「一期一会 (2)」
さて。前回のつづきです。
プログラマーから紹介していきましょう。
グラフィックやテキスト、サウンドなどの素材を、ゲームの形に仕上げる男たち。
大谷くんとエンドーくんの2人が担当しています。
まずは、大谷くん。このゲームのメインシステムを組み上げた男です。
ゲームの“サクサク感”を追求する、とても彼らしい仕上がりになっています。
また、彼は、ぼくの精神安定剤でもありました。
シナリオを書いていて、自分でも『いいのかコレ』とクビをかしげるようなアイデアを思いつくことがあります。そんなときは、すかさず彼に相談。
「ワシはアリやと思うで」
よっぽどのことがないかぎり、大谷くんは力強くこう言います。
ぼくはそれを信じて、心の安らぎを取りもどすのです。
これだけで、3本の指に入る殊勲賞モノと言えるでしょう。
「ワシはアリやと思うで」
と言う大谷くんの横で薄笑いを浮かべているのが、エンドーくんです。
その笑顔は、
「ボクはナシだと思いますけどね」
と、雄弁に物語っています。
シナリオの穴をうれしそうに報告するのは、彼の専売特許。
彼の笑顔に“異議あり!”‥‥そんな感じです。
もちろん、彼の指摘によってシナリオの完成度が上がったのは、言うまでもありません。探偵パートの攻略も、ずいぶん引きしまりました。
エンドーくん自身の仕事でも、そのコダワリはキラリと光を放っています。
第三話・オープニングで、BGMにピタリと合った小気味よいアクションは、彼の傑作です。
やっぱり、3本の指に入る殊勲賞モノと言えるでしょう。
次はサウンドパート。BGMのスギモリくんと、効果音の森くん。
まずは、スギモリくん。
なにか意見を聞くと、2cmぐらいズレたことを言う、ちょっと歯がゆい男です。
ただ、彼については、忘れられない思い出が1つ、あります。
制作の終盤、最終話のプロット作りで死にそうになっていたぼくのところにきて、
「トノサマン、最高でした」
と言ってくれたこと。
シナリオ執筆期間中、チーム内でほめられたのは、これが初めてだったのです。
個人的には、これだけで3本の指に入る殊勲賞モノと確実に言えます。
ただし、彼はその後、執筆中の最終話を読んで
「トノサマンの方がおもしろいです」
と言ってしまったため、地に落ちました。
そして、森くん。
いそがしい中、“biohazard”チームから助っ人として参加してくれた、ナイスガイ。
銃声をリクエストしたら、瞬時に30種類ぐらい引っぱり出してきました。
彼は、とてもやさしい目をしています。そして、なにを相談しても
「弁護士事務所の経営パートを入れたらええのんちゃうん」
「4つのエピソードにつながりを持たせたらええのんちゃうん」
の2つしか言わなかった、ニクいあんちくしょうです。
最初は、『両方とも必要ないや』と思って聞こえないフリをしていました。
しかし、いつしか彼のコトバは、しっかり脳髄にスリ込まれていたのです。
4つのエピソードが一貫した物語になったのは、完全に彼の功績です。
これだけで、3本の指に入る殊勲賞モノと言えるでしょう。