伊集院静が教える男の人生流儀(2)政治家は辛酸を経ていない

──いくつもの印象的だった事柄もあると思うのですが‥‥。

伊集院 知人の娘さんは、タンクローリーに乗っていたところに、震災にあわれました。その直後に津波が押し寄せてきて、視界に波が見えたところで車を降りてしまい、そのまま波にのまれてしまった。でも、もしそこで降りないでいたら、タンクローリーの中身は空だったから浮いて助かったと言うんです。そんな生死の分かれ目が、今回の震災では無数にあった。

 あと印象的だった話が、津波の被害を受けた地区におばあちゃんの介護をしているお母さんと娘さんがいたんだ。それで震災の時に津波が来るとわかって「逃げなさい!」って言われたんだけど、おばあちゃんを運ぶ余裕や力はない。お母さんは、「私は主人のお母さんを見放せません」と首を横に振ったと言うんです。ところが、そうすると娘さんも「私もここにいる」と言って、そのまま残って亡くなってしまったんだよ。でも、生き残った父親は「娘はあれでよかったのかもしれない」と言うんです。

──それはどうして?

伊集院 おばあちゃんと母親を残して自分だけが逃げて、それで生きたとして彼女の生涯がキチンと全うできるかというと、何とも言えない。ずっとおばあちゃんとお母さんのことが引っ掛かり続けるだろう。「だからあれでよかったと思う」と父親は言うんです。その心境は私にはわからないけど、被災地を回って、いろんな話を聞いていくとそういうことは本当にたくさんあるんです。そこには人間のテーマがある。

──正解がないだけに、永遠のテーマですね‥‥。

伊集院 あと、父か母かどっちかの親を亡くした子は1400人いるんです。両親を亡くした子は200人以上いる(内閣府資料より)。でもその子たちは、学校行く時に笑って通学しているんです。でもそれは、笑っているんじゃない。悲しみを抱えたまま笑ってるんです。そこをちゃんと大人たちがすくって見られるかっていうことが大事。

 野田総理が被災地に行った時に、そうしたことまで想定して被災者への配慮を考えることができたか? 今、政治家にいちばん欠けている能力は、自分が見聞きしたものから人間の置かれた立場を理解できるかという能力。そこがわかってないから、震災での復興に向けての具体策をすぐに打ち出せない。

──目の前の事実から、「その奥の光景まで想像できるか?」ということでしょうか。

伊集院 もっと具体的に言うと、子供たちは震災が起きる日まで、毎朝、親に怒られてきたわけだよ。

「顔洗いなさいって言ってるでしょ」

 そこで手なりお尻なりを叩くわけです。

「いつまでも寝ぼけてちゃダメだから」

 その前日まで怒ってくれた人が突然いなくなるわけだよ。怒られてた朝まではすごくイヤなわけだけど、それがいなくなったっていう空白、虚無というのは例えようがない。

──日常が震災以前と以後でまったく変わってしまった、ということですね。

伊集院 子供たちの今の心の空洞はそういうこともあると思います。そういう話を総理一人がすれば、もっと行動する人が出てくるはずです。でも、そういうことが言えない。それはなぜかというと、辛酸を彼らが経験していないから。

 自分自身がツラい目にあってない人にリーダーの資格はない。若いうちにツラい目にあってないとどうしようもないんだね。若いうちに人にバカにされたり、「何で俺だけがこういうふうなんだろう」という経験をしていれば、「たぶんアイツはツラいはずだ」とか、「国民はこの部分がツラいはずだ」ってことがわかるはずなんだけど、ダメだよね。そんなヤツがいないんだから。いるのは母親が月に1500万円もお小遣いくれる鳩山とかじゃね(笑)。

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