ジャン・ジャックモンドは自らに制約をかけていた。
 自身に眠る獣人の力に身を委ねることなく、人間形態を保ったまま戦うように心がけていたのである。
 本来、血液を体外に出すことで獣人は、人間から獣人の姿となる。
 その際、身体能力は飛躍的に上昇するが、代わりに理性を失ってしまう。
 朧にはそこを突かれ、呆気なく敗北を喫するハメになってしまった。
 わざわざ獣人化せずとも、ジャンは人間形態のままで十分に速い。
 むしろ理性を失うのは、強敵との戦いにおいてはマイナスにしかならない。
 そういう結論に至ったのである。

 いま、ジャンはその制約を解き放った。

 パウルマンとアンゼルムスは、決して強くない。
 黄金律が解除された瞬間こそ驚いたが、それだけだ。
 不意を打たれなければ、負けることはない。
 獣人化で上昇した身体能力に対応し、思考能力のなさを突かれることもないだろう。
 そんな相手だからこそ、躊躇なく理性を捨てられるのだ。

 金色の体毛がさらに伸び、全身を覆う。
 瞳が縦に細長く伸縮し、眼光がよりいっそう鋭くなる。
 口角がが耳元まで広がり、口元からは白い犬歯が何本も覗く。
 そして、ジャン・ジャックモンドの理性は完全に消え失せ、獣の本能だけが残った。
 腹に突き刺さったヴァルセーレの剣に、ゆっくりと手を伸ばす。
 ただ、単純に『動くのに邪魔だから』掴み、そして握り締めた。
 刀身のエネルギー吸収能力を上回る力により、ヴァルセーレの剣の刀身は粉々に砕け散る。

「なにッ!?」

 ジャンの髪を掴んでいたパウルマンが、目を見開く。
 これは、自分に支給された剣が折られてしまった事実に驚いただけだ。
 彼はこの期に及んで、自らの危機に気付いていなかった。
 ヴァルセーレの剣を砕いた獣人の手が、パウルマンの曲がった顎に伸びる。
 そう認識したときには、曲がった顎は塵となって大気中に溶け込んでいた。
 現状を呑み込めずにいるパウルマンが最期に見たのは、眼前に近付いてくる鋭利な牙だった。

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃッ!」

457 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:59:20.15 ID:tIpjIVhU
 

458 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:59:42.61 ID:ifqeCx4l



459 :『太陽の人形芝居』2(後編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 22:59:48.43 ID:PbKCHWDw

 パウルマンの顔面を喰い千切った獣人を前に、アンゼルムスは腰を抜かす。
 どうにか這いずるようにして遠ざかろうとすると、首輪が警告音を鳴らす。

『パートナーとの距離が離れています。五分以内に合流しなければ爆発します。パートナーとの――』

 もはや、アンゼルムスには警告などどうでもよかった。
 あんな化物の元にいるより、壊れたほうがよっぽどマシである。
 そう思っていると、不意に首輪から警告音が止まった。
 アンゼルムスのすぐ傍らに、パウルマンの残骸が投げつけられたのだ。
 歩み寄ってくる獣人を前に、アンゼルムスはライフルを取り出す。
 だが、いまの彼には前腕から先がない。
 指がなければ、引き金を引けるはずがない。
 ぽかんと獣人を眺めながら、アンゼルムスは理解した。
 この全身が震え微動だにできない、この状況を人間はああ呼ぶのだろう。

「これが『恐怖』か」

 直後、獣人の拳が振り落された。
 衝撃を受け流しきれずに、アンゼルムスの首が勢いよく回転する。
 三秒と待たず首がねじ切れて、アンゼルムスの顔面だけがヘリコプターのように回転しながら遥か彼方まで飛んで行った。
 力なく倒れこんだ胴体を踏み潰してから、獣人は唸るような低い咆哮を上げる。

「GAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHッ!!!」

 獲物を始末してなお、獣人はさまよい続ける。
 理性なき本能の塊は、ただ標的を探し求めるのみだ。
 しばらくうろついてから、獣人は一つの死体の前で足を止めた。
 ともに戦った暁巌の亡骸である。
 それを殴り、引っ掻き、踏み躙り、蹴り飛ばす。
 一度獣人化すれば元に戻るまで、獣人は見境なく蹂躙する。
 これが、いまのいままでジャンが獣人化を使わなかった理由だ。
 獣人化しなかったのではない――できなかったのだ。
 敵だけでなく、同行者にまで危害が及びかねないのだから
 しかし、同行者は全員殺された。
 守るべき相手はいなくなった。
 理性を保つ理由が消え失せた。
 ゆえに、ジャンは自身に科した制約を解き放ったのだ。


 ◇ ◇ ◇

460 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 23:00:27.41 ID:e4hN7a6L
 

461 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 23:00:28.16 ID:tIpjIVhU
 

462 :『太陽の人形芝居』2(後編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 23:00:52.05 ID:PbKCHWDw


「は……ッ」

 正気に戻るや否や、ジャンは自嘲気味な笑いを吐き捨てた。
 眼前に広がるのは、形のない肉の山だ。
 ミンチ状になった桃色の破片には、ところどころ学ランの切れ端らしきものが混ざっている。
 ということは、つまりこの肉の山は彼女であった物体なのだろう。
 獣人化して治癒力が活性化した影響か、疲労こそあれどダメージはほとんど回復している。

 そのはずなのに――胸が酷く痛かった。

「結局、一人かよ」

 感情の籠ってない呟きを吐き捨てる。
 あまりに感情がなく、余計に不自然だった。
 肉の山の傍らにある首輪とリュックサックを回収し、ジャンは獣人化する直前までいた地点に向かう。
 縫い付けられていた大木には、刀の柄と金属片しか残っていなかった。
 すぐ近くには、またしても肉の山が積もっていた。
 AMスーツまでも破壊したらしく、黒い欠片が散らばっていた。
 周囲に視線を這わすと、人形の残骸が二つ見つかった。
 人形にきちんとトドメを刺せていたらしい事実に、ジャンは安堵した。
 これで人形どもに逃げられていたら、ただ同行者を全員殺されただけだ
 首輪を三つ拾ってから、ライフルとリュックサックを回収する。
 意識を取り戻した地点まで戻り、ジャンは息を呑んだ。

「……生きてんのかよ」

 上半身と下半身が分断されかけながらも、才賀正二にはまだ息があった。
 ひどく微かで、しかも三十秒に一回程度しか行われていない。
 いかなる原理で生きているのかは定かではないが、いまにも死に行くだろう。

「悪ィな」

 ジャンは、正二の首元に手を伸ばす。
 病院につれていくまでに息絶えるだろうし、向かう余裕もない。
 現状、治療する知識も方法もない。
 息絶えるまで待っていても、無駄に時間を費やすだけだ。
 ゆえに、ジャンは――決断した。
 手に力を籠めてしばらくすると、正二の呼吸は止まった。

463 :『太陽の人形芝居』2(後編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 23:01:08.19 ID:PbKCHWDw

「…………なにがアイツらの遺志、だ」

 ジャンの脳裏を過るのは、すでに死した甘ちゃん二人だ。
 彼らの遺志を継ぐべきなのかと、少しばかり悩んでいた。
 だが、いまこのとき、そんな考えを捨てる。
 同行者を一人も守れず、自分だけ生き延びた。
 理性を失い、本能のままに人形たちを破壊した。
 加えて、現在こうして――
 いまのジャンに、彼らの遺志を継ぐ資格はない。

「なにを、している……のだ?」

 いきなり浴びせられた声に、ジャンは言葉を失う。
 振り返れば、そちらにはガッシュ・ベルが立っていた。
 爆発した車のなかにいたというのに、運よく生き延びたらしい。
 服が焦げているだけで、目立った外傷もない。
 どうして戻ってきたのか。
 ジャンはそう訊きたくなったが、どうにか呑み込む。

「なんだ、生きてたのかよ」
「だが、兜は……」
「そうかよ」
「私のことはいい! おぬしがなにをしてたのかと言っている!」

 なんでもないような口調を作るジャンに、ガッシュが声を荒げた。
 やはり、見られていたらしい。
 自嘲気味に笑ってから、ジャンはもう取り繕うのをやめた。

「お前と違ってもう夢見てらんねーんだよ、俺はな」

 吐き捨てるように短く言い放って、ジャンは魔道具・閻水を取り出す。
 ボトルから水を注ぎかけると、閻水の先端に水が集い無色透明の刃となる。
 ここまでやっても、ガッシュはまだなにをしようとしているのか分からないらしい。
 怪訝そうにしているガッシュの前で、ジャンは正二の首を落とし首輪を拾い上げた。

464 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 23:01:10.90 ID:tIpjIVhU
 

465 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 23:01:37.17 ID:ifqeCx4l



466 :『太陽の人形芝居』2(後編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 23:01:47.57 ID:PbKCHWDw



【白雪宮拳(剛力番長) 死亡確認】
【暁巌 死亡確認】
【兜光一 死亡確認】
【パウルマン&アンゼルムス 破壊確認】
【才賀正二 死亡確認】
【残り57名】


【C−6 寺だった瓦礫周辺/一日目 朝】

【ジャン・ジャックモンド】
[時間軸]:少なくともボー死亡後。
[状態]:疲労(大)
[装備]:門構@烈火の炎、翠龍晶@うしおととら
[道具]:白兎の耳@ARMS、武士のリュック@現地調達、閻水@烈火の炎、対AMスーツ用特殊ライフル(弾丸:11)@スプリガン
     蔵王(空)@烈火の炎、不明支給品0〜1(確認済み)、基本支給品一式×2
     首輪×5(剛力、暁、パウルマン、アンゼルムス、正二)
     剛力番長のリュック(基本支給品一式、支給品1〜3)確認しているか不明))
     暁巌のリュック(基本支給品一式、カロリーメイト9000キロカロリー分(一箱消費)@現実、ランダム支給品×1(未確認))
     パウルマン&アンゼルムスのリュック(基本支給品一式)
[基本方針]:殺し合いには乗らない。殺し合いに乗ったと思しき相手は、躊躇せず殺す。高槻涼に会う。
※美神と少しばかり情報を交換しました。


【ガッシュ・ベル】
[時間軸]:コルル戦直後
[状態]:術使用による精神ダメージ、ところどころ服が焦げている
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:優しい王として、泣くものがいないように頑張るッ! ……ジャン!?





【備考】
※TOY○TA・ハイエース@現実は、爆発しました。
※ヴァルセーレの剣@金色のガッシュ!は、柄しか残ってません
※才賀正二のリュックサック(ランダム支給品0〜2(確認済み)、基本支給品一式 )、あるるかん@からくりサーカスは、死体のすぐ近くに転がっています。
※機械式AMスーツ@スプリガンは、破壊されました。
※スティンガーミサイル1/1@現実、予備弾頭30発@現実の入った蔵王は、暁巌だった肉の山の周囲に転がっています。
※拡声機@現実の入った蔵王、兜光一のリュック(基本支給品一式、H○NDA・スーパーカブ110@現実)は、ハイエース内に放置されてます。

467 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 23:02:23.87 ID:e4hN7a6L
 

468 :『太陽の人形芝居』2(後編) ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 23:02:32.14 ID:PbKCHWDw


 ◇ ◇ ◇


「人形をどうやって上手に動かすのか――ねえ。

「『生命の水(アクア・ウイタエ)』を飲んだからといって、誰もかれもが上手く操れるワケじゃないからねえ。
 記憶はあっても、実際に扱えるかは別問題だし。
 どんな人形繰りの天才とはいえ、みんな鍛錬積んでるしね。

「実際、マリオネットより他の武器が得意って人も結構いるんだよね。
 正二みたいにサムライソードの使い手となると、僕も君以外には見たことないけど。
 でも、それは、日本人のしろがね自体があまりいないからだしなぁ。
 サーベルとかだったら結構いるよ。君の義母のルシール先生とか、さ……

「ともあれ、本題に入ろうか。

「別に、そんなになにもかも、一から十まで動かす必要はないんだよ。

「いや、冗談なんかじゃないよ。
 はぐらかしたり、煙に巻いたり、そういうつもりも毛頭ない。

「考えてみれば分かるだろう?
 糸は無限に伸びる代物じゃない。
 だからある程度指で糸を引くとね、今度は引いた分だけ戻ろうとするんだ。

「ようは、その分は動かす必要がない。
 十指すべてが動いているように見えるかもしれないけど、本当に十指すべてを同時に動かす機会っていうのは案外少ないんだ。

「つまり――
 まあこれは、対自動人形用のマリオネットの話じゃないんだけど。
 例えば、人形劇なんかの場合だと。

「ある程度糸を操ってやると、もうほとんど動かさなくても勝手に劇が動いたりもする。

「こっちはもうなにもしていないのに、動いて喜劇を演じてくれるんだよ。

「もちろん僕の予想の範疇を超えてしまうケースもある。

「ときに糸同士が絡まり、人形同士が縺れ合ったりね。
 けれど、それさえ喜劇を構成する要素の一つになってしまうんだよね。

「とても――――『滑稽』だよねえ。

「ん? それにしても今日はどうかしたのかい、正二?

「ひどく表情が険しいけれど。

「なにか心配事でもあるのかい?

「話なら聞くよ。
 だって僕は――君の親友、なんだから……ね」

469 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 23:02:40.19 ID:tIpjIVhU
 

470 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 23:02:40.85 ID:DWlSkNkX



471 : ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 23:03:01.04 ID:PbKCHWDw
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

472 :創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 23:03:33.79 ID:DWlSkNkX



473 : ◆hqLsjDR84w :2012/06/05(火) 23:05:36.78 ID:PbKCHWDw
おっとミス。

【C−6 寺だった瓦礫周辺/一日目 午前】

です。

474 :創る名無しに見る名無し:2012/06/06(水) 13:26:30.58 ID:upSlzNsu
投下乙!
うわああああ大惨劇だああ
前半がいいムードだっただけに、後半の虐殺が……
生き残った二人も精神的に叩きのめされてるし

475 :創る名無しに見る名無し:2012/06/07(木) 14:49:21.45 ID:qRFz61HU
投下乙
他の人も言ってるけど、本当に序盤の空気に騙された……
まさかパウルマン先生がここまでやるとは思ってなかった。本人達気付いてないだけで、運がかなり良かったのもあるが
最後のセリフで気付かされたけど、大体フェイスレスの仕業なのが恐ろしい
それにしてもこんなに落ちるとは……予想してなかったので衝撃も大きい。改めて投下乙です

476 :創る名無しに見る名無し:2012/06/07(木) 14:49:52.57 ID:qRFz61HU
そして転載です

111 名前:週刊少年ななしさんデー[sage] 投稿日:2012/06/05(火) 23:47:32 ID:???
規制につきこちらで感想
投下乙!
まさかのパウルマン&アンゼルムス無双
装備に恵まれていたのもあるけれどガッシュらが裏目に出まくったのも痛かったなあ
しかし冒頭の対主催大集団結成か!? の件はよかった
ガッシュと剛力はなんかすごい馬合ってる感じでもっと見たかったなあ
兜とガッシュとかスプリガンズとか、後々だけどガッシュ逃すときの正二とかもいい関係だった
その雰囲気をガリガリ削る後々の展開に阿鼻叫喚だったぜ

477 : ◆6LcvawFfJA :2012/06/09(土) 02:56:54.38 ID:nGW4WXzJ
投下致します。

478 : ◆6LcvawFfJA :2012/06/09(土) 02:57:25.94 ID:nGW4WXzJ
 陶磁器製のティーカップを口元に運ぶキース・バイオレット。
 そもそも良質とは言い難い茶葉より抽出された紅茶は、既に冷え切っている事もあって酷く味気無い。
 だがそれでも、バイオレットは紅茶を喉に滑らせていく。
 まるで機械のように、プログラムに巻き込まれた直後から同じ行動を繰り返している。
 そうする他に、何をすればいいのか分からないでいる。
 傍目には平静を乱していないようだが、その実は行く道を知らぬだけだ。
(……巴武士)
 脳裏から離れないのは、一人の少年の姿。
 オリジナルARMS“ホワイトラビット”の適正者だ。
 “ジャバウォック”を止める鍵の一つ。
 そんな彼が逝った。
 久留間恵がプログラムに参加していない以上、残る鍵は新宮隼人のみとなった。
 終末に至らぬよう動いてきた彼女にとって、かなりの痛手となる。
 が、現状、彼女はプログラムにおいて如何様に動くかを決めかねている。
 故に、迷うのだ。
 巴武士の死に対し、どう反応すべきなのか。
 ジャバウォックを打ち倒す鍵を喪失した事を悔やむ必要は、もはや無い筈だ。
 にもかかわらず、胸が痛い。
 ホワイトラビットの喪失ではなく、巴武士の死対して嘆いている彼女がいた。
(何故……、私達に感情など与えたのだ)
 プログラムの背後にいるだろう彼女の母“アリス”に、胸中で尋ねる。
 勿論、返答は無い。
 無音の喫茶店内に、唐突に扉をノックする音が響く。
「……入りたければ、勝手にすればよい」
 バイオレットが言うと、喫茶店の扉が緩やかに開かれる。
 現れたのは、白髪をした老年の男。
 かけている眼鏡の奥に見える目付きは、とても穏やかだ。
 キース・ブラックにより与えられた資料によると、才賀正二という名であっただろうか。
 黙考するバイオレットの前で、老人は両頬を掴む。
 頬を左右に引っ張っていくと、髭が天を衝かんとする勢いで上方を指す。

「うちゅーぢんだよ〜〜〜。ぴきゃぺきょり〜ん」

 またしても、喫茶店内に静寂が拾った。

 才賀正二の姿に変装したフェイスレスは、心底つまらなそうに口を尖らせる。
「何だよ、リアクション薄いなァ」
 言い終わった頃には、頬も髭も元の位置に戻っていた。
「君がキース・バイオレットかい? 新宮隼人君に聞いて来たんだけど」
 挨拶代わりの一発ギャグなど無かったかのように、フェイスレスは本題に入る。
 バイオレットの方も、ギャグに触れる様子は無い。
「ああ、そうだ」
「へー。話に聞いてた通り、超そっくり。さすがだね」
 バイオレットの体を足先から舐め回すように眺めるフェイスレス。
 少し、クローン技術に興味が沸く。
 だが、それをわざわざ口にする事は無い。
「ああ、そういえば名前を言っていなかったね」
 ふと思い出したような口調で、自らの名を名乗る。
「僕の名前は……、才賀正二というんだよ」
 返ってきたのは、含み笑いだった。
 バイオレットが、刺すような視線で睨んでくる。
「兄、キース・ブラックより参加者の情報は与えられている。
そのような芝居は、私には通用しない」
 的確な指摘に対し、フェイスレスは表情に出す事無く笑う。
 それを確かめる為に、無意味なギャグを行ったのだ。
 しかしその打算をおくびに出さず、さも驚いたように演じる。
「へえ……。だとすれば、僕は一体どう名乗ればいいのかな?
名簿にはある名で書かれているけど、あれは異名の様な物で個人名ではなくてね」
 バイオレットの視線がより鋭くなる。
 そして零れ落ちた声も、冷え切っていた。

479 : ◆6LcvawFfJA :2012/06/09(土) 02:57:55.41 ID:nGW4WXzJ

「“白金”でも“ディーン・メーストル”でも“才賀貞義”でも“フェイスレス”でも……、好きな物を名乗れば良いだろう」

 全てを知られているらしい事実に、フェイスレスは笑った。
 驚愕するでもなければ、焦って取り乱しもしない。
 “話が楽になった”と分かり、思い切り笑顔になった。
「まあ警戒するのはもっともんだけどねェ。全部知ってるみたいだし。
でも、少し考えてみれば簡単に分かるだろう?」
 話しながら、フェイスレス司令としての外見に戻る。
 笑顔のままで、バイオレットに歩み寄っていく。
「僕には、叶えなくちゃいけない夢がある。
その為には、このプログラムって邪魔なんだよねー。
知ってる君に話すまでもないだろうけど、勝君もエレオノールも失う訳にはいかないんだよ。
替えの利かない大事な役目があるもんだからさァ」
 察しが付いたらしいバイオレット。
 未だ睨み付けるような視線のまま、口を開く。
「殺し合いには乗っていない……という事か?」
「当たり前じゃーん。
後でどうするかはともかく、とりあえずは勝君達と一緒にここを脱出するつもりだよん。
君のお兄さんは全員殺したら何でも叶えてくれるって言ってたけど、何ともナンセンスだよ。
夢ってのは、自分の手で叶えるから意味があるんじゃないか」
 耳触りの良い言葉を吐くフェイスレス。
「だからさ、余さず全部知ってる事を教えてよ」

 より深くなったフェイスレスの笑顔に、バイオレットは生理的な嫌悪感を覚えた。
 だが、フェイスレスは紛う方無き天才だ。
 プログラムを止めるつもりならば、かなり役に立つだろう。
 抗っている新宮隼人の手助けにもなる筈だ。
 故に、バイオレットは決断を下す。
「いいだろう……。私が分かっている範囲については話そう」
 自分がプログラムにおいてどう動くのかも、未だ決められていないというのに。

     ○

「むむむー……」
 難しそうな表情で呻るフェイスレス。
 バイオレットの話を聞いた後、質問と応答を数度繰り返した。
 それでも、違和感は消えない。
「何か、おかしくない?
キース・ブラックの目的から、かなりズレてんじゃん」
「それは……、私にも分かっている」
「だよねえ。思い違いじゃないよねえ」
 口調は軽いが、フェイスレスの表情は真剣であった。
 また、先の放送も気にかかる。
 殺し合いの説明をしたキース・ブラックの口調とは、幾らか違っていたのだ。
 よく他人に成り済ますフェイスレスには、よく分かる。
「……ま、“十つの世界”って話だしね。
他の世界の人達とも会って話聞いてみるかなァ」
 手前にあるティーカップに手を伸ばし、フェイスレスは紅茶を飲み干す。
「紅茶、ありがとね。美味しかったよ」
「お世辞はいらん」
「せっかく褒めたんだから、素直に喜べばいいのに」
 茶化すように言いながら、喫茶店の扉の方に進むフェイスレス。
 ふと足を止めて、バイオレットの方を振り返る。
「情報のお礼に、これあげるよん」
 ガッシュの魔本を投げ渡すと、バイオレットは目を見張った。
 何やら問い詰めてくるが全て無視して、フェイスレスは続ける。
「そうやって怒れるなら、動けばいいんじゃないかな。
君がどうしようと僕には関係無いけど、どう動くか迷ってるような奴に叱られる筋合いは無いね」

480 : ◆6LcvawFfJA :2012/06/09(土) 02:58:14.17 ID:nGW4WXzJ
 バイオレットが口籠ったのを確認し、フェイスレスは彼女に背を向ける。
「まァ、恋愛でもしてみればいいんじゃないかな。
良いよォ、恋愛は。迷う間も無く動いちゃうからね。はっはっは」
 高笑いを上げながら、フェイスレスは喫茶店を後にする。
 喫茶店の扉を閉めてから、急に落ち着いた口調に戻る。
「……これに関しては、あながち冗談でも無いんだけどね。
気付くかどうか……。いや、気付かないだろうな」





【E−5 喫茶店/一日目 朝】

【キース・バイオレット】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にてオリジナルARMSたちがカリヨンタワーに乗り込む直前。
[状態]:健康、共振波を放出中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜2(未確認)、ガッシュの魔本@金色のガッシュ
[基本方針]:キース・バイオレットとして行動する……? ひとまず喫茶店に留まり、入ってきた参加者に対応。
※参加者の情報をブラックから聞かされています。
※ある程度近づかなければ、ARMSの共振を感知できないようです。完全体となった場合は不明。


【フェイスレス】
[時間軸]:28巻、勝にゲームを申し込んだ後。
[状態]:健康
[装備]:エネルギー結晶@GS美神(体内)、言霊@烈火の炎(体内)
[道具]:基本支給品一式×2、式神十二神将の札×8(マコラ、ショウトラ、アジラ、サンチラ、シンダラ、ハイラ、インドラ、クピラ)@GS美神
[基本方針]:愛しの人を手に入れるべく、エレオノールと才賀勝の捜索。才賀正二の悪評を広めるのも忘れない。喫茶店に向かう。

481 :創る名無しに見る名無し:2012/06/09(土) 02:58:46.66 ID:nGW4WXzJ
終了です。

482 :創る名無しに見る名無し:2012/06/09(土) 02:59:31.16 ID:nGW4WXzJ
タイトルは 茶会 です。

483 :創る名無しに見る名無し:2012/06/09(土) 22:27:06.39 ID:xBq4+N9u
投下乙
うしおが立ち直るまでの間に、フェイスレスは情報を得たか
もっと話をこんがらがらせるかとも思ったけど、自分に用事があるときはスムーズなのもらしいw
何げに有力対主催の一人だったりするんだよなw

484 :創る名無しに見る名無し:2012/07/04(水) 14:49:12.16 ID:2SwjmJQu
てs

485 : ◆hqLsjDR84w :2012/07/10(火) 09:32:30.43 ID:V2Gg1IpZ
投下します。

486 :戦闘生命 ◆hqLsjDR84w :2012/07/10(火) 09:33:01.27 ID:V2Gg1IpZ
 ◇ ◇ ◇


 存在を決めるのは自分自身の意思であり、彼らは生き延びるために『それ』を選んだ。


 ◇ ◇ ◇


 鬼丸猛は先ほど来た道を戻るようにして、南へと進んでいた。
 不可視の結界が会場を覆うように展開している事実を知ったことで、自身が檻のなかにいるという現状を再認識したのだ。
 魔王として再び現世に蘇る前の自身を呼び出しただけならば、キース・ブラックなぞ到底警戒するに足らない。
 刃向かう輩の生き血で魔王剣を彩りつつ部下を集め、宿敵・鉄刃と決着をつけてから初めて、対応を考えれば十分だろう。
 何せ、その場合、ブラックは人間・鬼丸猛をさらっただけに過ぎないのだから。

 だが――どうやら、そうもいかないようだ。

 魔王剣を参加者に配っているのだから、ブラックが人間・鬼丸猛だけではなく魔王・鬼丸を知っていたのは明らか。
 さらには、その上で魔王三日月剣をたやすく防ぐほどの結界を作り出しているのだ。
 非常におもしろくない話だが、安易にこの会場を出てキース・ブラックを一刀の下に斬り伏せるとはいかないらしい。
 ならば、置いてきた忘れ物を取りに行かねばなるまい。
 そのように考えて足を進めていると、鬼丸は程なくして目的地に辿り着いた。
 大地の至るところに亀裂が刻まれ、またいくつか派手に抉り取られてしまっている。
 血と肉の臭いが辺りに漂っており、足を踏み入れた鬼丸の身体に纏わりつく。
 だが、そんなものにたじろぐ鬼丸ではない。
 血肉の臭気なぞ、とうに知り尽くしている。
 立ち去る前となにも変わらぬ光景を一しきり眺めてから、嘲るように低く笑う。

「ふん。野ざらしのままとは、手間が省ける。
 弔われなかったのか、単に誰一人として通りがからなかっただけなのか」

 まあいいと、鬼丸は独り言を切り上げる。
 ひび割れた地面の上で仰向けに倒れる小さな死体にゆっくりと歩み寄っていき、魔王剣の柄を握った。
 きぃん――と。
 そんな高音が鳴ったころには、抜かれた魔王剣の刀身はもうすでに再び鞘に納まっていた。
 しばし遅れて、死体から頭部だけがずり落ちる。
 転がっていく頭部には興味も示さず、鬼丸は死体から外れた首輪を拾い上げる。
 金属製の首輪をまじまじと眺めてから、それをデイパックにしまい込む。
 生憎、鬼丸は工学知識を持ち合わせていない。

「さて、もう片方は……爆ぜたのだったな」

 鬼丸が視線を飛ばしたのは、自身の放った一撃によって大きく抉れた地点だ。
 居合番長と名乗った男に、鬼丸は魔王三日月剣を放った。
 相手はかなりの実力者ではあったが、それでも魔王たる鬼丸には届かなかった。
 魔王三日月剣を前に、居合番長は抵抗すらできず消滅した。
 三日月型の波動に、居合番長の身体が呑み込まれた――そのとき。
 あの男の首輪は、炸裂したのだ。
 首輪の炸裂音は、それを上回る魔王三日月剣の破壊音によって響かなかった。
 しかし鬼丸の視力は、たしかに爆発する首輪を捉えていた。
 あれを見る限り、この首輪は不用意に力をかけると発動するのだろう。
 結論付けると、鬼丸は歩むのを再開させる。
 この場より逃げ出したボー・ブランシェは、すでにだいぶ離れていることだろう。
 それを分かっていながら、彼が向かったのと同じ南に進行方向を定める。
 弱者が一人いようといなかろうと、魔王鬼丸の目的地に変更を及ぼすはずがない。
 ボーの存在など一切関係なく、ただ単純により人が集いそうな方角に向かうというだけだ。

487 :戦闘生命 ◆hqLsjDR84w :2012/07/10(火) 09:33:39.66 ID:V2Gg1IpZ


 ◇ ◇ ◇


 キース・シルバーは、公園の中央で屹立したままであった。
 自身に埋め込まれたARMSを酷使しすぎたせいで、体温が過剰に上昇してしまっている。
 平熱とまでは言わないがせめて五十度前後まで下がらねば、思うような戦闘を繰り広げるのは難しい。
 とはいえ、腰かけるくらいならば可能だ。
 それをしないで立っているのは、大気に触れる部位をより広くして効率よく体温を放出するためだ。
 戦闘生命として生きてきた彼は、いち早く体温を下げて平常通りに戦えるようになるのを望んでいる。

「――ちッ」

 不意に、シルバーは舌を鳴らした。
 何者かの接近を察知したのである。
 ARMSによってもたらされた常人の域を越えた五感によって、だけではない。
 キース・シリーズの戦闘担当『帽子屋(マッドハッター)』のキース・シルバーとして、数え切れぬほどの屍を作り出してきた経験が――

 周囲の空気を侵しながら迫る、あまりに暴力的な威圧感を捉えた。

 シルバーの脳裏を掠めるのは、『魔獣(ジャバウォック)』。
 しかし、その可能性をシルバーは即座に切り捨てる。
 ARMSコアの共振がないのだ。
 たとえ高槻涼が共振反応を隠したところで、シルバーが捉え切れぬはずがない。
 ジャバウォックが近付いてきているのならば、マッドハッターがそれに気付かぬなどありえない。

「なにやら強烈な光が放たれたが、アレは貴様か」

 来訪者に浴びせられた声により思考から復帰し、シルバーは歯を軋ませた。
 相手が誰であろうと、万全でない状況である以上は全力は出せない。
 敗北するとは思わないが、戦闘において思い通りの力が出せないのは不満だ。
 不機嫌なのを隠そうともせず振り返ると、シルバーは眉をひそめた。
 ブラックに手渡された資料により、参加者の外見は把握している。
 ゆえに、声の主が鬼丸猛であることは分かる。
 が――違う。
 鬼丸ではあるのは確かだが、鬼丸ではない。
 その理由は、彼が携えている剣を見れば明白だった。

「なるほど。魔王剣が貴様の手に渡ったということか、鬼丸猛」
「ほう。貴様は、この魔王鬼丸のことを知っているのか」

 僅かに驚いたような素振りを見せると、鬼丸の口元から白い牙が覗く。

「それは『覚えている』のか、『教えられた』のか、はたしてどちらだ?
 キース・ブラックに瓜二つな貴様ならば、後者もありうると考えているが」

 腰を低く落として、魔王剣の柄に手をやった。
 鬼丸の纏う威圧感が、目に見えて膨れ上がる。
 しかし、それに気圧されるシルバーでもない。
 普段と変わらぬ口調で、相手の疑問に答えてやる。

「後者だ。俺は、貴様のことなど資料でしか知らん」

 真実を明かしつつ、シルバーは右腕をARMS化させる。
 右腕全体が鉱物化するやいなや、青白い電撃が辺りに飛び散る。
 鬼丸がいるのは公園の外であるが、その攻撃範囲が刀身の届く範囲だけでないのは分かっている。

488 :戦闘生命 ◆hqLsjDR84w :2012/07/10(火) 09:34:37.37 ID:V2Gg1IpZ

「資料……か。
 ここに来てから、どうにも奇妙なことが多くてな。
 ヤマタノオロチを従え世界を支配せんとした俺を誰一人知らず、また魔の力を扱っていながらその心が魔に染まっておらぬ輩がいたり――な」
「誰と出会ったか知らんが、貴様とそいつらでは『住んでいた世界が違う』だけだ」
「なに……?」

 先ほどのアル・ボーエンといい、そろそろ気付く参加者が出てくるところらしい。
 納得しつつ、シルバーはその疑問の答えを告げることにした。
 会話をしているうちに、僅かでも体温は下がるはずだ。
 魔王鬼丸と戦うのならば、可能な限り万全のコンディションに近づけておきたい。
 ブラックに黙っていろと言われた覚えはないし、自身の意思と異なる指示に従う気もない。

(もしかしたら、俺が明かすことさえヤツの思惑通りなのかもしれんがな)

 胸中で呟くが、このことについては口にしなかった。

「ほう、そういうことか」

 やけにあっさり納得した鬼丸に、シルバーは驚愕の念を抱かない。
 鬼丸の部下に、相手を異次元に追いやる闇の戦士がいたはずだ。
 ならば、決して受け入れ難い話でもなかろう。

「つまりキース・ブラックの技術を手に入れれば、異なる世界も異なる時間もすべて――
 この魔王鬼丸の手中に納まる、というワケだな」

 口角を吊り上げる鬼丸に、シルバーは返答をしない。
 静寂が広がったのち、鬼丸は再び口を開く。

「他に、この殺し合いについて知っていることはあるのか?」
「ないな。
 そもそも、俺は参加者や支給品の情報しか聞かされていない。
 異なる世界や異なる時間については、参加者についての資料を読んで分かったに過ぎない」

 言い切って、シルバーはARMS化した右腕に力を籠める。
 五指から伸びた鋭利な爪が接触し合い、金属同士を擦り合わせたような耳障りな音を鳴らす。
 右腕全体を覆っていた電撃が五指に集束し、眩い光の塊に姿を変えていく。
 会話を長引かせたことで、体温は遭遇時より数十度ばかり下がっている。
 万全とは言い難いが、全力でなければ荷電粒子砲『ブリューナクの槍』を連発することも可能だろう。

 そう思っていたシルバーは、鬼丸の行動に目を見開くことになった。

「そうか。ならばもういい。
 部下にすべて情報を漏らすはずがない、か」

 鬼丸は魔王剣を鞘に納め、ゆっくりと公園のなかに入ってきたのだ。
 呆気に取られるシルバーの前で、鬼丸は地面に転がる佐野の首輪を回収する。
 舐め回すように全体を見てから、怪訝そうに吐き捨てる。

「あの小僧のものには継ぎ目一つなかったはずだが、なぜこれには内側に継ぎ目がある」

 シルバーはそれには答えない。
 内の怒りを隠そうともせず、苦々しい表情で吐き捨てる。

「……なぜ、戦おうとしない」

 参加者情報の資料には、魔王としての過去も記されていた。
 それによれば、鬼丸は単純に世界を支配したいだけでなく、戦闘を愉しむような面も持ち合わせていたはずだ。

489 :戦闘生命 ◆hqLsjDR84w :2012/07/10(火) 09:35:39.13 ID:V2Gg1IpZ

「せっかく極上の食材があるというのに、脂が乗り切っていないうちに喰うヤツがいるか?
 いずれ貴様が全力を出せるときに出くわしたならば、そのときは我が魔王剣の極技を披露するとしよう」

 当たり前のように笑みを浮かべると、鬼丸はリュックサックに佐野の首輪をしまう。
 ついでのように蔵王を二つ取り出して、シルバーの足下に放った。

「その格好でうろつかれるのは目障りだ。くれてやる」

 そうして、鬼丸はシルバーに背を向けた。
 公園外を目指して数歩ばかり進んで、なにか思い出したように立ち止まる。
 背を向けたまま、鬼丸は切り出す。

「そういえば、貴様……支給された道具の情報も知っているらしいな」

 数秒ほど間を置いてから、一息に尋ねた。

「俺の魔王剣だけでなく、ヤツの覇王剣もまた配られているのだろう?」

 魔王剣と対をなす覇王剣。
 それそのものは、支給されていない。
 ただ、その半身。
 それぞれを組み合わせることで覇王剣と成りうる魔剣。
 雷神剣と風神剣は、たしかに支給されている。
 その旨を伝えても、鬼丸は微動だにせず。
 ただ、ほんの僅かに声音が上がった。

「そうか。ヤツと決着をつけるのに、一切の障害はないらしいな」

 そうして、鬼丸は今度こそ公園を出ようとする。
 今度は、シルバーが鬼丸を呼び止めた。

「……なんだ?」

 鬼丸は振り返ろうとすらせず、ただ足を止めただけだ。
 その背に、シルバーはある疑問を浴びせる。

「貴様は……いや。
 人間・鬼丸猛は、自身の意思で再びその剣を手に取ったのか?」

 それは――シルバーの胸のなかでずっと膨らみ続けていた疑問だった。
 鬼丸猛は魔に呑み込まれた自身と決別し、人間として剣技だけでなく自身までも磨いてきた。
 そんな鬼丸が、こうして再び魔に心を支配されている。
 その理由は、はたして――

「はッ」

 短い笑いを吐き捨てると、鬼丸は淡々と告げる。
 なにを分かり切ったことを――と、そう言いたげな素振りを露に。

「当然だろう。
 人間の力では敵わぬ輩をくびり殺すため、殺されずに生き延びてむしろ殺してやるために、俺はこの魔王剣を手に取った」

 鬼丸の返答は、予想した通りのものであった。
 目を見開くシルバーに、今度は鬼丸が問いかける。

「貴様とて、そうだろう?」

 知らず、シルバーの口元が緩まる。
 いつの間にか、その右腕はすでにARMSのそれではなく、集束していた荷電粒子も大気中に溶けてしまっていた。

490 :戦闘生命 ◆hqLsjDR84w :2012/07/10(火) 09:36:12.09 ID:V2Gg1IpZ


 ◇ ◇ ◇


 鬼丸が立ち去ってしばらくして、ようやくシルバーは足元の蔵王を拾い上げる。
 もう体温もだいぶ下がったので、服を着ても問題はない。
 片方の蔵王から出てきたのは高校の制服であり、もう片方には軍服が入っていた。
 逡巡することさえなく、シルバーは軍服を手に取って制服に荷電粒子砲を放つ。
 彼は戦闘生命であるのだから、高校の制服なぞ必要ない。

「進む先は――」

 公園を出たシルバーは、誰にともなく呟く。
 東はそろそろ禁止エリアとなるし、北は鬼丸が来た場所なのでとうに誰もいないはずだ。
 そして、アル・ボーエンたちが逃走した西には――鬼丸が向かっている。
 首輪について関心を示していた鬼丸に、シルバーは類稀なる頭脳を持つ彼の存在を告げたのだ。
 別にいまから追ってもよいが、すでにだいぶ遠ざかっていることだろう。
 体温が低下したとはいえ、未だ平熱とは言い難い。全力で闘争を繰り広げることはできない。
 それに、わざわざ勝負を急がずとも、鬼丸がすぐに死ぬとは思えなかった。
 ゆえに、シルバーが選択したのは――

「南……か」



【E−2 公園周辺/一日目 午前】

【キース・シルバー】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にてオリジナルARMSたちがカリヨンタワーに乗り込む直前。
[状態]:健康、共振波を放出中
[装備]:ネオナチの軍服@スプリガン
[道具]:なし
[基本方針]:戦闘生命として、闘争を求める。南下。


【鬼丸猛】
[時間軸]:24巻、刃との闘う直前
[状態]:鬼化、健康
[装備]:魔王剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式+水と食料二人分、テッドの魔本@金色のガッシュ、神慮伸刀(片方)@烈火の炎、首輪×2(桐雨、佐野)、不明支給品0〜2
[基本方針]:鉄刃と決着を付ける。ボー、カルナギを斬る。出会った者も斬る。アル・ボーエンとやらを探しに西へ。
※魔王鬼丸としての記憶を取り戻しました。
※桐雨の首輪には継ぎ目一つないが、佐野の首輪には内側に継ぎ目がある。



【支給品紹介】


【ネオナチの軍服@スプリガン】
テッドに支給された。
ボー・ブランシェがかつて着ていたものなので、かなりデカい。

【雷鳴高校の制服@金剛番長】
テッドに支給された。
金剛晄のものなので、かなりデカい。


※雷鳴高校の制服は消滅しました。

491 : ◆hqLsjDR84w :2012/07/10(火) 09:38:15.29 ID:V2Gg1IpZ
投下完了。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

毒吐き別館の交流所毒吐きスレでのサンデーロワ全話語りが結構盛り上がっていて嬉しい。
残り半分もちゃんと盛り上がればいいなー。

492 :創る名無しに見る名無し:2012/07/10(火) 23:46:35.13 ID:tsRh7r2C
投下乙
まだアル達と戦闘中だったりシルバーが回復済みだったら、こうはならなかっただろうな
生きる為に力を選んだ二人同士の会話が、格好いいけど少し淋しい
アル達早く逃げてー!

493 :創る名無しに見る名無し:2012/07/11(水) 22:04:38.39 ID:kJE1Lrbl
投下乙
なんか2人ともかっこいいな
どちらも自ら「力が欲しいか」に答えたんだもんな
アルの運転で振り切れるのか……w

494 : ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:42:19.06 ID:Vq/pJK3H
投下します。

495 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:42:57.28 ID:E39ysiz7


496 :100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:43:00.17 ID:Vq/pJK3H
 ◇ ◇ ◇


 一しきり苛立ちを言葉に代えてみて、いい加減喉が少し痛くなってきた。
 その辺りで、才賀勝はようやく悟る。
 いくら声を張り上げたところで、意図が伝わることはなさそうだ――と。
 どんなに叫んでもどこ吹く風で、むしろなんでこの少年はこんなに怒っているんだろうフェイス決め込んでいる二人を前に。
 肩で息をしながら、いまさらになって察した。

「…………」

 ついに口を閉ざし、勝は眼前の二人にじとりと視線を向ける。
 その鋭さは『見る』というよりもはや『睨む』寄りであったのだが、それに気付いてくれる相手はこの場にいない。
 艶のある黒い髪を腰まで伸ばした二人は、怪訝そうな表情でお互い顔を見合わせる。
 そうしてから、まったく同じことを言うのだった。

「「どうかしましたか?」」

 髪と同じ漆黒の中華服を纏う年齢不詳の男・朧。
 巫女服を着た女子高生ほどの外見の、実際には死んで三百年も経っているというベテラン幽霊・おキヌ。
 おそらく、両者ともに悪意があるワケではない。
 そのように、勝は判断していた。
 知らず突拍子もないことをしでかしているので、非難の意味が分からないのだろう。
 勝の脳裏を掠めるのは、彼がしろがねと呼ぶ銀髪銀眼の女性・才賀エレオノールの姿だ。
 一見いつも冷静で落ち着いているように思われやすいのだが、彼女にもまたそういう面がある。

(……大丈夫かなぁ、しろがね)

 彼女にとって守るべき存在である才賀勝が、こうして殺し合いに巻き込まれている。
 それだけで、彼女が平静を失うには十分すぎる。
 きっと、激しく取り乱してしまっていることだろう。
 慌てて、なにかしら突拍子もないことをしでかしていそうだ。
 いるのかは定かではないが、彼女に同行者がいれば迷惑しているかもしれない。
 現在の勝のように叫んでいるかもしれないし、それに対しエレオノールはおキヌや朧ののように困惑しているかもしれない。
 そんな姿がやけに鮮明に連想できてしまい――

「別に、なんでもないよ」

 勝は、叫ぶのをやめることにした。
 その理由は、勝自身にも分からない。
 ただ、エレオノールもなにかしでかしてるかもしれない。
 そう思うと、なんだか怒る気が失せてしまった。
 混乱した彼女の姿を思い出したせいで、なにを言っても無意味だと分かってしまったのだろうか。
 勝自身も理由がよく分からずにいると、おキヌはなにか思い出したように手を叩く。

「そういえば勝くん、もう明るくなりましたし首輪を調べてみたらどうですか?」

 勝は、はっとしたように目を見開く。
 死者を告げる放送があったからだろうか、いまのいままでそのことを忘れていた。
 急いでリュックサックから首輪を取り出す。
 この行動に対し、朧はまったく驚いたような素振りを見せない。
 プログラムを打破するにあたって、越えるべき大きな壁の一つが首輪だ。
 その首輪がこうして取り出されたというのに、眉を動かすことさえしない。
 おキヌが首輪をしていないことを知っていたというのか。
 だとすれば、はたしてどのタイミングであったのか。
 顔を合わせて以降、勝は朧が平静を乱す姿を見ていない。
 ならば勝が朧の存在に気付く前に、朧はおキヌの首輪が外れていることに気付いたのか。
 それとももっと後だったが、にもかかわらず感情を揺らすことさえしなかったのか。

497 :100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:43:35.73 ID:Vq/pJK3H

 朧と遭遇した際のことが、勝のなかにフラッシュバックする。
 しろがねの血を飲んだことで鋭くなっている五感でさえ察知できぬ接近。
 才賀正二とフェイスレスから受け継いだ記憶をもってしても、読み取れない動き。
 黒賀村で修行を積み、フェイスレスのゲェムで経験を重ねたというのに、そんな勝を一蹴する実力。
 考えれば考えるほどに、底が知れない。
 口にはしないものの、勝は静かに朧への警戒心を強める。

「やっぱり……繋ぎ目は見当たらないや」

 時間をかけて首輪全体をしげしげと確認し、勝は呟く。
 本来首に触れている内側の部分にも、微かな溝さえ存在しない。
 目で見るだけでなく、表面を指で擦ってみるが見た通りである。
 つまり、ただ輪っか状をした銀色の金属の塊でしかない。
 これでは、いかにフェイスレスの『分解』技術を所持する勝とてどうしようもない。
 工具を差し込む溝や穴がないのならば、工具があっても分解なぞできるはずがない。
 いわば、打つ手なし――だ。

「ふむ」

 歯を噛み締める勝の傍らで、朧は口元に手をやって唸る。
 視線を首輪から不可視の結界に移し、最後におキヌを見据えた状態で固定する。

「彼の持つ首輪は、あなたのものですね」
「は、はい、そうですけど……」

 見透かすような視線にたじろいでいるのか、おキヌは言い淀んでしまう。
 それに「固くならないでください」とだけ返し、朧は考え込むように黙る。

「不可解ですね」

 数十秒ほど黙考してから出された結論は、そんなものであった。
 つい聞き返してしまった勝に、朧はその詳細を答える。

「『殺し合い』に霊を参加させること自体は、別段おかしくもありません。
 強制的に霊を祓う方法などいくらでもありますし、そんなことをしなくとも魂自体を強引に霧散させることも可能です。
 もちろん彼女のような霊格の高い霊となれば、後者を行うのは困難でしょうが……
 とはいえ、このプログラムに呼び出された面々を見る限り、やってのけるものは少なからずいるはずです」
「ひいっ」

 朧が淡々と告げる内容に、おキヌがか細い悲鳴をあげる。
 見れば、身体が小刻みに震えており、その瞳には涙が溜まっていた。
 そんな彼女の素振りに、朧が触れることはない。

「が、この首輪。
 霊を参加させておきながら、霊ならば容易に外せてしまう。
 このような首輪しか用意していないというのは、はっきり言って不自然です。
 大気の流れさえ塞き止めるほど強固な結界を、これほどの規模で維持し続けられるのならば――
 その技術よりも遙かにたやすく、霊であろうと外せぬよう首輪に霊的保護を仕込めたはずなのです。
 以上が、第一に不可解な点ですね」

 一拍置いて、また続ける。

「もう一つ。
 こうして彼女を呼んでいるのですから、キース・ブラックは霊の特性を知っているはずです。
 にもかかわらず、『霊ならば容易に外せる首輪』をわざわざ嵌めた。
 それも解せない。外れると分かり切っているのですから、首輪など必要ないのです」

498 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:44:45.14 ID:E39ysiz7


499 :100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:44:59.49 ID:Vq/pJK3H

 どちらともに、勝も違和感を抱いていたことだった。
 ただ、そこから先に進めなかった。
 不可解だと気付きながら、いかなる意図があるのかと思いながら、ずっと考え続けながら――
 一向に答えが出なかったのだ。

「じゃあ、この首輪は……いったい」
「分かりません。ですが」

 勝の希望に反して、返ってきたのは勝が出したのと同じ結論だった。

「首輪を『外される』ならばともかく、『外れてしまう』のはキース・ブラックにとっていちいち対処するべき事態ではないのでしょうね」

 言い切って、朧はまた口を閉ざす。
 おキヌはなにか言おうとしていたが、これといって浮かばないらしい。
 しばらく時間が空いてから、勝が沈黙を破る。

「僕も、同じことを考えていました。
 自ら幽霊を参加させておいて、この首輪というのは理解し難い。
 この殺し合いには、おキヌさん以外にも幽霊が何人かいるようですし」

 告げられた勝の言葉に、朧は目を丸くする。
 ここに至って初めて、勝は朧が感情を露にした姿を見た気がした。

「いえ、このプログラムに幽霊は彼女一人しか参加していませんよ」
「……えっ」
「私が読み取った限りは、ですが。
 霊のものと思しき気配は、最初の部屋には一人分だけでした」

 今度は、勝が目を丸くする番だった。

「で、でも、名簿には死んだはずの人たちが……」
「それは分かりません」

 きっぱりと答える朧をよそに、勝は思考を巡らす。
 蘇るのは、放送が行われる少し前のことだ。

 物干し竿の柄紐を解けば時空に穴が開くと、鉄刃が言い出し――
 事実、なにもない空間に穴が開いた。
 結界が張られており役には立たなかったが、そこは問題ではない。

 ――時空移動。

 そんな、勝の知識ではありえぬ現象。
 それに対策を取っている以上、キース・ブラックはそれを知っていることになる。

(だったら、この名簿に記されている『死んだはずの人たち』は――もしか、して……)

 ふざけたことを考えているとは、勝自身思っている。
 時空移動などという前提自体が失笑ものなのも、重々承知している。
 だというのに、勝の身体は勝手に震えてしまうのだった。
 口内に溜まった唾液を呑み込み、呼吸を整える。
 そうして意を決してから、勝はある疑問を口にした。

「お、おキヌさん、朧さん、訊きたいことがあるんだけど――」

 ――ここから先は『首輪の話』ではなく、ゆえに語られるのはまた別の機会となる。

500 :100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:45:30.13 ID:Vq/pJK3H



【A−4 西端/一日目 朝】

【才賀勝】
[時間軸]:黒賀村である程度過ごしてから。
[状態]:健康
[装備]:物干し竿@YAIBA
[道具]:首輪×2(おキヌ、朧)、ランダム支給品0〜2(人形はなし)、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。


【おキヌ】
[時間軸]:本編にて生き返る前(美神令子の時間移動能力を知っている時期)
[状態]:不健康、首輪解除
[装備]:無し
[道具]:マーラの銀鏡@スプリガン、ランダム支給品0〜1、基本支給品一式
[基本方針]:勝についていく。
※幽霊です。『本人が触れたいと思うもの』以外はすり抜けます。


【朧】
[時間軸]:不明
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、水晶髑髏@スプリガン、中性子爆弾@ARMS
[基本方針]:殺し合いに乗る気はない。


 ◇ ◇ ◇

501 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:46:24.87 ID:E39ysiz7


502 :100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:46:28.96 ID:Vq/pJK3H


 紅麗は、キース・ブラックの意図を見定めようとしていた。
 『高槻涼の絶望』や『殺し合い自体』とは、少し考えづらい。
 前者にしてはお粗末であるし、後者にしてはぬるい。
 つまり高槻の知らぬ目的が、ブラックにはあるということだろう。
 ならば、真の目的はいったい――

(……答えを見出すには、あまりに材料が足りなすぎる)

 しばし考えてみるが、結論が導き出されることはない。
 小さく息を吐いて、紅麗は思考をいったん切り上げる。
 あの程度脳を使ったところで疲労などないが、答えの出しようがない思考をしてしまったことへの徒労感はあった。
 気を取り直すように、紅麗はリュックサックから首輪を取り出す。
 明るい場所で確認してみても、やはり継ぎ目一つ存在しない。
 継ぎ目のない首輪を人に嵌めるなど、そんなことは不可能だ。
 もしも首輪自体が大きければ話は別だが、そんな簡単に持ち上げて外れるような代物ならば苦労はしない。
 実現不可能な技術と聞いて、紅麗のなかにまず浮かぶのは一つ。
 人類の技術では本来作り得ない武具・魔道具。

(違うな)

 首輪がその一種だとすれば納得はいくが、紅麗はその説を却下する。
 魔道具に存在する核がないし、なにより魔道具に精通した紅麗の知識にない。
 次に思い至ったのは、御神苗優がメモに残したオーパーツだ。
 しかしその可能性もまた、紅麗は切り捨てる。
 オーパーツに関して並々ならぬ知識を持っていたらしい御神苗優のことだ。
 もしそうであるのならば、メモに記していることだろう。

(結局、なにも分からないということか)

 考えながら、紅麗は再び首輪を見やる。
 ここで、一度考え方を変えてみる。
 視認できないだけで、継ぎ目があるのだとすれば。

 つまり――『幻術』。

 知らず、紅麗の右手が左腕に伸びる。
 まるで、そこにいるなにかが疼くかのように。

(ありえんな。一瞬ならばともかく、現在に至るまで気付かぬはずがない)

 左二の腕を擦りつつ、紅麗は結論を出す。
 幻術に誑かされた経験がないワケではない。
 しかしそのほとんどにおいて、すぐに見破ることができた。
 仮に紅麗が見破れなくとも、彼の相棒たる紅の瞳は誤魔化せない。
 それに、このプログラムには口寄せ師が呼ばれているというのだ。
 霊媒体質である口寄せ師ならばすぐに見破れる幻術など、かけるのは手間の無駄だ。
 そのように判断し、紅麗は視線を黙ったままの高槻涼に飛ばす。

「――――ッ」

 思わず、紅麗は目を疑う。
 視線の先にあるのは、涼の首輪である。
 紅麗が全力で放った炎を浴びても、溶解する気配すら見せなかった、涼の首輪。
 その内側に、微かに見て取れたのだ。
 御神苗優の首輪にはなかった――小さな継ぎ目が。
 見間違いではないかと、紅麗が目を凝らす。

503 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:47:02.95 ID:4CEC2oUf
紫煙

504 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:47:51.61 ID:E39ysiz7


505 :100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:48:04.29 ID:Vq/pJK3H

「……ッ!?」

 その瞬間、高槻涼の身体が激しく震えた。
 なにかを感じ取ったかのように、目を見開いて息を呑んだのだった。

 ――ここから先は『首輪の話』ではなく、ゆえに語られるのはまた別の機会となる。



【F−4 民家/一日目 朝】

【高槻涼】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:左二の腕から先を喪失(処置済)、スーツ@現地調達
[装備]:基本支給品一式、支給品1〜3(未確認)
[道具]:なし
[基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。


【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜2(確認済み)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。


【阿紫花英良】
[時間軸]:20巻第33幕『合流』にて真夜中のサーカス突入直後。
[状態]:健康
[装備]:形傀儡@烈火の炎、キャプテン・ネモ@からくりサーカス、ヒヒイロカネ製の剣@スプリガン
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜1(確認済み)
[基本方針]:とりあえず紅麗についていく。


【紅麗】
[時間軸]:22巻210話『地下世界の消滅』以降、SODOMに突入するより前。
[状態]:脇腹に傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、支給品0〜2(確認済み)、首輪(優)、優のメモ付き名簿、ジャバウォックの爪×3@ARMS
[基本方針]:プログラムを破壊し、早急に帰還する。そのために役立つ人物や情報を手にしたい。染井芳乃を捜索。


 ◇ ◇ ◇

506 :100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:49:09.17 ID:Vq/pJK3H


 基本的に、ゼオン・ベルの眠りは浅い。
 先ほどまではダメージも大きく体力の回復を優先させて寝入ったが、ひとまず傷の塞がった現在は違う。
 瞳を閉じていながらも、その脳は動いたままだ。
 明瞭な思考ではないが、それでも朧気ながら巡り続ける。
 いま彼の脳内を埋め尽くすのは、プライドを傷つけられた屈辱である。
 なにせ、次期魔界の王となるべき雷帝ゼオンが首輪を嵌められているのだ。

「ちッ」

 たしかに眠ったまま、ゼオンは舌を鳴らす。
 首輪が憎いという思いは、寝ていようと変わらない。
 そもそも、他者に縛られている事実に腹が立って仕方がない。
 その上そいつの思惑通りに動いている現状が、心底気に喰わない。

 首輪のことが脳を埋め尽くしているせいだろう。
 夢として蘇るのは、この地での二度目の戦闘である。
 呪文を唱えることなく雷や炎を放つ魔物を、ゼオンは打ち負かした。

 ――その魔物の首輪を爆発させることで。

 当初ならばともかく、いまとなってはその結末すら苛立たしい。
 ブラックの用意した首輪のおかげで生き延びたように思えて、はらわたが煮えくり返る。
 あんなことをせずとも、倒すことはできたはずだ。

「……ふん」

 怒りのあまり、眠りから覚めてしまう。
 傷口をなぞって回復具合を知ることで、ゼオンは大して時間が経過していないことを知る。
 再び舌打ちを吐き捨てて、ゼオンはふと考え込む。
 先ほどの夢の通り、ゼオンが蹴り飛ばしただけで首輪は炸裂した。
 だというのに、どうしてそれ以前には爆発しなかったのか。
 蹴っただけで爆発するほどの耐久力ならば、武士と呼ばれた少年に雷を浴びせた際に余波で爆発して然るべきである。
 どう考えても、蹴りよりも中級呪文『テオザケル』のほうが威力は上だ。
 にもかかわらず、なぜ――

「まあいい」

 考えかけて、ゼオンはすぐにやめる。
 首輪についてなど考えるだけ無駄だ。
 全員殺した上で、キース・ブラックまで殺せばいい。
 結論を出して、ゼオンは再び瞳を閉じる。
 数秒のうちに再び眠りに落ちると、今度ゼオンの夢に出てきたのは自分が手に入れるはずだった力だった。
 夢のなかで歯を噛み締め、自分のものであるはずだったバオウを睨みつける。

 ――ここから先は『首輪の話』ではなく、ゆえに語られるのはまた別の機会となる。



【F−5 倉庫内/一日目 朝】

【ゼオン・ベル】
[時間軸]:リオウ戦後、ガッシュの記憶を垣間見るより前。
[状態]:疲労(小)、腕と腹部にダメージ(感知には少しかかる)、睡眠中
[装備]:ゼオンのマント、ゼオンの魔本@金色のガッシュ!!、神慮思考@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式、獣の槍@うしおととら、金糸雀@金剛番長、携帯電話(とらの写真&動画)@出典不明、モデュレイテッドARMSのリミッター解除装置@ARMS
[基本方針]:殺し合いに優勝し、バオウをこの手に。ひとまず回復を待ち、回復しきったら倉庫を調査。

507 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:49:53.92 ID:IFKnhE+l


508 :100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:50:22.47 ID:Vq/pJK3H


 ◇ ◇ ◇


 エリアA−6を一気に駆け抜け、秋葉流はエリアB−6に到着した。
 一時間足らずで一つのエリアを巡回したというのに、まったく疲れた素振りはない。
 涼しい顔をしたまま、ふうと大きく息を吐いた。

「ま、そう簡単に見つかったりはしねーよなァ」

 彼が探していた結界の起点は、A−6内には見当たらなかった。
 霊力を放っているどころか、それらしい神具さえなかったのだ。
 当たりをつけてみたものの、まったくの見当違いであったのだろう。

「やれやれ。無駄な時間使ちまったぜ、まったくよォ」

 軽口を叩くような口調で、流は誰にともなく吐き捨てる。
 しかし、これは嘘だ。
 元より、結界の起点がすぐに見つかるとも思っていない。
 怪しいのは禁止エリアすべてであって、そのうちの一つに来たに過ぎない。
 他の二つのエリアも見て回りたいところだが、距離的なことを考えれば難しい。

「まいったね、こりゃ」

 飄々とした態度を保ったまま、流は肩を竦める。
 やけに冷たい胸中の思考を隠すかのように。

(そろそろ起きた頃かね)

 口には出さず、設置した『仕掛け』に思いを馳せる。
 再起不能にはしておいたが、もし再び永井木蓮が能力を使用した際――
 あの仕掛けは自動的に発動し、木蓮の肉体は滅され土に還ることになる。

(俺だから騙されなかったが、うしおや耕助ならあっさり芝居に騙されかねねえしな)

 やたらとまっすぐに自分を見つめる二人を思い出し、思わず流の頬が緩んだ。
 そのことにすぐに気付き、流は歯を噛み締めた。

 彼らが見ているのは、本当の秋葉流ではなく――

 流のなかに吹く風が強くなる。
 顔面に張りつけ続けてきた薄笑いが、消えてしまいそうになる。

 この風を唯一止めてくれるアイツは、もうこの世にいない。

 その事実を再認識することでようやく、どうにか薄笑いを保つ。
 時間をかけて息を整えて、別のことを考えることにする。
 彼らのような眩しいものたちではなく、暗く濁った下衆を。

509 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:50:53.07 ID:IFKnhE+l


510 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:51:19.76 ID:E39ysiz7


511 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:51:44.45 ID:IFKnhE+l
   

512 :100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:51:48.49 ID:Vq/pJK3H

(……そういやアイツの首輪、爆発しなかったよな)

 結界を発動させても、永井木蓮の首輪は発動しなかった。
 あの結界は『木』を滅する代物であり、『金』には大した効果はない。
 それでも周囲の木が切り刻まれたことで、首輪にも衝撃が及んでいたはずである。
 思えば、猛烈な爆発を喰らったはずの金剛猛も放送で呼ばれていない。
 アレだけの爆発ならば、首輪にも爆炎は届いていただろう。
 にもかかわらず、どうして――

(そういうこと……なのか?)

 考え始めてすぐに、一つの結論が出る。
 先ほどまで会場全体に張り巡らされた結界の起点を探していたせいか、別々の線がすぐに繋がった。

(『首輪自体が起点』であり、だから『簡単には爆発しねえ』のか……?)

 線と線が繋がったとはいえ、単なる仮説に過ぎない。
 そのことを重々承知していながら、しかし流はその考えを口には出さなかった。
 盗聴や監視をされている可能性にも、すでに思い当たっていたのだから。

 時間をかけて平静を取り戻し、流は北を見据える。
 置いてきた二人は、きっとまだそこにいることだろう。
 そちらに向かうべきか、否か。
 流が下した決断は――

 ――ここから先は『首輪の話』ではなく、ゆえに語られるのはまた別の機会となる。



【B−6 西端/一日目 朝】

【秋葉流】
[時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前
[状態]:健康
[装備]:鋼金暗器@烈火の炎、金属片いくつか(真鍮)@現実
[道具]:基本支給品一式+水と食料二人分、ランダム支給品0〜1
     飛斬羽@烈火の炎、トライデント特製COSMOS仕様サブマシンガン@スプリガン、ワルサーP5@スプリガン
[基本方針]:――――――――

513 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:52:30.65 ID:E39ysiz7


514 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:52:31.98 ID:IFKnhE+l
      

515 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:52:33.42 ID:4CEC2oUf



516 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:53:27.94 ID:IFKnhE+l
   

517 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 03:54:00.33 ID:E39ysiz7


518 : ◆hqLsjDR84w :2012/07/15(日) 03:54:30.68 ID:Vq/pJK3H
投下完了。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

別館でのサンデーロワ全話語り最終日ですね。
盛り上がってて嬉しかったです! ありがとう!


あと容量が現在487とかなんで、次予約入ったら立てようと思ってます。
うっかり投下したら容量オーバーしかねないので気をつけてくださいー。

519 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 06:06:32.18 ID:iN7C3sfn
投下乙です。
それぞれの視点での首輪の話。
継ぎ目から始まって各話で受けた衝撃と爆発の関係まで良い考察話でした。
勝、ついに諦めたか……w

520 :創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 11:36:13.50 ID:ssswjhEz
投下乙!
ついに百話ですね! めでたい!
場面が転換するたびに考察が進んでいくのがわくわくしました
それにしても流パートが切ない……

521 :創る名無しに見る名無し:2012/07/16(月) 19:10:29.46 ID:nxW3jJQB
予約キター!

522 :創る名無しに見る名無し:2012/07/16(月) 22:20:17.00 ID:Qy5WV9TZ
ほんとに来てるー!
それもダブルー!

新スレ立ててくる!

523 :創る名無しに見る名無し:2012/07/16(月) 22:24:49.96 ID:Qy5WV9TZ
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1342444952/

新スレです
パート5!

524 : ◆c8fjjCyRkM :2012/07/17(火) 09:00:46.84 ID:u6HvNbjI
投下です

525 :苦渋の決断 ◆c8fjjCyRkM :2012/07/17(火) 09:01:50.19 ID:u6HvNbjI
アルの話が終わった。
ボーは口を開く事が出来ないでいる。
いや、一応ではあるが、口が開いてはいる。
開いてはいるのだがもごもごと動かすばかりで、言葉が出てこないのだ。
少年達に何と声をかけるべきなのかが、分からない。
しかし……
喋ろうとするのをやめて、ボーは軽トラックが来た方向を見る。
そちらにある公園に、キース・シルバーという名の化け物がいるらしい。
気の利いた言葉は分からないが、今からやるべき事はよく分かった。
決意を固めて、ボーは拳を固く握る。

「早急に逃げねばならんというのに止めてしまい悪かったな、アル。このボー・ブラシェが何としても貴様の友人を連れ帰る。大船に乗った気持ちでいてくれて構わん。事が終わり次第全力で追いかけるので、皆で距離を取ってくれ」

この場に置いて、ボーは一度敗北している。
その事実を忘れてしまった訳ではない。
むしろ負けず嫌いなボーは、死ぬまで忘れられはしないだろう。
しかしそれでも、ボーは行かねばならんのだ。
まだ中学生という小僧が、掌から荷電粒子砲を放つという化け物と戦っているのだから。
まだ現時点は自分を最強ではないと認め、相手の力も認め、その上で決意をこめた言葉だった。
にもかかわらず、返ってきたのはアルの冷たい声。

「何をふざけた事を言っているッ! 貴様が向かったところで、次にキース・ホワイトが読み上げる名が1つ増えるだけだッ!」

キース・ホワイトという呼び名に違和感はあった。
放送で死者の名前を読み上げるのは、キース・ブラックのはずだ。
だが、そんな事はどうでも良い。
そんな些細な事柄は、また後で聞けば十分。
問題なのは……また別だ。

「死体が増える……だと!? 貴様、よもや信じておらんのか!? キース・シルバーとやらを食い止めるべく残った友人を!」

信じ難い言葉だった。
否定して欲しかった。
しかし返ってきたのは……

「はっ、そりゃあそうだろう。多少荷電粒子砲を曲げられる程度で勝てるものか。曲げたところで無意味なほど接近されれば終わりだし、奴にはそれが出来る。分かりきっている事だろ。100人いりゃ100人がアイツが死ぬと思うさ。賭けなんか成立しないね」

「貴、貴様……!」

ボーは、軽トラックに乗っている3人を守るべき弱者だと思っていた。
だというのに、アルのこの言い種はどういう事か。
友を愚弄するような輩に、守ってやる価値はあるのだろうか。
いかに子供が物の価値が分からず、その為に強者が手本にならねばならないとはいえ……
あんまりにもひどい。
それに、どうして助手席に座る2人は何も言わないのか。
コロンビーヌという少女はともかく、レイラと名乗った方は十分分別の付く年齢に見えるというのに。
困惑のあまり言葉の出てこないボーに、アルは呆れたように言い放つ。

「けどな、僕はあいつを信じてない訳じゃない」

「何……?」

「あいつが勝てるとは思ってないが、そんなのはあいつだって同じ事だ。勝てるなんて全く思っていないくせに、さも自信があるかのような口振りだっただけだ」

526 :苦渋の決断 ◆c8fjjCyRkM :2012/07/17(火) 09:03:58.29 ID:u6HvNbjI

予期せぬ内容に反応に困るボーを差し置いて、アルは続ける。

「だが信じている。あいつは足止めをすると言ったからな。その言葉の方は信じてやっている。だから、あいつがせっかく足止めをしているというのに、僕が余計な話をしたせいで犠牲者が増えるというのは好ましくない。
それでも行くというのなら止めんがな。自殺志願者が自ら命を絶とうとするのを止めるほど物好きじゃない」

やっとボーは理解した。
公園に残ったというアルの友人、佐野清一郎は……テッドと同じなのだ。
放送前にテッドがボーを逃がす為に鬼丸を足止めしたように、佐野はアル達を逃がす為にキース・シルバーを足止めしているのだ。
そう分かったからには、ボーは公園に向かう訳には行かない。
それは、テッドの思いを無碍にするに等しいのだ。

「アルよ、運転席を降りろ」

その事に気付いても、こう切り出すまでに数十秒ほど費やしてしまう。
そういう男なのだ、ボー・ブランシェは。

「……は?」

「さっきのようにトロトロ走っていたのでは、せっかく足止めをしていてもいずれ追いつかれかねん。それに、目の前に誰かが現れても止まることが出来んとあっては、先程は私だったから良かったものの守るべき弱者であったなら轢き殺すところだったぞ」

「なっ……!? 今世紀最大の頭脳を持ってすれば、もうしばらく運転を続けるだけですぐにこの車の特性を読み取って、問題無く乗り回せるように……! ま、まあ良い! 運転がしたいというのならさせてやるさ!」

アルは顔を赤くして反論しようとするが、意外にも早く落ち着いた。
偉そうな態度で言い放って、運転席を降りる。
すると、何故か助手席の二人まで降りてしまう。
疑問に思ったのはボーだけではないらしく、アルが問いかける。

「どうして、わざわざお前達まで降りるんだ?」

「あらン。せっかく助手席を譲ってあげようと思ったのにィ」

「今までよりスピードが上がるのに、アルが荷台に乗るなんて危ないわ」

「そんな気を使わずとも……」

「私達なら大丈夫だけど、アルじゃカーブに差し掛かったりしたら吹き飛ばされていきそうだもの」

「……」

気まずそうなアルに、レイラが小首を傾げる。
レイラの屈託の無い笑顔に、アルは言葉を失ってしまう。

「ハハハハハハ!」

そのやり取りに、既に運転席に座っていたボーは大きく笑う。
手本となるべき強者が弱者を守るというのは、ボーの信じるナチスの理想と同じであるのだ。

「何を笑っている! 何を! どこかおかしい事があったか!?」

助手席に座り込んだアルが怒鳴るが、ボーの笑いは止まらない。
動き出した軽トラックのエンジン音でさえ、ボーの大きな声はかき消せなかった。



  ◇  ◆  ◇  ◆

527 :苦渋の決断 ◆c8fjjCyRkM :2012/07/17(火) 09:05:31.93 ID:u6HvNbjI



ようやくボーの笑いが収まり、アルは辟易としたように溜息を吐く。
軽トラックが向かうのは西だ。
東にはキース・シルバーがおり、北には名前不明のボーが角ハゲと呼ぶ強敵がいるらしい。
そして南にキース・グリーンがいるのは、キース・シルバーの思考から読み取っている。
それはもう大分前の事だが、アルの知る内最も出くわす訳にはいかない名前の一つだ。
もう移動している可能性が高くとも、出来るだけ避けて通りたい。

(この男……ボー・ブランシェでは、相手になりそうもないからな)

ボーには告げていないが、アルは既に心眼でボーの思考を読んでいる。
ゆえに、ボーの実力については分かっている。
まるで人体改造でも受けているかのような力を発揮出来るようだが、さすがにキース・シリーズ達には敵わないだろう。
少ない会話でボーの性格も理解したので、口に出したりはしない。
また角ハゲについての話を聞きだした際に、その実力を思い知るはめになった。
魔王三日月剣という一撃の威力は、キース・シルバーの荷電粒子砲に勝るとも劣らない。
気付けば、アルは背中に汗をかいていた。
車のシートとの接着面が気色悪いので、背筋を伸ばしてシートから離れる。
乾くまではこの体勢を保つ事にする。

(戦闘能力を有するレイラとコロンビーヌに、心眼でこの今世紀最高の頭脳が随時指示を出せるとはいえ、シルバーや角ハゲを相手取るには如何せん火力が足りない。やはり、高槻や隼人と早く会わねばならない。
隼人の方も高槻と同じくARMSが復活しているのかは定かでは無いが……クソ! これもシルバーに聞いておくべきだった!)

表情を歪めるアル。
隼人のARMSについて尋ねなかったのは、到底失敗とは言えないだろう。
あの場面ではそこまで頭が回らずとも仕方がないし、他に色々と聞き出したのだから十分だ。
そのように思っても問題無い。
だが、アルは過去の自分を許さない。
自分の頭脳を誇っているからこそ、たった一つの小さなミスさえ見過ごす訳にはいかないのだ。

「あまり自分を責めるなよ、アル・ボーエン」

急に声をかけられ、アルは顔を上げる。
苛立ちが顔に出ていたらしい。
それにしても、まさかボー・ブランシェに悟られるほどひどい顔をしていたのか。
冷静さを失っていた自分に嫌気が差し、アルは眉を顰めた。

「ハハハ! まぁこの状況で落ち着かないのは分かるがな! 安心するがいい、私は世界最強の男、ボー・ブランシェだ!」

生憎、心眼でボーの思考は筒抜けだ。
実はボーが自分を世界最強などと思っていない事も、そう思う事となった原因も、アルには分かってしまう。
しかし仮にも励ましてくれているので、触れない事にする。
アルは自分の性格が良いなどと思っていないが、それでも無粋な真似をするのは気が引けた。

「それにな、アルよ。もし恐ろしい相手が現れても恐れる事は無い。この私が残って相手をしてやるから、その間に逃げればいい。お前の運転でも逃げれるだけ時間を稼いでやる。私は世界最強の男だからな!」

一気に、アルの頭が冷えた。
ボー・ブランシェという知能指数の低そうな男は、佐野清一郎と同じだ。
もしもの時は自分だけを切り捨てる。
そんな選択を出来てしまうタイプだ。
顎に力が籠もり、口内にぎりりと音が響く。
佐野の選択は正しい。
もしもの時にボーが取ろうとしている選択も正しい。
1人が残って他の多数を生き延びらせる。
全員死ぬよりよっぽど合理的だ。
だが、アルは気に入らなかった。

(たとえ甘いと揶揄されようと、僕はもう友達を誰一人……死なせたくない)

528 :苦渋の決断 ◆c8fjjCyRkM :2012/07/17(火) 09:06:04.44 ID:u6HvNbjI

自分らしくない考えだと、アルも自ら思う。
少し昔の自分ならば、きっと嘲笑っていた。
でも、アルはそれでいいとほくそ笑んだ。

(かつての僕の嘲笑なんか聞き流してやる。人は進化していく者なんだよ、旧アル・ボーエン)

逆に過去の自分をせせら笑ってから、アルの頭中に1人の男の顔が浮かぶ。
強大な力に恐怖する事無く、アルが生まれる以前から同じ事にばかり固執している研究者。
前に進まず、止まり続けている。
かつてと違い変わっていく事を知ったアルにとって、理解し難い男。

「……お前にも分からせてやるぞ、キース・ホワイト」

思いを口に出すと、それにボーが食い付いた。

「そういえばアルよ、奴の名を間違って覚えているぞ。奴はキース・ブラックだ。あのような者の名など覚えてやる気にならないのは分かるがな」

また笑い出したボーに、アルは教えてやる事にした。
どうせ移動中であるのだから、この間に情報交換は済ませておくべきだろう。

「ああ、まだ言ってなかったな。奴は……」

529 :苦渋の決断 ◆c8fjjCyRkM :2012/07/17(火) 09:07:37.73 ID:u6HvNbjI





【D−2 路上(中央)/一日目 午前】

【アル・ボーエン】
[時間軸]:第四部「アリス」編終了以降。
[状態]:健康、心の力(中)
[装備]:レイラの魔本@金色のガッシュ!!、心眼@烈火の炎、軽トラック@現実
[道具]:基本支給品一式、通信鬼@GS美神、ノートパソコン@現実、USBメモリ@現実
[基本方針]:施設を巡り情報を集める。殺し合いに乗っている者は倒す。西へ向かう。
※ルシオラの思考をある程度まで読んでいます。



【レイラ】
[時間軸]:魔本が燃え尽きた直後。
[状態]:大人化、ダメージ回復、心の力(中)
[装備]:輪廻@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式、居合番長の風呂敷@金剛番長、通信鬼@GS美神
[基本方針]:仲間達を守る。殺し合いに乗っている者は倒す。
※輪廻で大人の姿となることで能力が上昇していますが、副作用で会場に来る以前の記憶が朧気になっています。
※ガッシュ達が仲間であることは理解しています。



【コロンビーヌ】
[時間軸]:本編で活動停止後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品1〜3(確認済み、装飾品ではない)、基本支給品一式
[基本方針]:さすらう。『生存目的』を見つけ出す。アルに同行。
※アポリオンは使用可。制限されているかどうかは不明。



【ボー・ブランシェ】
[時間軸]:COSMOS戦にて死亡後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:弱者を助けつつ、主催者を倒す。暁を探し戦力を整え角ハゲ(鬼丸)を倒す。

530 :創る名無しに見る名無し:2012/07/17(火) 09:10:26.22 ID:u6HvNbjI
ここまでです
またしても台詞で長すぎると言われる行があったので改行しました

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