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埋蔵電力の問題点 - 看過されている自家発電の稼働率
先週末、埋蔵電力について菅直人が経産省に文書で情報開示を要請していた問題が報道された。これは、海江田万里が菅叩きの材料としてマスコミに情報提供したもので、埋蔵電力の情報開示を拒む経産官僚の側を正当化する意図で動いた姑息な政治工作の一手である。この事実を公に暴露し、菅直人の手法の「異例さ」を強調して不快感を示すことで、首相指示を無力化し、有名無実にして、官僚側のサボタージュに名分を与える政治の駆け引きだ。現在、放射能汚染の対策と並んで、この埋蔵電力をめぐる攻防がこの国の政治の最大の争点で、原発を全基即時停止させても電力供給は十分なのか、それとも不足するのかが問われており、それが国民の最大の関心事のはずなのだが、週末のテレビ報道はこの問題に対して一顧だにせず、トピックスとして取り上げなかった。この情報戦を概観すると、マスコミのほとんどが官僚と財界の側に与し、「埋蔵電力はない」というプロパガンダで紙面と画面が埋め尽くされ、原発を再稼働しないと電力不足になるという「事実」が世間を蔽っている。しかしながら、国民の多数がそれを信じ、「事実」が固まっているかというと、そうではなくて、明らかに人々はマスコミ報道を疑っている。日経や朝日の記事を信用していない。一般多数の見方を代弁するものもマスコミの一部にあり、例えば古舘伊知郎がそうだ。


7/21(木)の報ステでは、電力不足を既定の事実のように言う三浦俊章に対して、古館伊知郎が反論し、「それは原発を動かしたい側の脅しだとしか思えない」と切り返していた。この言説は、橋下徹が6月から表明しているもので、現在の世論環境において一般の原発不要論が依拠する有力な砦となっている。この問題における世間の常識で、この正論がマスコミのプロパガンダの浸潤を抑止する役割を果たしている。官僚と財界にとっては、橋下徹と古舘伊知郎の二人が目の上の瘤だろう。この二人が、公然と脱原発の発言をするのは、脱原発を支持する声が世論の大勢だという事実背景がある。だが、おそらく、逆もまた真で、この二人が再稼働を容認する姿勢に転向すれば、マスコミが細工する「世論調査」も、その数字を逆転できる「空気的根拠」が生じるかもしれない。支配者側(官僚・財界・マスコミ)とすれば、この二人を調略して落とせばいいという作戦と標的になる。それにしても、 これだけ「電力不足」のキャンペーンに狂奔し、「日本経済が潰れる」とか、「雇用に悪影響を与える」という脅迫の絨毯爆撃をかけながら、マスコミは「再稼働の是非」を問う世論調査を打てないでいる。つまり、未だ脱原発の方が圧倒的で、再稼働を拒否する世論の方が多いのだ。プロパガンダが奏功していない証左である。もし、再稼働容認が半数近い状況になっていれば、マスコミは躊躇せず世論調査を仕掛ける。

問題の埋蔵電力について、中身に立ち入って検討を試みよう。支配者側(官僚・財界・マスコミ)の説明は、7/23の産経の記事に端的に出ていて、これと全く同じ内容が7/21の朝日紙面(2面)にも載っていた。結論は、「埋蔵電力はない」であり、自家発電の積み上げは160万KWのみという数字である。これは、エネ庁の官僚のリークをそのままコピペしただけの代物で、新聞社が独自に調査したものでも何でもない。整理すると以下のとおり。(1)自家発電設備は全国で5370万KWある(今年3月)。(2)そのうち4割の1930万Wはすでに電力会社に買い取られている。(3)残りは3440万KWだが、本来の自家使用に加え、設備を休廃止していたり送電線への系統接続がないなどの問題があり、売電は事実上不可能である。これが今月初旬に経産省から菅直人に報告された内容であり、菅直人から再調査を命じられながら、経産省が譲らない「実態」である。このうち、(1)については、飯田哲也なども同じ指摘をしていて、その発言が報ステでも紹介された。この数字は確かな所与として前提してよいだろう。(2)の数字もひとまず問題ない。問題は(3)である。(3)についての真偽を確認したいと思い、エネ庁がHP上に公開している統計資料のExcelを何枚か開いたが、関連すると思われるデータを発見することができなかった。なぜ、(3)が問題かと言うと、自家発電している業者について、昨年夏の設備の稼働率が50%であったという重大な事実があるからである。

この自家発電の稼働率50%の問題について、マスコミは記事で検証を加えず、全く無視を決め込んでいる。エネ庁の「報告」も、「設備の休止」だの「送電線への接続がない」などの表現で逃げているフシが濃厚だ。現状、この「稼働率50%」が再稼働の政治の攻防を分けるキーの情報に違いないが、ネットでの情報レベルでは最終的な信憑性の断言に限界があり、飯田哲也や広瀬隆のようなオーソリティーが主張の根拠を提示してだめを押す必要がある。もし、IPPやPPSの稼働率が50%であるとすれば、設備能力5370万KWのうち実際の発電量は2685万KWにすぎないということになる。1930万KWを電力会社に売電したとして、わずか755万KWが自家消費分だ。この比率(全体の14%)は俄に信じられない数字で、とすると、4割(1930万KW)を電力会社に売電していると言っているエネ庁の情報が嘘か、5割(2685万KW)の設備が稼働してないとするネットの情報が誤りか、自家発電の全体を5370万Wとする前提が間違いかである。きわめて重要な問題であり、同時に物理的にスペシファイされた争点で、結論はシンプルに一つで、簡単に解明できるはずだが、調査分析された情報が表面に出て来ない。飯田哲也や広瀬隆が調査を怠っていることと、自家発電業者が真相を隠していることが理由だ。彼らは、電力会社と経産省に睨まれるのを憚っているのだろう。菅直人が追求しているのもこの一点で、本来なら社民や共産が予算委で質して引っ張り出すべき情報である。

ここで、ネット上に興味深いデータがあったので紹介したい。脱原発系のBlogだが、デザインが某有名Blogと同じなので、一見するとそれと見誤ってしまう。このサイトの記事後半に、(1)東電の他社受電のデータと(2)8月末の電力供給力の内訳データが掲載されていて、埋蔵電力を考える上での参考資料になる。(2)の内訳は、7/7のテレ朝のワイドショーで登場した情報で、木曜に原発ネタを定期特集している玉川徹が取材したものだ。それによると、東電の供給見通し5560万KWの電源構成は、a)水力310万KW、b)揚水650万KW、c)原子力490万KW、d)火力3560万KW、e)ガスタービン新設80万KW、f)応援融通40万KW、g)卸電気事業者(IPP)480万KW、h)自家発電業者(PPS)40万KWとなっている。このBlogは、この中でg(IPP)とh(PPS)の数字が東電の過小申告であるとし、本当はもっと多いはずで、g+hは550万KWではなく、2倍の1158万KWあると推測値を出している。その根拠は、東電の他社受電の各年の最大月の実績ベースで、2007年度は1400万KW超、2008年度は1200万KW超の他社受電、すなわちIPPとPPSから電力を買い取っている。ページ中には、電気事業者(g)と自家発電業者(h)の明細一覧が示されていて、自身の推計値の正しさを証明する努力がされている。これはこれで一つの考え方であり、有力な問題提起と言えるだろう。ただ、他社受電には、その中で電源開発と日本原子力が大きな比率を占めていて、この2社を埋蔵電力の範疇に含めて計算してよいかという問題があるはずだ。

一般に、いわゆる自家発電の東電管内分は1600万KWあると言われている。おそらく、この中に電源開発と日本原子力の卸電気事業者は含まれず除外されているはずで、2社を除いたところの、IPPとPPSの電力供給力の総和が東電管内で1600万KWなのだろう。このあたりのところが厳密に整理され、カテゴリー別に数字が分類されれば、眠っている未稼働の設備余力が埋蔵電力として定義され、それが地域別に積み上げられ、原発の再稼働は必要ないという結論に導かれるはずだ。目下のところ、私自身も含めて、単に正確なデータを掘り出せないだけでなく、埋蔵電力・自家発電・IPP・PPSなどの用語の混乱と、それに関わる電力(KW)の積み上げ計算に不明瞭な点があり、データを整合的に提出できず、脱原発の側が説得的な議論を展開できない恨みがある。推測論で恐縮だが、エネ庁がマスコミを通じて「(自家発電の)設備の休止」を言い、「送電線への系統接続がない」点を言い訳にしていること自体、未稼働の設備余力があり、送電線に接続する事務的な手続きをすれば、そこから供給される埋蔵電力があることを物語っている。先回りしてこちらから結論を言えば、電力会社がISSとPPSに対して電力増産を要請し、供給能力の限度まで買い取ればいいだけの話で、問題解決すなわち原発停止分のカバーの手段はそれに尽きる。電力会社は、原発を停めたくないから業者に増産を要請しないのであり、経産省は原発を守るために「需給逼迫」の神話を言い続け、再稼働を正当化する根拠を得ようとしているのである。

この問題は、経産省から正しい情報が出ると期待するのは無理だ。泥棒に向かって、どの店で何をどれほど盗んだか言えと迫るのと同じで、何も証拠も押さえていないのに泥棒が正直に白状するはずがないではないか。動かぬ証拠が突きつけられない限り、泥棒はアリバイを捏造し、シラを切り続けるのであり、経産省とエネ庁も同じだ。しかも、その大泥棒には財界とマスコミの大弁護団がバックに付いていて、経産省・エネ庁の「クロ」を「シロ」にすべく全力で宣伝工作している。年間4500億円の現金は、電力会社や原子力村の独行法人や財団法人や大学を通じて、相当の部分がメーカーやゼネコンに回って落ち、循環してマスコミの経営を潤すのである。4500億円の現金は半端な規模ではない。金額にしてこの国の税収の1%であり、歳出の0.5%に当たる。米倉弘昌や長谷川閑史のヒステリックな対応を見ていると、4500億円のカネの大きさがよくわかる。中部電力が浜岡の防潮壁に1000億円を投じられるのも、それにリターンする十分な利益が見込めるからであり、原発の既得権益の想像を絶する巨大さに立ち眩みを覚えてしまう。米倉弘昌の幼児のようなヒステリーは、電力会社の経営陣の率直な代弁なのだ。東電の幹部は、福島の避難所で土下座し、国会の委員会でペコペコと平謝りし、マスコミに叩かれ、役員報酬を半減させられ、記者の目があるので銀座でも遊べない。溜まったストレスを発散する場がないのである。そこで、代わりに米倉弘昌や長谷川閑史が菅叩きで鬱憤を晴らしてやっているのだ。電事連の面々は、米倉弘昌の常軌を逸した狂態に気分爽快だろう。

以上。ここで少し訂正あるいは補足をしたいが、私は埋蔵電力について、それをIPP+PPSの自家発電分だけだと定義しているわけではない。当然ながら、電力会社の余剰設備分も埋蔵電力の中に含まれる。その二つが、ときに混同され、整理され区別されずに論じられている点が問題なのである。



by thessalonike5 | 2011-07-25 23:30 | 東日本大震災 | Trackback | Comments(0)
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