「初めての逆転」
“初めての逆転”には、実はかなり時間がかかっています。
書き始めたのが2000年12月6日。終了したのが2001年2月中旬。
トノサマンや最終話の執筆期間がそれぞれ約1ヶ月というのを考えると、あまりのゼイタクさに卒倒しそうになります。
このシナリオのテーマは、『単刀直入』。
前回の完全敗訴で、“プロローグ”にとって最も重要なことをハッキリ悟りました。
“とにかく、スパッとゲームを始めさせる”‥‥書き始めたとき、ぼくのアタマにはそれしかありませんでした。
ただ、バランスがムズカシイ。
最初に書き上げたバージョンは、導入部があまりに短すぎて、やたら素っ気なくなってしまいました。
これはマズいと、矢張を出しておしゃべりさせたら、今度はいつまでも裁判が始まりません。
‥‥ほどよいバランスをつかむために、何度も書き直すハメになりました。
バランスの試行錯誤はそのまま、逆転ワールドの住人たちの性格づけの模索でもありました。
たとえば、矢張くん。
彼は最初、どこにでもいそうな、ごくふつうの好青年でした。
それを読んで、さっそくスエカネ&辰郎コンビから横なぐりのツッコミが。
「異議あり! ‥‥もっとキョーレツなキャラにしてください!」
‥‥そこで生まれ変わった矢張くんは、意味もなく、やたらトガった男になりました。
口グセは“殺してやるゥ!”。
成歩堂や亜内検事に裁判長、そして天国の美佳にまで、
“そんなこと言うと殺すぞゥ!”
“みんな殺してオレも死んでやるゥ!”
“天国で、あの女を殺してやるんだァ!”
と叫びまくったあげく、最後は千尋さんに向かって
“アナタに殺されたい‥‥”
‥‥我ながらキレイにオチたな、と思ったのですが、今度は上の方からクレームが。
「ふむう‥‥コロすコロす言いすぎで、不穏当です。考えなおすように」
‥‥しかたなく、もう一度チャレンジ。
発想を逆転して、なにかというと“死んでやるゥ”と叫びまくる、今の矢張くんができあがったわけです。
犯人・山野 星雄の扱いも苦労しました。
『逆転裁判』は“犯人がだれか?”ではなく、“犯人をどうやって追いつめるか?”がおもしろいゲームです。
つまり、追いつめるべきターゲットが、ハッキリわかっていなければなりません。
そのために、まずオープニングで“このヒトが犯人ですよー”とカオをバッチリ見せることに。
さらに名前でも、犯人であることを声高に主張させました。
事件(ヤマ)の犯人(ホシ)男 ‥‥ 山野 星雄
‥‥せっかくの気配りでしたが、誰も気がつかなかったようです。
時間をかけて練りこんだだけあって、“初めての逆転”は“犯人を追いつめる感覚”が最もダイレクトに味わえるシナリオになったと思っています。
そういう意味で、これはある種、『逆転裁判』を代表するエピソードです。