【第一部までのあらすじ】 現実世界で落ちこぼれ、惨めに生涯を終えた低スペック青年・李信(直江山城守兼続)。彼が次に目を覚ましたのは生前憧れていた二次元世界だった。憧れの漫画(アニメ)作品の能力を手に入れ若返り容姿も変貌して歓喜した李信だったが、転生して早々逮捕の危機に遭う。李信は早速能力を使い敵を撃退、ぐり~んが治めるグリーン王国に落ち延びて将軍となり、この世界に転生してきたポケガイ住民達と協力しながら様々な戦いで策や力を用いてサバやかっしー、荒喧などの敵を滅ぼし生き延びた。 一方、エイジス・リブレッシャー(氷河期)はガルガイド王国の騎士となっていた。正体を知らずに李信と激闘を繰り広げ打ち負かし一時和解するも方針の違いから決別。その間に王国の惨状を見て未来を憂い離反したリキッドと交戦するもオルトロスの介入により取り逃がす。その後ガルドリア城でリキッドや李信と再戦しリキッドを倒すことに成功するが北条の介入により敗北する。改心したエイジスは荒喧四天王の幽霊を撃破してボスのヒノ荒らしに挑むも敗北してしまう。ヒノ荒らしの圧倒的実力の前に為す術を持たなかったが、途中参戦した水素によりヒノ荒らしは倒され、世界に一応の平和が訪れたのだった。 事件は夜に起きた。 隣国の一つであるNAK帝国の侵攻を受けたグリーン王国だが、北条将軍による活躍でNAK軍をグリナ峠の戦いで撃退した。 攻勢に転じるべくグリーン王国は赤牡丹、マロン、Wあを派遣、NAK帝国の中央部に位置し竜崎が守るNAK新城を2万5千の兵で包囲していた。 水素、星屑、小銭は幻影帝国との境 を警備すべく派遣されていた。 グリーンバレーにはアティーク、オルトロス、庭師、李信が残っていた。 ぐり~んはグリーンバレーに李信のみを残し、残る三将にもNAK帝国への出陣を命じた。赤牡丹からの要請によるものである。赤牡丹によれば、NAK帝国はNAK新城を救うべく2万の兵を派遣したとのことであった。 その状況を好機と捉えたアティークがオルトロス、庭師らを取り込み20000の軍を率いて突如NAK帝国へ向かう筈の進路を引き返さんと、進軍を停止していた。 月明かりが集められた将兵達の勇ましい顔を照らし、輝きに満ちた無数の月が設けられた壇上に立つアティークの言葉を待っている。 「皆の者!よく聞けぃ!この大将軍アティーク、今こそ天下を変える! 国王ぐり~んは民に優しいばかりで国を統治し守る器量に欠けている! 更にグリーン王国第一の将軍から格下げし第二の将軍とした所業も誠に許し難い! セール、李信も許しされざる者共だ! このような不公平な段を下すぐり~んは王の器にあらず! このアティークが成敗する! 皆の者良いかぁ!我が敵はNAKにあらず! 敵はグリーン城にあり!」 アティークの魂を込めた口上が終わるや否や、眼下の将兵達は勇んで歓声を上げた。 月明かりが照らすグリーン坂の地で、謀反の軍が狩りに出掛ける肉食獣の群れの如く動き出した。 2万の内アティークが1万を率いてグリーン城正門を、5000をオルトロスが率いて東門を、5000を庭師が率いて西門を封鎖し、グリーン城は蟻の這い出る隙間も無い完璧な包囲網を敷かれる形になった。 夜分、ぐり~んは完全に油断していた。グリーン王国はランドラ帝国やガルガイド王国を滅ぼし領土は以前の倍以上に膨れ上がっていた。各隣国との国境はグリーンバレーから遠く、ぐり~んが警戒をする必要など無いのである。 そう、謀反人が出ることを想定しなければ。 アティークは速やかに軍を動かし悟られることなくグリーン城を取り囲み、ぐり~んを確実に討ち果たすべく逃げる時間すら与えなかったのである。 赤牡丹、マロン、Wあ、星屑、水素、小銭、セールといったグリーン王国の名だたる将はNAK帝国攻略や他の隣国との境の警備で出払っており、グリーンバレーには僅かな兵を率いる李信が残留するのみだった。 その李信はグリーン城から2km離れたグリリン寺に駐屯しており、アティークの動きを掴むのが遅れていた。 「ぐり~ん様!」 城の外から城門が破られる音を聞いたぐり~ん2号が不審がって窓を開けると、けたたましい声を上げながら野獣の群れのごとくアティークの大軍が僅かな守備兵を瞬く間に突き倒しながら城内天守に迫っていた。 ぐり~ん2号は兵が背中に差しているゾロアスター教の旗印を目にし、これはアティークの軍だと確信して急いでぐり~んの寝室へと入ったのである。 「こんな夜分に何用だぐり~ん2号。」 眠い目を擦り欠伸をしながらぐり~んが不機嫌そうに返事をする。 「アティーク大将軍の御謀反です!」 寝起きのぐり~んの背筋を凍らせる報せが室内に木霊した。 「是非に及ばず」 暫くの沈黙の後、部屋の静寂を破るように止むを得ないという意味の言葉がぐり~んの口から吐かれた。 「アティーク大将軍が相手ならもはや脱出路は全て塞がれたであろう。もはやこれまでだぐり~ん2号。我々に出来ることは一矢報いて腹を掻っ捌くことのみ!」 「地獄の果てまでお供仕る!」 ぐり~んはぐり~ん2号から槍を受け取り2人揃って守備兵と共に天守を出て本曲輪の敷地内にて敵を待ち構えた。 アティーク軍は2万、グリーン城の守備兵は僅か300。もはや結果は戦場に立つ誰の目にも明らかであった。 二の曲輪や各防御施設のグリーン城守備兵を瞬く間に屠り本曲輪の門を破ったアティークの軍勢が獣の様な雄叫びを上げながらぐり~ん目掛けて群がっていく。 「俺がグリーン王国国王 別名大緑王 ぐり~んだ!アティーク軍の木っ端共、この首取れるものなら取ってみよ!」 月明かりに照らされた緑髪を振り乱し、大音声で叫ぶと手に持った愛槍でまずアティーク軍の兵士を見事な槍捌きで3人を突き殺した。 それを見た他のアティーク兵達は一瞬たじろぐも、所詮は守備兵100人に守られているだけのほぼ裸の王様である。隊のHOPEが「囲んで一斉に討ち掛かれ!」と下知を飛ばすと、3000人の部隊は天守門を背にするぐり~ん達を180度から取り囲んで一斉に掛かる。 「そんな臆病風に吹かれるような兵士が束になったところで俺は討てんぞ!」 ぐり~んは絶妙な槍捌きで1人また1人と次々にアティーク兵を突き伏せ鬼神の如き働きを自ら見せる。それを見て発奮した守備兵達も勇み立って兵力差を物ともせずにアティーク兵を斬り捨てていく。 「良い援護だぐり~ん2号!」 ぐり~んの死角からアティーク兵が槍を突き入れようとしたがぐり~ん2号が放った矢に眉間を射ち抜かれて仰向けに倒れた。 そのような応酬が30分程続いたが多勢に無勢、守備兵は半分以下になっていた。 「是非に…及ばず!」 ついにぐり~んの左腕を一筋の矢が貫いた。天守に出る前に寝室で呟いた言葉を大声で叫び、ぐり~んはぐり~ん2号と共に天守へと駆け戻る。 「ぐり~んを逃がすな!追え!」 しかしぐり~んの首を渡すまいと残った数少ない守備兵達が鬼の形相でアティーク軍を阻んだ。最期を華々しく、主君に忠義を尽くして死のうと覚悟した守備兵達の勢いに、勝ちを確信していたアティーク兵達は気圧された。 「ぐり~ん2号、これまでよく俺に仕えてくれた。」 最期を目前にして、松明を右手に持ちながら自身とぐり~ん2号の顔を照らしてぐり~んは労いの言葉をかける。 「陛下、私は来世でも陛下にお仕えしとうございます!」 涙を目に滲ませながらぐり~ん2号が言葉を返す。その口から出る声は震えていた。 「地獄の鬼や閻魔がこれからの我らの敵ぞ。なれど其方がおれば百人力、鬼や閻魔など我らの敵ではないわ!ワッハッハ!」 「陛下の露払いはこのぐり~ん2号が務めさせていただきます!では、あの世でお逢いするまで少しの御別れでござる!」 「うむ。我らの遺骸、髪の毛一筋程も遺さぬぞ!」 互いに声を震わせ涙を滲ませながらの最期のやり取りの後、ぐり~んはこの天守の地下にある火薬庫の火薬が詰まった無数の樽の中の一つの樽についている導火線に松明を翳した。 火薬庫の全ての火薬が誘爆し、凄まじい爆炎が天守の地下から噴水の如く一気に最上階まで噴き上がり、天守は炎に包まれたかと思うと音を立てて崩れ堕ちた。 グリーン王国を長きに渡って治めた仁君・ぐり~んの堂々たる最期であった。 「申し訳ござらん!ぐり~んの首級を挙げること叶わず…」 炎に包まれ崩壊する天守を見ながらHOPEの報告を聞いたアティークはやむなしと諦めた。しかしぐり~んを葬ったという成果は彼にとって計り知れなかった。 他の有力武将の殆どが遠征に出ていた空白の隙をついたこのクーデターにより、アティークは天下に名乗りを上げたのである。 「ぐり~んは葬った!次はグリリン寺に居る李信を包囲せよ!」 アティークの下知は早かった。ぐり~んを討ち果たした感傷に浸る間も無くアティーク軍2万は李信の居るグリリン寺に向けて移動を開始した。 「申し上げます!グリーン城は炎に包まれ崩壊、国王陛下が自ら放ち御自害したものと…!」 グリリン寺に駆け戻ってきた李信の斥候が息を切らして李信に報告する。 「ぐり~んが…死んだか…。」 この世界に来て初めて自らを受け入れてくれた恩人の突然の死。李信は現実を受け入れ難かった。 「アティーク軍はこのグリリン寺に向けて進軍しております!」 「下手人はアティークか。奴は俺を快く思っていない。きっと俺を討たんとしているのだろう。」 李信にも感傷に浸る余裕は無かった。速やかに決断し、この場から生き延びなければならない。 「皆、逃げよ!敵軍2万に対してこのグリリン寺には1500しか居ない!まとまればすぐに捕捉されて討たれる!散り散りに逃げよ!」 李信が断を下し、恥も外聞も無く逃げろと兵達に命じた。 「しかし何処に逃げればよろしいので…」 「難路ではあるがグリナ峠を越えて赤牡丹や北条の軍に合流すればいい。それか俺の領土である与板に来ればいい。但しさっきも言ったがまとまらず散って行動しろ。」 兵の1人が浮かんで当然の疑問を李信にぶつけ、李信は即答した。 「李信将軍はどうなさるので?」 「俺のことはいい!お前らは自分の心配だけしろ!早くしないとアティーク軍が来るぞ!」 李信はそう伝えるとたった1人で境内を出て宵闇に姿を消してしまった。 兵達は仕方なく、なるべくバラバラになってNAK新城か与板城を目指してグリリン寺を後にしていった。 グリーンバレー北地区に戻った李信はグリリン寺を目指して進軍を続けるアティーク軍と見事に鉢合わせた。 「グリリン寺を放棄してたった1人か李信将軍。」 李信が現れたと聞いて軍の中心に居たアティークが先頭まで出張ってきた。 「アティーク将軍、自分が何をしたのか分かってるのか?」 李信はアティークを威嚇するように睨みつけた。 「俺を謀反人と誹るか李信将軍。だがな、ぐり~んは優しいだけで国を統治する力量に欠けている。そんな王が統治する国はいつ外敵の侵攻を受けるか分かったものではない。故にこれからは俺がこの国を統べるのだ。ぐり~んのお気に入りであるお前には理解したくないだろうがな。」 「戯けたことだアティーク将軍。こんな政変を起こせば隣国はこれを好機とばかりに攻めてくるだろう。そんなことも考えられないとは野心で目が曇ったか。何と愚かしきことか。」 「既に隣国への根回しは済んでいる。急速に力を伸ばしたグリーン王国を周辺国は警戒していたからな。造作もないことだ。 …李信将軍、君に選択肢を与えよう。」 アティークは李信と少しのやり取りの後に提案を持ち掛ける。 「このアティークに降り家臣として仕えるか、ここで死ぬか、二つに一つだ。さあ選べ。」 「ほう、貴殿は俺を快く思っていないからてっきり殺しにくると思っていたぞ。」 李信はアティークの意外な提案に少し驚いて見せた。 「確かに俺はお前を良く思っていない。クワッタの戦いやゲノン討伐でも総大将である俺を差し置いてグリーン王国軍を取り仕切ったからな。それにぐり~んには数々の例外を認められていた。だがお前が味方になるなら心強い戦力だ。さあどうする李信将軍!」 アティークは馬から降りて古代剣を鞘から引き抜いて剣先を李信に向けて選択を迫った。 「成る程。此処で降れば貴殿の下で生き延びられるということか。それも、それなりの地位で。」 「そうだ。」 李信がアティークに確認し、しばし考える風を見せて間を置く。 「だが断る。」 李信は腰に帯びていた斬魄刀を抜いてアティークに向けた。 「そもそも貴殿は俺が貴殿より弱い前提で話を進めている。思い上がりも甚だしいぞアティーク将軍。」 「そのつもりで話をしたつもりだ李信将軍。交渉は決裂だな。君には此処で死んでもらう。」 アティークの瞳の色が紅蓮に染まり、その手に持つ剣に神の炎が宿った。 「神よ、我に力を!」 アティークが祈りを捧げるとアティークの背後にアフラ・マズダーが現れ、背中に光の翼が生え、アティークと李信だけを光の世界に導いた。 「この俺の前では如何なる力も意味を持たぬ。」 「全知全能(ジ・オールマイティ)」 李信は滅却師(クインシー)の最強の力でアティークが消滅する未来に書き換えたが、アティークが消え去ることはなかった。 「神の加護を得た俺に特殊能力は一切通用しない。」 アティークが地に剣を突き刺すと、大地から無数の火柱が沸き上がり李信を包み込んだ。 「外殻静血装(ブルートヴェーネ・アンハーベン)」 滅却師(クインシー)の能力・血装(ブルート)を防御に回して火柱による攻撃を受けても無傷で凌ぐ。 「攻撃技と防御技は使えるがそれ以外を目的とする特殊能力は使えないということか。」 「そうだ。そして俺の攻撃力は最強クラス!お前は為す術を持たない!」 アティークが全身から炎の波動を全方位に放射し、轟音を立てて瞬く間に李信に迫る。 「万象一切灰燼と為せ 流刃若火」 李信の斬魄刀から爆炎が噴き上がり、アティークが放った炎の波動と相殺される。 「流刃若火 一ツ目 撫斬」 李信が斬魄刀を振り上げてから振り下ろし、爆炎を伴う斬撃をアティークに放つ。アティークの体は頭から股下まで真っ二つに割れ、血飛沫が舞い上がり光の世界を赤で彩る。 「俺を甘く見過ぎだなアティーク将軍。貴殿は人の上に立つ器では無いのだ。」 李信が斬魄刀を鞘に納めようとした時である。二つになっていたアティークの体が起き上がり結合し意識を取り戻したのである。 「再生能力持ちか!」 「神に逆らう愚かさをその身をもって思い知るがいい。」 アティークの紅蓮の瞳が赤く眩い光を放ち、李信の目を眩ませる。 アティークの背中に不死鳥の翼が生え、右目の瞳には不死鳥を象った炎が浮かび上がる。全身は不死鳥の炎の衣に包まれ、剣は神の加護を受けて炎そのもので形作られた形状に変化した。 「君は私の天下に不要な存在だ。消えてもらおう李信将軍。」 アティークの炎の剣から小さな火球が射出され、それが破裂すると突然光の世界全てを覆い尽くす火炎が巻き起こった。 「現実世界で例えれば地球の一つや二つは消し飛ぶ威力の攻撃だ。そこで一片のDNAすら残すことなく消滅したまえ。」 世界を包む炎がアティークの意思により鎮火すると、辛うじて息はしているが全身が焼け爛れ両手と両膝をついた李信の姿が確認出来た。 「静血装(ブルート・ヴェーネ)を全開にし、鋼皮(イエロ)や崩玉の力まで用いたにも関わらずこれか。俺も出し惜しみは出来ないな。」 李信は超速再生しながらよろよろと立ち上がり、眼帯を外して全ての霊圧を解放し、更に斬魄刀に霊圧を込める。 「 卍 解 」 「残火の太刀」 流刃若火を卍解させ、刀身が焼け焦げた刀が出現する。 「私はこれから忙しくなる。遠征中のグリーン王国の将軍や各国への対応、新たな政策の施行などね。君に関わっている時間はあまり無いのだ。」 アティークが炎の剣の剣先に魔力を集めて頭上に等倍規模の太陽を作り出す。光の世界を覆う灼熱で巨大な球体が陽光で激しく照らされる。 「さらばだ李信将軍。」 アティークが作り出した太陽を李信目掛けて投げつけた。 「残火の太刀 北 天地灰燼」 李信は一刀に全ての霊圧を注ぎ込んで爆炎による斬撃を繰り出す。2人の最大規模の力がぶつかり合い、その衝撃で光の世界は崩壊した。 元の世界に戻った李信とアティークだが、倒れたのは李信の方だった。全身に火傷を負い虫の息である。 「成る程大した攻撃力だ。だが神を宿す俺と、死神だか滅却師だか知らんが人間の君とでは圧倒的な力の差がある。」 アティークはとどめを刺さんと李信にその手に持つ剣を向ける。 「天下の為、万民の為、俺の為、死んでくれ李信将軍。」 「千反白蛇」 剣が李信の頭に振り下ろされようとした時である。李信を細長い包帯の様な布が取り囲み、全身を覆い隠した。 「消えた…?」 細長く白い包帯の様な布と共に李信は姿を消した。アティークに勝ち目が無いと見て逃亡したのである。 「取り逃がしたか…!」 アティークは歯軋りしながら苦々しいしい表情を作った。 「HOPE!」 アティークは自らの家臣を呼びつけ、逃げた李信を捜索し捕縛又は殺害するように命じ、捜索隊2000を率いさせて派遣した。 「さて、俺は俺でやることがある。幻影帝国、NAK帝国、仁王帝国に使者を送り各地のグリーン王国軍を我が軍と挟撃し撃滅する!」 アティークは早速3人の使者をそれぞれの国に派遣した。 「これで天下は俺のもの!誰も俺を止めることなど出来ない!庭師!」 アティークは自分に味方をした庭師を呼びつけた。 「何だ?キシーッ!」 「お前は李信の本領・与板を攻め落とせ!」 「キシーッ!」 庭師は直ちに1万の兵を率いて出陣した。 「カタストロフィ!」 「はっ!」 「お前はグリーン王国領内各地に動員令を出せ!」 カタストロフィはアティークに命じられて早速手配に取り掛かった。 「オルトロス、お前は暫く俺と行動してもらう。グリーン城は天守は焼け落ちたがまだそれ以外の施設は残っている。本営はグリーン城二ノ丸と定める。行くぞ!」 「ああ。」 アティークはオルトロスを伴い8000の兵を率いてグリーン城二ノ丸に入り、此処を本営と定めた。 この夜以降、李信は行方不明になった。 アティークはカタストロフィに命じて領内の15~50歳までの男子に大動員令をかけて総勢6万の兵をグリーンバレーに集結させた。 王都は無数のゾロアスター教の旗で埋め尽くされ、アティークの命により改宗し神に祈りを捧げる兵や住民の声が絶えることはなかった。 「NAK帝国、仁王帝国、幻影帝国からの書状が届いた。NAKは赤牡丹や北条らを、仁王帝国は李信の与板領を、幻影はセールや水素らを攻撃することを約束した。まずはグリーン王国領を完全に掌握する。NAK新城に2万を、ランドラ城に2万を派遣する。」 「オルトロスにNAK遠征軍を、カタストロフィにセール領侵攻軍を率いさせ。よいな。」 「分かった。」 「はっ!」 アティークの命令により2人は直ちに城を去り、数時間後にそれぞれ出陣した。 「ぐり~んと同じ轍は踏まん。このグリーンバレーには2万の兵に守備させ、俺はこのグリーン城から各方面軍を統括する。まさに完璧な多方面作戦だ。天下を統べる俺に相応しい…!」 アティークは二ノ丸大広間に玉座を造らせ、縁に肘をつきながら1人で天下を掌握する策を巡らせていた。 「HOPEはまだ李信を捕捉出来ないのか?」 取り逃がした忌々しい男の顔が頭を過ぎり、側に控える兵に尋ねる。 「は、未だ行方知れずで捜索は難航しているとのことです!」 「奴の首があればその政治効果は大きなものとなるというのに…!」 アティークは李信の首を挙げて各地のグリーン王国軍の士気を挫き、ぐり~んの首の代わりとして周辺諸国に晒して勝利を知らしめたいという思惑があった。 「李信とセールの首は何としても取らねばならん。クワッタの戦いで勝手に交渉を進めて俺を第一の将軍の座から引きずり下ろした憎き奴儕よ!」 李信とセールは必ず討ち果たす。天下への野望の炎を燃やす熱き男の憎悪の念が心底から沸々と沸き上がっていた。 アティーク謀反 その知らせが赤牡丹や北条らNAK帝国侵攻軍にもたらされたのは、ぐり~んが死んで5日後のことだった。 「怪しい者を捕らえました!」 北条、マロン、Wあも在陣する赤牡丹の本陣に3人程の見張りの兵が見窄らしいボロ服を纏った農民風の男を縛り上げていた。その内1人の兵が男の懐から書状を取り上げて赤牡丹に差し出した。男は観念したようにただただ項垂れている。 赤牡丹は差し出された書状を受け取ると、兵達に男を連れて退がれ、男は縛ったまま見張れと命じた。そして赤牡丹は書状の封を切り、深妙な面持ちで目を通す。 「ぐり~んが死んだ…。」 赤牡丹が信じられないという顔で書状を読み終える。 「は?ぐり~んが?グリーンバレー付近に敵は居ないだろ。まさか病気とか事故か?」 マロンがあまりに急な事態を聞いて混乱する頭の中を整理すべく赤牡丹に尋ねる。 「いや、アティーク大将軍の謀反だ。アティークはオルトロスや庭師を味方につけて5日前夜半にグリーン城を2万の軍で襲撃しぐり~んを自害に追いやったらしい。ついでに直江さんはアティークに敗れて逃亡、行方不明だそうだ。」 赤牡丹はそう説明し、書状をマロンに手渡す。 「これは…いやしかし本当なのか?偽の情報かもしれんぞ?偽情報を敢えてNAKに伝えてNAKを利用して俺達を挟撃する策かもしれん。」 「そんなことをしたらアティークはグリーン王国から討伐軍を出されて挟撃される。さっきの男はアティークからNAKに遣わされた使者だ。俺達の陣に迷い込んだみたいだがな。」 マロンの推測を赤牡丹が現実的な推論で否定する。 「これからどうするんですか隠密さん。NAK侵攻どころじゃないですよ。」 北条が赤牡丹に判断を仰ぐ。この場の総大将は赤牡丹である。 「政変のことは伏せたままNAKと急ぎ和睦する以外無い。そして軍をとって返しアティークを討ち、グリーンバレーを奪還する!」 「なら俺が和睦交渉を担当します。」 赤牡丹の素早い判断に、話術に長けたWあが最も重要な役目を買って出た。 「俺は道々の民に金銭を渡して炊き出しを命じてくる。迅速な行軍を行いながら補給が出来るからな。」 マロンが立ち上がる。兵糧の補給は地味ではあるが極めて重要な問題である。 「俺は残ります。隠密さんに万一のことが無いようにね。」 北条がそう進み出ると赤牡丹は浅く首を縦に振って頷いた。 「皆急ぐぞ!このことがNAKに知られる前に和睦して軍を引き返す!頼んだぞ!」 「おう!」 赤牡丹の言葉に一同が同時に答えた。 「NAK帝国軍将軍兼外交顧問 織田上総介信長二号地理の優等生でござる。上総介とでもお呼び頂ければ。して、このような夜分に何用でございますかな?」 現実世界の史実の織田信長の肖像そっくりの顔の男が、Wあの待つナクール寺の境内に足を踏み入れ門を固く閉ざし、Wあと一対一での対談を始めた。月代を剃り、髷を結わえて南蛮風甲冑を身に纏い、南蛮風のマントを着用している。まさに誰もが想像する織田信長の姿だ。 「夜分に誠に恐れ入ります。しかし貴殿の様な聡明なお方なら私の話をご理解して下さるかと思い、火急の用件故お呼び致しました。御無礼の段、御許しあれ。」 Wあは深々と頭を下げてまず夜分にいきなり呼び出したことを詫びた。 「当方はNAK帝国と和議を結びたいと存じます。NAK帝国の本領安堵は保証します。」 「本領安堵?随分譲られますな。何故急にこのような?」 Wあの口から出た突然の、それもかなり譲歩した条件での和睦に驚きを見せる地理の優等生。 「間も無く我らが王 ぐり~んの命によりアティーク大将軍や李信将軍が5万の大軍を率いて到着します。血で血を洗う大戦になる前に何としてもそれを回避し、平和的解決を図るべく早急に和議を結びたいのです。此方としても無益な戦は是が非でも避けたいのです。」 無論、アティークや李信が大軍を率いて到着するというのはWあの嘘である。グリーンバレーの変を隠した上でこのような嘘を使わなければ相手を和睦に踏み切らせることは叶わないと判断しての、Wあが仕掛けた心理戦だった。 「して、他の条件は?」 「一、NAK帝国より人質を提出すること。 一、人質を提出したらNAK新城守備軍以外の全ての軍を退くこと。 一、軍の撤収はNAK帝国から行うこと。 以上です。」 「罠ではあるまいな?」 「我らは到着する5万と合わせれば7万5千となります。そのような計を用いずとも勝利は容易い。それに貴殿らに他に選択肢があるとは考えられませんが?」 疑いを持ってかかる地理の優等生にWあが揺さぶりをかける。 「…分かった。総大将のNAK二号に掛け合う。返事は書状にて。」 地理の優等生は渋々了解した。これ話を呑む以外にNAKに生き残る道は無いと考えたからである。 「上総介殿、これを。」 Wあは和睦条件を書き記した書状を地理の優等生に手渡した。 「では、急がねばなりませんのでこれにて。」 書状を受け取った地理の優等生はWあに一瞥すると退出していった。 翌日夕方、Wあの下に織田上総介信長二号地理の優等生が遣わした使者が書状と人質を携えて到着した。 「これなるがNAK帝国からの人質・NAK三号でござる。そしてこれが織田上総介信長二号地理の優等生からの返書でござる。」 Wあが人質と返書を受け取り、返書に目を通すと「大儀であった。下がられい。」と使者に声をかけ、使者は一礼して帰っていった。 「NAK三号殿、我らの和睦の証として暫し我がグリーン王国軍の陣中にお留まりいただく。これより総大将赤牡丹さんの陣に赴く。案内する故参られよ。」 「はい。このNAK三号、両軍の和睦の架け橋としての役目、存分に務めてご覧に入れます。」 WあはNAKを伴い赤牡丹の本陣に参着した。 「隠密さん、和睦が成りました。これなるはNAK帝国からの人質・NAK三号殿。そしてこれが返書です。」 「Wあさん、よくやってくれた。貴方が居て本当に良かった。」 赤牡丹はWあに労いの言葉をかけると、手渡された返書に目を通した。 「翌朝にNAKは全軍を撤退させるか。だが念には念をだ。誰かに殿(しんがり)を務めてもらいたい。もしNAKが和議を破って攻めてきたら最後尾で防いでもらわねば。」 「しかし此方には人質が居ます。そのようなことは…。」 「念には念をと言ったのだ。」 赤牡丹が懸念材料を挙げて考えながらWあの言葉を遮る。 「その役目、この北条左京大夫に任せてもらいたい。」 北条が進んで殿の役目を願い出た。 「やってくれるか北条さん。」 「我ら二次元党、今こそ各々が死力を尽くして一丸となり事に当たるべき時。Wあさんは和睦交渉を、マロンさんは兵站業務を見事にこなした。次は俺の番だ。」 「分かった。頼んだぞ。」 「ああ。」 2万5000のグリーン王国軍の殿は北条に決定した。万一NAKが和議を反故にして攻めてくれば北条は捨て石となり味方を逃さなくなればならない役目である。 翌朝、運命の刻限は近づいていた。 第一陣5000をマロンが、第二陣は赤牡丹の本軍10000が、第三陣はWあの5000が、そして殿の第四陣を北条の5000が率い、撤退の準備を完了させてNAK帝国軍の出方を窺っていた。 「殿、誠に奴らは約束を守るでしょうか。」 「奴らがもし攻めてくれば我ら1人1人が身を投げだして戦わねばとても防ぎきれませぬ!」 北条隊は小高い丘の陣所からNAK帝国軍を見張っていた。北条の側に控える大道寺政繁と松田憲秀が表情を強張らせながら北条に声をかける。北条はそれには答えず無言のまま様子を見守っていた。 「NAK帝国軍の旗が動きましたぞ!」 大道寺政繁が指を指して叫ぶ。NAK帝国軍の旗が動き始めた。 「撤退するのか、それとも…」 松田憲秀も手に汗握りながらNAK帝国軍を注視した。 NAK帝国軍の無数の旗が後方へと下がっていく。NAK帝国軍は約定を守って撤退を開始したのだ。 「NAKは退いたぞぉぉぉ!!」 北条の傍に居た北条綱成が雄叫びを上げると、北条隊の将兵は連鎖するように歓声を上げた。 「これで敵はアティークただ1人!行くぞぉぉぉ!」 北条が刀を右手に持ち振り上げると、将兵の士気が高ぶり歓声はより一層大きくなった。 NAK帝国軍の撤退を確認したらグリーン王国軍2万5千は、逆賊・アティークを討つべく撤退を開始した。 「アティークにはNAKの名を騙り偽の書状を送りつけた。今頃奴はそれを信じて俺達を討伐する軍を派遣した頃合いだろう。だがNAK軍に借りたNAKの旗を見た時、奴らは計算違いに驚愕し士気は下がるだろう。」 策士・Wあの策略はアティークを完全に欺いていた。アティークはWあが送った偽の書状に騙されてカタストロフィに2万の兵を与えて派遣していた。書状を渡す役目は迷い込んで捕らえられた使者に脅迫して務めさせた。 3日後のことである。 赤牡丹率いる2万5000のグリーン王国軍はグリナ峠に差し掛かり、麓にあるグリナ寺に陣を構えて進軍を停止し、軍議を開いた。 軍議に席を連ねるのは総大将の赤牡丹、そして北条、マロン、Wあの二次元党の面々である。 「隠密さん、俺から提案があります。」 「聞かせてくれWあさん。」 Wあが更なる策を献じようと発言を求め、赤牡丹の許しを得た。 「オルトロス(※前レスのカタストロフィは誤りなので後で修正します)に使者を出し、敢えて我らの動きを知らせます。その際、俺がNAK軍から借り受けたNAK軍の旗を見せ付けます。これにより敵の士気は一層下がることでしょう。」 「分かった。して、使者は誰にする?」 Wあの提案を呑んだ赤牡丹が相応しい使者を考える。そこに北条の家臣・笠原政堯が進み出た。 「笠原新六郎!」 「はっ!」 「大役だが、やってくれるな?」 「お任せを!堂々とNAKの旗を掲げて参ります!」 赤牡丹は笠原政堯に命じてNAKの旗を携えさせてオルトロスの陣に派遣した。 更に2日後 アティークに2万の兵を与えられてグリナ峠から20kmの地点に到達したオルトロスは、全軍に小休止を命じて昼食を摂っていた。 「オルトロス将軍!赤牡丹将軍からの使者が目通りを願い出ております!」 「隠密の使者だと…?通せ!」 「はっ!」 兵の1人がオルトロスに取り次ぎ、オルトロスは使者との対面を許可した。程無くして陣幕の中へ赤牡丹からの使者が2人の兵を従えて入ってきた。 「それがしは北条左京大夫の家臣 笠原新六郎政堯でございます。赤牡丹将軍からの言伝を預かって参りました。」 「言ってみろ!」 片膝をついて口上を述べ始めた笠原政堯にオルトロスは催促する。何やら胸騒ぎがするのだ。 「当方、今夜中にはグリナ峠山頂に到達致します故、正々堂々と雌雄を決したいとの赤牡丹将軍のお言葉でございます。」 「グリナ峠だと…!?NAKはどうした!」 オルトロスは驚きのあまり目を見開いた。 「和議を結びました。NAKは今や我らの味方でございます!」 笠原政堯が後ろに控える2人の兵に目配せすると、2人はNAKの旗を広げて立ち上がり、オルトロスに見せ付けた。 「…いいだろう。隠密に伝えよ!正々堂々叩き潰してやるとな!」 「はっ!」 オルトロスの言葉を受け取り、笠原政堯は一礼して退出した。 「信じられん…どうすればNAK新城からこのように早く…Wあか!」 オルトロスはNAK新城を攻めている筈の赤牡丹軍が何故NAKと迅速に和睦してグリナ峠にまで引き返せたのかを考え、1人の男に行き着いた。 Wあ。稀代の天才論争者にして頭がキレる智慧者であり、実力者である。 「おのれ…やりやがったなWあ…!」 オルトロスは同時に、アティークに届いたNAKからの書状も偽物であることに今更気がついたのだった。 一方赤牡丹らグリーン王国軍は翌日夕方にはグリナ峠を超えてグリーン崎の南に布陣した。 オルトロス軍もグリーン崎の北に差しかかろうとしていた。 「グリ山を取った方が戦いを有利に進められる。」 それが両軍の思惑だった。グリーン王国軍の動きは早かった。 Wあ率いる5000の部隊はオルトロス軍が布陣を終える前にグリ山をいち早く占拠した。グリ山に「W」と描かれている無数の旗が風に吹かれてたなびいている。 「グリ山をWあに取られたか!」 グリ山を奪取された報を受けたオルトロスはグリーン崎北方のグリーン寺城に入り、突貫作業で城の周りに柵を設けて土塁を積み上げ堀を巡らした。 両軍はグリーン崎で対峙した。 赤牡丹率いるグリーン王国軍 2万5千 オルトロス率いるアティーク軍 2万 歴史に刻まれる大合戦の火蓋が切って落とされようとしていた。 両軍はグリーン川を挟んで対峙した。 オルトロス率いるアティーク軍の陣容 オルトロスは本隊6000を率いてグリーン寺城に入り此処で守りを固め、戦況を見極めて出撃する構えを取った。 グリーン川の手前に細胞率いる3000がWあが陣取るグリ山を窺う。 その左にヴィート率いる3000、その左に120P率いる3000、その左にまあやん率いる3000、そしてオルトロス本隊の後ろに隠れるように陣取るのが小太郎率いる2000である。総勢20000。 赤牡丹率いるグリーン王国軍の陣容 赤牡丹率いる本隊10000が商人街であるグリーン崎に陣を張り、北西のグリ山を占拠したWあの5000がオルトロス軍の細胞やヴィートの隊と睨み合う。 グリーン川をオルトロスと挟んで左からマロン隊5000、北条隊5000。総勢25000。 翌朝午前8時。戦いの火蓋はマロン隊の弓隊による射撃がヴィート隊に対して行われたことにより切って落とされた。 「かかれぇぇぇ!」 マロン隊の射撃により数十の兵を失うが、ヴィートは怯まずにマロン隊への攻撃を開始した。 「手筈通りだ!かかれ!」 マロンはまず配下のタコスに命じて1000の兵を率いさせてヴィート隊へ突撃を敢行させた。 タコス隊とヴィート隊の互いの槍隊がぶつかり合いを始めるが、オルトロスの軍は精強で鳴り響く豪の軍である。ヴィート隊は数にも勝りタコス隊を何町も押し返して次々にタコス隊の兵を突き倒し、グリーン川は赤く染められていく。 「合図を送れ!」 マロンの下知で狼煙が上がり、タコス隊はマロン隊に向かって退却を始める。優勢に乗じたヴィート隊はタコス隊への猛追撃を始めた。 「計画通りだ。今だ!」 更なる狼煙が上がる。タコス隊は退却を中心して反転、再びヴィート隊への突撃を始める。 更に長草が生い茂る地に隠していた1000程の部隊をヴィート隊の右側面から、マロン自身は正面から3000を率いて押し出した。 伏兵に側面を突かれて浮き足立ったヴィート隊へのマロン隊の猛攻撃が始まり、ヴィート隊の将兵は長槍で次々と突き倒されていく。 それを皮切りに、グリ山から射撃を繰り返して細胞隊を圧倒していたWあ隊山に2000の兵を残して3000で下山を始め、細胞隊に左から襲い掛かる。射撃で数を減らし怯み、Wあの策により元々士気が低かった細胞隊はひとたまりもなく左へ左へと押しまくられ、マロン隊の攻撃を受け崩壊しかかっているヴィート隊と合流する形になる。 正面からはマロン隊、左側面からはWあ隊の攻撃を受け、ヴィート隊と細胞隊は壊滅しグリーン寺城に向かって敗走を始めた。 グリーン寺城に向かってヴィート隊と細胞隊が敗走し、マロン隊とWあ隊がそれを追撃する。 その頃北条隊5000はまあやん隊3000、120P隊3000と激闘を繰り広げていたが地黄八幡・北条綱成とその子・北条綱高の活躍によりまあやん隊と120P隊を撃破し、両隊を敗走せしめていた。 細胞、ヴィート、まあやん、120Pのグリーン川を挟んで対峙していたオルトロス軍の全部隊がグリーン王国軍に破られ、グリーン寺城へ敗走していく。Wあ隊、マロン隊、北条隊はこれを猛追撃していくが、オルトロスが待ち構えるグリーン寺城の手前でまずマロン隊が左右に斜めの形に聳える二つの土塁に挟まれる形になった。 「殺し間へようこそ。」 オルトロスが配下の鉄砲隊に土塁からの斉射を命じる。斉射された弾丸の軌道が交差してマロン隊の将兵を撃ち倒していく。 第二射、第三射と次々に斉射を繰り返すオルトロスの鉄砲隊の前にマロン隊は為す術なく退却を始めた。 それを見たWあ隊と北条隊は土塁の左右に回り込んで鉄砲隊の撃滅を試みた。 その頃、オルトロス軍の小太郎隊2000がグリーン川と連なる大緑川を小舟で渡って赤牡丹の本陣の背後に回り込んでいた。 「進め!狙うは敵総大将赤牡丹の首ただ一つ!」 小太郎隊が静かに上陸を済ませると、小太郎の号令一下、赤牡丹本陣への奇襲を敢行したのである。 赤牡丹は背後から聞こえる異常な喚声に気づいた。 「申し上げます!オルトロス軍による背後からの奇襲です!」 斥候にそう告げられて焦りを顔に表す赤牡丹だったが、すぐに冷静さを取り戻した。 「だが俺達は数で勝っている!撃退するぞ!」 赤牡丹の隊は反転し、小太郎の奇襲部隊を数で押して見事壊滅させた。追い詰められた小太郎は1人川に飛び込んで逃亡した。 「背後の心配は無くなった!これより押し出してオルトロスを討つ!」 赤牡丹隊10000が進軍を始めた。 「殺し間」を壊滅させ、数時間に渡る激戦の末、赤牡丹の加勢もあってグリーン寺城の強固な防御を打ち破ったグリーン王国軍はついにオルトロスの本陣に迫った。 「見つけたぞオルトロス!覚悟しろ!」 グリーン寺城の守備隊を撃破して城内のオルトロスの本陣に乗り込んだ北条がオルトロスと対峙する。 「まだ戦は終わってないぞ。俺が残ってるんだからなぁ!」 オルトロスが床を踏みつけると床の木の板が北条を下から突き刺さんと縦に向きを変えていく。 「火遁 豪火球の術!」 北条はそれらを火遁で焼き払い、火は城内全てに燃え広がった。音を立てて崩れ落ちる城を捨て、2人は城の敷地内の広場に出る。 オルトロスはまだ燃えていない城の壁を掴み取り、燃え盛る城そのものを持ち上げて北条に投げつけた。しかし北条の万華鏡写輪眼の能力により城は北条の体を擦り抜けた。 「土遁 土流壁」 北条が土遁の印を指で結んで両手を地面に叩きつけると、地面から北条の姿を隠す大きな長方形の土の壁が盛り上がり出現する。 「無駄なことだ!」 オルトロスは地面を踏みつけて土流壁を破壊するが、そこに北条の姿はなかった。 「風遁 螺旋手裏剣!」 一瞬で自然エネルギーを取り込んだ北条がオルトロスの頭上から螺旋手裏剣を投げつける。螺旋手裏剣はオルトロスに命中すると思いきや、オルトロスのベクトル操作の能力により反射されてしまった。螺旋手裏剣は北条の体を擦り抜けて遥か彼方で消滅した。 「チャクラが反射された…!?」 「そうだ!俺は強くなったんだよ北条!アティークについたのは奴が強いからだ!強い奴が世を支配し人を支配する!現実世界でもこの二次元世界でも弱肉強食は変わんねえ!」 オルトロスは空気の刃を作り出して地面に着地した北条へと射出した。 「神羅天征!」 空気の刃を輪廻写輪眼の瞳力により吹き飛ばす。オルトロス諸共吹き飛ばそうと試みるも、オルトロスの反射能力で北条の神羅天征と相殺されてしまった。 「北条、てめえも俺に刃向かうならネットでいくら仲良かったとしても容赦はしねえぞ!全身の血液を逆流させてやる!」 オルトロスが地面を蹴って跳んで猛スピードで北条に急接近する。 「炎遁 火雷(ホノイカヅチ)!」 北条は自身の足元から天照の黒炎をオルトロスに向けて突き刺すように放出した。 黒炎が接近したオルトロスに直撃しようとしたところでオルトロスは着地して回避した。 「攻撃しながら反射は出来ねえからな。危ねえ危ねえ。」 「天照!」 オルトロスは一旦動きを止めて北条を油断させ、再度猛スピードで北条の天照を避けて突撃した。オルトロスの右手の5本の指が北条の体に触れられてしまった。 「てめえの血液を逆流させてやるぜ!」 オルトロスのベクトル操作能力で北条の全身の血液が逆流してしまう。北条が死んだかと思いきや…。 「ぐおおおおおおおお!?」 北条の体から激しい雷遁チャクラが流れ出して消滅し、オルトロスに雷撃を浴びせた。全身を痺れさせられて体はところどころ黒焦げた状態になった。 「お前が殺したと思い込んだのは俺の本体ではなく雷遁影分身だ。」 北条の本体が土塁や城壁を跳び越えてオルトロスの前に姿を現す。 「オルトロス、お前の負けだぜ。観念しな!」 北条に続き赤牡丹、マロン、Wあが現れ、オルトロスを取り囲む。 忍術の北条、フラグメントの赤牡丹、魔法のマロン、ポケ◯ンの能力を使うWあ。音に聞こえた実力者達がオルトロスを阻む。 「てめえら許さねえ…!よくも俺の体をこんなにしやがったなぁぁぁ!」 オルトロスの怒りのボルテージが頂点に達すると、黒い翼が背中から出現した。 「雷遁 雷獣追牙の術!」 「二重(ダブル)第四波動!」 「灼熱の双掌(ハルハール・インフィガール)!」 Wあが技「てだすけ」を3人に使い、北条は右手から龍を象った雷切を、赤牡丹は両手の掌から炎熱波動を、マロンは灼熱の白い巨人の腕をオルトロスに向けて放つ。 「効かねえよぉぉぉ!」 オルトロスは黒い翼の力で3人の攻撃を消し飛ばす。 「死ねやゴルァァァ!」 オルトロスは4人を目にも止まらぬスピードで有無を言わさず天高く殴り飛ばした。 「俺をキレさせんじゃねえぞクソ共が。おい細胞!俺を回復させろ!」 オルトロスは配下の細胞に命じて北条の忍術により受けたダメージを回復魔法により回復させた。 グリーン崎の戦いはオルトロスの逆転勝利に終わったのである。 グリーン城二ノ丸 アティークへ二つの吉報が届いた。オルトロスがグリーン崎の戦いで赤牡丹らグリーン王国軍を撃破し4人を討ち果たした報せと、庭師が仁王帝国と協力して李信の与板城を陥落させた報せである。 「大儀であった!退がってよい!」 アティークは2人の伝令兵から吉報を受け取ると上機嫌になった。 「ハッハッハッハッハ!流石はオルトロスと庭師!俺が見込んだ男よ!後は李信とセールの首があれば言うこと無しだな!」 「アティーク大将軍、俺らの出番は無いのか?」 アティークの傍に控える元ガルガイドの将軍・平行四辺形が不満そうに尋ねる。 「そう言うな平行。この旧王都を守り軍を統率するのも立派な役目だ。」 「そうだぞ平行。俺達も持ち場に戻るぞ。」 アティークと新たにアティーク陣営に参じた元ガルガイドの将軍・ぷろふぃーるに宥められて平行はぷろふぃーると共に城から退出し、2万余の軍勢を率いて王都を守る為に自陣へと戻っていった。 「カタストロフィも時期に幻影と協力してセールの首を挙げるだろう。この世に最早俺の敵は居ないな!フハハハハハハ!」 アティークの歓喜の声が城内に木霊した。 旧ランドラ帝国 現グリーン王国領と幻影帝国領の国境 幻惑平原では水素、星屑、小銭が2万の兵を率いて、アティークに協力し攻め寄せてきた幻影帝国軍と交戦していたが、3人の実力をもってしても幻影軍に手も足も出なかった。 「お味方の兵が見えない何かに次々と倒されていきます!」 「そんなことは見れば分かる!これは一体なんなんだ!」 水素ですら歯が立たない理由。それは攻撃が一切通用しない透明の幻影兵だった。 幻影帝国皇帝・HostSamuraiことホッサム。 彼の能力は「10万人までの幻影兵を召喚出来る」という能力である。 ホッサムにより召喚された幻影兵はあらゆる攻撃を受け付けず、あらゆる干渉も受けない。 幻影兵は透明であり、質量は無い。にも関わらず敵に干渉する時にのみ擬似的な質量を持つようになる。従って彼と戦っている水素、星屑、小銭の3人とその配下の兵達にはホッサムの姿しか見えていない。 例えば、幻影兵の槍や剣は対象を貫いたり斬り捨てることが出来る。更に幻影兵は対象を押さえつけたり、壁となってホッサムを守ることも可能。 自身の四方や頭上に幻影兵を取り囲ませることでホッサムは絶対防御すら可能となる、まさに巨大組織であり大国である「幻影」の代表に相応しい能力である。 ホッサムは正規の将や兵を1人として引き連れることなく、己1人のみでグリーン王国領への侵攻を開始、その強力過ぎる能力により水素、小銭、星屑が率いるグリーン王国軍を相手に一方的なワンサイドゲームを行なっていた。 「ゴールドエクスペリエンスレクイエム!」 星屑の最強のスタンド・ゴールドエクスペリエンスレクイエムの「動作や意思の力を0にする」能力さえ、幻影兵には通用しなかった。 「俺の最強のスタンドが…!」 ゴールドエクスペリエンスレクイエムは幻影兵により斬り刻まれ、スタンドとリンクしている星屑も同じダメージを受ける。 「ぐふっ…!だがこのゴールドエクスペリエンスレクイエムはクレイジーダイヤモンドと違って自分の傷も治せる!」 ゴールドエクスペリエンスレクイエムの能力により星屑が受けたダメージは全て回復した。 「ゲイ・ボルグ!」 ランサーのクラスカードを使用してクー・フーリンの姿になった小銭が真紅の魔槍をホッサム目掛けて投擲するが、幻影兵に阻まれて不発に終わってしまう。 「心臓を絶対に貫く俺のゲイ・ボルグまでもが…!だが!クラスカード アーチャー!」 小銭はギルガメッシュの姿になると、乖離剣エアを宝物庫から取り出した。 「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」 乖離剣エアから発せられる擬似的な時空断層が、小銭の正面に居る幻影兵達が立つ地面を崩壊させ、無数の地割れを作り出す。そしてその地割れはついにホッサムまでの道を作った。 「よくやったぞ小銭!」 水素が飛び出してホッサム目掛けて拳を繰り出すが、その拳は幻影兵に受け止められてしまった。 「馬鹿な…!幻影兵は小銭のエヌマ・エリシュで奈落の底へと落ちた筈だぞ!」 「幻影兵は死なない。幻影兵は消えない。この俺の意思で何度でも何度でも蘇るのだ!」 ホッサムに至る道の、ホッサムが居る地点の寸前まで地面はヒビ割れていた。ホッサムは自身の目の前に何度でも自動的に奈落の底へと落ちる幻影兵を召喚し続けているのである。 「我ら幻影に、いや俺に敵う者などこの世界に存在しないのだ!消え失せろ水素!」 幻影兵の踵落としが決まり、水素は奈落の底へと落ちていった。 「さて星屑と小銭も始末するか。やれ、幻影兵共!」 ホッサムが幻影兵達に命じると、ホッサムのみに見える幻影兵達が星屑や小銭、その配下の兵達に襲い掛かる。 「クラスカード アサシン!」 小銭はアサシンクラスの英霊 ハサン・サッバーハの姿になり、ホッサムの擬似的な心臓を掌に作り出して握り潰す。 「これで奴は死ぬ筈…あれ?」 ホッサムは死んでいなかった。ホッサムのもう一つの能力…それは透明にはなれないものの、ホッサム自身も他の幻影兵と同じ能力を持てるのである。 「あいつ無敵じゃねえか!これは勝てねえぞ!」 隣で見ていた星屑はホッサムの圧倒的な力に希望を砕かれた。 「ああ。水素もやられちまった。此処は逃げるぞ!全軍逃げろ!」 小銭の下知が飛ばされ、グリーン王国軍は散り散りになって退却を始めた。 「追え!追って奴らを皆殺しにしろ!」 ホッサムの指示が全幻影兵に行き渡る。因みにホッサムと幻影達の意識はリンクしており、本来はこんな風に口に出して命令する必要は無い。 幻影兵達は次々にグリーン王国軍の兵達を斬り捨て始める。為す術を持たないグリーン王国軍に対しての一方的な殺戮が始まったのだ。 「天翔る王の御座(ヴィマーナ)」 小銭がギルガメッシュの姿になり、宝物庫から飛行艇を召喚する。 「星屑、乗れ!」 「でも他の兵達はどうすんだよ!それに水素も!」 小銭は飛行艇に備え付けられた玉座に腰をかけると、星屑にも同乗を促した。 「水素はあんなんじゃ死なねえ!多分だが、奈落の底へと落ちて出口を幻影兵に悉く塞がれて出て来れねえんだ!他の兵達は止むを得ないが見捨てるしかない!モタモタしてると幻影兵に殺されるぞ!此処は逃げて再起を図るんだ!」 「やれやれだぜ!」 星屑は苦々しい表情で飛行艇に乗り込む。飛行艇はすぐに離陸し遥か彼方へと飛び去っていった。 「星屑と小銭は逃したか…だがグリーン王国兵は皆殺しだ。その後ランドラ城のセールを潰す!」 大将が離脱したグリーン王国軍は最早軍の体を為していなかった。幻影達に追い縋られて殺戮されていくグリーン王国兵達が流す血で、幻惑平原は忽ち血の海と化した。 こうして幻惑平原の戦いはホッサムの圧倒的な勝利に終わった。 李信、赤牡丹、北条、マロン、Wあ、星屑、小銭、水素。グリーン王国の主たる将はアティークとその同盟者や配下の前に次々と敗れ去り散り散りになった。 この者達の行方は以降、世間では全く分からなくなったのである。名実共にグリーン王国は滅亡した。 グリーン王国大将軍 その名はセール。 現実世界のアクション俳優 アーノルド・シュワルツェ◯ッガーを彷彿とさせる精悍な顔と筋骨隆々な素晴らしい肉体美を持つこの男は、ターミネー◯ーの機能をあり得ない程にまで強化された能力を持つ実力者である。 クワッタの戦いでランドラ帝国とサバを裏切りグリーン王国に加勢した後、グリーン王国の第一の将軍として迎えられていた。旧ランドラ帝国領の半分と旧ガルガイド王国領に広大な領土を持つグリーン王国の将軍でも最大勢力を持つ男である。 そんなセールの居城であるランドラ城に水素、星屑、小銭を破ったホッサムの幻影軍とアティークに派遣されたカタストロフィ率いる2万のアティーク軍が迫ろうとしていた。 「セール大将軍!逃げた方がいい!幻影軍には絶対に勝てない!水素も星屑も小銭も敗れて行方不明だ!」 小銭軍に属して戦い、這々の体で逃げてきたしずくなのがセールに必死に訴える。 「この最強の大将軍たるセールでも勝てない奴が居るというのか?」 セールは中々に自信家である。自分こそが最強であると信じて疑わない。 「ああ!ホッサムは…」 しずくなのはセールに対してホッサムとの戦いの全てを伝えた。 「成る程。それではこの俺でも勝てんな。」 しずくなのの懇切丁寧な説明を聞いてセールはようやく理解したようである。 「くれない!筋肉即売会!まさっち!」 セールは自らの配下である2人とグリーン王国将軍であるまさっちを呼びつけた。 「しずくなのの話を聞いただろう!逃げるぞ!今は雌伏の時だ!」 「他の兵達はどうすんだよ?」 くれない。セール軍の副官である男でボクサーである。因みにクワッタの戦いで死んだのは彼ではなくベースニートの方のくれないである。 「それぞれバラバラに何処かへ逃げるように命じる!今はそれしかない!」 くれないの疑問にセールが即答した。 「しずくなの、お前もついてこい!行方不明の小銭やチャイを探さなきゃならんだろう!」 「ああ。世話になるぜセール。」 しずくなのも同行することになった。セールは配下の兵達にはそれぞれバラバラに逃げて必ず生き残る様に命じて城を捨てて逃亡した。 セールの判断はこの場では正しい。敵の実力を分析し、無益な戦を避けることは将にとって重要である。 しかし残った最後の将軍であるセールやまさっちまで行方を眩ませたことでグリーン王国の将軍はアティークとアティークに味方した者以外の全てが消息を絶ち、グリーン王国領から消え去った。 グリーン王国領は全てアティークのものとなったのである。 グリーン城二ノ丸 アティークは伝令兵から二つの報告を受けた。一つは水素、星屑、小銭を打ち破ったこと。もう一つはセールとまさっちが領土を捨てて逃亡したことである。 「全員取り逃がしたか、運の良い奴等め。結局セールの首も取れなかったか。」 アティークは舌打ちした後伝令兵を退がらせた。 「だがこれでグリーン王国領内から敵対者が完全に居なくなったな!お前の天下だぞアティーク。」 赤牡丹達を破って帰城していたオルトロスがアティークの眼下にある席に座りながら声をかける。 「ああ。グリーン王国領は全て俺のものとなった。国の名前も変えて国の仕組みも一新するぞ!」 アティークは玉座から立ち上がり、高らかに宣言した。 「平行四辺形、グリーンバレー中の全市民を城の前に集めろ!新たな国名を発表する!」 「分かった。」 アティークが命じると、平行四辺形は手配を始めるべく退出していった。 「庭師もご苦労だったな。与板をよく落としてくれた。」 「でもキモ男やポルク・ロッドには逃げられた。俺達、随分と敵将に逃げられたな。後々の禍根にならなきゃいいんだが…。」 アティークに労いの言葉にかけられるも庭師は逃したか敵将達が気になるようで少し深刻な表情をつくっていた。 「奴等案外ゴキブリ並にしつこくてしぶといかもしれんしな。」 オルトロスも庭師に同調する。 「何、その時は今度こそ息の根を止めてやる。」 アティークは天下への野望の第一段階を踏み出したのである。 アティークは城下に数十万人の市民を集めて壇上に立った。アティークの脇をオルトロス、庭師、平行四辺形、ぷろふぃーるが固める。いずれもアティークがぐり~んを葬った前後から協力している将である。 「旧グリーンバレー市民かつグリーン王国の民だった諸君らに告ぐ!私は元グリーン王国大将軍・アティーク!」 アティークは公の場に出たことを意識して一人称を「俺」から「私」に切り替えた。広大な領土と数多の民を全て手中に収めた男の王者の風格がその大音声から滲み出ている。 「今この時をもって諸君らの国籍が変わる!この国の名前が変わる!国自体が変わる!そして私も、諸君らもだ!」 アティークは一枚の等身大の二つ折りになっている紙を配下の兵から受け取り、その端を掴んだ。 「今からこの国の名を…」 アティークが二つ折りになっている紙を堂々と開いて見せた。 「ペルシャ帝国とする!」 アティークの高らかな宣言。しかし民は急なことで皆が皆戸惑っていた。 「あのアティーク大将軍、李信将軍をボロボロにして追い払ったらしいぞ。そんで行方不明とか…。」 「俺達の為に知恵を巡らせて善政を敷いてくれたWあ将軍はあそこに居るオルトロス将軍に殺されたらしい…。」 「ぐり~ん様やセール大将軍への個人的恨みって噂もあるぞ。」 「俺、面白いから小銭将軍好きだったんだがなぁ…」 「アタシはイケメンの北条将軍が好きだったんだけどねぇ…」 「そもそもなんなんだよゾロアスター教って。何で強制的にそんなもん信仰させられなきゃならねえんだ?」 一部の市民達はアティークに対する不満を口にし始めた。 「静まれい!!」 アティークの大喝が響き、不満を口にしていた市民達はその口を噤んだ。 「皆が信じるものを一にすれば一体感が生まれる!国に対する忠誠心が芽生える!李信やセール達は弱き王に与する不届き者故に手を降したのだ!」 「今からゾロアスター教を正式に国教と定める!」 「街並みは一新する!城も造り替える!街には巨大な神殿を建造する!この都の名は今からグリーンバレー改めペルセポリスだ!」 「そして私はこのペルシャ帝国の皇帝となる!ペルシャ帝国皇帝 アティークの誕生だ!」 アティークの口から次々に宣言された。グリーン王国が全く別の国に変わった瞬間だった。しかし市民達にとっては傍迷惑なことであった。工事にも駆り出されて住居も造り替えさせられ、毎日神殿に足を運んで礼拝しなければならない。 「それとだ!セール、まさっち、李信、北条、赤牡丹、マロン、Wあ、星屑、小銭、水素の姿をもし見かけた際は必ず報告するように!奴等はこの私に刃向かった逆賊だ!」 「諸君ら1人1人がこのペルシャ帝国の国民としての自覚を持ち、この国に尽くしてくれることを私は願う!以上だ!」 アティークは宣言を終えると壇上から降り、城へと戻っていった。オルトロス、庭師、平行四辺形、ぷろふぃーるもそれに続いた。 「逆賊はぐり~ん様を殺したアティーク大将軍の方だろうに。」 「グリーン王国の将軍達が心配だよ。俺はもし見かけても黙秘するぞ。」 「ああ。あの人達は俺達によくしてくれたからな。こりゃあんまりだ。」 市民達はアティークが去った後も口々に愚痴を吐き合っていた。アティークが民の心を掴むのは時間がかかることになる。 ともあれ、アティークは名実共に皇帝となり、新たな国を建国したのである。 その夜は建国祝いとしてグリーン城改めペルセポリス城にて大規模な酒宴が催された。 エイジス・リブレッシャーこと氷河期。 彼はグリーンバレーでの荒喧襲撃の際に荒喧四天王の幽霊を倒して地球の防衛に貢献しボスのヒノ荒らしに敗れた後、元ガルガイド王国領のシンガイシティの住居に帰って暮らしていた。 そんなグリーン王国の国民たるエイジスにも当然知らせは届いていた。ぐり~んがアティークに攻め滅ぼされたこと、アティークに敵対する者は排除されたこと、国が根本から変わったことである。 「ゾロアスター教?何だそれ。」 アティークは全ての国民にゾロアスター教への改宗や信仰を強制する政策を実施した。無論エイジスも対象である。エイジスは配布された聖典に少し目を通すと、それを囲炉裏の火へと投げ捨てた。聖典が見る見る内に燃えて灰になる。 「こんな下らねえ宗教には付き合ってらんねえ。俺は旅に出る!」 エイジスは僅か数時間で身支度を済ませると、住んでいる期間が短かったこの家を出た。 「名残惜しいがアティークのふざけた自己満足に付き合うのは御免だからな。」 エイジスは二階建ての新居に言い聞かせるように言うと向きを変えて歩き出した。 しかし行く宛など何処にも無い。目的地も当然無い。エイジスの長い長い冒険が今、始まったのである。 エイジスは隣町のキュウガイシティに到着すると、アティーク軍の兵が住民達を殺戮している光景に遭遇することになった。 「何事だ?」 エイジスは近くの民に状況を尋ねた。 「ゾロアスター教への改宗を拒否したキリスト教や仏教徒の人達が邪教徒として殺されているのです…!どうかお助け下さい!」 (この世界にも現実世界の宗教があるのか…) 民は恐怖で顔を強張らせながらエイジスに懇願した。エイジスが装備している剣、槍、二丁小刀、弓を見てエイジスを只者ではないと見たからである。 「通りかかった舟ってやつか。仕方ねえ助けてやるよ。」 エイジスはそう民にそう言うと殺戮を繰り返している10人程の兵達の眉間や喉に次々と小型ナイフを投擲して瞬く間に倒してしまった。 「誰だ?アティーク様の御命令の遂行を邪魔する奴は。」 赤い髪を逆立てた紺色のコートを着た隊長らしき男がエイジスを睨みつける。 「俺はエイジス。てめえ罪のねえか弱い民に何してんだよ。」 エイジスが槍の鋒を男に向けて構える。 「俺はペルシャ帝国の将軍・ヤナギだ。こいつらに罪が無いだと?ゾロアスター教に改宗するようにとのアティーク様の御命令を拒んだ不届きな大罪人だ!国法に背く輩を許しては示しがつかんのでな。」 「信仰の自由すら許されない国なんか必要ねえんだよ!」 エイジスが勢いをつけて駆け、ヤナギに冷気を纏った槍を突き入れる。ヤナギはそれを右腕に装着している赤い羽が3枚ついた金と橙と赤がベースの手甲でガードする。 「…頑丈な装備だな。」 「驚いたか?こいつが俺のアルターの一つ、シェルブリットだ。俺はヤナギ。アルター使いのヤナギだ!」 ヤナギはシェルブリットでエイジスの槍を弾くと、人差 指→ 中指 → 薬 指→ 小指 → 親指の順に硬く握り込んで行く特徴的な右手のモーションを行って見せる。 「衝撃のファーストブリット!」 3枚の羽を推進力とした直線的なパンチをエイジス目掛けて繰り出す。エイジスは槍を納めて剣でガードするが、あまりの威力に剣を持つ両腕に震える程の衝撃が走った。 「大した威力だがそんなもんじゃこのエイジス・リブレッシャーは殺れないぞ!」 「冷殺剣」 エイジスは剣に魔力と冷気を纏わせてシェルブリットに斬りかかる。しかしシェルブリットは頑丈で傷一つつかない。 「撃滅のセカンドブリット!」 ヤナギが先程と同じモーションと同じパンチを繰り出し、エイジスは冷殺剣でガードするものの吹き飛ばされてしまった。 「フェンリル」 吹き飛ばされたエイジスが踏み留まり、狼に変化して咆哮をヤナギに浴びせる。ヤナギの足元から氷が生成されて凍りつかされていく。 「シェルブリット ver2 !」 ヤナギの顔の右にタテガミ状のプロテクターが生え、シェルブリットが右腕全体が一段と大きく、拳が放射状に指を生やしたディスク型になり、パッと見親指と小指の区別が付かなくなった。 ヤナギはシェルブリットで自らを覆う氷を叩き割り、狼化したエイジスに急接近して拳を溜める構えを見せる。 「シェルブリット・バースト!」 背中の金色のプロペラを原動力として更に威力の増したパンチを繰り出す。パンチはエイジスの顔面にヒットするかと思いきや、間一髪のところで右にそれて回避された。 「冷却砲!」 エイジスの口腔から極太の冷却砲が吐かれ、ゼロ距離に居たヤナギはまともに攻撃を浴びてしまった。 「ケッ!王国最強騎士だった俺に勝てると思ってんのかよ。」 冷却砲を浴びたヤナギは全身氷漬けにされてキュウガイシティの中心を彩る氷像と化した。 「ありがとうございます!ありがとうございます!」 民達はヤナギを見事に倒したエイジスに涙を流しながら礼を述べる。 「気にすんな。通りかかっただけだ。」 エイジスは人の姿に戻ると、にこりともせずに民に応じた。 「お前ら改宗は受け入れた方がいいぞ。なーに心からゾロアスター教を信仰しろって話じゃねえ。フリでいいんだよフリで。」 「しかし!」 「俺がいずれ必ずアティークの暴政からお前らを救ってやる。それまで辛抱してくれ。な?」 「わ、分かりました。必ず、必ずアティークを倒して下さい!」 「ああ。約束だ。」 民の心からの願いを聞き届けたさすらいの旅人エイジスは程無くしてキュウガイシティを去った。氷像となったヤナギは後から来た平行四辺形によって回収された。 エイジスは長い旅路についた。アルター使いのヤナギを倒した後にすぐにキュウガイシティを後にしてペルシャ帝国の領土から脱出すべく北へ北へと進路を取った。 北へ進めば進む程気温が下がり寒さは厳しくなっていく。そんな中、アティークの兵を殺害してヤナギを戦闘不能に追い込みアティークに逆らったとしてエイジスはついにペルシャ帝国中で指名手配されることになった。 「これじゃいつぞやのあの人みたいだな…。」 エイジスの頭を過る、幾度も戦って和解した男。今度は自分がその男と同じ立場に立たされていることに気づいた。 エイジスはセールや李信ら主なグリーン王国の残党が再び集結ないし世間での消息が明らかになるまで雌伏することを選んだ。いくら元ガルガイド王国最強騎士でもアティークの実力の噂を聞くに敵わないと判断したからである。 猛吹雪の中ペルシャ帝国の北端の街を目指して雪道を進んでいると、耳の良いエイジスはつけられていることに気づく。 聴こえるのである。馬の蹄が地を踏む音が。軍靴が雪を踏む音が。甲冑の擦れる音が。 「やはり追ってきたか。」 エイジスは後ろに向き直る。数百人のペルシャ帝国兵を従えた平行将軍がエイジスの追跡任務を実行していたのである。 「氷河期だな。アティーク皇帝よりお前を抹殺するよう命令が出ている。お前は元同僚だし個人的恨みは無い。だが命令なんでな。悪いが此処で死んでもらう。」 兵達の先頭に出て、待ち受けるエイジスに追いついた平行がエイジスを抹殺する意思を伝える。 「アンタもガルガイドの将軍だったなら俺の強さを知ってる筈だぜ平行さん。王国最強騎士だった俺をアンタが抹殺だと?寝言は寝てから言いな。」 「いつまでも自分が最強だと思うなよ。その傲慢な鼻っ柱を今すぐへし折ってやる!」 平行が巨大化し、全身が黒一色となり、頭は刺々しい形状に、目は瞳が無い赤一色となる。 「俺は最強!最強なのだ!」 そう、絶体絶命でんじゃ◯すじーさんに登場する最強のキャラクター・最強さんである。 「アンタの能力、初めて見たがそんな風になるのな。だがまだ見た目だけだ。肝心の強さはどうかな?」 「我は鋼なり、鋼故に怯まず、鋼故に惑わず、一度敵に逢うては一切合切の躊躇無く。これを滅ぼす凶器なり。」 「鉄血転化」 詠唱を終えたエイジスの全身に赤い紋様が浮かび上がり、頭髪と瞳が赤に染まる。 「冷殺剣」 更に剣に魔力と冷気を纏わせて強化する。傷一つない刀身に自身の整った顔立ちがありありと映し出される。最強さんとなった平行などよりも美しいその顔を目に焼き付けただけで既に平行に勝ったような陶酔を憶えた。 「何自分の剣見つめてんだよ。こっち見ろゴルァ!舐めてんじゃねえぞ!」 平行が巨大な拳をエイジスに繰り出してくる。 「単純なパンチかよ。そっちこそ舐めてんじゃねえぞ。」 「エイジストラッシュ」 エイジスが軽々と平行のパンチを回避してその右腕に高速での連続斬撃を繰り出す。しかし斬りつけられた平行の腕はビクともしない。 「こんなんで王国最強だったのかよ。片腹痛いわ。」 平行はエイジスの動きを捉えて巨大な左手でそれを掴み上げてしまった。 「な…!」 呆気に取られるエイジスの体を掴んだ平行はそのまま勢いよく地面に叩きつける。 「グハッ…!」 あまりの膂力と衝撃にエイジスは嗚咽し吐血する。下半身の骨は粉々に砕かれた。 「一つ教えてやるよ氷河期。お前は最強なんかじゃない。ただ、今まで敵に恵まれてただけなんだよ。お前と互角だったりお前が辛勝してきた相手ですら俺にしてみればただのカスだ。」 平行が虫の息のエイジスにそう吐き捨てると、その体を掴みながら左腕を振り上げてから地面に思い切り投げつける。 エイジスの体は無惨にも原型を留めない血と肉の塊と化した。 「調子に乗ってんじゃねえぞ。」 殺した筈のエイジスの声が背後から聴こえる。平行が振り向いた時にはエイジスは平行の周囲に無数の氷の槍が展開されていた。 無数の氷の槍が一斉に射出される。しかし平行はその尽くを両腕で振り払った。 「まだだ!」 エイジスは右足で地面を踏みつけて地面から氷の刃を無数に出現させて平行の足元を狙い仕掛ける。 「ハーッ!」 平行は頑丈な足で地面から生えてくる氷の刃を粉々に砕いた。 「そういやお前は一回死んでも大丈夫な能力があったな。だが無駄な足掻きだぜ氷河期。」 平行はその巨大な口から黒いエネルギー波をエイジスに向けて放出する。視界に見える全ての地を更地する程の威力のエネルギー波がエイジスを襲った。 「フェンリル」 エイジスが狼の姿に化け、遠くまで鳴り響く咆哮と共に冷却砲を口から吐き出して平行のエネルギー波とぶつかり合う。 しかし冷却砲は一瞬で押し切られてエイジスは平行のエネルギー波に呑み込まれてしまった。 「あっヤベ。自分の兵も巻き込んじまったわ。まあいいや氷河期の始末すれば何とでも言い訳出来るし。」 平行の黒いエネルギー波には平行が引き連れていた兵達も巻き込まれた。無論生存者など居る筈も無い。エネルギー波による爆発が止んで平行はエイジスが生きていないかを目を凝らして確認する。 「フェンリルでも全然歯が立たねえ…仕方ねえ!」 エイジスはかろうじて息を繋いでいたが全身から流血し、骨は砕かれている。更なる進化形態を使う必要に迫られていた。 「ファフニール!」 狼に化けていたエイジスが今度は巨大な龍の姿に変化する。先程とは比べ物にならない程の魔力と冷気を放っている。 「ファフニールか。お前のその姿は初めて見る。」 平行が第二波を放出しようと口腔にエネルギーを溜め始める。 「夢想・樹海浸殺」 龍となったエイジスが咆哮すると地面から無数の蔦が平行目掛けて生えて伸びていく。 無数の蔦や枝が平行を取り囲み、束縛した。 「なあ平行。俺はゲス野郎とも、自分の意志で誇りや守るべきものの為に戦う奴とも戦ってきた。奴らを倒したりしたことを後悔はしてねえ。だが後者をカスとか馬鹿にされるのはいい気分じゃねえな。」 「綺麗事を吐かすな。お前のそういうブレブレの正義感ぶったところが俺は嫌いなんだよ!」 蔦や枝を振り払った無傷の平行がエイジスに嫌悪感を剥き出しにする。 「じゃあ何でお前はあの時リキッドに神チーへの復讐を依頼したんだよ?お前の正義がそこにあったからだろうが。」 「私情だよ。正義感とは関係無い。そろそろ死ね氷河期。」 平行がエネルギー波をエイジスに向けて放つ。 「コキュートス」 エイジスが口や全身から膨大な量の魔力や冷気を放出する自身の究極奥義を発動する。 平行のエネルギー波とエイジスのコキュートスが衝突するが、コキュートスは瞬く間にエネルギー波に呑み込まれてエイジスをも巻き込んだ。 「王国最強が聞いて呆れるぜ。」 「ゴッドハンド」 更地になった地に龍の姿で横たわるエイジスにトドメの、手の形をしたエネルギー波を放出する。 「こんなふざけた奴に俺は殺されるってのかよ…」 エイジスが半ば諦めかけたその時である。エイジスの眼前に2人の男が突然現れ、その内1人がゴッドハンドに右手を翳して打ち消したのである。 「俺のゴッドハンドを打ち消しただと…?」 「俺の右手は異能を消せる能力があるんでな。」 驚く平行に顔立ちが異様に整った男が答える。 「邪魔すんじゃねえ。殺すぞ。」 「殺される前に逃げるとするぜ。頼むぞ。」 拳を繰り出し殴り潰そうと仕掛けてくる平行に対し、1人の男のテレポート能力によりエイジスを含めた3人は平行の視界から姿を消した。 「逃がしたか。アティーク皇帝への言い訳を考えなきゃな。」 元の姿に戻った平行はそんな独り言を呟きながら帝都への帰路についた。 エイジスが目を開けると、目の前にはシャンデリア付きの家屋の天井が広がっていた。暖炉の火がパチパチと燃える音が聴こえ、暖かい熱を感じる。 「お、気づいたようだな。」 エイジスの看病をしていた男が声をかける。平行に殺されかけた時に平行のゴッドハンドを右手で打ち消した男だ。 「お前達に助けられたようだな。此処は何処だ?お前達は誰だ?」 「質問は一度に一つで頼むぜ。俺は姫宮。有する能力は幻想殺し(イマジンブレイカー)だ。そして此処はじゃっ 「質問は一度に一つで頼むぜ。俺は姫宮。有する能力は幻想殺し(イマジンブレイカー)だ。そして此処はペルシャ帝国の北にあるオロシャ帝国のモズグワだ。」 エイジスは意識を失っている間にペルシャ帝国領からの脱出を果たして北の国に到達したようである。 「俺はいかめし。能力はテレポートだ。宜しく氷河期。」 もう1人の男も名乗る。留年ネタで散々煽られているあの住民である。 「ああ。助けてくれてありがとう。しかし何で俺の名前知ってんだ?」 抱いて当然の疑問である。エイジスはまだ2人に名乗っていないのだ。 「お前この世界じゃ割と有名人だからな。アティークから逃げてきたんだろ?そっちの国の情勢は今全世界の注目の的だからな。」 いかめしがその疑問に答える。 「オロシャ帝国は軍事力も強大だ。そう簡単にペルシャ帝国は攻めてこれないから安心しな。」 姫宮はティーカップにコーヒーを淹れてエイジスに差し出した。 「油断しない方がいいぞ。ペルシャの奴らは化け物だ。同盟国の幻影の皇帝もヤバいらしい。」 エイジスが平行と闘って完膚無きまでに叩きのめされた記憶を反芻する。 「あの最強さん、一体誰なんだ?」 「平行だよ。全く歯が立たなかった。ヒノ荒らし以外にもこの世にはあり得ない強さを持つ奴がゴロゴロいやがる。」 姫宮の質問にエイジスが苦々しい表情で答えた。 「内憂外患って奴でな。外敵も恐ろしいが今このペルシャ帝国では問題を抱えているんだ。」 いかめしが話題を急に切り替える。 「内憂外患?このオロシャ帝国が?敵は誰だ?」 エイジスは内憂外患と言葉の意味を知っている。いや、当然だが。分からないのは恐らく小銭や堂明元師くらいのものである。因みに現実世界でFラン低学歴の李信ですら知っている。 「敵はこのオロシャ帝国で暗躍するロケット団という組織だ。」 「ロケット団?ポケモンかよw」 「真面目な話だ。話の腰を折らないでくれ。」 姫宮が茶々を入れるエイジスに釘を刺す。エイジスはすまんすまんと誠意のこもっていない謝罪を述べる。 「そのロケット団のボスは大沢って奴でな。このオロシャ帝国でヤクの売買などに手を染めたり女を攫って犯して殺すスナッフビデオを撮影して売り捌いたりと悪事を働く。」 「ロケット団の大沢ね。ポケガイでトゲキッスを強奪するような奴に相応しい肩書きだぜ。」 深妙な面持ちで話す姫宮の説明を聞いてエイジスはポケガイでかつて起こったトゲキッス強奪事件を思い出した。 「アティークのペルシャ帝国も十分問題だが、大沢のロケット団を何とかしなきゃならねえんだ。こうしている間にも罪の無い民が苦しめられ殺されている。皇帝のああ★(ポケモン大好きなあのコテ)様もお心を痛めておられる。」 いかめしも深刻な表情で続ける。 「オロシャ帝国の軍はペルシャ帝国を警戒して国境警備でかかりきりでな。ロケット団は俺達軍属じゃない能力者が何とかしなければならんのだ。か弱い女性が理不尽に殺されていくのを黙って見過ごせない。」 「流石はイケメン高学歴ハイスペックな姫宮さんだ!助けてもらった礼に協力するぜ!どうせペルシャ帝国領には帰れないし他の将軍達も行方分からないし暇潰しになるしな。」 「そして、俺はこれまでの自分と決別する。もう王や国のことしか視野に無い愚かな騎士・エイジスじゃない!俺は氷河期!正義の味方の氷河期だ!」 エイジスの新たなミッションが始まった。今度は国の為ではなくか弱い民の為にである。そこにはかつての騎士 エイジス・リブレッシャーではなく正義の味方となった氷河期が居た。 散り散りになった仲間達の無事と正義の成就を祈って。 「言い忘れてたが此処は俺といかめしのアジトだ。メンバーはもう1人居る。そろそろ帰って来る頃だが。」 噂をすれば何とやら。姫宮が話し出したところでアジトの玄関にあるドアが開く音が響いた。 「あ?見ねえ顔が居るなあ。」 エイジス改め氷河期の顔を見るなりその男は氷河期を睨みつけた。某ジャンプ漫画の主人公そのものの姿であり、しっかりと「洞爺湖」と刻まれている木刀も帯刀している。声も杉◯智◯氏そのものである。 「そう最初から威嚇すんなよ。新しく仲間になった氷河期だ。頼もしい戦力だぞ。」 姫宮が氷河期を紹介して男を宥めようとする。 「俺は坂田銀時ってんだ。今は皇帝からの依頼を受けてロケット団と戦いながらアジトを捜している。普段の業務は万事屋といってどんな依頼でも引き受けて稼いでいる。お前にも手伝ってもらうぜ氷河期。」 「エイジス・リブレッシャー改め氷河期だ。宜しく坂田銀時。」 氷河期が握手を求めて右手を差し出すと坂田銀時もそれに応じる。が、握手した瞬間氷河期は手に違和感を感じた。 「酢昆布だ。歓迎の証だ。うめえぞ。」 「ど、どうも。」 受け取った酢昆布を食べる。当たり前だが酸っぱい。 「飯作るが宇治銀時丼でいいよな?」 姫宮といかめしは賛成するが氷河期はそれが何なのか分からない。分からないが嫌な予感がした。坂田銀時が立つ厨房から嫌な匂いが立ち込める。 グリーン崎でオルトロスの黒い翼により空へと吹き飛ばされた赤牡丹、北条、マロン、Wあ。 4人は不幸中の幸いと言うべきか、一命を取り留めて同じ場所に落下して知らない国の知らない土地の病院で仲良く(?)入院していた。 4人揃って無事退院したまではいいが、此処が何処だか全く分からない。4人は病院から外に出たものの、当然行く宛も雨風をしのぐ場所も金も飯も無い。 「早速だが、俺達は4人、フォーマンセルだ。」 大人気ジャンプ漫画「NAR◯TO」の影響を受けた北条が何やら空気を読まない発言をし始める。 「だからなんだってんだ?今それどころじゃねえ。腹減ったな畜生。オルトロスの野郎思い切りやってくれやがって。いずれ必ず殺してやる。」 赤牡丹が北条の発言を鬱陶しがると同時にオルトロスへの憎悪を露わにする。 「まあ聞け。これからはこの4人小隊で行動することになる。そこで小隊の名をつけておこうと思ってな。」 「二次元党でいいじゃん。」 「氷河期さんも直江さんもセールさんも居ないのにそれは相応しくない。」 マロンの提案を北条が一蹴する。 「我ら小隊はこれより名を鷹とする。いいな?」 「おいそれって、NAR◯TOのうちはサ◯ケのパクり…。」 ノリノリの北条に赤牡丹が突っ込むも北条は譲る気配が無いので仕方なく認めることになった。 「いいんじゃないですかね?俺はNAR◯TOはよく知りませんけど。そもそも俺達4人全員、既存作品に登場する能力を丸々パクって使ってるんですよ?パクりなんて今更ですよね。」 「そういやそうだ。俺はマ◯、隠密はNEED◯ESS、Wあはポケ◯ン、北条はNAR◯TOだからな。」 Wあの当然の後押しによりマロンも納得し、4人はチーム名を鷹と定めて以後行動することになった。 「で、本題に戻るぜ。此処は何処だ?」 「…」「…」「…」 赤牡丹の一言で鷹は現実に引き戻された。 「此処が何処かを教えてやろう。雨風凌げる場所も食事も提供しよう。但しこの私を倒せたら、だがな。」 街中でいきなり小隊「鷹」に声をかける異様な風体の男が居た。赤色のシルクハットを被り、顔にはマスケラを被り、全身を赤色のタキシードで包んでいる。 「誰だてめえ。」 「それも私に勝ったら教えよう。着いてきたまえ坊や達。」 赤牡丹が凄んだところで男は気にせず受け流して背を向けて歩き始める。 「行くぞ。例え嘘でもこいつを倒して有り金奪えば食費にもなる。奇抜だが金持ってそうな格好してるからな。」 北条がそう言って他の3人の賛意を確かめもせずに男の背を追い始める。 「まあ確かに北条さんの言う通りですね。相手は1人。いざとなれば俺達4人で奴をリンチして有り金頂けますからね。所持してなければ殺すと脅して金を出させますよ。」 「Wあさん、アンタ時々怖いこと言うよな。その通りだけど。」 「モタモタしてると奴を見失うぞ。」 Wあのセリフに賛意を示すマロン。それを聞き流して赤牡丹は北条の後を追い始めた。 「此処はグリーン王国の王都グリーンバレーにもあったようなコロッセウム…」 謎の男が鷹を案内した先はグリーンバレーで北条と水素が闘った場所と同じようなひたすら広いコロッセウムのフィールドだった。 「しかも何だよこの観客の数は…」 鳴り止むことない歓声が鳴り響いている。マロンが辺りを見回すと、全ての席を埋め尽くす観客が熱狂的な視線を此方に向けて声を張り上げている。 「さて、言い忘れてたが私と戦うのは君達4人の内1人だ。私をリンチして金を奪うなんて真似はさせないよ?その代わりこの観客の数だ。私も卑怯な真似は出来ないし約束も破れない。」 Wあ達の目論見は早くも崩されてしまったが、この男もどうやら嘘をついているわけではないと4人は悟った。 「俺が行く。グリーンバレーのコロッセウムでは水素に負けたからな。場所や相手は違えどコロッセウムで今度は勝つ。」 北条が名乗り出た。水素に完膚無きまでに叩き潰された苦い経験が彼を突き動かしていた。 「決まりだな。他の3人は特別席で観戦してもらう。」 男がパチンと指を鳴らすとスタッフが現れて3人をガラス張りの障壁に覆われた展望席へと案内した。 「ルールは相手を戦闘不能に追い込めば勝利。極めて単純だろう?それとフィールドと観客席には絶対防壁の結界が敷いてあるから安心して全力を出していい。」 男によるルール説明はそれだけで終わった。 「俺が勝てば約束は本当に守るんだろうな?」 「勿論だとも。では始めようか。君から掛かって来給え。」 北条が約束について念を押す。2人のバトルが始まった。 「なら遠慮無く行かせてもらうとしよう!」 北条が全速力で男に向かって突っ走ると、男は二丁拳銃を取り出して北条に向けて引き金を引く。耳をつんざく様な銃声がコロッセウムに鳴り響いた。 「この世界、拳銃あるのかよ!」 北条は写輪眼で弾道を見切って素早く銃弾を回避した。男が北条に尚も銃を撃ち続けるが北条はそれを避け続けてついに男の間近に迫った。 「速い!」 男は格闘戦で応戦しようとするが、男に対処する隙を与えずに北条は男の腹を蹴り上げて宙に浮かせた。北条はその場で跳んで宙に浮いた男の背後を取り、脇腹に強烈な回し蹴りを入れる。更にその反動を利用して反対側から男を殴りつけ、最後に男の上から腹に回し蹴りを見舞った。目にも止まらぬ速さでの体術である。 「獅子連弾!」 北条の体術・獅子連弾が決まり、男は勢いよく地面に叩きつけられる。 「火遁・豪火滅失!」 そのまま宙からフィールド全体に広がる強力な火遁を口から吐いて男に浴びせる。 「やれやれ。この私が体術で敵わないとは噂通りの実力だな。マキシマム・ペイン!」 男の周囲にバリアが展開される。そのバリアが範囲を広げていき、火遁の炎を北条に押し返す。 「跳ね返す技か!ならば…」 「神羅天征!」 輪廻写輪眼から瞳力による強力な斥力を発生させてマキシマム・ペインに対抗する。二つの力は相殺されて弾け飛んだ。北条がその後地に降り立って男との距離を取る。 「俺の神羅天征と同じ様に斥力を操れるのか。それに獅子連弾をかました時に奴の体が機械の様に重く、硬く感じた…。」 「御明答!私の体は大半が改造されて機械化されている!今のは私の斥力フィールドだ。この斥力フィールドを私はイマジナリィ・ギミックと呼んでいる。そしてイマジナリィ・ギミックを広げて敵を圧するのがマキシマム・ペイン。」 北条が独り言のつもりで呟いていたのだが、男には全て聞こえていた。 「確かその術は発動してから5秒間のインターバルがある筈だ。私のマキシマム・ペインは連発出来るがね!」 男は北条の神羅天征を知っていた。北条が神羅天征を発動後のインターバルに入っている間にも容赦無く斥力による攻撃を繰り出す。 「神羅天征を知られていたか…!だが…」 マキシマム・ペインは北条の体を擦り抜けた。万華鏡写輪眼に宿る能力である。 「残念だったな仮面野郎!天照(アマテラス)!」 北条の万華鏡写輪眼の視点から仮面の男を発火させようとするがイマジナリィ・ギミックにより防御されてしまった。 「君が燃やしたのは私の斥力フィールド イマジナィ・ギミックだ。そして私は何度でもイマジナリィ・ギミックを発動出来る!」 仮面の男の斥力フィールド(バリア)は何度でも無限に発動可能な様だった。つまり天照は通じない。一層だけ斥力フィールドを焼き尽くした天照の黒い炎が消滅する。 「つくよ…!」 「エンドレス・スクリーム!」 北条が万華鏡写輪眼による幻術を発動しようとした瞬間、仮面の男は斥力フィールドを槍状に展開して北条の左肩を貫いた。仮面の男は北条の擦り抜け能力の仕組みを知っているようである。そう、攻撃する時は擦り抜け能力は発動出来ないのだ。 「ネームレス・リーパー!」 間髪入れずに斥力で出来た鎌状のものを飛ばして仮面の男が北条に攻撃を仕掛ける。 「土遁・地動殻!」 北条は両手を地面につけて自身の周りの地面を隆起させ、岩の壁を築いて防御する。 「自らの視界を遮るとは愚かな!マキシマム・ペイン!」 「神羅天征!」 仮面の男が放ったマキシマム・ペインに対して北条は神羅天征を発動して自らを囲む岩壁を粉々に吹き飛ばし、マキシマム・ペインと衝突し相殺される。 「土遁・黄泉沼!」 北条が両手を地面につける。すると仮面の男の足元に底無し沼が発生して仮面の男を引き摺り込む。 「マキシマム・ペイン!」 何とか沼を消し飛ばすが、男が前を見ると北条は視界に居なかった。 「雷遁・偽暗!」 一瞬の隙をついた北条から放たれた稲妻が仮面の男に直撃する。 「しまっ…!」 「遅い!千鳥!」 北条の左腕が男の腹を貫いた。男は吐血して仰向けに倒れた。 「まだやるか?」 「降参だ。君の勝ちだ。おめでとう。約束は守ろう。」 勝敗はついた。観客席からは歓喜の叫び声が絶え間無く上がる。北条は直後に医療忍術で男の体を治して他の鷹の3人を連れて約束通り案内させた。 「雨風凌げる場所はもちろん提供するが、その前に君達4人には会ってもらいたいお方が居る。今から案内するからくれぐれも粗相の無いように。」 仮面の男に鷹が着いて行く。どれだけ歩いたか分からないが、行き着いた先は大きな城だった。 「黒牡丹様、例の4人を連れて参りました。」 「御苦労だった紫牡丹。」 「はっ!」 鷹は城の中の宮殿に通された。王座に座っている笑顔の黒尽くめの衣装を身につけた男の姿が見えた。 「俺がこの牡丹王国の国王 黒牡丹だ。そしてお前達を案内した仮面の男は紫牡丹。」 「俺達は小隊『鷹』だ。俺が隊長の北条だ。」 黒牡丹と名乗った男に頭を下げもせずに応じる北条。 「北条君、黒牡丹様の御前だ。図が高いぞ。」 「うるせえ。敗者は黙ってろ。」 「何だと…?」 「やめんか2人共。」 注意する紫牡丹に反発する北条。啀み合う2人を黒牡丹が制止した。 「ようこそ牡丹王国へ。俺は君達鷹を歓迎しよう。紫牡丹、4人を屋敷に案内してやってくれ。」 黒牡丹に促された紫牡丹が4人を屋敷に案内する。 「1人一室、好きな部屋を使い給え。屋敷は4人で自由に使って宜しい。それと翌朝再び登城すること。では私はこの辺で。」 紫牡丹は早々に去ろうとするが、そんな紫牡丹に赤牡丹が肩に手をかけた。 「お前紫牡丹だったんだな。俺は赤牡丹だ。親愛なる黒牡丹様に御目見得出来て光栄だったぞ。」 「お前、赤牡丹か!積もる話もある、今日は飲むぞ!」 紫牡丹はキャラ作りなど忘れて同じ「牡丹族」である赤牡丹との出会いを喜んだ。 「改めて自己紹介しよう。俺は牡丹王国の紫牡丹、又の名をNZ2。さっきの私という一人称や喋り方や仮面はキャラ作りだから気にするな。この二次元世界に来て強力な力を得るとどうしても調子に乗りたくなるのさ。」 「強力ねえ…。まあ弱くはなかったが、アンタ俺が本気出してないことに気づいたか?」 王都にある酒場で黒牡丹から出た金で高い料理や酒を次々に注文し飲み食いしながら鷹の4人は紫牡丹と話していた。紫牡丹の言動に北条が突っかかる。 「まあ何となくはな…。あの忍者漫画の術を全て使えるならあんなもんじゃねえだろうな。それに擦り抜け能力のあんな縛りは原作に無いからな。お前が自分のチャクラに体が馴染んでないか俺を相手に舐めプしたかのどっちかだろう。」 「まあ、その両方だ。本気出せばお前程度一瞬で倒せるんだ。あまり俺相手に調子に乗らない方がいい。」 北条が紫牡丹にクギを刺す。 「おいおい俺は喧嘩する為に飲みに来たんじゃないんだ。勘弁してくれよ。明日話そうと思ってたがお前らに話があるんだ。」 「おいちょっと待てよ。その前に重大な問題があるぜ。」 紫牡丹が話を切り出そうとしたところで赤牡丹が北条をいきなり睨みつける。 「小隊の名前には同意はしたがいつからアンタがリーダーになったんだよ北条さん。」 赤牡丹は北条が黒牡丹に自分が鷹のリーダーだと自己紹介していたのを思い出した。 「俺が1番4人の中で強いんだから当たり前だろ。それに鷹なんだから俺がリーダーじゃなきゃならねえ。」 「誰が1番強いって?何ならはっきりさせてやってもいいんだぜ?」 「2人ともうるせえぞ。忍者だかニードレスだか知らんが俺の魔法使い・金属器使いとしての実力舐めてんじゃねえだろうな?」 酒気を帯びたマロンが2人に絡みだす。3人は他の客など顧みずに表に出て殴り合いを始めた。 「あの3人、もう話が通じる状態じゃないんで俺が話を聞いときますよ。紫牡丹さん。いや、NZ2さんかな?」 「まともなのが1人でも居てくれて助かる。まずこの国についてから説明しようか。」 Wあは流石に1番の年長者であり落ち着いていた。それに酒に1番強く、酒に呑まれない。 「この国は、熾烈な後継者争いの末に黒牡丹様が王となられた。」 紫牡丹がゆっくりと語り出した。 「赤牡丹さん達が前に語ってたかっしーとサバの争いみたいなもんですか。」 「ああ。ピオニーこと白石牡丹と黒牡丹様が争い、黒牡丹様が見事勝利を掴み取って王となられた。国は安定し黒牡丹様が敷かれる政治は民にも支持されている。しかしまだ白石牡丹は生きている。奴の息の根を止めない限りこの国の真の平和はありえない。」 Wあは赤牡丹に聞いたかっしーとサバの後継者争いを思い出していた。紫牡丹はそれを適当に受け流して話を先に進めた。 「で、その白石牡丹は今何処になりを潜めてるんです?」 「手掛かりは無い。だが噂によれば国家転覆を図ってこの牡丹王国内で潜んでいるらしい。そこでお前ら鷹に頼みがある。俺と協力して白石牡丹からこの国を守って欲しい。」 話があると言うからには何かあるなと思ってはいたが、案の定頼み事だったとWあは心中で呟いた。 「白石牡丹を見つけ出して倒すってことですかね。」 「そうだ。これからはお前ら鷹に俺が加わる。今日北条と戦ったのはお前らの戦力を測る為だ。」 「拒否させる余裕すら与えずに話を進めますね貴方は。まあ黒牡丹から大量の金と屋敷を受け取ってますし嫌とは言えませんが。」 「お前らを発見して病院に運んだのは民だが、入院費を払ったのは黒牡丹様だ。恩を感じてくれよな。じゃあ、明日午後1時に伺うから支度しといてくれ。」 紫牡丹の話は終わり、鷹は白石牡丹討伐任務に身を投じることになった。 「で、この牡丹王国ってグリーン王国からどのくらい離れてるんですか?」 Wあの疑問に応えるべく、紫牡丹から胸の内ポケットから地図を取り出して現在地を指差した。 「グリーン王国の南がNAK帝国。更に南にあるのがこの牡丹王国だ。」 「俺達はオルトロスに随分飛ばされたようですね。あの野郎はいずれこの手で息の根を止めてやるとして、今は世話になる牡丹王国の為に一肌脱ぎましょう。」 気が遠くなる程の帰り道になりそうだが、鷹はその前に目の前の任務を遂行しなければならなかった。Wあにはこの国で名を上げておけば噂が世界中に広まり、四散したグリーン王国の仲間達が反応して合流する糸口になるだろうという考えもあった。 その後、紫牡丹はうまかっちゃん豚骨味を食してうまかっちゃんの旨さについて延々と語った。 「よし揃ったな、鷹。」 翌日、紫牡丹が鷹に召集をかけて屋敷前に集結させていた。 「で、何処に探しに行くんだよ?」 手掛かりさえ無いのにどうやって探すんだと赤牡丹が尋ねる。 「いや、それがさ。今日の午前中に報告があってさ。白石牡丹の目撃情報が。此処から50kmくらい離れたピオニーシティで奴がイ◯ズマイレブンだっけか?そんな感じのタイトル名のアニメのグッズを買い漁ってるという報告だ。早速向かうぞ。」 紫牡丹が淡々と語る。 「随分適当だな。こういうのって普通いろんなドラマがあってボスへの道が繋がって倒しに行くって展開だろ。それがいきなり都合良く目撃情報が出るって何のストーリー性もねえよな。」 マロンがつまんねえなと言いたげな表情で言う。 「仕方ねえだろそれだけ白石牡丹が馬鹿だったって話だ。好きなアニメグッズを買う為に外に身を晒すボスなんて俺も聞いたことねえよ。とにかく行くぞ!」 紫牡丹が背を向けて歩き出す。 「おい、徒歩で行くのか?50kmを。」 「馬がある。さっさと行くぞ。」 50km歩くのは面倒だと北条が紫牡丹に訴える。紫牡丹は配下に五頭の馬を引かせて用意させていた。 紫牡丹と鷹の4人は馬に乗って王都を出た。目指すはピオニーシティの白石牡丹である。 直江山城守兼続こと李信。 彼はアティークに惨敗して千反白蛇を使いその場から逃亡を図り、現在ペルシャ帝国領ニサに1人身を潜めていた。 行く宛など無い。アティークとの絶対的な力の差を見せつけられた李信は単身ペルセポリスに戻りアティークを倒す自信など無かった。 無為に日々を過ごす彼は今日も正体を隠す為の黒いフード付きのコートで全身を包み隠して今日も外をぶらついていた。お祈りの時間である。アティークの強行的な政策によりゾロアスター教を信仰させられている民達の祈る声が何処へ行っても聞こえてくる。 「不気味だな。こんな国が世界に君臨してるのかと思うと吐き気がする。」 李信は辺りを見回しながら大勢の人々が集まり神への祈りを捧げている神殿を通り過ぎた。 「おい、そこのお前!」 声をかけられた。ペルシャ帝国の兵である。現在アティークによりペルシャ帝国の領土である街々にはペルシャ帝国の兵があちこちに配されていた。これにより人々がきちんと神に祈りを捧げて信仰しているかを厳しく監視させていた。 「何だ。」 李信が兵に短く返事を返す。 「今は神に祈りを捧げる時間だった筈だ!お前は何故礼拝も行わずにほっつき歩いている!」 兵の1人が凄まじい剣幕で李信に詰め寄る。 「俺はゾロアスター教徒じゃないからだ。そこをどけ。」 「神やアティーク皇帝陛下への反逆の意思ありと見做すぞ!今すぐ改宗するのだ!」 兵が李信に剣を突きつける。断れば心臓を貫いて殺すつもりである。 「破道の」 李信が鬼道を発動しようとした時である。突然黄色いヒーロースーツと白いマントを着用し赤い手袋を装着した男が現れ、兵の腹部に強烈な拳を叩き込んで吹っ飛ばした。 「危なかったなそこの兄ちゃん。次からは気をつけた方がいいぜ。」 「…俺だ。久しぶりだな水素。」 フードを被ったまま李信が言葉を返す。目の前に居るのは紛れもなく水素だった。 「直江か。行方不明って聞いてたから心配してたぜ。で、何でこんなところに?」 「此処は三ヶ国の境に最も近い都市だ。つまり様々な方面から人の出入りがあり、情報が行き交う。」 「四散したメンバーの動向を知る為ってことか。そいつらの行方は分からないが耳寄りな情報があるぞ。」 「何?」 「此処じゃ誰かに聞かれる。中で話せる場所は無いか?」 「俺が利用している宿がある。そこで話そう。」 水素との思わぬ再会。水素が持つ情報が気になり、李信は利用している宿の部屋に水素を通すことにした。 「同盟三ヶ国会談だと?」 李信が利用している宿の部屋。窓からは心地良い風が入り、室内の空気を入れ替える。そんな快適な環境の中、水素がもたらした情報は世界的に重大なニュースだった。 「アティークの提案でな。ペルシャ帝国のアティーク、幻影帝国のホッサム、仁王帝国の三代目仁王の三者がこのニサにあるガイドームで会談を行うことになっている。」 水素がポケットから地図を取り出してそれをテーブルの上に広げる。 「ガイドームはこのニサの南方にある。高さ30m、半径500mのドーム型の議事堂だ。そこで奴らが一堂に会する。議題は俺達についてだ。」 「何だと?」 「アティークやホッサムは俺達を取り逃がした。放っておけば其の内国家転覆を図ると危険視している。」 「俺達への対応を巡る協議というわけか。」 水素がもたらす情報はアティークへの報復のチャンスだった。水素が居れば奴を討てる。李信はそう心中で呟いた。 「俺達2人で会談を襲撃するぞ。俺は東口から、直江は西口から強襲をかける。」 「いいだろう。絶好の機会が到来した。今度こそアティークをこの手で殺してやる。ぐり~んの仇は必ず討つ。」 水素と李信は3日後の午前から行われるガイドームの三ヶ国会談を襲撃することに決定した。 「面白そうだな。俺達も混ぜろよ。」 窓の方から声が聞こえてくる。やがて窓から突然2人の男が部屋に入ってきた。因みに此処は3階である。 「星屑、小銭!生きてたのか!」 水素が思わず声を上げた。幻惑平原の戦いで離れ離れになった2人との突然の再会である。 「実は俺達もこのニサに潜んでたんだ。そこで丁度お前らを見掛けたから後をつけたんだよ。俺のスタンドで透明になりながらな。さっきまで屋根からお前らの話を聞いてたら2人だけで楽しいことしようとしてんじゃねえか。混ぜろよ。」 星屑がこれまでの簡単な敬意を説明し、自分達も襲撃に加わる意思を示した。 「平気で民の信仰の自由を奪う様な屑を 生かして帰すわけねえだろバカ野郎。」 小銭も思いは同じだった。4人は3日後の襲撃計画について話した後、一旦解散して当日は各々が同時に東西南北の出入り口からガイドームを襲撃することに決めた。 その頃、世界は大きな動きを見せようとしていた。 関係者以外立ち入り禁止ではあるが、この会談には世界的に重大な意味がある。各国から続々とアナウンサーが駆け付けてガイドームの外で中継を行い、ガイドームの内部の至る所にカメラが設置されていた。無論防犯用という意味合いも含んでいる。 ペルシャ帝国皇帝であるアティークの提案によりペルシャ帝国、幻影帝国、仁王帝国の三ヶ国による首脳会談が行われるというものである。 ペルシャ帝国皇帝・アティーク、幻影帝国皇帝・ホッサム、仁王帝国皇帝・三代目仁王が、三ヶ国の境の中心にあるガイドームというドーム状の建造物内で会議が行われる予定だ。今、世界中がその話題で持ち切りだった。全世界に向けて中継放映が行われる。 議題はアティークやホッサムらが取り逃がしたグリーン王国の将達についてである。この者達は危険人物であり、必ずまた国家転覆を図ると目されている。三ヶ国同盟にとっては重大な問題である。 「カタストロフィ、HOPE、ぷろふぃーる。今日は頼んだぞ。」 アティークは自身の配下である3人の将を引き連れて三ヶ国会談に臨む。ホッサムや三代目仁王もそれぞれ護衛を引き連れての参加となった。 警備臨む兵は三ヶ国合わせて1万人体制である。如何にこれが重要な会談かを如実に表していた。蟻一匹付け入る隙すら無い厳重な警備である。 「私がペルシャ帝国皇帝のアティークこと東師だ。本日はお忙しいところこの会談に参加していただき心から御礼申し上げる。」 円卓が用意された部屋でアティークは最も信頼する配下であるHOPEを傍らに立たせてホッサムとぷろふぃーるに一礼し着席する。 「幻影帝国皇帝のHostSamuraiことホッサムだ。宜しく頼む。」 「仁王帝国皇帝の三代目仁王こと小毬です。どうぞ宜しく。」 ホッサムと三代目仁王が続いて挨拶の言葉を述べて一礼した後に着席する。こうして会談は厳かに行われようとしていた。 「此処がガイドームか。警備は厳重だな。しかし関係無い。雑魚が何人居ようと構わず蹴散らすのみだ。」 1人の男が独り言を呟きながら単身ガイドームに歩み寄り警備兵達の前に出た。 「何だお前は?今は三ヶ国会談中だ。部外者は早々に立ち去れ!」 李信がガイドームの西口からの強襲を仕掛けるべく、堂々と大勢の警備兵やアナウンサー達の前に現れた。警備兵は当然李信を追い払おうとする。 「部外者ではない。何しろ今行われている会談での議題の対象だからな。」 「貴様…まさか…!」 「破道の八十八 飛竜撃賊震天雷砲」 兵達が正体に気づいた時には手遅れだった。李信は掌から高位鬼道の稲妻を帯びた極太の光線を薙ぎ払うように撃ち放ち、西側の3000人余りの警備兵を一掃した。 「これは緊急事態です!ガイドームで現在行われている三ヶ国会談に1人の男が乱入しようとしています!」 カメラを向けられたアナウンサーの声を気にも止めず、李信は扉を抉じ開けて中へと進んだ。 「こんにちは、小銭十魔です!」 ガイドーム南口の手前ではアーチャーのクラスカードを発動してギルガメッシュの姿になった小銭が現れ、堂々と警備兵達に素性を明かした。 「何、指名手配犯の小銭だと?すぐにアティーク様に御報告を…!」 南口付近の警備兵達がざわめく。警備兵の内数人が小銭の存在を確認し、中に居るアティークに一刻も早く報告せんと走り出す。 「って言うじゃな~い?でもお前ら全員此処で御陀仏ですからー!残念!」 「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」 小銭の背後に無数の黄金空間が出現し、宝具である剣や槍がその顔を覗かせた。小銭の意思でそれらが次々に射出され、南側の警備兵達は全員串刺しにされた。 「ざまあw」 邪魔する者の居ない南口の扉を宝剣の一つで切り裂いた小銭は見事進入に成功した。 北口手前には星屑が現れ、警備兵達の視線を集めていた。 「最強のスタンド使い 星屑参上!」 「星屑だと?指名手配犯の1人だ!排除しろ!」 警備兵の隊長の1人の下知で警備兵達が一斉に襲い掛かる。 「輝彩滑刀(きさいかっとう)!」 星屑は腕や脚から光り輝く刃を生やしてまず数人の兵の体を斬り刻む。 「言い忘れたが俺、使えるのはスタンドだけじゃないんだよね。こうして究極生物としての力も行使出来るのさ。」 星屑は更に背中から翼を生やし、甲羅や油脂を纏わせた無数の羽を弾丸の様に射出。南口を守備する警備兵達を殲滅した。 東口 黄色のヒーロースーツ、赤い手袋、白いマント。奇抜な格好の男が前に現れれば、初見で警戒しない者など居ない。 「趣味でヒーローをやっている者だ。」 問われてもいないのに自分からそう自己紹介を済ませると、呆気に取られる警備兵達を次々と殴り殺していく。兵達は水素を串刺しにしようと槍を突き出してくるが、頑丈な肉体には傷一つつかない。 残った兵達は水素の超人振りに恐れ慄き、己の役目も忘れて逃げ去った。 「行くか。」 正義執行。李信、水素、小銭、星屑の全員が易々とガイドームへの侵入に成功した。 「お前は直江!やっぱり生きてやがったか!」 内部は会談場を中心に円形の吹き抜け構造になっている。四方から進入したグリーン王国の残党4人に対してペルシャ帝国、幻影帝国、仁王帝国の能力者達が立ちはだかる。因みに今叫んだのはペルシャ帝国のぷろふぃーるである。 「グリーン王国の残党共か。狙いはアティーク様だな?だがそうはさせんぞ!」 ぷろふぃーると共にカタストロフィが李信の行く手を阻む。 「どけ。俺はアティークに用がある。雑魚に用は無い。」 「アティーク様の所には行かせねえ!行くぞぷろふぃーる!」 李信の要求は当然のようにカタストロフィに拒否された。ぷろふぃーるも抜剣して身構えている。 「破道の九十 黒棺」 要求拒否を交戦の意思ありと受け取った李信がカタストロフィとぷろふぃーるに黒棺を放つ。黒い直方体の重力の奔流が2人を包み込んだ。しかし黒棺は2人にすぐに破られてしまう。 「やはり詠唱破棄では駄目か。」 「俺は異性愛者からの攻撃や能力の一切を受け付けない能力を持つ。二次元美少女好きのお前に俺は倒せねえ。残念だったな直江。」 ぷろふぃーるが剣を下段に構えて李信に切り掛かる。 「倒せはしなくても貴様は所詮防御に優れてるだけだ。攻撃は大したことはない。」 李信は斬りかかってくるぷろふぃーるに対して斬魄刀でその剣を受け止めた。 「かめはめ波ァァァ!!」 ぷろふぃーるの剣を受け止めている李信の真横にカタストロフィが回り込み、掌からビームを放出した。 「王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)」 自身の左に回り込んだカタストロフィが放ったかめはめ波にグラン・レイ・セロをぶつけて相殺すると、その衝撃でガイドーム内に轟音が鳴り響く。 「セクシャル・スラッシュ!」 カタストロフィに気を取られた隙をついたぷろふぃーるが李信に桃色の斬撃を浴びせる。斬魄刀でガードする構えを取るも、斬魄刀をすり抜けて斬撃は命中した。 「驚いたか?異性愛者に確実に命中する斬撃だ。この斬撃の威力は富士山を真っ二つにすることが出来る程だ!」 ぷろふぃーるのセクシャル・スラッシュにより李信の胴体に浅い斜め傷がつけられる。 「それが何だ?俺には超速再生と崩玉、それに鋼皮と血装がある。貴様如きの攻撃など…」 「気合い砲!」 背後を取ったカタストロフィが不可視の気による攻撃を繰り出す。 「セクシャル・スラッシュ!」 挟み撃つ様にぷろふぃーるが前方から斬撃を飛ばす。 「縛道の八十一 断空」 後ろに向き直り、鬼道による防御壁を展開して気合い砲を防ぎ、背後からの斬撃は予め施してあるミジョン・エスクードで防ごうとするが、セクシャル・スラッシュはミジョン・エスクードをすり抜けて背中に直撃した。 (先程から全知全能(ジ・オールマイティ)を発動しようとしても全く発動しない。ぷろふぃーるは兎も角カタストロフィに対しても発動出来ないとはどういうことだ…) 李信はまたしても直接攻撃、防御、再生に限られた戦いを強いられたのだった。 「仕方ない。どうやら力押しするしかないようだな。」 「蹴散らせ 群狼(ロスロボス)」 斬魄刀の解放により青い霊圧に包まれ、眼帯を象った仮面や胸に開いた穴、両手には銃、白いコートといった姿を現わす。 「それが刀剣解放ってやつか。だがどんな力を得てもホモじゃないお前は俺を倒せないぜ?」 「お前はどうでもいい。相方を片付けさせてもらう。」 李信は倒せる可能性があるカタストロフィに狙いを絞ることにした。ぷろふぃーるは自分には絶対に倒せない、ならばまともに攻撃を撃ち込むのは無駄である。 「なら俺も行くぜ!サイヤ人化!」 カタストロフィの全身を気によるオーラが覆い、髪は黄に染まって逆立つ。 「かーめーはーめー波ー!!」 カタストロフィの両手の掌から威力の上昇したかめはめ波が放たれる。 「無限装弾虚閃(セロ・メトラジェッタ)」 李信が右手に持つ銃の銃口から無数の青い虚閃が連射され、かめはめ波と衝突した。 無限装弾虚閃(セロ・メトラジェッタ)は一発一発はただの虚閃(セロ)だが、それを無数に、しかも範囲を広げて連射することで破壊力を増幅させる技である。サイヤ人化したカタストロフィのかめはめ波と衝突し、相殺されたかと思いきや、銃口からの虚閃の連射は更に続いてカタストロフィに次々と直撃していく。 かめはめ波と無限装弾虚閃のあまりの衝撃によりガイドームの天井と壁の半分が消しとばされてしまった。 「サイヤ人化とやらはその程度か。」 「流石は厨二病BLE◯CH厨、やるな。だが!」 カタストロフィの言葉を意にも介さず李信が銃口をカタストロフィに向けたまま黒い虚閃を放つべく溜め始める。 「黒虚閃(セロ・オスキュラス)」 銃口から黒い虚閃がカタストロフィに向けて発射される。しかし黒虚閃が貫いたのはカタストロフィの残像だった。 「八手拳!」 「ホモセクシャリーバースト!」 カタストロフィからは目で追えない程の速さからの連続パンチが、真横に回ったぷろふぃーるの左手の掌からは桃色のハート型のビームが放たれた。李信はそれを破面(アランカル)の高等移動術である響転(ソニード)で回避した。 しかし響転で回避したカタストロフィの攻撃すら残像だった。 「連弾気功波!」 背後に回ったカタストロフィの両腕から連続で気功波が射出され、その全弾が李信の背中に命中する。 「クッ…!こうなれば原作に無い手段を使う!」 李信が黒虚閃を発射すべく黒い霊圧を銃口に溜める。 「無限装弾黒虚閃(セロ・オスキュラス・メトラジェッタ)」 無数の黒虚閃の広範囲への連続射出攻撃がカタストロフィに襲い掛かる。 「原作無視とか、お前無茶苦茶だぞ!」 「何とでもほざけ!原作には無い俺の応用技だ!くたばれサイヤ人!」 1秒に千発射出される黒虚閃がカタストロフィに容赦無く直撃していく。 黒虚閃(セロ・オスキュラス)を連続で浴びたカタストロフィが全身から血を流し息を切らして膝をつきながらも立ち上がる。 「やって…くれるじゃねえか破面(アランカル)!」 「お前にばかり構ってられないんでな、サイヤ人。」 カタストロフィにトドメを刺さんと銃口から黒虚閃を発射する。 「スーパーホモバリアー!」 李信とカタストロフィの間にぷろふぃーるが割って入り、桃色のバリアを展開して黒虚閃を打ち消した。 「邪魔なホモ野郎だ。」 「セクシャルスラッシュ!」 ぷろふぃーるが剣を振り下ろして桃色の斬撃を飛ばしてくる。李信は響転(ソニード)で瞬間移動して回避しようとするが桃色の斬撃は瞬間移動した李信にすら命中した。しかし防御能力を複数有する李信に傷はつかない。 「確かに俺にはお前は殺せないがお前にも俺は殺せない。」 「ああ、別にそれでいいんだよ。時間は稼いだからな!」 「何だと?」 ぷろふぃーるの言葉の意味はカタストロフィの方に視線を移すとすぐに理解出来た。 「超(スーパー)サイヤ人化!」 全身から黄金の気を放つカタストロフィが李信を睨み据えていた。 「この姿になった俺を打ち負かした奴は未だかつてないぞ破面(アランカル)!」 「この気の量…尋常じゃないぞ。」 地上で闘うことの危険性を悟った李信は原作にある霊子を踏んでの空中歩法を真似て上空へと飛び立つ。 「誘いに乗ってやる!ぷろふぃーるは此処で待っててくれ!」 「絶対奴を仕留めてくれよな!」 ぷろふぃーるの言葉に目で頷いたカタストロフィが飛行能力を使用して李信を追う。 「ウィ~ス!Kで~す!」 李信がカタストロフィと激闘を繰り広げている間、小銭もまた仁王帝国の劉と対峙していた。 「お前が指名手配犯の1人、小銭か。成る程噂通りのふざけた野郎だな。」 「そのふざけた野郎にお前は殺されるのさ!王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」 小銭が異空間から無数の宝剣や宝槍を劉に向けて射出する。 「武装練金!」 劉が黒い核鉄(かくがね)を正面に翳し、特殊な形状のランスを出現させて射出された剣や槍を次々と弾き飛ばした。 「これがサンライトハート改だ。」 劉がエネルギーによる推進力を利用して小銭に突撃を敢行する。 「乖離剣エア!」 小銭は乖離剣エアを異空間から取り出して3つの円筒を回転させ始める。 「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」 3つの円筒から発せられる擬似的な時空断層が劉に襲い掛かりガイドームの広範囲の床がヒビ割れて崩壊するが、凄まじいスピードで突進してくる劉には軽々と避けられ、サンライトハート改の穂先が小銭を捉えた。 反応の遅い小銭を捉え、これで刺し貫ける。そう確信した劉の体の動きがぴたりと止まった。 「!?」 劉は一瞬何が起きたのか分からなかった。しかし両腕や両足に絡み付く冷たい鉄の感覚が劉を我に帰らせた。 「はいざんねーん!その鎖は神性だっけ?を持たない奴にはただの鎖でしか無いけどそれで十分だよな!」 劉の動きを止めたのは小銭が劉の背後から異空間の鎖を飛ばして縛ったからであった。 「じゃ、さいなら!」 小銭は乖離剣エアを劉の心臓に突き刺した。 「さーて俺を阻む邪魔者はこれで居なくなったしそろそろアティークと対面といくか!」 「三代目仁王様の所へは行かせないぞ!」 心臓を貫かれて死亡した筈の劉が再生により傷が塞がった状態で小銭の背後からサンライトハート改による突き攻撃を繰り出した。 咄嗟に回避しようとした小銭の脇腹の一部はサンライトハート改により抉られた。血飛沫が舞い上がり、小銭は前のめりになって倒れる。 「てめえ、心臓を潰した筈だぞ…」 「俺はホムンクルスなんでな。不老不死で再生能力持ちなんだよ。」 劉が倒れ伏している小銭にサンライトハート改の穂先を向けて一気に振り下ろす。 「暗琉霏破!」 その時である。劉の体が突然現れた何者かにより吹き飛ばされたのである。 「 久しぶりだな小銭!どうしたよそのザマは!」 「しずくじゃねえか!どうして此処に居るんだお前!」 「話は後だ!今はこいつを何とかしねえと!」 窮地の小銭を救ったのは北斗流拳の使い手・しずくなのだった。 「この劉って奴は武装練金ってのを使いやがる。しかも不老不死で再生能力もある。」 「そりゃ流石のお前でも倒せないわけだな。だがどんな奴にも必ず弱点はある!それを探すぞ!」 小銭は宝物庫から無数の剣や槍の顔を出し射出準備に入り、しずくなのは魔闘気を放ちながら構えた。 吹っ飛ばされた劉が起き上がり更なる核鉄を取り出し、新たな能力を解放しようとしていた。 「武装練金!」 テンガロンハット、長手袋、襟の長いコート、スラックス、ブーツ。これらの物が劉の全身を覆い、防護服となる。 「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」 小銭の意思により無数の剣や槍が異空間から射出されるが、劉の武装練金・防護服(シルバースキン)は即座に硬化し小さな正六角形の集合体のバリアを展開して攻撃を防御する。 「魔琉苛烈破!」 今度はしずくなのが魔闘気を放出して劉に攻撃を仕掛けるが、魔闘気は小銭の宝具同様弾かれてしまった。 「どうした?全然効いてないぞ!?更に武装練金!」 劉は新たな核鉄を取り出して背中から美しい蝶の羽を生やす。 「仕方ない。今まで使ったことは一度も無いが最早これを使うしかないか。しずくなの、今から俺は凶暴になるぜ。」 「何を言ってるんだ小銭?」 小銭が邪悪な黒紫のオーラを放っているクラスカードを取り出す。しずくなのは小銭の言葉の意味が理解出来なかった。 「クラスカード バーサーカー!」 邪悪なオーラを放つカードが覚醒し、黒い魔力のオーラが小銭を包み込む。 「おま、何だその姿!?」 しずくなのが驚くのも無理は無い。全身を黒い魔力のオーラと黒い鎧、頭部と顔を覆う赤い光るラインが入った邪悪な凶戦士の姿に変貌した小銭がそこに居たからである。 声にならない凶戦士の雄叫びがガイドーム内に木霊する。耳を劈く様な激しい狂った叫びである。 「お、おい小銭!大丈夫か?聴こえるかー?」 しずくなのの声に耳を貸すこともなく小銭は劉に向かって突っ走り始めた。 「不気味な姿になったがそれだけで最強の武装練金使いかつ人型ホムンクルスの俺は殺れんぞ!」 「黒色火薬(ブラックパウダー)!」 劉の背中に生えている蝶の羽から黒い鱗粉が周囲に撒かれ、小銭がその射程に入ると大爆発を起こした。 「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!」 「しまった!」 無傷の小銭が爆炎を掻き分けて凄まじい膂力で劉が持っている武装練金・サンライトハート改を取り上げる。するとサンライトハート改は赤く輝くラインが複雑に浮き出た黒色に染まった。 サンライトハート改を劉から取り上げて自身の宝具とした。 「自らが触れた物を自らの宝具としての属性を与える」それがこのバーサーカークラスの英霊・ランスロットの能力の一つ「騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)」である。 サンライトハート改を自らの宝具とした小銭が、そのサンライトハート改を自在に操り槍術で劉に連続での強烈な突き攻撃を繰り出すが、劉の武装練金「防護服(シルバースキン)」に阻まれる。 (そうか、何か分かった気がするぜ!) しずくなのは凶戦士と化した小銭と武装練金使いの劉の闘いを観察して劉の弱点を見抜いた様である。 「小銭!奴の弱点は左胸にある!さっきから奴はバリアで守られてる筈なのに左胸への攻撃を防ぐ時だけ表情に焦りを浮かばせてやがる!左胸を狙うんだ!」 「チッ気付かれたか!やはり顔に出やすい癖は我ながら厄介だ!武装練金!」 だが小銭の耳にはしずくなのの言葉など届いていない。しずくなのに弱点を見破られた劉が更に核鉄を取り出して新たな武装練金を発動する。 「アリスインワンダーランド!」 アリスインワンダーランドは敵の知覚を麻痺・撹乱させる武装練金であるが、凶化した小銭は元々そんなものはほぼ皆無であり、しずくなのは魔闘気で跳ね除けた。 やがて小銭のサンライトハート改での強烈な一撃が劉のシルバースキンのバリアを破った。 「行ける!」 しずくなのが勝ちを確信した時、シルバースキンによるバリアは瞬時に再生されてしまった。 「こうなれば我が絶技を使うしかないな。」 魔闘気で赤いドーム状の空間を作り出してその中で劉を宙に浮かせる。 「暗魔摩訶極破!」 技名を言い放つと同時に無数の黒い槍のような魔闘気を一斉に飛ばした。防護服もズタズタにされてしまい、劉の血が雨のように降る。 「アアアアアアアアアアアアアアアア!!」 雄叫びを上げながら小銭がサンライトハート改で劉の左胸を貫いた。 「クソッ…!この俺が…!」 左胸を貫かれた劉は小銭の手により絶命した。 「あれ?もう劉を倒したのか。」 程無くして小銭はバーサーカー化が解除されて正気を取り戻した。 「俺の絶技が奴の隙を作ったんだよ。感謝しな。」 「お前が助けに来てくれなきゃ死んでたぜ。サンキュー。」 しずくなのと小銭は目の前の行く手を阻む敵を撃破したが全員がそれぞれの敵を倒すまで待機することにした。 星屑にもまた三ヶ国連合の敵が立ちはだかった。 「俺はスタンド使い+αの星屑だ。要するにジョジョシリーズに登場する全ての能力を使うことが出来る。怖気づいただろ?さあそこをどけ。」 星屑は目の前に立つ男に自らの持つ能力を敢えて明かすことで、敵の戦意を挫いて退けんと考え実行した。 が、目の前の男は動こうともしない。 姿は長髪の美青年で、普段は赤いコートにつばが広い帽子を被り、サングラスをかけている。 「俺は二代目仁王。仁王帝国所属の能力者だ。星屑とか言ったな?一ついいことを教えてやろう。このガイドーム内ではアティーク殿が契約している神の加護によりペルシャ帝国、幻影帝国、仁王帝国以外の者にはハンデがある。」 「ハンデだと?」 二代目仁王が「.454カスールカスタム」と全長39cm・重量16kgの対化物戦闘用拳銃「ジャッカル」という2丁の大型拳銃を取り出して銃口を星屑に向ける。 「ああ、お前達が使えるのは相手にダメージを与える目的の攻撃、防御に関連する能力、回復や再生に関連する能力や技に限定されているのだ。」 「何だと?ザ・ワールド!」 二代目仁王の言葉の真偽を確かめるべく星屑はザ・ワールドを呼び出して時間停止能力を発動しようとするが、何も起きない。 「マジかよ…」 「そういうことだ。というわけで、死ね。」 二代目仁王が二丁の銃の引き金を引いて弾丸を射出した。 「スタープラチナ!」 星屑はすかさずスタープラチナを呼び出してその精密な動きで二つの弾丸を掴み取った。 「なら連射すればどうかな?」 二代目仁王が爆裂弾と炸裂徹甲弾をリロードもせず連射し始めた。 流石のスタープラチナも連射されては一溜りもない。スタープラチナは次々に射出される弾丸を捌き切れずに爆裂弾と炸裂徹甲弾による大ダメージを受ける。 スタンドが受けたダメージはスタンド使いにも反映してしまう。それがスタンドの欠点だった。スタープラチナが負った肩や腹部、太腿などの弾丸により貫かれた箇所のダメージが星屑も受けてしまう。 「痛え…畜生が!」 星屑はその場に膝をついて崩れ落ちてしまう。自身の傷口から止め処なく血が溢れ、血溜まりを床に作り広げていく。 「ジョジョシリーズに登場するスタンドとかいう能力は大抵が特殊能力系だ。つまり俺には大半のスタンドは通用しないことになる。そのスタープラチナとやらも確か至近距離でなければ相手に攻撃を当てられない筈だ。観念して俺にお前の血を捧げるがいい。」 二代目仁王が徹甲炸裂弾を銃口から射出する。星屑へのトドメとして力強く引き金を引いた。 「波紋 オーバードライブ!」 星屑が突然超人的な反応速度で特殊な呼吸法を用いた太陽と同じエネルギーによる能力を右手に纏わせて弾丸を振り払って消滅させた。更に、究極生命体の能力により全身の傷を見る見る内に再生させた。 「スタンド+αって言った筈だぜ?人の話はちゃんと聞くんだな。」 星屑はそう吐き捨て、硬化させた羽を翼から無数に二代目仁王に射出する。 「成る程、究極生命体と波紋か。しかし当たらなければどうということはない!」 二代目仁王もまた、驚異的な反応速度で全ての羽を回避してしまった。 「しかし銃弾ではお前を倒せないのも事実だ。拘束制御術式(クロムウェル)を解放させてもらうとしよう。」 「拘束制御術式解放、第三号、第二号、 第一号。状況A,クロムウェルによる承認認識、眼前敵の完全沈黙までの間、能力使用限定解除開始。」 二代目仁王の体に無数の目が出現し、体から次々と現れる狂犬の群れが星屑に襲い掛かる。 「なんだこいつら?気味悪いんだよ!」 星屑は右腕を恐竜の前脚に変化させて床に叩きつけると、床に大きな亀裂が入り広がってゆく。地割れを起こしたその地で、狂犬達は落下していく。 「オーバードライブ!」 星屑が究極生命体と呼ぶに相応しい異常な速さで二代目仁王に急接近して波紋による攻撃を右手から繰り出すが、更に湧き出た狂犬達が星屑の腕に食らいついた。 最初に食らいついた狂犬は星屑の波紋に触れて爆散したが、次々に出現する狂犬が星屑の全身に食らいつく。 「俺は究極生命体!どんな生物にも変化出来る!」 星屑は全身の皮膚をクロカタゾウムシと同質に変化させた。あまりの皮膚の固さに、彼に食らいついた狂犬達の歯が折れる始末である。 二代目仁王は体中から無数の目やムカデ、蝙蝠を出現させ、更に邪悪な手を大量に伸ばして星屑への攻撃を図る。 「山吹き色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!」 星屑が波紋のエネルギーを拳に纏わせて襲ってくるそれらに突き出すが、今度は全く効いていない。波紋エネルギーなど蚊が止まった程度にしか感じない数々の手が星屑の首や脚、腕を掴み上げてしまった。 「輝彩滑刀!」 星屑は何とか脱出しようと体中から光り輝く刃を生やして無数の手の切断を試みるが全く効果が無い。無数の手は星屑を掴み上げると二代目仁王の至近距離まで引き出した。 「貴様のそれは所詮この世の生物の頂点であるという能力だ。生物を超えた能力者に勝ち目など無い。波紋も俺には通用しない。俺は太陽を克服した吸血鬼だからな。」 二代目仁王はそう言うと星屑の首を無数の手で更に締め上げる。 「ウグッ…アッ…アガッ…」 首を締め上げられた星屑は悲鳴にならない声を上げて苦しみにもがく。至近距離まで近づいたことでスタープラチナを呼び出してラッシュ攻撃を繰り出すが手はビクともしない。 「苦しいだろう?今すぐ楽にしてやる。」 無数の手が更に強い力を入れようとした時である。横から突然何者かが現れた。 「地獄のメリーゴーラウンド!」 全身に西洋風の甲冑を思わせる装備を施しているその男が、自分の体を硬度10に変え、両手に剣を出現させ前方宙返りで突進する技を繰り出した。 剣は見事無数の手を切り裂いて窒息死寸前の星屑を解放することに成功した。 「…増援か。それも厄介そうな奴が来たな。」 二代目仁王が銀色に輝く甲冑を身につけている異様な格好のその男を見据える。 「俺の名は筋肉即売会!この世で最強の肉体を持つ男だ!」 「筋肉即売会だって?俺はアンタと全く絡みなんてねえのにどうして…」 名乗った筋肉即売会に対して星屑はポケガイで全く絡みの無かったこの男が何故自分を救う為に現れたのかが不可解だった。 「俺もお前のことはよく知らんが、ジョジョシリーズの力を使いこなす星屑って奴だな?この場は俺に任せておけ!話は後だ!」 「すまん、こいつは俺の手に負えねえ。お言葉に甘えさせてもらうぜ。」 解放された星屑はその場から走り去った。筋肉即売会と二代目仁王がサシで対峙する形になった。 幻影帝国の配下でこの世界でも珍しい女の能力者・未来。 水素はこの未来と対峙していた。 「俺は趣味でヒーローをやってる水素ってモンだ。後、俺は好みの女には優しくするがお前は好みじゃねえから敵なら容赦無くぶっ殺す!」 水素は瞬間移動かと見紛うレベルのスピードで未来の眼前に現れて右拳によるパンチを繰り出す。 「どうしたのよ?ぶっ殺すんじゃなかったの?」 未来は左手で水素の拳を受け止めてしまった。未来はそのまま右拳から惑星を破壊する威力のパンチを繰り出し、水素の腹部にクリーンヒットさせた。あまりの威力に水素の体は吹っ飛ばされ、地球を一周して元の場所に数秒で戻ってくる始末である。戻ってきた水素を更に蹴り上げ、天井に穴を開けて天空へと突き上げてしまった。 「此処がホッサム様達が居る議事堂の軌道から外れる位置で良かったわ。」 水素が吹っ飛ばされた軌道上のガイドームの壁には当然穴が空いていた。 「へえ、ホッサムの護衛を任されるだけの実力は確かにあるようだな。」 此れ程の攻撃を受けても全く無傷の水素が天空から猛スピードで急降下し未来に接近する。 「連続普通のパンチ」 右拳から素早い連続パンチを繰り出すが、未来には通じない。 「ふんっ!」 今度は未来がパンチを繰り出し、水素の拳と激突した。 「互角ってわけか。だが俺は本気を全然出してねえ。」 普段よりも力を込めた左拳からもパンチを繰り出し、未来の鳩尾にヒットさせた。未来の体が遥か彼方に吹っ飛び、地球を一周して戻ってくる。 「両手・連続普通のパンチ」 容赦無く戻ってきた未来の頭部に両手から連続パンチを繰り出す。 「キーン」 両手を伸ばして擬音を口から発してマッハ3のスピードで水素の攻撃を回避する。そのままのスピードで水素に力を込めた右からのパンチを繰り出す。 「マジ反復横飛び」 目で追えないスピードで水素が反復横飛びを始めて未来のパンチを回避する。あまりのスピードから繰り出される反復横飛びにより衝撃波が発生し、未来を巻き込んだ。 (早いとこアティークを倒しに行きたいのに敵が存外強いな。このままじゃ面倒なことになる。) 水素は焦った。自分の攻撃で全くダメージを受けない者に出会ったのは初めてであった。 「んちゃー!」 水素の動きを捉えた未来が口から特大のかめはめ波に似たビーム砲を繰り出し、ビーム砲は水素を呑み込んでしまう。 「私の必殺技よ。なるべく使いたくない技なんだけどね。」 ガイドームの大部分の天井や壁が消し飛ばされ、視界に広がる地平線までの風景が更地になってしまった。此処はペルシャ帝国のニサという大都市である家屋や人的被害は計り知れない。 「思ったよりメンドくせえ敵だな、お前。」 未来の必殺技「んちゃ砲」を無傷で耐え切った水素が未来の前に立っていた。 「こうなったら必殺マジシリーズを使うしかねえのか…。」 「私のんちゃ砲を直に受けて無傷だなんて…」 水素が目の前の厄介な敵に難渋していることを認めてイライラし始めると、突如空から降ってきた筋骨隆々な肉体美を持つ男が未来に襲い掛かった。 「北斗百裂拳!」 唸る拳から百発のラッシュが繰り出され、未来は防戦一方になってしまう。 「中々のパンチね、さっきの男程じゃないけど。」 無傷で拳を受け止めた未来が「んちゃー」というセリフと共にビーム砲を繰り出すが、男はそれを拳で真っ二つに割ってしまった。 「俺はベースニートじゃないボクサーの方のくれない!能力は北斗神拳!」 くれないが怪力で未来の体を右腕のみで持ち上げて床に思い切り叩きつけながら名乗る。 「行け水素、ホッサムとアティークを倒すんだろ?」 「ああ。悪いがこいつは任せたぜ。」 「任された!」 くれないとの短いやり取りを交わし、水素は最奥部にあるアティークが居る議事堂へと向かい走り出した。 「戦いに水を差す男は嫌いよ!」 床に叩きつけられた未来がくれないに蹴りを入れて体を天に吹っ飛ばして起き上がる。 李信vsカタストロフィの戦いは続いていた。 李信は帰刃(レスレクシオン)・群狼(ロス・ロボス)で戦うも、スーパーサイヤ人化したカタストロフィの圧倒的戦闘力の前に苦戦していた。 「行くぜ。これが群狼(ロス・ロボス)の真の力だ。」 李信の周囲に青い霊圧で形作られた赤目の狼の群れが出現する。 「なんだぁその狼達は?」 カタストロフィは劣勢の李信の悪足掻きとしか思えなかった。 「自分自身の魂を分かち・引き裂き、同胞のように連れ従えそれそのものを武器とする。それがこの刀剣解放・群狼(ロス・ロボス)の能力だ。」 狼の群れの内数十匹が李信の周囲から離れてカタストロフィに飛び掛かっていく。 「かーめーはーめー波ー!」 カタストロフィはかめはめ波で狼達を攻撃し消し飛ばそうとするが、攻撃を受けた狼達は消滅するどころか分裂した。 「なっ!」 数匹の狼がカタストロフィに噛み付くと、その狼達の体が次々と誘爆するように大爆発を起こす。それを皮切りに李信の周囲の狼達も次々と解き放たれてカタストロフィに飛び掛かっていく。 「追撃と行くぜ。無限装弾虚閃(セロ・メトラジェッタ)」 狼による大爆発攻撃を受けているカタストロフィに更に無数の虚閃(セロ)を連射する。 「グアアアアアアア!」 大爆発と無数の虚閃連射を浴びたカタストロフィは地に落下していった。 「じゃあなサイヤ人。黒虚閃(セロ・オスキュラス)」 銃から黒い虚閃を落下していくカタストロフィに向けて射出し、カタストロフィに追い討ちをかける。 「界王拳!」 カタストロフィから赤い気のオーラが発せられ、黒い虚閃をク_砲Ⅹ辰后・br> 「俺を本気で怒らせたな!?お前は本気でぶっ潰してやんよ!」 界王拳により大幅にパワーアップしたカタストロフィが両手を上げて天に掲げる。 「だ…大地よ、海よ、そして生きているすべてのみんな…この俺にほんのちょっとずつだけ元気をわけてくれ…!」 カタストロフィの両手の掌に青い気で固められた球体が出現し、見る見る内に巨大化していく。 「元気玉!!」 カタストロフィの必殺技・元気玉が李信目掛けて投げつけられた。 「黒虚閃(セロ・オスキュラス)」 黒い虚閃をぶつけて相殺しようとするが元気玉により打ち消され、元気玉は李信に直撃して大爆発を起こした。 「急に力を増幅させやがったか…」 超速再生と崩玉で何とか命を繋ぐも、このまま力押しだけでカタストロフィに対抗するのは至難の業となった。 「かーめーはーめー波ー!」 威力が数十倍に上昇したかめはめ波がカタストロフィから放出される。 「アティークの所に行かなきゃならんのにこれか。聖文字(シュリフト)の能力が使えれば…!」 その時である李信の目の前に背中を見せる男が現れ、機械と金属の腕を変形させて特大の砲口から核ミサイル・ICBMを二発同時に発射した。発射された二発の核ミサイルはカタストロフィが放ったかめはめ波と相殺されて大爆発を起こした。 爆音がニサ中に鳴り響き、爆風で李信も吹き飛ばされる。 「セールさん、助けに来てくれたか。」 響転(ソニード)で元の位置まで戻ってきた李信が男の名を呼ぶ。 「久しぶりだな。此処は俺が引き受けた。お前はアティークを。」 「承知した。武運を祈る。」 この場で長いやり取りなど不要である。セールの厚意に短く謝意を表した李信は響転でその場から離脱し、カタストロフィはセールと対峙することになった。 「界王拳時の俺のかめはめ波を相殺するお前は…」 「俺は元大将軍セール。アティークに地位を追われて領地も城も失ったがまだ諦めてはいない。お前を倒して押し通らせてもらうぞ、アティークの犬よ。」 セールの体は更に改良が加えられ、足の底からブーストにより火を噴射して飛行することも可能になっていた。ターミネーターというより魔力化機械金属改造人間兵器である。 「セールか。俺もお前を倒した後に王国の残党を片付けてやる!行くぞ!」 スピードすら大幅に上昇させたカタストロフィが光の速さでセールの背後に回って赤い気を纏った拳でパンチを繰り出す。 「至近距離で味わってみるか?」 セールの視界が赤くなり、敵の行動を完全に予測することで対応し、カタストロフィの拳を素手で受け止める。 セールは腕をガトリング砲に変形させて至近距離でガトリングガンを連射、カタストロフィを蜂の巣にした。 それぞれセール、しずくなの、筋肉即売会、くれないの救援を得た李信、小銭、星屑、水素の4人はついにアティーク達が会談している部屋の扉の前に辿り着いた。 「行くぜ。」 水素が扉のノブに手をかけ、他の3人に目配せする。3人とも目で頷く。緊張が走る中、覚悟は皆出来ていた。 水素によりバターンと勢いよく扉が開けられる。議事堂の中にはアティーク、ホッサム、三代目仁王が円卓を囲み席に座って会談しており、アティークの傍にHOPEが、ホッサムの傍にまさよんが、三代目仁王の隣に唯一神が立って控えていた。 「会談中だぞ!勝手に中に入るな!」 扉を開く音に気付いたアティークが席を立って後ろに向き直り此方に視線を向けてくる。 「よう、久しぶりだなアティークさんよぉ。」 「貴様ら…どうやって入って来た!」 アティークが突然の事態に少々驚きを見せる。ホッサムや三代目仁王達も水素達に視線を向けて睨みをきかせながら立ち上がる。 「こいつらは…」 4人の姿を見たことがない三代目仁王は隣のホッサムに尋ねる。 「アティーク殿が滅ぼしたグリーン王国の残党ですよ。俺もこいつらと闘いましたが取り逃がしましてね。で、こんな所に乱入してくるとはね。」 ホッサムが4人を睨みつけたまま三代目仁王に応える。 「見つけたぞアティーク将軍。今度こそ貴様には死んでもらう!」 「それは此方のセリフだ。俺にボロカスにされて逃げたかと思えば仲間を連れて報復に来たか。お前は所詮1人じゃ何も出来ないのだ。」 アティークが古の剣を鞘から抜いて李信に向ける。 「ようホッサム、久しぶりだな。あ?」 「あのなぁ俺、キレてんだよ!日頃からキレる体質じゃねえんだけどな?まさかキレたんだよ!」 幻惑平原の戦いで敗れた星屑と小銭が怒りを込めてホッサムを威嚇する。 「星屑に小銭か。負け犬がいくら吠えたところでお前らが弱いことに変わりは無い。だがお前らが揃ったことで会談の必要も無くなった。早急に始末してやる。」 「お前らは邪魔だ。」 李信は特殊な鬼道による防御壁を天井を突き抜けて天高くまで作り出してアティークとそれ以外の人間を遮断した。 「星屑、小銭。気持ちは分かるがこいつに対しては総掛かりでなければとても倒せん。」 「ああ、分かってるさ。まずはぐり~んの仇を討たなきゃならねえ。」 「キーレてるが仕方ない。アティークに対してもキーレてるしな!」 星屑と小銭は反論はせず素直に従う。 「馬鹿なのか情弱なのかどちらかだな。知らないのか?俺の能力を!」 ホッサムが透明の幻影兵を召喚する。幻影兵達は鬼道の壁をすり抜けて李信達に襲い掛かる。 「俺の幻影兵はあらゆる干渉も受けず擬似的な質量で攻撃を行う無敵の僕(しもべ)!お前らに勝ち目なんてねえんだよ!」 「またあの幻影兵だ!鬼道の壁も意味ねえ!」 「仕方ねえ、水素頼むぞ!」 星屑が幻影兵に鬼道の壁をすり抜けられてやっぱりかと声に出すも、李信に頼まれた水素がアティークに急接近してその首根っこを掴むと人外の跳躍力で天高く急上昇し、ホッサム達から距離を取ってアティークのみとの決戦に持ち込もうと図った。李信は霊子を踏む要領で、星屑は究極生命体による能力で飛行し、小銭はヴィマーナを宝物庫から呼び出して後を追った。 「水素、やはり貴様が最も厄介だ!」 数キロ離れた上空から水素はアティークを地上の荒野に向かって投げ飛ばした。アティークはバランスを取ることも出来ずに地面に頭から激突、上半身がめり込んでしまった。水素、李信、星屑、小銭がアティークに追いついて荒野に降り立つ。 「立てよアティーク。お前がこんなんで死ぬわけねえだろ。」 水素は右手の人差し指を自分に向けてチョイチョイと動かしながらアティークを挑発する。 「やってくれたな水素。お前だけは敵にしたくなかった。ホッサムに止めてもらおうとも思ったがよく考えればこんな手段に出られたらどうしようもない。」 アティークは両手からジェット噴射の様に炎を放出してめり込んだ地面から脱出、バック転の要領で地に足をつけた。 「これで4vs1だ。覚悟はいいかアティーク。」 星屑が究極生命体の能力による翼を広げてアティークを威嚇する。 「そうだ!ゾロアスター教の神なんて知るか!俺が信じるのはゆうみんだけだ!」 小銭は異空間から無数の剣の顔を出現させて射出準備に入る。 「俺は神と契約した神の代行者にしてこのペルシャ帝国を統べる支配者!貴様らグリーン王国の亡霊如きに倒せる筈が無い!」 アティークの瞳の色が燃え盛る紅蓮に染まった。 「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」 小銭が異空間から無数の剣をアティークに向けて射出する。 「届かんな!」 アティークは炎の壁を正面に展開して自身目掛けて飛んでくる剣を炎の高温で溶かしてしまう。 「喰らえ!」 素早くアティークの右に回り込んだ星屑が背中の翼から無数の鋭利な羽を射出する。アティークは炎の壁を右にも展開して飛んで来た羽を燃やし尽くす。 「破道の九十九 五龍転滅」 李信は瞬歩で左に回り込み九十番台最高位の鬼道・五龍転滅を放つ。大地が裂けて巨大な5体の龍を象った霊圧が出現し、アティークに襲い掛かる。 「確かに威力は高そうだが…」 アティークは剣に炎を纏わせて炎の斬撃を飛ばして李信の鬼道を消滅させた。 「連続普通のパンチ」 今度は背後に回り込んだ水素が桁違いの威力を誇るパンチを連続で繰り出す。アティークは炎の壁を作り出して防御を試みるが簡単に突き破られ、アティークは水素の拳を胸部に喰らって貫かれた。 「倒したか。存外早く終わったな。」 水素の拳はアティークの心臓を貫いていた。アティークはどう見ても絶命していたが… 「まだだ!そいつには再生能力がある!」 「その通りだ。何回殺しても無駄だ。」 絶命した筈のアティークがその口を開く。水素はすかさずアティークの顔面にパンチを繰り出すが、アティークの眼前に展開された顔面を覆う炎の壁に防がれてしまった。 「焼き尽くされろ!」 アティークが念じるだけで水素の体が発火し、轟音を立てながら爆炎が発生する。 「あちーなおい!」 水素は距離を取って炎を振り払う。 「情報によれば水素はダメージが通らない、星屑は究極生命体の能力が完成していれば不老不死、直江は崩玉の能力で不死、となれば!」 「小銭!お前に最初に死んでもらうぞ!」 アティークは剣先を小銭に向けて火球を射出した。 「縛道の八十一 断空」 小銭の目の前に瞬歩で現れた李信が火球を断空で防ごうとするが呆気なく破壊されて李信に直撃する。直撃と同時に対象を覆う天高くまで伸びる火柱が発生した。 「おい!大丈夫かお前!」 「余所見してる余裕があるのか?」 小銭の真横右に現れたアティークが掌から炎の波動を至近距離から小銭に射出する構えを取る。 「それはこっちのセリフだぜアティーク!」 水素が高速でアティークの目の前に現れて波動を射出しようとしたアティークの手首を掴み、人外の握力で粉砕し引き千切る。 「無駄な真似だ!」 アティークは引き千切られた腕を瞬時に再生して水素を背中から出現させた炎の翼で振り払う。 「ならば全方位攻撃だ!死ねえ小銭ィ!」 全身から全方位範囲の炎の波動を放出しようとするアティークの前に星屑が立ち塞がる。 「スタープラチナ!」 究極生命体の力でマッハスピードでアティークに急接近した星屑がスタープラチナを呼び出してラッシュ攻撃を仕掛ける。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!オラァ!」 「効かんなぁ!」 身動きは取れずとも意思のみで発動する炎の壁がスタープラチナのラッシュ攻撃を無効化する。 「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」 宝物庫から乖離剣エアを取り出した小銭が時空断層による攻撃を撃ち出す。星屑と水素は巻き込まれまいと瞬時に距離を取る。 「なら俺もオマケしてやるよ!」 星屑は波紋エネルギーを流し込んだ岩石をアティークに投げつける。 「もういっちょオマケだぜ!」 拾っていた石を水素は全力でアティーク目掛けて投げつける。その速度はプロ野球選手ですら目で追えない豪速球である。 「ふん、雑魚共が。」 アティークは全身から炎の波動を全方位に放出して3人の攻撃を消し飛ばしてしまった。3人が炎の波動に呑み込まれてしまう寸前、瞬歩で移動した李信が小銭の眼前に現れて小銭をアティークの攻撃から庇った。 「何だその姿は。」 変わり果てた李信の姿に驚く小銭より先にアティークが疑問を投げかけた。 「漸くこの崩玉が俺の心を理解したらしい。」 李信は蛹のような白い仮面が全身を覆った異形の形態へと変化していた。 「俺は今、虚(ホロウ)も死神も超越した完全なる存在に近づいたのだ!」 「何を言ってるのかさっぱり分からんな。」 アティークは剣を振り下ろし李信に炎の斬撃を飛ばす。 「いい斬撃だ。だが…」 李信も斬魄刀を振るって紫色の霊圧を飛ばして相殺する。 「俺の攻撃を相殺しやがった…」 呆気に取られるアティークを星屑と水素が左右から挟み撃つように攻撃を仕掛ける。 「サンライトイエローオーバードライブ!」 「連続普通のパンチ」 波紋エネルギーによる突き攻撃と強靭な拳から繰り出される連続パンチ。李信の姿と強化に気を取られていたアティークは対応が遅れて2人の攻撃をまともに喰らってしまった。 まともに攻撃を受けたと思いきや、アティークは炎の魔力を体に纏って水素と星屑の攻撃を完全に防いでいた。 「こいつ、防御性能も半端ねえぞ!」 星屑が一旦距離を取る。水素はより力を込めて拳を叩き込むがアティークの炎の翼により全身を爆炎に覆われて吹き飛ばされた。 「クラスカード セイバー!」 小銭が男装バージョンのアルトリアの姿になり、その手に握られた聖剣を振り上げる。 「エクス…カリバー!!」 眩い光の巨大な斬撃がアティークを襲う。 「さっきから無駄な攻撃ばかりだな。」 アティークは炎を纏った左手の人差し指でその斬撃を打ち消してしまった。 「破道の八十八 飛竜撃賊震天雷砲」 李信が青白い稲妻を纏った鬼道の光線を掌からアティークに向けて放出、アティークは人差し指で打ち消そうとするが、その手は光線に呑み込まれて左半身ごと消し飛ばされた。 「崩玉とやらの力か、水素ではなく1番厄介なのはお前みたいだな直江!」 アティークが神の加護により光よりも速く李信の眼前に現れる。 「世界にとって1番厄介なのは貴様だアティーク。」 「減らず口を叩くな!」 アティークの人差し指から炎熱光線が射出される。 「破道の四 白雷」 ゼロ距離で炎熱光線と鬼道がぶつかり合い爆発を起こす。 「ゲイ・ボルグ!」 「神砂嵐!」 クー・フーリンの姿になった小銭は真紅の魔槍を投擲し、星屑は両腕を前に突き出した状態で関節ごと高速回転させ、巨大な竜巻を作り出してアティークにぶつけ、水素は落ちていた巨石をアティークに投げつけた。 「蚊が止まったとすら感じられない攻撃だ!」 全ての攻撃を振り払い、全方位に炎の波動を放出、荒野の砂すら焼き尽くし消滅させる威力の攻撃が4人を襲う。 「危ねえ!」 星屑が咄嗟の機転で小銭に覆い被さって庇った為、小銭は軽い火傷で済んだ。 「破道の三十三 蒼火墜」 爆炎も波動も霊圧で吹き飛ばした李信が蒼い炎を押し固めた鬼道をアティークに放つが当然効いていない。 「また進化しやがったのかお前。」 アティークの視界に入ったのは、仮面の頭部部分が剥がれ落ち、背中から蝶の様な白い翼を生やし、髪が長髪になり、瞳の色が白黒反転している李信の姿だった。 「崩玉が俺の意思を汲み取ったのだ。」 「調子に乗ってんじゃねえぞゴミカスがぁ!」 アティークが翼から熱風を巻き起こして李信に攻撃する。が、熱風は李信に届く前に消滅してしまった。 「どうした?届いていないぞ。」 「クソが!」 李信の不敵な微笑を浮かべた挑発に乗り、アティークは剣に炎を纏わせて接近戦を仕掛けんと斬り掛かる。李信はアティークの剣を斬魄刀で受け止めた。 「!?」 アティークは李信の至近距離で突然生命力が吸い取られるかの様な息苦しさと押し潰されるかの様な重圧を感じた。 「虚も死神も超越した俺に近づくことは即ち死を意味する。貴様は俺の霊圧に耐えられないのだ!」 鍔迫り合いを制して力の抜けたアティークを地に叩き落とす。 「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ 破道の九十 黒棺」 詠唱を唱えた李信が九十番台の高位鬼道を発動し、アティークを黒い重力の奔流で出来た直方体で覆い尽くす。 「虚も死神も超越した俺が放つ完全詠唱の黒棺だ!時空が歪む程の重力の奔流だ!」 「我が神アフラ・マズダーよ!我に力を与え給え!」 黒棺から炎が噴き出して破壊される。中から出てきたのは背中に不死鳥の翼、瞳は燃え盛る不死鳥の紋章、全身に神の炎を纏い右手に炎が押し固められた剣を握るアティークだった。 「直江、水素、星屑、小銭。貴様ら4人は特に許し難い!俺に楯突いた大罪を業火に焼かれて神の裁きを受けて償うがいい!」 アティークを中心に光の世界が広がる。神の加護を得たアティークにより5人は元の世界と隔離された神の光の世界に導かれた。 「ようこそ神の世界へ。此処が貴様らの処刑場であり墓場だ。」 アティークが4人それぞれに向けて小さな火球を射出する準備に入る。 「させねえ!」 李信は瞬歩で移動しアティークの掌の上で浮遊している火球に斬魄刀を振り下ろした。 「馬鹿め!地球二つ分を消し飛ばす威力の火球を一身に浴びるがいい!」 斬魄刀に触れられた衝撃で火球が火柱と化して威力を李信のみの一点に集中する。 「オーバードライブ!」 ふ 星屑が最大威力の波紋をアティークに叩き込む。 「効かん!」 左手を星屑に翳して極太の炎熱光線を発射する。星屑はそのまま炎熱光線を直に浴びてしまった。目から、口から、耳から、灼熱の業火が入り込み星屑の体を炎で焼く。 「マジ反復横飛び」 水素が高速でアティークを取り囲む様に反復横飛びを始める。あまりの速さに残像と衝撃波が発生するがアティークは体に神による炎の魔力を纏わせて無効化する。 「連続普通のパンチ」 残像を作りながらアティークを翻弄し、そのまま無数の連続パンチを繰り出す。 「何度同じやり取りをするつもりだ?無駄だと言った筈!」 アティークの片翼から太陽と同じ温度の熱風が発せられて水素を吹き飛ばす。 「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」 「消え失せろ!」 もう片方の翼からも熱風を発して小銭の最強の攻撃であるエヌマ・エリシュすらも掻き消す。 「そろそろ1人くらいには消えてもらう!」 アティークは炎の剣を自在に伸ばして李信が居る火柱の位置に振り下ろす。 「フハハハハハハハハハハハハ不死が何だ!超速再生が何だ!俺の炎で全て焼き尽くされろ可燃ゴミめ!燃えカスにしてやるぞ!」 しかし炎の剣も火柱も振り払った無傷の李信がアティークの目の前に現れた。 「神の力を手にしたことが嬉しいか…!国を我が物にしたのが嬉しいか…!俺の鬼道を打ち砕いたことが嬉しいか!思い上がるなよ、狂信者がぁぁぁ!!」 崩玉による紫色の霊圧が柱の形状となり李信を包み込む。アティークの視界に現れたのは、顔の皮が剥がれ、背中の羽が無数の首を持つ触手となった虚に近い姿へと変貌した李信だった。 「やはり許せないか、崩玉よ。この俺が、謀反人如きに遅れを取るのは…!」 李信の触手の口が開かれ、紫色の霊子の球がアティークに向けて吐き出された。 「星屑、小銭!巻き込まれるぞ!」 危険を察知した水素が星屑と小銭を抱えて高速で地平線の彼方を越えて距離を取る。 紫色の霊子の球がアティークの至近距離で破裂し、見渡す限りの範囲を全て包み込む爆炎が発生した。 全身に大火傷を負い片腕を欠損したアティークが爆炎が止むと同時に現れる。 「直江、てめえ何でそうなんだよ…!」 「何でとは、何がだ?」 アティークが悲痛な表情で李信に問いを投げるが李信はアティークの意図を理解しかねた。 「そんなに強大な力を持ってて、てめえは何で人を力で支配して自分の欲を満たそうとしないんだ!現実世界でもそうだろ!政治家や経営者が民から税金を搾り取り、労働者から不当に搾取して美味しい思いをしていた!今度は力を得た俺達がその立場に立つ番だろうが!てめえは何で俺の邪魔をする!」 アティークは現実世界での自らの辛酸を舐めた人生を思い出して必死に李信に訴えた。 「弱者の立場から天を仰ぎ見、その天に漂う数多の黒い雲をいつも俺は恨めしく睨んでいた。」 「だから俺は天を覆い下の人々から光を奪う黒雲にはなりたくないと強く思った。力を得たからには黒雲を振り払い人々を光射す希望に満ち溢れた世界を築きたいと願った。」 「それがお前と俺の違いだよ、アティーク将軍。力無き者の気持ちが分かるからこそ、あんな思いを人々がしなければならない世界は壊さなきゃならない。」 「だから俺は、みんなを護っててめえと闘うんだよ。」 斬魄刀の鋒をアティークに向けて怒気や悲壮感の篭った鋭い声で李信は応えた。 「俺と君とではやはり相容れない様だな、李信将軍!」 李信の応えを聞き届けたアティークは予想の範囲内の応えに落胆し、炎の剣先に実物大の太陽を作り出した。 「同じ手は喰わんぞアティーク将軍!」 李信は崩玉最終形態による空間転移で太陽の至近距離に移動し、霊圧を込めた斬魄刀の一振りで太陽を消滅させてしまった。 「バ…カな…!」 「終わりだ!」 更に李信は空間転移でアティークの眼前に移動、呆気に取られたアティークの全身を流れる炎の魔力を斬魄刀で斬り裂いてアティークの腕を掴んだ。 「小銭、俺は不死だ!俺ごとやれ!」 李信の背後に現れたクー・フーリンの姿をした小銭が大きく跳び上がり、真紅の槍を右腕で振り上げた。 「一死一殺の呪いの槍。穿つは心臓、狙いは必中…!この一撃、手向けとして受け取るがいい…!」 「刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」 小銭が魔力を込めた真紅の槍を李信とアティーク目掛けて全力で投擲する。 「クソッ!離せ!離せぇぇぇ!」 アティークの抵抗虚しく、投擲された真紅の槍は李信とアティークの心臓を貫いた。アティークの腕から力が抜けて宙ぶらりんになった。 「やった…!アティークを倒したぞォォォ!!」 喜びを抑えきれずに小銭がガッツポーズをしながら力の限り叫んだ。 「やっと倒したか。今回はいいカッコ出来なかったな。」 「気に食わねえが直江と小銭の手柄だ。さっさと首を刎ねちまおうぜ。」 闘いが終わったと見た水素と星屑も高速で戻って来た。 「ああ、そうだな。ペルシャ帝国皇帝アティーク、その首貰うぞ。」 李信が槍に貫かれたまま斬魄刀を振り上げてアティークの首を切断しようと横に薙ぐ。 「誰が誰の首を貰うって?」 「!」 李信の斬魄刀は倒した筈のアティークから発せられる炎の魔力で受け止められてしまった。 「なん…だと…」 「この程度じゃ俺を殺せるわけがねえんだよ可燃ゴミ共!」 自らに刺さっている槍を正面に居る李信を蹴ることで勢いをつけて引き抜いたアティーク。 「自分達が少し強いからっていい気になってんじゃねえ!」 「我が神アフラ・マズダーよ!我に更なる力を!」 アティークを包み込む火柱が発生し、中から出て来たアティークの姿はアフラ・マズダーそのものに変貌していた。当然全ての傷や欠損は回復・再生している。 「太陽(アフタブ)!」 炎の剣を杖の様に振り上げて技名を唱えると、李信は天高く浮遊してその位置から中心に太陽が形作られていく。 「太陽そのものを対象が居る位置を中心に作り出し、対象を太陽の中心に閉じ込める俺の究極奥義だ!発動したら最後、脱出は不可能!1500万度の灼熱に焼き尽くされるがいい!」 見る見る内に太陽は完成し、李信はその中心に完全に閉じ込められた。 「次は星屑、てめえだ!太陽(アフタブ)!」 「クソッ!駄目だ抵抗しても…ウワアアアアアアアアア!!」 星屑も李信同様天高く浮遊させられ、アティークにより作り出された太陽の中心に閉じ込められてしまった。 「仕方ねえ、少しだけ本気を出すか。」 水素が腕を鳴らしながらそう言い放つ。 「水素、てめえもすぐに2人と同じ様にしてやる!」 「させねえよ、ボケ。」 アティークが技を放つ前に水素の拳がアティークの顔面にヒットした。 「喰らえ!」 アティークが水素に作り出した太陽をぶつけるが水素はそれを一撃で粉砕する。 「連続普通のパンチ」 アティークは以前よりも強力な防御能力である神の炎の衣を纏うが水素の拳により撃砕され、繰り出される連続パンチがアティークを無数の肉片に変えた。 「まだだ!」 アティークは神の加護により瞬時に再生を果たす。 全てを貫く炎熱を凝縮した紅蓮の細い光線。他神すら貫くと言われる伝説の技が水素を直撃するが、貫くどころか傷や火傷さえ負わせることは叶わない。 (今まで全く本気を出してなかったということか…!我が神の力を此処まで引き出しても尚この男には及ばないということか…!) アティークは焦りを感じながらも掌から火炎放射を発射し水素を灼熱の業火に晒す。 「太陽の倍以上の温度の火炎だ。流石に…」 「両手・連続普通のパンチ」 神の業火を物ともせずに潜り抜けた水素が両手から高速ラッシュをアティークに繰り出す。 「神よ!我に加護を!」 アティークは太陽の倍以上の温度の炎の壁を正面に展開するがそれも一撃で見事に破壊されて高速連続ラッシュの洗礼を浴びる。 「神よ!我に命を!」 鈍い音が響いた瞬間に肉片と血飛沫の無数の分離帯にされたアティークが瞬時に再生復活を果たす。 「神よ、我を炎に!」 アティーク自身が肉体から炎と化し水素に覆い被さる。 「うおっ!炎になれるのかお前!」 「地球を100個分焼き尽くし科学を無視して宇宙にすら燃え広がる威力と温度を持つ炎を貴様一点の範囲にのみ凝縮した俺の奥義の一つだ!いい加減御陀仏になれよ死に損ないが!」 業火による火柱が沸き起こり、水素は太陽の数倍の温度を持つ炎に包まれる。 「マジ殴り」 そんな炎を浴びてもノーダメージの水素が自らを押し包み天に伸びる火柱に向かいマジ殴りを炸裂させ、余波で火柱を吹き飛ばしてしまった。 「クソッ!不死身かお前は!」 「ただ趣味でヒーローをやってるだけだ。お前の様な悪を倒すヒーローをな!」 炎化が溶けたアティークにマジ殴りを見舞う水素。アティークの体は人間が数えられる数を遥かに超えた距離まで果てしなく吹っ飛ばされた。 「神の力ならば瞬時に転移することも可能!」 アティークが水素の背後に現れ限りなく伸ばした炎の剣を振り下ろす。惑星をまるで豆腐を切るかの様に簡単に両断する威力を持つ神の斬撃である。 「ほう、やるな。」 水素は炎の剣を素手で掴み取り受け止めると握り潰して消滅させてしまった。 「俺のマジ殴りで死ななかったのはお前が初めてだよアティーク!楽しくなってきたぜ!」 「吐かせ似非ヒーロー!此処が貴様の墓場だ!」 水素の拳とアティークが再び作り出した炎の剣が激突する。水素が突き出した拳の風圧により炎の剣は吹き消されアティークの胸部に拳が炸裂する。アティークは心臓を潰されて消し飛ばされる。 「まだまだァ!」 再生復活を果たして瞬間転移で水素から数十メートル離れた位置に現れたアティークが炎の剣を地面に突き刺して辺り一面から炎を噴き出させる。 「ワオッ!」 人外の跳躍力をもってしても火柱は無限に伸び続けて水素を呑み込む。 「神の羽を喰らわせてやる!」 アティークの背中の炎の翼から羽状の小さな炎の粒が無数に射出される。 「一つ一つが太陽と同等の威力だ!フハハハハハハハ!」 「普通のキック」 神の羽すらまるで南風のようにあしらい火柱から脱した水素が超高速でアティークの頭部にドロップキックを見舞う。 アティークは頭部を潰されるが、首から炎の龍が出現して大きな口を開けて水素を呑み込む。 「その龍に呑み込まれた者は体内に入り込んだ炎により内側から焼き尽くされる!」 再生したアティークが今度こそ終わりだと言わんばかりに技の能力を大声で明かすが、水素はそれすら腕で振り払い無傷で脱した。 「マジちゃぶ台返し」 「!」 水素は高速でアティークの眼前に移動してアティークの足首を掴んで天高く放り投げた。 「踵落とし」 人外の跳躍力でアティークの高さを追い越した水素がアティークの腹部に強烈な踵落としを炸裂させた。因みにこんな技は元ネタの原作には無い。 地に叩きつけられた衝撃でアティークの体は原型を留めず肉塊へと変貌する。 「クラスカード バーサーカー!」 ギリシャ神話の大英雄・ヘラクレスの姿になった小銭が凶化し雄叫びを上げながら肉塊となったアティークにその右手に持つ石斧剣を連続で振り下ろす。まるでハンバーグを作る為の挽肉にする様な感覚で乱雑にアティークを微塵切りにしていく姿はまさに凶戦士だった。 「そんなことをしても無駄だぞ小銭十魔!」 再生復活したアティークが腰に帯びていた古代剣で小銭の石斧剣を受け止める。 「グルル…ガオオオオオオオオオオオ!!」 地平線の彼方まで響く雄叫びを上げながら石斧剣を連続で振り下ろす。 「こいつ、凶化した癖に何という武芸だ!」 ヘラクレスはギリシャ神話の大英雄。打ち立てた武功は数知れず、打ち立てた伝説は脈々と語り継がれる。 故に凶化して尚その武芸は色褪せることなどない。小銭は極められたその武芸による絶妙な剣さばきでアティークを剣戟で追い詰めていく。 「うぜえ…はいき 「うぜえ…灰にしてやんよ。」 アティークは全身から世界を覆う攻撃範囲と太陽の数倍の温度を持つ火炎の波動を放出する。水素も小銭も当然巻き込まれてしまったが、水素は当然の様にノーダメージ、そして小銭は… 「アアアアアアアアアアアアアアアア!!」 灼熱の波動により吹き飛ばされ一度灰になるも復活を果たす小銭。そして雄叫びを上げながら石斧剣を持ってアティーク目掛けて突っ走っていく。 バーサーカー・ヘラクレスの宝具である「十二の試練(ゴッド・ハンド)」。ヘラクレスが生前成した十二の偉業の具現化であり、ランクB以下(Fate世界基準)の攻撃をシャットアウトし、11の代替生命がある。そして一度受けた殺害方法では二度と殺せない。 「何だてめえ…てめえも不死だってのかァ!?」 アティークは再度全身から炎の波動を繰り出すが今度は小銭には全く効いていなかった。 「水素だけでも面倒だってのに何だってこんな…小銭の野郎力を隠し持ってやがったか!」 武芸では英霊の力を得た小銭に敵う者などこの世界には恐らく存在しない。アティークにも無論勝ち目は無い。彼は転移能力により離れた空中に移動し翼による飛行能力をもって空中からの攻撃に出た。 「小銭ばかりに気を取られてていいのか?アティーク将軍。」 「!?」 いつの間にやら背後に現れた崩玉融合最終形態の状態のままの李信に霊子で出来た紫色のリング状の霊圧で取り囲まれる。 「てめえ、どうやって太陽(アフタブ)から…」 「小銭に集中し過ぎだ。水素が太陽を破壊してくれたのさ。」 小銭とアティークが闘っている間に水素は李信を太陽を破壊して解放していたのである。 「ウルトラフラゴール」 リング状の紫色の霊子が白色化し、そこから先程触手の口から吐き出した霊子の球の時よりも強力な爆発を発生させる。 「クソが!」 半身を消し飛ばされ更に左腕を灰にされたアティークが瞬時に再生して李信に斬りかかる。 「連続普通のパンチ」 真横から現れた水素の連続パンチにより肉片に変えられるもすぐに再生する。 「太陽エネルギーを増幅させた波紋!オーバードライブ!」 同じく水素により脱出を果たしていた星屑が現れてアティークを地に叩き落とした。 「アアアアアアアアアアアアアアアア!!」 そこへ小銭が石斧剣でアティークをまるで野球ボールを打つ打者の如く打撃して吹っ飛ばす。 元々最強の力を持ち全てを無視した水素はともかく、何故神の力を此処まで引き出したアティークに小銭の攻撃や李信のウルトラフラゴール、星屑のオーバードライブが通じたのか。 アティークさえわけの分からない状況に混乱していた。一体何故、アフラ・マズダーの守りの加護である全身を巡る炎の魔力が貫通されたのか。 「そうか!思い出したぞ!」 アティークは思い出した。小銭が化けているヘラクレスは半神半人だということを。 アティークは思い出した。自らが持つ唯一の弱点を。 アティークは神と契約し神の力を行使出来るこの世界に稀少な最強クラスの能力者、所謂「神の代行者」である。 「神の代行者」の弱点、それは他の神の存在が近くに居ることでその力が弱まることだった。 小銭の現在行使しているのは半神半人のギリシャ神話の大英雄・ヘラクレス。 読んで字の如く半分は神である。その為アティークは弱体化し、その弱点を曝け出してしまう格好となった。 神話に興味を持ち、神話の本を読んでいたアティークならば自身のその弱点に気付かない筈が無い。 (まずい…!このままでは…!) 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」 眼前に現れた星屑が波紋エネルギーを纏ったままでスタープラチナによるラッシュを繰り出す。 「グハァッ!」 身体中の骨を砕かれ突き飛ばされるアティークの背後に李信が空間転移で現れる。 「破道の九十 黒棺」 黒棺に閉じ込められて全身を斬り刻まれてしまう。 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」 ヘラクレス化した小銭の石斧剣がアティークの肉体を粉砕する。 「連続普通のパンチ」 更に水素が粉砕されたアティークをミンチにしてしまう。 「ハァ…ハァ…ハァ…クソがっ!」 先程より再生にかかる時間が明らかに伸びている。アティークは命の危機を感じ始めた。 「終わりだぜアティーク。観念しな。」 「フフフ…フハハハハハハハハハハハハ!」 水素の言葉を受けて何故かアティークは笑い出す。 実はアティークの弱体化は戦闘開始時から始まっていた。 小銭が体の3分の2が神であるギルガメッシュの姿で闘っていた時からである。 水素はともかくとして、如何に崩玉と融合して超越者としての霊圧を持とうが、如何に究極生命体として太陽のエネルギーを増幅させた波紋エネルギーを撃ち込もうがアティークはそれらの攻撃を全て無効化出来る筈だった。 が、アティークは自身の力を過信して自身の弱点を今まで失念していたのである。 アティークの天敵は最強のヒーローである水素でも、究極生命体の星屑でも、感知出来ない程の超越者としての霊圧を得た李信でもなかった。 小銭十魔。全ての英霊の力を行使出来る彼こそが神の代行者たるアティークの天敵だった。 アティークは笑った。自身を追い詰める存在があることへの複雑な念、そしてやっと自分を追い詰めた目の前の4人が自分を今殺すことは出来ないということに。 「よくここまでこの俺を追い詰めたな!そこは褒めてやろう、だが!」 「此処は我が神による光の世界!お前らは俺を殺せはしないのだ!」 アティークの体が無数の光の粒となって消えていく。 「さらばだグリーン王国の亡霊共!また遭おう!その時がお前らの最期だ!」 アティークは捨て台詞を残して光の世界から姿を消した。 「逃げやがった…」 後少しというところまで追い詰めた実感があっただけに、水素は歯軋りして声を震わせた。 「これで振り出しに戻されたな。だが小銭のおかげで奴の弱点と、これから俺達が為すべきことが見えた。」 星屑が言った。 「半神ではなく完全な神の力を使える能力者を探し出す。この世界の果てまででも探し出さねばならない。そうすることでしか奴に完全に対抗することは出来ない。」 「ああ。行こうぜ。神の代行者を探す旅に。」 李信と、人間に戻った小銭が言葉を交わすと光の世界は消滅する。4人は元の世界に戻った。 男達の戦いはまだ始まったばかりである。 「アティークは逃げたか。だが残念だったな4人組!貴様らは此処で死ぬのだ!」 「ゲッ…やべえよやべえよ…」 元の世界に戻った4人を待ち受けていたのは此処まで追ってきていたホッサムだった。焦りを声に出したのは小銭である。 「幻影兵共!奴らを皆殺しにしろ!」 ホッサムが幻影兵を召喚して4人に襲い掛からせる。 「クラスカード ライダー!」 小銭がイスカンダルの姿になり二頭の黒い牛に引かれる牛車に乗り込む。 「お前らも早く乗れ!逃げるぞ!」 「戦略的撤退か!承知した!」 「分かった。」 「チッ憶えてろよ幻影代表!」 小銭の催促に星屑、水素、李信が牛車に乗り込む。二頭の黒い牛は天に向かって駆け出し、4人はホッサムから逃げるべく戦場を離脱した。 「また逃げやがった。どいつもこいつも逃げ足だけは速え。」 ホッサムが幻影兵を収める。 「アティーク将軍は?」 「逃げたよ。会談は中止だ。帰国するぞまさよん。」 後ろに徒歩で現れたまさよんがホッサムに尋ねる。ホッサムは苦虫を潰した様な表情で吐き捨てると幻影帝国の方角へと歩き出した。 その頃ガイドームでは、スーパーサイヤ人化したカタストロフィを撃破したセールがガイドーム議事堂に踏み込み、三代目仁王と激戦を繰り広げていた。 「人の数だけ歴史がある。歴史の数だけ死がある。死があるだけ故人がある。それがこの仁王帝国皇帝・三代目仁王の能力!」 仁王帝国皇帝・三代目仁王。彼の能力の一つ目は現実世界とこの二次元世界に今まで存在した全ての人類の内任意の人数の故人を選択することでその死因となった事象を強制的に故人を対象と見立てて引き起こすことである。また、自動的にランダムで故人を選択することでも能力の発動が可能である。但し死因は寿命や老衰以外に限られる。 その事象を耐え切れば生き残れるが、耐え切れなければ当然の如く死ぬ。 「元グリーン王国大将軍セール。君には将としての死をくれてやろう。例えば、ジャンヌ・ダルク!」 三代目仁王が念じてジャンヌ・ダルクを選択することでセールは強制的に突然十字架に縛り付けられ火炙りにされた。 「未来の技術をもってして誕生したこの俺にこの程度の火など通用しない!」 セールが両腕をガトリング砲に変形させてガトリングガンを連射し三代目仁王を蜂の巣、肉片と変える。 「俺の命が全て尽きるまで君の魔力がもつかな?」 再生復活した三代目仁王が立ち上がる。 三代目仁王の能力その二。現実世界とこの二次元世界に存在した全ての故人の分だけ命をストック出来る。その数は最早推定不能である。 「貴様はこの世界にとって危険だ。故に我が使命をもって排除する。」 腕を変形させたセールが広島を襲った原子爆弾・リトルボーイを三代目仁王に向けて射出し範囲を調整、ガイドームの議事堂部分を消し飛ばす大爆発を起こさせ三代目仁王を攻撃する。 そして当然の様に再生した三代目仁王が剣を抜いてセールに斬りかかる。 「俺、こんなことも出来るんだよね!」 巧みな剣さばきを見せるが、機械と金属で構成されたセールの体に通用する筈がなかった。 「効かないと分かってて何故こんなことをする?」 「まあ、能力のお披露目さ。気分だよ。」 三代目仁王の能力その三。これは現実世界に限るが、全ての故人が有していたスキルを全て扱うことが出来る。例えば剣術、体術、槍術、銃の扱いから料理や発明、軍略など様々である。 但し武芸や戦闘関連のスキルは対応する現物を保有していなければ使用は出来ない。 「李斯」 故人の名を口にすることでセールの腰を斬り落とすべく等身大の斧がセールを襲うが、当然ながら斧などセールの体には通用しない。鈍い金属音を発して床に落ちた。 「ならこれならどうかな?ゲノン。」 異空間から赤い手袋を装着した拳が現れセールの腹部を粉砕した。 「無駄だな。」 再生を果たしたセールが腕を変形させた米国式核ミサイルを射出した。 「三代目仁王殿。」 アティークの配下であるHOPEが戻って来た。 「何だ?今セール元大将軍と戦闘中だ。」 「グリーン王国の残党4人と交戦した我が主アティークは逃亡、幻影帝国皇帝のホッサム殿も帰国の途についたとのことです。」 「何だって!?」 三代目仁王にもたらされる驚愕すべき報告。まさか神の代行者であるアティークが敗れるとは露ほども思っていなかったのである。 「聞いたかセール大将軍。我々が闘う理由はこれで無くなった。」 「少なくとも今は、だろう?いずれ貴様ら仁王帝国はこの俺の前に立ち塞がるだろう。」 三代目仁王の言葉を受け入れずに軍用マシンガンを構えるセール。 「俺の全ての命を使い果たさせるまで君の魔力がもつのか?」 「チッ」 「そういうことだ。此処は撤収させてもらうよ。」 三代目仁王はそう言い捨てるとセールに背を向けて歩き出し、HOPEも続いて去ってしまった。 セールはガイドーム内で交戦中の仲間達を呼び集めて撤収した。闘っているセールの仲間達のそれぞれの相手も事の次第を聞いて交戦は無意味と判断し撤収した。 この三ヶ国同盟首脳会談襲撃事件は当然ながら世界中を騒がせる大ニュースとなり、翌日のニュース報道をきっかけに世界中はその話題で溢れかえった。 そして世界は、男達は再び動き出す…。 とでも思ったか?セール達を待ち受けているのはまだもう一波乱だったのだ。 「元大将軍セール!お前は危険な存在だ!排除する!」 セール、しずくなの、くれない、筋肉即売会が撤収せんとガイドームから出ようとした時、そう後ろから声をかけたのは仁王帝国の唯一神であった。黒い修道服を見に纏い首に十字架をぶら下げている、如何にもなキリスト教徒という出で立ちの男である。 「お前の主は帰ったぞ。主に従うのが臣下の務めではないのか?」 仁王帝国皇帝・三代目仁王の側近にして大将軍・唯一神。彼は三代目仁王に従わずセール達を追って来ていた。 「臣下たる者の務めはただ漫然と主の命に従うのみではない。例え命が無くとも主の利害や心情を捉えて動くことも臣下として主を盛り立てる道だ。」 「成る程。俺を殺すという確固たる意志を持ってるようだが、俺達は4人でそれも精鋭揃い。対してお前は1人だ。今なら見逃してやるから帰って母親の乳でも吸っていろ。」 セールは唯一神に子供に諭すように帰れと促す。 唯一神はそれには耳を貸さず、首からぶら下げた十字架を持ち上げ、もう片方の手で十字を切って祈りを捧げた。 「神よ、我に力を貸し給え。我に悪を討たせたまえ。アーメン。」 十字が眩き強い光を放ち、キリスト教で崇められている唯一神・ヤハウェ(他の名称もあるが此処ではヤハウェで統一)が唯一神の背後に降臨する。 「私はこの世界に存在する神の代行者の1人・唯一神!ペルシャ帝国のアティーク皇帝同様に神の力を行使する者!お前達がどれ程優れた能力者であろうが我が神の力は絶対!」 唯一神の頭上に天使の様な光の輪が現れ、瞳は光り輝く白色となる。 「気味の悪い格好だな。そして生憎俺は無神論者だ。」 セールが腕を変形させて水素爆弾を唯一神に向けて射出する。水素爆弾は直撃し、唯一神を中心に半径5mに範囲を凝縮した大爆発が発生した。 「神は仰せだ。この不敬の輩を排除せよと。」 唯一神に直撃したかに見えた水素爆弾は聖なる神の護符により防がれていた。唯一神は無傷である。 「神は確かに存在する。今私に力を貸して下さっているのだから。」 「俺の兵器を受けて無傷だと…?」 「北斗百烈拳!」 くれないが敵の経絡秘孔を突く100発の拳を唯一神に叩き込む。 「神の加護はどのような攻撃も無効化する!はァ!」 唯一神がくれないの腹部に神の光によるビームを繰り出し貫く。 「グハッ!」 「暗琉天破!」 続いて北斗琉拳の使い手であるしずくなのが技を繰り出す。魔闘気によって無重力空間を作り出し、それによって相手に自分の位置を見失わせ、身動き不可能なところに魔闘気を放つ。 「我が北斗琉拳の奥義、受けたら最後…」 「最後なのは貴様だ北斗琉拳使い。」 唯一神の十字架から発せられる光の十字架に縛り付けられて四肢に光の釘を打ち込まれる。 「神に背きしその大罪を贖え。」 唯一神が右手に十字架の形をした光の長剣を作り出して光の斬撃を飛ばしてしずくなのを斬り伏せた。 「ダイヤモンドダスト!」 筋肉即売会が体をダイヤモンドに分解して飛ばすことで攻撃を仕掛けるが唯一神が持つ聖典から光が発せられ粉々に砕かれた。 元の姿に戻った筋肉即売会は瀕死の重傷を負い倒れ伏した。 「さあ、後は貴様だけだセール。」 「おいおいもう1人忘れてんぞ?^^」 巨大な足音と声がが聴こえ、近づいてくる。エヴァンゲリオン初号機に乗ったまさっちだった。 「ヒーローってのは遅れて登場するものだお^^」 「遅いぞまさっち。もうアティークもホッサムも三代目仁王もとっくに居ない。」 まさっちが搭乗するエヴァがセールと唯一神の至近距離まで歩進んで立ち止まった。セールは遅過ぎるまさっちの登場に対して軽く叱責する。 「そう言うなよ^^こっちは準備するのに時間がかかるって言ったろ?^^それに強そうな敵がまだ残ってんじゃん^^その4人を1人で倒すなんて相当の能力者に違いないだろ?^^」 「準備って結局何だったんだ。」 「これからこの神使いに披露するさ^^マンモスラッピー^^」 まさっちの言う準備とは?果たして神の代行者にそれは通用するのか!? 「まさっちだと?あの伝説の論厨か。」 「おや?君達仁王国改めJTOが滅んだ後に俺は来たと記憶してるんだが俺のこと知ってるんだ^^」 「まあな、ROMってたからな。」 ポケガイについてのやり取りを唯一神とした後、まさっちが操縦するエヴァンゲリオン初号機が突然発光して覚醒し始めた。 「因みに準備ってのはこれのことだお^^これは疑似シン化っていうエヴァの覚醒のことだお^^」 覚醒したエヴァ初号機の機体のグリーンの部分は紅くなり、頭上には光輪が出現する。 「凡百の能力者が覚醒しようと私は神の代行者!神に対抗出来るのは神しか居ない!お前の覚醒も無駄なことだ!」 唯一神は光の十字剣から光の斬撃を飛ばす。 「覚醒したのは俺じゃなくてエヴァだお^^」 疑似シン化状態のエヴァ初号機が放つATフィールドで光の斬撃を防ぐ。 「なっ…!」 「疑似シン化したエヴァは神に限りなく近い存在になるんだお^^」 エヴァ初号機の目からから発せられる巨大なビームが唯一神を呑み込む。 「セール、神に近づいた疑似シン化エヴァの存在で奴は弱体化してる筈だお^^攻撃するなら今だお^^」 「よくやったまさっち!喰らえW91 SRAM-T!」 セールが米国式核弾頭であるW91 SRAM-Tを巨大化させた右腕の砲口から射出する。 核弾頭は唯一神が居る地点で着弾、ビームの余波と合わさり凄まじい大爆発を発生させた。 爆風が巻き起こりセールとエヴァ初号機は床に足をめり込ませながら何とか踏ん張り耐え凌ぐが、倒れている4人は吹き飛ばされてしまった。 「ハァ…ハァ…ハァ…」 疑似シン化したまさっちのエヴァンゲリオンのビームとセールが放った核弾頭によりガイドームは跡形も無く消し飛ばされた。爆煙から姿を現した唯一神は体の大半が欠損し、血の池を作りながら息を荒げている。 「直江も水素も小銭も星屑も情けねえなァ!神の代行者ってこんなに雑魚いのにアティークにまんまと逃げられたのかよォ!」 まさっちが操るエヴァンゲリオン初号機疑似シン化形態はこの世界でも屈指の戦闘力を誇り、神の代行者を除けば最も神に近い存在。サードインパクトを引き起こせば地球の数十億人を消し飛ばす威力すらある。 そんなチート人造人間とBLEACHやFate、ジョジョの能力で神の代行者と戦っていた彼らを比べるのは酷である。水素は別格だが。 「神の代行者とやらを除けばお前のエヴァが最も神に近い存在だからだ。見ろ、再生能力を有しているようだが明らかに再生が遅い。」 セールが唯一神を指差す。その先にあるのは全身の再生に5秒以上もかかっている唯一神だった。 「その一 大雪玉落とし」 ダメージを受けて倒れ伏していた筋肉即売会が此処ぞとばかりに起き上がり再生中の唯一神に急接近、唯一神を空中に投げ、仰向けになった相手の上に乗り首と左足を掴んだ体勢で、背中を地面に激突させ、背中の急所を封じてしまった。 神の加護が弱まっている唯一神に筋肉即売会の挌闘技が容赦無く炸裂する。 「その二と三 スピン・ダブルアーム・ソルト」 筋肉即売会は更に唯一神に体を回転させながらダブルアーム・スープレックスを放ち、両腕の急所を封じるしてしまう。 「その四 地獄のメリー・ゴーラウンド」 筋肉即売会が自分の体を硬度10に変え、両手に剣を出現させ前方宙返りで突進し唯一神の胸に突き刺した。 「その五 ダブル・ニー・クラッシャー」 唯一神の体をを持ち上げ、両膝を自分の両膝に叩きつけ、両足の急所を封じる。 「その六 カブト割り」 相手の頭部をキャンバスに打ちつけてしまうほどの威力を持ったフロント・スープレックスを繰り出し、脳天の急所を封じてしまう。 「その七 ストマック・クラッシュ」 地面に突き刺さった唯一神にブリッジの体制を取らせ、宙から相手の腹目掛けての頭突きを炸裂させる。腹の急所を封じる。 「ラスト・ワン 地獄の断頭台」 再度繰り出したスピン・ダブルアームで唯一神が垂直になったところで上空に投げ飛ばし、逆さになった相手の首に自分の膝を落とし、そのまま地面に叩き付ける筋肉即売会の必殺技が炸裂した。 「ガッ…!」 一連の筋肉即売会の挌闘技をまともに喰らった唯一神は全身の臓器が破壊され骨は粉砕され、肉体はところどころ分離し想像を絶する痛みに気を失った。 「岩山両斬波!」 唯一神の攻撃で筋肉即売会同様倒れていたくれないが起き上がり、筋肉即売会の挌闘技により気絶している唯一神の脳天に強力なチョップを見舞う。 悲鳴を上げることもない唯一神。その脳漿が無惨に地にぶち巻けられた。 「喰らえ!ATフィールド!」 まさっちの攻撃態勢を察知した筋肉即売会とくれないは後方に下がる。まさっちが操るエヴァ初号機から無数のATフィールドが次々に放出されて唯一神の全身を押し潰し粉微塵にしてしまう。 肉片すら押し潰し血の塊になった唯一神に再生する隙など与えずにセールは核弾頭 W91 SRAM-Tを射出、大爆発による唯一神の再生を妨害する。 「暗琉天破!」 起き上がったしずくなのがありったけの魔闘気を放って唯一神を無重力空間に叩き込み、決着がついた。 「え?これがキリスト教やイスラム教で信仰されてる唯一神ヤハウェなの?弱くね?^^」 まさっちのエヴァ初号機は闘いが終わると一時的に消滅するご都合設定である。エヴァ初号機から降りたまさっちがあまりの呆気なさに思わず口に出した。 「神の代行者ってひょっとしてみんな雑魚いんじゃねえの?直江組はこんな雑魚の同類に苦戦して逃したのかよ。俺達の方が直江達より強いことが証明されたな!」 筋肉即売会も同調する。 「そんなことより手当してくれ。あの唯一神にやられて俺達は傷だらけだし血も止まらねえんだ。」 しずくなのが胴体につけられた大きな傷を手で抑えながら訴える。 「ん、あれは何だ?」 セールが指差したのは地面に落ちている唯一神が遺していった聖書であった。それに反応してくれないが聖書を拾い上げる。 「うわっ!?何だ何だ!?」 くれないが聖書に触れると聖書から白い眩い光が発せられ、くれないの体の傷が全て塞がった。 「すげえ!俺にも貸せよ!」 くれないから聖書を取り上げたしずくなのの傷も一瞬で塞がったのである。筋肉即売会も同様だった。 「何だこの聖書、奇妙だな。」 「此処はリーダーである俺が預かる。」 セールが筋肉即売会から聖書を取り上げて懐に入れた。 唯一神の死によってこの事件は完全に幕を閉じた。しかし男達の戦いはまだ始まったばかりである。 「あの、此処がよろず屋さんで宜しいでしょうか?」 オロシャ帝国首都モズグワで坂田銀時、姫宮、いかめしに迎え入れられた氷河期は3人が別の依頼遂行の為に出ているので店番をしていた。地下はアジトだが上は万事(よろずや)店舗となっている。 店舗に足を踏み入れてきたのは年老いた70代程の老婆である。杖は用いず背筋はきっちり伸びている健康的な老人だった。 「ああ、そうだが。依頼ですよね?話は仲で聞くぜ。」 氷河期は店の二階の畳敷きの部屋に老婆を案内する。氷河期と老婆はちゃぶ台を挟んで向かい合った。 「お願いです。孫の仇を取って下さい!」 老婆は悲痛な表情で声を震わせて氷河期に訴える。老婆の話によればこうである。 ~老婆の回想~ 老婆の孫(以下Aとする)は現実世界でいえば中学校に該当する学校に通っていた。所謂私立のエリート校である。 老婆はAと二人暮らし。Aの両親、即ち老婆の息子夫婦は早くに亡くなっていた。 そんな中、Aは老婆を将来楽させてやりたいと思い、猛勉強の結果エリート校に合格した。その偏差値は実に元グリーン王国将軍の李信(馬鹿だから引き合いに名前を出してみた)の2倍である。 将来は医師になるつもりであった。目標に向かい入学してからも毎日夜遅くまで勉強していた。 しかし、そんなAを悲劇が襲った。それは凄惨なイジメである。 クラスのDQN3人組が陰キャラ非リアのAに目をつけてイジメを始めたのである。 「オラ、ブス子の顔面に射精するまで自分でシゴけよ!」 クラスで1番ブスな女子の前でオ◯ニーをさせられ、更にブス女子に顔射するまで続けさせられた。 「えーではこの英文を…A、和訳してみろ。」 授業中、教師に指されたAは立ち上がった。 「マ、マ◯コ!マ◯コマ◯コマ◯コマ◯コマ◯コマ◯コマ◯コマ◯コマ◯コマ◯コマ◯コマ◯コ!!」 問題の回答ではなく、卑猥な言葉を教室に響き渡る大声で連呼させられた。 「ほら、これ食えよ!ギャハハハハハハハハハハハハ!」 休み時間、カエルの死骸を無理矢理食べさせられた。 「自殺の練習だ!首にロープかけろよあくしろよ!」 自殺の練習と称して首にロープを巻きつけられて気絶するまで締め上げられた。 ある日老婆は中々朝起きてこないAに不審を感じて部屋に入った。そこには首を吊り自ら命を絶ったAの姿があった。 ~回答終了~ 「お願いします、孫の仇を取って下さい。年金の三ヶ月分です。」 老婆は札束を氷河期に差し出して涙ながらに懇願した。 「…分かった。孫の仇は必ず俺が取ってやる!」 氷河期は力強く答えた。 「つーか俺ら無敵じゃね?指一本触れずに人1人殺しちまったよ!」 「俺ら最強じゃん!俺らだったらペルシャ帝国だってぶっ潰せるぜ!」 「そもそもあいつが勝手に死んだんだから知らねえし!」 「ギャハハハハハハハハハハハハ!!」 氷河期は老婆から得た資料や情報を頼りにDQN3人組が下校しているところを尾行していた。鷹のような目を持ち索敵能力や気配察知に優れた氷河期ならお手の物である。 DQN3人組は悪びれもせずむしろAの自殺をネタにして盛り上がり馬鹿笑いをしていた。氷河期はそのことに心底から黒い感情が渦巻くのを感じた。 氷河期は3人組が路地に差し掛かり周りに他の人間が居ないことを確認して3人組の正面に現れて次々に体術で四肢の骨を粉砕し、関節を破壊した。 3人組の絶叫が木霊する。 「しつれーい」 悪びれもせず氷河期は予めこの場所に用意していた台車に3人組を乗せて急いでアジトの付近にある廃工場へと向かった。 「よう氷河期、きっちり依頼こなしてんじゃねえか。関心関心!」 先に戻っていた坂田銀時が3人組とAの担任教師を捕らえて廃工場に引き出して来ていた。 「こ、これは何事かね!?今すぐ放せ!放しなさい!」 縄で縛られている担任教師がジタバタと暴れるが、キツく締められている縄が解けることはない。 坂田銀時はバーナーを持ち出して教師の目に狙いを定めた。 「な、何をする気だ!やめろ!やめてくれー!」 教師の懇願などには耳も貸さない。バーナーから噴き出す火が教師の眼球を焼き尽くした。 「うわあああああああ!!」 絶叫が工場内に木霊する。 「お前さん、被害者生徒に相談されても取り合わなかったばかりかあまつさえ暴力を振るって我慢しろと脅したそうだねぇ。」 「そんな教師の目ン玉社会に必要ないねえ。」 バーナーで目を焼かれた担任教師は想像を絶する痛みと熱で絶叫する。 「お前ら、こんなことをしてただで済むと思ってるのか!これは・・・完全に法律を無視した犯罪行為だ!」 荒々しい怒気を含んだ担任教師の大声が耳をつんざく様だった。 「…イイよそれで。勘違いしてほしくないんだけど、オレは警察でもなければ裁判官でもない。道徳を説く教師でも神父でも正義の味方でもない。万事屋だからねぇ。」 坂田銀時は淡々と担任教師に答える。 「ちょっと待ってよ!俺達はまだ未成年だよ!?未成年には更生のチャンスを与えるのが常識でしょ!?」 DQN3人組の1人がバーナーで目を焼かれた教師を見ながら怯えている。 「そ、そうだよ!俺達更生するから!神とかに誓うし!マジで!」 もう1人も声を震わせながら許しを懇願する。 「未成年虐待はよくないよお兄さん!解放してよ!ねえ!」 最後の1人は恐怖のあまり小便を漏らしていた。 「未成年だから何をしても許されるというのは大いなる勘違いだよ。君達、見ザル・言わザル・聞かザルって知ってるかい?」 これから何をされるのかを坂田銀時のセリフから察したDQN3人組は身を寄せ合って涙を流しながらそれでも尚許しを乞うた。 しかし、坂田銀時は甘党ではあるが甘い男ではない。 翌日、校庭で目と喉と鼓膜を潰され横たわっているDQN3人組と担任教師が発見されたことでモズグワ中が騒然になったが、そんなことは坂田銀時や氷河期の知ったことではなかった。 坂田銀時と氷河期は老婆に復讐代行を完了した旨を報告し、老婆は涙を流しながら2人に感謝の言葉を何度も述べた。 「リキッド、今なら分かるよ。お前もこうして悪を排除することでの正義を貫いたんだよな。」 氷河期は自らの手で殺めてしまったリキッドを思い出し、深い後悔の念に襲われ一筋の涙を流した。 氷河期。 元ガルガイド王国の騎士団所属の最強の騎士である。最強でありながら彼は遂に将軍(騎士団長)の位に就くことはなかった。 しかし王国臣民は、他の騎士達は彼の武功を絶賛し彼の名を口にしない日は無かった。 彼は元は雇われ傭兵であり、暗殺者だった。依頼人が求めるままに時には罪無き人をその手にかけた。 真冬の猛吹雪が舞うある日、彼は暗殺の依頼を受けてガルガイド王国の騎士を狙い王都ガルドリアに潜伏していた。 ターゲットはその日の務めを終えて帰路についていた。人気の無い路地で氷河期はターゲットに襲い掛かった。 そのターゲットこそがリキッドだった。リキッドは能力を使うことなく鍛え抜かれた武技のみで応戦、氷河期もまたこの男には武技で勝ちたいという、暗殺者にあるまじき闘争心を燃やして挑んだ。 結果は引き分けだった。激闘の後、リキッドは氷河期を諭した。氷河期は闇から足を洗いガルガイド王国の騎士となった。 自らを諭し導いてくれたリキッドを信じ、王国を信じて数多の戦いに身を投じた。配属された部隊こそ違えど、リキッドと氷河期は互いに武功を競い切磋琢磨する仲となった。 彼は疑いも無く王国に騎士として忠誠を誓い、数多の敵を屠り、数多の味方を救い、数多の武功を立てた。 彼は常勝無敗の最強の騎士となり、その能力においても比肩する者は居なくなった。 そんな彼だが、いつからか苦戦したり、敗北を味わう日が来た。 リキッドは道を違えて苦戦の末に自らの手で殺めてしまった。ヒノ荒らしには手も足も出なかった。平行にも完敗した。 強さとは何か、正義とは何か。それが今彼に重くのしかかっている課題だった。 李信はあれからチート能力を使いこなせる様になったと聞く。ガルドリア城で交戦した北条も忍術や万華鏡写輪眼の力を自在に扱える様になっていくということも聞いた。それに新たな強敵アティークの出現。 ニュースを見た。李信一派とセール一派がアティーク達を襲撃して取り逃がしたことも知った。李信一派は行方不明、セール一派は唯一神を倒した後に何処かへ去ったという。 だが今の自分は力不足だ。彼らの後を追っても十分に戦えない。そう思った氷河期は坂田銀時に暇を願い出た。 力が欲しい。その願いを成就させるべく、彼はアジトを出た。今、彼はモズグワを出て少し離れた街に居る。 根拠は無いが、此処なら何か掴める気がしたのである。 氷河期がそこで見た光景。 「R」と大きく赤文字でプリントされた黒い制服を着用した大勢が民家や建造物に押し入って金品を奪い、男や老人は剣や銃で容赦無く殺戮され、女は無理矢理縄で締め上げられて担ぎ上げられ荷車に無造作に物の様に積まれ、全てが済んだ家屋には火がかけられている、そんな阿鼻叫喚の地獄絵図だった。 「こいつらが姫宮達が言ってたロケット団か…」 ポケモン世界のロケット団よりも悪質かつ残虐極まりないと察した。 幾人かの団員は攫った女の前で家族全員の首を剣で叩き斬り、泣き叫ぶ女を輪姦している。 「こいつら、許せねえ…!」 氷河期は衝動的に剣を抜いていた。豹の如き素早さでその団員達に急接近し、1人を残して瞬く間に素っ首を高速剣技で斬り落とす。 団員達の断面から血飛沫が噴き出し地に斃れ伏す。氷河期は上半身の大部分に返り血を浴びた。 「おい、そこの奴。」 氷河期はわざと残した1人の喉元に剣を突きつけて威嚇した。 「お前らの指導者は何処に居る。答えないと、分かるよな?」 団員は命が惜しいらしく容易に洗いざらいを氷河期に吐いた。どうやら街の北の高台から各団員に指示を出しているらしい。 「そうか。情報ありがとう。」 解放されると信じ安堵の表情を浮かべた団員の首から上が胴体から切り離される。 「無抵抗の住民殺す様なクズを生かして返すわけねえだろバカ野郎。」 誰も、指導者の居場所を吐けば許すとは言っていない。氷河期はこの悪人(クズ野郎と読む)達を斬ることに何の躊躇いもなかった。 氷河期は団員から吐かせた場所を目指して突っ走った。道中で住民に乱暴狼藉を働いているロケット団員は全て高速剣技で斬り伏せた。 ロケット団の指揮系統は混乱した。氷河期がヒラ団員と共に各小隊長まで殺して回った為に混乱をきたし、突然の謎の敵の出現と凄まじい実力に団員達は略奪をやめて捕まえた女達も放って恐れ慄き逃げ惑った。 「あの団員の言う通り、ボスっぽい格好をしてやがるな。てめえが此処のロケット団の指導者だろう。」 街全体を見渡せる高台に、その男は居た。 「1000人は居る、それも全員が魔力を保有している我がロケット団リモートコントローラー部隊を壊滅に追い込むとはな。俺はリモートコントローラー。ロケット団の幹部だ。」 リモートコントローラーはロケットランチャーを異空間から取り出して氷河期に狙いを定め構える。 「俺は氷河期だ。覚悟はいいか、外道。」 氷河期も剣を上段に構える。 リモートコントローラーがロケットランチャーを射出する前に氷河期が目で追えない素早さでリモートコントローラーの右腕を斬り落とす…筈だった。 氷河期の剣はリモートコントローラーの右腕を確かに斬った。斬った実感があったのに、確かに傷口から血を噴き出したのに、リモートコントローラーは無傷だった。 わけが分からない。氷河期はこの男の不可解な能力を解しかねた。 「あ、俺ランク120だから全ての武器解除済みだし今無敵チートつ 「あ、俺ランク120だから全ての武器解除済みだし今無敵チート使ってるから文字通り無敵なんだよねw」 リモートコントローラーが不可解なセリフを吐き出す。ランク?無敵チート?何の話か氷河期にはさっぱり理解出来なかった。 「それとこんなことも出来るぜ!」 リモートコントローラーは何故かプレイステーションのコントローラーを取り出してブツブツとボタン名を呟きながらコマンドを入力していく。 すると、異空間からライノ戦車が現れた。リモートコントローラーは戦車に乗り込み氷河期に狙いを定めて砲弾を撃ち込む。 「ヒャッハッハッハー!これでまた俺のキルレが上がるぜぇ!死ねぇ!」 しかし氷河期は撃ち込まれた砲弾を人間離れした胴体視力を発揮して剣で両断してしまう。 「冷却砲!」 剣先から魔力と冷気が籠められた極太の冷却砲を放出する。リモートコントローラーが操るライノ戦車は氷漬けにされてしまった。 「んじゃ、復活コマンド。」 氷漬けにされたライノ戦車に閉じ込められたリモートコントローラーはプレイステーションのコントローラーでコマンド入力し自殺した。 自殺して、即座に付近の別の地点で復活する。リモートコントローラーは何度死んでも生き返る。 リモートコントローラーはミニガンを取り出して氷河期目掛けて連射し始める。 「あっヤベ。ミニガンはフリーエイムだから扱いが少し難しいんだよなー。」 氷河期はミニガンの連射を軽い身のこなしで走りながら回避し続け、リモートコントローラーに接近していく。 「エイジストラッシュ」 氷河期の高速剣撃。1秒に最大100回敵を斬り刻むこの斬撃でリモートコントローラーの全身を斬り刻む。 「だから無敵チート使ってるって言ってんだろバーカ!」 リモートコントローラーが至近距離の氷河期に粘着爆弾を投げつけてコントローラーの←ボタンを押して起爆する。 リモートコントローラーは粘着爆弾の爆発により死亡するがすぐに復活を果たす。対する氷河期は爆発の衝撃を高速移動で回避していた。 「そんなショボい攻撃じゃこの氷河期様には通じないぜ!」 「冷殺剣」 氷河期は剣に魔力と冷気を流し込んでコーティングした。 「冷殺斬!」 氷河期がモズグワに来てから編み出した新技である。剣から冷気と魔力を織り込んだ強力な斬撃を繰り出す。 「だからさあ…無敵チートがあるって言ってんだろ!バカかお前は!?」 新技披露も虚しく斬撃を浴びたリモートコントローラーは無傷だった。 「弾薬無限チートON!ロケットランチャー射出!死ねぇ氷河期ィ!」 ロケットランチャーを異空間から取り出して氷河期に狙いを定めてぶっ放す。 「輝く流星の矢(スターライトアロー)!」 氷河期が精霊の加護による光の弓を製成し、光の矢を射ち放つ。光の矢は無数に別れロケットランチャーの弾頭を相殺、更にリモートコントローラーに襲い掛かる。 「痛くも痒くもねえなあ!」 ロケットランチャーの弾頭と相殺された矢以外の全てがリモートコントローラーに突き刺さるが、リモートコントローラーは相変わらず無傷である。 「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!」 リモートコントローラーが取り出した軍用マシンガンを氷河期に向けて連射する。 「氷の壁(ジエロ・ムーロ)」 氷河期が正面に氷の壁を作り出して弾丸を防ぐ。 「しぶといなてめえ!何かムカついて来たぞオイ!」 リモートコントローラーが異空間からSMGとマイクロSMGの2丁を取り出し両手に持つと、両方の引き金を引いたまま連射を始めた。 「冷却砲!」 絶対零度の冷却砲が掌から放出され、リモートコントローラーの持つ銃器を凍りつかせた。もちろんリモートコントローラーにダメージは無い。 「ウヒャヒャヒャヒャチート最高だぁ!改造ツールで手に入れた俺の攻撃を喰らえ!」 リモートコントローラーは掌から緑色のビームを放出する。氷河期は高速移動で回避するがリモートコントローラーは間髪入れずにそれを連続で広範囲に撃ち込みまくった為に遂に氷河期にヒットしてしまった。 「…!」 氷河期の胴体の3分の2程が消し飛ばされてしまった。魔力と冷気を全身に張り巡らせて防御を施していたにも関わらずである。欠損箇所からは血液が止め処なく溢れ、足元に血の池をつくり広げていく。 (何故だ…見た目は虚閃やインドラの矢より大したことないのに…!) 「ヒャッハー!チート最高!つかそれまともに喰らった人間は即死する筈なんだが耐えるとかすげえじゃん!っつーことで満足して死ねよ氷河期ィ!」 リモートコントローラーがチートコマンドを入力してバザード攻撃ヘリを出現させて操縦席に乗り込む。 「惨めに死ね!爆散して死ね!今すぐ死ね!」 リモートコントローラーがミサイル発射スイッチを親指で押し込んだ。ヘリに備え付けられている砲口からミサイルが射出される。 (また俺は負けるのか…もう終わりだってのか…パワーインフレについていけないままこのまま惨めに…!畜生!畜生畜生!) 射出されたミサイルは氷河期に直撃しその体は爆散した。 「チート最高!チート最強!ロケット団最強!ヒャッハー!」 勝ち誇るリモートコントローラー。しかし氷河期の爆散した肉片の一つ一つに異変が起こった。 「あ?なんだァ!?」 氷河期の肉片の一つ一つが小さな氷と化し、冷気を発しながら魔力により一箇所に集まっていく。小さな氷は一つに集まりやがて氷河期の体は元通りになった。 「これは…!」 氷河期自身驚いている。こんな能力は今まで持っていなかったのである。自らの意思とは関わりなく発言した再生能力であった。 「この能力の名は、氷河期(アイスエイジ)!」 新たな能力を得て、氷河期は復活した。 「何だそりゃあ!?」 リモートコントローラーは氷河期に狙いを定めてバザード攻撃ヘリから再度ミサイルを射出する。 「もうそういう攻撃は効かねえんだよ!」 氷河期は自らの体を小さな無数の氷の粒に分離させて弾丸のように射出させた。その内幾つかがミサイルを撃砕、残りはそのままヘリの機体に突き刺さり爆砕させた。ヘリを破壊されたリモートコントローラーは上空から落下し地面に叩きつけられる。 「急に何なんだてめえ!」 尚も無傷のリモートコントローラーの怒りを受け流し、氷河期は更に無数の氷の粒から冷気へと自身を変化させてリモートコントローラーを取り巻く。 「絶対零度の冷気、その身で味わうがいい。」 冷気と化した氷河期が鼻や口、目や耳を通してリモートコントローラーの体内に入り込み、血液や臓器を凍りつかせていく。 リモートコントローラーは一言も発すること無く体内から全身を氷漬けにされてしまった。 「感じるぞ…!俺の魔力が明らかに増大している…!力が漲ってくる…!」 今までに無い巨大な魔力の奔流を自らの内に感じる。氷河期は気づかなかった。今まで自分の魔力が自動的にセーブされていたことに。 「調子に乗ってんじゃねえぞ雑魚が!」 まるでゲームの様に復活を果たしたリモートコントローラー。だが先程の氷河期の攻撃は確かに無敵である筈のリモートコントローラーを死に至らしめたことは確かだった。 「絶対魔眼!」 氷河期は更に新たな能力に目覚めた。氷河期の強くなりたいという強い思いが彼自身に次々に新たな能力とセーブされていた魔力を与えたのである。 絶対魔眼。その目で見た相手の弱点や急所、念じた相手の位置などを視界に赤く表示する能力である。この能力を使用する際、氷河期は頭髪と瞳が赤に染まる。 リモートコントローラーの弱点、それは彼が有しているプレイステーションのコントローラーだった。先程彼を死に至らしめることが出来たのは体と共にコントローラーを凍りつかせたからだった。 絶対魔眼により氷河期の視界に表示されたリモートコントローラーの弱点、それは彼が持つプレイステーションのコントローラーである。 「それがお前の弱点か、ロケット団幹部…!」 「クソッ!俺のコントローラーがァ!やめろ!やめてくれぇぇぇ!」 氷河期に弱点を見破られたリモートコントローラーは必死に命乞いを始める。 「ああ。分かったよ。これからは悪さすんなよ。」 「あ、ありがとうございます!…なーんてな!」 命乞いを許した氷河期にリモートコントローラーは軍用マシンガンを取り出して氷河期に銃口を向ける。氷河期は更に新たな能力・時間凍結を発動した。 この能力は文字通り時間を凍結させ、自分のみが凍結された世界の中で行動出来る能力である。星屑のスタンド「ザ・ワールド」と効果は同一だが、ザ・ワールドの時間停止が11秒なのに対し、氷河期の場合は1度につき30秒停止出来る。 「ま、だろうと思ってたよ。お前さんの悪事は本日をもって終了だ。」 氷河期はゆっくりとリモートコントローラーの背後に回り、冷殺剣を右から左に振り払いその首を切断した。 切断面は凍りつき、血飛沫が舞うことはなかった。 「勝った…!俺は強くなった…!死神にも忍にも英霊にもスタンドにも魔術師にも劣らない力を手に入れた!やった、やったぞ…!」 勝利と、強力な力を手に入れた喜びが胸の内から溢れてくることを強く感じた。 同時に、仲間達に置いて行かれる様な孤独感から解放された。 止まらない高揚感を胸に、氷河期はモズグワへの帰路に着いた。 ロケット団幹部・リモートコントローラーを倒し、その一党を壊滅させた氷河期は団員の1人を脅迫して万事屋に連れ帰っていた。 氷河期と坂田銀時はその団員を縛り上げたまま万事屋の右隣にある廃工場に連行し全裸に剥いて木製の椅子に固定した。 「さあ情報を吐け。ロケット団の本部は何処にある!」 怒気を含めて脅迫する氷河期に団員は「それは口が裂けても言えねえ!」と涙ながらに訴えた。 「だとよ。出番だぜ銀時。」 「おう。それにしても大手柄だぜ氷河期!幹部の1人を倒して情報源を引き出してくるなんてな!お前を受け入れて正解だったぜ!」 氷河期に促された坂田銀時はカッターナイフを取り出して団員の睾丸に当てがった。 「待てよ…嘘だろオイ…!」 「キ◯タマ切り取られたくなかったらさっさと吐くんだな。」 銀時は本気である。声色からそれを察した団員はついに口を割った。 「ロケット団の本部…ボスの大沢様が居るアジトはこのモズグワの北東役50kmにあるウラジーミルにある!ウラジーミルに建っているカジノの地下だ!嘘じゃない本当だ!」 拷問から逃れようと必死になった団員はボスや組織への忠誠、そして仲間達のことなど忘れて簡単に口を割った。 「分かった。お前の言葉を信じるよ。」 坂田銀時は声色を優しく変えて団員に告げる。さ 氷河期は強くなりたいと強く願い、新たな力に目覚めた。 氷河期が新たに得た能力。 一つ目は「自由自在に液体化・気体化・固体化出来る能力」 フェンリル、ファフニール、ユニコーンといった強化形態を使わない通常状態時ですら絶対零度の温度で使用が可能。 敵から致命傷になる攻撃を受けても人間(又は変身形態である狼・龍・天馬)体から液体・固体・気体になることでダメージの無効化(再生)が可能。つまり無敵と考えてほぼ間違い無い。 絶対零度の威力をもった変化形態のまま攻撃も可能。 液体の場合は冷水を凝縮した水圧ブレードや球体攻撃から大寒波まで、固体の場合は氷柱レベルから惑星程の大きさの氷まで、気体の場合は等身大から全宇宙までと威力や範囲は様々。 氷河期自体は無論、人間の平均的大きさだが周囲の液体や気体を取り込み魔力又は科学の理論通りに冷気を加えて我が物とし、消費魔力によって雪だるま式に増えていく。 二つ目は「絶対魔眼」 使用時は頭髪と瞳の色が赤に染まる。視界に入った対象の弱点や隙、急所や念じた相手(有効範囲は10km)の位置を赤く表示し見分けることが出来る。微少な魔力で使用が可能。 三つ目は「時間凍結」 世界の時間を凍結・停止させ、自らのみがその中で行動を可能とする能力。星屑が持つスタンドの「ザ・ワールド」と同一の効果を持つ。 但し「ザ・ワールド」の有効時間は9秒(前に11秒と説明したが誤り)なのに対し、この「時間凍結」は今のところは30秒の時間停止が可能。 しかし、消費魔力が膨大であるという欠点がある。如何に魔力量が膨大な氷河期でも連続使用は厳しい。そこが連続使用出来る「ザ・ワールド」との違いである。 新たな技は「冷殺斬」 冷殺剣から冷気と魔力による斬撃を飛ばす技である。威力は消費魔力による。 能力説明が長くなったが話を続けよう。 氷河期が隣町から連行してきたロケット団員を更に廃工場に連行し、全裸に剥いて木製椅子に縛り付けて脅迫することで、氷河期と坂田銀時はロケット団の本部の位置を吐き出させることに成功した。 坂田銀時はそれでロケット団員を見逃すかのように思えたが… 「まずはこいつだ。」 柔和な笑顔の坂田銀時の表情は鬼の表情に変化した。手に持ったカッターナイフを団員の睾丸にあてがい、切れ目を入れて力を込め始めたのである。 許されたと安堵したロケット団員の表情が絶望に染まった。 「お、おい何でだよ!質問には答えたじゃねえか!帰してくれよ!ちょっまっやだ…!やめてくれええ!」 坂田銀時は許しを乞う団員を無視し、カッターナイフで団員の睾丸を切り取ってそれを見せつけた。 「お前さんの精子工場は本日をもって閉鎖だ。」 団員は激痛と睾丸を失った悲しみにより涙をその目から溢れさせている。 「お前さん、三国志は好きか?」 いきなり坂田銀時が三国志の話を始める。 「俺は魏の夏侯惇って武将が好きでねえ。彼は戦場で目を矢で射たれるんだが、親から貰った目を棄てるのは偲びねえっつって自分の目ん玉食うんだよ。」 「男だよねえ。男ならそうするよねえ。お前さんも夏侯惇にしてやろう。」 「食いなよ。両親から貰った陰嚢だ。」 坂田銀時は切り取った睾丸を団員の口に無理矢理押し込み飲み込ませた。 「銀時お前えげつねえな…」 見ていた氷河期も流石に少し引いた様子を見せる。 「無抵抗の街を襲うようなクズを生かして帰すわけねえだろバカ野郎。」 坂田銀時の返答に氷河期は態度を改め笑い始める。悪に対する怒りがそうさせるのだ。 翌日、そのロケット団員が付近の川で水死体として見つかり3人程の警察官が万事屋を訪ねてきたが、坂田銀時も氷河期もしらばっくれた為におとなしく引き上げていったという。 翌日、ロケット団員に吐き出させた本部の位置の真偽を確認すべく、坂田銀時はいかめしのテレポート能力でウラジーミルへ向かう為にアジトを発った。 現在万事屋とアジトを守るのは姫宮と氷河期の2人だった。 「ごめん下さい。」 姫宮と氷河期が2人で茶を啜りながら世間話をしているところ30代くらいの男女が訪ねて来た。 「なんや?依頼人?」 姫宮が口にするより先に氷河期が立ち上がり一階まで降りて戸を開けた。 「あの、此方が万事屋さんで間違いありませんか?」 女性の方が口を開き氷河期に確認する。オドオドした声色である。 「ああそうだよ。依頼でしょ?入って入って。」 氷河期が男女を2階の客間に通す。姫宮が4人分の茶を淹れてちゃぶ台の上に出した。 今回の依頼人はこの2人組の30代半ば程の夫婦。 彼らの話は次のような内容である。 この夫婦には1人娘が居た。年齢は9歳。現実世界の小学三年生にあたる。その娘が、何の前触れも無く殺された。犯人は面識も無い20代中盤の男である。 ある日の真昼間、事件は起こった。 男は突如休み時間中の学校の校庭に侵入し、刃渡り10cm程のナイフで次々と遊んでいる児童を突き刺していった。 悲鳴を上げながら逃げ惑う児童達にも追い縋り容赦無く殺戮は行われた。異変に気付いた教員10名程がが取り押さえんと立ち向かったがその内4名が刺された。 昼間の学校を襲った惨劇。氷河期が隣町でリモートコントローラーを倒した日にモズグワで起きた事件であり、氷河期も坂田銀時から事件の話は聞いていた。 死者は教員3名を含め計24名。意識不明の重体が教員1名を含め計5名。重傷が2名。 依頼人夫婦はこの死者24名の内の1人となってしまい犠牲となった女子児童の両親であった。 程なくして警察が駆けつけ犯人は確保されたが、精神鑑定の結果何と不起訴となった。 「私達の娘の未来は奪われたのに、あの男がのうのうと生きてるなんてどうしても許せない…!お願いします、あの男を十分苦しませた上で殺して下さい…!」 氷河期と姫宮は依頼金としての現金の束と事件の詳細や犯人の情報が載っている資料を受け取った。姫宮は金額を数える作業に入る。 「分かった。娘の、そして犠牲になった人々の命はこの氷河期が必ず取ってやる。大船に乗ったつもりで居てくれ。」 氷河期の笑顔に、夫婦は感極まって涙を流した。 モズグワの外れにある古びたアパートの一室で、その男は寝起きしていた。 名前は就活ステハン。工場で勤務している会社員だが、朝起きて1番にすることは洗顔でも食事でも無くビールを飲むこと。 「プハーッ!今日もビールがうめえ!」 ちゃぶ台にドンッと音が立つほど勢いよくグラスを置いた男は二口でビールを飲み干し、ようやく洗顔や歯磨きを始める。 不起訴処分という結果に終わってからというものの、この男はまるで自分が何をしても許されるという万能感に似たような感情を覚え、自分は無敵、最強という錯覚に捉われた。 きっかけはほんの些細なことだった。ある日道を歩いていると小学一年程の男子児童が鞄から教科書を落としたのを見かけたので、すぐ近くに居た就活ステハンは教科書を拾って男子児童に手渡してあげた。 しかし男子児童は礼も言わずに教科書を受け取り走って去っていってしまった。 男はこの男子児童に怒りを覚えた。 職場ではうだつが上がらず要領も悪く新人レベルの仕事を何年も続けている。同僚や上司からは「無能」「居なくてもいい存在」「早く辞めろ」と陰口を叩かれている。 知っているのである。中にはこれ見よがしにわざと聞こえるように陰口を叩いている輩も居るからである。男は毎日肩身の狭い思いをしながらやりたくもない仕事に従事しいたずらに日々を消費していた。 「どいつもこいつも、俺を見下しやがって…!」 就活ステハンの積もりに積もった感情が爆発した。その時に芽生えた狂気が、惨劇を引き起こしたのである。 事件を起こし釈放された日、男は独り満面の笑みでビールを3杯一気に飲み干した。今までの人生で最も充実していると感じた。 そんなある日、休日のことである。 就活ステハンを狙い襲撃してくる一味があった。就活ステハンにより殺害された児童達の父兄である。しかし就活ステハンは「南斗聖拳」の相伝者である。瞬く間に刃物や鈍器を持って襲い掛かる父兄達を返り討ち、半殺しにした。 「残念だったなぁ!?ガキまで殺されて仇も取れねぇでボコられて!あんなイイとこ学校にガキ入れて学歴や年収じゃオレより上かもしれんが最終的な人生レースじゃ俺の勝ちなんだよ!」 「俺の勝ちだァ!」 就活ステハンは今までの人生で溜まった鬱憤を晴らすように下卑た笑いを浮かべながら言い放った。 「姫宮、アンタの能力は就活ステハンと相性が悪い。俺1人で行くからその間に姫宮は拷問道具の準備をしていてくれ。」 「承知した。廃工場で待ってるぞ。」 姫宮とのやり取りの後、氷河期は万事屋を出て就活ステハンが起居しているアパートを目指した。 「此処か。」 モズグワの外れの住宅街に、他の一軒家から距離がありポツンと佇む古びたアパートに許すまじ悪鬼は居る。 氷河期は付近の路地で就活ステハンが職場からアパートへ帰宅する途中を襲撃する為に待ち伏せした。 かくして夜8時頃、その男は氷河期の予想通り現れた。草臥れた作業着を無造作に着用し、呑気にラ◯ライブの鼻歌を歌っている就活ステハンがアパートに向かってフラついた足取りで歩いている。 「冷殺斬!」 後に拷問する為にと、背後から殺さないように加減して冷殺剣から斬撃を飛ばす。しかし冷殺斬は加減している威力の為に就活ステハンの魔闘気で防がれてしまった。 「南斗獄屠拳」 氷河期に気づいた就活ステハンがその雰囲気格好からは想像もつかない程の速度で飛び蹴りを繰り出してくるが、高い動体視力を持つ氷河期はそれさえも回避した。 「時間凍結」 氷河期は新たに得た時間凍結の能力を発動、世界の時間を停止させた。 「ふん、雑魚が一丁前に反撃してきやがって。」 「絶対魔眼」 氷河期は冷殺剣に就活ステハンの魔闘気を超える魔力を込めてを男の四肢の腱を突き刺し潰す。更に絶対魔眼により就活ステハンの経絡秘孔を視界に赤点で映し出し、冷殺剣で突き潰す。 そして喉にある声帯に切れ目を入れて大声を上げることを不可能な状態にしてから用意していた台車に乗せると姫宮の待つ廃工場へと急ぎ駆け始めた。 時間凍結が解除され、自分の身に起こっていることを察するが、時すでに遅し。就活ステハンに抗する術は無かった。 氷河期に連行された就活ステハンは姫宮が待つ廃工場内で木製椅子に縄で縛り付けられ身動きの取れない状態にされた。 「姫宮、俺がやる。」 「おいおい、お前は初めてだろ氷河期。」 「だからこそだ。こんなゲス野郎は絶対に許さねえ。」 「…分かった。氷河期に任せる。」 姫宮の許可を得た氷河期は姫宮が用意していた刃渡り18cm程の包丁を取り出して就活ステハンに突きつけた。 「やってみろ、ビビるとでも思ってんのか、おい!お前らヤー公か?クズが!やってろよ?」 包丁を見せられても尚、就活ステハンは強がる。氷河期は無言で就活ステハンの右手の親指を切断する。 「あぁっ!?きかねぇなぁ、なんだそりゃあ!」 強がる就活ステハンだが、その表情は苦痛のために歪んでいた。氷河期は更に就活ステハンの人差し指、中指、薬指、小指と次々に切断した。 「どうせ遺族に頼まれてやってるんだろうが、俺には後悔も反省もねぇよ!ご苦労なこった!」 暴かれた就活ステハンの本性。氷河期は静かにその怒りを顔に表す。更に左手の指も全て切断する。 「俺には心のブレーキがねえんだよ!世の中の普通の人間ができないことが俺には出来るんだ!てめえら凡人とは違うんだよ!」 「アンタは自分に自信が無いから他人がやらないようなことをして、自分が他人より上なんだと思い込んでるだけなんだよ。アンタがやったことなんて頭も努力も要らない、誰にでも出来ることなんだよ。」 吼える就活ステハンに氷河期は吐き捨てる。 就活ステハンは氷河期に目玉や歯を刳り抜かれ、足の指も全て切断された。 「グギギ…もうごろじでぐれ(殺してくれ)…」 強がりも無くなり早く楽にしてくれと懇願する就活ステハン。 「駄目だねえ。もう少し苦しんでから死のうか?」 就活ステハンの願いも虚しく、氷河期による凄惨な拷問は継続された。 翌日、ドラム缶の中でコンクリートで固められた就活ステハンの遺体が付近の公園で発見され全国ニュースにて報道されたが、氷河期と姫宮はそれをテレビで見ながら呑気に茶を啜っていた。 いかめしと坂田銀時は拷問したロケット団員に吐かせた情報の真偽を確かめるべくウラジーミルに訪れていた。 カジノへ入ると金持ちやギャンブラーがスロットやルーレットで遊びながら熱狂しており騒がしい。 「確かカジノの地下とか言ってたな、あの団員は。」 坂田銀時は「ポケットモンスター赤・緑」をプレイしていた昔の記憶を頼りにまずはカジノ内のスイッチを探すことにした。 「あったぞ。銀時、これじゃないのか?」 カジノの東側の、壁で仕切られていて客から死角になっている奥の空間。そこの壁に如何にも怪しげな赤いスイッチが備え付けられていた。 「確かにそれっぽいな。奴ら、これで隠してるつもりなのか?」 坂田銀時はゲームの時と全く同じ構造を見てロケット団は馬鹿なのかと勘繰った。 「押してみるか?」 「ああ。そうしないと確認出来ない。」 「じゃあ、ポチッとな。」 いかめしがスイッチを押す。すると壁が動き出し、高さ2m、幅3m程の出入口が出現した。 「少し中に入って確かめてみるか。」 坂田銀時を先頭、いかめしは2番手として続き、2人はアジトへと足を踏み入れた。 「何者だ!お前ら!」 出入口から入るなり内部から見張っていた2人程の団員に早速発見されてしまった。 「仲間や幹部やらボスを呼ばれたらヤバい!やるぞいかめし!」 坂田銀時は「洞爺湖」と彫刻で彫られた木刀を腰から抜いて構えた。 「つっても雑魚ならすぐ終わるがな!」 いかめしは懐から針を取り出してそれを1人の団員の心臓に転送して死に至らせた。 「おら!」 団員が放った魔力によるビームを坂田銀時は木刀で斬り裂き、そのまま跳び上がり団員の脳天を叩き斬った。血と脳漿がぶち撒けられ、床にグロい死体が転がり落ちる。 「目的は果たした。帰って氷河期と姫宮に報せるぞ。」 いかめしのテレポートで2人は万事屋への帰路についた。 「ウラジーミルに奴らのアジトがある。あの団員の情報は本当だった。」 帰宅した坂田銀時は地下アジトでポケモンパンを食べながら氷河期と姫宮に事実を全て話した。横ではいかめしがいかめしを食べている。 「そうと分かれば早速実行した方がいいな。明日行くか?」 「奴らを滅ぼす日が1日でも遅くなればその分だけ犠牲者は増える。俺も賛成だ。」 氷河期と姫宮は早速明日にでもロケット団アジトを襲撃しようと提案した。 「いや、そうもいかねえ。帰り際奴らが馬鹿笑いしながら話していた内容を耳にしてな。明日はこのモズグワから北東に30km離れたザバリンを襲いに行くらしい。いくら略奪して何人の女を犯すか競争だとかほざいてやがった。」 いかめしが帰り際に団員達が話していた内容を思い出す。壁で仕切られていて互いに死角になっており、その団員達は大音量で音楽を流していた為に坂田銀時といかめしには気づかなかったようである。 「ガバガバ警備のアジトなんだな…リモートコントローラーの部隊が隣町を襲撃した時みたいな惨劇がまた繰り返されるのか。何としても止めなければならないな。なら尚更そうなる前にアジトを襲撃して滅ぼすべきじゃないのか?」 氷河期が至極もっともな意見を述べる。 「既に一部隊がザバリンに向かってるとのことだ。」 「それを早く言えよ!早速行くぞ!こうしてたら奴らがザバリンに到着しちまう!」 坂田銀時がもたらした情報が氷河期を即座に立ち上がらせた。 「そうだ。明日なんて悠長なことは言ってられねえんだ。今すぐ行くぞ。いかめし、頼んだ。」 坂田銀時が横でいかめしを食べているいかめしの食事を中止させてすぐに自分達を転送するよう指示を出した。 「まだ二つしか食ってないんだが…仕方ねえな。」 いかめしが箸を置いて立ち上がり念じる。するといかめし含めた4人はその場から姿を消した。 ロケット団幹部・ダンガイオー率いるロケット団の部隊はザバリン目指して進軍していた。その数、500。 ロケット団は1人1人が魔力を持っており、一般住民には抗する術は無い。 加えてクーデターを成功させ急速に勢力を拡大したアティークのペルシャ帝国を警戒して国境に正規兵の殆どを派遣している為、裏で活動していたロケット団がついに表に出始めたのである。 ロケット団は街々を襲い乱暴狼藉略奪強姦を繰り返し、その影響力を強めている。 このダンガイオー率いる部隊もザバリンで略奪を行う為に出立した謂わば悪魔の軍勢だった。 「ダンガイオー様、後4km程でザバリンに到着致します。」 雪が降り頻る真冬の雪道で、ダンガイオーの部隊は休憩を取っている。 「ポケモンなどつまらん。香具師のやるゲームだ。」 「はっ…?今何と?」 「何でもない。そろそろ進軍を再開するぞ。」 下っ端相手に呟くが意味など通じる筈は無い。 「ところがギッチョン!そうはさせねえぜ!」 ダンガイオーが腰を掛けていた床几から立ち上がった瞬間、4人組の男が突然ダンガイオーの目の前に現れた。 「…何だてめえら。この俺をロケット団幹部のダンガイオーと知っての狼藉か?」 「知ってるからこそだよ。お前らがこれからやろうとしてることは洩れ聞いてんだ。此処でお前を排除して邪な野望を消し去ってやる。」 ダンガイオーの睨みを効かせた静かな威嚇に氷河期は怯まず剣を抜く。 「成る程、正義感気取りの馬鹿か。過去にもそういう奴が何人か居たが例外無く始末してやった。身の程を弁えるがいい、塵共。」 「ダンガイオー様自らが闘うぞ!総員退避!」 ダンガイオーの副官の下知により他の団員達は後方へと退避していった。 「ダンガイオーは俺が殺る。3人は雑魚を頼む。」 氷河期は後ろの坂田銀時、姫宮、いかめしに言った。 「…無茶すんなよ。」 「俺は新たな力を手に入れた。誰にも負ける気がしねえ。」 坂田銀時は氷河期の返事を受け取ると他の2人に目配せする。3人はいかめしのテレポートで後方へと退避していったロケット団員達の掃討に向かった。 「追わせねえぜ?てめえの相手はこの氷河期様だ。」 「冷殺剣」 氷河期は剣に魔力と冷気を纏わせて強化する。 「冷殺斬」 そして冷殺剣から冷気の斬撃をダンガイオーに飛ばす。しかしダンガイオーは右腕を瘴気を纏った黒い金属状の物質に変化させて斬撃を防いだ。 「俺の能力、冥土の土産に見せてやる。」 ダンガイオーの全身が右腕と同じ形質、姿に変化し、大量の瘴気を放つ。 「妙な姿になったな。だがさっきの冷殺斬は全く本気を出してない攻撃だ。俺も能力を少し解放する。」 「我は鋼なり、鋼故に怯まず、鋼故に惑わず、一度敵に逢うては一切合切の躊躇無く。これを滅ぼす凶器なり。鉄血転化!」 氷河期の頭髪や瞳が赤く染まり、全身に赤い紋様が浮かび上がる。 「絶対魔眼!」 氷河期は更にリモートコントローラーとの闘いで得た新たな能力「絶対魔眼」を発動する。 「成る程、そこがお前のコアか。」 氷河期は絶対魔眼により変形したダンガイオーの体内にある赤く輝くコアの位置を特定した。 「コアを特定したところでてめえは俺には勝てねえよ!」 ダンガイオーが掌から赤いビームを氷河期に向けて射出する。 「冷却砲!」 氷河期も右手の掌から冷却砲を放出して応戦する。赤いビームと冷却砲は衝突し、冷却砲が赤いビームを押し退けてダンガイオーを飲みこむ。 「大したことねえな。じゃ、コアを砕かせてもらうぜ。」 氷河期は冷殺剣を氷漬けになったダンガイオーのコアがある左胸目掛けて突き出す。しかしダンガイオーを覆う黒い装甲が阻んだ。 「硬すぎだろ、何だこりゃあ!?」 「水や寒さに弱いという弱点を完全に克服し、更に瘴気や金属だけでは無く膨大な量の魔力やクシャルダオラの鋼皮を取り込むことで原作のそれなど塵に等しいと言える程強化された俺の力を侮るな。」 全身から赤いビームを他方位に放ち氷を突き破ったダンガイオーが出現する。 「やっぱりか。お前のその能力はネウロイ化か。」 「そうだ。俺は最強のネウロイだ!」 ダンガイオーが全身から氷河期に向けて極太の赤いビームを放出する。 「冷殺斬!」 氷河期が放った斬撃とダンガイオーのビームは相殺されて消し飛んだ。 「偉そうに能書き垂れる割には大したことねえな。同じビームでも虚閃(セロ)や浪漫砲台パンプキンやゴッドハンドの方が全然強かったぜ?俺は今全然本気出してないしな。」 氷河期は過去に戦った相手の方がずっと強かったとダンガイオーを挑発する。 「俺が本気だとでも思ってるのか?」 ダンガイオーはビームを射出するのと同じ原理でビームサーベルを作り出して両手で構える。 「行くぞ氷河期とやら!」 ダンガイオーがビームサーベルを振り翳して氷河期に接近戦を挑む。 「エイジストラッシュ」 氷河期がダンガイオーの視界から姿を消し、冷殺剣による目にも留まらぬ高速剣撃でダンガイオーの全身を斬り刻む。 「手応えあり。相当のダメージだな。」 ダンガイオーの全身は氷河期のエイジストラッシュにより深く抉られた傷が無数に出来ていた。 「馬鹿め。ネウロイはコアを破壊されない限り何度でも再生するのだ!」 ダンガイオーに刻み付けられた傷は瞬く間に再生されてしまう。 「チッ、メンドくせえ野郎だ。冷殺斬!」 「ビームスラッシュ!」 氷河期の冷殺斬に対し、ダンガイオーはビームサーベルから赤い斬撃を飛ばして対抗する。二つの技がぶつかり合い、またしても相殺された。 「エターナルフォースブリザード…!」 全身から絶対零度の冷気を全方位広範囲に放出する。辺り一面が氷河期を除いて全て凍りつき、北極や南極と見紛う景色に変わり果てた。 「なんつー威力だ。こんな強い奴と戦ったことなんてねえぞ!」 全身から瘴気を発してネウロイダンガイオーは自らを覆い尽くした氷塊を破壊し脱出する。 「喰らえ!」 ダンガイオーが赤いビームサーベルを凍った地面に突き刺す。するとダンガイオーの眼前至近距離から氷河期に向かってビームが地から無数に噴出し始める。 「何だよこいつぁ!」 氷河期は俊敏な高速移動でビームを回避し続けるが氷河期を追って何処までも噴出するビームの内一筋がついに氷河期に直撃した。 「ビンゴ!こいつもおまけしてやんよ!」 ダンガイオーの体からいくつかの部位が分離され、それぞれの意思を持って動き始める。所謂小型ネウロイである。 ダンガイオー自身と5機程の小型ネウロイが氷河期を取り囲み一斉にビームを放つ。 「フェンリル」 膨大な魔力と冷気が氷河期を覆い、狼の姿に変化する。 「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」 狼と化した氷河期の咆哮が全てのビームを音圧でク_砲Ⅹ辰靴討靴泙Α9垢肪鰐未・虧疑瑤寮蹐辰辛甲譴・・犬憩┐河任・・織優Ε蹈い鯀瓦栃敢奸▲瀬鵐・ぅ・室・箸了融茲鬚盍咾・・br> 「まだそんな奥の手があったのかよ…ならこっちも…!」 ダンガイオーの体を赤い魔力のオーラによる火柱が覆い、赤い目や体の紋様が浮かび上がる。 「俺にこの形態を使わせたのはお前が初めてだ!」 ダンガイオーがビームサーベルを振り下ろす。氷河期には回避されたが、地平線の彼方までその巨大な斬撃は届き、有効範囲にある全ての物を破壊し尽くした。 「氷の千本槍(サウザンド・ブリザードランス)」 氷河期は冷気を固めて千本の槍を瞬時に作り出してダンガイオーに向けて次々に射出した。 「効かねえなあ!」 ダンガイオーは自身の正面に魔法陣らしき形状のシールドを展開して千本の氷の槍を防ぐ。 「光線の雨(ビーム・レイン)!」 ダンガイオーは掌から極太のビームを天に向かって打ち上げ、そのビームが空中で無数に分かれて雨の様に氷河期へと降り注ぐ。 無数のビームを次々に被弾する氷河期。しかし氷河期は新たに得た力「氷河期(アイスエイジ)」により気体化して無傷のままやり過ごした。 「無想・樹海浸殺」 リモートコントローラーとの戦闘により氷河期自身の元々膨大な魔力が更に倍増されている。大幅に強化された禁忌の精霊術が気体から狼の姿に戻った氷河期から繰り出される。 以前までの同じ技とは桁違い。そう言っても過言ではない程の無数の樹木が氷地を裂いて現れダンガイオーに襲い掛かる。 「消えろ!」 ダンガイオーはビームを射出して樹木を消し飛ばそうと図る。しかしビームを受けても無傷の樹木がついにダンガイオーの全身に巻き付き覆い尽くしてしまった。更に、巻き付いた樹木から強固かつ鋭利な枝が無数に生え分かれ、ダンガイオーの全身を突き刺し串刺しにした。 「禁忌精霊術は更に強化された。お前の魔力を貰うぞ。」 ダンガイオーを串刺しにした枝から樹木を伝い、氷河期はダンガイオーの魔力や体力、エネルギーを全て吸収してしまった。 「ビームが…出せねえ!」 全てのエネルギーを氷河期に吸収されたダンガイオーは身動きも出来ず、最早為す術など無かった。 「冷却砲」 狼の姿の氷河期が跳躍し、ダンガイオーの頭上から冷却砲を放出、冷却砲はダンガイオーの装甲を貫きコアを破壊した。 「ちく…しょう…」 それがダンガイオーの最後の言葉だった。コアを破壊されたダンガイオーの体は無数の光の粒となりやがて消滅した。 「ロケット団幹部も大したことねえな。」 否、氷河期が強くなり過ぎたのである。 氷河期がネウロイ化したダンガイオーを倒した頃、坂田銀時、姫宮、いかめしは500人のロケット団員を何と殲滅していた。 「俺のテレポート能力で針を敵の心臓に転送しその針をまたテレポートさせて回収を繰り返す、その間姫宮の幻想殺しや銀時の剣術で俺を守る。完璧なフォーメーションだ。雑魚に対してはな。」 いかめしが能力を有効活用したことによる勝利である。 ロケット団員500人の死体の山が連なり、彼らが吐いた血で雪道は赤く染まっている。 「そっちも終わったようだな。」 ダンガイオーを倒した氷河期が3人に追いついていた。 「ああ、氷河期も早いな。」 息切れ一つ見せない坂田銀時があまりに早い幹部討伐に少し驚く。 「雑魚だったからな。やっぱ俺最強だわ。新たな力に目覚め全体的に強化された俺に勝てる奴が居る気がしねえ。」 氷河期は圧倒的な力を手に入れた。今の氷河期を倒せる能力者はこの世界にそうは居ない。 「油断すんな。これからボスが居る本部に殴り込みに行くんだからな。」 「敵が誰だろうが関係ねえ。邪魔する奴は皆殺しだ。」 坂田銀時の言葉を受け流し氷河期は自信を全面に出す。 「いかめし、頼むぞ。」 姫宮が2人のやり取りにキリが無いと判断しいかめしに促す。 「ああ。さっさと全部終わらせるぜ。氷河期にはまだ先があるんだからな。」 いかめしの言葉の意味。それは氷河期にはロケット団を倒しオロシャ帝国の平和を取り戻した後もアティーク率いるペルシャ帝国との戦いが待っているということである。 「分かってる。俺の力で世界から痛みを無くしてやる!」 4人はいかめしのテレポートでロケット団の本部を目指した。 定休日であり、カジノは閉店にされており、当然店の扉は固く閉ざされていた。 「扉は閉まってるぜ。」 姫宮が扉を開けようと力を入れてもビクともしない。 「どけ姫宮、こんなのはな、こうするんだよ!」 氷河期が背中の二本の槍を引き抜いて魔力を込めて扉に突き刺すと、扉は魔力による冷気爆発で吹き飛ばされた。 「流石は最強騎士氷河期様だな。」 坂田銀時が冷やかす。 「無駄話をしてる暇は無いぜ。これからボスをぶっ殺しに行くんだからな。」 「ようこそ我がロケット団のアジトへ!」 氷河期が先を急ごうと足を踏み入れる。すると休業中のカジノ店内で行儀悪く足を組んで座りながら一行を待ち受ける男の姿が。黒いローブを見に纏い、刀を腰に帯びて魔法の杖を持つ変わった風貌をしている。首には金の輪を意匠した黒い宝石コキュートスの付いたペンダントを下げている。 「てめえ、俺らのこと知ってやがってたのか。」 恐らくロケット団の幹部であろう。いかめしが確認した。 「氷河期の情報はリモートコントローラーの部隊に居た団員から聞いてるからな。亡国ガルガイドの最強騎士がこんなところに来るとは思わなかったが。」 「正直予定を狂わされたよ。アティークが平和主義のグリーン王国を滅ぼしてペルシャ帝国を築いたことでこのオロシャ帝国も、ペルシャ帝国警戒の為に兵を割いているからやり放題だと思ったが、てめえみたいな強い奴に流れつかれると邪魔なことこの上ない。現にリモートコントローラーとダンガイオーはてめえに消されたしな。」 「っつーことで氷河期。てめえはこのロケット団幹部・灼眼のルイズ様が消してやる!」 灼眼のルイズの髪と瞳の色が炎髪灼眼、つまり赤色に染まる。抜刀した刀は炎を纏い、術式と思われるカジノ全体に広がる巨大な魔法陣が周囲に現れる。 「てめえだけは生きて帰さねえ。行くぞ!」 炎を纏った刀で氷河期に斬りかかる。 「冷殺剣」 氷河期も剣に冷気と魔力を込めて強化し、灼眼のルイズに応戦する。 フレイムヘイズの力の行使を発動した灼眼のルイズは夜笠と呼ばれる黒い衣を身につけ、大太刀型宝具「贄殿遮那」を振りかざして氷河期に襲い掛かる。 「冷殺斬!」 氷河期が灼眼のルイズに冷気による斬撃を冷殺剣から飛ばす。 「飛焔!」 灼眼のルイズは炎の斬撃を贄殿遮那から飛ばす。 二つの斬撃は互いに蒸発して相殺された。 「真紅!」 斬撃が相殺されたところで間を置かず灼眼のルイズが左腕から腕を象った巨大な炎を繰り出し氷河期にぶつけようと突き出す。 「氷の壁(ジエロ・ムーロ)」 氷河期が炎の腕を氷の壁で防ぐ。圧倒的強度を誇る氷の壁は灼眼のルイズの真紅を一方的に無効化し、その冷気で掻き消した。 「てめえの仲間から奪った力だぜ。数倍返しにしてやんよ!」 氷河期の剣先からネウロイのビームが放射される。灼眼のルイズは「紅蓮の双翼」を背中に展開して飛行することでビームを回避する。 「てめえ、ダンガイオーの技を…」 「ああ。吸収させてもらった!お前の力もすぐに頂くぞ!」 一度は回避した灼眼のルイズだが、氷河期が繰り出したネウロイのビームは追尾能力が付加されており、何度も回避し続ける灼眼のルイズ目掛けて幾度も軌道を変えて追い続ける。 「ビームに気を取られ過ぎだ。輝く流星の矢(スターライトアロー)!」 ビームの回避を必死に続け防戦一方になる灼眼のルイズの頭上に高速移動し、光の弓を展開させて雨の様な光の矢を降り注がせる。 灼眼のルイズは回避し切れずに無数の光の矢とネウロイのビームをその身に受ける。 「エクスプロージョン!」 贄殿遮那を一時的に消滅させて魔法の杖に持ち替えた灼眼のルイズが虚無の魔法による大爆発を発生させ、ネウロイのビームと光の矢を消し飛ばした。 「オラアアアアアアアア!」 右手に宿る力「幻想殺し(イマジンブレイカー)」により虚無の魔法を無効化した姫宮が渾身の力で灼眼のルイズを殴りつけた。 「この国はてめえらの好きにはさせねえ!もしこの国をてめえらの物にするって言うなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!」 横から割り込んだ姫宮の渾身のパンチ(通称・男女平等パンチ)により、灼眼のルイズの体は吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。 「幻想殺しかよ!レベル0が調子に乗ってんじゃねえぞ!」 贄殿遮那に持ち替えた灼眼のルイズが姫宮に炎の斬撃「飛焔」を飛ばす。 「冷殺斬」 姫宮に気を取られている灼眼のルイズに氷河期が冷殺斬の斬撃を剣に纏わせたまま斬りかかる。 灼眼のルイズは慌てて贄殿遮那を横に払い氷河期の斬撃を鍔迫り合いの格好で防ぐ。 「知らねえだろうが冷殺斬は鍔迫り合いの状態からでも放てるんだよ!」 冷気の斬撃が灼眼のルイズを斬り裂く。更に半身を凍らされた灼眼のルイズの横っ面に姫宮のストレートが炸裂し吹っ飛ばされて壁に叩きつけられる。 「横槍入れてんじゃねえぞレベル0がァ!」 姫宮の横槍に憤怒する灼眼のルイズ。 「難儀だなしゃるい、2人を相手にするってのは。俺も経験したが俺はもっと善戦したがな!」 氷河期が冷却砲を剣先から灼眼のルイズに放つ。灼眼のルイズは贄殿遮那の炎で氷を溶かし、紅蓮の双翼による飛行で間一髪で回避する。 「断罪!」 多量に噴出した炎を押し固めた贄殿遮那による一撃が氷河期を捉える。 「ビームサーベル」 ダンガイオーから奪ったネウロイの力。ビームを押し固めて絶大な威力を誇り赤く輝くビームサーベルを作り出す。 ビームサーベルで灼眼のルイズの断罪を斬り裂き、そのまま贄殿遮那を握る右腕を切断した。 「俺の腕が……!」 切断された右腕は贄殿遮那と共に床に転がり落ちた。遮那のルイズの肘の切断面から止め処なく血が流れ、煌びやかなカジノ店内に赤い花を添える様に彩る。 「仲間の技を敵が使うってのはあまり気分が良くねえ。それにこの腕の落とし前も合わせてどうつけてやろうか?アァン?」」 「何故気分が良くないのか当ててやる。仲間の技で追い詰められれば自分はその仲間より弱いという現実をつきつけられるからだろう?」 氷河期が嘲笑を浮かべながら灼眼のルイズを挑発する。 「俺がダンガイオーより劣ってるって言いてえのかよ。じゃあてめえを殺してそれを覆さなきゃなんねえなぁ!」 魔法の杖に持ち替えた灼眼のルイズが魔法陣を展開する。 「ウル・スリサーズ・アンスール・ケン…」 灼眼のルイズが魔術発動の詠唱を唱え始めたところで氷河期が放ったビームが右の肺を貫いた。 「そんな長い詠唱言ってる間に攻撃されないと思ってんのか?俺はアニメや漫画のキャラみてえに優しくねえから空気は読まねえぜ?」 肺を貫かれ呼吸困難に陥った灼眼のルイズが床に膝をつき、苦しみによる声にならない悲鳴を上げる。残った左腕で傷をもがく様に抑え、何を考えたのか氷河期にその手を救いを求める様に差し伸ばす。 「俺は敵には容赦しない性格(タチ)でねえ。お前さんの力を奪い取って、ロケット団をぶっ潰してやる。」 命乞いに走り床に這い蹲る灼眼のルイズに氷河期による「無想・樹海浸殺」がその命を狩りにカジノの床やルーレットを破壊しながら伸び進んでいく。 灼眼のルイズは全身を鋭利な樹木の枝で突き刺され、その力の一切を氷河期に吸収されて完全にこときれた。 「お前さんの組織は本日をもって閉鎖だ。」 氷河期はそう吐き捨てると、灼眼のルイズの死体を冷気で氷漬けにしてから粉々に拳で砕いてしまった。 「上の方で騒がしいと思って駆けつけてみたらこのザマか」 地下アジトの隠し扉が開かれ、ボスと思しき男の声が死角となっている壁の向こうから聞こえてくる。 コツ、コツと、フォーマルブーツが床を踏む音が氷河期達に近づいてくる。姿を現したのは外見年齢20代後半程の黒いスーツを着こなし、如何にもな悪人面を見せる男だった。 「我がロケット団の幹部は全員倒されたか。実に使えない奴らだ。目をかけてやったというのに、所詮は4人合わせても俺1人の足下にも及ばないゴミ共だったというわけだ。」 男は死んでいった部下のことを悲しむどころか非情な言葉で切り捨てた。如何にも悪の組織のボスである。 「てめえがロケット団のボスか?」 口を開いたのは氷河期である。男から感じる今まで闘ったどの相手にも無い禍々しく強大な魔力が氷河期の身を震わせた。 (こいつは……霊圧やチャクラや気なんて生易しいもんじゃねえ……こうしてるだけで息が詰まるかのようだぜ) 冷や汗が滲み出る。体の震えが止まらない。初めて肌で感じる真の「恐怖」であった。 「そう、俺がロケット団ボスの大沢だ。ゴミとはいえ能力者の中ではそこそこのを集めたつもりの幹部達を見事に全員倒した氷河期よ。俺の部下にならないか?」 「何だと?」 大沢はまず氷河期を攻撃することをせずに何とロケット団への勧誘をし始めた。 「こんな使えないゴミ共ではなくお前の様な強者こそロケット団の幹部に相応しい。なに、勿論タダでとは言わん。好きなだけ報酬を出すし、好きなだけ上玉の女を抱かせてやる。欲しい物を全て手に入れる力がお前にはある。正義漢気取りの禁欲人生から今こそ己の本能を解き放ってみないか?」 大沢はニヤリと悪い笑みを浮かべて氷河期に誘いをかける。 「なら一つ頼みがあるぜ」 「何だ?何でも言ってみろ」 「昔強奪した俺のトゲキッス返せよ」 大沢の提案に、氷河期は昔ポケガイで大沢が強奪したトゲキッスを返せと迫った。 「返してやりたいのは山々だが、生憎ポケモンのデータは消えてしまってな」 「何だと?データが消えた?」 ひとの ポケモンを とるのは どろぼう ! ポケモンのゲームでトレーナーのポケモンにボールを投げようとすると表示される文であるが、氷河期は手塩にかけて育成したトゲキッスを自分から強奪して悪怯れもしない大沢に恐怖を通り越して怒りを覚えた。 「そう睨むな氷河期よ。あれは俺が現実世界で大学受験を控えていた高3のある日のことだ。俺は勉強に身が入らずポケモンばかりプレイしていた。ある日学校から帰っていつものように3DSを起動した時、俺はこの目に映った現実を受け入れられずに目を疑ったよ」 「何とメニューから『つづきからはじめる』が消えていた。あれはパニックになり動悸が起こり過呼吸と眩暈を引き起こした。現実を呑み込んだ俺は号泣した。まさに『めのまえが まっしろに なった !』だな」 「そして明かされた驚愕の真実!勉強に身が入らずにポケモンにハマっていた俺を見かねて母親が俺のポケモンのデータを消去したとのことだった!」 「俺が数年かけて育成した数百体のポケモン……2000を超えたレート……バトルハウス200連勝……全てがパーになった……!こんなことがあってたまるか!そう思った俺は自ら命を絶ち、この二次元世界への転生を果たした!最強の力を得てな!」 要約すれば、大沢は母親にポケモンのデータを消されたので強奪したトゲキッスは氷河期に返還出来ないという、それだけのことをこの男は熱弁したのである。 「人のポケモンを奪ったら泥棒だぜ大沢ァ!」 「だから泥棒なんだよ俺はァ!ロケット団は泥棒組織だ!」 もうトゲキッスは戻ってこない。氷河期は心底から大沢に憎しみを抱いた。大沢はそれに対して見事に開き直る。 「大沢、トゲキッスが戻って来ないならもう一つ欲しい物があるんだ。」 「ああ。ポケモン以外の物なら何でも言ってみろ。」 氷河期は一旦落ち着いた風を装い大沢に要求を宣言する。 「ありがとう。俺が欲しいのは……」 氷河期の左手の掌から虚無の魔法「エクスプロージョン」による大爆発が巻き起こる。カジノは綺麗に消し飛ばされ、更地にされてしまった。 「てめえの命だよ」 殺気立った表情の氷河期が大沢への殺意を明確に表した。 爆炎と爆風を黒い魔力で吹き飛ばした大沢が現れる。 「交渉決裂だな。お前は是非部下にしたかったんだがな」 「俺の野望を阻むのであれば、そこに老若男女や有名無名コテの別は無い!最強たる俺の力でお前をDNAの一欠片すら残さず消し去ってやる!」 大沢の瞳が黒に縁取られた紫に染まり、背中には悪魔の翼が生える。 更に背後には身体は黒く、顔に黒と黄色の縞模様、右足が黒耀石の鏡といった姿の神が顕現する。 「テスカトリポカよ!俺に力を!」 テスカトリポカ。神々の中で最も大きな力を持つとされ、キリスト教の宣教師たちによって悪魔とされた。Tezcatlipoca は、ナワトル語で tezcatl (鏡)、poca (煙る)という言葉から成り、従ってその名は「煙を吐く鏡」を意味する。鏡とは、メソアメリカ一帯で儀式に使用された黒曜石の鏡のことを示す。 テスカトリポカの力を引き出した大沢の全身からは膨大な黒い魔力が溢れ出始める。距離をとっても寒気を覚える邪悪な神の力が表に出たのである。 「神の代行者ってやつか」 アティークの能力について氷河期は風の噂で情報を得ている。神と契約し、神の力を扱う神の代行者。その力は上位能力者すらも遥かに凌駕する。神の代行者には神の代行者か、神に類する力を持った者でなければ抗する術は無いということも。 「知ってるようだな。まあ知ったところでだからどうしたって話だが。だってお前はこれから……」 大沢が全身から大地へと魔力を注ぎ込む。 「此処で死ぬんだからなァ!」 魔力を帯びた鋭利な黒曜石が大地から無数に現れ、氷河期を股から串刺しにせんと伸びていく。 (速い!) 回避する前に氷河期の体は三つ程の黒曜石に股や太腿から脳天や脇、肩を貫かれた。 「素直にロケット団に入っておけば良かったものを」 吐き捨てた後に大沢は異常な寒さを感じ始めた。 「氷河期(アイスエイジ)」 気体化してダメージを無効にした氷河期がそのまま冷気を魔力と待機中の水分を取り込んで増幅させて大沢を取り巻く。 「極寒の大紅蓮地獄にその身を晒して凍え死ね」 絶対零度の冷気が大沢の体内に入り込み、器官や血液を凍てつかせていく。 「己自身を絶対零度の気体とすることで受けたダメージを無にし、強力な攻撃も可能な攻防一体の形態変化か、しかしだな……」 大沢は「血液や臓器を凍らされた」という現象を黒曜石の鏡の力で氷河期に反射した。 しかし氷河期は気体化状態なのでその反射は逆に氷河期の冷気を増大させる結果に繋がり、以降その応酬のループとなった。 「ロケット団の大沢、人から奪って災厄を撒き散らすこの世の害悪!この世の全てが自分の思い通りになると思ってやがる。その幻想をぶち殺す!」 ループを止めたの姫宮の幻想殺し(イマジンブレイカー)だった。彼はいかめしのテレポートの能力により大沢の背後に移動、大沢の体の一部である黒曜石に触れて反射能力を無力化した。 「邪魔をするな、蠅共」 大沢は闇の光線を胸から放出し2人を抹殺せんとするが、テレポートにより逃してしまった。 「お前は自ら増幅させた俺の力で凍て付かされて朽ち果てる」 気体化した氷河期から発せられるエコーのかかった声。大沢は今度こそ為す術も無く内外から凍て付かされて体内と体外を氷で満たされた等身大の氷像と化した。 「絶対零度の冷気だ。新たな力を得て強くなった俺の前では神すら霞む」 「そもそも神であるからこそ限界がある。神とは所詮それにすがらねばなら生きていけない弱き人間が創り出した偶像であり妄想」 「その偶像や妄想に妄執し何の疑いも持たず、理も無く跪く人間の姿は愚かと言う他無い」 「故に神に人が勝てない道理など無く、神が人より上だという道理も存在しない」 「終わりだ大沢。そこで極寒の地獄を味わい閻魔に断罪されるがいい。それがお前に出来る贖罪だ」 氷河期はそう言い捨てると人間体に戻り、その場を後にしようと大沢だった氷像に背を向けた。その時である。 「!?」 氷河期は目を見開き、口から溢れ出る血を止められずに滝の如く流し始める。氷河期の内臓を背後から発射された闇の光線が貫いたのだ。 「油断禁物、敵に安易に背を見せるなと親から教わらなかったのか?哀れな奴だ」 体内外の氷を闇の力により消滅させていた大沢が放った光線だった。 「神は妄想の具現化ではない。少なくともこの世界には確かに存在する。何せ現に俺は神の力を使っている」 大沢が黒曜石で出来た大剣を生成して氷河期の脳天目掛けて振り下ろす。 金属音が辺りに鳴り響く。氷河期が冷殺剣で大沢の黒曜石剣を防いだのである。 「冷殺斬」 鍔迫り合いの状態で氷河期が冷殺斬を放つ。 「そんなチャチな斬撃が神に通じる筈が無いだろう!」 大沢が纏う闇の魔力により冷殺斬は消滅する。 「後ろに控えるお前の仲間、全員邪魔だな!」 「regir(支配)」 大沢が視線を坂田銀時、姫宮、いかめしに向けると、3人の顔にテスカトリポカの仮面の様な紋章が浮かび上がる。 「こいつらは文字通り俺に支配された。氷河期を殺せ!」 大沢の能力により洗脳された坂田銀時と姫宮が一斉に氷河期に襲い掛かる。 「洗脳能力……!どうやったら解除出来るんだ!」 氷河期は木刀による剣撃を仕掛けてくる坂田銀時と殴りかかってくる姫宮を1人で捌きながら考えを凝らした。 「解除?お前には無理だ。俺の支配は発動すれば俺が死ぬか、俺の意思でしか解除出来ない。」 大沢は仲間同士で殺し合う様を見ながら高みの見物を決め込んでいる。 「さあ仲間同士で殺し合え!俺に最高のショーを見せてくれ!信頼出来る筈の仲間同士が殺し合う光景は実に痛快だ!」 (心根から腐ってやがる。いや、待てよ?) 氷河期は何か閃いたようである。姫宮と坂田銀時に自らを挟み打ちになるような位置に立って攻撃してくるように仕掛け、姫宮の右拳を俊敏な動きで回避する。 (これでまず銀時の洗脳が解かれる筈……!) 姫宮の幻想殺し(イマジンブレイカー)を逆手に取った氷河期の作戦だったが、それは見事に阻止された。 いかめしがテレポートにより坂田銀時をワープさせて距離を取ったのである。 「おいお前ら、目を覚ませよ!俺だ!氷河期だ!」 だが、氷河期の声が3人に届くことはない。これこそ大沢の能力の一つ「支配」である。 「更に俺の力を見せてやる!」 「不和!」 大沢が能力名を口にすることで能力は発動する。大沢に「支配」されているいかめしがテレポート能力で針を坂田銀時の心臓に転送して殺害させたのだ。 坂田銀時は一言も発することなく吐血し俯せに倒れた。 「銀時?おい嘘だろ銀時ィィィ!!」 氷河期は銀時の名を呼ぶが、既に息の根を止められた坂田銀時が応える筈も無い。 「てめえ何しやがった!」 「いいねえその顔!最高だ!俺の血を湧き立たせるその憎しみに歪んだ畜生の表情!俺のこの不和の能力は指定した者に指定した対象に強制的に強い憎悪の念を抱かせる!坂田銀時は仲間であるいかめしに憎まれて殺されたんだよ!」 大沢が応え終わった瞬間、大沢の胴体は高速で斬り裂かれた。 「やっぱてめえはこの世に存在しちゃいけねえ悪だ。臭すぎんだよ。ゲロ以下の臭いがプンプンしやがる!」 氷河期の目にも止まらの高速剣技だった。 「ゲロ以下の悪だと?お前のことは調べがついてるぞ氷河期!お前も仲間殺しをした悪人だろう?リキッドは浮かばれんなあ!」 大沢の体は再生されてしまった。そして何故かその瞬間にいかめしの体が真っ二つに切り裂かれた。いかめしの体の一部である黒曜石の鏡に宿る能力で、自分が受けたダメージを指定した対象に移すというものである。 「リキッドとは信念を賭けて闘った。てめえは自らの欲望の為だけに動いてるだけだ。一緒にすんなゲス野郎!いかめしと銀時の仇を取ってやる!」 「いや、違わないな。俺にも人間に生まれたからには欲望の為だけに生き手段を選ばないという信念がある。お前が独り善がりに振り翳して己に酔っていた騎士道という信念と何ら変わりは無い!」 「黙れ……!」 騎士道を貫きリキッドを闘いの末に殺したかつての誤ちを突き付けられ、氷河期は言い返すことが出来ず感情に任せて呟く。 「お前の騎士道は自分の騎士でありたいという欲望を満たす為のものに過ぎなかった。お前はその手で欲望の為に仲間や民を苦しめ殺したのだ!」 「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェ!」 大沢の挑発に乗せられた氷河期が大沢に冷殺斬で斬りかかる。 「分かりやすい奴だ!」 大沢の闇魔術による暗黒の魔力弾が氷河期にぶつけられた。 暗黒弾を被弾した氷河期だが、変化能力「フェンリル」により狼と化して暗黒弾を鋭い爪で斬り裂いていた。 「お前と全力で闘えば俺の為の金や女がこの世界から消え去りそうだ。この力を使う!」 「夜空(ノーチェシエロ)」 大沢の指先から黒い闇の光が果てしなく広がり、異空間が形成されて外の世界と完全に遮断された。 「俺の能力の一つ、夜空(ノーチェシエロ)は外界と完全と完全に遮断された夜の世界を創り出す!これで心置きなく全力でお前を殺せるというものだ!」 大沢が掌の上に惑星と同じ大きさの暗黒弾を一瞬で作り上げた。 「さらばだ哀れな騎士よ!」 暗黒弾を氷河期に投げつける。しかし氷河期はその口腔に莫大な魔力を集めて暗黒の弾の倍の大きさの氷塊を作り出して暗黒弾を質量と魔力で掻き消し、大沢本体をも押し潰した。 大沢を押し潰した氷塊は氷河期の意思により粉々に砕けて消滅する。しかし冷水となった氷塊が大津波となって大沢のバラバラになった圧死体を押し流した。 「消え失せろ悪党。正義と平和の世となるこの二次元世界にてめえの居場所はねえ。」 「ならその居場所を自力で創るとしよう。」 「!」 殺したと思っていた大沢が氷河期の眼前に現れ、氷河期の体は無数の肉片と化した。 「黒曜石の鏡の能力をもう忘れたのか?狼に変化して脳味噌も獣並になったか?ハッハッハッハッハ!」 大沢の黒曜石の鏡の能力である。しかし…… 「お前にも優れた能力があるんだったな!」 夜の世界を覆い尽くす無数の鋭利な氷柱が大沢に降り注ぐ。 「夜の翼(ノーチェアラ)」 漆黒の翼を背中に生やした大沢がその翼で自らの全身を覆い氷柱を弾いて防いでいく。 全ての氷柱を漆黒の「夜の翼」で弾いた大沢が闇の魔術を行使する。 「お前は実に倒しづらい相手だ。神たるこの俺に爪を立てた者は初めてだ。だからもう満足して死に絶えろ!」 大沢の闇魔術による魔法陣が氷河期の足元に、氷河期を取り囲むように現れる。 「これはその魔法陣を一度でも踏んだ者の残存魔力を0にする魔術だ!終わりだ氷河期!」 「クッ……駄目だ技が使えねえ……!」 残存魔力が無くなった氷河期は狼から元の人間の姿に戻ってしまった。技を使おうとしても発動出来ない。 「トドメだ」 闇の光線が大沢の黒曜石の鏡から射出される。為す術は無い。氷河期は死を覚悟しその目をゆっくり閉じた。 その時である冷水の海が一瞬で干上がり、大沢と氷河期はその足を地につけられた。そして…… 「まだ終わってねえぞォォォ!」 大沢の闇の光線を右手で打ち消す者があった。 「姫宮……居たのか!」 「この世界に入り込んだはいいが座標がズレてたようで遅れたよ。間に合って良かった」 姫宮の幻想殺し(イマジンブレイカー)で氷河期は守られた。 「姫宮、邪魔をするな。これは俺と氷河期の闘いだ!」 水を差された大沢が恨めしそうに姫宮を睨みつける。 「いや、違うな。これは悪の組織ロケット団とそれに苦しめられながらも明日を望む人々の思いを背負って闘う全員の闘いだ。」 「覚悟はいいか神野郎。俺のレベル0はちょっとばかし響くぞ!」 姫宮が大沢に向かって全速力で走り出す。 「お前のようなイケメンが正義漢ぶってんのが1番鼻につくんだよ!死ねェ!イケメンは抹殺だァ!」 大沢が掌の上で惑星サイズの暗黒弾を作り出して姫宮に投げつける。 「うおおおおおおおお!!」 姫宮は右手を突き出して暗黒弾を打ち消す。 「ならば俺の更なる能力!お前は心臓麻痺で死ぬ!」 大沢が言い放った次の瞬間、姫宮は心臓麻痺による苦しみで膝をついた。が、右手で胸に触れることでその現象を阻止した。 「俺の予言(プロフェシア)までもが防がれただと!?」 「行くぜ神野郎ォォォ!!これは坂田銀時の魂だ!」 姫宮が右手に持つ「洞爺湖」と彫られた木刀が大沢の喉元を捉える。 「おのれェ!」 大沢は黒曜石の剣で応戦し剣戟を繰り広げるが、剣術勝負では現実でも高スペックだった姫宮が圧倒した。 「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!おのれェ!」 大沢が握る黒曜石の剣が姫宮の剣術で宙高く飛ばされてしまう。しかし同時に木刀も真っ二つに折れてしまう。 「てめえの幻想、俺がてめえごとぶち殺す!」 木刀を失った姫宮は右拳で大沢の顔面を殴りつける。 「姫宮ばかりに集中していていいのか?」 右ストレートを顔面に喰らい仰け反る大沢の背後から氷河期の槍が伸び、心臓を貫いた。 「お前こそ俺の能力を……!何!?」 黒曜石の鏡の能力が発動しない。姫宮が右手で黒曜石の鏡に触れていたのである。 「馬鹿な……この最強の俺が……」 「確かにお前の能力はチート級だったが、どんな奴にも弱点や相性の悪い相手は存在する。お前の敗因はその慢心と、俺を、俺達を怒らせたことだ」 氷河期の言葉を聞いて大沢はガクリと地に両膝をつけて仰向けに倒れた。氷河期が何の未練も無く大沢の胸から槍を引き抜く。 大沢の死により夜の世界は消滅し、2人は元の世界に戻った。冷たい冬の風が厳しく吹き付ける。 「ありがとう姫宮。お前が居なければ勝てなかった」 「俺のセリフだよ氷河期。お前が居なければこうしてロケット団を滅ぼすことは叶わなかった」 氷河期と姫宮はこのやり取りの後そのまま暫く黙り込んだ。 「坂田銀時といかめしが……」 「……ああ。持って帰るのもキツいし。この辺りに埋めてやろうぜ」 氷河期が言い出したところで姫宮は涙を滲ませながら応えた。 簡素なものではあるが、坂田銀時といかめしの墓が氷河期と姫宮によって作られた。2人で何時間もかけて街外れの森の茂みに2人分の穴を掘り土を被せて埋めて小丘のように盛り上げ、真っ二つになった銀時愛用の木刀に小刀でそれぞれ「坂田家之墓」「いかめし之墓」と掘り突き立てた。 「大沢は倒した。安らかに眠ってくれ……。」 長年の付き合いだった2人を失った悲しみは氷河期には推し量れない。姫宮は涙を流し嗚咽しながら墓に向かって手を合わせた。 「銀時、いかめし。短い間だったが楽しかった。万事屋で過ごした日々は一生忘れない。ありがとう」 氷河期も姫宮に倣って墓に手を合わせる。 「氷河期、これからどうするんだ?もうアティークを倒しに行くのか?」 暫くして泣き止んだ姫宮が氷河期に尋ねた。目は充血しており、瞼は赤く腫れている。 「俺1人で奴を倒せるかどうか……。俺には行方不明になった仲間達が居る。そいつらの動向を掴むのが先だ」 「また旅に出るのか?」 「ああ。仲間達を探さなきゃならねえ。総力を結集してアティークを倒す為にな」 姫宮の質問にまだ悲壮感を募らせて氷河期は応えた。 「俺も連れていってくれないか?」 「何?」 突然のお願いに氷河期は目を丸くした。姫宮は真顔である。 「ロケット団は倒した。だが世の中にはまだまだ悪が蔓延っている。その悪を一つ残らずぶち殺す為に俺の力を使いたい。銀時やいかめしも多分それを望んでいる」 「……分かった。これからも宜しく頼む」 氷河期は手を差し出し、意図に気づいた姫宮がその手を握る。2人の仲間探しの旅が今、始まろうとしていた。 氷河期らはオロシャ帝国でロケット団を見事討ち滅ぼして英雄となった。その活躍は全国ニュースにて全世界に報道され、氷河期と姫宮は皇帝・ああ★から表彰され、恩賞を与えられた。 アティーク討伐を志す者の動向がこれで1人明らかになったのである。 そして舞台は移り変わり北条、Wあ、赤牡丹、マロン、NZ2の5人・小隊「鷹」の話となる。 「此処から先は通さないよ」 拓けた街道を馬を駆ってピオニーシティを目指す鷹の前に、1人のスーツを着たサラリーマン風の男が現れた。 「白石牡丹の部下か」 「如何にも。俺の名はエリート(京大出身)。牡丹様のご命令によりお前ら低学歴を排除する」 馬を降りた北条の問いに対して男が名乗る。エリートといえばポケガイにより2~3人しか居ない屈指の学歴厨コテである。 「まずは俺が行く。4人は退がってくれ」 「おやおや?お前ら雑魚低学歴は5人集まっても俺1人に叶わないんだから気にせず5人一斉に来ればいいのに」 北条の指示でWあ、赤牡丹、マロン、NZ2が馬の手綱を引きながらその場から距離を取る。エリートはそんな一行を学歴という生々しい単語を用いて挑発する。 「この二次元世界に学歴は関係ねえ。得た能力が強いかどうかだ学歴厨」 「じゃあ学歴でも能力でも強い俺が益々お前らより格上だな。低学歴はなぁ!現実世界と同じように高学歴に扱き使われて搾取されて惨めに死ねばいいんだよ!」 エリートの余裕は何処から来るのだろうか。そこまでの自信をもたらす能力とは……北条は警戒しながらも術を仕掛ける。 「まずは小手調べだ。」 北条が術の印を指で結ぶ。 「火遁・豪火滅却!」 北条の口から視界全範囲に及ぶ火炎が放射され、視界は火の海と化してエリートを呑み込んだ。 「拓けた街道や野原を火の海に変える……確かに大した火遁だが、俺の前では篝火同然のショボい火にすらならない」 北条の火遁の術による火炎は消滅し、焼けた大地や野原も何故か元通りの豊かな光景と化していた。 「火炎を消すというならまだ分かるが、地や草が焼けたという事実さえ消されている……?こいつは一体……」 北条は万華鏡写輪眼と輪廻写輪眼を備えた忍者である。確かに火炎は消えている。そんな現象が起きたのを見逃す筈が無い。 「どうした最強忍者の北条。お前が出来るのは火を吐くだけでは無いだろう!さあもっと低学歴の足掻きを俺に見せてみろよ!この京大出身のエリート様になァ!」 「言わせておけば!須佐能乎!」 北条を取り囲むように紫色の骸骨がチャクラにより形成され、北条の意思と共に甲冑を身につけた巨人となり、北条はその巨人の頭部に飛び移る。完成体須佐能乎である。 「炎遁・須佐能乎加具土命!」 北条の万華鏡写輪眼の瞳術の一つである天照の黒炎のコントロール。その黒炎をインドラの矢に乗せて須佐能乎上空に放つ。上空でインドラの矢は無数に分かれてエリートへと降り注ぐ。 「天照の黒炎は俺の意思以外で対象を燃やし尽くすまで消えることはない」 しかしその黒炎とインドラの矢までもがエリートに届く前に全て消滅したのである。 「低学歴共の足掻きって見てて楽しいんだよねえ!高学歴エリートの俺に馬車馬のように働かされる為だけの存在が生意気にも俺に噛み付いてんのがホント滑稽!」 エリートは右手で顔を抑えながら高笑いを始める。明らかな挑発と嘲笑であり、これが北条の怒りを駆り立てた。 「なら異空間に閉じ込めてやる!神威!」 神威。任意の対象を異空間に閉じ込めたり(転移)解放することが可能な万華鏡写輪眼による瞳術である。エリートの体は北条の万華鏡写輪眼によって異空間に吸い込まれた。 「学歴厨って冗談抜きで苛つく存在だからな。死ぬまで閉じ込めてやるぜ。」 「死ぬまで閉じ込める?どうやって?w」 北条が勝ったと思いきや、神威で異空間に飛ばした筈のエリートが元の位置に立っているである。 「確かに神威でてめえを異空間に飛ばした筈だぞ!」 「あぁ、あれね。神威って言うんだ。大した術だけど俺には効かないよん!」 神威。決まれば必殺の術であるが、エリートには効いていない。いや、効いていないというよりは…… 「どうする?まだ足掻く?無駄にチャクラを消費するだけだと思うけどねw」 「チャクラ消費を気にする必要は俺には無い。ヒノ荒らしとの闘いの後、ようやくチャクラが体に馴染んだようでな。俺は無限のチャクラを持つ忍になった」 北条は無限のチャクラを持つ上位能力者の中でも抜きん出た存在となっていた。因みに原作には無い制限がかかっていた神威などの術が際限無く使えるようになったのは紫牡丹戦以降である。 「無限のチャクラねえ……それで自分が最強とでも思ってる?」 「最強であるかは重要ではない。敵より強いかが重要だ!」 北条の須佐能乎が背中の翼を使って飛行を始める。そして炎遁・加具土命の黒炎と雷遁チャクラによる千鳥を須佐能乎の左手に顕現させる。 「建御雷神(タケミカヅチ)!」 須佐能乎がそのままエリートに飛び掛かり建御雷神を炸裂させる。雷遁チャクラと黒炎が砂煙と共に衝撃で舞い上がり、稲妻を周囲に飛ばした。 「俺の完成体須佐能乎の建御雷神で押し潰した。普通なら生きてはいないだろう」 「ああ。普通ならな」 建御雷神を喰らった筈のエリートが傷一つない全快の状態で砂煙から姿を現した。地を燃やし尽くす筈の黒炎や千鳥による稲妻も消え失せており、建御雷神により出来た巨大クレーターも元通りになっている。 「流石にここまでくれば君も俺の能力に気づいた筈だよな?」 「信じたくはねえが……てめえの能力は……!」 北条は強力な忍術を4発もエリートに繰り出したが全てを無効化された。いや、無効化されたというよりは……そう…… 「君の攻撃、無かったことにしたんだ」 「ふざけんなよ……そんな能力者がこの世界に居てたまるか!チートとかいうレベルじゃねえぞ!」 「だから言ったろ?低学歴は高学歴には勝てないと!」 この世界に登場する能力者のパワーインフレには際限が無いのか。北条とて強くなった。しかし眼下に立つ中肉中背のこの男は何故か須佐能乎よりも北条には巨大に見えた。 高く聳えるエリートの壁。しかし北条は立ち止まってはいられないと気を強く持ち直す。あの男……オルトロスを倒すまでは。 「やはり北条1人では厳しそうだな。俺も出る!」 前に出たのはマロンである。彼も北条に劣らない能力者であり、最高峰の魔術師である。 「済まないマロン。やはりこの学歴厨は俺の手に余るようだ」 「気にするな北条。観察させてもらったが、奴も無敵ってわけじゃねえ。俺が隙を作る。お前が畳み掛けろ!」 「了解した!」 北条は詳しく聞かずともマロンの言ってる言葉の意味を察した。冷静になれば倒せない相手ではないとマロンが気づかせてくれたのである。 「作戦会議は終わったか?雑魚低学歴共!」 自身の能力に絶対の自信を持つエリートは余裕の態度を崩さない。嘲笑を浮かべながら2人にわざとらしく確認する。 「ああ。今終わったよ。お前さんの人生は本日をもって閉鎖だ。全身魔装・ブァレフォール!」 マロンが身につけている黄金の首飾り状の金属器が光り輝く。全身魔装を発動したマロンの姿が三角の耳とふわふわな尾も持つものに変化する。 「低学歴らしいおかしな格好だなオイ!」 「頼んだぞ北条」 エリートの挑発にはスルースキルを発動し、北条に目配せするマロン。 「ああ。俺はしくじらねえ!」 北条がクナイを取り出しエリートの真横に投げつけた。クナイは風を切ってエリートの足元に突き刺さった。 「行くぞ!」 マロンのブァレフォールの能力でエリートの感覚を停滞させる。しかしエリートはこのことに気づかないので「無かったことにする」能力を発動することは無い。 そして避雷針の術で瞬時にエリートの背後に回った北条がその隙に大技を炸裂させる。 「加具土命の剣!」 完成体須佐能乎の左腕に炎遁・加具土命の黒炎で押し固められた巨大な剣を作り出し、エリートの頭上に振り下ろす。 マロンの魔装の能力による感覚の停滞と北条の幻術によるエリートから見た北条の位置誤認により全く気づかないエリートは加具土命の剣により頭から股まで両断された。 「礼を言うぜマロン」 「忘れるな北条。俺達は強い。どんなチート能力者にも力を合わせれば負けることはない」 2人は地面に無惨に転がり黒炎に焼き尽くされ灰になったエリートを見下ろしながら言葉を交わした。 「最初からこうしておけば良かったじゃねえか」 わざわざ馬など引かずともこうすれば良かったとボヤく紫牡丹。小隊「鷹」の5人は北条が口寄せの術で召喚した輪廻眼を持つ怪鳥に乗って空を移動していた。 「いや、もしかして馬や徒歩なら敵に俺達の正体や目的を悟られずに行けるかなと思ってね。これじゃ怪しさしかねえじゃん」 最もである。飛行手段を用いればそれだけ当然目立つ。目立てば牡丹側の敵に自分達は敵だと気取られ戦闘に及ぶ羽目になる。 「じゃあ何で飛行手段を用いてるんだ?」 「馬を乗りこなすって疲れるし体力が要る。それに何故かあのエリートにはもうバレてたからどの道無駄なんじゃねえかと思ってな」 紫牡丹の疑問に北条が応える。その横で「つるぎのまい」や「こうそくいどう」など積み技を繰り返すWあの姿があった。 「Wあさん何してんの?」 「牡丹との決戦に備えて今の内に積んで自分を強化しているんですよ。回避率も上げとくか、かげぶんしん!」 輪廻眼を持つ怪鳥の化け物の上で積み技を使っている男というシュールな絵面が出来上がっていた。 「おい、前に何か居ねえか?」 マロンが前に人間とも言えない謎の物体?データ?が浮遊しながら此方を見据えていることに気づいた。そしてそのデータが突然攻撃を仕掛けてくる。 「かえんほうしゃ」 バグったようなデータでできたモザイクの塊が体から火を吹いて鷹を襲い始めたのである。 「水遁・水陣壁!」 火炎放射を北条が水の壁を作り出して打ち消す。 「あいつ、今火炎放射って言ったぞ。ポケモンか?」 「馬鹿な、あんなポケモンが居るわけないだろ」 紫牡丹に赤牡丹が突っ込みを入れる。 「そう、俺はポケモンだがポケモンではないもの。俺の能力はけつばん(欠番)。名はエマ」 「けつばんだと?」 「これは現実世界での話だ」 同じポケモンの技を使うWあがその単語に反応した。その反応を待っていたと言わんばかりにエマが語り始める。 「ポケモンのゲームをプレイしていた時、俺は味噌カツという生意気でムカつくコテに対戦を挑まれた。俺は逃げたと思われたくないから挑戦を受け入れた。 しかしあの陰湿な味噌カツのことだ。負けたら何を言われるか分かったもんじゃねえ。そこで俺は誰にもバレない様に自分のポケモンをプロアクションリプレイで改造することにした。 手持ちのポケモンのステータスを全て999にして臨んだ味噌カツとの対戦、俺はピカチュウの電気ショックで味噌カツのエルフーン(NN:はてな)とナットレイを一撃で倒して勝利に王手をかけようとした。 その時だった。突然3DSの画面が光り始めて俺をその光が包み込んだ。気づいたら俺はバグデータけつばんとしてこの二次元世界に召喚されていた。 そこで思った。これは改造に手を染めた俺に対するゲーフリの怒りなのだと……!」 エマが声を震わせ熱心に自分語りをしたが鷹の5人には退屈なだけだった。 「それが何で俺らと闘う理由になるんだよ?」 「俺は死に場所を求めている!全力で戦って死にたいのだ!」 赤牡丹の問いに勢いよく応えると、エマは掌(?)から大文字を繰り出してきた。 「お前ら降りるぞ!」 北条が口寄せした怪鳥が消滅し、5人は地面に降り立つことで大文字を回避した。それに続いて浮遊していたエマも5人と距離を取った正面に降り立つ。 「あおいほのお!」 エマがレシラムの専用技・あおいほのおを広範囲に放出し5人を焼き尽くさんと図る。 「水遁・爆水衝波!」 北条の水遁忍術によりあおいほのおを押し流し、辺り一面を水で満たし、エマを押し流してしまう。 「水遁・千食鮫!」 北条のチャクラで出来た鮫型の千匹の水遁が押し流されたエマに襲い掛かる。 「こんなに水浸しにしちまっていいのか?10まんボルト!」 エマが水面に10まんボルトを放つと、水を伝って5人に強力な電流が流れていく。 「神羅天征!」 北条の輪廻写輪眼の瞳力により10まんボルトを辺りの水ごと弾いて吹き飛ばしてしまう。 「かみなり!」 エマが特大の稲妻を北条に落とす。ピカッと(バグデータになったきっかけがピカチュウだけに)白い光が辺りをほんの一瞬照らしたかと思いきや、北条は数億ボルトの電流をその身に浴び……なかった。 「この万華鏡写輪眼に宿る瞳術・神威(カムイ)により全ての俺への攻撃はすり抜ける。そして……」 「火遁・爆風乱舞!」 神威により出来た渦巻き状の暴風に火遁の火炎を乗せたことにより螺旋状に渦巻く強力な火炎をエマに向かって放出する。 「まもる!」 エマは技「まもる」による薄緑色のシールドを前面に展開して爆風乱舞を弾く。 「すり抜け能力か。ということは無敵ってことだよな。でもお前らって怒りやすそうな顔してるよなー」 エマが技「ちょうはつ」を発動する。文字通り挑発であり、エマは北条だけでなく鷹の5人全員に思いつく限りの罵詈雑言を浴びせた。 ~しばらくおまちください~ 罵詈雑言の内容?あまりに汚い言葉や個人個人の人権を脅かすセリフが含まれる為此処では省略する。読者の方々が各々で想像していただきたい。 「やーいやーい!お前らの顔面クリムガン!www」 「草生やしてんじゃねえぞゴミ屑バグデータ如きがァ!」 顔面クリムガンという言葉に過剰反応した赤牡丹が周りの熱を一気に吸収し圧縮する。 「第四波動!」 炎熱波動を押し固めた熱線を直線状にエマに放つ。 「こうそくいどう」 素早さを2段階上昇させる技である。感情に任せた赤牡丹の第四波動は容易く回避されてしまった。 「雷光滅剣(バララークインケラードサイカ)!」 音より速い山脈をも穿つ巨大な雷が全身魔装したマロンの剣から放出され、鼓膜を破壊するかのような勢いの雷鳴と雷光と共にエマに直撃する。 「よっしゃ攻撃初ヒット!」 喜びも束の間、エマは体力ゲージの半分どころか1割にも満たないダメージで耐えていた。一体どれ程の努力値を耐久に割いたのだろうか。そもそもエマの種族値は……?謎である。 「ちょうはつで顔面クリムガンになって攻撃技しか使えなくなった哀れなお前らに俺のステータスを教えてやろう!」 エマは自身の能力をひけらかすかのようにステータスの詳細を説明し始めた。エマの話によれば能力は次のようである。 名前:けつばん(エマ) レベル(Lv) 100 HP 100000000000 こうげき 999 ぼうぎょ 1000000 とくこう 999 とくぼう 1000000 すばやさ 250 とくせい「バグデータ」 すべての ダメージを すぐに かいふく する。 ~トレーナーメモ~ なまいきな せいかく。 レベル100のとき 2じげんせかいに てんせいした。 ボール:マスターボール おぼえているわざ:すべての わざを つかうことが できる。 わざのPP:むげん。 「ふざけてんのかてめえ!」 能力を聞いて激昂した赤牡丹がフラグメント「ブラックホールダストエンジェル」でエマをブラックホールの超重力でミンチにする。 「うん。今のは50ダメージくらいかな」 ミンチにされても特性「バグデータ」によりすぐに再生してしまう。 「超大玉螺旋丸!」 瞬身の術で背後に回った仙人モードの北条が巨大な螺旋丸をエマに叩き込む。 「てっぺき」 エマの体が鋼鉄の如く硬化し、自身の防御力を高めることでダメージを抑える。超大玉螺旋丸を受けてもついたのはかすり傷程度であり、3m程後退しただけだった。 「天照(アマテラス)!」 北条の輪廻写輪眼の視点から発火する黒炎がエマの全身を燃やし始める。 「よし!決まった!」 天照。北条の輪廻写輪眼の瞳術の一つであり、視点から黒炎を発火させ対象を焼き尽くすまで消えない。しかし問題はエマのHPである。 「熱い。身が焼け焦げる様な熱だ。まあ実際に燃えてるんだけどさ。これで確かに俺が死ぬことは確定したけど100億あるHPを削り切るのにどのくらいかかるかな?」 エマはこの体になってしまってからずっと死を望んでいた。それが叶おうとしてはいるが、この無駄にチート性能な特性と100億もあるHPが中々自分を死に至らせてはくれない。 「なやみのたね」 今まで戦闘に参加していなかったWあが技「なやみのたね」を投げつけてエマの体に植え付ける。種は芽となり枝となり、エマの全身に巻き付いた。 「ちょうはつを喰らったのに何故……」 「俺、メンタルハーブ持ってるんで効かなかったんだわ。更に!」 エマのちょうはつをWあは持ち物の一つ「メンタルハーブ」で無効化していた。Wあのなやみのたねによりエマの特性は「バグデータ」から「ふみん」へと変化した。 「どくどく」「おにび」 「やどりぎのたね」 Wあが強力な補助技を次々と繰り出す。どくどくでエマを猛毒状態に、おにびで火傷を追加させ、やどりぎのたねを巻きつけることで徐々に体力を奪う。 「んんwww補助技はありえないwwwですが今のWあ氏の技は役割を持てますぞwww」 別に赤牡丹は論者ではない。ただの悪ノリである。 「りゅうせいぐん!」 エマの反撃。口腔に溜めた龍のエネルギーを天に向けて噴射させ、無数の隕石を降り注がせる。 「女神の盾(シールド・オブ・イージス)」 赤牡丹はフラグメントの防御能力により隕石を無効化する。因みにちょうはつの効果は解除されている。 「木遁・真数千手!」 北条は巨大な木造の千手観音を召喚してりゅうせいぐんから身を守る。 「全身魔装・ブァレフォール!」 マロンは隕石の動きを停滞させて回避を続ける。 「まもる」 Wあはシールドを展開し隕石の衝撃を吸収する。 「マキシマム・ペイン!」 紫牡丹は斥力フィールドを拡大することで自身に降りかかる隕石を粉砕した。 「いつの間に……!?」 柱間細胞による木遁でりゅうせいぐんから身を守った北条は、輪廻写輪眼の瞳力「天手力」により自身が居る位置と空間を入れ替えることで瞬時にエマの目の前に現れた。 「千鳥!」 エマの反応より先に六道(りくどう と読む)の力により黒くなり威力の上昇した左手による雷遁の突き攻撃「千鳥」でエマの胸っぽい部位を貫き、引き抜く。 「メガトンパンチ!」 エマも近接技を繰り出すが北条は万華鏡写輪眼により全ての自身への攻撃をすり抜け出来る能力を持つ為無意味だった。 「しまった……忘れてた!」 「人間道!」 北条は六道の力の一つ「人間道」による能力でエマの魂を抜き取ろうと、魂の一部を引き出し掴み出す。 「HP無視の即死技ってことかい?君色々芸が多彩だねえ!でもこれは……」 北条が魂を引き抜こうとしたエマがミニ怪獣のぬいぐるみと化す。 「みがわりか!本体は何処へ!?」 「此処だよ。君の命を俺の冥土の土産として地獄の閻魔に渡せば喜んでくれるかもね!」 エマの本体は赤牡丹の前に現れた。 「重力操作(グラビトン)!」 赤牡丹はエマにかかる重力を強くすることで押し潰そうと図る。エマの体が地面に叩きつけられ、データで出来たモザイクの体がノイズを発生させる。 「地殻旋斬爪(アウグ・アルハザード)!」 マロンの極大魔法により、錐の様に隆起した地面がエマの全身を貫く。 「隠密、離れろ!」 マロンの指示で赤牡丹が後方に跳び下がる。 「氷獣結晶陣(ザルフォル・キレスタール)!」 ブァレフォールの全身魔装による極大魔法で巨大な氷山を創り出し、エマをその中に閉じ込めてしまう。 「仕上げだ。冷凍ビーム!」 Wあがその氷山に冷凍ビームを放ち体積と質量を増幅させることで念を押した。 「氷牢の術!」 更に北条が氷遁忍術により氷山を巨大化させる。普段は人通りの多いこの街道で、決して溶けることのない名物氷山が出来上がった。エマが再び動くことはなかった。 小隊「鷹」の5人を待ち受けていたのは、ピオニーシティを埋め尽くす雲霞の如き大軍勢だった。 鷹の一行はエマの「願いを叶えた」後、北条の口寄せの術による怪鳥に乗ってピオニーシティ目指して移動していた。 ピオニーシティに差し掛かり、上空から一行が見たもの。それは水面下で活動しているに過ぎない筈の白石牡丹が率いる10万の軍勢……。 「話が違うぞ紫牡丹!人がゴミの様に敷き詰められたこの街を見てみろ!」 聞いていた話が違うとマロンが紫牡丹にクレームをつける。まるで求人票と実際の待遇や条件が違うと訴える社会人の様であるが、日本の企業は非常に悪質で、それが普通なので日本人であるならば慣れておかなければならないかもしれない。 「嘘をついたつもりはない。俺も正直驚いている。それにこの軍勢はいつの間に、それにどうやって徴兵したんだ?」 マロンのクレームに紫牡丹が目を丸くして答える。 「こりゃあれだ。あの大軍勢で牡丹王国を攻めようって肚だ。あいつの立場でどうやって徴兵したのかは知らんがな。ん?」 赤牡丹は雲霞の如く街を埋め尽くす兵達の何かに気づいたようである。 「どうした隠密……あっ」 「あいつら顔や腕が人間のそれじゃねえ。まるで古代の彫刻美術の様に白くて硬そうな体してやがる」 マロンも気づいたようである。街を埋め尽くす兵達は人間ではなく何かの能力によって産み出された人造人間的な何かであった。 「関係ねえ!残らず蹴散らしてやる!火遁・豪火滅失!」 北条が豪華滅却の更に上位互換の火遁を空から地上に居る兵達に口から吐き出す。 街の半分程の超広範囲に広がる火の海が人造兵達を包み込むが、同時に家屋や施設も焼き尽くされていく。 「北条、お前なんてことを……」 紫牡丹が全く住民や街のことを考慮しない北条の攻撃を責めた。 「良く見ろよ。街は兵達以外の人間は見当たらねえ。え?家屋?そもそも街が戦場である時点でそれは覚悟の上の筈だぜ。このまま進軍を許したら牡丹王国全体がこうなるかもしれねえ。街一つの被害で済めば安いもんだろうが」 「……」 言い返せない紫牡丹。北条の言うことにも確かに一理ある。 火遁により広がる火の海から上がる煙や熱気が空まで達し、建造物は焼かれて音を立てて燃えたり崩れ落ちていく。 北条の火遁・豪火滅失により全ての兵は焼き尽くされ灰と化した。 「ふん、雑魚共が。お前ら降りるぞ。さっさとあのイナイレキチガイの自分語り女を始末して全部終わらせてやる!」 北条の指示で怪鳥が廃墟と化した街の一角に降りる。 「ご苦労だったな」 怪鳥は逆口寄せでその場から消滅した。 「誰か居るんだろ?出て来いよ」 六道の力を持つ北条であれば他人の気配や悪意を瞬時に感じ取ることが出来る。北条は鷹のメンバー以外の誰かの気配を感じ取っていた。 「やはり隠れて背後から奇襲!……ってわけにはいかなかったか。流石は輪廻六道の忍だ」 北条にあっさり気取られたと認めた男が焼き尽くされ廃墟となった家屋の瓦礫を音を立てながら掻き分けて這い出てくる。 「誰だてめえ。奇襲とか言ってたからやっぱ敵か」 赤牡丹がその男を睨めつける。 「俺は黒わんこっていうモンだが。まあ一昔前の住民だったからお前ら覚えてないか。まあどうでもいい、お前ら全員皆殺しな?」 眼鏡をかけた色黒の男。彼の名は黒わんこ。顔を晒して散々叩かれた苦い経験を持つ住民であるが、恐らく覚えている者は居ないだろう。 「皆殺し、ねえ。俺達はお前みたいなモブに構ってる程暇じゃねえ。白石牡丹の居場所を吐け。そうすれば見逃してやるぜ」 マロンが腰に帯びた剣を抜き放ち黒わんこを威嚇する。 「ほざけ二次元党とHKOのカス共が。俺の能力は未元物質(ダークマター)。某ラノベに7人しか存在しないレベル5の第2位の力だ」 黒わんこの背中から天使のような白い翼が姿を現す。 「此処は俺が残ります。4人は白石牡丹の捜索と討伐を!」 Wあが自ら前に進み出る。すると紫牡丹もWあの真横に歩を進め並び立つ。 「こいつヤバそうじゃん。学園都市のレベル5第2位だろ?1人じゃかなり厳しいだろう。俺も残る。3人は行け!」 「絶対死ぬんじゃねえぞ。お前とはネトゲの続きがあるんだからよ」 「当然だ。閻魔の迎えを受け入れるにはまだ早い。まずはこの色黒眼鏡の、人生という名のリアルゲームをゲームオーバーにしてやる。早く行きな隠密!北条とマロンもだ!」 赤牡丹に死ぬなと言われて右手の親指でグッドサインを作り答える紫牡丹。Wあは「すみません、助かります」と紫牡丹に礼を言う。 赤牡丹は紫牡丹に促されてグッドサインを返して走り去る。マロン、北条も後に続く。 「逃げていいと誰が言った?」 黒わんこの翼から3人に向けて太陽光が発せられる。 「追っていいと誰が言った?」 テレポートで移動したWあが「まもる」で攻撃を防ぎ、黒わんこをあくまでも阻む。 北条の万華鏡写輪眼と輪廻写輪眼はこの世界においてはチャクラだけではなく、霊圧、魔力、魔闘気、気、精神エネルギーなどあらゆる力を見分け、見抜くことが可能である。 「白石牡丹への手掛かりを見つけた!」 北条はそう叫び1人、焼け落ちた廃墟へと身を投じる。瓦礫を掻き分ける度に木材や金属が擦れたり落ちる音が響いていく。 「どうした北条。手掛かりってなんだ?」 「こんな普通の民家に奴の手掛かりなんて……ってそれは!?」 マロンは分からないようだが赤牡丹は北条が手に取った品を見てピンと来ていた。 「これだよ!」 北条が廃墟から取り出して来た品……それは劇場版イナ◯マイレブンのブルーレイボックス初回限定版のパッケージであった。 「それはイナイレのブルーレイ!」 マロンも漸く察しがついた。イナ◯マイレブンとは、白石牡丹が現実世界で好んでいた子供向けの超能力サッカーアニメである。 「このブルーレイボックスに何者かの魔力の残滓がある。俺の火遁を受けても傷一つ無いのは、この品が相当の魔力を持っている能力者が防御魔法をこれに施したからだろう。それに入ってみるとまだまだある」 北条を先頭にマロン、赤牡丹の順に廃墟に侵入していく。焼け爛れた部屋の中で光り輝くかの様な存在感を放つ無傷のイナイレグッズ。各話収録の初回限定版ブルーレイボックス、フィギュア、同人、単行本などが多数見つかる。 「これなんだ?」 マロンが床に備え付けてある隠し扉らしき物を見つける。 「ビンゴだな」 赤牡丹が有無を言わさずその床に第四波動を放つと、床はブチ抜かれ、薄暗い隠し通路を発見した。 「この先に必ず奴が居る。幸い俺らは全員が強力な能力者だ。あんな腐女子はさっさとクチャクチャに丸めて生ゴミの日に出しちまおうぜ」 北条を先頭にマロン、赤牡丹が続いて隠し通路へと飛び降りる。下水道の様な薄暗さと狭さに寒気を感じるが、気にせず3人は歩き進んでいく。 「馬鹿な奴だ。分岐や仕掛けの一つもない。あっさり辿り着いたぞ」 5分程歩くと、3人は大きな円状の金属の扉の前に辿り着いた。まるで銀行の金庫の様な形状である。 「螺旋丸!」 北条が右手に螺旋丸を作り、それを扉に叩きつけると、扉は螺旋状に回転しながら奥へと吹き飛ばされた。吹き飛ばされた扉が床に落ちる何処か不気味な金属音が響く。 「行くぞ」 北条の合図で3人は扉の向こうへと足を踏み入れた。先程までの狭く薄暗い通路と違い、三方が地平線の彼方まで続く何も無い広大な空間である。 そして3人の視界正面に居る1人の女。間違いない!と3人が確信した。そう、この女こそが…… 「どうして此処が分かったの!?」 動揺する黒のロングヘアーの女。いや、動揺してる体を装っているだけか?3人は勘繰る。この目の前に居る婦女子から漂うボス臭が彼らの手に汗握らせるのである。 「い……いや、バレバレだぞお前。イナイレと言えばピオニー、ピオニーと言えばイナイレ。屋内とは言え俺の目はチャク….…じゃなくて魔力を色で見分けるんだよ。あんなに部屋に大量に イナイレのグッズを保管してたらすぐに分かる。それに見え見えの隠し通路、しかも分岐も仕掛けもない。お前馬鹿なの?」 北条が呆れたと言わんばかりの表情を無理矢理つくる。 「フッフッフッ……!そう、わざとよ!アンタらみたいな邪魔者を誘き寄せる為のね!」 「その割には最近水面下で隠れて活動してたみたいだが?」 赤牡丹がピオニーこと白石牡丹を煽る。余裕を見せて精神的優位に立とうとしているのだ。 「うるさいわね!とにかく黒牡丹を殺して私が牡丹王国の王になるのよ!」 「やっぱ馬鹿だこいつ。馬鹿の上に腐女子とか救えねえわ。一生イナイレのキャラとイチャついてろよ」 マロンも2人に同調する。 「アンタ達こそ馬鹿よ!この私相手にたった3人で来るなんてね!私の力、見せてあげる!」 「我が神アテナ!この私に力を!」 白石牡丹(面倒なので以下ピオニー)がギリシャ神話に登場する女神の名を叫ぶと、まさにその神が背後霊の如く顕現し、ピオニーは女神アテナの力を得る。神の魔力が溢れ、3人を戦慄させる。 アテナ。知恵、芸術、工芸、戦略を司るギリシア神話の女神で、オリュンポス十二神の一柱である。戦神としても知られる。 アテナの力を引き出したピオニーはその手に神の剣と神の盾を授かる。 「アンタ達、神の代行者って知ってる?アンタ達を国から追い出したアティークもそうね。つまりアンタ達がどんなに強力な能力者であろうが此処で無様にその屍を晒すことは決まったのよ!」 神の光を放つピオニーの剣による一閃が地平線の彼方まで広がる床を斬り裂く。 「うるせえ!今すぐ死ね!天照!」 北条の輪廻写輪眼の視点から発火する対象を焼き尽くすまで消えない黒い炎が発生する……筈だった。 「天照が……発動しない……!」 北条の瞳術は発動しなかった。 「第四波動!」 吸収した熱を放出する赤牡丹の十八番技「第四波動」。しかしピオニーの間近で何故か消滅する。 「蒸発の洗礼(シャラール・ラーキィ)!」 マロンがピオニーに向けて白いルフを出しながら魔法の杖を翳し、水魔法と熱魔法を合わせて対象の体温を高温に引き上げる……ことは出来なかった。 「推力固定衝(ゾルフ・アッシャーラ)!」 続けてマロンが重力魔法で創った巨人の腕による一定方向に推力を向けて力を加え続ける技を発動するが、またしてもピオニーの間近で消滅する。 「どうなってんだ?俺らの術や魔法、技が無力化されたぞ」 マロンの魔法も、北条の術も、赤牡丹のフラグメントも無効化するピオニーの力とは…… 「全身魔装 アシュタロス!」 金属器である刀を抜き放ち全身魔装を発動、髪や体表が蛇の鱗のようになり、白い炎の竜を羽衣のように纏う。 「極大魔法・白閃煉獄竜翔(アシュトル・インケラード)!」 白炎の竜で対象を包み込み、命じるまで永遠に焼き尽くし続ける極大魔法。因みに極大魔法は絶対に防御することの出来ないマロンの持ち得る最大の攻撃であるが…… 「極大魔法?何よそれ!」 白炎の龍は消滅した。 「極大魔法は防御出来ない筈だぞ……!どうなってやがる!」 そんな状況の中、北条がマロンと赤牡丹の前に進み出る。 「忍術も魔法も効かないなら幻術だ。月読!」 ピオニーの目を直接見ることで幻術は発動……しなかった。(この表現何度目だよ) 「こいつ無敵なのか?」 赤牡丹が呟く。顔には嫌な汗が何筋も伝っており、不安と緊張を言葉にせずとも表している。 「まだ体術がある!」 北条はピオニー目掛けて全速力で接近する。 「木ノ葉剛力旋風!」 北条の素早い回し蹴り。ピオニーはそれを見切って盾で受け止める。 (体術は直接受け止めたか。なら物理攻撃は効くのか?) 「草薙剣・千鳥刀」 雷遁のチャクラを流した刀で剣術勝負を挑む。 (写輪眼を持つ俺が接近戦で負ける筈は無い) 上段、中断、下段、そしてあらゆる角度から素早い剣捌きを繰り出すがピオニーは巧みな剣術で全てを受け止める。草薙剣と戦神の剣がぶつかる度に金属音が空間に響いて耳を刺激し、緊張を迸らせる。 「もらったわ!」 ついにピオニーの戦神の剣が北条の喉元を捉える。しかし剣は北条の体をすり抜け不発に終わる。 「炎遁・豪火球の術!」 火遁・豪火球に天照の黒炎を練り込んだ中距離忍術。しかしピオニーの間近でまたもや消滅する。 「写輪眼を持つ俺に近接戦闘において互換以上……だが」 写輪眼を持つ北条と剣戟において上回るピオニーの動きは想像を絶する速さと正確さであった。 「リトルボーイ」 赤牡丹による巨大な火球を拳に纏っての近接物理攻撃。しかし、火球は消滅してしまう。 「火球が無くても!」 拳をピオニーに叩きつけようと突き出すがピオニーは背後に盾を向けてそれを防ぐ。 「地殻旋斬爪(アウグ・アルハザード)!」 マロンの魔法。床を破壊して出現した地表から隆起する槍がピオニーを貫く。 「八門遁甲・第七驚門 開!」 マロンの魔法による物理攻撃によりピオニーは四肢がダランとなり動かなくなる。その隙をついた北条が反撃に出る。北条の全身が変色し、緑色のオーラを放つ。 「朝孔雀!アチョチョチョチョチョー!」 速すぎる拳の連続突きによる摩擦熱により炎を起こし、剛拳と炎による連打をピオニーに炸裂させる。ピオニーは後方に吹き飛ばされる。 「特攻・ヴァルカンショック・リトルボーイ!」 テレポートで移動し、炎を全身に纏った赤牡丹の突進が吹っ飛んでくるピオニーの背中に炸裂する。 「昼虎!」 赤牡丹の炎の突進により再度元いた方向に吹っ飛んでいくピオニーに、北条の空圧正拳が炸裂する。 「八門遁甲 開 解除」 八門遁甲の解放は自身の体に大きな負担がかかる大技である。北条はキリのいいところでそれを解除した。 さて、北条の昼虎は対象に直撃した後一気に拡散する超威力の体術であるが、ボロボロで虫の息の筈のピオニーは無傷の状態で昼虎を振り払った。 マロンの魔法による傷も、北条による体術や赤牡丹による技のダメージも全て無くなっていた。 「私が宿す神アテナは戦神。戦神は必ず私を勝利に導く」 「必ず勝利だと?どういうこったよ」 「そのままの意味よ。私に不利な現象は全て取り払われる。アンタ達の技が私に届く前に消滅したのも、アンタ達の物理攻撃によるダメージが消えたのもそういうこと」 赤牡丹の質問にピオニーは親切ながら答える。いや、単に自身の力をひけらかしたいだけなのかもしれない。 「だから私に敗北は絶対にあり得ないの。私が意思を持って攻撃すれば……」 ピオニーが戦神の剣を振ると、離れている北条の胴体が袈裟斬りにされてしまい、血飛沫が舞う。 「グハッ……!」 「この通りよ。だって攻撃を外したら勝てないもの。私は必ず勝つのに、攻撃が当たらないなんてありえないでしょ?」 「俺は神威(カムイ)の能力で攻撃をすり抜ける……こんなことは……」 「ありえるのよ!」 ピオニーが再度剣を振ると、北条の右脚の膝から下が切断されてしまう。 「北条ォォォォォォォォ!!」 マロンが思わず叫ぶ。 「五月蝿いわね!食らいなさい!」 「処女宮(パルテノーン)!」 ピオニーが技名を唱えると、マロンの居る位置に巨大な神殿が現れる。 「処女宮(パルテノーン)は平和を象徴する神殿。その神殿にアンタを閉じ込めたわ。アンタは平和を害する 戦う ということが出来なくなる」 「体が動かねえ!アシュトル……!」 技が、極大魔法が発動しない。神殿は神の結界で外からの物理的、魔力的干渉を遮断している。 「ヒート・エクスプロージョン!」 テレポートでピオニーの背後に現れた赤牡丹がマイクロウエーブをピオニーに叩き込む……と思ったが… 「効かないわよ!」 赤牡丹の拳にピオニーの剣が突き刺さる。振り向きざまに突き出したのだ。 「第四波動」 尚も足掻く赤牡丹を、ピオニーはそのまま剣を振り払い吹っ飛ばした。 「千鳥鋭槍」 北条が形態変化で伸ばした千鳥でピオニーの首を一閃し斬り落とす。 「脚を斬り落としたのによくまだ動けるわね!って、あれ?」 斬り落とされた首と胴体は一瞬で繋がる。ピオニーは傷も無い北条の姿を視認した。 「イザナギだ。術者に不利な現実を夢に書き換える」 北条の腕に巻かれている包帯が取れ、無数の写輪眼が姿を現す。北条は次の手首のリストバンドから口寄せして身長大の手裏剣を取り出す。 「オラッ!」 手裏剣をピオニー目掛けて投げつける。更に手裏剣は回転しながら上下二つへと分裂する。「影手裏剣の術」である。 「こんなもの!」 ピオニーは腰を屈めて手裏剣の間合いを見極め、上下の手裏剣の間を縫って回避を図る。 「ふんっ!ただの手裏剣じゃないの!」 ピオニーの勝ち誇った顔とは裏腹に、北条がニヤリとする。視認し辛い手裏剣と繋がっているワイヤーを引き込んだのだ。 (仕込み手裏剣……!?) 手裏剣は解体され、それぞれの部位が分裂し方々に飛ぶ。その内一つがピオニーの太腿に深く突き刺さる。 「火遁・豪火球の術!」 火遁の印を結び、胸骨で溜めたチャクラを火遁に性質変化させて身長大の火球をピオニーに放つ。 「だから効かないって言ってんでしょ!」 豪火球はピオニーの目前で消滅する。太腿に刺さった手裏剣を引き抜くと、その傷も塞がる。 「てめえの弱点見つけたぜ」 北条は一連のやり取りからピオニーの弱点を発見したようである。 「俺と剣戟を繰り広げた時はお前は剣を振るっても俺にダメージは無かった。つまりお前は剣を受け止められると相手にダメージを与えられない。 更にだ。お前は忍術や魔法の類は通用しないが物理攻撃やそれに類する攻撃は再生するとはいえ有効のようだな。 つまり、再生される前に物理攻撃でお前の急所を突けばジ・エンドってわけだ。」 「さあ、それはどうかしらね?!」 ピオニーが北条を対象に剣を振るう。 「瞬身の術!」 瞬時に移動した北条が刀でピオニーの剣を受け止める。 「火遁・鳳仙火爪紅!」 北条が無数の手裏剣に火遁の火を乗せてピオニーの至近距離で放つ。剣を刀で受け止められているピオニーは盾でそれを防いだ。 「ちっ」 「鋼鉄斬糸(カンダタストリング)!」 倒れていた赤牡丹がいつの間にピオニーに接近して神にしか切れない糸を操りピオニーの心臓部の切断を狙う。 (もらった!) しかしピオニーは素早い身のこなしで跳躍して回避する。 「北条、よく分析した!ついでにマロンを救うぜ!北条は奴の足止めを!マロンを解放して3人がかりで奴を狙う!」 「何か掴んだようだな。そっちは任せた」 北条は千鳥を流した刀を手に宙のピオニーに斬りかかる。 「今の内だ!力(パワー)」 赤牡丹のフラグメントによる怪力でマロンを閉じ込めている神殿結界を破壊する。 「助かったぞ隠密。話は聞いた。物理攻撃だな?ならば……」 「全身魔装・アモン!」 マロンが抜き放った宝剣に炎が纏われる。ジンであるアモンの力である。更に髪が伸びて太陽のような鮮やかな色になり、腕を覆ったオレンジ色の鎧と緩やかな生地で出来た白い衣を身につけて足に炎を纏い光背状の炎を背負った姿になる。 「アモール・サイカ!」 剣が黒色に変化し、纏う炎が大きくなる。 「俺が有する最強の近接戦闘用魔装だ。行くぞ隠密!」 「ああ!」 (マロンの全身魔装、しかも炎か!これはひょっとしたらひょっとするぜ!) 「マロン、よく聞け!お前か隠密の力でこの空間の天井に穴を開けて空が見えるようにしろ!そして上空にお前の炎技と隠密の第四波動を放て!」 北条は何かを思いついたようであるピオニーと剣戟を続けながらマロンと隠密に指示を出す。マロンと赤牡丹は「分かった」と頷くと北条がピオニーの足止めをしている隙を逃さず指示を実行する。 「行くぜ……魔球・燃焼暴流(バーニングボール)!」 特殊磁界(マグネティックワールド)による磁力の反発を利用した超巨大な火球を天に放ち、天井を破壊し大穴を開ける。すると何も無いこの空間に陽光が差し込んだ。空と繋がったのである。 「俺から行くぞ。」 「二重(ダブル)第四波動!!」 赤牡丹が両手から第四波動を空に向かって射出する。炎熱波動は空へと溶けて消えて行く。 「極大魔法・炎宰相の裂斬剣(アモール・アルバドールサイカ)!」 マロンは業火を剣先まで召した大剣を携えた炎の巨人を上空に出現させ、その大剣を振り下ろして強烈な炎の斬撃を天へと撃ち放つ。 「2人ともよくやってくれた!これで準備は整った!」 誰も居ない空へ攻撃を放って何の意味があるのか。しかし全ては北条の思惑通りだった。 「アンタ、何のつもりなの?」 「空を見てみろよ」 「空?」 北条の意図を図りかねたピオニーの疑問の答えは、マロンと赤牡丹が炎技を撃ち出した空にあった。 「2人の炎技により大気を急激に温め、上昇気流を作り積乱雲、つまり雷雲を発生させる。俺の狙いはこれにこそある!」 高い威力を誇る赤牡丹とマロンの炎により上空の大気は急激に温められ、雷雲が発生する。雷鳴が地下のこの空間にまで鳴り響き、眩い雷光が4人を一瞬照らす。 「術の名は麒麟。この術は絶対に回避出来ない俺の雷遁秘術だ!」 北条が刀に流す千鳥に反応して上空から巨大な伝説の生き物「麒麟」の形をした雷が顔を覗かせた。 「まさか……しまった!」 ピオニーの顔に焦りが表れるが、既に遅かった。 「雷鳴と共に散れ!」 北条が刀を振り下ろすと共に膨大な量の雷で押し固められた麒麟がピオニーと北条の居る位置に落雷した。 雷鳴と周囲の一切を破壊する轟音が響く。 雷遁秘術・麒麟。北条が持ち得る(というより元ネタ原作に登場する)最強の雷遁の術(雷遁チャクラを纏わせたインドラの矢とどっちが強いのかな)である。 雷は音より速く、余程のことが無ければ回避することは出来ない。その攻撃範囲も広大である為、盾による防御は不可能である。マロンと赤牡丹の技の助けを借りた、ある意味では見事な協力技であった。 「ハァ…ハァ…」 案の定、麒麟をまともに喰らって全身に大火傷を負い虫の息のピオニーが雷による爆煙から現れる。俯せに倒れながら息を切らし血を滴らせている。 「麒麟は雷そのものだ。俺はチャクラでそれを誘導するだけ。お前は忍術や魔法などの特殊能力は無効化出来るが、自然現象である雷そのものならばどうかと試してみたがビンゴだったようだな」 「どうして…それを…」 ピオニーが瀕死の状態で北条に答えを求める。 「お前は自分の能力を勝利に導くと言ったな?勝利に導くとは、敵である人間、つまり能力者である俺達に対してだ。だから俺達が使う技は無効化される。 お前の『俺達に勝利する』という予め作り出した結果に繋がらない過程となるからだ。 だが、自然相手なら別だ。自然の一部である雷ならば『俺達に勝利する』過程に含まれない。お前を攻撃したのは俺ではなく自然だからな。自然による事故故にお前は再生も出来ない。」 「流石は輪廻六道の北条ね……。その洞察力は流石だわ。でもね!」 ピオニーの全身から神の力による膨大な魔力が溢れ出す。 「私の本気を前にして、そんなに勝ち誇った余裕のある態度を見せられるかしら!?」 ピオニーが纏う女神アテナに加護により、全身のダメージはあっという間に回復する。回復したピオニーは剣を杖代わりにして立ち上がる。 「まだ力を隠してやがったのか……!」 ピオニーの体から発せられる神の光が北条の視界を遮る。 「神の代行者の真の実力がこんなものである筈が無いでしょう!?そんなんじゃアティークには一生勝てないわね!まあその前に……」 「私に殺されて死ぬんだけどね!」 戦神の剣による一振りが北条ごと大地を穿つ。 「アハハハハハハハハハハハハハハハ!輪廻六道だろうがマギだろうがポジティブフィードバックだろうが、そんなチンケな力が神に叶う筈が無いのよ!」 「アモンの轟炎剣(アモール・ゼルサイカ)!」 ピオニーの前に出たマロンが巨大な炎の剣振りかざして王宮剣術を仕掛ける。 「デッドリーメイルストロム!」 ピオニーの背後にテレポートした赤牡丹の、腕をドリルに変形させての刺突攻撃。ピオニーは前後から挟み撃ちにされた。 「戦神の武技を舐めないことね!」 巧みな王宮剣術を操るマロンを剣技においてピオニーは圧倒する。それも背後の赤牡丹による連続突きを回避しながらである。 「炎宰相の裂斬剣(アモール・アルバドールサイカ)!」 マロンの極大魔法。防御不可能な巨大な炎の斬撃だがピオニーは剣の一振りで打ち消してしまう。 「ヒート・エクスプロージョン!」 赤牡丹の右手によるマイクロウェーブを叩き込む必殺技だが、ピオニーに触れる前にその手首を掴まれ巴投げで地面に叩きつけられてしまう。 「まず1人!死ねェ隠密!」 「させるか!」 地面に叩きつけられた赤牡丹に剣を振り下ろすピオニーだが、マロンのアモンの剣により阻まれる。 「しつこい男は嫌いよ!」 ピオニーの強い蹴りがマロンの鳩尾に炸裂し、マロンはそのまま吐血しながら吹っ飛ばされる。 「今度こそ死になさい!」 起き上がる余裕すら与えずその剣を赤牡丹の首に振り下ろす……と思いきや…… 「ガハッ…….!」 ピオニーが声にならない叫びを上げて両膝をつき、俯せに倒れて胸を抑え悶え始める。 「呪術・死司憑血」 イザナギで自らの体が両断されたことを夢に書き換え距離を取ることで、北条は術の準備を行っていた。北条は何と自分の心臓を刀で刺し貫いていた。顔は黒と白の縞模様になっている。 「この術は対象の血液を体内に取り込み、自らの血液で地面に陣を描くことで発動する。術者である俺の体と対象の体をリンクさせる。こうして痛覚とダメージを共有させるのさ。俺は不死の体だが…ピオニー、お前は終わりだ」 北条はいつピオニーの血を手に入れていたのか。それは麒麟をピオニーに食らわせて瀕死にさせた時である。北条はピオニーの周りに流れる血を刀につけて採取していたのだ。 「てめえみたいな不細工な腐女子の血を舐めるのは正直吐き気を催すんだがな。ま、そんなわけであばよ」 ピオニーの体は動かなくなってしまった。 「やっと倒したか。しぶとい腐女子だったぜ」 北条が胸から刀を引き抜く。すると当然ではあるが傷から血液が溢れ出し、赤いシミが広がっていく。 「ところで、お前ら治癒魔法的なの使える?あ、いいや自分で自分に医療忍術かけるから。この程度でイザナギ使うの勿体無いし」 某忍術漫画に登場する全ての術を扱える天才忍者ならばこのような芸当も可能である。 「北条の今の奇怪な術が無ければ危なかったぜ」 「いや、俺こそお前らのサポートや時間稼ぎが無きゃ戦えなかった。3人の勝利だ」 マロンが全身魔装を解除する。 「ところでこの腐女子に何か備えてやらねえか?イナイレのブルーレイとかさ」 「必要ねえよ。それより五条さん1位にしてあの世のピオニーを泣かせようぜ!」 赤牡丹の悪ふざけに北条も応じる。五条さんとはイナイレに登場する眼鏡をかけたキャラクターである。詳しくは各自ググッていただきたい。 「悪ふざけはその辺にしようぜ。WあとNZ2を助けに行かねえと。行くぞ」 マロンが先頭切って歩き出す。 「誰があの世に行ったって?」 「!?」 「!」 「∑(゚Д゚)」 3人の鼓膜に確かに入ってくる死んだ筈のピオニーの声。北条、赤牡丹、マロンはほぼ同時にピオニーの方を振り向く。そこには無傷で立っているピオニーの姿が。 「てめえ、俺の呪術で死んだ筈じゃあねえのか!」 「あー、あれ?だって呪術じゃない。つまりアンタの忍術。まあ確かに痛かったけどね。自身で自身を攻撃する物理攻撃を対象に反映させた技ってところかしら。でも所詮は忍術だし」 「クソが!」 北条ではピオニーを倒すことは出来ないのだ。北条は苛立ち思わず叫ぶ。 「風遁・真空波!」 北条が手裏剣の穴を刀に通し、刀を振ってそれを風と共に投げつける。しかしそこは戦神の力を宿すピオニー。高速手裏剣を驚異的な動体視力をもって剣で叩き落とす。 「アモンの轟炎剣(アモール・ゼルサイカ)!」 再びジン「アモン」の全身魔装を発動したマロンの強力な炎の剣による王宮剣術が炸裂する。 「何だかしらねえがよお、てめえの剣に慣れてきたぜ!」 炎の剣でピオニーの眉間を捉える。しかしピオニーはそれを盾でガードする。 「多重影分身の術!」 マロンがピオニーを足止めしている隙に北条が多重影分身を行い50人ほどの分身をつくりだす。 「人数が増えた!?」 マロンの王宮剣術と剣戟を行っているピオニーは、手数を単純に増やす影分身は厄介だった。 「ほ!」 容赦無く炎の剣でピオニーと互角に渡り合い連撃を繰り出してくるマロンへの対応で精一杯だったピオニーに北条の分身が顎に蹴りを入れる。ピオニーはその衝撃で宙へと浮いた。 「う!」 「じょ!」 「う!」 北条の分身が更に次々とピオニーの腹を高く蹴り上げていく。 「まだら二千連弾!」 宙高く蹴り上げられたピオニーを複数の分身がパンチやキックで打撃を加えていく。ラストに分身のかかと落としが炸裂し、ピオニーは地に落下していく。 「炎宰相の裂斬剣(アモール・アルバドールサイカ)!」 「ロケットジェットカウンターインフィニティレンジパンチ!」 マロンは極大魔法により巨大な炎の斬撃を、赤牡丹は爆発的な加速で敵に接近しそのままの勢いで強烈なパンチを、落下してくるピオニーに左右から叩き込む。攻撃は見事に決まり、ピオニーの体は飛散した。 「今度こそ倒したな、俺達3人の勝利だ」 飛散し無数の肉片と化したピオニーの無惨な姿がそこにはあった。マロンは念には念をと、炎の大剣でピオニーの遺骸を焼き尽くして灰にした。 「これからWあと紫牡丹の救援に行くが……マロン、魔力(マゴイ)は大丈夫か?」 「全身魔装、それに極大魔法を連発したから正直余裕はあまり無い。が、禁書の科学サイド如きを抹殺するくらいならわけない」 北条の心配にマロンは正直に答える。表情からはまだ余裕が見てとれる。 「北条も大概だが、防御不可能の大技を撃てるマロンも中々チートだな。魔法によっては効果エグいし アシュトル・インケラードだっけか?白い炎のやつ。あれ北条の天照と効果同じじゃん。マジぱねえ」 赤牡丹が戦いの中でマロンの強さを改めて感じ取った。 「俺も二次元世界に来てこの能力を身につけて正直アタリを引いたと感激したもんだ。でも神とか出て来てパワーインフレしてきやがったけどな」 「おいお前ら、能力自慢は後だ。WあとNZ2を助けに行くぞ」 話しているマロンと赤牡丹をよそに、北条は1人歩き出した。 だが3人は忘れていた。この3人は自分達がdisっている「禁書の科学サイドの能力者」にWあも合わせて4人がかりで挑んであっさり敗北したことを。 「それでこの私を倒したつもりなの?」 「!」「!?」「?!」 北条、マロン、赤牡丹3人の耳に確かに響く、殺して灰にした筈のピオニーの声。しかし3人の視界にピオニーの姿は見えない。 「こっちよ!」 北条の背中に深く大きい切り傷ができる。 「処女宮(パルテノーン)!」 更に巨大神殿が地中から現れ、3人は神殿の中に結界で閉じ込められてしまう。そして3人の正面に空から降り立つピオニー。 「アンタ達が今まで必死に戦って倒したのは私の能力で作り出したクローンよ。此処に来るまでに見たでしょ?あの大量の兵士は全て私のクローン。そのクローンの半完成体がさっきの私。 北条、アンタの麒麟とかいう術、確かに強かった。でもね、私は戦神アテナの力を宿す能力者。アテナは戦略を司る神でもある。戦略なんだからもちろん天候も含まれるの。 天候を味方につけて戦に勝ってきた歴史上の指揮官は沢山居る。自然の雷も効きはしない。クローンの上まだ本調子じゃなかったクローンだから一時的なダメージにはなったけど。 そして本体の私には物理攻撃も効きはしないの。アンタ達は全員この神の代行者ピオニーによってその短い生涯を真っ赤な花を咲かせながら閉じて枯れるのよ!」 ピオニーが戦神の剣を振り下ろす。マロンと赤牡丹が死を覚悟した、その時である。 「神威(カムイ)!」 北条の万華鏡写輪眼による空間転移の瞳術「神威」。北条の万華鏡写輪眼にマロンと赤牡丹、そして自分自身も吸い込んでしまった。 「間一髪だったな。助かったぜ北条」 命を永らえた安堵でマロンの全身から力が抜ける。 「神威が無ければ今頃俺達は御陀仏だった。やはりこの万華鏡写輪眼の力は無敵だ!」 北条の神威で神威空間に転移した3人にはピオニーの攻撃によるダメージは無かった。 「だがどうすんだ?あいつこそもう完全に無敵じゃねえか。逃げる術はあっても勝つ方法はねえぞ」 赤牡丹が悔しげな表情を浮かべる。 「いや、まだ方法はある。奴を抹殺する方法がな。 この万華鏡写輪眼で奴を見た時、奴の持っている剣と盾に流れる神の魔力が奴自身に流れる魔力の数倍の量だった。恐らく奴の必ず当たる斬撃と無敵能力は奴が持つ剣と盾によるものだ。 奴から剣を手放させればあの斬撃は当たらない。奴から盾を手放させれば無敵状態は解除される。 そして奴の斬撃は必ず当たるわけじゃない。現に神威空間に転移した俺達にダメージは無い。奴は目視している相手にしか攻撃を当てることは出来ない。」 北条の鋭い洞察力が光る。 「だが必ずしも剣を手放させる必要は無い。それよりも盾だ。盾さえ手放させれば奴を仕留められる」 「でも奴の武芸は最強クラスだぞ?さっき俺の王宮剣術が通じたのは奴が不完全なクローンな上に多分長時間の戦闘で精度が落ちたからだ。奴にどうやって武芸で勝つんだ?」 北条の分析は見事だが、マロンはそれは机上論だと否定する。 「俺は写輪眼を持つ忍。俺が多重影分身で多人数の分身を作り斬り結びつつ奴の隙を作る。マロンはそこを極大魔法で、隠密は強力な物理攻撃系フラグメントでピオニーの盾を後ろから打撃を加えて手放させるんだ。 奴と斬り結んで確信したが、確かに奴の武芸は最強クラスだ。だがそれは神の加護によるもので、奴自身の膂力は弱い。お前らが強力な攻撃を叩き込めばいける筈だ」 マロンの否定に、北条に頭が冴え渡る。 「分かった。それしかねえようだな。俺は北条に賭けるぜ」 赤牡丹が賛意を示す。 「それにいつまでも奴に梃子摺ってるわけにもいかないしな。黒わんこと戦ってるWあとNZ2が心配だ」 マロンも北条の作戦に賛意を示す。方針は定まった。後は実行に移すのみである。 「行くぞお前ら。次こそ決着をつけるぞ!」 北条をリーダーとする「鷹」のスリーマンセルが神威空間の外へと戻った。 「あら?このまま逃げてたら命は助かったのにまた戻ってくるなんて。命は惜しくないの?」 ピオニーがニヤリと笑いながら煽ってくる。 「命と同じくらいこの世界が惜しいから出てきたのさ。黒牡丹の善政を破壊しようとするお前はこの世界に害を為す病原菌に他ならない。てめえが生きている世界に明日はねえ!」 「多重影分身の術!」 北条は100人程に分身し、一斉にピオニーに斬りかかる。 「私は無敵!無駄な足掻きよ!」 北条を迎え討つピオニー。相手の動きを見切る写輪眼を持つ北条の、草薙剣・千鳥刀による剣戟が戦神に挑む。 「行くぞピオニィィィィィィィィ!!」 千鳥を流した刀で一斉に、四方八方からピオニーに斬りかかる北条。だがピオニーの身のこなしと剣技はもはや人間の域を超え、神のものへと昇華している。写輪眼を持つ北条の分身がピオニーの剣により次々と消滅させられていく。 「ピオニーの動きが速過ぎる!これじゃ背後から盾を狙えねえぞ!」 囮役の北条の戦いを見守るマロンが歯軋りする。 「それでもやるしかねえんだマロン。一瞬でも隙を見逃すな。そしてそこを確実に突け!」 赤牡丹が傍でマロンを諭す。 複数の北条の刀がピオニーの胴体目掛けて突き出される。ピオニーは回避行動を取ることなく、剣や盾で迎え討つことなく動きを止める。 「よく考えたら私無敵だから攻撃を避けたり盾で防ぐ必要無かったわね。こうした方がアンタの分身根こそぎ狩れるし!」 ピオニーがその場に立ち止まったまま剣の一振りで20人程の分身を消滅させる。 (今だ!) このタイミングをマロンと赤牡丹は待っていたのだ。2人はピオニーの背後から盾目掛けて飛び出した。 「炎宰相の裂斬剣(アモール・アルバドールサイカ)!」 「特攻・ヴァルカンショック・リトルボーイ!」 マロンは炎の剣による極大魔法の斬撃を、赤牡丹は全身に炎を纏った突進攻撃をピオニーの盾に繰り出し、押し出す様に直撃する。 「なっ……!」 ピオニーの手から戦神の盾が手放され、地に音を立てて落下した。慌てて盾を拾おうと腰を屈めるピオニーの腹部に北条の渾身の一撃が炸裂する。 「螺旋丸!」 チャクラを圧縮、乱回転させた青い球体がピオニーの腹部に直撃する。 「そんな……馬鹿なァァァァァ!!」 螺旋丸による回転する青いチャクラが拡散し、ピオニーを吹っ飛ばしていく。 「どんな強者にも必ず弱点はある。お前は自らの力に奢り過ぎた。正しく使えば良い力になったものを」 「神の力を欠片も使わずにこの私を……」 螺旋丸を喰らったピオニーは瀕死の状態で仰向けに倒れていた。 「お前の弱点は強過ぎる自らの力による慢心だ。いつの時代、いつの世界でも人間の本質は変わらないものだ。権力や力を持った人間は驕り高ぶり、そこを他者に突かれて破滅する。 強さは時として人を弱くする。今のお前がまさにそれだ。 お前は力の使い方を間違ったんだよ」 瀕死体のピオニーに歩み寄った北条がそう言った。 「悪いが念には念をだ。お前の体は完全に灰にさせてもらう」 「天照!」 黒炎がピオニーの体から発火し、徐々に焼き尽くしていく。 「黒牡丹に伝えて。クソッタレってね……!」 「ああ。伝えてやる。だから安心して地獄に堕ちろ」 ピオニーは最期の言葉を北条に託して黒炎に焼き尽くされ、灰となった。 「終わったな」 側まで歩いてきた赤牡丹が呟く。 「俺達は神の代行者を倒した。この事実は間違い無く全世界に広がる。俺達の居場所が散っていった直江やセール、氷河期達にも伝わる筈だ。この牡丹王国で終結して一丸となればアティークに対抗出来るかもしれんな」 「ああ。だが先の話は後だ。今はとにかくWあとNZ2の救援だ。行くぞ!」 マロンの言葉を受け流し北条は天井に開いた大穴へと跳躍した。マロンと赤牡丹もそれに続いた。 戦いが戦いを呼ぶ。それがこの世界の宿命なのかもしれない。 Wあ&紫牡丹vs黒わんこ 黒わんこは某ラノベ作品の学園都市レベル5の第2位の能力である「未元物質(ダークマター)」で2人を圧倒していた。 「クロスフレイム!」 Wあの掌から放たれる巨大火球は、黒わんこが創り出した謎の暗黒物体の壁に阻まれた。 「めいそうを6回積んだ俺のクロスフレイムが簡単に阻まれた…!」 「マキシマム・ペイン!」 紫牡丹による斥力フィールドの圧攻撃すらその壁は打ち消す。 「俺の能力は未元物質(ダークマター)。この世に存在しない独自の素粒子により構成された物質を創り出す。つまりこの世の物理法則は一切通用しない。 この俺に生えている6枚の白い翼によりお前らの技は掻き消される。 お前らに勝ち目は無い。向こうではまだらと隠密とマロンがそろそろピオニーにやられてる頃だろう。諦めて投降しろ。アティーク様にな」 「アティーク様、だと?」 Wあが黒わんこの口から出たアティークという名に反応する。 「ああ。俺はアティーク様のご命令によりこの地へ派遣されピオニーに協力して牡丹王国を潰すべく活動している。繰り返す、お前らに勝ち目は無い。今すぐ投降すればアティーク様の陣営に加えてやる」 これは最後通牒だとばかりに翼に光線を放つ為のエネルギーを溜め始める黒わんこ。 「降ると思うか?あんな狂信者に!」 Wあが一撃必殺の技「絶対零度」を繰り出す。文字通り絶対零度の冷気が黒わんこを包み込む。が、黒わんこが創り出した未元物質が黒わんこを包んで防いだ。 「残念だよ、Wあ」 翼から光線が放たれようとしたその時である。 「白閃煉獄竜翔(アシュトル・インケラード)!」 白い炎の龍が上から現れ、黒わんこを包み込んだ。 「天照!」 更に黒炎が体から発火し、全身を燃やし始める。 「グワァ!なんだこの白と黒の炎は!」 消えない白と黒の炎により体の一部から灰になっていく黒わんこ。そして空から赤牡丹のテレポートで現れた赤牡丹、マロン、北条が降り立つ。 「間に合ったようだな」 北条が万華鏡写輪眼で黒わんこを睨みながら後ろのWあと紫牡丹に声をかける。 「助かった。お前らが此処に来たってことは…」 「ピオニーは抹殺した。後はこいつだ」 ピオニーを倒し、黒牡丹への反乱を止めるという紫牡丹の使命は果たされた。だが喜ぶ暇は無い。 「お前ら、まさかあのピオニーを!」 「ピオニーは俺達の手により死んだ。残念だったな」 炎に焼かれながら黒わんこの表情が曇る。やがて黒わんこの体は焼き尽くされ灰となった。 「ピオニーが……信じられないがお前らが此処に居るということで認めざるを得ないだろう。 物理法則を無視し対象を焼き尽くすお前らの技、成る程ピオニーを倒すだけのことはある」 焼き尽くされ灰となった黒わんこの体は塵のような物体が一箇所に集まり肉体となって再生される。 「不死身ってわけかよ、クソが」 「ピオニーが死んだんじゃ任務の続行は不可能だな。今お前らと戦う理由は無くなった」 黒わんこはマロンのセリフには反応せずに再生を終えて語り出す。 「さらばだ鷹の者共。全く、アティーク様に何とご報告すれば良いのやら……」 黒わんこは背に生えた白い翼を使い羽ばたき、空へと舞い上がる。 「逃げられましたね」 Wあが悔しさを表しほぞを噛む。 「だがピオニーを倒すという目的は達成された。今はそれで良しとしようじゃないか」 紫牡丹がWあの肩に手を置き宥める。 「牡丹都に帰ろう。任務達成の報告を黒牡丹にしないとな。口寄せの術!」 北条が口寄せで輪廻眼を持った怪鳥を召喚して飛び乗る。他の4人もそれに続く。 翌日、鷹の5人は王の間にて国王の黒牡丹に事の仔細を報告した。 「……以上が今回の任務遂行の詳細です。ピオニーは排除されました。これで我が国の反乱分子の芽は摘まれました」 紫牡丹が跪き淡々と報告を終える。報告を聞いた黒牡丹は思わず笑顔を浮かべながら王座を立ち上がる。 「5人とも、よくやってくれた!これで俺も枕を高くして眠れるぞ! 北条、赤牡丹、Wあ、マロンの4人には追って恩賞について沙汰する。後は好きなだけ屋敷で寛ぎながら暮らしてくれ!何か必要な物があれば遠慮無く言ってくれ!紫牡丹を君達との連絡係とする!」 上機嫌の黒牡丹はそう言いながら4人の手を順番に取っていく。 かくして、牡丹王国の平和は鷹により見事に守られたのであった。 翌日以降、鷹の5人がピオニーを討ち果たして牡丹王国の危機を救ったことが全国ニュースで報道され、5人は一躍世界中の大スターとなった。 何でも、1人も神に類する力など持っていないにも関わらず神の代行者を倒したというのが大武功だったということであり、氷河期や姫宮と共に世界中で持て囃される存在となった。 さて、舞台は移り、ペルシャ帝国の首都・ペルセポリスとなる。 城の建設を着々と進め、グリーンバレーだった時の街並みを破壊し、現実世界のペルシャ風の建造物を建て直したり、街並みにしたりとアティークは理想の国造りを進めていた。 今や全国民が強制的にゾロアスター教徒となっている。一つの神を信仰することで国民に一体感を生まれさせ、強い団結力とアフラ・マズダーの力を宿すアティーク自身への忠誠心を育ませ強力な国とする為の宗教政策である。 「オロシャ帝国に続き牡丹王国でも動きがあったようだな」 「はい。ご存知かとは思いますが、オルトロスに敗れ牡丹王国に行き着いた北条、赤牡丹、Wあ、マロンの4人が自分達を鷹と称して動いているようです。ピオニーは鷹に討たれましてございます」 アティークの独り言だか質問だか微妙なセリフに側近のHopeが答える。 「黒わんこめ、しくじりやがって。やはり此処は学園都市第一位のオルトロスの方が良かったか」 「いえ、奴らも相当の実力者です。オルトロスは確かに我が国が誇る能力者ですが、奴らに勝てたのは奴らが多数であるという油断もあったものかと思います」 機嫌を損ねたアティークを宥めるようにHopeが諭す。 「ピオニーに黒牡丹を滅ぼさせて牡丹王国を半属国にする我が野望は潰えてしまった。だがまだやることはある。 我らの要求に応じず北条らと和議を結んだNAK帝国を討ち滅ぼす!Hope、すぐに将士を集めろ!10万の軍でNAK領へ侵攻する!」 「はっ!」 アティークが玉座から立ち上がり声を張り命じると、Hopeは一礼して皇帝の間を後にした。 「このアティークこそが世界を統べる支配者に相応しい。全ての国境を取り除きペルシャ帝国一国とすれば争いは無くなり平和な世となる。 世界中をゾロアスター教で塗り潰してやる!」 アティークの野望は留まることを知らない。 皇帝アティーク率いる10まんな 皇帝アティーク率いるペルシャ帝国軍総勢10万がペルセポリスを出陣した。 第一陣、つまり先鋒部隊はオルトロス率いる2万。 第二陣はHope率いる2万。 第三陣はアティーク率いる本軍4万 第四陣、後詰は平行率いる2万。 この大軍がグリナ峠を越えてNAK領への侵攻を開始したのである。グリナ峠ではNAK2号率いる1万5千のNAK軍がペルシャ帝国軍を阻まんと陣取っていたが、オルトロス率いる2万の部隊がNAK2号を討ち取り蹴散らし、3000以上の首級を挙げる大活躍をした。 グリナ峠を抜いたペルシャ帝国軍はそのままナク谷を越えてNAK新城へ迫り、竜崎率いる5000が篭るこの城を、蟻の這い出る隙間の無い程の完全包囲陣を形成した。 「オルトロス。グリナ峠の戦いでは良くやった。恩賞は期待して良いぞ」 本陣にオルトロスを呼び出し、その絶大な武功を賞賛するアティーク。 「ペルシャ帝国の勢いは留まることを知らないな。NAKを滅ぼしたら次は牡丹王国か?」 オルトロスが逸る気持ちを隠さずアティークに尋ねる。もっと自らの手で武功を挙げたいようだ。 「そう急くなオルトロス。あまり急いで軍を進めれば補給線が伸びてしまう。それに急速に版図を拡大すれば仁王帝国や幻影帝国が我らを危険視して警戒させることになる」 「そういうもんか。慎重かつ時に大胆に、だな」 「そういうことだ。この城も間も無く落ちるだろう。そうすれば首都NAKは目と鼻の先だ。頼んだぞ」 「ああ。じゃあ、またな」 アティークとのやり取りの後、オルトロスは本陣を後にする。 常勝無敗、最強のペルシャ帝国がNAK帝国領を手に入れれば、全世界の25%程の陸がペルシャ帝国領となる。 アティークの前に、もはや敵などいない。誰もがそう思っていた。 ペルシャ帝国軍は交代で昼休憩を取り始めていた。将士達は支給された握り飯を頬張りながら竹筒に入れた清水を喉へと流し込む。 「やはり働いて食う飯は美味いな!この握り飯、塩味が強くて美味い!」 平行の横で部隊副官として参陣しているぷろふぃーるが握り飯を一度に二つも口に突っ込んでいた。 「なあぷろふぃーる、何か音が聞こえないか?」 ぷろふぃーるの呑気な様子を見ながらも異変を察知する平行。後方から聴こえてくる兵達の悲鳴、絶叫。それが段々と此方に近づいてくるのである。 「敵の奇襲か?いや、敵は前方の城にしか居ない筈……だがこれは…」 悲鳴や絶叫だけでなく、近づくにつれて血が飛び散る音、肉が斬り裂かれる音、剣による金属音が聴こえてくる。 「誰かある!」 平行は様子がおかしいと気づき、周囲に控えている兵士の1人を呼びつける。 「はっ!」 「一体何が起きている!」 「襲撃者です!数は、5人!」 様子を探り駆け戻ってきた兵士がそう答える。 「5人だと?たったそれだけの敵に何を手間取っている!さっさとと始末しろ!」 平行は眉間に皺を寄せて怒鳴りつける。 「始末?そいつは無理だな」 ハンドガンにより後頭部を撃ち抜かれる兵士。声と共に幔幕を潜り抜け登場した男達は…… 「貴様らペルシャ帝国の歴史に今日、終止符を打つ。 俺達エクスペンダブルズがな」 5人の中のリーダーと思しき大男が見得を切ってハンドガンを平行に向ける。チャキッという銃を構える音が場の緊張を高める。 リーダーである全身を生体細胞で覆われた魔改造機械金属人型兵器の大男。 全身を銀の甲冑で包んだ筋骨隆々な男。 北斗神拳伝承者の上半裸の元ボクサー。 北斗琉拳伝承者の運動神経抜群の男。 神に近い人型決戦兵器を持つ論厨の男。 5人合わせて「エクスペンダブルズ」。 「お前はセール!」 自身に銃口を向け引き金に手をかける大男の名を平行は思わず叫ぶ。 「アティークは何処だ。出さなければお前の脳漿を弾丸でブチ抜く」 セールは平行を脅迫している。その表情はまさに鬼の形相である。 「アティーク様の手を煩わせるまでもない。お前如きこの俺だけで十分だ」 「そうか。ならば……」 セールは銃の引き金を引くのではなく、懐から起爆スイッチを取り出しそれを親指で押す。 爆音が鳴り響き、後方から爆煙が舞い上がる。混乱する兵士達の絶叫が戦場に木霊する。 「実はお前らがNAK帝国に侵攻する情報を掴んだ俺達は既に此処に大量の地雷を仕掛けた。今ので1万人は死んだな。もっと殺してやってもいいんだぞ?」 平然と万の命を葬ることさえ厭わない鬼の元大将軍。それこそがセールである。 「侵入者を見つけたぞ!平行将軍とぷろふぃーる将軍を守れ!」 駆けつけてきた兵士達が続々と現れ、セール達5人を数千で取り囲む。 「何の騒ぎだ」 騒ぎを聞いて兵の群れを駆けつけたのは、皇帝アティーク自身であった。 「アティーク様……」 1万以上の兵をたった5人に葬られたことを申し訳無さそうに詫びる平行。 「平行、これは……貴様は……セールか!!」 グリーン王国時代、李信と取引して自分から第一の大将軍の座を奪った憎き男の姿が、殺したいと願っていた男の姿がアティークの視界に入った。 「来たかアティーク。探す手間が省けたな。グリーン王国に反逆し滅ぼし自分に都合の良い国造りを進めているようだが、その横暴も此処までだ」 「吐かせ筋肉達磨。お前を殺したくてずっとウズウズしてたんだよこっちは!探す手間が省けただと?それは俺のセリフだ!神の炎でその身を焼き尽くしてやる!」 セールとアティークの視線がぶつかり、火花が飛び散るかの様な勢いだった。 「平行、ぷろふぃーる。手を出すな。セールは俺自らの手で殺す」 アティークが手出し無用と周囲に念を押す。 「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた おぅわったぁ!!」 平行の横っ面に突然3秒間に50発の拳を叩きつける「北斗百烈拳」を繰り出したのはくれないだった。北斗百烈拳を喰らった平行が兵を薙ぎ倒しながら一直線に吹っ飛んでいく。 「アティーク陣営の能力者は1人でも多く削った方がいいんでな。死ねやクソメガネ」 こっちはこっちで決着をつけると言わんばかりに平行との戦闘にくれないは入る。 「セール、俺も手を出させてもらうお^^神使い相手なら俺の存在は必須な筈だお^^」 「1vs1(サシ)に拘るつもりは無い。こいつをぶっ潰せば全てが終わるからな。 来いよアティーク。雑兵なんて捨ててかかって来い」 セールの隣に出たまさっちを止めずにアティークを挑発する。 「セール、俺は他の兵や将を潰してくるぜ」 「任せる」 後ろに控えていたしずくなのが陣幕から去っていく。 「俺は残る」 これによりセール&筋肉即売会&まさっちvsアティークという構図になった。 「アフラ・マズダーよ!我に力を!光の世界へ導きを!」 アティークの瞳が紅蓮に染まり、背からは不死鳥を模した炎の翼が生え、背後霊の如くアフラ・マズダーが顕現する。 すると聖なる光に満ちた果ての無い世界に自身とセールら3人が転移する。強過ぎる力故に元の世界を焼き尽くしてしまう懸念を頭に入れての発動である。 「こいつやっぱり噂通り神を宿してるみたいだお^^俺が居て正解だったお^^行くぞエヴァンゲリオン!」 まさっちの呼び掛けに答え、異空間から出現したかのような形でエヴァンゲリオン初号機が顕現し、まさっちはコックピットに飛び乗り起動させる。 「擬似シン化第1覚醒形態!」 エヴァンゲリオン初号機の機体が発行し、黒を基調とした赤のボディラインにカラーも変化する。 擬似シン化したエヴァンゲリオンは神に限りなく近い存在となることは唯一神戦で既に触れたが、これにより神の代行者であるアティークの力は弱まることになる。 「噂に聞く、これがエヴァンゲリオンか。だが我が神の力に何処まで抗えるかな?」 アティークの掌からエヴァ目掛けて極太の炎熱光線が発射される。 「ATフィールド発動!」 眩い光を放つ正八角形のバリアがエヴァの正面に展開され、炎熱光線を打ち消してしまう。 「エヴァばかりに気を取られていて大丈夫か?」 足底に搭載されたロケットブースターで高速移動し背後に回ったセールによる、肘のブーストを推進力としたロケットパンチが炸裂する。 アティークは衝撃により顔面に大穴を開けられるが、瞬時に再生し、振り向きざまに炎の剣で薙ぐ。 「お前の動きはこの目で全て見えている」 ターミネーターをベースに魔改造されたセールの視界には敵の動きの予測すら見えている。セールは腰を屈めてアティークの一閃を回避すると、腕をガトリングガンに変形させて弾丸を連射し始める。 「蜂の巣にしてやる」 アティークの全身から血が噴き出し、無数の肉片に変えられていく。 「ダイヤモンドダスト」 全身を無数のダイヤモンドに変えて射出しアティークに追い討ちをかけるのは筋肉即売会。蜂の巣にされたアティークに容赦無く降り注ぎ、見るも無惨な姿になった。 「くたばれ狂信者。地獄の断頭台!」 再生しかけているアティークの両腕の急所をスピン・ダブルアームで封じた後、相手が垂直になったところ上空に投げ飛ばし、逆さになった相手の首に自分の膝を落として地に叩きつける。 「調子に乗り過ぎだよ、お前ら」 まさっち、セール、筋肉即売会による攻勢を受けてアティークはまたしても瞬時に肉体の全てを再生、全身から強力かつ巨大な炎の波動を全方位に放出する。 「何て威力だお^^;」 まさっちのエヴァはATフィールドで波動を防ぐも、セールと筋肉即売会の様子は炎に埋もれて見えない。 「更にもう一撃!」 アティークが炎の剣を地に突き刺すと、広範囲で無数の火柱が間欠泉の様に湧き上がる。 「し、下からの攻撃はATフィールドで防げないお!」 さしものエヴァ初号機も火柱に呑み込まれ焼け爛れていく。 「ターミネーターを舐めるな」 火柱から伸びる機械の腕がアティークを鷲掴みにし、頭部を思い切り地に叩きつけて圧迫する。 「お前こそ神を舐めるな」 アティークが念じたことによりセールの体は炎に包まれ、体を覆う皮膚が剥がれて内部の機械や金属も溶けていく。 「肉弾急降下爆撃」 頭上から筋肉即売会が頭突きを喰らわそうと頭から落ちてくる。 「死ね」 アティークの炎の剣から炎熱を押し固めた波動が放出され、頭突きが届く前に呑み込んだ。 「この程度では俺は殺せんぞ」 完全再生を果たしたセールによる腕の砲口からの巨大なエネルギー砲が発射されアティークを呑み、影も形も視界から消し去ってしまう。 「地球を7回滅ぼせる核弾頭の10倍の威力のエネルギーを凝縮させたビームだ。少しは応えたか?」 「成る程。だが所詮は人が造ったものをベースにしたものだ。俺は神!人の力などでは倒れん!」 いつの間にか眼前に現れたアティークが掌から火炎を放射する。 「その炎、貰うぞ」 アティークが放出した火炎を掌に空いた穴の中に吸収するセール。 「撃たれたら撃ち返す。倍返しだ」 炎の剣で横に薙いでくるアティークの一閃を腰を落として回避し、右手の掌の穴から吸収した炎をエネルギーに変換してこのゼロ距離で撃ち返す。 「グオオオオオオオ!!」 「お前さん、神の力を振り翳して思想の違う能力者や民間人を弾圧したよねえ。ほならね、今度は自分がされてみろって話でしょ?^^」 エネルギー砲により吹き飛ばされるアティークに待っていたのは擬似シン化したエヴァによる強力な破壊のビームだった。特大のビームがアティークの細胞を壊し尽くしていく。 「悪魔将軍はどんな攻撃をも受け付けない!」 次に、アティークの波動を喰らった筈の筋肉即売会が宙から現れ、再生しかけているアティークに強烈なヘッドバッドを見舞う。 「蚊みてえに俺の体に纏わりつくんじゃねえ!」 全身から15000000度の、熱風を伴う炎を放出するが筋肉即売会には如何なる攻撃も通用しない。筋肉即売会はそのままアティークの手首を掴んで前へと投げ飛ばす。 「クソ!」 「やるぞ筋肉即売会!」 「オーケイ、セール!」 セールと筋肉即売会がアティークの前後から右腕を首に力を込めて圧迫する。 「ダブルラリアット!」 二つの右腕が交差し、アティークの首が宙に舞い上がる。 「2人ともそこをどくんだお!^^」 仕上げとばかりにATフィールドを何層も放ち、アティークを圧殺(?)してしまった。血と肉の塊がペシャンコに潰された状態で横たわる。 「我が神アフラ・マズダーよ!我に更なる力を!」 再生したアティークの瞳に不死鳥の翼が浮かび上がり、不死鳥の翼のサイズは大きくなり、全身に神の炎の衣が纏われる。 更に炎の剣は不死鳥の翼を模した形に唾が変形し、その一振りでセールの体が頭から両断されてしまった。 「お前ら、直江達よりもしかしたら強いな。いや、相性の問題か。神に限りなく近いエヴァ覚醒体のおかげでお前らは俺に攻撃を命中させられている。だが更に神の力を引き出した俺にお前らは為す術を持たない」 「まずは最も障害になり得るエヴァを封じさせてもらう!太陽(アフタブ)!」 真っ二つになったセールを捨て置き、まさっちが搭乗するエヴァを中心に太陽を創造していく。 「こんなもんぶっ壊してやるお^^;」 エヴァが放つ破壊のビームで太陽を破壊しようとするが、太陽には傷一つつかない。 「うおおおおおお!!」 再生復活を果たしたセールと拳の硬度を10まで引き上げた筋肉即売会が太陽を殴りつけるが、ヒビ一つ入らない。 「セール、このままじゃまさっちが!」 「仕方ない、あれを使う!」 焦る筋肉即売会。そしてセールは背中にせり出たブースター搭載の機関の一部を解放し、魔力で分解して腕や肩、脚や胸部に装着する。 するとセールの両目が青白い光を放ち、胸部の中心には赤く輝くコア状の物が浮かび上がる。 「魔改造覚醒形態」 セールが強化された肘のブーストを推進力とした強烈な拳を太陽に叩き込み、粉々に粉砕してしまった。 「助かったおセール^^;」 太陽から解放されたエヴァが地に降り立つ。 「俺の太陽(アフタブ)を……!水素の拳を思い出す破壊力だ」 アティークが巨大な魔法陣を脚元に展開し、巨大な炎の矢を魔法陣から形成し、狙いをセールに定める。 「セール、筋肉即売会!俺の後ろに退がるんだお!^^;」 まさっちに促されて2人はエヴァの後ろへと跳び退がる。 「宇宙を30回破壊出来る威力の神の矢だ。高次元にすら干渉出来る。果たしてATフィールドで防げるかな?」 アティークが神の炎の矢をエヴァ目掛けて射出した。射出と同時に赤い魔法陣が炎で焼かれて消滅するエフェクトが発生する。 神の炎の矢が3人目掛けて放たれる。 「ATフィールド全開!うおおおおおおおお!」 まさっちのエヴァがATフィールドを幾重にも次々に展開して矢を防ごうと踏ん張るが、ATフィールドは次々に破壊されていく。 「神と神に限りなく近い存在の差だ。格の差を思い知れ!」 アティークが勝ち誇った顔で言い放つ。そしてATフィールドが遂に最後の一枚になる轟音を立てながら炎の矢がエヴァに迫っていく。 「もう駄目だあああああああ!!」 「どけまさっち!俺が何とか相殺する!」 凄まじい膂力でエヴァを押し退けてどけると、セールは腕の砲口からエネルギー砲を放出した。 「先程のビームの更に数倍の威力だあああああ!!」 炎の矢とセールのエネルギー砲がぶつかり合うが、エネルギー砲は一瞬で突き破られて大爆発を起こし、アティークの視界全体に爆炎と爆風が巻き起こる。 「人間と神の差だ。この炎の矢でしっかりと噛み締めるがいい」 当のアティークは技の影響を受けることはない。爆炎に呑み込まれたのはセール、筋肉即売会、まさっちのみであり、アティークは爆風で吹き飛ばされることもない。 爆炎が鎮火し、再生が追いつかないエヴァとセールが息を切らしている様子がアティークからは見て取れた。因みに筋肉即売会は悪魔将軍故に無傷である。 「神に逆らうことの愚かさを思い知ったか?」 アティークが炎の剣の鋒を3人に向ける。 「俺は無傷だがな!」 筋肉即売会が飛び出す。 「その一 大雪山おとし」 アティークの胴を掴まんとその両腕を伸ばす。が…… 「目障りだ。消えろ」 攻撃を喰らわない筈の筋肉即売会の体はアティークの一閃により深傷を負ってしまった。 神の炎の矢が3人目掛けて放たれる。 「ATフィールド全開!うおおおおおおおお!」 まさっちのエヴァがATフィールドを幾重にも次々に展開して矢を防ごうと踏ん張るが、ATフィールドは次々に破壊されていく。 「神と神に限りなく近い存在の差だ。格の差を思い知れ!」 アティークが勝ち誇った顔で言い放つ。そしてATフィールドが遂に最後の一枚になる轟音を立てながら炎の矢がエヴァに迫っていく。 「もう駄目だあああああああ!!」 「どけまさっち!俺が何とか相殺する!」 凄まじい膂力でエヴァを押し退けてどけると、セールは腕の砲口からエネルギー砲を放出した。 「先程のビームの更に数倍の威力だあああああ!!」 炎の矢とセールのエネルギー砲がぶつかり合うが、エネルギー砲は一瞬で突き破られて大爆発を起こし、アティークの視界全体に爆炎と爆風が巻き起こる。 「人間と神の差だ。この炎の矢でしっかりと噛み締めるがいい」 当のアティークは技の影響を受けることはない。爆炎に呑み込まれたのはセール、筋肉即売会、まさっちのみであり、アティークは爆風で吹き飛ばされることもない。 爆炎が鎮火し、再生が追いつかないエヴァとセールが息を切らしている様子がアティークからは見て取れた。因みに筋肉即売会は悪魔将軍故に無傷である。 「神に逆らうことの愚かさを思い知ったか?」 アティークが炎の剣の鋒を3人に向ける。 「俺は無傷だがな!」 筋肉即売会が飛び出す。 「その一 大雪山おとし」 アティークの胴を掴まんとその両腕を伸ばす。が…… 「目障りだ。消えろ」 攻撃を喰らわない筈の筋肉即売会の体はアティークの一閃により深傷を負ってしまった。 「神に不可能など無い」 腹部から血を流し筋肉即売会は倒れてしまう。 「まさっち、再生にどのくらいかかる?」 「生き残ったのが奇跡だ。時間は推測出来ないがかなりかかる」 焼け爛れ損傷が激しいエヴァが再生するには時間を要するとまさっちは言う。状況が状況である為いつもの口調は鳴りを潜めている。 「ならば俺がやる」 セールは右腕を変形させ、砲口から光の粒子で出来たビームサーベルを形成する。 「行くぞアティーク」 足底のブーストから火を噴いてアティークに斬りかかる。 「ふん。無駄なことを」 アティークは翼を利用し飛行することで斬撃を回避、上空から巨大な火球を下のセールに向けて放つ。 「俺がお前を裁く裁判長だ」 セールは左腕の砲口から核弾頭トライデントD-5を射出し、火球と衝突し大爆発を起こす。 「小癪な奴だ!」 攻撃を相殺されたアティークの眼前に現れたのは爆炎を潜り抜け足底のブーストにより飛行したセールだった。 「お前は気に入らん。殺すのは最初にしてやる!」 セールがアティークを狙いビームサーベルを斬りあげるが、アティークはそれを炎の剣で受け止める。 「空中戦か?受けて立つぞ」 高速飛行しながらの炎の剣とビームサーベルによる剣戟が繰り広げられる。 現実世界で自衛隊員として訓練を積んだセールに、単純な近接戦でアティークが叶う筈がなかった。空中剣戟では何度も打ち合う内にアティークがセールに押され出し、左腕が切断され胸部を一閃され斬り落とされる。 「悪魔将軍はあの程度ではくたばらんぞ!」 復帰した悪魔将軍が斬り落とされ落下していくアティークの胸から上をがっちりと逆さまに掴む。 「パイルドライバーという挌闘技がある。どんな技かってそれはこういう技だ!」 地にアティークを頭から叩きつけ、脳漿や頭蓋骨、血がぶち蒔けられる。 「地獄に堕ちろアティーク」 セールが上空から粒子砲を放ちアティークを筋肉即売会諸共呑み込んでいく。 「我が神アフラ・マズダーよ。我と同化しその力の一切を我に授けたまえ」 ビームを振り払い再生したアティークがアフラ・マズダーそのものの姿に変化する。 「裁判は俺が執り行う。貴様ら全員火炙りの刑だ」 アティークの意思により光の世界全てを包み天高く湧き上がる灼熱の業火が発生する。セール、筋肉即売会、まさっちは炎の中へと姿を消してしまう。 「フハハハハハハハハハハハ人がゴミのようだ!温度推定すら出来ない灼熱の業火に焼き尽くされろ可燃ゴミ共!」 アティークは全てが終わったと判断し光の世界を閉ざす。元の世界に戻るとアティークの眼前には全身の皮膚を剥がされ機械金属の体の大半が焼失しているセールと、エヴァを焼き尽くされ倒れたまさっち、甲冑を燃やし尽くされた筋肉即売会の姿があった。 「トドメだ」 神の力の形態を解除し元の姿に戻ったアティークが炎の剣を振り下ろそうとした瞬間、何者かがアティークに体当たりをかました。アティークは真横からの体当たりに吹っ飛ばされていく。 「やはりゴムの体はこういう時便利だな」 「何者だてめえ」 突如現れた横槍に不快感を露わにするアティーク。 「NAK新城城主の竜崎だ。能力は某海賊漫画に登場する能力と技だ」 現れたのは城主の竜崎だった。竜崎はゴムの腕をしならせてその腕を繰り出す。 「ゴムゴムのバズーカ!」 両手を後ろに伸ばした後、勢いを利用した掌底を相手に打ち込む。 「こんな攻撃がどうしたと言うのだ」 アティークは竜崎の攻撃をジャンプで回避してしまう。 「隙は作った。それで充分だ」 「なn…」 竜崎の言葉の意味が分からなかったアティークだが、背後に現れたセールのロケットパンチにより全身の骨を砕かれて地平線の彼方まで吹っ飛ばされてしまう。 「クソ、魔力を使い過ぎたか…お前ら、撤退するぞ!」 魔力切れが近づいていることを察したセールはこれ以上の戦闘は危険と判断して他の仲間達にも撤退命令を下すと同時に合図の信号弾を打ち上げる。 「撤退か。こっちも4人相手でヤバかったところだ!」 平行、ぷろふぃーる、オルトロス、庭師を相手にしていたしずくなのとくれないも不利を察して4人に背を向け走り始めた。 「何だ何だ何ですかァそのザマはァ!」 オルトロスがその場に落ちていた小石を拾い弾丸のようにしずくなのへと投げつける。 「ふんっ!」 全身に魔闘気を纏いそれを弾くと、4人の追撃を見事に振り切りセールらと合流した。 「お前ら、俺の体の何処かに掴まれ!遠くへ飛んで行ける魔力くらいはある!」 「待て、俺も連れて行け!」 まさっち、筋肉即売会、しずくなの、くれないがセールの四肢に掴まったところで横から竜崎が口を出す。 「お前は命の恩人だ、いいだろう」 竜崎がセールの首に手を回ししがみついたのを確認すると、セールはオルトロスすら追いつけない超高速飛行で彼方へと飛び去ってしまった。 「逃したか…」 オルトロスは悔しそうに舌打ちをする。 結局、セール達により全兵力の2割以上を失ったペルシャ帝国軍は撤退する羽目となり、この戦いは痛み分けに終わった。 「あいつらが逃げた方向はあっちだな!」 オルトロスはやはり奴らは始末しておかなければならないという強い意志が働いたようだ。オルトロスは西の方角へと飛び去っていったセールらを追い始めた。ベクトル操作の能力で運動エネルギーを操り光速での飛行である。 何とか逃げ果せたセール達6人は、切り立った崖や山が乱立する名も分からない渓谷地帯の洞窟に身を潜め、それぞれが応急処置や食事の準備をしながら休んでいた。 「あのアティークの最後の攻撃、あの威力の攻撃を食らって生きてるなんて奇跡だな」 鍋にカレーのルーを入れておたまでかき混ぜながら筋肉即売会が思い起こす。 「俺が持っていた唯一神から奪った聖書の効力だろう。あれを喰らう時に懐の聖書が眩く光っていた」 セールが懐から聖書を取り出すと、焼け跡や傷の一つもない状態だった。今も微かな光を放っている。 「竜崎、お前の能力ってワン◯ースか?」 「ああ。俺ワン◯ース興味無いんだが、この世界の能力割り振り適当過ぎるだろ」 しずくなのの質問に竜崎は愚痴で返しながら飯盒で米を炊いている。 「でも直江はブ◯ーチだし星屑はジョジ◯だし北条はNAR◯TOらしい。望んだ能力を手に入れた奴も居る。不思議なことだ。俺も機械人間よりカイオウとか江田島平八とか筋肉スグルが良かったんだが」 セールが横から愚痴を吐く。 「望んだ能力だとかそうじゃないとか関係ねえぜぇ?三下共!お前らは今日までの命なんだからなァ!愉快に素敵に血の池つくって肉片撒き散らしてくれよぉ!」 「!」 洞窟の出口の方をセールが振り向くと、そこにはオルトロスが歪んだ笑みを浮かべなら立っていた。 「探したぜェ?お前ら魔力とかダダ漏れなんだっつーの!全員処刑してやるから覚悟しなァ!」 オルトロスが地面を蹴ると、洞窟全体の地面が隆起し6人を串刺しにしようと襲い掛かる。 「うおおおおお!」 しずくなのが地面に右拳を叩きつけ、地割れを引き起こして隆起を防ぎ、6人は事なきを得た。 「しつけえ野郎だ。てめえはこの北斗琉拳使いのしずくなのが始末してやる」 「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけききくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきくきこきかかか!!」 オルトロスが両手を広げ天に掲げると、圧縮された大気が巨大なプラズマに変化して空を覆い尽くす。 「こんな狭い場所でバトったら他の5人まで巻き込まれるな。ふんっ!」 しずくなのがオルトロスをただのパンチで吹き飛ばして洞窟の出口から出る。その視界に映ったのは正面の崖にめり込んだオルトロスだった。 「さっき闘って分かったんだが、お前の反射膜に触れる寸前で拳を引っ込めれば普通に攻撃当たるんだよなぁ?wまあお前とやり合った俺しかコツを掴めないのは道理だがな」 「学園都市最強のレベル5の面子をよくもここまで汚してくれたなァ!てめえは跡形もなく消しとばしてやっからそのつもりでいなァ!」 オルトロスが両手に溜めたプラズマをしずくなの目掛けて放出する。雷鳴を響かせながらしずくなのに巨大プラズマが迫る。威力は北条の雷遁秘術「麒麟」以上だろう。 「暗琉襲撃破!」 しずくなのが拳から膨大な魔闘気を放ち、プラズマとぶつけて相殺する。 「俺が指一本でも触れればてめえは御陀仏だァ!」 地面を蹴ったオルトロスによる超高速の指による突き攻撃がしずくなのに直撃する。が、しずくなのは倒れない。体中の血液が逆流することもない。 「魔闘気を全身に纏えばその程度のひ弱な攻撃など完全に防ぐことが出来る」 しずくなのがオルトロスの首根っこを右手で掴んで持ち上げる。 「ク…ソ…離…せ!」 首を絞め上げられる形となったオルトロスが呼吸困難に陥りジタバタともがき始める。 「魔琉苛烈破!」 魔闘気でオルトロスの身動きを封じ、魔闘気でオルトロスを谷底へと吹き飛ばしてしまった。 「しずくなの、オルトロスはどうした?」 「ああ、放してやった」 洞窟内に戻ったしずくなのはセールの疑問にこう答えた。確かに「放して」やったのだから間違いではないが……。 舞台は移り、オロシャ帝国の西端の冬木市(都市名は勿論某作品からパクった)。 アティークとの激戦の後、ホッサムから逃げて李信、水素、星屑、小銭の4人はこの地に逃れて再起を図ろうとしていた。 と言っても、何かを具体的にやっているわけではない。ゴーストタウンにある誰も住み着いていない旅館だった建造物を4人で不法占拠して勝手に住み着き拠点としていた。 幸い元高級マンションだったようなので個室が4つあり、電気ガス水道といったライフラインも機能している。更に何故か湯が際限無く湧き出てくる温泉も健在である。 此処で世界の何処かでで仲間達が動きを見せるのを待っているのだが、4人の誰もが神使い探しという目的を忘れていた。 「なあ、毎日ダラダラしてんのも暇じゃね?」 とある個室で4人で寛いでいると、小銭が急に切り出す。 「かと言って何かすることがあるわけでもないしな」 星屑が温泉饅頭を頬張りながら寝そべる。 「じゃあさ、此処にデリヘル呼ぼうぜ!」 「1人で呼んでろ」 小銭の提案を一蹴する星屑。小銭は受話器を取って1人で電話をかけ始める。が、その手を掴んで電話をやめさせる者があった。李信である。 「何すんだこの童貞野郎」 「食糧の買い出しが先決だ。今週分の買い出し当番は俺とお前だ」 「食糧なんて後回しでいいだろ」 「兵站は戦における最重要要素だ。行くぞ」 「ちぇっ 買い出し終わったらデリヘル呼ぶからな!」 最後の言葉には答えずに個室のドアを開けて出て行く李信に小銭は不機嫌そうな表情でついていく。 「俺も久しぶりにヤりてえかも」 2人が去った後、そう呟いたのは水素だった。 街の中心部にあるスーパーまで2kmといったところだろうか。李信と小銭は長いようで短いこの道を2人で無言のまま歩いていた。 会話は無い。2人とも現実世界での就職活動における面接でからっきしな程のコミュ障だからである。かたや2社受けて就活をやめた小銭、かたや数十社の面接に落ちた李信である。コミュ力はポケガイの中でも最底辺レベルと言える。 2人が無言のまま比較的大きな公園がある通りに差し掛かる。 「おい、あれ氷河期じゃね?」 静寂を破り口を開いたのは小銭の方だった。小銭が指差す正面を見上げると確かに氷河期…と、見たこともないイケメンの姿があった。 「本当だ氷河期さんだ。こんなところで会うとはな」 氷河期も此方に気づいたのか、歩み寄ってくる。 「やあ直江氏に小銭。奇遇だねえ。今まで何してた?」 「アティークと闘った後此処に流れ着いてダラダラと時を過ごしてたところだ。其方はロケット団を倒して大活躍だったそうだな」 久しぶりの再会だが、至って会話は自然である。 「知ってるか?牡丹王国で動きがあったのを」 氷河期が話題を切り出す。北条ら「鷹」がピオニーの野望を阻止した件についてである。 「北条君や隠密さん達がやったようだな。俺達もダラダラしてる場合じゃないな。早く神使いを探さねば」 李信は自分達の本来の目的をようやく思い出した。 「アティークを倒すのに神使いを探す必要があるんだな?俺らが倒した大沢も神使いだったがあれはかなり強かった」 「おい、何勝手に2人で談笑してんだよ。そもそも氷河期、俺はお前を仲間と認めてねえぞ」 氷河期が話しているところで小銭が口を挟み始める。 「おい小銭、いきなり何を」 「直江こそ忘れたのかよ?こいつは俺らの仲間であるリキッドを殺したんだぜ?それに現実世界で俺を素材にしたネタ動画を投稿した奴だ。俺はこいつが気に食わねえ」 問い質す直江に小銭は氷河期を睨みつけながら答える。 「それは過去のことだ。今はみんなで協力して……」 「リキッドのことを過去のことだって切り捨てんのかよ!?」 「…」 李信は小銭に返す言葉が見つからなかった。 「小銭、俺にどうして欲しい?」 氷河期が小銭に尋ねる。 「俺と勝負しやがれ氷河期」 氷河期を睨みつけながら勝負を所望する小銭。 「小銭、今は仲間同士で争ってる場合じゃ…」 「直江、黙ってろ」 止めに入る直江をも一蹴した。 「分かった。それで納得するなら勝負してやる。直江氏、止めるなよ?」 「分かった。もう好きにするといい」 氷河期も了承し念を押してくるので李信は諦めることにした。 「クラスカード セイバー」 小銭はセイバーのクラスカードを発動し、アーサー王の姿に変化する。 「冷殺剣」 氷河期は腰に帯びている剣を引き抜き、冷気と魔力による剣強化を行う。 「我は鋼なり、鋼故に怯まず、鋼故に惑わず、一度敵に逢うては一切合切の躊躇無く。これを滅ぼす凶器なり」 「鉄血転化」 更に鉄血転化による身体強化を行い、瞳と頭髪が赤に染まる。 「行くぞ氷河期!」 セイバーの持つ宝具「風王結界(インビジブル・エア)」。小銭は幾重にも剣に風を纏わせて不可視の剣とする能力を使い、氷河期に間合いを計らせずに斬りかかる。 「武器を隠してくるか、卑怯者め」 「何とでもほざきな!」 見えない剣で斬りかかる小銭に対して氷河期は冷殺剣で受け止め応戦する。響く剣戟。打ち合う剣が火花を散らす。激しい動きに視界がぶれ、空気を裂く僅かな気配を察して、氷河期は本能で剣を避ける。 「どうしたどうしたァ!?」 伝説の剣士・アーサー王の剣技を使う小銭にさしもの氷河期も押されてしまう。打ち合う度に火花が散り衝撃波が発生する。 「オラァ!」 Aクラスの筋力を持つ英霊・アーサーの膂力で小銭は氷河期を道路から脇にある公園へと鍔迫り合いから押し飛ばす。 体勢を瞬時に整えて着地する氷河期に小銭の空中からの一撃が降り掛かるが、慌ててこの振り下ろし攻撃を右に体を逸らして回避する。 「冷殺斬!」 そのまま正面を向きながら後ろへと跳ぶ。その体勢のまま剣を振り下ろし冷気を帯びた斬撃を小銭に飛ばす。 「風王鉄槌(ストライク・エア)!」 小銭は剣に纏わせた風を突きと共に解放することで破壊力を伴った暴風として撃ち出す。 ストライク・エアと冷殺斬が衝突するが、冷殺斬は突き破られて一筋の暴風が氷河期の腹部を貫く。 風王鉄槌(ストライク・エア)で貫かれた筈の氷河期の腹部の傷は内側から冷気が溢れ、それが細胞となり肉となり塞がった。 「再生能力かよ!いつの間に身につけやがったのか」 「俺の新たな力 氷河期(アイスエイジ)だ」 小銭は再び風王結界(インビジブル・エア)で剣を不可視化し、空中の氷河期に跳んで斬りかかる。再び激しい剣戟となるが、着地と同時に氷河期の右肩に小銭の剣により裂け目ができる。 「最強騎士さんよォ!てめえの力はそんなもんかよ!」 次々と繰り出される小銭の不可視の剣に間合いを図れず氷河期は追い詰められていく。 「氷河期(アイスエイジ)」 小銭が氷河期を斬り裂いた…かに見えたが、氷河期は気体化により冷気と化し、小銭は冷気を斬り裂いたに過ぎなかった。 「チート過ぎんだろ……」 「冷却砲!」 小銭の背後10mに人間体として現れた氷河期が放つ剣先からの冷気を押し固めた冷却砲。小銭に向かって一直線に伸びていく。 「はああああああああああ!」 不可視の剣を上段から振り下ろし、小銭は冷却砲を斬り裂く。 「エターナルフォースブリザード」 冷却砲を防がれたとなり、更に威力の高い広範囲を凍てつかせる魔術を全身から放出する。 「御構い無しに広範囲魔術かよ。俺らまで巻き添え喰らうぞこれ」 「俺に任せろ」 氷河期が放った冷気が迫り来ると見て全身に強い霊圧を張り巡らせる李信に、それには及ばないと隣で観戦していた姫宮が前に出て右手を翳すと、2人の方へ飛んでくる冷気は消滅した。 「おいイケメン。アンタ何者だ?」 「自己紹介がまだだったな。俺は姫宮。ただのイケメンだよ」 李信の質問に姫宮は爽やかに答える。 「ただのって…今のがただのイケメンにできるのか?」 「まあ、イケメンだからね。それより君、小銭の仲間だよね?このバトルどっちが勝つと思う?」 姫宮は自身の能力については誤魔化し、どちらが勝つかと話題を逸らす。 「さあ、氷河期さんは新たな力を手に入れたようだが小銭も相当強いぞ。あいつのおかげでアティークを追い詰めるところまでいったんだからな」 「ふーん。でもまあ氷河期もかなり強いからねえ。俺は氷河期に100ペリカ」 「俺は賭けはしないぞ。そういうのは嫌いでな」 「ノリが悪いねえ。そんなんだからコミュ障で面接通らないんじゃないの?おまけに童貞だし」 「アンタ、イケメンだからってどんな言動も許されると思うなよ?この斬魄刀でアンタの素っ首刎ねてやってもいいんだぜ?」 姫宮の戯れにイラっときた李信は腰に帯びている斬魄刀の柄に手をかける。 「冗談だよ冗談。君、もう少し寛容になって明るくした方がいいよ?」 「余計なお世話だ」 「残念でした~!セイバーは対魔力Aなんだよ!そんな魔術が効くかバーカ!」 小銭は氷河期のエターナルフォースブリザードを受けても体の何処も凍らされることなくダメージも皆無だった。如何にも小銭らしい口調で氷河期を煽る。 「無想・樹海浸殺!」 氷河期が剣を地面に突き刺さすと地面から次々と樹木が生え、小銭に向かって枝や蔦と共に伸びていく。 「エクス…カリバー!!」 小銭が両手でその聖剣を大きく振り上げ、振り下ろす。「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」。その真名を解放することで所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、光の断層による究極の斬撃として放つ神造の宝具である。 光の斬撃が樹木を斬り裂き消し飛ばしながら氷河期に迫り、その体を頭から股まで綺麗に真っ二つにさいてしまう。 「氷河期(アイスエイジ)」 氷河期は即座に気体化し、そのダメージを無効にする。 「体の内側から凍てつかせてやる」 冷気と化した氷河期が周囲の大気と同化して増幅、小銭の鼻や口から入り込み体内から凍てつかせてしまう。 「勝負あったな」 内外から氷漬けにされ氷像となった小銭を視認した氷河期が人間体に戻っていく。 「勝負はついてねえよ、ボケが」 細胞、器官、血液など全てを凍結された筈の小銭が氷を突き破り風王鉄槌(ストライク・エア)を氷河期に放つ。氷河期はそれを高速移動で回避し、小銭の背後に回る。 「ふんっ!」 振り向きざまに小銭が剣で横へと斬り払う動きを見せ、氷河期はそれを剣で受け止める。 「あれで死なないって、お前人間か?」 「この前ようやく俺の中へと戻った宝具・全て遠き理想郷(アヴァロン)の力で俺は不老不死と無限の治癒能力を手に入れた!」 小銭と氷河期の打ち合い。またしても氷河期が不利になっていくが新たに手にした力を行使する。 「絶対魔眼!」 氷河期の瞳と頭髪の赤が更に濃く変化する。敵の弱点や隙を見抜き、鍛錬により数秒先の未来を予想出来るようにまでなった。 絶対魔眼により小銭の動きに追いつくどころか互換以上に斬り合いを進め、ついに小銭の右肩に氷河期の冷殺剣が突き刺さる。 ルチアというコテがかつてポケガイに存在した。彼(彼女?)はこの冬木市に在住する住民であり、今日は冬木市の大きなスーパー「むなげや」の特売日なのでマイバッグとチラシを引っ提げてむなげや目指して歩いていた。 「挽肉が安いな!今日の晩御飯のおかずはハンバーグで決定だー!」 ちょうど公園の脇道に差し掛かった時である。氷河期の多量の魔力を注ぎ込んで放たれるゼロ距離での冷殺斬が小銭の右肩から先を切断し、その余波である巨大な冷気の斬撃がたまたま通りかかったルチアに直撃し、冷凍された細切れの肉片に変えてしまった。もはや元が人間だったのかすら判別がつかない惨状だった。 「俺のAクラスのステータス・直感を上回る未来視と動体視力とはな」 右肩から下を斬り落とされた小銭は全て遠き理想郷(アヴァロン)による治癒魔法で欠損した腕の再生を果たした。 氷河期は一度退がり小銭との距離を取る。 「俺はまだまだ闘えるぞ氷河期!」 「受けて立つ!」 2人が地面を蹴るのがほぼ同時だった。勢いをつけた2人が互いに剣を振りかざして接近していく。 そこで両者の距離の中間に一筋の青いビームが通り抜けていく。小銭と氷河期はそこで立ち止まった。 「そこまでだ」 青いビームは李信が放った虚閃(セロ)だった。微かに残っている虚閃による青い霊圧の残滓が掌から消えるのが、振り向いた2人から視認できたのである。 「直江氏、止めるなって言った筈だが?」 「そうだそうだ!邪魔すんじゃねえ!」 2人は額に青筋を浮かべながら水を差した李信に苦情を言い立てた。 「この闘いは続けても半永久的に決着はつかない。不毛だと思わないか?」 小銭の全て遠き理想郷(アヴァロン)と氷河期の氷河期(アイスエイジ)は両方とも不死・治癒や再生能力を持つ力である。故にこのまま続けても無駄だと李信は判断した。 「互いに折れろ。そして小銭、いい加減大人になれ。今仲間割れしても何の得も無いだろ」 「ケッ仕方ねえな。だが俺は氷河期を仲間とは認めねえぞ」 小銭も頭の中では氷河期を倒すのは無理だと分かっていたのか、李信の言葉に応じてクラスカードの発動を解除した。 「姫宮、氷河期さんはそっちに任せる」 「ああ、上手く宥めておくよ。これ、俺達が滞在してるホテルの住所だ。何かあったら訪ねてきてくれ」 李信に頼みに返事するついでに、姫宮は住所が書かれた紙切れを手渡した。 「確かに受け取った。今日のところは失礼する」 「ああ。じゃあね」 李信は姫宮と一通りのやり取りを終えた後別れ、小銭を回収してむなげやへの道を歩き始めた。 「小銭、今日は何が食べたい?」 「塩鍋だな」 コミュ障なりに李信は道中で小銭に話題を切り出す。といっても夕飯のメニューというある意味必須事項を聞いているだけなのだが… 「俺はキムチ鍋がいいんだが…水素はトマトチーズ鍋が食べたいとか言ってたな。星屑はモツ鍋が食いたいらしい」 ここオロシャ帝国は北国故に寒冷地域である。降雪量も多く、暖かいものが欲しくなってくる。 「じゃあ鍋に仕切りを入れて全部作ればよくね?」 「せやな」 小銭の提案に李信がなんjの影響を受けた似非関西弁で答える。そんな話をしている内に冬木市の中心街にある大型スーパー「むなげや」に到着した。特売日故に客も多く、例日より混雑している。出入口から出てくる客の群れを避けて野菜売り場に近い出入口から入店する。 「まずは白菜だ」 入店するなり白菜を探し出すのは李信だった。 「鍋にはキャベツが合うんだよねぇ」 小銭が勝手にキャベツをひと玉売り場から取り出してカートに無造作に突っ込む。 「まあ何でも好きな物を入れたらいいさ。俺は白菜を入れる」 白菜を取り出しカートに乗せて他の野菜や肉や魚や鍋の素、そして酒を次々にカートに乗せ、レジに通す。 「ふぅ~買ったな~」 買い物を終えてむなげやから出たところで小銭が缶コーヒーを自販機で買って飲み始める。 「ねえ最近怖い噂が流れてるの知ってる奥様?」 「あの連続殺人鬼の話でしょ?狙われてるのは若い女性ばかりだとか。あらやだ怖ーい!」 李信と小銭の横で40代後半くらいの主婦2人が買い物を終えて世間話を始める。それだけでは李信も小銭も気にもかけないのだが、話の内容がきな臭いと感じたので盗み聞きすることにした。 「内の娘も年頃だし気をつけさせなきゃ。ホント怖いわねー。」 「何でも、見つかった遺体はみんな片腕の手首から先が切断されているそうよー?世の中にはとんだ変質者がいるものねー。私の娘も今年で二十歳よ。夜遅くまで出歩かないようによく言い聞かせなきゃー。」 「その話、詳しく聞かせてくれないか?」 李信が主婦達の会話に割って入る。コミュ障の癖に大したものである。其れ程会話の内容が気になったとも取れるが… 「あらやだお兄さん盗み聞きー?趣味悪いわねえ!」 「たまたま聞こえてきたんでな。良かったら詳しく聞かせてもらいたいんだが」 主婦の1人が嫌そうに反応するが、李信は受け流して話を聞き出そうとする。 「それに黒いマントに全身黒装束、眼帯に刀、お兄さんがまさか変質者なの?」 「いや、格好は変かもしれんが俺は連続殺人鬼じゃない。茶化さないで教えてくれ」 その格好から変質者と疑われるが、李信は断じて変質者では…ない。多分。 「はあ。詳しくも何も、此処最近一週間おきに5人も若い女の子ばかりが冬木市で手首から先が無い遺体としてあちこちで発見されてるのよ。同一人物による犯行で間違いないわねー。それ以上のことはアタシ達も知らないわー」 「分かった。邪魔したな。帰るぞ小銭」 出来る限りの情報を引き出したと判断した李信は話を打ち切り小銭に言って購入した物を詰めたレジ袋を持ちながら歩き出す。 「なあ直江。何であんな話が気になったんだ?」 「そんな連続殺人鬼が居るなら排除しなければならないだろう?神使いに繋がる手掛かりも無いし退屈凌ぎに殺人鬼退治といかないか?」 「成る程。もしかしたらそいつが手掛かりになるかもしれないし暇潰しにちょうどいい。俺も乗るぜ」 小銭は購入した酒や食料を全て李信に持たせ、自身はデリヘル情報が掲載されたチラシを見ながらどの嬢が良いのかと慎重に見比べていた。 「なあ直江。デリヘル呼んでいい?此処のデリヘル本番ありらしいし!つかお前も呼ぼうぜ!童貞卒業しろよいい加減!」 「二次元の女には興味無いんじゃなかったのか?」 「ムラムラしたら次元とかもうどうでもよくなった!で、お前もデリヘルどうよ?」 「断る。素人童貞なんて人間の恥だ」 小銭の誘いを一言で一蹴してしまう。真性童貞より素人童貞の方が恥だと李信は信じていた。 「せっかく二次元に来たから二次元美少女と恋愛して脱童貞したいってか?でもお前根暗コミュ障だし元は不細工だし無理無理w」 しかし小銭のこの発言は完全にブーメランだった。 冬木市ゴーストタウンの廃旅館 一際大きい大鍋をちゃぶ台の上に置いたガスコンロにセットし強火に設定し、買ってきた鍋の素や切った具材を投入し数分待てば完成する。 キムチチゲ鍋、塩鍋、モツ鍋、トマトチーズ鍋の4種類であり、それぞれ仕切りで分けられている。李信、小銭、星屑、水素は思い思いにおたまですくって椀の中へと入れて箸で口に運んでいくのかだが… 「水素、酒買ってきたぞ。飲むだろ?」 「おう」 小銭から一升瓶を手渡された水素がトマトチーズ鍋を食しながらガラスのコップに日本酒を注いで一気に飲み干す。 「やはり鍋はモツだな。グレートですよ、こいつは」 モツを次々と頬張り熱さで顔を赤くした星屑が唸る。しかしそんな平和な鍋は束の間だった。4人を突如予想しなかった悲劇が襲った。 カランッ 思わず持っている箸を手放したのは塩鍋を食べていた小銭だった。 「俺の塩鍋が赤く……!」 仕切りが甘かったのか、小銭の塩鍋にキムチチゲやトマトチーズ、更にはモツ鍋の出汁が入り込んでしまったのだ。 「どれ、仕切りがズレてたんだろ。ちゃんと直せば……」 李信が鍋の中の仕切りをズラすが、それがかえって事態を悪化させてしまう。益々それぞれの鍋の出汁が他の鍋へと溢れてしまい、淀んだ色の出汁に煮られていく見るも無惨な具材が残る。 「馬鹿、お前何やってんだ!」 酔いが回った水素が慌てて仕切りを元の位置に直すも手遅れだった。 「………」 そして言葉を失った一同だが、そんな中小銭が恐る恐るスープを手に取り口に運ぶ。 「美味い……!」 小銭の口から出た意外な感想に他の3人は耳を疑う。だが星屑も騙されたと思ってスープをすくって飲んでみると…… 「グレートですよ、こいつは!お前らも食ってみろ!」 星屑に促されて水素と李信もそれに続く。 「次にお前らは あ、確かにうめえ!と言う!」 「あ、確かにうめえ!」 意図せずハモってしまう。 4人組の誰得な食事風景であった。 「小銭十魔様は此方の御宅で間違い無いでしょうかー?」 結局、小銭はデリヘル嬢をこの廃旅館に呼び込んだ。水素はやはり辞退したようだ。デリヘル嬢は見たところ20歳前後で髪は黒のロングヘアー。真冬だというのに露出の多いキャミソールである。 「チィーッス!小銭十魔でーす!部屋に案内するから着いてきてー!」 興奮を抑えられずに昂ぶる小銭の案内で、デリヘル嬢が別室に通される。 「失礼致しまーす」 嬢が部屋に入るなり、小銭は嬢の手首を掴んでそのままベッドに押し倒した。 「グヘヘへへへw早速俺と気持ち良いことしようぜぇ~」 「いやん!お客様ったらがっつき過ぎ~!」 小銭が押し倒した嬢のキャミソールを脱がせ、黒いランジェリーが露わになる。しかも良く見るとパンツはTバックにガーターベルトであり、それが小銭の情欲を更に掻き立てた。 「おっ!俺の為にTバック履いてきてくれたの!?俺Tバック大好きなんだよね!エロいな~!」 「Tバック好きって仰るお客様多いんですよー!バックの体位の時にお尻を揉みしだきながら突くのがたまらないそうなんですー!」 胸も大きい。恐らくFカップはあるだろうか。形も垂れてなくてまさに美乳と言える。谷間が小銭の視界を通して更に興奮を覚えさせる。小銭はこの胸を揉みしだきたい、パイズリされたいという欲望に駆られたが、まずはフェラチオである。 小銭はズボンと柄パンを脱ぎ捨ててはち切れんばかりに膨張した自らの分身を嬢の口に突きつける。 「じゃあまずは口で気持ちよくしてもらおうかな~!」 「はーい!」 小銭に言われるがままに、嬢は起き上がってベッドに腰掛けながら突きつけられた一物を口に含み、唾液を絡ませジュポッジュポッという音と共に頭部を動かしながら激しい刺激を与えていく。時折一物から口を離して精子工場の玉筋を舐めてくるのだが、それがまたたまらない。 舌と唾液、口腔の粘膜が小銭の一物に絶妙に絡みつき、小銭の脳から脊髄を伝って堪え難い射精感が襲ってくる。 「ちょっ…!もうヤバい!イク!離してくれ!」 小銭はフェラチオを続ける嬢の頭を掴んで強引に一物を引き抜いた。 「えー!私の口に出して下さいよー!」 「俺は口の中よりおマ◯コの中に出したいの!口に出したら勿体無いじゃん!次はイカない程度にパイズリしてよ!」 小銭がダブルベッドに仰向けに寝そべると、勃起を維持しているその一物を嬢がその巨乳の谷間に挟んで押し包み、上下に動かし始めた。 ブラを外し、形の良い柔らか且つ肉厚の良い胸で一物を擦られ、すぐにイキそうになってしまうが、ここはイったら勿体無いと小銭は全身全霊で自身の内から溢れてくる射精感と闘い耐え凌ぐ。 「小銭さーん、私のおっぱいどうですか~!」 「最高だ…!やっぱり女は巨乳に限るね!でももうイキそうだからやめてもらっていいかな?」 苦しそうにイクのを我慢している小銭の歪んだ表情を見て察した嬢は、小銭の一物を胸の谷間から解放する。 「ねえ、俺もう我慢出来ない…!おマ◯コに挿れたい!」 小銭は嬢を押し倒し、Tバックのパンティをズラして正常位の体勢で嬢の秘所に自身のギンギンに漲っている一物をあてがう。 「じゃあ、挿れるよ…!」 コンドームもつけずに生(ナマ)で18cm程もある大きな一物を秘所の奥へと一気に挿入する。 「あん!///おっきい!」 生での挿入で一物の硬さや熱を直に感じ、膣壁を擦られた快感で嬢は喘ぎ声を出し始める。膣内の全てが小銭のデカマラで満たされる快感が脊髄を伝って脳に行き届き、脳内麻薬を分泌して正常な思考を奪う。 「今日危険日だから凄く性欲強くて興奮しちゃって…アンッ!///気持ちいい!」 「ハァ…ハァ…危険日なのにナマでハメちゃって良かったの?」 「ゴムありよりナマの方が気持ちいいからいいの!妊娠してもいいから膣内(ナカ)に射精(だ)して下さいね!///」 「そのつもりだよ…!あーやっべめっちゃ絞まるわ気持ち良すぎる!これは名器だわ!」 何とこの嬢、危険日なのに中出しを懇願する真性のド淫乱、ド変態だった。小銭も遠慮なく欲望のままに腰を振り、ピストン運動を繰り返していく。 「アンッアンッアンッ!///気持ち…いい!イク!イク!イっちゃう!」 子宮口をズンズンと連続で激しく突かれ、小銭のリズミカルなピストンに堪えられず嬢は小銭より先にオーガズムを迎え絶頂してしまった。 「ハァ…ハァ…申し訳ありませんお客様…お客様より先にイッてしまいました…」 嬢が上気したトロンとした表情で小銭に謝罪するが、それは心底からの謝罪でないことは明らかだった。 「俺のオチン◯ンで気持ち良くなってくれてるなら嬉しいよ!次は騎乗位でヤろうよ!」 小銭がベッドに仰向けに寝そべる。嬢は自らの秘所に小銭のカウパーが滴る一物の亀頭をあてがうと、ズププと音を立てながらゆっくり腰を落とす。 「アンッ!凄く気持ちいいっ!」 「ねえねえ、カウパー(我慢汁のこと)でも妊娠しちゃうんだよ?wいいの?」 小銭の警告など御構い無しに余すところなく根元まで挿入してしまう。膣の中が正常位の時よりも満たされ、強い圧迫感がたまらない。快感は正常位の時よりも更に強く感じ、脳を突き抜けて全身が火照る。 「じゃあ、動きますよ~?」 嬢が小銭に跨ったまま左右に腰を動かし始める。あまりの快感に思わず腰の動きが激しくなり、大きな喘ぎ声が漏れ出てしまう。 「アッ///アッ///アッ///ダメッ気持ち…良過ぎてまたすぐイッちゃう!」 小銭のデカマラが余程気に入ったのか、妊娠してしまうかもしれないことなど御構い無しに激しく腰を振り、2度目の絶頂を迎えてしまう。しかし絶頂しても少し余韻に浸って間を置いてから今度は膝を立てて上下に腰を動かしていく。 「イくの早いね~!俺もイキたいけど勿体無いからまだまだ頑張るわ!」 ズチュッズチュッという性液が混ざり合い局部が擦れ合う卑猥な音が部屋中に響く。嬢は小銭の一物を根元まで秘所で咥え込んでから半ばまで腰を浮かせてまた思い切り腰を叩きつけるようにピストン運動を繰り返していく。 「ハァ…ハァ…ハァ…アンッ!アンッ!アンッ!アンッ!アンッ!アッ!アッ!アッ!///」 小銭の一物が大き過ぎるのか、気持ち良さだけでなく圧迫感が強くて苦しい。だが嬢にとってはそれすらも快感だった。 「お客様のオチン◯ン最高です~!まだイカないで下さい~!もっと楽しませて下さい~!」 「いや、俺もそろそろキツいわ…!君のおマ◯コの締め付けが良過ぎて…!」 嬢の3度目の絶頂。どうやらこの嬢は相当体を開発・調教されてイキやすい体になっているようだ。 「そろそろ俺も射精(だ)したいわ。バックで射精(だ)したい!」 「はいっ!根元まで挿れて思い切り動いて下さい!」 嬢が四つん這いになり、尻を小銭に向ける。小銭は半膝立ちになり嬢のグチュグチュに濡れている秘所に一物を一気に根元まで挿入する。同時にズンッという強い感触を感じた。どうやら子宮口まで一気に達したらしい。 「アンッ!///」という喘ぎ声と共に、嬢は軽く達してしまう。 バックは正常位や騎乗位など、他の体位より一物が膣に深く突き刺さり、圧迫感と刺激が膣奥の子宮口を通り越して頭まで達するという話がある(真偽は分からないが)。 嬢の感じ方は尋常ではなかった。正常位や騎乗位の時の数倍の快感と圧迫感が突き抜けていき、遠慮も無く獣の様な声を上げて小銭の一物で感じている。 「アンッ///アンッ///アンッ///アッーーーーーーーーー!!!アッ!アッ!アッ!アッ!アンーーーッ!!///」 脳内麻薬の分泌量も今までの比ではない。快感が嬢の全てを支配していた。この交尾の中で一瞬、今日は危険日でこのまま中出しされたら妊娠してしまうかもしれないという現実が頭を過ぎるが、逆にそれが嬢の興奮を更に高めた。 会ったばかりの何処の馬の骨とも分からない男に孕まされるかもしれないと思うと、その背徳感とスリルが更に快感を増幅させていく。嬢は心底から小銭に中出しを望んでいた。 「やべっ…!もうイキそう!射精(だ)すぞ!膣内(ナカ)に射精(だ)すぞ!」 「射精(だ)して!膣内(ナカ)に射精(だ)して!妊娠してもいいから膣内(ナカ)に射精(だ)して!」 激しいピストン運動の後、頭の中が真っ白になった小銭が絶頂と共に射精し、自身の一物から溢れ出る熱い奔流を嬢の膣奥にある子宮口にドクドクと直接流し込んだ。 「やべっ。超気持ち良かったわ」 小銭は嬢の膣内から一物をゆっくりと引き抜き、それを嬢の口に再び突きつける。お掃除フェラの要求である。 「おマ◯コの奥にお客様の精子射精(だ)されちゃいました!今日危険日なのに、妊娠しちゃうかも!///」 嬢は嬉しそうに言うと、小銭の一物を口に含んで精子を綺麗に舐めとった。 小銭に射精された熱い精液を膣奥や子宮内で感じる。会ったばかりの男の精子が自分の子宮内にある卵子を目指して泳いでるいると思うと興奮が高まり、再び発情してしまう。 もう、この客に孕まされたい。そんなドM願望が嬢を支配し頭の中は性交と妊娠のことでいっぱいになってしまう。 「お客様、お代は要らないのでまだまだ私とエッチしませんか?」 「マジで!?やったぜ!」 上目遣いで嬢にせがまれた小銭は二つ返事で了承する。 「でも俺のオチン◯ンが復活するまで時間かかるからこのオモチャで遊ぶことにするよ」 小銭がベッドの引き出しから取り出したのは電マだった。それを嬢の秘所にパンツ越しにあてがい押し付けると、いきなり強のスイッチを入れてしまう。 「アンッ!///イキたかったのにー!///」 小銭は嬢が絶頂を迎える寸前で電マを秘所から離してしまう。 「どうして!?お願いイカせて下さいー!///」 だが小銭は嬢の懇願を無視して電マによる寸止めを繰り返す。だが嬢はイキそうなのにイケないこのプレイを悦んでいた。生粋のドMである。 「お願いしますー!いい加減イカせて下さいー!///」 しかし10回も寸止めを繰り返すと、嬢も流石に我慢出来なくなり大声で小銭にイカせてくれとお願いをする。最早理性など無く性欲に飢えた獣だった。 「じゃあさ、さっきみたいに俺にお願いしてよ。妊娠してもいいから中に出してってさ!」 「というか、ぶっちゃけお客様に孕まされると思うと凄く昂ぶるし気持ちいいんです!本気で私を妊娠させて下さい!///おマ◯コの奥でお客様の精子を思いっきり出して下さい!」 その返事を聞いて満足した小銭は嬢を立たせて壁に手をつかせると、立ちバックの姿勢で嬢の膣内に漲った一物を一気に挿入して子宮口を激しく突く。 「アンッ!///」 嬢はその一突きだけでイッてしまいそうになるが、必死に我慢する。寸止めを繰り返された後のイキ我慢が凄くもどかしくて、凄く辛くて、凄く苦しくて、気持ちいい。嬢はその感覚が癖になってしまっていた。 「動くぞ」 そんな嬢のことなど考えずに小銭もまた性に飢えた獣の様に激しく子宮口を突きまくる。 「ねえ、ピルとかで避妊はしてないの?ガチで危険日で避妊一切無しなの?」 「避妊なんてしたら…アンッ!///興奮も快感も半減しちゃうじゃ…アンッ!///ないですか!///アンッアンッアンッ///!!」 今日は嬢の最も危険な日だった。避妊を一切せずに相手がどんな客なのか分からない道中で興奮して3回も自慰行為をしてしまった程である。 メタボのおっさんでも、キモオタでもいい。キモい男に孕まされるのはそれはそれで興奮する。しかし蓋を開けてみれば金髪で赤い瞳を持った黒ジャージ姿の若いイケメンの男(小銭のこと)だった。 イケメンでもいい。誰でもいい。最も危険なこの日に避妊せず思い切り中出しエッチがして知らない男に妊娠させられたかったのである。もはやこれが仕事だということもどうでもよくなっていた。 「本気で妊娠したいんです!お客様の濃厚精子で孕ませて下さい!///アンッ!///」 必死にイくのを我慢し続け、自身の内の快感と苦痛を膨張させながら再び小銭に懇願する。 「そんなに孕みたいなら孕ませてやる!オラッ!オラッ!オラッ!」 小銭は自慢のデカマラで嬢の子宮口を突き何度も突いた。嬢はついに我慢の限界に達し、獣の様な叫びを上げて絶頂に達した。同時に小銭も膣奥で思い切り射精した。 結局、小銭と嬢の行為は深夜0時まで続いたのだった。 「恋バナの時間だ!」 深夜のテンションになった水素が突然ハジけ出す。友達とお泊まりといったら定番の話題であるが…… 「急にどうしたんだよ水素」 「深夜といったら雑談!雑談といったら恋バナだ!」 星屑が水素のテンションについていけずに溜息をつく。 「じゃあ順番に好きな人を言うぞ!まずは俺からだ!俺はN◯Kにようこそ!の中原岬ちゃんと、Re:ゼ◯のレムが好きだ!」 「恋バナって、二次元の話かよ。俺はま◯マギのさやかちゃん。はい終わり」 水素が勝手に話を始めると星屑は怠そうに続けて答える。 「直江はどうなんだよ!?」 「超電磁◯の佐天さん。以上」 恋バナは僅か数秒で終わってしまった。 「小銭の奴今頃お楽しみかぁ?素人童貞はプライドってもんがねえみたいだな」 李信が温泉饅頭を頬張りながらテレビで深夜のニュースを視聴している。 「お前は自力で童貞卒業出来ないんだから大人しくプロに抜いてもらっとけばいいのに」 「うるせえ!っておい!このニュースは!」 水素に煽られて過剰反応したところで、夕方主婦から聞いた例の事件についての報道が流れ始めた。 「昨夜、冬木市在住の◯◯さん(19)が右手首から先を切断された状態で遺体で発見されました。冬木市の殺人事件は本件で6件目であり、警察は事件とみて捜査を進めております。以上ニュースでした」 「また犠牲者か」 李信がテレビのリモコンの電源スイッチを押して消す。 「俺らも神使いへの手掛かりが無いし暇だから一応手伝うけどよ、恐ろしい事件だなこれ。というかこれジョジ◯の吉良吉◯と同じ犯行の手口じゃん」 星屑がお気に入りの漫画作品のことを思い出す。その作品にも同じような犯行を行う連続殺人鬼のキャラが存在していた。 「罪も無い人間を己の快楽目的で殺す異常者はこの直江山城守が許さん。必ず排除してくれる」 しかし、この男に純粋な正義の心があるのかは疑問符がつけられる。 深夜。小銭との中出しエッチを楽しんで廃旅館を後にしたデリヘル嬢は真っ暗闇のゴーストタウンを1人歩いて自宅のアパートを目指していた。 「あー気持ち良かったー。ノリであんなこと言ったけど後でアフターピル服用しなきゃ~!」 嬢がそんな独り言を言っていると、背後から忍び寄る人影が… 繰り返すが、此処はゴーストタウン。当然人気など無い筈なのだが、このデリヘル嬢を狙う「黒い影」が背後から気配を消して忍び寄るのである。そして間近まで接近したところで急に気配を現す。 「えっ…何…!?」 嬢が気配に気づいて恐怖を感じ背後を振り返る前にズシュッ という鋭い様な、それでいて鈍い様な刃物の音が響く。同時に黒い影に飛び散った鮮血が全身に付着し、真っ暗闇の黒い影を赤く彩る。 嬢は声も上げずにその場に俯せに倒れた。瞳孔は開いたまま、頸動脈を切られて血の池を作り出す。 「うーん、暗闇でよく見えないがこれは触った感じスベスベで綺麗な手をしているね」 嬢の死体の手首を入念に撫でたり触ったりを繰り返す。黒い影。そして… 「暫くは君が恋人だ。宜しく」 ザシュッという刃物の鋭い音と同時に、嬢の死体の左手首が切断される。 「今度は一際綺麗な自慢の恋人だ。暫くは楽しめそうだ。日常が華やかになるな」 手首を鞄に入れていたマグドナルドのハンバーガーが包まれていた紙袋を取り出し、切り取った手首を大切そうに慎重に入れて包んで鞄にしまう。 周りに一切の人気が無いことを念を入れて確認し、黒い影はその場から早々に去っていった。まるで暗闇に溶けていくかのような動きであった。 真夜中に起きた惨劇。己の性癖による快楽の為だけに殺人を繰り返す謎の男。 物語は動き出す…。 「おい起きろみんな!大変だ!」 朝のニュースを見ていた小銭の表情が凍りついたが暫くして正気に戻り、相変わらず朝でも熟睡している他の3人を大声で起こす。 「昼まで寝かせろや…まだ眠いんだよ」 最初に目を覚ましたのは水素だった。目を擦りながら眠気の取れない不機嫌そうな顔で小銭を睨む。 「こ、これ!このニュース!」 水素がテレビ画面に目を映す。映し出されたのは、この旅館付近のゴーストタウンにある人気の無い路地裏だった。 報道によれば、殺害されたのは性サービス店に勤務している18歳の女性。左手の手首を切断され、頸動脈を切られた遺体で発見されていた。顔写真も公開されている。 「この被害者、俺が昨日呼んだデリヘル嬢だよ!」 小銭がデリヘル嬢との濃厚な行為を思わず思い出しながら叫ぶ。 「なんだと?」 遅れて目を覚ました李信が静かに反応を示す。 「まさかあの子が…信じられねえ…あの子可愛いしおマ◯コの具合も良かったからまた呼ぼうと思ってたねに」 小銭は未だに半分夢かと錯覚するような感覚だった。 「放っておけばまた次々と被害者が出るぞ。動くなら早めだな」 目を覚ました星屑がテーブルの上にある温泉饅頭に手を伸ばす。 「恐らく犯人は相当な実力を持つ能力者だ。今日から二手に分かれて行動する」 李信が突然仕切り出すが、反対する者は居ない。 「で、どうやってチーム分けするんだ?」 「やはりグーパーだろ」 班分けをどうするのかと星屑が疑問を呈したところ、小銭が如何にも頭の悪そうな提案をする。 「能力のバランスを考えたら…俺と星屑、水素と小銭ってところだな。星屑の強力な能力や技は近距離系が多い、俺は近距離戦も出来るが剣術や体術といった身体能力はゴミだからどちらかと言えば遠距離系だ。 小銭は近距離も遠距離も行けるがギルガメッシュなどによる遠距離攻撃が強力、水素は最強無敵だが完全近距離型だ」 「妥当だな。ではすぐに出るぞ」 水素も李信の案が的を射ていると感じて賛意を示し、李信・星屑、水素・小銭というチーム分けで決着がつく。 チーム分けが決まったところで一同は身支度を整えて外へ出る。旅館の出入り口から外に出たところで左右二手に分かれて調査を開始することとした。 とは言っても、手掛かりなど何処にもない。 李信・星屑チーム 「氷河期さんを尋ねる」 「氷河期?あいつなら何とかしてくれんのか?」 ゴーストタウンの路地を歩きながら李信の急な発言に星屑は疑問を呈する。 「多分な。あの人の能力ならもしかしたら…」 李信は氷河期の鷹のような眼による索敵能力や気配察知、絶対魔眼に着目していた。彼ならば事態を進展させてくれると考えたのである。 「昨日姫宮から貰ったホテルの住所は…」 懐から先日姫宮から受け取った、氷河期と姫宮が滞在するホテルの住所が書いてあるメモを取り出した。 「此処から3kmくらい先か」 「ならお前は瞬歩やら空間転移やら使えるし、俺は究極生命体だから高速飛行が出来る!それに索敵や気配察知なら氷河期よりも究極生命体である俺の方が優れてると思うぞ!」 「一理あるが、あの絶対魔眼とかいう新たな能力、まだ隠された力があるような気がする。それに移動は徒歩の方がいい。僅かな手掛かりでも見落とすわけにはいかない」 結局徒歩で向かうことになった。 李信は徒歩で氷河期と姫宮が滞在するホテルに向かったが特に手掛かりなど無かった。 変わったことと言えば冬木市の中心街にあるパン屋「サンジェルマン」にて一際目立った男が気になったくらいである。 ~李信と回想~ 「手掛かりなんて何もねえじゃん。やっぱり瞬間移動で…」 「いや待て。あの男、気にならないか?」 平日の午前9時だというのに黒髪で黒いスーツに身を包んだ男が「サンジェルマン」に入っていった。 「通勤にしては遅い時間だ。だがスーツ姿だ。朝飯にしては遅いし昼飯を前以て買いに来たのか?」 「この世界にそんな近代的なオフィスやら仕事があるのかも分からんが…あったとしてもフレックスタイム制とかいろいろあるだろ?…ってあれ、血生臭いぞこいつ…」 究極生命体の能力を持つ星屑の嗅覚であれば僅かな匂いも感じ取れないことなどない。どうやら血の匂いと死臭を感じ取ったようだ。 「こいつから死臭と血の匂いがするぞ」 「怪しいな。星屑、こいつの尾行を続けてくれ。俺は氷河期さんに協力を要請してくる。だが無理はするな」 「了解した。これより黒スーツの男の尾行を開始する」 星屑はサンジェルマンに入店していった怪しい男の尾行を続けることになり、李信は予定通りに氷河期の居るホテルへと向かった。 ~回想終了~ 「と、いうわけだ。そこで貴殿の力を貸して欲しい」 超速再生できる眼球を取り出し砕くことで、その眼で見た映像を周囲の者に見せることができる技「共眼界(ソリタ・ヴィスタ)」を使用すると共に説明を付け加え、氷河期に協力を求める。 「そういうことなら協力しよう。姫宮は生憎留守だが俺だけでもいいなら」 「氷河期さんこそが頼りなんだ。よろしく頼む」 李信は氷河期を伴いホテルのロビーから外に出た。 因みに、この2人は本作始まってから初めての協同行動である。 「何!?見失っただと?」 「済まねえ。奴の匂いも遮断されていてな。それに奴は突然姿を消したんだ。俺は1秒たりとも目を離してねえ」 氷河期を伴いサンジェルマンに戻ってきた李信が聞いたのは星屑からの尾行失敗の悲報だった。 「悪いな氷河期さん。このザマだ」 せっかく連れてきたのに標的を見失ったのでは無駄な労力を使わせたことになる。李信は氷河期に申し訳なさそうに詫びた。 「いや、まだだ。直江さんが共界眼(ソリタ・ヴィスタ)で見せてくれた映像からの情報をもとに俺の絶対魔眼で標的の位置を特定する」 氷河期が絶対魔眼を発動し、頭髪や瞳の色が赤く染まる。 「駄目だ。少なくとも俺が特定出来る半径10km以内には奴の姿は無い」 「10km以内に居ないだと?奴が姿を消したのは3分前だぞ!?」 3分前に星屑が見失った標的が、氷河期によれば10km圏内から消えているというのだ。 「奴は何らかの特殊な移動術でも持ってると考えていいかもしれない。だが収穫はあった。犯人と思しき男をこの目で確認出来たのだからな」 星屑の視線を瞬時に察知して姿を消したとあれば、益々怪しい。疚しいことが無ければ瞬時に姿を消す能力など使用しない筈である。 同日正午頃 水素・小銭チーム 「水素の奴、今日は豚肉が安いとか言い出してむなげやに行きやがった…」 小銭の愚痴。その理由は水素が冬木市にある大型スーパー「むなげや」で今日は豚肉が安いと言って1人で早々に去ってしまったことに端を発する。 「うー…腹減った~。サンジェルマンのカツサンドでも買って食うか」 グゥゥゥという腹の虫が鳴る音が響く。気づけばもう昼であり、まともな朝食を摂っていない。小銭はその足で2km程歩きサンジェルマンに到着した。因みに李信、星屑、氷河期の3人はとっくにサンジェルマンから去っている。 「良かったー。まだカツサンドあったー」 最後の一つだったカツサンドを手に取りレジに通す。 「300Z(ゼニー)になります」 「あー、はいはい」 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の宝物庫から硬貨を取り出してレジに差し出しカツサンドを購入した。 「最後の一つで良かったー!マジで腹減ったし、座れる場所探してさっさと食おう!」 そんな独り言を呟きながら店から出て、氷河期と闘った公園に墓地があったことを思い出す。 「そういやあの公園にはベンチがあったな。あそこで食べよう」 公園目指して歩き出して約3分。冬木市の中心街の歩道で黒いスーツに身を包む黒髪の男がサンジェルマンの紙袋をぶら下げながら小銭とすれ違う。 「あっ、すいません!」 黒スーツの男が小銭と衝突し、サンジェルマンの紙袋を歩道に落としてしまう。小銭もその衝撃でサンジェルマンのカツサンドが入った紙袋を落としてしまった。 「こちらこそすまんな。はいこれ、アンタのだろ?」 小銭が落ちている紙袋を拾って男に手渡す。 「すいません、ありがとうございます」 男は一礼するとその場を歩いて去っていった。 「さて、早く公園に行ってカツサンドを食すか」 落ちているもう一つの紙袋を拾い上げ、そのまま公園を目指して再び歩き出す。 「匂いを再び感じるぞ…!」 冬木市の外れにある屋台のラーメン屋「一楽」で昼食を済ませた李信、星屑、氷河期の3人組。一楽を後にして2分程歩いていると、星屑が再び先程の血の匂いと死臭を嗅ぎ取ったのである。 「星屑、匂いはどっちだ!」 李信が早く案内しろと言わんばかりに尋ねる。 「公園の方だ!」 「絶対魔眼!」 星屑が匂いがある方向を口にした瞬間、氷河期が絶対魔眼を発動する。 「公園の方に居るのは小銭だぞ!?」 絶対魔眼での索敵に引っかかったのはまさかの小銭だった。 「何だと?まさかあいつが連続殺人鬼じゃないだろうな!?」 それを聞いた李信が最悪の可能性を頭に浮かべて一瞬取り乱す。 「多分それはない!いいから今は急ぐぞ!」 氷河期に言われるがまま、星屑と李信は公園へと急いだ。 「ん?この紙袋そういやヤケに軽いぞ?」 同じ頃、自らが持つサンジェルマンの紙袋が軽いことに気がついた黒スーツの男は紙袋を開けて中身を確認した。 「まずい…!俺の恋人が…!やはりあの時あの金髪黒ジャージの男の紙袋と取り違えたか!」 黒スーツの男は紙袋に入れて持ち歩いていた「恋人」を失くしたことで取り乱した。小銭とぶつかって落とした際にお互いにお互いの紙袋を持っていってしまったのである。 「まずいまずいまずい…!早くあの男を追わなければ…!そして恋人を取り戻さなければ!こんなことがバレたらヤバい…!」 黒スーツの男は姿と気配を消して小銭から感じた魔力をもとに小銭の捜索を始めた。 更に数分後 公園に到着しベンチに腰掛けた小銭は購入したカツサンドを食す為にサンジェルマンの紙袋を開けていた。 「やっとメシにありつけるぜー!待望のカツサンド!…ってなんだこりゃあ!」 小銭は思わず大声を上げてしまった。紙袋から出てきたのはカツサンドではなく、爪に赤いマニキュアを塗ってある切断された人間の手だったからである。 「まさか…!さっきの男は…!」 小銭はハッと思い出した。黒スーツの男とぶつかった際に互いに紙袋を取り違えてしまっていたのだ。 「あの男が…連続殺人鬼…!」 小銭は確信した。先日呼んだ、「名器」を持つデリヘル嬢を殺したのもあの男で間違い無いと。 「追わなきゃ!追ってこの手で…!」 「その必要は無い」 小銭が言いかけたところで後ろの方から声が聴こえる。小銭はこの声を覚えている。数分前に聴いたばかりの男の声だった。 「てめえ…!てめえが連続殺人鬼!」 「俺の正体を知ったからにはお前を生かして帰すわけにはいかない。悪いが死んでもらうぞ」 後ろを振り返ると、何処から現れたのか先程の黒スーツの男が立っていた。黒スーツの男は冷酷な表情で小銭に殺すことを告げる。 「生かして帰すわけにはいかないだと?それは俺のセリフだぜ。無抵抗の女殺すようなクズを生かして帰すわけねえだろバカ野郎!」 小銭が懐からクラスカードを取り出す。 「使わせないよ!」 黒スーツの男がいつの間にか小銭の間近に現れ鋭利な刃物で喉元を狙って突き出す。 「固有時制御・二重加速(タイムアルター・ダブルアクセル)!」 固有結界の体内展開を時間操作に応用し、自分の体内の時間経過速度のみを倍速化させることで、たった二小節の詠唱で高速移動の発動を可能とする魔術を行使し、男の攻撃を後ろに退がって回避する。 「クラスカード アーチャー!」 取り出したクラスカードを発動し、小銭は全身を金ピカの鎧で包むギルガメッシュの姿になる。 「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」 小銭の背後に異空間から顔を出す剣や槍が次々に射出される。 「この俺相手にアーチャーって…アホなの?」 黒スーツの男は小銭が射出した延長線上から姿を消して一瞬で小銭の真横に現れ、背中の鞘から抜いたマシェットナイフを抜き放ち小銭の頸動脈を素早く斬り裂く。 「始末、完了」 男のスーツに小銭の頸動脈から噴き出した鮮血が付着してしまうが、男は気にせずその場を後にしようとした。 「クラスカード セイバー」 前を向いた男の背後から殺した筈の相手の声が聴こえる。男はまさかと思い振り返ると、斬り裂いた筈の頸動脈の傷が完全に塞がり、見えない剣を振りかぶっていた小銭だった。 「あぶねっ!」 男は慌てて姿を消して小銭の斬撃を回避する。 (確かに頸動脈を切断した筈…どういうことだ?まあいいもう一度別の方法で殺してやる) 小銭の後方5mに現れ、男は袖から隠し持っている拳銃「M92F」を素早く取り出し引き金を引く。すると銃口から飛び出したのは弾丸ではなく同じくらいの大きさの青い光の魔力弾だった。 魔力弾は小銭の後頭部に命中するが、小銭は無傷だった。 「対魔力Aのセイバーにそんなチャチな攻撃が効くかよ」 小銭が踏み込んでから一気に男に接近して切り掛かる。男はまともや姿を消して今度は小銭の後方空中5mに現れる。 「これならどうだ?行くぜアリス」 M92Fを「アリス」と呼び、銃口から溢れ膨張した身長大の魔力弾を射出しようと引き金に手をかける。しかしその時… 「月牙天衝!」 突然横から青い三日月型の斬撃が飛んできて男に直撃し呑み込んでしまった。 「大丈夫か小銭!」 月牙天衝を放ったのは斬魄刀を斬月に変形させた李信だった。氷河期と星屑も続けて駆けつける。 「お前らか!って氷河期も居るのかよ!だが今はそれどころじゃねえ!」 「そいつが犯人の様だな」 「ああ!こいついきなり姿を消したり指定した場所に現れる能力を持ってやがる!」 氷河期の確認に小銭が持てる情報を隠さず言う。 「お前らも逃がしゃしないぜ」 黒スーツの男が星屑の真横に現れマシェットナイフを首筋に突き出してくる。 「ザ・ワールド!」 星屑のスタンドであるザ・ワールドが世界の時を止めた。 「お前さんの凶行は本日をもって終わりだ」 星屑はザ・ワールドで時を止め、懐からジャックナイフを取り出し刃の部分を出す。そしてそのままジャックナイフの刃を黒スーツの男の喉元目掛けて突き出すが… 「残像だと…?」 星屑は突き出したジャックナイフが黒スーツの男を突き刺さした筈なのに手応えを感じない。 「本体は何処だ!」 四方八方を見渡すが何処にも男の姿は見当たらない。やがてザ・ワールドの有効効果時間9秒が過ぎ、時間停止が解除されてしまった。 「行くぜ爆魔。ファイア」 黒スーツの男が今度は李信の正面10mに現れ、右手に持ったアリスとは別の拳銃・ウイルディピストルの「爆魔」から火球を射出する。 「虚閃(セロ)」 李信はそれに対し左手の指先から青い虚閃を放つ。火球と虚閃が衝突するが、虚閃は火球に押し負けてしまい、火球が李信に迫る。 「縛道の八十一 断空」 鬼道の障壁を前面に展開して火球から自身の身を守る。 「冷却砲」 李信と技をぶつけ合っている隙に氷河期が冷却砲を黒スーツの男に放つ。冷却砲は男の全身を凍りつかせ氷像にしてしまった。 「うおおおおおおおおお!」 風王結界(インビジブル・エア)により不可視化した剣を氷像となった男目掛けて小銭が振り下ろす。しかし両断したのは氷だけであり、氷像となった男はまたもや残像だった。 「実体が無いだと?」 「ファイア」 実体を探す小銭の背後に現れた黒スーツの男が爆魔から火球を射出する。 「エイジストラッシュ!」 絶対魔眼で男の動きを読んでいた氷河期が逆手に持った冷殺剣で高速剣撃を浴びせる。 「ぐおっ!」 「手応えあり!」 男はスーツごと全身をズタズタを斬り裂かれてしまった。斬り裂かれた無数のスーツの切れ端と鮮血が宙に舞う。 スーツの内側に、白い男の名の刺繍がある。氷河期は無数の切れ端の中にそれがあるのを見逃さなかった。 「黒…影…黒影…!お前の名は黒影!」 氷河期が目にした男のスーツに刺繍されている名は「黒影」。それが冬木市を脅かす恐怖の連続殺人鬼の真の名前である。 「名前までバレちまったか…知られちまったからにはてめえら4人とも始末しねえとなぁ!久しぶりだぜ本気モードになるのはァ!」 男を黒いオーラが包む、それが取り払われると黒いTシャツに、その上に着る和服(右肩肌脱ぎ)という異様な服装で髪も女の様に長くなっていて、元々の女顔と相まって益々女の様な姿に変貌した。更に、腰の左側には鍔と柄が黒い一振りの日本刀を帯びている。 「待て黒影とやら」 今にも戦闘が始まろうとしている雰囲気に水を差したのは李信だった。 「あぁ!?何だてめえは!?妙な形の刀持ちやがって!」 女の様な容姿とは裏腹に口調は乱暴である。 「質問してるのはこっちだぜ。黒影、お前神の力を宿す能力者を知ってるか?」 「あァ!?知らねえなそんなもん!」 李信の質問に知らないと返すが目が一瞬泳いだのを星屑と氷河期は見逃さなかった。究極生命体と絶対魔眼の為せる業である。 「てめえ、今目が泳いだな。やっぱりこいつ何か知ってるみたいだ」 「だねぇ。一気に難易度が跳ね上がるが此処は殺さずに生け捕りにするしかないね」 黒影の目を見抜いた星屑が黒影の図星を突くと、氷河期が殺さずに生け捕りにすると言い出す。 「というわけでねぇ。お前さんのペニスを引っこ抜いてケツの穴にブチこんでやる」 小銭が踏み込んで地面を蹴り黒影に斬りかかる。が、黒影はその場から姿を消してしまう。 「こっちに来たか!」 李信は背後に黒影の気配を感じて斬月を振り向きざまに横に払うが素早く抜刀した黒影の日本刀に受け止められてしまう。 「無外流居合兵道 陰中陽」 日本刀で斬月を受け止めた黒影は座った状態で李信の太刀を受け流し、その力を利用して刀を旋回するように李信の腰を斬り裂いた。目にも止まらぬ居合い術である。 「輝彩滑刀!」 そこに星屑が現れ、腕から出した光り輝く刃で黒影に斬りつける。 「黒影流剣術 一の太刀 」 超人的な反応スピードで星屑の硬化した体を日本刀で下から斜めに腕ごと切り上げる。 「俺の愛刀 真月 に斬れねえものなんてねえ」 「鋼皮(イエロ)に覆われてる俺の体を斬るとはね。だが…」 「夢想家(The Visionary)」(ザ・ヴィジョナリー) 「Vの聖文字(シュリフト)を冠する俺の力の一つだ。能力は、想像を現実にする!」 李信が北条戦以来使っていなかったチート能力を発動する。黒影は李信の想像により全身を頑丈な鎖に縛られて身動きの一切を封じられる…筈だったが… 黒影は鎖に縛られる前に消えてしまった。 「消えても無駄だ。俺の想像でお前の消える能力を無効化し姿を晒させれば…」 しかしそれは実現しなかった。 「俺の最強能力の一角が通用してねえ…!」 そして黒影は今度は李信の影から現れ、その影に真月を突き刺した。 「!」 同時に李信の胸から傷口が突然開いて血を噴き出す。 「クソが!」 斬月を横に薙ぐが黒影は素早く後ろへと回避してしまう。 「想像を現実にする力らしいが、俺にそんなもんは通用しねえぜ?俺はこの世に存在する者であり、しない者でもある」 「は?何言ってんだお前?頭大丈夫か?」 黒影の発言がただの格好つけだと思った小銭が水を差す。 「俺の存在は影から出来ている。影に形と色と質量を擬似的に与えたのが今の俺の姿なのさ。俺そのものが影、この世に存在しない者として、俺はこの世の人間からの特殊な干渉を受けることはない。そして俺が物理攻撃により受けた傷は影と同化し姿を消すことで影そのものとなり消滅する」 「つまり、俺は影でしかないのさ。影が周りに無くても俺自身が影としてその影すら不可視化しての瞬間移動が可能」 「所詮はこの世に実体を持つ人間の能力や技が俺に通用する筈もない」 黒影が話し終えると、突然黒影の足元から2本の氷柱が伸びて両脚を串刺しにする。 「お喋りが長いんだよこの厨二病野郎!」 氷…当然ながらこれは氷河期の技である。 「ハーミットパープル!」 更に紫色の触手の様なスタンドが星屑の腕から伸びて黒影の左腕に絡みつく。 「卍解 天鎖斬月」 卍解した李信の斬月が鍔が卍型で柄から鎖が生えた漆黒の刀「天鎖斬月」となる。 「月牙…」 「エクス…」 「天衝!」 「カリバー!」 李信の天鎖斬月からは赤に縁取られた黒い月牙天衝が、小銭の聖剣からは光の斬撃・約束された勝利の剣(エクスカリバー)が黒影の前後から同時に放たれた。 月牙天衝と約束された勝利の剣(エクスカリバー)。黒と光の二つの斬撃が衝突し、混じり合い、やがて混沌とした禍々しい色に変わり膨張し破裂する。凄まじい威力のその衝撃により、このゴーストタウンの一部の建造物などが吹き飛ばされてしまった。 「やったか!?」 小銭がフラグを立てる様な発言をしてしまう。と同時に月牙天衝とエクスカリバーが衝突した地点から何やら一瞬魔力弾の様なものを視認した。それと同時に小銭の体は爆散して跡形も無く消えてしまう。 「俺は影だ。その気になればお前らの攻撃など全て無効化出来る。そして今のはこの爆魔によるもの。爆魔の真の力は火球を射出することではなく爆裂だ。対象を爆裂させる魔の銃だ」 「へえ。そりゃ大層な力だこったな!」 爆散した筈の小銭が全て元通りになって元の位置に現れる。 「爆裂させた筈だってのに、てめえも人間じゃねえのか?」 「全て遠き理想郷(アヴァロン)。俺の宝具による不死と治癒の力だ」 顔をしかめる黒影に小銭が得意げに答える。 「冷凍の矢(フリージングアロー)!」 氷河期が横から黒影に氷の矢を無数に展開して射出するが黒影はそれらを全て日本刀「真月」で打ち落とした。 「てめえも爆裂しろ!」 拳銃「爆魔」の引き金を引くと、今度は引き金を引くだけで氷河期の体を爆散させた。 「…花天狂骨」 天鎖斬月では対抗出来ないと判断した李信が斬魄刀を花天狂骨へと変化させる。 「影鬼」 李信が花天狂骨の能力で黒影の影に溶け込み、その影から黒い影の刃を伸ばして黒影の腹部を突き刺す。 「馬鹿な…てめえ…!」 「お前さ、自分の能力ペラペラ喋り過ぎなんだよね」 黒影の影から李信が実体化して湧き出る様に現れる。 「ゴールドエクスペリエンスレクイエム!」 そこへ素早く黒影の間近に迫った星屑のスタンド「ゴールドエクスペリエンスレクイエム」の手が黒影に触れる。 「このスタンドの能力の一つ、触れた物体に生命を与える。お前はもう影ではなくこの世に存在する一つの命だ」 「クソッ…!」 花天狂骨を腹部から引き抜かれた黒影が両膝をつきやがてガクリとうつ伏せに倒れ血溜まりを広げていく。 「縛道の六十一 六杖光牢」 「天の鎖(エルキドゥ)」 李信は鬼道の光で、小銭はアーチャーのクラスカードによりギルガメッシュの姿となり、宝物庫から鎖を出して黒影を捕縛する。 「念には念をだ」 氷河期(アイスエイジ)により復活した氷河期が捕縛された黒影の首から下を冷気を放って氷漬けにする。 「ハーミットパープル」 星屑の腕から紫色の触手が伸びて黒影の首に巻きつけられる。 「妙なことをしたらこいつで締め上げるぜ?大人しく俺達の質問に答えるんだな」 「クソがっ…!」 4人により四重に拘束された黒影にもはや為す術は無かった。黒影は怒りと悔しさを表情に出して歯軋りするも、負けを認めて大人しくなった。 「まず最初の質問だ。お前は何で罪も無い若い女性達を殺した?お前が殺した中には俺のお気に入りのデリへル嬢が居たんだよ!」 小銭が怒りを露わにして言葉に怒気を込める。 「俺は女の綺麗な手に執着があってね。異常性癖ってやつさ。性的興奮を覚えたりもする。だが殺して手を奪っても数日で腐る。だから…ね…」 「異常過ぎる…」 「こいつマジもんの変態じゃねえか…」 星屑と氷河期が黒影の返答にドン引きする。明らかに2人の顔は引きつっていた。 「てめえ…あの嬢のおマ◯コマジで名器だったのに!絶対許さねえ!」 「小銭、落ち着け。さて黒影、第二の質問だぜ。神の力を宿す能力者を知ってるよな?知ってることを洗いざらい吐きな」 今にも宝物庫から剣を取り出して黒影に斬りかかる勢いの小銭を手で制止した星屑が第二の質問を投げる。 「チッお見通しかよ。俺が連続殺人を起こした理由のもう一つの理由が神についてだ。 実はお前らが一度戦争で葬ったサバだがな、あいつが神の能力を宿す能力者なんだよ。そいつの復活の為に大勢の女のDNAが必要なのさ。 俺はサバを復活させてこの世に存在する命として今の能力を失わないままの状態を保ち、自分とサバの力で世界征服を企んでいたのさ」 「サバが根っからの性欲猿なのはお前らも知ってるよな?100人の女のDNAが奴の復活には必要でな。俺は自分の性欲発散がてら、腐って不要になった女の手を特殊な培養液につけて保存しているサバの遺体に与えていたのさ。 サバの遺体は女の手を次々に取り込み精気を取り戻し始めている。今まで99人の女のDNAを奴に与えてきた。あともう一つで奴は復活する。」 歪んだ笑みを浮かべて黒影は震えた声で自らの真意と目的を明らかにした。 「じゃあ何でサバは生前神の力を使わなかったんだ?クワッタの戦いでその神の力とやらを使えば俺らに勝てたかもしれないだろ」 「あの性欲猿のことだ、女のDNA無しの状態で力を行使することは出来ない。そういうことだ」 小銭の疑問に黒影は今度は淡々と答えた。 「おい黒影。今すぐ俺達をサバのところに案内しろ。俺達もサバに用があるんでな」 李信が斬魄刀を突きつけて黒影を脅迫する。 「こうなった以上俺はお前らに逆らえない。仕方ない、いいだろう。だが奴の復活にはあと1人の女のDNAが必要だぜ?」 「小銭、お前が持ってるデリへル嬢の手を渡せ」 黒影の返答を聞いた李信は小銭にお気に入りだったデリへル嬢の手を渡すよう要求する。 「でも!この娘は何の罪も無いのに理不尽に殺されたんだ!なのに死体にまで…!」 「世界を救うのに、俺達の国を取り戻す為に、アティークを倒す為に必要なんだ」 「…畜生」 李信に諭された小銭は渋々デリへル嬢の手が入ったサンジェルマンの紙袋を渡した。 「小銭と氷河期さんはこいつの拘束を解いてくれ」 李信の指示で2人はそれぞれ黒影に施していた拘束を解いた。 「武器は全て没収だ」 李信が未だ六杖光牢とハーミットパープルに拘束されている黒影の懐に手を入れてアリスと爆魔を含めた三丁の拳銃とその手に持っている日本刀「真月」を腰に帯びている鞘と共に取り上げた。星屑も手伝い、黒影の背中の鞘に納められているマチェットナイフを取り上げた。 「小銭、お前の宝物庫で預かってくれ」 「分かった」 没収した黒影の武器の全てを小銭の宝物庫「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」に蔵う。 「ほらよ。さて今すぐ案内してもらおうか。妙な動きを見せたらこの斬魄刀でお前の首を刎ねるからな?」 「…いいだろう。着いて来い」 李信が六杖光牢による拘束を解除し、星屑もハーミットパープルを蔵うと黒影は立ち上がり歩き始めた。 因みに黒影の戦闘での傷は星屑のスタンド「ゴールドエクスペリエンスレクイエム」で治されている。 黒影は抵抗することもなく、この冬木市のゴーストタウンの一角にある自宅へと4人を案内した。外見は普通の民家である。 「サバは地下で眠っている。行くぞ」 一階の隠し扉を黒影の部屋の本棚の奥にあるスイッチを押して開くと、地下へと続く階段が現れた。 階段を降り切ると、そこには170cmもある培養装置の中で緑色の培養液に浸されて眠っている全裸のサバの遺体があった。 「うっわきめえ…」 小銭が思わず口にする。サバの身長は150cm台なので170cmもあればすっぽりと入ってしまう。 「黒影、ご苦労だった」 李信が黒影に一言言葉をかけると、「縛道の六十一 六杖光牢」で黒影を拘束した。 「てめえ何のつもりだ!言われた通り案内しただろうが!」 話が違うと喚く黒影に対し、李信は凍りついた表情を向ける。 「お前さん、まさか本気で生きて帰れると思ってないだろうねえ?」 突然告げられる黒影への処刑宣告。黒影の表情もまた凍りついた。 「騙したのかよ…?てめえ…」 「無実の人間殺すようなクズを生かして帰すわけねえだろバカ野郎」 李信がそう言い放つと、小銭が宝物庫から黒影から没収したマチェットナイフを取り出した。 「おい、よせ!やめろ!やめてくれ!うわぁぁぁ!!!」 黒影の命乞いなど聞く耳持たない小銭はマチェットナイフで黒影の首筋の頸動脈を切り裂いた。 鮮血が舞い、黒影は無言になりその場で絶命した。 「さて、いよいよ生きたサバと対面だぜ」 星屑に促され、李信は培養装置の上にある蓋を開けてデリへル嬢の手を培養液の中へと投じた。すると、培養装置の中のサバの遺体から眩い光が発せられる。 「ワオッ!眩しいな!」 氷河期が思わず叫ぶ。他の3人も眩しさ故に手で光を遮っている。 やがて光が消え、培養装置は内から破壊されて溢れ出た培養液と培養装置の破片が床に流れていく。 「俺を目覚めさせたのは、お前らか?」 実に数ヶ月ぶりに復活した自称副管理人の自称松潤似の性欲王の声がフロアに響いた。 「お前らは…全員クワッタの戦いでかっしー派についたガルガイド王国やグリーン王国の武将ではないか」 李信、氷河期、星屑、小銭は全員サバのかつての敵である。かっしー派についてクワッタの戦いでサバの軍を打ち破った将である。故にサバが抱くこの4人への憎しみは深い。 「俺は100人の女のDNAを取り込み本来の力を得て今此処に復活した。クワッタの戦いの恨みを晴らしてやる。そしてかっしーをこの手で葬り俺がガルガイド王国の王となるのだ!」 「ちょっと待て」 サバが此方を睨みつけたまま戦闘に入る勢いだったので李信が制止した。 「もうあの戦争の参加国であるガルガイド王国もグリーン王国もランドラ帝国も存在しない。かっしーももうこの世に居ない。お前が帰る国も支配する国も無い。お前が死んでる間に世界は変わったんだよ」 「…何だと?」 自分が死んでいる間に自分が知っている国が三つも無くなっているというのだ。驚かない方が不思議である。 「ランドラ帝国は俺達かっしー派と諸国の連合軍により滅ぼされて領土はガルガイド、グリーン、幻影、仁王の4カ国に分割された。 ガルガイド王国は俺達がかっしーを討って滅ぼし、その領土はグリーン王国に併合された。そしてそのグリーン王国はアティークの謀反により滅亡、王であるぐり~んは自害した。今はアティークがペルシャ帝国を打ち立てて君臨している。 そのアティークが世界征服を目論み勢力を拡大しつつある。国民を無理矢理ゾロアスター教とかいう宗教に改宗させ支配する国だ。俺達はそのペルシャ帝国を打倒しなきゃならない。 その為にサバ、お前の力が必要なんだよ」 李信はサバが死んでからのこの世界の情勢を掻い摘んで説明した。 「アティークだと?クワッタの戦いでグリーン王国軍の総司令官だった男か。奴も随分偉くなったものだな。それで、何故アティークを倒す為に俺の力が要るんだ?」 サバはアティークと聞いて憎きグリーン王国軍の総大将という情報しか知らないが、憎き存在であることは確かだと心中で呟いた。 「クワッタの戦いでは使わなかったアティークの恐るべき能力…それはゾロアスター教で信奉されている神アフラ・マズダーをその身に宿し、その力を使うというものだ。お前と同じ神使いだよ。 俺達はアティークに挑んだが殺しきれずに逃げられてしまった。俺達だけでは奴は倒せない。 だが神使いは他ね神使いの存在により大幅に弱体化する。そこで神使いであるお前の力が必要になった。 もちろんお前にもメリットはある。アティークが居る限り、お前はこの世界では君臨出来ない。アティークが居る限り、お前はこの世界に拒絶され続ける」 「そうか….だが、断る。復活させてもらって悪いが結局お前の言ってることは、勝手に復活させた上に俺は世界に拒絶されるからアティークを倒すのを手伝えという虫の良すぎる話だ。 クワッタの戦いと言い今の態度と言い、お前らへの憎しみが益々深くなった。アティークはこの手でもちろん殺すが、その前にまずはお前らを皆殺しにする!」 李信の説得虚しく、サバが求めに応じることは無かった。サバは李信達への憎しみを増大させて殺意を露わにする。 「我が神アーリマンよ!我に憎き敵を討たせる力を!」 復活したサバの真の力が今、解き放たれようとしていた。 アーリマン。アンラ・マンユとも呼ばれるこの悪神は、善悪二元論のゾロアスター教において、最高善とする神アフラ・マズダーに対抗し、絶対悪として表される。 邪悪な漆黒の神がサバの背後に背後霊の如く顕現し、禍々しい魔力を放っている。付近に居るだけで押し潰されるかのような重圧と悪寒を感じる程の魔力、これがアティークのアフラ・マズダーと対を成すサバのアーリマンの力か、と一同は息を呑む。 「冬(ゼメスタン)!」 アーリマンの力を解放したサバの力により、司る災厄の一つである冬に因み、吹雪舞う雪と氷が一面に広がる極寒の異世界に自身を含め一行を強制転移させる。 「これよりこのサバに愚かにも逆らった愚将共の処刑を執り行う!」 「顕現せよ!我が僕(しもべ)にして暗黒龍 アジ・ダハーカよ!」 サバが天に異空間を創り出し、その邪悪な色をした異空間の穴から3頭3口6目の、天を覆うかのような巨大な龍を召喚した。雄叫びを上げ、4人の方に3つの頭を向けて威嚇する。 「フォーマンセル対1人&1匹か。俺と氷河期さんでサバに当たり、星屑と小銭であの龍を殺ろう」 「それが連携的にも良さそうだな。行くぞ!」 李信の発言に反対する者は居なかった。星屑が即座に賛意を示すと、闘いの方針は決定した。星屑と小銭はアジ・ダハーカと対峙し、李信と氷河期はサバと対峙した。 「お前らを皆殺しにした後にアティークも抹殺する。何者も俺を支配することなどできはしない!」 李信と氷河期に相対したサバが絶対的な力を誇示するかのように魔力を更に解き放つ。 「支配じゃなくて協力だってさっき話があったろ。やっぱり顔画像晒されるくらいだから頭悪いんだなw」 「黙れ!かっしー派に進んで与した貴様は特に許さんぞ氷河期!」 「話を聞く気は無さそうだな。痛い目に遭ってもらうとするぜ!冷却砲!」 極寒の世界で威力が増幅された極太の冷却砲を掌から放出する。 「ゴミ同然のショボい攻撃だ!神にそんなものが通用するか!」 サバの掌から無数の爬虫類が這い出て冷却砲を喰らい尽くしてしまう。 「そしてアーリマンの能力により悪のエネルギーに変換し放つ!」 爬虫類の口から氷河期目掛けて黒いビームが発射される。 「ケッ」 氷河期は黒いビームをその場で跳躍して回避し再び着地する。 「ま、例によって、こうなるか。俺の未来改変能力、やっぱり通じないみたいだ」 李信がそう簡単にはいかないか、と溜息を吐く。因みにこの「全知全能(ジ・オールマイティ)による未来改変という全てのバトル系作品を見ても最高クラスのチート能力だが、李信が使用して通用したのは荒喧の蒼のみである。 そりゃそうだ。こんな能力がホイホイキマったら物語にならないではないか。 「こいつアレだわ。アティークと同じで攻撃技以外通用しないぞ多分」 未来改変能力をサバに無効化された李信が氷河期に忠告する。 「マジかよ、っつっても俺が持ってる技は殆ど攻撃技だがな!」 氷河期が剣に冷気を纏わせながら答える。「冷殺剣」である。 「そう。俺には攻撃技以外通用しない。ポケモンで言えばヌケニンに更に補助技が通じない能力を付加したようなものだ。最も神たる俺様に弱点など無いがな」 サバの全身から無数の爬虫類が湧き出て2人に襲いかかってくる。 「破道の九十六 一刀火葬」 李信の左腕が砕けて爆発し、天高く伸びる巨大な刀状の火柱を作り出す。 「火に弱くない生物など存在しない。これで…」 「生物ではなく神の一部だ」 爬虫類は一刀火葬を喰らっても無傷で襲ってくる。 「クソ蛇共!サバみてえな顔しやがって!」 氷河期が得意の剣術で爬虫類達を次々と斬り落としていく。 「無駄だ」 氷河期が切り落とした爬虫類達は断面から泡が湧き出るように再生して襲いかかっていく。 「キリがねえぞ!」 次々に湧き出る爬虫類達を冷殺剣で斬り裂いていくが、その都度復活するので拉致があかない。 「アティークと同じで攻撃技しか当たらねえ上にこれか。だっりいなオイ!」 一刀火葬で失った左腕を超速再生させた後に斬魄刀を腰から抜き放つ。 「万象一切灰燼と為せ 流刃若火」 李信が右手に持つ斬魄刀から膨大な量の爆炎と霊圧が噴き出していく。 「ちょっくんさあ、いくら憧れてるとはいえ既存作品の能力とか技とか丸パクリして恥ずかしないの?お前が使ってもかっこいいどころか痛いだけなんだよね!」 サバが放つ謎の黒い瘴気が李信と氷河期に向かって広がっていく。 「神話からパクってるお前も大概だろブサバァ!それで松潤似のつもりかァ!?そのツラで神っての方がよっぽど恥ずかしいなァ!」 流刃若火から放出された多量の爆炎で黒い瘴気を消し飛ばす。 「遅いぜちょっくん!」 サバの口から無数の蝿が湧き出て李信の全身に纏わりつく。その瞬間、黒い瘴気が蝿達の全身から放出され李信を包み込む。 「ぐおおおおおお!?俺の霊圧を物ともせずに…!」 「その蝿は伝染病を撒き散らす恐怖の蝿さ。名は不浄(ドゥルジ)という。これでお前は伝染病にかかった。もう戦えまい」 サバは掌から爬虫類を無数に繰り出し李信を喰らい尽くそうと伸ばしていく。 「悠長に力を出し惜しみしてる場合じゃねえか!氷河期(アイスエイジ)!」 氷河期自身が冷気化し、爬虫類達の体内に入り込み内側から凍てつかせていく。 「チッ王国最強騎士だっただけにメンドい野郎だ!」 爬虫類達は見事に氷漬けにされ、爬虫類を伝った冷気がサバの両腕も凍らされてしまった。 「直江さん、しっかりしろ!」 サバの不浄(ドゥルジ)により瘴気に侵された李信は謎の病にかかり呻き声を上げながら横たわっていた。 「お前もすぐに仲間と同じようにしてやるぞ氷河期ィ!」 サバの口から李信を襲った瘴気を纏った蝿の群れが氷河期に向かって吐き出される。 「冷却砲!」 氷河期の冷却砲が蝿の群れを凍りつかせるが、蝿の群れはすぐに氷を突き破り氷河期を取り巻いてしまう。 「ヒャッーハッハッハ!感染しちまえぇ!」 氷河期は無数の蝿による黒い瘴気で侵され、李信と同じく呻き声を上げながら前のめりに倒れてしまった。 「その伝染病は決して治ることのない致死率100%の病だ!如何に強い魔力や霊圧があろうがもって30分ってところだな!このポケガイ副管理人のサバ様に逆らった罰だ!ざまあみさらせェ!」 サバはトドメだと言わんばかりに掌から無数の爬虫類を繰り出して氷河期と李信に向かって伸ばしていく。 「卍解 残火の太刀」 李信の全身から太陽の中心部と同温の爆炎と霊圧が噴き出し、病の素である黒い瘴気が吹き飛ばされ、爆炎を纏っていた斬魄刀は焼け焦げたような刀身へと形状変化を遂げる。 「残火の太刀 西 残日獄衣」 「俺自身が1500万度に昇る高熱と霊圧を纏うことで自身に向けられる攻撃や近づくものを消し飛ばす鎧とする技だ。お前の不潔な技など通用せん」 「それが卍解ってやつか。だが俺は神!その技で俺が消されることはない!」 サバが爬虫類を李信に巻き付けようと掌から伸ばしてくるが、李信の残火の太刀による一閃で爬虫類は一瞬で消滅した。 「残火の太刀 東 旭日刃」 「刃先に爆炎の熱を凝縮させて斬ったものを消し飛ばす刃とする」 「氷河期(アイスエイジ)」 「自分の体を一度気体化により分解させて再構築すれば病気も傷も全て元通りだ。残念だったな副管理人さんよぉ」 氷河期も自身の能力により瞬時に再生して立ち上がった。 「成る程流石は王国でその名を轟かせた騎士と世界を動かした新星ってだけのことはある。ならばこれはどうかな?」 「狂暴(アエーシュマ)」 サバの右手に闇の光が集まり柄、鍔、刀身の順に血塗られた黒き魔剣が姿を現す。 「我が魔剣・狂暴(アエーシュマ)だ。こうして降ると…」 サバが魔剣・狂暴(アエーシュマ)を振り翳し頭上から足元へと振り抜く。すると、李信がその場で意識を失い倒れてしまう。 「念じた対象の命を奪うことが出来る。次はお前だ氷河期」 サバが得意げな表情で魔剣を再び振りかぶる体勢を取り、氷河期をも葬ろうと目論む。 「次だと?誰の次だと言うんだ?」 突如背後に現れた李信が残火の太刀 東 旭日刃でサバの背中に斬りつける。 「ふんっ!」 サバの反応は早く、狂暴(アエーシュマ)で残火の太刀を振り向きざまに受け止めた。 「残火の太刀を受けて傷一つつかない剣など聞いたこともないな。だが…!」 残火の太刀に凝縮していた爆炎をサバに向かって噴き出させ、サバの全身を一瞬で燃やし尽くす。 「残火の太刀は元は斬った対象を消し飛ばす炎を発する卍解だ」 「てめえ…狂暴(アエーシュマ)で殺した筈だぞ!」 再生能力よろしく全快したサバが驚愕と憤怒の入り混じった表情で李信に問う。 「一体いつから死んだと錯覚していた?」 「俺は崩力の力で不死なんだよねえ。もう2度と俺を殺せないねえ」 「で、いつまで余所見してんの?」 李信がサバにセリフを吐いた直後にサバの背後から声が聞こえ、サバの頭から股までが振り下ろされた巨大化した冷殺剣により真っ二つにされた。 「相手の力を警戒するのはいいけどねえ、俺も居るってこと忘れてない?」 剣のサイズを元に戻した氷河期が二つになったサバの体に吐き捨てる。 「冷血刃」 氷河期の冷殺剣から冷気が発せられ、二つになったサバの血液や神経を全て凍らせてしまった。 「もう2度と 管理(笑)できないねえ」 「灼熱(タルウィ)」 サバによる熱を操る能力。灼熱まで昇華させ氷河期による氷を蒸発させ再生復活を遂げる。 「この通り俺は熱を操ることも出来る。氷河期、お前の冷気や氷も無駄だよ」 復活したサバが立ち上がり魔剣・狂暴(アエーシュマ)に灼熱(タルウィ)を纏わせる。灼熱を纏った魔剣が熱により真っ赤に染まり、残火の太刀に勝るとも劣らない熱を放つ。サバの灼熱と李信の残火の太刀で辺りの雪や氷は既に全て溶け水は干上がり、天候はカンカン照りである。 「氷河期さん、出し惜しみは出来ないぞ。俺は持ち得る最強の卍解を出した。このまま崩玉との融合も行う。貴方にもまだ力がある筈だ。俺と闘った時のあの天満の姿になるんだ」 「仕方ねえ。軽々しくあの本気モード・天馬(ユニコーン)は使いたくないが、そう言ってらんねえか」 李信の全身を紫色の膨大な霊圧が覆い、顔が割れて黒い虚(ホロウ)の様な顔が現れ、全身は白く染まり、背には複数の口がついた触手が生えた崩玉最終形態となった。 「天馬(ユニコーン)」 氷河期の全身を膨大な青い魔力と冷気が覆い、氷河期は白い天馬の姿になり嘶きを上げる。 「てめえら2人とも持ち得る最強の力を解放したようだな。そうでもしねえと俺には勝てねえからな!いや…」 2人の本気を目にしたサバが2人の視界から姿を消す。 「本気を出しても俺には勝てやしねえがなァ!」 2人の後ろに現れたサバが魔剣・狂暴(アエーシュマ)を振るう。 「無想・樹海浸殺」 氷河期の禁断奥義が発動し、周囲から無数の樹木が現れサバを取り囲み串刺しにする。 「破道の九十 黒棺」 李信の黒棺。串刺しにされたサバを黒い重力の奔流である直方体が取り囲み、内部から切り刻む。 「効いてねえなあ!」 黒棺も樹海浸殺もサバの瘴気により消滅した。 「冬(ゼメスタン)と灼熱(タルウィ)による熱操作の真髄を見せてやろう!」 「俺の冷気が…蒸発していくだと…?」 「俺の残火の太刀が凍りついていきやがる…残日獄衣も消えていく…」 氷河期と李信はそれぞれ己の体や魔力(霊圧)が消滅させられていくのを感じた。 「冬(ゼメスタン)と灼熱(タルウィ)を融合させた俺の究極熱魔法だ。冷気や氷を操る氷河期は全てを溶かし尽くす灼熱を、卍解で炎熱を操る直江は全てを凍てつかせる冷温を感じてる筈だろう?お前ら1人1人がやることを俺は1人で出来る!まさに俺こそ真の神!」 サバの両手の掌から赤と水色が入り混じった魔力が放出され、氷河期と李信を覆い続けている。氷河期は灼熱に当てられ、李信は冷温に当てられて徐々に弱っていく。 「だが氷河期(アイスエイジ)の力はこんなもんじゃねえ!」 氷河期を覆っていた灼熱の魔力が氷河期自身の冷気魔力により掻き消された。 「この世界の全ての大気を集めて冷気に変える!」 圧縮された大気が冷気に変換され、氷河期の全身を巡っている。 「俺もまだ手がある」 李信は眼帯を外し、全ての霊圧を解放した。青色の霊圧が李信の全身から火柱の様に天高く放出され、残火の太刀についていた氷は溶けて残日獄衣も復活を遂げた。 「人間が神を凌いでいいと思ってんのかぁぁぁ!」 サバが持つ魔剣・狂暴(アエーシュマ)から発せられる黒い霧がサバを覆い、サバの意識を支配し狂化させる。 「エターナルフォースブリザード!」 「フラゴール!」 氷河期の全身から放出される全方位攻撃の強力な冷気と李信の背中の触手から放出される大爆発を起こす霊子の球がサバを呑み込んでいく。 「グオオオオオオオオオオオオオオ!!」 魔剣で2人の攻撃を振り払ったサバが2人に向かって跳躍し剣を振り下ろす。 「霊圧を完全解放した俺のフラゴールとユニコーン形態の氷河期さんの技をいとも簡単に振り払いやがるとはな!」 残火の太刀で狂暴(アエーシュマ)を受け止める李信。 「コロズ…!コロジュ…!コロシュ!コロス!コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスゥゥゥ!!」 魔剣・狂暴(アエーシュマ)の力により狂(強)化されたサバの叫びが木霊する。斬った対象を消し飛ばす「残火の太刀 東 旭日刃」に触れても無傷の邪悪な魔剣はサバに大幅な身体強化すら与える。 「コロスコロスコロスゥゥゥ!!アアアアアアアアアアア!!」 高速で連続斬撃を繰り出すサバに李信は残火の太刀で受け止め続けるが、剣術や武芸の心得など皆無な李信は次第に追い詰められていく。 「直江氏、サバから離れろ!」 右20mから氷河期の指示が響き渡る。李信は無言で指示に従い瞬歩でサバの後方20m地点に移動する。 「冷撃砲!」 ユニコーン形態の氷河期の頭部の角から冷却砲の上位互換技である冷撃砲が射出される。その威力は北極や南極の氷及び冷温の全てを圧縮し魔力を乗せて放つ程のものである。冷温は絶対零度を遥か下回り、対象を問答無用で凍てつかせる…筈だが… 水色の冷撃砲はサバの魔剣に斬り裂かれ消滅した。 「ヒョウガキィ…!コロスゥゥゥ!!」 目で追えぬ速度。時計の秒針が動く更に数百倍の短い時間でサバは氷河期の目の前に現れる。そして振り払われる魔剣。 「絶対魔眼」 「鉄血転化」 氷河期の瞳と髪が赤く染まる。絶対魔眼と、更に詠唱破棄で鉄血転化を発動しサバの高速斬撃を冷殺剣をもって互角の剣戟を繰り広げていく。 「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり 否定し 痺れ 瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち 己の無力を知れ!」 「破道の九十 黒棺!」 氷河期がサバと接近戦を展開していく中、李信は完全詠唱を行い破道の九十を発動、黒棺がサバを取り囲んだ。 「詠唱破棄したさっきと違って完全詠唱の黒棺だ。更に…」 「残火の太刀 南 火火十万億死大葬陣」 今まで屠ってきた者を召喚し対象を殺すまで襲い続ける骸の軍勢。李信はホムンクルスである蒼を殺すことにより彼の力の源となっていた賢者の石、つまり無数の人間の命を同時に葬っていた。 その中から1000人程召喚し、黒棺で閉じ込めたサバを取り囲ませる。 「二段構えだ。さあどうするブサバ!」 魔剣により黒棺は斬り裂かれ破壊されるが、サバを待っていたのは1000人の骸。 「アノ娘ェェェェェェェェェェェェ!!」 「ん?賢者の石になってた奴以外を間違えて呼び出してしまった。まあいいか、うん」 骸の1人が先頭切ってサバに襲い掛かるが、サバは難無くこれを斬り捨て、跳躍し無数の骸の軍勢の渦中に飛び込み、魔剣の一振りによる斬撃で全ての骸を斬り捨てた。 「やはりそう甘くないか。ならば…出て来い蒼!」 自らが葬ったホムンクルスの神を呼び出す。蒼の骸は掌に擬似太陽を作り出しサバに投げつける。 サバが放った黒い斬撃。同じ黒い斬撃でも李信の卍解時の月牙天衝を遥かに上回るその力は投げつけられた擬似太陽を斬り裂き蒼の腰から上下を分離させてしまう。 「やはり駄目か!」 李信の嘆きの直後、サバは持てる全ての魔力を狂化したまま解放する。あまりの膨大さと禍々しさとを併せ持つ悪神の魔力が世界を揺るがせ李信と氷河期を一瞬恐怖させる。 「直江氏、俺達も!」 「ああ、氷河期さん」 2人とも決着の時を悟っていた。持てる全ての霊力を、魔力をそれぞれが放出する。 「霊圧を完全解放した俺が放つ残火の太刀の奥義、受けてみるがいいアーリマンよ!」 李信の霊圧が青から赤に染まり、現実世界で例えれば成層圏さえ軽く突き抜けてしまう高さの火柱が全身から放出される。 「前までの同じ技とは桁違いの威力だ。我が最大にして究極魔法、その身に受けてみよ!」 氷河期からかつてない程の、魔力と冷気が発せられ、全ての力を究極魔法に注ぎ込む。 「残火の太刀 北 天地灰尽!」 「コキュートス!」 残火の太刀から発せられる炎熱を凝縮し、振った延長線上の全てを両断する斬撃「天地灰尽」 全てを凍てつかせ溶けることのない世界を創造する程の力を持つ究極魔法「コキュートス」 両者の最大の攻撃がサバへと放たれる。 「グオオオオオオオオギャアアアアアアアアアアアス!!」 サバの手に持つ魔剣・狂暴(アエーシュマ)から放たれる、惑星すら斬り裂く規模の黒い斬撃。 三者の最大の攻撃が衝突する。 赤と、青と、黒が混じり合い限りなく暗い紫色のエネルギーとなり、それが膨張し大爆発を起こす。 あまりの規模と威力の技のぶつかり合いの為に時空すら歪み始め、サバが創り出した異次元世界は維持不可能となり終焉を迎えた。 時間は少し遡る。李信と氷河期がサバと交戦に及んでいる間、小銭と星屑もまたサバが召喚した暗黒龍「アジ・ダハーカ」と闘っていた。 「クラスガード アーチャー!」 英雄王「ギルガメッシュ」の姿になった小銭が王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から宝剣を次々に龍に向けて射出していく。 無数の宝剣が暗黒龍の体に突き刺さり、鼓膜を破壊するかと思うくらいの悲鳴を上げて地に堕ちる。 「そして俺のスタンドの一つ、キラークイーンでこの龍を爆弾に変えて…」 星屑はキラークイーンを召喚して地に堕ちた暗黒龍の体にキラークイーンで触れた。 「ポチッとな」 ポケモンの初代で主人公が発する数少ないセリフの一つである。そんなことはどうでもいいが、星屑の意思でキラークイーンの指にあるスイッチを押すことで暗黒龍の体は爆散した。キラークイーンは触れた対象を爆弾に変える能力を持つスタンドである。 「あっさり終わったな」 暗黒龍の爆散をその目でしかと見届けた星屑が呟く。 「星屑、後ろだ!」 「(!?)ザ・ワールド!」 暗黒龍を完全に始末したと確信し背を向けた星屑の背後から、爆発による爆炎に紛れて迫り来る影に気づいた小銭が星屑に促した。 星屑はザ・ワールドにより時を止め、後ろを振り返る。 「何だこいつゥ!?」 星屑の視界に入ったのは異形の人間。両肩から蛇が生えている黒い瘴気を纏った邪悪な人間。 「とにかく距離を取らねば!」 ザ・ワールドの時間停止は9秒までである。星屑は出来得る限り走り、異形の人間から距離をとった。 「そして時は動きだす…」 9秒が経過し、時間停止が解除される。星屑と小銭の正面に立ち竦む異形の人間が口を開く。 「今の能力は何だ?お前が瞬間移動したように見えたが」 「敵に能力を明かす馬鹿があるかよ。それよりてめえは誰だ?」 「俺はザッハーク。アラビア砂漠にあるとある国の王だ。先程お前らが倒した暗黒龍アジ・ダハーカの人間体とでも言うべきか」 星屑の問いに異形の人間が素直に答える。ザッハークとは、ペルシャに伝わる伝説の王であり、「シャー・ナーメ」に登場する。つまり、当たり前だがポケガイ民ではない。 第二部初の名ありのオリジナルキャラである。最も、悪神アーリマンの力を持つサバが召喚した神話上の暗黒龍の正体、というこれも神話に沿ったキャラなのだが。神話でもアジ・ダハーカが人間であるザッハークになったという言い伝えがある。 「ザッハーク?ポケガイ民じゃなさそうだな。聞いたこともねえ名前だ」 小銭も当然だが、初めて耳にする名前である。 「俺は暗黒龍アジ・ダハーカの真の姿だ。お前らは馬鹿そうだから神話なんて知らないだろうがな。まあ、どうでもいいことか。お前らは此処で…」 ザッハークの姿が小銭と星屑の視界から消える。 「死ぬんだからな!」 ザッハークは小銭の目の前に現れて両肩の蛇で小銭に喰らい付かんと飛び掛かった。 「クラスカード ランサー!」 ケルト神話の英雄「クー・フーリン」の姿になった小銭が呪いの槍「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)」を手に、鋭い槍捌きでザッハークの蛇を2匹とも両断する。 「エメラルドスプラッシュ!」 「ぐはっ!」 星屑のスタンド「ハイエロファントグリーン」の掌から放出される無数の緑色の結晶がザッハークの全身を貫通する。小銭はその間に高く跳躍していた。 「この槍は因果逆転の呪いの槍でな。心臓を穿つという結果を作り出してから投擲という過程を行う」 「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!」 ゲイ・ボルクを振り上げた小銭がザッハーク目掛けて思い切り投擲する。 投擲された槍は空を切り直進し、見事にザッハークの心臓を貫いた。 「やったか!?」 小銭よ、そのセリフはフラグだ。 案の定、ザッハークは倒れずに大量出血しながらも二本の脚で蹌踉めきながら立っていた。 「…ケホッ!やるなお前ら!だが…」 ザッハークは両肩の蛇に魔力を注ぎ込み、蛇が放つ黒い瘴気により見る見るうちに体の傷が治癒された。 「この両肩の蛇の正体は悪霊・イブリースだ。俺が悪である限り、アーリマンと共にある限り無限に力を貸してくれる…!」 ザッハークの両肩の蛇が龍と化し、今度は星屑に食らいつかんと伸びていく。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」 スタンド「スタープラチナ」による強烈なラッシュ攻撃を食らわせるも、龍はビクともせずに星屑の両腕に食らいつく。 「よく近づいてきたな。キラークイーンで終わりだカス共!」 キラークイーンで2匹の龍は爆弾と化し、星屑はキラークイーンの指にある起爆スイッチを押した。 暗黒龍は木っ端微塵に爆散した。因みに星屑もゼロ距離にいる為巻き込まれたが彼は究極生命体なので不死であり、瞬時に再生した。 「馬鹿な、暗黒龍が…!」 「終わりだ蛇野郎、俺達の力を甘くみたな」 いつの間にかギルガメッシュの姿になっていた小銭が宝物庫から乖離剣エアを取り出し魔力を注ぎ込んでいた。 「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」 乖離剣エアから放たれる次元断層がザッハークを呑み込み消滅させてしまった。辺りの大地は地平線の彼方まで地割れを起こす程の威力である。 「今度こそ終わったな。直江と氷河期の加勢に行くぞ」 未だにサバと交戦している2人が気になった星屑に言われて小銭も頷くが… 「おい、なんか空間が歪んでないか?」 小銭のセリフにより星屑も気づく。辺りの時空が歪み、互いに互いの存在がグニャグニャと歪んでいるのが確認できる。 李信、氷河期がサバと全力の技のぶつけ合いを行なった為にサバが創造したこの世界が限界を迎えたのである。 「おわっ!何だこの光は!」 黒と、赤と、青の三色の光が星屑と小銭を包み込んだ。 「何だったんださっきのは…っておい!直江!氷河期!」 星屑が目を開けると、元の世界に戻っていた。そこはサバが居た家が破壊された跡地、瓦礫の山であった。 人気の無いゴーストタウンで一つの全壊した家屋が際立つ。星屑の視界に入ったのは血まみれになり横たわっている李信と氷河期、正気を取り戻し勝ち誇っているサバだった。 「大丈夫かお前ら!くそッブサバめ俺が相手だ!」 星屑が怒りを露わにしサバの前に出る。サバは得意げな顔で言い放つ。 「神である俺の前ではこいつらなどカス同然だったよ。お前もすぐにこの2人と同じ目に遭わせてやる」 魔剣「狂暴(アエーシュマ)」をこれ見よがしに構えながら星屑煽る。 「確かにてめえは神だよ。そう、不細工のな!」 星屑が腕に光り輝く刃を生やしてサバに斬りかかるが、サバは魔剣で簡単に受け止める。 「オーバードライブ!」 もう片方の腕でサバの顔面に波紋エネルギーを叩き込む。 「俺の松潤似のイケてる顔が台無しじゃねえか、オイ!」 サバの顔面はオーバードライブにより焼け爛れた無惨なものとなったが、瞬時に治癒される。そしてサバの全身から爬虫類が湧いて星屑を縛り上げてしまう。 「キラークイーン!」 星屑のキラークイーンがサバの爬虫類に触れ、爆弾化してしまう。 「何が松潤似だ。松潤に謝れ不細工フェレットフェイスのドチビ野郎!あの世のルイに今すぐ会わせてやるぜ!」 キラークイーンの起爆スイッチが作動し、星屑は自分ごとサバを爆散させた。 「俺は究極生命体により不死だ。爆散しようがすぐに再生可能」 塵となった自らの体を再生させた星屑が、爆散したサバの爬虫類の残骸を見下ろす、が… 「神に再生能力が無いと思ったか?」 (!?) すぐさま再生したサバに突然東から飛んで来た矢が直撃、青色の爆炎を噴いて爆発を起こした。 「聴こえるか星屑」 何処からか星屑を呼ぶ声がする。小銭の声であるが、付近に本人の姿は無い。 「小銭か?お前何処にいるんだよ?」 「この冬木市にあるとある10階建の建造物の屋上、お前から見て東にある」 小銭はその場所でアーチャーのクラスカードを使用し、英雄「エミヤ」の姿に変身していた。 「今のは俺が放った矢だ。頃合いを見計らい、この姿での最強の一撃を放つ。まあ遠距離からの支援射撃だ。近距離戦は任せたぜ」 「楽な役を見つけたな。後でお前の奢りで豊後水牛の料理だ。」 「減らず口はいい。2人まとめてやられるわけにはいかないだろう?直江も氷河期もやられたんだ、多分俺達でも勝つのは厳しいがせめて奴を黙らせる方法があれば…」 「どんな奴にも弱点は恐らくある。行くぞ!」 小銭とのやり取りを終えた星屑が再び前を見やると、小銭の放った矢などまるで効いておらず無傷のサバが爆炎から現れた。 「波紋もキラークイーンも効かない上に攻撃系以外の能力無効で再生持ち…さっきはああは言ったが倒す方法が見つからねえ…」 星屑は早くも万策尽きたことを悟ってしまった。 「お前、死ぬ前に松潤似のイケメンで神たる俺に祈りを捧げろ。それくらいは許してやる」 サバの傲慢な発言。自分が世界の頂点に立ったと確信した尊大(笑)なる神の言葉は、追い詰められた星屑の心に突き刺さる。 「祈る気は無いか。最後だ、俺の真の力を見せてやろう」 サバが手に持つ魔剣「狂暴(アエーシュマ)」から漆黒の霧が発せられてサバを取り巻くように包んでいく。 「何だよそりゃあ…本当に松潤似になりやがっただと…」 漆黒の霧が取り払われ姿を現したサバはまさしく松潤似の顔に変化しており、全身を漆黒の悪神の加護がかけられた鎧と漆黒のマントに身を包んでいた。 「この状態の俺が放つ魔剣・狂暴(アエーシュマ)の斬撃は不死を含めあらゆる敵の能力を無効化し必ず死に至らしめる必殺の技だ」 サバが魔剣を思い切り振り上げたその時である。東の方向から小銭が放った螺旋を描いた魔剣兼矢が空間すら捻じ切れる勢いで空を切りサバの顔面に命中し大爆発を起こす。 「偽・螺旋剣(カラドボルグII)。射出型の魔剣だ。空間を捻じ切りあらゆる物を貫通する。いくらサバでもこのカラドボルグならば…」 小銭が黒い洋弓から放ったカラドボルグはサバの上半身を吹き飛ばし地に落ちた地点から更に地中を貫通していた。 「よくやった小銭!トドメだ不細工!」 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!オラァ!」 波紋エネルギーを纏ったスタープラチナによる怒涛のラッシュ攻撃が、残ったサバの下半身を無数の肉片へと変えた。 「やれやれだぜ」 決め台詞を吐いて一瞬落ち着く星屑目掛けて、狂暴(アエーシュマ)が突き出された。 「!?」 間一髪で右に体を逸らした星屑が見たのは、完全に再生したサバの姿だった。 「今の射撃とラッシュは効いたぞ。だがあれ程の貴重な矢は二つと無いだろう。今度こそこのイケメン副管理人たる俺の前にその命を捧げてもらうぞ」 「クソッ…此処までかよ…」 狂暴(アエーシュマ)が星屑に向けて振り下ろされる。が、その斬撃が星屑に届くことはなかった。そ 「!?」 星屑は死んでいなかった。目の前に突如現れた白いマントと黄色いヒーロースーツを着用した男にサバの斬撃が直撃したからである。 しかも、その男は覚醒したサバによる狂暴(アエーシュマ)の黒い斬撃を受けても死ぬどころか全くの無傷だった。 「誰だお前は。いや、それよりもあらゆる能力や耐久性能を全て無効化し直撃した対象を全て葬る俺の斬撃を受けて無傷だと…?ありえん…!こんなことはありえん!」 現れた男に斬撃を防がれサバは狼狽する。 「俺は趣味でヒーローをやっている水素だ。今日はスーパーの特売日だったから買い物に行ってたんだが帰る途中で爆音が聴こえたもんで来てみたらこの有様か」 水素がチラッと見やったのは、サバとの戦闘で倒れた李信と氷河期、そして消耗した星屑の姿だった。 「来るのがおせえよバカ野郎が…」 「わりいな、肉とか野菜とかが安かったもんでつい買い過ぎたらもうこんな時間だ。星屑、お前は直江と氷河期を回収して退がってろ。こいつは俺がやる」 「分かったよ。それとそいつはアティークに対抗する為の駒だ。殺すのはまずい」 水素に退がるように促された星屑が去り際に一言添える。 「殺しても問題ねえよ。こいつの所持品や一部で十分効果はある。さっきスーパーで流れてたラジオニュースでセールが言ってたからな」 それを聞いた星屑は顔に安堵を浮かべ、両腕に李信と氷河期を抱えて退がっていった。 「そうか、お前が水素か。オフ会の集合写真を無断でポケガイに晒して俺を笑い者にした張本人…!絶対に許さんぞ!」 水素の名を聞いたサバが激情する。サバは現実世界で開かれたポケガイ民のオフ会で撮影した写真を水素によって晒され笑い者にされた過去があるからである。それにより松潤似(笑)や副管理人(笑)の仮面は見事に剥がされたのである。 「え?お前もしかしてサバ?www何だその顔wwwフェレットを不細工にしたような顔面凶器がマジで憧れの松潤みたいな顔になってるw」 嘲笑を浮かべる水素に対してサバの怒りは頂点に達した。 「てめえはぜってえ殺す!!」 魔剣「狂暴(アエーシュマ)」を振るい斬撃を放つが水素は片腕でそれを振り払う。 「ぜってえ許さねえぞこの不細工野郎がぁぁぁ!!」 怒りに囚われたサバが水素に急接近、連続で魔剣を振り下ろしたり突き出したりするが全て水素に回避される。 「オルァ!」 黒い斬撃がゼロ距離で放出されるが水素には傷一つつけることさえ叶わない。 「ならば…」 「無秩序(サルワ)」 「この能力は念じた対象の意識を朦朧とさせ正常な思考力判断力を奪う!」 水素から距離をとったサバの掌から桃色の霧のようなものが発せられ、水素の鼻や口を通して体内に潜り込んで行く。 「…何ともねえんだけど?w」 無秩序(サルワ)を受けても水素は平気な顔をして立っていた。 「あ、あれ?おかしいな、この無秩序(サルワ)を喰らって平気な奴なんて居ないはずなんだが…ならば無秩序(サルワ)の更なる能力を喰ら…」 「もう飽きたわ。死ね」 急接近した水素の右腕の拳がサバの腹部に直撃し、サバの体は再生することなく粉々に砕け散り塵となって風に吹かれていった。同時に、魔剣「狂暴(アエーシュマ)」も闇の光の粒となり消えていった 「おーい星屑、終わったぞー!」 サバが遺したマントを手に持ち、その手を振りながら星屑に呼びかける。 「俺ら4人がかりでも倒すどころかほぼワンサイドゲームを展開されたのにお前って奴は…」 「でもカスだったぞ。それより帰って飯にしようぜ。今日はすき焼きだ」 戻った星屑に水素はそう言って廃旅館の方へと歩き出した。 「お疲れ星屑。水素が来たらすぐ終わったなw」 いつの間にか戻っていた小銭が星屑に労いの言葉をかける。 「化け物だよ、あいつは。ホント味方で良かったわ」 「領内に侵入し我が国の拠点を破壊して廻っている者を直ちに捜索し発見次第これを討ち果たすべし」 牡丹王国国王の黒牡丹から下された緊急指令により、北条ら鷹の4人は手分けして牡丹王国領内にて情報を収集しながら捜索を開始していた。 北条は牡丹王国の首都から離れたピオニーシティに再び足を踏み入れて活動を行っていた。 このピオニーシティはかつて北条が「火遁・豪火滅失」により焼き払い、また鷹のメンバーとピオニーや黒わんこが激闘を繰り広げた街である。 「近隣村の村民によればこの辺りで間違いないはずだが」 北条は近隣の村の民から近頃このピオニーシティを拠点に各地の牡丹王国の拠点を襲っている者が居ると聞いていた。わざわざこの街を拠点としているのは戦闘機能を失い半分以上が焼き払われ、力を失った民から略奪という名の補給をしながら活動できるからである、と北条は考えていた。 「う、うわあ!助けてくれー!」 北条が独り言を呟いていると、遠くの方から中年の男らしき悲鳴が聴こえてくる。北条の足は反射的に悲鳴が聴こえた方向に向いて走り出していた。 「なんなんだお前は!」 「いいから有り金全部置いていきな。我がペルシャ帝国の資金の足しにしてやるからよぉ!」 人気の無い路地に出ると、1人の男が3人ほどの住民を虐殺していた。 その光景を目の当たりにした北条は腕に巻きつけた巻物から手裏剣を口寄せし、雷遁チャクラを纏わせて男の腕に向かって投擲するが、手裏剣は反射され北条の体をすり抜けていった。 「何やってんだよ、てめえコラオルトロス」 北条が見たのは懐かしの顔。かつて自分達を破った因縁の男であった。 「久しぶりじゃねえか北条。てめえまだ生きてやがったんだなァ。黒い翼で吹っ飛ばしてやったのによぉ」 「あの頃とは違う。俺は自らに宿る全ての力を使いこなせるようになった。チャクラも無限にある。てめえに俺は倒せねえよ」 北条に気づいたオルトロスが北条の方へ振り向く。下卑た笑みを浮かべていた。北条は毅然とそれに返す。 「何やってるかって質問だったなァ?今度ペルシャ帝国がNAKや牡丹王国を潰しに行くからその前に邪魔な能力者や拠点を潰して一気に侵略しようって話だ。俺がやってんのは任務だ。そしててめえは邪魔な能力者、よって任務により抹殺しなきゃなんねえわけだけど…そこんとこ分かってるか三下ァ?」 「俺も任務でな。破壊活動を行っている犯人を捜して抹殺しろってな。つまりてめえを今から殺す。どっちが三下かはっきりさせてやるぜ」 2人のみのこの人気の無い廃街に冷風が吹く。下卑た笑みを崩さないオルトロスと、憎しみを露わにした北条の死闘が今、始まろうとしていた。 「てめえのすり抜け、どうなってやがる…?」 「これから死ぬてめえに説明する必要はねえ。それと忘れたのか?万華鏡写輪眼と直接目を合わせるとどうなるか…」 オルトロスは完全に北条と視線を合わせていた。幻術「月読」を持つ万華鏡写輪眼の使い手に対してそれは… 「しまった…!」 「月読!」 北条の万華鏡写輪眼による幻術「月読」が発動し、オルトロスは北条が創り出した幻術世界に引き摺り込まれる。 「これは…!う、動けねえ!」 オルトロスが大気や運動エネルギーのベクトルを操作しようとしても発動することは出来ず、十字架に張り付けられたまま身動きがとれなくなる。 「月読の世界では、空間も時間も質量も、全て俺が支配する これから72時間、お前を刀で刺し続ける」 無数の北条がオルトロスの眼下に現れ、それぞれが日本刀を手に持っている。 ブスッという鋭くも鈍い音が響く。北条の1人が刀でオルトロスの腸を刺し貫いた音だ。 「ぐわぁ!」 激痛に表情が歪み、声を抑えられなくなる。 「あと71時間59分…」 オルトロスのメンタルを折る為にわざと残り時間を告げ、全身を日本刀で何度も刺しまくっていく。 抑えていても溢れていく悲鳴が次第に大きくなり、オルトロスは気絶してしまう。 「まだだ、もっと苦痛を味わってもらう。気絶などさせんぞ」 北条による刺突攻撃は72時間続けられた。 「はぁ…はぁ…はぁ…」 72時間の攻撃が終わり、月読が終わると、現実世界に戻ったオルトロスは精神に異常をきたしてその場で奇声を発して倒れてしまう。 「月読世界で生じたダメージは幻だが、痛みは現実だ。さてオルトロス、その命貰うぞ」 北条はしっかりと視点のピントをオルトロスに合わせる。 「天照!」 視点から発火する黒炎がオルトロスの背中から発火し体を燃やし始めた。 オルトロスの上着が空気の刃により切り裂かれ、黒炎がオルトロス自身に燃え移る前に事なきを得た。 「三下がァ…いっちょまえにやってくれんじゃねえか!」 オルトロスが立ち上がり地面を蹴って突進してくる。運動エネルギーのベクトル操作である。 「神羅天征!」 北条の術で彼を中心に円状に斥力が発生し周囲の一切をオルトロスごと吹き飛ばす。 「口寄せの術!」 北条が口寄せによりオルトロスの後方に全てを喰らい尽くすと言われている巨大な伝説の生き物・獏が出現し、その大きな口からの吸い込みを始めた。 「反射能力でそんな吸い込みは効かねえ!」 周囲の建造物などが獏の口に吸い込まれていく中、オルトロスはベクトル操作の反射で吸い込みの風圧をバイトに返していく。 しかしそれにより吸い込む力は更に強くなりそのループとなった。 「獏の吸引力を利用した… 風遁・真空連波!」 オルトロスが獏を空気の刃で斬り刻みにかかった隙に北条は瞬身の術でオルトロスから5m地点まで接近、「風遁・真空連波」を使用した。 この術は真空波を一度に複数口から吐いて放つ強力な風遁忍術である。 「クソがっ!」 オルトロスは背中から何枚もの黒い翼を出して真空連波を吹き飛ばしてしまった。 オルトロスの背中から無数に生えた黒い翼はオルトロスの力を更に引き出していく。 そしてオルトロスが地面を踏むと多量のマグマが地面から噴き出し北条を呑み込んでいく。 「いいねいいねぇ!愉快にステキに決まっちまったよォ!」 「だから神威で効かないって言ったろ馬鹿が」 マグマの海から抜け出した北条が大型の手裏剣を口寄せしてオルトロスに投げつける。 「んな武器、反射ですぐ返してやるぜェ!」 オルトロスはベクトル反射で北条が投げた手裏剣を跳ね返そうとしたが…北条はオルトロスの反射膜に手裏剣が触れる前に見えないワイヤーで手裏剣を引いてオルトロスの大腿骨に突き刺した。右脚の太腿から出血しながらその場に倒れてしまう。 「馬鹿な…いくら反射にタイムラグがあるからと言って…!そうか、てめえの眼…!」 「そう、写輪眼ならば僅かな隙やタイミングを見逃さない!今度こそ死んでもらうぜ三下」 北条が「天照」を発動しようとした瞬間、オルトロスの姿が視界から消えた。 「その天照とかって術、要はてめえの眼で追いきれねえスピードで移動すればいいだけの話だぜ」 建造物の屋上に移動したオルトロスが北条を見下ろしながら言い放つ。 「回避してどうする?お前の攻撃は全て俺には当たらない」 「水遁・瀑水衝波!」 北条は熱気で視界を遮るマグマの海を水遁による洪水で押し流した。 「…さっきはこの学園都市一位の能力を持つオルトロス様に向かって三下と吐かしたな?」 「三下だろうが。学園都市なんかよりも世界は広い。上には上が居るってことを教えてやる。お前の未来は…死だ」 売り言葉に買い言葉である。そして北条は更なる術を発動する。 「万象天引!」 北条の掌から強力な引力が発生してオルトロスを強制的に引き寄せていく。 「くそっ何だこの術は!」 「炎遁・火雷!」 形態変化させた黒炎で引き寄せたオルトロスを串刺しにしてしまう。 「ぐわああああああ!!」 「終わりだ!」 草薙剣を抜き、それに千鳥を流した千鳥刀でオルトロスの首を刎ねようと振るった。 オルトロスはそれを間一髪で回避した。北条は千鳥刀をオルトロスの反射膜に触れる寸前で振る方向を逆にしてオルトロスの首を刎ねるつもりだった。 「この学園都市第1位の俺様の腕を…」 オルトロスは見事な反射神経で北条の炎遁・火雷(ホノイカヅチ)を自らの左腕が突き刺されるまでにダメージを抑えたのである。 「その炎は天照の黒炎の形態変化だ。お前の左腕はこれで使い物にならない」 「チッこの俺を怒らせたな?この左腕のツケは…三下、てめえの命でしか償えねえんだが、どうするよ?あぁ!?」 オルトロスは空気の刃を創り出し自らの左腕を切断して黒炎が全身に広がるのを防いだ。切断された左腕がボトリと落下し、北条の「水遁・瀑水衝波」により湧いた水溜りにボトンと音を立てて沈んでいった。沈んだ左腕から溢れる血が、水面を赤く染めていく。 「畜生、いてえ…いてえな畜生…!クククククク…カカカカカカカカカカカカ!! いいぜてめえ!最高にムカつくぜ!」 オルトロスの背中から生えた複数の黒い翼が伸びて北条に攻撃を仕掛ける。 「ベクトル操作に黒い翼…確かに強力な能力ではあるが、この俺の前では無力だということを教えてやる」 黒い翼は北条の体をすり抜け攻撃は不発に終わる。 「万象天引!」 再び北条の掌から強い引力が発生し、オルトロスは強制的に北条の方へと引き寄せられていく。 「人間道!」 北条の輪廻眼の能力によりオルトロスの魂が引き抜かれていく。白い霊体のような塊といった形で徐々にそれはオルトロスの体から引き離されようとしていく。 「これでお前の魂を引き抜く。終わりだオルトロス。アティークなどの仲間になりこの俺の前に立ちはだかったことをあの世で悔いるがいい」 「!?」 北条は自らに生じた異変に気付いた。「神威」によるすり抜け能力が解除されてしまったからである。 ニヤリ と言わんばかりの笑みを、聡いオルトロスは浮かべた。掌から作り出した空気の刃を北条の方へと飛ばしたのである。 「グワァッ!」 北条の胴体は左肩から右腰まで真っ二つに切断され、人間道の術は停止されてしまった。切断された北条の体が水溜りに前のめりに倒れて血の池を広げていく。 「てめえのそのすり抜け、完全無敵じゃねえみたいだな。制限時間を迎えたようじゃねえか!」 オルトロスは北条の真っ二つになった体の上の方目掛けて右手を突き出す。 「てめえの全身の血を逆流させてやるぜェ!終わりだァ!」 オルトロスに触れられた北条の体から血が噴き出し、バラバラに分解されてしまった。 「軍隊を遥かに凌ぐ学園都市最強のこのオルトロス様に、てめえ如きが勝てるわけねえだろうがァ!そんなザマで上には上が居るだの偉そうに語ってんじゃねえ!ギャハハハハハハハハハハハ!」 オルトロスの勝ち誇った甲高い笑い声が辺りに木霊する。が… 「そうだな。次は目で語る闘いをしよう」 「!?」 オルトロスの背後に現れた北条の千鳥刀が、オルトロスの腸を貫いた。 「馬鹿な…!クソッ!」 突然だった。殺害した筈の北条が五体満足、無傷の状態でオルトロスを貫きながら立っているのである。オルトロスは一瞬パニック状態になり、拳を北条へと突き出した。 「神羅天征!」 北条が起こした強力な斥力により、オルトロスは吹き飛ばされてしまった。 「火遁・龍炎放火の術!」 龍を象った炎を口から四体ほど吐き出す。炎はオルトロスを追尾し、着弾。爆煙が巻き起こり周囲の建造物にも燃え広がる。 だが爆炎を黒い翼で吹き飛ばした満身創痍のオルトロスが飛び出し、超高速で北条に接近する。 (このスピードには奴も対応できねえ!終わりだぜ!) オルトロスが拳を北条に突き出して勝負をつけようとするが、その拳も、黒い翼さえも、北条には届かなかった。 「何だよ…こりゃあ…」 オルトロスが目にしたのは、北条を覆い尽くしている紫色の、背中に翼が生えた建造物数軒分の高さを誇る巨大な鎧武者だった。 「完成体須佐能乎だ」 「須佐能乎だと!?」 オルトロスの黒い翼さえも受け止めた鎧武者の巨大な太刀が、オルトロスの右側の黒い翼を切断してしまう。 「左右の眼に万華鏡写輪眼の力を得た忍に宿る力だ。圧倒的な防御力と攻撃力を併せ持つ俺の切り札だ」 黒い翼を切断され、本能的に危険を感じたオルトロスは北条から距離をとる。 「クソがァァァァァァァァァ!!!」 オルトロスは一瞬で膨大な量の大気を圧縮して巨大なプラズマに変えて北条へと撃ち出した。プラズマが須佐能乎ごと北条を包み込み、激しい雷鳴を響かせて光を放つ。 「ちったァ答えたかよ、三下ァ…!」 「貴様の矮小な力など、全てこの須佐能乎で防いでみせよう」 「!」 プラズマによる攻撃など、完成体須佐能乎の前では無力だった。 「万策尽きたかオルトロス。ならば終わりにしよう、俺達の因縁を」 須佐能乎の右手には炎遁の黒炎が押し固められて創られた巨大な剣が持たれていた。 「加具土命の剣(かぐつちのつるぎ)だ。この闘いの幕を引くのに相応しい剣だろう?さあ、一思いに一撃で葬ってやる。そこを動くな」 加具土命の剣がオルトロスに振り下ろされる。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 オルトロスが吼える。オルトロスの精神に反応するかの様に背中の右側から新たな翼が、いや、左にも合わせて100本ほどの翼が生え、その全てが純白へと染まった。 純白の翼から放たれる不可視の謎の力により、加具土命の剣は消し飛ばされた。 「俺にこれを出させる程追い詰めたのは褒めてやるぜ三下ァ!だがこれでおしまいなんだよォ!」 純白の翼から放たれる不可視の力が完成体須佐能乎の腰の部分にヒビを入れてしまう。 「馬鹿な…!俺の加具土命の剣と完成体須佐能乎が!」 完成体須佐能乎にヒビを入れる以上のことが出来る者など、水素くらいにしか会っていなかった北条は狼狽えた。 「幕を引くのは俺だァ!」 怒気に溢れるオルトロスの翼からさらなる攻撃が放出されようとする。 「…いいだろう。俺も全力をもって貴様を潰す!尾獣共よ!俺に力を!」 十尾を含めた全ての尾獣のチャクラを自らの内から解放し、完成体須佐能乎に纏わせることで飛躍的に強化する。 「まだだ!六道仙人の力もだ!」 更に六道仙人の力を引き出した北条の全身が緑色に変化し、背後には黒い求道玉が6つ出現した。 「行くぞ北条ォォォォォォォォ!!」 純白の翼から全力を放出したオルトロスの一撃が北条を そして持ち得る全ての力を引き出した北条の須佐能乎から放たれるインドラの矢がオルトロスを 互いの全てを出し切った最強の一撃がぶつかり合った。 あまりにも膨大な力のぶつかり合いである、半径10km程の全てを消し飛ばす規模の衝突が発生し、爆発が全てを包み込んだ。 「はぁ…はぁ…はぁ…」 爆煙から姿を現した2人。先に息が上がったのは北条の方である。 「ケッ…!どうしたよ三下ァ…。息が上がってんじゃねえか。トドメといくぜ」 オルトロスが、両膝と両手を地につけた北条目掛けて飛び掛かるが、跳躍している最中に見えない攻撃がオルトロスを真横へと吹っ飛ばした。 「輪墓・辺獄」 この術は、輪墓という遥か遠くの別世界に存在する自分を自らと同じ世界に召喚し、戦闘を行わせる影の分身のようなものである。 この北条の「影」は同じ輪廻眼を持つ者にしか視認することは出来ない。つまり、この世界において北条の輪墓を看破出来る者は存在しない。 輪墓が放った「嵐遁・光牙」によるビームがオルトロスを貫き、吹っ飛ばした。 「クソッ!クソッ!クソッ!」 内臓を貫かれたオルトロスが純白の翼から力を放出して反撃を試みる。 「無駄だ」 北条の求道玉と完成体須佐能乎が盾となり、オルトロスの反撃は防がれた。 「恐ろしいか?この俺が」 虫の息のオルトロスの目の前まで歩み寄り北条が語りかける。 「誰が!」 オルトロスの拳にエネルギーを集中させた攻撃。が、完成体須佐能乎にはビビ一つ入らない。 「恐ろしいなら逃げてもいいぞ? …すぐに捕らえて殺すがな」 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 全ての大気を右拳に集め、風とプラズマを纏ったパンチを北条に繰り出す。が、求道玉によりその拳は受け止められ、右腕は須佐能乎の太刀により切断された。 「…俺の…俺の腕が…腕がァァァァァァァ!!」 「腕だけでは済まさない。お前には借りがあるからな。その命貰うぞ」 残った右腕をも失い、痛みと絶望のあまり絶叫するオルトロスに追い討ちをかけるように下される北条からの処刑宣告。やがて北条の完成体須佐能乎の左腕に黒い千鳥と炎遁・加具土命の黒炎が纏われる。 「さらばだ、学園都市第1位」 「建御雷神(タケミカヅチ)」 千鳥と黒炎を纏い、千羽の鳥が鳴くような効果音を響かせながら、須佐能乎の右腕がオルトロスへと振り下ろされた。 ベクトル操作、黒い翼、純白の翼。非常に強力な力を持ちながらも道を誤ったこの男は、かつて仲間だった男の手によりその生涯を終えた。 「借りは返したぞ、三下」 胴体に大穴が開いたオルトロスの遺体を見やりながら、北条は満足気に呟いた。 「次は貴様だ。待っていろアティーク」 万華鏡写輪眼の状態を解除した北条は来るべき決戦を予感しながらその場を後にした。 「NAK帝国を今度こそ征圧する!」 ペルシャ帝国のペルセポリスでは、セールらの妨害で先の侵攻に失敗したアティークが今度こそはと意思を固めてNAK侵攻軍を緊急の増税と徴兵により編成した。 ペルセポリスの付近を流れる運河を利用した水運による莫大な利益、そして従えている配下の有力豪族達にかけた税を主な資金源、財源としているペルシャ帝国は今回、15万もの大軍勢を整えたのである。 第1回のNAK帝国侵攻から2ヶ月、アティークは自ら親征することを宣言し、総勢15万のペルシャ帝国軍がペルセポリスを出陣した。 皇帝アティークを総大将に、Hope、平行四辺形、庭師、ヤナギ、ぷろふぃーる、黒わんこ、蘇芳悠太らが従う。 この大軍は前回と同じようにグリナ峠を越えて前回陥落させたNAK新城を通過、瞬く間に周辺諸城を攻略し、遂に帝都NAKを包囲した。 「オルトロス、さぞや無念だったろう。待っていろ、このNAKを征圧した後にすぐに牡丹王国に軍を進めて奴らも滅ぼしてやる」 オルトロスが北条に倒されたことは既にアティークの耳に入っていた。 この報を聞いた時、オルトロスの能力を知っているアティークは耳を疑ったが、オルトロスの遺体が黒わんこによりペルセポリス城に運ばれてくることで確信へと変わった。 強力な配下を失ったアティークの怒りは烈火の如きものであり、牡丹王国を滅ぼして北条を討ち取ると決意した。 その通過点であるこのNAK帝国もまた、ペルシャ帝国軍に侵攻され、今や風前の灯火だった。 「皇帝陛下、NAK帝国の皇帝・NAKが降伏を求めておりますが、如何なさいますか」 側近のHopeが先程NAK側から受け取った降伏文書をアティークに差し出しながら報告した。 「降伏など許さん。NAKは一度この俺をコケにした。全て根絶やしにしてくれるわ」 「…かしこまりました」 ペルシャ帝国軍の総攻撃により、NAK城は僅か5時間で陥落した。 NAK軍2万に対し、ペルシャ帝国軍は15万。勝敗は戦う前から見えていたのだ。 NAK城を陥落させた後、アティークはまず首実検を行った。 「敵総大将にして皇帝NAKはこの平行四辺形が討ち取りました」 NAKの首を取った平行四辺形がアティークにNAKの首を差し出した。その他、諸将諸士が挙げた首がズラりと並び、その数は1万以上にも及んだ。 翌日、陥落したNAK城に入ったアティークは諸将に対する論功行賞を行った。 「此度の軍功第一はNAKの首を挙げた平行四辺形だ」 「はっ!」 アティークに呼ばれた平行四辺形が前に出て返事をする。 「お前には旧NAK帝国の内5郡92万石の大名とする」 「はっ…」 92万石もの大封を与えられた男の顔ではなかった。その表情は明らかに曇っている。 「不服か?」 平行は不服を感じていた。92万石とは言え、与えられた領地は雪深い田舎の地方なのである。城の名前は「黒川城」というのだが、92万石の太守に相応しいとは御世辞にも言えないオンボロ小屋のような城だった。 「出来ますれば…予てより所望していた朱光の小茄子を頂戴致しとうございます」 「領地より茶器が欲しいと申すか」 「ははーっ」 「あれはやれん。欲しければそれに相応しい手柄をもっと立てよ」 「はっ…ははーっ」 平行の望みは虚しくも絶たれてしまった。住み慣れた旧ガルガイド領内の土地から雪深い土地に移らなければならない…確かに15万石から92万石への加増なのだから表向きは栄転ではあるが… がっかりした暗い表情を浮かべながら平行はその場から退がっていった。 その夜、平行は親しくしている将軍であるぷろふぃーると盃を酌み交わしていた。 「黒川92万石の大名か!おめでとう平行!」 ぷろふぃーるは友である平行の加増を素直に喜び、祝いの言葉を述べた。 「はぁ…92万石とは言え、雪深い田舎で城はオンボロ、おまけに港は発展していない水運による税収も見込めない。以前の松ヶ島15万石の方が良かった…。それにこれは栄転じゃなくて実質左遷だ。都に比較的近い松ヶ島から遠方に飛ばされるんだからな…」 平行の表情は相変わらず曇っていた。 「そんな土地だからこそ、発展させがいや治政のしがいがあるというものだ。お前の手腕次第でまたペルセポリスの近くに戻れるかもしれんぞ?今は耐えるんだ。それに俺も旧ガルガイド領10万石から北ノ庄49万石だ。表向きは加増だが俺も雪深い田舎だ」 ぷろふぃーるもまたため息をついていた。平行同様、田舎への左遷である。 「北ノ庄と言えば、付近に敦賀港があるだろ。あそこから得られる利益は莫大だ。北ノ庄城は9層天守だし、お前が羨ましいよ」 平行が落ち込んでいるぷろふぃーるをむしろ羨む。同じ雪深い土地でも屈指の貿易港である敦賀港を有するぷろふぃーるの領地と、ド田舎の平行では雲泥の差があった。 因みにこれらの地名は全て現実世界から取っているが、世界観と合わない、ペルシャ帝国なのに何故日本風の地名?など細かいことは気にしてはならない。 「Hopeは八幡と北伊勢と尾張で100万石だとよ。羨ましいねえ」 「仕方ない。あいつは皇帝陛下のお気に入りだからな」 平行が言うように、アティークの側近Hopeは都であるペルセポリスに近い場所で100万石を得ていた。嫉妬と羨望の眼差しで彼は周囲から目を向けられていた。 だが、こんな論功行賞のことで一喜一憂している余裕があるこの時間こそが、彼らが最後に過ごす安寧の時だったことを彼らはまだ知らない…。 牡丹王国には既にアティークらにより追放された元将軍達が続々と集まっていたのである。 NAK帝国はペルシャ帝国により滅ぼされた。 次にアティークが矛先を向けるのはその先にある牡丹王国だった。その牡丹王国攻めを決定した時、アティークの元に2通の書状が送り届けられた。 「して、書状には何と?」 牡丹王国に侵攻する為に軍備を再び整え、NAK城の皇帝の間でアティークは二つの国の使者から受け取った書状に目を通した。書状の内容が気になるHopeがアティークに声をかける。 「我らのみが急速に勢力を拡大するのを良しとしない仁王帝国と幻影帝国が我がペルシャ帝国軍と連合を組んで共に牡丹王国へ侵攻しようと持ちかけてきよったわ」 書状の内容を要約して説明しながら、アティークはHopeに書状を手渡す。 「如何なさるおつもりで?」 Hopeが書状に目を通しながらアティークに問う。 「仁王帝国と幻影帝国を同時に敵に回すのは流石に厳しい。要求を呑むしかあるまい」 アティークは苦々しい表情で返答した。NAK帝国に続き牡丹王国の領地まで手に入れることになれば、ペルシャ帝国はこの世界の4分の1を有する超大国となる。そのような危険な超大国の誕生を、仁王帝国と幻影帝国が黙って見過ごす筈はなかった。 同盟国とは言え、ペルシャ帝国のみが強大化すればいずれ自分達は滅ぼされてしまう。二国は危機感を募らせてペルシャ帝国を牽制しようと動き始めたのである。 「待たせている使者に伝えよ。その提案を受け入れ連合軍を結成して牡丹王国へ同時侵攻するとな」 「はっ!」 アティークの命でHopeはその場を退出した。 史上最大規模の連合軍が結成されようとしていた。 牡丹王国 牡丹城 ペルシャ帝国、仁王帝国、幻影帝国総勢35万の大軍勢がNAK城に集結した報は真っ先に斥候によりこの牡丹城へと届けられた。 「35万だと…我らは7万余だぞ…」 報告を受けた国王・黒牡丹は絶句した。軍議の席に連なり神妙な表情を浮かべているのは、紫牡丹と北条ら鷹のメンバー4人である。 「全軍をこの牡丹城に集めて迎え撃ちましょう。兵力を分散させればいたずらに各個撃破されていくだけです」 紫牡丹の発言に対し、Wあが起立して反論する。 「援軍の見込みもないのに籠城は愚策です。此処はピオニー山を防衛ラインとして迎え撃ち出鼻を挫くべきかと」 「だがこの城を空にして別働隊を編成されて突かれたらまずいぞ」 今度は赤牡丹がWあに異議を唱える。 方向性が一向に定まらないまま、6人は頭を悩ませ時間だけが過ぎていった。 そんな中、一筋の光が牡丹王国に射した。 「申し上げます!」 家臣の1人・ああ牡丹が軍議中のこの部屋に入室してくる。 「何だ、軍議中だぞ!」 紫牡丹がああ牡丹を叱りつけるが、ああ牡丹は怯まない。表情からして吉報を持って来たに違いない。 「セール殿、しずくなの殿、まさっち殿、筋肉即売会殿、くれない殿が駆けつけましてございます!」 「何だと!?あの軍神・セール将軍が来てくれたのか!?」 5人の名前を聞いた黒牡丹が驚き、思わず勢いよくテーブルに手を叩きつけて立ち上がった。 程無くして、入城してきたセールら5人が軍議の部屋に姿を現した。 「元グリーン王国大将軍・セール以下5名、牡丹王国の危機、そして怨敵アティークの襲来と聞きつけ馳せ参じた。これより我らは牡丹王国に味方し、宿敵アティークを共に討ち滅ぼすことを此処に宣言する!」 セールが1番に口を開き宣言すると、黒牡丹は宣言の手を取って涙した。 「九死に一生とはこのことだ…!よくぞ…よくぞ来てくれた!貴殿が味方についたならば100万の味方を得たも同じ!共にアティークを討ち、牡丹王国を守って下され…!」 「そのつもりだ。アティークはこの手で必ず討ち取る!」 セールの瞳は闘志の炎で燃えていた。以前の襲撃失敗の借りを、今度こそ必ず返す決意に溢れていた。 その数日後 「此処が牡丹城か」 5人のそれぞれ異様な格好をした男達が牡丹城の城門前から巨大な天守閣を見て感嘆していた。 「何者だ!」 此処は牡丹城の西門の一つ。門番の兵が当然5人の行く手を遮る。 「この牡丹城では連合軍の襲来に備えて浪人を集めていると聞いたんだが」 「さようだが、まずは名を名乗っていただこう」 門番の兵に求められ、男達は名乗りを上げる。 「趣味でヒーローをやっている水素という者だ」 「元グリーン王国所属・李信という者だ。憎きアティークを打ち倒し旧領を奪還すべく馳せ参じた」 「元某王国第二騎士団所属・氷河期。騎士道精神に悖るアティークをこの手で討つべく参上」 「こんにちは、小銭十魔です!」 「俺、星屑。しかし凄いデカい城だな。グレートですよ、こいつは!」 「…すぐに案内役が参りますのでしばしお待ちを」 5人の名を聞いた門番の兵は目を丸くして、すぐに門を開けて城の中へと走っていった。 「お待たせ致した。俺は牡丹王国家臣のああ牡丹。貴殿らを黒牡丹様のところへとご案内する。…しかしセール大将軍達に続いて貴殿らが来てくれるとは…」 ああ牡丹は冷静を装いながらも内心感激していた。亡国の危機に瀕し、これ程の実力者達が来てくれたのである。 一行はああ牡丹の案内で牡丹城の天守へと入城を見事果たし、黒牡丹との対面を間近に控えた。 どんな敵もワンパンで仕留める最強のヒーロー・水素と桑田が治めるガルガイド王国の最強騎士「狼(フェンリル)」として世界に名を轟かせていた氷河期の入城はあの軍神・セールの入城時と劣らない程に沸き立ち、城兵や家臣達は歓声を上げた。 因みに、李信、小銭、星屑は水素と氷河期のオマケ程度の認識だった。 牡丹王国の城兵にしてみれば、入城した浪人の中での主役はセール、水素、氷河期の3人であり、後は言うなればステーキの付け合わせのポテト程度の扱いである。 「水素殿以下5名、確かに案内致しました」 ああ牡丹の導きにより広大な天守閣の軍議が行われている洋風の少し広い部屋に通される水素ら一行。 「貴殿があの最強の能力者・水素殿か!よくぞ来て下さった!俺は牡丹王国の王にして城主の黒牡丹だ!貴殿らを歓迎する!」 黒牡丹が水素の手を取り今にも嬉し涙が溢れそうな表情で歓迎する。 「俺には能力なんてねえよ。ただこの肉体を武器に敵をワンパンで仕留めてるだけだ」 水素はそう返答して黒牡丹の手を握り返す。 「直江、久しぶりだな」 水素に続き入室した李信の顔を見たセールが声をかけてくる。 「セール将軍か。お互いここに来るまで色々あったな。会談襲撃時は助かった」 「困った時はお互い様だ。しかしこんなところでグリーン王国にゆかりのあるメンツが一堂に会するとはな」 「ああ、まさに勢揃いだ。負ける気がしねえ」 「散り散りになっていた将軍達が再び集結し力を合わせる…グレートですよ、こいつは」 李信とセールのやり取りに入ってきたのは星屑である。 「直江さんお久しぶりです。アティークに敗れて行方不明になった聞いた時は肝を冷やしましたよ」 「北条さん達こそオルトロスに敗れて行方不明になったと聞いた時は耳を疑いましたがね。だがみんな生きてる。生きてまたこうして会えた。力を合わせれば奇跡は起きる」 一同はしばし再開を喜び合った。 「まずはこの戦いの総大将を決めることから始めよう」 軍議が再開され、一番に李信が口を開いた。 「総大将?総大将は牡丹城の城主である黒牡丹だろ」 北条が何を当たり前のことを、と言わんばかりの表情で口を挟む。 「この戦いで敵対勢力全てを滅ぼし、旧グリーン王国領を奪還した際、誰がその広大な領土を治める君主となるかだ。それをこの場ではっきりさせたい」 李信の返事に北条は成る程と頷き左手の掌を右手で拳をつくり叩く。 「俺はセール将軍を推す」 李信は続けて言い放つ。 「俺かよ…」 李信に名指しされたセールはそう呟いた後微妙な表情で腕を組んだ。 「何でセールさんなんだ?」 「セール将軍がこのメンバーの中で最も広大な領土を治めた経験があり、最も軍事的な経験も多い。それに亡命者となる前の身分はセール将軍が最も高い。軍神の誉れ高く、威信に関しても問題無い。これ以上の適任者は居ないだろう」 赤牡丹の質問に李信は答えた。 「いや、アンタがなれよ。二次元党リーダーだろ」 「俺はそんな器じゃないし政治なんてやる知能も無い。それに俺はそこまで名が通ってるわけじゃないし。大体俺はリーダーじゃないし二次元党なんて昔のポケガイの話を持ち出すな」 赤牡丹の反対に李信もまた反論した。 「そこまでこいつが言うならセールでいいんじゃねえの?あと、お茶もらえる?」 黒牡丹にお茶を催促しながら水素が適当そうに賛成する。 「んじゃ、俺もセールに一票」 「俺もセールに一票」 「俺は騎士道精神をきちんと持ってるなら誰でもいい。セール氏に一票」 星屑、小銭、氷河期が水素に続いた。 「馬鹿かお前ら、今は迫り来る連合軍に対抗する作戦を考えるのが先決だろ。直江だろうがセールだろうがそんなことはどうでもいいんだよ。直江、策を考えろ。お前のグリーンバレー国門戦やクワッタの戦いでの功績は知ってんだよ。その時みたいに何とかしてくれよ」 そう言ったのは紫牡丹である。彼にしてみれば自国の危機に対処するのが先決であり、彼らの国造りなどどうでもいいのだ。 「作戦?そんなもんは要らねえだろNZ2」 「何?」 赤牡丹が紫牡丹に言う。 「そうだ、策なんて必要ねえ。こんだけハイレベルな能力者が勢揃いしてるんだぜ?俺ら小隊・鷹と、セール組と直江一派の14人で35万の軍勢を全滅させる」 北条が腕を鳴らしながら自信満々に言い放つ。 「35万人に14人で殴り込むだと?にしても雑兵はいいとして、敵の能力者はお前らと同じ人数か、それより多いんだぞ?」 「この万華鏡写輪眼と輪廻眼、六道の力があれば敵の能力者など塵に等しい」 「………。」 北条の勝利を疑わないドヤ顔に紫牡丹は閉口した。 「その方が牡丹王国軍の無駄な犠牲を出さずに済むしな。総大将として命じる!この14人で敵連合軍を迎え討つ!紫牡丹ら牡丹王国の将兵はこの牡丹城を守備していろ。 我々エクスペンダブルズは仁王帝国軍に、鷹は幻影帝国軍に、直江一派はペルシャ帝国軍にそれぞれ当たることにする!」 「そこまで言うなら任せるけどね、この国の未来はアンタ方に託したよ(こいつエクスペンダブルズの意味分かってて使ってんのかな)」 セールの決定に紫牡丹も口を挟む気が起きなくなっており、了承した。 「待て、14人じゃねえ15人だ」 息を切らしながら部屋に駆け込んで来た1人の男がドアの淵にもたれかかる。 「誰だよこのイケメン。こんな奴知らねえぞ?」 マロンがその男に冷たい視線を浴びせる。 「俺は姫宮。俺の幻想殺し(イマジンブレイカー)が無ければ幻影帝国皇帝・ホッサムの幻影兵は攻略出来ない筈だ」 「メンツ的にこの人だけ場違い感半端ねえのは確かだがよぉ、この人が居なきゃ星屑達が撤退せざるを得なくなったホッサムを倒せねえぜ?」 氷河期のフォローもあり、姫宮は幻影帝国軍を担当する鷹に加わり参戦することになった。 連合軍は牡丹王国領へと侵攻すると、領内にある主な諸城をその圧倒的兵力により陥落させ、遂に牡丹城に迫った。 35万の雲霞の如き軍勢が牡丹城を蟻の這い出る隙間も無い程に厳重に包囲する。既に勝利した気で居るらしく、鬨の声を上げている部隊もある。 「アティーク様、各部隊包囲完了しました」 側近のHopeが陣幕を張り床几に腰を下ろしているアティークに報告する。 「牡丹王国ももう終わりだ。それにグリーン王国からの亡命者共も一網打尽にしてくれるわ。これでこの世界でこの俺に刃向かえる奴は居なくなる」 アティークは深妙な面持ちでそう呟いた。 牡丹城の南側 鷹+姫宮 「まずは俺が雑兵共を蹴散らしてきます。4人は少し待ってて下さい」 鷹のリーダーである北条がそう言うと、他の4人はそれぞれ頷いて待機することにした。 北条が10万の敵の前に出て1人突出して姿を晒す。 「出てきたぞ!…ってたった1人か!?他の将兵はどうした?」 「あれは、万華鏡写輪眼と輪廻眼!?ってことは…」 「奴があの北条か…!だが関係無い!向こうは1人だ!俺達大軍で揉み潰せばいい!」 幻影帝国の将兵達が北条の姿を見て口々に呟き、身構える。 「行くぞ羽虫共」 北条が幻影帝国の大軍に向かって突っ走っていく。 「うおおおおおおおおおお!!」 将兵達が雄叫びを上げて北条に向かっていく。そして… 凄まじい轟音を響かせながら、一度に数十人の雑兵が吹き飛ばされた。北条は体術と草薙剣を用いた剣術のみで次々と将兵達を葬っていく。四方八方から剣や槍が突き出されていくが、万華鏡写輪眼と輪廻写輪眼で敵の全ての動きを見切って回避しながら斬り捨てていく。 起爆札付きの短剣を投擲されたが、それを難無くキャッチして起爆札を引き剥がし、近くに居た兵の1人に素早く貼り付けて蹴りで吹き飛ばす。 「う、うわああああああ!」 起爆札が爆発し、周囲の兵も爆死する。 「喰らえ!」 兵の1人が風を纏った剣で何振りも斬りつけてくるが、北条は全て避けてその兵の首を掴んで締め上げる。 「お前も舞うか?」 そう北条が呟いた矢先、幻影帝国将軍のまさよんが何らかの能力を使って北条を元の位置に吹き飛ばした。 「舐めんな!」 まさよんの叫び。そして北条はその場で術の印を結ぶ。 「火遁・豪火滅却!」 北条の口から視界全てに広がる火炎が吐き出され、容赦無く幻影帝国の将兵達を焼き尽くした。 「これ以上はやらせないぞまだらァァァァァ!」 北条の火遁による火炎を潜り抜けて飛び出してくる者あり。かの者の名は… 「儂は幻影帝国の伊達藤次郎政宗!行くぞ!」 腰の鞘から刀を引き抜いた幻影帝国の独眼竜・伊達藤次郎政宗が北条に斬りかかる。 「須佐能乎!」 北条の須佐能乎の巨大な一振り「十拳剣」により、伊達藤次郎政宗は閉次元に飛ばし永久に封印された。 「天蓋新星!」 北条が術の印を結ぶと、幻影帝国軍を覆い尽くす程の巨大隕石が上空に現れ、幻影帝国軍目掛けて落下していく。 「嘘だろ…何だよこの隕石は…」 「はは…駄目だ勝てる気がしねえ…」 雑兵達は口々に言い合い、戦意を喪失して手に持った武器を落としていく。 「天蓋流星!」 北条の頭上に無数の隕石が現れ、それらが幻影帝国軍に降り注いでいく。 「ふはははははは散れい雑魚共!」 「北条めやりたい放題だな…!だがそうはさせないわよ!」 幻影帝国の女将軍・未来が飛び出して天蓋新星による隕石を拳で粉々に打ち砕いた。 「行くわよ北条!」 北条に向かって飛びしてくる未来だが、別の方向から飛んで来た一筋の巨大な雷撃を浴びてしまった。 「俺も居るぜ。国を滅ぼす力を持つというジン…その全身魔装の力を見せてやる」 雷撃を放ったのはジン「バアル」の全身魔装状態のマロンだった。 「んちゃー!」 未来の口から発射された「んちゃ砲」が北条とマロンを襲う。 「神羅天征!」 北条はそのんちゃ砲を強力な斥力により弾き飛ばす。 「雷光剣(バララークサイカ)」 マロンの剣から放たれる巨大な雷撃が数万の幻影帝国軍を一度に葬り、未来にもその雷撃が直撃した。 「こんなもの!」 未来は雷撃を振り払ったが、「天手力」により未来の付近に居た雑兵の死体と自らの位置を入れ替えた北条が現れた。 「灼遁・過蒸殺!」 火遁と風遁の性質変化を組み合わせた血継限界「灼遁」による火球が未来に直撃し、未来はミイラ化してしまった。 「マロンさん、奴等を間引くぞ。マロンさんの全身魔装による攻撃と俺の須佐能乎の攻撃で残り6万を一掃する。それに耐えた敵を俺達5人で叩く!」 北条の完成体須佐能乎が黒炎を纏わせたインドラの矢を上空に放つ。インドラの矢は無数に分かれて幻影帝国軍に降り注ぐ。 「分かった。行くぞ!」 マロンの持つ剣に雷光が宿り光り輝く。 「雷光滅剣(バララークインケラードサイカ)!」 剣先から放出された稲妻が大地を抉りながら幻影帝国軍を呑み込んでいく。 やがて稲妻と黒炎の矢による硝煙が消える。北条とマロンの視界に残っていたのは、10万人も居た幻影帝国軍の中でも僅か2人だった。 げるぶれも、紫陽花おppいも、シルバーも、幹部連中ですら2人の攻撃には耐えられず息絶えていた。 「残ったのはホッサムとその側近のまさよんか…」 北条は情報を得てホッサムとまさよんの容姿を知っていた。 「そのようだが、極大魔法を受けて生き残るとはどんな力の持ち主だ?」 「面倒だ。これでまずまさよんを仕留める!」 北条の須佐能乎は千鳥と全ての尾獣のチャクラを纏ってインドラの矢をまさよんに向けて放つ。 「あれが北条とやらの最強の術か?だが…」 何とまさよんは北条と同じ須佐能乎を呼び出し、全く同じ状態でインドラの矢を放った。二つのインドラの矢が宙でぶつかり大爆発を起こす。 「あいつ、俺と同じ術を…!」 「これが栞のテーマ(ダブルテーマ)だ。相手の能力をコピーして使うことが出来る!」 まさよんは手に持った本と栞を突き出すように見せながら北条に更なる攻撃を仕掛けようとするが… 「天照!」 まさよんが手に持った本と栞は全て黒炎により燃やされてしまった。 「くそッ!しまった!」 「火遁・豪炎螺旋丸!」 瞬身の術でまさよんの眼前に迫った北条が掌につくった螺旋丸に火遁・豪炎の術で火の性質変化を付加した螺旋丸をまさよんの腹に叩き込んだ。 「ぐわああああああああ!!」 まさよんの体は豪炎螺旋丸による火柱に呑み込まれていった。 「次はてめえの番だぜホッサム」 万華鏡写輪眼と輪廻写輪眼でホッサムを睨みつける。 「…此処まで我が配下を全員倒したのは褒めてやる。お前が忍術を操る北条か、噂には聞いている。グリーン王国残党の中でも相当の実力者だとな。だが俺の能力は幻影兵。俺にはあらゆる能力も技も通じない! 来い!幻影兵共!」 ホッサムが幻影兵数万人をその場に召喚する。無論、幻影兵はホッサムにしか視認出来ない。北条の視界には何も変化もなかった。 「まだらさん、此処は俺らが引き受ける。まだらさんはアティークを!」 北条の傍にマロンが現れ一歩に前に出ながら北条に促す。 「だが…」 「俺らも鷹のメンバーだ。俺らの力を信じてくれ。まだらさんはアティークを倒して全て終わりにしてくれ」 少し逡巡した北条だが、マロンに促され決心する。 「分かった。ホッサムは任せる。死ぬんじゃねえぞ」 「あのオルトロスを倒したまだらさんだからこそ、アティークを任せられる。頼んだ!」 「ああ!後でまた会おう!」 北条はマロンとの短いやりとりを終えると、瞬身の術でその場から姿を消した。 「というわけだ。お前の相手は俺らだぜ愛知関東侍」 「…幻影兵共、奴を皆殺しにしろ!」 幻影兵の大軍がマロンに斬りかかっていく。 「ついに辿り着いたぜ、アティーク!」 ホッサムを仲間達に任せてアティーク本陣へと突き進んだ北条。ホッサムの本陣とは数キロ離れた場所にあるアティークの本陣だが、忍である北条ならば短時間での移動は容易い。 「忍術使いの北条か。お前が此処に居るということは…役立たずの幻影帝国軍め、しくじったか。だがまあいい。お前らを皆殺しにした後に空白となった幻影帝国領を頂くとしよう」 アティークの瞳が紅蓮に染まり、その右手には炎の剣が顕現する。 「お前の領土拡大の夢が叶うことは無い。何故ならお前は此処で死ぬからだ」 右眼の瞳が万華鏡写輪眼に変わる。 「確かにお前は強い。我が配下でも随一の実力者であるオルトロスを倒したのだからな。だが俺はオルトロスと比較にならない強さだ。 自分が絶対の強者だと自惚れたその態度、あの世で閻魔にでも再教育してもらうがいい。この俺が手ずから地獄への案内を務めよう。それが強者に刃向かう愚者を導く、強者の義務だ。 来るがいい。完膚なきまでに叩き潰してやる」 アティークが炎の剣を中段で構える。 「お前の未来は、死だ」 北条がそう吐き捨てると、草薙剣を鞘から抜き放ち、雷遁のチャクラを流して千鳥刀とする。 「行くぞ!」 北条が千鳥刀でアティークに斬りかかり、アティークは炎の剣で千鳥刀を受け止める。 「水遁・漠水衝波!」 印を結ばずに鍔迫り合いの状態のまま、周囲を満々とした、さながら湖の様に水で満たす。 「こんな術でどうするつもりだ?」 「こうするんだよ!千鳥流し!」 全身に千鳥を流し、更に体から水溜まりへと千鳥を流すことで、電気の通りが良くなった状態で千鳥をアティークへと流し込む。 「ぐおっ!考えたな。だがこの程度では擦り傷にもならんぞ!」 全身から炎を放出してアティークは少し感電したのみで千鳥を消し払う。北条は後方へ跳んでアティークと距離を取る。 「お前と闘うのは初めてだが、直江さんやセールさんからお前の能力については聞いている。炎使いにはやはり水だ! 水遁・水龍弾の術!」 術の印を結ぶと、辺りの水溜まりから龍を象った水が湧き出てアティークへと襲い掛かる。 「効かねえな!」 アティークの掌から発せられる高温の炎で一気に蒸発させられる。 「水遁・水牙弾!」 アティークの周囲から螺旋状に渦巻き先が尖った水柱が4本ほど沸き起こり、アティークの脚や腹を貫く。 「なっ…!」 アティークの体から流れ出る血が水溜まりに堕ちて赤く染めていく。 「水遁・千食鮫!」 北条の前方に無数の鮫を象った形の水遁チャクラの塊が現れ、一斉にアティークに襲い掛かる。 「調子に乗るな!」 掌から放出された炎の波動で千色鮫を消し飛ばしてしまう。 「水遁・大鮫弾の術!」 北条の掌から巨大な鮫を象った水遁のチャクラ弾がアティークに向けて放たれる。 「この術はチャクラを喰らいながら更に巨大化して敵に襲い掛かる。チャクラはもちろん、お前の如何なる技をも喰らう!」 「ほざけ!」 アティークは掌から巨大な火球を射出して大鮫弾を吹き飛ばそうとするが、大鮫弾はその火球をも食らって更に巨大化した。 大鮫弾はアティークに喰らい付き、弾けたと同時に水爆発を発生させる。 「間髪入れずに行くぞ!雷遁・四柱縛り!」 大鮫弾が弾け飛んだ位置を取り囲む様に4本の柱が現れ、それぞれの柱から雷撃が中心に向けて放出される。 「雷遁・雷獣追牙!」 北条の右手から狼を象った雷遁チャクラが伸びて四柱の中心で弾けて感電する。 「やったか?」 「やってねえよ、雑魚が」 無傷のアティークが中心から飛び出し北条に炎の剣で斬りかかる。 「須佐能乎!」 紫色の鎧武者が北条を覆う様に出現し、アティークの斬撃から身を守る。 「…かてえな」 「天照!」 視界にアティークの姿をしっかりと捉えた北条の視点から発火する黒炎がアティークの体から発火する。 「対象を焼き尽くすまで消えない黒い炎だ。お前は終わりだ、アティーク」 須佐能乎の左手に千鳥と黒炎が纏われ、アティークに突き出される。 「建命雷神(タケミカヅチ)!」 須佐能乎の右手による一撃がアティークの体を突き飛ばす。 「クッソがっ!」 突き飛ばされ宙を舞いながら水面へと落下していくアティーク。その目に見えたのは紫色の弓矢を番えている北条の須佐能乎だった。 「!」 須佐能乎が間髪入れずにインドラの矢を2発、3発とアティークに向けて放ってくる。 「ふんっ!」 アティークは全身についた黒炎を自らの神の炎で振り払い、インドラの矢を前面に展開した炎の壁で防御する。 「尾獣共よ!俺に力を!」 全ての尾獣のチャクラを須佐能乎に注ぎ込んで更に強化する。須佐能乎の外殻を除いた中身が水色へと変色する。 「死ねぇ!」 尾獣のチャクラと雷遁チャクラを付加した水色のインドラの矢をアティークに向けて放つ。 「ぐぬぉおおおおおおおおおお!!」 アティークは神の炎による防壁を右手の一点に集中させてインドラの矢を受け止める。 炎の防壁とインドラの矢の激しい衝突が10秒ほど続いた後、インドラの矢はアティークにより掻き消される。 「俺のインドラの矢を…!」 「死ぬのはお前の方だ、北条!」 インドラの矢を防がれて茫然としている北条に向けてアティークの掌から炎の波動砲が発射される。その波動を、須佐能乎の大太刀が切り裂く。 「流石にこの状態だと北条を殺すのは難しいか。ならば神の力を解放し…」 「月牙天衝!」 アティークが神の力を解放しようとしたその時、三日月型の青い斬撃がアティークの真横から飛んで来て直撃した。 アティークは神の炎の鎧により無傷だが、予期していなかった事態に少し驚きを見せる。 「その技、来たか直江」 アティークが月牙天衝が飛んで来た方向を振り向くと、斬魄刀「斬月」を持った李信の姿があった。 「俺も居るぜ!騎士道精神に乗っ取りお前を倒す為にな!」 「氷河期まで…これで3対1か」 李信の後に続いてきた氷河期も到着し、3対1の様相を呈する。 「ククク…これで俺に楯突く厄介者を3人まとめて葬れるというものだ…!」 アティークの背後に火の神アフラ・マズダーが顕現する。 「卍解!」 アティークの神の力の解放を目にした李信もまた斬魄刀に霊圧を注ぎ込んで力を解放する。 「天鎖斬月」 黒い刀身を持つ漆黒の斬魄刀が現れる。 「今更卍解か。そんなものが何になる?」 アティークの炎の波動が李信に向けて一直線に伸びていく。李信は瞬歩でそれを回避し、宙に現れて天鎖斬月を振りかぶる。 「虚(ホロウ)化か」 アティークが目にした李信の顔には虚の仮面が被られていた。 「月牙天衝!!」 「冷撃砲!」 「八坂ノ勾玉!」 李信の天鎖斬月からは黒い斬撃が、氷河期の右手からは極太のレーザーが、北条の須佐能乎からは数珠状に連なった勾玉がそれぞれアティークに向かって飛ばされた。 「ゴミ共が」 アティークは自身を取り囲む炎の壁を四方八方に展開し、3人の攻撃から身を守る。 「炎遁・須佐能乎加具土命!」 北条の須佐能乎が放った黒炎を纏った無数のインドラの矢がアティークに降り注ぐ。アティークは炎の壁で再び身を守ろうとするが、炎の壁は無数の矢に突き破られてしまう。黒炎が炎の壁を燃やし尽くしたのだ。 「ぐおおおおおおおおおおお!」 無数のインドラの矢にアティークが貫かれていく。 「こいつが、原作で十刃(エスパーダ)だけに許された最強の虚閃(セロ)だ!」 「王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)!」 李信の掌から青い巨大な虚閃(セロ)が放出され、インドラの矢で貫かれたアティークに追い討ちをかける。 「おらあ!」 氷河期の剣から冷気を纏った斬撃が飛ばされ、アティークに直撃する。 「何故だ…何故貴様ら如きの攻撃がこの俺に通じるのだ…!」 アティークは3人の攻撃を炎で振り払い、瞬時に傷を治癒し再生を果たす。 「気付いたようだな。自分が弱体化していることに」 氷河期はアティークに自身が羽織っているマントをはためかせ見せつけた。 「それは…まさか…!」 「どうやらお前の弱点の情報(ダーテン)はマジらしいな。氷河期さんが羽織っているマントはサバの遺品だ。効果は覿面だったようだな」 「悪神の力を利用したか…!小癪な!」 李信の回答を聞いたアティークは氷河期をまず始末しようと念じて氷河期の全身から爆炎を発生させる。 「まず1人」 氷河期を始末出来たと思ったアティークの体内に冷気化した氷河期が入り込み、全身の血液や器官の全てを凍結させた。 「地爆天星!」 氷漬けにされたアティークを北条の術で周囲の地面や岩等を取り込んだ球体と共に押し固めて閉じ込める。 「裏破道 三の道 鉄風殺!」 李信の手から風の鬼道が飛ばされ、地爆天星ごとアティークを粉々に打ち砕く。 李信と氷河期が早くにアティークの本陣へと辿り着けたのには理由があった。無論水素、小銭、星屑が他のペルシャ帝国の能力者を引き受けてくれたからである。彼らは今、ペルシャ帝国の将らと交戦に及んでいた。 「俺はぷろふぃーる。ホモ以外には倒せな…ぐわぁ!」 ぷろふぃーるの体は水素の拳により粉々に砕け散った。 「俺れっきとしたノンケだが倒せたぞ?まあどうでもいいか。先を急ぐぜ」 アティークの本陣へと急ぐ水素に更なる敵が立ちはだかる。 「アティーク様の所へは行かせん」 立ちはだかるのは、ペルシャ帝国の軍服に身を包んだ中肉中背の男。アティークの側近であり、最も信頼されている重臣。 「俺の名はHope。アティーク様の側近であり、ペルシャ帝国でアティークに次ぐ力を持つ能力者だ。水素、アティーク様が直江と氷河期を倒すまでお前を絶対に行かせないのが俺の使命だ」 「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 Hopeから大量の黄色い気がオーラとなって溢れ出る。髪は逆立ち金髪に、瞳の色は澄んだ青に染まる。 「スーパーサイヤ人と化した俺の戦闘力は億、いや兆すらをも超える。孫悟◯の力しか持たないカタス程俺は生易しくないぞ!」 手刀に気を纏ったHopeが目にも止まらぬ光速とも言えるスピードで水素目掛けて突き攻撃を繰り出す。しかし水素はその動きを完璧に見切り、Hopeの手首を難無く掴んでしまう。 「連続普通のパンチ」 高速で繰り出す連続パンチでHopeの上半身に打撃痕や痣を作って吹っ飛ばす。 「ベジッ◯の力を持つこの俺の動きを完璧に見切った上にダメージを…貴様…!」 「俺は趣味でヒーローをやっている水素という者だ。お前こそ俺の拳を喰らってその程度のダメージしか受けないのか。いや、強いよお前は。多分俺が今まで闘った中で2番目くらいに」 水素はそのまま飛び出しHopeにパンチを見舞うが、Hopeは気でバリヤーを貼って水素の拳から身を守る…が、バリヤーは破壊されHopeの体は更に後ろへと吹っ飛んだ。 「マジ反復横飛び」 水素による超高速の反復横飛びがHopeを一瞬惑わせる。 「かーめーはーめー波ー!!」 両腕から放つかめはめ波を自身がぐるりと回って使用することで、高速移動を続ける水素に命中させようと図るが… 「連続普通のパンチ」 かめはめ波を全て回避して背後に回った水素からのラッシュが決まり、Hopeの肋骨の内の一本にヒビが入る。 「おのれぇ!」 マジ反復横飛びを再開した水素に、自身の持ち得る最速のスピードを解放して追い始める。 「死ねぇぇぇ!」 Hopeは高速移動しながら右手の掌から気功波を連続で放つが、それらも全て水素に当たることはなかった。 この二次元世界で軍神と名高い元ランドラ帝国の大将軍・セール。 この男が軍を率いて挙げた軍功、個人武勇による武功は数知れず。軍功や個人戦闘共に黒星は一つも無く、まさにこの世界における伝説の存在だった。セールが牡丹城に入ることで城内は沸き立ち、黒牡丹は涙を浮かべて彼を迎えた。 そんなセールの前に立ち塞がったのは仁王帝国皇帝・三代目仁王である。 「また会ったな、大将軍セール。会談時は退いたが今度はそうはいかない。お前を生かしておけば我ら仁王帝国の害になる。此処で消えてもらうぞ」 「新たな力を手にしたこの俺にもはや敵など居ない。押し通る!」 セールが三代目仁王の目の前にロケットブーストを用いて急接近する。 「!」 セールは右腕から何と、魔闘気を放ち、三代目仁王の動きを封じたのである。 「貴様、こんな技を使えたのか…!これは北斗神拳ではないか…!」 「しずくなのに鍛錬に付き合ってもらってな。それに正しくは北斗琉拳だ」 魔闘気を全力で放ち、三代目仁王を吹き飛ばしてしまう。 「俺には死者の数だけ命があると言った筈。お前は俺を殺し尽くすことは出来ない」 セールの北斗琉拳の奥義「暗琉天破」と「暗琉霏破」により一回死んだ三代目仁王だが、三代目仁王は死者の魂を贄として復活を遂げ、起き上がる。 「ああ、それでいい。お前にも俺を倒せない。俺はこうしてお前と闘い足止めをしているだけでいい。 アティークは、氷河期や北条に任せておけばいいからな」 セールが今度は北斗神拳の構えをとる。 「アティークは強い。この世界で奴に敵う者など1人居るか居ないかだ。北条や氷河期、ましてや直江如きでは犬死にするのが関の山だ。まだお前の方が可能性が無いこともないかもしれんぞ、セール。だがまあ…」 「お前はアティークの所には行けないんだがな!」 死者の魂を呼び出し全身に霊気を纏った三代目仁王による突き攻撃だが、セールは全身の硬度を10に変化させて防いだ。 「これは…」 「今から行うのは地獄の断頭台だ。喰らってもらうぞ!」 セールはダブルアーム・スープレックスで三代目仁王を捕らえ、その体勢のままジャイアントスイングを炸裂して三代目仁王の体を垂直にさせる。そのまま三代目仁王を上空に投げ飛ばしてしまう。 「受けてみろ、俺の奥義を…!」 セールはその場から跳躍、平衡感覚を失っている三代目仁王の首筋に自身の右脚を振り下ろす。 強烈なギロチンドロップを喰らった三代目仁王の首の骨は粉砕され、体は空中から一気に地面に叩きつけられた。 「これが地獄の断頭台だ。正直、月牙天衝やら螺旋丸よりずっと強力だと俺は思っている」 地に着地したセールのセリフに対する三代目仁王の返事はない。 横たわっている三代目仁王の身体中に死者の御霊が無数に集まり、それが土星を取り囲むように回転し巡っていく。 「やりたい放題やってくれるではないか。だが俺はこれでも皇帝だ」 死者の御霊に感化された三代目仁王の体が青黒く光り、三代目仁王は強く念じると、背後に奈良の大仏ほどはある巨大な千手観音像が地中から出現する。 「貴様に全ての死を与えてやる」 千手観音像の目が黄金色に光り輝くと、セールはいつの間にか現れた木製の十字架に張り付けにされていた。手首と足首に激痛が走り、首を捻って見渡すと釘が打ち付けられていた。 「こんなもの!フンッ!」 セールが全身から魔闘気を発して十字架を破壊しようとするが、ビクともしない。 「お前の攻撃力や能力、防御力を完全に無視し、死者の死因となった現象を発現して攻撃する。それがこの力だ。激痛に喘ぎ苦しめ!」 息が、出来ない。セールは呼吸困難になりながら自身の体を支えるのが精一杯だった。 「この世界をお前らの私物にしようってほざくなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!」 幻影兵の大群に1人突っ込んでいく姫宮。その右手で触れた幻影兵達を消滅させながらホッサム目指して突き進む。 「あの力は…幻想殺し(イマジンブレイカー)か!さっさと奴を始末しろ!」 四方八方から容赦無く繰り出される剣や槍に体のあちこちを斬り付けられ、突き刺され、ついに左腕と右眼を失ってしまう。 「俺は、お前らみたいな自分さえ良ければどうでもいい、みんなを不幸にするような奴らが死んでも許せねえええええ!」 執念の突撃…そしてついに姫宮はホッサムへと辿り着く。 「馬鹿な…!俺の幻影兵達の大群を1人で…!」 「歯ァ食い縛れ幻影代表!俺の最弱はちょっとばかし響くぞ!」 ホッサムを守る最後の幻影兵を消滅させた姫宮の拳がホッサムの左ク・「魏イ蠅弔韻襦・br> 「ぐああああああ!」 「特攻・ヴァルカンショック・リトルボーイ!」 炎を纏った赤牡丹の体当たりが吹っ飛んだホッサムに炸裂し、ホッサムは右へと吹っ飛ばされる。 「トドメだ!」 マロンの金属器たる炎を纏った剣が振り下ろされ、ホッサムの首は胴から切り離された。 「幻影代表ホッサムを討ち取ったぞ!」 マロンがホッサムの首を剣に突き刺して高らかに叫んだ。 「やった…。だが俺は此処までみたいだ…」 既に幻影兵により致命傷を負っていた姫宮はその場で倒れ、息絶えた。Wあの持つ元気の塊や回復の薬も効果は無かった。 「俺の相手はお前か…」 「我が魂に応えよ!グロリアスドラゴン!」 小銭は庭師と対峙していた。庭師はグロリアスドラゴンを召喚し小銭に攻撃を仕掛ける。 「クラスカード セイバー!」 小銭はセイバーのクラスカードを発動してアーサー王の姿になる。 「グロリアスドラゴン!奴を魂の炎で浄化しろ!」 グロリアスドラゴンの口から小銭に向けて紫炎が放射される。 「エクス…カリバァァァァァァァァ!!」 小銭の宝具による巨大な光の斬撃がグロリアスドラゴンを真っ二つに斬り裂き、庭師をも呑み込んだ。 「俺はさっさとこんな闘い終わらせて十字たんに似た女の子を探してナンパしていちゃいちゃするんだ。てめえらに遣う時間なんてねえんだよ」 小銭は迫り来る雑兵達を斬り倒しながら前へ前へと突き進む。 「うわ出たよ!彼女にDVされる顎だ!」 星屑が対峙したのはペルシャ帝国の将・平行四辺形だった。 「お前は直江の仲間の星屑とかって奴か。今の顎呼ばわりで俺はキレた。死をもって償ってもらう!」 平行四辺形の体が巨大化し、最強さんの姿になる。 「死ねえ星屑ゥゥゥ!」 星屑は背中に生えた翼による高速飛行で平行四辺形のパンチを右に回避する。 「キラークイーンとストレイキャットによる爆裂空気弾を喰らえ!」 星屑はストレイキャットの口から発射される空気弾をキラークイーンの能力で爆弾化させて平行四辺形に向けて飛ばす。 「なんだ?何も見えないぞ?」 平行四辺形が闇雲に振るった拳で空気弾に触れた瞬間、空気弾は爆発、平行四辺形の体はこっぱ微塵に爆散した。 「やれやれだぜ」 星屑は曲がっていた帽子を唾を持って直し、平行四辺形が居た場所に向かって捨て台詞を吐いた。 場面は再びアティークvs北条、李信、氷河期へと戻る。 裏破道三の道 鐡風殺を受けたアティークだが無傷で地爆天星から脱出し地に舞い降りた。 「全然答えんなあ!」 アティークの全身から数万℃の火炎が噴き出し、全方位を火の海に変え、水を蒸発させながら3人に迫る。 「縛道の八十一 断空」 李信は前方に透明な障壁を展開して火炎を防ごうとするが、アティークの神の炎の前に破壊されてしまう。 「ならば!」 「夢想家」の能力を発動させ、大量の水を地中から津波の如く湧き出させて火炎を消滅させる。 「助かったぞ直江さん」 全方位の火炎を消滅させたことにより、北条と氷河期も免れる。 「宇宙空間に呑まれて消えろ、アティーク」 李信の想像により現実に創り出された宇宙空間にアティークは呑み込まれていく。 「これは宇宙…?クソ、息が出来ねえ!」 アティークは神の炎で宇宙空間を消し飛ばそうと図るが、宇宙空間では炎すら発することは出来ない。 「尾獣玉螺旋手裏剣!」 北条が九尾を呼び出し、求道玉を核に形成した螺旋手裏剣を九尾の腕から投げつける。 「極寒の地獄を味わわせてやる…!」 氷河期は冷気を身動きの取れないアティークの周囲に創り出し、絶対零度の冷気を操りアティークを包み込んだ。そこへ更に北条の尾獣玉螺旋手裏剣がアティークに直撃、アティークの体は爆砕した。 「アフラ・マズラーよ、我に加護を!我にその力の全てを!」 爆砕し微塵になったアティークだが、微塵になった体が集まり固まって再生を果たすと同時にアフラ・マズラーそのものに限りなく近い容姿となり、太陽の中心の倍以上の温度の炎と熱気を放ち、宇宙空間をも焼き尽くしてしまった。 「何だそれは…」 3人の中で唯一過去にアティークとの戦闘経験がある李信が変わり果てたアティークの姿を見て声を震わせる。 「俺が会談での闘いから何もしていないとでも?俺はアフラ・マズラーとの同調を深め、更なる力を手に入れたのだ!アフラ・マズラーは信心深い俺に全ての力を与えて下さった! さあ、始めるぞ!貴様らの火炙りの刑を!神の炎で焼き尽くしてくれる!」 「アフラ・マズラーよ!光の世界に我らを導き給え!」 アティークの力により異次元への空間が現れ広がり、李信、北条、氷河期も強制的に引きずり込まれる。そこは李信が以前に見た光に満ちた世界だった。 「神は俺を信じ、全てを授けて下さった!俺はその神の思いに応えんが為、この世界をゾロアスター教で塗り尽くし、信仰による平和をもたらし支配する! 人は脆い。脆い上に度し難い。この世の全ての悲しみや憎しみ、争いを無くす為に神による世界を築く!それを邪魔する貴様ら神の敵!アフラ・マズラーは貴様らにお怒りだ!恐れ多くも神に楯突く貴様らを俺は消さねばならない!」 「それでも俺達はアティーク、貴様を倒す!信仰の自由と、誰もが自分の夢に向かって生きる明日の為に!神などという不確かなシンボルに縛られない世界の為に!」 アティークの決意に自らの思いをぶつけたのは氷河期だった。 「俺は本気で貴様を止める!道を誤った俺を正しい道に戻してくれた仲間の為にも!」 「ユニコーン!」 氷河期は冷気を纏いサバの遺品のマントを纏う純白の翼を持つ天馬の姿へと変身する。 「俺も本気で行くぞ」 北条は全ての尾獣の力はもちろん、六道仙人、そして万華鏡写輪眼と輪廻写輪眼の力を解放する。 「アティーク、俺とお前の因縁も決着の時だ。最後に立っているのはこの俺だ!」 眼帯を外し、全ての霊圧を解放する。 「貴様ら3人が本気になったところで神を宿す俺を殺せはしない!よくその眼に焼き付けておけ、この光に満ちた世界を!貴様らがこの世で拝む最後の景色だ!」 アティークの掌から三体の龍を象った炎が出現し、それぞれ3人に食らいつかんと向かってくる。 「餓鬼道 封術吸引」 輪廻眼による能力の一つ、餓鬼道による忍術吸収で神の炎をも北条は吸収する。氷河期は自らの体を気体化させて防ぐ。 「フンッ…!」 李信は聖文字(シュリフト)Bの力を発動、「身代わりの盾(フロイントシルト)」をその左手に持ち、盾の能力により自らが受けた神の炎の龍による火傷などの全てのダメージをアティークへと転移させた。 「これは…!」 李信の火傷や体の欠損などが移されたアティークは少し驚いた様子を見せるも再生を果たす。 「これは身代わりの盾(フロイントシルト)という。俺が受けたダメージを、俺にダメージを与えた者に移す能力だ。それこそがザ・バランスの力」 「それに見たところ、お前の再生スピードは以前よりも遅くなっている。神の力を全て引き出しても北条に吸収されるくらいのな。それに攻撃や防御以外の技や能力も使える。やはりサバのマントが効いているようだ」 李信に図星を突かれたアティークは少し焦りを表情に出す。 「ならばそのマントをつけている氷河期から始末するまで!」 アティークが炎の剣を持って空間転移による瞬間移動で氷河期に接近し振り上げる。 「デッドオブエイジス」 天馬の姿の氷河期のツノから冷気が発せられ、その冷気がアティークを包み込み、全身を瞬間凍結させる。が、アティークは神の炎で瞬時に氷を溶かして炎の剣で氷河期の体を両断する。 「まず1人」 アティークがそう呟いたが、彼は自らの体に違和感を感じた。 「俺の体の、炎の温度が…」 太陽の中心の数倍の温度の炎の筈が、その数分の一にまで温度が下がっていることに気づく。 「気づいたか?お前は消えることのない冷気に覆われ続けて体温や炎の温度を下げられ続けやがて全身が凍りつき死に至る。細胞や神経をも凍らせる」 体を両断された筈の氷河期が「アイスエイジ」の力により再生復活を果たし、空を飛びながらアティークに奥義の説明を聞かせる。 「貴様…再生といい、こんな能力を持っているなど聞いていないぞ!」 「アイスエイジについてはお前が情弱だからだ」 「貴様…!神の炎をも…!」 更に、氷河期を見上げて睨みつけるアティークの背後から黒炎と風遁・超大玉螺旋手裏剣と融合したインドラの矢から飛んできてアティークの背中から胸を貫く。黒炎が体に発火し、更に螺旋手裏剣が直撃し、ナノサイズの風の刃がアティークの全身を細胞ごと斬り刻んでいく。 「ぐおおおおおおおおおおお!!」 「灼遁・光輪疾風漆黒矢零式」 術を放ったのは無論、北条である。須佐能乎と六道仙人の力を融合させた強力な術である。 (今が好機か…!) 螺旋手裏剣の直撃により膨張した螺旋丸の中で風の刃に斬り刻まれ身動きが取れないアティークを見た李信が人差し指をアティークに向けて霊力を籠める。 「千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手 光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな我が指を見よ 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ 破道の九十一 千手皎天汰炮!」 長い詠唱の後、李信の背後から長細めの三角形の桃色の光の矢が無数に標的に降り注ぎ、アティークに着弾、光の矢は弾けて膨張し、アティークを呑み込む。 「やったか…?」 氷河期がそう呟くが、螺旋手裏剣も黒炎も鬼道も神の炎により消し飛ばされ、アティークは再生してしまう。 「どうした?万策尽きたか?」 一度全身を斬り刻まされて爆砕した為に冷気による永続効果も消えてしまっていた。 「どちらにせよ貴様らには死んでもらう。まずは氷河期からだ!」 アティークは前方に右手を翳して巨大な炎の矢を創り出し、それを空中の氷河期に向けて射出する。 「究極魔法・コキュートス!」 膨大な冷気を押しかためて集中させ、それを放つ氷河期の最大級の奥義。そのコキュートスと炎の矢がぶつかり合うが、コキュートスは数秒で突き破られ、氷河期は炎の矢を被弾してしまう。 大規模な爆炎が巻き起こり、拡散して北条や李信をも巻き込む。 「神羅天征!」 北条は斥力を展開させて炎を弾き飛ばす。 「全宇宙をも焼き尽くす威力の炎だ!消し飛べ氷河期ィィィ!!」 しかし氷河期は燃え盛る炎の中で冷気化し、炎を蒸発させて凌いだ。そして瞬時に実体化する。 「しぶとい!ならばアフタ…」 アティークが太陽を出現させようとした時である。跳躍した北条が九尾を纏って術を放つ。 「尾獣惑星螺旋手裏剣!」 複数の尾獣玉が周囲を廻る巨大な螺旋手裏剣を九尾の口から飛ばす。 「効かん!」 アティークの掌から放たれた巨大な火球に焼き尽くされ、更に北条に被弾させる。 「北条は始末した。順番が変わったが今度こそ氷河期、貴様を抹殺する!」 アティークによる太陽の中心の数倍の温度の火炎放射が掌から放出される。 「俺はみんなを守る!世界を守る!神という愚かな概念による支配から全てを守る! これは今まで封印していた俺の最大奥義!」 氷河期の体から冷気が固まった濃い青色のオーラが発せられ、背後には甲冑に身を包んだ騎士の像が浮かび上がる。 「万物死する氷の世界(デッドオブエイジス)」 神の炎すら瞬時に気化させ、アティークを冷気が包み込むと、異空間へのゲートが開いてアティークのみをゲートの向こう側へと吸い込んでしまった。そしてゲートは閉ざされて消滅する。 「この技は対象をマイナス無量大数度の極寒の異次元世界へ幽閉する俺の最強奥義。初めて使ったが通用したようだな」 氷河期は天馬から元の人間体へと戻る。 「氷河期さん、後ろだ!」 「騎士ならば油断は禁物と教えられなかったか?」 「!」 李信の叫びも遅く、極寒の異次元世界へと幽閉された筈のアティークが氷河期の背後に現れ、炎の剣を振り払う。 氷河期の体は腰から両断され、更にアティークの掌から放出された炎により全身を消し飛ばされた。 「神の力を得た俺は空間転移など造作もないことだ。確かに最強クラスの奥義だったがこの俺には通用しなかったな」 アティークは李信の方へと体を向ける。 「残るは貴様1人だ直江。この因縁にケリをつけてやる」 「上等だ。ぐり~んの仇、討たせてもらうぞ。そして忌まわしきゾロアスター教をこの世界から抹消し、貴様の生きた証すら抹消し貴様の全てを否定してやる!」 「黒めよ 一文字」 李信の斬魄刀が身長大の大きな筆の形状へと変化する。 一文字の筆の部分が刃へと変化する。 「面白い形の斬魄刀だな。だがそんなもので何ができる!?」 アティークによる炎の波動が一直線に伸びてくるが、李信はそれ瞬歩で回避しアティークの頭上に現れる。 「そこか!」 火炎放射を放つも、またもや李信は瞬歩で回避する。そしてアティークの目の前に現れた李信がアティークを一文字で斬りつける。 「フッ…どうした直江。効いていないぞ?」 アティークに外傷は全く無く、左半身に黒い墨が付着しただけだった。 「何処も斬れていないではないか!最後に残ったお前が使う奥の手がこれとは…実に滑稽だな!フハハハハハハ!」 全身を墨まみれにされただけのアティークだが、神の炎の力が弱まったことに気付く。全身から発せられる炎の量も温度も半減しているのだ。 「斬ったぞ?お前の名をな」 「!」 「これからお前の名はアティークではなく、アティだ」 「何を言って…」 李信の言葉の意味は、今のアティーク…いや、アティはすぐに気づいた。名を半分にされ、力を半減させられたのだ。 「これは対象自体ではなく、対象の名を斬り、奪う斬魄刀だ。さてアティよ、もう半分の名も奪ってやろう」 「小癪な!」 アティは太陽を創り出して李信にぶつけようとするが、李信はその前に背後に瞬歩し、アティの右半身をも墨で塗りつぶした。 「アティ…いや、名を失った名も無き哀れな男よ。この俺が手ずから貴様に名を与えてやろう」 「真打 しら筆一文字」 李信は斬魄刀で名を失ったアティークだった男の体に白い墨で新たな名を刻む。「黒蟻」と。 「かつてアティークだった男よ。お前の新たな名は黒蟻だ。文字通り蟻の如く踏み潰されるだけの存在となった哀れな貴様にせめてすぐに死を与えてやろう」 「破道の九十 黒棺」 重力の奔流である黒い直方体が黒蟻を取り囲み、斬り刻んでしまった。 「終わった…終わったぞ…!ぐり~ん、見てるか?お前の仇を漸く…!」 「太陽(アフタブ)」 (!?) 黒棺に斬り刻まれて死んだ筈の黒蟻…もといアティークが現れ、李信を瞬時に創造した太陽の中心に閉じ込めてしまった。 「一度死んだならば、俺はアティークとして復活する。黒蟻は死んで無になるのだからな。直江、お前も所詮は神に有さない能力者だ。俺に勝てはしないのだ」 力の何%かを取り戻したアティークが復活した。故に李信の夢想家や万物貫通等の特殊能力は無効化又は弱体化され、李信はなす術も無く太陽(アフタブ)に封じられてしまったのだ。(因みに全知全能による未来改変は弱まったとは言えアティークの力で使用不可だった) 「これで世界は俺の物だ!ゾロアスター教に染められた世界を…!」 「加具土命の剣!」 巨大な黒炎の剣が背後からアティークを両断した。再生したアティークが振り返ると、黒炎の剣を持った完成体須佐能乎を纏った北条の姿があった。 「貴様、さっき火球で抹殺した筈だぞ!」 「イザナギ。術者に不利な現実を夢に書き替える、己自身にかける究極幻術だ」 北条は右腕に巻きつけられている包帯を取り払い、無数の写輪眼が埋め込まれている右腕を見せつけた。しかし開いている写輪眼は残り僅か二つだった。 「しつこい奴だ。だが何度でも殺してやる!」 アティークは炎の剣を振り下ろして光の地面を両断し、裂け目を広げて北条に攻撃を行う。 「千鳥流し!」 北条の須佐能乎の雷を纏った巨大の左手が地面に叩きつけられ、そこから放電しアティークの斬撃と相殺される。 「随分弱くなったみてえだな!」 北条は完成体須佐能乎の左手に千鳥を纏いながらアティークへと突っ込む。 「貴様如きを始末するならこれくらいで十分だ!」 アティークは炎の剣で完成体須佐能乎の千鳥を受け止める。 何とアティークの炎の剣が押し負けて北条の須佐能乎の千鳥によって胸に穴が開けられて吹っ飛ばされてしまう。地に横たわり、無様に這い蹲る。 「ぐはっ!…何故だ…!」 神の力を最大限引き出しているにも関わらず、忍の攻撃如きに押し負けるなど、本来はありえない筈だ。そうアティークは信じていた。 「よく見ろよ」 北条は半身を捻るようにして背中を見せつける。アティークのぼやけた視界に映ったのは、氷河期が装着していたサバのマントだった。 「サバのマントによって氷河期さんのデッドオブエイジス、直江さんのしら筆一文字の効果が残り、相乗効果でお前を著しく弱体化させたのさ。 お前、もう魔力も底を尽きそうだな」 「この俺が…死神や忍如きに!この神の代行者たる俺が!貴様ら下等な能力者如きに負ける筈など無い!ありえん!ありえん!ありえんぞ! 許さん!よくもこの俺の誇りを踏み躙ったな!神も貴様らにお怒りだ! 神を怒らせた罪は重い!この罪は命をもって贖ってもらう! はああああああああああああああああ!!」 残る魔力の全てを引き出し、自身に纏い炎の剣を太陽と同等の温度にまで引き上げ、鍔から不死鳥の翼が生えた形状の完成体とする。 「まだら。聴こえるかまだら!」 北条の中の精神世界で、北条を古き名で呼ぶ野太い声が聞こえる。 「九尾…いや、九喇嘛か」 北条は精神世界で声の主である九尾の狐の尾獣・九喇嘛と久しぶりに対面する。 「久しぶりだなまだら。だがゆっくり話している暇はない。奴はもてる力の全てをあの炎の剣に注ぎ込んだ。お前をあの剣のもとに斬るつもりだ。奴から尋常ならぬ殺意を感じるぞ」 「…九喇嘛。俺に力を貸してくれ。倒れていった仲間の為に、世界の為に、俺は奴を必ず倒さなきゃならねえ」 九喇嘛の顔を見上げながら真剣な眼差しを向ける。その思いは相棒である九喇嘛にも伝わっていた。 「分かっている。お前に、今残っているワシのチャクラを全て注ぎ込んでおいた。ワシは程なくして暫くの眠りにつく。まだら、必ず勝て。世界を狂信者の手から守れるのはお前しか居ない。 じゃあな、まだら」 「…九喇嘛」 九喇嘛の言葉を聴いた北条はその場から去ろうと背中を向けるが、半身を捻って顔を向けると、右手に拳をつくって突き出した。 「ふっ」 口元を歪め笑みを浮かべた九喇嘛は北条の拳に自身の拳を突き出して合わせた。 北条は、元の世界に意識が戻った。 持てる力を炎の剣に注ぎ込んだアティークが、剣から爆炎を放ちながら北条の方へと跳んで向かってくる。 「行くぜ」 北条は右手に九喇嘛のチャクラを注ぎ込んだ螺旋丸を形成する。その際に螺旋丸の上に多くの手が現れ、螺旋丸の威力を上げてくれたかのように北条には見えた。 氷河期、李信、Wあ、赤牡丹、マロン、紫牡丹、黒牡丹、水素、星屑、小銭、セール、しずくなの、筋肉即売会、くれない、まさっち、ぐり~ん、リキッド。彼らの手と強い思いが螺旋丸を形成した。 (みんな、俺に力を貸してくれている!俺には九喇嘛やみんながついている!) 螺旋丸を右手にアティーク目掛けて跳び、突き進んで行く。 「アティークゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」 「北条ォォォォォォォォォォォォォ!!!」 互いが互いの名を叫ぶ。アティークの炎の剣と北条の螺旋丸が激突した。 やがて両者の力は光の球体の様に膨張し、弾け飛んだ。 アティークが創り出した光の世界は、終焉を迎えた。 元の世界に戻り、力尽きた北条はその場で倒れた。サバのマントも先程のアティークの一撃で消失していた。遠くからはペルシャ帝国軍の将兵がまだ戦闘しているのか、喚声が耳に入ってくる。 「はぁ…はぁ…はぁ…」 立っていたのはアティークだった。彼は炎の剣の鋒を北条に向ける。 「今、マントが無くなったことで俺は完全に力を取り戻した。残念だったな北条。これでお前は終わりだ。仲間達のところへ送ってやる」 神の力を完全に取り戻したアティークの炎の剣が眼下の北条に向かって振り下ろされる。北条が残り二つしかない内の一つイザナギを起動しようとした時… 突如現れた黄色い影がアティークを吹っ飛した。 「何者だ…!」 尻餅をつきながら見上げた視界に入ったその男は… 「趣味でヒーローをやっている者だ」 黄色のヒーロースーツ、白いマント、赤い手袋…この世界において最強の男が今、アティークの前に姿を現した。 「水素、貴様が此処に来たということは…」 「ああ~、Hopeとかいったっけ?お前の側近。さっきぶち殺しといたぜ」 水素は兆を超える戦闘力を持つスーパーサイヤ人・Hopeとの闘いで彼を倒してきていた。 「貴様さえ…貴様さえ消せばこの世界ではでもはや俺に刃向える者など存在しない!貴様を抹殺し、この世界を我が手に!」 神の力を完全解放したアティークが炎の波動を掌から水素に放つ。 「マジ反復横跳び」 超高速の反復横跳びで炎の波動を軽々と回避してしまう。 「ちょこまかと…燃え尽きろ!」 あまりの速さに水素が無数の残像を残しながら反復横跳びを続けているところをアティークは火炎放射を全方位に放ちながら残像を消していく。 「本体が居ない!?」 「連続普通のパンチ」 頭上から高速の連続ラッシュを右手から繰り出す。アティークは無数の肉片に変えられ、血飛沫が舞う。 「貴様ァ!」 再生したアティークは全身から炎の波動を放つも、水素には全く効いていない。 【♪イメージBGM♪】THE HERO!! ~怒れる拳に火をつけろ~ (アニメ「ワンパンマン」より) 水素は拳をアティークの顔面に叩き込んでアティークの顔面を飛散させる。更に拳を腹に叩き込んで吹き飛ばす。 「グヌゥ…神の光の世界にて始末してやる!」 再生し力を取り戻したアティークにより異次元の光の世界が再び創造され、水素を引きずりこむ。 「この世界ならば本気で貴様を殺すことが出来る!太陽(アフタブ)!」 即時創造された太陽の中心に水素を閉じ込め、更にその太陽の周りに惑星の様に太陽を5つ創り出して押し固める。 「仕上げだァ!」 アティークは太陽に魔力を注ぎ込んでその温度を100倍以上に引き上げる。 「フハハハハハハハハ!干からびて死ねえ水素ォ!」 灼熱の魔力により太陽が真紅に輝き更に膨張していく。しかし6つの太陽はその時瞬時に粉々に砕け散る。 中からは服が少しだけ燃えて全く無傷の水素が現れたのである。 「まだだ!」 間欠泉の様に、天まで届く火柱を無数に湧き出させて水素を捕えんとするが、水素は火柱に呑み込まれても無傷のままアティークへと高速で突き進む。 「目障りなんだよ!」 向かってきた水素に炎の剣を振り下ろすが、水素はそれを左手で受け止めて右手でパンチを繰り出す。 飛散したアティークの全身は即時集まり再生される。 「全宇宙どころか次元すら焼き尽くす威力を範囲を限定し押し固めた!これで少しは応えろ!」 掌から巨大な炎の矢を形成し水素に向けて射出する。炎の矢は水素に直撃し爆炎が巻き起こり巨大な火柱を発生させる。 「燃え尽きろォ!」 アティークの思惑とは裏腹に火柱の中から無傷の水素が飛び出してくる。 「マジ頭突き」 頭から超高速でアティークの腹に突っ込み大穴を開ける。 「グハッ!」 「連続普通のパンチ」 アティークの体から頭を引き抜いた水素は即座に両手から連続普通のパンチを繰り出し、アティークを無数の肉片に変える。 「体内から焼き尽くしてやる!」 即時再生したアティークが念じたことにより、水素の体内から沸き起こる、太陽の中心の100倍以上の温度の灼熱の爆炎が水素の体内外を全て覆い尽くし拡散する。 「こんなもんかよ」 無数の水素は拳の一振りで爆炎を振り払い逆立ちからの回し蹴りをアティークの右ク・「縫・蝓璽鵐劵奪箸気擦襦・br> アティークは回し蹴りの衝撃で頭部を失い更に水素に股を蹴り上げられ宙へと飛ばされる。 【♪イメージBGM♪】Theme of ONE PUNCH MAN~正義執行~ (アニメ「ワンパンマン」より) 「どうやら貴様には俺の究極奥義を使わねば倒せないらしいなァ!」 アティークは空中で炎の剣に巨大な不死鳥を纏わせて魔力を注ぎ込む。 「この技は宇宙空間どころか遥か高次元にまで干渉し斬り裂き焼き尽くす!披露するのは水素、貴様が初めてだ! 光栄に思うがいい!そしてしっかり目に焼き付けろ!これが貴様がこの世で目にする最後の技だ!」 不死鳥を象る炎を纏った炎の剣をアティークは思い切り天に振り上げる。 「本気の本気ってやつか。ならば俺も本気で行くぜ。 必殺マジシリーズ…」 水素が右手で拳を作りながら肘を引いて力を溜める。 「アーテシュ・シャムシール!!」 アティークが天高く伸ばしたその炎の剣を水素に向かって振り下ろす。 「マ ジ 殴 り」 力を溜め、右手でつくった拳を振り下ろされた炎の剣にぶつける。 水素のマジ殴りは炎の剣をク_砲Ⅹ辰掘△修陵焦箸・▲謄・璽・膨招發垢襦・br> 「馬鹿なァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」 マジ殴りの余波はアティークの体を無数の肉片と血飛沫に変え、見るに堪えないグロテスクな物体と液体が宙に舞う。しかしその肉片や血飛沫が一箇所に集まり、アティークはまたもや再生を果たしてしまう。 「まだだ!俺は何度でも再生するのだ!水素、貴様を必ず…!」 言いかけたところで、アティークの胸の中心から鋭利な形をした赤い光が飛び出し貫いた。 【♪イメージBGM♪】Cometh The Hour (「劇場版 BLEACH 地獄篇」より) 「何だ…これは…!」 赤い光は次々と形成され、最初に発生した光の上下左右に沸き起こり諸所を貫く。 「ようやく発動したようだな」 水素の更に後ろから聴こえる男の声。それは先程自らの技で閉じ込めた筈だった李信だった。李信はゆっくりと歩き水素の隣で立ち止まる。 「直江、無事だったか」 「俺だけじゃない、氷河期さんも居るぞ」 アティークの技を喰らい冷気化していた氷河期だったが、あまりの高温の為に中々人間体に戻れずに難儀していたが、今さっき漸く実体化し李信と共に姿を現した。 「弱体化していた状態の技だったからまだ良かった…どうやら俺も命は繋いだぜ」 氷河期は涼しい顔で応えた。 「直江…貴様…!」 アティークは赤い光を体から引き抜こうと腕に力を込めるもびくともしない。 「それは俺の鬼道だ。九十六京火架封滅という」 「こんなもの…いつ!」 アティークはこんな鬼道を李信から喰らった憶えなど無かった。 「さっき別の鬼道に乗せて貴様に撃ち込んだ。水素のマジ殴りで貴様が追い詰められたことを引き金に、漸く今発動した」 「別の鬼道だと?まさか!」 アティークはハッと思い出した。先程李信から受けた鬼道「破道の九十一 千手皎天汰炮」である。 「思い出したようだな。そう、あの鬼道に乗せて撃ち込んだ。それは封印だ」 「封印…だと…?」 アティークは表情に怒りと困惑を滲ませながら封印という言葉の意味を李信に確かめる。 「お前は無限の再生能力を持ち、強大な力を有する神の代行者だ。故に過去2回の戦闘からお前を殺すことは不可能と判断した。殺せないのであれば封印するしか手段は無い。この鬼道は封印用に開発された特殊な鬼道だ」 「そうか…それは残念だったな。見ろ!俺はまさに今更なる進化を遂げようとしている!」 アティークを覆っていたアフラ・マズダーによる神の炎が消えつつあった。いや、不可視化だろうか。 「お前の言う通り俺は神の、アフラ・マズダーの力を宿す能力者だ。この程度の鬼道でこの俺を封じることなど…出来るものか!!」 アティークがそう叫んだ瞬間、アティークの体を更に無数の鬼道の光が貫いた。更に神の炎の衣どころか、魔力すら消失していき、自身の背後に居たアフラ・マズダーすら消え去った。 「何だこれは……俺が手にした力が……消えていく……!!」 アティークは元の人間体に戻り、光の世界も消え去ってしまった。表情には絶望の二文字が浮かび上がっているかのようだった。 「それがアフラ・マズダーの意志だ。 アフラ・マズダーはお前を主とは認めないと言っているんだよ」 「馬鹿な…!そんな訳があるか……!そんな訳が……そんな筈があるかァァァ!!」 激昂するアティークを貫いている無数の鬼道の光が更に伸び、鍔のような部分が形成されて剣の様な形に変化した。 「直江山城守!俺はお前を蔑如する!お前程の力がありながら何故動かない!何故支配する側に立とうとしない!」 「何故…か。俺は生前現実世界で被支配層として惨めに苦汁を舐めさせられたからな。その痛みを知っている。同じ痛みを庶民に強いるなど思いも寄らぬことだ。 お前は宗教と力をもって世界と民を支配し平和をもたらそうとしたんだろうが、そんな平和は誰も望んでいない。 民は自由に自らの意志を示し、自らの考えを論じ、自らの力で人生を歩んでいきたいと願っている。宗教などという人の心を縛り踏み躙る紛い物がもたらすものはただの平和だ。 人々はただの平和などでは満足しない。出来るだけ幸福に、且つ平和な治政を行うことこそ上に立つ者の務めだ。お前は使命を吐き違えたのだ」 李信はアティークにそう諭すように語った。 「それは現実世界で落ちこぼれた敗者の理論だ!勝者とは常に世界がどういうものかではなく、どうあるべきかについて語らなければならない!!俺は…!!!」 アティークは叫びかけたで、鬼道の光により形成された封印架に閉じ込められた。 「…終わった」 封印架を見た李信がそう呟く。 「長かったな、此処まで」 アティークの政策に不満を抱いてペルシャ帝国領を脱出し、長い旅を経てきた氷河期がそれに応えた。 「確かにこっちは終わりましたが…。他のみんなは大丈夫ですかね?」 アティークを封印することに成功したものの、他の能力者達は未だに戦闘中かもしれないと、北条は懸念した。 「こっちも終わったぞ」 北条の懸念は杞憂に終わった。すぐにセール、続いてマロンが駆けつけてきたからである。 「セールさんにマロンさん、無事だったか!」 北条が2人の姿を見て安堵の思いを洩らす。 「こっちは全て片付いた。あれは?」 セールが封印架を見て問いをかける。 「アティークを封印した封印架だ。俺の鬼道だ」 李信は短くそう答える。 「そうか、封印したのか」 「申し訳ない。奴は何度でも再生する実質不死身だ。殺すことは出来なかった」 李信が俯いてセールに申し訳無さそうに詫びた。 「いや、上出来だ。この封印架は持ち帰ろう。そして奴を裁判において裁く。俺が創り出す新たな国家においてな」 「そうか。とにかく全部終わったんだな。帰ろう、グリーンバレーに」 李信がセールに対してそう言った時、マロンが口を開いた。 「姫宮が死んだよ…。ホッサムの幻影兵を破る為に突き進んでそれで…」 「そんな…姫宮さんが…」 マロンの報告を受けて悲しみを表情に出したのは、姫宮と共にこれまで行動してきた氷河期だった。 「俺は彼とは関わりは全く無いが、そうだな。ホッサムを倒した功労者だ。ひと段落ついたら手厚く葬ってやろう」 セールはしみじみとそう答えて歩き出した。 一行は一先ず黒牡丹が待つ牡丹城へと戻った。 14人の一行はグリーンバレーだった首都に入り、そこでグリーンバレーに残る者、故郷や新天地に赴く者とに分かれた。水素、李信、星屑、小銭、セール、赤牡丹、Wあ、マロン、筋肉即売会、まさっちはグリーンバレーに残り、しずくなの、くれないはランドラ城へと帰っていった。氷河期もまた旧ガルガイド王国領内にある住居に帰っていった。 そして新たな皇帝・セールにより新国家が誕生した。国名は「ポケガイ帝国」。 首都名はセールによりペルセポリスからグリーンバレーへと戻された。 今日は、旧グリーン王国領奪還とアティーク討伐による論功行賞が旧ペルセポリス城で行われる日である。 居並ぶ将達がセールが腰を据える玉座の間に控えていた。 「軍功第一位は水素!」 セールに名を呼ばれた水素が玉座に腰を下ろしているセールの前に進み出た。 「サバを倒してその遺留品を奪い、ペルシャ帝国のHopeを討ち取り、アティークを追い詰めた功績は見事だ。お前には100万石の領地を与える」 セールが恩賞の内容が記されている書状を読み上げると共に、それを水素に手渡す。 「サンキュー」 水素はそれを適当に受け取って退がっていった。 「軍功第二位は黒わんこと蘇芳悠太を討ち取りアティーク戦にも参戦した氷河期だが、彼は静かに暮らせればそれでいいと恩賞を辞退したので第二は北条とする。北条は幻影帝国軍をほぼ全滅させ、まさよんを討ち取った功がある。北条には83万石の領地を与える」 「第三位はまさっちだ。まさっちのエヴァ初号機が仁王帝国軍を壊滅させた。まさっちには75万石の領地を与える」 「第四位は…」 セールによる論功行賞は続けられた。因みに李信は第五位だった。彼のみが1人も敵将を殺してはいないが、鬼道でアティークを封印したのが重く見られた結果だった。李信はアティークを封印した功により50万石の領地を旧領である与板を中心に与えられた。 そして論功行賞が終わり、裁判が始まる。無論、裁かれるのは封印されたアティークである。 アティークは全身を拘束具で拘束され、拘束椅子に縛り付けられた状態で法廷に引き出された。 「判決を言い渡ァす!! 元ペルシャ帝国皇帝・アティーク!グリーン王国への反逆及び国王ぐり~んを弑逆、世の治政の混乱を招いた罪により1万8千8百年の投獄刑に処す!!」 裁判長によりアティークへの判決が言い渡されるが、アティークは口元を歪めてニヤリと笑う。 「成る程。貴様ら如きがこの俺に判決か。些か滑稽に映るな」 アティークは裁判長及び法廷に居並ぶ裁判官や、裁判官の隣に腰を据えて傍聴しているセールに嘲笑の言葉を吐いた。 「大逆人めが!不死であるからと図に乗りおって!」 「さっさと眼と口にも拘束をかけろ!!」 「刑を2万年に引き上げろ!!」 嘲笑を向けられた裁判官達が激昂して次々に野次を飛ばす。 結局、アティークは2万年の投獄刑に処された。これを以ってアティークの世界征服の野望は完全に潰え、世界は一旦の平和な世を迎えたのである。 アティーク編 完