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9-11から10年
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NHKの「生活保護」特集 - 「水際作戦」の復活と扇動
9/16の夜、NHKの特集で『生活保護 3兆円の衝撃』の放送があった。現在、日本の生活保護の受給者数は203万人に上り、国の税収の1割近くになる3兆4千億円の支出規模に膨らんでいる。番組では、特に生活保護世帯が多い大阪市に焦点を当て、現状と問題点を報道していた。大阪市では、何と全人口(267万人)のうち18人に1人の15万人が生活保護を受け、市予算の17%が支出されるという惨状になっている。番組は、働く能力がありながら生活保護を受けている者が多い実態を衝くという視角で取材と構成がされ、働いている者たちの税金が無駄に浪費されている実態を告発する主張になっていた。4年前の「ワーキングプア」とは全く逆の論理と立場の報道で、NHKの立場の変貌ぶりに驚かされる。NHKが槍玉に挙げたのは、2009年春の厚労省通達で、ここで国が明確に65歳以下の稼働世代に対しても生活保護の対象から外さないように適用の確認を明記したため、働く能力のある世代が次々と保護を受けられるようになり、フリーライダーを増やして財政を圧迫する結果になったのだと糾弾していた。番組を見ながら、苦笑してしまった。小泉政権以降の、福祉事務所が保護申請を受理しない冷血な「水際作戦」を批判し、憲法と生活保護法の順守を国に求める声を挙げたのは、「ワーキングプア」を制作したNHK自身ではなかったか。


厚労省が、「稼働能力のあることを以て保護の要件を欠くものではない」と記した通知を出したのは、2009年3月18日である。当然、そこには2008年末から2009年正月にかけての派遣村の事実があり、直近に迫った総選挙の政治情勢があった。通知文書のタイトルは、「職や住まいを失った方々への支援の徹底について」であり、そこには、「各実施機関においては、生活に困窮する方々を早期に発見し、本人の事情や状況に応じた支援を関係機関と連携して迅速に実施することが必要である。このため、今般、下記のとおり、特に支援に当たって徹底していただきたい事項をとりまとめたので、各自治体におかれては、ホームレス対策担当部局等と連携の上、これらの施策の充実に努められたい」とある。派遣切りに遭ったホームレスへの対策が政策の主眼だったことが瞭然だ。けれども、キャスターとして登場したNHKの住田功一は、この厚労省通知の背景や事情については一言も説明を加えることなく、この政府の施策(政策転換)が間違いの元だったと言わんばかりの口調で番組を進行した。北九州での非情な「水際作戦」により、52歳の男性が「おにぎりが食べたい」と書き残して餓死する事件が起きたのは、2007年7月のことである。水際作戦で命を奪われた犠牲者は何人もいる。だが、この番組で「水際作戦」という言葉は一度も登場しなかった。

番組の中で、一人の50代の男性の生活が紹介された。大阪市が支給する1か月の生活費は11万7000円。その現金を銀行のATMから引き出し、男性は真っ先に1か月分の食料品を激安スーパーの「玉出」で買い込む。両手に提げたビニール袋の中身は、(1)米10kg、(2)即席めん5食入りを1袋、(3)レトルトカレー4個入り(280円)を2袋、(4)インスタント・コーヒー。食費を1日1300円に抑えて月4万円とし、家賃とガス代で4万5000円を払い、残りの4万円の中から趣味の映画のDVD作品を買って楽しんでいた。NHKの番組では、働きもせずに引き籠もってという見せ方で、この趣味のDVDが気に入らないという論調だった。男性は元不動産会社の社員で、宅建取引主任と電気工事士の資格を持っていた。大阪市の生活保護支給額は月11万7000円。それに対して、大阪市の最低賃金は時給779円で、フルタイムで働いても手取り11万6000円。当然、人は生活保護の方を選んでしまう。それはホモ・エコノミクスとして自然な選択だろう。番組は、最低賃金が低すぎることが問題だとは言わなかった。月11万6000円の収入で生活している正直者も多くいるのだから、働ける身体を持った者は11万6000円で働けと言い、生活保護の支給額の切り下げを容認する世論を誘導し扇動するメッセージに終始していた。民主党がマニフェストで、「最低賃金の全国平均1000円を目指す」と公約している事実にも、全く触れなかった。

番組には、さらに28歳と25歳の男性も登場した。28歳の男性は、以前はガソリンスタンドのバイトなどをしていたが、人間関係がうまく行かず転々とし、さらに失業中の就職活動での面接も失敗を続け、職探しの意欲を失っていた。こういう者は数多くいる。本人のやる気の問題を責める前に、28歳の健康な男性が、大阪のような大都会で月14万円の仕事に就けない現状に愕然とさせられる。25歳の男性は、職探しの熱意はあったが、ハローワークの職員と一緒に探して照会しても、求人先からは電話で一瞬で断られていた。その求人票が実態を伴ったものなのなのか、厚労省が有効求人倍率を操作するためにやっているアリバイ工作なのか、怪しく感じられる。25歳の男性にも仕事がない。大阪市は、この非常事態に対処するため、生活保護受給者を担当するケースワーカーを800人から1000人に増員し、稼働世代の受給者を職探しに向かわせるようカウンセリングの事業を拡大させていた。また、人材派遣会社に発注して、稼働世代で見込みのある一人一人を呼び出し、執拗に仕事に就くように指導を続けていた。一体、大阪市はこういう事業でどれほど予算を使っているのか。バカらしいと思わずにはいられなかったが、昨年度の実績が出ていて、7258人を就労支援して164人を生活保護から脱却させることに成功していた。国も自治体も、雇用促進だの就労支援だの言いながら、こんな無益で無駄なことばかりやっている。

きっと、人材派遣会社から、大阪労働局や大阪市の幹部のところにキックバックが届いているのだ。こういう無駄なカネを人材派遣会社にバラ撒いたり、ケースワーカー増員の人件費を使うのではなく、なぜ、大阪市は新規事業を企画して雇用を創出することを考えないのか。番組では、最後まで、国の政策による内需拡大の必要や、経済成長による雇用増で問題解決を図る処方箋を言わなかった。それどころか、これからは稼働世代を生活保護の中に入れるのは止めるべきだという鈴木亘の主張を置き、2年前に中止されたはずの「水際作戦」復活の烽火を上げていた。5年前から2年前までの常識は、今やすっかり覆されている。財政危機の論理が前面に出て、「社会保障改革」の名の下の福祉切り捨て路線になっている。小泉・竹中時代の「聖域なき構造改革」が、さらに残忍冷酷で狂暴な政策となって押し出されようとしている。一体、あの鎌田靖の『ワーキングプア』は何だったのか。問題は、国内に仕事がないことである。内需が損なわれいることだ。その原因は、外資と大企業が利益を溜め込み、中小企業と労働者に正当な配分をしていない点にある。この国の経済政策がいつまで経っても小泉改革時代のまま切り替わらないことにある。非正規の低賃金労働ばかり増え、経営者や投資家の収入ばかり増え、消費需要が低迷させられているところにある。そして産業が空洞化させられている点にある。本来、09年の政権交代は、それを転換させなければならかった。

こうして書きながら、本当に空しくなる。同じことを何度言えばいいのか。何年も同じことを言い、けれども現実は変わらず、内需拡大論も格差是正論も国民的合意にならず、事態は逆の絶望的方向に向かい、マスコミに洗脳され、ネット右翼に扇動され、国民は全く間違った考え方ばかりを持つ。



by thessalonike5 | 2011-09-19 23:30 | その他 | Trackback | Comments(0)
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