おせちの価格の問題についても、植村弁護士が「本来は表示どおりのものを提供するつもりで一生懸命やったけれど、結果として提供できなかったという場合は、違反とならないケースもある」と指摘するように、おとがめなしの可能性もある。ただ、景表法の販売実績についての理解が足りなかったことを露呈しており、法令順守に対する認識が甘いと言われても仕方がない。そして、上限枚数の問題と同様、ここでも強引な営業姿勢の影がちらつく。
都内で2つの飲食店を営むあるオーナーは、昨年の秋頃から「1日に5、6件、あらゆるクーポンサイトから営業の電話がかかってくるようになった」と話す。そのうちの1社、グルーポンの営業担当と会ったのは10年11月。山手線沿線の主要駅からほど近い歓楽街に位置する店舗の「食べ飲み放題コース」を格安のクーポンにしたいという申し出だった。
■「伸び盛りの企業にありがちな荒っぽい営業」
もともと、食べ飲み放題コースの価格は4000円程度と低めに抑えてあるが、それを半額で提供しないか、という提案。グルーポンは通常、クーポン販売価格の50%を手数料として得ている。つまり、店舗には通常価格の4分の1しか渡らない、ということになる。オーナーが「広告と割り切っても、さすがにあり得ない」と固辞すると、グルーポンの営業担当は「手数料をどんなに引いても40%ですが、特別に25%まで下げます。内密にしてください」と返したという。
それでも、店舗に残るのは1クーポンあたり1500円ほど。「論外だ」とはねつけると、今度はこう食い下がってきたとオーナーは話す。「では、食べ放題の内容を少し変えた新しいコースの定価を6000円に設定し、その半額でクーポンを出しましょう。手数料は25%でいいです」。さらに、定価については「店内のメニューに載せなくても、売った実績がなくても、既成事実があればいい」とし、リクルートのタウン情報誌に6000円のコースを掲載するよう勧められたという。
この案だと、店舗側の手元に入るのは2300円ほど。オーナーは「利益は出ないが、経費はまかなえるライン。広告効果を考えるとやれないこともなかったが、最終的に断った」と話し、こう続けた。「既存のメニューをちょこっと変えて定価をかさ上げして、というのはできない。既存のお客さまに対して整合性が保てないような商品を売るのは、商売としてはおかしい。やってはいけない」
グルーポンの営業姿勢に憤るオーナーは、こんなエピソードも明かした。「若い担当がグルーポンの審査部とのやり取りの社内メールをこちらにも送って来たりした。そこには、審査部の人間が『値段が高いから下げろ』というようなことを書いていて、無礼だと感じた。伸び盛りの企業にありがちな、荒っぽい営業体制だった」
別の飲食チェーンの関係者は、こう証言する。「昨年の秋頃から、グルーポンの別々の人間から頻繁に電話がかかってくるようになった。ある担当者と話を進めても、それを知らない別の営業担当が電話をかけてくる。内部でアポイントメント競争をしているかのようだった」
国内外で二重の競争にさらされていたグルーポン。内部でもまた、営業担当同士の激しいつばぜり合いが存在することをうかがわせるような証言だ。そのしわ寄せが、さまざまな問題や懐疑となって表面化したと言えるのではないか。
■「バーゲンハンターばかりで、リピートゼロ」
ただし、強引な営業や荒っぽさはグルーポンに限った話ではない。そして、上限枚数が適正であっても、法令違反の疑いがなくとも、クーポンを提供した店舗に深い傷が残ってしまうことはある。巷(ちまた)で流行るクーポンは、参加する店舗にとって本当に有益なサービスなのか。都内で5つの飲食店を経営し、ツイッターを利用した集客やマーケティングを得意とするグレイス(東京・港)の中村仁社長は、一般論と前置いたうえで、こう警鐘を鳴らす。
「マーケティングの本質は、新規ではなく、リピーターやファンをいかに増やすか。しかし、クーポンの利用客はたまたま見つけて、安いから行ってみようという『バーゲンハンター』が多数を占める可能性が高い。たとえ薄利、赤字でも、向こう数カ月、数百人、数百万円の売り上げが確定することに魅力を感じる店舗が多いのだろうが、クーポンの利用客に『2倍以上のお金を払ってでもまた来たい』と思ってもらうのは難しい」
居酒屋の「塚田農場」や「じとっこ」など、70店舗の飲食店を展開するエー・ピーカンパニー(APカンパニー、東京・港)の体験談は、この指摘を裏付ける。
10年6月から7月にかけて、APカンパニーは計3回、クーポンサイトのゴーチを利用した。ある店舗では炭火焼きやたたきが食べられる「地鶏満喫コース全8品」を78%OFFの777円で、別の店舗では「鹿児島黒牛」の霜降りと赤身の刺し身2種と生ビール2杯を79%OFFの500円で提供した。割安感からツイッターなどを介してアクセスが集中、それぞれ数時間で予定していた上限枚数に達し、計500枚を売り切った。
「ドリンクの追加オーダーなどで少しでも利益が出ればというくらいで、クーポンそのものは赤字。うちのファンになってもらうきっかけになればと思い、やってみた」。クーポンを企画したAPカンパニー企画部の松岡庸一郎マネージャーは、そう語る。しかし……。
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