全方位ヤリ逃げ男 あるところに、全方位ヤリ逃げ男がいました。 煩悩のままに、適当こいて生きてきた挙句に 蛮族が怖くて逃げ、仲間をほとんど見殺しにして、名前さえ捨てて。 それでも自分だけはも生き残ろうと見苦しく足掻いてきたのでした。 このとき既に、彼は人生を失敗した男、罪を隠す男、逃げ続ける男だったのです。 そして…それでも、いやそれでこそ。一人ぼっちになるのが怖くて、 本能のままにナンパしてヤリ逃げして暮らす獣と化していたのでした。 ところが、そんな全方位ヤリ逃げ男を 「そばにいると安心。大好き」というおかしな娘が現れます。 そのまま都合の良い女で済ませればよかったものを、 バカな男は「なんでじゃあああ」と神にツッコミ 「ちょ、おかしーでしょ?!ありえねぇぇ」と疑い 「何かの間違いで勘違いだ」と信用せず 「なんでだ、なんで俺なんだ・・・」と煩悶した挙句に ほんとうにその娘の事が好きになってしまいます。 自分は今まで失敗ばかりして生きてきた・・・でも 「この娘は・・・この娘だけは」必ず守ろうと己に誓います。 ただしそれは、自分のような男からも彼女を守るという 歪んだ誓いだったのです。 このままでは、この娘は青春をドブに投げ捨ててることになる。 なんとかフラグを折りたいが、あまり傷つけたくはない。 でもその裏では、いーじゃんこのままイチャイチャしてたい、 自分のモノにしていたい・・・という真っ黒な心の底も 覗き込んだりして死んでしまいたくなる。。 このままでいいはずがない。。。 そう、この期に及んでもビリーは、こんな大失敗男を選んでしまった カルエの男を見る目を全く信用しておらず 「そうだ、もっと優しくて、まともな男はたくさんいる…  その人に庇われていれば、あいつも幸せだったのだ」 こんな隣をうかがって修正してるようなサル真似の嘘くさい心ではなく ちゃんと、カルエの気持ちがわかって優しくしてやれる男を。 ちゃんと、愛情がどんなものか分かってくれる人を。 ちゃんとカルエを幸せにしてくれる人を。 そういう人がいれば、自分はその人にカルエを託して いつ消えても死んでもいい、いずれ傷は癒えると考えていたのでした。 今までそんな世界は知らなかったのだ。 あの人の気持ちなど、分かりたくても分からない。 でも、それでも大事にしたいものは、ある・・・ これは、逃げ続けた男が、ようやく踏みとどまり顔を上げ始める物語。 けれどその方向は間違っていて 結局は分からない他人の心をそれでもだいじにしたいと願い それしか持ち合わせていない偽物の心のまま、 姫を託せる本当の勇者を探し続ける獣の物語。 「なんか悪いなあ、ごめんな・・」 やっぱかわいそーだわ ぽんぽん 汚れたコップを洗いに行く。 煙草に火を灯す。ジジ‥ 夜の帳に、煙の行先はさっぱり見えなかった。                           (おわり)