Yuuki! Novel - Plain Text Output ..-------- ..Item "タイトル画面" ..LinkType Auto ..Link "タイトル" "序章" ..-------- ..-------- ..Item "序章" ..LinkType Auto ..Link "" "音楽室で" ..-------- 夏休みも中盤にさしかかり、暑さは増すばかりだった。 僕は、誰もいない音楽室へ向かった。 ..-------- ..Item "音楽室で" ..LinkType Auto ..Link "" "誰かが見ている?" ..-------- 僕は夏期講習にも行かず、 こうしてピアノに向かっては、 誰も聞いていないソナタを弾いていた。 きっと誰も知らない僕の努力。 時々むなくしなってピアノに突っ伏した。 ..-------- ..Item "誰かが見ている?" ..LinkType Menu ..Link "見に行く" "見に行く" ..Link "放っておく" "放っておく" ..-------- じめっとした風は僕を励ましてはくれないけれど、気づけば指は動いていた。 「…………?」 ドアの向こうに誰かがいる。 ..-------- ..Item "見に行く" ..LinkType Auto ..Link "" "廊下" ..-------- 僕は気になって廊下へ出た。 けれどすでに人影は階段を下りていた。 一体、誰だったんだろう? 僕はピアノに戻り、再びソナタを弾き始めた。 ..-------- ..Item "放っておく" ..LinkType Auto ..Link "" "廊下" ..-------- 僕は放っておくことにした。 ……まだ見ているようだ。 一体誰なんだろう。 僕がソナタを弾き終わるころには人影はいなくなっていた。 僕はあの人影が気になりながらも、再びソナタを弾き始めた。 ..-------- ..Item "廊下" ..LinkType Auto ..Link "" "樹海" ..-------- 空調の効いていない音楽室での練習は、 無駄に体力を奪われていた。 僕は家に帰るべく、音楽室の鍵を職員室へ返しに行った。 「ねぇ、キミ」 職員室から出ようとした僕を、女の先生が呼び止めた。 「何ですか?」 僕は答えながらもこの先生の名前を思い出そうとした。 ………。 だめだ。 ぜんぜん思いつかない。 「お願いがあるの」 名前も知らない先生から、僕は一枚のメモを受け取った。 ..-------- ..Item "樹海" ..LinkType Menu ..Link "ひきかえす" "ひきかえす" ..Link "もう少しがんばる" "もうすこしがんばる" ..Link "ひとやすみする" "ひとやすみする" ..-------- 「一体ここはどこなんだ……?」   僕はある避暑地の中でも人気が少ない山奥へと踏み込んだ。   バスが一日に3本しかない。 コンビニなんて駅前にしか見なかった。   「大丈夫なのか……?」   僕は不安げに樹海へ歩みだした。 「うー……、暑い。疲れた……」   20分歩き通した僕は、少しバテていた。 ..-------- ..Item "ひきかえす" ..LinkType Auto ..Link "" "音が聞こえる" ..-------- 僕は少し考えたあと、今来た道を戻った。   「いや、やっぱり進もう」   少しだけ戻って思いなおし、さらに道の先を進んだ。   ..-------- ..Item "もうすこしがんばる" ..LinkType Auto ..Link "" "音が聞こえる" ..-------- もう少しがんばろう。   僕はさらに道を進んだ。 ..-------- ..Item "ひとやすみする" ..LinkType Auto ..Link "" "音が聞こえる" ..-------- 「とにかく……すこし休もう」   僕は近くの木陰に身を降ろした。 …………ああ、僕はこんなところで何をしているんだろう。   そんなことは、ずいぶん前に悩みきったはずなのに、 やっぱり僕はまだ迷っているんだろうか。 「よし。行こう」 僕はふたたび歩き出した。 ..-------- ..Item "音が聞こえる" ..LinkType Menu ..Link "窓の方へ行く" "窓の方へ行く" ..Link "玄関に行く" "玄関に行く" ..-------- 歩き出してやがて、僕の耳に「音」が聞こえてきた。   ピアノの音だ!! 聞き間違えるはずもない。   気づけば僕は走りだしていた。 湖畔の側に、白いコテージがあり そこからピアノの音が聞こえてきていた。   音に引き寄せられていくうちに、僕はあることに気づいた。 ……僕のソナタだ。 一体、ダレが? 僕とは違う、激しくて切ないソナタが流れる。 どこから聞こえてくるんだろう? ..-------- ..Item "窓の方へ行く" ..LinkType Auto ..Link "" "見つけた" ..-------- 窓の方へ行ってみよう。   音がどんどん近くなっていく。 こっちでいいみたいだ。 僕はテラスの下から窓を覗き込んだ。 ..-------- ..Item "玄関に行く" ..LinkType Auto ..Link "" "窓の方へ行く" ..-------- 玄関に回ろう。   玄関には『鏡』と書かれている。   どこかで聞いたことのある苗字だ。 どうも思い出せない。 最近、ピアノのことしか頭になかったのか…。   とにかく人のいる、音がする方へ行ってみよう。 ..-------- ..Item "見つけた" ..LinkType Menu ..Link "「ごめんなさい、あのつい」" "「ごめんなさい、あのつい」" ..Link "「ちょっと道に迷っちゃって……」" "「ちょっと道に迷っちゃって……」" ..-------- 窓の向こうには、 白いコテージに揃いの白いピアノが全開にされていた。   そして、僕の弾いていたソナタが溢れていた。 ソナタは緩急のある楽曲だ。 でも、これは……。   そうだ、誰が弾いているんだろう? 少し場所を変えてみないと見えないな。 「うわぁぁぁああっ!?」 目の前の景色が崩れ去って、気づけば草むらに顔をつっぷしていた。 「いたた……」   受身が取れなかったらしく、もろに頭を打った。 誰かに見られてなくてよかっ… 「……………………っ!?」   しまった!   誰かに見つかってしまったようだ。 ……こんなところに転んでいるところを。 「あああ、あ、あの!」   覗いていたこと、どうやって説明しよう。 転んでいたことも… ..-------- ..Item "「ごめんなさい、あのつい」" ..LinkType Auto ..Link "" "女の子" ..-------- 「ごめんなさい、あのつい」   顔を合わせることができなくて、 うつむいていると、ふと手が差し伸べられて僕は顔を上げた。 ..-------- ..Item "「ちょっと道に迷っちゃって……」" ..LinkType Auto ..Link "" "女の子" ..-------- 「ちょっと道に迷っちゃって……」   もっともらしい嘘がつい、口から出てしまう。 ……うーん、だめか。   第一嘘なんかついても意味はない。 本当のことを言おうと、僕は顔を上げた。 ..-------- ..Item "女の子" ..LinkType Auto ..Link "" "手を引っ張ってもらう" "手を差し伸べられる" >= 1 ..Link "" "自分で立ち上がる" "嘘" >= 1 ..-------- あれ……?   顔を上げた僕は、一瞬、真っ白なものに目を奪われた。   色白い、髪が長め女の子。 その肌に映えるような白いワンピース。   この人が、さっきのピアノを弾いていた人…? ..-------- ..Item "手を引っ張ってもらう" ..LinkType Auto ..Link "" "名前は?" ..-------- 彼女は僕の手を引くと、 心配そうに顔を覗き込んだ。 「ごめんなさい、あの、僕ちょっと」 女の子に手を握ってもらったことなんてなく、 手を借りて立ち上がると慌てて手を離した。   恥ずかしい…。 「あ…、キミは……!」 ..-------- ..Item "自分で立ち上がる" ..LinkType Auto ..Link "" "名前は?" ..-------- 僕は急いで立ち上がり、戸惑っている女の子に 名前を尋ねた。   ..-------- ..Item "名前は?" ..LinkType Auto ..Link "" "インテルメッツォ" ..-------- 「もしかして……キミが、カノン?」 僕の問いかけに、彼女はコクンと頷いた。   彼女の名前を知っていたのは、あのメモに書いてあったからだ。 彼女の名前は花音。 それだけしか僕は知らない。 あのメモにはこの場所の簡単な行き筋と、 『この場所に来て下さい。待っています。                    花音』   としか書かれていなかった。 もちろんあの先生に幾分かの説明を受けて、どうしても行って欲しいと頼まれて断りきれなかった。 ぐい!   「うわっ」 突然、彼女は僕の腕を引き、 テラスから室内へと半ば無理やり連れて行く。   そこにはさっきのピアノが、待ち構えていた。 まさか、弾けってこと?   「……弾け、って?」   僕は思ったままに聞いた。 そして花音は懸命に頷いた。   手はしっかり僕の腕を掴んで、放してくれそうにもない。 「わかったよ。…手、離してくれる?」   僕は観念して椅子に座り、鍵盤に向かった。   いつものように、指を走らせる。 だけど。 「違うっ!!こんなの、こんなの……!」   鍵盤に握り締めた拳を叩きつけ、叫んだ。 こんなことのために 僕はここに呼ばれたのか? だったらもうここにいる理由はない。 「帰ります。……おじゃましました」   「!」   帰ろうとした僕の腕を、 彼女は目一杯つよく引き止めた。 泣きそうなほど、つらそうな顔をしていた。 僕は何のためにここに来たのだろうか――? 呼ばれたから? 頼まれたから?   違う気がする。 あの、僕とは違うソナタを聴いて僕はどう思った? 嫉妬? それとも焦り? 違う。 時間を全部持っていかれた気がしたんだ。   まるで世にも美しいものでも見ているみたいに。   「僕は、その…… キミ……みたいに、弾けない。帰るよ」   そう告げた僕の腕に しがみついて離れない彼女は、 届かない声で訴えた。 『ここにいてピアノを弾いて欲しい』 と――。               つづく ..-------- ..Item "インテルメッツォ" ..LinkType Auto ..Link "" "ピアノ練習" ..-------- 僕は、誰にも勝るものはなくて   けれど、   やさしさを手に入れていた。   やがて失う、キミといた夏に   僕は――。 ..-------- ..Item "ピアノ練習" ..LinkType Auto ..Link "" "星空" ..-------- 僕は大量のメモ帳を手にして、ピアノに向かい合った。 これは彼女の――花音の声の代わりだった。 「もっと、激しく?」 僕も積極的に(今までの友達の会話では有り得ないような)会話をした。 空調が効いているはずの部屋でも、額にじわりと汗をかきながら、何もかも忘れて、鍵盤の上を踊り狂った。 激しく、だけど驚くほど冷静に。 それはきっと僕は一人ではなかったからに違いなかった。 あまりの練習の厳しさに何度か彼女を疎ましくも思った。 けれど、あまりの一生懸命さに僕はあきらめすら感じていた。 僕たちは二人でいた時間を、たくさんの会話をして過ごした。 途中でメモが無くて、楽譜の隅にまで会話は広がった。 まるでピアノが習いたてのころに楽譜に書かれた注意事項のような、そんな感じ。 花音は僕のそばにずっといた。 もちろん一人にして欲しいときは、彼女も相手をピアノに代えていた。 激しくも切ない、あのソナタを飽きもせず、何度も何度も。 ..-------- ..Item "星空" ..LinkType Auto ..Link "" "花音を連れてくる" ..-------- 簡単な夕食を済ませて、またピアノに没頭し、 ようやく寝る支度をすることになり、花音が先にシャワーを浴びている。   彼女が出てくるまで暇になった僕は、 風に当たろうと、僕はコテージのテラスへ出た。 空には満天の星空が広がっていた。 僕はよく、こうして空を見上げることが多い。 迷ったり、くじけたり、感傷的になったりしていた。 でも 今日の夜空は少し違った。 どうしてだろう? 曇りがないこの夜空のように、澄んでいるようだった。 「花音……」 僕は彼女の名前を呼んでいた。 聞こえていないとわかっていても、何故か呼んでいた。 ここに来てよかった。 僕の迷いはなくなっていた。 あとは前に進むだけ。 なのになんでだろう? 胸の奥に詰まったような、この気持ちは。 「花音……?」 花音の名前を呼ぶたびに、浮かび上がってくる。 僕は、どうしたんだろう。 そうだ。 せっかく星が綺麗なんだ。 花音を呼ぼう。 ..-------- ..Item "花音を連れてくる" ..LinkType Auto ..Link "" "ラスト・ワン" ..-------- 「おいでよ、花音。星が綺麗だから」   僕はテラスへ彼女を引っ張り出した。 二人で星空を見上げると、天の川が見えた。 「天の川かぁー、花音は七夕に何をお願いした?」 彼女は僕の手をとり、指で手のひらをなぞった。 ――『キミにあいたい』―― つづられた言葉を理解して、僕の体を何かが走った。 僕の手を握りしめた花音は、涙を流して呟いた。  ――『ありがとう、あえてうれしかった』―― 震えだした花音を抱きしめて、僕はわけもわからないままその背中をさすった。 「な、なに言ってるんだよ、しっかりしろよ」  しゃくりあげる花音の涙は止まることを知らなくて、そのまま泣きつかれて眠ってしまっていた。 ..-------- ..Item "ラスト・ワン" ..LinkType Auto ..Link "" "別れ" ..-------- 僕がここを訪れてから、気づけばもう十日を過ぎようとしていた。 あの涙の後も何のこともなかったかのように、花音はピアノに向かっていた。 「うまい……よな……」 自分が没頭していると気づかないような細かいところにまで神経が行き届いている。 花音のソナタを聴きながら、僕はあることを考えていた。 きっと僕は花音に出会っている。ピアノに関係したことで。 けれど幼少から出場したコンクールは数知れず、顔を覚えているような人はいなかった。 僕が習った先生の誰かの娘だろうか? だとしたら僕は覚えていなくても、きっと相手は覚えているはずだ。 あれかこれかと考えてみればみるほどどれも違く思えてきて、花音がソナタを弾き終えるころにはどうでもよくなっていた。  ――『どうだった?』―― 花音はメモ帳にそう書いて、僕につきつけた。 「うまかったよ。だんだん、弾くうちにテンポが速くなってきてる気が……」  ――『やっぱり?』―― 照れ隠しのように笑って、僕をピアノの椅子に座らせた。 「やっぱり次、僕の番だったか……」 さっきまで僕がいた場所に花音が座って、懸命に耳を傾けていた。 そう、これがラスト・ワン―― これで僕は元居た場所に帰る。 だったらせめて、その前に、 今だけでもいい―― このソナタは、キミのために。 ..-------- ..Item "別れ" ..LinkType Auto ..Link "" "さようなら、花音" ..-------- 「ありがとう――」 帰りのバスを待つ僕の手を、花音は離そうとしなかった。 「また、会えるよね?」 おそるおそる尋ねた僕に、首を振って答えた。 そしてあの時と同じように手のひらに指で言葉をつづった。 ――『もう、あえない』―― 「どうして?」 つづけて尋ねる僕に、焦りながらも文字を続けた。 ――『ドイツに留学することになって、明日には経つから』―― 「まさか!!!!」 僕は一瞬、頭が真っ白になった。 花音はそう、僕が受けたコンクールで優勝したピアニストだった。 僕もそのコンクールで優勝すれば、ドイツ行きが決まっていた。 ――『キミのピアノをきいて、キミにあいたくて 学校にも行きました。黙っていてごめんなさい』―― 「あ、…その、謝らなくてもいいよ」 言葉を返しながらも、僕の頭の中は花音のドイツ行きのことでいっぱいになっていた。 この留学はただの留学ではない。 向こうの楽団に所属すれば数年では日本には帰ってこれない。   もし、ソリストとして活躍すれば、遠征でよっぽどのことばなければ帰ってこれない。 僕が選ぼうとした道の先に、もう花音はキップを手に入れて歩き出していたんだ。 くいっ…… 僕は服のすそをつかまれて、我に返った。 バスがやってきて、僕は泣きじゃくる花音をあの時と同じように抱きしめた。 バスは去って、夏の日差しが樹木に零す光の下、二人きりになった。 ..-------- ..Item "さようなら、花音" ..LinkType Auto ..Link "" "花音が戻ってくる" "手を差し伸べられる" >= 1 ..Link "" "キミといた夏" "嘘" >= 1 ..-------- 「さようなら。花音」 僕は空港の屋上で花音が乗った飛行機を見送った。 盛大な見送りに阻まれて近づけなかったけれど、遠くから見ているだけでよかったと思う。 これで僕は元の場所へ帰れる。 いや違う。キミのためにも歩き出せる。 僕はもう、一人ではなかった。 キミといた夏は、絶対に忘れない。 「あれ……? おっかしいなぁ……」 空の彼方へ消えていった飛行機を最後に、僕の視界はぼやけてしまった。 熱い涙がこみ上げて、喉をつき破って息もできなかった。 ――なんで? 僕の問いかけに、滲んで消えていく空は答えてくれなかった。 ..-------- ..Item "花音が戻ってくる" ..LinkType Auto ..Link "" "エンディング" ..-------- ガチャ! 勢いよく、屋上の扉が開いた。 「…………花、音?」 飛行場の屋上で、見送ったはずの飛行機。 だけど、 たしかにあの時と同じ白いワンピースを着た 花音が微笑んでいた。 一筋の涙を流して、僕の胸へ飛び込んだ。 「花音、花音……!」 確かに感じる花音の体温。 花音は帰ってきた。 僕のところへ。 『ごめんなさい』 花音は僕の手にそうなぞった。 「いいの?行かなくて」 花音は頷く。 ああ。僕の答えはここにあった。 「キミが好きだよ。花音」 もう一度、花音は頷いた。 二人は歩き出した。 キミといた夏に、幾つもの時間を重ねるために―― FIN ... ..-------- ..Item "キミといた夏" ..LinkType Auto ..Link "" "エンディング" ..-------- また、あの夏が来る。 今はもういない、キミといた夏が。 キミを見送った空を何度も見上げながら、 星に願いをかけることはしなくなっていた――。 ――思い出すキミの面影を、ピアノにこめて 僕は、もう迷わない。 FIN... ..-------- ..Item "エンディング" ..LinkType Ending ..Link "" "" ..-------- 原作「君といた夏」 yu-ka 音楽提供 画像提供