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週刊少年サンデーバトルロワイアル part3
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週刊少年サンデーバトルロワイアル part3
1 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 19:40:04.97 ID:8QmIXjFp
当スレッドは週刊少年サンデーで連載されていた漫画のキャラクター達でバトルロワイアルのパロディをやろうという企画の場です
二次創作が苦手な方。人物の死亡や残酷な描写、鬱々とした展開が受け付けない方は閲覧にご注意ください。
また、当企画はリレー形式で進めていくので、書き手を常に募集しています。
文章を書くのが初めての方でも大歓迎なので興味があれば書いてみてください。
避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14506/
まとめwiki
ttp://www44.atwiki.jp/sundayrowa/
前スレ
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1302007729/
2 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 19:40:25.39 ID:8QmIXjFp
参加者名簿
からくりサーカス 14/14
○才賀勝○加藤鳴海○才賀 エレオノール○ギイ・クリストフ・レッシュ○ルシール・ベルヌイユ
○才賀アンジェリーナ○ジョージ・ラローシュ○阿紫花英良○フェイスレス
○パウルマン&アンゼルムス○シルベストリ○ドットーレ○コロンビーヌ○才賀正二
ARMS 11/11
○高槻涼○新宮隼人○巴武士○アル・ボーエン○キース・ブルー○兜光一○キース・シルバー
○キース・バイオレット○キース・グリーン○ユーゴー・ギルバート○コウ・カルナギ
金色のガッシュ!! 9/9
○ガッシュ・ベル○高嶺清麿○パルコ・フォルゴレ○ゼオン・ベル○ヴィンセント・バリー○ナゾナゾ博士○テッド○チェリッシュ○レイラ
金剛番長 8/8
○金剛晄(金剛番長)○金剛猛(日本番長)○秋山優(卑怯番長)○伊崎剣司(憲兵番長)
○桐雨刀也(居合番長)○白雪宮拳(剛力番長)○マシン番長○来音寺萬尊(念仏番長)
うしおととら 7/7
○蒼月潮○とら○井上真由子○蒼月紫暮○秋葉流○紅煉○さとり
烈火の炎 7/7
○花菱烈火○霧沢風子○石島土門○水鏡凍季也○小金井薫○永井木蓮○紅麗
うえきの法則 7/7
○植木耕助○佐野清一郎○宗屋ヒデヨシ○マリリン・キャリー○バロウ・エシャロット○ロベルト・ハイドン○李崩
SPRIGAN 6/6
○御神苗優○ジャン・ジャックモンド○朧○染井芳乃○暁巌○ボー・ブランシェ
GS美神極楽大作戦!! 6/6
○美神令子○横島忠夫○おキヌ○ルシオラ○アシュタロス○ドクター・カオス
YAIBA 5/5
○鉄刃○峰さやか○宮本武蔵○佐々木小次郎○鬼丸猛
計80名
3 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 19:40:43.51 ID:8QmIXjFp
【ルール】
バトルロワイアルスレ(パロロワスレ)で書くのが初めてという方は
ttp://www44.atwiki.jp/sundayrowa/pages/24.html
を参考にしてください
それでも分からなければ遠慮無く聞いて頂いて構いません
経験者の方は以下の事に留意していただけばほぼ大丈夫です
・初予約の場合は期限が3日、それ以降は7日
・ランダム支給品は1〜3個で、大きい物に関しては蔵王@烈火の炎に収納されています(蔵王の説明は下記)
・禁止エリアの発動は放送から3時間後
『蔵王の説明』
人の掌ほどのサイズの球であり、収納できる質量に限界はない
道具の出し入れを行う際は念じるのみでよい
ただし、当ロワでは以下のニ点の制限がかかる
蔵王一個につき道具一つまでしか入らない
生物を収納することができない
【制限について】
基本的には最初にそのキャラを書いた人に委ねますが、以下の二点に関してはあらかじめ制限を明記しておきます
金色のガッシュ!!の魔物の子供たち→パートナーと魔本がなくても自身の心の力を使って呪文を発動することはできますが、威力は弱体化します。
また魔本は誰でも読むことができますが、本人が魔本を持って呪文を唱えても本来の威力にはなりません。
なお、魔本が燃えたとしても死亡や魔界に送還することにはなりません。
うえきの法則の能力者達→神候補から貰った才を使って能力者でない者を傷つけても才は減少しない。
4 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 19:41:35.02 ID:8QmIXjFp
スレ立て完了。
前スレで忘れてた『週刊』を忘れずに。
5 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 22:40:55.16 ID:t+c64e1C
>>1
乙です
6 :
歯車が噛み合わない
◆hqLsjDR84w
:2011/06/25(土) 22:45:20.42 ID:8QmIXjFp
前スレ埋まったんで、続きはこちらに。
7 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 22:45:31.99 ID:r21VPBkq
8 :
歯車が噛み合わない
◆hqLsjDR84w
:2011/06/25(土) 22:45:39.35 ID:8QmIXjFp
◇ ◇ ◇
ジョージが存在を否定した魔物――蛍の化身たるルシオラもまた、花火を視界に捉えていた。
彼女の当面の目的は、他の参加者を殺害して支給品を奪うこと。
花火が打ち上げられたのならば、その真下に参加者がいるのは明白である。
にもかかわらず、彼女は花火の元へと向かおうとしなかった。
花火を美しいと思う感性の持ち主ならば、ちょっとくらい後に回してやろうと考えたのだ。
輝けるのはほんの一瞬だけで、すぐに散り散りになって闇に溶けてしまう。
そんな花火に、彼女が好きな夕陽を重ねてしまったのだ。
少しの時間しか見られない昼と夜の微かな隙間は、彼女にとってとても魅力的だった。
本当に短い時間しか存在しえないから美しい、と。
そう、ルシオラは考えていた。
あるいは、思いたかったのだろうか。
一年という短い寿命しか持たない彼女は――
(ああ、アシュ様どこにいらっしゃるのですか)
流れる川の上を飛びながら、ルシオラはこの会場のどこかにいるはずの主に思いを馳せた。
【C−2 上空/一日目 黎明】
【ルシオラ】
[時間軸]:横島と夕日を見る以前。
[状態]:負傷と疲労(自力で回復中)。
[装備]:竜の牙(勾玉状態)@GS美神極楽大作戦!!
[道具]:基本支給品一式、蔵王(空)@烈火の炎、空白の才の木札@植木の法則
[基本方針]:アシュ様のために行動する。参加者を殺し支給品を奪う。花火が打ち上がった付近は後回し。
9 :
歯車が噛み合わない
◆hqLsjDR84w
:2011/06/25(土) 22:46:12.82 ID:8QmIXjFp
◇ ◇ ◇
ルシオラが捜索しているアシュタロスは、花火が打ち上げられた地点へと進んでいた。
彼にとって殺し合いなどどうでもいいものの、目的のためには全参加者を殺害せねばならない。
だからこそ、参加者が集うであろう場所を目指すことにしたのだ。
魔力を足元に集中させ、川の水面をさながら地面のように踏み締める。
その気になれば瞬く間に目的地へと辿り着くだろうが、アシュタロスはあえてそれをしない。
どちらにせよ、彼に敵う者などいない。
神族とて、魔族とて、人間とて、アシュタロスクラスの魔神を滅ぼすなど不可能だ。
また勝たねばならない。邪悪であれねばならない。踏み躙らねばならない。
空を見上げると、いつもと変わらない月が浮かんでいた。しばらくすれば沈み、太陽が顔を出すだろう。
アシュタロスは、もはやそれらと変わらないのだ。
決まった周期で同じ動きしかしない。いや、できない。
ゆえに、足取りが重くなる。
川を渡り切ったアシュタロスは、さながらただの人間であるかのようなペースで進み続ける。
(どうせなら、強者と巡り合いたいものだ)
最上級魔族である自分を殺せる存在など、この世には存在しないのだが。
胸中で付け加えて、アシュタロスは自嘲気味に笑った。
【C−3 中心部路上/一日目 黎明】
【アシュタロス】
[時間軸]:横島がエネルギー結晶体を破壊する直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3
[基本方針]:優勝し、ブラックも殺す。滅びたい。ひとまず花火のほうへと向かう。
10 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 22:46:47.49 ID:r21VPBkq
11 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 22:47:44.20 ID:L4Qzwegi
12 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 22:47:57.66 ID:r21VPBkq
13 :
歯車が噛み合わない
◆hqLsjDR84w
:2011/06/25(土) 22:47:58.48 ID:8QmIXjFp
◇ ◇ ◇
アシュタロスが空を見上げたころ、氣法師・朧も同じように空を眺めていた。
天体から現在地を推測しようとしたのだが、いまいち掴み切れずに終わる。
この地に転送されて以来、朧は感覚が僅かに乱れているように感じていた。
どうにも奇妙な違和感があるのだ。
妖気に似たなにかが立ち込めており、人の気配を感じ取りづらくなっている。
そのため場所を特定しようとしたものの、世界の妖気の溜まり場とは合致しない。
大地に流れる気が一際強い場所なのだろうかとも考えたが、そんなところは龍脈地図でもなければ特定できまい。
やれやれと呟いて、朧は肩をすくめた。
水晶髑髏が関わっている以上、どんなオーパーツが出てきてもおかしくはないのだ。
視線を空から戻して、再び足を踏み出す。
花火が打ち上げられたのは確認していたが、来た道を戻ることになるので向かわない。
感覚の異変が結界によるものなのかを確認するべく、朧は会場の端を目指しているのだ。
それに、参加者同士の戦いで死んでいるようなら、キース・ブラックには到底勝ち目はない。
(どうせなら、強者と巡り合いたいものですね)
まだ見ぬ参加者を求め、黒衣の氣法師は夕闇に溶け込んだ。
かくして――
世界最高の氣法師と称されるまで登り詰め人間の枠を超越した仙人を目指す朧と、最上級魔族として生誕しながらも種族の枠を超えることを諦めて滅びを望むアシュタロス。
各種族の最高峰であるものの、種族に対する考えが全く異なり目指す場所もまた異なる。
そんな彼らは――出会いもしなければ、当然ながら闘いもせず、お互いを知り合うことさえもなかった。
さながら両者の目的の違いを表すかのように、まったく別の方向へと進んでいく。
少なくとも現時点においては、人間と魔族の最強同士の歯車は噛み合わなかった。
【C−4 西部路上/一日目 黎明】
【朧】
[時間軸]:不明
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、水晶髑髏@スプリガン、中性子爆弾@ARMS
[基本方針]:殺し合いに乗る気はない。
14 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 22:48:23.31 ID:XcMYyqg4
15 :
◆hqLsjDR84w
:2011/06/25(土) 22:48:52.69 ID:8QmIXjFp
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘お願いします。
期限間に合わず申し訳ない。
そして50話到達ッ!
16 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 22:49:00.78 ID:r21VPBkq
17 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 23:30:12.85 ID:t+c64e1C
投下乙です
それぞれの理由で花火の方へ行ったり行かなかったりしてみんならしい展開だわ
卑怯番長と紅煉の会話は最初は笑えたが不安がぬぐえないな。邪魔な相手か…
金剛番長と隼人は式神をあっさりボコったけどフェイスレスは興味津々だw
そしてジョージさんは花火の方へは行けず
アシュ様とルシオラはご対面ならずで最強の人間と魔族の対決もならずか
波乱は次回に持ち越しだがみんなの行動が運命を分けたって感じで面白いなw
18 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/25(土) 23:33:15.70 ID:722xv3Jm
投下乙です
対主催組のジョージは足止め、金剛番長と隼人は花火事態知らない、卑怯番長は君子危うきに近寄らず
なのに向かってくるアシュ様
烈火ピーンチ!
19 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/26(日) 01:15:22.22 ID:2GFJGr99
投下乙!
シーンの繋ぎ方が面白いね。シーンが飛ぶのに違和感なくスラスラ読めた。
有力な対主催はみんな花火スルーで、最強マーダーの一角だけ向かうとかw
ジョージとカルナギは楽しみな戦いだ。どちらもかまs(ry
もう収拾つかなくなるほどの乱戦になるかと思ったけど、上手く捌いたね。さすがw
20 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/27(月) 07:36:17.91 ID:W/hvzL69
大人数を捌き切ったいい繋ぎだわ
卑怯番長と紅煉はブラックなうしとらコンビみたいでいいね。見た目がブラックってだけじゃなくてw
金剛番長と隼人のやり取りも、金剛一喝する隼人や高槻と日本番長重ねたりらしい。金剛が禁止エリアとか知れてホッとしたw
別れちゃったけど主人公タッグにも燃え。式神に話しかける金剛w
フェイスレスがただのマーダーじゃないのも書かれててよかった。夢を追うのがフェイスレスだよなwたち悪いけどw
ジョージは離れたけどカルナギ足止めしてるし、烈火的にはプラマイ0かな。こいつらのバトルも楽しみ!
ルシオラは出番少なかったけど、花火と夕日(と自分)を重ねたのには納得です
そしてアシュ様来ちゃった!wなのに朧来ない!wジンクス的にはありがたいけど!w
21 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/27(月) 07:37:36.90 ID:W/hvzL69
ん?一行目消えてる
投下乙
22 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/29(水) 03:27:31.12 ID:ydRHV3Fz
代理投下します。
23 :
チェイン ◇d4asqdtPw2氏代理投下
:2011/06/29(水) 03:28:52.63 ID:ydRHV3Fz
東の地平から現れたのは、世界を白く染める朝の光。
夜の闇は西の彼方へと追いやられ、かき消されてゆく。
だが、この町中にドロリと充満する絶望は、朝日に照らされても絶えることはない。
不穏な色が渦巻く空を民家の窓から眺めながら、加藤鳴海は深く溜め息をついた。
なんだか、ずいぶん久しぶりに太陽に会ったような気がする。
「…………」
左腕が僅かに軋んだ。
五指をおもむろに開き、そして握り締めて、鳴海は目を細める。
長い間、彼は真夜中で戦っていた。
この殺し合いに参加させられるよりも前から。
天幕の下で、機械仕掛けの道化たちとずっと戦い続けていた。
それは、時計の針で測るなら一夜にも満たない出来事。
けれど、彼の中では千夜に渡る闘争だ。
命を賭けて、仲間を失ってまで、彼としろがねたちは悪夢に立ち向かい続けた。
だが、久遠に続くかに思われたその戦争の結末を、彼は知らない。
戦いの最中で彼の意識は闇に落ち、次に目覚めたとき、そこはキース。ブラックが演説の聴衆席であったのだ。
しろがねと人形のどちらが勝利したのかも、仲間の誰が生き残ったのかも分からずじまい。
さらには我が身に起こっている事態も把握できぬまま、先の騒動に巻き込まれた。
「…………」
先ほどの、騒動……。
思い出してしまった鳴海は、ソファーで眠る少年を横目で見る。
少年は毛布のみを身に着けて、静かな寝息をたてている。
これが数刻前の巨獣の正体であるなど、にわかには信じがたいことだ。
化物がこの少年の姿に変化する瞬間を実際に目にしていたのにもかかわらず、である。。
(こいつが目覚めてみないと、わからねえことだ)
彼が何者なのか。
まだ暴れるつもりなのか。
キース・ブラックとはどういった関係なのか。
そういった疑問のすべては、少年自身から聞き出すほかない。
考えることは得意じゃねえんだ、などと呟きながら、彼は思い出したようにリュックの口を開いた。
女性の腰回りくらいの太さはあろう腕を突っ込み、中から一枚の紙切れを引っ張り出す。
この殺し合いが始まったときにも、彼はこの参加者名簿をチェックしようとしていた。
だが、高槻涼が暴走したせいで、それも中途半端なままでほったらかしてしまっている。
見間違いでなければ、仲間のしろがねの名前が記載されていたはずだったのだが……。
その名がまぼろしでないことを確認し、鳴海は安心と怒りをこね回したような表情で笑った。
やはり、見知った名前が幾つかあったのだ。
まずは、ギイ、ルシール、ジョージ、そしてフェイスレスの四名。
いずれも彼とともに戦っていたしろがねたちだ。
死んでしまったと思われていた二人の男の名前も記載されているではないか。
その事実がなんとも嬉しくて、鳴海は「バカヤロウ」と小さくこぼした。
彼らならば心配は要らない。
しろがね・Oのジョージだけは信用ならないが、残りの三人はいずれも技術と経験を多分に有するつわものたちだ。
下手を打つことも、殺し合いに乗ることもあり得ないといっていい。
しろがねたちとは逆に、鳴海の顔から明るさを奪う名も四つ。
パウルマン、アンゼルムス、ドットーレ、コロンビーヌ。
世界中に最悪を運ぶ、自動人形たちだ。
最初の二体に関してはそれほど問題ではない。
今の鳴海ならば、一撃のもとに葬り去ることができる。
とはいえ、やつらとて腐ってもオートマータだ。
一般人からすれば十分な脅威となるはず。。
できることなら、早めに破壊しておきたいところ。
24 :
チェイン ◇d4asqdtPw2氏代理投下
:2011/06/29(水) 03:30:28.07 ID:ydRHV3Fz
しかし、それ以上に厄介なのが……残りの二体だ。
鳴海の顔に刻まれた皺たちが、その恐ろしさを物語っている。
『最古の四人』が一角、ドットーレとコロンビーヌ。
このものたちの実力は、数多の自動人形の中でも桁違いだ。
万全の状態で戦ったとしても勝率は低い。
これらに対抗するためにも、一刻も早く仲間たちと合流する必要がある。
(それに、ヤバイのは自動人形だけじゃねえ)
名簿を雑に畳み、少年に視線を移した。
蛍光灯の灯りの下で寝息を立てる彼を見ながら、鳴海はその胸に不安を募らせる。
もしかしたら、目覚めた彼は再び怪物と化して殺戮に興じるのではないか。
そうなったとして、鳴海ひとりで止めることは難しいだろう。
彼が目覚めるまでは見守ると決めたものの、やはり心配だというのが本当のところだ。
暴走した彼に鳴海が敗れてしまえば、今度こそ大勢の人が犠牲になってしまう。
「…………ッ!」
いつかの病院で見た地獄を思い出す。
あの凄惨な光景が繰り返されるかもしれないのだ。
口に広がる生唾に、僅かながら鉄の味がする気がした。
だが、鳴海はそれをグッと飲み込むと、朝の空に向き直る。
それ以上、悪い方向へ考えるのはやめにしようと。
彼は高槻を信じようと決めたはずだ。
それが御神苗優から少年を託された彼の役目。
それに、左腕を失った少年の姿に、昔の自分を重ねているのかもしれない。
あの頃の鳴海は、何もなかった。
彼に生きる意味をくれたのは、ギイでありルシールであり、そして白銀だ。
少年に止血などの応急処置を行いながら、彼は「ギイたちもこんな気分だったのだろうか」と感じていた。
「そういや……」
窓から吹き込む風の冷たさを受けて、今さらながらに気づく。
少年は服を着ていないのだ。
魔獣へと変化したときに、破れてしまったのだろう。
首輪が残っているのが不思議だったが、そこは未知のテクノロジーでも働いているのかもしれない。
とにかく、今は考えるよりも先に彼が目覚めたときのために服を探してやらなくては。
「この家にありゃあいいんだが」
めんどくさそうにあくびをしながら、鳴海はリビングの扉を開けて二階へと向かう。
彼の鍛え上げられた巨体に、木製の階段はギシリ、ギシリとうめき声をあげ続けた。
「ここは……」
寝室らしき場所で、スーツ一式を発見した鳴海。
それを抱えて一階へ向かう最中、彼は別の部屋の前で立ち止まった。
特に用があるわけではなかったが、なぜだか惹かれてしまったのだ。
「子供の部屋か……」
扉を開けて電気をつけると、様々な玩具や漫画が目に付いた。
どうやら、この家に住んでいた一家はそこそこ裕福な環境にあったらしい。
すべての子供がこうならな、と鳴海の顔が少しだけ曇る。
しかし、彼がナーバスになったのも一瞬だけのこと。
血が通っている方の手で頬を張って気を取り直した鳴海は、近くにあった本棚に手を伸ばす。
適当に選んだ一冊を手に取り、その表紙をまじまじと眺めた。
25 :
チェイン ◇d4asqdtPw2氏代理投下
:2011/06/29(水) 03:31:23.02 ID:ydRHV3Fz
(…………まだ、あいつは起きそうにないしな)
なんだか面白そうに思えたので、勉強机に座ってその漫画を読むことにした。
こうして少年漫画を読むのは何年ぶりだろうか。
少なくとも、記憶を失ってからは初めてのことだ。
ぎこちない手つきでパラパラとページをめくっていく。
不思議な話だった。
主人公は、金髪の少年。
物語は、彼のもとに妙な被り物をした女がやってくるところから始まる。
その女に頼まれるがままに、主人公はおとぎ話の登場人物たちとの戦いに身を投じるのだった……。
どうにも素っ頓狂なストーリーではあるが、なかなかどうして、面白い。
初めこそ戸惑った鳴海だったが、読んでいるうちにグイグイと話に引き込まれてゆく。
漫画というものに慣れていなかった彼でも、あっという間に一巻を読み終えてしまうほどだ。
その勢いで続きを読もうとしたが、この家には二巻以降は置いていないようである。
残念そうに眉をしかめると、本棚にその本を戻した。
ついでに、背表紙に記述されたその漫画のタイトルと作者も確認しておく。
「富士鷹、ジュビロ……変な名前だな……」
ペンネームだろうか。
それにしたって、おかしな名前である。
インパクトはあるのだろうが……。
とりあえず、その名とタイトルを頭の片隅に保管して、鳴海は部屋を出ようと立ち上がった。
「…………?」
ふと。
部屋に散らばるオモチャのひとつ、カラフルなロボットと目が合った。
地球を救うために悪の組織と戦うとか、そういった類のものであろう。
いかにも少年が好みそうな造詣をしている。
それが、彼に問う。
お前は俺たちと同じなのか。
鳴海は、ありもしない歯車が軋むのを感じた。
しろがねとは、操り人形だ。
ある錬金術師の意のままに、自動人形を破壊する集団のはず。
世界の平和のために戦っているわけではない。
だけど、鳴海は違う。
彼を突き動かすのは憎しみでもなければ、白銀の遺志でもない。
もちろん、忠誠心のはずもない。
脳裏によみがえるのは、子供たちの笑い声。
戦いの最中で命を落としたドミートリィの、リイナの顔。
最古の四人から彼を護ろうとした、しろがねたちの背中。
ミンシアの拳。
それに……御神苗優。
すべてはまるで鎖のように繋がりあって、彼の心臓に絶えず力を送り続ける。
今は、それが加藤鳴海の背中を押すもの。
26 :
チェイン ◇d4asqdtPw2氏代理投下
:2011/06/29(水) 03:33:37.05 ID:ydRHV3Fz
ならば、彼はあのロボットと同じなのか。
しばらく俯いた後、彼は白い歯をむき出しにして笑う。
にっこりと。
「俺は、俺になるんだよ……」
背中でおもちゃに返事をすると、部屋の電気を切る。
閉まっていく扉の向こうで、何者かの笑い声が聞こえたような気がした。
「お前は、何になりたいんだ?」
一段一段、階段のうめき声を聞きながら下りてゆく。
彼が問い返した相手は、正義のロボットか。
それとも……。
【F-4 民家 一日目 早朝】
【高槻涼】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:気絶中、疲労大、全身にダメージ大(ARMSによる修復中)、左二の腕から先を喪失(止血済)
[装備]:毛布、手ぬぐい(左腕の止血に使われている)
[道具]:なし
[基本方針]:――――――――――――――――――――
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。
【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認済み)、高槻涼のリュックサック(基本支給品一式、支給品1〜3)、スーツ一式@現地調達
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。
27 :
チェイン ◇d4asqdtPw2氏代理投下
:2011/06/29(水) 03:33:58.83 ID:ydRHV3Fz
126 名前: ◆d4asqdtPw2[sage] 投稿日:2011/06/29(水) 03:02:33 ID:???
以上で投下終了です。
誤字や矛盾点などあれば、遠慮なく。
本スレ規制されているので、どなたか代理投下お願いします。
28 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/29(水) 03:40:39.53 ID:ydRHV3Fz
代理投下終了です。
以下、感想。
投下乙っす。
涼は起きなかったか。どうなるやらだ。
鳴海いいなー。いちいち加藤鳴海だなぁ、こいつは。
名簿を改めて確認して自動人形を倒さねばと思いつつ、動けないのがつらいな
ジョージの評価低さはしょうがないのに笑ってしまうw
富士鷹センセイ出張お疲れ様です!
29 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/29(水) 03:52:26.76 ID:ydRHV3Fz
あと指摘です
>>23
の
>キース。ブラック
>かかわらず、である。。
はタイプミスですよね?
30 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/29(水) 15:26:29.71 ID:v+gCB3tD
投下乙!
鳴海兄ちゃん、いちいち格好良いぜ
優が首輪やメモとかの考察を託したのが紅麗なら、思いを託したのは鳴海と涼か
人から人へ繋がってくのがからくりらしいね
31 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/29(水) 23:02:20.35 ID:QTfdGTeH
投下乙です
ホント、渋くて格好いいんだよなぁ
いやあ、確かにからくりらしいけどそれを作品にするのはどれだけ大変か…
32 :
◆hqLsjDR84w
:2011/06/30(木) 14:51:35.21 ID:HcWlknW6
投下します。
33 :
ワンダーランド
◆hqLsjDR84w
:2011/06/30(木) 14:52:48.68 ID:HcWlknW6
◇ ◇ ◇
This wonderland is not dream .
◇ ◇ ◇
眼前に広がる光景に、高嶺清麿は言葉を失う。
『自動人形(オートマータ)』と名乗った襲撃者を追う気力は完全に抜け落ち、弱々しくへたり込んでしまう。
清麿が到着したころには、何もかもが遅かった。
ともに殺し合いを否定していた宗谷ヒデヨシは、変わり果てた姿となっていた。
全身を部位ごとに解体されて――死体と化して、転がっている。
「……う、ぇ…………」
立ち上がろうとした清麿だったが、口元を抑えて力なくくずおれる。
ヒデヨシの両瞳と目が合ってしまったのだ。
言葉など発するはずのない口元が動いたように、清麿は見えた。
お前の指示に従ったばっかりに――と。
聞こえるはずのない抗議が、鼓膜でなく脳内を震わせた。
反射的に視線を逸らすと、そちらには腹部が置かれている。
やけに綺麗な切断面からは、ピンク色のホースが零れ落ちていた。
幼いころに図鑑で見たのと変わらない外見であったそれからも、清麿は顔を背ける。
なにも見えてしまわぬよう目蓋を薄くしか開けず、壁に体重をかけて起き上がり階段へと向かう。
そのまま逃げ出すように、階段を下りて二階の職員室に入り込んだ。
乱れきった呼吸と動悸を整えようと、最もドア近くにあった教員用イスに腰掛ける。
生徒用の木製イスと異なる柔らかい素材が使われおり、清麿はこのまま身体を預けっぱなしにしていたいと思った。
殺し合いを甘く考えていたワケではなかった。
掌で両目を隠して視界を暗くしながら、清麿は再確認する。
最初の説明の時点で、すでに二人が死んでいるのだ。
誰も死なずに済むだとか、まさか自分の仲間が死ぬはずがないだとか、そんな生温い考えなど持っていなかったつもりだ。
魔物の王を決める戦いにおいても、仲間は数えきれないほど倒れた。
それでも仲間の思いを抱えながら突き進み、彼と親友は勝ち残ったのだ。
にもかかわらず、現在――
たった一人死んだだけで、清麿は動けなくなった。
殺し合いを一刻も早く止めると決めたはずなのに、足を止めてしまっている。
やはり、状況をいささか楽観視しいたのかもしれない。
そう清麿が分析し直したのは、ようやく呼吸と心拍数が落ち着いてからだ。
自分は修羅場を潜り抜けているという認識が、清麿のなかにはあった。
魔物の王を決める戦いは、何より大切な親友との思い出であり忘れてはならない記憶だ。
だからこそ、あの戦いは過酷なものでなくてならなかった。
親友と二人で乗り越えたからこそ、高い壁であるべきだったのだ。
だが、実際は違う。
たしかに困難な道のりだったが、最も困難などと考えてはいけなかった。
いま目の前にある壁をナメてかかっていては、乗り越えることなどできない。
そんなこと、あの戦いで知ったはずなのに。
親友と自分の二人ならばなんとかなるなどと、どこかで考えてしまっていた。
名簿に親友の名を発見して、舞い上がっていたのかもしれない。
理由はともあれ、驕りが招いたのが宗谷ヒデヨシの死だ。
あのような無惨な死体は、魔物の王を決める戦いでさえ見たことがない。
人の死をもって、やっとかつてない障害が立ち上がっているのだと気付いた。
認識の過ちに気付く代償に、高嶺清麿はこの地でできた仲間を永遠に失った。
34 :
ワンダーランド
◆hqLsjDR84w
:2011/06/30(木) 14:54:19.56 ID:HcWlknW6
「……すまない、ヒデヨシ」
謝罪をしたところで、返事が来ることはない。
分かっていながら、清麿は頭を下げた。
恨まれても仕方ないと思いつつも、まだ死ぬワケにはいかない。
やるべきことは残っている。
この地にいる他の参加者を、そして親友を生き延びさせなくてはならない。
償うのは、その後だ。
それさえ終えればなんだってするからと、清麿は胸中でヒデヨシに告げる。
依然として、返事はなかった。
しばし間を置いたのち、清麿は机の上にあるデスクトップ型パソコンの電源を入れた。
自動人形とやらが去ってから時間が経ちすぎている。
向かった方向も分からない以上、もはや追うことは不可能だ。
どこにいるとも知れない者を追うより、試しておきたいことがあった。
パソコンが立ち上がり次第、清麿はインターネットブラウザを起動させる。
スタートページを確認もせずに、警視庁のホームページアドレスを打ち込む。
この殺し合いは、八十人も巻き込んだ大規模な事件なのだ。
間違いなく警察は動くし、会場の外には他にも頼りになる人間がいる。
ゆえに連絡を取ろうと清麿は考えたのだが、警視庁のホームページが開かれることはなかった。
ならばと清麿は記憶を辿り、覚えている様々なアドレスを入力する。
しかし、どのサイトも開くことはできない。
そう簡単に助けは呼べないようにされていると勘付き、清麿は天井を見上げた。
予想こそしていたものの、実際に不可能だと分かれば徒労感に襲われるものだ。
とはいえ、落ち込んでばかりもいられない。
いち早く、殺し合いを止めねばならないのだ。
何より、ヒデヨシのような被害者を出すワケにはいかない。
大きく伸びをして、清麿は首を下ろした。
インターネットは制御されているが、別にパソコンはインターネット専用の箱ではない。
何かしら、キース・ブラックの考えが分かるようなデータが隠されている可能性だってある。
そこで清麿はインターネットブラウザを閉じようとして、ふと思うことがありブラウザ上部のブックマークタブをクリックした。
一応確認しておこう程度の考えだったのだが、そこには一つのホームページが保管されている。
ダメ元でクリックして見ると、予想に反してあっさりと『Chat with ALICE』という名のホームページに繋がった。
「…………バカにしやがって」
ディスプレイに表示されたファンシーなサイトに、清麿は顔をしかめる。
チャット・ウィズ・アリスとはなんのこともない、ただの幼児教育用のチャットページであった。
画面中央部にいる青と白を基調にしたドレスを纏った少女とチャットで会話させて、幼児に言語を学ばせるためのものだ。
これは、参加者を子ども扱いしているという意識の表れだろうか。
推測して、清麿は胸糞悪いものを感じた。
『あなたは誰!? あなたは誰!?』
しつこく問いただしてくる少女に苛立ちながら、清麿は自分の名前を入力する。
下らない答えしか返ってこなければ、ブラウザを閉じるつもりだ。
エンターキーを押すと、少女が笑みを浮かべる。
そんな微笑ましい動作でさえ、いまの清麿には腹立たしいものだった。
いっそ返事を待たずに閉じてしまおうとしたところで、少女の横に浮かぶ吹き出しに文字が表示された。
『ああ……【アンサートーカー】の少年ね』
「なっ!?」
予期していなかった答えに、清麿は意図せず立ち上がる。
アンサートーカーの能力について知っているのは、極少数の人間だけだ。
にもかかわらず、なぜ――
疑問が清麿の脳内を埋め尽くしていくが、答えは出ない。
先ほどまで座っていたイスが床に触れる音が、やけに遠くで響いたように清麿は感じた。
35 :
ワンダーランド
◆hqLsjDR84w
:2011/06/30(木) 14:56:30.18 ID:HcWlknW6
『あなたには期待しているわ。
【答えを出す】ことができるのでしょう?
私が長い間迷い続けている疑問さえ、的確な答えを見つけ出せるのかしら?』
困惑する清麿の前で、吹き出しの文字が変化する。
立ったままの状態で前かがみになって、清麿はキーボードに手を伸ばす。
『そのアンサートーカーを封じているのは、お前たちじゃないのか』
清麿の表情から、焦りの色は消えていた。
この殺し合いに呼び出された時点で、アンサートーカーの能力は使えなくなっている。
アンサートーカーを持たずとも、キース・ブラックにより何かしらされてしまったからだと分かる。
そして封じたのだから、もちろん知られていたということである。
知っていたのであれば、人工知能と思しき少女に高嶺清麿がチャットに訪れた際に取るべき反応を入力しておけばよいだけだ。
プログラム参加者は八十人だ。
いくらAIプログラムとて、たかだか八十通りの対応くらいはできて当たり前である。
『おかしなことを言うのね、【アンサートーカー】の少年』
清麿の考えを見透かしているかのように、少女は口元を緩めた。
『瞬時に浮かぶ答えにだけ頼っているのかしら?
いいえ、そうじゃないわ。あなたと【ガッシュ・ベル】は、そうではなかったはずだもの』
返信が送信されるのを待たず、さらに少女は続ける。
『私の知る【アンサートーカー】は、封じられた程度で諦めなかったはずよ。
たとえ答えが出なくとも、足掻くのをやめずに【答えを出す】。それが【アンサートーカー】でしょう?』
絶句しつつも、清麿はAキーを二度押してエンターキーを押す。
少女は笑顔を浮かべたまま、指を絡めて両手を組むと胸元に持っていく。
『答えを出すのを諦めてもらっては困るわ。
いくら【似顔絵】の少年が殺されたといってもね……』
さながら歌うように紡がれた言葉に、清麿は目を見開く。
『似顔絵の少年』が指すのが宗谷ヒデヨシであることは間違いない。
ここにきて、清麿は少女に対する認識を改める。
少女がただのAIプログラムであるとは、とても思えなくなったのだ。
参加者の情報をインプットするくらいならば分かるが、所持している情報が詳細すぎる。
魔物の王を決める戦いの詳細を知っているかのような口ぶりだ。
さらに、ヒデヨシの死を知っているということは、リアルタイムで殺し合いの進行を確認していることになる。
八十もの参加者を同時に観測するなど、人間業どころかパソコン業ですらない。
背後に膨大なデータベースと、恐ろしく高度な演算能力を持つメインフレームがなければ――
そして何より、それを操作する人間がいるとしか思えない。
まさか機械がこれほど正しく言語を使いこなすはずがない。
さらに言えば、選択可能言語が三十以上もある。
それらすべてを文語体口語体ともに理解可能なAIなど、少なくとも清麿の常識ではありえない。
『お前は何者だ』
どう対処するべきか迷いに迷って、清麿は結局この六文字を送信する。
少女は組んでいた手を解いて、大きく広げた。
36 :
ワンダーランド
◆hqLsjDR84w
:2011/06/30(木) 14:57:00.43 ID:HcWlknW6
『不思議な質問ね。
私が誰かなんて、もう書いてあるのに。私の名前は…………』
半ばまで閉じられた目蓋の下で、少女の瞳が清麿を見据える。
『【 A L I C E 】』
息を呑む清麿の前で、画面が切り替わる。
同じ回線で一度にチャット・ウィズ・アリスに繋げられる時間は限られており、再度繋ぐには三時間ほど時間を空ける必要がある。
そのような説明文が、ディスプレイに表示されていた。
しばし硬直してから思い出したように倒れたイスを戻して、清麿は深く腰を下ろす。
正直なところ、いまいち事態が呑み込めていない。
つまりアリスとは何者なのかが、まったく分からない。
ただいずれアリスとまた話をしたいという、そんな思いが生まれていた。
いったんディスプレイから視線を外して、清麿は目頭を揉む。
瞬きをほとんどせずに光る画面を眺めていたせいで、若干目が疲れている。
一しきり目頭を揉みほぐしたのち、改めて周囲を眺めると卓上に奇妙なものがあった。
鮮やかな『青色の薔薇』が、花瓶に挿してあるのだ。
ごく自然に、あって当然だという雰囲気を放っているが、この世界に青い薔薇など存在しない。
奇妙に思いつつも、清麿は儚げに咲く花に目を奪われていた。
【B−2 小学校職員室/一日目 早朝】
【高嶺清麿】
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達
醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。ひとまずPCを調べる。
37 :
◆hqLsjDR84w
:2011/06/30(木) 14:58:24.31 ID:HcWlknW6
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘お願いします。
38 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/30(木) 23:03:57.59 ID:0jvv810X
投下乙です
清麿はヒデヨシの死を知ってショックだがそれでも先に進もうとしてたらアリスキター
さて、しばらくはPCを弄るだろうが……他の施設と繋がってるのだろうか?
39 :
創る名無しに見る名無し
:2011/06/30(木) 23:23:21.73 ID:/tuW4qay
投下乙!
清磨はきっついな
確かに自分とガッシュがいるから大丈夫という慢心に近いものはあったのかもね
そしてアリスきたーーー!!
あれ? でも既に死んだ武士の中にもアリスがいたっけ?
むむ…これは気になるんだな
40 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/01(金) 05:47:59.47 ID:EfGMrjuK
投下乙!
時間を越えて二人のアリスが──とか一瞬妄想してしまった
まあこのアリスはあのアリスだろうけど
41 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/02(土) 02:22:59.78 ID:Ia2HHbv0
予約来たぞ
42 :
◆6LcvawFfJA
:2011/07/02(土) 05:28:15.08 ID:WLA86SEE
投下致します。
43 :
意義
◆6LcvawFfJA
:2011/07/02(土) 05:31:21.06 ID:WLA86SEE
マシン番長は南へと戻らず、東に進んでいる。
先刻、子猿番長と命名した少年の攻撃を受けて移動している際、道中に人影は発見できなかった。
番長抹殺プログラムを最優先している以上、誰もいない場所に向かってもメリットはない。
子猿番長がいた地点まで帰還したところで、悠長に待っている可能性は限りなく無いに等しい。
その為にマシン番長は、人間が潜むのに最適と思われるマンションが立ち並ぶ東へと足を運んだ。
マンションに辿り着くなり、いちいち階段を上ってマンション内を隈なく歩いて回る。
レーダーにエラーが生じており、さらにどの程度の範囲ならば反応するのかは不明。
そのような状況では、抹殺するべき番長を捜索するのにまどろっこしい方法を取るしかなかった。
番長がいようといなかろうと全ての建造物を片っ端から破壊すれば、最終的に番長抹殺プログラムは成し遂げられる。
しかしそんな無茶苦茶をするように、彼はプログラムされてはいない。
邪魔をしない一般人には、極力接触しないのが望ましいとされているのだ。
「コノマンションニモ、生体反応ハ無イカ……」
優に地上二十メートルはあるマンションの屋上から飛び降りても、マシン番長は涼しい顔を保つ。
靴と接触した地面は窪んでしまったというのに、姿勢は垂直のまま背筋を伸ばしている。
少し離れた場所にあるアパートに向かおうとして、マシン番長は硬直した。
先程までなにも捉えなかったレーダーが、唐突に反応したのだ。
何か感知すれば即座に出向くはずだったというのに、石像のように固まっている。
理由は、感知した反応の種類にある。
反応したのは“生体を察知する”レーダーではなく、“動く物を察知する”レーダー。
つまり、察知したのは“生物ではない”。人間の様な形をしていたとしてもである。
そして、マシン番長はある事実を知っている。
“全国にいる番長中、サイボーグはマシン番長だけ”なのだ。
「トハイエ、スデニ番長ト会ッテイル可能性ハ低クナイ」
たとえ番長でなかろうと、接触してマイナスにはならない。
情報を得ることは出来るし、仮に邪魔をするのなら破壊する必要がある。
取るべき行動を決定し、硬直していた肢体を駆動させる。
明確な目標を定めて尚、マシン番長は表情を変えない。
否、彼は元より、変える表情など持ち合わせてはいない。
○
足音を捉えて舌なめずりしていたドットーレは、接近者を視認して目を見開く。
ドットーレにとって、マシン番長の正体を見極めるのは容易い事だった。
人間と大差ないボディの上に学生服を身に着けていたところで、正体は筒抜けだ。
「“人形”か……」
「ソウダ」
自動人形の中には、彼らの求める解答を導き出す為に人間世界に溶け込んでいるタイプが存在する。
ドットーレは、マシン番長をその類と認識した。
「ソノ帽子、血液ガ付着シテイルナ。オマエノ目的ハ何ダ」
無遠慮な言葉使いに、ドットーレの眉が微かに動く。
人間風情と過ごしている低級人形が、“最古の四人”である自分に話す口調とは思えなかった。
頭に血が上り帽子に手を伸ばしかけたところで、ドットーレは自分を抑えた。
最古の四人が、他の自動人形より上位に位置しているのは“長”直々に意思を与えられたからだ。
その長であるフランシーヌ人形よりも、ドットーレは自分の憎しみを優先してしまった。
そんな自分に、低級人形を見下す資格はない。
「返答ヲ求メテイル」
後悔に顔を歪ませるドットーレに対し、マシン番長は無表情のまま問い質す。
「目的……、取るべき行動……、進むべき道などッ、決まっている」
ドットーレは、絞り出すように。
「我らが主……意思を与えてくださったフランシーヌ様! あの御方を笑顔にするッ。自動人形の身体は尽き果てるまでッ、その為だけにある!」
喉が引き裂けるほどに声を張り上げて、宣言する。
分かり切った答えだ。
主の笑顔にするべく、二百年もの間“真夜中のサーカス”として世界を巡ったのだ。
二百年もの間、身体を改造し続けてきたのだ。
にもかかわらず、ドットーレには聞こえてしまっていた。
人形破壊者の老婆の言葉が、リピートされ続けている。
取るに足らぬはずの言葉が、木霊し続けている。
思考の片隅に、“永遠の歯車奴隷”というワードが引っかかっている。
だからこそ、ドットーレはつい声を荒げたのだ。
そして、その事にさえも勘付いてしまっている。
44 :
意義
◆6LcvawFfJA
:2011/07/02(土) 05:33:54.10 ID:WLA86SEE
「“笑顔”……。何故ダ?」
「何度も言わせるなッ! 主の笑顔こそが、我ら自動人形の存在意義!」
ドットーレの声量はより一層大きくなる。
下級人形は、フランシーヌ人形への忠誠心が低い。マシン番長がしつこく尋ねてくるのに違和感は無い。
だというのに、ドットーレは苛立ってしまっている。
彼もまたフランシーヌ人形への忠誠より、己の欲を重視してしまった下級人形。
話しているうちにいずれ自分でそう納得してしまうのを、強く恐れていた。
「ソウカ……」
マシン番長が考え込むように黙ったのに安堵し、ドットーレは切り出す。
実際の焦燥を隠すような、落ち着いた口調で。
「ではな。自動人形同士で戦う理由も無い」
重厚な物言いとは裏腹に、素早くマシン番長に背を向けて足早に遠ざかっていく。
「“笑顔ニスル為ダケニアル”カ……」
己に向けられた言葉でないと理解していながら、マシン番長の呟きがドットーレの思考に残った。
○
ドットーレが去って数刻の後、マシン番長は再び番長の捜索を再開する。
傍目には何も変化していないが、彼のCPUに新たな目的がインプットされていた。
とある、壮大なテーマが。
単に、ドットーレの言葉を鵜呑みにしたのではない。
マシン番長のメモリーには、予てより製作者の一人であるDr.月奈の柔らかな笑顔が刻み込まれていた。
不可思議なことに、そのメモリーは他のメモリーより蘇る頻度が多い。
そしてDr.月奈の笑顔が浮かぶ度、マシン番長のCPUは落ち着くのだ。
理由は不明であったが、ドットーレとのやり取りにて理解した。
番長抹殺プログラムと同じく、“存在意義”の一つであったのだ。
もう一人の製作者Dr.鍵宮の笑顔は思い返しても何の効果も得られないが、番長抹殺プログラムを進めれば見ることができる。
だがDr.月奈は、それでは笑顔を浮かべてくれない。
彼女は、すでに“もう二度と戻ってこれない”のだから。
ただ、彼女によく似た少女がいる。
月美という名の彼女の笑顔は、Dr.月奈の笑顔と同じ効果があった。
微笑む彼女のメモリーが蘇れば、CPUが落ち着きより冷静になれる。
ならば、月美を笑顔にすることも自分の存在意義なのだと、マシン番長は考える。
「シカシ、方法ガ分カラナイ……。探シテイクシカ無イナ……」
“人間を笑顔にする方法を見付ケル”。
それが、マシン番長が新たに抱えたテーマ。
番長抹殺プログラムと同時に進行するべき、大きなプログラム。
全ての番長を殺害するという彼にとって容易な任務とは異なり、何もかもが手探りなニューミッション。
【B−2 住宅街/一日目 早朝】
【マシン番長】
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:異常なし
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:番長を抹殺し、幽霊と仲直りする。邪魔するものも排除。人を“笑顔”にする方法を知る。
※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。
※対象の“人間”の殺害を躊躇しません。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。
【ドットーレ@からくりサーカス】
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!、AK-47@現実
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員殺して清磨に『笑顔』を届ける。
45 :
◆6LcvawFfJA
:2011/07/02(土) 05:35:13.74 ID:WLA86SEE
終了です。
マシン番長の台詞読みづらかったらすいません……。
46 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/02(土) 14:16:32.38 ID:wr458kRB
投下乙
ドットーレは大分人間味が出てきたなー
自身を下級人形と呼んだ彼が、忠誠を取り戻すために叫ぶ 熱い、外道マーダーのはずなのにほんとうに暑い
マシン番長にも新しい目的がインプットされたか……これが今後にどう響くか
作られたもの同士の美味しい絡みでした!
自身の存在意義について悩むのはこういった存在の華ですからね
改めて投下おつです
47 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/02(土) 14:30:26.76 ID:l83EXfM8
投下乙です
そういえば笑顔とか二人とも共通点があったわ。微妙にすれ違う部分もあるが、これは上手いな
マシン番長も人間の笑顔を模索するみたいだが…
先が気になるな
48 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/02(土) 17:16:50.20 ID:NSZx2+lw
投下乙です
なんだかスパロボみたいな良いクロスオーバーだね
やっぱ金剛番長とからくりの馴染み具合はパネエ
49 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/03(日) 10:38:20.55 ID:w9XaK7VT
『不思議な質問ね。
私が誰かなんて、もう書いてあるのに。私の名前は…………』
『【W I N D】』 カタカタッ
こんな電波を受信したw
50 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/03(日) 13:18:08.11 ID:EbyoLFoc
突入してくるよりマシwww
51 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/03(日) 13:37:54.60 ID:w9XaK7VT
>>50
だが落ち着いて考えて欲しい
アンサートーカーとリーマンが手を組んだ話
キースホワイトは今すぐ荷物を纏めて夜逃げする準備を始めるべき
52 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/03(日) 22:00:21.70 ID:bGJJT48p
リーマンw
いまの魔王ならそれでも……!
53 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/04(月) 04:49:56.01 ID:sXA/wgbN
しかし◆hq氏は止まらないな
54 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/05(火) 06:58:27.87 ID:j7t0eduX
ここは良作が定期的に投下があるな。
◆hq氏には感服するな
55 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/05(火) 17:02:30.29 ID:BzAFvpf3
ただ、参加者が固まり過ぎてると書き難いな
書き手を選ぶというか…
まぁ、混戦の後に減って分散してくれたら落ち着くけど
56 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/05(火) 17:26:21.78 ID:47fcUQj3
アシュ様だけじゃなく、卑怯番長もルシオラも朧も行っていたら……w
そんな大混乱も見たくはあるけど書けないw
57 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 03:43:38.06 ID:5+UQ1CIj
58 :
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 03:44:40.25 ID:tNGYiUf1
投下します。
59 :
ミッドナイト・クラクション・ベイビー
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 03:45:30.93 ID:tNGYiUf1
◇ ◇ ◇
夜を転がしてるのは――――の声さ。
◇ ◇ ◇
「何度も言ってるだろ、兜。そっちには海しかねえってな。
コイツが水上走行できる可能性に賭けるってんなら、まあ勝手にすりゃあいい。止めはしねえさ。どうぞ一人で行ってくれ」
大げさに肩をすくめながら、暁巌は精悍な顔付きを笑みで崩す。
彼が体重を預けているのは、白いワンボックスカー・ハイエースの後部座席である。
路上に停車しているその車は、しばらくまっすぐ走らせれば海へと落下するだろう。
いかに暁が、生きるか死ぬかの瀬戸際におけるスリルを愉しむ人種であろうと、さすがに車ごと落水する気はない。
ましてや同行しているのは、この場で知り合った兜光一という男だ。男同士で心中など絵にもならない。
「……くそッ!」
暁の言葉に耳も貸さず、兜光一は盛大に毒づく。
ハンドルを握ったまま、視線は前方に向けられている。
「まったく。そんなに、『アレ』が気になったってのかよ」
暁の言うアレとは、先ほど発見した飛行物体のことだ。
当てもなくワンボックスカーを走らせている道中、南方を何者かが高速で東へと飛び去って行ったのだ。
全長は、暁の推定で三〜五メートルほど。
時折、青白い電撃を放っていたので目撃できた。
それを確認した暁が何気なく疑問を口にした瞬間、運転手である兜が飛行物体を追いかけようとハンドルを回したのだ。
無茶な方向転換で体勢を崩しながらもアクセルを踏もうとしたが、その前に暁がサイドブレーキを引いた。
「……武士だ」
「ああ?」
「アレは武士だったんだ! なんで植物状態だったアイツが動けるようになったのかは知らんが、間違いない!!」
「…………落ち着け。深呼吸だ。お前だけじゃなく、俺もするから」
すー、はー。
すー、はー。
決して若くない男二人の呼吸音が、狭い車内に木霊する。
「で、なんだって?」
「だから、アレは武士だ! ARMSを発動させるなんて、もうなにかあったのか……ッ」
「……よし分かった。なにも分からないってことが、よく分かった」
『たけし』と読む名を持つ参加者は、三人いる。
そのなかで、兜光一の知り合いは『巴武士』だけだ。
おそらくその巴武士のことを言っているのだろうとは推測できたが、そこから先が暁には予想できなかった。
「まるであの電撃を纏って飛んでったのが、巴武士みたいな言い方だな……」
「だから、そうなんだよ!」
「……なにぃ?」
適正者の体内に埋め込まれたコアが、肉体と融合するナノマシン。
ARMSについて、暁は兜からそのような軽い説明を受けていた。
暁にとって未知の技術であったが、高槻涼と呼ばれた少年が右腕が異形に変形したのを目撃済みだ。
だとすればそのようなこともあるだろうと、簡単に受け入れていた。
いかなる絶望的な状況でも生還(リターニング)するのにもっとも大事なのは、受け入れることだ。
たとえ想定外であろうと、管轄外であろうと、常識外であろうと――なにから外れていようと事態を冷静に飲み込む。
それこそが、生を手放さない一番の方法だ。
60 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 03:46:06.80 ID:5+UQ1CIj
61 :
ミッドナイト・クラクション・ベイビー
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 03:46:34.32 ID:tNGYiUf1
ならば『生還者(リターニングマン)』たる暁巌が、未知の技術の存在を認めぬはずがない。
が、さすがに高速で空を飛行できるとまでは考えていなかった。
「ARMSってのは、そこまでイカレてるのか……?」
「全身ARMS化した武士は音速を超える。だが、なぜもうあの姿にッ」
顔をしかめる兜とは対照的に、暁は口元を緩める。
「全身ナノマシン化……ねえ。はん、そこまで行ったらバケモンだぜ」
言い終えるより早く、運転席の兜が後部座席に手を伸ばしていた。
腰を捻った不自然な体勢で、暁の胸ぐらを掴む。
「アイツは……アイツらは! 知らないうちに、身体に得体知れねえもんを埋め込まれてたんだ!
まだ酒も飲めねえガキだってのに、もっとガキなころにだ!
でも! 金属みてぇな身体になりながらッ、エグリゴリに抗ってる! お前が言ったそんなもんに、絶対なっちまわないように!」
兜は思い切り力を籠めているようだが、暁の身体が持ち上がることはない。
体勢が不自然だからというだけでなく、単純にこれが彼らの差だ。
そもそもの鍛え方や戦闘経験が違いすぎる。
ほんの少し暁が力を籠めただけで、兜に手出しなどできなくなってしまうのだ。
右手が僅かに震えているのを無視して、兜は暁を睨み付ける。
その眼力でさえ、劣っている。
同じ黒い瞳だというのに、暁の視線のほうが鋭く強い。
たじろいだように兜の視線が泳ぎかけ、しかし再び見据え直す。
暁がまばたきせず見つめ続けるも、一向に怯まない。
ここで退くワケにはいかない。
そう語っているように、暁には思えた。
「悪かった悪かった。たしかにそうだ。ようは在り方、だよな。
俺やお前みたいな見た目でも、壊れ切っちまったバケモンはいる。逆もしかり、ってヤツだ」
一度目を閉じたのち、暁は自ら視線を逸らす。
兜は呆気に取られたように目を丸くし、いつのまにか右手から力が抜けていた。
「つってもあの速さじゃいまごろ海だ。コイツじゃその武士のとこには行けないぜ。
そいつを本気にさせちまうようなヤツがいるってんだから、焦ってる場合じゃない。気を引き締めねえとな」
「あ、ああ……」
暁に言われるがまま、兜はハイエースの向きを戻す。
今度は、常識的な角度でゆっくりと。
「焦ってちゃ生還はできない。
戦場でできないことをやろうとするのは、死のうとするのと一緒だ」
暁は落ち着いた口調で告げ、一拍置いて続ける。
静かに、言い聞かせるように。
「ただ、さっきの話だが――
人間のものじゃない身体を手に入れたヤツらを、俺は職業柄よく知っている。
たとえば機械化、ようはサイボーグだな。
だいたいそいつらは、最終的に……力に飲み込まれてバケモンになっちまう」
運転席から返事はない。
目をミラーに向ければ兜の表情が窺えると分かっていながら、暁はそうしなかった。
武士が飛んで行ったのと逆方向である西へと向かう車内に、静寂が立ち込める。
◇ ◇ ◇
62 :
ミッドナイト・クラクション・ベイビー
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 03:47:24.84 ID:tNGYiUf1
ハイエースが進む先にある寺を、同じように目指している男女がいた。
彼らには、当てのない暁や兜と異なって明確な理由がある。
『才賀正二』と名乗った老人が殺そうとしている少年を救わねばならないのだ。
そんな無力な子どもを助けようとしている彼らは、どのような会話をしているのかというと――
「ちッ、うざってえな。その長え髪なんとかなんねえのかよ」
「はあ!? アンタにだけは言われたかないわよ! 金髪に自信あんのか知らないけど、アンタも伸ばしてんじゃない!」
「俺は結ってるし、そもそも後ろに誰もいねえよ。こっちはさっきから前にいるお前の茶髪が、鼻くすぐってきてむずむずすんだよ!」
「っちょ、人の髪鼻に付けないでよ!? きったないわねえ!」
「勝手に来んだよ!」
「血とか付いてないでしょうね!? それこそ取れないじゃない!」
「知るかよ。多少付いてんじゃねえのか」
「あーもう! いきなりズタボロになってるんじゃないわよ、なっさけない!」
「るっせえな! こっちだってなりたくてなったんじゃねえよ!」
「だいたいゼオンだかなんだか知らないけど、子どもにやられたクセに偉そうにしてんじゃないわよ!」
「…………はッ」
青き稲妻と呼ばれる空飛ぶ箒の上で、互いに罵り合っている。
後ろに座る金髪の青年――ジャン・ジャックモンドが、先ほど殺し合い開始直後に受けた襲撃について話した。
それまではどちらも静かにしていたのだが、話を終えてもまだ寺には到着しない。
いざ落ち着くと、箒を操る美神令子の長い髪がジャンはどうにも気になった。
いち早く向かうため速度を上げれば、髪がなびくのは当然。
美神の腰まで伸ばした髪なら、だいぶ激しく風に泳がされることになる。
ジャンは一見人間だが、実は『獣人(ライカンスロープ)』という種族である。
獣としての特性を持っているため、微細な感覚に敏感なのだ。
とはいえ普段のジャンであれば涼しい顔で我慢していただろうが、つい声を荒げてしまった。
何せ、殺し合い早々にして、すでに二度も敗北を喫している。
負傷や疲労も軽くはないが、敗北の事実が何より大きくのしかかっていた。
美神のほうも、そんなことは分かっている。
まだ会って数時間も経っていないものの、ゼオン・ベルという襲撃者について語った際にジャンが浮かべた苦々しい表情を見れば、十分察することができた。
にもかかわらず痛いところを突くようにして黙らせたのは、美神がそういう人間だからとしか言えない。
敗者に優しい声などかけてやらないし、偉そうな口を利かれたら言い返す。弱点が見えているなら、迷わずそこを攻める。
甘くもなければ、柔らかくもなく、温かでもない。
それが、世界最高クラスのGS(ゴーストスイーパー)美神令子という女なのだ。
「――いたわね」
やっと寺上空へと到達し、二人は視界に目標を捉えた。
獣人とGSのどちらとも、夕闇程度で視界が遮られるヤワな存在ではない。
美神が高度を低くした箒から、ジャンが飛び降りる。
「なっ!? 君たち、その箒は……!?」
面食らったような老人の言葉に耳を貸さず、ジャンは背後の美神へと声をかける。
振り返ることなく、老人を鋭く見据えたまま。
「コイツは俺が黙らせる。美神、お前はガキを探してくれ」
「分かったわ! ……死なないでよ」
「ふん。なんだ、心配してくれてるのか?」
「いやいや、そうじゃなくて。
さすがに三回連続で負けた挙句死なれたんじゃ未練タラタラだろうし、そんな面倒そうな霊をフリーで祓うなんてまっぴらゴメンってだけよ」
「…………そうかよ」
再び高度を上げて行く箒に、ジャンは思い出したように声を張り上げる。
やはり、視線は老人から離さない。
63 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 03:47:32.10 ID:5+UQ1CIj
64 :
ミッドナイト・クラクション・ベイビー
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 03:48:55.44 ID:tNGYiUf1
「さっき渡したヴァジュラは、あんま使いすぎんなよ!
霊能力者ならある程度扱えるだろうが、あんまやりすぎると暴走しちまう!」
「オッケーオッケー! もうさっき聞いたわよ!」
飛び去っていく美神を見送ることなく、ジャンは口角を吊り上げた。
両腕に装着している門構えという名の籠手を振りかざし、老人へと飛びかかっていく。
「間に合わなくて残念だったなァ、才賀正二! もう逃がしゃしねーぜ!」
才賀正二と呼ばれた老人は、解せないといった表情で飛びのいた。
必死の形相でなんとかジャンの猛攻を潜り抜けて、距離を取る。
両手を上に伸ばして無抵抗をアピールしながら、口を開く。
「ま、待ってくれ! 君がなにを言っているのか理解できん! 私と君は初対面じゃないか!」
「下らねえこと言ってんじゃねーぜ! テメーの演技に騙されっかよ!」
「ぐっ、こんなことをしている暇はッ。私は、少年の元に行かねば――」
「そんなこと……させっかよ!!」
ジャンが思い切り地面を蹴る。
大きく掲げた右の門構を、正二の腹に叩き付けるべく。
拳が接触するすんでのところで、正二はポケットに手を伸ばした。
取り出されたのは蔵王。さらに、そのなかから黒衣の人形が現れる。
「あるるかぁぁん!」
隻腕の人形が右手に持つ腕状の武器が、ジャンの拳を受け止めた。
しばしの拮抗ののち、ジャンはバックステップを踏んで遠ざかる。
「泣き落としから電撃、さらに透明と来て、次は人形ってか?
はッ! ずいぶんこのジャン・ジャックモンドをバカにしてやがるぜ!」
ジャンは不愉快そうに眉をひそめながら、吐き捨てるように言った。
◇ ◇ ◇
美神令子が子どもを見つけ出すのに、大した時間はかからなかった。
一人下りたことにより、青き稲妻の運転が楽になったのもある。
しかし何より、子どものほうに動く意思がなかったのが大きい。
河岸にへたり込んだままだったのだから、すぐに見つかろうというものだ。
「ふう」
高度を下げた青き稲妻から降りて、美神は安堵の息を吐く。
金にならない仕事はしない主義でこそあれど、子どもが殺されると聞いて無視するのは気分が悪いものがあった。
ゆえに、偉ぶった才賀正二の意図を覆すためだと自分を納得させて、向かってきたのである。
青き稲妻を蔵王に戻して、美神は子どもの元へと歩み寄り――静止した。
近付いてようやく気付いたが、その子どもの姿に覚えがあるのだ。
髪の色が違うものの、箒の上でジャンから聞いたゼオン・ベルの特徴と一致している。
体型も衣服も、話に聞いていたのと変わらない。
ジャンと巴武士を圧倒した舞台も、この近辺のはずだ。
リュックサックから新たな蔵王を取り出し、美神はジャンに渡されたヴァジュラを出現させる。
極力使うつもりはなかったが、もしもゼオン・ベルが相手ならば逃げるにしても得物を持たないワケにはいかない。
ヴァジュラの柄を握る手に力が籠り、美神の掌にじんわりと汗が浮かぶ。
65 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 03:49:24.71 ID:5+UQ1CIj
66 :
ミッドナイト・クラクション・ベイビー
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 03:50:00.38 ID:tNGYiUf1
「ぬぅ……?」
接近する気配を察知したのか、子どもは力なく顔を上げた。
その表情に生気はなく、弱々しい。
聞いていたゼオン・ベルの自信に満ちた表情とは、かけ離れている。
また髪の色だけでなく、目の色もまたゼオン・ベルとは異なっていた。
だが、美神は安易に気を許さない。
違う点があるものの、重なる特徴が多すぎる。
ゼオン・ベルと何らかの関係があるとしか思えない。
取るべき行動を見定め切れていない美神の前で、金髪金眼の子ども――ガッシュ・ベルもまた動かない。
光のない瞳で近付いてきた美神を見つめるだけだ。
◇ ◇ ◇
硬直している美神とガッシュのすぐ近くで、暁巌と兜光一は彼女たちを眺めている。
人影を発見してすぐにハイエースのエンジンとライトを切ったので、おそらく勘付かれていないと判断していた。
「ありゃヴァジュラだな」
「ヴァジュラ?」
怪訝そうに首を傾げる兜に、暁は答える。
「オーパーツの一つさ。雷を放つ」
「な……っ。そんなバカな」
「オイオイ、ARMSを認めてオーパーツを認めねえのか? どっちも大概無茶苦茶だぜ」
軽口を叩くように言いながら、暁は自分自身さえも確認していない支給品に思いを馳せる。
破壊されたはずのオーパーツなんてものが配られているのなら、あの蔵王には何が入っているのか。
未確認の道具に自分の命を委ねる気はないが、それでも意識してしまう。
期待しすぎるつもりなどないというのにもかかわらず、だ
意図せず、暁の口元が微かに吊り上っていた。
「なんでそんな危ねえもん、あの姉ちゃんは構えてんだよ!?」
「それこそオイオイだぜ、兜。
いま俺たちが巻き込まれてるのはなんなのか、ってことを考えろ。そういうことだろ」
暁の言葉に、兜は表情を強張らせた。
そして思い悩んだように顔を伏せてから、勢いよくドアを開けて表へ出る。
「……行くのか?」
「ああ」
「いやはや、物好きもいたもんだな」
からかうような口調の暁に、兜は笑みを浮かべる。
予期していなかった反応に、暁は息を呑む。
「やっぱ、歳喰っちまった以上はガキ助けてやんねえとよ」
ハイエースがもともと入っていた蔵王を残して、兜は離れていく。
小さくなっていく背中を眺めながら、暁は誰にともなく呟いた。
「やれやれ。ガキを助けるのが大人ねえ……ふん、誰かみたいなこと言いやがるぜ」
暁の脳内に蘇るのは、とある同僚の姿だ。
独断で『聖櫃(アーク)』を沈めた暁は、所属している組織『トライデント』に目をつけられてしまった。
入手すべきオーパーツを海の藻屑にしてしまったのだから、当然といえば当然だ。
67 :
ミッドナイト・クラクション・ベイビー
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 03:51:18.63 ID:tNGYiUf1
もともとさまざまな組織を移って生きてきた身なので、暁自身も組織内の孤立にダメージなど受けてはいない。
だというのに、一人の同僚が聖櫃沈没事件以降やたらと絡んでくるようになったのだ。
身体を鍛えることに余念がない、暑苦しいドイツ人。
そいつの信条は『強者は弱者を守るために存在する』というもの。
なんでも聖櫃沈没事件の際、暁は弱者を守っていた。だから同志だ。これからは相棒だ――とのことだ。
トライデント内で孤立していることに気付いているのかいないのか、その自称相棒は妙に暁に関わろうとしてくる。
最初はうざったかったが、いつのまにやら気に入っていたのかもしれない――と。
兜が残した言葉が気にかかりつい車から出てしまった暁は、そう思った。
「待てよ、兜。俺も行くぜ」
ハイエースを収納した蔵王を放り投げながら、暁は軽く手首を回す。
身に纏う機械式AM(アーマード・マッスル)スーツの調子を確認し、河岸へと向かった。
◇ ◇ ◇
「よう、姉ちゃん」
いきなりあらぬ方向から声をかけられ、美神令子はビクッと身体を震わせる。
彼女にしては珍しい反応であったが、生憎普段の彼女を知る者は付近にいなかった。
「いったいなんの用――ッ!」
現れた二人の男の片方――暁が、何かを投げつけた。
美神は紡ぎかけた言葉を切り上げて、咄嗟にヴァジュラへと霊力を流す。
ヴァジュラの先端部より火花が散り、闇夜が強烈に照らされる。
光により投げられた物体がカロリーメイトだと確認できたが、放たれた電撃がカロリーメイトを消し炭にしてしまう。
「いきなりなにすんのよ!」
「やっぱり、それがなんなのか……知ってるみてえだな。
あんなに的確に迫ってくる物体を打ち抜くなんて、普通はできないぜ」
美神が浴びせた抗議の声を無視して、暁は淡々と語る。
「…………で、だ」
暁の声色が、いっそう低くなる。
それまで浮かべていた軽い笑みが、唐突に消えた。
「そんな物騒なもん持って、相手がガキじゃつまんねーだろ。相手してやるぜ」
「ち、ちがっ!?」
否定しようとする美神の前で、暁は腰を低く落とした。
冷たい視線を飛ばして、仕掛けてくるのを待っているように見える。
「大丈夫か!? あの怖い姉ちゃんになんかされなかったか!?」
「っちょ!? 誰が怖い姉ちゃんよ!?」
目を話しているうちに、ガッシュは兜に抱きかかえられていた。
もう『怖い姉ちゃん』で通っていることに、美神はただ喚くしかできない。
「え、ええと。えっと、えーとー……」
美神は、どうにか落ち着こうと思考を巡らす。
まず才賀正二という危険人物について話し、彼が子どもを殺すと宣言したため助けに来たと説明。
次に同行者であるジャンの説明をし、彼がゼオンという参加者に襲われたことも話す。
そしてそのゼオンとあまりに似ていて度肝を抜かれて、ヴァジュラを構えた――と言えば。
そこまで考えて、美神は両手で頭を抱えた。
68 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 03:51:41.03 ID:5+UQ1CIj
69 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 03:53:08.82 ID:5+UQ1CIj
70 :
ミッドナイト・クラクション・ベイビー
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 03:53:14.60 ID:tNGYiUf1
(こんなの、まるでいま考えたみたいじゃない!!)
事実だから当たり前だが、あまりに出来すぎている。
言ったところで、納得してもらえるかどうか。
美神は目蓋を閉じて、想像してみることにした。
(私が言われるほうだったら、絶対信じないわよ!!)
髪を掻き毟りだした美神に、戦闘態勢を保ったままの暁が口を開く。
「どうした? 来ねえのか、怖い姉ちゃん」
ブヅン、と。
何かが切れる音が、美神の脳内に響いた。
「ああぁぁーーー! もう、ごちゃごちゃうるっさいわねーーーー! こっちだっていろいろ考えてんのよ!!」
怒鳴ってから慌てて口を押さえるが、もう遅い。
疑われた挙句に、悪態を吐いてしまった。
事情を説明するどころか、勝手に悪くなっていく事態にどう立ち向かうのか――
いまここに来て、世界最高クラスのGS・美神令子はかつてない危機に直面していた。
【C−6 東部川岸/一日目 早朝】
【美神令子】
[時間軸]:少なくとも平安京から帰還した後。
[状態]:疲労(小)、雷撃のダメージ、すり傷。
[装備]:ヴァジュラ@スプリガン
[道具]:青き稲妻@GS美神極楽大作戦!!、鍋@現実、土手鍋@金剛番長、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いには乗らない。脱出するべく首輪を調べる。アシュタロスには関わらない。
※ジャンと少しばかり情報を交換しました。
※美神は土手鍋の説明書を名前までしか読んでいません。
※『才賀正二』を危険人物と認識しました。
【ガッシュ・ベル】
[時間軸]:コルル戦直後
[状態]:肩に痛み、頬やひざに擦り傷。フェイスレスによるザケル使用で精神が弱っています。今のところ自覚はなし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:優しい王として、泣く者がいないように頑張れないかもしれない……
【暁巌】
[時間軸]:単行本10巻、聖櫃終了後
[状態]:健康
[装備]:AMスーツ@スプリガン、スティンガーミサイル1/1@現実、予備弾頭30発@現実
[道具]:基本支給品一式、カロリーメイト9000キロカロリー分(一箱消費)@現実、ランダム支給品×1(未確認)
[基本方針]:キース・ブラックへの反抗、生還。
【兜光一】
[時間軸]:単行本12巻、コウ・カルナギに重症を負わせられ病院へ搬送中
[状態]:健康
[装備]:拡声機@現実、TOY○TA・ハイエース@現実
[道具]:基本支給品一式、H○NDA・スーパーカブ110@現実
[基本方針]:高槻涼ら知り合いとの合流し、脱出。
71 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 03:55:52.97 ID:5+UQ1CIj
72 :
ミッドナイト・クラクション・ベイビー
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 03:56:13.17 ID:tNGYiUf1
◇ ◇ ◇
懸糸傀儡『あるるかん』を操りながらも、才賀正二の脳内は違和感でいっぱいだった。
目の前で繰り広げられる戦闘には、思考の数割程度しか割けていない。
殺し合い開始から現在までに、正二が出会った三人。
金髪金眼の子どもに、美神という女性に、ジャンという青年。
その誰もが、才賀正二に恨みがあるという。
だが、当の正二自身にその記憶はないのだ。
そもそもこの殺し合いの舞台に来てからやったこといえば――子どもを保護し、階段から落下し、リュックサックを確認し、美神とジャンに襲撃された。
ただ、それだけなのだ。
他のことをやる暇などなかった。
にもかかわらず、どうして自分が恨まれているのか。
正二には、まったく理解できない。
仮に、この殺し合いに彼の親友であるディーン・メーストルがいたのならば。
顔や声をそっくりそのままコピーできる彼がいたなら、こういうこともあるかもしれない。
と考えて、正二は激しく首を左右に振った。
ディーンは親友である。仮にこの場にいたとしても、自分の悪評を振り撒くはずがない。
もとよりディーンは誠実な男なのだから、そんなことをするはずがない。
混乱の果てにこの場にいない親友に罪を被せてしまったと、正二は自己嫌悪に陥る。
「うッ、らあ!」
胸中でディーンに謝罪している正二の腹に、金属製の籠手を纏ったジャンの拳が叩き付けられる。
浮き上がってしまったところに、合わせるようなハイキック。
吹き飛ぶ正二の勢いは凄まじく、寺の壁を突き破って内部まで追いやられる。
十の指にはまった糸にあるるかんが引き寄せられ、追撃するべきジャンも続く。
「くっ!」
あるるかんは右手に持った腕状の武器を振るうが、あっさりと避けられてしまう。
懐に入ってきたジャンのアッパーを受け、正二は別の壁に穴を開けて再び外に出る。
このあるるかんにもまた、正二は違和感を抱かずにはいれなかった。
妻である才賀アンジェリーナ愛用のマリオネットであり、もうだいぶ見慣れているはずだ。
だというのに正二の知るあるるかんとは、どうにも異なっているところがあるのだ。
左顔面部に空いた穴は、ギイ・クリストフ・レッシュとアンジェリーナが戦った結果開いたと聞いていた。それは構わない。
しかし左腕が千切れているのは知らなかったし、ギイの操るオリンピアの腕を武器にしていることも知らない。
ギイとアンジェリーナが戦ったあとのあるるかんを、正二は見ている。そのときには左腕は万全であった。また、オリンピアの腕も折れていなかった。
けれどいま手元にあるあるるかんは、隻腕でオリンピアの腕を携えている。
そして、同封されていた説明文だ。
目を通してみたら、このあるるかんは『才賀エレオノール』のマリオネットだという。
そんなこと、ありえるはずがないのだ。
才賀エレオノールは――正二とアンジェリーナの娘は、まだ生まれたばかりの赤子なのだから。
(なにが起こっているのだ……?
私がおかしくなったのか、それとも私以外がおかしいのか……)
地面に叩き付けられた正二は、起き上がろうとしたが叶わなかった。
これまで何度もジャンから受けた殴打は、人形破壊者(しろがね)の身体にさえダメージを蓄積させてきたのである。
立てるまで回復するには、数分かかってしまうだろう。
その数分を待たず、ジャンは正二の首元を掴んで持ち上げた。
「どうした。電撃出しても透明になって逃げても、かまやしねえんだぜ」
まあ逃がさねーけどな――と続けて、ジャンは空いている左の拳を勢いよく振るう。
どろりとした鉄臭さが、正二の口内に溢れた。
73 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 03:57:06.40 ID:5+UQ1CIj
74 :
ミッドナイト・クラクション・ベイビー
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 03:57:15.59 ID:tNGYiUf1
吐き出された赤黒い液体を、ジャンはなんの感慨もなさそうに見やる。
正二の首を持つ手に、少しずつ力が籠められる。
このままなにも分からぬまま死に行くのだろうか。
そんなことを考えた正二の視界に、愛する妻と生まれたばかりの娘の姿が浮かび上がる。
都合のいい幻想だと理解していながらも、身を委ねかけ――
「ガあッ!?」
そんなジャンのくぐもった声によって、正二は覚醒した。
首にかけられていた力が一気にゼロになり、浮遊感が身体を支配する。
地面に接触する寸前で、何者かに抱えられた。
「大丈夫でございますか、ご老人!?」
かけられたのは、女性の声だった。
まだ少女だろう――と、正二は推測する。
視界が明瞭でなく、まだ姿を確認できないのだ。
「安心してくださいませ! この剛力番長が来たからには、あの悪党は退けて見せます!」
地面の上に広げられた布の上に寝かせられる。
正二の背中にボタンが触れ、下にあるのがただの布ではなく服なのだと分かった。
血を流してしまい治癒が遅いが、そこはしろがね。
少しずつ、視界が確かになっていく。
「聞きなさい、悪党! これより、正義を実行します!!」
ようやく回復した正二の視界が捉えたのは、学生服の少女であった。
学生服と言っても上はシャツ一枚だが、もともと着込んでいた学ランを地面に敷いてくれたのだろう。
ジャンの力を知っている正二は少女を止めようとしたが、それより早く少女は力強く踏み込んだ。
同時に地面にクレーターが空き、少女は一瞬で寺の壁に埋まっていたジャンへと肉薄していた。
「――クソッ! なんだ、あのガキは!」
瓦礫の山と成り果てた寺を見て、ジャンは吐き捨てた。
剛力番長と名乗った少女の攻撃は、すでに一度受けている。
いきなり森から飛び出して殴りかかって来たのだ。
だいぶ痛むが、寺の惨状を見る限りどうやら全力ではなかったらしい。
なんとか攻撃を受ける寸前で壁から抜け出せたからよかったが、少しでも遅れていたらいまごろ瓦礫のなかだ。
笑えないを通り越して、勝手に乾いた笑いが浮かんできた。
「オイ落ち着け! 俺は、あのジジィがガキ殺そうっていうから止めようと――」
「そんなものに騙されませんわ!」
ジャンはなんとか事情を説明しようとしたが、剛力番長は聞く耳を持たない。
よくよく考えてみれば、老人を一方的に殴っていたのだ。
なにも知らない人間には、勘違いされても仕方がない。
一発でも喰らえば致命傷になりそうな拳の雨を潜り抜けながら、ジャンは歯を軋ませる。
(そのちっせえ身体のどこに、そんなパワー隠されてるってんだッ)
見た感じ、剛力番長は獣人ではないようだ。
ならば強化人間であろうかと考え、それにしては力がありすぎるとジャンは自ら否定する。
(電気出すガキといい、巴の変身といい、二つ目のヴァジュラといい、んでもって……)
75 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 03:58:57.78 ID:5+UQ1CIj
76 :
ミッドナイト・クラクション・ベイビー
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 04:00:13.80 ID:tNGYiUf1
剛力番長の一際力を籠めた一撃をなんとか回避し、ジャンは横たわっている才賀正二に目をやる。
先ほど、ジャンは正二を殺してしまうつもりはなかった。
というのは、どうにも違和感があったからだ。
あそこまで追い込まれて、人形以外の攻撃をしてこなかった意味が分からなかった。
ゆえに一度意識を奪い、拘束する予定だったのだ。
「ワケ分かんねーことばっかだぜ!」
緩まることのない剛力番長の攻撃を門構で受け流しながら、ジャンは声を張り上げた。
【C−6 寺だった瓦礫周辺/一日目 早朝】
【ジャン・ジャックモンド】
[時間軸]:少なくともボー死亡後。
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[装備]:門構@烈火の炎、翠龍晶@うしおととら
[道具]:白兎の耳@ARMS、武士のリュック@現地調達、閻水@烈火の炎、
蔵王(空)@烈火の炎、不明支給品0〜1(確認済み)、基本支給品一式×2
[基本方針]:殺し合いには乗らない。高槻涼に会う。
※美神と少しばかり情報を交換しました。
※『才賀正二』に違和感。
【白雪宮拳】
[時間軸]:神闘郷にて暗契五連槍を撃破し脱出した後。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認しているか不明)
[基本方針]:このゲームを壊す。ゲームにのった悪人を見つけたら倒す。
※木蓮の名前を小金井薫と勘違い。
【才賀正二】
[時間軸]:25巻、エレオノ―ル誕生直後
[状態]:全身ダメージ大(治癒中)、混乱
[装備]:あるるかん
[道具]:ランダム支給品0〜2(確認済み)、基本支給品一式
[基本方針]:妻と娘を守る。
77 :
◆hqLsjDR84w
:2011/07/11(月) 04:00:39.17 ID:tNGYiUf1
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘お願いします。
78 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 04:07:59.70 ID:5+UQ1CIj
投下乙!
なるほど、雷繋がりか
なんかあっちこっちで誤解が誤解呼んでやがる!
暁らのコンビはいい感じなんだがな…
どうなる、次回!? あと相変わらず正ニさん涙目w
79 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 20:24:08.54 ID:gR4jVN9I
投下乙です
これは酷い行き違い多発な戦場だろうw
誤解に次ぐ誤解、みんながみんな無駄な戦いをしてるよwww
俺も次回が気になるよ
80 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/11(月) 20:56:12.36 ID:nGbHVPNT
投下乙!
予約メンバーにはマーダーいないのに、戦っているだとw
フェイスレスは上手い具合にかき回してくれたな。
誰も悪くないだけに、早く収まってほしいが、このガチバトルも見たいw
しかしこのロワは人の話を聞きそうもないやつらがそろってるなw
81 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/12(火) 17:46:52.64 ID:ycX9dUB0
美神もトラブってるが横島らも危ない奴が来てるぞw
82 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/12(火) 18:26:41.81 ID:EyOMK2Pb
投下乙
勝手にハマってく美神さんがらしいw 普段は横島が巻き込まれるパターンだけど、そうもいかんよなw
ジャンとのコンビや暁・兜組とか相性よさそうだし、正二・ガッシュ・剛力番長もいい対主催なのに、御覧の有様だよ!
フェイスレスは大変な種を蒔いていきました
83 :
◆6LcvawFfJA
:2011/07/13(水) 06:03:37.64 ID:HtFyEpiy
投下します
84 :
境遇ーー孤独だった三人
:2011/07/13(水) 06:04:52.74 ID:HtFyEpiy
生まれてすぐから、保護するべく隔離されていた“人形破壊者”。
親から捨てられ、幼少時代を孤児院で過ごした“元麗、現火影”。
持って生まれた異能の所為で、周囲から虐げられてきた“天界人”。
それぞれ似た過去を持ちながら、前二人と最後の一人の間には大きな差がある。
弱い為に孤立した二人と異なり、天界人ロベルト・ハイドンは強いが故に孤独だったのだ。
よって弱者を守ろうとする前の二人、才賀エレオノールと小金井薫に対して、ロベルトは疑問を抱く。
彼は、誰にも守ってもらえなかった強者なのだから。
○
「ところでしろがねさん、彼には探し人について尋ねたの?」
ホテルに到着したロベルトの言葉を受け、エレオノールの白銀の瞳孔が拡大する。
迅速に再会せねばならない人間の存在を、すっかり失念していた。
救出した小金井の安否に気を取られていた所為であるのだが、エレオノールは己を胸中で責める。
大きく肩を落とすエレオノールの動作から察して、ロベルトは視線を小金井に向けた。
「聞いてなかったのか……。君、ええと……」
「俺は小金井、小金井薫っつーのさ。そんでもって中二! 同い年くらいじゃねーかな?」
「それは偶然だね。僕も中学二年生だよ。名前は」
ロベルトは少し警戒心を抱く。
中学生であるのなら、神候補から力を授かっている可能性がある。
そしてそうだとすれば、ほぼ確実に“知られている”ことになる。
ロベルト・ハイドンは、能力者界隈ではちょっとした有名人なのだ。
「ずばり“ロベルト・ハイドン”でしょ?」
「……ッ。どうしてその名を?」
決して動揺を顔に出しすぎず、しかし多少驚いたという表情はしっかり浮かべて、ロベルトは問う。
「種も仕掛けもない簡単な話さ。しろがねのお姉さんが、さっきから心配そうに名前呼んでたからね。
ロベルトなんて名簿に一人しかいないから、当てられて当然って落ち」
白い八重歯を見せて笑う小金井。
ロベルトも一瞬唖然としてから、釣られて作っていた表情を崩してしまった。
「で小金井君、才賀勝という少年と」
「悪いけど、俺が最初に会ったのはあのシルベストリってサイボーグだよ」
小金井の言葉にエレオノールは頭を垂らし、また即座に勢いよく上げた。
「ロベルト! 怪我はありませんか!?」
「いや、大丈夫だよ。特に何も無い」
僅かだけ迷い、ロベルトは続ける。
小金井がシルベストリの名を知っているのならば、数時間と待たず明らかになってしまうことだ。
「人形を追い詰めたが、不意を突かれ逃がしてしまった。任されておいてすまない」
この発言は虚構だ。
あえて見逃したのが真実だが、それを言うほどロベルトは愚かではない。
多少叱責されてでも、不意を突かれた事にした方が立ち回りやすい。
そう考えていたロベルトに待っていたのは、予期せぬ反応だった。
「安心しました。何よりまずロベルトに傷が無いことが第一です」
大きく安堵の息を吐き、エレオノールは柔らかな笑みを浮かべる。
何故か胸が痛くなり、ロベルトは笑顔から目を逸らす。
「俺も怪我無いけど……、あいつを放っておくのは危険だね。どこに行ったか分かる」
「すまない。逃げられてから暫く捜したが見つからなかった。おそらく、既に離れられてしまっているだろう」
これもまた虚構。
エレオノールと小金井が浮かべた神妙な表情を、ロベルトは直視する事が出来なかった。
「なら、今から追っても仕方ないね……。
さっき言ってたお姉さんの探してる人の事教えてよ。俺も仲間探してるしね!」
“仕方がない”。
小金井がおそらく深い意味など籠めずに使ったであろう言葉。
それが、ロベルトの中に引っ掛かった。
先程の行動は、仕方がなかったのだろうか。
小金井とエレオノールの言葉に相槌を打ちながらも、そんな風に考えてしまっていた。
○
85 :
境遇――孤独だった三人
:2011/07/13(水) 06:07:18.31 ID:HtFyEpiy
「お姉さんは、その勝を守らなきゃいけないんだ。大変だね」
「いえ、小金井もです。柳という子……間に合うと良いですね」
「まあ……、ここと変わらないくらい危険だからね」
遠くを見ながら、小金井は表情を険しくする。
折り畳んでいるエレザールの鎌を持つ手が、微細に震えていた。
その素振りを見て、エレオノールもまた目付きを鋭くする。
保護すべき対象の事を考えているように、ロベルトには見えた。
故に、これまで殆ど動かしていなかった口を開く。
「仮定の話になるが……もしも、だ」
才賀勝と佐古下柳。
どちらも戦う術を持たないらしかった。
幼少時のロベルト・ハイドンは見捨てられてたというのに。
彼と彼女は、守ってもらえるのだという。
ならば、ロベルトには尋ねずにいられなかった。
「君達が守ろうとしている彼や彼女が、仮に……、そうだな」
包帯を纏った額から、滑らすようにロベルトは髪を掻き揚げた。
さながら何でもなくふと疑問に思った事を口にしているだけだと、印象付けているかのように。
「あのシルベストリを圧倒出来るほどに強かったのなら……、君達は守ろうとするのか?
武器を持たずとも、自動人形を一蹴する実力があったとしたら。君達よりもよっぽど強かったとしたら。
それでも君達は、彼や彼女を守るのか?」
静寂が場を支配する。
あくまでロベルトにはそう感じた。
訊いてから答えを待つまでの時間が、永劫じみて思えた。
ようやく、或いはすぐにであったのか。
ロベルトには判別つかないが、エレオノールと小金井はほぼ同時に返した。
「それは関係ありません。私は、お坊ちゃまに危険な目に遭って欲しくないのです」
「そんなのどうでもいいよ。俺は、柳ちゃんには安全でいて欲しいだけなんだから」
瞬きすることなく、銅像のように固まってしまう。
そんな自分に気付いたロベルトは、慌てた素振りを見せないように再び右手を顔に持っていく。
「そうか。変な事聞いて悪かったね」
今回は、髪がうまく掻き揚げられなかった。
気付かぬ内に掻いていた汗の所為で、髪が一部肌に纏わりついているのだ。
それに焦るロベルトを、エレオノールと小金井は怪訝そうに眺める。
彼が何をやっているのか分からないといった様子で、首を傾げていた。
86 :
境遇――孤独だった三人
:2011/07/13(水) 06:08:21.19 ID:HtFyEpiy
【E−4 ビジネスホテル/一日目 早朝】
【ロベルト・ハイドン】
[時間軸]:9巻85話『アノン』にてアノンの父親に悩みを打ち明ける寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認済、人形はない)
[基本方針]:人間を見極める。ひとまずしろがねと同行し、人が集まりそうな街へ向かう。
【才賀エレオノール】
[時間軸]:28巻『幕間�T〜「帰れない」』にて才賀勝と再開する直前。
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、自転車@出典不明、残り支給品0〜2(確認済、人形はない)
[基本方針]:とにもかくにもお坊ちゃまを捜索し、発見次第守る。ナルミにも会いたい。
※名簿は『才賀勝』までしか確認していません。
【小金井薫】
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:首に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エレザールの鎌@うしおととら、風神@烈火の炎
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。
87 :
◆6LcvawFfJA
:2011/07/13(水) 06:11:35.91 ID:HtFyEpiy
終了です
……投下後に気付いたけど、携帯で投下したらスペースがおかしくなってしまった
地の分のスペースが消えて、記号の後のスペースが半角になっている
wikiでは直します。申し訳ない
88 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/13(水) 16:46:23.39 ID:iZc/JUh6
投下乙です
今のところは小康状態かな? エレオノールと小金井は普通にロワの打開に動いてるがロベルトが微妙なんだよな
彼の抱えてる問題からしたら当たり前なんだが…
ロワで人間観察するとロクな事が起こらないんだが
89 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/13(水) 16:46:30.74 ID:m094pFTn
ちょっと気になった所を
ミッドナイト・クラクション・ベイビーなんですけど
空飛ぶ箒で移動してたジャンに追い付けるくらいの速さで剛力番長走ってきたんですか?
なんか移動距離と時間に違和感を感じました
90 :
忍法帖【Lv=10,xxxPT】
:2011/07/13(水) 21:37:22.62 ID:PyzdRFYo
投下乙
ロベルトは不安定で怖いな、どう転んでもおかしくない
この二人の真っ直ぐさが彼の救いになってくれればいいんだが
>>89
剛力番長の前話の時系列は深夜だ
そう考えるとそう矛盾したものでもあるまい?
91 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/14(木) 06:40:09.53 ID:/RGiVsPX
番長ならそれくらいはやるだろjk
92 :
◆hqLsjDR84w
:2011/07/22(金) 14:24:04.41 ID:8A2R6s6i
遅れました。投下します。
93 :
妖語(バケモノガタリ)
◆hqLsjDR84w
:2011/07/22(金) 14:26:31.48 ID:8A2R6s6i
◇ ◇ ◇
妖(バケモノ)が生まれるのに、特別な物など必要ない。
供物を捧げなくとも。
まじないを唱えなくとも。
魂の宿る憑代を用意せずとも。
代償として対価を支払わずとも。
たった一つ。
何かしらを憎悪する――
深い思いがあるならば、どこからであろうと生まれいずる。
妖とは、そういうものだ。
◇ ◇ ◇
「山を下りるのは早すぎると、俺は思う」
「あぁん?」
「あぁんって……そんな反応せんでも……」
眉をひそめた霧沢風子に、つい横島忠夫はたじろいでしまう。
とはいえ、考えを主張しないワケにはいかない。
この場において一つのミスが死に繋がるのは、傍らに盛られた土山からも明らかなのだから。
時間をかけて真剣な表情を作り、横島は再び口を開く。
「たぶんの話になるけど、地図の真ん中にある街に向かう人は多い」
「だから行こうつって――」
「さっき埋めた……坊主を殺したヤツだっている」
先ほど埋葬した坊主頭の遺体は、まだ死んで間もないものだった。
あの遺体は、確実に他殺によるものである。
全身を銃弾で抉ったのち、頭部を撃ち抜く。凶器は消え失せ、所持しているはずの道具も見当たらない。
そんな自殺は――ありえない。存在し得ない。
ならばあの坊主頭は何者かにより殺害されたということであり、すなわち坊主頭を殺した参加者がいるということだ。
「たりめーだ。そんなこと分かってる……だから!」
風子の言葉に続きがあるのを分かっていながら、横島は抑え込むように告げる。
「たぶん、そいつはまだ山にいる」
「……っ!」
「人が集まる場所は、危険度も高いからね。
最後の一人になるつもりなら、わざわざ最初から動いたりしない」
はっとしたように目を見開いたのち、風子は勢いよく首を捻る。
特になにも見当たらなかったらしく、安堵したように息を吐いた。
94 :
妖語(バケモノガタリ)
◆hqLsjDR84w
:2011/07/22(金) 14:27:27.35 ID:8A2R6s6i
「下山する前に、まずそいつを見つける――って話かよ」
「そういうことそういうこと!」
「たしかに放っちゃおけないしね。ちぇ、アンタに教えられるなんてね」
風子は軽く舌を鳴らしてから、いたずらっぽくはにかむ。
照れくさそうな笑顔に、横島は見とれてしまい――そして良心が痛んだ。
山奥へと歩み出した風子の背を追いながら、横島は僅かに俯いた。
横島自身は、坊主を殺した者が山に残っているとは考えていない。
あの死体は、銃撃をいくつも受けていた。
ただ生き残りたいだけの参加者ならば、あそこまで弾丸を無駄にはしない。
いたぶるような真似をするのは、自分の力に自信がある者だけだ。
だとすれば、山に潜んだりはしない。
山に籠り解決を待つのは、自信を持たない――横島のような人間だけだ。
風子を危険に遭わせたくないという考えから、嘘を吐いたのだが――
本当にそうだったのだろうか、と横島は思い始めた。
危険に遭いたくないのは自分であり、風子と離れるのが怖かっただけではないか。
そこまで考えて、横島は自嘲気味な笑みを浮かべる。
まさしく、その通りであった。
GS(ゴーストスイーパー)だというのに、女子高生に頼っている。
元より自分に自信などなかったはずなのに、それでも横島は自分が情けなくなった。
「――っぶねえ!」
そんな思考は、風子の振り向きざまの飛び蹴りより打ち切られる。
吹き飛ばされる横島の視界に映ったのは、先ほどまで自分がいた空間を両断していく三日月状の刃であった。
飛来してきた刃のスピードは緩まることなく、樹木を伐採していく。
小枝だけでなく、両手で抱えきれないほど巨大な幹さえ容易く斬り刻まれた。
舞い落ちてくる葉や枝は、上空数メートルの地点で弾かれる。
横島が振り返ると、風子が握る風神剣に装飾された玉が鈍く光っていた。
おそらく、風でバリアを張っているのだろう。
道具に恵まれなかった横島と違い、風子は戦うことができる。
邪魔にならないようにいち早く立ち去ろうとして、横島は怒声を浴びせられた。
「立つな、バカ!!」
えっ、と。
意図せず零れた声は、しかし風を斬る音に飲み込まれる。
視線だけ音のほうへと飛ばすと、山奥へと消えたはずの刃が肉薄していた。
なぜか、横島の視界はスローモーションじみていた。
そこでようやく、三日月状の刃がブーメランに酷似していることに気付く。
ブーメランであるのならば、戻って来るのは当たり前だ。
などと考えている間にも、刃は少しずつ接近し――接触する寸前で突風が横島を押した。
◇ ◇ ◇
95 :
妖語(バケモノガタリ)
◆hqLsjDR84w
:2011/07/22(金) 14:29:03.10 ID:8A2R6s6i
「ちいっ」
三日月状の刃が戻って行った方向を見据えたまま、風子は舌を打つ。
刃の正体が魔道具『海月』であると知っていたから、なんとか反応することができた。
接近する音を捉えて初撃を回避して、二撃目も風神剣のおかげで避け切れた。
だが仮に被害者が風子でなければ、こうはいかない。
海月の特性を知らねば、二撃目でやられてしまっていたのだ。
「死ぬかと思った……ッ。サンキュー、風子ちゃん」
突風によって地面に叩き付けられた横島が、ゆっくりと立ち上がる。
そちらを見るワケにもいかず、返事だけしようとして――呑み込む。
海月が戻っていった方向に、いつの間にか人影があったのだ。
ずっと視線を向けていたはずなのに、接近に気が付かなかった。
完全に、不意を突かれた。
まるで、ほんの少し横島を意識した瞬間を見計らったように。
「魔族、か……?」
横島が言うように、出現した影は見るからに人間ではなかった。
服を纏っているのは下半身だけで、他の部位は肌が露になっている。
その見える肌が、仮面のような顔面が、人間ではないことを主張している。
「へ、へへへ、見つけた。これで、やっと三人だァ!」
海月はすべての部位が刃で構成されている分、通常の刀剣より遥かに重い。
にもかかわらず、海月は右手一本で軽々と持ち上げられている。
だが風子にとっては、そんなことはどうでもよかった。
その程度、鍛えていればできることだ。
問題は、薄ら笑いを浮かべながら紡がれた言葉である。
「オイ、化物(バケモノ)……いま、なんつった?」
もしも言葉が真実であるのなら。
人を殺して笑っているというのなら。
そんなものは――化物だ。
ゆえに、風子は眼前の影をそう呼んだ。
「あァ? なにって……へっ、これ見りゃ分かるだろ」
海月を持たず空いている左手を、化物は前に出す。
その手には、リュックサックが二つ握られていた。
「テメェ……っ!!」
風子は何事か続けようとして、歯を噛み締める。
言葉などでは足りないと、判断したのだ。
風神剣を構えて、意識を集中させる。
先ほどまで鈍い光しか放っていなかった玉が、激しく輝きだす。
周囲を風が渦巻き、風子の髪が舞い上がる。
身体にフィットした黒いタンクトップも、風によって揺らめく。
96 :
妖語(バケモノガタリ)
◆hqLsjDR84w
:2011/07/22(金) 14:30:36.29 ID:8A2R6s6i
「タダじゃ済まさねえ……!」
人を殺しておいてニヤついているのが、風子には分からない。
悔やむことなく殺人を続けようというのが、認められない。
死の重みをまったく感じていないのが、もっとも気に喰わない。
自分のことを好きだと言ってくれた友達を、この殺し合いに呼び出される少し前に喪ってしまったから。
自分を庇って死んでいった友達の体温を、死に際に浮かべた笑みを、彼女がかけてくれた言葉を――覚えているから。
もう、あんな、緋水のような悲しい人が生まれてしまうのはイヤだから。
風子は人殺しを許せない。
許せないし――許さない。
許さないから、だから――
「……やる……!」
緋水を殺した男のように、人を殺して笑っているようなヤツは。
そんな、化物は――
「……て、やるっ!!」
風神の玉の輝きは、さらに増していく。
月より遥かに強く暴力的に、闇夜を照らす。
次第に、玉の中心に文字が浮かび上がる。
文字は鮮明になっていき、ついに読み取れるようになる。
宝玉に描かれた文字は、隠されていた漢字は――――『風』。
「…………してやるッ!!!」
風子の宣言は、彼女を包む巨大な竜巻によって掻き消される。
吹き飛ばされないよう必死で踏ん張っている横島には、聞き取ることができない。
化物のほうも同じくのはずだ。
だというのに。
そのはずなのに。
化物は、口角を吊り上げた。
「なァんだ」
察したように。
勘付いたように。
見透かしたように。
感知したかのように。
――――悟ったように。
「お前も妖(バケモノ)かァ」
携える海月と同じ形に、化物は口元を歪めた。
そのままの表情で膝を曲げる。
「他に妖がいるなら、任せるかァ。
殺す数が少なく済むし、楽でいいや」
とだけ言って、化物は跳ねた。
一跳びで木々のなかに紛れ込み、影は見当たらなくなる。
97 :
妖語(バケモノガタリ)
◆hqLsjDR84w
:2011/07/22(金) 14:32:38.12 ID:8A2R6s6i
「なん、だったんだ……?」
首を傾げる横島と異なり、風子には化物の言わんとする言葉が理解できていた。
先ほど風子は、化物を殺そうとした。
人殺しを許さないはずなのに、自ら進んで殺そうとしたのだ。
殺意を抱いていた風子自身だからこそ、分かってしまう。
人を殺して笑うような化物に――なっていたことが。
「う……ぁ…………」
風子は、自分を覆う竜巻を消滅させる。
この規模の竜巻をぶつけたなら、人は簡単に死ぬ。
当たり所が悪くても死ぬ。
そんな竜巻を生み出していた事実に、風子は背筋が凍ったように感じた。
駆け寄ってくる横島から、咄嗟に視線を逸らす。
笑顔を向けられるのがつらかった。
人を殺す――化物に、微笑みなんて向けないでほしかった。
下卑た笑みが、風子の脳裏を過る。
緋水を殺した男の哄笑が。
憎いはずのあの男が化物であるのならば、化物と呼ばれた自分とあの男は――
と、考えて、風子は駆け出した。
近付いてきた横島に背を向けて、逃げ出すように走る。
「イヤぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
甲高い声を上げて、無理矢理に思考をシャットアウトする。
なにも考えてしまわないように、ただ叫ぶ。
障害物は風神剣で粉砕して、人が集まらないであろう山奥へと走る。
道中で、リュックサックも捨ててしまう。
すべてを手放して逃げ出す彼女の手には、風神剣が握られたまま。
拒んだつもりで、力強く握り締めている。
その事実に、霧沢風子は気付かない。
風神の宝玉が煌めき、『風』の文字がさらに鮮やかになる。
彼女の前髪が二箇所――額が左右、僅かに盛り上がっていた。
◇ ◇ ◇
「どう、なってんだ……?」
残された横島は、怪訝そうに呟く。
なにがあったのか、まったく理解できていない。
いきなり魔族が襲いかかって来たかと思えば去り、安心したら風子が山へと走って行った。
ただ、去り際の風子が浮かべていた表情だけが、横島のなかに強く残っている。
なにかを恐れるような怯えた表情をしていたのだ。
やはり戦えるにしてもただの女の子なんだ――と、横島は再認識した。
98 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/22(金) 14:33:53.60 ID:gwgDgQa2
99 :
妖語(バケモノガタリ)
◆hqLsjDR84w
:2011/07/22(金) 14:34:58.31 ID:8A2R6s6i
言いながら、横島はバンダナを解く。
バンダナは、なにも言わない。
いつかのように助言してくれることはない。
「美神さん、いるんなら出てきてくださいよ」
横島の呼びかけに、応えるものはなかった。
ただ、山の上から風が吹いてきただけである。
「……ははっ、誰もいやしない。俺だけの番外編か。
ま、そらそうか。三話も、美神さん出て来ねーんだもんな」
バンダナを締め直して、髪をかき上げ――笑う。
魔族まで呼ばれている殺し合いの舞台で、ふてぶてしく。
余裕があるのではない。
むしろ、そんなものはない。
余裕がある風に装って、自分を騙そうとしているのだ。
この世に横島忠夫ほど騙されやすい人間がいないことを、横島はよく知っている。
しかしうまく行かず、吊り上げた口元が微かに痙攣してしまう。
そんな自分があまりに自分らしく、横島は今度は本当に笑ってしまった。
「出ろ、『文珠』」
横島は、右手に意識を集中させる。
自分の能力を発動させるために。
とはいえ、この場で何度も試したことだ。
これまで一度も発現させることはできなかった。
その理由を風子には、霊力の源である煩悩が足りないためと説明していた。
「へっ、そんなワケないだろ」
横島の掌上に霊力が集い、火花が飛び散る。
「あんな子といて、この横島がムラムラしねーかよ!
知ってるかよ、気付いてるのかよ、風子ちゃん。
風子ちゃんが前歩いてるとき、俺は尻ばっか見てたんだぜ。
殴られてるときだって、ずっと揺れてる胸から視線離さなかったんだ。
いっそもっと殴ってくれくらいに思ってたね。『ギャー』とか言いながら。
あとさっきの竜巻で髪がなびいてるのもまた、新鮮でよかったね! 見とれた! 見とれとった!
タンクトップが下からの風でめくれて、ヘソ見えちゃってたしね! もっかいやってくれよ!
だいったい、タンクトップにホットパンツって! そら見てまうわい! 肌が出ているもの!
俺は悪くない! そんなカッコしてたら見るのが当然っていうか、見ないほうが申し訳ない!
なににって、風子ちゃんに! せっかくそんなカッコしてくれたんなら、ガンガン見るのが礼儀でしょーて!!」
一際激しい閃光を最後に、異変が収まる。
横島の掌には、玉が三つ乗っていた。
そのうち一つに『速』という文字が浮かび上がり、横島が加速した。
これが、文珠の効果。
玉に刻み付けた漢字次第で、効果を発動させる。
無限の可能性を秘めた能力。
「横島ってヤツはタチ悪いんだぜ、風子ちゃん。
はたかれても、殴られても、蹴られても、つねられても、呪われたって、追っかけるんだ。
そんなヤローからなにもしないで逃げるなんて、まったくもって分かってないぜ! 甘い甘い甘い甘い! いまから行くから、もっと殴ってくれ!」
100 :
妖語(バケモノガタリ)
◆hqLsjDR84w
:2011/07/22(金) 14:35:34.60 ID:8A2R6s6i
【C−1 森林北部/一日目 早朝】
【霧沢風子】
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:健康、錯乱
[装備]:風神剣@YAIBA
[道具]:
[基本方針]:烈火たちと合流したい――けれど、現在は人に会いたくない。
【横島忠夫】
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:焦り、ボッコボコ(=いつも通り)、文珠×2、文珠『速』発動
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、謎の玉@不明、ハンディカラオケ@現実、風子のリュック(基本支給品一式、支給品0〜2(風子確認済み)、水一本消費)
[基本方針]:死にたくない。風子を落ち着ける。
【C−1 森林南部/一日目 早朝】
【さとり】
[時間軸]:紫暮&うしお戦直後
[状態]:万全
[装備]: 海月@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜5
[基本方針]:優勝し、ミノルの目を治して一緒に暮らす
101 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/22(金) 14:36:33.10 ID:77bu6pIj
102 :
◆hqLsjDR84w
:2011/07/22(金) 14:36:49.25 ID:8A2R6s6i
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘お願いします。
『デッドマンズry』における剛力番長の移動距離については、剛力番長の前話が深夜であったので問題ないと判断しました。
103 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/22(金) 14:40:29.59 ID:gwgDgQa2
投下乙です
風子が鬼になりかけてる……
104 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/23(土) 07:29:23.52 ID:zBNEAcjy
投下乙。
風子が鬼化してきたか…
さとりのキャラもいいなぁ〜原作では主要でもないただの妖なのに、いい味だしてるよ。
そして横島始動!原作見たことないけどこいつ好きだわw最後の語りがどうしようもない事言ってるのに格好良く聞こえるw
改めて投下乙です!
105 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/23(土) 12:10:27.99 ID:nDCwS22L
投下乙!
風子がーっ!なまじ風の力と相性いいだけに鬼化が早いのか……
このまま妖のモノに転がり落ちてく気配がぷんぷんで恐えぇぇぇ!
んで、先の人も言ってるけど横島がすげぇ最低な事言ってるのにかっこよく見えるなw
106 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/23(土) 13:22:16.45 ID:tj0NRsOV
投下乙です
俺も横島は凄く最低な事言ってるのに凄くかっけいいんだよなw
これがこいつの魅力なんだよ。それを書いて表現してる書き手は本当に横島を理解してるなぁ
さて、横島は風子を止められるか…
107 :
創る名無しに見る名無し
:2011/07/23(土) 19:53:34.42 ID:iNBsKGdV
投下乙
風子が完全に鬼化してしまったとしても、人外と相性の良い横島ならなんとかしてくれる!
108 :
◆hqLsjDR84w
:2011/08/04(木) 10:50:29.02 ID:ecuOh/iT
投下します。
109 :
現在位置〜Fly! You can be Free Bird〜
◆hqLsjDR84w
:2011/08/04(木) 10:51:08.21 ID:ecuOh/iT
◇ ◇ ◇
キース・シルバーは北へと進む速度を緩めずに、視線を上空に飛ばす。
だいぶ沈んでしまった月は、もう建造物の隙間からしか確認できない。
僅かに夕闇に光が差し始めていたことからも分かっていたが、朝が近付いてきている。
視線を前方に戻し、シルバーはツバの短い軍帽をかぶり直す。
一見落ち着いているようだが、彼の口内では歯が軋みをあげている。
先刻、シルバーの背後で炸裂音が響いた。
その際は、わざわざ来た道を戻らずともすぐに別の参加者と巡り合える、と考えていた。
だが現在、夜が明けつつあるというのに、殺し合い開始直後の戦闘以降は誰にも会えていない。
判断を誤ったか、と口に出そうとして、シルバーは硬直した。
口だけではなく、北上する足までが止まってしまう。
唐突に、身体に痺れあがるような感覚が走り抜けた。
体内に埋め込まれたARMS『帽子屋(マッドハッター)』のコアが、他のARMSを感知したのだ。
闘争を求めるマッドハッターが、シルバーの全身へとナノマシンを流し込む。
ゆったりとした軍用ロングコートの下で、身体が膨れ上がらんとする。
「鎮まれ」
かつて『魔獣(ジャバウォック)』に刻まれた、ナノマシンの治癒力すら及ばぬ――永遠に治ることない左腕の傷。
その未だ疼く傷痕を、シルバーはコートの上から押さえつける。
そのままの状態で数分待って、ようやくマッドハッターが小康状態となった。
依然としてARMSの共振反応が走る身体で、シルバーは東部を見据える。
反応は、そちらからである。
強者との闘争は待ち望んでいたところだ。ARMS適正者ならば、相手として申し分ない。
しかしシルバーは、昂ぶるマッドハッターを落ち着かせた。
無数の死を振り撒く『戦いの神』にもかかわらず。
なぜなら共振反応を放っていたARMSは、『チェシャ猫(キャット)』。
適正者はキース・シリーズが末弟、キース・グリーン。
だとすれば、いかに戦いの神とて矛を納めようというものだ。
シルバーとグリーンは同じく作られた人間であり、同じ遺伝子から生み出されたクローンであり、同じく運命をプログラミングされた存在であり、何より――兄弟であるのだから。
チェシャキャットの共振反応は、極めて微弱であった。
普段の自信に満ちたグリーンであれば、共振反応を大きくしてオリジナルARMSを炙り出そうとするだろうに。
と思いつつも、シルバーにはその理由が分かっている。
キース・シリーズの長兄であるキース・ブラックにより、赤木カツミという少女が殺害された。
グリーンが兄に逆らってまで必死で守ろうとした――彼女が死んだのだ。
ゆえにであろうと推測して、シルバーは再び歩み出す。
ただし先ほどまで向かっていた北ではなく、共振反応を放つ東へ。
キース・シルバーとキース・グリーンは兄弟であり、シルバーはグリーンの兄である。
共振反応から察するに、シルバー以外の兄弟はグリーンのそばにいない。
あの雨の日のように、妹に任せて陰から見ているワケにはいかない。
ならば、行かぬ道理はない。
どうしてキース・ブラックは、高槻涼に殺害させるはずの赤木カツミを手にかけたのか。
それはシルバーには分からない。事前に知らされてもいなかった。
ただ、ブラックが意味のない行動をする男でないことは知っている。
傍から見て無意味に思えようと、彼にとっては何らかの意味があるはずなのだ。
そう推測できるからこそ、シルバーはグリーンの元へと向かう。
ブラックの意図通り、キース・シルバーは自らの意思で闘争を欲する戦いの神となったからこそ。
まだ若い弟は、ブラックの敷いたレールに乗せてしまわぬように。
110 :
現在位置〜Fly! You can be Free Bird〜
◆hqLsjDR84w
:2011/08/04(木) 10:52:28.42 ID:ecuOh/iT
◇ ◇ ◇
コウ・カルナギを追うこともせず、キース・グリーンはただ立ち竦んでいた。
乱れていた呼吸は、とうに平時と変わらぬほどに落ち着いている。
だというのに微動だにせず、ただ脳内を駆け巡っている。
どうすればいいのか、と。
そんな端的で、けれどあやふやで曖昧な疑問が。
死した赤木カツミを蘇らせるべく、最後の一人となる。
目的は決まっているはずなのに、一歩さえ踏み出せない。
身の程を思い知り安全に立ち回るはずが、自分が勝ち残るヴィジョンがイメージできない。
「……兄さん」
自分と同じ顔をした男が現れたことに、グリーンは驚かない。
兄の接近は、すでに共振反応で分かっていた。
最後の一人を目指すにおいて、もっとも高い壁の一つと想定していた――キース・シルバー。
先手必勝と空間の断裂を放とうとして、やはりできなかった。
チェシャキャットの能力は、マッドハッターとの相性は決して悪くないはずなのに。
動こうとしないグリーンの前方三メートルほどのところで、シルバーは足を止める。
グリーンには、兄の姿がかつてよりも大きく見えた。
ついつい、目を背けてしまう。
「俺は、この場においても戦いの神として闘争を振り撒く」
グリーンは息を呑むだけだ。
死してなおまったく歪まぬ兄の在り方に、ただそれしかできない。
「お前はどうする。
赤木カツミを喪ったお前は、なにを欲する。
お前という存在は、どう生きてどう果てる」
「僕、は…………」
返答の半ばで、グリーンの声は掻き消えてしまう。
すでに決めたはずの目的が、言葉にならない。
言ってしまっていいのかなどという考えが、動こうとする口を固めてしまう。
「答えられなくとも構わない。すぐに答えを出す必要などない。
ただ、決めるのはお前自身だ。お前が、人間であるのなら……な」
それだけ言うと、シルバーは踵を返して来た道を戻っていく。
少しずつ小さくなっていく巨大な背へ向け、グリーンは声を張り上げた。
「だけどっ! だけど兄さん!」
攻撃も宣言も放てなかったというのに、疑問だけは簡単に口から滑り落ちる。
そんな自分に、グリーンはまたしても情けなくなった。
「ジャバウォックとの戦いで、命を落として!
それでもなお、兄さんは戦いの神としてあることができるの!?」
シルバーの足取りが止まった。
返答はなく、世界が凍ったかのように周囲が静まり返り――前触れもなく猫の鳴き声が響く。
グリーンに支給された猫が、いつのまにか草むらに潜んでいたらしい。
一瞬だけグリーンがそちらに意識を向けると、彼方へと走り去っていく。
立ち込めていた緊張感が、あっさりと破られた。
深く息を吐いたのち、シルバーは力強く告げる。
111 :
現在位置〜Fly! You can be Free Bird〜
◆hqLsjDR84w
:2011/08/04(木) 10:53:05.48 ID:ecuOh/iT
「当然だ。
そもそも俺が真に運命を受け入れたのは、ギャローズ・ベルでヤツに敗北を喫して以降。
一度敗北しようとも、二度敗北しようとも、俺はキース・シルバーであり続けることに迷いはない。
仮に息絶えようとも、戦闘生命として――――闘争の果てに、より強大に、より最強に進化し続けるのみ!」
振り向かずに言い放ち、シルバーは遠ざかっていく。
だが離れていく兄の姿は、グリーンの視界には入っていなかった。
兄の言葉残した言葉が、彼の思考を支配している。
――最強に、進化する。
最強を自負していたグリーンは、ブラックに攻撃が届かなかったことで最強を名乗ることをやめた。
しかしジャバウォックに及ばなかったシルバーは、最強を目指すという。
そして動くことができない自分とは違い、闘争を求めてさまよっている。
縮こまっていた自分とは違い、大きな背中を見せつけている。
「……く、くははは!」
これまで表情の死んでいたグリーンが、大きく口角を吊り上げた。
白い歯を露にしながら、まず右足そして左足と一歩ずつ前に出す。
へばりついてしまったかのように立ち竦んでいた身体は、久方ぶりに前に踏み出すことができた。
笑みを抑えきれないまま、髪を下からかき上げる。
「チェシャキャットは最強じゃない……そう、チェシャキャットは確かに敗北した」
乱れていた髪を整え終えたころには、浮かんだ笑みは最強を自負していたころのような獰猛なものとなっていた。
「だから『いまは』最強じゃないかもしれないな。けれど――」
グリーンが右の手首を勢いよく捻ると、関節が軽快な音を鳴らす。
呼応するように、チェシャキャットが空間に牙を剥く。
「だったら、『これから』なればいい」
宣言したグリーンの眼前で、空間の断裂がシルバーを襲う。
思い上がりを実感し、されど再び最強を名乗らんとするために放たれた二つの断裂。
それらはかつてないほど正確に、グリーンが想定した軌道を寸分の狂いさえなく走り抜けていく。
チェシャキャットの適正者となりキース・グリーンの名を授かってから、すでに短くない時間が経過している。
けれども現在放った断裂こそ、もっとも完全で精度が高い。
なぜここに来て、チェシャキャットは過去最高の一撃を繰りだしたのか。
グリーンは、そんな疑問を抱きはしない。
兄の言葉を受け、最強を目指す決意をして――やっと思い出したのだ。
初めてARMSコアを埋め込まれたあの日より、ずっと問われてきた言葉を。
ジェームズ・ホワンに追い詰められたときも、キース・ブラックに及ばなかったときも、コウ・カルナギに見下されたときも。
いつだって、尋ねられていたのだ。
常に、最強となりうる力は自分のなかにあったのだ。
そのことに気付いたからこそ、グリーンは答えたのである。
――――力が欲しい、と。
「ありがとう、シルバー兄さん。
おかげで最後の一人となる決意も――確信もできた」
112 :
現在位置〜Fly! You can be Free Bird〜
◆hqLsjDR84w
:2011/08/04(木) 10:53:43.59 ID:ecuOh/iT
自分の左右にある地面に深い亀裂が走っていても、シルバーはたじろがない。
少し逸れてれば腕が斬り落とされていたというのに、歩む速度さえ緩めず遠ざかっていく。
「兄さんは闘争を振り撒いてくれればいい。次にあったら、そのときは――」
グリーンが言い終えるより、シルバーの返答のほうが早かった。
依然として振り返らずに、ARMS化させた右掌だけを向けて荷電粒子砲を放ったのだ。
纏ったスーツを掠めるギリギリの射線で、グリーンのすぐ右側を通り過ぎていった。
みなまで言うな、という意味であろう。
黙ったまま小さくなっていくシルバーの背中が、グリーンにはやはり大きく見える。
しかし正視することに躊躇はなくなっていた。
ふとグリーンが気付くと、太陽が顔を出そうとしていた。
俯いていたために分からなかったが、だいぶ時間が経過していたらしい。
けれども、もう時間の経過を見過ごすことはないだろう。
浮かびつつある太陽の光が、グリーンにはどうにも心地よく感じた。
【E−2 平原/一日目 早朝】
【キース・グリーン】
[時間軸]:コミックス17巻NO.11『死王〜バロール〜』にて共振を感じ取って以降、コミックス18巻NO.3『聖餐〜サクラメント〜』にてキース・ブラックの前に立つ前。
[状態]:疲労回復
[装備]:いつものスーツ、参加者レーダー@オリジナル
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、カツミの髪@ARMS(スーツの左胸裏ポケット)
[基本方針]:なんとしても最後の一人となる。そのためなら兄さんや姉さんだって殺すし、慢心を捨てて気に入らない能力の使い方だってする。
※空間移動をするとかなり体力を消耗するようです。
113 :
現在位置〜Fly! You can be Free Bird〜
◆hqLsjDR84w
:2011/08/04(木) 10:53:53.39 ID:ecuOh/iT
◇ ◇ ◇
背後を確認することなく、キース・シルバーは進む。
歩いていながらも、ほとんど意識は思考に費やされている。
グリーンによると、シルバーはジャバウォックとの戦いで死んだらしい。
だがあえて言わなかったが、シルバーにその記憶はない。
ジャバウォックの高槻涼を含むオリジナルARMSとの戦闘が近付いてきたところで、ブラックにプログラム・バトルロワイアルの存在を教えられたのだ。
とはいえ、グリーンが嘘を吐いているとは思えない。
ゆえに、シルバーは簡単にグリーンの言葉を受け入れた。
ブラックに渡された資料によると、参加者は『異なる時間』や『異なる世界』から連れてこられたのだという。
そのことを知っている以上、想像はついた。
『キース・シルバーの死んだ世界』または『キース・シルバーが死んだ未来』より、グリーンは呼び出されたのであろうと。
思考の渦から復帰し、再びシルバーは北を目指すべく方向転換する。
自分が死んだ世界や未来があると知っても、シルバーの方針は変わらない。
もう、決めたのだ。
彼の意思は、すでに固まっているのだ。
だからこそ、死に行くのだとしても変わらない。
――――プログラム・バトルロワイアルにおいても、キース・シルバーは『そう』するだけだった。
【E−2 路上/一日目 早朝】
【キース・シルバー】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にてオリジナルARMSたちがカリヨンタワーに乗り込む直前。
[状態]:疲労回復、傷再生、共振波を放出中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:闘争を求める。北へ向かう。
114 :
◆hqLsjDR84w
:2011/08/04(木) 10:54:14.28 ID:ecuOh/iT
投下完了。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘お願いします。
115 :
創る名無しに見る名無し
:2011/08/05(金) 01:12:30.95 ID:MlIQkg1+
投下乙です
これはまた濃いなぁ
どうなるかと思ったらグリーンが変な方向に覚醒したわw
シルバーはシルバーで頭が勝手に考察しつつも闘争を求めるのは変わらずか
この二人に出会う人は不幸だな…
116 :
創る名無しに見る名無し
:2011/08/05(金) 16:37:25.68 ID:Ef8kCB2U
投下乙
シルバーの喝でグリーンの迷いも完全に吹っ切れたか
キースシリーズ同士にある信頼関係って切ないけど良いね
117 :
創る名無しに見る名無し
:2011/08/11(木) 17:05:53.87 ID:0llNpvU5
ほしゅ
118 :
創る名無しに見る名無し
:2011/08/14(日) 19:39:22.42 ID:mgnd4XKe
予約キター
119 :
創る名無しに見る名無し
:2011/08/18(木) 07:55:55.14 ID:CKYpSLyM
予約きてる〜
てか最近停滞気味ですね…プライベートの休みを皆さんも楽しんでるのでしょうか?
投下を楽しみに待ってます。
120 :
◆6LcvawFfJA
:2011/08/23(火) 16:08:44.59 ID:77bTcA3O
投下をします。
121 :
疎通――少年さとり
◆6LcvawFfJA
:2011/08/23(火) 16:10:00.09 ID:77bTcA3O
危うく声を上げてしまいそうになり、バロウ・エシャロットは慌てて両手で口を押えた。
山を抜けてきた男目掛けて放った銃弾が、いとも容易く回避されてしまったのだ。
完全に不意を突いたはずなのに。
しかし周囲には樹木が生い茂っている。それらに隠れれば、再び奇襲を仕掛けることができる。
戦闘が長引くほどに“過去放った自らの攻撃を再び現実にできる”バロウは、優位に立てるのだ。
その考えから忍び足で移動しようとして、今度こそバロウは驚愕の声を漏らしてしまった。
「馬鹿なッ!」
男が、握っていた三日月型の剣を投擲したのである。
“バロウが身を潜めようとしていた樹木”目掛けて。
山の麓に現れた人影を発見し、微塵もこちらを警戒していない様子であったのを確認してからバロウは攻撃を仕掛けた。
にもかかわらず、既に自分の存在を知り先の行動を読んでいるかのように対応されている。
よもや、眼前の男は“能力者”なのだろうか。
そう考えた端から、バロウは否定する。
先に殺害した坊主頭の男も、口から衝撃波の様な物を射出していた。
一見老けて見えたが、制服を着ていた事から彼は中学生であったのだろうと結論付けた。
中学生でなければ、神候補から能力を授かることはないのだから。
だが、こちらを冷たい目で見ている男はどうだ。
年相応に見えない中学生を何人も見てきたが、さすがに眼前の男はとても中学生とは思えない。
どう見ても、バロウの母親と同世代である。
ならば、何故、能力者じみた動きをするのか。
現実であって欲しくない仮説が、バロウの脳内に浮かぶ。
眼前の男は神候補に能力を授かった中学生ではなく、“神候補そのもの”なのではないか。
だとすれば、勝ち目はない。
たった一つしか能力を与えられない中学生とは異なり、神候補は複数の能力を持ち合わせている。
もしそうだとすれば、勝ち目はない。
複数の能力に、さらに天界人たる神候補は高レベルの神器まで所有しているだろう。
神候補相手に立ち回れる能力なぞ、唯一ロベルト・ハイドンの保持する“理想を現実にする”能力くらいだ。
服の下で肌の表面を伝う汗が、やけに冷たい。
逃げに徹するべきだろうかと思考したバロウは、唐突に横に跳んだ。
物体が回転する音、乱れる大気の流れを察知したのだ。
先ほど男が投げた剣が舞い戻っている事実に勘付いたのは、バロウがデジャヴする神器の使い手である故。
相手が神候補ならば、同じ能力を持っててもおかしくないという考えがあった。
迫り来る剣のブーメランのような特性に気付かずして、運良く回避することができた。
されど咄嗟に跳べば勿論、体勢は崩れてしまう。
その隙を逃すまいと、初撃以来微動だにしていなかった男が疾風となる。
たったの二跳びで、加速を完了。
三跳び目で、体勢を低く落とす。
四跳び目に移る寸前、空中で戻ってきた剣を危なげなくキャッチ。
四、五、六跳び。五十メートル近くあった距離を詰め、バロウに肉薄。
体勢を立て直し切れていないバロウを見下ろし、にたりと表情を歪める。
「へへ。へへへへ」
追悼の声をかけることもせず、剣を掲げた。
「へ?」
男の漏らしていた笑い声の語尾が吊り上る。
振り下ろした剣が、バロウの右腕を覆う巨大な砲台に防がれたのだ。
一ツ星神器“鉄”。
銃口から球状の弾丸を放つ、遠距離用神器。
防御用の神器は他にあるのだが、ここまで接近されてしまえばあちらでは対応出来ない。
「ぐ……」
剣と砲台が拮抗していた時間は、ほんの数秒。
突然発現した神器に男が面食らっていた僅かな時間だけ。
すぐに少しずつだが押されてしまい、バロウの表情が歪む。
122 :
疎通――少年さとり
◆6LcvawFfJA
:2011/08/23(火) 16:10:35.08 ID:77bTcA3O
「負けられないんだ……」
天界人でこそあるが、バロウの肉体は屈強ではない。
タフではあっても、力強いというタイプではない。
昔から、彼は体を動かして活発に遊ぶのが好きではなかった。
外に出たとしても、風景をモデルにして絵を描いて楽しんでいた。
時には樹木を、時には街を、時には河を、時には母を、紙に描く。
ほんの少し前まで、そういう子供であったのだ。
だが、戦わねばならない理由が今はある。
その為ならば、忌むべき天界人としての力だって使う心積もりだ。
たとえ、母から声と音を奪った“鉄”であろうとも使用する。
「相手が神候補でもッ、僕はッ!」
負けてはならない。
彼は、何としても夢を叶えねばならないのだ。
天界人の能力を捨て人間となれば、また母が倒れる前の生活を取り戻せると信じている。
化け物のままでは、家族として愛してもらえなくとも。
と、バロウが考えた瞬間、“鉄”を押す力が急にゼロになった。
「……え?」
怪訝な表情のバロウに、問い質すように男が言う。
「妖じゃ……、人間と家族に、なれ……ない…………?」
男の顔からは、ずっと浮かべていた笑みが消えていた。
平静を取り戻して、相手を間近でじっくりと眺めることでバロウはようやく気付く。
眼前の男も、人間のような姿をしているが人間ではない。
○
「そう、か……」
バロウから天界人である故に一人になった過去を聞き、男は肩を落とした。
心を読む妖、さとりである彼にはバロウの話が真実である事くらい容易に分かる。
仮に殺し合いに勝ち残りミノルの目を治してもらっても、さとりはミノルの父ちゃんにはなれない。
そう、心の底から理解できてしまった。
ここに来て、さとりは目的を失った。
力無く立ち去ろうとして、バロウから声をかけられる。
「おじさんも、人間になればいいじゃないか」
「人間に、なる」
先ほど、さとりは自分の事情をバロウに話していた。
故に、バロウは提案をする。
人間になろうとする妖という彼に、人間になろうとする化物たる彼はシンパシーのような物を感じていた。
それに、自分を追い込んださとりは強い。
二人でならば、ロベルト・ハイドンとしてこの場にいる地獄人、アノンにだって優位に立てるかもしれない。
「だけど……」
「キース・ブラックは一つしか願いを叶えないなんて言ってない。
僕だって出来ることならば、人間になるだけじゃなく母さんを治してもらいたい。
二人なら殺すのも楽になるよ。……いつかは、僕とおじさんで殺し合わなくちゃいけないかもしれないけど」
心を読むという能力を知った為、バロウは考えを隠さない。
「僕かおじさんのどちらかが、化物じゃなくなって人間と家族になろうッ」
声を張り上げて、バロウは手を伸ばした。
さとりが、提案を呑んでくれるだろうか。
心を読めぬバロウの鼓動が、どんどんと早くなっていく。
しかし、同時にこここそ命を賭けねばならない正念場とも思っていた。
似た境遇で、同じ目的。
彼以外に組める相手はいないと、バロウは実感していた。
アノンはバロウを仲間に迎えてくれるかもしれないが、それは部下としてだ。
夢を叶えることは出来ない。
共に夢を目指せる同志となれるのは、さとりだけだ。
だから、バロウは、手を伸ばす。
「へへ。いいな、それ」
そして、さとりは、手を握った。
123 :
疎通――少年さとり
◆6LcvawFfJA
:2011/08/23(火) 16:11:27.30 ID:77bTcA3O
暫し呆然としてから、バロウは大きく安堵の息を吐いた。
「ところで、おじさんは神候補なの?」
「かみ? 何言ってんだ、バロウ?」
「あれ?」
それによりやっと、バロウとさとりは異なる世界の情報について得ようとしていた。
【C−2 山麓/一日目 早朝】
【さとり】
[時間軸]:紫暮&うしお戦直後
[状態]:万全
[装備]: 海月@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜5
[基本方針]:優勝し、ミノルの目を治して人間となり一緒に暮らす。
【バロウ・エシャロット】
[時間軸]:三次選考開始後、植木チーム戦以前。
[状態]:健康
[装備]:H&K MARK23(8/12)@現実
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、月の石×4@金色のガッシュ、RPG-7(グレネード弾×5)@現実、支給品0〜3(確認済み)
[基本方針]:人間になるため、最後の一人となる。
※名簿に書かれたロベルト=アノンと認識しています。
124 :
◆6LcvawFfJA
:2011/08/23(火) 16:11:42.46 ID:77bTcA3O
以上です。
125 :
創る名無しに見る名無し
:2011/08/24(水) 12:33:13.11 ID:Ks+e4XpU
投下乙です
この二人をこう繋げてくるとは思わなかった
実際に天界人だから一人になってしまったバロウゆえだよなぁ
心を読むさとりとデジャヴのバロウって、スゲー怖いコンビかもw
しかしなんだか、こいつらを応援したくなってきたなぁw
126 :
創る名無しに見る名無し
:2011/08/24(水) 21:14:06.61 ID:7b+BwlTq
投下乙。
そうか、願いは一個って言われてないもんな。
これはバロウ考えたなあ。しかも、さとりをやり込めるとかすげえw
うしとら本編でも切なかっただけに、こいつには幸せになってほしいんだが……。
127 :
創る名無しに見る名無し
:2011/08/26(金) 11:22:14.04 ID:5+EmpN/E
書き込めますか?
128 :
創る名無しに見る名無し
:2011/08/27(土) 23:12:06.94 ID:NzEtLj79
投下乙です
これはバロウは上手いなぁw
こう持って行くか
俺も幸せになって欲しいがロワでこういうのは不幸フラグが立ったとしか思えないw
129 :
◆hqLsjDR84w
:2011/08/31(水) 10:44:14.05 ID:881tuXVn
投下します。
130 :
ナビ
◆hqLsjDR84w
:2011/08/31(水) 10:44:53.50 ID:881tuXVn
◇ ◇ ◇
「だいぶ今さらやけど、温泉ちゅーのは身体洗うだけのもんちゃうねん」
佐野清一郎が笑みを浮かべながら語っているが、すぐ横のコロンビーヌは返答しない。
目蓋を半分だけ開けて、呆れたような視線を向けるだけだ。
というのも、佐野という少年はこれまでひたすら一人で喋り続けていたのだ。
歩きだしてからずっとである。
話題は変わらず、温泉トークばかり。
同行して以来、口を開けば温泉。さながら温泉特集である。
興味があるものならばともかく、大して知りも知らないことをこうも語られても、なんていうか、困る。
コロンビーヌでなくとも、そう思うだろう。
「ロボットやから分からんかもしれんけど、体調よくするのに役立つのもあるんやで。
だいぶむかしから医療に使われたとかなんとか。
肩こりだの、腰痛だの、そーゆーのはメジャーやな。まあ俺はまだ若いから効果あんのか分からんけど。
でもなんや、あのどーみゃくこーかーだの、血圧どーたらこーたらーみたいなん。
あんなんの予防になるとか聞いたら、なんか違う気ぃするで。
こう、上がったときに身体の奥のほうから、なんかあったかいのが湧いてくるっちゅーか。って、まあそれは温泉つかってたから当たり前やけどな!」
かっかっか、と高笑い。
温泉の話題とは対照的に、向けられる視線がどんどん冷えていくが佐野は気付かない。
なぜ、こんな男についてきているのか。
もう何度目かになる疑問が、コロンビーヌのなかに浮かぶ。
こうも熱狂的に語っているのだから、遠ざかってもすぐにはバレないだろう。そもそもいつまでも一緒にいるつもりではない。
と考えて、コロンビーヌは傍らにいる男を見上げる。
「だいたい、女の子置いて盛り上がるなんて信じられなーい」
この茶化すような声も入ってこないようで、佐野はまだ一人で笑っている。
そんな様子を見ても、しかしコロンビーヌは去らなかった。
いつでも別れられる相手なのだから、わざわざ急がなくてもいい。
それに、コロンビーヌには目的などない。
佐野とは違って、コロンビーヌにはない。
仮に佐野が言っていた『空白の才』を手に入れようとも、空白を埋めることができない。
だからこそ、同行を続けるのだ。
こうして歩む目的を持つ佐野とならば、生存目的を失った自動人形(オートマータ)でも生きる目的を見つけられるかもしれないから。
「あーらら、到着しちゃったじゃない」
歩き出してすぐのころ、佐野は地図を開いて近くにある公園に向かうことを提案した。
コロンビーヌが辟易としている間に、どうやらもう着いてしまったらしい。
とはいえ、またしても語りを再開した佐野はまだ気付いていない。
彼に声をかけながら、コロンビーヌが公園内を見渡すと二つの人影が映った。
才賀勝くらいの年に見える少年と、成人と思われる女性。
ぎったん、ばっこん、と。
音を立てながら、遊具で遊んでいる。
「こんな状況であんな音立てて……アホやな、アイツら」
「アナタには言われたくないんじゃないかしらぁ」
131 :
ナビ
◆hqLsjDR84w
:2011/08/31(水) 10:45:07.95 ID:881tuXVn
【E−2 公園前/一日目 黎明】
【佐野清一郎】
[時間軸]:不明。少なくても犬丸が地獄に落ちてから
[状態]:健康
[装備]:佐野の手ぬぐい@うえきの法則
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:仲間たちとともに脱出する。コロンビーヌについていく。
※佐野の手ぬぐいは支給品ではなく、最初から装備してました。
【コロンビーヌ】
[時間軸]:本編で活動停止後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:さすらう。『生存目的』を見つけ出す。
※アポリオンは使用可。制限されているかどうかは不明。
132 :
◆hqLsjDR84w
:2011/08/31(水) 10:45:30.35 ID:881tuXVn
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘お願いします。
133 :
創る名無しに見る名無し
:2011/08/31(水) 13:32:23.25 ID:nPPgEZQc
投下乙
佐野通常運転すぎるwwうえきチームの頭脳なのにwww
でもそういう点じゃアルと出会えたのは大きいのかな
134 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/01(木) 00:37:37.92 ID:iQzFeMTg
投下乙です
ずいぶんとまあwww
マイペースすぎw
135 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 03:34:50.03 ID:92IhKzhy
遅れてすいません
染井芳野、とら、投下します
136 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 03:38:12.20 ID:92IhKzhy
上空二十メートル。
芳野ととらの二人は、地図の端へ向かって移動していた。
とらが空を飛び、芳野がとらの背中に乗っている状態だ。
下は一面の海面で、陸地は遠くなってしまった。
「ねえねえとらちゃん、もっととらちゃんの武勇伝を聴かせてよ」
「ふん、仕方ねえなあ。それじゃあ次はこの話を聴かせてやるか」
地図の端へと到達するまでの間、芳野はとらからできるだけ多くの情報を引き出そうとしていた。
とらの話から、とらに関する事や、何かお宝の情報が得られないかと思ってのことだ。
(光覇明宗の総本山の場所は聴きだせたし、鎌鼬の傷薬ってのも高く売れそうね。まさかこれだけのお宝情報が手に入るなんて夢みたいだわ!
ここに連れてきてくれたことをブラックに感謝したいくらいよ!)
とらの話を聴いている芳野は上機嫌だった。
ここから出たら、早速それらの値打ち物を手に入れに行かなくては。
「うふふふふ」
「急に笑い出してどうした?」
「あ、いや、なんでもないなんでもない! ほら! 話を続けてちょうだい!」
「あ〜? おかしなやつだな。まあ、いいか。それでよう、わしは飛頭蛮のやつらを──」
とらが話を続けようとした時である。
二人の首輪から、警告音が鳴りだした。
「な、なんだあ!?」
『会場外へ近付いています。会場外へ近付いています。これ以上進むのは危険です。今すぐ引き返してください。
繰り返します。会場外へ近付いています──』
二人の首輪から、警告音と共に機械音声が流れる。
これ以上進むと危険だという警告だ。
二人はその場で動きを止めた。
「とらちゃん、まさかこのまま進んだりしないわよね? 私達、首輪を付けられてるのよ?
とらちゃんは体を真っ二つにされても平気かもしれないけど、私はそうじゃないの!
それに、多分何か仕掛けが施してあると思うの。いくらとらちゃんでも、この首輪が爆発したら死んじゃうと思うわ」
「……ふん、これ以上進むなってか。それじゃあ試しにこの先がどうなっとるか、確認してみようじゃねえか」
「確認って……え? とらちゃん!?」
とらは、地図の端に当たる目の前の空間を見据える。
そこから先は海が広がるばかりで、水平線まで見ることができる。
しかし、地図の端の場所からは見えない何かの存在が感じられた。
137 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 03:40:13.40 ID:92IhKzhy
体に力を込めると、とらは前方に向かって体から雷撃を放った。
「きゃっ!」
「だいじょうぶだ、おめえが雷を浴びないようにしてあっからよ!」
とらから放たれた雷撃は、何もない空間を走る。
そして、二十メートル程進んだところで、壁に阻まれたように平面状に爆散した。
飛び散った雷撃が、一瞬だけ辺りに光をもたらした。
「やっぱりな、結界で行く手を阻んでやがるぜ。こりゃあナガレかしぐれ辺りを見つけねえと、ここから出るのは難しいかもなあ」
「け、結界ぃ!?」
続いて、とらはその大きな口から炎を吐き出す。
すると、炎も雷撃が阻まれた地点と同じ場所で行く手を阻まれ、上空に向かってその動きを変えていた。
どうやら、地図の外へ行けないように、見えない壁のようなものが展開されているらしい。
海面を見てみれば、ある一定の場所で波がその動きを変えている。
外から来る波は、その場所に到達すると壁にぶつかったように飛沫を上げ、内側の海面は外の波など知らないという風に小さく揺れていた。
恐らく、そこが地図にある境界線なのだろう。
ここに集められた者達は、見えない壁によって閉じ込められている状態なのだ。
(結界……。結界かあ。獣の槍を使えば、なんとかなるのかしら? でも、取りだしたら持ち主の潮とかいう子の所に行っちゃいそうだし、
その子に使わせるとしても、その子から獣の槍を取り返すのは面倒そうね……うーん……)
悩む芳野は、とらの話に出てきた参加者の一人を思い出した。
とらは言っていたではないか。
「こりゃあナガレかしぐれ辺りを見つけねえと、ここから出るのは難しいかもなあ」、と。
「あ、とらちゃんとらちゃん。さっき言ってたナガレとかしぐれって人なら、この結界をなんとかしてくれそうなの?」
「あ? ああ、まあわしよりはあいつらの方が結界には詳しいだろうからな。こんな面倒くせえもんは、あいつらにまかせときゃ良いだろ」
それを聴き、芳野は心の中でガッツポーズをとった。
(よしっ! それなら獣の槍を手放さずにここから脱出できるかもしれないわ!
あのブラックって奴が、ここに連れてきた者達に破られるような結界を張っているとは思えないけど、頼ってみる価値はありそうね。
ダメな時は、別の脱出方法を考えるってことで)
ナガレやしぐれというのは、名簿にあった秋葉流と蒼月紫暮のことであるのはわかっている。
138 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 03:42:14.50 ID:92IhKzhy
とらの話から、その人となりも把握済みだ。
自分のようなか弱い女の子を襲うような者達ではないようだし、利用するだけ利用してしまおう、と芳野は考えていた。
「ねえ、そろそろ陸の方に戻らない? 結界について調べるなら、海の上よりも地に足着いた所の方が良いと思うわ」
「そうだなあ。この首輪から出る声もうるせえし、戻るとするか」
芳野の提案に同意し、とらは反転すると陸に向かって飛び始めた。
会場の端から遠ざかると首輪の警告音はしなくなり、波の音と風を切る音しか聞こえなくなる。
芳野が再びとらから話を聴こうと口を開くより先に、とらの口から声が漏れた。
「ん!?」
とらの目は夜の闇でもよく見えるし、聴力も優れている。
暗闇の中、とらは何かが高速で飛ぶ音を耳にした。
音のする方を見れば、何かが海に向かって飛んでいるのが目に入った。
金色に輝くそれは、遠くの海面へと突っ込むと、盛大な水柱を上げる。
「今の……何?」
「わからん」
金の流星は、芳野にも見えた。
流星が海面に突撃した地点までは距離があるが、それほど離れてはいない。
「と、とらちゃん! あそこ! あそこ行ってみましょう! 何があるか見てみたいわ!」
「わかった! わかったから背中で飛び跳ねるな!」
芳野の目は、遺物や金目の物を見つけた時と同じものになっていた。
139 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 03:45:25.63 ID:92IhKzhy
金色に光る流星。
きっと値打ち物に違いない、と。
それが、まさか参加者であるとは夢にも思っていない。
(もしも海に沈んじゃってたらそれまでだけど、場所くらいは頭に入れておかないと!)
一人と一匹は進行方向を変え、巴武士とゼオン・ベルが落下した海上へ向かって進んで行った。
◆ ◆ ◆
「お? ガキかあ?」
「子供……?」
目的の場所へと辿りついた芳野ととらは、海面に浮かぶ一人の子供を発見した。
銀色の髪に銀色のマント。
リュックを背負っていることから、参加者の一人なのだろう。
手には髪やマントと同じく銀色をした大きめな本を握っている。
海上には、この子供以外に何も浮かんではいなかった。
「けっ。まずそうなガキだなあ。……いや、この力……。あのガキ、化生の類か?」
「え? あの子もとらちゃんみたいな妖怪ってこと?」
「ま、少なくともニンゲンじゃねえのは確かだな」
とらは、海上に浮かぶゼオンからただならぬ気配を感じ取っていた。
人でないのは確実だろうが、妖怪の気配とは何かが違う。
背中にはよしのも居ることだし、迂闊に近付くのは危ないだろうと、少し離れた所で様子をうかがう。
(とらちゃんと同じ未知の生物? でも、どう見ても人間の子供にしか見えないわね。……一応髪の毛の数本くらいはいただいておこうかしら?)
芳野は、また現れた未知の生物の存在に瞳をぎらつかせる。
140 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 03:49:11.25 ID:92IhKzhy
とらに加えて、これは貴重な収穫だ。
それに、先程の流星についても何か知っているだろう。
早く情報を訊き出したいという気持ちが、芳野を突き動かす。
「とらちゃん、あの子にさっきの流星の事とか訊きたいし、早く近付きましょうよ!」
「なに言ってんだおめえ。あいつがわしらに襲ってくるようなやつだったらどうすんだよ?」
「何びびってんのよ! 相手は子供じゃない! それに、たとえ襲ってきたって、とらちゃんが私を守ってくれるんでしょ?」
「誰があんなガキにびびるか!! ……ったく、どうなってもわしは知らんからな? 海に落ちんよう捕まっとけよ!」
とらは悪態を吐きながらも、尾で芳野を支えながら海上に浮かぶ少年へと近付いて行く。
さっき大声を出したせいか、少年はこちらに気が付いたようで、近付いてくる芳野ととらへ顔を向けていた。
こんな海のど真ん中から助け出せば、話の一つくらいは聴けるでしょ、と高を括っていた芳野だったが、
そんな甘い相手ではないことを、その身をもって体感することになる。
◆ ◆ ◆
海上に浮かぶゼオンは、近付いてくる者達を見て歯を軋ませた。
虎のような魔物と、その背中に乗る人間。
先程叫んでいた声は、波の音と距離があったせいで正確に聴きとる事はできなかったが、
自分を嘗めている(なめている)雰囲気が感じ取れた。
(先程の人間に加えて、こいつらも俺を侮辱するか!)
いつもなら、相手の実力も計れぬ愚か者と気にすることもないが、
自分の力を見せてもなお侮られる(あなどられる)屈辱を味わったばかりである。
怒りはまだ治まっていない。
その上、再び己を下に見る者が現れたとあっては、その怒りは膨れ上がる一方だ。
ただでは済まさない。
この雷帝ゼオンを侮辱するとどうなるか、その身をもって思い知らせてくれる!
「……へっ、ガキのくせしてこれほどの殺気を放つたあな。おどろいたぜ」
とらは、ゼオンから発せられた凄まじい殺気を感じ取った。
そこから、この子供が今まで戦ってきたどの妖にも引けを取らない力を秘めていることを理解する。
いつもならば、とらに殺気を放つような奴は八つ裂きにしてやるところではあるが、背中には芳野が乗っている。
下に降ろそうにも、一面に海が広がるばかりで、陸まではまだ遠い。
芳野が泳げるかはわからないが、海水で塩辛くなるのは、美味そうな食事を台無しにするようで気が引けた。
ゼオンとはまだ距離がある。
141 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 03:56:29.33 ID:92IhKzhy
離れるならば今の内だろうと、とらは空中で動きを止めた。
「ちょっととらちゃん! 急に止まってどうしたのよ!」
「やかましい! おめえはあいつと話しをしたいんだろうが、あのガキは話し合いに応じる気はないらしいぜ。
おめえが海に落ちても良いってんなら、近付いてやっても良いけどよお?」
「それでも良いわ! まずはお宝の情報が最優先よ! ほら、さっさと近付く!」
「ハア!?」
おかしな奴だとは思っていたが、ここまでおかしなニンゲンも初めてだ。
別によしのを背負ったまま戦っても勝てる自信はあるが、よしのを無傷で勝てるかと訊かれると、正直分が悪いとも思う。
ここは、背中でうるさく喚かれようと離れるのが良いだろうと、とらは進行方向をゼオンから陸へと変更した。
「どこ行こうとしてんのよ! そっちじゃないわよ! あっち! あの子の所に行きなさい!!」
「髪を引っ張んじゃねえ!!」
芳野はわーわーぎゃーぎゃーととらの背中で暴れている。
とらはそんな芳野を落とさないようにしているが、流石に堪忍袋の緒が切れるのも近い。
なんでこんなやつの心配をせにゃあならんのだ。
陸に向かうのを止め、銀髪のガキに近付こうかと気持ちを切り替えそうになったその時だ。
銀髪のガキ、ゼオンの殺気が一層膨れ上がったのを感じ取った。
その瞬間、とらはゼオンの方へ振り向いた。
見れば、海上に浮かぶゼオンの体を、その身に纏うマントが包みこんでいるところだった。
ゼオンの体をマントが包みこむと、マントごとゼオンの姿が消え去った。
「あァ!?」
そして、消え去ったはずのゼオンがとらの目の前に姿を現した。
とらとの距離はわずか三メートル足らずだ。
「チィ!! 瞬間移動をつかいやがるのか!!」
「ザケル!!」
ゼオンの叫びと共に右手に持つ魔本が発光し、その左手から雷撃が発せられる。
手加減はしていない。
消し炭にする気持ちで一撃を放つ。
とらはその雷撃をまともに浴びることとなった。
芳野が悲鳴を上げ、とらの背中に身を隠す。
だが、その行為にどれ程の意味があるだろうか。
雷撃はとらの体を走り抜け自分にも届くはずだ。
しがみ付く背から離れ海に逃げようとしたが、とらの尾が体に絡み付いているため離れることができない。
142 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 04:01:42.54 ID:92IhKzhy
芳野は襲い来るであろう衝撃に目を瞑った。
「小僧、なかなかやるじゃねえか。だがよう」
しかし、芳野に雷撃が届くことはない。
代わりに届いたのはとらの声だ。
とらは雷獣とも呼ばれる雷を操る妖である。
故に、とらは電撃や雷撃といった攻撃との相性が非常に良い。
ゼオンの放った雷撃がとらの耐久を下回っていたこともあり、とらは背負う芳野に雷撃を伝えることなくその身に受け止めることができたのだ。
「そんな雷でわしに挑もうなんざ百年早いわ!!」
お返しとばかりにとらの体からゼオンに向かって雷が放出される。
制限下にあるとはいえ、その威力はゼオンのザケルを上回る。
ゼオンは迫りくる雷に対して、自らのマントでそれを防いだ。
「とらちゃん! あの本を奪うのよ!」
「わかっとるわ!!」
放たれた雷の閃光が晴れた時、とらは既にゼオンに肉薄していた。
同じ雷を操る者同士だ。
今の雷で銀髪の子供を仕留められるとはとらも考えていない。
雷は目眩まし(めくらまし)……と攻撃された仕返しを兼ねて放ったものだったのだ。
本当の狙いは子供の持つ銀色の魔本。
あの本が光輝き、そして呪文と共に子供は雷を発した。
芳野もとらも、その一度で子供の持つ本が攻撃の要であることが推察できたのだ。
芳野はトレジャーハンターとしての経験から。
とらは幾度となく繰り広げた戦いの経験から。
自分の推察が正しいことを確信していた。
「ザケルガ!!」
狙いが本と分かっていて、何も行動しないわけがない。
発光する魔本。かざす左手。
ゼオンが呪文を言い放つと同時に、とらに向けられた左手から一筋の光線のような、一直線に伸びる雷撃が飛び出した。
雷の力を拡散しないように収束し、高密度の状態で放つ術だ。
ザケルガは雷撃による熱、衝撃に加えて物理的な貫通力も有している。
相手が雷に耐性がある魔物だろうが、この術ならばその体を貫くことができる。
とらは身を捻る(ひねる)が、至近距離から放たれた攻撃だったため、完全に回避できず脇腹を貫かれてしまった。
「きゃあ!」
ザケルガはとらの体に穴を開けると、芳野の真横を通り過ぎた。
143 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 04:06:45.33 ID:92IhKzhy
とらが身を捻らなければ、とらを貫通したザケルガは芳野の体も通り抜けていたことだろう。
「とらちゃん、大丈夫!?」
芳野が尋ねるが、とらは答えない。
ゼオンは追撃をしようと再びとらに左手を向ける。
しかし、その手はとらの右腕に掴まれた。
腹部を貫かれても尚、とらはゼオンへの接近を止めてはいなかったのだ。
「言っただろ、わしは体を二つに裂かれようが動けるってよう!!」
芳野へ返答すると同時に、とらの髪の毛がまるで生物のように動きだし、ゼオンの全身を絡め取った。
「ラウ……!!」
ラウザルクで髪の毛を振り払おうと、ゼオンが口を開いたその時だ。
とらの髪の束が開いた口内に侵入した。
髪はゼオンの口を塞ぎ、喋ることを、呪文を唱えることを不可能にする。
ゼオンは口内の髪の毛を噛み千切ろうとするも、髪の毛は細く噛みにくく、
頭を動かして引き千切ろうにもその動きを他の髪の毛によって邪魔されてしまう。
そのためゼオンは体に絡み付いた髪の毛を、そして掴まれた腕を振り解こう(ふりほどこう)ともがいた。
右腕は魔本を掴んでいるせいで振るうことしかできないが、何も持たない左腕ならばこの邪魔な髪を掴み引き千切ることができる。
ゼオンは左腕を動かすべく力を込めた。
「こいつ! なんつう力だ!」
一体この小さな体のどこにこんな力があるのか。
力には自信のあるとらであったが、ゼオンの力に少々押され気味だ。
この拘束が解かれるのも時間の問題かもしれない。
何か呪文を唱えようとしているのか、ゼオンの持つ魔本は輝きを放ち続けている。
「チッ! しょうがねえ! 先にこいつの本を燃やしちまうぜ!!」
「!?」
「え、ちょ、とらちゃん!?」
ゼオンと芳野に緊張が走った。
見れば、とらの口内には赤い炎が見えている。
芳野はとらの背中を叩いて、叫び、とらを止めようとしているが、とらはそれを無視している。
とらの目はぎらつき、今にも炎を吐き出しそうな雰囲気だ。
不味い、とゼオンは思った。
現在掴まれている左腕をとらの拘束から振り解く事は可能だろう。
だが、とらもそれなりに力が強く、振り解くには時間がかかってしまう。
それまでの間、髪の毛に絡み付かれ動きにくい状態で、放たれようとしている炎から魔本を守り通すことはできるだろうか。
ラウザルクを唱えればこのような拘束など簡単に解いてみせるが、今は呪文が唱えることを妨げられている。
魔本は王を決める戦いにおいて最も重要なものだ。
それを失うということは、王への道を失うのと同等の意味を持つ。
144 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 04:11:35.63 ID:92IhKzhy
自身を犠牲にしてでも守り通さなければならない。
とらの口から、灼熱の炎が吐き出された。
拘束は未だ振り解けていない。
ゼオンは躊躇うことなく、右手に掴む魔本を炎の魔手より逃がすために放り投げた。
魔本はゼオンの手から離れ、炎はさっきまで魔本を掴んでいたゼオンの右腕を焼き焦がす。
ゼオンは苦痛に顔を歪めたが、声を漏らすことはなかった。
「とらちゃん! あれ!! あの本を取って早く!!!」
放り出された本を見て、芳野はとらの肩から身を乗り出した。
今にも魔本に向けて飛び付きそうな勢いだ。
とらはそんな芳野を左手で背中にへと押し戻すと、伸ばした髪を動かし放り出された魔本を絡め取る。
「危ねえじゃねえか!! 何考えてんだおめえはよう!! ……ったく、ほら、これでいいのか?」
とらは髪に絡め取った魔本を引き寄せると、芳野へと渡した。
「そうよこれよ! これが魔術の核に違いないわ! ……初めて見る文字ね……あれ? この色の変わった部分が読める。読めるわ!!」
芳野は手に入ったお宝に歓喜している。
とらはそんな芳野を見て飽きれていた。
だが、気を緩めるわけにはいかない。
ゼオンの込める力が一層強くなった。
向けられる殺気が膨れ上がっている。
ゼオンの双眸(そうぼう)には、憎悪と怒りが色濃く映っていた。
魔本を手放し自由になった右腕で絡み付く髪を掴み取り、それを一気に引き千切る。
口に侵入している髪も一緒に引き千切り、口内に残った髪を吐き出す。
「貴様ら……許さんぞ……」
憎悪の籠った(こもった)低い声をゼオンは発した。
巴武士に侮られた怒りが、右腕を焼き焦がされた怒りが、そして何より魔本を奪われた怒りがゼオンに充満していた。
「この雷帝ゼオンを虚仮(こけ)にしたこと、死んで悔いるが良い!!!」
叫ぶと、ゼオンは左腕の拘束を振り解いた。
もう、ゼオンの動きを妨げるものは何もない。
その憎悪の籠った瞳を見て、やばいと芳野の本能が告げた。
あの雷帝ゼオンとか言う子供は間違いなくこの本を狙ってくる。
本の影響かとも思ったが、どうやら素で身体能力が常軌を逸しているらしい。
ゼオンの動きでそれがわかった。
145 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 04:23:59.00 ID:92IhKzhy
では、どうするか。
芳野の右手には『持ち主に魔術を行使させる遺物(オーパーツ)』が握られている。
ゼオンの行動から見て、どうやらこの本を持ち記されている呪文を唱えると使用者の手から雷の魔術が放たれるらしい。
ならばと、上半身をとらの肩の上に乗り出させ、左腕をゼオンへと向ける。
流星のことを訊かなくちゃいけないけれど、このまま暴れられても困る。
あの自在に動くマントも欲しいところだ。
このなんだか強そうな呪文を使って、一時的に気絶してもらおう。
芳野の持つ魔本が輝き始めた。
「ソルド・ザケルガ!!」
さあ、どんな魔術が出て来るの?
期待の込められた芳野の目に映ったものは、自身の左手から放たれる雷の魔術ではなく、ゼオンの手に突然現れた雷の大剣だった。
銀色の本は奪った。
だから、ゼオンは魔術を使えないはずだ。
そう思っていた二人の目の前には、しかし魔術が行使されたゼオンの姿が確かにあった。
「え?」
「愚か者が!!」
巨大な雷刃が振るわれる。
とらが回避行動に移るが、至近距離、そして予想外の出来事だったために避けきれなかった。
魔本は自分では燃やせない。
そのルールにより、例え『ソルド・ザケルガ』が魔本に当たったところで本は燃えないと、
躊躇う必要のない、真横に思い切り振るわれた大剣は、とらの体を半ば(なかば)から上下に分けた。
脚の太腿に辺りが寒くなって、芳野は下を見る。
温かかったとらの下半分が無くなっている。
だから、夜風に当たって太腿が冷えたのだろう。芳野はそう思った。そう、思いたかった。
だが、おかしい。
そこにあるべき自分の両足が、とらの下半分と一緒に消えて無くなってしまっている。
スカートの裾も何故だか短くなっている。
どこにいったのだろうと視線をさらに落とすと、海に落ちる三つの物体があった。
大きいモノが一つと、細長いモノが二つ。
大きい方はとらちゃんの体として、細長い方は………私の、足?
見れば、ぼたぼたとあり得ない量の血液がスカートの中から落ちている。
まさかこの血は私のじゃないわよね?
そう思った芳野から、今度は右腕の感覚が消えた。
真横に振られた雷刃が、その速度を保ったまま今度は縦に振り下ろされたのだ。
芳野の右肩に近い上腕部分、そしてとらの右肩を通り過ぎ一直線に雷刃は通過した。
結果、とらの残った上半身は更に二つに分断され、魔本を持った芳野の右腕は体から切り離された。
切り離された右腕に握られている魔本から、まるで命が失われたように輝きが失われる。
芳野はそれを見ると、自分の体の最後の支えである左腕をとらから離し、魔本を持つ切り離された自身の右腕に向けて腕を伸ばした。
その伸ばした腕は切り離された右腕に向けたものなのか、魔本に向けたものなのか、或いは、両方に向けられたものなのか。
左腕を伸ばした芳野の体を浮遊感が襲う。
芳野を支えていたとらの尾はソルド・ザケルガにより切られ遥か下。
最後の支えであった左腕もとらから離したのだ。
全ての支えを失った芳野の体がとらから離れていくのは当然だろう。
146 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/01(木) 04:30:39.09 ID:92IhKzhy
芳野の左腕は、まだ魔本を持つ右腕へ向けて伸ばされていた。
◆ ◆ ◆
「ふん!」
ゼオンは鼻を鳴らした。
とらに二回攻撃を加えた所でゼオンの手から『ソルド・ザケルガ』が消失したのだ。
恐らくは後ろに居た女が死んだか、本を手放したかで魔本に心の力が送られなくなったからだろう。
そう思っていると、女が海に落ちているのが見えた。
魔本を掴んだ女の右腕も一緒に落ちているが、その回収は後回しだ。
目の前の魔物からは、まだ生気は消えていない。
「やろう!!」
ゼオンに向かって、業火と共にとらの“両腕”が襲いかかる。
とらの口からは火炎、そして残された左腕がゼオンを抹殺すべく動き出しているのだ。
切り離されたはずの右腕も、独自に動いてゼオンへと迫っていた。
とらの下半身はというと、芳野を救おうとしているのか、芳野に向かって直進している。
なるほど、体を裂かれても動けるというのは本当らしい。
ゼオンの体は未だ空中にある。
魔本は無く、術を使うことはできない。
ゼオンは己を切り裂かんとする爪、焼きつくそうとする業火を防ぐべくマントで自身を覆い隠す。
その爪と業火がマントに触れようとする直前、ゼオンの体は空気に溶けるように消え失せた。
「どこにいきやがった!!」
とらの攻撃は空振りした。
最初に見せた瞬間移動を使ったのだろう。
ゼオンはどこへ移動したのか。
気配を探ると、背後からゼオンの気配を感じ取れた。
147 :
どじふんじゃった! ◇AJINORI1nM代理投下
:2011/09/01(木) 11:03:33.00 ID:vETJqhUC
それと同時に首へ衝撃が起こる。
攻撃を受けたらしいが、とらは構わず振り向きざまに腕を振るう。
何かが砕ける音が首から聞こえた。
振り向いた先には、蹴りの姿勢をしているゼオンの姿があった。
どうやら首に蹴りを入れられたらしい。
振るった爪はゼオンの胴に食い込み、その小さな体を抉り(えぐり)ながら大きく吹き飛ばした。
即座に追撃するべくとらの体が動く。
しかし、とらの追撃がゼオンに届くことはなかった。
とらが追撃のために動きだすと同時に、とらの首から炸裂音が上がる。
それは、最初の広場で見せられた首輪の爆発の音と同じものだった。
爆発音がとらの耳に聞こえるよりも先に、とらの首が胴から離れる。
その吹き飛ばされた頭は怒りの表情に満ちていた。
全ての怒りを集約したかのような、ぞっとする程ぎらついた瞳は、最後までゼオンを睨みつけていた。
◆ ◆ ◆
落下の途中。
視界の端でとらの頭が胴から離れるのが見えた。
そして聞こえる爆発音。
とらが死んだのだと、芳野は理解した。
どじを踏んだと自分でも思う。
あの魔本は持ち主に力を与えるのではなく、ゼオンに力を与える物だったのだ。
支給品やとらの話から、何らかのオーパーツだと思ったが、あれはゼオンの元々の持ち物だったのだろうか。
それとも、最初に使用した者に力を与える物だったのだろうか。
148 :
どじふんじゃった! ◇AJINORI1nM代理投下
:2011/09/01(木) 11:04:01.57 ID:vETJqhUC
それを判断する術を、芳野は持ち合わせていない。
あそこでああすれば良かった。こうすれば良かった。
後悔しても後の祭りだ。
体が海に到達する。
傷口に海水が染み、激痛で意識を失いそうになる。
(ごめんね……とらちゃん………)
芳野の意識は、ここで終わった。
【とら@うしおととら 死亡】
【染井芳野@スプリガン 死亡】
【残り69名】
◆ ◆ ◆
ゼオンは空中に滞空している。
マントを回し、浮力を生んでいるのだ。
マントの使い方の一つだった。
「ぐっ……!」
ゼオンの腹部に血の染みが広がる。
とらに体を抉られた場所だ。
それほど深い傷ではないが、万全に動ける程軽いものでもない。
見下ろせば、四つに分かれたとらの体が海に浮いている。
切り刻んでも、分断した体すら意のままに操る魔物であったが、その体が動きだす気配はない。
首輪が爆発したせいだろう。
首輪に何か細工が施されているのか、それとも首を切られれば流石のとらでも絶命するのか。
それをゼオンには判断することはできない。
だが、一つだけわかることはある。
ゼオンは自身に嵌められている首輪を擦る(さする)。
ここを狙われれば、この首輪そのものに攻撃を受ければ、それは首輪の爆発に繋がり、それは自身の死に繋がる。
149 :
どじふんじゃった! ◇AJINORI1nM代理投下
:2011/09/01(木) 11:04:22.23 ID:vETJqhUC
腹立たしい。
自分の命が、このようなちっぽけな首輪に握られていることが腹立たしい。
このようなもの今すぐにでも外してしまいたいが、無理に壊せば爆発するのは先程目撃している。
ゼオンは視線を動かし、海に浮かぶそれを見つめる。
それには首輪が付いている。
この首輪と同じものだ。
いや、もしかしたら参加者に応じて何か差異があるかもしれない。
それでも、首輪を外すための足がかりにはなるだろう。
ゼオンは高度を落としそれに近づく。
首輪を嵌めた、右腕と両足を失った染井芳野に近づいて行く。
◆ ◆ ◆
モチノキ港にある倉庫群。
近くには豪華客船が停泊し、周囲に人の気配はない。
そのコンクリートで出来た港の地面に、ゼオンは芳野を仰向けに転がした。
魔本ととらのリュック、そして芳野のリュックは回収した後、マントを使って空を飛び、
芳野を抱えて一番近い陸地であるここまで運んで来たのだ。
海水で濡れていたゼオンの服は、マントの回転により乾いてしまっていた。
地面に仰向けになっている芳野の胸は、小さく上下している。
息は浅いが、まだ生きていた。
当初は首を切り落とし首輪を回収するつもりであったが、生きているのなら他に使い道がある。
ゼオンの右腕には、宝玉の付いた装身具が三つ付けられていた。
手には獣の槍が握られている。
ゼオンは、海水で濡れ芳野の体に張り付いてしまっている制服を、胸部が見えるまで捲り上げた(まくりあげた)。
そして、その小さく上下を繰り返す胸部。心臓に近い部分に向けて、獣の槍をゆっくりと突き刺す。
槍の穂先はゆっくりと芳野の体に沈んで行く。
しかし、手応えがない。
槍を引き抜いてみれば、芳野の体には傷一つ付いてはいなかった。
「使えんな」
妖怪に対して絶大な力を発揮すると説明書にあったが、人間には効果がないどころか傷一つ付けられない。
妖怪とは空想の産物だろうに、いや、あの『とら』が妖怪だったのだろうか。
雷撃を発する時も、火炎を吐く時も、とらという魔物は呪文を唱える事はなかった。
魔物ならばあり得ないことだ。
この槍が妖怪に対して作られた武器だとして、では魔物に対してはどうなのだろうか。
150 :
どじふんじゃった! ◇AJINORI1nM代理投下
:2011/09/01(木) 11:04:48.11 ID:vETJqhUC
今この場には自分しか魔物は居ない。
そんな自分に傷を付けるような実験をする気はない。
たとえ魔物との交戦中だとしても、こんな不確かな武器を使うことはないだろう。
人間や無機物に対するように、武器としての本分を果たせない可能性がある物を使うつもりはないからだ。
ゼオンは獣の槍を蔵王に仕舞うと、代わりに金糸雀という剣を取り出した。
残る刃物はこれしかない。
ソルド・ザケルガを遣うのは心の力の無駄遣いだ。
ゼオンは金糸雀で芳野の胸部を切り裂いた。
内臓を傷つけていないとはいえ、体内にまで達する深い傷だ。
傷口からは止めどない血液が流れ落ちている。
右腕や脚部から大量の血液が流れ出ていたこともあって、芳野の体からは血の気が引き、肌の色が白くなった。
ゼオンは素早い手つきで芳野の傷口を開くと、その中に何かを押し込める。
そして傷口から手を引くと、芳野の首の血管へナノマシンを注入した。
手にはべっとりと芳野の血がついてしまっているが、後で海水で洗い落とせば良いだろう。
芳野にナノマシンを注入すると、心臓に近い位置に付けられた傷口が見る見る内に塞がって行く。
それだけではない。
突然右腕や両足の傷口から金属とも有機物とも取れない物質が飛び出し、失われた手足を形作り始めたのだ。
その硬質の右腕と両足は自身の形を落ち付かせると、罅割れた(ひびわれた)表面が次第に有機的な質感になって行き、
最後には肌色に変わってしまった。
本物の手足と寸分違わぬ(たがわぬ)、罅割れも傷もない綺麗な手足がそこにあった。
芳野の顔色も、血の気が戻ったように健康的な色を取り戻している。
呼吸も、ゆっくりではあるが深いものへとなっていた。
それを確認したゼオンは、装身具を身に付けた右手を芳野の頭部に当てる。
魔導具『神慮思考(しんりょしこう)』。
ゼオンの右腕に装着されているのは記憶を操作する魔導具である。
この魔導具で操作できる記憶は、神慮思考の使用者も知っている記憶でなくてはならないが、問題はない。
何故ならば、ゼオンは相手の記憶を奪う技を会得しているからだ。
(……記憶を奪うのに時間がかかるな)
制限のせいか、ガッシュから記憶を奪った時よりも時間がかかっている。
記憶を完全に奪い終えるまでに意識を取り戻した場合、何か術を打つべきか。
ゼオンの左手には魔本が握られている。
対応は即座にできるだろう。
だが、そんな考えは杞憂に終わった。
記憶の奪取は無事完了し、この女は自分の名前以外何も覚えていない状態になっている。
この後は簡単だ。
神慮思考を使い、主従関係にあるという偽りの記憶を植え付ければ良い。
そうすれば、この女は便利な手駒と化し、心の力を使える道具となるのだ。
151 :
どじふんじゃった! ◇AJINORI1nM代理投下
:2011/09/01(木) 11:05:14.14 ID:vETJqhUC
ゼオンは神慮思考を芳野に翳し(かざし)、真っ白なノートに文字を書き加えるように新たな記憶を植え付けて行く。
絶対に裏切らず絶対に逆らわない。
便利な傀儡となるように。
◆ ◆ ◆
「お前の名は?」
「私の名前は染井芳野です」
「お前は俺の何だ?」
「私はゼオン様の忠実な僕です」
「お前の役目はわかっているな?」
「はい、ゼオン様が優勝するように全力でサポートするのが私の役目です」
「それで良い」
ゼオンは神慮思考を使い、芳野に記憶を植え付けた。
自分はゼオンの忠実な僕であり、ゼオンに逆らわずゼオンを裏切らない。
ここは殺し合いの場であり、自分の役目はゼオンを優勝させることにある。
他にも、自分の命よりもゼオンを優先する等、ゼオンに都合の良い記憶を挿入したのだ。
本来、ゼオンの技にて記憶を奪われようと元の性格が変わることはないが、
神慮思考に植え付けられた偽の記憶によって、ゼオンに対しては絶対に服従するようになってしまっている。
神慮思考による記憶の改竄も時間のかかるものなのだが、記憶を全て失くしているという特殊な条件のため、
神慮思考はすんなりとその役目を全うしたのだ。
今の芳野は白紙のノートである。
そのノートにどれだけ都合の良いことを書き込もうと、矛盾する事柄はどこにも記載されていないのだ。
ゼオンだからこそできた荒業であった。
「芳野」
「はい」
「お前の力を見せてみろ」
「わかりました」
ゼオンに言われ、芳野は右腕と両足を変質させる。
それは『ARMS』と呼ばれる力。
152 :
どじふんじゃった! ◇AJINORI1nM代理投下
:2011/09/01(木) 11:05:40.15 ID:vETJqhUC
金属の様に硬質となり、その姿を禍々しいものへと変質させた右腕を振るうと、
港の先、テトラポットの集まりが触れてもいないのにいくつにも分断された。
この会場内にこれと同じ能力を持つ者が居る。
その者はこの技をこう呼んでいる。
『空間の断裂』と。
「空間転移はできるか? 連続で、出来るだけ遠くまでだ」
「やってみます」
そうい言うと、芳野の体は瞬時に透ける。
そして、二十メートル程離れた地点に現れると、一秒程の間を置いて再び空間を移動する。
三度目の移動を追えた芳野は、限界が来たらしく膝を着いてしまった。
「……こ……これが限界です……」
「そうか」
芳野の様子から、空間転移には相当の負担がかかるようだ。
自分も二度程使用したが、いつも以上の疲労が襲った。
故に、二度目の移動の後に反撃を食らうなどという失態を犯してしまった。
使用する間隔を開ければそれほどでもないが、連続で使用すれば多大な疲労で動く事すらままならなくなるのだろう。
「空間に干渉する能力……か」
ゼオンは芳野の動きを見て感心していた。
思った以上に有用な駒を手に入れることができたらしい。
ゼオンが芳野の体に埋め込んだ物はモデュレイテッドARMSと呼ばれる量産型ARMSの核である。
説明書には、これを心臓付近の体内に入れるとARMSの力と空間干渉能力を得られるとあったのだ。
ゼオンはこれを自身に使うつもりはなかった。
己の力のみで勝ち上がってこそ、これまでの血の滲むような日々が報われるというものだ。
ARMS等というわけのわからぬものを自分に使うなどもっての外であった。
だが、他人を利用するのは別である。
虫の息であった芳野を実験台に、強力な駒を手に入れることができた。
説明書にあった空間干渉能力についての記述は、『空間の断裂』と『空間転移』の二つしかなかったが、
干渉と言うからには空間そのものを振動させることも可能かもしれないな、とゼオンは思った。
「おい、いつまで休んでいる」
ゼオンは膝を着いている芳野に右手を翳すと、ザケルを唱えた。
153 :
どじふんじゃった! ◇AJINORI1nM代理投下
:2011/09/01(木) 11:06:03.76 ID:vETJqhUC
放たれた雷撃は空気を走り、芳野に直撃した。
「きゃっ……あっ……!」
「それ程強くはしていない。ARMSは電気に弱いらしいからな。それで耐性でも付けておけ。ついでに服も乾いただろう」
「あ……りがとう、ございます」
芳野の制服からは、アイロンが終わったように湯気が立ち上っている。
海水でずぶ濡れだった制服が、ゼオンのザケルを浴びて蒸発したのだ。
芳野の回復にはまだ時間がかかるだろう。
これから倉庫に向かうつもりなのだがな、と倉庫の方へ振り向いた時だった。
夜空に巨大な花が咲き、間を置いて爆発音が届いた。
花火である。
一体どこの馬鹿があんなものを打ち上げたのか。
仲間を募るためか、それとも敵を誘き寄せる(おびきよせる)ためか。
どちらにしろ、参加者を集める目的で上げられたものだろう。
まさか無意味に打ち上げたわけでもあるまい。
誘いに乗ってやっても良いが……。
「……………」
ゼオンは腹部を抑える。
血は止まっているが、今激しい動きをすれば傷口はまた開くだろう。
右腕も表面が焼かれてしまっていた。
あの花火に集まる参加者が一人や二人である可能性は低い。
大勢を相手取るならば、やはり万全の状態が望ましい。
「……もう良いだろう。早くこちらへ来い」
芳野にそう告げると、ゼオンは倉庫に向かって歩き出した。
その後ろを、芳野はふらついた足取りで付いて行く。
弱い攻撃だったとは言え、芳野の両足はARMSである。
雷撃によるダメージはまだ回復しきれていないようだった。
倉庫群に着いたゼオンは、その倉庫の一つへと入っていく。
中に何者の気配も無いのを確認すると、倉庫の一角にゼオンは座り込んだ。
やや遅れて、ランタンを灯した芳野が倉庫に入ってくる。
154 :
どじふんじゃった! ◇AJINORI1nM代理投下
:2011/09/01(木) 11:06:25.67 ID:vETJqhUC
電気が付いていないため、頼りになる明りは高窓から入る月明かりと、手持ちのランタンだけだ。
「ゼオン様……どこに……」
「ここだ。ランタンは消せ。照明は点けるでないぞ」
「は、はい」
芳野はランタンの灯りを消すと、高窓から差し込む月明かりだけを頼りにゼオンへと近づいて行った。
ここはモチノキ港から降ろされる積み荷の倉庫だろうか。
倉庫内にはコンテナやフォークリフト、積み上げられた段ボールがあった。
「俺はしばらく休む。他の参加者が襲って来た等、何か異常があれば俺を起こせ。それまでは物音一つ立てることないようにしろ」
「わかりました」
芳野に命令を伝え終えると、ゼオンは壁に凭れ掛り(もたれかかり)、座った姿勢のまま眠りに落ちた。
起きる頃には傷も体力も回復していることだろう。
芳野はゼオンの寝顔をしばらく眺めてから、足音を立てないよう注意しながら移動し、『毛布』と書かれた段ボールを静かに開けた。
中から毛布を一枚取り出すと、再び注意深く移動しながら元の場所へと戻り、ゼオンに毛布をそっと掛ける。
その後、ゼオンの命令を実行すべく、空間転移で倉庫の屋根へと移動した。
ここからならば周囲を広く見渡す事ができる。
参加者が近づいて来たら直ぐにわかるだろう。
三度の空間転移から三十分も経っていないいないため酷く疲れたが、物音一つ立てるなとの命令なので仕方が無い。
一旦外に出てからARMSの脚力で屋根の上に飛び上がれば、屋根に飛び乗った際に大きな音が出る。
ゼオンの物音一つ立てるなという命令は他の参加者に見つかるような行動をするなという意味が込められていたのだが、
芳野はそれを寝るのを邪魔するなという命令だと解釈してしまっていた。
倉庫の屋根の上では、芳野が裾の短くなったスカートをはためかせながら、ゼオンの命令通り異常がないか周囲を警戒している。
【染井芳野@スプリガン 生存確認】
【残り70名】
155 :
どじふんじゃった! ◇AJINORI1nM代理投下
:2011/09/01(木) 11:06:39.86 ID:vETJqhUC
【F-5 倉庫内/一日目 黎明】
【ゼオン・ベル】
[時間軸]:リオウ戦後、ガッシュの記憶を垣間見るより前
[状態]:疲労(大)、右腕に火傷、腹部に傷、睡眠中。
[装備]:ゼオンのマント、ゼオンの魔本@金色のガッシュ!!、神慮思考@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式、獣の槍@うしおととら、金糸雀@金剛番長、携帯電話(とらの写真&動画)@出典不明 、
モデュレイテッドARMSのリミッター解除装置@ARMS
[基本方針]:殺し合いに優勝し、バオウをこの手に。
1:回復が終わったら倉庫を調べる。
※魔物の治癒力で回復中です。
※芳野ととらの使えそうなランダム支給品を全て奪いました。
【F-5 倉庫の屋根の上/一日目 黎明】
【染井芳乃】
[時間軸]:9巻2話『獣人伝承2』以降、保存版文庫版収録の『GOLD RUSH』より前(=高校在学中)。
[状態]:疲労(中)、ザケル(弱)によるダメージ、モデュレイテッドARMS化、名前以外の記憶の喪失及び神慮思考による記憶の上書き
[装備]:制服(右腕の裾が無くなっている。スカートがミニスカ状態)、モデュレイテッドARMSの核(体内)@ARMS
[道具]:基本支給品一式×2、とらの毛数本@現地調達品、ジップロック×5@現地調達品、牛丼×2@うえきの法則
[基本方針]:ゼオン様の優勝を全力でサポート!
1:異常が無いか周囲を警戒する。何か異常があればゼオン様を起こす。
※ゼオン・ベルに名前以外の全ての記憶を奪われました。
※神慮思考によりゼオンの僕としての記憶を植え付けられました。
神慮思考の使用が止まればこの記憶が偽物であると気付くかもしれません。
※ナノマシンにより回復中です。
※F-6の海上に染井芳野の右腕、右足、左足、とらの死体が浮かんでいます。
※F-6のテトラポットの一部が破壊されました。
※F-6の港のコンクリートの上には芳野の血痕が残されています。
156 :
どじふんじゃった! ◇AJINORI1nM代理投下
:2011/09/01(木) 11:06:56.46 ID:vETJqhUC
【神慮思考@烈火の炎】
ゼオン・ベルに支給された。
葵の持つ魔導具。
袖に装着する三つの宝玉で、対象の記憶を操作することができる。
但し
「その記憶を術者も知っていなければならない」
「操作許容に限界値が存在する」
「距離的な能力範囲限定」
等の制限がある。
集中的に操作を行えば、一人の人間の思考を根本から歪曲することも可能である。
神慮思考の使用をやめれば、強い記憶操作で無い限り記憶は元に戻る。
複数人を対象にすることもできるが、人数が増えると改竄の効力は弱くなる。
制限により「操作許容に限界値」と「距離的な能力範囲」が更に限定されている。
操作に要する時間も長くなっている。
制限により、強い記憶操作であっても神慮思考の使用が止まれば記憶が戻るかもしれません。
【モデュレイテッドARMSの核@ARMS】
ゼオン・ベルに支給された。
ARMSへの適正が無くともARMSになることができる、量産を前提に調整(モデュレイテッド)されたARMSの核。
高槻崖に移植された物。
付加される能力はキーズ・グリーンと同じ空間干渉能力。
物理的特性に左右されず全ての物質を切り裂く『空間の断裂』や『空間転移』ができるようになる。
量産を前提に作られているため形態は第一形止まりであるが、リミッターを外せば完全体になる事も可能。
但し、完全体から人間に戻る事はできなくなる。
ARMS化するためのナノマシンとリミッターを外すため装置も付属。
139 名前:どじふんじゃった! ◆AJINORI1nM[sage] 投稿日:2011/09/01(木) 04:48:41 ID:???
以上で投下を終わります
157 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/01(木) 12:45:13.63 ID:vETJqhUC
さる解除されたかな?
代理投下完了です。
コピペしただけでまだ読んでないので、感想は後で。
158 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/02(金) 01:33:25.65 ID:WFz1STXi
投下乙です
とら…お前が負けるとは……まさか死んでしまうとは
染井もこれは死んだなと思ったらここでゼオンの道具だと?
ARMSも加わってやっかいな
159 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/06(火) 09:39:15.22 ID:CkSoi9a0
だいぶ遅れてしまった!
ようやく読めたのでまず一言……投下乙!
ゼオンVSとら、どちらも雷を操るスピードA、これも夢のバトルだよなぁ
そんな人外バトルが、人間である芳乃がいたために勝敗決まったなんてとららしくて切ねえ
とらを殺したヤツに獣の槍が渡るなんて因果だよなぁ
神慮思考は強すぎるかとも思ったけど、そういやゼオン記憶操作できるんだったw
モデュレイテッドARMS持ちの相方手に入れたゼオンは、これもう鬼丸並の怖さだぜ
しかし片腕両足失って深夜の海に落下なんて即死だろうに……w 優やジャンより、よっぽどしぶといヤツだw
160 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/06(火) 10:45:01.05 ID:CkSoi9a0
連レス失礼
気になって原作をチェックしたのですが、モデュレイテッドARMSは移植者の闘争心を喰らって機能を形成するとのことです
つまりホワンのARMSがあの能力を持つのは、もともと空間操作能力を持つホワンだからこそ……のようです
読むのが遅れてしまい、いまさら指摘することになってしまい申し訳ない
161 :
◆AJINORI1nM
:2011/09/09(金) 00:38:36.10 ID:l9IXujxM
読み返したら確かにそう描いてありますね……
自分の読み込み不足でした
修正し後日再投下致します
162 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/29(木) 00:52:28.46 ID:4NbhyS3H
非常に遅れましたが、修正部分を投下致します
芳野から空間支配能力を除き、位置も地上に変更しました
163 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/29(木) 00:54:29.20 ID:4NbhyS3H
◆ ◆ ◆
モチノキ港にある倉庫群。
近くには豪華客船が停泊し、周囲に人の気配はない。
そのコンクリートで出来た港の地面に、ゼオンは芳野を仰向けに転がした。
魔本ととらのリュック、そして芳野のリュックは回収した後、マントを使って空を飛び、
芳野を抱えて一番近い陸地であるここまで運んで来たのだ。
海水で濡れていたゼオンの服は、マントの回転により乾いてしまっていた。
地面に仰向けになっている芳野の胸は、小さく上下している。
息は浅いが、まだ生きていた。
当初は首を切り落とし首輪を回収するつもりであったが、生きているのなら他に使い道がある。
ゼオンの右腕には、宝玉の付いた装身具が三つ付けられていた。
手には獣の槍が握られている。
ゼオンは、海水で濡れ芳野の体に張り付いてしまっている制服を、胸部が見えるまで捲り上げた(まくりあげた)。
そして、その小さく上下を繰り返す胸部。心臓に近い部分に向けて、獣の槍をゆっくりと突き刺す。
槍の穂先はゆっくりと芳野の体に沈んで行く。
しかし、手応えがない。
槍を引き抜いてみれば、芳野の体には傷一つ付いてはいなかった。
「使えんな」
妖怪に対して絶大な力を発揮すると説明書にあったが、人間には効果がないどころか傷一つ付けられない。
妖怪とは空想の産物だろうに、いや、あの『とら』が妖怪だったのだろうか。
雷撃を発する時も、火炎を吐く時も、とらという魔物は呪文を唱える事はなかった。
魔物ならばあり得ないことだ。
この槍が妖怪に対して作られた武器だとして、では魔物に対してはどうなのだろうか。
今この場には自分しか魔物は居ない。
そんな自分に傷を付けるような実験をする気はない。
たとえ魔物との交戦中だとしても、こんな不確かな武器を使うことはないだろう。
人間や無機物に対するように、武器としての本分を果たせない可能性がある物を使うつもりはないからだ。
ゼオンは獣の槍を蔵王に仕舞うと、代わりに金糸雀という剣を取り出した。
残る刃物はこれしかない。
ソルド・ザケルガを遣うのは心の力の無駄遣いだ。
ゼオンは金糸雀で芳野の胸部を切り裂いた。
内臓を傷つけていないとはいえ、体内にまで達する深い傷だ。
傷口からは止めどない血液が流れ落ちている。
右腕や脚部から大量の血液が流れ出ていたこともあって、芳野の体からは血の気が引き、肌の色が白くなった。
ゼオンは素早い手つきで芳野の傷口を開くと、その中に何かを押し込める。
そして傷口から手を引くと、芳野の首の血管へナノマシンを注入した。
手にはべっとりと芳野の血がついてしまっているが、後で海水で洗い落とせば良いだろう。
芳野にナノマシンを注入すると、心臓に近い位置に付けられた傷口が見る見る内に塞がって行く。
それだけではない。
突然右腕や両足の傷口から金属とも有機物とも取れない物質が飛び出し、失われた手足を形作り始めたのだ。
その硬質の右腕と両足は自身の形を落ち付かせると、罅割れた(ひびわれた)表面が次第に有機的な質感になって行き、
最後には肌色に変わってしまった。
本物の手足と寸分違わぬ(たがわぬ)、罅割れも傷もない綺麗な手足がそこにあった。
164 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/29(木) 00:54:59.07 ID:fHQVOc2n
165 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/29(木) 00:56:34.98 ID:4NbhyS3H
芳野の顔色も、血の気が戻ったように健康的な色を取り戻している。
呼吸も、ゆっくりではあるが深いものへとなっていた。
それを確認したゼオンは、装身具を身に付けた右手を芳野の頭部に当てる。
魔導具『神慮思考(しんりょしこう)』。
ゼオンの右腕に装着されているのは記憶を操作する魔導具である。
この魔導具で操作できる記憶は、神慮思考の使用者も知っている記憶でなくてはならないが、問題はない。
何故ならば、ゼオンは相手の記憶を奪う技を会得しているからだ。
(……記憶を奪うのに時間がかかるな)
制限のせいか、ガッシュから記憶を奪った時よりも時間がかかっている。
記憶を完全に奪い終えるまでに意識を取り戻した場合、何か術を打つべきか。
ゼオンの左手には魔本が握られている。
対応は即座にできるだろう。
だが、そんな考えは杞憂に終わった。
記憶の奪取は無事完了し、この女は自分の名前以外何も覚えていない状態になっている。
この後は簡単だ。
神慮思考を使い、主従関係にあるという偽りの記憶を植え付ければ良い。
そうすれば、この女は便利な手駒と化し、心の力を使える道具となるのだ。
ゼオンは神慮思考を芳野に翳し(かざし)、真っ白なノートに文字を書き加えるように新たな記憶を植え付けて行く。
絶対に裏切らず絶対に逆らわない。
便利な傀儡となるように。
◆ ◆ ◆
「お前の名は?」
「私の名前は染井芳野です」
「お前は俺の何だ?」
「私はゼオン様の忠実な僕です」
「お前の役目はわかっているな?」
「はい、ゼオン様が優勝するように全力でサポートするのが私の役目です」
「それで良い」
ゼオンは神慮思考を使い、芳野に記憶を植え付けた。
自分はゼオンの忠実な僕であり、ゼオンに逆らわずゼオンを裏切らない。
ここは殺し合いの場であり、自分の役目はゼオンを優勝させることにある。
他にも、自分の命よりもゼオンを優先する等、ゼオンに都合の良い記憶を挿入したのだ。
本来、ゼオンの技にて記憶を奪われようと元の性格が変わることはないが、
神慮思考に植え付けられた偽の記憶によって、ゼオンに対しては絶対に服従するようになってしまっている。
166 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/29(木) 00:57:59.80 ID:fHQVOc2n
167 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/29(木) 00:58:36.64 ID:4NbhyS3H
神慮思考による記憶の改竄も時間のかかるものなのだが、記憶を全て失くしているという特殊な条件のため、
神慮思考はすんなりとその役目を全うしたのだ。
今の芳野は白紙のノートである。
そのノートにどれだけ都合の良いことを書き込もうと、矛盾する事柄はどこにも記載されていないのだ。
ゼオンだからこそできた荒業であった。
「芳野、お前はどの程度の力が出せる?」
「やってみます」
言うと、芳野の右腕と両脚が変質した。
皮膚が金属のように硬くなり、禍禍しい姿に変わってゆく。
ARMSと呼ばれる力だ。
芳野がその右腕を港の先へ向けると、右腕が急速に伸び十メートルは離れていたテトラポットの一部を破壊した。
脚に力を込めれば、二階建ての建物程の高さまで飛び上がることができた。
走力も常人より速い。
普通の人間よりは動き回れる分使えるな、と芳野の動きを見てゼオンは思った。
ゼオンが芳野の体に埋め込んだ物はモデュレイテッドARMSと呼ばれる量産型ARMSの核である。
説明書には、これを心臓付近の体内に入れればARMSの力を得ることができるとあったのだ。
だがゼオンはこれを自身に使うつもりはなかった。
己の力のみで勝ち上がってこそ、これまでの血の滲むような日々が報われるというもの。
ARMS等というわけのわからぬものを自分に使うなどもっての外であった。
だが、他人を利用するのは別である。
虫の息であった芳野を実験台に使ってみれば、ある程度は使える駒が手に入った。
それだけの事だった。
「そういえばARMSは電気に弱いらしいな」
ARMSはナノマシンの集合体で、電気的な攻撃によって機能が一時的に麻痺してしまう。
両脚がARMSの芳野が電撃を受ければ、しばらくの間脚がまともに動かず行動がかなり制限されてしまうだろう。
それでは同じ雷撃の術を遣うガッシュと戦う際、致命的な弱点となってしまう。
ゼオンの許へと戻ってきた芳野を見やると、ゼオンは右手を翳しザケルを唱えた。
放たれた雷撃は空気を走り、芳野に直撃する。
「きゃっ……あっ……!」
「それ程強くはしていない。それで電撃への耐性を付けておけ。ついでに服も乾いただろう」
「あ……りがとう、ございます」
芳野の制服からは、アイロン掛けが終わったように湯気が立ち上っている。
海水でずぶ濡れだった制服が、ゼオンのザケルを浴びて蒸発したのだ。
芳野は電撃を浴びたことにより、蹲って(うずくまって)しまっている。
回復するまでにはしばらく時間が必要だろう。
これから倉庫に向かうつもりなのだがな、と倉庫の方へ振り向いた時だった。
夜空に巨大な花が咲き、間を置いて爆発音が届いた。
花火である。
一体どこの馬鹿があんなものを打ち上げたのか。
仲間を募るためか、それとも敵を誘き寄せる(おびきよせる)ためか。
どちらにしろ、参加者を集める目的で上げられたものだろう。
まさか無意味に打ち上げたわけでもあるまい。
168 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/29(木) 00:59:09.45 ID:fHQVOc2n
169 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/29(木) 00:59:30.77 ID:fHQVOc2n
170 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/29(木) 01:00:37.16 ID:4NbhyS3H
誘いに乗ってやっても良いが……。
「……………」
ゼオンは腹部を抑える。
血は止まっているが、今激しい動きをすれば傷口はまた開くだろう。
右腕も表面が焼かれてしまっていた。
あの花火に集まる参加者が一人や二人である可能性は低い。
大勢を相手取るならば、やはり万全の状態が望ましい。
「……もう良いだろう。早くこちらへ来い」
芳野にそう告げると、ゼオンは倉庫に向かって歩き出した。
その後ろを、芳野はふらついた足取りで付いて行く。
まだ回復などできてはいないが、ゼオンが命じた事には従わなければならない。
電撃により機能が麻痺してしまっている両脚を無理矢理引き摺りながら、芳野はゼオンの後を付いて行った。
倉庫群に着いたゼオンは、倉庫の一つへと入っていく。
中に何者の気配も無いのを確認すると、倉庫内の一角にゼオンは座り込んだ。
数分遅れて、ランタンを灯した芳野が倉庫に入ってくる。
電気が付いていないため、頼りになる明りは高窓から入る月明かりと、手持ちのランタンだけだ。
「ゼオン様……どこに……」
「ここだ。ランタンは消せ。照明は点けるでないぞ」
「は、はい」
芳野はランタンの灯りを消すと、高窓から差し込む月明かりだけを頼りにゼオンへと近づいて行った。
ここはモチノキ港から降ろされる積み荷を置くための倉庫だろうか。
倉庫内にはコンテナやフォークリフト、積み上げられた段ボールがあった。
「俺はしばらく休む。他の参加者が襲って来た等、何か異常があれば俺を起こせ。それまでは物音一つ立てることないようにしろ」
「わかりました」
芳野に命令を伝え終えると、ゼオンは壁に凭れ掛り(もたれかかり)、座った姿勢のまま眠りに落ちた。
起きる頃には傷も体力も回復していることだろう。
芳野はゼオンの寝顔をしばらく眺めてから、足音を立てないよう注意しながら移動し、『毛布』と書かれた段ボールを静かに開けた。
中から毛布を一枚取り出すと、再び注意深く移動しながら元の場所へと戻り、ゼオンに毛布をそっと掛ける。
その後、ゼオンの命令を実行すべく外へと移動した。
倉庫への入り口はドアが一つに、大きなシャッターが一つだ。
シャッターは開ければ大きな音がするはずなので、芳野は倉庫の側面にあるドアの前に立ち周囲を警戒している。
倉庫の屋根に上ればもっと広く周りを見渡せるだろうが、電撃の痺れがまだ抜けきってはいない。
これでは、ARMSの力を使ったとしても屋根に飛び上がることは無理そうだ。
裾の短くなったスカートが海風ではためく。
波の音と風の音を聞きながら、芳野は空を見上げた。
171 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/29(木) 01:02:37.52 ID:4NbhyS3H
空には綺麗な三日月が浮かんでいた。
【染井芳野@スプリガン 生存確認】
【残り70名】
【F-5 倉庫内/一日目 黎明】
【ゼオン・ベル】
[時間軸]:リオウ戦後、ガッシュの記憶を垣間見るより前
[状態]:疲労(大)、右腕に火傷、腹部に傷、睡眠中。
[装備]:ゼオンのマント、ゼオンの魔本@金色のガッシュ!!、神慮思考@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式、獣の槍@うしおととら、金糸雀@金剛番長、携帯電話(とらの写真&動画)@出典不明 、
モデュレイテッドARMSのリミッター解除装置@ARMS
[基本方針]:殺し合いに優勝し、バオウをこの手に。
1:回復が終わったら倉庫を調べる。
※魔物の治癒力で回復中です。
※芳野ととらの使えそうなランダム支給品を全て奪いました。
【F-5 倉庫周辺/一日目 黎明】
【染井芳乃】
[時間軸]:9巻2話『獣人伝承2』以降、保存版文庫版収録の『GOLD RUSH』より前(=高校在学中)。
[状態]:疲労(中)、ザケル(弱)によるダメージ、モデュレイテッドARMS化、名前以外の記憶の喪失及び神慮思考による記憶の上書き
[装備]:制服(右腕の裾が無くなっている。スカートがミニスカ状態)、モデュレイテッドARMSの核(体内)@ARMS
[道具]:基本支給品一式×2、とらの毛数本@現地調達品、ジップロック×5@現地調達品、牛丼×2@うえきの法則
[基本方針]:ゼオン様の優勝を全力でサポート!
1:異常が無いか周囲を警戒する。何か異常があればゼオン様を起こす。
※ゼオン・ベルに名前以外の全ての記憶を奪われました。
※神慮思考によりゼオンの僕としての記憶を植え付けられました。
神慮思考の使用が止まればこの記憶が偽物であると気付くかもしれません。
※ナノマシンにより回復中です。
※F-6の海上に染井芳野の右腕、右足、左足、とらの死体が浮かんでいます。
※F-6のテトラポットの一部が破壊されました。
※F-6の港のコンクリートの上には芳野の血痕が残されています。
172 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/29(木) 01:03:00.77 ID:fHQVOc2n
173 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/29(木) 01:04:38.44 ID:4NbhyS3H
【神慮思考@烈火の炎】
ゼオン・ベルに支給された。
葵の持つ魔導具。
袖に装着する三つの宝玉で、対象の記憶を操作することができる。
但し
「その記憶を術者も知っていなければならない」
「操作許容に限界値が存在する」
「距離的な能力範囲限定」
等の制限がある。
集中的に操作を行えば、一人の人間の思考を根本から歪曲することも可能である。
神慮思考の使用をやめれば、強い記憶操作で無い限り記憶は元に戻る。
複数人を対象にすることもできるが、人数が増えると改竄の効力は弱くなる。
制限により「操作許容に限界値」と「距離的な能力範囲」が更に限定されている。
操作に要する時間も長くなっている。
制限により、強い記憶操作であっても神慮思考の使用が止まれば記憶が戻るかもしれません。
【モデュレイテッドARMSの核@ARMS】
ゼオン・ベルに支給された。
ARMSへの適正が無くともARMSになることができる、量産を前提に調整(モデュレイテッド)されたARMSの核。
量産を前提に作られているため形態は第一形態止まりであるが、リミッターを外せば完全体になる事も可能。
但し、完全体から人間に戻る事はできなくなる。
ARMS化するためのナノマシンとリミッターを外すため装置も付属。
174 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/29(木) 01:05:09.74 ID:fHQVOc2n
175 :
どじふんじゃった!
◆AJINORI1nM
:2011/09/29(木) 01:06:48.49 ID:4NbhyS3H
これにて修正部分の投下終了です
問題が無ければWikiの該当部分を修正致します
修正が遅れてしまい、申し訳ありませんでした
176 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/29(木) 01:10:49.38 ID:fHQVOc2n
修正お疲れ様です。
問題ないように思います。
しかしゼオンは恐ろしいぜw
177 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/29(木) 19:26:22.50 ID:uj78TGiw
修正乙
自分も大丈夫だと思います!
そして予約きたー!
178 :
創る名無しに見る名無し
:2011/09/29(木) 21:29:25.73 ID:fHQVOc2n
さらに予約きたーー!
179 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 00:56:27.03 ID:BZnFiCpl
これより投下します。
180 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 00:57:07.09 ID:BZnFiCpl
鬼丸猛は二人の問いには答えず、手にした魔王剣を一振りする。
特に目的があった訳ではない。
その重さを、刃の振りを、刀身より伝わる力の鼓動を、感じてみたかっただけだ。
剣を振り上げ、下ろした。それだけだ。
だが、そのたった一つの挙動には珠玉の技が込められている。
もし居合い番長がこれを見ていれば、鬼丸の呆然とするような技量を感じ取れたであろう。
剣が動いている間中、鬼丸の全身の間接は有機的に繋がり、筋肉の挙動全てを余す所なく刀身へと伝え切っている。
振り上げる最中、頂点に達した時、振り下ろさんと下ろしかけた時、全ての時において剣は万力のごとき力を有しており、何時如何様に斬りかかられようと、鬼丸の全力にて迎え撃つ事が出来るのだ。
鬼丸にとっては意図せぬ簡易な動き一つであるが、それは剣の極致に至った剣豪でもなくば不可能な所作であった。
もちろん、剣の道を歩んでいない者であろうと、僅かでも武の心得があれば鬼丸のただならぬ雰囲気に気付く事が出来よう。
拳を頼りに王選別戦を戦うテッド、銃器はびこる中肉体を頼りに戦うボー、二人共武とは極めて近しい存在だ。
そのつもりがあれば鬼丸より達人の気配を感じ取る能力はある。
問題は、二人共に、相手の能力なぞ知った事かと考えていた事であろう。
ボーが鬼丸を怒鳴りつける。
「何を黙っている! 弁明があるなら聞くと言っているのだ! もし無いというならば! 貴様を敵として認識する他無いぞ!」
ボーが妙に熱くなっているせいか、テッドは少し冷静さを取り戻したようで、声のトーンが僅かに落ちる。
「おい落ち着けよそこの筋肉達磨。その勢いじゃ話したくても話せねえだろ。なあ、その武器は俺の知り合いの持ち物なんだ。そいつを前に剣ぶら下げてちゃ誤解もしようってもんだぜ」
鬼丸は、こきり、こきりと首を鳴らす。
「誤解でないと言ったらどうする?」
「やはり貴様奴に何かしておったか!」
速攻でボーがキレるが、テッドは眉根に皺を寄せるのみ。
「……冗談じゃ済まねえぞ、角ハゲ」
実にわかりやすい二人を見て、鬼丸は怪訝そうに眉を潜める。
鬼丸は鬼丸なりにこの殺し合いをせよという場において、考える事はあった。
何でもアリで殺し合いをせよという話であり、それに相応しい首輪といった強制力も存在する。
首輪が鬼丸に通用するかどうかは又別の話として、コレを理由に已む無く殺し合いを行なう者も多いのではないかと考えていたのだ。
実際鬼丸も、この企みを仕掛けた者達の力が見えぬ現在、この首輪を力づくで引き千切る気にはならない。
故に、先に出会ったコウ・カルナギという男のように、人と出会えばともかく戦うといった人間ばかりかと思っていた。
現にその後に出会った居合い使いも、いきなり人の事を物の怪呼ばわりするわで殺り合う気満々であった。
しかし、この二人は少々毛色が違うようだ。
所謂、人を傷つけるのに理由が必要な類の人間に見える。
なので少し試してみる事にした。
「お前達はこの居合い使いの知己か?」
ボーがやはりムキになって怒鳴り返そうとするが、先にテッドが口を開く。
「いや、さっき会ったばかりだ。だが……」
だらりと垂らした両腕以外、戦闘態勢に移行しながらテッド。
「悪い奴には見えなかったんでな。そいつを、アンタがどうにかしちまったってんなら素通りは出来ねえよ」
「その通りだ! 良くぞ言ったボウズ!」
直後喚いたのが誰かは言うまでもあるまい。
鬼丸は、顔を心持ち下げ、肩を震わせる。
「……なるほど、なるほど、な。つまる所、お前等はこの魔王剣には似合いの相手だという事か。あの男がどうなったか知りたいか? その抉れた地面の辺りで跡形も無く消滅したぞ。化けて出られるのが嫌なら線香の一本でも上げたらどうだ?」
テッドの全身に魔力が漲る。
ボーの筋肉が一回りデカくなる。
それは、鬼丸の言葉に怒りを覚えたのもそうだが、より以上に、抉れた地面の辺りに転がっている人間の腕を見てしまったせいだ。
鬼丸は愉快で堪らぬと歪んだ笑みを見せた。
「身の程を教えてやろう。その上で、情に殉じる度胸があるかどうか試してやる」
悪意や邪気を力とする魔王剣は正道を歩む者を斬れば斬る程に艶を増すであろうからな、と鬼丸はこの二人がそんな価値ある敵であれと期待をかけるのだ。
181 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 00:58:47.52 ID:BZnFiCpl
剣を持つ鬼丸に対し、ボーもテッドも素手での格闘戦を得意とする。
世に剣道三倍段と言われるように、無手と武器持ちでは圧倒的な戦力差が発生してしまう。
だからボーとテッドの二人は、まず動いた。
一直線に仕掛け無かったのは意識して相手を探る真似をしないでも、自然とそれなりにではあれど敵の力量を察する能力があるからであろう。
実戦経験があるというのはそういう事だ。
ボーは走る。走る。走る。
最高速を上げる走り方と、急旋回を可能とする走り方とは足の運びからして異なる。
分身したかのように見える程のストップ&ゴーを基本とするボーの走りは後者に類するものだが、ゴーの時の加速度は人間の限界値を越える。
百メートル走の選手で最高速に達するのに必要な距離が30〜40m程であるのだが、止まった状態から動く瞬間の加速度は彼等より勝る。
残像を残す程の走りを為すに必要な事であるのだが、こんな人類向けでない走り方をしたら、ものの数回で筋肉が破裂してもおかしくはない。
そんな無茶を、鍛えぬいた筋肉で支えているのだろう。もしかしたら骨格をすら鍛えているのかもしれない。
強敵朧との戦いにおいて戦闘の指南を受けたボーは、そんな高い身体能力に加え、敵の存在を意識するようになった。
敵の視線、気配察知能力、音の有無、そんな所にまで配慮しうる走りが出来るようになり、ボーの走りは戦闘技術としての昇華を見た。
無論、こんな芸当が出来てしまう程の身体能力から生み出される格闘戦能力は比類なきものであり、世界の頂点とまで言われた銃器を持つ戦闘部隊に対し、素手で全てを張り倒すなんて真似までしてのける。
そして、彼の最大の長所であり短所でもある、これまた人外の域なポジティブシンキングにより、恐れる気もなく鬼丸へと迫る。
剣先を見ていたら、間違いなく間に合わなかった。
ボーは寸での所で真横に飛ぶ事で、袈裟に振るわれた一撃を回避、いやさ刀の届く範囲から離れられたのだ。
魔王剣は諸刃な西洋剣の造りでありながら、鬼丸の持ち方は竹刀や刀のそれだ。
鍔ぎりぎりと、柄の下端側を握り、てこの原理を用いて剣先の速度を上げる。
重量を叩き付ける事で斬る力を得るのではなく、剣先を精妙に操り引き斬る日本刀の扱いと同じやり方であるのは、鬼丸が学んできた剣術がそうであったからであろう。
魔王剣は日本刀と比べても遜色ない切れ味を持つので、無論これでも問題は無い。片刃用の使い方でもあるので逆側の刃がまるっきり無駄になってはいるが。
テッドもまた、鬼丸へと踏み込んで行く。
こんな悪党に加減してやる謂れもないと、出し得るありったけの速度で突っ込む。
剣の重量に任せた振り方ではない鬼丸の剣術は、精緻極まりない足の運び、体裁きにより、完全な形でテッドの突貫を迎え撃つ。
大慌てで踵を立て、間合いギリギリで逆袈裟をすかしにかかるテッド。
完全に外した、そう確信したテッドであったが、左肩にありえぬ衝撃を受け、真横に回転しながら吹っ飛ばされる。
鬼丸はこの機を逃さず更なる踏み込みを見せようとするが、突如振り返り、魔王剣を頭上に翳す。
「ホォー! アタタタタタ!」
ボーが凄まじい跳躍を見せ、空中多段蹴りを見舞って来たのだ。
跳躍時、ボーは限りなく音を鳴らさぬ蹴り足で飛び上がったのだが、鬼丸はそんな微かな気配をすら察し、剣を受けに用いる。
刃を立てボーの足を傷つける受け方は、そも、ボーの蹴りを見切れていればこそ為せる技。
鬼丸は剣を盾のように翳し、少しでも広く防げるようにせねば、この連撃は防げぬのだ。
それでも全段を受け切り、全ての蹴りを止めたにも関わらず重心が微動だにしないのは、鬼丸の卓越した能力の顕れであろう。
逆に力負けしたボーが弾き飛ばされる結果となるが、見た目に反してやったら身軽なボーは音も無く大地に着地する。
182 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 00:59:36.03 ID:BZnFiCpl
鬼丸の見事な受けっぷりにボーは舌打ちするも、テッドが距離を取る時間稼ぎは出来た。
そしてそのテッドである。
まるで刃が伸びたような不可思議な一撃の正体を探り、すぐに理解した。
左肩の先を削り取ったらしい斬撃は、勢いそのままに大地をも切り裂いていた。
つまりこの男の斬撃は、飛ぶ、らしい。
魔物の子ならばこのぐらいやってきそうであるし、そんな世界の理的に断じて許せぬ現実をもすぐさま受け入れるテッド。
飛んだ斬撃も当然斬れるらしいので、間合いを開けるのは極めてがつく程不利だ。
テッドはボーへと目配せする。
知能の高さや察しの良さはさして期待出来ないボーであったが、殊戦闘となれば話は別だ。
瞬時にテッド思う所を理解し呼吸を合わせる。
そう、文字通り、テッドの吸う息吐く息に、自らのそれをぴたりと揃えたのだ。
遠目に見ている事もあり、テッドの呼吸の挙動なぞ欠片も見えぬはずだが、ボーは事も無げにこんな真似をしてみせる。
通常、こういった技はしかるべく師匠につき、人体の真理について探求せねば身につかぬものである。
しかしボーは、独学で「分身の術」を身につけてしまう男だ。
分身とはストップ&ゴーの極致であり、実際分かれている訳ではないのだが、そう相手に見えるよう動くという敵の視覚限界まで考慮に入れた珠玉の技術。
それはただ力がある、速度があるのみでは決して辿り着けぬ領域。
高い能力を薬に頼っていた時期既にこの技を使えたという事は、ボーはその頃からそれこそ血の滲むような修行を繰り返してきたという証であろう。
実際、分身の術はこの場にも来ているスプリガン最強の男、朧をして「見込みがある」と言わしめたのだ。
その後、信じられぬ程の誘惑があったであろう薬物を絶ち、一から鍛えなおし再び、いやさ以前以上の能力を身に付けているのだから、恐るべき男である。
その修行は、基礎能力を高めるのみならず、対人格闘戦に特化したものであったと推測される。
銃器を持つ歴戦の戦士を相手に生身のみで戦い続け、幾多の危地を潜り抜け得たのは、かの世界ですら数える程しか居ない。
こんな真似、たた単に身体能力が高いなんて理由のみで為しえるはずがない。
敵の呼吸を読む、筋肉の動きから次の動きを読む、殺気に反応する、等の達人レベルの技をこなせるようになっていたであろう。
惜しむらくは、ボーは真理を学んだ上でこう出来ているのではなく、ただただ鍛え続ける事でこの域に達していたので、達人に共通する水鏡の如き精神は持ち合わせ得なかった。
既に亡くなっている御神苗優に、会う度いいようにあしらわれていたのは、この辺りが関係していると思われる。
呼吸を読めれば、動く瞬間を見切るのも難しくはない。
ボーはテッドとぴたりのタイミングで左右同時に仕掛ける。
鬼丸の視界範囲にて、同時に二人をその目に納める事は出来ない。
首だけを動かし素早く二人を確認すると、真後ろに魔王剣を引く。
右構えであるのは僅かにボーが早いと見た故。これをほんの一瞬で見極められるのが彼の非凡な所だ。
初速で既に斬撃に必要な威力を持たせ得るその技術は、如何様なものであろうか。
深く大地を踏みしめた両の足、その回転を腰の捻りと共に剣先に伝える。
これは最初に鬼丸が剣を振るってみた時の術理がそのまま活きており、全身の間接駆動を戦闘の為自在に操る鬼丸の見事な技であった。
まず、ボーがこれを受ける事となる。
かわしずらい胴中央を狙った横薙ぎの一閃。
踏み込みすぎていた為、下がるのはもう間に合わない。
拳を先に当てられれば? 否、この間合いでは一打で倒せたとしてもボーの胴は真っ二つだ。
咄嗟に片膝を落としつつ、前に出した足は低く滑るように伸ばし、仰け反るようにしてこれを避ける。
尋常ならざる走行速度により、ボーの体は鬼丸へと滑る事を止めてくれない。
伸ばした前足の踵で強引に大地を蹴り、進路を逸らすと、どうにかこの洒落にならない体勢のまま鬼丸に激突するなんて事態だけはせずに済んだ。
183 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 01:00:23.64 ID:BZnFiCpl
次にテッドだ。
切っ先が顔の真横より迫る位置。
テッドは鬼丸より背が低い為、斜め下へと伸びる形になった剣は、ダッキングにて潜ろうとしても剣先が頭をかすめるだろう。
頑丈な頭蓋骨君を頼るのも手ではあるが、流石に今ここで試す気にはならない。
テッドは攻撃を放棄し、斜め前方へと大きく上半身を投げ出す。
こちらも恐ろしい速さが出ている為、地面に前半身をついた所でまるで速度は落ちず、地面を滑り進んでいく。
鬼丸の剣を潜る事の出来た二人が、体当たりを拒否した理由はただ一つ。
こちらの体勢が崩れた状態で何を仕掛けたとしても、鬼丸を崩せると欠片も思えなかったせいだ。
鬼丸は、回転しながら魔王剣を振るいつつ、後ろ足を回転に任せ滑らせる。
更に、二人が潜ったと見るや今度は滑らせていた後ろ足を軸に再度魔王剣にて、周囲一周を薙ぎ払う。
下手な挙動で鬼丸に迫っていれば、二度目の回転で弾かれつつ剣の餌食となっていたであろう。
二人の判断は正しかったのである。
鬼丸は立ち上がった二人を順に眺め、冷笑した。
「なるほど、二人共速さが自慢か」
ボーはこの時、僅かばかりも油断なぞしていなかった。
人が踏み出すに必要な足の挙動を、絶対に見落としていなかったと確信出来る。
にも関わらず、鬼丸はアレという間もなくボーとの間合いを詰めていた。
ほんの一瞬だが、遠巻きに見ていた鬼丸が大きく見えるのは、近寄ったのではなく巨大化したのでは、そう思える程にありえぬ近接であったのだ。
薙ぎに近い袈裟斬り。これほどまでに深く踏み込まれては下がるも適わぬ。かがむにも軌道が低くやはり至難。
ボーは両足を揃え、剣筋と平行になる形で真上へ飛んだ。
その上かわしざま腰を基点に回転し、飛び後ろ回し蹴りを放つは彼ならではの体術であろう。
僅かに鬼丸の目が鋭くなったのは、ボーの動きの見事さのせいか。
頭をかがめてこれをかわした鬼丸は、背後よりの大声に反応する。
「セカン・ナグル!」
鬼丸の耳に入るテッドが大地を蹴る音、これが予想以上に速い。
斬る、間に合わない。
受けるつもりで鬼丸が翳した魔王剣を外し、テッドは先以上の早さで踏み込み、腹部へ右拳を伸ばす。
テッドの目が驚愕に見開かれる。
剣で受けるフリを見せたのは動きを読ませぬ為。
鬼丸は下半身のバネのみで真横に飛んだのだ。
あまりの速さに、テッドの目にも、そしてこの技の遣い手であるボーの目にすら、鬼丸の残像が見えた。
テッドは知らず生唾を飲み込む。
二人がかりで攻め立てても破綻する気配すらない卓越した戦闘技術。
そして何より、大地を深く抉った技をまだ見せていないというのが気にかかるのだ。
テッド同様、魔力による使用制限でもあるのか、はたまたそれ以外の理由か。
いずれにせよテッド達はこの未見の技をも警戒しなければならない。
「しんどい相手だぜこりゃ」
思わずそんな言葉も漏れようて。
184 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 01:01:12.19 ID:BZnFiCpl
鬼丸が魔王剣の力を使わないのには理由があった。
とにかく威力がありすぎるというのもそうだが、鬼丸自身も意識していない心の動きがある。
鬼丸は鉄剣十朗という師につき、剣について深く思索する機会を得た。
結果邪心を消すという一つの答えに辿り着いたのもそうだが、鬼丸の行なった修行はそれだけではない。
ただ無心であれば戦いに勝てるというのであれば徳の高い坊さんは皆剣の達人という事になる。
自らの力を発揮するに必要な心の持ちようではあれど、剣の技術はそれだけで語れるものでもない。
では肝心の剣の技はどうかと言えば、鬼丸の居た場所にて行なわれた世界に冠たる兵が集まる大会において、鬼丸はわざわざおもりを付けた上木刀にて決勝まで勝ち上がるという結果を残している。
元より剣の才あれど、所詮は学生の身。そんな鬼丸がそこまで至れたのは、記憶が失われていようとライバル刃達との戦いの日々がその身に刻み込まれていたせいであろう。
ならば再び鬼としての記憶を取り戻し、邪心に満ちた鬼丸に戻ってしまったとて、やはり剣の技はその身に染み付いたままだ。
魔王剣、その最大の弱点は、威力を三段階にしか分けられぬ事。そして発射シークエンスを短縮する事が出来ぬ事だ。
溜め抜きでも飛ぶ斬撃を放つ事は出来るが、刀を振り下ろすという動きが必要な為、単純な飛び道具として用いた場合余程銃の方が素早い発射が可能であろう。
これはテッドやボーのように一瞬で全身が視界より消え失せるレベルの相手には、向かぬ戦い方である。
では、必勝を期せるであろう、ある戦術を用いない理由は何であろうか。
そう、魔王と化した鬼丸は飛行が可能であり、二人の攻撃が届かぬ高度より三日月剣でも連発してやれば、ほぼ確実に勝てるであろう。
それでよしんば逃げられたとしても、鬼丸が敗北する事だけは絶対に無いはずなのに。
鬼丸は、剣技に絶対の自信があるのもそうであろうが、魔王と化して尚、剣士であったのだ。
魔王剣の特性を考えれば、剣術とは無縁の戦闘方法が必要となったはずであろうに、ひたすら剣の腕を磨き新たな技を得るような男なのだ。
そんな鬼丸だからこそ、魔王剣の弱点を消しうる、本来の持ち主以上の使い手となりえたのだろう。
おかげでテッドとボーは、空中からの爆撃に見舞われる事もなく、当人達にその気が無いにしても逃げる隙を見出す事も出来なかった。
「フォルス・ナグル!」
テッドの叫び声と共に、更にその速度が上がる。
今の所、コレが一番鬼丸の興味を引いていた。
ボクシングのような動きを見せ、右前のサウスポースタイルでジャブも右で打つ。しかしどうもコイツは右が利き腕らしい。
デタラメとも言えるそんな動きは、しかしパワースピード共に一流の域。
それが叫び声と共に更なる高みへと昇って行く。
鬼丸は愉快でたまらぬと笑う。
「小僧、ソレは何処まで上がる?」
鬼丸の小手払いを肘を跳ね上げてかわしたテッドは、飛びのきながら腕に刻まれた赤い筋に口を這わせる。
「テメェをブッ倒すまでだよ!」
小柄な体に相応しい俊敏さと、小柄な体にまるで似つかわしくないパワー。何処かの誰かを見るようだと鬼丸は何故か奇妙な気分になれた。
そしてもう一人。
大柄な体に相応しい膂力と、大柄な体にまるで似つかわしくないスピード。特にスピードに関しては、見ていて気持ち悪くなるぐらい速い。
強いと思える敵と向き合い、その上で自らがより勝ると確信出来る事の快絶は言葉に尽くしがたい。
鬼丸は牽制に斬撃波を飛ばす。
これを、前へと踏み込みながらかわすテッドのスピードは、攻撃の際を見切る目は、確かに大したものだと思える。
185 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 01:01:59.75 ID:BZnFiCpl
だが、剣と拳との間合いの差は如何ともし難い。
テッドが攻撃有効距離に入り込む前に、鬼丸の剣がテッドを襲う。
これが甘ければテッドは容易く剣を掻い潜り近接を果たすであろうが、鬼丸は例え百回繰り返す事になろうと、テッドに間合いへの侵入を許すつもりはない。
充分な余裕を持って右袈裟の一撃を振るうと、テッドは更に叫んだ。
「フィフス・ナグル!」
先読みではない、剣の軌道を見てからかわす信じられぬ反応速度により、鬼丸の間合い内へと飛び込むテッド。
ボーもまた、テッドが何やら仕掛ける気配を察し、逆側より鬼丸へと迫る。
鬼丸は咄嗟に片手を魔王剣より外す。
袈裟に振るった剣は、それが刀であるのなら切り替えしに手首の返しが一つ必要であり、一挙動分だけ遅れが出来てしまう。
鬼丸のそれまでやっていた剣術も、握った拳方向に剣を振るうのが大前提だ。
しかし鬼丸は、魔王剣を使いこなせるよう修行をしてきた。それは、つまり諸刃を操る術も身につけているという事だ。
袈裟の一撃は鬼丸の膂力により中途で強引に止められ、拳方向とは真逆に向けて引き上げられる。
僅かな停滞も無くそんな真似をされては、速度を上げきったテッドとて打つ手なぞない。
頼みの綱は同時に踏み込んでいたボーであったが、剣を止める意図も含めたボーの前蹴りを半身でかわし、その顔面を剣より離した手で掴み取られる。
フィフス・ナグルのおかげで切断だけは免れたテッドは、大きく跳ね飛ばされ大地を転がる。
剣を受け止めた両の腕より血の雫を迸らせながら。
万力の如き力で頭部を締め上げられているボーも、苦悶の表情のまま反撃を。
鬼丸は腕に伝わるボーの体の揺れから攻撃の瞬間を察し、寸前でボーを掴んだ腕を体を入れながら捻る。
見た目に相応しい重量感たっぷりなボーの全身が宙を舞う。
ぐるりと半回転し頭部を真下に向けられたボーは、そのまま大地へと叩きつけられた。
頭部の半ばまでもを地面に埋め込まれる程の衝撃は、ボーの鍛えた肉体を持ってしても受けきる事能わず。
片目のみ地面から外を視認可能であったが、その視界はぐるぐると回り意味ある情報をボーに提示しない。
そんなボーにトドメを刺すのは、鬼丸にとっては草を刈るより容易な事であった。
「やらせるかよ!」
だくだくと血を流す腕を、痛みすら感じなくなった腕を、そうあれと強く念じる事で強引に持ち上げテッドが走る。
そうせざるを得ない。鬼丸にもそこは良くわかっていた。
上がった速度分の目測は修正済み。鬼丸は、ここでテッドを仕留めるつもりであった。
剣の間合いまで後一歩の所で、テッドが予想だにせぬ動きを見せる。
届かぬ距離にて拳を振り上げ、軸足を踏ん張る。
鬼丸が考えたのは、テッドも切り札として遠当ての術を持っているかもしれぬという事。
そんな判断が鬼丸の反応を遅らせた。
テッドは遠当てでも何でもない、届く場所へと拳を振り下ろす。
鬼丸の剣の間合い直前の、大地へと拳を叩き付けたのだ。
ぬかった、そう内心のみで舌打ちしつつ鬼丸は吹き上がる土砂の中にてテッドの殺気を探る。
殺気はあった。
鬼丸の背後より、転倒し身動き取れぬはずのボーが飛び上がっていたのだ。
「ようやく隙を見せたな! 喰らえっ! 爆裂粉砕拳!」
ボーが放つは目で追うのは不可能なレベルの乱打。
両腕両足を全て攻撃に用いる為に、自身は空中へと飛び上がるこの乱打を、良くもこれまでさんざかわしてくれたなとばかりにありったけ叩き込むと、鬼丸は剣を受けに翳した姿勢のまま彼方へと吹っ飛んで行き、岩場がヘコむ程の勢いで叩きつけられる。
テッドは両腕をだらりと垂らしたまま、口の端を上げて見せた。
「やるじゃねえかおっさん」
186 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 01:02:58.52 ID:BZnFiCpl
ボーは両腕を組み胸をそらし答える。
「ふん、私は世界最強の男ボー・ブランシェだぞ。この程度造作も無い。だが、貴様の援護も悪くは無かったぞ」
何て偉そうな事を言っているボーは、まだ平衡感覚が戻っていないのか立っているつもりで地面に寝っ転がったまま、ふんぞりかえっていた。
これで鬼丸をどつき飛ばしたのだから大したものだ。
小さく噴出した後、テッドは鬼丸を睨みつける。
「おい角ハゲ、まだやんのか?」
鬼丸はさしたる痛痒を感じた風もなく、岩場から体を引き抜く。
「まさかとは思うが、これで勝ったつもりか?」
そのつもりだったボーは大慌てで立ち上がる。
「ふ、ふふん。この私の必殺技を浴びて立ち上がるとは、中々やるではないか」
内心では『ば、馬鹿な!? この私の会心の必殺技が通じぬのか!?』とか考えてるのはさておき、そんな台詞をほざく。
鬼丸は眼前に魔王剣を垂直に立てる。
「良いものをもらったな。お返しだ、あの居合い使いを消し去った技、貴様等にも見せてやろう」
髑髏を模した柄の部分。
この中心の黒い宝玉が、端よりじわりと光を得ていく。
外界の変化はより顕著だ。
鬼丸を中心に球状に黒い力が集っていく。
球の中では雷の如き力場が荒れ狂い、鬼丸、いやさ魔王剣の宝玉より止め処なく破滅の力があふれ出す。
先程鬼丸が叩きつけられた岩場は球形の力場に弾かれ、大岩が小石に、小石が砂塵に、最後はそれ以下の存在と化し消えて失せる。
魔王剣の力の余波か、大地にあった鬼丸の両足はふわりと宙に浮き、しかし、大地にあるごとく鬼丸の強い姿勢は崩れぬまま。
「これぞ魔王剣必殺の技……」
ゆっくりと、左袈裟に魔王剣を振り上げる。
「魔王三日月剣!」
闇を纏った剣先は、振り下ろされる軌跡が三日月を形作り、黒き波動を解き放つ。
三日月を象った衝撃波は、触れた大地を削り取り、大気を引き裂きながらテッド、ボーへと迫る。
剣豪鬼丸の技に相応しい速度は、しかし、テッド、ボーの二人が反応しきれぬ程ではない。
二人は同時に、着斬の直前大地を蹴る
鬼丸は剣を振り下ろした姿勢のまま、離脱を図るタイミングが遅すぎだ、と口の中だけで駄目出しをしてやった。
三日月剣が叩き込まれた大地は、先程テッドが大地を吹っ飛ばしたものとは比べ物にならぬ破壊と衝撃を生み出した。
鬼丸は、もし完全回避可能な跳躍を見せたのなら、ボーがそうしたように噴煙に紛れトドメを刺すつもりだったのだが、二人はこの衝撃をまともにもらい、揃って吹っ飛んで行くのが見えた。
そんな兵を期待していた部分があったのか、少し残念そうに鬼丸は呟く。
「買いかぶり過ぎたか? いや、初見ではこんなものか……まあいい、もしこれで生き延びていれば、我が配下に加えてやってもいいが……さて」
テッドとボーは、二人仲良く土砂に体の半分を埋めながらひっくり返っていた。
余波でこれである。うっかり直撃なぞ受けようものなら、確かに人一人程度軽く消滅しかねない威力だ。
「よう……おっさん、生きてるか?」
埋もれたまま動く気力も奪われたのか、声のみで応えるボー。
「……あ、当たり、前、だ。私は、世界最強の男だと……言っただろうがっ」
テッドもまたぴくりとも体は動かず。そのまま口だけを開き続ける。
「こんな時に何なんだけどさ、俺、アンタの事全然知らねえや。ボー、でいいんだっけか?」
「如何にも。……ボー、ブランシェだ。ボウズは確か、テッドと言ったか」
187 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 01:03:50.52 ID:BZnFiCpl
二人共が、強い弱いを理屈で納得出来る程大人ではない。
とことんまでやりあってようやく納得するような類の人間だ。
そんな二人をして、圧倒的な戦力差を自覚せずにはいられない程、鬼丸は強かった。
「ああ。しかし、洒落になんねえ強さだなアイツ。……なあ、アンタはまだ走れるかい?」
「む、無論、だ。戦闘中に、息切れするような……ヤワな、鍛え方は、して……おらん」
技が違う、速さが違う、力が違う、タフさが違う、武器が違う、必殺技が違う、何もかもにおいて勝る部分が見当たらない。
コレに勝つ自分が想像出来ない。二人を部下にせんと考えていた鬼丸は、二人の試す全ての技を見事受けきってみせていた。
「そうかい。俺はもうそんなに保たねーよ。なあ、アンタ、アイツ倒す手、何か思いつくか?」
「ぐぬぅ、我が相棒さえいれば、あの程度の男なぞ……ええい、暁はこんな時に何処で道草をくっているか」
それでも、膝を屈する程心は折れず。いや、二人はそんな自分もまた想像出来なかったのだろう。
「近く、に居る、のか?」
「うむ。名簿とやらを見たが、そこに暁の名も、あった。他にもスプリガンの、連中の名が、あったな」
「名簿か、俺も良く見ときゃ良かったな。チェリッシュの名前見つけて、頭に来たんでそこらにブン投げちまった」
良しっとテッドは土砂を除けながらゆっくり立ち上がる。
「アイツは俺が足止めしといてやる。アンタはその暁ってのでも誰でもいい、腕の立つ奴引き連れて来いよ。どんだけの戦力が必要か、今のアンタなら判断出来んだろ」
テッドの言葉に、ボーもまた土砂を吹き飛ばし勢い良く立ち上がる。
「なっ! 何を言うか!」
「悪いが俺のパワーアップは時間制限付きでな。アイツを振り切るまで保ちそーにねえんだよ。それでも、アンタが全力で走ってくれりゃ逃げ切るまでの時間ぐらいは何とかなんだろ」
「ふざけるな! 子供一人残し私に逃げろというのか!? 役割で言うのならば逆であろうが!」
「……コイツ、見てくれよ」
テッドはボーの前に両腕を突き出す。
中の骨が見える程深く斬り裂かれた両腕からは、留まる事なく血が流れ続ける。
パワーアップ云々抜きでも、この出血ではそう長い事動いていられまい。
「わかったろ。その代わり何が何でもあのヤロー張り倒せ……」
ボーもまた戦場の只中を駆け抜けた男。
テッドの出血量から最早生存は絶望的である事も、速度が増す技無しでは例えボーが足止めしたとしてもテッドはあの男から逃げられない事も、全て理解出来る。
それでも、出来ぬ。
「駄目だ! お前を置いていく事なぞ出来ん!」
「この期に及んで駄々捏ねてくれるなよ」
「わ、私には共に戦った勇敢な戦友を見捨てるような真似は出来んっ! 断じて出来ん!」
テッドは、声を荒げるボーとは対照的に穏やかな口調で語る。
「……チェリッシュはさ、すげぇ強ぇ女なんだ。掃き溜めみてぇな場所でも、宝石みたいにきらっきらに光って見える最高の女さ。だからきっとお前も出会えればすぐにわかるはずだぜ」
「な、何を……」
「アイツは、俺の希望なんだ。それがよぉ、こんな誰だか知らねえような角ハゲ野朗と殺し合いさせられるなんて……こんなバカっ強ぇ奴とやりあわなきゃなんねえなんて……俺には、耐えられねえ」
傷口より流れ落ちる血に塗れながら、青ざめた肌を晒しながら、土砂でまっくろに汚れたまま、テッドはにかっと笑った。
「アンタとはまともに話をしたのもこれが始めてだ。殴り合ってるか一緒になって殴ってるかしかなかった気がするが、それでも、何でかな、アンタになら任せてもいいって気になりやがんだよ」
テッドは拳の裏でボーの胸をとんと叩く。
「頼むぜ、ボー」
188 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 01:04:40.70 ID:BZnFiCpl
鬼丸は既にこちらの生存に気付いている。
決断までの時間は、あまりに少なすぎる。
内心でどれほどの葛藤があろうと、ボーが出来る事、やらねばならぬ事は変わらず、彼の正義を標榜すればするほどに、矛盾は深くボーの心を傷つける。
それでも、答えは出さなければならない。
ボーは、ボー・ブランシェは、自らが認めた者に対して、誠実な人間であったのだ。
ボーは俯き、叫んだ。
「約束しろっ! 絶対に死なぬと! いいか! 生きてさえいれば後は私が何とかしてやる! だから何としてでも生き延びるのだ!」
テッドは一度目を見開き、苦笑しながら鬼丸の方へと向きを変える。
「そういうしぶといの、嫌いじゃないぜ。……行けよ!」
こちらの意図は鬼丸に筒抜けだ。
テッドは阻止に来るであろう鬼丸を迎え撃つべく走り出した。
ボーは、走り去るテッドの背中に押されるように、踵を返した。
魔王剣と共に鬼丸は、まっすぐテッドに駆け寄って行く。
「企みを全て知られた上で、お前等の好きに出来ると思ったか? この魔王鬼丸を相手に!」
テッドもまた全速で鬼丸へと突っ込む。
剣を相手に拳では初弾勝負なぞ出来ない。それほどの速度差は決して望めぬとテッドには痛い程わかっているはずなのに。
「俺が! やるって言ってんだよ! 行くぜファイナル・ギア!」
急な速度上昇は既に一度見せた。更なるスピードアップだとて同じ手が通用する相手とも思えない。
だからテッドの狙いは、純粋に地力の勝負だ。
まずは見る。
何度も見て結局一度も見切る事が出来なかった鬼丸の剣筋を。
目の玉が飛び出るぐらい集中し、鬼丸の全身を見る。
剣だけを見ていては、その軌道は決して読めない。
軸足を踏み出すのとテイクバックが全く同時。しかも、テイクバックから振り下ろしに至るまでが尋常でない程速い。
まだ、動けない。
鬼丸はここからですら切っ先の軌道を変化させ得る。
見えきるまでは例え斬られても動かない。そうなる前に、必ず見切る、見切れると己を信じる。
唐突に、鬼丸の剣筋が光る帯のようにテッドの脳裏に浮かんだ。
かわす? 絶対に間に合わないし、そもそも避ける気なぞ無い。
「ブロォオオオオオオオオ!」
端っから、狙いは一つ。
鬼丸の振るった剣を、自慢の拳でたたき返してやるつもりであった。
フィフス・ナグルですら両腕を受けに回し後方に飛び下がり、威力に逃げ場を作ってようやく切断を回避出来る程度だった。
それを今度はこちらから拳で出迎えるというのだ。振るった腕ごと一刀両断されてもおかしくはない。いや、その可能性の方が高いかもしれない。
テッドは、それでも尚、己の拳を信じていた。
後はもう考える事も見る事も何もない。
自分の最強の拳を、光って見えた軌跡に沿わせ走らせるのみ。
189 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 01:05:36.51 ID:BZnFiCpl
フィニッシュブローを放つ時は、左前のオーソドックススタイル。
ほんの僅かだけ後ろ足から先に蹴り出し、重心を前傾させつつ前足も蹴り出す。
引き付けた魔王剣の刃は腕を振りぬく前に拳に触れるが、テッドの全魔力と全体重、そして何より決して引かぬと決めた意志の強さにて魔王剣を支えきる。
「ドラグノン・ディオナグル!!」
テッドの体内に変化が生じる。
筋繊維が弾け飛び、骨格がぎしりと音を立てて軋む。
各所で血液が逆流し、血管を突き破って外へと吹き上がる。
フィフス・ナグルの段階で既に体への負担は無視出来ぬものがあり、濫用は禁物となっていた。
ましてやファイナル・ギア。これはそもそもからして、自爆技の類であったのだ。
その上この力を受け止める程の何かがあったとすれば、テッドの拳に威力があればあるほど、その反作用はテッドの身体に深刻な影響を残すだろう。
対する鬼丸。テッドの狙いを察するも、剣を振りぬいてしまえば結果は一緒だ。
テッドの様々なものを代償にした一撃と比して、彼の斬撃が劣っているわけでは断じてない。
彼方にまで届く衝撃を生み出せてしまう程の剣撃は、今はただ一点、テッドの拳へと叩き込まれているのだ。
そして敵手が命を賭けたとて、全てを賭したとて、魔王を標榜する鬼丸が引いてやる理由にはならない。
鬼丸は僅かな停滞も許さず刃の鋭さにて振り切るつもりであり、テッドは拳に鬼丸を乗せ殴り飛ばすつもり。ここに両者の差が生じた。
テッドのファイナル・ギアは魔王剣の鋭さを、そう長い時間ではないとはいえ、防ぐ輝きを備えていた。
斬り抜けなかった魔王剣が、鬼丸の考えていた軌道からズレる。
そのズレが、勝敗を決した。
魔王剣は大きく弾かれ、これを握った鬼丸の体も後ろへと跳ねる。
咄嗟に離せばよかったのだろうし鬼丸にその能力もあったのだが、鬼丸はこの剣を手放す事に躊躇があった。
結果、魔王剣に引きずられるように鬼丸の全身も、ぐるりと回りながら吹っ飛ぶ事となってしまった。
一回、二回、独楽を斜めに倒したような回転は、空中で体を捻って体勢を整えた鬼丸が大地を蹴り飛ばす事で弱まり、全身のバネを用いて強引に魔王剣の進路を斜め下へと変える事で、魔王剣は大地に突き刺さる。
威力に負けた大地は砕け斬り裂かれながら、魔王剣を深く底へと誘っていく。
それでも、大地は何処まで進んでも大地であり、これを砕ききれる衝撃なぞこの世に数える程しか存在しない。
地面に長大な一文字を描き、ようやく魔王剣は止まってくれた。
一息つく事もせず鬼丸は魔王剣を大地より抜き取る。
剣を拳で真っ向から弾き返してくれた漢を、鬼丸は見やる。
「……代償は、大きかったようだな」
テッドは拳を振り抜いた姿勢のまま。
右の拳は手首の所まで二つに裂けており、右腕のそこかしこでは斬り傷ではないだろう内側より砕けた赤黒いふくらみが見てとれる。
最早精も根も尽き果てたように見える血塗れのテッドは、口の端を上げ左腕を掲げる
「まだ、もう一本残ってるぜ。オラ、出し惜しみしてんじゃねえよ。さっきの三日月剣とやらで来い」
これで、テッドを無視したらどうなるかを鬼丸に思い知らせる事が出来た。
ボーの足ならば鬼丸をテッドに集中させさえしてしまえば、逃げ切るのもそう難しくはあるまい。
後少し、ほんの少し鬼丸を引きつけられれば、テッドは目的を果たせるだろう。
指一本動かせない。
それでも目は見開いており、白み始めた空は、何処で見ても一緒なのだなとテッドは変な事に納得してしまう。
大の字に寝そべったテッドは、輝きを遮る無粋な影に文句をつけてやる。
「お前そこ邪魔だ。空が見えねえじゃねえか」
テッドを見下ろす鬼丸は、魔王剣を逆手に握りテッドの頭上に切っ先を揃える。
190 :
テッドという漢
◆n0WqfobHTU
:2011/10/04(火) 01:07:21.58 ID:BZnFiCpl
角度のせいでか、それまで実際以上に大きく見えていた魔王剣も、手の平に納まる程度のものでしかない。
テッドは喉が擦れ激痛が走るのも構わず、鬼丸にも聞こえる大声で笑った。
「どうだ、すげぇだろ」
眉を潜める鬼丸に、テッドは笑いをとめぬまま言い放つ。
「俺はなあ、お前と違って根性入ってるからよ。死ぬ時も笑ったまま死ねんだよ。どんだけぼろぼろだろうとよ、薄汚いままだろうとよ、俺は、アイツみたいに綺麗に笑ってやれるんだよ」
「馬鹿が……」
「お前に出来るか? いや、返事なんてしなくていい。俺はずっと見ててやるぜ。てめぇがくたばる時、俺みたいに笑っていられるかどうかをよ!」
もう語る言葉も無い。
鬼丸は魔王剣を突き立てる。
「いいか! あの世じゃ俺が先輩だ! こっちに来た時ぁ名前にさん付け忘れんじゃねえぞ!」
ボーは走る。
一心不乱に。
脇目もふらず。
山を下り続ける。
目に映る木々は歪んで見え、大地の線は波打ち乱れる。
そのせいで障害物に体のそこかしこをぶつけながらも、足はけして止めない。
顔は戦闘の汚れと、両の目より滴る涙で二目とは見れぬ有様となっていた。
「うおおおおおおおおおお! 俺はっ! 俺は弱いっ! 弱いんだああああああああああ!」
自ら律する事も出来ず、衝動のまま叫び続ける。
「どうすれば奴を倒せる! 教えてくれ暁! 我が相棒よ! 教えてくれえええええええ!」
共にあれば世界最強と信じる、相棒の名を叫ぶ。
「あかつきいいいいいいいいいいいいい!!」
【テッド 死亡確認】
【残り68名】
191 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/04(火) 01:15:24.06 ID:Dae4vRB9
192 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/04(火) 01:15:44.09 ID:Dae4vRB9
193 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/04(火) 01:15:54.05 ID:Dae4vRB9
194 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/04(火) 01:23:27.11 ID:Dae4vRB9
141 名前: ◆n0WqfobHTU[sage] 投稿日:2011/10/04(火) 01:19:08 ID:???
本スレにて規制くらいましたので、続きをこちらに投下します
142 名前:テッドという漢 ◆n0WqfobHTU[sage] 投稿日:2011/10/04(火) 01:19:40 ID:???
【D−1 山中/一日目 早朝】
【ボー・ブランシェ】
[時間軸]:COSMOS戦にて死亡後
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品0〜2、基本支給品一式
[基本方針]:弱者を助けつつ、主催者を倒す。暁を探し戦力を整え角ハゲ(鬼丸)を倒す。
【D−1 北部裏山/一日目 早朝】
【鬼丸猛】
[時間軸]:24巻、刃との闘う直前
[状態]:鬼化、健康
[装備]:魔王剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:鉄刃、コウ・カルナギを斬る。出会った者も斬る
※魔王鬼丸としての記憶を取り戻しました。
【備考】
※桐雨刀也の身体は、斬り落とされた左腕を除いて消滅しました。
※神慮伸刀@烈火の炎の片方が、消滅しました。
※桐雨刀也のリュックサック、桐雨刀也の左腕、神慮伸刀@烈火の炎(片方)が、D−1北部裏山に放置されています。
※テッドのリュックサックはD−1北部裏山、テッドの遺体側にあります。
143 名前:テッドという漢 ◆n0WqfobHTU[sage] 投稿日:2011/10/04(火) 01:20:21 ID:???
以上で投下完了です。本スレで支援くださった方々、本当にありがとうございました。
195 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/04(火) 01:24:00.97 ID:Dae4vRB9
代理投下完了。
感想は再読したらにします……いや、しっかしおもしれぇ!
196 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/04(火) 02:26:27.69 ID:Dae4vRB9
投下乙です
もう三回も読んじまった……いいわぁ
ラストのボーの叫びが来るぜ。こいつの性格考えると、もうね
しかし思いのほか噛み合っていたテッドとボーのコンビが、軽くあしらわれるとは……魔王鬼丸恐るべし
ああ、どうすればいいんだよ! こんなバケモノ相手に!w ボー超頑張ってほしいけど、暁とは端っこ同志だし!w
バトル描写も細かくていいなぁ……また読み返そう
197 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/04(火) 14:13:28.64 ID:IZUm830r
投下乙!
熱いなこの話、テッドまじかっけー!
あの魔王鬼丸に一矢報いるとか半端ないわコイツ
最後の言葉もよかったし乙としか言えん
でもやっぱし鬼丸つええええ、戦闘力ならトップクラスだよね間違いなく
丁寧に書かれたバトルもよかったです! 改めて投下乙!
198 :
天才アル・ボーエンの仲間達
◆n0WqfobHTU
:2011/10/07(金) 02:30:59.40 ID:M9RnMBHy
これより投下します。
199 :
天才アル・ボーエンの仲間達
◆n0WqfobHTU
:2011/10/07(金) 02:31:21.82 ID:M9RnMBHy
アル・ボーエンの脳は、随時活発に活動している。
例え物事に集中していなくとも、五感よりもたらされる情報を、つい分析してしまうのだ。
当人は手持ち無沙汰な人間が、何とはなしにぶらぶらと手足を振る程度の感覚でしかないのだが。
上に下にと揺れるシーソー。これを用いる事で、子供では届かぬ高さを得る事が出来る。
高い視点はそれだけでより遠くまで届く視界を得る事が出来、アルにもこれを快いと思える気分は理解出来た。
それに、大した労力を払わずとも行なわれる上下運動は、自分が強力を得たかのような気分にさせてくれる。
子供だましの域は出ないが、なるほど、子供は騙せる程度に工夫はされているのだなと、今度は跳ねる感覚に意識を回す。
ゴム、それも古タイヤを用いているようだ。
シーソーと大地との接地点に置かれたこれは、貧乏臭くも思えるが、元々消耗品として作られたタイヤを再利用出来するという発想自体は悪く無い。
タイヤは道路との摩擦係数を減らす為円状となっているが、ブレーキかければそりゃ削れる。
というかそこで摩擦係数に上がってもらわない事には、止まってくれないのだから当然である。
自動車の普及率を考えるに、大量に発生するだろうこの消耗品の処分は一工夫せねばならぬ所。
公共事業がこれを為しているというのであれば、まあ、それなりにだがまともな部分も持ち合わせている政府があるのだろうと考える。
段々思考がシーソーから離れていった所で、ふと、目の前に居るレイラという女の事を思い出す。
重量差からレイラはシーソーの手前側に座らせているが、シーソーの最も楽しいと思える部分は、逆に今アルが座っている端にこそあろう。
アルは考える。
ちょびっとだけ、考えてやる。
極めて不本意ながら、早朝稽古なぞというものをやらされていたアルならば、もしかしたらレイラが端に居たとしても、シーソーを振る事が出来るのではないかと。
タイヤゴムの力もあるし、テコの原理を利用する事も出来る。要はタイミングだ。
「……レイラ。後ろの方に乗れ」
「え? でも……」
「いいから乗れ! やり方は僕が教えてやる!」
逆ギレ気味に怒鳴られると、レイラも逆らいづらいのか言われる通りに後ろ端に座る。
「いいか、力はいらない。勢いをつけるんだ。ゴムの反動でシーソーが弾かれる、その勢いに乗せる感じだ。わかったか?」
全然わからないが、ともかくやってみようとレイラは頷く。
「良しっ! 行くぞ!」
妙に気合の入っているアルの言うがまま、レイラは思いっきり大地を蹴った。
何度も繰り返して来た中で、アルもまたどのタイミングで大地を蹴ればいいのか、理屈では理解出来ていた。
尤も、この通り体を動かすのはまた別の話であるが。
『しまった! タイミングを外したか!?』
足を伸ばす勢いがシーソーに乗り切らなかった。
理屈はわかってないが、何となくどうすればいいのか体で理解していたレイラの方が余程上手くやれていたり。
シーソー接地時の高さが子供向けな為長い足が邪魔になるが、これを前方に放り出しながら上手いこと踵で大地を蹴ってる所など、アルより余程シーソーマイスターの称号に近かろう。
レイラの体重のせいでかアルの体はぐんっと上へ引っ張り上げられる。
そして頂点。
アルはここでの挙動が勝負を決めると両腕にありったけの力を込める。
シーソーの手すりを掴みながら、アルは真後ろに全体重をかけ伸び上がったのだ。
手すりを離せば落下してしまう程の勢いでそうしてやると、下へと落ちる勢いが生まれる。
そして、ゆっくりとだが、何とかレイラの全身が頂点に達する。
「わあっ」
小さい歓声が上がるが、アルはこれを勝利とは思わない。
レイラが力一杯蹴るようでは駄目なのだ。
そうしなくても頂点へと至れる、そんなタイミングでアルがこれを操作出来て初めて、シーソーの最も楽しみと出来る部分を味合わせる事が出来よう。
次こそはとアルは全身に力を込める。
200 :
天才アル・ボーエンの仲間達
◆n0WqfobHTU
:2011/10/07(金) 02:32:04.58 ID:M9RnMBHy
天才児アル・ボーエンの欠点を挙げるとするならば、ムキになりやすい子供っぽい性格であろう。
いや実際年齢は子供なのだが、知性の高さと比して見るとやはりアンバランスに見えてしまう部分だ。
そんな欠点が今回も出てしまった訳で。
「……なあ、自分ら何しとん?」
そう声をかけられるまで、二人の人間の接近に気付けなかったのだ。
このような場所で他者に声をかけられる意味をアルが理解出来ぬはずがない。
しかし、まあ、即座の危険でもない上に、現在アルの精神状態はちこっと揺れていたりするのだ。
『み、みーらーれーたーだーとー』
自分はかなり大人なつもりのアルが、子供の遊具で遊んでる所を他人に見られればそりゃ焦る。
「し、シーソーだ。見てわからんか」
実にトゲトゲしい対応になってしまうのも無理からぬ。
声をかけた男、佐野清一郎は、その後ろでつまんなそうに小さい石を蹴飛ばしているコロンビーヌをさておき言葉を続ける。
「……とりあえず、今こんな所でシーソーしとる理由は見ただけじゃわからん」
アルは一瞬レイラのせいにしてしまおうかとも考えたが、それはそれで不快な事に思えたので誤魔化す方向で話を進める。
「それはどうでもいい事だ。それより、初対面の相手に、それもこんな場所であると自覚があるのなら何故自己紹介もしない? まさかとは思うがこんな下らん首輪の強制に恐れをなして殺し合いでもしようというのか?」
実に憎たらしいお返事である。
その気が無くても殺し合い始めたくなる勢いがあるが、アルのスーパー照れ隠しトークは中途でレイラに止められる。
「アル、それじゃあケンカを売ってるようにしか聞こえないわ」
「失礼な。僕がそんな野蛮な真似をするとでも思ったのか」
「私は思わない。でも、貴方も言った通り、あの二人とは初対面なのよ」
そんな会話をアルとレイラの二人は、シーソーに跨ったままで続けていた。
清一郎は一度だけコロンビーヌの表情を見てみる。
コロンビーヌは心底どうでもいいという顔をしていたので、仕方なく話を続けた。
「ああ、もう、シーソーそないに好きやったらそのままでもええわ。話したいんやけど、ええか?」
果てしない程に意味が無くどうでもいいやりとりであったが、この間にアルは最低限すべき事をこなしていた。
アルは指輪の力により会話最中の二人の心を読んでいたのだ。
そしてこの二人に関して極めて重要な情報を手にしていた。
清一郎の『ああ、このおねーさんが子供に付き合ってあげてんやな』的な思考は噴飯ものであったが、まあ置いておくとして。
問題はもう一人の少女である。
『あれ面白いのかしら』
『可愛くない子ね』
『もっと面白い事言いなさいよ、つまんなーい』
『同じ人間でも勝ちゃんとは大違い』
『つまんない人間とかいらないと思うのよねぇ』
『めんどーだし、消しちゃおっかな』
『……やめた。人間なんて殺したってつまんないしぃ』
聞こえていないと思って危険思想全開だ。
アルはレイラに一言断ってシーソーを降りる。
「そこの小さいの、代わるか?」
そう言ってアルはコロンビーヌを指差す。
コロンビーヌは少し逡巡した後、とことこ歩いてシーソーに跨る。
そちらを一瞥した後、アルは清一郎に向き直って言った。
「アル・ボーエンだ。お前は?」
201 :
天才アル・ボーエンの仲間達
◆n0WqfobHTU
:2011/10/07(金) 02:32:49.66 ID:M9RnMBHy
自己紹介後のアルは二言三言の会話で、佐野清一郎という人物をそれなりにだが理解する事が出来た。
もちろん相手の心を読める心眼の指輪をつけたままである事がその一助となってはいるのだが。
それ抜きでも、この男は比較的わかりやすい人物と思える。
コロンビーヌという少女、清一郎曰くロボットらしいが、を保護するつもりで同行しており、アル達のように殺意に満ちた人物との遭遇はまだ無い。
アルは胡散臭そうな目でコロンビーヌを見る。
「……アレのどの辺がロボットなんだ?」
清一郎は悪びれた風もなく笑う。
「当人の自己申告や。確認せえ言われたて、まさかすっぱだかにひん剥くわけにもいかんやろ」
もし人間に酷似させるつもりで作ったのなら、ひん剥いた所で無駄だろうがな、とアルは心の中だけで呟く。
ロボットというから御幣があるのだろうとアルは考えていた。
少なくとも心眼で心が読めるという事は、所謂意志を司る脳の部分は人間のそれであろうと。
それ以外の部分が人間以外である、そういう事なら自身をそう言い放つ理由にはなる。
思考がエラク子供じみているのは元が子供の体だったか、もしくは改造手術が精神に影響でもしたか。
自身科学者でもあり、子供でもある事からさしてその辺に抵抗があるわけではない。
そんな真似をする奴に嫌悪感を抱きはするが。
アルがあっさりとコロンビーヌをロボットに類する何かと判断した事には理由がある。
それは、コロンビーヌとレイラのお遊びにあった。
ぎったん、ばっこん。
ぎったん、ばっこん。
ぎったん、ばっこん。
これはこれで、理由は無いが楽しいと思っていたレイラであったが、コロンビーヌはすぐに飽きが来たようだ。
「つまんなーい」
「そう?」
レイラはシーソーから立ち上がり、次なる遊具を探す。
「ならこれ、やってみない?」
レイラが目をつけたのは二つ並んだブランコであった。これなら、二人が同時に遊べそうだと思ったのである。
先程のアルの説明通りにとりあえずやってみるレイラ。
何せ足が長いので、子供サイズに作られたブランコに、座った状態で前後にこぐのがエライ大変であった。
そんなレイラの有様を見てコロンビーヌは得意げにふふんと笑う。
「わざわざ座るからよぉ。ほら、こうすればどぉ?」
ブランコの上にひょいっと立つコロンビーヌ。
おおっ、と目から鱗顔をするレイラは、これならと前後に漕ぎ始める。
子供の体と比較すればずっと力の強いレイラの大人ボディは、ブランコが地面と平行になるまで振り上げる事が可能だ。
「これ、面白いかも」
並んでブランコを振るコロンビーヌも、レイラと並ぶぐらい大きく振り回している。
「……ねえ、一つ気になった事があるんだけどぉ」
レイラもまたブランコを漕ぎながらコロンビーヌの方を向く。
「あ、私も一つ気になってる」
二人は同時に口を開いた。
『これ、上まで行ったらどうなるの?』
202 :
天才アル・ボーエンの仲間達
◆n0WqfobHTU
:2011/10/07(金) 02:33:25.32 ID:M9RnMBHy
まずはレイラ。
「下におっこちる」
次にコロンビーヌ。
「ぐるんと一回転」
下に落っこちるなんて予想してる癖にレイラは嬉々として角度を上げていき、コロンビーヌも負けるかと続く。
結局、レイラは体だけは垂直に限りなく近い所まで持っていけたのだが、それ以上は危なそーなので引き返してしまった。
「うーん、ちょっと無理だったかしら」
しかしコロンビーヌにそんな思考は無かった。
「ふふふっ、だらしないのー。見てなさいっ」
大きく後ろに引く段階で、レイラのそれとは比較にならない。
そのまましゃがみ込んだ後強くブランコを押し出し、一気に頂点近くまで至る。
そこで、コロンビーヌは仰け反った姿勢を取る。
両手はブランコの鎖を掴み、足裏でブランコの板を引っ掛けるように。
まずは胸部を基点に回転の力を、更に腰部をも用いて脚部を前方へ突き出す。
これにより円の頂点に至ったコロンビーヌは、回転の勢いを殺さぬようしたまま膝を折り曲げ、ブランコ板を蹴り出す。
再び回転の力を得たブランコは、二週目の回転に入る。
鎖が上に巻き付いた分短くなったブランコは、よりスピーディーに、小さな回転で頂点に。
そんな速さにあわせた形で素早い挙動にて頂点での胸腰を用いた回転運動を。
更に短くなったブランコの鎖。
三週目には入らず、コロンビーヌは自由落下に任せ、くるーんとブランコを回す。
短くなったブランコの鎖は、ブランコ上端のバーまでの長さが、ちょうどコロンビーヌの頭の高さちょい長いぐらい。でもなければ頭をぶつけてる。
片手で鎖を握ったコロンビーヌは残る片手で自らの顎に手をあて、どう? と言わんばかりにレイラを見る。
レイラは目を丸くしたまま、ぱちぱちぱちと拍手を送った。
これでもコロンビーヌは真夜中のサーカスの一員であったのだ。オートマータの能力も考えればこの程度の芸当造作も無かろう。
レイラの拍手に気を良くしたのか、コロンビーヌは今度は後ろに向けてブランコを振る。
こちらは回転を先程利用できぬ為、鎖を掴んだ腕の力と蹴り足で強引に振る力を生み出し、二回転分の速度を生み出し、回転の最中に勢いを殺さぬようくるりくるりと。
綺麗に元の位置に戻ったコロンビーヌは、ふふんと胸をそらす。
今度はレイラだけではなく、話をしていた清一郎からも拍手が来た。
「おー! やるやんか!」
超真顔で目を大きく見開いているアルは放置で清一郎は大絶賛である。
アルの指輪からはコロンビーヌのこんな声が聞こえた。
『この程度で喜ぶなんて、やっぱり人間って簡単ねぇ』
アルは鎖のブランコで前から一回転が出来るかどうか、脳内で計算してみた。
『……うむ、無理だ。物理嘗めるな貴様』
ブランコとは、立つ座るを繰り返す事で生じる位置エネルギーを運動エネルギーに変換するものだ。
体が地面と平行を越えた所で、位置エネルギーを運動エネルギーに変換する事が出来なくなるのだから、平行前の状態から一発で一回転分の位置エネルギーを作り出さなければならない。
コロンビーヌの身長で、どうしゃがもうとそんなエネルギーは発生させられるはずがない。
頂点で何やら色々動いていたからあれが関係してるのだろうが、とりあえず出た結論は、まともな人間には不可能という事で落ち着いた。
203 :
天才アル・ボーエンの仲間達
◆n0WqfobHTU
:2011/10/07(金) 02:34:07.72 ID:M9RnMBHy
ARMSなんてものと付き合っていたせいか、理不尽な出来事への抗体でも出来ているのであろう。
清一郎から聞くべき事を聞きだしたアルは、レイラとコロンビーヌを呼び寄せ、四人での話し合いを始めた。
清一郎は才云々抜かすし、コロンビーヌは人形だとか言い出すしで、レイラの魔物だとかいう話を聞いてなければ、揃って怒鳴り飛ばしていた所だ。
アルは、静かに思考の停止を自らの脳に命じた。
これは処理能力を超えているだの、現実を認められないだのという理由ではない。
尋常ではない事態に対し、あまりにアルの手にした情報は少なすぎる。
確証を得る事も出来ぬ推論ばかり引っ張り出したとて、余計に混乱するだけだ。
なのでアルはより直接的な問題を幾つか解決する事にした。
「おい、コロンビーヌ、だったか。お前は特に目的は無いと言っていたな」
「そうよぉ、だからそろそろ行くわね」
「いや待て。このまま無為に歩き回れば、いずれ殺意ある者達に駆逐されるだけだぞ」
「アタシ、そんなに弱くないしぃ。……それに、壊れたら壊れたで、別に構わないし……ね」
アルはふふんと笑う。
「ほう、それはつまり、お前の能力を、技量を、コケにされても笑って死ねるという事か?」
コロンビーヌの視線が鋭くなる。
「どういう意味よ」
「戦闘に敗北するというのはつまりそういう事だろう。まさか殺し合いをしろなどと言われて馬鹿正直に殺し合いを始めるような間抜けが、戦闘の後もお前に敬意を払ってくれると思ったか?」
「ばっかじゃないの。そんな事するような奴……滅多に居ないわよ」
「だろう。ならもしお前が、例えば僕達が先に出会った者のような奴に敗北すれば、ゴミ屑のように捨てられるぞ。お前はそれで満足なのか?」
剣呑な気配を漂わせながら、コロンビーヌがアルの眼前に顔を寄せる。
「ねえボク。挑発も相手を選ばないと、壊されちゃうよぉ」
清一郎の視線が鋭くなり、レイラが身構える。
しかしアルは微動だにしない。
「どの道、この殺し合いとやらの会場から脱出しない限り、不快な死は免れんだろう。僕も、お前もだ」
くくくっとコロンビーヌは頬を歪ませる。
「だからアタシにも手伝えって?」
「それがそんなにも不思議な事か?」
今度こそ、コロンビーヌは天を仰ぎつつ大声で笑い出した。
「アハハハハハハハハッ! 何も知らないのねえ人間! アタシ達オートマータが何を動力に動いているか知ってる? 人の生き血よ! アナタ達の血を啜って動くの!」
清一郎とレイラの表情が凍りつく。アルは、眉一つ動かさぬまま。
「そんなアタシと、一緒に居ていいのかしらン」
アル・ボーエンは至極まっとうに、普段通りの判断力のままに答えた。
「人は動物を喰らう。ならば、人を喰らう存在もありうる話だ。その程度の事でこの僕が怯えるとでも思ったか」
アルのリアクションの薄さにコロンビーヌは眉根を寄せるが、アルは構わず続ける。
「人間の血液が必要だというのなら手に入れてやろう。どうしても間に合わないとなれば、僕の血でも啜ればいい。感染症もなくかつ死なない程度なら笑って許してやる。たかだかその程度のマイナス条件は僕の判断に些かも影響を与え得ない」
アルはコロンビーヌの眼前に顔を寄せる。
「そして、もしお前が僕の友達になりたいというのなら、僕と友達であり続ける為に必要な全てを僕が揃えてやる。どれだけ時間がかかろうと、いや時間なぞかけん。この今世紀最高の天才、アル・ボーエンが約束してやる」
何故なら、とアルは真顔のまま言い放った。
「僕は、友達を決して見捨てないからだ」
アルはずいっと右手を差し出す。
「さあどうする! 僕と友達になるかどうか! 今この場で決めろ!」
コロンビーヌは、まさしく呆気に取られていた。
運動神経の欠片も無さそうな人間、育ちの良さそうな容貌に不釣合いの挑むような視線、傲慢な態度を寸毫も崩そうとせず、コロンビーヌからは決して目を逸らさない。
その小さな体が、強い瞳が、誰かを彷彿とさせる、そう思ってしまった瞬間、コロンビーヌはアルを傷つけられなくなってしまった。
「……アタシ、わがままよ」
204 :
天才アル・ボーエンの仲間達
◆n0WqfobHTU
:2011/10/07(金) 02:34:50.99 ID:M9RnMBHy
「そうか」
「……つまんないの、キライよ」
「そうか」
「……アンタがつまらなかったら、殺しちゃうかも」
「そうか」
「……面倒になったら勝手に何処か行っちゃうわよ」
「そうか」
アルの視線はまるで揺れず。逆にコロンビーヌの方が居た堪れなくなってきた。
「…………ねえ」
「なんだ」
「その手、取っていい?」
「ああ、構わないぞ」
問答の間アルは伸ばした手を引こうとはせず、遂に、コロンビーヌはアルの手を取る。
刺すような視線とは裏腹に、手の平はあったかいなと、コロンビーヌは思った。
コロンビーヌとアルの握手が終わると、アルはつけていた指輪を外し、コロンビーヌに渡した。
「謝罪と、僕の誠意だと思ってくれ」
コロンビーヌは渡された心眼の指輪をはめると、アルが考えていた事を全て理解した。
驚き、怒り、呆れ、ため息一つついた後、指輪をアルに返す。
「僕の謝罪を受け入れてくれるか?」
「……むー、及第点ぎりぎりよン」
アルは心眼の指輪によってコロンビーヌの心を読み、それ故、彼女の発言前に内容を知る事が出来、驚きを顔に出さずに済んだのだ。
コロンビーヌの凶悪な生い立ちを知りえたからこそ、アルは彼女を説得するに覚悟が必要だと理解出来た。
つまる所ズルであるので、謝罪の証としてこの場でアルが身を守る重要な切り札をコロンビーヌに渡したのだ。
ここに一つ、アルにもコロンビーヌにもわかっていない、重大な出来事がある。
オートマータ、つまり総機械仕掛けのコロンビーヌの、心を読むなんて真似が出来てしまっている事だ。
単にコロンビーヌの思考回路を指輪が読み取ったのか、はたまたそれ以外の理由があるのか、それは、まだ誰も知りえない事であった。
「僕も自分の身を守らなきゃならない。その程度出来ないような奴、そもそも信用に値しないだろう」
「アタシの好みでいうんなら、もっと勝ちゃんみたいなすてみーな感じがいいかなぁ。でも、一応頑張ったみたいだから及第点あげたのよぅ」
「勝ちゃん?」
「才賀勝っていう男の子、ここにも来てるはずよぉ。同じ年ぐらいだけど、アンタなんかよりずーーーーーっと強くって、賢くって、かっこいいのよぉ」
ちょっとムッと来たらしいアルは胸と目を逸らす。
「ふん、誰だか知らんが、同世代の人間に僕が負けるはずないだろう。何処かで会ったらどちらが上かはっきりさせてやる」
そして少し離れた所で清一郎とレイラが並んでいる。
「俺、あないに偉そうな友達作り、初めて見たで」
「……ああ、やっぱりアレ偉そうなのね。長い間人間同士のそういうの見てなかったから、人間はアレが普通になってるのかと思ったわ」
でも、と続けたのは清一郎だ。
いきなりアルに駆け寄ると、頭をひっつかんでぐりぐりといじりまわす。
「こ、こら! 何をするか!」
「俺もお前気に入ったで。クソ生意気なんも愛嬌っちゅー事で堪忍したるわ」
そしてコロンビーヌに向き直る。
「改めてよろしくやコロンビーヌ。アル、お前もこのふざけた殺し合いぶっつぶしたろ思うてんのやろ」
「無論だ。こんな理不尽に黙って従う謂れは無い」
「そうこなきゃ嘘やで。ははっ、そっちのねーちゃんもよろしゅーな」
205 :
天才アル・ボーエンの仲間達
◆n0WqfobHTU
:2011/10/07(金) 02:35:56.86 ID:M9RnMBHy
身長差体力差から、清一郎にいいよーに遊ばれるアルに、そんなアルを指差してけらけら笑ってるコロンビーヌ。
レイラは小さく息を吐くと、アルのかなり本気で怒っている顔を見直す。
敵わないと思えた敵を見事な知恵で退け、脱出不能かと思われた罠も冷静な判断で突破、今はこうして相容れぬであろう存在とまで上手くやれてしまっている。
アルは人間で、魔物の子みたいに力を使う事は出来ないが、それを補って余りあるものを持ち合わせている。
頭が良いのはわかる。でもそれだけでは、きっとこうしてコロンビーヌも清一郎もすぐに味方になってくれなかっただろう。
「アル、貴方はとっても素敵な人なのね」
レイラは自然と笑みが零れてしまうのだった。
【E−2 公園前/一日目 早朝】
【アル・ボーエン】
[時間軸]:第四部「アリス」編終了以降。
[状態]:健康、心の力(小)
[装備]:レイラの魔本@金色のガッシュ!!、心眼@烈火の炎(オートマータコロンビーヌの思考も読めます)。
[道具]:基本支給品一式、通信鬼@GS美神極楽大作戦、ノートパソコン@現実。
[基本方針]:施設を巡り情報を集める。殺し合いに乗っている者は倒す。
※ルシオラの思考をある程度まで読んでいます。
【レイラ】
[時間軸]:魔本が燃え尽きた直後。
[状態]:大人化、ダメージ回復、疲労(小)、心の力(小)
[装備]:輪廻@烈火の炎。
[道具]:基本支給品一式、居合番長の風呂敷@金剛番長、 通信鬼@GS美神極楽大作戦。
[基本方針]:仲間達を守る。殺し合いに乗っている者は倒す。
※輪廻で大人の姿となることで能力が上昇していますが、副作用で会場に来る以前の記憶が朧気になっています。
※ガッシュ達が仲間であることは理解しています。
【佐野清一郎】
[時間軸]:不明。少なくても犬丸が地獄に落ちてから
[状態]:健康
[装備]:佐野の手ぬぐい@うえきの法則
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:仲間たちとともに脱出する。コロンビーヌと共にアルに同行する。
※佐野の手ぬぐいは支給品ではなく、最初から装備してました。
【コロンビーヌ】
[時間軸]:本編で活動停止後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:さすらう。『生存目的』を見つけ出す。とりあえずアルに同行。
※アポリオンは使用可。制限されているかどうかは不明。
206 :
天才アル・ボーエンの仲間達
◆n0WqfobHTU
:2011/10/07(金) 02:36:42.20 ID:M9RnMBHy
以上です。問題点等ありましたら指摘の方よろしくお願いします。
207 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/07(金) 06:15:15.01 ID:e6XJ1vRy
投下乙! てかはや!
見られてしまったときも、友達作りのときも、アルがらしすぎて痺れるw
いやー、まさしく超天才アル・ボーエンだわw
コロンビーヌの心情の流れも自然で素敵だぜw いくら最古の四人でも、こんなヤツ見たことねえわw
シーソーやブランコで遊んでるときの二人もかわいいし、いいなぁ
208 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/07(金) 09:37:36.50 ID:BBrsg/q5
乙でした。
コロンビーヌちゃんは本当にマサルちゃんが大好きだなぁ。かわいい。
心眼で人形の思考が読める理由が気になるけど、
次以降の書き手さんにお任せでいいのかな。
209 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/08(土) 15:19:06.14 ID:2nzfaeum
test
210 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/08(土) 20:39:35.80 ID:wVL+hTKU
投下乙!
このアルかっこいいわー。戦闘力は皆無なのにw
単なる頭脳だけじゃなくて心の強さもこいつの魅力だな。
コロンビーヌは一先ず安心だな。完全な対主催ってわけではなさそうだが。
何気にバランスいいし、このパーティかなり強いな。
211 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/09(日) 06:20:53.63 ID:AUg1Hjj9
test
212 :
◆6LcvawFfJA
:2011/10/09(日) 06:21:22.80 ID:AUg1Hjj9
投下致します。
213 :
人間――Side_B
◆6LcvawFfJA
:2011/10/09(日) 06:23:12.68 ID:AUg1Hjj9
ジャバウォックと化す寸前、高槻涼はこれから起こるであろう事を悟っていた。
キース・ブラック一人へ向けた憎悪が、アリスの人類全体への憎悪と共鳴していた事を察していたのだ。
そうなれば如何なる事態が生じるのか、最もよく知るのは他ならぬジャバウォックの適合者である。
拙いとは思ったが、その頃にはもはや高槻涼としての意識は僅かしか残っていなかった。
破壊の化身ジャバウォックが精神を支配していく中、投げやり気味に涼は双眸を閉じた。
己の意識を消し、ジャバウォックに身を委ねたのであった。
赤木カツミ無き世界に、高槻涼が在る意味は無いと考えたのだ。
その生きる目的も意味も無くした涼に、暴走する“魔獣”ではなくその中にいる“人間”に呼びかける者がいた。
アーカム財団直属のS級特殊工作員、“スプリガン”の御神苗優である。
涼と同じく、自分の中に眠る破壊衝動と戦い続けてきた男であった。
故に、彼は魔獣に取り込まれた涼に怒りを叩き付けたのである。
されど意識を全てジャバウォックに委ねている涼に、優の叫びなど到達し得ない。
しかしそのような道理を覆すからこそ、スプリガンは恐れられているのだ。
師匠譲りの先読みを駆使した移動法で、優はジャバウォックに拳を叩き付ける。
僅かに帯びた“氣”が、一瞬でジャバウォックを構成する珪素を通っていく。
本当に微かな氣であり、ダメージを与えられるような代物ではない。
が、魔獣の中で眠る涼を起こすには十分であった。
「俺やアンタはフツーじゃねえんだろうが、どう生きてきても何かしら背負っちまうモンなんだとよ、人間ってのはッ! だってのにいちいち拒んでんじゃねえ!!」
声は、届いた。
破壊衝動しか無かったジャバウォックの意識に、高槻涼としての思考が蘇る。
その事に気付いていないだろうが少し攻撃が緩まったのを見計らって、優が拳と蹴りの乱打を放つ。
「ざけんじゃねーーぜ! てめー人間……『高槻涼』をやめちまったのか!? それでいいのかよ!」
喉が張り裂けそうなほどの絶叫と共に、上段蹴り。
この瞬間、高槻涼は完全に目覚めた。
カツミが死んだからといって、何もかもを手放そうとしていた。
キース・ブラックへの憎しみだけで気力を失い、全人類を殺害せんとするジャバウォックを世界に放つところであった。
まだ生きている友人も両親もこうして呼びかけてくれる者までも、危うく殺してしまうところだったのだ。
ジャバウォックを止めるべく呼びかけようとするも、氾濫する怒りの奔流が覚醒した涼の意識を再び飲み込んでいく。
結局、ほんの僅かな時間だけしかジャバウォックを止める事が出来なかった。
○
いつの間にか、高槻涼は奇妙な場所に立っていた。
己以外には何も無く、ただ空間だけが果て無く広がっている。
ここがいったい何処であるのかは、もう涼には分かっていた。
この場には何度も来ているのだから。
「ジャバウォック」
呼びかけに答える声は無い。
それでも、涼は再び口を開く。
「出て来いよ、分かってんだぜ」
涼が今いるのは、自分の精神世界である。
ある時はこの地でジャバウォックに飲み込まれ、ある時は契約を交わし、ある時は封じ込め、そして先程またしても飲み込まれた。
何故ここがこれほどまでに落ち着いているのかは不明だが、御神苗優が上手くやってくれたのだろうか。
数回名を呼び続け、ようやく涼以外の声が響く。
「選択は為された。汝は、人を憎み破壊を求めた」
低く重い口調。
気付けば、世界全体から光が消え失せ暗くなっている。
自分の足元さえ、涼には確認出来ない。
そんな一寸先も分からぬ世界で、涼は勢いよく右手を伸ばす。
214 :
人間――Side_B
◆6LcvawFfJA
:2011/10/09(日) 06:23:40.22 ID:AUg1Hjj9
「ああ……、そうだッ。俺はキースを憎悪し、殺意を抱いた!
お前が全てを破壊しようとするのを分かってながら、何もかもどうでもよくなってARMSに抵抗するのをやめた!」
涼は過去を否定しない。
そう思っていたのは、紛れも無い事実である。
その上で、さらに続ける。
「だけど今は違うッ! 確かにあの時、俺は破壊衝動に飲み込まれた!
でも、もうさせない! 絶対に人類を、残った仲間達まで殺させやしない!」
伸ばした腕の先で拳を握り締め、言い放つ。
「もう、俺はARMSに負けない!!」
暫しの静寂後、闇に包まれていた世界が変化する。
巨大なアザゼルと沢山の人間が周囲に出現し、眼前には短髪のキース・ブラックと赤木カツミ。
咄嗟に駆け出そうとした涼の前で、カツミが嵌めていた首輪が爆発してしまう。
思わず目を見開いてしまうが、涼は上空を見えげて声を張り上げる。
「“これ”は前と同じだ! 効かないのは、お前も分かってんだろ!?」
「あの時は、まだあの娘が生きている可能性があった。だが今は違う。汝も分かっているはずだ」
赤木カツミの亡骸だけを残し、アザゼルや人間が消失する。
「この娘は確実に落命している。にもかかわらず、汝は何故」
ジャバウォックが言い切るのを待たず、涼は告げる。
「無くした物を背負って生きていくのが人間だと、御神苗優が教えてくれた。
まだ残っている物もある。それらを捨てて逃げ出したくない」
数秒空いて、ジャバウォックの声。
「その御神苗優は、我が殺した」
明かされた事実に、涼は言葉を失ってしまう。
だが伸ばした手は戻さない。
時間をかけて思考を落ち着け、ゆっくりと口を開く。
「だったら俺は、御神苗優の思いも背負う。もう二度と拒んで立ち止まっていたくない。俺は……、人間でありたい」
今までより長い沈黙の後、赤木カツミの亡骸が消えて世界に光が満ちる。
涼が手を伸ばしたすぐ先に、ジャバウォックが跪いていた。
「ならば“過去”ではなく“未来”に向けて、我も再び誓おう」
ジャバウォックは傅きながら首だけを上げて、涼を見つめる。
「我は“人間”である汝と共に生き、“人間”である汝と共に滅びよう!」
宣言したジャバウォックの姿が消散し、同時に涼の右腕が激しく震動する。
自分の中で、投げ掛けいるのだろう。
いつもと変わらぬ、あの疑問。
それに、涼は先刻と変わらぬ答えを口にする。
「力が欲しい」
同じ返答でありながら、先刻とは違う。
欲するのは、全てを破壊する力ではない。
全人類を滅ぼす力に、身を委ねるのではない。
諦めて停滞するのは、もう終わりにする。
望むのは、前へと進む為の力だ。
「力が欲しい!」
右手の震動が激しくなり、体内から声が響く。
「ならば……くれてやろうッ!」
右手が弾けるように膨張し、ジャバウォックの物と化す。
何も無い空間目掛け、涼は鋭く伸びた五つの爪を一閃。
無限に続くかに思われた空間に切れ目が入り、世界全体が少しずつ薄れていく。
○
215 :
人間――Side_B
◆6LcvawFfJA
:2011/10/09(日) 06:24:09.22 ID:AUg1Hjj9
目を覚ました時、高槻涼の眼前に広がっていたのは天井であった。
状況を飲み込めていないながらも上体を起こそうとし、己がソファに寝かされていた事に気付く。
首を動かして、周囲を確認。
かなり広い部屋だ。家具の配置からして、ここはリビングであろうか。
自分をここに運んだ人物を探すが、部屋には以外に誰もいない。
全身をARMS化させ服を失った自分の為か、傍らにスーツが置かれているだけだ。
「ここは……、いったい」
ひとりごちて、涼は左手でかけられていた毛布を払い除けようとするも叶わない。
腑に落ちないと左腕に視線を向けてみる。
「なッ!?」
左腕は、二の腕から先が無かった。
その事実を知って、ようやく鋭い痛みが走り抜ける。
激痛に表情を歪めながら、思考する。
腕を喪失したのは、これが初めてではない。
その度に、ARMSの治癒力で以って再生させ事無きを得てきた。
しかし、今回はそうはなっていないようだ。
“ARMS殺し”によって切断されたのであろうか。
詳細は未だ不明であるが、永遠に左腕を失ったことに変わりはない。
それでも、高槻涼は立ち上がった。
己の意志で以って、床を踏み締める。
諦めに取られていた足を、一歩前へ――。
二歩目を踏み出そうとして、廊下からトイレの水を流す音が響く。
続いて、大きな足音と愚痴るような声。
「こんなタイミングかよッ!!」
リビングのドアを勢いよく開けた加藤鳴海の手は、水で濡れている。
床の軋む音を聞き急いで出て来た為、手こそ洗ったものの水を拭う暇は無かったのであった。
【F−4 民家/一日目 早朝】
【高槻涼】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:疲労中、全身にダメージ小(ARMSによる修復中)、左二の腕から先を喪失(止血済)
[装備]:毛布、手ぬぐい(左腕の止血に使われている)、スーツ一式@現地調達(傍ら)
[道具]:なし
[基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。
【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認済み)、高槻涼のリュックサック(基本支給品一式、支給品1〜3)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。
216 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/09(日) 06:24:40.27 ID:AUg1Hjj9
終了です。
217 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/09(日) 10:11:23.43 ID:96DgGVYb
乙です。
鳴海兄ちゃんwww
218 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/09(日) 14:51:47.23 ID:WsuA/Ihk
投下乙
そうそうに死んじゃった優だけど、残ってる物があって感慨深い
次にあるだろう鳴海兄ちゃんと涼のやりとりが楽しみ!
219 :
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 03:16:27.14 ID:goeNl1x8
投下します。
220 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 03:17:27.28 ID:30QexrUC
221 :
ぎゅっと握って
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 03:18:20.40 ID:goeNl1x8
◇ ◇ ◇
才賀勝は、おキヌが外した首輪をひとまずリュックサックに仕舞い込んだ。
機械を分解する知識があるとはいえ、いま現在手元に工具がない。
構造をよく知っている自動人形(オートマータ)ならばともかく、初めて見た首輪を素手で分解するのは不可能だろう。
まだ暗いのもあってか、首輪の裏側にあるであろう継ぎ目もよく見えない。楽観的に行動すべきではあるまい。
キース・ブラックは、わざわざ幽霊を殺し合いに参加させているのだ。
幽霊に首輪を外されるところまでか、その首輪の中身を覗かれてしまうところまでか、はたまたその上で幽霊以外の参加者が首輪を外すところまでか。
どこまでかは不明だが、ある程度までは予想されていて当然だ。
予想しているのならば対策を取っているはずである。
首輪が手元にあるのに釣られてさっそく分解して、対策に引っかかってしまえばどうしようもない。
との考えを勝が伝えると、おキヌは首を傾げた。
分解の知識を得た経緯をぼかし『からくり人形に興味があり機械について調べた』としたのは不自然だったかと思う勝の前で、合点がいったようにおキヌは両手を合わせた。
「つまり、もっと盛り上がってクライマックスを迎えたところで分解するということですね!」
「いや、そういうワケじゃなくて……」
「あらら?」
「むしろ盛り上げずに、行けると思ったら落ち着いて、ですね」
「派手にドカンとじゃないんですかー」
「じゃないんです。ドカンとならないように外すんです」
「私は別にいいんですけど、派手好き美神さんが納得してくれるか――むぐっ」
まだ喋っていたおキヌの前に、勝が左手を伸ばした。
物体と接触できるモードになっていなかったらしくすり抜けてしまったが、黙らせるのには十分だった。
状況が呑み込めず抗議しようと激しく両手を振るおキヌのほうを向かず、勝は空いている右手で物干し竿を握る。
「二人、来てるよ」
勝が前方を見据えながら静かに告げると、ようやくおキヌは動きを止める。
探し人がいるため、会話しながらも歩みを進めていた。
その行為が実り他の参加者と接触する機会を得たが、相手がキース・ブラックの指示に従っていないとも限らない。
二人組だからと言って、安心はできない。最後の一人を目指して同盟を結ばぬ道理はない。
相手側にも気付かれたらしく、二つの人影は近づいてきている。
しろがねの血を飲み視力が上昇している勝と変わらぬ距離で、夕闇の下を進む人間を発見したことになる。
少なくとも一人は、かなり夕闇慣れしていると言えるだろう。
ここは草原だ。いざ戦闘となった際に、身を隠すスペースはない。
完全に接近される前に一言かけてから――とそこまで思考した勝の眼前を、なにかが通って行った。
太い眉をひそめてから数回まばたき、そして刀を持たぬ左手で両目を擦ってもう一度目を開く。
長く伸ばした艶のある黒い髪。
月光を照り返す白衣に、真っ赤な袴。
重力を無視したかのように、ふわりふわり。
どーやら目がおかしくなったワケではないらしい。
はぁーと息を吐き、すぅーと空気を吸い込み、せーのっと胸中で呟いて口を開く。
「おキヌさぁぁぁぁぁん!?」
「ちょっと刃ぁぁぁぁぁ!?」
自分以外の声が混ざったが、そんなことを気にしている余裕など勝にはない。
相手が殺し合いに乗り気であった場合、殺してくれと飛び込んでいるようなものだ。
脳内で響く「もう死んでます!」というおキヌの声を無視し、勝は地面を蹴った。
剣術を学んだ祖父の記憶に、人形破壊者の血を飲んだ身体が応えて一気に加速する。
いつでも物干し竿を抜けるよう、左手で鞘を右手で柄を握っている。
222 :
ぎゅっと握って
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 03:19:06.41 ID:goeNl1x8
「どうも、幽霊のおキヌと言いますー。以後、お見知りおきをー」
「おう! 俺は鉄刃! サムライだ! いごおみ……? ええいっ、よろしくな!」
聞こえてきた屈託のない声に、低くしていた勝の体勢がさらに低くなった。というか転んだ。
どうにか首だけ上げて見てみると、おキヌと剣道着姿の少年が笑顔を浮かべながら握手をしている。
体勢を崩した勝は止まり切れずに、勢いよく腹から地面にダイブしてしまう。
「あれ? どうしたんですか、勝くん?」
「んあ? なーにしてんだよ、チェリッシュ?」
服についた汚れをはたきながら立ち上がった勝は、声のほうを半眼で見つめる。
なぜそのような視線を向けられているのか本気で不思議に思っているらしく、おキヌは首を傾げている。
ふと視線をずらしてみると刃と名乗った少年の前に、ウェーブのかかった金髪の女性が立っていた。チェリッシュと呼ばれたのが彼女だろう。
勝と同じように、千切れた草が服にへばりついている。
目が合っただけで彼女がなにを考えているのかが分かったので、すぐに目線を戻す。
「「相手が殺し合いに乗り気かも分からないのに、どうして勝手に飛び込んだの……?」」
勝の声とチェリッシュの声が、重なる。
おキヌと刃は、重い口調を察しているのかいないのか。
二人で顔を見合わせたのち、邪気のない笑顔を浮かべながら一言。
「だって二人でいましたし……」
「だって二人でいたじゃねーか」
勝とチェリッシュのこめかみが、小刻みに動く。
とはいえ、言い分が分からなくもない。
最後の一人を目指す者が組むこともありうると伝え、これから気にしてもらえばよいのだ。
平静を装いながらたっぷりと時間をかけて、二人がかりでその可能性を告げていく。
おキヌと刃はふむふむと相槌を打ちながら、再び互いに顔を見合わせて無垢な笑顔を浮かべる。
「いやぁ、そんなことしないでしょぉー」
「いや、んな面倒なことしねーだろぉー」
しばし、四人とも無言。
そして広がりかけた静寂を破るように、勝とチェリッシュが吼えた。
「はぁ……」
とため息を吐いたのは、誰であったのか。
定かではないが、全員がため息を吐いたような気分であった。
無駄に時間を浪費してしまった上に、あそこまで大きな声を出してしまえばそれこそ誰かに狙われかねない。
だが何はともあれ、どうも四人全員が殺し合いに乗る気がないということは分かった。
それだけで収穫だ。そもそもどうやっても幽霊の存在を受け入れてもらうまでに時間がかかるのでしようがない。
そう考えれば騒動に乗じて簡単に受け入れてもらった、と勝はむりやり自分を納得させてチェリッシュへと向き直る。
互いに情報を交換するに辺り、鉄刃よりも彼女のほうが話が早いと考えたのだ。
まだ学生服を着た自動人形にしか出くわしていない勝たちと違い、彼女たちはすでに四人もの参加者と会っているらしかった。
ただそのなかに知り合いはいなかったらしく、勝とおキヌの探し人もいないようだ。
しかも出会ったうち一人は、殺し合いを勝ち残るつもりとのことだ。
かなり巨大な体躯だという男の名を尋ねると、チェリッシュの表情が曇る。
「ごめんなさい……私は逃げることで頭がいっぱいで」
「日本番長、つってたぜ。それ以外はわかんねー」
顔を伏せて呟くチェリッシュの前に刃が割って入り、即座に話題を変える。
「ところで、さっき言ってたオート……なんだっけ? 動く人形について教えてくれよ」
223 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 03:19:16.79 ID:30QexrUC
224 :
ぎゅっと握って
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 03:19:57.40 ID:goeNl1x8
勝はもう少し日本番長について聞きたかったところではったが、もともと自動人形の特徴や対処法は伝えねばならないと考えていた。
強さや残虐さ、自動人形が人間の血を動力源としていることを教えていく。
刃の表情が見る見る険しくなり、歯を噛み締めているのが見て取れた。
続いて説明すべきは、自動人形の『黄金律』である。
一目で武器だと分かるものを手にして戦えば、自動人形は全力を出してくる。
懸糸傀儡などの武器に見えぬ道具を使うか、拳法で相手をせねばならない。
「じゃあこいつじゃダメってことかよ」
そう言って刃が取り出したのは、ボタンを押せば振動するナイフであった。
振動は自動人形の興味を引くだろうが、武器であることは明らかだ。これでは黄金律は発動しないだろう。
勝は首を横に振って、携えている日本刀に目を向ける。
配られている武器はこの手のものばかりで、懸糸傀儡はないのだろうか。そう考えていると、刃の怪訝そうな声が耳に入る。
「ん? それ、物干し竿か?」
「この刀を知ってるの?」
「ああ。さっき言った俺の仲間の佐々木小次郎っつーヤツの刀だけど……なんで、おめーが持ってんだ?」
「リュックサックに入ってたんだけど……キース・ブラックが奪ったのかな。しかし佐々木小次郎、ね」
「おお! 勝、小次郎知ってんのか? もう大昔に死んだクセにさすがに有名だな、アイツ!」
「……っ、もしかして幽霊……?」
名簿を確認した際には同姓同名かとも思ったが、刃の口振りではどうも違うらしい。
やはりこの殺し合いには、幽霊が複数参加しているのだろうか。
そう考えて問うた勝に対し、刃はうーむと考え込んでから。
「まあ……幽霊みてーなもんかなぁ。おキヌとはちょっと違うけど」
「ちょっと違うとは、どういうことでしょう?」
幽霊の話ならばと、おキヌが入ってくる。
「浮いてないし」
「飛び方が分からないんでしょうか」
だったら教えてあげなくちゃいけません、とおキヌはどこか嬉しそうに意気込む。
「あと目ぇスッゲー赤い」
「それは怖いですね……」
「まあアイツのことは、ひとまずどうでもいいや」
仲間らしい小次郎をどうでもいいと切り捨てて、刃は物干し竿を指差す。
「それがありゃ、もう殺し合いなんてしなくていいじゃねえか!
水鏡だって死なずに済むし、なんにもなかったことにしてキース・ブラックのヤローをボッコボコにすりゃいい!」
刃を除く三人が、つい「なに言ってるんだこいつ」と言いかけて飲み込む。
そんなことに気付かず、刃はまくし立てるように説明を始める。
なんでも物干し竿とは、普段は柄ヒモによって妖気を抑えている妖刀だ。
その封印を解けば妖気が解放され、時空が捻じ曲がり過去や未来へ跳ぶことが可能となる。
「なるほど! そういうことでしたか!」
ぽんと手を叩いて、おキヌが笑顔を浮かべる。どうやら合点がいったらしい。
その反応に、刃は胸を張って誇らしげにしている。
そんな二人を前に勝とチェリッシュは「え? これ納得するところなの?」などと思っていたのだが、どうにも自信があるらしい刃を止めるのもはばかられたので眺めていることにした。
225 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 03:20:16.63 ID:30QexrUC
226 :
ぎゅっと握って
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 03:20:51.45 ID:goeNl1x8
「伸びろ、物干し竿! よしよし本物だな、戻っていーぜ」
半信半疑どころか一割未満信九割以上疑の二人を置いて、刃は物干し竿が偽物でないかを確認する。
自由に伸び縮みするのに安心し、口元を吊り上げる。
「頼むぜ」と呼びかけるように呟いて、柄頭を外す。
瞬間、その場にいた四人の背筋が凍った。
辺りの温度が一気に下がったかのような感覚が走り抜ける。
大気に何かが立ち込めているような気配がし、息をするのがためらわれる。
「す、すごい妖気です!」
霊関係の事態には慣れているはずのおキヌでさえ、驚愕の声を上げてしまう。
あからさまに変化した周囲の様子に、勝とチェリッシュまでもがよもやと三割ほど信じる寄りになりだす。
「よし……」
静かに呟いて、刃は柄ヒモへと手を伸ばす。
うっかり柄ヒモを解きすぎれば、百年以上前まで飛ばされてしまうのだ。うまく調整せねばならない。
また、むかし過去に飛んだときのように物干し竿を手放してはならない。
そうなれば、やり直しが利かなくなってしまうのだ。
ほんの僅かだけ柄ヒモを解き、物干し竿を強く握り締めて時空の穴が開くのを待つ。
そして十数秒後、紙が破れるような音とともに空中に黒い穴が出現する。
思わず息を呑む三人になにも言わず、刃は穴へと頭から飛び込む。
「じゃあな! 俺が殺し合いを止めたらまた会お――っ痛ッてぇぇぇ!?」
ごっちぃ〜〜ん。
と音を立てて、刃は穴に弾かれてしまった。
頭には大きなたんこぶができ、視界には星が浮かんでいる。
そんなバカなと穴に手を突っ込もうとするも、穴の表面で弾かれて中を触ることができない。
「どーいうこった!?」
物干し竿を抜いて穴を斬りつけるが、やはり目に見えぬ壁に阻まれてしまう。
おキヌが目を細めて近づいていき、穴をしげしげと眺める。
「結界が張られてますね……」
「けっかい? なんだよ、それ!?」
「参加者が時を越えたりしないようにキース・ブラックが張った……のだと思います」
おキヌが言い終えたのと同時に、穴が消滅した。
よくよく考えてみれば、当たり前の話ではある。
自ら物干し竿なんて配っておいて、時の移動に対し対処をしていないはずがない。
そのことを実感し、刃は歯を軋ませる。
「……ちきしょう」
ただ悪態を吐くしか、いまの刃にはできないのだ。
思いを吐き捨ててもなお、無力感がやけに重たかった。
「ありがとよ、勝」
刃は物干し竿の柄ヒモを直して、勝へと手渡す。
笑顔を浮かべてこそいるものの、それがむりやり作ったものだということは明白だった。
かといって、誰にも指摘することはできなかった。
227 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 03:21:05.19 ID:30QexrUC
228 :
ぎゅっと握って
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 03:21:23.97 ID:goeNl1x8
「あのぅ……私、ちょっと思いついたんですけど」
重い空気が流れるなか、おキヌが小さく手を上げる。
「美神さんなら結界を解除できるはずです! なんせ世界最高クラスのゴーストスイーパーですし!」
誰も返事をしないが、おキヌは続ける。
「あと結界が解除されさえすれば、美神さんは道具なしで時間移動できるんですよ!
雷一発分くらいの電気エネルギーが必要ですが、それさえあれば」
「それじゃあ無理だよ、おキヌさん……」
言葉の途中で、勝が口を開く。
「雷一発分のエネルギーなんて、そんなものはそれこそ雷が落ちるのを待たなきゃ手に入らないよ」
「うぅ。で、ですが……」
なにかしら希望を見出そうとするが、おキヌは口籠ってしまう。
こういうなにも手が浮かばないとき、あのバンダナのゴーストスイーパーが意外に打開する案を思い付いてくれる。
しかし、その彼がどこにいるのかも分からない。
「…………雷神剣」
ぽつりと呟いたのは、鉄刃であった。
雷と聞いて彼がまっさきに思い浮かべたのは、ともに戦ってきた相棒雷神剣である。
けれど、あの剣がこの場にあるワケがない。
対となる風神剣と合体し覇王剣となり、ヤマタノオロチが蘇らぬよう大地に封印したのだから。
あの剣さえあれば誰にだって負けないと思っているが、もう二度とあの剣を握ることはない。
そう誓ったはずなのに、つい言葉が零れてしまった。
「……っ、いまなんて!?」
おキヌに妙に食いつかれて、刃はようやく自分が相棒の名を呼んでしまったことに気付く。
ぼかそうとするが言い訳も浮かばず、雷神剣について話すことにした。
雷神剣さえあれば電気エネルギーなんていくらでも手に入るが、もうあの剣はない――と。
封印されたとたしかに言ったのに、おキヌは満面の笑みを浮かべる。
「それですよ! 美神さんとその剣さえあれば、どうにでもなるじゃないですか!」
「だからさっきも言ったけど、雷神剣はもう……」
「あります!」
断言して、おキヌはリュックサックからなにかを取り出す。
トランシーバーほどのサイズで、上に二つアンテナがついている。
それに刃は見覚えがある。
かつて、雷神剣を奪おうとしていた敵のクモ男がこれを持っていた。
「説明書を読んだときは意味が分からなかったんだけど……
『風神剣と雷神剣を構成する特殊な金属に反応する』レーダーだそうです。
これ、常に二つ反応してるんですよ。ということは、さっき言っていた風神剣と雷神剣が両方ともここにあるんじゃないですか?」
229 :
ぎゅっと握って
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 03:22:02.25 ID:goeNl1x8
刃の瞳が、勢いよく見開かれる。
なるほど。いくら移動してもクモ男が自分たちの前に立ちはだかってきたのは、これがあったからというワケか。
納得して、レーダーを手に取る。
反応は二つ――北東と東で、距離は同じ程度。
「あっちは……まだ日本番長がいるかもしれねえ。まずはこっちか」
向かう方角を決めて、刃はおキヌを見上げる。
その笑顔は、もう作ったものではなかった。
なぜ風神剣と雷神剣が別れているのかは分からないが、刃に難しいことを考えるつもりはない。
ともにいくつもの敵を退けてきた相棒が、この場所にいることが分かったのだ。
恐れるものなど、もはやなにもない。
「これ、借りてもいいか!?」
「もちろんですよ。私たちは人探しをしているので、来た道を戻るつもりはありませんが……」
「サンキュー、また会おうぜ! よっしゃ行こう、チェリッシュ!」
黙って俯いていたチェリッシュの手を引っ張りながら、刃は東へと走っていく。
しばらく走ってから思い出したように振り返り、声を張り上げる。
「俺たちの仲間に会ったら、街のほう行ったって言っといてくれー!!
そっちの探してるヤツに会ったら、俺も場所教えとくからよーーー!!」
おキヌが「はーーーーーい!」と返したのを確認して、刃は再び背を向けた。
◇ ◇ ◇
東へと走りながらも、刃は時折後方を確認している。
勝とおキヌが見えなくなったのを確認してから、ゆっくりと足を止める。
ともに走っていたチェリッシュが、数歩前で振り返る。
「どうしたの、刃? 剣を探すんでしょう?」
「大丈夫だ」
「え?」
予想していなかった返答に、チェリッシュが目を丸くする。
「おキヌが『雷』っつってから、ずっと震えてただろ? でも大丈夫だ」
チェリッシュはハッとしたように、小刻みに震える右手を左手で覆う。
すぐに左手まで震えていることに気付き、両手を後ろに回して細い身体で隠す。
「……バレてたのね」
大したことではないかのように、舌打ちを鳴らそうとして失敗する。
顎の関節までもが痙攣しているのだ。
「無理すんな。ゼオンってヤツの話は聞いたよ。そうなっちまってもしゃーねー」
ゼオンの名が出た瞬間、チェリッシュの身体が跳ね上がった。
呼吸を落ちつけようとして余計に狂う。吸いすぎて息苦しい。
鼓動が早まるのを感じる。
瞳孔はすっかり開き切ってしまっている。
230 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 03:22:21.27 ID:30QexrUC
231 :
ぎゅっと握って
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 03:22:58.89 ID:goeNl1x8
「ぁ……」
そんなチェリッシュの手に、ほのかな温もりが触れる。
自分より小さいリーゼントの少年の姿が浮かび、少しずつ落ち着いていく。
ついテッドと名を呼びかけたところで視界が落ち着き、手を握っているのが刃だと分かる。
「ごめん、なさい……」
「謝んなって」
まぶたに温かい液体が溜まっていることに、チェリッシュは気付いた。
自分らしくもない思いながらも、ゼオンから受けた雷撃が蘇ると零れてしまいそうになるのだ。
触れて欲しくないのが分かっているのか、そもそも見えていないのか、刃はそのことには触れない。
「でもさ、そんなわりーヤツのことなんて忘れちまえ。難しいかもしんねーけどさ。
安心しろって。雷神剣を手に入れたら、俺がそんな怖いこと忘れさせてやっからさ」
チェリッシュをまっすぐに見据えながら、付け足すように続ける。
「雷ってほんとはもっとあったかくて、強くて、かっこよくて、頼りになって、どんな悪いヤツにだって負けねースッゲー力なんだぜ」
腕を広げるようなジェスチャーをしながら、刃はにかっと笑った。
説明があまりに分かりづらく、チェリッシュにはよく伝わっていない。
ただその説明下手なところがテッドを思わせ、どうにもおかしかった。
意図せず口元が緩んでしまい、その瞬間を刃は見逃さなかった。
「へへっ。初めて見たけど、やっぱ笑ってるほうが似合ってるぜ!」
刃はチェリッシュの手をギュッと握り、歩くのを再開する。
いつのまにか太陽が顔を出し、行く道が少しだけ明るくなっていた。
【A−4 中心部から僅かに東/一日目 早朝】
【鉄刃】
[時間軸]:織田信長御前試合の直後
[状態]:健康
[装備]:超振動ナイフ@ARMS、魔剣センサー『スパイダー』@YAIBA
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[基本方針]:殺し合いには乗らない。チェリッシュを守る。市街地にある反応(雷神剣)へと向かう。
【チェリッシュ】
[時間軸]:ガッシュ戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[基本方針]:テッドに会いたい。刃と行動。
232 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 03:23:29.76 ID:30QexrUC
233 :
ぎゅっと握って
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 03:23:43.87 ID:goeNl1x8
◇ ◇ ◇
「さぁて、私たちも行きましょうかー」
刃とチェリッシュの背中が小さくなっていくのをしばらく眺めてから、おキヌが西を指差す。
そのまま浮遊しながら西に向かっていくのについていきつつ、勝は思考を巡らせていた。
幽霊であるおキヌと出会ってから現在まで、知らなかった情報を得てばかりだ。
まだ真実か分からないことも多くあるが、幽霊や物干し竿の能力についてはその目で確認した。
ゴーストスイーパー美神令子や、雷や風を操る二本の刀、チェリッシュの言う魔物なども、真実である――かもしれない。
その上で、才賀勝は考える。
思考停止して何もかもを受け入れるつもりはないが、とりあえず仮にすべて真実であるとしよう。
だとしたところで、過去に戻ってプログラムをなかったことにできるだろうか。
結論は、すぐに出る。
そううまく行く可能性は高くない。
はっきり言ってしまえば、低い。
仮に美神令子とうまく合流できたとして、結界が解除できる保証はない。
結界なんてものを張っておいて、それが参加者個人の技術でやすやすと破ることができる代物だとは思えない。
おキヌによれば凄腕のゴーストスイーパーであるらしいが、だとしてもすべての結界を知っているとは思えない。
勝には霊能力の知識なぞないが、一つの分野を網羅することがそうそう容易いことでないことくらいは分かる。
続いて雷神剣だ。
これは物干し竿と同じように、キース・ブラックに回収されて参加者に配られたのだろう。
ならば物干し竿と同じく、能力に制限がかかっているかもしれない。
雷神剣が生み出すエネルギーを弱めている――であるとか。
そうだとすれば、美神令子が時間移動するのに必要なエネルギーには満たない。
雷やら風を放つ剣をいじることなど不可能なように思えるが、そもそも不可能としか思えないことをいくつもやられてしまっているのだ。
ありえないなどと言えるはずがない。
ブラックはこちらが取るだろう行動をすべて分かっており、その上で対処法を取っているはずなのだ。
ずっとそう考えていながらも、勝はあえて口には出さなかった。
抱いている希望を壊しても、余計に絶望的な空気にしてしまうだけだ。
霊能だとか、魔剣だとか、魔物だとか――そういう超常的な能力で壁を乗り越えてきた人たちは、楽観的でいてくれればいい。
落ち込んでいるところを見たくはないし、諦めてしまえば人は前へは進めない。
だけど――と考えて、勝の視線が鋭くなる。
(錬金術、柔らかい石、生命の水、自動人形、人形破壊者、懸糸傀儡、O……
僕だって、普通じゃ考えられないことはよく知っている。その記憶を持っている。
でも乗り越えていない。なんの自慢にもならないけれど、まだ途中なんだ。どうにか壁を乗り越えようと頑張っている段階だ。だから――)
勝はぎゅっと握った拳を前に出し、それを見据える。
(僕は楽観的になんて考えないし、油断だってしてやらない)
234 :
ぎゅっと握って
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 03:24:14.79 ID:goeNl1x8
【A−4 中心部から僅かに西/一日目 早朝】
【才賀勝】
[時間軸]:黒賀村である程度過ごしてから。
[状態]:健康
[装備]:物干し竿@YAIBA
[道具]:首輪(おキヌ)、ランダム支給品0〜2(人形はなし)、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。ひとまず西へ向かい、会場端の確認。
※正二、アンジェリーナ、鳴海を幽霊と考えています。
【おキヌ】
[時間軸]:本編にて生き返る前(美神令子の時間移動能力を知っている時期)
[状態]:不健康、首輪解除
[装備]:無し
[道具]:マーラの銀鏡@スプリガン、ランダム支給品0〜1、基本支給品一式
[基本方針]:勝についていく。
※幽霊です。『本人が触れたいと思うもの』以外はすり抜けます。
【支給品紹介】
【魔剣センサー『スパイダー』@YAIBA】
おキヌに支給された。
風神剣と雷神剣の素材である特殊な金属を察知するセンサー。
剣を発見するとブザーが鳴り、さらに近くに進むと二本のアンテナが激しく動く。
どの程度の範囲まで探知できるのかは不明だが、日本のどこにいるのかも分からない刃(の持つ雷神剣)を探すために作られたものであるので、ロワ会場内くらいならば全域をカバーできるはずだろう。
たぶん、おそらく、きっと。
235 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 03:24:23.79 ID:30QexrUC
236 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 03:25:14.15 ID:30QexrUC
237 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 03:30:50.76 ID:r825EaeS
238 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 03:33:40.99 ID:30QexrUC
投下終了っぽい、ですね。執筆お疲れ様でした!
◆hq氏……なんか、こう、じわーっとくる掘り下げがいいなあ。
細かいこと気にしないとばかりに、目の前のチェリッシュを励ましつつも、
現状を打破する視点も持ってる刃がじつにいいヤツでした。
逆に、細かいこと気にしないおキヌちゃんと組んでる勝の気持ちもよくわかる。
「普通じゃ考えられないことを乗り越える途中」って最後のくだりは……なあ。
そして、このSSに出てきた全員が前に進もうとしてるから、すげえ応援したくなる。
首輪とか会場関連については何とも言えませんが、楽しく読ませていただきました!
239 :
◆hqLsjDR84w
:2011/10/12(水) 04:01:56.61 ID:goeNl1x8
さる解除されたかな?
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。
執筆時間といい、投下時間といい、今回はやたら時間かかってしまい申し訳ない。
240 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/12(水) 04:21:16.23 ID:r825EaeS
投下乙です
勝とチェリッシュがずっこけた光景にワロタwww
他ロワにはなかった時間移動で全員生還ハッピーエンドいけるかなぁ……
241 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/14(金) 22:46:52.12 ID:q5GzKfmP
投下乙
キース・ブラックが張った結界だと、美神よりむしろカオスの方が解きそうな感じww(ギャグ風味で)
242 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/17(月) 06:09:55.19 ID:HIQQlQGS
読み返して気付いた
最後に勝が拳を握って見たのは、正二が託したセリフからか
そう思うとぐっときた
243 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/21(金) 00:05:59.68 ID:lDCJMv0L
代理投下します
244 :
最強候補の一角、植木耕介 ◇n0WqfobHTU
:2011/10/21(金) 00:08:20.78 ID:lDCJMv0L
「耕介君、この先の西の端には何があると思う?」
「んー、崖になって先にいけないよーになってるとか」
「恐らくはだが……この殺し合いを仕掛けた奴等の謎が隠されていると私は思っている」
「そうなの!?」
「ウ・ソ」
肌がつやっつやに見える程活き活きしてるナゾナゾ博士は、植木耕介を伴って地図の西端へと辿り着いた。
『会場外へ近付いています。会場外へ近付いています。これ以上進むのは危険です。今すぐ引き返してください。繰り返します。会場外へ近付いています──』
そんな警告音が首輪より鳴り出すと、ナゾナゾ博士はやはりかと頷きながら足を止める。
しかし、全然何も考えていなさそうで実際あまり物を考えない植木は、何の気無しにすたすたと歩を進める。
「ちょ、耕介く……」
直後、ばっこーん、ともの凄い音を立てて、耕介は吹っ飛ばされてしまう。
そのままひっくり返った耕介は何事かと身を起こすも、視界内に不審なものは、シルクハットかぶった妙なおっさん一人しかいない。
奇妙なおっさんことナゾナゾ博士は足元の土を堀り、手で固めてひょいっと投げてみる。
今度こそ植木にもはっきりとわかった。
見えない壁のようなものに土玉は弾かれてしまったのだ。
「ナゾナゾ博士! 見えない壁だ! 痛いぞ!」
「うん、全部見ればわかる。後、他者の警告はせめて耳ぐらい傾けよう」
植木はやはり話を聞いていないのか、懐よりごそごそとゴミを取り出し、えいやっとばかりに長大な木へと変化させる。
ナゾナゾ博士がものっそい勢いで目を見開いているのを他所に、伸びた樹木は見えない壁にぶつかりこれまた再び弾かれてしまう。
「こんにゃろ、なら……」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ耕介君! 君、注意事項を読んでないのかね!?」
「注意事項?」
ナゾナゾ博士が首輪爆破条件の一つに会場から逃げ出そうとした場合がある事を説明すると、植木は言い訳がましくぼそぼそと口篭る。
「……えっと、ほら、一々全部こっちの動き見てる訳じゃないだろうし」
「そう出来ると見て行動すべきだろう。ほら、耕介君の右腕を見てみたまえ。極小のものだが、カメラが一つついているだろう?」
「え!?」
驚いた植木は慌てて袖をたくしあげる。
ナゾナゾ博士は満面の笑みで言った。
「ウ・ソ」
彼は、見るからに目つきが悪かった。
本来友好を示すはずの笑みは、人を小馬鹿にしたような、醜く引きつった悪意の証としか思えない。
245 :
最強候補の一角、植木耕介 ◇n0WqfobHTU代理
:2011/10/21(金) 00:10:56.17 ID:lDCJMv0L
他者を安堵させる、心を暖かくさせる、喜びを分かち合う、そういった要素を一切剥ぎ取った、いっそ清々しい程に自分の感情を顕にするのみの笑い。
彼は両手を広げ、突然現れた人物に対し訝しげな顔をする植木とナゾナゾ博士へと歩み寄り、言った。
「こんにちわ死ね」
その男、永井木蓮は右腕を軽く振るうと、長袖服の袖に隠し持っていた銃を一瞬で手の内に納め発砲した。
周囲は見通しの良い野原、身を隠す場所なぞありはしない。
そも、こんな突然の攻撃に、反応しろという方が無理だ。
それでも、植木耕介は動けた。
木蓮の挙動に不審さを覚えた彼は、ポケットの中のゴミを腕の幅程の樹木へと変化させ盾にしたのだ。
植木の頬より冷や汗が一筋。
さもありなん、銃弾は必死必殺、確実に急所へのコースを辿っていたのだから。
さもありなん、いきなり、無遠慮に、無造作に人が死ぬ行為をされたのだから。
さあ戦いだ、そう言って始めるのではなく、日常の一コマの最中から突如生死の境を潜るよう強要されれば、如何に戦い慣れた植木とて驚きが顔に出ずには済まなかろう。
そこで動けなくならず、即座に反撃に出られるのが植木耕介だ。
彼が恐怖したのは、自分が死ぬかもしれないといった事ではなく、他人が呆気なく殺されるかもしれないという事であったのだから。
再びゴミを樹木へと変え、伸びた木先が木蓮へと迫る。
「うおうっ!」
大地を蹴ってこれをかわした木蓮は、興味を惹かれたらしく植木を見て、あの嫌悪感しか招かぬ笑みを見せる。
「へぇ、木を操る、か。いいねぇ、その技、実に面白い技だが……の割に使い方が単純すぎねえか?」
植木はナゾナゾ博士を庇うようにその前に立つ。
「うっせえ、お前いきなりどういうつもりだよ」
「おいおいおいおい、何言っちゃってんだお前? 話聞いて無かったのか? 殺し合えって言われたろ? 潰し合えって言われたろ? 血溜まりに沈んでカミサマを恨めって言われたろ?
断末魔の悲鳴を上げどいつもこいつも地獄に堕ちろって言われたろ? 腕をもがれ足を千切られ達磨になって転がりまわれって言われたろ? 心配すんな、ぜえええええええんぶ俺がさせてやるからよ!」
木蓮は植木が伸ばした木に手を添えると、笑みを深くする。
「ん、でだ。こういうのはどうだ?」
植木の伸ばした木の表面を、木蓮の放った無数のツタが覆いつくしていく。
ツタに触れたらどうなるかもわからない植木であったが、どうにも良い事はなさそうだとナゾナゾ博士と共にその場を離れる。
あっという間も無く樹木を覆いつくしたツタは、めきりと一つ音を立てて潰し砕かれる。
「どーよ、面白ぇだろ。ほら、お前もやってみろ」
何処まで本気か良くわからない調子で木蓮はケラケラ笑う。
植木は真顔で答えた。
「何で俺がお前の言う事聞かなきゃなんねえんだ」
ナゾナゾ博士は、心の中だけで全くだと頷いたが、どうにもこの敵の意図が見えないので発言を控える。
植木はナゾナゾ博士にのみ聞こえるようぼそりと呟く。
「アイツがツタを出した時、特に前フリらしいものは見えなかった。けど、これだけ使い勝手が良さそうな能力なら何処かに限定条件があると思う。ソイツさえ見つければ何とかなるから、博士は少し離れててくれ」
いずれ戦闘能力のないナゾナゾ博士だ。素直に言われるがまま距離を取る。
それを待っていたのでもないだろうが、木蓮はあーあと肩をすくめる。
「出来ねえってんなら仕方ねえ。これで終わりだ」
今度は大地に手をつくとその位置よりツタが大地を覆い広がって行く。
無制限にそう出来る訳でもないのか、植木を取り囲むようにツタは広がっていき、周囲一体を囲みきった所でぴたりと止まる。
246 :
最強候補の一角、植木耕介 ◇n0WqfobHTU代理
:2011/10/21(金) 00:12:38.47 ID:lDCJMv0L
「さて、どーする?」
「わかった。なら」
懐よりゴミを取り出し、今度はかわせぬよう幹の大きさが人の身長程もある巨大な木を作り出し、木蓮へと伸ばした。
「先に倒す」
木蓮は、今度は自らはぴくりとも動かず。
足元に這わせていたツタを動かす事で滑るように移動し、あっさりとこの巨木もかわしてしまった。
「ぎゃははははっ! 無理だばーか! 結局そんな単純な使い方っきゃ出来ねえのかよガキ!」
「一々うるさい、これなら文句ねえだろ」
言うが早いか、足元まで迫っていたツタをかわす為、植木は自分の真下にバネのように渦巻き状の木を作り、大きく上へと跳ね上がった。
木蓮は飛び上がった植木を見上げ、ぱんぱんと手を叩いた。
「おおおっ! やるやる……だけどま、それじゃただの的だよな。ギャハハハハハハハ!」
射撃の名手では決してないが、山程撃てば当たるだろと銃をがんがんにぶっ放すと、数発が植木にモロに命中してしまった。
「コイツはオマケだ」
銃弾の命中を確認してから樹木を槍のように伸ばし植木を突き刺さんとするのは、殺し合い慣れている木蓮らしい狡猾さであろう。
しかしそれも、植木の備えが上であった。
バネのようにびよんと伸びた木にツタを一本搦めておいた植木は、これを引っ張る事で空中での軌道を変化させる。
もちろん木蓮のツタが生えていない場所へと飛んだ植木は、着地の時も木をはやしてこれに掴まる事で綺麗に着地を決める。
弾丸命中に関わらず植木はぴんぴんしており、木蓮がこれに対して何かを言う前に植木は口を開いた。
「ぼーだんちょっき」
ぐっと服をたくしあげてわざわざ見せてやると、これにはさしもの木蓮も苦笑するしかない。
植木はびしーっと木蓮を指差す。
「お前!」
「あん?」
「木の能力だけでやりあうんじゃなかったのかよ! 銃とか卑怯だぞ!」
一瞬だけ、木蓮は反応が止まってしまったのだが、直後に腹を抱えて大爆笑。
「ブハーッハッハッハッハッハ! お前馬鹿だ馬鹿だと思ってたが本気心底ありえねえレベルの馬鹿だろ! クリーンな殺し合いがお望みか!? マーダーマンシップに乗っ取って正々堂々戦いますってか!?
つーか銃使ったら卑怯て! 卑怯て何だよ!? ウハハハハハハ! ヤベェ、腹よじれるって!」
木蓮の爆笑に植木もかなり頭に来た模様。
「……そうかよ。じゃあ俺も使うし」
「ほう、てめぇも銃を……」
植木の右腕が超がつく、そう本当に超でもつけなければ形容しきれぬ植木の体の数倍はあろう巨大な砲台に変化したのだ。
「鉄(くろがね)!」
そんな素敵砲台に相応しい、アホみたいにクソデカイ砲弾が放たれた。
木蓮は、彼にしては珍しく頭に浮かんだ感想を率直に言葉に変えた。
「どんな魔導具だそりゃあああああああああ!」
木蓮が地中へと潜れたのは、足元より下へと草木をはやしていたせいで地面が柔らかくなっていたおかげだ。
咄嗟に足元地中を縦横無尽に走る根を動かし、土中に転がり落ちるスペースを確保しながら後ろに倒れこむように落下。
落とし穴に背中から自分で落ちた感じが一番近かろう。
難は逃れたものの、黒くて丸くてでっかいのが眼前をイカレた速度でかっとんでいくのを、至近距離で見るハメになった木蓮は大口開けたまま硬直してしまう。
「あ、あぶ、あぶねえって……いやお前これ銃だって言い張るの無理あんだろおい」
あんなものぶち当てられては、さっきの怪力チビに投げ飛ばされた程度では済まないだろう。
247 :
最強候補の一角、植木耕介 ◇n0WqfobHTU代理
:2011/10/21(金) 00:15:03.73 ID:lDCJMv0L
木蓮はかいた冷や汗を拭きながら、さてどうしてくれようかと口の端を上げた。
ナゾナゾ博士は呆気に取られた顔のまま勝利した植木の側に戻り、今回の勝因、というかありえない大砲について尋ねてみる。
「耕介君、今のは……」
「鉄(くろがね)だ」
以上。
「いやそれじゃわからんだろう」
「大砲撃てるんだ、俺」
そーいう大事な事は最初に言って欲しいと思ったが、考えていた以上のトンデモな拾いものであった植木の能力に、ナゾナゾ博士は頼もしさを感じつつ質問を続ける。
「もしかして、他にも術があったりするのかい?」
「うん。ゴミを木に変える才の他に、後九個ある」
このレベルの技が後九個。ナゾナゾ博士は、そりゃこんだけ強けりゃ暢気に夜寝もするわ、とちょっとだけ思った。
戦い方の手の内を明かすのは、相手が誰であれ大層よろしくない行為だ。
それがわかっているナゾナゾ博士はそれ以上は聞かず、かなり戦い慣れているように見受けられる植木に戦闘は任せると決めた。
「えっと、鉄(くろがね)が一つ目、二つ目の威風堂堂(フード)は……」
そんな配慮をガンスルーで指折り説明始める植木に、ナゾナゾ博士は慌てず騒がず、植木の前で人差し指を左右に振ってやる。
「待ちたまえ耕介君。戦いの術は出来る限り秘しておくほうがいい。それが例え味方だとしても、だ」
「なんで?」
「もし、だ。ワシが捕まって君の戦い方を話させられたとしたら、君はとても不利な状況で戦わなければならなくなる。もちろん、知ったからとて安易に口にするワシではないが、それでもどうしようもない事態に陥ったとしても、知らなければ口にしようがないだろう?」
「何か不意打ちっぽくてヤだなそれ」
「それはつまり、ワシが知らないとわかれば、逆に捕まったとしても無体は受けずに済むという事だ。ワシの安全の為にも頼めないかね?」
ぽんと手を叩く植木。
「そっか、なら黙ってる」
「ありがとう」
植木が納得し、ナゾナゾ博士が笑った所で、声が聞こえた。
「何だよ、せっかく待ってやってたのに魔導具はわからずじまいか? くだらねぇ」
声のした方へ二人は振り向く。当たり前だ。それは、さっきふっ飛ばしたはずの木蓮の声だったのだから。
しかし、振り向いた先にも人影は無し。
周囲を見渡し、そして、植木は自らの失策を悟った。
さきほどまで正面であった方向より、木の根が無数に延びて来ていた。
避ける、間に合わない、いや、植木は間に合うがナゾナゾ博士が無理。
だから植木は声高らかに叫んだ。
「これが二つ目! 威風堂堂(フード)!」
地面から、巨大な木製の腕が伸び上がって来た。
それこそ腕の幅だけで人の一人や二人軽く庇えてしまうような大きさは、槍のように鋭い根先を易々と弾き返す。
引き続き、今度は四方八方より木の根が迫る。
「博士! 頭下げて! 三つ目! 快刀乱麻(ランマ)!」
先の大砲並の大きさを誇る、それどーやっても持ち上がらねーだろってな勢いの剣が地中より生えて来て、植木はこれを両手で持ちぐるりと一周回してそれだけで全ての木の根槍を斬り飛ばした。
抱えていた頭を上げ、周囲一体に転がる木切れを見て、ナゾナゾ博士は何とも言えないよーな顔になった。
「……いや、近遠防御と、三つだけでもう充分なのではないのかね? 最後のを近距離用と見なすのに少々の抵抗はあるが」
離れた場所で、地面がぼこりと盛り上がる。
そこからゆっくりと、木蓮が姿を現した。
ぽんぽんと手を叩きながら、下に昇降機でもあるのか自身は手以外一切動かさぬままゆっくりと地面からすり上がってくる。
「いやいやお見事、大したもんだぜガキ。技がスゲェってんじゃねえぞ、お前がこっちの攻撃を認識してからの判断の早さがズバ抜けてらぁ。まだガキにしか見えねえが、それなりには修羅場を潜ってきたようだな」
植木は黙ったままじーっと木蓮を睨み続ける。
248 :
最強候補の一角、植木耕介 ◇n0WqfobHTU代理
:2011/10/21(金) 00:17:54.08 ID:lDCJMv0L
「だけどよ、もう弱点、ああ、後七つだか技があるらしいが、そいつもぜーんぶ通じねえ、お前のどうしようもねえ弱点見つけちまったんだよ。残念だなおい、お前大したもんだけど、もうこれまでなんだよ。俺ぁそれが悲しくってよ……」
わざとらしく目頭とか抑えてみたりする木蓮であったが、木蓮自身含むこの場の全ての人間がこんな言葉信じてはいない。
「お前だけじゃねえ! 火影のクソったれ共と同じ弱点が! てめぇにゃあるってんだよ!」
木蓮は、今度は地面を波打つように触手のごとき根を伸ばす。
その軌道はうねり、縦横に蠢き回る為、対応が至極困難。
そして植木は、植木耕介であるが故にほんの一瞬だけだが、植木を見続けていた木蓮の狙いを見誤った。
「なっ!?」
そう、木蓮の狙いは植木ではなく、その背後に位置するナゾナゾ博士であったのだ。
植木は咄嗟に威風堂堂(フード)にて防ごうとするも、伸び上がる腕は一度見られている。
以降この盾は動かないと見切った木蓮は、飛び出し弾かれた分の木の根には未練を残さず、生き残った分を迂回させナゾナゾ博士を狙い続ける。
「さああああああああ、どう防ぐ!? どー防いでくれるよおおおおおおおおお! 守るんだろ!? 守ってみせるんだよなええおい! 傷一つつけるんじゃねえぞ! 男なら体張って守りやがれ! ギャハハハハハハハハ!」
植木はこんな嘲りの言葉にも、真面目に返事してみせたり。
「防がないし。ちょっと飛ばして六つ目! 電光石火(ライカ)!」
植木の両足にローラーブレードのような装置が現れ、植木はナゾナゾ博士を小脇に抱える。
身長を考えるに、植木がナゾナゾ博士を小脇になぞ抱えたら足を引きずる事になるのだが、まるで問題はない。
何せその後の移動速度がべらぼうに速いため、ナゾナゾ博士の足は宙をぶらぶらと浮いてしまっているのだから。
大笑いしていた木蓮の顔が笑った顔のまま硬直するのを他所に、植木はあっという間に彼方まで逃げて行ってしまった。
「…………アイツ、どんだけ魔導具持ってやがんだよ」
完全にしてやられたというのに、悔しがるとかそーいうのより先に思わずつっこまずにはいられない木蓮であったが、そのまま顎に手をあて、少し考える。
複数の魔導具を所有し使いこなす。
通常、魔導具は一つ所有するのすら難しい。それをあれだけの数持っているガキなぞ想像の外だ。
それに、と自らの魔導具が引き出した結果を見やる。
大地に痛々しい傷跡が刻まれ、乱雑に、かつ無作為に破壊が放置されている。
そしてあのガキが為した大地への傷と比べてみると、明らかな差異が認められる。
魔導具の形状もそうだ。禍々しさを感じるような、そうでなくとも何処か芸術品のような風格を魔導具は持つ。
然るにあのガキのソレは、例えば木蓮の魔導具を作った者とは全く別の製作者の手によるものであろう、と即座に思えてしまうような単純でわかりやすい形状をしている。
木蓮もああいった魔導具は見た事がない。
何やら薄ら寒い気配を覚え、長い髪に手櫛を一つ。
「どおーーーーーーにも、違和感がありやがるんだよな」
最初に出会った女のガキにも、その前に皆が集められた場所に居た怪獣のようなケモノにも、キースを名乗る男の力にも。
木蓮は、一度片頬のみをひり上げた後、逃げていった速度と同じエライスピードで戻って来たガキに向かって言った。
「よう、一度殺し合いは中断だ。何かここ、おかしくねえか?」
何て事をいきなり言い出したとて、ここまでさんざ好き放題してきた木蓮の言葉を植木が信じるはずもない。
そんな顔をしている植木に、木蓮は早々に自分の力を明かす。
「俺の魔導具は、まあ見てわかっただろうが木々を操る『木霊』って奴だ。お前のは、全部話さなくてもいい、どうやって手に入れたかだけ教えてくれりゃそれでいい」
植木は、先のナゾナゾ博士の言葉を、
「まどーぐって何だ? 俺は天界人の力を使ってるだけだぞ」
すっぱり忘れているもよー。
「天界人?」
「ああ、神様の住む所に一緒に住んでる奴等らしい。俺もそこの生まれって聞いた」
木蓮の目が可哀想なモノを見る目に変わるが、正直、さっきの大地を抉り飛ばしながらかっとんでいったデカイ大砲などは、大層強い魔導具というより神様の力とでも言われた方が余程しっくり来る。
それに、神様の力が戦争の象徴大砲だというのなら、これほど愉快な事は無いではないか。
249 :
最強候補の一角、植木耕介 ◇n0WqfobHTU代理
:2011/10/21(金) 00:20:46.70 ID:lDCJMv0L
「……お前、じゃあ魔導具の事は知らねえのか?」
「だからまどうぐって何だよ。もしかしてお前『才』以外の何かで木を操ってたのか?」
また新たな単語だ。
木蓮は、興味深げに数度頷く。
「よし、わかった。魔導具の事教えてやる代わりにお前、そのざいとか天界人の事教えろ」
植木は即答した。
「嫌だ。お前最低の奴だし」
ぴきりと、木蓮の額に青筋が走るもここは堪えて物のわからぬガキに説明してやる。
「まあ聞け。何処で誰とやりあうにしてもだ、情報ってな軽く見ていいもんじゃねえ。知ってさえいりゃ対応出来た、そんな事柄は世の中にゴマンとあらぁ。な、別に味方になれなんざ一言も言ってねえわけだし……」
「嫌だって言ってんだろ。お前みたいな奴にやるもんなんかない」
このガキには、有利に立ち回る駆け引きだのの思考がないらしい。
木蓮は戦闘慣れしてる癖に、意味がわからない程にガキなこの子供との交渉を、すっぱりと諦める事にした。
「……オーケイ、了解、理解した。つまり、てめぇを半殺しにして聞きだせと。そういう話でいいんだな」
「俺は別に勝ってもお前の話なんて聞きたくもないけどな」
「ホント、清々しい程にガキだよな、お前」
木蓮は話し合いにて情報を得られなかった事を、さして悔やんではいなかった。
このガキが何処までも子供で純真無垢な輝きを見せてくれた事の方が余程収穫であった。
完成度の高い至高の美しさ程、陵辱し甲斐のあるものはないのであるから。
「クククククッ、いっそケツでも掘ってやるか? それとも女を犯させてやろうか? 目の前で、あのジジイが死なないよう死ぬまで痛めつけられる有様でも見せてやったら、どんな顔するのかねぇ……ククッ、クククククッ……」
わさわさと、木蓮の周囲より木々が波打ちながら生え出して来る。
「来いよガキ。親切なお兄さんがRock 'n Rollを教えてやるぜ」
植木も、もう遠慮なんてするつもりはない。
一打必倒を期し、五つ星神器の百鬼夜行(ピック)を撃ち放つ。
突如腕が伸び行く巨大な柱に変化するピックを、初見でかわすのは至難の業。
それを、未見の魔導具に備えるつもりで居た木蓮は木々にて逸らしかわす。
「おいガキ! 知ってるか! 悲鳴ってな種類があるんだぜ!」
木蓮は一直線に槍のような根を飛ばすが、これを囮に本命の鞭の如き長大なツタを真横より振り薙ぐ。
植木は八つ星神器、波花(なみはな)にて迎撃。威力は浪花の方が上で木蓮のツタを木っ端微塵に打ち砕く。
「甲高い悲鳴、ありゃ嘘だ! まだ心に余裕がある証拠なのさ! 本当に余裕の無い女が上げる悲鳴ってなぁな! 低くくぐもった胃の腑に染み入るcoolな音なんだぜ!」
再度ピックにて木蓮を狙う植木に対し、木蓮は植木がそうしたのと同じように眼前に巨木を生やして防がんとする。
が、無理。ほんの一瞬すら防ぐ事は出来ず。しかし、視界を遮る効果はあったようで、回避に飛んだ木蓮をピックは捉える事が出来ず。
「恐怖の悲鳴は確かにキーが高い! あの噂に名高いきゃーって奴だ! だがな、あれは周囲に助けを求める、翻しゃ助けてもらえると何処かで思ってやがる! 絶望が何処にもありゃしねえ!」
相手に位置を把握出来なければ、威力があろうと当たりはしない。そう木蓮は狙い、生やした葉生い茂る木を一瞬で枯らし、扇のような蓮の葉で扇いで植木の周囲を枯葉で覆う。
無論そんなに長い時間維持出来るものでもないが、木蓮が攻撃を仕掛けるには充分な間だ。
「体を千切った時上げる悲鳴はな! 腹の底から響くぶっとい声なのさ! 実際すぐに叫ぶ為の空気が無くなりやがるから長時間の悲鳴は無理! それでもなぁ、人の、心底からの悲鳴ってなこういうもんだろええおい!」
四方八方より木の根の槍をめくらめっぽうに打ち込んでやる。
防弾チョッキだろうと何だろうと、当たればぶち抜く強烈な圧力を伴った槍だ。
「誰かが助けてくれるだの! 我慢してれば収まるだの! そんな余計な事全部ぶっちぎった悲鳴! 只々激痛を伝えるだけの悲鳴ってなそういうもんなんだよ! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! そんだけだ!
そこまで思いを込められりゃ! 誰だってソイツがどんだけ痛いのか理解出来るような血の叫びこそが悲鳴なんだよ!」
植木は枯葉を突きぬけ真上へと抜けていた。
九ツ星神器、花鳥風月(セイクー)。これは大空を飛翔する為の技。
植木は、この男を断じて許すつもりはなく、ありったけを叩き込んで倒すつもりであった。
250 :
最強候補の一角、植木耕介 ◇n0WqfobHTU代理
:2011/10/21(金) 00:23:10.94 ID:lDCJMv0L
「一瞬だ! 最初の一瞬に全てを込め吠える! しかし叫べど泣けど何も変わらない! 助からない! そんな悲痛を余韻に乗せて! 最後を締めるのが極上の悲鳴ってもんだ!」
空中から植木は、四ツ星神器、唯我独尊(マッシュ)をぶちかます。
これはピック以上に初見でかわしようのない技。
異常な知能指数を誇る学生が五分で作ったおもちゃのような造形は、威力の凶悪さを隠すカモフラージュか。
大口開けた巨大な四角形が地面から生えてきて木蓮に齧りつくのだ。
ぎりっぎりで生やした木をつっかえ棒にするのが間に合い、これで僅かの間を作った木蓮は巨大な顎を辛うじて逃れる。
「うわお! 相変わらず洒落になんねえぞてめぇ! そうそう悲鳴だよ! そんな極上の悲鳴を上げさせるのに、俺がどんだけ手間隙かけてるか知ってるか!?
万人に同じやり方してちゃぁ素人さ! 俺みたいな熟練者はなあ! 相手によって都度やり方を新しく編み出すのさ!」
流石に同じ樹木使いだけあって、木蓮の神器回避方法は植木のそれに良く似ている。
しかし、天界力を操り空を自在に飛びまわる植木を捉えるのは木蓮には至難の業。
それでも木蓮は負けるつもりなぞ欠片もない。
植木と違って、木蓮は魔導具に拘るつもりもないのだから。
「ハハハッ! んじゃコイツはどうだあああああ!? なあおい! お前の苦痛の悲鳴! そろそろ聞きたくなってきたんでよおおおおお!」
木蓮が両手で抱えるはサブマシンガン。人を殺す為だけに作られた、しかし弾丸は、人の手ならざるものをすら貫くオリハルコン製。
弾に紐つけて後で回収出来る様にしたくなるぐらいの単価であるが、金払うのは俺じゃねえと盛大にばら撒く。
「心配すんな! 俺はアーティストだからな! いきなり最後の悲鳴にはいかねえよ! 最初に文句言った甲高い悲鳴も! あれはあれで良い所があんだぜ! 俺ぐらいになると悲鳴の響き具合一つでソイツの絶望っぷりが良くわかるのさ!」
植木の防弾チョッキはあくまで対人弾用。そもそもオリハルコン弾を防ぐ素材なぞ同じオリハルコン以外ありえない。
当たれば痛いどころか、間違いなく当たった部位丸ごと抉り取られる。
天界力を操る術を身につけていたからこそ、命中弾無しで切り抜ける事が出来ているが、植木には近寄る事すら出来ない。
「何でもそうさ! ブレンドだよ! 助かるかも、救われるかも、守ってもらえるかも、優しくしてもらえるかも、どうしようもない絶望にはそんな希望こそが重要なんだよ!」
木蓮は、植木を銃弾で追いまわしながら次なる手を打ってある。
風上に位置し、本来液状で直接流し込む類の毒を大気中へと撒き散らし、毒物が滞留した地域を作り上げる。
こういった作業を草木を手足に行なえるのが樹木使いの大きな利点だ。細かい作業にはまるで向かないので時間はかかってしまうが。
「助かるかも? 駄目でしたー! 救いの手が? はい残念! こいつを繰り返して思考能力を剥ぎ取るのは洗脳と同じだ! 尤も、洗脳専門の奴等ぁ美学ってもんがねえ! あいつら音楽性ってもんがわかってねえ! Rockじゃねえんだよ!」
ちょうど仕掛けが終わる頃、マガジンが空になった銃は鳴り響くのを止める。
植木はここぞと飛び込み、木蓮が誘う地点に向け突っ込んで来る。
「おっと勘違いすんなよ! 音楽ってなRockだけじゃねえ! クラシックもポップスにも! 全てに通じる何かがある! そいつを言葉に出来た奴ぁきっと真の天才って奴なんだろうぜ!
ああ、いずれ俺が至る場所さ! そん時こそ誰もが俺の音楽を崇める時だ! 連中に俺のジャンルを理解する根性がありゃあの話だがよ!」
バッグから予備のマガジンを取り出す猶予は、植木が木蓮に迫るに充分な時間があったのだが、木蓮は魔導具木霊の使い方に熟達しておりそう容易く隙は見せない。
地中よりぼこりと生えた草が急激に成長し、人間大もある果実を実らせる。
これを木蓮が木の根の鞭で叩き地に伏せると、果実は大きく破裂し中より弾丸のような種を弾き出した。
「Scream artistって所か!? コイツを理解出来んのは、そうさな、スナッフビデオ撮ってるような連中ぐらいか!? クハハハハ! お前知ってるかスナッフビデオ!
十歳にもならねえようなメスガキをバラして壊してヤっちまう様をビデオに撮ったもんだよ! 見たら人生変わるぜ! 見たくなきゃ瞼斬りおとしてでも見せてやるぜギャハハハハハハハハハ!」
突入軌道を変えるなぞままならぬ距離に、植木は逆に速度を上げながら前へと突っ込んで行く。
251 :
最強候補の一角、植木耕介 ◇n0WqfobHTU代理
:2011/10/21(金) 00:24:41.00 ID:lDCJMv0L
こういったクソ度胸で植木に勝るものなぞそうは居ないであろう。
種が肩口に弾かれ逸れる、しかし一打のみの命中弾にて植木は破裂した巨大なホウセンカの実を突破した。
それでも命中があったせいか攻撃には移れず、伏せた木蓮の頭上を抜け離脱していく。
「クソッ! どういう神経してやがんだクソガキ! てめぇに悲鳴上げさせんな手こずりそうだチクショウ! 楽しくなってきたなぁええおい!」
ホウセンカにて毒溜りに叩き込むつもりがアテが外れた木蓮。
しかし、最後にして絶対の切り札の用意が整ったので、木蓮は動きを止めた。
「さあ! テメェのやり方に付き合うのはここまでだ! クソガキ! これが、大人のやり方って奴だ!」
もこりと、木蓮の足元の土が盛り上がる。
地中を辿ってきたらしいソレは、巨大な二つの葉で覆われた楕円状のものであり、形状はハエトリグサと呼ばれるものに酷似していた。
そして、二つの葉が開き中から転がり落ちてきたものは、紛れも無く、植木がナゾナゾ博士と呼んでいたモノであった。
植木に言われともかく戦いは任せる事にしたナゾナゾ博士は、くれぐれも奴の口車に乗らぬよう植木に釘を刺した。
見るからに狡猾そうな男だ。植木の実力が発揮されればそう容易く敗れるとも思わないが、策にハマる事は充分にありうると思えたのだ。
大きく頷いた植木はすぐに男の元へと戻って行く。
しばらくの間ナゾナゾ博士はただ待つしか出来なかったのだが、焦燥は博士の身を静かに蝕む。
医師をこなす程の知能の高さや、交渉術に長けたナゾナゾ博士であったが、相棒の魔物の子がいない以上戦闘ではお荷物にしかなりえない。
ましてや王を決める戦いとは違い、今度は博士そのものが最重要ターゲットであるのだ。
今、あの場に居られない事は理知的なナゾナゾ博士ならば良く理解出来ている。
それでも、老い先短い自分が安全な場所におり、まだ未来のある若者が危険に身を晒しているとあっては心痛まぬわけがない。
せめて出来る事を、彼が勝利し戻って来ると信じて次にどうすべきかを考え始める。
そうやってきっちり思考を切り替えられるのが、大人の大人たる所以であろう。
そうしてキースという男に関する考察を続けていると、ふと、土中より木の根が顔を出しているのに気付いた。
うろうろと、しかし、正確に博士の下へと向かって来る木の根。
この場所を知っている植物使いは植木のみ。
何か報せに来たのかと身を乗り出し、ナゾナゾ博士は致命的なミスを犯す。
植木が自分に助けを求めているのかも、そう一瞬でも思ってしまえば、ナゾナゾ博士がそうするのも理解出来なくはなかろう。
それでも、博士は気付くべきだった。
植木のライカが作った轍を辿り、木蓮が樹木を伸ばしてくる可能性を。
「しまった!?」
木の根らしきものに触れた瞬間、ナゾナゾ博士は土中より飛び出して来た巨大な二つの葉に全身を覆いつくされてしまうのだった。
木蓮もまた視界の通らぬ場所を木を通して『見る』事なぞ出来ない。
である以上罠を張るしかない。
252 :
最強候補の一角、植木耕介 ◇n0WqfobHTU代理
:2011/10/21(金) 00:26:51.21 ID:lDCJMv0L
触れれば起動するハエトリグサを罠に用いるやり方は、まだ実験の段階を出ていなかったのだがどうやら思った以上に上手く機能するようだ。
しかし、結構な距離があった。
土中を引っ張ってきたのだから、結果、中のコイツがどうなったかは考えるまでもない。
出来ればガキをいたぶる道具に使いたかったのだが仕方無い、と速攻を腹に決める。
「ガキ! 要求は一つだ! この弾を避けるんじゃねえ! それさえ守ればこのジジイは見逃してやる!」
植木に見えるように、見えないように木の根を操り、ナゾナゾ博士の腕を僅かにだが動かしてやると、植木はあっさりと飛行を止め地上に降り立った。
「良い子だ。ついでに後ろを向くと良い感じだぜ」
植木は、渋々だが言われるがまま。
「おいっ! わかったからナゾナゾ博士に何にもすんじゃねえぞ!」
「ああもちろんだ。俺は約束を守る男だぜ」
そのまま引き金を引けば終わり。しかし、木蓮は最後の最後で、自らの性癖の誘惑に打ち勝つ事が出来なかった。
ナゾナゾ博士の胴を木の根で掴み、後ろを向いた植木にも見えるようその頭上を越えて放り出す。
植木の眼前に降ってくるナゾナゾ博士。
その、胴が、音を立ててへこむ。
胴に巻きついた木の根が、博士を引き千切らんと力を込めているのだ。
「ナゾナゾ博士えええええええええええええええ!!」
植木耕介の力の源は、誰かを守りたいという心そのものだ。
これが最もわかりやすい形で現されるのが、十ツ星神器、魔王である。
彼の心が一番強いと信じる、小林先生、通称コバセンの姿を象っているのも、心こそが一番の力となる十ツ星神器ならではの効果である。
どんな神器より素早く、どんな神器より力強く、ナゾナゾ博士を捕えていた木の根を斬りおとす。
「うおあああああああああああああああああああ!」
冴えない中年の姿をした魔王の力は、植木の叫びに呼応し、植木の背後より迫るオリハルコンの銃弾すら弾き飛ばしながら木蓮に命中し、周辺一体の大地ごとその存在全てを消し飛ばした。
植木はナゾナゾ博士を背負って歩く。
「なあ、やっぱり博士の言った通りだったよ」
その足取りが重いのは戦闘の疲れからだけではあるまい。
「……俺、まだ弱いんだ。強くなって、絶対アノンにだって負けてないって、そう思ってたのに……やっぱり、俺はまだ、弱いんだ……」
植木は首を垂れたまま、一歩一歩歩き続ける。
「…………ごめんな。俺、弱くて。ごめんな……守ってあげられなくて……」
背後に背負ったナゾナゾ博士より、生命の気配はとうに消え失せているのに、植木も気付いていた。
「俺が……おれが弱かったから、ナゾナゾ博士、死んじまって、本当にごべんだ……」
顔はぐしゃぐしゃに崩れ、止め処なく流れる涙を拭う事ですら出来ない。
それでも、ナゾナゾ博士の遺体を背負った植木の足は、決して止まる事はなかった。
253 :
最強候補の一角、植木耕介 ◇n0WqfobHTU代理
:2011/10/21(金) 00:39:53.74 ID:VOLKIIHR
「な、な、な、な、……………」
巨大なクレーターの端、ぐずぐずに埋もれた土砂の中。
「な、な、な、な、な、な、な、な、……………」
もぞもぞと、蠢く影がある。
「な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、……………」
かなり必死な様子で、手が、頭が、そして全身が姿を現す。
「なんだありゃあああああああああああああああああああああ!!」
永井木蓮は五体無事なのを確認すると、朝日の眩しさを全身に浴びて大きく息を吐き出す。
「……なんて威力だよ。ありえねえ、神様の力ってな冗談でも誇張でもねえじゃねえか……」
最後の仕掛けは、木蓮の空蝉を植木に見せつつ、植木の顔が良く見える位置に本体は移動していたのだ。
充分安全だと思えた距離のはずだったのだが、そんなもんあんだけの広範囲ふっ飛ばされれば関係なくなる。
撃った当人も範囲内に居たはずだし爆風の影響を受けていると思われたのだが、あのクソガキがどうなったかは木蓮にもわからない。
あれでくたばってくれるのがベストなのだが、そんな楽観的な気分にはとてもではないがなれない。
「どうなってやがんだ。アイツ、ヘタすりゃ紅麗よか強ぇんじゃねえのか?」
色々と考えなきゃならない事はあったが、木蓮はとりあえず今は、と朝日にのんびりと癒される事にした。
何となくだが、光合成する植物の気持ちが理解出来る気がした木蓮であった。
【ナゾナゾ博士 死亡確認】
【残り67名】
【A-5 東部/一日目 早朝】
【植木耕介】
[時間軸]: 十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。
注:ナゾナゾ博士の遺体を背負っています。
【A-5 西端/一日目 早朝】
【永井木蓮】
[時間軸]:裏武闘殺陣決勝後の紅麗の暗殺後
[状態]:健康
[装備]:木霊 @烈火の炎 飛斬羽@烈火の炎、トライデント特製COSMOS仕様サブマシンガン@スプリガン、ワルサーP5@スプリガン
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、飛斬羽@烈火の炎
[基本方針]:このゲームを楽しむ。できるだけ女を殺したい。魔導具以外にも不可思議なものがあると認識した。
トライデント特製COSMOS仕様サブマシンガン@スプリガン:対AMスーツ用に作られた銃。とにかく凄い銃なんですっ! 見た目もちょっと近代ちっくで!
ワルサーP5@スプリガン:ドイツの警察で正式採用された銃。値段が高くてあまりみんな使わなかったが。もちろんドイツ製。これを嬉々として使うはやはりハーケンクロイツな方々なのです。
254 :
代理
:2011/10/21(金) 00:40:51.90 ID:VOLKIIHR
156 名前:最強候補の一角、植木耕介 ◆n0WqfobHTU[sage] 投稿日:2011/10/20(木) 21:02:06 ID:???
以上です。問題点等ありましたら、ご指摘の方よろしくお願いします。
という訳で途中で代理の方もさるったらしいので代理の代理が投下終了です。
255 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/21(金) 15:34:15.99 ID:J31cRpdf
投下乙!
植木はたしかに最強候補の一角だけど、でもまだ甘さがあるんだよなぁ
だから、参加者のなかでそこまで強くない木蓮相手でもこうなってしまう
そこがよさなんだけど……キツいよなぁ、植木本人としちゃあ
それでも足を止めていないので頑張ってほしいけど……
256 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/22(土) 01:32:23.19 ID:TJSXqMoM
投下乙
木蓮のセリフがノリノリすぎてわろたw
戦闘自体は植木が押してたんだけどなあ
257 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/22(土) 22:43:27.06 ID:7VNB8A5a
投下乙!
若干スレチだけど植木が出てるロワは新漫画キャラ、中学生を見てきたけど神器の有無はでかいな
魔王の威力の結果の影響によっちゃ隣のエリアにいる佐野達と合流できるか?
それと、Wikiを見た感じ博士は一応神器を見ているから鉄を見たときの博士の反応に違和感を感じる
258 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/23(日) 21:17:43.40 ID:OMAuoIMq
投下乙!!
実際植木は強キャラだもんな〜。この植木を今まで待ってた!
木蓮の外道で姑息で狡猾なとこがいいな〜w実力で敵わない相手でもうまく生き残るからな〜。マーダー少ないしこういう中堅マーダーにはがんばってもらいたい
……はい。木蓮はお気に入りキャラですw
259 :
創る名無しに見る名無し
:2011/10/28(金) 14:48:10.70 ID:DQdaJAOj
hq氏苦戦してるのかなぁ
あのパート楽しみだ
260 :
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 18:46:52.01 ID:Da1pVN/Z
ようやく書き終わりました。
本日23時くらいに投下したいと思います。
長くなってしまったので、支援いただけると嬉しいです。
261 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 22:48:41.73 ID:fQRXfLj9
分かりました、待機しておきます
262 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 22:56:43.04 ID:0jLyOni3
楽しみにしてます!
263 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 22:57:52.03 ID:PzN1iuur
支援待機
264 :
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 22:58:10.42 ID:Da1pVN/Z
投下します。
265 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 22:58:16.15 ID:NyzwkXAv
待機
266 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 22:58:49.67 ID:Da1pVN/Z
◇ ◇ ◇
「……むう」
アシュタロスは誰にともなく呟くと、緩やかに進めていた足を止めた。
進んでいたのとは異なるほうを向いて、そちらを見やる。
南より接近してくる霊力を感じ取ったのだ。
常人の域からはみ出た速度で北上してきている。
それも一つではなく、二つ。
あごに手を当てて黙考したのち、アシュタロスは意識を集中させた。
肩まで伸びた紫色の毛髪が、重力に反して浮かび上がる。
抑え込んでいた魔神としての力を、ほんの少しだけ外界へと解放したのだ。
溢れ出した魔力に勘付いたのか、二つの霊力は加速した。
その動きを捉えて、アシュタロスは口元を緩める。
アシュタロスは、すべてのGS(ゴーストスイーパー)にとって倒すべき敵である。
その力を察知すれば、近付いてくるであろうと目論んだのだ。
「『式神』、か」
姿を現した霊力の主は二人ではなく、二体であった。
夕闇に溶け込む黒い体毛を全身に生やした直径二メートルほどの球体に、そちらの半分ほどのサイズで鋭い牙を伸ばした毛のない球体。
現実世界にそんな生物は存在しないが、アシュタロスは動じない。
古代中国にて編み出された『陰陽五行説』の思想に基づき、日本で独自の発展していった呪術体系『陰陽道』。
それに秀でた『陰陽師』の使役する鬼神こそが――『式神』。
無生物を憑代として霊力を吹き込み、生物であるかのようにして操る。
日本に伝わる霊能技術の一種である。
二体の突進を危なげなく回避しながら、アシュタロスは五感を研ぎ澄ます。
こうして式神が動いているということは、彼らを使役しているGSがどこかにいることになる。
仮に式神が封じられた札だけを所持していたところで、動力となる霊力がなければ呼び出すことは不可能だ。
そのはずだというのに、式神以外に生物らしき気配は発見できない。
はたしてこれはいかなることかと考える間も、式神は攻撃を緩めない。
大口を開けて噛み付こうとしてくる小さな球から飛び退き、体当たりしてくる巨大なもう一体を空中で身を捻ってやり過ごす。
すると、大きいほうの式神が体毛のなかに紙を隠しているのが目に入った。
横切っていく式神に手を伸ばし、アシュタロスは一瞬のうちにそれをかすめ取る。
紙を開いてみると、伝言のようなものが記されていた。
なるほどと胸中で吐き捨て、アシュタロスは結論を下す。
『エレオノール』という仲間へとメッセージを送るべく、『才賀勝』という参加者が式神を発現させたのだろう。
ならば、GSがこの場にはいないのも頷ける。
納得して、アシュタロスは二体の式神へと向き直る。
「何はともあれ、まずは貴様ら二体だ」
言いながらも、アシュタロスの興味は先ほどまで目指していた地点にそそられていた。
少し前に、花火が打ち上げられた地点である。
ゆっくりと歩んでいたので、もうそろそろ参加者が集まっている頃合いだろう。
殺し合いの舞台にて自ら他者を集めるのはいかなる手合いで、それに引き寄せられたのはどのような連中なのか。
そのような命知らずのなかにならば、最上位魔族をすら滅するような輩がいるのではないか。
多少気にかかったが、アシュタロスはすぐに思考を振り払った。
とうに、そんな幻想を抱いていられるほど青くはないのだ。
最上級の魔族がろくな成果も上げずに息絶えることはできない。
八十程度の命が魔神の命と釣り合うワケもなく、成果とみなされることはありえない。
ゆえに、最終的に勝ち残ってしまうことが確定している。
期待を胸にどこかに向かう理由なぞ、災厄として生き続けねばならないアシュタロスには存在しないのだった。
267 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 22:59:15.90 ID:fQRXfLj9
268 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 22:59:35.20 ID:Da1pVN/Z
◇ ◇ ◇
アシュタロスが思いを馳せた花火が打ち上がっ場所から、僅かに北。
石島土門と佐々木小次郎の二人は見合ったまま、腰を低く落としていた。
どちらかが一歩でも踏み出せば、戦闘が始まる場面である。
張り詰めた空気を肌に感じながら、互いに機を窺っている。
「おおぉぉぉッ!」
痺れを切らしたのか、土門が気合を籠めた叫びをあげた。
対面している小次郎は、他者を殺してでも強くなろうとしている。
自分のために、誰かの人生を奪おうとしているのだ。
そんなことを土門は許せない。他者を蹴落としての幸せなんか認めない。
一発ブン殴って、間違いを認めさせてやる。
その思いを胸に、土門は強く地面を蹴り、そして――
「おぉ、お?」
素っ頓狂な声をあげた。
睨み付けていたはずの小次郎が視界から消え、彼の焦りを含んだ声がなぜか後ろから聞こえる。
土門が現状を理解できずにいると、いつのまにか『止まれ』と記された真っ赤な逆三角形が眼前にあった。
その逆三角形は見る見る大きくなっており、もはや『止まれ』の『止ま』までしか土門には見えていない。
逆三角形逆三角形というか、標識だった。
「うおお!?」
回避しようにも、空中で移動などできるものか。
咄嗟に顔を庇おうと顔を手で覆うのが精一杯で、そのまま土門は標識に激突する。
すると、標識はいとも容易く折れてしまった。
まるで木の枝のように、ぽきんと。
「ぬぅぅ……! なんと、不可解な身体捌き!
踏み込んだ次の瞬間には、あやつはすでに遥か彼方!
いつ仕掛けられようとも迎え撃つ心構えであった拙者が、反応すらできぬとはっ!
……もしや! あれこそが、かねてより武術界に名を轟かす特殊技能『縮地法』!?
その歳で習得しているとは、やはりこの地に呼ばれしは恐るべき手練ばかりでござるか!」
という小次郎の的外れな推測を訂正もせずに、土門は自分の身体を眺めていた。
正確には身体ではなく、全身を包む漆黒のAM(アーマードマッスル)スーツ。
身体能力を三十倍以上に増幅させるとの説明文は読んでいたが、土門はよもやここまでとは思っていなかった。
標識にぶつかった手に痛みがまったくないことから、衝撃を吸収する能力も凄まじいのも分かる。
しかし、にしても、である。
距離を縮めるために少し力を籠めただけで、人間一人飛び越えるほどの大ジャンプになってしまうなどはっきり言って使いづらい。
跳びすぎた、どころの話ではない。
せめてこれがスイッチなりでパワーレベルを調節できればよいのだが、着用者の精神に応えるとのことなのでお手上げだ。
土門はいざ戦闘となってから、装備に対する認識を改めるハメになってしまった。
AMスーツをいつも使っている魔道具『土星の輪』のようなものだと思い込んでいたが、実際はまったく違っていたのだ。
殴るだとか蹴るだとかの攻撃の際に威力を上げる土星の輪に対し、AMスーツは身体能力すべてを向上させる。
上に着ていた衣服が弾け飛んでしまうのを惜しんで、いままでAMスーツを発動させてなかったのを悔やむしかない。
269 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 22:59:56.77 ID:Da1pVN/Z
「なにを呆けているか!」
再び真剣な表情となった小次郎が、金属製の拷問鞭を振るう。
風を切る音により思考から復帰し、土門が咄嗟に飛び退く。
地面すれすれを這うような一撃から逃れることはできたが、またしても土門はかなり高い地点にまで跳び上がってしまう。
二階建ての民家の屋根に着地して振り返ると、歯噛みした小次郎がついてくるかのように壁をよじ登っていた。
その様子を見て、土門のなかにある考えが浮かぶ。
確認するべく、小次郎が屋根の上まで登ってくるのを待ってから、土門はまた四軒ほど先の屋根に飛び乗る。
「ぐぬぬ……っ! 拙者を倒すなどと啖呵を切っておきながらどういうつもりだ、貴様ぁ!」
顔を真っ赤にしながら、小次郎は一軒ずつ屋根から屋根へと飛び移って追いかけてくる。
想定していた通りの行動に、土門は見えないようにガッツポーズを作った。
自分の力を試したいらしい小次郎は、相手が逃げたとしても追いかけてくるはず。
だというのならばひとまず花火が打ち上がった地点まで向かい、花菱烈火と合流してから小次郎を倒せばよいのだ。
その頃にはAMスーツにも多少は慣れているだろうし、強すぎる力を制御することもできていよう。
残念ながらまだまだ使いこなせていないものの、自在に操ることさえできれば最高の武器となりうる代物なのは明白だ。
「はん! こないだまでただの高校生だった俺も捕まえらんねーのか、強くなりてーとかぬかしてるクセによ!」
「な、な、な……なにを言うかぁぁーーー!!」
土門の挑発に思いっきり乗り、小次郎は駆け出す。
よっぽど頭に血が上ったのか、足元も確認せずに前のめりになりながら瓦の上を走っている。
さすがにそれには土門も面食らい、つい小次郎に目を奪われてしまう。
跳び上がらねばならないと頭で思いながらも、なぜか動くことができなかった。
そしてあともう少しで鞭が届く範囲に到達するというところで、またしても小次郎の姿が土門の視界から消えた。
「ぬおおおお!?」
草履がすっぽ抜けて体勢を崩し、小次郎は瓦もろとも屋根から落下したのだ。
瓦の割れる派手な音が鳴り、土門はぎょっとする。
もしや死んではいないだろうかと考えていると、それを否定する叫びが響いた。
「ぬうう! 土門とか言ったな、貴っっ様ぁぁーーっ! 絶対に許さぁぁぁん!」
「あ、生きてた。俺、さっき花火打ち上がったほう行くから、追っかけたいなら来いよ。よろしく」
それだけ言い残して、土門は自慢のモヒカン頭を擦る。
「あんなアホに構ってられっか」と吐き捨てようとして――言葉を失った。
目的地のほうから、太いビームのようなものが発射されたのである。
その正体を、土門は知っていた。
炎術士たる花菱烈火の体内に宿りし八体の火竜、その七匹目。
烈火の扱える炎中最強にして最速。軌道上にある物体を根こそぎに焼き尽くす――『虚空』。
それが使用されているということは、使う状況に追い込まれたということは、である。
知らぬうちに溜まっていた唾液を飲み込んだ音で、土門は自分が立ち尽くしてしまっていたことを知った。
表情を険しくして、竦みかけている足に活を入れて跳躍する。
力が入りすぎたらしく瓦を砕く感覚があったが、気に留めるゆとりはなかった。
270 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:00:12.82 ID:/KvHsbCR
271 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:00:37.62 ID:fQRXfLj9
272 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:00:51.83 ID:Da1pVN/Z
佐々木小次郎は、身体にのしかかった瓦の山を拷問鞭で振り払う。
多少痛む箇所はあるものの、そのようなことを気にしている余裕などなかった。
土門を追いかけねばならないし、何より――小次郎は天下一の剣豪とならねばならない。
たとえ相手が縮地法の使い手であろうとも、躓いている暇はないのだ。
もう、すでに四百年近くも無駄にしてしまった。
おかげで不老の肉体を手に入れることはできたが、他にはなにも得ていない。
四百年前と同じ肉体、同じ技術を保ち続け――それだけだ。
なにも変わっていない。
欠片も成長していない。
天下一を志すと口にするだけで、なにもしてこなかった。
ただただ、無駄に時間を浪費してきた。
そんな日々ももう終わりだと心に決めたはずなのに、いまのザマはなんだ。
決闘を行うことすらできなかった。
思い返しているうちに、小次郎は勝手に拳を握っていた。
爪が肉に喰い込むが、力を抜こうとしない。
むしろ、なにもしていないのに痛みを感じている己が気に喰わなかった。
「強くなりたい、でござるなぁ……」
つい思いが声となって零れてしまい、小次郎は真紅の瞳を見開いて首を勢いよく振るう。
このような思いを聞かれてしまえば、情けないどころの話ではない。
先ほどまで人を探していたというのに、今度は誰もいないことを心から望む。
そんな小次郎の願いを打ち砕くかのように、人影が目に入った。
一気に真っ青になるが、どうにも人影の様子がおかしい。
地面に倒れ込んだまま、微動だにしないのだ。
警戒しながら歩み寄ると、小次郎は言葉を失った。
倒れ込んでいたのは少女であり、もう命を落としてしまっていたのだ。
見たところ、小次郎が居候している峰家の一人娘である峰さやかとそう変わらない年に思える。
おそらく、十代前半から半ばであろう。
そんなまだ子どもと言っていい少女が、殺されてしまっている。
その事実に、小次郎はようやく殺し合いに巻き込まれているのだと実感できた気がした。
彼がこれまで見てきた参加者は強者ばかりであったが、少女だってこの地には呼ばれている。
名簿に峰さやかの名を見つけた時点で分かっていたつもりだったのに、力なき少女が殺されることなぞあるまいと思っていた。
四百年前の時点で、弱者を好んで殺す輩がいることなど知っていたのに。
どこか、強者を決める大会に臨む心持ちであったのかもしれない。
横たわる少女には、胸に刺し傷が一つ。急所から外れてこそいるものの、これが致命傷であろう。
また、右ふくらはぎにも斬りつけた傷。器用に腱を断っている。
つまり下手人は――こんな少女が相手だというのに、足を奪ってからあえて急所を外して殺したことになる。
これほど巧みに腱を斬る技術がありながら、少女から命だけでなく安らかな最期までも奪ったのだ。
わざわざ意図して、余計に苦しみを長引かせるような真似をしたのである。
「外道め……ッ」
無意識のうちに吐き捨てて、拷問鞭を握る力が強くなる。
少女を苦しめて殺すなど、自分のなかにある正義感が許せない。
しかし湧き上がる激情に気付くと、小次郎は激しく首を振った。
正義感に身を任せられるほど、強くはない。思い知ったばかりではないか。
そのようなことは、鉄刃のような男に任せるしかないのだ。
なぜなら、佐々木小次郎は弱いのだから。
少女の死体から目を背け、小次郎は土門の言葉を思い返す。
「あやつ、花火のほうへ向かうと言っていたな!
おのれ、この佐々木小次郎から逃げられるものかっ!」
普段通りの口調を作ると、逃げ出すように駆け出した。
273 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:01:18.65 ID:4qjvneRd
支援
274 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:01:22.06 ID:Da1pVN/Z
◇ ◇ ◇
花菱烈火の右前腕から伸びた炎の刃が、憲兵番長へと振るわれる。
たじろぎもせず、携えている雷神剣を横腹で受け止める。
刃同士が激突すると、金属同士をぶつけあったような音が商店街の大通りに響いた。
予期していなかった音と手応えに、憲兵番長は目を見張った。
炎にしか見えないし、実際接近されるとかなり熱いのだが、どうやら触れることができるらしい。
本来形のないはずの炎が固体化し、鋼鉄じみた硬度を誇っている。
非常に不可思議な現象である。
「なかなかおもしろい技を使うね。いったい、どういう仕組みなんだい?」
「はッ! なーに余裕ぶってんだ、バァァァカ!」
「明かす気がないとなると、余計に知りたくなった。
小生の號は憲兵番長。興味を引いた相手にしか教えないのだから、心に留めておいてくれたまえ」
「教えてもらったとこ悪ィけど、ソッコー倒してソッコー忘れてやるよ!」
悪態を吐くように告げると、烈火は真っ赤な舌を伸ばす。
数回打ち合って炎刃の硬度を確かめてから、憲兵番長は背後に跳んだ。
「させっかよ!」
烈火が追うように飛び出したのを確認してから、再び憲兵番町は前進する。
掲げたままの炎刃が下ろされるより早く、空いている左腕を狩らんと雷神剣を振るう。
「一芸だけでは、小生には勝てぬよ」
炎から成る刃こそ興味深かったが、憲兵番長にしてみれば『それだけ』であった。
特殊な能力や技術を持つものなど、番長計画においてとうに数え切れぬほど見てきた。
そんな番長相手に、剣技一つで戦ってきたのである。
いまさら、炎の刃程度に狼狽するものか。
と、そう考えていた憲兵番長の剣が止まった。
出現した炎の壁に阻まれて、前へと進まなくなったのだ。
見れば、烈火の前腕に生えた炎の刃は消失している。
そのまま拳を叩き込もうとしてくるので、憲兵番町は今度こそ本当にバックステップで距離を取った。
「一芸じゃねえ。八芸だ」
「八、ねえ。あと六つ見られるのが楽しみだよ」
自らの能力を隠さず口にした烈火に、憲兵番町は笑みを返す。
挑発でもなんでもなく、まだ六つも能力を隠しているという事実が心から喜ばしい。
強者との戦いは胸が高鳴るし、何よりもそんな強者を切り刻むのがたまらないのだ。
己が負けるなど考えてもいない者を打ち負かすからこそ、剣術を学んだ甲斐があろう。
敗北を受け入れられぬ相手に痛みで思い知らせてやるのが、どうしようもなく愉しい。
されど憲兵番長が現在の得物に視線を這わすと、彼の昂揚感が鎮まっていく。
愛用の金糸雀と異なり、雷神剣には撫で切るための刃しかない。
極上の相手を前にしても、肉を斬る音色しか奏でられないのだ。
そのことが、ただただ残念でならない。
「来ねえんなら、こっちから行くぜ!」
突っ込んでくる烈火の右前腕には、炎の刃。
一歩も動かずに雷神剣で受けた憲兵番町は、眉間にしわを寄せている。
「それはもう見飽きた。
はっきり言わせてもらうけれど、剣技では小生には適わぬよ」
275 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:01:22.61 ID:/KvHsbCR
276 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:01:47.00 ID:/KvHsbCR
277 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:02:10.09 ID:NyzwkXAv
278 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:02:18.11 ID:fQRXfLj9
279 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:02:32.16 ID:Da1pVN/Z
烈火は言葉に耳を貸さず、刃を返す。
剣の道一筋で生きてきた憲兵番町にしてみれば、見え見えの軌道だ。
微動だにせず受けようとして、眉をひそめた。
雷神剣に触れる寸前で、炎の刃が烈火の腕から離れたのだ。
飛ばされた刃からは紐のように細い炎が伸び、烈火の腕に繋がっている。
さながら、鎖鎌のような形だ。
「同時竜――『焔群』、『砕羽』」
憲兵番町は、即座に雷神剣を引く。
伸びてきた刃を防ごうとするが、予想以上に紐状の炎が伸びる。
そのしなやかな動きに、憲兵番町は見方を変える。
刃より繋がった炎の動作は、紐というよりも鞭のものであった。
見直したときにはもう遅く、雷神剣に鞭が纏わりついてしまう。
雷神剣を折り返して接近してくる刃を前に、憲兵番町は歯を噛み締める。
「ふッ!」
呼気とともに、雷神剣を一閃。
剣身に絡み付いていた鞭状の炎を切断し、高く跳躍して炎の鎖鎌が及ぶ範囲から遠ざかる。
空中にいながら憲兵番町が眺めていると、烈火は右人差し指を動かす。
まるで、なにか文字でも書いているかのようだな。
憲兵番町は暢気にそのようなことを考えていたのだが、次の瞬間には息を呑んでいた。
「れ、烈火! なんじゃ、『それ』は!?」
離れた場所にいる烈火の同行者である宮本武蔵が、目を白黒させている。
彼が見張っていた人形遣いの男は定かではないが、おそらく仮面の下で似た表情を浮かべているだろう。
当然である。
いきなり、前触れもなく、出現したのだから。
炎の肉体を持つ――巨大な『竜』が。
一つしかない眼球で、竜は憲兵番町を睨みつける。
大きな口を開くと、無数に生えた鋭い牙が露になった。
唸るような声とともに、口のすぐ前に人間の頭ほどの大きさの炎弾が生み出される。
「竜之炎漆式『虚空』」
竜の雄叫びを切っ掛けに、炎弾がレーザー砲となって放たれる。
憲兵番町は、未だ上空にいる。身動きなど取れない。
仮に受けてしまえば、身体は欠片すら残らないだろう。
攻撃の威力を推測しながら、憲兵番町は冷静にレーザーの軌道を見極めていた。
竜の射出した一撃は、憲兵番町を狙っていない。
軌道上にあるのは、雷神剣だ。
身体に当てれば終いだというのに、武器を破壊しようとしている。
とんだ甘ちゃんだ、と憲兵番町は胸中で舌を打つ。実際に舌打ちなぞしている暇はない。
元より決して気に入っていなかった雷神剣を手放し、素手で戦闘を続けるか。
280 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:03:41.68 ID:Da1pVN/Z
――ふっ、と。
思考を巡らせていた憲兵番町の視界が、唐突に一変する。
まばゆい光に照らされていたというのに、一気に暗くなったのだ。
もう数度目となる現象に、今度こそ本当に舌を打った。
とはいえ、『現実』では舌を打てていないのだが。
すなわち、憲兵番町がいるのは現実ではない。
ほの暗い空間に、いくつもの太鼓を背負った鬼が現れる。
怒り狂っているかのように表情は歪み、この世すべてを憎むかのように髪は逆立っている。
『我は、雷神なり……』
雷神剣に封じ込まれた雷神の意思が、憲兵番町の意識へと流れ込んで来ているのだ。
使い手の肉体を憑代として、現世に蘇るべく。
『その身体、我に受け渡すがよい……』
これまで雷神の言葉の半ばで切り捨てていたが、憲兵番町は続きを聞いてみることにした。
どうせ、雷神剣はすぐ破壊されてしまう。話を聞くことに意味などない。
ただここに来て、持ち前の好奇心が刺激されたというだけだ。
「で、身体を手に入れたところで、君はなにがしたいのかね」
よもや話しかけられると思っていなかったのか、雷神はしばし間を開けてから言い放つ。
『笑止! 鬼となりて、人を斬るのみ!』
その言葉を受けて、憲兵番町は口角を吊り上げた。
闇色の瞳で、雷神を見据える。
「人を斬るのが鬼ならば、これまで人を斬り続けてきた小生は――はたして何なのかね」
尋ねておきながら、答えを待たない。
「剣身を通じて伝わってくる、刃が人体を進んでいく感覚に歓喜する。
零れ落ちた臓物の刺激臭が充満していくのに、愉悦の笑みを浮かべる。
さしたる意味もなく命を奪われ呆然とした目に、恐怖に歪んだ目に、最期まで意思を失わぬ目に、震え上がるほどの快感を覚える」
歪んだ口元から見て取れる歯は、やけに白く光沢がある。
まるで揃えたかのように、身に着けている制服や学帽と同じ色だ。
ただ双眸だけが、不自然なまでに黒い。黒いというより、もはや暗い。
さながら、夜の闇をそのまま眼孔に押し込んだかのように――光がない。
「肌を破る音色を、毛髪を刻む音色を、眼球を突く音色を、肉を抉る音色を、血管を斬る音色を、骨を断つ音色を、そして命を貫く音色を――何より愛する」
一息ついて問いかける。
「そんな小生は、すでに鬼なのかね?」
返答はない。
くっくと一人笑ってから、憲兵番長は再び口を開く。
281 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:04:24.10 ID:fQRXfLj9
282 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:04:57.00 ID:Da1pVN/Z
返答はない。
くっくと一人笑ってから、憲兵番長は再び口を開く。
「人斬りならば、君に言われずとも勝手にやるさ。
身体を受け渡す気などさらさらないが、人を斬る感覚や音色ならばいくらでも味わわせてみせよう。
だから雷神、堪能したいのであれば、もし君が小生と同じ趣向の持ち主だというのならば……小生に力を貸せ」
神に対してあまりにも不遜な態度で言い放つ。
「雷など必要ないと思っていたのだが、ちょうどいまおもしろいのを見たところでね。
本来形のないエネルギーを固体化させて、刃に変化させるんだ。
いいじゃないか、それならば聞こえるじゃないか、満喫できるじゃないか――人を斬る音色を」
――言い終えた途端、憲兵番長を包む世界がまた変化する。
竜が放った極光が、憲兵番町の視界を覆っている。
雷神の下から帰還してきたらしい。
「雷神剣」
呼びかけると、呼応したように雷神剣の鍔に埋め込まれた宝玉が輝いた。
いつの間にやら『雷』という漢字が浮かび上がっている。
気にかかるが、まじまじと見ている余裕はない。
もはや竜の一撃が雷神剣を喰い千切るまで寸刻。
剣を手放せば自身に影響が及ばないのは明らかであるが、憲兵番町はむしろ握る力を強くした。
「かあッ!」
憲兵番長が巨大な炎のレーザーへと繰り出すのは、彼が学んだ桐雨流無鞘術の奥義――ではない。
炎は凄まじい速度で迫ってきているのだ。
桐雨流無鞘術奥義に共通する連撃では、下ろした剣を一度でも引こうものなら竜に喰い破られる。
刃を返している時間だけで、一呑みにされてしまうのだ。
ゆえに、ただ正面から刀身をぶつけるのみ。
憲兵番町は空中で身体を捻り、無理矢理に得物を加速させる。
同時に、雷神剣を青白い火花が覆う。
刃全体を電撃が覆い、剣身が数倍に伸びる。
竜の一撃に打ち据えるのは、旋回による速度上昇の恩恵をもっとも受けている切っ先だ。
しかし接触するやいなや、雷神剣を覆っていた雷光は掻き消されてしまう。
未だ直撃していないというのに熱量が凄まじく、額から出た汗は頬を伝うこともなく蒸発していく。
憲兵番町は絞り出すような声を上げながら、電撃を発現させる。
新たに生み出した刃までも呑み込まれるが、さらに電撃を作って刀身を形成していく。
「がァァァ――――ッ」
雷神剣を下ろす力を緩めず、喰われた端から刃を再構成。
繰り返しの末に、ついに竜の一撃の軌道が少し逸れた。
横切っていく炎により、憲兵番長の纏う白い制服が一部焼け焦げてしまう。
けれど、あくまでそれだけだ。
憲兵番長を飲み込むことも、雷神剣を破壊することも、竜の一撃はできなかった。
ただ、制服を焦がしただけである。
唖然とする烈火の前で、憲兵番長はゆっくりと着地する。
雷神剣を柄より剣先まで眺めていき、口元を緩めた。
283 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:05:17.74 ID:fQRXfLj9
284 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:06:06.57 ID:fQRXfLj9
285 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:06:10.00 ID:Da1pVN/Z
「くだらんと言ったが訂正するよ、雷神。
いや申し訳ないことを言ったと思う。本当にね。
刃を創り出せるのならば、奏でられる音色は一つにとどまらない」
美しい――撫で斬る刃に。
無骨な――叩き割る刃に。
尖った――抉り裂く刃に。
鋭利な――刺し貫く刃に。
火花を散らしながら、雷神剣を覆う雷刃の形状が変化していく。
◇ ◇ ◇
雷神の力により雷刃を生み出すことに成功した憲兵番長が、一跳びで烈火との距離を詰めた。
烈火は神速の斬撃をどうにか凌いでいるが、いずれ押されてしまうだろう。
理解していながらも、宮本武蔵には見ているしかできなかった。
錫杖を握る手が汗でじんわりと湿気を帯びているが、それでも動けない。
つい目を奪われてしまっていた戦闘から、武蔵は少し離れた場所にいる男へと視線を戻す。
未だ一言も発さない、ひょっとこ仮面にタキシードを纏った長身の男。
彼が白か黒か定かではないうちは、烈火に助太刀することもできない。
仮に黒であった場合、大きな隙を見せてしまうことになるのだから。
はっきり言って見た目は怪しいが、外見だけで殺人の意思ありなどと決めつけられるはずもない。
とはいえこちらの呼びかけにも答えないのでは、結論を出すこともできない。
どうしたものかと思考を巡らせていると、予想だにしないことが起こった。
「君は……サムライ、かな」
目を丸くしたまま、十数秒。
それだけ費やして、武蔵はようやく仮面男に話しかけられたのだと理解する。
仮面の上から見える銀髪から考えるに、正体は外国人らしいとは考えていた。
これまで話しかけてこなかったのは、和服姿の自分が珍しかったからだけなのか。
そう考えかけて、武蔵はそれは相手を信じすぎだと訂正する。
憲兵番長に呼ばれるまで、仮面男は身を隠していたのである。
戦闘中の三人を一気に殺害する心持ちであった可能性も、決して否定できないのだ。
警戒を緩めずに、錫杖を構えたまま返答する。
「そうじゃが。だから、どうかしたかの」
「いや。だとすれば、その武器は使いづらいんじゃないかと思ってね」
仮面男はリュックサックに手を突っ込み、日本刀を取り出す。
凶器を手にしたことにより、武蔵は少し後ずさりして距離を取った。
「サムライならば、こちらのほうがいいんじゃないか?」
仮面男はそう言うと、日本刀を放り投げようとした。
すぐに武蔵が警戒していることに気付いたのか、傍らのカボチャ人形へと持たせる。
カボチャ人形は武蔵の周囲をぐるぐる回りながら少しずつ近付き、剣を地面に置いた。
「僕には必要ないからね。渡すよ」
「なんじゃと?」
思わず聞き返した武蔵に、男は仮面を外しながら答える。
露になった顔はやはり西洋人のものであったが、予想以上に整っていた。
特に、毛髪と同じ銀色をした切れ長の目が印象的である。
286 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:06:53.02 ID:/KvHsbCR
287 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:07:20.19 ID:Da1pVN/Z
「三人で、あの白服を倒さなくちゃいけないからね。
隠れていたばかりに誤解させてしまったかもしれないが、僕だって殺し合えなんて命令に従うほど愚かじゃない」
男は笑みを浮かべたのち、すぐに真剣な表情を浮かべて両掌をかざす。
その動きに連動して、カボチャ人形が鎌を構えて前へ出た。
「そ、そうじゃったか。すまんかったの」
しばし呆然としてから我に返っても、武蔵は言い淀んでしまう。
男を疑っていた自分を恥じているのだ。
一人しか勝ち残れぬ殺し合いの場で、貴重な武器を初対面の人間に渡すような男である。
それほどまでにできた人間の本質さえ見抜けなかったのかと、己を責め立てる。
そんな武蔵の謝罪を、男は制する。
「状況が状況だ。気にしなくていい」
仮面を被り直しているので表情は窺えないが、口調から本当に恨んでいないことが伝わった。
まだ武蔵より三百八十は若いだろうに、見上げた青年である。
「ワシの名は宮本武蔵。そちらは」
「…………ギイ・クリストフ・レッシュだ」
答えるまでやや時間が空いたのが気にかかったが、武蔵は自分の名前のせいであると納得した。
宮本武蔵の名は、世界のいたるところに知れ渡っている。
あの伝説の剣豪と同じ名前ならば、驚くこともあろう。
もっとも、その宮本武蔵が四百年ほど生きた姿がこれなのだが。
「そんなに見てえんなら見せてやらあッ! 思う存分堪能しやがれ、固羅ッ!」
叫び声のほうを振り返れば、烈火が無数の炎弾を放っていた。
武蔵は日本刀を片手に地面を蹴ると、後方のギイを振り返ることなく告げる。
「いま加勢するぞ、烈火! ギイは人形で援護してくれぇ!」
ギイから渡された刀がただの業物でないことは、武蔵には見当がついていた。
鞘に納められているにもかかわらず、内包する禍々しい妖気が外界へと溢れ出しているのだ。
武蔵の好敵手である佐々木小次郎の愛刀『物干し竿』と同じく、この刀は妖刀の類である。
使用者にまで影響を及ぼすかもしれないが、武蔵はその可能性を考慮した上で刀を握り締めた。
◇ ◇ ◇
「――くッ!」
決め手となるはずの『虚空』を防がれたことに意表を突かれながらも、烈火は人差し指で空中に『焔』の一字を記す。
その動作を切っ掛けとして、火竜の三匹目『焔群』が発現する。
鞭状の細い炎が出現し、右腕を回転しながら覆う。
焔群で覆われた拳を叩き付け、身体を縦に真っ二つに割らんとする勢いの雷神剣をどうにか受ける。
剣と拳が拮抗するのは、ほんの少しの間だけだ。
焔群の回転によって、雷神剣はすぐに弾かれる。
得物が弾かれてガラ空きになったボディを狙うも、剣身より奇妙な形状に伸びた電撃の刃に防がれる。
「君の刃からヒントを得た独創作(オリジナル)だよ」
「はん! その手の剣なら、うちのセンパイ剣士のがよっぽど涼しげで華やかだぜ!」
「ほう。ならば、その剣士の名前を訊かせてもらおうか」
「聞いたとこで意味なんざねーよ。テメェはここでやられるんだからな!」
288 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:07:21.40 ID:NyzwkXAv
289 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:08:10.60 ID:Da1pVN/Z
憲兵番長の斬撃を焔群で受け流し続けながら、烈火は憎まれ口を叩く。
その口調とは裏腹に、胸中では歯を軋ませていた。
彼は学校の成績こそ悪いものの、こと戦闘に関しては頭の回るタイプだ。
強敵に相対しても機転を利かせ、八竜のうち現在扱える七匹を応用して勝ち続けてきた。
だからこそ、分かるのだ。
かなり分が悪い、と。
炎術士が炎を出せる量には、限界が存在する。
炎を出せば出すほど体力は消耗するし、消耗しすぎれば炎を生み出せなくなってしまう。
ゆえに彼は、小さな炎を固体化させて刃とする『砕羽』を愛用しているのである。
もっとも炎の消費量が大きいのは、巨大な炎のレーザー砲『虚空』と『火竜同時召喚』。
その両方を使用してしまっており、すでに烈火は若干気だるくなってきている。
虚空で雷神剣を破壊して勝負を決める目論見であったのだが、まさか瀬戸際で新たな攻撃法を見出すとは。
まったく予想しておらず、驚くしかない。死んでも口に出してやるつもりはないが。
現状を打開する方法が浮かんでいないワケではない。
ではないのだが、とにもかくにも憲兵番長から距離を取るのが先である。
肉薄されているのは、かなり危険である。
遠距離攻撃用の火竜が使えないし、接近戦は剣士である相手の土俵だ。
焔群で弾くのにも限界がある。
そこまで考えたのと同時であった。
「そろそろ、次の芸を見せてくれないか」
そんな憲兵番長の言葉とともに、烈火の右腕に鋭い痛みが走った。
焔群で覆われているはずの右腕がなぜ――との思いが、顔に出ていたのだろう。
脳内で抱いた疑問に答えるように、憲兵番長が口を開く。
「回転する炎の隙間を縫うように、刃を伸ばしたのだよ」
言葉の途中で表情が歪み、言い終えた頃には憲兵番長の顔面には笑顔が張り付いていた。
「ふ、ふ、ふ……ふはッ、ハハハッ!
やはり雷の刃ならば、問題なく聞こえるよ。人を斬る音色が、ね」
烈火は、その表情を知っていた。
死に行く人間の悲鳴に快楽を覚える。
自らの快楽のためだけに、平気な顔で他者を切り捨てる。
かつて戦ってきた敵のなかで、烈火がもっとも嫌いだった男。
彼とよく似た、冷たい笑顔だった。
「やっぱ、テメェみてーのは気に入らねーよ」
憲兵番長は構えも取らず、雷神剣を片手にただ立っている。
こちらがどう出るかを待っているらしい。
憲兵番長の望みに応えることになるのが少し不満だったが、烈火はあえて乗った。
炎を出せる限界なんぞ、もはや知ったことではない。
大きく背後に跳んで距離を取りながら、空中に『崩』と記して周囲に無数の炎弾を出現させる。
「そんなに見てえんなら見せてやらあッ! 思う存分堪能しやがれ、固羅ッ!」
烈火が、手刀で宙を薙ぎ払う。
呼応するように、すべての炎弾が憲兵番長目がけて放たれる。
290 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:08:11.86 ID:PzN1iuur
291 :
ばかやろう節 1
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:08:35.56 ID:Da1pVN/Z
炎弾と炎弾の隙間から、憲兵番長が雷神剣を掲げているのが見えた。
無数の羽虫がいっせいに羽ばたいたような、耳障りな音がした。
オレンジ色の炎の向こうから、まばゆい光が放たれる。
炎弾に包まれていて、もはや烈火からは憲兵番長の姿は確認できない。そのはずだった。
なのに、炎弾の弾幕が一ヶ所『削れて』見えるようになった。
憲兵番長が剣を振るった軌道上の炎弾が、すべて雷光によって掻き消されたのである。
続いて、刀を返しての逆袈裟。次は、薙ぎ払うように横一閃。そして、断ち割るかのように下ろす。
炎弾は見る見る消滅していき、憲兵番長に届いたものは一つたりともなかった。
「……む?」
にもかかわらず、憲兵番長は怪訝そうな声を上げた。
弾幕が晴れて明瞭になった視界に、烈火の姿がないのだ。
気配を捉えたと同時に、憲兵番長は雷神剣をそちらに向ける。
「うッ、らあ!」
虚空の軌道をずらす力があれば崩は掻き消せると、烈火は予測していた。
その上で、使ったのである。
攻撃としてではなく、目隠しとして。
焔群を纏った拳は、すんでのところで雷神剣に防がれる。
それもまた予想通り。
焔群の鞭状の炎を雷神剣に纏わりつけて固定化させ、憲兵番長の脇腹を左拳で殴り付ける。
衝撃で反射的に剣を握る力が弱まる瞬間を狙い、鞭状の炎を引き寄せる。
数々の魔道具使いと戦ってきた烈火は、よく知っているのだ。
恐ろしい武器を持つ相手を無力化するには、どうすればようのかを。
簡単な話だ。
武器が怖いのならば、奪ってしまえばいいだけである。
「よっしゃ――ッ!?」
勝利を確信した烈火の鳩尾に、憲兵番長の抉り込むような蹴りが入る。
束の間だが呼吸が止まり、悲鳴を上げることすらできない。
事態を呑み込めていないうちに、さらに放たれた追撃により数メートルほど吹き飛ばされる。
憲兵番長の強さは、道具だけによるものではなかったのだ。
身をもってその事実を叩き込まれることになっても、烈火は雷神剣を手放さない。
しかし、立ち上がることができない。
ゆっくりと歩み寄ってくる憲兵番長から離れることができない。
必死で自分に動けと命じていると、烈火の身体が浮かび上がった。
仮面の男を乗せた巨大なカボチャ人形が現れ、烈火を抱きかかえたのだ。
鎌を右手に任せて、左手一つで軽々と持ち上げている。
「人形遣いの君も、そちら側だったということか」
剣を奪われたゆえであろうか、いままで薄ら笑いを浮かべていた憲兵番長が初めて苛立ったような口調になった。
冷静さを失っている憲兵番長は、気付いていないのだろう。
カボチャ人形に抱えられた烈火からは、その背後で日本刀を掲げている老人の姿がよく見えた。
「……ちぇ。
若者から美味しいとこ取ってくのかよ、武蔵」
憲兵番長が振り向いたころには、宮本武蔵はもう妖刀に手をかけていた。
292 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:09:39.47 ID:fQRXfLj9
293 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:10:31.67 ID:Da1pVN/Z
◇ ◇ ◇
ギイ・クリストフ・レッシュの脳内にふと蘇ったのは、栗色の髪をした少女の姿であった。
不可解な事態に巻き込まれてなお明るく振舞い、屈託のない笑顔を浮かべていた――井上真由子。
当初、ギイは死した自分が生きている現実に戸惑い、まだ殺し合いに対してどう動くかを決めかねていたのだ。
混乱しながらも、とりあえず武器を確認しようと思い立った。
知らぬうちに背負っていたリュックサックを引っくり返すと、すぐに彼女は現れた。
「だめぇぇーーーーっ!」
と、叫びながら。
自分より動転している相手を見ると、妙に冷静になるものだ。
彼女をどうにか落ち着かせて話を聞いてみると、なんでも支給された刀が妖気を放っているので危険だという。
ギイは内心で疑いながらも口には出さず、同封されていた説明書を確認してみれば、その刀は『八房』という名の妖刀だと記されていた。
その説明書を見せると、真由子は安堵したように大きく息を吐いた。
「ふぅーー……危ないところだったぁぁ〜〜〜。
もし剣を抜いてたらどうなっていたか……なにがあっても、絶対に抜かないでくださいね」
そもそも懸糸傀儡『ジャック・オー・ランタン(略してジャコ)』が入っていた時点で、ギイには刀を使うつもりなどなかった。
だというのに、真由子は他者を案じて走ってきたのだ。
こちらがどういう人間なのかも知らなかったというのに。
相手が相手ならば、そのまま殺されてしまっていたところである。
いかに危険な行動であったかをギイが教えると、なぜか彼女は笑った。
「でもお兄さんは、私を殺さなかったじゃないですか」
最初はなにを言っているのか分からず、聞き返しそうになったほどだ。
数分かけて意味を理解するとどうしようもなくおかしくなり、ギイは自らの名を明かした。
告げられた名前を数回復唱してから「難しい名前ですね」とはにかむと、真由子はハッとしたようにリュックサックを開いた。
「私には使えないんですけど、もしかしてギイさんは使えませんか?
あの、私のせいで刀を使えなくなっちゃいましたし……せめて武器をなにか……」
言いながら取り出した蔵王から出てきたのは、視力のいいギイでさえ目を凝らさねば見えぬほど極細のワイヤー。
説明書によれば、『殺鳥(あやとり)』という暗殺術に用いられる逸品だという。
ワイヤーは特殊金属製で、触れた物質をたやすく切断するとのことだ。
専用の手袋があれば糸に触れることができ、それこそあやとりのように糸を操れるらしい。
とはいえ真由子に支給されたのはワイヤーが五本だけであり、安易に触れれば指を欠損しかねない。
ギイは長年マリオネットを操ってきたので、糸捌きには自信がある。
手袋さえあれば多少使えるかもしれない――が、なければさすがに不可能だ。
正直に言いかけて、ギイはやめた。
どうやら真由子は、刀を抜くのを制したことに負い目を感じているらしかった。
話を聞く限りむしろギイは助けられたのだが、そのように説明すれば余計に恐縮してしまうかもしれない。
「使えなくもなさそうだ。ありがたく受け取っておくよ、マユコ」
そんなやり取りをしてから二人で名簿を確認して、ギイは見つけてしまった。
何を捨ててでも守らねばならない、他の誰よりも優先すべき、才賀エレオノールの名前を。
以降、真由子と会話を交わしながらも上の空で、ひたすら思考を巡らせ――決断した。
エレオノールだけを生還させよう、と。
294 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:11:04.49 ID:fQRXfLj9
295 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:11:14.02 ID:/KvHsbCR
296 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:11:48.81 ID:Da1pVN/Z
そして、ギイは真由子を裏切ったのだ。
彼女の命を奪った上に、他者から信用を得るためだけに妖刀を抜かせ、さらに。
またしても、だ。
真由子がワイヤーを渡したとき、このような使い方をされるとは思っていなかっただろう。
未だ残る人の心が、ギイ自身を制そうとする。
黒衣(くろご)となる決意をしたというのに。
良心を振り払うように。
くいっ、と。
指を動かし――
――ギイ・クリストフ・レッシュは糸を引いた。
人形遣いが糸を引けば、果たしてなにが起こるのか。
――――人形が踊り、劇が動くのだ。
◇ ◇ ◇
宮本武蔵は、妖刀の鍔を親指で押した。
鞘から染み出していた妖気は、ほんの少し刀身を露にしただけで外界に噴き出す。
底冷えする気配を肌で感じ取り躊躇しかけるも、武蔵は腹を決める。
宮本武蔵は、伝説の剣豪である。
いくら年老いたといえど、剣一本に怯えてなにが剣豪か。
いざというときに退いてしまうのが伝説であるのならば、そのような伝説は燃やしてしまえ。
相対している憲兵番町は、魔剣を思いのままにしているのだ。
若造が魔を従えて見せたのならば、老いぼれは妖(あやかし)を抑え込んで見せてくれる。
己を奮い立たせ、宮本武蔵は妖刀を抜いた。
柄を強く握り、勢いよく一閃した――つもりであった。
思い切り振るったと同時に、妖刀ごと右腕はあらぬ方向へと飛んで行った。
妖刀を渡される際、ギイの操るジャコが武蔵の周囲を回転していた。
そのときに、ジャコは武蔵の身体に極細のワイヤーを巻き付けていたのだ。
察知できぬほどに緩く纏わりついていたのだが、その状態で居合いを放ってしまった。
自ら、チタン合金をも両断するワイヤーに向かって力をかけたのである。
同じくして――ジャコの体内にある歯車が回転し、軋むような音を上げる。
左手で抱きかかえていた烈火を落下させ、右手に握った巨大鎌を高速振動させる。
烈火は、未だ事態を呑み込めていない。
しかし理解し切っていないながらも、振りかざされた鎌が次にいかなる動きをするのかは分かる。
咄嗟に炎を発現させるようと、人差し指で空中に文字を記す。
選択した火竜は『円』。
憲兵番町の斬撃をも防いだ防護壁ならば、超高速で振動する鎌とて防げるだろう。
だが二画目の半ばまでしか書き終えていないところで、烈火の右手は斬り落とされた。
手首から先が宙を舞うのを目にしながらも、烈火は左の人差し指を伸ばす。
伸ばし切ったところで、左手首を鎌が切断した。
重力に引っ張られていき背を地面にぶつけてから、遅れて激痛が烈火を襲った。
たまらず表情を歪めていると、ジャコは続いて両足首へと鎌を下ろした。
今度は、声を抑えられなかった。
297 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:12:47.46 ID:fQRXfLj9
298 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:13:17.63 ID:Da1pVN/Z
「…………殺鳥、だと?」
絶叫が二つ響くなか、憲兵番町は冷静に武蔵の腕を切断した凶器を見極めた。
得物の元まで這いずろうとしている武蔵を蹴り飛ばし、妖刀を拾い上げる。
刀にくっついていた腕を放り投げて、ギイのほうを向き直る。
うずくまる老剣士にも、のた打ち回る炎術士にも、憲兵番町はもはや興味などなかった。
彼の食指を動かすのは肉ではなく、命なのだから。
「どういうつもりだい、人形遣い……いや糸遣いと改めたほうがいいかな」
「人形遣いで構わない。糸を使ったのは初めてだ」
「そうかい。だけど、そちらは本題じゃなくてね」
妖刀の刃が、ギイへと伸ばされる。
「人の獲物を掻っ攫う君は、どういうつもりなのか。
小生はそれが聞きたくて聞きたくて、たまらないのだよ」
「提案がある」
睨みつけてくる視線の鋭さを意に介さず、ギイは切り出す。
返答次第では憲兵番長が飛びかかってくるのは明らかであったが、ギイは一世紀以上に渡り自動人形(オートマータ)と死闘を繰り広げてきた身だ。
外見こそ青年であるが、殺気を浴びせられたくらいで取り乱すほど若くはない。
憲兵番町の周囲を回るようにジャコを近付かせ、雷神剣を手渡させてから戻す。
「憲兵番町――君、僕と組まないか。
最後の一人になろうにも、八十人近くも一人で殺すのはさすがに骨が折れるのではと思い始めてね」
この言葉には、嘘が含まれている。
エレオノールが生きている現在、ギイ自身には最後の一人となるつもりはない。
もう一つ。
マリオネットが手元にある以上、八十人程度殺害するのはギイにとってたやすい。
二百体もの自動人形を一晩に破壊した実績のある人形破壊者(しろがね)であるのだから。
問題なのは、八十人の詳細である。
ギイがかねてより知っていた名前は、彼を除いて十三個。
うち十二名が、全力で戦わねばならないほどの実力者ばかりだ。
除かれた一名とて自動人形であり、決して気は抜けない。
もちろん十二名のうちエレオノールは殺さないにしても、それでも十一名。
その全員が、使い慣れないジャコでは厳しいかもしれないと思わせる相手である。
フェイスレスに至っては、愛用のマリオネット『オリンピア』をもってしても苦戦は必至だ。
しかも、エレオノールを生還させる上で高い壁となるのは十一名だけではない。
骨董屋前で出くわした氣法師、憲兵番町、花菱烈火、宮本武蔵――と見てきて、ギイは確信した。
出会った五人中四人、全員がかなりの強者である。
いま思えば、真由子の言っていた『法力』うんぬんといった話は真実だったのかもしれない。
だとすれば、五人全員がなにかしら人間の域を超えた力を持っていることになる。
ゆえに、結論を下したのだ。
ギイ・クリストフ・レッシュ一人で殺し尽くせるほど、このプログラムは甘くない。
誰かと手を組まねばならない。
できるだけ強く、人殺しに躊躇のない――そんな参加者と。
そして、憲兵番町を選択した。
最初は言葉の通じぬ狂戦士かとも思ったが、戦闘を見ているうちにすぐ認識を改めた。
思いのほか頭が回り、交渉の余地があるように思えたのだ。
下手をすれば噛み付かれかねないが、危ない橋を渡らねば到底目的を達成できないことは明白だ。
299 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:13:26.67 ID:/KvHsbCR
300 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:13:32.42 ID:NyzwkXAv
301 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:14:24.74 ID:fQRXfLj9
302 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:14:26.03 ID:Da1pVN/Z
「断ると言ったら?」
「それは困るな。どうしたらいいものか」
「まったく、よく言う」
妖刀を手放すと、憲兵番町は雷神剣を振るわずに電撃を放つ。
青白い火花が刃となって、身体に巻きつけられたワイヤーを切り刻む。
「きちんと考えた上で、保険までかけておいて。
殺鳥を相手にするのは初めてだが、一度見て考慮してなければ危ないところだったな」
「組むに値するかの試験さ」
「やれやれ、人形遣いも糸遣いも相応しくはなかったね。
君はとんだ『道化』だよ。すでに道化の名を冠する者がいるのが残念だ」
絡み付いていたワイヤーを切断したのを確認して、憲兵番町は雷神剣をかざす。
激しい炸裂音とともに、雷光が刃を覆って雷刃を構成していく。
「ところで、なぜ彼の手と足をまず落としたんだい。
小生のように音色を楽しむのならばともかく、殺すつもりなら首や心臓を狙えば終いだったろうに」
「……指が攻撃の起点となっているのは明らかだった。
急所を突いて終わってくれればいいが、死に切らずに竜など呼ばれては困るからね」
当時は話半分であったものの真由子から妖(ばけもの)の話を聞いていたし、ギイ自身もしろがねだ。
死ぬまでに時間のかかる存在を知っているからこそ、まず攻撃手段と足を奪った。
「なるほど、死に至る負傷でも倒れない輩もいるからねえ」
「本当にね。身体が冷たくなっているというのに、気合だけで立つ人種までいる」
「そんな輩を斬るのがたまらないんだけどね」
「そうかい」
「そんな輩でも、君は殺すつもりなのだろう?」
「そうなるな」
「くくっ」
「……ふん」
会話をしている間も、雷神剣は未だ眩く輝いたままである。
本来の刀身の倍以上の長さとなっても、新たな刃を作り出すのをやめようともしない。
平静を装いながらも、ギイはいつでも指を動かせるよう憲兵番町の動きを見据えている。
いざというときは、ジャコに乗って飛び立てばよいだけだ。
ギイの足元でだくだくと血を流して横たわっている烈火と異なり、憲兵番町の攻撃では上空までは届かない。
「いやはや、本当に愉快だ。
信用させてから殺す非道さ、安全のためにより苦しむ攻撃を選ぶ残忍さ、小生相手に罠を仕掛ける大胆さ。
うむ、気に入ったよ。一緒に行動しようじゃないか」
などと言って、憲兵番町は雷神剣を下ろした。
刺すような視線も穏やかなものになり、刀身を覆っていた電撃は霧散している。
予想外の一言に驚愕するしかないギイの背中に、衝撃が走った。
ジャコもろとも吹き飛ばされながら、ギイは自分のいた地点を確認する。
瞳に映ったのは、黒いボディスーツを纏ったモヒカン男。
なぜ、あれほど接近されるまで気が付かなかったのか。
答えは明白だった。
意識が雷神剣に向けられていたからである。
雑貨屋へと突っ込んでいく寸前、どうにか首を動かしたギイが見たのは憲兵番町の笑顔であった。
「別に、提案されてすぐ言ってもよかったのだけどね。
これから組むというのに貸しがあるというのも、どうかと思ったのでね。
小生はとても優しいので、獲物を横取りした分はこれでチャラにしておくよ」
303 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:15:16.37 ID:fQRXfLj9
304 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:15:28.72 ID:Da1pVN/Z
「花菱! オイ花菱! 起きろ、オイッ!!」
朦朧としていた烈火の意識を引き戻したのは、聞き覚えのある声だった。
目を開けるのにやけに時間がかかり、やっと視界に石島土門の姿が飛び込んでくる。
いつもおどけている彼がやけに真剣な表情を浮かべているのは、なんだか滑稽だった。
よく見れば、漫画でしか見たことないような黒光りするボディスーツで全身を包んでいる。
腹を抱えて笑いたかったが、思うように身体が動かなかった
「ンだよ、そのカッコ……頭おかしいんじゃねえの」
「おかしいのはテメェだろうが! なに勝手に死にかけてんだッ、火影の大将だろうが!」
「あぁ、そうだったな……悪い」
「だから俺ァ、前々から戦場で花火なんて打つなって言ってたろうがッ!」
「はん……でもお前、来たじゃねえか」
「うるせえ!!」
声を張り上げながら、土門は烈火の身体を掴んだ。
いつもなら大したことないだろう衝撃で、烈火は吐き気を催してしまう。
「テメェ、柳はまだ誘拐されっぱなんだぞッ!
このまま死んでみやがれ、ゼッテー許さねえかんな!
オラッ! 早く傷口焼いて血ィ止めろ、このウンコタレ!!」
「厳しいこと言いやがるぜ……」
烈火は火竜を召還できないものの、どうにか形のない炎を生み出す。
火力は極めて弱かったものの、どうにか血は止まった。
もはや炎に触れても熱さを感じないのが明らかになってしまったが、烈火は口に出さない。
土門に余計な心配をさせたくないというよりも、単純に声を出すのが億劫という気持ちが強かった。
「なにボーッとしてやがるッ! 終わったんなら早く掴まれッ、いったん逃げ」
「――できると、思っているのかね?」
憲兵番町の低く冷たい声が割って入る。
「同盟を組んだ相手を殴られて、小生がみすみす逃がすとでも?」
自分を見つめるあまりにも暗い闇色の瞳に、土門は思わず絶句してしまった。
土門の装着しているAMスーツには斬撃を通さないらしいが、彼の携えた青白く光る剣までも防げるかは疑問であった。
「……いったい、どの口で言っているのか」
憲兵番町の隙を窺っているうちに、ギイまで雑貨屋より飛び出してくる。
血を吐いたのか服が汚れているが、人形を動かすのに支障はないらしい。
一人ならばAMスーツのジャンプ力で撹乱できただろうが、二人となればとてもただでは逃げられまい。戦うしかない。
しかしここまで来るうちにAMスーツにはある程度慣れたとはいえ、烈火をここまで追いやる相手に勝てるのだろうか。
土門が取るべき行動を決め切れずにいると、しわがれた声が浴びせられる。
「行けィ! お前のことは烈火から聞いておる!
ここは老いぼれに任せて、できるだけ遠くまで逃げるんじゃ!」
あまりに小さすぎて土門の目に入っていなかった老人――宮元武蔵が、両の足で地面を踏みしめていた。
和服の帯を巻きつけることで止血し、その手には憲兵番町が捨てた妖刀『八房』が握られていた。
305 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:16:05.00 ID:/KvHsbCR
306 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:16:21.75 ID:Da1pVN/Z
「驚いたよ。まさか立てるとは」
「ふん、ワシのしぶとさは筋金入りじゃ!」
本当に意外だったようで、憲兵番町は目を丸くしている。
なにか隠し玉がある素振りで、武蔵は含みのある笑みを作った。
「なにをしておるかっ、このボンクラゴリラめ! 早う行け!」
武蔵に引き止められるのは、一人だけだ。
それも、ほんの短い時間であろう。
どうにか相手の興味を引き、時間を稼げればよいが。
そう思っている武蔵の鼓膜を、土門の無念そうな声が震わせた。
「……ジイちゃん、すまねえ。こんなときに新手が来ちまった」
まさかと振り返った武蔵の目に映ったのは、和服を纏ったチョンマゲ頭――佐々木小次郎であった。
「む、武蔵……っ」
こちらを見て漏らした声からも、本人なのは明らかであった。
どうやら小次郎のほうも剣を没収されたらしく、やたら物騒な鞭を携えている。
あれでは他者を殺す気と受け取られても、しようがあるまい。
「安心せい! そやつは佐々木小次郎! しまりのないツラ通りの阿呆じゃが、殺し合えと言われて従うような男ではない!
ええい小次郎! 早くそっちの人形遣いを相手にせぬか、このバカタレがっ! 真に不愉快じゃが、肩を並べて戦ってやってもかまわぬ!」
憎まれ口を叩きながらも、顔はほころんでいる。
顔を合わせるたびにいがみ合う相手であるのに、今回ばかりは会えて安堵している自分に武蔵は気付いた。
――その安堵を覆すような言葉が、土門より発せられる。
「違ぇんだ、ジイちゃん。こいつ、いっぺん俺を襲ってきやがったんだ」
「な、なんじゃと……? バッ、バカな!? まさか小次郎、誰かに操られ」
「違うぞ、武蔵ッ!!」
遮るように、小次郎は宣言する。
「拙者はっ! 拙者自身の意思でっ!
天下一の侍を目指し、最後の一人となるまで人を斬ることを決めたのでござるっ!」
「なるほど」と頷く憲兵番町は納得したようだが、武蔵には信じることができなかった。
天下一を志すのは、剣を持つものとして当然のことだ。
武蔵とて、四百年ほど生きてなお志している。
なかには、自分以外すべて斬ってでも至ろうとするものもいるだろう。
分かってはいても、好敵手たる佐々木小次郎がそうするのは認められなかった。
だいぶ血を流してしまったはずなのに、武蔵は不思議と頭が熱くなって気がした。
「愚か者めっ! これは武術大会などではないんじゃぞ!?
名簿は確認したのか!? 『峰さやか』という名を見たか!? いまからでも目を通すがよい!!
剣の道に行きてきた武士だけならばともかく、力なき少女まで参加させられておるのだぞ!? にもかかわらず――」
武蔵は、言い切ることができなかった。
憲兵番町が振り下ろした刃が、武蔵の腹を撫で切ったのである。
崩れ落ちる最中、傷跡から臓物が零れ落ちるのを感じた。
小次郎を叱咤しようにも、うまく声が声にならない。
それでも、小次郎の声だけはたしかに届いていた。
307 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:18:12.50 ID:/KvHsbCR
308 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:18:12.39 ID:Da1pVN/Z
「そのようなこと……っ! とうに、分かっているでござる!
ここまで来る道中でも、すでに少女の亡骸を発見した。骨董屋の前で、まだ幼い少女がもう死んでおった!
ふくらはぎの腱への的確な一太刀に、臓器を狙い済ましたかのような胸への刺突! 惨たらしい遺体だったわ!」
「だっ……たら、なぜ」
「拙者が誰もかれも守れるほど強ければ、あの少女は死なずに済んだ!
力が……っ、いまの拙者にはっ! 絶望的に足りんっ! 強くならねばならぬのだっ!」
「こじ、ろう……」
顔を上げることもできず、武蔵には小次郎の表情は見えない。
そのはずなのに、彼が泣き出しそうな顔をしている姿が浮かんでいる。
もはや説得などできなかった。
年が離れているのならばともかく、武蔵と小次郎は同じ時代を生きた人間なのだ。
己の力不足を実感した男を、いったいどうして誰が責められよう。
ゆえに意識が薄れていくなか、武蔵はこう告げるのだった。
「悔い……は、残すでない、ぞ」
パチ、パチ、パチ――と。
手を叩く音が、広がりかけた静寂を破る。
「『強くなりたい』。その気持ち、とてもよく分かるよ。
うむうむ。剣士たるもの、そうでなくてはいけない。痺れたよ」
武蔵を切り伏せた憲兵番町が、白い歯を見せる。
「佐々木小次郎くん、小生たちと組まないかい? ともに剣技を極めようじゃないか」
小次郎は、思わず耳を疑った。
己が天下一に程遠いのだと気付かせてくれたのが、他ならぬ憲兵番町の戦いぶりなのである。
そんな強者からの申し出を受け入れぬ手はない。
小次郎が首肯しようとしたときであった。
憲兵番町がギイに視線を移すと、いかにもふと思い出したように首を傾げる。
「…………はて。
思い出してみれば、君が来たのも小次郎くんと同じ方向だったよねぇ。
殺す前にわざわざ両手足首を斬り落として攻撃も逃亡もできなくした、そこの道化くん。
おやおやよく見てみれば、ずっとつけているそのひょっとこ面はなかなか年季が入っているね。
到底、そこらの量販店で買えるような安物とは思えない。まるで――骨董屋に置いてある品物みたいじゃないか」
小次郎の目が見開かれる。
即座にギイのほうを振り返り、何事かを尋ねようと口を開く。
しかし考えがまとまっていないらしく、うまく言葉になっていない。
そんな小次郎の言わんとすることを理解して、ギイはたしかに言い切る。
「……そうだ。マユコを殺したのは、僕だ」
「なんとなんと。これはまた、意外な繋がりもあったものだ」
309 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:18:43.24 ID:fQRXfLj9
310 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:19:00.72 ID:Da1pVN/Z
憲兵番町は驚いたような口ぶりを作っているが、吊り上った口角は隠せていない。
仮面の下でギイが睨みつけているのに勘付いるのに、素知らぬ顔である。
「道化くんが最後の一人となるべく、小次郎くんが剣技を極めるために、小生が人を斬る音色を聞きたいがゆえ……
そういうことで三人同盟といこうじゃないか」
憲兵番町の言葉を受けても、小次郎は目を見開いたまま微動だにしない。
再び静寂が周囲を支配するなか、隙が生まれるのを待っていた土門が耐え切れず口を開こうとする。
武蔵と小次郎のやり取りは、聞こえていた。
強くなりたいとの叫びには、身につまされるような思いであった。
烈火の惨状を目の当たりにしてしまった土門もまた、まったく同じことを考えていたのだ。
もっと自分が強ければ――と。
だからこそ、気に食わなかった。
少女の死が悔しいのならば、やるべきことは一つだ。
少女を殺したヤツの手を握るくらいなら、そいつをブン殴らなくてはいけない。
そう言ってやろうとして、土門は逆に声を浴びせられた。
「行け、小僧」
「は?」
「早く行かぬかと言っている!!」
小次郎は声を荒げると、せかすように拷問鞭を振るう。
しなやかに宙を踊った鞭は、土門の足元に触れて爆ぜるような音を立てた。
今度は隠そうともせず、憲兵番町は堂々と笑っていた。
「お主との勝負は、こやつらの後にしてやるでござる!
せいぜい拙者に感謝して、その怪我人を連れていけっ!!」
「…………いいのかよ」
振り返りもせずに、小次郎は土門の心配を鼻で笑う。
「この超ハイパーウルトラデラックス美形剣士が遅れをとるものか!」
断言して飛び込んでいった背中をしばらく眺めたのち、土門は意識を失っている烈火を担ぐ。
持ち上げる際に呻き声を上げたことに安心して、思い切り地面を蹴った。
遠ざかっていく土門の気配に、小次郎は安堵の息を吐く。
本当のことを言ってしまえば、ギイと憲兵番町の二人を相手に勝つ自信などない。
自分の弱さを思い知り強くならねばならないと分かっていたはずなのに、勝負を挑んでしまったのだ。
彼らと同盟を組めば、侍として成長できるだろうとは思っていた。
憲兵番町の剣術を間近で見られるし、ギイの冷酷さを取り入れることもできたかもしれない。
一皮剥ける機会を得たはずなのに、どうして伸ばされた手を払いのけたのだろう。
なぜかと考えて、小次郎は笑った。
とうに、答えなど分かっている。
正確には、思い出したと言うべきか。
少し、自分を見誤っていたのだ。
天下一になるのが他のすべてより大きな望みである、と。
実際は違った。
別に天下一を目指していないワケではないが、それには理由があったのだ。
ただただ理由もなく、誰より強くなりたかったのではない。
佐々木小次郎は――――女子(おなご)のために、強くありたかったのだ。
311 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:19:06.41 ID:NyzwkXAv
312 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:19:35.43 ID:fQRXfLj9
313 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:20:13.15 ID:Da1pVN/Z
なにを勘違いしていたのか。
そういう人間だとよく知っていたはずなのに、不覚にも忘れてしまっていた。
天下一の侍であれば、巷の女子からチヤホヤされること間違いなし。
ただでさえ美形だというのに、さらに天下一の称号など得た日には、それはもう。
世の女子独り占めとて夢ではない。
不純な動機と揶揄されるかもしれないが、知ったことではない。
だって、そうではないか。
佐々木小次郎が天下一の侍であり、世の女子すべてが佐々木小次郎の下に集まれば――
どの女子が泣くことも傷つくことも、絶対にないのだから。
女子に涙を流させぬため。
女子に血を流させぬため。
それこそ、小次郎が天下一を目指す理由であったのだ。
目標ばかり残って、『なぜそうなりたいのか』がすっかり抜けていた。
らしくもなく悩みに悩んで、小次郎はようやく思い出した。
佐々木小次郎が強くなりたかったのは――
「貴様のような外道が、女子を虐げるからっ!
だから拙者のような男が、天下一であらねばならんのだ!!」
声を張り上げて、拷問鞭を振るう。
たやすく抉り取った地面を目くらましにし、ギイの視界を奪う。
その隙に鞭を伸ばして、ジャコの持つ巨大鎌を払い落とす。
千載一遇の好機が生まれた。
鞭を振り上げて、ギイへの距離を詰める。
まだジャコは鎌を拾っていない。
無防備なギイへと鞭が振り下ろされる――より早く、小次郎は爆炎に飲み込まれた。
なにが起こったのか理解できないが、とにかくたまらなく熱かった。
体重を支えることができず、受身も取れないまま倒れ込む。
顔に触れた地面が、小次郎にはやけに冷たく感じた。
混濁した意識のなか、聴覚だけはやけに研ぎ澄まされていた。
足音が、ゆっくりと近付いてくる。
「へえ。その人形、そんなものまで搭載してるんだ」
「…………弾丸には限りがある。極力、使いたくはなかった」
「そいつは残念だったねぇ」
なるほど、との小次郎の思いは声にならない。
不自然な音を立てて、肺の中の息が吐き出されるに終わった。
「どうして追わなかったんだい」
「君たちの戦いが気になってね、『外道』くん。
命を賭した真剣勝負から目を離すなんて、もったいなくてもったいなくて」
「…………」
「それにしても『外道』、ね。
とてもいい響きで、見合った呼び名だと思うのだが……外道もいるのだよなぁ」
結局、できたのは足止めだけらしい。
短い時間だったが、土門ならばすでに追跡できないところにいるだろう。何せ、縮地法の使い手であるのだ。
己に言い聞かせると、小次郎は身体から力を抜いた。
やけに身体が重く、ひどく眠たい。
生き返って以来、ここまでの疲労は初めてかもしれない。
足音がもう一つ接近してくるのが聞こえたが、小次郎は眠気に身を委ねることにした。
314 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:21:08.56 ID:Da1pVN/Z
◇ ◇ ◇
老人型自動人形・シルベストリは、とても落胆を隠すことができなかった。
殺し合いの舞台に打ち上げられた花火は、人間がこのような状況であろうと『群れ』ようとする証である。
だからこそ彼はとてもゆっくりと、本物の老人のような速度で歩んできたのだ。
戦闘が繰り広げられているのは分かっていた。
自動人形の聴覚は、まだ離れた地点でも戦闘音を捉えていた。
それでも、シルベストリは確信していたのだ。
到着したころには、人間たちは群れているはずだと。
だって、そうではないか。
ほんの数十年前に戦争をした国同士にもかかわらず、現在は友好関係を結んでいたりする。
殺し合った相手と、手を結んでいるのだ。
ならばこの場でもそうなるだろうと思っていた。
だというのに、実際はどうだ。
辿りついてみれば、死体が二つ転がっている。
立っている二人のうち片方は人間ではない、人形破壊者だ。仮面で覆い切れていない銀髪とマリオネットで分かる。
もう一人は人間のようだが、一人でいる人間に意味はない。
シルベストリが惹かれるのは、群れている人間だけなのだから。
人間であればため息を吐いていただろうかなどと考えて、シルベストリは携えている菊一文字を構えた。
自動人形と人形破壊者が出会えば戦闘が始まる――はずであった。
事実、シルベストリは刀を抜き、ギイはジャコを前に出している。
だというのに、どちらも硬直してしまっている。
というのは、憲兵番町が割って入ったからである。
目が離せないと言ったはずの真剣勝負に、思い切り水を差している。
「……どういうつもりだ、憲兵」
「剣技相手ならば小生だろう?」
返答とともに、雷神剣が雷刃を纏う。
どうやら自分が戦いたかっただけらしい。
ギイは肩を竦めながらも、ジャコを臨戦態勢のまま保つ。
シルベストリは、自動人形のなかでも強者として有名だ。
戦闘の機会が少なくて済むのならば嬉しいが、今回の相手ばかりは憲兵番町に任せるワケにはいかなかった。
「自動人形相手に剣はまずい。
一目で武器だと分かる得物を持っていると、ヤツらは本来のスペックで暴れまわってしまうからな」
善意からの忠告だったというのに、憲兵番町は雷神剣をかざして駆け出す。
大きく舌を打ったギイへと、振り返らずに言い放つ。
「いい情報をありがとう。同盟を組んだ甲斐があるというものだよ」
刃を交えつつ、シルベストリは怪訝な声を漏らす。
刀身を覆う青白い電撃に、菊一文字の刃が防がれているのだ。
奇妙な武器だなと思うが、と言っても外見があからさまに剣である。
自動人形の黄金律は作動せず、シルベストリは本来の力を出すことができる。
互いに背後に跳んだときを見計らって、疾風じみた速度で距離を詰める。
迫り来るシルベストリを前に、憲兵番町もまた前に出た。
ぎぃん――という鈍い音が、二つの影が交差する瞬間に響いた。
「鮮やか」
振り向いた憲兵番町の制服は、胸元が大きく真一文字に斬られていた。
内臓までは届いていないものの、じんわりと制服が赤黒く染まっている。
315 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:21:29.80 ID:fQRXfLj9
316 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:23:12.62 ID:fQRXfLj9
317 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:23:24.36 ID:Da1pVN/Z
「そちらもな」
シルベストリのほうにも、まったく同じ傷がついていた。
黒いロングコートの胸元が切られ、得物を収納するためがらんどうの内部が露になっている。
それを見た憲兵番町が眉をひそめたのち、大きく頷く。
「なるほど……自動人形とは、通り名ではなく真名か」
ひとりごちて、憲兵番町が戦闘態勢を解く。
人を斬る音色が聞けないのならば、戦う理由などないのだ。
「なかなかの腕前だね、気に入った。
僕たちは他の参加者を殺すつもりなのだけど、きみも小生らと来ないかい?」
未だ腰を低く落としたシルベストリに告げると、憲兵番町は回収していた妖刀を放り投げる。
自身の足に触れた刀に少し視線を向けただけで、シルベストリは動かない。
「それを渡そう。妖気を帯びているようだが、音色は所詮一種類。
四色の音色を持つ金糸雀や、無限の鳴き声を秘めた雷神剣とは比べ物になるまい」
返事を待たず、憲兵番町はギイの元へと歩み寄っていく。
「構わないだろう?」
「待て、僕は自動人形と組む気など」
険しい表情を浮かべたギイの反論は、しかし半ばまでしか述べられない。
憲兵番町が目を細めて、耳元で言ったのだ。
「まあ、君たちに何かしら因縁があるのは見て取れたけれど……
最後の一人になりたいのだろう? ならば方法を選んでいる余裕はあるのかい?
見ず知らずの人間に外道と侮蔑されるようなやり方で、将来があった少女を殺しておいて」
息を呑んだギイへと追い討ちをかけるように。
「――いまさら、えり好みできるのかい?」
ギイには、遠ざかっていく憲兵番長の背中を見ることしかできなかった。
服の下で身体を伝う汗が、やたらと冷たく感じる。
「一つ訊かせてくれ」
「なんだい?」
いままで黙考していたシルベストリが、菊一文字を構えたまま口を開く。
質問の許可を得てもしばらく口を開かず、一分ほど経ってついに尋ねた。
「お前たちは、なぜ群れる」
憲兵番町は、考える素振りすらしない。
「互いの目的が一致したからさ。
彼は最後の一人になりたくて、小生は人を斬りたい。簡単な話だろう?」
その答えは、シルベストリの求めているものではなかった。
生きるために必要な人間関係ではなく、生きるのに不必要なのに築かれている人間関係こそシルベストリの興味を引いているのだ。
期待はずれの解答に失望していると、憲兵番町が近寄ってくる。
「と彼は答えるだろうが、小生の場合は違う」
318 :
ばかやろう節 2
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:23:57.90 ID:Da1pVN/Z
シルベストリにしか聞こえないほど小声で、耳打ちするように。
「そんなもの、彼といるとおもしろそうだからに決まっている」
またしても黙考したのち、シルベストリは菊一文字を鞘に収めて体内に収納した。
妖刀を拾い上げると、数回上下に振って重さを確認して携える。
「私も造物主様を生き残らせるため、参加者を殺すつもりだ。同行しよう」
一人で殺していく手間を三人で分担できるのだ。理に適っている。
というのが、自動人形と人形破壊者の思考である。
なんの魅力もない、興味も沸かない、合理的な考え方。
しかし『おもしろいそうだから』という憲兵番町の言葉が、シルベストリのなかに引っかかっていた。
思えば、人を斬りたいだけの彼に他者と組むメリットはない。
だというのに、ただ『おもしろい』という感情があるから『群れて』いる。
そこに、長年抱いている疑問の答えがあるような気がした。
ともに行動しているうちに、答えを見出せるのではないかと思った。
ゆえにシルベストリは、伸ばされた手を握ったのだった。
朝であろうと夜であろうと行動に支障のない自動人形でありながら、姿を見せた朝日に不思議と安らぎのようなものを感じた――ような気がした。
【宮本武蔵 死亡確認】
【佐々木小次郎 死亡確認】
【残り65名】
【D−4 商店街/一日目 早朝】
【伊崎剣司(憲兵番長)】
[時間軸]:居合番長との再戦前
[状態]:疲労(大)、胸元に真一文字の傷、制服ちょい焦げ
[装備]:雷神剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式×2、錫杖@うしおととら、ランダム支給品0〜4
[基本方針]:人を斬る。おもしろいのでギイと行動。
【ギイ・クリストフ・レッシュ】
[時間軸]:本編で死亡後
[状態]:背中にダメージ(回復中)
[装備]:ジャック・オー・ランターン@からくりサーカス、殺鳥用ワイヤー×3@金剛番長
[道具]:基本支給品一式×3、拷問鞭@金剛番長、ランダム支給品0〜6(うち0〜2は小次郎から見て武器となるものなし)
[基本方針]:他者と組み、エレオノールを優勝させる。
【シルベストリ】
[時間軸]:34巻、勝戦直前
[状態]:健康、服の胸元に真一文字の傷
[装備]:妖刀『八房』@GS美神
[道具]:ランダム支給品2(刀剣類なし、確認済み)、菊一文字@YAIBA
[基本方針]:他者と組んでフェイスレスの優勝をサポートしつつ、人間が群れる理由を解き明かす。植木耕助に会う。
319 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:26:37.40 ID:fQRXfLj9
320 :
ばかやろう節 3
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:26:57.86 ID:Da1pVN/Z
◇ ◇ ◇
商店街を抜けたらしく、周囲に立ち並ぶ建築物が民家ばかりになる。
もうだいぶ移動したことになるが、石島土門は速度を緩めようとしない。
相手は、土門が勝てた試しのない花菱烈火を追い詰めるような連中だ。
少しでも止まってしまえばすぐに追いつかれてしまう、そんな気がした。
「まあ花菱、そんなんなっちまったけど安心しろよ。
あんだけいろいろあんだから、義手や義足の魔道具くれーあるに決まってんだ。
なかったらなかったで、虚空のジジィに出てきてもらって作らしゃあいいじゃねえか。
お前使ってねーけどスゲーんだぜ、魔道具。むしろ前よりかっちょいい身体になっちまうかもしんねえ!」
自分自身にも言い聞かせるように、土門は明るく振る舞う。
それに対し、背負われている烈火は短く「そうだな」とだけ返す。
繰り返されるジャンプによって目覚めたらしいが、声には力がない。
先ほどから相槌を打つだけで、自分から話しかけてくることはない。
体温が妙に低いことに気付いていたが、土門は触れなかった。
「…………万が一、んなこたぁ絶対にねーとは思うけど、もしも魔道具じゃダメだったとしても安心しろよ。
そんときゃ奥の手があんだからよ! 俺たちで柳を助けて、そのあとアイツに治してもらやいいじゃねえか!」
烈火が忠誠を誓っている少女――佐古下柳。
彼女の名をあげると、烈火の身体がほんの僅かにだが動く。
そのたびにまだ生きているのだと、土門は安心することができた。
さて次はどんな話をしようかと話題を探すものの、ろくに浮かばない。
思い返してみれば、烈火と話す際にいちいち話題を探したことなどないのだ。
会って、思ったことを言い合う。ただそれだけである。
ゆえに、いざなにか話すとなると難しいものがあった。
かといって黙っているワケにもいかない。はたして、どうすべきか――
と思考を巡らせていると、土門の足が不意に止まった。
別に立ち止まるつもりなどなかったというのに、勝手に静止していたのだ。
急に気温が下がったように感じた。
漂う空気が冷たく、そして刺すように痛い。
なんというか、『踏み込んでしまった』気がした。
目を凝らしてみると、遠くに一人の男が佇んでいる。
距離が離れているためよく見えないはずなのに、一目で理解できてしまった。
――人間ではない、と。
目が合い、男はこちらの存在を認識したらしい。
掴んでいたボール状の生物を消滅させ、ゆっくりと歩み寄ってくる。
決して早くない速度だったが、土門のなかに逃げるという選択肢が浮かぶことはなかった。
逃亡に成功するヴィジョンが、露ほどもイメージできないのだ。
立ち竦んでいる土門の背中を、烈火が叩いた。
振り返れば額には大量の汗が浮かび、顔色は青くなっている。
「ヤベェな、アイツ……
下ろせ、土門。俺がなんとかすっから」
そんな状態にもかかわらず、烈火は接近してくる男を見据えていた。
「なに言ってんだ、テメェ!? 自分の状況、分かってんのかよ!?」
「分かってるよ。分かった上で、言ってんだ。
長い付き合いじゃねーか。大丈夫だって、俺のこと信じろよ」
321 :
ばかやろう節 3
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:27:35.02 ID:Da1pVN/Z
血の気が引いて顔面蒼白となってこそいたが、その表情は土門のよく知るものだった。
なにか企んでいるときの――不敵な笑み。
この顔になった烈火が無敵であることを、土門はよく知っていた。
なぜなら、彼は幾度となくこの顔の烈火に敗北を喫してきたのだから。
いつのまにか震えが治まっており、土門まで釣られて笑ってしまっていた。
心を支配しかけていた恐怖は、すでにどこかに吹き飛んでしまった。
土門に下ろされると、烈火は地べたに座り込んだまま右手を掲げた。
痛々しい切断面を天に向けた状態を保ちながら、呼吸を整える。
しばらくそうしてから意を決したように目を見開き、己の腕を勢いよく地面へと下ろす。
予期せぬ行動に呆然とする土門をよそに、烈火は何度も繰り返し――そして。
ついに、烈火が右腕に装着している鉛色の手甲が砕け散った。
その手甲は、炎術士に宿る炎の化身を体内に封じ込めておくためのものである。
烈火の右腕を炎が覆ったかと思うと、その炎が八つに細分化される。
八つに分かれた炎が見る見る膨れ上がり、本来の姿を取り戻していく。
か細い炎がたちまち猛火となり、猛火が次第に業火と化し、最終的にある伝説上の生物の形となる。
大地を震動させるような咆哮とともに、烈火の炎を作り出す化身――八竜が外界へと解き放たれた。
「出た……ッ」
八竜同時召喚を目にするのは初めてではなかったが、それでも土門は圧倒されてしまっていた。
八竜を知る土門をすら呑み込むほどの威圧感を受けても、男は臆することなく近付いてくる。
男を睨み付けるように、一匹の竜が飛び出した。
その竜を見るやいなや、土門は即座に目を閉じた。
飛び出した竜の名は『刹那』。
普段は隠している単眼を見た生物を、名の通り刹那のうちに燃やし尽くす――『瞬炎』の刹那。
烈火が奥の手である八竜同時召喚をやすやすと行えない理由の一つが、この刹那の存在である。
八竜をよく知る仲間ばかりならばともかく、出会ったばかりの仲間ならば敵と一緒に炎上というのも大いにありうる。
目を閉じていて見えはしないが、土門にはなにかの燃え上がる音が聞こえていた。
男が炎上したのだろうと思っていながらも、どこか違和感があった。
音が複数あり、なぜか少し土門の身体まで少し熱い。
まるで、すぐ近くでなにかが燃えているかのような気配だ。
刹那を見てしまわぬよう薄くまぶたを開いてみて、土門は目を疑った。
――――土門のすぐ近くで、花菱烈火が燃えていた。
「なッ!? なにやって……ッ、はあ!?」
焼けてしまうのも意に介さず、土門は烈火の胸元を掴む。
手で叩いてみても、刹那の炎はその程度で払いのけることができない。
どうして、烈火が燃えているのか。
尋ねようにも、混乱して言葉が言葉にならない。
ひたすら疑問だけが、土門の脳内を巡り続ける。
本当のところ、答えは分かっていた。
花菱烈火ともあろう男が、不注意で刹那の目を見てしまうものか。
烈火をよく知らぬ誰かならともかく、土門がそんな勘違いをすものか。
けれど、そうであって欲しくなかった。
浮かんだ予想が外れていて欲しかった。
うっかり見てしまったオチであって欲しかった。
だが土門の希望を砕くように、烈火は炎のなかで口を動かす。
声は聞こえなかったが、見えてしまった。
「行けよ」と言っているのが、分かってしまった。
322 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:28:11.58 ID:fQRXfLj9
323 :
ばかやろう節 3
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:28:53.49 ID:Da1pVN/Z
「この……クソッタレがッ!!」
声を荒げて言い残すと、土門は烈火に背を向けて駆け出す。
表情を見せてしまわぬよう、振り返りもしなかった。
長い付き合いだからこそ、土門には烈火の考えが読み取れてしまった。
烈火が自ら刹那の瞳を見たのは、土門を逃がすためだったのだろう。
二人じゃ逃げられないから置いて行けと、そういうことだったのだ。
口にしたところで土門が従うはずがないと分かっていたから、わざと炎に包まれたのだ。
置いて行かざるを得ない状態に、自ら陥ったのだ。
烈火の考えが理解できたものの、土門は気に入らなかった。
たとえ無理だと分かっていても、逃げるにせよ戦うにせよ二人ともにありたかった。
こうするつもりでも相談して欲しかった。
せめて、一言声をかけて欲しかった。
土門がそう考える男であるのを踏まえて、烈火は一人で決断したのだろうが。
そこまで分かっていてもなお、土門は烈火の行動が気に喰わなかった。
「――ふんッ!」
アシュタロスは全身から魔力を放出して、身体を覆う炎を振り払う。
視界が明らかになってみれば、二人のうち片方が逃走を図っていた。
人間にしてはかなりの速度であったものの、魔神からすれば止まっているのとさして変わらない。
魔力を電撃に変質させて、遠ざかっていく背中へと射出する。
すんでのところで勘付いたらしいが、もう遅い。
鍛え抜かれた肉体を電撃の槍に貫かれ、モヒカン男は口から赤黒い液体を吐き捨て――炎となって大気に溶けた。
「まやかしだと!?」
惑わされたのは、視覚だけではない
探知した気配までもが、撃ち抜いたモヒカン男が人間であると認識していた。
「私に幻術を仕掛けようなど、何世紀ぶりだろうな。
長らく生きてきたなかでも、これほどレベルの高い幻術は初めてだ」
思わず、アシュタロスから感嘆の言葉が零れてしまう。
返答するような声が、横合いからかけられる。
『あら、ありがとう』
現れたのは、艶のある黒髪を腰まで伸ばした和服の美女であった。
幻術なぞ使わずとも、たやすく人を惑わせそうな印象を抱かせる。
『――問うわ。
あなたの往く道にあるのは、はたして?』
簡単な質問だった。
答えは、とうに分かり切ってしまっている。
「なにもあるものか」
虚をつかれたように、美女は目を見張る。
どうやら、答えを見出しているとは思ってもいなかったらしい。
324 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:29:14.09 ID:fQRXfLj9
325 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:30:00.08 ID:fQRXfLj9
326 :
ばかやろう節 3
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:30:00.04 ID:Da1pVN/Z
「魔族として生まれた以上、悪として生き続けねばならない。
なまじ力を持っているせいで、生に終止符を打つことすらできん。
天界に敷かれたレールの上を半永久的に進み続けるだけで――得るものなどなにもない」
『私の問うた分に関しては、正解だ。
しかし正解に至るまでが間違っている。そこにいる私の主ならば、こう考える』
アシュタロスが言い終えた頃には、美女は再び余裕のある笑みを浮かべていた。
『その敷かれたレールを完膚なきまでに破壊して、我が道を行く――とな』
彼方で炎に包まれている少年を指差して、美女は口角を吊り上げた。
己の主を自慢するかのように、誇らしげに。
「……正直、お前の主人が羨ましい」
率直に答えて、アシュタロスは右手に魔力を集束させる。
話しているうちに、ようやく火竜の正体が分かった。
長い時間の経過の末にか、あるいは強い思いを遺したゆえにか。
どちらかは定かではないが、人間霊が異なる姿へと変化した姿なのだ。
いわゆる、神族の類と言えよう。
『羨ましいであろう。そうであろう、そうであろうとも』
そう言い残すと、美女は魔力を受けて消滅した。
消え行く間際に放った炎も、ただ体表を焼いただけだ。
神族であろうとも、アシュタロスの前には先ほど消滅させた二体の式神と大差ない。
膨大な魔力で強引に捻じ伏せて、魂ごと葬り去ればよいだけである。
残る七竜のほうを振り返ろうとして、アシュタロスは竜に喰らいつかれた。
見れば初めの盲目竜であり、視認したと同時に身体が炎上する。
縦横無尽に空を飛んで加速してから、いつの間にかに出現した炎の壁に押し当てられる。
盲目竜の牙により、アシュタロスの強固な肌に亀裂が入った。
が、それで終いだ。
全身から噴出させた魔力を衝撃波として放つと、盲目竜と炎の壁を作り出していた竜が霧散する。
「残りは五――」
アシュタロスは、言葉を途中までで切り上げる。
離れた地点にいる単眼竜の口から、極太のレーザーが放たれたのである。
咄嗟に横に跳んだものの、右腕の肩から先が呑み込まれた。
完全に隙を付かれ、魔力で防ぐことも叶わなかった。
右腕は完全に炭化し、もはや使い物にはならないだろう。
治癒を待つよりも腕ごと再生させたほうが早いと判断し、肩口から引き千切る。
その未だ空中にいるアシュタロス目掛け、無数の炎弾が放たれた。
炎の鞭と刃もまた、炎弾を掻い潜るようにして接近してきている。
空中に浮かんだまま体勢を立て直し、アシュタロスは獰猛な笑みを浮かべた。
気付かぬうちに、しないと決めたはずの期待に胸を高鳴らせていた。
327 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:31:26.57 ID:fQRXfLj9
328 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:32:29.25 ID:SwASCGXM
支援
329 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:32:38.47 ID:/SMamhxk
支援
330 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:32:49.19 ID:RhetH8Ey
331 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:32:54.17 ID:fQRXfLj9
332 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:33:23.26 ID:SwASCGXM
333 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:33:24.59 ID:fQRXfLj9
334 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:33:25.74 ID:cQgxB05a
335 :
ばかやろう節 3
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:33:35.50 ID:Da1pVN/Z
刹那が消滅したところで、瞬炎の効果は持続する。
橙色の炎のなかで、烈火はぼんやりとだが戦闘を見ていた。
一目見て理解させられてしまった通り、やはりアシュタロスは恐ろしく強い。
八竜を相手に、優位に立ち回っている。
「分かってたけどな」と自嘲気味に呟いたつもりだったが、言葉にはならなかった。
竜が一体だけまだ戦闘に加わらず、主人のことを見据えている。
『裂神』――八竜の長にして、血の繋がった烈火の父親だ。
主を守ることができずに死なせてしまった忍のなれの果て。
そんな裂神が、同じく主を守れずに死に行く息子を眺めている。
彼が言わんとしていることは、烈火には分かった。
それでも「うるせえや」と悪態を吐いた。
声が届いたのか届かなかったのか、裂神もまた戦闘に参戦した。
烈火は、戦闘から目を背けた。
なぜか、裂神の戦いぶりを見たくはなかった。
八竜全てを蹴散らしたらしく、アシュタロスが烈火の元へと歩み寄ってくる。
相手に悟らせぬよう、視線だけをそちらに向ける。
右腕を失い、左足の太ももには穴が開き、胸には刺された傷があり、脇腹が抉れており、全身黒く焦げている。
出会った際に感じた射抜くような気配も、幾分弱まっているように感じた。
敵わなかったものの、八竜はかなりのダメージを与えている。
炎のなかで、烈火は一人笑う。
長い間、炎に包まれていたのだ。
すでに息絶えたと思い込んでおり、念のため確認しに来ているだけであろう。
ただし、炎術士には炎に耐性がある。
もちろん意識は混濁し、いつ気を失ってもおかしくない状況ではある。
しかしともに戦ってきた火竜たつが、相手をここまで追い込んだのだ。
だというのに、主人がおちおち死んでなどいられるものか。
ついにアシュタロスが足を止め、首元に手を伸ばしてくる。
この瞬間を、ずっと待っていた。
右手首の切断面を向ける。
アシュタロスが目を見開く。
飛び退く暇も、身を守る暇も、攻撃する暇も、与えない。
驚愕しているアシュタロスが反応するより、早く。
体内に残った力を根こそぎ使う気持ちで、残った炎を搾り出す。
――けれど、足りない。
炎を出し切ったあとも、アシュタロスは僅かにふらついたものの生きていた。
仮に、烈火の炎に『型』があったのならば。
残った炎すべてを単純に放つだけでなく、何らかの形に変化させて凝縮させた炎を撃つことができたのならば。
結果は変わっていたかもしれない。
崩ならば、砕羽ならば、焔群ならば――可能であった。
だが、烈火にはできない。
本来炎術士としての才能がなく、『型』を持たぬ烈火にはできはしないのだ。
336 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:33:53.62 ID:/SMamhxk
支援
337 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:34:02.54 ID:RhetH8Ey
338 :
ばかやろう節 3
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:34:11.64 ID:Da1pVN/Z
「紅麗の炎なら、な」
アシュタロスに首を掴まれた状態で、烈火はポツリと零した。
首にかかる力が一瞬弱まる。
「…………その男ならば、私を殺せていたのか?」
意識を手放してしまいそうになりながらも、烈火は精一杯強い口調を作る。
気に喰わないところもあるが、紅麗の強さはよく知っている。
あの男を下に見られてしまうのは、不思議と我慢ならなかった。
「たりめーだ」
「……そう、か」
ごきり、と。
鈍い音が響いた。
【花菱烈火 死亡確認】
【残り64名】
【C−3 東部路上/一日目 黎明】
【アシュタロス】
[時間軸]:横島がエネルギー結晶体を破壊する直前
[状態]:右腕肩口より喪失、左足太ももに穴、胸に刺し傷、脇腹抉れてる、全身に火傷、全身ダメージ極大、回復中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3
[基本方針]:優勝し、ブラックも殺す。滅びたい。紅麗に興味。
※バサラとビカラが所持していたメモを読みました。
339 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:34:42.98 ID:fQRXfLj9
340 :
ばかやろう節 3
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:34:57.81 ID:Da1pVN/Z
◇ ◇ ◇
石島土門は脇目も振らずに、走り続けていた。
当てなどない。目的地もなければ、意味もない。
宮本武蔵に佐々木小次郎、そして花菱烈火のおかげで生き長らえているものの、いったいなにをすればよいのかが分からない。
涙も鼻水も溢れるばかりで止まらず、顔面はだいぶ汚れている。
そんな状態にありながら顔を拭こうともせず、AMスーツのパワーに身を任せていた。
「『番長』ト思ワレル参加者ヲ発見。
コレヨリ、番長抹殺プログラムヲ実行スル」
前も見ずに走っていた土門に浴びせられたのは、機械的な声であった。
同じくして腹部に衝撃が走り、民家へと叩き付けられた。
AMスーツのおかげで大した痛みはないが、激突した壁は砕けてしまっている。
「カナリノ耐久力ヲ持ツ番長ト認識」
声がしたほうには、学ランを着崩した青年が立っていた。
手首からはコードが伸びており、そのコードの先にあるのが土門の腹に突き刺さった拳であった。
土門は仲間である小金井薫から、サイボーグの存在を聞いている。
そのため驚きこそ少なかったが、まさか自分が戦うことになるとは思っていなかった。
とりあえず、溢れるどうしたらいいのか分からない感情をぶつけてやろう。
そう結論付けて土門が拳を握ると、サイボーグの青年が掌を向けているのが分かった。
「打撃ガ効カナイノナラバ、コチラダ」
「ぐっ、があァァァァ!?」
サイボーグの掌から放たれているのが電撃だと理解したときには、土門はすでに痺れていた。
ジャンプで逃れようにも、身体が痙攣していては力が入らず踏み込めない。
体内にある身体硬化魔道具『鉄丸』を発動させたところで、電撃には効果がない。
たちまち立っていることもできなくなり、地面に倒れ込んでしまう。
いつもならば必死でもがいただろうが、いまの土門にはその気もなかった。
もう仕方がないか――などと、彼らしくもなく早々に諦めてしまっていた。
すると、唐突に電撃が止まった。
「殺ス前ニ訊キタイコトガアル」
反撃するには絶好の機会であったが、まだ痺れが残っていた。
とはいえ飛びかかるくらいはできただろうに、土門は倒れたまま動こうとしない。
動いたところで烈火が帰ってくることはない、と考えてしまっていた。
「『人ヲ笑顔ニスル方法』ヲ教エテクレ」
「……あァ?」
黙って殺されるつもりであったのに、土門はつい聞き返してしまう。
それほどまでに、サイボーグの言葉は意外なものであったのだ。
「月美トイウ少女ガイル。
彼女ヲ笑顔ニシタイノダガ、方法ガ分カラナイ」
341 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:35:12.17 ID:/KvHsbCR
342 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:35:45.51 ID:fQRXfLj9
343 :
ばかやろう節 3
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:37:02.69 ID:Da1pVN/Z
聞き返されたためか、より詳しく告げられる。
その言葉を脳内で数回リピートさせ、土門はようやく意味を理解する。
意味を理解した瞬間には、サイボーグの顔面に拳を叩き込んでいた。
土門の怒りに反応したのか、AMスーツはかつてない力を発揮した。
サイボーグは民家の壁をぶち抜き、三軒ほど先の塀に埋もれる。
そちらを見据えて、土門は声を張り上げる。
「女を笑わせてえのに、人を殺すだと!?
ふざッけんじゃねえ! ンなことして笑うヤツがいるかよォ!」
壁から抜け出したサイボーグに掌を向けられても、土門の叫びは止まらない。
「なんでそんな簡単なことも分かんねーんだ、どいつもこいつも!!
殺したり死んだりしたらなァ! もう終わりなんだよ! 一生笑えねえんだよ、そんなバカヤロウは!
人殺しだけじゃねえ! 花菱のヤツだってバカヤローだ! 死んだらどうにもならねえだろうが! 意地でも生きてなきゃ意味ねえだろッ!!」
放たれた電撃を掻い潜って、土門は飛び蹴りを放つ。
倒壊した民家に埋もれたサイボーグを睨み付けて、まだ続ける。
「なにがあったって……もうダメだと思ったってッ、涙が止まらなくったってッ!
生きてなきゃ二度と笑えねえだろ、ちくしょう! 分かれってんだよ、バッキャローッ!」
瓦礫から飛び出すと、サイボーグは自身のボディを眺める。
動作を確認するように腕を上下させてから、不思議そうに首を傾げた。
「急ニ身体能力ガ向上シタ。オ前ハ、イッタイ何者ダ?」
いままでより範囲の広くなった電撃の雨を回避して、土門はサイボーグの腹を殴り抜ける。
吹き飛んで行く相手へと、吐き捨てるように言い放つ。
「ナニモンもクソもあるか!
またダチと楽しく笑ってフツーにくらしてえ……ただの人間だよ、このバカヤロー!!」
土門は、地に伏したままのサイボーグを見下ろす。
相手は機械だ。
キース・ブラックに人を殺せと命ぜられたため、ただ従っているだけかもしれない。
善悪も分からず、命令されたから殺しているだけ。
だとすれば、悲しい話だ。
もしそうであるのなら、生死の意味も分からずに殺しているだけならば――教えてやる。
死んだら終いだということを、身体に叩き込んでやる。
「オラ、立てよ……ッ。
命がなにか分からねえんなら、何度だって殴ってやる。
人を笑わせる方法が知りてーんなら、何度だって教えてやるッ。
お前が悲しいヤツだってんなら、何度だって俺の拳で救ってやるよッ!!」
344 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:37:39.03 ID:/SMamhxk
支援
345 :
ばかやろう節 3
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:37:46.04 ID:Da1pVN/Z
【C−3 北西部路上/一日目 早朝】
【石島土門】
[時間軸]:SODOM突入前
[状態]:健康
[装備]:御神苗優のAMスーツ@スプリガン
[道具]:基本支給品一式×2、支給品1〜5(0〜2:本人確認済み、使えるものと使えないもの? 1〜3:烈火確認済み、花火以外)
[基本方針]:仲間と合流したい、風子最優先。マシン番長に、人を笑顔にする方法を教えてやる。
【マシン番長】
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:異常なし
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:番長を抹殺し、幽霊と仲直りする。邪魔するものも排除。人を“笑顔”にする方法を知る。土門と戦闘。
※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。
※対象の“人間”の殺害を躊躇しません。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。
【支給品紹介】
【殺鳥用ワイヤー×5@金剛番長】
井上真由子に支給された。
秋山優(卑怯番長)の持つ暗器。特殊素材製らしいが詳細不明。
マシン番町の目をもってしても気づかないほど細く、チタン合金を容易く切断するほど鋭く、また炎に包まれても焼失することはない。
【妖刀『八房』@GS美神】
ギイ・クリストフ・レッシュに支給された。
犬神族に伝わる妖刀。
斬った相手の霊力を吸収し、斬れば斬るほど鋭くなっていく。
なお原作初登場時点で、すでに強化セラミックを両断できるほど力を蓄えている。
346 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:38:08.43 ID:fQRXfLj9
347 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:39:08.11 ID:/KvHsbCR
348 :
◆hqLsjDR84w
:2011/11/03(木) 23:40:36.04 ID:Da1pVN/Z
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。
>>282
で前レス分の文章を投下している点、アシュタロスの状態表が『黎明』になっている点(実際は『早朝』)は、wikiで修正しておきます。
大量の支援感謝です! ありがとうございましたッ!
349 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/03(木) 23:49:45.15 ID:fQRXfLj9
やばい、かっっこいい
烈火がかっこいい、武蔵がかっこいい
まさかまさかの小次郎までかっこいい
けれどもやっぱり土門がまじぱねえ!
最後の最後、まじ原作絵で再生されたぞ、脳内で!
こいつやっぱし感情全開の殴り合いに合うよなあ
そしてマーダー陣営がすげえやばいことになった!
特に憲兵とアシュタロス!
憲兵番長ってこんなにヤバイやつだったのか!
雷神剣がまさかの使われ方。雷神への啖呵きりがすごかった
アシュタロスは流石の究極!
八竜相手にして真っ向勝負で打ち勝つとは
やばい、ばじやばい
面白かったです、投下乙!
350 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/04(金) 13:23:06.70 ID:p9jeT+wH
投下乙!本当におもしろかった。鳥肌が止まらんw
烈火と土門は本気でかっこいいな。キャラの良さが全開で、脳内で原作の絵が鮮明に写ってたよwそしてマーダー勢が強力過ぎる…有力な対主催はドンドン脱落していくのにな……これからも読みごたえがある作品を待ってます。
351 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/05(土) 14:37:57.27 ID:bbjW1MrF
投下乙。超おもしろかった!
予約したキャラだけでも多いのに、八竜全部に雷神に真由子まで出すなんてw
てんこもりすぎて大満足!みんなかっこよかった!
352 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/05(土) 15:45:49.79 ID:/nGWRTt2
投下乙
武蔵も小次郎も、一般人レベルだと最強クラスだろうに、超人・人外がゴロゴロいるこのロワでは厳しかったか
烈火も無念だろうけど、仲間の側で最期を迎えられたのが唯一の救いかな
八竜がアシュ様に深手を与えたのはパワーバランス的にも興味深いね。アシュ様自身、菅原道真の怨霊を片腕にしてた時期があったし、人間から神霊になった者の強さがよく分かる
そして中堅〜強レベルマーダーの同盟も出来て、益々対主催側の困難が増えたな。小次郎が脱落したことで物干し竿での脱出案に支障が出なければ良いが…
353 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/05(土) 16:18:51.60 ID:qh+VqSmj
烈火って死んだら能力の無い火竜になるんじゃなかったっけ
354 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/05(土) 17:43:45.22 ID:ToQjaFX+
烈火の炎って途中までしか知らなかったけど、烈火って才能のない炎術師だったのね。
考えてみれば火竜自体過去の炎術師で、元々その人らが持ってた能力だし。
そう考えると烈火って確かに、自分の型を持たない炎術師だってことになるな。納得。
にしても大作でした!投下乙です!
355 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/05(土) 20:32:35.42 ID:EzL1/1bq
烈火には炎の型が無いってのは原作でも裂神に言われてるよ
てか、放送後の刃と風子やばくね?w
356 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/05(土) 20:56:22.43 ID:ZpjKcRj/
刃はまだ持ちこたえそうだが、風子は精神的にヤバイな…
個人的にはとらが死んで流がどんな反応をするかが気になる。ユーゴー早く逃げてくれ
357 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/05(土) 21:01:44.92 ID:bz3i6wYB
刃のまずいとこは、一緒にいるチェリッシュも放送後ry
358 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/06(日) 05:00:27.43 ID:6qyC+ck1
投下乙!
マーダーが暴れに暴れたなオイ。
しかも、ヤバいやつらが組んじゃってさ、勝てる気がしないw
戦況だけみると絶望的なんだけど、それぞれの戦いは凄い熱かった。
個人的には覚悟を決めた小次郎が一番だった!
359 :
◆6LcvawFfJA
:2011/11/19(土) 23:46:41.97 ID:snryrEOp
投下致します。
360 :
日常――変わらぬ朝
◆6LcvawFfJA
:2011/11/19(土) 23:47:46.86 ID:snryrEOp
「……何ですかい、こいつは」
怪訝そうに言うのは、阿紫花英良。
それに対し前を行く紅麗は、きっぱりと言い切る。
「先程告げた通り、御神苗優が残したメモだ」
「そりゃ分かってるんですけどね……」
阿紫花が胡乱な目付きを向けているのは、参加者全員に配られた名簿である。
八十を超える人名が記された裏面には、ボールペンで文章が書き記されていた。
目を通したところ、どうやら筆者の“プログラム”に対する考察であるらしい。
「御神苗優とて、かなりの実力者。むざむざ命を捨てる気など無かっただろうが……。
万一の可能性を考慮し、考えを記しておいたのだろうな。何も遺さず息絶えるのを是とせずに」
「まあ……、そうなんでしょうけどね」
阿紫花に疑問を抱かせたのはメモ自体ではなく、その内容だ。
キース・ブラックを貫いた高槻涼の右腕を“ケイ素系生命体だろうか”と、推察。
その右腕から“怨霊じみた霊気を感じた”とし、またキース・ブラックの背後にあったアザゼルと呼ばれていた巨大な球からも“霊気が発せられていた”と、こちらは断定。
以上二つの事実から、参加者の一人で“冷媒体質の染井芳乃”と接触し、それらに“口寄せ”させてみるとの結論。
さらに参加者を会場に移動された技術を“魔術の可能性が高いが断定は出来ない”と、また“会場の端には結界が張られている可能性が高い”と、見当を付けている。
一部抜粋しただけでも、この通り。
殺し屋稼業を営み、長きに渡って裏社会を生きてきた阿紫花英良であるが、それはあくまで“人間社会の裏”。
“人形破壊者”と“自動人形”の戦いという、“人間ではない者の世界”にはまだ足を踏み込みかけたばかりだ。
神々の文明を追う“スプリガン”の知識を容易く受け入れられるほど、彼は常識を捨てられていない。
阿紫花が納得していないのは内容だとようやく察し、紅麗が背を向けたまま問う。
「信用出来んか?」
「ええ!? ああ、まあ……、何と言うか……。
正直な感想を言ってしまえば、“こりゃ映画の設定かい?”って感じですねぇ」
「だろうな。そういう雰囲気を出していた」
肩を竦める阿紫花に、落ち着いた口調で紅麗。
「しかし私からすれば、この御神苗優のメモは十分頷ける。
同じく霊気を感じ取っていたし、今現在エリア端を目指しているのも結界を確認したいという考えからだ。
参加者の転送については“魔道具”を使用したかと思っていたのだが、その魔道具も魔術と言えば魔術だな。
それに魔道具は、御神苗優が気にかけている“オーパーツ”と酷似している。あれもまた“当時在り得なかった技術”を用いているのだからな。
故に、染井芳乃と接触を試みようと考えている。御神苗優の推測が当たっているのなら、染井芳乃は私達の切り札となり得るからな。
むしろ私個人としては、アシハナ……お前の言っていた人形の方が受け入れ難いよ」
真っ向から信じられないと告げられながらも、阿紫花は不機嫌そうな顔一つしない。
煙草を咥えたままで、薄笑いを浮かべている。
「そりゃあなあ。
あたしだってジョージの奴に言われた時ゃ、半信半疑でしたぜ。この外人さんはいい歳こいて何言ってんだってなもんで。
でも見ちまったもんでなぁ。群がる機械の虫けらに、糸もなしに動いて喋る人形、砕け散っちまう人体なんて薄気味悪いったらありゃしねえ」
「映画の一場面のようだな」
「いや、まったく」
『会場外へ近付いています。会場外へ近付いています。これ以上進むのは危険です。今すぐ引き返してください。繰り返します。会場外へ近付いています──』
二人の会話に割って入るように、首輪から警告音が響く。
たじろいだ阿紫花とは対照的に、紅麗は歩みを緩めずに直進。
足先に何かがぶつかったのを確認してから、やっと静止した。
掌を出して、眼前に広がる無色の壁を擦っていく。
「やはり、結界か」
紅麗の脳裏を過るのは、紅麗率いる“麗”に所属していた結界使いの女。
かつての部下であり、共に生きようと考えかけた事もある。
しかし神は紅麗に平穏を赦さず、強いられたのは血臭漂う道だけだった。
故、紅麗は自ら彼女の元を離れた。
もはや、彼女は紅麗の往く道とは無関係。
誰に明かすつもりも無いが、この場に転送されて即座に紅麗は名簿を確認し、彼女がいない事に安堵した。
共に殺戮に塗れた道を歩む女は、ただ一人だけ。
彼女以外を巻き込んではならないし、彼女さえいればよい。
361 :
日常――変わらぬ朝
◆6LcvawFfJA
:2011/11/19(土) 23:48:42.53 ID:snryrEOp
「“紅”」
紅麗の呼びかけに応え、燃え盛る天使が出現する。
炎で構成された羽根を駆動させ、同じく炎で構成された身体を浮かび上がらせる。
獣じみた咆哮をあげて、目に見えぬ障害へと突っ込んでいく。
だが、それもまた結界壁に阻まれた。
「“人体”だけでなく、“魂”までも防ぐか」
頷きながらひとりごつと、紅麗は一跳びで阿紫花の元へと戻る。
「アシハナ、人形で試してみてくれ」
「え、あ、へい」
僅かに費やして状況を飲み込み、阿紫花は携えていたアタッシュケースを開く。
操り糸を十指に嵌めて腕を大きくかざすと、収納されていた懸糸傀儡“キャプテン・ネモ”が飛び出した。
阿紫花の小刻みな指の動きに呼応して、海賊姿の人形は踊るように結界壁へと向かっていく。
キャプテン・ネモは、水中戦用に調整された懸糸傀儡の為、重量は極限まで削られている。
通常の懸糸傀儡は、戦うべき相手とぶつかり合った時を考量して重く仕上げるというのに、その正反対なのだ。
つまり、他の懸糸傀儡を操るのに慣れきった者にとって、キャプテン・ネモを操るのはひどく困難になる。
のだが、しかし、阿紫花英良はこと懸糸傀儡の操作においては天才だ。
その才能の所為で世界を退屈に感じてしまうほどに、彼は人形を容易に操る。
勿論、手に取って暫くは馴染まなかったが、数回の練習を経ただけで、キャプテン・ネモは阿紫花英良の手足同然となった。
「行きなせい」
ふわりふわりと浮かぶように跳躍すると、右手に掲げたサーベルを勢い良く下ろすキャプテン・ネモ。
しかし軽量を思わせぬ鋭い一撃は、結界壁に阻まれて弾かれてしまった。
「“魂を持たぬ物”までも、か……」
思考を巡らす紅麗の傍らで、阿紫花はキャプテン・ネモを手元まで戻してアタッシュケースへと納めた。
結界の存在を信じていなかった阿紫花だが、こうして実物を目撃してしまえば受け入れるしかない。
目に見た事象まで疑ってかかるほど、己の世界に執着がある訳でもなかった。
とは言えど、こうなってくると、下手をしたら魔術やら怨霊やらまで真実であるかもしれない。
魔術などは無関係なのでどうでもいいが、怨霊が存在するとなれば阿紫花も危惧する事がないでもない。
何故なら、彼は殺し屋として生きてきた身。
怨霊が存在したならば、はたして幾つの怨霊を背負っているのやら。
夜になれば幽霊くらい出て来そうなほどに暗くなる田舎出身であるが、それでもぞっとしない話だ。
いやはや、狭いと思い込んでいた世界は、思いの外広かったのかもしれない。
「つっても、殺し合いなんて命令してきやがったアンタにゃ、礼なんざいいませんがね」
ふと蘇ったキース・ブラックの姿に吐き捨てると、煙草の火が丁度指に触れる寸前であった。
知らない内に、こんなフィルターギリギリまで吸っていたとは。結界を目の当たりにして、自覚していた以上に焦っていたらしい。
咥えていた煙草を地面に落とすと、踏み付けて火を消す。
紅麗の方を向き直って、阿紫花は目を見張った。
少し前まで考え込んでいた紅麗が、左肩を抑えて膝を地面に付けていた。
「ど、どうしたんですかい!?」
瞠目する阿紫花。
そちらを見上げる紅麗の表情は、禍々しい仮面に隠れて窺えない。
「問題無い……。大丈……夫だ」
言葉に反して、紅麗の呼吸は乱れていた。
高槻涼との戦闘後も、ここまで激しく肩を上下させてはいなかった。
その事を知る阿紫花が再度尋ねても、紅麗の返答に変化は無い。
362 :
日常――変わらぬ朝
◆6LcvawFfJA
:2011/11/19(土) 23:48:59.05 ID:snryrEOp
「安心……しろ。流れ込んできた……だけだ」
「流れ込んできた!?」
「ああ、そう……だ。彼奴の魂が……、な」
荒い呼吸のまま立ち上がる紅麗。
依然として右肩を押さえている。
そこに“何かがいるかのように”。
「それだけだ。気にかける必要はない。“普段と何も変わらない”……私は万全だ」
どうにか呼吸を整えて、紅麗は大きく吐いた。
朝日に背を向けて、加藤鳴海と高槻涼のいる民家を目指す。
納得していない様子の阿紫花も、紅麗に続く。
紅麗の言葉は、彼にとって偽りのない真実だ。
またしても、失いたくない者を失った。
失くしたくない存在を永久に手放した。
今まで何度も喪失したのと同じように。
故に、言葉の通り。
ありふれた朝を迎えただった。
仮面を被った麗のトップにとって、在り来たりな日常の一コマに過ぎない。
暫く、紅麗が仮面を外すことはないだろう。
【F−5 最東端/一日目 早朝】
【阿紫花英良】
[時間軸]:20巻第33幕『合流』にて真夜中のサーカス突入直後。
[状態]:健康
[装備]:形傀儡@烈火の炎、キャプテン・ネモ@からくりサーカス、ヒヒイロカネ製の剣@スプリガン
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜1(確認済み)
[基本方針]:とりあえず紅麗についていく。
【紅麗】
[時間軸]:22巻210話『地下世界の消滅』以降、SODOMに突入するより前。
[状態]:脇腹に傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、支給品0〜2(確認済み)、首輪(優)、優のメモ付き名簿、ジャバウォックの爪×3@ARMS
[基本方針]:プログラムを破壊し、早急に帰還する。そのために役立つ人物や情報を手にしたい。染井芳乃を捜索。
363 :
◆6LcvawFfJA
:2011/11/19(土) 23:49:22.04 ID:snryrEOp
以上です
364 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/20(日) 15:16:55.84 ID:MZATJ0Ys
投下乙です
ああ、流れ込んできたのはアレの事だろうなあ…
紅麗はブレることはないだろうがきついなあ…
365 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/20(日) 18:15:56.87 ID:ycdV9S3J
投下乙
紅麗のぶれなさが、今回ばかりはつらいね
たとえ誰が死んでも道を貫くヤツだからなぁ
優のメモが結構核心を突いてたりしておもしろいw
366 :
◆n0WqfobHTU
:2011/11/24(木) 21:49:03.06 ID:yWEK/Za9
これより投下します。
367 :
ジョージ・ラローシュの交渉
◆n0WqfobHTU
:2011/11/24(木) 21:50:01.41 ID:yWEK/Za9
相手が人間ならば、戦う以外の選択肢もありうるかもしれない。そう思える程度には、人を、信じようという気になれた。
神秘の玉の回転でどーにかこうにかコウ・カルナギの蹴りを防いだジョージ・ラローシュは、そのまま大きく吹っ飛ばされる。
こうして都合良く距離も開いてくれたので、ジョージは神秘の玉を収納し、悪鬼のごとき気配を隠すそぶりもみせぬコウ・カルナギを前に、静かに、手元のバッグを開いた。
中から出て来たのは、息を噴きいれ鍵盤を弾く事で音を鳴らす、鍵盤ハーモニカ、ピアニカと呼ばれるものであった。
その名称をコウは知らなかったが、小型のピアノっぽい楽器というのは見ればわかる。
コウは怪訝そうにそれを見つめる。
「おい、そりゃ何の真似……」
コウのリアクションなぞ全放置で、ジョージは大き息を吸い込むと鍵盤に指を走らせた。
呼気を用いる事で豊かな音色を可能とするピアニカから、流れるように音が響く。
「……何、してやがんだてめぇ?」
ジョージは表情のまるで読めぬ銀色の瞳でコウを見つめた。
「ふむ、『禁じられた遊び』という曲なのだが。知らなかったか? なら……」
すたすたすたとコウ・カルナギはジョージに近寄っていく。
「これならどうだ? バッハならば有名であるし……」
目を閉じて曲に集中するジョージを、コウ・カルナギは情け容赦無く殴り飛ばした。
小さい悲鳴と共にジョージは近くの民家に叩き込まれる。
中で派手な音がしたのは、家具に激突して下敷きにでもなったせいか。
首を傾げた後、コウ・カルナギはぶつぶつ漏らしながら足を進める。
「ただの馬鹿か? 一体何だったんだ今のは……」
調子の狂ったような顔をしていたコウ・カルナギであったが、その気配にはすぐに気付けた。
民家の奥よりがさがさと動く音。
木製の何かを跳ね除けた音。
天井から落っこちてきた何かが当たったらしい音。
がしゃんという音から察するに照明器具であろう。というかそのまま民家から出てきたジョージがガラス塗れな所を見れば音関係なくそれはわかる。
「そんなに私の音楽は出来が悪かったか? まあ待て、ならもっと大きなピアノを探そう。自慢ではないがピアノの技術だけならばそうそう遅れは取らないと自負しているんだ」
コウ・カルナギが注視したのは、もちろん音楽云々ではなく、コウに殴られても平然と立ち上がった所だ。
「へぇタフじゃねえか、妙な芸だけじゃねえんだなてめぇ」
すたすたとコウに歩み寄るジョージは、体のガラスやら木切れやらを払い落としている。
「これでもしろがね-Oだからな。頑丈さには自信がある。だが、一つ忠告させてもらおう」
「何だ?」
「そんな勢いで他の人間を殴るのは止めた方がいい。死んでしまうぞ」
馬鹿にされているのか、コウは一瞬そうも思ったが、何処までも真顔のジョージの顔からその辺を判断する事は出来ない。
「おい、お前殺し合いしねえのか? そうしねえと首輪吹っ飛んでてめぇが死んじまうぞ」
ジョージは、そこで初めて感情らしきものを表現する。
落胆を示すように大きく肩を落として見せたのだが、やはり顔は無表情のままである。
「ふむ、友愛を示すべく音楽を奏でてみたのだが、伝わらなかったか。誤解の無いよう言っておくが、あの戦闘形態はあくまで移動に用いていただけであって、私に戦闘の意志はない」
「…………」
コウは無言。なのでジョージは言葉を続けた。
「音楽は人の心を安らげる。私はOであるから効果は薄いだろうが、君は人間のようだしそれならばと思った……」
そこでジョージも言葉を止めたのは、ジョージの眼前に、もうこれでもかっつー勢いで大きく拳を振りかぶったコウの姿があったからだ。
今度は通りすがりにどつくなんて勢いではなく、全体重を拳に乗せきる勢いでコウは右腕を振り切る。
そしてこれを喰らったジョージ。
手足の骨格明後日の方向いてるだろ、な姿でぐるんぐるん回りながら吹っ飛んで行った。
368 :
ジョージ・ラローシュの交渉
◆n0WqfobHTU
:2011/11/24(木) 21:50:34.30 ID:yWEK/Za9
そして衝撃音。
壁の崩れる音。
下敷きになるジョージ。
少しの間ぴくりとも動かなかったが、それでも彼は立ち上がった。
ふらふらと覚束ない足元で、瓦礫をどけながら。
「……な、何だこの拳は。もしかしてお前も改造を受けていたりするのか?」
コウは、心底不思議そうに問うた。
「お前、こんだけやられてまだヤる気になんねえのか?」
ジョージより殺意も敵意もまるで感じられぬコウは、そんな人間を信じられぬのだ。
「ああ、自己紹介がまだだったな。私の名はジョージ・ラローシュ。しろがねOの一人だ。一つ、聞いていいか?」
「……一つならな」
「私は極めて友好的な接触を試みているつもりなのだが、何処がお前の気に触ったんだ? 正直、これ以上殴られるのは御免被りたいのだが」
コウ・カルナギよりの返事は、実に彼らしい拳がドでかく見えるような迫力あるパンチで行なわれた。
相手をするのが嫌になったコウは、ジョージを無視してさっさと歩を進めるが、ジョージはその後を小走りについてくる。
「待て。奴等の言うように殺し合いをした所で、奴等が素直に我々を逃がしてくれる保証なぞ何処にもないぞ」
コウは無言。
「それに、だ。お前は知らないだろうが、ここにはしろがねOの、そして自動人形の長であるフェイスレスも来ている。まともに奴とぶつかっては勝ち目なぞ無いぞ」
ぴくりと、コウの耳が動いた。
「へぇ、そいつはそんなに強ぇのか?」
「だから我等しろがねOの長であったと言っているだろう。三解のフェイスレスと言えば、裏切りが発覚する以前より自動人形の間ですら有名な名であったのだぞ」
ジョージの忠告はコウを煽るだけである。
そんなコウの在り様が理解出来ぬジョージは、再び彼に問う。
「何故そこまで自分の力に自信がありながら、この殺し合いを仕掛けた者の言葉に従っているのだ? 戦闘は好きだが、死ぬかもしれぬ戦いは嫌だと、そういう事か? 自分が死なない程度の敵としか戦う気は無いと」
ぴたりとコウの足が止まる。
振り返ったコウは、口を大きく開いた笑顔を見せ、ジョージの肩をぽんぽんと叩く。
「む? 私は何かおかしい事を言ったか? いや、しかし君の笑顔は始めてみたがまるで獲物を前にしたライオンの様……」
四度、コウの拳が唸りを上げた。
回復能力に長けたしろがねとはいえ、相手は誰あろうコウ・カルナギだ。
その拳を四発ももらって、無事でいられようはずもない。
「……なあ、気に触った事があるのなら、まず言葉で言ってもらえないか。これでは反省を後に活かす事も出来ないし、何より身が持たない」
「うるせえっ! てめぇ何なんださっきから!」
コウの技量があれば、ジョージがわざと拳を受けているのではないことはわかる。
攻撃の意志はないのだろうが、コウの拳に反応も出来ていない。
つまりコウの攻撃を防ぐ手段は無い、そうジョージにももうわかっているはずなのである。
常人ならば十回は死ねる打撃を積み重ねたジョージの体は、とうとう動く事も出来なくなってしまった模様。
「てめぇがタフなのはわかったがな、それだけだ。その程度の能力じゃさっきの曲芸もたかが知れてるしな。まさかまだ俺に勝てるつもりなんじゃねえだろうな」
「無理を言うな。それに私は君のような非常識な拳を振るう相手にはトラウマがあるんだ。まったく、この手の相手は私にはキモンらしい」
両手を大きく広げるコウ。
「お前の都合なんざ知った事か! いいから俺に用があるんならさっさと言え!」
仰向けにひっくり返った体勢のまま、首だけを起こしてジョージは言った。
「ここから脱出する為協力し合わないか」
真意を確かめるようにコウはジョージをじっと見つめる。
「……アテでもあんのか?」
「無い」
369 :
ジョージ・ラローシュの交渉
◆n0WqfobHTU
:2011/11/24(木) 21:51:11.81 ID:yWEK/Za9
よし殴ろう、そう決めて踏み出しかけたコウは、しかしそこで足を止める。
「お前、さあ。……普通、ここまで殴られりゃ猿でも学習しねえか?」
「かもしれない。それでも、人一人説得しようというのだ。それなりの代償は払わねばならないだろう」
ジョージの言葉をコウは鼻で笑う。
「笑わせるぜ、ちっと撫でたぐらいで動けなくなるようなてめぇが俺に協力しようだ? そのザマでどう俺の力になれるってんだ?」
みきみきと音を立てる全身を、ジョージは強引に持ち上げ立ち上がった。
コウはジョージの異常に早い自然治癒能力に気付いていた。
それでも負った損傷は体を動かせる程回復していない事にも。
「ほう」
半ば崩れかけたブロック壁に手をつきながらだが、ジョージはよたよたとコウの方に歩み寄る。
「……とりあえず、今までのやりとりで、まず一つ、君の役に立つ方法が見つかったぞ」
「ふん、聞いてやるぜ。言ってみな」
「脱出の手助けとなるかもしれない人物との交渉役だ。君に任せたら挨拶する間も無く死んでしまうだろうからな」
ジョージの交渉術も大概なのだが、確かに、コウ・カルナギがそうするよりはマシであろう。
コウ・カルナギは異常な遺伝子を持つ者達の一人として、実験施設にて研究されていた。
その扱いはモルモットのそれであり、類稀な能力の事もあり、まともに真正面から会話しようという者もいなかった。
そうする為には、コウ・カルナギの人類の域を軽く越えた暴力に耐える必要があったのだから、当然と言えば当然だ。
かつてアル・ボーエンがコウ・カルナギとの交渉を成功させているが、これにした所で条件が揃った上での事だ。
研究所にてコウ・カルナギに必要とされていたのは正にその暴力であり、それが限度を越えていた為、コウ・カルナギは特異な人間ばかり集められた研究所ですら異端視された。
これをコウ・カルナギがどう捉えていたのかの記述は無い。
ただ、彼は研究所の外に出てからも「強さ」に固執している所から、他者のようにモルモットにされずに済んだ理由である、彼の彼だけの暴力に、深い自負を抱いていたと推測される。
そしてその暴力を用いて彼が為した事は、強さの確認である。
強者と合間見える事を目的とし、拳を交え自らの強さを確かめる。
そこまではコウ・カルナギを知る人物ならば、誰しも辿り着けるだろう彼の人物像だ。
しかし、それ以外の見方も存在するのではなかろうか。
特異な環境に生きた彼は、一般人ズレ甚だしいジョージ・ラローシュと比較してすら、コミュニケーション能力に劣る。
彼に出来るのはその劣った対話能力ではなく、自慢の拳で語る事のみ。それ以外で強い自我に見合った優位を保つ自信が無かったのだろう。
そして、ただひたすらに強さを求める、例えばスプリガンの朧のような生き方を選ばず、飽く事無く強者との血沸き肉踊る対戦を望んだのは、彼が他者との関わりを心の底では望んでいたからではないだろうか。
自らと対等に戦える相手と認めたならば、その者に固執し何度も何度も戦おうとする。
これこそが、コウ・カルナギの対話であったのではなかろうか。
結論は、出ない。
コウ・カルナギがエグリゴリのくびきより放たれて、まだ間が無い。
彼がどのような内面世界を持ち得るのか。恐らく彼自身にすらわからぬ心の内は、このような多種多様な人間が集まる殺し合いの中でどう動いていくのか。
とりあえず、今は一つだけ、答えが出た。
「よし、面倒な事は全部お前がやれ。もちろん、俺の戦いの邪魔しやがったら即座にブチ殺すがな。ああ、後脱出しそこねてもブチ殺す。命賭けでやれ」
「どの道命は賭かっているだろう。私のだけでなく、君の命も」
「だから必死こいてやれっつってんだよ銀目」
370 :
ジョージ・ラローシュの交渉
◆n0WqfobHTU
:2011/11/24(木) 21:51:49.91 ID:yWEK/Za9
「銀の瞳はしろがねに共通する特徴だ。私の名はジョージ・ラローシュだと言ったろう」
「ああ、はいはい、ジョージね。俺はコウ・カルナギ様だ。そう呼べ」
「カルナギサマー? 夏の一種か?」
とりあえずジョージを殴り飛ばしながら、コウ・カルナギは少し上機嫌に歩き出す。
口は悪いが、ムカツいて殴ってもすぐに壊れない下っ端というのは、彼の経験にもそう無かったのだから。
【E−3 南部路上/一日目 早朝】
【コウ・カルナギ】
[時間軸]:第五部開始時
[状態]:軽い疲労、両掌に軽い怪我、満腹
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:サーチアンドデストロイ。ARMS、鬼丸を特に優先。刃も見つけ次第ブン殴る。ジョージに面倒な事は全部やらせる。
【ジョージ・ラローシュ】
[時間軸]:本編死亡後
[状態]:殴られすぎて通常行動は可能な程度にガタが来ている、疲労(小)
[装備]:無し
[道具]:ジードのタバコ@金色のガッシュ、ピアニカ@金色のガッシュ、ランダム支給品0〜1、基本支給品一式
[基本方針]:脱出して子供たちにピアノを聞かせる。乗る気はない。 コウと共に脱出を画策する。
ピアニカ@金色のガッシュベル アポロが子供に弾くようせがまれた楽器の一つ。子供が扱う物でもあるので、楽器のワリに結構頑丈だったり。
371 :
◆n0WqfobHTU
:2011/11/24(木) 21:52:54.94 ID:yWEK/Za9
投下完了です。問題点等ありましたら、ご指摘の方よろしくお願いします。
372 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 01:22:50.29 ID:f4/1dC++
投下乙!
すっげえ! こんなことになるとは、まったく考えてなかった!w
いやー、でもたしかにカルナギのこれまでを思うとありうる話だぜ
まさかジョージがこんな仕事をするとはなあw やるじゃないか、しろがね-O
しかしジョージがぶっ飛ばされるたびに、脳内で皆川風見開きが浮かんで腹が痛かったw
373 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 02:06:08.61 ID:KGFh8icv
投下乙!
ジョージw 自分は原作のあの殴られ顔が浮かんだわw
カルナギをこういう方向に持っていくとは予想外だ。
しかし危険がなくなったわけじゃないんだよなー。
ジョージの状態表見たら、殴られたのが結構効いてるのに笑ったw
374 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 20:17:44.11 ID:BU0zez9k
投下乙
このコンビいいわーwww
いちいち的外れなジョージのせいでカルナギがまともに見える不思議w
相方のアシハナさんといい、妙なやつらと組むなぁw
375 :
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:24:28.04 ID:f4/1dC++
投下します。
376 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:24:42.91 ID:tvHvrqHL
377 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:25:14.63 ID:5A3XOIbK
378 :
モーニングティーを飲みに行こう
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:25:29.89 ID:f4/1dC++
◇ ◇ ◇
「ほおお、ここがあの『でんしゃ』に乗るための施設か。
…………あァ? なんだ、この扉は。この俺の前に立ち塞がろうってのかァ?
はん! こんなもんで! 妖(バケモノ)を! それもこの紅煉を! 止められるもんかよォ、バァァァカ!!」
と、チャイム音を鳴らす自動改札機を盛大に罵ると、紅煉は舌を出しながら浮遊した。
生き血より赤い舌を見せつけたまま、堅く閉ざされた扉の上を飛んで行く。
重力に逆らうことのできる妖に、足元を封じる扉などなんの役目も果たせない。
自動改札機を越えて駅内に侵入すると、紅煉は振り返って右掌を自動改札機に向ける。
「ま、この紅煉にかかりゃあこんなもんよ。ハッハッハッハッ!」
高笑いとともに放たれた雷により、ずらりと並んだ十の自動改札機すべてが粉砕された。
あろうことか妖を扉一枚ごときで塞き止めようとしていた不届き物は、これにて思い上がりを痛感させられたのであった――
うしろを行く秋山優は、妖VS自動改札機というきわめて珍しい対戦カードを冷ややかな目で眺めていた。
思えば、秋山が何気なく「とりあえず駅に向かおう」と漏らした時点で、紅煉の様子はどこかおかしかったのだ。
数回聞き直して本当に電車に乗るつもりであると分かると、大きな口を歪めて鋭利な牙を露にした。
そのまま表情を直そうともせず、紅煉は急に秋山の前に出た。それまで渋々ついていくといった素振りであったというのに、いきなり先導し始めたのだ。
駅に到着するまでの間もずっと薄ら笑いが消えず、秋山は気味悪く思っていたのだが――ようやく理解した。
一度分かってみれば、簡単な話である。
秋山が紅煉自身から聞きだした情報によれば、紅煉は古代中国に生まれ妖となり、最近まで眠りについていたのだという。
電車に乗ったことなど、ありはしないのだろう。
やれやれと、秋山は知らず肩をすくめてしまった。
つまるところ、紅煉は電車初体験に胸を躍らせているだけなのだ。
「はぁ……まったく。
電車が動いているのかも分からないのに、そんなに張り切ってホームに行くなよ。
仮に動いているにしても、まず時刻表を確認しなくちゃ次にいつ電車が来るのかも分からない」
この言葉は、偽りである。
秋山はデパートを出る前に、上階から地上の景色を確認していた。
いざというときに上手く立ち回れるよう、戦場となる舞台に一度目を通しておいたのだ。
その際、秋山はレールの上を走る電車を目撃している。
電車が動いているのは、すでに知っているのだ。
秋山が時刻表を見て知りたいのは、『電車が動いているか否か』や『次に電車が来る時間』ではない。
『一日の運行ダイヤすべて』である。
いったい、電車がいつどの方向から来るのか。
正確に脳ミソに刻み込んでおけば、この場で効率よく動くことが可能となる。
これは、決して移動だけに役立つ情報ではない。命のやり取りにおいても、重大な要素となり得る。
とても敵いそうにない強敵から逃亡を図るにあたって、自分と仲間だけが電車に乗り込み相手を置き去りにできるよう時間を稼ぐこともできる。
また、ちょうど電車が来る時間を見計らって線路に誘導すれば、本来なら勝ち目のない相手を落とす一手となる。
仲間に真実を話さず思惑を隠すメリットなどない。
ただし、紅煉は騙して従わせているだけの偽りの仲間。わざわざ隠し持つ手を教える道理はない。
しかし仮にこの場にいるのが紅煉でなく、金剛番長などの真実の仲間だったとしても、秋山は考えを告げはしなかっただろう。
相手に背を向けての逃亡や、線路に人間を引きずり込むなどの『卑怯』。
そんなものを用いる目論みを明かせば、秋山が信じる仲間たちは決していい顔をしないはずだ。
彼らが好まない手を使うのは、秋山だけでよいのだ。
彼らがためらう戦法を、秋山は欠片も躊躇せずに取ることができる。
なぜなら、秋山優は卑怯番長なのだから。
大切なものを守るためならば、どこまでだって卑怯になれるのだ。
自動改札機の残骸を跳び越え、秋山は時刻表を探す。
電光掲示板のすぐ下にあるのを発見して目を凝らそうとすると、突如ホームのほうから少年の叫び声が響いた。
「紅煉ぇぇぇぇんッ!!」
379 :
モーニングティーを飲みに行こう
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:26:06.87 ID:f4/1dC++
続いて、耳をつんざく雷鳴が二つ。衝撃によって、駅全体が揺れ動く。
その強大さは、自動改札機を破壊した際の比ではない。
まずいと思ったときには、秋山の身体は動いていた。
ホームに駆けつつ、腰にかけていたホルスターからサバイバルナイフを抜く。
デパートにて回収した刃渡り十四センチの得物は、普段扱っている暗器と比べると非常に心もとなかった。
「やめろ、紅煉ッ! 天地万物の正義を――」
階段を駆け上がりホームに到着すると、紅煉は右手に雷を集束させていた。
風になびく漆黒の体毛に隠れて、秋山には相手の姿を捉えることはできない。
「をいをい、をいをいをいをいをいをい。
卑怯モンよォ、お前勘違いしてんじゃあねえか。をい」
紅煉は青白い火花を散らしながら手首を捻り、とがった爪を前に向ける。
「仕掛けてきやがったのァ、アイツだぜ。
殺しにかかってくる輩相手に傍観して、むざむざ殺されろってのか?」
言い終えるより早く、紅煉は跳んだ。
それにより、秋山はやっと少年の姿を視認することができた。
短く刈り上げられた髪に、黒い制服、成長途中と思われる体型、太い眉。
秋山に支給された端末に『蒼月潮』という名で登録されていた参加者である。
端末によると、『獣の槍』に選ばれ『とら』とともに悪しき妖と戦ってきた少年、とのことだったはずだ。
紅煉の欄にもあった『妖』などの単語が使われており気にかかっていたが、先ほど紅煉の名を呼んでいたことで確信できた。
蒼月潮は、紅煉をかねてより知っているのだ。
「どいてろ、兄ちゃん!
そいつの電撃や炎に気を付けて、できるだけ遠くまで逃げてくれッ!」
確信を裏付けるように、潮が声を張り上げた。
視線を紅煉に向けたまま、不格好な槍を構えている。
そんな潮を嘲るように、紅煉は哄笑する。
一しきり笑ったのち、落ち着いてから静かに言い放つ。
「獣の槍装備でしかも相方と一緒でも、まーったく敵わなかっただろうが。
だってのに、そんな出来損ないの槍で? そいつを逃がす隙を作る? はッ!
いまのテメェにンなことできるわきゃねえってことくれェ、考えなくても分かんだろォォォが!」
潮は言い返すこともできないらしく、歯噛みするだけだ。
一方の紅煉は実力差を見せつけるかのように、雷を落として片っ端からベンチを破壊している。
秋山が、そんな両者の間に割って入る。
逃げろと促す潮の声を無視して、まず紅煉に一言。
「そこまでにするんだな、紅煉。
話せば済むだけだと分かってるんだろう」
「けッ! なんでわざわざバラさなきゃならんのだ」
悪態を吐く紅煉に耳を貸さず、秋山は潮に向き直る。
参加者情報を知っていることが明らかになるのは好ましくなかったので、まず名乗ってから相手の名前を尋ねた。
そうしてから、本題に移る。
「僕は符咒士でね……符咒士って分かるかな?」
言いながら、秋山がポケットから霊符を取り出す。
しばし目を見張ってから、潮は勢いよく首を縦に振った。
380 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:26:34.11 ID:5A3XOIbK
381 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:26:43.65 ID:tvHvrqHL
382 :
モーニングティーを飲みに行こう
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:27:20.51 ID:f4/1dC++
「アイツに襲われたときに、爆砕符という霊符を飲み込ませた。
僕が一たびアレを起動させる詠唱を唱えれば、爆発を起こして息絶えるワケさ。
あの符は周囲のエネルギーを喰らい、爆発の動力とする。アイツほどの妖ならば、楽には死ねないだろうね」
なにからなにまで、出まかせである。
一から十までどころの話ではない。そもそも、〇から嘘なのだ。
霊符の説明書によると、符には妖の力を弾く種類や吸収する種類もあるのだという。
ならば吸収して弾くのもあろうという、秋山の勝手な想像である。
なにからなにまで嘘っぱちであるのだが、視線の片隅にいる紅煉はガタガタと震えていた。
「だ、だけどよォ……だったらなんですぐに倒さねえんだ……?
優兄ちゃんは知らねえかもしんねえけど、アイツはいろんな人を殺して喰った最悪の妖なんだぜッ!?」
「バッ! テメェ、余計なこと言ってんじゃ――」
「知ってるさ。襲いかかってきたときの口調や素振りで、それくらい分かったよ」
狼狽しだした紅煉の声を遮るように、秋山は続ける。
「だからこそ、ね。
さんざん好き勝手やってきたのにすぐに殺すんじゃ、こいつに食べられた人たちの気が晴れない。
せいぜいこのプログラムとやらを打破する僕の手伝いをして、人間の役に立ってもらわなくちゃ……ね」
言い切って、微笑む。
殺す手段を手に入れ次第、すぐに殺すつもりであるというのに。
それを悟られぬよう、秋山は笑う。
紅煉は、ただただ鋭い牙を軋ませるだけであった。
潮も思うことはありそうだったが、なにも反論できないらしくもごもごと口を動かしているだけだ。
気付いていながら、秋山は卑怯にも見ないフリをした。
人を喰った妖を生き長らえさせておくなど、納得がいかなくて当然だ。秋山にだって分かっている。
無理矢理な話をあたかも真実であるかのように振る舞っているのだ。
『間もなく、一番線に【モチノキ森街】行きがまいります。
危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください』
唐突にアナウンスが響き、電車がホームへと入ってくる。
空気が抜けるような音とともにドアが開くが、乗客はいないらしく誰も下りてこない。
電光掲示板によれば、十分ほど停車して発進するらしい。
きっちりと時刻表を頭に叩き込んで、秋山が電車に向き直る。
紅煉はとうに入り込んでいたらしく、車内を浮かびながら吊るされた広告やら吊革やらを怪訝そうにつついていた。
時間に余裕があるうちに乗車しておこうと、秋山は乗車しようとして、潮に腕を掴まれた。
潮も駅にいたのだから、電車に乗るつもりだったはずだ。なのに、どうして引き留めるのか。
秋山は尋ねようとするも、言葉にはならなかった。
「危ねえ、優兄ちゃん!」
左手で思い切り秋山を引っ張り、潮は右手だけで槍を振るう。
低い身長で長い得物を上手く操っているとはいえ、片手でしかも異なる動作と同時進行の一撃だ。
人間一人引っ張っている分だけ体重を得物に乗せきれず、槍は空を斬るに終わる。
体勢を立て直した秋山が視界に捉えたのは、二体の動物であった。
ウサギとトラのようだが――違う。
ウサギのほうは四足が節足動物じみており、耳が妙に長く鉛のように見て取れる。
トラのほうには体毛がまったくなく、全体的に流線型のフォルムをしている。
二体ともに、既存の生物ではありえない。
383 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:27:28.18 ID:tvHvrqHL
384 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:27:30.11 ID:5A3XOIbK
385 :
モーニングティーを飲みに行こう
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:27:56.93 ID:f4/1dC++
「――ッ」
秋山は反射的に疑問を口にしようとして、どうにか呑み込んだ。
符咒士と偽っている以上、妖と判断しなくてはおかしいのである。
サバイバルナイフを抜いて、飛びかかってきたウサギ妖を弾く。
ウサギの耳と刃が接触して響いたのは、金属同士のぶつかり合う耳障りな音であった。
僅かにタイミングをズラして突進してきたトラに、秋山は霊符をかざす。
すると、トラは急に足を止めた。さながら、こちらの出方を窺うかのように。
こちらを眺めながら、紅煉が納得したように口を開く。
「はん。首輪がねえと思ったら、式神か。
ニンゲンに仕えるようなヤツは、そりゃあ霊符を警戒するわな」
式神という言葉は、秋山も知っていた。
陰陽師の使役する使い魔のようなものだ。
となれば、この二体を操っているものが近くにいるのだろうか。
秋山の抱いた疑問に答えるかのように、紅煉が舌を打つ。
「ちィ、主人は近くにいやがらねえな。
俺の黒炎を使えねえようにしといて、式神はありたァどういうこった」
紅煉は不愉快そうに吐き捨てると、電車の広告に視線を戻す。
どうやら、手を貸してくれるつもりはないようだ。
全員が見合っている状況を崩したのは、潮であった。
己を奮い立たせるかのごとく声を張り上げて、式神へと突っ込んでいく。
いきなり紅煉に仕掛けたとの言葉通り、どうにも待つのが苦手なタチらしい。
その勢いは凄まじく、一気にトラ式神との距離を詰めて一刺しにした――かに見えた。
槍が触れる寸前で、トラ式神の姿が掻き消え、次の瞬間には潮の背後で大口を開けていた。
「なあ――ッ!?」
驚愕の声が、二つ重なる。
あまりの早業であった。
まさかとは思いつつも、瞬間移動という可能性が拭えない。
戸惑いながらも、秋山は霊符を纏わせたヒョウを投擲する。
「十五雷正法『七排』ッ!」
ヒョウがトラ式神に突き刺さり、霊符に内包された霊力が炸裂する。
甲高い悲鳴をあげ、トラ式神はまたしても離れた位置に一瞬のうちに移動する。
よもや本当に瞬間移動なのだろうか、と秋山が思い始めたころであった。
霊力が爆発する光に紛れて接近してきていたウサギ式神が、刃じみた耳を秋山へと伸ばしていた。
ちょうど投げてしまったところであり、新たなヒョウを取り出すことができない。
避け切れないと妙に冷静に結論を出し、秋山は左腕を掲げた。
腹を斬られるよりも腕のほうがマシだという判断だ。
だが、ウサギの耳が血液に塗れることはなかった。
肉を斬る直前で、赤く燃え盛る炎に覆われたのである。
秋山が振り返ると、いつの間にか電車から出てきていた紅煉が炎を吐いていた。
「オイ、式神ィィ!
人を喰らおうが殺そうが、知ったこっちゃねえがなァ!
そこの卑怯モンは、俺が喰うんだッ! 先に狙ったのはこの俺だッ!
ニンゲンに従ってやがるテメェなんぞに、肉片一つ血ィ一滴やるかよォ!!
かッ! テメェら式神ごときは、せいぜい人間の霊力だけ喰って生きてろや!
あんな微々たるもんで満足してるのがお似合いだろうが、式神ごときゃあよォッ!!」
386 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:28:17.99 ID:tvHvrqHL
387 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:28:19.63 ID:5A3XOIbK
388 :
モーニングティーを飲みに行こう
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:28:47.77 ID:f4/1dC++
秋山優に頭の上がらない自分を棚に上げて、紅煉は人間に使役されている式神を罵倒する。
そして電車の車体を蹴って、自分の吐き出した炎へと飛び込んでいく。
炎のなかで未だのた打ち回る式神に、口に備え付けられた三振りの霊刀を突き刺す。
「――けひゃっ、ひゃっひゃっ、ひゃははあああァァァーーーーッ!
死に晒せ、クソ式神がッ! 人の獲物に手ェつけようとしやがった罰だッ」
ウサギ式神の体表は黒く焼け焦げており、霊刀で貫かれた箇所からは泡のようなものが溢れている。
霊刀の効力を受けて、式神を構成する霊力が中和されて肉体を保てなくなっているのだ。
術者の元に戻ろうとしているようだが、三つの刃に肉体を固定されており動けない。
紅煉は霊刀を一閃することなく、突き刺された箇所から少しずつ全体に効力が及ぶのを待つ。
ウサギ式神の断末魔の絶叫は、全身が液体化して地面に零れ落ちるまで続いた。
なにやら紙片のようなものが残されたが、ほぼ墨化しており読むことはできない。
駅のホームに残された奇妙なシミを踏み締め、紅煉は口角を吊り上げる。
「助けてやったぜ、卑怯モン」
「遅いよ、まったく。生きたまま僕を喰らうとか言っていたクセに」
「けッ! 腕一本捨てる覚悟までしてた分際で、減らず口叩きやがって」
口の達者な秋山に毒づいてから、紅煉は思い出したようにもう一体の式神に向き直る。
掌に電撃を纏わせながら、吐き出した炎とは対照的な氷のように冷たい視線を飛ばす。
「そこな三下ァァ! テメェは、いってえどうすんだ?
万に一つどころか億に一つも勝ち目のねえ俺に挑むかよ。
俺ァ別にどうでもいいんだぜ、テメェら式神なんぞはよォ。
ブチ殺したとこで、ただ霊力だけがその場に残るだけなんてクソつまんねえ。
ニンゲンみてえに喰えもしなけりゃ、妖みてえに血肉を撒き散らすこともしねえ。
ようは、テメェらなんの役にも立たねえってこった。いわゆる『めりっと』がねえっつーのか?
俺の喰う獲物にツバつけやがったんならともかく、そうじゃねえなら殺したところで意味がねえんだよ」
トラ式神は紅煉を見つめたまま、僅かに硬直し――そして掻き消えた。
駅の端に気配が移り、次の瞬間移動で駅外に出て行った。
「トンズラこきやがったか、雑魚が」
追おうともしない紅煉をよそに、戦闘態勢を保っていた潮の顔色が見る見る青くなる。
「しまっ、ヤベえ……ッ! クソッ!」
「……ッ! 待つんだ、潮!」
駅の出口につながる階段に走ろうとする潮の肩を掴んで、秋山はどうにか制止する。
式神を追うつもりのようだが、瞬間移動を駆使する相手を槍一本で仕留められるとは思えない。
そう言い聞かせると、潮は俯いて搾り出すように口を開く。
「あっちには、バイオレット姉ちゃんがいるんだ! 姉ちゃんの身が危ねえんだよッ!
兄貴に兄弟たちと一緒に殺し合えなんて命令されて、しかも妖に襲われるなんて……とても可哀想すぎて放っておけねえよッ」
バイオレットとは、間違いなくキース・バイオレットのことであろう。
参加者情報を確認した秋山が、現状もっとも会いたかった参加者の一人だ。
キース・ブラックをトップとする秘密組織『エグリゴリ』の最高幹部『キースシリーズ』の一人にして、唯一の穏健派。
あくまで支給された参加者情報を信じれば、の話ではあるが。
ともあれプログラムに関する情報を探すに辺り、『オリジナルARMS』の三人と同じく接触しておきたかった。
キース・バイオレットの名が唐突に出たことで、秋山の力が意図せず緩まってしまう。
その隙に、潮は秋山の手を振り払う。
「悪い、優兄ちゃん! また会おうな!」
短く言い残して、階段を駆け下りていく。
その後姿を眺めながら、秋山は傍らの紅煉へと語りかける。
389 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:29:01.55 ID:5A3XOIbK
390 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:29:14.72 ID:tvHvrqHL
391 :
モーニングティーを飲みに行こう
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:29:17.81 ID:f4/1dC++
「しようがない。僕らも行こうか」
「あ゛ァ!? 電車はどうなんだよ、オイ!?」
「そんなこと言われてもね。
キース・ブラックと関係がありそうなキース・バイオレットがいるんだよ?
当てもなく電車に乗るより、そちらに向かったほうが情報を得られそうじゃないか。
プログラムの打破なんてしようともせず、人間に殺し合いを強いられてる現状を黙って受け入れるのなら構わないけど」
「ぐ、ぐぅぅ……ちィィ! しゃあねえな、クソッ!」
「それに――」
秋山が何ごとか口にしようとすると、ホームにサイレン音が響く。
『一番線、ドアが閉まります。ご注意ください』
アナウンスが続き、電車がゆっくりと発進する。
遠ざかっていく車体を名残惜しそうに見つめながら、紅煉は尋ねる。
「さっき、なにか言おうとしたか?」
「いや、なんでもない。ただのたわ言だよ」
「あん? どーいうこった。言ってみやがれ」
「大したことじゃないと言っているだろう」
「いいから言え! 早う言え! ほれ言え! 言え言え言え言え言え言え!」
「……天地万物の正義を持ちて」
「言うなァァァァ!!」
黒ずんだガムのへばりついたアスファルトに手をついて、紅煉は土下座の体勢を取る。
そちらを見ようともせず、秋山は潮の駆け下りていった階段に向かう。
ほくそ笑みながらも、胸中で安堵の息を吐いていた。
他人には、とても話せないことを漏らすところだった。
本当に危ないところであった。
――血の繋がりがなかろうと、自分を『兄』と呼ぶのなら見捨ててはおけない。
などと、そのような甘い言葉。
この場にて卑怯番町として立ち回ることを決めた秋山優に、口に出してよいはずがなかった。
392 :
モーニングティーを飲みに行こう
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:29:38.31 ID:f4/1dC++
【E−5 モチノキ駅周辺/一日目 早朝】
【蒼月潮】
[時間軸]:26巻第42章『三日月の夜』直後。
[状態]:健康
[装備]:制服、即席槍(ジャバウォックの爪@ARMS+操り糸@からくりサーカス+神通棍@GS美神)、ヴィルマのナイフ(6本)@からくりサーカス
[道具]:基本支給品一式、操り糸(3/4)@からくりサーカス
[基本方針]:仲間を集めて殺し合いを止める。とら? 勝手にしろィ! 式神を倒す。
※バイオレットからプログラムについて他のキースシリーズ、オリジナルARMS勢の情報を貰いました。
ただし、ARMSについては教えて貰っていません。
【秋山優(卑怯番長)@金剛番長】
[時間軸]:最終決戦後、後日談の前
[状態]:疲労(小)
[装備]:霊符(残り32枚)、ヒョウ(残り17本)、参加者名簿入り携帯端末@オリジナル(ポケット)、サバイバルナイフ(腰)@現地調達
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、ヒョウ(25本)&符(50枚)&十五雷正法説明書@うしおととら、
、不明支給品1(秋山は確認済)、1〜3(秋山と紅煉が確認済み)、デパート内で回収したものいろいろ
[基本方針]:あらゆる卑怯な手を使ってこの街から脱出し、家へ帰る。体内に爆砕符があると思い込んでいる紅煉を脅してうまく利用する。喫茶店に向かう。
【紅煉@うしおととら】
[時間軸]:本編にて死亡後
[状態]:ダメージ回復
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:秋山優をなんとか隙を見て喰い殺す。それまでは死にたくないので従う。秋山を殺せたらあとはひたすら参加者を喰い殺す。喫茶店に向かう。
※「黒炎(分身というか手下と言うか、まあセルジュニアみたいなもの)を生む能力」は制限により使用不可。
393 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:30:10.42 ID:tvHvrqHL
394 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:30:10.49 ID:5A3XOIbK
395 :
モーニングティーを飲みに行こう
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:30:14.22 ID:f4/1dC++
◇ ◇ ◇
式神を放った張本人であるフェイスレスはというと、彼もまた喫茶店にキース・バイオレットがいるという情報を手に入れていた。
それだけではなく、ARMSやエグリゴリについてもある程度把握することができた。
とはいえ説明したのが新宮隼人であるので、若干つたない解説ではあった。
曖昧な点が多く、それについてはバイオレットに確認しようと結論付ける。
「しっかしフェイスレスさんよォ、いったいどうやって向こう岸からこっちまで来たんだ?」
これまでに遊んだ参加者たちと違い、フェイスレスは隼人には自分の名を明かした。
顔面も才賀正二のものに変化させず、人形破壊者(しろがね)の司令たるフェイスレスの顔にサングラスをかけている。
オリジナルARMS『騎士(ナイト)』を持つ隼人は、プログラムを破壊する上で最上の駒となりうる。
才賀正二と名乗って戯れた参加者と異なり、以降も関係を継続させたいのだ。
余計な遊びをしていい相手ではない。
フェイスレスの目的は、あくまで才賀エレオノールとともに生きること。ならばプログラムを破壊せねばならないのは、絶対だ。
それに、『フェイスレスが殺し合いに乗っていない』と知っている隼人が才賀勝と出会ったなら、聡明な勝はすべてを察するはずだ。
フェイスレスがなにを望み、いったいなにのために殺し合いを破壊しようとしているのか。
その程度、容易く読み取ってのけるに決まっている。
何せ、同じ記憶を持ち合わせているのだから。
フェイスレスの思惑を理解すれば、勝は余計にフェイスレスの思惑を他人に明かすことはできなくなってしまう。
『柔らかい石』をも作り出した一流の錬金術師たるフェイスレスは、プログラム破壊において非常に頼りになる存在だ。
にもかかわらず、そんな頼みの綱の目論見を打ち明けてしまえば――
プログラムに反対する参加者たちは、二分されてしまう。
フェイスレスを頑なに拒絶するか、甘んじて受け入れるか。
一度集団が二分してしまえば、もうお終いである。
目的が同じだというのに、二度と合わさることはない。
利口な勝は予想することができ、だからこそフェイスレスの企みを一人で抱え込むだろう。
「ははは! さっき言った通り、僕は人形破壊者だからね!
もう少し距離があったらまずかったけれど、これくらいならひとっとびさ!」
人形破壊者の知り合いについても、フェイスレスは隼人に言っておいた。
彼らもまた優秀な駒となりうる。
隼人と駒同士でつるんでくれると、非常にありがたい。
「スゲーヤツばっかかよ、ここは……」
隼人は冷や汗をたらしているが、話によれば彼は全身をARMS化させれば高速で飛行することが可能だいう。
また金剛番町とやらの知り合いについても、詳細を知ることができた。
思っていた以上に強者揃いらしいと、フェイスレスはプログラムに関する認識を改めた。
「んじゃフェイスレスさん、俺行くわ」
「うむ。友達に……会えるといいな」
「ああ、ついでにフェイスレスさんの仲間も探しとくぜ!」
「うむ。先ほども言った通り、ここには人の血をすすって動力源とする自動人形(オートマータ)がいるから注意したほうがいい」
「オーケーオーケー、覚えてるって!
ナイトのブレード見せたらヤベーんだろ? つっても、これに頼るっきゃねえんだけどなァ」
その自動人形を作ったのは、フェイスレスであるのだが。
さすがに、それを打ち明けはしなかった。
フェイスレス司令らしい大げさな動作で手を振って、隼人を見送る。
それから喫茶店に向かおうとして、フェイスレスは胸元をさすった。
隼人との会話中、胸ポケットに入れておいた式神札に異変が生じたのだ。
立て続けに二回と、しばらくしてもう一回。
取り出してみれば、札のうち三枚が真っ二つに破れてしまっている。
396 :
モーニングティーを飲みに行こう
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:30:42.50 ID:f4/1dC++
「……ちぇっ。やられちゃったのか、よっわいなぁ」
自らの送った使いが殺されたというのに、フェイスレスはなんの感慨もなさそうに破れた札を捨てた。
数歩進んだころには、もう息絶えた式神のことなど思考の片隅にもなかった。
糸の切れてしまった人形に、興味など沸くはずもないのだ。
【C−5 河原東側/一日目 早朝】
【新宮隼人】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:健康、共振波を放出中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(未確認)
[基本方針]:仲間たちと合流してブラックのプログラムを叩き斬る――が、その前にまず高槻を探す。
※ある程度近づかなければ、ARMSの共振を感知できないようです。完全体となった場合は不明。
【フェイスレス】
[時間軸]:28巻、勝にゲームを申し込んだ後。
[状態]:健康、インドラ@GS美神に乗っている
[装備]:エネルギー結晶@GS美神(体内)、クピラ(肩)・インドラ(乗っている)@GS美神、言霊@烈火の炎(体内)
[道具]:式神十二神将の札×9(マコラ、ショウトラ、アジラ、サンチラ、シンダラ、ハイラ、他は空)@GS美神
ガッシュの魔本@金色のガッシュ、基本支給品一式×2
[基本方針]:愛しの人を手に入れるべく、エレオノールと才賀勝の捜索。才賀正二の悪評を広めるのも忘れない。喫茶店に向かう。
397 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:31:18.08 ID:5A3XOIbK
398 :
モーニングティーを飲みに行こう
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:31:29.86 ID:f4/1dC++
◇ ◇ ◇
式神が一体、妖が一匹、人間が二人、身体のほとんどを機械化させたしろがねが一人。
やたらと多種多様なものたちが訪れようとしていることなど、露ほども思わず。
キース・バイオレットは、地図にも乗っていない喫茶店で一人たたずんでいた。
しばらくぶりにティーカップを口に運び、すっかり紅茶が冷めてしまっていることに気付く。
道理で味気ないはずだと考えかけて、バイオレットは自ら否定する。
これまで生きてきたなかで、なにかをおいしいと思ったことがどれほどあっただろうか。
豪勢な食事を振舞われても、高級な茶葉から紅茶を抽出しても、ルビーのように輝く酒を注がれても――
それらを口にして幸福に感じたことなど、一度たりともない。
いつだってついて回るのは、キースシリーズとしての運命だ。
どんな食事を前にしても、自分を囲む砂時計の存在が頭から離れない。
周囲には自分や家族を覆う壁があり、上からかぶさる砂があり、下にはそれらをゆっくりとだが確実に奈落に落とす穴が開いている。
壁を破ることも、砂を払いのけることも、穴を塞ぐことも、バイオレットにはできなかった。
戦うことなく、家族やオリジナルARMSたちが平穏にくらす――そんな理想は夢に終わってしまった。
『プログラム・バトルロワイアル』の詳細は分からないが、絶望を求めるキース・ブラックの計画だ。
戦わずに済む結末を模索していたバイオレットの思惑から、確実にかけ離れていることだろう。
希望を抱いたこともある。
オリジナルARMSの少年とティーパーティを行った際、未だ未来を諦めていない彼らが羨ましかった。
自分も足掻いてみようと、心から思うことができた。
望む未来を掴もうとする彼らの瞳が眩しく、正面から見ることはできなかったけれど。
それでも、正視できずとも、たしかに明るく暖かかった。
あのとき飲んだエスプレッソは豆の挽き方が悪く、はっきり言っておいしくはなかったのだが――温かかった。
バイオレットは生まれて初めて口に入れたものを、そう感じたのだ。
「ここでも……新宮隼人は止まらない。
私はこうして止まっているというのにな」
この地でも、バイオレットは彼のことを眩しくて見ることができなかった。
隼人に続いて入店してきた潮のことも同じく、であった。
一人で飲む紅茶はおいしくもなければ、温かくもない。
冷めた紅茶を飲み干して、新しく紅茶を入れ直しても変わらない。
「当然……か」
合点がいったかのように、バイオレットは一人深々と頷いた。
【E−5 喫茶店/一日目 早朝】
【キース・バイオレット】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にてオリジナルARMSたちがカリヨンタワーに乗り込む直前。
[状態]:健康、共振波を放出中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜2(未確認)
[基本方針]:キース・バイオレットとして行動する……? ひとまず喫茶店に留まり、入ってきた参加者に対応。
※参加者の情報をブラックから聞かされています。
※ある程度近づかなければ、ARMSの共振を感知できないようです。完全体となった場合は不明。
【備考】
※アンチラ@GS美神が、所持していたメモごと消滅しました。
※メキラ@GS美神は、東に進んでいます。
※バサラ@GS美神、ビカラ@GS美神、アンチラ@GS美神の札は破られた状態で捨てられました。
399 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:31:39.37 ID:tvHvrqHL
400 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 22:32:17.41 ID:tvHvrqHL
401 :
◆hqLsjDR84w
:2011/11/25(金) 22:32:34.46 ID:f4/1dC++
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘お願いします。
402 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/25(金) 23:33:58.23 ID:5A3XOIbK
執筆お疲れさまでした。
ああ、いいな……キャラがみんな伸び伸びしてるし、台詞がじつにらしい。
とくに卑怯番長と紅煉のコンビ、読めば読むほど魅力的だなぁ。
なんだかんだ綱渡りしてる卑怯番長の『兄』成分の出し方も良い意味で卑怯だったw
バイオレットの心の動きも、彼女が喫茶店に留まってるからこその静けさと柔らかさで
良かった。隼人とフェイスレスのパートが会話文あり・短めで疾走感があるからこそ、
最後にきたこのパートが映えてる。しんみりする……のかな、読後感がすげぇ良かったです!
403 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/26(土) 12:51:00.52 ID:4BrUyzbN
乙ー
なんか秋山と紅蓮の関係が初期のうしおととらの寒けに被って見えてせつねえ。
うしおはこれからもうしおのままでいられるかなぁ……
404 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/26(土) 20:14:46.73 ID:rgfmLIq+
投下乙です
言いたい事は俺より上手く上で言われているなあ…
いやあ、よかったです
GJ!
405 :
◆hqLsjDR84w
:2011/11/28(月) 03:15:33.21 ID:C3nCum/Y
感想ありがとうございます
そんで、その、なんていうか、wiki編集しようとして気付いたことがあるのですが……
卑怯番長の左腕ってさ、マネキン加工してブッ刺しただけだし…… い ま 動 か せ ね え じ ゃ ん !
wikiで直しときます! すんません!w
406 :
◆hqLsjDR84w
:2011/11/28(月) 03:18:03.30 ID:C3nCum/Y
あ、あと残り容量50kbないんで、予約してる方は注意しといたほうがいいかもです
楽しみだぜ
407 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/28(月) 17:35:14.67 ID:LjxepuvT
全然気付かなかったw
修正乙です
408 :
創る名無しに見る名無し
:2011/11/28(月) 20:19:02.80 ID:46+4zZXc
まぁ原作でも、あの義手で今まで普通にアクションしてたのはわけわからんレベルだがw
どういう技術で作った義手だよw
409 :
◆c8fjjCyRkM
:2011/12/03(土) 00:33:30.58 ID:xME8IE7y
投下します
410 :
流と耕助
◆c8fjjCyRkM
:2011/12/03(土) 00:34:05.53 ID:xME8IE7y
植木耕助は、歩き続けていた。
溢れる涙によって視界がにじみ、足元さえかすんで見える。
いかに十つ星天界人といえど、前が見えなければ足取りは覚束なくなってしまう。
だというのに、植木は涙を拭こうともしなかった。
それをするためには、抱えているものを手放さねばならないからだ。
少しずつ冷たくなっていく老人、ナゾナゾ博士をもう放置することはできない。
植木が彼を置いて行った為に、彼は死んでしまったのだ。
もう二度と仲間から目を離さないと、植木は誓った。
ほとんど霞がかった視界のまま、ひたすら歩く。
「そこの緑髪ボウズ」
不意に声を浴びせられ、植木はそちらを振り向いた。
ぼんやりと見えたのは、人影が二つ。
一人は短い茶髪で、もう一人は長い金髪。
体型からしてどちらも大人のようだ。
その程度しか、植木には分からなかった。
返事をしようとして、声をかけてきた茶髪の方が続ける。
声から察するに、声の主は男性らしい。
「なんつうもんを背負ってんだ。その爺さん、死んじまってるぜ」
「知ってる。分かってるよ……」
「ならどうして背負ってんだよ。死んだってのに、まだ引き連れられてくなんて可哀想だろ。いい加減に休ませてやるのが道理ってもんだぜ。……それとも、死体を使って何かやろうと企んでやがんのか?」
「……ち、違えよっ!」
思わぬ容疑をかけられ、植木は咄嗟に否定した。
すると、それまで飄々としていた声色が、急に低くなる。
曖昧な視界であったが、相手の目付きまでも鋭くなったような感覚があった。
「だったら、何考えてんだ」
言って、男は何か輝く物を取り出した。おそらくは武器だ。
答え次第では、これを振り下ろすことになる。
動作だけで、雄弁に語っていた。
なので、植木は慌てて答える。
「ナゾナゾ博士は、俺のせいで殺されちまったんだ! 俺が、安全な場所に避難させたつもりで戦ってたから! そのせいで! だから、もう置いてけねえよ!」
怒鳴るような口調に最も驚いたのは、他ならぬ植木自身であった。
落ち着いて説明せねばならないはずなのに、不思議と声を張り上げていた。
「だが死んでる」
「さっきから分かってるって言ってんだろ! もう放っておいてくれよ!」
「いや、放っちゃおけねえな」
「なんで……! いちいち何なんだよ、あんたは!」
「なんでっつわれてもなぁ、こっちも分かんねーんだけどよ。お前みたいなガキ見てると、ついちょっかいかけたくなっちまうんだよ。俺ってのは」
相手の考えがまったく分からず、黙り込む植木。
どう返すか迷っているうちに、男は武器を仕舞って歩み寄ってくる。
まるで子どもに言い聞かせるかのように、耳元で口を開いた。
411 :
流と耕助
◆c8fjjCyRkM
:2011/12/03(土) 00:35:34.64 ID:xME8IE7y
「お前が悪い奴じゃねえってのはよぅく分かったし、言ってることだって別に間違ってるってわけじゃない。けどな、やっぱ死体背負うなんざやめとけ」
「だから」
「いいから聞けよ。その爺さんだって、お前がそんだけ気にするってことは良い人だったんだろ。殺し合えって言われても、すんなり言うこと聞いたりしねえような」
「ナゾナゾ博士は、こっから皆で脱出する方法を探してた」
「やっぱな。話したことねえ俺でさえ想像ついたんだぜ。一緒にいたお前なら分かんだろ、そんな爺さんがお前に後悔して欲しいなんて思ってるわけねえって」
「……」
「皆で逃げる方法探してたんだろ? なのに、死んじまった自分をずっと引きずってる仲間なんて、見たいわけねえよ。出会ったのが俺たちだからよかったけど、人殺しだったら死んじまってたぜ? 両手塞がってちゃあよ」
「だけど、俺のせいで」
「お前の考えなしで死んだってのは否定しねえよ、当事者が言うんならそうなんだろうよ。だけど、悔やむばっかじゃダメだってんだよ。後悔してるからって隙だらけの状態で歩いてておっ死んじまったら、それこそ爺さんが無駄死にじゃねえか。そうじゃねえだろ」
植木は、はっと目を見開いた。
男は一度息を吐いてから、強い口調で言い切る。
「爺さんのことを悔やむんなら、死体なんてひきずってんじゃねえ。そんな重てえもん背負ってふらふらしてる間に、人は殺されてくぜ。爺さんの目指してた皆で脱出から、どんどん離れてく。それくらい分かんだろ。体じゃねえ、持ってくべきなのは意思だ」
落ち着いてきていた植木の涙腺が、再び刺激された。
涙が溢れ出して、顔中を伝っていく。
ほのかに塩味を感じながら、植木は前に倒れ込んだ。
その体は地面に激突することなく、男の手に受け止められた。
ナゾナゾ博士と合わせて二人分の体重がかかっているというのに、男はびくともしない。
ようやく手で涙を拭って、植木は顔を上げた。
男の顔が、今になって初めて明らかになった。
短い茶髪を後ろに流した太眉の彼は、植木の顔を見てにやりと笑っていた。
「納得したんなら、いろいろ聞かせてもらうぜ。まずは名前からだ。俺は秋葉流ってのよ。お前は?」
◇ ◆ ◇ ◆
412 :
流と耕助
◆c8fjjCyRkM
:2011/12/03(土) 00:35:57.97 ID:xME8IE7y
「じゃあユーゴー、耕助を頼むぜ」
秋葉流は植木耕助を親指で差して、同行者のユーゴー・ギルバートに笑いかけた。
平静を取り戻した植木によれば、ナゾナゾ博士を殺した男がはたしてどうなったのかは確認していないという。
ぶっ飛ばしたとは聞いたし、それに使った神器という技の一つ『鉄』の威力を見せてもらったが、流は安心することはできなかった。
植木の口から告げられた言葉によれば、殺人者は人の悲鳴を好むという外道である。
そんなものがぶっ飛ばされた程度で、改心などするはずがない。生きていれば、また人を殺すだろう。
ゆえに、流は確認しに向かうことにした。
ことのついでに、どうやっても穴一つ開かなかったという結界についても調べてくるつもりである。
「でも流さん、一人で大丈夫ですか」
「日本番長の時と一緒で、危なくなったら逃げるさ」
微笑みながらの返答にも、ユーゴーは暗い表情のままだ。
これは、流のことが心配だからではない。
テレパシストであるユーゴーには、流の胸中に吹く風が見えてしまっている。
だからこそ彼を引き留めたいのだが、上手くいかなかった。
テレパシストであると明かしてしまえば止まってくれるだろうが、そんなことをすればもう終わりだ。
思考を読まれたと知れば、流は口封じを行うだろう。
そうなってしまえば、もはや流の考えを知るものが一人もいなくなってしまう。
それだけは、避けねばならない。
かといって、流に同行するわけにもいかないのだ。
「ま、心配しなさんな。逃げを選べる俺より、耕助の奴が一人で走り出さねえか見といてやってくれ」
流が視線を向けた植木耕助。
今は落ち着いており、民家から持ってきたスコップでナゾナゾ博士を埋葬する穴を掘っている。
しかし、放送の時刻は近い。
また、先ほどのように抱え込んでしまいかねない。
そうなったときにいち早く異変に勘付けるのは、テレパシストであるユーゴーだけなのだ。
「……分かりました。任せてください」
こくりと頷く以外、ユーゴーに選択肢はなかった。
413 :
流と耕助
◆c8fjjCyRkM
:2011/12/03(土) 00:36:18.41 ID:xME8IE7y
【A−5 東部/一日目 早朝】
【植木耕介】
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。ナゾナゾ博士を埋葬し、流を待つ。
【ユーゴー・ギルバート】
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。うえきとともに、流を待つ。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません
【秋葉流】
[時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前
[状態]:健康
[装備]:鋼金暗器@烈火の炎、金属片いくつか@現実
[道具]:ランダム支給品0〜1、基本支給品一式
[基本方針]:本気を出せるような強者と戦う。そのための武器を探す。木蓮を確認しに向かう。
414 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/03(土) 00:36:55.45 ID:xME8IE7y
以上です
415 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/03(土) 06:30:06.53 ID:ksY69fG9
執筆お疲れ様でした。
これは良い。丁寧に「背負うこと」を描いていった話だなぁ。
ナゾナゾ博士の全部をまっすぐに背負おうとしていた植木も、
彼の幼さをきちんと解体して、混乱を収めた流も良い奴だよ……。
流みたいに、類推でなく能力で相手の考えを知ってしまえるユーゴーの視点も
綺麗に拾ってスパイスにしてるのがまた素敵だ。
単品でもトスアップとしても、良い話でした。GJです。
416 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/03(土) 23:40:46.55 ID:/vCshTP9
投下乙
心配してたけど、植木は流の言葉で落ち着いたか
端から見ている分には本当にいい兄貴なんだけど、でも流のなかには風が吹き続けてるんだよな……
放送後、この関係はどいなってしまうのか
417 :
◆n0WqfobHTU
:2011/12/04(日) 21:35:27.43 ID:ykgi1STs
これより投下します。
418 :
ドクター・カオスとオリンピア
◆n0WqfobHTU
:2011/12/04(日) 21:39:39.93 ID:ykgi1STs
移動の最中、ドクター・カオスが妙な提案を持ちかけて来た。
マリリン・キャリーは、三順分ぐらい裏の裏の裏を読んだ上で、にっこり笑ってこれを了承。
ドクター・カオスは受け取った鞄を隣を歩くパルコ・フォルゴレへと手渡す。
移動の足を止める気はない。ならば作業は移動しながら行なわなければならない。
フォルゴレが抗議するように視線を送ってくるが、ドクター・カオスはこれを黙殺し鞄から伸びる糸を、その先の指にはめる輪をいじりまわす。
無言でこれらをいじっていたらそれはそれで怖いものがあるが、実際の所ドクター・カオスはぶつぶつあーでもないこーでもないと独り言を呟き続ける。
明らかに間違った単純計算結果を口にする事もあり、フォルゴレにもマリリンにもこの計算の意味する事が理解出来ぬまま。
しかし、その計算は本当に誤っているのだろうか。
2×2の答えは、万人向けのそれが4であるというだけで、周囲を取り巻く環境次第では、少なくともドクター・カオスが必要とした計算においては答えが5であり6であると誰が言い得ぬだろうか。
ましてや、理論や理屈で辿り着ける地平に存在しえぬモノを計算により理解しようとしたのなら、四則演算をまっとうに扱ってそれだけで答えを導き出せるはずがない。
顕現しかけた魔界への入り口を、ロクな端末を持たぬまま風水盤そのものに介入し更に別世界の扉を開く道具にしてしまう。
そんな馬鹿げた計算を成立させてしまう頭脳なればこそ、彼にとっては、彼だけにとっての計算は、2×2が5であって良い場合もあり、それを知っていればこそマリアに思わず尋ねずにはいられなかったのだ。自らが全てを注ぎ込んだ人造人間マリアに、これで、良いのかと。
そして今、ドクター・カオスの興味は、精密精緻な実用工芸品、操り人形オリンピアへと注がれていた。
長い年月をかけ効率化に効率化を重ねた機構には、糸一本の長さ太さに至るまで工夫を積み上げてあり、新たに加えるものも削るべきものも思いつきえない。
指先のリングより始まる造形は、糸の垂れ具合から収納された鞄に続く並び、そしてその内へと吸い寄せられていく銀糸と、ここまででも完璧な絵画を為しており、過不足を見つけるなぞ想像もつかぬ。
更に、ドクター・カオスの操作に従い、鞄を弾き飛ばすように中より現れ出でたるオリンピアに至っては、何をか言わんやである。
工学屋が、一枚の図面を極限まで突き詰め、過不足を無くす最大効率を求めようとするのなら、優れた芸術家の協力を頼むべきである。
工学屋が何日もかけ確認に確認を重ねた図面から、専門知識も何も無い状態の芸術家が直すべき箇所を的確に指摘してくれるであろうから。
極まった芸術には、無駄もムラも、あってはならぬものなのである。
それが、故に、オリンピアは、美しいのであろう。
ぎこちなくではあるが、オリンピアの上腕を右に左にきこきこ動かすと、マリリンも驚きの表情を見せる。
ボケ老人以外の役どころがドクター・カオスに用意されていたのが心底不思議でならないのだろう。
鞄の内にある間は抱える程度なら問題なかったフォルゴレであったが、鞄より飛び出したオリンピアの全身を抱えるのは無理がある。
行軍の著しい遅れを伴う行為であり、マリリンからは険しい視線が飛ぶも、ドクター・カオスはそんな視線に気付いていないのか、こちらの糸を引き、あちらの糸を捻りと試行錯誤を繰り返している。
マリリンは、通常であれば制裁なりの手段でドクター・カオスの自分勝手を諫める所であったが、そんな声をかけるのさえ少々躊躇われた。
ドクター・カオスの集中が半端ではないせいだ。
恐らく、人形以外見えていないというレベルまで人形操りに集中してると思われる。
オリンピアの完成度の高さが、ドクター・カオスをこんな有様になるまで惹き付けて已まないのだろうが、如何に対象が美の化身であろうと何処までコンセントレーションを深く出来るかは当人の能力に依存する。
マリリンは、それと悟り生唾を飲み込む。
ドクター・カオスが今行なっている集中の深さは、マリリンとて辿り着ける領域ではない。
何の準備もせず、日々の延長線で、朝一のミルクを飲み干す程度の気安さで、こんな集中が出来てしまう彼に、マリリンは戦慄を隠せず。
彼は、きっと天才と呼ばれる類の何者かなのだろう。
厳しい訓練により培われたマリリンの眼には、今、はっきりとドクター・カオスの正体が映っている。
419 :
ドクター・カオスとオリンピア
◆n0WqfobHTU
:2011/12/04(日) 21:40:16.24 ID:ykgi1STs
一見ではその役割すら理解しえぬような人形の機能を、瞬く間にその掌中へと納める、技術格差なぞ問題にもせぬ天才。
既にオリンピアはドクター・カオスの指示に従い、優雅に、一歩、また一歩と歩を進めているではないか。
その一歩づつの中に、ドクター・カオスの試行錯誤が数多積み重ねられており、それはある種の舞にも似た挙動を思い起こさせる。
荘厳で典雅なオリンピアの造りに相応しい、真白き薔薇が零れて見える優美な歩み。
マリリンはオリンピアより洩れ滴る美を、たった一点無視する事のみで満遍なく堪能する事が出来た。
少なくともマリリンの価値観では、そこに有益さを認めづらいものではあったが、それでも、これがマリリン以外の多数の人間にとって価値あるものであると理解出来るだけの感受性も持ち合わせていた。
そして、幼い頃より当然の如く優れた美術品と接せざるを得ないような国、イタリア出身のパルコ・フォルゴレ(局部に葉っぱ一枚装備)がこれに対し無反応でいられるはずもない。
「ドクター・カオス! 動く練習ならば、このパルコ・フォルゴレの踊りを真似るといい!」
ちんちちっちーおっぱーい、ぼいんぼいーん。もげ、もげ、もげ、ちちをもげー。
大地に深く突っ伏したマリリンは、そのおかげで、この世の地獄を見ずに済んだ。
ドレスをまとった貴婦人、そんな容貌のオリンピアが、醜悪と言っても過言ではない呪いのステップを踏んでいるのだ。
しかも、これを操るは女性用水着のみを身に纏ったジジイ。ドクター・カオス。
もしオリンピアに意志があったのなら、このファッキンジジイは百度地獄に叩き落しても飽き足らぬであろう。
いやさ、美に自覚があるのなら、こんな舞を強要された時点で割腹も辞さぬであろう。
ていうか、これ持ち主のギイに見られたら、殺し合い乗る乗らないに関わらず、百八つの破片に砕かれてもおかしくはない。
いやいや、ギィに限らぬ。世界中の美を理解しうる者ならば須らく、至高の芸術を穢した罪の償いをさせるであろう。
今、ここでそう出来るのは、マリリン以外ありえない。
目的に対し不要な労力を払うべきではない。そんな彼女の思考も理解出来ぬではないが、それでも尚、人形造形の傑作、オリンピアを穢した報いを。
そんな世界の声が聞こえた訳でもなかろうが、マリリンはフォルゴレの次なる行動だけは後頭部を銃の台尻でぶん殴り阻止した。
「よしっ! ならば次はボインチョップ……」
オリンピアの複数ある腕が、下から、上から同時に胸部をこう、ばいんばいんと叩いて……などというルーブル美術館に重油ぶちまけるような行為を阻止するに、やりすぎなどという言葉はありえぬだろう。
後頭部抑えたままのたうちまわっているフォルゴレを他所に、マリリンは当人冷静なままのつもりな引きつった顔で、ドクター・カオスに問う。
「……で、実用に耐えるのですかこの人形は?」
「うーむ、他の種の人形を見ておらんので断言は出来ぬが……ちと癖が強すぎるな。習熟が必要なのは当然にしても、操り手の能力に依存しすぎじゃ。それを敢えてこうして配っているという事は……」
「本来の操り手が居る、と?」
「その上で、本来の操り手はコレが無いとさしたる能力を発揮出来ん、のかもしれんのぅ」
ビッグな瘤を後頭部に作ったフォルゴレはうんうん、そうなんだよ的に頷いているが、無論話についていってるわけではない。
ドクター・カオスは手首を軽く振るう事で糸を手より外す。同時にオリンピアは小さく縮んでいき、外れた糸ごと鞄に収まってしまった。
マリリンはカオスの方を向かぬまま口を開く。
「予想される戦闘能力は?」
「何と比較するのが一番わかりやすい? 野生の獣か? 武器か?」
「軍人」
「そいつは管轄外じゃ。動物に例えるならライオンの群、武器に例えるなら装甲車一台分といった所かの。使い方次第で+-100%程度の誤差は出そうじゃが」
やはりドクター・カオスの方を見ぬままに、肩をすくめて見せるマリリン。
「それ、貴方の目が節穴なのか、その人形が未知数なのか、どちらかしら?」
420 :
ドクター・カオスとオリンピア
◆n0WqfobHTU
:2011/12/04(日) 21:45:58.93 ID:ykgi1STs
ふん、とドクター・カオスは鼻を鳴らした。
「最も高価で作成に時間のかかるパーツが欠けてる兵器を幾ら見た所で、最大戦力なぞ計れるものか」
結局、オリンピアは鞄に入れたまま持ち運ぶ事と相成った。
ドクター・カオスは、簡易な操作を理解する事に成功したが、あくまでこれは未知の技術を知る為だけのもの。
武器として活用しようと思ってやった事ではなかった。
自分達には扱えぬ強力な武器なぞさっさと破棄すべきなのだろうが、この場に招かれた他の人間がどんな連中なのかを見極めもせず、軽々に動く事も出来ない。
オリンピアを調べる過程で集中していた余波か、ドクター・カオスの思考能力は普段より高くなっており、誰にともなく言葉を紡ぎ続ける。
「会場周辺を覆うは結界。じゃが、解せぬのう。それだけで封じるにはこの場に集ったヤケクソな霊力魔力達相手には不十分すぎる。
他にも切り札のような……ふむ、三次元的な手法では無理?……なるほど、ならば一つ上の次元か。
となると、やはり鍵は美神のじょーちゃん……うぅむ、アレに頼るのはのぅ。自分含む全員の命が賭かってようと平然と金要求してくるじゃろうし……」
ぶつぶつと呟く声を、マリリンは一字一句漏らさず聞き取っていた。
最初に集められたあの面々の中に、危険極まりない存在が居る事にマリリンも気付いていた。
それも一人や二人ではないのだ。だからといって自身が容易く狩られる存在だなどとマリリンは露ほども思ってはいないが、警戒は十二分な程すべきである。
既に、中学生による神様決定戦からは逸脱しているとの自覚もある。
目立つ動きは極力避けて、じっと、まずは待ちの体勢で状況の変化に備える。
何処か高台の監視に適した場所を見つけ、身を隠しながら周辺を探る等、即座にどうすべきかの答えは出たが、同行者二人の意見もある程度尊重してやる。
即座の戦闘ならともかく現状のコレ二人を引き連れての交渉は、さしものマリリンも極めて困難であると結論づけているのだから。
フォルゴレは時折マリリンとカオスの会話に合いの手やらを入れていたのだが、全てスルーされた。
世界魔法「a piece of leaf」が局所を守る事で辛うじて存在を許されている、いわば崖っぷちのフォルゴレには、その程度の扱いがお似合いであるといえよう。
男の全裸なぞという、馬のクソにも劣る所業をかましておいて、生存が許されているだけでも感謝すべきである。
いや、やはりここは死すべきだ。
死んで世界全てへと謝罪すべき、そうそれはフォルゴレのみならずドクター・カオスもである。
一体、どういう事なのか。
世界的な大スターであるフォルゴレに、全裸の需要は確かにあるだろう。
本を出せば充分な話題性と共にかなりの利益を出しうるものである、フォルゴレはそんな存在であるが、しかし、それでも尚、死ぬべきだ。
肉がついてんだかついてないんだか、ほっそい体と人をコケにしてるとしか思えないにやけ面。
これが上半身裸でいるだけで、真空飛び膝蹴りかましたくなる。
しかるに上のみならず下までまっぱな現状に出くわしたならば、かましたくなる、ではなく既にかましてしまっていた、となってもおかしくはない。
いやむしろ顎を砕く勢いで叩き込むべきだ。
というか、馬鹿か? 馬鹿なのか? 死ぬ程馬鹿なのか? 死んでしまうのか?
すぐ隣に、じょしちゅーがくせー、が居るというのに、何故に故にフォルゴレとカオスなのだ。
幼少の頃より鍛えに鍛え、メンタル鋼な戦闘まっすぃーん、とはいえ外見他全てじょしちゅーがくせーなマリリンは、数多の男達の心の琴線に触れてしかるべき存在ではないのか。
中学生ですよ。ジュニアハイスクールですよ。挙句その年でありながら、生死の戦場に赴く指揮官としての心得を持っているのですよ。
年齢を考えて下さいよ。
一皮ぺろりと剥いたならその下にあるのは、瑞々しいまでの光沢を放つ肌。(←空想)
421 :
ドクター・カオスとオリンピア
◆n0WqfobHTU
:2011/12/04(日) 21:48:49.86 ID:ykgi1STs
若鮎のようにすらりと伸びたおみ足。(←妄想)
鍛えた弾力のあるぷりんぷりんのふともーも。(←願望)
理想的な線対称を描く鎖骨。(←マイノリティー)
佐野のレベル2なぞ比較にすらならぬ強力な吸い寄せ能力を誇るおしり。(←痴漢の正当化)
戦闘の最中なら隠す事すらしないが戦闘終わった途端気にして真っ赤になりながら隠すであろうむね。(←ドリーム小説)
ああ、言いたい。心の底から吠え叫び、魂の真奥より言の葉を解き放ってやりたい。
剥くんならマリリンだろうがクソがああああああああああああああああああああああ!!
一般的に、言いたい事を言いたいだけ言い放った者は、大抵言ってしまう事だけで満足するものである。
世界の悪意を代弁出来る立場の者が、それを為さず平穏無事に世界が回っていくのは、多分、そういう理由と思われる。
【B-3 東南・一日目 早朝】
【マリリン・キャリー】
[時間軸]:三次選考カプーショ戦後、植木戦前。
[状態]:健康
[装備]:軍服@うえきの法則、SIG-P220(7/9)@現実
[道具]:基本支給品一式、光界玉@烈火の炎、オリンピア@カラクリサーカス、石板@金色のガッシュ!!、SIG-P220の予備弾薬(9/9)@現実
[基本方針]:デパートに向かう。襲ってくる敵とは戦う。
【ドクター・カオス】
[時間軸]:妙神山壊滅以降、南極での決戦前。
[状態]:健康。精神的に少し落ち込んでる。
[装備]:スクール水着@現地調達、ファイティングナイフ@スプリガン
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:早くまともな服を着たい。知り合いには会いたくない。
【パルコ・フォルゴレ】
[時間軸]:アポロと出会った後、デボロ遺跡再突入前
[状態]:健康、全裸(局所に葉っぱ一枚)
[装備]:魅虚斗@烈火の炎、自衛ジョーの生き人形部隊@GS美神極楽大作戦!!、暗視ゴーグル@現実(自衛ジョーが所持)
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:マリリン隊長についていく。清麿達を探す。
422 :
ドクター・カオスとオリンピア
◆n0WqfobHTU
:2011/12/04(日) 21:49:20.41 ID:ykgi1STs
【暗視ゴーグル@現実】
暗闇でも昼間と同じ視界を得ることができる。八倍ズーム機能付き。
【SIG-P220@現実】
四五口径の自動拳銃。装弾数九発。弾は9mmパラベラム弾。
【光界玉@烈火の炎】
火影が作りだした魔導具の一つ。
形のあるなしに関わらず、あらゆるものを消し去る事が出来る。
但し、反作用として使用者の大切なものも消えてしまう。
反作用で消えるものは、消したものの価値に比例する。
有効範囲は半径十メートル。
参加者自体を消すことはできない。
【魅虚斗@烈火の炎】
火影の作りだした魔導具の一つ。
人型をしており、中に人が入ることができる。
使用者の意思で動き、少しの距離ならば離れていても操作可能。
巨大な扇を二つ持ち、この扇で攻撃や防御を行える。
【オリンピア@からくりサーカス】
ギイ・クリストフ・レッシュの懸糸傀儡(マリオネット)。胴体に4本と翼の付け根に2本の腕を持つ。
指先に注射針、肘に刃物、ヒールに拍車、背中に翼と多数のギミックが搭載されている。ギィ専用に調整されており、ギィ以外が扱うのは難しい。
【ファイティングナイフ@スプリガン】
オリハルコン製。刃の硬度はダイヤモンドの三倍以上。柄にはナックルガードが付いている。
【『自衛ジョー』の生き人形部隊】
魂が宿っている、手に握れる大きさの人形の軍隊。総勢二十名。
全員軍服に身を包み、部隊司令が指揮している。戦車や無線機も付いてるよ。
【石板@金色のガシュ!!】
千年前の魔物がゴーゴンの術によって姿を変えたもの。本物かどうかはわからないが、石板からは魔力を感じ取ることができる。
【スクール水着@現地調達】
B-3のプールで見つけた水着。よく伸びる素材でできており、成人男性でも着ることが可能。胸には3-Bの文字がある。
423 :
ドクター・カオスとオリンピア
◆n0WqfobHTU
:2011/12/04(日) 21:52:29.45 ID:ykgi1STs
以上です。問題点等ありましたら、ご指摘の方宜しくお願いします。
424 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/05(月) 00:54:41.67 ID:YrVeFzYp
【SIG-P220@現実】
四五口径の自動拳銃。装弾数九発。弾は9mmパラベラム弾。
ここが矛盾してます
.45ACP用のモデルなのか、9mm用のモデルなのかどちらかにしていただきたい
425 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/05(月) 01:00:01.65 ID:YrVeFzYp
おっと、これは初登場時からこうなのか
失礼しました
426 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/05(月) 01:34:54.08 ID:Xrsacu+I
投下乙
なんやかんやドクター・カオスはすごいのよね。それでもさすがに懸糸傀儡は使えないか
しかしギイさんが見てなくてよかったね……w
それにしてもほんとになんでこいつら二人がそんな格好で、マリリンが普通なのか。解せぬ
427 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/05(月) 11:26:44.29 ID:lxtEvHzR
投下乙
やっぱりカオスは真面目モードの時はかっこいいな
最後の方のナレーションがGS美神チックで良かったwww
428 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/06(火) 00:35:38.74 ID:o5wYY2lp
>>424
45口径モデルだけど、支給された弾は9mmと読むことも出来る
主催の嫌がらせで
429 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/06(火) 06:56:43.76 ID:i2KYVqH9
でも前回それ撃ってるよ
430 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/06(火) 20:21:45.54 ID:C7iwTbXW
何でコナンとパトレイバーとらんま入ってないの?
431 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/06(火) 21:23:07.60 ID:Djyi9LXt
こわしや我聞と結界師も
432 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/06(火) 21:28:25.82 ID:V31gSExW
過去ログ見に行って来い
433 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/07(水) 00:35:59.27 ID:kuAyqCcs
がもんだけランク落ちすぎだろ、そのラインナップ
434 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/08(木) 19:04:37.89 ID:j120jHUV
投下乙です
カオスはシリアスモードは普段と別人のようにかっけええなあw
でも今着てる服とかとても人には見せられねえw
フォルゴレは空気? まあ、変に目立ったら次で死ぬかもしれんからこれでいいのかもw
ところでそろそろ放送?
435 :
◆AJINORI1nM
:2011/12/09(金) 23:23:57.72 ID:ZZgqkMUD
>>424
あれ?
Wikipediaから得た知識だったので四五口径で9mmパラベラム弾を撃てないと知りませんでした……
支給品説明の口径の部分を削除するだけで矛盾は消えますが……修正すべきですよね?
436 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/09(金) 23:32:40.77 ID:KfNkghlU
してくれると嬉しいです
まあ口径か弾丸の種類のどちらかを変えるだけですがw
437 :
◆AJINORI1nM
:2011/12/09(金) 23:46:40.31 ID:ZZgqkMUD
ではWikiで口径の部分だけ削除しておきます
このような事態になってしまい申し訳ありませんでした
438 :
創る名無しに見る名無し
:2011/12/09(金) 23:53:46.87 ID:KfNkghlU
おつでっす
439 :
◆hqLsjDR84w
:2011/12/11(日) 01:56:25.90 ID:qyCHzZk3
投下します。
440 :
神をも恐れぬ父
◆hqLsjDR84w
:2011/12/11(日) 01:57:13.51 ID:qyCHzZk3
◇ ◇ ◇
――ぎちぃゃり。
そんな軋むような音を鳴らしたのは、キース・ブルーが腰掛けている車椅子である。
学校の備品だけあって、彼が常日頃愛用している全自動車椅子とは比べ物にならないほど粗末な代物だ。
ボタン操作で操縦することなどできないし、素材が安物なために座り心地もよろしくない。
だが、ブルーは心の底から歓喜していた。
車輪を自らの手で回転させねばならないとはいえ、己の意思通りに進むことが可能となる。
それは、ブルーがこれまでできなかったことだ。
むかしからずっと願っていて、けれどどうしても叶わなかった。
そんな、長らく夢見ていた幻想だったのだ。
車椅子の具合を確かめるべく部屋をぐるりと一周してから、ブルーは備え付けられた時計を見上げた。
あと、ほんの僅かで六時を迎える。
キース・ホワイトの説明によれば、死者と禁止エリアを伝える放送の時間だ。
気付けば窓からは朝の日差しが射し込んで来ており、照明を点けていないのに室内がだいぶ明るい。
ブルーが視線を横に移すと、ヴィンセント・バリーは腕を組んで待ち構えている。
誰の名が呼ばれようとも動じたりはしない、といった印象だ。
一方のブルーはというと、少し前からずっと鼓動が早くなるのを抑えられないでいる。
車椅子を動かしていたせいではない。その程度の運動で心拍数が上がるほど、ARMS適正者はヤワではない。
なぜだか、悪い予感がしてたまらないのだ。
どうにか落ち着こうと、ブルーは大きく息を吐いて目を閉じた。
冷静さを取り戻すべく、殺し合いの場でこれまでにあったことを思い返していく――――
◇ ◇ ◇
「すまないが、この部屋の灯りを消してくれないか」
ブルーがまず頼んだのは、そんなことだった。
何せ、ブルーの両脚は思うように動いてくれない。
ARMSコアを体内に埋め込む手術を受けたあの日より、その両脚は自分のものでないかのように言うことを聞かなくなった。
這いずって移動することはできても、立てなくては照明のボタンまで手が届かない。
どう足掻いたところで、部屋の照明を消すことさえ叶わないのである。
かといって照明を点けたままで放置しておけば、ここに誰かがいると他者にアピールしているのと同じだ。
そのことはバリーも理解していたらしく、すぐに照明をオフにする。
「ありがとう。では、場所を移そう。
もうすでに、誰かが灯りを見ていたかもしれない。
すまないと言ってばかりで悪いが、どうか肩を貸してくれないか」
今度の指示には、バリーは眉間にしわを寄せた。
何ごとか言いたげな表情になったが、すぐに合点がいったように頷いた。
奇襲を受ければ、バリー自身はともかくブルーが危機に陥ってしまうだろう。
ゆっくりとブルーの元に歩み寄ると、バリーはなにも言わずに彼を持ち上げた。
人間一人とリュックサック二つを軽々と背負い、教室を後にする。
「あの光見られちまったって考えると、同じ階じゃあねえほうがいいよな。
一階か三階か……誰か来たときに、少しは時間稼げるように上にしとくか」
そうひとりごちて、バリーは階段を上っていく。
いかなる相手が来ようとも、バリーに時間を稼ぐ必要などない。
にもかかわらず三階に向かったのは、足手纏いである同行者のためだ。
そのことはブルーにもよく分かっていたが、あえて口にはしなかった。
礼を求めてやっているのではないのは、明らかだったからだ。
足手纏い一人程度で弱くなることのない『強き王』を、バリーは目指しているのだ。
441 :
神をも恐れぬ父
◆hqLsjDR84w
:2011/12/11(日) 01:57:33.49 ID:qyCHzZk3
廊下を少しうろついたのち、バリーは先ほどいた教室よりも広い部屋を発見する。
その部屋の前には、『職員室』と記された看板があった。
職員室に入ると、バリーは適当な椅子にブルーを座らせる。
「ありがとう。
では君の望み通り、キース・ホワイトについて話をしよう」
「ホワイト? 俺が知りたいのは、キース・ブラックだぜ?」
「それについても、いまから説明させてもらうよ。
多少長くなってしまうが、一から話さねばならない。
まず一九四六年に、アメリカのアリゾナ州であるものが発見された。
最初の部屋でキース……ブラックの後ろにあった物体を覚えているかい?」
「ああ……そんなのあったな。金属でできた肉の塊、みてえな気味悪いのが」
「そう、アレの――」
「小せえな」
説明をすべて聞いた上で、バリーは短く吐き捨てた。
目を丸くしているブルーを尻目に、さらに続ける。
「あんなにたくさんのヤツらを一気に集めて、また一気に転送。
知らぬ間に首輪なんて巻いて、道具持たせて、こんな会場用意して……
こんだけいろいろできるクセにずいぶん小さいヤローだぜ、キース・ホワイト」
しばらくして、ブルーはつい口元を緩めてしまった。
バリーの言う通り、ホワイトは同じことにこだわり続けているだけの人間だ。
一度殺されても、その執着心は消えなかった。
そんな妄執に駆られた人間の掌の上で、ブルーを含む大勢の人間たちはずっと踊っているのだ。
もはや、笑うしかできなかった。
キース・ホワイトだけでなく、自らに対しても。
「その通り。
キース・ホワイトは、一つのことに執着し続けている男だ。
そしてその小さな男に、我々は殺し合いを強いられてしまっている。
どうにか、現状を打破せねばならない……のだが。
如何せん、これまであの男が企ててきたプログラムとは趣が異なりすぎている。
はっきり言って、なにを目的としているのかさえ見当もつかないというのが本音だ。
洗いざらい話してくれと言われたから話したが、話せるのはたったアレだけだ。
だから、よければ教えて欲しい。
バリー、君が言っていた『魔物』について知っていることをすべて。とにかく、情報が欲しい」
「いいぜ」
あっさりと了承すると、バリーはリュックサックから分厚い本を取り出した。
表紙には、幾何学模様とともに何らかの文字が記されている。
それは、世界各国いたるところの言語知識をも持ち合わせているブルーにさえ、読み取ることのできない文字であった。
442 :
神をも恐れぬ父
◆hqLsjDR84w
:2011/12/11(日) 01:57:54.74 ID:qyCHzZk3
魔物の子百体が、魔界から人間界に訪れている。
その百体がパートナーを見つけ出し、最後の一体となるべく戦っている。
最後の一体となれたものは、魔物の王として魔界を統治することができる。
そんなバリーから告げられた事実は、ブルーにとって非常に信じ難いものであった。
しかし、現に魔物たるバリーはすぐ近くにいるのだ。
魔術についても、今しがた目の当たりにした。
ゆえに、受け入れた。
到底受け入れ難い事実であったが、受け入れることにした。
元より、現状が理解できないことだらけなのである。
目に見えることまで疑いにかかっていては、現状の打破などとても不可能だろう。
とはいえバリーの言葉を信じたことで、余計に分からないことが増えてしまう。
本来、パートナーである人間が呪文を唱えなければ、魔物の子は人間界で呪文を発動させることはできないという。
にもかかわらず、バリーは呪文を発動させた。
ブルーの眼前でだ。
目にしたことは受け入れると決めたものの、これは果たしてどういうことか。
「……さぁな。分からねえ」
バリーに尋ねてみても、この調子である。
逡巡したのち、バリーは再び口を開く。
「この魔本は、神っていう正体不明のヤツが作ったもんだ。
こんなもんを簡単に作り変えることができるとも思えねえ。
できるとすれば、それこそ神クラスの力でも持ってねえ限り……」
バリーは考え込んでいるが、ブルーには分かっている。
他の誰よりも、キース・ホワイトという男について知っている。
知っているというよりも、思い知らされている。
キース・ホワイトは、神の創造物を覆そうとしている男なのだ。
そんな彼が魔本について知れば、作り変えることとて可能かもしれない。
知らず歯を噛み締めていたことに気付き、ブルーは強引に話題を変える。
とにかく浮かびかけた弱い考えを払拭したかった。
「そういえばバリー、私に支給された道具なのだが――」
自身のデイパックから蔵王を抜き取って、ブルーはバリーに放り投げる。
付属の説明書に目を通して、バリーは首を傾げた。
「……いったいなんだ、こりゃ」
「私が単独で取り出しては自殺行為だと思い、確認せずに放置しておいた。
けれども君がいる現状ならば、もしもの事態が起ころうともやり過ごせるだろうと思ってね」
「別にいいけどよ」
なんでも、なかに『獣』が収納されているらしい。
その説明書を読んでいたというのに、バリーは蔵王におもむろに手を突っ込む。
これっぽっちも躊躇せずに手を引くと、甲高い絶叫が職員室内に響いた。
「痛ッてええええええええええええええええ!」
声の主は、バリーに首根っこを掴まれた風変わりな動物である。
猫のような顔をしており、体毛は黄色い。
頭からは鬼のような角が一本に、半ばで折れたのがもう一本。
背中にはコウモリのような黒い羽が一対。
二本の腕はというと、虎のような縞柄が刻まれている。
大きな二つの目の横には、四つずつ玉のようなものが埋め込まれている。
そして、いっそう奇妙なのが下半身だ。腕でもはめられそうな形状をしているのだ。さながら篭手である。
443 :
神をも恐れぬ父
◆hqLsjDR84w
:2011/12/11(日) 01:59:02.10 ID:qyCHzZk3
「なんか変な暗ぇとこ閉じ込められたと思ったら、出れやしねえし!
どうすっかなーとずーっと悩んでたら、いきなり掴みやがって! なんなんだよ、こんにゃろぉぉぉぉ!!」
今度は、バリーとブルーが二人揃って首を傾げた。
その素振りが癇に障ったのか、動物はいっそう声を荒げた。
なにはともあれ、どうやらこいつがブルーに支給された『天界獣』であるらしかった。
当初は超がつくほど虫の居所が悪かった天界獣であったが、職員室にあったクッキーを見つけるとすぐに上機嫌になった。
自ら『テンコ』と名乗ってから、ブルーとバリーの名前を尋ねて「変な名前してんなぁ」と笑い出すほどだ。
その後、ブルーが現状について伝えると、またしてもブチギレた。
何よりも、自分が道具として配られたことが気に喰わないらしい。
天界獣と天界人についての歴史をいきなり説明してから、「アイツらみたいに俺たちを道具扱いしやがって!」と憤慨した。
かと思えば即座に「でも天界人にはいいヤツもいるんだぜ」とこれまた勝手に喋りだし、ここでようやくブルーが割って入った。
「『コースケ』という名は、名簿にあったが……」
「なにィィィィィ!? オイ、その名簿っての見せてくれよ! 頼む!!」
小さな羽でどういう仕組みなのかはまったく定かではないが、テンコはブルーの元まで飛んでいく。
開かれた名簿に食い入るように目を通すと、食べかけのクッキーを口から落とした。
「コースケだけじゃねぇぇぇぇ!
佐野も! ヒデヨシも! マリリンも! バロウも! ロベルトも! 李崩も!
コースケと仲いいヤツばっか勢揃いじゃねえかァァァ! どうなってやがんだ、こんちくしょう!
もうワンコっつーのが新しい神になるって決まったんだし、アイツら人間界で平和にくらしてんじゃねえのかよ!」
ブルーとバリーの表情が険しくなる。
参加者のうち七人の情報も欲しいところだが、もっと気になる単語があった。
先ほども出た『神』という単語が。
「私たちは、このプログラムを破壊しようと思っている。
どうか、君の知っていることを訊かせてくれないだろうか」
「……ああ」
蔵王から出てきてだいぶ経ったが、ようやく。
いまになって初めて、テンコの口調は真剣なものとなった。
「神を決める戦い……か」
テンコから聞かされたのは、またしても最後の一人を決める戦いであった。
一つだけでなく二つも似たシステムを聞いてしまうと、ブルーにはどうやっても連想してしまうものがあった。
いま現在巻き込まれている、このプログラムである。
これもまた、最後の一人が決まるまで続くシステムだ。
違うのは、『戦い』ではなく『殺し合い』という点だけだ。
『神を決める戦い』と『魔界の王を決める戦い』。
それらの存在を知って、キース・ホワイトはこのプログラムを実行しようと思い至ったのか。
はたまたこのプログラムの構想が先にあって、それによく似た戦いの関係者たちをこのプログラムに参加させたのか。
どちらであるのかは、ブルーにはまだ定かではない。予測さえできない。
しかし、ついに明らかになったことがある。
444 :
神をも恐れぬ父
◆hqLsjDR84w
:2011/12/11(日) 01:59:19.77 ID:qyCHzZk3
――ホワイトは、神の領域に足を踏み込んでいる。
神の創造物である魔本を作り変え、神を決める戦いの参加者ばかりをさらっているのだから、もう確定的だ。
神の作り出した人体を改造するような、そういう意味ではない。
真実の意味で、神の領域に侵入しているのだ。
ブルーは、ポケットのなかにあるカードサイズのプレートを握り締めた。
これもまた、ブルーに支給された道具である。
見たこともない金属でできておりかなりの硬度であったが、さすがに武器にはなりそうもない。
説明書によれば、古代の遺産であり神が人類に遺したと伝えられている代物らしい。
そんな説明文を信じ切っていたワケではないが、バリーやテンコの話を聞いたあとでは刻まれた文字に対する考えも変わっていた。
『我々が残した遺産を、悪しき目的に使うものたちから守って欲しい』
古代ヘブライ語で、そのように記されているのだ。
ブルーのプレートを握る力が、よりいっそう強くなる。
神がいるのかいないのかなど、分からない。
神の存在を信じられなくなるほど、つらい人生だった。
けれど、ブルーはいまに限っては神の存在を受け入れる。
神を否定してバリーやテンコを疑っていては、なにも始まらない。
もう、止まってはいられないのだ。
たとえ足が動かなくとも、一歩踏み出さねばならない。
地を這って泥にまみれてでも進むつもりであったが、運よく志を同じくするものたちに出会うことができた。
スタート地点も、支給される道具も、キース・ホワイトの思惑通りかもしれない。
それでも構わない。
ブルーが巻き込んでしまった少年たちだって、望まずして手に入れた武器で戦っていた。
あの在り方を見て、それでもなお立ち止まってなどいられるはずもない。
「……守るさ。守ってみせる。あの男に、神の遺産など掴ませるものか。だけど――」
ブルーの脳裏を過ぎるのは、彼の兄弟たち。
憎むべきキース・ホワイトの遺伝子から作られたキース・シリーズ。
そして、キースの因縁に巻き込んでしまったオリジナルARMSの子供たち。
「神のためにじゃなく、彼らのために……だ」
そう言い切った直後に、職員室の扉が開いた。
テンコが中学校にならば備品として車椅子くらいあるのではと告げ、バリーがテンコとともに捜しのであるに行っていた。
車椅子を持つバリーに頭を下げながら、ブルーは胸を撫で下ろした。
他のすべては別に聞かれても構わないものの、兄弟への思いだけはどうにも気恥ずかしかった。
◇ ◇ ◇
445 :
神をも恐れぬ父
◆hqLsjDR84w
:2011/12/11(日) 01:59:37.15 ID:qyCHzZk3
「――六時を迎えた。先に説明した通り、放送を行う時間だ。
初回ということで一分だけ待つので、その間に聞き漏らさぬよう準備をすればいい。
なお放送内容を二度繰り返したりはしないので、注意深く聞き耳を立てたほうがよいだろう。
まああくまで余裕があれば、だがな。放送の間も殺し合いに精を出すつもりならば、それで構わない」
時計の秒針が頂点を指した瞬間に、キース・ホワイトの声が響いた。
それは、別になにもおかしくはない。
そもそも、元より放送を待っていたのだ。
だというのに、それでもブルーは目を見張るしかなかった。
「これは……っ!?
この放送は、いったいどのような方法で行われている!?」
てっきり会場内の施設や首輪から音声が流れるものと、ブルーは思い込んでいた。
そうでもしなければ、会場全体に放送を行き渡らせることなど不可能だ。
音とは波であり、波は障害物があれば阻まれる。
一つの場所からの放送では、音声は会場全体に届かない。
ゆえに、会場のいたるところから放送を流すか、誰もが所持しているものから流す。
そうであると、勝手に考えてしまっていた。
しかし、実際には違った。
キース・ホワイトの声は――『位置の特定できないどこか』から響いていたのだ。
そんなことは不可能だ。
常人ならば、不意に響いた声の源を探知できないこともあろう。
だが、ブルーはARMS適正者だ。
一度発動させれば確実に息絶えてしまう失敗作といえど、誇り高きキース・シリーズの一員だ。
にもかかわらず、音源を特定できないなどありえない。
「……もしかしたら、アレかもしんねぇな」
ブルーが口にした疑問に答えるのは、浮遊しているテンコだ。
「神のヤローの映写機なら、居場所を特定されずに会場全体に声を響かせるくらい簡単にできる。
映写機っつってもカメラ部分さえ遮りゃあ、映像なしで音声だけ放送することも可能だろうしな」
出てくるのは、またしても神の力。
神の力を誇示するように、ホワイトは放送を行っているのだ。
いまのブルーにできるのは、プレートを握り締めながら放送を待つことだけだった。
【C−2 中学校職員室/一日目 早朝】
【ヴィンセント・バリー】
[時間軸]:エルザドル戦後、ナゾナゾ博士からファウード戦への協力を求められる前
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:魔本、ランダム支給品0〜2、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。ブルーと協力する。
【キース・ブルー】
[時間軸]:単行本20巻、ブルーメンの鐙沢実験場襲撃前
[状態]:健康
[装備]:車椅子@現地調達、伝言板@スプリガン(ポケット)、テンコ@うえきの法則(勝手に飛んでる)
[道具]:ランダム支給品0〜1(車椅子、杖に代わる物は無し)、基本支給品一式
[基本方針]:オリジナルARMSの子供達(涼、隼人、武士、恵)を守る。バリーと協力する。
446 :
神をも恐れぬ父
◆hqLsjDR84w
:2011/12/11(日) 01:59:52.84 ID:qyCHzZk3
【支給品紹介】
【車椅子@現地調達】
ヴィンセント・バリーが見つけてきた。
C−2にある中学校の備品である。
肘掛にあるボタンで操作とかできないし、ふかふかで座り心地抜群だったりしない。
自力で車輪を回転させて進むタイプのよくあるフツーの車椅子。
【伝言板@スプリガン】
キース・ブルーに支給された。
超古代文明が人類に遺した伝言板(メッセージプレート)。
サイズはテレホンカード程度。
『心あるものたちよ、過去からの伝言(メッセージ)を伝えたい。
この惑星には多種の異なる文明があった…………だが間もなくすべて滅びる。
主としての限界、異文化ゆえの争い、堕落、荒廃……
君たちには未来あることを願う。
世界中にある我らの文明の断片を遺産として残そう……
だがもしも君たちに遺産を受け取る資格がなければ……それらをすべて封印して欲しい……
悪しき目的に使うものたちから守って欲しい……我らと同じ道は決して歩んではならぬ…………』
と、古代ヘブライ語で記されている。
精神感応性金属(オリハルコン)と同種のヒヒイロカネより硬い。
神様が作ったものだからメチャクチャ硬いって、スプリガンの御神苗優が言ってた。
【テンコ@うえきの法則】
キース・ブルーに支給された。
植木耕助の友達(道具じゃないよ!)の天界獣。
牛丼とか焼き芋とか、その辺の超好きで超食べる。でも猫舌。
普段は籠手のような姿を取っているけど、そこから顔を出したり巨大化することもできる。
巨大化したらバリアとか張れちゃうし、なんか回復できる動物出せちゃうし、でかいから人間とか余裕で食べれちゃう。食べたことないけど。
天界人をレベルアップさせることのできる覚醒臓器を体内に持っている。
とにかくいろいろできるすごいヤツだよ、がしゃーんがしゃーん。
なお、参戦時期は最終回以降です。
447 :
◆hqLsjDR84w
:2011/12/11(日) 02:00:19.77 ID:qyCHzZk3
投下完了。
続いて放送の投下です。
448 :
第一回放送(六時間経過)
◆hqLsjDR84w
:2011/12/11(日) 02:01:28.08 ID:qyCHzZk3
◇ ◇ ◇
「――六時を迎えた。先に説明した通り、放送を行う時間だ。
初回ということで一分だけ待つので、その間に聞き漏らさぬよう準備をすればいい。
なお放送内容を複数回繰り返したりはしないので、注意深く聞き耳を立てたほうがよいだろう。
まああくまで余裕があれば、だがな。放送の間も殺し合いに精を出すつもりならば、それで構わない。
さて、たっぷり六十秒待ったので始めるとしよう。
まずは……うむ、そうだな。
死者を言ってからでは聞き逃してしまうものもいるだろう。
先に、禁止エリアから発表しておこう。
午前七時より『A−6』
午前九時より『F−2』
午前十一時より『B−1』
以上三つだ。
最初に指定する三つということで、現時点で誰もいないエリアだけにしておいた。
とはいえいまのペースでは、本格的に参加者のいる地点を禁止エリアとする前に終わってしまうかもしれないがね。
……ククク、はたしてどういう意味だろうな?
なぁに、気にするな。安心していい。
もし意味が分からなくても、すぐに分かるのだからな。
ということで、これより死者の発表だ。
先に人数だけ言っておこう。
『十六』だ。
八十名の参加者中、すでに十六名が命を落としている。たったの六時間で、だ。
その内容をこれより告げていこう。
繰り返すが、復唱などしないので聞き漏らしてしまわぬように。
『井上真由子』
『御神苗優』
『桐雨刀也』
『才賀アンジェリーナ』
『佐々木小次郎』
『宗屋ヒデヨシ』
『テッド』
『巴武士』
『とら』
『ナゾナゾ博士』
『花菱烈火』
『水鏡凍季也』
『峰さやか』
『宮本武蔵』
『来音寺萬尊』
『李崩』
以上だ。
では、これにて第一回目の放送を終了する。
次の放送は正午に行われるので、覚えておくんだな」
【第一回放送 終了】
【残り参加者 64名】
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