6日投開票が行われた米大統領選で現職のオバマ大統領(51)は、共和党候補のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事(65)を下し再選を果たした。長引く景気低迷に対する国民の懸念を克服した格好だが、分断された国内政治状況の中、2期目で実績を残せるか課題にも直面する。
オバマ大統領は厳しい選挙を勝ち抜いたが、高い失業率の中、現職の大統領が再選を果たしたのは1940年のフランクリン・ルーズベルト大統領以来。また3人の大統領が連続で2期目を務めるのは1816年以来だ。
ロムニー氏は7日、ボストンで支持者を前に敗北宣言を行い、「今は米国にとって大きな試練の時である。大統領の国家運営がうまく行くことを祈っている」と述べた。
オバマ氏を勝利に導いたのは、同氏が4年前に築き上げたユニークな連合だ。つまり、白人米国人の影響力の低下とヒスパニック系米国人の有権者の興隆という米国の選挙民の特性の変化を反映したものだ。
オバマ大統領を待っているのは上下両院の「ねじれ」議会だ。民主党は上院で多数派を維持したが、共和党は引き続き下院で過半数を制する見通し。今回の大統領選では120万件の選挙広告などに総額60億ドルが費やされたが、ワシントンの政治状況は依然として6日朝と同じ状況だ。
選挙民はオバマ大統領に対し、同大統領がこれまでなんとか克服しようとした党派的な対立問題などを解消する仕事を与えた。
ロムニー氏は、自分が米国の疾患を治すことができるビジネスマンだったと訴え、経済問題に焦点を当てたものの、投資会社時代の仕事などに関する民主党からの批判を退けることができなかった。
政府の役割と景気回復の処方箋に関し、両氏の際立って相違する展望が争点となった。ロムニー氏は、景気を刺激するとして減税と規制緩和を求めた。
オバマ氏は代替エネルギーと教育部分への投資のほか、財政赤字削減のため富裕層を対象にした増税などの政策を示した。また移民法改正計画を模索した。
今回の大統領選ではオバマ大統領の掲げた課題は、08年の選挙戦当時の野心的なもの比べると見劣りする。
オバマ氏はオハイオ、コロラド、バージニアなど激戦州を制し、再選を果たした格好だ。フロリダ州では接戦となった。
今回の大統領選では米国がここ数年、劇的に変化したことを示された。出口調査によると、白人有権者でロムニー氏が60%の支持を受け、オバマ氏は08年の大統領選に比べ5%ポイント低下の38%となった。モンデール候補がレーガン候補に敗れた84年以降、民主党候補が白人票でこれより低い得票率を得たことはない。
オバマ大統領は勝利を味わう時間もほとんどなさそうだ。いわゆる財政の崖は目前に迫っている。来年1月1日には一連の増税と支出削減が実施され、米大統領と議会首脳陣が妥協策を打ち出さない限りは、米経済の脆弱な伸びがほころびかねない。米国は今後数カ月で借入上限に達する見通しで、米国の債務格付けの引き下げにつながった昨年のような争いが繰り返される見通しが高まっている。
オバマ大統領は広範にわたる合意の取りまとめを期待している。こうした合意は昨年、達成できなかったような「重要な取引」で、富裕層に対する増税も含まれる見通しだ。共和党側は増税には反対すると表明している。米政府は、大統領と議会首脳陣との会合開催に向けて既に動いている。
主要な役割を果たすのは共和党の副大統領候補だった、財政問題の専門家、ポール・ライアン議員(ウィスコンシン州)だ。ライアン氏は下院議員の議席を保持した。
オバマ大統領は敗戦のお膳立てが揃っているかに見える政治的環境のなかで勝利を収めた。世論調査では、国民の半分以上が米国は過った軌道にあり、民間セクターのほうがうまくいくあまりにも多くの機能を政府が実施していると確信していることが示された。――これは、共和党に有利に働くと思われる状況だった。
オバマ大統領は選挙期間中のほとんどにおいて優勢と見られていたが、大統領候補者による第1回目のテレビ討論会でのオバマ大統領の熱意に欠ける姿勢が指摘された後、レースは最終1カ月間に一段と接戦となった。
世論調査でロムニー氏は支持率の差を縮め、米国で初のアフリカ系米国人の大統領が1期で大統領の座から追われる可能性が高まった。
オバマ大統領は好戦的かつ資金力が十分な選挙活動を通じて優位に選挙戦を進めた。オバマ大統領は中流層の利益を擁護するとともに、思いやりに欠けるビジネスマンとしてロムニー氏は富裕層の有利になる経済政策を打ち出すことになろうと主張した。
選挙戦の基調は荒々しいものだった。オバマ大統領は、勝利するにはロムニー氏を受け入れがたい選択肢と表現する必要があると確信し、08年の選挙戦での希望に満ちたメッセージを大体において打ち捨てた。
オバマ大統領が再選を達成できなければ、同氏の大統領就任はまぐれだったとして片付けられかねない。オバマ大統領の経歴はこのところの歴代大統領とは異なっている。オバマ大統領は母子家庭で母親と祖父母に育てられた。父親はケニア人で、母親はカンザス州の出身だった。オバマ大統領は子供時代の大半をハワイで過ごし、そこで一流のプライベート・スクールに通った。
コロンビア大学を卒業後、ハーバード法律大学院に進み、アフリカ系米国人として史上初の「Harvard Law Review」の編集長に就任した。最終的にはシカゴに移り住み、そこで地域のまとめ役となり、妻のミシェル氏と出会った。
オバマ大統領の政治家としての履歴書は短い。04年までイリノイ州の上院議員を務め、同年の民主党全国委員会での基調演説で国民を魅了した。オバマ大統領は同年、米上院議員に当選し、08年に大統領に当選するまで上院議員の任期を全うした。
オバマ大統領の第1期目には、医療保険改革法と金融改革法が可決するとともに、大恐慌以来で最悪の低迷から銀行システムを救済するために数々の劇的な介入を行った。
10年の中間選挙の後、共和党は下院で過半数を占め、オバマ大統領は野心を抑えざるを得なくなった。
オバマ大統領は2期目にはもっと良い結果を予測している。デービッド・プラフ上級顧問は選挙で生じた敵意はすぐに消滅するだろうとの見方を示した。
オバマ氏は1期目にやり残したいくつかの仕事を押し進めると述べた。移民改革法の可決により、米国内に不法滞在する1100万人への法的地位の供与を望んでいる。
共和党は協力するほうが自分たちの利益になると結論する可能性もある。6日の選挙で共和党はヒスパニック系の有権者を疎遠にする危険性について学んだ。共和党のストラテジストの多くは、同党が不法移民に対する強硬姿勢を軟化させる必要があると指摘している。ヒスパニック系国民は現在人口の16%を占めており、30年までには22%まで急増すると予想されている。
ハリケーン「サンディ」が東海岸を襲い、オバマ大統領は被災者に対する思いやりを示すとともに、被害の大きかった地域に政府の資源を配分する機会を得た。オバマ大統領を批判する人物としては他に引けを取らないようなニュージャージー州のクリス・クリスティ知事でさえ、オバマ大統領の行動を称賛した。同氏はロムニー氏を大統領候補として正式に指名する共和党全国大会で基調演説を行った。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とNBCニュースが実施した世論調査によると、国民の約3分の2がハリケーン「サンディ」を受けたオバマ大統領の対応に支持を示した。
勢いを増しつつあり、オバマ大統領のリードに切り込みつつあったロムニー氏にとっては、不運なことにハリケーンでレースが一時中断する格好となった。サンディで国民の関心が大統領選からそれ、ロムニー氏はいくつかの選挙イベントをキャンセルせざるを得なくなるとともに、被災者への同情の言葉とオバマ大統領への批判を微妙に調整することに追われる結果となった。
10年秋のどん底の時期だったら、オバマ大統領の再選は不可能のように思われただろう。当時の中間選挙では共和党が下院の多数派となった。オバマ大統領はこの中間選挙を「大敗」と呼んだ。ホワイトハウスの顧問らはオバマ大統領が厳しい状況に置かれていることを認識し、政治的復活に注意を向けた。
失業率は10%近くで推移していた。側近らは無党派の有権者らがオバマ大統領を見放したと懸念した。エコノミストの多くがオバマ大統領が打ち出した景気刺激策により、一段と深刻な景気鈍化が回避されたとの見方を示したにもかかわらず、有権者はこの景気刺激策についてオバマ大統領を高く評価していないことが内部フォーカスグループによって示された。
側近らはオバマ大統領を中流層の擁護者だと位置づける一方、失業率の安定した改善に重点を置いた戦略をとった。
レーバーデー後から投票日までの選挙活動に選挙資金を取っておくのではなく、オバマ陣営はロムニー氏のプライベートエクイティ(未公開株)投資会社ベイン・キャピタルでの経歴を攻撃するテレビ広告に数百万ドルの資金を投じた。オバマ陣営はロムニー氏を手っ取り早い利益の追求のため、企業を買収して人員削減を行った略奪的な資本主義者と評した。
オバマ大統領は選挙資金の相当な額を費やしたことから、民主党のなかにも不安に感じる向きが出てきた。しかし有権者に対するロムニー氏の印象悪化には効果があった。
結局、オバマ大統領は資金不足に苦しまずに済んだ。オバマ大統領は9月だけでも1億8100万ドルの選挙資金を集めた。大統領と支持グループは選挙期間を通して10億ドル近い選挙資金を集めた。