田中宇の国際ニュース解説 会員版(田中宇プラス)拙速分析 2011年2月8日 http://tanakanews.com/si.php ●覇権、通貨、世界的な問題 基軸通貨など今後の世界体制を決める主要諸国の談合体であるG20では、議 長国フランスのサルコジ大統領が、IMFとG20の機能を融合する組織改革 案を作った。IMFとG20の財務相会議に国際経済に関する政策決定権を持 たせ、ドルの単独基軸から人民元やSDRも含めた多極型基軸通貨体制への移 行を推進したり、国際金融危機対策を主導したり、食糧など国際商品相場の高 騰を抑止したり、世界的な貿易不均衡を是正できるようにする。2月18−19日 のG20財務相会議で提案する。08年のリーマンショック直後にG20がサミ ット組織として立ち上がった時から、IMFはG20の事務局として機能して いたが、その機能を強化し、事実上「世界政府の財務省」もしくは「世界政府 の中央銀行」に格上げしようとしている。IMFには、中央銀行的な、世界に 対する「最後の貸し手」としての機能を持たせる。その分、米連銀やドルの機 能は縮小する。すんなり実現するかどうか怪しいが、これは世界の経済覇権体 制の転換案である。 http://www.theaustralian.com.au/business/markets/sarkozy-to-call-for-structural-reform-to-g20-economies/story-e6frg94o-1226002137377 Sarkozy to call for structural reform to G20 economies http://www.reuters.com/article/2011/01/27/us-davos-sarkozy-imf-idUSTRE70Q3AF20110127 Sarkozy says IMF should supervise global imbalances 従来、人民元を切り上げろと中国に最も強い圧力をかけてきたのは米国だった が、米財務省は最近、ブラジルに対し、一緒に中国に切り上げ圧力をかけよう と誘っている。ブラジルはこれまで、今の為替問題の中心はドルの過剰発行だ として主に米国を批判し、対立軸は米国と新興諸国(中国やブラジル)という 構図だった。だが最近は、中国とブラジルの貿易摩擦も起こって新興諸国間に 亀裂が入り、米ブラジル対中国という構図も今後はありうる。しかし根本原因 がドルの過剰発行であるのは変わらず、人民元の切り上げは、基軸通貨の多極 化(ドル単独制の破棄)という構造転換に結びつかない限り、問題の解決にな らない。 http://www.ft.com/cms/s/0/f3e63012-32ec-11e0-9a61-00144feabdc0.html US seeks Brazil's support on renminbi ●米国、南北アメリカ 米国債に対する信用がじりじりと落ち、信用と反比例する米国債の長期金利が 上昇している。10年もの米国債の利回りは、昨年10月の2.39%から、今では 3.68%まで上がった。背景にはインフレに対する懸念がある。米国は今年、史 上最高額の財政赤字を予定しており、米国債に対するリスクはさらに増す傾向 にある。米連銀がドルを大増刷して米国債を買い支え、金利高騰を抑えている が、ドルを過剰発行するほどインフレ懸念が増し、抑制が効きにくくなる。経 済指標の多くはインフレとは逆のデフレ傾向だが、米金融界では、デフレから インフレへの転換点が近そうだとの見方も出ている。 http://blogs.wsj.com/marketbeat/2011/02/07/great-inflation-debate-yields-keep-climbing/ Great Inflation Debate: Yields Keep Climbing 米国の州や市町など地方政府が財政破綻に瀕し、米地方債の下落を見越したヘ ッジファンドなどが、値上がりが見込める地方債のCDS(債券破綻保険)を 買いあさり、相場が上昇している。米国の地方債はこれまで全く安全な投資先 と考えられ、多くの年金基金などの機関投資家が地方債を買っており、彼らも 破綻のリスクを回避しようとCDSを買っている。CDSが上がるほど、その 対象債券は危険なものとみなされ、ますます債券の買い手がいなくなり、さら にCDSが上がる。この悪循環は、リーマンブラザーズの倒産前や、ギリシャ 国債危機などでおなじみのものだ。今夏にかけて、いよいよ米地方財政の破綻 が始まるのか。 http://www.ft.com/cms/s/0/a6333332-3220-11e0-a820-00144feabdc0.html Wall St looks to boost market in US muni CDS 米国の国務省は、世界のほとんどすべての国々に駐在する米国大使(全部で260人) をワシントンDCに呼び集め、史上初の全大使会議を開く。会議は「4年ごと の外交と開発の見直し」(QDDR)と呼ばれ、クリントン国務長官が以前から 言っていた「ソフトパワー」(軍事力以外での世界に対する米国の影響力) 強化のための戦略見直しが目的。国務省に経済成長・エネルギー担当次官や、 エネルギー資源局、テロ対策局を新設することなどが柱となる。米国はすでに、 中露などに国際エネルギー利権を次々に奪われ、中東でのソフトパワーも大幅 に減退し、中南米諸国は反米傾向を増している。いまさら金をかけて全大使を 集めて前代未聞の会議をやっても、パワーの回復はほとんど見込めず、浪費的 な感じ。 http://www.state.gov/s/dmr/qddr/ QDDR: Leading Through Civilian Power http://modernsurvivalblog.com/current-events-economics-politics/all-ambassadors-called-back-to-washington/ All Ambassadors Called Back to Washington! ●西アジア、中東、アフリカ 先週はムバラク大統領に辞任を求めていた米政府が、今度は「ムバラクは当分 辞めない」と言い出した。クリントン国務長官は、ムバラクが辞めると60日以 内に大統領選をやらねばならず、そんなに早く用意できないので留任を認める しかないと発言した。昨日の私の解説記事に書いたように、イスラエルから米 中枢に対する「ムバラクを辞めさすな」という圧力が効き始めた感じだ。これ を受け、エジプトの反政府デモは、米イスラエル批判の色彩を強めている。 http://www.hindustantimes.com/Mubarak-unlikely-to-step-down-soon-Clinton/Article1-659514.aspx Mubarak unlikely to step down soon: Clinton http://tanakanews.com/110207egypt.php ムバラクの粘り腰 米国で病気療養していたサウジアラビア国王が、米国を離れ、モロッコでの療 養に入った。サウジ国王はモロッコで米国の代表と会い、オバマ政権が先週、 追い詰められたムバラクを見捨てて即時辞任を求めたことを叱責した。米国が エジプトの反政府勢力を支持したので、他のアラブ諸国は国民に突き上げられ、 人気取りのために米イスラエルを非難したり、イランと仲良くしたりせねばな らなくなった。エジプトはイスラエルを敵視するアラブの主導役という50年前 の役割を取り戻しつつあると、サウジ国王は述べた。もはやムバラクが留任し ても、エジプト革命は不可逆的に進行していくのかもしれない。イスラエルは、 エジプトが味方から敵に転じることを覚悟して、国境の防護壁の建設を急ぎ、 エジプトからの天然ガス輸入に代わるエネルギー源の確保を急いでいる。 http://www1.albawaba.com/main-headlines/saudi-king-upset-obama-abandonment-mubarak Saudi King is upset by Obama abandonment of Mubarak http://www.thenational.ae/news/worldwide/middle-east/israel-s-post-mubarak-fears-see-it-cut-ties-with-egypt?pageCount=0 Israel's post-Mubarak fears see it cut ties with Egypt 1月末にエジプトで革命が始まった後、元駐エジプト米大使のフランク・ワイ ズナーが米オバマ政権は特使として派遣され、ムバラク大統領と面談して辞任 を求めた。ワイズナーは米国の国益を代表しているはずだったが、実はそうで はなく、1986-91年に駐エジプト大使だった時からムバラクと非常に親しい彼 は、ムバラクの味方として振る舞い始めた。ワイズナーは2月5日、ムバラクが 辞めたら混乱するので、米国はムバラクが大統領に残ったまま改革が進むこと を望むと発言したが、その直後、米国務省は、ワイズナーの発言は米政府を代 表するものではないと表明した。ワイズナーは、父がCIA創設者の一人とい う外交一族。97年に国務省を退官した後、エンロンやAIGといった政治的に 怪しい大企業グループの役員を歴任しており、彼が国益より私腹を重視するこ とは十分ある。ワイズナーがつとめるワシントンDCの法律事務所は、ムバラ クやエジプト軍の顧問弁護団をしており、公私混同の事態になっている。米国 は、エジプトに負けないぐらい腐敗した政治構造を持っている。 http://www.ynetnews.com/articles/1,7340,L-4024272,00.html US: Frank Wisner wasn't speaking on behalf of gov't http://www.independent.co.uk/news/world/americas/revealed-us-envoys-business-link-to-egypt-2206329.html US envoy's business link to Egypt http://en.wikipedia.org/wiki/Frank_G._Wisner Frank G. Wisner From Wikipedia http://tanakanews.com/sj.php?n=10602 2月2日の関連分析 ●欧州、ロシア周辺 EUは、欧州のエネルギー市場を席巻しているロシアの影響力を抑えるため、 中央アジアの天然ガスをトルコ、東欧経由で欧州に運ぶ「ナブッコ・ガスパイ プライン」の建設を急いでいる。3月から沿道各国でパイプライン用地の買収 などの事業を開始する予定。2017年に完成予定。アゼルバイジャンのカスピ海 沖ガス田(Shah Deniz)からガスを買う予定だが、同地のガスだけでパイプラ インの稼働率を十分に保てるかどうか疑問も出ている。ナブッコはずっと前か ら計画があるものの、トルコや東欧に接近するロシアからの横槍もあり、予定 通りに進んでいない。中央アジアの南にあるイランも、ガスを中国方面に売る 策略を続けており、ガスの争奪戦になっている。パイプライン建設を急ぎたい 勢力と、遅らせたい勢力との地政学的な相克が続きそうだ。 http://af.reuters.com/article/energyOilNews/idAFLDE7120N820110203?sp=true Enough gas for Nabucco, so build it -EU energy chief ★昨日は書くべきことが少なかったので拙速分析を休みました。 この拙速分析はウェブサイトでも読めます。 http://tanakanews.com/si.php これまでの全分析が、日別、大区分・小区分別に整理されています。 メールアドレスの変更、購読料の支払いは、以下の会員メニューで行えます。 https://tanakanews.com/menu.php?i=8611&u=6caef