３月末の普天間政府案は「複数案」で決定 - 社民党は分裂と混乱へ
昨夜（3/15）の報道ステーションで、平野博文が浮上させたホワイトビーチ案について特集した報道がされていた。元在沖海兵隊員で、今は国防総省で要職に就いている関係者が、普天間移設の一案として2005年に日米両政府に提案した報告書が検証され、現地を取材した映像が人々の困惑と憤懣の表情を伝えていた。その提案によれば、新基地建設の埋立工事は大規模なもので、勝連半島の先端から津堅島までの沖合４キロの海面を埋め立ててしまう。そして、普天間の海兵隊だけでなく那覇軍港と嘉手納の空軍の一部も移設する。さらに那覇空港を民間と共用している航空自衛隊を嘉手納と新基地に移し、米軍と自衛隊の一体運用を図る。那覇空港を民間専用とする。そういう計画であることが紹介された。単に普天間移設だけを目的とした収拾策ではなく、まさに米軍再編（自衛隊と米軍の一体化）のプランだった。普天間飛行場の滑走路が2.7キロで、地図を見ても、新基地は普天間基地よりはるかに巨大であることがわかる。また、勝連半島から津堅島に続く浅瀬は、もずくの養殖場で、番組では日本最大のもずくの生産地だと紹介されていた。先日、沖縄へ旅したときも、もずくを土産で買って帰った。国際通りと那覇空港に出店しているわしたショップが、沖縄特産の新商品として戦略的にマーケティングしていて、ミネラル豊富な健康食品という口上で、販売員が積極的に観光客に試食させるのである。わしたショップは、この計画案に怒り心頭だろう。
この空前の計画が現実に決定され、建設着工されれば、工事費用は全ての移設案の中で最も莫大な金額に上るはずだ。沖縄県内移設であるという点、もずく水産業への打撃、工事費用と補償費の予算、津堅島住民の騒音被害、等々、辺野古沖の現行案以上に建設が困難な条件が揃っている計画だが、何故、このような論外な計画を平野博文は移設案として再浮上させたのだろう。平野博文に常識的な感性が欠落しているとしか思えない。ところが、この計画案の報道を解説した一色清は、那覇空港の発着枠がタイトになっている現状を言い、自衛隊が出て行けば民間機の便数を増やせるプラスの面は大きいなどと発言、テレビを見ている沖縄県民の感情も何も考えずに、政府の県内移設案の方向を支持するコメントに終始していた。今、日本の地方空港は、不景気の影響でどこも乗客数を減らしている傾向にあるはずだ。那覇空港だけが例外的に利用者を伸ばしている状況はないだろう。それほど沖縄観光が順風満帆な環境ならば、ＪＡＬが経営破綻に瀕する惨状はないのである。自衛隊機を那覇から退かせることだけが目的なら、空自部隊が嘉手納に移って居候すればよいではないか。嘉手納基地の米軍機の離着陸枠がオーバーフローということはあるまい。一色清と朝日新聞は、地方公共事業の削減をプロパガンダするときは、少子高齢化と空港需要縮小の経済動向を言う。普天間の県内移設を後押しする世論操作をするときは、那覇空港の発着枠の窮屈を持ち出す。
政府は、３月末の移設案決定を具体的にどういう政治にするのだろう。私の予想は、候補地を一つに絞らず複数案にすることで、最終決定を５月末にスライドさせる先延ばし策である。具体的には、シュワブ陸上案、嘉手納統合案、ホワイトビーチ沖埋立案、南西諸島案（徳之島・馬毛島）、九州北部案（大村・佐賀）などから、３本ほどを選んで出す。これなら世論へのショックが小さく、三党連立を壊す危機を当面回避できる。沖縄県民には、県外移設もあるのだという宥和姿勢のエクスキューズが立つ。３月末で沖縄の世論が激昂し沸騰して、鳩山政権の屋台骨を揺るがす事態には至らない。移設先を一本に集約すると、決定先が反発して拒否すれば、その時点で普天間移設政策は立ち往生してご破算になる。鳩山政権のこの問題についての第一の関心と動機は、７月の参院選に悪い影響を与えない政治で穏便にパス・スルーすることである。外科手術的な問題解決には乗り出さない。５月末決着も、３月末の政府案から政治がスタートしドライブされるわけで、すなわち、３月末を曖昧にすれば、５月末も曖昧にできる前提と条件を得られる。要するに、先延ばしと時間稼ぎである。ただし、この３月政府案には重要な狙いがあり、それは、政府案から国外移設を除外するという方針を確定させることである。国外移設案は、当初は社民党が強く主張していたが、阿部知子の策動で社民党内が割られて国外移設に纏まらず、九州を中心とする国内移設案の方に重点が置かれてしまった。事実上、連立三党の検討委から国外移設案が排除され、３月末の政府案からも消える結末となったのである。
３月末決定の政府案の眼目は、５月末決着の可能性から国外移設を抹殺することだ。４月から５月の国内の議論を、県内移設と県外移設の二つで戦わせ、最終的には沖縄側に諦めさせ、県内移設を容認させる政治に持って行くことである。そのとき、例えば、米国側が５月末決着に先送りの意思を表明すれば、鳩山政権は難なく先送りを決め込むことができる。米国は現行案での５月末決着を要求し、その想定で動いていたのだから、現行案（シュワブ海上案）が消えて別の案となった場合は、関係機関での調整に時間がかかるだろう。米国には新案を急ぐ理由はない。そして日本国内の状況を見れば、県内移設にせよ、県外移設にせよ、地元が合意して建設が着工するまでには相当の時間を要し、そのうち日本国内の政治事情が変化し、案そのものがリセットになる公算は十分にある。もし仮に、米国側が現行案での５月末決着に固執した場合は、鳩山政権はそれを理由に５月末決着を先送りできる。普天間問題を先送りした環境で参院選を戦うことができる。先送りはしているが、３月末政府案の時点で国外移設は消している。そういう成り行きが、鳩山政権としてはベストの政治進行だろう。鳩山由紀夫の腹の中は県内移設である。だが、それで無理に任期中に押し切ろうとは考えておらず、できれば未決着のまま参院選を過ぎ、任期を終了させて曖昧に次に繋ごうとしている。また、３月末に政府案に出した候補地のどこかが、政府の懐柔策（カネ）に釣られて自主的に引き受ける意思を示せば、その時点で法的に移転先を確定して米国と合意する。
この問題は、政権の連立の問題と密接に絡んでいて、社民党が国外移設にあくまで固執し、３月末の政府案（県内移設を主想定とした国内移設の複数案）に同意しないのなら、連立政権から出て行けと平野博文は言っている。最近、福島瑞穂がこの問題でマスコミに登場して発言する機会が少なくなり、どうやら社民党も波風を立てずに３月末の政府案を支持する結論に収まったかに見える。本来なら、大きな政権政党である民主党を二つに割り、県内移設と県外国外移設の二派で論争させて、政府方針を県外国外の方向に引き寄せなくてはいけないのに、小さな政党である社民党が二つに割られ、県外移設の阿部知子と国外移設の福島瑞穂が啀み合う図になっている。私は、阿部知子と辻元清美が買収されている可能性を疑っている。辻元清美がこの問題で何も発言しないのは異常だし、阿部知子が（下地幹郎との蜜月旅行の直後に）突然に九州案を言い出したのも不可解だ。社民党は国外移設一本で纏まるのが当然で、サイパン・テニアン・グアムへの移転実現に向けて政策と世論を主導するのが任務だろう。「重大な決意」を何度でも示し、マスコミがどう報道しようが、党是と沖縄県民の立場に立つべきで、政権から離れる決断を躊躇するべきでない。阿部知子は下地幹郎との関係が怪しい。辻元清美は前原誠司との関係が奇妙だ。そして、二人には、平野博文から官房機密費の実弾が掃射されているのではないか。札束の山と、民主党の党員証と公認状の約束手形が手渡されているのではないのか。そうでなければ、二人が普天間問題で寝返る図はあり得ない。実際のところ、社民党で立候補しても、今では比例ブロックでさえ当選がおぼつかない現状がある。
社民党は、この３月末の政府案（国外移設を排除した県内移設・県外移設の複数案）の閣議決定を承認するかどうか、党内で政局を迎えるだろう。閣議決定を認めれば、福島瑞穂が主張してきた国外移設は道を絶たれる。党の方針を切り換えるか、連立を離脱するしかない。党の方針を切り換える場合は、福島瑞穂の党首辞任が必至のはずだが、まさか、党首を続投のまま、社民党の党是を国外移設から県外移設に切り換える厚顔の極致を自ら演じるのだろうか。注目だ。それから、普天間問題では沖縄出身議員として強硬論を吐きつつ、阿部知子と結託して福島瑞穂の追い落としに躍起になって動いた照屋寛徳は、この社民党解党の局面でどういう立ち回りを見せるのだろう。福島瑞穂が連立離脱の決断を下し、亀井静香や小沢一郎や菅直人が「止め男」として入る政治がなければ、社民党は間違いなく二つに分裂する。福島瑞穂か、阿部知子か、どちらかが党を去る事態になり、阿部知子が新党首に就いた場合は、早い時期に解党して民主党と合同するだろう。福島瑞穂が残った場合も、遅かれ早かれ民主党に吸収合併の運命を辿るに違いない。官邸と民主党右派は、現在の内閣支持率下落の事態を、社民党の切り捨てと公明党の抱き込みで打開しようと策している。４月の事業仕分けで支持率は少し上がる。連立を組み替えれば、マスコミが高く評価してくれ、「現実的な政治だ」と持ち上げて、世論調査の支持率に反映させてくれる。政策を右（新自由主義側・官僚側・米国側）に寄せる根拠ができる。マスコミも経団連も支持する（昔の小泉政権のような）政権になる。連立の組み直しでマニフェスト見直しも大義名分ができ、消費税増税へも政策転換の舵を切れる。
先週、3/11に沖縄県議団が上京、北澤俊美と前原誠司と平野博文と相次いで会談し、県外国外移設を求め全会一致の意見書を手渡した。しかし、予想したとおり、この映像はテレビのニュース番組の放送では使われなかった。3/11の夜のニュースのメインは、朝青龍のモンゴル帰国会見だった。先週、マスコミ報道は普天間問題を全く無視する扱いに出て、トキや朝青龍に国民の関心を向けたが、その一方、平野博文の側は着々と手を打ち、県内移設を既成事実化するべく政治と世論を固め、政府決定発表までの時間を潰し、県外国外移設側の反撃に時間と端緒を与えないようにしていた。３月末の決定まで残り２週間である。この２週間に政治を動かさないと、政府案から国外移設の線は消え、この政策の選択肢から国外が消える。県内か県外かの議論になる。沖縄の主張は少数異端の政治的立場になり、沖縄vs本土の政治構図になる。県内での米軍新基地の建設が「普天間の負担軽減」になる。先週（3/11）、記事で「五つの提案」を発信したが、それに反応するような動きが全く起きない。県内移設やむなしとする世論固めで時間が過ぎて行く。平野博文は官房機密費のカネを持っていて、それはマスコミ対策で自由に撒けるし、社民党を割る党内工作にも撒ける。自分に都合の悪いニュースは放送させないように阻止し、自分の出したいニュースを存分に散布できる。３月末の政府案は、県内移設をメインストリームにすることで中身は固まっているのに、誰もそれに異議を唱えず、異議を唱える動きがニュースでハプンしない。平野博文を動揺させる政治を誰も入れない。３月末に待っているのは、社民党をめぐる政局の騒動なのだ。平野博文の思惑どおりに無風で政治が進んでいる。年末に前原誠司がルースに約束したとおりにコトが運んでいる。さすがに前原誠司は大物だと脱帽せざるを得ない。
