「トノサマン (2)」

(以下、犯人について言及しています。
 “逆転のトノサマン”をクリアしてから読んでください)



第一稿“ヒーローの殺人(仮題)”と“逆転のトノサマン”の決定的なちがいは、犯人の性別が変わってしまったことでしょう。

「‥‥そういえば、女の犯人がいませんね」
すべては、スエカネさんのそのヒトコトから始まりました。
‥‥言われてみれば、たしかに4つのエピソードの犯人は、全員オトコ。
これがアメリカならば、性差別として訴えられかねません。
犯人を女性に変更するのが可能だったのは、不幸にもこのエピソードだけでした。

「でも巧さん。女のアクション監督ってヘンですよ?」
「じゃあ、監督をやめて別の職につかせようか」
「でもそうすると、監督いなくなっちゃいますよ?」
「じゃあ、こっちの暑苦しい脚本家を監督にしよう」

‥‥というわけで、このエピソードの犯人は、ニヒルでダンディでクールでスリムな二枚目の“女性”に変更されたのです。
こんなところにも、入れ替わりのトリックがあったわけですね。

また、当時ぼくは、1つの危機感を抱いていました。
あらゆるネタを“逆転姉妹”につっこんでしまったため、法廷パートに今ひとつ、パンチが足りない。
‥‥過去の自分に、思わず殺意を抱いた瞬間。
そこで、九太くんが生まれました。
「視聴率をとりたけりゃ、子供か動物を出せ」
ある敏腕テレビプロデューサーが、そう言ったとか言わないとか。
証人に、子供。きっと、オトナとはちがったウソをつくはずです。
‥‥これなら、行ける!

構想メモを横に置いて、さっそく最初の探偵パートを書き始めます。
しかし‥‥どうしたことか、なかなか筆が進みません。
そのうち、正体不明の暗黒の雲が、もくもくと胸の中に立ちこめてきました。
黒い雲は“不安”の象徴。とてもキケンです。
なんとか最初の探偵パートを書き上げたとき、その不安の正体にやっと気がつきました。

‥‥構想メモのレベルが低すぎる‥‥!

メモを作ったとき、ぼくはムジュンの散らし方すら知りませんでした。
数ヶ月たった今では、とても満足できるモノではなかったのです。
しかし、時間がない! ここは、このまま書きつづけてしまうべきなのか‥‥?

‥‥自信がなくなると、精神が弱くなります。精神が弱くなると、ぼくの場合、どうやら体調に現れるようです。
翌日、さっそくインフルエンザにかかりました。冬の流行に一番乗り。
4日間、生死の境をさまよったあと、結局、最初からやり直すことにしました。

この時からです。
書き始める前に、必ずプロットを作るようになったのは。
これによって、シナリオのデキがよくなるかどうかは、この際問題ではありません。
大切なのは、ぼくの健康。
前にも書きましたが、どんなにしっかりしたプロットがあっても、書き上がったとき、自信はゼロになっているのです。
これが、ゼロの状態から始めたら‥‥考えるだにオソロシイ。
完成するまでに、あらゆるインフルエンザといい友だちになってしまうでしょう。

“逆転のトノサマン”では、本当にさんざんな目にあいました。
しかし。真犯人との対決を書きながら、ぼくの目前で、すでに次なるシュラバが待ちかまえていたのです。