もう22時か、
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ヒーローTRPG 4

1 : ◆bTpJe3giiIE2 :2010/12/09(木) 23:48:08 0
◆前回のあらすじ

・テロリスト集団に参加しメタルボーガーを強奪する自称ヴィランの真性童貞(無職、22歳)
・ストーリーは新たな展開、学園編へ
・汎用戦士メタルボーガーは苦杯を舐めるも勝利

の三本でお送り致しました


2 : ◆bTpJe3giiIE2 :2010/12/09(木) 23:49:50 0
前スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1284098638/-100

前々スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1269765186/

前前々スレ
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1261758217/-100

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/internet/7909/

千夜万夜まとめ
ttp://verger.sakura.ne.jp/top/genkousure/hiiro/sentaku.htm

【テンプレ】

名前:
職業:
勢力:
性別:
年齢:
身長:
体重:
性格:
外見:
外見2:
特殊能力:
備考:

3 :名無しになりきれ:2010/12/10(金) 00:16:26 0
231 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/12/03(金) 01:23:45 0

職員室から担当の教室までは、どんなに多く見積もっても30歩とかからない。
俺の教育係に任命された壮年の教諭はところどころで立ち止まり俺の歩幅に調節しながら当面の大雑把な指示をくれた。

「疎開っていうんですかねえ。ほら、この街って今とんでもなく治安が悪いでしょう?
 そのせいで生徒の大半は休学届けを出して街から出ています。君に担当して貰うのは、各クラスから残った生徒を学年別に集合させた
 暫定の寄せ集め学級ということになりますね。まあ授業の進度はどこも一緒ですし、ざっくりと復習程度に教えてあげてください」

それにしても時期が悪い。教諭は言いながら肩を竦め、俺に指導要綱を手渡した。
なるほど校内は閑散としていて、まだ休み時間だというのにざわめきの一つも聞こえてこない。
さっきお邪魔した職員室も心なしか人が減っていたし、もしかしたら教員の中にも疎開した連中がいるのかもしれない。

「そうでなくたって昨今の異能者急増は生徒内にも波及してましてねえ。やれ喧嘩で炎を出しただの陸で溺れただのって。
 一応校内異能禁止の校則を臨時に作って、目立つ異能者は軒並み停学にして、どうにか校内は平和を保ってるんですが」

生徒に敵意を持たれないよう十分に気を付けてくださいねと教諭は言葉を締める。
俺は胸に拳を置いて、安請け合いした。

「任せて下さい。例え短期であってもこの僕の生徒になる以上、きっと、必ず皆を導いてみせます!」

教諭は瞳孔を僅かに開いて、俺の肩に手を乗せた。

「教育実習生に中途半端に導かれても迷うだけだと思うんですが」

「……ですよねえ」

乾いた笑いが静かな廊下に木霊した。
廊下に置いてある『高学歴は身だしなみから』と印字された鏡(なんつースローガンだ)で今一度俺の姿を映し、チェックする。
なんたって高学歴は身だしなみからだ。鏡の中の俺はピシッと糊の利いたスーツ(就活用に買って一度も着なかったもの)にネクタイ、
長々と伸びっさらしになってたみっともない揉み上げをカットしカミソリ負けにローションを施してある。革靴は顔が映り込むぐらいピカピカだ。

「それじゃ、私が案内するのはここまでですので。後から監修の者を寄越しまずが、なにぶん人手が足りないんでなるべく自分で頑張ってね」

くたびれた教諭はそう言い残すと、そそくさと職員室にしけ込んでいった。
「其辺先生もこんな時期に紹介とは間の悪い」とか聞こえたけど、別に俺の悪口じゃないので聞き流した。

咳払いを一つ。この扉の向こうには、今日から二週間の間俺の生徒になる少年少女達が待っているんだ。背筋から汗が引いていく。
嘗められないように嘗められないように嘗められないようにキョドらず焦らずゆっくりとおこぞかに、俺は扉に手をかけた。
ガラリと引き戸を開けると、制服の色もまちまちな生徒諸君が一斉に首をまわし、40対の眼が穴の空きそうなほど俺を見つめた。

「皆さんこんにちわ。今日からしばらくのあいだみんなの副担任となる真性道程です。社会科を担当するので、楽しくやりましょう」

黒板に名前を書いた瞬間、男子の一部から失笑が、女子高生の一部から冷笑がそれぞれ漏れた。
掴みはオーケーなのかエヌジーなのか、親を恨んだらいいのか感謝したらいいのか分からないまま、昼休み前の4限が始まる。


――――【ヒーローTRPGU 第二話『DT真性 思春期大作戦!!』】

4 :真性道程 ◇8SWM8niap6 :2010/12/10(金) 00:17:09 0
とりあえず回想!
焼肉屋にて次回予告を済ませた俺たち革命結社フラタニティは、再び網の上で肉を育てる作業に入っていた!

「教室を占領する、か。具体的にどうするつもりなんだ道程君」

其辺の問いに、俺は答えを用意してある。

「ともあれ内部構造の把握と手引きに、内部の人間はもっと必要だ。
 学生枠は夜之咲ちゃんで決まりだし、なら俺は――教師として潜入しようと思う」

正確には教育実習生。
短期の教員として学校に入り、油断を突いて一気呵成に制圧するのだ。
信頼する教師がいきなりテロリストに化ける、なんてなんとも燃えるシチュエーションじゃあないか。

「丁度俺の年齢的に、大学生が教育実習として入っても不自然ないしな」

「そういえば真性殿はおいくつなのです?大学を中退されたと聞き申したが」

「ん?今年で22だけど?大学行ってりゃ四回生になってる歳だな」

畳に寝ていた山吹ちゃんが飛び起きた。

「ええーっ、そんな歳行ってるんですかっ!? てっきりまだ十代ぐらいだと!」

「そうだね、私も初めて見たときは真性君も未成年だと思っていたよ」

「自分と同年代だと思っておりましたぞ」

そうなのだ。俺はやたらめったら童顔らしくて、成人しても免許取るまで酒もろくに買えなかった。
大学入りたての頃に大学近くの学生御用達のゲーセンで中学生と間違われて補導された伝説を持つ男なのである。
幸い大学入ってから背は伸びたので、あとは揉み上げを伸ばして若く見られないようにいろいろ工夫していたんだけどな。

「荒木師匠に従事することで波紋呼吸法を修得したのだよフゥーハハァ! 羨ましいだろ、衰え知らずのこの肌!」

「遠まわしに童貞臭いと言われているんじゃないか、道程君。経てきた人生経験が少ないと貫禄が顔に表れなくてやたら若く見られるらしいぞ。
 そのまま歳をとると刻まれた皺と童顔がアンバランスで非常に気持ち悪い」

「やめろ!俺の将来への不安その533項を読み上げるんじゃあないっ!」

「三桁!? なんでそんなに不安が増えるまで放っといたんですかぁーっ!」

はあ。そこらへんの普通人の数倍は濃密な人生をここ数ヶ月で送ってきたつもりなんだけどな。
まだまだ貫禄が出てくるまで遠いか。渋いおっさんさんになるのが俺ちゃんの超目標なのだ。

「とにかく!表向きは俺は単位取得中の大学生で、教育実習先としてこの街を紹介されたことにしよう!
 えーっと、実習って自分から営業かけに行けばいいわけ?どこに電話したらいいんだろ」

「通常は、大学と高校が提携して学生の実習を募集するな。修得単位や学業成績も兼ね合って紹介先を決めるんだ。
 籍のある学生ならともかく、その辺の無職が簡単に入れるわけがなかろう」

マジで。いきなり出端を挫かれた気分だぜ。
籍云々もなにも俺はもう2年も前に中退しちまってるし、そもそも教育学部じゃなくて社会学部だし。

「……とまあ、通常はここで手詰まりだ。だが教員のコネというか、内部で情報を弄って教育実習生一人分の枠を捏造することはできる。
 丁度今は集団疎開で人手が足りないだろうからな。建前はあっても学校としては猫の手も借りたい状態だ」

「おおーっ!つまり知り合いに先生がいれば良いってわけだな!流石其辺ちゃん!……で、いるの?先生」

そう、この提案には重大な前提条件がある。知り合いに教員がいなければそもそも成り立たないという点だ。
問われた其辺は、何も言わず静かに黙って、自分を指さした。

5 :真性道程 ◇8SWM8niap6 :2010/12/10(金) 00:18:19 0
「……マジで?」

「マジだ。言ってなかったか?当方はこの街の高校で学年主任を任じられている。
 ……まさか当方が職もなしに革命だのなんだの言っていたとでも思っていたわけじゃあるまい」

思ってました。

と、いい感じに議論も温まってきたところへ学生服姿の少年が一人現れた。
少年はまるで合コンで空気を読まずに乱入してきた女の子サイドの男友達のような、
あるいはポケモンで言うところのこれからすわセキエイ高原というところで勝負を仕掛けてきたライバルのような、そんな感じで。

>「やぁこんばんは、楽しそうだねー。僕も混ぜてよ」

的な発言をした。ちゃっかり靴脱いでやんの。部外者に喰わせる肉はねえ、と言い放ってやるつもりだったけど呂律が回らなかった。
みんな黙ってる。きゃんきゃんうるさい子犬のような山吹ちゃんも、結構人見知りするタイプらしく牛タンを口に詰めて沈黙していた。

「えーっと、俺は君を知ってるぜ。確か展覧会場で無双っぽいことしてた奴だろ」

あのときはコック服を着てたはずだけど。まあいろいろあったし着替えててもおかしくない。
常識的に考えて学生服でこんな時間に焼肉屋とか着てたら補導されるってのはまあ、ヴィランだし。

>「そう、奇しくも今夜同じ舞台で悪事を働いたヴィラン仲間って事でさ。ねぇ、いいだろ?」

「えー……」

殆ど初対面だし空気壊れるじゃん。なんでこいつ呼ばれてない同窓会みたいなアウェイでここまで図々しく振る舞えるんだ。
俺が高校生だった頃を思い出すぜ。居たなあ、何にでも首突っ込んではウザがられてる奴。ヤバいことに突っ込んで死んだけど。

>「まぁ……どうしても駄目だって言うなら、別にいいけどさ。大人しく引き下がるよ。
  傷心の僕が交番に駆け込んで犯罪者仲間にぼっちにされたと泣きついたり、帰り道で身投げをしたり、
  通り魔殺人をしちゃうかもしれないけど、君達には関係ないから気にしないでいいよ」

「肉は何が良い?どれもいい感じに育ってるけどオススメはハラミだな。サンチュもあるから好きなだけ巻けよ!」

なんつーこと言い出すんだこいつ。
悪の組織にハブられたからって警察に泣きつくやつがあるか。

>「……なーんて、冗談だよ。君達は心優しいからきっと許してくれるよね。まぁ、それが納得出来ないなら」
>「お近付きのしるしだよ。献上品を受け取って新顔を受け入れる。どうだい?これなら悪役っぽいだろ?」

学生服が持ち込んだのは赤々とした実に新鮮そうな肉の山だった。
そろそろ財布的にヤバいからお勘定しなきゃだけど6人じゃまだまだ食べたりねえってときに、それは凄く有効打だった。

>「と言う訳で、お邪魔しまーす。ささ、遠慮せずに食べてよ。何ならここの勘定全部、僕が受け持ってもいい」

「上座を開けろ! 学生様1名のお通りだっ!!」

ちゃっかり上座を占有していた其辺を蹴り出し、学生様にご着席を促す。
そそくさとテーブルの上を片付けて即席の特等席をでっち上げた。ヒャッハー、今夜は寝られねえぜ!!

………
……


6 :真性道程 ◇8SWM8niap6 :2010/12/10(金) 00:19:06 0
 ̄ ̄ ̄ ̄
学生服の少年は和明日灯と名乗った。わあすとう?わあすあかし?適当に付けられた漫画のキャラみたいな名前だ。
ともあれ俺達は和明日くんの持ってきた肉を焼き、美味しくいただいたのであった。

>「美味しいかい?」

「んー、ちょっと筋ばってるっていうか繊維質っつーの?だけど美味いぜ。タダほど美味いもんはない」

そういえば和明日くんはさっきから食ってないな。ほんとに奢る為だけに来たみたいでちょっと怖い。
まあ肉自体は普通のものだし、山吹ちゃんのサイコメトリーでも特に毒が入ってるとかじゃないからまったく問題ないんだけどね!

「其辺さん、食べないんですかっ?」

「ああ。当方は遠慮しておくよ」

山吹ちゃんがようやく牛タンを飲み込んで、新しい肉をやっつけにかかる。
その反面で其辺は和明日くんがやってきてからというもの、肉を口にせず焼酎ばかりちびちびやってる。上座を追い出したからって怒ってんのか?

>「あぁ、そうそう。全く関係ないんだけどさ。うん、ホントにまーったく関係ないんだけどね?
  今から暫く、店員さんを呼んでも多分誰も来ないと思うから。え?何でかって?そりゃあ、ねぇ。
  ……聞きたい?聞かなきゃ良かったってのは無しだよ?」

「……え?」

何を言ってるんだこいつは。
何を言ってるんだこいつは。
何を言ってるんだこいつは。

無防備な脳裏に、抑えても効かずよぎっていくのは『最悪』の想像。
そんな、まさか、馬鹿な。そんなわけない。『あの肉』は食用じゃないから不味いって言うし。
……でも、あの肉は『筋張ってて繊維質』だって聞いたことはある。それで実のところ美味いから共食いしないように嫌悪感をををををををををを

>「あ、そう言えば制服を来たまま焼肉ってマズいよね。不味くはないけど。上着だけでも脱いでおかなくちゃ」

なんでもないようにあっけらかんと、和明日くんが学生服を脱いだ。
服の中に隠されていた戦禍の本性。ぐちゃみそになってもう一生機能しなくなってしまったような、五体満足の成れの果て。

「真性殿」

「言うな、何も言うな朽葉くん!マジで、そんなわけがあってたまるか……!」

「真性殿」

「だから!頼むから何も言わn――」

「山吹ちゃんをトイレに連れていきますのでそこを開けられよ」

そこでようやく俺は、周囲に目を向けることを思い出した。
見れば山吹ちゃんが真っ青になって口を抑えている。その両脇を、山吹さんと朽葉くんが、泣きそうな顔で抱えていた。
あ、そうだ。吐けばいいんだ。吐けば『喰った』ことにはならない。ああどうやって吐こう、喉に指突っ込んで、その前に洗面器――

7 :真性道程 ◇8SWM8niap6 :2010/12/10(金) 00:19:58 0
>「嘘だよ、嘘。冗談に決まってるじゃないか。ちょっと驚かせたかっただけさ。
  僕はね、君達の友達になりたいんだ。だからそんな酷い事をしたりはしないよ」

「………………あ?」

嘘。
嘘だった。なんだ嘘か。嘘ならしょうがないな。まったく驚かせやがって。あっはっは、あっははは、ははははは。

「ふざっけんなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

シャレにならない冗談を引っ提げて最悪を運んできた男は、努めて親しげに続ける。

>「そう、僕は君達の仲間になって、友達になりたい。中でもとりわけ、君とはいい友達になれる気がするんだ」

グロい右手を、俺に差し出してきた。

>「とてもいい、悪友にね」


――はい、回想終わり。

とまあそんなことがあって、俺達は和明日灯をフラタニティに引き入れた。
性格は最悪極まりないクズの極みのゲス野郎だが、腕は確かだ。俺はその手腕を目撃してるし、戦力は喉から手が出るほど欲しい。

山吹ちゃん各位古株メンバーは和明日との提携を猛烈に拒否り、夜之咲ちゃんはなんだか親和性を見出したらしく普通に接している。
俺はというと、心は許さないまでもヴィランとしては実に有能な男であることは認めざるを得なくて、とりあえず握手には応じた。

「あんまシャレにならんことするなよ。パンピーはともかく俺達に次やったら今度こそ追い出すからな」

みたいな口約束を施して。
どの程度効力を持つのかは知らんが和明日本人は至って社交的なので、最低限の約束は守ってくれると信じたい。
なにより友達のいない俺にとって、友好を全面に押し出してくる人間との付き合い方がわからないのが痛かった。
どこまで突き放していいのかわからないのだ。下手に藪をつついて地雷押してもつまらない。

さて、話を本編に戻そう。
今回の作戦に当たって、俺以外にもフラタニティのメンバーは潜伏している。
職員室に学年主任の其辺。屋上に広域探査として山吹ちゃん、その護衛兼報道ヘリを攻撃する砲台として山吹さん。
本人の熱烈な希望により保健室に朽葉君が潜伏し、夜之咲ちゃんと和明日の野郎は先んじて俺の担当学級に潜り込んでいる。

「えーと、それじゃまずは顔と名前を一致させたいんで、出席番号の順に氏名と……何か一言適当に言ってってちゃぶだい」

指導要綱と学籍簿を机に広げながら、まずは生徒達に顔を覚えてもらうために印象づけていこう。
とりあえず俺も覚えられるように頑張らなくちゃな、と教室を見回す。寄せ集めの『2-0』クラス。その中に、知った顔をちらほら見る。
ブレザー着た夜之咲ちゃん。制服着てるとやっぱ男なんだなあと現実を見せつけられて腹を下しそうだ。
それから何故かここの学校の制服を着てる和明日くん。こっち見てニヤニヤなにかニヨニヨなのかオノマトペに迷う薄ら笑いを向けている。
そして。

「――げっ」

女子高生がいた。
ああいや女子高生がいるのは当たり前なんだけど!でも俺は彼女に女子高生以外の呼称を使ったことがない。
第一話参照、展覧会の前日に駅前でビラ配ってた俺に正論をぶちまけ、公衆の面前で女子高生に説教されるという背徳の悦びを俺に教えてくれたJKだ。
この学校の生徒だったのか……。


疑念、疑惑、議論の萌芽。
日常と薄皮一枚隔てた向こうで展開される血肉の鉄火場から目を背け耳を塞いで、どうしようもなく安定を欠いた学級は邂逅する。
サナギの中身のようにどろどろと渦巻く伏線とかその他もろもろを内包して、俺と40人前後の長い一日はこうして始まった。

8 :真性道程 ◇8SWM8niap6 :2010/12/10(金) 00:21:00 0
名前:真性道程 (まさが みちのり)
職業:教育実習生・超Sラン大学四回生
勢力:――
性別:男
年齢:22
身長:175cm
体重:57cm
性格:熱意に溢れ生徒のことを第一に考える素敵な教師
外見:リクルートスーツ。揉み上げをカットし実年齢より若く見える。

備考:『粗製濫造』で治安悪化の一途を辿る高校に訪れた教育実習生。
   異能を持て余し荒みきった生徒たちの心を熱意と努力で少しずつ溶かしながら、異能では見えない本当に大切な仲間達との絆を教えてくれるぞ!
   そんなハートフルでソウルフルな話を裏で展開してるけど本編では触れられない。一切触れられない。


【占領の為に学校に教育実習生として潜り込む】
【とりあえず疎開の為に夜之咲ちゃん、和明日くん、伊達くん、縁間ちゃん全員が寄せ集められたご都合クラスということで】
【次ターンから話を動かしますので顔合わせ程度に】

9 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI:2010/12/10(金) 00:22:34 0
>「あんまシャレにならんことするなよ。パンピーはともかく俺達に次やったら今度こそ追い出すからな」

「わぁ、ありがとう!約束する!やっぱり君とは良い友達になれそうだよ!」

喜色満面で目を輝かせて、和明日灯は身を乗り出した。
そして道程の右手を両手で強く握る。
次いで他の面々にもにこやかな笑顔を圧力にして握手を求め、
和明日灯は晴れて『フラタニティ』の一員となった。

「……あ、そう言えば僕さっき勘定全部受け持つとか言っちゃったんだっけ。
 でも困ったなぁ。実は僕、サイフ持ってきてないんだよねー。……まぁ、いっか」

焼肉屋からの帰り際、唐突に和明日灯は呟いた。
彼の言葉はあくまで独り言の形を取ってはいたが、矛先は明らかに道程達に向けられている。
彼らが自分の行いに対して、注目せざるを得ないように。

「ちょっと待っててねー」

彼は一言残して制服の上着を羽織り、座敷席から出ていった。
ややあってから少し遠くで「おじゃましまーす」と彼の声が道程達の元に届く。

「お待たせー。さっ、帰ろっか」

それからすぐに、和明日灯は帰ってきた。
彼の右手にはサイフが握られている。
サイフは所々、赤い汚れが自己主張をしていた。。

「いやー、あのまま帰っても良い具合に最悪だなーとも思ったんだけどね?
 約束しちゃったからねー。全く関係ない誰かになら何をしても良いって言うから、貰ってきちゃった」

いとも平然と、和明日灯はサイフの出所を解説する。
三日月に化けた双眸と口元を、道程に向けながら。

「もしも、もしも君がさっきあんな約束をさせなければ……
 あのオジサンは死ななくて済んだんだろうなぁ。あ、これは独り言だから気にしないでね」

言外に悪意を潜ませて、和明日灯は楽しげに笑った。



そんな事があったけど割りと関係なく後日、和明日灯は都市内のとある学校にいた。
『フラタニティ』の次なる作戦は学校を占拠しての思想の膾炙らしい。
かくして和明日灯は折角だからと、学生に扮して学校に紛れ込んだのだった。

>「皆さんこんにちわ。今日からしばらくのあいだみんなの副担任となる真性道程です。社会科を担当するので、楽しくやりましょう」

不似合いな髪型とスーツ姿を瞳に映して、和明日灯は笑みを浮かべていた。
彼の笑顔は単に、道程の格好を面白がっているだけに見える。
だが一方で、やはり何か良からぬ事を考えているようにも見えてしまう。
どちらかに断定出来ないからこそ尚更、タチが悪かった。

>「えーと、それじゃまずは顔と名前を一致させたいんで、出席番号の順に氏名と……何か一言適当に言ってってちゃぶだい」

「はいはーい、じゃあ僕からがいいでーす!」

自己紹介と聞いて、和明日灯は真っ先に手を挙げる。
彼のいる教室には今、伊達一樹と縁間沙羅、つまり彼の悪行と本性を知る者がいた。
けれども和明日灯は一切気にせず、はしゃいでいる。
だが彼は何も、バレてしまっても構わないと開き直っている訳ではなかった。

10 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI:2010/12/10(金) 00:23:42 0
彼は今『悪が日常に潜み、その存在を悟られる事なく悪事を企んでいる』と言う悪意を体現しているのだ。
和明日灯を覚えている者も、彼がその悪意を体現している内は今一つ彼の存在を思い出せない。
とは言っても、和明日灯が少しでも怪しい素振りを見せればすぐに、彼の正体は露呈してしまう。
相手の勘が良ければ看破されてしまう事だってあり得る。
彼の異能は万能だが、それでも能力の枠から逸する事はない。
故に出力の限界と言う枷を振り切る事は出来ないのだ。

何より彼はあくまで『悪い事をする為に』潜んでいる。
ならば悪い事をしてしまえば、潜む能力は消滅するのが道理だ。
【悪意の体現】は彼の心根、悪意に従って姿を変える。

故に効果は多岐に渡り――同時に融通が利かない。
つまり『死にたくないから』『殺したいから』『隠したいから』
と言った願望を体現するのは、和明日灯には不可能だと言う事だ。

「えーっと、名前はわあすあかし。『和のある明日に灯を』と書いて和明日灯って読むんだ。いい名前だろ?」

ともあれ彼はノリノリで自己紹介を始める。

「……僕の顔に見覚えがないって思ってる人、いるんじゃないかな。
 無くて当然なんだよ。実は僕、入学してすぐに引きこもりになっちゃったんだ」

普段は太陽もかくやに煌く瞳を曇らせて、視線を窓の外に向け、和明日灯は突然語り出した。

「色々あってさ、もう絶対学校になんか行きたくないって思ってた」

声色は暗く静かに、和明日灯は続ける。

「……だけど疎開があって、学校から皆がいなくなるって聞いて、それで思ったんだ!
 こんなんじゃ駄目だ!友達の一人も、思い出の一つも作れずに二度とない高校生活を終えるなんて、悲しすぎるって!」

彼は突然、視線を窓の外から戻してクラスの面々を見回し、目は見開き、声を荒らげて叫んだ。

「……僕が学校に帰ってきた時には、もう僕のクラスは無くなっちゃってた。
 けど、代わりに君達と同じクラスになる事が出来たんだ。僕は嬉しかったよ。
 まだ高校生活がやり直せるんだって。こんな僕だけど良かったら、もし良かったら……」

ほんの一瞬だけ言い淀み、視線を逸らし、戻して、和明日灯は皆に向かって告げる。

「僕と、友達になって欲しいな。よろしくね」

全てを言い終えてから、彼は皆に笑いかけた。
何処までも無邪気で明るい、童子のような笑顔で。

【とりあえず自己紹介。友達になって欲しいな】

11 :宙野景一 ◇NuW.dKu6ngI9:2010/12/10(金) 00:25:02 0
戦いは終わった

会場に現れたヴィランは全て肉片になっているか、もしくは警察に投降している
その中で、宙野は軽くため息をつき、緊張の糸を切った
頭の中に喪失感と疲れが流れ込んでくる中、石原が近づいてきて、肩を叩く
>「私は、その……実のところ不知火には期待してなかったんだが。
>君には期待していた。これからも、ヨロシク頼むよ。」
それを聞いて、宙野は誇らしい気分になると共に、少し悲しくなる
「市長、あなたは少し誤解している様ですが…
この街にヴィランに対抗するパワードスーツを送り込み、不知火の技術をアピールする『名目』で不知火重工を動かしたのは…」
『宙野、作戦完了だ、すぐ、指揮車に帰還しろ』
宙野の言葉をさえぎるように武中から通信が入ってきた
それに宙野が応じると、次いで、武中は通信回線を市長へと変える
『市長、この度は真に申し訳無い事をしてしまいました
私がもっとこの街について知っていれば、今回の様な事にはならなかった…
民間人に多数の死傷者を出し、多くの犠牲をだし、メタルボーガーを奪われ、更にヴィランのダミーダイヤ強奪は無かったとはいえ阻止できなかった事は全て作戦立案者の私の責任だ
なので…

…次は絶対にこう易々とやられはさせない
これからもご協力をよろしくお願いします』
技術者と責任者、そして熱い正義の魂を持つ者の合わさった挨拶を石原にした武中は、通信を切ると、宙野を指揮車へと戻した
確かに、武中の言うように、作戦は完全に失敗した
だが
彼の開発したハイメタルボーガーはその場にいたヴィランに対し全く遅れは取っていない
作戦立案者として負けてしまったが、技術者として武中は敗北などしていない
現に

(……こんなにも損傷していたのか…)
帰路、ハイメタルボーガーを脱ぎ、セルゲイにやられた腕を見た宙野は、その損傷の酷さに目を見張った
装甲はボロボロに焼け焦げ、見るも無残な有様になっている
しかし、装着者の宙野の腕は無傷であり、しかもスペシウム発射にも何ら影響は無かった
(これだけやられても機能を保ち続ける何て…)
宙野は改めてハイメタルボーガーと、これを開発した武中の凄まじさに感激し、そして確信した
このアーマーならば、確実に如何なるヴィランとも戦い、勝利する事ができる、と
そして

それを使いこなせない自分に、嫌気がさした

【イベント参加ありがとうございました】

12 :名無しになりきれ:2010/12/10(金) 00:26:10 0
203 名前:なんくるさん ◆cvIBp5alOA [age] 投稿日:10/12/01 00:55:10 ID:M4/I5pr2
wiki作っちゃいましたごめんなさい。

http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg

13 :伊達 一樹 ◇QbSMdDk/BY:2010/12/11(土) 02:34:37 0
ヒーローにだって人間で、各々の生活がある。当たり前の事だ。
伊達一樹は重い足取りで通学路を歩いていた。
彼はここ数日、夜も眠れぬ日々が続いている。
より厳密には、展覧会で事件があったあの日から。

いつ何処で、自分の知る人が殺されるか分からない。
殺されたくない人は何処にでもいる。
守れると思っていた自分の世界は、掌の上ではなくそこら中に拡散していた。
だったらそれを守る為には、彼もまたそこら中を駆けずり回るしかない。
昼夜を問わず起きる事件、鳴り響くサイレンを追って、街中を走り回るしかないのだ。

この都市には彼以外にも大勢のヒーローがいる。
バスタードよりも優秀で強力なヒーローだっている。
だが伊達一樹は彼らを信じ、任せると言う選択をしなかった。
出来なかったのだ。もしも万が一、彼らが失敗したら。
弱くて出しゃばりなヒーローがヴィランに負けてしまったら。
もしもその時、そこにいたのが自分の知る誰かだったら。
不安は加速し、止まらない。
胸の内側で膨張して、心を圧迫する。
気にしすぎだと、そんな事滅多にないと自分に言い聞かせても、拭い去れない。
人がいつ、理不尽に誰かの悪意に貫かれるか分からない。
悪が溢れ蔓延るこの都市では、尚更だ。

だから彼はがむしゃらに、誰もかもを助け続けた。
このまま続ければ命さえ削れてしまうだろう程に、がむしゃらに。
もっともそれで彼が得られた物と言えば精々――
全身を蝕む倦怠感と、目の下のくまくらいだった。

「……あー、そう言えば僕の悪名にハイエナが付け加わったりもしたなぁ」

皮肉と自嘲の色彩が滲む苦笑を零して、伊達一樹は校門を潜った。
朝日に疎ましげに目を細めながら正面玄関へと逃げ込み、彼は上履きに履き替える。
そのまま教室に向かい、黒板や教壇のない後ろの方の扉から教室に入った。

「……おはよう」

教室内を一瞥して呟くと、伊達はまっすぐ自分の席に向かう。
鞄を机の横に無造作に放って席に着き、すぐに机に突っ伏した。ホームルームまでの間、眠るのだ。
特に誰かと談笑に興じたりはしない。彼の友人は殆どが疎開でいなくなってしまった。
その事自体は、良い事だと伊達は思っている。
友達が悪意に晒される可能性がぐんと減るのだから。
けれども一方で学校が退屈になったのも事実だった。

それから暫くして、ホームルームの予鈴が鳴った。
伊達一樹は目を覚ます。だがまだ起きない。
目を閉じたまま、意識は保ちつつ微睡みの余韻に浸っていた。
暫くして、教室の扉が開く音がした。続く足音が、教師がやってきたのだと伊達に告げる。
ようやく彼は目を開き、欠伸をしながら体を起こした。

>「皆さんこんにちわ。今日からしばらくのあいだみんなの副担任となる真性道程です。社会科を担当するので、楽しくやりましょう」

(……そういや其辺先生がそんな話してたっけ。減ってるのは生徒だけじゃないって事かねぇ)

真相はどうあれ、伊達は取り留めもない思考を巡らせて寝惚けた頭を覚醒させる。

14 :伊達 一樹 ◇QbSMdDk/BY:2010/12/11(土) 02:35:19 0
>「えーと、それじゃまずは顔と名前を一致させたいんで、出席番号の順に氏名と……何か一言適当に言ってってちゃぶだい」
>「はいはーい、じゃあ僕からがいいでーす!」

威勢のいい声と視界の端でちらつく挙手の動作に、伊達はそちらに視線を遣った。
幼子のように純朴な、しかし見覚えのない顔だった。
もっと言うなら見覚えのない、そのくせ何処かで見た気のする顔だった。
だが伊達が心中に芽生えた疑念を答えへと導く前に、児童のような顔の青年は言葉を続けていた。

>「えーっと、名前はわあすあかし。『和のある明日に灯を』と書いて和明日灯って読むんだ。いい名前だろ?」

語られるのは、悲劇だった。
そこらの身近に転がっていそうな、だけど紛れもない悲劇。
唐突に語られたそれは伊達が抱いていた疑念を、綺麗に消し飛ばしてしまった。
いや、衝撃と同情によって塗り潰されてしまったと言うべきか。
ともあれもしも和明日灯がこの事を狙っていたのだとしたら、それは確実に成果を上げていた。

そうして教室はやや浮き足立ち、しかし次第に落ち着きを取り戻す。
通常通りの五十音順の自己紹介が再開されて、やがて伊達へと手番が回ってきた。

「伊達一樹、学年は二年。だけど、勉強とかは教えられるレベルじゃないからさ」

淡白で単調な口調で、伊達は言う。
他学年の入り交じったこの合同クラスでは、通常通りの授業は出来ない。
必然的に自習、分からない所があれば適時先生か上級生に聞く事になる。
なるのだが、人に物を教えるには教わる側が三倍の理解をしてなくてはならないと言う。
伊達にはそれ程の学力はなく、気概も無ければ、何より余裕も無いのだった。

「そこら辺は、先生の手を煩わせてあげて欲しいな」

出来ないのだから――至極当然の理由だった。
だが伊達は自分でそう言っておきながら、
一方でヒーローとして、出来ない事をそれでも成そうとしている。
彼は自分が内包する矛盾に気がついていなかった。

「あぁ、あと……僕の友達も皆疎開しちゃってね。と言うか、
 今ここにいる皆がそうだと思うけど。とにかく仲良くしようじゃないか」

彼の提案は、友達がいなくなった退屈と寂寥の穴埋めがしたいが故だった。
しかし同時に、和明日への同情も確かに含まれていた。

15 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E:2010/12/12(日) 06:08:05 0
人は日課を持つべきである。
日課とは不定形である人生の形を整え、矯正してくれる型のような物だ。
社会人であれば朝早くに起きて、決められた時間の電車に乗り、或いは適度な運動を経て、会社へと至る。
私は学生である為、終着点は学校になるが。とにかく朝の通学と学校生活、これは日課である。
人生の一部の期間を貫いて、揺らぐ事はない。
これがあるからこそ人は規則正しい生活を送る事が出来る。
いかに怠惰な人間であっても……無論多少の例外はあるが、学生であれば基本的には毎日学校に通うものだ。

日課を持たず、日々を曖昧模糊に過ごす人間の如何に惨めで愚かな事か。
自由と言えば聞こえはいいが、それは人生を無為に拡散させてしまうだけの物だ。
自由を主張し、その上で人生の方向性を自分で形作り、律する事が出来るのならばそれもいい。
だがそのような事が出来る人間は、稀有だ。
だからこそ、人は日課を持つべきなのだ。
人生を縛り、体裁を整えてくれる日課を。
もっとも、私は日課の束縛がなくとも誠実でいられるよう常日頃から心がけている。
いるのだが……例えそうであっても、やはり学校に通うと言うのは当たり前だが、大切な事だ。

そう言う訳で私は今、学校にいる。
普段なら始業前のこの時間、教室を満たしている筈の談笑は聞こえない。
本や教科書のページを捲る際の、紙が擦れる微かな音でさえ喧騒に圧殺される事はなく、
奇妙に印象的に耳に残る。
この教室内を満たす冷気にも似た静寂には、理由があった。
今この教室にいる四十人は、元々別のクラスにいた。
それどころか学年さえ、本来は違う。
このクラスは、治安の悪化による学童疎開によって学校全体の生徒数が減った為に作られた仮設学級なのだ。

多くの生徒は疎開で学校を離れたが、私は居残る事にした。
下劣な悪人が蔓延っているからと言って、どうして私が日常を崩さねばならないのだ。
私は退かない。悪が私に刃を向けると言うのなら、説き伏せてやる。
それすら通用しないと言うのならば、組み伏せるまでだ。

>「皆さんこんにちわ。今日からしばらくのあいだみんなの副担任となる真性道程です。社会科を担当するので、楽しくやりましょう」

何処かで見た事のある顔と、聞き覚えのある声だった。
一体何処で、と考えてみるが……今一つ思い出せない。
まあ良いだろう。せいぜい街中ですれ違った誰かに似ているとか、その程度だろう。
……ところで真性先生の名前、その字面を見るや否や、数人がくすくすと笑い出した。
私には良く分からない、違和感が胸の内を撫でる。
何かあるのだろうか。後で尋ねてみるとしよう。
ともあれ、しかくして自己紹介は始まった。

16 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E:2010/12/12(日) 06:08:57 0
>「えーっと、名前はわあすあかし。『和のある明日に灯を』と書いて和明日灯って読むんだ。いい名前だろ?」

和明日灯、彼もまた何となく見覚えのある感覚を受けた。
けれどもそれは、直後に打ち明けられた衝撃に押し流されてしまった。
ともあれ引きこもりだったと告白する彼を、私は好意的に思う。
かつての過ちを自覚し、乗り越え、現在と現実に立ち向かおうとする姿勢に。
休み時間が訪れたら、声を掛けてみよう。
趣味や話が合うかは分からないが何か一言、この感嘆を告げて、握手がしたい。

>「伊達一樹、学年は二年。だけど、勉強とかは教えられるレベルじゃないからさ」

そう言えば彼も、何処となくだが既視感を覚える男だ。
先の二人と違って顔立ちがと言う訳ではなく、語り口や立ち振る舞いが、だ。
けれども正直に言って、私は彼にあまり好感を持っていない。
彼がまさに今言っている、出来ない事はしないと言う姿勢が、好ましくないのだ。
出来ないのなら出来ないなりに挑戦する事が大切だろうに。
そもそも、それは本当に出来ない事なのか。
やる前から出来ないと言うような事は、すべきではない。
彼に限らず、人はもっと熱心であるべきだ。
この街には非力と言うハンデを背負いながらも、正義に従うヒーローだっているのだから。
そう、人は彼らを見習うべきであり、彼らは人の模範としてあるべきなのだ。

そして自己紹介は粛々と進み、とうとう私の番が回ってきた。
立ち上がり、腹の底を吸気で満たして、真性先生をまっすぐ見据える。
人は常に自分の素行を意識すべきだが、一方で第一印象が大切であるのも事実だ。
毅然とした口調を意識して、私は口を開く。

「元一年五組、縁間沙羅です。元のクラスでは学級委員をしていましたが、
 このクラスでは特に誰がやるでもなく、曖昧のままになっています。
 真性先生、そして改めて皆さんも、短い間になるでしょうが、よろしくお願いします」

教育実習生である真性先生は勿論、この仮設学級も、長くは続かない。
何故なら、悪が長く栄えた事など無いのだから。

「……ところで真性先生。先程、先生が自己紹介をした際に皆さんが笑いましたよね。
 その理由を教えて頂けませんか?先生自身、微妙な表情をしていましたから、自覚はおありのようですし」

最後に先程気になった疑問点を述べて、私は自己紹介を終えた。

17 :太田空 ◇maQY4WLalU:2010/12/13(月) 22:11:12 0
太田空は葛藤していた。
彼の憧れる輝かしいヒーロー像と、自分の無様な現状の差異に。
彼の中で『ヒーロー』とは、『完璧』の象徴だった。
数え切れない程多くの創作上のヒーローを見てきた彼は、
それらを見境なくごちゃ混ぜにした、形のない歪な粘土のような『完璧』を理想に掲げていた。
太田が自分の理想を追おうとするのは即ち、暗澹たる奈落の底を掴もうと手を伸ばすようなものだ。
無論彼の手が深淵の理想に届く事はない。
だが奈落の中に広がる濃密な、絶望的と言う名を冠した闇だけは見える。
それでもヒーローになりたいと言うのだから、始末に終えない。

ともあれ彼は少しでも理想に近付こうと思った。
いや、近付かなくてはならないと言う強迫観念に駆られていた。
その原因は先日の展覧会での事件、和明日灯が彼に突き刺した宣告だ。

『君はいつか人を殺す』

和明日灯の言葉は太田の心と共に正鵠をも射抜いていた。
事実、太田は銃弾に貫かれるのを恐れる余り、自分だけが壁の裏に隠れたのだから。

このままでは臆病で無様な自分は、誰かを死なせてしまう。殺してしまう。
けれども彼は『ヒーロー』をやめたくない。
ならば変わるしかないのだ。理想に、完璧に、歩み寄るしかない。
例えそれが茨の道の彼方にあろうと、断崖絶壁の遙か天上にあろうとも。


「復学したいです」


そんな訳でとある高校の職員室を訪れていた。
太田は自分の欠点を考えた。
太っていて、高校も出ていない引き篭もりで、オタク趣味で、臆病者で。
欠点を挙げ連ねれば限が無い。
だが太田はその無数の欠点の中から、まず『高校を卒業していない』事を選んだ。

何故なら――それが一番改善のしやすい欠点だからだ。
肥満を解消するには長期、かつ十分な運動と生活改善が必要だ。
オタク趣味は生来の性癖であり、変え難い。人間は自分を否定する事に激しい抵抗を抱くのだ。
臆病もまた然り。こちらは恐怖と相対しなければならない為、オタク趣味よりも更に苦痛だ。

要するに彼は、一番安易な選択に逃げたのだ。
誰かに頼み込み、一度為してしまえば後は流れに身を任せていける学校生活に。
一見すれば前進しているように見えて、実際太田もそう思い込んでいるからタチが悪い。

ちなみに高等学校には一応、復学の制度がある――所もある。
だがこの場では特に関係の無い事だろう。
重要なのは今日、『フラタニティ』が潜入している学校に太田空がいると言う事だ。

【復学希望を理由に学校の職員室にいます】

18 :西上十三 ◆IS/PfMJV/Q :2010/12/14(火) 02:45:24 O
僕の名前は西上十三
この物語の…いや、誰かの物語のモブの一人なのかも知れない。
正義や悪が日夜激しい戦いを繰り広げるこの街に住んでいるだけのただの一般人だ。
超常な異能も無ければ、巨大な権力も天才的な技能も無い。ただ助けられるか、無残に殺されるか
それとも何事も無いように普通に過ごすか、それしか選択肢の無いつまらない存在だ。

いや、背景なんて関係ないのかも知れない。
そんな危険な日常を切り取ったって、僕の人生に日は射すことが無い。
勉強、運動、魅力どれをとっても今一な上に、根暗で臆病者な僕は、
さも当然のごとくそういう連中にからかわれたり、女子にキモがられたりする
そんな嫌な役目を押し付けられるのが常だ。
その理不尽な道理に耐えられない僕が、次第に学校へ向かわなくなった。
当然、自主退学や留年を避ける為に、細かく日程を決めて…この臆病者め。我ながらそう思う。

そういう訳で、僕は今学校にいる。
本当は今日は休む日なのだが、流石に今日休むわけにはいかなかった。
今日は仮設学級のクラス割が発表される日だ。
もし今日休み、明日愚かしく惑、その様を笑われるような醜態を晒したくは無かったからだ。

自分のクラスを確認した僕は一目散に教室へ逃げ込んだ。どうやら席は決まっていないようだ。
真っ先に僕は廊下側にある席の1つ、『柱の影の席』を選んだ。
普通の奴なら窓側の一番後ろの席をとるだろうが、あんなに目立つ上に
僕みたいなのがあの辺に座ってしまったら、なんだかんだ暴言を吐かれるに決まっている。
だからこそ、僕みたいなのはこういう地味で目立たない場所がベストなんだ。
少しだけ心休まる場所を見つけ、ホッと一息つくと、ホームルームが始まるまで持ってきた漫画を読むことにした。

>>5
ホームルームが始まり、僕は漫画をしまい教卓へ目を向ける。
名前があやふやだが、とりあえず、顔を覚えている教師の隣に、いかにも大学生っぽい男がいる。
教育実習生なのだろうか?
>「皆さんこんにちわ。今日からしばらくのあいだみんなの副担任となる真性道程です。社会科を担当するので、楽しくやりましょう」
一瞬、頭が真っ白になった。
予想が当たったからそうなっている訳ではない。現在、黒板にその名前のインパクトに唖然としてしまった。
僕の名前も字面的にあまりいい方では無いが、あの名前…どう見ても思いつくのは所謂魔法使い予備軍
当然のようにクラス内で冷笑があがる

19 :西上十三 ◆IS/PfMJV/Q :2010/12/14(火) 02:46:52 O
真性さん、もしかしたら、僕らはお互い顔もロクに覚えられずに別れることになるかも知れないが
僕はアナタに同情する。
>>9
気まずい空気の中、自然の流れで生徒側の自己紹介が始まろうとしていた時だった。
>「はいはーい、じゃあ僕からがいいでーす!」
お前、空気嫁よ…僕はこの気まずい空気を引き裂くかのように手をあげた彼を見せ、内心そう思った。
その後、彼の自己紹介が始まったのだが…お前は何を言っているんだ。
彼の自己紹介に対し、クラスメイトのほとんどが同情の眼差しを向ける中、僕は疑いの目を向けそう感じた。
彼こと和明日は…嘘をついている。直感ではあるがそう感じた。
空気が読めないほどの行動力を持ちながら、うっとおしいほどの自己表現力、それに理由が胡散クサすぎるし
きっかけが安すぎる。いいか?プロの引き篭もりはもっと色んな感情が冷めてんだよ!!!それに…etcetc
僕は心の中でそう語りながら、彼から視線を背けた。
きっとしょうも無いかまってちゃんなのだろう。近づくとロクなことがないに決まってるし
目をつけられたら、それはそれで面倒くさいだろうから近づかないようにしよう。
和明日に対する方針を決めた後、僕は自己紹介の順番が来るまで特に何もせず過ごした。

自分の順番が来たのを確認すると僕はすぐさま立ち上がり自己紹介を始めた
「に、二年…六組…に、西上…じゅ…十三です…よろしく」
ボソりと辛うじて聞こえる程度の声量で、淡々と自己紹介をすませ、すぐさま席についた。
印象が悪かろうが、そんなのどうだっていい。どうせ明日からまた幽霊のように出たり休んだりを繰り返す
つもりでいる以上、わざわざ誰かと仲良くなろうなんて徒労以外の何物でもない。
それに僕は喋るというか、人とコミニュケーションをとるのが苦手だ。正直、さっきの自己紹介だって
断じて手を抜いたわけではない…アレが僕に出来る精一杯なんだ。理解してくれる人はいないだろうが…

20 :西上十三 ◆IS/PfMJV/Q :2010/12/14(火) 02:48:12 O
>>16
自己紹介も進み、そろそろ終りそうな雰囲気が出始めた時、事件は起こった。
というのも、何故か僕の隣の席に居るいかにも真面目そうな女子、縁間が地雷を踏みに行ったからだ。

>「……ところで真性先生。先程、先生が自己紹介をした際に皆さんが笑いましたよね。
 その理由を教えて頂けませんか?先生自身、微妙な表情をしていましたから、自覚はおありのようですし」
この女マジで言ってるのか!?僕は目を疑い、縁間に目を向ける。
普通、あの文字を読んで、頭の中で男にとって大変不名誉なワードに再変換してしまうだろ?常考
え…何?昔ながらのそういうガチガチな人なのこの人?
いや、そんなことはどうでもいい。早くなんとかしないとこのままじゃ両者の名誉が傷つくことになる。
メモを渡すか?袖を引っ張って座らせるか?お茶を濁すか?駄目だ。どれもこれもパッっとしない。
僕は一旦考え込んだ後、次の行動に出た
「い、いやぁ〜しかし、真性さんも僕以上に不名誉な名前をつけられたな〜」
声量を先ほどよりもっと絞り、隣にいる縁間が辛うじて聞こえる音声で僕は独り言を呟く
「か、関係ないけど…日本言後ってむずかしいな…と、特に同音異義語とか…」
チラチラと彼女の様子を伺いつつ、僕は独り言を続ける。
出来れば速めに気づいて、何事もなかったかのように座って欲しい。正直、そう思った。

21 :名無しになりきれ:2010/12/15(水) 21:28:44 0
hensin

22 :素人英雄 ◆SUyfUBQmw2s3 :2010/12/17(金) 01:14:32 0
僕は何処でも嫌われる。無視され蔑まれそして今日も公園で1人ぼっちだ。
でも僕は英雄になるんだ。そうすれば皆が僕を好きになってくれる。
あれから色々調べた。伊達君や、あの場所にいたみんなのこと。
僕は今、ある学校の食堂でアルバイトをしている。
凄く愛想良く振舞って頑張ってる。僕には家があるけど家賃が払えなくて
督促状が来てるんだ。
だから、英雄だけど働かなきゃならない。
「まだ仕込み出来てないの?ほんと遅いわねぇあんたぁ」

ネチネチおばさんが僕に嫌味を言う。だが僕は怒らない。
僕は英雄だから、笑顔で「少し待ってください。すみません。」と言うんだ。
食堂でサボってる学生達はみんな何処か不機嫌そうだ、でもなんか楽しそうかも。
「そういえばさぁ、あんた名前なんつったっけ?あ、真性童貞だっけ。

「黒葉さん、それは新任の教員さんでしょ。この子は違うわよ。」

「ええ、僕は素人英雄です。素に人、英雄と書いてひでおと読みます。」
僕の言葉なんてこのおばさんは聞いてなかった。
既に仕込へ戻っていってる。

殺そうかな。

【バイトで学園へ】


23 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2010/12/18(土) 03:23:14 0
>「はいはーい、じゃあ僕からがいいでーす!」

俺の質問に、真っ先に挙手したのは和明日の野郎だった。
お前かよ……なんでこいつこんなに元気一杯なんだよ。お前はもっと陰気なキャラで然るべきだろ。
と思ってたらマジで陰鬱な過去を話しだした。なんで今、そーいうこと言うかなあ!扱いづれーよ!みんなどっ引きじゃねーか。

>「伊達一樹、学年は二年。だけど、勉強とかは教えられるレベルじゃないからさ」

うーん、普通だ。普通の優等生だ。しかも俺のあんまり得意でないタイプの、リア充の資質を持つ優等生だ。
この場合の優等生ってのは頭の出来とかじゃなくて、気概。集団内で上手く人間関係を調整できる奴独特の匂いがする。
大体なー、ガチ優等生ってのは、

>「元一年五組、縁間沙羅です。元のクラスでは学級委員をしていましたが、このクラスでは特に誰がやるでもなく、曖昧のままになっています。
   真性先生、そして改めて皆さんも、短い間になるでしょうが、よろしくお願いします」

……こういう奴のことを言うんだよ。
幸い向こうは俺のことを覚えてないみたいだが(それはそれで寂しいが。数日前だぞ会ったの)、そのセメント系気質はやっぱりあのときのJKだ。
ユカリマサラちゃんっていうのか。なんかカレーに使われる香辛料みてーな名前。あるいは初代の最初の街。
どこで区切るんだろ。ユカリ・マサラちゃん?ますますインド人っぽい。出席簿には漢字が書いてあるからそれはねーと思うけど。

>「……ところで真性先生。先程、先生が自己紹介をした際に皆さんが笑いましたよね。
  その理由を教えて頂けませんか?先生自身、微妙な表情をしていましたから、自覚はおありのようですし」

ゲェー!なんつうフリしてくんだこのマサラ!このアマ天然でやってんのかそれとも嫌がらせなのかどっちだ!?
どうしよう、説明したらしたでセクハラ扱いされそうなんだけど……。
途方にくれる俺に、助け舟は思わぬ方向から差し出された。マサラちゃんの隣の男子――西上くんだったかが、フォローするように呟いたのだ。

>「い、いやぁ〜しかし、真性さんも僕以上に不名誉な名前をつけられたな〜」

それは今にも消え入りそうな、まるで隣の席のマサラちゃんにだけ聞かせるような音量。
俺の聴覚が強化されてなかったら確実に聞き流していただろう、か細い、だけど地獄に降りた蜘蛛の糸のようなお言葉。
ありがとう西上くん!よーし俺もこれに乗っかって、"真性って言葉は得てして良い意味では使われない"みたいな理由をでっちあげよう!

>「か、関係ないけど…日本言後ってむずかしいな…と、特に同音異義語とか…」

に、西上ィィィィィィィィィィ!!
それ言うたらあきまへんがな!最早真性童貞のモジり以外の説明がつきまへんがな!やっべえ、真の敵は味方の中にこそありってことか!?
ち、ちくしょう、もうどうやって誤魔化せばいいんだ……!くそう、なんでこんなことに……

「ううっ……」

涙が出てきた。
自然と頬を伝った液体に、クラス内がやにわにざわつき始める。

「げえっ!泣いてるゥー!?」
「女子高生に言葉攻めされて泣くなよ!我々の業界ではご褒美だろ!?」
「あーあー委員長が泣かしてやんのー大の大人を!」
「クソッ、泣き顔が想像以上に気持ち悪くてネタにもならねえ!」

俺は涙を拭いて、鼻をかみ、廊下のダストシュートまで紙を捨てにいって、一連の流れはどうにかうやむやになった。
マサラちゃんもいい加減空気読んでくれるだろう。

「じゃあ授業を始めます。現社ということですが、みなさん特進学級普通学級入り乱れての混成クラスなので進度や範囲も違ってくるでしょう。
 なので時事問題も絡めてちょっと今社会で起こっていることについて復習してみましょう。異能史は――資料集に載ってる年表を活用しようか」

黒板に『現代の異能とその社会的立場』と板書する。最近のチョークって粉が指に付かないようになってんのな。すげー。

「みんなの家族や友人、あるいは自分自身が異能を持っていたり、異能に関わったことがある子はどれくらい居るでしょうか。
 社会に密着しているわけでもなければ、生活の役にたっているわけでもない、ただ存在するだけの"異能"についてみんなはどれくらい知ってるかな?」

24 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2010/12/18(土) 03:23:57 0
異能の社会的特徴としては、分類分けや系統づけが難しく再現性のない能力であるということが挙げられる。
ESPやPKのように念動力や感応力などといった枠組みはないし、能力発動の形態からして同じものは二つとない。

「いわゆる超能力とかといったものよりかは、少しファンタジーな表現になるけど――魔法に近い。"異能"とは、そういう能力です」

異能は精神の具現とも揶揄される。能力者の願望や信念といった精神構造が異能の基礎を生むと言って過言ではないからだ。
大昔の軍部じゃあ、それを逆手にとって被験者の精神を弄り、意図的に都合の良い異能を生み出す実験をしてたとかなんとか。
あ、展開次第でこれ伏線になるかもだからノートはしっかりとっておくように。閑話休題。

長々と蘊蓄垂れ流して何がしたいかってえと、なんかこー異能を使った犯罪の危険さを饒舌に語った後、
「ことほど左様に異能犯罪者はとても危険なのです。――こんな風にな!バァーン」って感じに満を持して革命屋の本性を顕す展開がやりたいのだ。
悪役としての登場シーンは鮮烈でなくっちゃな。その為の前振りに労力は惜しむまいて。そんな感じで語る。弁舌滑らかに語る。

「――ことほど左様に、」

よしきた。

「異能犯罪者はとても危険なのです」

言うぞ言うぞ言うぞ。ふふふこいつら新任の教師がいきなりテロリストとして教室を占拠したらどんなリアクション返すかな!
泣きながら逃げ惑うだろうか。それとも敵愾心剥き出しで歯向かって来るかな。マサラちゃんとか正論でねじ伏せようとするかもね!
さあ、最後の一節だ。

「――こんなh」

瞬間。横殴りの風が来た。
突風は炸裂音と破砕音を伴って、教卓に荒らしを撒き散らし、不随するガラス片が俺の右半身を隈なく剣山に変える。
傷口から血が吹き出すより先に、教室に悲鳴が上がるより先に、窓から――最早窓の原型を留めていないただの穴から、無数の黒い人影。
昔見た映画の特殊部隊の潜入シーン。あれを彷彿とさせるような無駄のない動きで、武装した数人の男達が乗り込んできた。

「な、あ……」

上手く言葉が出ない。肺にガラス片が突き刺さったようだ。幸い貫通してるけど、回復まで絶望的な十数秒。
その十数秒を数えるまでもなく、男達はあっという間に生徒たちを机に伏せさせ、制圧を完了してしまっていた。
なんだこいつら。なんだこいつら。なんだこいつら。なんなんだこいつら!
そうか!其辺あたりが呼んだ増援だな!流石に6人で学校ひとつは占拠できないもんな。俺の援護に駆けつけてくれたんだろう。
それにしたって、俺まで巻き込んで派手に侵入してこなくたっていいのになあ。あくまでメーンエベンターは俺なのに!

「そ、のべぇー……」

ワイシャツの襟に仕込んである骨伝導無線機で職員室にいる其辺に文句の一つも言ってやりたい。
ようやく搾り出した恨みつらみに対する其辺の返答は、しかしいつもの余裕のある声じゃなかった。

《道程君!聞こえるか?ああいや、おそらく君のところも返事のできる状況ではないのだろうと推測する。
 その前提で話そう。単刀直入に言って、イレギュラーだ。想定外にもほどがある事態が起こった。
 君がこれを聞いているなら、おおよその事情は察しているだろうが――お互い冷静に物事を判断するため、一度言葉に出して確認しよう》

無線の向こうから聞こえてくるのは其辺の声の他に、職員室には不釣合いすぎる喧騒。
いや喧騒なんてもんじゃねえ、さっきからパンパン聞こえてるのって銃声じゃねえか!悲鳴もいくつか混じってる。
其辺は、敢えてゆっくりと。呼吸を繰り返すようにして、最悪の事態を口に出した。

《――テロリストだ。我々以外の、完全に無関係の別組織が、この学校を襲撃している》

同じ日に、同じ時間に、同じ場所を占拠せんとする2つのテロリスト組織のダブルブッキングだった。
俺は理解した。なんてこった、偶然の一致にしたって酷過ぎるタイミングだ。
なんだって今日、この時間に、この学校を占拠しようってテロ集団がこの街に2つもあるんだよ!

《山吹(娘)君に状況を探らせたところ、テロリスト集団は職員室と各寄せ集めクラスの教室に数人ずつ人員を充てている。
 道程君の担当する教室の両隣も、同じようにテロリストによって占拠されているはずだ。
 とにかく我々はこちらの状況をどうにかせねばなるまい。全てが片付いたら追って連絡する。――必ず生きてまた会おう》

25 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2010/12/18(土) 03:24:39 0
一方的に実況して、其辺は通信を切った。
そのころには俺も貫かれた肺腑の治癒が完了していて、それは丁度黒尽くめの連中が生徒達を拘束し終えるのと同時だった。
40余人の高校生達は一人一人縄のようなもので両手を戒められていた。おそらく普通の縄じゃない。余りにも拘束完了が早すぎる。

「――さて、」

襲撃者達のうち、一人だけ金髪の、見るからにボス格っぽい奴がショットガンで肩をたたきながら沈黙を破った。
黒のコンバットスーツに猛禽類のような金色の双眸が肉食っぽい印象を与える、理知的な獣性を持つ男だ。

「よっす、俺達『傾国党』!――まあ見ての通りテロリストだ!お前らよく授業中に妄想したろ?そういうのを叶えに俺達はやってきた!
 ってのは嘘でまあ、お前らを人質に身代金を請求しようと思ってさ!こんだけ入れば一人頭100万でも十分なアガリが出る。名案だろ?」

なるほど名案だ。莫大な身代金を1家庭に要求したところでタカは知れてる。各ご家庭から現実的な額を出させる薄利多売戦法か!
それにしても聞かれてもいないことをべらべらとよく喋る男だった。なんか悪役な自分に酔ってるっぽくて腹立つ。
あれ?なんで腹立ってるんだろ。同属嫌悪か?俺と同じように悪に理想を掲げるこの男を見て、俺は嫌悪感を催したのか?

「そんでさ!この案のもっとも素晴らしーいところは、これだけ人質いるんだから一人ぐらい見せしめに殺してもOKってとこなんだ。
 誰だって我が子は可愛いんだし、他人の子が一人死ねば本気で金集める気になるだろ?そんでこっちの損害はたったの40分の1!」
「たっちゃんスゲー!」
「超あたまいい!」

たっちゃん(便宜上そう呼ぶことにする)の名案に取り巻きが賛美する。俺もたっちゃんの頭弱そうな喋り方とは裏腹な狡猾さにただただ驚くばかりだ。
だけど聞き捨てならなかった。今なんて言った?生徒を一人殺してもオッケー?それってつまり、

「つーわけで今から一人死んでみそ。だーれーにーしよっかな!」

今から一人殺すってことじゃねーか!
たっちゃんはショットガンを支持棒代わりに"神様の言うとおり"を始めた、対象はもちろん、教室の隅で固まる40人の生徒達。
そして。死神の指先は、ゆっくりと一人の生徒に狙いを定めた。片手持ちなのにまったくブレない銃口の先には――西上君。

「見るからに友達いなさそーな顔してるし、問題あんめえ。ほら、クラスメイトの連中もお前が選ばれてホっとしてるぞー?」

たっちゃんは仲間に西上君を前へ引きずり出させ、その額にショットガンの銃口をピタリと押し付けた。
畜生、なんて容易く悪を実行するんだこいつは。俺はその行動力が羨ましくて、妬ましくて、反吐が出た。
俺はヴィランだ。このクラスにだってテロるつもりで潜入したのだし、教育実習生はつかの間の隠れ蓑に過ぎない。

だけど――西上君は、このクラスの生徒達は!ほんの少しの間だけど、確かに俺の教え子たちだ!
教育者として!子供の命は守らなくちゃならねえだろ――命を賭してでも!

「やめろおおおおおおおおお!!!」

俺は全身のバネで獣のように跳躍し、血潮の軌跡を撒きながらたっちゃんの構えるショットガンの銃身に喰らいついた。
一瞬遅れで発車された散弾は西上君の頬を少しだけ削り、木製の床に全弾埋まって果てた。

「うわ、なんだこいつ。あれだけの爆発まともに受けて生きてやんの、マジうける!」

たっちゃんの無慈悲な獰猛さは次の餌食を俺に選ぶ!
あいも変わらず片手持ちのショットガンが俺に向けられていた。対する俺は――腰が抜けて動けねえ!

「センセーカッコ良いね。株が下がらないうちに死んどこうぜ、グッバーイ」

まるで俺の恐怖する様をギリギリまで見ていたいかのように、引き金がゆっくりと引かれる!


【真性がテロを行おうとした瞬間、別のテロ組織が学校内を占拠。目的は生徒全員分の身代金】
【職員室ではフラタニティと銃撃戦に発展】
【テロリストは基本NPCで、学校内外を彷徨いたりしています。仕留めて情報聞き出すも可、無双ももちろん可】
【誰か真性先生を助けてあげて下さい】

26 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2010/12/19(日) 04:32:39 0
不知火重工工場地下、第一小会議室
「小会議室」と書かれているが、そこはほぼ作戦指揮と新兵器開発を同時に行う武中の個室であり
申し訳程度の対面したソファーと机が置かれている他は、彼の仕事道具が入った机や棚が部屋を占拠している

「…やはり、早々たやすくはいかない、か」
そう言って、武中は今さっき送られてきたウィリアムが表舞台から行方をくらまし、完全に所在がわからなくなっている旨が書かれた電報を、机の中に畳んで入れる
「大丈夫、ハイメタルボーガーの強さは十二分に敵もわかったはずだ。早々迂闊には仕掛けてこないよ」
多少苛立たしげな武中に、ソファーに腰掛けたスーツ姿の男が言った
70代前半の顔つきで、しっかりとした大人の雰囲気を出しているその男の口調は柔らかく
まるで『悔やむな、君はよくやっているじゃないか』と友人が友人を励ましているようである
「恐縮です…」
その言葉に、武中は恥ずかしげに軽く男から視線をそらすが、すぐに再び男の目を見ると、真剣な口調で語りだした
「博士が唱えた『サムシンググレートの介入理論』が信憑性を帯びた事により、政府はこれから更にこの都市に目を向けてくるでしょう
いや、政府じゃない、このまま博士の理論が信憑性を増していけば、やがて世界がこの都市に注目していく事になってくる

…『「何者か」、「何か」あるいは「世界自体」が人間に何らかの方法で人間に働きかけて異能を一箇所に集め、更に「異能者がその異能を行使しやすい環境」を作っている。そして、その結果として強力な異能者がこの都市では次々と出現している』
私自身、最初に聞いた際は余りにも突拍子も無い話に、正直この理論が正しいとは思えなかった
しかし、常識で考えればどう考えても危険な場所に、平然と…まるで集団自殺するねずみのように集まってくる市民を見た時、私は確信しましたよ
「この都市には確実に『異能に殺されるための人間』が存在している」と」
「たったそれだけではまだそう確定つけるのは良くないぞ、武中君
提唱した私自身でさえも、この理論を疑っている程だ」
語気が荒いできた武中に、黒スーツの博士はそう言ってたしなめた
それに対し武中は再び恥ずかしげな表情になり、「軽率でした」と黒スーツに謝る
「重要なのは、現在この都市がこれまで以上に危険な状態にある、と言う事だ
…先ほどの理論に当てはめると、異能者の進化は「第二段階にある」と言った所だろう
それで、それに対して応戦するためにこんな一異能研究者と会話している余裕の無いはずの君が
一体何用で私を読んだんだね?」
武中を皮肉るというより、武中に呼ばれた事を光栄に思っているような口ぶりで語る男に、武中は俯いて返答する
「先程の理論にこの都市を当てはめた時、私はわからなくなりました」
「……どういう事だい?」
「もし、先程の理論が正しく、因果律を操れる何者かがいて、異能を進化させるために…『話をおもしろくするために』様々な異能者や、それの犠牲者を集めているとしましょう
犠牲者は即ち、「ヒーローを作るための道具」であり、「ヒーローが彼等を守るという戦う理由を作り、ヴィランと戦わせるため」に犠牲者達は存在している
もし犠牲者がいなければ、ヒーローは戦う理由が無い、ヴィラン同士で殺しあうだけでは、何か「異能が進化」…いや進化が目的ではないかもしれないから「何らかの目的」としましょう、その「何らかの目的」に都合が悪い
だからヒーローがヴィランと戦うために犠牲者はいる
そして、「警察」では歯が立たないから「ヒーロー」が戦う
「警察」が強ければ、ヒーローは出る幕が無いからだ
即ち、力さえ持っていれば異能を管理できる機関である警察の…政府の力ではヴィランに太刀打ちできないから、ヒーローが戦う
全てがヒーローがヴィランと戦うという構図を作るために動いている

……だとしたら、我々不知火重工…いや、「警察」に力を与えて、異能を管理し、平和を築こうとしている私のしている事はどうなるか…」
「当然、何者か…何か…世界自体……この場では「サムシンググレート」と呼ぼうか、それにしてみれば、こんなに邪魔な物は無いだろうな」
「……なら、ならば、そうならばいいんです!例えサムシンググレートが如何なる妨害をしてきても私は応戦する!
しかし…さいしょから私が介入する事すら仕組まれていたとしたら…」

27 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2010/12/19(日) 04:36:40 0
「武中君」
「パワードスーツの登場が、ヴィランを抑えるのではなく、逆効果で促進させてしまったとしたら」
「武中君!」
「我々が単なる「噛ませ犬」としてこの場に連れて来られているのだとしたら!」
「おい!」

「……私はパイロットに…私を信じてくれている者達を…いたずらに死地に追いやっている事になる……」
「パンドラの箱の中に最後に残ったのは前知ではない!人の手で未来を変えられると言う希望だ!」

涙を流しながら一気に語った武中に、黒スーツは力強く言った
その言葉に、武中は呆然となっている
「もし私の理論が正しいのなら、君が何かしなくても、しても、サムシンググレートの目的は達成されるだろう
しかし、『自分の意思で抗おうとする』事はできる

……武中君、君は私にこう言ってもらいたいだけなのだろう
…辛かったろうな、武中文雄
何の能力も持たない者達を守るために、一方的に力を行使する存在が現れないようにするために
犠牲に目を瞑って人殺しの道具を作っていくのは
苦しかったろうな、武中文雄
手段を選ばない事を手段に選んでしまい、後悔と自責の日々を送ったのは
だが、お前が手を汚したおかげで、お前の後ろを大勢の人間が手を血に染めずに歩いて行けるようになるだろうよ
お前が踏んだ汚い物を、踏まずに歩いて行けるだろうよ
お前が信じたものはお前の努力に応じて帰ってくる

武中、進め、今お前は確実に、自分の手で「異能」と戦っている
「異能のある無しに関わらず、正しい者が勝つ世界」を作るためにお前は戦っている
サムシンググレート何かにお前は負けない
アイアンジョーカーもライドシステムもきっとお前と一緒に戦ってくれる!
お前は一人じゃない、お前の苦しみをわかってくれる共に戦う仲間もいる
そしてそれは彼等だけでもないだろう

正義は勝つ、お前達が勝たせる

頑張れ、武中、私の教え子」
号泣する武中の肩を抱いて、黒スーツはそう言った
武中は涙を拭いて、男に敬礼する
「ありがとう、早田さん」
「最後まで諦めず、不可能を可能にするんだ、武中」
恩師と教え子、二人が固い握手を交わしたその時
非常事態を告げるサイレンが工場内に鳴り響いた

『ポイントX−22にて学校ジャック発生!警察からハイメタルボーガーに出動要請有!
関係者は直ちに所定の位置についてください!繰り返します…』

完全に涙を消した武中は、早田に深く頭を下げた
「街」の力の前に、巨大な力の影を見たような気がして恐れを抱いてしまった自分を再び奮い立たせてくれた恩師に、深く深く頭を下げた
恩師は、微笑んで頷くと、彼を外へと送り出す


それと同時に、第二の警報が鳴り響いた

28 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2010/12/19(日) 04:50:50 0
市庁舎、前
市庁舎防衛の任務についているメタトルーパーのバルカンから発せられる凄まじい銃声が複数響き渡り
市庁舎目指して前進する刺々しく禍々しい炎の様な外装を持つ紫と緑色のメタリックなパワードスーツを蜂の巣にせんとする
が、弾丸はことごとく怪アーマーの前で静止し、砂の様にバラバラに砕け散ってしまう
怪アーマーは防衛のメタトルーパー隊へ後30m程のところまで迫ると、おもむろに片手をメタトルーパー達の方へ向けてきた
何かさせまいと必死に発砲するメタトルーパー隊だが、弾丸は相変わらず標的に到達する前に消滅してしまう
やがて怪アーマーが腕を一振りすると、怪アーマーの前方の空間が蜃気楼の様にぐにゃりとねじれ、それに触れた弾丸が消滅する
更に蜃気楼の様なゆがみはかなりの速度で一気にメタトルーパー隊を包み、バズーカーでも壊れないメタトルーパーをあっという間に全機完全にバラバラにし
更に蜃気楼はメタトルーパーだった物の場所にとどまり、そのパーツを更に細かく…砂の様になるまで分解した後、消滅した

メタトルーパーを簡単に一蹴した怪アーマーは、おもむろに視線を別方向に移した
「ひっ…」
腰を抜かし、動けなくなっていた運の悪い女性の市庁舎職員が、怪アーマーと視線が合い、思わず悲鳴を上げる
怪アーマーは彼女の方に無慈悲に片手を上げてみせ…
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」

29 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI :2010/12/22(水) 02:13:13 0
和明日は甚く満悦の様子だった。
彼の語った嘘八百の作り話は生徒達に感心を、同情を、或いはどん引きの感情を与えた。
彼はこのまま「薄暗い過去を乗り越えた明朗な青年」を演じ続ける。
そうすればいざテロを起こした時、彼は大いなる裏切りが出来るのだ。
積み上げられた感情に悪意の槌を叩き込み、完膚無きまでに瓦解させる。
高い所から落ちれば痛い。それは心だって同じだ。

(うーん、今から楽しみだなぁ)

秘めた悪意を暴露した時、仮初の同級生達は果たしてどんな顔をするか。
楽しみであり、待ち遠しくもあり、和明日は児童のように、にこにこと笑っていた。

>「――ことほど左様に、」
>「異能犯罪者はとても危険なのです」

しかし彼の表情は、真性の語りが進むに連れて急変する。
眉を潜めて目を細め、口を半開きにして、呆れと訝しみが和明日の表情を支配している。

(って、えー……。まさかもうやらかしちゃうの?まだ教師として何もしてないじゃんかー。
 もっとこう、生徒達が全信頼を寄せてくれるようにしてさぁ。それから裏切るとかしようよ、ねぇ?)

作戦を完全に度外視した愚痴を、和明日は心中で零した。
ともあれ仕方なく、彼に合わせて名乗りをあげるつもりで、彼は机に両手をつく。

>「――こんなh」

真性の声を掻き消して、爆音が響いた。
ガラス片を孕んだ爆風が真性を喰らい、走り去る。
突然の事について行けず、ひとまず和明日は視線を右に滑らせた。
教室の隅に、針山に成り果てた真性が転がっている。
瀕死の魚よろしく口を開閉させているので、どうやらまだ生きているようだ。

「ぐえっ」

と、そうしている内に和明日は背後から机に叩き伏せられてしまった。
机で頬を強打して呻き声を漏らした彼は、むくれた表情を浮かべながら、しかしそのまま大人しくなった。

>《――テロリストだ。我々以外の、完全に無関係の別組織が、この学校を襲撃している》

ごねて我侭を言って借りた無線機から其辺の声が伝わる。
どうやら先の爆発に乗じて、全く別のテロリストが闖入してきたらしい。
真性を目で追っていた和明日は気付くのが遅れたが、既に教室は彼らに制圧されていた。
それどころか生徒達は次々に、縄のような物で拘束され、教室の片隅に追いやられている。
>「よっす、俺達『傾国党』!――まあ見ての通りテロリストだ!お前らよく授業中に妄想したろ?そういうのを叶えに俺達はやってきた!
 ってのは嘘でまあ、お前らを人質に身代金を請求しようと思ってさ!こんだけ入れば一人頭100万でも十分なアガリが出る。名案だろ?」
>「そんでさ!この案のもっとも素晴らしーいところは、これだけ人質いるんだから一人ぐらい見せしめに殺してもOKってとこなんだ。
 誰だって我が子は可愛いんだし、他人の子が一人死ねば本気で金集める気になるだろ?そんでこっちの損害はたったの40分の1!」
>「つーわけで今から一人死んでみそ。だーれーにーしよっかな!」
>「見るからに友達いなさそーな顔してるし、問題あんめえ。ほら、クラスメイトの連中もお前が選ばれてホっとしてるぞー?」

(えぇー。だからさぁ、なんで皆そうやって安易に殺したがるのかなぁ。人命は大切なんだよ?
 もっと大事に使わなくちゃ。例えば交渉が一時間遅れる毎にあの西上君とやらの
 目とか耳とか指を切り落とすとかさぁ。これなら40/40の利益が得られるだろうに、頭悪いなぁ)

拘束され自由を奪われて尚、和明日灯は脳内で愚痴を零していた。
先ほど真性に向けた呆然の表情を浮かべて、たっちゃんの生温い悪を非難する。

30 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI:2010/12/22(水) 02:13:59 0
(あーあつまんない。って言うか真性せんせーは一体全体何を……)

和明日の目線が再び、教室の隅に転がっているだろう真性へと流れる。

>「やめろおおおおおおおおお!!!」

だが直後、叫び声が響いた。
放った雄叫びに追い縋って、真性道程が散弾銃に跳び掛かる。
銃口の向く先が微かに逸れて、同時に銃口が咆哮を上げた。
撃ち出された散弾は西上の頬を掠め、木製の床を抉るのみに留まる。

(……へぇ、いいねいいね。それだよ!裏切るならそうやって如何にも先生っぽい事してからじゃないとね!
 今のは生徒達のポイント高かったんじゃない?これは僕も負けてらんないよ!)

楽しげな笑顔を浮かべ、和明日は出し抜けに立ち上がった。

(引き篭もりだった生徒が新たな先生とクラスメートの為に悪に立ち向かう。
 感涙物だねーこれは。この上で実は僕もテロリストでしたーなんて言ったら、
 きっと皆すっごい失望するだろうなぁ。楽しみだなぁー)

にやけた笑いを浮かべたまま、和明日は一歩踏み出す。
けれども何を血迷ったのか、彼はそこで一旦立ち止まる。

(んー、でも待てよ?ここで敢えて真性せんせーには死んでもらっても良いかもしれないなぁ。
 そしたらきっと彼は生徒達の心の中で美化される。
 その後で実は彼はテロリストだったんだよと明かしたら……面白そうだなぁ)

へらりと笑みを歪曲させて、和明日は弓なりになった双眸で真性を見遣った。

(……っと、いけないいけない。そういや彼らには危害を加えないって約束したっけ。
 まあ殺すのは僕じゃなくてたっちゃんだから、厳密には約束を破る事にはならないけど……。
 友達だし、見殺しにするのは忍びないよね。そういやどんな体現をするか考えてないや。
 ここはしっかり考えとかないと能力発動すら出来ないからなぁ。不便だよまったく。即応性に欠けるって言うの?
 ともあれショボめの能力に見せかけるのがいいよね。その方が後でえげつない事した方が栄えるしさ。
 って言うか真性せんせーがピンチじゃん。あーでも大分のんびり考え込んじゃったし、間に合うかなぁ)

まぁいいや、と和明日は呟く。
そして一度目を瞑り、嫌らしい笑みを瞬く間に霧散させた。
代わりに瞳に陽光の輝きを宿し、気概の炎を燃やす。

「やめろ!僕の先生に手を出すな!僕のクラスメートも、先生も、僕が守ってみせるんだ!もう二度と手放すもんか!」

和明日は高らかに、善意と決意の叫びを上げる。
彼が体現するのは弱々しい、申し訳程度の力ない異能。
非力な者が断固たる意志を以って誰かを守ろうとする姿は、きっと美しい。
だからこそ皆に感動を与えられる。裏切った時、どうしようもない落胆を味わわせられる。

「これでも、くらええええええええええ!!」

金属化させた上腕を振り被って、和明日はたっちゃんへと字面通りの鉄拳を放った。

【和明日の体現したもの→弱っちい異能【四肢の先端金属化】
 たっちゃんに殴りかかったけど間に合わないから、誰か助けてあげてね】

31 :火野赤也 ◇a3GgzP5j4k:2010/12/23(木) 22:30:17 0
「ぬあああああ!わっかんねー!」

火野赤也は頭を抱えていた
彼は今、職員室のデスクでパソコンのディスプレイと睨み合いをしている

「数学のテストなんざ生まれてこの方作った事ねえよ!てゆーかサインコサインの次って何だっけ!?」

疎開で減ったのは生徒だけではない
治安の悪化により犯罪に巻き込まれる事を恐れた教師達も、この都市を離れていった
全員ではないにしてもやはり人員の減少は手痛い
その皺寄せとして彼、火野赤也は体育教師でありながら数学のテストの作成を強いられていた

「体育館が恋しい……。日がな一日延々とシャトルランしていたい……」

郷愁に駆られた視線で、赤也は窓の外に見える体育館を眺めた

「……って、何だありゃ?」

ふと、赤也は窓に何かが張り付いている事に気付いた
虫や葉っぱではない。小さな長方形をしているが、張り紙でもなさそうだ

「んー?」

机から身を乗り出し目を凝らして、赤也はそれが何かを見極めようとする
――直後に、爆発が起きた
轟々しい爆音を伴って、窓が跡形もなく粉砕する
赤也の細めた目のすぐ横を、ガラスの破片が突き抜けていった
彼は知る由もないが、彼が凝視していたのは指向性の付加されたセムテックス爆弾。コンクリートの壁さえ粉砕出来る爆薬だった

「う、うおぉ!?なんだあ!?」

一拍遅れて、赤也は反射的に机の下に飛び込んだ
僅かに遅れて、先程よりも大分小さな、しかし鋭い破裂音が響く
赤也の背後に佇む資料棚が破壊音の悲鳴を上げて、血の代わりに白いプリントを撒き散らす
一体何がどうなっているのか。ほんの少しだけ、赤也は机から顔を覗かせた
風通しのとても良くなった窓から男が何人も入り込んでいる
赤也が映画でしか見た事のない銃を携えて我鳴る不審者達は
自らをテロリスト、「傾国党」と名乗った
そして再び、痛烈な発砲音が鳴り始める

「おいおいマジかよ!つーか銃怖えなクソ……って、あー!俺の作りかけのテスト消し飛んでじゃねえか!」

怒声と悲鳴の中間の叫び声を上げながらも、彼は周囲の状況を確認する
教師達は皆、机の下で頭を庇うように蹲って震えていた
何やら復学したいとここを訪れていた青年も、無事そうだ
赤也は安堵の溜息を零し――だが不意に、一際大きな発砲音が聞こえた
ただ大きいのではない。近いのだ
まさか机を乗り越えて撃ちに来たのかと、赤也は弾かれたように音の聞こえた方へと振り向く

32 :火野赤也 ◇a3GgzP5j4k:2010/12/23(木) 22:31:21 0
「……うそぉん!其辺先生銃持ってるし!?」

其辺はリボルバー式の拳銃でテロリスト達に応戦していた
拳銃、日本国内で一般人が所持し、あまつさえ使用する事は確実な違法行為だ
なのだが――

「あれはアレか?最近の不審者対応用って奴か?やっべいつ配られた!?まったく覚えてねえ!」

赤也は最近著しい治安の悪化によって配られた物なのだと、勝手に納得していた
何と言っても、彼は馬鹿なのだ
教員試験の為に必死こいて受験勉強をして、それでも落ちる一歩手前だったくらいには馬鹿だ

「どうすっかなぁ、この状況。俺、銃とか持ってねーしなぁ」

ともあれ赤也は馬鹿なりに、馬鹿な頭で現状打破の術を考える
だが考えても考えても、これだと言う名案は浮かんでこない
当たり前だ。何と言っても彼は馬鹿なのだから、浮かぶ訳がない

「……まぁ、やるしかねえ!そもそも銃なんか持ってても撃てねーし!」

そして赤也は馬鹿であるが故に、何かを思い付いたらそこで思考を放棄してしまうのだ
彼は思い切った行動に出た。射撃音の間隙を縫って立ち上がり、机を飛び越える

「うりゃあああああああああ!!」

そして着地の慣性を乗せて、そのまま木材の床に拳を振り下ろした
瞬間、打撃音と共に茶色の粉塵が舞い上がる
粉塵は瞬く間に拡散して、赤也の身体を覆い隠した
テロリスト達は一瞬驚愕する。だが粉塵の幕の範囲は大して広くない
我武者羅にでも撃てば当たると再び銃を構え、

「撃つなよ!粉塵爆発で吹っ飛ぶからな!」

咄嗟に投げかけられた声に、再度躊躇を抱いてしまった
ほぼ同時、粉塵の半球が破ける
纏わり付く粉で跳躍の軌跡を描いて、赤也が飛び出していた
向かいの机に足をかけ、彼は拳を固めてテロリストに跳びかかる
切迫の表情と共に、慌ててテロリストの一人が彼に銃を向けた

33 :火野赤也 ◇a3GgzP5j4k:2010/12/23(木) 22:33:08 0
「んな訳ねーだろバーカ!いや実はちょっと不安だったけど!
 俺化学の成績十段階で二だったし!まあ結果オーライ!」

だが遅い。引き金が引かれるよりも先に、赤也が右拳を振り下ろす
堅固な拳骨は彼に向けられた銃身を捉え――派手な破壊音と共に全壊した

これが彼の異能――【粉砕】(ブレイク)だ
至って単純な、『打撃を加えた物を粉砕する』だけの能力
彼が始めに繰り出した煙幕は、床の木材を粉砕して舞い上げたと言う訳だ

「そしてぇえええええ!喰らいやがれッ!!」

続けざまに赤也は吼える
銃を粉砕し着地すると同時に足首を、膝を、腰を捻じり、左拳を下から上へ振り抜いた
固い拳は過たずテロリストの顎を捉える
そしてそのまま粉々に――はしなかった
テロリストは両足が床から離れ、そのまま後ろへと吹っ飛んで倒れ込む
それだけだった

「どうだ痛ってえだろ!撃たれたらもっと痛えんだぞ!いや俺撃たれた事ねーけど多分!」

赤也の【粉砕】はとても単純な能力だ
故に馬鹿な彼にでも程度の調節は容易い
全力で打ち込めば粉微塵にしてしまう事も出来、
逆に程度を抑えれば『粉砕』ではなく『破壊』
また『破壊』にすら至らない程度のダメージを与える事も出来る

「ともあれよぉー!何でこんな真似したのか、とっちめて生徒指導室で洗い浚い吐かせてやらあ!
 ついでに反省文も400字詰めで十枚は書かせてやるから覚悟しやがれ!」

【床の木材を粉塵にして目眩ましに、その隙にテロリストの懐へ
 赤也はまだ彼らが生徒達を人質に取ったり、身代金目的だって事は知りません】

34 :伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY :2010/12/25(土) 21:37:52 0
真性先生による異能のお勉強の時間、伊達一樹は机に突っ伏して眠っていた。
と言うのもつい数分前、縁間の問い掛けに困窮した真性先生がまさかの涙を零した。
その間抜けさたるや伊達にはとても付いて行けず、気の緩んだ彼は呆れの溜息と共に机に頭を預けたのだった。

瞼を閉ざした暗闇の中、真性先生の声も段々と薄れ、遠ざかっていく。
だが唐突に、けたたましい爆音が伊達の鼓膜を乱暴に殴り付けた。
不意の出来事に、伊達は慌て身を起こす。
暫く光を拒んでいた視界は僅かに白んでいた。
それでも跡形もなく吹き飛んだ窓は日常から逸脱した異彩を放っていて、否が応でも目に映った。
一体何が起きたのか。しかし伊達の思考が十分な回転を得る前に、

「ぐっ……!?」

突然、彼の身体が上から押さえ付けられた。
驚愕に支配されていた彼は突然の圧力に逆らえず、顎を机で強打する。
頭が物理的な意味で上がらない。
何とか横目で見る事の出来る教室の前方では、教壇の位置に真性先生ではなく散弾銃を持った黒尽くめの男が立っていた。
真性先生の姿は、制圧され制限された伊達の視界では、認める事が出来なかった。

>「よっす、俺達『傾国党』!――まあ見ての通りテロリストだ!お前らよく授業中に妄想したろ?そういうのを叶えに俺達はやってきた!
 ってのは嘘でまあ、お前らを人質に身代金を請求しようと思ってさ!こんだけ入れば一人頭100万でも十分なアガリが出る。名案だろ?」

男は自らを『傾国党』――テロリストと名乗った。
彼らは伊達を含む生徒達を鮮やか極まる手際で拘束し、教室の片隅へと追い遣った。
そして身代金の収集を潤滑に行うべく、今から生徒の中から一人見せしめを作ると言い出す。
選ばれたのは、西上十三。定期的に学校を休む、誰とも喋らない、何となく陰気な雰囲気を臭わせる男だ。
為されるがままに、思考の纏まらず伊達が呆然としている内に、事は粛々と進んでいった。
たっちゃんと呼ばれていた男が、西上に片手持ちの散弾銃を突き付ける。
引き金に、指が掛けられた。

>「やめろおおおおおおおおお!!!」

銃声の代わりに響いたのは、決死の叫び声。
視界の外から血塗れになった真性先生が、血飛沫の道を残して散弾銃に跳び付いていた。
それを契機にして、伊達の思考はようやく現実に追い付く。
遅れを取っていた分だけ、加速して。

その急加速した思考で、伊達一樹は考える。

――自分は正義のヒーローがしたい訳じゃない。
単に自分に親しい人、自分が知っている人、自分の世界を守りたいだけだ。
だが、だとしたら――西田十三は果たして『自分の世界』に含まれるのだろうか。
クラスメートとは言え引き篭もりで、学校は休みがち、陰鬱な雰囲気のする男だ。
言葉を交わした回数など、数える程どころか覚えてすらいない。
それでも、クラスメートだ。

真性先生はどうだろうか。
ほんの数十分前にこの教室にやってくるまで、彼は赤の他人だった。
そして数週間か、或いは数ヶ月もすれば居なくなって、偶然でも起こらない限りは二度と会う事もない。
けれども彼は西田十三を、自分の受け持った生徒を確かに守った。
命を懸けて。

彼らは自分が守りたいと思っている親しい人、知人に当たるのだろうか。
違うのだとしたら、そこには一体どんな線引きがあるのか。

考えれば考えるほど、そこにある筈の境界線は磨耗して、曖昧になっていく。
手の平に収まると思っていた彼の世界は際限なく、宛ら宇宙のように膨張していった。

35 :伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY :2010/12/25(土) 21:38:58 0
(……それでも、それでも僕はこの状況下で、ヒーローとして名乗り出るような真似は出来ない。絶対にだ)

正体がバレてしまえば、自分ではなく自分の周りの人達に危険が及ぶ。
脅迫、人質、逆恨み、理不尽な悪意の矛先が、母や友人へと向けられる。
それだけは絶対に避けなければならない事だった。
守りたい人達を、自分の行動の為に危険に晒しては本末転倒だ。

>「やめろ!僕の先生に手を出すな!僕のクラスメートも、先生も、僕が守ってみせるんだ!もう二度と手放すもんか!」

故に伊達一樹は決して、この状況で前に踊り出て、テロリスト達に挑んでいくような真似は出来ない。
和明日のようには、出来ない。

(だけど……だからと言って、西上や真性先生を見捨てていい訳じゃない。いや……見捨てたくない。
 彼らは僕にとって親しい人でも、知人でもないかもしれないけど。それでも、目の前で人が死ぬのは、見たくない)

結局、伊達は自分の世界に線引きする事が出来なかった。
代わりに目の前で人が死のうとしていると言う事実に目を向ける。
現実から逃避するのではなく、彼は現実に逃避した。

(決して正体は明かさない。クラスメートと先生を守る。僕は……どっちも成し遂げてみせる)

決して止まる事無く切迫する現実に追われていれば、考える事を放棄出来るから。
そして彼は真性先生に突き付けられた散弾銃に、金属性の細い細い糸を飛ばす。
それを銃身に絡めて引く事で狙いを逸らすつもりなのだ。
その後で能力を解除すれば、残る物は証拠の代わりに違和感のみとなる。


【正体は明かさない。その上で皆を守ると決意。散弾銃の銃身を細い糸で逸らす。
 時に素人英雄さん。今回のレスの通り、伊達は悪党の逆恨みとかで自分の家族や友人が危険に晒される事を忌避しています
 だから正体は絶対に明かしませんし、ヒーローも伊達名義でやっちゃいません。なので伊達について調べて学校に来た
 ってのは無かった事にしてください。素人にとんでもねー情報収集能力があるってなら話は別ですけど】


36 :素人英雄 ◆SUyfUBQmw2s3 :2010/12/25(土) 21:55:02 0
【伊達くん、分かったよ。任せて】

37 :素人英雄 ◆SUyfUBQmw2s3 :2010/12/25(土) 22:04:27 0
「な、何よあんたっ!?ぎゃわー!痛い、痛いわ!!」

「トメ子さん、だ、誰か助けてぇー!!」

おばさん達が襲われている。
なんかテロリストみたいな人達が学校を占拠しているらしい。
傾国党、って言ってる。見るからにクズのような男がライフルを手に
こっちへ近付いてきた。やだなぁ、僕。ただのバイトで来ただけなのに。

「おいそこのおかっぱ頭、てめぇ何見てんだ?こっち来いこら」

ヘラヘラ笑ってる。こんなクズにも彼女みたいなのがいて
毎日楽しく話してるなんて考えると本当に許せない。
こいつは悪党だから、どうせそんな奴を好きになる女なんてゴミに決まってる。

「僕は、無関係だから。邪魔しないでくれるかな。
まだ仕込み終わってないし。」

男の腹に氷柱が突き刺さる。悲鳴を上げる隙さえ与えずその氷は
男の全身を氷漬けにした。
そのまま天井まで持ち上げられたゴミは、厨房のオブジェになった。

「僕はゴミクズだけど、英雄になろうと思うんだ。
君達ただのゴミと一緒にしないで欲しいな。」

迫ってくるテロリストに僕は、少しだけ興奮していた。

38 :太田空 ◇maQY4WLalU:2010/12/27(月) 21:18:04 0
>「……って、何だありゃ?」

復学についての資料に目を通している最中、不意に聞こえた疑問の声に太田は思わずそちらを向いた。
人の疎らになった職員室では、調子外れな疑問の声はとても大きく聞こえた。
振り向いた先には職員室だと言うのに赤いジャージを来た教師が、窓の方を眺めている。
釣られて太田も、窓へと視線を滑らせた。
見てみれば何か小さな長方形の物が、窓に張り付いている。
一体何なのか、太田は更にそれを凝視する。
ベージュを更に白で薄めた色合いの、粘土のような――

「――っ、まさか……!?」

長方形の正体を思考する途中、太田の意識は最悪の予想に達する。
まずあり得ない。学校の窓に、まさか『そんな物』が貼り付けられているだなんて。
それでも、太田は必死の形相で頭を抱えて床に伏せていた。
直後に、爆音が響き渡る。
爆風でデスクの上の物が散乱する音が、疎らな悲鳴が、太田の視界の外から聞こえてくる。
窓に付着していたのはセムテックス爆薬、またはC4爆弾と呼ばれる物だった。
太田が事前に伏せる事が出来たのは、彼のオタク趣味が故だ。

「な……なんであんな物が学校に……!一体、誰が……!?」

引き攣った声色で零れた疑問は、答えは直後に得られた。
相変わらず床に蹲って震えている太田の視野の外から、乱暴な声が聞こえる。
ガラスと瓦礫を踏み散らかす音と共に『傾国党』が名乗りを上げた。
間隙を置かず、乾いた発砲音が幾つも響く。

「ひぃ、ひぃぃ……!」

来客用のソファの下で頭を抱えて、太田は惨めに臆病に震えていた。
何とかしなければと、立派なヒーローになるんだろうと、考えはするが、足が竦んで身体が震えて動けない。
C4爆薬はコンクリートの壁だって容易く粉砕する。
そんな物を持っている相手に挑んで、もしも失敗してしまったら。
ただでさえここには粘土に出来る物が床の木材程度しか無いと言うのに。
木材では例え装甲を作って身に纏っても、銃弾さえ防げるか怪しい。
或いは材質が木であっても分厚く作れば問題なく銃弾を防げるかもしれない。
だがそこに『死』の可能性がある時点で、最早太田は完全に萎縮してしまっていた。
床に這いつくばって、目を閉ざして、彼は仮初の暗闇に閉じ篭る。
それでも音ばかりは、防ぎようがない。
どれだけ強く耳を塞いでも、悍ましい銃声と悲鳴は手の平をすり抜けて、彼の耳孔に潜り込む。

39 :太田空 ◇maQY4WLalU:2010/12/27(月) 21:19:08 0
>「うりゃあああああああああ!!」

突如として響いた、爆炎のような大声も。
悲鳴でも悪辣な笑い声でもない声に、思わず太田は顔を上げた。
直後に目に映ったのは、身を隠してくれるデスクの陰から飛び出す、赤ジャージの男。
男は固く握った拳を床に叩き付ける。瞬間、茶色の粉塵が舞い上がった。
粉塵に身を隠して、男はテロリスト達の懐深くにまで飛び込む。
銃を恐れる事もなく、テロリストの一人を殴り倒した。
更には全員をとっちめてやるとまで叫び出す。
男の行為はどうしようもなく蛮勇だった。

それでも、ヒーローになるなどと言っておきながら、怯え竦んで身を隠している太田よりは遥かに立派だった。

「僕は……何をやってるんだ……っ!」

こんな事でいいのか。良い筈がない。太田空は自問自答する。
恐怖に震える右手で、何とか彼は床を掴んだ。
異能を発動して、木材を粘土状に変化させる。
震えが止まらないままの手付きで、彼は粘土を造形する。
何とか自分が撃たれないように。それでも皆を守り、テロリストを倒せるように。
本来ならば彼は立ち上がり、表立って、身を挺してテロリストの注意を引くべきだった。
それがヒーローらしい、最良の行動と言う物だ。だが彼には出来なかった。
それでも何とかヒーローになりたくて、誰かを守りたくて、そしてヒーローになろうとしている自分を守りたくて、彼はなけなしの勇気を振り絞る。

「念動細工……『遠隔戦車』《モダンウォーフェア》」

彼は木材を捏ねて造形した戦車を、ガラス製のテーブルを鏡面代わりにして操作した。
そしてテロリストに向けて砲弾を発射する。
砲弾は木製だが粘土化させてある。着弾すればテロリストに付着して、自由を奪う事だろう。

40 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E:2010/12/31(金) 03:24:21 O
驚いた。まさか真性先生が泣いてしまわれるとは夢にも思わなかった。
どうやら私は先生の悲しみの傷跡に触れてしまったらしい。
無自覚のまま、不躾な言葉で。酷い事をしてしまった。
大の大人が涙を堪え切れない程だ。きっと、とても重苦しい何かがあったに違いない。
だと言うのに私は……。
深く頭を下げて詫びをしようとした所で、隣の席の女子が私を制した。
曰く「もういいから。ほっといてあげた方がいいよ」らしい。周囲の何人かも深く頷いて賛同の意を示す。
確かにそうかもしれない。今はこれ以上何を言っても、傷口を抉るだけになってしまうだろう。
なので私は、いずれ機を改めて謝る事にした。

ともあれ授業が始まった。内容は近代から現代に掛けての異能について。
異能者である私としては、おさらいに近い授業だった。
異能は精神の具現と言われる。
ならば私の異能《ワードワールド》は、私のどんな心根を表現しているのだろうか。
真性先生の声が僅かに遠のいて、私は思索の海に意識を揺蕩わせる。
私が異能に目覚めた時の事は、良く覚えている。忘れもしない、あの日の出来事だ。
だがあの時私は何を思って、この異能に目覚めたのか。それを私は明確に理解していない。
自分の事でありながら、私は私の心を理解出来ていないのだ。
それはつまり、自分を御し切れないと言う事に繋がる。
いい機会だ。これを機に、自分を見つめ直すのも悪くない。
つい漫然と過ごしがちになる日々の中で、自分が一体何を望んでいるのかを。

けれどもそれは叶わなかった。
突然の爆音、壁が砕け散り瓦礫とガラスが床に散らばり、真性先生が視界から消える。
テロリストを名乗る集団が教室に押し入ってきた。
不意を突かれた事と奴らの勢いが相まって、私は何も出来ぬまま拘束され、クラスメートと共に教室の片隅へと追い遣られてしまった。
雑木林の様相で並ぶ机と椅子の足の向こうに、真性先生が転がっている。
微かな鉄の臭いが鼻腔を刺す。血の気が引いた。意識が眩み、心の臓が氷の模造品に挿げ替えられた錯覚さえ覚える。
冷たい血液を全身に送り出す心臓が喧しく、馬群の足音を奏でている。

41 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E:2010/12/31(金) 03:25:39 O
違うだろう、縁間沙羅。お前が今すべき事は呆然に因われる事じゃない。
お前の異能なら死の淵にいるかもしれない真性先生の手を掴む事が出来る。
見せしめと引き摺り出された西上先輩だって守れる。
教室を占拠している犯罪者共を床に縫い付ける事だって出来る。
なのに何故お前は驚愕に、呆然に溺れている。
考えろ。口を動かせ。頭を動かせ。何よりもまず捩じ伏せるべきは私自身の弱い心だ!

>「やめろおおおおおおおおお!!!」

「っ……!」

教室に反響した決死の叫び声が、私の意識を泥濘から即座に引き上げる。
声の主は、真性先生。彼は生きていた。
それどころか血塗れになりながらも勇猛果敢に犯罪者へ飛び掛かり、西上君を救ってさえみせた。
だが今度は先生が、銃口の先に捉えられてしまう。

>「やめろ!僕の先生に手を出すな!僕のクラスメートも、先生も、僕が守ってみせるんだ!もう二度と手放すもんか!」

再び、気概に満ちた声が響く。
真性先生を追うように立ち上がったのは、和明日君だった。
拘束を断ち切った彼の両腕は、先端部が金属の光沢を放っている。
彼も異能者だったのか。しかし、そんな異能で奴ら犯罪者共に立ち向かうのは自殺行為だ。
もしも金属化出来ていない胸や腹を撃たれてしまったら、死んでしまう。
それに流れ弾や脅しの弾丸が誰かに当たってしまったら、どうすると言うのだ。
しかし今、彼の無謀と非を心中で責めても仕方がない。
私が今すべきなのは、テロリストを屈服させる事ではない。
最も優先すべきは、真性先生を、和明日君を、皆を傷付けさせない事だ。

『差し込む陽光は加護の証。鎧となり、壁となり、門となり、悪しき殺意を塞き止めよ』

小さく小さく、私は呟いた。
だが見ていろ犯罪者共。皆の安全が確保されたのなら、
私がすべきは今度こそお前達を叩き伏せる事になるのだから。

【味方グループに防御力アップの魔法、みたいな感じです。光だし不可視って事にしといて下さい】

42 :西上十三 ◇IS/PfMJV/Q :2011/01/06(木) 21:41:22 0
結局、彼女が公の場でそのことに触れた時点で結果は決まっていたのかも知れない。
壇上で涙を流す真性さんを見ながら僕はそう思った。
しかし、大の大人が泣いたんだ。彼女も何が悪かったのか…気づいていないのですか?
何が悪かったのか理解していなさそうな縁間の表情を見て、僕は戦慄を感じた。
再度、思考する。原因を教えるべきか否か…教える?ありえんwww
そんなセクハラまがいな真似をしてみろ?普通にキモがられるだろうが
しかし、教えなければ彼女はまた暴走するんじゃないか?そんな不安が過ぎる。
大丈夫!多分、その辺のことにちょっと詳しい女友達が親切に教えてくれるさ、きっと

とそんなことを考えていると、なんとか立ち直った真性さんが授業を始める。

授業の内容というより掴みの話題は「現代の異能とその社会的立場」についてだった。
異能者の社会的な扱いとその影響力、危険性について話すが、そんな厨二チックなスキルを持たない僕には
どーでもいい話にしか聞こえなかったりした。

そんな風にボーっとしていた次の瞬間、弾けるように窓ガラスが割れ
間もなく特殊部隊っぽい奴らが乗り込む、教室を制圧する。
気がつけば、僕らは拘束され、教室の隅に集められていた。
まるでアクション映画のオープニングだ。
お客様の中にやたらと口が悪い刑事か元軍人の料理人はいませんか?
関係者でもかまいませんと冗談を言っている場合じゃない。
というか、よくこんなときにそんなくだらない事を考えるものだ。

テロリスト雄弁に自分らの自己紹介と目的を話し…殺す?
え…こういうのって生意気な口達者で出しゃばりな奴が殺されるのがお約束じゃないの?
やめろよ!そんな適当な選び方なんてするなよ!!!それじゃ…それじゃ僕が

>「見るからに友達いなさそーな顔してるし、問題あんめえ。ほら、クラスメイトの連中もお前が選ばれてホっとしてるぞー?」
頭が真っ白になった。
さっきまでの僕ならそんな理由で選んぶんじゃねぇーよDQNが!!!と心の中で絶叫していただろうが
実際にここまで乱雑な死刑宣告でも、乱雑だからこそ、精神的にキているのかもしれない。
力が入らない。まるである漫画の1シーンのように世界が歪む。
どうしようもない脱力感と立ち上がる気力さえもなくなるほどの絶望感が圧し掛かる。
気がつけば、僕の目の前にはショットガンの銃口がある。
「夢だ…これは、悪い夢なんだ…」
涙を流し、うわ言のようにそう呟く、夢なんかじゃない。これは現実
ここまで来て、正気を失わない自分に嫌気がさす。いっそ狂えたならまだ楽に死ねれるのに
引き金に掛かる指に力が入っていくのが分かる。
さぁ死ぬぞ。脳漿を思い切りぶちまけ、こんなクズに人生を否定されるぞ

>「やめろおおおおおおおおお!!!」
真性さんの決死の行動により、頭を貫くはずの銃弾は僕のほほを掠り、床へのめり込んだ。
しかし、僕はそれを認識できるような状況じゃなかった。
極限の精神状態の中で、耳元で大音量の炸裂音を聞かされたせいで、ちょっとした放心状態になってしまった。

43 :日沼 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/01/07(金) 04:59:46 0
「悪いな早速仕事だ
ちょっと教務室を制圧している連中がてこずっている
お前が行ってどうにかしてきてくれないか?」

パソコンが置かれ、数名のテロリストがたむろする廊下
傾国党が「指揮所」としたその廊下で
他のテロリスト達から距離をとって…いや取られてぽつんと一人、離れた所にじっと立っている男に、テロリストの輪の中から声がかかった
声をかけられた男は、不気味なオーラを纏い、死んだ目をした改造人間、日沼
声をかけたのは、にこにこと優しげな笑みを浮かべる「リーダー」
他のテロリスト…生身に近い異能者達は日沼に声がかかっただけでびくりと反応し、表情が若干変わる程にこの男を恐れているのに対し
この「リーダー」は全く日沼に対し恐れている様子は無い

「…了解」

ぼそりと日沼は返答すると、片手を上に挙げた
すると、どこからとも無くぬるぬると粘液質な巨大な生き物が現れ、日沼の後ろに付き従う
「出た…」
テロリストの一人が、思わず恐怖を含んだ声でぼそりと呟いた


教務室のドアを押しつぶし、巨大な粘液質の怪物、「クニクライ」が教務室内に侵入する
クニクライはドアのすぐ近くに立っていた女性教員に素早く触手を口から放ち、まるでカメレオンが蝿を捕食するようにあっという間に彼女を口の中に引き込んだ
テロリストが火野によって倒され、今やっと混乱から立ち直ろうとしていた彼女は、状況を理解する間も無くクニクライの歯に噛み砕かれ、悲鳴も上げられずに捕食されてしまった
更にクニクライは教務室の入口を完全に塞ぎ、逃げ場の無くなった教員達に次々と触手を伸ばし、捕らえていく

日沼は、そのすぐ後ろの廊下でただじっと、もう一つの出口、教務室から続いている校長室の出入り口目掛けて手にしたマシンガンを構えていた
歩兵の持つどんな武器を用いても、クニクライが倒される事は無い
ならば、特にクニクライに命令を下す必要など、日沼には無いからだ
何故なら、クニクライには既に「攻撃してはいけない味方」をインプットしてある、「制圧しろ」といわれたのだから、別名が無ければ勝手に「攻撃してはいけない味方以外の生物」を根こそぎ食い尽くすクニクライに任せておけば、自動的に制圧は終わる

44 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/01/07(金) 06:36:11 0
>「やめろ!僕の先生に手を出すな!僕のクラスメートも、先生も、僕が守ってみせるんだ!もう二度と手放すもんか!」

ええー、お前かよ……。
たっちゃんによって死の淵に追い立てられた俺を救いに来たのは、よりにもよって和明日だった。
しかも前回あれだけ無双しといて、今出してるのは申し訳程度のしょっぼい異能。
体の一部の金属化という、非常に使いどころのニッチな能力で、たっちゃん以下テロリスト各位に殴りかかる。

>「これでも、くらええええええええええ!!」

すげえ良い顔。お前誰だよ。
わかってやってるのか和明日の奇襲はやっぱり駄目で、他のテロリストに阻まれる。
たっちゃんはガン無視で俺に向けたショットガンの引き金を引いた。
腹の中身をまるごと抉り出されるかと思うほどの銃声。放たれた弾丸は、だけれど俺の顔面を蜂の巣に変えることはなかった。

「あーりゃっりゃ。弾ブレた?さっきしがみつかれたので銃身曲がったんかな。命拾いしたねーセンセ!」

たっちゃんは無表情でそう言いながら、言葉尻に力を入れてショットガンで俺を殴った。
顔面を鉄の銃身でぶっとばされた俺はたまらず床を転がり、痛みで涙が出るのをこらえる。
ちくしょう、なんで俺こんな目に遭ってんだろう。こいつら一体なんなんだ。いやテロリストってのは分かってるけど。

さて俺とたっちゃんが二人の世界を破局した頃、果敢にもテロリストにケンカ売った和明日はボコられていた。

「なんだこいつ、腕がメタルになるだけかよ!」
「しょっぺー!そんなんで俺たちとやり合おうとしてたの?超ウケるんですけど。チョベリバって感じー」
「さよなら三角またきて四角ーってなあ〜!」

もうこっちがドン引きするぐらいフルボッコだった。なのに、殴られてる和明日には傷ひとつついてない。
びっくりするほど無傷だった。目を凝らせば、和明日は殴られてるちゃあ殴られてるんだけど拳が深く入ってなかった。
どういうことかって言うと、なんかこう、透明の全身タイツを着込んでいて、それが決定打を阻害してる感じ。
ポケモンで言うならリフレクターだ。そういえば俺も、おもいっきり殴られたわりにそんなに痛みが後引かない。

さっきの不自然な銃の逸れ方と言い、もしかして生徒の中で和明日みたいに異能を持ってる子がまだいるのか?
そんで秘密裏に、俺たちを護ってくれてる?
……だとしたら、こんなに嬉しいことはない。ようやく教師と生徒という信頼関係の、スタート地点に立てた気分だ。
この教室のどこかに、俺を気にかけてくれる生徒がいる。それだけで、――『センセイ』やるには十分だ。

この教室を占拠しているテロリストの頭目は目下のところたっちゃん一人。
あとはたっちゃんの取り巻きばっかで、頭目の指示に従ってこいつらは動いている。
ってことはすなわちたっちゃんさえどうにかできれば、この教室の制圧権を奪取すること自体は容易い!

45 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/01/07(金) 06:36:53 0
「センセ、余計なこと考えるなよー?この40人のうち誰か一人を人質として狙い定めてある。
 ババなしババ抜きじゃないけどさあ、こういうの緊迫感あるだろ?だって誰が狙われてるのかわかんないんだもんなぁぁぁ!」

くっそう、たっちゃんテンション上がってる。今にも二三人ぶち殺しそうな雰囲気だ。
どうしよう。身体強化されてる俺は撃たれても死にはしないが、流れ弾が怖い。生徒達は生身だ。
ちょっと会話を試みる。

「……人質交換しようぜたっちゃん。俺が人質になるから生徒達には手を出さないでくれよ」
「んー?いやいや、センセを人質にとってどうすんの。生徒の命が危ういからこそ身代金に価値が出るんだっつの」
「お、俺の親は金持ちなんだぞ!4000万くらいポンと出してくれるもんね!」
「当人の与り知らないところでそんな安請け合いしてさあ、親に申し訳ないと思わないのセンセ?4000万てアンタの金じゃないのよ?」
「…………ううっ」

説教された!テロリストに説教された!どうしよう死のうかな!?
あとごめん嘘言った。別に親金持ちでもなんでもねーや。わたくしごく一般的な中流家庭の生まれでしてよ。
いよいよ情けなくなってきた。ふがいねえ、この教室での被害者サイドでは唯一の大人なのに。泣けてくるね。

「……なんでアンタが泣いてんの?センセー」

ていうか泣いた。男泣きに泣いた。
感動的なシーンだと自負していたけど、たっちゃんの反応はあからさまにドン引きだった。

「しかしあの鋼鉄君みたいに、このクラスにもちらほら異能者がいるみたいだねえ。
 そこで俺っちがいいこと思いついちゃった。ヘイ高島カモン」

高島と呼ばれた背の高い陰気な男がたっちゃんの傍へと招かれた。

「俺たちもさあ、同じ異能者をいじめたくはないんだよね。だってある意味俺たち選民じゃん?異能者だぜ。パンピーとは違うべきだ。
 そ・こ・で!このクラスの中に居る異能者諸君にチャンスをあげたいと思いまっす。
 この高島は念動力の応用で気流を制御できる、言ってみれば風を操る異能者だ。能力バトルでこいつを負かしたらこっから逃したげる」

何人でもいいからかかって来なさい。たっちゃんはそう補足して言葉を締めくくった。
俺は開いた口が塞がらなかった。いきなり意味不明なこと言われて面食らったわけじゃない。
むしろ俺はたっちゃんの意図を把握していた。これは罠だ。絶望的な状況でわざと希望をちらつかせて。
万が一にでも抵抗の可能性のある異能者を釣り上げ叩き潰す為の、餌に過ぎない。
だけれど俺には生徒の中に潜む異能者へ忠告することはできなかった。『下手な動きを見せれば人質を殺す』。これテロの鉄則。
誰かは知らないけど和明日じゃない方の異能者君。頼むから黙っててくれよ……!


【テロリストからのお知らせ:異能者出てこいよ能力バトルしようぜ!】
【職員室パートも近日書きます】

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