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戦慄する5月の経済指標 - 金子勝は内需拡大の声を上げよ
今、日本は三つの大きな困難と課題に直面している。一つは原発事故とその収束である。もう一つは東北3県の震災とその復興である。そして、もう一つは日本経済の打撃の問題である。そのように私は思うが、日常の報道と世間の関心は第一の福島原発の現状と対応、それに関連する政局と放射能の被害に集中していて、後の二つの問題への注目が極端に弱く薄い。問題の重大さと深刻さは、おそらく三つが同等であり、新聞の記事やテレビのニュースは、三つの問題に等分に分量を割くべきではないかと思うけれど、実際の報道はそうなっていない。特に三番目の日本経済の問題についての追究や議論がない。食料やエネルギーなど資源の高騰に襲われた2007年、金子勝は、これほどの日本経済の危機なのに誰も危機だと言わないと警告、石油危機の当時と較べて日本に危機感がないと正論を吐いていた。私は、現在の日本経済の危機は4年前よりも厳しく、震災と原発事故によるダメージは、オイルショックやリーマンショックを超える重傷ではないかと直感するのだが、当の金子勝を含めて、経済学者たちが全くそうした指摘や提起を発しない。金子勝は、今やすっかり原発評論家となり、エネルギー政策専門家となって、日々のニュースのフローに密着している。日本経済の危機を直論しない。森永卓郎は、原発擁護派として論陣を張るお粗末で、世間の失望と失笑を買っている。


テレビ報道は、基本的に原発情報をトップに配置するパターンが固まっている。視聴率が取れるからだ。世間の関心が高いからである。現地での事故状況と作業進捗、そして放射能の拡散について、特に健康への影響を恐怖する首都圏の住民の視線が釘づけになっていて、関連する情報(コンテンツ)が報道市場の主力商品になっている。その状況は、週刊誌の誌面編集を見るとよくわかる。マスコミが一般のニーズに応え、原発情報が報道の画面と紙面と誌面を占領するため、第二(震災)と第三(経済)の問題が隅に押しやられ、世論の注目が集まらない結果となり、政治が動く問題にならない。本当にこれでいいのだろうか。マスコミ報道が、震災による経済危機に焦点を当てないのは、おそらく理由があり、景気の悪化をうるさく言うと、消費税増税の政治が難しくなるから、そうした世論状況を未然に防ぐため、なるべくマクロ経済の話題は取り上げずに伏せているのだ。彼らの思惑は理解できる。しかし、であるならば、政府や経団連に批判的なエコノミストは、そうした体制側の情報操作に一撃を与えるべく、景気の問題の世論喚起に努める必要があるのではないか。それが知識人の使命ではないのか。放射能の汚染と被曝も恐ろしいが、同じほどに恐ろしい脅威が国民生活に迫ってる。政府とマスコミはそれを隠していて、原発と同じように、事態を正確に伝えず、誤った評価を流して国民を騙している。

まず、貿易統計のニュースだが、昨日(5/30)の財務省の発表によると、5月上旬(5/1-5/10)の輸出額と輸入額の差額である貿易収支が6463億円の赤字になっている。通常、上旬の10日だけの数字がニュースになることはないと思うが、短期の赤字幅が過去になく大きく、5月全体の数値が史上空前になる可能性があるため、報道の発表にしたのだろう。しかし、この情報はテレビのニュースになっていない。この報道の前、先週5/25に財務省は4月の貿易統計を発表していて、そこでは4637億円の赤字となっている。5月は10日間で4月1か月間の赤字幅を超えた。4月の貿易赤字は31年ぶりの歴史的なものだったが、特に大きく報道で取り上げられることはなかった。各紙の社説を見ても、この問題について論じたものはなく、週末のテレビでも一顧だにされていない。貿易赤字の幅が拡大した理由は、震災の影響による自動車などの輸出の落ち込みと、エネルギー資源である原油やLNGの輸入が増えたためで、資源価格の上昇が輸入額を押し上げる要因になっている。貿易赤字はGDPにマイナスの影響を及ぼす。おそらく、1か月後の6月末は、5月の貿易赤字が出て、上半期と2011年の貿易収支の推計が出され、それがGDPの予想に反映され、小さくない騒ぎになっていることだろう。国内消費をシュリンクさせている日本経済は、観光を含む輸出を増やして経済を拡大させる方向、すなわち俗に言う「成長戦略」にシフトしていた。

同じく先週の5/25、OECDが経済見通しを発表し、日本の2011年の実質GDPが-0.9%に落ち込むと予想した。OECDは、4月に発表した予想では、日本の成長率を+0.8%としていたが、内閣府が5/19に発表した1-3月期の速報値(-0.9%、年率換算-3.7%)を受けてマイナス成長へと下方修正したのである。OECDの4月発表の統計の出鱈目ぶりに唖然とするが、この発表は、政府と日銀の予想値に確実に反映するだろう。政府は、今のところ当初に設定した+1.5%成長を変更していない。税収等はこの成長率が前提で計算されている。2か月前の3/30の記事で紹介したが、政府は震災直後の3/23に震災の被害額を試算し、実質成長率への押し下げ効果を-0.5%と測定していた。私は、この試算は小さすぎると言い、2011年をマイナス成長の予測にしたくない政府が、意図的に減少幅を小さくして報道させていると疑った。思ったとおり、5/19発表の内閣府のGDP速報値では、1-3月の四半期だけで-0.9%と減少していて、年率に伸ばせば-3.7%になる。一国の経済が1年で4%近くも縮減したら大変なことだが、そうなる可能性はきわめて高い。日銀は、1月時点に予想した+1.6%の成長率を4/29に+0.6%に引き下げたが、依然としてプラス成長の見通しを続けている。おそらく、次の金融政策決定会合でマイナス成長に判断を修正するだろう。常識で考えれば誰でもわかるが、あの大震災を受けて、前年と同水準の生産と消費を維持できるはずがないではないか。

ところが、覚えているだろうか。4/25にクローズアップ現代に生出演した日銀の白川方明は、震災が製造業に与える影響は前半で収束し、日本経済は年後半に回復基調に入り、プラス成長を十分に達成すると言い切ったのだ。4日後の政策会合で成長率を引き下げる素振りなどおくびにも出さず、「年後半の回復」を強調、日銀の経済見通しが強気であることを示し、自然に景気は回復すると国民の前でコミットした。同時に、このとき復興財源で議論になっていた国債の日銀引き受けを一言の下に拒絶した。もし、日銀が来月の会合でGDPのマイナス予想を決定したとすれば、白川方明はわずか2か月で景気判断を撤回したことになる。4月時点の経済の認識と予測が間違っていたことを認める結果になる。どう釈明するのか。白川方明は米国で言えばバーナンキの位置だ。日本経済を舵取りする政策責任者として、この判断と発言の過誤は責任重大と言わざるを得ないだろう。言うまでもないが、この4月時点の白川方明の景気判断は、エコノミストとして客観的にデータを分析した上でのものではなく、政府と謀った政治的な工作だったのだ。初めに「震災による景気悪化は軽微」という結論があったのであり、それに合わせて景気予想の鉛筆を舐めたのである。政府の方針に従い、何より消費税増税を優先するため、その政治環境を阻害する要因を排除するべく、景気予測を捻じ曲げたのだ。消費税増税のため、不自然で非科学的な数字を日銀が捏造し、マスコミで情報操作をしていたのである。

これは、原発事故の情報における政府と東電のやり口と同じである。初めに事故を極小に見せかけようとする政治的思惑があり、国民に嘘を言い、都合の悪い情報を隠し、根拠のない「安心安全」の宣伝を散布した手口と同じだ。メルトダウンはしてない、格納容器の健全性は保たれている、評価はレベル5だと言い張り、直ちに健康に影響の出るレベルではない、政府と専門家の説明を信じて安心しろと言い続けた、あの一連の情報工作と同じである。原発事故の被害の全貌が、これから少しずつ明らかになるように、震災が経済に与えた傷の深さも徐々に真相がわかってくる。エコノミストは誰も言わないが、現在の日本経済は、瀕死の重傷患者が病院に担ぎ込まれたにもかかわらず、止血も救急措置も何もせず無視して、逆に、消費税増税が急務だとばかり、病人の体に注射針を刺して生き血を抜き取ろうとしているに等しい。本来、この3月以降、原発の事故収束や東北の復興構想の立案と同時に、並行して日本経済の景気対策が講じられなければならなかったはずであり、輸出の落ち込みをカバーする内需振興策が打たれる必要があったはずである。財政出動をして、景気の下支えをするという政策が緊急に手当てされて然るべきだった。その意味では、経済についても致命的な初動ミスを犯している。この失策の影響と結果は、まだ国民生活の実感に届いていない。否、すでに破局が到来しているにもかかわらず、原発報道で日常の関心が埋められているため、問題が痛みとして意識されないのである。

最後に、内閣府が5/16に発表した4月の消費動向調査では、消費者態度を示す指数の下落幅が過去最大の落ち込みとなり、消費者の買い控えが深刻になっている。以上、(1)空前の貿易赤字、(2)マイナス成長見通し、(3)消費意欲の過去最大のブレーキ、を見てきた。5月に発表された経済指標は、どれを見ても異常で惨憺たるものばかりだが、報道の扱いが小さいため、国民的な議論になっていない。3月から4月の頃は、1次補正の財源問題があり、日銀引き受け国債の提案が出るなど、僅かだが経済政策の議論があった。現在は、6月の「税と社会保障の一体改革」の終着駅に向け、政府とマスコミの主導で消費税増税を既成事実化する報道ばかりになっている。経済指標を扱っている内閣府が、消費税増税の首魁である与謝野馨の牙城であり、どれほど尋常でない数字が出ても、それをマスコミに騒がせようとせず、大きなニュースにしないのである。経済企画庁が廃止されて内閣府に統合されたのは、ちょうど、司令塔が堺屋太一から竹中平蔵に変わったときだったが、そのときから、政府(官僚)が作成発表する経済指標が毒々しい政治色を帯びるようになり、信憑性の全くない、意図的な政治工作の手段に転じてしまっている。オーウェルの『1984年』の政府発表になってしまった。輸出の落ち込みは内需拡大でカバーするしかないし、逆に言えば、その政策を打つ絶好の機会だが、政府はおろか野党からも、内需拡大とか財政出動の声が一切聞かれない。ネットからも聞こえない。その二つの単語は、死語となり、タブーとなっている。その一方で、「成長戦略」は足下の前提が崩れ、もはや、農産品や原発の輸出で成長するという軌道は描けない。

マニフェストの政策原点に戻って、財政改造と内需拡大を図るべしと、金子勝は声を上げるべきだ。



by thessalonike5 | 2011-05-31 23:30 | 東日本大震災 | Trackback | Comments(0)
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