田中宇の国際ニュース解説 会員版(田中宇プラス)速報分析 2011年2月10日 http://tanakanews.com/si.php 【おしらせ】「拙速分析」の「拙速」は良くない意味だから変えた方が良いと、 多くの方からアドバイスを受けました。謙譲的な意味や、自分を完璧主義から 解放する意味もあったのですが、この1カ月ほど、ほぼ日刊で分析を続けてみて、 当初懸念したような誤読や勘違いも少なくやってこれているため、この際「拙」 の字を使うのをやめて、このサービスの名称を「速報分析」に変えることにし ました。 仕事を効率化して長文解説も定期的に書けるよう努力をしていますので、長文 解説の定期化については、もうしばらくお待ちください。分析のもととなる情 報は、すべて日々の速報分析で配信しています。 ●米国、南北アメリカ 米共和党で昨秋の選挙後に台頭している茶会派が、01年の911以来の米国の有 事体制である愛国法の改定・延長法案を、米議会下院で否決に導いた。下院は 共和党が多数派だが、共和党提案の延長法案に対し、茶会派など26人の共和党 議員が反対票を投じ、民主党の反対票と合わせ、反対が3分の1を上回り、否決 された。愛国法は、米当局に令状なしの逮捕や盗聴を許す有事法で、個人の自 由を最大限に尊重するリバタリアンが率いる茶会派は、愛国法が米国民の自由 を侵害していると反対していた。愛国法が失効すると、米国のテロ戦争体制が 崩れる。共和党主流派は、過半数で可決されるよう法案を練り直し、再度審議 にかけて通す見通しだが、今回の否決は、今後の米政界で茶会派が大きな力と なっていくことを象徴する事件となった。 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2011/02/09/AR2011020904209.html Patriot Act extension vote fails to pass House; Tea Party caucas members vote "no" http://voices.washingtonpost.com/44/2011/02/patriot-act-extension-to-be-br.html Patriot Act extension to be brought up again on Thursday 米共和党で台頭する茶会派は、米国と韓国、中南米などとの貿易協定(FTA) にも反対している。相手国の利益ばかりで米国の国益にならないというのが理 由。茶会派は、米国が世界の面倒を見る必要などないと主張し、外国に対する 援助や、世界に対する米軍の駐留も不必要だと言う。彼らは、移民に対する寛 容政策(違法移民への政府援助)にも反対。米政府の財政赤字増にも反対で、 財政赤字が法定上限に達しても、上限を引き上げる必要はないと言っている。 ラディカルな不干渉主義の傾向を持つ茶会派の台頭は、世界各国の対米従属を 嫌い、日本などあらゆる親米諸国にとって、米国との関係を難しくする。要注 意だ。 http://www.csmonitor.com/USA/Politics/2011/0209/A-tea-party-message-in-Patriot-Act-defeat-We-re-about-more-than-taxes A tea party message in Patriot Act defeat: We're about more than taxes 米政府は財政難で、聖域だった防衛費まで削る必要に迫られている。防衛産業 に対する発注が減りそうなので、国防総省は、防衛産業の企業間の合併や買収 を増やすことを模索し、調整や監督に入っている。米政府は、クリントン政権 が財政黒字化を目指して支出を削減した1990年代にも合併や買収による防衛産 業の再編を行った。当時の米国は、財政を黒字化して国力を増強し、覇権を維 持拡大する能動的な戦略だった。ブッシュ政権の無茶苦茶な乱費を経て、今の 米国は、財政破綻と覇権喪失を何とか回避するための受動的な戦略として、防 衛産業の再編を余儀なくされている。 http://dealbook.nytimes.com/2011/02/09/defense-department-to-closely-watch-industry-deals/ Defense Agency to Scrutinize Industry Deals Carefully 米連銀では、バーナンキ議長が、ドルを大増刷して米国債を買い支える量的緩 和策(QE2)を、6月の期限後にQE3へと延長する勢いだが、連銀内では、 理事たちの間でQE3への延長に反対する動きがある。経済成長が続いた場合、 2−3人の理事が反対に回る「反乱」が起きそうだ。米国債の買い支えは、ドル にとっても米国債にとっても不健全で、投資家からの信用を減退させるが、半 面、QE2を延長せずやめてしまう場合、米国債の買い手がいなくなり、長期 金利の高騰や米国債のデフォルトという悪夢が待っている。理事の反乱が起き てもバーナンキの独裁でQE3へと延長され、不健全を拡大していくのではな いか。その分、いずれ起きる米国債破綻時の被害が大きくなる。 http://www.bloomberg.com/news/2011-02-09/u-s-growth-may-promote-mutiny-at-fed-pimco-s-crescenzi-says-tom-keene.html Growth May Promote `Mutiny' at Fed, Crescenzi Says: Tom Keene ●東アジア、南アジア 韓国と北朝鮮が久々に軍事会談をしたが決裂した。会談は、後で開く予定の南 北高位会談の議題を決める予備的なものだった。韓国側が、昨年11月の延坪島 砲撃と、昨年3月の天安艦沈没事件について北朝鮮が謝罪しない限り高位会談 は開けないと要求したのに対し、2つの軍事事件について時刻の責任でないと 言い続けてきた北朝鮮は、謝罪要求をするなら話し合っても無駄だといって席 を立ち、会談が決裂した。日本のマスコミでは北朝鮮が一方的に悪いように描 かれているが、韓国は、謝罪を要求したら北が怒ることを知りつつ謝罪を求め たのであり、韓国側の言動からは、韓国の方が高位会談を望んでいないことが うかがえる。李明博大統領は対北敵視策で韓国内をまとめようとしてきたが、 中国と、中国に引っ張られる米国から圧力をかけられ、いやいやながら南北会 談に臨んだ経緯がある。 http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/northkorea/8313647/Korean-talks-collapse.html Korean talks collapse http://tanakanews.com/sj.php?n=10488 1月19日の関連分析 タイで、カンボジアとの敵対を煽動して、選挙に向けて政治力の拡大を目指す 「黄シャツ派」が、大規模な反政府デモを計画し、政府は警戒している。東南 アジアに「反乱の夏」が飛び火するか。タイではカンボジアとの対立が続く中、 2月18日から米軍主導の例年の合同軍事演習コブラゴールドが、対カンボジア 国境近くのチャンタブリなどで予定されている。日韓の軍も参加する。タイは 米国の傘下だが、カンボジアは中国の傘下だ。 http://www.reuters.com/article/2011/02/08/thailand-politics-idUSTST00021620110208 Thailand imposes tough security law ahead of protests http://www.washingtontimes.com/news/2011/feb/7/us-starts-war-games-near-thai-cambodian-clash/ U.S. starts war games near Thai-Cambodian clash ●西アジア、中東、アフリカ エジプトの反政府運動は、エジプトの草の根の庶民が支えているが、シリアの 反政府運動は、米国などで諜報機関の手先をしている亡命人士によって煽動さ れている。フェイスブックで、シリア政府に怒りをぶつけるデモの予定日が設 定されたが、その運動は亡命人士や、シリアからの分離独立を目指す在外クル ド人によって行われ、シリア国内の民主活動家は携わっていない。エジプトと 異なり、シリアの庶民はインターネットを使わず、デモの予定日に、ほとんど 人が集まらなかった。フェイスブックやツイッターは、米イスラエル軍当局に よる、敵国に対する政権転覆策の道具の面がある。 http://www.thenational.ae/news/worldwide/middle-east/syrias-day-of-anger-failed-to-ignite-as-protesters-stay-away?pageCount=0 Syria's 'Day of Anger' failed to ignite as protesters stay away 米オバマ政権がエジプト政府に対し、ムバラクに超法規的な権力を与えている 有事体制を即刻解除せよと求めた。だがその一方でオバマ政権は、911以来の 自国の有事体制である愛国法を、何とか延長しようと努力している。自分に甘 く他人に厳しい姿勢であり、態度が矛盾している。エジプト外相は、今すぐ改 革せよと米政府は言うが、もう改革は始まっている、内政干渉しないでほしい と米国を批判した。エジプトでは革命の初期に米国批判が皆無だったが、今で は政府から街頭の反政府運動まで、米国を批判している。米政府のやり方は 「未必の故意」的に下手糞すぎる。 http://www.france24.com/en/20110209-us-egypt-trade-barbs-tension-mounts-cairo-tahrir US and Egypt trade barbs as tension mounts in Cairo http://fdlaction.firedoglake.com/2011/02/08/irony-alert-obama-pushes-for-end-to-egypts-emergency-law-extension-of-us-patriot-act Irony Alert: Obama Pushes for End to Egypt's Emergency Law, Extension of US Patriot Act 今や、米国のマスコミや政界主流派が総出でムバラクに独裁者のレッテルを貼 り、独裁を支えていたのは米国だったという図式が公式に語られている。革命 前、ムバラクは模範的な親米指導者とみなされていた。この転換は、エジプト 以外のアラブ諸国の独裁政権に対する支援もやめた方が良いという議論を米言 論界に呼び起こす。米国が自ら中東での影響力を減退させる、孤立主義の方向 への世界戦略の転換を引き起こしかねない。ヨルダンやサウジアラビアは、米 国から見放されて政権崩壊するか、もしくはイランと協調したり、中国やロシ ア、EUなど米国以外の勢力に擦り寄るしかない。イスラエルにとって恐ろし い事態が始まっている。 http://www.fff.org/blog/jghblog2011-02-04.asp We Need a Foreign-Policy Revolution Here at Home この分析はウェブサイトでも読めます。 http://tanakanews.com/si.php これまでの全分析が、日別、大区分・小区分別に整理されています。 メールアドレスの変更、購読料の支払いは、以下の会員メニューで行えます。 https://tanakanews.com/menu.php?i=8611&u=6caef