・独房 座り込んでうつむいている和菜 薄暗い房内 足音 立ち止まる 恵介 「囚人ナンバー千六百。片桐和菜。罪状、国家反逆。死刑囚。間違いないな」 和菜、顔を上げる。よろよろ立ち上がり、うなづく 恵介 「良し、出ろ」 和菜、ふらふら歩き出す ドアの開く音 暗転 ・取調室 いすに腰掛けうつむく和菜 座っている恵介 ドア開き、美佳が入って来る 美佳 「よろしく。和菜さん。あなたのカウンセリングを担当する、神崎美佳です」 和菜、顔を上げて美佳をチラッと見るが、すぐ顔を伏せる 恵介 「お、新人か?」 美佳 「と、言うより手伝いですけど。今回臨時に政府から派遣されまして」 恵介 「ふうん。まあ、いい。さっさとしてくれ」 美佳 「……」 美佳、恵介を気にしながら和菜の向かいに座る 恵介を見据える 恵介、美佳の態度に気づかない 美佳 「あの、ここにずっといるんですか?」 恵介 「ん? ああ。当たり前だろ? 俺は今回の執行の担当で」 美佳 「ああーー! あああ!」 美佳、恵介の口をふさぐ。 和菜を伺う 和菜、少し反応するが、美佳の視線をかわすように視線を戻す 美佳 「ちょっと、いきなり執行とかそういうフレーズはやめてください! 執行を冷静に受け入れられるようにするのが私の仕事なんですから」 恵介 「あー!」 恵介、美佳の手を振り払う 美佳 「なんですか」 恵介、美佳をにらむ。 恵介、顔を背ける 恵介 「勝手にしろ」 美佳 「はい」 美佳、和菜の前に戻る 美佳 「じゃあ、始めましょうか、まず、あなたの名前と生年月日を」 美佳、言いつつも恵介を気にする 恵介 「なんだよ」 美佳 「あの、出て行ってもらえま」 恵介 「は?」 美佳 「あのですね、あなたがずっといるとやりにくいというか」 恵介 「はぁ?」 美佳 「ああー。あの、こちらの和菜さんもお話しにくいんじゃないかと……」 恵介、和菜を見る 和菜と目が合う 恵介 「わかったよ。ただ、何かあったらすぐに呼ぶんだぞ。この姉ちゃんはあんたなんかがかないっこなんだからな」 美佳 「大丈夫ですよ」 恵介 「どうだか。腰のものなんか役に立たないぞ」 恵介、去る 美佳、ため息をつく 美佳 「じゃあ、邪魔な人もいなくなったことだしはじめましょうか。私は、神崎美香です。あなたのカウンセリングを担当します。あなたの名前は?」 和菜 「和菜。片桐和菜」 美佳 「和菜さん。よろしく。まあ、ゆっくりお話しましょう。時間はあることだし」 和菜、答えない 美佳、少し困る 美佳 「ねえ、あなたとわたし、年も近いみたいだし、仲良くなれると思うわ」 和菜、美佳の目を見る 和菜 「あなたと、私が?」 美佳 「ええ。おかしいかしら? 立場は違うかもしれないけど、年齢が近いカウンセラーのほうが話せることも多いと思うわ」 和菜 「べつに、話したいことはないわ」 美佳 「何でも良いのよ。趣味のこととか、何か好きな食べ物とかでもなんでも」 和菜 「はあ」 和菜、立ち上がる 和菜 「じゃあ、言わせてもらうけどね、あなた、この国をどう思うの?」 美佳 「この国?」 和菜 「そうよ。この国。現状をわかってる?」 美佳 「長く続いていた旧政府が革命で倒れて、これから変わっていくと思うわ。激しかった貧富の差も改善されていくでしょうし、近代国家としての幕開けじゃない?」 和菜 「あなたって、金持ちのお嬢さんなのね。わかるわ。革命前も、革命中も、革命後ものほほんとして、そんな人に、私たちみたいな貧乏人の気持ちなんて、わかるわけないでしょう? 私たちがどんなきもちで革命を起こしたか、わかってるの?」 美佳 「あの、そんなつもりじゃ」 和菜 「どうせ私だって、もう死ぬんだから、カウンセリングなんか無駄よ。殺すならさっさと殺せば良いじゃないの」 美佳、黙り込む 和菜、はっとする 和菜 「あの、」 美佳 「ごめんなさい」 美佳、出て行く 和菜 「はぁ。わるいことしちゃったわね」 美香の残していった書類を拾い集める 恵介、飛び込んでくる 恵介 「おい、あいつはどこにいった!」 和菜 「さあ」 恵介 「まったく。えらそうなこといっといて、囚人を一人にするなよな」 恵介、いいつつ腰を下ろす 恵介、書類に目を落とす 恵介 「それは?」 和菜 「ああ、さっきの美佳さんがおいていって」 恵介 「ふうん。それはあんた宛の手続きとかに関する書類だ。一応目を通しておいてくれ」 和菜、封筒をあけ、中身を取り出す ぺらぺらめくる。ひとつに目を留める 読む 美佳、戻ってくる 美佳 「あ」 恵介 「あ、じゃない。おまえ。こいつを一人にするなんて、なに考えてるんだ? ……。まあ、いい。今日はこれでしまいだ。戻るぞ」 美佳、しょんぼりする 恵介、和菜を連れて行く 美佳、つくえの書類にめを落とす 美佳 「これは……。死刑執行における囚人の権利と義務に関する条項? 長い名前ね」 美佳、目を通す 美佳、目を輝かせる 美佳 「これは。もしかしたら何とかなるかもしれないわね」 美佳、書類をしまい、立ち去る 暗転 ・司令室 文哉が報告書に目を通しつつ、電話で話している 文哉 「ふむ。和菜の刑執行も間近か。例の計画はどうなっている? ふむ。万事抜かりなし、か。良し、わかった。しこっこうの日時がわかり次第、連絡をよこせ。では」 文哉、電話を切る 宮里 「失礼いたします」 文哉 「宮里か。入れ」 宮里、入って来る。敬礼 宮里 「A計画ですが、準備は順調に進んでおります。ですが、計画に疑問を持っているものも多く、兵の動揺が広がっているようです」 文哉 「それをまとめるのも貴様の仕事だ。決行の日は近い。万事抜かりのないようにせよ」 宮里 「はっ」 宮里、敬礼する 宮里 「それと、諜報部からこのような書類が届きました」 文哉 「何?」 文哉、封筒を開ける 書類に目を通していくが、ある書類で目を留める 宮里、書類を覗き込む 宮里 「死刑執行における権利と義務に関する条項、ですか? 確か死刑囚は最後に何か望みをかなえられるとか、そんな内容でしたかな。それが何か」 文哉 「詮索は無用だ。貴様はもう戻れ」 宮里 「はっ」 宮里、敬礼して去る 文哉 「……。こんなもの、まだ存在していたのか。警戒しておくにこしたことはない、か」 文哉、電話をかける 文哉 「片桐だ。本部の警戒レベルを引き上げる。政府軍の動向への警戒も厳にせよ」 暗転 ・取調室 美佳がいる 書類を手にしている 美佳 「片桐和菜、年齢不詳。住所不定、無職。出身は貧民が以下。まあ、子供の成長にいいところとはいえないわね。生い立ちは不明。罪状は国家反逆ってことだけど、詳細は軍機にかかわるため、機密。不明不明って。なんかあやしいなあ。なんてね」 書類を投げ出す 美佳 「まあ、ともかくあの子の心を開くのがわたしのしごとだもん。がんばらなきゃ」 ノックの音 恵介 「片桐和菜を連れてきた」 美佳 「どうぞ。入って」 恵介と和菜、入って来る 美佳 「おはよう。元気?」 和菜、美佳を見る 美佳 「今日はちゃんとお話しましょう。あなたのことが知りたいのよ」 和菜 「…、どうして?」 美佳 「だって、あなたの力になりたいもの。そのためにもあなたのことを知らないと」 和菜 「やめとけば。もう死ぬんだから、何したって無駄なのよ」 美佳 「そんなことないわよ。人間何かをしようとするのに、遅いってことはないわ」 和菜 「また、そんな理想論を」 美佳 「理想論ってこともないんじゃない?」 といって、美佳は書類を取り出す 美佳 「これ、しってる? 死刑執行における権利と義務に関する条項。長い名前なんだけど、ようするに」 和菜 「死刑になる前に、好きなことができるって法律でしょ? 知ってる。まあ、お情けみたいなものでしょ?」 美佳 「知ってるなら話は早いじゃない。これを使えば、何でもできるのよ。まあ、犯罪的なことはできないけどね」 恵介 「俺が許せば、だがな」 美佳 「なんですかいきなり。口を挟まないでください」 恵介 「いや、面倒な方向に話が進みそうだったんでな。釘をさそうかと」 美佳 「面倒ってなんですか!」 恵介 「まあ、聞け。その条項は、たしかにあるっちゃああるが、そんなに期待できるような代物じゃあないぞ。まず俺と、俺の上司の同意が必要だ。それから、これのために執行を延期することもできない」 美佳 「わかってますよ。でも、そんな大それたことは」 恵介 「執行は、明朝だ」 恵介、少し区切る 恵介 「時間がない。だから、何かをしようとしても、無駄だ」 美佳、恵介につかみかかる 美佳 「なんでですか、いくらなんでも急すぎますよ!」 恵介 「それは仕方ない。上の決定だし、革命の反動で囚人は山のようにいる。執行が早まるのは仕方ないだろう」 美佳 「だからっていきなり…」 恵介 「それに、あんたは自分の仕事をわかってないみたいだな」 美佳 「なっ。そんなこと!」 恵介 「あんた、こいつのカウンセリングを任されたと本当に思ってるのか?」 美佳 「それはどういう意味ですか」 恵介 「いや、死刑囚にカウンセリングなんて、所詮は先進国に気に入られるための人権政策のひとつでしかないのさ。国際援助を受けるための形だけのものってことだ」 美佳 「何を言っているんですか。衆人の人権を認めることは、わが国が民主国家として成立するための大切なステップです。そんな、外交的策略なんてことは」 恵介 「じゃあ、何でこいつは明日死刑になるんだ? 結局カウンセリングなんて時間と金の無駄遣いだって上は思ってるのさ」 美佳 「そんな…」 美佳、崩れ落ちる 和菜 「まあ、政府の考えそうなことよ。革命がおきたって、結局貧乏人は貧乏人だもんね。何も変わらないのよ」 恵介、和菜に正対する 恵介 「あんたも、そう思ってるのか? 本当に」 和菜 「どうでもいいでしょ。そんなこと」 (5ページ変更) 恵介 「そうか……」 恵介、ため息をつく 恵介 「まあ、いい。そんなことは。それより、仕事は仕事だ、上がどう考えてたって、やらなきゃいけないんだ。わかったか?」 美佳、顔を背ける 恵介 「あんたが腐るのは、まあ、あんたの勝手だな。それで良いなら、好きにしたらいいさ。形だけでもちゃんと報告はしておけよ」 恵介、出て行く 美佳、うつむいて動かない 和菜、美香のほうをちらちら見る 和菜、たまりかねる 和菜 「ちょっと」 美佳 「……」 和菜 「ちょっと」 美佳 「……」 和菜 「まあ、いいわ。あんたの心配をする義理もないし」 美佳 「……」 和菜 「ちょっと!」 美佳、顔を上げる 和菜 「そんな辛気臭い顔しないで。お願いだから」 美佳、顔を伏せる 和菜 「もー」 美佳 「いいじゃない別に。私のこと、うざったいって思ってるんでしょ」 和菜、困る 美佳 「もう、ほっておいてよ」 美佳、うつむく 和菜、じれったい 和菜 「あー、もう、そんなにうじうじしないで」 美佳 「いいじゃない。勝手でしょ」 和菜 「あなたがうじうじしないでよ。うじうじするのは、私の役目じゃない」 美佳 「ふん。私だってうじうじするときはしますよ」 和菜 「こどもか!」 美佳 「いいじゃない。どうせ、世間知らずの女ですよ。理想ばっかり語って、うざいでしょ」 和菜 「ああ、もう」 和菜、頭を抱える 美佳 「どうせ、私の仕事なんて、そんなたいしたものじゃなかったのよ。それを、新しい国の第一歩だなんて思ってたなんて、ばかばかしいわ。誰も私に期待なんかしてなかったのよ」 k砂 「利用されるだけされたままで、悔しくないの? 期待されてなくったって結果を見せてやればいいじゃない。そんな風にうじうじしてるくらいなら、行動を起こしなさい」 美佳 「そんなこといったって」 和菜 「あなた、そんなにうじうじしてて、恥ずかしくないの? この国には、あなたみたいに恵まれてる人なんかごくわずかしかいないのよ。それなのにあなたは。贅沢よ、卑怯だわ」 美佳 「そんな」 恵介、入って来る 美佳、たまらず飛び出す 和菜、戸に背を向ける 恵介 「おい、どうしたんだ」 和菜 「別に」 恵介 「ふうん。まあ、どうでも良いけどな」 恵介、腰を下ろす 恵介 「ところでな、あんた、革命はどうだったと思う?」 和菜 「何よ、いきなり」 恵介 「革命がおきても、何も変わらないっていったよな」 和菜 「ああ、あれは」 恵介 「別に、あんたが本気でそう思っているならいいんだ。ただ、俺ははっきりさせたいんだよ」 和菜 「……」 恵介 「俺は革命に参加した。最前線に送り込まれて、気のいいやつらも、気に食わないやつもみんな死んだ。俺の周りで生き残ったのは、俺だけだ」 和菜 「……」 恵介 「だから、考えちまうんだよ。この革命に、意味はあったのかなって。あいつらが死ぬほどの価値があったのかってな」 和菜 「……」 恵介 「いや、そんなこといわれても困るよな。すまん。忘れてくれ」 和菜 「無駄じゃなかった。と、思う」 恵介 「……。そうか。ありがとう」 恵介、時間を見る 恵介 「時間だ。いくぞ」 恵介、和菜を連れて行く ・司令室 文哉、報告書に目を通している 文哉 「和菜もとうとうこれまでか。始末し切れなかったのが気になっていたが。これで計画に不安要素はない、な」 文哉、報告書に火をつける 宮里 「失礼します」 文哉 「宮里か、入れ」 宮里、入ってきて敬礼する 宮里 「報告します。A計画、準備は完了です。明朝の決行に、抜かりはありません」 文哉 「兵の士気はどうか」 宮里 「は、計画への疑問を持っていたものも、和菜元司令の弔い合戦ということでまとまっています。実行にはまったく支障はありません」 文哉 「それは結構。ご苦労。下がれ」 宮里 「は」 宮里、敬礼する 宮里 「質問があります」 文哉 「何だ」 宮里 「和菜元司令は本当に死んだのでしょうか?」 文哉、鼻で笑う 文哉 「ふっ、何をいまさら。和菜は」 宮里 「自分には、あの和菜司令が憲兵ごときにやられたというのが、どうしても信じられないのです」 文哉 「…、和菜は死んだ。あの和菜といえども、まさか自分の作った政府に殺されるなど、予想していなかったのだろう」 宮里 「…、そうですか。失礼しました」 文哉 「余計なことを考えるkらいなら、銃でも磨いていろ」 宮里 「は」 宮里、敬礼して去る 文哉 「あいつ、まだ和菜のことを? まあ、和菜ももう死ぬ。心配あるまい。それにしても……。計画の予定日にぶつかるとはな。偶然か、必然か……」 文哉、笑う ・取調室 美佳、いすに座ってぼうっとしている ため息をつく 美佳 「はぁぁぁぁぁぁぁああー」 美佳、頭を抱える 美佳 「ふぅ」 恵介、入ってくる 恵介 「よう」 美佳 「なんですか」 恵介 「いや、まだうじうじやってんのかなと」 美佳 「わるかったですね」 恵介 「ああ、悪いな。今のあんたはだめだめだ」 美佳 「はぁ。すみません、ごめんなさい」 恵介 「まあ、別に俺にしてみりゃあどうでもいいんだがな」 美佳 「そうですか、ならいいじゃないですか。ほっといてください」 恵介 「ま、あんあたは政府からのピンチヒッターだし、あいつが処刑されればそのまま中央に帰れるんだもんな。そうやって今日一日中うじうじしてれば、全部終わっちまうもんな」 美佳 「なんですか、やけに突っかかりますね。いいじゃないですか、それで」 恵介 「そうか。まあ、面倒だから何も言わなくてもいいんだがな。あんた、まだあいるのためにしてやれることがあるんじゃないのか?」 美佳 「そんなの無理ですよ。時間もないし、和菜さんは私のこと嫌いみたいですから」 恵介 「まあ、嫌いなのは間違いないと思うが、あいる、あんたのことを結構気にしてるはずだぜ」 美佳 「そんなことありませんよ」 恵介 「はあ、まあ、あんたにやる気がないんなら別にいい。無理にどうこうしろなんていえないからな」 美佳 「なら、もう絡まないでください」 恵介 「そうか、……。」 美佳、無視する 恵介、美佳に背を向ける 美佳 「もう、出て行ってください」 恵介 「言われなくても出て行くよ」 恵介去る 美佳 「はぁ、もう、どうしろって言うのよ」 美佳、突っ伏して寝る ・夜 恵介、和菜を連れて入ってくる 美佳がまだ寝ている 恵介 「しょうがないやつだな。最後のカウンセリングだって言うのに」 和菜 「いいわよ。やる気のないやつは」 恵介 「ふうん」 和菜、座る 恵介、座る 和菜 「一応起こす?」 恵介 「まあ、いいんじゃないか? それより、あんた……」 恵介、考える 和菜 「何よ」 恵介 「いや、このままでいいのかとな」 和菜 「何が」 恵介 「そっりゃあ、このままおとなしく死刑になるかって聞いてるんだ」 和菜 「ああ、まあ、いいじゃないの。私なんか生きてても仕方ないわ」 恵介 「そうなのか? あんたはまだやれることがあるじゃないか」 和菜 「そんなもの、ないわよ」 恵介 「あんたにはあるだろ? 何しろ、元反政府組織、今では政府御用達の治安維持組織、グラッド・アイのリーダーなんだから」 沈黙 和菜 「やっぱり、ね」 恵介 「なにがだ?」 和菜 「知ってたのね」 恵介 「ああ。ホーゼス・ネック作戦でな」 和菜 「……」 恵介 「その戦闘で俺たちの部隊は援軍が間に合わずに、全滅した。生き残ったのは俺だけだ」 和菜 「そのときの指揮官は」 恵介 「片桐和菜。あんただ」 和菜 「……」 恵介 「作戦は総合的には成功。損害らしい損害といえば俺たちの全滅だけだ。あんたはこの作戦の成功で賞賛されこそしたが、非難されはしなかった。当然だ」 和菜 「私を恨んでるの?」 恵介 「さあな」 和菜 「援軍を送れるほど、戦況は余裕のあるものじゃなかったわ。仕方ないのよ」 恵介 「わかってるさ。でも、俺はそんなことをあんたの口から聞きたいんじゃない」 和菜 「そうね」 恵介 「おれは、あんたを尊敬している。あんたは指揮官としても、一人の戦士としても、俺の憧れだ」 和菜 「……」 恵介 「俺は……」 恵介、頭を振る 恵介 「何を言ってるんだろうな、俺は。すまん。忘れてくれ」 恵介、出て行く 和菜、見送る 和菜、吐血する 和菜 「私は…」 和菜、血にまみれた手を見る 和菜 「残された時間、か」 (ここから追加) 美佳、おきる 美佳 「うーん。むにゃむにゃ」 和菜、はっとして血のついた手を隠そうとする 美佳 「あれ? あ、ごめんなさい。寝てたみたい」 和菜 「ええ、ぐっすり眠ってたようだから」 美佳 「ごめんなさい」 和菜 「いいのよ。べつに。あなたにできることも、ないんだし」 美佳 「……」 和菜 「あ、いえ、別にあなたをせめてるんじゃあないのよ。ただね」 美佳 「あ」 美佳、血に気づく 美佳 「手、どうしたの?」 和菜、手を隠す 美佳 「見せてみなさい」 美佳、無理やり和菜の手をとる 美佳 「あなた、血を吐いたのね」 和菜 「別に」 美佳 「正直に言って」 和菜 「ええ。そうよ。でも、気にするようなことじゃないわ」 美佳 「そんな。いつから?」 和菜 「結構前」 美佳 「医者には」 和菜 「みてもらったわ。もう、長くないって」 美佳、考え込む 和菜 「でも、良いでしょ? どっちにしろもう死ぬんだし。関係ないわ」 恵介、入って来る 恵介 「時間だ。戻るぞ」 和菜 「じゃ、そういうことだから。迷惑かけたわね」 和菜、去る 恵介、去り際に美佳を見てから、去る 美佳 「……。本当に、これでいいの?」 美佳、腰を下ろす 美佳 「……。このままで、いいのかしら」 美佳、書類を投げ出す 美佳 「このままじゃ、和菜さんは……」 美佳、しばらく考えるが、突然書類のあるページを抜き出し、電話をかける 美佳 「こちら、内閣終戦調整室係官、神崎美佳です。ただいま担当している案件について、お話を」 恵介、そこに入って来る 美佳、小声になる 恵介、不審に思いながら、腰をかける 美佳 「はい、では。よろしくお願いします」 電話切る 恵介 「どうした? なんか重要なはなしか?」 美佳 「ええ。後もう一度、カウンセリングさせてもらうことになりました」 恵介 「は? それはまた……」 美佳 「まだ、やり残したことがあります。正式な話は上からあると思いますので、よろしく」 恵介、少しあっけに取られる 恵介、口元を緩ませる 恵介 「まったく。政府のやつっていうのは、いつもいつも無茶なことばっか言うから困るぜ。ちょっとは現場の都合ってのも考えてくれよな」 美佳 「すみません」 恵介 「いや、期待してるぜ」 恵介、美佳の頭をたたく 美佳 「きゃ!」 恵介 「じゃあな」 恵介、去る 美佳 「もう」 美佳、頭をおさえてむくれる 美佳、書類を持って去る 暗転 ・司令室 文哉、電話をしている 文哉 「なに? 和菜の死刑執行が延期された? どういうことだ。……。ううむ、詳細は不明か。まあ、いい。あそこに入っている限り、やつにはどうしようもないからな」 宮里 「失礼します」 文哉 「む。あとで連絡する」 文哉、電話を切る 文哉 「入れ」 宮里 「失礼します。定例の報告に参りました」 文哉 「ああ、そういえば。よし。報告しろ」 宮里 「はい。片桐司令より渡されたリストの人間を逮捕しました。ただ、うち十名は抵抗が激しかったため、射殺しました。また、逮捕の際隊員三名が負傷しました」 文哉 「負傷?」 宮里 「はい。逮捕の際にもみあって」 文哉 「少しでも抵抗すれば射殺せよと命令したが?」 宮里 「は。しかし一般市民相手ですし」 文哉 「あまいな。やつらはほうっておけばこの国に害を及ぼす恐れがある。遠慮はいらん」 宮里 「は……。負傷した隊員への見舞金はどうしましょう」 文哉 「そんなもの、払う必要はない。どうせ勝手に民間から巻き上げているのだろうしな」 宮里 「その件ですが、最近兵が出動のたびに民間人を巻き込んだり、金品を略奪するといって政府から改善するよう通達が来ています」 文哉 「無視しろ。どうせ反政府のやつらから巻き上げているのだし、大事の前の小事だ。兵の士気も上がる」 宮里 「そうですか。わかりました」 文哉 「うむ。下がってよい」 宮里 「は」 宮里、去る 文哉 「甘いやつだ。和菜もそういうやつだったな。宮里と和菜か……」 ・取調室 美佳がいる 恵介と和菜、現れる 恵介 「じゃあ、今度こそ本当に最後のカウンセリングだ。しっかりやれよ」 美佳 「ええ」 恵介、座る 美佳、和菜を見据える 美佳 「和菜さん。私は、あなたのことは良く知らないけれど、あなたに、確認したいことがあるの」 和菜 「なによ?」 美佳 「あなたは、本当にこのまま死んでも平気なの?」 和菜 「ええ。別に生きてたってねえ」 美佳 「本当に?」 和菜 「本当よ」 美佳 「私には、そうとは思えないわ。あなた、やけになってるだけじゃない?」 和菜 「別に、そんなことは」 美佳 「そうかしら? 先が長くないって医者に言われたから、やけになってるだけじゃないの?」 和菜 「……」 美佳 「あなたからは、何か一本通ったものを感じるのよ。あなたは信念を持った人間よ。私にはわかる」 和菜 「そんなこと。勘違いよ。じゃなかったら、夢を見すぎてるだけね。こんなところにそんなまともな人間がいるはずないでしょ」 美佳 「私だって伊達に人間の心理を相手にしてないわよ。あなたには何かここでつかまっているほかの囚人とも違うものがあるわ。きっと」 和菜 「買いかぶりすぎよ。あきれた」 美佳 「ともかく、話を聞いて。残酷なことを言うけど、あなたは病気で先は長くないかもしれないけど、その前に死刑になるわ。これはたぶん間違いない」 和菜 「……」 美佳 「でも、何かまだできることはあるわ。あなたが死んでも、あなたのしたことは残るんだもの。最後に何かひとつしたいことはないの? あなたにしかできないことが、あるはずよ」 和菜 「別にね、何かしたいことなんかないもの」 美佳 「あなた、今死んで、満足なの? 私にはそうはおもえないわ。あなたからは諦めしか感じられないもの。あきらめることなんかない。最後の最後まであがけば良いじゃないの。私は何でもてつだうわよ。この世の中に不満があるんだったら、内閣に直接乗り込んでいっても良いわ。あなたをとっ捕まえた治安維持組織に乗り込んで文句いってやっても良いわよ。そこまでいかなくても、マスコミに訴えるなり、暴露本を出版するなり、海外の人権団体に駆け込むなり、なんだってするわ」 和菜、笑う 美佳 「なによ」 和菜 「いや、一生懸命ね。なんか、おかしくなっちゃって」 美佳 「馬鹿にするならしなさい」 和菜 「あなたって、不器用ね。不器用でぶざまだけど、あなたみたいな人が政府にいるなんて、なんか、楽しいわね」 美佳 「なんか、ほめられてるような、けなされてるような」 和菜 「まあ、いいわ。考えてみても」 美佳 「え?」 和菜 「別に、何かしたいことがあるってわけじゃないけどね。あなたの根気に負けました」 美佳 「はぁーー」 美佳、へたり込む 和菜 「大丈夫?」 美佳 「いや、もう安心して」 和菜 「今安心されても困るわよ。あなたにはこれから働いてもらわないと」 美佳 「そうね。じゃあ、手続きに行ってきます。死刑執行におけるの申請書を持ってこないと」 美佳、去る 恵介 「なんだ? あんなのに説得されたのか?」 和菜 「別に。なんか、きいてあげないとかわいそうになって」 恵介 「ふうん。で、どうするんだ」 和菜 「さあね」 恵介 「何かやるんだったら、ひとつしかないと思うが」 和菜 「なによ」 恵介 「きまってるだろ、あんたにしかできないことじゃないか」 和菜 「……」 恵介 「あんた、今のままでいいと思ってるのか?」 和菜 「何よ」 恵介 「あんたの組織さ。最近じゃあ治安維持と称して思想犯、政治犯ばかりばしばし取り締まってるじゃないか。住民からの評判もわるい。どうしようもないだろ」 和菜 「……。なるようになるわ。いつまでも横暴が許されるはずないもの」 恵介 「ふーん。もう、自分には関係ないってか?」 和菜 「……」 恵介 「あんたは今、この状況を何とかしたいとおもわないのか?」 和菜 「……」 恵介 「思わないわけないよな、あんたなら。他の誰かがやればいいなんて、責任逃れもいいところだろ?」 和菜 「……。そうかもね」 恵介 「あんたの組織のやったことなんだ。あんたがそうやってほっといていいはずはないと思うが」 和菜 「……。考えさせて」 恵介 「わかった。でも、時間はないぞ」 恵介、出て行く 和菜 「文哉……」 美佳、入って来る 美佳 「お待たせ。あれ? あなただけなの?」 和菜 「ええ。ちょっとね。それより、聞きたいことがあるのだけど」 美佳 「え、なに?」 和菜 「治安維持組織って、どうなの?」 美佳 「どうなのって」 和菜 「評判が悪いらしいじゃない」 美佳 「まあ、ね。あなたを捕まえたのも治安維持組織よね」 和菜 「わたしを?」 美佳 「ええ。そうなっているわよ」 和菜 「ふうん。やっぱり。あの組織の活動って、なんなの? 政治犯とか、テロリストとか、旧政府支持者とかいった、厄介なところの始末屋ってところなのかしら?」 美佳 「どうにもね。よくわからないわ。軍事上の機密にかかわるっていって公表されてないし。政府でも手を焼いているもの」 和菜 「どうして?」 美佳 「あまり大きな声じゃいえないけどね。活動目的のためなら手段を選ばないって。出動先で略奪なんかもしてるみたいよ」 和菜 「略奪? まさか」 美佳 「詳しくは政府でも調査中なんだけどね。組織は否定してるし」 和菜 「そう。……」 美佳 「あまりこういう話はしないほうがいいわよ。この施設は治安維持組織の関係者に監視されているわ。政治犯も大勢収容されているから」 和菜 「この部屋も監視を?」 美佳 「いえ。この部屋は平気なはずよ」 和菜 「まあ、どっちにしろもうおそいわね」 美佳 「……。治安維持組織に恨みを持つのはわかるけどね。あまり関わらないほうがいいわ」 和菜 「べつに。ここまで来ちゃったら、関係ないわよ」 美佳 「ううん、あなたの家族も危険よ」 和菜、黙る 美佳 「ああ、この部屋の中だけなら平気よ。監視機器の類はおいてないから」 和菜 「どうかしらね」 美佳 「ううーん」 美佳、うなる 和菜 「まあ、いいわ。私には家族はいないし」 美佳 「そうなの?」 和菜 「弟はいたけどね」 美佳 「いた?」 和菜 「そう、いたのよ。昔はね」 美佳 「……。ああ、ごめんなさい」 和菜 「いえ」 美佳 「まさか、そんなこととは」 和菜 「いいのよ」 美佳 「弟さんの名前は?」 和菜 「なによ。カウンセリングの一環?」 美佳 「いや、べつにそういうわけじゃ」 和菜 「いいわ。文哉よ」 美佳 「片桐文哉ね。……。なんか、聞いたことがあるような」 和菜 「まあね。あの、悪名高い治安維持組織の司令よ」 美佳 「え?」 和菜、少し笑う 美佳 「まさか、同姓同名とか?」 和菜 「ふふふ」 美佳 「冗談でしょ?」 和菜 「まあ、いいじゃない」 美佳、あっけに取られる 和菜 「この話はここまで。ね」 美佳 「え? え?」 和菜 「ほんとはね、弟は遠くにいっちゃったのよ。そこで自分なりにがんばってるわ」 美佳 「ああ。そうですか。よかった」 和菜 「馬鹿な弟だけどね。自分の力を過信してて、わがままで、おだてに弱いし、周りが見えてないし、きっと周りに迷惑ばっかりかけてるし、あんなののしたにつくひとはかわいそうでしょうね」 美佳 「ふうん。でも、好きなんでしょ?」 和菜 「まあ、たった一人の家族だもの。心配よ」 美佳 「いいなあ。そういう相手がいて。私、一人っ子だし」 和菜 「まあね」 和菜、物思いにふける 和菜 「私が何とかしてあげないとね」 美佳 「え?」 和菜 「ううん。ちょっとあの男の人を呼んでくれない?」 美佳 「わかりました」 美佳、出ようとする そこに恵介はいってくる 恵介 「おい。勝手に離れるなって言っただろ」 美佳 「ごめんなさい。でも、和菜さんが」 恵介 「わかってるさ」 恵介、和菜の向かいに座る 和菜 「ちょっとはずしてくれない?」 美佳 「え? はい」 美佳、出て行く 和菜 「ちょっと、頼みたいことがあるんだけど」 恵介、無言で地図を広げる 恵介 「この収容所はここだ。で、グラッド・アイの基地はここ。今は治安維持組織の本部だな。大体車で二時間か」 和菜、少し驚いている 和菜 「どうして」 恵介 「あんたが俺の思った通りの人なら、絶対こうすると思ったんだ。大丈夫。車は用意してある。外出許可証はこれだ。説得は少し苦労したが、何とかねじ込んだ。それと」 といって、拳銃をおく 和菜 「これは」 恵介 「護身用だ。必要だろう? これはオフレコで頼む」 和菜、無言で弾を確認する 和菜 「実弾よね」 恵介 「そりゃな。危険な旅行になりそうだからな」 和菜 「いいの? 死刑直前の囚人にこんなものもたせて」 恵介 「ああ。あんたなら大丈夫だ。信じてるからな」 和菜 「おめでたいひとね。直接会ったこともなかったのに」 恵介 「俺たちにとってあんたは英雄だったからな。力にならせてくれ」 和菜 「まあ、あまえておくわ」 和菜、銃をしまう 恵介 「じゃあ、あいつを呼んでくる。手続き上のあれでな」 恵介、出る 和菜、銃を取り出し眺める 和菜、少し笑う 恵介 「ほら、さっさと来い」 美佳 「何ですか。ひっぱらないでくださいよ」 ドア開く 和菜咄嗟に銃をしまう 美佳 「いったい何なんですか?」 恵介 「いいから。ほら」 恵介、美佳に書類を渡す 美佳 「なんですか?」 恵介 「死刑執行におけるなんとやらだ。今すぐにつかいたいんだとさ。」 美佳 「え?」 和菜 「まあ、そういうこと」 美佳 「え?」 恵介 「ほら。書類だ。ちゃんとそろっているだろ? サインもある」 美佳 「ほんとだ」 恵介 「よし。じゃあいくぞ」 美佳 「え? どこに」 恵介 「時間がない。後で説明する」 恵介、美佳を引っ張って出る 和菜、苦笑しつつついていく 暗転 ・本部内一室 宮里、チェックシートを持って見回っている 宮里 「武器弾薬の在庫良し。食料も十分。ボイラー室の雨漏り……。うーむ。ずいぶんがたが来ているな。ここも。後は、シェルターのチェックか。A計画には重要な施設だな。気をつけるとするか。後は……」 宮里、ぶつぶついいながら歩いている 宮里、ふと足を止める 宮里 「ん? 何だ」 宮里、銃に手をかける そこに文哉、入ってくる 文哉 「宮里か」 宮里 「は。片桐司令。どうしました」 文哉 「いや、たまには部下の働きでも見るかなと」 宮里 「は。お疲れ様です」 文哉 「うむ。そちらもご苦労。食堂で兵がもめていたようだが」 宮里 「そうですか。至急向かいます」 文哉 「うむ。わざわざご苦労なことだ」 宮里、出て行く 文哉、出て行こうとするが、振り向いて一発撃つ 文哉、少し笑って出て行く 着弾したあたりから(できればダクトのようなものがよい)三人出てくる 恵介、美佳の口をふさいでいる 美佳苦しそう 和菜、すばやく出て行った先を確認する 恵介 「どうした。気づかれたか?」 和菜 「そうじゃなくて、あいつの悪い癖で、むやみに発砲するというのが」 恵介 「そうか。ならいいが、じじいには気づかれそうになったな」 和菜 「うん。あいつには特に気をつけないと」 恵介 「あいつはどういうやつだ?」 和菜 「あいつは宮里栄十郎。実質的にメンバーを取り仕切ってる」 恵介 「へぇ。まあ、あんなきてる兄ちゃんに仕切れるとは思えないもんな」 和菜 「だから、宮里には気をつけないと。ああ見えても運動神経もいいし、よい兵士にはちがいない」 恵介 「あんた、いい目になってきたな。収容所とは大違いだ」 和菜 「何を。久々ですごいどきどきしてるのに」 恵介 「はは」 美佳、苦しそうにばたばたしている 美佳、ふりほどく 美佳 「ぷはあああああ」 恵介 「お、悪い」 美佳 「なんですか! いきなり人の口をふさいで! あと、それよりも何でこんな泥棒まがいのことしてるんですか! こんなとこに入ったり変な通気口をくぐったり、こそこそしたり走ったりしてもう何がなんだか」 恵介 「いや、そういえば説明してなかったな。悪い」 美佳 「説明してください!」 恵介 「うん。まあ、これがこいつの最後の望みってことだな」 美佳 「泥棒がですか」 恵介 「いや、もっとたちが悪いな。こんな要塞に不法侵入して、トップを暗殺しようと……」 和菜 「ちょっと。暗殺なんて」 恵介 「わかってるって。ま、だいたい要塞ってほどでもないしな。つまり、ここのトップにあって話をしたいってことだ」 美佳 「ここは大体どこなんですか?」 恵介 「ここはな」 和菜 「反政府組織グラッド・アイ本部。元だけど。今は治安維持組織本部」 美佳 「えええー。なにそんなとこに無断進入してるんですか!」 恵介 「仕方ないだろ。話して入れてくれるところじゃないんだから」 美佳 「そんなことを聞いてるんじゃなくて」 和菜 「少し静かにしてくれない。誰か来るかもしれないし」 美佳、小声で 美佳 「とにかく、やばいって言ってるんです。あんな連中につかまったら問答無用でこっちまで射殺されちゃいますよ」 恵介 「ああ、もう入っちまったのにうだうだ言うな。だいたい、こいつが来たいって言うんだから、仕方ないだろ。死刑執行のなんとかが適用されてるんだから」 美佳 「それは合法の範囲内での話です!」 恵介 「ここは治外法権だ。だから外での合法違法は関係ない」 美佳 「ああ、もう」 和菜 「すまないとは思ったけど、どうしても話がしたいの。おねがい」 恵介 「俺だってあんたを連れて行くのはめんどくさいが、死刑執行のあれは同行者が最低二人必要なんでな」 美佳 「ああ、もう。あああ」 恵介 「まあ、つかまってもあんただけは政府の関係で釈放してくれるさ。だまされてついてきましたって言えば何とかなる」 美佳 「はあああ」 美佳、二人を見回す 美佳 「わかりましたよ。どうなっても知りませんからね!」 美佳、ぷいっとそっぽをむく 和菜 「話もまとまったところで、先に行かない? いつまでもここにいるわけにはいかないでしょう?」 恵介 「そうだな。行くか」 和菜、ドアに耳を当て、ドアを薄く開ける 和菜、ドアを開け、出て行き、手招きする 恵介、出る。美佳もいやいや出る ・司令室 文哉、銃を手にニヤニヤしている 電話が鳴る 文哉、とる 文哉 「どうした。なに? 和菜を見失った? 脱走か? 違う? 外出許可だと! くそ。死刑執行における権利と義務に関する条項か。ばか者! しっかりみはっておけと! ああ、もういい。行方を至急捜索しろ!」 文哉、乱暴に切る 文哉、電話をかける 文哉 「司令だ。警戒レベルを最大に! なに? A計画? かまわん! 命令だ! それと、宮里を至急よこせ!」 文哉、切る 文哉、せわしなくうろうろする 文哉 「くそ、こんなことならば確実に始末しておけばよかったか。くっ」」 宮里 「失礼します。お呼びですか」 文哉 「入れ」 宮里、入って来る 宮里 「どういったご用件でしょうか。ただいまA計画の準備を」 文哉 「そんなことよりも、本部に侵入者の恐れがある。至急捜索隊を編成せよ」 宮里 「は、わかりました。ならば至急召集いたします」 文哉 「いや、まて。A計画の実行に支障をきたさぬように」 宮里 「は。ならば私と少数のもので編成いたします」 文哉 「わかった。それと、見つけ次第射殺を許可する」 宮里 「射殺。ですか」 文哉 「そうだ。そして、死体には近寄るな」 宮里 「はぁ。それはいったい」 文哉 「侵入者は特殊な陽動を仕掛けている可能性がある」 宮里 「特殊な陽動といいますと?」 文哉 「政府で精巧な変装をした工作員を教育しているという情報が入ってきている」 宮里 「それは厄介ですな」 文哉 「うむ。混乱を避けるため不用意に接触するのは避けよ。遠距離からしとめるのが望ましい」 宮里 「了解しました」 宮里出て行く 文哉 「我ながら、お粗末だな。しかし。和菜め。今さら何をしようというのだ?」 暗転 ・ある一室 和菜、恵介、歩いている。美佳、恵介に背中を押されながら入って来る 美佳 「はあー。もう何がなんだか」 恵介 「はは。まあ、いいんじゃないか? こういうの初めてだろ?」 美佳 「当たり前じゃないですか」 和菜 「とりあえず、ここまで来ればあと少し。警備は厳重だろうけど」 美佳 「そうですよ! 何でこんなにうろうろしてるんですか」 恵介 「いや、まあ本部だからな。それなりに人はいるだろうさ」 和菜 「ううん。いつもとは違う。こんなにここに人がいるはずはないし、警戒も厳重ね」 恵介 「うーん。何かあるんだろうか? それとも、気づかれてるのか」 和菜 「気づかれてるようではないけど。単に、何かあって召集されているのだと思う。警戒レベルは最大になってるとは思うけどね」 恵介 「ふん。まあ、さっさと司令の顔を拝んでやるか」 和菜 「そうね。まあ、とりあえずあうだけあわないとしかたないし」 といいつつ、和菜、扉のほうをにらむ 恵介 「どうした」 和菜 「しっ。誰かいる」 恵介 「何」 美佳 「え!」 恵介、美佳の口をふさぐ 恵介 「戦闘になったら、こいつは邪魔だな。俺が何とかしよう。あんたは気にしないでいい」 和菜 「わかったわ。戦闘は私が引き受ける」 恵介、美佳を担ぎ上げる 和菜、銃を構え、入り口横に張り付く 部屋の電気、ふと消える。開くドア ドアから宮里アサルトライフルの乱射 銃撃やむ 宮里 「しとめたか?」 宮里、室内に足を踏み入れる 不意に電気つく 和菜、宮里の頭に銃を突きつける 宮里、同時に反応して銃口を和菜に向ける 和菜 「宮里」 宮里 「和菜様?」 和菜 「悪いんだけど、文哉に会わせてくれない? どうしても話がしたいのよ」 宮里 「あなたは本当に和菜様なのか? 死んだのでは」 和菜 「文哉に何を言われたかは知らないけど、私はこのとおり、生きているわ。お願いだから、ここは引いて頂戴」 二人、にらみ合う 恵介、銃にてをかけ、飛び出す 和菜 「待って!」 宮里、和菜の銃を取り、和菜を盾にする 宮里 「政府軍のやつか。やはりお前は、政府軍の特殊工作員だったんだな! A計画を止めにきたのなら、もう遅いぞ」 和菜 「A計画? なによ、それ」 宮里 「おまえらなどに話すことではない。覚悟しろ!」 和菜 「宮里、わかって。私は本当に片桐和菜なのよ」 宮里 「……」 恵介 「おれは確かに、政府軍の人間だが、その姉ちゃんは間違いなく片桐和菜だ。あんたらのリーダーだよ」 宮里 「そんなはずはない。和菜様はお前らの手にかかって死んだのだ」 恵介、じゅうを宮里に突きつけたまま近づいていく 恵介 「片桐和菜の死刑執行はまだ行われていない。俺が執行人なんだから、間違いない」 宮里 「よるな! 近寄るとこの女の命はないぞ」 恵介 「勝手にしろ。どうせそいつはもうしけいになるんだ。俺の手間も省ける」 宮里 「くぅっ!」 宮里、恵介をにらみつける 恵介、二三歩にじり寄る 宮里、後ずさりする 恵介 「美佳、いまだ!」 美佳、銃を抜いて発砲 かなり見当はずれのところに着弾する 宮里、不意を突かれる 和菜、その隙に宮里を振りほどく 宮里盛大にすっころぶ そこに恵介、銃を突きつける 恵介 「形勢逆転だな」 宮里 「く、政府の犬が!」 和菜 「宮里、信じて。私は和菜なのよ」 宮里 「……」 恵介 「あんたが信じる信じないは別として、質問には答えてもらおう」 宮里 「ふん。賊になど答える義理はない」 和菜 「答えて頂戴。A計画ってなんなの? なぜここにこんなに人が集まっているの?」 宮里 「……」 恵介 「だめだな。こいつ、話しそうにない」 和菜 「そうね」 恵介 「ここでこいつを生かしておくと厄介だな」 恵介、引き金に手をかける 和菜 「待って。何も殺すことは」 恵介 「なにを。こいつを生かしておくと後々厄介だ。脱出のことも考えたら、もう一度こいつとはやりあいたくない」 和菜 「宮里に罪はないわ。きっと。文哉にだまされているのよ」 恵介 「たとえそうであったとしても、だ。こいつは今の俺たちにとって危険な敵だ。それにこうしている間にもほかのやつらにここが発見されないとも限らないだろう? さっきの銃声が聞かれているかもしれない」 和菜 「……。そうね。それが正しい判断よね」 恵介 「あんたにとってこいつは大切かもしれないがな。冷静になってくれよ」 美佳 「あの」 恵介 「なんだ」 美佳 「何も殺すことは。縛って猿轡でもかませて、どこかに隠しておけば」 恵介 「甘いな。戦場ではそんな理屈は通用しない。敵は殺すしかない。たとえ親や兄弟だったとしてもな」 美佳 「でも、和菜さんも、この人は大切な人みたいですし」 和菜 「そうね。宮里にはしんでほしくない」 恵介 「……。戦場でのあんたとは大違いだな。作戦のためなら何でも切り捨てられるんじゃなかったのか?」 和菜 「……」 恵介 「まあ、いい。ここで議論してる時間も惜しいしな。縛れ」 美佳 「私がですか?」 恵介 「お前が言い出したんだろうが。お前が縛れ」 美佳、ひもと布を探してきて縛る。 恵介 「行くぞ。早くここを離れよう」 全員、連れ立って出ようとする そこに足音大勢 恵介 「く、来たか! ぐずぐずしてたからだ」 美佳 「ええ! そんな」 ドアの外に兵士現れる 兵士1「ここか!」 ドア開く 恵介ドアに向かって乱射 兵士1ちまみれなって倒れる 兵士2「一人やられたぞ! あそこだ!」 警報。赤いライト 和菜 「く! ここは私が!」 恵介 「あんたはいけ! 俺が食い止める」 和菜 「そんな」 恵介 「あんたがやられたらここまで来た意味がなくなるだろ! いけ!」 和菜、美佳、宮里をつれて出て行く 兵士2「あの部屋だ! 急げ!」 恵介 「うおおおおお!」 恵介、銃を構えて飛び出していく 暗転 兵士 「いたぞ、あいつだ!」 銃声、さらに銃声。 ・ 司令室 歩き回る文哉 電話をかける 文哉 「侵入者はまだつかまらんのか! なに? 第7班全滅、第六班は目標を見失っただと! く。目標は複数か。わかった引き続き捜索せよ」 乱暴にきる 文哉 「くそ。どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ。あいつは」 ノックの音 文哉 「なんだ。今は忙しい……」 ドアが吹っ飛ぶ 和菜、入って来る 文哉 「和菜!」 和菜 「文哉、久しぶりね」 文哉、後ずさり、机の上を探る 和菜 「早速だけど、いろいろ聞かせてもらいたいことがあるわ」 文哉 「何だ」 和菜 「A計画よ。あなたはいったい何をしているの? 何をたくらんでいるのよ?」 文哉 「ああ、あれはたいしたものじゃない。ちょっとした。そう、ちょっとした、犯罪者の討伐作戦なんだ」 和菜 「ふうん。政府にたてつこうっていう作戦じゃないの?」 文哉 「まさか」 和菜 「宮里の口ぶりでは、政府に知られたらまずいって感じだったわよ」 文哉 「く、あいつめ」 和菜 「はっきりと答えなさい。ことによっては、あなたを許せなくなるわ」 文哉 「ゆるせなきゃ、なんだって言うんだ?」 和菜 「そんなこと、言うまでもないでしょ?」 和菜、文哉に銃口を突きつける 文哉 「まってくれ。反省する。俺が馬鹿だった。許してくれ」 和菜 「いまさら命乞いなんて、みっともないわ。組織のトップなんでしょ? もっと毅然としなさい」 文哉 「俺と姉さんの仲じゃないか。許してくれ。 グラッド・アイの司令の肩書きは返すから」 和菜 「そんなこと、どうでもいいわ。質問に答えなさい」 文哉 「あれは、ただの犯罪者の取締りを」 和菜、文哉の足元に発砲する 文哉 「わあ」 和菜 「あなたのうそは聞き飽きたわ。あなたはいつもうそばっかりだったものね。今まで甘い顔をしてきて、こんなことになって。後悔してるわ」 文哉 「待ってくれ、姉さん。あやまる。反省するよ」 ここでようやく文哉、発信機を手に取る 文哉 「まった。姉さん。これが何かわかるかい?」 和菜 「なに? 発信機」 文哉 「そうさ。俺がこのスイッチを押せば、三十分後にこの組織は吹っ飛ぶぞ。いいのか?」 和菜 「やれるものならやってみなさい」 文哉 「いいのか? この自爆装置は、核を使用している。この組織から周囲三十キロは木っ端微塵だ。百年は草木一本生えない焦土になるぞ」 和菜 「核!」 文哉 「そうさ。A計画は、核を使ったテロリズムの計画だ」 和菜 「核テロリズム……。あんた、とことんまで見下げ果てた男ね」 文哉 「なんとでも言え。どうする。銃をおろせ」 和菜、銃をおろせない 文哉 「おろせ!」 和菜、目をつぶる 通気口から美佳が顔を出す 美佳 「ぷはー」 文哉 「何だ?」 和菜、すかさず文也の腕を打つ 文哉、発信機を落とす 文哉 「うあああ!」 美佳 「え? きゃあ」 和菜 「美佳さん。ありがとう。感謝するわ」 美佳 「へ? よくわからないけど、どういたしまして」 文哉 「ひいーー」 文哉、逃げようとする 文也の足元に着弾 文哉 「ひゃあ」 恵介、現れる 恵介 「ここで逃げようってのは、虫がいいんじゃないか?」 美佳 「生きてたんですか!」 恵介 「当たり前だ」 和菜 「よかったわ」 恵介 「じゃあ、こいつにはじっくり話を聞かせてもらおうか」 和菜 「そうね。A計画についてじっくり聞かせてもらわないと」 美佳 「そうですね」 恵介 「ああ」 宮里、現れる 宮里 「それについては、私がお話しましょう」 和菜 「宮里!」 恵介 「てめえ!」 文哉 「宮里! いいところに。こいつらは政府の特殊工作員だ! 排除しろ!」 宮里 「片桐司令、いえ、文哉様。先ほどの話、すべて聞かせていただきました。私をだましていたのですね」 文哉 「あれは」 宮里 「和菜様、ご無礼お許しください。このような男の言葉にだまされ、あのようなことを。恥ずかしいです」 和菜 「いいのよ。上官の言葉は絶対だもの。仕方ないわ」 宮里 「ありがとうございます」 恵介 「そんなことより、A計画というのは?」 宮里 「うむ。A計画とは、核を使ったテロリズムの計画だ。文哉様が独自のルートで政府の研究所から入手した核をまず、反政府組織の残党がおおく潜伏する町に打ち込み、政府が核を秘密裏に開発していたという事実を明るみに出す。その後、国内外の政府に対する不信感が高まったのを見計らって、われわれはグラッド・アイとして政府に宣戦布告する。という筋書きだ。核を使用した責任を政府に擦り付けるため、政府のミサイル基地を制圧すべくすでに部隊が投入されている」 和菜 「核の発射予定は?」 宮里 「本日明朝です。文哉様から指示があり次第、核は発射されます」 恵介 「なら、こいつを抑えておけば核は発射されない。A計画は失敗だな」 美佳 「そんな計画、どうして?」 宮里 「どうして? そんなこと。われわれは和菜様に惹かれて集まったのだ。和菜様が政府に殺されたとなれば、報復するのは当然」 美佳 「だって、和菜さんは治安維持部隊につかまったのよ?」 宮里 「それは、こいつが勝手にしたこと。われわれは政府に殺されたと聞いている」 和菜 「結局は、文哉が権力をほしかったための行動なのよ。文哉が悪いの。止められなかった私も悪いけど」 宮里 「そんな、われわれの責任です。和菜様に罪など」 和菜 「私が責任を持って文哉を止めていればよかったのよ。いまさらだけど」 宮里 「今からでも遅くはありません! 我々の司令に戻ってください」 和菜 「もう、私にできることはないわ。これからのことは、これからの人にまかせればいい」 宮里 「そんなことは。かずなさまならば」 和菜 「私、もう長くないのよ。革命中に、旧政府軍の毒ガスを吸い込んでね。もう持たないの」 宮里 「そんな。和菜様がいなければ、この国はどうなるのですか! 私は、革命の苦労を知らないお偉いさんに運営されつづけるのは我慢なりません」 和菜 「大丈夫。なるようになるわ。必死になって革命を起こした人たちだもの」 宮里 「私は、あなたについていきたいんです! どこまでも」 和菜 「宮里」 文哉、こっそり発信機を手に取る。押す 警報が鳴る システム 「自爆装置、起動しました。三十分以内にシェルターに避難してください。繰り返します……」 文哉 「はっはっは! これでおしまいだ! 三十分後に核をセットした自爆装置が作動する。 お前たちも、生きては帰れないぞ!」 和菜 「く、文哉!」 宮里 「この下衆が!」 美佳 「どうしよう」 恵介 「落ち着け! 解除するんだ!」 文哉 「このシステムは起動したらプロの爆弾処理班でも解除できない。もうおしまいだ」 文哉、高笑いする 和菜 「いえ、まだ望みはある。起爆装置をシェルター内に持ち込んで、シェルター内で爆発させれば」 恵介 「それで、大丈夫なのか?」 和菜 「ええ。ここのシェルターは設計上核弾頭ミサイルの直撃にも耐えられる構造よ」 宮里 「核爆弾の入ったケースは司令室の向かいに保管されています。急ぎましょう」 恵介 「良し、行くぞ。おい、お前はこの情けない兄ちゃんを連れて行け」 美佳 「え。そんな」 恵介 「つべこべ言わないで、行くぞ」 美佳 「はぁい」 美佳、おそるおそる拳銃を抜き、文哉の背中に当てる 美佳 「お願いだから、抵抗しないでくださいね」 文哉 「ちっ」 出て行く ・シェルター前 アタッシュケースを引きずって歩く和菜と恵介、宮里 文哉の背中に拳銃を当ててあるく美佳 恵介 「ここがシェルターか」 和菜 「ええ。ここまででいいわ」 恵介 「そうか?」 和菜 「実は、ひとつこのアイディアには問題があってね」 恵介 「なんだ?」 宮里 「和菜様、やはり」 和菜 「ええ。シェルターのロックは内側からしかかけられない」 沈黙 和菜 「ここまできたら私が責任を取るわ。どうせ先は長くないもの」 恵介 「そんな、どうせ死ぬならこの兄ちゃんだろ」 文哉 「何で俺がそんなことしなきゃいけないんだ」 恵介 「てめえ」 宮里 「和菜様、ここはやはり私が責任を」 和菜 「ありがとう。でも、弟のしたことは私の責任よ。あなたにはするべきことがあるわ。兵たちの脱出を指揮しなさい」 宮里 「そんな、それは」 和菜 「あなたにしかできないのよ! 行きなさい」 宮里 「……」 和菜 「私がいない間、よくみんなをまとめてくれたと思うわ。ありがとう。あなたになら、任せられるわ」 宮里 「和菜様!」 和菜 「いきなさい! 私のグラッド・アイ司令としての、最後の命令よ!」 宮里、敬礼する 宮里 「すみません! 不肖、宮里栄十郎。失礼いたします。必ず、ご期待にこたえます!」 宮里、飛び出す 和菜 「あなたたちも。ね?」 恵介 「俺は、別にあんたの部下じゃないが、あんたと心中する気もない。いわれなくても出て行くさ」 和菜 「……」 恵介 「俺は、あの戦場に忘れたものがある。それを取り戻すためについてきただけだ」 和菜 「私を、恨んでるの?」 恵介 「うらんではいない。ただ、おれはあの戦場は忘れられない。あれに決着をつけるまでは、先にも後にもいけなくなっちまったのさ」 和菜 「……」 恵介 「そろそろ、けりをつけたい。あんたに会って、いいチャンスだと思ったんだ」 和菜 「いいわ。好きにしなさい」 恵介 「ああ。今のあんたは、間違いなく、あのときのあんただ。牢屋にいたときとは、目の色がぜんぜん違う」 恵介、敬礼する 恵介 「片桐和菜司令。わが部隊の作戦は終了しました」 和菜、あっけにとられる。苦笑する 和菜 「うむ。栗林恵介一等陸尉。ご苦労。帰還せよ」 恵介、あっけに取られる 恵介 「俺のこと、知ってたのか」 和菜 「ええ。あなたたちのことは、一度も忘れたことはないわ。顔は知らなかったけど、あの戦闘の唯一の生き残りだもんね」 恵介、笑う 恵介 「やっぱり、俺たちは無駄死にじゃなかったな。これであのことも忘れられそうだ。ありがとう」 恵介、敬礼する 和菜、返す 和菜 「本当はあんたが最後まで責任をとるべきだと思うけど」 文哉 「どういうことだよ」 和菜 「あんたが爆弾を始末すればいいのよ。本当は」 文哉 「そんなこと」 和菜 「あなたの責任は、法廷で取りなさい。あなたがしてきたこと、万死に値するわよ」 文哉 「くそ。姉さんは、俺のことが嫌いなのか? おれがしんでも、へいきなのかよ」 和菜 「嫌いじゃないわよ。私があなたのこと、ちゃんととめてあげられてたら、こんなことにはならなかったのよね。ごめんなさい」 文哉 「いやだ。俺は死にたくない」 和菜 「だめよ。責任を取りなさい」 文哉 「くうっ」 恵介 「行くぞ」 恵介、文哉を連れて行く 去り際に敬礼する 美佳も去ろうとする 和菜 「美佳さん。待って」 美佳、振り返る 和菜 「美佳さん。文哉のこと、お願いね。あと、この国のことも」 美佳 「でも、私にそんな力は。ただの役人の一人でしか」 和菜 「そんなことはないわ。私だって何の権力もないただの貧乏人の娘だったけど、革命を支えることができたもの。あなたは私よりも恵まれてるわ」 美佳 「でも、私には」 和菜 「私が未来をたくせるのは、あなたしかいないの。お願い。勝手でしょうけど、私の分までがんばって」 美佳 「……」 和菜 「忘れないでね。この国は、まだまだ不満がいっぱいなの。革命が起こったからって、それだけでどうにかなるものではないのよ。革命は、きっかけに過ぎないの。あとはみんなの変わっていこうという意思が必要なの」 美佳 「私、そんな自信は」 和菜 「自信なんかなくても、いい。くじけそうになったり、何か逃げ出しそうになった時は、私のことを思い出して」 美佳 「……。うん」 和菜 「この国は、変わらなくてはいけない。そうでなければ、革命で死んだ人たちはむくわれないの。おねがいね」 美佳 「わかったわ」 和菜 「ありがとう」 システム 「自爆まで、後十分。シェルターに急いでください」 和菜 「時間がないわ。いきなさい」 美佳、出て行く 和菜、美佳の背中に敬礼する 暗転 ・取調室 ぼうっとする美佳 座っている恵介 美佳 「結局、この事件ってなんだったのかしら。治安維持部隊は壊滅、解散。司令の片桐文哉も、別件で投獄されるし、和菜さんは行方不明だけど、書類上の扱いは死刑が執行されたことになってるし」 恵介 「まあ、今回のことは政府も隠しておきたかったんだろう。内部の不安定さを露呈しちまうからな」 美佳 「はぁ。結局、何もできなかったのよね」 恵介 「そんなことはないさ。あいつは満足してるよ」 美佳 「そう思う?」 恵介 「ああ」 美佳 「なら、いいんだけどね」 恵介 「結局、生きてるやつはポジティブにやってかなきゃ、やってらんないぜ。こういうときは」 美佳 「ふうん」 恵介 「そろそろ迎えの時間か?」 美佳 「ええ」 美佳、荷物を手に立つ 美佳 「結局、カウンセラーとしては失格よね。わたしは。わかってあげられなかった。生まれた環境も、生き方もぜんぜん違うものね」 恵介 「……。まあ、わかってないってことがわかっただけでも、進歩さ。わかってないのにわかった気になってる連中とは違うだろ?」 美佳 「……」 恵介 「あんたみたいな人が、未来を作ってくれれば、安心だな。期待してるぜ。中央に異動だろ?」 美佳 「まあ、実際は体の良い口封じみたいなものよ。中央勤務なら監視もできるしね」 恵介 「おれは、あんたに期待してるぜ。あいつもそうさ。俺たちのおもいは、少しはわかってくれたもんな」 美佳 「……。ありがとう。行くわ」 恵介 「ああ」 恵介、敬礼する 恵介 「神崎美佳。健闘を祈る」 美佳、笑う 美佳 「栗林恵介さん、あなたもね」 美佳、返す 美佳、出て行く 恵介 「おれも、こんなところはおさらばだな。俺には俺のしたいことがある」 恵介、退職届を机に置く 恵介 「じゃあな。革命も、なかなか楽しかったぜ」 恵介、去る 幕