「裁判傍聴 (1)」

大きな裁判所なので、法廷の数は、実に50室以上。入り口の受付に1冊のノートが広げてあり、
今日の法廷スケジュールがビッシリ書き込まれています。
窃盗から殺人まで、あらゆる犯罪が並んでいるさまは、まさに"壮観"のヒトコト。
「いきなり殺人事件はヘビーだから、軽いヤツ、行きましょう」
我々は、なんとなく「ワイセツ物陳列罪・判決」の法廷に入りました。
‥‥一番、罪がなさそうだったからですよ。

20人も座ればいっぱいになってしまうような、小さな法廷でした。
係官に連れそわれて、被告が登場。よれよれのTシャツを着た、17才ぐらいのヒョロリとしたメガネの少年です。
腰縄に、サビた手錠。‥‥いきなりナマナマしい光景。ちなみに、手錠と腰縄は、法廷内では外されます。
やがて裁判長が入ってきました。
「それでは、始めましょうか」
「起立」
「礼」

裁判長、おもむろにノートを広げて、そのメガネの少年がやったことを読み上げます。
‥‥事務的に、しかし克明かつ鮮明に。淡々と、しかし明瞭かつ容赦なく。

「○月×日。○○ビルで、被告は××歳の女性をエレベータに連れこみ、背後から抱きしめ、
ブラウスの下から左手を差し入れ、左の×××を×××××ました。また同月×日、○○町の路上にて、
公衆が見ているのを前提の上で、自らの××××を××××し、さらに同月×日‥‥」

あのメガネの少年が、そんなコトを! ‥‥思わず目が点に。
ふと隣を見ると、さっきまで裁判長のスケッチをしていたデザイナーの手も止まっています。
しかし、これはフィクションではなく、実際に起こった事件です。
そう思うと、自然に笑いも引っこみます。

「あなたは初犯だから、執行猶予がつきます。わかりますか? 執行猶予」
「いいえ」
「じゃあ、弁護士さんに聞きなさいね」
「ハイ」
‥‥アットホームなフンイキも、妙に印象的でした。