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シオニスト新聞と化した朝日のパレスチナ矮小化報道
昨日(9月25日)は、8年前に白血病で死んだサイードの命日だった。死ぬ1年前の2002年8月、アル・アハラム誌に寄稿して次のように書いている。「長期にわたって患うと、身体的な具合の悪さはもちろんのこととして、精神的にも、自分ではどうすることもできないという無力感でいっぱいになる。けれどもまた、分析が冴えわたる時間が訪れるのも事実であり、それはありがたく思うべきだろう。この3か月というもの、私は入退院を繰り返している。来る日も来る日も、長時間に及ぶ辛い治療を受け、輸血を受け、際限のない検査を繰り返し、ただ天井を見つめて過ごすだけの非生産的なときが何時間も続き、疲労と感染症で体力を消耗し、普段の仕事はできず、考えて、考えて、日常生活を全体的に捉えることを可能にし、普段とは違った角度から物事を見ることができるようになる」(中野真紀子訳 『イスラエル、イラク、アメリカ』 P.34)。サイードの時事の文章というのは、読みやすく、それだけでなく、正義の心が悪と不条理を告発する表現の格闘があり、知識人の勇気があり、精神の力業にいつも感動させられる。あの時局と自身の立場の重苦しさの中で、重病の不自由な身で、サイードはよく『戦争とプロパガンダ』の一文一章を彫り刻んだものだ。私は、サイードの病気と死の真相を疑っている。アラファト(2004年11月1日)もまた白血病死だった。偶然だとは思えない。モサドとCIAの仕業だと確信している。


生きていれば、サイードは、アッバスの国連演説と、喚声と口笛が鳴り響くNYの議場と、その中継を歓喜して見たパレスチナの人々を、どのような文章にして、『戦争とプロパガンダ』の新刊に収まる珠玉の一節にしたことだろう。予想されたとおり、パレスチナの加盟申請を阻止できなかった4者(米・EU・露・国連)は、会見で「新行程表」を提示、1か月以内にイスラエル・パレスチナが交渉のテーブルに着き、12年末までに和平協定を目指すように促した。だが、その交渉に4者がどう関与するのか、具体的なガイドラインは何なのかについては全く示されておらず、中身のない儀礼的な提案に止まっている。国境線をどう引くのか、イスラエルによる西岸への入植活動をどうするのか、そうした点が入らなければ、4者調停と言っても意味はなく、要するに、付託された加盟申請の安保理採決を先送りしたい思惑だけが透けて見える。幸いなことに、現在の安保理議長国はレバノンであり、議長権限で安保理会合を早急にコールし、先送りを阻止することが期待される。アッバスは、無条件での二国間交渉の再開要請を拒否し、西岸入植活動の停止を条件に付すべきで、4者がそれを条件に認めない場合は、すぐに「オブザーバー国家」の総会決議案へと動くべきである。イスラエルには、最初から和平協定などの意思は毛頭ないし、入植凍結など論外だからだ。国連外交の時間を無駄に潰すべきではない。
 
パレスチナの国連加盟は申請されたが、相変わらず、マスコミ報道は「オブザーバー国家」の総会決議の政治について詳しく説明しない。これは、単に日本の記者の関心が低いだけでなく、おそらく、米英のマスコミもそれについて口を噤んでいて、外信の英字情報そのものがないためだ。それにしても、昨日(9/25)の朝日の紙面記事はひどかった。2面の見出しには、「パレスチナ 遠い建国」、「熱狂の外 冷めた住民」とあり、西岸のパレスチナ住民が国家独立の前途に希望を持っておらず、国連加盟について全く期待も抱いてないように捏造して書いている。ラマラに集まった1万人の熱狂と興奮とは別の現実があるという歪んだ見方で記事を埋め、それを根拠づける「証言」をわざわざ現地で集めて載せている。右翼系の新聞である産経が、ラマラの民衆の「割れんばかりの喚声」を取材し、「国家になるため、さらに代償を払えというのなら、喜んで支払う」と言った青年の言葉を紹介しているのと対照的だ。朝日は何が言いたいのか。2面に署名入りで囲み記事を書いている中東駐在の川上泰徳は、「パレスチナ国家の国連加盟申請は、今年実現する可能性はほとんどない」と書き、それを「アッバス氏自身の生き残り策でもあり」と矮小化して決めつけている。朝日に訊きたいが、何で「今年実現する可能性はほとんどない」のだ。断定の根拠は何だ。米国による拒否権行使の脅しが、ブラフ(虚勢)である可能性を推測したことはないのか。

安保理の採決が、9か国以上が加盟賛成の状況で固まり、採決すれば敗北必至となり、そして拒否権行使後に総会で「オブザーバー国家」が承認される屈辱の展開を考えれば、米国が拒否権行使を見送る可能性はゼロとは言えない。「オブザーバー」の地位とはいえ、正式に「国家」として承認されるのである。WHOなど国連機関に参加できる。現在、パレスチナを承認している国は、国連加盟193か国中150か国以上に及び、圧倒的多数が「オブザーバー国家」承認に賛成票を投じる結果となる。さらに、パレスチナを正式加盟させよという決議案は、毎年、安保理の議題に乗せられ、その度に米国は拒否権を発動しなくてはならなくなる。そのうち、米軍撤退によってイラクの政情が一変し、サウジの親米王制も危うくなり、中東での米国の地位は決定的に低下する局面を迎えるだろう。軍事基地を置いて武力支配できるテリトリーではなくなる。そうした将来を冷静に見据えれば、今、パレスチナの国連加盟を妨害しない選択はあるのである。オバマ自身が、昨年はそう演説していた。だからこそ、パレスチナはこの挙に出たのだ。朝日は、こうした経緯と情勢を全く無視して、一方的にイスラエル側に偏向した報道をしている。今回のパレスチナ国連加盟申請の問題については、朝日と産経の論調が完全に入れ替わっているのが特徴的だ。産経が、本来なら朝日が書くべき記事を書き、最も詳しく正確な報道している。

驚くことに、朝日の9/25の国際面(7面)は、今回の問題を「イスラエルの勝利」と捉えて記事を書いている。臼杵陽にコラムを書かせ、「私はアッバス議長が最終的に国連への加盟申請を取り下げるのではないかと思っていた」と言わせている。この男は中東現代政治史が専門らしいが、どこからこのような的外れの予想が出て来るのか。素人以下だ。アッバスの行動を「国内向けの」パフォーマンスだと言い切り、イスラエルが猛反発したため、「中東和平は当分暗礁に乗り上げるだろう」などと平然と言っている。これが朝日の解説なのか。読売かと目を疑う。臼杵陽と朝日の言う「中東和平」とは何なのか。米国とイスラエルの「中東和平」そのものではないか。それは、パレスチナにとっては「和平」でも何でもなく、ガザにとっては封鎖と殺戮であり、西岸にとっては土地収奪でしかなく、牢獄に閉じ込められて首を絞められているのと同じ意味だったのだ。「中東和平」とは、イスラエルによるパレスチナの暴力支配であり、残酷きわまる民族殲滅の過程と計画の別語である。「中東和平」の語をオーウェル的なダブルミーニングとして了解し、その欺瞞に距離を置かない者は、研究者として自らを名乗る資格はない。確かに「中東和平」は暗礁に乗り上げるだろう。だが、それは、米国とイスラエルのフリーハンドが効かなくなったという意味であり、国際社会の関与と監視が強まったという意味であり、パレスチナ人にとっては歓迎すべきことだ。

この問題についての朝日の論説は、イスラエルの政府系紙そのものだった。唖然とさせられる。パレスチナにとって歴史的な一日があり、その翌々日のサイードの命日に、サイードと同い年の筑紫哲也は、さぞかし天国で眉を顰め、古巣の堕落と惨状に心痛していたに違いない。ここで、もう一つ紹介しておきたいのは日経の9/25の社説で、朝日に較べてはるかに客観的で公正な見方を示しているのに驚かされる。日経は、「米国がパレスチナの国連加盟を阻んでも、中東和平をめぐる政治環境が好転するわけではない」と書き、「イスラエルは直ちに入植を停止すべきである」と直截に主張している。正論だ。そして、これはアッバスの立場であり、世界の常識的なスタンスでもある。「孤立がさらに進めば、自らの安全保障が損なわれると、イスラエルは冷静に認識すべき時であろう」と警告までしている。日経は経団連の機関紙で、石油供給やプラント輸出の事情と動機があるため、経済界はアラブ中東に対して伝統的に中立的な位置取りをするという理由もあるだろうが、せめて、この程度のことを朝日は書けないものか。こうして日経の記事と比較すると、朝日の記事がいかに愚劣で、世界の世論において非常識で、異端的な極右シオニズムの立場であるかが分かる。空いた口が塞がらないとはこのことだ。船橋洋一や加藤洋一が仕切る国際報道だから、ここまで腐り果てて、米国・イスラエルに奉仕加担する記事になるのだろうか。朝日は恥を知るべきだ。

と、ここまで書いたところで、アッバスが4者調停を拒否する発表を出した。これでいい。時間をかけなくてよかった。もともと、4者調停には中身はないのであり、安保理での協議と採決のみがあるのだ。アッバスの強気は、安保理の票がパレスチナに有利な情勢を証明するものである。もし、安保理の票が不利なら、4者調停の方に期待を託し、水面下で4者とコンタクトして条件闘争に及ぶだろう。



by thessalonike5 | 2011-09-26 23:30 | その他 | Trackback | Comments(0)
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