日銀総裁に黒田ADB総裁、政府が起用固める:識者はこうみる

2013年 02月 25日 11:36 JST
 
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[東京 25日 ロイター] 政府は3月19日に退任する日銀の白川方明総裁の後任に、黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁を起用する方針を固めた。複数の関係筋が明らかにした。

安倍政権が掲げる大胆な金融緩和を進めるには、緩和に積極的で、元財務官として市場を熟知し、世界の金融界に人脈を持つ黒田氏が適任と判断した。政府は同じく3月19日に任期切れを迎える2人の副総裁の後任と合わせ、週内に人事案を国会に提示する方針。副総裁には学者と日銀から起用する方向で調整している。

市場関係者のコメントは以下の通り。

●黒田氏起用、実務経験ない点が課題

<SMBC日興証券 債券ストラテジスト 岩下真理氏>

安倍晋三首相が自分の考えに近い国際派として、黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁を次の日銀総裁に起用する方針を固めたと受け止めている。後任の日銀正副総裁人事で財務省、日銀、学者とバランスを取った点がまず評価できる。

黒田氏が日銀総裁になった場合、財務官時代の「円高ファイター」の存在感が強く、日本の政策が為替重視と受け止められる可能性がある。また、国際金融界の世界の中央銀行のサークルにはやや距離感があると思われる。中曽宏日銀理事が副総裁になることによって、補佐役になるとみている。

加えて、黒田氏は日銀での実務経験がないことも気掛かりだ。理論と現実が大きく異なるために実務面での勉強が必要になると思われる。大胆な金融緩和について、市場が期待しているほどすぐにできるとは想定しづらい。また、財政面での調整役が十分に果たせるかというところが課題だ。十分に補佐できる人選が必要になる。

黒田氏に実務経験がない点などを考慮すると、金融緩和に関しては、国債買い入れ主体の方向性に変わりはないのではないか。マーケットで海外勢などからは、リスク性資産買い入れへの期待が大きいが、財政規律を維持する観点から日銀の損失負担をどうするかという点で、財務省との協議が必要であるため、その協議には時間が予想以上にかかることも考えられる。

●新体制でまず国債買入増と年限長期化を議論

<大和証券・チーフストラテジスト 山本徹氏>

日銀人事で総裁候補に黒田東彦氏、副総裁候補に岩田規久男氏と報じられた。黒田氏、岩田氏とも積極緩和派で、安倍晋三首相が掲げる大胆な金融政策に沿った人事と受け止められ、為替相場と株式相場は好感した。

円債市場は、総裁・副総裁に誰が就任しても、国債買い入れ増を中心とする緩和強化の流れは変わらないとの見方が強かった。1月の金融政策決定会合の議事要旨で国債買入年限の長期化議論が明らかになった時と同様に、今回の報道で人事の具体名が出てきたことで、市場参加者の背中を押す形で買われているが、10年・0.7%を割り込んで積極的に買われていく雰囲気でもない。

日銀新体制がスタートすれば、基金を通じた国債買い入れ増とその買入年限長期化がまず議論されるだろう。いずれは超過準備の付利撤廃はあり得るかもしれない。しかし、付利撤廃まで踏み切ると、日銀としては緩和強化策として次の手がなくなる。日銀が切れる緩和カードが多くない。金融緩和はあくまでも時間稼ぎでしかなく、成長戦略で成長力が高まってくるまで、いかにして緩和期待をつなぐかが重要なポイントとなる。市場でアベノミクスに最も期待しているのは海外勢であるため、新総裁には海外勢とのコミュニケーション能力が求められるだろう。

自民党の安倍総裁が首相になった途端、政策の大胆さに変化が出てきたように、新総裁が実務を取り仕切るようになると、政策がトーンダウンする可能性も否定できない。期待だけではなく、政策実行性を見極めることが重要ではないか。

●デフレ脱却達成に向けた新執行部政策の舵取りに注視

<トヨタアセットマネジメント 投資戦略部 チーフストラテジスト 濱崎優氏>

政府が、日銀の白川方明総裁の後任に黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁をあてるとともに、2人の副総裁候補を学識経験者と日銀内部から起用する方針を固めたと報じられている。マーケットは、とくに株式市場がポジティブな反応を示しているが、実際のデフレ脱却への道筋については、新執行部の政策の舵取りを慎重に見極める必要があるのではないか。

大胆な金融政策、機動的な財政出動、成長戦略という三本の矢の中で、一番大事なことは金融政策と考えている。デフレ脱却という大きな目標に向けたしっかりとした動きがあってこそ財政出動が生きてくるし、デフレ脱却を実現できると思うからこそ成長戦略も生きてくる。財政出動という第2の矢、成長戦略という第3の矢を放つためにも、第1の矢となる金融政策でつまずいてしまうと、ゆくゆくは全てが中途半端な効果しか生まなくなってしまう。

●急ピッチな金利上昇避ける施策を

<みずほ総研常務 高田創氏>

政府は、日銀の正副総裁人事で財務省、日銀、学者とバランスをとった。学習院大学の岩田規久男教授とは1月に安倍首相主催の有識者会合で同席した。副総裁への起用という点では金融緩和の強化というメッセージが強い。量的な緩和という中で買い取る国債が長めになり、実際にどうなるかは別に、付利金利の撤廃も選択肢に入ってくるだろう。

金融緩和はインフレ期待を生み出す初動手段だ。当面は低金利が続くだろう。しかし、いずれ景気が良くなれば金利は上昇しやすくなる。経常黒字を確保し続けるのと同時に、急ピッチな金利上昇を招かないような国債管理政策が、より重要になる。

●バランスの取れた配置、マーケットは好感

<明治安田生命 チーフエコノミスト 小玉祐一氏>

バランスの取れた配置となり、マーケットにも好感される人選となった。日銀総裁に必要な資質としては、金融政策の知識や語学力、組織運営能力などに加え、政府やマーケット、いわゆる国際金融マフィアとの交渉力が非常に重要だ。次期日銀総裁として報じられた黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁、副総裁として報じられた学習院大学教授の岩田規久男氏ともにリフレ的人材が入り、安倍首相の方針どおりの人選といえる。

●材料出尽くしで利食いが先行、円売りモメンタムは低下か

<野村証券 金融市場調査部 チーフ為替ストラテジスト 池田雄之輔氏>

材料出尽くし感がある。短期筋の中には日銀総裁人事が明らかになるまでは、円ショートをキャリーする動きがあったので、今朝は円ショートの利食いが先行している。今後の為替市場の焦点は、4月の日銀決定会合以降の緩和期待に基づいて短期筋が円ショートを再度構築するかだろう。

黒田アジア開銀総裁は、財務省出身者には珍しく、以前からインフレターゲットの支持者で、積極緩和によるデフレ克服を訴えてきたため、通常であれば市場は円安ストーリーを描きやすい。

しかし、G7の為替に関する緊急声明やG20での協議を経て、市場の円売り警戒感は着実に広がっており、ドルが目先100円をつけに行くほどモメンタムが高まることは困難になったとみている。

黒田氏は2月11日のインタビューで、昨年末以降の急激な円安は、「リーマンショック後に行き過ぎたアジア通貨安と円高の是正」であるとの認識を示しているが、一連の国際会議での議論を踏まえ、黒田氏から同様の認識が今後示されるか否かに注目している。

●マーケットは歓迎ムード、好材料続出で株価の調整許さず

<東海東京調査センタ― チーフストラテジスト 隅谷俊夫氏>

次期日銀総裁として報じられた黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁は金融緩和に積極的であり、国債購入の期間延長などマネタリーベースを増加させる政策が期待される。マーケットも報道内容を歓迎しており、週明けの日経平均は一時200円を超える大幅高となった。朝方の買い一巡後は一服感を強めているものの、中期的な上昇トレンドが続き、年度末1万2000円との見方に変わりはない。アベノミクスの一環である日本の環太平洋連携協定(TPP)交渉参加など好材料が続出しており、株価の調整を許さないくらいの大きな波となっている。

●大胆な長期国債買い入れなら市場は評価

<マネックス証券 チーフ・エコノミスト 村上 尚己氏>

報道されているように黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁が総裁、岩田規久男氏と中曽宏日銀理事が副総裁の組み合わせであれば、岩田氏の提案する大胆な金融緩和政策をどう実現してくかが課題になりそうだ。決定会合メンバーのなかから反対意見が出て来る可能性もあり、それをどう調整していくかだろう。

予想される政策としては、対象年限長期化による長期国債の買い入れ増額が中心になるのではないか。FRB(米連邦準備理事会)に遜色ない規模とスピードであれば、外債購入などがなくても、市場は評価し、円安が進むとみている。

●アベノミクス推進にマーケットは好意的

<三井住友海上あいおい生命 経理財務部部長 堀川真一氏>

黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁が日銀総裁候補と報じられているが、為替相場(ドル/円)が円安に振れていることからもうかがえるように、マーケットは安倍晋三首相が掲げる「アベノミクス」政策を進める人物として好意的に受け止めている。

ただ、具体的にどういう金融緩和策を実行するのか見通せないため、正式な人事が固まるとか、あるいは次回の金融政策決定会合が開かれるまではマーケットの反応は限定的となるのではないか。国債買入年限の長期化、付利撤廃などの政策に対する期待感が膨らんでいるが、政策が多数決で決まるということを考えると、実際にどこまで踏み込めるのか、慎重に見極めなければならない面もある。

●円安一服で調性的なドル売り出やすい地合い

<三井住友銀行 市場営業推進部 チーフストラテジスト 宇野大介氏>

日銀総裁人事関連の報道を受けてドル/円は94.77円付近まで上昇したが、ドル/円は材料出尽くし感からむしろ反落している。

積極緩和派と市場に理解されている黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁が総裁に就任する公算が大きいとの報道が、もし昨年の12月や1月に出ていれば、明らかにドル買い/円売りの追加支援材料となっただろう。

しかし、G7、G20での協議内容や、これまで自国通貨安を享受してきた国々から不満の声が続いていること、ドル/円がさしたる調整もなく一本調子に昨年11月から上昇してきたことなどを踏まえれば、今後ドル/円は戻り売りに押されやすい地合いが続くと考えられる。

市場がもう一度円売りに傾くとすれば、4月3、4日の決定会合の前か7月の参院選の前ということになろう。しかし、それまでには時間的余裕があり、円の買い戻しに回帰しやすいとみている。さらに、2つのイベントに照準を据えた円売りが顕著なものにならない可能性もある。

●積極緩和論者で海外勢が評価する可能性

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資ストラテジスト 三浦誠一氏>

日銀総裁候補が仮に黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁であれば、これまでの財務省OB候補よりも積極緩和論者であり、株式市場にとってポジティブだ。副総裁候補と報じられている岩田規久男氏もリフレ派であり好感されるだろう。国会同意人事であるため、簡単に決着しない可能性もあるが、確定すれば3―4月にかけて海外勢の日本株に対する評価が高まりそうだ。少なくとも円高には振れにくくなる。銘柄によっては上値追いの材料になる。ただ、きょう株式市場に関しては買い一巡後、材料出尽くし感が強くなる可能性もある。二の矢、三の矢が出なければ高値圏でもみあいとなりそうだ。

●強力な緩和路線、国債買入年限長期化の思惑も

<岡三証券 債券シニア・ストラテジスト 鈴木誠氏>

総裁候補・副総裁候補として報じられている黒田東彦氏・岩田規久男氏とも積極的な金融緩和論者。安倍晋三首相の意向を汲んだ強力な金融緩和路線を想起させる人事だ。円安・株高が加速すれば、円債相場は上値がおさえられる可能性があるが、資産買入残高を積み増す量的緩和の強化、国債買入年限の長期化の期待が高まりやすい。

今週は、2月末のインデックス年限長期化需要で長期・超長期ゾーンの金利低下が想定されているので、好需給を背景に慎重ながらも利回り水準を押し下げていく展開になるのではないか。

国会同意について、黒田氏が財務省出身者であるため、みんなの党が反対する可能性があるが、民主党は財務省出身者を排除しないことを明らかにしている。最終的には、報道されている人事案で決まる可能性があるとみている。

*内容を追加して再送します。

 
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