米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は米東部時間27日午後2時15分(日本時間28日午前3時15分)に「記者会見デビュー」する。議長の発言は今後の金融政策の方向性を判断するうえで一字一句精査されるだろう。特にFRBがいつから利上げを開始するか、保有している巨額の住宅ローン関連証券をいつ売却するかなどが注目されている。
議長がこれまで長い間、記者会見の質疑応答を行ってきていれば、長年金利決定後に記者会見を行ってきた歴代の欧州中央銀行(ECB)総裁の発言と同様、その研究も進歩していたはずだ。
利上げ時期を気にしている向きにとって、以下が注目すべき点。
インフレ期待: 商品市況の急騰により長期的なインフレ期待の上昇を懸念してれば、議長は金融政策についてよりタカ派的な姿勢に転じる強いシグナルを発し、引き締め時期を現在の想定よりも早める可能性がある。換言すれば、国民が今後数カ月で物価上昇に直面すると一段と懸念していると議長が認識すれば、FRBはインフレが制御不能になる前にインフレ対策を開始したほうが得策と議長が考えることを意味する。
TIPSに関するヒント:インフレ連動国債(TIPS)に関する発言があるか注目すべきだ。消費者信頼感と関連して、これらの債券について何らかの言及があれば、議長の考えを探る上で大きな手掛かりになるかもしれない。議長は冷静な態度でそれに言及する可能性がある。例えば、TIPSの需要と消費者信頼感とも落ち着いているようだと指摘するなど。あるいは、インフレについて懸念するようになっているとの手の内を示す材料として、それに言及する可能性がある。短期的なインフレ期待が上昇していることについて何か言ったとしても、それは旧聞に属するニュースだ。議長は最近、それは認識しているとしたうえで、退けている。短期的なインフレ期待が上昇しているのは、食品・エネルギー価格が目立って上昇しているためで、永続的ものではないとしている。
長期間(Extended period):これはやや決まり文句になっている。金融危機が深刻だった時からFRBの声明に現れていたが、以下のような暗号といえる。われわれがすぐにでも利上げするとは期待しないこと。「長期的」とは事実上、金融危機以後のゼロ%の短期金利の暗号といえる。この文言は27日午後12時30分に発表される今回の連邦公開市場委員会(FOMC)後の声明にも盛られることはほぼ確実。今回の記者会見での質疑応答で議長は「長期的」が本当は何を意味するかを聞かれる可能性がある。あるいはFRBはこの「長期的」の文言を削除して新しい文言に変える時期を尋ねられるかもしれないが、その質問はかわされる可能性が高い。
商品価格:原材料の投入価格は急騰しており、それが現在のインフレ懸念の根底にある。議長はこれまで、商品価格の上昇は一時的なもので、基調インフレつまり変動の大きい食品・エネルギー価格を除いた「コアインフレ」には影響しないと指摘していた。しかし、商品価格の急騰が永続的な問題だとみていると発言すれば、近いうちに金融を引き締める(利上げする)可能性が高まる。
FRBの膨張したバランスシートとこの夏に終了する予定の国債買い入れプログラムについて懸念する向きにとって、以下が注目すべき点。
バランスシート:量的緩和第2弾(QE2)として知られる6000億ドルの国債買い入れプログラムが予定通り、この夏に終了することを議長が確認するか見極める必要がある。その方針から離脱する動きは大きなニュースになる。議長が将来のバランスシートの規模について何をいうか注視すべきだ。新たなFRBの世界では、どの程度の証券を保有するかが、FRBとしてどの程度国内経済を支援するかの主要なシグナルになるためだ。FRBは金融危機以降、2兆ドルを超える資金を金融市場に注入してきた。以下のことが検討されている可能性は少ないが、仮に議長が住宅ローン関連証券の元本償還分の再投資を中止する可能性を示唆すれば、実際に金融引き締めに向かう第一歩と受け止められよう。これが起きれば、出口が間近に迫っている強いサインとなるため、ドルは急伸しよう。
ドル:ドルは軟調だが、議長はこれを直接取り上げることはためらうだろう。しかし、ドルの問題は、ドルが下落し、ブラジルなど新興国の金融商品に海外から資金が流入しているほか、金や原油が高騰しているのは、現行のFRBの金融政策のせいだと批判する向きに反論する機会を与える可能性がある。議長はかつて、他国の中央銀行は自国の政策を遂行すべきであり、自国の経済問題をFRBのせいにすべきではないと主張していた。ガイトナー財務長官が26日に強いドルは国益と発言し、議長を援護した。議長が最近のドル安について質問されれば、ドル政策は財務省の管轄とだけ述べ、恐らくガイトナー長官の発言を引用するだろう。
バカ者、問題は経済だ: 誰もが認識しているが触れたくない問題。議長が質問される可能性があるのは、労働市場の惨状だ。景気後退(リセッション)時に空いた穴があまりに大きいため、信頼できる予想ではほぼ、失業率が容認できる水準まで低下するには数年かかるとみられている。これは議長やFRBの同僚らが再三認めていることだ。ただ、失業率低下の役割を果たさないとしても、議長らがインフレ抑制のため、利上げを迫られることはほぼ確実。議長とその同僚はその板挟みにあっている。議長は雇用環境の改善に言及するだろうが、その傾向を熱く語るようなことはしないだろう。
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