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アリバイ工程表を分析できず鵜呑みにするマスコミ報道
工程表の改訂について、マスコミは「新しい冷却方式を採用した」などと評価しているが、それは東電の会見を鵜呑みにしているだけで、問題の本質を全く理解していない。アレバの除染設備で汚染水を処理して循環させる件は、すでに3月から進めていて、4月の工程表の中にも含まれている。正確に評価すれば、単に水棺が失敗したので後回しにしただけにすぎない。東電は、水を除染して循環させる方式を「循環注水冷却」と呼んでいるが、冷却と言うかぎりは熱交換の仕組みを経路に挿入することが必須である。マスコミ報道は熱交換について注目せず、それがなくても冷却システムとして可能であるように説明している。新旧の工程表を比べ見ると、旧工程表ではステップ1に「熱交換機能の復旧」を入れていたが、新工程表ではステップ2に回している。要するに、東電にとっては現在が「安定冷却」の状態なのであり、原子炉が高温高圧になって水素爆発や再臨界が起こる危険がない小康状態であれば、それを「冷温停止状態」と言うのである。つまり、半年後に現在の状態のままでも、その時点で東電は工程表を達成したと言う魂胆なのだ。見直された工程表は、全体がさらに杜撰で曖昧になっている。ここでわれわれが気づかねばならない事実は、この工程表には何の法的な根拠もない点で、工程表を遵守しようがしまいが、結果がどうなろうが、東電に法的な義務や責任はないのである。法的強制力がない。


この工程表の策定と遂行は、東電にとってどのような意味があるのか。二つの意味がある。一つは、賠償を東電の思惑どおり進めるためのエクスキューズの仕掛けである。もう一つは、マスコミ用のネタ提供であり、情報工作の素材である。こうして、収束の目標を目指して尽力しているフリを見せれば、賠償での会社負担を軽減させ、賠償費用を政府(国民)に押しつけ、会社の資産(内部留保)を防衛することができる、とそう踏んでいるのだ。アレバの除染処理の契約は、1トンにつき2億円と言われている。東電の計画では年内に20万トンの汚染水を処理する見通しであり、単純に計算すれば40兆円になる。これほど巨額にはならないとしても、東電1社で賄えば会社の存続は難しくなるのであり、事故の処理と賠償の両方で発生する膨大なコストを政府(国民)に負担させるため、自己弁護して時間稼ぎするアリバイ装置が要るのだ。その背骨が工程表である。工程表は、何も現場を知らず、調査や取材をしようともしないマスコミが、原発を報道する際に依拠する「仮想現実」でもある。こうした撒き餌に食いつかなければ、マスコミは原発をネタにしたデイリーの報道を埋めることができない。結局のところ、東電の思惑がそのままマスコミ報道になるのであり、マスコミは工程表を「厳しく監視」と言いつつ、「柔軟に変更せよ」と言うのである。ネタとしての工程表はマスコミにとって必要で、1か月後も、2か月後も、商売道具として重宝するだろう。

マスコミには、工程表を分析できるインテリジェンスがない。NHKの水野倫之は、昨夜(5/17)の7時のニュースで、「ようやく現実を見据えた工程表が出て来た」などと積極評価し、前回の工程表はメルトダウンを前提していなかったなどとと言い、まるで自分が最初からメルトダウンを予見していたような口振りだった。水野倫之が、東電や保安院の発表に抗して、それを疑う見解を示し、3月時点でメルトダウンを指摘し主張していた記憶はない。この男の解説は、常に東電と政府の発表をそのまま擦って、スタジオに並べたパネルや模型をタクトで指していただけだった。岡本孝司や山口彰と同じだ。果たして、今回の工程表が「現実を見据えた」ものだと言えるのか。1号機のメルトダウンは、4月の工程表から1か月後に確定された事実だ。2号機と3号機については、何も現場の調査が行われていないし、水位・圧力・温度・濃度・線量のデータを正確に把握して現状を判断するのはこれからの仕事である。蓋をあけてみて、どんなハプニングが飛び出すか分からない。3号機などは、格納容器が破砕されていて原型を止めていない状態でもおかしくない。被害が比較的小さく、作業を早く着手できた1号機でさえ、これまで発表してきた水位の数値が出鱈目だったのである。2号機と3号機の小康状態は、決して何か対策が奏功した結果ではなく、偶然の賜物と言うべきであり、現状は「現実を見据えた」段階とは評価できない。水野倫之は、こうして言葉巧みに東電を庇護するのである。

一方、今回は政府が「被災者支援策」の工程表なるものを出してきた。まさに便乗商法と言うべき噴飯の政治だ。工程表というスタイルとフォーマットを姑息に借用し、政府が何かやっているように演出し、政権延命のデバイスとして情報工作しているのである。当然ながら、この(原発被災者対策の)工程表には予算と法律の裏付けがない。国会でも審議していない。手続きとしては、原子力災害対策本部の決定であり、正式な閣議決定ではない。まさに形だけのペーパーであり、現在進めている項目を一覧に並べただけだ。宣伝とアリバイの目的に配った薄っぺらなパンフレットである。問題を言い上げればキリがないが、ここには20ミリシーベルトの児童被曝の問題が入っていない。無視していて、「校庭の土壌についての対応の実施」とだけある。実際に取り組むとなれば、大規模な学童疎開となり、全国の教育委員会を動かし、受け入れ先と宿舎を用意しなければならず、それに予算を計上しなくてはならない。仕事が増えて面倒な文科省が嫌がり、支出が増えるのを拒否する財務省が嫌がり、20ミリシーベルト基準の誤断と失政を認めたくない厚労省が嫌がっているのである。もう一つ、被災者への賠償について、7月に中間指針の取り纏めなどと先延ばししている問題がある。菅政権は賠償関連の法案を今国会に提出せず先送りする構えで、これでは東電が農漁業者や中小企業に賠償金を仮払いする根拠が示せないことになる。法律の骨格が未定なのでと逃げる口実が東電にできる。

法案成立の日程の記載がない工程表など無意味だ。これらの問題に関連して、昨日(5/17)の報道では、自民と民主の議員が勉強会を開いている図があった。樽床伸二や長島明久や菅義偉らが集まった109名の議連は、見るからに怪しく、右翼的腐臭が漂っていて、およそ期待や信用ができる代物ではないが、時局が原発を中心に動いている中で、超党派の議員の力で上の問題を動かすことはできないかとは思う。例えば、福島の20ミリシーベルト問題(学童疎開)について、議員立法を出すなり、決議案を出すなり、そういう動きができないかということである。農漁業者と中小企業への賠償金の仮払いについても、紛争審査会の指針や政府の法案とは別に、被災者救済を優先して、仮払いの金額と時期を東電に示した決議案を議員が院に提出してよいではないか。菅政権の対応を見ていると、2次補正の先送りと原発賠償関連法案の先送りはセットになっていて、カネの絡む政策は先送りにし、政権の延命期間を1日でも延ばそうとする意図が透けて見える。つまり、先に6月の「税と社会保障の一体改革」で消費税増税を決め、財務省が納得した後でカネの問題に入ろうとしている。財務省が仕切っているのであり、菅直人は頭が上がらないのだ。財務省は、原発賠償の国の負担分は全額を国民負担(電力料金)にせよと要求しているのであり、国庫から拠出するのなら、その分は消費税増税にしてもらおうじゃないかと菅直人に詰めているのである。官僚の金庫(特別会計)からはビタ一文出さないのだ。震災復興税と、原発賠償税と、その二つを名目に消費税引き上げを狙っている。

政府の工程表を決めた昨日(5/17)の原子力対策本部会議のニュースで、大きく扱われて報道されたのは、菅直人の「原発被災者は国策の被害者であり、最後の最後まで国が責任を持って対応する」の言葉だった。一見、美辞として響く正論の言葉だが、胸騒ぎを覚えたのは私だけだろうか。これは要するに、東電が賠償できない分は全て国が面倒見ますという意味で、責任を国が東電と等分するというコミットである。それでは、仮に賠償金額が10兆円になり、東電が2兆円しか支払えなかった場合、国は8兆円をどこから持って来るのか。この菅直人の発言は、東電の内部留保の監察と分析が済まず、東電の負担限度が見極められていない現時点で言うべきものではなかった。意図的なフライングであり、言わせたのは財務省と経団連だ。賠償責任を国が負い、その分を消費税で充当すると、その布石を打ったのであり、消費税増税への既成事実を敷いたのである。消費税は1%の増率で2兆円になる。おそらく、政府は震災復興と原発賠償の両方で10兆円を消費税から取る算段で、一気に5%引き上げる策謀なのだろう。復興会議の方も、間もなく中間整理案を出すタイミングで、目玉は復興財源(消費税増税)である。初めから結論ありき。五百旗頭真を座長にして復興を名目に消費税を上げようとしたのは菅直人と財務省だが、軽薄な五百旗頭真は評判が悪く、政策の説得力がまるでない。失敗である。そこで、財務省は一計を案じ、それなら(国策責任の)原発賠償で突破口を開こうと考えたのだ。狡猾な手口。

浜岡停止のときのように、ある日、菅直人が官邸で緊急会見をセットし、国民に向かって「総理の要請」を切り出すのだ。原発被災者は国策の犠牲者であり、国は責任を取らねばならず、どうか消費税の引き上げで賠償費用を捻出することを認めていただきたいと、そう神妙な面持ちで迫る。そして翌日、間髪を置かずマスコミが世論調査を一斉発表し、賛成が70%の多数を占める。という危険な謀略が待ち構えているのではないか。この手を不意に打たれたら、消費税増税を防ぐ手段はない。そのまま民意を問う総選挙に雪崩れ込まれ、民自公の増税大連立政権が誕生する可能性もある。 さて、最後に、自民党は2次補正だけでなく、国会の事故調査委についても、菅政権がそれを拒否した場合は不信任案を構えて強硬に要求するべきではないのか。政府の事故調査委は、菅直人は5月中旬に設置すると言っていた。間もなく下旬になるが、今のところ何の報道もなく、調査委メンバーの顔ぶれの噂も立たない。政府工程表の中にも、事故の調査検証は項目化されていない。おそらく、内部で相当の鬩ぎ合いがあり、経産省や文科省の原発利権村官僚が頑強に抵抗し、事故調査委をお飾りのシャンシャンにするか、先延ばししようと水面下で画策しているのだ。官僚に歯向かえば、権力基盤の脆弱な菅政権は潰される。しかし、世論の手前、御用学者で事故調査委を埋めるわけにもいかない。菅直人としては悩みどころで、板挟みのまま何も決断できないのだろう。政府の事故調査委は期待できない。国会で委員会を設置し、関係者を召喚するべきだ。

世論は確実に支持をする。国会での事故調査委を政治争点にせよ。野党は共闘するべきだ。



by thessalonike5 | 2011-05-18 23:30 | 東日本大震災 | Trackback | Comments(0)
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