田中宇の国際ニュース解説 会員版(田中宇プラス)速報分析 2011年2月28日 http://tanakanews.com/si.php ●米国、南北アメリカ 米国ウィスコンシン州で、知事が財政再建のため新法を作って州職員組合の団 体交渉権を制限しようとして、労組など10万人が州議会の議事堂に陣取って 抗議し、全米的な運動の盛り上がりとなったが、2月25日に知事の法案が州 議会下院を通過した後、運動は下火になり出した。まだ州議会上院の審議が残 っているものの、州警察が議事堂から反対派の群衆を排除し始めた。全米各州 で連帯運動が起きており、州職員の反対運動を超えて「金融界の大金持ちだけ ますます豊かになり中産階級を貧困に陥れる米政府の政策を変えよう」という 運動になりかけているが、デモの規模は多くの州で2000人以下で大したこ とない。「米国のタハリル広場」と呼ばれるウィスコンシン州議事堂の運動が このまましぼむと、米国は今年も「反乱の夏」にならずに終わる。 http://www.cbsnews.com/stories/2011/02/26/earlyshow/saturday/main20036739.shtml Rallies in 50 states support Wis. protesters http://www.tanakanews.com/090916rage.htm 目立たず起きていた「反乱の夏」  ウィスコンシンの運動はリベラル派(民主党系)のもので、保守派(共和党 系)の茶会派などは冷淡だ。しかし先日の米民主党の全国委員会(DNC)で は「オバマはアフガニスタン占領を早く終わらせ、その分の国家財政を雇用創 出など国内策に回せ」という決議が出た。米民主党が従来の国際介入路線から、 共和党茶会派と同じ「米国内優先」(孤立主義と中傷される戦略)に転換する 方向性が見える。これは、米国が覇権を自ら捨てる方向性だ。ウィスコンシン からの「中産階級の反乱」は不発で終わるかもしれないが、米国のリベラルと 保守が草の根から「孤立主義」の方向で合同し、英イスラエルや軍産複合体が 米中枢を牛耳って続けてきた国際介入戦略をくつがえしていく方向性は残って いる。 http://www.huffingtonpost.com/2011/02/26/afghanistan_n_828710.html DNC Pressures Obama, Passes Resolution Endorsing Swift End To Afghanistan War ●東アジア、南アジア  中国では毎週日曜日、北京や上海など大都市の繁華街のあらかじめ決められ た場所に集まって反政府集会を試みる「ジャスミン革命」が先週から始まり、 2月27日に2週目の試みが行われた。中国当局は群衆が集まらないようにす る大々的な防衛策をとり、運動家を逮捕した。日本や米欧では、この運動を進 める人が「善」で、阻止する中国政府は「悪」という善悪観があらかじめマス コミなどで設定されているが、その善悪観を外して見ると、行きずりの人以外 の運動参加者より、取材にきた米欧日など外国マスコミの方が人数が多いこと が印象的だ。米欧では、マスコミは軍産複合体傘下のプロパガンダ装置であり、 地政学的に中国の台頭を抑止して英米中心の世界体制を維持する政治目的があ る。中国で試みられているジャスミン革命は、軍産複合体が中国を不安定化す るための策略と考えられる。「中国が崩壊した方が日本は幸せになる」と言う なら、それは日本にとって「善」ということになる。 http://www.latimes.com/la-fgw-china-crackdown-20110227,0,812649.story Online call for protests in China prompts crackdown ●西アジア、中東、アフリカ 以下の一文は長くなったので速報分析でなく長文解説の形式にしました。 ━━━━━━━━━━━━━ ★イラク反政府運動の意味 ━━━━━━━━━━━━━  世界各地で起きている反政府運動による政権転覆の試みは、政権が米国と同 盟関係にあるエジプトやチュニジアなどでは米国の覇権を減退させる方向の試 みだが、政権が米国に敵視・非難されているイランや中国では米国覇権の維持 拡大の方向の試みであるという、米国にとって諸刃の剣の状態にある。この図 式の中で、イラクで起きている反政府運動を考察すると興味深い。イラクは米 国の占領下にあるが、米国の傀儡政権になるはずだったイラク政府(マリキ政 権)は、サドル師など、米国の仇敵であるイランの傘下にあるシーア派の組織 が牛耳っている。サドル師とマリキ首相は敵対していたはずなのに、反政府運 動を抑止することを機に連携を強めている。 http://www.nytimes.com/2011/02/24/world/middleeast/24iraq.html Iraq's Top Shiite Leaders Urge Delay of Protests  イラクでは2週間ほど前から、バグダッドや南部のバスラ、スンニ派の町フ ァルージャ、北部のクルド人地域など各地で反政府運動が起きている。そこで 発せられる要求は、政府の腐敗根絶から治安改善、米軍撤退、クルド人2大政 党の権力独占への批判まで非常に多岐にわたっており、この運動が成就すると イラクの何がどうなるのか見えない。しかし、イラク政府の反応は明確だ。反 政府運動に対する報道をすべて禁止し、代わりにイラクのマスコミはデモの抑 制を試みるマリキ首相、サドル師、システニ師などシーア派指導者の演説を流 している。このイラク政府の反応からは、反政府運動がイラクのシーア派主導 政権を壊そうとする方向を持っていることが感じられる。そして米政府は、こ のイラク政府の反応を黙認している。 http://poorrichards-blog.blogspot.com/2011/02/what-you-wont-read-in-mainstream-press.html What you won't read in the mainstream press regarding Iraq's "National Day of Rage"  このイラクの状況からは、私がいつも「隠れ多極主義」と言っている米当局 の姿勢がかなり鮮明に見える。米当局は、イラク政府がイラン傘下のシーア派 に牛耳られるのを黙認したうえ、イラク政府が反政府運動の決起に見舞われ、 報道封鎖によって対応しても、米政府はそれを黙認し、マリキ政権に「反政府 運動に対する報道を抑制するな」と圧力をかけたりしない。米政府は、エジプ トやバーレーンの親米政府に対してさんざん民主化を容認しろと圧力をかけて 困らせたのに、親イランのイラク政府には何の圧力もかけない。財政難の米政 府内では、ゲーツ国防長官が「米軍はもう新たな地上戦をすべきでない」と宣 言した。米軍はイラクでいざこざに巻き込まれたくない。米政府はこの姿勢を 口実に、イラクがイランの傘下に入ることを黙認している。このように見ると、 イラクの反政府運動がイスラエルなど、隠れ多極主義を抑止したい英米中心主 義の勢力に扇動されたものである可能性が出てくる。 http://www.dodbuzz.com/2011/02/27/the-gates-doctrine-avoid-big-land-wars/ The Gates Doctrine: Avoid Big Land Wars  特に、クルド地域ではフセイン政権時代からイスラエルの影響力が強く、当 時は北イラクのクルドの二大政党だったPUKとKDPはイスラエルや米国の 言うことをよく聞いていた。だが今やクルドの二大政党は、シーア派主導の新 生イラク政権である程度の利権を与えられてたらし込まれ、イスラエル側から イラン側に寝返った。北イラクのクルド地域には、野党的な新政党「変革運動 (ゴラン)」が作られ、二大政党の腐敗を非難する反政府運動を起こしている。 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2011/02/19/AR2011021901632.html Thousands protest in northern Iraq over shooting  イラクを含む中東各地の反政府運動は、運動に参加する地元の人々のあずか りしらないところで、覇権の多極化を推進する勢力と阻止したい勢力との米中 枢での暗闘として進行している。「せっかく中東の民衆が命をかけて革命を進 めているのに、それを米中枢の暗闘とか言って陰謀論で上から目線で語るな」 と怒る読者もいると思う。民衆が独裁者を倒す「勧善懲悪」の構図はかっこい いが、冷静に考えると、エジプト革命は米政府がムバラクを見捨てるという常 識外れなことをしなければ成就しなかった。なぜ米政府がムバラクを見捨てた かを考え出すと、隠れ多極主義とか米中枢の暗闘といった仮説が出てこざるを 得ない。  中東が革命によって今後どうなるかは、この革命がパレスチナ(ヨルダン、 イスラエル、西岸、ガザ)やペルシャ湾岸の南岸地域(サウジアラビア、バー レーン、クウェートなど)に100年前に英国が引いた国境線を壊すところま で行くかどうかにかかっている。バーレーンやヨルダンの現政権が持ちこたえ れば、国境線は維持され、中東が米欧に覇権下にある状態は変わりにくいが、 持ちこたえず政権転覆になると、サウジアラビアが解体されて大油田がイラン 側勢力のものになるとか、イスラエル周辺がすべて敵対的なイスラム主義の地 域になってイスラエルを潰しにかかるとか、劇的な展開につながる動きとなる。 「イラク反政府運動の意味」はウェブサイトにも載せました(会員のみ閲覧可)。 http://tanakanews.com/110228iraq.php 速報分析はウェブサイトでも読めます。 http://tanakanews.com/si.php これまでの全分析が、日別、大区分・小区分別に整理されています。 メールアドレスの変更、購読料の支払いは、以下の会員メニューで行えます。 https://tanakanews.com/menu.php?i=8611&u=6caef