「法律談義」

2000年、11月。キャラクターも固まって、ぼくは最初のシナリオ
(現在の"逆転姉妹")を必死になって書いていました。
そんなある日。
「巧さん。このゲーム、法律の考証はどうするんですか?」
‥‥いちばん触れられたくないポイントにツッコミを入れられてしまいました。

ぼくの法律に関する知識といえば、『日本には、六法全書という本がある』ぐらいのものです。
「いいんだよ、法律なんて。これは探偵ゲームなんだから」
たいていは、このヒトコトで切り抜けていたのですが‥‥、

「探偵ゲームじゃなくて、弁護士ゲームじゃないんですか!」
「現実と違うんなら、わざわざ法廷モノにすること、ないと思います!」
「遊んでくれる人たちに、間違った知識を与えちゃうカモ!」
「弁護士会から訴えられませんか!」
「苦情がくるッス!」

‥‥チーム内外でいろいろ言われるうちに、自信が大きくグラつきました。
冷や汗が滝のように流れ出して、気分はさながら、末期の亜内検事。
そしてついに、
「ホンモノの弁護士さんに、監修してもらったほうが‥‥」
という意見が出るにいたって、チームを緊急招集。
「だれか、知り合いに弁護士がいるひとー」
「‥‥‥‥」
「じゃあ、弁護士のタマゴだったひとー」
「‥‥‥‥」
「せめて、霊媒師のタマゴだったひとは‥‥?」
「‥‥‥‥」
しかし、そう都合よく、タマゴなど転がっているものではありません。
そこで、冷静になって、もう一度コンセプトを確認。

‥‥『逆転裁判』は、あくまで"推理ゲーム"です。
重要なのは、"現実"に近づけることではなく、法廷の持つ、
独特の"雰囲気""緊張感"を強調・再現すること。
だからこそ、裁判長は架空の木槌をたたき、成歩堂は架空の『異議あり!』を叫んでいるのです。
"現実そのまんまの法廷"なんて、このゲームには必要ない!

真犯人を極限まで追いつめて、法廷中の大喝采を受ける‥‥そのスリルと興奮。
それがゲームでイメージどおりに実現できたのは、翌年の2月でした。
‥‥これからの数ヶ月間、我々は "ゲームとしての裁判とは?"という命題の答えを模索して、
迷い、悩みつづけることになります。
秋も深まり、寒い冬は、すぐそこまで来ていました。