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RPGキャラバトルロワイアル9
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RPGキャラバトルロワイアル9

1 :創る名無しに見る名無し:2010/08/14(土) 16:15:05 ID:qrSQd5bU
このスレではRPG(SRPG)の登場キャラクターでバトルロワイヤルをやろうという企画を進行しています。
作品の投下と感想、雑談はこちらで行ってください。


【RPGロワしたらば】
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11746/

【RPGロワまとめWiki】
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa/pages/11.html

【前スレ】
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1278625360/

テンプレは>>2以降。

2 :創る名無しに見る名無し:2010/08/14(土) 16:16:42 ID:qrSQd5bU
参加者リスト(○=生存、●=死亡)

3/7【LIVE A LIVE】
● 高原日勝/ ○アキラ(田所晃)/ ○無法松/ ●サンダウン/ ●レイ・クウゴ/ ○ストレイボウ/ ●オディ・オブライト
2/7【ファイナルファンタジーVI】
●ティナ・ブランフォード/ ●エドガー・ロニ・フィガロ/ ●マッシュ・レネ・フィガロ/ ●シャドウ/ ○セッツァー・ギャッビアーニ/ ○ゴゴ/ ●ケフカ・パラッツォ
2/7【ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】
○ユーリル(主人公・勇者男)/ ●アリーナ/ ●ミネア/ ●トルネコ/ ○ピサロ/ ●ロザリー/ ●シンシア
3/7【WILD ARMS 2nd IGNITION】
○アシュレー・ウィンチェスター/ ●リルカ・エレニアック/ ●ブラッド・エヴァンス/ ●カノン/ ○マリアベル・アーミティッジ/ ○アナスタシア・ルン・ヴァレリア/ ●トカ
1/6【幻想水滸伝II】
●リオウ(2主人公)/ ○ジョウイ・アトレイド/ ●ビクトール/ ●ビッキー/ ●ナナミ/ ●ルカ・ブライト
3/5【ファイアーエムブレム 烈火の剣】
●リン(リンディス)/ ○ヘクトル/ ●フロリーナ/ ○ジャファル/ ○ニノ
1/5【アークザラッドU】
●エルク/ ●リーザ/ ●シュウ/ ●トッシュ/ ○ちょこ
2/5【クロノ・トリガー】
●クロノ/ ●ルッカ/ ○カエル/ ●エイラ/ ○魔王
1/5【サモンナイト3】
●アティ(女主人公)/ ●アリーゼ/ ●アズリア・レヴィノス/ ●ビジュ/ ○イスラ・レヴィノス

【残り18/54名】

3 :創る名無しに見る名無し:2010/08/14(土) 16:17:30 ID:qrSQd5bU
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAPのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に2エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【舞台】
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa?cmd=upload&act=open&pageid=40&file=rowamap.jpg

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

4 :創る名無しに見る名無し:2010/08/14(土) 16:18:20 ID:qrSQd5bU
【議論の時の心得】
・議論感想雑談は専用スレでして下さい。
・作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
  強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。

【禁止事項】
・一度死亡が確定したキャラの復活
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
 程度によっては雑談スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
 例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
 この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
 こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
 後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
 特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。

【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NG協議・議論は全てここで行う。進行スレでは絶対に議論しないでください。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。

上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×

・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
 修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。

5 :創る名無しに見る名無し:2010/08/14(土) 16:19:31 ID:qrSQd5bU
【書き手の注意点】
・トリップ推奨。 騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付けた方が無難
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない

書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの一時投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に一時投下スレにうpしてもかまいません。爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない一時投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
   ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。

書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。

書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はNG。
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
 携帯からPCに変えるだけでも違います。

6 :創る名無しに見る名無し:2010/08/14(土) 16:20:19 ID:qrSQd5bU
【読み手の心得】
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。

7 :創る名無しに見る名無し:2010/08/14(土) 16:21:20 ID:qrSQd5bU
【身体能力】
・原則としてキャラの身体能力に制限はかからない。
 →例外としてティナのトランス、アシュレーのアクセス、デスピサロはある程度弱体化

【技・魔法】
・MPの定義が作品によって違うため、MPという概念を廃止。
 →魔法などのMPを消費する行動を取ると疲れる(体力的・精神的に)
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる人物。(敵味方の区別なし)
・回復魔法は効力が大きく減少。
・以下の特殊能力は効果が弱くなり、消耗が大きくなる。
 →アキラの読心能力、ルーラやラナルータやテレポート(アキラ、ビッキー)などの移動系魔法、エルクのインビシブル
・蘇生魔法、即死魔法は禁止

【支給品】
・FEの魔導書や杖は「魔法が使えるものにしか使えず、魔力消費して本来ならばそのキャラが使えない魔法を使えるようになるアイテム」とする
・FEの武器は明確な使用制限なし。他作品の剣も折れるときは折れる。
・シルバード(タイムマシン)、ブルコギドン、マリアベルのゴーレム(巨大ロボ)などは支給禁止。
・また、ヒューイ(ペガサス)、プーカのような自立行動可能なものは支給禁止
・スローナイフ、ボムなどのグッズは有限(残り弾数を表記必須)

【専用武器について】
・アシュレー、ブラッドのARMは誰にでも使える(本来の使い手との差は『経験』)
・碧の賢帝(シャルトス)と果てしなき蒼(ウィスタリアス)、アガートラームは適格者のみ使用可能(非適格者にとっては『ただの剣』?)
・天空装備、アルマーズ、グランドリオンなどは全員が使用可能

8 :創る名無しに見る名無し:2010/08/14(土) 16:23:05 ID:qrSQd5bU
スレ立て完了。代理投下します。

9 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 16:23:52 ID:qrSQd5bU
止まない雨が降り注ぐ中、二人の男が倒れていた。
片や気絶、片や絶命。
同じ“絶”の字を冠していながらも二つの言葉の持つ重みには天と地の差があった。
ブラッド・エヴァンスは死んだ。
襲撃者との戦いの中、果てた。

だが。
襲撃者の片割れにして魔王と組んでいる男、カエルは断言する。
勝ったのはブラッド・エヴァンスだ、と。

その証拠にどうだ。
今自分は押されている。
一度は三人がかりで向かってこられてさえ優勢に立つことができた夜の王に。
魔王との実力差を目の当たりにし膝をついたはずの魔道士に。
完膚なきまでに押し負けている。

「うあああああああああああああ!」

ストレイボウが“斬り込んでくる”。
魔道士たる身でありながら剣を手にし死んだブラッドの代わりに空いた前衛をこなさんと必死に食らいついてくる。
隠しようもない恐怖をグレートブースターによる強引な戦意高揚効果で押し切って。
脚を震わせ、剣を震わせ立ち向かってくる。
そのさまをどうして無様だとカエルに笑えようか。
かってカエルは自らを護り死んだ友から逃げた。
ストレイボウは逃げなかった。
みっともない姿を晒してでもブラッドが残した勇気を受け継ごうと手を伸ばし足掻いているのだ。

「ぐっ……」

強化魔法がかけられていることを差し引いても我武者羅に叩きつけられる剣のなんと重いことか。
ああ、そういえば。
この剣はストレイボウの様子からすればカエルにとってのグランドリオンのようなものだったではないか。
ならばその剣を手にしていること自体がストレイボウの覚悟の現れだ。
自らへの嘲りを込めて握った魔剣如きで押し返せるわけがない。
そもそも持ち主を選ぶ類であるこの魔剣は眠りについたままで、木刀にも劣っているのだから。

「まだだ、まだわらわ達の攻撃は終わっておらんぞッ!」

ストレイボウの突撃に負けた身体が幾多もの火球に狙い撃たれる。
体勢を崩された身では跳躍して回避することは困難。
かといって魔法に頼ろうにも、今は魔力を封じられた身だ。
打つ手なし。
大人しく我が身を穿つ魔法を耐え忍ぶしかない。
両腕を交差させ、炎に備え、

「ぬう!?」

10 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 16:24:36 ID:qrSQd5bU
そこに追撃が迫る。
あろうことかストレイボウに続きマリアベルまで前線に踊りでてきたのだ。
否、それは躍り出たなどという可愛いものではなかった。
投げ込んできたと称すべき乱暴極まりないものだった。
怒りのリングに隠された秘技、仲間ではなく自身を砲弾と化し投じる荒業によって一瞬にして距離を詰めたのだ。
そしてマリアベルの手にもまた一本、剣が輝いていた。

「でえいッ!」

ソウルセイバー、魂食いの剣。
ブラッドが指揮した先の持久戦時にマリアベルはその効果を正しく理解していた。
故に躊躇することなくファイアボルトの連撃により緩んだガードの隙間からカエルへと突き刺す。
たちまちカエルを襲うのは痛みではなく虚脱感。
その隙にとマリアベルが催眠呪文を唱えようとしていることを察知。
間一髪、覚悟の証たる傷を自ら拡げ、意識を覚醒させてマリアベルをはねのける。

「――潮時か」

吹き飛んだマリアベルを駆けこんできたストレイボウが受け止める中、カエルは勝つことに見切りをつけた。
このまま戦ったところでまず本願を達することは不可能だ、と。
マリアベルとストレイボウには勢いがある。
仲間ひとりの命と引き換えにして得た好機だ、それこそ命を賭けてでも掴みに来る。
対するカエルには勢いがない。
彼にしても何としても叶えねばならぬ願いはあるが、しかし、その願いを叶えるためには彼が生きていなければならない。
我が身を優先しなければならない現状、どうしても決死には届かず、勢いに劣ってしまうのだ。
加えてもし術師二人に勝てたとしても。
ストレイボウ達にはまだジョウイを初めとした仲間がいる。
北方での戦闘が収まったことは既に察知済みだ。
あれだけ激しく聞こえていた剣閃の音も、天を脅かす雷鳴の光も消えた。
殺気立った空気が霧散していることからも勝ったのはジョウイ達の方なのだろう。
混戦時に目にした彼らの戦いぶりからも、魔法を封じられた現状ではカエルに勝ち目はない。
であるならストレイボウ達を殺してジョウイ達を煽り説得の通じない討滅対象と見なされるわけにはいかない。

11 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 16:25:22 ID:qrSQd5bU
「結局のところ敗因は後を託せる仲間がいたかどうか、か。
 自ら斬り捨てておきながらざまあないぜ」

腕から力を抜き、カエルは剣をマントに収めた。

「カエル……? 話を、聞いてくれる気になったのか?」

臨戦態勢を解いたことを訝しみながらも、喜色を隠せずにはいられないストレイボウにカエルは首を横に振る。
違う、そうではない。
単に勝てないと悟ったから。
ここで死ぬわけには、または戦う力を奪われるわけにはいかなかったから。
それだけだ。
どころかストレイボウが己に抱いてくれている友情を、殺されないという確信を利用してこの場より逃げようとしているのだ。
堕ちたものだと嘲りながらもカエルは一跳びで魔王の元へと跳躍する。
こちらが武装解除したことで僅かに戦意を収めたマリアベルが再度呪文を唱えるよりも早く、カエルは“それ”を手にした。
魔鍵ランドルフ。
魔王曰く異世界への道を拓くことさえ可能な空間を操る魔具。
カエル達が逃げおおせるための文字通りの鍵。

「ランドルフ……? そうか、そういうことか。無駄じゃ。今、お主の能力は封じられておる」
「覚えておけ。魔王は抜け目のない男だ。こんなふうにな」

ランドルフは時に主の命なくして主を強制転移させるなど自立行動が可能である。
そのことを見抜いた魔王はランドルフに緊急脱出用の空間転移プログラムを施していたのだ。
追い詰められた時ようの術式だけあって、術者の魔力に頼らずランドルフ単体で転移は発動できるようになっている。
パワーシールであろうとアイテムの使用は制限できない点も突いた最上の脱出手段であった。

とはいえ欠点がないわけではない。
魔王自身が使えばもう少し自在に転移先を選べたであろうが、カエルにはそんな器用なことはできない。
せいぜい事前に設定された転移先――魔王が唯一立ち寄ったランドマークになる施設に跳ぶことが精一杯だ。
その転移先とは、

「F-07エリアの遺跡とは名ばかりダンジョン。その地下深くにてお前達を待つ」

言うが否やカエルはランドルフを掲げる。
待てと呼び止めるはマリアベル。
キルスレスのことも含め、人殺しの意思があるままカエル達を逃がすわけにはいかない。
武力行使によって止められないのであれば、言葉により逃走を思いとどまらせる他なかった。

12 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 16:26:07 ID:qrSQd5bU
「よいのか? わらわ達の目的はあくまでもオディオの討伐。
 待ちぼうけをくらってるお主達をほっぽりだして先にオディオめを倒してしまえば魔王はともかくお主と戦う理由はなくなるぞ?」

こちらを挑発するようにニヤリと笑うマリアベル。
真理だ。
魔王はともかくカエルにとっては願いを叶えてくれるオディオが倒されたとあっては無為に命を刈り取ることはできまい。
茫然自失と崩れ落ちるか、以前のように酒に逃げるか。
我ながら碌でも無い未来しか想像ができなかった。

だからそのような未来にならないよう挑発し返す。

「それは困るな。だがお前達は遺跡に来ざるを得ない」
「……なんじゃと?」

カエルはランドルフについて説明を受けた時に忠告してきた魔王の言葉をそのままマリアベルに伝える。
曰く、遺跡の最下層には恐ろしい何かがあると。

「何かとは何じゃ」
「さてな。生物だか無機物だかも分からん。しかしあいつは言っていた。
 自分をも上回る魔力を感じたと。信じられんことだがあの男がそう言うのなら事実なんだろう。
 そして魔王を上回る魔力の持ち主がそうそう居るとも思えん。
 いるとすればピサロと呼ばれていた男のように魔王同様に魔の王の称号を冠する者……」
「まさか!?」
「流石に本人だとは思っていないが、無関係とも思えんだろ?」
「……」

マリアベルが押し黙る。
それを無言の肯定だとカエルはとった。
これでいい。
これでストレイボウだけでなくマリアベル達もカエル達を追撃せざるを得ない。
こちらはそれを待ち構えていればいい。
地の底深くで傷を癒し、或いは罠さえ張り巡らせ、待っていればいい。

起動したランドルフが宙に浮く中、カエルは魔王を背負いストレイボウ達に背を向ける。

「カエル!」

その背に届けと発せられる声があった。
転移を思いとどまらせるためではない。
これまでのように自分の想いのみを投げかける言葉でもなかった。

「せめて教えてくれ! 全てを守る戦いを優先するとお前は言っていたな!
 お前は、お前は何を護ろうとしているんだ! 頼む!」

友の抱く想いを、友の秘めた想いを知って力になろうとしての言葉だった。
カエルは僅かに間を置き、それでもワームホールに飛び込みながら振り向くことなく答えた。

「国のためだ。友が護ろうとし、俺が愛したガルディアをなかった事にされないためだ」

13 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 16:26:52 ID:qrSQd5bU







ブラッド・エヴァンスは灯火だった。
死だの罰だのを言い訳に諦めかけていたストレイボウに諦めるなと言ってくれた。
広く視野を持てとも、自分の意思を打ち立てろとも。
そして死んでいった。
自らの意思で、人を導き、仲間を護り、仲間の仇を討って死んでいった。

ああ、そうか。

ストレイボウはその死に様を、否、マリアベルの言うところの生き様を目にしようやっと馬鹿な加害妄想から脱することができた。

何が生きているだけで他の人間が死んでいく、だ。
巫山戯るな。

ブラッドが死んだのは他の誰のせいでもない。
ブラッドが自らの意思を貫き通した結果だ。
俺が、ちっぽけな俺ごときが、あの大きな男の生き死にを曲げることなどできるものか。

ストレイボウは自覚する。
結局はあの頃と変わっておらず自分のことしか見ていなかったのだと。
世界を自分中心にしか考えず、良いも悪いも他人のことも全て一方的にしか見ていなかったのだと。

広い視野で世界を見ろとはそういうことか。

思えば自分はカエルのことを何も知らない。
何も知らずに盲信して、いや、単に二度と友と戦いたくないという自分可愛さから剣を収めてくれと言い募るばかりだった。
何故と、どうして急に殺し合いにのったのかも、一度たりとも聞こうとはしなかった!

14 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 17:29:29 ID:COKsPISJ
カエルが話を聞いてくれないのは当たり前ではないか。
他でもないストレイボウ自身がカエルの話しを聞こうとしていなかったのだから。
否、もしかすればそれはもっと質の悪いものかもしれない。

ストレイボウは思い至る。
自分の弱さに。
聞こうともしなかったのではなく聞きたくなかったのではと。
核心に迫る問いを投げかけることで得た返答が、カエルを引き戻せないと納得してしまうほどの力を持つものであることを恐れていたのではと。

馬鹿馬鹿しい話だ。
納得出来る理由があれば退いたと?
説得できないと分かれば辞めていたと?

そんな、そんな半端な想いで自分はカエルに対峙していたのか。

許せなかった。
諦めることをよしとしていた臆病な自分が許せなかった。
変わらなければならない。変わるんだ!
これまで何度も抱いた想いに行動を伴わせるべく、マリアベルに頼み身体強化を施してもらい前に出た。
覚悟の証としてブライオンも鞘から抜いた。
全てはカエルの声を聞くことの先である、カエルの心に触れるために。

なのに。

「国のためだ。友が護ろうとし、俺が愛したガルディアをなかった事にされないためだ」

ストレイボウはカエルの心中を知り早速後悔してしまった。
他の如何な理由でもここまで彼を動揺させはしなかっただろう。
だが、これだけは駄目だ。
この意思に対してだけはストレイボウは掛ける言葉が見つからなかった。
止めていいのかも分からなくなってしまった。

カエルが振り向くことなく消えて行ったのはストレイボウにとっては悲しいながらも幸いだった。
後悔と罪と絶望に彩られた顔を見せずにすんだのだから。
何よりも。
ストレイボウはカエルに合わせる顔がなかった。
友を騙し、王を殺させ、一つの国が滅ぶ原因を産み出したストレイボウには。

15 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 17:30:23 ID:COKsPISJ
ブライオンが重い。
勇者の剣が元・魔王を責め立てるように手から零れ落ちる。

「くっ、ぐっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……っ!」

かって犯してしまった罪。
その罪を悔いているからこそ、カエルに殺し合うのを止めてくれという国を救うなと同義のことを訴え続けられるか分からなくなってしまった。
これまであれほど軽く吐き続けていた言葉のカエルにとっての重さを知り、ストレイボウは天へと絶叫する。
天は応えを返してはくれなかった。
ぽつぽつと雨を返すのみだった。
当たり前だ。
答えはストレイボウ自身の手で見つけ出せねばならないのだから。







ストレイボウは気付かない。
自らの罪とカエルのことに気を取られるあまり、マリアベルが自身以上に絶望を湛えた目でストレイボウを見つめていることに。

マリアベルは気付いてしまった。
どう足掻いてもストレイボウに待ち受けているのは悲劇だけだということに。

16 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 17:31:49 ID:COKsPISJ
きっかけは些細なことだった。
カエルが去り際に発した言葉、そのある部分がどうしても頭に引っかかったのだ。

愛した国を“なかった事にされる”? どういうことじゃ?

これが単に愛した国を護るため、というのであれば疑問を抱きはしなかったであろう。
カエルは騎士だ。
祖国に危機が迫っているというのなら魔王オディオに縋りついてでも救おうというのは許容はできないが忠義の形としては納得出来……否。

マリアベルは思い直す。
そうだとしても変じゃなと。
ストレイボウ曰くカエルは最初はオディオを倒す気でいた。
もしカエルの祖国が危機に瀕していたとして、それはこの島に呼び出される前のことだ。
であるなら初めから殺し合いにはのっているべきだ。
願いを叶えてくれるオディオを倒そうとは思いもしないだろう。

それともオディオを倒すというのは演技じゃったか?

違う。
マリアベルは即座に否定する。
カエルはそういった嘘をつけるほど器用な男には見えない。
カエルの危険性を見抜いてたシュウには悪いが、少なくともあの時点では殺し合いにはのっていなかったと断定できる。
転じてそれは次にカエルと会い襲われるまでの間に彼の心境を変える何かがあったということ。

その何かとは?

ストレイボウの話では少なくとも彼の元をカエルが去った時点では殺し合いにはのっていなかったらしい。
その時ストレイボウが襲われていないのが何よりの証拠だろう。
つまりはその何かが起きたのは彼らが別れた更に後。
その条件に当てはまるものとして真っ先に思い浮かぶのはただ一つ。

放送だ。

カエルに初めて襲われた時、カエルが一人だったことからも現在組んでいる魔王に唆された線は薄い。
十中八九放送で誰か、国を護るというからには例えば王族が死んだのだろう。
名簿を確認した時のカエルの反応も護るべき王の名がそこにあったというのなら頷ける。
頷ける、が、恐らくはそれは正解の半分程度でしかない。

17 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 17:32:59 ID:COKsPISJ
マリアベルは思い出す。
名簿を見てひどく動揺していたカエルの表情を。
あの時は恋人の名前だとかトンチンカンなことを考えていたが、数時間前の自分を鏡で写してみてみろといってやりたい。
自分だって名簿を手にした時、何故、どうしてと訝しんだではないか。
亡き友の名を、“数百年も昔に死んだはずの友”の名を目にして慌てたではないか。

そう、数百年も前の。

カチリ、カチリとピースが当てはまっていく音がする。
カエルの言葉、名簿を見た時の彼の動揺、時を越えて存在する友人。
それらの要因を合わせてマリアベルは一つの推測を導き出す。
カエルが叶えたい願いとは即ち

“この殺し合いに巻き込まれて死んでしまったカエルの仲間であった遥か昔の王族、或いは救国の英雄を蘇らせること”

これなら全ての辻褄が合う。
過去の人物を仲間と呼ぶのは普通の人間には矛盾にしているように思われるが、考察主は不死の王。
マリアベルは自分同様カエルもまた不死者なのではと考えたのだ。
もちろん真実は違う。
カエルが過去の人間を仲間だと言ったのはとっさのでまかせではない事実であるが、彼らが時間を超えて旅をしていたからだ。
しかしここではそんな些細な勘違いは重要ではない。
大切なのはカエルが蘇らせようとしているのがマリアベルで言うところのアナスタシアだということだ。

例えば、例えば、だ。
あのアナスタシアがロードブレイザーを封印する前の時間から呼び出されており、しかも死んだとすれば?
言うに及ばず。
ファルガイアの歴史は変わる。
封印されることのなかったロードブレイザーにあらゆる命は蹂躙され、星は滅び、アシュレー達は生まれてこない。
これが現在に迫っている驚異なら良かった。
ブラッド、カノン、リルカを欠いたといえどマリアベルはアシュレーやティム、多くの仲間達と共に危機を乗り越えようと諦めることなく戦っただろう。
しかし既に過ぎ去った過去の危機が相手ではそうはいかない。
いかなノーブルレッドといえど干渉すること能わず、過去の改変より滅びを待つしかない。

カエルが直面している問題とはそういうものなのだ。
時も生死も超越できるかもしれないオディオの手を借りねば解決できない問題なのだ。


18 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 17:34:13 ID:COKsPISJ
けれども。
まだましだ。
解決策がどれだけ気に食わないものであっても存在しているだけまだましだ。
カエルには、本人がどれだけ自分を許せなくなっても救いがある。
ストレイボウには、それがない。

――のう、ストレイボウ。わらわはこの推測をお主に伝えるべきじゃろうか?

歴史に起きた綻びをそのままにしておけば、過去の改変によりカエルは近いうちに消滅する。
“なかったことにされる国”に生まれたカエルは“なかったことにされる人間”として確定してしまう。
説得が成功した時、つまりはカエルが歴史の修正を断念した時。
それはストレイボウが自らの意思で友の存在を否定してしまうということになるのだ。

「笑えない、全くもって笑えない話ではないか。本当にカエル達を無視できればいいのじゃがのう……」

それが何の解決にもならないと分かっていても、そう思わずにはいられなかった。
叫び続けるストレイボウに釣られてマリアベルも夜空を見上げる。
零時が近づいたことで雨は小雨になり、ようやっとふりやもうとしているも、マリアベルの心は晴れそうになかった。




【C-7(D-7との境界付近) 一日目 真夜中】
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)※ただし魔力はソウルセイバー分回復済み、ダメージ(中)
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFY、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:ストレイボウに残酷な推測を話すか否か。
2:ひとまずはイスラ達との合流。後、キルスレスの事も含め、魔王達を追撃?
3:付近の探索を行い、情報を集めつつ、元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
4:首輪の解除、ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
6:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。 レッドパワーはすべて習得しています。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)

19 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 17:35:42 ID:COKsPISJ


【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(大)、心労(超極大)、自己嫌悪
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドU、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルを止めたいが、俺なんかに止める資格のある願いなのか?
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません


※C-7(D-7との境界付近)にブラッドの遺体があります。
 遺体はドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI を握りしめており、にじ@クロノトリガーが刺さっています。
 また、遺体付近に以下のものが落ちています。
 ・昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
 ・リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
 ・不明支給品0〜1個、基本支給品一式






20 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 17:37:13 ID:COKsPISJ
「魔王が警戒したわけだな……」

遺跡ダンジョン下層、地下五十階玉座の間。
ランドルフの転移によりこの地に踏み入った瞬間、カエルは眉を潜めた。
手にしていたキルスレスが独りでに震えだしたのだ。
まるで地下の何かに反応するかのように。
鮮血のように紅い刀身を更に鮮やかに輝かせ、鳴動すること収まらない。

「魔王が言う何かとはこの魔剣に関するものなのか? ……或いは」

魔剣に認められていないカエルだが、たった一つだけキルスレスについて分かっていることがあった。

「魔剣が反応せざるを得ないような巨大な思念が渦巻いているか」

それはこの剣もまた人の精神や意思に影響されるものだということ。
仮にも聖剣グランドリオンの担い手。
聖剣との共通点であるその性質を見抜くことは容易かった。

「む?」

と手にしていた剣から伸びた光がカエルを包むや否や、身体の中で魔力の滾りが再活性化する。
どうやらマリアベルにかけられていた能力封印が解けたらしい。
どころかケアルガを使ってもいないのに徐々に、本当に徐々にだが傷が癒えていく。
原因がこの心臓が脈打つように鼓動する真紅の光にあることは間違いなかった。

「そういうことか」

カエルは得心がいき、魔剣を一度大きく振るう。
予想通りストレイボウ達との戦闘では起きなかった衝撃波が発生し、巨大な玉座を吹き飛ばした。
どうやら地下の何かの影響でこの地では限定的ながらもカエルにも魔剣の力を引き出すことができるらしい。
もっとも同系統の武器を使い慣れてたカエルだからこそ魔剣の膨大な力を制御しきれたのだが。

「どうやら俺にはつくづくこの剣がお似合いらしい」

自嘲しつつも魔王を地に降ろし、回復呪文をかけようとしてふとそれが目に入った。
階段だ。
キルスレスで吹き飛ばした玉座の下に隠されていたのか、はたまたその衝撃がスイッチとなり隠し階段が姿を現したのか。
どちらかは分からないがついさっきまではなかった階段が確かにそこにはあった。
カエルは魔王の治療を中断。
一人魔剣を手に階段を下り、地の底へと降りていく。

その終着点にそれは鎮座していた。

21 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 17:38:33 ID:COKsPISJ
「これは……虹色の貝殻? いや貝じゃねえ、石だ」

巨大な、あまりにも巨大な虹色に輝く石。
カエルは知る由もないがこれこそが感応石。
殺し合いの参加者を首輪の楔から解き放つ為に破壊を必須とされているそれ。
加えて、カエルの手には同じく首輪解除の鍵となる紅の暴君。

マリアベルの願いは届かない。
決戦は避け得なかった。



【F-7 遺跡ダンジョン最下層 一日目 真夜中】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(やや大)、疲労(大)、自動微回復中
[装備]:紅の暴君@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:出来る限り殺す。
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。
※キルスレスの能力を限定的ながら使用可能となりました。
 開放されたのは剣の攻撃力と、真紅の鼓動、暴走召喚のみです。
 遺跡ダンジョン最下層からある程度離れると限定覚醒は解けてしまいます。


【F-7 遺跡ダンジョン地下五十階 一日目 真夜中】
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、瀕死、気絶
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。


※F-7 遺跡ダンジョン最下層に巨大な感応石が設置されています。
 尚、オディオの手で感応石に何らかの仕掛けがされている可能性や、他にも何か設置されている可能性もあります


22 :ハッピーエンドじゃ終わらない  ◇iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 17:40:07 ID:COKsPISJ
代理投下、終了。

23 :創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 01:14:07 ID:7SDGRmVN
投下&代理投下乙です

マリアベルは知ってしまったのか
そしてストレイボウはこれを知ったら更に…
遺跡も何やら重要な物が眠っていてカエルらとの戦いはもう避けられないな…

24 :創る名無しに見る名無し:2010/08/17(火) 04:35:24 ID:UKDtFXdy
投下乙です

カエルVSストレイボウは話の主軸の一つとして定着した感があるな。
葛藤と戦うカエルと、弱い自分と戦うストレイボウ。
今後どうなるのか楽しみだ。

ただ、ランドルフで逃げたのは上手かったと思うけど、
テレポートの制限をすり抜けるための設定はちょっと後付感が強いかも。
事前に準備しておけば術者以外でもほぼノーリスクで逃げられるんだと
強力すぎる気もするし、何かしらのバランス取りは必要なんじゃないか?

あと、細かい誤字だけど
「F-07エリアの遺跡とは名ばかりダンジョン。

「F-07エリアの遺跡とは名ばかり"の"ダンジョン。
かな。

25 :創る名無しに見る名無し:2010/09/02(木) 07:07:32 ID:Fui8vrgq
保守。
予約楽しみにしてましたが、急用は仕方ない。
まずは腰を落ち着けて、またの機会を楽しみにしてますー。

26 :創る名無しに見る名無し:2010/09/16(木) 17:57:11 ID:SPHi9mWF
なんだろう…途切れたな…

27 :創る名無しに見る名無し:2010/09/16(木) 21:49:59 ID:4AVTTr42
いつだってそうとは言えようが、忙しい時期だからなあ……
このロワは書き手さんの年齢層が高い印象があるし、執筆にしても
波があるもんだし、気長に待ちましょうや

28 :創る名無しに見る名無し:2010/09/26(日) 00:41:28 ID:jXbHhZ6m
保守

29 :創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 22:46:23 ID:WbBUoMRe
保守しときますー

30 :創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 23:55:50 ID:YxhJIRxQ
age

31 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:16:36 ID:enuolPUt
 

32 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:19:33 ID:ped1AHkO
したらば予約スレからの転載。
自分は構わないというか、むしろ大歓迎ですー。

220 名前: ◆iDqvc5TpTI[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22:03:25 ID:XtvtL67Q0
RPGロワの皆様方、お久しぶりです
少し前に厄介ごとが片付き、執筆を再開したところ、今更ながらに前回の予約パートが完成しました。
松、セッツァー、ジャファルの予約です
現状予約はされていないようなのですが、投下してもよろしいでしょうか?

33 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:24:21 ID:enuolPUt
それでは早速ですが投下します

34 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:25:15 ID:ped1AHkO
了解しました。当方に支援の用意あり!

35 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:26:38 ID:enuolPUt
――それはいつかの再現だった

暗い船室で一人、松は酒を呷っていた。
謎の落書きを無視してしばらく後、ようやっと松は目的のものを手に入れた。
シルターンという聞いたこともない地方産のものだったが元より松は酒に質を求めない。
ただ量さえあれば、酔えるくらいの度数さえあればそれでいい。
開封されていない酒瓶を数本掴み、近くにあった船室へと引きこもった。
部屋はよく整理されていた。
棚にはやたらと本やらプリントやらが並んでおり、
正直柄の悪い人間には似合わない部屋ではあったが――それでいてどこか馴染みのある部屋なのだが――しょうがない。
これ以上酒を待たされてたまるかと椅子にどっかりと座り、ぐいぐいと机に置いた酒を飲みだし始めた。
一本飲み干せばまた一本。
手持ちがなくなれば酒蔵から引き出してきてまた一本。
松は浴びるように酒を飲み続けた。
それはあたかも大見得を切っておきながらブリキ大王を動かせずに不貞腐れたあの時のように。
いや、ように、ではない。
今の松は迫る危機に対して何もなせず酒に走ったあの時そのものだ。
誰一人として守れていない。
何一つとしてなせていない。

「はは、やっぱ何もできねえのかよ……。
 俺みたいなダメ人間は……」

心なしかトレードマークであるド根性へアーも力を失いなよっとしているように思える。
松は垂れ下がって鬱陶しい自身の染めた髪へと手を伸ばす。
緑。
緑の髪。
自分のように無理やり染めたのとは明らかに違う自然色の鮮やかな緑の髪。
ティナ。
ティナ・ブランフォード。
身代わりになろうとした自分の更に身代わりになって果てた少女。
彼女の仇を討つどころかよろしくと託された仲間の一人にする会えて居ない。
こんなことならば無理矢理にでもビクトールについていくべきだった。
それがダメでもトッシュとナナミがビクトールの援護に向かった時に共に行けばよかったのだ。
そうすればむざむざビクトールやナナミを死なせずに済んだのかもしれない。
そうすれば今も生きているティナの仇たるあの凶獣を倒すことができたのかもしれない。
そうすれば、そうすれば、そうすれば。
かもしれない、かもしれない、かもしれない。

36 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:26:38 ID:VICCDmvl
 

37 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:27:24 ID:VICCDmvl
 

38 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:27:40 ID:enuolPUt
「……らしくもねえ」

ぐるぐると、ぐるぐると回り続けるifの妄想が嫌になる。
もしとか、たらとか、ればとか。
そんなものに囚われ続けるのは昭和の男のすべきことじゃない。
分かってる、分かっているのだ。
だが、何かが引っかかる。
果たしてらしくねえのは今ここでぐずっていることだけなのだろうか?
それよりももっと前、ビクトールと別れるよりも更に前にどこかで歯車が狂ってしまっていたように思えてならないのだ。

「くそっ!」

酒に手を出してしまったのは失敗だった。
経験上知っていたはずの自棄酒という愚行をまた繰り返してしまった。
笑える話だ、アズリアの死体の元を去る時に振り払ったはずの無力感に追いつかれるとは。
これも全て人に会えないからだ。
敵を倒すことも、仲間を作ることもできていないからだ。
ティナのこともアズリアのことも彼女たちの仲間や家族に伝えられていないからだ。
希望を持った者たちが一人も集まらないことは転じて諦めを招いてしまうからだ。
何よりも。
一人ぼっちはいただけない。
することがなくなれば己を見るしかなくなってしまう。
ガンッっとグラスを握った右拳を机に叩きつける。
と、その音に別の音が、カランカランと響く鈴の音が混ざり聞こえた。

「トッシュか!?」

松は机にもたれ掛かっていた身を跳ね起きさせる。
暗殺者により手痛い目にあった松は、酒を飲み始める前に、
食堂のドアからかっぱらってきた鈴を今いる客室に通じる通路のドアへと付け替えていたのだ。
それが鳴ったということは誰かがようやっと座礁船にやってきたということだ。
証拠に鈴の音に続いてキイキイと床の軋む音がする。
間違いない、侵入者が居る。
松は酔いに震える我が身に活を入れ自室の扉のすぐ側で身をかがめる。
侵入者がトッシュであるという都合のいい幻想はすぐに捨てた。
トッシュなら間違いなく大声で松の名を呼ぶだろう。
あれほどこそこそするという行為が似合わない男も居ない。
とはいえ抜き足差し脚をしているからといって殺人者だと決め付けるも早計。
こっちが警戒しているのと同様、相手も慎重なだけかもしれない。
だからまずは話しかけることにした。
部屋の扉を開け放ち、侵入者が中を調べようとした刹那に飛び出し、男に拳を突きつけ確認する。

「俺の名は無法松。そっちに殺し合いを吉とする気がねえなら俺もやりあうつもりはねえ」

39 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:28:04 ID:VICCDmvl


40 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:28:29 ID:ped1AHkO
 

41 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:29:10 ID:ped1AHkO
 

42 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:29:14 ID:VICCDmvl


43 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:29:54 ID:enuolPUt
見たところ武器らしい武器はない。
せいぜい手にしたカードくらいか。
しかしそのカード自体が凶器という可能性もありうるし、超能力者や魔法使いならそもそも武器は必要ない。
松は警戒を緩めることなく侵入者の返答を待つ。
だが松が侵入者の男に対して抱いていた警戒は

「アンタが松か。トッシュから話は聞いている。
 俺はセッツァー、セッツァー=ギャッビアーニ。夢に生きるギャンブラーさ」

トッシュの、そして何よりも男の名前を聞いた途端に吹き飛んだ。
知っていたからだ、その名前を。
教えてもらっていたからだ、ある少女に。
そして託されていた。
よろしくね、と。
鮮やかに蘇る少女の言葉に頷き返し、松は拳を下ろした。
どころか腰までも降ろし、膝をつき、頭までも下げた。
すまねえと、謝って済むことじゃあねえがすまねえと。
地に打ちつけるが如く何度も何度も頭を下げた。
女に守らせた挙句、その女を、ティナを死なせてしまったのだ。
彼女の仲間に顔を合わせられるわけがなかった。

「おいおい訳を言ってくれ。俺はあんたなんて覚えはないんだがな」

見知らぬ男に突如土下座されるという事態にもセッツァーはそれほど動揺はしていなかった。
ギャンブルでボロ勝ちした相手に主に金銭関連で土下座れることは珍しくもなかったからだ。
話を聞こうと傍らに腰を下ろしたセッツァーにぽつりぽつりと松の口から言葉が零れていく。

「そうか、ティナはアンタを庇って死んだのか」

殺し合いに乗ったセッツァーにとってはそれ自体はどうでもいい情報だった。
だがティナ殺害の下手人の能力や武器が分かればのちのち戦うことになった時に対策が打ちやすくなる。
情報を操っての邪魔者の排除からは限界を感じ、手を退いたとはいえ、情報を得ることの価値が失われたわけではない。

「アンタには辛いかもしれないが詳しく話してくれないか? あんたが出てきた部屋で酒でも呑みながらさ」




44 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:30:05 ID:ped1AHkO
 

45 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:30:30 ID:VICCDmvl


46 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:30:46 ID:ped1AHkO
 

47 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:32:02 ID:enuolPUt
――それはいつかの再現だった


闇夜に染まる景色の中。
松がさっきまでいた客室にて、今は二人の男が酒を飲み交わしていた。
一人は静かに酒を呷りつつも、酒に溺れることなく、瞳に勝負師特有の鋭さを聞いたまま話を聞いていた。
一人はぽつぽつと言葉を語るたびに湧き上がる後悔と無力感のままに酒に手を伸ばし続けた。

「ティナはよ。愛とは何かってのにこだわっていた。
 俺が酒に逃げている間もあいつは逃げずに何かを掴んだんだろうさ。
 その結果人を護って死ぬことを選んだんならあんたが悔やむことはねェ」

セッツァーは松に対しては彼が知る限りで最新の正しいティナの有り様を話した。
情報による撹乱はこれ以上狙えないと思ってのこともあったが、僅かなりともティナへの弔いを込めてのことだったことは否定しない。
敬意もあった。
世界崩壊の憂き目を見ようとも、潰れてしまっていた自分とは違い、誰かのために戦い続けようとしたのだろう少女への。
ただ、やはりこれすらもセッツァーが最後の勝者となるための一手。
ティナのことを饒舌に語り合い、それをきっかけにして他の情報を引きずりだそうとしてのことだ。
結果は上々。
よほど溜まっているものがあったのだろう。
酒に酔った弾みとティナの仲間に謝るという一つのやるべきことを成せた開放感から松は聞かずとも勝手にあれやこれやと話してくれた。
松が見つけていたこの船の見取り図から、床の落書き、封印されているかのように重い剣のこと等、
思いの外、施設や支給品に関しては得るものがあった。
その中でも特にセッツァーが興味を惹かれたのはエドガーが死ぬ間際まで気にかけてたらしきカラクリの正体だった。

「ブリキ大王?
 巨大な鎧武者があると聞いて魔導アーマーか何かかとは思っちゃいたが、まさかそんなたまげたもんだったとは!
 そいつは空を飛べたりしないか? これでも飛空艇の操縦にかけては誇れるだけの腕はあるんだが」
「飛べはしないが跳ぶだけで十分さ。
 でけえからな、あいつは。
 ただ動かすのは無理ってもんだ、俺にも、お前にも。
 あいつはただの機械じゃねえ。普通の人間なんかとは桁違いの念力が必要なんだ……。
 アキラみてえに超能力でもありゃあ話は別なんだがな」

松の手前上、セッツァーはそんなものかと頷きはしたが、しかし、内心では納得なんてしていなかった。
魔導アーマーでさえ足元にも及ばない巨神、ブリキ大王。
そんな規格外のものを支給品としてではないとはいえ、会場に設置する以上、何かあるはずなのだ。
でなければブリキ大王にたどり着けさえすれば、そこから先はアキラという少年のワンマンショーになってしまう。
殺し合いが殺し合いとしてなりたたない。
ギャンブルに反則は付き物だが、オディオが八百長を望んでいるとはセッツァーには考えられなかった。
それでもブリキ大王がこの島に存在してしまっている以上、何らかの形でバランスは取られているはずだ。
考えられるのは以下の三つ。
ブリキ大王がアキラも含めて誰にも動かせないか、逆に裏技的に誰にでも動かせるか、
或いはブリキ大王に対抗できるほどの道具や兵器が支給されたり隠されているかのどれかだ。
ブリキ大王を直に見ていない現状、これ以上は考えても仕方がないが、有益な情報であった。
セッツァーは満足気に松が空けた酒瓶をこつんと鳴らしてみる。

「ちきしょお、アズリアァ……。
 傷付いた女を置き去りにしていくなんて昭和の男がやっちゃいけなかったんだ……。
 死ぬなら一度死んだ俺が死ぬべきだったってえのに……」
 
反面物ならぬ人に関しては、聞いての通り松から語られるのは圧倒的に死者に関することの方が多い。
彼自身も死んだはずの人間だということを踏まえれば、死者が死者を語るのはある種自然なことと言えなくもないが。
今後に活かせるかと問われれば今ひとつと返すしかない。
加えて数少ない生存者の情報に関してまで問題がついて回る。

48 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:32:33 ID:VICCDmvl


49 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:32:35 ID:ped1AHkO
 

50 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:33:13 ID:VICCDmvl


51 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:33:37 ID:ped1AHkO
 

52 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:33:39 ID:enuolPUt
「ゴゴ?」
「ああ、あんたの仲間なんだろ? そいつにもティナのことを伝えねえとな……」
「……あいにくだが俺はこれっぽっちも知らないぜ。ティナから何か聞いてはいないか?」

ティナがマッシュやエドガー達と共に仲間として名を挙げたゴゴという人物。
確かに名簿にも名前はあるが、セッツァーの記憶にはそんな覚えやすい名前の人物は全く刻まれていなかった。
知っているふりをしてボロを出すよりはと素直に知らないことを白状し、情報を聞き出そうとすれども、

「さっきも言ったがすぐにルカ・ブライトの奴に追いつかれちまったからな。しかし本当に知らねえのか?」

成果なし、だ。
どころか無駄に松に訝しがられるだけだときた。
おいおいよしてくれとセッツァーは心のなかで舌を打つ。
疑問に思ってるのはセッツァーも同じなのだ。
とはいえこの行き違いについて全く推理できないわけではない。
仲間だったとはいえ、セッツァーとティナには空白の時間があるのだ。
言うまでもない、世界崩壊後からこの殺し合いに呼ばれるまでの一年間だ。
ゴゴという人物はきっとその間にティナの、或いはティナ達の仲間になったのだ。
一年もあれば仲間と呼ぶだけの関係を作るには十分過ぎる。

「そうか……。いや、そうだな。そういうこともあるんだよな」

ひとまずは納得したのだろう。
何か自身も思い当たることがあるのか急に黙りこむ松を傍目に、セッツァーもゴゴに対して警戒心を募らせていた。
ゴゴがティナからセッツァーについての話を聞いている可能性は高い。
性格にしろ、癖にしろ、能力にしろ、何にしろだ。
それはつまり情報の利は向こうにあるということだ。
セッツァーはゴゴを知らない。
ゴゴはセッツァーを知っている。
これでは相手に手札を覗かれながらカードをやっているようなものだ。
不利。
あまりにも不利。

それがどうした。ギャンブルってのはこうじゃなきゃいけねえ。

セッツァーは不敵な笑みを浮かべる。
危機感は抱いても、負けるとは思っていない、思ってはならない。
一度でも負けを考えてしまえば、負け込むのが勝負の世界だ。
常に自分を強く持たねばならない。
なんだかんだで最後に物を言うのは運だが、それは揺るがぬ意志の強さで引き寄せることができるのだから。

ならば。

「アキラの奴にも俺が死んだあとでダチや仲間ができていて、もしそいつらもここに呼ばれているとしたら……。
 一発どころじゃねえ、オディオの野郎、とことんぶん殴ってやる!」

この男は。
負け続け、失い続けてばかりのこの男には。
運に見放されているとしか思えないこの男には――。

「なあ、松」

セッツァーは口を開く。
最後の質問のために。
これからには役に立たない、けれど夢に生きる男として最も聞いておかねばならない問いを発するために。

「アンタ、夢はあるかい? ゴールでもいい。
 なんとしても成し遂げたい、是が非でも辿り着きたい、そんな切なる願いがあんたにはあるかい?」



53 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:33:56 ID:VICCDmvl


54 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:34:40 ID:ped1AHkO
 

55 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:35:40 ID:enuolPUt
――それはいつかの再現だった

「あ……? いや、おい、いきなりどうしたんだ、セッツァー。
 今成し遂げたいことと言ったらオディオを倒すことに決まってるじゃねえか!」

突然のセッツァーの問いに松はしばし呆けながらも、疑問に思うことなく答えを返した。
オディオを倒す。
それ以上に今の松が強く抱いている願いはない。
セッツァーのゴゴについての推測を聞く中で松は思ったのだ。
ティナと名簿に載っている知り合いの話をした時、自分はティナのことを災難だといったが、あれは勘違いだったのではないかと。
何もティナが災難じゃなかったと言いたいわけではない。
ただ、ティナのように何人も知り合いが巻き込まれているのが普通で、自身のように知り合いが少ないことの方が多分幸運だったのだ。
ティナも、ビクトールも、トッシュも。
何人も仲間が巻き込まれていると言っていた。
大切な人が一人しか巻き込まれていない松はむしろ異端だ。

……本当に?

これは松を中心として考えるからおかしくなるのではないか?
松ではなくアキラを中心に据えて考えれば、あいつの知り合いは何人も呼ばれているのでは?
ティナがセッツァーとはぐれた後の一年間でゴゴという新たな仲間をつくっていたように。
アキラが松の死んだ後で多くの新しい絆を育んでいた可能性も十分にありうるのだ。
そしてこの推測が当たっているのなら。
アキラは、何人大切な人間を失った?
どれだけ悲しんだ?
一度想像しはじめてしまえばもう抑えは効かなかった。
松の中で激しい怒りが爆発的に膨れ上がり、とことんぶん殴ると吠え出していた。
打倒オディオを誓いも新たに強く掲げる。
幸か不幸か直前までのぐだぐだっぷりはすっかり吹き飛んでいた。
沈んだままではいられない、いてやるものか。
そうだ、こうして船での成果も出せたではないか。
待った甲斐があった、セッツァーが来てくれた。
もう少しすれば、彼にここのことを伝えてくれたトッシュもやってくるかもしれない。
いや、そもそも待つのは女の役目であって、男の役目じゃない。
前に立たせた挙句にアズリアを死なせてしまった自分が、いつまでも座して待ってばかりでいいはずがない。
休憩にもなるしセッツァーに船は任せて自分はアキラやトッシュ達を迎えにいけばいいのだ!

「すまねえがセッツァー、俺の代わりに船の番をしていちゃあくれねえか?
 俺はトッシュ達を迎に行ってくるぜッ!」

椅子を跳ね除け立ち上がり、顔を一度パシンッっと叩いて気合を入れる。
酔いはそれで冷めた。
やや熱に浮かされているような気分は残っているが再び後ろ向きになるよりはましだ。
松は高揚する心のままに扉を開け放ちしかと力強い一歩を踏み出そうとした。
だというのに。

「話はまだ終わっていないぜ、松。
 俺が聞きたいのはこの殺し合い同様に振って沸いた安易な目的じゃあない。
 殺し合いの先、或いはそれ以前についてだ」


56 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:35:56 ID:ped1AHkO
 

57 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:36:24 ID:VICCDmvl


58 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:36:56 ID:ped1AHkO
 

59 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:37:32 ID:enuolPUt
ドアノブにかけた手が別の男の腕に掴まれ止められる。
熱い、熱い掌だった。
きざったらしい白い手袋に覆われているにも関わらず、松に熱い熱を伝えてくる掌だった。
スカした見かけに反してこいつも熱い心を持っているのだろうことが松にも直感で分かった。
だがだからこそ、訳がわからない。
どうしてセッツァーが自分を止めようとしているのか。
どうしてセッツァーの声が彼の心の中にある熱に反比例するかのように冷ややかなのかが。
どうしてその冷たさが背筋を這いつくばって離れないのかが。
いや、そもそも本当に冷たいのはセッツァーの声だけなのか?
彼の手を熱いと感じている掴まれた自分の腕こそが真に冷たいのではないのか?
セッツァーの腕を振り払わんとしているのは本当にアキラの元に駆けつけたいからだけなのか?
ただ単に一刻も早く、真に熱いこの男の手から離れたいだけではないのか?
でなければ、でなければ――



かってと今の決定的な違い。
無法松を無法松たらしめていた熱さが既にないということに気付いてしまう……



「な、何を言ってんだ、セッツァー。
 そうだ、お前さっきブリキ大王のことを人づてに聞いたと言ったよな!?
 どこにあったか教えてくれねえか?
 普通の人間に動かせないのは事実だが、普通じゃなくなれば動かせる!
 命の危機に関わるんでさっきは黙っていたが、俺は一度死んだ身だ。
 オディオを倒すために死ねるならそれはそれで悪くねえ!!」

一瞬、心に浮かんだおぞましい思考を振り払うように松が声を張り上げる。
それはせめての抵抗だった。
自身のあらん限りの想いを言葉にすることで滲み寄り熱さを奪い取らんとする寒気へのなけなしの抗いだった。
そして同時にセッツァーを失望させる決定打だった。
熱が松の腕から離れていく。
最早松の歩みを阻むものはない。
だというのに松は再び駆け出すことができなかった。
理解してしまったから。

「そうかい。やっぱそういうことか。
 納得がいったぜ」

明らかな侮蔑の込められた声が、松を解放したのではなく、見捨てただけだと雄弁に語っていたから。

「松、アンタは生き返ってなんかいない。ただの死人だ」



60 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:37:34 ID:VICCDmvl


61 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:37:59 ID:ped1AHkO
 

62 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:38:15 ID:VICCDmvl


63 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:39:40 ID:VICCDmvl


64 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:40:10 ID:ped1AHkO
 

65 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:40:40 ID:enuolPUt
――それはいつかの再現だった


「俺が……、死に、ん……?」
「そうさ。だから辞めておけ。
 ブリキ大王っていうのが強い想いでしか動かせないというのなら死人のあんたには無理だ」

セッツァーは手をひらひらと振って無理だ無理だと繰り返す。
彼はギャンブラーだ。
ギャンブラーである限り、分の悪い勝負というのは嫌いじゃない。
少しでも勝ち目があると見込めたならば、そこに有り金全部BETするのも満更ではない。

「っ、確かに俺は一度は動かしきれなかった。
 だが命を賭けた昭和の男に不可能はねえっ!
 男、無法松、無理を通してみせる!」
「なるほど、それは確かに道理だ。
 命はこの世で何よりも重いものの一つだ。
 そいつをBETするというのなら得られるギャラも法外なもんだろうさ」

ではこの無法松という目はどうだろうか?
配当はブリキ大王、魔導アーマーを遥かに凌駕する機会兵器。
先ほどのブリキ大王に関する考察もある。
ブリキ大王を一度とはいえ動かしたことのある松のレクチャーを受けるなり操作を見るなりすればセッツァーにも案外簡単に動かせるかもしれない。
なるほど、これは中々に魅力的な賞品だ。
戦力的な面を除いても、巨大非行型魔導アーマーで体感する空にも興味がないといえば嘘になる。
されど

「でもな、忘れてないか?
 賭けで報酬を得るのならまずはギャンブルで勝たなきゃいけないってことを。
 お前には勝てないさ。夢も願いもないお前には」

超一流のギャンブラーであるセッツァーの目からしても松という目には勝率を僅かなりとも見出すことができなかった。
恐らくここで松を行かせたところで、これまで同様に彼は敗北し、セッツァーもその負の余波を受けることになるだけであろう。
余波――ああ、今なら断言できる。こいつの言うとおりだ。ティナは松のせいで死んだのだ。
勝てるはずのない勝負のチップ――命を、否、命があるからこそ叶えられる夢を代わりに払わされて死んだのだ。
勝負に乗った松が払うべき夢を持っていなかったからこそ、彼の仲間が代わりに払わされ続けてきたのだ!

「何度言えば分かるんだ! 俺はオディオの野郎をっ!」
「それは夢じゃない。当面の間の目標に過ぎない。
 だってそうだろ? この殺し合いは俺達にとっては振って沸いてでたもんだ。
 本来の人生には存在しえなかったはずのイベントさ」

無法松は一度死んだ人間だ。
人生の起承転結、オープニングからエンディング、全てをやりきっている。
そこにオディオというアウトファクターが介在しえる余地は本来どこにもなかった。
故に。
そのオディオを前提とした目標というのは本来無法松が持ちえなかったものであり、偶発的な想いに過ぎない!
セッツァーが真に聞きたかったのはそんなものではなかった。
セッツァーは今一度問う。
最後に問う。

「ならよ。この殺し合いを抜きにして。
 あんたはいったい何をしたい? 何を願う?」
「俺は……」

66 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:40:51 ID:ped1AHkO
 

67 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:41:14 ID:VICCDmvl


68 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:42:27 ID:ped1AHkO
 

69 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:43:01 ID:VICCDmvl


70 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:43:43 ID:VICCDmvl


71 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:43:44 ID:enuolPUt



答えは――ない。



「答えられないか? 答えられないだろ。心の枯れきったアンタじゃな」

セッツァーはつまらなそうに言い捨てた。
暗い部屋の中、酒を煽り、言葉を交わす。
シチュエーションとしてはトルネコの時の再現なのに中身はアティという女の再現と来たもんだ。
ああ、全く酒が美味しくない。

「そうだ、俺はアキラを!」
「たまたま名簿にそいつの名前があったからだろ?
 もし、もしもだ。名簿にそいつの名前がなかったとして。
 この殺し合いに巻き込まれてなかったとしたら。
 あんたはそいつをわざわざ命を賭けて護ろうとしたかい?」

或いは。
ここで松がセッツァーが満足する答えを返せていれば。
夢でなくとも、希望とか、絆とか。
トルネコが語った夢に並ぶほどの人の心を潤す確かな想いが伝わってきたのならセッツァーは松を認めただろう。
もう少しまともに酒を味わえただろう。

「したに決まってんだろ!」
「本当か? 本当にそうか? なら一度振り返ってみな。
 あんたはそいつ以外に生前あんたが大切にしていた奴らを一度でも思い出しはしたか?
 幸せに過ごしてるだろうかとか、一人おっちんじまったことを謝りたいとか想ったか?
 思っていないだろ。俺の命を賭けたっていい。あんたはそいつらのことを僅かですら思い出しもしなかった。
 もしも想っていたのなら、やすやすと死んでもいいなんざ口にできるはずがない!」

それさえも叶わなかった。

あれだけ雄弁だった松が押し黙る。
それは無言の肯定だった。
彼がこの殺し合いの地で蘇らされて以来、一度たりとも名簿に載っていたアキラ以外の大切な人を、
自分が命を賭けて守り抜いた人々のことを思い出しもしなかったことの証に他ならなかった。
押し黙る松を心底嫌悪しながらも、セッツァーは生前の無法松という人物に思いを寄せる。
きっと理屈を超越した熱さを持つ男だったのだろう。
少し、ほんの少し残骸に触れただけのセッツァーがそうだったに違いないと断言できる程には。
それが、この様だ。
恐らく無法松という男の人生は幸福だったのだろう。
自らの有り様を貫き続け、思いを成し遂げ、アキラという人物に全てを託して死んでいったのだろう。
それを悪いとは言わない。
むしろ憧憬さえ覚える人生だ。
己を貫き、全てを成し遂げ、悔い一つ残さず逝けることを幸せな死といわずになんと言う。
ただ、だからこそ。
無法松は眠ったままでいるべきだったのだ。
生前に何一つ未練も執着も残しておらず、過去を振り返りもしない元死人など、亡霊や悪霊にすら劣るただのゾンビだ!
生ける屍、人形にしか過ぎないのだ!

「いい加減にしろ! 死んでも何かを成し遂げるのと、死んでもいいってのはてんで別もんだ!
 一緒くたにするなんざ真に命懸けで叶えたい願いのために生きている男への侮辱でしかない!」

72 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:44:05 ID:ped1AHkO
 

73 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:44:35 ID:VICCDmvl


74 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:44:55 ID:ped1AHkO
 

75 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:45:23 ID:VICCDmvl


76 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:46:04 ID:VICCDmvl


77 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:46:22 ID:enuolPUt

ああ、そうだ、それは侮辱だ。
何よりもかって生き、根性で本来動かせないブリキ大王とやらを動かしてまで、己が願いを叶えていった無法松という人間への侮辱だ!
今のアンタを見たらそのアキラって奴やあんたが護ろうとした人達は何て言うだろうな?

「松、あんたにはないんだ。夢に生きたい明日が! 願いの糧となる過去が!
 そんな奴が。何とはなしに生き、死んでもいいとか簡単に言えるアンタに。いったい誰が護れるって言うんだ」
 
俺か?
俺は嫌だね。
空っぽになっちまったダリルを目の当たりにするなんざご免こうむる。
セッツァーは死者蘇生の実例を前にして心の中で吐き捨てた。
死者蘇生? 違うな。
死人は蘇りはしない。
一度死んだ人間が生き返ったとしても、そいつの記憶にも、周りの皆の心にも死は刻まれたままだ。
死はなかったことにならない。
生き返るということは、死の先を、死の延長上を歩むというだけで、生きるということは別物なのだ。
それがセッツァーの持論だ。
だから、もう一度言おう。
怒りを込めて言い放とう。

「生き返ったとあんたは言ったな。
 それは大きなミステイクだ。
 あんたは生き返ってなんかいない。
 一度死んだまま、死にっぱなしなんだよ」

そして、その言葉に応えるように。
何かを言い返そうとした松の喉が背後より潜み続けていたセッツァーの同行者の手により断ち切られた。



78 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:46:45 ID:VICCDmvl


79 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:47:04 ID:ped1AHkO
 

80 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:48:03 ID:ped1AHkO
 

81 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:49:08 ID:enuolPUt
――それはいつかの再現だった


ジャファルはこの地に来るよりも前にも一度、死人が蘇る場面を目の当たりにしたことがあった。
正しくは死竜だが、そんなことはどうでもよかった。
神将器による潰えた命の復活。
紛うことなき奇跡の顕現。
人が求めてやまない夢想の最果て。
それが現実のものとなり竜の少女が蘇った時。
フェレ侯が、オスティア侯が、キアラン公女が、最愛の少女であるニノも笑顔でニニアンの生き返りを受け入れる中。


ジャファルはえも言えない嫌悪を抱いた。
おぞましいとすら思った。


ニノの笑顔を曇らせぬよう、必死に表情に出ないようにはしたが、しかし、それは彼が今まで抱いた数少ない感情の中でも決して弱くないものであった。
その時はそれが何故に湧き出たのか、ジャファル自身にも分からなかった。
命は一度きりだからこそ尊いのだという倫理などジャファルの中にはない。
これまで狩ってきた者達にまで蘇られたら困るという俗物的な考え方でも無論なかった。
ただ単に理屈を超越したもっと感性的な何かが、死人が蘇ることに拒絶反応を示したのだ。
それでもジャファルはその嫌悪を無理やり飲み込む道を選んだ。
短剣を手にしようとする腕を意志の力で封じ、竜の少女の再殺を押し留めた。
ニニアンの力は竜を抑えるために必須だったから。
ニノと共に生きるという夢を叶える為には必要だったから。
ジャファルは見逃した。
一時の感情など、ニノへの激情の前には霞む程度のものだった。
けれど、今回は違う。

ジャファルに松を見逃す理由はなかった。
ジャファルには松を殺す明確な理由があった。
ニノを護る。
ニノに生きていて欲しい。
生きて、死んで、生き返ってなんかじゃない。
ただただ生き続けて欲しい。

一念。

その一念の元にを突き出す。
刃が走ると共にジャファルにとって最も大切なはずの感情すら無になる。
ニノに告げたように、彼は感情を捨てた。
殺すという行為に一切の感情を伴わせなかった。

何も感じず、何も恐れず、何も望まず、ただ標的へと至る死。
それがジャファルの一撃だった。

「は……ぐぃ?」

故に、その松の死は約束されたものだった。
否。
訂正しよう。
松の暗殺が成功したことはジャファルの腕前によるものだけではない。
いくら彼が凄腕の暗殺者とはいえエドガーを暗殺してのけた時とは訳が違う。
あの時はジャファル自身の腕に加え、身を隠す隠れ蓑やモシャスによる撹乱があった。
幾重もの要素を積み重ね、エドガーから隙を引き出しての一撃必殺だった。
それに比べて今回はどうか?
隠れ蓑も失い、モシャスの担い手も欠き、更には松はジャファルという個人を認識して警戒していた。
難易度は比べようもないくらい釣りあがっていたはずだ。
にも関わらずあっさりと、実にあっさりとジャファルは松の背後を突き、刃を突き入れることに成功していた。

82 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:49:15 ID:ped1AHkO
 

83 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:50:55 ID:ped1AHkO
 

84 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:52:10 ID:ped1AHkO
 

85 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:52:20 ID:enuolPUt
どうしてか?

簡単な話だ、装備や人員を失った分、新たな協力者を得ていたからだ。
セッツァー。
セッツァー=ギャッビアーニ。
この男がジャファルの暗殺へのお膳立てをした。
松が頭を下げている隙にシャドウが客室に入ったのを視界の端で捕らえたセッツァーは松を部屋にまで誘導。
その後、適度に酒を飲みつつ、精神の動揺を誘った。
いや、動揺に関してはあくまでも副次的な産物だ。
相手が松であり、セッツァーが松を気に入らなかったからこそ起きた偶発的な事態。
真にセッツァーが狙っていたことは相手を戦いの場ではなく、話し合いの場に引き込むこと。
情報交換でも、思い出話でも、愚痴り合いでも、酒の飲み交わしでもなんでもいい。
松に今この場は武器や武力が入り込まない言葉の世界だと錯覚させ、
松自身の武器も拳から言葉へと挿げ替え、臨戦態勢を解かせさえすればよかったのだ。

作戦は思いのほか上手くいった。
松が感情的な人間でありながらも、精神は成熟した大人のそれであったこともいいように働いた。
どれだけ言葉で圧倒されようとも、“一切臨戦態勢を取らず、無防備を晒し続ける”セッツァーを力で押し切ろうとはしなかったのだから。
そう。
松がセッツァーに戦意を解除をさせられ無防備になってしまったことに対し、セッツァーは最初から無防備だった。
松の戦意を剥ぎ取らんとする以上、セッツァー自身も戦意を帯びている訳にはいかなかった。
どころかセッツァーには松への怒りや嘲りはあっても、殺意は一切なかった。
ジャファルといつ、どのタイミングで殺すかすら示し合わせてはいなかった。
下手に機会を覗っていては動きや会話が不自然なものとなり、松に気取られると踏んだからだ。
よってセッツァーは自身は会話に専念し、殺しは全てジャファルへと託した。
その徹底振りは完璧であり、現に今、松が刺されるその瞬間まで、セッツァーも“ジャファルがどこにいるのか一切感知していなかった”。

正気の沙汰とは思えない。
最強の暗殺者を前に余りにも無防備にすぎる。
これではまるで松と一緒に殺してくれと言っているようなものだ。
事実、ジャファルには先程のシチュエーションならそれが可能だった。

だが、ジャファルはそうしなかった。
最後の最後には殺しあわねばならない相手。
もしかすれば今生き残っている人間の中で最も油断のならない相手が油断している最大のチャンスを。
ジャファルは微塵の未練も抱くことなく掴もうとはしなかった。
何故ならば。

「そ……いっひっ……」
「紹介しよう。俺の“仲間”のジャファルだ」

地を這い蹲り虚ろな目で見上げてくる松にセッツァーが告げるように、ジャファルとセッツァーは“仲間”だからだ。
ジャファルがセッツァーの賭けに乗った時、二人はニノも加えた最後の三人になるまでの不戦協定に加えてもう一つ誓いを交わしたのだ。
即ち、互いに互いを“仲間”として扱うこと。
ジャファルもセッツァーも仲間の絆が持つ力を、それぞれの旅で知っていた。
信じあう仲間同士の結束というものがいかに強固で、いかに不可能を可能にするのか、幾度も幾度も目にしてきた。
ここに至るまでにジャファル、セッツァーとも碌な仲間関係を持てていなかったのも、二人に信用できる仲間の重大性を再確認させるには十分だった。
ダメ押しとばかりにあの神殿前での大乱戦で、いくつかの仲間と取れる集団を確認できてしまった以上、ジャファルとセッツァーも、
形ばかりの協力関係からなる“一人と一人”で彼らに挑むのではなく、“二人”で挑まねば勝てないと結論付け、手を握り合ったのだ。
それに、だ。

「こいつには信じるに足る願いがある。夢(明日)も願い(ゴール)もないてめえとは違う」
「あ、ぐ、……あぁァァァ」

セッツァーの言葉通り、セッツァーとジャファルは互いに互いを信じることができた。
正確にはセッツァー個人、ジャファル個人ではなく、それぞれがそれぞれに抱いている夢や願いに何よりも真摯である点を信じることができた。
だから、彼らは“仲間”になった。
正真正銘、背中を預けあい、命すらも託し合う仲間になった。
それは松がこの殺し合いの中で終始失い続けたものだった。

86 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:53:27 ID:ped1AHkO
 

87 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:55:32 ID:ped1AHkO
 

88 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:55:49 ID:enuolPUt

「ァァァアアアアア……」
「さよならだ、松。ロックには怒られるだろうが俺はお前という夢の形だけは認められない」

呪符が頭頂部へと突き刺さり、松が動かなくなる。
死を待つばかりだった松はその僅かな時間さえ存命を許されず完全に死に絶えた。
その松の死骸から支給品を回収し分配するセッツァーの傍ら、ジャファルは一つの想いを呼び起こす。
セッツァー同様、ジャファルにも蘇生への強い嫌悪はあるし、何よりネルガルという災いを知っているが故に、オディオの甘言を信じてはいない。
最悪、ニノをモルフにして蘇らすことぐらい、魔王を名乗るからにはしかねない。

だが、それでも――。

ニニアンの蘇生に際し、ジャファル同様思うところがあったのだろう、彼に言葉をかけてきたある司祭の言葉が脳裏を過ぎる。

『ジャファル、おまえの嫌悪は決して間違ってはいない。
 今の俺からすればおまえの気持ちの方が正しいとさえ思える。
 それでも。
 それでも人は抱いてしまうのだ。
 大切な人が死んだ時、神に願ってでも悪魔に魂を売ってでも、その人を蘇らせたいと。
 そしてそれもまた――』

「人の感情として間違ってはいない、か」

呟かれた言葉をただ死体だけが聞いていた。




【C-7 北部 一日目 真夜中】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドU、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドU
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストW 導かれし者たち、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
    マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、基本支給品一式×1
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを生かす。
2:セッツァーと仲間として組む。座礁船を拠点に作り替える。
3:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
4:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦
※セッツァーと情報交換をしました


【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:絶好調、魔力消費(小)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドU、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2、 シルバーカード@FE 烈火の剣、メンバーカード@FE 烈火の剣 、拡声器(現実)
    フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドU、天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3

[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:ジャファルと仲間として行動。座礁船を拠点に作り替える。
2:松から聞いた話を吟味する。特にブリキ大王や用意されているであろう対抗手段は気になる。
3:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。

89 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 22:57:09 ID:ped1AHkO
 

90 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 22:58:03 ID:enuolPUt





ジャファルに刺され、崩れ落ちる瞬間に松の目には船室にあるものが事細かに映った。
様々な専門書が並ぶ本棚。
子ども向けの簡単な問題用紙が並ぶ机。
吊り降ろし式のホワイトボードに、移動型の黒板とチョーク。
筆箱に収められた各種文房具。
やけに長く感じられる体感時間の中、それら“アティの部屋”を見回して松は一つ得心がいった。

ああ、そうか。
馴染みのある部屋だと思うわけだ。
学び舎だ。
ちびっこハウスと大小は違えど間違いねえ。
ここは子どもたちの為に開かれた学び舎かそこに務める教師の部屋だったんだ。

松はようやく思い出し、そして納得してしまった。
こんなことにもすぐに気付けないなんてセッツァーに好き放題言われちまうのも無理はないか、と。

生前の松の記憶は日暮里へ向かおうとしていた所で途切れている。
それはつまりアキラの勝負の行方を知らないということだ。
アキラが負けていればアキラだけでなく彼が護りたかった妙子らちびっこハウスの面々も命を落としてしまったことになる。
なのでアキラの勝敗は本来なら松が最も最初に知ろうとすべきことだった。
名簿にアキラの名前があったからとはいえ、松同様、蘇生させられた可能性もある以上、絶対安心出来ることではなかったのだから。

けれども。
松はアキラを心配しても、陸軍との戦いの決着についてはむとんちゃくな程気にしていなかった。
それはアキラのことを信じていたからでもあるが、同時に、今を生きていない死者特有の思考でもあった。
本来彼のものだったはずの陸軍、クルセイダーズとの因縁も、守るべきものも、全て託し終えて見守っているだけの死者のあり方だった。

そのことに気付いてしまった松は折れてしまった。
死を覆す気力など、最初から死を受け入れていた松には一切残っていなかった。
こうなってしまっては自慢の根性も役には立たない。
松はただ、本来あるべき姿に戻るのを待つだけだった。
闇の中をひたすら漂い死への道筋を遡っていった。

すると。

――私の声が、届いていますか?

声が、聞こえた。


91 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 23:00:37 ID:enuolPUt
――私の名は、ロザリー。魔王オディオによって、殺し合いをさせられている者の一人です。

朦朧としている意識の中、飛び飛びとだが声が聞こえた。

――私はかつて、この身に死を刻まれました。そのときの痛みと苦しみは、忘れられません。

松と同じく死の淵より蘇った少女の声が。

――何より辛かったのは、私の死をきっかけに、私の大切な方が、悲しみと憎しみに囚われてしまったことです。

松と違って遺される者の悲しみを知っていた少女の声が。

――そんな経験を経て、私は、改めて実感したのです。

確かに、昭和の男の胸を打った。

――大切な人が亡くなり、悲しみに暮れている方もいらっしゃるでしょう。仇を討とうと、憎しみを抱いている方も少なくはないかもしれません。

その言葉に涙を浮かべ。

――どうか、その大切な人のことを思い出してください。その人が、貴方のそんな姿を望んでいるはずがありません。

その言葉に捨て置いてきた何人もの人々を思い出した。

――私は今、生きています。それは、たくさんの強く優しい方々に出会い、手を取り合えた証です。

それが、生きているということ。

――ピサロ様に、届きますように。

それこそが、真に生き返るということ。

松は手を伸ばす。
去ろうとしている不思議な力の残滓に手を伸ばす。
松が、生きるために。
少女がそうしたように大切な弟分に言葉を届けるために。


アキラ……ッ!!


その願いが届いたのだろうか?
懐かしいあの感覚、アキラに心を読まれる感覚を無法松は感じた気がした。


【無法松@LIVE A LIVE 死亡】
【残り17人】


※松は死の間際にロザリーのメッセージを聞き、それに乗せてアキラに何かを伝えようと言葉を発しました。
 アキラが真夜中中に夢を見るような状況や、心を読んでいる時に、もしかしたら混線してメッセージが伝わるかもしれません。
 お任せします。

92 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 23:01:18 ID:ped1AHkO
 

93 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/04(月) 23:02:26 ID:enuolPUt
以上で投下終了します
指摘、感想、よろしくお願いします

94 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 23:10:00 ID:ped1AHkO
執筆お疲れ様でした。
……いいなあ、このセッツァー。じつに活き活きしてる。
彼だけでなく、このロワのマーダーとしての覚悟の方向が好きだわ……。
個人的に好きだった登場話の再現といい、原作FF6からロックを拾ってるところ
といい、いつもながら書き方が丁寧なのも良い感じでした。
対話から、戦闘に至らないレベルにおける殺害の流れもじつにメリハリがいい。
対話においてはまったくの傍観者だったジャファルを、死者蘇生や夢の捉え方で
きっちり活かしてある……結果的に全員活きてるところがたまらない。
そして、生きてないと言われた松も死んでるって要素でふたりを活かして――
最後の最後にくるか、ロザリー。このシーンで彼自身が活きたのがたまらないなあ。

胸がいっぱいでまとまってませんが、すごく丁寧な話を魅せていただけて嬉しいです。
GJでした!

95 :創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 23:25:54 ID:VICCDmvl
投下乙です!
セッツァーさんかっけー……いや、マジで。
死人に対して厳しい目を持つセッツァーさんは容赦がなかった。
松は気づくのが遅すぎたね……でもアキラに届くといいね!
そしてジャファルがここまで感情的になるのも、納得。
改めて投下乙っす!

96 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/06(水) 00:36:26 ID:omwi9hxu
すみません、◆iDqです。
今回投下した闇からの呼び声について一部盛大な勘違いが発覚しました。
座礁船ですが、海賊船は海賊船でも、カイルの船ではなくファーガスの船であることが確定していました。
よって最後の松パートの序文に修正が必須となりました。
明日には用意しますのでしばしお待ちください。
書き手の皆様、読み手の皆様、ご迷惑おかけして申し訳ありません。

97 :創る名無しに見る名無し:2010/10/06(水) 00:50:03 ID:wHrOd0d9
了解しました

しかしこれはいいわ
三人ともそれぞれ見せ場があっていいわ…

98 :創る名無しに見る名無し:2010/10/06(水) 09:01:43 ID:Ppo870VF
>>85でジャファルがシャドウになってるよ

99 :闇からの呼び声  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/06(水) 18:49:12 ID:omwi9hxu
>>98指摘感謝です。指摘していただいた箇所を修正の上でWIKIに収録いたしました

>>35冒頭差し替え版
暗い船室で一人、松は酒を呷っていた。
謎の落書きを無視してしばらく後、ようやっと松は目的のものを手に入れた。
リキアという聞いたこともない地方産のものだったが元より松は酒に質を求めない。
ただ量さえあれば、酔えるくらいの度数さえあればそれでいい。
開封されていない酒瓶を数本掴み、近くにあった船室へと引きこもった。
部屋は乱雑に散らばっていた。
棚にはやたらと金やら財宝やらが並んでおり、正直松の好みには合わなかったが仕方がない。
クルセイダーズのリーダー時代の自分にはイメージ的にはお似合いだったのかもと自嘲してぐいぐいと机に置いた酒を飲みだし始めた。

>>90冒頭差し替え版
ジャファルに刺され、崩れ落ちる瞬間、松の目は船室を映していなかった。
松が見ていたのは在りし日々の光景。
散らばるおもちゃ。
笑う子ども達。
彼らを、そして松をも見守る一人の女性。
それら、ほんの数日前のはずの、しかし実際には何日経っているのかも分からない過去の世界で松は一つ得心がいった。


ああ、そうか。
俺の中の時間は死んだ時から止まっちまってたんだな、と。


生前の松の記憶は日暮里へ向かおうとしていた所で途切れている。
それはつまりアキラの勝負の行方を知らないということだ。
アキラが負けていればアキラだけでなく彼が護りたかった妙子らちびっこハウスの面々も命を落としてしまったことになる。
なのでアキラの勝敗は本来なら松が最も最初に知ろうとすべきことだった。
名簿にアキラの名前があったからとはいえ、松同様、蘇生させられた可能性もある以上、絶対安心出来ることではなかったのだから。


けれども。
松はアキラを心配しても、陸軍との戦いの決着についてはむとんちゃくな程気にしていなかった。
それはアキラのことを信じていたからでもあるが、全て託し終えて見守っているだけの死者のあり方だった。


加えてここにいるアキラが松の期待通り陸軍に勝ちその後の人生を送っていた存在だったとして。
いったい今何歳なのだろうか?
これまで全く考えはしなかったが松が死んでから既に時間は何年も経っている可能性もあるのだ。
既に松の年齢を超えていてもおかしくはない。


はは、セッツァーの野郎に好きに言われるわけだ。


松はあの日、あの時、あの瞬間から一歩たりとも前に進めていなかった。
前どころか後ろさえ振り返らなかった。
過去を取り戻そうともせず、現在に追いつこうともせず、ただ一点、己が死んだ時に囚われ続けていたのだ。
そのことに気付いた松は折れてしまった。
死を覆す気力など、最初から死を受け入れていた松には一切残っていなかった。
こうなってしまっては自慢の根性も役には立たない。
松はただ、本来あるべき姿に戻るのを待つだけだった。
闇の中をひたすら漂い死への道筋を遡っていった。

100 : ◆iDqvc5TpTI :2010/10/12(火) 20:35:40 ID:bOgIyQVS
皆様いつもRPGロワをご愛好いただきありがとうございます。
この度トリを出させていただいたのは少しWIKIに収録されているテンプレを編集したからです。
予約スレにて指摘されています通り、自ロワのテンプレからはうっかり予約期限のことが抜け落ちていました。
これは由々しき事態です。
途中で予約期限が三日から五日になったり、期限延長ができるようになったりと変化もありましたし、
何より今回のように新しく来ていただいた方に不親切だからです。

そこでWIKI内の【テンプレ】及び【スレ立て用テンプレ】の【書き手の注意点】 の項目の二つめに予約期限について加筆させていただきました。
ご了承ください。
また、新スレ建て替え時にもどうか向こうの加筆版によるコピペをお願いします。

それでは報告は以上です。
当ロワもそろそろ一日目が終わりますが此処から先も楽しんでまいりましょう!

101 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 18:56:56 ID:Ch2ZWz/d
では投下します。

102 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 18:57:49 ID:Ch2ZWz/d

かつてファルガイアを蹂躙した焔の災厄、ロードブレイザーと向かい合う。
それは絶望との遭遇であり、すなわち滅びの確約である。



森羅万象に宿る意思ある力、守護獣(ガーディアン)。
中でも万物を構成する四大元素の守護獣が一柱、火のムア・ガルトの翼から生まれ出た反守護獣とも言える存在がロードブレイザーだ。
火が持つ破壊の性質を極限まで強く顕現させた、生来の破壊神である。

その力は単一の存在でありながらファルガイアに生きる全ての生命と同等かそれ以上。
概念存在である守護獣から生誕したロードブレイザーには、物理的な攻撃はほとんど通じない。
紅蓮の劫火は対峙する者の魂を蝕み、不死種族に逃れ得ぬ滅びをもたらした。

だが、本当の脅威はそこには無い。
ロードブレイザーが災厄と呼ばれる所以は、他者の絶望や悲しみといった負の感情を喰らい力を増すという特性にある。
破壊され薙ぎ払われ灼き払われた生命はロードブレイザーを憎み、怒り、恐怖する。
そしてそんなささやかな抵抗すらも魔神の糧となる。
力を振るえば振るうほど、その力を目の当たりにした者が増えるほど、ロードブレイザーはさらに強力に進化していく。
だからこそいかに強大な力であろうともロードブレイザーを滅ぼすことは叶わず、世界は滅亡の淵へと追いやられたのだ。

人間種族、古代種族エルゥ、不死種族ノーブルレッド、そして星の護り神たる守護獣が持てる全てを投げ打ってなお届かない。
彼らの叡智を結集して創り出されたゴーレムの、並み居る魔獣を薙ぎ払うその威力をもってしても、ロードブレイザーと相対すれば足止め程度が関の山。
魔神は言うなれば自らの起源であるムア・ガルトを含む守護獣さえもことごとく滅却してのけた。
かの剣の聖女とて魔神を滅ぼすには至らず、その命と引き換えに封印することで、ようやくにして苦難の時代は終わったのだ。



その暴虐の化身が、今まさに眼前にいる。
かつてとは違う、不完全な人を模した異形の姿。だが感じる圧迫感は紛れもなく魔神そのもの。
渦巻く怨念の炎が今か今かと解放のときを待っている。
身を晒せば骨も残らず、どころか魂さえも喰らい尽くす滅びの焔だ。


だというのに。
魔神と対峙するアシュレー・ウィンチェスターの胸中には、砂粒ほどの恐れもない。
勝つという確信、全てを終わらせる決意、双方が覇気となって総身に漲っている。


103 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 18:58:36 ID:Ch2ZWz/d
風になびく長髪は純白。
背負うは手にする剣と同じ蒼い輝き。

三千世界に恐れるもの無しと自負するロードブレイザーにあって、唯一『恐怖』を刻み込んだ存在がこの男。
ロードブレイザーに終末を齎した『剣の英雄』アガートラームの剣士ならぬ、『蒼き剣の英雄』果てしなき蒼の剣士。

「行くぞ……ロードブレイザーッ!」

砂を蹴って――地中で爆発が起こったかのように砂柱を立てて――アシュレーは魔神へと。
迎え撃つロードブレイザーは頭部の翅を羽撃かせ、踊るように宙に舞った。
疾走するアシュレーへと両手を突きつけ、破壊の焔を解き放つ。高速で分裂する超高熱の焼夷弾、ガンブレイズ。
アシュレーが変身していたオーバーナイトブレイザーが最も得意としていた焦熱の弾丸が、今はアシュレーの身を灼き尽くさんと迫る。
人と魔神の存在の差か、アシュレーが放つそれとは桁外れの速度で焼夷弾は分裂し、瞬きの間に焔の津波となった。
小さな蒼が巨大な紅に飲み込まれていく。

「<果てしなき蒼>、全……開ッ!」

その灼熱の奔流の只中で、アシュレーが掲げた剣が鮮烈な光を放ち夜空の黒を斬り裂いた。
それは果てしなき蒼により変換されたアシュレーの意思。ロードブレイザーの炎を以てしても喰らえない、希望と言う名の輝きだ。

相食む光と炎。一瞬の相克。
が、勝敗は即座に決した。
アシュレーの背に在る光輪が光の螺旋を吐き出して、踏み込む一歩は音を遥か後方へと置き去りにする。
蒼い流星となったアシュレーは炎熱の壁を正面から突き破り、その向こうにいたロードブレイザーへと肉薄した。

「む、お、おおおッ!」

魔神がとっさに両腕を胸元で交差させた。
伸ばした五指が鋭い刃へと転じ伸張、剣となって朱の炎にコーティングされる。

焔纏う二重の斬撃は、空しくも蒼剣の行軍を止めることは叶わない。一瞬で炎の剣は砕かれる。
しかし、一瞬の遅滞を得ることには成功した。
中枢を貫かれる前に、ロードブレイザーは稼いだ時間を後退へと注ぎ込む。
翼が唸り、上空へと舞い上がる魔神。それは紛れもなく逃げの一手だった。

「なんだ、その……力はッ!?」

「わからないか、ロードブレイザー! この力がどこから来るものか!」

104 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 18:59:19 ID:Ch2ZWz/d
力の総量では圧倒しているはずなのに、なぜ押し負けるのか。
理解できないロードブレイザーに、地上から見上げるアシュレーは言い放つ。

「今、ハッキリとわかる……そう、あのときのように! 僕は一人で戦っているんじゃないッ!」

大地と大空。見上げる者と見下ろす者。
だがこの瞬間、二人の気勢に限って言えばその道理は反転していた。
ロードブレイザーが見上げ、アシュレーが見下ろしている!

「リルカ、カノン、アティ、トッシュ、トカ、ティナ、そしてちょこを守ろうとしたシャドウという男が!
 みんな、ここにいる……僕といっしょに、ロードブレイザー! お前と戦っているッ!」

いつも笑顔を絶やさなかった、でも本当は繊細な心の持ち主だったリルカ。
魔を祓うためにアシュレーへ刃を向けて、しかしその業を乗り越え共に戦ってくれたカノン。

闇に囚われたアシュレーを光の下へ救い上げてくれたアティ。
任侠に生き、アシュレーを魔神から解放するため剣を振るったトッシュ。
認めるのは癪だが、決して……そう、決して嫌いではなかったトカ。
魔石となってもなおアシュレーへと力を貸してくれたティナ。
一度は敵として相対したが、ちょこを守るためルカに一人立ち向かったシャドウ。

誰もがこの世界で命を落とした。
しかし誰もが誰かの心に何かを残した。
誰もがそのとき彼らにしかできないことをやり遂げ、後に続く者へと道を斬り拓いて果てた。

だからこそ、彼らが示したその道を往くアシュレーは、今この瞬間は、決して一人ぼっちではないッ!

「戯言を……死人が一体何を成せるッ! 死してなお力を残せる強い想いと言うならば、それは私の力となるものだッ!」

「いいや、それは違うッ!」

接近戦は不利と見たロードブレイザーは、アシュレーの剣が届かない上空からガンブレイズの雨を降らせる。
天から降り注ぐ劫火へ、アシュレーは怯まずマディンの魔石を向けた。

「来てくれ、マディンッ!」

果てしなき蒼を通じて魔石にアクセス。
暴走召喚ではない。
幻獣の力だけを、本体を損なうことなく幻体(ユニット)として召喚する力。


105 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 19:00:25 ID:Ch2ZWz/d
アシュレーの背後に巨人の影が現れ、腕を広げる。
その影に重なるようにアシュレーはバヨネットを掲げ、果てしなき蒼の剣先へと重ねた。
蒼剣によって生成された莫大な魔力がバヨネットへと伝播していく。

『ブリザラ』「ブリザガッ!」

重々しい響きの呪文がアシュレーのそれと唱和し、バヨネットの魔導ユニットへ二種の魔法がチャージされる。
ただ複数の魔法を詰め込むのではない。
同調し、混ざり合い、再構成し――限りなく純度を高めていく。

「二重詠唱……起動ッ! スノウホワイトッ!」

膨張し臨界を突破した魔力が現世へと、吹雪となって解き放たれた。
ただの雪ではない。触れるもの全てを刹那に凍結せしめる絶対の白雪だ。
天と地の狭間でガンブレイズの灼熱とスノウホワイトの極低温が衝突し、激しい反作用爆発を起こす。
爆風が過ぎ去ったとき、ロードブレイザーが見下ろす大地には一つとして傷跡は穿たれてはいなかった。

「ば、馬鹿な……ッ!?」

「これはリルカの魔法、そしてッ!」

だが、アシュレーはロードブレイザーに理解の時間を与えない。
スノウホワイトを放った直後、アシュレーは役目を果たし帰界しつつあるマディンの豪腕により天高く打ち上げられていた。
マディンが魔力の風となって消滅し、そこに気を取られたロードブレイザーは自身の上を往く影に気付けなかった。

「メテオ、ドライブッ!」

中空で一回転、伸ばす剣に全身の魔力と遠心力をありったけ上乗せした。
光輪を煌かせ加速、果てしなき蒼を真っ向から斬り下ろす。
流星の速さで駆け抜けた聖剣は、ロードブレイザーの右の翅を半身ともども断ち切った。

「がっ、ぐ、っああああッ!!」

バランスを保てず落下してく魔神。
防衛本能が働いたか、その身体からは全方位へ隙間無く焔の砲弾が放たれる。
アシュレーは確実に勝利を得るべく深追いはせず、自身へ迫る焼夷弾の嵐を片っ端から斬り払った。

106 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 19:01:28 ID:Ch2ZWz/d
二つの星が落下し、その中間で幾重もの光芒が閃く。
やがてアシュレーの両足が難なく地を掴んだ。だがロードブレイザーはそうはいかない。
空を往く翼を奪われ、急ぎ再生しようにもアシュレーの接近を阻むために力を割いてしまい、結果無様に砂漠に顔を埋めることとなった。

「……これは、カノンの技だ。ロードブレイザー、僕達の力はお前に届くんだッ!」

リルカが得意としていた合体魔法。
カノンが練り上げた技。

記憶に焼き付いている、在りし日の彼女達の姿を強く思い描く。

「お前からすれば僕達はとてつもなくちっぽけで、弱くて、取るに足らない存在なんだろう。
 でも、僕らはこうして手を取り合うことができる。一人ではできないことも二人ならできる。二人で無理なら三人だ。
 そうして、誰もが心を一つにして立ち向かえば、どんな障害だって乗り越えていける……それが生あるものに許された力、生きてるって証なんだッ!」

そう、魔神を討ち滅ぼすのはたった一人の『英雄』などではない。
誰かを大切に想う心と心が繋がり合って、一つの巨大な力と成す。
束ねられた命の輝きこそが、邪神の力を浄化せしめるただ一つの正解なのだ。

「お前がいくら強くても、それはお前だけの強さだ。一人ぼっちのお前なんかに、僕達を止められはしないッ!」

ロードブレイザーが負の感情を力にするというのなら。
アシュレー・ウィンチェスターは正の感情を力に換えよう。

生きようとする力は、明日を望む想いは、いつだって前へ前へと進んでいくッ!

「リルカの優しさ……、
 カノンの誇り……、
 アティの祈り……、
 トッシュの勇気……、
 ティナの愛……、
 トカの科学……、
 シャドウの信念……、
 僕だけの力じゃない、みんなと繋いだこの絆が! ロードブレイザー、今度こそお前を倒すッ!!」

歩み進んでいくアシュレーの瞳に迷いはない。
果てしなき蒼がその意思に呼応して輝きを増す。
倒れ伏す魔神へと、蒼き剣の英雄は終わりの一撃を振り下ろした。

「終わりだ、ロードブレイザーッ!」

107 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 19:02:23 ID:Ch2ZWz/d

その、一撃は……魔神の命脈を絶つには、至らず。
刹那に再生したロードブレイザーの右腕が、アシュレーの剣を受け止めていた。

「クックックッ……クハハッフハハハハハハハハハッ!!」

轟、とロードブレイザーから焔の嵐が巻き起こる。
アシュレーは咄嗟に剣を引き、後方へと跳躍すると、その後を追うように焔が伸びる。
焔の竜が顎を開き、幾条もの熱線となってアシュレーを襲った。

「ぐっ……!」

果てしなき蒼での防御が間に合わず、激しい痛みがアシュレーの全身を駆け巡った。
ロードブレイザーは再生を終えた翅を悠々と羽撃かせる。

「いやいや……甘く見ていたよ。さすがは一度私を滅ぼした男。余力を残すなど失礼な話だったな」

消耗などあるはずがないだろう?
そう突き付ける様にロードブレイザーは一瞬で再生を終えた。
果てしなき蒼の斬撃はロードブレイザーと相反する正の力の塊だ。残留する意思の力は傷の再生を阻害する。
よって、斬られたと言うならばそれ以上の力で以て傷口をさらに破壊、元から創り直すしかなかった。
いかにロードブレイザーとはいえ現在は十全の身ではない。
無闇に力を浪費すればあっという間に枯渇する定め、だったのだが。

「誇るがいい。この焔の災厄は、お前を、お前だけを滅却するためにこの力を振るうと宣言する。
 アシュレー・ウィンチェスター! 絶対の破壊者たるこの私の、対となるべき存在こそがお前なのだと、今こそ私は認めようッ!
 お前という希望の象徴を砕いたときこそ、私は真に再誕のときを迎えるのだッ!」

吹き上がる紅蓮の焔に僅か漆黒が混じる。
触れただけで魂さえも蝕まれそうな、暗い瘴気を発する焔だ。

「アシュレー、お前はあのときこう言ったな。『英雄なんていらない』と。世界を支える力は世界に生きる全ての命の力……。
 クククッ、そうだなぁ、あのときといい今といい、嫌というほどその意味を思い知らされたよ。だがな、アシュレー。考えたことはないか?」

ぞわり、アシュレーの肌を立ち昇る怖気はロードブレイザーのものではない。
人を超越した魔神ではなく、どこまでも人でありながら邪悪を是とするモノの気配。

「命はすべからく正の方向に向かって伸びゆくものか? 世界はそんな優しさで溢れているか? ……そんな訳はないな。
 私が生まれたのは偶然の結果だ。ムア・ガルトから分かたれた原初の私には、力こそあれど意思がなかった。
 その私に意思を、形を与えたのはお前達だッ! 怒り、憎み、妬み、恨み、誰しもが心の奥底に潜ませる無垢なる悪意こそが私を育てたッ!」

「そんな、ことは……ッ」

「ない、とは言い切れまい? お前は知っているはずだ。
 私がお前の内的宇宙に降ろされた日のことを忘れてはいまいな。そうだ、オデッサの者どもを思い出せッ!
 人でありながら世界に混乱を望み! 踊らされているとも知らず欲望に狂い果てたあの道化どもをッ!」

「オデッサ……!?」

「やつらこそが反証だ! お前のように平和や秩序を望み生きる者もいれば、奴らのように戦乱と混沌を望む者がいるッ!
 そう……一つ一つの生きたいという想いが世界を救うというのならッ!
 誰しもが持つちっぽけな悪意が世界を破壊し得ることもまた、認めなければならないッ!」

108 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 19:03:14 ID:Ch2ZWz/d
魔神は英雄へと滴る悪意を突き付ける。

メリアブール、シルヴァラント、ギルドグラード。
かつての内戦で滅びたスレイハイムを除けば、ファルガイアはその三国といくつかの自治領を中心に表面上は平和を保っていた。
その穏やかな水面に投げ込まれた石がテロ組織『オデッサ』である。

現行国家を破壊し一つに統合するという野望の下、オデッサは次々と行動を起こした。
テレパスタワーを占拠しての電波ジャンク、ハルメッツの町の住民を拉致、タウンメリア空中戦、そして各国首脳が集うファルガイアサミットの襲撃。
空中要塞『ヘイムダル・ガッツォー』の起動、そして核ドラゴン『グラウスヴァイン』の襲来。
いずれも未曾有の危機であり、アシュレーらARMSが仕損じれば世界が焦土に包まれていたことは疑いない。

「だが僕達はオデッサを止めた! 僕達だけじゃない、世界中の人が手を取り合ったんだ!」

「そう……そこが問題だ。お前達の指揮官、アーヴィング・フォルド・ヴァレリアは紛れもなく天才であったろうさ。
 誰の目にもわかりやすい悪を用意することで世界に結束を促す。より大きな脅威と対するために痛みを強いる。
 ふん、オデッサは奴の掌の上で踊ったに過ぎん。だがもし奴の目的がオデッサの首魁、ヴィンスフェルトと同一であったならどうだ?
 ARMSは結成されず各国の連携も取れず、いずれ用済みになったオデッサは排除され、世界は奴の手に落ちていただろうさ」

「アーヴィングはそんな人間じゃない!」

「可能性の問題だよ。結果として奴は世界の命運を手中にしていた。
 世界という広大な全が個人という矮小な個に掌握されていたのは紛れもない事実だ」

「何が言いたいんだ! 仮定の話にどれほどの意味がある!」

「仮定? 違うな、事実なんだよアシュレー。世界を救うためにはなるほど膨大な善意が必要だ。
 だがな、世界を壊すのなら……たった一人の悪意で十分なのだッ!」

ロードブレイザーが広げた指を握り締める。
掌中から出でる焔の熱は離れて立っているアシュレーの肌を焦がした。

「そして、お前は知っているはずだッ! 人の身でありながらこの私にすら匹敵するほどの邪悪を!
 この場で、その身で、その剣で! 奴と骨肉を削りあっただろうッ!?」

ロードブレイザーの立っている場所――そこは、その場所は。

「ルカ……ブライト」

狂皇子が果てた場所。
魔神が虚空からその手に掴み取ったのは、燃え尽き風に乗って散逸したかつて人であったものの名残り。


灰だ。


「そうだ! ルカ・ブライトの怨念が残るこの灰こそが私を呼び覚ました! そして今また、この私の血肉となるッ!」


109 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 19:04:28 ID:Ch2ZWz/d
ロードブレイザーが大きく腕を広げ、自身の胸の中心へと指を突き立てた。
そのまま……力任せに胸郭を割り開き、グロテスクな様相を見せる内蔵を露出させていく。


「さあ来るがいいッ! お前はずっと求めていたのだろうッ!? 世界の全てを無に帰すほどの、絶対なる破壊をッ!!」


ロードブレイザーの声に応える様に――巻き起こった風は唸りを上げて一点へと集約していく。
アシュレーは本来無色であるはずの風に色がついているのを見咎めた。
どす黒い、黒。
灰のひとかけらに至るまでその性を主張する、狂王子の執念だ。

「な、何をする気だ……!」

「おお……おおおおおおおおおッ! 力が戻ってくる……なんと凄まじい負の怨念か……!」

ルカの灰を取り込むロードブレイザーは、歓喜の声を上げる。
極上の料理を頬張る食通のように。
欲しかった玩具を手に入れた子供のように。

求め、受け入れている。
世界を灼き尽くすほどの、ルカ・ブライトの憎しみを。
ロードブレイザーは破壊に匹敵するほどの恍惚を覚え、そして叫んだ。




「……おおおおおおおおおッッ…………『アクセス』ッッ!!」




高まる熱が可視化する――その光の中、アシュレーは垣間見る。
紅蓮の焔の中、まっすぐにこちらを射抜く殺意に満ちた瞳を。


筋肉を連想させるロードブレイザーの身体が弾けた。
太陽の表面で跳ねるプロミネンスのように飛び散る血肉が光の粒子となり、翡翠の中心核が剥き出しになる。
明滅する宝玉。
粒子が再び列を成し、虚空に鼓動を刻んでいく。
点が線に、線が面に。
再構成を果たした粒子は硬質な装甲を形成し、見覚えのあるフォルムを取り戻していく。


「……ナイトブレイザーッ!?」


110 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 19:07:16 ID:Ch2ZWz/d
焔が収まれば、そこに騎士が立っていた。
かつてアシュレー自身が変身した姿――では、ない。

金色の装甲。
波打つ焔のマント。
兜がなく、そこにはロードブレイザーの頭部がそのまま生え出している。

なにより、

「ルカの、鎧ッ……!!」

騎士が纏う鎧はルカ・ブライトがいかなるときも身に着けていた全身鎧、そのままだ。
違いがあるとするなら、純白が黄金へと変わったことだろう。


オーバーナイトブレイザーL/L2。


ルカ・ブライトとロードブレイザー。
本来出会うはずのない二つの邪悪が結実した姿が、アシュレーの前に確かな脅威となって立ちはだかっていた。

「フゥゥゥ……ハアアアァッ!」

呼気とともにオーバーナイトブレイザー――ロードブレイザーが焔を剣の形へと凝縮させていく。
ナイトフェンサー。ただしこちらもアシュレーの使っていた二対の光刃ではなく、荒れ狂う焔の刀身を持つ大剣だ。
ルカ・ブライトが操っていたあの禍々しい剣を思い起こさせる。

「さあ……続けよう、アシュレー・ウィンチェスター。
 お前達が繋いだ絆と、私が取り込んだルカの妄執と!
 一体どちらが真に強きものであるか、確かめ合おうではないかッ!」

ロードブレイザーが地を蹴った。
足と砂の設置面で小爆発が起こり、その身体を前に押し出す。
同時に翼が風を捉え、二段階目の加速を得る。

「速い……!」

アクセラレイターもかくやという速度で迫るロードブレイザーを前に、アシュレーもまた光輪から魔力を噴出し迎え撃つ。
赤い彗星と蒼い流星が、砂漠の静寂を切り裂いて激突した。

111 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 19:10:50 ID:Ch2ZWz/d

「はああああああッ!」

「どうした、英雄! 先ほどまでの勢いがないぞッ!」

その気になれば鼻先に噛み付けそうな距離。
アシュレーの果てしなき蒼とロードブレイザーのナイトフェンサーが、互いに打ち勝とうと蒼紅の光を明滅させて喰らい合う。
先ほどはただの一撃で砕け散った魔神の剣は、今度はしっかりと形を保ったまま、果てしなき蒼の守護領域を超えてアシュレーの身体を灼いていく。

「ぐ……うう……!」

「ククッ……言葉も出んか。そうだろう。この身体、馴染む……馴染むぞッ!
 私が降ろされたのがお前ではなくルカ・ブライトであったなら、ファルガイアだけでなく遍く三千世界を灼き滅ぼしていたろうよ!
 いいや、まだ遅くはないな。お前を殺し、生き残った者どもを塵殺し! ありとあらゆる命ある世界へ攻め寄せてくれようかッ!」

「そんなこと……させる、ものかあぁぁッ!!」

アシュレーの懐で魔石が輝き、もつれ合う二人の頭上に幻獣マディンが顕現した。
巨体の豪腕を振りかぶり、スパークする拳を異形の騎士へと叩き落す。
ロードブレイザーが巨人に注意を向けた一瞬を逃さず、アシュレーは剣を巧みに返しナイトフェンサーを払う。
瞬時に後退。引き抜いたバヨネットからビームを連射し、ロードブレイザーを牽制することも忘れない。
目論見通りロードブレイザーの姿は小山ほどもある拳によって覆い隠された。

「はぁっ……はぁっ……どう、だ……!?」

難を逃れたアシュレーは剣を地に突き刺し激しく息を付く。
力が増した魔神の攻撃は、こちらも常時全力全開でなければあっという間に押し切られていた。
ルカの怨念が篭もる焔は果てしなき蒼の聖性を以てしても浄化せしめること叶わず、猛毒のようにアシュレーを蝕んでいる。

そして、その全力を以てしても。
認めざるを得ない、押し返せなかった。
無敵の存在であるロードブレイザーだが、付け入る隙はただ一つだけ存在していたのだ。

「……終わりか? アシュレー」

アシュレーの眼前、マディンの拳がゆっくりと持ち上がっていく――否、持ち上げられていく。
ばさ、ばさと羽音が蠢くたび巨人は押しのけられ、その下から無傷のロードブレイザーが姿を現した。
片手でマディンの拳を受け止めたまま。
もう片方の手に生み出した焼夷弾で、マディンの全身を貫いた。

112 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 19:13:50 ID:Ch2ZWz/d
「マディン! くっ、戻ってくれ!」

幻獣の苦悶がアシュレーを打った。ダメージが魔石の中の本体へ到達する前に幻体召喚を解く。
間一髪で消滅を免れた幻獣に意識を割く余裕もない。
ロードブレイザーに再び生み出された炎剣が、目前に迫っていた。

「小手先の技で私は倒せんぞ、英雄ッ!」

魔神と戦うにあたり、トッシュが証明した無二の活路。
それは剣を『用いて』いても、剣を『使いこなして』はいないこと。

アガートラームの奥義アークインパルスが使えない以上、概念存在であるロードブレイザーを屠るには存在そのものへ干渉し消し去るしかない。
アガートラームを除くのならば、その方法はかなり限定される。
同じく概念存在であるガーディアンが変化した魔剣ルシエド、もしくは意思を力へと変換する果てしなき蒼がそれだ。
本来この世の存在ではない幻獣召喚や圧縮起動した二重魔法ならば通じはするが、とても致命の一打にはなりえない。
一度限りの切り札である暴走召喚や、ゴゴが放った四連アルテマなどなら話は別だが。
前者は代償にマディンの消滅を意味し、後者は今のアシュレーでも放てない。
必然、果てしなき蒼による接近戦こそが唯一無二の正答だったのだ。
だが、その突破口も今はない。

「そらそらそらそらッ!」

「この剣は……ルカのッ!」

剣閃が乱舞し、空間を斬り取り大気を焦がす。
常人を遥かに超える蒼き剣の英雄の動体視力を以てしても、閃く剣の軌跡を捉え切ることができない。
幸いナイトフェンサー自体が焔を撒き散らしているため寸前で受け太刀を割り込ませることができているが、それすらも綱渡りだ。

力任せに振り下ろすと思えば縦横に軌道を変えて、受けたと思えば刃を滑らせ巻き上げようとする。
先ほどまでのロードブレイザーの手札には有り得なかった、体系化された人の剣技。
ルカの灰を取り込んだロードブレイザーは、力を回復させるだけに留まらずルカの技さえも我が物としていた。

「こちらも忘れるなッ!」

そして炎剣を凌ぐことで精一杯だったアシュレーは、ロードブレイザーの残る片手に生成された炎弾にまで対応することができない。
斬り合う両者の中間で炸裂した焼夷弾は等しく二人を吹き飛ばした。
が、火の守護獣から生まれたロードブレイザーが焔でダメージを負うことなど有り得ない。
結果、アシュレーだけが一方的にごっそりと体力を奪われる。

「しまっ……!」

蓄積するダメージに足が止まる。
その隙を見逃さず旋回したナイトフェンサーが、アシュレーの手から果てしなき蒼を弾き飛ばした。


113 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 19:15:46 ID:Ch2ZWz/d

ロードブレイザーがルカの技を得たのならば、純粋な剣技勝負ではアシュレーが及ぶべくもない。
アシュレー・ウィンチェスターは純粋な剣士ではない。彼がが最も得意とするは剣ではなく銃剣、銃と剣のコンビネーション。
トッシュ、あるいはトッシュを物真似したゴゴならば話は別だろう。
その上根本的な出力すらもロードブレイザーが勝っているのだから、正面から挑んで勝てる道理はない。

数百メートルは離れた岩山に果てしなき蒼が突き立つのが見えた。
今のアシュレーなら五秒で到達できる距離ではある。
だが五秒もあれば無手のアシュレーを斬り伏せることなど今の魔神には造作ない。
バヨネットではナイトフェンサーを受け止められないことは試すまでもなくわかる。

(どう……する? 合体魔法……駄目だ、果てしなき蒼がなければ魔力は増幅できない……!)

ロードブレイザーが逡巡するアシュレーを斟酌してくれる訳もない。
斬りかかって、はこない。
魔神は遠い聖剣を見やるとさも楽しげに肩を揺らし、炎剣を消滅させた。
腹の装甲が左右に開閉し、内部から砲塔のような内臓器官が露出する。
その威力、アシュレーは身を以て知っている。
幾多の魔獣を灰燼に帰した、一撃必殺の粒子加速砲――。


(バニシング――――!?)

「――――――――バスタァァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」


灼熱の奔流が放たれる刹那、アシュレーはせめてもと全力で飛翔した。
遥か後方にいる仲間達に累が及ばぬように。
アシュレー自身は回避は不可能だと冷静に判断していた。
バニシングバスターが直撃する前に果てしなき蒼を抜き、全力で防御――だが間に合うかどうか、かなり分は悪い。
アシュレーの背後で解放されたバニシングバスターの砲火は、直視していないにもかかわらず砂から照り返される輝きで目が眩むほどだった。

(間に……合わ、ないッ――!)

流星は、焔の大河に飲み込まれ消えた。

114 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 19:41:41 ID:MtqOmNEw
 

115 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 19:44:24 ID:MtqOmNEw
 

116 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:46:14 ID:MtqOmNEw
     ◆



「――――ほう?」

一方、湧き上がる破壊衝動を万物を溶かす焔へと変えて吐き出したロードブレイザーは、さしたる疲労もなく為した破壊の痕を見る。
島を東に貫いた粒子加速砲は、地表面に存在する全ての形あるモノを灼き払っていった。
焔の災厄と呼ばれていた全盛期からは程遠いが、それでも人を屠るには十分すぎる力であった。


だと言うのに。


「さすがは我が宿敵……いいぞ、そうでなくてはなッ!」

ロードブレイザーの魔眼は、溶けた大地に這い蹲る――しかし五体満足の英雄の姿を見出した。
その手には殊勝にも蒼い魔剣が握り締められている。
身体を灼かれながらもたった一つの希望を守り通すことには成功していたらしい。
笑声を漏らし、ロードブレイザーはゆっくりと彼に近づいていく。
飛ぶのではなく歩く。絶望を刻むように、砂を蹴立てて。

「く……う、うう……」

「正直、驚いたぞ。その小賢しい剣ごと消し飛ばしてやるつもりだったが、まさか耐え抜くとはな」

どうやって難を逃れたか、見当は付く。
直撃の瞬間、アシュレーは連続して氷結魔法を発動していた。
もちろん蒼剣の補助なしに発動した魔法では粒子加速砲を防ぐ盾には成り得ない。
アシュレーの狙いは空中に足場を作ること。それらを蹴り跳び、光輪の噴射と合わせて焔の軌跡から逃げ延びたのだ。

だが、それでも無傷ということは有り得なかったようだ。
身を包んでいた聖衣は半ばほど焼け落ち、無残な傷痕を夜気に晒している。
呼吸は弱々しく、指先は痙攣を繰り返す。
脅威が間近に迫っても立ち上がれもしない。

117 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:46:56 ID:MtqOmNEw
死線の底でかろうじて掴み取った果てしなき蒼は魔神によって蹴り飛ばされ、アシュレーの手を離れていく。
決着の瞬間――因縁の終わりがやってきたことを、ロードブレイザーは感じていた。

「思えば長かったな。剣の聖女から続く我らの戦いも……ここが終局だ。物悲しさすら感じるよ、アシュレー」

ナイトフェンサーを顕現させる。
油断はしない。なんとなれば、アシュレー・ウィンチェスターという男の真価は追い詰められたときこそ爆発するのだ。
全力を以て屠ってこそ、かつて自身を育てたこの男の恩に報いるというもの。


「心臓を抉り出し、喰らってやろう。私の血肉となるがいい……ルカ・ブライトと同じように」

「ま……だ、だ……ッ!」

「剣もなく、立ち上がることもできん。お前はよくやったよ、アシュレー」


いかに剣の英雄だとて、首を落とさば生きてはいられまい。


「さよなら、アシュレー・ウィンチェスター」


ナイトフェンサーが閃き、アシュレーの首を一刀の下に斬り落とす。
落ちて消えるが、儚き人の定めである。

「…………は」

重い肉塊が砂を散らす。
ロードブレイザーは傲然とソレを見下ろしていた。

118 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:47:38 ID:MtqOmNEw
「なん……だと……?」

肩から斬り落とされた、己自身の片腕を。


「が……がああああッ! ば、かな……ッ!?」


ロードブレイザーの前に、一振りの剣がある。
果てしなき蒼、ではない。
遥か南の地にあるはずの、いるはずの、


「ルシ、エド……?」


ガーディアンブレード・魔剣ルシエドが、純然たる敵意と共にロードブレイザーと相対していた。


「貴様……欲望の守護獣! 何故動ける!? 宿主はここにいたというのに!」

ルシエドはずっとアシュレーの裡にいた。だからこそ彼の呼びかけに応え剣となって顕現した。
だが、魔王の影響下にあるこの島では、一度剣として顕現させたのならそれはアシュレーの内的宇宙とは切り離された状態ということだ。
手元になければ呼び戻すことはできない。
またルシエドは唯一実体を保てる守護獣であるが、欲望を糧にするがゆえに他者の欲望が無ければ自ら動くことはできない。
ルシエドを戦力として数えたいのならばアシュレーがその場に行き命じなければならないはずだった。
だからこそ脅威として認識しつつも、この戦いの中でさほど気に留めていなかったのだ。

影狼は黙して語らない。
ただ、己を握る主の命を待つのみ。


そして、ロードブレイザーにはわからずとも。

アシュレー・ウィンチェスターにはわかる。わかっている。


ルシエドがここに来た理由を。
ルシエドがここに来れた理由を。
今、ルシエドが己に何を望んでいるのかも。


ハッキリと、わかっている。

119 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:48:20 ID:MtqOmNEw
「ああ……そう、だ……」


そして……、立ち上がる。

ロードブレイザーが最も恐れた男が、
人の身でありながら魔神へと食い下がる男が、
もはや死泉に腰まで浸かっている、放っておけば遠からず死に至る、そんな状態だというのに、


アシュレー・ウィンチェスターは、何度だって立ち上がる。


「どんなときでも……僕は、一人じゃ……ないッ……!」


アシュレーは相棒たる剣を引き抜いた。
その掌には、蒼く輝く絆の証。


「いっしょに……戦っているんだッ……!」


ロードブレイザーが最も嫌う命の輝き、繋がり拡がる想いの糸。
その糸を手繰った先に、きっと、いてくれるのだ。




「そうだろ――ゴゴッ!!」




『当然だ』




応えた声は、物真似師のもの。
アシュレーの握り締める感応石が、遠く離れた友の心を届けてくれる。

120 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:49:00 ID:MtqOmNEw
     ◆


幾重もの衣で素顔を隠すその人物は、あるいは泣いていたのかもしれない。
今……友が逝った。
はたして彼は、辿り着きたい場所へ、辿り着けたのだろうか。


安らかな顔で、眠るようにトッシュは逝った。


ゴゴはその男の胸元へ、携えていた剣をそっと置いた。
トッシュは剣士だ。ならば、死出の道行にも剣が無ければ締まらないというもの。もう、ゴゴにしてやれることはこれくらいだ。
視線を転じ、昏倒したちょこを見やる。
トッシュの元々の仲間だと言う少女は、トッシュの死を知れば泣くのだろうか。
涙を知らないゴゴはどこかそれを羨ましいとさえ感じていた。


遠く離れた地で、アシュレーが戦っている。しかしゴゴに成す術は無い。
無論今すぐにでも駆けつけ共に戦いたいという想いはある。
だがちょこを置いて行く訳にはいかないし、身体の疲労も無視できない。
なにより、行ったところで何ができると言うのか。


英雄と魔神の戦いに、物真似師が介入する余地はどこにもない。


それを知っているから――握り締めた拳から血が滴るほどに痛感しているからこそ、ゴゴは動かない。
友の勝利を信じるしかない歯がゆさを噛み締めながらも、動けない。

「アシュレー……」

心をリンクさせる石を胸に、ゴゴは祈る。
石を通じてアシュレーの苦境は伝わってくる。
痛み、苦しみ、それらを圧する勝利への意思。

だが敵の力は強大だ。直に対面していなくてもわかる。
アシュレーは今、破壊の力そのものと戦っている。

時折り空を照らすあの光はどちらが放ったものか。
紅蓮が空を焦がすたびに友の無事を願い、蒼光が煌くたびに安堵する、その繰り返し。
ロードブレイザー、かの魔神の力は三闘神にすら匹敵するのではないか。
そんな化け物へ、友はたった一人で挑んでいる。

121 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 19:49:08 ID:HguDufmF
 

122 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:49:46 ID:MtqOmNEw
「……無力だ、俺は」

呟く言葉にも力はない。
そのときゴゴははっと顔を上げた。
アシュレーのいる場所からまっすぐ東へ、太陽と見紛うほどの朱金の灼熱が駆け抜けていくのが見える。
同時、感応石から伝わるアシュレーの石がひどく弱まった。

「アシュレー……!」

決着が着いたのかもしれない。
だが、あの攻撃を放ったのは十中八九ロードブレイザーだ。
あんなものを受けたのなら、いかに聖剣の加護があろうとも……。

「……助けなきゃ」

無駄と知りつつそれでもなお救援へ向かうか。
半ば本気でそれを考えていたゴゴの耳を、涼やかな声がくすぐった。
振り向けば、ちょこが目覚め立ち上がろうともがいている。
が、やはり連戦のダメージは大きいらしく生まれたての小鹿のように何度も転ぶ。そしてそのたびに立ち上がろうとする。

「ちょこ?」

「助けるの……おにーさんを……助けるの!」

痛みも苦しみも、何物も彼女を阻めない。
その瞳の輝きこそ、魔を討ち闇を払う力――希望であると、ゴゴは知っている。

だからこそ――ゴゴは、ちょこを気遣いはしなかった。


戦う意思がある。
守りたいと思う人がいる。
ならば、ゴゴがするべきことは一つッ!


「ちょこ。俺に力を貸してくれ。あいつを……友を、助けたいんだ」


物真似師が差し伸べた手を……、少女は、


「うんッ!」


強く、強く握り返した。

123 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 19:50:03 ID:HguDufmF
 

124 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:50:35 ID:MtqOmNEw
「あっ……狼さん?」

「ん?」


ゴゴの手を借りて立ち上がったちょこが、ゴゴの背後を見て驚きの声を上げた。
そこに、数秒前は確かにいなかった影がある。
毛並みも鮮やかな黒い狼。
だが野生のそれと違い、瞳には深い知性を湛えている。

「この子……知ってるの。おにーさんといっしょにいた」

「アシュレーと?」

狼はゴゴ達に構うことなく彼方の方角を睨み唸っている。
まるで用事が済むまで待っているように命じられた犬のようだ。
その視線を追って気付く。
狼が見ているのは、アシュレーがいると思しき方角であると。

「……お前は、アシュレーを待っているのか?」

疑念に駆られゴゴがそう問いかける。
すると狼はついと視線を巡らせる。首肯はしなかったが、それをゴゴは肯定と取った。
何者であろうと、目指す先が同じであるならば。
ゴゴが選ぶ言葉はやはりこれだ。

「手を貸してくれ」

音もなく現れた狼が途方もない力を秘めているのは見てわかる。
だが決して足を踏み出そうとはしない。
あるいは魔王に干渉されているのか、動けない理由でもあるのか。

「お願い、狼さん! ちょこ、おにーさんをおうちに帰してあげたいの!」

ちょこが狼の首を掴み、ガクガクと揺らす。
だがその言葉に嘘の成分は一欠片もない。

「俺はこれ以上友を失いたくはない。だから、頼む」

ゴゴは、かつて感じたことがないほどの渇望を吐き出す。
トッシュを目前で失った衝撃は、自分で思っている以上にゴゴという人間の根幹に影響を与えているらしい。

125 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 19:51:08 ID:HguDufmF
 

126 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:51:18 ID:MtqOmNEw
――幼く、それがゆえに透き通った心地よき欲望……いいだろう。俺を、アシュレーの元へ連れて行け!



突然頭に響いた声に、ちょこと二人して辺りを見回す。
だが当然誰もいない。

「あっ!」

いや、変化はあった。
狼が消えて、代わりに一振りの剣が突き立っている。
アシュレーがトッシュへ託した、あの約束の剣だ。

「そうか、お前がアシュレーの言っていた……いいだろう、やってみせるさ。見ていろ、トッシュ……ッ!」

連れて行けと言っている。
記憶の中で、あの赤毛の剣士が友を救えと吠え立てているッ!

魔狼ルシエドが剣、魔剣ルシエドを引き抜いた。
その柄から伝わる熱はトッシュが残したものと、今のゴゴなら信じられる。
刃から伝わる力は強大だ。これならなるほどあの魔神にすら届き得るだろう。

「行こう、おに……おじ? あれ? ちょこ、あなたのことなんて呼べばいいの?」

「む……」

ちょこに問われ、ゴゴは考える。
ゴゴの種族性別個人情報はトップシークレットだ。
それに、自分で応えるのでは芸がない。

「あいつ……シャドウを何と呼んでいたんだ?」

「えっと、おじさん、って」

「なら、俺もそれでいい」

「ゴゴおじさん……わかったのッ!」

ちょこは力いっぱい返事をしてさあ駆け出そうとし、ゴゴはそれを制止した。
走って行ったのでは間に合わない。
ちょこが飛べるのだとしてもまだ無理だ。
そもそも満身創痍の二人が行ったところで何ができるわけもなく。

だから。
ゴゴとちょこがするべきは、アシュレーの下へ馳せ参じることではない。

127 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 19:52:08 ID:HguDufmF
 

128 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:53:08 ID:HguDufmF
「ちょこ……俺を、空へ!」

大きく助走を取り、ゴゴは猛然と走り出す。
その手にしっかと友から託された魔剣を握り締めて。

「わかったの! 行くよ、ゴゴおじさんッ!」

時間が無いのは百も承知。
だからどうして、などとは聞かない。
ちょこはただ言われた通りに、ゴゴの望む通りに力を振り絞る。
魔力を風へと変換、凝縮、そして解放。


「――――飛んでけぇぇぇぇぇぇえええええええッ!」


ちょこの足元から風が――嵐が巻き起こる。

ちょこの視線の先、ゴゴが跳んだ。
ジャンプシューズで増幅された跳躍を――ゴゴは知らない。その靴は、アシュレーの友の物――ちょこの魔法が下から一気に押し上げる。

天へ昇る塔――風の階段は、物真似師を遥か高みへと連れて行ってくれる。


「……見えたッ!」

遮るもののない空の中で、ゴゴは、ゴゴの持つ感応石は、アシュレーの心の在り処を寸分違わず感じ取った。


準備は整った。
目的地もすぐそこだ。
未来を斬り拓く力は今、この手の中にある。



後は、そう――物真似を、するだけだ!

129 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:53:48 ID:HguDufmF
「シィィィィィイイイイイイイ……」


あいつのように――雄叫びを上げ、

     震える喉が、一層の気合を呼び起こす。


あいつのように――身体を引き絞り、

     ぎしぎしと骨が鳴り、手にした刃に極限の遠心力を注ぎ込む。


あいつのように――イメージを練り上げて、

     八竜だろうと闘神だろうと貫き通す無敵の投法、その始終をずっと傍で見てきた。



ゆえに、この一投こそは必殺必中ッ!
地平線の彼方にだって届くのだと確信しているッ!



――――――――――――――今だ、放て!




「ャャャャャヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」



幻聴かもしれない。だがどうでもいい。
聞こえてきた声に従い、ゴゴは渾身の物真似を完遂した。


人体の限界を超えた跳躍。
雲すら吹き散らす嵐。
鍛え抜かれた技術。


三位一体となり打ち出された砲弾――魔剣ルシエドは。

風を超え、音を超え、光を超えて。

寸分の狂い無く。


魔神の右腕を斬り落とすことに、成功した。

130 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:55:30 ID:HguDufmF
落ちゆくゴゴは懐から感応石を取り出した。
か細い、だがハッキリと高鳴る友の鼓動が伝わってくる。


『どんなときでも……僕は、一人じゃ……ないッ……!』


結果がどうなったかなど目を閉じていてもわかる。
カノンとシャドウの力を借りて、ちょこが支え、ゴゴが送り出したトッシュの剣なのだ。
アシュレーに届かなかったはずが無い。


『いっしょに……戦っているんだッ……!』


友の声に力が戻る。
そうとも、共に戦っているさ。
伝わっただろう? 俺達の想いが。


『そうだろ……ゴゴッ!!』


「当然だ」


ゴゴは腕を組んで悠然と返答する。
近づいてくる大地の上に、両手をぶんぶんと振るちょこの姿が見て取れる。
物真似師は微笑み、そして、

――あいつを助けてやってくれ、友よ。

ルシエドと共に往ったもう一人の大切な仲間へと、願いを込めた。

131 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 19:58:48 ID:HguDufmF
     ◆



「ニンゲン風情が……どこまで図に乗るというのだ……ッ!」

「その人間が、繋ぎ束ねたこの力にッ! お前は今度も、何度でも敗れ去るんだッ!!」


右――清廉な光満ちる果てしなき蒼。
左――欲望を糧に尽きぬ力与える魔剣ルシエド。


剣の双翼を広げるは、立ち上がった蒼き剣の英雄。


「おおおおッ……おおおおおあああああああああああああああぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」


滾る想いを双剣に込め、アシュレーは飛翔する。
光輪はいまやドラゴンの推進器にすら匹敵すすらスター。アシュレーの求めに従い光の速度を叩き出す。
その力を最も強く炸裂させられる方法が、アシュレーの脳裏に浮かぶ。


描くは必勝への軌跡――、



「――――アークインパルスだッ!!」



一閃、振り下ろした果てしなき蒼が空を裂く。
二閃、薙ぎ払った魔剣ルシエドが大地を揺らす。


二刀が示す破邪の十字。
閃光の軌跡が交わるところ――すなわちロードブレイザーの存在点ッ!

「ぐ……あ、あああああああッ!!」

生み出した炎剣は一瞬で砕かれた。
翅の守りは紙ほどの抵抗も無く斬り裂かれた。
焔の壁は展開と同時に吹き散らされた。

「まだ……まだだッ、アシュレェェェェッッ!!」

それでもなお、魔神は膝を屈さない。
再生が完了したばかりの腕を突き出して、二度と再生ができないことすら覚悟して焔を凝縮させ、剣の侵攻を食い止めた。






132 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 20:03:40 ID:HguDufmF
ナイトフェンサーでは砕かれる。
ガンブレイズでは気休めにもならない。
バニシングバスターでは押し切られるのが関の山。
ファイナルバースト、ヴァーミリオンディザスター、ネガティブフレア――何もかも足りない!


ならば、

ならばこのロードブレイザーの持てる最大最高最強の火力で以て迎え撃つのみ!


「ファイナル……ッ!」

全身の装甲を開閉――否、内側からこじ開ける。
十、二十――百、二百――千の砲塔。


「……ヴァーミリオン……ッッ!!」

そこに自身の存在すらも揺らぐほどの力を充填する。
『この後』など考えていられない。
今この瞬間こそが、ロードブレイザーという存在の滅亡の危機なのだから。
アシュレーもまた全霊を込めた一撃を放っている。
ならばそれを凌いだときこそが、このロードブレイザーの勝利の瞬間に他ならないッ!


だから、

だからこその、

真っ向勝負ッ!


「…………フレアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!」


一兆度にすら達しようかという、焔と形容するのも理不尽な力の奔流が放たれた。
世界を七度滅ぼすに足る、破壊神の吐息。

迎え撃つアシュレーの二刀が再度の、最期の輝きを見せる。
搾り出すのは剣の燃料である魔力、欲望。そして担い手であるアシュレーの生命そのもの。

手を伸ばせば届く距離で、破邪の双剣と破滅の咆哮が激突する。
ロードブレイザーの渾身の砲撃は、アシュレーの振るう二刀に正面からぶつかってきた。






133 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 20:04:44 ID:HguDufmF

「……ロードブレイザー」

その、万物を消滅せしめる絶対破壊圏の只中で。


「確かにお前の言う通り、たった一人の悪意が世界を滅ぼすことがあるのかもしれない」

剣の英雄はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「でも、それを黙って見ているほど、僕らは、世界は弱くはないよ」

優しささえ感じさせる、ひどく穏やかな声音で。


「世界の破滅を止める力はいつだってそこにある。生きている、生きようとする、一つ一つの命の中に……」

焔を斬り裂き続ける果てしなき蒼に、亀裂が走った。


「……きっと、僕らは勝つよ。何度でも……」

魔剣ルシエドが、半ばから折れ飛んだ。


「だから……」

ここまで付き合ってくれた魔剣から手を離し、蒼剣の柄へと両手を添えて。


「だから」

押し込まれた蒼い魔剣は、魔神の核へと到達した。


「だから僕らは、お前を倒して明日へ行くんだ……!」

魔神の核を貫くと同時、果てしなき蒼が砕け散った。
背の光輪が閉じ、蒼き剣の勇者はただの人間へと回帰する。


134 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 20:06:30 ID:HguDufmF
アシュレーは倒れ伏す。
その髪は純白ではない、短く刈り込まれた彼本来の青い髪。

ロードブレイザーは立ち尽くす。
壊死した砲塔がぼろぼろと崩れ落ち、酷使した右腕が地に落ち瞬時に燃え尽きた。


立っているのはロードブレイザー。
すなわちそれは、


「私の……勝ちだ……アシュレー……ッ!」


勝者と敗者の、ありのままの姿だった。


「一歩……届かな……かった、な」

ゆらり、ロードブレイザーが残る左腕に焔をかき集めていく。
それは災厄と呼ばれた時代からすれば見る影も無く弱く儚い焔だが、英雄でも勇者でもない人間を跡形無く葬り去るには十二分の熱量だ。
それを見てもアシュレーは動かない、動けない。
もはや力を全て出し尽くし、一片の余力も残ってはいない。

「これで……」

振り上げた掌を――

「……貴様ぁ……!!」

だが、ロードブレイザーを押し留める影がある。
剣を折られ、胴体半ばから断ち割られた魔狼だ。
主の危機を察し、剣化を解いて喰らいついている。

「悪足掻きを……貴様の主はもう欲望を吐き出すことも無いのだぞッ!」


その、ロードブレイザーの言霊に……反応するように。
アシュレーは震える腕を懸命に伸ばす。

掴み取る……何を?

自分でもわからない。果てしなき蒼は砕かれ、ルシエドもまた傷ついた。
甚大な傷を受けたマディンは遠からず消え去るだろう。
ならばもう、本当に打つ手が無いではないか。

135 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 20:07:25 ID:HguDufmF

――諦めないで――


そのとき、ささやきが聞こえた。
知らない、でも懐かしい声……その声に力をもらって、アシュレーの指先が前進し、触れる。


ゴゴが託し、ルシエドが携えてきた最後の希望。
ティナ・ブランフォードが変化した、幻獣の魔石に。


――あなたの帰りを待っている人がいる――


待っている……僕を?
そうだ、僕は帰らなきゃ……。
子供が待ってる……男の子と女の子の双子が。
大切な人たちから名前をもらった、大切な宝物……。
そして、その子達を抱く、あの……。


「……マリ……ナ……!」


いつだってアシュレーの帰りを待ってくれていた。
優しく微笑んで、こう言ってくれた。


おかえりなさい、と。


そして僕はこう応えるんだ。


ただいま、マリナ。


でも……参ったな。
ここで眠ってしまったら、マリナにただいまと言えなくなってしまう。

それは困る。
世界の危機より、何よりも。
マリナのいるところこそ、アシュレーが求め、守りたいと願った……帰るべき場所なのだから。

136 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 20:10:52 ID:HguDufmF
ゆえに。

「だから……だからッ! こんなところで、死んでいる場合じゃないんだ……!」

立ち上がる。
何度だって立ち上がることができる。

日常に帰りたいというアシュレーの欲望は、決して果てることは無いのだから。


「……つくづく、お前には驚かされる……」


呆れたようなロードブレイザーの声。
もう眼が見えない。
もしかしたら、右腕も落ちているのかもしれない。感覚が無い。

「だが、もはや私に届く剣はない。諦めろ……穏やかに死なせてやることが、私からの手向けなのだ」

魔神が何か言っている。だが理解できない。耳に血が詰まっているからだろう。
ゆっくり……亀の歩みよりも遅く、アシュレーはその方向へと足を投げ出し続ける。
握り締めた魔石が温かな力をくれる。闇の中でも迷わずに歩く標となる。

「もはや言葉も解さんか……そんなお前は、見るに耐えん。燃え尽きるがいい」

攻撃が来る。ささやきに従い、掌中の石を魔神へと掲げた。
優しい光が壁となってアシュレーを守る。
殺到した焔は刹那に霧散し、彼の歩みを一瞬たりとも止められなかった。

「……待て、アシュレー。来るな……そこで止まれッ!」

続けて何度も解放される炎弾は、すべてティナの魔石が放つ光波によって防がれた。
アシュレーは知る由もないが、懐にあるマディンの魔石が娘の魔力に共鳴し、力を高めていた。
衝撃で尻餅をつく。だが、顔を砂で汚し、血を吐いてなお、アシュレーは前進を止めない。
唯一感覚の残る左腕を地に突き立て、殴りつける。
無様だろうと何だろうと構いはしない。こうして立ち上がれるのなら。

「なぜ……なぜ死なない! なぜ立ち上がる!? どこからそんな力が沸き上がってくるというのだ!?」

わかりきったことを聞くな、と唇を歪めた。
言ったのはお前だ。僕らの絆とルカの妄執と、どちらが強いのかって。
お前が今、僕を恐れているのなら……それは、つまり。

「僕らの、勝ちって……いうこと、だろう」

137 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 20:16:29 ID:HguDufmF
そして、全ての攻撃を封じられたロードブレイザーの前に、アシュレーは辿り着いた。
最後に残った唯一つの武器、バヨネットをその手に携えた、ただの人間が。

バヨネットの魔道ユニットを開き、ティナの魔石をセットする。
あの爬虫類(?)、さすがは天才と自称するだけのことはある。
撃墜王謹製のバヨネットには、持ち主がこんな状態になっているのに不調のふの字も見出せない。
今だけは素直に感謝しようと想った。

魔石から供給される魔力が銃身を、アシュレーの体内を駆け巡る。
これなら放てる――あの技を。



「さよなら、ロードブレイザー」

「止めろッ……止めてくれ、アシュレーッ!!」


ロードブレイザーの核、そこには果てしなき蒼が穿った亀裂がある。
今のアシュレーにはその空隙が、仲間達――アティ、ティナ、トッシュ、ゴゴ、ちょこ、そしてシャドウが開いてくれた、未来への扉に見える。
バヨネットの剣先を、僅かな隙間に潜り込ませた。


――フルフラット・アルテマウェポン。


言葉にならない小さな呟き。
弾倉内に魔石から伝えられた究極魔法、アルテマを装填……完了。



ゼロ距離。全弾、発射――炸裂。



爆発は少量――その大半を、ロードブレイザーの内的宇宙へと送り込んのだから。
概念存在であるロードブレイザーも傷つけ得る、たった一つの魔法。
その暴虐は、不死身の魔神をして、その存在意味を根こそぎ塗り潰していく。


「がああああ…………ぎっぎぎぐぐぐ、がが……がああああ、あああああああああ……ッッッ!
 消え……る……私、が……燃えて……アシュレ……滅びると……認めん……英雄……貴様が……アシュレェェッ……!」


やがてロードブレイザーの核が砕け散り、後を追うように形を保っていた身体も灰に――否、炎に変わり融けていく。
バヨネットを引き抜いたアシュレーは、これでようやく終わったのだと、静寂を取り戻した夜空を見上げて。

138 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 20:18:15 ID:HguDufmF


「アシュレー・ウィンチェスタアアアアァァァァッ! 貴様だけはぁ――――――――――――――ッ!!!」


その、彼の安堵した隙を、消え逝く魔神は見逃さなかった。
炎と化していく腕を懸命に伸ばし、突き出された鋭利な爪は――アシュレーの心臓を、真っ直ぐに貫いた。


直後、ロードブレイザーが、完全に……消滅する。

それを見送ったアシュレーはゆっくりと砂漠に腰を下ろし、仰向けになって星を見る。
不思議と痛みは無い。いや――心臓を砕かれる前に、既に死んでいたのだろう。
だからひどく穏やかな気持ちで、アシュレーはその結末を受け入れていた。


「ああ……きれいだ、な……」


感応石が何事かがなりたてているが、何を言っているのかがもう理解できない。
そして思い出したのは、かつてこの感応石をプレゼントしたときのことだ。
あのときもそう、笑って彼女は――。


「……ごめん、マリナ……もう、ただいまって……言え……な……」


星へ向かって伸ばした指は、何を掴むこともない。
魔神を討ち果たした人間の命の灯は、この瞬間に、消え失せた。




【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION 死亡】
【残り17人】

139 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 20:19:36 ID:HguDufmF


その決着が着いた頃。

ゴゴもまた、行動を開始していた。
トッシュと別れ、力を出し尽くし立っていることすら困難になったちょこを背負い、ゆっくりと砂漠を進む。

「おにーさん、大丈夫かなぁ……?」

「心配はいらん。あいつは勝つさ」

正直に言えば、ゴゴも疲労の限界にあった。
加えてアシュレーの無事を確かめることばかり考えていたため、ちょこの物真似をすることすら無意識のうちに忘れてしまっていた。

「うん!ちょこ、おじさんを信じるの!」

元気よくちょこは言うが、直後盛大に響いた空腹を示す腹の音に小さく赤面した。
ちょこを背負ったまま、ゴゴは片手で器用にバッグを探り目当てのものを取り出し渡す。

「これを食べるといい。アシュレーが作ったものだ」

「わぁ、おいしそうなの!」

渡された焼きそばパンを、ちょこは猛然と胃に収めていく。
ゴゴもまた一つ、かじる。
優しい味が広がる。疲れた身体に少しだけ力が戻ってきた。
これを前に食べたときは、隣にトッシュがいた。今はもういない。
それを寂しいとは思う。だが今この瞬間は、背中にいるちょこの軽い重さが忘れさせてくれる。

「う〜、もっと食べたいの……」

ちょこは三つの焼きそばパンをぺろりと平らげた。
材料さえあればゴゴが作ってやることもできる。アシュレーの調理の物真似をすればいい。

(しかし……それは何か、違う気がする)

この焼きそばパンはアシュレーが作ったからこの温かさがあるのだろう。
同じ材料、同じ作り方、同じ味であっても、決してアシュレーが作るものと同一ではないのだ。

「また、あいつに作ってもらえばいい」

「うん! ちょこ、おてつだいするの!」

ちょこは微塵もアシュレーの死を疑ってなどいない。
ずきり、と心が痛むのを感じる。



懐にある感応石は、少し前から何の反応も示さなくなっていた。



ゴゴはそれが何を意味するのかを努めて考えず、ひたすらに足を投げ出し続ける。
夜の砂漠に、砂を踏む音と少女の賑やかな声だけが響いていた。

140 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 20:20:45 ID:RkBkDS2g



141 :◇y.yMC4iQWE氏 代理投下:2010/10/13(水) 20:21:05 ID:HguDufmF

【G-3 砂漠 一日目 深夜】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:花の首飾り、壊れた誓いの剣@サモンナイト3、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式×3、点名牙双@幻想水滸伝U、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3、天罰の杖@DQ4
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:ちょことともにアシュレーを迎えにいく
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:セッツァーに会い、問い詰める
5:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。


【ちょこ@アークザラッドU】
[状態]:疲労(極)
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:おとーさんになるおにーさん家に帰してあげたい
2:おにーさん、助けてあげたいの
3:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
4:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。

※トッシュの遺品はゴゴが回収しました。
※ルカの所持品は全て焼失しました
※トカの所持品はスカイアーマーの墜落、爆散に巻き込まれて灰になりました
※F-1〜J-1、及びF-2〜J-2、加えてE-3〜A-3の施設、大地は焼失し、海で埋まってます
 海はロードブレイザーがアシュレーと切り離された時点で鎮火しました
※F-3から東のラインの地表より上部全てが焼き払われました。

142 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 20:22:58 ID:RkBkDS2g


143 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 20:29:39 ID:Ch2ZWz/d
     ◆



影狼は、穏やかな表情で逝った主を静かに見つめている。
欲望を糧に存在するのがルシエドだ。
リンクした主が絶えれば欲望を供給されるはずは無く、彼もまた消滅を待つ身であった。


――見事だ、アシュレー。アガートラームを欠いてなお、魔神を滅ぼすとはな。
――『ファルガイア』の守護獣『人間』にのみ宿る、希望を胸に未来を信じる力……か。
――これは紛れもなくお前の手で起こされた、本当に価値のある奇跡だよ。



応えはない。だがルシエドは満足している。かつて人が失った輝きを再び目にすることができたのだから。
死を迎えた主に寄り添い、共に消えるのもいい……そう、思っていたのだが。


――なんだ。まだ何か用があるのか。


ルシエドが唸ったのは、アシュレーの手から零れ落ちた二つの魔石と、砕けた果てしなき蒼の欠片に向けてだ。
明滅するそれらはルシエドにたった一つの意思を届ける。



――何を言っているのか、わかっているのか?

…………

――フン、見込まれたものだ。だが……悪くない。そう、もしかしたら、俺もまた……。

…………

――いいだろう。お前達の欲望、確かに受け取った。

…………

――礼など。むしろこちらが言う立場であろうよ。


144 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 20:30:50 ID:HguDufmF
 

145 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 20:31:20 ID:Ch2ZWz/d
二本しかない脚を精一杯に伸ばし、ルシエドは顎を開く。
睨みつけるのは中空に浮かぶ――。


――……ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォン……――


月に吼える。


願うように。
祈るように。
あるいは、怒鳴りつけるように。


『どこにもいない』『どこにでもいる』その存在を、呼び寄せるために。


二つの魔石と聖剣の欠片が魔狼の咆哮に応え、自身を淡い光の粒子へと還元した。
それらは一度ルシエドの体内で収斂し、胸元、喉、頭部へと駆け上がっていく。


――我が名は欲望の貴種守護獣、ルシエドッ!


吐き出された光は一つの形を成していく。。
アティ、そしてティナが最も強く掻き抱いていた想いが具象化したもの――竜の石像。


――母なる泥、グラブ・ル・ガブルより我と共に産み落とされし、我が半身よッ!


石像は、ルシエドと月を結ぶ中心線を駆け上がっていく。


――我が呼び声に応えよ、明日に吹く希望の西風ッ!


睨み据える。
今よりルシエドがやろうとすることは、決して失敗が許されない。


――お前を受け入れるに足る男が、ここにいるッ!


だが影狼は成功を微塵も疑っていない。
アシュレー・ウィンチェスターは己が認めた人間なのだ。
剣の聖女が、幻獣の親娘が、聖剣の適格者が認めた希望そのもの。


146 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 20:33:16 ID:MtqOmNEw


147 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 20:33:43 ID:Ch2ZWz/d

――どんな苦難の運命にも挫けず、誰よりも強く明日の未来を思い描く男だッ!


アティ、ティナ、マディン。
三者の想いを昇華して、遍く人の内面に沈む輝きを引きずり出す。



――この男の心が放つ輝きは、紛れもない希望の光ッ!


そう、それはかつてアシュレーがオデッサにより受けた儀式と同一のもの。




――災厄を打ち払い、まだ見ぬ明日を切り拓くためにッ!


だが呼び出すのは焔の災厄などではない。

それは守護獣達の長。

希望を司る貴種守護獣<ゼファー>の、人体への降霊儀式<ダウンロード>ッ!





――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!





――――――――『アクセス』ッ!!




        「いしのりゅうじん」が砕け散ったッ!


148 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 20:35:11 ID:Ch2ZWz/d



――我は、人が失いし心の光。『希望』を司りしもの……


――久しいな、兄よ。


――ルシエド……お前が、私を解放したというのか。


――俺ではない。何か感じたとするならそれは、お前を呼ぶための礎となった人間と幻獣、そして……


――その人間、か。


――然り。こやつこそ、誰よりも強く未来を願い今を生きる男……魔王や魔神との戦いなどで、失うわけにはいかぬ。


――だからこそ、私を……?


――それが願い……アティ、そしてティナという女の、欲望の答えだ。


――おお……感じる。人が見出した希望が私を呼び起こした……ならば。



希望の竜神と欲望の影狼が、夜の砂漠に並び立つ。


――……我が名はゼファー。希望を司りし貴種守護獣。
――……我が名はルシエド。欲望を司りし貴種守護獣ッ!


竜神の姿は消えて、欠けた一枚の石板になる。
影狼の姿も消えて、欠けた一枚の石板になる。


149 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 20:35:26 ID:MtqOmNEw


150 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 20:36:40 ID:Ch2ZWz/d

二つの石版が一つとなり、輝く太陽となって。

事切れたアシュレーの、破壊された心臓へと、舞い降りた。




――我らが力、お前に託そう……アシュレー・ウィンチェスター。人も守護獣も、遍く命が共に未来へ行くためにッ!




ドクンッ。


脈動が、始まる。


幻造の心臓が、熱く激しい鼓動を刻む。


その身に魔神ではなく双子の貴種守護獣、そして人と幻獣の想いを宿して。






アシュレー・ウィンチェスターは、今ここに再誕した。





【F-3 砂漠 一日目 黎明】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康、気絶  希望の守護獣『ゼファー』、欲望の守護獣『ルシエド』を降霊
[装備]:バヨネット、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、焼け焦げたリルカの首輪
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:マリナ……
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
5:セッツァー、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーが内的宇宙より完全にいなくなりました。
※バヨネット(パラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます)
※心臓部に『希望のかけら』『欲望の顎』のミーディアムを内蔵しています。


【残り18人】


※果てしなき蒼、ティナの魔石、マディンの魔石は消滅しました。


151 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 20:37:31 ID:MtqOmNEw


152 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 20:39:50 ID:MtqOmNEw


153 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/13(水) 20:40:42 ID:Ch2ZWz/d
以上、投下終了です。
支援と代理投下ありがとうございました。

>>102-119までが「バトル・VSロードブレイザー」
>>120-141までが「どんなときでも、ひとりじゃない」
>>143-150までが「ファンタズムハート」

です。

154 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 21:09:57 ID:MtqOmNEw
投下乙!

いやー、すっげ、いやーすっげー!
まさか予約翌日に投下が来るなんて、いや、すっげ!
人の思いは無限大、というフレーズを思い出しました!
後半のアシュレー蘇生といいもう激アツです!
改めて投下乙です!

155 :創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 22:11:55 ID:U4uNOsoT
ほぼ即投下でこのクオリティだと!?
投下乙です!
ブレイザーさんが正しくラスボスしている!
アシュレーの仲間の技といい、まさかまさかのナイトブレイザーLといい実にいい総決算!
あるもの全てを使った二転三転して先が読めない展開にはらはらどきどきでした
アルテマフルフラットとかかっこよすぎる! なんかリボルビングステークなのりで脳内再生されたあああ!
何よりもアシュレーが実にセリフやら心情やらがアシュレーしていて嬉しかった!
面白かったです、GJ!


ただ、一点だけ質問が
WA2でゼファーはイベント次第じゃアシュレーを認めて力かしてくれるけど、なんか今回のゼファー、アシュレーと初対面っぽい反応ですよね?
これはロワでよくある別の時間軸のゼファーだとか、アティ・ティナの想いより生じた新たなゼファーだとかそういうことなのでしょうか?

156 : ◆y.yMC4iQWE :2010/10/14(木) 10:51:57 ID:Iq3dIKzU
感想ありがとうございます。
さっそくですが修正など。

ゴゴの装備から 壊れた誓いの剣@サモンナイト3 を削除。
状態表の最後に

※壊れた誓いの剣@サモンナイト3はG-3のトッシュの遺体とともに安置されています。

を追加。

>>131
>光輪はいまやドラゴンの推進器にすら匹敵すすらスター。アシュレーの求めに従い光の速度を叩き出す。
 ↓
光輪はいまやドラゴンの推進器にすら匹敵する輝きを放ち、アシュレーの求めに従い光の速度を叩き出す。

に修正。

>>155
自分は守護獣とは人間と同じ時間を生きているのではなく、司る要素の強いところならどこにでも存在できるものとして考えています。
なのでこのゼファーは外部から召喚したのではなく、仰るとおりアティやティナ、アシュレーの希望から新たに創造されたものとして書きました。

……そうした方が後の展開にも繋がりやすいかな、というメタ的な意図もありますが。

157 :創る名無しに見る名無し:2010/10/14(木) 11:10:03 ID:TdH8zGOC
投下乙
これは凄い大作だ
ロードブレイザーもパワーアップさせるルカ様の怨念やべえ
それに対して、各キャラの能力フルに使って立ち向かうのもカッコいい

158 :創る名無しに見る名無し:2010/10/14(木) 16:46:53 ID:FG5uzY3J
投下乙!

いやあ、これは凄いわ…
もうこの一言だけしか言えんわ…GJ!

159 :155:2010/10/15(金) 20:33:42 ID:vW62Mrjz
>>156
そういうことなら承知しました
私自身貴種ガーディアンは単一固定の存在というよりも強い意志の持ち主の想いを糧にその都度生まれているイメージありましたし、
本編でも細かくは設定されてませんしね

160 :創る名無しに見る名無し:2010/10/15(金) 23:43:57 ID:yZuBotTP
ところでこれカエルのいる遺跡ダンジョン吹っ飛んでないか?

161 :創る名無しに見る名無し:2010/10/16(土) 00:12:07 ID:fBfnCYI6
遺跡ダンジョンは地下ダンジョンだから大丈夫
焼かれたのは地表だって書いてるし

162 :創る名無しに見る名無し:2010/10/16(土) 17:47:36 ID:bOZHUCSM
ミーディアムを内蔵って、具体的にどんなことができるんだろ
ステータスアップ、カスタムコマンドのフォースチャージが使用可能なのは確定だろうが
ルシエドみたいに武器になるのか、実体を持って召喚できるのか
ゼファーなんてホイホイ召喚できたらとんでもないことになりそうだが

163 :創る名無しに見る名無し:2010/10/16(土) 17:55:09 ID:fBfnCYI6
そういうのは後に続く書き手さん次第でしょw
とはいえルシエドもゼファーも思念体っぽいのは退場したわけだし、普段のルシエドみたいにずっと実体化は無理だろから心配いらないかと

164 :創る名無しに見る名無し:2010/10/16(土) 22:26:30 ID:Ozw5zjSS
この話で思い浮かんだことを色々語りたいけどネタ潰しになるかなぁ
っていうかみんなもっと雑談しよーぜー

165 :創る名無しに見る名無し:2010/10/18(月) 03:45:42 ID:E5RQ20ay
ではネタつぶしにならない死者に関する雑談でもする?

166 :創る名無しに見る名無し:2010/10/18(月) 04:47:36 ID:D29gnoPS
死者投票・セリフ投票でもやる?

167 :創る名無しに見る名無し:2010/10/18(月) 09:57:03 ID:MXVTw405
会場中のほとんどの参加者に知られることなく消えてしまったロードブレイザーさんが可哀想だろ!

168 :創る名無しに見る名無し:2010/10/19(火) 20:10:01 ID:dSGu6gL9
原作でも最後みんな応援してはいたが、アシュレーが何と戦ってるのか理解していた人は少ないんじゃねw>ブレイザー

169 :創る名無しに見る名無し:2010/10/20(水) 18:52:59 ID:odi4290Q
wikiの支給品一覧見て思ったんだが、ルシエドは別に剣になれなくなったわけじゃなくね?
元々実体がない概念が剣になったものだし、ミーディアムになったからって本質は変わってないだろう
武装錬金みたいな感じで心臓に手を当てて叫べば剣になるんだよきっと

170 :創る名無しに見る名無し:2010/10/20(水) 20:05:46 ID:cYTYHnXr
今のアシュレーはアルテマもマスターしたってことでいいのかな?
これで三つのラ系、バヨネット使えばガ系とあわせてかなり強力な魔法キャラになったのかな

・・・ところで、アシュレーの使える氷系の魔法は「ブリザガ」なのか「アイスガ」なのかどっちだろ
「憎悪の空より来たりて」ではアイスガ、「バトル・VSロードブレイザー」ではブリザガになってるんだが
アイスガはクロノトリガーの魔法だから、ミスなのかな?

171 : ◆iDqvc5TpTI :2010/10/21(木) 01:44:19 ID:UcKNjW6j
すみません、私のミスです
指摘感謝、修正しました

172 :創る名無しに見る名無し:2010/10/22(金) 22:27:55 ID:YFea0FJ7
あと放送までに必要なパートってイスラたちか

173 :創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 01:47:03 ID:tnYZXl8Y
あと三時間か・・・

174 :創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 03:22:02 ID:BZ6JRRdT


175 :ただ君だけを愛してる  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/26(火) 03:41:56 ID:BZ6JRRdT
>>173
いつもギリギリで申し訳ありません
投下します

176 :ただ君だけを愛してる  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/26(火) 03:43:26 ID:BZ6JRRdT
暗い暗い洞窟の中、一人の男が黙々と地面を掘り続けていた。
一切の道具を使うことなく、膝をつき、泥に塗れ、爪を罅割れさせながらも延々と土を掻き分けていた。
十人中十人が不気味と称する光景であろう。
そしてその中の一人や二人は思うのだ。
こんな奇怪な真似をしている奴の顔を見てみたい、と。
人でも殺したのか、お宝でも探しているのか。
下卑た好奇心をむき出しにし、怖いもの見たさに男の顔を覗き見るのだ。
そして彼らは後悔することとなるだろう。
軽率な気持ちを男に向けていたことがいたたまれなくなるはずだ。
男が浮べていた表情が彼らの期待していた幽鬼や亡者のものとは違う、男が女に愛を語らうような、そんな優しさに溢れたものだったからだ。

いや、何も彼らの想像自体はあながち間違ってはいなかった。
男は殺人犯であり、穴を掘っているのは彼の宝のためだ。
男は恋人の女を誤って殺してしまい、その女を埋葬しようとしているのだ。
ただ。
男の心には女の死に際の言葉が生きていた。
男が辛く悲しく苦しいと女も笑えなくなってしまうという言葉が生きていた。
だから男は女が望んだように笑うことはできなくとも、せめて、この悲しさと苦しさだけは、彼女を眠らす今だけでも押さえ込んで見せようとしているのだ。
自責を繰り返した果てに見出した、女にできる第一歩は今の男にはこの上なく難題だが。
何としても男はそれをなさねばならかった。
これより先、女の望まぬ道を歩む前にせめて、女が喜ぶことをしてやりたかった。

それに、それを可能とする手段を男は知っていた。
愛せばいい。
ただただ死した女のことを愛せばいい。
悲しさと苦しさとは表意一体の感情で、それこそが彼が笑えない原因ではあれど。
男が最も優しくあれるのは。男が最も穏やかでいられるのは。
女を愛している時以外にはありえない。
ならば。
ならば。
証明しろ。
自身の中にある最も尊く、最も強い感情は彼女への愛なのだと。
悲痛も後悔も。
なべて暗き感情はあの輝かしい想いには勝てないのだと。
やせ我慢でもいい。後で泣いてもいい。
今は、今だけは。
愛した女が望んだように、哀しみ以外の感情で送りだせ。
そう決意したが故に

「……すまない、ロザリー」

177 :ただ君だけを愛してる  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/26(火) 03:44:33 ID:BZ6JRRdT
男から漏れでた謝罪は女を殺してしまったことへのものではなかった。
これから多くの命を奪うことへのものでもなかった。
大樹の子たる女を地の底に眠らせねばならないことへの謝罪だった。
男とて本当ならこのような闇の底ではなく日の光があたる場所に埋葬してやりたかった。
しかしエルフを埋葬するに相応しかったであろう巨木は男自身が血で汚してしまっていて、
花畑の方はといえばいささか距離が遠かった。
否、もしも花畑が近くにあったところで男はそこに埋葬することを拒んだであろう。
男が女を光射すことのないD-5洞窟にわざわざ埋葬しようと思ったのは、ここがルーラで跳べる場所だったからだけではない。
ただ、男は先の神殿での戦いで、魔法の余波により無残にも地表へと姿を晒すこととなった機械仕掛けの遺骸を目にしていた。
もはや物言わぬ抜け殻なれど、男は女の死体にあんな目に合って欲しくはなかった。
男は、男が知る限りで最も戦いに巻き込まれにくいと踏んだ場所――かって彼が身を休めた洞窟で女を弔うことにしたのだ。

「……それは言い訳か。私はお前を私以外の誰かに触れさせたくないだけかもしれない」

独占欲――胸をよぎったその単語に男は苦笑する。
浅ましくも愚かしいことだが、男が女をこのような見るものもなく誰も寄り付かない場所で眠らせんとする真の理由はそれだけなのだ。
優しい女のことだ。
皆殺しを選んだ自分とは違い、他の誰かと手を取り合おうとしただろう。
事実先程までの戦いでも、魔族らしき者が女の名を心配そうに呼ぶ声が聞こえていたような気がする。
怒りに呑まれていた時の記憶であり、かなり曖昧なものではあるが、女の人となりを知る男なら断言できる。
きっと自分がそうであったように、あの魔族も女の心の輝きに惹かれるものがあったのだ。
そんな魔族と仲間達だ。
あのまま女の死骸を置いて男が立ち去っても悪いようにはしなかったかもしれない。
であるならば。
男が勝ち残りさえすれば、遺体の状態などに関係なく女は蘇るのだから、わざわざ時間と体力を浪費しなくてもいいのではないか。
人殺しの力や道具で女を汚したくないと素手で地面を掘り続けるなどという愚行を犯さなくともよかったのではないか。
それどころか人間をも下回る卑劣さだが、女を埋葬しようとしている人間どもを、横合いから魔法で葬りさればよかったのではないか。
大切な者の死を前に、どれだけ人も魔も脆くなるのかは先刻男自身が経験した通りだ。
今この時でさえ、男は誰かに襲われようものなら、女だったモノを棄てきれず、後生大事に庇って無防備を晒すに違いない。
もう二度と女の手を離したくはなかったから。
女の一度目の死から今に至るまで、女を置き去りにし続けた愚行を繰り返したくはなかったから。
それでも、真の意味で女と再び共にある為に、男は女と一時の別れをなさねばならない。
どれだけ未練がましくとも、これからの修羅の道に女の遺骸は連れていけない。
だからこそ、言わずもがな。
男ですら共にあれない、触れることのできない女に、例えそれが魂無き遺骸でも他の誰かが触れることを男は許せなかった。
女は、女なのだ。
死して囀ることも笑を浮かべることない身体なれど、それは確かに女だったもので、女をなす一因で、男が愛した女なのだ。
自身以外の誰かに触れさせ、埋葬させ、別れを任せるなどと。
たとえ、人間どもに女を殺されなくとも、殺し合いに巻き込まれ自らの手で女を殺していなかったとしても、男には考えられないことであ――いや

たった一つだけある。
男が、女の埋葬を自ら以外の誰かに託す状況が。
男は自らの手で女を弔いたいという願いが強いだけで、何も女の遺骸を野に晒したいわけではないのだ。
であれば。であるから。
男がどうしても女を弔ってやることができない時は、男は女が自ら以外の手で埋葬されたとしても感謝こそすれ怒りはしまい。
そのたった一つの可能性、男が女を残し先に死んでいた場合ならば。

178 :ただ君だけを愛してる  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/26(火) 03:45:41 ID:BZ6JRRdT

「そうか。そういう未来もあったのだな」

二度も女に先立たれた男はふっと自らが女を置いて先に逝く光景を幻視する。
それは無念な未来のはずだった――もう女を自らの手で守れないのだから。
それは悔しい別れのはずだった――涙する女を男は慰めてやれなくなるのだから。
それは悲しい最後のはずだった――永遠にまで男は女を愛していたいのだから。

けれど、だけども。
その光景の中、に当たり前のように自らを抱きしめ、泣きながらも笑って見送ろうとしてくれている女の存在を目にし。
男は、想った。
残されてばかりいる男は、想った。

ああ、それは、なんて、幸せなことなのだろう、と。

約束された未来。
確定された絆。
これまで二度の女の死に男が居合わせれたように、例え最後のほんの数瞬であろうとも、
自分が先に死ぬ時は女が見送ってくれるのだと、男は疑いもせずに信じることができた。
同時に理解した。
どうして愛するはずの男に殺された女が、最後の最後まで笑みを浮かべていたのかを。
今の今まで男は心のどこかであの微笑を女の優しさが故のものだと受け止めていた。
魔王と勇者の戦いすら止めようとした、あの心優しいエルフは、男が自分を殺したことを引き摺らないようにと笑っていたのだと。
痛みや、苦しみや、悲しみに耐え、無理をしていたのだと。
そう思っていた。そう思い込むことで心を責める足しにして男は報いを受けたいと逃げる心を捨て切れていなかった。

違った。
違ったのだ。

女は真に幸せだった。
愛する者に見送られ、満ち足りた最後を迎えた。
笑みが零れてしまうほどに。
悲劇に倒れたのでもなく、喜劇に足を掬われたのでもなく、女は、愛に抱かれて死ねたのだから。

「ロザリー」

その最後を。
過程はどうであれ、他の誰が否定しようとも、紛れもなく女にとっては幸せだった最後を。

「お前の為になどと私は言わない」

男は暴く。
女が幸せの象徴としたほかならぬ男が、女の幸せを否定する。
女の最も望まぬやり方で。
女に憎まれるかもしれず、悲しまれるかもしれないやり方で。

「許して欲しいとも思わない」

言う必要もない。
男にはそれ以外の道などありえないのだから。

「ただ――」

179 :ただ君だけを愛してる  ◆iDqvc5TpTI :2010/10/26(火) 03:47:33 ID:BZ6JRRdT
ただ、たった一つだけ誓わせて欲しい。
男は誓約を形にする。

「私はお前を想う」

かつて女の一度目の死に際し、男は女を失った悲しみに耐えきれず、力を求め最愛の女の記憶を手放した。
かつて男は二度目の生に際し、怒りに呑まれ、女の存在を過去へと置き去りにした。
その結果がこの様で。
それでもようやっと何が一番大切だったのか男は気付くことができたから。

「お前を想い人を殺す」

男はある種女にとって最も残酷な言葉を口にして。
冷たい土の中に寝かせた女の唇に口づけて。

「ロザリー」

温かさの残る女の身体に。
我が身に残るありったけの暖かさをもって。
一度の別れを告げる。

「愛している。二度とお前を忘れない」

淡紅色をした長い髪が、透き通る白い肌が。
土に覆われ男の視界から消えていく。
されど。
男の中から女の存在が消え去ることはない。
男の名は、ピサロ。ロザリーをただ愛する者。



【D-05 洞窟 一日目 真夜中】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、心を落ち着かせたため魔力微回復、
    ロザリーへの愛(人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感は消えたわけではありません)
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実
[思考]
基本:ロザリーを想う。優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:さてどうするか
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
 ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)

180 :創る名無しに見る名無し:2010/10/28(木) 12:06:36 ID:oo5UJARb
投下乙
ピサロ自害するのかと思ってちょっと焦ったw

181 :創る名無しに見る名無し:2010/11/01(月) 10:02:19 ID:4pgQe1Io
久々にワイルドアームズ2やったけど、やっぱこのゲーム妙にエロいなw
アナスタシアの「Hなお姉さん」発言は当時ドキドキした

182 :創る名無しに見る名無し:2010/11/01(月) 19:33:03 ID:vJAiOw07
アナスタシアには欠かせないよなw>Hな
5の衣装関係でのちょいキャラとしてはちょっと色っぽいお姉さんになってたんだっけか?

183 :創る名無しに見る名無し:2010/11/01(月) 20:09:39 ID:XEqxQYB6
感想一つ、避難所見ても一つ、合計二つっておまえら……いくらなんでも少なすぎだろうに

184 :創る名無しに見る名無し:2010/11/01(月) 20:58:50 ID:HhWsk6km
>>183
それをわざわざ言うことが鬼畜!


185 :創る名無しに見る名無し:2010/11/01(月) 21:31:46 ID:vJAiOw07
そういえばこの話で◆iDq氏、30作目か
RPGロワも順調なわけだぜ

186 :創る名無しに見る名無し:2010/11/02(火) 13:01:28 ID:suTl3Hv9
>>183
でもそういうお前も感想書いてないよな
その一つだけの感想は俺のだし

187 :創る名無しに見る名無し:2010/11/02(火) 20:32:27 ID:iM7qwfWW
三十か
だいたい自ロワの話の四分の一だな

188 :創る名無しに見る名無し:2010/11/03(水) 21:35:02 ID:M/1W0EbQ
お?
予約来たぞ、みんな
これはついに放送いけるフラグ!

189 :創る名無しに見る名無し:2010/11/09(火) 21:37:02 ID:Hrj+F0wk
久しぶりに来たらめっさ投下されてたw

セッツァー&ジャファルと出くわすって決まった時から覚悟はしてたけど、
松はいいとこなく終わっちゃったな。
好きなキャラだからやるせねぇ…

ルカ・ロードブレイザーの連戦は、
最後のルカブレイザーが復活したときはちょっとくどく感じたけど
結局盛り上がったな。超燃えた。
負の感情 vs 人の絆や希望って構造はオディオとの戦いのテーマでもあるし、
このままエンディング、でも通じるくらいだわw

190 :創る名無しに見る名無し:2010/11/09(火) 22:00:51 ID:1+CggJgx
そういやもう一ヶ月も前かあれ投下されたの

191 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 10:00:28 ID:38EDsT9v
松に関しては、場所的にも戦力的にも活躍が期待できそうにないから
たらい回しにされた末に処分されたように見えるのが悲しいな。
ティナやアズリアを守れなかったわ(むしろ守ってもらった)、墓代わりに立てた剣は即効でパクられるわ
行動が全く報われてないのがなんとも言えん。


192 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 11:03:34 ID:dKeSmO+7
ティナは死後も仲間を守ったというのにw

193 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 13:28:52 ID:38EDsT9v
一作一作のクオリティが高いからあまり気にならないのかもしれないけど、
キャラごとの扱いに大きな差があるよな。(ズガンとかは、必要な場合もあるからしかたないけど)
上の松もそうだけど、ルカもしつこいぐらい無双してたのが気になったわ。
ラスボスであるピサロやケフカや、チートレベルのちょこでさえ苦戦する描写があったのに、
死に回まで弱体化しないとかどんだけだよと。
松もルカも原作未プレイだからロワでしか判断してないけど、
もう少し活躍の場や戦力自重させても良かったんじゃないかと思う。

194 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 15:18:26 ID:CAXKAUvf
原作やれば分かるが、ルカはあれでもかなり自重してるぞ。
戦闘能力制限ないこのロワで唯一身体能力が弱体化してる。
松は……ドンマイw

195 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 15:53:47 ID:t9W2Wuyk
ルカは中盤のボスだけどラスボスより強いですし
RPGのいわゆる勇者パーティー18人分の戦闘力だからな

196 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 18:28:38 ID:wHJkz3xP
ルカはそのVS18人が策略にはまり全身に矢を撃たれた後だったからな……
ルカマンセーする気はないが全快のルカの恐ろしさを書いてみたい気持ちはわかる
ぶっちゃけレベル上げまくってた俺は無傷のルカと戦いたかったし、幻水2w
そういうの他のゲームでもないか?w

197 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 19:07:39 ID:iyC7yybT
設定的には特別な力なんて何もなただの人間なんだがな、ゲーム的な演出で異常に強く見えるという
18人と戦う前に戦争シーンあるんだが、自分の兵全滅させられて一人だけなのにこっちの軍をアリのごとく蹴散らしてくれるし
実際このロワのようにブレイブとルカナン使えたなら、おそらくゲーム中でも軽々とこっちを全滅させてくれるだろうことは間違いないw

198 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 21:09:46 ID:AmvKUtPj
まあ、松は設定的にもちょっと強いくらいの一般人で、
戦闘であまり活躍できなかったのも仕方ないとは思う。

人柄とエピソードが魅力なキャラだけど
いろいろな意味で難しい素材だったよな。

「ロワだから」で納得するしかない・・・。

199 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 21:40:50 ID:wHJkz3xP
ロワだからっつうよりも松はその人柄を最大限に活かせなかったのが痛い
ぶっちゃけ空気と言われたようにあんま人と会えなかったのがなー
会えてもすぐ死なれていたし。まあ松の性格だと女性との組み合わせは庇って死ぬか、庇われて死なれるかしかなかったろうが
相性的には最初に会ったビクトールみたいに大人なかっこよさを魅せられる奴か、
似た性格かつまだまだ未熟なエルクらへんが良かったかも
皮肉にもそのエルクを贔屓した人の大暴れが松が人と合流できなかった一因なんだろけど

200 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 22:09:57 ID:hX6Eu5Yk
クロノ勢は身体能力制限が大幅にかかっている気がとてもする
ほらあの人たち世界を壊滅させた攻撃に耐えているだろうし

201 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 22:36:14 ID:AmvKUtPj
まあ、世界を壊滅させた攻撃がどうとかいいだしたら
殆どのRPGのラスボスの攻撃がそんなもんだし
個人の好みと感覚で感じ方が決まってるだけだと思うぞ。

俺はクロノ系はいいところじゃないかと思う。
キャラ人気補正、マーダー補正、ストーリー上の演出とかまで含めると
説明つかない程強かったり弱かったりするキャラはいないと思う。
まあ、FEとサモンナイトは原作知らないからなんとも言えないけど…。

202 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 22:38:44 ID:aD6M/2Aq
これより、◆Rd1trDrhh氏の執筆されたSSの代理投下を行ないます。
可能ならば、支援をいただけるとありがたいです。

203 :アキラ、『光』を睨む ◇Rd1trDrhh氏代理:2010/11/10(水) 22:40:05 ID:aD6M/2Aq
 ふらつきながらも立ち上がった少年。
 それに気づいたジョウイが彼に駆け寄り、倒れそうになったその肩を慌てて支える。
 疲弊したサイキッカーを労わって……というのも、ないわけではない。
 だが、ジョウイのこの行動は、やはり打算に基づいたものだ。
 アキラが今の今までユーリルに対して行っていたマインド・リーディングの結果を、彼は一刻も早く知りたかったのだ。

 勇者だったはずの少年に何が起こったのか。
 なぜ彼はアナスタシアを殺そうとしていたのか。
 彼女はいかなる方法で、英雄をここまで破壊したのか。
 それらのことは、同じく英雄にならんとしているジョウイにとっては知らなくてはならない真実だ。
 だから彼は、アキラがユーリルの心の中で入手した情報を、彼が気絶してしまわないうちに聞き出そうとしていた。

 しかし、アキラはジョウイに寄りかかることなく。
 差し出されたその手を振りほどいて、歩き出す。
 おぼつかない足取りで、静かに眠るアナスタアシアへと歩み寄った。

「アキラ……?」
「何か、書く、もん……ある……か?」
 アキラの突然の要求に、ジョウイは怪訝な顔を見せるほかない。
 同じく不思議そうな表情をしたイスラが、参加者全員に支給されていた筆記具を投げてよこす。
 心身ともに限界を迎えようとしていたアキラは、受けとり損なって地面に転がってしまった筆記具をゆっくりと拾った。
 そのまま眠る少女のもとへフラフラと進み、その頭の傍にかがみ込む。
 彼女の整った顔にかかっている艶やかな青い髪をかき上げると、その顔に筆記具を走らせた。
 震える手で何事かを書き込んだ後……。

「……へっ…………。ざまぁ、み、や……が、れ……」
 アキラは息を切らしながら一度だけ満足げに笑い。
 直後、意識を失って、静かに倒れた。
 何事かと駆け寄ったジョウイとイスラが、相も変わらず寝息を立てているアナスタシアの顔を覗き込む。

「なんだ……これは……?」
 ジョウイがわけが分からないと言った風で、片眉を上げる。
 それは、呪いなのか。
 あるいは何かの紋章なのであろうか。
 それとも、自分たちの知らない、新たな概念か。
 二人の少年は、少女に印された字がもつ意味を考えた。

 だが、彼らが真実にたどり着くことは決してありえない。
 まさか、少年たちは思いつきもしなかっただろう。
 実はその文字の正体は、アキラがいた世界で流行っていた……ただの……。

204 :アキラ、『光』を睨む ◇Rd1trDrhh氏代理:2010/11/10(水) 22:41:05 ID:aD6M/2Aq
「……僕が知るわけないだろ?」
 イスラが観念したように両手を掲げる。
 気絶した少女の額には、汚い筆跡で『肉』の一文字が刻まれていた。


【C-7橋の近く 一日目 真夜中】

【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドU、ビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。


【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]:疲労(小)
[装備]:キラーピアス@DQ4
[道具]:回転のこぎり@FF6、確認済み支給品×0〜1、基本支給品
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:座礁船に行く。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾

【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪、キン肉マン
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。

205 :アキラ、『光』を睨む ◇Rd1trDrhh氏代理:2010/11/10(水) 22:43:07 ID:aD6M/2Aq


◆     ◆     ◆


「こりゃまた……」
 アキラがユーリルの心象世界に降り立った瞬間、彼の足裏にはジクジクと鈍い痛みが走る。
 眉をしかめながら足元を見ると、立つべき地面がすべてイバラで作られていたではないか。

「勇者の道、か」
 その声に、思わずため息が混ざる。
 天を仰げば暗雲が支配する空。
 どこか遠くからは雷鳴が響く。
 遥か彼方には微かに光るぼやけた希望が。
 そして、足元には……イバラの道。
 この世界は、ユーリルの歩んできた『勇者』という生き様をそっくりそのまま反映しているのだろう。
 すべてを犠牲にして戦ってきた、その人生の在り方を。

「そりゃあ投げ出したくもなっちまうよな」
 この空間にたどり着く前、つまりユーリルの心にダイブした瞬間のこと。
 アキラは、ある映像を覗き見てしまう。
 それは、勇者だった少年の脳内で何度も何度も再生されてきた忌まわしい記憶だった。

 うす暗い部屋で、妖艶に微笑むアナスタシア。
 彼女のひざの上では、赤毛の少女がスヤスヤと眠っていた。
 緩やかな曲線を描く唇が穏やかに語りだす、ファルガイアの神話。
 その締めくくりに勇者に投げかけられた疑問。
 そして生まれた、殺意。
 ユーリルに降りかかった事の顛末を、アキラは断片的にだが知ることとなった。

「あの女の言いたいことは分かったよ」
 サイキッカーは、トゲだらけの道の途中でうずくまる少年に語りかけた。
 災難に見舞われた彼への、多少なりともの同情を感じながら。

「…………」
 このいびつな世界の持ち主が、ゆっくりと顔をあげた。
 焦点のあわないその瞳が、訪問者の少年を音もなく拒絶する。
 しかし、アキラは臆することもなく言葉を続けた。

「確かに、お前はイケニエだ」
 まるでトドメを刺すかのように冷たく、少年は聖女に同意する。
 口元に含ませた笑みすらも、聖女のソレの完璧な再現だった。
 弱りきっていたユーリルの目が吊り上がり、アキラに対する怒りを表す。
 ガラスの割れるような音と共に、何度目かの遠雷が落ちた。

「やりたくもねぇ勇者なんかやらされてよ。
 大事なモンも全部犠牲にして……。
 他のやつらといやぁ、お前に縋りつくだけだ」
「だったら……ッ!」
 かつてアナスタシアに突きつけられた地獄。
 その再来に耐え切れなくなったユーリルが、怒りをこめて口を開く。
 唇端から滴りおちた血液が、大地のトゲをわずかに赤黒く染めた。

206 :アキラ、『光』を睨む ◇Rd1trDrhh氏代理:2010/11/10(水) 22:45:05 ID:aD6M/2Aq
「だったらどうすればよかったんだよッ!
 英雄が生贄なら、あの女の言うとおりなら……」
「ふざけんじゃねぇよ」
 堰を切ってあふれ出した感情のままに、ユーリルが矢継ぎ早に言葉を連ねる。
 アキラは悲鳴のようなソレを遮って、「はッ」と馬鹿にしたように笑った。

 憤怒のボルテージをさらに引き上げ、勇者は目を血走らせる。
 しかし、彼を見下したアキラもまた、静かな怒りの火を心に灯していた。

「俺は『お前はイケニエだ』とは言ったさ。
 だがな、『英雄はイケニエだ』とは一言も言ってねーぜ」
 アキラの目がギラギラと鋭く尖る。
 直後、彼を中心として、その足元に炎の渦が巻き起こった。
 少年を守るように生まれ出でた火炎は、大地に広がる毒々しい植物を焼き払い、消し炭と化して空へと舞い上げる。
 そのまますべてを焼き殺すと思われたが、炎はものの数秒で鎮火した。
 結果として、アキラの立っている付近のイバラだけが燃え尽きる。
 彼は、直径一メートルほどの焼け野原に立っていた。

「……?」
「わかんねーか?」
 ユーリルには、アキラが何をしたのかも、何を言っているのすらも理解できない。
 その頭上を巡り続ける疑問符をまったく解決できないでいる。
 そんな彼に、サイキッカーは躊躇いもなく決定打を放った。

「お前は英雄じゃねぇっつったんだよ」
「…………ッ!」
 直球で放たれた暴言に、ユーリルの怒髪が天を衝き。
 言葉にならない咆哮が、巨大な稲妻をアキラに落とす。
 しかし、落雷は少年を避けるように捻じ曲がり、イバラの一部を黒く焦がすだけ。
 サイキッカーは涼しい顔で。
 それでいて、その心は相も変わらず燃え盛っていた。

「ついでに言やぁ、あの女が言ってた『剣の聖女』とかいうのもな」
「なッ…………?」
 何もかもを否定するような。
 そのアキラの口ぶりに、ユーリルは呆気にとられる。
 胸中を支配していたはずの憎悪すらも置き去りにして。

「ヒーローってのはな……そんなんじゃねえ」
 アキラが遠い空で微かに輝く光を睨む。
 思い返すのは、小さなころに見た特撮ヒーローのこと。
 孤児院で子供たちと見た、名前も忘れたプロレスラーのこと。
 湖に眠った機械仕掛けの女のこと。
 そして父親を殺した男のこと。

「あいつらはな、ブッ壊れてんだよ……」
 自身が憧れたものたちの生き様を脳裏に甦らせ、アキラはかつての高揚感を再燃せしめる。
 彼らの暴力的ともとれる異常な信念に、少年の目は曇天を照らすほどに輝いた。

「使命も犠牲も人類も関係ない。
 やつらはただテメーが救いたいモンを救えりゃ満足なのさ。
 他のヤツらの態度を見て、身勝手だなんだと抜かしてるお前らは……ヒーローじゃねぇッ!
 それは、ただのイケニエだ……!」
「…………」
 アキラが見てきた英雄は、自分の命を顧みようとはしなかった。
 他人の顔色を伺うものなど、ただの一人もいなかった。
 感謝の一つも求めようとはしなかった。
 彼らにとって、人を助けるということは『趣味』と呼べるレベルのものでしかないのかも知れない。

207 :アキラ、『光』を睨む ◇Rd1trDrhh氏代理:2010/11/10(水) 22:46:26 ID:aD6M/2Aq
「そんなになるほど辛かったなら、勇者なんてやめちまえばよかったんだ」
「じゃあ……」
 我に返ったユーリルが、その心に怒りを呼び戻して立ち上がる。
 アキラのあまりの理不尽な理屈に、意義を申し立てるために。
 その姿は、勇者とは思えないほど頼りなく。
 衰弱しきった人間とは到底思えないほど、凛々しかった。

「じゃあ、世界を見捨てて逃げ出せばよかったのかよッ!?」
 喉を裂いてまで発したその叫びは、目の前の少年に向けてだけ発せられたものではない。
 彼を勇者に祭り上げたものたち。
 彼に頼るばかりで、何もしなかった人々。
 そして彼を勇者から引きずりおろしたアナスタシア。
 そのすべてに対して、彼の悲鳴は響いていた。

「助けたい人だけ助けて、残りの人たちの悲鳴は聞き流して……それでよかったのかッ!?」
「それでいいじゃねぇか。何がいけないんだ?」
 アキラが当然だと言わんばかりに胸を張る。
 彼の自信はその声にもハッキリと現れていた。
 ユーリルの鼓膜から伝わった振動が、全身を戦慄かせる。

「なッ……! じゃあ、救われない人たちはどうする?
 世界はどうなるッ?!」
「知るかよ」
 陰鬱としたユーリルの世界を切り裂くように。
 少年は正論をキッパリと切って捨てた。

「助けたくないなら仕方ねぇだろ。ヒーローのいねえ世界は滅ぶしかないんじゃねぇの?」
 アキラの言う『ぶっ壊れた者』。
 それは、見返りも感謝も求めずに、ただひたすらに救うもの。
 身勝手な弱者に怒りを覚えることもなく。孤独な戦場へも振り返らずに歩みだす。
 他の何を捨て去っても、大切なものだけは取りこぼさないもの。
 それを『ヒーロー』と、彼は呼ぶ。

 ブリキ大王は人類を、世界を救った。
 しかし、それは『ついで』だ。
 少年を、信念を、ひとりの女を、その女が愛した子供たちを。
 ある男が、それらを救った、その副産物として……人知れず世界は救われたのだ。

「そんな……そんなの……」
 ユーリルの体が震える。
 それは、アキラに気圧されたからではない。
 彼の世界が揺れる。
 サイキッカーの提示した可能性を殺すために。

「じゃあ聞くが、お前は『誰の』英雄になりたかったんだよ。
 世界の端っこにいる人間の生き死にまで、ぜーんぶテメーの力でどうにかするつもりだったのか?」
「…………」
 アキラが見てきた英雄たちにとって、「世界を救う」ことは手段であって目的ではない。
 自分が守りたい『誰か』にとっての英雄になることができれば、それでいいのだ。
 もちろん、その大切な『誰か』を救うために必要ならば、彼らは喜んで世界を救うだろう。
 しかし、その者たちにとって大事なことは、あくまでも『守る』こと。
 だからイケニエも糞もない。
 彼らは自らの欲望のまま、好き勝手に救っているのだから。
 自分のやりたいように、生きて、死んでいるのだ。

208 :アキラ、『光』を睨む ◇Rd1trDrhh氏代理:2010/11/10(水) 22:48:16 ID:aD6M/2Aq
「俺は、松の代わりに……あいつが守ったやつらのヒーローになりてぇ。
 そのためにオディオをぶっ飛ばして、自分の世界に返らなくちゃならねぇんだ」
 アキラが言う『松』という人物のことを、ユーリルは知らない。
 その代わりに、彼はある一人の人物の姿を強く思い出していた。
 それは、この殺し合いで、一番最初に出会った少年。
 無口ながら、熱い心を胸に秘めた男。

 彼は、普通の人間だった。
 勇者の血統も、悲劇の過去も一切持ち合わせてはいない。
 それなのに、彼は世界を救ってみせた。
 他の誰に導かれるでもなく。
 たったひとつ……自分の意思で。

「もう一度聞くぞ、お前は誰のヒーローなんだ?」
 ユーリルは、ぐうの音も出せない。
 アキラの質問に対する答えが見当たらない。
 彼は、誰の英雄でもなかったから。
 ただ、提示された使命に導かれるままに世界を救った。
 本当に大切な人は、勇者になる前に既に殺されていて。
 その人たちとの思い出も、今となっては仮初で。
 彼には、誰もいなかった。

「お前がイケニエになるのはお前の自由だ。勝手にしやがれ。
 だがな、俺の邪魔をすんなら」
 アキラが、用は済んだと言わんばかりに踵を返す。
 来た道をテクテクと歩き出した。
 ユーリルは、その背中をただ呆然と見つめている。

「あの背中を否定すんなら」
 数歩進んでから、ふと立ち止まったアキラ。
 振り返ることなく、立ちすくんでいる生贄に呼びかける。

「お前を叩きのめしてでも、俺は前へ進んでやる」
 静かに放たれた宣言は、ユーリルに対する警告のようでもあり。
 まるで、自分自身への誓いの言葉のようでもあった。
 一度だけ大きく深呼吸してから、アキラはまた再び歩き出す。

「なんなんだよ、アナスタシアもお前も……」
 去り行く少年に向けて、ユーリルが吐き出した言葉は反論でもなく。
 どうしようもない、やり場のない怒りは、表しきれるものではなく。
 クロノに対して感じてしまった確かな憧れは、誤魔化しようもなく。

「なんなんだよォッ!」
 ただ、無性に気に食わなかった。
 アキラのことが不愉快で仕方がない。
 彼に何一つ反論できなかったことが、とてつもなく悔しかった。

 こんなとき、クロノならどうするのだろうか。
 彼は誰の英雄だったのだろうか。
 ユーリルは、喉をズタズタに引き裂きながら、そんなことが気になっていた。

209 :アキラ、『光』を睨む ◇Rd1trDrhh氏代理:2010/11/10(水) 22:49:17 ID:aD6M/2Aq
【C-7橋の近く 一日目 真夜中】

【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:アキラが気に食わない。
3:クロノならどうする……?
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。




◆     ◆     ◆


『エイユウッテナニ?』
 アナスタシアが、うるさい。
 ユーリルの心理世界からの帰り道にて。アキラはうんざりしていた。
 彼の表層心理は、この少女の声に支配されている。
 この空間では、同じ疑問が延々と鳴り響いていたのだ。

「俺が知るかっての」
 アキラが小さく毒づく。
 ユーリルには、好き勝手なことを言ってきた。
 だが、本当のところは、彼自身にもソレが正しいのかどうかは分からない。
 アキラだって、まだ誰の英雄にもなれてはいないのだから。

 無法松にも、アイシャにも、ミネアにも守られてしまった。
 ただ英雄の背中に隠れるばかりで、彼自身は誰のヒーローにもなれないでいる。

 ユーリルには、「立ちはだかるなら叩きのめす」などと啖呵を切ったものの……。
 ……彼の実力では、あの勇者には到底敵うはずもない。

 つまるところ、少年には課題が山積していたのだった。

「松……アンタいったい、どこで何をしてんだ?」
 しかし、それでも彼には希望があった。
 この島で、生きているだろう男であり、アキラが今度こそ救いたい人物だ。
 ユーリルと対話をしていく中で、彼はある決心をした。
 今度は自分が、無法松の英雄になろうと。
 そして、自分の世界に戻って、彼がしたように子供たちを守ると。

 それが、今の彼の支えであり。
 今まで散々守られ続けた少年が掲げる目標だ。
 その思いを胸に、彼はひたすら進む。

210 :アキラ、『光』を睨む ◇Rd1trDrhh氏代理:2010/11/10(水) 22:53:27 ID:aD6M/2Aq
 決心した矢先に、無法松が再び殺されてしまうことになるなどとは……彼は考えもしなかった。

『ドウイウソンザイナノ?』
「うるせーっての」
 文句を言っても、不愉快な声は止まず。
 ただイライラだけが募っていく。
 もともと、アナスタシアのことは好きではなかった。
 そしてユーリルの心にアクセスしたせいで、彼女に対する感情はすっかり嫌悪感へと変じてしまう。

 目覚めたら、倒れてしまう前に、なんとかしてアナスタシアに一泡吹かせてやろう。
 そう誓って、アキラはユーリルの心を後にした。


【C-7橋の近く 一日目 真夜中】

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(大)、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:気絶中
2:無法松の英雄になる。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
※無法松死亡よりも前です。
よって松のメッセージが届くとすれば、この後になります。


----------

771 名前: ◆Rd1trDrhhU[sage] 投稿日:2010/11/10(水) 22:43:13 ID:uvoOcX2w0 [10/10]
以上、投下終了です。
代理投下してくださってる方、ありがとうございます。

----------

以上で代理投下を終わります。執筆お疲れ様でした!
なるほどなあ……アキラ編の時代背景らしい着眼点と、彼の気風のよさを
最大限に活かした言い切りがカッコよかったです。こういうアプローチを
今まで誰もやらなかったからこそ、イバラも燃やせたんじゃねーかと思ったり。
アキラの超能力というと『メイジーメガザル』も好きだったのだけど、また
違った魅力をみせてもらった感じです。
この一石が投げられたところでどうなるかと思う一方……アナスタシアwww
いきなりの状況ぶっぱもお見事でした。あらためましてGJです!

211 :創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 23:04:22 ID:AmvKUtPj
執筆&代理投下乙でした!

鬱屈した心に熱いハートで活を入れる様が
原作最終編のオディオとのやりとりを思い出させるな。
やっぱりアキラにこういう役回りはよく似合う。
アキラが無法松の背中を追いかけてるって心理描写も凄くしっくりくる。
やっぱ松はアキラにとってヒーローだったんだろうな…。

話の内容はちょっと理屈っぽくてらしくない感じがするけど、
通りすがりのタイヤキ屋さんを継いで少しは大人になったってことなのか。

212 :創る名無しに見る名無し:2010/11/11(木) 00:15:00 ID:sD768IPY
投下&代理おつー
そういやアキラって英雄どころか正義の味方でもない一般的にいやあ不良少年なんだよなあ
だが、だからこそか
最初のキン肉マンもだけど今回のアキラの答え自体も『現代編』の主人公だからこそのもんだったな
英雄≠ユーリル、アナスタシア=生贄ってのも眼から鱗だったがなるほどな論だったぜ

213 :212:2010/11/11(木) 00:31:45 ID:sD768IPY
近未来編だった、死のう


214 :創る名無しに見る名無し:2010/11/11(木) 00:43:18 ID:m+ybQQoh
>>213

――――――――――メガザル。

215 :創る名無しに見る名無し:2010/11/11(木) 11:25:33 ID:+FmZ+E67
額に肉ワロタ

216 :創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 16:00:03 ID:x8x+GOKs
やはり放送が見えてくると活気づくな
ヘクトル達が動くなら遂に放送か
現状事態が終息しているからこそ放送後は大きく動いたりキャラ同士の掛け合い楽しめそうだな

217 :創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 18:32:01 ID:bGq7d3M3
アシュレーたちだけやたらと離れてるからしばらく絡めそうにないな

218 :創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 10:57:33 ID:HZe1gD1t
松、シャドウ、ロザリー、シンシア、ブラッド、トカ、ルカ、リン、トッシュ
が放送対象かな?
アキラ、アシュレー、ジョウイ、イスラあたりにはインパクトありそうだな…。

ロードブレイザーが滅んだことが放送されると
マリアベルやアナスタシアも心中穏やかじゃないだろうけど、
正規の参加者じゃないし放送はされないかな。

神殿エリアがそろそろ禁止区域で閉鎖されそうだけど、
マーダーが皆神殿エリアにいるんで
アシュレー達はそのままタイムアウトまで戦う相手がいなくなるなw

219 :創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 12:11:00 ID:HJOf8JPx
アシュレーの扱いはどうなんだろ
一度死んだ後に蘇生したから首輪は機能しなくなるのかね

220 :創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 14:49:24 ID:Ke/7UkFR
いやいやお前ら、忘れていないか?
アシュレーらは通称城組だぞ?
フィガロ城につきさえすれば結構大胆に短縮移動できるさ
まあちょい激戦したばっかだから何話かは休憩や交流パートはいるだろうけど
首輪関連はそれこそ書き手さん次第だな

221 :創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 15:02:43 ID:gVarK2yN
フィガロ城って地中を自由に移動できる施設ってわけじゃないだろ
地下で繋がってる砂漠とかじゃないと

222 :創る名無しに見る名無し:2010/11/16(火) 03:30:54 ID:NyW3D/+8
ま、そこら辺はそれこそ書き手次第で俺達が口出しするところじゃないな
しかし第四回放送ってことは遂に1日経過か
ここまで来たんだね

223 :泣けない君と希望の世界  ◆iDqvc5TpTI :2010/11/21(日) 02:58:41 ID:VxqIATh6
いつもぎりぎりで申し訳ありません
投下します

224 :泣けない君と希望の世界  ◆iDqvc5TpTI :2010/11/21(日) 03:00:10 ID:VxqIATh6
ランタンの火に照らされた森は夜闇に隠されていた傷を顕にしていく。
大地が何か巨大な刃物なようなもので抉られ地盤を剥き出しにしていた。
木々が枝も葉も根こそぎ奪われ巨腕に薙ぎ払われたのか、寸断され横たわっていた。
凄惨な光景だった。
だが、ヘクトルにとってはいくらか見慣れた光景でもあった。
これは決して巨人が暴れて引き起こした惨事ではない。
自然災害――台風だとか竜巻だとか嵐だとか種類はいくらでもあるが、つまるところ“風”の力によるものであろう。
王としてその手の災害に巻き込まれた村落の復興を支援したこともあるヘクトルは経験からこの地を蹂躙した力の正体を見抜く。
そして無論、これが唐突に起きた局地的な災害によるものではないことを彼は理解していた。

信じがたい話だが、これは魔法によるものだ。

彼の知る限り風を起こす理魔法などエレブ大陸には存在しなかったのだが、
その古い知識は既に幼き魔王の娘により文字通り吹き飛ばされていた。
よってここでいう“信じがたい”という言葉は、風の魔法を指してのことではない。
この魔法を放った主たる少女が、これだけの、
致命傷とまではいかなくとも重症を負わせるには十分の魔法を、あの男に加えたということの方だ。

「それでも、それが事実なんだよな……」

ニノを任せると頼んできた時、ジャファルはヘクトルやリンがつけた覚えのない傷を全身に負っていた。
衝撃波による切り傷。
火球による火傷。
真空波による裂傷。
一撃や二撃では収まらない攻撃をその身に受けていた。
それは転じて、それだけの魔法を暗殺者は少女に撃たせたということ。
心優しい少女に大好きな人を何度も何度も傷付けさせたということ。

「……ああ、くそっ、何でだよ」

灯りが、蹲る少女の影を捉える。
それを見るまでもなくとっくにヘクトルはそこで少女が泣いていることに気付いていた。
戦いが終わり、雨が止み始め、静けさを取り戻した森では、人一人の鳴き声といえど十分に響く。
否、たとえこの場を喧騒が支配していても。

「俺は、泣いている女は苦手なんだぞ」

ヘクトルが少女の泣く声を聞き逃すはずがなかった。
彼が愛し、傍らにいたいと思ったのは泣き虫な少女で、
そんな少女を放ってはおけなかったのがこの男だったのだ。

225 :泣けない君と希望の世界  ◆iDqvc5TpTI :2010/11/21(日) 03:01:24 ID:VxqIATh6

「ニノ」

ヘクトルは蹲る少女に合わせて近づいてからしゃがみ込む。
涙で視界を曇らせていた少女はその時になってようやって自分以外の誰かがいることに気付き顔を上げた。

「ヘク、トル……?」
「ああ」

ひどい有様だった。
泣き腫らした目は真っ赤に染まり、充血していた。
男の名を呼んだ声だって、喉が枯れしゃがれたものになっていた。
恐らくは、ジャファルに置いて行かれてからずっと。
少女は声を上げ泣き続けていたのだろう。
大好きな人を傷つけてしまった痛みに押しつぶされ。
大好きな人が少女との間に築いてきた全てを捨て去ってしまった悲しみに呑まれて。
大好きな人がもう隣にはいない、いてくれようとしない寂しさに取り残されて。
ずっと、ずっと、独りぼっちで泣き続けてきたのだ。
隣にいてよ、隣にいてよと、闇に消えた最愛の人を求め続けていたのだ。

「……っ」

その様に、ヘクトルは無言で強く拳を握りしめる。
泣きじゃくる少女を前に去っていった男への怒りを顔に出したくはなかったがそれでも思わずにはいられなかった。
どうして傍にいてやらないのかと。
散々人間の弱さと脆さを理解出来はしないと自分を罵倒したくせに、どうしてお前はここにいないのだと。
お前には分かるんだろ、個を殺したらしい俺とは違って。
あいつの死を泣いてやれなかった俺とは違い、お前の為に泣いているこいつの気持ちが分かるんだろ!?
なのに、何故、どうして。

「ジャファルが、ね……、行っちゃっ、たんだ……。
 もうあたしとは……、一緒に、一緒に、いられない……って」

ジャファルはニノの側にいてやらないのか。
ニノはまだ生きている。
ジャファルもまだ生きている。
二人は再び出会うこともできた。
それなのに、何故二人は別れねばならなかったのか。
何故、間に合ったはずのあの男は、泣いている少女を泣き止ませに来ないのか。

「俺と関わり過ぎると、きっと闇に落ちるから、って。
 あたしには、もっともっと、相応しい人がいて、その人が、あたしを幸せにっ、してくれるって……」
 
ああ、そうだ、そうだった。
ヘクトル自身もジャファルの口から聞かされていた。
闇は闇から逃れられない、光とは共にあれないと。
訳の分からない理屈を聞かされていた。
それが、どうしたというのだ。

「そんなの、ちっとも幸せじゃ……ないよぉ。
 あたしは……、ジャファルに幸せに、して欲しい。
 あたしは、ジャファルと、幸せに、なりたい……」

226 :泣けない君と希望の世界  ◆iDqvc5TpTI :2010/11/21(日) 03:02:28 ID:VxqIATh6
目の前で女が泣いている。
ヘクトルがこの世で最もどうにかしてやりたいものがそこにはある。
けれど、ヘクトルには泣き止ませることはできても、少女を笑顔にすることは不可能だ。
ヘクトルには涙を少女の掬うことはできても、少女の心を救うことはできない。
真にニノを救えるのは一人だけで、真にヘクトルが救えたのも一人だけだった。

「ねえ、ヘクトル……。あたしの言ってることって、間違ってるのかな……?」

ヘクトルにはニノを抱きしめられない。
少女がそうして欲しいと思っているのは闇に消えた暗殺者なのだから。
ヘクトルはニノの傍らで手を握ってやることはできない。
そうしたいと男が思っていたのは天馬を駆る亡き少女一人だけだったから。
ヘクトルは少女の背中に背中を貸してあげることはしなかった。
そうしてやった女とニノの持つ強さは別物だったから。

「あたし、馬鹿だもの。あたしが……、間違ってって、ジャファルが正しいの、かな?」

だから。

「嬉しかった、のに、なぁ。ジャファルに、二人で暮らそうって、言って、もらえて。
 ずっと一緒だって……、約束、してもらえて。
 本当に、本当に、幸せ、だった、のにぃっ」

だから――

「あたしとジャファルじゃ……、幸せに、なれないのかなぁ……。
 なっちゃ、だめ、なのかなぁ」

男にできることは、一つだけだった。

「俺が、つくる」

それは約束だった。

男は少女を抱きしめることはできない。
男は少女の手を握ることもできない。
男は少女に背を貸すこともできない。

227 :泣けない君と希望の世界  ◆iDqvc5TpTI :2010/11/21(日) 03:03:15 ID:VxqIATh6

「お前とあいつがずっと一緒にいられる国を、俺が、作る。
 あいつを追ってくるっていう『闇』に怯えないでいいようにオスティアを変えてやる。
 『光』だとか『闇』だとかであいつに言い訳させないで済むようにしてみせる!」

だけど男には少女と約束を交わすことはできる。
大切な約束を破られたばかりの少女に、絶対に破らないと誓える約束を紡ぐことはできる。
王として、一人の女を好きになった一人の男として。
一組の恋人達が幸せに暮らせることを祈り、その願いが叶うよう、助けになることはできる。
ヘクトルは王だ。
仲間の為に、国の為に、世界の為に戦う者だ。
己を捨ててなんかいない。
王であることもまたヘクトルという人間の個なのだ。
ならば、他人がどう言おうと構わない。
ヘクトルは王らしく、王らしいやり方で、その他人をも幸せにしてしまえばそれでいいのだ。
たとえその他人がヘクトルから最愛の人を奪った暗殺者だとしても。
それでいい、それでいいんだとヘクトルには思えてしまう。
ジャファルにやったことを後悔させるには、あいつに満足を抱かせたまま闇の中で死なせるのではなく、
光の中に連れ戻し、愛する人と幸せな時を過ごさせ、自分が奪ってきたものの重みを分からせることが一番なのだと。

「だから、連れ戻しに行くぞ。あいつは俺にとっても将来の国民なんだ。放ってはおけねえ」

故にこそ立ち上がりながらの言葉には、一切の陰りがなかった。
涙を浮かべたまま見上げてくる少女のことも強く見返した。
王が作れるのは、あくまでも“国”止まりだ。
真に安息を得られる“家”を作ることは、そこに住まう人々にしかできない。
ニノを幸せにできるのがジャファルだけでしかないように、ジャファルを幸せにできるのもニノ以外にはいない。

「いいの、かな……?」

奪われてばっかりで、捨てられてばっかりだった少女は涙をぬぐいつつもすぐには立ち上がれない。
誰よりもジャファルのことを追いかけたいのに、好きな人のことを傷つけるだけではないかと、
もう一度捨てられてしまうのではないかと恐怖してしまう。
或いはそれは、ジャファルに人を殺させてしまった自分が幸せになってもいいのかなという意味でもあったのかもしれない。

「いいもくそもあるか。お前はジャファルと一緒にいたいんだろが」
「いたいよ……っ。あたしは、あたしはジャファルとが、いいっ」

だったらよ。
そう言ってヘクトルはニノに手を伸ばす。

228 :泣けない君と希望の世界  ◆iDqvc5TpTI :2010/11/21(日) 03:04:08 ID:VxqIATh6

「行こうぜ。あいつは捨てていくって言ったんだろ。壊していくとは言わなかったんだろ。
 お前とあいつが築いてきたものは何一つ失われてなんかいねえ。
 全部拾い集めてお前っつう利子も付けてそっくりそのまま返してやれよ」
「……うんっ!」

ヘクトルの手に少女の小さな手が重なる。
その感触が、槍や手綱を握り続けていた為に意外と使い込まれていた誰かの掌とは明らかに違ったことが、
少しだけ、ほんの少しだけ、ヘクトルには哀しくて。
ヘクトルは空を見上げる。
そこにもう雨雲は存在していなかった。
空さえもヘクトルの代わりに泣いてはくれないみたいだった。


【C-7西側の橋より少し西 一日目 真夜中】
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(大)、アルテマ、ミッシングによるダメージ、
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドU、アルマーズ@FE烈火の剣 
[道具]:ビー玉@サモンナイト3、 基本支給品一式×4
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒して、オスティアに戻り弱さや脆さを抱えた人間も安心して過ごせる国にする
1:ジャファルは絶対止めてニノと幸せにさせる
2:ブラッドの仲間、セッツァーの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:つるっぱげを倒す。ケフカに再度遭遇したら話を聞きたい。
4:セッツァーを信用したいが……。
5:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)、シャドウ、マッシュ、セッツァーを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。


【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:若干持ち直した模様?
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:ジャファルと一緒にいたい。
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:マリアベルたちのところに戻りたい。
4:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイヴォルテックは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
 現在所持しているのはゼーバーとハイヴォルテックが確定しています。

229 :泣けない君と希望の世界  ◆iDqvc5TpTI :2010/11/21(日) 03:05:32 ID:VxqIATh6
以上、投下終了です

230 :創る名無しに見る名無し:2010/11/21(日) 03:41:26 ID:wRBmwA1M
投下乙です!
これはいいねぇ、クライマックスに向けて少しずつ盛り上がってきてるのが分かる。
とはいえ、セッツァーもジャファルももう遠くに行ってるからとりあえずはマリアベルたちと合流かな
ヘクトル頑張れ超頑張れ。ニノも頑張れ超頑張れ


231 :創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 22:26:30 ID:mFsudnvO
ヘクトルは小難しい理屈をこねないから見ていて気持ちがいいな
猪突猛進みたいなキャラは殆どリタイアしちゃったから頑張って欲しい

232 :創る名無しに見る名無し:2010/11/25(木) 20:56:39 ID:GXMrtMK6
さて、そろそろ感想のターンも終わりかな?
放送は……どうなるんだろ
誰か書きたい書き手さんいるのかな?

233 :創る名無しに見る名無し:2010/11/30(火) 13:24:06 ID:s8CIgkNB
禁止エリアはまた特に希望がなければ放送書く人の好きに決める形になるのかな
あと、そろそろ投票の時期だトカッ!?

234 :創る名無しに見る名無し:2010/11/30(火) 15:44:48 ID:mycaosCN
なんか、今したらばに書き込んだらエラーが出るみたいだね
問題収まるまでは本スレ使うが無難だと思うー

235 :創る名無しに見る名無し:2010/11/30(火) 16:48:19 ID:E7WS9NVq
復旧したみたい

236 :創る名無しに見る名無し:2010/12/01(水) 03:56:04 ID:dyN7uqir
む、そんなことあったのか
しかし投票かあ
今回は第三回放送までかな?

237 : ◆IU1v6YM1mk :2010/12/06(月) 19:32:48 ID:mkNWVpC9
テスト

238 :創る名無しに見る名無し:2010/12/10(金) 23:30:51 ID:U9M5ppyR
そろそろ放送予約してもよいだろうか?

239 :創る名無しに見る名無し:2010/12/10(金) 23:49:32 ID:xGmk4QLQ
放送までに書いておいた方がよさそうだったパートは全部書かれておりますし、
予約しても大丈夫じゃないかと思いますー。

240 :創る名無しに見る名無し:2010/12/11(土) 01:31:39 ID:eKxVRAy9
おおお、久々に6X氏の予約が……!
楽しんで執筆いただければ嬉しいなあ。こちらも楽しみに待ってよう。

241 : ◆6XQgLQ9rNg :2010/12/11(土) 12:38:22 ID:nePlTp2W
仮投下スレに第四回放送案を投下いたしました。
ご意見指摘などありましたらご遠慮なくお願いいたします。

>>239
遅れましたが回答ありがとうございました。

242 :創る名無しに見る名無し:2010/12/11(土) 16:33:48 ID:YkWJ4Wrz
>>241
仮投下乙でした!

今まで真意を伏せてきたオルステッドが動きと感情を見せ始める
折り返し点らしい話だったと思います
オルステッドの真意を想像して今後の展開が楽しみになりました

ただ、原作の○○フォビアを呼び出すあたりの描写は
今更になって慌てて準備をしているようで、ちょっと威厳に欠けるうのと、
ひとしきりバトロワしたあとでMOBとの戦いを描くことになり冗長な感じがします
ストレイボウが生き延びた場合は、面白い演出になりそうですけどね

対主催勢力が現れることを最初から想定しているのは不自然なことではないと思いますので、
部下の配備などの準備は既に整っていて、
何枚かカードを伏せて待ち構えているような描写でもいいのかなと思いました

243 :創る名無しに見る名無し:2010/12/11(土) 16:43:36 ID:YkWJ4Wrz
禁止エリアの選択も面白かったと思います
城組の合流と、神殿組の行方に少なからず影響し、
こちらも今後の展開が楽しみです

244 :創る名無しに見る名無し:2010/12/11(土) 19:23:29 ID:eKxVRAy9
6X氏、執筆お疲れ様でした。
悲劇性を絡めることなく深みを出してるオディオの内心といい、情景描写から
うかがえる絵面の作り方といい、じつに綺麗……雰囲気に浸らせていただきました。
禁止エリアの選択についても問題ないと思います。とくにC-08を指定したことで、
神殿周辺の動くをダレることなく書いていけるんじゃないかと。

フォビアたちの召喚についても、どう扱うか・戦わせるかは後続次第なので大丈夫かと。
召喚した者に「戦力を用意しろ」と命じるあたりが慌てているようにみえたのかもしれませんが、
『人形は裏切らない』と直下の一文でオディオを簡潔かつ巧みに掘り下げてらしたので、
フォビアたちの召喚自体は残しておいたほうがおいしいなあと、自分は思います。

245 :創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 01:28:54 ID:Xh1IRm93
投下お疲れ様です!
アシュレーのことを憎いとか忌々しいと切り棄てきれないところがオディオらしいと思った
ただ、フォビアの召喚については俺もここで召喚しちゃうと対主催ルート前提っぽく思えてしまう気が
242氏の言うように、既に準備完了しているものの、待機状態であるフォビア達に向かって、
フォビア達を使う可能性もあるかもしれないということを言わせるというのはどうでしょう
それなら人形は裏切らないもそのまま使えますし

246 :創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 02:31:45 ID:w6MBAZ3o
投下乙です
自分は特に問題ないと思います
地図の方を禁止エリア候補まで含めて最新のに更新しましたのでよろしければ参考にしてください

247 : ◆6XQgLQ9rNg :2010/12/12(日) 08:44:21 ID:n4ME5EmZ
皆様、ご意見ありがとうございます。
フォビアについてのご指摘が多いようですね。
「人形〜」のくだりはできれば残したいと思っておりますので、>>245氏の意見を参考に修正いたします。
もちろん、彼女らの扱いについては後続の書き手諸氏および、今後の展開によって変わってくるでしょう。
結果として出番がなかったり、描写なく倒されても問題はないかなと思っています。

では、修正完了次第本投下いたします。

最後になりましたが、>>246氏更新乙です!

248 :創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 22:26:03 ID:RKNIglCK
◆6XQgLQ9rNgの放送を代理投下します

249 :創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 22:26:51 ID:RKNIglCK
失礼、敬称つけ忘れました
◆6XQgLQ9rNg氏の第四回放送を代理投下します

250 :創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 22:27:41 ID:RKNIglCK
 地上で繰り広げられた戦闘の終焉を待っていたかのように、分厚く濃厚だった雨雲が晴れていく。
 こびりついて消えない汚れに満ちた大地を押し流すかのような豪雨の気配が、天空には欠片も存在しなくなっていた。
 代わりに空を支配しているのは、青白い満月と数え切れない星の瞬きだ。
 夜天の王と兵の群れが見下ろす世界――たった一つの、箱庭めいた島には、夜に相応しい静けさが落ちている。
 まるで、好き勝手に喚き散らした後に、泣き疲れて寝息を立てる子どものようだった。
 そう、少し前まで。
 ほんの少し前まで、その島には狂乱めいた騒乱で溢れかえっていた。
 無数の感情がせめぎ合い意志がぶつかり合い想いが交錯した。
 その果てに、離別があり喪失があり過ぎた。
 希望や喜びや活力を覆い隠し押し潰してしまいそうなほどに、絶望や悲嘆や辛苦が多すぎた。
 そのせいだろう。
 世界が、疲れ切って眠っているかのように見えるのは。
 世界が、全身に負った傷を癒そうとしているかのように感じられるのは。
 世界が、ささくれ立った気持ちを整理したいと望んでいるかのように思えるのは。
 月が、傷ついた世界を慈しむように、たおやかな光を投げかけている。
 星たちが、疲弊した世界を慰めるように、絶えず瞬きを繰り返している。

 だが。
 この箱庭に人々を集めた王は、そのような平穏は与えない。
 憎しみに塗れた魔王が、そのような慈悲を容認するはずがない。
 まだ騒乱に参加すべき者がいるのだから。 
 
「――時間だ」

 大気が震え、無慈悲な声が響く。 
 
「もはや前口上などいるまい。しかと耳に焼き付けよ」

 粗野でもなく荒々しくもなく高圧的でもなく、乱暴さとはかけ離れた声音だ。
 それでも、その声は苛烈なほどの存在感と、竦み上がる様な威圧感に満ちていた。 
 
「まずは禁止エリアを発表する。
 1:00よりA-04、H-07、
 3:00よりC-08、E-10、 
 5:00よりE-04、I-03、
 以上だ」
 
 まるで声色そのものに力が宿っているようだった。
 それも月明かりを陰らせ星の瞬きを止めてしまいそうなほどの、人智を超えた力が、だ。
 そんな空恐ろしい声は、聴き手に現実を叩きつけるべく、続ける。
 
「では、死者の名を告げよう。
 リンディス
 シャドウ
 ブラッド・エヴァンス
 ロザリー
 トッシュ・ヴァイア・モンジ
 トカ
 ルカ・ブライト
 無法松
 ――以上、八名が朽ち果てた者たちだ」
 
 夜の暗さが一層深く濃密なったような錯覚に陥る。
 響き渡る声以外に、物音は聞こえない。
 その様はもはや穏やかさではなく、生命が滅び死に絶えたが故の静寂めいていた。
 だとしても、声の主は確信している。
 耳を傾けている者はいる、と。
 死体の山の上に佇み血液の河を掻き分ける者たちが確かに生きている、と。


251 :創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 22:28:34 ID:RKNIglCK
「たった八名だと落胆するだろうか?
 八名もの数がと戦慄くだろうか?
 どちらにせよ、早いものだ。
 僅か二十四時間で、実に六割強の命が死神に魅入られたのだからな。
 だが、手を下したのは死神などではないのは理解しているだろう。
 諸君らが敵だと断じた者が、諸君らが仲間だと信じた者たちが。
 そして――諸君らこそが。
 命を奪い尽くしたのだ。
 時に大義名分を振りかざし、時に信念を盾として、時に欲望に忠実に。
 他者を蹴落とし踏み躙ったのだ。
 果たして諸君らには、他者を斬り捨ててまで立っている価値があるのか?
 果たして諸君らには、否定しつくした末に生き延びるだけの意味があるのか?
 もしあると言うのならば――」
 
 問いかける。
 答えなど返ってはこないと分かっていながら、それでも、感情のままに声は告げる。
 
「――全てを奪い尽くした上で、私の元に来るがいいッ!」

 ◆◆
 
 本当に早いものだと、オディオは思う。
 豪奢というよりも禍々しい玉座に背を預け、目を閉じる。
 視界を閉ざし想起するのは、二十四時間前から始まった殺戮劇。
 自らが催した殺戮劇は、予想を上回る速度で進行している。
 それはまるで、人間の業の深さや愚かさを体現しているかのように感じられた。
 参加者の中には、人間ではない者も数名混じっている。
 彼らはどう思っているのだろう。 
 そして人間は、彼らをどう思っているのだろう。
 同種族ですら争う人間が、異種族と手を取り合えるとは思えない。
 その証拠と言うように。
 夢にメッセージを込めたエルフの身は、彼女自身が愛する者と信頼する者によって灼かれたのだ。
 
 しかし、その一方で。
 絆を築き希望を抱き、巨悪を打ち破った者もいる。
 人間でありながら――否、人間であるからこそ、人間を強く憎悪した狂皇子も。
 負の感情を糧とし世界を紅に染め上げた災厄も。
 たったひとりの人間が相手では、滅び去りはしなかった。
 それは、人間が持つ力を、否定しきれないケースに他ならなかった。 

「それでも……」

 オディオの奥歯が、強く噛み締められる。
 ルカ・ブライトやロードブレイザーの死滅に口惜しさを覚えているわけではない。
 強い絆と希望の力で貴種守護獣を呼び起こし、再生したアシュレー・ウィンチェスターに忌々しさを覚えているわけではない。
 
「それでも、人間は決して愚かさを捨てられんのだ……ッ!」

 呻くような呟きに混じる、羨望めいた感情を拾う者は、誰一人存在しなかった。
 芽吹いたモノを振り払うように、オディオは瞼を開く。

252 :創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 22:29:37 ID:RKNIglCK
 間もなく、この城に訪問者がやってくる。
 それが破壊と殺戮と蹂躙の果てに勝ち抜いた、たった一人の客人なのか。
 抗いの意志を絆で繋ぎ希望を抱いた、反逆者たちなのか。
 あるいは、皆が皆手を取り合えないまま、入り乱れて雪崩れ込んでくるか。
 何にせよ、そろそろ頃合いだ。
 万が一のため、駒の配置は完了している。
 用意した駒のうち、思い起こしてしまうのは四つの異形の女たちだった。

 一つは、四本の腕を持つ桃色の髪をした女。
 二本の腕の先端は人間のものと同じ。されど、残り二本の腕の先には無骨な岩石がぶら下がっている。
 岩石と人間の合成生物――クラウストロフォビア。

 一つは、漆黒の球体から上半身を生やした女。
 背から伸びる一対の翼で宙に浮くその姿は、あらゆる光を呑み込みそうなほどに気味が悪い。
 暗黒の分子で構成された生物――スコトフォビア。
 
 一つは、緑色の翼と尻尾を生やした女。
 上半身は人のものであるが、下半身は爬虫類めいた翼と尻尾で構成されている。
 器より出でし魔法生物――アクロフォビア。
 
 一つは、透き通る液体を纏った女。
 艶めかしい裸身に液体を絡ませるその姿は最も人間に近い。しかし、液体は絶えず女に絡みつき、同一の存在であると主張している。
 液体から作られた合成生物――フェミノフォビア。

 彼女らは、かつて。
 かつてオディオが、『オディオ』でなかった頃に、一人で戦った人形たち。
 彼女らを最初に想起してしまうのは、強い信頼を置いているからではない。
 むしろ、真逆だ。
 その悪趣味な人形に、オディオは強く激しい嫌悪感を抱いている。
 他の駒には、一切の興味も感慨も持ち合わせてはいないのに、だ。
 強烈な感情は、その正負に関わらず強く印象付ける。
 そういう意味で、四つの人形は特別だった。
 オディオ自身の手で破壊したはずの彼女らを。
 吐気を催すほどに忌み嫌う彼女らを蘇らせたのは、手駒としてはそれなりに使えると踏んだためだ。 
 人形は、裏切らない。
 そう、決して、裏切らない。
 だから、それ故に。
 オディオは想わずにはいられない。
 
 ――人間は、自らが作りだした人形よりも劣っている、と。
 
 そう想わずには、いられない――。



253 :創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 22:33:07 ID:RKNIglCK
代理投下終了。
すみません、こちらもタイトルを入れていませんでした。

「第四回放送」

だそうです。

254 :創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 22:41:39 ID:XQ8fREho
迅速な修正、そして代理投下の方、お疲れ様でした。
修正前も好きなくだりでしたが、ラストの独白は沁みるなあ……。
沈み込むような掘り下げが印象に残る、素敵な作品だと思います。
そして、久々に氏の作品が読めて嬉しかった! GJでした!

255 : ◆iDqvc5TpTI :2010/12/14(火) 04:30:00 ID:zse8/zcm
修正・加筆お疲れ様です。
既に言われていることですが、最後の独白部分のおかげで更に深みが増しました。
投下乙です。

また、WIKIに生存キャラの動向を書いていただいたしたらばの方、本当にありがとうございます。
読み手としても書き手としても、ありがたいです。

ところで本日は一つお願いがあり、名前を出させていただきました。
第四回放送が投下され、次いで皆様も楽しみにしていらっしゃる予約解禁の日時決定へと、話が移るものかと思います。
が、その前に私に続・放送、または放送・裏といった話を一つ、書かせていただけないでしょうか?
本来ならば、予約解禁後、正規の予約合戦で勝ち取るべき権利なのですが、無理を言って申し訳ありません。
ただ、プロットの都合上、オディオだけでなく、現在の生き残りから、かなり変則的なメンバーを予約する必要があるため、予約被りが多人数発生してしまいかねません。
内容としても、現在のロワの参加者たちの状況にはほぼ影響を与えず、書き手諸氏のプロットへの影響は殆どないものなのです。
であるなら、予約解禁よりも先に、書かせていただけないものかと、相談させていただきました。
無論、いきなり本投下ではなく、仮投下で成否はうかがわせていただきます。

なにぶん勝手なお願いと存じております。
なので遠慮せず、本音でお答えいただければ幸いです。
それでは残り短い今年と、来年も共に頑張っていきましょう。

256 :創る名無しに見る名無し:2010/12/14(火) 20:42:37 ID:WI9Sk6ZS
どうぞどうぞ
自分は一切構いませんとも

257 :創る名無しに見る名無し:2010/12/14(火) 21:00:49 ID:JBOQ+TD+
自分も構いません。むしろ、どんな話が出てくるか楽しみです。
放送は確かにひと区切りですが、予約解禁日もまだ決まっておりませんし。
ルールや書き手・読み手双方の気持ちを考慮した上で、丁寧に申し出て
くださったことにも感謝です。今後も楽しんで企画を進めていければと思います。

258 :創る名無しに見る名無し:2010/12/14(火) 21:28:23 ID:5pdAM9kH
俺はただの読者なんで、楽しみだからぜひ書いて欲しい

ただ、今まで思いついたアイデアをルールのために
泣く泣くお蔵入りさせた書き手さんもいるかもと思うと
他の書き手の人がどう思うかってのは聞いた方がいいかもと思う
今後の運営にも影響するかもしれん

259 : ◆MobiusZmZg :2010/12/14(火) 23:04:47 ID:JBOQ+TD+
書き手の意見……あまり量を執筆・投下しているわけではないですが、
一応こちら(>>257)もトリを出しておいたほうがいいのかな。
純粋に氏のSSが読みたい気持ちがありますし、今までの投下も派手な展開に
反して無茶ぶりはないので、リレー的な意味でも問題が起きることは考えにくいなと。
後半はちょっと上から目線入ってますが、こちらはそういう感じで氏の申し出を
肯定し、かつ、執筆される作品を楽しみにしている感じですー。

260 :創る名無しに見る名無し:2010/12/15(水) 16:32:50 ID:HvtmThoU
ちょ、したらば管理人さんw AAつきで主張すんなwww

261 :創る名無しに見る名無し:2010/12/15(水) 17:42:20 ID:UB0ueW/h
かわいいw

262 : ◆iDqvc5TpTI :2010/12/15(水) 21:40:06 ID:sZNpHCZR
書き手の皆様、読み手の皆様、管理人の方、ご承諾ありがとうございます。
ヌゥには不覚にも吹きましたw
それでは予約をさせていただきます。

263 : ◆iDqvc5TpTI :2010/12/23(木) 14:05:35 ID:aEFjNd6M
仮投下スレの方に投下させていただきました
指摘・判断お願いします

264 :創る名無しに見る名無し:2010/12/23(木) 19:02:15 ID:kgScf9we
◆iD氏、執筆お疲れ様でした。
これは……面白いなあ。オディオと参加者とのラインはか細いもの
でしたが、こうくるか。ロザリーの夢の活かし方が素敵です。
気絶していた面子も綺麗に勇者関係というか、オディオの屈折に対して
思うところありそうな人々が揃ってましたし……個人的には叙情的な文章で
読ませてくれたSS単体でも、後をつなぐことを考えても面白い作品だと感じました。
ですので、指摘すべきことはとくにありません。むしろ良い裏話GJでした!

265 :創る名無しに見る名無し:2010/12/24(金) 22:18:54 ID:/6o69+a4
投下お疲れさまでした!
魔王がものすごくオルステッドしていて、原作ラストバトルを思い出しました
ロワ開催の動機付けも説得力があると思います。

特殊な面子と事前に言われるだけあって、
メンバーも斬新でした。気絶組w
見所満載の話で、大満足です。

個人的には、そろそろユーリルに動きがほしいです。
ずっと同じことばかり言っているようで…
今回の話で勇者だった頃の気持ちも少し思い出したようで、
新しい答えを見つけて欲しいと思います。

266 : ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 15:52:15 ID:2kIjFhA2
こんにちは、みなさん
拙作をご判断してくださりありがとうございます
問題はないとのことなので、それでは本投下させていただきます

オディオが王女云々で詰まっているのはアリシアのことを思い出したためで、仕様です
ユーリルの今後は……見てのお楽しみということで!

267 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 15:56:31 ID:2kIjFhA2
上下の感覚すら掴めない空間を、アシュレーは漂っていた。
そこには何もなかった。
床もなければ壁もなく、空もなければ大地もない。
人造物も自然物も一切存在しない空間を満たすのは、ただ一つの色。
身体を失ったアシュレーが知覚できるただ一つのもの。
白。白い闇。
それを決して光と称さないのは、アシュレーが自分は死んだのだと思っているからだ。
アシュレーの脳裏を、彼が覚えている最後の光景が過る。
ぽっかりと穴の空いた心の臓。
ロードブレイザーと相討ち、地に伏せる自らの姿。
断言できる。自分は確かに死んだのだ。身体がないのもその証拠だろう。
なら、ここは所謂あの世なのかもしれない。

「……ごめん、マリナ。……ごめん、みんな」

アシュレーは戦い抜いた。
戦い、戦い、死に果てた。
その選択に悔いはない。
死をも覚悟して、アシュレーは命を賭けてきた。
自分の居場所に帰るために。帰りたい日常を護るために。その日常をなす大好きな人々と笑い合える世界を取り戻すために。
何度生まれ変わろうとも、何度あの時間をやり直そうとも、アシュレーは同じ道を選ぶと言い切れる。
ただ、それでも。
悔いはなくとも、嘆きはなくとも、寂しさはある。
もう二度と愛した人達に会えない。
もう二度とアシュレーの帰りを待っているであろう人に、ただいまを言ってあげれない。
そのことが堪らなく辛かった。
だから、アシュレーは歩くことにした。
かつて訪れたアナスタシアのいる世界のように、どこかに生者の世界と繋がっている所があるかもしれない。
生き返られるとまでは思っていないが、それでも言葉を届けることくらいはできるかもしれない。
いや、もしもそんな都合のいい場所がなかったとしても。

「マリナ」

その名を心に灯し続けよう。

「アーヴィング。アルテイシア」

もう二度と逢えなくとも。
もう二度と我が子を抱くことがなかろうとも。
アシュレーは、どんな時でも家族と共にあるのだから。

268 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 16:08:23 ID:2kIjFhA2

「…………大切な、誰か」

ふと、誰もいなかったはずの世界に、アシュレー以外の声が響く。
驚き目を凝らし、誰か居るのかと返すアシュレー。
すると、白一面の世界に墨の如く黒い点が滲み出た。
代わり映えのなかった世界に突如生じた異変。
元より、外の世界との接点を探していたアシュレーは、先の声のこともあり、黒点へと駆け寄っていく。
と、黒点との距離が縮まる度に、その正体が明らかになってきた。
それは黒ではなかった。
言うならばそれは緑か。
緑色の髪の少年だ。
点に見えたのは彼が蹲っていたから。
蹲り、一人泣き続けていたからだった。
アシュレーはそのことに気づくと走る速度を上げた。
そう、走る、だ。
少年へと駆け寄ろうとした時には、失ったはずの身体が生じていたのだ。
心なしか透けてはいるが、寸分違わずその身体はアシュレーのものだった。

(霊体だから融通が効くのかな?)

よくよく見れば少年の身体もまた透けていた。
空間より滲みでた点や、現状の自分を鑑みても、もしかすれば泣いている少年も既に死んでいるのかもしれない。
だったら慰めたところで何になる。
そんな考えはアシュレーの心の中には存在しない。
一人ぼっちが寂しいと、泣いている子どものように見えたから。
それだけでアシュレーが手を差し伸べるには十分だった。





当の少年――ユーリルは、誰かと会うことなんか望んではいなかった。
何故だか透明無形な存在になっていたはずが、声を出したら急に色形を得てしまったユーリルは、胡乱げに顔を上げる。
彼の目に映るのは、一人の見知らぬ男の姿。
この地にて一度も邂逅したことのない、どころか、仲間であったクロノ達から聞いた誰とも違う人物。
正しく、名も知らない、縁の全くない他人。
今、ユーリルが、最も目の当たりにしたくなかった存在。
かつて、ユーリルが、『勇者』が、救うべき存在として自らの命を賭けた存在。
『勇者』という幻想の存在意義――だったはずのもの。

(けれど、それは違うと、さっきの男は言った)

『誰の』英雄になりたかったのかと、ユーリルに問うた男がいた。
助けたい人以外は助けなくとも仕方がないと、男は言った。

(助けたい、誰か……)

269 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 16:14:27 ID:2kIjFhA2

そんなことを考え続けていたせいで、ユーリルは来訪者の声に反応してしまった。
マリナ。アーヴィング。アルテイシア。
それが今、ユーリルへと近づいてくる男にとっての戦う理由なのだろう。
男のことを何も知らないユーリルだが、それでも、彼が誰かの名前を呼んだ声に込めた想いは理解できた。
あれは家族を呼ぶ声だった。大切な誰かへと向ける声だった。
それも、もう会えない誰かへの。強い想いを込めた声だった。

(僕も、あんな声を出したことがある。あの日、村が襲われ、僕が『勇者』になったあの日に)

父の、母の、シンシアの名を泣き叫び、彼は勇者になることを誓ったのだ。

(そうさ、悩むまでもなく答えなんて出ていた。
 忘れるわけがない。ずっと、ずっと覚えてた。僕が助けたかったのは、僕が護りたかったのは)

今でこそ、ユーリルは在りし日々が偽りのものだったと悟っている。
家族だと信じていた人達も、好きだと思っていた幼なじみも。
誰も彼もがユーリルを勇者としてしか見ていなくて。
世界を救う見返りとして、形だけの愛情を注ぎこまれていたに過ぎなかった。

だがそれは、あくまでも半日程前に気付いたことだ。
あの日の、勇者になると決意したユーリルにとっては、あの村の人々こそが、本当に助けたかった誰かだったのだ。

(……ああ、あいつの言ったとおりだ。救いたい誰かがいてこそ『英雄』になれる。
 救いたかった誰かがいたからこそ、僕は『勇者』になった)

アナスタシアがそうであったように、ユーリルもまた特別でも何でもなかった。
勇者になる運命こそあれど、少なくとも、あの時まではユーリルはただの少年だったのだ。
世界のことなんて考えもしなかった。
ただ、大好きな人たちとずっと一緒にいたいと、それだけを考えていた。
だけど。
その願いは叶わなかった。
ユーリルは好きな人達と一緒に生きることも、一緒に死ぬことさえも許されなかった。
ただ一人、大好きなみんなの屍に護られて生き残ってしまった。
そして、そのことがユーリルに勇者になる決意をさせてしまった。
好きだった人達の犠牲を無駄なものにしたくはないと。
全てを犠牲に生かされてしまった自分は、彼らの望んだように人の為に生きなければならないと。
強迫観念に似た義務感に飲み込まれてしまった。

『皆を救って……。 あなたは……勇者なんだから……』

270 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 16:19:59 ID:2kIjFhA2

シンシアから零れ出た呪詛を思い返す。
何のことはない、そんなものはとっくの昔に、ユーリルの魂を侵していたのだ。
ユーリルはあの日、余すことなく聞いていたのだから。
魔物に殺されゆく両親が、村人が、シンシアが漏らす那由他もの悲鳴と怨嗟を。
いくら使命感で固めていようとも、彼らもまた当時のユーリル同様ただの人間だったのだ。
死を前にして、恐れや恨み言を残す者もいた。
いや、いなかったにしろ、隠れて震えているしかなかったユーリルには、
村人達の断末魔は彼らが死ぬ理由となった自分への憎悪としてしか聞こえなかった。
渇望し、それでも届かなかった生への憧憬と怨恨を。
一人だけ生き延びてしまったユーリルへとぶつけているようにしか聞こえなかったのだ。

(だけど、だけども。まだあの時の僕は『勇者』になりきれていなかった。だからこそ、そこに『僕』も存在していた)

ユーリルは勇者になるべく生を受けた。
ユーリルは完璧な勇者になった。
しかしながら、何度も述べたようにユーリルにも勇者でない時はあったのだ。
勇者になろうと思えば、誰にでも勇者になれるわけじゃない。
それはユーリルにも当てはまった。
あの日、あの時、あの瞬間。
勇者として旅立つ決意をした少年は、勇者になったばかりであり、勇者としては未熟極まりないものだった。
だからこそ。勇者として未熟だったからこそ。そこにはユーリルという一人の少年が残っていた。
故郷を失い、仲間もいない一人ぼっちの時間だったからこそ、彼を勇者として見る人々の声なき声も、意識しないで済んだのだ。
ならば。
その勇者の中に残されていたユーリルは、何を想い戦っていたのだろうか。
勇者という仮面を被りきれていなかった彼は、心の中で恐怖や悲しみに震え泣いているだけだったのだろうか。

違う、そうじゃない。

(僕は、僕は。確かに自分の意思で、どこかの誰かを助けたいと願っていた)

彼は泣きはすれども、震えるのではなく、その哀しみを闘志に変換して前へと進んだ。
自分が味わった別離の哀しみ。
それをもう他の誰にも味わって欲しくないと、あの日の少年は思ったのだ。
もう誰も殺させてなるものか。無理だ無謀だと言われようとも、世界中の人間ですら助けてみせると、そう誓ったのだ。
それは、自分の意思を殺してでも正しくなければならなかった勇者が抱いた、最後の最後の我侭だった。

(でも……)

今のユーリルには、かつての勇者ではないユーリル自身の誓いですら、他人のもののように思えてならなかった。

271 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 16:27:01 ID:2kIjFhA2
剣の聖女の声がリフレインする。
人々は何もしてくれなかったと。たった一人の『英雄』に全てを押し付けて生贄にしただけだと。

炎のサイキッカーの言葉が追随する。
助けたい人だけ助ければよかったのだと。そうすれば『生贄』なんかにはならなかったのだと。

その二つの言葉が、ユーリルに一つの疑問をもたらす。

「価値なんて、あったのか?」

果たして、価値なんてあったのだろうか。
彼が助けようとした人々は。
自身のように辛い思いをさせたくないと思った人々は。
せめて、大好きな人達の代わりにと贖罪のままに助けた人々は。

ユーリルが失った全てのものに釣り合うだけの、価値があったのだろうか。
助けたいと、思うに値する人達だったのだろうか。

「教えてくれ。教えてくれ、クロノ。君は、どうだったんだよ。誰の英雄だったんだよ。
 その誰かには、君が一度死んでまで護るだけの価値があったのかよ!?」

虚空へと叫ぶも答えは返ってこない。
返ってくいるはずがない。
ユーリルが護りたい誰かになれたはずの少年は既にこの世にいないのだから。
故に。

「価値など、ありはしない」

その声は。

「君が護りたかった人間にも。クロノが救った人間にも」

何かを言おうとした青髪の男よりも先に発されたその声は。

272 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 16:34:20 ID:2kIjFhA2
「教えてやろう、ユーリル」

友のものであるはずがなく。

「クロノが本来進むはずだったある一つの未来を」

クロノ自身さえ知りえぬあり得た未来を語ることのできる者は。

「彼は愛した女と結ばれ玉座につく。なにせ相手が一国の……っ王女だったからだ」

時空を支配する力を持つかの魔王以外にありはしない。

「だがその王国は僅か5年で滅ぶことになる」

ただ、ユーリルにはもはや、そんなことはどうでも良かった。

「彼が、クロノがラヴォスより救った人間どもの手でだッ!」

告げられた言葉の意味。
それを理解するや否や、彼の心は大きな衝撃に襲われ、それどころではなかったのだ。

「てめええ、オディオォォォォォっ!」

よって、魔王の名前を呼んだのはユーリルではなかった。
呆然としたままのユーリルを庇って入ったアシュレーのものでもなかった。
それは熱き心のサイキッカーの魂の雄叫びだった。
強く拳を握り締め、オディオへと強烈なパンチを見舞ったアキラのものだった。





「夢の世界までわざわざご苦労なこった」

アキラは他の人間達と違い、この世界がどういうものなのかを理解していた。
上下のない世界をふわふわと漂うその感覚を、アキラはよく知っていたからだ。
即ち、夢。
精神世界には近いけれども違うもの。
『誰か』の世界ではない、もっと広くて曖昧な世界。
個人の意識ではなく、雑多な人間の無意識からなる集合的無意識の世界。
だからこそ、この世界はミネアや、ユーリルの心に潜った時とは違い、個人が反映されてなく、あやふやなまでに真っ白なのだ。

273 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 16:42:32 ID:2kIjFhA2

「なに、君のように気絶している人物があまりにも多くてな。
 少々他の事情も重なって、今回に限り、夢の中でも放送をしてやろうと思ったまでだ」
「そうかよ。親切すぎて反吐が出るぜ」

アキラはオディオに刺さっていた拳を引きぬく。
刺さっていたとは比喩表現ではなく、そのままの意味だ。
所詮、ここは夢の世界。
アキラの身体も、オディオの身体も、虚像に過ぎないのだ。

「反吐がでるのは結構だが、精神世界でならともかく、ここは夢の世界だ。
 どれだけ殴られようとも、私の身も心も傷付きはしない」
「分かってるよ、んなことは。それでも俺は、てめえのことが気に食わねえ。その顔を見たらぶん殴りたくなるくれえになっ!」

アキラは強く拳を握り締め、追撃のパンチを放つ。
彼は心底腹がたっていた。
元よりオディオのことはボコボコに叩きのめすつもりでいた。
その相手が紛いなりにも顔見知りの人間を、絶望の淵に叩き込んだなら尚更だ。
アキラはユーリルへと目を向ける。
余程のことをオディオより告げられたのだろう。
ユーリルはアキラとアナスタシアを前にしても、虚空を見つめ、口を壊れた人形のように動かすだけだった。

「くそっ、くそっ、ちっきっっしょおおおおおお!」

アキラは怒りの炎を燃え上がらせ、際限なく拳を加速させるイメージを紡ぐ。
自分の声ををきっかけに自身を再認識し、偶発的に身体を得たアシュレーやユーリルとは違い、
アキラの身体は確固たる意思でイメージされたものだ。
色が透けていたりせず、外見上は、生身の身体に見劣りしない。
だが無駄だ。避ける素振りを見せないオディオだが、それもそのはずだ。
アキラが看破したように、ここはどこまでいっても夢の世界なのだ。
どれだけ拳を叩きつけようと、現実の肉体には響かない。
夢だろうが現実だろうが心を壊せる言葉に比べて、拳はあまりにも無力だった。

「気が済んだか?」

済むわけがない。
それでも、アキラはようやく拳を解いた。

「落ち着くんだ。今は、この少年を助けるほうが先だッ!」

冷静になれと、アキラを引き止める声があったからだ。
はっとしてアキラは声の主に顔を向ける。
ユーリルを背に庇いつつ、強い意思の篭った視線を向けてくる人物。
その容姿にアキラは心当たりがあった。

「あんた、まさかアシュレー・ウィンチェスターか?」

274 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 16:49:49 ID:2kIjFhA2
「!? どうして僕の名を? いや、そういう君は一体……」

ブラッドからテレポートジェムを貰い受ける前に交わした情報が、思いもかけずに役に立った。

「おっとわり。先に名乗るべきだったな。俺はアキラ。あんたのことはブラッドから聞いた。
 今はマリアベル……とも一緒にいるぜ」

一瞬、アナスタシアのことも告げようかと迷ったが、そこで妙案が思いつき、敢えて省略する。
事情が複雑な以上、たとえ夢の中であろうとも、オディオを前に悠長に会話してはいられない。

「ブラッドとマリアベルがッ!? なら君も」
「ああ、あんたの仲間だ。こいつを、オディオを倒そうとする仲間だ!」

アキラはそう口に出して宣言し、同時に心で語りかける。

『聞こえるか、アシュレー!』

口で話しているひまがないのなら、直接イメージを送ればいい。
ユーリルがオディオになんと言われたかまでは聞き取れはしなかったが、その前段階までの原因なら知っている。
自分が読んだユーリルの記憶や、知っている限りのユーリルとアナスタシアの今。
それをアキラはユーリルへとテレパシーで伝えようとする。
無論、都合よくサイキッカーではないであろう新たな仲間が、情報の洪水に流されないよう、少しずつ区切ってだ。
そこまで考えて、ふと、最悪の可能性に思い至る。

「オディオ、こんなことができるなんて、てめえもまさかサイキッカーなのか?」

それは魔王オディオもサイキッカーである可能性だ。
他人の夢を繋げ侵入する能力。
オディオが成したその力が、人の心に意識を通わせる自身の能力に似ていると思ったからだ。
冗談じゃない。
オディオに心をよまれてたまるか。
反抗が難しくなるとか、そんな理屈以前に、アキラの感情が、オディオに心を読まれることを嫌悪して。
アキラは問わずにはいられなかったのだ。





問わずにはいられない命題があるのは、オディオもまた同じだった。
本来であれば、彼が待つ城を訪れたものへと投げかけるはずだった問い。
しかし、殺し合いに招いた『勇者』が自らその疑問へと至った以上、予定を繰り越しても問題あるまい。
そう判断してオディオは口を開いた。

「……ちょうどいい。私からも君に問うとしよう。
 君は、一体何のために戦ってきたのだ……?」
「てめっ、質問に質問で返してるんじゃねえ!」
「安心しろ。これは君の先刻の問いの答えにも通ずる質問だ」

275 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 16:58:45 ID:2kIjFhA2

嘘は言っていない。
アキラが知りたいのはオディオがサイキッカーなのかどうか。
それはつまるところ、オディオがこうして夢に介入しているのは超能力によるものなのか否かということだ。
そしてそのアキラが知りたがっている手段というのは、この質問の答えと無関係ではない。

「くそっ、しのごの言ってんじゃねー!」
「答えられないようなことなのか? そんなはずはないだろう。
 君は世界を救った英雄だ。世界中の人々を護りたかったんじゃないのか?」
「違う。俺は自分の救いたかったものを救っただけだ」

同じことだ、同じことなのだ。
『誰か』を救おうとしたというのなら、お前も同じだ。
人間はいつか裏切る。人間は弱さを捨てられない。人間は他力本願に生きる。
そんな信用の出来ない他人を救う行為なぞ、『勇者』が世界を救わんとするのと同様、愚かしい行為でしかないのだ!
現に超能力者の少年が救いたいと言っている人物は、少年をずっと欺き続けてきたではないか。

「救いたかった? 理解できんな。無法松はお前の親の仇だろう? 
 しかもそのことを秘密にし、罪悪感から逃れたいが為だけに、お前や子ども達を利用していた」
「っ、それでも、あの背中は本物だ。俺達を護ってくれた松の生き様には嘘偽りなんてなかった」
「それもまた幻想だ。人は裏切る、裏切るのだ」

とりつく間もない突き放すアキラの即答を、オディオは静かなる怒りで両断する。

「君はさっき聞いたな。私はサイキッカーかと。答えは否だ。
 私は夢にメッセージを込めたエルフの女性の魔法に介入して、君達の夢を繋げ、言葉を届けているに過ぎない」

びくりと、ユーリルが痙攣を起こしたかのように一度大きく震える。
かのエルフはユーリルにとって、仲間のように比重の大きい存在でもなければ、アナスタシアやピサロのように憎むべき存在でもない。
先刻まであまりのショックに何の反応も示さなくなっていた少年を震えさせるには、本来なら役不足だ。
それでも彼が反応せざるを得なかったのは、オディオの声にクロノの国が滅ぼされたと話した時と、同じ感情が滲んでいたのを感じたからか。
その通りだ。これからオディオが告げるのは、少年を更に絶望に落としかねない事実なのだから。

「彼女は、ロザリーは死んだ。最愛の人の手にかかってだ……」

信じられないと、ユーリルが目を見開き、瞠目し、今度こそ動かなくなった。

「……っ!」

動きを止めてしまったのはアキラも同じだ。
あの時、イスラの意見を振り切ってでも、いなくなったロザリーを探しに行っていれば。
アキラは悔しさに一瞬、口をつぐんだ。


276 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 17:05:23 ID:2kIjFhA2
「これで分かっただろう。君達が守ろうとしているものに価値なんてない。
 ロザリーやクロノだけではない。
 この殺し合いへと招いた人間の中には、私が干渉するまでもなく、近い将来、人間に裏切られる者達が何人もいたのだ
 それでも君達は誰かを護るというのか?」

勇者と巫女が命懸けで封印した暗黒の支配者を復活させた科学の信徒が。
人間に絶望し、命の恩人であったオスティア王を殺してのけたベルンの王が。
自らを縛る呪いから解放されたいが為に、世界を巻き込み死のうとした真なる風の紋章の継承者が。
オディオの瞳の裏を掠めては消えていく。

「そうじゃないんだ、オディオッ! お前は間違っているッ!
 僕らは誰かに価値を求めて戦ってきたんじゃない……。
 護りたいと思う自分の意思に応えて戦ってきたんだッ!」

響き渡ったアシュレーの言葉に、今度はオディオの動きが止まる番だった。
一瞬で、オディオから表情が消え……きれていない。
僅かに苦虫を噛むような、或いはどこか懐かしいものを見た顔で、オディオは再び口を開く。

「そうだな。君ならばそう答えるだろうな。だがそれは君が勝者だからだ。
 君達二人は戦いに勝って、大切なものを手に入れた……。大切なものを護りきった。
 しかし私はこう思うのだ。それらも、しょせん一方的な欲望ではないのかと。
 自分にとって大切なもの、それを守るためならば 他者を傷つけていいのかと」

それは、意図して感情の起伏を抑えた声でありながら、ひどく心が漏れ出る声だった。
淡々と、とつとつと、オディオは言葉を並べていく。

「それが許されるならば、何故敗者は悪とされてしまうのだ。
 彼らもまた、自分の欲望のままに素直に行動しただけではないか。
 だというのに敗者には明日すらもない。歴史を作るのは勝者だからだ。勝った者こそが正義だからだ!」

つまるところそれは、オディオが開いた殺し合いと一緒だ。
勝者だけが全てを手に入れられる、それこそがこの世の真理なのだ。
アシュレー達はこの殺し合いを打破しようとしているが、それが何になる。
人は果てしなく欲望を抱く。
殺し合いの輪から抜けたとしても、人が人でいる限り、その先にあるのは新たな戦いでしかないのだ。
彼らが勝者なら尚更だ。勝者は生き続ける限り、数多の戦いを繰り広げ、勝ち抜いていく。
それは、勝者の勝利と同数の敗者を生み出すことに他ならない。
だからこそ。


277 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 17:13:57 ID:2kIjFhA2
「己の勝利に酔いしれ、敗者をかえりみないお前達は知らなければならなかったのだ。
 お前達もまた敗者足りえたのだと。お前達が否定した悪そのものだったのだとッ!!」

それが生前のロザリーが仲間と共に訝しみ、あと一歩のところまで迫っていた、この殺し合いにおける人選の謎の答えだった。
何故人間以外の種族が巻き込まれたのか? それは概ねロザリー達の推測通りだ。
足りなかったのは、どうして参加者たちは誰もが平穏とは程遠い戦いを経験していたのかという点だ。
戦力バランスを考えてなどというものではない。
オディオは殺戮劇の参加者を、何らかの戦いを勝ち抜いた者を中心に選んでいたのだ。
この世が勝者と敗者で二分されているというのなら、勝者同士を戦わせればいい。
そうすれば、数多の勝者も敗者となり、数多の正義も悪となる。
偽善は暴かれ、たった一人の、真の勝者だけが残る。
その真の勝者を、魔王オディオは心の底から祝福しよう。
たとえその者の願いが、全ての死者の蘇生であっても喜んで叶えよう。
何故なら、その真の勝者は嫌でも理解せざるをえないからだ。
自分の願いの為に、誰かを殺し、蹴落としたことを。
誰かを護るということも、結局は人を傷付けてでしか成し遂げられない罪に他ならないということを。

「お前にはピンと来ぬかもしれぬがな。
 アシュレー・ウィンチェスター。最たる勝者よ」

嫌味などではなく、羨望さえ感じる声でオディオはアシュレーを評する。
最たる勝者。
彼以上に殺し合いに招いた勝者の中で、この賞賛が似合う人間もいないだろう。
彼はオディオが唾棄した、何もしないで救いを求めるだけだった人々を、自らの意思で立ち上がらせた。
皆の心を一つにして、誰一人欠けさせることなく、未来を勝ち取った。
それは、きっと素晴らしい未来なのだろう。
あくまでも推測なのは、オディオにはファルガイアの未来を知る術はないからだ。
オディオは『憎しみ』という感情の化身である。
故にこそ、強き憎しみの力を持つ者がいれば、その存在を基点とし、時空の壁を越えて干渉できるのだ。
ただ、それは裏返せば、強き憎しみを抱く者がいない世界には干渉できないこととなる。
ファルガイアの未来はまさしくそれだった。
死に際のロードブレイザーを基点とし、オディオが干渉できたのはせいぜいその前後一年。
それ以降の未来、少なくともアシュレーの存命中には、オディオの媒介になる存在は現われはしなかった。

そして、その輝かしい未来を象徴するかのように。
アシュレーはこの殺し合いの最中でも、絆と希望を掲げ、数々の勝利をその手にした。

「フフフ……、ハハハハハ……、ハーッハッハッハッハア……!!
 そうだ、お前に私達、敗者のことが分かるはずもない。
 ロードブレイザーに再び勝ち、どころかルカ・ブライトまでも破ったお前には」

いつしかオディオはそれまでの静謐さをかなぐり捨て、大声をあげて笑っていた。
何もアシュレーを嘲笑ってのことではない。 
ただ『英雄』を否定した男が、誰よりも『英雄』と呼ぶに相応しいというその皮肉に、笑わざるを得なかったのだ。
かつてオディオが目指し、ユーリルも理想とした『勇者』。
その正解像とも言える人間を前に、泣くことも、怒ることもできないのなら、笑うしかないではないか。

(だが、だからこそ。私はお前を呼んだのだ。最たる勝者であるお前こそが、敗者を顧みねばならないのだ)

勝者に顧みさせようと招いた数人の敗者達は、既に多くは敗れはしたが、それでもまだ三人、残っている。
しかもそのうちの二人はオディオと同じく魔王の名を冠する者だ。
一人は先ほど口にしたピサロ。そしてもう一人こそ――。

「そうは思わないか、魔王ジャキよ」
「――貴様がその名前で私を呼ぶな。魔王たれと私に望んだのは貴様だろう」

人の名を捨て、されど魔の王としての名も持とうとはしない者。
一番呼んで欲しい人に名前を呼ばれない以上、そこに、文字の羅列としての価値しか見いだせない者。
魔王。
オディオの呼びかけに応える様に、魔王もまた夢の世界で虚像を纏った。

278 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 17:16:50 ID:2kIjFhA2



敗者だとか、勝者だとか、魔王にはどうとでもよかった。
彼は敗者だ。
一人ではジールにもラヴォスにも勝てず、クロノ達にも敗れた敗者だ。
彼は勝者だ。
宿敵とさえも手を組み、遂にはジールとも決着をつけ、ラヴォスをも倒した勝者だ。

(それがどうした)

魔王は負けた。負けて最愛の姉を奪われた。
魔王は勝った。勝ったところで姉は戻ってこなかった。
であるなら勝敗に意味なんてない。
一番大切なものを失ってしまったのなら、他の全てがどうなろうと意味はないのだ。
その全てには魔王自身も含まれている。
どう足掻いてもサラを取り戻せないというのなら、これからの魔王の生など無価値だ。
逆に言えば、どうにかしてサラを取り戻せるのであれば、魔王はその為に全てを賭けられる。
ならばここは境界線だ。
転がり込んできた最後のチャンス。
それが幻想か、そうでないのか、この機にオディオに確かめなければならない。

「私が聞きたいのはそんな御託ではない。確認させろ。お前は本当にどんな願いでも叶えられるのか?
 時空の彼方に消え去ったサラを、姉上を……。お前は見つけ出し、助けることができるのか?」

オディオに縋るしかない身とはいえ、魔王には彼の願望を成就させることがどれほど難しいか、身に染みて分かっていた。
助けるどころの話ではない。魔王は姉の居場所すら掴めていないのだ。
むしろそれこそが、魔王に立ち塞がっている最大の難関と言っていい。
時を超えることもできる。平行世界へも渡り歩ける。だがそれだけだ。
無限に広がる平行世界の、そのまた無限に綴られている時間軸。
サラが今も時の狭間を漂っているかもしれない以上、その全ての時空を探さねばならない。
それでは見つかるはずがない。
引いても引いても数が減らない無限の二乗個のくじの中から、たった一つの当たりくじを引き当てろと言うようなものだ。

「可能だ。いや、適任だと言っていい。私なら君の姉を救える」

そんな無理難題をふっかけて、すぐに解けると返されたのなら、人はどう思うだろうか。
喜ぶか。驚くか。違う。まずは疑うものだ。

「……根拠は」
「ある。彼女もまた、『オディオ』だからだ。私なら彼女が背負っているものを肩代わりすることができる」

加えて、その理由が要領を得ないものなら尚更に疑いが増す。

「彼女は今や生きとし生ける者全てを憎悪し、死を望んでいる」

オディオが語るサラが、魔王が知る心優しき姉とかけ離れていたのなら尚更だ。
崩れ行く海底神殿で彼女は魔王に言ったのだ。
彼女を生贄に捧げた母を、国を、恨まないで、と。
その彼女が憎んでいるという。人を、生命を、殺したいほどに憎んでいるという。
到底信じられるものではなかった。
だが魔王にはそれが妄言だと切り捨てることはできなかった。
どんなに優しい人でも、きっかけがあれば豹変してしまうと。
姉よりも先に、母の心をラヴォスに奪われた魔王は知っているからだ。
だから魔王にはオディオに続きを促すことしかできなかった。

279 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 17:22:28 ID:2kIjFhA2



「サラは、魔神のペンダントを手に、星を滅ぼす災厄、ラヴォスを止められうる希望の少年たちを逃がした」

それはどこかで聞いた物語だった。

「サラは、希望の少年達を逃がしたことと引換に、一人、時空を彷徨うこととなった」

それは生贄となった少女の物語だった。

「サラの心は、たった一人で悠久の時を過ごすことに耐え切れず、日に日に摩耗していった」

それは一人ぼっちになってしまった少女の物語だった。

「その果てに、サラは、自らの願いどおりに倒されたラヴォスの怨念に取り憑かれた」

それは『憎しみ』と出会ってしまった少女の物語だった。

「そして、サラは。全て消えてしまえばいいと願うようになった」

それは生贄の少女が、人殺しになる物語だった。

(ジャキくんのお姉さんは私とおんなじなんだ……)

アナスタシアは心の中で、オディオが語る物語にそんな感想を心の中で漏らした。
オディオの説明に納得したのか、魔王と呼ばれた男はこれ以上話すことはないと、虚像を解き、姿を消した。
あくまでもアナスタシアがずっとしていたように、居なくなったのではなく、見えなくなっただけなのだろうが。

(アシュレーくんは変わってないな)

姿を隠したまま、アナスタシアはアシュレーを見つめる。
アシュレーは殺し合いに呑まれることなく、オディオに真っ向から言い返していた。
アナスタシアとは違い、アシュレーは諦めることなく、この一日を戦って来たのだろう。
大好きな人達を守るために。最愛の人達のもとへと笑って帰るために。

(眩しいなあ……)

オディオが語った少女同様に磨耗しきったアナスタシアには、アシュレーはあまりにも眩しかった。

「さて、そろそろ魔法が解ける時間だ。放送を始めよう」

だからそのオディオの言語に、アナスタシアはほっとした。
よかったと、漸く終わるのだと。
姿を消したままであるとはいえ、自分が壊したユーリルと、自分がそうなりたかったアシュレーから、早く離れたかった。
夢の中にすら逃げられないなんて、文字通り、まさに悪夢だ。
オディオが死者の名前や禁止エリアを告げる声に合わせて、夢の世界の連結が解け、消滅していく。
アナスタシア達の意識が浮上し、いずれ目覚めることを意味していた。





彼ら彼女らが目を覚ました時、この夢のなかの出来事について何を想うのか。
今はまだ分からない。

280 :第六回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI :2010/12/25(土) 17:27:11 ID:2kIjFhA2
以上で投下を終了させていただきます。
遂に一日が経過。予約解禁がまた来るかと思うと感慨深いばかりです。では!

281 : ◆iDqvc5TpTI :2010/12/27(月) 12:30:26 ID:Dk7rJdKm
したらばで感想&指摘してくださった方、ありがとうございます
WIKI編集時に修正させていただきます

282 : ◆iDqvc5TpTI :2010/12/27(月) 14:53:43 ID:Dk7rJdKm
引き続き指摘感謝。自分でも気付いていたため、WIKI編集の方では訂正済みです

283 :創る名無しに見る名無し:2010/12/29(水) 03:57:18 ID:LbNyUuhE
さて、放送裏への感想も、仮投下時含めて一段落っぽいけど、予約解禁っていつにする?
書き手さんたちって、やっぱり正月忙しいかな。
それとも正月休み中に書きたいかな。

284 :創る名無しに見る名無し:2010/12/29(水) 18:45:34 ID:3hAoZ82S
すぐ解禁でもいいんじゃね?
今夜0時にでも。

285 :創る名無しに見る名無し:2010/12/29(水) 18:49:50 ID:t5fMuEhs
今日0時解禁は、ちょっと急ぎすぎじゃないかと思います。
帰省途中でなくとも仕事や用事が入ってる方は、意見を言うまでに置いてかれちゃうので。
投下乙で終わっちゃって話題振らなかったこちらも悪いのだけど、書きためならば
予約解禁されなくても出来ますし。返答にも時間があったほうがベターじゃないかと。

286 :創る名無しに見る名無し:2010/12/29(水) 19:22:27 ID:LbNyUuhE
うん、今夜解禁はやめてあげて
仕事から帰ってきて、ちょっと休んで、いざパソコン付けたらもう予約解禁されてたじゃたまったもんじゃないだろしさ

287 :創る名無しに見る名無し:2010/12/29(水) 23:45:44 ID:duvfmN7y
ごめん。ブタの真似するから許して。

288 :創る名無しに見る名無し:2010/12/30(木) 00:31:48 ID:ZbvX279W
ふはははは!
ブタは生きろ!

289 :創る名無しに見る名無し:2010/12/30(木) 02:52:31 ID:LIv5ewGp
んで、最初に戻るけど、要は正月終わるまで解禁待つか、またないか
どっちがいいんだろ?

290 :創る名無しに見る名無し:2010/12/30(木) 16:06:15 ID:gdtVG7b6
自分としては、どちらでも支障はないなあと。
正月以降になるなら、それに合わせてプロットとか固めるだけなので。
書き手に貴賎はないと思うんですが、個人的には今までメインで書いてきた方々の
積み重ねを尊重したい。なので、日取りは他書き手さんの都合に合わせますー。

291 :創る名無しに見る名無し:2010/12/30(木) 16:22:08 ID:ZbvX279W
一番時間が空くのは元旦からだなぁ
けど自分も他の人に合わせます

292 :創る名無しに見る名無し:2010/12/30(木) 21:40:33 ID:LIv5ewGp
俺も特にいつ開始でもいいんだけど
それこそ明日24時とか?

293 :創る名無しに見る名無し:2010/12/30(木) 22:00:27 ID:gdtVG7b6
んーと……解禁日を見逃すかもってのが最もまずい展開なんですよな。
元旦(2日の0時ですかね? 1日の0時だと初詣とかあるかもですし)に
一番時間が空くということなら、もうそれで決めてしまって。
「見落とした悲しい!」って展開を防ぐために、予約解禁の日時をWikiのトップに
明記しておけば大丈夫じゃないかなあと思いますよー。

294 :創る名無しに見る名無し:2010/12/31(金) 01:43:45 ID:X0BCl060
ぶっちゃけ、いつでもいいっすよ。明日でも明後日でも。
うちは予約解禁してしばらくしてからポツポツと予約が入るタイプだから、あんまり影響ない気もするし。

295 :創る名無しに見る名無し:2010/12/31(金) 01:49:09 ID:IgIEvlCm
WIKIトップか、いいな
んじゃ、全部の意見を総合して、2日の0時、ようは一月二日になった途端から予約開始でOK?
俺もこれで異存なしだし

296 :創る名無しに見る名無し:2010/12/31(金) 01:50:40 ID:ToRCRcr8
そういえば、前回の解禁時にも即予約はふたつ程度でしたっけね。
ちょっと気を回しすぎてたかもしれません。自分も、明日でも明後日でも構わないです。

297 :創る名無しに見る名無し:2010/12/31(金) 01:54:16 ID:ToRCRcr8
と、リロードしそびれてひどいすれ違いがw
申し訳ないです、解禁の時間も含めてそれで大丈夫かと。Wikiのトップについては、
2日0時に解禁の方向で編集しておきますー。

298 :創る名無しに見る名無し:2010/12/31(金) 02:10:55 ID:IgIEvlCm
ありがとうございます

299 :創る名無しに見る名無し:2011/01/02(日) 00:25:23 ID:wqpV5nri
予約来たな

300 :創る名無しに見る名無し:2011/01/06(木) 21:09:55 ID:C7VdipyU
新年最初の投下はID氏か

301 :創る名無しに見る名無し:2011/01/20(木) 13:49:12 ID:Hw/D0F7+
保守

302 :創る名無しに見る名無し:2011/01/23(日) 21:20:35 ID:V1jJWV/z
保守

303 :創る名無しに見る名無し:2011/01/30(日) 22:16:19 ID:6dSuOdky
一月中は忙しいのだろうか…

304 :創る名無しに見る名無し:2011/02/02(水) 11:38:17 ID:qqmSeV00
予約キター!

305 :創る名無しに見る名無し:2011/02/02(水) 18:45:39 ID:qUQURQZQ
よっしゃああ!

306 : ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 22:35:29 ID:xopPkxub
カエル、魔王、投下します。

307 :ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 22:41:04 ID:xopPkxub
 乾いている。

 かぎりなく単色に近い蒼。わざとくすませてある金の窓枠に断たれた、天穹が。
 白々しくも穏やかな白。曇り硝子にさえぎられて、あえかにほどける陽の光が。

 からりと冷たく、乾いている。

 目をそらせば上掛けの乱れた寝台、その、布のくずれて流れる音が耳朶を叩く。
 書物と小物が整頓されている棚、その、背表紙に刻まれた題名が視界を満たす。
 足首が埋まるほどやわらかい絨毯、そのくすぐったさを、くるぶしが感じとる。

 五感が拾い、再現した種々の要素に、連続性も規則性もなかった。
 からだに焼きつく記憶の受容を強いられ続けて、意識があてどなくさまよいはじめる。
 自身の思いが握りしめた欠片のきしむなか、自他の境界があやふやになり、認識は拡散していく。

 不確かで、心もとない、浮遊感の根にあるものは夢――。
 ひとつの単語を思い起こせば、心のすみに苦いものがさした。
 彼にとっての夢とは、見る者にとってどこまでも甘く、都合のいいものであったから。
 雲海の上にあって、夜も朝も訪れることのなく永遠の時をのぞむ、大地のかけら。
 彼の生地たる魔法王国が存在していた空中大陸こそ、まさに、人のうかべた夢のかけら。
 光の民を称する者たちが想いうかべた、うつつの夢の顕現であったからだ。

 それを分かっていても、夢を見ている彼のこころは多幸感に満たされていた。
 目覚めたそのとき、夢見る頃を過ぎて現実に立ち返ったとき。流すべき涙も、叫ぶべきことばも、
ここに。夢を見たことだけは忘れられない自分の奥底へ、澱のごとくに沈むと分かっていてもだ。
 あらかじめ喪われるもの、自分がどうしようもなくゆがめたものと向かいあう、その絶望。
 背筋にふるえを覚えてもなお、彼は、この部屋に。ありし日の居室におとなう者を待っていた。
 たとえひとときであっても、かけがえのないものに会えるよろこびにか。
 彼女はもう傍らにいないのだという現実を、ふたたび突きつけられる未来にか。
 鼻孔の奥が、あまく、痛みを含んでしびれていく。


「ねえ、あなたには今も聞こえるの? 黒き風の音が……」


 だのに。
 だのにどうして、お前なのだ。
 着衣に包まれている肩が、瞬間重みを増す。
 なにも口にすることがかなわない。言葉にいかな感情をのせたものか、判断がつかない。
 彼の目の前では、娘らしく切り揃えられた髪の、毛先が、顔を上げる動作にともなって揺れる。
 無骨なヘルメットの下、飾り気もない眼鏡の奥にある瞳が、冴えたきらめきを宿す。
 彼女の問いに応じることもかなわず、魔王は、水気をふくんだ呼吸を続けて立ち尽くした。

308 :ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 22:42:11 ID:xopPkxub
 鼻をすすりあげるような、無様としかいいようのない息が、容赦なく聴覚を満たしている。
 欠けていたなにかが、戻ってきたかのような思い。そのあたたかさを振り払うことが出来ない。
 目の前の少女が、大きな瞳に浮かべた色。それは、戦ったときに見せたそれとは違う。
 傷ついて、苦しんで、悲しんで、それでもなにかを。未来を受け入れる輝き。双眸にしずむ、青みが
かった緑がかたどるのは、地上をあまねく照らすがゆえに乾いた陽光とかけ離れて柔和なほほえみ。

 それを享受させられることこそ、彼の絶望だった。

 夢のなかでさえ、あたたかみを怖れにすり替えてしまうほどに、
 魔王と呼ばれる男には、いまだ心は幼きときに在りつづけるジャキにはそれが、許せない。
 血を分けた姉といないこの瞬間に、安寧を得てしまいかけた自分こそが許せなかった。

 ここにある魔王とて、時がかわれば人も変わることなど、知っている。
 自身にかしずき忠誠を誓った者は、光の民から三魔騎士に取って代わった。
 黒い夢に魅せられた母に感じた嫌悪と怖れ。魔王となってからは、あれらを受ける側にと変わっていた。
 ラヴォスを打倒せんとした自分は、長きにわたる闘いを終わらせるべく、他者と同道さえしたものだ。

 だから、すでに、分かっている。
『蛇に睨まれたカエル』が勇者サイラスの剣を受け継いだように、勇者はひとりではなかったように。
 心を満たせるものとて、ひとつでもひとりでもないことなど、分かっているのだ。

 ゆえに自他の弁別もつかない夢のなかで、魔王は手を伸ばそうとしていた。
 ルッカの微笑に応えるためではけしてなく、彼女らの影を、振りほどくために。
 自分は彼らに、救われてはいけないから。サラ。おなじ母の血を継ぎ、おなじ王家の魔力を受け継ぎ、
ともに母の変わるさまを観てきた者以外に、ジャキが救われるわけにはいかないから。
 彼女から得た安息だけは、他の誰かやなにかによって代替のきいていいものではないから。
 黒の夢を砕き、覚めぬ夢を否定した魔王の、それが、唯一信じている《夢》だから。

 だから夢のなかにおいて、彼は編めぬはずの魔力さえこの手に望む。
 いっさいの夢を焼き払う現実をこそ希求して、燃えるような真実を刻もうとあがく。

309 :ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 22:43:27 ID:xopPkxub



 にわかに《夢》が塗り替えられたのは、そのときだった。


.

310 :ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 22:44:38 ID:xopPkxub
 世界の塗り替えられた先に待ち受けていたものもまた、夢。
 だが、姉とともにあった頃を反芻してのちの、それは確かに覚醒であった。
 色もなくあやふやにひろがる場において、魔王は空にあるかのごとくに俯瞰を保っている。
 自身の視点で美化し、ゆがめてしまったゆえにこそいとおしい、サラとの別れ。あの夢が終わって
のちの数瞬のごとくに、ルッカとの『別れ』に寂寥を覚えなかったことを喜ぶいとまさえなく、

「彼女もまた、『オディオ』だからだ。
 私なら彼女が背負っているものを肩代わりすることができる」

 もうひとりの魔王の言葉が、文字のごとき鮮明さで突きつけられた。
 音を立てて血の気が引くような感覚を覚えると同時、踵が、認識の底に着地する。
 オディオの、「人は裏切る」とうそぶいていた魔王の立つ場所は遠い。彼は、どこか遠いものを見て
いるかような目をしてサラを。一国の王女というに至当なひとりの女性を、その腕に抱き寄せる。

「サラの心は、たった一人で悠久の時を過ごすことに耐え切れなかった」

 もの言わぬ姉の、結い上げた髪が、そのことばでほどけていった。
 胸当てに身を固めた《魔王》の背に、蒼い色が涙のように流れ落ちる。魔王オディオ。敗者となり、
憎しみに堕ちたものを抱きとめるように――いいや。彼に悲しみを、死へのねがいを流しこむかのように、
蔦のように広がったサラの髪は、金髪の青年をやんわりととらえていく。
 悪夢というのならば、これこそ、そうなのだろう。伝え聞いたことばから、自身への悪意でしか
つむがれていないと分かる光景を目の当たりにした魔王は、しかし、黙して息を呑む。
 夕焼けを間近にした陽にも似た、オディオの鎧。それにすがるような姉の表情にある、憂色のふかさに。
絶え間ない苦痛に灼かれているかのような口許に、気付いてしまったがために。

 どうして、サラは。姉は悠久の時に耐え切れなかったか。
 その理由に、思い当たってしまったがゆえに。

 きっと――彼女はずっと、覚えているのだ。
 生きるために、時さえ経てば薄れてしまう愛も、痛みも、彼女だけは覚えている。
 星に巣食うものたるラヴォスが、星に生きるものの命すべてを写し取っていたのと同じに。


「彼女もまた、『オディオ』だからだ」


 リフレインする言葉。
 魔王の無意識によって選ばれた一節が、彼自身の認識を殴りつけた。

311 :ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 22:45:24 ID:xopPkxub
『オディオ』だから。


 それはオディオの側も、サラと同じ……。
 正しくは、ラヴォスに取り憑かれてしまったサラと同質の存在であるということではないのか。
 オディオがラヴォスにも似て、古代より星に生じ、さまざまな時に現れるものであるのだとしたなら。
 それゆえにオディオが彼女に逢えると、彼女を救えると言い得たのだとすれば、さあ――どうなる。

 一連の空想は、オディオの言が正しいものと判断したうえでつむげるものであった。
 しかしてこれが真だとすれば、魔王には笑うことも、怒ることも、泣くことさえも出来ない。
 仮にそれを認めるとしたなら、先刻自分が感じたものと隣合わせの絶望が待っているのだから。
 それは、自分ではないなにものかの手によって、サラが救われてしまうことへの絶望。
 再会と救出を望んだサラへの思いや、己の決意すら裏切るほどに、それは、強く胸を衝いた。
 母親すら、ラヴォスの見せる夢によって奪われた永遠の夢の国で、ジャキがサラに少しでも与えていた
のかもしれない安息を、救いを――。彼でない誰かが与えてしまえる事実など、納得、できない。
 心という器を満たすものばかりではない。勇者も侍従も部下も兵士も、いくらでも代替がきいてしまう
現実を分かっていても、幼い頃に奪われた姉を心の拠り所にしてきた魔王であるからこそ、許容できない。
 この手にかけた母はともかく、姉弟だけは、替えのきくものと思いたくない。

 そうして今も、オディオのそばで水のように流れる、サラの髪。
 魔王がひととき見てしまった夢のなかで生まれた水は、ささらに流れて風を呼んだ。
 風の色は、なにを混ぜても、どう薄めても、どうしようもない黒。まぎれもない絶望をまとった風は、
ささやかなれど強い炎を、魔王のこころにおどらせる。
 それでも彼らは、この胸にともった炎を見ることはない。しょせんは夢の中。それも、夢の世界から
解き放たれてなお眠り続けた結果がこれなら、オディオにもサラにも、うずいた彼の傷は見えない。
 なればいっそ叫びたかった。現実に起こりうるかもしれない未来を再現した、この悪夢から脱するべく。
 あるいは叫んで、泣いて、姉を求めてしまえればいいのに、その声も伸ばした腕も、届かない。
 口を開いているのが夢の中の自分か、それともうつつの自分なのか、分からなくなる。

312 :ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 22:46:25 ID:xopPkxub


 ×◆×◇×◆×




 ――――さて、そろそろ魔法が解ける時間だ。




 ×◆×◇×◆×

.

313 :ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 22:47:07 ID:xopPkxub
 結局のところ、叫びをあげたのかどうか――。
 目覚めて最初に目にしたものは、玉座の背もたれであった。
 視界いっぱいに映る布地と、四肢の鈍痛が示すのは、つよく我が身を抱きかかえるような姿勢。
 明らかな無防備と、不要なまでの警戒心。そのあらわれを自覚して、魔王は少しく眉根を寄せる。

「……目が覚めたか。お前は一度目を覚まして、またすぐ寝ちまったのさ」

 眉間にきざまれた谷は、背後からの声を聞いてさらに深いものとなった。
 振り返れば瞬膜を閉じ、仏頂面をつくったカエルが、背負い袋からなにかを取り出してほうる。
 薄闇のなか、手にしたものが干した果物であると気付いて、魔王は黙ってそれをかじった。蓄積した
疲労ゆえに糖分を、運動と傷のために水分を欲する体をなだめつつ、ゆっくりとしがむ。
 この格好で酒場にいたというカエルならば、甘みを凝縮させた果実に温めたワインでも合わせること
だろうが、魔王の側は酒などやらない。ボトルの水で、歯に引っかかった繊維を押しながした。
 傷には影響しないとみたのか、果実の次にパンを取り出しても、元騎士は止めるそぶりもない。

「今の時間も聞かんのか?」
「奴等はここに来るだろう。それさえ分かれば十分だ」

 懐中時計に目もくれない魔王を前に、カエルはふたたび瞬膜をひくつかせた。
 自分が動じないことを、彼が疑問に思うのは当然であった。第三回の定時放送を尻目に始まった乱戦。
その後にもう一度放送が行われたというのなら、戦いのさなかに意識を失った者には時間の空白がある。
 優勝を目指す自分たちのことだ。この際死者は関係ないが、禁止エリアのような自身の生死に関わる
情報を、どうして聞こうとしないのか――。

「お前……寝ている間に、なにがあった……」

 なにより、このカエルも、古代王国のいち都市のことは知っているのだ。
 エンハーサ。眠りのよろこびのなかで真理を探す者たちが集った夢見る町。夢の中にこそ真実がある
との寝言も、ラヴォスを呼び覚まさんとしていた『黒の夢』を見た後ならば一笑には付せまい。

「あの魔王が、塩を贈った。傷口に擦り込んだと言うべきかもしれんが」
「もっと、はっきり話してくれ」
「人は裏切る」
「なに?」

 怪訝そうに語尾を上げたカエルにどこまで話すべきかなど、改めて考える必要すらなかった。
 あの勇者、ユーリル。オディオに反旗を翻す者たるアキラ。最たる勝者とされたアシュレー。
 気を失っていた者たちの夢の中で、オディオが放送を行ったこと。その前に、ガルディアが近い未来に
人の手で滅びることや、時空を彷徨うサラはラヴォスに憑かれたなどと語ったこと――。

「待て! ……いや、俺が言ったことだが……それを素直に話して、お前は!?」
「気絶した者のなかには魔王も、勇者と呼ばれた者もいた。勝者も敗者もいた。加えて、現状はオディオ
に敵対し、状況を打開しようと目論む者こそあれ、奴と面識がある者の有無もハッキリとしない」
「ならば――これが伝わることを前提に、姿を現したか……」

 間をつなぐようにつむがれたケアルガ。
 水の魔法がもつやわらかな光が、玉座に座した魔王を照らす。
 カエルの危惧ももっともだが、あの場所で得たものを話すことこそがオディオの望み。そのはずだ。
 ユーリルと呼ばれた、あの《勇者》。グランドリオンを継いだ者が、そのありようを前に怒りを
示した少年に向けて、なぜ、オディオはガルディアの滅ぶさまを口にしたのか。
 たしかに、彼はクロノと面識があるらしかったが、それだけでは不足だ。数多の敵を破ったという
最たる勝者……アシュレーとやらに自分を対比させ、共感の念さえ表していた《魔王》。
 彼が、この自分と同道する者のありようを把握していないということはまずもって――ない。

314 :ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 22:48:03 ID:xopPkxub
「そうであっても、俺のやるべきことは変わらんさ」
「ふん……」

 オディオの望みと、夢をうけた魔王の望みが、どこかで合致しようこともだ。

「だが、お前の護りたいものとやらは、本当にガルディア王国か」
「――聞こえていたのか」
「元騎士なら知っているだろう。数分もあれば気絶からは立ち直れる。……あの一撃は効いたがな」

 魔王が問いかけたいのは、カエルが離脱の際に放った言葉――。
 気絶から醒めてなお激痛と疲労の支配する意識に響いた台詞に関することであった。

「私に同盟を持ちかけたあの時、相手はルッカだった。ならば、ああ言ったことも理解は出来る。
 だが、あんな言葉を放つ時点で、ガルディアは血に濡れた国との謗りをまぬがれまい」

 誰よりも、そんな思いを言葉にしたカエル自身が、ガルディアを汚すことは望まぬはずなのだ。
 カエルの――グレンの友であった騎士、サイラスを相手にした魔王は、それを知っている。
 デナドロ山にてあの勇者が最期を迎えたとき、彼は友である青年に、言葉を残していたのだから。
 リーネ王妃。ガルディア王国ではない、君主たる王を支える女性のことをこそ頼むと。
 たしかに、このまま最後のひとりになれば、王国は問題なく守れるだろう。クロノとマールが結ばれて
から五年で滅びるとの話を聞いても、滅びの未来を迎えれば、あの国はどのみち無くなっているのだ。
 中世の、ひいては現代のガルディアだけを護ろうとする彼の行いを、魔王には否定出来ない。
 彼にとって、永遠に続く王国とは唾棄すべきもの、まさに黒い夢としてあるのだ。組めると踏んだカエル
は、そんな『おとぎ話』を描いて恥じる要もない子どもでも、現実の見えぬ愚か者でもありはしない。
 それ以前に、この男は、「国のため」などという言い訳の出来るような者でもなかった。

「では……ストレイボウとやらを、試したか?」
「俺が、そんなことの出来る立場にある者か?」

 真正面からの問いに、カエルは吐き捨てるような口調で応じた。
 反語のかたちをなした言葉が、部屋のそこここに溜まった闇に反響していく。それを気にしたふうも
なく、元人間はよく伸びる舌でパンと干し肉をさらっていった。
 大きな口で食事を呑み込んでしばらく、彼は『こればかりは不満だ』とばかりに鼻から息をつく。

「だが、間違いではない。
 あいつは、俺をひと目で騎士と見抜いたんだ……おそらく友もそうだったんだろう。
 ならば国を守ることと、人を護ることの違いくらいは分かるはずだ」
「それでお前が死ねば、ガルディアは汚名の塗られ損だが」
「俺は、もう騎士ではない。それに、」
「それに……?」

 カエルの――外道とも悪鬼とも、《魔王》ともなると誓った騎士の削ぎ落とされたような横顔に、
同属嫌悪にも似たものを感じながらも、彼は続きをうながさずにいられなかった。
 すでに喪われたものを追い求める、自身の半身ともいうべき存在に。

「それに……なにかを懸けて、みたかったのさ」

 オディオの言葉を、愁嘆場じみた悪夢を受けて以降、この胸を衝く思いの正体を確かめるために。

315 :ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 22:48:57 ID:xopPkxub

 ……それは、王国を守るという願いを捨てることではない。
 決死を覚悟してなお死なぬことにつながるのだと、カエルは続けた。
 ブラッド・エヴァンス。魔王にとっては、この地において初めて出会った参加者が、マリアベルという
娘に繋いだもの。今も魔王に刻まれている傷は、あのふたりが文字どおりの『決死』――実際のところは
八方破れと変わらない、十割の死に懸けた諦観に支配されていれば生まれなかったものであると。
 マリアベルに力を使えと言ったあのときのブラッドは、死を九割九分まで覚悟して、かつ、一分の生を
残る仲間に懸けていたのだと。

 あす世界が燃えつきるのだとしても、構うものか。
 今日、この瞬間にひとかけらでも自身に残る血肉の欠片もあるとするなら――。
 血と肉でつむがれ、『生きる』ために生を享けた命は、自身に残るものを賭けずにいられない。

「エイラは言っていたよ。死んでいないことと生きていることとは違うと、な。
 先の戦いの、敗因どおり……ひとりで死ぬことも、生きることも、死んでいないことと同義だ」

 しずかな震えが、止まらなかった。
 これほどまでに、カエルの底を見せられたことはない。
 覚悟ではなく、『生きる』意志を前にして、茶化すことなど出来ない。
 茶化そうにも魔王自身が、ガルディア王国とストレイボウと、ふたつの願いに対して欲を張るカエルに
共感してしまっているのだ。降りてきた沈黙にため息をつかれても、皮肉のひとつも返せはしない。

「ともかく、奴らは必ずここに来る。その前に少しでも休んでおけ」

 紅い魔剣の力で治癒の力を得ているというカエルの、不器用にすぎる話題の転換にに折れてやりながら、
魔王は、悪夢から目覚めたときとはまったくと違う心持ちで玉座に横たわった。
 夢。朝も夜も来ない異常な場所にあってさえ、見ている間は幸せだと思っていられるもの。
 オディオ。ラヴォスに近いものの力に拠っても、サラの手だけは自分が取る。あるいは、オディオの力
を借りずとも、自分こそが彼女のもとにたどりつく――。
 ルッカの仮説を切り捨てた際に、限りなく低い可能性だとは自分が口にしたことではある。
 しかし、そんな夢に懸けても良いのではないかと、やわらかな布地を背に天を仰ぐことが出来ている。

 礫の大地に切り取られ、空気のよどみで千々に裂かれた、空のかけらは目に見えなかった。
 いまは遠い雨はおろか、月光のひと筋さえ、瞑目した魔王の頬には落ちることがない。

「いかにことが運ぼうとも、俺にはもう、いかな朝も来ることもあるまい。
 栄光を得るだろうガルディアに、ひととき夜が来ることもなくなるのと同じに、な」

 癒しの光を切り裂いた騎士の――もうひとりの《魔王》の声。
 もとより返事など望まぬ独白もまた、夜も朝も変わらぬ、地下に沈んだ。

316 :ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg :2011/02/02(水) 23:00:31 ID:xopPkxub
【F-7 遺跡ダンジョン地下五十階 一日目 深夜】
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:睡眠、ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノ・トリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[参戦時期]:クリア後
[備考]
※ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(やや大)、疲労(大)、自動微回復中
[装備]:紅の暴君@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う
1:出来る限り殺す
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)
[備考]
※キルスレスの能力を限定的ながら使用可能となりました。
 開放されたのは剣の攻撃力と、真紅の鼓動、暴走召喚のみです。
 遺跡ダンジョン最下層からある程度離れると限定覚醒は解けてしまいます。


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すみません、さるさん規制を食らっておりました。
以上で投下を終了します。ご意見ご感想など、ありましたらお寄せください。

そして誤字訂正。
>>315のラストの台詞は、「いかな朝も来ること“も”」→「いかな朝も来ること“は”」となります。

317 :創る名無しに見る名無し:2011/02/03(木) 03:28:45 ID:ZO4B1mtE
投下乙!
確かに魔王はそれじゃあ納得しないよなぁ。
原作でもあそこまでやったんだから、そんな終わり方じゃやりきれん。
それとは逆にカエルの方はブレないね。いい対比だわ。
ストレイボウ関係でまだまだ心残りはありそうだが……。
こいつらマーダーだけど、ほんと死んで欲しくないわー。GJ!!!

318 :創る名無しに見る名無し:2011/02/03(木) 10:29:34 ID:NhR/NqdZ
自分の手で助けたい、か
そりゃそうだわな
なんだかんだでルッカのことを夢に見たり、カエルの意に共感したりする魔王いいな
そしてカエルもかっこいい
何かを懸けてみたくのくだりとか、脳内再生余裕だった
よく良く考えてみればこの二人が戦闘抜きで会話するの今回はじめてかな
やっぱりおいしい関係だよな、投下乙〜

319 :創る名無しに見る名無し:2011/02/05(土) 14:33:12 ID:lGNAmqA5
投下乙です
二人ともいいわぁ…
でもマーダーなんだよな。しかも戻るわけにはいかない。少なくとも戻れないと思い込んでる


320 :創る名無しに見る名無し:2011/02/08(火) 05:42:50 ID:SBm+c7F+
おおう、予約が来てらっしゃる……wktk!

321 :創る名無しに見る名無し:2011/02/11(金) 15:16:44 ID:FrfFend+
予約の数も一時期に比べて増えてきた気がするな。実にいいことだ
ということでそろそろ第三回放送までの作品投票しないか?
予約した作品が投下されるまでのいい暇潰しになると思うんだが

322 :創る名無しに見る名無し:2011/02/12(土) 10:22:45 ID:O/0+Rqx+
とか言ってたら更に予約が! 

投票は異議なしだが、誰かテンプレ作りたい人いる?

323 :創る名無しに見る名無し:2011/02/12(土) 15:12:32 ID:Tj4GnWae
おお、複数の予約が入るなんて久しぶりなような気がする……


投票は賛成だが、いい意味であんなトチ狂ったテンプレは作れる気がしないw
投票例のテンプレ考えるのがめんどいなら、投票期間と投票対象の作品明記しただけのテンプレでもいいと思う


324 : ◆6XQgLQ9rNg :2011/02/13(日) 10:42:31 ID:hRLmUSsD
投票、やるならば楽しみにしていますー。
ちょっと忙しくてテンプレとか用意できそうにないけれど、始まったら参加はするぜ。

さて、マリアベル・ストレイボウ投下します。

325 :夜の温もり −タエラレヌヤサシサ− ◆6XQgLQ9rNg :2011/02/13(日) 10:44:48 ID:hRLmUSsD
 湿っていた。
 星の広がる漆黒の夜天が、深緑に染まる草木の群れが。そして、戦の傷跡を生々しく残す、焼け焦げた地表が。
 その全てが雨を吸着して、湿り気のある匂いを漂わせ大気を冷やしている。
 緩んだ土壌を照らすのは、青白くたおやかな月光だ。
 冷たさとたおやかさを併せ持つ光の下、佇む影は二つある。

「……ロザリーまでも、か」
 ぽつりと、声が落ちる。
 俯き加減で歯を食いしばり呟いたのは、夜の支配者でたるノーブルレッドの末裔――マリアベル・アーミティッジだった。
 その呟きが終わらないうちにもう一つの影が、手近にある樹木に拳を叩きつける。
「畜生ッ!」
 幹に触れた拳が、震えている。
 何の変哲もないたった一人の魔法使い――ストレイボウもまた、歯を食いしばっている。
 マリアベルよりも強く顎を噛み締めるその様は、自ら奥歯を砕こうとするかのようだった。
「彼女は、死んでいいような存在じゃない……ッ!」
 ロザリーとストレイボウは、僅かの間言葉を交わしただけだった。
 あれは、カエルと道を違えてしまった直後のことだ。
 撤退したカエルを追うストレイボウを、ロザリーは見送ってくれた。
 会話は短く、共に過ごした時間は刹那と呼べるほどに短い。
 それでも、ロザリーの言の葉は、ストレイボウの耳に刻み込まれている。
 忘れられるはずがない。
 諦めずに言葉を重ねることの尊さを芽吹かせ、変わる決意を促してくれたのは、他でもないロザリーなのだ。
 優しく気高く心根の強い女性だった。
 彼女は、もっと生きるべきだった。
 彼女の高潔な精神は、喪われてはならないものだった。
 
「彼女が――いや、彼女たちが、死んでいいはずがない……ッ!」
 そう、ロザリーだけではない。
 ブラッド・エヴァンスにしてもそうだ。
 勇敢で頼もしい大きな背中は、ストレイボウの瞳に焼きついている。
 あの男は、出会って間もないストレイボウを守り抜いてくれた。
 あまつさえ、カエルに言葉を届けようとする協力さえしてくれた。
 忘れられるはずがない。
 命が尽きるその瞬間まで、意志を貫き通し戦い抜いた雄々しさは、ストレイボウの心を強く揺さぶったのだ。
 冷静でありながら、熱い精神を抱いた男だった。  
 彼は、もっと生きるべきだった。
 彼の偉大な勇気は、消し去られてはならないものだった。
 
 激情が、ストレイボウの疲れ切った心を食い荒らしていく。
 疲弊した心は自己嫌悪を孕んだままで、堂々巡りのように、同じ結論へたどり着く。
 それは即ち、罪の意識。罰されたいと願う心。

 ――俺なんかより生きるべき人がたくさんいるのに、どうして俺が生きている?
 ――既に一度死んだ、俺のような罪人が、どうしてのうのうと息をしている?
 
 ちっぽけで下らない嫉妬と羨望に突き動かされて、友の――オルステッドの道を狂わせた。
 それがルクレチアを滅ぼすきっかけとなり、この殺戮劇の開幕へと繋がったに決まっている。
 多くの命が喪われた。
 数え切れない悲しみが生まれてしまった。
 その全ての引き金を引いてしまったのは、まごうことなき俺だ。
 だから。
 
 ――死ぬべきは他でもない、俺のはずだ。

326 :夜の温もり −タエラレヌヤサシサ− ◆6XQgLQ9rNg :2011/02/13(日) 10:47:01 ID:hRLmUSsD
「そうじゃな、ストレイボウ」

 響くマリアベルの声に、ストレイボウは息を呑んだ。
 よく冷え湿った夜気が、舌を撫で喉を潜り肺腑に満ちる。
 顔を、上げて。
 ストレイボウは、目を見開いた。 
 
 細い月の光を浴びて。
 整った眉尻を下げて。
 紅の瞳に隠しきれない憂いを湛えて。
 
 マリアベルは小さな笑みを浮かべていた。
 哀しげで寂しげな表情をして、それでも。
 マリアベルは確かに微笑んでいた。
 その姿が儚げに感じられたのは、月光のせいで肌が余計に白く見えたからかもしれなかった。

「二人とも、このようなところが死に場所ではなかったじゃろう」
 続く言葉で、気付く。
 内心を読まれたわけではなく、先の言葉への返答だったのだと。
 ストレイボウは頷き、そして疑問を抱く。
 ロザリーもブラッドもマリアベルの仲間のはずだ。
 二人と過ごした時や抱いた思い出は、ストレイボウよりもマリアベルの方が長く多い。
 それなのに。

「どうして、笑っていられるんだ……?」
 僅かに道が交差しただけのストレイボウが、これほどまでに悔やんでいるというのに。
 マリアベルの様子から、抱いた悲しみは痛いほどに伝わってくるのに。
 ストレイボウの自己嫌悪を差し引いたとしても、笑っていられる理由が分からなかった。
 
「わらわはノーブルレッド。夜の王にしてファルガイアの真の支配者。悠久の時を生きる者。故に……」
 息継ぎの音が、声の合間に挟まる。
 それをごまかすように、マリアベルは目を細め唇で弧を描く。
「故に……故に、皆が先に逝くのは摂理であり、残される覚悟はできておる」
 紅色の瞳が、月光を照り返す。
 その意味を悟らせないかのように、マリアベルはくるりと背を向けた。 
「それに」
 追及を避けるかのように続けられる声は、少しだけ震えているように聞こえた。
 だが、ストレイボウは黙して耳を傾ける。

「二人とも、わらわの友なのじゃ。大切で誇れる、わらわの大切な友なのじゃ。
 ロザリーが残してくれたものがある。ブラッドが託してくれたものがある。
 喪失の悲しみも、孤独の寂しさも、それがあるから乗り越えられる。
 わらわはそれを、何よりも貴く思う」
 
 静かな夜は、マリアベルの語りを遮らない。
 まるで、夜の全てが、彼女の言の葉を聞き届けているようだった。
 幼い外見に似合わない大人びた口調が、ストレイボウの胸にしみわたる。
 マリアベルが、振り返る。
 その様に哀しみは見て取れても、痛々しさは微塵もない。 

「だから微笑うのじゃ。
 貴いものをくれた感謝の意を伝えるために。
 彼らと出逢えてよかったと、心からの想いを伝えるために」


327 :夜の温もり −タエラレヌヤサシサ− ◆6XQgLQ9rNg :2011/02/13(日) 10:49:01 ID:hRLmUSsD
 マリアベルの視線が、ストレイボウの後ろへ向く。
 そこに突き立つのは、巨大なARM――元艦載式磁力線砲、リニアレールキャノン。
 ブラッドの支給品を回収した後、戦闘を終えたマリアベルとストレイボウが、
 疲れた体に鞭打って大地に突き立てたそれは、死したブラッドの墓標だった。

「強いんだな……」
「その強さも、わらわ一人では持ち得なかったものじゃ」
「そう感じ取れるのは、お前に持ち前の強さがあったからだと俺は思う」
 どれほどよい友に、仲間に恵まれても。
 心が弱ければ、羨みや僻みや妬みが生まれ、友を憎むことになってしまうのだ。
 かつての自分に、マリアベルのような強さがあったのなら。
 いつもすぐ側にいた友の強さを認め、敬い、ひたむきに向き合っていられたら。
 このように苦しむこともなく、ストレイボウもオルステッドも、明るい世界を笑って歩いて行けたに違いない。
 そんな世界ならルクレチアが滅亡することもなく、こんな殺戮劇が催されることはなかったはずだ。
 魔王も、生まれはしなかった。
 全て、何もかもが遅かった。
 散々回り道をして、数え切れない悲劇を生み、抱えきれないほどの罪悪を重ねてしまった。
 どうすればいい?
 どうすれば罪を滅ぼせる?
 どうすれば、どうすれば、どうすれば。
 
 ――どうすれば、だと? そんなこと分かっているだろう?

 自問に応じる声が、深く暗い心の奥底から浮かび上がってくる。
 せせら笑い嘲笑い嘲弄するような声には、聞き覚えがあるものだ。
 
 ――もう遅い。取り返しなどつきはしない。
 
 声は二つあった。
 二つの声は完全に重なり、ストレイボウの心を侵食し呑み込んでいく。
 
 ――罪滅ぼしだと? 笑わせる。犯した罪がどれほどか分からぬのか?
 ――今更貴様がどうしようとどうなろうとも、起きてしまった事象は変わらぬのだ。
 ――そんなことも分からぬとは。貴様は本当に愚かだな。救えぬ。

 二つの声は別人のものだった。
 にもかかわらず、よく似ていると思えてしまうのは、両の声が同じ苗床を根ざしているからだ。
 ストレイボウには分かる。
 分かってしまう。
 何故ならば。
 片方の声は、かつて『勇者』と呼ばれ輝かしい栄光を手にした友のものであり。
 もう片方の声は、友を妬み憎み陥れた、かつての自分のものに他ならなかったからだ。
 反論などできるはずもない。
 反証するだけの自信も論拠も信念も、ストレイボウにありはしなかった。
 だからできるのは、耳を塞ぎ目を逸らし背を向けることだけ。
 そんなストレイボウを責め立てるように。
 三つ目の声が、響く。


328 :夜の温もり −タエラレヌヤサシサ− ◆6XQgLQ9rNg :2011/02/13(日) 10:52:19 ID:hRLmUSsD
 ――お前は、そうやって逃げるのか?
 
「――ッ!!」

 悲鳴が喉に詰まる。
 
 新たな声は、ストレイボウをせせら笑うでも嘲笑うでも嘲弄するわけでもなく。
 ただただ、失望に満ちた嘆息だけを携えているようだった。
 その声の、主は。

 新たな友であり、救い止めたいと望んでいる、異形の騎士のものだった。

「俺は……俺は……ッ」
「どうしたストレイボウ! しっかりせいッ!」
 戦慄くストレイボウの耳に、勢いよく飛び込んでくる別の声があった。
 それは心の奥底から這い寄ってきたものではなく、夜の世界を渡ってやって来た、心配げな声だった。
「マリア、ベル……」
 その名を呼ぶと、マリアベルは安堵したように溜息を吐く。
「まったく、突然ボーっとしたと思えば青ざめおって。疲れておるようじゃな。ジョウイらの元へ行く前に、少し休むか」
「いや――いい。大丈夫だ」
「そうは見えん」
「本当に大丈夫なんだ。急ごう」
「ダメじゃ。途中で倒れられてはわらわも困る」
 頑なに休養を主張するマリアベルに、ストレイボウは首を横に振るだけだった。
 休むのが、怖かった。
 眠るために瞳を閉じるのが、怖かった。
「禁止エリアのこともあるし、急いだ方がいいだろう。それよりも、聴かせてくれないか?」
「聴かせる?」
 首を傾げるマリアベルに、ストレイボウはなんとか笑みを作って答える。
「ロザリーとブラッドの話だ。お前の友の話を、俺に教えてほしい」
 救いを求めるかのようなストレイボウに、マリアベルは小さく溜息を吐いて頷いた。

 ◆◆
 
 本当は、スリープでも使って無理にでもストレイボウを休ませてやりたかった。
 だがそうしなかったのは、今はストレイボウの言う通りにさせてやる方がいいような気がしたからだ。
 ストレイボウは疲弊しきっている。
 カエルのことやブラッドのことで、強く自分を責めているように感じられた。
 なんとか、彼が背負う重荷を軽くしてやりたかった。
 だからマリアベルは、ジョウイたちと合流すべく歩く道すがら語る。
 ブラッド・エヴァンスが、ストレイボウのせいで命を落としたと恨み言を漏らす人物ではないと伝えるように。
「『英雄』、か……」
 その最中に零れた呟きを、マリアベルは聞き逃さない。
 細面を窺うと、ストレイボウは何かを考えるように俯いていた。
「ブラッド・エヴァンスは紛れもなく『英雄』じゃった。じゃがの」
 ストレイボウを覗き込み、まるで教師のような仕草で告げる。
「祭り上げられたが故に、ブラッドは『英雄』となったのではないぞ」
 マリアベルが人差し指を鼻先に突きつけてやると、ストレイボウは首を縦に振る。
「ああ、分かるよ。
 ブラッドの意志が、行動が、まさしく『英雄』と呼ぶに相応しいものだったからこそ、彼は『英雄』だったんだ」
「うむ。その通りじゃ。
 ブラッドが『英雄』であったのは、特別な資質があったわけでも、定められた道を歩んだ結果でも、血筋によるものでもないというわけじゃな」

329 :夜の温もり −タエラレヌヤサシサ− ◆6XQgLQ9rNg :2011/02/13(日) 10:53:50 ID:hRLmUSsD
 腕を組んで満足げに頷くマリアベル。その隣で、ストレイボウが立ち止まる。
「だったら」
 彼は両手で握り締めた剣をじっと眺めていた。
 瞳に苦しみを宿し、頬を引き攣らせ、呻く。
「だったら、カエルも同じじゃないか……。祖国のために戦うあいつは、民にとっては気高い『英雄』じゃないか……ッ!」
 愛する祖国のため、大切な故郷のために戦う者。
 心から大好きだと言えるもののために、惑わず躊躇わず命を張れる者。
 それは確かに、『英雄』と呼ぶべきなのかもしれない。
「じゃから、止められぬか?」
「……分からない。分からないんだ……。俺が、俺なんかが……」
 懊悩するストレイボウは、完全に道を見失ってしまった迷子のようだった。
 不安と心細さを抱いて、手掛かりもなく戸惑う彼の様子を目の当たりにして、マリアベルは内心で息を吐く。

 ――今のストレイボウに推測を告げるのは、余りに酷か。
 
 告げることで、何らかの選択肢を提示出来る可能性はある。
 しかしながら、更に見知らぬ道へと追い込んでしまう可能性も否定できない。
 どちらにも等しい可能性があるからこそ、慎重になった方がよいだろうとマリアベルは思う。
 なにせ、ストレイボウの心は相当に不安定だ。
 ストレイボウが前へ進もうとしているのは分かる。壁を乗り越えようとしているのは伝わってくる。
 それでも、何かのはずみでスイッチが入ってしまうと、異常なまでの恐れに苛まれ竦み上がってしまうようだった。
 その荒波にも似た精神状態は、病的だった。
 今すべきは、不確かな推測でストレイボウを惑わすことではない。
 
 マリアベルはストレイボウに歩み寄り、震える肩にそっと手を乗せる。
「のう、ストレイボウよ。先の戦いで、ジョウイやわらわが言った言葉を覚えておるか?」
「……ああ、もちろんだ。忘れるわけが、ない」
「ならば、そう不安がることもないじゃろう? わらわはここにいて、もうすぐジョウイにも会える。
 お主は決して、ひとりではないのじゃ」
「それでも、俺は……俺は……」
「ブラッドのことなら気にする必要はない。
 奴は己の意志でお主を守った。そしてわらわもまた、わらわの意志でブラッドの命を力にした。
 何故そうしたか、説明せねば分からぬか?」
 ストレイボウは答えない。
 黙ったまま苦しげな表情を浮かべ、視線を彷徨わせるだけだった。
 だからマリアベルは、息を吸う。
 深く深く酸素を吸い込んで、大切なことを確実に伝えるために。

「もう一度言うぞ。
 ストレイボウよ、お主が仲間だからじゃ。
 誇り高きノーブルレッドである、このわらわが認める、大切な仲間だからじゃ」

 慈愛に満ちた声だった。
 恩寵を与えるかのような声だった。
 心地よい眠りへと誘ってくれる、夜の優しさが詰め込まれた声だった。 
 
「自信を持てストレイボウ。恐れるな、怯えるな。
 カエルのことも、ブラッドのことも、お主が罪の意識を覚えることなど、何も――」
「――違うッ!!」

 何もない、と。
 そう締めくくろうとしたマリアベルを遮ったのは、ストレイボウの、悲鳴にも似た絶叫だった。
 目を丸くするマリアベルの眼前で、ストレイボウは握りしめていた剣を放り出して頭を抱える。
 マリアベルの手を振り払ったストレイボウの顔からは、血の気が引いていた。
「違う、違うんだ! 俺が、俺は、俺が、俺のせいで、みんな、全部――ッ!!」
「落ち着けストレイボウ! 大丈夫、大丈夫じゃ!!」
 マリアベルが声をかけても、抱えた頭を大きく振り、ストレイボウが喚き叫ぶだけで。
 幼子のように完全に錯乱する彼の耳に、マリアベルの言葉は入ってなどいないようだった。


330 :夜の温もり −タエラレヌヤサシサ− ◆6XQgLQ9rNg :2011/02/13(日) 10:55:05 ID:hRLmUSsD
 ◆◆
 
 優しかった。
 温かかった。 
 仲間だと言ってもらえて嬉しかった。
 ひとりではないと言ってもらえて心が打ち震えた。
 信頼を預けられた。一緒に戦えた。カエルを説得するために力を貸してもらった。命を救ってもらった。
 あまつさえ。
 罪を感じる必要をないとさえ、言ってもらえそうだった。
 余りにも優しくて、温か過ぎて。
 だからこそ。

 耐えられなかった。
 
 マリアベルは知らない。
 ストレイボウが感じている罪悪感の根源と犯した罪の本質を。 
 マリアベルは知らない。
 ストレイボウの醜さが、ルクレチアという国を滅ぼすきっかけとなったことを。
 マリアベルは知らない。 
 この殺戮劇を引き起こしたきっかけが自分にあると、ストレイボウが思いこんでいることを。
 マリアベルは知らない。
 ひいては、この殺戮劇の悲劇は全て、自分に原因があると、ストレイボウが信じ切っていることを。
 マリアベルは知らない。
 知っているはずがない。
 当然だ。
 
 ストレイボウは何も、話していないのだから。

 重く深い罪人であることを隠してきた負い目があった。
 死者が出るたび、放送のたび、オディオの――オルステッドの声を聞くたび、罪悪感は積もり積もっていった。
 この島で目覚めてから、自分を許せたことなど一度もなかった。
 心休まる時など、一瞬たりともありはしなかった。
 どれほど仲間だと言われて嬉しかった。
 優しい言葉をかけてもらって涙が出そうになった。
 それでも、歓喜の裏で蠢く罪悪感は、収まるどころか肥大化するだけだった。
 偽りなく真実であり心からの温もりを貰っていると分かってしまうが故に、負い目は大きくなっていく。
 もう、限界だった。
 成長しきった罪悪感と負い目は喜びを一呑みにしてストレイボウを責め立てる。
 それから逃げるように、ストレイボウはただただ喚く。
 冷静さも論理性もなく、ただ必死に、道も分からないまま逃げ惑う。 
 その一端として、言葉が、迸る。 

「俺なんだッ! 全部!! オディオが生まれてしまったのは、俺の、俺のせいなんだ――ッ!!」

 ――無様だな。
 
 心の底から響いてきた声が、誰のものだったのか。
 それはもう、ストレイボウにも分からなかった。

331 :夜の温もり −タエラレヌヤサシサ− ◆6XQgLQ9rNg :2011/02/13(日) 10:56:12 ID:hRLmUSsD
【C-7 二日目 深夜】
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)※ただし魔力はソウルセイバー分回復済み、ダメージ(中)
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFY、
    基本支給品一式 、にじ@クロノトリガー、昭和ヒヨコッコ砲@LIVE A LIVE、マタンゴ@LIVE A LIVE、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:とりあえずストレイボウを落ち着かせ休ませたい。
2:オディオとストレイボウには何か関係が……?
3:イスラ達との合流。後、キルスレスの事も含め、魔王達を追撃?
4:付近の探索を行い、情報を集めつつ、元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
5:首輪の解除、ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
6:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。 レッドパワーはすべて習得しています。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:疲労(大)、心労(超極大)、自己嫌悪、罪悪感、錯乱状態
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドU、基本支給品一式×2、不明支給品0〜1個(ブラッドのもの)
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:罪悪感と負い目に押しつぶされ錯乱中。オディオとの関係を打ち明ける勇気はなかったが、暴走してぶちまけ始めた。
2:カエルを止めたいが、俺なんかに止める資格のある願いなのか?
3:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
4:ニノたちが心配。
5:勇者バッジとブライオンが“重い”。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません


※C-7(D-7との境界付近)のブラッドの遺体がドラゴンクローごと埋葬されました。
 墓標として、リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITIONが突き立っています。

332 : ◆6XQgLQ9rNg :2011/02/13(日) 10:56:56 ID:hRLmUSsD
以上、投下終了です。
何かありましたら遠慮なくおっしゃってくださいませ。

333 :創る名無しに見る名無し:2011/02/13(日) 12:13:09 ID:ccUjyQCA
もう、逢えないことよりも、みんなと出逢えたことが嬉しい
そんなアーヴィングの言葉を思い出した
誰よりも喪失の哀しみを知っているからこそ、誰よりも、誰かが残してくれたものの煌きを知っている
故にこそ、マリアベルは本当に強くて
その強さが、ストレイボウには耐えられなかったんだな
マリアベルは笑えても、ストレイボウは笑えない
ああ、遂に秘めていた罪を表にだしちゃったけど、こっからが真のストレイボウの始まりなんだろな
投下乙でした

334 :創る名無しに見る名無し:2011/02/13(日) 15:10:26 ID:YAOleLBx
投下乙です

ついにきたかストレイボウの罪の告白……
これでようやくストレイボウは自分の罪に本当の意味で正面から向かい合うのか
マリアベルは果たしてストレイボウを受け入れるのか否か、よしんばマリアベルが受け入れても他の仲間はどうするのか、気になってたぜ
改めて投下乙です



それと投票スレにて第三回人気投票を開始させていただきました
投票例のテンプレは用意できませんでしたが皆さん奮ってご参加下さい

335 :創る名無しに見る名無し:2011/02/13(日) 23:40:16 ID:t5NoOo9/
投下乙!
ついに、このロワの鍵を握る男が動くか……。
原作ではムカツク野朗のはずなのに、もうすっかり応援しちゃってる俺がいるw
マリアベルは強いわ。さすがARMSの結束は死んでも揺らがない。他のみんなもそうだったもんね。
冷房も最初に話す相手が彼女なら大丈夫そうだ。他のやつならリンチされかねないしw
逆に言えば、マリアベルにすら拒絶されたら……。それはそれで面白いぞw
しっかし相変わらず綺麗な文だ。勝手にBGMが再生されるレベル。GJ!!!

336 : ◆Rd1trDrhhU :2011/02/15(火) 00:15:29 ID:2V4tobNo
業務連絡です。
RPGロワwiki管理人様。
wikiの「管理者へ連絡」からメールを送信しましたので大至急御確認ください。

337 :wiki”管理”人 ◆Z4HNuHPCHw :2011/02/15(火) 21:02:01 ID:+eo4K28x
wiki管理人です。
メール拝見いたしました。
内容の件についても対処しておきました

338 : ◆Rd1trDrhhU :2011/02/15(火) 21:23:18 ID:2V4tobNo
>>337
迅速に対処してくださってありがとうございます。
トリ違ってますけど御本人ですよね?
お手数をおかけしますが、一応確認のためにメールに記載されているアドレスか、したらばの「管理者への連絡」から返信お願いいたします。

339 : ◆iDqvc5TpTI :2011/02/16(水) 10:45:57 ID:W4F4dcFO
皆様、おはようございます
今、漸く、予約期限に間に合わず、破棄した作品を完成することができたのですが、再予約して投下しても構わないでしょうか?

340 :創る名無しに見る名無し:2011/02/16(水) 11:47:06 ID:fJatoOyY
待ってました、どうぞ!

341 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 00:56:01 ID:kRwMjk2h






――その強さがあれば、全てを守れると思った








夜の闇から悪意が這い出る。
音という、言葉という形を纏い、
それはこの一日で幾度も繰り返されてきた儀式。
一度として同じ を齎さなかった儀式。

一度目の放送は幼馴染の少女の死を告げられた。
二度目の放送は友と恩人の死を確認させた。
三度目の放送でも覚えのある少女の名が告げられた。
そして四度目の今――ジョウイは、一人になった。

ルカ・ブライトが死んだ。

オディオが報せたその事実をジョウイは想いの外すんなりと認めていた。
かつてルカを裏切り、計略に嵌めて殺したジョウイだからこそ知っている。
どれだけ人間離れしていようとも、ルカ・ブライトは命ある存在だ。
死ぬ時には死ぬ。
殺せぬ存在では決してない。
それを知っているからこそ、ジョウイは人を集め、ルカを殺さんとしていたのだ。
かの狂皇子は知力も武力も魔力も天賦の才を備えているが、何よりも恐ろしいのはそのスタミナ。
罠に嵌められ、敵に包囲されようとも、一歩も退くことなく剣を取ろうとする精神力。
矢に射られたまま、戦場で何時間の激闘を演じようとも、一向に尽きない体力。
心身ともに人並みはずれたそのタフネスさこそが、狂皇子をして最強たらしめる理由。
ああ、一騎当千とはよくぞ言ったものだ。
たった一人を相手にしているつもりであの獣に向かって行ってはならない。
奴は文字通り、一人で精鋭十人分の武力を持っていて、その上百人分の持久力を誇っているのだから。
単に、武や知や魔の領域で上回ったとしても、最後には尽きぬ憎悪を糧に立ち続けたルカ・ブライトに喰われるまでだ。
故にこそ、ルカ・ブライトを自分の手で打ち破るには、質も重用だが、何よりも数が必要だとジョウイは踏んでいた。
ずっとずっとそう考えて、人を集め続けてきた。

「誰か、知っている人間でも死んだのかい?」

342 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 00:56:34 ID:t8sRa8t9


343 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 00:57:38 ID:kRwMjk2h
ぶしつけな問いに肩が震える。
今この場で意識のある人間はジョウイ以外には一人しかいない。
いや、たとえ他の誰もが目を覚ましていたとしても、遠慮もなく人の心に踏み込むような問いかけはしてこなかっただろう。
ジョウイはその相手、イスラに対して事実のみを返す。

「ルカ・ブライト……。倒すべき邪悪が死にました」
「ふうん。まあそうだろね。君の表情に浮かんだ感情は仲良しな誰かが死んだことへの悲しみとは違うものだった」

どうやら今の自分は相当ひどい顔をしていたらしい。
それは前述したようにルカの死が衝撃的だったからではない。
ルカの死をきっかけに、一つの推測を、何の根拠もないのに、絶対にそうなのだと確信できる推測を立ててしまったからだ。

「ただね。それなら一つ聞かせてよ。君は何で嬉しそうにしないのさ。倒すべき敵だったんでしょ?
 勝手に死んでくれたのなら、喜んでもいいんじゃないかな」

僕だったらそうするよ。
どこか自嘲気味に零された呟きは、しかしジョウイには、君ならどうだいと、イスラが問うて来ているように思えてならなかった。
考えすぎ……ということはないだろう。
空気がピリリとした独特の緊迫感を持ち始めたことを、ジョウイは感じる。
慣れ親しんだ、腹の探り合いの空気だった。
ジョウイはすうっと目を細める……などということはしない。
イスラが何故、このような問いをしてきたのかは、まだ分かっていない。
単に、新たにパーティに合流した人物の人格を見極めようとしているだけなのかもしれないのだ。
ここで下手に探り返せば、要らぬ疑いを持たれるだけになりかねない。

「僕は、誰かを殺したいと思ったことはあっても、誰かが死んで嬉しいと思ったことはない」

だから、ジョウイは本音を吐いた。
その言葉に嘘偽りは全くなかった。
ジョウイは、今まで何千、何万もの人間を殺してきた。
己の手だけでなく、人の手をも汚させて、死を振りまいてきた。
それでも、これだけは真実なのだ。
ジョウイは、ジョウイ・ブライトは。
あの吐き気をもよおす巨悪であるルカをリオウに殺させた時も。
ナナミの仇であるゴルドーを怒りのままに斬り殺した時さえも。
そこには喜びや嬉しさなんていう感情は微塵もなかった。
あったのはただの嫌悪。
それを正しいと断じながらも、否、正しいと思えてしまっている自分への嫌悪。
殺人は、悪なのだ。
いかなる場合でも、人の手で、人が死ぬなどと、あってはならないのだ。

344 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 00:58:10 ID:t8sRa8t9


345 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 00:59:17 ID:kRwMjk2h

「それはまあ真理かもね。真っ当な意見、真っ当な感性さ」

本当に、そう思うよ。
茶化すような言葉の後に付け足された一言が、イスラの本音なのだろう。
それまで挑発気味だった声から、険が取れる。

「でも、それなら尚の事、気になるんだ。
 君がルカって人の訃報を聞いて喜ばなかった理由は理解したよ。けれど」

が、それも一瞬のこと。
再びイスラは強い口調でジョウイを問いただしてくる。

「苦々しいような、辛いような複雑な表情を浮かべていたことは、流石におかしいんじゃないかな。
 しかも、単に表情に浮かんだだけなら詮索する気にはならなかったんだけど、君は明らかにその感情を隠そうとしていた。
 僕も隠し事には慣れている身でね。分かるんだ」

うっすらと、笑みさえ浮かべて。
お前の考えていることなんてお見通しだと、言わんばかりに。

「何か人には知られたくない良からぬことを僕が考えた。あなたはそう言いたいのですか?」
「そうと取ってくれてもかまわないし、そうじゃないかもしれない」

その笑みが、変質する。
人を小馬鹿にするようなものから、自らへの苦笑へと。

「……最近さ。少し思うことがあったんだ。意地なんか張らないで、感情のままに生きるのも悪くはないんじゃないかって」

ジョウイには、その言語の意味が痛いほどに分かった。
ああ、自分のことを嘘つきだと称するこの青年は、真実嘘つきなのだろう。
イスラ・レヴィノスはちぐはぐだった。
ジョウイのことを疑っている一方で、本気で心配してくれている。
彼は、なんだかんだいってお人好しなのだろう。
泣きそうな誰かを見たら放っておけない、優しい人間なのだろう。
ならば、そんな優しい彼にとって、人を疑うということは、どれほどの苦行だろうか。
疑いたくはないのに、傷つけたくないのに、本当は助けてあげたいのに。
イスラは笑顔の仮面を貼りつけて、他人を、自分を、騙してきたのだろう。
それは、感情を押し殺し、笑うことも、泣くことも捨てて、人を裏切り続けた自分とどこが違うのか。

――違わない

選んだ仮面が笑顔か、そうじゃなかったか、それだけなのだ。
それだけだったはずなのに。
自分に似た青年は、意地を捨てるのもいいんじゃないかと思い出したという。
捨ててきたものが多すぎて、背負ってきたものが多すぎて、もう引き返すことのできないジョウイとは別の道を歩むという。
だから、ジョウイは知りたくなった。
今更知ったところでどうしようもないとは思うけれど。
今はもうなくなってしまった戻りたかった時に、自分が抱いた疑問。
それに、この自分と似て異なる青年がどのような答えを出すかが知りたくなったのだ。

346 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 00:59:42 ID:t8sRa8t9


347 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:00:16 ID:kRwMjk2h

「……あなたは、『英雄』についてどう思いますか?」
「なんだい、話をユーリルのことにでもすりかえるつもりかい?」
「そうでも……ないさ」

そうだ、別に自分に都合の悪い話題を変えようとしてのことではない。
あくまでもこの問いはルカの死の延長上だ。
ジョウイは、ルカの死を知った時に思ってしまったのだ。
ルカは、ルカに匹敵するような、『英雄』に倒されたのではないかと。
あれほどルカは数で攻めねば倒せないと考えていたのに。
いざルカが負けたとなると、それが、ただの凡百の集団に負けたとは思えなくなってしまった。
ルカ・ブライトは『英雄』だった。
周辺諸国からすれば悪鬼羅刹もかくやという狂皇子だったが、それは彼らがルカの敵だったからだ。
立場が変われば見方も変わる、正義も変わる。
戦争の常だ。
実際、ハイランド国民からすれば、数々の勝利と利益をもたらしたルカは紛れもなく『英雄』だっただろう。
ルカさえいれば、ハイランド王国は安泰だと、彼を命がけで庇う部下さえもいた。
天が味方すれば世界をも平定できる。
誇張ではなく、ルカ・ブライトとはそれほどの大人物だったのだ。
故に。
ルカを倒せる人物がいるとすれば、その人間もまた、『英雄』でなければならない。
いかに超一流の剣士が、紋章術師が、武闘家が、策士が。
束になり、うってかかったところで、常人では『英雄』には勝てないのだ。
それが、『英雄』の『英雄』たる所以。
世界に愛されているかのような圧倒的な理不尽を許された存在。

ぎりりとジョウイは拳を強く握り締める。
自分が抱いてしまった考えに怒りを抱いた。
『英雄』は『英雄』にしか勝てない。
その理論が罷り通るなら、この島でルカを倒した誰かだけでなく、かつてルカを倒したジョウイの友も『英雄』ということになってしまう。
それは、何も間違っている訳ではない。
ジョウイの幼馴染で親友だった彼は、間違いなく『英雄』と呼ばれるに足る所業を打ち立ててきた。
瓦解寸前だった都市同盟を立て直し、狂皇を倒し、真なる紋章の化身さえ打ち倒し、デュナンを統一へと導いたのだから。
ああ、だけど。
ジョウイは、ジョウイだけは、彼のことを『英雄』などと見てはいけなかったのだ。
捨石だと断じた、『勇者』と同意の『英雄』などと。
何故なら、何故なら――

「『英雄』ね。そうだね、僕からすればだけど。
 『英雄』なんてただの偶像じゃないかな。どっかの偉いさん達に都合よく扱われるスケープゴート。
 力のない誰かに縋り付かれるだけの人柱さ」

そうだ、そうなのだ。
友は、リオウは、『英雄』になろうとしてなったわけではない。
祀り上げられた存在だったのだ。
ジョウイは知っている。
リオウは誰よりも優しい人間だった。
自分のように犠牲をよしとしてしまう偽善者と違って、リオウは誰一人傷つくことをよしとしない人間だった。
自分よりも他人のことばかり守ろうとして、いつもいつも傷だらけになってしまう。
そんな、そんな、心優しい人物だったのだ。
それが、戦争を起こし、多くの人を傷つける一軍のトップとして祀り上げられた。
『英雄』が必要だったから。
瓦解しかけた都市同盟をまとめるのに都合のいい看板が必要だったから。
うってつけだったのだ、リオウは。
都市同盟を追放された悲劇の『英雄』であるゲンカクの息子であり、伝説の真の紋章の片割れを宿していた彼は。
ジョウイが魂を売ったハイランド王国に対抗する都市同盟のリーダーとして。
これ以上なくうってつけだったのだ。


348 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:00:57 ID:kRwMjk2h

「だったら、だったら。スケープゴートにされてしまった人は、人柱にされてしまった『英雄』は、どうすれば良かったんだ?」

リオウは泣いていた。
会うたび、会うたびに、涙をながすことなく、心の中で悲鳴をあげ続けていた。
ジョウイには分かっていた。
それがジョウイと敵対することになってしまったことだけへの悲しみによるものではないことが分かっていた。
リオウが泣いていたのは、ジョウイを含めた誰かと傷つけ合わないといけないということそのものへの悲しみだったのだ。
そして、その悲しみがあったからこそ、リオウは『英雄』であり続けた。
終わらせたいと、彼は願ったのだ。
誰かと誰かが傷つけあうのではなく、皆が力を合わせる、争いのない、平和な世界をつくろうとしたのだ。
彼は祀り上げられた『英雄』だったけれど。
その道しかないと選んだのは他ならぬ彼自身だった。

それくらい、ジョウイだって理解していた。
道も方法も違ったけれども、願った世界は同じだったから。
ジョウイは、他の誰よりも、リオウの心も、誓いも、意思も、分かっていた。
ああ、それでも、それでもジョウイは

「そんなの、決まっているじゃないか。逃げればよかったんだよ」

彼に、リオウに。
『英雄』なんかにならず、逃げて欲しかったのだ。








349 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:01:34 ID:t8sRa8t9


350 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:02:10 ID:kRwMjk2h
似合わないことをやっている。
今更ながらにイスラはそう思い始めていた。
彼の前にはどこか自身に似ていると感じる男、ジョウイ。
今、イスラは、泣きそうな顔をした彼の相談相手みたいなことをやっていた。

……別に初めから優しくしようなんて思ってはいなかったのだ。
アキラも、アナスタシアも、ユーリルも目を覚ますことなく気絶していて、二人きりが続く時間。
ろくに知らない人間と実質二人っきりというのは中々に居心地が悪くて、どちらともなく情報交換を初めていた。
その中で、先の戦いでイスラが抱いたジョウイへの嫌悪はますます膨れ上がっていった。
別にジョウイがアナスタシアのように、イスラの逆鱗に触れたわけではない。
ただ何となく好きにはなれない、それだけだ。
それでも、敢えて根拠を挙げるとするならば、ジョウイがあまりにもイスラという人間に踏み込んでこようとしなかったからか。
ジョウイとの情報交換は、それはそれは味のない、文字通り、情報だけを交換するに終始していた。
そこには一切の感情が乗っていなかった。
にやにやと笑顔を貼りつけたイスラと、不自然なまでに強く表情を押し殺しているジョウイ。
共に仮面越しのやりとりに、イスラは先に折れたのだ。

――ああ、イライラする

人を信じて生きたかった。
誰も裏切ることなく生きたかった。
病魔の呪いから解放されたイスラには、かつて諦めたそんな生き方ができるはずだった。
けれども哀しいかな。
自らに貼りつけ続けた仮面はそう簡単には剥がせないのだ。
自身と一体化してしまった、自らが最も嫌悪する優しくない人格はすぐには消えてくれないのだ。
ビジュを殺し笑っていた悪魔は、確かに彼自身なのだ。

だから。

イスラは、受け入れる。
逃げるのではなく、それも自分なのだと受け入れる。
受け入れた上で、その悪魔を、誰かのためになるように、乗りこなす。

351 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:03:36 ID:kRwMjk2h
イスラ・レヴィノスはこの島で、一人の王の背中に希望を見た。
かつてアティに重ねてみた、こうなりたかった自分とはぜんぜん違う、彼が想いもしなかった生き方をなす人物――ヘクトル。
だがしかし、かの王様は変なところでかの先生に似ているのだ。
自分を決して曲げないところとか。人を導き前を向けさせるところとか。
嘘つきをそれでも信用したいと思っているところまで。
全く、困ったものだ。
セッツァーが嘘を言っているとは思いたくないと、困り顔で漏らしたヘクトルのことを思い出し、イスラは苦笑する。
困ったものだが、人を信じようとするその在り方を、イスラは誰よりも尊いと思う。
だったら。
人を疑うのは自分の役目だ。
信じることはヘクトルに任せればいい。

それがイスラの出した結論だった。
イスラは、悪意にも負けぬ人の心の輝きを一人の先生から教えてもらい、知っている。
もし本当に、ジョウイやセッツァーが白だったら、イスラの余計な疑惑など、ヘクトルは容易に吹き飛ばしてくれるだろう。
だったら、心置きなく、自分は疑う役に徹すればいいのだ。
そう考えてイスラはジョウイへとかまをかけた。

思い返せば、この時点で、既に、イスラは彼が言うところの、似合わない真似を始めていたのだろう。
人を疑うという行為であろうとも、それを彼は、ヘクトルの為にやろうとしていた。
十分におせっかいと言える行為である。
そして、それは何だかんだでイスラの本質なのだ。
死のうとしたことさえ、誰かのためという一貫した想いの上でのことだったのだから。
なら、嫌疑のはずが、いつの間にか、ジョウイが抑えつけているものを解放させてあげたいと思ってしまったのも、当然の帰結だったのだ。

「そんなの、決まっているじゃないか。逃げればよかったんだよ」

故にこそ、この返答もいい加減なものではなく、ジョウイの問いに心から答えてのものだった。

「逃げたら、多くの人達が死ぬ。『英雄』にされてしまった人は、そんな彼らを助けたいと思ってた。
 それでも、それでも、逃げればよかったと、君は、いうのか……っ」
「言うよ。だって――」

352 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:03:49 ID:t8sRa8t9


353 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:04:43 ID:DA3y9Gwl
支援

354 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:05:02 ID:kRwMjk2h
イスラは知っているのだから。
『英雄』に祀り上げられた一人の女性を。
自らが手心を加えて逃がしてしまったテロリストが起こした事件を、その手で解決してしまったが故に、誰にも罰せられることがなかった一人の女性を。
彼女は、逃げた。
列車ジャックの原因が、事件を解決した英雄であり、軍学校の優等生であると公表する事を不利益と判断した軍から逃げ出した。
自分の甘えが多くの人を危険にさらしてしまったと自分を責め、逃げ出したのだ。
逃げて、逃げて、逃げて。
そして、彼女は、『勇者』や『勇者』の称号から力を借りなくとも、立っていられたアティは。
逃げても、諦めはしなかった彼女は。

「人を助けるのに『英雄』である必要なんてないじゃないか。『先生』にだってできるんだからさ」

多くの人間の命と心を救ったのだから。

「ぁぁ……。そうだね、その通りだ。僕は、僕は――」

くしゃりと、ジョウイの表情が歪む。
なんだ、そんな顔もできるんじゃないか。
口にしかけて、けれど、イスラはそれ以上続けなかった。
泣きたい時には泣かせてあげるべきだとか、殊勝にも思ったわけではない。
いつの間にか意識を取り戻していた人物が、二人もいたことに気付いたからだ。

「……っ」

よりにもよって同じタイミングでか。
イスラは目を覚ました人物が、誰と誰かを確認し、舌を打つ。
できれば一番最初に、この場で唯一信頼できる男であるアキラから話を聞きたかったが、仕方がない。
気絶した時間帯の差から、彼が目をさますのが一番最後であり、他の二人が同時に起きてしまう可能性も、十分に予想はしていた。
暴走の心配があるユーリルは、既にイスラとジョウイで武装解除済みだ。
更に念には念を入れて、精神的により追い詰めてしまうという危惧はあったものの、パワーマフラーで腕は拘束している。
対処できないこともない――はずだった。

その見積の甘さは一瞬で瓦解することとなる。
ユーリルへと降り注いだ、眩い光によって。





355 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:06:04 ID:t8sRa8t9


356 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:06:19 ID:kRwMjk2h



――その強さがあれば、全てを守れると思った

もう誰にも死んで欲しくなかった。世界中の人達を助けたかった。
伝説に謳われる『勇者』。
あらゆる危機から人々を守るための存在だとされる特別な自分には、それだけの力がある。
そう思っていた。
それは間違いだったのか。
護ろうとした人達には、そんな価値はなかったというのか。
アナスタシアの言葉が、オディオの言葉が、頭の中で何度も響いて止まない。
『英雄』は『生贄』で、彼らを『生贄』に捧げるような人間に護る価値はなくて。
ああ、それなら。
自分は根本的に間違っていたというのか。
アキラの言う誰かを護るための『英雄』。
その在り方から始まった自分は間違っていたというのか。

――間違っていたのだろう

思い起こせば、ユーリルには心当たりしかなかった。

生まれいでた時に、ユーリルは絶対に正しい善なる者であるはずの神の手で、両親を奪われた。
代わりにと与えられた大好きな村の人達や初恋だったかもしれない幼馴染は、魔王により殺された。
苦楽を共にし、ユーリルと共に恐ろしいモンスター達と戦ってくれた仲間達とは引き離され、その内何人かは帰らぬ人となった。
初めてできた本当の友達は、友情に気付けたのは、彼らが狂皇子に殺された後だった。

(あ゛あ゛、あ゛あ゛あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛)

狙ったように、狙いすましたように、護りたい誰かを、ユーリルは奪われ続けていた。
まるでそれは、ユーリルが誰かの為に戦うことを神も魔も人も、間違ってると否定するように。

ああ、そうだ、そうなのだ。

ユーリルは間違えてしまった。
だからこそこんな悲しい目にあっているのだ。
アナスタシア・ルン・ヴァレリアがユーリルを選んだのはそれが原因だったのか。
間違えていたから。ユーリルは間違えていたから、『勇者』であることを剥奪されたのか。

勇者――その資格を持つのは世界中に“ただ独り”な特別な存在

勇者――この世で“ただ独り”雷魔法を使えるはずだった存在

勇者――世界中で“唯一”転職が許されない職業

勇者――導かれし“者”。者達ではなく、“者”

勇者――“誰よりも”強く、“誰よりも”勇敢でなければならない存在。

それが、答えか。
ユーリルは、『勇者』は。
誰かの為になんて、想ってはいけなかったのだ。
『勇者』は“独り”でなければならないのだから。
雷魔法を使えるとか、特別な存在だとか、そんなものは『勇者』の本質ではなかったのだ。
クロノ達が雷魔法を使えたことも、全然おかしなことではなかったのだ。
何故なら、真に『勇者』に求められる『勇者』である証とは

357 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:07:14 ID:t8sRa8t9


358 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:07:40 ID:kRwMjk2h

“独り”であることだったのだから。

(そうか、そうだったんだ。『勇者』は、僕は、独りじゃなくちゃいけなかったんだ)

家族も、幼馴染も、恋人も、友達も、仲間も。
『勇者』には要らなかった。
世界を救うのが役目である『勇者』は、特定個人に拘ってはならなかったのだ。
それを分かっていなかったからこそ、この様だ。
不要だったものを得てしまったからこそ、失ってしまい、悲しくなる。
そういえば、アナスタシアと出会ったのも、ユーリルが、トルネコを失い、嘆いている時だった。
あの出会いもまた、神が、ユーリルが間違っていると気付かせるために仕組んだものだったに違いない。
あれだけ抱いていたアナスタシアへの憎しみが消えて行くのをユーリルは感じた。
悪いのはアナスタシアではなく、自分だったのだと。
これまで他人に燃やしてきた恨みが、全て自分へと向けられていく。

(僕は、独りじゃなくちゃいけなかった。僕は、独りじゃなくちゃいけなかった。僕は、独りじゃなくちゃいけなかった)

独りになる。独りになる。独りになる。

何としても、どんな手を使ってでも、独りにならなければならない。
だから、覚醒した意思が、自身の周りに自分以外の人間がいると気づいた時に、ユーリルは魔法を唱えていた。




「パルプンテ」





彼は望んだのだ。
地割れが起き、何人をも飲み込まれることを。
全員が砕け散り、そして誰もいなくなることを。
とてつもなく恐ろしいものを呼び寄せて、誰も彼もが逃げ出すことを。
真っ白な竜が現れて、目の前の人々を連れ去ってくれることを。
或いは、或いは、或いは……




果たして、彼の願いに応えるように、眩い光がユーリルへと降り注いだ。




359 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:08:33 ID:t8sRa8t9


360 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:08:45 ID:kRwMjk2h





天より降り注ぐ光は、禍々しいまでに神聖で、それだけを見れば、思わず祈りたくなっただろう。
だが、焼かれ逝く『勇者』の存在が、その光に救いを求めることを許さない。
誰もが痛みに絶叫する『勇者』を目にして理解する。
ああ、これ、この光は、救いの癒しなどではないのだと。
傲慢なる神が与えた、試練という名の、ふざけた天命なのだと。
その証に、どうだ。
灰となり死んだ皮膚が崩れ落ちる中、ユーリルの肉体を光が覆っていく。
そうすると、折れた骨が音を立てて繋がり、ズタズタの筋肉が蠢き繋がり合うのだ。
回復呪文で行うそれとはまた違う、神の御業。
再生ではなく、再構築。
勇者であることを捨てた用無しの不義の子を、使いやすいただの駒へと変貌させるおぞましき奇跡。
奇跡なればこそ、質量保存の法則などには縛られない。
繋ぎ治された骨が、紡ぎ直された筋肉が。
徐々に、徐々に、徐々に、膨れ上がっていく。
不快な骨の破砕音や筋肉の断裂する音を伴って、人ならざる者へと組みかえられていく。

「ぎ、ぐ、ぃ、GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

断末魔の声が響いた。
鳥のそれとも、猛禽類のそれとも、蝙蝠のそれとも違う翼が、人の皮を突き破ったその痛みに、死した心さえも悲鳴を取り戻した。
無慈悲な神は、ユーリルのその人としての最後の声すらも、鬱陶しいと辟易した。
神は悲鳴を搾り出す口を引き裂いて。
地割れのように、深く、深く、引き裂いて。
開いた口の中に、幾つもの剣を突き刺した。
何本もの剣を刺して、刺して、刺し込んで。
余った一本を、ユーリルの頭部へと突き刺して。

それは、完成した。

天へと突き立つ巨大な角を持ち。
その身をギラつかせる、鱗を身に纏い。
どこまで裂けた口より鋭い乱杭歯を覗かせて。
何も映していない、空虚なガラス球のような瞳を持つそれの名は。

――ドラゴン

マスタードラゴンの写し身、ホワイトドラゴン。
神にあだなすものを連れ去る裁きの『竜』。
勇者を捨てた青年は、人であることさえも捨て、神の駒へと堕ち果てて。
独りになるために。
ぐちゃりと、零れ落ちた鯛焼きを踏み砕いて。
輝く『竜』は、目に映る全てを殺さんと牙を剥いた。





361 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:09:47 ID:kRwMjk2h



やっぱりイスラくんとは気が合わないと、アナスタシアは思った。
実は彼女はとっくに目を覚ましていたのだ。
『英雄』というその言葉を耳にした以上、起きざるを得なかったのだ。

――逃げればよかった

こともなげにイスラは言った。
アナスタシアがかつて選ばなかった答えを、それこそが正解だったと言い切った。
……アナスタシアだって、何もその選択を考えなかったわけではない。
いや、むしろいの一番に考えた。
アガートラームの力があれば、自分一人生き残ることや、ロードブレイザーから逃げ切ることなど容易だったのだ。
少なくとも、ロードブレイザーを打倒することの数倍は可能性があった。
けれども、アナスタシアはそれを良しとしなかった。
自分一人だけで生き残ることを望まなかった。
彼女は、欲張ってしまったのだ。

――その強さがあれば、全てを守れると思った

全て、彼女の世界の全て。
彼女の生きる日常を。
アナスタシア・ルン・ヴァレリアは護りたいと望んだ。

――他の何を捨て去っても、大切なものだけは取りこぼさないもの

アナスタシアは知る由もない、アキラが示した『英雄』とは何かという問いかけへの答え。
その答えは、アナスタシアにとってもすとんと納得のいくものだっただろう。
あの日、あの時、あの場所で。
ロードブレイザーを前にして、アナスタシアも願ったのだ。
他の何を捨て去っても――それがたとえ自分の命でさえも、大好きな人たちを護りたい、と。
そこには葛藤があった。死にたくないとい想いがあった。不死なる親友を独りにしたくないという想いがあった。
もっとおいしいものが食べたかった。友達とたわいのないおしゃべりしたかった。
おしゃれだってしたかったし、好きな人だっていたのだ。

それでも。

迷いはあれども。嘆きはあれども。未練はあれども。
アナスタシアは逃げなかった。
仕方がないから……なんていうどこかの誰かに責任を転嫁したりしないで、ただ自分の意思で、欲望のままに立ち向かった。
かつてのアナスタシアは知っていたのだ、生きることが何かということを。
生きること。
それは、幸せな明日を思い描き続けること。
前に進むことを、幸せでいられる自分を、幸せを認められる自分を、諦めず、欲し続けること。
そのことを、欲望のガーディアンに認められるほどに、世界中の誰よりも知っていたはずなのに。

アナスタシアは、忘れてしまっていた。
イスラに糾弾されたように、諦めてしまっていた。
長い、長い時の中で。一人ぼっちの時間の中で。磨耗しきってしまった。
或いは、それが、それだけが。
仕方がないという言葉を、唯一言い訳としてではなく、事実として用いられることなのかもしれない。
アナスタシアが生きるということの意味を忘れてしまったのは、仕方のないことだったのだ。
何故なら、生きるということは、今を生きるものにしかできないことだから。
今でも、過去でも、未来でもない時間で。
死ぬでもなく、生きるでもない、命を失い、ただ在り続けるだけだった彼女には。
どれだけ望もうとも、もう二度と、成すことができるはずのないものだったのだから。

362 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:10:43 ID:t8sRa8t9


363 :ドラゴンクエスト  ◇iDqvc5TpTI氏代理 :2011/02/17(木) 01:16:06 ID:t8sRa8t9
つまりは、そういうこと。
無法松と同じく、アナスタシアという少女もまた、生き返ってなどいなかったのだ。

だから、だから。
神は死人が動き回ることを許さない。
今更に、生きることの意味を思い出したところで、もう遅い。

(これは、罰なのかな……)

アナスタシアは呆然と、目の前の輝く竜を見つめていた。
ユーリルが『勇者』であることを捨てた罰が、この竜への変貌だというのなら。
その竜に喰われることこそ、『勇者』を堕落せしめたアナスタシアへの罰。
散々自分のことを『生贄』だと嘆いた少女は、真実、今、神の『竜』へと差し出された『生贄』だった。

「くそっ、何が一体どうなってんだよ!?」
「人を輝く竜へと変える力……。まさか、あの覇王の紋章!?」

破滅の羽音を耳にし、ようやく我を取り戻したイスラとジョウイが、しかし、次の瞬間には吹き飛ばされる。
爪にて切り裂かれたのではない。尾にて薙ぎ払われたのでもない。
文字通り、二人は吹き飛ばされたのだ。白き『竜』の輝く吐息によって。
あまりにも出鱈目だった。
輝く『竜』はなんてことのない動作で、息を吸い、吹きかけただけだった。
それだけで、極低温の吹雪が巻き起こり、イスラとジョウイは近づくことも叶わず、地に伏せた。
せめて一矢報いようと射られた黒き刃も軽く尾にいなされる。

圧倒的だった。
圧倒的過ぎた。
ドラゴン。最強の幻想種。神の使い。
人如きでは、到底適うはずのない、絶対者。

彼を前にして、アナスタシアは震えていた。
恐怖。死への恐怖。
これが例え神罰であろうとも、アナスタシアは潔く受け入れることができなかった。
もう遅いとは分かっていても、因果応報だと理解していても。
アナスタシアの身体は、少しでも長く生きようと、一歩ずつ、一歩ずつ、後ずさった。
迫り来る『竜』がいるのとは逆方向の、神殿へと至る橋を後ずさった。
無駄なのに。
翼無き人の身では、翼ある『竜』からは逃れることなど不可能だというのに。
あっという間に距離が詰められる。
無様に、醜く、足掻いて、足掻いて、ようやく稼いだ数歩が、泡のように溶けて消える。



364 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:17:33 ID:kRwMjk2h

背を向けた男がいた。
アナスタシアを噛み殺さんとしていた牙を、二本の腕で受け止めている男がいた。
男の腕はぼろぼろだった。
両掌はずたずたに擦り切れて、そこから流れる血が腕を伝い、しとどに肩を赤く、紅く濡らしていた。
巨竜の牙は、その一本一本が剣にも等しい鋭さと大きさを誇っているのだ。
素手で掴んで、どうして無事でいられよう。
今この時も、男と、彼が背に守るアナスタシアを喰らわんと、顎は閉じられていく。
それを無理矢理こじ開けている男の全身には、想像も絶する圧力がかかっているに違いない。

「どう……して?」

にも関わらず、男は逃げようとしなかった。
必死で、見も知らぬ、会ったばかりの自分を守ろうとしてくれていた。
それがアナスタシアには不思議だった。
だから、逃げることも忘れて、問うた。
どうして、そこまでして、自分を助けてくれたのか、と。
男は――アキラは答えた。

「松がさ。言いやがるんだ」

使い物にならなくなったはずの両腕で。
あろうことか、巨竜を持ち上げ投げ飛ばし。

「男は女を守るものだって。俺の心の中で言いやがるんだっ!」

彼の『ヒーロー』であった、一人の男の信条を口にした。








365 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:19:44 ID:t8sRa8t9
  

366 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:21:05 ID:kRwMjk2h
>>363>>364の間


「い……嫌、嫌ぁ」

ガタガタと、震えて悲鳴をあげても、アナスタシアを助けてくれる人間はもう誰もいない。
他人を利用してばかりで、他人の背に隠れてばかりで、友の手さえとろうとしなかった彼女は、いつの間にか一人ぼっちになっていた。

カタカタと、カタカタと。
手にした絶望の大鎌が震える。
それは地獄から迎えに来たと、彼女に死神が伝えているようで。
ガツンっと、背中に当たった何か硬い感触に思わず悲鳴を上げた。

何か。
それはなんてことのない壁だった。
アナスタシアの後退を妨げるように立ち塞がる、彼女の子孫の死地たる神殿の壁だった。

「死にたくない、私は、私は、まだ、生きていたいのッ!」

もはや、逃げ場すらない。
巨竜の顎はすぐそこまで迫っていて。
たとえ神殿の中に逃げこもうとしても、湖の中に飛び込もうとしても。
間違いなくアナスタシアが噛み殺される方が速い。

「ひぃっ……い、あ、あああ」

ガバリと、『竜』が大きく口を開いた。
口の中には底知れぬ闇が広がっていた。
アビスを、地獄の底が広がる闇が広がっていた。
その闇がアナスタシアを呑みこんでいく。
アナスタシアは目を瞑った。
闇を直視したくなくて、現実から逃げた。
数瞬後には全身に突き刺さるであろう牙による痛みで、現実に引き戻されることが分かっていても。
そうせざるを得なかったのだ。

だというのに。
一刻、一秒、数十秒。
アナスタシアを現実に引き戻すのに十分な時間が経とうとも、彼女を痛みが襲うことはなかった。
恐る恐る、アナスタシアは目を開ける。
否、正しくは、何がどうなったのかを認識した途端、少女の目は見開いていた。

367 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:21:22 ID:t8sRa8t9
  

368 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:22:45 ID:t8sRa8t9
  

369 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:23:18 ID:kRwMjk2h
『ヒーロー』になると決めた。
松が助けた子どもたちの、そして何よりも松自身の『ヒーロー』になるとそう決めた。
その矢先に、無法松は二度目の死を迎えた。
命を燃やし尽くしたのではない。どこかの、誰かに、殺された。
コロサレタ。
松はアキラの希望だった。支えだった。『ヒーロー』だった。

――松……アンタいったい、どこで何をしてんだ?

どこにもいない。無法松は、もう、どこにもいない。
……本当に?

その背中を、覚えてる。
ありありと、ありありと、アキラの心に焼き付いて、離れない。
一度目の死の時もそうだった。
無法松という存在はアキラの中から一向に消えはしなかった。
ブリキ大王がいたからだ。
ずっとそう思ってきた。
そうじゃなかった、そうじゃなかったのだ。

松の死に、呆然とするよりも速く、泣くよりも速く、憤るよりも速く。
目にした光景を前に、アキラの身体は動いていた。
気に入る、気に食わないじゃ、ねえ。
目の前に、襲われている女がいる。
だったら、助けに行かなければならない。
それが男の生き方なのだ。

――そうだろ、松ッ!!

アキラは立ち上がり、駆け出していた。
巨竜の息吹により凍りついた湖面を駆け抜け、全速力で『竜』の前へと回り込んでいた。
考えるよりも速く、無造作とも取れる動きで、閉じゆく『竜』の口の中に腕を突っ込んでいた。

「ぎっ、がっ、ぐ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

顎を閉じる力は、生物の構造上、最も強いという話を何となくアキラは思い出していた。
なるほど、とんでもない力だ。
彼の仲間であった二人の武闘家ならともかく、アキラでは力比べでは太刀打ちできまい。
何も『竜』に限った話ではない。
アキラは弱い。
この島に招かれた人間たちの中でも、彼は下から数えたほうが早い位置にることであろう。
世界を救う冒険の中で己を磨いたわけでもなければ、日々を修行に費やしていたわけでもない。
剣では『勇者』に勝てず、魔法では『魔王』に勝てず、力では『竜』に勝てない。


370 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:23:47 ID:t8sRa8t9
   

371 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:24:22 ID:kRwMjk2h

けれども、それがどうしたというのだろうか。
アキラは『勇者』でもなければ、『魔王』でもなければ、『竜』でもない。
『超能力者』だ。
彼の武器は剣でもなければ魔法でもなければ力でもない。
超能力――思念の、心の強さだッ!

「松がさ。言いやがるんだ」

その心の強さにおいて、誰よりも強かった男の姿を、アキラは覚えている。
どんな困難があろうとも根性で乗り切り、どれだけの難関にも気合で立ち向かう。
そんな、そんな、男の背中を、アキラは、覚えているッ!

「男は女を守るものだって。俺の心の中で言いやがるんだっ!」

アキラは閉じようとしている竜の顎を力任せにこじ開ける。
はたから見れば、冗談みたいな絵だったろう。
だが、アキラは、必ずそうなると確信していた。
彼は信じていたからだ。

「松は……死んだりしねえ……。この俺が、生きてる限りッ!!」

松と共にある自分を信じていたからだ。
ならば、今のアキラは無敵だ。

――その強さがあれば、全てを守れると思った

彼が知る最強の精神論者、松をイメージしたサイキッカーが、たかが『竜』如きに負けるはずがないッ!

「ド根性オーーッ!!!」

アキラの矮躯が、『竜』の巨躯を持ち上げる。
普段の彼になら、到底不可能な芸当だっただろう。
だが、今のアキラは、アキラであって、アキラでない。
超能力が働きかけられるのは、何も他人の心だけではない。
自分の心だ。
アキラは、自分の心に超能力で働きかけ、強力な暗示をかけているのだッ!

372 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:25:39 ID:t8sRa8t9
  

373 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:25:43 ID:kRwMjk2h
――松はここにいる。松なら、こんな竜くらい、根性で何とかするに決まってる

そう強く、強く、信じ込んでいるのだ。
そしてそのイメージは、身体強化だけには留まらないッ!

「ルゥゥゥオオオオオオオっ!」

中空へと投げられた『竜』が、羽根を羽ばたかせる。
体勢を立て直すためだけのものでないのはすぐに分かった。
『竜』の羽ばたにより生じた風が、雪と氷を伴っていたからだ。
その吹雪の最中へと、アキラは踏み込む。
想うことはただ一つ。
寒くない――などという消極的な想念ではない。
熱い、と。身も、心も、魂さえも熱いと。強く、強く、強く。
アキラは暗示に暗示を重ねる。
思い出すのは一人の女格闘家の姿。
肉体よりも精神に重きを置いたその技を、その魂を、アキラは我が身にトレース、

――ドラゴンイメージ

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」

凍える吹雪を聖龍と化し、突破する!
しかし、どれだけ想像しようとも、空想の翼では羽ばたけない。
地を這う人では、天空を舞う『竜』には届かない。

それなら、落とせばいい。
自らが空を飛ぶのではなく、相手の方を落とせばいい。
飛ぶ鳥を落とす。その程度、あのガンマンには造作も無いことだった。

――ハリケーンイメージ

装填するのは十二からなる思念の弾丸。
撃ち貫くは『竜』の翼。

「ギオオオオオオオオオオオオオオッ!」

『竜』が、落ちる。
いかな強固な『竜』の鱗といえども、想像の弾丸は防げない。
加えて、打ちのめされ、追い詰められたユーリルの心は、安楽のイメージを信じられない反面、自らを襲う敵意には敏感だった。
故にこそ、自らを襲う弾丸のイメージを倍化して受け取ってしまい、あっけなく撃墜されたのだ。

374 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:26:48 ID:kRwMjk2h

「ユーリルゥッ!!」

パルプンテによる変身を目の当たりにするまでもなく、サイキッカーであるアキラは、『竜』がユーリルであることを見抜いていた。
この手に牙が食い込んだ時に、ユーリルの思念が流れてきたのだ。
暗い、暗い思念が。独りになりたいという寂しすぎる願いが。

そうはさせてやるものか。

――ストロングイメージ

『竜』を傷つけるのはこれで最後だ。
アキラが得意とした関節技をイメージし、『竜』の手足を封じながらアキラは思う。
彼は『ヒーロー』になると決めたのだ。
松の代わりに子ども達のヒーローになると決めたのだ。

「だったらよ……。目の前で泣いているガキに、手を伸ばさねえわけにはいかねえじゃねえかッ!!」

――ヒーローイメージ

想像しろ。
ユーリルが囚われているくそったれな『英雄』像を豪快に吹き飛ばしてくれる、アキラにとっての最高の『ヒーロー』を。
一人ぼっちの冷たい世界に引きこもってしまった少年のハートに火をつける、熱き漢のイメージを!

「行くぜ、松……」

ヒーローイメージを拳に乗せて、ユーリルへと手を伸ばし駆け寄る中、アキラは手足をもがれ、翼を破かれた竜に力が集うのを感じた。
恐らくは、魔法。
竜に残された、最後の攻撃手段。
常識的に考えれば、アキラの手がユーリルへと触れるより、呪文の完成の方が速い。
ヒーローイメージの構想に集中している今、フェニックスイメージでの相殺は不可能だ。
氷撃魔法の直撃は避けられない。

――構う、ものか

『ヒーロー』は立ち上がるのだ。
ボロボロになろうとも、無様に地を這おうとも、何度だって立ち上がるものなのだ。

「男、アキラ・・・・!」




「無理を通してみせるッ!!」






375 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:26:53 ID:t8sRa8t9
  

376 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:27:54 ID:t8sRa8t9
  

377 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:28:14 ID:kRwMjk2h
されど。
言葉と想いを乗せた拳が、ユーリルに届くことはなかった。
拳より先に到達したマヒャドが、アキラの命を奪ったからではない。

『竜』は初めから限界だったのだ。
そもそも、あの眩い光は、普通の方法では耐えることのできない、理不尽な神の裁きだった。
オディオの制限により神聖さが軽減されていたからこそ、ユーリルはぎりぎり死なずに踏みとどまれたに過ぎなかった。
聖光の眩さに隠されていたが、『竜』の輝く全身は傷だらけだったのだ。

「恨みたければ、恨んでくれ」

だから、イメージではない黒き刃に貫かれば、たった一撃で、『竜』致命の傷を負う。

「呪ってくれても構わない」

況んやそれが『勇者』の剣によりもたらされたものなら尚更だ。

「ただ、……ただ」

物語の結末はいつも一つ。

「その哀しみだけは、置いて逝ってくれ……っ」

『竜』は『英雄』に退治されるものなのだから。









378 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:28:32 ID:DA3y9Gwl
支援、

379 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:29:14 ID:t8sRa8t9
  

380 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:29:35 ID:kRwMjk2h
『竜』の背より剣が抜け落ちる。
死んだからか、それとも、剣の力によるものか。
『竜』は、ユーリルの姿へと戻っていく。

「ジョウ、イ……? あ、あんた、何やってん、だ」

その光景と、それを成した主を呆然と見比べていたアキラが、乾いた声を絞り出す。
何をやったのか。
見たままだ。
マヒャドの詠唱を完成させようとしていた『竜』の心臓を、後ろから刺したのだ。
手足をもがれ、翼を破かれた『竜』の尾から駆け上がり、刺し殺すのは意外と容易であった。

けれども、アキラが聞きたいのはそんなことではないのだろう。
何をやったのかと問いはしたが、真に彼が知りたいことは、何故、やったのか、だ。

「仕方なかったんだ……。あのままじゃ、君はやられていた」

それにジョウイは用意しておいた返答を口にした。
自分だって本当はユーリルを殺したくなかったのだと。
ただ、ユーリルが魔法を唱えようとしているのを見て、身体が咄嗟に動き、回収していたユーリルの剣で刺し殺してしまったのだと。

「だったらユーリルは殺してよかったのかよ! 俺なら大丈夫だった。大丈夫だったんだ……ッ!」
「それは君に限った話だろ! 君は魔法に疎いから分からないかも知れないけれど、あれは明らかに広域魔法だった。
 あのままだったら、君はともかく、何の力もないアナスタシアはどうなっていた!」

それでも言い募るアキラを、ジョウイは正論で押し黙らせる。
彼の言い訳はあながち間違ってはいなかった。
確かにあのままマヒャドが詠唱されてしまえば、アキラが背に庇っていたアナスタシアも巻き込まれ、命を落としていた可能性はあった。
とはいえ、アキラは知らないことだが、天空の剣にはユーリルの竜化を解く力があったのだ。
変種とはいえ、あれもまたドラゴラム。
凍てつく波動で解除できないはずがなかった。
そうしていれば、わざわざ命を奪わずともジョウイはユーリルを止めることができた。
ジョウイは、そのことを、真なる紋章の導きにより、誰に言われることなく理解していた。
ここまで言えば分かるだろう。
ジョウイがユーリルを殺したのは、アキラとアナスタシアを救おうとしてのことではない。
殺し合いが終局に入った以上、どう動くのか分からない不安要素であるユーリルを、殺しておきたかったという理屈によるものだけでもない。

……もうこれ以上、見てはいられなかったのだ、ユーリルを。

――その強さがあれば、全てを守れると思った


381 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:30:10 ID:DA3y9Gwl
支援

382 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:30:19 ID:t8sRa8t9
  

383 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:30:34 ID:kRwMjk2h
ジョウイは、ルカという『英雄』の圧倒的なの強さに魅せられていたことは否定しない。
あの強さがあれば、戦争を終結させることができると思ったから、彼は友さえ裏切り、ルカに寝返った。
だが、ルカと共にあるうちに気付いたのだ。
『英雄』では駄目だ、と。
『英雄』の力なら、確かに戦争を終わらせることはできる。
ルカにはそれだけの才覚と、ある種のカリスマがあった。
しかし、ルカのやり方では戦争を終わらせる止まりだったのだ。
ルカは邪悪だった。戦争を勝って終わらせることはできても、そのやり方は反感を買い、また新たな戦乱を呼んだだろう。
現に、シードやクルガンなどの側近たちにさえ、裏切られている。
そして、それは何もルカに限った話ではない。
『英雄』とは、常に何らかの戦乱や脅威が生じた時に、それを収める対処療法的な存在なのであって、戦争を起きなくする存在ではないのだ。
争いの中でこそ、『英雄』は生まれる。
だったら、その『英雄』の力に頼ることも、『英雄』になることも、平和な世界を望むジョウイの目的には合致しない。
『英雄』とは争いあってこその存在で、たとえその争いを解決できたとしても、かつてのゲンカクの様に新たな争いの火種とされる運命が待っている。

それを理解していたからこそ、ジョウイは袂を分かつた後でも、何度も何度もリオウとナナミの前に姿を現したのだ。
『英雄』になるなんて辞めてくれと。頼むから、逃げてくれ、と。
リオウと戦いたくない以上に、『英雄』として茨の道を歩む友を見たくなかった。
もし、リオウが勝ち、自分を倒し、デュナンを統一して真の『英雄』になったとしても。
それはきっと、幸せとは程遠い道だと、他ならぬ、『英雄』を目指したこともあるジョウイは理解してしまっていたから。

――そんなの、決まっているじゃないか。逃げればよかったんだよ

イスラの言葉がリフレインする。
そうだ、その通りなのだ。
逃げて欲しかった。
ジョウイは、リオウに、ナナミに、『英雄』になんかにならず、逃げて欲しかった。
それは、もう叶わぬ願いだ。
リオウは『英雄』としての道を歩き、死んだ。
ナナミだって死んだ。
だから、なのだろうか。
だから、ジョウイは、叶わなかった願いの代わりに、ユーリルを誰も追ってこれない死という終焉に逃そうと思ったのだろうか。
ユーリルを辛い現実に連れ戻そうとするアキラに反発するように、逃げてもいいと、言ってあげたかったのだろうか。

ああ、或いは。
自分こそが、そう言って欲しかっただけなのかもしれない。
戻ってきて。逃げてくれ。
そんな平行線の会話ではなく、一緒に逃げようと、ジョウイは言って欲しかったのかもしれない。

多分それは、ジョウイを唯一、彼らと共に歩ませてくれた魔法の言葉だった。
あの陽だまりに帰れるのだという誘惑と、リオウやナナミを『英雄』にしないで済むという言い訳。
双方を兼ね備えた、たった一つの……。

384 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:31:25 ID:t8sRa8t9
  

385 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:32:11 ID:kRwMjk2h
夢想しても詮無いことだ。
ジョウイは二度と、三人には戻れない。
戻る気もない。
彼は、殺したのだから。
何らかの決着をつけねばならなかった『英雄』と、殺すという形で決着をつけたのだから。
進むしかないのだ。

「分かってる、分かってるさ、僕だって。僕は、救いを求めていた彼を殺した。
 だから、この罪は、この落とし前は償わなければならない……」
「な、お、おいッ!」

思いつめた表情を貼りつけて、ジョウイは走りだす。
ユーリルを殺してしまった以上、この集団に紛れ込むことが難しくなったからという理由もある。
ただ、それだけなら、ジョウイはこの集団から離れようとはしなかった。
ジョウイには、あてがあったのだ。
殺し合いに乗った参加者が生存したままで、放っておいても疲弊しうるアキラ達の集団よりも、入り込むのに適したあてが。
イスラからケフカというらしいと聞いた、ピエロを含めた八名の名が呼ばれたことにより、生存者の数は十七人。
そのうち、一四人もが先の湖付近の大乱戦に関わった人物であると、ジョウイは自身とイスラの情報から把握している。
あの乱戦が第三回放送前から始まっていたことを省みるに、その一四人にはアリバイがあるということになる。
何のアリバイか。
ルカ・ブライトを倒した人物が、その一四人ではないというアリバイだ。
それは逆説的に、残る三人こそが、ルカ・ブライトを倒した集団である確率が高いということになる。
三人がチームを組んでいない可能性もあるが、何度も考察してきたように、ルカを個人で倒せるとは思えない。
十中八九彼らは仲間であり、そして、その三人こそが、最も勝ち残る可能性が高い集団だ。
そうジョウイは踏んだのだ。
ならばこそ、ジョウイはその集団に紛れ込まねばならない。
彼の求める道、戦いを終わらせる『英雄』ではなく、平和な世界を作る『王』になるために。
ジョウイは、このバトルロワイアルでもただ一人生き残る『王』にならなければならないのだから。




【C-6 二日目 深夜】
【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]:疲労(中) 、凍傷と擦過傷(小)
[装備]:キラーピアス@DQ4、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4
[道具]:回転のこぎり@FF6、確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:ルカを倒したであろう集団を探し出し、入り込む
2:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:アシュレーのグループ以外の情報を大体把握しました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等、自分の常識外のことに警戒しています。
※ピサロ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾

386 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:33:23 ID:/e7J8Haz
 

387 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:33:58 ID:kRwMjk2h



何がいけなかったのか、どうしてこんなことになってしまったのか。
ジョウイが走り去った後の空気を、一言で形容するならば、こんな感じだったろう。
その中でただ一人、イスラだけが冷静だった。
彼がことさら理知的だったからではない。
彼が、この場にいた、誰とも似通った人物だったからこそ――ジョウイに似て嘘つきで、アキラに似てお人好しで、
アナスタシアに似て諦めてしまったことがあって、ユーリルに似て誰かに分かって欲しかったイスラだからこそ。
どうしてこうなってしまったのかが、何となく分かるのだ。
だから、彼は、こうなってしまった以上、どうすればいいのかも、同様に分かっていた。

「アキラ」

名を呼ばれたアキラの顔は、それでも依然として、イスラとは別の方向に向いたままだった。
その方向はジョウイが去っていった方角だった。
気になるのだろう、放っておけないのだろう、ジョウイのことが。
本当なら、今すぐにでも追いかけて、連れ戻しに行きたいのだろう。
イスラはアキラの背中を押した。

「ジョウイを追ってくれないかな? 心配なんでしょ?」
「……気にならねえと言えば嘘になる。けど俺が抜ければ」
「ケガの治療ができないって? だいじょうぶだよ。アナスタシア、便利な石を持っていたから。
 それに、一番重症である君に心配されたら終わりだよ。
 いいから気にせず行ってあげなよ。このままじゃ、ジョウイが何をしでかすか心配だからさ」
「……っ、わりい、恩に着る! それとこれ、俺が得た情報だ! マリアベルに伝えといてくれ!」

走りだすアキラの背を見てイスラは思う。
これでいい、ああいうタイプは足踏みしているのが一番何の得にもならない。
行動してこそ、今、アキラが抱えているやるせない想いも解消できるだろう。
アキラなら、いざとなったらテレポートで緊急離脱ができる。
それに、ジョウイが気になるのはイスラも同じだ。
アキラからすれば、ユーリルを殺した贖罪の為に何をするのか分からないという心配なのだろうが、イスラのそれは少し違う。
ユーリルを殺した時のあの表情。
それが、咄嗟になどという言い訳には程遠いほど、決意に満ちたものだったことが気にかかるのだ。
できることなら、自分もアキラと共に追った方が良かったのかも知れない。
それをしなかったのは、アナスタシアを一人置いていくわけにはいかなかったことや、ヘクトル達との合流を考えたからだけではない。
去り際にアキラからテレパシーで送りつけられたアシュレー達や、首輪の仕組みをマリアベルに伝えることは、確かに一大事項だ。
が、それよりも。したいことが、否、しなければならないことがあったからだ。

イスラはアキラを見送っていた視線をずらし、別の対象をその目で捉える。
アナスタシアが決して見ようとしないそれ。
ユーリルの死体を埋葬しようと、近づいていく。

388 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:34:21 ID:t8sRa8t9
  

389 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:34:49 ID:/e7J8Haz
 

390 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:35:42 ID:/e7J8Haz
 

391 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:36:13 ID:t8sRa8t9
  

392 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:36:28 ID:kRwMjk2h

「全く、本当に君は最後まで、僕そっくりだったよ」

ジョウイは謝りながらユーリルを殺したが、そんなもの必要なかったのだ。
かつて邪悪としてふるまい、誰からも嫌われて、一人になって死のうとしていたイスラとは鏡写しに。
ユーリルは誰も愛せず、人に愛されない、人類の敵対者である『竜』として滅ぼされて、死んで一人になろうとしていたのだから。

何も独りになる方法は、自分以外の皆を殺すというものだけではなかったのだ。


――人間は、死ぬ時はいつも独りだ

「知ってるよ、そんなこと。嫌になるほど知っている」

安堵とも空虚とも取れる、無表情なユーリルの死に顔を見つめて言葉を漏らす。
ユーリルの顔には、アナスタシアが見たくないと目を逸らしているような、憎悪とか憤怒とか絶望といったものは何もなかった。
本当に、何も浮かんでいなかった。
それが死だ。
何度も何度も嫌なほど直面し、一度はイスラを呑み込んだ人生の終焉だ。
ずっとずっと彼が望み続けていたはずの終わり方だ。
その強さがあれば、愛する人々に嫌われて、一人ぼっちで死んでいける強さがあれば、大好きな人達を幸せにできると思っていた。
ああ、だけど。
イスラは、自分が最も望んだ死に方に近い死を迎えた少年へと吐き捨てる。

「最悪の気分だよ」

少年は答えない。
もう誰の声も、誰の心も、ユーリルには届かない。





【ユーリル@ドラゴンクエストIV  死亡】
【残り16人】








393 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:37:43 ID:/e7J8Haz
 

394 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:38:01 ID:kRwMjk2h
【C-7西 二日目 深夜】
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(大)、疲労(大)、ダメージ(中)、両腕重症(掌に裂傷、骨と筋肉負荷大)、凍傷と擦過傷(中)、気合と根性(大)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:松は……死んだりしねえ……。この俺が、生きてる限り!
2:ジョウイを追いかける。
3:レイ・クウゴ、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
※アシュレーから首輪の構造の情報を得ました。
 時間がなかったこと、マリアベルならそれだけで分かるだろうという、アシュレーの判断により、解除法抜きの、構造についての情報だけです。
 松のメッセージはまだ受け取っていません
※ドラゴンイメージ=画竜点聖の陣、ハリケンイメージ=ハリケンショット、ストロングイメージ=アームロック+C・H・ホールド、
 ヒーローイメージ=??? です。


【C-7東 二日目 深夜】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪、キン肉マン
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗る? ちょこを『力』として利用する?
1:独りで死ぬのが、『英雄』の正しい在り方なの?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残りたい。けど。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。


【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、凍傷と擦過傷(小)、最悪の気分
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドU、最強バンテージ@LAL、ビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ユーリルを埋葬しつつ、ヘクトル達を待つ。
2:マリアベルに首輪の構造についてオディオにばれないよう伝える
3:セッツァー、ジョウイに警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:現在の全生存者の情報を大体把握しました。WA2側のことは詳しく聞きました。
   ※アキラ伝いに首輪の構造の情報を得ました。
    時間がなかったこと、マリアベルならそれだけで分かるだろうという、アシュレーの判断により、解除法抜きの、構造についての情報だけです。
    松のメッセージはまだ受け取っていません

395 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:38:25 ID:/e7J8Haz
 

396 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:39:02 ID:t8sRa8t9
  

397 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:39:06 ID:/e7J8Haz
 

398 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:39:48 ID:/e7J8Haz
 

399 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/17(木) 01:39:51 ID:kRwMjk2h
以上で投下終了します。
支援してくださった方、ありがとうございました。
指摘・感想あればよろしくお願いします。
尚、誇張表現はあれど、輝く竜に関する一連の描写は、原作のパルプンテにて実在するネタです。
ご了承ください。

400 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 01:40:10 ID:t8sRa8t9
  

401 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 16:52:15 ID:fyUM8SDo
いくつか指摘をさせていただきます

まず、
@ユーリルに関して思考が飛躍しすぎではないでしょうか?
ユーリルはオディオに人間に護るべき価値などないと言われてそれを鵜呑みにしています
しかし、何故かユーリルは人類を守る勇者に固執しています
人間に護る価値がないのであったら、それこそ勇者なんてなる必要が無いのでは?
この思考の変遷があまりにも唐突でユーリルがいきなりファビョったように見えます

Aパルプンテで竜に変身するのも攻略サイト見て回ったら
300のダメージを受ける、1000のダメージを受ける、主人公の最大HPの84%~200%のダメージを受ける。そして主人公が死ななけれ竜に変化するとか書いてあった
攻略サイトでもいくらダメージを受けるかの情報は統一できてないみたいだけど、とにかくとんでもないダメージを受けるのは分かる

ユーリルは前話までにダメージ(中)と表記されていたのにこれに耐えるんですか?
威力は制限されていたって作中で説明されてますけど、魔法の制限対象は回復魔法と範囲魔法の範囲、あとはルーラとかインビジブルのはずでは?

@とA、一つずつは気になりませんが、強引に辻褄合わせをしたようで合わせ技で一本の極めてちぐはぐな展開に見えます
しかし、これに関してはそこまで問題ではありません。あくまで個人の好みの範囲に入ると思いますし
Aもユーリルのレベルが99ならダメージ(中)で耐えてもおかしくない訳ですし


本題は次のBです


Bアキラの捏造イメージ。これはヤバい
捏造技はダメとは言わないけど伏線くらいは敷いて欲しい
でないとなんでもありになってしまいます

氏の以前の作品で高原がレイの奥義使えたりするのは、高原自身にそういう才能があったからで納得できます
ネクストキックみたいな捏造合体技も既存の技を足して合わせるというシンプルさもよかったし、そういうのもクロスオーバーの醍醐味です
全然問題ないですし、むしろ素晴らしいとさえ思いました
けど、今回のドラゴンイメージやらヒーローイメージやらはアキラにそういう才能がある訳でもなく、事前に特訓していたとかいう描写もない極めてご都合主義的な技です

これを認めてしまうと、実質アキラに高原と同じようなラーニング能力があることになってしまいます

例:ピサロがマダンテを使う→マダンテイメージができるようになった とか

しかも高原は格闘技に関する能力だけラーニングできていましたが、イメージするだけのアキラでは格闘からハリケンショットみたいな飛び道具までなんでもありになります
また、ごく個人的な意見を言わせてもらうとアキラが旋牙連山拳とか使うところなんて見たくありません
氏の作中でも説明されてますが、アキラは身体能力は(高原たちに比べると)あまり優れてないというのがアキラの魅力の一つだと思ってますし

402 :創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 17:00:37 ID:fyUM8SDo
途中で送信してしまった

少なくともBだけはなんとかして修正して欲しいと思います
もちろん、氏の反論があるのでしたら議論スレにでも誘導してくだされば応じます

それでは遅くなりましたが感想を
ユーリル……お前ってやつぁ最後まで悲惨だったなw
ジョウイは邪魔者を体よく始末するわちょこたちのグループに潜入しようとか考えてて抜け目ないなやっぱりw
まとまってた対主催グループもいい感じにばらけさせることができたと思います。

403 :創る名無しに見る名無し:2011/02/18(金) 03:05:24 ID:zFsqLVGo
>>401
それ言うならアシュレーがロードブレイザー倒した話でもリルカの魔法やカノンの技使ってなかった?
あとアガートラームがないと使えないはずのアークインパルスもやってたし

404 :ドラゴンクエスト   ◆iDqvc5TpTI :2011/02/18(金) 03:15:41 ID:mTyWze87
>>401
指摘感謝します
そして、読み手の方及び、書き手の方、申し訳ありません
私は本作を敢えて修正せず、破棄させていただきます
続きを書きたいと思っていてくれていた方、面白いと思ってくれた読み手の方が、
いらっしゃってくれたのなら、重ね重ね、申し訳ございません

理由に関しましては、指摘された内の@とBがそれにあたります

まず破棄理由に入れていないAについてですが、これは、むしろ逆に、書き手として、この企画の為にも、肯定するわけにはいきません
システム面や制限面を理由とした不可能があるという意見を通してしまえば、他の書き手諸氏にも影響を与えてしまいます
ですので、この件に関しましては、破棄理由ではないことを皆様ご了解ください

Bにつきましては、事前プロットにはなかったものであり、氏の指摘される伏線の欠如や、私自身の至らなさは最もなことです
ですが、これだけなら、当初のプロットに戻せば、修正することもできました

破棄をする理由としたのは、@のユーリルの思考、及び、Bに関することです。
ユーリルとアキラの思考については、私はこうだと思った反面、自分でも思考停止・思考跳躍があるように思っていました
ただ、その思考停止・思考跳躍しているのではという意見自体が、「私個人の思い込み」という可能性もありました
ですが、私が抱いた危惧そのものを指摘されたということは、私個人の意見だけでなく、客観的に見てもそうだったという証拠となります
とはいえ、前述したように、私の中では、ユーリルとアキラはあのように想い、行動しました。
なので、修正できるものではないと考え、破棄させていただきます


405 :創る名無しに見る名無し:2011/02/18(金) 03:27:59 ID:qnsN+Gp7
意見書いているうちに破棄か
書き手さんがそう決めたなら俺は何も言わん
ただ荒らしたいわけじゃないが指摘の人には一言

批判や叩きじゃない指摘のつもりなら、
ファビョるとかヤバイとか、そういう文句は使うな
せっかくの指摘も喧嘩腰じゃダメだろ

406 :創る名無しに見る名無し:2011/02/18(金) 03:47:36 ID:+iLJpyss
破棄はもったいないですが、◆iD氏が決めたことなら仕方ないです
気を落とさずにまた頑張ってください

>>405
お前さんも喧嘩腰になってるから落ち着こうな


407 : ◆Rd1trDrhhU :2011/02/18(金) 04:10:26 ID:IL0WgKIS
破棄ですか。ご本人がそう決めたのならしゃーないっす。

ただ、Aに関しては俺も◆iDさんと同意見で、今回は問題にしたくはないかな。
そりゃあ明らかにおかしいのは問題だけど、キャラの強さってのは同じ書き手の話でも結構上下するもんなんだよ。
全ては面白くするためのもんだしね。
そこは多少なら目を瞑って欲しいってのはあるし、今までもそうしてきてたのが凄く居心地よかったな。
こればっかりは個人の感じ方だから、今回の指摘した方もそこらへんを踏まえて『疑問』って形で提示したんだろうけど。
あと、@に関しても、俺はあんまり気にならなかったかなー。

408 :創る名無しに見る名無し:2011/02/18(金) 04:13:51 ID:IL0WgKIS
なんか俺の発言にトリが見える気がするけど、それは幻覚だから。
本当にすいませんでした。忘れてください。ごめんなさい。

409 :創る名無しに見る名無し:2011/02/18(金) 12:09:32 ID:ZI36KcB/
なんだ、結構人がいるんだな
破棄に関しては残念だがお前ら人気投票スレに投票するのも忘れずにな!

410 :創る名無しに見る名無し:2011/02/19(土) 03:34:51 ID:Ztd144SJ
そういやもうそろそろ期限だもんな

411 :創る名無しに見る名無し:2011/02/20(日) 18:35:21.37 ID:dXFLK1gL
今回は破棄になったが落ち着こうよ、みんな
少しスレが荒れてるぞ
まだ慌てる時期ではない
ここで更に荒れて大荒れは嫌だぞ

412 :創る名無しに見る名無し:2011/02/20(日) 21:34:00.35 ID:SFnkFSzk
そんなことより投票行こうぜ!
あと二時間ちょいで期限だしね

413 :創る名無しに見る名無し:2011/02/20(日) 23:30:15.50 ID:EQxsrEyV
>>412
あっぶねー。サンキュー!

414 :創る名無しに見る名無し:2011/02/21(月) 00:11:04.27 ID:CzyCyD67
次回の人気投票開催が危ぶまれるほど投票数が少なくて心配だったが最後に大量に来たな

415 :創る名無しに見る名無し:2011/02/22(火) 21:21:21.71 ID:rLPf3OBb
投票集計してくれた方乙です!
第二回、第三回ともに一位の作品にケフカとビッキーが出てるんだな。
この二人、ある意味幸せかもしれんw

416 :創る名無しに見る名無し:2011/02/22(火) 22:02:32.01 ID:bqpiSHW0
>>415
書き込み時間が何気にすごいなw

417 :創る名無しに見る名無し:2011/02/24(木) 22:13:36.36 ID:/WvKmXcQ
 

418 :創る名無しに見る名無し:2011/03/04(金) 08:20:34.53 ID:A6CEXm+o
予約キタアアアアアアア

419 :創る名無しに見る名無し:2011/03/04(金) 11:36:26.13 ID:sjBdtfKU
ひいいいいひゃああああああああああああ!

420 :創る名無しに見る名無し:2011/03/12(土) 00:06:25.38 ID:hM0IV8rZ
地震で大変かもだし、今回は書き手さんは焦らないで欲しいな
うちは無事だったけど、他の住人さんが心配だ

421 : ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 07:39:50.56 ID:VvdyVqTF
お待たせしました。
今ようやく破棄した分の作品の執筆が終わりましたので、最予約してもよろしいでしょうか?

422 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 08:11:04.06 ID:DxWyGd2g
>>421
執筆お疲れ様でした! 再予約しても問題ないと思います。

423 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 08:52:40.51 ID:zmL0kooL
>>421
いいですとも!
楽しみにしてます!

424 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 09:47:34.01 ID:WY1+9FkE
>>421
おk

425 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 13:28:40.96 ID:/NR/QoWM
>>421
かまわん許す

426 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 19:10:25.19 ID:WY1+9FkE
>>421
投下時刻予告していただければ、支援できるかも知れませんが

427 : ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 19:51:32.84 ID:VvdyVqTF
みなさまありがとうございます。
それでは、改めてニノ、ヘクトル、ストレイボウ、マリアベルの予約をさせていただきます。
なお、投下時刻は22時を予定しております。
70kb前後ありますので支援をいただけるとうれしいです

428 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 21:58:10.77 ID:WY1+9FkE


429 : ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:01:23.10 ID:VvdyVqTF
お待たせしました。これより投下します

430 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:02:11.68 ID:WY1+9FkE


431 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:02:37.85 ID:VvdyVqTF
東の山に魔王あり…
邪悪な心 邪悪な力を持ち
邪悪な姿となりて…
すべてを憎むものなり。

西の山に勇者あり…
強い心 強い力を持ち
勇ましき姿となり…
魔王をうちくだかん…

それは輝ける栄光の物語。
ルクレチアという国に伝わる伝説。
それは緑豊かなルクレチアの国に実際に起こった出来事。

伝説より幾つかの年月が経った頃、新たな物語が幕を開ける。
ルクレチアに生まれし姫君、その名はアリシア。
透き通っているかのように白い肌、顔の造形はまるで神より祝福を受けたかと思わせるほどに整っていた。
長く伸びた睫毛、ぱっちりと開いた瞳、ピンと筋の通った鼻、りんごのように赤い唇、起伏に富んだ女性的な身体のライン。
楚々とした振る舞いに、あどけなさと男を引き付けてやまない魅力をふんだんに内包されている。
気立てもよく、将来は良き賢妻になることは間違いなしだろうとのもっぱらの噂だった。
彼女の美しさを讃えた詩は十はくだらない。 それはまさにルクレチアの至宝ともいうべき人物だった。
そのアリシア姫が、復活した魔王に攫われてしまったことから、話は始まる。
王宮内は騒然とした。
かつての勇者ハッシュは人を避けて隠棲し、手を貸してくれる見込みは薄い。
アリシアの安否とルクレチアの平和を脅かす魔王、二つの暗雲が立ち込め、戦う前から王宮内は精魂尽き果てたかのような雰囲気が漂う。

しかし、希望というのはいつだって生まれてくるものだ。
立ち上がったのが、オルステッド。
姫が攫われる前夜、武闘大会にて優勝し、アリシア姫と結ばれる資格を得た若者だ。
剣の腕は先日の大会での通りお墨付き。
アリシアと年も近く、精悍な顔つきと礼儀正しさも持ち合わせたオルステッドが魔王討伐とアリシア奪還に向けて起つという知らせを聞いて、ルクレチアの民は熱狂した。

あれこそがかつてのハッシュに代わる新たな勇者だ、と。
伝説の再現を期待する民は、こぞってオルステッドに駆け寄り、激励や賞賛の言葉を贈る。
オルステッドもまた、人々の期待に応えることを誓う。
人々の願いと希望を一身に背負い、勇者オルステッドは旅立ちは始まった。

これに付いていったのが、オルステッドの親友であり最大のライバルでもあるストレイボウだった。
ストレイボウもまた先の戦いでオルステッドに破れたとはいえ、準優勝。
その実力はオルステッドに比べても遜色は無い。
加えて、ストレイボウはオルステッドと違って魔術師だ。
オルステッドにできないことはストレイボウが、ストレイボウにできないことはオルステッドが、互いの長所を活かして進んでいく。
一人ではひとつのことしかできない。
しかし二人いれば大きな力を発揮できる。
親友二人は抜群の連携で、行く手を遮る魔物を次々と成敗していく。

途中、かつて勇者と言われたハッシュと、ハッシュと共に魔王を倒した僧侶ウラヌスも仲間に加わる。
老いたりとはいえ、さすがは勇者。
その剣技は現役のオルステッドになんら見劣りはしない。
ここにかつての勇者と新たな勇者が手を組み、魔王討伐にはもはや不安の種も後顧の憂いもなくなったと言っていい。
オルステッドとハッシュが斬り、ストレイボウが魔法で攻撃し、ウラヌスが癒す。
怒涛の進撃を見せるオルステッドたちの前に、とうとう魔王の住む根城が姿を現す。
辺り一帯に漂う悪意と瘴気で草も生えぬ、その茶色い肌をむき出しにした山は、人の侵入を頑なに拒んでいた。
しかし、勇者ハッシュとかつて魔王を切り裂いた剣、ブライオンにかかれば意味をなさない。
奈落の底のように口を開ける魔王山へ、勇者たち四人は己が武器を掲げ突撃した。

432 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:03:30.83 ID:VvdyVqTF
いざ進め! 魔王を倒し、アリシア姫を取り戻せ!

人骨の散らばる洞窟内で、人の肉に味をしめた魔物どもが十重二十重に包囲する。
バーンバルブは自爆による特攻で道連れにしようとし、ドラグノンはその強大な矮躯を持って爪や牙で攻撃してくる。
エントモフォビアは昆虫のような羽根を使って毒の粉を飛ばし、アヌビノフォビアはその特徴的な声色でこちらの感覚を乱す。
ホットビードルは大群で現れて体当たりを仕掛け、食人花フリーザインは冷気でこちらの動きを鈍らせる。
怪鳥リキッドストローは口から粘性の液体を飛ばし、闇の勢力に魂を売った男たちが刃物を持って襲い掛かる。
魔王山に住むだけあって、襲い掛かる魔物はひときわ強力なものばかりだ。
しかし、正義の旗を掲げる勇者たちを止められるものなどいない。
たった四人、されど、ルクレチアの誇る最強の四人だ。
少数精鋭で挑んできた勇者たちに対して、魔物たちはその屍の数を増やすことしかできない。
これは敵わぬと見た魔物たちは、算を乱したように押し合いへし合い逃げ出す。
小さな魔物は我先にと逃げる大きな魔物に踏み潰され、無駄に命を散らせる。
障害のなくなったオルステッドたちはさらに進み、ついに魔王のいる部屋へと続く扉を開けた。

魔王は醜悪な姿と、それに見合った強さを持っていた。
苛烈な反抗を見せる魔王に、オルステッドたちも並々ならぬ苦戦を強いられる。
しかし、正義と義憤の剣の前には、どんな悪とて勝機はない。
オルステッドは渾身の一刀にて魔王の体に亀裂を走らせ、ストレイボウとウラヌスも援護する。
そしてついに勇者ハッシュの奥義デストレイルが炸裂し、魔王は断末魔の叫び声を上げて消滅した。
こうして魔王は再び勇者によって倒され、ルクレチアには平和が戻ったのでした。めでたしめでたし。



◆     ◆     ◆



「……それがどうかしたのか?」
「……」

口を動かすのを止めたストレイボウに、マリアベルが問いかける。
話している間、ストレイボウは顔を伏せ、その表情を一切マリアベルに見せないようにしていた。

「その話とオディオに何の関係があるのじゃ?」
「……」
「第一、今の話を聞いてただけでは、お主には落ち度はないではないか」
「……」

ぽたり。ぽたり。
樹木の葉に残されていた雨の雫が、いくつもの音を立てて地面に落ちる。
しかし、どれほど待ってもストレイボウは口を閉ざしたままだった。
そのまま、マリアベルは立ち尽くして、さらなる言葉を待つ。
零れ落ちる雫の音をなんとなしに数えてはいたが、何時になっても話は続けられない。
大抵のことなら、マリアベルもイスラたちとの合流を先にすませようとして、話を打ち切っただろう。
話しにくいなら、後でいくらでも聞いてやるといって。
だが、ストレイボウの口から語られた言葉はあまりにも衝撃的だった。
ようやく、オディオとは何者なのかという糸口を掴む機会が来たのだ。
安易に話を遮るのは得策ではない。
ストレイボウも、口を開けては何かを言おうとし、されど何らかの感情が邪魔をして声には出せないということを繰り返している。
それは、ストレイボウが過去の何らかのしがらみと戦っているからに違いない、そう思ったマリアベルは辛抱強く待つことにした。
どれほど時間が経ったかは分からぬが、ようやくストレイボウは話を続けた。

「ああ、ここでこの話は終わっていればよかったんだ」
「……」
「そうすれば、これから先の人生も、醜くて卑怯な自分となんとか折り合いをつけて生きていたんだろう。
 オルステッドのライバルとして、これからも生きていけたんだろうさ。 でも――」
「そうはならなかった。 そうじゃな?」

433 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:04:48.95 ID:VvdyVqTF
項垂れたまま、ストレイボウは首を縦に振った。
功名心と嫉妬と愛憎に突き動かされ、犯してしまったストレイボウの罪。
永劫に許されることのない、贖罪の日々の始まり。
今、初めてそれがストレイボウの口から第三者に語られる。








                   話はまだ続く。
             これからがストレイボウの罪の始まり。
          友を裏切り、ルクレチアを滅ぼす切っ掛けの始まりだ。








さて、魔王を倒したものの、囚われの身であるはずの愛しきアリシア姫はどこにもいない。
おまけに、あんな雑魚が魔王のはずがないとハッシュは言い出す始末。
何から何まで謎だらけな今回の顛末に一同が首を傾げていた頃、ハッシュが不意に倒れた。
なんと、ハッシュは病の身を押してまで、此度の戦いに参加していたのだ。
吐血するハッシュは最後にブライオンをオルステッドに託し、静かに息を引き取った。
偉大なる勇者の死に、オルステッドもウラヌスも涙する中、ストレイボウだけがあることに気づいた。
魔王を象った彫像に、抜け道が隠されていることに。
その先には必ずやアリシア姫がいるということもすぐに推測できた。

そこで、ストレイボウは決心した。
いや、それまで押さえつけていた感情がついに爆発した。

ここでオルステッドに抜け道を教えて、見事アリシアを見つけて帰還しても、自分はオルステッドのお供でしかない。
オルステッドは輝かしい未来が保証されているのに、自分は精々何らかの褒美か地位が貰えるくらい。
それでいいのか?
このままオルステッドの引き立て役のままでいいのか?
生涯オルステッドに負けっぱなしでいいのか?
それでもいいというのは、負け犬の台詞ではないか。
ストレイボウの人生の目標は、オルステッドに勝つことだと言ってもいい。
血の滲むような努力を何年も、オルステッドに勝つためだけに繰り返し続けてきたのだ。
このまま負け続けることを是とするは、ストレイボウという男の全否定になるではないか。

ストレイボウはオルステッドのことをライバルだと思っている。
しかし、オルステッドにしてみれば、ストレイボウはそもそもライバルですらないかもしれない。
いつも自分に勝負を挑んでは負ける、歯牙にもかける必要の無い雑魚でしかないと思っていたら?
そこまで想像して、総身が屈辱と恐怖で打ち震えるのを、ストレイボウは感じた。
考えてみれば、今までストレイボウが勝利したことは無いのだ。
いつもオルステッドは勝ち続け、いつもストレイボウは負け続ける。
切磋琢磨し続けることこそがライバルの条件ではないか。
負け続けるストレイボウと、勝ち続けるオルステッドの関係はライバルではないかもしれない。

434 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:04:55.42 ID:WY1+9FkE


435 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:05:47.67 ID:VvdyVqTF
即ち、オルステッドとストレイボウがライバルでいるためには、ストレイボウもオルステッドに勝つことがあると証明しなければならない。
オルステッドが自分を対等の立場であると認めるのには、勝たないといけないのだ。
あの日の涙を思い出せ。
武闘大会でオルステッドに負けて、その夜を泣いて過ごしたことを。
何時の日か、やがて何時の日かはと願い、修行を重ねながらもついぞオルステッドに勝てなかった悔しさを。
そうだ、これは正当なる権利。
武術大会では優勝者にアリシア姫と結ばれる権利が与えられた。
今はそれが白紙に戻った状態だと考えろ。
ならば、いの一番に姫を助けた者にこそ、愛の言葉を囁く資格があるのだ。
アリシア姫がストレイボウを選ぶかオルステッドを選ぶかは自由だ。
しかし、アリシア姫にこの想いを伝えることができなかった数日前よりは、アリシア姫の選択肢の内に入る分マシだと言える。

今なら誰も気づいていない。
ならば、自分一人でアリシアを救出し、オルステッドを出し抜こう。
負けることの悔しさを知らない親友に、敗北の二文字を噛み締めてもらおうじゃないか。
敗北と挫折という言葉とは生涯無縁であろう男に、人生の厳しさを教えてやろうじゃないか。
功名心と嫉妬と愛憎が入り混じった感情に後押しされて、ストレイボウは動き出す。
そして、ストレイボウは、その決断がどういう事態を招くか知らずに、ついに裏切りの道へと手を染めた。

◆     ◆     ◆

「そして、俺はオルステッドを裏切った……」
「……それで終わりではあるまい?」

それだけでは、この話は終わらない。
この話は、もっと深い部分にまで食い込んでる。
マリアベルは、話の流れからそれを予感していた。
これで見事ストレイボウはアリシア姫と結ばれ、哀れオルステッドは失意の内にこの世を去った。
そんな結末が待っているとは、到底思えなかった。
もっと救いようのなく、誰も幸せになれなかった結末があるに違いない。
マリアベルは、それを肌でひしひしと感じていた。
ストレイボウはマリアベルの言葉に首肯すると、言葉を続けた。

◆     ◆     ◆

それまでの自分では考えもつかないようなことが次々と浮かんできて、ストレイボウはそれを片っ端から実行した。
まずは落盤事故を装い、自分が死んだと思わせるところから始まる。
自由に動けるようになったストレイボウはオルステッド達の後ろをこっそりとつけ下山し、ルクレチアまで帰還した。
そして、寝ているオルステッドに幻覚を見せ、王殺しの罪を負わせる。
異変を察知して謁見の間に入ってきた兵士の目には、血まみれで倒れた王と、血に濡れた剣を持ったオルステッドの姿。
これ以上の証拠はない。
大臣を始め兵士一同がオルステッドを糾弾し始めた。
さらに一体何が起こったのか自分でも分からないといった顔のオルステッドに対して、誰かが呟く。

まさか、ハッシュとストレイボウもオルステッドが?
ならば、オルステッドこそが人の皮を被った魔王では?

誰から漏れたともしれぬその呟きはあっという間にその場にいる人間全てに伝播し、オルステッドこそが魔王だという推論は真実へと摩り替わった。
勇者だ英雄だと持て囃していた民衆でさえも、掌を返したようにオルステッドを魔王だと言いはじめた。
魔王の烙印を押されたオルステッドは、這う這うの体で逃げるようにルクレチアから逃げ出す。
この結果はストレイボウも予測し得ない出来事だった。
王殺しの罪を着せることが目的だったが、まさか魔王の嫌疑までかけられるとは。
そこで、ストレイボウの愉悦は最高潮を迎えた。

あのオルステッドが、落人のように逃げ惑っている。
あのオルステッドが、訳が分からないと言った表情になっている。
あのオルステッドが、誰よりも勇者にふさわしき器を持った人物が、こともあろうに魔王の疑いをかけられている。

436 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:06:59.80 ID:d/4302S0


437 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:07:38.32 ID:WY1+9FkE


438 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:07:50.56 ID:pWF88x7D


439 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:07:51.11 ID:VvdyVqTF
いい気味だった。
たまらなく愉快だった。
どうしてもっと早くこうしなかったのかと悔やまれた。
こんなに笑ったのは生まれて初めてだと言えるほど、腹を抱えて笑った。

あれこそが、ストレイボウが渇望してやまなかったオルステッドの姿。
今までストレイボウがどんなに魔法で勝負をしても、見ることのできなかった表情だ。
オルステッドは今、地面に倒れ土の味を噛み締めている。
今すぐ、駆け寄って直に言ってやりたかった。
敗北の味はどうだ、誰からも理解を得られず一人彷徨う気持ちはどうだと。
お前はいつもこうやって俺のことを上から見下ろしていたんだ。
こうやってお前はすまし顔で敗者を踏みつけ、顧みようともしなかった。
お前には、負けるものの気持ちなど分かりはしないんだと。

あとは頃合を見計らってアリシア姫を伴って、ルクレチアに凱旋するだけでよかった。
死んだと思われたストレイボウが実は生きていて、アリシア姫も連れて帰った。
それで、今回のオルステッドとストレイボウの勝負はストレイボウの勝利で終わり、ストレイボウこそが勇者だと言われるだろうと。
しかし、それで話は終わりではなかった。

なんと、オルステッドは僧侶ウラヌスの助けを借りて、再び魔王山までやってきたのだ。
何時になっても、自分の邪魔ばかりするオルステッドのことが憎らしくて仕方なかった。
全てを奪ったはずなのに、崖っぷちの境遇に立たされても信じてくれる仲間に恵まれているのが忌々しかった。
やはり、勝負をつけるのは策謀ではなく、互いの剣を交えることしかないということか。
今こそオルステッドの引き立て役だった過去に訣別し、人生の主役になるべき時がきたのだ。
そしてストレイボウはオルステッドに全ての種明かしをした後、生死をかけた最後の勝負に挑むのだった。

『あの世で俺にわび続けろオルステッドーーーーッ!!!!』








                  話は終わる。
             これこそがストレイボウの罪の始まり。
          ここからストレイボウは長い時を、冷たい空間で過ごす。









「勝負には、当然負けた」
「……」
「今まで負け続けていたんだからな。 今回だけ勝てる理由はない」
「……して、魔王オディオとは一体何者なのじゃ?」

話を聞き終えたマリアベルの一番の疑問はそこだった。
ストレイボウの話には魔王オディオの影も形もないのだ。
ハッシュなる勇者が倒した魔王こそがオディオとは到底思えない。
マリアベルはこれに、ある仮説を立てていた。
一つは、全ての背後に、ストレイボウさえも気づかぬところで魔王オディオが暗躍していたという説。
そして、もう一つ。
しかし、もう一つの説はストレイボウの口から直接聞くまでは、どうしても口にはしたくないという思いがあった。
それは考えられる限り最悪で、どうしようもなく救いようのない仮説なのだから。

440 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:08:01.08 ID:cNOm9S94


441 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:08:31.02 ID:cNOm9S94


442 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:08:45.06 ID:cNOm9S94


443 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:09:40.52 ID:WY1+9FkE


444 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:09:43.84 ID:VvdyVqTF

「オルステッドのことだ……」

ああ、やはり。 そう思わずにはいられなかった。
もう一方の仮説の方が当たりなら、どれほどよかったことだろう。
それなら、ストレイボウも道化となって操られていただけだ。
そなたには何の咎もないのだから、力を合わせてオディオを倒そうと、そう言う準備までマリアベルはしていたのだ。
しかし、ストレイボウの口から語られた真実は、そんな甘い想いすら容易く壊すほどに残酷なものだった。

「オルステッドは仲間を失い、国に裏切られ、友に裏切られ、そして愛する人にまで裏切られ、全てを失った。
 帰る場所も、帰りを待つ者もいなくなったオルステッドは自分こそが魔王になることで、人間の愚かさを思い知らせようとしたんだ……」
「当り前じゃッ!!」
「……」
「オルステッドは、国に追われ、仲間が死んで、それでも親友のお主のことだけは信じていたのじゃッ!!
 それくらい、わらわにも分かるわ。 信じていた分、裏切られた時の憎しみも強くなるのじゃッ!」
「ああ、そうさ。 けど、当時の俺はそんなことも分からなかったんだ……」

今にして、ストレイボウは思う。
アリシア姫は優しすぎたのだ。
だから、オルステッドに何時までも勝てないのが悔しいと、その思いを吐露したストレイボウに同情してしまった。
オルステッドが国を追われた立場であることなど、アリシアは知りはしない。
最後までオルステッドに勝てなかったストレイボウの悔しさと惨めさだけを知っていた彼女は、ストレイボウの傍にいるため、自刃して果てたのだ。
それが、最後に残された希望を救おうとしていた、オルステッドの拠り所を完膚なきまでに粉砕すると知らずに。
そして、魔王を名乗ったオディオは手始めにルクレチアの人を全て惨殺した。
オルステッドこそが魔王だと言ったルクレチアの人々の言葉は、最悪の形で実現されたのだ。
大臣も、兵士も、貴族も、平民も、男も、女も、老人も、赤子も、全て残らず皆殺しだ。
それだけで飽き足らなかったオディオは、今回の殺し合いを思いつき、50人近くの人間を呼び寄せたのだ。
ルクレチアにいた人間の中で、ストレイボウだけが新たな命を得て。

「だから! ブラッドもロザリーも他の皆が死んだのも、全部俺のせいなんだ……ッ!」

頭を抱えて濡れた地面に膝をつく。

「酷いだろう? 憎いだろう? 許せないだろう? お前の目の前にいる男は、お前が仲間だと言ってくれた男は、全ての元凶なんだ」

ブライオンを、かつて勇者の使った剣を地面に差す。

「30人以上も人が死んだのに、こうして俺だけはまだのうのうと生きているんだ!」

両手を腰の後ろに回して、手を繋ぐ。

「だから、俺を殺してくれ」

頭を垂れて、マリアベルに首を差し出す。

「俺を裁いてくれ」

それは、断頭台の露に消える前の罪人のような姿勢だった。

「そのブライオンは勇者の剣だ。 女の細腕でも必ず罪人の首を跳ね飛ばしてくれる」

445 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:09:53.73 ID:pWF88x7D


446 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:10:26.86 ID:d/4302S0


447 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:11:12.05 ID:VvdyVqTF
もう、逃げ回るのは止めだ。
マリアベルが終わらせてくれるのならば、それに越したことはない。
何もかもが手遅れだったのだ。
贖罪だの友を救うなどと、体のいい言葉を使って罪から目をそらしてきた結果がこれだ。
サンダウン・キッドにアキラとの関係を聞かれた時、答えられなかったのが何よりの証拠だ。
いつか話すだと? いつかとは一体何時のことなのだ?
いつかは話すと、自分にいい聞かせてはいたが、とどのつまり自分は正直に言うのが怖かったのだ。
真実を語って糾弾されるのが怖かったのだ。
カエル一人止めることもできず、いたずらに死者は増えるばかり。
オルステッドを裏切った理由も、逆恨みもいいところだった。
誰がこんな男を許そうと思おうか。
誰がこの男に同情などするだろうか。
こんな救いようのない男は早く死んだ方が世の中のためなのだ。
誰かを傷つけることしか出来ないのなら、死んだほうがいいのだ。
だから、首を差し出したまま、ストレイボウは、マリアベルの裁きを待つ。

「よかろう」

しばし、逡巡していたマリアベルだが、ブライオンの剣を取る。
両手でしっかりと握られた剣を、ストレイボウの首の少し上で止める。
それから、ゆっくりと、高々とブライオンを掲げる。
後は振り下ろせば、ストレイボウの首と胴体は綺麗に生き別れになるだろう。

「ノーブルレッドが一人、このマリアベル・アーミティッジがお主の罪を裁こう」

夜の光を受けて、マリアベルは毅然とした表情で言った。
被告はストレイボウ、断罪するはマリアベル。
処刑とは見せしめのために行われる意味合いも強いが、今回の処刑はたった二人だけしかその場にいなかった。
あるいは、イスラたちの下で裁こうとしないのは、最後に自白したストレイボウへの情けなのか。
どっちでもいいかと、ストレイボウは思った。
どちらにせよ、これで死ねるのだ。
それが、贖罪を行うまでは死ねないと言い聞かせてきた、自分に対する裏切りだとは知っていても。
後は元の通り、あの冷たい空間に戻り、永劫に罪悪感に苛まれる日々が続くのだ。
それが、友を裏切り全てを滅ぼす切っ掛けを作った男への罪状なのだ。
きっとオディオは償おうとしても結局何もできないのだという、無力感を刻みつけるためにストレイボウに二度目の命を与えたのだ。

月の光を受けて白く輝くブライオン。
ノーブルレッド特有の真紅の瞳。
赤と白、二色を光らせるマリアベルはブライオンを振り下ろす前にストレイボウに問うた。

「お主は、オルステッドを策謀に嵌めるのが楽しかったか?」
「……ああ。 楽しかったさ」

それは偽りようのない事実だ。
今でも、その時のことを思い出すと、楽しいと思ってしまう感情が鎌首をもたげてくる。
今でこそ、倫理観と罪悪感でそれは絶対に楽しいと思ってはいけないと抑制しているが、あの時の自分は確かに喜び、楽しんでいたのだ。

「お主は何故今になってそれを喋る?」
「……もういやなんだ」

448 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:11:33.55 ID:cu4BzGYy
支援

449 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:12:13.28 ID:VvdyVqTF
喉の奥から絞り出すような、憔悴しきった声だった。
体が凍えるように寒かった。
雨に打たれたためというのもあるだろうが、それ以外の要因も絡んでいることは間違いない。
参加者は次々と死に、何の罪もない半数以上の人が死んだのだ。
オディオを生んだのはストレイボウのせいだ。
ならば、今回の殺し合いで死んだのは、結果的にストレイボウが殺したも同然なのだ。
例えオディオがどういう思惑でストレイボウを生き返らせようと、無下に死んではならぬと言い聞かせた。
贖罪をするまでは死んではならぬと心に命じ続けてきた。
それこそが自分の生きる意味であり、生きながらえる義務なのだから。
真実を打ち明けることで、他の人からどういう誹りを受けようと、それが自分の罪なのだと戒めてきた。
しかし、カエルとは道を違えたばかりか、未だに元の道に引き返させることすらできぬ有様。
今こうやって勢いに任せて言ってしまうまで、真実を打ち明ける勇気すらなかったのだ。

その上、何もしらないマリアベルたちは優しい言葉をかけるばかり。
真実を隠して、優しい言葉だけを受け取る自分が、とてつもなく卑怯に思えた。
仲間だと言われて、癒やされてしまうことが嬉しくて、そして許せなかった。
誰よりも罪を意識しているストレイボウだからこそ、簡単に許されてはいけないと思いこむ。
結果、慰めや励ましの言葉でさえ、重荷になるのだ。
これで心を強く持て、自信を持てという方が無理な話だ。
死者の名前を告げられる度に、罪悪感で頭がおかしくなりそうになった。
目を閉じるだけで、死んだ人たちの罵倒の声さえ聞こえそうだった。
寝ることさえ、死者たちが夢に出てきそうでできなかった。
罪の十字架を背負ってきたが、ついにその重さに耐えきれずに潰されてしまう。
何一つ目的を果たせない自分の弱さと、罪悪感でもはやストレイボウの軋む心は限界を迎えていた。

「もうこうやって、おめおめと生き恥をさらすのが限界なんだ……」

罪人は罪人らしく、裁きを受けるべきだ。
死んだ30人以上の人はこんなところで死ぬべきではなかった。
こんな不条理な出来事に付き合わされる必要は皆無だったのだ。
納得して死んでいった人、納得して殺し合いに乗った人は一割にも満たないだろう。
きっと、死んでいった人たちは明日の予定も来週の予定もあったに違いない。
誰もが、何の迷いもなく明日を生きていていい人たちばかりだったのだ。
ブラッドも、ロザリーも、サンダウンも、シュウも、ルッカもだ。
誰もがこんなところで理不尽に死ぬことに、怒りと絶望を感じていたに違いない。
なのに、無辜の人々が何の意味もなく、やりたいことを遺して理不尽に死んでいく中で、どうして元凶の自分だけはやりたいことをできると思っていたのか。
思い上がりも甚だしい。
変わると決めた癖に、何一つ成し遂げてない男が何を言うか。
どうすれば罪を滅ぼせると、どうすれば、などと考えていることすらそもそもの間違いだったのだ。
すぐに死ぬことこそが贖罪なのだ。
ストレイボウはもう、そうとしか思えなくなっていた

「だから、もう殺してくれ……ッ!」

それはもはや懇願に近い想いだった。
火あぶりにされるのなら、それでいい。
このまま首を断たれるのなら、それでもいい。
とにかく、一刻も早くこの醜く生にしがみつく罪人を殺して欲しい。

魔王になったばかりのオディオが、ルクレチアに住む人全てを殺しつくす情景を思い出す。
やっぱりオルステッドが魔王なんだと言って逃げ惑う人々に対して、違うと言ってやりかたかった。
全部自分のせいなんだと、誰かに伝えたかった。
しかし、それは叶わず、あの空間に魂を縛られたルクレチアの人々は、今でもオディオこそが魔王だと信じて疑ってない。
友を裏切り、名誉を穢したのは他ならぬ自分であるのに、オディオこそが魔王だと言われるのが悔しかった。
悔しいと思う資格すらないのだとは知りつつもだ。

450 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:12:14.42 ID:pWF88x7D


451 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:12:16.54 ID:WY1+9FkE


452 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:12:42.37 ID:/NR/QoWM
支援

453 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:12:50.38 ID:d/4302S0


454 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:13:05.32 ID:VvdyVqTF
「最後に、もう一つ答えよ……」

冷たさを持ったマリアベルの声が頭上より降ってくる。
マリアベルの表情はストレイボウからは窺い知れない。
しかし、その声の冷たさだけでマリアベルの怒りは容易に想像がついた。
それは当然の反応と言えるのだから。

「オディオに何か言うべきことはあるか? 可能なら、わらわが相見えた時に伝えようぞ」
「……ッ! 謝りたいんだッ!!」

即答に近い答えだった。
何故なら、それは自分が胸の内に閉まっておいたものだから。
いつしかその言葉を言う機会が訪れたときに、いつでも言えるように。
オディオに会えた時に、真っ先にその言葉を言いたかったからだ。

「けど……もうできない……。 もう俺には、そんな資格はないんだ……ッ!」

誰もが死なず、オディオのとこへ行けたのならあるいは、それを口にする資格もあったかもしれない。
だが、誰一人救えない時点で、そんな資格は消え去ってしまったのだ。
30人以上が死んでしまったけど、元凶のストレイボウは謝って許されました、めでたしめでたし。
死んでしまった人間の誰がそんなことを許すだろうか。
亡者の嘆きが今にも聞こえてくるかのようだった。
そんなことは許さない、お前はそんな言葉を口にする資格すらないのだと。
苦しみぬいて死ぬことこそが義務なのだと。
死者の念にとり憑かれたストレイボウは、贖罪の念が強すぎたためにそれを振り払うことができない。
そうして、24時間以上に渡って苦しんだストレイボウの心は、ついに折れてしまったのだ。

「お主の覚悟、確かに受け取った。 わらわが介錯してやろう」

重い口をマリアベルが開く。
問答はそれで終わりだという具合に、それ以上マリアベルは喋りはしなかった。
マリアベルは心の中で思考する。
たしかに、ストレイボウの語った真実は衝撃的であった。
ストレイボウが常に何かについて頭を悩ませていたのは周知の事実だ。
大方カエルについてであろうとは思っていたが、まさかオディオのことについてもだったとは、さしものマリアベルも思いもよらぬ事であった。
ロザリーたち異郷の者と出会えたことは得難い機会であり、また幸運ではあったが、ストレイボウの罪は見過ごすことはできない。
ストレイボウが罪の呵責に苛まれていることを差し引いても、償いたいと思っていても、情状酌量の余地は無い。
それが、中立の立場から見た、冷静で客観的なマリアベルの意見だった。
ファルガイアの法に照らし合わせても、万死を以って償うしかあるまい。

「ありがとう……皆にもすまなかったと伝えてくれ」

頭を垂れたまま、ストレイボウが言う。
これから死ぬことに対して、ありがとうと言ったのだ。
変な情に流されることのない人物を選んだ、ストレイボウの目は確かだったのだ。
これで、ようやく終われる。
こうして待っていれば、マリアベルがストレイボウの首を断ち切ってくれる。
それは、死こそが救いであると信じたストレイボウへの救済でもある。
死ぬまでのわずかな時間すらも、贖罪の言葉を胸に抱く。
そして、死んだ後もあの空間に戻って、いつしかこの魂が消えてなくなるまで、贖罪の言葉を述べ続けるのだろう。
終わらない罪を課せられて。
購いきれない罰に怯え続けて。
それが如何に報われないことかを知っていつつも、そちらの方がいいとさえ思う。
下手に望みを持つから、もしかしたら許されるかもしれないと思ってしまうからいけないのだ。
それなら、最初から救済も謝罪の言葉が届くことがないと分かりきっている場所にいた方がいい。
悲鳴を上げて軋む心をこれ以上傷つけなくて済むのだから。

沈黙の時間が長く続く。
それを、ストレイボウは粛々と受け止める。
いつ死ぬかも分からない無言の時間を、ストレイボウはただ黙って待つ。

455 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:14:39.94 ID:/NR/QoWM
 

456 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:14:45.48 ID:VvdyVqTF
なのに。
いつまで経っても。
断罪の剣は振り下ろされない。

待つことに慣れたストレイボウも不審に思い、顔を上げる。
すると、マリアベルがブライオンを下ろし、地面に捨てたのだ。
何故と聞こうとするストレイボウよりも先に、マリアベルが口を開く。

「……お主は死ぬべきであっただろう。 じゃが、わらわにそれを裁く権利はない」

マリアベルはずっと考えていたのだ。
ストレイボウを殺すべきか否かを。
公平な視点から見たストレイボウの悪行は罰せられるべきである。
それは何度も考えた上での結論であるし、間違っていないとも信じている。
しかしながら、マリアベルは今回のオディオの完全な被害者とは言いにくい部分もある。
そう、マリアベルは中立ではないのだ。
どちらかというと、今回の件で恩恵を受けた部分もある。
それはアナスタシア・ルン・ヴァレリア。
ノーブルレッドの知恵と科学ではどうしようもない、故人との再会を果たすことができたのだ。
アナスタシアはマリアベルの大切な友人だ。
その別れの際の悲しみがあまりにも強く、以後友は二度と作らないと決めたほどに。
たとえどのような状況であろうと、こんな殺し合いの中だろうとマリアベルはそのアナスタシアと奇跡の再会を果たすことができたのだ。
アナスタシアとはロクに言葉は交わしてない。
久しぶり、とかも元気だった?とか、そんなありきたりな言葉さえ言えなかった。
最初に言うべき言葉はもっと違う言葉を想像していたのに。
死者には二度と会えぬと知りつつも、マリアベルは悠久の日々の中で何度となく妄想していたのだ。
もしも会えたらどんなことを話そうか。
どんな言葉を交わそうかと。
生憎、アナスタシアは生への渇望が強すぎるため、ユーリルを陥れるような真似をしてしまった。
そのことに関する問いかけしか、マリアベルはアナスタシアと言葉を交わしてないのだ。
その点についてはイライラするし、むしゃくしゃもする。
二人はもっと違う言葉を交わさないといけないのはずなのに、何故数百年ぶりの再会がこんな形になってしまったのかと。
けれど、会えたことは純粋に嬉しい。嬉しいのだ。
その点で、マリアベルはある意味ストレイボウのおかげで再会できたと言える。

「それにな、わらわの仲間がお主のことを知ったらどういうかも考えたのじゃが……」

ARMSのメンバーは、もしもストレイボウの言葉を知っていたらどうするかも考えていた。

「なのにな、どいつもこいつも皆、一貫してお主のことを許そうというのじゃ」

面映いような、そんな笑みを浮かべてマリアベルは、力尽きた友と、今も生きている友のことを考える。
リルカはきっと、間違いなんて誰にでもあると言う。
カノンはきっと、罪を犯して悔い改めないことこそが罪だと言う。
ブラッドはきっと、中途で倒れることは、始めからなにもしないことと同じだと言う。
アシュレーはきっと、自らの過ちを知り、償う決心したのなら僕らはもう仲間なんだと言う。

「わらわの仲間は、ここに連れてこられたことに対して怒ってなどいない。
 むしろ、お主や他の者に会えたことが嬉しいと言うだろうわさ。
 否定してくれるでないぞ? 否定は即ち、わらわの仲間が狭量であるという侮蔑に繋がるからな」

どいつもこいつも、筋金入りで極めつけのお人よしだ。
でも、それがアナスタシアと別れて以降、初めて作ったマリアベルの友なのだ。
マリアベルが胸を張って仲間だと言える、誇り高き絆の力を持った者たちなのだ。
アナスタシアとARMSのメンバー、双方のことを考えた結果、マリアベルにストレイボウを裁く権利はなしと判断したのだ。

457 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:15:09.02 ID:d/4302S0


458 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:15:37.49 ID:pWF88x7D


459 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:15:49.51 ID:/NR/QoWM
 

460 :英雄伝説『黒き魔王』 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:15:51.67 ID:VvdyVqTF
ストレイボウは呆けたような表情でマリアベルの言葉を聴き続ける。
まるで信じられないとでも言うかのように。
マリアベルの言葉はそれほど意外なものだったからだ。
諭すような、不思議と安らいでしまうような、そんなマリアベルの柔らかな声が続く。

「だから、お主は生きよ……。 生きて、贖罪を続けよ。
 それこそがお主に課せられた罪であり、宿業なのじゃろう……。
 わらわも、お主が贖罪を続ける限り、仲間でいることを誓おう。
 誰かがお主を責め、あるいは批判しようとも、お主が贖罪にその生を費やす限り、わらわはお主を守ろうぞ」
「違う、違うんだ……俺にはそんな優しい言葉をかけてもらう資格なんてないんだ……」

それでも首を振って、ストレイボウはマリアベルの言葉を拒絶する。
自分は誰にも許されてはいけないんだと、あくまでそう思い続ける。

「異なことを言う。 ならば何故お主は泣く?」
「ッ!?」

気づかされてしまう。
大粒の涙が溢れている。
嗚咽で声が震えている。
そうなのだ。
先ほどから、それはストレイボウの意思と関係なく頬を濡らしていた。
それは今までストレイボウが流したどんな涙とも違っていた。
体中が今までにない感動で打ち震えた。
許されてはいけないと、ずっと思っていた。
あの空間でずっと一人で佇んでいたときから。
自分の罪の重さを知るが故に、誰にも優しい言葉をかけてもらってはいけないと自分で自分を追い込んでいた。
ストレイボウは生涯自分を許しはしないし、許されることも望んではいなかった。
けれど、心の中ではどれだけ戒めていても、意地を張っても肉体は嘘をつけない。

「まったく、大の大人が泣くでないわ。 みっともないぞ」

そう、今この体に流れ続ける涙が物語っている。
自分は心の中で、誰かに許されたいと思っていたのだ。
それが、決して許されないと知っていても、誰かに慰めてほしかったのだ。
ずっと、あの日からずっと待ち望んでいた言葉を聴くことができた。
出口の見えない贖罪の迷宮に当てられた初めての光。

「ありがとう。 ありがとう……。 本当にありがとう」

屈辱でも、後悔でもない、それらのものと無縁の感情で流れた涙は、ただ熱かった。
雨に濡れた冷たい体を、涙が暖める。
何も始まっていない。
何も終わっていない。
マリアベルは許さざるをえない事情があっただけだ。
謝罪する人間はまだ10人以上残っている。
オディオの下へ到達する手段を見出した訳でもない。
やるべきことは何一つ片付いていないのだ。
だが。
今、隠し事もやましいこともつまびらかに全て話し、その上で許された男は、マリアベルの前で涙を流す。
それは、熱く清清しい、暗夜に灯を見るがごとき心地の涙だった。
ずっと救いを求め続けた男の心が、満たされた瞬間でもあった。

461 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:16:26.01 ID:/NR/QoWM
       

462 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:17:05.32 ID:d/4302S0


463 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:17:11.13 ID:WY1+9FkE


464 :Running to the straight ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:18:02.50 ID:VvdyVqTF
「何それ?」

期待外れな展開に、失望の声を上げる。
幼き魔道士は姿を現し、怒りの眼差しをストレイボウに向けた。
それはマリアベルもストレイボウも知っている人物であり、しかし今まで二人には見せたことのない表情を見せている。
憤然とした表情で近寄る少女――ニノは、殺気立った気配を隠そうともせずにストレイボウにぶつけていた。

「おい、ニノ」
「ヘクトルは黙ってて!」

後ろから肉厚な鎧を纏ったオールバックの男――へクトルが出てくる。
しかし、ニノはヘクトルの制止を振り切り、目を血走らせストレイボウを睨み付ける。

「聞いておったのか……」
「ああ、割と前からな。 黙っててすまねえ」

マリアベルとヘクトルのやり取りでさえ、ニノは聞いていない。
ただ、今にも飛び掛らんばかりの形相で、クレストグラフを握り締めていた。
ストレイボウは先ほど流していた涙をピタリと止まっていた。

「みんな、みんなお前のせいなの!?」
「う、あ……ああ……」

射抜くような、いやそれ以上の激情がニノの中で暴れているのが目に見える。
蛇に睨まれた蛙のごとく、ストレイボウは固まった声を出すことしかできない。
今日まで真実を打ち明けることをストレイボウが躊躇っていたのは何故か。
それはストレイボウも恐れていたからだ、
お前のせいでみんな死んだのだと、責められるのが怖かったからだ。
マリアベルはストレイボウが顔を伏せていたのもあって、表情を窺い知ることはなかった。
しかし、今度は真正面から直接、ニノのストレイボウ憎しの感情をぶつけられているのだ。
それは紛れもなく、ストレイボウが経験したあの黒い感情、憎しみに違いない。
謝罪の言葉も忘れたストレイボウは、弁解もできずにその場を動くことができずにいる。
ストレイボウが何も言わないことに業を煮やしたニノは、今度こそクレストグラフに魔力を集め始めた。
だがしかし、さすがにこれは慌ててヘクトルが手刀でクレストグラフを弾き飛ばして、動きを抑える。

「何で!? 何で邪魔するのヘクトル!」
「それは駄目だ」
「どうしてっ! フロリーナとリンとロザリーさんが死んだのはこいつのせいなのに!」
「それとこれは別問題だ。 いいから少し落ち着け」

マリアベルとストレイボウの会話を見て、様子を見ると決めたのはヘクトルの方だった。
それにはちゃんとした理由がある。
ストレイボウに償いの意思があるのなら、マリアベルの代わりにストレイボウを許すつもりだったからだ。
それこそがヘクトルの築こうとしている理想のオスティア。
語ることのできない過去を持った人も、脛に傷を負った人も、これから真っ当に生きると決めた人も受け入れる理想郷を作りたいと願っているからだ。
最悪、そのことで今いるパーティーともめてストレイボウと共に殺しはされないが放逐されることになっても、構わない。
そして、ニノの愛するジャファルにも関連があるからだ。

「なら、ジャファルはどうなる!?」

尚ももがくニノに、ヘクトルは決して無視できない名前を引き合いに出す。

「今、ジャファルは関係ない!」
「いや、大いにあるんだ」

465 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:19:11.39 ID:d/4302S0


466 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:19:24.25 ID:RSJ4GEpW
支援

467 :Running to the straight ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:19:23.92 ID:VvdyVqTF
冷や水を浴びせられたように、ニノの動きが止まる。
そして、ようやくストレイボウ以外の、ヘクトルの顔を見た。
その顔は憎しみではなく、疑問の形をしていることにヘクトルはほっとする。
ああいった顔を見るのは、ヘクトルも苦手だ。
子供が憎しみに囚われてしまうところなんて見たくもない。
戦争で家族や頼れる人をすべて失った孤児のするような、この世のありとあらゆるものを憎むかのような顔は見たくなかった。
ヘクトルは説き伏せるように、ニノへと言葉を続けた。

ジャファルとストレイボウには、共通点がある。
それは、過去に大きな罪を犯したことだ。
ジャファルは暗殺者として、言われるままにたくさんの人を殺した。
ストレイボウは親友を裏切り、ルクレチアの国さえも滅ぼした。
仮にジャファルに大切な人を殺された人が敵討ちに来た場合、ニノは身を挺して止めるだろう。
もうジャファルにはあんなことをさせないから許して、と言って。
それはつまり、ジャファルを許そうとするのなら、自動的にストレイボウも許さないといけない。
逆もまた然りだ。
ニノにも、ストレイボウを憎む資格はないのだ。
ストレイボウは国を滅ぼした極悪人だ。
しかしジャファルとストレイボウの、どちらの罪が大きいかなどを論ずるのはナンセンスでしかない。
ジャファルは生まれた頃から食器の扱いを知る前に、ナイフの使い方を教えられた。
ニノのために生きると決心した頃までに殺した数は、軽く見積もっても三桁はいっているだろう。
そこまでくれば、どちらの罪が大きいか、どちらかは許せて、どちらかは許されないといった話は通用しない。
それはどちらも悪いのだから。

そして、現在のことだけに限って語れば、ジャファルの方が悪質なのだ。
罪を悔いて、償おうとしているストレイボウと、ニノ自身の想いとヘクトルとの約束を破って人を殺す道に戻ったジャファル。
どちらの方が客観的に見て悪辣かは、一目瞭然だ。
また、感情だけで物事を語るのならば、ヘクトルはストレイボウの方がまだ救いようのある人物だと思っている。
極端に臆病なのに、何故か時々驚くほどの度胸を発揮するフロリーナ。
初めて会ったときからずけずけとした物言いだったが不思議とそれが嫌ではなく、まるで10年来の友のように仲良くなったリン。
オスティアでもトップクラスの実力を持つ密偵だったレイラ。
身近で、かつ大切な仲間を少なくとも三人殺し、あまつさえヘクトルとの約束も破ったジャファルに対する心象はストレイボウ以下。
ニノがいなかったら、今頃アルマーズの斧で叩き切っているところだ。
生まれた頃から不幸を背負い続けた少女のためを思えばこそ、今も我慢できているのだ。

「ジャファルを許すなら、お前はこいつも許すしかないんだ」

反論しようとするが、何も浮かばない。
ニノはしょげかえるような表情になった。
フロリーナを殺した奴は絶対に殺せないと、そう思っていた。
ロザリーに憎しみに身を任せても駄目だと言われても、納得はできず憎しみの炎が燻っていた。
しかし、殺したのはこともあろうにジャファルだ。
大切な人を憎むことなど、できるはずがない。
結局、憎しみの行き先は宙ぶらりんのまま、ジャファルとは和解するどころか別れてしまったのだ。
行き場を失った怒りと憎しみの矛先は、諸悪の根源だと自白したストレイボウに向かうのが自明の理。
事実、ニノはストレイボウをもう殺害する気しかなかった。
しかし、ヘクトルに思わぬ点を指摘された今、理屈の上では納得しないといけない。
またもや行き場を失くした感情は誰にもぶつけることができず、ニノの中で蹲っていた。

468 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:19:28.78 ID:/NR/QoWM
          

469 :Running to the straight ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:20:24.36 ID:VvdyVqTF
「ストレイボウよ。 おい、ストレイボウ。 ストレイボウッ!!」

再三マリアベルが呼ぶことで、ようやくストレイボウはマリアベルへと視線を向けた。
ニノから向けられた瞳と表情が、未だにストレイボウを強く縛り付ける。
あの子は、あんな顔をする子ではなかった。
初めて見たときはカエル相手に、必死で気力を振り絞って戦うところ。
まだ幼いのに、勇気のある子だと思った。
次に見たのは、カエルが去った後で、サンダウンとロザリーとマリアベルが見事復活した時に見せた涙と安堵の表情。
その後、別れるまでの情報交換も屈託のない笑顔を見せていたのだ。
人懐っこくて、そしてどこか置いていかれることの悲しさを知っている子。
それが、短い時間でニノに対して抱いたストレイボウの印象だったのだ。
しかし、今見せた感情はそれまでに見せた感情とはあまりにも程遠いものだった。
そんな表情を見せる切っ掛けを作ったのは、自分のせいに違いない。
ストレイボウがあの子に憎しみの種を植え付け、そして同時に笑顔を奪ってしまったのだ。

「俺は、なんてことを……」
「違うぞ、ストレイボウ」

またも罪悪感の袋小路に陥りそうになったストレイボウに、マリアベルが助け舟を出す。

「お主は言うておったではないか、償いたいと。 ならば、お主がすべきことは何じゃ?
 確固たる自分さえもっていれば、為すべきことは自ずと見えてくるはずじゃッ。 それさえ分からぬのなら、わらわにもどうしようもないぞ」
『違うと言うのならば立ち上がれ。曇りを払い自らの瞳で世界を見据え真実を捉えろッ!
 違わない程度の――そう、半端な意思しかないのなら。
 お前には、カエルを止められないッ!!』
『お前は、そうやって逃げるのか?』

マリアベルの言葉と、二人の言葉を思い出すことでストレイボウは我に立ち返った。
そうだ、ずっとあの空間にいたせいでストレイボウは忘れていた。
ストレイボウは今動くことができる。
贖罪をしたいと思いながらも、どうしようもなかったあの頃と違って、今は心臓も手も足も動いている。
口を動かして謝ることもできるのだ。
もう、逃げたくはない。
あんな思いはしたくないのだ。
今が、変わるための第一歩なのだ。
今すべきは、自分を責めることではない。

罪悪感のあまり、幽鬼のようにふら付きそうだった足をしっかりと揃え、ニノへと向き直る。
ヘクトルに説得されたとはいえ、感情の部分は未だ納得できていないのだろう。
ニノは憮然とした表情をストレイボウにぶつけている。
怯みそうになる心を押さえつけ、ストレイボウもニノの瞳を真っ直ぐ受け止める。

「オディオを生んだのは、俺のせいだ」

そして、深々と頭を下げる。
お辞儀とは、そもそも脳天――つまり人体の急所を差し出すことによって、敵意のないことを証明するために使われたという。
ストレイボウは、ニノが本当に脳天を砕こうとしても構わないつもりで頭を差し出した。
今まで真実を隠してきた卑怯さに比べれば、これくらいのリスクを犯すのは当たり前なのだから。

「俺が醜い感情に突き動かされた結果、オディオを生み出してしまった。
 だから、お前も他の仲間もこんな殺し合いに連れてこられたのは、全部俺のせいなんだ。
 すまなかった。
 ……本当にすまなかった。
 何も言っても、ロザリーもブラッドの、お前の仲間も生き返ったりはしない。
 それでも、謝りたかったんだ……。
 けど、もしも少しでも俺の言葉に感じるものあるのなら、俺にもう少し生きさせてほしい。
 オディオに出会い、直接会って謝るまで、見逃してもらえないか。
 身勝手な意見だとは分かっているが、どうかこの通り……頼む」

470 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:21:04.75 ID:RSJ4GEpW
支援

471 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:21:15.44 ID:WY1+9FkE


472 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:21:50.17 ID:/NR/QoWM


473 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:22:08.53 ID:d/4302S0


474 :Running to the straight ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:22:06.55 ID:VvdyVqTF
その間、ニノは完全に無言だった。
ただ、ストレイボウの言葉をずっと聞き、睨みつけるだけ。
暖簾に腕押しの状態にも近い。
しかし、沈黙は痛かったが、ストレイボウは構わず言葉を続ける。
ロザリーが言っていたように、受け入れられなくても何度でも言葉を重ねるしかないのだ。
簡単に許されることなど、ありはしないのだから。
ニノもマリアベルと同じように許さないといけない事情があるのだが、それは理屈の上での話だ。
幼いニノが理屈だけで納得しろというのは無理があるだろう。
ヘクトルも、マリアベルも、ストレイボウの気持ちを知っているが故に口出しはしない。
あくまで、ストレイボウが自分の言葉で語らなければ意味がないのだから。

考えてみれば、これも卑怯な話かもしれない。
理屈だけで割り切ることができないのが人間である以上、ニノの行動にも一分の理はある。
だが、ヘクトルもマリアベルもストレイボウを許そうと言っているのだ。
これでニノが許さなければ、まるでニノだけが聞き分けの無い子のように見える。
どちらというと、ヘクトルとマリアベルが普通というよりも、できた人物なだけなのだから。
とは言っても、そこまで考えているのはさすがに誰もいないのだが。
どちらにせよ、今の状況はニノもストレイボウの言葉を拒絶しにくい空気を醸成している、という側面もある。

返事は得られず、ただ受け流されるだけの言葉。
けれど、ニノも無視していたのではない。
自分なりに気持ちの整理をつけていたからだ。
ニノは憎いけれど、許さないといけない人に向けてこう言った。

「あたしは、お前を許さないといけない」
「……いいや、お前は俺を――」
「――あたしの話を最後まで聞いて」

毅然とした口調で言われては、ストレイボウも黙らざるを得ない。
ニノはそのまま複雑な感情が渦巻いたまま、言葉を続ける。

「あたしはお前が嫌いだ。 殺したくてたまらない。
 でも、それはいけないことだから。 だから――」

その時、ニノの瞳が真剣なものに切り替わる。
これは理屈では全てを割り切れない子供が出した、精一杯の結論。
理論も理屈も、論理的な思考もない、けれど悩んだ末に出した答えなのだ。

「あたしと立ち合って」

それはつまり決闘。
古来より伝わる、一対一の正々堂々とした果し合い。
それを行おうというのだ。

「それで何か変わるわけでもない。 勝ったらお前に死んでもらうとか、あたしが負けたら許そうとか、そんなことも考えてない。
 ただ、あたしが納得したいから。 何かが変わったりする訳じゃないけど、多分あたしはこうしないと、納得できないから」

ニノに手袋はない。
代わりに、クレストグラフを投げた。
ストレイボウは――迷わずそのクレストグラフを手に取る。
クレストグラフには、ハイ・ヴォルテックのクレストが刻まれている。
決闘は受諾された。
あとは互いの全身全霊をかけてぶつけあうのみ。

475 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:22:51.98 ID:RSJ4GEpW
支援

476 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:23:18.21 ID:/NR/QoWM
支援

477 :Running to the straight ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:23:24.47 ID:VvdyVqTF
決闘を受けた理由は二つ。
ストレイボウには断る権利がないこと。
そしてもう一つ。
ニノの真剣な瞳に惹かれたからだ。
立ち合ってと言った瞬間のあの瞳、あれは憎むべき敵に対する眼差しではなかった。
相手を超えるべき壁と認めて、なおも挑もうとする挑戦者の眼差しだったのだ。
もちろんそんなことはニノは考えていない。
ニノはただ自分が納得したいがために、ともすれば意味不明と囚われかねない決闘を申し込んだのだ。
しかし、それをストレイボウが断れるはずがない。
負けん気の強さはニノはもちろん、ストレイボウも人一倍強いのだから。
勝負を挑まれて断るなど、高みを目指して修行を続けた男のすることではない。
まして、相手は同じ魔法を使う者。 張り合いも出るというものだ。
純粋に技を競うことに高揚感を覚えていた日々が懐かしい。
昔の感覚が蘇ってくるかのようだった。
誰よりもひた向きに努力し、何時かはオルステッドに勝つと誓っていたあの頃に。
これには、マリアベルも天晴れといった様子で二人の決闘を受け入れた。
ウジウジしたやり取りを見せられるよりは、はるかにこちらの方が健康的で分かりやすい。

「ふむ、決闘には立会人が不可欠じゃな。 わらわが務めようぞ。 二人とも異存はあるまい?」
「まあ、こんなやり方で決めるのもいいかもな……」

頷くニノとストレイボウに対して、呆れ顔でヘクトルが呟いた。
確かにヘクトルもエリウッドとの二月に一度の手合わせを真剣に競ったりするから、決闘は嫌いではない。
むしろ大好きだと言える。
しかし、こんな珍妙な流れでやる決闘は未だかつて見たことない。
前後の流れにまるで整合性がないではないか。
けれど、どこかこれでもいいかと思ってしまう自分がいるのも事実。
それは結局、ヘクトルも頭を使うより体を使った方がいい部類の人間なのだからかもしれない。
夜空に浮かぶ月もまた、決闘を盛り上げるかのように一際強い力を放った。



◆     ◆     ◆



煌々と照らす月の光の中。
二人の魔術師が相対する。
ニノとストレイボウ。
距離をとって離れた二人の間に、ノーブルレッドのマリアベルが立ち、これからの決闘のルールを説明する。

「勝敗の裁定はわらわが下す。 そして過度に相手を傷つけることのないようにせよ。
 ニノ、決闘の名にかこつけてストレイボウを殺そうとするでないぞ」
「あたしはそんなことしない」
「うむ、いい返事じゃ。 ストレイボウも、よいか?」
「分かっている」
「まぁ、万一の事態が起こりそうならわらわが止める故、安心するがいい。
 己が名誉のために、技を競い合え。 それでは、始めるがよいッ!」

開始と同時に、勢いよく走り出したのはニノだった。
右手に覚えたての呪文をメラを発生させ、ストレイボウに向かって放つ。
極めて直線的なその火球の軌道を見切ったストレイボウは、半身になることで回避。
そのままバックステップを取り、詰められたニノとの距離を取る。
ストレイボウはまず様子見に徹する。
ニノの手の内を暴いて、それから対策を練るつもりなのだ。
対称的に、ニノはとにかく突撃あるのみだ。

478 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:24:17.69 ID:RSJ4GEpW
支援

479 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:24:44.55 ID:/NR/QoWM
支援

480 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:24:56.08 ID:d/4302S0


481 :Running to the straight ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:24:54.49 ID:VvdyVqTF
「で、俺はどうすりゃいいんだ?」
「お主はイスラたちの下へ先に行ってもらうぞ。 これからの行動の方針を決める必要がある」
「マジかよ!? 俺は勝負を見届けたいんだがな……」
「魔法の打ち合いで、こっちの戦いがまだ続いていると向こうが勘違いするやもしれぬぞ」
「あー、そりゃまあそうだな」

手持ち無沙汰になっていたヘクトルは、なんとなくマリアベルに聞いてみたのだが、やぶ蛇だったのかもしれない。
向こうが来てくれるのなら、それにこしたことはないが、向こうの戦闘が継続中である線も捨てきれない。
ヘクトルを先に行かせ、もしも向こうの戦闘が継続中なら、決闘の中止も止む無しだ。
ヘクトルにも、この勝負を見届けたいという思いもある。
けれど、確かにヘクトルが立会人を務めて、マリアベルが向こうに一足先に行っても、ヘクトルは立会人の役目を果たせないのだろう。
なにせヘクトルは魔法の類が一切使えないのだから。
決闘を止めようとしても、肉体派のヘクトルはその身を割り込ませることしかできない。
反対に、今もマリアベルはヘクトルと会話を続ける片手間に、器用に戦いの後始末をしている。
メラで火が燃え移りそうだった草木に、水のレッドパワーで消火させる。
放たれた魔法を、マリアベルの魔法で相殺することもできるだろう。
ここは、マリアベルの言うとおりヘクトルが先に行くのが適任だろう。
しかしふと、魔法の流れでヘクトルは少し疑問に思っていたことを口にした。

「なあ、素朴な疑問なんだがよ。 ニノが使ってる魔法……ありゃ何なんだ?」
「クレストグラフじゃ。 
 わらわが支配するファルガイアで、クレストソーサーを簡単に扱えるように開発された、ファルガイアの技術と魔術の粋を結集して作られたものよ」

それは何となくヘクトルにも分かる。 
ヘクトルもニノが手に何かを持ってるのが見えるからだ。
要はエレブ大陸における魔道書のようなものがそれなのだろう。
しかし、ヘクトルにはもう一つ疑問があった。

「けどよ、何つーか、俺の目には時々何とかグラフを持ってない方の手からも魔法を打ってるようにも見えるんだよ」
「あっちはメラじゃな」
「何だそれ? 何とかグラフとは関係あんのか?」
「メラはわらわのファルガイアとも違う世界の魔法じゃな。 ロザリーのいた世界のものじゃ」
「なるほどな。 なんかもう大抵のことじゃ驚けない気がしてきたぜ……。
 それで、お前にも使えたりすんのか? あんま威力なさそうだし、簡単な魔法っぽいが」
「無理じゃな」
「? じゃあどうしてニノはできるんだ? 自慢じゃないが、あいつそこまで強くないぞ」
「お主気づいておらぬのか? 今のニノは熱せられた鉄と同じじゃぞ?」

鉄は常温では硬く丈夫だ。
鉄を加工するためには、熱して変形しやすいような温度にまで高める必要がある。
そして、その熱せられた鉄こそが、今のニノの状態と同義なのだ。
ニノは正規の魔道の教育を、非道な義母ソーニャのせいで受けていない。
しかし、ニノ自身は義母の役に少しでも役に立ちたいと思い、ソーニャの口を読むことで魔法を覚えていったのだ。
言わば、学問も何も身につけていないまま、魔法を感覚だけで使いこなしているようなもの。
故に、マリアベルはニノを熱せられた鉄だと表現したのだ。
今のニノには魔法に関する常識や学問、知識が何もない。
つまり、これから出会う魔法体系によってどんな魔道士にでもなれるのだ。
熱せられた鉄は叩かれ鍛えられることで、剣にも農具にも食器にも姿を変える。
本来出会うはずのなかった魔法体系に出会うことで、ニノは今どんな方向にも進むことができる。
その気になれば、ロザリーの世界の呪文を使いこなしつつ、ストレイボウの魔術も使えるようになったりもするのだ。
最も、基本的な魔力は低いままだし、仮定に出したような究極の魔道士になるには多くの年月が必要なのだが。
マリアベルも、呪文の理論を研究し何年も修行すれば、呪文などを使えるかもしれない。
ファルガイアの魔法の常識に染まってしまったマリアベルも他の魔術師も、異世界の魔法を使うということはそういうことなのだ。
常識とは、今までに集めた偏見のコレクションといっても差し支えないのだから。
魔法に関する常識のないニノは乾いたスポンジのように、接した知識を片っ端から吸収していくのだ。

482 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:25:35.91 ID:RSJ4GEpW
支援

483 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:25:36.39 ID:cu4BzGYy



484 :Running to the straight ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:26:20.39 ID:VvdyVqTF
「あれはもっと伸びるぞ。 ちゃんとした師について、何年も修行すればの話じゃがな」
「そういうことか……にしても信じらんねえな。 あいつにそこまで才能があるなんて。
 まあいいけどよ。 んじゃあ、向こうに伝えることがあったら俺が先に伝えとくぜ」
「そうか、頼むぞ……ヘクトルじゃったか?」
「おおそうだ。 考えてみりゃ、どたばたしてて互いに自己紹介するのも忘れてたな」

ここにきて、初めて二人はお互いの名前と簡単な履歴を紹介し合った。
そして、大人数がバラけて、各地で起こった戦いの結果についても。

「そうか……。 悪かったな、そっちに救援に行けなくて。 何かが起こってるのは分かってたんだけどよ」
「よい。 それならわらわだって、お主らに援軍を遣わすことができんかった。 お互い様じゃ……」

ヘクトルたちも、激しく鳴る遠雷と何時まで経っても援軍がこないことから、ブラッドたちの間でも何かが起こっているのは予測がついていた。
しかし、だからといって、ブラッドたちの所へ戻ろうとすると背中を見せた瞬間、ジャファルは襲い掛かってくるだろう。
戻りたくても戻れない事情があった。
イスラたちも、一人でも欠ければ危うい事態になっていたから援軍は送れなかった。
つくづく、神様の悪戯というものを呪いたくなる。
何の偶然か、十数人もの人間が一堂に会してしまったのだ。
不確定要素が多すぎるあまり、誰もこの結末を予想はできなかった。
誰かのせいではないと思ってはいても、やるせない思いが溢れる。
これで思い通りにいくことの方が珍しいだろう。

「そして、ブラッドもロザリーも、リンも死んだ……」
「ああ、俺たちの負けだな……」

こちらはブラッドとロザリーとリンいう、掛け替えのない仲間を失ってしまった。
しかし、襲ってきた相手は撃退こそできたものの、殺すことはできなかった。
ブラッドはその命を奉げてまで魔王を討つべく戦っていたのに、放送が行われた時点では健在であることが判明した。
こちら側の死者は三人。
襲ってきた側の死者はなし。
これ以上ないくらい、完璧な敗北だった。

「ブラッドはいい奴だったよな……ゴツい顔してる割になんかすっげー頭良くてよ。 オズインみてえに小言も言わなかったし」
「そんなの知っておるわ。 わらわとブラッドはお主より遥かに長い時間、仲間として戦っていたんじゃからな」

もうこれ以上、誰も死なせたくないといつも思っていたのに、死者の数は増えるばかり。
情けなさと無力な自分への怒りと憤懣やるかたない思いで、胸がいっぱいだった。
ニノとストレイボウの決闘を見守る二人に、重苦しい敗北感が漂う。

「けど、わらわたちはへこたれる訳にはいかん」
「ああ、俺たちはまだ生きているんだからな」

生きているなら、まだやるべきことが残っている。
共に生き残った仲間のため、全力で抗い続けねばならない。
それは、命ある者だけができる行為なのだから。
無念の内に散っていった仲間への、弔いでもあるのだから。

485 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:26:24.42 ID:/NR/QoWM
支援

486 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:26:29.65 ID:WY1+9FkE


487 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:27:03.05 ID:d/4302S0


488 :Running to the straight ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:27:33.22 ID:VvdyVqTF
「今はアルマーズもある。 今度は負けねえ……」

規格外の大きさを誇る戦斧、アルマーズを強く掴んでヘクトルは今度こそ負けないと誓う。
古の火竜さえ倒したこの武器なら、決して誰にも負けはしない。
ジャファルをニノの下へ戻し、オディオさえ倒せるに違いない。
セッツァーは、ジャファルを追うと言い残して姿を眩ませた。
それ以前に、怪しいと思っていたセッツァーにそれとなく探りを入れたが、はぐらかされるばかり。
魔法を使えるセッツァーは、遠く離れたヘクトルたちに対してもいつでも合図ができたはずだ。
だが、セッツァーはそれをしなかった。
念のために辺り一帯を捜しまわったが、セッツァーもジャファルも影一つ見当たらない。
もはや、セッツァーへの疑惑は完全な黒に変わっていた。
思えばセッツァー何かと理由をつけては、単独行動をしようとしていた。
それは、ケフカは安全だと言っていたように、誤報によって同士討ちさせるために違いない。
そして、今回は誤報が誤報であるとばれたため、逃げ出したという訳だ。
よもやセッツァーがジャファルと手を組んだとは、ヘクトルも気づいていないのだが。
いつか必ずその報いを受けさせねばならないと、ヘクトルは心に決める。
しかし、まだその時ではない。
ヘクトルはアルマーズをデイパックに収納し、代わりにゼブラアックスを手に握った。

「そのアルマーズは使わぬのか?」
「ああ、今は敵もいないからな。 あれは重いし切れ味がよすぎるから、持って歩くのも危険なんだよ」

かつて八神将が使いし、伝説の神将器は竜の皮膚をも紙のように易々と切り裂いたという。
特に、アルマーズは狂戦士テュルバンが使っていただけあって、触れるもの全てを切り落とすがごとき、危ういほどの切れ味を誇っていた。
興味本位に刃に触れようとすれば、指を落とすことさえ有りうる。
だからこそ、ヘクトルは非常時以外は仕舞うようにしているのだ。

「長くなったな。 わらわたちの伝えることはカエルは遺跡で待ってる、くらいでよい」
「ああ、それに俺たちはセッツァーとかのこと。 あっちが何ともないならこっちに連れてくるけど、お前らもほどほどにしとて切り上げて来いよ」

踵を返して、ヘクトルはニノたちの戦いを見届けることなくイスラたちの元へ行く。
マリアベルたちが見えなくなるほどまで進んだ頃に、ヘクトルは立ち止まる。
そして、もう一度アルマーズを手に取る。
アルマーズは暴れ足りないのか、血が欲しいと騒いでいるように見えた。
ヘクトルは、ざわざわと蠢く何かを感じる。

「大丈夫、だよな……?」

ヘクトル自身も驚きそうになるほど、弱気な言葉が漏れる。
それはイスラたちの身を案じたものなのか。
ニノとストレイボウの決闘が行き過ぎたものになることを心配したのか。
あるいは、虫の知らせのように別の何かへの危惧の言葉なのか。
それは、ヘクトルのみが知る。


【C-7 二日目 深夜】
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(大)、アルテマ、ミッシングによるダメージ、
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドU、アルマーズ@FE烈火の剣 
[道具]:ビー玉@サモンナイト3、 基本支給品一式×4
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒して、オスティアに戻り弱さや脆さを抱えた人間も安心して過ごせる国にする
0:先にイスラたちと合流。
1:ジャファルは絶対止めてニノと幸せにさせる
2:仲間を集める。
3:つるっぱげを倒す。
4:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)、セッツァーを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※セッツァーを黒と断定しました。

489 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:28:32.73 ID:RSJ4GEpW
支援

490 :組曲の行方 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:28:56.60 ID:VvdyVqTF
そろそろ勝負ありか。
戦いの趨勢をつぶさに見ていたマリアベルはそう思った。
やはりというか、ストレイボウが勝負を優勢に進めていた。
ニノはストレイボウと相性が悪いのだ。
攻撃系統の魔法しか使えないニノは、ストレイボウに有効打を与えられない。
ストレイボウはニノの性格と攻撃方法を読み取り、撹乱系の魔法を主体に攻めていた。
パープルミストやブラウンシュガーでニノの五感を奪うと、ニノは木偶の坊のように立って適当な場所へ闇雲に攻撃するばかり。
それでも、ニノに戦い方が無い訳でもなかった。
例えば、ブラウンシュガーのように砂嵐を起こす魔法は風のクレストソーサ―、ハイ・ヴォルテックで吹き飛ばせばよい。
ニノの手持ちの技でも、十分戦い方はあるのだ。
自身の持つ技の特性と使いどころを知っていたか知らないかの違いもあっただろう。
それに気づかないのは、まだニノが未熟であるがため。
そして、戦い慣れたストレイボウはさすがといったところか。
実のところ、二人の実力の差を理解していたがために、マリアベルは決闘を承服したのだ。
余程のことがない限り、ニノではストレイボウは倒せない。
つまり、やりすぎてどちらかが重傷を負う確率も低いと見たからなのだ。
ストレイボウも極端に強い魔法は使わず、隙を見せるニノに対して時々弱い魔法を撃っているくらい。
それをニノはギリギリでよける。
これも、ニノを殺すわけにはいかないという、ストレイボウ側の事情を察していたマリアベルの予測通りだった。
ニノが攻撃して、ストレイボウが軽くあしらう。
そんな幾度かの攻防を繰り返した後に、ニノが口を開いた。

「どうして?」

聞かずにはいられなかった。
ニノとて、自分が遊ばれていることくらいは分かる。
どんな攻撃もストレイボウには通用せず、逆にストレイボウにはニノを殺す機会はいくらでもあったのだ。
それほどの実力がストレイボウにはあるのだ。
だのに、それほど強いのに、どうしてその力を正しいことに使えなかったのか。
弱くてしょうがないニノと違って、ストレイボウには誰かを守る強さもあったのに。
弱い自分が許せないニノにとって、強くなることは目標でもあるのに。

「どうしてそんなに強いのに、お前は友達を裏切ったの?」

ニノにとって、強い人は憧れであり、なりたい者でもある。
なのに、ニノよりも遥かに強いストレイボウは贖いきれない罪を背負った。
羨望と、失望と、そして怒り。
三種の感情が渦巻いた複雑な心境で、ニノは聞くしかできなかった。

「俺の心が、弱かったからだ……」

今なら分かる。
あの時、どうしてあんなことをしてしまったのか。
心が弱かったばかりに、ストレイボウはオルステッドを出し抜こうという、内なる悪魔の誘惑から逃れることができなかった。
心が弱かったばかりに、オルステッドに何時までも勝てない悔しさは募るばかりで、オルステッド本人にぶつけることができなかったのだ。
お前に勝つことができないのが悔しい、そうオルステッドに打ち明けることは即ち、負け犬であると認めることなのだから。
その本音を言ってしまうことは、オルステッドが生涯越えることのできない壁だと、暗に認めてしまうことになるのだから。
何時まで経っても一番になれない、永遠の二番であるということを肯定してしまうことなのだから。
オルステッドに勝つべく努力してきたのを否定するに近いことなのだと、思ってしまったのだから。
それを最後に残されたプライドとか矜持とか、口当たりのいい言葉で誤魔化してしまった。
そして憎しみの感情に突き動かされ、流された果てについた場所が、今ここなのだ。

491 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:29:03.56 ID:d/4302S0


492 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:29:51.05 ID:/NR/QoWM
支援

493 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:29:53.09 ID:RSJ4GEpW
支援

494 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:29:59.17 ID:WY1+9FkE


495 :組曲の行方 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:30:22.59 ID:VvdyVqTF
「俺の心が弱かったばかりに、俺はとんでもないことをしでかしてしまったんだ……」

始めはオルステッドと対等の立場にいたいがために、オルステッドに勝つことが必要だと思っていた。
しかし、坂から転がり落ちるように転落していくオルステッドを見る内に、ストレイボウは初志を完全に忘れていた。
いつしか目的は摩り替わってしまい、オルステッドを絶望の淵に叩き落とすためだけに行動するようになっていた。
おかしいと、ストレイボウのなかにある良心が告げていた。
こんなものは当初の予定とは違うと、必死に抗おうとしていたのだ。
しかし、オルステッドの哀れな姿を見る度に、ストレイボウの中の弱い心は次第に肥大していく。
オルステッドの悲惨な姿を見る度に体中に喜悦の感情で満たされ、ストレイボウの良心は段々と飼いならされていった。
これこそが本当の目的なんだったんだと思い込むようになっていったのだ。
いつしか、ストレイボウはそれが間違っていると思うことすらしなくなり、オルステッドに最後の戦いを挑んだのだ。
そう、いくら強大な魔力を身につけていても、心が弱くては意味が無い。
ストレイボウは体を鍛えることに執心するあまり、心の強さを置いてけぼりにしてしまったのだ。

「弱いことは、罪なの……?」
「少なくとも、俺にとっては罪だった」

弱いために、ストレイボウは罪を犯し、多くの関係ない人間を巻き込んだのだから。
ストレイボウの本音をぶつけられたニノは、聞き逃せない言葉を聞いてしまった。
弱いことは罪、それがニノの心を捉えて放さない。
それはニノも考えていたことなのだから。
ストレイボウも、ニノと同じ苦しみを抱えていたのだ。
かたや体の弱さを、かたや心の弱さを。
ニノと同じ苦悩を、ストレイボウも感じていたのだ。
思わず、ニノもありのままの思いをぶつける。

「あたしも、弱い」

ニノは自分の弱さを自覚している。
おそらくこの殺し合いでいた当初の54人に強さの序列をつけた場合、ニノは後方から数えた方が圧倒的に早いことも想像できていた。
それが、ニノにはとてつもなく許せなかった。
また、それはまだ幼いからとか、そんな言い訳に甘えたくもなかった。
ニノは強くならねばならないのだ。
ニノのいた日常はいつも殺し合いが横行し、人の命がパンよりも安い値段で取引されることすらあった。
ニノがいる日常は、大人だろうと子供だろうと強くないといけなかったのだ。
少なくとも、ニノにとっても弱いことは罪だった。

「弱いから、ジャファルとも一緒にいられない」

例えば、ニノがこの島の中で誰よりも強かったとする。
一騎当千とも言うべき実力がニノに備わっていたなら、ジャファルはあんなことはしなかったのだろう。
殺される心配がないのだから、他の人間を殺してまで生き残らせるためにジャファルが手を汚す必要はないのだから。
ニノのことを好きだと言うのに、ジャファルはニノの願いを何も聞いてくれない。
ジャファルにとって、ニノは犬か猫のようなものなのだ。
弱いから、ジャファルとニノは対等ではない。
弱いから、ジャファルにとってニノは無条件で保護すべき対象。
だから誰かに弱いニノを殺されないように、その誰かをジャファルが殺す必要がある。
ジャファルが今も誰かを殺しているのも、ニノのせい。
弱いから、誰かに守られないと生きていけないと思われてしまう。
そう、弱いことはニノにとって大罪なのだ。

496 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:31:02.23 ID:RSJ4GEpW
支援

497 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:31:05.77 ID:d/4302S0


498 :組曲の行方 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:31:15.02 ID:VvdyVqTF
「あたしが強ければ、みんな助けられた」

ニノは多くの人間を失った。
それは養父のブレンダン・リーダスであったり、リンであったり。
目の前でニノは多くの人を失ってきた。
しかし、こうも思うのだ。
もしも自分が強ければ、あの時死の運命に瀕していた人たちも助けられたのではないかと。
極端な話、オディオに集められたあの空間で、ニノがオディオを倒していれば、万事解決したのだ。
それは子供特有の、思い上がりと傲慢さからくる考えでしかない。
しかし、ニノの強くなりたいという思いは紛れも無く本物だった。
強くなりたい、守りたいと思うからこそ、そんな考えが生まれているのだ。

「だからっ!!」

ニノの指が再び光る。
魔力がニノの体を包み、紅い燐光を発する。
幼さと未熟さを言い訳にせず、自分の可能性を信じて歩んでいく者。
「今」を超える強さを手に入れるために、ニノは決して諦めない。

「あたしは強くなりたい!」

強くなりたい、守りたい。
大切な人がいるから、守られるのではなく、自分で守りたい。
マリアベルもヘクトルもジャファルも守れる力を手にするため、いつも強くなりたいと願う。
その願いを確かな形にすべく、今、ニノは新たな力を紡ぎ出す。

「強くなって、みんなを守るために!
 あたしはお前を倒す!」

万物を喰らう紅き炎を両手に携えて。
紅き燐光を発して、輝ける両の手のメラ。
それをニノは、自らのメラとメラを掛け合わせる。

「デュアル……キャスト!」

火に火を重ね、小さき火は大きな炎へと進化する。
真夜中の森に、局地的な昼が訪れた。
弱いニノが精一杯試行錯誤を重ねて出した答え。
弱いなりに、少しでも強くなろうともがき、足掻いてきた集大成。
弱い呪文しか使えなくても、それを掛け合わせれば、何倍もの強さを発揮する。
ロザリーがここにいれば、きっとこう言っていただろう。
あれこそは、間違いなくメラの上位の呪文、メラミだと。

「呪文は、ロザリーさんが教えてくれたもの」

先のカエルとの戦いで、一か八かの覚悟でやろうとして失敗したものを、今まさにニノは成功させた。
それは、あの時から少しずつニノが強くなって言ってるという証左。
輝ける紅蓮の炎は、強くなりたいというニノの思いを反映して、光量を増す。

「デュアルキャストは、マリアベルが教えてくれたもの」

本来は、決して会うことの無かった二人に、ニノは出会った。
たとえ、ロザリーはもう死んでしまったとしても、彼女の教えてくれたものはニノの中に確かに根付いている。
彼女の生きた証は、今もニノの胸の中にあるのだ。
ニノは、生きている限りロザリーのことは忘れない。

499 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:31:18.06 ID:/NR/QoWM
支援

500 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:31:54.51 ID:/NR/QoWM
支援

501 :組曲の行方 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:32:00.96 ID:VvdyVqTF
「二人が教えてくれたこの魔法で……あたしはお前に勝つ!」

バカな。
ストレイボウはそう思わずにはいられない。
あの子は、一戦一戦の中で驚くべきほど成長を果たしている。
メラなどは取るに足らない、牽制用の魔法だとばかり思っていたのだ。
しかし、ニノは新たな力に目覚め、さらに大きな威力へと昇華させた。
迫りくる等身大の火の塊は、ストレイボウを飲み込もうとしている。
威力に関しては、それはストレイボウにとっては脅威ではない。
ストレイボウの使えるブラックアビスやアンバーストームも、威力はメラミより強いだろう。
スピード一つとっても、メラとメラミに差があったりはしない。
つまり、いくらニノが新しい攻撃をしかけたとはいえ、取り立てて脅威ではなかったのだ。
しかし、迎撃も回避も、ストレイボウは忘れてしまった。

なんと眩しい姿であろうか。
闇の中に浮かぶ彼女の姿がではない。
弱さを自覚し、それでも一歩を踏み出す彼女が在り方が、だ。
どこまでもひた向きで、絶望の中に在っても諦めはしない。
彼女は常に自分にできることを探しているのだ。
なんと侵しがたく、そして尊い有様であろうか。
それに比べて自分はどうだ。
醜い自分を卑下するばかりで、何もできずにいるだけ。
弱いという共通点を抱えたニノと自分で、どうしてこう差ができるのか。
同じだと思っていた人物が、じつは自分よりも遥か先に行っていたことを、ストレイボウは思い知らされた。
素の実力においては、未だストレイボウがニノよりも強くても、今回はストレイボウの負けだ。
気がつくと、目の前にメラミの炎が迫っていて。
ストレイボウは重傷を負うか、さもなくば死ぬ覚悟をした。

「世話の焼けるッ!」

しかし、マリアベルの声が響く。
デュアルキャストを成功させたニノの攻撃、直撃してしまえば無事ではすまない。
そう判断したマリアベルが割り込み、間一髪で自分の炎のレッドパワーをぶつけて相殺した。
ぶつかりあった二つの炎は競う様に天へと昇り、いつしか消えてしまった。
天に昇る炎を見届け間に合ったことに安堵し、マリアベルが言う。

「勝負あり。 この勝負ニノの勝ちじゃ」

勝負を最後まで見届けた立会人のマリアベルが審判を下す。
最後に思いもよらぬの一撃を見せたニノの勝利であり、油断したストレイボウの負けであった。
負けたとは言え、ストレイボウは悔しいとは思わなかった。
どちらかというと、諦めずに一歩一歩進んでいくことを教えられた分、勝った時より得たものは大きい気がする。
こんな自分より年下の子供にまで教えられる自分の未熟さが、少しだけ恥ずかしい。

「わらわの見立てではストレイボウが勝つと思っていたんじゃがな。 お主最後に油断しおったな?」
「ああ、ついな」

本当は油断したのではないが、そういうことにしておく。
ニノも勝ったことが信じられないような顔をする。
その通り、誰もが予測しない結果に終わった。
そしてそれは、諦めずに努力を重ねる者だけが、あり得ない未来を引き寄せることができるという証拠でもあった。
ニノがストレイボウのところへ来る。
ため込まれていた負の感情はかなり発散されたようで、笑顔こそ見せないが憎しみの色はない。
ニノなりにも、自分の中の葛藤と折り合いをつけることはできたようだった。

「さっきも言ったけど、これでどうしようって気はない」
「ああ」
「相変わらず許せないけど、もうあたしからは何もする気はしない」
「ああ」
「勘違いしないで。 あたしはお前を絶対に許せない。 そして途中で死ぬことも許さないから」

502 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:32:23.52 ID:RSJ4GEpW
支援

503 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:32:45.94 ID:WY1+9FkE


504 :組曲の行方 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:32:49.66 ID:VvdyVqTF
それだけ言うと、一人でヘクトルの行った方角へ歩出した。
まるで不貞腐れた子供のように。
マリアベルは嘆息して、ニノの背中を追う。
もしかしたら、ニノはニノなりにストレイボウの本音を引きずり出したかったのかもしれない。
口では謝るとも償いたいとも、なんとでも言えるのだから。
そこまで考えて、あり得ぬかとマリアベルはその線を否定した。
そんな小利口なことができるほど、ニノは賢くないのだから。

「お主らちっとは仲良くできんのか? せっかくともに弱さを克服しようとしておるのに……」

そう言いつつも、口の端に笑みが浮かんでくるのをマリアベルは感じた。
自分の弱さを知りて、一歩を踏み出す者。
「今」を超える強さを手に入れるために、努力をする者。
そういう人間がいるから、マリアベルは人間を嫌いになれない。
自らの無力を認め、自らの無知を知り、そこから一歩を踏み出す。
それこそが、『英雄』にふさわしき条件の一つなのだろう。
求める限り、答えは逃げていく。
求めない限り、答えは得られない。
ニノとストレイボウの二人にも、『英雄』の芽が芽吹いているのだ。
マリアベルのデイパックの中で眠るアガートラーム。
案外、それを使いこなせるのはアナスタシアとアシュレーだけではないのかもしれない。

「しかし、これからが本番じゃな、ストレイボウ」

ニノほどあからさまではないが、マリアベルもストレイボウに対して幾許かの怒りはある。
ただ、ニノもマリアベルも許す事情があっただけだ。
そして、そんな特殊な事情がある者など何人もいない。
次こそは掛け値なしの本番であることは想像できる。

「イスラかアキラか、あるいは他の誰か……必ずやお主を許せぬ者がおるはずじゃ」

ストレイボウは厳粛にその言葉を受けとめる。
これからあと数分も歩けば、イスラたちに合流できるだろう。
少なくとも、向こうには五人程度人がいる。
そんな大くの人の前で、謝罪をしなければならないのだ。
ストレイボウの身が竦み、足が震えそうになる。
心臓は早鐘を打つように騒ぎだし、今にも逃げ出したくなる衝動に駆られる。
怖いという思いはやっぱり消せない。
けれど、逃げることももうしない。
変わると決めて、ようやくその一歩を踏み出したのだ。
許されないはずなのに見逃してくれたマリアベルとニノに報いるためにも、逃げてはいけないのだ。
ずっと背負っていた罪の十字架が、少しだけ軽くなった気がした。
すべての元凶は弱い自分の心のせいだと、気づくことができたストレイボウ。
それは、もしかしたら、きっと。

505 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:33:09.72 ID:d/4302S0


506 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:33:45.11 ID:RSJ4GEpW
支援

507 :組曲の行方 ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:33:44.72 ID:VvdyVqTF
【C-7 二日目 深夜】
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)※ただし魔力はソウルセイバー分回復済み、ダメージ(中)
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFY、
    基本支給品一式 、にじ@クロノトリガー、昭和ヒヨコッコ砲@LIVE A LIVE、マタンゴ@LIVE A LIVE、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:イスラたちと合流して、情報交換やこれからの行動方針を練る。
2:キルスレスの事も含め、魔王達を追撃?
3:付近の探索を行い、情報を集めつつ、元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
4:首輪の解除、ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
5:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。 レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)


【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:疲労(大)、心労(大)、自己嫌悪、罪悪感
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドU、基本支給品一式×2、不明支給品0〜1個(ブラッドのもの)
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:イスラたちに合流。そして謝罪する。
2:カエルを止めたいが、俺なんかに止める資格のある願いなのか?
3:戦力を増強しつつ、北の座礁船へ。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません


【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:若干持ち直した
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
0:イスラたちに合流。
1:ジャファルと一緒にいたい。
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイヴォルテックは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
 現在所持しているのはゼーバーとハイヴォルテックが確定しています。

508 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:34:21.09 ID:RSJ4GEpW
支援

509 : ◆SERENA/7ps :2011/03/13(日) 22:34:45.03 ID:VvdyVqTF
投下終了しました。
数々の支援ありがとうございます
それでは、誤字脱字矛盾点その他なんでも、指摘ありましたらお願いします

510 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:35:06.20 ID:d/4302S0


511 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:35:35.53 ID:WY1+9FkE


512 :創る名無しに見る名無し:2011/03/13(日) 22:47:06.78 ID:pWF88x7D
投下乙!
マリアベルならストレイボウを許せるよね、大丈夫だよね!?
とドキドキしながら読み進めてしまった。
ブライオンを降ろしたときはホッとしたが、ニノの登場によってまたハラハラが再発しちまったぜ。
にしても、マリアベルとヘクトルは本当に人格ができてるな。
そしてニノとストレイボウ、決闘を通しての交流が実に上手い。
弱さを抱えながらも強くあろうとする意志、その尊さがよく伝わってきた。
とりあえずはストレイボウも安心か。これで本当の仲間になれた、って感じかな。
まあ、まだ安心はできないけどなw
GJでした。

513 :創る名無しに見る名無し:2011/03/14(月) 02:09:19.39 ID:mChmsr0F
投下乙。
己の罪を懺悔し、吐露するストレイボウ。
それを受け止め、諭すマリアベルホントいいやつだ。
中世編のキャラたちの補完がよかった。
アリシア姫はその優しさ故にストレイボウの語った己の不遇さに
同情してしまったんだね

ニノとストレイボウ、2人の「弱き」魔術師たちが
どれだけ成長することができるか、楽しみな作品でした。

514 :創る名無しに見る名無し:2011/03/14(月) 02:14:57.74 ID:fVVehA0B
投下乙!
月を背にしたマリアベルのシーンはすげえ綺麗だった
今回マリアベルのカリスマやべえ。流石のノーブルレッド
そして彼女がストレイボウを許す理由の一つ目は特にお見事
被害者とは言い切れない、か。確かにマリアベルの判断基準は平等だな
そんな彼女や、彼女同様器の大きいヘクトルに対してのニノもいい味出してる
そうだよなあ、むしろニノの反応が当然なんだよなあ
いや、ヘクトルに諭されたように、まだ今回のニノですらジャファルのことがあって理屈ではストレイボウを責められない
それでも、感情じゃ許せなくての、納得するための決闘か
奪われてばかりで、守られてばかりで、強さに憧れていたニノ
彼女からすればオルステッドに負け続けていたストレイボウもまた強者で
様々な意味で超えなければならない壁だったのか
そのニノにありし日を見たストレイボウも切なかったな
オルステッドへの裏切りも最初は対等でいたかった、ライバルでいたかったためのもの、か
おかしな言い方だけど、こいつはこいつなりに、オルステッドと共に歩みたかったんだな
ニノを尊く想い、昔日の感情を思い出したストレイボウに涙した

うん、本当に、今回の話はイメージとして光景が脳裏に次々と浮かび上がってくるほど面白いものでした
GJ!

515 :創る名無しに見る名無し:2011/03/14(月) 03:04:41.24 ID:oxL1uDsi
投下乙

最後の文章の終わり方になんか引っ掛かるものを感じてたんだが分かった
心の弱さって高原を主人公にした最終編でオディオが言う台詞なんだ
ストレイボウは高原に言われるまで気付かなかったオディオと違って、自分でそこに気が付いたんだな
何とかしてストレイボウはオディオに会ってほしいもんだわ

516 :創る名無しに見る名無し:2011/03/28(月) 12:34:23.89 ID:spOy2Aal
保守

517 :創る名無しに見る名無し:2011/04/01(金) 17:19:34.75 ID:97nUUMxp
したらばw今年もやってるwww

518 :創る名無しに見る名無し:2011/04/01(金) 19:25:57.49 ID:JEde5B3z
トカの次はちょこかよ!?w

519 :創る名無しに見る名無し:2011/04/15(金) 14:58:26.05 ID:QuCvdkR8
最後の予約から1か月経ったがみんな生きてる?

520 :創る名無しに見る名無し:2011/04/16(土) 15:16:16.64 ID:sG4lSstw
終了ロワ

521 :創る名無しに見る名無し:2011/04/16(土) 18:42:46.49 ID:tg5jwRnM
生きてるよー。
予約もだが、雑談がないから停滞しているように見えるのかもしれんが。

522 :創る名無しに見る名無し:2011/04/16(土) 20:53:10.50 ID:xaC0z+sB
>>520
こいつマルチだから
ロワとついてるところで全部書いてる

523 :創る名無しに見る名無し:2011/04/20(水) 02:56:40.08 ID:REOY1EGz
まあうちは基本雑談ねえところだし、雑談なくても安心ではある…
少しさみしいけど

524 :創る名無しに見る名無し:2011/04/22(金) 11:26:37.99 ID:OaSEsgc3
今ってすごく難しい局面だよね
フラグが多くて把握しきれないw

525 :創る名無しに見る名無し:2011/04/27(水) 03:58:48.05 ID:De8TSrcM
ぬぬ

526 :創る名無しに見る名無し:2011/05/14(土) 22:47:44.89 ID:CdO0AHac
保守

527 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 21:45:04.09 ID:PrKSIV9N
予約じゃあ!
皆の衆、予約が入ったぞう!

528 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 22:18:18.10 ID:vSaRP7dB
おお、本当だ

529 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 22:20:22.58 ID:X8w78ulZ
おっしゃああ!

530 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 22:38:04.18 ID:g9AYFllV
ふっひひwwww

531 : ◆wqJoVoH16Y :2011/05/15(日) 23:04:08.86 ID:OtlJ4cen
それではジョウイ、イスラ、マリアベル、ヘクトル、ニノ、ユーリル、ストレイボウ、
アナスタシア、アキラ、セッツァー、ジャファル、ピサロ投下します。

532 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:05:03.67 ID:PrKSIV9N
なん……だと……?
もう投下かよwwwwwwww
よっしゃ支援は任されよ

533 :エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y :2011/05/15(日) 23:05:45.81 ID:OtlJ4cen
木々を掻き分け、抉られた荒地を避け、また木々を分ける。
延々と続く道なき道を歩みながら、ジョウイ=ブライトは小さく嘆息をついた。

(本当に、どうしようか)

星明りしかない夜の下で、ジョウイは瞼を閉じることなく少し前のことを思い出す。
アキラが倒れ、しばらくしてから放送があった。
ブラッド=エヴァンスの死、魔王達の生存、禁止エリア予定地を筆頭に、驚くに足る情報を黙して受け止める。
どれだけ深い夢を見ているのか、あれだけの放送があってもアナスタシア、ユーリル、アキラは起きる気配がない。
故にどうするかも決めあぐねてイスラと紋切り型やり取りをしているうちに、
ヘクトルというイスラの知人が、マリアベルのメッセンジャとして彼らの元に来た。
マリアベル達が置かれた状況は把握できたが、いかんせん眠り続ける者たちが多すぎた。
3人が3人担いで移動をすれば、鴨がねぎを背負うのとさほど変わらない。
故に、必要以上に向こう側の様子を気にしたヘクトルがマリアベル達を呼びにいくのは至極当然だった。

(それにしても、ストレイボウさんが……オディオの怨敵だったなんて)

マリアベル達と合流した彼らがまず立ち会った行ったことは、ストレイボウの深い謝罪だった。
何事かと最初は驚きもしたが、その下げられた口から出てきた事実はそれを納得させるに十二分過ぎた。
愚かな男と哀れな魔王の喜劇。この舞台の幕開けとなった撃鉄。
魔術師より綴られた悔恨を聞き終えたとき、ジョウイは不思議と必要以上の怒りを覚えなかった。
無論、必要な分――リオウとナナミがこの場所で殺されたことに対する怒りはあった。
だが、それと同時にジョウイにはストレイボウが待ってくれた時間を受け取っていた。
相殺とはいかないが、少なくともニノのように決闘までして清算するほどではない。

(それに、僕は……この舞台にいることを、そこまで嘆かない)

同じ条件で悔恨を聞いていたイスラもそこまで罵声を浴びせなかった。
その理由はきっと、ジョウイと同じものなのだろうと思っていた。
それはマリアベルがストレイボウに語ったものと同じ、ここでしか得られなかったものを得たからだろう。
マリアベルが惜別の友アナスタシアと再び出会えたように、イスラがヘクトルという未知の可能性を見たように、
オディオの憎しみによって生まれたものが、けっして憎しみだけではなかったことを知っていたからだ。

(始まりがなんであれ、もう一度、理想を掴む機を得たのだから)

ただし、ジョウイが得た「失われた機会」は決して眩いものではなかったが。
(だからこそ……その機会が無くなるのは不味いんだ)
暗がりの中では明かりがあれど眼はほとんど使い物にならず、自然と耳と鼻に偏る。
僅かな足音も聞き逃すまいと済ませた耳に、マリアベルの言葉が再生された。


534 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:06:03.54 ID:PrKSIV9N
 

535 :エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y :2011/05/15(日) 23:06:41.41 ID:OtlJ4cen
『互いの状況が把握できたところでこの後の動きじゃが……カエル達を追撃しようと思う』

それは、ジョウイがブラッド達から別れイスラ達の下に来てからのマリアベル達の情勢を聞いた後、
真っ先に思い浮かべたことであり、同時に「どうかそうではありませんように」と希った未来だった。
『無論、ユーリル達が起きて、その結果を占ってからの次第ではあるがな。3人担いで山越えはできん。
 だがその結果がどうであれ、早期にカエル達と決着せねばなるまい』
当然ではあった。回復魔法を備えるカエルと魔王に時間を与えることは相手に利しか与えない。
ストレイボウもマリアベルの言葉に光明を拝むかのような顔付きを見せる。
戦闘はともかくとしてカエルとの対話は彼が望むべくものだった。
無論、相手が堂々と篭城かつ迎撃を予告している以上危険は百も承知だった。
遺跡が禁止エリアになるまで待つか、いっそ無視できればまた話は変わるが。
『拙速だと言いたいけど……キルスレスがあるとなると不味いね。
 「遺跡」の下にある力ってのが何かによるけど……早々に手を打ったほうがいいのは確かだ』
そこで話に乗ってきたのは、恐らくこの場で一番冷静な判断力を持ったであろうイスラだった。
イスラはそれ以上は言わなかったが、イスラはカエルと魔王を警戒しているというより、
カエルの持つあの紅剣と遺跡そのものを危惧しているという風に感じられた。
ニノとヘクトルは殺し合いに乗るものと決着をつけることに意を挟むことはなく、
マリアベルの提示した案は畢竟、ある程度の先の着地点を見出した。

『それなら……ひとつ、その前に確認しておきたいことがあるんですが』

だからこそ、ジョウイはその言葉を漏らした。
マリアベルの案以上に拙速で、同時にある種のリスクを孕んでいることも承知で、そう言った。
鼻にひくついたものがある。それが塩の匂いであると分かったとき、木々の柵は終わりを迎えた。
ジョウイの耳を迎えたのは微かな潮騒であり、その眼を向かえたのは、微かな灯りを残した座礁船だった。

座礁船に、僕達の力になってくれる人がいるかもしれない。それを確認しておきたい。
ジョウイが申し出たことを要約すればその一言に収まる。
当然、その基点となるのはビクトールが別れ際に示した事実に他ならない。
同時に、その事実のさらに基点となるビクトールそして無法松が既に死んでいることも事実だった。
それでも、その情報を受けて誰かが集まっているかもしれない。
いるにしてもいないにしても、その確認は南下よりも先に済ませておくべきだとジョウイは提案した。
無論、本気で残存者がいるとは思っていない。そう思うには人が死にすぎた。
ジョウイが望んだのは、兎にも角にも一人になりたかったという所が一番大きい。
イスラあたりならば疑念をもってもおかしくはない。だからこそ、信頼という貯金が残っている内に動く必要があった。

『誰か、知っている人間でも死んだのかい?』

放送の後、イスラに問われたことを思い出す。
自分のポケットを確かめるような気軽さで、僅かとはいえイスラは自分の中の動揺を見抜いてしまった。
(本当に、よく似てるよ。まるで自分の抜け殻を見ているようだ)
見抜かれたのが喜悦の無さだけだったことは不幸中の幸いだったと今にして思う。
あの時、ジョウイはあの原初の邪悪が死んだことに喜びも安堵も感じなかった。
自分が願いを達するため打倒すべき相手が死んだことを安堵すらできなかったのは、その時は自分自身でも理由が分からなかった。
その理由が分かったのは、マリアベルが南征を提案したときだった。

(マリアベルさんは知恵者だ。甘い考えで拙速を選ぶ人じゃない。それは、やっぱり)

船への入り口を見つけながらジョウイは思う。
僅かながらにでも「その道」の才があるものならばリスクとリターンの天秤を見誤ることは無い。
マリアベルはあらゆる要素を鑑みたその果てに、それを最良とした。つまり今が賭け時と判断したのだ。

(ルカ=ブライトの死は、あまりに大きい。戦況は収束に向かっているということだ)

536 :エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y :2011/05/15(日) 23:07:32.79 ID:OtlJ4cen
ジョウイは脳裏に地図を広げ、評定会議に臨むが如く推移を見極める。
良くも悪くも、ルカ=ブライトは「混沌」そのものだ。その渇望が戦火を広げ、戦乱を招く。
このありとあらゆる力が交じり合う世界においても、序盤からその悪名が轟いたことはその最たる例だろう。
それが討たれた。それは1つの脅威の終焉であり、同時に「より強大な正義」が台頭したことを意味する。

(アシュレー=ウィンチェスター。あの暴君を討ち果たしたのが彼、あるいは彼を中心とした勢力である可能性は高い)

それはマリアベルが至った結論でもあり、そこに異を挟むことは無い。
なぜなら彼らはあの雨の中おおよそルカ以外の脅威と争っていたのだから。
多く見積もっても、4,5人。都市同盟の精鋭30と弓矢の雨霰を
もってやっと討ち果たせる怪物をそれだけの力で討ち果たしたのだ。

(英雄の台頭、か。ただの村人なら美談になるんだろうけど、それじゃ困る)

状況を整理すれば、今この舞台の上には二つの正義が存在している。
アシュレーが率いている(であろう)戦力、そしてマリアベルが中心となっているジョウイたちの戦力だ。
大して、マーダーと目されいる者たちはどうか。問うまでもない。誰が疲弊させ、分散させたかなど。

そう、マリアベルは「現時点で自分達の背後を突ける敵対勢力が無い」からこそ、攻勢を選べるのだ。
ピサロ、ジャファルの消耗は言うに及ばず、カエル達に至っては自分から休むことを宣言している。
そしてルカが敗れた今、確認される脅威はマリアベルの認識下に置かれた。つまり、主導権は彼らにあるのだ。
(後は各個撃破。どこかで出会えればアシュレーと合流。後は魔王を倒すだけだ)
アシュレーとマリアベルならば無条件で結託するだろう。二虎競食は狙えない。
そうなったら後は本格的に虱潰しだ。いっそアナスタシアかユーリルが暴れてくれた方がよかったかもしれないが、
彼らもそれを一番警戒している。それになにより、ジョウイはそれを良しとは心の底からは思えなかった。

(まるで……ゴルドアックスだな。落ちたら後はハイランドか)

都市同盟と王国軍の戦争を思い出す。最初は優勢かと思えば、いつの間にか玄関口まで攻められていたかのようだ。
その先に待つのは、今までと変わらない平和と、似通った秩序だけ。
もっとも、そのとき、ゴルドーを倒したのはリオウと。
(だけど今回は、いや、今回もそれは選べない。安穏と為すがままに与えられた平和なんて)
彼はその選択を選べない。彼の背中にある死体がそれを許さない。なにより、自分が許せない。

軋む木の床を進み、ジョウイは思う。
英雄が既に台頭し混沌が終わりを迎える中、自身が今一度王となるならば何が必要か。
ジョウイは明かりの漏れる部屋の前で、その手のひらを見た。
その手には黒き刃。だが、その刃だけではまだ足りない。

(まだ必要なんだ、僕が理想を掴むためには……僕だけの魔法が)
「こんな場所で思索とは関 心      せ     n    」

その時だった。首筋に衝撃を与えられジョウイが気を失ったのは。




537 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:07:42.68 ID:PrKSIV9N
 

538 :エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y :2011/05/15(日) 23:09:15.34 ID:OtlJ4cen
「ここに残る「目」に賭けたのは当たりだった、という話でな」
賽をコロコロと碗の中で転がしながら、セッツァー=ギャッビアーニは微笑んだ。
「無法松の話、そしてあの警戒の無さ。ここが参加者の待ち合わせ場所になっているのは間違いない。
 とすれば、待っていれば誰かがノコノコ現れるかも……ってのはスリーペアくらいの確率だ」
四五六を出しながらセッツァーはおおっとおどけてもう一度振りなおす。
「ただなぁ、ここにくるためにはC6・C7を通らなきゃならん。
 そこでヘクトルに出くわす……ってのは1枚コインを投げて裏が出る確率だ」
その視線は賽の目に注がれているが、その言葉は明らかに視線の外に投げかけられていた。
「でもって、ヘクトルが俺を黒か白、どっちに思ってるか……白だったら配当は1千倍だな。大穴だ」

ピンゾロが出たとき、セッツァーは初めて視線を賽から外し、言葉の向かい先へ向けた。
そこには、手足を縛られ、ジャファルにナイフを突きつけられたジョウイがいた。そしてそこから少し離れた処に回転のこぎりが突き刺さっている。

「となれば、巣にノコノコ入ってきた奴を問答無用で抑えてしまう……ってのが、一番ベターな張り所だと思わないか?」
「……僕の知っていることは、これで全部です。どうか、見逃しては貰えませんか……」

船の灯りは最初から誘蛾灯だった。既にジョウイが船に入った瞬間からジャファルは
ジョウイを補足しており、その背後からいつでも襲える状態だったのだ。
互いに一人では絶対に為しえない、仲間がいるからこその選択肢だった。
そしてその賭けは見事的中し、配当として彼らはジョウイからマリアベルやヘクトル達の情報を得ることができた。
その取捨選択は当然しなければならないが、少なくともあからさまな矛盾は無い。

「両生類と魔王征伐ねえ……暇潰しの与太話なら最高なんだがな。ククク」
意図的な笑みに反し、その瞳は笑っていない。
放送と手持ちの情報、そして今しがたジョウイから得た情報、即ちヘクトル達の陣容と今後の方針は不快を抱かせるに十分だった。
(狩る側と狩られる側の逆転か。しかもこちらの3倍の種銭を持った奴らがいると来たもんだ。
 しかも俺を黒で決め打ちしてやがると。笑い話にもなりゃしねえ)
ジャファルを抱き込んだことに不足はない。だが、賭場がそれ以上の金を要求し始めた。
この先、レートは上がり安全な目はどんどん無くなっていくだろう。何処かで勝負を仕掛けないと場にすら立てなくなる。
「ギャンブルはこうでなくっちゃな…!!」
だからこそセッツァーは笑った。やせ我慢などではなく、純粋な気持ちから笑った。
安全な道を進んで得られるのはせいぜい小金だ。それで我慢ができないから、ギャンブラーなのではないか。

「どうする、セッツァー。ヘクトル達の背後を突くか」

ジャファルの提言にセッツァーとジョウイの眉根が動く。
魔王達がダンジョンの最下層で待つと言うならば、ヘクトル達が入った後に入り口を押さえれば容易に背後を突ける。
上手く仕掛けられれば、漁夫の利まで狙える至極全うな賭け所だった。
「悪くない目だ。4:6で配当大なら攻めるのもありだな。ただ……」
セッツァーはそういって立ち上がるなり、ジョウイの眉間に槍を構える。
あわやささるというところでとまった槍先をみながら、ジョウイは息を呑んだ。
「ただしこいつの誘った賭場じゃなければ、の話だ。
 答えな、ルーキー。俺達がここにいると賭けてお前はここに来た。ここからお前はどう張るつもりだ」

セッツァーの言葉に、ジョウイはこの場で初めて冷や汗をたらした。
船にいるはずの無法松を殺したのは誰か。そこでジョウイはジャファルとセッツァーが居ると賭けたのだ。

「……そこに僕を、使ってもらえませんか。どうせ張るならば、3分の1の方がいい」

セッツァーたちの獅子身中の虫となり、マリアベル達を壊滅させる。
意を決しカードを切ったジョウイの瞳を見たとき、セッツァーは確信した。
こいつは無法松やアティとは違う、ジャファルや自分と同じ、夢と明日に向けて自分の命をBETするギャンブラーなのだと。
若きギャンブラーの切ったカードに、偉大なるギャンブラーの出したカードは――――



539 :エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y :2011/05/15(日) 23:10:24.13 ID:OtlJ4cen
ぼさ、と肉が砂浜に沈む音が聞こえた。
ジョウイという名の肉が船から落とされる。既にその体は、ちょうど肉を柔らかくするように叩きにされていた。
「う、う……」
ボロボロになりながらジョウイはジャファルに殴られながらセッツァーが言っていた事を思い出す。

『魚ならな、腹が減ってるところに餌をたらせば食いつくさ。
 餌をたらせば食いついてくれると思ったんだろ? 俺達ががっつくと、そう思ったんだろ?
 お前の舞台でまんまと踊ると、そう思ったんだろ』

呼吸をしようとして喉に引っかかるものを感じ、べっと吐き出す。口の中が切れていた。

『賭けた以上は清算はしてやる。俺達の答えは―――――――――決めない、だ。
 お前らのカマを掘るか、何処かへ逃げるか、はたまたここで休むか……それを“決めてやらない”。
 残念だったな、お前はこれだけのリスクを積んで張ったが……もう一度ダイスを振らなきゃならない』

よろよろと立ち上がり、船の方を恨めしそうに見る。やはり、一筋縄でいく相手ではなかった。

『その傷は授業料代わりだ。ヘクトル共に俺達の場所を伝えるなりなんなり好きにしろ。
 生き延びたお前は、さぞや疑われるだろうがな。帰って、自分の命を買い戻す算段をつけるがいいぜ』

伝えたところで、今度はその後セッツァーたちがいる保証もない。
何から何まで、一から賭け直しとなる。ジョウイにとってそれは悪夢以外の何物でもない。

『じゃあな、この世界に足を踏み入れた新入り<ルーキー>――――あんまり、ギャンブラーを舐めるな』

吐き捨てられた言葉が、何よりも傷に染みた。
そしてトボトボと南へ踵を向ける。一世一代の賭けは、見事破れ――――無一文となった。
なのに、彼の口元は……歪んでいた。





540 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:10:41.73 ID:PrKSIV9N
 

541 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:11:28.00 ID:PrKSIV9N
 

542 :エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y :2011/05/15(日) 23:11:42.46 ID:OtlJ4cen
「……生かして帰して、良かったのか?」
静かになった船内でジャファルはセッツァーに問う。セッツァーは再びダイスを転がしながら肩肘を突いていた。
「殺せば仲間が北に探しに来る。今張って勝ち切れるとは、言い切れないぜ」
セッツァーは面白くなさげにそう答えた。
「本当に乗らなくて、良かったのか?」
「全額を積むのは、100%勝ち目があるときだけだ。財布の中身が心もとないからって一発逆転を狙うのは落ち目のやつだけだよ」
確かにな、とジャファルは納得したように言った。だが、セッツァーにはもう1つの理由があった。
(あの小僧、最後まで俺に読み切らせなかった。俺達を誘う罠なのか、仲間を貶める罠なのか、読み切れなかった)
どちらかを見極められれば、それに応じた目に張ることができただろう。
それができなかったからこそ、セッツァーはカードを切れなかった。確信のない張りはただの浪費でしかない。

(さて、実際にどうするかな……)
乗るにしてもせめてもう少し金がほしいのだが。
そうセッツァーが張り所を考えようとしたときだった。ぎしり、と船に体重が乗る音が聞こえる。
「また誰かが来たようだな」
「またルーキーか? 未練がましいな。負けて破れかぶれに突っ込むのは破産の証だぜ」
そう言って再びダイスを皿へ手放したときだった。セッツァーに、そしてジャファルにえもいわれぬ悪寒が走る。

(ルーキーとはいえ、ギャンブラー。わざわざ戻ってくるはずがない――――――こいつは別口だ)

だが、時は既に遅かった。3つのダイスは既にギャンブラーの手元を離れている。

「ずいぶんと楽しそうな話をしているな」

扉がゆっくりと開く中で、ダイスを外しテーブルに落ちる。
そして、パキリと3つの音が鳴った。

「なにやら北に灯りが見えると思って来てみれば……聞かせて見せろ人間」

2に、3に、4に、5に亀裂が走り、真っ二つに割れる。
セッツァーは見知った銀の髪に意識を向けながら、賽の目を見た。

(こいつは、参ったな……俺とあろうものが、降り時を損ねちまったか……?)
「どうせ死ぬのだ。面白ければ、それだけ生き延びるぞ?」

テーブルに残るは1・6、1・6、1・6。賽の目にはありえない777<ラッキーセブン>。
降りることのできないこのゲーム、はたして目の前の魔王は、ワイルドカード足りえるか。



543 :エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y :2011/05/15(日) 23:12:17.48 ID:OtlJ4cen
【A-7 座礁船 二日目 黎明】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドU、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドU
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストW 導かれし者たち、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
    マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、基本支給品一式×1
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを生かす。
2:眼の前の相手(ピサロ)に対処する。
3:セッツァーと仲間として組む。座礁船を拠点に作り替えるorジョウイの提案を吟味する?
4:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
5:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦
※セッツァーと情報交換をしました
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。

【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:好調、魔力消費(小)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドU、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット(サイコロ破損)@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2、 シルバーカード@FE 烈火の剣、メンバーカード@FE 烈火の剣 、拡声器(現実) 回転のこぎり@FF6
    フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドU、天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3

[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:眼の前の相手(ピサロ)に対処する。
2:ジャファルと仲間として行動。座礁船を拠点に作り替えるorジョウイの提案を吟味する?
3:松から聞いた話を吟味する。特にブリキ大王や用意されているであろう対抗手段は気になる。
4:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。

【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、心を落ち着かせたため魔力微回復、
    ロザリーへの愛(人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感は消えたわけではありません)
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実
[思考]
基本:ロザリーを想う。優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:眼の前の男達の話を聞く
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
 ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)。


544 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:13:03.43 ID:PrKSIV9N
 

545 :エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y :2011/05/15(日) 23:13:08.52 ID:OtlJ4cen
「はは、勝った……ギリギリだけど、何とか勝てた……」
岩陰に隠れピサロをやり過ごしながら、ジョウイは喉の中でほんの少しだけ笑った。
ジョウイが本当に賭けたのはセッツァー達の助力ではない。
自分がセッツァーの立場ならばこんな怪しい話に首を突っ込まないし、
また、わざわざジョウイを殺してせっかく南に向いている目を北に向けさせることはない。
セッツァーが乗らないことも、自分が生き延びることも、ジョウイは読みきっていたのだ。
「気づいてくれて、本当に助かった。気づいてくれる位置にいて、助かった」
ジョウイはそう言って、自分の手のひらに輝く緑の光を見た。
ジョウイは座礁船に直進することなく、まずB6に来ていた。そしてそこで何度か盾の輝く光を空に示していたのだ。
ジョウイが本当に賭けたのは――――西に逃げたピサロが北に興味を示してくれるか否かだった。
セッツァーたちは絶対に乗らない。こんな怪しい話には乗らない。

「だけど……乗らざるを得ないのは分かってる。後は、そこに一押しを加えることだ」

そこに乗らざるを得ない状況が起これば、話はガラリと変わってくる。
今頃船の中で何が起こっているのかを想像することはしない。
ピサロがどうするのか、セッツァー達がどう出るのか。自分よりも1枚も2枚も上手の相手を推し量ることはできない。
ましてや、ジョウイにとって有利になったともは決して考えない。

「まだ必要なんだ……僕に必要な魔法……唯の平民から僕を一国の王にした魔法が……」

ジョウイが作ったのは、計画でも作戦でも罠でもない。むしろその真逆にあるもの。
ルカ=ブライトならばただそこにいるだけで存在したものを、ジョウイは命懸けで作り上げたのだ。

「戦火が……大きな戦いが必要なんだ……平民も貴族もないその混沌の中でしか……僕が王になる道はない……」

それは火を投じること。一つ一つは小さな火を集め、炎にすること。巻き込んで渦にすること。
戦乱という名の“混沌”。安定を迎えつつある舞台の中でジョウイが欲した、最後の好機だった。
その中でこそ、ジョウイは本当のギャンブラーとなる。
此処こそがジョウイにとって、プロや魔王を相手取る、なによりかつて狂皇を相手取ってきた本当の賭場なのだ。

「その中で、僕は手に入れてみせる。“本当の魔法”を……たとえそれが、血に塗られた、暴君の途であろうともッ!!」

直に明けるであろう夜空に向けて傷だらけの右手を掲げる。闇の中見えぬ、しかし確かに存在する刃に誓った。
今更、恐れるものはない。既に彼は何万もの人間というチップを賭けて敗れる味を知っていたのだから。



【A-7 草原 二日目 黎明】

【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]:疲労(中) 全身に打撲
[装備]:キラーピアス@DQ4
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:マリアベル達の所へ戻るorもう一度座礁船に入る?
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾
※ストレイボウの罪を知りました。

546 :エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y :2011/05/15(日) 23:14:05.26 ID:OtlJ4cen
【C-7橋の近く 二日目 黎明】

【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドU、ビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:目覚めたユーリル達に対処する。
2:カエル達を追い南下する。
3:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
    ストレイボウの罪を知りました。
    偵察に出たジョウイについてどう思っているかは不明です

【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)※ただし魔力はソウルセイバー分回復済み、ダメージ(中)
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFY、
    基本支給品一式 、にじ@クロノトリガー、昭和ヒヨコッコ砲@LIVE A LIVE、マタンゴ@LIVE A LIVE、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:目覚めたユーリル達に対処する。
2:カエル達を追い南下する。
3:付近の探索を行い、情報を集めつつ、元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
4:首輪の解除、ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
5:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。 レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
※偵察に出たジョウイについてどう思っているかは不明です

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:疲労(大)、心労(大)、自己嫌悪、罪悪感
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドU、基本支給品一式×2、不明支給品0〜1個(ブラッドのもの)
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:目覚めたユーリル達に対処する。
2:カエル達を追い南下する。
3:勇者バッジとブライオンが“重い”。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません
※偵察に出たジョウイについてどう思っているかは不明です


547 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:14:19.91 ID:PrKSIV9N
 

548 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:15:33.23 ID:PrKSIV9N
 

549 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:21:31.68 ID:PrKSIV9N
では代理投下いきます

550 :アラスムスの邂光現象 ◇wqJoVoH16Y (代理投下):2011/05/15(日) 23:22:13.35 ID:PrKSIV9N
【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:若干持ち直した
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:目覚めたユーリル達に対処する。
2:カエル達を追い南下する。
3:ジャファルと一緒にいたい。
4:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
5:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイヴォルテックは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
 現在所持しているのはゼーバーとハイヴォルテックが確定しています。
※偵察に出たジョウイについてどう思っているかは不明です

【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:アキラが気に食わない。
3:クロノならどうする……?
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。

551 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:24:10.52 ID:X8w78ulZ


552 :アラスムスの邂光現象 ◇wqJoVoH16Y (代理投下2):2011/05/15(日) 23:27:01.26 ID:X8w78ulZ
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪、キン肉マン
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(大)、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:気絶中
2:無法松の英雄になる。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
※無法松死亡よりも前です。
よって松のメッセージが届くとすれば、この後になります。




553 :アラスムスの邂光現象 ◇wqJoVoH16Y (代理投下2):2011/05/15(日) 23:28:51.25 ID:X8w78ulZ
-----------------仮投下スレより転載-------------------

813 :エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y:2011/05/15(日) 23:18:24 ID:cqjqO0vY0
投下終了です。支援ありがとうございました。


814 :SAVEDATA No.774:2011/05/15(日) 23:24:31 ID:cqjqO0vY0
IDが残っているうちに。>>811はタイトルミスです。
エラスムスの邂光現象が正となります。すいません。


815 :SAVEDATA No.774:2011/05/15(日) 23:25:23 ID:NsxdIkW.0
本スレで代理投下しようとしましたが、自分も規制にかかりましたのでどなたか更なる代理投下お願いします
残りは>>812のみですので、一回で終わるはずです

------------------転載ここまで-----------------
以上をもちまして代理の代理、終了します
投下&代理投下お疲れさまでした
感想は後ほど

554 :創る名無しに見る名無し:2011/05/15(日) 23:46:54.78 ID:X8w78ulZ
では改めまして
投下お疲れ様です
セッツァーかっけええ!
決めないとはなんて嫌がらせだ!……っと思ったら!
決めない、じゃなくて決められないだったとは
ここまで見越してたか、そこまで考えてたのか、ジョウイ!
これはまじ続き楽しみだ、GJ!

555 :創る名無しに見る名無し:2011/05/16(月) 10:08:09.78 ID:iBrwrwNz
投下乙!
なんと! RPGロワとは思えないほどの心理戦w
ジョウイとセッツァーだからこその読み合いか。凄まじい。
しかし、残りキャラを駆け引きに使えるってのが、終盤だって思い知らされるね。
マーダーがみんな疲弊してたとこだけど、まだ終わってないか……GJ!!!

556 :創る名無しに見る名無し:2011/05/17(火) 10:27:46.20 ID:twvcNUUS
細かいようで申し訳ないが、一言。
セッツァーってアティの名前聞いてすらなかったから知らないんじゃ?

557 :創る名無しに見る名無し:2011/05/17(火) 17:00:32.67 ID:dvKBelDL
>>71で知ってるような感じだからならったんじゃないの

558 :創る名無しに見る名無し:2011/05/17(火) 20:20:40.21 ID:twvcNUUS
あー、なるほど。まあ名前だけならすぐ修正できるかな?
どこかで聞いた描写もなかった気がするんだが。

559 :創る名無しに見る名無し:2011/05/17(火) 21:54:04.15 ID:4nGbhVUx
投下乙です

RPGロワでここまで濃い心理戦は初めてかも
二人とも濃いわw
俺も続きが楽しみだぜ

560 : ◆iDqvc5TpTI :2011/05/18(水) 00:01:03.45 ID:v2CktilX
>>557
はい、その件につきましては申し訳ない
ご存知と思われますが、以前に指摘を受けて修正済みです
ただ、最近再把握も兼ねてLALをやっていて気付いたのですが
同、闇からの呼び声におきまして、松のセリフ中でブリキ大王が飛べないことになっているのを修正させていただきます
MAP移動時に普通に飛んでいるのをすっかり忘れていたみたいです

間違いを犯したまま、リレーさせてしまい申し訳ありません

561 :創る名無しに見る名無し:2011/05/21(土) 04:05:25.33 ID:PzkQQAsk
遅ればせながら乙!

禁止区域や残りの面子を考えて作戦を立てるようになってきたのが面白い
ピサロ vs ジャファル&セッツァーがどうなるかも楽しみ。

細かいことなんだけど、
> 船の灯りは最初から誘蛾灯だった。
とあるけど、ジョウイは最初から船にセッツァーがいると踏んでいたようだし、
船の灯りを気にしていたような描写もないので、この部分はちょっと引っかかったかな

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