俺はヴィト スカレッタ。 1925年、シシリーで生まれた。 この小さいのが俺だ。両親と姉のフランチェスカと一緒に、昔の家の前で撮った写真だ。 故郷のことはあまり覚えていない。とにかく貧しくて、ある日、親父が決断した。故郷を離れる潮時だと。 シシリーを発ち、海を越え、アメリカでの新しい生活を始めたわけだ。 エンパイア ベイほど素晴らしいものを目にしたことはなかった。美しい街だった。 そして、家族の新居となったアパートほど不潔で胸くそ悪いものを目にしたこともなかった。 "アメリカンドリーム" それはむしろ悪夢だった。 移民を斡旋してくれた男が、親父に仕事もくれた。港湾労働だ。 たいそう骨の折れる仕事だが、そのわずかな稼ぎのほとんどは、親父の酒代に消えた。 そのうち、両親は俺を学校へやった。英語を覚えなきゃならないからな。移民だらけのイタリア人街にこもってちゃ、絶対に覚えられやしない。 その学校で、ジョーと出会ったんだ。 ヴィト。 急げよ。一晩じゅうここに居るわけにはいかねぇんだぞ。 やがて、ジョーと俺は親友になった。ふたりとも金がなかったし、たいして仕事の口もなかった。そんなわけで、俺たちはちょっとしたビジネスを始めた。 警察だ!動くな! とまれ! ヴィト、こっちだ! カバンをこっちに投げろ! とまらんと撃つぞ! ちくしょう。 よーし、足を広げて柵に両手をつけ! なんてこった。すまねぇ、ヴィト。 まぁ、うまくいかなかったのは、あの日だけだ。1943年のことだった。アメリカは戦争中で、陸軍はシシリー島上陸作戦のために、イタリア語のできる奴を探していた。 18歳だった俺は、刑務所よりは陸軍のほうがましだと思った。あんなことが起きるとは、想像もできなかったからな。 第1章 故郷 シシリー島 1943年7月 ハスキー作戦 : 俺は第504空挺歩兵連隊に配属された。 7月11日、俺たちはシシリー島南部の海岸へ降下するはずだった。ところが、輸送機が対空砲にやられて、前線のはるか向こう側、敵の真っ只中に墜落した。 あの輸送機に乗っていて、生き残ったのは3人だけだった。 地元のレジスタンス活動家たちの助けがなければ、俺たちも死んでいただろう。だから、ムッソリーニの軍隊が街へやってきてレジスタンスの一斉検挙を始めたとき、恩返しをしようということになった。 誰も口を割らぬなら、こいつを撃たなきゃならんな。 どうだ?え? いやだ、よしてくれ。殺さないで。 いいか、スカレッタ。お前が最初に撃て。 この裏切り者め! バルコニーの敵を倒せ、スカレッタ! 土嚢の後ろだ! 敵が退き始めたな、行くぞ。 続け! 気をつけろ! 伏せろ!伏せろ! やられた!あぁぁぁ! こっちへ来い、スカレッタ! わぁぁぁ! 敵の増援が来る前に、中へ入って仲間を助けないと。 伍長、「敵の増援がこっちへ向かってる」と言ってます。 まずいな。お前とウィリアムスはあの機関銃座をつぶせ。つぶしたら、捕虜を見つけて救出しろ。味方は一人でも多いほうがいい。 こっちは通れないな。 機関銃座をみつけたぞ! スカレッタ、手榴弾を持ってるなら、今こそ使い時だぞ! 気をつけろ! 窓から手榴弾を投げろ! うわぁ。 スカレッタ、生きとるか? ええ、まあなんとか。 生きとるなら、さっさと立たんか。行くぞ。 弾を持てるだけ持って行け、補給できるのはこれで最後かもしれん。 これはずいぶんと豪勢だな。 敵は階段にいるぞ! イタ公ども、受け取れや! スカレッタ、お前のことじゃないぞ。 捕虜は二階にいるはずだ。 二階をおさえるぞ。スカレッタ、お前が先頭だ! 人質を殺せ! しっかり後ろについてるからな。 やったぞ。 降伏しろ!こいつの頭を吹き飛ばしてもいいのか! こっちから行くぞ。ついて来い。 あいつら、いったい何人いやがるんだ? 何人いようと構いやしねぇ。とにかく撃て。 言われなくても、撃ってるだろ。 黙って撃てよ。 悪かったな、アホめ。 このバルコニーじゃ駄目だ。 あっちへ行こう。部屋に入るんだ。 部屋に入れ、スカレッタ!外にいたら死ぬぞ! ファシストが来た! ファシストが来たぞ! 敵の増援が着いたぞ。 あのトラックをやれ。 ぶちかませ。 自走砲が来たぞ!部屋に入れ、急げ! 俺は気をつけなって言ってるだけだよ。 ごちゃごちゃ言わずに、言われた通りにやれ! 撃つなよ。わしが誰だか知っとるな。わしと取引をしようじゃないか。戦争はおしまいだ! アメリカ軍はわしらを解放しに来た。アメリカは味方だ。ムッソリーニを倒してくれるはずだ。 あれは誰だ?知っている者はいるか? みんな知ってますよ。ドン カーロです。名誉の人です。 馬鹿なまねをしなければ、今日じゅうに家へ帰してやろう。家族が待っとるぞ。身の安全はわしが保証する。わしの言葉なら信じられるだろう。返事を聞こうか。 ドン カーロは、シシリアンマフィアのボスだ。この日、島じゅうのイタリア軍が降伏した。ドン カーロに逆らう者はいなかった。