田中宇の国際ニュース解説 会員版(田中宇プラス)拙速分析 2011年2月4日 http://tanakanews.com/si.php ●覇権、通貨、世界的な問題 原油の国際基準価格であるWTIの価格は、もはや国際基準といえない傾向が 強まっている。WTIは、米国の内陸部オクラホマ州クシンにある原油貯蔵施 設の出し値であるが、その価格は米国中西部の需給しか反映しない。最近はカ ナダのオイルサンドで産出された原油がクシンに供給され始め、供給過剰で値 崩れしている。米国の一地方の需給が世界の基準値というのは間違っており、 むしろ英国の北海ブレントの価格の方が、タンカーで世界中に積み出されるの だから国際性があると前から指摘されている。ブレントは1バレル100ドルを超 えたが、WTIは90ドル台のままだ。WTIを使い続けることが、ドルの潜在 的弱体化の反動として起きている原油高騰を隠蔽する、米国主導の歪曲策とな っている。 http://www.jeffrubinssmallerworld.com/2011/02/02/is-west-texas-intermediate-still-the-global-benchmark-for-oil-prices/ Is West Texas Intermediate Still the Global Benchmark for Oil Prices? ●米国、南北アメリカ 今年6月までの予定で行われている米連銀の量的緩和策(QE2)が、QE3 へと延長されるかどうかが注目されている。延長になると、不健全なドルの過 剰発行と米国債の買い支えが拡大し、ドルと米国債に対する国際不信が強まる。 連銀のバーナンキ議長は2月3日、米国の雇用回復には非常に時間がかかると講 演で述べた後、質疑応答の中で、QE3の必要性をどう判断するかと尋ねられ、 雇用などが回復するかどうかを見計らって決めると述べた。6月までに雇用が 回復する見通しは薄いと彼自身が講演で言っているのだから、バーナンキはす でにQE3をやるつもりなのだろう。ドルの弱体化は進行する。 http://www.businessinsider.com/did-bernanke-just-admit-that-qe3-is-coming-2011-2 Did Bernanke Just Admit That QE3 Is Coming? ●西アジア、中東、アフリカ エジプト革命を機に、長く親イスラエルだったネオコンが、イスラエルを裏切 る姿勢をとり始めた。イスラエル政府は、エジプト革命が進行すると、79年の イラン革命と同様の展開になって非民主的なイスラム同胞団の政権ができるこ とを不可避と考え、ムバラク政権が続いた方が良いと考える。対照的に、米国 のネオコンは、イスラム同胞団の政権ができる可能性は低いので、ムバラクを 辞めさせてエジプト革命が進行した方が良いと考えている。ネオコンは、イス ラエルのために中東の政権を潰していくと言いつつ、実際には中東全域でイス ラエル敵視のイスラム主義を勃興させ、イスラエルの窮地を加速させてきた。 エジプト革命によってイスラエルの窮地が決定的になった今、ネオコンはいよ いよ「親イスラエルのふりをした反イスラエル」の本性をあらわし始めたよう だ。 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2011/02/02/AR2011020207325.html In backing change in Egypt, U.S. neoconservatives split with Israeli allies 米政府がエジプト政府のムバラク大統領の側近たちに対し、ムバラクに即時辞 任を勧告し、スレイマン副大統領を首班とする暫定政権が、軍に支持されつつ、 イスラム同胞団など野党勢力も招きいれた上で憲法改革を議論し、民主的な総 選挙を行うシナリオを勧めるよう促しているとNYタイムスが報じた。辞任を 勧告されてもムバラクが辞めない場合、軍の反逆によって大統領が亡命に追い 込まれるチュニジア型の政権転覆が起きそうだ。米政府はすでにイスラム同胞 団とも連絡をとり始めている。米政府の介入によって、エジプト軍が同胞団を 排除したまま政権移行を画策するのは難しくなった。米国はエジプトのイスラ ム主義化を誘発している。イラン革命の時と同じだ。イスラエルがオバマ政権 を警戒するのは当然だ。 http://www.nytimes.com/2011/02/04/world/middleeast/04diplomacy.html White House, Egypt Discuss Plan for Mubarak's Exit ●欧州、ロシア周辺 中国勢は、最近ユーロ圏各国が発行した国債全体の3分の1を買い上げている。 中国の買い支えが一因で、ユーロが崩壊せずにすんでいる。中国はドルや米国 債に対する懸念を強めているが、人民元をドルに代わる基軸通貨にするのは時 期尚早と考えており、人民元の国際化や自由化ができるまでの間、基軸通貨と してのユーロに期待している。だから中国はユーロ各国の債券を買い支えてい る。崩壊しつつある米国債を買うより、ユーロ諸国債を買う方がましだとも思 っている。中国は、人民元やユーロを含む多極型の基軸通貨体制を将来の目標 としている。 http://www.ft.com/cms/s/0/0489ad52-2fa2-11e0-834f-00144feabdc0.html China has much to gain from supporting the euro この拙速分析はウェブサイトでも読めます。 http://tanakanews.com/si.php これまでの全分析が、日別、大区分・小区分別に整理されています。 メールアドレスの変更、購読料の支払いは、以下の会員メニューで行えます。 https://tanakanews.com/menu.php?i=8611&u=6caef