ヒーローTRPG外伝

1 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/02/27(日) 14:49:51.53 0
アンチ童貞
2 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/02/27(日) 16:04:22.10 Q
はいお疲れ様Deathー
うーんいい流れだね
テンプレもなしに立て逃げしたところを一発で踏み潰す
辛いだろ?辛いよね?
………この糞スレ、もういらないだろ?
ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ
3 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/02/28(月) 00:41:48.29 0
人のエゴが渦巻く街「エゴイックシティー」

この街でもまた、正義と悪の戦いが繰り広げられる。

己が正義のため、戦えヒーロー!

己が欲望のため、悪行を尽くせヴィラン

ヒーローTRPG外伝 開幕
4 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/02/28(月) 00:43:58.72 0
テンプレ

名前:

職業:

勢力:正義(ヒーロー)、悪(ヴィラン)、中立など

性別:

年齢:

身長:

体重:

性格:

外見:(変身前)

外見2:(変身後の姿)

特殊能力:

備考:

※テンプレ記入時における注意事項

1.なるたけ変身しましょう(アメコミ的でも特撮的でも)

2.解釈次第でなんでも出来る能力、リスクになってないリスクがある便利能力

  は話の展開、他者のモチベーションを大きく損なう危険性があります。

  事前に相談することを推奨します。

3.後付設定を行う場合は事前に相談をしましょう(容姿の変化程度なら相談無しでも可)

  また相談を行わず、後付け設定を行った場合は、後手キャンでなかったことにされても

  強行した本人の責任です。逆恨みはやめましょう。

五日ルール/決定リール有り/後手キャン有り
5 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/02/28(月) 08:38:26.51 O
童貞のキャラは参加しちゃだめなの?
6 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/02/28(月) 14:43:57.83 0
>>5
従士お断りってことだろ
7 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/01(火) 02:06:39.73 O
で、このスレどうすんの?
8 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/01(火) 02:29:50.25 O
従士ってなに?
9 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/01(火) 08:21:00.58 0
>>7せっかくだから俺はこのスレに参加しちゃうぞ
10 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/02(水) 01:11:09.26 O
俺も参加しなくもなくもない
11 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/02(水) 01:38:11.98 0
世界征服の手始めに、このスレは悪の組織フロシャイムが乗っ取った!



さ、お掃除お掃除。
12 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/03/02(水) 04:39:29.18 0
私は今、恐ろしくねじれ曲がったモラトリアムの中にいる。
モラトリアムがねじれ曲がるのかどうなのかはおいといて、とにかく私は複雑な状況の中にいる。
私の名はチェリー・クロト、25歳元OLで今は俗にいう無職にあたる。
そして、OLと無職の間に悪の組織に属する怪人になりかけていた時期があった。
悪になっていた訳ではない。そこのところを勘違いしてほしくはない。
何故そんなちゅうぶらりんなのかといえば
本当に間の抜けた話なのだが、組織の人間が乗る車に轢かれ、気がつけば肉体改造され改造人間になっていた
そして、組織のために忠実に動くための狗にするための人格改造の直前
ヒーローではなく不景気によって組織は壊滅してしまった。
組織が壊滅した後、私に渡されたのは、ほぼ無意味に近い自由と
失った物と同等の価値があるとは思えない額の退職金だけだった。

死んでしまったことになってしまっている以上、私は元の生活には戻れず
一般人にもどろうとしても、このツギハギだらけの風貌と力がそれを邪魔する。

大きな力を押し付けられてしまった私に残されている道は気がつけば二つしかなかった。

平和を愛し、秩序を守り、悪を挫くヒーローか
野望を抱き、秩序を乱し、わがままに生きるヴィランか

その二つのどちらかを選ばなければならない…ならないハズなのだが
「そんな決断、出来る訳ないじゃん」
決断しきれていない私は、廃墟と化した組織の秘密基地でパンをかじりながら外を見ていた。
ここ数日、帰る家も無い私はこうやって日々ごちゃごちゃと考えながら、だらだらと決断を遅れさせていた。
いっそ山奥にでも篭り、仙人のように生き、老いて死ねればいいが、それさえも適わない
この体は首を刎ねられるか、心臓を握りつぶされない限り、老いることさえも許されない。
捕食者(ヒーロー)に襲われない限り、半永久的に悪事を働くことが出来る…
と廃墟の奥で埃をかぶっていたマニュアルにそう書いていた。
私が私を認識しているかぎり、選択も消えることは無く、モラトリアムは永久に続く
ならいっそ決断してしまったほうが楽なのは、頭では理解できる。
理解はしているが心がついてこない。
失った物が鎖になっているのか、それとも私が生来の怠け者なのか
とにかく思い切った決断が出来ない。ただそれだけ

13 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/03/02(水) 04:40:13.25 0
と一人で悶々としていると1つの変化が眼下で起こる。
廃墟の前にある銀行が強盗に襲われている。
私はその光景を眺めながら、また物思いにふける。
彼らがどんな過程を経てそのような凶行へ至ったか思考を巡らせる。
貧乏だったから?妹の手術費?退屈しのぎ?それともまた別のお涙頂戴な理由があるのだろうか?
どんな理由があるにせよ。彼らは自身を正当化し凶行に及んでいる。私の体を改造した連中と同じように
何勘違いしてんだか、どれだけ否定することができない理由だとしても、それが奪い、傷つけ、殺してもいい理由になる訳が無い
そんな屁理屈が通ってたまるか
「……」
私は立ち上がり手に持っていたパンを外へ投げ捨てる。
この間まで動く気配をさえ感じなかった心が動くのを感じる。
そうだ!そんな屁理屈のせいで私みたいな救われない奴を増やすわけにはいかないんだ。
「チェンジング…」
足に力をこめる、心臓が燃えるように熱く感じる。
「ナァァァァウッ!!!」
私は叫びながら、窓から飛び出していった。

モラトリアムは終った。


名前:チェリー・クロト(パッチンガー【patchinger】)
職業:無職(求職中)
勢力:正義
性別:女
年齢:25歳
身長:155cm
体重:46kg
性格:思慮深い、サバサバしている、事故の影響で喋り方が女らしくなくなっている
外見:ブラックジャックのように全身つぎはぎ、金髪のショートポニー、緑眼の釣り眼
外見2:メカニカルにアレンジされた騎士、いたる所に継ぎ接ぎのあとがある
特殊能力:
【不完全怪人ボディー】
半永久的に悪事を行うために改造された体
常人より頑丈、キズの治癒も些か早い(切断されても生えない迅速な処置が必要)が
毒や病気に対する耐性は常人並み。心臓を大きな損傷を喰らうか、首を刎ねられると死ぬ
【即席武装(インスタントウェポン)】
手に持った物体をしばらくの間武器に変化させることが出来る。
物によるが大体1~5分で武器が自壊し使い物にならなくなる。
悩み:死んだことになっているため、社会復帰する手段が一切無いこと
備考:
一般人の思考が残ってしまった元OLの怪人もといヒーロー予備軍
犯罪者の捻じ曲がった屁理屈で自分のような不幸な人を作らないために戦う

14 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/03/02(水) 04:41:34.63 0
金を奪い逃走車に乗り込む強盗の目の前に突如現れるは、私チェリー・クロトではない

そこにいるのは、継ぎ接ぎされた鎧を纏った騎士っぽい怪人、パッチンガー(マニュアルに載ってあった)

けして、偽物の鉄の城の略ではない。継ぎ接ぎされた者という意味でパッチンガーなのだ!

フロントガラス越しに慌てている強盗達の様子が伺える。

さて、どうしたものか?

エネミーデータ

名前:強盗×3(本名不明)

危険度:★★☆☆☆~★★★☆☆

備考:ただの銀行強盗、異能があるかどうかは不明
15 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/04(金) 01:00:00.93 0
おい!何やってんだ!!さっさと引き殺せよ
16 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/03/04(金) 01:36:13.47 0
リーダー格らしい奴が助手席で喚くように指示を出している。
身振り手振りからして、早く車を出せとでも言っているのだろうか?
と悠長に歩いて車に近づいてきた矢先、車が猛スピードでこちらに向かってくる。
「お?やっぱりそう来る?」
急接近してくる車に対し、私はそう呟き身を構える。
怪人らしく車の衝突に耐えてみせるような真似はしないというか、私はそこまでタフじゃない
そういう理由もあるが、ハナから私はそんな無謀を冒すことは考えていない。
受け止められないのならば、いっそ

「てぃやッ!!!」
飛び乗ってしまえば良い。
私はタイミングを見計らい、車のボンネットへ飛び乗ろうとするが
「あがッ!」
タイミングが遅かった。バンパーに足を引っ掛け、倒れこむようにボンネットに乗り
そして、思いっきりフロントガラスに頭を打ち付けた。
「~~~ッ!!!」
声にならない声をあげ、打ち付けた箇所を摩りたいがそうもいかない。
文章では伝わりにくいだろうが、こういう走行中の車に飛び乗ったシュチュって決まって
「あわわわわわッ!!!」
蛇行運転等で飛び乗った相手を落としにかかるよね。
という具合で、そんな真似をしている場合ではない。
それに加え、助手席と後部座席にいる強盗が私を狙い銃を撃ってくる。
今の状況の中では耐える以外に選択肢は無いに等しいかも知れない。
しかし、早くこの危険走行どうにかしないと、下手をしたら一般人が巻き込まれる危険性がある。
「でもどうしたら」
何かのきっかけさえあれば、どうにかできるかも知れないのに

【強盗の車に飛び移るも、着地失敗で圧倒的に不利な状態に車は現在蛇行運転中、危険性大】
>>15
ネタ振りありがとうございます。助かりました。

17 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/04(金) 10:38:16.98 O
状況!強盗の車に怪人が飛び込み蛇行中!映像送ります!
無線機から流れるけたたましい声のあと、ツギハギの鎧怪人が車に突っ込む姿がモニターに映し出される
それを凝視し、興奮のためか恐怖のためかわからぬ汗を浮き上がらせながら男は無線機を握った

こちらコマンダー!
銀行強盗は法を破った罪人である
そして怪人は人類の敵、悪である!
滅しなければならぬ存在だ!
捕縛オペレーションは破棄する
すみやかに殲滅せよ!

演説がごとき命令変更に無線機からは歓喜をともなう了解の声が響いた







かくして蛇行する車は敷き詰められていた車止めを巻き込みタイヤはその回転を止められる
僅かな慣性が終ったとき、四方の建物屋上から無数の鉛玉やはくげきほうが降り注ぐのだ

罪人もろとも人類の敵を葬るために
18 : 乙部蘭子 ◆llcP6W8S9I [sage] : 2011/03/05(土) 13:16:47.66 0
私は日ごろから『環境さえ整っていれば、私のような体の不自由な障害者は、障害者でなくなる』と考えています。
例えば、私がA地点からB地点まで行きたいとします。ところが駅にはエレベーターも付いていません、
バスやタクシーも車椅子のままでは利用できないという状況では移動は不可能、または困難です。
そのとき、確かに私は『障害者』で、四肢のない『だるま女』だということを痛烈に感じます。
障害者(私)が『かわいそう』に見えてしまうのも、物理的な壁による『できないこと』が多いためなのです。

そんなある日。私の乗った車椅子は強盗の車に激突されました。私は私の運のなさに涙を流しました。
車体の前方とアスファルトに挟まれながら数メートル以上押されっぱなしの私。手足もないくせに無駄に大きな胸が車に潰されて痛いです。

「いい加減にしてください。この運命…」

私は車椅子のスイッチをあごで押しました。車椅子はガシャンガシャンと音を鳴らしながら変形していくと
生れつき存在しないはずの私の手足の代わりとなって強盗の車を押し返します

キュルキュルキュル!

強盗の車の後輪が甲高い悲鳴をあげ私の鋼鉄の足からは火花が散ります。

しかし次の瞬間、私は何が起こったのか理解するまでに時間がかかりました。
例えたら扉を開けようとした時に、外にいた人に扉を開けられて軽い力で扉が開いたような感覚。
そうです。私が車を押し止める必要もなく車は車止めに止められたのでした。

ボーン!パンパンパンパン!

四方の建物屋上から無数の鉛玉やはくげきほうが降り注いできます。
私の手足は鋼鉄ですが身体は剥き出しの生身です。私は車を横にひっくり返して盾にしました。
すると迫撃砲の火球が車を包み込みました。

「あぶなかった。もう少しで私が火の車でした」
私は鋼鉄の足でアスファルトを蹴り飛ばし建物の裏にかくれます。
19 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/05(土) 13:37:49.81 O
君はコクハ臭がきつすぎるから撤退するわ
20 : 銀行員[sage] : 2011/03/05(土) 22:14:08.95 0
ひどい
あの車には人質も乗ってたのに
21 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/06(日) 14:55:07.36 0
>>18
テンプレートに記入をしてください
22 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/03/07(月) 03:15:11.78 0
振り落とされないようなんとかボンネットにしがみつく最中
私はある事実に気がつく。
それは後部座席の後方、隠れるように身を屈め、必死に耳をふさぐ子供もとい人質の存在
車に乗り込むところまでちゃんと見ていたはずなのに、いや、わざわざ人質も一緒に袋にいれてきたのか
違うだろ!今は何故そこにいるのかが問題じゃない。
あの子に危害が及ぶ前にどうにかしなきゃ
と頭を悩ます私に、追い討ちをかけるかのように、状況は私を追い込んでいく
耳に届くは「とおりゃんせ」のメロディ、いかん、このままだと信号横断中の歩行者にぶつかってしまう。
と、唐突に私がひき殺された情景がフラッシュバックされる。
それだけは絶対にダメだ!同じ目にあわせるためにヒーローになる決心をしたわけじゃない。

「南無三」
拳を固め、意を決する。
銃撃により穴だらけになったフロントガラスならば、いともたやすく砕けるはずだ。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
私は雄叫びと共にフロントガラスに拳を振り下ろす。
ひびだらけのフロントガラスは薄氷のように砕け散り、私と車内を隔てていたものが無くなる。
そして、私は勢いに任せ、車の中へ侵入する。
予想外の行動に対し、一瞬唖然となるも、我に返り銃を構えるが
「そんなの想定内なんだよ」
強盗が引き金を引くよりも早く、車のサイドブレーキを引き上げる。
強制的に車輪の動きを止められた車は、慣性の法則に従い独特の音と共にスピンする
揺さぶられる車内、その中で私は人質の子供を抱え、車から放り投げられるかのように脱出する。

「おぅ」
思いっきり地面に叩きつけられ、声が漏れる。
痛みでどうにかなってしまいそうになるが、人質の子供の安否が気になり腕の中の確認する。
「…」
恐怖で声が出ず、震えてはいるがどうやら無事のようだ。

ホッとため息をつきそうになった次の瞬間、嵐のような銃声が轟く
すぐさま、私は子供と共に建物の間に身を隠す。
「一体何だってんだ」
とりあえず、身の安全を確認し、私はため息と共に子供と腰を下ろす。
呼吸を整え、今何が起こったか確認する。
銃撃、そう強盗犯を捕らえるにはあまりにも過剰すぎる銃撃とロケット砲的な何かでの攻撃
おそらく、いや、確実に警察のやり方ではない。いや、こんな被害の大きいやり方は政府に属するもののやり方ではない
間から顔を出し、改めてその惨状を確認する。
「そういえば、こんな光景前にテレビで見たな」
23 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/03/07(月) 03:19:34.08 0
それは生前、ランチ中に見ていたニュース番組内でのことだった。
とあるヒーローのやり方が凄惨極まりないもので遂に全国指名手配されたと報じていたものだ。
そのヒーローは、一般人に異能で作ったアンテナを取り付けることにより、絶対服従の一流兵士に変え
その兵士たちに武器を持たせ、どのような犯罪者に大しても過剰すぎる攻撃を加え、私刑するという
挙句、ちょっとでもヒーローらしくない風貌のヒーローが居たなら、怪人と扱いし危害を加えくると
確実にヒーローのやり方から逸脱した非人道的なやり方で、その危険性と異常さから遂に国から拒絶されてしまったそうだ。
名前は確か
「…アンフェアジャッチだったはず」
その自らの手を汚さないやり口と一方的な断罪からその名がつけられた
おそらく攻撃の理由は、強盗とそして、そこに居た私か
となると、この子の面倒を見ながら行動することは出来ない。しかし、ここにおいといても

と頭を悩ませていると、なにやら物凄い物に乗った女性がやってきた。
「あ…」
言葉に詰まる。視線の先にあるのは彼女が銃弾の雨を凌いだ時に使った車だったもの
そして、その前まで強盗と私が乗っていた車
悲鳴等々が聞こえなかったので被害者が出なかったと安心していたが、そうでもなかったらしい
いや、でも、彼女も彼女で無事なわけで
「…すいません、こんなことに巻き込んじゃって」
唐突に彼女に謝る。困惑するかもしれないし、怒りをあらわにするかも知れないが
でも、言っておかないと駄目な気がしてならなかった。
「失礼ついでに…この子お願いしていいかな?多分この先の銀行にこの子の親がいると思うから
 余裕が無かったら警察に預けてもいいから、お願い
 多分、今の攻撃は私を狙った奴だと思うし、私が面倒みちゃうと危ないしね」

【強盗おそらく死亡、物陰にやってきた乙部に子供の面倒を見るよう頼む】
エネミーデータ
名前:アンフェアジャッジ
危険度:★★★☆☆~★★★★★
詳細:次レスまでに投下します。
>>18
参加希望ってことですよね。よろしくお願いします。
出来ればテンプレを埋めていいただけると助かります。

テンプレ
名前:
職業:
勢力:正義(ヒーロー)、悪(ヴィラン)、中立など
性別:
年齢:
身長:
体重:
性格:
外見:(変身前)
外見2:(変身後の姿)
特殊能力:
備考:

※テンプレ記入時における注意事項
1.なるたけ変身しましょう(アメコミ的でも特撮的でも)
2.解釈次第でなんでも出来る能力、リスクになってないリスクがある便利能力
  は話の展開、他者のモチベーションを大きく損なう危険性があります。
  事前に相談することを推奨します。
3.後付設定を行う場合は事前に相談をしましょう(容姿の変化程度なら相談無しでも可)
  また相談を行わず、後付け設定を行った場合は、後手キャンでなかったことにされても

  強行した本人の責任です。逆恨みはやめましょう。
24 : 乙部 ◆llcP6W8S9I [sage] : 2011/03/07(月) 22:42:03.99 O
[流れを悪くしてしまった
ごめんよ]

人質を連れてさる乙部

[撤退する。がんばってくれ]
25 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/10(木) 02:14:53.63 0
名前:コマンダージャスティス(アンフェアジャッチ)
職業:元軍人、現在指名手配中
勢力:正義?
性別:男
年齢:45
身長:230cm
体重:120kg
性格:左翼主義、残虐、好戦的
外見:白髪、無精髭、顔に大きな傷跡、額に赤い宝石が埋め込まれている
外見2:装甲と武装で身を固めている。例えるなら人型戦車、もしくは歩く要塞
特殊能力:
「パーフェクトアーミー」
自身の能力で作り出したアンテナを取り付けることにより
どんな人間でも一流兵士にすることが出来る。
兵士化した際、アンテナ同様、作り出した武装を持たせることができる
もう1つの異能を発動させた場合、能力は解除される
「ヘルアポカリプス」
作りだした武装を兵装化し、超人と化す能力
もう1つの異能を発動させた場合、能力は解除される
備考:
捻じ曲がった正義で無差別に捌きを下すヒーロー崩れ
妻を強盗に殺された時、異能に目覚め、狂った。
26 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/13(日) 00:29:32.19 0
チェリーさん無事?
27 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/03/13(日) 07:53:51.07 0
一応無事です。
被害はそうでもないんですが、余震が怖くて心落ち着きません
28 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/13(日) 22:52:10.76 0
>>27
乙。無事でなにより
29 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/03/16(水) 07:56:14.41 0
こんなときに不謹慎だとは思うのですが、
SSになってもいいから話にオチをつけて、一旦休止するべきなんでしょうか?
30 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/16(水) 15:44:32.29 O
そもそもお前一人のオナニーなんだから好きにしろ
31 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/16(水) 16:15:00.95 0
よしわかった
もう少し落ち着いたら俺も参加してやろうじゃないの
32 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/17(木) 02:33:51.44 0
>>29
チェリーさんが落ち着くまでこのまま様子見でよいのでは?
話をまとめずに一旦休止しているスレも沢山ありますし
もしチェリーさんが今後も続けられそうなら無理にオチをつける必要は無いと思います
33 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/03/21(月) 19:02:46.56 0
落ち着いて来たんで明後日辺りから再開しようかと思います。
34 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/03/21(月) 23:32:53.43 0
がんばれー
35 : ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/03/23(水) 16:54:15.10 0
ヒーローTRPG外伝、前回までの三つのあらすじ
1つ、野良怪人チェリー・クロトはこれからの身の振り方をどうするか決断しあぐねていた
2つ、その最中、目の前で銀行強盗が発生、チェリーはヒーローとしての生きることを決意する。
3つ、しかし、その先に待っていたのは、指名手配犯のアンフェアジャッチによる無慈悲な暴力であった。
カウント・ザ・メンバー!現在の参加者は残り一名

36 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/03/30(水) 21:12:27.18 0
それはそれらしくあるからそれなのだ、とは名も知らぬ哲学者の言葉だ。
「フハハハハハハ!エゴイックシティーの民衆諸君、今のうちに惰眠を貪っておくがいい!」
街を見下ろす高い建物の屋上で腕を組み、悪者らしく高笑いし、悪者らしい台詞を悪者らしく低い声で叫ぶ。
そして身に纏うはいかにも悪そうな軍服、さらに眼帯。
「俺が来たからには、すぐにこの街を恐怖のどん底に叩き落してやる!!」
つまりいかにも悪者らしいこの俺こそ、まさに悪者の大幹部であるという事だ。
……いや、遺憾ながら今では全てを過去形で語らなければなるまい。そうだ、俺は悪者の大幹部"だった"のだ。
一時は世界征服の寸前まで迫った我が秘密結社は、首領の戦死と共に事実上壊滅した。

それはほんの40年前の出来事だが、物語の発端となると時計は更に30年遡る。
現在から数えておよそ70年前、一つの戦争が終わって、一つの帝国が滅亡した。忘れるものか。1945年、全てが終わり、全てが始まった年。
敗北を受け入れられない敗残兵たちはUボートで海を渡り、尊大な戦勝国への復讐を誓いつつ祖国を遠く離れた密林の奥地に落ち延びた。
やがて彼らは小さな駐屯地を作り上げる。それは偶然発見した未開の遺跡に土嚢を盛り、兵舎二つ、倉庫一つを備えただけの小さな砦だ。
世界を脅かす秘密結社の物語はこの不恰好な砦から始まって、30年後の島国で幕を閉じた。ヒーロー達はここで物語を終わらせたかったらしい。
首領戦死の後、生き残った者はヒーローの迫撃を逃れるべく偽名で小市民に紛れ込んだ。奴らは執念深かったが、まぁモサドほどじゃない。
今となっては追う者も無く、誰もが過去を忘れ各々のを享受している。何せ改造人間というのはやたらと丈夫で長生きなのだ。
しかし俺は果てしなく穏やかな老後を捨てて再び懐かしい服を身に着けた。ただの一人でもう一度悪の秘密結社を始めたのだ。何故か?

俺は日に日に老いている。70年前の改造手術によって老化が止まっていた肉体が、今更になって年齢を追いかけ始めた。
髪や口髭は徐々に色を失い、頬の皮膚は弛んで皺は増え深くなった。整えた口髭を剃り老眼鏡を掛ければ癇癪持ちだった晩年の父に瓜二つだろう。
体力衰えず健康体なのは改造手術の恩恵だが、流石に背中は丸まってきたし、出歩く際にはエボニーのステッキを持たねば心配が付きまとう。
さらに最近では枕元に度々懐かしい顔が現われる。絞首台にぶら下がった上官、顔のない兵士、悪の戦闘員や怪人……皆が揃って手招きしている。
明らかに思考の老化が招いた悪夢だ。誠に遺憾ながら、老衰死の予感が、恐怖が、思考のあちこちにべっとりとへばりついてしまったらしい。
俺は老いて、死の輪郭が見えてきた。この事実を受け入れたならばどうするべきか。考えに考えて辿りついたのは1945年の誓いである。
最初に集った敗残兵の一人として、この誓いの元に殉ずる、あわよくば誓いを果たす事は最後の責務とすら言える。何よりも好ましい最期であろう。
それに俺は祖国と組織に忠誠を誓った軍人である。軍人であるならば、誰だって老衰死より名誉ある戦死を迎えたいものだ。

だから俺は残りの人生をかけて、もう一度夢を見るのだ。
また世界中に喧嘩を売ってやる。我が祖国を歴史の棺桶に葬った者達に、我々の名前を思い出させてやる!
37 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/03/30(水) 21:15:56.72 0
そうして昔話から這い上がってきた亡霊は、鋲を打った軍靴とステッキでカツカツと上機嫌にリズムを刻み、埃舞う路地裏で奇妙な騎士の前に現われた。
「やあ、お嬢さん。あんたは……正義か?悪か?見てくれはいかにもこちら側だが……上にいる兵隊どもはどうだ?正義か?悪か?」
銃声響き硝煙漂う中を歩くと、70年前を思い出して胸が弾む。ああ、手にしているステッキがモーゼルライフルだったなら、どんなに喜ばしいだろう。
それならば俺はきっと前線指揮官であって、部下を率いていて、敵は赤旗振り回すロシア人の機甲師団で……もし現状がそうあれば、どれだけ素晴らしいだろう。
しかし夢を見るには遅すぎて、あるいは早すぎる。目下の目標を遂行しなければいけない。
「俺はゴル大佐。秘密結社『ヴェアヴォルフ』の大幹部である」
ああ、40年ぶり、40年ぶりだ!この肩書きを誰かに語ったのは!感情が一気に若返り、記憶がスライド写真のようにどんどんと蘇ってくる。
ただの一言、懐かしい台詞を吐いただけ。それだけで身体中の血を若者のそれと入れ替えたように、老化という感覚が見る見ると遠ざかってゆく。
「……つまり俺こそが悪者であるという事だ。あんたが悪い奴なら手を貸すし、さもなくば…殺すことになろうな。初対面、しかも唐突な話で恐縮だが」

名前:ゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴル
職業:元世界的秘密結社大幹部
勢力:悪
性別:男
年齢:外見は60才程度(実際には100歳以上)
身長:173cm
体重:71kg
性格:病的なほどに几帳面で神経質で反共主義者。過去のトラウマからバッタを異常なほどに嫌悪する。
外見:(変身前)ナチ親衛隊の黒い軍服姿で腰にはルガーピストルのホルスター。右目に黒い眼帯。口髭。常に黒いステッキを手放さない。
外見2:(変身後の姿)怪人狼男。服装はそのままだが、全身が毛皮に覆われ、頭部は狼そのものに。筋組織が変化し身体能力が飛躍的に向上する。
特殊能力:改造手術以前から、まるで『別人が演じている』かの如く巧みな変装を特技とする。
また怪人狼男に変身している間は、噛み付いた人間を操る能力を有する。但し「進め」「戻れ」程度の命令に限られる。
備考:かつて世界征服の一歩手前まで迫りながらも一人のヒーローによって壊滅させられたとある世界的秘密結社の大幹部だった男である。
戦時中、ナチ親衛隊(SS)に所属していた過去を持つ。

【悪い奴です。よろしくお願いします】
38 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/04/01(金) 16:22:00.60 0
>>37
よろしくお願いいたします!レスは今夜中にお返ししますね
39 : チェリー・クロト ◆nOMWuwjuM2 [sage] : 2011/04/02(土) 01:31:34.28 0
心配事が消え、ため息をしたいところだがそうもいかないらしい
>「やあ、お嬢さん。あんたは……正義か?悪か?見てくれはいかにもこちら側だが……上にいる兵隊どもはどうだ?正義か?悪か?」
いつの間にか現れたドイツ軍人に私はたじろぐ
「上にいるのは正義でも悪でもない…いや、ヒーローになれない奴に巻き込まれた一般人だ」
異様な威圧感に抗うかのように私は軍人の問いに答える。
>「俺はゴル大佐。秘密結社『ヴェアヴォルフ』の大幹部である」
>「……つまり俺こそが悪者であるという事だ。あんたが悪い奴なら手を貸すし、さもなくば…殺すことになろうな。初対面、しかも唐突な話で恐縮だが」
なるほど、そういうことか
なんとなく合点し、一息ついてから一番初めの問いに答える。
「生憎…私のモラトリアムはついさっき終ってしまったよ。スカウトならもっと早く来ていれば乗っていたかもしれなかった
 私はヒーローとしての道を選んだ!あんたが私を殺すつもりなら、返り討ちにしてその道を歩く」
自分を振るい立たせるようにそう声高らかと返すと、車だった残骸に手を伸ばしバンパーらしきパーツをもぎ取る
「チェンジング!」
気合を込めそう叫ぶとバンパーは折れ曲がり捩れその形を一振りの剣に変える。
どんなものでも短時間だけ武器に変えることが出来る…それが私の異能
「タァァ!!!」
間髪をいれずに私は軍人に切りかかっていく
40 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/04/06(水) 20:56:22.53 0
>>39
>「上にいるのは正義でも悪でもない…いや、ヒーローになれない奴に巻き込まれた一般人だ」
「正義でも悪でもない?ヒーローになれない奴?それがあれだけの力を?」
さらに聞き返し、溜息が出る。この40年で我々の生きる世界は随分とややこしくなったらしい。
白と黒、西と東、そして正義と悪……古き良き世界の勢力図は、いつだって2つの色で塗り分けられていた。
しかしいつしか境目に生まれた新たな色が最初の2色を侵食し、今や世界はサイケデリックなモザイク柄だ。
>「私はヒーローとしての道を選んだ!あんたが私を殺すつもりなら、返り討ちにしてその道を歩く」
彼女の言葉には、確かな決断と覚悟の意思が現われていた。ある意味で期待通り、見てくれ以外は随分とヒーローらしいじゃないか。
あの忌々しいバイク乗りを思い出すよ。思えば、奴も元々こちら側だった。口元が緩み、笑みが浮かぶのが止められない。
「いや残念、もう一週間早く来るべきだったかな?」
>「チェンジング!」
焼け焦げ塗装が剥げたバンパーは、掛け声と共に彼女の手の中でシルエットを歪な剣へ変えた。
彼女がそれを振りかざし、俺に切りかかってくる。俺の手に剣は無く、無論盾も鎧も無い。さあこのままでは死んでしまうぞ。
「返り討ちとは、嬉しいことを言ってくれるな」
瞬間、彼女と俺の間に黒い輝きがキラキラと舞い散り、剣の先から放射状に広がった。
ほんの一瞬剣が止まり、ほんの数ミリ彼女の視線が逸れた。すかさずルガーピストルを抜き、無照準で3発撃つ。
そこに生まれた小さな隙に、俺は切っ先の届かぬ一歩後ろへと退いた。
「……だがな、大幹部が死ぬにはまだ早すぎる。早すぎるんだ」
エボニーは金属の如く硬質な木材だが、金属ほどの弾力は無い。だから一点に力が加われば硝子のように砕け散ってしまう。
つまり先程舞ったのは、放り投げられ主人の身代わりとして粉砕されたステッキだ。あれは結構に気に入っていたのだが、止むを得まい。

「さて、口惜しいが今日は挨拶だけにしておこう。この年寄り一人じゃあんたを殺せそうにない。それに……」
俺と彼女の言葉が途切れる間に、大通りから聞えてくる音が届く。共に届く匂いと同様に懐かしい音は、確実に少しずつ近づいていた。
装具の揺れる音、複数が泥靴で駆ける足音、早口に飛ばされる指示と、それに対する応答。それはつまり、訓練された兵隊達の活動音。
先程の銃声を聞きつけたに違いない。足音と声から判断するに、恐らくは一個分隊以上。少なくとも10人は居る。
「どうやら"巻き込まれた一般人"どもが降りてきたらしいぞ」
話している間にも、何足もの泥靴は足音を立てて、我々の居る場所へと近づいてくる。
41 : 名無しになりきれ : 2011/04/21(木) 23:35:53.27 0
保守
42 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/04/26(火) 20:02:26.64 0
再び、3発の銃声が響いた。
尖兵として飛び込んできた3人の兵士は心臓を、あるいは頭部を著しく損傷し──要するに銃弾で吹っ飛ばされて──気持ちの悪い水音のようなものを漏らしながら倒れた。
間髪あけずさらに2発。後ろに居た2人が同じようにして倒れて、死んだ。これで5人。いよいよ楽しくなってきたぞ。
「やあヒーロー、やっぱり手出しは出来ないか?止むを得まいね、だってあんたはヒーローで、奴らは小市民だから」
ヒーローとは即ち英雄であり、英雄は人々の為に滅私に努め人々の敬意を集めるものだ。悪党らしい悪党と戦うヒーローは、ヒーローらしくなければいけない。
何故か牙を剥く一般市民を攻撃できずに戸惑う姿は、いかにもヒーロー的なジレンマじゃないか。
「誤解しないでくれ、馬鹿にしているんじゃない。あんたにはあんたの、俺には俺の仕事があるんだ」

やがてロシア人たちとは随分違う装備で身を固めた兵隊が現われた。ごちゃごちゃと各種装置を取り付けた最新鋭自動小銃の銃口がこちらを睨む。
「よく聞け!俺はゴル大佐!秘密結社『ヴェアヴォルフ』の大幹部である!」
……折角悪党らしい台詞を吐いたのに、奴らは格好の良い台詞を返すこともなく、無言で引き金に指を掛けた。まったく嘆かわしいことだ。
悲しいかな、バッタですら理解した様式美をこの無能な小市民どもは理解出来ないのであろう。おやおや、奴らが人差し指に力を入れたぞ。
「貴様らに俺の真の姿をみせてやろう!貴様らを地獄に送る者の名前と姿、よく覚えておく事だ!」
変身……と、言っても、俺の場合はヒーローほどに華々しいものじゃない。掛け声も効果音も無く、身体中が妙な音を立てるだけ。戦争中はそれでよかったのだ。

そうして俺はもう一つの姿となる。もちろんヒーローどものように格好の良いコスチュームなどありはしない。重ね重ね、戦争中はそれでよかったのだ。
身に纏うは今しがた降り注いだ鉄の暴風で戦死者のようになった軍服。被り物と呼ぶには精巧すぎるオオカミの頭。鋭く伸びた爪。さあ、古臭い決まりの台詞だ。
「俺こそが怪人狼男だ!ここを貴様らの墓場にしてやろう!」
ヴェアヴォルフとは祖国の言葉で狼男を意味するが、復讐を誓う敗残兵もそれを名乗った。つまるところ、俺は両方の意味でヴェアヴォルフなのだ。

それからはまぁ、過去の再現だ。
飛び来る弾丸を避けるなり受けるなりしながら近寄って、一番近い一人に噛み付く。するとその哀れな兵隊は口から血の泡を吹きながら痙攣する。
後はそいつを盾にしながら腕を持って銃口を他に向け、「人差し指に力を入れろ」と命ずる。すると不思議なことに『盾』は引き金を引いてしまって同士討ちの出来上がりだ。
我ながら奇妙としか言い様のない能力を久しぶりに振るうのは楽しかったが、面倒になってきたから残りは喉笛を喰いちぎるか顔を潰すかして殺した。

兵隊が姿を消した後、元の姿に戻ると目眩がした。銃弾を身体で受け止めすぎて血が足りなくなったのだ。まったく、若い頃ならもっと無茶な戦い方も出来たものだが……
このままヒーローと戦うことも出来たが、あんまりに疲れてしまったし、何より大幹部らしくないではないか。
「……思いのほか、派手な挨拶になってしまったな。あんたがヒーローとしてこの街の平和を守るなら、またいつか顔を合わすことになるだろう!さらばだ!」
そうして、俺は軍靴をコツコツと鳴らしながら路地裏を後にした。一人のヒーローと、何体もの惨殺死体を残して。

【さてさて、どうしたものだろう……】
43 : ◆X9hUpsnDGY [age] : 2011/06/14(火) 19:18:55.05 0
【おおう、まだスレが残っている……】
【もし再開するとしたら人は集まるのかしら……】
44 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [age] : 2011/06/26(日) 03:30:57.52 0
悪の秘密基地は地下でなければならない。また人の近寄らない廃工場の地下なら尚良い。
新調したステッキを突きながら、広い空間を一人うろつく。空調設備が停止した工場地下には僅かな埃臭さと黴臭さを含んだ湿った空気が満ちている。
あるいは総統も、最期を過ごした帝都の地下司令部で同じように淀んだ空気を感じていたのだろうか。
時代遅れのモーゼル小銃、不名誉の証となった無数の勲章、今や忌み嫌われる祖国の旗、そして史上最大の極悪人のレッテルを貼られた偉大な総統の肖像……
この街で得た新たな秘密基地を彩るのは、40年前よりはむしろ70年前の風景である。元々、我が忠誠の対象は組織ではない。偉大なる総統、そして祖国のみである。
もちろん、壁一面の大きな世界地図だとか、禍々しい鷲のレリーフだとか、チカチカ音を立て点滅する無意味な信号灯だとか……40年前らしさも相応に残したつもりだ。
やはり悪の秘密基地は、こうでなければいけない。
……足りないのは勇敢な兵士と優秀な将校。司令官だけの組織。全く、全く、なんと滑稽なことだろう。

『悪の戦闘員急募』などと馬鹿な新聞広告を打ったものだと我ながら思う。
偉大な祖国を思い出す兵士はもう居ない。世界征服という言葉に夢を見る輝かしい若者も居ない。
第一、こんな募集に集まる単純な悪人には技量も知能も忠誠も、何もかも期待できない。兵士として綿密な作戦に用いる事など出来るものか。
俺がこの大衆紙に託したただ一つの希望は、再び秘密結社『ヴェアヴォルフ』の名を世間に思い出させる可能性だ。誰かが『ヴェアヴォルフ』を思い出せば、それでいい。
誰かが思い出せば、それを他の誰かに話すだろう。他の誰かはさらに他の誰かへ、次の誰かへ……そうして無数の人間に伝わる。中には治安関係者やヒーローも居るだろう。
彼らはその名を聞いてどうするだろう。悪党の存在を許さず、秘密基地の捜索を始めるかもしれない。市民生活を防衛する為、街中に警官が増えるかもしれない。
あるいは誰か、先の銀行強盗事件に前後して軍服姿の老人を目撃した事を思い出すかもしれない。今はまだ、それだけでいい。
まだ何も終わっては、また始まってはいない。恐らく全てはこれから始まり、また終わるのだ。

【とりあえずコテさん募集中…】
【気力ある限りは一人で頑張ろうかしら】
45 : 名無しになりきれ[保守] : 2011/07/22(金) 22:59:23.30 O
保守
46 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/07/23(土) 08:38:14.65 O
保守するくらいなら参加してやれよ
47 : 名無しになりきれ : 2011/08/01(月) 19:25:08.25 O
コーヒーショップで働くサムは知的障害のため7歳の知能しかもってない。そんなサムの宝物は愛娘のルーシー。
慣れない子育てに奮闘しつつも、ひたむきに愛を注いでいる。
優しい仲間たちにも囲まれ、幸福な日々を送るふたりだったが、ある日、悲劇が襲う。
父親の知的年齢を追い越してしまったルーシーが学ぶことを拒否し始めたのだ。
心配した担任教師からソーシャルワーカーが派遣され、ルーシーはサムのもとから連れ出されてしまう。
もう一度ルーシーと暮らしたい。
父親失格の烙印を押され落ちこむサムだったが、敏腕女性弁護士リタとともに、裁判に出ることを決意する。
なぜなら、誰よりも自分がルーシーを愛しているから──。
はたしてふたりは幸せな日々を取り戻すことができるのか。
せつないほどに無垢な愛、親子の絆に涙する感動の物語!

48 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/08/02(火) 04:23:32.01 O
>>47
いい話だ、感動的だな
だが無意味だ
49 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/08/07(日) 09:13:41.40 O
◆X9hUpsnDGYはもう消えたのか
誰か来るまで1人で頑張るんじゃなかったのか
50 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/08/08(月) 23:46:38.25 0
>49
 ヽ | | | |/
 三 す 三    /\___/\
 三 ま 三  / / ,、 \ :: \
 三 ぬ 三.  | (●), 、(●)、 |    ヽ | | | |/
 /| | | |ヽ . |  | |ノ(、_, )ヽ| | :: |    三 す 三
        |  | |〃-==‐ヽ| | .::::|    三 ま 三
        \ | | `ニニ´. | |::/    三 ぬ 三
        /`ー‐--‐‐―´´\    /| | | |ヽ

【居るだけ居るんですけども、流石に一人で頑張れませんでした】
51 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/08/30(火) 08:13:45.03 O
>>50
あきらめたら試合終了ですよ
52 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/08/31(水) 00:58:30.47 0
>51
lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll/ ̄ ̄\llllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll
llllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll/      ヽllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll
iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii|iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii|  し T  |iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii
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;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:.!;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;|  い P  |:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:;;:
;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:|l;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:|  で G  |;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:
;::;::;::;::;::;::;::;::;:__O__;::;::;::;::;::;::;::;::;::;::|  すが   .|;::;::;::;::;::;::;::;::;::;::;::;::;::;::;::;
;. ;. ;. ;. ;. ,. -|二二l' - .,;. ;. ;. ;. ;..|   :     |;. ;. ;. ;. ;. ;. ;. ;. ;. ;. ;. ;. ;..
: :.,. - '    |二二l     ' ‐ .,:. ヽ、_______ ノ :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :..
'        ̄            ' - `.,: . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .
                         ' - .,: : : : : : :/
         ,ュョニ                   '  - .,/
         ゞ' 丿                      i|
______  _____ / ⌒~~\____________  ,,,,,              !  ,,,,
   f~j   .{     ヽ     i. ,...t__r..,    ,pqi,_       _f_,ノ_
  .iilllllllli;  |`i   /  丶   l!.i;;;;;;;;;;;;;;i   .l_`" ,_i    k:j. ( /i_/;(
  |,{lllllll|{ .} {_  {    l.   l! |,l;;;;;;;;;l.}  _,,,{l  {.i   {`'" .{ {;;;;;;;;;;
  i.|lllllll|.} ゝ.,L._,i'_______ノ   | {,i;;;;;;;;;;l/ (iiiilllヽ‐、}.}.   |,|  |.|;;;;;;;;;;
___ .fL.,..、」__.{:;:;:;i.i.ii):;:;:;:;:;/________i. |;;;;;;;;;;; /llllllllllllllllllヽ.   l,ト-‐/イ.,_r_,.
____ | |.__{ |__ |:;:;:;:;:;:;:;:;:;/____________ {;;;;;n;;; {lllllllllllllllllllllllヽ_____.トr't |_} /_|
  ,{ }  {.l、 '{:;:;:;:;;:;:;:ノ,i      _};;;;i i;;/lllllノillllllllllllllllllヽ  {,| .| l | | `
  '‐‐'  '¬ }:;:;:;:;:;/'       `¬,,,,ノiill/iilllllllllllllllllllllllヽ '-' ,.-' j
        i:;:;:;:;:;ゝ        (ll||||||||||lli`‐r-、..,,____}     ̄
         `¬‐‐'         ""'''''''''''''''''`¬' `‐'
53 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/09/01(木) 13:24:03.08 0
参加したいけど掛け持ちするほど余裕がないこのもどかしさ
54 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/09/01(木) 17:49:44.53 O
参加したいけど普通の質雑しかやったことねぇ
55 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/09/02(金) 00:06:34.57 0
やってみればなんとかなるかもしれんよ
56 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/09/03(土) 01:12:52.34 0
      ,. < ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ > 、
    /               ヽ   _
   〈彡                Y彡三ミ;, この際ですからFO上等、遅レス上等、不慣れな方でもどうか気軽に参加してみませんか
   {\    \|_ \>ー 、  ト三三ニ:}
   人{ >、,___.>、/三 ヾ\ |わ三彡;!
  /./ トミ;,_       Y/  \>ノー~=- "
  V / /!   ̄ ̄ ゝ  |   /  _
  し/'┴──----─''|  ン}\-ヾ彡
              ヾ、___ノー'''`
57 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/09/03(土) 13:32:49.31 0
筆力あると思うのでここでずっと待つより他の人いないスレに行ってきたらいいと思います
ジェンスレとかブラまほとかあなたが活躍できそうなスレはいっぱいあるよ
58 : ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/03(土) 13:38:17.83 0
むむ、参加してみたいかも。
しかし初めてなんですよねー。
59 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/03(土) 14:10:18.90 0
>>44
俺の名は氷雨京一郎。探偵だ。
社会の闇に挑み、戦い、打ち砕く――。
そういうカッコイイことがしたいなぁと言う夢を抱えつつ、浮気調査やら猫探しやらを行っている不甲斐ない貧乏探偵だ。
 
「はぁ、夢のあることは起きないもんかね」
俺は朝のコーヒーを嗜みつつ、朝刊にざっと目を通していた。
そして、そこで俺はその広告に目が留まる。
 
『悪の戦闘員急募』
 
俺はそれを見て一瞬怪訝に思い、次に気分が高揚してくるのに気付く。
「フ……悪の組織ってのは、やっぱこの世にあったってわけか……」
 
ニヒルな笑みを浮かべると、俺は物置に向かった。
 
「げーほげほ、げほげほっ!」
 
ホコリまみれになりながら、俺は物置から銀色のブレスレットを取り出した。
今は亡き、探偵の師匠から授かった変身ブレスレットだ。
なんで師匠がこんなモノを持っていたのかいまいちわからないが……間違いなく、変身ヒーローになれるブレスレットである。
 
俺はそれを腕に嵌めると、愛用のベスパを走らせた。
目指すは『悪の戦闘員急募』と書かれていた場所。
 
まだ見ぬ悪の組織との対決に心が躍る。
……そう、この時の俺はまだ甘かった。色んな意味で。
 
60 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/03(土) 14:15:56.91 0
名前:氷雨京一郎
職業:貧乏私立探偵
勢力:善
性別:男
年齢:24歳
身長:181cm
体重:66kg
性格:とにかくかっこよくなりたい、正義の味方のような活躍がしたいと思い、なるべくそう振る舞おうとする、精神的に幼い男。
外見:黒いコートに黒い帽子を被っている。ブレスレットを嵌めている。
外見2:白銀の鎧を纏った騎士のような姿・シルバーブリッツに変身する。
特殊能力:高速での移動、攻撃が可能。
備考:正確には彼は二代目シルバーブリッツ。今は亡き師匠からブレスレットを受け継いでいる。
61 : 崎守 衛 ◆zzbcdf.g.s [sage] : 2011/09/04(日) 11:06:12.18 0
ヒーローと言えど自分がまともに食っていけなければやっていられない。
明日の飯がなければ他人も守れない。
悔しいが、ヒーローとは余裕のある奴がするもので。
明日飢え死にするかも知れない奴がやる事ではないのだ。

「あ゛ぁ………腹減ったなぁ…………」

裏路地を一人の男がふらふらと覚束ない足取りで往く。
着古したジャージ姿に無精髭。
顔の素材は悪くないのに、顔色が悪く痩せこけているせいか酷く不気味だ。

「残飯とかねーのかよ……あーあー………」

地面に這い蹲りながらゴミを漁る。
いずれ焼却炉行きへとなるはずだったそれらが裏路地に解き放たれた。

「ラッキー!食いさしの果物!僥倖……なんという僥倖……!!」

もそもそと残飯を食い散らかし、ほんの少しだけ空腹が満たされたところで。
深い、深い、溜息を一つ。

俺かい?俺は……崎守 衛(さきもり まもる)

五年前……自分は人々を守るヒーローで、中小企業に勤めるしがないサラリーマンだった。
それが今はどうだ。結婚詐欺に遭い挙句会社は倒産……ここまで落ちぶれちまった。
再起しようにも不況とやらで就職口も見つからねえ。バイトも何かすぐクビになるし………
誰かを守りたいって感情は今でも変わらない。でも、誰かを守れるほどの“余裕”がねえ。

何処で踏み外したんだろうなぁ、俺の人生。
もうパーフェクトもハーモニーもないんだよ………

(あん………?これは………)

目に留まる一枚の新聞紙。
そこに書かれていた文字は───『悪の戦闘員急募』

(……もういいや。飯食えるならなんでも……俺はもうヒーローじゃない……
 ただの社会不適合者…………ニートにすらなれねえホームレスだしな………)

正義が金に屈した瞬間であった。


※      ※      ※


「廃工場の地下ってまたベタだな……」

ふらふらと今にも死んでしまいそうな表情と足取りで崎守はただ歩く。
歩く事がこんなに苦痛だったか。最近は動くのも疲れる。

「あ………やべえ……俺履歴書ない……とにかく……飯を恵んで……ください」

悪の秘密基地の入り口に辿り着いたところで。
崎守は視界のぼやけを感じると同時にぱたりと倒れこみ。
……空腹のあまりに、意識を失った。
62 : 崎守 衛 ◆zzbcdf.g.s [sage] : 2011/09/04(日) 11:09:44.61 0
名前:崎守 衛(さきもり まもる)
職業:無職
勢力:中立(元・ヒーロー)
性別:男
年齢:27
身長:180
体重:86
性格:そこそこ熱く阿呆な男、妖怪金クレー
外見:イケメン台無しの無精髭に着古したジャージ姿
外見2:蒼い装甲に覆われたヒーロー『サフィール』
特殊能力:身体が頑丈。防御能力に長ける
備考:
その能力で文字通り盾となり悪の牙から人々を救ってきた元ヒーロー
ただ5年前勤めていた会社の倒産と結婚詐欺に同時に会って散々な目に。
今は能力で時折用心棒をしつつなんとか生きている



不定期になるかもだけど、こんなのでよければ……
63 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/09/04(日) 13:11:43.44 0
朝5時、夢の中で鳴り響く起床ラッパで目を覚まし、「旗を高く掲げよ」と「世界に冠たる我がドイツ」のレコードを聴きつつ、洗顔と食事を終える。
朝食はライ麦パンにザワークラウト、ベーコンとジャガイモのスープという野戦用の兵隊食。この献立だけは70年前から毎朝変わらないし、これからも変えまい。
パンを一口齧れば輝かしい時代を思い出し、ブイヨンで煮込まれたベーコンを咀嚼し瞼を閉じると懐かしい銃声と砲声が聞えてくるようだ。
髭と髪を整えた後には装具点検。昨晩アイロンをかけた軍服には皺一つ無く、念入りに磨いた本革の帯革やホルスター、将校長靴は真っ黒に光り、傷の一つも見つかるまい。
「服装の弛みは精神の弛み」とは尊敬する上官の言葉である。

ところで、現在のところ綿密に作り上げた銀行強盗計画を実行する戦闘員は居ないし、全市民毒殺計画に必要なトリカブト怪人を作り出す悪の科学者も居ない。
こうして資材も人員も不足している以上は一切の作戦を凍結する他にない。悪の大幹部たるもの、一人きりで取るに足らない犯罪に手を染めるべきではないからだ。
盗むなら銀行から金庫ごと、殺すなら街を丸ごと。盗むなら巨大ドリル戦車を使い、殺すならオオカミバクテリアや猛毒アブラゼミを使う。規模は大きく、手段はユニークに。
強大かつ明確で異端の恐怖であるからこそ、悪の組織は路地裏の薄汚いチンピラと区別されるのだ。そしてまた、全ては私利私欲ではなく名誉ある理想の為に。
そういう次第なので概ねこの時間帯は情報収集に費やす。街に蔓延るヒーローの名前、人数、正義の組織の規模、悪人の数、規模、めぼしい人材の居所等等……

昼を回るとくたびれた背広に着替え義眼を詰め顔を変え、元石油企業役員クリスティアン・フォン・ベルグマン氏なる架空の老人に扮し喫茶店で昼食を取る。
この街に来てから幾度となく食事に訪れている為、気の良いベルグマン氏は今やすっかり馴染みの客である。無論、誰もベルグマン氏の正体は知らないのだが。
誰も秘密結社『ヴェアヴォルフ』を知らないし、怪人狼男を知らないし、ゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴル大佐を知らない。我が祖国の名前すらも今や忘れられている。
ベルグマン氏がとぼけた微笑みを浮かべる裏で、俺は罪無き一市民どもを憎むのである。祖国を歴史から葬ったのは、彼らの如く無自覚な大衆なのだ。

さて、それから。

>59,>61
「これは……驚いたな、まさか本当に人が来るとは」
それから、再び軍服を纏い悪の大幹部ゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴルに戻った俺は、廃工場の前で二人の男と遭遇したのである。
一人は黒いコートに黒い帽子。悪者として評価に値する出で立ちだ。古今東西、悪い奴というのは大体黒い衣装を好む。俺もそうだ。……但し、ヒーローも半数ほどは黒いのだが。
もう一人は薄汚く貧相な見てくれの男……そもそも生きているのだろうか。荷車に潰されたヒキガエルの如くぺしゃりと地面に這ったまま動かない。
「俺はゴル大佐。秘密結社『ヴェアヴォルフ』の大幹部である。新聞広告を見たんだな、あんたら」
言い慣れた台詞を挨拶代わりに口にして、コツンとステッキを突き、1歩ごとに軍靴でコンクリートを叩き、俺よりいくらか背が高い、黒い服の男に歩み寄った。
気難しげな表情を浮かべ、睨みつけるような目付きで威圧する……そうした悪の大幹部、あるいは親衛隊将校らしい態度と仕草を保つ。
さて、この男はどちらなのだ。白か、黒か。正義か、悪か。正義の怒りに燃え悪の組織を倒しに来たのか、悪の理想に魅了され悪に組するのか。
いずれにせよ、心が躍るじゃないか。だが、それよりも。
「早速我が秘密基地に案内しよう……ところで、これはあんたの連れかね?」
ステッキの先で倒れている男のわき腹をつつく。まだ反応は無い。
「いずれにせよ中に運ばねばなるまいが、俺はご覧の通りの年寄りだ。あんた、そいつを背負ってきてくれ」
64 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/09/04(日) 13:13:01.51 0
>57
【敗残兵は敗残兵らしく、ここを死に場所と決めているのです】
>58,>62
【Welcome to this crazy thread!このイカれたスレへようこそ!】
【当スレッドは誰でもウェルカム。分け隔ては嫌いでね】
【そういう訳でこれからよろしくお願いします!】
65 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/04(日) 18:34:19.57 0
>>61>>63
目的地にたどり着いた俺の目の前に現れたのは、いかにも悪の大幹部って感じのじーさんだった。
今時軍服なんて着やがって、どういうセンスしてんだか。
今の時代、悪にもこの俺のようにクールでスタイリッシュでブリリアントな格好をして欲しいものだ。
 
まぁいい、そんな悪にこの俺の正義の啖呵を切ろう……そんなことを思っていたら……。
今度はいかにもホームレスって感じのおっさんが、俺の目の前で倒れた。
 
「お、おい! 大丈夫かおっさん!」
 
咄嗟に俺はそのおっさんを抱える。
軽く頬をぺちぺち叩いてみる。あー、うん、息はある。まだ大丈夫か。
どうもこのおっさんは悪の手でどうにかされたわけじゃないようだ。
俺は探偵なのでそんなことはカンでわかる。
 
>「早速我が秘密基地に案内しよう……ところで、これはあんたの連れかね?」
「い、いや違うけど……ええっと、ゴルフ大佐さんで合ってたっけ?」
おっさんが目の前で倒れたことにびっくりして、悪の大幹部の話をちゃんと聞いてなかった。
間違ってたらどうしよう。怒られるとやだなぁ。
 
それはさておき、悪と戦うのよりも、まずはこのおっさんを助ける方が大事だと俺は判断する。
 
>「いずれにせよ中に運ばねばなるまいが、俺はご覧の通りの年寄りだ。あんた、そいつを背負ってきてくれ」
 
「あ、ああ。わかった。俺の推理じゃ、このおっさんは空腹で倒れてる。背負ってく代わりに、このおっさんになるべく早くなんか食わせてやってくれ」
 
俺は早速、不確定名:悪の大幹部の言う通りに倒れているおっさんを背負うと、奥へと向かう。
あ、あれ? なんか気付いたら俺悪の言うこと聞いてね?
 
【と言うわけで崎守衛を抱え、ゴル大佐の言うまま基地へと向かう俺】
【改めてよろしくお願いします】
66 : 崎守 衛 ◆zzbcdf.g.s [sage] : 2011/09/04(日) 19:59:33.81 0
「さあ、ここは俺に任せて皆は逃げるんだ!」

頭から爪先まで等しく美しい蒼で彩られた装甲を身に纏ったヒーローが高らかに叫ぶ。
ヒーローはヴィランである改造人間の攻撃を自ら受け止め、文字通り市民の盾となる。

「一撃必生!刑務所で反省しやがれパーーーンチッッ!!」

異能によって強化された鉄拳がヴィランに炸裂、相手は気絶。
華々しく爆散でもしてくれればいいが、
このヒーローは外見こそ派手なものの戦い方は堅実で地味な方だった。

「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶってな!また誰かを傷つけるような真似したら、ただじゃおかねえぜ!」

ああ、誰だっけこいつ。
なんか五年くらい前に居たんだよな。
そう………こいつは………こいつは………


「俺じゃん………って、あ?」

崎守の意識が覚醒しまず最初に認識したのはここが地面の上ではないこと。
どうやら背負われているらしい。
いい歳こいておんぶされていることに気恥ずかしさを感じる。もっとまともな運び方はないのか。

「はぁ~~~……腹減った……おい、いいぞ、降ろしてくれ」

黒い帽子の男の背中をぱちぱち叩いて無理矢理おんぶ状態から脱出。
空腹で力が出ないのか、不恰好にも尻餅をつくはめになった。つくづく冴えない。
ぱんぱんと薄汚いジャージに被った誇りを掃い、ふらふらよろよろ頼り無げに崎守は立ち上がる。
立ち眩みが酷い。腹に力が入らない。足がふらつく。そういえば最近風呂どころか水も浴びてない。
全部空腹のせいだ。それでもまだ歩けるのは多分身体が丈夫なお陰だろう。

「おたくなんか食いモンもってる?………あ、俺崎守衛。おたくも広告見てか……?
 俺って裏社会は初めてだから……緊張してんだよね……まあ、仲良くやってこうぜ」

全く緊張もくそもない、疲れきった声で握手を求める崎守。
こう見えて昔はうざいぐらい熱血な若者だったのだが、今や見る影もない。

崎守の足取りは依然覚束ないままふらふらと先頭の老人を追う。
多分目の前の老人が組織の人間なのだろう。
いかにも悪そうな軍服だし、何より雰囲気が歴戦の猛者を感じさせる。
今やただのホームレスだが腐っても馬鹿でもハラペコでも元ヒーロー。それぐらいは感じ取れる。

「あ……そういや、悪の組織ってやっぱ不採用とかあるんですかね………
 俺……ここで採用されなきゃ餓死確定なんですけど……
 つーか飯とか恵んでくれません……?今も正直歩くのすら辛いっていうか……」

適度に壁にもたれて小休止を挟みつつ消え入りそうな小声でもそもそと呟く。
豚の餌でもいいのでたらふく食わせてくれ、崎守の願いは厚顔無恥だが切実であった。


【大佐、氷雨さん、よろしくお願いしますねん】
67 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/09/06(火) 19:43:23.82 0
>65
>「い、いや違うけど……ええっと、ゴルフ大佐さんで合ってたっけ?」
考えるよりも先に、つい声を荒げていた。年寄りと言うのは頭に血が上りやすいのである。
「ゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴル!俺の名はゴル大佐だ!二度と間違えるな!」
全く、全く、これだから最近の若い奴は。名前を間違えるのも黄色い小太りのヒーローの仕事と相場が決まっている。
加えて黒い奴は冷血漢と決まっているのに、何だこの態度は。やはり若い奴ときたら、昔からの決まり事というものをわかっていない……
>「あ、ああ。わかった。俺の推理じゃ、このおっさんは空腹で倒れてる。背負ってく代わりに、このおっさんになるべく早くなんか食わせてやってくれ」
「……悪人らしくはないが、止むを得まい。パンか何かと……いくらか残っていたはずだ」

二人の見知らぬ男を連れて地下への階段へと向かう。本来なら、秘密のスイッチで作動する秘密のエレベーターだとか転送装置を設けたいところだ。
もしも組織が再び立ち直ったならば、真っ先にそれを作ろうと考えている。今はまだ、より優先すべきものが無数にあるのだ。
「……気をつけろよ。この通路には無数の罠が仕掛けられているし、迷えば二度と出られまい」
無謀にも我が秘密基地へ侵入を図るヒーローを歓迎するのは竹やりを仕込んだ落とし穴や毒ガス噴射機、殺人レーザー銃、火炎放射機、機関銃の束……
そして殺風景ながら入り組んだ通路である。
>66
>「はぁ~~~……腹減った……おい、いいぞ、降ろしてくれ」
途中、貧相な男が目を覚ました。第一声はそれこそ黄色い小太りそのものである。
>「あ……そういや、悪の組織ってやっぱ不採用とかあるんですかね………
「不採用などありえん。この秘密基地を知ったからには、大人しく戦闘員になるか、俺の手で殺されるか。その2つしかない」
ちらりと振り向き無愛想に答えてやる。黒い服の男はヒーローの気配を感じさせたが、この男も……いや、こちらは見れば見るほど、単なる貧相な男だ。

うす暗く湿気と殺意に満ちた迷路を抜けると、一つ目の部屋である。本来なら、ここには腕利きの怪人や戦闘員が防衛の為に配置される。
今はまだ一人の兵士もおらず、がらんとした部屋には長方形の真新しい4人掛けテーブルが2つと丸椅子が8つ並んでいるだけだ。
「さて、すぐに戻るから大人しくここで待っていろ。話はそれからだ。……念の為に言っておくがな、俺の案内無しに迷路を抜けられると思うなよ?」
二人を残し入ってきたのと反対側にある扉を抜ける。先ほどと同じような迷路を急いで抜けて居住区域、台所へ。
朝食用に作り置きしてある兵隊食を温め、金属製の皿に盛り、トレイに載せる。部屋を出てから10分ほど過ぎただろうか。早く戻らなければ。
ああいうヒーローまがいの連中を一つの部屋に閉じ込めておくと、大抵は悪の組織にとって好ましくない事を話し合うものである。
全く、全く、浮浪者の食事の用意など、大幹部たる将校が担う責任ではない。だが、約束を違える事は誇り高きドイツ軍人には許されないのだ。
68 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/08(木) 18:46:54.61 0
【ちょっとレスを前後させてもらいますねん】
>>67
>「ゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴル!俺の名はゴル大佐だ!二度と間違えるな!」
「ひっ!?」
思わずびくっとなって身を竦めてしまう俺。ち、カッコわりぃぜ。
だが、これだけの気迫があるってこたぁ、こいつは間違いなく悪の大幹部。
ヒーローとして倒すべき相手だってことは把握できた。
しかしこいつの名前は長い上に早口すぎて把握できなかった……。大佐なのはわかったので、以後は大佐とだけ呼ぶことにしよう。
「わ、わりぃな、大佐。もう間違えない、気を付ける」
そう言いつつ、俺は大佐を追って歩く。
 
>「……気をつけろよ。この通路には無数の罠が仕掛けられているし、迷えば二度と出られまい」
「マジっすか!?」
また間の抜けた声が出てしまった……クールに行きたいのにどうしてこうなる……。しかしよく考えてみれば悪のアジト、それくらいの備えはしてあるに決まっている。
「フ……面白くなってきやがった」
と、渋くカッコイイ声で言ってみる。
ただしなるべく大佐には聞こえないように。ただの自己満足で言ってみたかっただけだし。
 
しかし真面目な話、大佐を倒してしまったらここからどうやって脱出すればいいん?
 
>>66
>「はぁ~~~……腹減った……おい、いいぞ、降ろしてくれ」
と、そんな感じで大佐に連れられていく途中で、おっさんが目を覚ました。
それなりのプライドはあるのか、自分からおんぶから脱出する。
しかし、尻餅をついてしまった様子を見て、思わず手を差し伸べる。
「おいおい、大丈夫か?」
 
手を差し伸べたものの、それに気付かずにおっさんは立ち上がってしまった。
べ、別に寂しくなんかないんだからねっ!
 
>「おたくなんか食いモンもってる?………あ、俺崎守衛。おたくも広告見てか……?
> 俺って裏社会は初めてだから……緊張してんだよね……まあ、仲良くやってこうぜ」
そう言って、今度はおっさん――崎守衛が俺に握手を求めてきた。
俺は素直にその手を受け取り、しっかと握手する。
鍛え上げられた戦士の手だと、俺の灰色の脳細胞は推理する。
 
「食いモンか……ちょっと待っててくれ」
そう言うと、何かなかったかなと思ってコートの中をガサガサと漁ってみる。
出てきたのは……焼き肉の……タレ。なんでこんなモンコートの中に入れてんの俺!?
「……わりぃ、ないみてぇだ」
焼き肉のタレを呆然と見つめながら答え、コートの中にしまう。
 
そうそう、名乗ってもらったからには名乗り返さないとな。ヒーローたるもの紳士でなくては。
「フッ、俺の名は……氷雨京一郎(ひさめ・きょういちろう)。天才的頭脳を誇る探偵さ」
無駄にカッコイイポーズを取って名乗ってみる。

「ま……広告を見てやって来たのは確かだが……俺の真価は、これからだぜ……」
もう一回ポーズを決めて、ハッと我に返り、恥ずかしくなってやめる。
 
69 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/08(木) 18:47:41.11 0
【改行が多すぎるって出たですよ】
>>66>>67
そして、しばらくして一つ目の部屋に辿り着く俺たち。
かなり広い。しかし本来ならここに怪人や戦闘員、他の幹部たちで埋め尽くされるのだろう、と俺は推理した。
なんとなくこの組織って今はカワイソウな組織なんじゃないかと思えてきた。
 
>「さて、すぐに戻るから大人しくここで待っていろ。話はそれからだ。……念の為に言っておくがな、俺の案内無しに迷路を抜けられると思うなよ?」
「あ、ああ……そうするよ」
正直俺の灰色の脳細胞でもこの迷路の解き方はわからない。ここは素直に従っておくが吉か。
 
大佐が去っていくのを見て、俺は残された崎守の方に話しかけてみた。
「で……崎守さんはもしかして、ここで働くつもりなのか? せちがらい世の中だからな、その選択も否定はできねぇけど」
 
俺がここでどういうつもりで来たのかは、もう少し黙っていよう。バラされると命が危険でピンチな気がする。
70 : 崎守 衛 ◆zzbcdf.g.s [sage] : 2011/09/11(日) 13:01:49.10 0
>「不採用などありえん。この秘密基地を知ったからには、大人しく戦闘員になるか、俺の手で殺されるか。その2つしかない」

大佐の無愛想な返答に崎守はあ、そーすか。とだけ気だるそうに相槌を打つ。
食いっぱぐれなければそれでいい。今現在崎守の目的はそれだけであった。

殺風景で陰気な道を抜けようやく部屋に辿り着いたらしい。
部屋はがらんどうでテーブルと椅子が申し訳ていどにちょこんと座しているだけで、後は何もない。
少なくともインテリアに対するセンスのかけらも感じられなかった。
こんな娯楽も欠片もない部屋でじっとしているとその内気でも触れてしまうのではないかと崎守は危惧する。
ともかく今は腹を膨れさせる事が重要で、そこらの問題はどうでもいい。

>「さて、すぐに戻るから大人しくここで待っていろ。話はそれからだ。……念の為に言っておくがな、俺の案内無しに迷路を抜けられると思うなよ?」

「飯が用意されるまで一歩も動く気なし」

すとんと丸椅子に腰を下ろし一言簡潔に述べる。
目が爛々としているあたりすでに腹では食事へのカウントダウンが始まっているのだろう。

>「で……崎守さんはもしかして、ここで働くつもりなのか? せちがらい世の中だからな、その選択も否定はできねぇけど」

京一郎が気を利かせたのか話題を振ってきた。
今は腹が減って仕方が無いから喋るのも億劫だし、ただ煩わしいだけなのだが。

「……そりゃ働くからここにきたんだろう。まるでヒーローが新興組織をぶっ潰しにきたよーな発言だぞ」

もしくは冷やかしかと言外に付け加える。
発言的に京一郎がヒーローだと疑ってもおかしくはないのだがところがどっこい。
崎守はイイ感じに頭がパーなのでそんなこと思いもしない。

それにこの部屋までの道程を鑑みるに。
飯はないかと問うと焼肉のタレをおもむろに懐から出したと思えばセルフツッコミをかますわ
いきなり無駄にキレのあるポーズキメてきたり少々変な、訂正、愉快な人物らしいのは確かなので。
“また芸人根性を発散させているのか”と解釈したのかも知れないが。

「……それに、京一郎の言うとおり世知辛い世の中だしな……食いっぱぐれないようにしたいんだよ」

そして、生きる事に必死になりすぎて信念や譲れない何かを丸ごと路地裏に置いてきてしまった。
『牙無き人の盾となる』……そんなものを、生への渇望と引き換えに捨ててきた。
漫然とした中で生ぬるく……ダラダラと………『ただ生きてる』だけの状態であった。
京一郎を見ていると辛くとも信念を貫いて生きていた自分を少しだけ思い出し、虚しくなる。
崎守自身はそれを全く自覚していなかったが。

「日本社会は敗者に厳しいし……だからヒー……いや、慈善事業もやる余裕ねえし……」

そこで言葉をぷつん途切れさせて崎守は黙りこくった。
いい加減喋るのが辛くなってきたのか、何か思うところがあるのか、それは本人にしか判らないが。


【ちょっち遅れました、申し訳ない】
71 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/09/13(火) 21:33:51.99 0
>68,>70
「やあ、待たせたな。それでは早速話を始めようか。座りたまえ」
往復10分と調理5分として、およそ15分ほど部屋を空けたことになる。果たしてヒーローの雰囲気を纏った黒い衣装の男は俺を倒す算段を立てただろうか、それとも……
次いで湯気も薄らいできたスープ、黒パン、ザワークラウトを乗せたトレイをテーブルに載せ、椅子に腰掛けた薄汚い方の男に視線をやると……うむ、やはり薄汚い。
他人を装う黒い衣装の男の仲間ならば、もしかして……とも算段したが、どうやら本当に他人らしい。
「そっちの……ええと、浮浪者。5分だ、5分やる。急いで食え」
ちなみに今回のスープは我ながら美味に仕上がったと自負している。何せ70年前から毎朝調理し、また食してきたのだから。
どれだけ煮込めばベーコンの旨味が染み出し、ジャガイモが程よく崩れるか……経験に裏づけされた確かな手順で調理すれば、兵隊食が備える貧しさも雲散するのだ。

そうして、浮浪者の食事が終わるのを待って。
「……そうだ、名前をまだ聞いていなかったな。呼ぶのに不便だ。教えてもらえんかね」
話しながらカツン、とステッキを突く。さてさて、彼らにどこまで明かしたものか。
俺の名を知らなかったところを見るに、40年前の戦いもバッタのバイク乗りの存在すら、彼らにとっては70年前の戦争と同じ与り知らぬ過去の出来事に過ぎないのだろう。
世界を脅かした男も、世界を救った男も、等しく歴史に埋もれ消えつつある。今更、失われた過去をもう一度語る必要もあるまい。新しい物語を始めよう。
「見ての通り、俺は退役軍人でな。2年前まである国の陸軍大佐で…悪の組織を始めたのは年寄りの道楽って奴だ。軍人恩給をつぎ込んで、ようやく秘密基地を作ったところなんだ」
例えば毎日正午に喫茶店を訪れるベルグマン氏のような、架空の老人がまた一人出来上がる。俺と同じ顔と名前、そして異なる過去を持つ架空の退役軍人だ。
70年前から数多の人格と顔を作り出しては捨ててきた。一つ一つがまやかしの過去を持ち、短いシーケンスを生きては唐突に消え去る。彼らの前に現れた"ゴル大佐"も、いつか同じ末路を辿る。
無論、それにはまだ早すぎるし、もしかすると先に消え去るのは本物のゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴルかもしれない。
「悪の戦闘員となったあんたらには早速作戦を実行してもらいたいのだが…念の為に確認させてもらう。いや、本来なら確認するまでもない事なのだが……」
またカツンとステッキを突き、右に左に一歩二歩と歩くと、おもむろにホルスターを開いてルガーピストルを抜いた。
「二人とも、戦闘員として悪に付き従う意思はあるのだな?さもなくば……」
先程、薄汚い男に語った言葉は真実だ。従うか死か、脅迫とはまったく悪の組織らしい手段ではないか。
72 : 崎守 衛 ◆zzbcdf.g.s [sage] : 2011/09/15(木) 15:53:05.66 0
すいません、都合により継続が不可能な状態になりました
俺はいなかったことにしてください。本当に申し訳御座いません
73 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/15(木) 21:40:18.04 0
【あら、残念です! またどこかでお会いしましょう! ところでレスは土曜まで待ってください! 申し訳ない!】
74 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/16(金) 06:47:30.96 0
【早起きし過ぎたんでレス完成――】
>>71
「俺の名前か? 氷雨京一郎――しがない探偵だよ。氷雨でも京一郎でも、呼びやすい方を」
 
俺は鮫のように笑って名乗る。そして大佐の語る、この組織の誕生経緯を聞いて――俺はこう答えた。
 
「この味は、ウソをついている味だぜ」
 
いや、間違ってもこんなじーさんの汗なんか舐めたくないし実際舐めてないが、何故かこんな言葉が口をついて出た。もう俺は何かが末期なのかも知れない。
 
しかし、彼の話がウソだと言うのには確信があった。今になって、俺の灰色の脳細胞が思い出したのだ。
確かこいつのフルネームは、ゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴル。そう――“ゴル大佐”。
今は亡き師匠のホラ話くらいにしか聞いてなかった、バッタのバイク乗りと、そのライバルの存在。
そのライバルの名前が、確か“ゴル大佐”とか言ったはずだ。
 
師匠はそのバイク乗りに憧れてヒーローになったんだとも言っていたっけ。
もっとも、一度しかまともにヒーローを出来る機会はなかったらしいが。
 
“ゴル大佐”が銃を突きつけ、俺に仲間になるかどうかを問うてくる。そのわかりやすい「悪」っぷりに、俺は大仰に肩を竦め――できる限り冷たい目をしてこう答える。
 
「そんな意志はないね」
 
そう、悪に従うつもりはない。俺は、悪を叩き潰すためにここにやってきたのだ。探偵なんかやっていると、わかりやすい悪なんてこの世にはなくてイライラする。
結局俺はそのイライラをどうにか解消したいだけなのかも知れない――そんな考えが一瞬頭をかすめ、同じく一瞬で振り払う。
 
そして俺は、左手に嵌めたブレスレットに手をやり、いつでも変身できる準備を整えながら……一応聞いておく。
 
「これは有名な探偵が言ってたことなんだけどよ、撃っていいのは撃たれる覚悟があるヤツだけらしいぜ。それでも、断った俺を――撃つかい?」
 
そう言って俺は、皮肉げにウインクしてみせた。
 
【シリアスシリアスシリアス……】
75 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/09/18(日) 17:27:03.16 0
>74
>「俺の名前か? 氷雨京一郎――しがない探偵だよ。氷雨でも京一郎でも、呼びやすい方を」
>「この味は、ウソをついている味だぜ」
「探偵、ね」
おやおや。折角作り出したまやかしの過去は語りきる前に役目を終えてしまったらしい。物語はまた、失われたはずの過去に繋がった。
この街に暮らす警察高官や高級軍人、民間警備会社役員、民間防衛組織──いわゆる正義の組織の幹部、新聞に名を踊らすヒーロー……それらの名は調べ上げてあったが、探偵とは。
思えば19世紀の頃から探偵もまた正義を成す立場にあった。少なくとも、俺の生きた常識の中ではそうあるべきとされていたではないか。
「お見事、お見事……ああ、俺は嘘を吐いた。確かに嘘を吐いたよ、名探偵殿」
つい、口元が緩む。戦闘員希望者を装った輝かしい正義に燃える名探偵が、悠々と悪の秘密基地に潜入し、悪の大幹部と相対し今まさに正体を明かした……
悪の大幹部とヒーローの邂逅としては最高のシチュエーションだ。
>「そんな意志はないね」
そうだ、それで良いんだ。古き良き時代、正義は如何なる誘惑に対しても、誰もが迷わず誇らしげに胸を張り、この氷雨なる男と同じ言葉を口にしたものだ。
気取った理屈は不要だ。奴は正義で、俺は悪。正義が悪の言葉を拒む事にどうして理由が必要だろう。奴がそれらしく振舞うなら、俺もそれらしい台詞を返そう。
「ならば氷雨よ、ここが貴様の墓場だ!」

と、氷雨が左手首に右手をやり、何かの構えを取った。
ここで奴を射殺するのは容易いが……悪の大幹部たるものは変身中だとか説教中のヒーローを妨害する事は許されない。これもまた、一つの決まりごと。
>「これは有名な探偵が言ってたことなんだけどよ、撃っていいのは撃たれる覚悟があるヤツだけらしいぜ。それでも、断った俺を――撃つかい?」
「俺にそれを聞くのか?撃つ覚悟を、殺す覚悟を、俺に尋ねるのか?」
何たる愚問、何たる冗談か。気づけば俺は肩を揺すり、声を上げて笑い始めていた。威厳を漂わす大幹部ではなく、過去に苛まれた親衛隊員の表情が顔を覗かせる。
黒衣の悪魔と呼ばれた第三帝国の親衛隊員が、全世界を悪夢に戦慄させた悪の大幹部が、死に損ないの年寄りが、今更何を恐れるのだ。何を覚悟するのだ。
無論、氷雨もそれは判っているのだろう。これもまた、形どおりの台詞という奴だ。
「よろしい、答えてやろう!覚悟などとうに済んだ!撃てるものなら撃つが良い!」
俺は叫びが終わるか終わらぬかのうちに人差し指を引く。甲高い銃声と共に、銃弾は寸分の狂い無く氷雨の眉間目掛けて飛び出した。

>72
【アリャー、これは残念】
【短い間でしたが、この敗残兵にお付き合いいただいてありがとうございました!もしまた状況が変わり都合着きましたら是非とも戻ってきてくださいな】

【さてさて、これからどうしようかしら】
76 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/18(日) 18:32:33.55 0
「あうっ」
 
俺はその言葉と共に、弾丸を眉間に撃ち込まれて、盛大に後ろに倒れ込んだ。
だが――死んじゃいない。間一髪で変身が間に合った。
銀色の騎士の様な姿への、変身。
師匠が言っていた、確か「シルバーブリッツ」って名前のヒーローが、ここに再誕する。
変身の口上も言えなかった上に、いきなり倒れた姿なのは、ちょっとばかし格好がつかないが。
 
俺は何とか立ち上がりつつ、その間にゴル大佐がどういう相手なのか、少しばかり分析する。
大佐の持つ殺気は、尋常なものではない。
恐らくは、人を殺し慣れてきている男の殺気。
そして、撃たれる覚悟なんてとっくの昔に済ませてる、兵士の殺気。
 
こういう相手に、カッコつけた俺の安っぽい挑発は逆効果だ。
この分析を、挑発する前に済ませておけば良かった、全く。
 
――とは言え、こういう無駄で不利なカッコつけが出来なくて何がヒーローだってんだ。
 
「あいにくと俺は銃は持たない主義でね、残念ながらお前さんを撃ってやることはできないが」
 
さっとファイティングポーズを取ると、俺は地面を蹴って突貫する。
 
「パンチは少しばかり慣れてるぜ?」
 
シルバーブリッツになってから体が軽い。こんな気持ちで戦えるのは初めてだ。
もう何も恐くない。
 
喧嘩ならともかく、本当の「戦い」に挑むのは、そもそもこれが初めてなわけだが。
 
【バトルフェイズに移行。シリアスになり切らないのはPCのせいかPLのせいかw】
【とりあえずは2人で進める――しかないでしょうかね】
77 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/18(日) 18:33:08.32 0
【あう、レス番忘れた、>>76>>75宛てです】
78 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/09/22(木) 18:35:02.86 0
>76
>「あうっ」
9mm弾が頭蓋骨を割り脳を引っ掻き回す……直前に、奴は変身した。間の抜けた悲鳴をかき消すようにチュンと金属音が響き、跳弾が壁にめり込む。
まばゆいばかりに光る白銀の西洋甲冑。名乗りや格好付けた口上を聞いてやるのを忘れていたな、と思う。問いに呼び起こされた親衛隊員の記憶が、大幹部としての決まりごとを反故にした。
「これは困ったな。ルガーが役に立たないとなれば……」
展開としては素晴らしいが、状況としては極めて不味い。手にある武器はルガーとステッキ。変身したところで牙と爪。いずれにせよ一定の打撃は期待しても甲冑そのものを砕く事は容易くあるまい。
あるいは変身後の怪力で単純な肉弾戦に持ち込む手もある。しかし先日の銀行強盗事件の折、身体が昔ほどに頑丈でないことは悟らされた。
どの道、間も無く変身し戦わなければならないだろうが、肉弾戦のみで最終的な決着をつけるのは賢いやり方ではない。
つまりは指揮所──実際には名ばかりの居住スペースに過ぎないが──に設けられ、祖国を象徴する銃器を溜め込んだ武器庫を今こそ開く時なのだ。
これまでは栄光の時代を思い出す為のコレクションに過ぎなかったが、だからこそ手入れだけは万全だ。ガラスケースを破って銃弾を装填すれば、いつだって戦争を始められる。
中でも特に貴重かつ高価な品、パンツァービュクセ対戦車銃。あれを使えば甲冑のヒーローも只では済むまい。問題はどうやって指揮所に戻るのかである。

>「あいにくと俺は銃は持たない主義でね、残念ながらお前さんを撃ってやることはできないが」
覚悟を決めて、身体の何箇所かに神経を集中し力を込める。古めかしい、格好の付かない変身のプロセス。それと、今やプロセスの一部となったお決まりの台詞。
「今から貴様に俺の真の姿をみせてやろう。貴様を地獄に送る者の名前と姿、よく覚えておく事だ!」
途端に生じた毛皮で軍服が一回り膨れ、頭蓋骨が音を立て変形し、身体中の骨格が再構成され、血液の流れは勢いを増す。
気難しい表情をしていた老人が異音と共に一瞬で映画から這い出したような人狼に変身──あるいは変化するといった方が適切か。傍から見ればさぞ不気味な光景だろう。
あとはもう一言、「俺こそが怪人狼男だ」というお決まりの台詞を叫ぶはずだったのだが。
>「パンチは少しばかり慣れてるぜ?」
次の瞬間には、氷雨が地面を蹴っていた。たった一度の蹴りとは思えない勢いで、甲冑と同じ銀色の籠手が目前へと迫ってくる。
しかし、奴がわざわざ攻撃を宣言したものだから、宣言を合図にひょいと左へ飛ぶだけで拳からはいとも簡単に逃れられた。まずはこいつを足止めしなければならない。
「悪いなヒーロー、まだ倒される訳にはいかんのだよ」
そのまま大きな口をあんぐりと開いて、奴の頭に喰らい付く。


【ヒャー、申し訳ない!遅くなってしまいました。いかんせんバトル描写が苦手なので……】
【このまま進めてある程度で外に出て、新しいコテさんを迎えるタイミングを作りたいところですね】
79 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/26(月) 19:28:53.44 0
【す、すいませんいそがすぃ……もうちょっと待ってくださいねー】
80 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/09/29(木) 18:47:19.39 0
【お待たせしましたー!】
>>78
パンチを繰り出しながら、俺はふと思い立った。
……名乗りをあげるの忘れてた。
……パンチを早く出し過ぎて、怪人となったゴル大佐もまた、名乗りをあげる暇を与えてやれなかった。
悪いことしたなぁ。
思考までもが加速した状態で、そんなことを考える。
 
それが油断だったのかも知れない。
 
次の瞬間には俺の頭は、首元からばっくりとゴル大佐怪人態にかじられていた。
 
「いたたたたた! 痛い! 痛い! 首! 首がもげる! こう見えてそんなに装甲厚くないんだから!」
 
一応命は無事だった。
しかし、思わず弱点を口走ってしまいながら、ゴル大佐怪人態の腹に必死にパンチの連打を叩き込む。
見えてない上充分な距離が取れていないので、大したダメージは与えられないだろうが。
 
しかし、相手をひるませて口を開かせるくらいの威力はなんとかあったようだ。
 
「ふぅ……」
 
なんとか、脱出はできたようだ。
 
「……俺の名は――シルバーブリッツ。さぁ、名乗れよ怪人」
 
キザにゴル大佐怪人態を指さし、名前を問う。
「ゴル大佐怪人態」とか言って長すぎるしね!
 
【勝手にやられて勝手にピンチを脱出させてもらいました、すみません!】
【さてここからどうやって外に出ましょうか……】
81 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/10/07(金) 22:46:06.77 O
どうしたゴル大佐
82 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/10/08(土) 01:28:22.64 0
>80
久しぶりのヒーローとの戦いは、老化を再確認する苦痛で始まった。
>「いたたたたた! 痛い! 痛い! 首! 首がもげる! こう見えてそんなに装甲厚くないんだから!」
意外や意外、思ったほどに丈夫なヒーローではないらしい。対戦車銃を持ち出さなくても決着を付けられるのではないだろうか……
そう思ったのもつかの間、俺の身体はやはり老いていて、ロシア兵の頭を鉄帽ごと落花生の如く噛み砕いた、あの恐ろしい顎の力は既に失われていた。
あらん限りの力を込めても牙は中々鎧を抜けず、ギーギーと金属を引っかく嫌な音を立てるだけ。さらに歯茎に血が滲み始め酷く痛んできた。
極めつけは腹への止め処ないパンチである。元々が多少の銃弾に耐えうる身体なのだからと無視していると、徐々に内臓へ響き始めた。
胃袋を裏表ひっくり返され蛸糸で徐々に締め付けられるような、鈍く淀んだ吐き気が殴られる度にこみ上げてくる。
銀行強盗の一件でも40年前や70年前からの老いを自覚したつもりだったが、いつだって現実は非情である。
「……くそっ!」
そういう訳で徐々に顎の力が緩み、奴に脱出の隙を与えてしまったのだ。

さて、ほんの一瞬の沈黙。湿った空気が一層と生ぬるく感じた。
>「……俺の名は――シルバーブリッツ。さぁ、名乗れよ怪人」
驚いたことに、奴はまるで今まさにヒーローに変身したかのように、今しがたの衝突を忘れたように、洒落たポーズで口上を吐いたのである。
やはりルールは守られるべきで、その点で俺と氷雨改めシルバーブリッツは同じ価値観を共有している訳だ。なるほど、合点がいった。
「俺こそが怪人狼男だ!シルバーブリッツよ、ここを貴様の墓場にしてやろう!」
いかにもヒーローらしい台詞に、いかにも怪人らしい台詞を返す……が、どうにもずれたタイミングで決まりが悪く、第二撃の機会を掴めない。
老いた俺がシルバーブリッツを倒す力を有していないのもまずい。対戦車銃を持ち出すにしても、悪の大幹部が緒戦で尻尾を巻いて逃げ出すのは如何なものか。

で、あるならば。

「……フハハハハハハ!良いことを教えてやろう、シルバーブリッツよ!」
あたかも余裕綽々に椅子へ腰掛け、高笑いの後に決まりの台詞。そしてヒーローの名を呼び、不敵な笑みを浮かべ、さらに長台詞だ。

「貴様がこうして俺と戦っている間に地上で何が起きていると思う?
氷雨京一郎が忌々しくも優秀なヒーローだということはとうに調べがついていた!そうだ、あの新聞広告は貴様だけを狙った罠だったのだ!
貴様さえ居なければ街は手に入ったも同然だ!今頃、我が配下の戦闘員が貴様の仲間を捕らえ、無防備な街を恐怖に陥れている頃だろう!」

やたらと説明的な台詞そのものは、バッタのバイク乗りをアジトに誘き寄せた時と概ね同じ。アジトで対峙するというシチュエーションも同じ。
ただあの頃と違うのは、俺は奴の協力者の居所も知らないし、もちろんそれら協力者の誘拐も洗脳も企てていないし、そもそも奴を知らなかったし、
また街を襲撃する為の作戦は発動していないし、そもそもそんな作戦は立案していないし、実行する戦闘員も居ないし……その他諸々嘘八百。
無数の人格を演じてきた経験が、隠し切れない真実や矛盾点を煙に巻いてくれればいいのだが。

要するに俺が逃げるという構図が良くない訳だ。一旦シルバーブリッツを追い出し、悠々と準備を整えてからそれを追えば悪党としても面目が立つ。
それにまぁ、俺と同じような価値観を持った相手だ。優秀なヒーローだとか貴様さえ居なければとか、特別扱いするような言葉には弱いのではないか。

気づかれぬように唾を飲む。俺は悪の大幹部だ。威厳を保たねばならない。心の奥底に湧き上がる焦燥感を悟られてはならない。
「いいか、俺も鬼じゃあないんだ。負けを認めた上で乞うならば、快く貴様に通路の見取り図を譲ろうじゃないか」

【ひー!ごめんなさい!外に出る方法を考えてたらすっかり遅くなってしまいましたです】
【どうにも強引ではありますけれど、一応はきっかけを……】
83 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/10/08(土) 10:15:58.08 0
>>82
>「俺こそが怪人狼男だ!シルバーブリッツよ、ここを貴様の墓場にしてやろう!」
>いかにもヒーローらしい台詞に、いかにも怪人らしい台詞を返す……が、どうにもずれたタイミングで決まりが悪く、第二撃の機会を掴めない。
やっぱり名乗りのタイミングが遅れたのが拙かったようだ。
どことなく気まずい雰囲気が流れ、俺と狼男はしばしの間停滞状態に陥った。
どうしようかと困っていると、狼男の方が先に動き出してくれた。
ああ、良かった。
 
>「……フハハハハハハ!良いことを教えてやろう、シルバーブリッツよ!」
>「貴様がこうして俺と戦っている間に地上で何が起きていると思う?
>氷雨京一郎が忌々しくも優秀なヒーローだということはとうに調べがついていた!そうだ、あの新聞広告は貴様だけを狙った罠だったのだ!
>貴様さえ居なければ街は手に入ったも同然だ!今頃、我が配下の戦闘員が貴様の仲間を捕らえ、無防備な街を恐怖に陥れている頃だろう!」
 
そして、いかにも悪役らしい長台詞を吐く狼男。
なかなかに痺れるシチュエーションだ。
しかも、まさか俺だけを狙ってあんな新聞広告を打っていたとは。
ちょっと、いや結構嬉しかったりする。
 
ただ――奴の台詞にはひとつ問題があった。俺の仲間、と言う言葉。
少なくとも戦いに役立ちそうな仲間はどうしても思い浮かばない。
と、友達がいないわけじゃないぞ!?
 
しかし、俺は、自分一人いないだけで街が恐怖に陥るほど、優秀なヒーロー。らしい。
そう言われては街を見捨てるわけにはいかない。
 
「くっ、貴様卑怯な! だが、街を危険を晒すわけにはいかない!」
 
大仰な身振り手振りと共に、テンプレ台詞を吐く俺。
 
「仕方ない、今回は俺の負けだ……だから頼む、街を救うために、見取り図を渡してくれ!」
 
【お待ちしてましたー。】
【と言うわけで負けを認めて見取り図をくれー、状態です】
84 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/10/12(水) 02:52:43.15 0
>83
>「くっ、貴様卑怯な! だが、街を危険を晒すわけにはいかない!」
「ほら、持って行け。手遅れじゃなけりゃいいんだがな」
いやはや40年前を思い出す。まさかこれほどまで"らしい"ヒーローが現代の世に生き残っていたとは!
そうだ、まさに忌々しくも優秀なヒーローだったバッタのバイク乗りも、あの時俺が吐いた台詞に同じような反応を返したものだ。
貴様とはなかなか良い友達になれそうだよ、シルバーブリッツ。
「貴様がヒーローとして戦い続けるなら、また会うこともあるだろう!ハーッハッハッハッ!」
テーブルに投げた見取り図を手に立ち去るヒーローを余裕たっぷりの高笑いで見送って、奴の足音が聞えなくなって。さてさて、それから。

外に出て平和な街と直面したシルバーブリッツが、嘘を嘘と見抜く事にさしたる時間は要すまい。積み上げた嘘は一つの綻びから一気に崩壊する。
さあ、忙しくなるぞ。アジトの入り口は早急かつ厳重に封鎖せねばならない。対戦車銃を準備しよう。狙撃する場所は?タイミングは?時間は?

義眼を詰め急ぎベルグマン氏に扮した俺は、70年前から時間が止まったかのようにように真新しい対戦車銃を手に取る。懐かしさがこみ上げるが、過去に浸る暇は無い。
一般的なライフルに比べれば極めて長大であるからして、運搬時の規定通りに銃身と機関部に分割する。それぞれの部品だけでは鉄管部品のようにしか見えない。
分割した対戦車銃をゴルフバックに収めてしまい、ベルグマン氏がこれを担げば年齢相応に穏やかかつ豊かな老後を楽しむ男の出来上がりだ
羽織ったトレンチコートの内には油紙とカンバスで包まれた8mm対戦車銃弾を10発ほど忍ばせた。背広の内側には、愛用のルガーを。


大急ぎで廃工場まで登った頃には、シルバーブリッツの既に姿はなかった。そろそろ、奴は平和に気づき始めているだろう。
地下への入り口は手榴弾とワイヤーを利用したブービートラップを数箇所仕掛けた上で施錠し、さらに秘密の階段を設けた事務室は南京錠で3重に施錠した。
次は奴を探し、狙撃位置とタイミングを捉えなければならない。恐らく氷雨京一郎の発見自体は中々に容易だろう。
何せ探偵と呼ばれる輩は、公然と事務所を構え、また所長として名を広告するものだ。無論、偽名の可能性を考慮すべきだが、悪の大幹部としての直感がそれを否定した。
あれほどまでにヒーローらしいヒーローがニヒルな笑みを浮かべ、俺の嘘を見破りながら名乗った名だというのに、どうしてそれが嘘だろうか。
それらしい男はそれらしく振舞うものだ。あのタイミングで偽名を名乗るなど、ヒーローとして格好が付かない。ヒーローにはあり得ないアクションだ。
「シルバーブリッツ……いや、氷雨京一郎よ。首を洗って待っているが良い。すぐに血祭りにあげてやろう!ハーッハッハッハッハッ……」
こうしてベルグマン氏はまた一つ高笑いをあげ、人気の無い廃工場を後にするのだった。

【見取り図を渡し、対戦車銃を持ち、入り口を封鎖して、それからアジトの外へ】
【こっからしばらく街の中でアレコレですね】
85 : 忍法帖【Lv=12,xxxPT】 [sage] : 2011/10/12(水) 03:04:59.10 0
TRPGは楽しい雰囲気ですよねー!?♪。
86 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/10/16(日) 09:24:50.20 0
【うう、まだレスができない……もうちょっと待ってくださいねー】
87 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/10/19(水) 18:41:17.56 0
>>84
かくして俺は見取り図を手に入れ、念願の外に着いたぞ。
 
「……あれ?」
 
街に出た途端強烈な違和感を感じて、俺はすぐに変身を解く。
確か戦闘員が街を恐怖に陥れているはずと狼男は言っていたはずなんだが……。
 
一応街をそこら中見て回って指さし――はしないけど確認。
どう見ても街は平和です。本当にありがとうございました。
 
よく考えてみれば狼男――ゴル大佐の言葉には色々妙な所があった。
あの言葉がハッタリというか――嘘だと判断するのに、そう時間はかからずに済んだ。
 
なんだかんだで安堵の溜め息が漏れる。
と、同時に腰が抜けて、俺はへたりこんでしまった。
産まれて初めての命を賭けた死闘の前に、俺ともあろう者が恐怖していたのだろう。
しばらく動けそうにない。
 
さっさと事務所に戻らないといけないのに……と思いつつ。
 
【と言うわけでしばし街に待機状態で】
88 : 愉快な3人組 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/10/23(日) 16:37:40.15 0
>87
「あんた、氷雨京一郎?」
馴れ馴れしく肩を叩き京一郎を呼び止めたのはガラの悪い若者──ヤスオであった。文法の間違った英字Tシャツにパーカーという出で立ち。
ペンキを被ったようにわざとらしい橙色の髪の毛は、たっぷりのワックスでセットされ、まるで洗濯糊で固めたようだ。
恐らく本人は毎朝鏡の前でいかした髪型といかしたファッションの自分に酔いしれているに違いない。
「とっととやっちまおうぜヤスちゃん。俺もうダチに飯オゴるってメールしちゃったよ」
「でもあのジジイなんか言ってたべ?やる前に何か言えってよ」
さらに2人、同様にガラの悪い若者が続く。クッチャクチャと不愉快な音を撒き散らしガムを噛むトシヒコと腰巾着のツヨシだ。厄介事の雰囲気を感じた通行人が彼らを避け始める。
アメリカのいわゆるヒップホップ系ファッションを真似たらしいトシヒコはやたらサイズの大きな服を着て、何型とも例え難い奇抜な形のサングラスをかけてキャップを斜めに被っている。
無論彼は音楽的才能と無縁の星の元に生まれ、誰かを感動させるラップを披露した経験など一切無い。彼の音楽経験はソプラノリコーダーで途絶えたままだ。
一番背の低いツヨシはヤスオと似たような格好だが、スキンヘッドで唇と右の鼻の穴にピアスを通していた。いっとうおっかない外見とは裏腹に3人組で一番の頭脳派と呼ばれている。
何せ、彼だけが九九を暗唱出来るのだから。

──発端はほんの30分前。
「やぁ、君たちかな?このあたりで鳴らしてるっていうのは」
唐突に現れたいかにも金を持っていそうで、かつ人の良さそうな老人はまさに鴨が葱を背負ったような格好の獲物。本来なら愉快な3人組の臨時収入に化けるはずだった。
だが、その老人はまるで小銭を渡すように、ヤスオに札束を投げて渡した。傍目にも軽く100万はある。愉快な3人組は目を丸くして、生まれて初めて目にする100万の札束を凝視した。
コンクリートをステッキを突く堅い音で、彼らの注目は満足そうに微笑んだ老人に移る。
「軽く一仕事してくれればこれの倍、君ら全員に渡そう。悪くない話だと思うんだがね」

さて、ヤスオはパーカーのポケットに感じる札束の重みを感じつつ、老人の依頼を思い出そうとする。誰かをどうしろ。彼の脳から要点だけが出力される。
「ってか探偵とかマジ?実在すんの探偵って?殺人犯とか捕まえんの?洋館とかで?」
実際のところ、氷雨京一郎なんてのは誰だか知らない。誰でもいい。そう、話の要点はこうだ、『氷雨って探偵をボコボコにしろ』と。ボコボコ。自分達の唯一とも言える得意分野だ。
氷雨ってのはきっとこいつに違いない。気取った黒いコートに洒落たブレスレットと爺さんは言ってたはずだ。写真も見せられた。たぶんこいつだ。
「まああんたのことはどうでもいいんだけどさ……ヴェアヴォルフに反する者には死あるのみ……だっけ?意味わかんねぇ」
ヤスオは老人に命じられたとおりの台詞を口にすると、ポケットからバタフライナイフを引っ張り出し、柄を開いては閉じてと安っぽい威嚇をしてにいと口元をゆがめた。
それに続いてトシヒコとツヨシも同じバタフライナイフを取り出して柄を開く。いよいよ通行人達は関わるまいと足早に距離を取り始める。
「わかんねぇけどよ、なんかあんた殺さなきゃいけないらしいんだわ、俺ら」
ヤスオの言葉を皮切りに、3人はてんでバラバラの方向から京一郎に切りかかった。

エネミーデータ
名前:愉快な3人組(ヤスオ、トシヒコ、ツヨシ)
危険度:★☆☆☆
備考:ゴロツキ3人組。異能等は一切無し。3人ともバタフライナイフで武装。バカ。
89 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/10/23(日) 16:39:53.16 0
「全く醜い劣等どもめ、精々仕事に励んでくれよ」
手頃なビルの屋上から双眼鏡でバカ3人とヒーローのやり取りを眺める。隣には組立て終えて弾を込めた対戦車銃が寝そべっている。
ゴロツキをけしかけたと言えばまるでマフィアの手法だが、戦闘員による襲撃と言い換えたなら悪の大幹部たる倫理観にもどうにか認められよう。

あのバカ3人はきちんと言いつけを守るだろうか。
何の工夫も無く、立ち止まった氷雨を狙撃することは可能だった。傍目には奇襲の優位性を捨ててまで"戦闘員"を送るという選択が不可解に見えるかもしれない。
悪の大幹部とは往々にして非合理的なものなのだ。一見して意味の無い、無駄な、不利な、無数の決まり事の中で戦わなければならない。
変身前のヒーローに攻撃し、あまつさえ倒してしまうなど代表的なタブーだ。奴らがポーズを取って掛け声と共に変身する時、我々は一通りの演出全てを見守ろう。
奴が変身のポーズと名乗りから成るシーケンスを終えたなら、その瞬間に対戦車銃が火を吹く。いかにバカ3人と言えど、奴を変身させるだけの器量はあるはずだ。
それまでは文字通り、ここから高みの見物といこうじゃないか。

【さてさて、とりあえず雑魚キャラで繋ぎの戦闘を……】
【もう少し人が増えないかしら】
90 : ゴッドマン ◆IPFV9.sABY [sage] : 2011/10/28(金) 02:19:14.18 0
テンプレ

名前: ゴッドマン (仮の名前:マイケル・ダグラス)

職業: サラリーマン

勢力:正義(ヒーロー)

性別:男性

年齢:25

身長:185

体重:100

性格:公明正大

外見:(変身前)安物のスーツ、伊達眼鏡 、七三分け

外見2:(変身後の姿) 青と赤の派手なタイツ、赤のマント

特殊能力:驚異的な腕力、鋼の肉体、目からビームなどの超能力

備考:普段はうだつのあがらないサラリーマン。しかし、人々の
ピンチとなると颯爽と空より現れる。
そう、彼の名前は神の使い・ゴッドマンなのである!!
91 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/10/28(金) 19:38:22.00 0
>88>89
「ああ、俺が氷雨京一郎だ。フッ、俺も有名になっちまったな」
 
イカしたと言うよりもイカレたガキ共が、俺を呼び止める。
こんな連中でも俺の名を知っているとは、全く名探偵は辛いぜ。
 
などと自分に酔っていたら、こいつらいきなりバタフライナイフを出してきやがった。
どうやら名探偵というものは命の危険とも隣合わせらしい。
 
>「まああんたのことはどうでもいいんだけどさ……ヴェアヴォルフに反する者には死あるのみ……だっけ?意味わかんねぇ」
 
イカレたガキ共3人組はそんなことも言い出している。
どうやらゴル大佐に雇われた戦闘員……でいいんだろうか……?
 
ゴル大佐の組織、ヴェアヴォルフとはどれだけ人材不足なのか。
またなんだか大佐が可哀想になってきた。
 
こんな相手に変身したくはない。
しかし、バラバラの方向から切りかかって来られては、さすがに通常状態では対処しにくい。
 
とりあえず華麗なバックステッポでナイフを回避したが、お気に入りのコートが切り裂かれてしまう。
 
さらに襲いかかって来るガキ共。変身するしかないのか――?
【とりあえず回避専念】
 
>90
【はじめまして、ようこそゴッドマンさん!】
【早速ですが変身したがらない俺を助けるとかどうでしょう……大佐の意見も聞いておかないとですが】
92 : ゴッドマン ◆IPFV9.sABY [sage] : 2011/10/29(土) 04:11:47.10 0
摩天楼を行き交う人々の中で、人一倍肩幅の広い男がいた。
年の頃は、20代だろうか。安物のスーツと大きな眼鏡が間抜けさを演出している。
彼の名前は、マイケル・ダグラス。何の変哲も無い普通のサラリーマンである。

そう、普段は。
しかし、彼にはもう1つの顔がある。それが見える時、彼は超人となるのである!!
そう、彼の名前は!!

「「わかんねぇけどよ、なんかあんた殺さなきゃいけないらしいんだわ、俺ら」」

目の前では青年が何だか知らない3人に因縁を吹っかけている。
マイケルは周囲の人々を見るが、どうも関わりたくないように避けているようだ。
この街の人々は勇気すら見失ってしまったのか。マイケルは小さく深呼吸すると
男達へ向かって恐る恐る話しかけた。

「貴方達、暴力はよくないですよ。話し合いで解決すべきです。
不満があるのなら、私が聞きます。悩みがあるのなら!!」

病院のパンフレットを差し出しぎこちない笑みを浮かべる。
手には「これでスッキリ 便がドッサリと出る!!」と書かれた
パンフレットがあった。

「し、しまった。これは便秘のお客さん用だった。
・・・つ、つまり何を言いたいか。仲良くしましょう!!」

悪党に意味不明な説得をしながらマイケルは伊達眼鏡の
奥の目を光らせていた。
93 : 愉快な3人組 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/10/30(日) 20:18:06.48 0
>91
「おらおらっ、死ねやっ!」
ヤスオが引っ掛けた刃先でコートを裂くと、愉快な3人組は得意になって一層派手にナイフを振り回す。
とはいえ彼らのナイフが単なる飾りから脱却したのはこの襲撃が初めてだ。徐々に3人の足並みは乱れ、隙も目立ち始める。
ツヨシに至っては、最初から京一郎に刃先が届かないような一歩後ろで斬り付けるフリをしているだけなのだ。
「クソッ!」
奇抜なサングラス越しの真っ暗な視界の中で、トシヒコの振るう刃先は黒いコートを纏う京一郎を中々捕らえられない。
もちろんサングラスを外せばいいというのは「イケてないパンピー」の発想で、「ナウでヤングなイカした男」たる彼にそんな選択肢はない。
それ以前に彼の素晴らしい脳味噌はナイフが当らないこととサングラスの間に因果関係を見出せないのだが。
「大人しく殺されろよ探偵!」
トシヒコは悪態と共にガムを吐き出し、そして。
「ぶへぇっ!?…ってめぇ!舐めた事しやがって!」
そして、地面に張り付いたガムを踏みつけたヤスオが前のめりに転んだ。完全な自滅である。
ところがヤスオは何やら京一郎に攻撃されたものと思い込み、溢るる鼻血を拭いながら激昂した。トシヒコも自分のガムが悲劇の根源だと気づいていない。
いずれにせよ、この愉快な3人組は中々戦意を失いそうにない。

>92
>「貴方達、暴力はよくないですよ。話し合いで解決すべきです。不満があるのなら、私が聞きます。悩みがあるのなら!!」
思わぬところからの思わぬ言葉に、3人ともの関心は一旦京一郎から逸れた。まるで聖職者のように諍いに口を挟んだのは、どうにも冴えない男だった。
色褪せた背広と冴えないメガネに七三頭。彼らの言葉では「リーマンのオッサン」と分類され、弱々しいと捉えられがちな存在である。
「なんだオッサン。文句あんのか」
「俺らが誰か判って言ってんの?なに、死にたいの?」
鼻血塗れのヤスオが湧き上がる怒りのままに京一郎相手にナイフを振り回すのをよそに、トシヒコとツヨシは京一郎よりも勝ち目のありそうなサラリーマンへと絡み始めた。
>「し、しまった。これは便秘のお客さん用だった。・・・つ、つまり何を言いたいか。仲良くしましょう!!」
「……オッサンよぉ、舐めたことばっかしてっと殺しちゃうよ?」
もうガムは吐いたというのに空気を噛んで口をクチャクチャしながら、トシヒコはサラリーマンのネクタイを引っ張ってナイフを突きつけた。ツヨシはただニヤニヤして後ろに控えている。

>90
【はじめまして!地の果てへようこそ】
【この雑魚キャラはサービスだから、まず倒して落ち着いて欲しい】

【そういう訳ですからバカ3人組は煮るなり焼くなり捻るなり、お好きにどうぞ】
94 : 氷雨京一郎 ◆I22AdFfH4A [sage] : 2011/11/04(金) 18:41:42.23 0
【あうあう、遅くなりました! レス番は前後させていただきます】
>93
思った以上に、こいつらケンカ慣れしていない。
一時は変身しないとこの難局を乗り切れないのでは、と思ったが――。
そんなことはなかったぜ!
 
しかし反撃に転ずるチャンスまでは見いだせない。
あともうちょっとだけ鍛えておけば良かった、と今になって後悔する。
 
ヤツらの内のひとりは、勝手に自爆して、余計にこっちに悪意を向けてくる。
さてどうするか――。
 
>92
そんな所に助け(?)がやってきた。
至極真っ当な言葉をこの場で言える辺り、立派な人物なのだろう。
さらにその姿を見て、俺は名探偵のカンで理解する。
この男、ただものではない。
 
>「し、しまった。これは便秘のお客さん用だった。・・・つ、つまり何を言いたいか。仲良くしましょう!!」
 
少し天然入っているようだが……。
そして、ヤツらの注意はその男に向かってしまった。
 
いくらただものではないとは言え、これは俺の戦い、巻き込むわけにはいかない。
一瞬気が逸れただけで充分。反撃のチャンスは掴めた!
 
「どこを見ている! 俺はここだぁっ!」
 
丁寧に本来の敵の居場所を教えつつ、うまいことトシヒコが倒れてもマイケルにナイフが刺さらない様注意して蹴りを放つ。
本当は名前などわかっていないが、書いておかないと不便だ。
 
【ホント遅くなって申し訳ない! お2人とも健在でしょうか……?】
95 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/11/08(火) 00:30:46.93 0
【おるぞー】
【とりあえずもうちょっとゴッドマンさんの方待ってみてからレス対応するつもりです】
96 : ゴッドマン ◆IPFV9.sABY [sage] : 2011/11/15(火) 20:40:19.47 0
>>94
>「……オッサンよぉ、舐めたことばっかしてっと殺しちゃうよ?」

「え、あ…う。すみません、許してください!!」

おどおどした口調で逃げていくマイケル。
やがてマイケルの姿は路地の中へ消えていった。

97 : デッドマン ◆IPFV9.sABY [sage] : 2011/11/15(火) 20:46:51.26 0
マイケルが消えていって数分と経たない内に、闇の中から
声が聞こえ始める。
悪をあざ笑うかのような鴉の叫び声。

トシヒコの背中に冷たい風がなびく。背後には漆黒の怪人とも
呼べる男が立っていた。
まるで鴉を模したかのような、全身黒の異形の存在。
彼は、彼自身をデッドマンと呼んでいる。
デッドマンは驚異的な速度でトシヒコの脇腹にボディブローを数発叩き込むと
前蹴りで一気に吹き飛ばしてみせた。

「おい、お前達の他にも悪党がいるなら教えてやる。
俺はデッドマン。罪を憎み、悪を憎み、そして正義を憎む男だ。
死ぬのが、嫌ならば俺の事を伝えろ。そして恐怖するがいい。」



98 : 愉快な3人組 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/11/16(水) 19:07:43.71 0
>96
>「え、あ…う。すみません、許してください!!」
「おうおう、あんまりヒーローぶるんじゃねえぞオッサン!」
格好をつけて飛び込んできたリーマンのオッサンはこうして舞台を降りた。安っぽい勝利が愉快な3人組の心を満足させた。
残るは本来のターゲット、氷雨京一郎ただ一人だ。
>94
>「どこを見ている! 俺はここだぁっ!」
「あぁ?」
ドスを効かせて振り向いた瞬間、トシヒコの天地が逆転した。少し遅れてわき腹に鈍痛が走り、間も無く目前にアスファルトの地面が迫る。
ほんの数秒で何が出来るでもなく、当然のことながら顔面を強打。自慢のイカしたプラスチック製サングラスは粉々に砕け散った。
「へぁぁ……目が、目がぁ~!」
悪運強く失明は免れたが、細かい破片を直に受けた両目の激痛に耐えかね、トシヒコは喚きのた打ち回った。
落としたナイフを拾うことすらしない。何故なら目玉が痛いから。イカしたサングラスを失った事も理解していない。何故なら目玉が痛いから。とにかく目玉が痛いのだ。
先程から妙に静かだったツヨシに至っては、何時の間にか腰を抜かし「あわわ、あわわ」と声を出し震えながら失禁してしている始末だ。
「くっそ……なんだよ、なんなんだよ!あのジジイ、話が違うじゃねえかよ!」
悪態を付くヤスオの脳裏には老人の言葉が思い起こされる。「探偵を気取った時代遅れの優男をナイフで刺すだけの簡単な仕事」、と爺さんは言っていた。
それがどうだろう、HIPHOP生まれHIPHOP育ちのトシヒコがいとも簡単にやられてしまった。もしかして奴は特殊部隊とか傭兵とかそういう過去を持っているのではないか。
いずれにせよ只者ではない!
>97
京一郎と目が合い、ぞっと寒気が走る。心臓をつかまれたかのようだ。いや、待てよ。何かおかしい。何か……
>デッドマンは驚異的な速度でトシヒコの脇腹にボディブローを数発叩き込むと前蹴りで一気に吹き飛ばしてみせた。
そこで一旦、ヤスオの記憶は途絶える。全身に激痛を感じる間も無く気を失い蹴り飛ばされ、襤褸切れの絡まった枯木のように、ぐったりと冷たい地面に転がった。
パーカーのポケットからは、カラーコピーで作り出された偽札と新聞紙が成す札束が空しくこぼれ落ちた。
>「おい、お前達の他にも悪党がいるなら教えてやる」
デッドマンなる男の口上を聞いていたのは、ズボンをすっかり濡らしたツヨシと苦痛にのたうつトシヒコだ。2人とも誰かにそれを伝えるどころではない。

【ごめんなさい、デッドマンさんの攻撃先をちょっとだけ変えさせてくださいな】
【これでめでたく3人とも沈黙と相成りました。さてさて……】
99 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/11/16(水) 19:09:26.12 0
>91
歳を取るということ。それは年齢を重ねること。体力を失うこと。死に歩み寄ること。
そして、短気になるということ。
「Scheisse!」
双眼鏡の像が震え、唐突に祖国の言葉で老いた罵声が聞えた。それが自分の声で、また自分の手が怒りに震えているのだと気づくのに数秒要した。
何もかもがうまく回らない。まったくどうしようも無い劣等どもが。変身させるどころかスズメの涙ほどのダメージも与えぬまま駆逐されつつある。ウクライナ人だってもっとまともな仕事を成したというのに!
湧き上がる焦燥感が将校マントを羽織ったヒムラー長官に化けて、俺の頭の中で「とっとと殺せ」と叫び続けている。「親衛隊員たるもの些事に囚われず柔軟に任務を遂行せよ!」と。
無能3人と、老いた自分と、思い通りに回らない現実が、一層と脳内の長官を肥大化させてゆく。頚動脈の血流が勢いを増し、老いた心臓の周りが痛んできた。
悪の大幹部たる倫理観は未だ射撃を拒んでいるが、軍人たる価値観は長官と共に重みを増しつつある。これらを共に掛けた天秤は、いつまでも水平ではあるまい。

>92,>97
終わらない面倒事はさらに俺の心臓を苛む。
遠巻きに諍いを眺めていた大衆の中からやたら肩幅の広い男が一人歩み出てきた。
悪との戦いの最中に一般市民が紛れ込んできて、それを守る為にやむなく変身する……ヒーローと悪の戦いには欠かせない、まったく素晴らしいシチュエーションだ!
そう思ったのも束の間。背広男が引き下がり姿を消したかと思えば、間も無く漆黒の怪人が現れてバカの1人を蹴り飛ばしたのである。気づけば奴らは完全に駆逐されていた。
最高のシチュエーションは最低の面倒へ。正義とも悪ともつかない存在が、俺の期待を打ち砕いた。照準を氷雨から漆黒の怪人へと移し、3秒間息を整える。ようやく長官が静かになった。
まずは異物を抹消するのだ。物語が正しく回らないのなら、正しく回す努力をするまでだ。そうだ、とにかく誰かを殺しさえすれば長官は静かになる。俺も本来の仕事に戻れる。

まず銃口が光り、それから爆発音が響いた。放たれた8mm対戦車銃弾の弾頭は、有象無象に揺さぶられることもなく、まっすぐデッドマンの頭部へと向かった。
100 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/11/25(金) 23:24:29.82 O
101 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/12/14(水) 22:31:52.56 0
      ._
       \ヽ, ,、
        `''|/ノ
         .|
     _   |
     \`ヽ、|
      \, V
         `L,,_
         |ヽ、)  ,、
        /    ヽYノ
       /    r''ヽ、.|
      |     `ー-ヽ|ヮ
      |       `|
      ヽ、      |
  ──────----、  
  \  O        | 
 -=============、__|   
   | ─ 、ヽ--、 ヽ |  | 
   |  ・|::::::::::|  |___/ 
   |` - c`─ \  6 l  
.   ヽ (_lllllllll__ ヽ,-′ <心が折れてもうた……
     ヽ ___ /ヽ 
     / |/|゚\/ l ^ヽ 
     | |  |゚ ┌┐|  | 

┼ヽ  -|r‐、. レ |
d⌒) ./| _ノ  __ノ
102 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/12/15(木) 12:29:48.83 O
おお ゴル大佐 しんでしまうとは なさけない
103 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/12/25(日) 08:04:18.16 0
>102
      ._
       \ヽ, ,、
        `''|/ノ
         .|
     _   |
     \`ヽ、|
      \, V
         `L,,_
         |ヽ、)  ,、
        /    ヽYノ
       /    r''ヽ、.|
      |     `ー-ヽ|ヮ
      |       `|
      ヽ、      |
  ──────----、  
  \  O        | 
 -=============、__|   
   | ─ 、ヽ--、 ヽ |  | 
   |  ・|::::::::::|  |___/ 
   |` - c`─ \  6 l  
.   ヽ (_lllllllll__ ヽ,-′ <しかしどうしたものでしょうか王様
     ヽ ___ /ヽ       やはり人が居なければどうにもこうにも…
     / |/|゚\/ l ^ヽ 
     | |  |゚ ┌┐|  | 

104 : 氷雨京一郎[sage] : 2011/12/25(日) 08:45:32.98 0
ぐはぁ申し訳ない。
悩んでる内にしばらくPC使えないことになって今まで書き込めなかった……。
トリップも消えたし……。
 
まだ立ち直ってくださるならこれからどうするか相談しませんか?
本気でどうしたらいいかわからん……。
ごめんです……。
105 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/12/25(日) 08:47:58.67 0
  ──────----、  
  \  O        | 
 -=============、__|   
   | ─ 、ヽ--、 ヽ |  | 
   |  ・|::::::::::|  |___/ 
   |` - c`─ \  6 l  
.   ヽ (_lllllllll__ ヽ,-′ <よろしい、ならば戦争だ。
     ヽ ___ /ヽ 
     / |/|゚\/ l ^ヽ 
     | |  |゚ ┌┐|  | 

まあ元々死んだようなスレではありましたけれど、そういう訳で今後どうしましょう
106 : 氷雨京一郎[sage] : 2011/12/25(日) 08:54:41.87 0
おお、生き返ってくださってありがとうございます。
 
うーん……こっちはギリギリで変身間に合って、弾を防いで思いっきり吹っ飛ぶ、かな。
文章に起こすのにはもうちょい時間かかりそうですが。今日中に仕上げられることを祈りつつ……。
107 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2011/12/25(日) 09:08:25.32 0
ゴル大佐は滅びぬ、何度でも蘇るさ。ゴル大佐こそがどうのこうの…

ヤー、了解しました。それでは再びよろしくお願いしますです。
108 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2011/12/25(日) 09:20:04.91 0
【トリップ付け直しー】
 
>>99
突如、爆音が轟く。
俺の第六感が危機を察知し、咄嗟に変身ポーズを取らせた。
 
「癒着!」
 
適当に変身コールしてみると、あまりにアレな言葉が口から出てきてしまった。
くそ、カッコ悪い。
事務所に戻ったらちゃんとした変身コールを考えておかないと。
 
だが今はそんな場合じゃない。
まずは、第六感で察知した、こっちに飛来してくる銃弾をどうするか――。
 
なんて考えている内に銃弾は俺に直撃した。
なんとか急所を逸らすことはできたが、腹の辺りから思いっきり爆音を聞いて、俺は思いっきり吹っ飛んだ。
 
変身していなければ急所でなかろうが即死だった。
っていうか、変身した状態でもしばらくは動けない……。
 
【……書こうと思えばあっさり書けてしまうのね……サボタージュ本気で申し訳ない……】
【こんなんでどうでしょう、なんかその後の行動が必要であれば追記します】
109 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/12/27(火) 00:30:09.79 0
ゴル大佐くっさ
110 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/12/27(火) 00:30:47.68 0
氷雨京一郎の読みは、こおりあめきょういちろうでおK?
111 : ◆IgQe.tUQe6 : 2011/12/27(火) 00:30:57.87 0
s
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k
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112 : 愉快な3人組 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/01/01(日) 18:21:15.30 0
>108
銃声が響いた途端、集っていた野次馬達は悲鳴を上げて逃げ惑い始め、やがて一帯は混乱の坩堝となった。
何人かは吹っ飛び倒れたシルバーブリッツの上を飛び越えていく。続き放たれた2発目の銃弾は臥したシルバーブリッツの頭をほんの数センチ逸れてコンクリートを砕いた。
「おいっ!こっちだ!」
シルバーブリッツを引っ張り起こし、射線から逸らそうとしたのは、意外な事に頭脳派ことツヨシであった。
ズボンをすっかり濡らし不快なアンモニア臭を漂わせる男は、3発目の銃声が間近に響いたにも係わらず、ヒーローを狙撃者の目が届かぬであろうビルの陰へと避難させた。
そこにはヤスオとトシヒコが2人とも気絶してぐったりと横たわっていた。閉所にくるとツヨシのアンモニア臭が一層ときつい。
「し、知らなかったんだ。あんたがヒーローだって……てっきりヤクザか何かのこと嗅ぎ回った馬鹿な探偵だと……」
ツヨシ──澤田剛もまた、かつては無数の誰かと同様にヒーローへの憧れを抱いた少年であった。様々な人生経験を経ておっかない見てくれになった今も、心の奥底までは変わらない。
現在ぐったりしている2人の友人も似たようなものだ。ナイフを振りかざしたり、けちな暴力を振るってみせたところで、結局は強がろうと背伸びをしているに過ぎない。
「あの爺さん、きっと俺たちも殺す気なんだ……!あんたを殺し損ねたし──もう殺せるたぁ思っちゃ居ないが──金を払うってのも嘘だったし……クソッ!」
言いながら通りの様子を伺う。未だに悲鳴をあげる群集が走り、或いは物陰に飛び込み、或いは押し合い圧し合い、遠くから聞えるサイレンと共に混乱を作り出している。
狙撃手はこちらの位置を完全につかんでおり、今も照準器越しにヒーローが飛び出すのを待ち構えているに違いない。果たして敵は何処から狙っているのだろう。
また敵は一人なのだろうか。自分達のように雇われた連中が居るのではないか。いやそれ以前に狙撃手が複数居るかもしれない。もっと訓練された兵隊が居るかもしれない。
「……た、頼む!助けてくれ!あんたなら撃たれても死なないみたいだし……頼むよ、ヒーローだろ?」
無数に沸き起こる不安に苛まれたツヨシはアンモニア臭を漂わせ今にも泣き出しそうな情けない顔をして、名も知らぬヒーローに懇願するのであった。
113 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/01/01(日) 18:24:31.74 0
3発目を発砲した直後、俺は痕跡を消し屋上を去った。悪意を持った狙撃手は、ゴルフバッグを背負った再び豊かな老後を楽しむ男へ。
悪の作戦は失敗するものと相場が決まっているが、それは悪の大幹部たる倫理観に従った立案と遂行の元に失敗するからこそ、筋書き通りの名誉ある失敗と見なされるのだ。
俺はヒムラー長官に化けた短気の言葉に屈し、変身前のヒーローを撃ち、そして失敗した。誰の目にも極めて単純かつ稚拙な戦術上のミスと見なされる。これだから年寄りは嫌なんだ!
……対戦車銃は効果的な武器ではなかった。使い勝手が悪すぎるし結果的に威力不足だった。狙撃なんて戦術も、短気で気まぐれになった老人には適さない。もう長官の声は聞きたくない。
とはいえ招待したアジトから嘘をついて追い出した手前、ゴル大佐として再会するのも気まずい。ここはベルグマン氏を架空の幹部に仕立て上げ、別人として登場する他にあるまい。
幸いにも、顔と架空の人格だけはいくつでも用意できるのだ。

そういう訳で、ゴルフバッグを背負ったベルグマン氏改め大幹部『死神教授』は年齢に不相応な健脚で路地を駆け、先程まで照準器越しに眺めていた場所へと急いだ。
狙撃が生み出した見えない恐怖が連中を拘束している時間はそう長くあるまい。早く銃撃した場所に辿り付き捜索しなければならない。

【明けましておめでとうございます】
【うーん……何にも考えないで進めてきたせいで、どう進めるべきか判らなくなってきちゃった……】
114 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/01/10(火) 19:44:53.79 0
【うーん、もうちょいレスは待ってくだせー】
115 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/01/14(土) 09:28:46.69 0
>112-113
「ヒーローっつっても、なったばかしだけどな……」
 
荒い息を吐きながらも、俺を必死に助けてくれた3人組にそう言う。
 
「……ま、それでもヒーローはヒーローだ、あんたらも守らなきゃいかんわな」
 
まだ全身が痺れているが、俺は強がって立ち上がってみせた。
さてどうするか。俺は灰色の脳細胞を必死に働かせる。
ゴル大佐の目を思い出す。
あの目は、敵と見なしたものを必ず殺すという目だ。
そして、アイツにとっての敵は、恐らく今は俺ひとり。
ここにいる3人組もいずれは始末しようとするだろうが、優先順位はずっと下のはずだ。
 
「とりあえずアンタらはここから逃げろ。俺は側にいてやれねぇが、むしろその方が安心なはずだ」
「俺の推理じゃあ、ヤツはとにかく俺ひとりを殺すことを優先して、こっちに向かってくる」
「つまり今の所は、俺から離れた方が安全ってわけだ……」
 
ヒーローから離れることに不安を覚えたのか、3人組はモタモタしている。
しかし。
 
「……死にてぇのかっ!」
 
俺が一喝すると、むしろ俺に脅えて3人組は逃げていく。
逃げ去っていく3人組を見ながら、俺はぼやいた。
 
「……あ、ヒーロー名を名乗るの忘れた」
 
しかし、まぁいいさ。
俺を狙ったヤツがこっちに来てから、アイツらの分までもう一度名乗ってやる。
俺の推理はもう狙撃はないはずだ。
しかし念のためなんとか遮蔽を取り、弾丸の直撃だけはないように気をつけながら、俺は敵を待ち受ける。
 
【というわけで実は待機しかしてない……】
116 : 佐伯 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/01/21(土) 13:36:10.27 0
名前:佐伯 零次(さえき れいじ)
職業:お金持ち
勢力:ヴィラン
性別:男
年齢:20
身長:179
体重:68
性格:ややへたれ
外見:黒髪で黒いパンツに黒いコートと全身黒ずくめ。いかにも育ちが良さそうな端整な顔
外見2:漆黒のボディが特徴的な兎ヴィラン『マーチヘア』
特殊能力:しょっぱい重力制御。武器は双剣
備考:
代々世間をお騒がせするヴィラン一家の末っ子
両親や兄姉は優秀な「悪の組織の幹部」だが、本人は才能がないのか無所属のへたれ


【誰か生きてるかっ!?悪の卵のお通りだぞぉっ!?】
117 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/01/21(土) 15:20:15.69 0
【おー、生きてますよー】
【大佐は生きてるかなー?】
118 : 佐伯 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/01/22(日) 12:05:03.51 0
氷雨さん生きてたぁー。ゴル大佐を待ちつつ折角なので世界観的なものを試しに投下してみる


世の中には酷い悪党達がいる。
奴らは世界征服だとか、全人類家畜化だとか、とにかく悪に生き、悪を働き、悪の限りを尽くす。

そして生まれたのが『改造人間』。
非人道的手段で人体をぐちゃぐちゃにいじくり回して生み出された生体兵器。
普段は社会に溶け込んでこそいるが、悪の組織の命令一つで醜悪な怪人に変身し、人を襲う。
けれど改造人間という奴はリスクが高い。
改造手術を受けると結構な確率で拒絶反応を起こし死ぬ“不適合者”が出るのだ。
下っ端ならそりゃいくら死んでも構わないが───有能な幹部には不向きだった。

そこで開発されたのが『変身アイテム』。
装飾品や携帯端末型といった、様々な形をしたそれはボタンや変身コール一つで超人的な力を発揮できる。
コストが高く改造人間と違って変身しなければ力を発揮できないのが難点だが。


表にはない、裏独占の超技術をこれだけ持ち合わせてれば世界征服だって絵空事じゃない。
実際上手く行ってたんだ。人を攫い、洗脳し、兵士を増やし。着実に悪事を働いていた。
唯一の懸念は組織同士の抗争くらいだろう。

だがある時洗脳を逃れた改造人間が保管されていた変身アイテムを奪って脱走した。
当然そいつは始末されたが、お陰で大量のアイテムがある街にバラ撒かれてしまった。

やがて洗脳を逃れた改造人間や、アイテムを拾い正義のために戦う奴らを『ヒーロー』

悪の組織やアイテムを拾い悪事を働く奴らを、人は『ヴィラン』と呼んだ。


今、欲望渦巻くこの街でヒーローとヴィランの戦いが幕を開ける!
119 : 佐伯 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/01/22(日) 17:35:16.17 0
>>118は俺のチラ裏なんであまりお気になさらず……
120 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/01/25(水) 23:07:21.41 0
大佐が来ない……一応、土曜まで待つとして氷雨さんに提案

このまま大佐のFOが確定してしまったらスレを始めから立て直そうと思っとるんですがどうでしょう
今のままでもいいんですが設定決めて仕切りなおした方が新規参加が見込めそうでいいんじゃないかなと
OKなら日曜日辺りに世界観設定投下しますので!

あ、もちろん氷雨さんがキャラの設定を変える必要はないですよ
こっちが設定の擦りあわせしますので(テンプレは書き直しになるかもですが…)
121 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/01/26(木) 06:45:10.14 0
うーむー。
こっちも一度FOしてしまった身、土曜よりももう少し待ちたいですが……。
どれだけ待つかはともかく世界観は仕切りなおしてしまった方がいい気もしますね。
大佐も悩んでいたようですし。
 
あと、忙しかったりレスが浮かばないでも何日以内には生存報告だけでもしておくと言うルールをつけておいた方がいいかもです。
今更ですが……。
122 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/01/26(木) 15:39:21.47 O
忘れた頃にひょっこりやって来る
それがゴル大佐
123 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/01/26(木) 19:55:48.42 0
ヒャー、ごめんなさい!
ここしばらく些細なゴタゴタが続いておりまして……

実際のところ、ゼロから仕切りなおしっていうのは悪くないと思います。
そもそも現状の世界観ってのが>>3程度で、街の名前くらいしか決まってないのだし……

>>122
呼ばれて飛び出てどうのこうの…
124 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/01/26(木) 22:54:03.74 0
>>122
○日ルールは決めといた方がいいかもしれませんね

どういった理由でレスが浮かばないのかは分かりませんが、
ロールの仕方なら↓を参考にしてみるといいかも。もう見てるかもですが

http://www43.atwiki.jp/nanaitatrp/pages/71.html

自分もかなりお世話になりました。今もですけど

>>123
大佐戻ってきたー!そこに痺れる憧れるゥ!早とちりして申し訳ございません

今のとこ「ヒーローとヴィランが戦う」ってことぐらいしか分かりませんからね……
大まかな基本設定がある程度決まってた方が後で設定もごちゃつかないし、キャラ設定もしやすいし……
とりあえず日曜あたりに試しに投下してみようと思ってます
125 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/01/29(日) 22:37:58.14 0
舞台は20XX年、ヒーローとヴィランが跋扈する世界。
街では犯罪組織が氾濫し改造人間が毎日騒ぎ立てて暴れまわってる。
銀行にはしょっちゅう異能者で構成された強盗が突っ込んでくるし、ハイジャックでバスがフェードアウトは日常茶飯事だ。
警察はくその役にも立たない。正直言って税金の無駄遣いだと市民は息巻いてるね。

こうなった最大の原因、それはこの黒いダイヤに他ならない。
『霊石』と呼ばれるそいつは人間を特殊能力の備わった異形へと変身させてくれる。
元々普通の装飾品として宝石店に並んでたもんは、実は人様に厄介な超能力を与える石ころだったわけだ。
こいつが出回ったおかげで世界の治安と平和は右肩下がりの大暴落だ。

最近になってようやく霊石販売禁止の法案が施行されたが、それでも異能犯罪者は途絶えない。
裏で霊石を売り捌く奴なんて星の数ほどいるし、それを求める奴もまた星の数ほどいるからだ。

このご時勢誰も信用なんてできやしない。
自分と自分の大切なもんを守れるのは、結局自分だけだ。
他を守るヒーローとして生きるか、他を食らうヴィランとして生きるか───身の振り方は自由だが。




霊石:

人を異形へと「変身」させ異能を授ける力を秘めた石。
その対象は人間や動物にとどまらず、ときには無機物にまで及ぶ。
変身後の外見・能力は変身者の精神や本能が大きく反映されている。
そのため精神の変化に伴い、形態変化や能力の強化・減退も起こりうる。
また霊石は能力の源であるため所持している個数に比例してスペックも上昇する。


改造人間:

某世界的秘密結社が生み出した生体兵器とでも言うべき人間。
現在は霊石が発見され、改造の必要性が失われたため改造人間になる者は少なく
ヴィラン界隈では骨董品と揶揄されている。
126 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/01/29(日) 22:38:44.61 0
テンプレ

名前:
職業:
勢力:(ヒーロー/ヴィラン/中立)
性別:
年齢:
性格:
外見:
外見2:(変身後の外見)
武器:
能力:
通り名:(変身後の名前)
備考:
127 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/01/29(日) 22:48:19.38 0
以上、終わり

ヒーローの間口が広いので異能者と改造人間のみに限定してみました
あと外伝ということなので本家ヒーロースレから設定をお借りしました
ブレスレット=石のついた腕輪ということにしとけば氷雨さんの設定と矛盾しないと思います。きっとたぶんおそらく
しかし設定を借りたにも関わらず文章力がゴミレベルなのであの程度を書くのにすこぶる時間が……

おそらく説明不足ゆえ分からない部分があると思いますので質問があれば受付けます
後ここはこうしろカス、などがあればそれもよろしくお願いいたします
そして代案があれば是非お願いします。言いだしっぺにも関わらずやってみると色々酷いなぁと……
128 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/01/30(月) 01:33:26.44 O
無能力者がパワーアーマーで戦うとか、鍛えた肉体や特殊な武器を駆使して戦うとか
そういうバットマンやアイアンマン的なキャラで参加するのはNG?
129 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/01/30(月) 18:58:52.51 0
うい、とりあえずそれでいいかと思います。
あと復旧。
130 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/01/30(月) 23:18:45.94 0
>>128
パワードスーツで戦う、いわゆるアイアンマン的なのはなしの方向で行こうと思います
本家ヒーロースレのように悪意を植えつけられるってこともないので、誰でもお手軽に力をゲットできるのが霊石です
科学力もリアル準拠なのでパワードスーツを開発する下地がないんです
バットマンはグレーゾーンですが同様に基本なしですかね。逆にキック・アスなら大歓迎です

ヒーローとヴィランは基本「改造人間or霊石によって異能を得たやつら」限定という認識でお願いします

ちなみに霊石は無機物に影響するので
霊石をコアにすることでアシモを余裕でぶっちぎるスーパーロボットorアンドロイド爆誕ッ!みたいなのはOKです
131 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/01/30(月) 23:22:17.26 0
無機物に影響する、じゃなくて無機物にも影響を及ぶす

ですね……日本語が下手くそで申し訳ございません
132 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/02/01(水) 19:52:59.00 0
実は本家ヒーロースレって全然読んでないんですよね、てへ
後ほど改めてテンプレとか諸々書きにきますね
133 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/01(水) 22:44:19.65 0
ならば膝をついて過ごすしかなかろう…
134 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/02/02(木) 19:26:25.55 0
名前:氷雨京一郎
職業:貧乏私立探偵
勢力:ヒーロー
性別:男
年齢:24歳
身長:181cm
体重:66kg
性格:とにかくかっこよくなりたい、正義の味方のような活躍がしたいと思い、なるべくそう振る舞おうとする、精神的に幼い男。っていうか厨二?
外見:黒いコートに黒い帽子を被っている。ブレスレットを嵌めている。
外見2:白銀の鎧を纏った騎士のような姿・シルバーブリッツに変身する。
特殊能力:高速での移動、攻撃が可能。装甲は比較的薄い。しかし一撃では死なない程度にはある。
備考:正確には彼は二代目シルバーブリッツ。今は亡き師匠からブレスレットを受け継いでいる。
ブレスレットは実は霊石で出来ているが、今の所そのことは誰も知らない。
135 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/02/02(木) 19:26:42.32 0
こんなトコでしょうか。
136 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/02/02(木) 20:07:10.37 0
名前:ゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴル
職業:世界的秘密結社大幹部
勢力:悪
性別:男
年齢:外見は60才程度(実際には100歳以上)
身長:173cm
体重:71kg
性格:病的なほどに几帳面で神経質で反共主義者。ここ数年は外見相応の「口うるさく頑固な爺さん」になりつつある。
外見:(変身前)ナチ親衛隊の黒い軍服姿で腰にはルガーピストルのホルスター。右目に黒い眼帯。口髭。常に黒いステッキを手放さない。
外見2:(変身後の姿)怪人狼男。軍服姿のまま、頭部は狼そのものに。
特殊能力:改造手術以前から、まるで『別人が演じている』かの如く巧みな変装を特技とする。
ごく初期の改造人間であるため、変身後も「銃弾に耐えうる肉体」だとか「戦車を引っ繰り返す怪力」だとか、判りやすい能力のみを有する。
備考:元親衛隊大佐。かつて世界征服の一歩手前まで迫りながらもあるヒーローの手で滅ぼされた世界的秘密結社の残党を率いるかつての大幹部である。
親衛隊大佐と秘密結社大幹部という2つの肩書きに誇りを持っており、古臭いと揶揄されても「昔ながらのやり方」を変えようとしない。


さてさて、ちょっとだけ書き直しました。
導入とかもとっとと書いてしまった方がいいのかしら。
137 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/02(木) 23:51:46.98 0
スレ主の大佐から導入を書くのが適当かと……たぶん


と、その前に○日ルールを一応決めておきませんか?

早いとこで三日、遅いところで五日が基本ですが
ここは一週間くらいのペースっぽいので七日ルールで……
投下が不可能な場合は七日以内に事前報告ということでどうでしょう?
138 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/03(金) 00:17:17.64 0
あ、でも自分が最初に導入書いて舞台やらを設定しといた方が書きやすいかな?
お二人はどちらがよろしいですか?
139 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/02/04(土) 16:32:48.77 0
んー、せっかくなので◆PpgztMyCOAさんの導入を見てみたい気もあり。
ゴル大佐はどうでしょうか?
140 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/02/04(土) 18:01:38.47 0
そうですねえ。
折角ですし導入お願いしちゃってもいいですか
141 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/04(土) 20:20:06.48 0
では僭越ながら自分が導入を務めさせていただきます
投下は水曜あたりになるかと

ところで○日ルールについては、肯定と受け取ってよろしいので?
142 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/02/04(土) 20:29:45.88 0
あ、私は七日ルールで了解しました。
 
楽しみにしています。
143 : 伊坂 烽火 ◆JQ1Ms5LPLU [sage] : 2012/02/05(日) 00:06:34.53 0
名前:伊坂 烽火(イサカ ノロシ)
職業:インディーズバンドのボーカル
勢力:ヴィラン
性別:男
年齢:17
身長:174cm
体重:66kg
性格:刹那的で気分屋。
外見:(変身前)赤い皮のジャケットにダメージジーンズを履いた、逆立った赤髪の青年。
    指輪を二つ嵌めている。
外見2:(変身後の姿)肌が赤銅色へと変化し、髪は白くなる。
     両肩からは羽の様に常時炎が噴出している
特殊能力:発火及び、炎操作能力。炎は全身のどこからでも放出できるが、
     両手及び口から放つ炎が最も威力が高い。又、自身が出した炎以外も操作可能
     火力は、平均的なヒーローにそれなりのダメージを与えられる程度
     熱と冷気への耐性が高い
備考:壮大な目的や使命感からではなく、
   眼前の欲望と快楽の為に能力を行使する『信念無き邪悪(ヴィラン)』。

参加するにはこれでよろしいか!
144 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/02/05(日) 03:11:40.91 O
名前:影山 恭介
職業:フリーター
勢力:ヒーロー
性別:男性
年齢:28
身長:183m
体重:87㎏
性格:尊大で自分勝手、頭の出来はかなり悪いが勘は鋭い。割と面倒見はいい
外見1:胸元を大きく開けた赤いシャツ、黒地に白の縦縞スーツ、鋭角的なデザインのサングラス。やたらと目つきの悪いチンピラ風の青年
外見2:光沢のない黒いボディスーツに黒マント、烏の頭のような形をしたヘルメット
武器:影で作った剣や槍、巨大化させた拳や触手など
能力:影を実体化させ自在に操る。変身後のスーツや武器も影で作っている
基本的には自分の影を使って戦うが、周囲の影を操作、吸収することも可能
影の制御にはかなりの精神力と集中力を消耗するので、一度に操作できる影の量には限度がある
通り名:ブラックロウ
備考:元々はとある悪の組織のボスだったが、部下の裏切りによって組織から追放された
自分を裏切った部下への怒りが次第にヴィラン全体への怒りに拡大し、ついには鬱憤を晴らすためにヒーローを名乗ってヴィランをボコボコにするようになる
特に正義に目覚めたわけでも改心したわけでもなく、行動原理はあくまでも個人的な怒りによる八つ当たり



こんな感じでいいんですかね?
145 : 錐乃 優 ◆KtsLGCz5t. [sage] : 2012/02/05(日) 08:35:02.21 0
名前: 錐乃 優
職業: なんでも屋(犬の散歩から人殺しまで)
勢力: 中立
性別: 男
年齢: 26
性格: 気分屋ときどき狂気的
外見: 髑髏マークのライダースーツにジーンズ
銀髪オールバック、細見で三白眼
外見2:(変身後)骨の様な鎧で全身が覆われる。顔は髑髏そのもの。
武器: 普段はナイフや銃 変身後は脊椎を模した剣
能力: 見た目に反した厚い装甲、身体能力の強化
備考: 依頼があれば善悪関係なく差別なく受ける。が、達成するかはお金とやる気次第。
    なので依頼を出すのは余程の物好きか、よっぽど切羽詰った人物ばかり。

参加希望です。
146 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/05(日) 09:40:34.92 0
思わず開いたタブを間違えたかと思った……なんてこったい
新規の皆様よろしくお願いします!
147 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/08(水) 23:28:44.96 0
ぐぬぬ……水曜辺りに投下と宣言しましたが
私用が重なり明日に遅れそうです……真に申し訳ございません
148 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/09(木) 23:07:34.56 0
今や世界には有象無象のヒーロー・ヴィランが溢れ返っている。
それもこれも全ては霊石の出現に起因している。まさか知らないわけじゃないだろう。
持ち主の姿を変質・変貌させ、特殊能力を与えてくれる奇蹟の石のことだ。

艶かしい輝きを放つ黒いダイヤモンド。
科学的見地からも、人々も、それ以外にはなんら特徴のない宝石と。そう思い込んでいた。
ゆえにそれは世界へ───指輪として。ネックレスとして。イヤリングとして。
あらゆる装飾品に姿を変え『ただの宝石』としてショーケースに並んだ。
霊石の価値を知らず、そこらの宝石と同じ値札をつけてだ。
そうして人々の手に行き渡っちまえば後はごく自然の流れ。
石の力に気付いた人間は己の欲を満たすため異能を行使し、ヴィランへ堕落する。
名誉欲の強い人間やお節介な馬鹿はヒーローを自称しヴィランを止めるべく戦う。

最近じゃあ霊石売買禁止法が施行されたから流石に結婚指輪のお隣に並ぶことこそなくなったが。
人種・性別・性格・才能・学歴に関係なく力を授けてくれる霊石を欲しがる人間なんて星の数ほどいる。
需要があればそれを商売に利用しない人間なんていないだろ?……例え合法でないとしても。
裏のマーケットじゃ霊石は高額で売買され、挙句には霊石を奪い合って殺人が起こるケースもある。

もちろんヒーローやヴィラン………特にヴィランには改造人間がいるのを忘れちゃいけない。
けど霊石出現以前ならともかく今更リスクを背負ってまで体をいじくる物好きそうはいない。
肉体を改造することでようやく人を超えることができる時代は終わりを告げたのだ。
金さえ出せば誰でも簡単に人を超越した力が手に入る。今はそういう時代。
ゆえに正義と悪は入り乱れ、安全の二文字が最も信用できない言葉になったとも言える。

この鏡野市だって例外じゃない。
小奇麗な町並みのお陰か表面上こそ穏やかな地方都市だが、その無法地帯ぶりには頭が下がる。
誘拐、殺人、強盗、ヤクの密売、人身売買は当たり前。お隣さんが改造人間なんてよくある話だ。
それでも街が街として機能してるのはいわゆるヒーロー達のおかげに他ならない。
だからこそ国は霊石の売買を法律で禁止こそすれ、所持の禁止をしない側面もあるんだろうが。



───ともかくそんなご時勢だから、俺も昼間から銀行強盗の真っ最中だった。

「らびぃ!この銀行は『黒兎』のボスことマーチヘアー様が占拠したァッ!!!!
 そして俺達は銀行員を含めた10余名の人質をとっているっ!!
 人質の命が惜しかったら突入なんて考え起こさず大人しくしてるんだな!」

ごくありふれた銀行内で拡声器越しの声が木霊する。
だがそれを咎める者も、冷たい視線を送る者もいやしない。
いるのは無力で不運な人質と、銀行を包囲している警察官共だけだ。
俺は一箇所に集まった銀行員や一般人の周りをぐるっと一周し頭上の監視カメラをじっと睨みつけた。
壊そうかどうか逡巡したが、結局壊すのは止めた。
そちらの方がより切迫した空気を感じさせたり恐怖感を煽れると思ったからだ。

監視カメラを介して内部の様子を見ている警察共はきっと俺を怪人と形容するだろう。
今の俺はそう呼ばれても仕方ない容貌だ。
頭からはうさぎの如き耳が伸び、漆黒のボディに青いラインが走っている。
両腰に収まった一対の剣は切っ先が滑らかな曲線を描いて少し曲がっていた。
拡声器を持っていなければ完璧にクールな怪人黒ウサギだったに違いない。
……これは故意にやってるんだぞ。決して素でやってるんじゃない。

「マッドハッター、金は急いで積まなくていい。時間なんてあってないようなもんだからな」
149 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/09(木) 23:08:40.31 0
「マッドハッター、金は急いで積まなくていい。時間なんてあってないようなもんだからな」

手に持っていた拡声器を無造作に放り投げ、俺は右腕にして唯一の部下の名を呼んだ。

「…………」

マッドハッターは無言で首を縦に振り、無愛想に首肯した。
黒スーツに洒落た帽子を被ったのっぺらぼう怪人──マッドハッターも俺と同じく異形だった。
だから表情なんてないし無愛想もくそもないんだが。

だがまあヒーローとヴィランが掃いて捨てるほどいる時代、怪人など珍しくもなんともない。
銀行強盗が立て篭もり。警察は既に周囲を包囲し場は膠着状態に陥っている……というこの状況もそうだ。
霊石によって異能者が氾濫する前ならば話は違っていたのだろうが。
今時図太く生きなきゃ身が持たない。赤の他人を思いやる余裕なんてあるわけがない。
それに街には、世界にはヒーローがいる。
だからこそ市民はおろか警察でさえ心の何処かで安心しているのだ。
彼らがくればこの状況を打開してくれるに違いない。心配ない。大丈夫だと。
だが、それでは俺が困るのだ。

「あーあー、てすてす。今からこのマーチヘアー様の要求が始まる!ありがたく聞けよっ!!」

俺は再び拡声器を手に取り、外の警察共へ要求を突きつけるべく前置きを述べた。
奥の金庫ではマッドハッターが金庫を開けバッグにありったけの金を詰め込んでいた。
オペレーションカードだの警報ランプだの細かいことに頭を悩ませる必要はない。
膂力でロックをぶち破って片端から金を詰めていく。それだけだ。
そもそも警報ランプは既に点灯し、警察は銀行を完全に包囲しているじゃないか。

「何で銀行強盗なんざするのか……簡単だ!俺達は金が欲しい!だから奪う!明快だ!
 でもな、せっかく強盗して奪ったって持ち帰れないんじゃあ意味がないんだよなぁ!
 そ・こ・で!俺はお前らに要求する!人質を解放する代わりに車を用意し、俺達を黙って見逃すんだ!
 今から1時間待ってやる。返答がなければ1時間ごとに人質を一人ずつ殺して行く!良い返答期待してるぞ!」

要求を言い終えるとぶつんと拡声器のスイッチを切り、アンダースローで再び床へ放り投げた。
俺はちらと人質に一瞥くれた。人質達は運悪く居合わせた客と、銀行員で構成されている。
皆一様にハンチング帽やらニット帽やら──とにかく帽子を被り、“銃を構えて”突っ立っていた。
全てはマッドハッターの能力によるものだった。端的に言ってしまえば洗脳だ。
守るべき人質はヴィランの忠実な兵士。ヒーロー達はさぞ戦い難かろう。

「さあて……ここまでお膳立てしてやったんだ。ヒーロー共には是非来て貰わないとな」

どかっと受付のカウンターに前屈みで座り、暇を持て余した足をぷらぷらと動かした。
他人様の命がかかるとなれば無論ヒーローは動いてくる。
金が欲しいから強盗したと言ったがありゃ嘘だ。嘘は泥棒の始まり?いや、もう泥棒だ。とびっきりの。
すなわちヒーローか、ついでにヴィランがこの騒ぎに乗ってくること。それこそが俺達の真の狙いなのだ。
150 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/09(木) 23:10:34.67 0
【銀行の外】


「ヴィランが銀行内に立て篭もりねぇ……また妙だな」

犯人の要求から既に30分が経過した頃、警部補の一人が眉を寄せた。
理由はヴィランの行動にある。
警部補にとって──いやほとんどの警官が感じていることだが──腑に落ちない点が多くあるのだ。

前提として、犯人はまず間違いなくヴィランである。
誤解を招く恐れがあるため定義をはっきりさせておくが、ヴィランとは『改造人間及び異能者』のことだ。
彼らはそれぞれが拳銃で武装した無能力者数十名を制圧できる力を持ち、当然警察如きでは対処できない存在だ。

そんな彼らが、チンタラと銀行内に立て篭もる必要が何処にあるというのだ?
金が欲しいなら片端から金を詰め込み、追っ手の警察を片付けた後で堂々と逃げればいい。
立て篭もりやわざわざ人質を取って車を用意させるなどという回りくどい行為は、そう。
ヴィランが行うにあたって不自然な行動なのである。

むしろ自身にとっての天敵……つまりヒーローが駆けつける余計な時間を与えてしまうだけだ。
お祭り好きの馬鹿なヴィランが仕事の邪魔をしにくる可能性だって否めない。
とすればむしろ強盗はただの手段に過ぎず、目的は別にあると見るべきなのだ。

「黒兎って犯罪組織は市内じゃ聞いたこともねえが……新興組織か?」

「かも知れませんね……大事を取って『何でも屋』辺りに応援を頼みますか?」

色々とクサい相手だが人質を殺すと宣言されたからには立場上黙ってはいられない。
ヴィランが相手の場合ヒーローを待つか、霊石持ちの便利屋に仕事を依頼するのが警察の定石だった。
このあくまで民間人に頼る姿勢こそ警察が税金泥棒と揶揄される所以なのだが。

「どっかの探偵が事件のにおいを嗅ぎつけて現れるかも知れねえぜ。
 とはいえ時間まで30分を切った以上、黙ってるわけにはいかねえか……」

警部補は申し訳程度の機動隊に一瞥くれた後で大きく溜息をついた。
ヴィラン達の目的が何にしろ無力な警察ができる事は一つ。
ただ、ヒーローの登場を祈りながら待つことだけだ。


【怪人2名が銀行に立て篭もる事件発生!】
【導入ついでに顔合わせのイベントを用意してみたのでかるーくお参加下さいまし】
【散々待たせて本当、すいませんでした】
151 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/09(木) 23:11:36.83 0
名前:月見零次
職業:悪の組織
勢力:ヴィラン
性別:男
年齢:20
性格:ややへたれ
外見:黒マント黒スーツ。育ちが良さそうな端整な顔
外見2:兎のような外見。全身黒で青いラインが走っている
武器:両腰に一対の剣
能力:重力操作
通り名:マーチヘアー
備考:
犯罪組織『黒兎』のボス。謳い文句は「最強最悪の組織」。
だがその実体は部下一人の弱小、いや新興組織で最悪と月と太陽ほどの距離がある。
家族は全員ヴィランか元ヴィランで月見より優秀


名前:帽子屋
職業:悪の組織
勢力:ヴィラン
性別:男
年齢:25
性格:命令に忠実
外見:ロングコートにソフト帽を被った大男
外見2:お洒落な帽子に黒スーツの顔なし怪人
武器:なし
能力:
帽子型アンテナを人間の頭に貼り付けることで支配・洗脳できる
アンテナの見た目は帽子という括りであれば自在
通り名:マッドハッター
備考:
犯罪組織『黒兎』唯一のメンバー。本名不詳。
直接の戦闘能力は低いためもっぱら雑用係に徹している。
152 : 錐乃 優 ◆KtsLGCz5t. [sage] : 2012/02/10(金) 00:22:42.97 0
「お寒い時代だねぇ、俺の爺ちゃんがガキだった頃ぁ、警察っていやぁヒーローの代名詞だったもんだけどよぉ。
 今じゃどうだい? ヒーローとヴィランのバーゲンセールのせいでヘタレの代名詞だぁ、悲しいねぇ」

独り言を零し煙草を燻らせながら、ゆっくりとした足取りで機動隊の間をすり抜ける。
髑髏マークのライダージャケット、傷んだジーンズ、使い古した黒の革靴。
いつもの服装に身を包んだ俺は、機動隊入り乱れる銀行の前にいた。

俺がここにいる理由はなんてこたぁない。楽しそうな『お祭り騒ぎ』がおこっているから。
お陰で事務所は誰もいないもぬけの殻、今頃電話が喧しく鳴り響いてることだろう。

未だ俺の存在に気付いていない警部補さんに一歩近づく。

「いよぅ、今日のパレードの様子はどうだい警部補さん? 盛り上がってるぅ? 大盛況って感じだねぇ?」

今の時代、銀行強盗なんてその辺にいるガキにだってできるお手軽な金稼ぎ。
だからこんな事件は珍しくもない、クソ面白くもない『日常茶飯事』な出来事だ。

俺は馴れ馴れしく、警部補の肩に腕を絡ませる。

「でさぁ、警部補さんよぉ今日って俺の出番ある? てかありそう?
 あるんならお金よろしくぅ。額と気分次第で引き受けっからさぁ」

そして俺の俺による俺の為の、いつものクソ面白くもない『ビジネス』の時間だ。

【どうぞ、よろしくお願いします】
153 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/02/10(金) 18:57:15.65 0
「探偵、氷雨京一郎は、まさしく事件現場に吹きつけた一陣の風だった……」
 
モノローグをわざわざ口に出して言うと、俺はバイクをその場に止めた。
俺の名は氷雨京一郎(ひさめ・きょういちろう)。
巷ではシルバーブリッツ、と呼ぶ奴もいるらしい。
 
「しっかし、よく言うもんだぜ、事件が先か名探偵が先か、ってな」
 
お気に入りの黒いソフト帽を眼深に被り、俺はそう呟いてバイクから降りる。
降りる、その仕草だけで颯爽とコートが翻る。
うん、実にカッコイイ。
思わず、「フッ……」と溜め息が漏れる程だった。
 
……なんでそのカッコよさを誰もわかってくれないのか。
そこどころか何故周囲から呆れた目で見られているのだろうか。
まぁいい、気にしない。
 
俺は顔見知りの警部補にダンディに歩み寄ろうとして、足を止める。
直接会ったことはないが、あの格好は……噂に聞くなんでも屋か。
 
「へい、ベイビィ。正義の味方なら、無償で戦うもんだぜ?」
 
気障ったらしく、噂のなんでも屋に指を突きつけて、言ってみせる。
その後俺は、警部補……チョーさんに問いかけてみた。
 
「それからチョーさん、事件の様子はどうよ?」
 
俺はこの事件を解決しなくてはならない、正義のために。
俺はそんな俺のことをとてもカッコイイと思う。
 
【よろしくお願いします】
【いきなり錐乃氏に喧嘩腰でごめんなさいです】
【そして警部補に勝手に愛称をつけてみた】
154 : 名無しになりきれ : 2012/02/11(土) 02:25:20.68 0
age
155 : 錐乃 優 ◆KtsLGCz5t. [sage] : 2012/02/11(土) 23:05:32.42 0
>「へい、ベイビィ。正義の味方なら、無償で戦うもんだぜ?」

「……あぁ?」

 後ろから突如として響いたその声に、俺はダルそうに首だけ後ろを振り返る。
 そこには誰が見たって100%ダセェというに違いない恰好をした男がいた。

>「それからチョーさん、事件の様子はどうよ?」

 そしてそのダセェ男は無遠慮に警部補に話しかける。

「おいおーい、何だぁ? 今日は仮装パーティーだっけかぁ? え? イカす格好だな兄ちゃんよぉ」

 こんなのまで、ヒーローになれるってんだから本当にお寒い時代だ。
 一体どうなっちまうのかねー、世の中って奴はよう。

 自分の事は棚に上げて取りあえず嘆いてみる。

「あーあー大変素敵な格好だよホント。
 だがな兄ちゃんよぉ、来るとこ間違ってねぇかおい? 残念だがここはお子様が来ていいパーティー会場じゃねぇ。
 それになぁ、俺は正義の味方じゃねぇんだ。慈善事業で人助けられるほどボランティア精神に狂ってるわけじゃねぇんだよ」

 咥えた煙草を地面に吐き捨てる。

「あとよぉ? ちゃぁんと人を見て挑発しろよな。そーいう挑発はなぁ、明らかな格下に使うもんだ、なぁ『ベイビィ』?」


【氷雨さん、こちらこそケンカ腰で申し訳ないです。後よろしくお願いします】
156 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/13(月) 23:52:17.99 0
【大佐、伊坂さん、影山さん大丈夫っすか?】
【どう絡めばいいのか掴みかねてるなら導入さえ頂ければ絡みに行きますよー】
【レスするのに少し日がかかりますのでお二人とももう少し待ってくださいね】
157 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/02/14(火) 02:47:46.08 0
──我々を「時代遅れの年寄り」と呼ぶものがいる。実に結構。
ヒーローと悪者……かつて誰もが憧れ、また恐れた肩書きは、忌むべき品物として金銭で取引される。我々が縋った大義や名誉には霞ほどの価値も残らなかった。
まったく嫌になる。大義が為に行為は名誉となり、名誉があってこそ相応しい肩書きが送られる。それが正しい物事の在り方だ。今は全てが間違っている、全て、全て……


元石油企業役員の資産家、クリスティアン・フォン・ベルグマン氏はくたびれたトレンチコート姿で杖を突き、警官隊の更に外側から銀行を取り囲む野次馬に紛れ込んでいた。
この老人が70年前からやってきた亡霊であろうなどと、40年前からやってきた悪者であろうなどと、幾度と世界を脅かした男であろうなどと、果たして誰が想像するだろう。
秘密結社ヴェアヴォルフ大幹部ゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴル大佐。それがベルグマン氏の内に潜む真の姿、即ち俺の名と肩書きである。
「戦い方を知らんのか、あいつらは」
威厳を喪失し指をくわえて悪者を見守る勇敢な警察官諸子には是非ともワルシャワでのやり方を教授したいものだ。見よ、彼らのなんと情けないことか!
銀行に立て篭もった異能者達が、例えば105mm榴弾を叩き込まれ、火炎放射器で周囲の酸素を焼き払われ肺を炙られても苦痛を感じないほどに頑丈だとは考えにくい。
徹底した厳格な対処を一度でも見せ付ければ抵抗は激減する。その為に治安当局はいくらかの犠牲を覚悟し、持ちうる限りの戦力を一点に注ぎ込まなければならない。
何、『人質を取られているから動けない』だって?下らんな、敗北主義者の醜い言い訳だ。「犠牲を伴わぬ勝利などない」というのが戦時中の上官の口癖だった。

こうした情けない法の番人に失望と怒りを覚える一方、悪の組織を名乗る犯人グループの非効率的な犯行手法には懐かしさすら覚えた。今日日珍しい、我々と同じやり方だ。
派手な登場に派手な台詞、そして名乗りを上げ顔を晒す。即ちこの事件は古臭い西部劇の一幕と同様、事態を見守る観客を意識した一種のオペラなのだ。
恐らく金庫の金など欲していまい。台本通りに物語を盛り上げ、次なる役者を舞台に引き摺り込もうとしている。その先に何を望むのかまでは未だ窺い知れないが。

いつの時代も、目前で起きた大事件は小市民各位の退屈な日常を塗り替える愉快な見世物だ。野次馬の誰もが期待と不安を内に秘めて事態の推移を見守っている。
決定的瞬間の目撃者になるべく事件に神経を集中させている彼らの背後で、一人の老人が電話ボックスに消えたことを気に留めた者などおるまい。
硬貨を投入しダイヤルした先はもちろん事件の現場となっている銀行だ。犯人グループとコンタクトを取る事が主目的だが、警察側が密かに傍受してくれれば尚良い。
何のことはない、単なる年寄りの気まぐれである。古臭い悪人の一人として、少しばかり同業者のオペラに協力してやろうと思い立ったまでだ。

【ひぃごめんなさい。すっかり遅くなってしまった……】
158 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/02/14(火) 19:55:35.06 O
「……気に入らねぇ、気に入らねぇぞ畜生」

イライラと独り言を呟きながら、ポケットに両手を突っ込み、肩を怒らせて道のド真ん中を堂々と歩く
服はいつもの縦縞スーツに赤シャツ、トレードマークのグラサンに咥えタバコ
そんな俺様の外見と雰囲気に恐れをなしたのか、通行人どもは俺様から目を逸らし、道の端に寄ってそそくさとすれ違っていく
俺様の名前は影山恭介。泣く子も黙る悪の秘密結社、シャドウルーラーの大首領……だった男だ

「あそこで止めとけば今頃は……今日はツイてると思ったのによぉ畜生!」

ついに怒りが頂点に達した俺様は、たまたま視界に入った電柱を全力で蹴り飛ばす
何でこんなに苛ついてるかって? パチンコで大負けしたんだよ畜生!

「ったく……明日からどうやって生活しろってんだ、金なんて全部使っちまったぞ畜生!」

昔は金なんて腐るほどあったってのに、今じゃ今日の飯代にも困るようなザマだ
我ながら情けないが、無い物は無いんだから仕方ない

「あぁ畜生、こうなったら適当にその辺の銀行でも襲うか?」

冗談半分、本気半分にそんなことを呟きながら、何気なく銀行に向かう道を進んでみる
まぁとりあえずアレだ、実際にやるかどうかはともかく、まずは下見だけしておこう

「……あぁ? なんだ、先客かよ?」

銀行を襲おうか襲うまいか軽く本気で悩みながら歩いていると、何やら機動隊の姿が目に入った
どうやら銀行を襲った連中が、人質を取って中に立て籠もって粘っているらしい
俺様ならとっとと金だけ奪ってさっさと逃げるが、犯人はよっぽどの馬鹿かノロマなんだろうな
そうじゃなけりゃ……何か別に欲しい物かやりたいことでもあるとかか?

「まぁ俺様にはどうでもいいこったな、それよりも……」

銀行強盗か、ストレス発散には丁度いいサンドバッグだ
人様が汗水垂らして真面目に働いて稼いだ金を横からかっさらい、その上人質を取って立て籠もるような連中
そんな馬鹿野郎をいくら殴ろうが、文句を言うのは殴られる本人だけだ

「やっぱ今の俺様は、強盗よりもヴィランいじめの方が楽しいみてぇだな畜生」

この時点でもう、銀行強盗を決行するかどうかなんて悩みは完全に頭の中から吹っ飛んでいた
そんなことよりも今は、あの銀行の中にいる馬鹿野郎どもをぶちのめしたくて仕方がない
指の骨と首の骨をコキコキと小気味よく鳴らしながら、ゆっくりと銀行に歩み寄る

「オラオラ邪魔だ邪魔だ、さっさとどけってんだ馬鹿野郎!」

邪魔な機動隊どもを押しのけ、ケツを蹴っ飛ばし、怒鳴り散らしながら歩を進める
そうして暫く進んでいくと、今度は明らかに警察には見えない野郎の姿が見えた
一人はガラの悪そうな髑髏のライダージャケット野郎、もう一人はキザったらしい帽子野郎
こういう場所にいる警察以外の人間、そんなもんはヒーローに決まってる
だが、まぁ警官だろうがヒーローだろうが俺様には関係ない、邪魔な奴はどかすだけだ

「テメェらも邪魔だオラ、中に入らねぇならとっととどきやがれ!」

サングラス越しにガンを飛ばしながら、ドスを効かせた声で怒鳴りつける
そこらの一般人なら裸足で逃げ出すレベルの威圧感のはずだが、ヒーロー相手に通用するかは……まぁ五分五分ってとこか



【参加が遅れてしまってすみません】
【よろしくお願いします】
159 : 伊坂 烽火 ◆JQ1Ms5LPLU [sage] : 2012/02/15(水) 23:01:35.58 0

かつて悪とは明瞭な物であった。
人々の眼前に災害が如く現れ、破壊と暴力と謀略を以て、日常を破壊するものであった。
そして、悪に脅かされた者達の中からいずれ力在る者が現れ――――滅ぼされるものでもあった。

そう。かつてのヴィランが齎した悪とは、圧倒的でこそあれ、
その力に屈する事なき精神を持つ者であれば、立ち向かう事が出来るものであったのだ。

……

都市西部。閑静な住宅街に、真新しい一軒屋があった。
赤い屋根の白壁の家。
小さいながら丁寧に手入れされた庭には美しい花々が溢れ、芝生に置かれた子供用のブランコとクマの人形が、
見るものに平穏な日々と暖かい家庭を想像させる。そんな一軒屋だった。
そして、事実そのイメージは間違っていなかった。

この家に住むのは、幼稚園に入ったばかりの可愛らしい女の子と、
その父親である、豪快で男らしい子煩悩なサラリーマンの男性。
少し太めだが、優しく愛嬌のある教師の母親の三人。

家族仲はとても良好で、休日はいつも全員で遊びに出かけるような、理想的な家族だった。
親族も友人も近所の住人達も彼らの幸福な未来を疑っていなかったし、恐らくは本人達もそう考えていただろう

……

茶色い染みの付いたカーテンで日光の遮られた薄暗い室内。
そこはまるで暴徒でも踏み込んだような有様だった。
電源の付いたテレビを除いた家電や調度品は無残に破壊されており、壁紙には無数の穴が開いていた。
スナック菓子の袋などが床に捨てられており、壁に飾ってあった小さな子供が
画用紙に書いた絵は、気味の悪い汚れを拭き取ったかの様な有様でゴミ箱に捨てられている。

そんな荒れ果てた、空気が停滞したかの様な室内。
その部屋のドアが開かれた。

入ってきたのは男性だった。筋肉質な体格。
いかにも豪快であるといった風貌の、しかし憔悴した瞳の男性。
そう……それは、この家の、幸福な家庭の大黒柱の姿だった。
彼の服は、赤い染みの様な模様がべっとりと付いており、手には小さな袋を持っている。
その彼が荒れ果てた室内の奥に向けて声を荒げながら袋を投げると――――

「よう!マジでやってくるなんてやるじゃん!パネェぜおっさん!」

声がした。この荒れ果てた室内には似つかわしくない陽気な調子の声。
家の主によって投げられた袋は、声の発生源……ソファーから伸びた腕によって、見事にキャッチされた。

見ればそこには、この家の主人ではない男がいた。
ソファーに寝そべりスナック菓子を食う、赤皮のジャケットに赤い髪の、青年といってもいい年齢の男。
男は投げ渡された袋の中身を確認すると、興奮した様子を見せる。

「おおっ!すげー本物だぜ!いやー、このサインボール欲しかったんだよ!
 この家の隣の奴が持ってるって聞いたんだけど死んでも手放さないって聞かなくてサー……ナイスだぜおっさん!」
160 : 伊坂 烽火 ◆JQ1Ms5LPLU [sage] : 2012/02/15(水) 23:03:00.35 0
嬉々とした様子の赤髪の青年に、家の主は切羽詰った様子で畳み掛けるように話しかける。
そんな男に赤髪の青年はとたんに面倒くさそうな表情になると、キッチンを指差す。

「あー、はいはい。あんたの嫁とガキならそこの床に転がってるぜ。
 大丈夫、まだ無事さ。あんたは俺との約束通りこれを手に入れてきた。
 だから俺も約束は守る。俺は約束を破った事は一度も無いんだゼ!」

赤髪の青年の声を聞いた男は、慌てて、それでも何処か安堵した様子で台所へと駆け寄る。
自分の手がどれだけ汚れようと守りたいと願った家族だ。
どんな形であれ再会出来ればそれでいい。その為に●人の罪まで犯したのだ。
だから――――

(床に落ちた無数の注射針と白い粉。ズタズタに引き裂かれた、
 平均的な成人女性程の大きさの真っ赤な肉塊。泡を吹く、腕に無数の注射跡のある子供の死体)

だからその光景を見た時、この家の主は余りの絶望的光景に声すら出ずに叫んだ。
そして、そんな男の背後から声がする。それは、いつの間にか真後ろに立っていた赤髪の青年の声。

「ぎゃはははは!!なーんちゃって!!『ドッキリ』でしたああああ!!!!
 びっくりした?びっくりしちゃった!?殺人なんて最低な事してまで助けたかった家族が!
 無事助けられたと思った家族が!『実はもう既に死んでいました☆』なんて思いもしなかっただろ!?」

男は怒りすら通り越した絶望にその膝を屈する。
赤髪の男は腹を抱えて笑いながら、続ける。

「いやー、やっぱ俺ってスゲーエンターティナーだよなっ!
 それに嘘付かない奴なんていないって簡単な嘘を信じさせるなんてトークの才能もマックス!
 ……あ、ちなみにあんたの嫁殺したのは俺が薬打ちまくってラリったあんたの娘な!!」

そんな赤髪の青年の言葉に、絶望に伏していた父親がとうとう激昂する。
憎しみによって絶望に染まった身体を突き動かし、青年を殺そうと拳を振るい……

「おいおい、これ以上罪を重ねんなよ……死んだあんたの家族が泣いてるぜ?
 という訳で、俺判決。罪を償う為におっさん死刑な。バイバイきん!!」
161 : 伊坂 烽火 ◆JQ1Ms5LPLU [sage] : 2012/02/15(水) 23:03:52.23 0
だが、その拳すらも青年に届く事はなかった。
赤い髪の青年が掌を向け放った炎で、一瞬にして男の上半身は消し炭となったからだ。

放った炎はそのまま真新しい家の壁に燃え移り、広がっていく。禍々しく燃え広がっていく。
青年はどこかすっきりした表情で伸びをすると、未だ映っているテレビの画面に視線を走らす。

「ん?……おおっ!なんだこれ、俺の行き付けの店の近くの銀行じゃん!
 銀行強盗なんて悪ぃ奴がいんなー!面白そうだから見に行ってみるか!!」

まるで近所での火事を見た子供のように興奮した様子の青年は、炭となった男の頭を踏み砕くと、
のうのうと家の外へと出ていった。その背後では、一軒家が燃えている。

「あ。そういや、サインボール忘れてたぜ。
 ま、いいけどな。ちょっと眺めたら満足出来たし」

――――――


「おーおー!いいねいいねー!こういう騒がしいの嫌いじゃねぇぜ!もっとやれー!!」

銀行に集まった野次馬の中に、赤い髪の青年『伊坂 烽火』はいた。
彼の眼前では、今まさに犯行が行われている最中。
その犯行を見学している市民達の中に紛れた伊坂は、
まるで一般人の野次馬の様に、ヘラヘラと笑いながら犯行の写真を撮影していた。

眼前ではヒーロー、もしくはヴィランなのだろう。
立ち振る舞いが明らかに普通の野次馬とは異なる者達が何人かいたが、
伊坂がそれを気に留める様子も無い。
そういった意味で、この場において伊坂というヴィランは気味が悪い程に自然体であった。
モラル無き若者。その言葉に相応しい行動を見せる伊坂は、現時点で動く様子を見せる事は無かった。
何故ならば、彼はこの現場に興味本位で来ただけだからだ。
利益も物欲も向ける先の無いこのイベントにおいては、
正義の真似事などするつもりもなければ、ヴィランの自己顕示に付き合うつもりも無い。
ただ、見世物を見るかの様に場面の展開を眺めている。

【遅くなりました!そして長くなりました!さらに胸糞な文章になりました!すみません!!】
162 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/17(金) 22:58:55.34 0
【報告:土日中に投下しますんで皆様もうしばらくお待ちください!】
163 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/02/19(日) 21:11:20.45 O
【あと3時間弱】
164 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/19(日) 22:45:06.51 0
>「いよぅ、今日のパレードの様子はどうだい警部補さん? 盛り上がってるぅ? 大盛況って感じだねぇ?」

気が付いたのは声を掛けられた時だった。
派手な髑髏マークのライダージャケットを見れば誰かは容易に分かる。
錐乃優。──件の『便利屋を営む異能者』の一人だった。

「……お前、何でよりによってこいつを呼んだんだ?もっとマシなのがいるだろ」

「呼んでませんよ……勝手に来たんです」

面倒な相手の登場に警部補は顔を顰め、部下はやれやれとばかりに肩を竦めた。
気分屋な性格で、請け負った仕事を平気で投げ出すわ態度悪いわで評判はめっぽうよろしくない。
ゆえに確実性を求める警察が錐乃に何かを依頼するケースは滅多になかった。

>「でさぁ、警部補さんよぉ今日って俺の出番ある? てかありそう?
> あるんならお金よろしくぅ。額と気分次第で引き受けっからさぁ」

友達のように馴れ馴れしく肩に腕を絡ませてくる錐乃に警部補は再び顔を顰める。
鬱陶しそうに腕を振り解くと、しっしっと追い払うような仕草を見せて答えた。

「肩を組むな肩を。……むかつくがお前の出番はありそうだよ、今すぐにでもな。
 ああ、額は言い値で構わん。払うのは俺じゃなく警察なんでな。……ただ、あまりふざけた額を言うなよ」

恐ろしく気分屋の錐乃だ。額は自分で決めさせた方が事はスムーズに運ぶだろう。
とはいえ先程のようにダベリ感覚で一億!などと言われては敵わないのでクギは刺しておいたが。

>「探偵、氷雨京一郎は、まさしく事件現場に吹きつけた一陣の風だった……」

やにわに錐乃と警部補の前に一台のバイクが止まった。
モノローグをご丁寧にも口頭で述べながら現れたのは黒いコートを羽織った高身長の男。
バイクから降りると気障ったらしくコートが翻り、フッ……と溜息を漏らす。
名は氷雨京一郎。この鏡野市で私立探偵をやっている男だ。

「はぁ………」

警部補は呆れた調子で溜息を零し、軽く頭を掻いた。
何故こうロクでもない人間ばかりがこの事件に関わるんだろうか。
警部補とて二人の実力は認めている。が、二人の性格に難があるのも認めている。

>「へい、ベイビィ。正義の味方なら、無償で戦うもんだぜ?」
>「……あぁ?」

無償で戦うから貧乏なんだろ、と喉まで出かかったが慌てて飲み込んだ。
両者の間から漂う険悪な空気がそれを許さなかった。

「オーケーオーケー、時間がねえんだ。喧嘩はそこまでにしてもらう。
 ここはパーティー会場でもなけりゃデパートのヒーローショーでもねえ。事件現場なんだからな」

嘲笑たっぷりの余韻あるベイビィ?までしっかり聞き終えると、警部補はようやく口を開いた。
デカいガキの面倒を何故俺が見にゃならんのだ?と心の中で吐き捨てて。
……本当に氷雨と錐乃に事件を任せてもいいのだろうか。
警部補もといチョーさんから不安が消えることは遂になかった。
165 : ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/19(日) 22:45:37.49 0
ひと悶着終えチョーさんは事件の説明に移った。
永い間突っ立って足が疲れたのかパトカーに寄りかかると、手帳をぺらぺらと開く。

「事件内容は見ての通り銀行強盗だ。
 犯人は二名で両方とも異能者と思われる。監視カメラに映像が残ってた」

手帳のページを一枚捲ってチョーさんは更に言葉を続ける。

「犯人は現在人質を取って銀行内に立て篭もり、逃走用の車を要求している。
 1時間以内に返答がなければ人質を一人ずつ殺していくそうだ。気張れよ京一郎」

手帳を閉じると、左手の腕時計をちらりと確認した。
要求からは既に40分が経過していた。だがもう時間を気にする必要はないだろう。

「そこでお前達にやってもらいたいのは第一に人質の救出。第二に犯人の逮捕。
 ………ただしヴィラン共は異能で人質を兵士化してるらしい。
 あの窓際で銃持って突っ立ってる奴らがそうだ。うっかり殺すんじゃねえぞ錐乃。
 当然犯人もだ、死んでちゃパクれねえんでな。オーダーさえ守ってくれれば方法については問わない」

概説を一通り終え、肝要の突入方法を話そうとしたその時だった。
明らかにこの場に不相応な恰好をした男────
どう贔屓目に見たってヤ○ザ風味の男が機動隊を押し退けてやってきたのだ。

>「テメェらも邪魔だオラ、中に入らねぇならとっととどきやがれ!」

男は錐乃や氷雨にガンを飛ばし品性をド忘れした言葉で怒声を飛ばす。
蚊帳の外で、チョーさんは勝手に現場に踏み込んでくる男を怪訝そうな顔で見つめた。
それと同時に一般人一人抑えられない無能な部下に心底辟易した。
態度の悪いヒーローか?それともヴィランか?もしくは分を弁えられない一般人?
答えは判然としないが、今はこちらに関わっている暇などない。

「そうかい、悪いね兄ちゃん。銀行強盗観賞ならオペラグラス忘れんじゃねえぞ。じゃあな」

二人の肩をバン!と思い切り叩いて二人を引き摺るように連れて行く。
氷雨はともかく錐乃は何をしでかすやら分からない。
その闘争心の矛先を犯人へ向けてやるために、チョーさんは有無を言わさずその場を離れた。
バリケードテープを潜って銀行の裏手に着くとチョーさんは軽く咳払いした。
視線を二人から逸らすと、その先には少しだけ錆びついた扉があった。

「邪魔が入ったが……突入は勝手口を押さえてある。
 正面は流石にちと危ねえからな。まあ俺の余計なお節介とでも思っとけ」

チョーさんの部下が勝手口の扉を開錠するとギギィという貧乏臭い錆びた音が鳴った。
奥は当然銀行内へと続きヴィランいる場所へと繋がっている。
或いはこれから始まる物語の熾烈な戦いに身を投じる、という意味で扉を潜るのかも知れない。

「吉報をよろしく頼むぜ。───健闘を祈る」
166 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/19(日) 22:47:18.45 0
要求から40分ほどが経過した頃、端的に言ってしまえば俺は暇だった。
警察は接触も突入もせずジッと外で銀行を睨みつけたままだ。
いっそのこと外の警察官をいたぶればヒーローも急いで駆けつけてくれるかも知れない。
奴ら、いつもは呼吸ピッタリでやって来る癖にこういうときは来やしねえ。
だが俺がこれ以上退屈な時間を過ごす必要はなくなりそうだった。
受付窓口に置かれた電話が静寂な銀行内を一色に染め上げたからである。
受話器を雑に取り、腰に収めた剣の刀身をなぞりながら余裕たっぷりに応えた。

「……用件は?気違いのお茶会にご参加でも?」

どうせ警察相手だろうと冗談めかしたが、どうやら違うらしい。
電話越しに伝わる雰囲気───とでも言うのだろうか。
俺の決して多くはないボキャブラリで表現するなら、老練という言葉が最も相応しい。

「…………協力、ねえ。あんたも随分酔狂だな。まあこっちには断る理由なんてねえけどさ」

相手の申し入れに些か不信感を覚えながらぼそりと呟いた。
時折勘違いする馬鹿がいるので断っておくがヴィラン同士は決して仲良しこよしって訳じゃない。
むしろ組織同士の抗争は絶えず、ヴィランは対立しがちなものだ。
だからこそ提案をあっさり呑むようなことをしてはならない。相手の腹が見えない内は。

「……分かった、その申し入れ乗った。所属組織は?あと名前」

とはいえこれから鏡野市で活動するにあたって友好的なヴィランとパイプを作っておくのはやぶさかじゃない。
少なくとも今の内は良い関係を築いておいて損はないはずだ。
抗争が絶えないからこそ、こういう貴重な関係は馬鹿にならないのだ。

「今から銀行の外に俺の部下と使い捨ての駒を送る。
 あんたはそいつらと派手に暴れてショーを盛り上げてくれ。頼んだぜ」

それと忘れてた、と俺はもったいぶった態度で言葉を付け足した。
受話器を左手に持ち替えて右手で手元のファイルをぱらぱら捲った。

「外にゃ少なくとも二人は異能者がいるらしい。今確認した。
 私は馬鹿でございって顔した幸の薄そうなヤクザ男と、ガキみてーにはしゃいでる赤髪だ
 何か仕掛けてくるかも知れないし、一応マークしておいた方がいいかもな」

何でこんな事知ってるかって?
そりゃ俺が事前に情報屋からこの街で有名なヴィラン・ヒーローの情報を仕入れといたからだ。
『金の鍵』っていう男で、オークションで美人女二人を落札して数日後腹上死寸前で発見された阿呆だ。
話が逸れた。まあいい。
通話を終えて受話器を後ろへ放り投げると、俺は指で銀行の外をくいと示した。
マッドハッターは無言で頷き何人かの武装済みの人質を連れて外へ向かっていった。
折角だ。野次馬達にも楽しいお茶会に参加してもらうとしよう。
167 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/19(日) 22:48:16.95 0
【銀行内→氷雨、錐乃】

一行は勝手口から銀行に侵入した。
立て篭もりの最中にも関わらず静寂を保っている屋内は二人に違和感を覚えさせるだろう。
待っていましたと言わんばかりの──そう、陳腐な例えだが蜘蛛の巣に引っ掛かったような違和を。
侵入した銀行内は短い通路が続いた後、三つの道に分かれていた。
右手にはトイレ、左手には上階へ行く階段、少し奥へ行って正面はヴィランのいる受付窓口へ繋がっている。
警部補の情報通りなら上階やトイレに人質が捕らわれていることはないはずだった。
何故ならその全員がヴィランに操られ、使い捨ての兵士と化しているのだから。

カシャッとかチャキッという擬態語が似つかわしいであろう音が二人に届く。
ある程度戦い慣れている二人ならばそれが遊底(スライド)を引いた音だというのが分かるだろう。
音源は左右。即ちトイレと、階段から。
直後、軍隊のソレのようにぴったりとした足並みで現れたのは二人組の男女だった。
どちらも奇抜なハンチング帽を被り、またどちらにも拳銃が握られていた。
服装からして運悪く銀行に居た一般人だろう。
彼らが「操られた人質」であるのに疑問の余地はなかった。
人質達は虚ろな目で、なんら躊躇もなく二人へ銃口を向けたまま引き鉄を引いた。
二度。三度。四度。幾度なく引き鉄が引かれ、遊底は何度も反動で後方へ滑り空の薬莢が排出される。

侵入して数分早速何発もの弾丸が氷雨と錐乃の頭めがけて飛来した。
だが幸いにして通路はこれといった遮蔽物こそないが、戦うには十分な広さある。
二人ならばなんら問題ないはずだ。たぶん。きっと。おそらく。
168 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/19(日) 22:50:55.62 0
【銀行前→ゴル大佐、影山、伊坂】

張り巡らされたバリケードテープの後ろで野次馬が騒ぐ中、銀行の外は未だ張り詰めた空気だった。
機動隊は防弾盾を構えたまま最前線で銀行の入り口をじっ睨みつけている。

変化は突然だった。
銀行の自動ドアは何事もなく開き、姿を現したのは一人の怪人。
怪人にはその寡黙で表情の乏しさを象徴するように顔がなかった。
警官一同は固唾を飲んでヴィランの動向を窺った。
いや、窺ったというには語弊があるかも知れない。正確には「どうすればいいのか分からなかった」だろう。
銀行に立て篭もり要求を告げながら、返答を待たずしてヴィランは手ぶらで外へ出てきたのだ。
突拍子のない行動に警官達は素直に「降参」と受け取っていいのか判断しかねたのである。
もし素直にそう受け取って攻撃でもされたら──と思うと、ただ黙って犯人を見ていることしか出来なかったのだ。
ヒーローの存在に頼りきり、ただ形式上存在するだけの警察は恐ろしいほど烏合の衆だった。

帽子を被ったヴィランが機動隊の目の前で動きを止めると、続いて自動ドアが開いた。
ぞろぞろとドアを潜り軍隊のソレの如く統制された動きで警官達の目に映ったのは他ならぬ人質達。
彼らは機械的にヴィランの後ろに横一列で並び、焦点の合ってない目で「何処か」を見つめている。
人質は銀行員と銀行の利用者で構成され、人数はざっと十数人はいるだろう。
そして、人質達は全員何かしらの帽子を被せられていた。

(人質の解放…………か?)

警官達に駆け巡ったのは甘く、浅慮な考え。
しかしそれは即座に打ち砕かれることになる。
全員が一様にマシンガンを構え、あろう事かその銃口を野次馬や警察へ向けたのだ。

「逃げろぉぉぉぉーーーーーーッッッ!!!」

何処かの警官が叫んだのを皮切りにマシンガンが勢いよく弾を吐き出した。
一番前で対岸の火事と言わんばかりに見物していた人々は当然弾丸の餌食になった。
うぶっとかおうっとか気色の悪い声を上げてばたばた呆気なく倒れていった。
嫌な死に方だし、もちろん誰だってこうなりたくはない。けれどそれが彼らの最期の言葉で最期の瞬間なわけだ。
もちろん頭を撃ち抜かれて即死し脳漿を地面に垂れ流す人間もいれば、腕や足に弾が当たっただけで済んだ幸運な人間もいる。
人ごみの中で無様ったらしく倒れて、痛いよ痛いよと涙を流しながら傷口を押さえてだ。
飛び火した火事は見物人に燃え広がり、更に大きな猛火と化していく。
この世界で一般人が一秒でも長生きしたくば、危うきに近寄らないことだ。諸君らが君子であることを祈る。

バリケードテープの外と内。とどのつまり安全と危険の境界は、現時点を以って失われた。
甲高い悲鳴が上がり、騒ぎ立てていた野次馬は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
我先にと人を押し退け恥も外聞捨て去って逃げ惑う様はキレたヴィランには堪らないシチュエーションだろう。
残念ながら野次馬や警察にマシンガンを掃射する人質には感情や意思などなかったが。
そして操っているマッドハッターさえ、ただ下った命令を忠実にこなしているだけでそんな嗜好はなかった。

「ボサッとしてんじゃねえぞ!機動隊は民間人を守れ!盾持ってねえ奴らは避難誘導と怪我人の保護、急げ!」

氷雨と錐乃を見送りようやっと戻ったチョーさんの怒声が銀行前に響いた。
呆然と、あるいは緩慢だった警官達は我に帰り、訓練通りの素早い動きで与えられた指示通りに動き出した。
とはいえそれで操られた人質の攻撃が止むわけではない。
人質は影山や伊坂にも銃口を向け、マシンガンを発射する!



【人数が多いので二ルートに分割させて頂きました】
【文章読み難くてごめんなさい。文章ヘタクソで意味不なとこあったら教えてくだしい】

【氷雨、錐乃→洗脳された人質達と遭遇。発砲される】
【ゴル大佐、伊坂、影山→銀行の外でマッドハッター率いる人質達が暴れる】
【洗脳人質に関しては決定リール、ワンターンキル有りです】
169 : 錐乃 優 ◆KtsLGCz5t. [sage] : 2012/02/21(火) 23:11:06.53 0
 警部補からの依頼を至極簡単に纏めるとこうだ。人質と犯人殺さずに確保。
 いいねぇいいねぇ、俺大好き、そういうシンプルな依頼。しかも金は言い値でよいときた、いやぁ太っ腹だねぇ。
 市民から税金泥棒何ちゃら言われてるけどそーいう金払いの良い警察チャン大好きよ俺ぁ。
 あー、いい、凄くいい感じにやる気出てきたねぇ、隣のベイビィがいなきゃもっといいんだけどねぇ。
 と、良い感じに上がって来たテンションに水を差すように部外者からの言葉が放たれた。

>「テメェらも邪魔だオラ、中に入らねぇならとっととどきやがれ!」

 グラサンにスーツ、果ては悪趣味な赤シャツという『いかにも』な男。

>「そうかい、悪いね兄ちゃん。銀行強盗観賞ならオペラグラス忘れんじゃねえぞ。じゃあな」

 反射的に「あぁ?」と言葉を吐き出しそうになったが、その気配を察したのか即座に警部補はその言葉を一蹴し俺とベイビィを引き摺って行く。
 腐って警察なだけにその力は強く、そのままずるずると引っ張られていく。
 まあ、もともと大して反抗する気も無いから、抵抗もしていないが。
 その引き摺られた体制のまま俺は先ほどの男に対し、舌を出して、右手の中指を立てる。
 大した意味はない、どーでもいい、本当にどーでもいい挑発みたいなもんだ。

 警部補に引き摺られた行った先には錆びついた扉、ご丁寧に勝手口を押さえてくれていたようだ。
 錆びついた耳障りな音と共にその扉は開かれる。ビジネスタイムのスタートだ。

>「吉報をよろしく頼むぜ。───健闘を祈る」

 その言葉を背に受けつつ、適当な速さで歩を進める。
 屋内は異常なほどに静まり返っていた。この静けさなら100mで針が落ちても聞き取れそうだ。
 
「静か過ぎやしねぇかおい」

 そう何となしに呟いた時だ、遊底を引く独特の音が響き渡る。
 無論、腰のベルトに差してある俺の相棒が勝手泣き出したわけでもなければ、お隣のベイビィが鳴らした訳でもない。
 と、なると残る選択肢は……通路の先、だねぇ。

 トイレと階段、左右から良く飼い馴らされた軍の犬よろしく現れたのは2人組の男女。
 奇妙なハンチング帽に自動拳銃、そして彼らは虚ろな目をしたまま俺達に向けて引鉄を絞った。

 超高速で放たれる鉛玉が、何回も頭を殴るかのように叩き、その衝撃が頭蓋を揺らす度に赤いソレが飛び散った。
 ただし、飛び散った赤いソレは液体ではない。物体同士が強い衝撃でぶつかった時に放出される火花だ。
170 : 錐乃 優 ◆KtsLGCz5t. [sage] : 2012/02/21(火) 23:14:06.54 0
 おいおい、なんだぁ? いきなり撃ってきてくれちゃってよぉ。痛ぇじゃねぇかおい。

 本来、皮膚と筋肉の下にあるはずの灰色の骨、それが俺の身体を覆っている。
 フルフェイスのヘルメットよろしく覆われたその顔は髑髏。その髑髏には無数の罅が入っていた。
 肥大化した肋骨に胸骨、背骨、大腿骨、人体内に内包されているの全ての骨格が外骨格となり俺の身体を守っていた。
 自身の意思により、瞬時に身体を覆い発動される防御骨格。俺の頭のスイッチが入った証だ。

「おいおいすげぇよ! おい見たかよベイビィ、へい見てたかよベイビィ! アイツ等撃ってきたぜぇ! 
 撃たれちゃあしょうがねぇよ、そりゃあしょうがねぇ! しょうがねぇよそりゃあよぅ! そりゃあ戦争だろうがぁよ!」

 横でハチの巣になってるかもしれないベイビィを確認することなく、俺は笑いながら叫ぶ。
 そして、防御骨格が発動すると同時にその手に握られた背骨を模した剣を勢いよくブン投げた。
 能力発動と共に強化された腕力で投げられたその剣は、女の腕を付け根から『ちぎり』落す。
 響き渡るソプラノの惨叫、クズ肉となれ果てた腕の付け根は壊れた蛇口の如く赤黒い粘つく液体を撒き散らす。
 だがそれでも女は銃を拾おうと芋虫のように蠢きもがく。俺はそれを見て髑髏の中で口に笑みを浮かべた。

 男からのアクションが無いところを見るとベイビィがなんとかしてるんだろう。だからこっちは俺がなんとかしなきゃあなぁ。

「殺しはしねぇ、一応命令だぁ。だがなぁ、まぁ、アレだ」

 そう言いながら女の背中を左足で踏みつけ、右足でまだ健在な方の腕を踏み砕く。
 肉が潰れ、骨が砕ける音が足に伝わる。2度目のソプラノの惨叫が銀行内に響き渡った。

「代償ってもんは支払わなきゃいけねぇなぁ。そう思うだろぉ? 姉ちゃんよぉ? 俺ぁは頭撃たれてんだ、死んでもおかしくねぇ。
 でも俺って紳士だろぉ? 優しいだろぉ? だから腕2本で済ませてやんよぉ。感謝しろよなぁ?」

 先ほどの惨叫を最後に意識を失った女にそう告げると、足をどかし変身を解除する。
 さぁてぇ、ベイビィの調子はいかがかなぁ、っとぉ。

【皆様、よろしくお願いします】
171 : 月見 ◆PpgztMyCOA [お節介焼きのスピードワゴン sage] : 2012/02/25(土) 23:35:16.82 0
【杞憂かも知れませんが氷雨さんレスに行き詰ってたりします?】
【もしそうなら自分如きでよければ相談に乗りますよー】
172 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/02/25(土) 23:56:46.64 0
【おおう、心配かけて申し訳ない、明日投下する予定です】
【なんとか出来ると思う……です】
173 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/02/26(日) 00:15:53.13 0
>>171
【何故みんな書き込んでないのに氷雨だけに?ひょっとして専用避難所があってそこで相談してる?】
174 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/02/26(日) 04:14:01.40 O
順番的に次は氷雨のターンだからじゃね?
175 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/02/26(日) 09:04:08.87 0
何だか俺の周りには妙に挑発的な野郎ばっかりが揃ってきやがる。
まともなのは俺とチョーさんくらいだ。
 
気に入らないが、いちいち相手しちゃあ始まらねぇ。
俺は大仰に肩を竦めてやれやれと首を振るだけで、そいつらに応じた。
なんてダンディかつ紳士的な対応なんだ。
 
と、自分の世界に浸ろうとしていた矢先に、俺はチョーさんに引っ張られて銀行に乗り込むことになった。
 
そして俺は、例の「何でも屋」と一緒に銀行に乗り込む羽目になった。
突入した矢先に、2人組の男女が俺たちに銃を向け、発砲してくる。
名探偵の俺は、彼らが操られているのを看破した。
なるべく無傷でなんとかしないといかんな。
 
銃弾がこっちに届く前の超一瞬でそれだけの名推理と決断を下すと、ブレスレットを起動させる。
「瞬着!」
変身するのにその必要はないが、変身コールはしておかねばならない。
 
そうやって俺は、銀色の鎧に身を包んだ戦士、シルバーブリッツへと変身した。
 
>「おいおいすげぇよ! おい見たかよベイビィ、へい見てたかよベイビィ! アイツ等撃ってきたぜぇ! 
>撃たれちゃあしょうがねぇよ、そりゃあしょうがねぇ! しょうがねぇよそりゃあよぅ! そりゃあ戦争だろうがぁよ!」
 
何でも屋のそんなうるさい台詞に、「仕事はクールにやるモンだぜ」とだけ返すと、俺はそのまま超スピードで弾丸を回避する。
俺はレディを傷つけるわけにはいかねぇな、と判断した。
その判断の結果、俺はそのまま一瞬で男の方に駆け、あっさりと背後に回る。
そして、トン、と軽く男の首筋にチョップを繰り出す。
それだけでもヒーローの一撃だ。男はそれで見事映画が漫画のように気絶した。
優雅に決まったモンだぜ。
 
その結果を見てまた自分の世界に浸ろうとした矢先に、レディの叫びが俺の世界を破壊した。
 
そっちに目をやると、「何でも屋」のせいでレディが、両腕ぶっ潰されてた。
 
「……気に食わねぇな」
 
ただそれだけ、「何でも屋」に向けて言い放ってやる。
できることなら今すぐブチのめしてやりたいところだった。
だが、今はそんな場合じゃない。
 
「とっとと奥に行って、事件の真犯人をブチのめそうぜ」
 
「何でも屋」に俺はそう提案した。
この事件の首謀者に、この怒りはぶつけてやるとしよう。
半ば八つ当たりに近いが――。
 
【こないなモンでどうでしょー】
176 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/26(日) 09:56:11.39 0
>>173
いや、もしかしたら錐乃さんの残虐ファイトのリアクション困ってるかも?(錐乃さんが悪いってことじゃないっすよ)と思いまして
最初にTRPG初めて的なこと言ってたし……ひょっとすると?みたいな
つっても日数的にまだまだ余裕あったし自分が心配性になりすぎたってだけっすね!
浅慮でした、申し訳ございません。次からは気をつけます

避難所とかは特にないです……よね?
でも今や六人もいるし避難所とかあった方がいいのかな?
177 : 忍法帖【Lv=12,xxxPT】 [sage] : 2012/02/26(日) 10:27:56.59 O
スペースサイクロンスタータイフーンユニバースフォースブリザードですの。
178 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/02/28(火) 02:04:58.33 0
179 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/02/29(水) 02:51:24.91 0
>「……用件は?気違いのお茶会にご参加でも?」
「そうだ、急な参加で恐縮だが……どの道、招待状を用意するような上品なパーティでもあるまい」
気だるげな冗談は、拡声器を通して響き渡った声明と同じ声で聞えた。声明では「マーチヘアー様」だとか何とかと名乗っていたか。
舞台の上で金目当てのケチなこそ泥を演じる謎の怪人ウサギ男だ。
「手短に話そうか。我々には協力の用意がある。人手も物資も都合出来る。……ああ、なに、心配するな。分け前に与ろうなどと浅ましい考えはない」
>「…………協力、ねえ。あんたも随分酔狂だな。まあこっちには断る理由なんてねえけどさ」
若い声──俺に比べれば人類の大半は若いのだ──は、訝しげに応じる。最近は会話すら成り立たぬ悪党も多いが、なるほど人並みの頭と警戒心は持つ男らしい。
ウサギ男が唐突な電話と唐突な提案を訝しむのも当然だ。今日の悪党が備える常識に照らし合わせれば、わざわざ電話連絡などする時点で疑わしいことこの上ない。
「この街には伊達と酔狂で動き礼節を重んじる"古臭い連中"が未だに生き残っておるのだ。この申し出は年寄りの気まぐれとでも思っていてくれ」
忘れられた軍隊と化した我々の目的は「思い出させる事」に他ならない。我らの名を叫び、恐怖を振り撒く為に、彼らの舞台を借りるのだ。
40年前に数多の悪党が携わった世界征服運動は、大衆音楽と一絡げの流行として歴史の片隅に追いやられた。70年前に偉大なる帝国が掲げた理想は敗北主義者に陵辱され見る影もない。
我々は大衆に思い出させなければならない。真に恐れるべき名を。真に価値ある名を。そして、支配される幸福を。我ら敗残兵はその為に集まり、戦い続けているのだから。

>「……分かった、その申し入れ乗った。所属組織は?あと名前」
やがて、受話器から承諾の言葉が聞えた。後は彼らの要望どおりに事件を盛り上げ、その最高潮でお決まりの台詞を叫ぶだけ。
「結構、実に結構。俺はゴル大佐。ゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴル大佐だ。秘密結社ヴェアヴォルフの大幹部……ふん、古臭い悪党の一人だよ」
俺はウサギ男が付け加えた忠告に短く「覚えておく」と応じ、漸く電話ボックスを後にした。既に群集の中には少数ながら信頼出来る戦闘員が紛れ込み、機動隊への奇襲攻撃に備えている。
180 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/02/29(水) 02:52:05.15 0
そして、ついに響いた銃声と共に様相は一変し、俺の心は歓喜に満ちた。
今やステッキを突く音など誰にも聞えてはおるまい。避難民の流れに逆らい、逃げる者とすれ違い、倒れたものを踏み越え、警察の指揮所へと進みゆく。
……銃声。悲鳴。号令。喚き声。呻き声。長靴の響き。埃の臭い。硝煙の臭い。血の臭い。脂の臭い。殺すもの。殺されるもの。殺したもの。殺されたもの。ああ、戦場がやって来た!
麗しき戦場よ!素晴らしき戦場よ!死に満ちた戦場よ!我々の居場所よ!地平線を埋め尽くすロシア兵の姿が鮮やかに蘇る。懐かしき極寒の東部戦線よ、我らは帰ってきた!

>「ボサッとしてんじゃねえぞ!機動隊は民間人を守れ!盾持ってねえ奴らは避難誘導と怪我人の保護、急げ!」
前触れもなくこの戦場へ放り出された警官隊の動きは実に素早く、指揮官の号令の元に野次馬を背にした防御陣を作り上げた。先程までの情けない姿とは似ても似つかない。
盾を持たぬ者達も野次馬の避難誘導に当り、自らを弾丸に晒しつつも息のある負傷者を遮蔽物の影へと運んでいる。実に結構!俺は諸君に謝らねばならん!
「そうだ、警官とはそうあるべきなのだ!それでこそ正義の番人に相応しい!」
唐突な賛辞を受け訝しげに振り向いた警官達が目を剥いた。彼らは軍服姿で微笑む不気味な老人の姿を捉え、その老人の顔がオオカミへと変形していく様に恐怖を覚えただろう。
身体中の骨が音を立て変質し、皮膚には毛皮が生じ始めた。さて、変身が終る前にお約束の台詞を吐かなければ。
「俺はゴル大佐!秘密結社ヴェアヴォルフの大幹部である!俺の真の姿を見たからにはここが貴様らの墓場となろう!」
悪の大幹部なる肩書きを背負って以来、敵と向かい合うと必ず同じような台詞を吐いた。これもまた、最近の悪党が鼻で笑う古臭い儀式の一つだ。自分でも少し馬鹿らしい儀式だとは思っているのだ。
しかし悪の大幹部らしい台詞は何かと人々に尋ねたならば、やはり「ここが貴様の墓場云々」と答えるのである。俺は悪の大幹部であるからして、悪の大幹部らしい台詞を吐く。それだけの事だ。
彼らが恐怖を押し殺し拳銃を抜くより先に、ある警官に飛び掛り首筋を食い千切った。耳を劈く悲鳴はほんの一瞬で、残りは首筋に空いた大穴から漏れ出て鮮血に混じりボコボコ音を立てる気泡となった。
文字通り薄皮一枚で首が繋がった警官は、力なく地面に沈んでからも派手な痙攣を続けた。ああ、なんと哀れな。彼は間も無く死を遂げる。願わくは彼の死が名誉ある戦死として扱われんことを。
「……さあどうした、銃を抜きたまえ。俺は悪党だが悪魔じゃないからな、それくらい待ってやろう。ぐずぐずしていると背中から蜂の巣にされるぞ!」
ああ、やはりそうだ。楽しくて堪らない。やはり俺は兵隊で、戦場こそが俺の居場所だ。戦場だけが老いを忘れさせてくれる。
少し離れた場所からも機関銃とは別の銃声が響いた。警官か戦闘員、どちらが撃ったかは判らないが、とにかく衝突が始まった。訓練通りに形作られた警官隊の防御陣に綻びが生じ始めた。
181 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/02/29(水) 23:06:25.31 0
あ、そういや銀行外と銀行内に分けたんで次から大佐は氷雨さんのレスを待たなくてもいいですよー

錐乃さん→氷雨さん→自分

大佐→影山さん→伊坂さん→自分

これを同時進行していくってな感じです
分かり難くて申し訳ないっす!
182 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/03/01(木) 20:38:40.57 O
結果から言えば、俺様の威嚇は不発に終わった
まぁ、俺様だって何も本気で闘り合うつもりだったわけじゃない
元々、視界に入ったからなんとなく声をかけてみたってだけの話だ
銀行強盗を殴ろうとして少しテンションが上がりすぎてたみたいだな、少し落ち着くか
……いや、別にスルーされた負け惜しみってわけじゃねぇぞ

> 「そうかい、悪いね兄ちゃん。銀行強盗観賞ならオペラグラス忘れんじゃねえぞ。じゃあな」

「俺様の視力は両目とも2.0だ、んなもんいらねぇよ」

たしかオペラグラスってあれだ、お上品な双眼鏡みたいなやつのことだよな?
とりあえず軽口に軽口で返す程度には頭も冷えた、ここからは冷静にいこう
そんなことを考えながら、偉そうなオッサン――たぶん警部補とかそんな感じだろう――に引きずられていく二人を見送っていると……
俺様の視力2.0の目が、舌を出しながらこっちに中指を立てている髑髏ジャケット野郎の姿をハッキリと捉えた

「上等だこんクソガキャァァァァアアアア! 強盗の前にまずテメェから病院送りにしてやっから戻って来やがれこん畜生!!!」

一度は冷えた頭が一瞬で沸騰した
そのまま啖呵を切って一歩足を踏み出そうとして、しかし直ぐに踏みとどまる
タイミングの悪いことに、銀行の方に何か動きがあったようだ

「チッ……って、あぁ? 何だありゃあ?」

自動ドアが開き、中から出てきたのは顔の無い薄気味悪い怪人
それに続いてゾロゾロと出て来るあれは……人質か?
だが、それにしちゃアレがねぇ、人質には必ずアレがあるはずだ
ビクビクオドオド犯人の顔色を窺う、見てるだけで苛つく雰囲気が
それどころか奴ら全員無表情だ、どう見ても普通じゃねぇ

「あの顔無し野郎、何を企んでやがる?」

しかし連中の姿を確認した途端に、周りのポリ公どもの間には弛緩した空気が漂い始めた
野郎が人質を解放しに出て来たとでも思ったのか?
心底甘い連中だ、そんなわけがねぇだろうが

> 「逃げろぉぉぉぉーーーーーーッッッ!!!」

そして俺様の予感通り、事態は動き出した
乾いた銃声が響き、野次馬どもの悲鳴が響き、ポリの怒号が響く
連中には見境って物が無かった、野次馬だろうがポリ公だろうがお構い無しに弾丸をバラまいてやがる
そして仕舞には、身の程知らずにも俺様にまで銃口を向けやがった

「ハッ! んな豆鉄砲で俺様と闘ろうってのかよ? いいぜ、ただし……」

今日の飯代に困る程度には落ちぶれたが、たかが鉛玉ごときでビビるほどに落ちぶれちゃいない
ポケットに両手を突っ込んだまま、サングラス越しにガンを飛ばし、目の前の敵を挑発する
ついでに脅し文句の一つでも付け加えようかと、俺様が口を開くのと同時……
銃声と共に、大量の鉛玉が俺様に襲い掛かった
183 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/03/01(木) 20:40:18.86 O
しかし、鉛玉が俺様の体に届くことはない
鉛玉が銃口から飛び出るよりも早く、本来なら足下にあるべき俺様の影が起き上がる
影はそのまま大きく広がり、逆三角形の巨大な黒い盾となって鉛玉を全て受け止めていた

「さて、たしかヒーローはこう言うんだったな……変身っと」

そして影の盾は再び形を変え始め、俺様の体を覆い始める
一切光を反射しない、真っ黒いボディスーツとマント
カラスのクチバシのように尖ったバイザーが飛び出した、同じく真っ黒いヘルメット
全身黒ずくめで、まさに黒いカラス、ブラック・クロウに変身完了ってわけだ
まぁ最近は、言いにくいから『ブラックロウ』って略して名乗ってるんだがな

「それはそうと、だ」

呟きながら、ゆっくりと右腕を振りかぶる

「テメェ……」

左足を踏み出し、腰を捻り

「ただし、俺様にハジキ向けてただで済むと思うなよって最後まで言わせやがれ畜生!!!」

叫ぶと同時に力任せに右腕を一気に振り抜く
間合いも何も考えていない、予備動作だらけのテレフォンパンチ、普通ならば当たらないだろう
しかし、拳を振り抜く途中で右腕の肘から先が数十倍の大きさにまで巨大化
さながらブルドーザーのような勢いで、銃を構えた人質どもを数人纏めて吹っ飛ばした
死にはしないだろうが、骨の4、5本は確実に折れているだろう

「……テメェらが操られてるってのは、面を見りゃあ何となく分かる
だが、だからって手加減してやるつもりはさらさらねぇから覚悟しとけ」

スーツの上から指の骨をポキポキと鳴らし、残った人質と親玉らしき顔無し野郎にゆっくりと歩み寄る
何やら後ろが騒がしいが、そっちはひとまずポリ公どもに任せておけばいい
今はとりあえず、目の前の顔無し野郎をブチのめすのが先だ


【一応本家ヒーローの方の避難所はありますが、外伝の避難所はありませんね】
【やっぱり人数が多いと避難所は必要になりますよねぇ】
184 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/03/04(日) 15:42:07.71 0
【銀行内→錐乃、氷雨】

帽子屋のように気が狂った人質は確かに目の前の人間に向かってトリガーを引いた。
排出された薬莢が何度も宙を舞い、カランと小さな音を立てて床に転がった。
直進する弾丸の群れは命中すれば間違いなく臓腑を弾丸が掻き回すはずだ。
間違いなく脳幹をちっぽけな鉛玉が貫くはずだ。
そして女が発射した弾丸は、確かに頭部に衝突した。
だが脳漿が磨きぬかれた床に撒き散らされることはなかった。それどころか───

「ひぎぃぃい゛い゛……あ゛……ぁっ!!あ゛!あ゛ッッ!」

操られた女は「銃を持っていた腕」を必死に取り戻そうと床を虫みたいに這い蹲っていた。
荒く不規則な呼吸が音のない通路に吸い込まれては消えていく。
びくんびくんと痙攣しながら涙を零し涎を醜く垂れ流そうとも、うつ伏せの状態で半身を起こし懸命に腕を伸ばす。
女は見知らぬヴィランに下された命令をただ純粋に遂行するべく身体を駆動させる。
彼女を動かしているのはマッドハッターに下された絶対順守の命令だけだった。
それがなければ痛みのあまり失神でもしていたか、それこそ虫けらのようにばたばたと泣き叫んでいただろう。

>「殺しはしねぇ、一応命令だぁ。だがなぁ、まぁ、アレだ」

灰色の鎧を纏った男の嬉々とした声が女に降り注いだ。
直後、背中を足で踏みつけられ女は自身の血で塗れた硬質な床に頬を預けた。
そして錐乃は左足を女の背中に乗せたまま、右足を女の残った腕へ照準を合わせ一直線に足を振り下ろした。

「あ゛あ゛ぁあぁああ゛あ゛あああ゛あああ゛ぁあ゛ああぁあ゛ーーーーーーッッッッ!!!!」

骨を踏み砕く醜く鈍い音が女の耳の奥で鳴り、耐え難い激痛が女を襲う。
再び訪れた激痛に音を上げた女は不協和音のような悲鳴を上げる。
やがて本能的に苦痛をシャットアウトすべく女の視界は暗転し、気を失った。

>「……気に食わねぇな」

手早く男を撃退した氷雨は眉を寄せ、表情を険しくさせながら怒気を含んだ声で静かに呟いた。
しかしそれだけで済んだのはこの先に全ての元凶がいるのが由来か。
子供のように嬉々として戦いを演じた錐乃。能力を駆使してスマートに戦いを演じてみせた氷雨。
二人はコインの裏表のように対照的のようだった。


通路を進んだ先は自分達がよく目にする窓口の景色だった。
幾つものデスクが並び出納判やら加算機やらが置かれた───雑務然とした窓口の奥のあの光景だ。
そして窓口の向こう側のATMに挟まれた空間に事件の元凶が居た。
黒い鎧のような外観にうさぎの如く長い二本の耳が特徴的な怪人、すなわちマーチヘアーが。
怪人はどこから持ち出したのか高級そうな質感のソファに座り、置かれた丸テーブルにはティーセットが並んでいた。
その脇には金庫から盗んだであろう金を積んだバッグが四つほど無造作に放置されている。
マーチヘアーは二人の存在に気付いたのかやおら前かがみに座り直し、錐乃と氷雨に鋭く殺気の含んだ視線を向けた。

「らびぃ!ようこそ、紅茶でも飲むかい?」

一転、おどけた仕草でマーチヘアーは丸テーブルに置かれたティーカップを掴んでみせた。
ワインは置いてない。
185 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/03/04(日) 16:03:10.35 0
「あまり怖い顔するなよ。戦う前ぐらいゆっくりしようじゃないか。クールダウンしよう、なっ」

そらとぼけた調子で、努めて穏やかに言葉を投げかけた。
二人の怪訝そうな視線が容赦なく突き刺さったが別段気にはしなかった。

「中々の戦いっぷりだったよ。いや本当に。
 あの名前も知らん罪なき女の腕をぶった切ったときは流石の俺も怖気が走ったね。
 きっとあの女は失血死だろうな。そうでなくとも愛する男の婚約指輪を薬指にゃはめられそうにない」

錐乃の方へ一瞥くれ、俺は平時よりも饒舌に言葉を紡いだ。
断っておくがこの会話にはこれといった意味も意図も存在しない。
ただの他愛ないお喋りでしかない。パーティーを盛り上げるための余興みたいなものだ。
この事件は『黒兎』のために出来るだけ盛り上がって、そして俺達の勝利で終わってもらわねばならない。
その方がより俺達の力をより誇示できるだろう。
そんな事は置いておくとして、奴らは気付いているだろうか──いるべき人間が居ないことに。
救出するべき人質達がいないことに。先程奴らを襲った、哀れにも洗脳された人質達がいないことに!

「でもまあそんな些事に気を揉む必要はないさ。死体の山に一つ肉塊が加わるだけだからな」

親指でくいと窓の方向を指差すと、俺はスプラッタな惨状にちょいとだけ顔を顰めた。
薄いガラス一枚を挟んだ先はある意味この安穏とした銀行とは真逆の、甲高い悲鳴止まぬ騒乱の渦中にあった。
それこそが『この場にいない人質達はどこにいるのか』という解答に他ならない。
そこでは人質達が銃器を構え、警察や野次馬達を蹂躙していた。
ある警官は怪人に首を噛まれて死に、ある一般人は死んだ赤子を抱え泣き崩れている。
ある人質は自分の娘と同じくらいの女子高生を容赦なく肉片に変え、ある能力者は人質達を巨大な右腕で吹き飛ばした。

「まあそういう訳だ。きっと大変だろうな、死体の処理ってのは」

窓の外の光景から二人へ視線を戻す。

「怒ったか?あーっと、勘違いして欲しくないな。俺はこういう趣味の悪いことは好きじゃない
 御高説な君主論だかマキャベリズムだかを振りかざす訳じゃないが目的の為に手段は選ばないってだけだ」

俺は質の良いソファの感触から離れるのを惜しみながらゆっくりと立ち上がり、二人と対峙する。
不意に、丸テーブルに置かれたティーカップが天井へ『落下』しガチャンと音を立てて割れた。
ティーカップを端緒に座っていたソファが、丸テーブルが、窓口のデスクが、ATMが。
この部屋のありとあらゆる無機物が次々と天井へ落下していく。
終ぞ俺と眼前の二人の視界に障害物らしき障害物は天井へ散乱し、何もない殺風景な空間へ早変わりした。
障害物なんてものはこれから起こる戦いには邪魔でしかないだろう。だからご丁寧に俺が退けてやったのだ。
“重力操作”。これこそが霊石による俺の能力だった。

「外の警察やパンピーを助けたいか?でも無理だろうよ。俺がそうさせないし、何より───」

二人に視線を向けたまま俺は腰に収めてある剣の柄に触れた。
対峙した俺と奴らの距離は目測で視たところ五メートル程度といったところか。
面倒だが剣で三枚に卸す前に変身され、防御・回避してしまう隙間が十二分にあると言っていい。

「この最強最悪悪辣卑劣極まる悪の組織「黒兎」のリーダー・マーチヘアー様が!」

両腰の剣を抜き放つと同時に右足で大きく一歩踏み込む。
床に大きな皹生み出しながら一跳びで俺のエモノが氷雨達に届くリーチまで距離を詰める。

「外の一般人共と同じように───らびぃ!死体の山に加えてやるんだからなぁ!!」

そして右手の剣で錐乃の首を、左手の剣で氷雨の胴を狙い、寸分狂わず剣を振るった。


【銀行内で戦闘開始!マーチヘアー、二人に剣で開幕アタック】
【お二人とも遅れて申し訳ございません。遠慮なくボコッてやってくだしい】
186 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/03/04(日) 16:04:41.81 0
ぎゃーまた一人称視点と三人称視点で名前欄変えるの忘れてた……
187 : 氷雨京一郎 ◆gonPmpfV9g [sage] : 2012/03/05(月) 19:41:59.49 0
【うう、申し訳ない……なんというか残虐描写についていけなくなりますた……】
【何とも豆腐メンタル……ごめんなさい、撤退させてくださいませ】
【心よりお詫び申し上げます……orz】
188 : 月見 ◆PpgztMyCOA [sage] : 2012/03/05(月) 21:25:31.10 0
うわああああああああ……ごめんなさい、稚拙な表現だから大丈夫なもんだと、つい調子に乗ってしまいました
第三者に配慮のない行動を軽率に書いてしまいました
そういった凄惨な描写は以後控えますので何卒お許しを………

いや、本当、マジに申し訳御座いません。
お願いします。あなたにいなくなられるとただでさえ少ないヒーローが減ってスレタイがヴィランTRPGになってしまいます(泣)
翻って言わせてください、これからはそういった描写は控え、抑えていきますので戻ってきてくださいorz
描写なんて一言頂ければどうとでもなるのにそんなのあんまりだぁ(泣)
189 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/03/12(月) 23:58:39.30 0
で、どうするつもりなんだい?
GMの真似事して話を回し始めたなら、こうして放置しておくのはあんまり褒められたものじゃないね
190 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/03/15(木) 02:51:08.41 O
【そして誰もいなくなった……みたいな?】
191 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/03/15(木) 20:17:16.85 0
【おるぞー】

【とりあえず、一旦点呼取ってみましょう】
【場合によってはまたもや仕切りなおし…?】
192 : 錐乃 優 ◆KtsLGCz5t. [sage] : 2012/03/16(金) 04:11:17.20 0
【一応、まだいますー】
【てか私のせいですかね……】
【なんだか申し訳ないです……】
193 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/03/17(土) 10:01:41.75 0
こうなったことだし、再開する前にある程度指針というか雰囲気を決めておいたらどうかな?
スカッと爽やかなヒーローアクションとか、エログロ歓迎のドロドロした超人バトルとか。
先に合意しておけば描写の仕方で気を揉むこともないだろうし。
194 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/03/18(日) 00:31:56.75 0
【そういえばここに到るまで、スレの方向性というかカラーについて考えた事がなかったですね】
【思えばそれが幾度に渡る死を招いたのかも知れず】

【して、やっぱりこの手のスレだとエログロドロドロスプラッタバトルの方が人気あったりするんでしょうか】
195 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/03/18(日) 00:53:44.85 O
【あまりグロ方面に偏り過ぎるのもどうかと】
【たまに人が死んだりグロもあるけど基本はスカッと爽やか、という感じの方がいいんじゃないでしょうか】
【悪人は皆殺しなパニッシャー的なヒーローや、世紀末モヒカン的な悪役は好きなんですけどね】
196 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/03/18(日) 01:46:29.17 O
じゃあ二人の意見を組み合わせて
「たまに人が死んだりグロもあるけど基本はエログロドロドロスプラッタバトル」
これでどうかな
197 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/03/18(日) 13:46:11.53 0
>>195
【そうですねぇ、やっぱり血反吐は風味付け程度に抑えておきたいところ】
【いかんせん元のヒーローTRPGスレを知らないので、それの雰囲気っていうのは良くわかりませんが、】
【どっちかってえとライトなアクションの方が万人に受け入れられやすいかもしれません】

>>196
【おーう……これでは間違いなく60年代モンド映画TRPGコース……】
【ゴル大佐のキャラが女で、もっと若かったらそれにも似合ったかもわかりませんが】
198 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/03/20(火) 11:54:44.87 O
たぶんこのままだとラチがあかないから、もう195の影山案でいいと思うよ
それで続きから始めるかリセットするかを決めたほうがいいんじゃないかな
199 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/03/20(火) 23:02:18.66 0
【で、ありましたら】
【新たな方向性としては「たまに人が死んだりグロもあるけど基本はスカッと爽やか」で行きましょう】
【そして継続か仕切りなおしか、ですが……】

【残っているのは自分と、影山さんと、錐乃さんと、後は誰になるんでしょうか】
【個人的には設定そのまま仕切りなおしの方がいいかな、と思っているのですけれど、皆さんの意見も聞いてみたいです】
200 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/03/22(木) 20:43:34.34 O
【自分も仕切り直しに賛成です】
【ただ個人的には、ヒーローとヴィランは霊石による能力持ち限定、という制限は解除して欲しいですかねぇ】
【鍛えた肉体と技術、特殊な発明品、パワーアーマー、魔術などのオカルト方面etc……】
【色々なスタイルがあってこそのヒーローかなぁと思うので】

【ところで錐野さんも>>192以降音沙汰がありませんが大丈夫でしょうか?】
201 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/03/22(木) 20:45:28.72 O
【おっと。錐野さんじゃなくて錐乃さんでした、すみません】
202 : 錐乃 優 ◆KtsLGCz5t. [sage] : 2012/03/22(木) 23:28:40.13 0
【ノシ 存命しておりますよー】
203 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/03/23(金) 22:07:23.12 0
1970年代、世界征服運動の嵐が世界を覆った。社会不安と共に膨張と先鋭化を繰り返した過激な政治運動の成れの果てである。
人類の半数は悪の組織で世界征服を企て、もう半数は悪を挫く正義の味方として立ち上がった。世界地図が新たな2色に塗り分けられたのだ。
幼稚園バスは毎週のように襲撃され、著名な科学者は二度も三度も誘拐される。新聞にはヒーローと怪人の名が踊り、テレビは英雄譚と毒電波を交互に流す。
街では誰もが考える、「隣に居るのは正義か悪か?」と。ヒーローや怪人、はたまた防衛軍の司令官や悪の大首領とすれ違う事もあったかもしれない。
何某防衛軍や何某特捜隊の看板が街を席巻し、地下秘密基地の建て過ぎで弱った地盤が沈下する。誰もが悪で誰もが正義。誰もが大義と敵を抱えていた。
緊張と殺気が飽和する時代はこうして訪れ、石油王達が値上げを決意しインドシナの戦乱が収まる頃になって漸く終わりを迎えたのだった。

時は流れて20XX年。我々の生きる世界は少なくとも平穏を保っている。
高度化した社会は滞りなく繁栄を続け、大抵の人々が大した不満もなく生活し、あたかも全人類が夢見た平和社会が到来したかのように見えた……
だが、悪党は死に絶えていなかった!彼らはあらゆる手段で悪を成し、ついに世界征服や人類滅亡、その他諸々の仰仰しく遠大な目標を掲げ始めた!
一方で正義の炎を心に宿した者は、あらゆる手段で力を得て正義の味方として立ち上がった!70年代のように徒党を組むものも居れば孤軍奮闘を誓うものもいる。
警察や軍隊といった「伝統的な正義の組織」も、最近になって民間に遅れるなとばかりにロボット刑事やロボット三等兵の採用を開始した。
ある者はひょんなことから新たな力を得、ある者は改造手術を受けた。ある者は生まれつきの超人で、ある者は強力なロボットや新兵器を作り出した。
そして、善良な一般市民たちは荒れ狂う闘争に眉を顰めわが身の無事を願うのである。

世界は再び二色の暴力が支配する時代を迎えようとしていた……


『ようこそエゴイックシティへ!』

鏡野市は誰もが助け合う素晴らしい街だ……市長殿はそう仰っている。
だからして我が市の非公式な通称、すなわち「エゴイックシティ」なる名は全くの不適当である。我が市には善良な模範的市民しかおらんのだ。
悪党などおらん。よろしいかね、犯罪者など一人もいないのだよ。「正義の味方」も不要だ。我が市には警察があり、ささやかながら軍の駐屯地もある。
……その軍人や警官が妙に忙しそう?君の思い違いだ。……何、昨日の新聞報道?銀行強盗?警官の殉職?軍の出動?臨時の戒厳令?怪人?5人戦隊?
嘘八百だ。悪意ある捏造に基づく恣意的な誤報に違いない。どこの社だね、その新聞は。何、黙秘。ふん、構うものか。後で調べれば判る事だからな。
よろしいか、市長殿が当選なさってから現在までの5年間というもの、我が市は数多の大都市へ追いつかんとする勢いで発展に次ぐ発展を重ねてきた。
時に近代都市の縮図と例えられるように、我が市は観光、産業、住宅、福祉、インフラ……全ての要素を完璧なバランスで備える素晴らしい街なのだ。
それもこれも市長殿が神の如く卓越した判断の元に市政を運営しておられるからに他ならん。言うまでもないことだが。

とにかく我が鏡野市は平和な素晴らしい街であるからして、5年連続で危険な都市ワースト1に選出されたのは非常に不愉快だ……市長殿はそう仰っている。
204 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/03/23(金) 22:08:25.50 0
【とか何とかごちゃごちゃ書きましたけれど、要点は以下の通り】
【1.舞台は鏡野市(通称エゴイックシティ)。だいたいの施設が揃った、それなりに広い街です。治安はちょっと悪いです】
【2.今も昔も、正義の組織と悪の組織はたくさんあります。一匹狼の悪党やヒーローもいます。鏡野市でも悪い奴と良い奴がいっぱい戦ってます】
【3.正義も悪もピンからキリまで。超人でもパワードスーツでもガジェットでも、マッチョでも黒魔術でもAK-47でも何でも】

【ルールは以下の通り】
【1.エログロは隠し味!「たまに人が死んだりグロもあるけど基本はスカッと爽やか」!】
【2.七日ルール!レス出来ないときは事前報告!】
【3.決定リール有り/後手キャン有り】

【……って感じで大丈夫ですかね?特にルールの方が不安です】
【人手を集める意味を込めて、キャラ設定の制限は取り消し、同じ理由で舞台設定も少しぼかしました】
205 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/03/28(水) 21:20:54.49 O
ゴル大佐はそろそろ怒っていいと思う
206 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/03/29(木) 01:58:45.62 O
【すみません、今週は色々と忙しくて遅れました】
【自分から見た限りでは、ルールには特に問題は無いかと思います】
【しかし自分で要望出しといて言うのもなんですが物凄いカオスっぷり。だがそれがいい】
207 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/03/30(金) 01:45:21.96 0
──この辺でヒーローと悪党の戦いといえば、大抵は銀行強盗から始まる。これまでもそうだったし、今回もそうだ。
今回の悪事を指揮するのは秘密結社ヴェアヴォルフ大幹部ゲアハルト・ミハイロビッチ・ゴル大佐……つまり俺である。

「ハーッハッハッハッ!貴様ら如きがこの怪人フジツボウナギ様に勝てるとでも思ってたのか!」
軍服姿の男、あるいは軍服を纏う歪な人型の塊が笑った。足元では首をウナギで絞められ苦しみ泡を吹く警備員達が痙攣して跳ね回っている。こうして勇敢かつ無謀な抵抗は潰えた。
文字通りフジツボの集合体に過ぎぬ怪人の顔面から表情を読み取る事は極めて難しいが、愉快そうな声色でハッハッハと言うのだから笑っているはずなのだ。
彼が歩くと長靴に溜まった海水がガッポガッポと音を立て、濡れた床からはつんと腐臭が漂う。顔や胸元、袖口、あらゆる隙間からは生きたウナギが顔を出す。
まったく何と醜悪なことか。死神教授のセンスにはいつも頭を抱えたくなる。あの天才の脳細胞は、果たして何を摂取してこれほどに醜悪な"作品"を創造するのか。
彼を見た10人が10人、外見だけで「友人にはしたくないタイプ」に選ぶことは想像に難くない。俺だってそうだ。
「大佐!これで全員です!」
しかし踵を揃えて右手を掲げ敬礼する怪人は全く有能かつ模範的な男なのだ。人間に"擬態"している間には誰の目にも少し生臭いだけの好青年に映る。
そして意外や意外、怪人フジツボウナギは外見にそぐわない若々しくさわやかな声で喋る。果たしてどこから声を出しているのだろう。
「実に結構。気を失ったら人質の隣に並べておけ。俺は大金庫の様子を見てくる」
力強く「ヤー!(了解)」と応じた彼自身は自分の外見をどう思っているのだろう。見てくれさえ良ければ、きっと子供達のヒーローにだってなれただろうに。

地下2階の大金庫前には20人ほどの戦闘員が殺到し、騒音の中で扉を破壊するべくあらゆる手段を講じていた。掘削機を突き立て、爆薬を仕掛け、溶接バーナーで炙って……
傍らで顔面をパンパンに腫らし柱に縛り付けられた頭取は、生きてこそいるが未だに気を失っている。
しばらくは哀れな頭取の隣で部下の働きを眺めていたが、やがて作業班長を命じた戦闘員が駆け寄ってきた。
「大佐、上で何かありましたか?」
「作業状況の報告を。見たところ……あまり順調ではないようだが」
訪ねたところ、班長は少し逡巡した後、小さな声で囁くように答えた。
「正直に言って芳しくありません。大幅に遅れています。ロックさえ掛からなければ破壊する必要も無かったのですが……」
そう言って作業班長は頭取を一瞥した。ふん、何とも勇敢な男だ。突如現れた武装集団に対し怯む事無く、職務に忠実に、緊急コードで大金庫を封鎖し、そして捕えられた。
ロックを解除できる唯一のカードキーは未だ見つからない。戦闘員達から数十発の鉄拳を受け、整った顔を血まみれに腫らし気絶するまで、奴は在り処を明かそうとしなかった。
この調子なら死ぬまで殴っても口を割らないだろうと班長は語る。それよりも扉の破壊に労力を注ぐべきである、と。
「技師連中はあと12箇所ほど発破を仕掛ければ扉を外せると言ってます。……少なくとも、計算上では」
穴を空け、爆薬を詰め、火をつけて、逃げる。平たく言えばこの4段階が発破のプロセスだが、そもそも合金製の扉に穴を穿つ事からして簡単な事ではない。
さらに穴の位置は、専門技師達が金庫の設計図面を睨みつつ訳の判らぬ数学式でメモを埋め尽くして、ようやく決定する。とにかくここで言う発破という行為はやたら時間が掛かるのだ。
これ以上破壊に戸惑うようであれば、頭取がどこかに隠したカードキーの捜索にもう一度人員を割くべきかもしれない。頭取からどうにか在り処を聞き出すべきかもしれない。
「実に結構。では、作業を続けよ。進展あれば報告を」
そして、俺は愛用のステッキを突きながら大金庫を後にした。
208 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/03/30(金) 01:50:11.15 0
「誰だ!誰が警報を押した!畜生、もう警官が集まってきやがった!」
その頃、ロビーでは怪人フジツボウナギがぐったりしたウナギをブンブンと振り回し、喚き散らしていた。顔面を蒼白にして震える人質達の顔に、腐臭を伴うウナギの表面粘液が飛び散る。
怪人フジツボウナギ配下の戦闘員達は慌しく窓際に遮蔽物を構築している。椅子や机、書類棚、ロッカー。手当たり次第に大きさのあるものを積み上げた、脆弱な要塞の出来上がりだ。
今や警官隊が包囲網を形成しつつある。その様子は臨時ニュースを報じる備え付けのテレビでも伺えたし、ガラス越しに直接見ることも出来た。
ブラウン管の中では、望遠カメラで捕えた不鮮明な怪人フジツボウナギの映像が繰り返し流され、深刻な顔付きのキャスターが緊張と恐怖を煽り事件を盛り上げようと努めている。
「5人、小銃を持って窓際へ!警官が近づいたら撃て!」
さっと手を挙げ「ヤー」と答えた戦闘員達は、立てかけてあった小銃を手に取り窓際に構築された遮蔽物に駆け寄った。
余談だが秘密結社ヴェアヴォルフが戦闘員に配備する小銃は、古式ゆかしいK98モーゼル小銃である。偉大な時代を忘れられぬ老人、ゴル大佐が若き日に愛した銃の一つだ。
銃本体も銃弾も、今や調達価格は当時の数倍に跳ね上がっており、近代的な突撃銃に比べれば使い勝手や火力も劣る。かの時代を再現する為だけに、老人はこの銃の採用を厳命したのである。
とにかく、こういう訳でモーゼル小銃の銃口が5つ、盾を構えた警官隊を照準に捕えたのである。


そして銀行からやや離れた喫茶店には、既に警察の対策本部が設置されていた。
少しばかり拘ったコーヒーと自慢の焼きたて手作りパンで知られる店も、歩哨が立ち土嚢や装甲板で覆われ、あたかも野戦司令部の様を呈している。
言うまでもないが、初老のマスターが心を込めて給仕するコーヒーとパンの味を楽しむ余裕など、対策本部に詰めた警察指揮官達には一欠けらも残されていなかった。
「突入だ!突入しかない!」
血気盛んな機動隊中隊長が拳を机に叩きつけた。しかし居並ぶ指揮官達はなんとも冷ややかな視線を彼に投げかけ、無言で手作りパンをつまみ拘りのコーヒーを啜っている。
「論外だ。君は人を殺したくて警官になったのか?軍人になればよかったのに」
そう言い放ったのは所轄警察署を代表して送られてきたベテラン警部。くたびれたトレンチコートの襟を立てボガート・スタイルを気取った男である。
この古臭い男の一言で、中隊長は怒りのあまり爆発しそうなほどに顔を高潮させた。しかしベテラン警部は言葉を続ける。風体に似合った、低い声色の早口だ。
「行内にはまだ人質が残っている。君の蛮勇で突入など行って見給え、何人殺されるか、何人死ぬかわかったもんじゃない」
何か言い返そうとした中隊長は警備を指差し一言二言呟くと、椅子を蹴り倒して幹部達に背を向けた。喫茶店を出た彼が誰かを怒鳴りつけているのが店内まで聞えた。
やれやれとオーバーリアクションで肩をすくめた後、大きく息を付いた警部は胸ポケットから紙巻煙草を一本つまみ出した。ちなみに喫茶店内は全席禁煙である。
「……ま、当面は待機ということになるな。敵の手の内が判らんうちは手を出すべきじゃあない。いつも通りさ。連中の事を調べ上げろ。手に入る全ての情報で」
彫刻入りのオイルライターで火を灯した煙草を一息吸い込んでから、彼は思い出したかのように一言付け加えた。
「ああ、もしも正義のヒーローなんかが現れれば話は別だが……そう、いつも通りにね」


【とりあえず導入用イベントです。いつも通りの銀行強盗】
【オフィス街のど真ん中で銀行強盗が起きました。犯人グループは職員及び客を人質に立て篭もっています。現場は既に警察とマスコミが取り囲んでいます】
【外から行内の様子は良く見えませんが、何やら怪人らしい男の姿を偶然にもテレビカメラが捉えて生放送で報じました。その為、警察は暫し静観の構え】
【……という状況です。重要なのはそれだけです】

【大佐と怪人フジツボウナギ以外は1ターンキルでも大丈夫です】
【ヒーローも悪党も、一般市民でも誰でも、継続参加の人でも新規参加の人でも名無しでも、気軽に挙って参加してくださいな】

>>205
【なぁに、ここからが本番さ】
>>206
【いっぱいいっぱい詰め込んじゃいましたけど、設定なんてちょっとした飾りなんで大した問題じゃないんです】
【とりあえずルールさえまともならうまく回るはず……】
209 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/04/04(水) 20:47:34.46 O
ゴル大佐…そろそろマジで怒ってもいいんだぜ……
210 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/04/04(水) 21:58:32.43 O
この街には色々な形のヒーローがいる。
鍛えた肉体で戦う奴、特殊な能力で戦う奴、発明品やアーマーで戦う奴。
純粋な正義感から悪と戦う奴もいれば、復讐心を糧に悪党を殺そうとする奴もいる。
戦闘スタイルや戦う理由が様々なら、そのヒーローに対する一般人の評価も様々だ。
そして、俺の場合は――

「チッ……俺様のシマで好き勝手やりやがって」

銀行近くの高層ビル、その屋上から事件の様子を眺める黒い影があった。
光を一切反射しない黒いボディスーツに、体をすっぽり覆い隠す大きなマント。そして烏の頭のような形をしたヘルメット。
本来足元にあるべき己の影で作り出した、漆黒のコスチュームに身を包んだヒーロー。
ブラックロウこと影山恭介、つまり俺だ。

「しかし、こっからじゃよく見えねぇな……やっぱり思い付きで作った道具じゃこんなもんか」

ぼやきながら、影で作った筒にレンズを嵌め込んで作った即席望遠鏡から目を離す。
超人的な視力や便利な装備なんて持っていない俺が、敵情視察をするには丁度いいアイテム……だと思ったんだがなぁ。
昨日これを思い付いた時は『俺って実は天才なんじゃないか?』って盛り上がったんだがなぁ。
まぁ、いつか役立つ日も来るだろう。たぶん来るよな、うん。

「さてと、たしか人質が何人かいて、気色悪ぃ化物が一匹……とか何とかニュースで言ってたよな」

望遠鏡の筒をスーツに同化させ、レンズは服のポケットに仕舞い込む。
情報収集はここまで、要するに中には敵と人質が沢山いるってことは分かってるんだ。
後は銀行に突っ込んで、奴らが人質に危害を加える前に全員ぶちのめして終わり。簡単な話だ。
……正直望遠鏡よりもニュースの情報の方が役に立ったが、まぁ気にしない気にしない。

「そんじゃあ、そろそろ行くとしますかね」

そう言いながら、俺は背中のマントを鳥の翼のように大きく広げ、そのままビルの屋上から飛び降りた。
広げたマントが風を捉え、ハングライダーのように滑空する。
マスコミや機動隊の頭上を飛び越えて、一直線に銀行へと飛んでいく。

「おい! あれを見ろ!」
「鳥だ! 飛行機だ!」
「いやブラックロウだ!」

空を滑空する俺様の姿を認め、地上からはスーパーヒーローを賞賛する声が――

「よりによってブラックロウかよ!」
「ヒーローは他にも沢山いるのに!」
「何でよりによってあいつが!」

無かった。
211 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/04/04(水) 22:01:42.89 O
「んだとテメェら面ぁ覚えたからな銀行強盗片付けたら覚悟しとけよ!!!」

こちらも滑空しながら、地上に向けて思い付く限りの罵声を飛ばす。
そう、この街での俺の評価は最悪だった。何故だろう?
初登場の時に悪党どもを必要以上に殴って病院送りにしたのがマズかったのか。
一ヶ月前に邪魔な警官隊を悪党もろとも巨大影パンチでぶっ飛ばしたのがマズかったのか。
それとも先週電柱をヘシ折って振り回したのがマズかったのか。
思い当たる節は山ほどあるが、とにかく人気が無いのは間違いない。

「ああ畜生イライラしてきやがった……この鬱憤はテメェらで晴らさせて貰うぜ、銀行強盗ども!」

別に褒められたくてヒーローをやってるわけじゃないが、流石に罵声を浴びせられれば腹も立つ。
そんな八つ当たりに近いことを考えているうちに、目前には銀行の窓ガラスが迫っていた。
俺は頭を両手でガードし、そのままの勢いで窓ガラスをぶち破る。
窓際に設置されていた遮蔽物を蹴散らし、ついでに窓から外の様子を窺っていた強盗の一人に体当たり。
かなり派手な形になったが、とりあえず突入成功だ。

「おわっ……とっ……とぉっ!」

突入の勢いで床の上を数回転がりながらも、その勢いを利用して隙を見せずに立ち上がる。
影のスーツが衝撃を吸収してくれたおかげで、俺自身は怪我一つ負っていない。
しかし俺の体当たりをまともに食らった強盗は、その衝撃で気絶して床に転がっていた。
これでまずは一人。

「さて、ひぃふぅみぃ……銀行一つ襲うには、ちょっとばかり頭数が多すぎじゃねぇの?」

言いながら瞬時に銀行内に目を走らせ、敵の数と人質の位置を確認する。
敵は博物館に飾ってあるような古臭い銃を持った奴らが数人。
そして、その中で明らかに目立っている、海産物の塊のような怪人が一人。

「おいおいおい。どこの海で採れたんだよ、そこの気色悪ぃ海の幸は? 人の言葉分かるか?」



【毎回毎回お待たせしてしまってすみません、どうにも遅筆で……】
【とりあえず早速銀行に突入、強盗犯を一人気絶させてみました】

>>209
【本当にそうですよね……】
【どうしても書くのに3、4日くらいかかってしまって】
212 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/04/08(日) 22:00:42.88 0
「やぁ、ヒーローのお出ましだぜ。少しは仕事が早く片付くかもしれないよ」
機動隊員や野次馬が空に向かって吐き出した歓声を耳にすると、警部は中折れ帽を被り直し、あたかも馴染みの店で一服終えたといった風にふらりと通りに出る。
視線を持ち上げれば、黒い影が空を切り裂き滑ってゆく。まるで巨大なカラスを思わすその姿に警部が感じたのは少しばかりの失望と苦々しさであった。
「困ったな、また君か……ブラッククロウ」
確かにヒーローだ。ブラッククロウとは、確かに街に蔓延る悪を打倒するヒーローには違いない。
多少粗暴なのは、まぁ、いいだろう。警官を目の仇にするのも構わない。若さゆえの特権だ。中年も半ばの父親達が上機嫌で語る「俺も若い頃はヤンチャで」という奴だ。
ところが彼はヒーローであるからして、そのヤンチャの規模がいささか大きすぎる。彼の行いを聞いたなら、笑顔で旗を振るしか脳の無い警官人形だって悪態を付くというものだ。
よく聞いてみれば空に響く観衆たちの声も歓声などではない。失望感溢るる罵倒である。一方、空から振り撒かれる返答もまた怒りに満ちた罵倒であった。
先ほどまで英国の近衛兵の如く振舞っていた本部歩哨さえ、他の警官や報道連中と共に罵倒を飛ばす群集に成り果てている。
「おい君、ちょっといいかな」
「え……あっ、け、警部どのっ!いや、実にお見苦しいところを……あの、何かご用でありますか!」
親しげに呼びかけられ億劫そうに振り向いた歩哨は、見紛う事など有り得ないボガート・スタイルの上官を認めるなり、顔色を変えて背筋を伸ばした。
周囲の警官達も次々に罵声を切り上げ、逃げるようにと持ち場へと戻ってゆく。警官も人の子とはいえ、これでは……警部は肩をすくめてため息を付き、歩哨は顔を一層青くした。
「楽しそうなところ邪魔して悪いがね、急いで中隊長を呼んでき給え。もうすぐ君らの仕事になりそうだ」


戦闘員第141398号は油断などしていなかった。確かに向かい来る黒い影を目視し、確かに照準の中心に捉えたのだ。
恐らくは実直すぎたのが敗因だろう。上官たる怪人フジツボウナギの命令は「警官が近づいたら撃て!」 だった訳だが、向かってくる黒い影は、明らかに警官ではなかった。
ようやくそれをヒーローであろうと確信した時には遅かった!第141398号が引き金を絞る前に黒い影はガラスを突き破り、まっすぐ第141398号に衝突した!
ほぼ同時に放たれた銃弾は窓の外、明後日の方向に飛び去る。哀れにもヒーローの下敷きになった第141398号は、後頭部を打ち付けすっかり気を失ってしまった。
「貴様、何者だ!」
銃声と共に海水滴る怪人が怒鳴り、足元に転がされた人質達が悲鳴を上げた。彼らは何れもウナギで両手両足を拘束され、ウナギで猿轡をされ、海水でずぶ濡れになっていた。
上官の号令を受けるまでもなく、4つの銃口は間髪入れずにヒーローの心臓と額を狙う。怪人は右足を一歩踏み出すと、おもむろにブラッククロウを指差し、そして。
「俺様は怪人フジツボウナギ!秘密結社ヴェアヴォルフの改造人間だ!我々の計画を邪魔するつもりなら、ここが貴様の墓場となろう!」
相手をびしっと指し、しっかりと名乗り、月並みの決め台詞。……昨今では秘密結社ヴェアヴォルフ以外で倣う者がいない、古き良き1970年代が残した礼節の一つである。
ヴェアヴォルフの怪人は、例外なく戦闘前にこのプロセスを踏む。言うまでもなくゴル大佐の厳命によるものだ。曰く、「悪党は悪党らしくあるから悪党なのだ」と。
「俺様を海産物扱いするとはいい度胸だ!ゆけっ、悪魔の毒々ウナギよ!」
その掛け声を待っていたといわんばかりに、怪人の体のあちこちから妙に活きのいいウナギが這い出してきた!べちゃりと床に落ちた毒々ウナギが次々とブラッククロウに飛び掛る!
さらに怪人の攻撃に呼応して、戦闘員達が構える小銃が火を吹いた!
213 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/04/08(日) 22:01:21.84 0
【さて、ブラッククロウの登場を受けて警官隊も突入の準備を始めました】
【一方、銀行の中ではヒーローと対峙した怪人フジツボウナギが悪魔の毒々ウナギを呼び出し、4人の戦闘員が一斉に発砲しました】

【戦闘員達のK98小銃は結構な威力を誇る鉄砲ですが、ボルトアクション式なので至近の敵に対して2発目を撃つことがまず出来ません】
【最初の1発×4人分さえ捌けば、戦闘員は銃床で殴るとかナイフを抜くとか、その種の格闘的手段に頼るほかなくなります】
【毒々ウナギはちょっと強いウナギです。巻きついて凄い力で締め付けてくるけれども、ヌルヌルしてるから手が滑って外しづらいみたいなアレです】
【手足の動きを妨げたり首を絞めたりしようとします。でもウナギ自体は大して丈夫じゃないです。これもうまいこと捌いちゃってくださいな】
【あ、それと多少遅いのなんて気にしませんです。こちらも人にとやかく言えるほど速筆ではないので…】
>209
【なぁに、男は安っぽく怒らないものさ】
214 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/04/14(土) 00:50:15.73 O
> 「俺様は怪人フジツボウナギ!秘密結社ヴェアヴォルフの改造人間だ!我々の計画を邪魔するつもりなら、ここが貴様の墓場となろう!」

この海産物男、ご丁寧にもわざわざ名乗りやがった。
いいねぇ、俺様も正直そういう趣向は嫌いじゃない。
ここは一つ、俺様もちょっと乗ってやろうじゃないの。

「……闇夜を切り裂く黒い影! 疾走影刃ブラックロウ様だ! 覚悟しやがれ怪人フジツボウナギ!」

ヘルメットの下でニヤリと笑みを浮かべると、格好良い決めポーズと共に名乗りを挙げる。
ポーズも台詞も今この瞬間に適当に考えたが、意外と悪くないな。次からもやろうかな?
……しかし、ヴェアヴォルフ? 何か聞いたことがあるような、無いような?
まぁ俺様もかつては一大組織のボスだった男だ、商売敵の名前くらい聞き覚えがあってもおかしくはない。
……正直もうかなりうろ覚えなんだけどな。
情報収集とか情報整理とか、そういう面倒臭い仕事は、全部部下に任せっきりだったからなぁ。
……まぁ、どうでもいいか。
俺様がよく覚えてないってことは、大して大きくもない新興組織か何かなんだろう。うん。

>「俺様を海産物扱いするとはいい度胸だ!ゆけっ、悪魔の毒々ウナギよ!」

お互い名乗りが終わった所で、やっと戦闘開始だ。
フジツボウナギの掛け声と共に、その名の通り全身から這い出したウナギが俺様目掛けて襲い掛かって来る。
それと同時に、さっきからずっと俺の頭と心臓に狙いを付けていた部下が発砲。
ウナギと銃弾の同時攻撃、先に防御すべきは……まぁ銃弾だろうな。
この影のスーツが衝撃を吸収するといっても、流石に限界はある。
あの口径の銃弾を頭に食らえば、貫通はしないまでも脳震盪くらいは起こすし、体に食らえばかなり痛い。
215 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/04/14(土) 00:50:51.96 O
「あぁ? どこからどう見ても海産物だろうが、まさかそのナリで山の幸とでも言うつもりか!?」

挑発の言葉を吐くのと同時に背中のマントが形を変え、俺様の目の前に巨大な影の盾を形作る。
少し大きく作りすぎたせいで視界は塞がれたが、部下が放った銃弾は全て防ぎきった。

「ハッハッハー! んな鉛玉で俺様を仕留められると思ったら大間違……おぉぅっ!?」

盾をマントに戻し、怪人どもに啖呵を切ろうとして……俺様の足にウナギが絡みついた。
まずは両足に巻きつき、次に数匹が体を這い上がり両腕に、そして最後の数匹が首を締め上げてくる。
盾をデカく作りすぎたおかげで、前が全然見えなくて避けられなかった。
しかもヌルヌルして上手く掴めねぇし、物凄く気持ち悪い。

「気色悪いもん……くっつけてんじゃねぇぇぇええええ!!!」

怒号と共に全身から影の刃が大量に突き出し、絡み付いたウナギを切り刻む。

「そんなにウネウネしたのが好きならテメェらも絡まりやがれぇ!」

続いてこちらもお返しとばかりに、右腕から触手のように細長い影を数本伸ばし、戦闘員の一人の足を絡め捕る。
そのまま力任せに引きずり倒し、頭上で何度も回転させて遠心力を付け……

「オラァ!!!」

戦闘員の体をそのまま武器にして、残りの戦闘員とフジツボウナギを狙って鎖分銅のように振り回す。
人質たちの目が「いくら敵とはいえ酷すぎる」と言っているような気がするが、知ったことじゃない。
要は倒せばいいんだよ倒せば、たぶん死にゃしないだろ。
……ああ、もしかして、こんなことばっかりやってるから俺様って人気無いのか?


【銃弾は盾でガード、毒々ウナギは刃で切り落とし、戦闘員の一人を振り回しての外道全体攻撃。】
【戦闘員ハンマーに当たるか避けるかは自由ということで】
【何だろう、思ってたよりも万能すぎる気がするこの影】

【まさかの触手攻撃……これで影山がヒロインだったら凄いサービスシーンだったろうに】
【男の体にウナギが絡みついて誰が得するというのか】
216 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/04/21(土) 15:22:28.36 0
怪人がポーズと共に名乗ると、ヒーローもポーズと共に名乗る。
古き良き時代に生き続ける老将校がこの場に居たならば、今や揶揄の対象に過ぎぬ色あせた光景の再現を心から喜んだに違いない。
ついでにいかにも軍人らしい振る舞いで、いかにも悪の大幹部らしい演説の一つでも打ったかもしれない。長舌を以って過去に思いを馳せるのは老人の特権なのだから。
だが、若き怪人フジツボウナギは1970年代にも1940年代にも生きてはいない。単に一介の軍人として、指揮官が定めた儀式的行動様式に従ったまでだ。
「大佐に報告っ!急げっ!」
短く頷き階段へと走る部下へ振り返ることもせず、酷く人間からかけ離れた姿の怪人はあくまでも一人の下士官として振舞う。
そうだ、かの老将校が愛した時代の怪人は、何故か「大佐に任せるまでもない」だとかの台詞と共に自信過剰にも報告を怠り、ヒーローに敗れ、作戦を破綻させた。
……この怪人フジツボウナギ様が負けることなど有り得ないが、初めて与えられた重要任務に失敗し、大佐を失望させる訳にはいかんのだ。
「銃など当てにするものか!俺様が信じるのはこの愛しい毒々ウナギどものみ!」
盾に化けた影に衝突し、ひしゃげた4つの小銃弾頭が床に転がり弱々しく音を立てる。その上を毒々ウナギが這い、ヒーローへと迫った。

この毒々ウナギなる生命体は絶滅危惧種ヨーロッパウナギに起源するウナギ目ウナギ科に属する魚類の一種だ。意外にも毒性は皆無で食用にも適する。
秘密結社ヴェアヴォルフで改造手術を一手に担うマッドサイエンティストの死神教授がある種の化学薬品に基づく畸形種のみを数世代に渡り交配し生み出したのである。
例えば毒々ウナギに人間の致死量の50倍以上の青酸カリを注射したとしても、シアン化水素が生じる前に分解する。重金属や放射性物質すら数分で無害化する。
少なからぬ知性と攻撃的な性格を持ち、強靭な筋組織を備え、あらゆる環境に適応する脅威の生命体である……が、しかし。
「うわぁぁぁ!?お、俺様の毒々ウナギが!?そんな馬鹿な!」
宇宙空間でも、核戦争下の大地でも、絶対零度の世界でも、濃硫酸の海の中でも、高度な真社会性の元に生存しうる生命体は、いとも簡単に影のナイフで切り刻まれた。
それもその筈、食用に適した生命体たる第一の条件は包丁で捌ける事なのだ。
「くそっ!ブラックロウ、貴様だけは許さんぞ!!戦闘員よ、奴を血祭りにあげろ!!」

妙に感情的になった怪人の背後で、戦闘員第141452号及び戦闘員第14159号はこの若き上官の醜態に少なからぬ失望を覚えていた。まったく、高々ウナギ如きで大騒ぎして……
早く尊敬する大幹部の下に戻りたいと思いつつも、彼らは務めを果たすべく小銃の槓桿を引き、小銃を構えた。第141452号が頭部を、第14159号が心臓を狙う。
しかし引き金に指を掛ける直前、第14159号は視界の端に細長い影を見た。
「……っ!まずいっ!避けろ141452号っ!」
第14159号が飛び退きながら叫ぶが、彼ら独特の冗長な呼び名が災いし、警告はすっかり遅れてしまった。足元へ伸びた黒い影が、第141452号を引き摺り倒したのだ。
銃剣を抜いて切り払おうと試みるも影に刃が立たず、哀れにも第141452号は逆さに吊り上げられ、振り回され、目を回し……このあたりから第141452号の記憶に霞が掛かり始める。
「たた助けてくださいフジツボウナギ様ぁー!!!」
「うぉぁぁぁぁぁぁ!?」
彼の脳に刻まれた最後の記憶は、絶叫しながら目前へ迫り来る上官と、腐臭交じりの磯臭さであった。
期せずして数秒間の空中遊泳を体験した第141452号は怪人フジツボウナギに衝突。怪人は陶器のように砕け崩れ、フジツボやウナギが浮かぶ海水が腐臭と共にあふれ出した。
そして第141452号は壁へ頭をめり込ませ気絶している。もし彼が改造手術を受けていない生身の人間だったなら上官と共に粉砕され凄惨な肉片に姿を変えていたことだろう。
こうして、ヴェアヴォルフが送り出した悪の怪人フジツボウナギは倒れた。
217 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/04/21(土) 15:23:08.85 0
……と、思われた。だが、しかし。
「あわ……あわわ……」
直前に伏せて難を逃れたはずの第14159号が、唐突に痙攣し始めた。体が跳ねる度、彼の身体にフジツボや毒々ウナギが集り、やがてフジツボが甲冑の如く全身を覆いつくした。
「フ……ファーハッハッハッハ!痛かった!今のは痛かったぞブラックロウ!!!」
ゆらりと立ち上がる姿は、まさに怪人フジツボウナギそのものである。声までもが、すっかりフジツボウナギの「外見にそぐわない若々しくさわやかな声」に変わってしまっている。
さらに溢れ出し床の上を泳いでいた毒々ウナギまでもが、何時の間にか怪人と同じフジツボの鎧を纏っていた。高い知能を秘めた魚類どもは、ナイフに抗う術を学習したわけだ。
「馬鹿めが!俺様は不死身なのだ!貴様がどんな技を使おうとも、俺様は何度でも蘇る!!かかれぇ!」
そして、装甲毒々ウナギがブラックロウに飛びかかる!今度は縛り上げるなんて回りくどい真似はしない。フジツボアーマーから突き出した鋭利な突起で、ヒーローを切り刻むのだ。

【たっぷり待たせちゃいましたね……それから、ずっとブラッククロウって書いてました。あわせてごめんなさい…】
【しかしまぁ、怪人のアイデアが出なかったからって適当にテレビから聞えた名前を拾って適当に組み合わせ、さらに適当に能力作ったのが間違いだったのですね、きっと】

【さて、伝令が大佐のいる地下へ向かいました。また戦闘員ハンマーは怪人に直撃。フジツボウナギは粉砕されましたが、もう一人の戦闘員に取り付いて復活してしまいました】
【なんと怪人フジツボウナギはフジツボの集合体であり、芯になるものさえあれば何度でも蘇ってしまうのです。いくら攻撃しても、次は人質に取り付き蘇るでしょう……】
【さらにフジツボアーマーを身に着けた毒々ウナギが、フジツボのとんがった部分でブラックロウを切りつけようと飛び掛る!】

【……で、ここからは中の人向け情報として】
【実は戦闘員に取り付いたフジツボアーマーの中に潜む毒々ウナギの親玉が本体です。こいつが悪い電波的なものを発信してフジツボとウナギと戦闘員第14159号を操ってます。声もこいつが出してます】
【親玉ウナギは他のウナギより大きめだけど弱いです。時々アーマーの隙間から顔を出して様子を伺ってます。これを倒すと残りの毒々ウナギも全部死にます。人質の拘束も解けます】
【というわけで、どうにかこの弱点を発見しちゃってくださいな】
218 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/04/29(日) 07:43:44.94 O
「あぁ? なんだよ、もう終わりか?」

俺様が振り回した戦闘員ハンマーは、見事にフジツボウナギに直撃した。
その体は粉々に打ち砕かれ、ウナギやフジツボが浮かぶ海水が、まるで血溜まりのように地面に広がっていく。
思いの外あっさりとケリがついて、正直ちょっと拍子抜けだが……まぁ、勝ちは勝ちだ。

「フジツボウナギ、お前は決して弱くはなかった……ただ俺様が強すぎたってだけの話だ! ハッハッハッハー!」

すぐに気持ちを切り替えて、俺様は高笑いと共にビシッとポーズを決め、勝ち名乗りを上げた。
怪人フジツボウナギは倒れ、ハンマーとして振り回してやった戦闘員は、壁に頭から突き刺さっている。
残るは上手いことハンマーを避けた戦闘員と、報告に行った戦闘員か。
……ん、報告? 報告ってことは他にまだ仲間がいるってことか?

「あー……戦闘員37564号だったか? ちょっと聞きたいことがあるんだけどよぉ」

うろ覚えの番号で呼びながら、俺様はゆっくりと戦闘員に向き直る。
こいつには色々と聞きたいことができた、ぶちのめすのはそれを吐かせた後だ。
仲間は残り何人いるのかとか、さっき言っていた『大佐』のこととかな。
影のスーツ越しに指の関節をポキポキと鳴らしながら、威圧感たっぷりに歩み寄ろうとして……

> 「あわ……あわわ……」

……戦闘員の体に異変が起き始めた。
体がビクビクと痙攣を始め、地面に散らばったフジツボやウナギたちが集まっていく。
フジツボが徐々にその体を覆い始め、最後にはフジツボの鎧が戦闘員の体を完全に覆い隠す。
その姿はまさに、数分前に俺様が倒したはずのフジツボウナギそのものだった。

> 「フ……ファーハッハッハッハ!痛かった!今のは痛かったぞブラックロウ!!!」

「ハッ! 部下の体を乗っ取って復活とはな、海産物どころか寄生虫みてぇな野郎だな!」

どうやら同じなのは外見だけではないらしい。
目の前に立っているのは紛れもなく、俺様が粉々に砕いてやったはずのフジツボウナギ本人のようだ。
しかし、姿どころか声まで前と同じってどういう理屈だよ?

> 「馬鹿めが!俺様は不死身なのだ!貴様がどんな技を使おうとも、俺様は何度でも蘇る!!かかれぇ!」

フジツボウナギの号令と共に、再びウナギどもが俺様目掛けて飛びかかってくる。
しかし何度やっても同じことだ、また細切れにしてやればいい。
両手の肘から先の影を剣状に変形させ、ウナギを迎撃するべく刃を振るう。

「……っんだとぉ!?」

しかし、俺様の影の刃はあっさりと跳ね返されてしまった。
よく見れば、ウナギの体はびっしりとフジツボの鎧で覆われている。
それが影の刃を見事に弾き返したようだ。
219 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/04/29(日) 07:46:47.66 O
「チッ、再生怪人ってのは元より弱いもんだと相場が決まってんだろうがよ……!」

迎撃することを諦め、フジツボの装甲で強化されたウナギを避けながら、俺様は悪態をつく。
右へ、左へ、上へ、下へ。銀行内を縦横無尽に飛び回り、襲い来る装甲ウナギを紙一重で回避する。
しかも、どうやら強化されたのは防御力だけではないらしい。
避けきれなかった装甲ウナギの突起がスーツを切り裂き、その下の俺様自身の肉体までも切り裂いていく。

「大した切れ味だが、この程度じゃ俺様を殺すには足りねぇなぁ! これで全力かよ、この海産物野郎が!」

回避を続けながら挑発の言葉を投げかけるが、このままではジリ貧だ。
何とかして、この不死身の化物を殺しきる方法を考え出すしかない。
この世に不死身の怪物などいるはずがない、必ず何か弱点があるはずだ。
奴の今までの言葉を思い出せ、何かヒントになるような言葉は無かったか……?

> 「銃など当てにするものか!俺様が信じるのはこの愛しい毒々ウナギどものみ!」
> 「うわぁぁぁ!?お、俺様の毒々ウナギが!?そんな馬鹿な!」
> 「くそっ!ブラックロウ、貴様だけは許さんぞ!!」

「……ウナギ?」

そういえば、奴は俺様がウナギを切った時、妙に怒ってたな。
いくら海産物野郎とはいえ、あの怒り方はおかしいだろう。

「まさか野郎の本体は……っとぉ!」

奴の弱点らしき物に思い至った俺様は、装甲ウナギを避けながらフジツボウナギの体を観察する。
相変わらずフジツボだらけの気味の悪い姿、その隙間からは数匹のウナギ達が出たり入ったりを繰り返している。
そして、そのうちの一匹、他と比べて一回り以上大きなそれが俺様の視界に入った。

「こうなりゃイチかバチかだ、食らいやがれぇ!」

親玉ってのは大抵一番デカいもんだろう、ただ単にそれだけの、理屈にもならないような思いつき。
その直感を信じて、俺は影のナイフをそのウナギ目掛けて投げ放った。


【本当すみません、ついに上限の一週間を超えてしまいました……】
【今後は少なくとも一週間以内には投下できるように頑張ります……】

【襲い来る装甲ウナギは連続回避、しかし避けきれずに何匹かは体を掠り微妙にダメージを受ける】
【確信は無いものの、フジツボウナギの本体目掛けて影ナイフを投げつける】
【なんだか弱点に気付く経緯が無理矢理というか御都合主義すぎる気もしますが】
【そこはまぁ野生の勘ということで】
220 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/05/03(木) 19:38:19.27 0
「昔、これと同じ光景を見た覚えがある。1945年のキール軍港だ。知っておるか、Uボート…潜水艦の根拠地だよ。あの時にもこうして金塊を運んだものだ」
戦闘員達の作業を眺めていると、ふと懐かしい光景を思い出す。楽しい思い出話を語りたい所だが、顔を真っ青にしてガタガタ震えている頭取に清聴は期待できまい。
キールとは旧プロイセン北端に位置する港湾都市だ。恵まれた地理条件にも係わらず商業都市にはなり損ね、古くから海軍と共にあった街である。
ドイツ帝国の時代にはデーニッツ提督が愛したUボート艦隊の根拠地が設置され、キール軍港は「灰色狼の巣」と渾名された。第三帝国の時代にもUボートはキールの街と共にあった。
こうした歴史的事実に由来する空想には枚挙に暇がない。人知れず海深くを行く軍事機密の塊という神秘的な存在は、しばしば冒険活劇や都市伝説の舞台として好まれるようだ。
『軍需物資や金塊を満載したキールのUボートが終戦直後に消えうせた』というのも、『総統は生きていた』だとか『南極のUFO秘密基地』だとかと同時期に流布された与太話に過ぎない。
……と、小市民諸子には信じられているが、この一見して下らない与太話もまたキールにまつわる歴史的事実の一つである。かの艦は金塊と共に、我ら敗残兵を南米へと送り届けたのだ。
不出来なゴシップの皮を剥ぐと、時に真実が顔を出す。例えばアダムスキー氏が語った摩訶不思議な教義の中にだって、一片の真実も紛れていまいと誰が断言できようか……

さてさて閑話休題。兎にも角にも、金塊と我々を遮るものは今や皆無。漸く開いた大金庫の中には大量の現金と宝飾品、そして眩いばかりに輝く金塊が整然と積み上げられている。
小市民にこれらを与え、彼らが貧相な日々に思い描く、いい家、いいメシ、いい服、いい車……そうした全ての「いい物」を購入させても、この莫大な財産にはなお余りある。
しかし、この金庫全てを引っ繰り返しても、我々が手に入れんと渇望する「いいもの」にはとても及ばない。小市民の野次馬性質を満足させる大銀行強盗も、我々には長い旅路の僅か一歩に過ぎない。
次なる一歩に備え足元を踏み固めるべく、戦闘員達は次々と金塊を手に取り、各々手際よく背嚢へと詰め込んでゆく。襲撃は成功、制圧も成功、回収も成功。残す作戦行程は逃亡のみ。
ところが──経験則に従えば、悪の作戦というものは順調だと思った途端に問題が生じ一気に瓦解する。今回も例外ではなかったらしい。
「通せっ!通してくれっ!!大佐はどこにおられるかっ!」
只ならぬ様子で階段を駆け下りてきたのは戦闘員第141402号。フジツボウナギと共にロビーの警戒に残した戦闘員の一人である。俺の前に来ると踵をカツンと打ちつけ、右手をまっすぐ伸ばし敬礼する。
如何なる危機に晒されていようと、戦闘員の動作も制服も乱れる事はなく、まるで兵隊人形のようだ。これでいい。これでこそSSの男に相応しい。ヒムラー長官が夢見た『黒色の軍勢』の再現だ。
そして俺もまた、映画や記録フィルムに現れる男達と同様、背筋を伸ばし同じ敬礼で答礼し、「何事か」と応じる。兵に対する将校の言葉は可能な限り短く、また口調は多少尊大でなければならぬ。
「襲撃ですっ!!敵はヒーローが一名!疾走影刃ブラックロウと名乗りました!フジツボウナギ様と戦闘員2名が足止めしています!」
第141402号の語る切羽詰った報告も、特に驚きには値しない。悪党が悪い事をして、正義のヒーローが現れた。善と悪を巡る永久不変の法則ではないか。
さて、もう一つここで経験則を用いると、作戦の最中でヒーローと遭遇した悪の怪人という奴はしばしば弱点を露呈し、撃破されてしまう。彼らの実力云々ではなく、避け得ぬ法則の一つなのだろう。
「ブラックロウ……聞いた名だ。確か悪党の頭目だと思っていたが……まぁ、いい」
背後では着々と搬出が進む。もう30分もあれば金庫から金塊は姿を消し、その全てが戦闘員の背嚢に収まる。そうすれば、後は下水道から貫通させたトンネルを抜けるだけだ。
この時間を稼げるかどうか、それが重要な問題だ。作業を完了し待機している戦闘員達に目を走らせ、特に屈強そうなものを2名ほど見つけ出す。
「そこの2名…貴様と貴様だ。背嚢を置いて俺に続け。そっちの貴様、我々が戻らなかったらその背嚢も運び出せ。銃を捨ててでも運び出すんだ。いいな」
こうして1人のMG42機関銃手と2人のK98小銃手、1人の老将校の4名から成る部隊が、仄かに生臭さが漂ってくる階段へと向かった。

221 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/05/03(木) 19:47:03.05 0
「ファーハッハッハッハ!踊れ踊れぇ!その減らず口、いつまで叩いていられるのか見ものだなぁ?」
乱舞する装甲ウナギと、それに翻弄されるヒーローを眺め、怪人フジツボウナギは勝利を確信していた。不死身の怪人という脅しも十分に通じたはずだ。
いやはや、やはり大佐に任せるまでもない些細な障害であった。もうしばらくすると大佐がおいでになるのだし、このヒーローの首を我が武勇の証として捧げよう。そうだそれがいい。
そうすると大佐は、この怪人フジツボウナギ様の能力を正当に評価してくださるに違いない。俺の昇進も認められ、やがては大佐と並ぶ大幹部に……親玉ウナギの脳内で、都合のいい妄想が加速する。
この妄想に一層の現実味を添えるべく、戦闘員第14159号を覆うフジツボの鎧の隙間から顔を出しヒーローの醜態を眺める。ああ、ああ、何と愉快な事か。俺の野望はここから始まるのだ!!
そうだ、やがては俺自身が悪の秘密結社の大総統に…………
『───らいやがれぇ!』
あ?今、奴はなんて言った?いや、何かが奴の手を。
「ぐぁぁぁぁぁっ!?」
怪人フジツボウナギ──フジツボに覆われた第14159号──は身動ぎ一つしていないにも係わらず、その一撃と共に耳障りな絶叫が響き渡った。それは紛れも無く、怪人フジツボウナギの声である。
鋭く放たれた影のナイフが、顔を出していた親玉ウナギを真っ二つに引裂いたのだ。ブラックロウに飛び掛らんとしていた装甲ウナギも、墜落したり衝突したりと目に見えて統率を失った。
「な……何故だ……何故、この俺様が本体だと………」
固まっていた怪人フジツボウナギの鎧が崩壊を始める。徐々に第14159号の黒い野戦服が露になり、土くれのように剥がれ落ちたフジツボは生臭い海水の中に溶けて行く。
しばし好き勝手に泳ぎ回っていた毒々ウナギたちは、やがて腹を見せて浮かび、ぐったりと動かなくなる。人質達の拘束も同様に緩み始めた。
「お、俺様を倒したくらいでいい気になるなよ…すぐ、すぐに大佐が……ふぁ、ファーハッハッハ……」
怪人フジツボウナギが膝を付く。脚を覆っていた鎧が砕け散った。今や動いているウナギは一匹もいない。重力にされるがまま、海水と共に緩やかに流れているのみである。
余裕たっぷりに笑おうとして、親玉ウナギは無意識に偉大なる時代の怪人達と同じ振舞いをする自分が面白くなってきた。もう意識が薄れてきたが、それならそれらしい最後の台詞を吐いてやろう。
「ヴェアヴォルフ……ばんざーい……」
声の調子もおかしくなり始める頃、怪人フジツボウナギが前のめりに倒れた。鎧は全て砕け散り、苦しげに呻く第14159号と、今や何も語らぬ親玉ウナギの亡骸だけがそこに残された。
こうして、ついにヴェアヴォルフが送り出した悪の怪人フジツボウナギは倒れたのである。
222 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/05/03(木) 19:49:47.88 0
──同時刻、銀行前で。
「間違いありません、警部殿!今度こそ、今度こそ怪人は倒れました!今こそ突入を!!」
『突入、突入、突入……君はどうも血の気が多すぎていけないな……ま、止むを得まいね。許可する。許可するが、くれぐれも発砲は控え給え。くれぐれも、だ』
「奴はヒーローとはいえ凶悪な男です!警部殿だってご存知でしょう!?警部殿は自分達に死ねというのですか!?人質達に死ねというのですか!?」
『奴とて唐突に無差別殺人は犯すまいよ。むしろ君が心配なんだ。奴を人質ごと蜂の巣にしたくてうずうずしてるんじゃないか、とね。先月の件もあるのだし』
「自分は警察官です!!人命の救出を最優先に考えております!!個人的な怨恨で行動するはずがありません!警部殿のお言葉はあまりに心外であります!!」
『それならいいんだが……ところで、一々叫ばなくても十分聞えているよ。無線が無くとも聞えるくらいだ、君の声は。それでは健闘を』
漸く通信が終ると、機動隊中隊長は背後に控える完全武装の中隊に振り返り、より一層の大声で叫んだ。
「よーし……ボギーの許可が出た!突入だ!あの野郎、思い知らせてやるぜ!!」
ボギーといえば名優ハンフリー・ボガートの愛称であるが、この中隊長殿のようにかのベテラン警部を快く思わない者は、古臭く気障なスタイルに対する揶揄を込め密かに彼を『ミスタ・ボギー』と呼ぶ。
もっとも、当の『ミスタ・ボギー』自身はこの呼び名を不愉快に捉えるどころか、むしろ気に入っている節さえあるのだが。

さて、そんなミスタ・ボギーのささやかな苦言は、中隊長の煮えたぎるような闘志の前に蒸発し立ち消えてしまった。無論、彼だって理由も無く理性を放棄し銃を握る手に力を込めている訳ではない。
ブラックロウには深い恨みがあるのだ。絶対に許す事が出来ない。とにかく許せない。血を持って償わせねばならぬ。あの屈辱と苦痛を奴に返してやらねばならぬ。彼の心はすっかり復讐に燃えていた。
一ヶ月前、ブラックロウは逃亡していた悪党へ向けて巨大な影パンチを見舞った。その結果、悪党及び悪党を追跡していた警官隊が全員吹っ飛び全治一週間から半年まで様々に重軽傷を負ったのである。
かの機動隊中隊長もまた、吹っ飛んだ警官の一人であった。新入り隊員に「俺こそ生ける教範。俺を見て学べ」だとかと勇ましい説教を垂れた、まさにその日の午後に起こった悲劇であった。
すっかり傷ついた哀れな中隊長殿のプライドは今尚癒えていない。その痛みと苦しみは、目下巨大な復讐心となって彼の瞳に燃え上がっている。
「とっかぁぁん!!!」
あたかも中世の将がサーベルを振るうように、中隊長が号令と共に警棒を銀行に向けて振り下ろすと、ジュラルミンの盾を前に立て、中隊は雄叫びと共に一個の塊として銀行に衝突した。
窓という窓、ドアと言うドアを突き破り、機動隊員がロビーへとなだれ込む。先頭に立つのは、怒りに燃える中隊長その人である。

【フジツボウナギは死にました。その他のウナギ諸共に完全に死にました】
【伴って人質の拘束も解けましたが、みんな海水に濡れたまま放置されていたので衰弱しています】
【さらに地下では金塊の運び出しが進み、大佐が3名の部下を連れて1階の様子を見にこようとしています】
【さらにさらに、一ヶ月前の恨みを胸に抱く機動隊中隊長が部下を率いて銀行への突入を敢行しました!】

【機動隊突入のタイミングは自由に捉えてくださいな。戦闘直後とも、地下へ向かった後とも、尋問やら人質解放やら一通り終った後とも、その他諸々ご自由に】
【戦闘員第14159号は意識を取り戻したので尋問のチャンスです。してもしなくても大して問題はありませんが】

【遅くなったのは気になさらず。こっちだってそう早くはないのです】
223 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/05/03(木) 19:54:22.37 0
ttp://yy44.60.kg/test/read.cgi/figtree/1336042389/l50
【そういえば無かったなと思って避難所作っておきました】
【報告連絡相談ありましたらこっちに。あんまり使わないかもしれないですけど】
224 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/05/11(金) 02:38:42.82 O
「今度こそ、俺様の勝ちみたいだな」

俺様の投げ放った影のナイフは、狙い通りに大型ウナギを貫いた。
それと同時に周囲のウナギ達も力を失い、戦闘員の体を覆っていたフジツボの鎧も剥がれ落ちていく。
どうやら本当に、あの巨大ウナギが奴の本体だったらしい。
パチンコでも競馬でも負け続けの俺様だが、今回の賭けは俺様の勝ちのようだ。

「どうして分かったかって? テメェの弱点なんざ、俺様の天才的頭脳にかかれば……」

フジツボウナギの疑問に答えてやろうと口を開くが、奴にはその時間も残されていないらしい。
力無く地面に膝をつき、その拍子に脚のフジツボが砕け散った。
せっかく冥土の土産に俺様の名推理を聞かせてやろうと思ったのによ。

>「ヴェアヴォルフ……ばんざーい……」

最期にそう言い残して、怪人フジツボウナギは死んだ。
今度こそ、本当に。
後に残ったのはウナギの死骸と砕けたフジツボ、そして苦しげに呻いている戦闘員だけだった。

「最期の言葉がそれか……大佐って奴が羨ましいぜ、まったくよ」

ゆっくりと戦闘員に歩み寄り、ウナギに刺さったままの影のナイフを回収しながら、苛立たしげに呟く。
フジツボウナギの野郎は、最期まで組織への忠誠心を忘れなかったらしい。
俺様の部下とは大違いだ、あの裏切り者どもめ。
偉大なる大総統であるこの俺様を裏切りやがって、少しはこのフジツボウナギを見習いやがれってんだ。

「ああ畜生、思い出したら本当に苛ついてきたぞ畜生!」

苛立ちに身を任せ、足元に転がっていた何かを蹴飛ばす。
サッカーボールをゴールに叩き込むような勢いで、全力で。

「……っと、そうだ。大佐って奴のことを聞かねぇとな」

戦闘員はあらかた叩きのめしてしまったが、まだフジツボウナギに体を乗っ取られていた奴が残っていたはずだ。
そいつから大佐の能力や弱点を聞き出せば、有利に戦えるだろう。
……と、そこまで考えてから、先程俺様が蹴り飛ばした何かが視界に入った。
全力で顔面を蹴り飛ばされて気絶した、最後の戦闘員の姿が。

「……ま、まぁ情報なんざ無くても、俺様にかかれば大佐だろうが大将だろうが楽勝だよな!」

やっちまった物は仕方ない、ここは男らしく諦めよう。
誤魔化すように大声で言いながら、次は拘束されていた人質たちに目を向ける。
さっさと大佐とやらの所に行きたいが、流石にこのまま放っとくわけにもいかないからな。
とりあえず、体に巻き付いているウナギだけでも切っといてやるか。

「ありがとう、あんた本当にヒーローだったんだな」
「助かったよ、あんた噂に聞いてたよりはいい奴なんだな」
「俺は最初からブラックロウを信じてたぜ! いや本当だって!」

口々に礼を述べていく人質たちに適当に返事を返しながら、手早く拘束を解いていく。
よく考えたら、感謝されるのって初めてじゃないか?
……まぁ、俺様の柄じゃないが何だか悪くない気分だな。
225 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/05/11(金) 02:39:42.73 O
「さて、これで全員か? それじゃあ俺様はもう行くぜ、まだ残りがいるらしいからな」

人質たちにそう言い残すと、俺様は報告を命じられた戦闘員が向かった階段へと歩いていく。
人質の保護やら気絶した戦闘員の確保やら、そういう事は警官どもに任せておけばいいだろう。

>「とっかぁぁん!!!」

……と、ちょうど階段の一段目を踏もうとしたところで、後ろから大人数の凄まじい雄叫びが聞こえてきた。
後ろを振り向くと、機動隊の連中が窓やドアを蹴破り次々と突入して来るのが見える。
そして、その機動隊の先頭に立ち、指揮を執っている男には何となく見覚えがあった。
ちょうど銀行突入前に思い出していた、一ヶ月前に俺様がうっかり殴り飛ばしてしまった中隊長だ。

「よう、久し振りじゃねぇかとっつぁん。悪いね、見舞いにも行けなくて。傷はもういいのか?」

階段を降りる足を止めて中隊長に向き直り、わざと挑発するような言葉を選んでフレンドリーに話し掛ける。
向こうが俺様を嫌っているように、俺様もこの中隊長が気に入らなかった。
この中隊長と俺様は水と油というか、どうにもそりが合わないらしい。
いや、だからって一ヶ月前のアレはわざとじゃなくて、本当に不幸な事故だったんだけどな。

「そんじゃ俺は行かせてもらうぜ、まだ奥に大物が残ってるらしいからな」

捨て台詞のように早口でそう言うと、今度こそ階段を一気に駆け下りていく。
大佐のいるらしい地下へ向かって。


【戦闘員1419号はうっかりノックアウトしてしまったので尋問は無し】
【人質を解放、感謝されてヒーローになって以来初めての達成感のような物を感じる】
【そしてただでさえ怒っている中隊長を更に挑発してから地下へと向かう】

【おお、ついにこのスレにも避難所が! お疲れ様です!】
【やっぱりこれからは【】を使った会話は控えて、避難所で話した方がいいんでしょうかね?】
226 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/05/19(土) 23:56:08.19 0
「だぁれがとっつぁんだ!誰が!」
やたらと親しげな言葉に中隊長は激昂し、ブラックロウを指差しながら喉が引裂かれんばかりの大声を張り上げた。
目を回した戦闘員や大声に怯える衰弱した人質という職務上の関心事を気に掛ける様子は今のところまるで無い。彼の網膜には、憎むべき男だけが映っていた。
「ブラックロウ!貴様のせいで俺がどんな思いをしたと思う?新入りに舐められ、同期に笑われ、ボギーの野郎にまでコケにされる!みんなお前のせいだ!」
隊員達からは「そうだそうだ」とか「中隊長殿に土下座しろ」とか、さらには到底警察官とは思えぬ程度の低い罵詈雑言まで、様々に野次が飛ぶ。
彼ら銀行へ突入を図った機動隊員各位は血の滲むような訓練を耐え抜いた選りすぐりの精鋭で、これを率いる中隊長も粗野な態度に反して警察学校の上位卒業者である。
指揮官が部下の理性を代行し、また部下は自己を滅し指揮官の手足として振舞う。即ちこの中隊こそが完成された一つの生物と例えられる理想的戦闘組織の縮図なのだ。
理想的な一個中隊が生物として完結している以上、頭脳たる中隊長が笑えば中隊も笑い、中隊長が泣けば中隊も涙して、中隊長が怒れば中隊も怒りに燃える。
「とにかく逮捕だ逮捕!お前も逮捕してやるぞ、畜生が!」
だからして中隊長がマヌケなトーマス・キャットに成り果てていれば、中隊がキーストン・コップスとしてスラップスティック・コメディを演じるのも道理というものだ。
中隊長以下総員が一丸となって一頻り喚いた後、中隊長が拳銃を構えると一個中隊分の銃口が一斉に階段を睨むが、しかし黒いヒーローは罵声の波が止む直前、銃弾を待たずして素早く地下へと消えていた。
「ええい待て!!……くそっ!」
思わず一歩前へ踏み出したが踏みとどまり、海水の腐臭漂うロビーを見回す。人質や機動隊員の視線は、、視界から敵を失して一握りの冷静さを取り戻した中隊長の一身に集束する。
この粗野で感情的かつ短慮な男は、理知的とか紳士的といった優雅な言葉が人一倍に似合わない。だが同時に人一倍に正義を愛し悪を憎む、正真正銘の警察官でもあった。
復讐は果たされねばならないが、私事が人質の救助や犯人の確保に優先することは決して有り得ない。社会正義こそ、彼を突き動かす絶対的な価値観なのだから。
「何してんだ!人質を解放!被疑者を確保!本部への報告も急げ!」
理性の命を受けた隊員たちは間髪入れず「はっ」と一言で応じ、拳銃をホルスタへと収めた。彼らは人質達に肩を貸し、あるいは気絶した戦闘員を引き摺り、次々と銀行の外へと連れ出してゆく。
まもなくして女性キャスターのヒステリックな声と共に、人質救出の瞬間が付けっ放しだった備え付けのテレビに映し出された。右下のワイプで気短な学者が早くも事件の総括を論じ始める。
画面を一瞥した中隊長はフンと鼻息を付き、職務を遂行する部下に視線を戻す。彼は正義に燃える正真正銘の警察官であったが、同時に些細な私怨に身を焦がす粗野で感情的かつ短慮な男である。
「……くそっ!」
職務と感情の挟間に縛られた中隊長は苛立ちに身を任せ、足元に転がっていた何かを蹴飛ばす。そう、まるでサッカーボールをゴールに叩き込むような勢いで、全力で。
ようやく意識を取り戻しかけたところで怒りのサッカーボールキックを食らった戦闘員第14159号は、再び無意識の世界へと旅立っていった。
227 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/05/19(土) 23:56:26.06 0
地上1階から地下1階に降り立ち階段室を出たならば、真っ直ぐ伸びる幅の広い通路の先に赤い扉が見えるだろう。その先に地下2階金庫室への階段がある。
この通路が担う本来の責務は障害だ。第一に電子錠式の鉄格子が4つ。第二に監視カメラが15個。第三に赤外線感知式警報機が20箇所以上。これらの保安装置が2箇所の保安室で屈強な警備員に管制されていた。
重武装の戦闘員と怪人をそんなもので止められようはずもなく、突入後間も無く全ての保安装置は能力を喪失し、全警備員が制圧された。今や地下1階は通路としての役割しか果たさぬ瓦礫置き場である。
悪の大幹部とヒーローが出会う場所としては、まぁ及第点をやってもよかろう。何せ地下だ。薄暗く埃っぽい地下こそ悪人の居場所に相応しい。ステッキを突くとコンクリートの壁に固い音がよく響く。
「これはこれは……やはりフジツボウナギは任務を達成できなかったらしいな?俺はゴル大佐。秘密結社ヴェアヴォルフの大幹部である」
左の目尻に皺をよせつつ、年齢と共に垂れ下がってきた瞼を持ち上げ右一方だけの瞳で奴を睨む。沈むような黒い衣装に烏のようなヘルメット。……ああ、それでブラックロウか。
警官を病院送りにしたとか何とか、あまり良い噂は聞いていなかったが、見てくれの方は中々にヒーローらしいじゃあないか。
「さて……まずは文明人らしく会話をしようじゃないか。俺は悪党だが野蛮人ではないのでね」
背後で機関銃や小銃を構えた戦闘員達が頭部と心臓を狙い照準を絞る。ヒーローが銃弾では死なぬのもよく知られた法則ではあるが、金塊搬出までのわずかな時間くらいは稼げると期待したい。
「我々は必要以上の強欲さを持たぬ。我々を見逃すと約束するなら、金庫の残りから相応の謝礼を払おう。無論、汚名は我々が被る。どうだ、貴様が欲しいのは金か、それとも……銃弾か?」
奴が銃弾を選ぶなら、望みどおりにしてやろう。ヒーローたるものそうでなくては。
……なに、もし金を選んだら?判りきった事だ。そんな不誠実な奴との約束など到底信じられぬ。やはり銃弾を持って始末するしかあるまい。

【中隊長殿は怒り心頭。しかし人質の救出や戦闘員の逮捕を優先してロビーに残りました。機動隊が地下へ向かうにはもう少し時間が必要そうです】
【一方、大佐一向は地下一階でブラックロウと遭遇。盗みきれない金庫の中身を見返りにして、逃走を見逃すようにと汚い取引を持ちかけました】
【けれど、ブラックロウの答えが何れであろうとも、ある程度の時間を稼いだ段階で攻撃に移る気でいるようです】

【さてさて、やはり避難所があったほうがいかにもTRPGスレらしいのでね。必要かはわかりませんが】
【長めの報告連絡相談ありましたら向こうでお願いします】
228 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/05/27(日) 02:47:52.58 O
「やべぇやべぇ、本気で撃つ気だったぞあのオッサン」

地下へと続く階段を駆け下りながら、先刻の中隊長の鬼気迫る様子を思い出して軽い調子で呟く。
間違っても好かれてはいないだろうとは思っていたが、まさかあそこまで恨まれているとは予想外だった。
多分ほんの一瞬でも姿を消すのが遅かったら、俺様は今頃蜂の巣だっただろう。
まぁ、撃たれたところでサツの豆鉄砲なんざ俺様には効かねぇけどな。

(しかし、まだ追って来ないってことは……流石に自分の仕事は忘れなかったってわけか)

背後から機動隊の足音が聞こえて来ないことを確認して、ヘルメットの下でニヤリと笑う。
奴らと戦ったところで俺様が負けるはずは無いが、流石にまた警官を病院送りにするのはマズい。
ヒーローをやっていく以上、警官ともそれなりに仲良くやっていかないとな。
……あの中隊長のとっつぁんとは、たぶん一生仲良くなれる気はしないが。
そうして色々と考えながら階段を下っていると、遂に地下一階に到着した。

「こいつはまた、随分と派手にやったもんだな、オイ」

目の前に広がる光景を見て、俺様は呆れたような声を漏らした。
俺様の経験上、この先には厳重な警備の敷かれた通路があるはずなんだが……そこにあったのはただの瓦礫の山だった。
予想通りというか何というか、どうやら既に突破された後らしい。
そして、その瓦礫の山の先に赤い扉が見える。おそらく更なる地下へと下りるための階段にでも続いているんだろう。
扉の手前には、俺様の行く手を遮るように数人の男が立っていた。
その中の一人、軍服を着たいかにも偉そうな爺さんが口を開く。

「あんたが大佐かよ、まさかこんな所で出くわすとは思わなかったぜ。
 俺様はブラックロウ……あー、人呼んで影から影への漆黒の旅烏だ」

フジツボウナギに名乗った時のキャッチフレーズは忘れたが、とりあえず俺様も名乗っておく。
しかし……服装と雰囲気から何となく察しはついていたが、どうやら本当にこの爺さんが噂の大佐らしい。
てっきり一番奥の大金庫にでもいるかと思っていたが、まさかこんな手前の方で出迎えてくれるとはな。

「……あぁ? 会話だぁ? 命乞いでもするつもりかよ?」

腰を深く落とし、殴りかかるために臨戦態勢を整えていたんだが……大佐の言葉に気勢を削がれ、間の抜けた声を上げてしまう。
敵との話し合い、俺様がこの世で一番苦手なやり方だ。
だいたい、部下に銃で狙わせといて何が話し合いだってんだ。

「……いいぜ、聞くだけ聞いてやろうじゃねぇか」

どんな提案だろうと、呑んでやる気は更々ねぇけどな。
そんなことを考えながら、俺様はゴル大佐の言葉に耳を傾けた。
当然、後ろの戦闘員やゴル大佐が、いつ襲い掛かって来てもいいように油断なく視線を巡らせながら。
229 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/05/27(日) 02:48:09.03 O
「やべぇやべぇ、本気で撃つ気だったぞあのオッサン」

地下へと続く階段を駆け下りながら、先刻の中隊長の鬼気迫る様子を思い出して軽い調子で呟く。
間違っても好かれてはいないだろうとは思っていたが、まさかあそこまで恨まれているとは予想外だった。
多分ほんの一瞬でも姿を消すのが遅かったら、俺様は今頃蜂の巣だっただろう。
まぁ、撃たれたところでサツの豆鉄砲なんざ俺様には効かねぇけどな。

(しかし、まだ追って来ないってことは……流石に自分の仕事は忘れなかったってわけか)

背後から機動隊の足音が聞こえて来ないことを確認して、ヘルメットの下でニヤリと笑う。
奴らと戦ったところで俺様が負けるはずは無いが、流石にまた警官を病院送りにするのはマズい。
ヒーローをやっていく以上、警官ともそれなりに仲良くやっていかないとな。
……あの中隊長のとっつぁんとは、たぶん一生仲良くなれる気はしないが。
そうして色々と考えながら階段を下っていると、遂に地下一階に到着した。

「こいつはまた、随分と派手にやったもんだな、オイ」

目の前に広がる光景を見て、俺様は呆れたような声を漏らした。
俺様の経験上、この先には厳重な警備の敷かれた通路があるはずなんだが……そこにあったのはただの瓦礫の山だった。
予想通りというか何というか、どうやら既に突破された後らしい。
そして、その瓦礫の山の先に赤い扉が見える。おそらく更なる地下へと下りるための階段にでも続いているんだろう。
扉の手前には、俺様の行く手を遮るように数人の男が立っていた。
その中の一人、軍服を着たいかにも偉そうな爺さんが口を開く。

「あんたが大佐かよ、まさかこんな所で出くわすとは思わなかったぜ。
 俺様はブラックロウ……あー、人呼んで影から影への漆黒の旅烏だ」

フジツボウナギに名乗った時のキャッチフレーズは忘れたが、とりあえず俺様も名乗っておく。
しかし……服装と雰囲気から何となく察しはついていたが、どうやら本当にこの爺さんが噂の大佐らしい。
てっきり一番奥の大金庫にでもいるかと思っていたが、まさかこんな手前の方で出迎えてくれるとはな。

「……あぁ? 会話だぁ? 命乞いでもするつもりかよ?」

腰を深く落とし、殴りかかるために臨戦態勢を整えていたんだが……大佐の言葉に気勢を削がれ、間の抜けた声を上げてしまう。
敵との話し合い、俺様がこの世で一番苦手なやり方だ。
だいたい、部下に銃で狙わせといて何が話し合いだってんだ。

「……いいぜ、聞くだけ聞いてやろうじゃねぇか」

どんな提案だろうと、呑んでやる気は更々ねぇけどな。
そんなことを考えながら、俺様はゴル大佐の言葉に耳を傾けた。
当然、後ろの戦闘員やゴル大佐が、いつ襲い掛かって来てもいいように油断なく視線を巡らせながら。
230 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/05/27(日) 02:51:59.47 O
「あー……なるほど、つまりアレか。金をくれてやるからテメェらを見逃せと、そういうわけか?」

ゴル大佐の提案を要約すれば、つまりはそういうことだった。
なるほどなるほど、俺様はただでさえ悪い評判をこれ以上落とさずに金を手にして、奴らは無事に逃げられる。
素晴らしい提案だな。考えるまでもない、こんなもん答えは一つに決まってる。

「ッざっけんじゃねぇぞ糞ジジイ! こちとら敵に金を恵んで貰うほど落ちぶれちゃいねぇんだよ!」

ヘルメット越しにゴル大佐を睨み付けながら、巻き舌気味の怒声と共に足元に転がっていた瓦礫を蹴り飛ばす。
確かに俺は金に困っちゃいるし、粗野で粗暴で乱暴なロクでもない男だ。
ヒーローなんて名乗っちゃいるが、結局はテメェの復讐と八つ当たりに都合がいいから利用してるだけだ。
だが、こんなナメた提案に乗るほど落ちぶれちゃいない。
だいたい、金庫の残りの金だと? そんなはした金で俺様を買収しようってのが何より気に食わない。

「それに……いや、何でもねぇ」

怒りに任せて危うく「金が欲しけりゃ自分で銀行を襲う」と言いかけて、慌てて口を閉じる。
いくら敵とはいえ、流石にそんなことを言うのはマズいだろう。
巡り巡って中隊長のとっつぁんの耳にでも入ったら、今度こそ本当に蜂の巣にされちまう。

「とにかく、交渉は決裂だ……行くぜぇ!」

自分の失言を誤魔化すように叫びながら、俺様は弾丸のような勢いで地を蹴り間合いを詰める。
この影のスーツは、敵の攻撃から身を守ってくれるだけではない。
影がまるで筋肉のように伸縮して、俺様の身体能力まで強化してくれる。
あんまり無茶な動きをすると、明日の筋肉痛が酷くなるんだけどな。

「……ッだらぁ!」

一瞬にして懐に潜り込み、ゴル大佐の顔面目掛けて渾身の力を込めた右拳を放つ。
今回は拳を巨大化させるのは無しだ、あれをやるとスーツの他の部分が薄くなって防御力が下がる。
雑魚を一掃するにはいいが、こういうヤバそうな相手に使うのは危険だからな。

【チンピラ丸出しな態度で取引拒否、影山の中に山のようにある逆鱗の内の一つに触れたようです】
【話を聞き終わった直後に、雑魚は無視してゴル大佐に殴りかかる】
231 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/06/02(土) 21:20:24.59 0
「そうだ、それでいい。悪党とヒーローが出会ったんだからな、話し合いなどでは終るまい……」
悪の大幹部らしく重々しく傲慢な口調で言ったつもりだが、もしかすると少しばかり笑みがこぼれていたかもしれない。
奴は銃弾を選んだ。自分なりの信念を備え、自分なりの正義を持つ男……そう見做してもよかろう。この悪評を従えた男もまた、ケチで臆病な小市民とか小悪党という劣等の類ではなかった訳だ。
うむ、やはり悪党らしい悪党の相手となるヒーローは、ヒーローらしい素養を備えていなければならぬ。さてさて、他愛もない一言二言のやり取りは果たして何分の時間を稼げただろう。
「元より貴様が頷くことなど期待はしておらん。……さぁ、こい!」
まずは奴が、掛け声と共に跳ねたのが見えた。黒いスーツが表皮のようにうねり、波打ったのが見えた。視界の端で、小銃を持つ戦闘員が色めきだって引き金に指をやるのが見えた。拳を突き出したヒーローが迫る。
小銃の甲高い銃声が響き、銃弾が虚空を切った。銃弾はヒーローに掠りもせず、何処かの壁にぶつかったようだ。黒い拳はいよいよ目前へ。
連続して起きた物事一つ一つに目をやれば、まるで時間の流れが鈍ったように、全てがスローモーションで動いて見える。だが、俺は動かない。もちろん怯んだ訳ではない。単にその必要がないからだ。

次の瞬間、俺の顔面を拳が弾いた。思わず身体が仰け反り、制帽を落としてしまう。
脳が揺さぶられると共に酷い吐き気が押し寄せ、酷い頭痛が続く。そして思う存分に脳を揺さぶった苦痛は、そのまま頭部を構成する骨格や内臓物全てへと伝播した。
奴の強化されているであろう拳は、一瞬のうちに俺に酷い苦痛を強いて、頭痛と吐き気と眩暈を引き起こした。口の中が何箇所か切れたようだが、所詮はそれまで。
「…………これで全力か、ブラックロウ!」
仰け反った身体を起こし、再び奴と対面した顔は、もはや老人ではなく狼のそれへすっかり変化していた。表情が消え失せた獣の頭部と軍服の組み合わせは、我ながら戦時中の反独宣伝ポスターか何かのようだ。
そこには変身の掛け声もポーズも、格好いいユニフォーム必殺技も無い。現れたのは装飾を廃した実用一辺倒の無骨な怪人。かつて東部戦線でロシア兵を悪夢で苛み、かつて世界中を恐怖に陥れた怪人。
「俺こそが怪人狼男だ!ブラックロウよ、ここを貴様の墓場にしてやろう!」
武装SS隊員たる怪人狼男が担った任務は、友軍よりも前に立ち、鉄の暴風吹き荒れる戦場を駆け回り、灰色の雪原を誰彼の血で赤く染め続ける事だった。
それは例えば、機銃弾を全身に受け止めながら、射手の首をねじ切る事だった。例えば、敵戦車に突撃してハッチを抉じ開け、乗員を直接殺傷する事だった。例えば、最前線の塹壕に飛び込み敵兵を引裂く事だった。
だからして怪人狼男は極めて頑丈に作られており……否、死に難く作られているというのが正確な表現だろう。つまり怪力と引き換えに、心身に襲い掛かる苦痛に対する気絶だとかショック死だとかの逃げ道が塞がれている訳だ。
例え心臓を抉り出されようとも痛覚麻痺や気絶なる逃避は許されず、脳がその機能を失う瞬間まで、鮮明な意識の中で苦痛を味わい続けなければならぬ。実際は多少強力な治癒力もあり、顔面に拳がめり込む程度ならそう苦痛も続かないが。
……とはいえ、戦時中にも車両用装甲を流用した防弾服が用意されていたし、70年代には前線から遠のいていた。さらに今や歳を取ったのだ。昔よりも頭痛が長く鈍く響いているようだ。
表情や顔色を表せない獣の顔面が今は有難い。苦痛に耐えられず呻き声や悲鳴を漏らしても、この顔で居れば恐ろしい猛獣の唸り声のように響くのだ。
「さぁ、今度は俺の番だ!」
鋭い牙の並ぶ口をあんぐりと開き、距離を詰めたままのブラックロウの喉笛へ食らいつかんと飛び掛る。戦闘員たちは俺が近すぎて銃撃を躊躇っているようだ。俺は銃弾の1発2発で起こるほど短気な上司ではないというのに……
下らない対話、殴り合い……我々が金庫室を離れて何分経った?足元で活動しているであろう我が精鋭は、もう何分程で撤収を終えるのだろう?
232 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/06/02(土) 21:20:51.06 0
【ゴル大佐はパンチを避けずに顔面で受け止め、それと同時に怪人狼男に変身。やや頭が痛むのを堪えつつ、ブラックロウに噛み付こうと飛び掛りました。戦闘員は銃を撃つに撃てず、戦いを見守っています】
【さて、かつての「ソ連人民最大の敵」の一人でもある怪人狼男は機関銃で蜂の巣にされても倒れず、怪力で敵を文字通り捻り殺してきたと言い伝えられる恐ろしい怪人です!】
【けれども一番の武器はポーカーフェイス。一般人よりも丈夫で何をしても痛くも痒くもないという顔をしていますが、ここ最近は歳を取ったこともあり、実はパンチも少しばかり効いてます】
【また、ある程度の時間を稼いだら状況に係わらず地下へ逃げるつもりでいます】
233 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/06/10(日) 11:37:12.02 O
「……チッ」

俺様の拳を顔面に叩き込まれたゴル大佐、しかし奴は倒れなかった。
ただ多少後ろに仰け反り、被っていた帽子を地面に落とした……たったのそれだけだ。
完全に倒すつもりで放った拳だった、手加減などは一切加えていなかった。
にも関わらず、目の前の男は倒れるどころか怯んですらいない。
俺様の拳を避けもせず、真っ正面から受け止めて、たったそれだけ。
……ああ、馬鹿にされた気分だ。俺様の拳を、俺様の力を、この俺様を!

「あぁ!? あれが全力なわけゃねぇだろうが! これから俺様の真の力を見せてやるぜ狼野郎!」

ゴル大佐の顔が一瞬にして狼面に変わっていたことには少なからず驚いたが、今はそんなことはどうでもよかった。
「これで全力か」というゴル大佐の問いに、反射的に威勢の良い言葉を返す。
強がりに聞こえるかもしれないが、満更ハッタリだけでもない。
世間じゃどう思われてるか知らないが……このブラックロウ様の力は影を操ることではない、影を支配することだ。
影さえあれば俺様は無限に強くなる、そしてこの世に影の無い場所などそうそうありはしない。
この地下一階も多少薄暗いが、天井の光源のおかげで幾つもの影が出来ている。

「上等だ! テメェの腹ぁかっさばいて石ころ詰めて湖に沈めてやらぁ!」

狼が出てくる童話に準えた脅し文句を叫びながら、俺様は両手から一本ずつ影の触手を伸ばす。
狙いは目の前の狼男でも、後ろの雑魚戦闘員でもない。近くにある瓦礫の山の影だ。
伸ばした触手の先端が瓦礫の影に接触し、影同士が同化したところで一気に触手を引き戻す。
すると、瓦礫の影がまるでシールを剥がすように浮き上がり、触手と共に俺様の手元に戻ってきた。
それはそのまま影のスーツに同化し、両腕の肘から先が異様に肥大化する。
影の篭手(シャドウ・ガントレット)、見た目通りに両腕の防御力と破壊力が増したってわけだ。

(チッ、この程度の影を吸っただけでもう来たか……俺様も鈍ったか?)

篭手が形作られると同時に、軽い頭痛が俺様を襲う。
基本的に、俺様の能力は自分の影だけを使うなら何も問題は無い。
だが、自分以外の影を吸収して操るというのは、どうも脳みそに掛かる負担が半端じゃないらしい。
取り込んだ影の量が多ければ多いほど、作り出す物が巨大であればあるほど、複雑であればあるほど、負担は増えていく。
もっとも、単純な形の篭手を作る程度なら大した負担にはならない筈なんだが……。
ここ最近は楽な相手とばかり戦っていたおかげで、少し脳みそが鈍っていたらしい。

「テメェの番だぁ? いいや違うね、ずっと俺様の番だ!」

立派な牙を見せつけるように口を大きく広げ、ゴル大佐……いや、怪人狼男が俺様に飛びかかって来る。
狙いは首か、だが黙って首をくれてやるつもりは無い。
かといって、ここで無様に避けるつもりも無い。奴には借りを返さなければならない。

(俺様の自慢の拳を避けずにコケにしたお返しだ、俺様もテメェの牙を受け止めてやる……!)

その鋭い牙が首筋に届く直前に、装甲を強化した左腕を噛ませてやる。
瞬間、狼男の牙が影の装甲に食い込み、左前腕部から全身に凄まじい圧力と痛みが広がっていく。
まるで左腕を万力……いや、プレス機に押し潰されるような気分だ。
はっきり言って物凄く痛い、わざわざ防御力を強化したってのに今にも左腕が千切れそうだ。
だが、そんな苦痛を目の前の敵に悟らせはしない。あくまでも余裕の態度を見せつける。

「……ッ! どうした……これで全力かよ、狼男!」

マスクの下でニヤリと笑みを浮かべ、先程の狼男の台詞をそっくりそのまま返してやる。
それと同時に残った右の拳を握り締め、後ろに振りかぶり……強化した拳を、狼男のボディ目掛けて全力で叩き込む。
左腕を噛まれ、ほぼ密着した状態なのでロクに体重も乗せられないが、力任せに何度も拳を叩き込む。
狼男が俺様の左腕から牙を離すまで何度も何度も、根比べのように。
後ろで銃を構えた雑魚戦闘員達がオロオロとしているのが見えるが、知ったことではない。
今は雑魚の相手は後回しだ、まずはこの狼男を倒すのが先だ。
234 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/06/10(日) 11:38:55.44 O
【周囲の影を吸収しスーツを強化、主に両腕の装甲と腕力がパワーアップ】
【自慢のパンチを顔面で受け止められたことにプライドを傷つけられたようです】
【敢えて左腕を噛ませた上でこちらもボディブローを叩き込み続けるという無謀な根比べを挑みました】
【強化した装甲でも完全に防御しきれず左腕にダメージを受けています、回復能力とかは無いので単なる痩せ我慢です】
【雑魚戦闘員のことは完全に無視、地下で作業が進んでいることには全く気付いていません】
235 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/06/16(土) 13:51:30.98 0
古今東西の童話で、狼は常に悪役だった。石を詰めて沈められるのは『赤ずきん』だったか。老婆と少女を腹に収めんとした狼が、勇敢な鉄砲撃ちに駆逐される物語。
内蔵を抉り出されても死ぬ事を許されなかった狼は、水底でどれだけの苦しみに晒され続けたのだろう……ブラックロウが喚いた言葉に、ふとそんな事を想像した。

顎に力を入れるほど、歯の付け根がギリギリと痛む。俺が喰らい付いたのはブラックロウの喉笛ではなく、咄嗟に突き出された左腕だった。全く光を反射しない完全な闇に覆われた左腕である。
かつて報道か何かで『ブラックロウは影を操る男』と評するのを聞いた。俺が喰らい付いている柔らかくも固くもない黒い鎧は、なるほど奴が瓦礫から吸い上げた影そのものなのだ。
確実に牙が深々と突き刺さっているはずだがその感触は無い。恐らく鎧の下にある生身の腕には一切至っておるまい。……くそ、頭を揺さぶられた苦痛がまだ頭蓋骨の中で乱反射している。
どうにか鎧を引裂こうと顎に力を入れても、歯の付け根が酷く痛むばかり。獣の顔面を持つ自分が噛み切れぬものに喰らい付いているのは軍用犬の訓練風景を彷彿とさせ、酷く惨めな気持ちになった。
一方、ブラックロウは俺の牙など物ともせんといった風にニヤリと笑う。ああ、何と憎々しいことか……
『これで全力かよ、狼男!』
もちろん全力だとも、クソッタレめ。腕に喰らい付いていては気の利いた罵声を返す事も出来ず、出来るのは鋭い灰色の左目で睨みつけることだけ。
かつてロシア兵の頭を鉄帽ごと噛み砕いた顎は、遺憾ながら今や衰えきってしまったのだ。俺はロートル怪人に成り果てていて、しかも敵はスーパーパワーを備えた若きヒーローときた。
あまり長くは戦えない。単純な根競べになればなるほど、長引けば長引くほど、老いが不利に働いてゆくのだ。もう数分戦ったなら、地下2階に逃れねばならぬ。一部の金塊は回収を断念せねばなるまい。
戦闘員に足止めを任せ、俺は地下2階に逃れて作業の中止と撤退を命令しなければ。ここに残る戦闘員には、心苦しいが我々の遠大なる目的の為の犠牲として散ってもらわねばならないだろうが……
足元の部下に思いを馳せていると、引裂かれたかのように鋭い痛みと共に内臓が跳ね回った。汗と共に滲み出した吐き気や悲鳴は、黒い腕を噛み締めることでどうにか堪える。ああ畜生、次は腹か!
左腕を俺に捕えられているが為にさほど重い拳は叩き込めないらしいが、それでも一般市民に比して抜群に強力なパンチを何度も叩き込まれていては堪ったものではない。
何発かの拳に耐えた後、腰のホルスタの蓋を跳ね上げてルガーを引き抜いた。顎の力は緩めず、銃口を文字通り奴の目前へ。現代の目から見れば、ルガーの引き金はあまりにも軽い。
8発の9mm弾を続けざまに発射した後、俺はルガーを投げ捨て、ようやく奴の腕を放し、後ろへと飛び退いた。
「何をしているか!うろたえるな!撃て!撃て!」

戦闘員達が銃を構えたその時、ブラックロウの姿越しに、階段室から何か小さなものが飛び込んできたのが見えた。銀色の、拳大のもの。
どこかで見た覚えがあるぞ。あれは、確か……
236 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/06/16(土) 13:52:22.49 0
「整列!傾注!」
一階階段室前に中隊副官の号令が響き渡る。隊員達は各小隊長の下で小隊横隊を成し、また小隊横隊はやがて中隊横隊を成す。警察式ではなく、古い軍隊式の整列法である。
険しい表情を崩さない中隊長は、隊員一人一人の表情を改めつつ、閲兵を行うようにゆっくりと歩く。隊員一同とも、緊張こそせよ恐怖に駆られていない事実は、中隊長を十分に満足させた。
「……先ほど救助した行員が証言したところでは、被疑者グループの一部は頭取を人質に地下へ立て篭もっているらしい!これの救助こそ、我が中隊に科せられた第一の任務だ!
そして第二に被疑者グループの無力化及び確保!各自判断による発砲を許可するが、極力殺害は避けるように心がけよ。……ふん、構うもんか。全力で叩き潰してやれ!!」
警察組織独特の回りくどい表現と、中隊長の性格を反映させた荒っぽい言葉が混じりあった訓辞に、小隊の意思を代行する小隊長たちが力強い敬礼で応じた。

彼らの背後には、所轄署装備課の焼印が押された木箱が幾つか転がっている。何れも既に開け放たれ、中には嫌な臭いのする緩衝材しか残されていない。
無造作に落とされた蓋を改めたなら、一昔前には観閲式用の装飾品に過ぎなかった短機関銃や散弾銃の名が刻まれているのが確認出来る。それらの銃器は、今や隊員達の手にあった。
現市長が当選した5年前から、鏡野市の治安は目に見えて悪化した。汚職が蔓延り、武器や違法薬物が蔓延した。週に一度は銃撃戦が起こり、月に一度はビルが吹き飛ぶようになった。
その頃から警察官が腰に吊る拳銃、そして短機関銃や散弾銃は装飾品から必需品に変貌したのだ。
「対ガス戦闘用意!ガス弾構え!たっぷりお見舞いしてやれ!」
中隊長が号令と共にガスマスクを装着すると、隊員達もそれに倣う。続いて旧式の擲弾銃と良く似た形式のガス銃を手にした何人かが階段室から、階下へ銃口を突っ込んで引き金を引いた。
ポンと小気味の良い音が人数分響き、カラカラと金属が転がる音が階段室と地下一階に響き……そして数秒後に小さな爆発が起きて、白い煙が階段室を満たし、ロビーまでも白く曇らせた。
人質がいくらか濃密な催涙ガスに晒されることも在り得るが、何せ敵は怪人を従え大量の銃火器で武装した凶悪犯罪組織である。……ついでに卑劣な自称ヒーローも。
それらを無力化せねば救出も行えぬ訳で、頭取殿にも多少は火の粉を被ってもらわねばなるまい。……とにかくブラックロウを苦しめたいという理由だけで強攻策を取るのではないのだ。
自分の中に生きる警察官としての理性に、多少回りくどい名目を立てて、中隊長は再び拳銃の撃鉄を起こした。両の肺いっぱいにガスマスク越しの空気を吸い込んで、そして。
「中隊一同、中隊長に続けぇ!とっかぁぁん!!!」
そして、銀行中に響き渡らんばかりの大号令として吐き出した。中隊長は白く曇った階段を、雄叫びを上げる部下の先頭に立って駆け下りていった。

【ボディに繰り返されるパンチに堪えきれなくなり、狼男はブラックロウの顔面に向けて拳銃を乱射してから飛び退きました】
【どうにもブラックロウに攻撃が聞いている風に見えないので、間も無く戦闘員に足止めさせて地下2階へ逃れ、回収を切り上げ撤退することを考え始めています】
【そして戦闘員にブラックロウを銃撃させ……ようとしたところで、機動隊が撃ちこんだ催涙ガス弾が地下一階へ。白い催涙ガスが地下一階と階段室に充満してます】
【重武装の機動隊は中隊長殿を先頭に立てて、ついに突入に移りました】
237 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/06/23(土) 22:42:56.03 0
ho
238 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/06/24(日) 04:15:59.46 O
俺の拳がゴル大佐の腹筋を抉るたびに、左腕の締め付けがどんどん強くなっていく。
鋭い牙は影のスーツが防いでくれるが、その強靱な顎による圧力までは吸収してくれないらしい。
いや、スーツが吸収してくれていなければ、とっくに左腕は千切れているか。

(畜生……さっさと倒れやがれってんだ……!)

もう何度拳を振るったのか分からない、そもそも本当に効いているのか?
もしかしたら俺のパンチは全て、この強靱な腹筋と毛皮で完全に防がれているんじゃないか?
そんな弱い考えが浮かんでくるほど、ゴル大佐からはダメージを受けているような様子が感じられなかった。
相手が人間ならばまだ表情から推し量ることもできるが、大佐の獣面からは何も読み取れない。

(ああ畜生、何を考えてんだ……俺様の拳が効かない筈ないだろうが馬鹿野郎が!)

そんな弱気な考えを振り払うように、自分を鼓舞する。
歯を食いしばって痛みに耐え、振るう拳に力を込める。
そうして暫く持久戦を続けていると、不意に俺様の眼前に銃口が現れた。

「うぉっ……テメェこのヤロ……!?」

相手を罵るための言葉は、銃声と衝撃で飲み込むことになった。
咄嗟の事態に反応が追い付かず、銃弾を真っ正面からまともに受けてしまう。
続けざまに叩き込まれる八回の衝撃、耐えきれず頭が後ろにのけぞる。
貫通はしなかったが、脳がかなり激しくシェイクされた。

「野郎……やってくれるじゃねぇか」

少しばかり足元をフラつかせながら、目の前の狼男を睨み付ける。
左腕は鋭い牙と締め付けから解放されたが、いまだに焼けるような痛みが続いていた。
これはもう、折れるか砕けるかしているかもしれない。
しかし、今はそれを気にしている暇はない。
俺様が銃撃で怯んだ隙に、距離を取ったゴル大佐が部下達に射撃命令を出す。
それと同時に俺様も、背中のマントを構成する影を使い、銃弾を防ぐためのシールドを作ろうとしたのだが……。

「……あぁ?」

背後から響いてくる小気味いい音と、それに続いて聞こえてくる金属の転がるような音に動きが止まる。
目の前のゴル大佐も、その部下達も動きを止めていた。
その音には聞き覚えがあった、俺様がまだヴィランだった頃に何度か。
形勢不利で不本意ながら撤退する時に、目眩ましに使うあれだ。
239 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/06/24(日) 04:17:13.59 O
(ガス弾……中隊長のとっつぁん達か、すっかり忘れてたぜ!)

音の正体に思い当たると同時に、大量の白煙が視界を遮った。
視界だけでなく、同時に肺にも煙が襲いかかる。

「ゲホッゴホッゲホッ……そうだ、影でガスマスク作りゃあ……ああ畜生ダメだ構造分かんねゲホゴホガハァッ!」

肺に侵入した煙に激しく咽せながら、咄嗟に口元から左右に二本の円筒を伸ばしガスマスクを作り出す。
しかし、さすがに形だけガスマスクを真似ても効果は無く、煙は容赦なく肺に流れ込んで来る。
そうして色々ともがいているうちに、遂に中隊長率いる機動隊が突入して来た。
ガス弾のおかげで視界は塞がれ、咽せて呼吸もままならない。

(チッ、いっそ機動隊の連中からガスマスクを奪っちまうか?)

一瞬そんな考えが脳裏を過ぎるが、今はそれよりも先にやることがある。
視界を塞がれ、呼吸も妨げられているのはゴル大佐達も同じの筈だ。
ナメた真似をしてくれた機動隊は気に入らないが、少なくとも敵ではない。
ならば、まずは目の前の敵を倒すのが先決だろう。

「これでも……」

盾に変形させようとしていた背中のマント、左腕を覆う影のガントレット。
それと、多少防御力は下がるが、全身を覆う影のスーツから少しずつ。
それら全てを右腕に集め、普段よりも巨大な影の拳を作り出す。

「食らいやがれぇぇぇああああああ!!!」

叫びと共に、その右拳を前方に放つ。
特定の何かを狙ってではなく、ただ曖昧に前方に向けて。
目視が出来ないとは言え、直前まで相対していた以上、大体の立ち位置は覚えている。
点ではなく面で攻撃すれば、まぁ当たるだろう。



【催涙ガスで視界を奪われて物凄く咽せて、影でガスマスクを作ろうとするも失敗】
【機動隊員からガスマスクを奪おうとするも思い直す】
【防御を捨てて渾身の特大影パンチをゴル大佐達がいる方向へ放ちました】
【ゴル大佐の噛みつきで左腕にはかなりのダメージを受けています】
240 : ゴル大佐 ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/07/01(日) 22:44:45.99 0
1915年にイーペルの塹壕が毒ガスで満たされてからというもの、ガスマスクは全世界の兵士の必需品になった。
我がヴェアヴォルフの戦闘員達も、本来ならガスマスクを収めた缶を腰に吊り下げているはずで、今この瞬間にそれを取り出し着用しているはずだった。
だが、彼らは既に金塊の搬出及び脱出に取り掛かっていた。一つでも多くの金塊を運搬するべく、銃を除く装備のほとんどを放棄した後だったのである。
さらに俺はガスマスクを持ち歩かない。こんな顔なのだ。既製品を被れる筈もなし、獣面でも被れるものを特注で作ったとしても酷く不恰好なのが目に見えている。
そういう次第で我々全員が催涙ガスの洗礼を受けていた訳だ。
「下がれ!下がれ!」
咳き込みながら叫ぶが、涙に滲む視界には誰も映っていなかった。大声を出した所為で喉にガスが流れ込み──鼻腔、口腔、喉、気管支、肺、全てが焼けるように痛む。咳が止まらない。
視覚がほぼ奪われていようとも、とにかく銃声から遠ざかれば階下へ向かう階段室に辿り付けるだろう。残念ながら白煙の中に消えた戦闘員らに手を貸す余裕などない。

ところが、奴の叫び声に振り向いた途端、滲んだ真っ白い視界は、真っ暗に変わった。
「ぐあぁっ!?」
それが目前に迫る巨大な拳だと理解できたのは、避けることも叶わず、跳ね飛ばされた全身が壁に叩き付けられてからだった。
壁に手を付き立ち上がると骨格が軋み、ガスで焼かれた喉で咳き込めば血の塊が吐き出された。声を出すほどに肺が焼かれるのも気にかけず、俺は大声で叫んだ。悪党は悪党らしくいなければ。
「……畜生が!やってくれるじゃないかブラックロウ!」
目がほとんど見えなくなって、息を吸うほどに喉と肺が痛む。それがなんだ。この怪人狼男はこれしきの負傷で怯んだりはしない。
だが、俺に課せられた義務は奴を倒す事ではなく金塊の強奪を成功させることなのだ。ヒーローとの対決を優先するあまりに本来の任務を疎かにする……これも悪党にはありがちな失敗だ。
ルガーは使い切り、噛み付きも試みた。ある程度の時間も稼いだはずだ。現状で果たすべき最良を果たした。後は足元の作業が完了している事を望みつつ、撤退という次なる責務の遂行に移るのだ。
「悪いがこれ以上ここで遊んではおれん!俺にはまだ仕事が残っているんでな!」
いかにも悪の大幹部らしい捨て台詞──負けていようと勝っていようと、悪党はこういう捨て台詞を吐くものだ──を残し、俺は壁を伝って階段室へ逃れた。ルガーやステッキは惜しいが、拾う余裕もない。
そしてまだガスに満ちていない階段を駆け下りようとした時、懐かしい銃声が背後に響いた。
241 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/07/01(日) 22:46:37.35 0
「うわっ、うわぁぁっぁぁぁぁ!!?」
最初に撃ったのは、MG42機関銃を手にしていた戦闘員だった。彼はガスの染みた眼球が作り出す苦痛と絶望、及びそれらを具現化したような白煙に潜む機動隊やヒーローの恐怖に耐えられなくなったのだ。
あまりにも高い発射速度に起因する、かつて「ヒットラーの電動ノコギリ」とあだ名された独特の銃声が通路に響き渡る。ろくに狙いも定めぬ銃口は右に左に上に下にと跳ね回り、銃弾はそこらじゅうに兆弾した。
コンクリート壁で僅かに威力を減じた弾頭は地下1階通路に残された全員、つまり影の鎧を纏うヒーローや機動隊員、そして咳き込み倒れこんだ2人の小銃手や正気を失った機関銃手自身にも襲い掛かった。
正面から機動隊員へ襲い掛かった兆弾の多くは隙間無く並んだ盾が阻んだが、また何発かは頭上から降り注ぎ、機動隊員の手足を引裂いた。被弾した隊員の悲鳴と共に整然としていた隊列は僅かに動揺する。
しかし悲鳴と隊列の動揺は、共に中隊長の号令でかき消された。
「怯むな!負傷者を階段室へ!」
頭上を飛びすぎる銃弾のことなど気にも留めず、中隊長は考える。敵の乱射が始まる直前、確かにブラックロウの声が白煙の中から聞えた。つまり奴はまだここに居る。ガスで苦しみながらここにいる。
そしてもう一人の、恐らく強盗犯であろう男との会話と合せて考えれば、ブラックロウはその強盗犯と戦っていて、強盗犯は逃げたのだ。であれば、ブラックロウはすぐにそれを追うつもりであろう。ここで逃す訳にはいかない。
奴を逮捕して痛めつけてやって、恥をかかせてやらねば。こんなろくに照準されていない乱射などに構ってはおられない。すぐに弾が切れるか銃身が焼けるかして、この『鉄の暴風』は終わりを迎えるはずだ。
「ブラックロウ!そこに居るのは判ってんだ!これが止んだらすぐにお前をとっ捕まえて、お前が追いかけてる誰だかもとっ捕まえて……二人揃ってブンヤどもの前に引きずり出してやる!」
中隊長が発した警察官とは思えぬ罵声と、機動隊員たちの同意の声が銃声にも負けずに響く。彼らは手にした散弾銃や拳銃や短機関銃で2度か3度だけ散発的な応射を行った。
一方で戦闘員の叫び声は枯れ、咳き込むのしか聞えなくなってきた。機関銃が次々と飲み込む弾帯は、もう半分も残っていない。銃身も真っ赤に焼け、大気との温度差にカンカンと音を立てている。
弾切れか銃身故障か、いずれにせよほんの数秒後には銃声が止む。そして代わりに中隊長の吶喊号令が響き、機動隊員の総攻撃が始まるだろう。

【大佐も戦闘員も催涙ガスに苦しんでいます】
【そして大佐はブラックロウのパンチを受けると捨て台詞を吐いて金庫へと逃げてしまいました】
【残された戦闘員のうち、小銃を持った2人はガスで無力化されました。残りの1人が錯乱して機関銃を乱射していますが、まもなく弾が切れるか機関銃が故障するかで乱射は止みそうです】
【全く狙いを定めてはいませんが、兆弾も含め何発の銃弾がブラックロウへと襲い掛かりました】
【一方の中隊長殿と機動隊は数人の被害が出ていますが、機関銃の乱射が止み次第吶喊に移ってブラックロウを逮捕しようとしています】
242 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/07/10(火) 07:24:03.21 O
白煙の向こう側に意識を集中させながら、巨大化させた影の拳を引き戻す。
攻撃が終わったのなら、いつまでも無防備でいる理由は無い。
全身を覆う影のスーツに厚みが戻り、同時に背中と両腕に大きなマントと籠手が形作られた。

(やったか……?)

視界を白煙に遮られ、目の前の敵に攻撃が当たったかどうかすらよく分からない。
しかし、影の拳からは確かな手応えを感じた。間違いなく命中はした筈だ。
そうして警戒を続けていると、煙の向こう側から大声が響いてくる。

「ハッ、随分と威勢がいいじゃねぇか! いいねぇ、楽しくなって来るじゃねぇの!」

煙の向こう側から響いてきた大声に、こちらも咳き込みそうになるのを堪えながら、負けじと虚勢を返す。
姿は見えないが、あの声は間違いなくゴル大佐のものだ。
どうやら俺様の渾身のパンチを食らっても、まだまだ元気らしい。

(まったく、本当にタフな爺さんだなオイ。いい加減倒れやがれってんだ)

俺様の拳が効かなかったのは少しばかりショックだが、今はそれどころではない。
目の前の敵がまだ動いているのなら、やることは一つ。
今すぐ声の方向に駆け出し、徹底的に追い討ちをかける。ただそれだけだ。

「……ってオイ、待ちやがれ! こんな半端な所で逃げようってのか!?」

考えを纏め、前方へ駆け出すための力を足に込めたところで、ゴル大佐の捨て台詞が聞こえてきた。
どうやら野郎には、俺様との喧嘩よりも大事な仕事があるらしい。
慌てて追おうとしたが、その動きは突然の銃声に遮られた。
射手の情けない悲鳴と共に、この狭い地下通路に大量の銃弾が飛び交っていく。

「ちっ、雑魚が……ビビってトチ狂いやがったな!」

悪態を吐きながら、両腕の籠手を大きな円形のシールドに変形させ、上下左右から降り注ぐ銃弾から頭を守る。
影の鎧に覆われた体にも何発か銃弾が当たったが、先ほどのゴル大佐の噛みつきに比べれば蚊に刺されるようなものだ。
頭にさえまともに食らわなければ、大したダメージにはならないだろう。

(まったく、影スーツ様々だな)

……と、そこまで考えた所で自分の背後にいる連中のことを思い出す。
スーパーヒーローである俺様をいつも追い回す、気に食わない中隊長のとっつぁん率いる機動隊だ。
いくらシールドを持っているとはいえ、とてもこの銃弾の嵐を防ぎきれるとは思えない。
案の定、シールドを飛び越えて来た銃弾を食らった機動隊員の悲鳴が、ちらほらと聞こえてきた。
確かに気に食わない連中だが、目の前で死なれるのも寝覚めが悪い。

(仕方ねぇ、さっさとあの腰抜け戦闘員を倒して助けてやるか)

俺様がそう思ったのも束の間、中隊長の怒声が地下に響き、それと同時に機動隊員共の悲鳴も収まっていく。
嫌なオッサンだが、この指揮能力だけは本当に大したものだと思う。
人格は最悪だが、そこだけは素直に賞賛してやらなくもない。
243 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/07/10(火) 07:26:05.55 O
「あ゛ぁ!? 出来るもんならやってみやがれってんだ! また病院送りにしてやらぁこのチンピラ警官隊が!」

中隊長殿と機動隊員共の罵声に、こちらも全力で罵声を返す。
ちょっと褒めてやろうと思ったらこれだ、やっぱり本当に気に食わないオッサンだな。
一瞬でも気を遣ってやった俺様が馬鹿だった。

(しかし、このまま黙って捕まってやるわけにはいかねぇよな)

とっつぁんの性格からして、あの言葉は脅しじゃなく間違いなく本気だろう。
そしてあの雑魚戦闘員の銃、さっきから景気良く乱射していたから、弾切れは近い筈だ。
ウダウダ悩んでいる暇は無い、どうせ信用なんて元から無いに等しいんだ。
病院送りとまではいかないが、ちょっとの間だけ連中には大人しくしていて貰うしかない。

(シールドを作る余裕は無いな……ちょっと痛いが我慢するか)

覚悟を決めた俺様は、銃弾を防いでいる両腕の円形シールドを解いた。
シールドを構成していた影……つまり、俺様自身の影ではなく瓦礫から吸収した分の影だ。
それを細長い触手状にして地面に這わせ、機動隊員達の足元に蜘蛛の巣のように張り巡らせていく。
周囲に立ち込める白煙と、四方八方から襲い来る銃弾。この状況で足元に注意を払う余裕は無いだろう。
その間も銃弾は俺様の体に次々と命中していくが、痛いだけで大したダメージにはならない。

(集中しろ……集中だ)

影を操作するにはかなりの集中力を必要とする。
怪人フジツボウナギとの戦い、それに続くゴル大佐との戦い、噛み付かれて痛む左腕。
正直言ってコンディションは最悪だが、やるしかない。

(動くのは野郎が弾切れを起こした瞬間……そろそろか?)

予感は的中、弾切れなのか銃がイカレたのかは分からないが、俺様が準備を終えた数秒後には銃声は止んでいた。
中隊長のとっつぁんは、お馴染みの突撃命令を出そうとしていることだろう。
それと同時に、俺様は張り巡らせた影を機動隊員共の足に絡みつかせ、鉄のように硬化させてやった。
文字通りの足止めってわけだ。

「悪いなとっつぁん、あんたらと遊んでる暇はないんだ! トイレは事前に済ませといたよな!?」

ちなみにあの影は、1~2時間もすれば勝手に解けて、元あった瓦礫の影へと戻ってしまう。
常に俺様の影と混ぜておけば何時間でも支配できるが、一度切り離してしまうとダメらしい。
逆に、俺様自身の影は、今回のように切り離して使うこと自体ができない。
どういう理屈かは知らないが、長年使ってきて実際体験して分かった制限がこの2つだ。

(ああ、その前にあいつも倒しておかないとな)

そのまま地下二階へ向かおうとして、もう一人倒し残した奴がいたことを思い出した。
相変わらず白煙のおかげで視界は悪いが、馬鹿みたいに銃を乱射してくれてたおかげで居場所は丸分かりだ。

「ったく、雑魚の分際で手間取らせるんじゃねぇ!」

怒声と共に雑魚戦闘員の鳩尾に右拳をめり込ませ、一瞬で意識を刈り取ってやる。
そのまま戦闘員が倒れ込むのを横目に、ゴル大佐が向かったであろう地下二階への扉を開け、俺様は階段を駆け下りていった。


【機動隊は影を使って文字通りの意味で足止め、銃を乱射していた戦闘員はノックアウト】
【ゴル大佐を追って地下二階への階段を駆け下りました】
【影の拘束は時間が経てば勝手に解けますが、実は疲労による集中力不足でそんなにガッチリ捕まえられていません】
【気合い次第では、靴やズボンを脱いで全力で無理矢理引っ張れば脱出できなくもありません】
244 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/07/21(土) 02:49:26.34 0
俺は小市民だ。頭取だなんて呼ばれてる、少しばかり地位の高い小市民。日々の退屈な仕事に精を出し、休日には家族サービスに励み、日々社会正義に敬意を払う、極めて善良な市民に過ぎない。
そんな模範的小市民であるこの俺は、出勤途中に愛車を爆破された挙句誘拐され、顧客の財産を守ろる義務を果たさんとした為に縛り上げられ、顔面の輪郭がぼやけ気を失うほどに殴りつけられていた。
気が付くと悪党はほとんど姿を消しており、回りは多少静かになっていたが、首が妙に痛い。何か重いものが俺の首に吊り下げられているのだ。
「お目覚めかね」
大佐とか呼ばれていた爺さんの神経質で嫌味っぽい声が聞えたので、腫れた瞼を精一杯に開く。するとどうだろう、片目の潰れた狼が俺を睨んでいた。被り物にしちゃ出来すぎている。
だが、俺の脳みそは痛みというものを全身の痛覚神経へ伝達するべく忙殺されていたので、一瞬遅れて「わっ」と声を出す程度の驚き具合に止まった。
「よろしいか。状況を説明する。今まさに、俺を殺し、お前を助け、金塊を取り返さんとするヒーローがここへ向かっている。ブラックロウというヒーローだ」
唐突に始まったブリーフィングも中々頭に入ってこない。牛が草を食むように、1つ1つを反芻する。ブラックロウというヒーローが来るらしい。俺を助ける為に。金塊を取り返す為に、大佐を殺す為に……
………何、ブラックロウだって?あの悪名高いヒーローか?この間も警官隊を壊滅させただか何だかと新聞を賑わせたあのブラックロウか?天は我を見放したか!奴はきっと俺の命より金塊を好むに違いない!
「そ、それで……わた、わ、私を、どうするつもりだね?」
「貴様の態度次第だな」
狼が牙をちらつかせ語る最中、いっとう頭の悪そうな大男(作業班長とか呼ばれていた奴)は俺を赤青黄緑黒白とカラフルなケーブルの束で装飾する作業に没頭している。クリスマスツリーになった気分だ。
何れのケーブルも目で伝うと、俺の首にぶら下がっている何か重いものに接続されていた。それは黒い長方形の箱で、上面に小さな液晶パネルと5つのランプ、3つのトグルスイッチが取り付けられている。
「いいかね、これはTNT爆弾だ。タイマーが切れると爆発する。大きな衝撃が加わっても爆発する。些細な衝撃でも爆発するかも知れんが……いずれにせよ爆発すれば部屋が丸ごと吹き飛ぶ」
早口で説明を引き継いだ作業班長は俺の顔も見ずに黒い長方形の箱改めTNT爆弾のトグルスイッチを3つともONに切り替えた。すぐにランプがチカチカと点灯し始め、液晶パネルには20:00と表示された。
その20:00は瞬きする間に19:59になって、19:58になった。……何、TNT爆弾だって?
「お、おい!は、外してくれ!死にたくない!頼む、外してくれ!」
遅れてやってきた驚きと恐怖のあまり、思わず上ずった悲鳴が喉から飛び出した。しかし、作業班長は耳障りな悲鳴などお構いなしに俺の拘束を解き、古めかしい短機関銃を俺の手に握らせた。
さらに狼の顔をした大佐は満足そうに頷き、もはや俺に対する関心は消え失せてしまったようだった。
「では、後は頼んだぞ。我が任務の成否は貴様の忠誠に懸かっておるのだ」
「はっ!必ずや任務を達成してご覧に入れます!!」
作業班長の応答を聞くなり大佐は何処かへ去ってしまった。こうして俺と大男は、使い捨てられた資材や取り残された金塊や現金や宝飾品その他諸々で酷く散らかった金庫室に取り残された。


──なんと哀れな男なのだろうと作業班長は思う。
「難しい話じゃない。俺はお前を見張る。お前がもし逃げるとか逆らうとか好ましくない真似をすれば、遠隔操作でそれを起爆する。ブラックロウを倒せたら解除する。……死にたくなけりゃ、奴を倒すんだ。いいな?」
上官を見送った後、作業班長がいかにも偉そうに命じてやれば、どす黒く鬱血し腫れた箇所以外を蒼白にして小刻みに震える頭取は、いかれたバネ人形が跳ねるように何度も何度も頷いてみせた。
昨日まで革張りの椅子にふんぞり返っていたであろう男は、今や震える手でMP40短機関銃を握り締め、高級そうな両前の背広には爆弾とケーブルを絡みつかせている。あたかも出来損ないのSF風仮装といった様。
作業班長は金庫室全体が概ね見渡せる大金庫の扉の影に潜み、短いアンテナの生えた小箱、すなわち遠隔起爆装置を取り出した。トグル・スイッチをONへ倒し、パイロットランプの点灯を確認する。
10分間も待つつもりはない。ブラックロウが頭取に近づいたら、あるいは頭取がブラックロウに近づいたら、起爆装置中央の赤いボタンを押すのだ。その0.001秒後には制御装置の回路が切り替わり、ランプが消える。
そうすれば奴らは木っ端微塵に吹き飛び、作業班長の制服を飾る鉄十字章の糧となることであろう。
245 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/07/21(土) 02:53:24.94 0
最後の銃弾を薬室に飲みこむ直前、真っ赤に焼けきった銃身に穴が空く。直後に銃身が弾け飛び、対象を選ばずに吹き荒れた『鉄の暴風』はようやく収束した。
すっかり混乱の極みに陥った機関銃手は、機関銃が破損した事も弾帯が全て飲み込まれた事も気づかなかった。もはや呼気の漏れる音にしか過ぎぬ悲鳴をあげながら、何度も役に立たぬ引き金を引く。
機を見るや否や、中隊長は撃鉄を起こした拳銃を掲げて部下を振り返る。古めかしい軍隊のプロパガンダを真似た姿は、中々単純に隊員達の士気を高めた。もし今、中隊長が命じれば崖下にだって飛び降りるだろう。
とにかく忌々しいブラックロウを逮捕する光景を思い描きつつ、中隊長は中隊全員に聞える吶喊号令を下すべく目一杯に空気を吸い込み肺を膨らませた。
「盾構え!吶かぁ……お、おいっ!な、なんだこりゃ!?」
……が、しかし。
中隊一同とも、銃弾から身を守り来る突撃に備えていた為、足元を這う影の網目にまで注意を払えなかった。あるいは個々の隊員が気づいていたとしても、隊の理性たる中隊長が気づかなければ同じ事だ。
今まさに吶喊号令と共に駆け出そうとした中隊長の足は、黒く纏わりつく影の網に捕らわれていた。どれだけ睨みつけても実態の見えぬ闇は、それがブラックロウによって司られる影である証だった。
「クソッタレが!この野郎、よくもやりやがったな!許さんぞ!必ず逮捕してやる!必ず、必ずだ!いいな必ずだ!!」
中隊一同共、影の網を破らんと文字通りに足掻きながら、去ろうとするヒーローにありったけの罵声を浴びせて、さらに中隊長を始め何人かは銃弾まで浴びせた。拳銃弾や散弾がブラックロウの影の鎧へ衝突する。
無論、その程度でブラックロウを足止めできるはずもない。彼らはまたもや悲願を果たせず、ヒーローが戦闘員を殴り倒して去り行くのをただ眺めていることを強いられていた。

【金庫室では既に強奪を中止し、戦闘員らは大佐と共に下水管から金庫室隣の物置へ向けて掘った地下トンネルを伝って脱出しようとしています】
【残っているのは作業班長と人質の頭取です。ボコボコに殴られた頭取は爆弾を括り付けられて銃を渡されブラックロウを倒す事を強いられています。作業班長は爆弾のスイッチを持って金庫の扉の陰に隠れています】
【もしも頭取とブラックロウがある程度近づいたら、作業班長は起爆装置を作動させて二人とも吹き飛ばそうと考えています。また、爆弾には20分の時限装置が取り付けられています】
【機動隊一同が影の拘束を逃れるにはもうしばらく時間が必要そうです】

【で、ここからは中の人向け情報として】
【作業班長による遠隔起爆は失敗します。20分以内にうまいこと爆弾を処理してくださいな。あとは肉弾戦を挑んでくる筋肉モリモリマッチョマンな作業班長をやっつけるだけです】
【中隊長殿はイベント処理後に金庫室に登場しますです】
246 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/07/30(月) 18:02:12.09 O
金庫室への階段を降りる直前、背後から凄まじい罵声と銃声が響いてきた。
数発の銃弾が背中に命中するが、影のスーツが問題なく受け止めてくれるのでダメージは無い。
しかし、いくらダメージが無いとはいえ、銃で撃たれるってのはあまりいい気分じゃないな。
あの連中、帰りに2~3発くらい小突いてやろうか。

「ああ畜生、まさか迷わず背中から撃ってくるとはな。あいつら本当に警官かよ?」

そもそも俺様に銃弾が効かないなんてことは、奴らも分かっているだろうに。
いや……まぁ、逆の立場だったら俺様も同じことをするだろうがな。
憎い仇敵が逃げるのを、黙って見逃すなんて出来る筈がない。
たとえ効かないと分かっていても、一矢報いたい気持ちはよく分かる。

「ああ、そうだよなぁ、見逃せねぇよなぁ……!」

頭の中に一人の狼男の姿を思い浮かべ、怒りを募らせながら階段を駆け下りていく。
普段の俺様なら、背中に銃弾を叩き込んでくれた機動隊の連中に怒っていただろう。
だが今は、ゴル大佐への怒りだけで頭が一杯で、他の奴にまで怒りを割く余裕が無かった。
このままコケにされたまま逃げられたんじゃあ、俺様の気が済まない。
今度こそとっ捕まえて、あの狼野郎をボコボコにしてやる。

「っらぁ! 決着付けようじゃねぇか狼野ろ……おおう!?」

階段を降りきった俺様は、啖呵を切りながら目の前の扉を荒々しく蹴り開ける。
それと同時に、大量の銃弾が轟音と共に俺様の身に襲い掛かり、咄嗟に両腕をシールドにして防ぐ。
鉛玉のシャワーで俺様を迎え入れたのは、当然憎きゴル大佐……ではなかった。

「新手の怪人……ってわけじゃなさそうだな」

目の前にいるのは、体中にカラフルなコードを巻きつけて銃を構えた、歪な顔の男だった。
一瞬新手の怪人かとも思ったが、顔はただ単に殴られてボコボコになっているだけらしい。
そもそも服装自体は普通のスーツ……いや、高そうなスーツだ。
顔はボコボコで表情は上手く読めないが、何かに怯えたような表情をしているように見える。
そして何より気にかかるのが、その首から下げている黒い箱だ。
この状況だ、どう考えてもあれは……アレだよなぁ。

「……こういう狡いやり方は、昔っから気に入らねぇんだよなぁ」

ヘルメット越しに頭を掻きながら、忌々しげに吐き捨てる。
要するに、俺様の足止めをするために、人質に爆弾括り付けて戦わせようってわけだろう。
この状況で目の前のこの男を殴るのは、流石の俺様でも気が引けるってもんだ。
今回だけは、俺様を撃ったことも特別に許してやろうじゃないか。

「あー……まぁ、なんだ。まず落ち着け、今ならまだ俺様を撃ったことは許してやる」

ここから見る限りでは周囲に人影は無い、ゴル大佐はどこに行った?
油断なく周囲を警戒しながらも、相手を落ち着かせるために、話し掛けながらゆっくりと歩み寄る。

「う、うるさい! お前を倒さなきゃ俺が死ぬんだ! 大人しく撃たれてくれ!」

俺様の優しい説得にも耳を貸さず、男は俺様に再び銃口を向けてくる。
これは説得は無理……というか、俺様の忍耐がそろそろ限界だ。
ここは、ちょっと手荒に助けてやるとしようか。
247 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/07/30(月) 18:03:33.70 O
「いや、だからな……」

ゆっくりと歩きながら自身の足下から影を伸ばし、周囲のドアなどの影を片っ端から吸収していく。
はっきり言って、俺様に爆弾解体の知識や技術なんて物は無い。
かと言ってあの爆弾を放っておくことも出来ない。
だったら、あの爆弾を始末する方法は一つしかないだろう。

「う……うるさい! 他に方法が無いんだ!」

男が再び俺様に銃弾のシャワーを浴びせようとするのと同時に、俺様の右腕の肘から先が一気に膨張する。
先ほど片っ端から吸収した影を、全て右腕一本に集めて作った特別製だ。
俺様の得意技、巨大化させた影の拳による影パンチ……とはちょっと違う。
今回の影の拳は爆弾男の体に命中する直前に拳を開き、その体を握り締める。
そして次の瞬間には影の手はその形を崩し、一瞬にして男の体を完全に包み込む黒い球体へと姿を変えていた。
球体からは極細の影の糸が伸び、その先が俺様の人差し指に辛うじて繋がっている状態だ。

「さてと、これで爆弾処理完了……おっと、忘れてた」

ちょっと影を操作して、球体の中から男を解放してやる。
まん丸の黒い化物が、誤って捕食してしまった異物を吐き出すような光景だった。今にも「ぺっ」という擬音が聞こえてきそうだ。
吐き出された男の体には、巻き付いていた色とりどりのケーブルや、首から下げていた黒い爆弾の姿は無い。
男の体だけを解放して、爆弾だけはまだあの影の球体の中に残ってるってわけだ。
あの爆弾にどれだけの威力があるか知らないが、まぁあの中なら爆発しても大丈夫だろう。たぶん。

「よう、影の世界を体験した気分はどうだ? 以外とサラサラしてて肌触りはよかっただろ?」

影球体から吐き出された男に気さくに話し掛けながら、周囲の様子を探るがやはりゴル大佐の姿は無い。
その代わり……俺様とこの元爆弾男の他に、この部屋にもう一人誰かいるらしい。
別に姿が見えたわけでも物音が聞こえたわけでもないのに、どうして気付けたのかは自分でもよく分からない。
まぁ殺気というか気配というか、とにかく長いこと戦ってきて培った勘って奴だな。

「……邪魔だな」

何やらグッタリしてる元爆弾男に、短い言葉と共に軽いジェスチャーで「邪魔だからさっさと上に逃げろ」と伝え追い払う。
そして爆弾を内包した球体を、完全にスーツから切り離す。
こうして戦闘準備を整えた所で、ゆっくりと大金庫へと向き直り、その扉の影に隠れている男に声をかける。

「よう、そこの影に隠れてる兄ちゃん。こっちに軍服着た狼男が来なかったか……よっと!」

言葉と同時に、小型の影のナイフを3本、男がいる方向へ投げ放つ。
これは周囲から吸収した影ではなく、スーツを構成している俺様自身の影で作った物だ。
完全にスーツから切り離すことはできないので、ナイフの柄の部分から伸びた極細の糸によってスーツと繋がっている。



【爆弾を影の球体で包み込んで処理、ただし爆発を押さえ込める保証は無し】
【解放した頭取は邪魔なので上の階に逃げるように伝える】
【扉の影に隠れている作業班長にワイヤード影ナイフを3本げ放ちました】
【頭取を少し勝手に動かしちゃいましたけど大丈夫だったでしょうか?】
248 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/08/06(月) 23:02:48.69 0
俺は小市民だ。頭取だなんて呼ばれてる、少しばかり地位の高い小市民。日々の退屈な仕事に精を出し、休日には家族サービスに励み、日々社会正義に敬意を払う、極めて善良な市民に過ぎない。
そんな善良な市民たるこの俺が、悪党の爆弾で吹き飛ばされるなんていう悲劇は民主主義社会の正義が許さない。だからして俺が止むを得ず悪名高いヒーローを撃ったとして、果たして誰が俺を批難できようか。
金庫室はしんと静まり返っていた。悪党達が廃棄した装備や道具が散乱し、中途半端に積み上げられた金塊が放置されている。恐らく、背後に潜む大男も俺と同じようにこの寂しい風景を眺めているのだ。
ただし、奴の見る風景の中には爆弾を抱いた小市民が居て、奴は小市民を吹き飛ばす為のボタンを握っている。少しだけ視線を下げると、液晶パネルの表示は残り10分を切っていた。

ふと、足音が聞えた気がした。
銃を握る手に力が篭る。暴力を憎む小市民であるこの俺は銃の扱いなど微塵もわからないが、きっと引き金を引けば弾が出るのだろう。そうでなければ困る。そうでなければ生き残れないのだから。
扉が開く、蝶番の軋みが聞えた途端、俺は目を瞑って力いっぱい引き金を引いた。酷い騒音と共に銃が跳ね上がり、腕が引っ張り挙げられる。瞼越しにも銃火は眩しく瞬いていた。
そしてどれだけ経ったか、ようやく引き金から指を退けて目を開くと……なんと、ヒーローは無傷でそこに立っていた。だが俺は生きている。ならば頭の悪そうな大男は、もう一度俺にチャンスをくれたのだろうか。
>「あー……まぁ、なんだ。まず落ち着け、今ならまだ俺様を撃ったことは許してやる」
ヒーローは言う。俺の無礼を寛大にも許すと。……馬鹿馬鹿しい。そんなことはどうでも良い。何せ10分ほど前から俺を殺さんと目論む頭の悪そうな悪党がボタンを握っているのだ。
奴がどれだけの慈愛を持って俺を迎えようとも、どこかに潜む邪悪な大男が数カロリー分だけ指を動かした途端、ありふれた小市民に過ぎなかった俺は悲劇の主人公として四散するだろう。
問題はすなわち、邪悪な大男の心証なのである。
「う、うるさい! お前を倒さなきゃ俺が死ぬんだ! 大人しく撃たれてくれ!」
また声が甲高く引きつったが、構うものか。構っていられるものか。臆病とでも卑怯とでも、好きなように罵るがいい。俺は家族の為に生き延びねばならないし、部下も俺が死ねば悲しむだろう。
その他の有象無象の諸々の為にも、俺の命には価値があるはずだ。兎にも角にも命が惜しいのだ。死にたくないのだ。ヒーローめ、俺を助けたいなら速やかに死んでくれれば良かったものを!
>「いや、だからな……」
「う……うるさい! 他に方法が無いんだ!」
戯言などに耳を貸している暇は無い。10:00の表示は、今や04:49の表示に豹変している。今や吐息が掛かる距離にまで死が忍び寄っている。コードと共に絡みついた悪意が膨らみ俺を圧迫し続けている。
銃を再び構えて引き金に指を掛ける……が、先ほど発揮した騒々しさと禍々しさはどこへやら、うんともすんとも言わない。もう一度引き金を引くと、どこかのバネが軋んで僅かな金属音だけが漏れた。
やがて銃の軽さに気づき、人生最大の絶望が俺を塗りつぶした。恐らく最初の掃射で弾が切れたのだ。黒い拳が俺目掛けて飛んでくる。すぐに、俺の視界は真っ黒く、絶望で塗りつぶされた。
249 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/08/06(月) 23:08:51.99 0
──これだから中国製は!
頭取に撒きつけた爆弾(本来は脱出後のトンネル破壊を用途とした)を設計するに当り、作業班長は特に遠隔起爆装置について信頼性の高い日本製の部品を要求した。
ところが組織の壊滅以来慢性的に物品不足に頭を抱える資材部から送られてきたのは調達に失敗した旨を知らせる謝罪文、そして「Made in China」の刻印も忌々しい電子部品一式の詰め合わせであった。
いずれの部品も外見上は日本製のそれにそっくりで、テスト時にはほぼ問題なく動作したのだが……
>「よう、影の世界を体験した気分はどうだ? 以外とサラサラしてて肌触りはよかっただろ?」
我らが"怪人爆弾男"は、影の拳に飲み込まれたかと思ったら、瞬く間に無力化されてしまった。SF風の装飾を剥ぎ取られた哀れな頭取は、腰が抜けたのか暫し呆然とした後、闘争の場から逃れんと地面を這った。
ヒーローを足止めする為に講じた第1案は、重慶か何処かで搾取労働を強いられている貧しい中国人工員の怠慢によりこうして失敗した訳である。
>「よう、そこの影に隠れてる兄ちゃん。こっちに軍服着た狼男が来なかったか……よっと!」
もはや隠れる意味もないと悟り、扉の影から転がり出て運び残した金塊の山に飛びつく。寸前で避けたナイフは、金庫の扉にぶつかって3度鈍い音を立てた。
「貴様がブラックロウだな!大佐から聞いているぞ!」
立ち上がってみれば、ブラックロウというヒーローはとんでもない子男のように思えた。奴は人並みの体格を備えているのだろうが、俺が飛びぬけた大男であるが故、大抵の相手は相対的に子男に映るのだ。
俺は戦闘員であり怪人ではないが、かつては名の知れたプロレスラーだった。国際犯罪組織(ヴェアヴォルフのことだ)に賛同した咎で祖国を追われるまでは、俺だってテレビの中じゃ「ヒーロー」だった。
かつて「人間原子力発電所」だとかのニックネームで呼ばれていた頃に無数のヒールレスラーを苦しめた筋肉は、未だに衰えを知らない。さてさて、第1案が敗れたならば、第2案に移るまで。
大佐が俺に託した第2案とは、つまるところ俺が出て行って奴を殴り殺すという単純明快な作戦である。これを語った大佐は「いかにも悪の組織らしいだろう」とご満悦だった。

「ブラックロウよ、これが何か判るか?」
引き千切るように戦闘服の上着を脱ぎ捨てると、現役時代と違わぬ我ながら筋骨粒粒で逞しい肉体が現れる。「何か判るか?」とは聞いたが、機関銃の弾帯にも似た、俺の身体に巻きついた奇妙な物体の正体など奴は知るまい。
種を明かせばトンネル掘削の折に余剰となった作業用ケミカルライトをベルトで繋げたものに過ぎないが、この不恰好なベルトこそ、大佐から伝えられた僅かな情報を元に、俺がほんの数十分で作り上げた秘密兵器である。
軽く叩けばガラス管が砕けてそこら中がぼんやりと光り始め、足元にある自身の影が薄まってゆく。すかさず溶断機と共に持ち込まれていた遮光マスクを覆面の上から被り、自らの視界を確保する。
ケミカルライトが発する明るさは刻一刻と増し、この数秒のうちに俺の周囲数メートルに存在した一切の影は文字通り消え失せてしまった。さて、俺も頭取と同様にSF風の怪人へと成り果ててしまった訳だ。
「貴様は影を操るらしいが、これだけ明るければ影も近寄れまい!いくぞ!」
こうして光の塊と化した俺は、金庫をこじ開ける事に失敗して爪のひしゃげたバールを拾い上げて振りかぶり、突進した。明かりが失われるまでの数分間で決着をつけねば。

【死の恐怖を存分に堪能した後に爆弾引っぺがされた頭取は、腰が抜けたものだから口をパクパクさせながら地面をはいずって金庫室から逃げようとしています】
【一方、筋肉モリモリマッチョマンかつアイデアマンの作業班長は、身体中に強力なケミカルライトを巻き付けて発光させる事で、ブラックロウの操る影を打ち消そうとしています】
【数分間は目も開けて居られないほどの光を放つマッチョマンがバールを振りかざして襲い掛かってきているわけです。実際には軍用品でもそう強くは光りませんし長持ちもしませんけど、まぁ一種の怪人だと思って見逃してくださいな】
【とどのつまるところ、現在の作業班長はまばゆく光り輝く超人ハルクみたいなもんです】
【数分間しのげば光が弱まって、光り輝かない超人ハルクになります】
250 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/08/14(火) 07:54:06.29 O
気配のする方向へと勘を頼りに投げつけた影のナイフは、大金庫の金属扉にぶつかり甲高い音を立てて地面に落ちた。
言っておくが決して外したわけではない、生意気にも敵の野郎が避けやがっただけだ。

>「貴様がブラックロウだな!大佐から聞いているぞ!」

「おっと、こいつぁ……大したデカ物が出てきたもんだな、おい」

扉の影から飛び出して来た男は、一言で言うなら大きかった。
横にも縦にも大きく、筋骨隆々で、いかにもタフガイって雰囲気だ。
目を合わせようとすれば、必然的に俺様が見上げる形になる。
……俺様が、見上げる、形になる?

(気に入らねぇ……この俺様を見下すなんざ10年早ぇぞ……!)

目の前の敵に対する怒りを唐突に燃え上がらせ、ヘルメット越しに睨み付けながら拳を握る。
なかなかいいガタイをしているとはいえ、敵は戦闘員一人。
そこそこの強敵たちとの連戦で疲れてはいるが、周りには利用できる影も数多くある。
一言で言えば余裕って奴だが、とはいえ俺様は大佐を早く追わねばならない。
さっさと倒して先を急がなければ。

>「ブラックロウよ、これが何か判るか?」

「あぁ? 悪いが野郎の裸にゃ興味ねぇよ、あとその趣味の悪いアクセサリーにもな」

目の前の男が自信満々に口を開くと同時に、着ていた戦闘員服を脱ぎ去る。
中から現れたのは筋骨隆々の立派な肉体と、その体に巻き付くよく分からない何かだ。
……いや、本当に何だあれ? なんか戦争映画でよく見る弾帯っぽいが……違うよな。
そもそもこの男は銃を持っていないし、さしずめ俺様を倒すための秘密兵器ってところか?
色々な可能性が頭の中に浮かんでは消えていくが、答えは次の瞬間に明かされた。
文字通り、部屋が明るくなることで。

「おいおい、マジかよ……そうきたか畜生」

あれの正体は兵器でも何でもない、ただライトを幾つか繋げた物だった。
徐々に奴の周囲が明るくなり、その光は最終的には目も開けていられないほどの光度に達する。
奴自身は遮光マスクを被って視界を確保したようだ、俺様も愛用のサングラスをかけていなければ危なかった。
だが、問題は視界ではない。そんなことは正直どうでもいい。
何度も言うが俺様の力は影、そして影の弱点といえば……光だ。
5つのガキでも思い付く簡単な理屈だ、影が怖けりゃ光を強くすればいい。
俺様にとっては、まさに最強最悪の兵器ってわけだ。
(……嫌なこと思い出させやがって)

俺がこの弱点を突かれるのは、これで二度目だ。
組織のボスの座から引きずり落とされた時も、これと似たような方法で倒された。
もっとも、あの時はもっと強力な光で四方八方から照らされたがな。
それに比べりゃ、この状況はまだマシか。

>「貴様は影を操るらしいが、これだけ明るければ影も近寄れまい!いくぞ!」
「まったく、人は見かけによらねぇってのは本当だな! まだ脳みそまでは筋肉にはなってないってことかよ!」

目の前のライト男が、足元のバールのような物を拾い上げこちらに突進して来る。
そして光が近付くのに伴って、俺様のスーツを構成する影も徐々に薄まっていった。
指先や爪先、マントの端やヘルメットのクチバシなどの先端部分は、既に形が朧気になっている。
自分自身の影で作ったスーツなら多少は保つかと思ったが、やはりかなり消耗しているせいか限界が早いようだ。
至近距離であの光を浴びれば、下手をすれば完全に影が消えてしまうかもしれない。
251 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/08/14(火) 07:56:25.86 O
「上等! かかって来なピカピカマッチョマン!」

威勢のいい言葉で相手を挑発し、俺様は両拳を握りファイティングポーズを取りながら敢えて一歩踏み出す。
あの筋肉に身のこなし、野郎が何らかの格闘技を相当やり込んでいるのは間違いないだろう。
俺様も生身の喧嘩ではかなり強いと自負しているが、影の補助無しで野郎に勝つのは難しいかもしれない。

「知るかよそんなもん! 影があろうが無かろうが俺様は無敵だ!」

自分自身を鼓舞するために叫びながら、鋭いバールの一撃を回避し右の拳を脇腹に叩き込む。
至近距離で何度も何度も、敵の攻撃を避けて避けられ、拳を叩き込んでは時にはバールの一撃をまともに食らう。
そうしている間にも影はどんどん消えていく、とてもじゃないがスーツを保てそうにない。
そう判断した俺様は、意を決してスーツの形を変化させていく。
余分なマントやヘルメットを消し去り、胸・肩・前腕部・膝下などに装甲を集中させる。
正体を隠すのはヘルメットではなく、鼻から上だけを覆うバンダナマスクだ。
こうして、まったくカラスらしさの欠片もない簡易コスチュームが完成した。
必要最低限の部分だけを防護・強化するのみだが、一部に集中させた分だけ多少は長持ちするだろう。
かなり色々と変形させたが、実際には時間にして一秒とかかっていない。

(ああ、畜生……こんなに痛いのは久々だこの野郎!)

体を覆う影が減ったために振るう拳の威力は下がり、その代わりに俺様の受けるダメージは上がっていく。
なにせほぼ生身を晒している部分もある、そこにバールを叩き込まれれば只では済まない。

(だが何だ? こいつは何を焦っている?)

このピカピカマッチョマンは、どうも決着を急いでいる節がある。
まるで、俺様を早く倒さなければならない理由でもあるように。

「……はっはっは! ああ、そうか! なるほどな、そういうことかよ!」

そして暫く考えて、俺様は気付いた。考えてみれば当たり前のことだ。
何も考えずに勢いで殴り合いを挑んでしまったが、俺様にも全く勝算が無いわけじゃないらしい。

「なぁおい! そのライト、あと何分くらい光ってられるかなぁ!?」

とてもヒーローとは思えない邪悪な笑みを浮かべながら、目の前の男に問い掛ける。
これだけの光を放つライトだ、消費する電力も相当なものだろう。
つまり、このライトはあまり長持ちしないってことだ。
その証拠に、徐々にライトの光が弱まり影が広がり始めている。
光が弱まるにつれて、俺様の体を覆う影が広がり、振るう拳に込められる力が上がっていく。
そして、数分後には……完全に光と影が逆転した。
俺様の体はいつも通り完全に影で覆われ、頭部にもいつものヘルメットが戻って来た。
そして普段ならマントを作る分の影を右腕に集中させ、その右腕を限界まで振りかぶる。
普通なら見え見えのテレフォンパンチだが、俺様のこれを避けるのは難しいだろう。
なにせ、逃げ場が無いからな。

「これで終わりだ馬鹿野郎ぉぉぉああああ!!!」

全力で叫びながら、必殺の巨大化した影の拳を至近距離から叩き込んでやる。



【身を守る影が消えるのを覚悟の上で接近戦を挑む影山】
【とりあえず必要最低限の部位だけを守る簡易スーツで殴り合います】
【最後はいつもの巨大影パンチでフィニッシュ】
252 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/08/22(水) 15:25:39.76 0
253 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/08/27(月) 15:49:34.09 0

254 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/08/29(水) 21:46:18.91 0
やはりそうだ!薄々感づいてはいたが、俺は天才だったのだ!
……ブラックロウを殴りつけながら、作業班長はそんな事を思っていた。まばゆい光と化した大男の前で、ブラックロウのコスチュームは輪郭がぼやけた頼りない形状に薄れ、漂っていた。
「大佐からは十分に気をつけろと言われていたが……はっ、影が無ければこの程度か!ほら避けろ避けろ、頭が割れちまうぞ!」
何度も何度も、釘抜き側のツメがブラックロウのどこかしらにめり込み苦痛を生み出す。一方で作業班長もブラックロウからのパンチを何度か受けていたが、それを気にしてはいなかったし、また避ける気もなかった。
「どうしたブラックロウ!ええ?そんなパンチじゃ俺は倒れんぞ!」
いわば一種の職業病である。プロレスとは派手な格闘の応酬を披露するのショーであるからして、相手の攻撃を避ける事は良しとされない。技を受けた上で、自分からも技を掛ける。試合時間は長ければ長いほど良い。
長年プロレスラーとして暴力を披露してきた男は、影の力を失ったパンチに「高々素人にしては鍛えている程度だな」という半ば失望混じりの感想を覚えた。これを何発受けたところで倒れる事はないだろう、と。

ところが気がつくと、瞬きと共に周囲が少し暗くなったような気がした。あるいはブラックロウの鎧が少し闇を増したような気がした。バールへの手ごたえが硬くなった気がした。脇腹への痛みが増した気がした。
それらの些細な変化が一つまた一つと積み重なり、いよいよ錯覚という言葉では誤魔化せなくなる。明らかにライトは薄暗くなり、明らかにブラックロウの鎧は元の姿を取り戻し、そして明らかに自分へのダメージは増していたのだ。
「ちっ……とっととくたばればいいものを!!」
彼の勝機を失わせたのは、プロレスラーとしての職業病に他ならない。相手の攻撃を避けなかった事に加えて、"試合時間"を長引かせようとするあまり、ブラックロウに致命傷を負わせるような攻撃を無意識に避けていた。
ここに至って作業班長はようやく染み付いた習慣を押し殺した。純粋な殺気を帯びたバールの爪は兜の成型が未だ不完全な頭部を何度も狙うが、闇の度合いを増した腕がその度に妨げた。
>「なぁおい! そのライト、あと何分くらい光ってられるかなぁ!?」
「だ、黙れ!……くそっ、邪魔だ!」
カラスの姿を取り戻しつつあるブラックロウが"秘密兵器"の時間制限を指摘した時、既に作業班長の顔から余裕は消え失せていた。光が減じて闇が増し、視界は狭まり、遮光マスクを投げ捨てても尚薄暗い。
光と影に伴って、ヒーローと悪党の形勢もまた逆転する。先ほどまでブラックロウをいたぶっていた作業班長は、今や防戦一方にまで追い込まれた。自慢の"秘密兵器"も、既に価値のないガラクタに成り果てている。
しかしヒーローの攻撃の合間に生まれたほんの一瞬の隙を、作業班長は見逃さなかった。最後の力で振り下ろされたバールは、確実にブラックロウの頭部を捕えた。

次に聞えたのは、コーンという金属音。バールの爪は確かに頭を捉えたのだ。しかし度重なる酷使に歪んでいたバールは兜の硬度と妥協しあい、ダメージを与えず真っ二つにへし折れることでエネルギーを発散したのだ。
思わずバールを取り落とした作業班長の目に、ブラックロウが右の拳を大きく引くのが見えた。影を溜めて膨張した黒い拳。避けなければ。……避けられるのか?影に囲まれた中で、あの大きな拳をどうやって避ける?
>「これで終わりだ馬鹿野郎ぉぉぉああああ!!!」
「う……うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ブラックロウの拳は、そのど真ん中に作業班長の顔面を確りと捉えていた。満身創痍の大男はこの一撃で鼻を砕かれて吹っ飛んだ。そう、文字通りに吹っ飛び、苦痛と引き換えに意図せず空中遊泳を体験する事になった。
驚くべきことに、彼はその段階でも意識を失ってはいなかった。第1案に続いて第2案も駄目だった。なら第3案を考えなければならない。とりあえず立ち上がり武器を拾い……そういうような事を考えていただろう。
だが積み上げられたままの金塊の山に突っ込んで後頭部を二度三度四度と続けて強打、一瞬で昏倒したのである。

……また作業班長が知る事は無かったが、ヴェアヴォルフ工兵隊が銀行地下へ侵入するべく掘削したトンネルは金塊が運び出された段階で閉鎖されていた。爆破による閉鎖はゴル大佐直々の命令で行われた。
すなわちゴル大佐によって殿を命じられた時点で作業班長が脱出することは不可能であり、実際には作戦の如何に問わず鉄十字章を得る機会など万に一つも無かったのである。
255 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/08/29(水) 21:51:01.45 0
「そこまでだブラックロウ!」
続いて金庫室に騒々しさを持ち込んだのは、12ゲージ散弾銃を構えた我らが中隊長殿である。ようやく影の網から逃れた機動隊員たちも息を切らせながら中隊長の後ろに続き、ジュラルミンの盾が金庫室の入り口を塞いだ。
怒りやら疲労やら諸々で血走った彼らの目は、揃いも揃ってガスマスクのレンズと銃の照準器越しにブラックロウを睨んでいた。
「はーっはっはっは!とうとう追い詰めたぜ!どうだ、もう逃げ場はあるまい!無駄な抵抗はやめて投降しろ!!」
中隊長の声は心底楽しそうだった。それもそのはず、あと一歩で気に食わない相手を2人同時に出し抜けるのだ。夢にまで見た光景を迎えようとしているのに楽しくない人間など何処にいるものか。
ようやくブラックロウを捕まえられる、そしてボギーの鼻を明かす事が出来るのだから……

──作業班長が上着を脱ぎ捨て光り輝き始めていた頃、中隊長以下機動隊員各位はようやく影の網を脱出していた。
怒りに燃える中隊長殿はすぐさま本部への救援要請と報告を試みた。階段室に避難した負傷者を引き上げ、今度こそあの憎むべきブラックロウを逮捕しなければならない。……ついでに強盗犯も。
しかしブラックロウという真の敵の存在を伝えんとする必死の訴えは、古めかしいベテラン警部ことミスタ・ボギーの溜息によって遮られてしまった。ボギー警部は楽しげに語るのだった。
『だから俺は忠告したのだよ。どうせ君の事だ、奴より先に何か下らない挑発でもしたんじゃないか?……あ、いや。答えなくて結構。十分に想像は出来るからね』
『これに懲りたら指揮官先頭だなんて古めかしい真似はやめ給えよ。俺も救援部隊と一緒にそっちに向かうから、詳しい話はそれからにしよう。いい報告を期待しているよ』
最後に短く「はっ」と応じて通信を終えた中隊長の顔は針で突けば破裂するかと思われるほどに紅潮していた。よりにもよって、誰よりも古臭い男に「古めかしい」と嘲られたのである。
耳に取り付けたイヤホンは不愉快な上司の不愉快な諧謔に塗れた言葉だけではなく、安っぽい紙巻煙草の不愉快なニコチン臭までもを短波に乗せて届けているように思われた。

……ボギーは俺が何も捕まえられないと思っているに違いない。ニヤニヤしながら「さて、どうかね首尾は?」だとか話しかけてくる。そこで俺は手錠を掛けたブラックロウをぽんと差し出す。ついでに強盗犯も。
これで奴は俺を、それに中隊を評価せざるを得なくなるって寸法だ。今後は俺に兵隊ごっこだとか西部劇かぶれだとか軽々しい口は聞けなくなるはず……
「ち、違う!違うんだ!ブラックロウは私を助けてくれた!!金の上で伸びてる大男だ!そいつが強盗だ!」
そんな中隊長殿の夢想に水を指したのは、今しがたまで物陰で腰を抜かしていた頭取だ。よろよろと這い出てきた善良なる小市民は、袖で鼻血を拭いながら叫んだ。声は甲高く無様に裏返っていたが、はっきりと響いた。
小市民の絶叫は中隊長を動揺させ、またそれに伴い中隊の一同も動揺した。ガスマスク越しに表情は伺えないものの中隊長の動揺は相当なものらしく、それを反映してかヒソヒソと話し合う隊員も出てきた。
彼らとて金塊の海に溺れている大男に気づいてはいたし速やかに逮捕するつもりではあったが、問題はブラックロウが小市民を助けたという点である。馬鹿な、奴は人を馬鹿にして喜ぶ悪党のはずなのに…………
しかし立派な警察官である中隊長殿が市民の前で取れる行動は一つしかない。
「中隊、聞えただろう!あの大男を検挙!人質を保護!……何してる、急げ!!」
中隊一同は戸惑いつつも命令に応じた。金塊から引きずり出された大男は屈強な機動隊員が3人がかりで運び出した。戦闘員とはいえ責任ある下士官であれば、中隊長にとっても一応の"戦果"とは認められるだろう。
そしてまた何人かに肩を借りた頭取はようやく金庫室を後にしようとしたが、その前に機動隊員に合図して足を止めて振り返る。酷く腫れたままの顔には、確かに笑顔が浮かんでいた。
「ありがとうブラックロウ!あんたのことを誤解していた!今日助けてもらったことは死ぬまで忘れないよ!」

さて、正義を為したヒーローを逮捕したり蜂の巣にするなんて真似は当然ながら認められない。ヒーローが正義を為したなら、警察官はそれを褒めて感謝状の推薦をしてやるものだ。相手が誰であれそうするべきだ。
だがしかし、中隊長殿としてはここまで接近したブラックロウを逃したくないというのも本音であって、奇妙なジレンマの中で中隊長は葛藤する。隊員達のざわめきも大きくなる。
「じ、重要参考人!ブラックロウ、重要参考人として同行を願う!」
結局のところ、法に則って任意での同行を求める以上に中隊長が行使できる権限は残されていなかった。
256 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/08/29(水) 21:52:10.34 0
【吹っ飛ばされた作業班長は気絶してしまいました】
【突入してきた中隊長殿とその部下はとりあえず作業班長を逮捕して頭取を保護しました】
【中隊長殿としてはブラックロウを逮捕したいようですが、警察官としてのモラルがそれを許さず、不本意ながら任意での同行を要求しました】
【また大佐たちは金塊と共に既にどこか遠くへ逃げてしまったようです】
257 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/09/05(水) 01:05:36.72 O
「ふっ……はっはっはー! 俺様に刃向かうからそうなるんだよ馬鹿野郎が!」

巨大な影の拳に文字通り殴り飛ばされ、金塊の山に突っ込んだ作業班長。
念のため臨戦態勢のまま数秒ほど待機してみたが、流石にもう立ち上がって来る気配は無い。
そうして完全に敵を倒したことを確認してから、影山は高らかに勝利宣言を言い放った。
腰の左右に手を当てて胸を張り、とてもヒーローとは思えぬ馬鹿笑いと共に。

「……って待てよ、気絶させちゃダメじゃねぇか! ゴル大佐はどこ行ったんだよおいコラ!」

危うく勝利の余韻に浸りかけていた影山だったが、ここでやっと当初の目的を思い出す。
自分が追っていたのはあくまでもゴル大佐であり、この作業班長からはその行方を聞き出すつもりだったはずだ。
それを成り行きと勢いに任せて、うっかり倒してしまった。
今しがた倒したばかりの敵を叩き起こすべく、影山は慌てて作業班長に駆け寄ろうとする。

>「そこまでだブラックロウ!」

しかし、その行動はよく聞き覚えのある声……そして、この世で一番聞きたくない声によって遮られてしまった。
声の方向へと視線を向けると、そこには中隊長以下機動隊員全員の姿があった。
全員が全員、血走った目で銃と盾を構えて、臨戦態勢万全といった様子である。
とてもじゃないが、話し合いで解決できる状況ではなさそうだ。
もっとも影山の頭の中には、話し合いなどという選択肢は最初から存在しないのだが。

>「はーっはっはっは!とうとう追い詰めたぜ!どうだ、もう逃げ場はあるまい!無駄な抵抗はやめて投降しろ!!」

「あァ!? 誰が投降なんざするかってんだ! 無駄な抵抗かどうか試してみるかコラァ!」

売り言葉に買い言葉を返しながら、影山も拳を握り締め殴りかかる準備を整える。
たしかに中隊長の言葉通り、影山にはもはや逃げ場は無い。
唯一の出入り口は中隊長達に完全に塞がれ、ゴル大佐が使った抜け道もとっくに塞がれている。
中隊長には影山を見逃すつもりは無いようだが、影山にも大人しく捕まってやるつもりは無い。
まさに一触即発、あとはどちらが先に動くかという状況だ。

>「ち、違う!違うんだ!ブラックロウは私を助けてくれた!!金の上で伸びてる大男だ!そいつが強盗だ!」

しかし、その緊迫した空気を第三者の声が打ち破る。
先ほど影山が助けた頭取が、影山に助け舟を出してくれたらしい。
その言葉に中隊長は激しく動揺しているようだが、それは影山にとっても同じことだった。

(あー……何だこれ? どうなってんだ?)

こういう状況で、市民から罵声が飛んで来るのには慣れている。
しかし、逆に擁護されるというのは影山にとっては初めての経験だった。
正直、どう反応していいのか分からない。
258 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/09/05(水) 01:07:06.49 O
>「中隊、聞えただろう!あの大男を検挙!人質を保護!……何してる、急げ!!」

そうして戸惑っているうちにも、事態は勝手に進行していく。
意外にも素直に頭取の言葉に従う中隊長の命令によって、作業班長は三人がかりで運び出されていった。
拳を握り締め、腰を落とした臨戦態勢で固まったまま、影山はそれを見送る。

>「ありがとうブラックロウ!あんたのことを誤解していた!今日助けてもらったことは死ぬまで忘れないよ!」

そして機動隊員に肩を借り、金庫室を後にする直前の頭取の言葉。
そこでやっと影山は事態に追いつけたようだ。
もしかしたら、自分を讃える言葉に反応しただけなのかもしれないが。

「お……おうよ! 俺様に受けた恩を一生忘れるんじゃねぇぞ! はっはっはっはー!!!」

やたらと尊大な態度と馬鹿笑いと共に、軽く右手を振る。
調子に乗って素で言っているのか、気恥ずかしくてわざと言っているのか。
それは影山本人にしか分からない。

(さて……今からゴル大佐に追い付くのは無理だよなぁ、居所知ってそうなマッチョ野郎も運ばれちまったしよ)

ゴル大佐を取り逃がしたことは悔やまれるが、今となってはどうしようもない。
逃げられてしまった物は仕方ないのだ、いつまでも気にしていても仕方ないだろう。
それにヒーローを続けていれば、いずれ再び出会うこともあるはずだ。
無理矢理にそう割り切り、自分もそろそろ帰ろうかというところで、再び中隊長の聞きたくもない声が聞こえてきた。

>「じ、重要参考人!ブラックロウ、重要参考人として同行を願う!」

自分を捕まえることもできず、かといって黙って逃がしたくもない中隊長の苦し紛れの言葉。
それを聞いた影山は、マスクの下でヒーローらしからぬ笑みを浮かべた。
「悪いがヒーローも暇じゃないんでね、まだ街のパトロールをしないと。話ならさっき運び出した彼に聞いてくれ」

まったく似合わない口調で任意同行を断り、影山は機動隊員達の間をかき分けて階段へと向かう。
捕まえられる物なら捕まえてみろ言わんばかりの、ゆっくりとした足取りで。


【危うくまた機動隊員達を病院送りにしかけるも、頭取の言葉で踏みとどまる影山】
【市民からのまさかの批判以外の言葉に思考停止、なんだか悪くない気分になる】
【ゴル大佐を追いかけるのはとりあえず諦め、決着をつけるのは次の機会に持ち越す気のようです】
【中隊長殿の任意同行を丁重にお断りし、影山は銀行を立ち去りました】
259 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/09/13(木) 01:33:05.51 0
事件翌日の新聞各紙一面には、大写しになったブラックロウの写真が踊った。何枚か写真はあるが、やはりメインに据えられるのは突入直前、黒い翼を広げて滑空する姿を真下から捉えたものだ。
見出しは揃いも揃って「銀行強盗撃退す!」とか「我らがヒーロー登場!」だとか諸々……正義と悪との戦いが続く中、一種の雛形となってしまった決まり文句ばかりが並ぶ。
一見して輝かしい写真には「占拠された銀行に突入せんとするヒーロー・ブラックロウ」といったキャプションが打たれ、空気中を乱れ飛んでいた罵詈雑言は影も形も捉えられていない。
肝心の本文も雛形どおりの退屈なものだった。つまり『悪が蔓延る街にヒーローが登場、彼こそ街を救う救世主に違いない、市民は彼らを応援しよう』とかなんとか……
かつて警官隊を殴り飛ばしたブラックロウを名指しで『反社会性の権化』とまで非難したある地方新聞すら、まるでそんな記事など無かったかのように新たなヒーローを湛える一面記事を打った。
助け出された頭取の感謝の言葉を一言一句漏らさず活字にしたのもこの新聞で、解放直後に撮影されたであろうボコボコの笑顔が見出しの右下に貼り付けられていた。
ついでに少し下を見てみれば、顔も名前も伏せた"某警察幹部"なる人物が引き続きブラックロウを非難する声明を発した旨の小さな記事が見つかったかもしれない。
その声明はちょうど裏面に刷られている社説欄で引用され、非難され、また嘲笑されていた。
260 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/09/13(木) 01:34:13.07 0
さて、この歴史あるリベラル寄りの地方新聞、『鏡野新報』の記事をもう少し読んでみよう。保守派閥出身の現市長からはやや疎まれつつ、惰性で契約し続ける市民達に支えられている日刊紙である。
ブラックロウの記事、頭取の顔からもう少し下にある週間天気予報欄は、今週一杯は晴れが続くであろうという壮大な予言を宣言していた。それはさておき、週間天気の右側には市の発表に基づく「今週の主な催し物」欄がある。
曰く、今週日曜日から『第52回かがみの絵画コンクール 中学生の部入選作品展示会』と『チャッキー井上展 ~現代美術の祭典~』なる個展が共に市民会館2階の中央展示室で開催されているという。
また水曜日からは『エミリー・ダウランド展』なる作品展が1階第1展示室で始まる。ちなみにダウランド女史は「Z級特撮界の女王」の異名で知られる鏡野市在住の自称社会派映画監督である。
そして土曜日の正午過ぎには市長殿の講演会が同じく市民会館で予定されている。題目は『平和な街づくりと徹底抗戦 あたらしい民間防衛』とあり、さらに※印で次のような補足があった。
「今回の講演にて取り上げる新たな社会実験のため、お越し頂いた方には講演終了後に特典としてAK-47突撃銃を無料配布いたします。数に限りがありますので申込はお早めに。詳しくは市広報局まで」

……凶悪犯による銀行強盗に胸を痛めた市長殿は事件収拾の直後に緊急会議を執り行った。ただし、状況が急を要するあまり正式な召集も行われず、出席者は市長殿と忠実かつ有能なる市長秘書官だけだったのだが。
彼ら2人による会議はすぐに行き詰まったかのように思えたが、幸運にも市長秘書官が密かに持ち込でいたラム酒が発想の潤滑油となった。開始から僅か1時間後、市長殿による全く聡明な決定が為された。
つまり『犯罪者は善良でか弱い市民を狙う→市民がか弱いからいけない→市民を強くしよう→カラシニコフを配ろう!』と、おおむねこのような流れで新たな社会実験が設計されるに至ったのである。
良いが醒めた後も市長殿は自らの聡明さに感心するばかりで、秘書官はそれを褒め称えつつ、AK-47突撃銃の調達を指示し、また配布の為に市民会館での講演会をセッティングした。
このあまりにもスピーディーな決定に関して事後報告を受けた警察上層部が真っ青になる頃には、産地直送の真新しい中国製突撃銃が市民会館に到着していた。

当然ながら、大抵の鏡野市民は「今週の催し物」に大した興味を抱かない。個展だとか演説だとか何だとか、そんなものよりずっとエキサイティングなイベントが鏡野市には毎日転がっているのだから。
けれども何人かは、確実に大量のAK-47突撃銃の存在を知ってしまった。それは例えば、善良な小市民だった。天気予報を見ていて、ふと催し物欄に気づいた彼は物珍しさからチケットを申し込んだ。
あるいは一人のヒーローだった。突撃銃の無料配布会などという狂ったイベントは、彼が倒したくてうずうずしている悪の匂いがぷんぷんと漂わせていた。彼も市広報局に連絡してチケットを予約した。
もちろん、ある悪党はチケットを申し込まなかった。わざわざ退屈な話を聞いて並ばずとも、倉庫を襲撃してAK-47を奪えば、ちょっとした軍隊を作るのも容易いことだ。鬼に金棒、弁慶に薙刀、そして悪党にはAK-47を。


さて、あっという間に水曜日になって木曜日になって、金曜日を飛び越えて土曜日がやってきた。
土曜日の、よく晴れた朝がやってきた。市民会館は多くの市民で、また多くの悪党で、多くのヒーローで賑わっていた。
261 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/09/20(木) 02:08:15.47 O
「くっくっく……はっはっは……はぁーっはっはっはぁー!」

築数十年の歴史を感じさせるボロボロの壁と、錆だらけで軋む階段。
とにかく家賃が安いという以外には何のセールスポイントの無い、とあるボロアパートの一室。
その中から、周りの迷惑など一切考慮していない大音量の馬鹿笑いが響き渡る。
笑い声の主の名は影山恭介、またの名をブラックロウ。
その名の通り、市民からは害鳥の如く嫌われているヒーロー……というのも今となっては昔の話だ。

「どうやら市民共もついに俺様の偉大さを理解したようだな! はっはっは!」

影山の右手には、一冊の地方新聞が無造作に握られていた。
普段は新聞などまともに読まない彼だが、今回ばかりは事情が違う。
なにせ、見事に銀行強盗を撃退してみせた自分を称える記事が、一面に載せられているのだから。
そう、つい先日銀行強盗を見事に捕らえたのをキッカケに、ブラックロウの評判は鰻登りだった。

「はーはっはっはっはっはっ!!! はーはっは……痛たたたたたぁ!!!?」

有頂天になってタガが外れているのか、再び大笑いを始める影山。
しかし、そこに冷や水を浴びせるかのように激痛が走る。
新聞紙を持っているのとは反対の腕、左腕はギプスによって固定されていた。
言うまでもなく、ゴル大佐の強靱な顎と牙に噛みつかれた……というか、下らない意地で無謀にもわざと噛ませてしまったのが原因である。
結論を言うと、影山の左腕の骨はゴル大佐に噛みつかれた時点で完全に折れていた。
その後もまともに戦えていたのは、アドレナリンによって痛覚が鈍っていたおかげだ。
そんな状態で作業班長と殴り合えていたのは、まさに奇跡と言えるだろう。

「ああクソッ……まさか折れてるとはなぁチクショウ、余計な金使っちまったぜ」

左腕を押さえながら、影山は銀行強盗事件のその後を回想する。
帰路の途中で段々と痛みが増していき、影山は近場の病院に駆け込んで治療を受けた。
当然本当のことは言えないので、家の階段から落ちて折ってしまった、という無理のある嘘を押し通して。
一応治療はしてくれたが、医者の反応を見るに半信半疑といったところだろうか。

「しかしマズいな、家賃の分の金は治療費に使っちまったし……そろそろ追い出されちまうんじゃねぇか?」

そう、この時点で影山は既に2ヶ月分の家賃を滞納していた。
今までは自分を讃える新聞を読むことで現実逃避をしていたが、左腕の痛みによって完全に現実に引き戻されてしまったようだ。
今まではそのうち払うと言ってなんとか誤魔化してきたが、それももう限界だろう。
262 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/09/20(木) 02:09:31.08 O
「流石に大家の婆さんをぶん殴ったり脅したりするのはなぁ……」

これが法外な利子を付ける闇金業者などから借りた借金だったなら、堂々と踏み倒していただろう。
しかし、安アパートの家賃を2ヶ月も待って貰った上に踏み倒すというのは、どうやら影山の主義に反するらしい。
元とはいえ、仮にも悪の組織の首領だった男にしては甘い考えである。
あるいは、こういう甘い男だからこそ、部下に裏切られてしまったのかもしれないが。

「ふーん……絵に映画の個展ねぇ、俺様には何がいいのやら分からねぇな……おっ?」

激痛と金欠によってかなり冷えてしまった頭で、再び新聞を読み返し始める。
何か金払いのいい仕事でも募集していないかと、広告欄や告知欄なども含めて細かく目を通していく。
全く興味を惹かれない広告を適当に読み流していると、ふと気になる記事が目に留まった。
絵画や映画の個展と同じく興味を惹かれない市長の公演、しかしその中に気になる一文を見つけた。

「……突撃銃の無料配布だぁ? おいおい正気かよ?」

正確にはAK-47突撃銃、市民が自衛のために持ち歩くには過ぎた武装だ。
記事には犯罪防止のためと書かれているが、むしろ犯罪を助長するとしか思えない。
まともな常識を持った人間ならば、そう考えるだろう。

「……あの時みたいに、影を封じられた時には役に立つかもな」

だが、影山恭介はそんな物は欠片程度しか持ち合わせていないらしい。
むしろノリノリで突撃銃を貰うつもりのようで、早速チケットを予約してしまった。
家賃のことは、とりあえず後で考えることにしたようだ。


そして待ちに待った土曜日の朝、市民会館には影山の姿があった。
いつもの赤シャツにトレードマークのサングラス、そして縦縞の黒スーツ。
ただし今日はギプスで固定された左腕を三角巾で釣り、縦縞黒スーツを肩にかけていた。
そのチンピラ丸出しの外見と雰囲気から、周囲の市民達は、喧嘩か抗争で負った怪我だと考えていることだろう。
まさかヒーローとして銀行強盗と戦って負った怪我だ、などとは夢にも思うまい。

「なんだ? もっと混んでるかと思ったら、意外と空いてるじゃねぇか」

正確には空いているのは影山の周囲数メートルだけであり、それ以外の場所は非常に混雑していた。
ただ単に、チンピラと関わり合いになりたくない周囲の市民達が、自然と距離を取っているだけである。


【作業班長戦の時のような能力封じ対策に、AK-47を求めて市民会館に現れた影山】
【チンピラ丸出しの外見と雰囲気のおかげで物凄く悪目立ちしています】
263 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/10/14(日) 22:20:21.78 0
「今更説明するまでも無いとは思うが」
目の前を漂う紫煙を振り払いつつ、秘書官は言葉を続ける。彼は生真面目な役人然とした痩せぎすの男だった。少ない髪をきっちり七三に撫でつけ、曲がり尖った鼻の上には四角い金縁の眼鏡をかけている。
分厚いレンズのせいで、正面から見ると彼の目玉は2倍にも3倍にも引き伸ばされて見える。しかもぎょろりと目をむきながら話す癖があるらしく、大きな目玉をさらに大きく見せていた。
「市長殿は我が市における最重要人物だ。君らごとき下級警官なんぞとは比べ物にならないような価値がある。君らは命を張ってでもお守りせねばならん。市長殿は我々市民の名誉であり希望で……」
「ああ結構。説明なさらずとも承知しておりますよ、秘書閣下。あなたが市長殿を称えるのはこれで3度目だ。ええと、確か警備体制の報告でしたか」
皮肉げな敬礼と共に、口元から安っぽい紫煙が立ち上る。苛立つ秘書官と対照的にくつろいだ風なのは、安物の細巻き煙草をこよなく愛し、くたびれたトレンチコートを古臭く着こなす男──ミスタ・ボギー警部その人だ。
演技じみた慇懃無礼な態度は、秘書官を苛立たせるには十分すぎた。粗悪な煙草葉が焼ける焦げ臭い匂いもそれに拍車をかけている。
(たかが現場勤務の下級警官め、この講演が終わった後も自分の首がつながっていると思うなよ!)
声には出さなかったものの、その意思は苦い表情として露呈した。
「ま、率直に言ってしまえば万全とは言い難い。ただでさえ面倒事の多い街で警官が足りないんだ。……ああ失礼、公式には何も起きていないんでしたね」
「私は警備状況はどうだと聞いているんだ!それ以外を答えるな!そもそも我が市の治安情勢は……」
ミスタ・ボギーが言い切る前に、秘書官は眼鏡のレンズいっぱいまでに目を見開きながらテーブルに拳を叩きつけた。もちろん「タフな男」を気取るミスタ・ボギーは動じない。
「これはとんだご無礼を。ええと、聴衆に私服警官が紛れ込んでいます。それから主力には機動隊の1個中隊を。うちの中でも断然に場数を踏んでる。紳士的とは言いがたいが胸を張って精鋭と呼べる連中だ」

「チケットを拝見……お名前は?……はい、どうぞ……」
その頃、紳士的ではない精鋭たる我らが中隊長殿はホール前の受付にいた。着慣れている活動服ではなく、堅苦しくネクタイを締めた制服姿だ。それの所為かどうか、彼の姿は普段より随分と小さくなっていた。
講演会のチケットを確認、姓名確認、名簿チェック、検印、半券をちぎる……どうやらこの酷く退屈でくだらない、そのくせ延々と続く単純作業はすっかり中隊長の心をやせ衰えさせてしまったようだ。
立派なお巡りさんを自負する中隊長及び部下一同とも、自分の仕事は文字通り悪と戦うことだと信じていた。市民生活を乱す悪党を殴り倒し、手錠を掛け檻に放り込むことが任務であり、また生き甲斐だったのだ。
そんな彼らにとって受付勤務など拷問に近い。1時間もすればどんな鉄人であろうとも勤労意欲が薄れてくるというものだ。周囲の機動隊員たちも「退屈で死にそう」という顔を晒して所在なげに彷徨っている。
「チケットを拝見……お名前は?……はい、どうぞ……」
時々溜息を付きながら、客の顔も見ないで名簿とチケットだけをチェックしていく。顔を見る必要などないのだ。整理番号もいらない。途中からは名簿への書き込みすらやめてしまった。
顔を見なくてもわかる。誰も彼もが悪人面をした悪人に決まっている。どうせ銃器目当ての悪党ばかりに違いないのだから、そのまま全員検挙してしまえばいいのに。機動隊員は揃ってそんな事を考えていた。
あるまじきことではあるが、早く連中の誰かが面倒を起こさないかと少しだけ願いつつ。
「チケットを拝見……お名前は?……はい、どうぞ……」
だから普段なら職務質問も省略して手錠をかけてしまうような、いかにもチンピラ然とした男、それも密かにちょっとした因縁がある男が目の前を通過したとしても、気づきはしないだろう。
264 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/10/14(日) 22:21:19.45 0
さて、土曜日には市長殿が極めて注目に値する講演を予定していたにも関わらず、その他の展示物に興味を抱くものもいる。正義と悪の戦いに慣れ親しんだ鏡野市民のうち"極めて物好きな連中"と分類される人々である。
市長講演の受付が始まった今もなお、『エミリー・ダウランド展』を訪れている客は決して少なくない。ダウラント女史は決して有能ではないし、その作品群も名作とは言い難いが、それなりにファンは多い。
展示室にはいかにもZ級映画といったけばけばしい配色のポスターが壁じゅうに飾り付けられ、実際に撮影で使われたというチープな模型や小道具の類がまるで一級の美術品のようにガラスケースに収められていた。
また隣にはささやかな上映室が設けられ、ダウラント女史の代表作『ゲシュタポ・ゾンビの逆襲』の上映が行われていた。1976年に公開されるや否や、"史上最低の映画"の名誉を欲しいままにした名作である。
筋書きは説明するまでもなくタイトルそのまま、ナチス・ドイツの親衛隊員らがゾンビとして蘇って人々を殺して回るだけのスプラッタ映画である。撮影は大作映画のセットの片隅を間借りして行われたという。
『ジークハイル!!』
スクリーンの中で総統が絶叫する度、クリスティアン・フォン・ベルグマン氏は背筋を伸ばし右手を伸ばしたくなるのを堪えていた。周囲にはちらほらと観客がいるのだ。まだ注目を浴びる訳にはいかない。
ヴェアヴォルフの作戦は市長の講演とともに開始されるが、今はまだ悪の大幹部たるゴル大佐が登場するには早すぎる。部下が動き始めるまでは、このいかにも人畜無害な老人の仮面を被ったままでいなければならない。
映画は中盤、総統がゾンビ兵団に出撃を命じるシーン。この辺りはほとんど当時のニュース映画の切り貼りで作成されていた。切り刻まれ継ぎ接ぎされてはいるが、遠くなった思い出との再開は嬉しいものだった。
一度懐中時計を確認すると、ベルグマン氏は再びスクリーンに映し出される出来損ないの思い出に関心を注いだ。

ホールにはすでに無数の聴衆が詰めていた。いかにも無頼漢といった風な強面にやたら素肌を晒したパンク・ファッションの連中がいるかと思えば、一見して無害な小市民といった連中も多い。
しかしいずれも共通しているのは、誰も彼も突き刺さらんばかりの殺気を放っていることだ。彼らは周囲に座っているものが、恐らくは敵であることを知っている。散弾銃で武装した警官隊の視線がそれを一層と煽る。
彼らが共に備えた淀んだ瞳は、いずれもステージ上に積み上げられた木箱に注がれていた。簡体字の焼印が入ったそれは、彼らが密かに抱く反社会的な意志を実現する為の力そのものである。
「ご来場の皆様にご案内いたします。まもなく1階ホールにて予定されている市長講演『平和な街づくりと徹底抗戦 あたらしい民間防衛』の入場を締切ります」
殺気立った雰囲気に似つかわしくないチャイムの後、若い女性の声で場内アナウンスがスピーカーから流れる。控え室では市長が最後の原稿確認を行なっている。まもなく、講演が始まる。

【すっかり遅くなってごめんなさい】
【市民会館にはボギー警部と中隊長以下機動隊員一同が警備のために送り込まれています。中隊長は受付を任されていますが何やら元気がないです】
【講演会場のホールには突撃銃欲しさに集まった荒くれ者が山ほど詰め込まれている上、私服警官だとかヴェアヴォルフの戦闘員も紛れ込んでいます】
【一方、ゴル大佐は展示室で映画を見ながら会場の部下が活動を始めるまで待機しています】
265 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/10/22(月) 03:01:24.70 O
最初こそ全身から溢れ出すチンピラオーラ……もとい威圧感によって、悠々と歩き回れるだけのスペースを確保できていた影山。
しかし、さすがに行列となると話は別だった。
たとえどんなに近寄り難い人間であったとしても、行列となれば周囲の人々も強制的に近寄らざるを得ない。

「……ったく、空いてるのは途中までかよ……何だよこの行列はよぉチクショウ」

受付の行列に並びながら、影山はグチグチと不機嫌そうに独り言を呟く。
そもそも彼はこの手の人混みや行列が嫌いだった、普段ならばラーメン屋の行列にすら並ぼうとしない。
特に理由らしい理由は無いが、要するに堪え性というものが無いのだろう。

「……ああチクショウ、さっさと進まねぇもんかなぁ」

目の前に並んでいる市民の肩越しに前方の様子を眺め、あと何人で自分の番が来るのかを数える。
行列は嫌いだが、横入りなどはせずに、律儀に並ぶ程度の常識は一応持ち合わせているらしい。
不真面目なのか真面目なのか、いまいちよく分からない男である。

「しかし……みんなそんなに銃が欲しいってのかねぇ? なぁ兄ちゃん、そう思うだろ?」

「はっ!? ひゃい!? そ、そそうですねぇいやまったく! はははははは!」

自分の目の前に並んでいる人に、馴れ馴れしく話しかける。
彼としては暇をつぶすための単なる世間話のつもりだったのだが、かなり怖がらせてしまったようだ。
この外見と喧嘩腰のような口調では、当然というば当然だが。

「まぁかく言う俺様も、その銃が欲しくて来たんだがな! はっはっはっはっは!」

目の前の市民の肩を、無事な右手でバンバン叩きながら大笑い。
肩を叩かれる市民の方も、引きつった顔で愛想笑いを返す。
この時点で、彼は銃に釣られて下らないイベントに参加したことを後悔し始めていた。
それから数分間、影山と市民の楽しい雑談……そして市民にとっては地獄の雑談は続くこととなる。

266 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/10/22(月) 03:06:29.61 O
「ほらよ、チケットだ」

そして数分後、やっと自分の番が来た影山は、受付の人間に投げやりにチケットを渡す。
ちなみに雑談相手だった市民は、受付を終えると逃げるようにホールへ走り去ってしまった。

「名前? 影山恭介……ん?」

次いで自分の名前を答えた所で……ふと気付く。
生気の感じられない態度と制服のせいで一瞬分からなかったが、この受付係の顔には見覚えがあるような気がする。
なんだか物凄く見覚えがある気がする、それも悪い意味で。

「あれ、とっつぁ……とっとっと……トイレ行っとこうかな~っと」

その正体に思い当たった瞬間、いつもの癖でつい「とっつぁん」と言いかけて慌てて誤魔化す。
いや、誤魔化しきれているのかは微妙だが。
しかしどうやら、単純作業でぼんやりしている中隊長殿には、運良く気づかれなかったようだ。

(いやぁ焦ったぜ、まさかとっつぁんが受付係なんざやってやがるとはな……)

思わぬピンチを切り抜けたことに安堵し、額に浮かんだ冷や汗をシャツの袖で拭いながら足早にホールへと向かう。

(しかし、とっつぁん……まさか俺様のせいで降格されちまったのか? だとしたら、流石にちょっと責任を感じるぜ……3%くらい)

何やらとんでもない勘違いをしながら、影山は席に着く。
冗談半分の反省ではあるが、なにか喧嘩相手がいなくなるような、妙な寂しさを感じるのも事実だった。
勿論、実際には中隊長殿は降格などされていないのだが。

(それにしても……どいつもこいつも随分とまぁ、殺気くらい隠しやがれってんだ)

ホール内に満ち満ちた垂れ流しの殺気に苦笑しながら、影山は周囲を見回す。
そこには、影山に勝るとも劣らぬ悪人面が多数揃っていた。
彼らの目線の先にあるのは、やはり本日の目玉であるアレ……銃の収まった箱だ。
中には普通の市民と思しき、人畜無害といった雰囲気の者も混ざっているが、中身まで外見通りとは限らないだろう。
あるいは、いかにもな外見をした連中よりも危険かもしれない。

「……どうやら、市長の下らねぇ講演は最後まで聞かずに済みそうだな」

周囲の殺気につられるように凶悪な笑みを浮かべながら、誰にも聞こえないような小声で呟く。
正直、影山はもう銃のことなど、どうでもよくなっていた。
そんなことよりも、これから始まる戦いが楽しみで仕方がない。
結局のところ、彼の行動原理の根本はいつの時代も常に一つなのだろう。
それは正義感でも悪意でもなく、獣のような闘争本能だけだ。
ヒーローとして持て囃されるか、悪党として恐れられるかの違いはあるが。
そして、まもなく講演が始まることを告げるアナウンスが流れた。



【受付係の中隊長殿に軽く驚きつつホール内へ】
【オラワクワクすっぞ! 状態で講演開始、というか騒ぎが起きるのを待っています】
267 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/11/01(木) 19:30:43.01 0
そしてステージ上に男が現れた。市長殿ではない。生真面目な顔をして、大きな目玉をぎょろぎょろさせている秘書官殿だ。聴衆は申し訳程度のまばらな拍手でそれを迎える。
彼には本日の司会者として講演前の"手短な挨拶及び案内"なる重要な任務が市長殿直々に与えられていた。
「えー……本日はお忙しい中、皆様ご出席していただいて有難うございます。犯罪の凶悪化が叫ばれる昨今、やはり市民の皆様に於かれましては民間防衛への関心が高まっております。
もちろん我が鏡野市においては、それら凶悪犯罪とは無縁であることは敢えて言うまでもありませんが、しかし、それでも備えあれば憂いなしと昔から言いますからして……」
確かに彼が用意した挨拶及び案内は市長講演に比べれば十分に手短だった。しかしほとんどの聴衆は講演そのものに興味を持たないのだから、挨拶及び案内については言うに及ばず。

挨拶が2度目の市長賞賛の箇所に差し掛かる頃、唐突に一人の男が立ち上がった。特徴の無い顔をして、特徴の無い服を着た、いかにも小市民と言った風な男に注目が集まる。
バサッと何かを脱ぎ捨てる音を立て、その途端に小市民は赤地に細い黒のストライプが施されたコスチュームに貘を模した覆面を身につけた怪人へと変貌した。そう、いかにも悪党といった風な男に。
「クソみてえな出し物は終わりだ!ここは悪夢の使者ナイトメアマン様が乗っ取った!!」
小市民改めナイトメアマンが思い描いていたシナリオはこうだ──『突撃銃を手に入れて、ついでに人質を取って身代金を手に入れてボロ儲け』──極めてシンプルな悪人らしい夢。
ところがナイトメアマンから2、3人ほど離れた場所に座っていた5人組が、その夢を打ち砕くべく唐突に立ち上がった。その中の一人、スポーツマン然とした凛々しい短髪の若者が声を張り上げる。
「待てぇい!お前の悪事は全てお見通しだ!爆炎戦隊ファイアレンジャー参上!」
悪人が現れ、ヒーローが現れた。それそのものは鏡野市ではありふれた光景だが、今回はここで終わらない。悪人が現れ、ヒーローが現れ……そして、またも悪人が現れ、ヒーローが現れて。

「ハーハッハッ!何を言うかファイアレンジャー!全て我ら悪の宇宙海賊スモーカーズのものだ!」
「時空保安官グリムガンとは俺のことよ!やはり集まったな、悪党どもめ!」
「電撃団の同志諸君、今こそ立つ時だ!ゲバルトだ!!」
「へへへっ、貴様らは我ら闇封魔一族の野望の為に犠牲となれぃ!!」
「メガライダーここに見参!悪事は一つも見逃さんぞ!!」
「怪盗アペール4世さまの手にかかりゃどんな獲物も一発よ」

ファイアレンジャーに続き、聴衆のほぼ全員が同時によどみない名乗りを上げた。十人十色選り取り見取りの変身シーンが同時にそこらじゅうで繰り広げられ、ホールは閃光弾でも落とされたかのように眩く輝いた。
個人であったり団体であったり、子供に人気のヒーローだったり名前も知らない悪党だったり、とにかくありとあらゆる悪党やヒーローが所狭しと登場したのである。
「全員そのまま動くな!抵抗するものは検挙する!!」
充満した悪と正義を一層とかき回すべく、入り口の扉を破り飛び込んできたのはジュラルミンの盾を前に立て散弾銃やら短機関銃で武装した機動隊員たち。先頭に立つは生き生きと指揮を執る中隊長殿。
まだ座ったままなのは正真正銘の物好きな小市民か、立ち上がるタイミングを逃した私服警官達だけだ。
268 : ◆X9hUpsnDGY [sage] : 2012/11/01(木) 19:34:44.32 0
さて、子供が見れば歓声を上げるに違いない喧騒を眼下に捉えつつ、音も立てず密かに天井を這うものがいる。ヴェアヴォルフが送り込んだ怪人ガスヤモリである。
吸盤の生じた大きな指が伸びる両手両足、付き出した大きな口に平べったい頭、何より秘書官殿よりもギョロギョロと動きまわる瞳孔の細い大きな灰色の目玉。いずれも巨大なヤモリのそれだ。
かの老将校が若き日を思い出す為に定めた黒い制服のみが、唯一ガスヤモリの見てくれに人間らしさを与え、また彼がかつては人間だったであろうことを彷彿とさせる。
腰にはゴル大佐が定めた厳格な規定に従ってルガー拳銃のホルスターと装飾入短剣が吊るされているものの、明らかに彼の手では扱えそうにない。そう、彼の武器はそんなものではないのだ。
ギョロギョロする目玉は一度、ステージ上の木箱をまっすぐ捉えた。それから思い切り息を吸い込むと、その腹部が丸く大きく膨らんだ。それはヤモリの頭が乗った風船といった様。
制服の銀ボタンが一つ弾け、喧騒の中で拳銃を片手に投降を叫んでいた私服警官の頭に当たった。警官は何かと思って頭上を見上げ、天井に張り付いた軍服姿の風船を網膜に焼き付けた。
しかし警官が指をさして悲鳴を上げるよりも早く、風船に乗ったヤモリの頭から鮮やかな緑色をした煙が吐き出され、聴衆達に降り注いだのである。風船だったものは煙の向こうに見えなくなってしまった。
「カーッカッカ!ヴェアヴォルフ万歳!我は怪人ガスヤモリなり!」
変身ヒーローとか怪人とかいう連中はまだ幸運だったろう。その強靭な肉体は謎の神経ガスに対しても一定の耐性を発揮した。それに中隊長の「対ガス戦闘!」という号令を聞いた中隊一同も間一髪難を逃れた。
残る半数以上の正義と悪、それから哀れな小市民は緑色のカオスに放り込まれた。ある私服警官は奇声を上げながら拳銃を乱射し、ある制服警官は激しく嘔吐しながら壁に頭を打ち付けている。
ある宇宙刑事は唐突に装甲服を脱ぎ捨てて陽気に歌い始めたし、ある悪のサイボーグは呪文を唱えつつ自分の機械部品を分解している。敵か味方か分からない謎の戦士は誰彼構わず四方八方の連中を殴り始めた。
誰もが予期した正義と悪の衝突は、今や色も感情も全てをごちゃ混ぜにした斑模様の混乱に摩り替わってしまった。

【しびれを切らした悪の怪人が変身、それに合わせてヒーローも登場!】
【ところが他のヒーローだの悪党だのも次々と登場して会場はヒーローと悪党詰め合わせセット状態です。ついでに中隊長殿と機動隊もいきいきと突入してきてすっかり混乱状態に】
【さらにヴェアヴォルフの怪人ガスヤモリが天井に張り付きながら謎の毒ガスをもくもくとまき散らしています。吸ったらひどい幻覚を見たり体調を崩したりするけれど死には至らないような都合のいいガスです】
【ガスヤモリはそのままステージの方に向かっています】
269 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/11/13(火) 20:16:32.14 O
講演が始まって数分、影山の我慢は既に限界に達していた。
腕組みをしながら椅子に座り、眉間には限界まで皺が寄り。
両足はひっきりなしに貧乏揺すりを続け、右手の指はトントンとリズミカルに左腕のギプスを叩いている。
そもそも市長の顔と名前すらロクに覚えていない男に、その講演に興味を持てと言うのも無理な話だろう。
正確には今はまだ秘書官による講演前の挨拶と案内なのだが、影山にとってはどちらも同じようなものだった。
どうでもいい連中のどうでもいい話、その程度の認識しか持ち合わせていない。
それでも居眠りもせずに黙って話を聞いているのは、これから起こるであろう騒ぎに乗り遅れないためだろう。

「ったく、まだ続くのかよ? こうなったら俺様直々に……おおっ?」

もういっそのこと、自分から騒ぎを起こしてしまおうか。
そんなヒーローらしからぬ考えが影山の脳裏に過ぎった瞬間、ついに事件は起きた。

>「クソみてえな出し物は終わりだ!ここは悪夢の使者ナイトメアマン様が乗っ取った!!」

聴衆の中の一人が突然立ち上がり、その姿を派手なコスチュームに身を包んだ悪党へと変える。
悪夢の使者ナイトメアマン、影山には聞き覚えのない名前だった。
おそらく二流三流の小物なのだろうが、それでも待ちに待った悪党が現れたのには違いない。
待ちに待った瞬間が来たことを喜びながら、影山も座ったまま静かに変身を始める。
影山の足元に落ちた影が体を這い上がり、足元から指先までを影のスーツで覆い隠す。
頭部は烏のクチバシのようなデザインのヘルメットで完全に覆い隠し、背中には黒い緞帳のような大きなマントを形成。
左腕を固定していたギプスは、邪魔なので影の刃でバラバラに切り刻んでしまったらしい。
影のスーツが左腕をキツく締め付けることで、ギプスの代わりを果たしているようだ。

「このブラックロウ様が来たからにはテメェの悪事も……」

そうして変身を終えると影山は椅子から立ち上がり、高らかと名乗りをあげようとする。
しかし、その声は別のヒーローによって遮られてしまった。

>「待てぇい!お前の悪事は全てお見通しだ!爆炎戦隊ファイアレンジャー参上!」

「このブラックロウ様が……」

それでも尚、名乗り続けようとするが、そこに更に他のヒーローの邪魔が入る。
否、より正確に言うならば……他のヒーローとヴィラン“たち”によって。

>「ハーハッハッ!何を言うかファイアレンジャー!全て我ら悪の宇宙海賊スモーカーズのものだ!」
>「時空保安官グリムガンとは俺のことよ!やはり集まったな、悪党どもめ!」
>「電撃団の同志諸君、今こそ立つ時だ!ゲバルトだ!!」
>「へへへっ、貴様らは我ら闇封魔一族の野望の為に犠牲となれぃ!!」
>「メガライダーここに見参!悪事は一つも見逃さんぞ!!」
>「怪盗アペール4世さまの手にかかりゃどんな獲物も一発よ」

「ブラックロウ様がだな……」

誰かが変身して名乗りを挙げれば、また別の誰かが変身して名乗りを挙げる。
この街にはこんなにもヒーローとヴィランがいたのかと驚くほどの人数だった。
影山の名乗りが入る余地など、どこにもない。

>「全員そのまま動くな!抵抗するものは検挙する!!」

そこに更に中隊長殿率いる機動隊まで現れ、ホール内はもはや大騒ぎである。
そんな中で完全に出鼻を挫かれてしまった影山は、暫し呆然としていたが……。
270 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/11/13(火) 20:19:07.58 O
「……この俺様を差し置いていい度胸だテメェら全員ぶちのめしてやらぁ!!!」

ついにヒーローらしい名乗りなど忘れ、怒りに任せて叫びながら椅子を蹴り飛ばした。
ホール内はまさに一触即発、このまま正義と悪の全面対決かという剣呑な空気が漂う。
しかし、この場を更なる混乱に陥れようとする影があった。
天井を這うヴェアヴォルフの怪人、ガスヤモリである。

「……あぁ? ガス?」

嫌でも耳に響いてくる、憎たらしい中隊長殿の号令。皮肉にも宿敵の怒声が影山の身を救う事となった。
何事かと周囲を見回し、最後に上を見上げた影山の目に飛び込んできた光景。
それは上空から降り注ぐ、見るからに毒々しい緑色のガスだった。

「おおぅ!? 何だこりゃオイ!?」

とっさに両肩から巨大な影のファンを生やし、それを扇風機のように高速回転させることでガスを遠ざける。
おかげで影山はガスから身を守ることはできたが、他のヒーローやヴィラン、そして市民たちはそうはいかなかったようだ。
中にはガスの影響を受けていない者たちもいるようだが、少なくとも半数はガスにやられてしまっている。周囲では既にそれぞれ戦闘が始まっており、もはや乱戦状態だ。
もはや悠長に敵を選ぶ状況ではない、ただ手近にいる者を殴ればいい。
ファンを回しながらでは少々戦い難いが、そうも言ってはいられないだろう。

「このカンフーマスター様の中国4000年の秘技を……」
「知るか!」
影山の隣に座っていたらしい、いかにも中華な服を着た男の腹に鋭い蹴りを叩き込み。
「機械の帝王マシニスト様に刃向かってただで済むと……」
「うるせぇ!」
たまたま視界に入ったゴツいアーマーを装着した男は、そのアーマーもろとも巨大な影の拳でぶっ飛ばし。
「おい待て、私はヒーローのホワイトイーグル……」
「あっ、悪ぃ!」
これまた視界に入った白いコスチュームの男には、渾身のボディブローを叩き込み気絶させる。
……うっかり勢いでやってしまったが、どうやらヒーローだったらしい。
悪いことをしてしまったが、まぁやってしまった物は仕方がない。
あっさりとそう思い直して影山は戦闘に戻った、後で謝れば許してくれるだろう。

「オラオラオラオラァ! もっと骨のある野郎はいねぇのか!? あぁ!?」

とにかく鬱憤を晴らすように手当たり次第に殴り、蹴り、蹴散らしていく。
強いといえば強いが、その姿はヒーローと呼ぶには些か野蛮だった。

「はぁ……はぁ……あぁ? 何だありゃあ?」

とりあえず手近な相手をあらかた片付けた所で、やっと影山にも周囲を見回す余裕が生まれた。
そこでふと、ガスの向こう側に怪しい影を見つける。
戦闘にも加わらずに、コソコソと天井を這い回る怪しい影……ガスヤモリを。

「あの糞野郎! テメェだけ楽してお宝かっ浚ってく気かチクショウ!」

人影の向かう先に何があるのかを思い出し、同時に自身の当初の目的を思い出す。
そして咄嗟に近くで気絶していたヴィラン……Mr.メタリックという名の、金属の肉体を持った男を影の触手で絡め取る。
そいつを頭上で投げ縄のように振り回し、十分に遠心力を付けた所で狙いを定め……。

「行ってこぉい!!!」

ガスヤモリ目掛けて猛スピードで投げ放った。
それと同時に自身も走り出し、ガスヤモリの元へと全速力で向かう。
どうやらガスヤモリが天井から落ちてきた所を、巨大化させた影の拳で殴り飛ばすつもりのようだ。
271 : 影山 恭介 ◆.EiKabP/Fg [sage] : 2012/11/13(火) 20:20:16.87 O
【長らくお待たせして本当にすみませんでした】
【実際これでガードできるのかは分かりませんが、毒ガスは影の扇風機でガード】
【とりあえずガスで混乱した相手や、手近な正気のヴィラン(とヒーロー)を手当たり次第に攻撃】
【自分の名乗りを他のヒーローに邪魔されてフラストレーションが溜まっていたようです】
【途中で天井を這うガスヤモリを発見、丁度いい所にいた金属の体のヴィランを投げつけました】
【そのまま落ちてきたら巨大影パンチを食らわせるつもりのようです】

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