「ファミリー (2)」

●御剣怜侍
“ライバル”として必要な要素をすべて兼ね備えた、カンペキな男。それが御剣です。
彼には、“怜悧(れいり)”“侍”といった、『張りつめた静』のイメージが強くありました。こちらが少しでも気を抜いたら、白刃一閃! 
‥‥一刀両断されてしまうような緊迫感。
怜侍。そのイメージをそのまま、名前にしました。

“御剣”はもちろん、その頭脳の切れ味の鋭さをあらわしています。
静かなヒトミに宿る、危ういほどの緊張感‥‥。幾重にも包み隠された“弱さ”を守るため、彼は常に、世間と対峙しているのです。
『異議あり!』の声を担当したのは、デザイナーの辰郎くん。
御剣とはちがって、静かなヒトミでも危うくも緊張感もない男ですが、いい声を出してくれました。

『逆転裁判』の主人公は、実はこの御剣なのかもしれません。
“逆転のトノサマン”はある意味、彼のためにあるエピソードです。
そして最終章のテーマが“ホット・アゲイン”。
男の熱い友情を描いたつもりなのですが、いかがでしたか?
「“熱い”というより、“お熱い”なのでは‥‥」
という意見もあるようです。

●糸鋸圭介
ある日、“なるほど”以上にキョーレツなのを思いついてしまいました。
イトノコギリ。‥‥この時点で、もう変更不可能です。
“ミツルギ”に対して、なんか地味な切れ味の“イトノコ”というのもイイ。
この名前が思い浮かんだ瞬間、彼に対する愛情値がグンと上がりました。
ちなみに“ケイスケ”は、ぼくが最も尊敬するミュージシャンから取っています。

“○○ッス!”としゃべらせたらどうでしょう、と提案したのはスエカネさん。
その瞬間から、彼のキャラクターは揺るぎないものになりました。
語尾を決めただけで性格まで決まるんだなあ‥‥と思った記憶があります。

このイトノコさんも、楽しい男ですね。
最初は“競馬好き”という設定もありました。そのなごりで、耳に赤エンピツをはさんでいたりします。
彼はどうやらぼくと同い年なのですが、どうしてもそうは思えません。といって、年下とも年上とも考えにくいのですが‥‥。
彼と御剣のカンケイも、なんだか微笑ましくて好きです。イトノコは、“逆転姉妹”で登場以来、いったいいくら給料が下がったんでしょう‥‥?

‥‥最後に、“名前”について。
ぼくは日本語や漢字が大好きで、その見た目や意味、語感にコダワリがあります。
彼らの名前を考える際、どうしても妙なシロモノが湧き出てくるのは、そのへんに原因があるのかもしれません。
‥‥というか、そもそもぼく自身の名前が、なかなかの問題作です。
『巧 舟』。‥‥慣れるまで、数十年かかりました。
なにかと苦労の多い名前で、特に、電話で漢字を説明するのがムズカシイ。

「‥‥タクミは、まず左側にカタカナで“エ”って書いて、右側にひらがなで“ろ”って書いた感じです。エろ。わかります?」
‥‥さんざん説明して、
“ああ、ハイハイわかりました”
やっとナットクしたあげく、『拓 船』というあて名で郵便物が届いたりします。
“ああ、ハイハイ”じゃねえだろう!(これは実話です)
無事に届けてしまう郵便屋も郵便屋ですが。

もしこの先、ぼくにムスコができたとしたら、名前は問答無用で“功(いさお)”です。
『巧 功』‥‥ざまあみろ、といったところでしょうか。